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社説:GDP日中逆転 質の世界一を目指そう

 中国の国内総生産(GDP)が昨年、日本を抜き、世界2位となった。中国政府の発表によるもので、来月、日本側の統計が公になるまでは確定といえないが、日中逆転は確実視されている。

 半世紀近く慣れ親しんだ枕ことば「世界第2の経済大国」が使えなくなるのは寂しい気もする。だが、悲観の必要はない。高い経済成長を続け、世界一の座さえうかがおうという国の隣に位置することは、むしろ国際的に有利と見ることもできよう。ともに繁栄する道を探りながら、中国が国際ルールを守り、規模にふさわしい責任を果たすよう、他の国々と結束し促していく必要がある。

 中国のGDPは2005年に英国を、07年にはドイツを抜き世界第3位となった。そしてついに日本も超えたわけだが、将来、米国から首位の座を奪うというのも現実味のある予測として語られている。

 米国のシンクタンク「ピュー研究センター」が最近実施した世論調査によれば、「世界一の経済大国はどこか」との問いに米国人の47%が「中国」と回答したそうだ。「米国」の31%を大幅に上回り、すでに首位の存在感である。それだけに脅威として警戒が高まっているのだろう。

 とはいえ、国民1人当たりのGDPを見ると、中国は日本の約10分の1。国内の経済格差や環境問題、人民元相場に象徴される経済の国家管理などさまざまな課題を抱えている。何かのきっかけで矛盾が一気に噴き出て、経済や社会を深刻な混乱に陥らせることも十分、考えられる。

 中国は日本にとり、最大の貿易相手国だ。貿易総額に占める中国の比重は米国にとってのそれよりはるかに大きい。すでに強い依存関係にある中国が混乱すれば影響は直接、日本にも及ぶ。中国はもちろん、他の国々とも協力し、混乱の芽を早期に摘み取る努力をすることは、何より日本の国益につながる。

 一方、日本にとって経済規模の拡大をひたすら追い求める時代は終わったといえよう。今後は、くらしの質、つまり真の意味の豊かさにもっと関心をよせていきたいものだ。

 日本は犯罪被害率の低さ、人口に対する大卒者の多さ、長寿など世界でトップクラスの“質”を持っている。半面、自殺者の数、女性の社会進出、男性の家事参加、出生率、くらしへの満足度など、先進国中、ほぼ最悪と呼べる問題も少なくない。

 だがこれは、努力次第でよりよい国に変われる潜在性と見ることもできる。若者がこの国に生まれたことを誇らしく思い、他国の人々からは目標にしたいと思われるような国にするにはどうしたらよいか、みんなで真剣に考えていこう。

毎日新聞 2011年1月21日 2時30分

 

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