現在位置:
  1. asahi.com
  2. 社説

社説

Astandなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

2011年1月22日(土)付

印刷

このエントリをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録 このエントリをdel.icio.usに登録 このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをBuzzurlに登録

小沢氏の姿勢―国会を台なしにするのか

民主党の小沢一郎元代表の政治資金問題で、小沢氏による衆院政治倫理審査会での説明が実現しない見通しになった。極めて残念な結果である。小沢氏は出席の時期について「予算成立後[記事全文]

穀物・原油高―怖いデフレ下の複雑骨折

国民生活に直結する穀物や原油の国際価格が急騰している。いまも不安定な世界と日本の経済にとって大きな波乱要因になりかねない。小麦、大豆、トウモロコシの価格は2年半ぶりの高[記事全文]

小沢氏の姿勢―国会を台なしにするのか

 民主党の小沢一郎元代表の政治資金問題で、小沢氏による衆院政治倫理審査会での説明が実現しない見通しになった。極めて残念な結果である。

 小沢氏は出席の時期について「予算成立後を最優先とする」と条件をつけ、事実上、拒否する考えを政倫審会長に伝達した。これを受けて岡田克也幹事長が、出席を求める議決を断念する意向を示した。

 小沢氏はまもなく強制起訴される。一人の刑事被告人として、法廷で潔白を訴える権利が守られるべきなのはいうまでもない。そこでは当然ながら「推定無罪」の原則が適用される。

 しかし、政治家小沢氏に対しては言行不一致を指摘しなければならない。

 小沢氏は検察審査会の2度目の議決で強制起訴が決まったあと、政倫審出席について「国会の決定にはいつでも従う」と述べていた。

 最近は、「すでに司法手続きに入っている」から出席する合理的理由はないと主張する一方、政治家としての総合判断から通常国会中にはいずれ出席するとしていた。

 東京地検が小沢氏の事務所などを捜索してからすでに1年。国会で説明する機会はいくらでもあったのに果たさず、いまだに条件をつけている。時間を稼ぎ、「逃げ切り」を図る戦術と見なすほかあるまい。

 小沢氏自身が強調しているように、政倫審の生みの親は小沢氏である。

 ロッキード事件で損なわれた政治への信頼をどう回復するのか。衆院議院運営委員長だった小沢氏が対処にあたり、26年前に生まれたのが政治倫理綱領であり、その実効を上げるための政倫審だった。

 綱領にはこう記されている。

 「われわれは、政治倫理に反する事実があるとの疑惑をもたれた場合にはみずから真摯(しんし)な態度をもつて疑惑を解明し、その責任を明らかにするよう努めなければならない」

 この言葉を、小沢氏は忘れたのだろうか。小沢氏がかたくなな姿勢を崩さず、政治家としての説明責任を果たさないのなら、小沢氏が唱道してきた政治改革は果たして真摯なものだったのか、原点から疑われることになろう。

 この事態を受けて、民主党執行部は証人喚問や、離党勧告の検討に入る。小沢氏が政倫審出席を拒否する以上、当然の対応である。

 これを見過ごし、何もせずに放置すれば、週明けに召集される通常国会はまたしても「政治とカネ」をめぐる不毛な対立に終始するだろう。

 新年度予算をはじめ社会保障と税の一体改革、自由貿易と農業再生など、重要な政策課題は多い。そのための「熟議」の場を台なしにして良いのか。小沢氏と民主党執行部の双方が問われている。

検索フォーム

穀物・原油高―怖いデフレ下の複雑骨折

 国民生活に直結する穀物や原油の国際価格が急騰している。いまも不安定な世界と日本の経済にとって大きな波乱要因になりかねない。

 小麦、大豆、トウモロコシの価格は2年半ぶりの高値水準になった。米国原油市場の先物価格は1バレル=90ドル超で、2008年秋のリーマン・ショック後の最高値圏まで上がった。

 穀物高騰のきっかけは、オーストラリア、ロシア、南米での天候不順といった輸出国での供給不安だが、それがなくても穀物価格を上げる構造的要因がある。世界人口は今後40年間に20億人も増える見込みで、新興国の経済成長により食料需要が爆発的に増えるのも確実である。

 さらに相場上昇に拍車をかけているのが世界的な金融緩和だ。とりわけ大がかりな量的緩和を続ける米国の金融政策の影響は大きく、巨額のマネーが商品市場に流れ込んでいる。

 この状況は08年ごろと似ている。当時、貧しい国々では食料が輸入できず飢餓が広がり、暴動が相次いだ。こうした事態を再び引き起こさないようにしなければならない。

 先進国も難題を抱えている。3年前、日本は物価が全体的に下がるデフレのもと、食料とエネルギーはインフレ状態という「複雑骨折」に陥った。いま米欧各国でも、それに似た症状が出つつある。

 このような状況下ではモノが売れず所得は増えない。にもかかわらず生活必需品の食料とエネルギーの価格だけが上昇してしまう。これでは低所得者ほど生活が圧迫され、経済はますます不安定になる。

 厄介なのは、財政や金融政策で効果的な対処法が見いだしにくいことだ。その典型例が米国である。

 米金融当局は昨秋、デフレ突入を回避するために思い切った量的緩和に踏み切った。その狙いはある程度は成功したものの、巡り巡ってガソリン価格の上昇をもたらし、米国景気に冷や水を浴びせつつある。

 あふれ出すマネーは新興国に新たなバブル経済を生む危険も懸念されている。日米欧の金融当局は、度を超した金融緩和に副作用もあることを再認識すべきだ。新興国も急成長の危うさに目を配る必要がある。

 先進国と新興国の経済は、ますます深くつながり合うようになっている。ともに世界経済への影響について警戒をおこたらず、政策協調を強めることが大切だ。

 穀物高と原油高を抑える即効薬は、残念ながら見当たらない。地道ではあるが穀物の増産や備蓄の強化、地球温暖化対策にも通じる再生エネルギーの拡大、原子力発電の秩序ある増強といった課題に各国が真剣に取り組むことしかないだろう。

検索フォーム

PR情報