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社説:NHK新会長 経験を改革に生かして

 NHKの新会長にJR東海副会長の松本正之氏が決まった。24日に任期満了で退任する福地茂雄会長に続き、2代連続の外部登用となった。

 松本氏は、旧国鉄、JR東海で人事・労務畑を歩み、分割民営化推進に中心的な役割を果たしたとされる。昨年4月まで6年間同社社長を務め、リニア中央新幹線の整備計画にも道筋をつけた。

 就任に際しての会見で松本氏は「NHKの経営は鉄道と似ている。鉄道ではお客さま、放送では視聴者が相手の仕事。公共性が基本の価値観にある」などと述べた。

 NHKは、年間約6400億円の受信料を視聴者から得て運営している。その針路を示す12年度以後の経営計画を決める作業に松本氏はまず取り組むことになる。

 受信料の還元策の策定、ネットなど多様化するメディアへの対応など課題は山積する。還元に伴い組織のリストラも必要だろう。相次いだ不祥事を受けての改革を引き続き進めつつ、公共放送の使命を果たす体制作りに手腕を発揮してもらいたい。

 一方で、ジャーナリズムの役割と責任も自覚してほしい。福地会長時代、歴史を検証するドキュメンタリーやドラマなど番組への評価が高まった。スタッフが自由な空気の中で報道や番組作りに携わることは何よりも大切だ。

 松本氏は今後、国会対応をするが、報道や番組作りが政治の影響を受けるようなことがあってはならない。自主性・自立性を確保し、良質な番組を作ることが、受信料制度を支える生命線であることを肝に銘じてほしい。

 それにしても、慶応義塾の安西祐一郎前塾長の擁立から就任要請撤回、本人による拒絶に至る経営委員会のご都合主義的な対応は、改めて厳しく批判されるべきだろう。

 その後、松本氏の選出は、一部委員の推薦を受ける形で、委員の多くが面談することもなく決まった。時間切れを前に即決したもので、改革途上のNHK会長はどんな人物がふさわしいのかを十分に議論したとは到底、評価できない。

 経営委員の選出にまで踏み込んで経営委員会のあり方を厳しく見直し、抜本的に改革すべきである。

 その上で、次期以降をにらみ、会長選出のプロセスを視聴者サイドに立って透明化してほしい。福地会長の時もそうだったが、土壇場で窮余の策として財界人を引っ張り出すパターンが繰り返されては困る。

 NHK職員の意識改革も必要だ。会長候補の名前が浮上するたびに怪文書が飛び交うような風土が改まらなければ、選出をめぐる混迷が再現しないとは限らない。

毎日新聞 2011年1月19日 2時28分

 

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