「な、何だこいつは…!」
「まさか、新種か!?」
捕喰妨害対象を確認。現在捕喰中の物体、通称「コンクリート」の捕喰を一時中断。最捕喰妨害対象、通称「ゴッドイーター」の捕喰開始。
「く、くそ!散れ、固まってたら一網打尽だ!」
「りょ、了かグエッ!」
ゴッドイーターAを左腕ブレードにて無力化に成功。捕喰行動に移行する前に、ゴッドイーターB、C、Dの掃討を推奨―――受諾。
「ダレット!クソ、速い!ここは俺が引きつける。お前たちはアナグラへ帰還し、この新種のことを伝えろ!」
「で、でも隊長!」
「でもも勝手もあるか!とっとと行け!心配すんな、俺もすぐ行く」
「…了解」
「タクマ、お前隊長を見捨てウッ!」
「いい判断だ、タクマ。クラースを頼んだぞ」
「…すでに救援要請はしてあります。どうか、それまで持ちこたえてください」
ゴッドイーターB、C戦線離脱。個体情報漏洩の可能性97%。最優先消去推奨―――受諾。行動開始。
「おっと、行かせるかよ。折角のタイマンだ、仲良く戦ろうぜ?嫌でも付き合ってもらうけどな!」
ゴッドイーターDの妨害。行動変更。ゴッドイーターDを排除したのち、B、Cの消去に移行。
―――行動開始。
「――――」
消去完了。ゴッドイーターB、Cロスト、追跡不可。
捕喰行動へ移行。ゴッドーターA、D―――捕喰開始。
「全身青く輝く外骨格に翼型のブースター、左右の腕のブレード…間違いない、あれがターゲットね」
「うわ、ゴツ!旧時代のロボットアニメに出てきそう」
「何言ってんですか任務中に。ドン引きです」
「はいはい喧嘩しない。…外見的にはアラガミ化した俺に似てるな」
「はい。ですが、違うところも多く見受けられますので、ハンニバル種と同様と考えるのは軽率ですね。ただ、攻撃方法や特性が未知の敵ですので、対ハンニバル種の戦法をベースに、臨機応変な戦闘を行います」
「ん。いい判断だ。後輩が成長した姿を見るのは嬉しいもんだ」
「ありがとうございます。―――ミッション開始!」
聴覚に反応あり―――個体数4。個体すべてに本体と同種の反応あり。ゴッドイーターと確定。現在までの36回の戦闘と同様に、全個体無力化後に捕喰行動に移行。
―――行動開始
「グッ…強い。でも…」
背部ブースター結合崩壊。『インキタトゥスの息』出力低下。
左右ブレード結合崩壊。斬撃範囲大幅減少。
頭部装甲結合崩壊。頭部防御力大幅減少。
オラクル細胞結合崩壊寸前―――コア露出の危険性特大。
「これで―――」
左右ブレード展開。挟撃―――攻撃対象上空へ回避。攻撃失敗。
「終わりだーーー!」
回避行動不可。対象の攻撃を受けた場合のコア露出可能性―――100%
「―――え?」
本体真下に正体不明の『穴』が出現。ブースター損傷、ダメージの蓄積により脱出行動不可。
―――落下開始。
「ゲハハハハ、野郎ども!今日はご苦労だった。見ろ、この金銀財宝の山を!これでしばらく遊んで暮らせるぜ!」
「イィィィィヤッホォォォォォ!!」
「さっすが賞金アベレージ300万ベリーの東の海で800万の懸賞金が掛かってる男、『強奪のアルフレッド』!」
「ゲハハハハ、しかも、今回はここにある財宝よりも価値があるものも手に入れた!見ろ、これが伝説の『悪魔の実』だ!」
「あ、悪魔の実!?おとぎ話じゃなかったのか?」
「あの文様…た、確かに図鑑に載ってた通りだ」
「食せばカナヅチになるのと引き換えに異能を手に入れられる伝説の実、俺は…今ここで喰うぜ!」
「お、おお!愛用のハンマーで岩をもブチ割る船長がさらにパワーアップすんのか」
「ますますアルフレッド海賊団は無敵になるんですねー、船長!」
「応ともよ!テメェらが5つ数えたらこの実を一口で喰ってやるから大声で数えろや!」
「了解でさ!5!」
落下中―――視界回復。視認できる範囲に敵生体反応無し。
「4!」
―――聴覚回復。未知の音声を確認。
「3!」
―――大気成分に大幅な変化あり。データ照合中―――照合完了。約1000年前の『地球』の成分とほぼ一致。
「2!」
―――損傷状況確認。ブースター損傷率82%、左右ブレード損傷率62%、頭部装甲損傷率73%、総合損傷率78%。早急に捕喰行動を行い、オラクル細胞結合修復の必要性あり。
「1!」
―――100m下方に生体反応。個体総数34。戦闘力微弱。ゴッドイーターとは別種と判断。それら全てを捕食した場合の予測修復率3%。早急な修復を優先し、捕食行動を推奨―――受諾。
「ゼ―――」
ズダァン!
「な、なんだぁ!?」
「船長!空から女の子…じゃなくて、なんか落ちてきました!」
「あん?…なんだこりゃ、生き物…なのか?」
「ボロボロっすね。でも、なんかキラキラ光ってて、高く売れそうっすよ」
落下終了。態勢の立て直しを実行。
「た、立った!クララ…じゃなくて落ちてきた化け物が立った!」
「うろたえるな!アルフレッド海賊団はうろたえない!全員武器を取れ。この傷から見て、奴は死に損ないだ!トドメを刺して、売っ払ちまうぞ!」
―――行動開始
「な、なんなんだテメェは…?」
3秒前の斬撃による損傷―――0。
「お、俺のクルーを全員…全員喰っちまいやがって!ば、化け物め。こ、こっちくんな!くるな、くるな、くるなァァァァ!」
―――捕喰開始。
敵生体反応0。修復率約2.4%。引き続き周囲の物質の捕喰により、修復を継続。
―――足元に植生体反応あり。視認完了、データ照合―――完了。約1000年前の『地球』に存在した果実『リンゴ』に酷似。ただし、表面にある文様に該当するデータなし。
修復を最優先とし、捕喰を推奨―――受諾。
―――捕食開始
「―――?」
周りを見渡す。澄み切った空、白い雲、照りつける太陽。ここに落ちてきたときと何も変わらない景色。
私が今乗っているものは『船』。だが、私が【発生】した場所の船とは全く異なる。そう、これは中世と呼ばれた時代の、木造帆船だ。
甲板は血で真っ赤に染まっているが、死体はない。私が捕喰したからだ。
ここまではいい、私の記憶に間違いはない。私が思考しているということ。これもまた問題はない。
問題は、私が【それを自覚している】ということだ。
本来、私、つまりアラガミ―――ゴッドイーターたちの間での名称。今後、私を表す名称として使用する―――はそのような意識を持たない。考えはするが、何故?という疑問は持たないのである。まあ、アラガミは個体差が激しいので例外はありそうだが。
そして、さらなる問題がもう一つ。
「―――これは…『人間』か?」
船室の一室に掛かっていた鏡を覗き込むと、そこに映っていたのは捕喰対象であるはずの『人間』だった。
膝の裏まで伸びる長く、青白く輝く髪。掴まれればたやすく折れそうな細い肢体。軽く小突かれただけで貫かれそうな雪のように真っ白い肌。他部の細さとは対照的に盛り上がった胸…はっきり言って邪魔だ。
「人間の中で半数を占める個体。たしか、女だったか?」
何故このようなことになったのか、思考する。
やはり、あの実が怪しい。何かしら情報がないか探してみるか。
船内を徹底的に探し回ると、一冊の本を見つけた。先ほど捕喰した人間から、言葉や文字は学習済みなので、読みは問題ない。
「タイトルは…『悪魔の実図鑑』」
悪魔の実…確かにあれは果実の形をしていた。なにかしら関連性はあるかもしない。
「………あった。『動物系 ヒトヒトの実 モデル:ウーマン』」
ウーマンとは、女性という意味だったか。悪魔の実とは泳げなくなる代わりに食したものに異能を与える果実。動物系はその中でも姿を変化させる特性を持つとある。間違いないだろう。
さしあたって問題は―――
「元の姿に戻れんということだな」
これでは身体の修復どころではないな。まずはきちんと形態変化できるようにならねば。
「とりあえず、捕喰した海賊からこのあたりに町があることは学習した。そこで情報を集めるか…服は、どうするか」
どうやら、人間の女は服を着ないといけないらしい。面倒なことだ。だが、先ほど捕喰した中に女はいなかった。仕方ない、適当に男の服を着るか。
―――30分後、船長室で女物の服を発見した。ついでにかつらと化粧道具も。
…深くは考えないことにした。