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社説:春闘スタート 悪循環を断ち切ろう

 デフレや円高で景気の先行きが不透明な中で今春闘が始まった。正社員の賃金は減り、不安定な非正規雇用労働者は増えている。多くの人々が生活の安心を実感できるよう労使で取り組んでほしい。

 連合は今春闘で年齢や勤務年数に応じて毎年自動的に上がる「定期昇給」の確実な実施、一時金などを含めた給与総額の1%増などを方針に掲げた。一般労働者の賃金はピーク時の97年に比べて5・1%減少しており、1%ずつ5年かけて復元させることを目指すという。全従業員の賃金水準を一律に底上げするベースアップは運動方針に明記せず2年連続で見送った。

 経営者側は定期昇給の維持については容認する方針だが、給与総額1%増には否定的だ。短期的には業績回復が見られるが、賃金の引き上げよりも企業の成長を優先すべきだとの主張である。だが、これまでも内部留保を設備投資に回してきた企業がどれだけあるのか。「人件費の抑制こそが低成長とデフレから抜け出せない原因」と連合は批判する。

 ただし、連合の方針とは裏腹に主な個別労組も総額引き上げまでは求めないところが多いと見られている。労使とも守りの姿勢が色濃くては社会に活気が出ない。

 連合は昨年初めて非正規雇用労働者の待遇改善を運動方針に盛り込んだが、今年は時給ベースで正規労働者を上回る賃金の引き上げを掲げた。全従業員に対する非正規雇用は34%、若年層では45%を占める。正社員と同じ内容の労働をしても賃金格差は大きく、年金や保険など社会保障も不十分な人が多い。日本経団連は「非正規だけの議論を行うのは現実的ではない」と言うが、増え続ける非正規雇用労働者を不安定なまま放置しておくべきではない。

 人件費を抑制するため新規採用を抑え、正社員を非正規雇用に置き換えてきた企業は多い。不況時に正社員を守るため非正規職員を解雇してきた企業も多い。

 最近は若い世代が非正規雇用に流入していることで50代以上の非正規雇用労働者が職を失っている。家族も住居もなく再就職への意欲も希薄な人が多いという。生活保護などの給付費が膨張する悪循環をどこかで断ち切らないといけない。

 経団連は春闘の名称を「春の労使パートナーシップ対話」に変えるよう呼びかけた。賃上げ中心の交渉ではなく、あらゆる課題を協議する場にしようという提案だ。労使一体となって国際競争力を高めようというのは大いに結構だが、まずは非正規雇用労働者を中心に広がっている生活不安を解消することに取り組むべきではないか。

毎日新聞 2011年1月20日 2時30分

 

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