トップ > 特集 > CMSとIA デジタル時代を生き抜く情報整理術 1. CMSとIAの接点:溢れる情報を整理しよう
清水 誠
一般化してきた「CMS」と「IA」。日本で「IA」と言うと、情報設計やUI設計、情報デザイン、ユーザビリティ対応、Webコンサルティング、進行管理まで幅広い領域が含まれることが多い。また、「情報設計」の内容が、ナビゲーション設計のための単純な分類行為に過ぎないことも多い。専門職というよりは「理屈を語れるWebディレクター」のように位置付けられてしまっているのではないか?
IAの元祖(の二人目)であるルー・ロゼンフェルドは、著書「Web情報アーキテクチャ」の中で図書館学との関連を主張し、その後「エンタープライズIA」を提唱するに至った。「インフォメーション・アーキテクト」の言葉の生みの親であるリチャード・S・ワーマンが情報の編集と表現方法にフォーカスしていたのに対し、ロゼンフェルドは図書館学をベースにWebならではの管理や活用方法、組織内のコラボレーションにも目を向け、Webの分野でIAの新解釈を行ったのだ。
また、USのIAコミュニティでは2000年頃、CMSの台頭によるコンテンツ整理のニーズを受け、タクソノミーやメタデータなどの概念が盛んに議論された。この分類概念は数年後、「タグ」や「ラベル」として一般化し、Web 2.0系のサイトやソフトウェアを中心に一気に普及した。
さらにUSでのCMS系イベントで、「コンテンツ戦略に関してはIAという専門家に相談した方がいい」という表現を講演の中で何度か耳にしたことがある。その「IA」とは、図書館学や情報処理学、認知科学などの学術的な知識を持ち、Web以前からITを活用した情報・文書の管理について取り組んできた白髭の博士だったりする。
このような狭義のIAは、専門職として欧米で既に認知されているのだ。ところが日本では、この専門性を持つ人は少なく、DBアーキテクトがデータベースの中の構造型データと同じようにコンテンツを扱ってしまったり、IAがWebでの利用のみを考えて単純なカテゴリ設計をしてしまうことがあり、その問題点や可能性すら認知されていないのが現状だ。
ここで、IA(やWebディレクター)こそが、専門性を発揮して活躍すべきだと筆者は考えている。クリエイティブな運用プロセスを理解した上でペルソナやシナリオを定義し、カードソートやアクセス解析を駆使して統計処理しつつ、情報デザインやUI設計も踏まえた上で、Web以外への展開も視野に入れた探しやすく再利用しやすく管理方法を提案しよう。つまり、ユーザー視点で情報(コンテンツ)の汎用的なアーキテクチャを設計するのだ。
コンテンツは増える一方で、メディアやテクノロジーも進化し続けている。Webの制作や開発がコモディティ化しつつある今、これほど将来性があり、長期的に必要とされる専門職は珍しいのではないだろうか。
CMSは、システムというよりは概念だ。そのため、最近はシステムを想起させる「CMS」(コンテンツ・マネジメント・システムの略)ではなく、「コンテンツ管理」と呼ばれることが増えてきた。システム導入やテンプレート設計にとらわれて中身のコンテンツを管理する戦略について真剣に考えることを怠ると、長期的なコンテンツ管理は実現できないのだ。コンテンツが急速に増え続ける今、IAに求められる知識・スキルとは何か?ポイントをいくつかまとめてみた。
IAの父、リチャード・S・ワーマンが提唱した情報整理の法則。下記の5つの切り口を一つまたは複数組み合わせれば、どんな情報も分類できると主張した。
Location ・・・ 位置
Alphabet ・・・ 五十音などの順序
Time ・・・ 時間
Category ・・・ 分野、カテゴリ
Hierarchy ・・・ 階層
マッキンゼー流の考え方。「Mutually Exclusive collectively Exhaustive」の略で、「それぞれが重複することなく、全体集合としてモレがない」、つまり「モレなくダブリなく」という概念だ。
たとえば、下記のような分類は、MECEではない。「魚」など、果物、野菜、肉のどれにも当てはまらない食べ物が存在するためだ。
MECEではない例
当たり前のようで、実践するのは意外と難しい。分類の基本として身に着けておく必要があるだろう。
図書館学では、古くから十進分類法が使われてきた。世界のどの図書館においても、誰が分類しても同じ結果になるような分類体系を作ることに、ライブラリアンは何世紀にも渡って努力を重ねてきたのだ。
ところが、森羅万象を扱う学問を数階層のツリー構造で全て分類するのには限界がある。そのため、学問の進化や発達の後を追うように、これまでに何度も改定されてきた。
図書の分類方法:十進分類法
現代のデジタル情報は、図書館の本の数よりもはるかに多く、幅広く、かつ急速に変化している。入れ物に入れる、というメタファーでは膨大な情報を整理できないのだ。情報の用途や対象者に応じて、分類の切り口は複数必要になる。ひとつの情報をツリー構造の中の複数の場所に収めたいこともある。情報が増えたり、用途や利用者が変わったり、世の中のトレンドが変化した時には、分類の切り口も変える必要がある。変化に耐えられる動的な分類手法が必要なのだ。
タグという優れたUIが普及した結果、タクソノミーという分かりにくかった概念がうまく隠蔽され、あっという間に一般化することになった。iTunesのスマートプレイリストやGmailのラベル、FlickrやYouTubeのタグなど、フォルダにファイルを入れるというメタファーを捨てた分類方法とUIはWebの常識になりつつある。Webブラウザのブックマークでさえ、最近はフォルダからタグへ移行しつつあるのだ。
※タクソノミー:情報の固まりに対して付与する分類体系のこと。当初は属性の選択肢を最初から決めておく制限語彙が一般的だった。
この、タクソノミーつまりメタデータによって分類の概念が大きく進化した、という点を改めて振り返る必要がある。タクソノミーの世界では、分類される対象の実態と分類が分離される。そして、タグを後から追加するなど、柔軟で動的な分類が可能になり、分類対象が増えてもスケールするようになったのだ。
さらに、タクソノミーとフォークソノミーの使い分け方について整理しておこう。フォークソノミーでは、第三者(ユーザー)が自由なタグを付けることができる。この方式が機能するのは、増え続ける多様な情報をマスのユーザーが生産し消費する場合に限られる。運営者が想像力を働かせてタグのボキャブラリを用意し、全ての情報に対してタグ付けを行っていくのは現実的ではない。情報の提供者が初期のタグをつけ、第三者がさらにクリエイティブなタグをつけ、そのことによって似たような情報にたどりつけるようになる、というメリットを誰もが享受できるからこそ、フォークソノミーは機能するのだ。そのためにはコミュニティがある程度の規模を持つ必要がある。一つの企業のみ、などの狭いコミュニティでは、自発的なタグ付けが十分に行われず、タグが足りないことによるデメリットの方が大きくなってしまう。
コンテンツは生き物であり、派生や進化、変化を繰り返していく。そのため、それらの関係性を管理する(保持する)必要がある。ファイル名やフォルダを工夫したり、説明ドキュメントを横に置いておく、などの管理には限界があるのだ。自社のファイルサーバーを思い出してみよう。何がどこに格されているか、その全体像は分かるだろうか?
また、1:1、1:N、N:N、といったデータベース(RDBS)的な概念も重要だ。同じものは一箇所のみに存在させる「マスタ」や「正規化」の考え方は、データベースの世界では長い間実践されてきた。
コンテンツは派生や進化を繰り返す
コンテンツにはライフサイクルがあり、時間軸で価値や状態が変わっていく。コンテンツによっては、古くなると価値がなくなるものもある。例えば、2008年の9月8日にUSで、UALの破産申請に関する6年前の古いページが誤ってGoogleニュースに掲載され、UALの株価が700%以上急落する、という事故が発生した。古いコンテンツをコントロールしきれない形で発信し続けることには、ビジネス的なリスクを伴うのだ。コンテンツは貯める一方ではなく、棚卸しや廃棄が必要になってくる。
急落したUALの株価チャート
このような情報の分類・設計の概念を理解し、実践していくことからコンテンツ管理は始まる。ファイルやフォルダのような旧来の概念とシステムでコンテンツを管理するのは無理があるのだ。だからこそ、CMSのようなコンテンツ管理のソリューションが必要になる。
次回は、コンテンツ管理のソリューション(文書管理やWCM)が持つ基本機能について解説する予定だ。第三回では、多くの読者にとって身近なコンテンツ管理の例としてデジタル音楽(MP3など)の管理方法について取り上げ、理論と実践、iTunesなどのツール使いこなし術などを具体的に紹介する。
IAに限らず、より多くの人がコンテンツと上手に付き合い、活用できるようになれば幸いだ。お楽しみに。
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