【社説】体を張って生徒を助け死亡したバス運転手
53歳のキム・ヨンインさんは数日前まで、光州広域市(日本の政令指定都市に相当)でスクールバスを運転していた。キムさんは地元でスーパーマーケットを経営していたが、経営が悪化して店を閉めた後、1年前に観光バス会社に就職した。会社が学校と契約し運行していたスクールバスを運転し、月150万ウォン(約11万600円)の収入を得ていた。そんなキムさんは20日、火葬場で一握りの灰となった。
キムさんは今月18日午後6時ごろ、普段担当していた学校とは違う女子高の生徒たちを臨時で乗せるため、該当する女子高前の坂道にバスを止めた。キムさんはバスの外に出て、下校する生徒たちを待っていた。25人乗りのバスは8人目の生徒が乗車したとき、サイドブレーキが外れたかのように、校門の方に向かって(勝手に)坂道を下り始めた。バスが加速すれば、10メートルほど下の校門前にいた生徒たち20人をはねてしまうかもしれない、危険な状態だった。
その瞬間、キムさんはバスの前に駆け寄り、動いているバスを背中で受け止めるようにしながら生徒たちに「逃げろ」と叫んだ。何が起こったのか分からないまま、校門の前に集まっていた生徒たちはキムさんの叫び声を聞いて逃げ、2人だけが軽いけがをした。キムさんはバスの下敷きになって死亡した。
キムさんは体一つで25人乗りのバスを止められるとは思っていなかったはずだ。キムさんが動いているバスの前に立ちはだかったのは、娘のような生徒たちのためだった。その瞬間、キムさんにとって「自分の娘」と「他人の娘」を隔てる垣根はなかったはずだ。キムさんの死から、人間が本来持つべき、垣根のない心が見える。
キムさんは裕福とはいえない暮らしの中でも、いつも笑顔を忘れなかったという。生徒たちは「バスから降りるときは、おじさんがいつも『気をつけて』と声をかけてくれた」と話した。キムさんが自ら体を投げ出して見せた愛の力に、多くの人が感動と慰めを受けた。