2010年11月25日 21時51分 更新:11月26日 0時34分
悩み抜いた市民の結論は「死刑」だった。宮城県石巻市で起きた3人殺傷事件の裁判員裁判。被告の元解体作業員の少年(19)は、鈴木信行裁判長が主文を言い渡すのをじっと聴き入った。閉廷の瞬間、立ち上がって裁判員に一礼したが、その後は力なく椅子に腰掛け、刑務官からうながされて立ち上がると、うつむいたまま退廷した。一方、裁判員も判決後、「一生悩み続ける」と苦悶(くもん)の表情を浮かべた。【長野宏美、比嘉洋、鈴木一也、垂水友里香】
仙台地裁102号法廷。この日は予定より約20分遅れ午後4時50分に開廷した。少年は初公判からずっと同じ黒いスーツ、青のネクタイ姿で入廷した。
「法廷での供述は信用できない」「他人の痛みや苦しみに対する共感が全く欠けている」。判決は少年側の主張をことごとく退け、3人を殺傷した犯行の執拗(しつよう)さ、残虐さを厳しく非難。少年は時折体を前後に動かし、落ち着かない様子も見せた。
傍聴席の遺族らは約30分間の判決の言い渡しに静かに聴き入った。閉廷後、遺族らは無言で足早に地裁を後にし、マスク姿の女性は「ノーコメントです」とだけ述べた。
閉廷後の午後6時、裁判員2人が会見に応じた。男性裁判員は「正直何とかできなかったのかなあ」と語り、下を向いて涙をこらえた。
閉廷後の午後6時、裁判員2人が会見に応じた。男性裁判員は「正直何とかできなかったのかなあ」と語り、下を向いて涙をこらえた。2人は、裁判や重い判決を振り返り、次のように感想や考えを語っている。(A=30代会社員男性、B=年齢・性別非公表)
--裁判を通じて感じたことは。
A どんな結論を出しても、被告と被害者どちらからもは納得されない。正直怖くて一生悩み続けると思った。
B 死刑にするべきかどうかの論点が大きいと裁判前の報道を見て思った。(裁判が)進むにつれ、どうしたらいいか分からなくなった。
--重い決断を迫る裁判員制度に関して。
A 重いですね。本当に苦しい精神状態。今回参加できたことはよかった。
B やりたくなかった。死刑は本当に重い。
--少年にどんな言葉をかけたいか。
A 求刑する前であれば話したいことがあったが、今は何もない。
B まず反省してと言いたい。なぜこのような判決になったのか考えてほしい。
--一番負担になったことは。
A 被告、被告のお母さん、被害者の方が涙してる姿をかみしめ、どういう結論を出すか思った時が一番つらかった。
B この子に対し何が一番いいか考えるようになった。死刑という言葉が一番重い。休日に悩み苦痛だった。
--山口県光市の事件や永山基準をどれくらい意識したか。
A ある程度の目安。
B 考慮しながら話さざるを得なかった。
--休日は?
B 家族らと一緒にいるのが耐えられなくて図書館に行った。公判の記事や裁判員制度の本を読んだ。自分の中で判断基準がほしかった。
--この経験をどう受け止めるか。
B 毎日気持ちが変わる。昨日は良かったと思い、今は重圧で押しつぶされそうで、何で(裁判員に)当たっちゃったんだろうという気持ちの方が強い。時が解決してくれるんでしょうか。