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天声人語

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2011年1月22日(土)付

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 知米家で知られる先輩記者の松山幸雄さんが、かつて米国の大学で学生らに話をした。日本の「企業ぐるみ選挙」の説明をすると、「それは政治学というより文化人類学の領域ではないのか」と質問され、恥ずかしい思いをしたそうだ▼その松山さんが、「米国の知日派の会合で『小沢一郎氏の力の源は何か』と聞かれるのが一番困る」と言っていた。思想的な牽引(けんいん)力があるわけではない。演説は下手。時々雲隠れし、たまに会見してもレベルの高からぬ話――。それでいて政治のリーダーなのが、彼らには何とも不思議らしい▼たしかに、納得させる答えは難しそうだ。日本人にとっても、小沢氏の輪郭はなぞりにくい。今回も、衆院政治倫理審査会に出ると思ったら、あれこれ駄々をこねている。民主党内はきしみ、またぞろのうんざり感が募る▼よく「司法の場にゆだねる」と言うが、一国の政治リーダーの場合、そう単純ではあるまい。権力をゆだねた国民に、潔白を進んで明らかにする道義的責任を常に負う。それを知らぬ氏でもなかろうに、と思う▼のどに刺さったトゲというより、国政の十字路に転がり落ちて動かぬ巨岩だろう。「与党街道」も「野党通り」も渋滞し、クラクションの音ばかり大きい。岩に足が生えぬなら、動かすしかない▼昔、元首相の吉田茂が「反対党は嫌いだが、反対党が強くないと内輪がおさまらない」と言っていた。言にならえば、民主党の内輪もめは野党の弱さゆえだろうか。週明けからの国会、政治学の領域の熟議が聞きたいものだが。

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