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学術書の電子化 実験中

2011年1月24日10時47分

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写真:電子化された学術書を読む慶応義塾大の五十嵐功さん=横浜市港北区拡大電子化された学術書を読む慶応義塾大の五十嵐功さん=横浜市港北区

写真:慶応義塾大が開いた実験システムの展示には、出版社やシステム開発会社の関係者らが参加した=2010年10月6日、東京都港区拡大慶応義塾大が開いた実験システムの展示には、出版社やシステム開発会社の関係者らが参加した=2010年10月6日、東京都港区

イラスト:学術書の電子書籍を利用できる図書館のイメージ拡大学術書の電子書籍を利用できる図書館のイメージ

 日本語の学術書の電子化に向けた動きが、各地の大学で始まっている。英語の学術書や論文はインターネットを通じて読むことが当たり前になる中、日本語は大半が紙。電子化すれば、図書館に行かなくてもいつでもどこからでも閲覧が可能になる。電子書籍を充実させる「電子図書館」に出版社も関心を寄せる。

◆すぐ読めて便利

 慶応義塾大理工学部1年の五十嵐功さん(19)がiPadを操作すると、画面に本棚が現れた。「学問のすすめ 第一巻」(慶応義塾大学出版会)や「制度資本の経済学」(東京大学出版会)などが並ぶ。

 いずれも大学から提供された電子書籍だ。「しおりの機能もあるし、文字を打ち込んで検索すれば、すぐにその文字が載っているページがわかるのが便利」と五十嵐さん。

 慶応義塾大は昨年12月から、電子書籍を入れたiPadを貸し出したり、私有のiPadに書籍を提供したりして、数十人の学生に電子版の学術書に触れてもらう実験を始めた。

 慶応義塾大が出版社と契約する電子書籍は、英語が1万7700冊に対し、日本語は600冊。電子化された学術雑誌(電子ジャーナル)だと英語の3万6千点に対し、日本語は1400。日本語は中国語の9千点にも及ばない。

 学生は日常的にインターネットで論文などを検索する。日本語の論文を見つけて、雑誌の題名と掲載されているページ数はネット上でわかるが、中身を読むには図書館に行かなければならないのが現状という。

 また、別の人に貸し出されていれば、すぐ読めない。五十嵐さんは「2週間待つ本もある。電子化されれば24時間どこからでも読むことができるかもしれない」と期待する。

 慶応義塾大メディアセンターの田村俊作所長は「一般書の電子書籍は話題になっているが、学術書の検討が日本ではなされていなかった」と指摘する。海外の書籍や論文ばかりがネットを通じて読まれ、日本語のものが読まれなくなるのでは、という危機感がある。

 実験で提供されているのは数十冊。大学側はさらに数を増やし、特定の学生だけでなく、学内の不特定多数の学生、教員がインターネットで電子書籍を選べる形にまでしたい考えだ。

 慶応だけではない。大学での学術書の電子書籍利用モデルを確立しようと、今年2月から国立情報学研究所や東京大、京都大、九州大、千葉大が参加したプロジェクトが本格化する。

 学術書を扱う出版社7社が提供する電子書籍を、大学図書館を通じて学生たちに利用してもらう。「学術認証フェデレーション」という新たなシステムを活用し、学内の特定のパソコンだけでなく自宅など学外からでも利用可能にして、書籍の利用頻度や利便性、問題点を調べる。プロジェクトは年度末までだが、実用化も視野に入れる。

 千葉大学は、学内の研究者らの論文などをインターネットを通じて公開する「リポジトリ」の先駆け的存在。大学付属図書館の館長も務めた土屋俊教授は「学術書は発行部数は少ないが教育・研究に必要不可欠なもの。大学が電子化された学術書を買うという流通の仕組みを考えたい」と話している。

 また今月20日には、首都圏の私立工科系13大学図書館で構成する「私工大懇話会図書館連絡会」が特別セミナー「電子図書・デジタル教科書時代の大学図書館の対応」を開いた。

 国立国会図書館の長尾真館長が講演で、電子書籍は文字だけでなく音や映像などを扱うことが可能になることなどを挙げ「大学の図書館は、本を減らしてできるスペースで少人数による電子書籍を利用した議論の場を用意するというのも方向の一つ」と語った。

◆印刷制限など課題

 出版社側も関心を寄せる。

 社会科学や人文科学系の学術書を扱う有斐閣は、慶応の実験や東大などのプロジェクトのいずれにも参加。江草貞治社長は「絶版や少部数の発行で手に入りにくい専門書を読みたいという需要はあるはず。ユーザーの動向を把握したい」と話す。

 日本電子出版協会によると、海外ではすでに自然科学のほぼ全雑誌が電子化。米国のスタンフォード大学の図書館は、蔵書を85%減らして「本のない図書館」を目指しているという。三瓶徹事務局長は「このままでは英語の学術情報ばかりが効率的に伝達され、日本の学術出版が地盤沈下しかねない」と訴える。

 一方で、課題も多い。貸し出す場合、印刷を可能にすると学生の間で無制限に本が無料で出回ることにもなりかねない。ダウンロードや印刷に制限をかけるのか。慶応の実験では、当初2千冊の提供を目標としていた。しかし、著作権の処理やシステム整備に時間がかかり、想定を大きく下回る数十冊規模でのスタートとなっている。

 また、電子化で必要部分だけを検索で読むようになり、本全体が読まれず、視野が狭くなるのでは、と懸念する声もある。

 慶応のある女子大学院生は「電子版は特定のページを探すのに便利だが、そのページ以外に目が向きにくい。紙の本だと、全体をめくって自分が求めていなかった有益な情報を得ることもある。それぞれに良い面があるので、うまく両立していってほしい」と話す。(泗水康信)

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