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天声人語

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2011年1月20日(木)付

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 自然に色の乏しい冬は、京菓子も雪の白さを愛(め)でるものらしい。「初雪」に始まって「雪の朝」「冬ごもり」「小雪」「大雪」など名前も色々考えて楽しみますと、老舗のご主人山口富蔵さんが「冬の和菓子」という随筆に書いている▼かつて、北国からの客人への菓子を雪の意匠で作ったことがあったそうだ。後日、別の人から、雪国の人は雪を見るだけで気が重くなる、と聞かされて反省しきりだったという。京の老舗らしいこまやかさだが、いささか粗雑なわが頭にも雪国の難儀がいたく分かる、この冬の空である▼四季に恵まれたこの国だが、冬の受け止め方は共通の季節感から外れる。何と言っても雪の有無が大きい。江戸時代の越後人、鈴木牧之(ぼくし)の名著「北越雪譜」は「雪を観(み)て楽(たのし)む人の繁花の暖地に生(うまれ)たる天幸を羨(うらやま)ざらんや」と恨み節をつづっている▼この冬も、日本海側で続く雪に、東京の晴れが申し訳なくなる。たとえば秋田市では、年明けから18日までの日照が15時間しかない。片や東京は141時間。豪雪の地では、雪下ろし中の転落などの事故も相次いでいる▼そして、きょうは大寒。「冷ゆることの至りて甚だしき時なればなり」と意味は直截(ちょくせつ)だ。今年の寒さは律義で、けさは各地で氷点下という。律義者らしく、予報では来月の立春ごろまできっちり精勤するらしい▼春が立てば、山口さんの店でも「雪」が消え、緑の餡(あん)も鮮やかなわらび餅「春かぜ」が並ぶ。そうなれば寒さも余寒となる。もうひと辛抱ふた辛抱の日々を、どうぞ息災に過ごされたい。

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