野党転落から2回目の党大会を通常国会召集前日の23日に開いた自民党。谷垣禎一総裁は「新生」「新しい」を計4回繰り返し、政権奪還への意欲を強調。政権交代時の無力感は薄まり、会場には熱気と勢いが感じられた。だが、自民党の復調傾向は民主党政権の敵失に助けられているのが実態。次期衆院選に向け選挙区支部長の公募を積極的に導入、候補者の世代交代を推し進めるが、そこには「変化」をアピールできなければ党勢回復はおぼつかないという危機感がにじむ。【中田卓二】
昨年1月の党大会は「谷垣総裁で参院選が戦えるのか」という動揺を抱えた中で開かれた。それから1年。統一地方選を控えた今回、そうした空気はすっかり影を潜め、幹部からは威勢のいい政権批判が相次いだ。
「(税と社会保障の一体改革で)マニフェスト違反の案を持ち出そうとするなら、速やかに衆院を解散し、国民に信を問うしかない」。石原伸晃幹事長は民主党のマニフェスト修正の動きをやり玉にあげ、こう挑発した。
自民党は予算審議を巡る菅政権の「3月危機」をにらみ、次期衆院選で党公認候補となる選挙区支部長の選考を急いでいる。すでに216人を決定し、そのうち27人は公募で選ばれた。15選挙区では09年衆院選で落選した前職に代わって公募による新人が支部長に就き、候補者の世代交代を図る戦略が鮮明になっている。
公募で選考中または公募を実施予定の選挙区も43あり、河村建夫選対局長は22日の全国幹事長会議で「いつでも解散・総選挙に臨む態勢ができつつある。残る空白区の選定作業を加速してほしい」と呼びかけた。
だが、次期衆院選へのステップと位置付ける4月の統一地方選に向けて不安要素は残る。2月6日投開票の愛知県知事選では、自民党を離党した大村秀章氏が河村たかし前名古屋市長と組んで出馬。同県連は重徳和彦氏を推薦したが、党内には大村氏を公然と支援する議員もいる。執行部は事実上黙認しているが、苦しい戦いが予想され、つまずきの元になりかねない。
政策では、対案をどう打ち出すかも課題だ。石破茂政調会長は政策報告で「自民党がだめだから民主党、民主党がだめだから自民党というだめ比べをいつまでしていても仕方がない」と述べた。
菅直人首相が意欲をみせる環太平洋パートナーシップ協定(TPP)は意見集約が進んでいない。谷垣氏も「(首相は)農業の発展など国内対策に万全の備えができるのか」と批判のトーンは低い。TPPや消費税増税には、地方組織に統一選への影響を懸念する声が強く、民主党と同じジレンマを抱える。
「長きにわたる自民党政権の反省、民主党政権の惨状。この言葉こそ政治の出発点であり、到達点だ」
谷垣氏は「信なくば立たず」という孔子の言葉を引用し、演説を締めくくったが、民主党の岡田克也幹事長は岐阜市内でこうけん制した。「解散はないと思うが、自民党のみなさんにもしっかりと頑張っていただきたい。国会は生産的な前向きな議論に期待したい」
自民党は党大会で10年決算を了承した。収入総額は168億6898万円で09年の312億7456万円からほぼ半減。支出総額は161億6057万円で、こちらも09年の296億3651万円から大幅に減った。
収入では、政党交付金が102億6381万円で、野党転落に伴い09年より約37億円減少した。同党の政治資金団体「国民政治協会」からの寄付は12億2000万円にまで落ち込み、10億円の借入金を計上した。
党員数は減少傾向が続き00年の236万9252人に対し、08年は105万6263人と、100万人割れが目前だ。政権交代があった09年分は未集計だが、同党は理由を明らかにしていない。【野原大輔】
09年衆院選での野党転落後、有権者は多くの自民党議員・候補に耳を貸そうとしなかった。それから1年4カ月余。自民、民主の政党支持率は逆転し(民主20%、自民21%、1月毎日新聞調べ)、上げ潮ムードも漂う。地方の現場の空気は変わりつつあるのか。【中山裕司、野原大輔】
「根本匠 再出発」。福島県郡山市を歩くと、こんなポスターが目につく。09年衆院選で福島2区で落選した根本匠前衆院議員(59)は「統一地方選後はいつ解散・総選挙があってもおかしくない」と支持者回りに励む。落選議員4人で結成した「東北志士の会」で政策勉強会を開き、「そのとき」に備える。
旧建設省出身で当選5回の中堅。政策通だが、千葉7区から福島2区に移った民主党の太田和美衆院議員に約2万票差で敗れ、比例代表での復活当選もかなわなかった。「民主党熱」は保守の地盤でも高かった。
今月21日、厳寒の中、コートも着ずに地元のクリーニング店にあいさつに訪れた。「草の根に分け入る」という活動の一環。6~21歳の5人の子供を持つ男性店主(41)は「今は自民党も民主党も信頼できない」とこぼしつつ、地元企業の活性化や雇用対策を要請した。有権者は、民主党への失望を抱き始めている、と感じている。
「今の私は『歩く世論調査』」と根本氏。ハローワーク郡山の管内では、有効求人倍率が0・50倍(昨年11月)と全国平均の0・57倍を下回る。打開策に頭をひねる日々が続く。
「国防をしっかりさせ、経済で国を守り、日々の生活の安全を守りたい」。静岡3区支部長の宮沢博行磐田市議(36)は20日夜、静岡県掛川市の党地区新年会に出かけた。
09年衆院選で自民党は県内の8小選挙区すべてで敗北。立て直しを迫られ、昨年1月、民主党現職の小山展弘衆院議員と同じ30代の宮沢氏を公募で選んだ。自民党県議は「世代交代しなければだめだと思った」と語る。
市議とはいえ、国政選挙向けの活動は手探り状態。平日は毎朝、選挙区内の駅周辺で街頭演説するが、当初は野党の悲哀で企業や団体にはなかなか話を聞いてもらえず、「自民党に頼っちゃだめだ」と忠告もされた。物心両面での派閥の支援は期待できない。昨年7月の参院選後まで秘書を雇う余裕すらなく、個人後援会はいまだにない。
昨年夏の参院選静岡選挙区で自民党新人がトップ当選し、逆風は和らいだと感じているが、「いま解散しても十分に戦える態勢にはない」と不安は消えない。「自民党の支持率はようやく20%そこそこ。保守層以外の手応えがつかめない」。街頭演説で大半の人が素通りする状況は今も変わらないという。
毎日新聞 2011年1月24日 東京朝刊