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環太平洋戦略的経済パートナーシップ協定(TPP)を巡る民主党の対立が激化している。国内農業や統一地方選への影響を懸念する声に推進派の菅直人首相もぐらつき始めた。貿易立国として生き残るチャンスをつかめるのか、否か。問われているのは政権の覚悟だ。

 「環太平洋戦略的経済パートナーシップ協定(TPP)等への参加を検討する」

 政府・与党内の路線対立は、10月1日の菅直人首相の所信表明演説にこの一文が盛り込まれたことで先鋭化した。11月中旬のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で菅首相がTPP締結協議への参加を表明するのか。これに先立ち11月上旬にまとめるEPA(経済連携協定)基本方針にどんな内容を盛り込むのかの2点が大きな政治課題に急浮上したためだ。

 「農産物の関税への例外措置を認めないTPPは、これまで日本が取り組んできたFTA(自由貿易協定)とは違う。国内農業は壊滅してしまう」(山田正彦・前農林水産相)

 「大きな誤解がある。TPPのルールはまだ固まっていない。例外扱いできるように交渉する余地は十分にある。交渉に参加しないデメリットの方が大きい」(直嶋正行・前経済産業相)

 この1カ月、EPAなどを協議する民主党の会合では、こうした堂々巡りの議論が続いた。この間に、「反TPP」の動きは強まる一方だ。TPP反対の特別決議を採択した10月19日の全国農業協同組合中央会の全国集会には多数の与党議員が参加。21日には鳩山由紀夫前首相、山田前農相ら110人もの議員が TPP反対の勉強会を立ち上げた。小沢一郎元代表に近い議員が7割を占め、参加したある議員は「首相が聞く耳を持たずに突き進めば政局にする」と息巻く。

 今や政権の大きな火種となったTPPとは、そもそも何なのか。

民主党議員も参加しTPP反対決議を採択した全国農業協同組合中央会の全国集会(写真:読売新聞社)

実質は日米FTA

 TPPはシンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイで2006年に結んだFTAが発端。農林水産物を含め原則として、すべての品目について即時、または10年以内に段階的に関税を撤廃するのが大きな特徴だ。

 ここに米国、豪州、ペルー、ベトナム、マレーシアが参加を表明し、交渉を始めている。世界全体のGDP(国内総生産)に占めるこの9カ国の割合は約4分の1。自国経済の立て直しへ輸出倍増を掲げる米国は有力な市場確保策と位置づけており、2011年11月の米国主催APECまでの交渉妥結を狙う。

 このTPPに日本が参加するということは「日米FTA、日豪FTAを結ぶのと同じ意味を持つ」(外務省幹部)。しかも、先述の先行4カ国の協定内容は 100%の関税撤廃が原則。この取り決めがそのまま他の参加国にも適用されれば、参加国への輸出増や関連産業の投資拡大が見込める一方、短期的に米国や豪州から安い農産物の輸入が拡大するのは間違いない。農業県選出の議員を中心にTPP反対の大合唱が急速に広がったのは、各議員がTPPの衝撃にようやく気づいたためだ。

 「明治維新、第2次世界大戦での敗戦に次ぐ第3の開国だ」

 所信表明演説にTPP参加に向けた表現を盛り込む判断を下した菅首相は周辺にこう語ったという。TPP参加は現代版「黒船来襲」というわけだ。

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