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1月9日(土)、社団法人全日本かるた協会が主催した“新春全国競技かるた大会”が文京区スポーツセンターおよび文京区立かるた記念大塚会館で開催されました。全ての階級が対象となる新春に行われる最大級の競技会です。普段の練習の成果を発揮するために静岡〜青森まで578名が一堂に会しました。昨年の参加者約400名に比べて今年は飛躍的に増えたため、かるた協会のスタッフの方々は会場設営等に非常に苦労されたようです。階級は、A級(四段以上)、B級(二、三段)、C級(初段)、D級(無段)、E級(無段初心者)の5階級に分かれています。9時から受付を開始し、9時30分の開会式を経て21時過ぎの表彰式まで長丁場の大会でした。参加者が多いため決勝までに最大7試合を戦うことになり、技術もさることながら体力と精神力の維持が非常に重要になります。競技かるたに興味を持たれた方は是非全日本かるた協会のHPを覗いてみて下さい。 http://www.karuta.or.jp/

メイン会場の文京区スポーツセンターはC級〜E級の会場であり、受付前から多くの人が集まっていました。一日取材をさせて頂きましたが筆者が最初に受けた印象は「皆さん非常に礼儀正しい」ということでした。理由は後で良くわかりました。
こちらはA級とB級の会場となった文京区立かるた記念大塚会館です。この会館は、伊藤秀文氏が小倉百人一首の全国組織を作った父秀吉氏の遺志を継ぎ、かるたの普及を目的に昭和62年「伊藤かるた会館」として建てられ、後世にかるたを伝えるとともに、区民が利用できる会館として、平成2年に文京区に寄付されました。
メイン会場では9時30分より開会式が始まり、大会委員長である(社)全日本かるた協会副会長の松川英夫・永世名人(十段)よりご挨拶がありました。「模範的な競技をして下さい」というメッセージでした。筆者も前日に行われた名人戦とクイーン戦をTV観戦したため、競技かるたを身近に感じ非常に楽しみな一日が始まりました。
対戦相手に礼を行った後に読手(よみて)に礼をしてから競技が開始されます。対戦終了後も同様に礼を行います。礼に始まり礼に終わるという“かるた道の精神”によって定められています。いよいよ競技開始です。
まず50枚の札が裏返して置かれており、よく混ぜた後に25枚ずつ取ります。小倉百人一首は100枚の取り札がありますが、そのうち50枚だけを使用します。読み手は100首をランダムに読みますので“空札”が存在します。
自分の陣地(自陣)に上段、中段、下段の3段に分けて並べます。この時並べる範囲は横87cmまでとなっています。自陣に並べる札の場所には戦略があり、上級者になると相手の並べ方によってその選手の攻め方やレベルもわかるそうです。
並べ終わると15分間の“暗記時間”が設けられています。自陣および敵陣の札をよ〜く見て戦い方を考えてかつ精神を集中させます。最後の2分間は素振り(札を取る動作)が認められ慌しくなり、否が応でも盛り上がってきます。
いよいよ戦いの開始です。読手の方が一首一首読んでいきます。ただし読手は上の句しか読みません(下の句は次の歌の上の句が読まれる前に読まれます)。1試合あたり約90分かかると言われています。選手も緊張していますが読手も相当緊張するそうです。
試合が開始されると一気に熱気を帯びた会場となります。周りで見ている筆者でさえ興奮してきました。最終的には自陣の札がなくなった方が勝利となり競技が終了します。
1つの歌が読まれた後に飛ばされた札の整理等行う間は、選手が手を上げて“待ってください”と読手に表明しています。
読手が前の歌の下の句を読むと選手の皆さんは戦闘体制に入ります。“畳の上の格闘技”と言われていますが正に格闘技の始まりの体勢です。一気に緊張感が高まります。
福島県立安積黎明高等学校かるた部の皆さんです。新入生向け部活紹介を見て入部を決めたそうです。部の雰囲気はとても良いとのことでこの笑顔からも推測できます。福島県では今年全国高等学校総合文化祭が行われるため“競技かるた”にも非常に力を入れているそうです。
読手の藤田信行さん(五段)にお話を伺いました。一番気を付けていることは“主役である選手が取りやすいように普通に読む”ことだそうです。同じリズム・間合い・余韻で100首を読むのは考えている以上に難しいそうです。
お揃いのTシャツやポロシャツを着ているチームも多くありました。様々な文字が書かれていますが、“一球入魂”ならぬ“一枚入魂”が目に留まりました。“疾風迅雷”や“風林火山”なども見られ、まさに戦場です。
A級の第一試合の会場です。間合いの取り方や相手へのけん制など迫力満点です。このレベルでは札を取るスピードや札の飛び方も驚きの連続でした。
A級準決勝の場面です。決勝をかけた戦いで見ているこちらも息を呑む状態です。写真で見る以上に緊張感で張り詰めています。一人一人個性を持った戦いであることがよくわかりました。
B級準決勝の場面です。奇しくも2試合共に高校生対大学生という対戦でした。いずれの対戦も高校生が勝利となりました。男女や年齢のハンデが全くないという競技かるたの特長が象徴されていました。
いよいよA級決勝戦です。矢野恭子・六段(横浜隼会)(左)と冨澤清彦・四段(府中白妙会)(右)の対戦です。“静”の冨澤さんと“動”の矢野さんという全く対照的なお二人の素晴らしい対戦でした。このお二人にとって目前の下の句の札たちは一体どのように映っているいるのでしょうか。
A級の優勝は、矢野恭子・六段(横浜隼会)でした。勝利が決まった瞬間目には涙を浮かべておられました。表彰後にお聞きした所、結婚して本格的な競技かるたから少し離れていましたがお子さんを出産し、もう一度チャレンジしようと奮起したそうです。久しぶりの優勝のため感無量となったようです。本当におめでとうございます。
松川英夫・永世名人(十段)副会長にお話をお伺いしました。東京東会の会長も兼任されております。競技かるたは明治37年(1907年)に第1回競技かるた大会が開催され100年以上の歴史がある競技です。競技かるたは古典を学べるという点に加えてゲーム感覚もあるため学校でも盛んに取り組まれています。また最近では“ちはやふる”という漫画の後押しで問い合わせが増え、競技人口が増えているそうです。百人一首が作られた時代は作成すること自体が戦いでその出来によっては地位まで危うくなるということもありました。
今はその百人一首を使って、いにしえとは異なる戦いを行っていることの今昔の対比が非常に面白い点だそうです。また競技かるたの特長は男女や年齢のハンデがないということと判断は基本的に当事者同士で行うということです。このようなスポーツは他に類を見ないというのも魅力の一つです。知的な部分と格闘的な部分の両面のある競技で筆者は“知的格闘技”と名付けました。年齢的な垣根が無いため、松川永世名人でも50歳以上離れた選手と対戦することがありそこから学べることがまだまだあるそうです。年を取ると勘も鈍ってくるため出来ないことも自覚することになる、それを自分で認めること(=自分のレベルを知ること)が“生きがいである”と締めくくって頂きました。本日は1日大変お世話になりました。今後も競技かるたの益々のご発展をお祈りいたしております。(文=片山薫)
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