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2011年1月25日(火)付

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両党首の演説―接点は見つかるはずだ

菅直人首相がきのう、施政方針演説をした。一昨日には谷垣禎一自民党総裁が党大会で演説し、2大政党の違いが鮮明になってきた。野党との「熟議」を探る首相に対し、衆院解散・総選[記事全文]

知的障害者―捜査の全面可視化を急げ

放火事件でいったん起訴した男性について、大阪地検堺支部は起訴を取り消した。異例のことだ。公判前に否認に転じた男性の弁護士が、取り調べの様子を記録したDVDの提出を検察に[記事全文]

両党首の演説―接点は見つかるはずだ

 菅直人首相がきのう、施政方針演説をした。一昨日には谷垣禎一自民党総裁が党大会で演説し、2大政党の違いが鮮明になってきた。

 野党との「熟議」を探る首相に対し、衆院解散・総選挙を求めて対決姿勢を強める谷垣氏。とりわけ政策面での焦点は社会保障と税制の一体改革と、マニフェスト(政権公約)の見直し問題である。

 首相は一体改革について、自民、公明両党もかねて与野党協議を唱えてきたことに触れ、「各党が提案するとおり、議論を始めよう」と呼びかけた。

 これに対し、谷垣氏は「ばらまくだけばらまいて、国民に負担をお願いする耳の痛い話は超党派でやりましょうというのは虫の良い話」と批判した。協議は、子ども手当などをはじめ政権公約を「撤回」してからだという。

 私たちも政権公約を見直すべきだと主張してきた。だが、撤回しなければ話もしないというのであれば、かたくなに過ぎないか。

 一体改革は、年金など将来も使い続ける社会保障制度と、その財源の再設計である。その間、政権が代わるたびに制度の根本がくるくると変われば、大混乱を引き起こす。とすれば、どの党が政権を担当しようが引き継げる仕組みをめざして共に知恵を出し合い、接点を探る努力が欠かせない。

 自公が与野党協議を唱えたのも、だからこそではなかったか。消費税を含む税制改革のため、2011年度までに法を整備するとした改正所得税法を成立させたのは麻生内閣だ。民主党が呼びかけている今が好機のはずだ。

 むろん、民主党公約にある政策についても、与野党で議論を深めてもらいたい。新年度予算案の審議を通じて、修正に合意できればよい。

 公約の見直しとは、有権者と交わした約束を無造作にほごにせよ、ということではない。

 公約の根本にあるのは、どんな社会をめざすのかという目標だろう。

 子ども手当でいえば、産みやすい環境をつくり、育ちを助けること。民主党の公約は、高齢者に比べて手薄だった子どもへの投資を増やそうとする点では間違ってはいなかった。それは、高齢者を支える世代を強めることにもつながる。

 ただ、子ども手当と保育所整備にそれぞれどのくらいの比重を置くのか、実現の速度や規模をどうするかといった手段や工程は柔軟であるべきだ。

 選挙時にすべて見通せればいいが、後によりよい手段が見つかることも、財源の壁にぶつかることもある。

 何をめざすのか、理念や目標を整理し、それに沿って公約を組み立て直すことが不可欠だ。そうすれば野党との協議の際、どこを譲れるのか、何が譲れない点かも見えてくるに違いない。

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知的障害者―捜査の全面可視化を急げ

 放火事件でいったん起訴した男性について、大阪地検堺支部は起訴を取り消した。異例のことだ。

 公判前に否認に転じた男性の弁護士が、取り調べの様子を記録したDVDの提出を検察に求めた。

 そこには、男性が何度も説明に詰まりながら検事の質問をおうむ返しにする様子などが録画されていた。「自白調書」を確認する際に検事が誘導していたことは明らかで、これが取り消しの決め手となった。

 男性は昨年1月、職務質問された際にライターを持っており、周辺で相次ぐ不審火を自供したとして大阪府警に逮捕された。

 男性には知的障害があった。福祉サービスを受けるための療育手帳を所持しており、捜査官も知っていたが、特段の配慮はみられなかった。

 そのため、弁護士が府警と地検に取り調べをすべて録画する全面可視化を求めた。物事をうまく説明できず、質問の意味を理解しないまま容疑を認めるおそれがあると考えたからだ。

 ところが府警はこれに応じず、地検も取り調べの最後の場面を録画しただけだった。だから検事の誘導は証明されたが、どの時点で不当な取り調べが始まったかといった点は分からない。

 起訴した検事の責任が重いことは言うまでもない。それにしても、決裁した検察幹部がDVDを見なかったのだろうか。郵便不正事件と同様に都合の悪い証拠には目をつぶったのか、それともチェックが甘かったのか。

 検察も府警も捜査の経緯を徹底的に検証して公表しなければならない。

 取り調べは原則として全過程を録画すべきだ。とりわけ知的障害者の事件は、全面可視化を急ぐ必要がある。

 今回のように裁判員裁判の対象事件に限って検察は、一部可視化に取り組んでいる。しかし、窃盗など対象外の事件で調べられる知的障害者も多い。取り調べは密室で行われ、捜査官による誘導を立証するのは難しい。

 知的障害者の取り調べには弁護士のほか、本人の障害の特性をよく知る親族や支援者の立ち会いを認めてはどうだろうか。冤罪(えんざい)を防ぐだけではなく、事件の真相を究明するうえでも必要な措置だ。

 何より、取り調べにあたる警官や検事が容疑者の知的障害に気づいたら、普段にもまして適正な捜査を心がけるべきである。

 障害に対する基本的な知識を身につけるため、捜査関係者を対象に、専門家による研修を進めてもらいたい。

 大阪弁護士会は知的障害者の刑事弁護マニュアルをつくり、相談窓口も設けている。参考になる動きだ。

 自分を守る能力が弱い知的障害者の捜査では、人権により配慮するのは、当然のことだ。

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