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天声人語

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2011年1月18日(火)付

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 チャプリンが初めてつくったトーキー映画は1940(昭和15)年の「独裁者」だった。権勢をきわめていたヒトラーに敢然と挑んだ作品は、時代への深い洞察に満ちた名画の中の名画とされる▼それまでは無声映画にこだわっていたという。だが、対決する独裁者は、言葉を操って人心をあおる扇情の徒である。自ら語る声なしには挑めなかっただろう。結びのヒューマニズムあふれる演説は名高く、映画史上最も感動的な台詞(せりふ)という人が少なくない▼北アフリカのチュニジアで、長年の独裁政権が崩壊した。強力な警察組織によって言論が厳しく制限されてきた国である。打ち破ったのはインターネットだったそうだ。強権にあらがうコミュニケーションの道具に、チャプリンが頼みにしたトーキーが重なり合う▼時代も背景も違うが、ともに「個」を権力者に対峙(たいじ)させうる利器であろう。チュニジアでは、携帯で撮影されたデモの映像や、次のデモの呼びかけが広がり、市民を動員していった。その威力を、天上の喜劇王はうらやんでいようか▼今回の政変は、チュニジアを彩る花から「ジャスミン革命」と命名されたそうだ。周辺には似たような強権国家が多い。民主化のドミノ倒しを案じ、漂う芳香に気の休まらぬ権力者もいるように聞く▼映画のチャプリンは演説で「飛行機とラジオは私たちの距離を縮めた。民主主義の旗の下で手をつなごう」と呼びかけた。いまやネットで世界が瞬時につながる時代である。「両刃の剣」は承知しつつ、より良き世界への希望を見る。

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