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社説:尖閣事件不起訴 政府に残した重い課題

 沖縄・尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件と、その後のビデオ流出事件で刑事処分が決まった。

 海上保安庁の巡視船に衝突したとして、日本側が逮捕・送検し、処分保留で釈放していた中国人船長を那覇地検が不起訴(起訴猶予)処分とした。また、衝突のビデオ映像を動画投稿サイト「ユーチューブ」に投稿したとされる元海上保安官(昨年末に退職)を、東京地検がやはり不起訴(起訴猶予)処分とした。

 船長については、既に中国に帰国しており、事実上、刑事責任を問うのは困難とみられていた。

 船長を起訴猶予処分にした理由について、那覇地検は「負傷者がなく巡視船への衝突も計画的でなかった」などとコメントした。

 昨年9月の漁船衝突後、検察は「日本の法律に基づいて粛々と対応する」としていた。ところが釈放時は一転して「外交上の配慮」を挙げ、独自に釈放を決めたと説明した。明らかに政治の判断が働いたとみられるのに、菅内閣も国会で検察の判断と主張し続けた。

 釈放の段階で、外交を優先した政府の決断であると明確にしておけば、衝突ビデオの公開についての判断も違ったものになっただろう。

 外交に影響を与えない範囲で早く公開できたし、たとえ非公開としても、その理由を説得力をもって国民に説明できたはずだ。

 そこをあいまいにしたことが元保安官によるビデオ流出につながり、それが世論の支持を一定程度得ることになった。政府は対応の不手際を改めて反省すべきである。

 元保安官の起訴猶予処分の理由について、東京地検は「映像管理に不十分な点があった。入手方法に悪質性はなく、利欲目的でもない」とコメントした。

 公務員の秘密漏えいが、刑事事件に発展するか否かの判断は、過去分かれてきた。今回は、地検が指摘するように海保の情報管理が甘く映像の秘密性が低いことや、船長の処分とのバランスも考慮し結論を出したとみられる。

 尖閣問題を受け、馬淵澄夫前国土交通相は、海上保安庁の領海警備のあり方の見直しを表明した。今月7日には現場の海上保安官の警備の選択肢を増やす基本方針も発表したが、実効性を含めて議論は途上である。

 菅直人首相は20日に行った外交方針についての演説で、海洋権益をめぐる争いが顕在化し、地域の不安定要因となりつつあるとの認識を示した。その上で「日本の権利は正々堂々と主張しつつ、紛争を未然に防止する海上ルール作りなどで指導力を発揮する」との決意を述べた。腰を据えた対応を求めたい。

毎日新聞 2011年1月22日 2時30分

 

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