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余録:ウイルスの栄枯盛衰

 「カゼ猛威 “当たり年”の昨年上回る 1週間で46万人も」。78年2月3日の毎日新聞は1面トップでインフルエンザの流行を伝えている。この前年、旧ソ連で新しい型のインフルエンザが流行した。それが日本に上陸したのが1月。いわゆる「ソ連風邪」の登場だ▲20世紀、人類はインフルエンザ・パンデミック(大流行)を3度経験した。18年のスペイン風邪、57年のアジア風邪、68年には香港風邪が猛威を振るった。パンデミックが起きるとなぜか古いウイルスは駆逐される。スペイン風邪のウイルスはアジア風邪に、アジア風邪は香港風邪に放逐された▲ところがソ連風邪はパンデミックを起こさず、季節性のAソ連型として流行を続けてきた。スペイン風邪の子孫ウイルスが実験室から漏れ出したもので、免疫を持つ人が多かったためらしい▲今世紀最初のパンデミックから2シーズン目。日本では患者が増え続けている。最近検出されたウイルスの8割は新型で、残りはA香港型。世界保健機関の報告でもAソ連型はほとんど検出されていない。私たちはまさに新型が古いウイルスを駆逐する現場を見ているのかと思うと不思議な気がする▲「治療、予防のキメ手のないカゼ」「お手上げの状態」と78年の記事はつづる。ありがたいことに三十数年後の今は抗インフルエンザ薬があり、ワクチンも今季は潤沢だ▲もちろん、持病のある人や高齢者、妊婦や子どもに注意が必要な状況は変わらない。昨年7~9月の調査では新型への免疫獲得率が10代では6割以上、5歳未満と50歳以上では1~2割と低い。流行のピークを前に十分用心を。

毎日新聞 2011年1月17日 0時04分

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