アラブ諸国の中では政治情勢が比較的安定しているとみられた北アフリカのチュニジアで政変が起き、1987年から続いてきたベンアリ政権があっけなく崩壊した。経済成長の一方で民主化の遅れはアラブ諸国に共通している。今回の政変の背景にある構造的な問題を再認識し、他の国々の政治情勢の変化にも注意深く目を向ける必要がある。
90年に1600ドル程度だったチュニジアの1人あたり国内総生産(GDP)は、昨年4100ドル強まで増えたと国際通貨基金(IMF)は推計している。欧州連合(EU)などとの自由貿易の枠組みも進み、直接投資の流入も増えた。チュニジアは経済政策の面で“優等生”とみなされた国の一つだった。
一方で先週末に国外に亡命したベンアリ前大統領は、国内メディアを統制して事実上の終身大統領制を復活させ、取り巻きによる汚職も指摘されていた。独裁大統領の下でテクノクラートが経済改革を進め、成長軌道に乗せているが、所得水準の上昇につれ民主化要求が噴き出しやすい状況にもなりつつあった。
最も深刻な問題は、人口が急増する中での若年層の高率の失業だ。大学を出ても職が容易に見つからない不満に、最近の食料価格急騰への怒りが重なり、政変につながった。
米国の追加金融緩和政策も一因となっている国際商品相場の高騰が、発展途上国の政治・社会情勢に大きな影響を及ぼし始めていることも、見逃せないポイントであろう。
チュニジアでは、フェースブックなど新しい情報伝達手段を用いて多くの国民が治安警察の動きなどの情報を共有し、反政府デモが一気に広がったという。
情報通信革命を追い風に独裁政権を倒し民主化への道を開く――。この国を象徴する花になぞらえ「ジャスミン革命」と呼ばれ始めた政変は、同様な問題を抱える他の国々の政権への重要な警告になる。
新たに発足する政権は、混乱長期化や過激派の台頭を防ぎつつ民主化を着実に進めるべきだ。他のアラブ諸国でも反政府デモが広がる兆しがあり、情勢流動化への警戒も必要だが、広範な政治改革の契機になるならジャスミン革命の意味は大きい。
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