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天声人語

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2011年1月21日(金)付

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 かつて中国で金持ちは「万元戸」と呼ばれた。「元」は通貨の単位である。いまは「千万富豪」と呼ぶらしい。いつしかゼロが三つも増えた。中国の調査会社によれば、車を平均3台持ち、海外旅行を年3回ほど楽しむ暮らしぶりという▼昇竜の勢いの中国で、インターネットにこんな小咄(こばなし)が登場したそうだ。「1979年 資本主義だけが中国を救える/2008年 中国だけが資本主義を救える」。北京の日本大使館公使だった道上尚史さんの著書「外交官が見た『中国人の対日観』」に教わり、抜粋した▼79年は改革開放が緒に就いた年だ。行き詰まりを破るために市場経済への移行を目指した。時は流れて08年のリーマン・ショック以降、世界経済は中国頼みと言っていい。かの国の高揚感をうかがわせる笑話であろう▼昨日は去年の国内総生産(GDP)を発表し、日本を抜いて世界2位が確実になった。足の止まったランナーを一気に抜き去った印象だ。1位の米国を中国では「美国」と書く。目標だった「超日」は、いよいよ天下取りの「超美」に改まる▼43年前、日本は西ドイツを抜いて2位になった。小欄は「へえ、自由世界二位の経済力でこんな生活か」と書いている。今の中国で格差に苦しむ貧困層の不満はこの程度ではあるまい▼富裕層の満足も含め、一党独裁の安定はどこまでも経済成長にかかっていよう。踊り続ける赤い靴をはいてしまったアンデルセン童話を、中国経済は彷彿(ほうふつ)させる。世界を心配させぬ自覚と責任が、銀メダリストの務めであろう。

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