「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明」

小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明

2011年1月21日(金)

内向きな若者じゃダメですか?

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 サッカーの日本代表チームが好調だ。開催中のアジアカップでは、グループリーグを一位で勝ち上がって、決勝トーナメントにコマを進めている。
 先行きについてはまだ不透明な部分もあるが、今大会の結果がいずれに転ぶのであれ、とにかく、新生日本代表の選手諸君が実力をつけてきていることだけは疑いない。ひとつひとつのプレーの精度が、前の世代の選手たちと比べて、明らかに際立っている。まことにめでたい。

 サッカーを見ていてうれしいのは、伸び盛りの若者の姿を日々確認できることだ。さよう。成長と躍進。われわれ日本人が見失って久しいものだ。その伸び盛りの若々しいプレーぶりに、私のような旧世代の人間は、懐かしさを覚えるのである。

 サッカーを別にすれば、わたくしどもの国自体は、長い停滞のうちにある。もしかして、これは一時的な停滞ではなくて、何かの終わりなのかもしれない、と、そう思えてくるほどに長い低迷期だ。かれこれ20年になる。ザック・ジャパンの選手たちの全人生に相当するデッドロック。いくらなんでも長い。

 だからなのかどうなのか、若い者が内向きになっているということが、ことある毎に喧伝される。
 で、その傾向に対して、中高年の男たちは、苛立ちを隠さない。
「とにかくチマチマしてやがるんだ」
 と、おっさんたちは、寄ると触ると若い連中の覇気の無さについて語り合っていたりする。
 世の中がギスギスしている。
 とても良くない。

 今日もどこかの雑誌のページで、「識者」を名乗る中高年が、日本の若者の内向き志向を指摘し、その傾向を嘆き、彼等を叱咤し、海外に雄飛するべきである旨を力説している。見る前に跳べとか、跳ぶ前に考えるなとか。

 言いたいことはわかる。
 内向きな若者は、たしかに、ハタから見て、闊達に見えない。
「しっかりしろよ」
 と言いたくなる。
 私も半分ぐらいはそう思っている。
 でも、若い連中の立場に立って考えてみれば、たぶん、内向きになってしかるべき理由があるはずなのだ。無理からぬ事情みたいなものが。

 今回は、「内向き」ということについて考えてみたい。
 若い人たちが内向きになっているという俗説が本当なのかどうか。
 本当なのだとすると、その原因は奈辺にあるのか。
 また、内向きであってはいけないと、どうして「識者」はそのように考えるのか。そういったあたりのあれこれについて。

 私自身は、どちらかといえば内向きな男だ。昔から、様々な場面で、その点について指弾されてきた。
「ものを書く人はもっと見聞を広めないと……」
 と、ド素人のおばさんに面と向かって説教をくらったことさえある。
「いやあ……ははは」
 と、そう言われてなお、あえて論駁しなかったあたりが私の弱点で、もしかして、そういうヌルさも含めて、人びとは私を内向きと評価したのかもしれない。うむ。なので、ここでは、言われっぱなしの若い人たちと共闘するつもりで、ひとつ反論を試みてみようかと思っている。
 内向きには内向きの良さがある、ぐらいな形で、前向きの結論が提示できればまずは上出来。ま、苦しい論陣にはなるだろうが。

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著者プロフィール

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

小田嶋 隆

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、小学校事務員見習い、ラジオ局ADなどを経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。近著に『人はなぜ学歴にこだわるのか』(光文社知恵の森文庫)、『イン・ヒズ・オウン・サイト』(朝日新聞社)、『9条どうでしょう』(共著、毎日新聞社)、『テレビ標本箱』(中公新書ラクレ)、『サッカーの上の雲』(駒草出版)『1984年のビーンボール』(駒草出版)などがある。 ミシマ社のウェブサイトで「小田嶋隆のコラム道」も連載開始。


このコラムについて

小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明

「ピース・オブ・ケイク(a piece of cake)」は、英語のイディオムで、「ケーキの一片」、転じて「たやすいこと」「取るに足らない出来事」「チョロい仕事」ぐらいを意味している(らしい)。当欄は、世間に転がっている言葉を拾い上げて、かぶりつく試みだ。ケーキを食べるみたいに無思慮に、だ。で、咀嚼嚥下消化排泄のうえ栄養になれば上出来、食中毒で倒れるのも、まあ人生の勉強、と、基本的には前のめりの姿勢で臨む所存です。よろしくお願いします。

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