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社説:米中首脳会談 戦略核の削減へ進め

 中国の胡錦濤国家主席が訪米し、オバマ大統領と公式会談し、共同声明を発表した。

 大統領は、米中首脳会談の意義について「今後30年の米中関係の土台になる」と述べた。ここに米側の意図が凝縮されている。

 米国と中国が国交を結んだのはおよそ30年前、1979年である。その後、中国は改革・開放政策で高度経済成長をとげ、米国に次ぐ経済大国になった。このまま中国が成長を続けると「今後の30年」で米国に並ぶと言われる。

 追われる米国と追う中国。2大国の間の利害対立、摩擦が激しくなる時代が来た。今後の衝突を回避するために、米中関係の土台を確認しようとした。胡主席を初めて国賓として招いたのも、共同声明への期待の大きさを裏付けている。

 土台は作った。しかし今後30年を展望したときに、はたして十分なものだったか、疑問がある。

 共同声明の柱をくくれば、外交では人権対話、軍事では「核兵器なき世界」という核問題、経済では人民元改革の継続だ。これが今後、米中の間で対立するテーマになる。

 そのなかで、人民元改革は結論が出たとは言えないが、すでにブッシュ前政権時代から続く米中経済対話の枠組みがある。長期的には解決可能な問題だ。

 人権対話も、ノーベル平和賞を受賞した劉暁波氏の釈放要求を胡主席は拒否した。普遍的人権を受け入れるよう迫るオバマ大統領と、内政不干渉を掲げる胡主席との間で火花が散ったかに見える。だが、米中外相間の戦略対話枠組みがあり、妥協することは不可能ではない。中国は国情の違いを言うものの、人権を全否定はしていないからだ。

 これから最も摩擦が懸念されるのは軍事面だ。中国の台頭は、軍事力の膨張を伴っている。この結果、アジア太平洋地域で、従来の米軍のプレゼンスと中国軍が接触し始めた。その一例が、黄海、東シナ海、南シナ海、インド洋などで活発になった両国艦隊の行動である。

 問題を複雑にしているのは、中国の主張する「核心的利益」の中心に台湾、チベットという東西冷戦以来の「歴史問題」があることだ。しかも、米国の本土を脅かすまでに進化した中国の戦略核兵器がその近辺に配備されている。

 軍事的に最も危険なのは核の均衡が崩れることである。米露のように米中の戦略核削減交渉が不可避だ。だが、今回は入り口も見えなかった。胡主席は2年後に引退する。次の主席の習近平副主席には軍の支持があるという。中国の核削減に進むのか、今後、注視しなくてはならない。

毎日新聞 2011年1月21日 2時31分

 

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