2011年1月22日14時43分
漫画家、西原理恵子さんの作品を原作にした映画が、毎年のように公開されている。一人の作者の作品がこれほど続くのはちょっと異例。ビジュアル化されている漫画を、あえて実写化したくなる魅力はどこにあるのだろう。
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小泉今日子演じる西原さんが2児の子育てに奮闘する「毎日かあさん」が2月に公開される。昨年は出身地の高知が舞台の「パーマネント野ばら」、2009年は空想の友達がいる少年が成長していく「いけちゃんとぼく」、女性漫画家が故郷の友達を振り返る「女の子ものがたり」が上映された。
西原さんの作品ではないが、アルコール依存症と闘病し、再び家族と暮らすことを夢みる「酔いがさめたら、うちに帰ろう。」も昨年末から上映中だ。原作は西原さんの元夫の故・鴨志田穣さんの私小説だ。
性欲をあらわにする女性、子供に歯をむいて怒鳴る母親など、西原作品は実写に向いていないと思われる描写がある。映画ではそのまま女優に言わせたり、母親の表情を抑え気味にしたりして切り抜けている。
「毎日かあさん」の原公男プロデューサーは、映画化の理由をこう話す。「インパクトの強い絵が映像化の意欲をかき立てる。言葉が多く表情のデフォルメも大きいので、いろんなイメージが膨らむ」。同作の青木竹彦プロデューサーは西原さん自身がメディアに露出する機会が多くなったことを挙げる。「元夫の最期がドラマやドキュメンタリーで取り上げられ、西原さんを認知する人が増え、存在感が大きくなった」
「酔いが――」の山上徹二郎プロデューサーは「コマによってセリフを最小限にするなど、省略の仕方がうまい。映画の構造を持っている」ことが、実写化を誘惑するという。
西原作品を愛読している中条省平学習院大教授は、映画化が続くことについて「残酷さと優しさが共存している。その持ち味を映画で出してみたい、という思いが映画製作者に起こってくるのでは」とみる。ただ、映画化されても見たくない感情にかられ、実は一本も見ていないという。
「西原さんは個人の感動が他人には滑稽に見えることを知っており、読者に押しつけない。漫画なら物語を外から客観的に突っ込めるが、映画はどうしても一つの視点で語らないと成立しないので、ベタな物語になってしまう」と考えるからだ。
「作り手に関西人が多いからだと思う」との説を唱えるのは、「いけちゃんとぼく」の大岡俊彦監督だ。関西出身者は中央配信の情報ばかり押しつけられ、「みんなほんとに面白いと思ってやってるの?」と疑問に思っている、ということらしい。ちなみに、大岡監督のほか「女の子ものがたり」の森岡利行監督、「毎日かあさん」の小林聖太郎監督が大阪出身。「酔いが――」の東陽一監督が和歌山出身だ。「パーマネント野ばら」の吉田大八監督は鹿児島出身。
「『いけちゃんとぼく』の世界は、関西では『うちもこうですわ』だけど、東京では『昭和の話ですよね』と言われる。いまは本音で話す濃い人間関係が失われて、ファッション誌のようなきれいごとが、実生活に内面化しつつある。その傾向になじめない人たちに、西原さんのおしゃれじゃない、人間ぽい部分が求められているのでは」
ただし、映画化しやすいわけではない。大岡監督は、配給会社の営業担当者に否定的な意見を言われたという。「どの世代に見せるか説明できない」「芥川賞みたいなわかりやすい指標のある、超メジャーな作家でもない」「子供が主役の映画がヒットするわけがない」などと。
本音ベースの作風も評価が分かれるようだ。「『正直に生きてるといいことがあるなんてウソだからね』という西原さんの毒、核心をついている部分が理解されないんですね」
客観性と本音。本来、西原作品の特徴は映画界と相性が悪いはず。しかし、それが魅力に映り、あえて映画にしようと考える人が増えている、ということか。(井上秀樹)