トップページ > なっとく法律相談 > 免許取得を禁止する事は法律違反になりませんか?
なっとく法律相談 2007年9月20日 更新
トラックバック(0件) ブックマーク:()
(0)
(0)
高校生は「3ない運動(1.免許をとらせない、2.乗らせない、3.買わせない)」によってバイクの免許をとってはいけないと担任の先生に言われました。これって法律違反じゃないですか?
(10代:女性)
「3ない運動」とは、高校生をバイクから遠ざけるために行われてきた運動であり、各地の教育委員会によって提唱されたものです。『運動』に止まる場合、それは単なる呼びかけに過ぎないので、生徒の免許取得を禁止する等の効力は認められません。しかし、単なる運動に止まらず、これを校則に取り入れているケースも稀ではありません。では、各高校が校則によって生徒の(1)免許取得の自由、(2)バイクに乗る自由を制限することは許されるのでしょうか?便宜上、形式的側面(a.校則制定の可否、b.校則による私生活規律の可否、c.法律と抵触する校則の可否)と、実質的側面(A.(1)(2)は憲法上保障されているのか、B.校則により(1)(2)を制限できるのか)に分けて検討します。
「社会あるところ法あり」という法諺がありますが、とりわけ、その社会が特定の目的を持つ団体である場合、その内部で特別なルールが規定されることは社会経験上当然です(たとえば、バスケットボール部の一員としてクラブに入部した場合、クラブの一員として要求される行動をし、選手として要求される行動をしなければならないのと同じです)。そのため、各学校は、その目的を達成するため必要な事項を定めて、学生を規律することができます。したがって、高校が校則を制定することは許されます(a.)。
もっとも、b.については問題があります。それは、一般にルール設定権限は責任のあるところに認められるのですが、例えば家庭生活の領域は親の教育権の範囲内にあるため、本来は学校の教育権が及ばないと考えられるからです。しかし、現実社会では、「教育の専門家」たる教師・学校に対し、生徒の私生活指導までを期待する親が増えており、また、校外での生徒の不祥事についての苦情までが学校に寄せられるという現場からの報告があるように、地域社会としてもそれを期待する傾向があります。このような状況から、現代社会においては、必要に応じて学校が生徒の私生活指導を行うことも許容されていると考えられます。
また、道路交通法によれば、16歳以上の者は普通二輪等の免許を取得することができます(同法88条1号)。そこで、校則によって法律以上の規制を加えることが許されるのかが問題となります。しかし、道交法の規定は、単に16歳以上の者の免許の取得を禁止しないという趣旨でしかありません。そのため、校則によって、道交法とは別の理由からそれ以上の制限を課すことが排除されているとは言えないと考えられます。したがって、16歳以上の免許取得を禁止する校則の制定も有効と考えられます(c.)。
では、(1)(2)の自由は憲法上保障されていると言えるでしょうか?
憲法上保障されないとする考え方が強いように思われますが、近年では人格権(憲法13条)の一部として憲法上保障されるとする下級審判決も出ています。しかし、たとえ憲法上保障されるとしても、絶対的・無制限に保障されるものではなく、「公共の福祉」による制限は受けることになります。その場合、「公共の福祉」の範囲を超えた校則による規制は違法な規制と評価されます。では、(1)(2)が憲法上保障されているとして、「公共の福祉」の範囲を超えるか否かはどのように判断されるのでしょうか?
憲法上の権利に対する規制の合憲性は、違憲審査基準というテストによって審査されます。この審査基準では、制約される人権の性質と制約の態様を考慮してその厳しさが決定されます。本件の場合、規制される人権は人格権という重要な人権であり、その規制態様は一律禁止ですから、通常であれば、厳しい審査基準が採用されます。しかし、「3ない運動」は、バイクという時には死傷結果を引き起こしうる危険なものから未成年者を遠ざけるためのものであり、規制対象者の利益を守るための規制です。このような機能をもつ「3ない運動」を規則化した校則については、それが未成年者である在校生に適用される限り、違憲審査基準を緩めて考えることになります。在校生をバイクから遠ざけることにより死傷等の重大な結果を避けるという本件校則の目的は正当であり、かかる目的達成のためには一律にバイク免許の取得と乗車を禁止する必要があると認められますので、本件校則は「公共の福祉」を超えないものと評価されます。
<結論>
以上から、単なる「3ない『運動』」によって在校生の免許取得を禁止することは根拠のない規制として違法ですが、これが校則化されている場合には適法なルールとして是認されるものと考えられます。
※トラックバックは管理者の承認後に行われます。当サイトへの言及リンクが無いトラックバックは承認いたしませんので予めご了承ください。
集計期間: 2011年1月16日-1月22日