社説
児童ポルノ規制/条例よほど慎重でなくては
国ができないのなら、地方から。その志、使命感は貴重だ。ただし、事前の十分な吟味を怠ったのでは、独り善がりの勇み足になってしまう。 国がやらないのは、それなりの理由、経緯があるからではないか。国に先駆けて地域が実施することで効果はどれだけ見込めるのか。精査する必要がある。 宮城県が児童ポルノの「単純所持」を禁止する条例の検討を始めた。児童買春・ポルノ禁止法(1999年施行)を作る時に、禁止対象とするのを国会が見合わせた項目である。 製造と提供、提供目的の所持に加えて、個人の所持も禁止できるように法を改正しようという流れは既にできている。しかし、「『所持』しているとは、どんな状態を指すのか」「児童ポルノとは何かという規定がそもそもあいまいだ」といった疑問、批判は解消されていない。 多様な解釈が可能な条文で罰則を設けるのは、不当な捜査につながる危険性が大きい。この点も綿密な検討が要る。 法律が禁じてはいない事柄を特定の地域だけで一自治体が罰する仕組みをつくるとなれば、その地域固有の差し迫った事情がない限り、よほど慎重な議論でなくてはならない。 県の方針は「女性と子どもに対する暴力行為根絶対策」の一つとして打ち出された。先月発足した有識者懇談会での意見を集約した後、対策推進本部(本部長・村井嘉浩知事)で3月までに条例化の最終判断をする。 なぜ、こんな忌まわしいものが出回るのか。流通に鈍感すぎるのではないか。外国からの批判が高まり、問題意識が共有されて、現行法は制定された。 共有されたことの中には、他人への提供を目的としない個人の所持を罰することへのためらいも含まれていた。ためらいは弊害を想定して生まれた。 自分が気づかない間にポルノとみなされる画像がパソコンに取り込まれることはあり得る。警察が別の重大な事件を捜査するために、単純所持を突破口に使うこともあり得る。 民主、自民、公明各党は2009年、単純所持禁止に向けた法改正で合意した。しかし、入手と所持の状態をどう規定するかはまだ一致していない。単純所持も違法だとはっきり規定すべきだが、予想される弊害を考えれば、罰則は避けるべきだ。日弁連が去年まとめた意見書のようなそんな考え方もある。 排除を徹底する上で重要なのは、製造元、供給源の摘発を進めることである。そのための体制が不備だというのであれば、手当ての仕方は別に検討しなければならない。 議論の幅は広い。一つ一つを詰めないで特定の地域だけに罰則を設けることへのためらいには、十分意味があるはずだ。
2011年01月24日月曜日
|
|