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2011年1月24日(月)付

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きょう召集―今度こそ「熟議」の国会に

きょうから通常国会が始まる。昨年の臨時国会は「熟議」のかけ声も空しく、与野党の激しい対立のなかで政策論争は深まらず、多くの重要法案の扱いが先送りされた。[記事全文]

ベトナム新体制―政治改革にもドイモイを

日本にとって、ベトナムとはどんな国だろう。年配の人にはフランス、米国との戦争に勝って民族解放を遂げたイメージが強いだろう。若い世代にとっては、かわいい雑貨が安く手に入る[記事全文]

きょう召集―今度こそ「熟議」の国会に

 きょうから通常国会が始まる。

 昨年の臨時国会は「熟議」のかけ声も空しく、与野党の激しい対立のなかで政策論争は深まらず、多くの重要法案の扱いが先送りされた。

 尖閣諸島をめぐる外交的な失態など、政府・与党の側に批判されるべき点が多かった。それは確かである。

 とはいえ、国会は国民のために政策を議論し、合意形成を図る場でもある。政治を前に進める重い責任を、与野党双方が改めて自覚してほしい。

 国民生活に深くかかわる新年度予算案と関連法案を審議する今国会こそ、この国と社会の将来像を踏まえた真剣な政策論争の場としたい。

 まず菅直人首相に望みたい。

 長い審議時間を確保したからといって、建前論や逃げの答弁に終始していては、議論は深まらない。

 首相が今年の2大政治目標に掲げた税と社会保障の一体改革と環太平洋パートナーシップ協定(TPP)についても、方針をまとめる6月まで漠然とした発言で通すことは許されまい。首相自身の問題意識や方向性について、できるだけ率直に語るべきだ。

 次に野党である。

 ねじれ国会での野党は、政府・与党が進める政策を阻む強い力を持つ。そのぶん、大きな責任も「分有」していることを忘れてはならない。特に野党第1党である自民党の責任は重い。

 自民党の谷垣禎一総裁はきのうの党大会で、今年は民主党政権を解散・総選挙に追い込むと宣言した。一方で、「いたずらに国会を混乱させることはしない」とも語った。「戦う野党」か「責任野党」か、そのバランスに苦慮する本音がうかがえる。

 自民党は昨年の参院選や、その後の地方選挙でも好成績を収めている。ただ、民主党政権への幻滅が自民党への投票につながっている側面が大きい。政権を再び託す政党として見直されているとみるのは早計だろう。

 自民党が政権奪還を目指すなら、まず国会で対案を提示し、民主党の政策とどちらが優れているか、論戦を通じ国民の理解と支持を競い合うべきだ。

 菅政権に解散・総選挙か総辞職を迫るために、予算関連法案を人質にとる。そういった政略優先の対決戦術に終始するようなことがあれば、長い目で見て自民党への信頼回復にプラスには働くまい。

 競争しつつ、必要な合意形成なら、その責任も果たす。それが回り道でも真の再生に資するのではないか。

 近く強制起訴される小沢一郎・元民主党代表の政治資金問題についても、民主党執行部に証人喚問の実現や離党勧告などのけじめをつける責任があることは言うまでもない。しかし、重要な政策論争は、小沢氏の問題と切り離して進められ、深められるべきだ。

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ベトナム新体制―政治改革にもドイモイを

 日本にとって、ベトナムとはどんな国だろう。

 年配の人にはフランス、米国との戦争に勝って民族解放を遂げたイメージが強いだろう。若い世代にとっては、かわいい雑貨が安く手に入る旅行先かもしれない。最近は原発や新幹線の売り込み先としても耳目を集めている。

 ところが政治体制や社会のあり方についてはあまり知られていない。

 そのベトナムで一党独裁を続ける共産党が5年に一度の大会を開き、グエン・フー・チョン氏を新書記長に選んだ。10年ぶりの最高指導者交代だ。

 大会で承認された10カ年計画では、今後も年平均7〜8%の経済成長を続け、2020年には1人当たりの国内総生産を現在の3倍近い3千ドルにして工業国入りをめざすという。

 意欲的な目標だが、足元の経済環境は最近、変調を来している。

 通貨安とインフレが進み、財政と貿易の赤字が膨らむ。国営造船会社の経営危機が投資家の不信を招いている。

 市場経済化を中心に据えたドイモイ政策を始めてから四半世紀。経済を大きく発展させた半面、貧富の差は拡大する一方だ。政権に染みついた汚職体質に国民の不満は高まっている。

 新執行部にとっては、経済政策のかじ取りとともに、腐敗の根絶や格差是正が喫緊の課題だ。

 経済成長に比べ、民主化や人権保障といった政治・社会改革の歩みはきわめて遅い。党内では、今回の人事をめぐって様々な論争があったようだが、議論の中身はほとんど公開されておらず、検証するすべはない。

 反体制活動家の拘束や宗教者への弾圧も絶えない。「国境なき記者団」が発表する報道の自由度のランクでは、178カ国・地域中165位だ。

 ドイモイとは刷新を意味する。新執行部は、政治や社会改革の面でも大胆なドイモイに踏み出す必要がある。

 その意味で注目されるのは、5月の国会議員選挙だ。立候補に制限があるなかで、共産党員以外の人や党傘下組織の推薦を得ない候補がどの程度当選するか。前回は1割に満たなかった。

 日本にとって、ベトナムは有望な市場であり投資先だ。菅政権が命運をかける環太平洋パートナーシップ協定への加盟交渉にもすでに入っている。

 軍事力を急拡大させる中国との見合いで安全保障面での協調も模索し、レアアースの共同開発にも踏み出す。

 日本とベトナムはお互いを「アジアの平和と繁栄のための戦略的なパートナー」と位置づけている。

 とすれば日本政府は、民主化や政治改革をも後押しするべきだろう。

 人権問題など相手の耳に痛いことでも時には注文をつける。そうした姿勢が長期的には両国関係の発展やベトナムの安定にもつながるはずだ。

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