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[24869] 【習作】もう一人のSEED【機動戦士ガンダムSEED】 【TS転生オリ主】
Name: menou◆6932945b ID:bead9296
Date: 2010/12/17 18:33
皆さんおはようございます、こんにちは、こんばんは。

はじめまして、menouと申します。

たまに感想掲示板とかで書き込んでいましたが、
一念発起してついに書き出すことにしました。

文章力とか未熟だったりして、誤表現による書き直しもあったりするかもしれません。

どうか温かい目で見守ってやってください。宜しくお願いします。


今回書かせていただくのは、機動戦士ガンダムSEEDの二次創作です。

属性として、TS、転生、ご都合主義を含みます。

それを好まない人も、ガンダムに興味があればどうか一読してやってください。


それではぼちぼち書いていきます。

短い付き合いになるのか、長い付き合いになるのかわかりませんが

どうか宜しくお願いします。

12/12:規則に反したタイトルだったそうなので、元ネタをタイトルに追記しました。
12/13:PHASE00の誤りを修正しました。ご指摘ありがとうございます(礼
12/15:PHASE00後編の表現の誤りを訂正いたしました。ご指摘ありがとうございます(礼
12/16:PHASE02の表現の誤りを訂正いたしました。ご指摘ありがとうございます!
12/17:PHASE03の完結部分を改訂しました。



[24869] PRELUDE PHASE
Name: menou◆6932945b ID:bead9296
Date: 2010/12/11 22:38
「うー! 寒っ…… やば、やりすぎた…」

寂れた深夜のアーケード街。
昼は喧騒に満ちていた、両側に並ぶ商店は既にシャッターが下り、
規則正しく並ぶ街灯の白い光が、看板を冷たく照らしていた。
聞こえる音は、古い街灯の蛍光灯がショートする音と、
白い息を吐く少年が立てる、小走りの足音だけ。

「やっぱコスト低いの使ってると、フリーダム使った時の感動が違うな、うん」

寂しさを紛らすように独り言をぼやき、
時間が遅くなった理由になったものに思いを馳せて、一人笑みを浮かべていた。

機動戦士ガンダムSEED 連合vsザフト

ゲームセンターに並んでいるアーケードゲーム。
説明するまでもないガンダムSEEDのアクションシューティングゲームだ。
彼、空乃昴(16)は、その全国大会優勝者だった。
そこまで実力をつけられたのも、この帰りが遅くなるまで熱中できる彼だからこそだ。
…その集中力がもう少し勉学に向けられれば、彼も大成したろうが…
彼の学校の成績については語る意味はあるまい。

「なんでアスランが仲間になってんのかなー…
 アニメ一度は見とくべきか。でも家じゃアニメ見てたらどやされるしなぁ」

自宅の唯一置かれているテレビと、その前に座る父親の姿を頭に浮かべる。
彼の両親は、極度のアニメ嫌いだった。
よく言われている、青少年なんたら保護法を信仰している古いタイプの人間。
だから、彼はアニメを見られる家庭に育っていなかった。
それの代わりに熱中しているのがゲーム。
今日も友人の家に勉強をしに行くという理由をつけていたのだ。
それにしたって、やっぱり10時はやりすぎたように思う。
周囲は冷たい深夜の独特の空気が漂っていて、頬と耳をひんやりと撫でる。

「ま、アニメ見るの時間かかるし、いっか。
 ……ん?」

路地裏から黒い人影が、のそのそと数m先を横切る人影が見えて、
ふと警戒心を覚えて立ち止まった。
目を凝らして見つめると、どうやら人間のようだ。…人間じゃなかったらイヤだ。
煤けた灰色のジャンバーを羽織り、作業着のようなズボンを穿いた男。
路地裏に住んでいるホームレスらしい。
彼の周りの空気と――歩いた跡すら汚れているような印象を受けて、胸中で顔を顰めた。
その男が、ギョロリと、血走った目をこちらに向けてくる。ギョッとして身体を竦ませる昴。

「あー…おんひゅらなんらおまれんら……!」
「え?」

ステインやニコチンで黄ばんだ、ボロボロの歯から吐き出されたのは、ひどく滑舌の悪い言葉。
語調からして怒りの言葉を吐き出しているようだが、昴は一つとして聞き取れず顔を顰めて小さく首をかしげた。
ホームレスの目はドブのように濁っていて、とても正気の沙汰とは思えない。

「おまんおらがなんとんどひゃど…!!」
「いや、待て、落ち着けって…行くからさ、俺」

尚も捲くし立ててくるホームレス。危機感を感じて昴は彼の横を通り過ぎようと、
そして彼に目線を合わせないようにしながら避けて通ろうとした、その時。

「おんら…っ!」
「うわっ!?」

ドンッ

ホームレスのやせこけた体が、横から体当たりしてきた。
もたれかかってきたに近いほど、その力は弱かった。
ホームレスの腐敗臭のような体臭に若干吐き気を覚え、触るのもイヤだったが手で押しどける。

「ちょ、なにすんだよ!」

じゅくり。

「えっ」

途端、脇腹に熱いものを感じた。がくん。身体が傾く。
何故俺は座ったんだ? なんで脇腹が熱いんだ? あ、痛い。
痛い、痛い痛い痛い。

「な、え? おい…てめ、ぐあぁぁ……っ」

信じられない思いで、脇腹を見る。
包丁が、刺さっている。
着ているパーカーがじわりと赤黒い染みが浮かぶ。それがだんだんと滴を滲ませて広がっていく…!
いつ出した。なんで刺された。なんで俺を刺した。

「くひゃひゃひゃ…!! やったやっら…! ふひぇー!」

ホームレスは狂ったように笑い跳ねて、壊れた人形のように踊り始める。
狂っている。背筋にじわりと冷たい液が通ったような感覚を覚えた。

「か、は…! いて、てて、痛ぇ、痛い、く、ぐぅぅ」
(なんだ、これ…!いってぇ! 痛い! 脇腹、くそ、金属が入って…)

その場に身体を倒し、無我夢中でその包丁をゆっくり抜き取る。
…人間、死の淵に立たされたら、刺さってる刃物を抜いたら一気に出血するなんて、当たり前のことも忘れるものだ。
ドッと栓が抜かれた瓶のように血が更に溢れてきて――身体からじんわりと力が抜けていくのを感じる。
身体が痺れる。意識が遠退く。貧血が、治る気配なく底なしに悪化していくような感覚。

「や、ば、しまっ…う、が、くそぅ……」

失血の影響か。意識が遠退く。目の前を黒い霧が覆う。
ホームレスの笑い声も、聞こえなくなってきた。

(なんでだよ…俺がなんかしたか…?
 まだ、これからだろ…終わりか? 死ぬってことか? これからどうなるんだ?)

(やべぇ…冗談だろ…帰らないと…早く…救急車…
 助けて…くれよ…父さん…母さん…)

(う……あ………)

(…………)

ゆっくりと下りていく瞼。思考も止まる。全身の力が抜けて……

ブツン

最後に、TVのスイッチが切れるような音がした。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


(く…あ…)

闇の淵から、意識が戻りつつあるのを感じる。
ごうごうと音がする。うるさい。狭いところに詰め込まれている。温かい。

(どこだ。ここは? じごく? じごくってなんだ?
 くる、し、…くるし…)

思考が細切れになる。呼吸困難のせいだろうか?
身体が締め付けられる!

(いたい、いたい! でないと…)

ぐり、ごり。嫌な音が耳元に直接響いてくる。
でぐち、が。出れた。
……!? 息が、できない! 溺れていたのか。
耳にも水が詰まっていたからか、人の声が聞こえるが耳鳴りにしか聞こえない。

(――んあ!)

突然、すごい力で持ち上げられて逆さ吊りにされる。人間の手!? 巨人か!?

どんっ どんっ

(ぐ、え、)
「げぼっ! こほっ!」

いとも簡単に吐き出される胃の中の水。耳からも水が流れて、ようやく声が聞こえてくる。

(いきを、息をしないと、…! ぜ、ぜんぜん吸えねぇ…!)
「うゃ、ふあぁ!! うやぁぁ!」
「はーい、よく頑張りましたねー。産まれましたよ、シエルさん!」

呼吸をするために必死に喉を動かすと、吐き出されるのは産声のような声。
目が見えないが、声は聞こえる。そして響いてくる言葉。産まれました?

「可愛い元気な女の子ですよ!」

(は?)
「うゃああ? うぎゃあー!」

疑問の声は、ただの産声として響いた――


―――時はCE.48年。

まだナチュラルとコーディネーターが共存し、世界が平和であったその年。
少年の魂は世界を超え、世界を変える一人の娘として生まれた。
彼――彼女は何のために世界を超えたのか?

その意味はまだ、誰にもわからない……



というわけで、まずは主人公が活躍する前のところから始めました。
まだガンダムのガの字も出てなくて退屈かもしれませんが、きっとそのうち出ると思います。
主人公のポテンシャルはいかほどのものか? 彼女はストーリーにどれだけ関わっていくのか?
それも次第に明かしていきたいと思ってます。それでは次回も宜しくお願いします!



[24869] PHASE 00前編 「異常は幼き日より」
Name: menou◆6932945b ID:bead9296
Date: 2010/12/23 22:27
『CE.51年

俺、と呼ぶべきなんだろうか。

まだ私と名乗ることに違和感を覚える。ボーイッシュな感じで、僕でいこう。
今はそれが妥協できる限界だ。まだ男であった自分を忘れることはできない。

僕はリナ・シエルという名前らしい。可愛い名前だな。
前世の記憶が少しぼやけているのは、生まれ変わった影響だろうか。
だが精神はまだ空乃昴で、これからもそれを忘れるつもりは無い。
例えリナ・シエルという人間になる必要があるとしても、
それは空乃昴+リナ・シエルという風に加えられるだけだ。

シエル家というのは地球連合軍の軍人の家系なのだそうだ。
古くから大西洋連邦の創立以前から血は始まったらしい。何年前のことだ?

地球連合軍、大西洋連邦。この単語が示す意味。
信じがたいが、ここは機動戦士ガンダムSEED 連合vsザフトの世界だ。

あまりに突飛で非現実的なことなので、事実を確認するためにこの世界の新聞を読むと、
コーディネーター、ザフト、という言葉が常識のように並んでいるのだから間違いない。
まさかゲームの世界に来てしまうとは思わなかった。少年心がかなりくすぐられる展開ではないかい?
でも後悔はある。こんなことなら、なんでもいいからアニメ見とけばよかった。なんかかなり悔しい。
もっとこのゲームのアニメを知っておけば、色んなことができたのにー! ちくしょー!

閑話休題。

とにかく、家はやたら厳しい。3歳の僕に、いきなり字の読み書きと簡単な基礎トレーニングを課した時は正気を疑った。
馬鹿じゃないだろうか。生まれる前の記憶がなかったら完全に無理だろ。
逆に言えば、今は大丈夫ということだ。字と言葉は幸運にも日本語だ。漢字だって書ける。
そうしたらやたら驚かれて喜ばれた。あんたらがやれって言ったんだろ

あと、母親はジュン・浦瀬・シエルというのだそうだ。日本人。
目が覚めるような綺麗な人だ。芸能人? うわー、死ぬ前に会いたかった。
長い黒髪と栗色の瞳。僕の髪色はどうやら母親から受け継いだらしい。
ということは将来は僕もこの人みたいな顔になるんだろうか。』

- - - - - - -

まだ幼い……少年と少女の区別すらつかないような小さな幼児が、
大人なら蹴躓きそうな高さの乳児用のテーブルにペンを置いて、ノートを畳んだ。
日記だ。あれから昴――もとい、リナは、毎日トレーニングで地味に疲れても、欠かさず日記を書いていた。
日記にも書いてあるとおり、『昴』を忘れないためだ。
それ自体が、彼女にとってのプライドというか意地になっている。

(指が短くて動かしづらい…)

あどけない顔を微かに歪ませて胸中でぼやいているが、
指先も、年齢にしてはかなり器用に動いている。
字はお世辞にも綺麗ではないが、3歳の字が読めるレベルというのは驚異的だろう。

(! 親父かっ?)

近づいてくる気配。慌てず、すぐに日記を隠した。
見られたら怪しいどころじゃない。どう説明すればいいかわからん。

「リナ。この計算ができるかね? リナならできるのではないかと思うのだが」

父親の低くて厳かな声が背中から響いてくる。
平静を装い、くるんと、癖の無いストレートの黒い髪が揃った大きな頭を動かし、くりんとした丸い翠の瞳を向けた。
すぐ近くに鉄面皮のような厳格な表情の顔が迫っている。

父親、デイビット・シエルは、歴戦の勇士であることを思わせる非常にいかつい顔と体格をしている。
鍛え抜かれたナイフとでも言うか。前にお風呂に入れてもらったときには、実の娘なのに惚れてしまいそうなしなやかな体つきをしていた。
顔もしかめっ面をしているのに怒ってるように見えないという特殊な長所を持っている。

そんな顔が、今とても近くにいる。鼻息が聞こえる距離だ。ゲルマン系の父親は、顔は彫りが深くて近いと迫力がある。

「どの、けいさん、ですか? おとうさま」

それでもリナは鈴が転がったような、舌足らずなのに澄ました言葉で問いかえした。


- - - - - - -

phase:親父

(ああ…可愛い、可愛いよリナたん…
大人びてるけど、くるんとして小動物っぽくて、そのギャップがイイ!
もう全部がいいよー! 食べちゃいたいよ!
リナ!リナ!リナ!リナああああああああうわあぁぁんクンカクンカ!スーハースーハー!いい匂いだなあ…
リナたんの黒髪をクンカクンk(ry))

※以下不適切な表現が続きますので省略されました

- - - - - - -

「…おとうさま?」

いかつい表情のまま無言で見つめないでほしい。…怖い。

「…ああ、すまない。これだ。」

広げて見せるのは、付近にあるジュニア・ハイスクール――中学校の一年生の教科書だ。
…前世の記憶を持ってる彼女からすれば、欠伸が出る内容だった。

「かしてください、おとうさま」

短い手を伸ばして受け取り、さらさらと公式を書いていく。
手は止まることなく、解にたどり着く。それを置いたまま彼に見せる。

「おとうさま、あってますか?」
「うん? もうできたのか。どれ……」

その解を読んでいくと、彼の顔が次第に厳しくなっていく。
間違えたか? そう思ってヒヤヒヤしていると、一言、万感の思いを込めて言った。

「素晴らしい」

そう一言呟いて、去っていった。その大きな背中をじっと見送る娘の視線。

(…相変わらず何考えてんのかわからん)

不可解そうに考えたが、すぐに興味を、午後から小学校の友達と遊びに行くことに向けて、嬉しそうに準備を始めるリナだった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 

『CE.58年――

親父の要求がもとの精神年齢に追いついたのは、3年前か。

そろそろ神童から凡人になろうとしていたが、結構なんとかなった。
いつかは要求が精神年齢に追いつくのは目に見えていたから、勉強していたのだ。
今はもう高校を卒業し、大学2年か3年くらいの勉強をしている。

10歳の身体で何故できるのか? それは僕にもわからないが、年齢を追うごとに加速度的に頭が冴えてきて、
自分で言うのもなんだがかなり物覚えがいい。
身体も、10歳とは思えない身軽さとパワーを感じる。体操選手や猿よりも動ける自信がある。
が、目立つのは嫌いなので、平均よりちょっと上くらいの水準を保つことにする。
ただでさえ、ナチュラルとコーディネーターは不仲なのだ。コーディネーターと間違えられたらたまらん。
それこそ楽しい学校生活は終わりを告げて、村八分の苛められっ子生活を迎えることになるだろう。それはイヤだ。

韜晦は結構大変だ。
見せ付けたい、褒められたい、そういう誘惑に駆られそうになる。
教え方がヘタな先生に当たろうものなら地獄だ。教師を張り倒して、代わりに教壇に立ちたい気分だ。
だが楽しい学校生活を送るためだ。目立たない、ちょっとだけ優等生という地位を保っていこう。
ただ、大人びてるということで頼られることが結構ある。できるからって褒められても…微妙な気分だ。
だって、僕はズルをしているのだから。できれば記憶なしで知識だけだったらいいのに…無理か』

- - - - - - -

――プライマリー・スクール教室の一室

「シエルさん、この問題わかる?」
「うん? どれどれ、見せて。…うん、これはこうで、こうだよ」
「へー! すごい! やっぱりシエルさんは頼りになるな!」
「……はは、ありがと」

- - - - - - -

phase:リナの同級生

(シエルさんって本当にすごい!
なんでもできるし、たよれる。かおもすっごくカワイイし、なんだかあこがれちゃう。
でもほめると、なんだかかわいた笑顔になるんだよね。なんでだろ?)

- - - - - - -


本当はこの一話の次で本編に突入するはずだったのですが、
短くまとめることができなくて結局前後に分けました。
主人公の存在をまず濃く表現するのが作者の性癖です。お許しあれ…
次は急いで書きます。頑張れ私。

感想ありがとうございます! とりあえず最初は地球連合軍ということでスタートさせていただきました。
戦争始まらないっていうのも面白いかもと思いましたが、力量及ばずですね。誰か書いて!



[24869] PHASE 00後編 「来たりし時に備う」
Name: menou◆6932945b ID:bead9296
Date: 2010/12/15 01:37
『CE.63年――

プライマリー・スクールとジュニア・ハイスクールは、まあまあの成績で卒業した。
言ってしまえば上の下というところだ。優れているが、嫉妬を買うことも少ない…そんな位置を保ち続けた。
飛び級という日本人には馴染みの無い制度があったが、僕には縁の無い話だ。それこそ嫉妬が雨あられだ。

そうして、他の学生と同じように一年一年学年を重ねていくのは大変な苦行だったが、なんとかやり遂げた。だが次はシニア・ハイスクールが待っている。
またあの苦行が続くのか…と思ったが、僕はハイスクールに進まなかった。
親父が止めたのだ。
僕の成績と普段父親に見せる優秀さを比べて、何か思うところがあったらしい。
まさかの中卒。何すんねん。まあ、知識量はもう高校卒業くらいのものは持ってるし、いいか。
いざとなれば親父の後光があるしな、HAHAHA。…なんか前の人生よりダメになった気がする。

僕はそのまま、15歳という若さで士官学校の入学届けを出した。
何故か? …親父が士官学校の校長で、無理矢理ねじ込んだ。それが、ハイスクール入学を止めた理由だ。
なんかレールが敷かれた人生だ。…でも、僕は別に軍に入るのもいいかなと思っている。
空乃昴だった頃は、もし頭が良くてスポーツ万能だったら自衛隊に入りたいと思っていたくらいだ。軍事には元々興味があったし。
筆記試験は…ちょっと難しかった。でもまあ言ってみれば大学入試みたいなものだ。
知識量はともかく記憶力はいいので、今まで持っていた記憶を引っ張り出せば解けないレベルじゃない。
問題は面接だ。うわ…どうしよ。僕はアガリ症のケがあって、面接や大勢の前で話す時になると頭の中が真っ白になる時があるんだ。それでバイトの面接に落ちたことだってある。
筆記はともかく、面接はお断りしたい気分だ。そろそろ面接のアンチョコを作っておこう。』

カリカリカリ…

『何故軍に仕官しましたか:私が愛している家族を守りたいと思ったからです』
『学校生活で何を学びましたか:人と繋がる素晴らしさを…云々』

- - - - - - -

――面接会場

「リナ・シエル君。ジュニア・ハイスクールの成績はほとんどランクB+。綺麗に揃ってるね?」
「はっ、ありがとうございます(…なんか含みあるな)」
「…ふむ。リナ君はデイビット・シエル大佐の娘さんだそうだね。お父様から何を学んだのかな」
「はっ、……(はう!? アンチョコにない質問じゃねーか!)……軍人ってカッコイイということを学びました!」
「……」

- - - - - - -

phase:その日の夜のリナの日記

『/(^o^)\
 オワタ…絶対落ちた…しかも高校ももう入試時期終わったし…高校浪人とかマジ欝なんですけど。
 僕のアホ……カッコイイってなんやねん。ありえん…
 バイトでも探そうかな…なんで海岸掃除の募集ばっかりなんだよ。地球に優しくしろよ…僕にも優しくしろよ…』

- - - - - - -

phase:翌日のリナの日記

『CE.63年――
受かった。何故? って、絶対親父テコ入れしただろ。士官学校の校長だしな。汚いなさすが親父きたない。
まあとりあえず、めでたしめでたしということだ。素直に嬉しい。親父も何食わぬ顔で祝福してくれた。たぬきめ。
母さんは心から祝福している、という感じではなかった。
まあそうだろう。よりにもよって一人娘が死ぬかもしれない軍に仕官するというのだから、諸手を挙げて賛成はできないのが普通だ。
でも母さんには悪いが、僕は僕の道を歩みたい。というか軍に仕官しなければ、これまで厳しい教育を施されて育ったのはなんだったのか。

ここで親父の教育方針についてちょっと触れることにする。
12年前にやたら厳しいと書いたが、その厳しさは明らかに軍に入隊するためのそれだった。
起きる時間、寝る時間、食事の時間、軍人マナー、基礎体力向上訓練、格闘技術練成、銃器の扱い、果てはシャワーの時間まで。
全部が全部、以前の生活とはかけ離れたものだった。はっきり言ってこのチートボディーじゃなかったら耐えられなかったと思う。
どれか一つちょっと手を抜けば、親父に乗馬用の鞭で手を叩かれるし。すんげー痛い。いっつもベッドの中で泣いてた。ゲーセン行きたい。連合vsザフトやりたい…。

だけど、そういう厳しさを乗り越えたら、士官学校なんて楽に感じられるだろう。
きっとそれを見越して厳しくしたんだろうな。なんか洗脳されてるような気がしないでもないが、親父に感謝しとこう。
さて、春から僕は軍人だ。どんな厳しい環境なのかも気になるが、問題はMSに乗れるかどうかだ。

どうやらこの世界、ゲームと違って連合にMSが無いらしい。というかロボットっぽいものはプラントにあるが戦闘用ですらない。なんじゃそりゃ!!
じゃああのストライクガンダムはどうやってできたんだよ。ストライクダガーは? そのうち開発されるのか?
それまで生きていけるのか…それが問題だ。とにかく優秀な軍人やってたらいつかはMSに乗れるだろう。頑張ろう。

あと些事だが――いや、重大な問題だが、15にもなってブラジャーが要らないとかどういうことだ。
バストサイズは日記にも書きたくない数値だ。Aと言えばわかるだろう。
それに身長が伸びない。測ってみたら130cm。おまけにロリ顔。どんだけ。
チートボディの代わりに肉体年齢が著しく低い。天は二物を与えずっていっても極端すぎる。
明らかに誰かの作為を感じるんだが…それはいくらなんでも考えすぎか』


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


ざり。

リナが春風に長い黒髪をたなびかせ、ボストンバッグを肩にかけゲートの前に立って、眺めるのは四角く白い士官学校の校舎。
大きめの施設までは結構な距離があり、近くには小さなMPの詰め所があるだけ。
顔を引き締めて、直立不動で立っているのはMPだ。がっちりとした体格で、そこに立っているだけで迫力がある。
そんな軍人達が立っていると、自分が今軍隊というところに入ろうとしているという実感が湧いてくる。
春先の桜の香りを乗せた風が頬を撫で、まだ冬の残滓を感じさせる空気が肌を適度に冷やした頃、よし、と小さくガッツポーズ。

(今日からこの学校の学生か…いや、軍人か。
こっから気引き締めていくか!)

「ちょっと、君」
「え?」

立ちふさがるのは、親父とはまた別の厳つさをもったMP。リナからすれば見上げるほどの上背だ。
せっかくの新たな旅路の出発に水を差されて、きょとんとした表情で見上げるリナ。何事。

「どこの学校の子だい? ここから先は軍隊の人がいっぱいいるから、おうちに帰りなさい。
それとも迷子? お父さんの名前は?」
「…………」

ぶん投げてやろうか。こいつ。

- - - - - - -

「それは災難だったな」
「シエル大佐、あいつをクビか異動してください……ありえません」
「まあそう怒るな。そんなことにいちいち目くじらを立てていたら、この先もたんぞ」
「……」

リナと、親父――デイビット・シエル大佐は校長室で話していた。
あれから身分を証明するために、身分証明書と合格通知、果ては親のコネまで使ってようやく入れたのだ。
そのコネを使ったおかげで、士官学校の校長である親父が出張ってきて、こうして面接という名の親子の雑談をしている。

リナは小学生扱いをされて端整な顔を不機嫌そうに翳らせ、頬を膨らませて、ふっくらとした唇を尖らせていた。
そのうえ短い足をぱたぱたと動かしながら座面を両手で突いて、上目遣い気味に父親を睨んでいる。
父親のデイビットは書類を整理しながら、その様子を鉄面皮で見返していた。

「……」

- - - - - - -

phase:親父

(うわはあああああリナリナ超可愛いマジ可愛い食べたい
リナのためなら死ねる!世界の中心でリナへの愛を叫ぶ!
目に入れても痛くないっていうレベルじゃねーぞ!クンカクンカしたいお!ペロペr)

※これ以降の文章は地球連合軍情報部によって検閲されました。

- - - - - - -

「……仮にも上官であり校長である私を睨むな。お前は既に軍人で、ここは軍の施設なのだ」
「……失礼いたしました」
「よろしい。とりあえずMPの件に関しては保留にしておく。
今日の午後から通常の課程が始まるから、朝議が始まる前にクラスに帰るように。では、解散」

一方的に話を切り上げられ、リナは不平を漏らすことなく――ただし、無言で見本のような敬礼をして、ささやかな抗議を表した。
……その後、校長室では、リナの可愛い怒り方を思い返して悶えていた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


『CE.66年――
僕は無事、士官学校を卒業して少尉となった。リナ・シエル少尉だ。名前のあとに階級がつくとむずがゆい。すんげぇ嬉しい。
士官学校は長いようで短かった。
親父の教育のおかげで、これまでどおりの生活をキチンとこなしていれば、だいたい大丈夫だった。
だけど、問題は他の士官候補生との人間関係だった。
僕が校長の娘ということ、この見た目と実年齢の若さに対して少なからぬ嫌悪の念を抱いていると感じた。
教師は親父の口添え(多分)で平等に扱ってくれたが、士官候補生に関してはそうもいかないらしい』

- - - - - - -

「シエル! ここにゃアイスクリームは置いてないぜ? キョロキョロすんなよ!」
「シエル軍曹殿! おしっこに行きたくなったら案内させていただきます!」
「シエル軍曹! 戦場じゃお前のお父さんはお手手つないではくれんぞ!」

- - - - - - -

『などなど、例を挙げればきりが無い。物理的な手段には訴えてこないから可愛いもんだ。
物理的な手段に訴えれば、それこそ親父が黙ってないだろうしな。七光り万歳。うはは。
……思い出したくないが、たまに椅子が妙に湿っぽいことがあるんだ。なんでだ? 想像したくない……

まあ色んなことがあったが、僕は士官学校を卒業して無事、正規軍人となったわけだ。
配属先は宇宙軍。最近ザフトが不穏な動きを見せているということだ。まじで?
待てよ、今66年で、確かあのゲームはC.E71年って言ってたな。…やべえ、あと5年じゃねーか!
そういえば士官学校が終われば、本格的にMAの操縦訓練が始まるって言ってたな。

よーし、このチートボディーと、連合vsザフトの全国大会優勝の腕前がようやく発揮できるぜ!
見てろよ、とっととエースパイロットになって、MSに乗ってキラ(笑)っていうレベルになってやろうじゃん。
楽しみで今夜眠れそうにないぜ! 明日の操縦訓練が楽しみだのう!』


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


- - - - - - -

phase:初めての操縦訓練が終わった後の夜、リナの日記

『CE.66年――

/(^o^)\……
げ、ゲーセンと全然違う…
なーんじゃこりゃ! ボタン多すぎ! Aボタン、ガチャレバプリーズ! 覚醒ゲージ無いの!?
なんで右にレバー倒したらくるくる回るんだよ! おかしーだろ!
その上オートロックじゃないから狙いつけづらいのなんのって! 当たんねーかわせねー思った方向に機体が行かねー!
ぎゃー! もうやめたくなってきた! こんなんじゃ戦場出て一発であぼんじゃねーか!

で、でもメビウスなんて、所詮あれだろ。コスト100もいかないよーなザコ機体だろ。
ストライクとか乗れば、そりゃもう無双できるだろ。断言できる! 僕が悪いわけじゃない! 機体が悪いんだ!
くそ、こうなったら絶対メビウス使いこなしてエースになって、ガンダム乗ってやる! 見てやがれ!
今日から特訓だ! 新しいアーケードゲームが入荷したと思えばいい!』

- - - - - - -

phase:シミュレーター管制室の士官達

「シエル少尉、あれからずっとシミュレーターにかじりついてるな…」
「もしかして、最初の訓練課程で上手くいかなかったからムキになってんのか?」
「冗談。初めて動かしたにしちゃ、上等も上等だったぜ。真っ直ぐ飛んだだけでも大したもんだよ、ダウト」
「ハズレだ。ほれ。……ったく、シエル少尉は子供だね。長い目で見ろって感じ」
「あ゙ー! ……だからこその特訓かもな。ったく、親父様のご威光をフルで使ってくれるね。シミュレーターだって本当は決められた時間しか使っちゃいけねーってのに」
「ま、自分に厳しくするためにっていうのは、嫌いじゃないね、俺は。あ、それダウト」
「……ダウト? 本当にダウト? おいおい、もっとよく考えたほうがいいぜ。ダウトじゃないかもよ」
「ダーウート」


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


『CE.71年――
ザフトとの戦争が始まって11ヶ月が経った。
僕にとって最も衝撃的だった事件は、あの血のバレンタインだ。プラントへの核攻撃。…住んでいた人間がどうなったかは、調べるまでもない。
これが地球連合軍のやることなのか? そこまでコーディネーターが憎いのか?
軍のやり方を非難することはないが、せめて、自分は核ミサイルを撃つ引き金を引きたくない…そう思う。
血のバレンタイン、南アメリカ、世界樹、カーペンタリア、ビクトリア…グリマルディ。戦争は次第に激化していく。
まるで雪だるまのように憎悪は転がり、増幅していく。いつか下り坂にやってきて、止まらなくなるのではないか…不安が胸に押し寄せてくる。

ちなみに僕は、まだ前線に出されていない。
あちらにどんな意図があるのかは知らんが…メビウスで実戦に出されなくてホッとしてるのが正直なところだ。
それなりに慣れてきたつもりだが、ジン相手にあれで戦って生きて帰る自信が無い。

というかまだ身長が1』

「ん?」

リナが机に向かってノートに筆を走らせていたら、ドアからノックが聞こえた。
すぐさまノートを机の引き出しに放り、鍵をかけて立ち上がり、ドアに向かう。
時間を見ると、既に22時を回っていた。誰だ。
下着姿であった自分を思い出して、慌ててシャツとズボンを穿いて「今開けます」と軽く声をかけ、ドアを開いた。
ドアの前に立っていたのは……軍の略式正装を身に纏った士官だった。襟には中尉の階級章。書簡を手に持っている。まさか。

「地球連合宇宙軍第502警戒中隊所属、リナ・シエル少尉」
「ハッ」

タン、と踵を鳴らして揃え、背筋を伸ばして折り目正しい敬礼を返す。
書簡を開き、丸く巻いた命令書を開いてみせた。重要な書類や命令書は、通信端末からではなくこうした紙媒体で知らされる。
どれだけ科学技術が進もうと、やはり最後は紙だ。通信だと傍受される可能性もある。
士官がその紙を開き、読み上げた。

「リナ・シエル少尉。1月20日、2212時を持って宇宙軍第502警戒中隊より第7機動艦隊への転属を命ずる」
「了解しました。リナ・シエル少尉、第7機動艦隊への転属命令を拝領いたします」
「よろしい。移動方法と日時は追って暗号による通信で知らせがある。心して待つように」
「ハッ」

機械的に答えながら、言葉を思い返す。

(はー、第7機動艦隊か……かっこいい名前だな。まあ、どこに行っても空乃昴でリナ・シエルだ。
いつもどおり、メビウスの訓練やってればいいや。位置的に見ても前線じゃないし)

命令書を受け取り、軽い気持ちで考えながら使者を敬礼で見送り、ベッドに寝転がる。

(結局、秘密兵器とかMSとかの一つも出てこなかったな…)


残念な気持ちでベッドに寝転がるリナ・シエルに、この転属命令が、
本当の己の転機だとは、このときの彼女には知る由もなかった…



というわけでようやく序章が終わりを向かえ、
次回からついに本編のストーリーに絡んでいきます。
色々な感想やご指摘、本当にありがとうございます!
感想掲示板を覗くたび一喜一憂してます。感想いただけるのって本当に嬉しいですね~

たまに主人公の一人称を私と間違えてしまうのは、リアルの一人称が私だからなのです。
これからは気をつけていきます…!
あと小ネタに関しては今後、他に表現方法があるか無いか検討していきます。



[24869] PHASE 01 「リナの出撃」
Name: menou◆6932945b ID:c0653c48
Date: 2010/12/14 20:47
すぅ…

   はぁ…

すぅ…

   はぁ…

呼吸の音が耳元で響く。自分の呼吸だ。
身体が熱い。汗がじっとりと身体にまとわりつく。身体をよじりたい。が、動かす隙間は無い。
首を動かす。ごつん。ヘルメットがすぐに頭の横のホールドに当たった。
早くシャワーを浴びたい。ベッドに寝転がりたい。そういった欲求を堪えながらも、左右上下に配置された計器と、
目の前のモニターに視線を忙しなく配りながら、刻々と減っていくHUDに表示される数字が0になるのを待つ。

モニターには底抜けに暗い空間と、その間に瞬く星々映っている。
グッとレバーを優しく、卵を転がすように動かすと、星がくるんと時計回りに回った。
その星々の間に、針金のように小さなものが見えた。そこに向けて、スロットルを静かに開ける。
グッ、と身体がシートに押し付けられ、星が後ろに流れていく。近づいてくる針金。それは次第に姿を詳細に現していく。

第7機動艦隊所属護衛艦、ドレイク級「メイソン」
リナの母艦だ。そのカタパルト口を目指してメビウスの鼻面を向ける。

「カーネル1。こちらシエル機、E-4宙域の偵察任務を完了した。着艦の許可を求む」

カーネル1。メイソンのTACネームだ。通信機に、湿っぽい息を吐きかけながら声をかける。
ヘルメットに反響する己の声。相変わらず、小生意気そうで幼い、天然の猫撫で声。女子中学生みたいな声だ――リナはそう自己評価していた。

〔こちらカーネル1。シエル機、着艦を許可する〕

帰ってくるのは、冷淡な男の声。偵察任務で疲れたリナとしては、もう少し労いの言葉が欲しいように感じる。
だけどここで愚痴でも漏らそうものなら、無駄に集音性能の高いマイクはその声を拾い上げて隊長殿のゲンコツを唸らせることになる。

「了解。シエル機、着艦シークェンス」

精一杯の皮肉を込めたい衝動を抑えながら事務的に告げてコンソールを操作、HUDに様々な情報を表示させ、スロットルを切り、慣性航行。
機体に響くバーニアの細い音が消えて、レバーを指先よりも細かく動かして調整し、HUDに表示される二つの田の字を正確に重ね合わせて…
母艦との距離計が好きな数字まで下がったとき、スロットルを思い切り引き、逆噴射。今度は四点式のシートベルトが身体に食い込み、急減速。
機体は、乗り場に戻るジェットコースターよりも正確に、滑らかにメイソンの発進口に吸い込まれていく。
モニターにメイソンの内壁が大きく映し出され…ゴンッ、という音と同時に小さな振動。クレーンに機体がホールドされた音だ。機体が完全に静止した。

〔完璧だ、シエル少尉〕

プシュウッ

コクピット内部の与圧された空気が排出され、頭上のハッチが開放。シートベルトを外すとふわっと身体が浮き上がる。
バーを握って身体を上に持ち上げ、愛機のメビウスから離れていく。
与圧された通路に出るとヘルメットを取る。空調の効いた艦内の空気が心地良い。丸くまとめた長い黒髪が露になり、まとめているヘアゴムを外す。
無重力帯に、ふわっと黒髪が流れた。一つの方向に進んでいれば、そんなに邪魔じゃない。
まとめていると髪が痛みそうだったのでイヤだったのだ。最近考え方が女の子っぽくなっている、という自覚はあるが、考えないことにしていた。

偵察任務の報告のために、自慢の髪が痛んでないか撫でながらサブブリッジの方向に流れていると、

〔艦内各員に達す。手を休め、傾聴せよ。艦長のロクウェルだ〕

艦長の艦内放送が響き、リナも思わず流していた身体を壁に掴まらせて止まる。
艦内放送なんて、発進と停留の時くらいだった。何事か、と、全員固まっていることだろう。
艦長の重々しい言葉は続く。

〔L3宙域にてザフトの中規模部隊が侵攻を開始したという情報が、周辺宙域の警戒艦隊よりもたらされた。
我々第7機動艦隊はこれを迎撃せんため、L3宙域へと転進する方針と相成った。各員第二種戦闘配置。臨戦態勢をなせ〕

(L3? L3といえば、あそこにあるのはヘリオポリス…
ヘリオポリス!? 連合vsザフトの1ステージ目か!?)

艦内放送は衝撃的な内容だった。
あの連合vsザフトの舞台に、ついにたどり着いてしまった。あのキラ・ヤマトが。ムウ・ラ・フラガがいる。
ストライクガンダムが目の前に現れるのか? 少なくともメビウスとは全く違うものだろう。
胸が高鳴ってくる。頭の中がじんわりと痺れてくる。僕は期待している?
あのラスボスでもあるラウ・ル・クルーゼも現れる。メビウスなんてあっという間にやられるかもしれないのに、何故かときめいている。

(どうなるんだ…? ゲームじゃ、少なくとも「リナ・シエル」なんて居なかった。
僕は死ぬから? すぐ死んだ脇役だからいなかったのか? それとも…異物なのか、僕は?)

ぎゅ。薄い胸の上で拳を握る。まだ興奮している。膝が震えているのを自覚する。

(…行こう。キラ達に会うことが、自分がこの世界に来た意味なのかもしれない。会って確かめよう。)

様々な溢れてくる感情を抑え、リナは愛機が駐機している格納庫に向かった。

- - - - - - -

コクピット内での緊張の時間は続き、リナの緊張が和らぎ始めたころ、警報が艦内に響き渡った。

〔只今をもって本艦は戦闘宙域に進入した。全艦第一種戦闘配置。MA隊は順次出撃せよ。
MA出撃60秒後に、本艦は支援砲撃を行う。MAは射線に入らぬよう厳に注意せよ。繰り返す……〕

警報と同時、機の外が急に慌しくなった。ギリギリまで点検していた整備員は機体から離れ、
代わりに甲板要員が配置につきはじめる。このメイソンに搭載されているメビウスはリナの機体を含めて4機。
それがフライト(4機編隊)を組んで飛ぶ。これは古来より変わらない。リナはその中の4番機。どんじりだ。
目の前で、たった今3番機のメビウスがリニアカタパルトに押し出されて宇宙に射出されていった。リナのメビウスも少しの震動のあと動き出して、カタパルトに乗せていく。

〔3番機、発進。続いて4番機、発進シークェンスを開始せよ〕
「了解。4番機、発進シークェンスフェイズ2」
〔4番機発進位置へ。リニアカタパルト充電完了〕
〔シエル少尉〕
「?」

オペレーターとは別の人間がサブモニターに映った。各部センサーを立ち上げながら見返す。
サブモニターで少し表情を翳らせているのは、MA隊を指揮するCICの砲雷長だ。彼とはあまり個人的な交流が無いので、少し面食らった。
沈黙で話を促すと、

〔君のお父上は、あのデイビット・シエル大佐だそうだな〕
「……ええ、それが何か?」
〔伝言を預かっている。初陣のとき伝えろとのことだ。……「手柄よりも生きて帰れ、それがお前や私の真の勝利だ」。
私からも同じことを言わせてもらうよ〕

それを聞いて、クスッとリナは苦笑を浮かべる。そんなこと僕が一番知っている。
そんなことを伝えるためだけに、こんなところまでメッセージを飛ばしたのか。やりたい放題だな。
親バカここに極まれり。だが、素直に嬉しい。まさか砲雷長からもここまで心配されているとは。

「ふふ……了解しました、その命令を遵守します」
〔確かに伝えたぞ。命令違反は許さんからな〕

笑顔で敬礼を返し、サブモニターはオペレーターの顔に変わる。
笑顔を消して緊張で顔を引き締め、モニターや各センサーの数値に目を通す。
ジェネレーターがうなりをあげ、バーニアがごうごうと咆哮を挙げている。機体が微振動を起こして、まるで引き絞られた弓のように唸っている。

「4番機、各センサー、推力機器、各種火器、オールグリーン。発進シークェンス・ラストフェイズへ」
〔了解。4番機、発進を許可する〕
「4番機、リナ・シエル、行きます!」

ごうっ!!

メビウスの二つのメインバーニアが、一層激しい火を噴く。リニアカタパルトがメビウスの機体を凄まじい力で外に押し出していく!
すごい勢いでメイソンが後ろに吹っ飛んでいき、身体がシートに押し付けられる。

(これから実戦…戦うのか!
ゲーセンとは違う。落ちたらコストなんて関係無い…再出撃は無いのか。当たり前だよな)

発進の心地よいGを、中学生のような小さな身体で受けながら、ぼーっとそんなことを考える。
これから命のやり取りをするということへの現実逃避をしながら、初めての戦場へと飛翔するのだった…



ついにリナの初出撃。メビウスでどうやって戦うんだよ、って作者も思ってます(笑)
エイプリルフールクライシス、ど忘れしてました…イッケネ。
でもまあ今からそれを加筆すると変なので、今はスルーします。ご指摘ありがとうございます!

私ももっと本編以前の主人公の話を書こうかなと思ってましたが、なにせ生まれてから本編に至るまで23年の歳月があるので、
それを全部詳細に書くと、私がこのSSで描きたいことを考えると、いつまでたっても本編と絡まないのであえて簡略化しました。
そのうち外伝みたいな感じで描写できたらなー、と思ってます。

それでは今回はこの辺で失礼します!
次回、ついに戦闘が始まります。ザフトのジンに対して、リナはどう戦うのか?
リナは果たしてキラやムウに会えるのか? というか生き残れるのか!?
またお会いしましょうー



[24869] PHASE 02 「L3宙域の死闘」
Name: menou◆6932945b ID:c0653c48
Date: 2010/12/16 21:46
戦場に向かう時間感覚というのは、その兵士が戦場に向かうに際して、どういう思いを抱いているかによるだろう。
リナにとっては、死の恐怖は割合強い。何せ乗ってるものがメビウスで、敵はジン。
はっきり言って無謀だ。それがわかっていながらも向かう。文字通りの死地へ向かおうとしている。
リナにとって戦場に向かう時間は死刑執行猶予時間だ。だから、リナはこの時間がとてつもなく短く感じた。
いつまでも着かなければいい――そう思っていても、着くものは着く。向かっているのだから。
モニターに小さく映る戦地。ヘリオポリス。戦闘の光が明滅している。戦闘が始まった。
それがリナにとっては、これから自分の身を焼く炉の灯りに見える。……そう思うのは少々感傷に浸りすぎだろうか。
その戦火の中へと、猛然と飛翔するリナのメビウス。先に出撃した僚機である三機のメビウスに追いつきダイヤモンドを組む。

〔揃ったな。各員、編隊を維持しつつヘリオポリスに突入する。
もうすぐザフトのジンと会敵するだろう。一機で相手をしようと思うな、一機に対し四機であたれ!〕
「了解!」

次第にヘリオポリスが近づいてくる。戦火がはっきり見えてきた。
ジンのスラスターの火や曳光弾、メビウスが撃つリニアガンの残光も見える。そして爆発光。あれのうち、いくつがジンの爆発光だろうか…

〔ヘリオポリスに弾を当てるなよ…連合の基地が中にあるんだ〕

隊長の警告に、別の僚機が疑問の声を挙げる。

〔ヘリオポリスは中立では?〕
〔あそこは中立っていっても連合寄りだ。連合が苦しいこのご時勢、使えるものはなんでも使う。それが戦争ってもんだ。相手が化物っていうなら尚更よ〕
「そうですね。5、4、3……艦隊からの支援砲撃、来ます」

あまり同意したくない隊長の主張には、さらりと返事をして、カウントと同時に支援砲撃の警告を促す。
メビウスに予めインプットされていた射線から機体が外れていることを確認し、モニターを睨む。

後方から、艦隊から放たれるミサイルや艦砲がヘリオポリス周辺宙域に向かっていくつも飛んでいくのが見えた。
あれだけの数の砲火が飛んでいれば、花火大会よりも激しい轟音がするはずだろうが、残念、ここは音が通らない宇宙空間。
まるでミュート設定の映画のように、無音で飛んでいくビーム砲とミサイル。それらが通り過ぎると、いくつかの爆光が見えた。ジンの一機や二機は落とせただろうか?
自分達のためにも、精々いっぱい落としてもらいたいものだ。

〔Nジャマー濃度80%……いよいよだぞ。セーフティ解除!
火器管制モードを戦闘に切り替えておけよ! ……きた!〕
「!!」

HUDに浮かび上がるエネミーマーカー。ぎくりと頭の中に痺れが回った。
ついに始まる。ゲーセンの対戦とは違う別のものが。敵の射程は――

ヴンッ!
「!?」

ジンからの火線! 至近弾が機体に衝撃波を浴びせて、弾丸の飛翔音が聞こえた。咄嗟にレバーを左手前に引いて、その光の矢を回避。
姿勢制御用のスラスターを全開で噴き、メビウスの機首をジンに向ける。もうかなり近い…600m程度か。ジンは他のメビウスと応戦しながらこちらに右側を見せている。
ジンは、この距離なら一足飛びで斬りかかってくる。すぐさま応射しなければいけない。
ガンシーカーをジンの位置に向け…リニアガンのターゲットを正確に合わせようとした時、

――!!

頭の中に閃くものがあった。
ジンから向かって僅か正面にターゲットをずらし、リニアガンのトリガーを引く。

タァァンッ!!

雷鳴のような発射音。ジンが一瞬前、射撃に気づき前進して避けようとしたが、それがリニアガンの射線と重なり、横腹にもろに弾丸を受け、大穴を開ける。
全身から冷や汗がにじむ。素早く胸部にターゲットを合わせて、再びトリガーを引く。
発射音と同時に弾頭が発射され、上半身を粉砕、ジンは光の球に閉じ込められていった。

〔やるじゃないか、シエル少尉!〕
「まだ…まだ来ます!」

グンッ! レバーを右奥に倒しながらメビウスをひねらせ、スロットルを開ける。直後、ジンの放った76mm弾が自分の居た位置を貫いていった。
冷や汗がまた流れた。一発でも当たったら死ぬ! メビウスの装甲なんて、ジンの76mm重突撃機銃の前では紙のようなものだ。一発で落ちなくても、そのダメージが動きを鈍らせ、結局は落とされる。
全身が緊張で痺れる。息が乱れる。足が震える。必死にスロットルを開け、何度か姿勢制御スラスターを噴かしてランダム機動を取り、76mm弾をかわしていく。

「くううぅぅ!!」

ギィギィッ! ミシミシッ!
上下左右、あらゆる方向に身体が揺さぶられ、かつ強烈なGによって全身が押しつぶされていく。肺が圧迫され、「はぁっはぁっはぁ!」と呼吸を小刻みに繰り返す。
負荷値をちらりと見てみた。そこには10.6Gと表示されていた。ビービーと警報がやかましく絶え間なく響く。
普通の人間ならブラックアウトかレッドアウトで気絶している数値だ。それでもリナの身体は耐え抜き、意識を保って、生き永らえようと必死にレバーとスロットルを動かしていた。

「なんだ、一機面白いナチュラルがいるぞ……くたばり損ないめ!」

リナに76mm重突撃機銃を連射し続けるザフトのパイロットは、思わぬメビウスの動きに舌を巻く。
だが、あの程度の機動をするナチュラルなら、前にもいなかったわけではない。いつものように仕留めて見せる。そう楽観的に考えていた。
その思考を受信していたからか、リナは焦りと苛立ちを覚えていた。撃たれっぱなしなど、この連合vsザフトの全国大会優勝者にあってはならないんだ!

「はぁっ! はぁっ! はぁっ! …この! 調子に乗るなッ!!」
(なんで僕が撃たれる役なんだ! MSに乗ってるからいい気になっていないか!? ジンなんてたかがコスト270じゃないか! 見てろよ!)

メビウスが機首を向けたとき……ジンは既に肉薄していた!
モニターいっぱいにジンの姿が映る。モノアイが不気味に輝いた。手にしているのは重斬刀! 構えからして縦に真っ二つにするつもりか!

「三枚に卸してやるよ、生意気なナチュラルが!」
「このやろおおお!!」

ぐんっ! スロットルを全開! レバーを思い切り左に倒す! メビウスは左に倒れ、同時に凄まじい勢いでジンの懐を通り過ぎていく。互いに背中合わせになった。
通り抜けたはいいものの、あっちのほうが振り返るのが早い。しまった、背中を見せてしまった! 致命的な隙を与えてしまった。
背中に殺気を感じたからか、背筋に冷たいものが流れる。ロックオン警報。撃たれる! 本能のままレバーを押し倒す。メビウスの反応が遅い! だめだ…!

「ひっ…!! ……?」

情けない悲鳴を挙げて死を覚悟した直後、そのロックオン警報は消え、いつまでたってもジンの攻撃は無い。
何事か、とレバーを引いてスロットルを若干開けて、メビウスの機首をめぐらせる。ジンの姿が無い?
代わりに、隊長機のマーカーがペイントされたメビウスの姿がそこにあった。

〔シエル少尉、さっきの賛辞は取り消す! ばかやろうが!!
何のための編隊行動だ! 一人で突っ込みすぎだ!〕
「隊長……ジンを…?」
〔お前が隙を作ってくれたから、撃ち落とせた。それはいいが、俺が一瞬遅かったらお前は宇宙の藻屑になってたぞ〕

その言葉を聞いて、全身から力が抜ける。頭が冷えていく。はあぁ、と溜息。額に汗をかいている。拭いたいけど、ヘルメットがあるから拭けない。

「助かっ…… …ん?」

安心したのも束の間。ぴちゃり。僅かに腰を浮かしたとき、股間に温かい液体っぽいものが。安心に緩んでいた表情を、さぁ、と青ざめさせた。
替えのパンツの心配をしている間にも、再び警報。モニターを見ると、二つの閃光が絡み合い、火線を激しく交わしながらヘリオポリス内部に侵入するのが見えた。
片方は、メビウス・ゼロ。もう片方は…シグーだ。

(メビウス・ゼロ……確か一機しかなかったはず。エンデュミオンの鷹、ムウ・ラ・フラガか!)

そしてシグーは、シチュエーション的に考えてラウ・ル・クルーゼに違いない。ついに、あの二人が目の前に。
胸の高鳴りが蘇る。頭の中が熱くなって、興奮を自覚する。リナは慌てて隊長に、共にヘリオポリスに入ろうと通信機に怒鳴る。

「隊長! コロニー内部に…隊長!?」

隊長のメビウスが、いつの間にかいなくなっている。モニターの前に流れるのは、メビウスの残骸……まさか!

がんっ!!
「うわあ!!」

機体に衝撃! センサーは、上部に何か乗ったことを知らせてくる。ジンが載ってきた!?
やばい、上から撃たれるか、斬られる。咄嗟の判断で、スロットルを全開!
ジンはバズーカをリナのメビウスに向けようとして急加速され、体勢を僅かに崩す。だが、それだけにとどまった。すぐに改めて銃口を向けて――

「吹っ飛べええええ!!」

スロットルを思いっきり引く! メインバーニア閉鎖、バックスラスター全開!
急加速から急減速をかけられ、さすがのジンも前方に吹っ飛んでしまい……丁度、リニアガンの射線にその腹を見せた。その隙はほんの刹那だったが、リナは即応してトリガーを引く。

タァァァンッ!!

雷鳴。ジンのコクピットを光の矢が撃ち抜いて、モノアイから光が消え、撃たれた勢いのまま止まることなく、宇宙の彼方に流されていった。
すぐにリナは僚機の無事を確認する。フレンドシグナルを確認。……全て応答なし。

「はぁ、はぁ、はぁ……くそ、くそぉっ!」

自分だけが生き残ったのか。隊長も、僚機も落とされた。
メイソンの無事も気になって、振り返ってみるが、何も見えなくなっていた。いつの間にか支援砲火も止んでいる。撃沈されたのか。連合軍の通信回線を開いても、なんら応答が無い。
自分に「死ぬな」と言って送り出してくれた砲雷長も、おそらく死んだ。宇宙空間でMSに艦を撃沈されて生き残る確率は1割を切る。

母艦を撃沈した敵の部隊はどうなった? 他の艦に向かったのか? 援護に行くか、と思って機体のチェックをするけれども、センサー類が半分は死んでるし、ジェネレーターも出力が30%低下している。
さっき乗られたことで受けた過負荷と、無茶な操縦の影響だろう。メカチェックの画面は赤と緑で彩られていた。
リニアガンの残弾も2発。とてもじゃないが、他の味方を支援に行ける状況じゃない。絶望が胸中を締め付け、胸がムカムカしてくる。
あっという間に全ての仲間を失った。こんなこと、ゲームじゃあありえない。
ゲームなら撃墜されたら、笑いながら「くそー、負けた!」って言ってこっちを悔しそうに見ながら近づいてくる。「またやろうぜ」と次にやる約束もできる。
だけど隊長は、僚機は落とされて、もう居ない。永久に。次に会う約束もできない。彼らは人生をこの何もない宇宙で閉じたのだ。考えるだけで悲しくてたまらなかった。

「……そうだ、キラ…キラを!」

頭に浮かんだ、ガンダムSEEDの主人公、キラ・ヤマトの名前。
確かゲームのオープニングでは、ハイスクールの学生と言っていたが…彼はきっとストライクに乗る。
彼なら、この状況を打開してくれるだろう。
実に他力本願だが、今のリナにはそれに頼る以外にどうすることもできなかった。心も追い詰められていた。
しかしこの閉鎖されたコロニーに、どうやって入るのか? いや、ムウとクルーゼは入れたはずなのだ。なら、そこから入れる!

「あのゲートだったな…」

ヘリオポリスの工業用のゲート。そこに向かって慎重に機首を向ける。
姿勢制御用のスラスターの一部が死んでいて、妙にピーキーになっている。あらぬ方向に吹っ飛ばされないように注意しながら、メビウスをヘリオポリスの工業用ゲートの向こう側に滑り込ませていった。




メビウスで勝てんのかー! …いや、勝てないとここで完っ!ってことになっちゃいますしね(ぇー
身もフタも無いですが、仕方が無いっ!! 勝たずに逃げるという選択肢もありましたが、
なんとか勝つ方向でいきたいなぁ、と思いました。リナお疲れ様っす。

今回も様々な感想ありがとうございます! 本当に嬉しいです!
確かにメビウスでジンに勝とうとか、MSの性能の差が戦力の決定的な差じゃないってレベルじゃねーぞって感じですね。
でも公式設定ではジンとメビウスはパワーレシオでいうと1:3だそうで。
4機でかかれば勝てなくもないかな? と思った次第です。
ていうか私が何を隠そう量産機フェチですからね!(笑)
フリーダム相手でも、ストライクダガー8機でかかれば勝てると思って疑わない人物ですから!(笑)

メビウス・ゼロは…私個人はあまり好きではなかったりします。なんでだろ。
でもまあ良い機体だとは思ってますがっ メビウスのほうに浪漫を感じる私はおそらくマイノリティ。
ていうかクルーゼってナチュラルだったんですか! 知らなかった…(汗)

次回、ヘリオポリス内部に突入! (予告これだけ)
ではでは、また次回も読んでいただけると嬉しいです! それでは~



[24869] PHASE 03 「ジャンクション」
Name: menou◆6932945b ID:c0653c48
Date: 2010/12/17 18:35
「シェーン機、マック機、ユージ機シグナルロスト!」
「どういうことだ! 連合の大艦隊が近くに潜んでいたのか!?」

 ラウ・ル・クルーゼ隊所属艦、ツィーグラーの艦内では、思いも寄らぬ大損害に絶叫がこだましていた。
 今回の攻撃は完璧な奇襲だったはずだ。例え気づいたとしても、一番近い連合の艦隊(第7機動艦隊)は6時間はかかるはず。まず損害など起こらなかったはずだ。
 それが現実はどうだ。搭載してきたジンとその優秀なパイロットが、たかがナチュラルによって殲滅されてしまったではないか。
 隊長であるクルーゼに知られれば、無能の烙印を押され、未来は真っ暗だ。

「こうなれば、一隻でもナチュラルの艦を沈めて汚名を雪いでやるわ! 前方、敵艦ドレイク級に艦首を向けろ! 
推力最大、艦を突撃させつつ、各砲門は砲身が爛れるまで撃ち続けろ!」
「「「ハッ!!」」」

ツィーグラーの艦長は、完全に冷静さを失っていた。
本来は艦長はクルーの生命を一番に考えなければいけないのだが、ナチュラルにしてやられたということが何よりも許せなかった。プライドと、手柄への焦りだ。
それはブリッジクルーも同じで、仲間の仇討ちとコーディネーターのプライドによって、ナチュラルへの怒りに燃えていた。この場に冷静な人間など一人も居なかった。

- - - - - - -

「敵艦ローラシア級、撃ちながら突っ込んできます!」
「馬鹿な……刺し違えるつもりか!」

メイソンのブリッジは、同じように絶叫し、艦長ロクウェルも焦りの表情を隠せないでいる。
味方のメビウスは、4番機を残して全てがやられ、その4番機も損傷甚大で戦闘継続が不可能になっている。
近くを航行しているのは輸送艦一隻のみ。それも行方が知れない。僚艦の同級艦2隻とも、ジンの攻撃によって撃沈している。
この位置からでは退くこともできない。艦長は、応戦の必要を迫られた。

「止むを得ん……艦内各員に達す! これよりメイソンは突っ込んでくるローラシア級に反撃する! 射撃管制はフルオート、目標をローラシア級に設定!
 全クルーは、いつでも退艦できるようにしておけ! ここにいる貴様らもだ!」
「艦長は……!?」
「部下に死ねと言った張本人が、真っ先に逃げ出してどうする……行け! 通信ラインを全て操舵席に回すのを忘れるなよ!」
「は、はい!」 
 
躊躇しながらも、コンソールでいくらかの操作をした後ブリッジのクルー全員が席を立ち、我先にとブリッジを去っていく。
それを見届けてからロクウェルは艦長席を立ち、操舵を握った。機関要員に対し、限界まで推力をひねり出すように指示。
とはいえ、あのスピードで迫ってくるローラシア級を、このドレイク級の機動力でかわせるはずがない。激突まであと二分あるかどうか。
己の死を間近に感じ、ふ、とたくわえた黒ヒゲの下に笑みを浮かべた。

(やってくれましたな、シエル大佐。あなたの、ヘリオポリスが狙われるという予測は間違ってはいなかった。ザフトに一糸報いることができました。
 だが、この戦場に招かれたことで多くの部下が死んだ。それに関しては……うらみますぞ)

至近弾でブリッジが激しく震動する。コンソールモニターが点滅し、ダウンするものもあった。ローラシア級の姿がブリッジのガラス一杯に映し出された。もう、避けられはしまい。
思いを馳せるのは、脱出するであろう部下の顔。そして、己を死地に向かわせた上官の一人娘。
彼女は見た目こそジュニア・ハイスクール生のようだが、年齢は愛娘と同年齢だ。そんな娘を、コーディネーターとの戦いで散らせるにはあまりに寂しい気がした。

(シエル少尉……生きろ!)

操舵を握る手に力が込められる。ローラシア級の外壁を睨みつける。
数秒後、ロクウェルの身体は両艦が噴き上げる爆炎と爆風によって、宇宙に散った――

- - - - - - -

一方そのリナは――

「こっちか…いや、こっちだ!」

ピーキーになってしまったメビウスを操り、工業搬入用のルートを縦横無尽に延びるクレーンや支柱をかわしながら、ヘリオポリス内部を目指していた。
思い浮かべるのはキラの顔。ムウの顔。そしてストライクガンダム。
ゲームの中でも、ジンと比べても遥かに性能の高いあれなら、きっとなんとかなる。しかし、艦は? だが、次のステージに向かえたということは、何らかの脱出する手段があるはずなのだ。
そんな曖昧な希望を求めて、ただひたすらヘリオポリス内部を、そしてキラとストライクの姿を求めて飛んでいた。
ピピッ 警告音と共にHUDが二つの飛翔物体を捉えた。緑色の四角で囲まれたのは、シグーとメビウス・ゼロ。

「しまった、追いついた…!?」

冷静に考えれば、戦闘機動をしている二機に対し、真っ直ぐ矢のように飛んできた自分が追いつかないわけがない。
そんな二機の間に、こんな満身創痍のメビウスが突っ込んだところで、的にしかならない。
自分の迂闊さを悔いたが、もう遅い。既に両者から気づかれているだろう。シグーのモノアイがこっちを向いている!

(そのまま、ムウ・ラ・フラガのほうを相手にしてて…!)

祈る気持ちでレバーを握った。

- - - - - - -

ムウ駆るメビウス・ゼロと、クルーゼ駆るシグーは、工業用のルートで激しい戦闘を繰り広げていた。
ムウは、縦横無尽に走る障害物やクルーゼが放つ火線をかわしつづけながら、ガンバレルを操り応戦していた。
一方クルーゼは、性能差と圧倒的な技量によってムウを翻弄しつつも、ムウの並々ならぬ反射神経と操縦技術に対して、決定打を浴びせることができずにいた。

「くっ! こんなところで! チィッ!」
「この辺で消えてくれると嬉しいんだがね。ムウ! ……ん!?」

クルーゼが28mmバルカンでムウをロックオンしたと同時、警報を聞いてそちらを見る。
どう見ても戦闘機動ではなく、真っ直ぐ飛んでくるのは…連合のメビウスではないか。
それも、目の前に居るムウ・ラ・フラガのような特殊な機体に乗ったエースならともかく、数が揃って初めて威力を発揮するメビウスが一機のみ。

「ハエが一匹迷い込んだかな?」

無謀で無知で不運な敵だ。クルーゼは嘲笑して、狙いを据えて機銃を撃ち放つ。

「くぅっ!?」

火線がメビウスに延びて――近くに延びている支柱の存在を意識しながらもメビウスを操り、支柱を盾にして回避。
暴れるメビウス。壁や支柱にぶつかりそうになりながらも必死にメビウスの手綱を操り、スロットルを切り、姿勢制御スラスターだけで機体を操作してなんとか元の機動に戻る。
全身から冷や汗が止まらない。全身が震える。また漏らした。今自分の顔はとんでもなく不細工になっているに違いない。

「~~~っはぁ! くそ、1ステージ目で落とされてたまるか!」
「ほう……? ムウほどではないが…面白い敵もいるではないか」
「余所見すんな!」
「休憩は済んだかね、ムウ!」

余裕の台詞を吐いて笑みを浮かべるクルーゼとて、ロクに戦闘機動もできない敵機を相手にするほど余裕があるわけではない。
クルーゼはメビウスのことを忘れて、すぐにムウとの戦闘に集中しはじめ、そのままヘリオポリス内部へと突入していく。少し遅れて、リナのメビウスもヘリオポリス内部へと突入していった。

「……!? これが、コロニー!?」

リナは、モニターに映るその光景に絶句していた。
まるで普通の町並み。リナが住んでいた日本のベッドタウンに近い光景。それが、下のみならず真上や左右にも、ぐるっと円筒の内部にあるのだ。
そして内部を走る巨大な支柱とワイヤー。地球にしか住んだことのないリナには、この光景はかなり異常だった。
まるで箱庭! 上下感覚を失ってしまいそうだ。その中に見えたのは…ストライク!

「あれが…!?」

この目でようやく見ることができたストライクガンダム。それをしっかりと凝視する。白い装甲に青い胸部、赤い腰。間違いない。
以前は連合vsザフトで使っていたこともある。ジンより強力な火力を持っている。渇望していたストライクを見ることができて、胸が弾む。
なにやら軍の輸送用トラックに背を向けて座り込んでいる。何をしているんだろうか。トラックの荷台が開いて…

「う、わ!」

ぼーっとしていたら、接近警報! 目の前に地面が迫ってきた! 慌ててレバーを引き起こして、地面を舐めるように回避。
モニターがめまぐるしく動いて、近くに高層建造物が無いことを祈りながら空? を目指す。
モニターには、上から下に向かって勢いよく流れていく地面や家が見える。恐ろしい光景だ。ジェットコースターなんて徐行に見える。
運よく空に機首を向けることに成功すると、丁度シグーが、メビウス・ゼロのリニアガンを切り裂く瞬間が見えた。

「今……!?」

シグーがリニアガンを切り裂いている間は、僅かだが直線の機動を取る。今なら当たる! 「長年の勘」がそう告げている。
すぐさま、奇跡的な姿勢制御でリニアガンの照準を、シグーが着弾時に居るであろう位置に向け……発射!

「チィッ!」
「フッ……――むっ!?」

メビウス・ゼロのリニアガンを切り裂いた。これでムウは全ての火器を奪われ、恐るるに足りない存在となった。
ようやくあの連合の新兵器を沈めることに集中できる…そう思った矢先、思わぬ方向からの射撃!

がぁんっ!!

ショルダーを横から撃ち抜かれ、シグーの体勢が崩れる。
クルーゼ自身は反応できた。しかし、シグーが攻撃をしたあとの慣性を殺せずにいて――要は、ゲームでいう「硬直」状態になってしまい、かわせなかったのだ。

「私の隙を狙った…あのハエがか!」

ようやくメビウスの存在を思い出し、そちらに目を向ける。そして、クルーゼは自身の機体とプライドを傷つけられ、怒りに燃える。

(たかが戦闘機ごときが、私に対して!)
「この私に当てた褒美だ! 受け取るがいい!」

シグーをそちらに向き直らせ、手に持っている重突撃機銃を投擲!
リナは、それが回転しながら迫ってくるのを見ていた。巨大な物体が迫ってくるのを見ると、人間は思わず身体が硬直してしまうものだ。そのせいで一瞬反応が遅れてしまう。
右に旋回して回避行動。しかしかわしきれない!

がりぃぃっ!!
「うわあああぁぁぁ!!」

メインバーニアの片方に激突! メビウスに激震が走り、バーニアが脱落。
ジンに乗られた時に、骨格部に亀裂が入っていたのがかえって良かった。あっさりとバーニアはもげ落ち、本体ごと道連れにするようなことはなかった。
しかし、安堵もできない。メビウスは既に操縦不能に陥り、墜落しようと地面をめがけている。

「う、く! ビルの隙間に…!」

姿勢制御用のスラスターを全開に噴かせて、建造物に激突しないように操る。
重力帯では、スラスターの効果は小さい。が、無いわけでもない。少しずつ機体をずらし、ビルの隙間に着艦する気持ちで…機体を水平に。底部スラスター全開。機首上げ。
地面が迫る。高度計がめまぐるしい勢いで下がっていく。水平器はかなり0に近い数値を出している。あとは障害物が無いことを祈るだけ…!!

がりがりがりがり…!!

アスファルトを削りながら、なんとかメビウスを不時着させることに成功。すぐさま頭上のハッチを開けた。
頭上のバーを掴んで腕の力だけで自分の力を持ち上げて、跳ね上がり、トントンとメビウスのボディを跳ねて地面に降り立つ。
ヘルメットを脱ぐとそれを抱えたまま、ストライクガンダムに向かって走り出した。
角を曲がった直後――

ドォォンッ!!
「~~~!!」

自分が乗っていたメビウスが爆散。爆風に背中を押され、転倒してしまう。
角を曲がったおかげで、飛散する機体の破片を免れることができた。が、そんな幸運に感謝している間もなく、起き上がって必死にストライクガンダムを目指す。
息が荒い。普通に走って、ここまで疲れたことなんて無かった。このチートボディー、いくら走っても疲れることなんて知らなかったのに。

「はっ、はっ、はっ…! なんで、こんな目に…!」

己の不幸を嘆きながら、建物の間を走る、走る、走る。
こういう時、足が短いというのはすごく不便だ。いくら走っても前に進んだ気がしない。
あと、走るたびに股間が気持ち悪い。…トイレパックが容量オーバーで溢れてきてる。脱いだら臭そうだが、あとで悩もう。
28mmバルカンの銃声や何かの爆音が聞こえる。このコロニー、外壁が破壊されている!?
すごい震動だ。だが、構っていられるか。見えた! 公園の中に軍の輸送用トラック。その横に…

「スト、ライク…… ――!?」

彼女が見た光景は、アークエンジェルを背景に、アグニを空に向かって撃ち放つストライクの姿だった。
凄まじい熱量と光。ビーム砲はシグーを掠め、コロニーの内壁を蒸発。激しい爆発音と煙を撒き散らし、丸い大穴を開ける。煙はすぐさま、開けられた大穴の中に吸い込まれていった。

「なっ……」

そういえば、対戦ではしょっちうアグニ級のビーム砲をバカスカ使っていた。
まさか、あそこまでの威力を持つ兵器だとは思わず、一撃でコロニーに大穴を開けた威力に開いた口がふさがらない。
ストライクガンダムっていうのは、こんなに恐ろしいMSだったのか? 連合の技術は世界一ィ、だな…。

とにかく、身の安全を図るには彼らと合流せねばならない。シグーが、開いた大穴に飛び込んで姿を消した今がチャンスだ。
そう思ってリナは、マリュー達に声をかけながら駆け寄る。マリューや周りに居る子供達も振り向いた。

(ついに、キラやムウ達と合流か……どうなるんだろうな)

アニメのストーリーはわからない。だが、彼らについていけばとりあえず敗北ということはない…はず。
それくらいの軽い気持ちで、彼らと合流することを決意し、歩いていった。

だが、この時リナは気づいていなかった。

自分がキラ達の運命を大きく変える異物だということを。



というわけで、ようやく本編に合流しました!
今回も様々な感想ありがとうございます…!
つまらないという方も続きを期待していただける方にも、感謝の気持ちを捧げたいです。
一番悲しいことって、やっぱり感想をいただけないことですからねー。
感想をいただけるうちが華! これからも皆さんの感想を糧にがんばりたいです!

文法のおかしいところを指摘していただいて、本当にありがとうございます!
さすがにリナのキャラや意思、ストーリーに関わる間違いを修正することはできませんが、
ご指摘いただいた小さな誤表現は修正していきます。いやー、国語力のなさを思い知らされます。

そういった文法力以外にも色々設定に対してご指摘していただいています。ありがとうございますっ

確かに本編どおりの筋書きでいくと、下手したらアラスカまでお預けってことになりますね!
さて、これからリナはどんな機体に乗っていくのか…? 私も今決めかねています。

前にも言いましたが私は量産機フェチでして、リナにはしばらくは量産機に乗ってもらいたいなぁと思ってます。
思ってるだけで、いつそれが気分で変更するかはわかりませんが!(ぇー
これからも読んでいただけると嬉しいです! 感想いただけると尚更嬉しいです!
それでは、またよろしくお願いします(深々)

※12/18:ストーリーに関わる文章は変えないと前述しましたが、以前の完結の仕方で
次に繋がるストーリーが思い浮かばなかったので、修正しました。未熟をお許し下さい(深謝)



[24869] PHASE 04 「アークエンジェル」
Name: menou◆6932945b ID:c0653c48
Date: 2010/12/17 22:04
クルーゼはシグーの腕を灼かれて、ストライクの威力を知って出直す必要を感じたようで、大穴から撤退していった。
風が出てきた。あの大穴から空気が漏れ始めているのだ。だが、一刻を争う事態ではなくなった。戦闘の気配は去っていく。

「き、君は……?」

息を荒らげながらリナが歩み寄っていくと、声をかけてきた女性に視線を返す。
連合軍の整備員と同じ作業服を着た女性。はて、どこかで見覚えがある。この声は…
そうだ、連合vsザフトで、出撃や戦闘中に声をかけてくるオペレーターの人だ。
名前はわからない。というかゲーム中じゃ紹介されない。が、階級賞は大尉になっている。
さっと敬礼を返し、すぐさま軍人になる。

「私は、地球連合宇宙軍、第7機動艦隊所属のMA隊パイロット、リナ・シエル少尉です」
「え……!?」
(迷子かと思ったわ…それにしては、ノーマルスーツ着てるし)

こらこら、思ってることが顔に出てるぞ。
でも一応上官だ。つっこまないことにしておこう。彼女もこちらの敬礼に対して答礼をする。ゲームじゃあんまり目立たない人だけど、ちゃんと軍人だ。

「私はマリュー・ラミアス大尉よ。正規の軍人が来てくれて助かったわ」
(ん? 正規の軍人が来てくれて? まるで、僕以外には居ないみたいな口ぶりだな。連合の基地のはずなのに)

「あの…状況が飲み込めないのですが、そこの子供達は?」

コンテナの間で縮こまっている、学生らしき少年少女達に視線を向けながらマリューに問いかけて話題を変える。
そのうちの彼女らしき少女に腕を抱かれている、天然パーマの黒髪の少年が、ムッとして見返してくる。
自分よりも年下に見える少女に子供呼ばわりされたからだろう。リナは気づかないふりをして、マリューに返答を求めた。

「この子達は民間人よ。あのストライクに乗っている少年のクラスメイトなの」

クラスメイトぉ? やっぱ見た目どおりただの学生だったのか!
驚きに小さく目を見開いて、汗を一筋。このストライクガンダムって、秘密裏に開発されてたんじゃなかったのか。民間人に見られてるよ?

「な、何故そんな民間の子供達がここに?」
「成り行きでね……話は後よ、アークエンジェルに乗りましょう。ザフトはまだ近くにいるわ」

色々問いただしたいことがあるが、確かに今はここでダラダラしているわけにはいかない。
あのクルーゼは退いたが、所詮退いただけだ。再攻撃を仕掛けてくる可能性だってある。
まだ敵にジンがどれくらい残っているかわからないが、こちらの手持ちの戦力がこのストライクだけとわかれば、すぐにでも仕掛けてくるだろう。
遠くに見えるアークエンジェルが広い公園に着陸しようと高度を下げている。
リナはサイやトールらハイスクール生の不審そうな視線を浴びながらも、一緒にストライクの手に乗せてもらった。

- - - - - - -

着陸したアークエンジェルの格納庫に、マリューや他のキラの愉快な仲間達と一緒にストライクに運んでもらい、ようやく一息。
MSとはいえあんな複数の人数を手に載せると、それはもう狭い。だいたいMSの手など、人を乗せるようにはできていないのだ。
しかも子供呼ばわりしたせいで、手に乗ってる間トールやミリアリアからの視線が痛い。カズイは気弱で人を睨むほどの度胸は無く、サイは人が良いから睨んではこない。
ちなみに、サイ・アーガイルに関しては前から知っていた。連合vsザフトで使えるからだ。彼はMSを操縦できるんだろうか。

「ラミアス大尉!」

奥のエレベーターから大勢走ってくる。アークエンジェルのクルーか。

「バジルール少尉!」
「ご無事で何よりでありました!」

先頭を走ってる女性がマリューの前に立つと、折り目正しく敬礼。マリューも敬礼を返している。

「あなたたちこそ、よくアークエンジェルを……おかげで助かったわ」

どうやら知己の仲らしい。互いの無事を喜び合っている。
少し羨ましく思う。なにせ、ここにはリナを知っている人物が一人もいないのだから。
バジルール少尉という名前らしい女性士官が、こちらに振り向いた。怪訝そうな視線をぶつけられ、くるか、と内心身構えた。

「君は? 子供が軍のノーマルスーツを着て…」
「私は地球連合宇宙軍、第7機動艦隊所属のMA隊パイロット、リナ・シエル少尉です」
「!? あ、いや…失礼した。私はナタル・バジルール少尉だ。
シエル……あのシエル家か。多くの優秀な軍人を輩出したという」
「い、いえいえ……バジルール家には及びません」

自分と同じような境遇の人間を見つけたからか、リナを見るナタルの目が和らいだ。
よろしく頼む、と少し高めのトーンの語調と共に手を差し出され、握手。…ナタルは大きいほうではなかろうが、かなり負けてる。

「おいおい何だってんだ!? 子供じゃないか!」
「むっ」

素っ頓狂な男の声。自分に向けられたのか。そう思って振り返ると、視線の先はストライク。
そうか、キラが降りてくるのか。アグニでコロニーに穴を開けた件、小一時間じっくり語り合おうじゃないかコルァ。

拳を鳴らしながら振り返ってコクピットを見上げるリナ。
コクピットの昇降用ウィンチを使って降りてくるのは、ベルトだらけの黒い私服を着た少年。

胸が、小さく高鳴った。拳を鳴らしていた手が止まる。
端整な顔立ちに、少し憂いを含んだ眼差し。きりっとしてて、ジャニーズ系とはまた違う…

(……なんか、良いな。ゲームだとアニメっぽくてアレだけど、実際に見ると、カッコいい……)

ぽー…

(…………ハッ!?)

我に返った。何を考えているのか!? き、きもい! 自分がきもい! 男に見とれるとか、僕はホモだったのか!? いや、今は女の子だけどさ!
薄々気づいていたことだが、リナ・シエルになって12歳くらいの頃から、どことなく思考形態が女の子っぽくなってきたというのは気づいていたのだ。
最近は、士官学校やら軍隊生活やらで考えてる暇なくて、気にしないようにしていたのに、まさかここにきて女の子が前面に出てしまうとは。
精神っていうのは身体に引っ張られるものなんだろうか。前世の性別を忘れたつもりじゃないのに…わりかしショックだ。

(せめて表に出さないようにしよう…)

「ボウズがあれに乗ってたってのか」
「ラミアス大尉…これは?」
「……」

自分の心情の変化に悶えている間にも、周囲はキラを中心にどよめいている。
そのどよめきは、少なくとも歓迎ムードではない。独身女だけの同窓会の二次会に、昔の苛められっ子が彼氏連れで出席したような、気まずい空気だ。
例えがアレだが、とにかく気まずいのだ。なんとなく、リナは苛立ちを覚える。

「あの、彼は「へー、こいつは驚いたな…」

キラを庇おうと口を挟もうとしたが、クルー達の後ろから放たれた声に割り込まれた。己の言葉を遮った張本人に視線を向ける。
歩いてくるのは、紫と黒のカラーリングのノーマルスーツの、金髪の伊達男。顔はもちろんリアルなのでゲームとは違うが、声と格好ですぐにわかった。
メビウス・ゼロのパイロット。エンデュミオンの鷹。ムウ・ラ・フラガだ。
きょとんとした表情で彼を見上げる。うわー、リアルじゃこんなやつだったのか、と思っている。

「地球軍、第7機動艦隊所属、ムウ・ラ・フラガ大尉。よろしく」

さっと軽めの敬礼をする彼。自分も彼に向かって敬礼。

「第2宙域、第5特務師団所属、マリュー・ラミアス大尉です」
「同じく、ナタル・バジルール少尉であります」
「私は大尉と同じ、第7機動艦隊所属、MA隊のパイロット、リナ・シエル少尉です」

それを聞くと、ムウは表情を緩めて自分に一歩近づいてきた。同郷に会えて嬉しいのだろう。

「へえ! そいつは奇遇だねえ。じゃあさっき奴との戦いに割り込んだのは君だったのか。来てくれて助かったよ、ホント」
「い、いえ、大した援護もできませんで…」
「謙遜すんな! 奴に当てるとこ見てたんだぜ? 俺は。俺の知る限りじゃ、あいつにまともに当てたのは五本の指で数えられるくらいなんだ」
「そんな……」

(うう、恥ずかしい。あのムウ・ラ・フラガに褒められるなんて。嬉しいけど…恥ずかしい。
あと子供扱いされないのはすげー嬉しいっ)

かあ、と頬を赤らめて長い横髪をくりくりといじりながら視線を泳がせるリナ。
その姿に庇護欲を駆り立てられて和む男性クルー数名。ムウも、そんなリナの姿を見て和んでいた。

「こほん!」
「おっと……乗艦許可を貰いたいんだがね。この艦の責任者は?」
「! 私も許可をいただきたいのですが」

ナタルの咳払いで雑談を切り上げられ、改めてムウが乗艦許可を求めた。やばい、忘れてた。色々あってテンパってたからなぁ。
しかしナタルもマリューも、その問いかけに表情を沈ませた。艦長以下、主なクルーは戦死したらしい。
だから今この艦に所属する人間で最も階級が高い人物、マリュー大尉が繰り上がりで艦長代理になった。
とりあえずムウとリナは己の事情を話す。二人とも母艦を落とされたから、帰る場所が無いと。とりあえず形式上の乗艦許可をもらい、ほっと一安心。
許可がもらえないということはないだろうが、異物からゲストへクラスチェンジしたのだから、立場はだいぶ違う。

- - - - - - -

「ジンを撃退した!?」「あの子供が!?」

マリューが告げたキラの手柄に、驚きを隠せないナタルとその下士官達。おーおー、驚いてる。
なんか知らないけど僕が褒められたわけじゃないのに気持ち良い。もっと驚けー。

「……って、なんでシエル少尉がほっこりしてるんだ?」
「え? いえいえ、そんなことはないですよ? 気のせいです。ふふふ」

メカニックのおっさんに突っ込まれて、慌てて否定する。ああ、だめだ。勝手に頬が緩む。
変なお嬢ちゃんだな、とおっさんにぼやかれるが、何も聞こえないふり。キラもこっちに不審そうな目を向けている。
キラから不審そうに見られると、笑顔にヒビが入った。へ、変な奴って思わないで!

話を聞くに、どうやらムウは、僕とは違う任務でこのヘリオポリスに来ていたらしい。
あのストライクの正規のテストパイロットの護衛。ムウ・ラ・フラガというエースを呼ばなければならないほど重要なことらしい。
が、そのパイロットも爆破で死んだと。南無。でも君が死んだおかげで連合は勝てるかもよ? 無駄死にではないぞ。
しかし、ふと思う。なんでキラはMSを操縦できるんだ? 確かMSの操縦はコーディネーターの専売特許のはず…。まさか?

何か思うところがあったのか、ムウはキラに近づく。キラが警戒して、ムウを睨み返しているではないか。ああ、こら。キラをびびらせるな。
リナもキラに歩み寄る。ちら、と一番近いミリアリアがこっちを見た。何か言いたげな顔をしてる。聞きたいことはわかるが、自分からは言いたくない。微妙な乙メン心。

「君、コーディネーターだろ」

ムウが唐突な質問を発して、リナは目を見開いてうろたえた。
周りからも動揺のうめき声が挙がる。ムウの視線は、真っ直ぐキラを見据えている。

(ちょ、何言ってんの、連合の軍人に囲まれてるのに! ほら、否定しちゃってキラ君……あれ?)

否定の言葉を返さず、真っ直ぐ見返すキラ。それを見て、リナの楽観が崩れていく。

(あ、あれ? キラ君?)
「……はい」
「えっ」

正直に答えたキラに、リナはただひたすら戸惑っているだけだった。




あとがきって果たして要るのか。そう考えている時期が私にもあります(現在形)
というわけで、今日も感想をいただきましてありがとうございます!

前回ちょっと訂正してる部分もありますので、詳細は1レス目をご参照ください(深々)
リナの転生バレは私も望むところではないので、これからもバレないんじゃないかなあと思います。多分。

またも戦闘が無くなるこの頃。暇なストーリーが続くかもしれませんが、端折るところは端折るので勘弁していただけたらと思います。
それでは今回はあとがき短めですが、次回もよろしくお願いします!



[24869] PHASE 05 「インターミッション」
Name: menou◆6932945b ID:c0653c48
Date: 2010/12/20 23:20
――L3、ヘリオポリス周辺宙域。

その宙域には、先ほどの戦闘の名残が漂っていた。
ジンやメビウスの残骸。それらに乗り、戦っていた人間達の肉体は既にここには無い。
まるで、戦っていた者達の怨念の強さを物語るかのように、いつまでも残骸は漂い続けていた。

その残骸の中に、ラウ・ル・クルーゼ隊の旗艦、ナスカ級高速戦闘艦ヴェサリウスが潜んでいた。
そのブリッジでクルーゼは、連合の新兵器に対する考察と対策、戦術について論じていた。

「ミゲル、オロールはただちに出撃準備! D装備の許可が出ている。
今度こそ完全に息の根を止めてやれ!」

「はっ!!」

檄を飛ばし、パイロット達を見送るクルーゼ。アスランが、自分も出撃できるよう上申したがそれをなだめて制止し、
クルーゼは己の思考の海に漂い始める。

(連合の新兵器、ムウ、そして……私に当ててきた戦闘機)

ムウと切り結んでいたとき、したたかにも横から撃ってきたメビウス。
あの屈辱は忘れられない。存在を忘れていたというのは言い訳にならない。己はあの射撃に反応できていたのだ。
では反応できなかったシグーが悪いのか? 馬鹿な。機体のせいにするのは、それこそ三流だ。

(物理的慣性、彼我の機体の特徴、操縦の癖、人間の本能……全てを吟味して、必ず当たる瞬間というのを熟知している…?
フッ、まさかな。
できるとすれば、それはコーディネーターを超える存在だ。偶然と思いたいものだが…次に出てくるとしたら、侮れんな)

あの戦闘機のパイロットには、ミゲルやオロールでは手を焼くかもしれない。
そう思い、次の攻撃には己と共にアスランも参加させることを考えながら、オブザーバーの席に戻るのだった。

- - - - - - -

キラがコーディネーターだとわかり、士官達に戸惑いの空気が流れた。
それもそうだろう。この戦争はもはや国同士ではなく、ナチュラルとコーディネーターの戦争なのだから。
つまり、目の前に敵がいる。単純な軍人ならこう考えてもおかしくない。
その単純な軍人の陸戦隊の兵士らが、キラの肯定の返事と同時に小銃を身構える。

「っ……」

トールがキラを庇うように立った。リナも、牽制するように視線を向ける。

「なんなんだよ、それは!」
「トール…」

トールが果敢にも兵士に向かって非難の声を挙げる。キラが頼もしそうにトールを見ている。

「キラはコーディネーターでも敵じゃねーよ!」
「私も、ザフトやコーディネーターを庇うつもりはないけど、
民間人に銃を向けるのは軍人としていただけないと思うな?」

言ってから、しまった、と思う。
言葉は否定していても、思いっきりコーディネーターを庇っているではないか。
僕が進んで庇わなくても、おそらく撃ったりはしないだろうに…ああ、僕の馬鹿。
キラ以下学生達も、こっちを見てる。きっと、何こいつと思っていることだろう。

「その少年とシエル少尉の言うとおりよ。銃を下ろしなさい」

マリューの鶴の一声により、渋々ながらも兵士達が銃を下ろす。
リナは気丈に牽制の睨みを兵士に利かせていたが、内心ホッとした。マリューを紙吹雪と共に賛美したい気分だ。
キラの両親はナチュラルで、コーディネイトされた子供…そういうことらしい。
地球連合軍の領地だったらいざしらず、ここは連合寄りではあるが名目上中立だ。
戦禍に巻き込まれるのが嫌なコーディネーターやナチュラルにはうってつけの土地といえる。
その説明を余儀なくされた状況を作った張本人、ムウ・ラ・フラガはすまなさそうに声のトーンを下げた。

「いや、悪かったな。…とんだ騒ぎにしちまって。俺はただ聞きたかっただけなんだよね」
「フラガ大尉…」

(って、おぉい! そういうこと聞くなら個人的に質問しようよ!? KY! KY!
コーディネーターってわかったら、だいたいの連合軍の軍人はああいう反応するってわかってるはずなのに。
ムウ・ラ・フラガって実は結構天然? いや、さっき僕を子ども扱いしなかったところからして、全ての人に分け隔てなく接することができるタイプなんだろう)

ムウ・ラ・フラガ。実は結構人間味があって面白いやつなのかも…。
少しだけ、ムウに対して親近感を持つリナだった。当のムウは感慨深げにストライクを見上げて、呟く。

「ココに来るまでの道中、これのパイロットになるはずだった連中のシミュレーションをけっこう見てきたが、
奴等、ノロくさ動かすにも四苦八苦してたぜ」

なるほど…やはりMSっていうのは本当にコーディネーターにしか操縦できないらしい。
想像するに、歩くだけでも大変な重労働なのだだろう。それでは戦闘行動など到底無理だ。まともに歩けるように訓練するだけで戦争が終わりそうだ。
それを考えると、やはりコーディネーターの凄さを思い知らされる。そして、キラの凄さも。どういうレベルなんだろうか、奴らは。
リナはそんなコーディネーターをこれからも相手していかなければならないということに不安を抱き、俯いて視線を落とす。
そのリナの様子を見て苦笑し、「やれやれだな」とぼやいて、歩き出すムウを、ナタルがどこへ行くのかと咎める。

「どちらって…俺は被弾して降りたんだし、外に居るのはクルーゼ隊だぜ」
「ええっ…!?」

マリューとナタルが、その事実に二人して驚く。
クルーゼ隊。やっぱりラウ・ル・クルーゼだ。詳しい人となりはわからないが、いつも強力な機体に乗って立ちはだかるイヤなやつ。
相当な技量なのだろう。さっきメビウスで一合二合しか交戦していないが、今の自分では到底かなわないということはわかった。
そんなやつが、こんな装備も不十分な状態の僕たちの前に立ちはだかる。苦しい戦いになりそうだ。

「あいつはしつこいぞ~。
こんなところでのんびりしている暇は、ないと思うがね」

軽く言うな、軽く。余計に不安を駆り立てられる。
そう、のんびりなどしている暇は無い。自分はメビウスを落とされた。ムウもメビウス・ゼロをダルマにされて、ストライクしか残されていない。
そうなると、コーディネーターでMSを操縦できるキラに任せっきりになる可能性があるのだが、軍人が民間人に頼りっきりなのは褒められたものではない。
自分も機体を手に入れなければ…! ナタルに詰め寄る。

「バジルール少尉、このアークエンジェルには艦載機はありますか!?」
「何っ? ……艦載機といえば、このストライクがあるが…」
「これはナチュラルには操縦できませんよ。他には!?」

リナの勢いに気圧されて、ナタルは一歩後ずさり。
リナは普段は好奇心旺盛そうな丸い目尻を精一杯釣り上げて、口をへの字にしてナタルに顔を近づけていた。
じり、じり。
ナタルが一歩下がれば、リナも一歩詰め寄る。…が、一歩の歩幅が違うせいで、リナが少しよたついた。
まるで子犬が飼い主に、散歩に行こう、と一生懸命おねだりしてるようなそんな光景。

- - - - - - -

phase:ナタル・バジルール

(し、シエル少尉…なんて健気なんだ!
長い黒髪も艶々してて……エメラルドみたいな大きい翠の瞳が愛くるしすぎる。
それにしても、ああ、この胸のときめきは一体!? 可愛い、かわいすぎるぞシエル少尉!
撫でてみたい、その丸いほっぺをぷにっとしてみたい。抱き上げても構わんのだろう? ほぅら、腕の中に…
よーしよしよしよしよしよし……)

- - - - - - -

「ば、バジルール少尉!?」
「ちょ、バジル…ルぅ、しょうぃい…」
「………はっ!?」

ナタルはマリューの悲鳴に近い叫びと、苦しそうなリナの声でようやく我に返った。
いつの間にかリナを力強く抱きしめてしまっていて、リナは胸の中で呼吸困難に陥っていた。じたばた。
名残惜しいけれども、ぱっと腕を開いてリナを解放して、こほんと咳払い。

「……軍人が子供みたいに我侭を言うものだから、鯖折りによる制裁を加えただけのことだ」
「はぁ、はぁ…そ、そうですかぁ?」

なんとなく納得いかなさそうなリナ。ナタルさん、顔赤い。

「と、とにかくだ! アークエンジェルは新造艦で、艦載機はまだ存在しない」
「そんなぁ…」

リナが、見るからにショックを受けて、しゅんと目を伏せて俯いた。
もしリナに犬の耳と尻尾が生えていたら、ぺたんと下を向いて尻尾が垂れていたことだろう。
その姿がまた、雨に濡れた子犬を思わせる仕草だったので、男性クルー達が、頬を赤らめながら切なそうな表情でそわそわしはじめた。

「バジルール少尉、なんとかしてやってくださいよ!」
「シエル少尉がこんなに頼み込んでるのに!」
(うっ……)

ついに男性クルーからナタルに向かって非難の声が挙がり始めた。
ナタルとて、その健気で一生懸命な姿に胸打たれ、そして愛くるしい仕草に悶えていたところなのだ。
しかし、「リナの希望に沿うもの」はこの艦に搭載されていない。なんとか叶えてやりたいところだが…
『あれ』を教えたとしても、もっとがっかりされそうな気がする。が、それが無理と分かれば諦めてくれるだろう。

「……と、言いたいところだが、無いわけじゃない」
「本当ですか!?」

落ち込んでいたリナは一転、ぱあっと花が開いたように表情を明るくして声を弾ませた。
見た目どおりの年齢の少女のように、ころころと表情を変えるリナ。目からはキラキラと光が溢れんばかりだ。
男性クルーからも、うおぉぉ、と喜びの声が挙がっている。お前らAAのクルーのくせに、どっちの味方なのか。
ナタルもリナの嬉しそうな表情にほっこりと表情を緩ませる。

「第二格納庫に、『艦載機ではない』機体を置いている。そうだな? マードック軍曹」
「あ、ああ…まあ一応、調整すれば使えるようにはなりますがね。『あれ』をお嬢ちゃんに使わせるんですかい?」

整備班のリーダーであるマードックに話を振るが、マードックの反応は芳しくない。
『あれ』を使わせるのは予想外だったのだろう。なにせあれは艦載機ではない、『荷物』なのだ。

「構わん。シエル少尉を黙らせるなら、見せるくらいはいいだろう。
5機のうち4機もG兵器を奪われたから、無用になった『あれ』を手放そうと思っていたところだしな」
「??? い、いいから早く見せてくださいよぉ!」

あれだのこれだのと言ってもったいぶる二人の会話に癇癪を起こしかけるリナ。

「こっちだ、シエル少尉。貴女の希望に沿わないだろうが…」
「なんでもいいですからっ」

手招きして手を掴み、リナを連れて行くナタル。やはり歩幅が違うので、たまにリナの足がよたつく。
…その姿は、まるで遊園地の乗り物に連れて行く母子のようだ。
そんな姿に男性クルーはついていくかどうかおろおろしていたが、

「おめえら! フラガ大尉の言葉を聞いてなかったのか!
ぼさっとしてねえで、さっさと配置につけ! ザフトが来るんだよ! 整備班は、大尉のゼロとストライクを修理するぞ!」

マードックの檄で、蜘蛛の子を散らすように各員の持ち場に走り出した。
キラ以下の学生達は、
「どうする?」「あの子何?」「軍人…なのかなぁ」「なんか放っておかれてないか? 俺達」「………」
と、戸惑いながらも話し合い、マリューに視線をよこす。

「あ、貴方達は……今外に出るのは危険だし、居住区の空いてる部屋に案内するわ。
そこで少し休んでなさい。逃げ回ったり戦闘に巻き込まれたりして、疲れたでしょう?」

とりあえず、学生達のことは保留にすることにした。「こっちよ」と彼らを率いて、居住区の方へ歩き出す。
そして第二格納庫のほうに歩いていくナタルとリナの後姿をちらと見やり、

「……バジルール少尉、あなたそんなキャラだったかしら…?」

ぽつりと、マリューは困惑しながら呟いた。

- - - - - - -

リナやキラ達が入ったのは、ブリッジから向かって右側の第一格納庫だ。
そしてもう一つ、ブリッジから向かって左側の第二格納庫がある。そこには別のG兵器も搭載する予定だったのだが、
それがなくなったため本来は用済みになっていた。

「アークエンジェルが就航する前から、一人の人物からG兵器以外にも搭載機を追加する提案が出ていた」
「G兵器だけじゃ、力不足だったからですか?」

リナが質問を挟む。

「それはわからんが、搭載機をG兵器だけにする理由はある。5種類もの機体が一つの艦に搭載されていれば、整備員の苦労は計り知れない。少しでも整備の簡易化を図りたかった。
そして、G兵器の運用に関わる一切のことをアークエンジェルに集中することで、組織の一本化を図りたかったのだ。
それでもその人物は強硬に、アークエンジェルに搭載機を追加するようにと主張したのだ。その理由は不明だ。
首脳部は、アークエンジェルの開発計画を推し進めた人間でもある彼の発言を無碍にはできず、別の形で彼の提案を受け入れる形になった」
「別の形?」
「……ここだ」

エレベーターの扉が開き、第二格納庫に出る。
広々として寒々しい。真っ暗で、何も見えない。足元灯が輝いているが、その機体らしいものが見えない。
いや、真ん中に何か巨大な物体がある。マシン……?
ナタルが無言で灯りのスイッチに手を伸ばす。サッ、と格納庫の内部が光に照らされた。
リナは、そのマシンを見て、絶句する。

「なっ……!?」
(なんでこれが、ここに…!?)




ついにロボットアニメお決まりの展開、2番目の機体への乗り換えイベントです!
こういう引っ張り方をしたら読者に受けるってばっちゃが言ってた!
まあたまにイラつく人も居るみたいですが…提供元にこうしろって言われたんです(ぇー
次の機体について色々意見をくださってありがとうございます。

これからのリナの立ち位置は、こんな感じになっていくと思います。
原作のアークエンジェルってなんか人間関係殺伐としすぎだし、いいクッションになれたらなぁ…と思ってます。
サイは私も好きなので、彼を救いたい! リナがんばって!(他力本願)

あと、明日の投稿はちょっと無理っぽいです。用事ががが。
ではまた、明後日かそれくらいにお会いしましょう! これからもよろしくお願いします(礼)



[24869] PHASE 06 「伝説の遺産」
Name: menou◆6932945b ID:c0653c48
Date: 2010/12/20 23:13
アークエンジェル、メイン格納庫。
そこは戦場のような喧騒に包まれていた。補給科、機械科、施設科、それぞれが、来たるザフトの攻撃に備えて、大急ぎでそれぞれの仕事をこなしていた。
メインハッチからは輸送トラックがひっきりなしに出入りし、それぞれの科が物資の取り合いをしている様相をなしていた。

「水はモルゲンレーテから持ってくるほか無いだろぉ!」
「ストライクのパーツの弾薬が先だ、急げ!」
「マードック軍曹! 来てくださいよー!」

そんな戦場の片隅、コンテナに囲まれて直立している機体があった。
ストライクガンダム、メビウス・ゼロ。…そして、もう一つの異色の戦闘機。
全体的に角ばっていて、翼も短く小型。まるでストライクガンダムのようなトリコロールカラーの戦闘機。
明らかに異物。アークエンジェルのクルーがそれぞれの任務をこなす合間に、ちらりと物珍しげな視線を送る。
一人その整備をするリナにとっては、その視線は決して心地よいものではなかった。
その戦闘機のコンソールパネルのキーボードを打ちながら聞こえてくるヒソヒソ話が耳に飛び込んでくるたび、はあ、と溜息。

「30mmバルカン砲…残弾800。問題は小型ミサイルかぁ…」

しかもこの戦闘機の武装は、バルカンと小型ミサイルのみ。どれもジンに通用するとは思えない。
バルカンは取り外し、メビウスのものと換装すれば補給が利くようになるかもしれない。そこはマードック軍曹と折り合いをつける必要がある。
問題は小型ミサイルだ。これに代わる兵器は今のところ地球連合軍には存在しない。
メビウスより悪い状況になってないか? と暗澹とした気持ちになる。が、無いよりはマシだ。

「照準器…誤差0.003。チェック。姿勢制御スラスター、チェック。メインバーニア、チェック」

キーボードを打ちながら機体の確認。驚いたことに、ほとんど高水準の整備状況でまとまっている。
これならいつでも実戦で使える。が、使えるだけであって、通用するかどうかは別問題だ。

「やっぱり、やめとけばよかったかなぁ…」

格納庫の天井を仰いで、呆然と呟いた。

- - - - - - -

「こ、これって…?」
「これが先ほど言った『荷物』のMAだ」

格納庫の真ん中に佇む、その機影には見覚えがあった。
リナは空乃昴であった頃、ゲームセンターに通いつめていたことは読者も知っての通りであろう。そして連合vsザフトの全国大会優勝者であることも。
しかし、それだけをやっていたわけではない。同列のゲームとして、「機動戦士ガンダム 連邦vsジオンDX」を愛好していたのだ。
それゆえ、それにちらっと登場したこの戦闘機の存在も知っている。

FF-X7 コアファイター

コズミック・イラの人間にはピンと来ないだろうが…「宇宙世紀」に開発された脱出用カプセル兼戦闘機である。
しかし何故、それがこんなところに? …そう質問したい衝動を抑えて、あくまで「コズミック・イラの人物」の思考でナタルに問いかける。

「私もMAのパイロットとして、連合のあらゆる機体に精通していたつもりですが…このMAは初めて見ました」
「それは道理だ。なぜなら、連合にもこのような機体は存在しない」
「え…?」

ナタルさん、貴女は一体何を言っているのだ。

「ある人物が、アークエンジェルの搭載機を追加するように主張したのはさっき話したとおりだ。
だが、アークエンジェルにもともと載せる予定のG兵器以外は、「はいわかりました」と言って突然載せることはできない。
そういう計画がかなり以前から出来上がっていたからな。G兵器以外のものを載せる必要性が見出せなかったのだ。
しかし、エンデュミオン・クレーター上空のグリマルディ戦線が終結した後、この機体が月軌道を漂流していたのを警戒艦隊が発見した。
最初はただの正体不明の残骸かと思ったが…見たことも無い高い技術で作られたMAであることが判明した。
その技術をG兵器に転用するために搭載したのだが、そのG兵器が奪取され『荷物』になりさがったというわけだ」

「それで、使うと言っても良い顔しなかったわけですね」

でもこのボロボロ具合と、月軌道を回っていたということは、まさか…。

「あらかた調べてみたが、武装は30mmという小口径の機関砲と小型ミサイルしか搭載できないようだから、はっきり言うとメビウスのほうが強力だ。
シエル少尉には悪いが、これに乗るくらいならCICでオペレーターでもやってもらったほうが――」
「乗ります!」
「は?」

ナタルは、リナがこれを見てがっかりすると思って言ったつもりが……
予想外にも、目を輝かせて意気揚々に宣言されて、思わず顔を挙げてリナの顔をまじまじと見つめた。

「私は卑しくもMA乗りです。ならMAに乗らなければ何の価値もありません。
だいたいオペレーターなら、もっと良い人材がいるはずです。適材適所です!」
「そ、そうか? しかし君の笑顔なら――」
「これで出ます! 出させてください!」

妙にこの機体に固執するリナ。鼻息荒く、またもナタルに詰め寄ってる。
ナタルは呆れたように頭を抱え、はぁ、と溜息をつく。

(シエル少尉は頑固だな…このあたりは他のMA乗りと同じ、か。
こんな棺桶みたいな機体に、シエル少尉を乗せたくないが……)

「……わかった。そこまで言うならシエル少尉に使ってもらうのもやぶさかではない。
だが、無理はするなよ。これは一機しかないんだ。予備のパーツも無い。壊されてもらっては困る。
決してシエル少尉の身体が心配だからじゃないぞ。そのあたりを勘違いするな」
「ありがとうございます!」

踵を鳴らして、ビシッと力強く敬礼するリナ。表情はキラキラ輝いてる。
その表情を見ると、ナタルの胃がきりきりと痛む。この機体を見せて一番後悔したのはナタルだった。

- - - - - - -

「ま、弾が当たれば死ぬのはメビウスもこれも同じだし…なんとかなるか」

と、リナは楽観を決め込むことにした。
それにこれは、あの伝説のパイロットが乗っていた(かもしれない)機体だ。なんかのご利益がありそうな気がする。
戦場の兵士っていうのは縁起がいいものを特に好む。それがリナの楽観の根拠で、それ以外には特に考えていることはなかった。

「さて、そうと決まれば張り切って整備するかぁ」

肩を真上に伸ばして背伸びし、もう一度キーボードにかじりついた。
今のところメカニック面での問題は無く、一番の懸念はやはりOSだった。メビウスとOSが違いすぎて、実戦ではそれが致命的な差になる。
それをメビウスに近い形に調整するのが、今のリナにできる一番の整備だった。

「まずは武装の強化を視野に入れないとなぁ…ストライカーパックつけられないかな?」

ぶつぶつ。

- - - - - - -

その頃ブリッジでは、アークエンジェルのメインスタッフであるマリュー、ナタル、ムウが、現在の状況の確認と、逃げ遅れたアカデミー生の子供達の処置。
そして、次の戦闘への対策。リナのメビウスは大破、ムウのゼロは戦闘不能、となれば頼みの綱はストライク。
ナタルから抗議の声が挙がるが、あれの力が無ければ脱出は不可能、という結論。

「あの坊主は了解してるのかい?」
「今度はフラガ大尉が乗られれば…」

ナタルがムウに振るが、ムウは肩を竦めた。

「おい、無茶言うなよ…あんなもんが俺に扱えるわけないだろ」
「えっ?」

ナタルが憮然とした表情でムウを見返した。

「あの坊主が書き換えたっていうOSのデータ、見てないのか?
あんなもんが、普通の人間に扱えるのかよ」

ムウほどのパイロットが言うのだ。よほど難解なOSを扱っているのだろう。

「ではシエル少尉は…?」

ナタルは、いまだ素性の知れない彼女の名前を提示する。能力も未知数だ。
メビウスで、あのラウ・ル・クルーゼに命中させたとムウが言っていた。いくらかの期待を込めて、ムウに問いかけた。

「さぁてね……。あの子もナチュラルなんだろ?」
「え、ええ…『これはナチュラルには操縦できません』と言っていましたし、おそらくは」
「射撃のセンスは認めるけど、それだけじゃMSは扱えないさ。どっちにしてもあのストライクは無理だな」

と、ムウはすっぱりと彼女を斬り捨てる。
普段は誰にでも分け隔てなく接し、持ち前のリーダー肌で皆を見守る彼だが、そういう彼だからこそ言うべきことは言う。
変に期待をかけて任せてしまって、その人間を殺すようなことがあってはならない。そういった厳しい目も持っている。

「彼女に、あの『荷物』を預けることにしました。今戦闘に堪えるように調整している最中ですが、まもなく終わるかと」
「良くて時間稼ぎくらいにはなるかもな。あれだけが出て行ったところで貴重なMA乗りを一人減らすだけだぜ?」

その後三人がどう論じ合っても、再びストライクにキラを載せて戦ってもらうか、使わずに的になるか。その域を出ることはなかった。

- - - - - - -

ラウ・ル・クルーゼ隊旗艦、ヴェサリウスでは、アークエンジェル同様、格納庫は戦場のような喧騒に包まれていた。
しかしアークエンジェルとは意味合いが違う。あちらが災厄に備えるのなら、こちらは災厄を与えるため――ストレートに言うなら、攻撃を加えるために賑わっていた。
二機のジンが、ヴェサリウスのカタパルトから飛び出していく。一機は大型ミサイル、もう一機はビーム砲。まるでヘリオポリスごと焼き払わんがごとき重装備だ。
出撃のプログラムが終了し、ハッチを閉鎖する作業を行っていたら、次回の出撃に待たせているはずのアスランが、
アデスやクルーゼの制止を振り切って、イージスを出撃させていった。

「なにっ!? アスラン・ザラが奪取した機体でだと!?」

そう怒鳴っている時点で既に、ブリッジのフロントガラスにはイージスの光点が遠ざかっているのが見えていた。

「呼び戻せ! すぐに帰還命令を!」
「行かせてやれ」

それを、クルーゼはどうということもなく許容する。

「は?」
「データの吸出しは終わっている。かえって面白いかもしれん、地球軍のモビルスーツ同士の戦いというのも」
(それに、厄介な三機を相手にするには丁度良い。
うまく露払いをしてくれよ? アスラン…)

起こってくれた嬉しい誤算に、クルーゼは一人ほくそ笑むのだった。




ついに現れた、リナの新機体。コアファイター!
「MSじゃないのかよ!」「なんで1st!?」とか思われるかもしれませんが、
これが一番自分にとって良い形に納まるのではないかと思い、これにいたりました。
いつもの感想への返信などは、感想掲示板に載せたいと思います。

次回予告、アスランがやってくる! 以上!
リナは生き延びることができるのか…!?



[24869] PHASE 07 「決意の剣」
Name: menou◆6932945b ID:c0653c48
Date: 2010/12/21 23:49
「コロニー全域に電波干渉! Nジャマー数値増大!」
「なんだと!」

ブリッジではオペレーターが悲鳴に近い声を挙げ、AA艦内に警報が鳴り響く。
ついに、クルーゼ隊が再攻撃を仕掛けてきた! 警報はリナがいる格納庫にも響き、途端に格納庫内は騒がしくなる。

「っ… ついに来たか。連続で戦ってるんだから休んでればいいのに!」

無理なことをぼやきながらも、整備用のコンソールパネルを閉じて、キーボードを格納する。
コアファイターのコクピットに乗り込もうとして、ハンガーのストライクに視線を向ける。アレが使えたならいいのに…
残念ながら、自分には使えない。試してはいないが、おそらくは無理だ。
試してみたいとは思うが、そうホイホイと専任パイロットでもない人間が使って良い代物でもない。
もちろん、あのキラが専任パイロットでもないが…キラは「確実に動かせる」のだ。それを知ってる分、歯がゆく感じた。

『総員第一種戦闘配置。繰り返す。総員第一種戦闘配置』

ブリッジのクルーによる艦内放送が流れる。

「お嬢ちゃん! 出るのか!?」

小さな身体をコアファイターのシートに納めたとき、マードックが声をかけてくる。
まるでそれで出るのは良くないとでも言いたげな語調だ。気にすることなく、各部センサーを立ち上げていく。

「今出撃できるのは、この機体だけです! 時間稼ぎくらいはできます!」
「やめとけ! 落とされに行くようなもんだぞ!」
「黙って沈められるよりはマシですよ! トラックとコンテナをどけてください!
エンジンに火を入れますから、下がって!」

マードックら整備員が離れたのを確認してからジェネレーターを点火。小さな機体が唸りをあげ、微震動を起こしてパワーを充填していく。
シートの隣に置いていたヘルメットを被り、バイザーを下ろそうとスイッチに手を伸ばしたところで、

『MAの発進は許可せず。出撃体勢を維持し、そのまま待機せよ』
「えぇぇ!?」

スピーカーがある(であろう)天井を見上げて絶叫した。
マードックは、やれやれという表情で頭を掻きながらリナを見上げた。そしてマリューの采配に感謝した。

「だからそのMAだけじゃ無理なんだって」
「~~~何考えてんだ、あの魔乳!」
「……え、今なんて言った?」

リナが思いも寄らぬことを口走ったので、マードックは耳を疑った。
まさかこんな年端も行かない(見た目が)少女の口から、そんな荒っぽい言葉が出てくるとは思わなかったのだ。

「お、おい! 出撃体勢のまま待機って――」

マードックの制止に耳を貸さず、コアファイターから飛び降りると、その短い足からは予想もつかないような健脚で走っていった。

- - - - - - -

「マリュー大尉は!?」
「居住区の子供達と話していますが…少尉、待機じゃ――」
「ありがとう!」

走りながら、すれ違ったクルーにマリューの居場所を聞いて弾丸のように艦内を駆けていくリナ。
居住区に到着すると、マリューとキラら学生達が、なにやらもめているのが見えた。

「――マリュー大尉!」
「シエル少尉!? 待機のはずじゃなかったの?」
「君は、確かリナさん…?」

マリューとキラ、それぞれの反応をする。共通しているのは、二人の意外そうな表情。
この二人の組み合わせはなんだ? そう思ったが、容易に想像できる。唯一あのストライクを動かせる彼を説得しているところなのだろう。
彼の姿を見て、また胸が高鳴りを覚えるけれども、なんとか気持ちを切り替える。まずはキラに出てもらわなくては始まらないのだ。

「そういう君はキラ・ヤマト君… ジンを撃破した手並みは、ボクも驚いてるよ」
「…やめてくれ。好きでやったわけじゃないんだ」

ん? なんかタメ口だ。もしかして年下だと思っているんだろうか。
まあこの見た目ではしょうがないだろう。どう見ても23歳には見えない。よくて10~11歳程度か。
5年前から、実は身長が伸びた。現在135cm。だが、それでもマリューはもちろん、キラをも見上げなければならない背だ。
あくまでキラは、褒められるのを嫌そうに視線を逸らして俯きながら、拒絶してくる。
そんな彼を腕組みしながら、半眼で見た。

「…ふん。確かにボク達は君達学生に頼るような、情けない大人だ。軽蔑してもらってもかまわない」
「大人…?」

なにやら口を挟んできたが、構うものか。

「でも君にしかできないことがある。
君には君の友達を守るための力があるじゃないか。それを振るわずに、友達を見殺しにする気かい?」
「み、皆を人質に、脅迫するつもりか?」
「どうとられようと、それが事実だよ。キラ君。
君達は艦を降りることはできず、その艦は今まさに撃沈の危機に陥っている。撃沈は君達の死も意味する。
けれど、君はそれを防ぐ力を持っている。ボクにも、マリュー大尉にも、この艦のクルーの誰にも持っていない力だ。
その力をボク達大人を守るためじゃなく、友達を守るために振るうと思えば…戦うのも悪くないと思うよ?
友達のために力を振るえるのなら、これほど幸せなことは無いとボクは思う。ボクにはその力は無いからね…」
「……」

キラが黙る。効いているのだろうか。彼は俯いて、何かを考える風だ。
リナをキラに歩み寄って、肩に手を置いて顔を覗き込み、にっこりと微笑む。キラは意外そうな表情で見返す。
リナの手が震えているのを、キラは感じた。
リナも、本当は戦うのが怖いのだ。前回は隊長や他の僚機に助けられたが、今回は多数の敵に対し一機で向かわなければならないのだ。
はっきりと勝ち目は無い。だけど、アークエンジェルが沈めば自分も死ぬことはわかってる。だから戦う。少しでも生き残る希望を見出すために。

「ボクは戦うよ、皆を守るためにね。君はどうする?」
「……!?」

キラの目が、見開かれる。それを見てリナがクスッと苦笑を浮かべて、手をひらりと動かした。

「重く考えなくてもいいよ。君達は民間人なんだしさ。
…マリュー大尉。ボクはすぐにでも出られますよ。許可いただけないのですか?」
「え、ええ…まだ出るのは早いわ。もう少し待って…あとで指令を出すから」
「じゃあ、格納庫で待ってます。いつでも出撃命令を出してくださいね」

リナが格納庫に向かうために背を向ける。

(こんな小さな子が戦う!? あの子だって怖いんだ! でも戦うのか…皆を守るために。
僕はこんな小さな子に守られるためにこの軍艦に来たのか? ……違うッ!!)

「…待ってください」

キラの低い、力の篭った呟きがリナの背中に浴びせられた。
リナが振り向くと…そのキラの表情を見て、また、リナの胸が高鳴った。きゅぅ、と胸が締め付けられる。

(そんな表情をしないでほしいなぁ… 女の子になっちゃうだろ…?)

リナは、切ない思いとともに胸中で呟いた。その、キラの決然とした表情に。
キラは真っ直ぐ二人を見据え、胸の前で拳を作って宣言した。

「僕が戦います。僕しか扱えないんだろ…あのモビルスーツは!」

- - - - - - -

アークエンジェルが発進する。艦が一瞬揺れて、ふわりと浮揚感。この感覚に慣れないリナは、コアファイターのコクピットで少し戸惑った。
同艦の両舷の格納庫では、ストライクがソードストライカーに換装作業が行われ、もう片方の格納庫がコアファイターが発進位置についていた。

〔ソードストライカー? 剣か……今度はあんなことはないよな〕
「大丈夫だよ、キラ君! 思いっきりぶん回しちゃって!」
〔う、うん! わかった!〕

(うんうん、キラ君、君は本当にいい子だよ〕

既にリナは保護者面であった。リナは精神年齢は16+23歳だから仕方が無い部分もあるかもしれないが。

〔ヤマト、シエル少尉。敵は工業用ゲート、ならびにタンネンバウム地区から侵入してきている。
ストライクは前衛、シエル少尉はストライクを援護しろ。連携を保っていけよ〕
「了解」

ナタルからありがたいアドバイスが送られる。
リナは返事はしたものの、ついさっき知り合ったばかりなのに、連携なんてできるか? と首をひねっていた。
だが、連携しろと言われれば連携をするのが軍人というものだ。気を引き締めて、レバーを握り締めた。 

〔ストライク、発進せよ〕
〔キラ・ヤマト。いきます!〕

通信越しに、反対側の格納庫でストライクが発進されていくのが振動で伝わる。
角度的に、そのストライクの出撃する雄姿を見れないのは、リナにとって残念ではあった。

(さて…ストライクの本格的な初戦闘、お目見えしようかな)
「シエル機、ジェネレーター出力安定、各部センサーオールグリーン、発進シークェンス・ラストフェイズ」
〔了解、シエル機、発進を。…無茶はするなよ〕
〔肝に銘じます! リナ・シエル、行きます!〕

カタパルトがコアファイターのボディを押し出し、ヘリオポリスの空へと射出される。
すぐにレバーを引き起こし、上空に機首を向ける。見つけた。光点が四つ!

(エレメント(二機編隊)が二つ…離れて機動を行っているということは、片方はAA狙いか!)

姑息な真似を。
だが、四機と同時に戦うことになっていたら落とされていたことだろう。かえって分散してくれてよかったというもの。
リナは手にじっとりと浮かぶ汗を握りつぶすように、レバーを握る手に力を込めた。


- - - - - - -

クルーゼ隊の攻撃部隊は、ヘリオポリス内部に突入すると、
アークエンジェルの頭をとって突撃する軌道をとっていた。
戦闘隊長であるミゲルは、艦載機であるストライクと戦艦のアークエンジェル、この二つを分断する戦術を決定する。

「オロールとマシューは戦艦を!
アスラン! 無理矢理付いてきた根性、見せてもらうぞ!」

「ああ」

アスランは気のない返事をするだけだった。ミゲルの言葉など、耳に入ってはいない。
親友の、キラ・ヤマト。
彼のことが心配で無断で出撃したのだから、それ以外など眼中にはなかった。そして、その横を飛ぶ小型の戦闘機のことも。




というわけでちょっと遅くなりましたがPHASE 07の投稿を完了しました!
物語のスピードが遅くて、いらいらしてる人がいるかもしれませんが、どうか長い目で見守ってください…(深々)

ついにコアファイターの初陣! 今度こそメビウスみたく初陣で落とされないよう、リナには頑張っていただきたいものです。
30mm機銃と小型ミサイルしかないなんて、ルシフェルのサポートを受けたほうがいいんじゃないかと思いますね…

のろのろやってますが、次回、吸引力の変わらないただ一つの!
オロール仕事しろ! では、皆さん次回もよろしくお願いします(礼



[24869] PHASE 08 「崩壊の大地」
Name: menou◆6932945b ID:c0653c48
Date: 2010/12/23 11:08
「そーら、落ちろぉ!」

ストライクを照準に入れた途端、何の躊躇も無く重粒子砲を撃つミゲル機。
キラは難なくかわすが、シャフトを支える支柱に命中、溶解し切断。支柱が砂煙を挙げ、建造物を押し潰して地上に倒れこむ。
その惨状に、ちっ、と舌打ちしてジンを睨むリナ。

「やっぱりお構いなしか…!」

ミゲル機はリナを無視し、執拗にストライクに照準を定めて乱射している。
しかしそのたびにコロニーの地上が焼かれていく。コロニーの中ということを忘れたかのような戦闘だ。
なんとかしてあのジンを止めないと!

〔コロニーに当てるわけにはいかない! どうすればいいんだ……!〕
「距離をとっていたら、撃ちまくってくる! キラ君、距離を詰めろ!」
〔でも、あんな大きな銃で狙われてたら近づけない!〕
「そのためのボクだ! 援護する!」

レバーを引き、スロットルを開ける。マシンが唸りを更に強くして、急激に加速!
思わぬパワーに、シートが身体に押し付けられる。

(くぅっ…!?)

コアファイターのスピードを侮っていた! 無限に速度計が回っていく。空気中でマッハ3を超える!?
もう少しで冷静さを失ってブラックアウトしかけながらも、スロットルをゆっくり戻してぐるりと旋回。
パワーはメビウスの比じゃない。スロットルを開けるのが怖くなるくらいだ。
冷静にスロットルを戻す。特にコロニー内では5分の1開けくらいで充分だ。

そうしてコアファイターのパワーに翻弄されそうになりながら、機首をストライクとジンに向ける。
相変わらず、まるで戦闘機の巴戦のようにぐるぐると回りながら撃たれたり斬りにいったりを繰り返している。
そのたびにコロニーが無残に破壊され、コロニーの内壁がむき出しになっていく。一部溶解して、かなり脆くなっているとわかる。
これ以上てこずっていたら、コロニーが崩壊する!

(キラ君でもてこずるか…)
「キラ君! ボクが合図したら上昇をかけろ!」
〔!? わ、わかった!〕

キラとの連携を意識してタイミングを計る。
冷静に見ていると、ストライクと対峙しているミゲル機の動きの癖がわかってくる。
重粒子砲を撃つ直前は、一瞬減速して止まり、撃った直後はやや後ろにずれて硬直時間がある。機体と重粒子砲の威力のバランスが良くないのだろう。
ならば、狙う隙は充分にある。
リナはぺろりと唇を舐めて、集中力を研ぎ澄ませる。火器管制をモード2へ。30mm機銃のターゲットを表示させ、ミゲル機を見据えた。

ミゲル機が撃つ…キラがかわす…キラが斬る…かわされる…

ストライクの背中とジンの姿が重なり、

――!!

頭の中で、閃くものがあった。

「キラ君、今だ!」
〔!!〕

そう叫んだコンマ秒の後、ミゲル機が減速をかけた。しかしそれはほんの刹那だ。
普通の人間が見ても、それは知覚できないほど。だが、その瞬間が来ることが「わかった」。
その刹那の隙間を狙い、キラが合図のとおり上昇。リナはその真下をくぐるように突撃!
ミゲル機が重粒子砲の銃口をストライクに向けて上を向いたそのとき、ジンの腹がむき出しになった。
ミゲルから見ると、ストライクの背中から突然コアファイターが現れたように見えただろう。そこへ容赦なく30mm機銃を浴びせる!
ジンの機体にいくつもの火花が咲き乱れ、白煙を挙げ、ジンのボディがぐらついた。

「なにいぃぃ!?」
「うわあああああ!!」

予想外の出来事に、ミゲルは対応できないでいた。半ばパニックに陥り、操縦桿から手を離してしまう。
そこへキラが雄叫びを挙げながら肉薄して…シュベルトゲベールを振り上げ、両断!
ミゲルはジンごとビームの刃によって真っ二つにされ、悲鳴を挙げる暇も無いままジンと共に爆炎の中に姿を消した。

「ミゲルゥゥゥ!!」

絶叫するアスラン。思わぬところでの戦友の死。
まさか、黄昏の魔弾と呼ばれた赤服候補がこんなところで撃墜されるなんて。あまりに早すぎる。
あのGと戦闘機がやった。G――ストライクのパイロットは…本当に、あの優しかったキラ・ヤマトなのか?

〔アスラン! どこに居るんだ、アスラン!〕

呆然としていると、味方からの援護要請の通信が入った。
しかし、アスランはキラと対峙していてそれどころではなかった。
キラも、アスランが現れて当惑している。

(皆が危ない! でも、目の前にイージスがいる…君なのか、アスラン!?)

その二機の対峙に、リナは割り込むことができず、イージスを視認できても機首を向ける気にはなれなかった。
フェイズシフト装甲には実体弾が通用しない。コアファイターでは流石に手に余る――というより、相手にもならない。
歯がゆい気持ちで操縦桿を握り、ぐるりとコアファイターの機首をめぐらせた。

(あのイージスガンダムに乗ってるのはアスラン・ザラ…そうか、この時は敵だったな。
下手に割り込んでも、逆にキラの邪魔になりそうだ。ジンを狙うか!)
「キラ君! ボクはアークエンジェルの護衛に向かう!
同じG兵器相手は辛いかもしれないけど、持ち応えるんだよ!」
〔……〕

しかしキラからの応答は無い。アスランとどういう関係だったのかは推し量りかねるが、
決して悪い仲だったわけではあるまい。アスランのことはキラに任せよう。
そう決まると、アークエンジェルのほうに機首を向けて、アークエンジェルの周りを飛び回っているジンに向かってコアファイターを直進させた。

「くそっ!」

一機のジンが、今まさにアークエンジェルにミサイルを放とうとしている。
アークエンジェルはそのサイズからいってもかなりの機動性がある。しかし、あの角度からでは避けきれまい。
まだあのジンの隙を見出していないが、ジンにターゲットを合わさったらすぐさま30mm弾をばらまいていく。
集束率の低い火線がジンに浴びせられ、いくつかが当たったようでジンのボディに火花が散る。

「……!? な、なんだ、戦闘機か! 脅かしやがって!」

ジンのパイロット、マシューは被弾の音を聞いて肝を冷やしたが、
それがただの戦闘機からの攻撃だということを知ると、すぐに照準をアークエンジェルからコアファイターに向きなおす。
小型の標的だということを忘れて手の大型ミサイル、キャニスを発射した。
白煙を曳いて、コアファイターに向かって一直線に飛んでいくキャニス。
リナはすぐさまそれに反応し、微妙なペダル捌きでラダーを駆使、くるりとシザー機動で回避!

「さすがにそんな鈍重なミサイルに――しまった!」

回避したことに得意げになっていたが、すぐさま次に起こるであろう惨事を予想して、思わず後ろを振り向いた。
キャニスが一直線にシャフトに吸い込まれ、爆発。シャフトが激震し、今にも崩れそうに全体をたわませている。
あんなに巨大な構造物も、まるで紐のように揺れる。まるであの共振現象によって揺れたタコマナローズ橋のように。
あと一撃なんらかの攻撃を受けたら、もたないかもしれない――!

「これ以上やらせない!」

そう叫ぶものの、コアファイターではジンに決定的な打撃を与えることはできない。
なら、強力な火力を持つアークエンジェルに任せるしかないのだが、果たしてアークエンジェルは当ててくれるだろうか?
再び機首をジンに向けて30mm弾をばらまくが、味方の援護なしには当たるはずもなかった。
悠々とかわされ、脚部ミサイル、パルデュスを発射してくる。
これも同じく誘導弾だが、Nジャマー数値が高く、かつ多くの障害物や熱源があるこのヘリオポリス内ならかわせる!
ミサイル警報がビービーとやかましく鳴り響くのを無視して、地面に向かって突撃。旋回できるぎりぎりを狙って操縦桿を思い切り引いて上昇!
ミサイルはコアファイターを追いきれず、地面で炸裂。
スロットルを一気に引いて減速、操縦桿を引いて逆さまになりながらジンに振り返り、空中で静止。
同時に小型ミサイルを、ロックオンもそこそこにジンに向けて撃ち込んだ!

「なっ……」

その機動を初めて見たマシューは、驚きに固まる。見とれてしまったのだ。
いくつもの地球軍の戦闘機を見てきたが、あの機動を見たことがなかった。
それも当然、あの空中機動は実戦向きの機動ではなく、ただの曲芸だ。普通の兵士なら、強敵であるジンが目の前にいて実践できるほど無謀ではなかった。
だが「ハッタリ」は効いた。マシューは今の謎の機動に身体が硬直した。
リナが放った小型ミサイルの先端がジンのモニター一杯に映り――ジンの頭部が大破消滅。
爆炎は肩も消し飛ばし、キャニスが暴発、あさっての方向へ飛翔していく。

「か、勝手に飛んでいくな!」

リナが悲鳴を挙げる。すぐさまキャニスに照準を向けようとするが、標的が細かいうえに、
集束率の低いこの30mm機銃ではキャニスを撃墜するのは不可能に思えた。
コロニーのあちこちで炸裂するキャニス。空中から見てもわかるほどにコロニーが揺れて、今にも崩壊しそうだ。

「あ、ああ…」

呆然としていると、突然の爆音! コアファイターが激震し、炎に包まれる。

「あぁあぁぁぁぁ!?」

ビービービー! コアファイターが損傷を受けたと報告し、警報を鳴らしてくる。
ボーっとしている間に、ジンが放ったパルデュスの直撃をもらった! 落ちる!?
リナの脳裏に、死の予感が過ぎる。こんな小型戦闘機、MSのミサイルを受ければひとたまりもないはず。
すぐさまやってくるであろう致命的な爆風を待っていたが……それはいつまで経ってもこなかった。

「……? う、くっ…」

煙に包まれながらも、機体は衝撃によって地面に向かっていることはわかる。
すぐさま姿勢制御用のスラスターを駆使して体勢を立て直し、操縦桿を引いて再び戦闘機動に戻る。

「なんだと…!? ミサイルは直撃したはずなのに!」

爆炎の中から、ほとんど無傷で立ち直るコアファイター。それを目撃したオロールとマシューは驚愕に目を見開いた。
オロール機のミサイルをかわしたあの機動性とパワー。比較的小型の弾頭とはいえ、パルデュスの直撃にも耐え切った装甲。
あれがメビウスなら、粉々に粉砕していたはずだ。まさか、あれもナチュラルの新兵器なのか!?

「ありえない! ありえ――ぐわああぁぁ!!」
「……!!」

もう一撃をコアファイターに加えようと真っ直ぐ飛翔したところを、
ムウが放ったアークエンジェルのゴットフリートによって狙撃され、オロールはジンと共に消滅した。
しかしそのゴットフリートの向けられた先がいけなかった。
ゴットフリートの余波と輻射熱によって、シャフトの崩壊が決定的になる。
ミサイルの爆風によって脆くなっていたシャフトは連鎖的に崩壊し、コロニーを形成しているブロックが決壊。
その隙間から空気が吸い込まれ、暴風が吹き荒れる!

「うっ! くっ! す、吸い込まれる…!」

コアファイターのバーニアが火を吹くが、それでも機体はゆっくりと後ろに流れていく。
大気圏内と同じ気圧の空気が、全く酸素のない宇宙に空気が噴出される勢いというのは決して侮れない。
アークエンジェルやストライクはおろか、コアファイターの推力をもってしてもその気流に逆らうことができずに流れていて…

「このっ…アークエンジェルに戻らないと… …!?」

アークエンジェルの姿を探していたが、正面に迫ってくるのは、シャフトの破片――

「しまっ――」

姿勢制御スラスターを動かすも、時既に遅く。致命的な衝撃。目の前が暗闇に閉ざされる。
コアファイターは、そのままコロニー外に吐き出されていった――



どうなるんだリナ。8話投稿完了です。ここまで読んでいただいてありがとうございます!
感想ありがとうございます。私も7話を読み返していて、これはいただけないなぁとか思いました。リナ惚れすぎだ。
これもあとで、ちょっとずつ軌道修正していきます。まだまだ未熟…

次回、KYなあいつがやってきた!
それでは次回もよろしくお願いします。(礼)



[24869] PHASE 09 「ささやかな苦悩」
Name: menou◆6932945b ID:c0653c48
Date: 2010/12/24 23:52
薄暗く、煙草の匂いが充満し、様々なアーケードゲームの音楽が混ざり合って不協和音を奏でる店内。
土曜日の昼下がり。ゲームセンターが最も賑わう時間帯だ。
クレーンゲームに集中し、連れている彼女にぬいぐるみをあげようと必死になっている若い男。
中学生くらいの数人の少年が、バスケットのミニゲームでポイント争いをしている。
スロットに熱中してる中年男性や、お菓子を落とすゲームをしている家族もいた。
それらのものを見ながらも興味を示さず、彼、空乃昴は人ごみを避けながら、奥まった場所に設置されたゲームに一直線に向かっていった。
それは昴がはまっているアーケードゲーム、機動戦士ガンダムSEED 連合vsザフト。
そのメジャーなゲームに多くの少年達が群れをなしていた。

「おー。やってるやってる」

その群れを見て、全国大会優勝者である昴はほくそ笑んでいた。
ホームレスに刺され、意識不明の重体に陥ったものの、なんとか一命を取りとめた昴。
1ヶ月もの入院生活はとにかく退屈だったが、ようやく外出許可が下りて、待望のゲームセンターに顔を出せた。
まだ包帯が取れないが、一週間ほど生死の境をさまよった頃に比べれば余程マシだ。
アーケードゲームに群がる人ごみの隙間を縫って顔を出すと、そのゲーム画面の懐かしさに思わず笑みがこぼれてしまう。

「うわー、懐かし……ん?」

感嘆の言葉を吐きかけて、言葉が止まる。
対戦が始まり、出撃するために上から降りてくる場面。その時に、台詞と共にパイロットのカットインが入るのだが、
その顔は、今まで見たことがないキャラだった。
黒髪に緑の瞳の少女。オレンジ色のノーマルスーツを着てるあたり、地球連合軍側なんだろう。

『ついに実戦か…! 行くぞ!』

男勝りな台詞を吐く少女。乗ってる機体とパイロットの名前は……ちょうどプレイヤーの頭で見えない。

(バージョン変わったのかな? 見た事無いキャラだな)

新しいバージョンになったなら、尚更プレイしなければならない。
しかも、今プレイしているプレイヤーは凄まじく上手い。敵の隙を全て突き、正面にいる敵と対峙しながらも別の敵の攻撃も予測して避ける。
さきほどから全く被弾していないのだ。そして、外してもいない。無駄な時間もかけない。
もしかしたら、全国大会優勝者である自分よりも上手いかもしれない。
一層興味が沸いて、次に空いたら座ろう、と思って近づいたとき。

「まだできないよ」
「?」

そのキャラを操っているプレイヤーに、振り返ることもせずゲームをプレイしながら告げられて、昴は面食らった。
近づこうとする足を止めて、そのプレイヤーの後頭部を見つめる。
そのプレイヤーは『良く見たら』帽子を被っていて、綺麗なストレートの長い黒髪だった。声も可愛い。女の子だろうか。
昴は突然の言葉に、片眉を挙げて肩をすくめた。

「……そりゃあ、まだ君がしてるからできないだろ」
「そういう意味じゃないよ」

返事をしながら、覚醒ボタンを押す彼女。

キィ

スツールを回して振り返ってくる。彼女の顔を見て、昴は背筋を粟立たせ、心臓が跳ね上がった。

その顔は――


「君はまだ『あっち』にいるじゃないか」


虚ろな瞳をした、不気味な笑みを浮かべているリナ・シエルだった――


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


バッ!!

声にならない悲鳴を挙げながらシーツを払いのけ、勢い良く起き上がるリナ。
息が荒い。全身、じっとりと汗を掻いている。顎の汗を手の甲でぬぐって、顔にかかる長い黒髪をどけた。
身体が気持ち悪い。汗でベトベトする。

「……っ はぁ、ふぅぅ…」
(なんで、こんなに汗かいてるんだ…?)

おぞましい夢を見た気がするが、思い出せない。
でもまあ、夢で良かった気がする。とりあえず、ホッと安堵の息をついて一安心。
シーツの真ん中にあるファスナを下ろして、マジックテープを剥がしながら起きる。
そこは白い天井と床の医務室だった。身体が浮き上がる、ということは宇宙空間。

(ここは…メイソン? って、そんなわけないか)

メイソンは、ザフトの手によって撃沈されてしまったのだ。メイソンのクルー達の顔を思い出して、少し気分が沈むが、
忘れようとするかのように頭を振って、気を取り直す。まずは今の状況を確認しないと。
身体を見下ろす。異常は…ない。
強いて変わったことを挙げるなら、オレンジ色のノーマルスーツではなく、ノースリーブの白い患者服を着ていた。
地球連合の患者服っていうのはだいたいこれなのだけれど、ゆったり過ぎて横から見ると胸が見えるのが気に入らない。

「ん?」

胸が見える? 見えるほどあるわけではないはずなのに。
襟を指で摘んで開いてみたら…気のせいか、少し膨らんでいる。谷間というわけじゃないが、小山が二つ。
それを見て、意味もなく顔が赤くなっていく。まさか――

「成長してる…!?」
「何が成長したのかしら?」
「うわっ!?」

突然声をかけられて、びっくりしてシーツを胸に引き寄せて、肩を縮こまらせる。
そぉっとそちらに視線を向けると、カーテンを少し開いて覗き込んでくる看護師の女性が微笑んでいた。
思わず、「あ、どうも…」と呟きながら、小さく会釈する。それを見て看護師が可笑しそうにくすっと笑った。

「気分はいかがですか? シエル少尉」
「は、はい。大丈夫です」
「よかった。念のため、もう少し寝てたほうがいいですよ。精密検査もしないと…」
「本当に大丈夫です。ボクって、こう見えて結構頑丈にできてますし」

心配してくれるのは嬉しいけれども、やんわりとそれを断ってベッドを降りる。
ベッドから出ると、やけにスースーするのを感じた。疑問に思って、そっと腰に手を入れると。

…下着が、ない。つるりんとした股が丸出しだ。
さぁ、と顔を青ざめさせる。いくらノーマルスーツの下には服を着る余裕が無いとはいえ、下着くらいは着てきたはずなのに、

「え、えっと…着替えってありますか?」
「……言いにくいですが、少尉の下着、使い物にならなくなっちゃって…サイズが合うものも置いてないんです」
「!!!」

思い出した。そういえばずっと、失禁してから処理してなかった。
下半身はずっと漬けっ放しになってたのだ。何にとはあえて言わない。
あのままずーっと放置してたから、色んな意味で使い物にならなくなったんだろう。どうやら捨てられてしまったらしい。
ん? ということは…

「……誰が脱がしてくれたんですか?」
「大丈夫、私が全てやりましたよ」

(大丈夫じゃねええぇぇぇ!!)

ああ、見られた…。なんだかわかんないけどすごいショックだ。欝だ氏のう。
医務室のベッドにもぐりこんで、むー! と唸りだしたリナ。
それを見て看護師は、ぷっ、と噴き出しそうになっていた。その仕草が見た目どおりの年齢の少女みたいだったから。

「パイロットは皆ああなっちゃうんですから、恥ずかしがらなくてもいいですよ?」
「そういう問題じゃ……うぅぅ~」
「ふふ。…それより、具合が良くなったら艦長室に来るように、とラミアス艦長が言われてましたよ」
「…………了解しました」

とっても恥ずかしい目にあったけれども、軍務はスムーズに行わないといけない。
そういう使命感から、もそもそとベッドから這い出て、軍艦の中を患者服で歩き回るわけにはいかないと気づいた。

「そういえば着替え…」
「あ、シエル少尉のお召し物は、今のところこれくらいしか…洗っておきましたから大丈夫です」

(だから大丈夫じゃないんだってヴぁぁぁ!)

軽く落ち込みながらも、洗ってくれたらしい一張羅のノーマルスーツを受け取り、カーテンを閉めてそれに着替えることにした。


- - - - - - -


一人だけノーマルスーツというのは、少し落ち着かない。
すれ違う白い軍服を身に纏ったクルー達と敬礼を交わすたびに、リナはそう思って居心地の悪さを感じていた。
できれば軍服に着替えたかったけれども、アークエンジェルにはリナの体格に合った軍服など置いていない。
だから被服部に特別にあつらえてもらわなければならないのだ。
なかなか成長しないから一回作ってもらえれば後は平気なのだが、その着替えはメイソンに置いてきており、そのメイソンは着替えと一緒に宇宙に散った。

(…落ち着いたら被服部に行かないとなぁ)

そう考えながら、無重力帯の通路を艦長室に向かって流れていく。
居住区を通り過ぎて、食堂の前も通り過ぎようとしていたら…入り口に立っているキラの姿が見えた。
その横顔は、嬉しいような悲しいような複雑な表情をしている。何を見ているんだ、と思って近づいていき、

「キラ君? どうしたんだい?」
「あ、リナさん……」

力の篭らない返事と表情でこっちを見返すキラ。キラの横に立ち止まり、食堂を覗くと、
赤い髪の少女が、なにやら感激しながらサイ・アーガイルに抱きついている。
見る限り民間人だが、あんな子はアークエンジェルに乗ってなかったような気がする。はて。

「あの子は?」
「彼女はフレイ・アルスター。僕が回収した救命ボートに乗っていたんだ」
「回収した?」

ということは、脱出した救命ボートを回収してきたのか?
リナは思わず頭を抱える。はぁ、と溜息。これだから民間人は、と胸中でぼやきながら呆れ顔をキラに向けた。

「…キラ君。この船は戦闘艦であって、救援艦ではないんだよ?
しかも平時ならともかく、今はクルーゼ隊と戦闘中なんだ。厄介ごとを持ち込まないで欲しいな」
「厄介ごとって…! 推進部が壊れて漂流してたんだ。それを放っていくなんて…」
「救命ボートの推進部が壊れてても、救援艦は回収できるよ。
まあ、こんなことを言ったって、今からまた放り出すわけにはいかないんだけど…」

キラへのお叱りは控えておくことにした。民間人の彼に軍のアレコレを説いたところで、何の意味もない。
それに、彼に嫌われたくない。それが心の奥底にあった。
キラはどこか納得がいかなさそうに表情を翳らせて俯いている。

(しょうがないな、この子は……まだ子供ってことかな)
「……でも」
「ま、いいよ。そういう、困ってる人を見たら放っておけないのがキラ君の良い所なんだろうし。
これからは気をつけてねって感じかな」

怒り顔をぱっと微笑みに変えて、キラの頭をよしよしと撫で…ようとして、手が届かなかった。
んーっ、と唸りながら一生懸命背伸びをするけれど、やっぱり届かない。
それをキラは不思議なものを見るように、ぽかんとリナを見ていた。

「……?」
「~~~っ……はぁ。 ま、これで…」

ぽむ。肩に手を置いて妥協した。リナの頬が紅に染まってる。不思議そうな視線を浴びせられて恥ずかしかった。
それを見てキラは、ようやく彼女のやりたいことを理解して、ふ、と笑みがこぼれた。

「リナさん、僕は子供じゃないんだから…」
「な、何言ってるんだい。ボクからしてみれば子供だよ、キラ君は」
「リナさんよりは年上だと思うけど」

むう。これはビシッと言ったほうがいいのか。年齢を告白するっていうのはちょっと恥ずかしい気がするけれど。
胸の前で握りこぶしを作り、よし、と気合を入れて彼の前で、ようやく膨らんできた胸を張った。

「……キラ君。君はボクのことを何歳だと思ってるんだい?」
「え、…10歳くらい?」

リナはずっこけた。

(や、やっぱりか! うぅ、慣れてたつもりだけど、キラに言われるのはちょっと傷つくな…)

「ど、どうしたの?」
「……キラ君。君が生まれたとき、僕は小学生だったんだよ」

こめかみを押さえ、泣きそうになるのを堪えてプルプルと震えながら言った。

「…………え!?」
「え、何?」
「キラ?」

キラの驚きの絶叫に、他のアカデミー生やフレイも振り向いた。さっきまでこっちの話を聞いてなかった全員がこっちを向いた。
だから言いたくなかったのに! 心の中で喚きながら、はあ、と溜息。
もうヤケだ。いちいち子ども扱いされるのも癪だし、全員に伝わるように言ってやろう。

「これでもボクは23歳、立派な大人の女性なんだよ」
「えぇぇぇぇぇぇ!!?」

食堂に、一同の驚き声が響き渡った。




以上でPHASE 09をお送りしました。感想ありがとうございます!
コアファイター、ちょっと調子に乗りすぎて硬くしすぎましたね。キャノピーはさすがにミサイル受けたら砕けるか(笑)
翼もあれは弱そうだなー。すぐぽきっていきそう。ルナ・チタニウム補正ってことで勘弁してください…!

ガンダム無双にコアファイターって出てくるのかな(笑)

次回、はじめてのおつかい!
それではまた次の投稿もよろしくお願いします(礼)



[24869] PHASE 10 「それぞれの戦い」
Name: menou◆6932945b ID:c0653c48
Date: 2010/12/26 23:53
あれから、食堂ではちょっとした騒ぎがあった。

皆が超常現象に驚く仕事しない某編集者達になったり、一部の男性クルーが人間不信になったり、
「おまえのような23歳がいるか!」とか言われたり、キラがレイプ目になったり。
色々心外なことを言われたが、ボクは別に年齢詐称をしたつもりはない。彼らが勝手に勘違いしていただけだ。
トールに、最初から年齢を言えとも言われた。そんな女の子がいるか!
全く彼女持ちのくせに無神経なやつだ。出会った時からそうだが、トールとミリアリアのペアからはあまり良い目で見られて無い気がする。

リナは皆の反応に憤慨しながら、改めて艦長室に向かうことにした。
艦長室に呼び出しされているのに、いつまでも彼らと遊んでるわけにはいかない。…ややこしくしたのはリナだけれど。
そうして艦長室に到着し、扉をノックする。すぐに誰何を問う声が返ってきた。

「どなた?」
「リナ・シエル少尉です」
「どうぞ、入って」

入室の許可をもらい、失礼します、と断りを入れながら入室し、入り口に立ち敬礼。マリューも答礼する。
まだ入ったばかりだからだろう、殺風景な部屋だ。デスクには書類を入れる封筒が一つだけ置いてある。
また紙の書類だ。ああいった紙の書類が目の前にあったとき、総じて良いことはなかったので、内心帰りたくなったが、それは言葉にも顔にも行動にも出さない。
そのデスクには、表情を引き締めてこちらを見つめているマリュー・ラミアス大尉が居た。
その表情からは、これから話されることが良いことなのか悪いことなのかは読み取れなかった。
敬礼を解くと、マリューは、ふ、と微笑み、

「シエル少尉、まずはお疲れ様。具合のほうはいかが?」
「は、はい。お陰様でなんとか無事です。私は頑丈な方ですから…」
「そう、よかった。…シエル少尉、貴女に、良いお知らせと悪いお知らせがあります。どちらを先に聞きたい?」

まさかの両方だった。

「……悪いほうからお願いします」
「わかったわ。……シエル少尉が乗っていたMAは、コロニーの残骸に衝突した際に中破、戦闘不能になりました」

それを聞いて、眩暈がしてくらりと頭が揺れた。
悪いほうから? そんなまさか。…最悪のほうだ。マリューはびっくりして気遣ってくれる風だけど、正直きつい。

「だ、大丈夫? まだ衝突のダメージが残ってるんじゃ…」
「い、いえ……あまりにショックだったので…」
「でも、貴女が無事に戻ってきてくれてよかったわ。死んだら何もならないものね」

彼女の言葉は優しくて母性的で、ありがたい内容だったけど…これで僕は役立たずになった、とリナはショックを抑えきれずにいた。
泣きそうになるが、それを堪えてマリューの言葉の続きを聞く体勢になる。

「まだ続きがあるから聞いて。マードック軍曹によると、フレームが致命的に歪んでいて宇宙空間を飛ぶことはできるのだけれど、
機首に内蔵されていた固定武装の機銃がフレームに干渉して、使えなくなってしまったの。今、その武装に代わるものを模索してくれているわ」
「…ミサイルは使えるということですか?」
「ミサイルのほうは頑丈な本体に守られていて、なんとか使えるようにはなってるわ。
本来あんな残骸にぶつかって、機首のフレームが歪んだだけっていうのも、奇跡的な硬さなのだけれど」

確かにそうだ。あの時走馬灯が見えた。絶対死んだと思ったのに、自分自身は無傷だった。
さすがあの伝説のパイロットが乗っていた(と思われる)機体。なんともないぜ。いや、あるか。

「ミサイルが生きてるなら、なんとか戦えます」
「そのミサイルも、あと4発しか残されていないの。あんな型のミサイルはこのアークエンジェル、いえ、地球軍どこを探したって無いの。
補充は利かないからすぐに弾切れを起こすわ。そんな機体で戦闘に出すことは、クルーの生命を預かる艦長として許可できません」
「…………」

マリューの言うことはもっともだ。ボクだって、すぐ弾切れを起こすとわかっている機体になんて乗りたくない。
だいたい、あんな弾速の遅いミサイルが、あのメビウスよりも素早く動くジンに、もう一度当たる可能性なんて万に一つも無い。
あのときは一度きりの手品で騙したから当たっただけで、一度ネタがばれたらもう通用するまい。
リナは何の反論もできず、少し落ち込んだ様子で俯いていた。

「これが悪いほう。もう一つの良い方だけれど」
「はぁ…」

気の無い返事をする。本格的に役立たずになった自分に、一体どんな良い報告があるというのか。
良いほうのを別に期待せずにマリューを見ていると、デスクの上に置いていた封筒を取り出し、中から、なんらかの辞令らしき書類を取り出した。そして、黒いビロードの箱も。
マリューは辞令をこちらに丁寧に両手で差し出しながら、にこりと微笑んだ。

「リナ・シエル少尉。貴女の地球軍への格別の貢献が認められ、中尉への昇進が決定いたしました」
「は、はあ、ちゅうい…………え!?」

驚きながらも辞令を受け取り、読み返してみる。なるほど、確かに中尉への昇進の辞令だ。なんで僕が?
ここにきて昇進の辞令。上の人間は、どうやって僕がアークエンジェルに乗ったことを知ったのだろうか。

「おめでとう、シエル中尉。…といっても、今まで辞令を受け取っていなかっただけでしょうけど。
ジンを撃墜した功績もあるから、大尉も近いんじゃないかしら」
「た、大尉…? えっと…この辞令はどうやって届いたのでしょうか」
「話せば長くなるのだけれど……」

マリューの話はこうだ。
なんと、あのメイソンの乗員が生きていたのだという。しかも8割のクルーが脱出できたのだ。
その中には、連合本部からリナに中尉昇進の辞令を渡すために来ていた使者もいた。
リナも知らなかったことだが、あのヘリオポリスでの作戦が開始される直前くらいに、使者がメイソンを訪れていたのだ。
使者は昇進辞令をメイソンで渡すつもりだったらしい。リナが偵察任務から帰って来たその時だ。
だけどすぐにあの作戦が開始され、渡すことができずにメイソンはザフトの攻撃を受けた。
メイソンは撃沈の危機に瀕し、艦長の采配によって多くのクルーが生き延びることに成功した。
救命ボートで脱出したクルーは救援艦に助けられ、その辞令を渡すためにアークエンジェルと特別に接触し、ここに辞令があるのだという。

「よ、よかった……」
「ええ、本当に…! 今メイソンのクルーは救援艇に乗ってアルテミスに向かったわ。
私達ももう一度アルテミスに向かう予定だし、また基地で会えるわね」
「はい!」

リナは満面の笑顔でマリューに応える。
メイソンのクルーが生きていて、待っている。それを思うと嬉しくなってくる。
彼らと居た期間は短かったけれども、やはり同じ釜の飯を食ったり、連携を確かめ合った仲だ。
リナにとっては昇進の話よりも、そちらの朗報のほうが嬉しかった。


- - - - - - -


マリューとの話が終わり、格納庫に向かう。コアファイターの様子を見るためだ。
格納庫では整備員達がせわしなく動き回っている。
特に忙しそうにしているのがメビウス・ゼロだった。
ストライクはフレームのチェックと超音波による応力検査、あと部品チェック程度。
メビウス・ゼロはガンポッドも再装備させないといけないし、リニアガンの取替え、そして無茶な機動を行ったおかげでフレームがほとんど総取替えだった。
コアファイターは機首の装甲が全て剥がされ、30mm機銃が取り外されている。今のままだとただの錘だからだ。
ミサイルはNジャマー下ではMS相手に威力を発揮しにくいし、あれもまともな武装と言えるのか。
ミサイルが威力を発揮しないとわかった以上、今のコアファイターは、ただのミサイル運搬機だ。

(戦艦には当たるかもしれないな…)

そう考え付くが、ミサイルの射程に入る前に迎撃されるのがオチだろう。あっちにはガンダムが4機もいるのだ。
どう考えても飛んで火に入る夏の虫。撃墜される自分が容易に想像できた。

「やれやれ…どうしようかな?」

このままじゃ、ナタルの言うとおりCICでオペレーターをするしかなくなる。
しかし今CICが順調に回ってるとすれば、今更新しく自分が入ったところで二度手間なだけだ。
今自分が活躍できる場があるとすれば、やはりあのコアファイターを使うしかない。
しかし、どうやって? あのコアファイターで何かができるとは思えない。
やはりマードックに、コアファイターを改造してもらうよう頼んでみるか。しかし、次の戦闘までに間に合うか?
マードックを視線で探す。居た。大声を張り上げてストライクの整備班の指揮を執っている。
とても壊れた機体を改造できるほど、時間があるには見えない。

「少尉。体調は良くなったんですか?」

声をかけられて振り向く。敬礼してきているのは整備班の若いクルーだった。
リナは答礼して、微笑みながら応える。

「ああ、もう大丈夫。ありがとう。…あと、ボクは中尉だよ」
「え? ……!! し、失礼しました!」

その整備員は首を傾げたが、リナのノーマルスーツの襟に光る中尉の階級賞を見て低頭する。
リナは、生真面目なやつだな、と思いながら苦笑して、

「いいよ。…それよりも、ボクが乗っていたあのMAなんだけど修理できないかな?」
「は、はぁ…。我々もやってみせますが、あのMAの部品がこの艦に置いてないんですよ。
あのMAの装甲の材質も、地球軍のものではないのでなんとも……メビウス・ゼロと同じ装甲で目張りできなくもないですが、
そうするなら一旦、正規の工場に持ち込まないといけません」
「そうか…。じゃあ、武装を外付けできないかな。リニアガンの予備を取り付けてくれたら一番いいのだけれど」
「ば、馬鹿を言わないでください! 装甲も無く、裸で戦闘するつもりですか!? 自殺しにいくようなものです!」
「そうだよね…」

ますます絶望的になってくる。暗澹とした気持ちを必死に顔に出さないようにしながら、コアファイターをぼーっと見ていた。

(翼、小さいな…ボディにも同じ形の凹みがある。もしかして畳めるのか? はは、まるで旧世紀の艦載機みたいだな。
そういえばあの機体、どうやってガンダムの腹に収まるんだ? あのままの形じゃ、どうやったって… ……あっ)

「中尉?」

若い整備員が、ずっとコアファイターを眺めて無言になるリナに、心配げに声をかける。
リナは、彼の言葉を無視して、コアファイターを見つめながら口を開いた。

「……君、クレーンを一つ借りたいんだけど」
「クレーンですか…? マードック軍曹に伺ってみますが、何をされるおつもりで?」
「ちょっと試してみたいことがあるんだ」

彼は首を捻っただけだが、リナはこのコアファイターの可能性を見つけて歓喜の声をこらえていた。

(もしコアファイターが予想通りの構造なら、使えるぞ!)


- - - - - - -


リナが考えていたことは、予想通りだった
それを目撃した整備員達は目をむいて驚いていた。この世界ではあんなことができる戦闘機なんて想像の外だったからだ。
その整備員達の表情が楽しくて、リナは調子に乗って何度もやったらマードックに怒られた。
それでもリナの機嫌は上々で、流れながら表情を緩めていた。

「これでボクも日の目を見ることができるな」

リナが考えていることをしたら、それを最後にコアファイターの活躍は無くなってしまうかもしれないが、仕方が無い。
最後の最後までコアファイターの性能を搾り出してやらないと、MA乗りとしては気が済まないのだ。
そのこだわりには、リナ自身の負けず嫌いな一面が含まれていた。

「……っと」

突然、艦が大きくゆっくりと揺れて、ぐるりと回る感覚。
迫ってくる壁に手を突いてみると、今度は大きく加速するのを感じた。

(アルテミスに向けて回頭したのかな…?)

そう思ってみるものの、単に巡航しているだけならこんなに急激に回頭する必要は無い。
ということは、何か一計を案じた末の機動だろう。なにせクルーゼ隊に追いかけられているのだ。
何か一工夫しないと、易々と逃げられる相手でもないはず。

(ま、幹部でもないボクがごちゃごちゃ考えることでもないけど)

作戦について深く考えるのをやめた。
以前記述したが、リナは幼少より軍人としての教育を施されてきており、そういった戦術戦略についても教養がある。そして生まれつき、確かな記憶力と機知もある。
だけど彼女が最もなりたかったのは、そういった作戦士官ではない。MSのパイロットだ。
だからそういった頭脳労働は机上の計算で終始させている。
それがCICのスタッフをしつこく断る理由の一つでもあった。
何が悲しくて、せっかく手に入れたチートボディーを机仕事で腐らせなければならないのか。
次の戦闘に備えて仮眠でもしようと、居住区にある士官用の個室に帰ろうとしたら、避難民の列が見えた。クルーが、避難民の身元確認をしているのだ。

(結構いっぱい居るもんだな…こりゃ、本当に厄介なのを抱えちゃったかな)

横を通り過ぎようと流れていると、避難民達から奇異の視線を向けられた。
「子供…?」「小学生?」「あの子軍人なの?」など、様々な囁きが聞こえてくる。
リナは、またか、と溜息。身元確認を行っているクルーが「あの人はれっきとした軍人ですよ」とフォローを入れたが、
「地球軍はあんな子供も軍に入れているのか」「それで軍人が勤まるのか」とか、またややこしくなっていく。

(くそ、小市民どもめ)

リナは心の中で悪態をつき、立ち止まる。
避難民に顔を向けて、背筋をピンと真っ直ぐ伸ばし顎を引いて、カツッとブーツを鳴らして踵を揃え、見本のような敬礼をする。

「ご紹介に預かりました、地球連合軍第7機動艦隊所属、リナ・シエル中尉であります!」

己が規律正しく訓練された軍人であることを示すために、出来る限り大きな声で名乗った。
小学生が軍人然とした厳格な姿勢で挨拶をしたため、呆然と見返す避難民達。

「……き、君みたいな小さな子供が軍人か。軍は何を考えているんだ!」

金縛りが解けた避難民のうちの壮年の男性が、怒り顔で。リナは向き直る。

「持てる者は持っている分だけ要求される。それが軍だけでない世界の常識です。私はそれに従っているだけです」
「だからって、あなたはまだ子供なのになんで戦っているの? こんな戦争は大人に任せればいいのに…」

中年の女性が、言葉を繋げる。

「私は自分から志願して軍に入隊しました。なぜなら、守りたい人がいるからです。戦う理由はそれで充分です。
『私が戦わなくても、他の人が戦ってくれる』…そう言って戦わず、守りたい人を守れない。
そんな後悔をしたくないから、私は戦うのです。大人か子供かは関係ありません」
「……」
「それでは、任務中なので失礼します!」

まだ何か言いたげな避難民達だったが、リナはそれを無視して、またも折り目正しい敬礼をして流れていった。
放っておけばいいのだが、軍への不信感を募られて、最悪暴動でも起きようものなら目も当てられない。それへのフォローのつもりだったが…
余計な口出しだったような気がしないでもない。ていうか、ボクの年齢を言えばそれで充分だったのではないだろうか。
でしゃばっちゃったかなぁ、とちょっぴり後悔しながら個室へと向かっていった。


- - - - - - -
phase:キラ・ヤマト

「どこに行くのかな、この船?」
「一度進路変えたよね。まだザフト居るのかな?」
「この艦とあのMS追ってんだろ? じゃあ、まだ追われてんのかも」
「えぇ! じゃあなに…? これに乗ってる方が危ないってことじゃないの! やだーちょっと!」
「……」

自分がしていることは無駄じゃないのか。キラは、皆の会話を聞いて、不安と、報われない気持ちを抱えていた。
なんでこんなところに居るんだろう。僕たちは関係ないのに、戦いたくないのに。
そう鬱々としているところに、通路から、自分をストライクに乗るように焚きつけたリナの声が聞こえてきて、思わず聞き耳を立てる。

(……!)

リナの言葉を聞いて、胸に突き刺さるものを感じた。

(『私が戦わなくても、他の人が戦ってくれる』…そう言って戦わず、守りたい人を守れない。
そんな後悔をしたくないから、私は戦うのです。大人か子供かは関係ありません)

それは、まるで自身に向けられた言葉のように思う。
なんで自分はあのモビルスーツで戦うことを嫌うのか、もう一度省みた。
戦争がイヤだったから。巻き込まれたくない。……そういう一心だった。
その言い分は、確かに平時なら通るかもしれない。自分が平和な地に居たら正論だったろう。
だけど、戦わないときっと自分達は死ぬ。そういう自覚が不足していたんじゃないか。

正直、前にリナに叱咤激励されたときも、まだ「この人達に巻き込まれている」という意識はあった。戦いたくないという意識が強かった。
でも、それを人のせいにしている場合じゃない。「この人達が悪いんだ」……死んでからそんなこと言っても仕方が無いのだ。
生き残る道は自分達で探さないといけない…その思いが、燻火のようにキラの心を焼いてくる。
だけど――

(まったく、リナさんは23歳だろ? ……大人か子供か、って、大人じゃないか)

立派に年齢詐称だな、と、最後の言葉には苦笑せざるを得なかった。
そこへ、ムウが流れてくる。

「キラ・ヤマト!」
「は、はい」
「マードック軍曹が怒ってるぞ~。人手が足りないんだ。自分の機体ぐらい自分で整備しろ、と」
「……わかりました。すぐ行きます」
「えっ?」
「き、キラ、戦うのか?」

あれほど嫌そうな顔をしていたキラが素直に従ったことに、アカデミー生ら全員が意外そうな顔をした。
この中で最も戦いに対して忌避していたのがキラだったのだ。どういう心変わりだろう? そう思って、キラの顔に注目していた。

「僕達はそれぞれ、できることがあるんだ。それをせずに死んでいくなんてイヤだから…。
それに……僕は皆を守りたい。だから、行ってくるよ」

「キラ……」

彼の言葉に、学生達は彼を止めることができなかった。
そして、感動もしていた。
あの気弱で自己主張をしようとしないキラが、あんなに決意を込めて言ったのだ。皆を守る、

と。
ムウはその言葉に、にかっと笑ってキラの肩を叩いた。

「偉いぞ、坊主! 男だな!
ブリーフィングルームに案内してやるよ、こっちだ!」
「はいっ」

はっきりとした口調で返事をして、キラはムウの後に続いた。
その後に残されたアカデミー生達は、彼の言葉を反芻していた。

(僕達にはそれぞれ、できることがあるんだ)

前線で戦う、自分達の友人のキラが言ったからこそ、その言葉が胸に染み渡る。
そして何もしていない自分達に、罪悪感がのしかかってくるのも感じた。

「ねぇトール…私たちだけこんなところで、いつもキラに頼って守ってもらって…」
「俺達にできることがある、か…」

キラの、そう言ったときの表情が忘れられない。
学生達の表情には、決然とした意思が秘められていた。
やれることをやろう、自分達のために…キラのために、と。
皆の意思が通じ合い一つになり、無言で頷きあっていた。




以上でPHASE 10をお送りしました! ここまで読んでいただき&感想ありがとうございますっ
コアファイターにはまだまだ活躍してほしい…そう思っていた時期が私にもありました。
なので、まだもうちょっとだけコアファイターは登場します。きっと。

あと短いという感想をいただきました。すいません、遅筆ゆえ、今はこれが限界…(げふ)
少しずつ一話ごとの文量増やしたいと思います。いきなりドカンと増やして、更新遅くなるのもあまり好きではないので…っ

ちょっと明日早く起きないといけないので、今はこれくらいで切ります…!(低頭)
またあとで感想掲示板で、あとがきの続きという名の言い訳をしたいと思います!
それではまた、次回の投稿によろしくお願いします!



[24869] PHASE 11 「リナの焦り」
Name: menou◆6932945b ID:c0653c48
Date: 2010/12/28 20:33
〔敵影補足、敵影補足。第一戦闘配備。軍籍にあるものは、直ちに全員持ち場に就け!
繰り返す、軍籍にあるものは直ちに――〕

警報と共に響き渡るロメロ・パル伍長の声。
艦内に緊張が走る。ベッドに入ったばかりなのに、と喚く下士官も居た。

「ボクもそうなんだけどな…!」

リナは呻きながら個室のライトを点けた。ノーマルスーツはベッドの中では当然脱いでいて、裸で寝ていた。
シーツの下から、薄桃色の肌の幼い肢体を跳ねるように起こして、ノーマルスーツを着込んでいく。
ノーマルスーツを着込む時に前を閉じていると、ふと胸が見えた。
すんなりとした身体の上に盛られた、成長してきた膨らみかけの小さな双丘。
再び意味もなく恥ずかしくなってきて、顔が赤くなる。

(こ、これって、ブラ着けないとまずいんじゃないかな…?)

確か、ジュニア・ハイスクールの友人はこれくらいの時には既に着けていた。
母さんの話では、ブラを着けないと敏感になってきた乳首が服に擦れて痛くなるのだと。
それで戦闘に支障が出たらどうしよう…。

(え、えぇい! 今はそんなの気にしていられるか!)

しょうもないことで出撃に遅れてはたまらない。その悩みを振り切って、ノーマルスーツの襟首を閉じ、個室を飛び出す。
自分の部署に真っ直ぐ迷い無く駆けていくクルー達。本格的な戦闘に戸惑い、怯える避難民達。
食堂の前を通り過ぎたが、アカデミー生達の姿が見えなかった。別の場所に避難しているのだろうか。
リナは大して興味を持たないまま、ブリーフィングルームに向かった。


- - - - - - -


「申し訳ありません、遅くなりました!」
「遅いぜシエル少尉…じゃなかった中尉!」

上官であるムウよりも遅くブリーフィングルームに到着し、謝辞を述べながら入室したリナ。
並んで立っているのは、ムウとキラだった。
キラはテストパイロット用の青いノーマルスーツを着て、ムウと共にリナを見ていた。

「リナさん」
「キラ君……気持ちは固まったのかい?」
「……正直、まだ怖いです。だけど、戦わないと何も守れないから…」
「へえ?」

リナは表面上平静を保っていたが、内心はたいそう驚いていた。
あのときのキラは、思いつきとその場のテンションでガンダムに乗ると宣言していたように感じたからだ。
だから、次は乗らないかもしれない…そう思っていた。思っていたけれど、リナは自分の思い違いだったな、と胸中で反省した。

キラのあの決意は本物だったのだ。

訓練もしていない民間人が戦場に出られない理由は、銃器の取り扱いや戦闘技術の問題よりも、戦うことへの恐怖心が大きい。
たとえキラが優れた兵士であったとしても、戦いへの恐怖を克服していなければ使い物にならない。
逆のパターンでいえば、どこぞのテロリストだが…とにかく、それを短期間で克服したキラのことを、リナは見直した。
…少しだけリナは勘違いしているが、ここでは些細な問題だろう。

(やっぱりキラ君、君は凄いよ)
「おねーさん、感激したよ! とっととザフトを追っ払って、家でぐうたらしようっ」
「は、はいっ」

ぱしん、とキラの背中を叩く。頭を撫でたかったが、出来ないことはしないのだ。
ムウはその二人の様子を見て、微笑ましげに表情を緩めた。

(案外この二人は、良いコンビなのかもしれねーな)

だが、戦闘は雑談の時間を許してはくれない。いつまでも見ていたい気はするが、両手を叩いて切り上げさせる。

「さて、話は終わったかい? 作戦を説明するから、二人ともよく聞けよ」
「あの……」
「なんだ? シエル中尉。まだ話し足りないか?」

ムウが作戦を説明しようとして、リナが口を挟む。が、ムウは特に気分を害する様子も無く、リナに先を促した。

「ボクが乗ってるMAなんですけど、実は特殊な機能がついてるんです。作戦に組み込められたら、と思いまして」
「へぇ? 言ってみな」


- - - - - - -


「――そりゃ、すごい機能持ってやがるな」
「MAにそんな機能が!?」

キラとムウは、コアファイターの隠された機能に驚かされていた。
確かに、ありそうでなかなか無い。というかMAに付与される意味は大して無い機能だ。だが、その機能は今回は大いに役立ちそうだ。

「はい。これを上手く使えば、たとえ相手がラウ・ル・クルーゼでも不意を突かれるはずですっ」
「だけど、そんなことをしたら中尉の生命の保証はできないぜ? 特攻みたいなもんだ。いいのか?」

改めてそれを言われて躊躇う。
そうだ、この戦術を使えば確かに大きな戦果を挙げられるかもしれないが、撃墜される可能性はかなり高い。
だけど、このままだとコアファイターと自分は間違いなく役立たずになり、お役御免になる。そっちのほうが、怖い。

「……役立たずのまま艦内でくすぶってるよりはマシです。私はあくまでMA乗りですから…!」

必死な表情で訴えるリナ。それを聞いてムウは表情を明るくして、リナの肩をたたいた。
びくん、と肩を震わせるリナ。だけどムウはそれに気づかなかった。

「良く言った! それでこそだぜ! それも含めた作戦を説明するぜ!」
「はい、それと……」
「な、なんだ? まだ何かあるのか?」

ムウは戸惑った。早いトコ作戦を説明したいのだが。クルーゼ隊も迫ってきているし、短めに済ませて欲しい。
そう思ってリナを見ていると、リナが冷たい視線をよこしてきて、思わず後ずさり。

「…………セクハラです」


- - - - - - -


「と、とにかく、坊主は艦と自分を守ることだけを考えるんだぞ。
シエル中尉。自分が役に立たないなんて考えて、焦るなよ!」

ブリーフィングが終わり、格納庫のメビウス・ゼロの上でムウが二人に注意を促す。
二人とも優れたパイロットだと思ってはいるが…キラは精神面でまだ心配が残るし、
リナは、活躍の場が無いことに対してどうも負い目を感じすぎている部分がある。

「はい、大尉もお気をつけて」
「大丈夫です、ボクは正規のパイロットです。焦りなんてしませんよ!」

(そういう発言が一番心配なんだよ…)

リナの返答にムウは心の中でぼやきながら、メビウス・ゼロのコクピットに潜り込んだ。


「じゃあキラ君、また後で。
いいかい、ストライクの装甲だって無敵じゃないんだ。動き回っていくんだよ!」
「わかってます!」

リナはリナで、ついキラに何か一言言ってしまう。
それをキラはうるさげに返答するだけだった。それを聞いてリナは、またやっちゃった、と後悔した。
自分も、なんでキラに対して何か言ってしまうのかわからない。直さないとなぁ、と思いながら、自分もコアファイターに流れていく。
搭乗するコアファイターは、ボロボロに見えるように様々な傷や弾痕が描かれていた。事前にマードックに頼んでいたのだ。
この塗装が、今回の作戦に必要なのだ。それにしてもその塗装は真に迫っていて、まるで本当に被弾した残骸みたいだ。

(マードック軍曹、絵上手いな…趣味でやってるのかな)

あの頑固でむさくるしい男の意外な一面を見た思いだった。それが微笑ましくて、くす、とリナは笑みを零す。

「中尉! それで出るんですか!?」

そこへ悲鳴のような声を挙げて流れてくるのは、さっき格納庫でコアファイターについて話していた若い整備員。
確か、ロイという名前だ。素朴な顔立ちで、垢抜けない雰囲気の新米整備員。21歳と言っていたか。ボクより年下だ。
またうるさいのが来たな…と思いながらヘルメットのバイザーを上げて、そちらに向き直る。目にクマを浮かべて、夜更かしでもしたのだろうか。

「そりゃあ出るよ。これはボクのMAだからね」
「無茶ですって! フレームが歪んでいて、装甲だってもつかどうかわからないんです! 死にますよ!?」

その言葉に、引っ掛かるものを感じた。リナは不機嫌そうに眉根を寄せて、若い整備員を睨む。

「……死ぬ覚悟もなしに出撃する馬鹿はいないよ。ボクがそういうパイロットだと思った?」
「そ、そんなことはありません! 俺は、シエル中尉のことが心配で…」
「それこそ余計なお世話だよ。…出撃に遅れるといけない。下がってて」

つっけんどんに言って、まだ何か言おうとするロイ兵長を押しのけ、小さな身体をコアファイターのコクピットに納める。

(やっぱりこの見た目だとなめられるのかな……くそーっ。早く成長してくれよこの身体っ)

自分よりも年下で階級も下の整備員にまで保護者面されて、リナは憤慨しながら起動手順を行う。
エンジンをスタンバイモードで点火。各部センサーチェック。ジェネレーター出力…オールグリーン。
思ったよりいい調子だ。整備班も大した腕だな、と感心しながら操縦桿を握った。

〔こちらCIC。シエル機、発艦シークェンスを開始せよ〕
「了解。発艦シークェンス、フェイズワ……ん!?」

カタパルトデッキに繋がるハッチが開けられ、ゆっくりスロットルを開ける。スロットル微小。タキシングでカタパルトに車輪を乗せる。
そういった作業を機械的に行いながらも、戦闘管制の通信に違和感。ナタルにしては随分若いような…。いつものハスキーボイスはどうした?
サブモニターを見ると、映ってるのはアカデミー生の一人、ミリアリア・ハウではないか。
リナはいつものように発艦シークェンスを順調に行いながらも、呆然とサブモニターに映るミリアリアを見ていた。
ミリアリアは真剣な表情でサブモニターからこっちを見ている。遊びのつもりではないのだろう。が、ますますもってどういうことなのか。

「き、君は…学生の?」
〔はい、ミリアリア・ハウです。…私がMSとMAの戦闘管制をすることになりました。よろしくお願いします!〕
「よろしくって…ら、ラミアス艦長!?」
〔この子達は自分から志願して、艦の手伝いをしたいって言ってきたの。ちょうどブリッジに人手が足りなかったので、私が任命しました〕

ミリアリアに代わってマリューがサブモニターに映り、事情を簡単に説明してくれた。
いくら上官の命令や行動に対して私心を挟まないのが軍人の鉄則だとしても…これはあんまりすぎて、リナは開いた口が塞がらなかった。
自分のような正規の軍人ですら、ブリッジクルーでない者はブリッジに上がるのは制限されているというのに。そんなので任命しちゃっていいのだろうか。

〔シエル中尉。発艦シークェンスは?〕
「はっ!? あ、カタパルト装着よし、ジェネレーター出力上昇…発艦シークェンス、ラストフェイズ」

ミリアリアに言われて、反射的に発艦シークェンスの報告を行った。嗚呼、軍人の性。

〔了解。シエル機、発艦を許可します。気をつけて行ってらっしゃい!〕
「ちょっと近所で買い物気分か!? ……リナ・シエル、行きます!」

ミリアリアの言い草に突っ込みを入れながらも、コアファイターのスロットルを全開にして漆黒の虚空に飛び出していった。


- - - - - - -


(だ、だめだ。この5年間、折角厳格な軍人のスタイルを貫いてきたのに、学生達がブリッジに入ったせいで調子が狂わされそうだ…)

泣きそうになりながらも、針路をヴェサリウスに向ける。リナは緩みかけていた気分と表情を引き締め、軍人に戻る。
これから自分は死地に向かうのだ。集中力を高めていかないといけない。操縦桿を握る手に力を込め、一度大きく深呼吸。

(……よし)

一度大きくスロットルを最大まで開けて、初期加速をかける。速度がマッハ4に達したところでスロットルを引いて主機停止。
最低限のアポジモーターだけを使って、小惑星を避けながらヴェサリウスに近づいていく。
ごく僅かな電子音だけが響く真っ暗なコクピットの中、ムウが提案した作戦を思い返していた。

(ボクが隠密機動でヴェサリウスに接近して奇襲。フラガ大尉とキラ君は艦の護衛…か。
こりゃ、途中で気づかれたら死ぬな。……でも、確実にダメージを与えるにはこれが一番なんだ)

ムウと協議した結果、艦艇に効果的にダメージを与えられるのは、メビウス・ゼロよりもコアファイターだという

ことになった。
メビウスのリニアガンよりも、コアファイターのミサイルのほうが粘り気のある爆発を起こせるから、大型の標的には有効だ。
4発全てを撃ち込めば、ヴェサリウスに致命的なダメージを与えることはできなくとも、航行に障害を与えることはできるはず。
そうなれば、アークエンジェルがヴェサリウスを振り切るのは時間の問題だ。アークエンジェルは無事にアルテミスに入港できるだろう。

(そろそろかな)

予定の半分を通過した。そろそろ「あれ」をするタイミングだ。
コアファイターの右側にある「G」の刻印がなされたレバーを引く。
すると、コアファイターの翼が折りたたまれ、コクピットがぐるんと回って…胴体の腹に収まっていく。

コアファイターのパーツ合体機能だ。

この機体は、かつて宇宙世紀で運用されたガンダムの脱出カプセル兼戦闘機の役割を担っていた。
しかし、小型とはいえ戦闘機がMSの腹に収まるには、やはりサイズが大きすぎる。その問題を解決するのが、この変形機能だ。
全ての突起物は装甲板の下に収められ、キャノピーも装甲に隠れる。サイズもまた一回り小さくなる。MSの腹に収まる大きさになるというわけだ。
こうすると、もうコアファイターは戦闘機に見えることはない。ただの金属の箱だ。
しかもマードック軍曹の施したペイントで、ただの戦闘跡の残骸にしか見えなくなる。
ただこの形態に変形すると、小さなサブモニターでしか外の様子が窺えなくなるのが欠点だが…。

(予定では、ヴェサリウスがミサイルの射程に入るまで600秒! うぅ、緊張で胃が痛くなる…)

襲い来る胃の痛みに、リナはお腹を押さえて脂汗をにじませた。
リナは実戦の回数が極端に少ない。
本格的な戦闘をこなしたのは、ヘリオポリス宙域とヘリオポリスコロニー内だけ。
そう、キラと同じ回数しか実戦を経験していないのだ。
だから、リナもいくら職業軍人とはいえ、慣れない実戦にストレスがたまるのはしょうがないことなのだ。
あと、アガリ症も手伝って、コクピットの中で胃が痛くなるほど緊張していた。

(早く到着しろー!)

リナはサブモニターを、白百合のように可憐な顔立ちを歪めながら、じっと睨んで念じるのだった。


- - - - - - -


その頃アークエンジェルは、ヴェサリウスに向かって特装砲、ローエングリンを発射。同時に主機起動。アルテミスに向かう軌道をとる。
ヴェサリウスのブリッジでは、超長距離からの砲撃のために泡を食って回避行動をとっていた。

「前方より熱源接近! その後方より大型の熱量感知! 戦艦です!」

オペレーターが悲鳴のような報告をする。アデスは「回避行動!」と命令を下し、ローエングリンをやり過ごした。
クルーゼもこの行動自体が囮だとは気づかずに、アークエンジェルの早まった砲撃に嘲笑を浮かべていた。
ガモフもヴェサリウスと共に回避行動。己の位置を晒したアークエンジェルに対して仕掛けるために、4機のガンダムが続いて飛翔する。
これで、クルーゼ隊の出動可能な艦載機は全て吐き出された。クルーゼも、道楽でアークエンジェルとの戦いを長引かせているわけではない。
一気に畳み掛けるための全力出動だ。そういう呼吸はクルーゼにとって熟知していた。

(アスランが、キラという少年との友情を優先して、足を引っ張らねば良いがな)

不安材料はあるが、それを差し引いても充分にあの「足つき」を沈められる戦力だ。
あのムウがいたとしても、G兵器の特殊な装甲と火力をもってすれば仕留められるだろう。

(あとはあの四人の戦果を待つだけ、か)
「……ん?」

クルーゼが、ふとブリッジのガラスから宇宙を眺めると、残骸らしきものが漂流していた。
真四角の箱の…痛ましい弾痕や、小惑星と衝突したとおぼしき傷が刻まれている。
クルーゼは最初にそれを見ても、ただの戦闘の残骸程度にしか考えなかった。
ブリッジのクルー達も、それに対して何ら反応を示したりはしない。あれもレーダーに映っているのだろうが、
こんなに小惑星や戦闘の残骸が浮かぶ宙域で、いちいち残骸一つを見つけたからとて報告などしないのだ。
だが、妙な違和感を覚える。

(何故『綺麗な四角』なのだ?)

あれだけの弾痕や傷が刻まれているのならば、どこかが凹んでいたり欠けていたりするはずだ。
なのにシルエットは綺麗な形を保っている。まるで「人の手で修理されたもの」のように。
あまり時間を置かず、違和感が、クルーゼの中で疑惑という形に変わる。

「アデス」
「? 隊長、何か」
「10時方向に浮遊している、あの残骸を調査しろ」
「あの残骸でありますか…?」

アデスが指示された残骸を認めるも、何の変哲もない残骸にしか見えない。
クルーゼは彼の鈍感ぶりに内心舌打ちし、僅かに語気を強める。

「石橋を叩いて渡る、というではないか。…用心に越したことはない。
マシューのジンが動けるはずだ。調査に向かわせろ」
「……ハッ!」


- - - - - - -


リナが睨むサブモニターに、ヴェサリウスがはっきり大きく映るまでに接近した。
真空中だから、ヴェサリウスの外装がはっきりと見えすぎて距離感が保ちにくいが…この距離なら間違いなくミサイルが届く。
だけど、もう少し。もう少し近づけば、ミサイルは確実にブリッジに撃ち込めるのではないか。
リナは、確実に戦果を挙げるために、欲を張っていた。
自分の実力を認めさせて、英雄になりたかった。はっきり言うと「主人公」になりたかった。
だから、欲張ってどんどん近づいていく。拡大すればブリッジのフロントからヴェサリウスのクルーの顔も見えるくらいだ。
もうそろそろではないか。そう思って、「G」のレバーを押そうとした時、

ごんっ!
「!?」

機体に重たい衝撃。リナはびっくりして、サブモニターを後方の画面に切り替える。
画面いっぱいに映るモノアイ。こちらに伸ばされている巨大な手。――ジンだ!

「………!!」

リナは咄嗟に「G」のレバーを押すが、ギシ、と機体が軋むだけで反応しなかった。

「な、なんで!?」

こんなときに、と悲鳴を挙げる。サブモニターを切り替えていくと、ジンに頭を押さえられているのがわかった。
抱きつくようにしてこの機体に腕を回していたのだ。
本来なら、ジン一機に押さえ込まれている程度では変形を抑え込まれるほどヤワな構造をしていない。
しかし、機首のフレームが致命的に歪んでいるところを、格納庫で調子に乗って何度も変形させていたせいで、
整備員も気づかないところで、変形機構に致命的な障害を生んでしまったのだ。
リナが焦っている間にも、サブモニターでジンのモノアイが妖しく輝いていた……




以上でPHASE 11をお送りしました。ここまで読んでいただきありがとうございます!
リナ、またしてもピンチ。なんて迂闊なリナ。大丈夫かこの主人公。
日常パートで退屈させてしまって、申し訳ありません。皆さんは、きっと本格的な戦闘を楽しみにしてるのに!
でもF91の小説は、もっと戦闘がありません。びっくりですね!
まあ冨野先生だから許されるのでしょうけど。私なんぞが真似していいものでもなく…っ

メイソンのクルーがなんでAAのクルーにならなかったのかとか、なんでユーラシア連邦のアルテミスに行ったのかとか、
ここらへん確かに疑問浮かびまくりますよね。ご指摘ありがとうございます。
私なりにその理由を考えてます。その理由に関しては、アルテミスに着いたくらいに説明しようかなぁ考えてます。

これからも皆さんに愉しんでいただけるよう、皆さんの意見や感想を参考に書いていきたいと思います。本当にありがとうございます!

次回! 知らない人についていっちゃいけないって学校で言われてたでしょ!(長
それでは次の投稿もよろしくお願いします(礼



[24869] PHASE 12 「合わさる力」
Name: menou◆6932945b ID:c0653c48
Date: 2010/12/31 14:26
サブモニターに、ジンの顔がいっぱいに映る。
それを見てリナは恐怖に目を見開き、全身が総毛立つのを感じた。
まだ自分が生きているところからして、自分が乗っていると気づいていないようだけど、もしヴェサリウスの艦内に持ち帰られたら終わりだ。
コーディネーターがナチュラルを捕虜にとって、生きて帰す保証などどこにもない。なんとかしてこのジンから逃れないと…。

「ミサイル…!」

コンソールパネルを叩き、合体形態でミサイルを使用できるかどうか試してみたが、
モニターに冷たく表示された「LOCKED」の文字に、がくりとうなだれる。
この状態でバーニアは…動く。問題は、このジンを振り切れるパワーがあるかどうかということだ。
だが、何もしなければどのみちヴェサリウスの艦内に連れて行かれてしまう。

(でも動いた瞬間撃たれるんじゃ…)

ジンの腰に76mm重突撃銃が装備されている。装甲が無い今、あれに狙われたら一巻の終わりだ。
頭の中でぐるぐると嫌な考えが浮かんでは消える。動かなければ捕虜にされて殺され、動けば撃たれる。
あのとき、ミサイルの射程に入った時点で撃てばよかった。

「…………ままよ!」

こうなったら、コアファイターの機動力を生かして逃げ切ってやる。
思い切ってジェネレーターを起動させ、スロットルを全開!
ゴウッ! と凄まじい音が機体を揺るがし、急加速をかける。

「なにぃっ!? ざ、残骸が…!」

度肝を抜かれたのはマシューだった。
マシューにとって、これはヒマでくだらない出動だったはずだ。
損傷したとはいえ、ナチュラルを倒すことなど造作も無い力を持っているはずの自分に回された仕事が残骸の調査。
だがその残骸が突然動き出し、ジンの手の中からすり抜けていく。

「抜けた!?」

操縦桿をまわすと、機首もくるりと回る。ジンの腕から抜け出せた!
スロットル全開のまま、ジンを引き離そうとバーニアから炎を吐き出して加速していく。
鳴り響くロックオン警報。ひたすら操縦桿を動かし、ラダーペダルをダンスでも踊るように蹴ってランダム回避運動をする。
ジンの放つ76mm弾が、後ろから絶え間なく放たれていくのが見える。これのどれに当たっても終わり…。

「やられて…たまるかぁ!」

まだ何もしていない。何もできていない。そんな状態で終われない!
リナは、生き延びようとする執念だけで飛んでいた。もうすぐ76mm機銃の射程外のはず。
ジンよりもコアファイターのほうが速力があるのだ。振り切れるはず――

「!!!」

機体が激震。金属板を思い切り手で叩いたような音が響いた。
ビービーと激しく鳴り響く警報。被弾の報告!? コンソールを見ると片方のバーニアが被弾し、停止したらしい。
バンッ!!
再び激震。次は生き残ったもう片方のバーニア。コンソールパネルが赤色に彩られていく。
慣性があるので速力は落ちはしないが、加速が全くできなくなった。機動力も奪われていく。
今このコアファイターは、まっすぐ矢のように飛んでいるだけだ。そんなものは、止まっているのと変わらない。ただの的だ。

「うわあぁぁ!!」

恐怖の叫びを挙げるリナ。まだロックオン警報が止まない。だめだ、撃ち落とされる。

リナは死の恐怖に囚われ……逆に冷静になっていく自分を自覚した。
あのままヴェサリウスの中に連れ込まれたほうがよかったのか? 動かなかったほうが生き残れたかもしれない。

こんなところで死んでしまう。

また死ぬのか。ホームレスに刺され、昴は死に、いろいろなものを置いてきてしまった。
何もできなかった。まだ色んなことがしたかった。未来があった。
そして再び与えられた未来。それも、まだ何もできていないこんなところで奪われてしまう。

いやだ……いやだ……

何も聞こえない。己の鼓動だけが聞こえる。死の間際には、走馬灯を見るために限界を超えた集中力を生み出すという。
全てがスロー再生のように、ゆっくりと見えた。通り過ぎていく76mm弾も、ゆっくりと目の前を追い抜いていく。
その弾丸の雨の中、暗闇に浮かぶ光点。それを、リナは目を見開いて凝視する。

小さな点だが… あれは…


――ストライクの、エールストライカーパック!?


あれを実際に見るのは初めてだが、死ぬ前は何度も後ろから見ていた。間違いない。
何故、こんなところに――そんな疑問も持たないまま、身体が勝手に反応した。
「G」のレバーを引く。コンソールパネルの画面をOS設定に変えて、整備用のキーボードを取り出しキーを叩いていく。
ドッキングモードを変更。レーザー誘導開始――

「ドッキング・センサー…!」

機体がオートパイロットになり、かろうじて生きていた姿勢制御スラスターが作動。
エールストライカーパックも呼応するように、己に近づいてきた。
再び整備用のキーボードに指を走らせる。
ジョイント接続完了。エネルギーケーブル接続。ジェネレーター出力安定。コントロールユニット接続!
Bパーツ接続モード。ジェネレーター接続ラインを変更。不足分はバーニア回路をバイパス。出力設定をマニュアルからオートへ。
バーニア点火タイミングを変更、エールストライカーパックのものに合わせる。フラップ命令系統を接続パックに移乗。
コンソールパネルを彩っていた赤が、緑へと変わっていく。各部センサー、オールグリーン。

「……!!」

エールストライカーパックのバーニアが炎を噴き出し、凄まじい速力でジンの76mm弾の雨をかいくぐる。
ラダーペダルを踏んだだけで、まるでステップでもしたように横へと機体が滑る。
操縦桿を指先ほど動かしただけで、前の2倍近く機首が回る。合体前とは桁違いの出力と運動性。

(これがストライカーパックと核融合炉の威力!?)

リナはそのパワーと運動性に喝采を挙げながら、機首反転。
一直線に逃げてきたからか、ヴェサリウスとジンが一直線上に重なっている。
ジンが機銃を乱射してくるが、猛然と迫ってくるコアファイターに対して冷静に照準を合わせることができず、
コアファイターに一発も撃ち込むことができない。

「当たれぇ!」

ノーロックオンでトリガーを引き、ミサイルを全弾発射。
ミサイルランチャーが開いて、四発全てが炎を曳いて真っ直ぐ飛んでいく。
ジンは当然のように、反射的に回避。しかし、マシューは背に母艦があることをすっかり忘れていた。

「しまったぁ!?」

マシューは悲鳴を挙げるも、もう遅い。ヴェサリウスも、ジンの陰から現れたミサイルに咄嗟に回避運動をするが、
間に合わないまま4発のうち3発が船体に直撃。ヴェサリウスに爆炎の花が咲き乱れ、艦内が激震する!
ブリッジにいるアデスとクルーゼも、襲い来る震動に、身体が無重力に放り出されるのを堪えながら、アデスがクルーに怒鳴り散らす。

「くうぅぅ!! 被害状況を知らせろ!」
「だ、第二、第五ブロック被弾! 火災発生! 第三エンジン、出力20%ダウン!」
「各ブロック隔壁閉鎖! 機関部、第三エンジンをカット、ダメコン急げ!」

クルー達の怒号が飛び交うブリッジ。クルーゼは、出し抜かれた事実を認識し、歯噛みした。

(このような特攻じみた攻撃を仕掛けてくるとは…!)

保守的な攻撃しかしてこなかった今までの地球軍とは、全く異なる攻撃方法だ。
あのパイロットが組み立てた作戦なのか。だとしたらとんでもない策士か、ただの馬鹿だ。
しかし攻撃を成功させたのは事実。飛び去ろうとする戦闘機に対して対空砲火を浴びせるよう指示するが、
時既に遅く、もはや光点となってしまった戦闘機に、クルーゼは肘掛に拳を叩きつけていた。


「はぁ、はぁ……やば、かった…」

ジンとヴェサリウスの射程距離外に出たとき、リナは全身から汗が噴出すのを感じた。そして安堵感に全身が脱力する。

(それにしても…)

コンソールパネルを叩いて、今のコアファイターの状態を見る。
あの異世界のガンダムの核になるはずのコアファイターが、今のガンダムの強化パーツとドッキングができるとは思わなかった。
本当なら、規格が違って接続できないことのほうが多いはずだ。プラモデルではないのだから。
同じガンダムだからか? それとも、「あの」ガンダムとストライクは何か繋がりがあるのか?
因縁めいたものをリナは感じていた。しかし、くっついたらいいなあとは思ったが、本当にくっつくとは…。

(名前をつけないとな…コアファイター… エールストライカー…うーん)

どうでもいいことを考えて、またも股間を温めているものから現実逃避していた。


- - - - - - -


リナがアークエンジェルに帰還したとき、全てが終わっていた。
アークエンジェルの姿が見えたが、ザフトの手に渡ったG兵器の姿が見えない。
遠目に見ても、アークエンジェルの被害は軽微なようだ。それを見て、リナはホッと安堵の吐息をついた。

〔――エル機、……ください、シエル機、応答してください〕

近づいていくと、次第に明瞭になっていく通信。通信機から響いてくるミリアリアの声。
そうだ、着艦して、ヴェサリウスへの攻撃が成功したことを報告せねばならない。

「こちらシエル機。よく聞こえます。……任務完了。着艦の許可を求む」
〔あっ…おかえりなさい。それでは、第二カタパルトへ着艦してください〕
「了解、着艦シークェンスを開始します」

(全く……今度は「おかえりなさい」ときた。)

ミリアリアの、あまりにも日常的な言葉に苦笑を浮かべたが、
己が命を懸けて任務をやり遂げ、精神的な拠り所を欲していたリナには、今はそれが在り難かった。


着艦を完了させたあと、格納庫に運ばれていくコアファイター。
それを整備員達が見上げて、騒然としていた。

「あれって、さっきヤマトが捨てたエールストライカーパックじゃねえか?」
「お、おいおい。あのMA、ストライカーパックと合体してやがるぞ!?」
「もしかして、あれもストライクの支援機なのか?」
「馬鹿いうなよ。ならなんであのMAとストライクに使われている技術が全然違うんだ?」

などと実にならない言葉を掛け合いながらコアファイターを凝視していた。
そして着艦作業が完了。コアファイターはクレーンで固定されたまま床には下ろされなかった。
下ろせば後ろのエールストライカーパックが床に干渉するからだ。吊るされたままのコアファイターに、整備員が取り付く。
キャノピーを上げて、コクピットから離れていくリナ。そこに整備班が囲み、マードックが食いついてくる。

「お、おい、お嬢ちゃん! こりゃ一体どういうことだ!? ストライクのパーツをくっつけたのか! どうやって!?」
「…ボクも、よくわかんないんだけど…丁度このパーツが漂流していたから、試してみたらくっつきました」

あんまりといえばあんまりな返事だった。マードックは、話が通じていない、と頭を抱えそうになる。
それでもリナの幼い見た目と、あまりに疲れた表情をしていたので、マードックは声を荒らげるのを抑えることに成功していた。
本来は、下士官が中尉に声を荒らげたりして不興を買うなど持っての外のなのだが、豪放な性格のマードックはさして気にしない。

「い、いや、そういうこっちゃないだろ…。玩具じゃねーんだから、そんな簡単にくっついてたまるかよ」
「……しかし、そうとしか言い様がありません。戦闘データを解析してくれればわかると思います。
…………ブリッジに戦闘内容の報告をしないといけないので、後の整備をお願いします。強化パーツは外しておいて下さい」
「…わかった。とりあえず、お疲れさん」

マードックの労いの言葉を背に、ヘルメットを脱いで、まとめていた黒髪を解きながら通路へと流れていく。
彼に対してつっけんどんな言葉遣いになったのは、リナが彼に対して苛立ちを覚えていたからだった。
上官に対する態度がなっちゃいない――そういう理由ではない。リナ自身、上官だからといってあまり偉ぶるのは好きではないから。
理由は別にあった。……自分は疲れているのに、最初の一声が労いの言葉ではなく、メカへの疑問だったからだ。
パイロットにとって、整備員と信頼関係が重要だということは理解している。
が、あちらが自分のことを慮ってくれないようでは、歩み寄ろうという気分が萎えるというものだ。
はあ、と溜息をつく。通路の出入り口には、二人の人間が立っていた。キラとムウだ。

「リナさん! よかった、無事で……」
「よう、シエル中尉。よく生きて帰ってきたな!」
「キラ君、フラガ大尉…!」

二人の姿と言葉に、頬が緩む。
通路の前に降り立ち、三人で通路を流れながら言葉を交し合う。

「キラ君もフラガ大尉も、無事で何よりですっ」
「なぁに、あれくらいの修羅場はいくつもくぐってきたからな。どうってことないさ。
それよりも、あのクルーゼの艦に向かっていって、生きて帰って来たってのは大したモンだぜ」
「あ、ぐ、偶然が重なっただけです……キラ君、あの強化パック――エールストライカーパックっていうんだけど――を捨てたのかい?」

またムウに褒められて、頬をほんのりと染めて照れながら長い黒髪をいじり、キラに振った。

「はい。あの強化パックはバッテリーが切れたので、ランチャーパックと交換するために捨てました」
「なるほどね…」

ふ、とキラに微笑みを向けて、ぽむと肩に手を回す。腕が短くて、しっかりとまではいかないけれど。

「ありがとう、キラ君! おかげで助かったよ」
「ぼ、僕は何もしてませんよ…偶然です」

キラは(見た目は年下とはいえ)異性に肩に腕を回されて、頬を染めて戸惑った。
最初はただの背伸びしている女の子かと思っていたけれど、年齢カミングアウトをされてから意識するようになってしまった。
鯖を読んでるかも…とも思ったけれど、落ち着いた雰囲気と発言に、次第に大人の女性であると認めざるを得なくなっていた。
それに彼女は、自分をコーディネーターではなく一人の「キラ・ヤマト」として見てくれる数少ない大人だった。
だから少しずつではあるけれど、リナに対して自然と心を開くようになっていた。

「いやいや。単なる偶然とはいえ、それが無ければボクは確実に死んでたんだ。命の恩人だよ、君は。
…よし、おねーさんが何か奢っちゃろう! 生還祝いだ!」
「……食堂のメシはタダだけどな」

豪快に笑うリナにムウの突っ込みが入ったが、聞こえない振りをした。


- - - - - - -


三人でブリッジへ戦闘の報告を行ったとき、リナは二人の報告内容から大まかな戦闘の経緯を察することができた。
まず、キラとムウによる艦の防衛は無事終えたという。それはこの艦があることからわかったことだが、
4機のGから襲撃された割に損傷が軽微だったのは、ひとえにキラとムウの活躍によるものだった。

その中でも格別に抜きん出ていたのが、キラの活躍だ。
ストライクという性能を差し引いても、彼の活躍はめざましいものだったという。
おまけにG兵器を二機、半壊にまで追い込んだらしい。そのG兵器はデュエルとブリッツと確認された。
鹵獲機であるG兵器の予備パーツが無い以上、彼らの戦闘力は半減したも同然。しばらくは攻撃は控えてくるだろう。
その間にアークエンジェルはアルテミスへ支障なく入港する予定だ。
しかし――

「……? あれは…」

アークエンジェルのメインブリッジ。
マリューはブリッジのフロントからアルテミスのすぐ手前に、光点を発見した。それを見て疑問符を浮かべる。
直後にロメロがその信号の正体を解説した。

「地球軍の救援艦のようです。……救援艦から通信が入っています」
「メインモニターに回してちょうだい」
「了解、回線開きます」

ブリッジのメインモニターから、クリアな映像が映し出される。
映し出されたのは、30半ばほどの、白いノーマルスーツに身を包んだ軍人らしき中年の男。
その顔にはマリューは見覚えがあった。先ほど接触した救援艦に搭乗している、メイソンの副長だ。

〔ラミアス大尉。また会ったな。まさか諸君らもアルテミスに向かうとは思わなかった〕
「ええ、ザフト艦との駆け引きで、戦術上やむを得ず……ところで、何故このようなところで停船されておられるのですか?」
〔我々は緊急艦艇ということで入港の許可を得ようとしたのだが、直前になって本部から連絡があってな。
『現在アルテミスは、付近宙域を航行するザフト軍に対して厳戒態勢を敷いている。
緊急艦艇とはいえ、今一刻でも傘を閉じることはアルテミスを不要な危機に陥れる可能性がある。然るべき基地に寄港せよ』…と言われてな〕

「そんな…!」

ナタルが愕然として、思わず声を荒らげる。
救援艦の艦長は、達観した様子で苦笑を浮かべ、肩を竦めた。

〔それが地球軍の今の実情だ。ユーラシアと大西洋は表面上は手を取り合っているが、裏ではどうにかして出し抜こうと躍起になっている。
戦後の連合議会で一つでも席を多く座るために、互いに隙を狙っているんだよ。そのためにお偉いさんも、ユーラシアに少しでも借りを作りたくないのだろうな〕
「……なんてこと」

マリューも、地球軍の実態に落胆して肩を落とした。ユーラシアと大西洋の仲が良くないとは知っていたが、まさかこれほどとは…。

〔君達も、ここに寄港するのは諦めたほうがいい。大西洋連邦の極秘の艦艇なら尚更だ。
拿捕されて、なんだかんだと屁理屈を捏ねて奪われるのが目に見えている〕
「…確かに、仰るとおりです」

マリューは、折角クルーゼ隊との戦闘に勝利して難を逃れたのに…と、無駄骨を折った気分になった。

〔それはそうと…この艦で大西洋連邦の基地までの長距離を航行するのは、少々難儀でね。
この艦も、早く我々を下ろして、ヘリオポリスの民間人が乗った救命ボートを救援する手助けをしなければならない。
良ければ、そちらにメイソンのクルーを移乗したいのだが。前回、こちらからお誘いを断ったのに、勝手で申し訳ないがね〕
「了解いたしました。接舷の準備に取り掛かります」
〔頼む〕

通信が切断され、メインモニターが元の宇宙地図の画面に戻る。

「聞いての通りよ。両舷停止、救援艇との相対速度あわせ。接舷の準備を!」
「ハッ!」

ナタルは号令を復唱し、それに必要な作業の命令を艦内に発令した。




以上でPHASE 12をお送りしました。読んでいただきありがとうございます!
そしてだいぶ投稿のペースが落ちてしまいました。
年末年始ってなかなかパソコン触る機会が無くて…!
また、この年末年始は更新スピードが落ちるかもしれません…(汗

遠回りしてメイソンのクルー合流。そしてアルテミス寄港ならず。ニコルかわいそす。
果たして彼が輝くときがこの先あるのか。無いだろうなぁ(酷

次回、未経験者歓迎! ただし有資格者優遇!
それではまた、次回の更新までよろしくお願いします(礼



[24869] PHASE 13 「二つの心」
Name: menou◆6932945b ID:c0653c48
Date: 2011/01/03 23:59
――アルテミス宙域で、アークエンジェルが救援艦と接触する少し前。

アークエンジェル内における幹部会議に出席したリナは、追跡してきていたザフト艦がレーダーロストした件を知ることになった。
おそらくあちらの手持ちのG兵器が損傷したことによって戦力が半減し、こちらを攻撃する戦力と動機が失われたためだろう。
広域レーダーでは、2隻のうち1隻が自ら離れていくのを確認できた。速度からしてナスカ級と推定される。
もう一つのローラシア級も、姿が見えなくなり…これで完全に撒いたということになる。

以上のことを会議で知ることとなったのだが、そうなるとヒマになるのは、ムウみたいにブリッジ要員兼任でもないMAパイロット専任のリナだった。
前回のムウとキラによる活躍でアークエンジェルの損害も軽微で、船務も庶務も特に手伝うことが無い。

とりあえずコアファイターの整備状況のチェックを行っていたとき、被服部から連絡が入った。
ようやく被服部が、自分のサイズに合う軍装や下着を仕立てたという。
コアファイターのチェックを終えてから、足早に被服部に向かう。

(やっとかー…ノーマルスーツ、素肌に着るとぺたぺたするからイヤだったんだよなぁ)

念願の軍装にホッと一安心。さっさとこの裸ノーマルスーツを脱ぎ捨てたい。
胸を躍らせながら補給科に到着すると、事務仕事をしていた担当の若い一等兵が顔を上げて立ち上がり、敬礼をしてくる。
リナは答礼して、ふわりとその兵の前に立つ。

「リナ・シエル中尉だ。被服部から、ボクの軍装が届いていないかい?」
「ハッ、確認いたします」

若い兵は丁寧に応じて、コンピューターからリストを眺め、すぐに「少々お待ち下さい」と言って立ち上がり、
奥にある物資集積室に入ってすぐ白いボックスを丁寧に抱えて持ってきた。

「こちらでよろしいですか? ご確認下さい」
「ん。どれどれ…」

渡されたボックス。確かに、自分の名前と被服部のサインが書かれている。
それだけで、確かに軍装が届けられたと確認すると、担当兵が差し出すリストにサインをして、
「ありがとう。ご苦労様」と彼を労ってから補給科を去っていく。
素直に受け取ったことを、リナはのちに死ぬほど後悔した……。


「なっ……んじゃこりゃあっ!!」

リナは自分の個室に帰ってきて、ボックスを開きながらやたら低い口調で怒鳴った。
開けてびっくり玉手箱。受け取ったボックスに入っていたのは、正規の軍人の白い軍服ではなく…
ミリアリアやフレイのような若年の士官候補生が着用する、ピンクの軍服ではないか!
一緒に入っていた下着も、リボン付きの可愛いデザイン。どう考えても軍人が穿くものではない。

(なんだろう、なんだろう。どうしてこうなった。どうしてこうなった!?)

怒りと戸惑いと呆れが綯い交ぜになって、頭の中でぐるぐると回る。
もうリストに受領のサインをしてしまったので、突っ返すこともできない。
でも、それでも。そうだとしても。
まだ着るものか。意固地にそう考えて、ボックスを閉じると被服部に殴りこみに行く。

「たのもー!」
「し、シエル中尉?」

戸惑いながらも迎えたのは、内気そうな、眼鏡の似合う被服部の女性兵士。階級は上等兵。
丁度他の男性クルーの寸法取りをしていたところで、その寸法取りされていたクルーも、突然の闖入者に驚いて目をむいていた。
リナはそのクルーを無視して、ボックスをずいっと女性兵士のほうに押し付け、怒鳴ろうとする自分を必死に抑えながら、努めて優しく告げる。

「あー、上等兵……このボックスに見覚えがあるかい?」
「え、えぇ。こちらで仕立てました、シエル中尉の軍装と下着です。何かご不満でも…?」

何か間違ったことをしただろうか、という表情の女性兵士に、リナの頭の怒りマークの数が増えていく。

(だめだ、怒るなリナ・シエル。ここで怒ったら負けだ……お前は模範的な軍人のはずだ。頑張れリナ!)

そう自分に言い聞かせ、こほん、と咳払いをして続ける。

「上等兵…ボクの階級は中尉だな?」
「はい、シエル中尉は中尉であられます」
「ではボクは何歳かな?」
「に、23歳です」
「ではこれは何かな?」

ボックスをがぱっと開いて、その中に入っているピンク色の軍服を披露する。
…今寸法取りされているクルーが居心地悪そうに視線を泳がせているが、この際無視した。

「ああ、これはですね…シエル中尉にぴったり合うサイズの士官用の軍装が無かったので、
失礼ながら低年齢用のものが存在する、士官候補生用の軍装にいたしました」

このアマ、なんの悪びれもなく言いやがった。
またもリナの頭に怒りマークが浮かんだ。しかし、物理的な問題もある。サイズが合うものが無いのは仕方が無い。
しかし、しかしだ。メイソンのクルーはしっかり士官用の軍服を用意してくれたのに、何故アークエンジェルには無いのだ。

「……まあ、それは広い心で許すとして…この下着はなんだ?」

大切なものを諦める気持ちで絶望感と闘いながらも、とりあえずさて置くことにした。問題なのはこれだけではないからだ。
すぱん。音を立てて広げたのは、リボンとフリル付きのパンツ。
上等兵は、意を得たりとばかりに表情を花開かせ、得意満面で言ってのけた。

「あ、それは私の趣味です。可愛いでしょう?」
「今すぐ君の着替えと交換しろ今すぐにだ」

真っ黒な顔色でリナはうめいたが、この憎き上等兵の顔色は期待の半分も歪んではくれなかった。

「シエル中尉には似合いませんよ。それにサイズ、合わないでしょう?」
「~~~じゃ、じゃあなんとかしろ! 被服部なら、替えのものはいくらでもあるだろう!」
「さすがにプライマリ・スクールの女の子の着替えは、戦闘艦には置いてませんよ……あっ」

咄嗟に口を噤む上等兵。だが、もう遅かった。
リナの表情を見た男性クルーが、ひっ、と悲鳴を挙げて後ずさりし、上等兵も目を背ける。
背景から地鳴りのような音が響きそうな気配を纏いながら、リナは上等兵の肩を両手でがしっと掴む。

「上等兵……一週間以内に替えの下着を用意しなければ殺ス」
「は、はいぃぃぃ……」

リナはとても良い笑顔だった。


- - - - - - -


「全く、しゃれにならん…」

ぶつぶつと呟きながら、士官候補生用のピンクの軍服を着込んでいく。
とりあえず、ブラを確保できたのは幸いだった。ふくらみ始めたと実感した時から胸が妙に敏感になっていて、
ベッドに潜り込むときですら、内側の素材が擦れたときに妙な感覚を覚えたのだ。

「……女の子の身体ってこんな感じなのか……」

23年間女の子をやっておきながら、今更呟いた。
今までだって、性別のギャップが無かったわけじゃない。
服を脱いだときとかは…つるぺたのロリボディだったので、自分の身体を見て特に異性を感じたことなどなかった。
強いて挙げるならあったものが・・・・・・なくなったのを見たときは割とショックだった。あと、トイレとか…
何故今まで実感が無かったのかというと、このやたらと成長の遅い身体のせいだろう。
今になってようやく、女の子らしいところが出てきたから、ようやく意識するようになってきた。

(不便なことのほうが多いな……女の子って)

それが『昴』の正直な感想だった。
軍服を着こなし、立ち鏡の前に立つ。きゅっと襟の調子を確かめて、きりっと表情を引き締めてみる。
じっと自分の姿を眺めてみた。

(……ロリだな、相変わらず)

最初は……町で歩いているとたまに見かける小人症とか低身長症とかそんな感じの病気かと思っていたが、次第に違うものだとわかってきた。
成長しないのではない。『身体の時間が遅い』のだ。
そういった障碍を持った人は、背が小さいだけで肉体は年齢が進み、老いていくものだが、この身体はそうではなく幼い状態を保ち続けている。
アークエンジェルに乗る前までは。
それまでは12歳を超えたあたりから何の変化も無かったのに、少しずつ胸が膨らんできた。何かきっかけがあったのだろうか。
冷静になって、アークエンジェルに乗ったときのことを思い返してみる。
今までになくて、アークエンジェルに乗って初めて起こったこと。

――キラ・ヤマト

あの時間、あの場面を思い返すと、すぐに思い出すのは彼の顔。
彼との出会いはそんなに衝撃的だったのか。あの時感じた気持ちはなんだったのか。
思い返すほどに自分の中でのモヤモヤが大きくなっていく。なんで、あんなにときめいた?
自分はまだ『昴』であるはずだ。
昴が男にときめくなどありえない。あってはならない。

(……心が体に引っ張られている? まさか。心ってそんな簡単なものなのか…?)

でも、ありえないわけではない。
理屈で考えると、一目惚れのメカニズムは良い遺伝子を後世に残そうとする生物の本能であるとかなんとか、本で読んだことがある。
そう考えると、『昴』の記憶を持っていたとしても『リナ』の肉体がキラに対して反応した可能性もあるけど……

(って、なんで惚れてる前提で考えてるんだボクは!?)

ふと我に返って、頭をぶんぶんと振って浮かんできた思考を打ち消す。
今自分に必要なのは性に関する悩みじゃなくて、生き残るために必要な技術とかそんな感じのもののはず。
気晴らしにシミュレーターで訓練でもしよう。そう思い至って個室から飛び出していった。


- - - - - - -


「あれ、リナさん?」
(どうしてこうなった…)

シミュレーターに行く途中、格納庫の中を通ることになるのだが、そのハンガーにかかっているストライクを見上げて、ついキラのところに来てしまったリナ。
特に彼に用事なんてないはずなのに、何故か足を向けていた。
リナがコクピットを覗き込み、キラはOSの調整を行うためにコクピットに座ってキーボードに指を走らせている。
気まずそうな表情で視線を彷徨わせるリナ。んーと、と呟きながらキラのほうをチラっと見て、

「いや、特に用は無いんだけど…疲れてないかなーって思って?」
「? 一回ぐっすり寝たら、疲れは取れましたよ」
「そ、そう?」

あはは、と乾いた笑いを浮かべるリナ。キラは首をかしげて彼女をじっと見ていた。
びくりと肩を震わせて、自分の身体をチラチラと見下ろす。な、何か変なところあったのかな。
寝癖立ってる? 着こなし方変? 頭の中で、すごく気になってぐるぐると思考が回る。

「な、なに?」
「……リナさんの軍服姿、初めて見ました」
「うん…今日ようやく仕上がったばかりだから。どう? 似合うかな…」

聞いてから、しまった、と後悔する。恋人か。付き合い始めて1ヶ月未満か、と自分に突っ込みたくなった。
キラは彼女の軍服姿を上から下まで見て、頬をほのかに染める。
リナは反射的に、タイトスカートをくいっと下に引っ張って、視線を逸らした。うぅ、恥ずかしい…。

「はい…似合ってますよ。……可愛いです」
「……! ありがと…ぉ」

(あー、やばい、嬉しい……うわー! あー! やばい、やばい! すっごい嬉しい!)

リナは胸の奥に響いてくる、熱くて身体が震えるような喜びに踊りだしそうになってる。
ふにゃふにゃになりそうなのを必死にこらえながらも、彼をじっとまっすぐ見てるつもりだったけど…。

「? り、リナさん、何かおかしいですか?」
「え、え、あ。あははは! な、なんでもない! なんでもない!」
「???」

いつの間にか緩んでいたらしい顔を手で挟んで、不自然に快活な笑いを発してる。
そんなリナの明らかな挙動不審に、キラは疑問符を浮かべて眺めるだけだった。
それが気まずくなって、話題を変えようとキラが入力しているコンソールを覗き込んだ。

「き、キラ君、それは何をしているんだい?」
「あ、これは…戦闘データのチェックと、それをOSに学習させて最適化する作業を行っているんです」
「ふぅん……? ちょっと見ていいかい?」
「あ、はい、どうぞ」

どれどれ、と、彼の作業中のコンソールを覗き込んだ。
今画面に映っているのは、ニュートラルリンケージ・ネットワークの構成と設定のパラメーターだった。
それがストライクの各部センサーとジョイントの関連、インプットロジカル、メタ運動野も展開している。
その全ての数字と機体に直結するプログラムをじっと真剣な眼差しで見つめる。
頭の中で、それらがどうストライクの動きに直結していくのか、妙に冷静になった頭で計算していた。

「……」
「リナさん、わかるんですか?」
「…キラ君の戦い方なら、このバイラテラル角をもう少し高めに修正したほうがいいと思うんだけど」
「でもそうすると、今度は第二擬似神経野がヒートしてしまうから、代わりにメタ運動野で物理慣性の補正を行ってるんです、ほら」
「それだと無駄な動きにならないかい? シュベルトゲベールを振り回してるところを見て感じたけど、
どうもメタ運動野に余計なパラメーターの肉付けがされてるような気がしてならない。
運動ルーチンを、慣性に対してもうちょっと柔軟に対応できるようにここの伝達数値を……こうしたほうがいいんじゃない?」
「そ、それをすると、もっとピーキーになってしまいますよ? ストライクの神経野だってもつかどうか…」
「大丈夫、キラ君にならできるって!」
「そうですか…が、がんばります。でも、よかった」

途端に笑顔になるキラ。リナは、何? と見返す。

「僕と同じコーディネイターだったんですね、リナさん。仲間が居て、ホッとしてるんです」
「えっ……? ち、違うよ。ボクはナチュラルだよ」
「そうなんですか?」
「親がナチュラルだからね。……って、キラ君もそうか」

自分はコーディネイターじゃないほうがいい、とリナは心底そう思っていた。
今までの自分の功績とか能力が、人に弄られて出来たものだとしたら、
それら全てが…いや、人生そのものを否定されたような気分になるから。
だからといってキラの能力は空しいものだとか、そう思えるほど高慢ではないはずだ。
キラが何かを言おうとしたところへ、チャンドラ伍長のアナウンスが鳴り響く。

〔ブリッジより各員へ。1820時より救援艦と接舷、要救助者を収容する。担当クルーは受け入れ態勢をとれ。繰り返す――〕
「救援艦?」

また民間人が乗り込むのか――と思ったが、直後、マリューの話を思い出した。
確か「接触した救援艦にはメイソンのクルーが乗っている」と。
ということは、これから乗り込むのはメイソンのクルーなのか。この艦もアルテミスに向かっているし、可能性は大だ。

「キラ君、ボクも要救助者の受け入れを手伝ってくるよ! ヒマだしね!」
「あ、僕も行きます!」
「キラ君はそのままストライクの整備をしてていいよ。どうせ入ってくるのは軍人ばかりだろうし」

メイソンのクルー達は善玉の人間ばかりだが、キラを見てどういう反応するかは未知数だ。
だから、こう言ってはなんだが、キラの紹介は後回しにすることにした。

キラを置いて、接舷用のデッキがある区画へと身体を流していく。
壁を蹴り、まるで水を泳ぐように勢いをつけて流れ、すぐに接舷用のデッキに到着した。
もう既に担当クルーがハッチに列を作って集まり、敬礼をして出迎えているところだった。
リナもその列に加わり、敬礼で迎える。流れてくるクルー達は、どれもこれも見知った顔ばかりだった。
オペレーターのランディ伍長、操舵手のリー軍曹、火器管制のアラン軍曹、自分のメビウスの専任整備員をしていた、ユーリィ伍長…
他にも大勢いるが、ほとんど知った顔だ。皆、「シエル少尉じゃないですか!」「生きていたんですね」「ヒュー! レディ・シエルじゃないっすか!」と、十人十色の反応をしてくれる。
リナも笑顔で手を叩いたり敬礼を交えたりして、彼らとの再会を喜び合う。

「……ショーン少佐!」

その中に、自分に「生きて帰れ」と命令してくれたCICの砲雷長の姿を見つけることができた。
相変わらず表情の分かりにくい、冷静沈着な30代半ばの男。オールバックで眼鏡をしていて、やり手の証券マンのような雰囲気をかもし出している。
敬礼を交え、喜びに表情を緩ませるリナ。そのリナに、ショーンが口を開く。

「私の命令をよく守ったな、シエル少尉。…いや、今は中尉か」
「……いえ…生き残れたのは、共に戦ったMA隊の同僚のおかげです。私だけ、生き残ってしまいました…」

リナは、僚機の三人の顔を思い浮かべて気持ちが沈む。
彼らを踏み台にして生き残ってしまった。そういう気持ちになってしまうのだ。
そのリナの肩に、ショーンの手が置かれる。

「それは傲慢だ、シエル中尉。彼らは貴様が生き延びたから死んだわけではない。
…戦場での人の生き死には、神の気まぐれでしかない…シエル中尉には、まだやるべきことがあるということなのだろうな」
「……はい」

よし、とショーンはもう一度リナの肩を叩き、去ろうとして、

「そうだ、シエル中尉。これを」
「?」

丁寧に折りたたまれた便箋を手渡される。また、紙。辞令か? とも思うが、辞令がこんなに薄い紙であるはずがない。
なんだろう、手紙? そう思って開こうとして、ショーンの手がその手を遮った。

「ここでは開くな。…シエル大佐からの手紙だ」
「おやっ……大佐から!?」




ぐあー! 丸々3日も開けてしまいました…!
PHASE 13をお送りしました。読んでいただきありがとうございますっ
そして、こんな拙作にいつも感想を下さる皆さんにとても感謝しております。
皆さんの感想は私の励みです。これからもよろしくお願いしますっ

今回はリナの心境の変化にフォーカスを当ててみました。半分くらい番外編です。
次回からはちゃんと本編に戻ると思いますので、どうか忍耐をもって見守ってあげてください…(礼

次回! ウチでは飼えませんから、元のところに返してらっしゃい!
それではまた更新しましたら、よろしくお願いします(礼ー)



[24869] PHASE 14 「ターニング・ポイント」
Name: menou◆6932945b ID:bead9296
Date: 2011/01/07 10:01
メイソンのクルーの受け入れが終わり、艦内の緊急幹部会議が開かれた。
士官食堂のテーブルを動かして巨大な一つのテーブルを作り、それを全員で囲むといういかにも「緊急」なものだが。
メイソンとアークエンジェル両艦の幹部士官が一堂に会した。議題は、アークエンジェルの航行目的の確認と、メイソンクルーの待遇だ。

リナはアークエンジェル側かメイソン側か一瞬迷ったが、軍人は原隊復帰が原則なので、メイソン側に座ることにした。
席順は副長のギリアム中佐を筆頭に、航海長のエスティアン少佐、砲雷長のショーン少佐、船務長のホソカワ大尉と続いて、
メイソンのMA隊唯一の生き残りであるリナが、メイソンのMA隊隊長に急遽任命されて5番目の席に座った。
それ以降は各部署の担当の下士官が並んでいる。主にブリッジクルーの面々だ。

戦闘艦の幹部士官というだけあって、ここに召集された士官は当然のように白い軍服に身を包んでいるのだが、
一人だけ幼年の士官候補生が混じるという、なんともリナKYな状態になっていた。
アークエンジェルで幹部会議に召集されたのはこれが初めてではないけれど、リナはメイソンの幹部士官達と初めて並んで座ったので緊張していた。
見た目は落ち着いてはいるものの、変に肩肘が張っていて微動だにせず、視線もずっと一点だけを見つめている。
その容姿も合わせて、今のリナはまるで置物のフランス人形のようだった。

「…………」
「シエル中尉、水でも飲んで落ち着け」
「あ、ありがとうございます」

隣に座っているホソカワ大尉に緊張を見透かされ、勧められた水を努めて静かに飲む。
まるで親戚会議に無理矢理付き合わされた姪っ子みたいなリナに、マリューは目を細めてから、こほんと咳払いをして宣言した。

「それでは、アークエンジェル並びにメイソンの合同幹部会議を開催いたします。
議長は第8機動艦隊所属、アークエンジェルの艦長であるマリュー・ラミアス大尉が執り行います。
現在の艦の状況は各々手元に配布しました資料に記されていますので、決定や発言の参考にしてください」

どれ、と、リナは目の前に置かれた資料を手にとって捲る。ふむふむ、ふむふむ。
……思った以上に大変なことになっていた。何故危険を冒してまでユーラシア連邦所属のアルテミスに向かおうとしていたか、理由がわかった。
水がほとんど無いのだ。
あらゆる宇宙艦艇には、水を再利用するための循環装置が前世紀より標準装備されているのだが、それを考慮しても水の絶対量が全く足りていない。
しかも避難民やメイソンのクルーという、通常居るはずの無い乗員がいるわけだから、現実的には、この資料に書かれた数値よりももっと厳しい状況になっているはず。
恐らく10日ももたずに断水状態になるだろう。これは宇宙空間という果てしない距離を航行する艦艇にとって、相当に厳しい数字だ。

「アークエンジェルの航行目的は、G兵器を連合軍本部アラスカまで輸送することです。そのために私達は、途中で必要な資源を補給せねばなりません」
「しかし、ここから先は地球軍の基地は無い。途中で補給艦と合流できない限り、水の補給は期待できませんな」

そう発言するのは、ホソカワ大尉だ。彼は日系アメリカ人で、日本人の容姿をしていながらも大西洋連邦に所属している。

「だが俺達が五体満足でアラスカに到着するためには、デブリ帯を迂回する針路を取らなきゃならん。これによって、直進に比べて3日ほどの遅れが生じるだろうなぁ」

そこに口を挟む、航海長のエスティアン少佐。陽気な性格はアメリカの南部育ちだからだろう。つぶらな瞳が彼の主な特徴だ。

「それでは我々は、本部に到着する前に枯渇してしまいます!」

ナタルが非難するような語調で反論するが、エスティアン少佐は肩を竦めるだけだ。

「そんなこと言われても、デブリ帯の中を突っ切るわけにはいかんだろ?
いくら新造艦だからって、デブリにぶつかっても平気ってわけじゃあないだろうしな」
「断水状態での行軍となるわけか。我々軍人は何日かは耐えられるが、避難民や現地徴用の兵には厳しい事態だ」

冷静沈着なショーンも、この事態に表情を翳らせていた。

「いや…」
「おや、エンデュミオンの鷹殿。何か?」

高級士官に馬鹿丁寧に二つ名で呼ばれて、ムウはエスティアンに苦笑した。

「その言い方よしてくださいよ。…思い当たる節があるんですよ」


- - - - - - -


「なるほど、コロニーの残骸から水を…」
「良い案だ、フラガ大尉。そこには確かに生活用水や自然循環用水が大量に蓄積されている。
少しおすそ分けしていただくとしよう」

ホソカワとショーンが、ムウの発案に唸って賛同する。
リナも、なるほどなぁ、とやや他人事のように聞いていた。リナは作戦立案や戦略に関しては興味が無いので、ほとんど黙って聞いているだけだった。
会議の内容を右から左にして表情だけは聞いている振りをしながら、キラの「可愛い」という言葉とその時の表情を思い浮かべて、ぼーっとしていた。

「――シエル中尉はどう思う?」
「……は。私は異論ありません」

ギリアム副長に突然振られて、用意していた言葉で反射的に答えた。
それを聞いたギリアムは、これはしたり、とばかりに笑顔を浮かべた。リナは、何? と、思わず彼の顔を見つめてしまう。
その視線を無視して、

「よし、ではシエル中尉に氷塊の掘削作業を任命することに決定した。頼んだぞ、シエル中尉」
「ハッ、シエル中尉、氷塊の掘削作業を拝命いたします……って、えぇっ!?」

大事な会議の場だというのに、思わずノリ突っ込みをしてしまう。
氷塊の掘削作業といえば、似たようなこと――岩石破砕作業を行ったことがある。
はっきり言って野良仕事だ。機体が岩石にぶつからないようにひどく神経を使うし、生命の危険がある上に地道な作業だ。
ムウの方をばっと見るが、頑張れよ、とわざとらしい笑顔を返してくるだけ。
うまくやれば、キラに押し付けることもできたのに…。
これからはもっとコミュニケーションしないとなぁ、と、生温かい眼差しを皆に向けられてしまいながら呆然と考えるリナであった。

「さて、差し当たってのアークエンジェルの行動は決定しました。
次に、メイソンのクルーであるギリアム中佐達のアークエンジェルでの待遇ですが…私は、この艦の指揮権をギリアム中佐に委ねたいと、私は思っています」
「……妥当なところだな」
「私もそれが相応しいと思います」

マリューの提案に、ムウもナタルも口々に賛同する。
口に出さないが、アークエンジェル側の士官達とメイソン側の士官も無言の肯定をしている。
当然だろう。現在最も階級が高いからという理由でマリューが艦長に就いているなら、艦長を交代するのも同じ理由だ。
たとえ副長だったから艦長に繰り上がったという事実があったとしても、技術士官であるマリューが充分な艦長の能力を備えているとも思えない。
だから、マリューの提案に皆が肯定するのは自然の流れといえた。

(……!?)

しかしそれを聞いて、リナは微かに目を見開いて、内心動揺した。

(ちょ、ちょっと待ってよ…ここでマリューが艦長じゃなくなったら、筋書きが変わるんじゃないか!?)

ガンダムSEEDの原作のことはよくわからない。しかし、少なくともギリアム中佐が艦長をしていたなんてことは無かったのは知っているし、
これでもしギリアム中佐が艦長になったら、マリューと同じ判断をするとは限らないし、自分が知っている物語とは全く違う世界に進むかもしれない。
これは自分が来たから起きた影響ではないだろう。たとえ自分が居なかったとしても、メイソンのクルーは無事脱出して、アークエンジェルに乗り込むはずだ。
でも自分が居たから、その小さな影響が大きな影響へと成長して、ここにメイソンのクルーがいる…というのも、自意識過剰だろうか。

(……! まさか……ねぇ)

別の可能性も考えたが、それは会議に集中して打ち消すことにした。
ギリアムは何事か考えるように目を伏せてから、しばらくして立ち上がり……帽子を手に背筋を伸ばして全員を見渡し、高らかに宣言した。

「……強襲機動特装艦アークエンジェルの指揮権を、マリュー・ラミアス大尉から、私フィンブレン・ギリアム中佐へと『貸与』するものとして承諾する。
あくまでアークエンジェルは第8機動艦隊に属するものであって、この指揮権委譲を、私の原隊である第7機動艦隊に合流するまで、もしくは連合軍本部に到着するまでの期限付きとして了承していただきたい」
「期限付き…?」
「いくら階級が違うからとはいえ、所属の部隊が違うからな。あくまで臨時の処置、ということだ」

疑問を投げ返すマリューに、ギリアムの代わりにショーンが答える。
「わかりました」とマリューが短く了承して、引き続き議長として役目を果たすために息を吸った。

「次に中佐以下のクルー達の職務についてですが――」


- - - - - - -


長い長い会議がようやく終わった。その長い時間を有効に使ったおかげで、アークエンジェルに乗って以来初めてまとまりのある内容だった。
これも、ザフトの追跡を振り払えたからこそ出来たことだろう。メイソンのクルーも搭乗したことでクルー不足も解消され、ようやく正規軍らしくなってきた。
ブリッジのクルーは再編成、以下の構成となった。

艦長:フィンブレン・ギリアム中佐(元メイソン副長)
副長:マリュー・ラミアス大尉(元アークエンジェル艦長)
CIC統括:ヒルベルド・ショーン少佐(元メイソンCIC砲雷長)
オペレーター:ナタル・バジルール少尉(元アークエンジェルCIC統括)
索敵:ジャッキー・トノムラ伍長(元アークエンジェル副操舵手)
操舵手:アーノルド・ノイマン曹長(配置換え無し)
副操舵手:ツァン・リー軍曹(元メイソン操舵手)
電子戦:ダリダ・ローラハ・チャンドラII世伍長(配置換え無し)
砲術担当:ライノ・アラン軍曹(元メイソン火器管制)

見事にアカデミー生のメンバー全員がブリッジから追い出される形になってしまった。短いブリッジ勤務である。
その他艦内スタッフは、メイソンの航海科のメンバーや船務科のメンバーが艦内維持を務めることになった。
アカデミー生は、それぞれの科に配置されることになったらしい。それも見習いとして。まあ階級も無いただの現地徴用の兵なら、こんなところだろう。
飛行科――要は艦載機のパイロットや整備員の面々は、メイソンの整備員が増えるだけで、緊急で作られた編成とほとんど変わらない。

1番機:ムウ・ラ・フラガ大尉(特務輸送艦MA隊1番機)
2番機:リナ・シエル中尉(元メイソンMA隊4番機)
3番機:キラ・ヤマト

キラ・ヤマトを編成に入れるにあたって、やはり一悶着があった。何故ただの学生を、最も危険の高いパイロットに任命するのか…それを説明するのが苦しかった。

「彼はコーディネイターで、艦で唯一ストライクを動かせる人物です」

そう実直に言い放ったのはナタルだった。それを聞いて、ギリアムは眉を顰め、彼に関する質問をまくし立てた。
彼のナチュラルに対する感情は? 信頼できる人物なのか? あれ一機寝返ればアークエンジェルを沈めることができると知って乗せたか?
こういった質問が延々と投げかけられる。彼は現実主義で慎重な人間だ。
地球軍は、ザフトとではなくコーディネイターと戦っていると言っても過言ではない。そのコーディネイターに、地球軍最高機密のストライクに乗せて戦わせるのだ。
彼の心理状態や環境が気になるのは当然と言える。しかし、ナタル他アークエンジェルのクルーは、半分もまともな回答ができずにいた。

「彼はこのアークエンジェルに乗っている、ナチュラルの友人を守るために戦っています。話してみても、誠実で信頼できる少年だと感じました」

ギリアムに視線を真っ直ぐ向けて言い放ったのは、アークエンジェルのクルーではない、リナだった。
ギリアムは、予想外の場所から答弁が返って来たことに面食らいながらも、じっとリナの目を見返していた。

「味方なのだな?」
「我々が彼の味方である限りは」

ギリアムの問いに即答する。その瞳は反論を許さないような、確固たる眼差しだった。
ギリアムは、キラに対するリナの信頼を感じ取り、ふぅ、と溜息をついて、

「……わかった。時間があれば、私からも彼を面接してみよう。君らの意見も参考にしてな」
「ありがとうございます」
「君が礼を言うことではないだろう?」

律儀に礼を言ってくるリナに、ギリアムは苦笑を浮かべた。


- - - - - - -


〔艦内各員に達する。この度開かれた幹部会議において、艦長に就任したフェンブレン・ギリアム中佐だ〕

艦内に響き渡る艦内放送を、リナは格納庫で作業用ポッドのミストラルの調整をしながら聞いていた。
整備をしていた整備員達も、その放送に聞き入るように手を休めていた。

〔マリュー・ラミアス大尉の指揮の下、ザフトの攻撃をよく凌ぎ、これを撃退してくれたことに、私は諸君に敬意を表したい。
これより貴官らは私の指揮下に入ることになるが、諸君らにはこれからも模範的な大西洋連邦の軍人として努め、より一層の奮闘に期待する〕

ざわざわと格納庫にどよめきが走るが、それはすぐに次の放送で収まることになった。

〔――これよりアークエンジェルは、デブリベルトにある廃墟コロニーへと針路を取る。目的は廃墟コロニーに残された用水の確保だ。
航海科は漂流物の監視を厳となせ。船務科は漂流物の激突に備えて待機。整備班は作業用MAの発進準備を整えよ〕

各科ごとに命令を飛ばすと、途端にそれぞれの科が規律正しく動き始める。
それを眺めて、リナもミストラルの調整を再開した。氷塊掘削作業という、なんとも忍耐の伴う仕事に溜息を零しながら。





こういうシーンも、たまには必要…ということで、PHASE 14をお送りいたしました。
なんていうか、退屈な話で申し訳ない(汗) 次こそは、次こそは本編に…

コアファイターがなんでエールストライクと合体したのか、その辺もちょっと話していきたいのですが、
次回コアファイターが出撃するときに説明すると思います。それは今はさて置いてあげてください…

次回! この超音波発生器、ON/OFFスイッチがありませんが…
それでは、次の投稿もよろしくお願いします!(礼

11/01/07:脱字を修正&内容を少しだけ訂正しました。



[24869] PHASE 15 「ユニウスセブン」
Name: menou◆6932945b ID:bead9296
Date: 2011/01/08 19:11
デブリベルト。
L5宙域に存在する汚染された宙域で、ザフトの制空圏内でもある。
大規模な戦闘が行われた宙域でもあり、撃破された艦艇や、核攻撃で破壊されたコロニーの残骸が大量に浮遊している宙域だ。
ラグランジュポイントだけあって、どの残骸も惑星の影響を受けないので、好き勝手に動き回る瓦礫が艦艇にはとてつもなく危険なところでもある。
当然、それはフェイズシフトを装備していない機体にも同じことが言える。
だからリナは、残骸の動きにも注意を払いながらミストラルを命がけで動かしていた。

「……う、わ。 このっ…ん…」

こまめに操縦桿を動かし、姿勢制御スラスターを噴いて残骸の間を縫うように動いていく。
リナにとってラグランジュポイントでの作業は初めてで、ここまで動き回る残骸の中で作業をしたことがない。
前に経験した岩石掘削作業は、月軌道を回る、鉱物資源を含んだ岩石の調査であり、その岩石や周囲の漂流物は常に一定方向に流れていたから比較的楽だった。
接近警報に神経を集中させ、複数のモニターに常に注意を配りながら、かつ操縦桿を握って常に最善のルートを通っていく。

〔シエル中尉、無事ですか?〕
「ン……クリアに聞こえる。大丈夫だよ、バジルール少尉」

ナタルに敬語で話されるのも変な感覚だなぁ、と思う暇も無い。機械的に答えながら操縦桿を操り、高速で接近してきた残骸をやり過ごす。
レーダーによれば、もう少しで巨大な構造物が見えてくるはず。それが、あのユニウスセブンに違いない。

(コロニーを直接攻撃、か……)

それを聞いて思い出すのは、あのヘリオポリスだ。
あのコロニーもザフトの攻撃によって崩壊した。戦争において、コロニーなんて考慮に値しないものなのだろうか。
彼らは宇宙で住む国家群だから、コロニー内での攻撃がどんな悲惨な結果を生み出すかは充分承知のはずだ。
それでも彼らは攻撃する。毒ガスの開発者が、被害者のことを慮らないのと同じように。
そしてこのコロニーは、地球軍の核攻撃によって破壊された。敵軍の街を爆撃するのと同じ感覚で。

(折角の宇宙時代なのに、おちおちコロニーに住めやしないなぁ…)

平和になったらコロニーに住みたい…そう思っていた時期が私にもありました。
そんな風に考える余裕が出てきたのは、段々操縦に慣れてきたおかげであり、コロニーに近づいてきて細かい漂流物が減ってきたおかげだ。
コロニーの外壁だったであろう汚れきったガラス壁を乗り越えたとき、モニター一杯に、白く停止した町並みが広がった。

「これが……ユニウスセブン」

その光景を見て、呆然と呟く。
宇宙空間に空虚に漂うビル。大量に道路に横たわった車輌。公園だったらしい、荒れた広場。
それら全てが白く濁り、表面を薄く覆った氷で閉じ込められている。

(まるでSFだな…いや、もうSFか)

その非現実的な光景に呆然と呟いて、スラスターに火を灯してゆっくりと近づいていく。
近づいてみると、ビル群の隙間はほとんど漂流物が無いことに気づき、そこにミストラルを這わせる。スロットル開度を微小、底部センサーに気を配りながら、街灯や標識の下を潜って進んでいく。

(こうして見ると、まるでエイプリルフール・クライシス直後のニューヨーク市だなぁ…)
「っうわ!?」

目の前を過ぎったものに、思わず悲鳴を挙げるリナ。それに反応して、オペレートしているバジルールが慌てて通信を開いてきた。

〔シエル中尉! 大丈夫ですか!?〕
「だ、大丈夫……目の前を、漂流物が流れてびっくりしただけ」

心配そうな声をかけてくるバジルールに、額の冷や汗を拭いながら取り繕うように答える。
漂流物は全く無いわけではなかった。…人間が浮いている。
ユニウスセブンの住民だ。全身が紫色っぽくなり、眼球が凍って、カサカサに乾いて漂っている。そういった死体が無数にビル群の間を漂っている。
それらから目を背け、吐き気を我慢しながらマニュピレーターで死体を目の前から押し退ける。
それでもリナはビル群の間を通り抜けることを選んだ。気分の問題はあるが、漂流物に激突してこれらの仲間入りしたくないからだ。

(人間はぶつかっても、あっちから壊れてくれるしな…)

さっきから、ドン、ドン、と機体に小さな激突音が断続的に響く。死体がぶつかっているのだ。
それらは例外なく、まるで腐った樹木の幹のように脆く壊れて後ろのほうに流れていく。その感触と音が、リナの生理的嫌悪を刺激した。
アークエンジェルに搭載している火器という火器を全弾撃ち込んで焼き払ってもらいたい、という妄想をしながら突き進むと、ビル群がなくなり、次第に自然が多くなっていって、巨大な河が見えた。
コロニーのミラー光を取り入れるガラスの壁ではなく、実際に水が流れていた河だ。しかも、幅はアークエンジェルの全長ほどあるのではないだろうか。

「……シエル機よりアークエンジェルへ。河川を発見しました。掘削作業を開始します」
〔了解。ユニウスセブンの地表にも、未だ多数の漂流物が漂っています。くれぐれも注意してください〕
「了解」

ナタルの注意喚起に応答して、マニュピレーターを駆使して、まずは凍り付いてた土手と河川の間に注意深く掘削用のドリルの刃を押し当て、トリガーを引いた。


- - - - - - -


「つ、疲れる…」

アークエンジェルへと削りだした氷を輸送し、またユニウスセブンで氷塊掘削する作業を繰り返して、既に6時間が経過した。
河川の向こう岸まで氷を削り出したところで、さすがにこのチートボディーも若干の疲れを訴えてくる。
それになにより、精神的な疲れが激しい。氷もぶつからないように漂流物を避けながら移動するというのは、ひどく神経が削られる作業だ。
眠い。もしかしたら目の下にクマができているのではないだろうか。…帰ったらムウやキラに顔を見せられないな、と思いながら氷塊掘削作業を再開する。

〔シエル中尉、あと2tの氷を積めばアークエンジェルの貯水タンクが満載になります。…あと一息なので、頑張ってください〕
「了解…」

珍しく、ナタルが労いの言葉をかけてくれた。6時間もこんな地道な作業をしている自分に、同情でもしてくれたのだろうか。
いや、ナタルも、アークエンジェルのクルーも皆、この汚れきった宙域で、漂流物や敵機への警戒に神経をすり減らしているはずだ。
それでも自分に気遣ってくれたナタルは、やはり自分より年上なだけはあるな…と尊敬の念を抱いた。

「ありがとう、バジルール少尉」
〔! ……い、いえ……〕

笑顔でナタルにお礼を言い返し、氷の掘削作業を続ける。
削りだした、小型バスぐらいの氷塊をアンカーで接続して牽引していく。アンカーの負荷値を見ると、1G/2.7tと表示されていた。少し気合を入れすぎたらしい。
慎重にスロットルを開けて、かなり削られて底が見えている河川を見下ろしてからゆっくりと離れていって…アークエンジェルに機首を向けた。
ようやく長い掘削作業から解放される。そう安堵して、漂流物を避けながら飛翔していると――警報が鳴り響いた。

「!?」

レーダーにボギーを捕捉。質量は比較的小型なドレイク級よりも一回り小さい。熱量は戦闘艦のものではない。
民間船舶だろうか。センサーを戦闘用に切り替えて、最大望遠でそれを望む。
白と緑でカラーリングされた艦。武装の類は見られない。Nジャマー数値がクリアなままのところを見ると、本当にただの民間船舶なのだろう。
ミストラルに搭載されているコンピューターに、識別データを照合する。……ザフトの民間船舶が表示された。

(ま、まずい。要人が座乗するタイプの船じゃないか!)

そういった船は大抵護衛の軍人が乗っている。それに見つかれば通報され、またもザフトとの追いかけっこが始まってしまう。
撃沈するか……という黒い考えが浮かぶが、ミストラルに、通報される前にあのサイズの船を一瞬で撃沈できるほどの火器は搭載されていない。
やはり気づかれる前に、さっさと撤退するのが一番だろう。しかしこちらが迂闊に動けば、バーニアの熱量を感知されて見つかってしまう。どこかに隠れるべきか?
アークエンジェルに応援を頼もうとしても、奴はその通信さえも拾い上げてこちらを見つけてしまうだろう。
幸い、あちらはこちらに気づいておらず、こちらに左舷を向けて悠々と巡航している。今なら、なんとかなるかもしれない。
なんとかして、バーニアなどを使わずに移動しなければ……。そう思って、底部についている氷塊を眺めた。

(………2tくらいなら、無くてもいいかな…?)

緊急事態なら止むを得ないだろう。そういう言い訳を用意して、ドリルを氷塊に押し当てて分解していく。
一つ200kg程度の氷に細かく砕くとそれをマニュピレーターでかき集め、後方確認。後ろには何も無い。
よし、と覚悟を決めて、氷塊の一つをマニュピレーターで掴み、

(第一球……投げました!)

ぶんっ。前方に投げる。氷塊との距離が離れていくのを見て、速度計も見る。見事に計算は的中した。
氷塊を投げたときに発生する慣性を利用して、それを推力にしているのだ。機体は氷塊を投げた方向とは反対に向かって進んでいる。
速度は大したことはないが、それで確実に進んでいるので目をつぶる。
進みたい方向に機首を向けるときは、内蔵されているバランサージャイロを利用する。かなりゆっくりだが、スラスターを使うわけにはいかない。
そうした努力が実を結んだのか、ザフトの民間船舶は気づかないようだ。あるいは、周囲に注意を配っていないからか。
尤も、ミストラルよりも大きくて、熱量を伴わなずに動き回っている残骸などいくらでも漂っているのだから、気づかないのも道理だろうが。
手元にある氷塊が半分程度になったところで、ようやく船がミストラルのレーダー範囲外に出た。

(よし……あちらさんのレーダーがどれだけ強力かわかんないけど、所詮は民間船舶。コロニーの外壁を利用すれば上手くやり過ごせるはず…)

アークエンジェルへと機首を向け、おそるおそるスロットルを開けてユニウスセブンから離れていく。
見つけたのか、見つけられなかったのか。その船はこちらに反応することなく、ただただ巡航しているだけだった。


- - - - - - -


「――報告は以上です」
「ご苦労だったな、シエル中尉」
「いえ、戦闘に比べれば…まだ楽です」

氷塊発掘作業から無事帰還し、報告のために艦長室に向かったリナ。出迎えたのはマリューではない、ギリアムだった。
艦長室に着いて、そういえば艦長が交代したんだったな、と思い返した。アークエンジェルの艦長がマリューじゃない、というのも違和感があるけれども。

「君が発見したザフトの民間船舶だが、ミストラルの航行データから誰の座乗艦かチャンドラ伍長に解析をさせることにしよう。
誰が乗っていたかによっては、ザフトのこれからの作戦行動や軍の配置が予測できるかもしれん。よくやったな、シエル中尉。よく休め」
「ハッ、失礼します」

サッ、と規律正しく敬礼し、艦長室を後にしようとして…

「そういえば、シエル大佐からの手紙は読んだかね? 作戦行動に関係する内容があれば、それを聞きたいのだが」
「! ……これから時間がありますので、読みたいと思います」
(やばっ、忘れてた…)

すっかり忘れていたリナ。それを顔に出さず、敬礼と共に艦長室を辞した。
その後姿を見送り、ギリアムは小さな溜息と共に椅子に背を預ける。

「シエル親子には、毎度手を焼かされる……」

苦笑してからインターカムを手に取り、格納庫に、ミストラルの航行データの解析と報告を命じた。


- - - - - - -


《愛する我が娘、リナへ》
《リナが前線に立ち、一週間が経った。まだお前の戦死報告を受けていないということは、生きているということなのだろう》
《それでいい。リナはこの戦争で死ぬべき娘ではないからだ》
《それでも私はリナにヘリオポリスに行くことを黙認した。いや、私が行かせた》
《私が行かせたことを知ったら、怒るだろうか? 悲しむだろうか?》
《どちらの反応をしてもいい。私を憎みたいのであれば憎んでも構わない。だが、リナには行って欲しかった》
《リナにはそこへ行くことが必要だったからだ。いや、世界には、リナがヘリオポリスに行くことが必要なのだ》
《そこであらゆる壁にぶつかるだろう。苦しい選択を迫られることもあるだろう》
《お前はお前が正しいと思う道を行け。どのような結果が待ち受けていたとしても、そこに正しいも正しくないも無い。それがリナの道なのだから》
《キラ・ヤマトには出会ったか? 彼と共に行け。彼と共に道を拓け。地球軍や私にこだわる必要は無い》
《もう一つ。賢明なリナには分かっていることだろうが、己の能力を迂闊に晒さないほうがいい》
《しかし必要だと思うのであれば惜しむな。リナが、賢明な知恵と判断力を以って正しく行使することを私は切に望む》
《自由と正義が、リナと共にあらんことを――》
《発 デイビット・シエル》
《宛 リナ・シエル》

自分の個室でその手紙を読んでいたリナは、手に知らないうちに力が篭るのに気づかず、手紙を潰してしまった。

「親父……あんたは何者なんだ……!?」




親父はなんなのだー。PHASE 15をお送りいたしました! 読んでくださりありがとうございます。
意外に前回のが受けがよかったので驚きです。ありがとうございますっ
そしてスルーされるラクス。原作の色んなイベントが消える気がしてなりません。
戦闘がなくなって久しい拙作。これって本当にガンダムか? と自分でも疑いたくなります(汗

次こそ戦闘があるんじゃないかなぁ。あるといいなぁ。
もう完全にオリジナルルートで頑張るしかなす。どなたか拙作の外伝書いていただけたらなぁと妄想したり…

擬似フリーダムっていう面白いネタもいただきましたw 魔改造過ぎて好き嫌い別れそうですが、私的には楽しそうです(笑)
もうマードックに頑張ってもらうしかありませんなぁ!
いつも感想を下さる皆様、ほんとありがとうございます。これからもどうかお付き合い下さい(礼

次回! チャ○ズは置いてきた、今回の戦いについていけそうにないからな。
それでは次の投稿もお付き合いください。それでは失礼いたします(礼



[24869] PHASE 16 「つがい鷹」
Name: menou◆6932945b ID:bead9296
Date: 2011/01/11 02:12
「クライン嬢の艦からの通報か」
「ハッ。2310時のものです」

ザフト軍、L5宙域哨戒中隊の一翼を担う、ローラシア級「ヴィーラント」のブリッジで、
緑服の青年がオペレーターがプリントアウトした報告書を受け取り、通報の内容に目を通していく。

「この宙域で行動しているのは、クライン嬢の艦と我々しかいないはずです」
「……もしかしたら、クルーゼ隊が逃したという地球軍の新兵器かもしれないな?」

その報告書を艦長に手渡しながら、薄い笑みを浮かべる。
どことなく社会科の教師を思わせるような、四角い眼鏡をつけた壮年の艦長はその報告書を眺めて眉を顰め、歩き去ろうとする青年に突っ返す。

「後方だから楽ができると思ったら、いきなり最前線ですか」
「そんなことを言っているから、哨戒艦の艦長なんだよ。……オレのシグーを暖気しておけ。針路を、敵艦の予測航路に向けろ。地球に向かうぞ、奴らは」

苦笑しながら命令すると、小気味良い返事と敬礼を返す艦長。それを背にブリッジを出ようとして、ハッチが先に開けられた。

「マカリ」

鈴が転がったような細く高い、幼い声。
名を呼ばれた青年――マカリは、声の主であり、ドアを先に開けた目の前の人物を眺めて、優しい眼差しになる。
その相手は、年のころ12歳ほど。己の寸法に合わせて特注された赤服を纏った長い黒髪の、物憂げな表情が父性本能を刺激する、人形のように端整な顔立ちの少女。

「出るの……?」

耳元で囁かれる、寂しそうな声。少女がふわりとマカリの視線の高さに合わせて浮き上がり、首に細く短い腕を巻きつけて抱きつく。
少女から苺の香りが微かに広がり、マカリの鼻腔をくすぐる。マカリは微笑んで、彼女の背中を優しく撫でて、彼女のエメラルドのような緑の瞳を覗き返した。

「ああ……寂しいなら、フィフスも出るか?」
「……寂しいわけじゃ……ないし。ヒマだっただけだし……」

少女、フィフスは寂しさを指摘され、ふいと視線を逸らしながらツンとした台詞を返す。それを見て愛しそうな眼差しになるマカリ。

「はい、はい。――フィフスのジンも暖気だ。敵はすぐに見えてくるぞ」

艦長はその様を見ても眉一つ顰めずに、当然のことのようにマカリの命令を違わず実行し、コンディションイエローの警報が鳴り響いた。
マカリはフィフスの背中を優しく撫でながら、ブリッジを出て行く。


- - - - - - -


手紙を読み終え、リナは覇気の無い表情で格納庫へと流れていく。
色んな意味で、父親の手紙は衝撃的だった。このアークエンジェルに自分を差し向けたのは父親だという。
それだけなら、まだ偶然で済ませられるが……キラ・ヤマトのことを知っていた。
彼のことは、このアークエンジェルの外の人間は誰も知らないはずだ。唯一の機会がアルテミスだったが、その機会も失われた。
ならば何故知っている? ヘリオポリスの住民を全て知っているとでもいうのか。ありえない。
そんな無駄な知識を蓄えるようなことをする父親ではないことを、リナが一番知っている。
そして何故キラ・ヤマトなのか。彼の能力と行動を知らなければできないメッセージだ。
問い質さねばならない。だが、当の父親は校長の職を辞してアラスカの司令部に居るということだ。
リナは髪を纏めていたヘアゴムを外し、自慢の長い黒髪を無重力帯に流しながら、緑の瞳の目を凶悪にぎらつかせながら、父親の顔が浮かぶ虚空を睨んだ。

「厄介なところに潜りやがって……引きずり出してたっぷり尋問してやる」
「誰を引きずり出すって?」
「わっ!?」

目の前の角から突然現れたムウに驚いて、素っ頓狂な声を挙げてしまった。ととん、と二の足を踏んで、近すぎる彼から後ずさり。
オーバーリアクションをするリナを見て、ムウは苦笑いをしながら壁に肘をついた。

「おいおい、そこまで驚くこと無いだろ? それとも、聞かれちゃまずかったか?」
「い、いえ、考え事をしてて……それにしても、出撃以外でキラ君と一緒に居るのは珍しいですね」

と、ムウに遅れてやってきたキラに視線を送る。彼も他のアカデミー生と同じように、私服から地球軍の軍服に着替えていた。
私服もいいけど、軍服姿もいいなぁ、と思ったのは顔には出すまい。キラは自分の軍服姿をまじまじと眺められて、ちょっと困り顔になっていた。

「いやなに……メイソンのクルーから聞いた話なんだけどな。近々、地球軍にもMSが配備されるかもしれないらしいんだ。本当かどうかはわかんねーけどな。
でもこのご時勢、地球軍にもMSが配備されるっていうのは現実的な話じゃないか。MS至上論が今の常識だからな。
だから俺も本腰入れてMSの操縦の練習をしようかと思って、坊主にMSの操縦のレクチャーをしてもらおうかと思ったのさ」
「僕でお役に立てるかわかりませんが……」
「なるほど。地球軍で今一番MSを動かしてるのはキラ君でしょうしね」

まさに適材、というわけだ。
それにしても、地球軍にようやくMSが配備されるのかと思うと、嬉しくなる。もうMAはたくさんだ。
ジンをMAで相手どろうとするならば、大勢で囲んで仲間がやられながらもようやく撃墜できる、という、まるで草食動物が肉食動物に立ち向かうかのような有様だ。
そんなものは真っ当な戦争とはいえまい。数と戦術、それが優れた軍が勝つ。それが健全な戦争というものだ、と思うのは古典戦術に捕われすぎだろうか。

「じゃあ、僕も一緒に練習してもいいかな? ボクもMAからMSに乗り換えどきだと思うしね」
「はい! もちろんです」
「おいおい、俺に頼まれた時とテンション違うぞ。現金な奴め……」

にっこりと笑顔でお願いをするリナに、表情を輝かせて元気良く即答するキラ。ムウは、これが思春期ってやつか、としみじみと考えていた。


- - - - - - -


最初にシミュレーターのシートに座ったのはムウだった。
初めてMSを操縦するということで、やはりG兵器を操縦するはずだったパイロット達と同じようにかなり苦戦を強いられた。
キラは「僕なりにナチュラル用に書き換えてみました」と言っているが、それでも基準はコーディネイター。まだまだ複雑な操作が多く、ひどくぎこちない動きをしていた。
それはリナの目から見ても戦闘には堪えられないように感じた。
それでも立派に立って歩いて、ビームサーベルを振り回しているのだから、やはりエンデュミオンの鷹の異名は伊達ではない。一週間練習を詰め込めば戦闘に出られるのではないか。

「やっぱり難しいな、MSの操縦ってやつは…」

ぼやきながらシミュレーターの席を立つムウに、リナは興味深そうにモニターを覗く。

「そんなに難しいんですか?」
「いや、数こなせばなんとかなりそうなんだが……敵地でちょちょいとやって、さあMSで出撃だ、ってやっても的になるだけだろうな」
「MAの訓練をやったほうが現実的、ですか」
「今はな。シエル中尉もやってみな」

わかりました、と平坦に答えるが、リナの内心でははしゃぎにはしゃいでいた。
念願のMSの操縦ができる。今までMAで戦ってばかりで、どうあがいても敵と同じ舞台に立てなかったが…もしMSのパイロットになれば、一対一でまともにやりあえるのだ。
もし地球軍に本格的にMSが導入されれば、戦局は大きく変わるだろう。苦戦続きだった地球軍にも、ようやく光明が見えてくるということだ。

「リナさんも初心者なので、少しプログラムを弄りますね」
「ああ、お願いね」

キラが親切心からか、初心者向けのプログラムを組んでくれるとのことだ。助かる。
自分は、最初からコーディネイター用のOSでなんとかできるなんて、そんな夢を見ちゃいない。自分はナチュラルで初心者なのだ、という心でやらなければ。
キラが整備用コンソールパネルを相手にプログラムを打ち込んでいる。しかし、さすがキラはコーディネイターだ。キーボードの指捌きが早いのなんの。

「できました」
「早っ」

打ち始めて5分も経たないうちに完了した。これにはインド人もびっくりだ。リナが驚くと、キラははにかんで頬を掻く。

「僕もMS用のOSは慣れてるわけじゃないので、ナチュラル用で初心者用のOSが上手くできたかどうかわからないです。だから、失敗しても気にしないで下さい」
「大丈夫大丈夫。練習の失敗を気にするような、そんなヤワな女の子じゃありませんっ」

相変わらず謙遜な言葉遣いのキラを、冗談ぽく言ってからシミュレーターに座り、まずは起動のフェイズから始める。
各部センサーを立ち上げ、ジェネレーターを点火。モニターON。天井を見ているということは、今この機体は寝ているということ。
起き上がらせなければいけない。この作業がまず最初の壁だ。一発で出来るナチュラルはそうはいない。
操縦桿を握り締める。ペダルに足を乗せる。シートに深く腰を据える。
操縦桿とペダルの遊びを確認。セーフティモードで起動して、ペダルと操縦桿をくりくりと少し乱暴に動かしてみる。

(……かなり複雑なシステムだな。これで初心者用のOSか……本当にMS操縦は侮れないな)

だが、難度が高いのは面白い。集中力を高め、頭の中でMSのインプットロジカルのイメージを描く。

――MSと身体のセンサーを繋ぐ。

「リナさん……?」
「ん……? どうした?」

操縦桿をゆっくりと動かす。ペダルを柔らかく踏み込む。脚部センサーとバランサーの数値を確かめながら、膝を立てさせ、腕を床につき、上体を起こさせる。
ペダルをあと1cm弱踏み込む。二つの操縦桿を同時に、ペダルと連動させて前に若干倒す。
バランサーは、下手をしたら前方に転倒するのではないかと思うくらいに前に傾いている。モニターに膝が大きく映りこむ。それを恐れず操縦桿を前に倒し、今度はペダルを踏む力を弱める。
スロットルを僅かに開き、すぐに閉じる。バーニアが一瞬だけ吹き、操縦桿を戻し、バランサーがグリーンゾーンへと一瞬で戻る。
モニターが地面から前方に、絶叫系アトラクションのようにくるんと回って、膝が消えてアークエンジェルのカタパルトデッキの光景が見えた。

「い、一回で…!?」
「? 立ち上がるくらいできるだろ」

二人が別のベクトルの驚愕の声を挙げる。機体のコンディションを見たら「STAND」になっていた。
文字通り立っている状態。ただの直立状態。逆に言うと、非常に安定している状態ということだ。
その状態で静止させたまま操縦桿にロックをかけて集中を解く。

(立たせるのでようやくか…先は長いなぁ。やっぱゲーセンのようにはいかないか)

立ち上がらせるのにもこれだけ苦労したのだ。時間にして10秒程度だが、複雑な操作を要求されたのは同じだ。
それでも、これだけのOSを短時間で組めたことにリナは素直に賞賛したい気分になっていた。

「……本当にキラ君のOSはすごいな。フラガ大尉はともかく、ボクが動かして一回で立たせられるんだから」
「あ、ありがとうございます。でもこれ……」

キラが何かを言いかけたところで、警報が艦内に鳴り響いて、バジルール少尉の緊迫した声が響き渡る。

〔レーダーより敵部隊の接近を感知! 総員、第一種戦闘配置! フラガ大尉とヤマトは直ちに出撃せよ! 繰り返す! 総員、第一種戦闘配置! 対MS戦並びに対艦戦用意!〕
「いよいよ追いついてきやがったか! 行くぞ、坊主!」
「はい! じゃあリナさん、行ってきます!」
「わかった! 頑張って、フラガ大尉、キラ君!」

ムウとキラが敵機接近の報を受け、意気込んで走っていく。その後姿を笑顔で見送るリナ。
それにしてもキラも、前向きに事態に対処しようとするようになった。あの子は本当に成長したなぁ、とまるでオカンになった気分で満足げに頷いたところで、

「…………って待てぇ!!」

置き去りにされたことに気づいた。


- - - - - - -


「艦長。シエル中尉が自分も出撃させろと喚いていますが…」

リナからの半ばクレームのような通信を受けて戸惑い、艦長であるギリアムに伝えた。
しかしギリアムはそれを予想していたとばかりに目を伏せ、ぞんざいな口調で斬り捨てた。

「やはりか。MAの無いMA乗りは、船務科の手伝いでもしていろと伝えろ」
「は、ハッ」
(なんか気の毒だわ…)
副長席についているマリューは、リナの扱いに半ば同情を覚えていた。


- - - - - - -


リナが船務科に混じって不満たらたらの表情をしている頃、キラのストライクと、ムウのメビウス・ゼロが発進準備を整えていた。
エールストライカーパックを使いたかったが、マードック曰く、

「お嬢ちゃんが無茶な合体したもんだから、調整中だ! 別のやつで出てくれ!」

とのことだ。仕方が無いので、エールの次に使い勝手のいいソードを選択することにする。
キラはコクピット内で各部センサーの立ち上げを行っていると、ナタルの顔がサブモニターに映った。

〔ヤマト。敵部隊はあのG兵器かもしれん。フラガ大尉との連携を密にするんだぞ〕
「え!? あのクルーゼ隊って人達は追い払ったんじゃなかったんですか!?」

話が違う、とばかりにキラが噛み付く。あの人達がまた来るのか。それも、恐らくアスランも居る。
昔はとても仲が良かった友達と戦いたくない。それは、キラとアスランの共通の思いだった。

〔わからん。あるいは別の部隊か……なんにせよ、油断は禁物だ。たった一隻で追いかけてきた敵だからな〕
「リナさんは出られないんですか?」
〔シエル中尉は、肝心のMAが推進器も武装もやられて出撃不能だ。今回は二人でアークエンジェルを守ってくれ。敵はローラシア級一隻、機影は4機だ〕
「わかりました。…ソードストライカーパック装備完了。各武装テスト。……接続確認。いつでも出られます!」
〔了解。出撃を許可する〕
「キラ・ヤマト。ストライク、行きます!」

リニアカタパルトに運ばれ、ストライクが勢い良く宇宙空間に射出される。遅れてムウのゼロが発進。
それを、青いシグーのパイロット、マカリはレーダーで確認。のちに望遠カメラで視認した。

「なるほど、確かに見たことの無い機体だな……MSとはな」
「……あっちもMS……こっちもMS。面白く、なってきた」

マカリがMSを敵側も装備してきたことに、やや緊張を覚えたのに対し、相方の少女は物騒な台詞を吐いたのでマカリはがくりとうなだれた。
その少女フィフスが乗っているのは、臙脂と黒で彩られたジンハイマニューバ。そのコクピットで、フィフスはやる気満々とばかりに拳を振るっていた。

「全く、お前は女の子らしい感想は無いのか…っ。……まあいい、フィフス。行くぞ。作戦は予定通り行え」
「……言われなくても、わかってるし……行く」
「良い子だ。マルタとイッサーはMAをやれ! 俺とフィフスは白いMSをやる!」
〔〔ハッ!〕〕
「ヴィーラントは支援砲撃の命令をするまでは、敵艦の射程範囲外ぎりぎりで待機しろ」
〔了解しました。しばらくはお任せします〕

まるで怠けられるから嬉しいかのような言い草だな…と思いながらも、意識は迫り来る地球軍の二機に向ける。
向かうはあの白いMS。手には、物騒な大剣らしき武器を持っているではないか。あれで斬ろうというのか。真っ直ぐこちらに飛んでくる。

「やれやれ、あんなので斬られたらシグーもたまったものではないだろうな……フィフス、距離を保って仕留めていくぞ」
「……わかってる。あんなのとチャンバラは……ごめん」

マカリは、シグーに28mm内蔵機銃と重突撃銃を手に持たせ、フィフスはジンに27mm突撃銃を持たせる。
照準をストライクの胸元、コクピットに向けて、両腕の機銃から一斉に弾丸をばら撒いていく!
キラはその弾幕を巧みにかわし、たまにフェイズシフト装甲で耐えながら、マカリの乗るシグーへと殺到する。

「うおおお!!」
「大振りだな。…そんなでかい得物では不便そうだな、白いMS!」

凄まじい勢いでシュベルトゲベールが振り下ろすが、構え方が大きいせいでタイミングを合わせて避けられてしまう。二機の位置が交代する。
すれ違いざまに突撃銃で背中を撃たれるが、フェイズシフト装甲が弾いていく。

ストライクがもう一度シグーに振り向くが、そこへフィフス機がすかさず、ストライクの下から27mm弾の雨を浴びせる。それをキラは一気に加速することで、フィフスが放った弾丸を潜り抜けた。
それでも、近距離からの十字砲火によって避けきれない何発かがストライクの装甲に当たるが、またもフェイズシフトによって弾かれた。

マカリとフィフスは、必ず別の角度からの攻撃を仕掛ける。それも、タイミングは僅かにずらす。
戦闘中で息抜きができるとは、戦闘経験が少ないキラ自身も思っていないが、戦闘の中でも生じるある種の一瞬の間というのを与えてくれないのを感じる。

「この2機、なんて連携を…! エネルギーはもつのか!?」
「どういう装甲をしている…? さっきから、まるで手ごたえが無い」

マカリはストライクの装甲に不自然さを覚えた。
どんな堅牢な装甲であろうと、多少穿たれたりするものだが、敵機は傷一つつかない。あれは装甲の厚さや硬さを超える何かに感じた。
キラは、エールストライクで出られなかったことを悔いて、イーゲルシュテルンの弾丸をフィフスのジンにばら撒いて牽制し、マイダスメッサーをマカリに投擲!
弧を描いて飛翔するマイダスメッサーを、マカリのシグーは下を潜って避け、避け際に76mm弾をストライクに撃ちこんでいく。

「くそっ! 手ごわい!」
「見たことの無い武装のオンパレードだな。一機でサーカスが開けるのではないかな!?」
「……びっくりMS」

フィフスがぼそりと呟きながら、ジンハイマニューバの突撃銃につがえられた銃剣を手に、ストライクの背に迫る!
マカリはストライクの動きを止めるために、突撃銃のトリガーを引いて76mm弾をばらまいていく!

「……!!」

キラは、一人で戦う恐怖を覚え、操縦桿を握る手に汗が浮かぶのを感じた――




PHASE 16をお送りしましたー。読んでいただきありがとうございます!
クルーゼ隊に代わって出ました強敵。MSVやASTRAYに詳しくないので、オリジナルを出すことにっ
リナは今回ハブられました。本当に主人公なのか。でもまぁたまに主人公が出撃できないシーンって、普通にありますよね、ガンダム。
今回は原作主人公のキラ君に大いに目だっていただきたいところです。がんばれキラ君! この頃の君は輝いていた!

そして親父は相変わらず何者だ! 色々感想いただいております。ありがとうございます!
彼がこれからの物語の鍵を握ってるような握っていないような… アラスカで待ってるぜ、きっと…

次回! 絶対お前らできてるだろ…リア充爆発しろ
それでは次の投稿もよろしくお願いします。それでは、失礼しますっ



[24869] PHASE 17 「疑惑は凱歌と共に」
Name: menou◆6932945b ID:bead9296
Date: 2011/01/15 02:48
「装甲厚くても……刺しちゃえば同じ」
「……!!」

ぼーっとした言葉遣いで呟くフィフスだが、その銃剣には必殺の意思が込められていた。
狙うはコクピット。ここを突き刺せば終わる。マカリとの作戦なんて必要なかった。そう、つまらなさそうにフィフスはストライクを見ていた。
キラは銃剣突撃をしてくるジンハイマニューバ(以下ジンHM)の姿を見ていた。このストライクの反応速度では、間に合わないのではないか。
そう思った。以前の調整のままのストライクならば。
操縦桿を捻る。セカンドレバーを押し倒し、トリガーを引く。ストライクが、ヘリオポリスでは見られなかったように身体を捻り、
ストライクは半身を逸らして銃剣を紙一重で回避。その動きは実にスムーズで、一瞬フィフスは目を奪われてしまう。

「えっ……!?」

まさかMSがこんな細かい機動をするとは思わず、フィフスは驚きに目を見開いた。その勢いのまま、フィフスのジンHMとストライクの肩が激突!
何十台もの戦車が全速でぶつかりあうような轟音と衝撃が走り、コクピットの中でフィフスの小さな身体が大きく揺さぶられ、シートベルトに締め付けられて咳き込んだ。

「げふっ……!」
「くぅぅー!」

キラのストライクも、ジンHMの激突によって大きく弾き出され、同じく激震がコクピットを襲う。
キラ自身も、動物的な脊椎反射で回避しただけで何が起こったか一瞬わからなかった。だが、ストライクは上手く反応して回避してくれた。
すぐさまシュベルトゲベールを持ち直し、目の前で体勢を崩しているジンHMにすぐさまシュベルトゲベールを振り下ろす!

「このぉー!」
「やられないし……!」

フィフスとて、赤服を着ているトップガンだ。反応速度などは並みのコーディネイターよりも遥かに優れている。
素早くスロットルを引いて操縦桿を引き倒し、ペダルを踏んで横に回避。しかしジンHMの反応速度が遅れた。
左肩のショルダーが切り裂かれ、バランサーに障害が発生する。気にせずバーニアを噴かして距離をとる。
フィフスは自分の油断を自覚し、眠たげだった表情を顰める。そこへマカリの叱咤の通信が入った。

「フィフス! チャンバラはしないんじゃなかったのか!」
「……いけると、思ったのに」
「油断しすぎだ! 相手はクルーゼ隊を振り切ったヤツだぞ。例の作戦でいく!」
「了……解」

フィフスは、最初は油断していた。MS同士の初めての戦いになることに愉快さを覚えていたが、どこかで侮っていた。
所詮はナチュラルが作ったもの、ナチュラルが操るもの。MAよりは歯ごたえがあるかもしれない、程度に考えていた。
だが、この白いMSはどこか違う、別格のものだと分かってきた。初めてマカリと出会ったときのように。
フィフスはモニターでシュベルトゲベールを中段で構えるストライクを睨み据えて、追加武装の重斬刀をジンHMに持たせる。

「また格闘戦を!?」

キラは、ジンHMの持った武器を見て、意外に思った。この強力なソードの威力に警戒して、距離を空ける戦闘に持ち込むと思ったのに。
すると、青いシグーも重斬刀を握る。二人とも格闘戦に持ち込むつもりなのか。近接戦闘に特化したソードストライクに対して。
この二人は何がしたいのか、キラには読めなかった。でも、斬りかかって来るならばこのシュベルトゲベールで応戦するつもりだった。
シグーとジンHMが肩を突き合わせて並ぶ。ストライクがシュベルトゲベールを斜めに構え直す。キラの額に汗が浮かんだ。

(……来る!)

二機が同時に左右に分かれる。二機を素早く交互に見る。
この漂流物や小惑星が多い宙域だ。派手な動きは自滅の恐れがある。それを恐れずに、あんな大きな動きをする。
それどころか……

「なっ……!」

シグーは小惑星を蹴って加速している。それに一瞬見入ってしまって、ジンHMを目で追うのを忘れてしまう。
ジンHMもシグーと同じ勢いで迫ってくる。このままだと、シグーと全く同時にこちらに到達するだろう。
どちらを相手にしたらいいのか。キラは一瞬で判断することを強要された。

「一度下がれば…!」

距離を空けてやればいいのだ。そうすれば敵もタイミングがずれる。そう思いストライクを後ろに思い切り下がらせた。
すると目の前で青いシグーとジンHMの姿が重なって――シグーが、ジンHMに押し出される形で加速してきた!

「なっ!?」

シグーがジンHMを踏み台にしたのだ。正しくは、ジンHMがシグーの足の裏を蹴って更に加速させた。
回避するタイミングを僅かに逸したキラ。迫り来る重斬刀に対し、身体が勝手に動く。

がりぃんっ!!
「なんっ……手で受け止めるのか!?」
「…………!!」

反射的にストライクの掌で重斬刀で受け止めたキラ。フェイズシフトによって火花が飛び散る。
既存のシグーを遥かに上回る速度を含めた重たい斬撃を受け止められたことに、マカリも一瞬驚いてすくんでしまう。
警報音。第二関節部に過負荷。多元駆動系に異常発生。腕のセンサーがイエローコンディションを表示する。
マカリのシグーは咄嗟に重斬刀を手離し、ストライクの頭上をパスする。
同じように、ストライクの掌が、速度が加わった強烈なGに耐えられなくなって手首部分擬似神経がオーバーヒートする!

「くそっ、手が……うわっ!」

追撃で降り注いできた27mm弾。フィフスのジンHMが、乱射しながらストライクに迫る!
ストライクのボディに火花が咲き乱れ、バッテリーは既にイエローゾーンに到達していた。

「マカリの食べ残しは……ボクがお掃除する……」

ぽつぽつと呟きながら、迫るストライクを睨みつけるフィフス。全ての弾薬を使いきった27mm機甲突撃銃を投げ捨て、重斬刀を横薙ぎに振るう!

「やられっぱなしで……たまるかぁ!」

キラのプライドが爆発し、その横薙ぎの一閃をかわして、ストライクがシュベルトゲベールを力任せに振り上げ、ジンHMの右腕を切り裂いた!

「腕……!」

フィフスは重斬刀を握っていた腕を切り裂かれ、それでも、とジンHMの足を振り上げ、ストライクに蹴りを放った。
がぁんっ!!
フェイズシフトによって守られた表面装甲は無事でも、内蔵機関全てがフェイズシフトによって守られているわけではない。パイロットは尚更だ。
その衝撃を受け、キラはたまらず一瞬操縦桿を離してしまい、隙を作ってしまった。

「がっ……!」

その隙はほんの一瞬で、MS戦では隙とすら映らないと見えるかもしれない。が、マカリはそれが隙と取った。
重斬刀を煌かせ、真上からストライクに突撃をかける!

「いくら装甲が厚くても、ここらが限界じゃないかな……地球軍のMS!」

マカリは、殺った、と確信する。キラはすぐさま操縦桿を握って対応していくが、エネルギー僅少の警報が鳴る。

「しまった! エネルギーが!」

同時、フェイズシフトがダウン。ストライクが灰色になってスラスターからも火が落ちる。
それを目撃したマカリとフィフスは僅かに戸惑ったが、まるで枯れたみたいに色が無くなったストライクが明らかに弱体化しているように見える。

「随分とわかりやすいことだ。もらった……うおっ!」

ヴンッ!
マカリのモニターが一瞬、凄まじい閃光に満たされた。重粒子砲か。シグーを下がらせて振り返ると、迫ってくるのは白い戦艦。アークエンジェルだ。

「ヤマトをやらせるな。敵機をストライクから分断させるように狙っていけ。無理に当てようとするな」
「了解! 全火器、基本照準をトラックナンバー2-1-1から2-1-2に設定。CIWS起動。マーク。ヴァリアント、撃ち方始めぇ!」
「撃ち方始めぇ!」

ブリッジではギリアムとCIC要員の号令が響き、長砲身レールガン、ヴァリアントがシグーとジンHMに放たれ、マカリとフィフスはストライクからアークエンジェルへと意識を移す。
砲撃の的にならないよう、ランダムの機動を取ろうと二機は分かれて動き始めると、今度は金色の閃光が降り注いでくる。

「母艦…! こいつを仕留めれば――」

マカリは欲をかき、あわよくば白い戦艦も落とそうと唇を舐めると、ロックオン警報。同時に、突然機体の周囲を閃光が掠めていく。
上方向からのリニアガンの雨。上を見上げると、オレンジ色のMA――ムウのメビウス・ゼロがリニアガンとガンバレルを乱射させながら迫ってくる!
ムウに戦闘を仕掛けた二機のジンは、大破とはいかないまでも推進器をやられ、戦線を離脱しようとしているところだった。

「坊主!!」
「フラガ大尉!」

キラは心強い味方の応援に、全身に力が戻ってくるのを感じた。おまけに、アークエンジェルとゼロの攻撃で目の前のザフトのMSの二機は及び腰になっている。
そこにチャンスを見出し、青いシグーにロケットアンカー――パンツァーアイゼンを伸ばす!
またも見た事の無い兵器に不意を打たれ、マカリはそのパンツァーアイゼンに掴まれて強引にストライクに間合いを引き込まれてしまう!

「何ィッ!?」
「うおおおおお!!」

パンツァーアイゼンでシグーを引っ張り込みながら、腰に仕込まれたアーマーシュナイダーを引き抜いて……シグーの胸部に突き刺す!
シグーから飛び散る火花。冷却機能低下。バッテリー過熱。コンディション画面が次々と赤く表示されていく。
マカリは撃墜の危険を感じ、撤退の必要を迫られた。

「くそっ……こいつ、いきなり動きが変わった! 撤退するぞ、フィフス!」
「……惜しい……」
「ヴィーラント! これより帰還する。支援砲撃を!」
〔了解しました。道先案内をいたしましょう〕

マカリは唇を噛みながらシグーを反転させ、フィフスもシグーを掴んでバーニアを全開。
追撃をかけようとするストライクとゼロだが、直後に降り注いだ艦砲射撃によって追いかけるタイミングを逸し、見送る形になってしまうのだった。

「はぁ、はぁ、はぁ………」

やがて艦砲射撃が止み、シグーとジンHMがレーダーから消えると、ぐったりとシートに背を預ける。

(なんて、人達だ……本当に、死ぬかと思った)

自分に向けられる、徹底的なまでに鋭く絞られた殺意。刃が迫る瞬間。
彼らは熟練したパイロットだった。あの二機の息の合ったコンビネーション。敵の動きにも対応する柔軟性。
鹵獲されたG兵器のパイロットは確かに強かったが、キラと同じように地力だけの実力のようだった。
きっといくつもの死線を越えたパイロットだったのだろう。自分が生き延びたのは、ストライクの性能とコーディネイトされた地力のおかげだと感じる。
きっと次もやってくる。強くならないと……キラは、今を生き延びた安堵の吐息をついた。

(……そういえば)

あの時ストライクが今までとは違う動きをして避けられたのは、なんだったか。その瞬間の光景を思い出す。

(そうだ……リナさんが弄ったところだ)

リナと一緒にストライクのOSを弄ったあの時。運動ルーチンの伝達関数を書き換えたあのときだ。
あの動きでストライクの胴部の関節が嫌な悲鳴を挙げたけれど、結果的には助かった。彼女の助言なしには、きっと生き延びることはできなかっただろう。
それに。

(リナさん……あなたは、コーディネイター用のOSで、立ち上がってみせた……)

MS用のシミュレーターでの訓練のとき。あのとき、ムウが操ったあと、初心者用のOSに書き換える振りをして、実は自分用のOSに戻しておいたのだ。
だからすぐに書き換えが完了した。さすがのキラでも『初心者用のナチュラル用OS』なるものを、あんな短時間で作り上げることなどできない。
それをリナは、初心者用のナチュラル用OSと勘違いしながらも動かしてみせた。そして確信する。
――彼女は、コーディネイターだ。

(あなたは……なんで、地球軍の軍人なんだ……?)

後方を見ると、近づいてくるアークエンジェルが見える。キラは、艦内で働いている友達の姿を思い浮かべながら、ストライクをカタパルト口に向けてゆっくりと流れていった。


- - - - - - -


「敵部隊、我が艦から離れていきます。支援砲撃、沈黙。Nジャマー数値減少」
「……第一種戦闘配置命令解除。対艦用具納め。フラガ大尉のゼロとヤマトのストライクを収容しろ。
まだ敵部隊が潜んでいるかもしれん。…対空監視、怠るなよ」
「了解」

ギリアムの号令と共にブリッジの緊張が緩む。ギリアムはそれを肌で感じるが、叱咤することはなかった。
自分も初めての艦の指揮。敵を無事撃退し、気が抜けるのは否定できない。安堵の吐息をつくのを堪え、かつての上官であったロクウェル大佐が抱えていた重荷に思いを馳せていた。

ムウとキラが帰還し、ようやく船務科から解放されたリナ。
リナは戦闘が終わったこと、ムウとキラが無事に帰ってきたことに安堵の溜息をついて、小さな身体を目一杯背伸び。
まとめていた黒髪を解きながら格納庫に飛んでいく。直接戦闘に関わったわけではないから事情はわからないけど、なんか苦戦していたみたいだし、労ってあげたい。
リナが格納庫に着いたとき、ストライクのコクピットに取り付いている甲板要員達が見えた。マードックがコクピットを叩いて怒鳴っている。

「おーい! 坊主! 開けろってば!」
「? どうしたんだい?」
「あぁ、お嬢ちゃん。…ヤマトがコクピットから出てこねぇんだよ。寝ちまったのかな…」

なるほど、と思う。キラは実戦経験が少ないし、本格的な戦闘で疲弊するのは当たり前かもしれない。まだ学生なのだから。
コクピットに耳を当てて、何か聞こえるか…と思ったけれど、聞こえるはずがない。

「キラくーん? ……開けるよ」

まるで寝ている息子を起こす母親のような口調でコクピットハッチに語りかけながら、緊急用ハッチ開放キーを探し当てて入力。与圧した空気が吐き出され、コクピットが開かれる。
リナやマードック、遅れてやってきたムウも一緒にコクピットを覗くと…案の定、コクピットシートで寝息を立てているキラを見つけた。
そのキラの寝姿にリナは微笑み、ヘルメットにぽんと手を置いた。

「お疲れ様、キラ君……」
「リナ……さん……」

キラから返って来た返事は、寝言だった。

衛生兵がキラを起こさないようにコクピットから出して、医務室へと運び込まれていくのを見届け、自分も個室へ帰ろうとしたとき。

「そうだ、お嬢ちゃん。合体のことなんだけどな」
(うわっ、来た……)

マードックに呼び止められた。用件は今まで後回しにしていた、コアファイターとエールストライカーパックの合体の件だ。
リナは内心ヒヤヒヤしながら、くるりと振り返って、なるべく良い笑顔で対応することに。にっこりと笑って、後ろに手を組んで、少ししなっとした態度。

「は、はい…なんでしょうかっ?」
「……お嬢ちゃんのMAとエールストライクは、結論からいって『規格は違うが接続部構造は同じ』だったぜ」
「…………???」

つまり、どういうことだってばよ?
理解の色を示さないリナに、マードックはこめかみをペンの尻でかりかりと掻きながら言葉を探す。

「わかんねぇかな……要するに、他社の部品で全く互換性は想定してなかったが、たまたま出力や構造が同じだったからあの二機はくっついてたってこった」
「わかりやすい例えをありがとう。……でも全く違う技術で作られてるって言ってなかったかい?」
「そうなんだが、そこが不思議なんだ。まるで『エールストライクのほうがMAに合わせて作ってあった』みてえに、がっちり合っちまったんだよ」
「……ちなみに、ストライクとあのMAは、どっちが先なんだい?」

まるで、ニワトリが先かヒヨコが先か、という問答みたいだ。

「MAが先だ。その接続部も、俺たちには知らない技術で作ってあるってのに……これって、本当はお偉いさんが秘密で作ったストライクの支援機じゃねえのか?」
「技術屋じゃないボクに聞かれてもね……ストライクの開発計画の責任者に聞いてみないと」

肩をすくめ、格納庫に未だ吊るされているコアファイターを見上げる。
装甲が全て剥がされて、被弾した推進器が外されて核融合炉が丸見えで……まるで死体のようだった。
どうやら本気で解体するようだ。せめてブラックボックスや学習型コンピューター、核融合炉だけは置いておくように言わないと。

「おまけに核融合炉ときたもんだ。こいつぁオーバーテクノロジーの塊だぜ。学習型コンピューターってやつも調べちゃいるが、まだ解析できちゃいねぇ」
「戦闘記録は見れるの?」
「今は見れねぇな。なにしろブラックボックスの中だからな。こんな戦闘艦の中の設備じゃダメだ。もっと本格的な施設に持ち込まないとな」
「そうか……」

もし……もし、あのパイロットのものだったら、彼の戦闘記録が生で見られるかもしれない。

(このコアファイターが、もしかしたら戦争の勝敗を分けるかもしれないな……)

期待に胸を弾ませ、コアファイターを見上げるのだった。





夜遅くにこんばんは! PHASE 17をお送りいたしました! 読んでいただきありがとうございますっ
うわー。前の更新から5日くらい経ってます。引越し作業とかで遅くなってしまいました。皆さま、ストーリー忘れておられませんか…?(汗
主人公の王道といえば、やはり強敵の出現。キラもこのSSの主人公と位置づけておりますので、その挫折と成長も見守ってあげてください。

いっそ主人公のリナよりも、コアファイターのほうがチートなのか?
核融合炉が連合によって解析されたら……ザフトピンチか!?
本当に地球軍楽勝ムードでいいのか、このSS! がんばれザフト!(ぇー

次回! リナ大勝利! 希望の未来へレディーゴー!
…いや、最終回じゃないですよ? それでは次の投稿もよろしくお願いします!



[24869] PHASE 18 「モビル・スーツ」
Name: menou◆6932945b ID:bead9296
Date: 2011/01/22 01:14
無重力帯というものは厄介だ。
物体が重力に引かれて下に落ちることがない、というのは便利に繋がることもあるが、相応の不便も付きまとう。
身体能力が低い者は無重力に翻弄されて宙で暴れるだけになるし、飛翔物体は驚異的な破壊力を持って人体や機器を破壊する。宇宙空間の真空状態はそれらの最たるものだ。
そして訓練された軍人にとっても、無重力は重要なものを磨耗していく危険を孕んでいる。そう、筋肉だ。
アークエンジェル他、おおよその宇宙戦闘艦には重力区画というものが存在しない。よって、地上の二倍ほどの運動をこなさなければ、全身の筋肉は想像以上のスピードで衰えていく。
それは、生まれながらにしてチートボディを持つリナにも言えることだった。
リナの身体は決して無敵ではない。普通の人間のようにお腹が空くし喉も渇き、食べ過ぎれば肥満になり、食べなければ飢えるし病も招く。
そして運動しなければ、その筋肉も細くなりリナの優位性は失われる。それは本人が最も恐れている事態だ。だから彼女も軍規に関わらず運動は欠かさない。

「はっ、はっ、はっ…」

艦内の回廊を、他のクルーと共にランニングをするリナ。運動用のマグネットつきのシューズを履いて走りこんでいる。
白いゆったりとしたランニングシャツを着て、綿生地の薄い水色のホットパンツを穿く軽装のもの。艦内は常に20度程度に設定されているため、薄着でなければかなり暑い。
リナは疲弊しにくい身体を持っているので、他のクルーよりも多く足を動かして走らないと疲れてくれない。
しかし、他のクルーより速く走ると……この狭い艦内だ。前の追い抜こうとすると衝突などの危険があるため、常に同じ背中を見ながら走らなければいけない。
自慢の長い黒髪を三つ編みにして、尻尾みたいに揺らしながら艦内を駆けていく。

時間は朝の0615時。
朝といっても、小さな窓の外を見ても夜みたいに黒い宇宙空間が広がっているだけで、太陽が昇ってくるわけでもない。
しかし、全ての宇宙に住む人間。プラントも連合もオーブも、全ての人間は地球の北半球の時間に合わせて生活している。
これは例え人種民族レベルで敵対していたとしても絶対変わらない、人類共通の普遍的なものだ。全人類の数字が0から9までと同じように。
それはともかく、朝の0615時だ。この15分前には全員目を覚まし、すぐに着替えて点呼がある。地球軍全体の規範であって、アークエンジェルもメイソンも変わらない。
そして今行っている体力練成の時間が始まる。およそ15分程度だ。
それぞれランニングやトレーニングマシンを使ったりするのだが、リナは走るほうを選んだ。機械に運動させられているような感覚が嫌だからだ。

「はっ、はっ、はっ。……」

息を切らせながら走っていたが、後ろからの視線に気づいてちらりと左後ろを振り返った。
後ろを走るのは、20代半ばほどの青年。階級は兵長だ。身丈が高く、リナの顔が彼のヘソに当たるほどの上背。
その男はリナにじっと見上げられて、のっぺらした印象の顔を、びく、と引きつらせた。

「ちゅ、中尉……どの、何か自分の顔についておりますか?」

上ずった声を挙げてキョドる男。リナはその顔立ちと篭った声に、内心引き気味になって口の端をひきつらせた。

「いや……その、兵長。ずっと、ボクを見てないか?」
「ハッ、中尉殿の後ろを、ずっと走っておりますので……中尉殿の背中しか見るものが、なくて」
「背中よりも……なんていうか、横から見られてる感じがしたんだけど……」

そうだ。この男はずっと左斜め後ろを、かなり至近距離を走っていたのだ。
それこそこの身長差だと、リナが速度を落とせば轢かれてしまいそうなほどに近く。今までシューズのかかとを踏まれなかったのが不思議なくらいだ。
なぜか男の視線は泳ぎっぱなしで、走っている熱とはまた別の汗をかいているような気がする。
しかも必要以上にどもる。何か隠している仕草のように見える。

「せ、僭越ながら……中尉殿の、き、気のせいだと思われます」
「……それはいいけど、近すぎると危険だから、もうちょっと離れて走ってくれないかな」

ちら、と前を見る。兵長が離れるのではなく自分が離れるという選択肢もあるのだけれど、自分の前を走っているのはホソカワ大尉だ。
彼はメイソンのクルーの中でもがっしりとした体つきをしていて、後ろの兵長よりも身丈も高く、その歩幅もあって自分よりも速い。
だから一番速い彼が先頭を走っている。リナはその次だ。基本的に足の速い順に並んで走るのが暗黙の了解になっている。
ホソカワ大尉は走るとき後ろに大きく足を振り上げる癖を持っているので、これ以上近づくと、草食動物を追いかける肉食動物のごとく蹴られてしまう。

「は……はぁ。ご命令であれば……」
「……よろしい」

彼はスピードを一時的に落として、すごすごと離れていく。その表情は何故か、すごくガッカリした表情だった。
一体なんなんだろう。リナは首をかしげながら、ホソカワ大尉の背中を見ながら走り続ける。後ろから響く、多くの足音。

(今日は妙にランニングするクルーが多いような……?)

疑問に思うが、あまり気にせずにランニングを続けるのだった。


- - - - - - -


(ばっか、兵長! お前近づきすぎるんだよ! 気づかれただろうが!)

兵長の背中をどつくのは、彼の上官の伍長だ。彼の背中に怒鳴るように語調を強めて、前を走るリナに聞こえないように囁く。

(す、すいません伍長殿……もうちょっとで、見えそうだったもので……)
(何が見えそうだったって!? 何が!?)

伍長の目が血走った。ふんす、ふんす。鼻息も荒い。兵長は問い質されてリナの「見えたもの」がフラッシュバック。鼻の下を伸ばし、表情を緩めた。

(あ、あの……シエル中尉の、ランニングシャツの脇から……膨らみかけの……が……)
(きっさまあああぁぁぁぁ……!! 見たのか! 見えたのか!? しかも気づかれなかったか!?
我々同志によって組織した「シエル中尉の桜色を観測し隊」が結成されて早や二日で、もう解散の危機に追い込む気か!? 軍法会議ものだぞ!)
(か、会議にかけられてもいいですぅ……あの青い果実にツンと尖った、桜色の先っぽ……ぐあっ! ご、伍長殿!
コクピットブロックにエマージェンシー! 脚部過熱、歩行能力に障害が発生であります…!)
(あああああこんなところでか!! 立て、いや起つな! 衛生兵! 衛生へーい!)
(伍長、殿……! 自分に構わず、先に行ってください……! そして、恋人のアメリアに、愛していたとお伝えください!!)
(ていうかお前彼女居たの)

(なんか後ろがうるさい……)

なんか後ろが、ボソボソとやたらと私語をしまくっている。何を言っているのかわからないが、ちらと振り返ると、
アークエンジェルとメイソンのクルーがなにやら仲良さげ(少なくともリナにはそう見えた)に会話に花を咲かせている。
さっき話していた兵長が、前かがみになってひょこひょこと老いた山羊のように走っている。なんで走ってる間に男の生理現象が発生したんだろう。

(エロ会話でもしてたのかなぁ……修学旅行か。でも、仲が良いなぁ)

今まで両艦のクルーはあまり個人的な交流が無かったように見えたから、多少の私語は目をつぶることにする。
それにしても、最近は男と個人的な会話をしていない。アークエンジェルに乗る前は一番話したいと思っていたキラは学生達と仲良く会話を弾ませている。
コミュニケーションがとりやすい食事の時間も、士官食堂と一般食堂で離れている。リナ自身は一般食堂でもいいと思っているが、他の士官との仲をおざなりにするわけにはいかない。
キラとまともに顔を合わせるときといったら、格納庫とシミュレーター室くらいしかない。一番話しているといえばムウか。同じ職業軍人で士官で、MA乗りだから話が合う。

(同じ学生同士のほうが気が合うのかなぁ……って、まだあんまり話してないうちに何考えてんだか)

何の心配もいらない超人に対して、何を思うところがあるというのか。それよりも、自分を鍛えることに集中しないと。
自分の思いに苦笑して彼のことを考えないようにして、ランニングに集中することにした。



- - - - - - -


「ふー……」

朝の体力練成の時間が終わり、一息つきながら女性士官用の更衣室に入る。アークエンジェルに勤めている女性士官は、平均的な戦闘艦に比べて割と居る。
マリュー・ラミアス副長。ナタル・バジルール少尉。ミリアリア・ハウ二等兵。あとはメイソンのクルーに三名いるが、今は省略する。
ロッカーは30ほどあるが、使われているのは6つだけ。自分の場合は大して量があるわけでもないけど2つ使ってる。単に広々と使いたいからという理由で。
そのうちの一つ(私服用)の前に立つと服を脱いでからタオルと替えの下着を引っ張り出し、シャワールームへと歩いた。
12歳児のようなすんなりとした身体。乳房はようやく膨らむ兆しを見せるけれど、まだまだ女性の凹凸に欠ける。
それが自分にとって大いに不満で、鏡に映った自分からつーんと目を逸らしてシャワールームに向かう。

「ふんふんふーん♪ ……ふん?」

鼻歌を口ずさみながらシャワールームに入ると、先客の音がする。誰だ。中を覗き込むと、仕切りのドアの上からウェーブがかった長い栗色の髪が見えた。
あの頭は……

「ラミアス大尉?」
「あら、シエル中尉。ランニングは終わったの?」
「はい、つい先ほど。……」

マリュー・ラミアス大尉だ。しっとりとした声は特徴がある。髪と同じ栗色の瞳を流し目でこちらに向けてくる。それが大人の色香を思わせる。
自分には望むことができないその肢体と仕草。とても3歳差とは思えない体格差。35cmもの差は、メビウスとジンの差をも軽く凌駕する。
ましてこちらの絶壁。いや、絶壁は言いすぎだ。膨らんでいるのだ。ただそれが……び、

「シエル中尉……? どうしたの、自分の身体を見下ろして絶望的なカオをして」
「誰が絶壁かっっ!! あっ……し、失礼しました」
「そんなこと言ってないじゃないの……」

『絶~』という言葉に過剰反応するリナに、マリューはいよいよリナが不憫になってきた。

「大丈夫よ、シエル中尉は大器晩成なだけなんだから。今こんなに可愛いんだから、将来性あるわよ?」
「……一生、この身体ってことはないですよね?」
「それはある意味羨ましいけど……あ、い、いいえ、なんでもないわ……」

途端にリナの表情が消えて虚ろな瞳でこちらを見るので、慌てて訂正するマリュー。怖い。思わず目を逸らす。

「とりあえず、シャワーを浴びなさい。いつまでもそうしていたら、風邪を引くわよ?」
「そうですね……っくちゅ」

言ってるそばからくしゃみ。マリューの隣のシャワールームに入って、シャワーからお湯を吐き出させる。
全身をお湯が包み込み、汗や垢と一緒に流れていく。清涼な感触に、はぁ、と快感の吐息。
特に宇宙艦艇は完全に密閉された空間なので、汗臭いのは致命的だ。だから、持ち込んだスポンジで丹念に身体を洗う。
「?」 視線を感じて、隣を見た。マリューがいつの間にか、まるで母親のような優しい目つきでこっちを覗き込んでいる。

「ら、ラミアス大尉?」
「シエル中尉、綺麗な肌してるわね……23歳っていうのが信じられないわ」
「ボクも信じられないですよ。早く成長してほしいです」
「本当、なんでかしらね。私としては、軍人の水準を満たしているのなら問題は無いのだけれど」

同感だけれど、やっぱりこんなロリボディよりも、マリューのようなグラマラスなボディのほうが好きなんだけどな……と、残念な気持ちになる。
シャワールームの中で身体を拭いて、身体にタオルを巻いて出て行く。着替えの軍装はロッカーの中。
マリューも、先に入っていたのに同じタイミングで出てきた。同じく身体にタオルを巻いている。たとえ同性であっても、タオルで身体を隠すのはマナー。
ぺたぺたとロッカールームに向かって歩いていると、
ぺろん。

「…………」
「…………」

身体に巻いたバスタオルが落ちてしまう。気まずい。マリューは苦笑している。いかん、しっかり結んだはずなのに。もう一度バスタオルを巻く。
ぎゅ、ぎゅ。……よし。ぺたぺた。ぺろん。

「…………」
「…………」

……二、三歩ほど歩いたら落ちてしまう。
まさか……

「引っ掛かるところが……」
「…………!」

マリューがよそを向いて肩を震わせてる。笑ってやがる……。上官じゃなかったら文字通りの空中コンボを放ってるのに。

(おのれおっぱい。脂肪の塊め! 自分は余裕があるからそんなに笑っていられるんだ。お前だって12歳のときはぺったんだっただろう!
胸囲の差が戦力の決定的差ではないことを教えてやる! そのうち!)

……ということは言えないので、とりあえずマリューの死角に入り、いそいそと着替えてロッカールームを後にした。

体力練成が終われば短い朝礼があり、それから食事の時間。
士官食堂でそれぞれ食事を受け取って食べる。宇宙空間では汁物は食べられない(食べれてもリキッドチューブだ)のが不満だ。
リナはトレイを受け取り、順に食事を受け取っていく。いつもどおりの景色だ。最後に飲み物を受け取ると、ことん、とトレイに置かれたリキッドチューブ。

「……パインジュース?」

黄色い帯に素っ気無いパイナップルの字。まごうことなきパインジュースだ。リナが昴であったときからずっと好きだったジュース。
目を丸くする。まさか軍艦で、こんなマイノリティなジュースが出てくるとは思わなかった。自分のトレイにジュースを置いた給養員に振り返った。

「中尉、パインジュース好きですよね?」
「マドカ少尉!?」

愛想の良い20代前半くらいの、栗色の髪の青年。階級章は少尉になっている。メイソンの元クルーだ。
6年前。士官学校で自分が曹長だったとき、彼は伍長だった。二期後輩というわけだ。シミュレーターで彼と一緒に訓練したことがある。
ただそれだけで、その後は会話を交わしたこともなかった。ただ、自分を侮蔑したり差別しない、数少ない士官候補生だったということは記憶している。
だから、彼の名前は覚えていた。マドカ・リリック。女の子みたいな名前……と言ったらきっと、あのキレる十代並みに殴られるんだろうな。
名前を言った途端、彼の顔が嬉しそうに華やいだ。

「俺の名前覚えていてくれたんですねっ」
「君、生きてたんだな……」
「それはこっちの台詞ですよ。中尉はヘリオポリスで、てっきり死んだと思っていたんですから……」

あれはボクも死ぬかと思った。できれば思い出したくなかったけれど、苦笑して誤魔化す。

「運だけはあるからね。ところで、ボクの好物がパインジュースだってよく知ってたね?」

好物をもらえたことに表情を緩ませながら問いかけると、マドカはまるで青春真っ盛りの男子高校生のようにはにかんで、

「……士官学校で、わざわざ外に出かけてパインジュースを買ってくるのを見ましたから」
「え!? み、見られてたのか……」

それを聞いて、かぁ、と頬を染めて困り顔になるリナ。
戦闘艦でもそうだったように、士官学校にもパインジュースというマイノリティな飲み物は置いていない。
それを探すために食堂でキョロキョロして、からかわれたこともあったくらいだ。
あまりにパインジュースに飢えすぎて、士官学校で数少ない休日に街に出かけて、パインジュースの缶を箱買いしたのだ。
人通りの少ない旧校舎の渡り廊下を選んだつもりが、いつの間にか彼には見られていたようだ。

「俺が資材運搬の手伝っていたときに見ちゃったんですよ。
誰にも見られないように、わざわざ旧校舎を通って帰るなんて……そんなに飲みたかったんですか?」
「~~~しょ、食堂にパインジュースがなかったんだぁ!」

顔を真っ赤に染めて、甲高い声で怒鳴ってしまう。しかもこんなところで言うな! すっごい注目されてるじゃないか!
でもマドカはまるで悪意のない表情で、にっこりと極上の笑顔で笑いかけてくる。それがリナの恥ずかしさを余計に助長してくる。

「でも、アークエンジェルにあってよかったですね。これからは一日一本は出しますから、楽しみにしててくださいね」
「し、しししししし知らぁん!!」

彼の声と周囲の視線を振り切るように、涙声で食堂の奥のテーブルに引っ込んでしまうのだった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


L5宙域を抜けて丸三日が経った。
この三日、ザフトの攻撃も無く平穏に過ぎ去っていた。L5宙域哨戒中隊以来、全く戦闘が無かったといっていい。
それでもクルー達はギリアム中佐の指揮のもと、常に臨戦状態で対空監視を行い、常に強烈な緊張感と戦っていた。
それでもギリアム中佐の警戒は杞憂に終わり、既にブリッジのメインモニターからでも地球が見えるまでに近づき、アラスカは目の前……かと思われた。

しかし、ザフトはアークエンジェルを見過ごすほど甘くは無かった。

「ストライクとゼロ、ジンタイプ4、シグータイプ1と交戦状態に入りました。敵MS部隊、方位150より更に接近! 
距離1800。ジンタイプ2、ならびにシグータイプ1!」
「両舷全速後進、敵部隊との相対速度を合わせろ! 対空防御急がせ!」
「1番から5番、ヘルダート、左右から迂回させるコースでプログラムセット。続けて10秒後にゴッドフリートを拡散照準で発射!」
「了解! ヘルダート、プログラムセット! Salvo!」

ブリッジでは敵部隊の更なる増援に騒ぎ立て、その応戦に忙殺される。アークエンジェルから次々と火線が延び、敵部隊の光点の中へと吸い込まれていく。
高い運動性を持ったジンやシグーに艦の砲撃が早々当たるものではないが、充分牽制になるし、上手く火器を集中させれば充分な威力を発揮する。
実際、最初にザフトの攻撃部隊が攻めてきたときに一機のジンを撃墜することに成功していた。忘れてはならないが、艦砲は一撃でMSを屠るだけの火力を持っているのだ。
それでもこの戦力の差に、次第にアークエンジェルは押されつつあった。
アークエンジェルの堅牢な装甲によって、落とされはしないもののダメージが蓄積し、白い艦は見る間に弾着によって灰色に染まっていく。

「第2、第4ブロック火災発生! サブブリッジ中破! 主機出力12%低下!」
「船務科、ダメコン急げ! 消火班は鎮火を急がせろ! 救護班は負傷者を医療ブロックに収容、急げよ!」
「回避運動はもっと引き付けていけ! 動きを読まれているぞ!」
「くっ……! やってます!」
「できていないから言っている! 沈みたいのか!」

ブリッジでは怒号が飛び交い、キラとムウはその数の差に疲弊しつつあった。
エールストライクで飛び出したキラはジンを立て続けに2機撃墜するも、残りのジンとシグーに攻撃を受けてたじろいでいる。
ムウも集中砲火を受けてガンポッドを一つ失う。舌打ちしてジンに反撃し、左腕を破壊するが重斬刀による反撃を受け、ギリギリで回避。

「くっそぉー! 数が多い! やっこさん本気だなぁ!」
「フラガ大尉! 大丈夫ですか!?」
「キラは自分の心配だけをしてな!」

苦戦を強いられる二人だが、声を掛け合い、お互いをカバーしあいながら数で優るジンやシグーを相手に互角以上に戦っていた。

〔ヤマト! フラガ大尉! アークエンジェルは攻撃を受けています! 戻って下さい!〕
「くそっ! また増援か! うおっ!」

ムウがアークエンジェルの危機にうめくが、そこへジンの76mm機銃で狙われて、慌てて回避する。
キラも複数機から同時に攻撃を受けながらも反撃でジンを撃墜するが、とてもアークエンジェルを応援にいける状態ではない。
一方艦内のリナはまたも船務科にまわされ、ダメコンに奔走している。消火活動のために、消火剤を散布する任務を負わされていた。
だぶだぶの防護服を強引に着て消火チューブを持って出火しているブロックに駆け込む。防護服ごしでも感じる熱気に顔を顰めながらも、消化剤噴射口を向けてバルブを捻る。

「くぉのー! 艦内で死ねるかー!」

防護服の中で雄叫びを挙げながら、迫り来る炎に消火剤をばらまく。士官学校では艦のダメコンの課業もあるため、消火活動は慣れたものだ。
もちろん本物の危機は初めてなため、多少テンパり気味ではある。それでも優秀な船務科達の活躍により、アークエンジェル内は延焼せずに済み、ダメージは最小限に抑えることができていた。
しかし自然発火でも不慮の事故でもない、この火災。敵はアークエンジェルに次々と弾丸を撃ち込み、火災ブロックは次々と増えていく。
MAで戦うよりもきつい。早く出撃したい……と、リナは切実に願いながら、噴出口のバルブを捻るのだった。

「更にジン2、来ます!」
「迎撃急げ! 今取り付いているMSにはイーゲルシュテルンで対抗しろ! ヘルダートを照準を新たな目標にセット!」
「了解……マーク!」

ブリッジでは船務科に負けないほどに忙しなく敵部隊への対応に追われていた。しかし、アークエンジェルの搭載火器とて無限ではないし必殺でもない。
次々と増えていく敵。しかし、ギリアムは顔に一つも絶望的な色は出さず、ただ今できる最善の戦術を次々と下していく。
それでも更なるダメ押しに、さすがのギリアムも撃沈を予感し、胸中に撃沈の予感が去来。諦めかけてしまう己を必死に抑え込んでいた。
そこへ――

「むっ!?」

横合いから、大量の火線が敵部隊に降り注ぎはじめた。幾条ものビームとミサイル。リニアガンらしき閃光も見える。
突然降り注いだ飽和攻撃に、いくつかのジンが火線に晒されて光の玉に封じ込められ、シグーもダメージを負って後退していく。
振って湧いた幸運。MS部隊は後退していき、戦闘の気配が去っていく。
ギリアムは望遠レンズでその火線の元を観測するよう指示すると…見えたのは、地球軍の艦隊と、メビウスの編隊。

「どこの艦隊だ……? 通信を開け」
「ハッ――あっ、艦長、味方艦らしき艦艇から先に通信が来ました」
「早いな……メインモニターに映せ」

命令の直後、後退していくMSの光点を映していたメインモニターが、壮年の男の顔へと切り替わる。

〔危ないところだったな。こちら第8艦隊所属、先遣隊旗艦モントゴメリィ。艦長のコープマンだ〕
「こちら第8艦隊所属、強襲特装艦アークエンジェル。私は第7機動艦隊のギリアム中佐であります」
〔おぉ、ギリアム中佐か……久しいな。まさかその艦の艦長になっているとは〕

ギリアムはメインモニターに映った彼の顔に敬礼し、互いに顔を綻ばせる。二人は所属艦隊は違えど、かつては艦隊戦戦術で競い合った仲であった。

「それで、コープマン大佐はどのような目的でこの宙域へ?」
「うむ。我が軍の最高機密が単艦でザフト制空圏内を飛ぶというのだから、飛び出してきたのだよ。手土産も持ってな」
「手土産、ですか」

またぞろ、格納庫で眠ってるMAのような、得体の知れない実験的なMAでも持ってきたのだろうか。
ギリアムやマリュー、ナタルが揃いも揃って怪訝そうな表情を浮かべたので、コープマンは苦笑して掌を仰いだ。

「おいおい、嬉しそうではないな? 諸君らの苦境を察して持ってきてやったというのに」
「前例がありましてな……失礼しました。では、手土産とはどのようなものなのでしょうか?」
「それは、接舷してからの楽しみにとっておけ。それではまた会おう、ギリアム中佐」
「ええ、また後ほど」

通信が切断された後、ギリアムはシートに深く腰を落として、ふぅと安堵の吐息。
なにやら怪しいものを持ってきたようだが、援軍が来てくれた。それが何よりだった。
今までは友軍からの支援が期待できず、まともな軍事行動ができない状態だったが、これでようやく、戦争らしい戦争ができるというものだ。
長く苦しい戦いの連続で、ギリアムは少し楽観的になっていた。


- - - - - - -


「援軍が来たんですか? 連合から?」
「ああ、ネルソン級一隻に、ドレイク級二隻。艦載機も満載だってよ。これでようやくまともな軍隊になってきたな」
「そうですね……今まで僕達だけで戦っていましたから」

リナにムウにキラ。お決まりの三人が思い思いの感想を口にしながら、リナとムウはミストラル。キラはストライクに乗りこんで、補給物資の搬入に取り掛かる。
初めは戦うことと、アークエンジェルの乗員以外の連合軍人を毛嫌いしていたキラだが、リナとムウと接することで克服しはじめているようで、二人と一緒に増援に安堵している。
戦闘発進ではないので、各々のタイミングで格納庫から発進。接舷し、補給物資が詰め込まれたコンテナを搬出するネルソンに取り付いていく。
普通に空間作業をするだけなら、三人とも慣れたもの。バケツリレーの要領で物資を運び込み、最後の、精密作業に向いているキラのストライクがきちんとコンテナを並べていく。

「結構な量ですね……あといくつあるんですか?」

いい加減ループ作業に飽きてきたリナは、溜息をつきながらモントゴメリィの作業員にうんざりとしながら問いかける。

〔こいつで最後だ! これがとびっきりの手土産だぞ!〕
「?」

作業員に疑問符を浮かべて、モントゴメリィからミストラルのスラスターを精一杯噴かして出てくるのを見届ける。
一体何を引っ張りだそうとしているのだろう。ミストラル2機がウィンチワイヤーを利用して牽引している。結構な重さのものを持ち出しているようだが。
やがて見えてくるのは、「頭」。そして肩。まさか。

「MS!?」

リナは驚きと喜びが混じった喝采を挙げた。




久しぶりの投稿どぁー。PHASE 18をお送りいたしました!
ここまで読んでいただきありがとうございましたー。
最近更新速度が遅くなってしまいました…。それでも読んでいただける皆さんには本当に感謝です。

私は仕事が始まりまして、またも微妙に更新速度が落ちるやもしれません。
それでも、それでも読んでほしい! どうかこれからもお付き合い下さい…(礼)

あんまり長いと、あとがきが本編かっ てことになるので、感想掲示板で続き書きますねっ
次回! 汚いなさすが親父汚い
それでは次回もよろしくお願いします! 失礼します(礼ー)


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