世界2位の経済大国になったとみられる中国は、国際社会でどんな役割を担っていくのか。世界が抱く疑問だ。訪米した中国の胡錦濤国家主席にオバマ米大統領が投げかけたのも、突き詰めればこの問いだったろう。そして明快な答えは得られなかったという印象を受ける。
個別の具体的な問題で食い違いの目立つ首脳会談だった。経済では人民元をめぐる溝。安全保障では、挑発的な行動を繰り返す北朝鮮を抑制する具体的な対応を打ち出せなかった。劉暁波氏のノーベル平和賞受賞で改めて注目を集めた人権問題では対立が際立った。
互いに無視できぬ国に
浮かび上がるのは、自らの利益を優先し、大国にふさわしい役割を果たすことに消極的な中国共産党政権の姿である。
それでもオバマ大統領は、会談後の共同記者会見で「我々が協力するのは世界に良いことだ」と語り、共同声明では世界の諸問題に連携して取り組む方針を打ち出した。ブッシュ前政権が提供しなかった国賓の待遇で、胡主席をもてなした。様々な対立を踏まえながら、世界の中で急速に増す中国の重みを考えた、戦略的な判断だろう。
中国政府は20日、2010年の国内総生産(GDP)が前年比実質10.3%増え、名目で39兆7983億元に達したと発表した。日本の10年のGDPはまだ確定していないが、米ドルに換算した場合に中国の経済規模が日本を上回り、米国に次ぐ世界2位になったのは確実だ。
温暖化ガスの排出量でも、軍事費でも米中は世界の上位2位を占める。グローバルな課題はなんであれ、米中を抜きにしては語れない時代が到来した。米中間の問題はもとより世界の諸問題の解決にあたっても、両国は互いを無視できない局面を迎えたのだといえよう。
オバマ大統領は共同記者会見で「中国を封じ込めることはしない」と語った。冷戦時代に旧ソ連に対したような政策を中国には適用しないとの表明である。
旧ソ連と違い、中国は世界の工場としてグローバルな経済相互依存関係の要となっている。米国債の最大の保有国で、世界最大の外貨準備も有する。封じ込めは米国経済にも世界経済にも深刻な打撃を与えるし、そもそも不可能だろう。
米国と中国が互いの利害にかかわる問題や環境など世界の課題について対話を深めた場合に、両国の国益を優先する形で議論が進んでいく可能性も否定できない。こうした事態が日本や他の国々の国益にかなうとは限らない。
だからこそ、対中政策をはじめとして日本の外交も問われる。菅直人首相は今回の会談結果に敏感でなければならない。中国が経済、安全保障の両面で責任ある行動をとるよう、日本としても効果的に働きかけていく必要がある。
米中首脳会談で焦点となった人民元や知的財産権保護など通商課題、環境問題は日本にとっても重要なテーマ。米中対立の主因である中国の急速な軍備増強は、隣国である日本の安保に直結する。
では、何をすべきか。まず不可欠なのは、今回の米中首脳会談を踏まえて、米国とこれからの対中政策を緊密に擦り合わせることだ。
日米は今春に予定される首相訪米の際に、今後の同盟のあり方をうたった日米共同安保宣言を採択する。これに合わせ、両国の共通戦略目標も新たに策定する方向だ。
両国に仕切らせぬ気概
その準備作業で中心となるべきは、対中戦略の進め方だ。中国の責任大国化を促すために日米がどのように協力するのか具体的な方向を決め、宣言に明記すべきだ。
日本が果たすべき役割は多い。中国軍の海洋進出をめぐっては、自衛隊による情報収集や警戒・監視の強化など、米軍に協力できる余地が大きい。温暖化ガス削減では消極的な米中の説得に努める必要がある。
もっとも、中国の台頭に日米だけで対応するには限界がある。東南アジア諸国や韓国、インドなど中国の風圧を強く感じている国々にも連携を呼びかけるべきだ。日米とこれらの国々が一緒に中国に関与し、責任ある行動を働きかける足場を築くためだ。
並行して、日中関係を立て直すことも急務だ。時には痛みに満ちた交流を有する隣人として、新しい時代にふさわしい中国との関係を模索しなければなるまい。尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件で傷ついた両国関係が改善しなければ、中国側の前向きな協力を得るのは難しい。
中国に抜かれ43年ぶりに世界3位の経済規模に転落したとはいえ、日本は依然としてアジアで最も豊かな国の一つ。米中主導で世界の新たな秩序作りが進まないよう、大国として汗をかく気構えが必要だ。
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