1月22日(土) 14:00〜16:00@国際子ども図書館
日本ペンクラブと国立国会図書館国際子ども図書館共催講演会「シリーズ・いま、世界の子どもの本は?」の今回は第3回目。
「いま、韓国の子どもの本は?」に参加してきました。第1回目は角野栄子さんの講演と台湾の子どもの本についてでした。(参加の記録はこちら)
第2回「いま、イギリスの子どもの本は?」には、他の予定があって参加できなかった為、今回は久しぶりの参加です。
第一部は東京純心女子大准教授の大竹聖美さんによる「韓国の子どもの本の現在」についての講演。
日本にもここ10年ほどの間にどんどん韓国の良質の絵本が刊行されています。
こいぬのうんち
ヨンイのビニールがさ (海外秀作絵本)
よじはん よじはん (世界傑作絵本シリーズ・韓国の絵本)
あかてぬぐいのおくさんと7にんのなかま (世界傑作絵本シリーズ・韓国の絵本)
かわべのトンイとスニ (創作絵本シリーズ)
あまがえるさん、なぜなくの? (韓国のむかしばなし)
ソリちゃんのチュソク
ソルビム―お正月の晴れ着
ソルビム〈2〉お正月の晴れ着(男の子編)
韓国でも、自然破壊のスピードが速く、それに警告をする人々が、自分達固有の文化を子どもたちに伝えようと、自然の共生や、衣食住に関する絵本をたくさん作っているとのこと。子ども達に伝えたい想いは、どこの国もきっと同じなのですね。
第二部 クォン・ユンドク氏へのインタビュー
しろいはうさぎ (世界傑作絵本シリーズ・韓国の絵本)
クォン・ユンドクさんは、『しろいはうさぎ』という韓国のわらべうたを題材にした絵本を日本でも福音館書店からも出版されており、韓国を代表する絵本作家さんです。
昨年6月に韓国で『コッハルモニ―花のおばあさん』を出版され、その日本語版が今年の6月に童心社から出版されることになっています。
日本の絵本作家田島征三さん、浜田桂子さん、田畑精一さん、和歌山静子さんの4人が、日中韓平和絵本プロジェクトを2006年春に提案。それは日本の過去を反省的に眺め、最近の日本社会の右傾化を憂慮したうえで、いずれ子ども達が大人になったときに、東アジアの一員として、真にお互いを理解し合うためにも、過去の過ちをきちんと伝えなければいけない、絵本は子ども達の心を動かすことのできるメディアであると信じ、未来のためにすべき仕事として模索される中で、中国や韓国の絵本作家と出会い、共に悩み苦しみながら平和の絵本を3カ国で出版する動きの中で生まれてきた絵本でした。
「二十歳のころのことだったとおもいます。日本軍‘慰安婦’が何なのかを本で初めて読んだのは。
結婚して子どもを産んで暮らしながらも、心のかたすみにはずっと、あたかも‘慰安婦’だったおばあさんたちに借金でもしたかのように、何かしなくてはならないのに、という考えが離れませんでした。
絵を描くことができるようになってからはまた、いつかはそうした絵を描かなければならないと考えてきました。
ようやく齢五十になって、絵本というかたちで‘慰安婦’おばあさんの物語を世に出します。」『コッハルモニ―花のおばあさん』昨夜のことばより
クォンさんが従軍慰安婦のことを取材する中で、最初は日本軍に対する怒りと憎しみで胸が苦しくなったとのこと。慰安婦のおばあさんたちが治療プログラムの一環として描いた絵の中にあった日本軍の帽子をかぶった魚の絵が強烈なインパクトで迫ってきて、その絵を借りて、魚のようでもあるし、蛇のようでもある気味の悪いものが、からだにべたべたとひっつき、からだの中にもぞもぞと忍び込んでくる、そんなぞっとするかたちで性暴力を表現したというのです。そのダミーの絵をパワーポイントの画像で見せてもらいました。こんなぞっとする絵本では子どもが目を反らしてしまうのではないかと多くの人が意見を寄せてきたそうです。
読者と通じ合う為には他の伝達方法を探さなければと・・・クォンさんの苦しみはそこからはじまったようでした。12回ダミーを描き直し、今回読んで聞かせてくださった完成版は、淡く美しい花の色が印象的な作品でした。13歳で無理やり拉致されて船に乗り込まされ、気がついたところは日本軍の駐屯地で20人くらいの女の子が狭い個室に一人ずつ入れられ、日に10人、多い時は30人もの男性の相手をさせられる…想像しただけで胸が苦しくなります。そういう事実を淡々と伝えつつも、最後は今も続く世界の紛争地に想いを馳せ、何を私たちがしなければいけないかを問う形になっています。クォンさんは、この絵本を韓国の子ども達が読んで反日意識を強くしてしまったらどうしよう、そうではなく、平和の大切さを考えるきっかけにしてほしいと、構想から3年以上苦しんだ結果が、その優しい色合いの絵本になっていったのです。
クォンさんは、講演の中で「慰安婦問題は、一部の質の悪い日本帝国軍人たちが罪のない女性個人を性暴行した事件を示すのではありません。その問題の本質は、戦争という非人間的な状況下において、弱者である植民地の女性たちを制度的に性暴行した事件というところにあります。軍隊が駐留した全地域には、慰安所が設置されて、国家によって組織的・体系的に人員が動員されて管理されました。慰安婦問題の革新の当事者は、まさに軍隊と国家に違いないのです。
また一つ、重要な点は、その問題が単純に過去の問題ではないというところにあります。太平洋戦争期の日本帝国軍隊の蛮行は、明確に特別な物がありましたけれども、国家の積極的な介入や黙認の下に行われた軍隊の性暴力は、最近でも世界中あちこちの戦場で絶えず起きています。ベトナム戦争、ボスニア内戦、コンゴ内戦、ルワンダ内戦、イラク戦争などで兵士たちの欲望を充足させる目的の性暴力、敵に羞恥心を抱かせて士気を落とさせようとする目的の性暴力、はなはだしくは女性の生殖機能を壊して人種を抹殺させようとする性暴力まで行われています。戦争が終わった後も、軍隊が駐留したところであるならば、女性に対する性暴力から自由ではないのです。慰安婦問題の本質には、こうした点が存在していて、したがって絵本『花のおばあさん』もいかなる方式であっても、こうした点を表現しなければなりませんでした。」と語っています。
この絵本プロジェクトに携わった日本の絵本作家、和歌山さん、浜田さん、田島さん、それから童心社の編集長池田さん、韓国側の出版社の編集長の方々からもお話がありました。
そこで共通して語られたのは、まずは真実を知ること、そして悩むこと、そして伝えたことで憎しみを増すのではなく、互いを理解し、和解し、平和を求めてほしいということでした。東アジアの一員として、互いに信頼を築くためにも、特に教科書から記述が削除され知らされないままに育っている日本の子ども達に、絵本を通して考えてほしい。おとなはそれを手渡す責任があるということも伝わってきました。
来週は「ルワンダ ジェノサイドから生まれて」写真展を見に行く予定にしています。その予習としてルワンダの大虐殺関連の本を数冊読んだところでした。
残虐な事実からは、つい目を反らしてしまって、日々の生活に没頭してしまい、世界で何が起きているのか無関心になってしまいがちな私たち。マザーテレサが「愛の反意語は、無関心」と言っていた言葉を思い出します。無関心でいることがどれほど残酷なことか・・・子どもに本を手渡すという仕事をしているものとして、きちんと見極めていきたいと思いました。
クォンさんが取材したシム・ダリョンさんは13歳の時に拉致され、昨年12月に84歳で亡くなられたそうです。昨年6月に絵本が完成して献本式でのダリョンさんの笑顔の写真が忘れられません。ちなみにダリョンさんは私の母と同じ年です。青春時代を奪われた悲しみを乗り越え、晩年は押し花アートを作っていらしたとのこと。その淡く美しい花々がこの絵本と重なりあっています。
日本ペンクラブと国立国会図書館国際子ども図書館共催講演会「シリーズ・いま、世界の子どもの本は?」の今回は第3回目。
「いま、韓国の子どもの本は?」に参加してきました。第1回目は角野栄子さんの講演と台湾の子どもの本についてでした。(参加の記録はこちら)
第2回「いま、イギリスの子どもの本は?」には、他の予定があって参加できなかった為、今回は久しぶりの参加です。
第一部は東京純心女子大准教授の大竹聖美さんによる「韓国の子どもの本の現在」についての講演。
日本にもここ10年ほどの間にどんどん韓国の良質の絵本が刊行されています。
こいぬのうんち
ヨンイのビニールがさ (海外秀作絵本)
よじはん よじはん (世界傑作絵本シリーズ・韓国の絵本)
あかてぬぐいのおくさんと7にんのなかま (世界傑作絵本シリーズ・韓国の絵本)
かわべのトンイとスニ (創作絵本シリーズ)
あまがえるさん、なぜなくの? (韓国のむかしばなし)
ソリちゃんのチュソク
ソルビム―お正月の晴れ着
ソルビム〈2〉お正月の晴れ着(男の子編)
韓国でも、自然破壊のスピードが速く、それに警告をする人々が、自分達固有の文化を子どもたちに伝えようと、自然の共生や、衣食住に関する絵本をたくさん作っているとのこと。子ども達に伝えたい想いは、どこの国もきっと同じなのですね。
第二部 クォン・ユンドク氏へのインタビュー
しろいはうさぎ (世界傑作絵本シリーズ・韓国の絵本)
クォン・ユンドクさんは、『しろいはうさぎ』という韓国のわらべうたを題材にした絵本を日本でも福音館書店からも出版されており、韓国を代表する絵本作家さんです。
昨年6月に韓国で『コッハルモニ―花のおばあさん』を出版され、その日本語版が今年の6月に童心社から出版されることになっています。
日本の絵本作家田島征三さん、浜田桂子さん、田畑精一さん、和歌山静子さんの4人が、日中韓平和絵本プロジェクトを2006年春に提案。それは日本の過去を反省的に眺め、最近の日本社会の右傾化を憂慮したうえで、いずれ子ども達が大人になったときに、東アジアの一員として、真にお互いを理解し合うためにも、過去の過ちをきちんと伝えなければいけない、絵本は子ども達の心を動かすことのできるメディアであると信じ、未来のためにすべき仕事として模索される中で、中国や韓国の絵本作家と出会い、共に悩み苦しみながら平和の絵本を3カ国で出版する動きの中で生まれてきた絵本でした。
「二十歳のころのことだったとおもいます。日本軍‘慰安婦’が何なのかを本で初めて読んだのは。
結婚して子どもを産んで暮らしながらも、心のかたすみにはずっと、あたかも‘慰安婦’だったおばあさんたちに借金でもしたかのように、何かしなくてはならないのに、という考えが離れませんでした。
絵を描くことができるようになってからはまた、いつかはそうした絵を描かなければならないと考えてきました。
ようやく齢五十になって、絵本というかたちで‘慰安婦’おばあさんの物語を世に出します。」『コッハルモニ―花のおばあさん』昨夜のことばより
クォンさんが従軍慰安婦のことを取材する中で、最初は日本軍に対する怒りと憎しみで胸が苦しくなったとのこと。慰安婦のおばあさんたちが治療プログラムの一環として描いた絵の中にあった日本軍の帽子をかぶった魚の絵が強烈なインパクトで迫ってきて、その絵を借りて、魚のようでもあるし、蛇のようでもある気味の悪いものが、からだにべたべたとひっつき、からだの中にもぞもぞと忍び込んでくる、そんなぞっとするかたちで性暴力を表現したというのです。そのダミーの絵をパワーポイントの画像で見せてもらいました。こんなぞっとする絵本では子どもが目を反らしてしまうのではないかと多くの人が意見を寄せてきたそうです。
読者と通じ合う為には他の伝達方法を探さなければと・・・クォンさんの苦しみはそこからはじまったようでした。12回ダミーを描き直し、今回読んで聞かせてくださった完成版は、淡く美しい花の色が印象的な作品でした。13歳で無理やり拉致されて船に乗り込まされ、気がついたところは日本軍の駐屯地で20人くらいの女の子が狭い個室に一人ずつ入れられ、日に10人、多い時は30人もの男性の相手をさせられる…想像しただけで胸が苦しくなります。そういう事実を淡々と伝えつつも、最後は今も続く世界の紛争地に想いを馳せ、何を私たちがしなければいけないかを問う形になっています。クォンさんは、この絵本を韓国の子ども達が読んで反日意識を強くしてしまったらどうしよう、そうではなく、平和の大切さを考えるきっかけにしてほしいと、構想から3年以上苦しんだ結果が、その優しい色合いの絵本になっていったのです。
クォンさんは、講演の中で「慰安婦問題は、一部の質の悪い日本帝国軍人たちが罪のない女性個人を性暴行した事件を示すのではありません。その問題の本質は、戦争という非人間的な状況下において、弱者である植民地の女性たちを制度的に性暴行した事件というところにあります。軍隊が駐留した全地域には、慰安所が設置されて、国家によって組織的・体系的に人員が動員されて管理されました。慰安婦問題の革新の当事者は、まさに軍隊と国家に違いないのです。
また一つ、重要な点は、その問題が単純に過去の問題ではないというところにあります。太平洋戦争期の日本帝国軍隊の蛮行は、明確に特別な物がありましたけれども、国家の積極的な介入や黙認の下に行われた軍隊の性暴力は、最近でも世界中あちこちの戦場で絶えず起きています。ベトナム戦争、ボスニア内戦、コンゴ内戦、ルワンダ内戦、イラク戦争などで兵士たちの欲望を充足させる目的の性暴力、敵に羞恥心を抱かせて士気を落とさせようとする目的の性暴力、はなはだしくは女性の生殖機能を壊して人種を抹殺させようとする性暴力まで行われています。戦争が終わった後も、軍隊が駐留したところであるならば、女性に対する性暴力から自由ではないのです。慰安婦問題の本質には、こうした点が存在していて、したがって絵本『花のおばあさん』もいかなる方式であっても、こうした点を表現しなければなりませんでした。」と語っています。
この絵本プロジェクトに携わった日本の絵本作家、和歌山さん、浜田さん、田島さん、それから童心社の編集長池田さん、韓国側の出版社の編集長の方々からもお話がありました。
そこで共通して語られたのは、まずは真実を知ること、そして悩むこと、そして伝えたことで憎しみを増すのではなく、互いを理解し、和解し、平和を求めてほしいということでした。東アジアの一員として、互いに信頼を築くためにも、特に教科書から記述が削除され知らされないままに育っている日本の子ども達に、絵本を通して考えてほしい。おとなはそれを手渡す責任があるということも伝わってきました。
来週は「ルワンダ ジェノサイドから生まれて」写真展を見に行く予定にしています。その予習としてルワンダの大虐殺関連の本を数冊読んだところでした。
残虐な事実からは、つい目を反らしてしまって、日々の生活に没頭してしまい、世界で何が起きているのか無関心になってしまいがちな私たち。マザーテレサが「愛の反意語は、無関心」と言っていた言葉を思い出します。無関心でいることがどれほど残酷なことか・・・子どもに本を手渡すという仕事をしているものとして、きちんと見極めていきたいと思いました。
クォンさんが取材したシム・ダリョンさんは13歳の時に拉致され、昨年12月に84歳で亡くなられたそうです。昨年6月に絵本が完成して献本式でのダリョンさんの笑顔の写真が忘れられません。ちなみにダリョンさんは私の母と同じ年です。青春時代を奪われた悲しみを乗り越え、晩年は押し花アートを作っていらしたとのこと。その淡く美しい花々がこの絵本と重なりあっています。