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2011年1月23日(日)付

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インフル流行―「新型」の怖さを忘れずに

適度に怖がるというのは、いかに難しいか、ということかもしれない。一昨年から昨年にかけて世界で大流行した新型の豚インフルエンザ(H1N1)がこの冬、再び流行し始めた。[記事全文]

北洋漁業不正―信頼と共存の海を目指せ

日本の北洋漁業が揺れている。裏金をロシア側に渡してロシアの排他的経済水域(EEZ)で漁獲枠を超えるスケトウダラをとっていた漁業会社4社に、水産庁が今季の漁を実質禁止処分[記事全文]

インフル流行―「新型」の怖さを忘れずに

 適度に怖がるというのは、いかに難しいか、ということかもしれない。

 一昨年から昨年にかけて世界で大流行した新型の豚インフルエンザ(H1N1)がこの冬、再び流行し始めた。

 ウイルス性の重い肺炎を起こす性質は変わらず、多くの人がまだ免疫を持っていない。その怖さは前回の流行時と変わらないはずだが、日本での死者は少なかったこともあり、警戒心が薄れてしまったようだ。

 むろん、必要がないのに修学旅行を中止するような過剰な反応をすることはない。だが過去には、新型のウイルスが次の年に猛威をふるった例もある。十分に警戒しなくてはならない。

 国立感染症研究所の調査によれば、インフルエンザの感染者は1月に入って毎週倍増し、今月半ば、全国で注意報レベルを超えた。推計では、16日までの1週間に、全国で約78万人が受診した。検出されたウイルスの約9割は新型で、患者のほとんどは新型によるとみられる。

 その約6割を20代以上の成人が占めている点が目を引く。前回の流行で、5歳〜20代前半では約6割が新型ウイルスに感染して抗体ができたと見られる。一方で、30代後半以上は2〜3割にとどまる。免疫の少ない年代に感染が広がっている。

 ふだんの季節性のインフルエンザは高齢者や乳幼児で重症化することが多いが、新型は、30〜50代で死者が目立つ特徴があった。30代のとくに病気のない女性が死亡した例もある。持病のある人はもちろん、若い健康な人でも、決して油断はできない。

 やはり免疫があまりないとみられる乳幼児や高齢者も注意が必要だ。

 新型に次いで多いのは、A香港型(H3N2)だ。子どもの脳症を最も起こしやすいタイプである。大きな流行は最近なかったので、大人でも免疫が低下している可能性がある。とりわけ高齢者は気をつけたい。

 この冬は、年代によらず、インフルエンザへの警戒が必要だ。

 対策は、ウイルスの型によらず、予防と早めの手当てが重要だ。前回の流行時は、すばやい診断と抗インフルエンザ薬による早期の治療が徹底されて重症化を防いだ。インフルエンザが疑われたら、早めの受診を心がけたい。

 手洗いでウイルスを体内に入れないようにすることと、せきをするときは口を覆ってウイルスを広げない「せきエチケット」の大切さも変わらない。

 インフルエンザのワクチンや、高齢者や乳幼児の場合は肺炎球菌ワクチンの接種も重要だ。

 宮崎県の養鶏場で、高病原性の鳥インフルエンザの感染が見つかった。人には感染しないが、変異すればその恐れもある。しっかりと封じ込めることが大切だ。

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北洋漁業不正―信頼と共存の海を目指せ

 日本の北洋漁業が揺れている。

 裏金をロシア側に渡してロシアの排他的経済水域(EEZ)で漁獲枠を超えるスケトウダラをとっていた漁業会社4社に、水産庁が今季の漁を実質禁止処分とする方針を打ち出した。

 国税庁が「所得隠し」として摘発した4社の裏金は、5億円にものぼるという。ロシアのEEZでサンマやスケトウダラなどを漁業協定の枠内で正規にとるために日本の漁業者は昨年、約5億8千万円をロシア側に支払った。これに匹敵するような額である。

 4社の関係者は「魚をとれるだけとった」と水産庁に説明したという。監視役のロシア国境警備隊員への裏金供与は2006年以前から続いていたようだが、違法な漁で得られる利益が、裏金を十分埋め合わせるほど大きかったことを示すものだろう。

 これは国家間の約束である漁業協定の信頼を著しく損ねる行為だ。

 裏金の存在はスケトウダラ以外の漁でも指摘されている。水産庁は、ロシアのEEZでサンマやサケ・マスなどをとる漁船200隻以上についても、ロシア側への裏金や漁獲量の超過がなかったか、調査を始める方針だ。

 こんな形で乱獲が進めば、水産資源への打撃を理由に、ロシアEEZでの漁の枠組みそのものが危うくなりかねない。まずは信用回復と再発防止に向け、徹底調査を望みたい。

 しかし、それだけで北洋漁業が抱える構造的な問題が解決するとも思えない。ロシア側は、ソ連が200カイリ漁業専管水域を導入して以来、漁業資源の減少や自国の水産業者育成などを理由に、EEZ全体で日本側への漁獲枠を激減させてきた。日本側の漁業者の経営は苦しくなる一方だ。

 また北方領土問題を抱える複雑な日ロ関係下で日本の漁業者は、ソ連時代から拿捕(だほ)におびえる危険な漁を迫られてきた。特に日ロの境界が画定しない不安定な環境の北方四島水域では、密漁を見逃してもらう見返りに日本の情報を渡す「レポ船」の問題も起きた。

 こうした歴史に、役人の汚職体質というロシア固有の事情が結びつき、いま裏金の問題を生んでいる。

 政府は漁獲枠を守らせる一方で、ロシア側に国境警備隊への汚職対策を求める。それと同時に、資源保護に配慮しつつ漁獲枠の拡大を本気でロシア側と交渉するべきではないか。密漁対策や漁業資源の調査と保護・育成でも協力を深めれば、北方領土問題の解決に向けた環境整備にも役立つ。

 現に、韓国は今年のロシアEEZでのスケトウダラ漁獲枠を、07年の倍以上に増やすことでロシアと合意した。李明博大統領はロシア首脳との会談のたびに漁業協力問題をとりあげて、実現させた。わが国政府も共存の海の実現に向け、頑張ってほしい。

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