余録

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余録:こうのとり2号

 「鸛(こうのとり)は霊識ある鳥か」と江戸時代の随筆は記している。文化年間、江戸は御蔵前の西福寺の堂上に営巣していたコウノトリが突然姿を消した。人々が不思議に思っていると、ほどなく西福寺近くで出火、風下だった寺も焼失したという▲昔はコウノトリが屋根にすみ着いた家は火事にならないといわれた。江戸市中の有名寺社の多くには巣が見られたという。そういえばヨーロッパでは現在も教会の塔などにコウノトリが巣を作っている映像をよく見かける▲コウノトリが赤ちゃんを運ぶという話を生んだヨーロッパでも、この鳥が屋根にすめば火災よけになるという俗信があるそうだ。身近な高所に巣を作って懸命にヒナにえさを運ぶコウノトリの姿に、東西を問わず人々が幸運を運ぶ鳥を連想したのは分かりやすい話だ▲小惑星探査機「はやぶさ」人気は、その名が親しみやすく、感情移入しやすかったのも寄与していよう。で、国際宇宙ステーション(ISS)に物資を運ぶ日本の無人補給機HTVも、新たに「こうのとり」の愛称がついて、きょう午後にも2号機が打ち上げられる▲こうのとり2号には食料や衣類、日本の実験棟「きぼう」で使う装置のほか、インドネシアなど東南アジアの4カ国から託された植物の種も積まれている。アジア諸国に「きぼう」の利用を働きかけている日本としては、今後の宇宙協力拡大へと育てたい「種」である▲来年度には大気圏再突入用カプセルを備えた地上回収可能な機体開発も始まりそうな「こうのとり」だ。いきおい有人飛行の夢もふくらむが、今はまず天空のISSにしっかりと幸運を届けてほしい。

毎日新聞 2011年1月22日 0時11分

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