宮城のニュース

被害語れる社会づくりを 性犯罪前歴者の常時監視検討

性犯罪被害者への理解を訴える小林さん=仙台市青葉区の河北新報社

 宮城県が性犯罪前歴者の行動を警察が常時監視できる条例制定の検討に入り、大きな波紋を広げている。規制強化への反発が強まる中、被害に遭った当事者はどんな支援を望むのか。2008年4月、著書で自らの性犯罪被害を告白。現在、宮城県の性犯罪対策を話し合う懇談会で、委員を務める小林美佳さん(35)に聞いた。(聞き手は報道部・長谷美龍蔵、道下寛子)

 ―懇談会の委員を引き受けた理由は何ですか。
 「放ってはおけなかった。性犯罪被害者が抱える問題が知られていない中で政策が作られ、『もう安心』と言われても、それは違う。被害者自身が意見を言うべきだ」
 ―性犯罪被害者が抱えている問題とは。
 「一つは、被害に遭った事実を打ち明けられないことだ。著書の出版後、全国の被害者から手紙やメールをもらった。もう3000人くらいになるが、統計を取ると6割は誰にも言ってない。被害者は事件のショックで、社会に適応できない心の障害はもちろん、寝られない、食べられない、吐くなど体にも影響が出てくる。そうした変調さえ言い出せずにいる」
 ―被害を話せない原因はどこにありますか。
 「日本人は性をタブー視する。被害を告白されても深く聞かないし、被害者がどう苦しいか、どんな困難があるか分かろうとしない。私のような通り魔的な被害は、まだ話しても受け入れられやすいが、面識のある人が加害者の場合も多く、言えずに苦しんでいる」
 「『言わせない圧力』も感じる。雑誌の表紙に女性の水着姿があふれているように、性は楽しむべきだという世の中。性犯罪被害を見て見ぬふりをする風潮がある」
 ―被害者のサポートには今、何が必要ですか。
 「性犯罪や性暴力が被害者の心や生き方をいかに壊すか、まずは現実を知ってもらいたい。そして、偏見を持たずに被害者を受け入れてほしい。そういう人が身近にいることは非常に大きい」
 ―行政に期待する役割はありますか。
 「役所はよく性犯罪被害の相談窓口をPRするが、行きにくい。被害者はうわさが立つことを最も恐れる。行政の被害者支援は制限が多く限界もある。被害者のことは民間団体の活動に任せ、行政は加害者対策と性暴力の現実を教える教育に取り組むべきだ」
 ―宮城県が打ち出した性犯罪前歴者の行動監視をどう評価しますか。
 「規制強化で犯罪を減らすなんて非常に情けないことだと思うが、残念ながらそれが今の性犯罪者の現実だ。これまでに18人の性犯罪服役囚と手紙でやりとりしているが、全員が再犯者。『自分の好きなものが、たまたま取り締まりの対象だった』と主張する彼らの更正を私は一切信じていない」
 「警察が行動監視することで、副産物として、被害者に根底的な安心感を与えることが期待できる。加害者の存在におびえる気持ちが少しは和らぐ。ふさぎ込んでいた被害者が何かを信じて立ち上がるかもしれない」

<こばやし・みか>1975年、東京都生まれ。2000年、仕事帰りに見知らぬ男2人に乱暴される被害に遭う。08年、著書「性犯罪被害にあうということ」を出版し、実名と顔写真を公開して被害を告白。現在は仕事の傍ら、講演や被害者支援活動に奔走する。10年12月から宮城県女性と子どもの安全・安心社会づくり懇談会の委員。


2011年01月24日月曜日


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