COP16が開かれたメキシコ・カンクン(Cancun)で環境保護団体グリーンピース(Greenpeace)が行った世界の著名建築物の像を海に沈めて気候変動対策を訴える「シンキング・アイコン(Sinking Icons)」と銘打った活動で、海に沈められた自由の女神の像(2010年12月10日撮影)。(c)AFP/Juan BARRETO
【1月20日 AFP】米国科学振興協会(American Association for the Advancement of Science、AAAS)が運営するオンライン・ニュースサービス「ユーレカ・アラート」(EurekAlert)に18日に掲載された気候変動に関する論文に、大きな誤りがあったことが分かった。
この論文は、世界の気温は2020年までに2.4度上昇し世界的な食糧不足が起きると主張したもので、AFPを含む世界中の通信社が配信した。しかし、AAASでは指摘を受けて19日、この論文をウェブサイトから削除した。
AAASの広報担当者は、「英紙ガーディアン(Guardian)の記者から内容への疑問が寄せられ、すぐに気候変動研究の専門家に内容を確認してもらったところ、疑問点が多いとのことだったので掲載を取りやめ、論文を出した団体に連絡した」と話している。
■複数の専門家が事前に誤りを指摘
この論文には2007年にノーベル平和賞を受賞した国連(UN)の「気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change、IPCC)」のチームに加わっていた科学者、オスバルド・カンジアニ(Osvaldo Canziani)氏も科学アドバイザーとして名を連ねており、IPCCが発表したデータを論拠として引用している。カンジアニ氏の広報担当者は18日、同氏は病気でインタビューを受けることはできないと述べた。
問題の論文の主著者でアルゼンチンのNPO、ユニバーサル・エコロジカル・ファンド(Universal Ecological Fund)のリリアナ・イサス(Liliana Hisas)氏は、IPCCのデータと世界の現状を元に予測したと説明しているが、AFPが取材した気象学者レイ・ワイマン(Ray Weymann)氏は「この研究には平衡温度の上昇と過渡温度の上昇を混同するという大きな誤りがある」と指摘した。
しかも、ワイマン氏ほか複数の科学者が論文の公開前に問題点を指摘していたが、イサス氏は「変えるには遅すぎる」と取り合わなかったという。
■「2020年までに2.4度上昇」は早すぎるが、温暖化は進んでいると専門家
別の科学者スコット・マンディア(Scott Mandia)氏もイサス氏にやはり事前に論文の誤りを電子メールで指摘し、「現在よりも気温が2.4度上昇するには数十年はかかる。上昇率を高く見積もっても、2020年では0.2度上昇する程度だ」との意見を伝えたという。
マンディア氏は「悪意のない、よくある種類の誤り」だとしながらも、この一件で気候変動は人類の活動とはあまり関係がないという「温暖化懐疑派」が勢いづくとの懸念を示し、「世界が現在よりも2.4度高い気温に向かっていることは確かです。ただしそれは、2020年より後になるでしょう」と述べていた。(c)AFP/Kerry Sheridan
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