地デジに踊らされるな!(アナログ放送が終わらない理由) この前の日曜日、おいらが新聞を見ていたら大変な記事が載ってたんだワン。 「アナログTV放送、2011年に終了!」だって。 おいらは驚いたワン。なんと、今持ってるテレビが全然使えなくなっちゃうってんだからね。ウチにもテレビはあるけど、まだ全然新しくて使えるんでござるよ。それなのに、これが使えなくなるなんて一大事だワン! おいらは急いでご主人に言ったよ。 「ちょっと、ご主人ったら知ってる? テレビが使えなくなるでござるよ!」 するとご主人はのんびり大あくびしながら言ったんだワン。 「あー、地デジのことな。ポチは『地デジ』って知ってるか?」 「知ってるよ、オシリから血が出ちゃうやつだワン?」 「バカっ、そりゃ『切れ痔』だっ!」 「じゃあ、ちょび丸子ちゃんに出てくるおじいちゃん?」 「ポチの大バカっ、それは『ヒデじい』だっっ!」 ご主人はおいらを新聞で思い切りはたきながら言った。 『地デジ』ってのは『地上デジタル放送』のことさ。あと5年したら、今までのテレビと全然違うものになっちゃうってことだろ。もちろん知ってるさ。これは国が勝手に決めたことなんだけど、これが困ったチャンなんだよなぁ。 「ええっ、困ったちゃんなの?」 ご主人たら、また文句が始まったよ。 そうさ、困ったチャンさ。地デジになるといいなんて言われてるけど、それは全くの作られたイメージなのさ。ま、多少は画質がきれいになるけど、それ以外のメリットなんてありゃしない。逆に困ったこと、、、デメリットの方がたくさんあるのさ。 「ふ〜ん、デメリットってなにさ?」 おいらはベロを出しながら聞いた。 たとえば意外と知られてないんだけど、今まで家の屋根の上にVHF用っていう大きなアンテナを立ててた人は、それじゃ地デジは写らないんだ。新しいUHF用っていうちっこいアンテナに立て換えなくちゃいけないんだよ。テレビを買い換えるのは知っていても、アンテナまで換える必要があるなんて知らないだろ? 「えっ、そりゃ初耳だワン。UHFってご主人のおばあちゃん家のテレビ用のやつでしょ?」 おいらはビックリした。そういや、ウチの屋根にも大きなアンテナしか乗ってないのだ。 そうさ、都会の人はほとんどがVHF用だからな、これを買い換えて工事してもらうのは大変な出費だぞ。それにUHF用がついていた人だって、向きを変えなくちゃならん場合もあるし、おまけに場合によっちゃ配線まで交換しなくちゃいけない家だってあるそうだぜ。それに、アンテナだけじゃなくて、今まで使ってたビデオだって、そのままじゃ使えなくなるんだ。今やビデオだって、多くの人が使ってるだろ? もちろん外部チューナーを新しく買えばいいらしいんだけど、線を新しくつないだり、切り替えたりなんて、そんな面倒なこと誰がやるんだよな? ウチのおじいちゃんなんて、せっかく衛星放送入れたっていうのに、テレビの配線が難しくて、その上リモコンの操作がわからなくて、結局使ってないぐらいなんだからな。その上地デジなんて、俺は口が裂けても言えやしないよ。まったく年寄りにはキツイ話しさ。地デジでテレビだけ買い換えりゃ済むと思ってる人には、ほとんど詐欺のような話だろ? 「う〜、それはキツイねぇ」 おいらも少ない貯金が心配になったよ。ご主人は苦々しげな顔で続けた。 「それに地デジはな、ヘンなカードを入れないと見れないんだ」 「カード? それってなんだワン?」 おいらがそう聞くと、ご主人の顔がさらに険しくなったワン。 なんとかカスカードとか言うらしいんだけどな、それを機械に差し込まないと地デジが見られないらしいんだ。テレビを買ってから、いちいちそんなカードを差し込んだり申し込んだりなんて、田舎のおじいちゃん、おばあちゃんにできると思うか? おまけに、そのカードがどっかに行っちゃったらどうするんだよな? きっとカードがなくなったとか盗まれたとか、色々なトラブルが続出すると思うぜ。 「なんか今日はやけにお年寄りの話が多いでござるね?」 おいらはちょっとおかしかった。ご主人は顔をしかめながら言った。 ああ、ウチにも年寄りがいるからな、最近イロイロあるんだよ。俺も昔は気づかなかったけど、年を取るとイロイロ大変なんだよな。それに、これからますます日本は老人社会になるんだぜ。老人たちはな、パソコンやらテレビやらビデオやら衛星放送やらETCやら、ただでさえややこしい電化製品たちにホトホト手を焼いてるってのが現状なんだよ。家の中はリモコンだらけで、いったいどれを触ればいいのかわかりゃしない。この前なんて、俺にぼやくんだ。「おい、ETCにカード入れても動かないぞ」って。、、、で、わざわざ見に行ったら、なんとETCにガソリンスタンドのカードを入れてるんだよ。俺は泣いたね。でもよく考えたら仕方ない話さ。うちのおじいちゃんのとこだって、クレジットカードやら、銀行カードやら、ガソリンスタンドのカードやら、カードだらけでわけわかんない状態さ。それなのに、またまた地デジ用のカードが必要だなんて、全く時代逆行もはなはだしいぜ。 「あー、ほんとそうだね。おいらもこれ以上電化製品が増えてもわからんワン」 ご主人もプリプリと怒りながら話している。 デメリットはまだあるさ。たとえば、電波が届きにくい所にいる人だ。今のテレビは、多少電波が悪いところでもザーザーとノイズが入りながらも、なんとか見ることができるんだよな。ガード下のおでん屋さんとか、ポチも見たことあるだろ? 「う〜おいら犬だからおでん屋とか行かないでござるよ。でも、三丁目の中華屋さんもそうだワン。あそこのテレビはいつも映りが悪いんだよねー」 おいらは、いつもエサをくれる古びた中華料理屋さんのことを思い出した。あそこのテレビはボロくて、いつもヘンな色をしてるんだワン。 そうそう、あそこもだよな。都心から離れた山奥に住んでいる人なんかもそうだ。ところが、そういう人が地デジにすると、全くプッツリと見えなくなっちゃうんだよ。デジタルってのは、ある一定のレベル以下になると、全然ダメになっちゃうんだよな。アンテナやら配線やらって、色々なことをちゃんとしないと、今までよりもっと見えないんだ。 「う〜、それも困ったねぇ。でも、あのボロ中華屋さんが、アンテナつけたりテレビ変えたりするとは思えないけど、、、。ところで、ご主人はそろそろ地デジテレビ買うの??」 おいらは聞いてみた。するとご主人はきょとんとした顔でおいらを見る。 「え? なんで俺が地デジテレビなんて買うんだよ??」 「でもぉ、そんなこと言ったって、アナログ放送は終了っていうよ、、、」 するとご主人は、フンと鼻で笑いながら馬鹿にした顔でおいらを見た。 「プッ、ポチも地デジに踊らされてるんだよ」 ポチ、今の状況を冷静〜に見てみろよ。こんな状況で2011年までにテレビを持ってる人全員が新しい地デジテレビに買い換えることなんて、ぜーったいにあるはずないだろ。さっき話した中華屋さんだってそうだし、ウチのおじいちゃんだってそうだ。お金だってみんな余裕があるわけじゃないし、そもそもそんなこと知らない人だって少なくないぜ。おまけに地デジが見られない地域だってあるんだからな。 「えっ、見られないところもあるの?」おいらはまたも驚いた。 ああ、現状ではまだまだ見られないところも多いらしい。そもそも田舎の方なんて、この前やっと地デジが始まったばかりというところだって多いんだ。おまけに現状で2011年までに準備が間に合わなくて見られそうもない地域というのもあるらしいよ。それなのに地デジテレビなんて買うはずもないだろ? ま、俺の見たところ、2011年までに地デジ対応テレビがどんなにうまく普及したとしても、普及率が80%を越えることはないな。これはあくまでも俺の勘だけどさ。実際、有名なシンクタンクだって、2011年前までに、地デジの普及率は8割程度だろうって予測しているんだ。 「じゃあ、地デジテレビを買わなかった20%の人は見捨てられちゃうってわけ?」 「んなこたぁないさ」 ご主人は涼しい顔でこともなげに言う。 「だって2011年にアナログ放送やめちゃうのが政府の決まりって新聞に書いてあったワン?」 おいらがそういうと、ご主人はニヤリと笑った。 「テレビ局が絶対〜にそんなことするはずないんだよ」 ご主人は周囲に気を配りながらヒソヒソ声でおいらに言った。 「ここだけの話、じつはな、地デジテレビを買えなかった人を見捨てたら、テレビ局自身が困っちゃうんだよ」 「ええっ、なんでまた?」 おいらにはよくわからない話だ。 いいか、ポチ。2011年までに地デジテレビが80%普及したとする。いや、もっと高く見積もって仮に90%も普及したとしよう。で、残りの10%の人は見捨てられてテレビを見られなくなっちゃうとするとだ、、、すると、テレビ局の収入がダウンしちゃうんだよ。 「えっ、地デジになるとなんでテレビ局の収入が減るの?」 おいらにはこれも初耳だ。 ポチ、考えてみろよ。今のテレビ局の収入は、そのほとんどがCMを流す代わりにもらう「広告収入」ってので成り立っている。その「広告収入」ってのは、見る人の数=視聴率に比例してるんだよ。たとえば視聴率10%の番組だったら10×30万円で「合計300万円でございます!」という感じで販売してるわけさ。視聴率というのは見ている人の数のことだ。テレビ局にCMを出すスポンサーさんは、少しでも見てる人が多い番組にCMを出したがるからな。その方がより宣伝効果が高いってわけさ。…それがだ、もしも、アナログ放送が終了しちゃって、10%の人がテレビを見れない状態になったらどうなると思う? 「あっ、広告料も10%減っちゃうわけ?」 「ピンポ〜ン、正解。やっとポチもかけ算ができるようになったなぁ」 ご主人は変な所に感心しているようす。 放送局が10%の人を見捨ててアナログ放送をストップしてしまえば、見てる人の数だって今よりも1割ダウンしちゃうんだぜ。そしたらスポンサーさんだって黙っちゃいないさ。見てる人が10%も減っちゃうんだから、今のままの広告料金なんか払うはずがないだろ。広告料金だって10%減らされるのさ。 「えっ、でもたったの10%じゃワン、いいワンそれぐらい?」 おいらは思ったよ。するとご主人は 「ポチのバカっ!」 と、またまた怒ったんだ。 テレビくんたちが、なんで必死になって1%の視聴率で大騒ぎしてるかわからないのかっ!! たかが1%の違いで、テレビ局に入ってくるお金は何百万、何千万円もの差になるんだぞ。さっきも言ったとおり、広告収入ってのはテレビ局の収入の多くを占める屋台骨なんだ。たとえば大日本テレビの昨年度の総売上は3460億円なんだけどな、そのうち広告収入は2550億円で、売上げの7割以上をこの広告収入が占めているんだよ。この広告収入の10%が減っただけでも255億円の損失だ。これが大問題だってことわからないのかっ!! 「ひえー255億円! やつらったら随分儲けてるんだね!」 おいらは違うところに感心した。 そうなんだよ。もちろん、地デジを10%見られないから単純に広告収入が10%減ってことはないにしても、それぐらい大きな影響があることは確実なんだ。それにここで仮定した10%って数字は「少なく見積もった場合」だからな。俺は、個人的に20%近いと思うよ。、、、いや、ヘタしたら30%近いかもしれんなぁ。2011年の地デジ普及率が80%で、テレビ局の収入が20%減ってしまったら、、、ヤツらにとっちゃ、そりゃぁもう大問題っちゅーわけさ。 それがよくわかってるからテレビ局のやつらは、あんまり地デジ地デジ言わないだろ? 地デジなんて、彼らにとっていいことなんて、これっポチもない。地デジのおかげで視聴率が減ることがあっても、増えることは絶対にないからな。実際、テレビ局の人間だって、地デジが100%普及するなんて誰〜も思っちゃいないよ。でも地デジは政府が国策で決めたことだからな、今の段階でおおっぴらには反対することができない。だから、今はじっくり様子をうかがってるところなのさ。そして2011年近くなって地デジがあまり普及してなければ、おもむろに世論をあおるなり政治的ルートを使うなりして、アナログ放送終了を延長に追い込むコンタンさ。視聴者が減るってことは、やつらにとっちゃ死活問題なんだからな。ポチも今までの話でよくわかってるだろう? ヤツらは自分の得になることは何にも言わないクセに、ソンすることはどんな手段を使ってでも阻止しに来る、そういうヤツらなんだよ。 そういやそうだった。彼らだって自分たちがソンしてまで放送中止なんてするはずないよね。 「あぁ〜、おいらすっかりノセられてたワン」 おいらはまたもマスコミにだまされていたみたいだ。ご主人は得意げに続けた。 俺は5年後の様子が目に浮かぶよ。ニュースで山奥の老人かなんか取材しちゃってさ、「この老人もあと少しでテレビが見られなくなるのです。こんなことでいいのでしょうか?!」なーんてきっとやるぜ。ずる賢く庶民の味方みたいなフリをして、じつは自分たちがソンするのがイヤなだけ。それには中途半端に地デジの普及率が上がったって、ヤツらにとっちゃ困るだけなんだよ。それにもし地デジの普及率が上がらないままアナログ放送を終了せざるをえないなら、テレビを買い換えてない人に対して、何らかの救済策(格安テレビや無料チューナーを出したりね!)が出てくることは間違いないさ。そうしないと世論が許さないだろうからな。この前の家電のPSE問題のことでもそうだっただろ? 直前になって方針転換したりしてドタバタ劇。きっと同じ事が2011年直前に起こるはずさ。ま、その対策には、アナログ放送を終了しないのがいちばん手っ取り早いのは確かだろ? 「な〜んだ、あせることなかったんだワン。、、、ってことは結局ブームにノセられて早々と地デジテレビを買った人がソンをするってわけ?」 「ま、そうかもしれないな、、、」 ご主人は肩をすくめたんだ。 「それにさ、、、」ご主人は遠くを見ながら続けた。 「万が一本当にアナログ放送がストップしちゃって、救済策もなかったとしてもだよ、、、そもそもテレビが見られなくて困っちゃう人生っていったい何なんだよ? 全くバカげてるぜ。テレビに支配された人生なんてさ。そんな人生なら、やめた方がいいと思うぜ」 そう言うと、ご主人は寂しげに笑ったんだ。 ハッ、そう言われりゃそうだワン! テレビが見られなくて困る人生っていったい、、、 <ポチの追伸> おいらこれを書いた2年後に続きを書いたよ。興味ある人は続・地デジに踊らされるな!を見るワン。 |