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[15294] Fate/Masked Rider 555 〜疾走する魂〜 (第2話まで改訂)
Name: のっぽ◆5125fdc3 ID:27f052ea
Date: 2011/01/21 10:22
この作品は、Fate/stay nightと仮面ライダー555のクロスです。
処女作ですので、それを許容出来る方はどうぞ。


【お知らせ】
お久しぶりです。トリを紛失してしまいましたが、作者です。
長らく更新が滞っており、待っていていただけている方がおられましたら、誠に申し訳なく思っております。

4月から社会人となり、慣れない生活と疲れで中々執筆する事が出来ておりません。
何とか書ききりたいとは思っているのですが……

また生活に余裕が出てきたら頑張りますので、よろしくお願いいたします。


追記
本当にお久しぶりです。
随分と間を空けてしまい、見ていてくれていた方々には大変申し訳ありませんでした。
新卒で入った会社を辞めて再就職したり、色々と大変だった2010年でしたが、また少しずつ頑張りたいと思います。

更新のほうですが、一話から色々と直しつつもう一度ゆっくり進めていこうかな……と思っています。
以前はだいぶ早足になってしまい、戦闘ばかりの話になってしまっていましたから……もっと丁寧に話を書いていきたいと思っています。
以前から読んでいてくれて、応援してくれていた皆様には大変失礼な事だとは思いますが、それでも読んでくれるという方は今後ともよろしくお願いいたします。




[15294] 第1話(改訂版)
Name: のっぽ◆5125fdc3 ID:76a543ac
Date: 2011/01/21 10:18

仮面ライダー555私的名言シリーズ

「君は口が悪いな。直したほうがいい」
             ───草加雅人


Fate/Masked Rider 555 ~疾走する魂~ 第1話(改訂版) 


「はぁ……こりゃまた酷い有り様ね。自分のせいとはいえ、頭が痛くなるわ……」

私、遠坂凛は非常に困っていた。
遂に行われる聖杯戦争に参加するため、いざサーヴァントを召喚してみれば『ここぞ、という時に発動する遠坂の呪い』ことドジを踏む始末。
具体的に言えば、居間の時計の時間が1時間半ほどずれていた事に気が付かず、その結果がこの有り様(まるで爆心地のような散らかりよう)な訳だが。

「それで……あなたが私のサーヴァントって事で良いのかしら?」

そう問いかけた先には、召喚の余波でめちゃくちゃになった部屋の真ん中で、ふてぶてしくソファに座る男の姿。
歳は私とそこまで離れているとは思えないが、問題はその格好だ。
まるっきり現代人で、おまけに不機嫌そう(不機嫌そうなのは、十中八九私の責任だろうが)……少なくとも、私が思い描いていたサーヴァントのイメージとはかけ離れている事には間違いない。
だってサーヴァントっていったら、過去の英雄が召喚されるのが一般的なのだ。
少しばかり『外れた』英霊が召喚される事はあっても、現代人(としか私には思えない)が召喚されるなんて聞いた事が無かった。

「いってぇ……なんて乱暴な召喚の仕方だよ、ったく……」

「うぐ……悪かったわよ! もう、いつまでもぶつぶつ言わないでよね! ……そ、それで、あなたのクラスは何? セイバー……じゃあないわよねぇ」

よほど痛かったのか、不機嫌そうにぶつぶつ呟く様を見て罪悪感が湧くが、やってしまったものは仕方がない。
……しょうがないじゃない。私だってドジを踏みたくて踏んでいる訳では無いのだ。
ここぞとばかりにうっかりミスを連発してしまう私の悪癖は、もはや呪いとすら言っていい程のレベルに達しているのだから。

まあ過ぎた事は置いておいて、とりあえずは自分のサーヴァントのクラスくらいは知っておかなくてはお話にならない。

「……クラスはライダー。ついでに言うと、真名は乾巧。他になんかあるか」

「ふーん、ライダーか……乾巧って聞いた事ないけど……あ、宝具は何なの?」

ライダーのクラスで最も特徴的なのは、各々のサーヴァントの切り札とでも言うべき宝具の強力さだ。
最優のサーヴァント、セイバーを召喚出来なかったのは残念だったが、贅沢は言えない。
ライダーとて悪いクラスでは無いのだし、彼も案外優秀なのかも知れないし。
……それはともかくとして、やっぱり彼はどこからどう見ても唯の人間である。
ライダーらしい(どんな格好が『ライダーらしい』かは置いておくとしてだ)要素は皆無と言っていい。

おまけに『乾巧』なんて英雄なぞ、ついぞ聞いた事すらないのだから、少々不安になってしまうのも仕方が無いのだ。
聖杯戦争において、知名度は重要な要素。
誰もが知っているような有名な英雄ならば、その分能力値にもプラス補正がかかるというわけだ。
もっとも、誰もが知っているような有名な英雄は弱点もよく知られているし、必ずしも良いことばかりでは無いのだが。

「……ん」

「……はぁ!? 携帯電話ぁ!?」

ついでに聞いておいた宝具に関して見せられたのは、何と携帯電話(最も、機械にめっぽう弱い私は持ってはいないが)
武器には見えないどころではない。と言うか明らかに武器ではない。って言うか武器だったら困る。
携帯電話でいったいどう戦うと言うのか。どうやって、何と戦うの?
はたから見ていたら、私の顔は面白い事になっている事だろう。
頭の中では疑問符が乱れ飛び、あんぐりと開いた口を閉じる事が出来ない。

思わずおちょくられてるのかと思ったが、表情は相変わらずの仏頂面……とてもじゃないが、ふざけているようには見えない。
ライダーなんだから、何か宝具として乗り物の類もあるんだろうけど……現代人っぽいから、バイクとかかしら?
その辺りはおいおい聞くとしても、本当に携帯電話で戦えるのか。いや、常識で考えたら戦えるわけがないんだけれど、英霊なんてものを呼び出しておいて常識云々に拘るのはナンセンスだ。
とりあえず、ライダーにきっちり確認しておかなくてはならない、と思ったのだが……

「本当にそれで戦えるんでしょうね……っていうか戦ってもらわないと困るんだけど。で、その携帯電話でどーやって戦うのかしら、ライダー?」

「……さあな。忘れた」

「……私の耳はいつおかしくなったのかしら。ライダー……もう一回言ってくれる?」

「だから……忘れたんだよ。こいつの使い方」

なんて事を真顔で言ってくれやがりましたよ、この駄サーヴァントは。
宝具が携帯電話って時点で並みの魔術師だったら卒倒ものなのに、言うに事欠いて「使い方を忘れた」ときた。
もう怒ればいいのか呆れればいいのかすらわからず、私は本日二度目の間抜け面を晒す羽目になったのだ。
まったく、今日はどれだけ予想外の出来事が起これば気が済むのだろうか。
それも起こるイベントは見事なまでに頭の痛くなるような事ばかり。……私、今日厄日だったかしら?

「……信じられない。どこに自分の宝具の使い方を忘れるサーヴァントがいるのよ!」

「さっきから好き放題言いやがって……だいたいなぁ、お前があんな滅茶苦茶な召喚するからこんな事になったんだろうが!」

「お前って言うな! ってか……あー。あれが原因かぁ……」

爆心地のような惨状の部屋の中心で喧嘩する私とライダーは、傍から見れば滑稽に違いない。
……それにしたって、宝具の使い方を忘れたサーヴァントでどうやって聖杯戦争を勝ち抜けというのか……あんまりである。
まあ、ライダーの記憶が断片的にしかないのは私の召喚時のうっかりが原因らしい(っていうか、冷静に考えればそれしかないのだが)
それ故に、原因がわかってからはライダーに向かってヒステリックに怒るわけにもいかず、もはや途方に暮れるしかないのだが。

……だがまあ、ライダーの記憶が絶対に戻らないという事は無いと思う。
他のマスターやサーヴァントと戦っていくうちに、ひょんな事から思い出す可能性だって十分にあるのだ。
うん、いつまでも悩んでいるのは私の性に合わない。まずは前向きに考える事から始めないといけないわ!

「よし決めた! 絶対にあんたの記憶を取り戻して、聖杯戦争を勝ち残ってやるわ! あんたも気合入れて宝具の使い方、思い出しなさいよ!」

「……気合で思い出すってんなら、苦労しないと思うけどな」

そんなわけで、私とライダーの聖杯戦争は幕を開けることになった。
不安要素が沢山……って言うか不安要素しかないように思うけれど、今更後戻りする事なんて出来はしないのだ。

戦うと決めた。父が帰って来なかったあの日の誓いを果たす時は、今なのだから。

─────────────────────────────────────────

「サーヴァント・アーチャー……召喚に従い参上した。で、君が俺のマスターってことで良いのかな」

「あ、あの……アーチャー。召喚したのは私だけど、その……」

暗い暗い間桐邸の地下室。
私を何度も犯した忌々しい蟲がざわめくその空間で、私はサーヴァントを召喚しました。
私の召喚に応えて現れたのは、私よりも少し年上に見える男のサーヴァント……アーチャー。

想像していたような中世の騎士や、妖艶な姿の女性ではなく、アーチャーは傍から見れば私とまったく変わりない普通の人間でした。
外見も純然たる日本人で、服装もまるっきり現代人のそれとなんら変わりありません。

そんな彼が、私の事をマスターかと聞いてきました。
確かにアーチャーを召喚したのは私ですが、実際にマスターとして聖杯戦争に参加するのは兄さん。……これはお爺様も承知している事。
だから私は、アーチャーにその事を伝えなければ。戦うのは嫌だけれど、召喚して早々に彼を裏切るみたいで心が痛む。

「おい桜ぁ! お前こんな弱そうなサーヴァント召喚しやがって……! 真面目にやったのかよ、このグズ!」

「痛っ……!」

兄さんに令呪を譲渡する事をアーチャーに伝えようとしたその時、怒りの形相を浮かべた兄さんが私の頬を叩きました。
理由はきっと、私の召喚したアーチャーが弱そうに見えたから。
兄さんはいつも私を叩きます。洗濯物が乾いていなかったから。ご飯のおかずが気に入らなかったから。
叩くのに飽きたり、満足したら兄さんは私を犯すんです。

私にとって、ここは地獄そのもの。
先輩のお家に行って、ご飯を作って、先輩と藤村先生と一緒にご飯を食べて。
こんなに叩かれたら、先輩のお家に行けなくなっちゃうかな……私、ささやかな幸せを夢みる事も許されないのかな……

「お前のせいで聖杯戦争に負けたらどうす……ぐふぅっ!?」

「……君は口も悪いが手癖も悪いようだな。直したほうがいい」

痛みでうずくまる私を蹴り続ける兄さんの声と動きが不意に止まりました。
恐る恐る顔を上げると、お腹を押さえて悶絶する兄さんと、冷たい目で兄さんを見下ろすアーチャーの姿。

「まあ、これ以上マスターに暴行を加えるようなら。……もう直さなくてもいいようにしてやる事も出来るけどね」

私はこの時思ったんです。
やっと此処でも味方が出来たんだって。守ってくれる人がいるんだって。だから私は───








後書き
ということで、第一話の改定バージョンを更新しました。
改定にあたっては、基本的なお話の流れはおそらく変わらないと思いますが、細かい追記や新話の追加はしていきます。
また、細かいところで設定を変更していく予定です。

長らく作品を更新していなかった事、最終話一歩手前でこのような改定から更新を再開する事は、以前から読んでいてくれていた方々には大変申し訳無く思っています。
改めて自分で全話を読み返した時に、話が進むにつれて駆け足になってしまっている事を痛感したことが、改定の一番大きな要因です。
それに加えて、もう一度仕切りなおしてリスタートしたい、という事でこのような形をとらせていただきました。

まだこの作品を読んでみよう、と思っていただける方は、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。



[15294] 第2話(改訂版)
Name: のっぽ◆5125fdc3 ID:76a543ac
Date: 2011/01/21 10:46
仮面ライダー555私的名言シリーズ

「それも全て、乾巧って奴の仕業なんだ」
             ──草加雅人

「なんだって! それは本当かい!?」
             ──木場勇治

Fate/Masked Rider 555 ~疾走する魂~ 第2話(改訂版)

──夢を見た。

夢に出てくる映像と声は酷く不鮮明で、ところどころノイズが走っている。
場所はどこなのか……はっきりとはわからないけれど、一つわかる事があった。
まるで霞がかっているようで、はっきりとその姿を認識する事は難しいけれど……ライダーがいるということ。

ライダーの横には、顔の見えない女性が一人。
そして彼らの周囲には無数の「敵」がいる。
まるで特撮番組に出てくるヒーロー、もしくは戦闘員のようなスーツと仮面を身に纏い、ライダーと女性の周囲を包囲している。

それはまるで、許されざる罪人を裁く……すなわち、ライダー達を殺す事が目的のようだった。
戦力差は圧倒的……正に多勢に無勢。四面楚歌といった言葉がぴったり当てはまるような、絶望的な状況。

ああ、きっとこれはライダーの生前の記憶なのだろう。
そんな緊迫した場面を、私はまるで映画を見ているような気分で眺めている。
これはあくまでライダーの記憶であって、私がここで出来ることなんてなにも無い……例え、この場でライダーと女性が殺されるような事があったとしても。

そんな事を考えながら、自分が拳を握り締めている事に気がついた。
私には彼らを助ける事なんて絶対に出来やしないのに、それでも私は──

─────────────────────────────────────────

「夢……」

窓から差し込んでくる日の光を浴びて、目が覚めた。
ふと頬に手をやると、自分が泣いていた事に気がついた──本当にらしくないわね。
英雄なんて存在は、程度の差はあれど大抵は壮絶な死を迎える事が多い。

自らの正義を信じて戦い続け、何の見返りも求めないまま戦い続けて──最後には、助けた人々に裏切られて死んだ英雄。
不意にそんな男の姿が脳裏に浮かんだ。
会った事も聞いた事も無いのに、どうしてなんだろうか……本当に、どうかしてる。

「やめやめ! ようやくサーヴァントを召喚してこれからって時なんだから、いつまでも暗い気分を引きずってられないし!」

ライダーの生前の情景を夢で見たのは、私とライダーのパスが繋がったからだろう。
人の記憶を盗み見ているみたいで、あまり気分の良いものでは無いけれど、こればかりは仕方が無い。
前向きに考えるとするならば、ライダーの宝具の使い方もわかるかもしれないし。

あまり良いとは言えない目覚めの陰鬱とした気分を振り払い、寝巻き姿のままで居間へと向かう。
昨夜はライダーと一緒に散らかった居間を片付けた後は、もうぐっすり(実際は手伝ったのは最初だけで、結局はライダーに押し付けてきたのだが)
召喚疲れもあったのだろうが、目を覚ましてみればもう昼過ぎというのだから、我ながら少々あきれてしまう。

ライダーを召喚してせっかく気合を入れたにも関わらず、このだらけっぷりってどうなのよ……はぁ。
しかし、そんな自虐的な考えも居間に着くまでの話しだった訳で。

「あら、すごいじゃない。あんだけ文句言ってたのに……案外真面目なのかしら?」

流石に前のまま元通り……とまではいかないものの、一晩で片付けたとは思えない部屋の整頓ぶりに、思わず感嘆の声を上げてしまう。
壊れた家具の類は纏めて部屋の隅に置いてあるが、それは仕方が無いだろう……少々面倒だが、後で魔術で直しておくことにしよう。
それにしても、あれだけぶつぶつ言っていたのに(片付けを押し付けた時は、それにくわえてジト目で睨んできた)……と、腕組みをしながら周りを見渡していると、そこにはライダーの姿。
しかし、仮にも英霊であるはずのライダーが何をしているのかと思えば。

「あんた……何してんの?」

「なんだ、やっと起きたのかよ。見てわかんだろ。アイロン掛けだ」

「………」

そう、ライダーのしていた事は、何を隠そうアイロン掛け。
洗濯したままだった私の洗濯物に、次々とアイロンを掛けていくその様は、まさにプロの中のプロ。
山のように溜まっている洗濯物を前にしても、まったく動じる事無くアイロンを掛けまくるその姿は素晴らしい。
素晴らしいのだが……色々とイメージぶち壊しである事は間違い無い。

あれ、私の召喚したサーヴァントって、ライダーじゃなくてバトラーだったかしら?
ああ、私のお気に入りのスカートも完璧な仕上がりだわ……って、そうじゃなくて!

「……なんだよ」

「なんでサーヴァントがそんな事してんのぉぉぉぉぉっ!?」

そんなこんなで、片付けられた部屋を見た時の満足感はあっという間にどこかに吹き飛び、朝の遠坂邸に私の悲痛な叫びが響きわたったわけである。

─────────────────────────────────────────

「ったく、アイロン掛けするサーヴァントなんて、聞いたことないわよ……」

「悪かったな……別にいいだろ!」

ソファに座り、アイロン掛けを一通り終えたライダーと話しをしていると、再び眠気がぶり返してきた。
やっぱり、召喚の際にかなりの量の魔力を持っていかれたみたいだ。
こうやってる分には、ライダーの魔力はそんなに感じないのに……どうなってんのかしら?実は秘められたすっごい力を持っているとか?
それはそれで困る事ではない(あまりに燃費が悪いのも考え物ではあるのだが)
とりあえず、今日は慣らし運転程度に止めておくのが得策かしら。

幸い、聖杯戦争の監督役である綺礼からは、まだ開幕の連絡はきていない……まだサーヴァントとマスターの数が揃っていないのだろう。
無論そう遠くないうちに聖杯戦争は開幕するだろうが、こと今の状況では時間が少しでもある、という事はありがたいことよねぇ……
ソファに腰掛けてそんなことを考えていると、ライダーが紅茶のカップを持ってこちらに歩いてくる。無論、先ほど怒鳴ったことに対する文句付きで。

「あら、意外と気が利くじゃない」

「……ふん」

素直に礼を言えば、あいかわらずの態度でそっぽを向いてしまうライダーだが……わかった、こいつ照れてるんだ。案外可愛いとこもあるんじゃない。
そんなライダーの意外な一面を見てにやにやしながら紅茶を飲んでいると、当のライダーは紅茶に息を吹きかけて冷ましている。

「……何で紅茶を冷まそうとしてんのよ」

「俺の勝手だろ……ふーっ、ふーっ」

「やっぱりあんた、おかしなサーヴァントだわ……」

世の中には猫舌の人がいるという事はわかるし、おそらくライダーも猫舌なのだろうという事はわかった。
だがしかし。自分が猫舌だという事を理解しているのなら、わざわざ自分の分の紅茶を淹れる必要も無いだろうに。
不器用そうな奴だし、「一人で紅茶飲むのは寂しいかもしれないからな」なんて余計な気遣いでもしたのかしらね?
……まぁ、悪い気はしないんだけど。

そんなこんなで2人で紅茶を飲みながら、少しの間、穏やかな時間を過ごすことになった。
いつも1人でお茶してたけど、誰かと一緒にこうしているのも悪くない……って、違う違う。
聖杯戦争よ聖杯戦争!まだ正式に開幕したわけじゃあないけれど、やらなければならない事は山のようにあるのだ。
こんな風にのんびりしている場合じゃないって!

「ライダー。出かけるわよ。準備しなさい」

「どこ行くんだよ。随分眠そうだけど、大丈夫かよ」

「街の案内よ。いざ戦うに当たって、地形は把握しておくべきでしょう?……ああ、身体は問題ないから大丈夫よ」

気持ちを切り替え、ライダーに外に出かける準備をするよう指示する。(そもそもサーヴァントに準備する事があるのかどうかは疑問だが)
……それにしても。何だかんだで私の身体を心配するライダーは結構なお人好しだと思う。
性格の悪いサーヴァントだったら、そんな気遣いなどしてくれないかもしれないし。

「そういや……まだ聞いてなかったよな、マスターの名前。これから一緒に戦う事になるんだから、教えてくれよ」

──やばいなぁ。なんて不意打ちかますのかしら、こいつ。
マスターとサーヴァントは、令呪で縛られた主従関係だ。
協力関係にあるとはいっても、結局は万能の願望機である聖杯を手に入れる為だけの協力関係。
自分のマスターが主に相応しくないと判断したサーヴァントが裏切る事だってあるし、そうそう簡単に心を許す相手ではない。
それ故に、サーヴァントがマスターの名前を知る……なんて行為にはさして意味はありはしない。

「なんだよ」

私が目を丸くして黙っているのが不満なのか、ぼそり、と呟くライダーの姿はとても英雄には見えない。
それでも、私はそんなライダーの姿に安心してしまっているんだ。
こうして、令呪もなにも関係なく話せる……そんな関係に。
彼を召喚してから僅か数時間しかたっていないにも関わらず、こんな風に感じるのはおかしいかもしれないけれど……他人と一緒に過ごすのって、案外心地良いかもしれない。

それが聖杯戦争という戦いの場において、どういう結果をもたらす事になるのかわからない。
なんたって昨日見た彼の宝具の一つは携帯電話だし、ろくに戦えるのかどうかも怪しいものだ……そもそも、今は使い方すら忘れてしまっているわけだし。
それでも、ライダーには背中を任せられる。一緒に戦える。
この時、私はそう確信したのだ。根拠なんてどこにもありはしない。普通はこんなんで大丈夫か、と不安一杯になる(事実、昨夜は私自身そうだったわけだし)
しいて言えば……女のカンってやつかしら?

「私の名前は遠坂凛よ。……貴方の好きに読んで頂戴」

そうして言葉を発してみれば、やけにぶっきらぼうな口調になってしまった……まるでライダーみたいに。
しかし、ライダーは私のそんな心境を知るよしもなく、私の頭にポン、と手を置いて。

「ああ、じゃあ凛だな。とっとと行こうぜ。日が暮れちまう」

まったく、この男はどうかしている。
直ぐにふてくされていて、まるで少年のような顔を見せたり、今みたいにすごく大人な顔をする時もある。
不覚にもドキドキしてしまったけれど……顔、赤くなってないわよね!?

そうしてライダーと共に家を出ると、なにやらライダーがごそごそしている。
なにをしているのか……と問いかける前に、突如として私達の目の前にバイクが現れた。

「……バイク? いきなり現れたけど……これ、あなたの宝具?」

「俺の宝具……らしい。まだはっきりとは思い出せないけど……なんか余計な事する奴だった気が……」

「?」

そう言ってバイクを撫でるライダーの顔は、言葉とは裏腹に穏やかな顔だ。
バイクが余計なことをする……の意味が、私にはよく解らないのだけれど……自立行動でもするのかしら、このバイク。
と、そんな事を考えていると、どこから取り出したのかライダーがヘルメットを投げてよこす。
……このヘルメット、今確かに突然現れたわよね。まさか、ヘルメットもバイクとセットで宝具扱い?

「んじゃ、行こうぜ。しっかり案内してくれよな」

「まかせなさい、ライダー!」

そう言って私をバイクの後ろに乗せたライダーは、少し日が傾きかけた街の中へ向けてバイクを走らせた。

─────────────────────────────────────────

「乾巧……まさか、あいつも召喚されていたとはな」

「乾巧? それが姉さんのサーヴァントの真名なんですか?」

アーチャーのバイク(すごく大きなサイドカー付で、乗るには案外快適でしたけど)で一通り街を回り、ふと見かけたのは姉の姿。
お互いにヘルメットを被っていたし、向こうからは私たちは見えていなかったみたいだけれど……間違いない。
当然、というべきか……やはり私の実の姉である遠坂凛も、既にサーヴァントを召喚し終えていたみたいです。

それよりも驚いた事は、アーチャーが向こうのサーヴァントの真名を知っていたという事。
一瞬見ただけでしたが、アーチャーと同様にバイクに乗り、格好もまるっきり現代人。
アーチャーと一緒に戦っていたのか、それとも敵だったのか……私には、まだはっきりとはわかりません。

「ああ、十中八九間違いないだろう。……桜、あいつには気を付けたほうが良い。人殺しや裏切りをなんとも思っていないような奴なんだ」

「そんな……アーチャーは、あのサーヴァントと知り合いだったの?」

アーチャーの話では、『乾巧』は極悪非道の限りを尽くしてきたような男の人らしいです。
そんな人がどうして英霊になれたのかはわかりませんが……アーチャーの言っていた『反英雄』っていうのに当てはまるのかもしれません。
そんな危険な英霊が、姉さんのサーヴァント……だったら、私が倒さなくちゃいけません。
だってだって、もしかしたらそんな危険なサーヴァントの性で、先輩が傷つくかもしれないんですよ?

先輩はお人よしだし、正義の味方を目指してるから……物騒な事件が起こったら、きっと自分から飛び込んでくるに決まってます。
だからその前に、私が姉さんを倒さないと…………くす。



[15294] 第3話
Name: のっぽ◆5125fdc3 ID:76a543ac
Date: 2010/02/18 11:50
仮面ライダー555私的名言シリーズ

「たたたたっくん!オルフェノクが!」
           ──菊池啓太郎

Fate/Masked Rider 555 〜疾走する魂〜 第3話

私を後ろに乗せたライダーは、比較的ゆっくりとバイクを走らせていた。
街の地形を把握する、という目的なのだから、当然と言えば当然なのだが。

やはりライダーのバイクは相当珍しいらしく、同じようにバイクに乗った人達にじろじろ見られたのはご愛嬌。
やっぱり宝具になるほどのバイクなのだから、普通とは違うのだろう。

「冬だってのに、案外温かいんだな……この辺は」

「そうね。この冬木は比較的温かいわ。それでなかったら、こんな時期にバイクなんて乗りたくないわよ」

「ふーん……お、ここが凛の学校か?」

せっかくバイクに乗って移動している、ということで、私達は深山町から新都へ…そして、今は学校に来ていた。
この時間ともなれば、当然のように人気は無く。
昼間、私達が通っている場所とはまるで別の場所のような錯覚さえ覚える。

正門を開け、バイクを引きながら校内へと歩を進める。
こんな風に他愛のない話しを続けていても、ライダーが常に気を張っているのが解る。
たとえ視線を動かしていなくとも、五感をまるで針のように鋭く研ぎすませ、周囲の様子を探っている。

そして、私達がグラウンドの丁度真ん中に差し掛かった時、ライダーが足を止めた。

「おい! いつまでこそこそ見てる気だ?」

「え!?」

「──敵だ。ずっと俺たちを見てた奴がいる」

突如、ライダーが険しい目つきのまま、声を上げた。
その声を聞き、あわてて魔力で視力を強化する。
しかし、いくら回りを見渡してみても、それらしい姿も気配も無い。

だが、それでライダーが学校に行くと言い出したのか、と合点がいった。
おそらく、ライダーはかなり早くから尾行に気付いていたのだろう……一言くらい、言って欲しかったとは思うが。

──と、ライダーに声をかけようとしたその時に。
振り向いた私の目に写ったのは、青いボディスーツのような戦闘服を纏い、血のように赤い槍を持った、サーヴァントの姿。

「へえ、案外鋭いじゃねえか。完璧に魔力も気配も消してたハズなんだけどな」

そう、まるで友人に話かけるような気さくな口調のサーヴァント。
こうしているだけでも、男の身体から膨大な量の魔力が噴き出しているのがわかる。
持っている槍からしてランサー……身体が震え出しそうなのを気力で押さえ込む。
相手に弱みを見せてはいけない……常に優雅に、相手をボコボコにすることだけを考えろ!

「あいにくと、鼻が利くんだよ、俺は」

「ハ! 鼻が利くときたか……いいじゃねえか。おら、得物を出しな……聖杯戦争はまだ始まっちゃいねえが、前哨戦といこうぜ」

ライダーの言葉に思わず力が抜けそうになるが、ことこの状況になっても冷静さを失っていないライダーの姿は頼もしい。
得物を出せ、とライダーに告げるランサーは、よほど自分の強さに自信があるのか……はたまた、単なる戦闘狂か。

「おい凛。やっちまっていいんだよな?」

「──勿論よ、ライダー。貴方の力、見せて貰うわよ!」

私の前に一歩踏み出し、ランサーを見据えたまま、私に声をかけるライダー。
その声には、揺るぎない覚悟と自信が溢れ、私もそれに応えるように、真っすぐにライダーを見据える。

次の瞬間、ライダーの腰にはメカニカルなベルトが現れ、右手にはあの夜に見た携帯電話。
ライダーが携帯を開き、5を三回プッシュし、ENTER。

『Standing By』

「しっかり見とけよ、凛。──変身!」

電子音声が流れ、ライダーが携帯電話を持った右手を高く掲げ、ベルトのバックルへ突き立て、左側へ倒す。

『Complete』

その電子音声と同時に、ライダーの全身に赤く光るラインが走り、次の瞬間には強烈な光が放たれる。

「ラ、ライダー?」

次に目に入ったライダーの姿は、全身にメカニカルな鎧のようなものを纏った戦士。
四肢には赤く光るラインが走り、胸部は鈍い銀色の装甲が輝く。
そして、鮮やかに光る黄色の目……あのぶっきらぼうなライダーの姿とは、似ても似つかないその姿。

その姿を見て、私は呆然──それは、ランサーも同じ気持ちのようだった。
目を見開き、変身したライダーの姿を睨みつけている。

「……どういう仕組みだかしらねえが、少しは楽しめそうじゃねえか」

「さあな。少しで済めばいいけどな!」

『Ready』

獰猛な笑みを浮かべるランサーに呼応するかのように、ライダーがバイクのハンドル部に何かをセットしたかと思うと、赤く光り輝く剣が現れる。
……いったいどこにあんなのが入っていたのか不思議に思ってしまうが、今はそれどころでは無い。

「おらぁ、行くぜぇっ!」

「たあぁぁぁっ!」

ライダーが右手をスナップさせたのを合図に、赤い槍がライダーに向けて突き出される。
赤い残像を残しながら襲い来るその魔槍を、ライダーもすかさず剣で弾き返す。
互いの武器が赤く光り、火花が散り……真っ暗なグラウンドを赤く染めていく。
その様は、不覚にも見とれるくらいに──美しかった。

ライダーとランサーの攻防は続く。が、あまりにもリーチが違う。
それに加えて、ライダーはあくまでもライダー……剣を本来の武器とするセイバーとは違うのだ。
しかし、それでなおランサーと互角以上に渡り合うライダーの実力もまた、私の想像をはるかに超えていた。

英雄として選ばれたその実力は、やはり本物だった。

「ははっ! やるじゃねえか! いいね……やっぱり戦いはこうでなくちゃいけねぇ!」

「いってぇな……ったく、よくもやりやがったな!」

──最も、声だけ聞いているぶんには、まるでただの喧嘩のように思えてしまうのだが。

剣と槍。
その激しさは一層増していく。
ライダーも槍の戻り際に踏み込んで剣を突き出すが、相手の反応速度も筆舌に尽くしがたい。
首だけを振って、突き出された剣を躱したかと思えば、次の瞬間には槍でライダーの心臓を狙う。
お互いに一撃が致命傷になりそうな程の攻防を繰り広げながら、その顔には恐れは見えず。
顔を仮面で覆っているライダーとて、それは身に纏う気迫で感じることができる。

「ふう……いや、あんたいいね。血が滾るぜ。だがまあ、俺も雇われの身でね──そろそろ決めさせてもらうぜ」

甲高い金属音と同時に、2人の距離が離れる。
と、ランサーの言葉に呼応するかのように、槍に魔力が集中していく。
宝具。それを見てしまった瞬間、頭の中に浮かぶのは、ライダーの死のイメージ。

いけない、宝具を使わせてはいけない。
全身にじっとりと冷たい汗が流れ、緊迫した空気が場を支配する。
しかし、今回の戦いは、意外な形で幕を閉じることになる。
──そう。

「誰だっ!」

予期せぬ一般人の存在によって。



後書き
感想をいただくと、非常にやる気が出ますw本当にありがとうございます!
ファイズって、ライダーの中ではあんまり能力的には高くないと思うんですよね。
…反則的なフォームはありますけど。



[15294] 第4話
Name: のっぽ◆5125fdc3 ID:76a543ac
Date: 2010/02/18 11:54
仮面ライダー555私的名言シリーズ

「下の下ですね」
  ──村上峡児

Fate/Masked Rider 555 〜疾走する魂〜 第4話

「ちっ……邪魔が入ったな。残念だが、今回はここまでにさせてもらうぜ」

「っ! 待てよ、おい!」

激しい戦いを止めるきっかけになったのは、予想外の目撃者。
ランサーは心底残念そうに呟くと、目撃者を追って暗闇の中へと消えていった。
対峙するライダーが止める間もなく、一瞬で視界の外に離脱するその素早さには舌を巻く。

今回の出来事は、誰も居ないだろうと甘い考えを持ち、人払いの結界を張らなかった私のミスだ。
ただの人間が、サーヴァントから逃げ切れるとは思えない。
しかし、万が一……ということもあり得る。
私は拳を握りしめ、脳裏に浮かぶ最悪のイメージを振り払いながら、隣りのライダーに向けて叫ぶ。

「ライダー! 今直ぐランサーを追って!」

「ああ、まかせろ!」

ライダーも同じ気持ちだったのか、即座に力強い声で返事が帰ってくる。
その声に一縷の希望と安心感を抱きながら、私も足を魔力で強化。
その強化された脚力をもって、砂埃を上げて走り出す……ライダーもバイクに跨がり、ランサーを追う。
おそらくはもう目撃者は始末されている可能性が圧倒的に高い。
──それでも、私は足を止めることは出来なかった。

─────────────────────────────────────────

「………」

ランサーの魔力の残滓を追って校舎の階段を駆け上がり、そこで見たのは――廊下の中心に倒れ伏す少年と、廊下に広がる夥しい量の血。
生臭い血の臭いが鼻につくが、私はその光景から目をそらすことが出来なかった。
少年の胸には大きな穴……だれがどう見ても致命傷で、すでに彼が死んでしまっていることは明らかだ。

──ごめんなさい。
その光景を見て、私は心の中で少年に謝罪する。
謝ってどうなるわけでもないし、誰かに許してもらおうと思って謝った訳ではない。
それでも──謝らずにはいられなかった。

せめて、貴方の顔だけでも。
そう思って、倒れている少年の顔を覗き込んだ時、血の気の引く音が聞こえるような気がした。

「やめてよ……ほんとに、なんであんたが……」

それは、妹の思い人の少年──衛宮士郎。
共に暮らすことも出来ないあの妹は、彼が死んだ事を知ったらどう思うのだろうか。
あの優しく柔らかな笑顔を失って、人形のようになってしまうのだろうか。
そして私は、そんな妹の姿を──許すことができるのか。

「……ああぁぁっ、もう! 私ってば自分が何しようとしてるか解ってるの!?」

魔術師としての私は、彼を放っておくべきだと訴える。
──それでも、人間としての私は彼を助けるべきだと訴える。

そして私は、甘さを捨てることが出来なかった。
今回の聖杯戦争においても十分に役に立つであろう、長年魔力を込め続けたルビー。
自身の切り札とでも言うべきそれを取り出して、私は心中で懺悔する。

お父様、ごめんなさい──あなたの娘は、とんでもない愚か者です。

─────────────────────────────────────────

「悪い、ランサーには逃げられた……そっちも、大変だったみたいだな」

「そう……お疲れ様、ライダー」

処置を終えて学校の外に出ると、バイクにもたれて待っているライダーの姿が見える。
既に『変身』した姿では無く、人間の姿に戻っていた。
どうやら私が少年を助けていたことも見ていたらしく、相変わらずの口調で話し掛けてくる。

──二人で夜の街を歩きながら、私は先ほどの行為について考えを廻らせる。
私のした行為は、魔術師としては失格もいいところ。
ライダーに何か言われるかもしれない──そんな一抹の不安。
私自身は自分のした事に後悔なんてしない……それでも、なんて考えていたのだが。

「俺さ、凛がマスターで良かったぜ」

「へっ?」

私の顔を真っすぐに見つめて、優しい笑みを浮かべて──ライダーはそんな事を言ったのだ。
ああ、やばい。ライダーの顔を見る事が出来ない。
私にこんな女の子らしい仕草なんて似合わないに決まってるのに。
ライダーにそうやって言ってもらえた事が、凄く嬉しいなんて──絶対に言えない。

「っ!……そう?当然でしょ?マスター失格なんて言ってたら、ぶん殴るところよ?」

「おい! もう叩いてるじゃねぇかよ!」

そんな心中を押し隠して、ライダーを引っぱたく。
これって、所謂照れ隠しなのかしら?
ああもう、本当に似合わないことしてるわ、私。

さっきまであんな激しい戦いをしていたにも関わらず、今こうして呑気に話しをしていることは、少し信じられない。
少し気が抜けてきた──そんな時にライダーが発した言葉に、私の身体は再び硬直した。

「それはそれとして、さっきの奴放っといていいのかよ。生きてるの知ったら、ランサーの野郎また殺しに行くぞ」

「……ああぁぁ!何でもっと早く言わないのよ! 行くわよライダー、かっ飛ばしなさい!」

「凛だって忘れてたじゃねぇか! ああもう! しっかりナビゲートしろよな!」

本当に、私はなんてドジを踏むのだろう。
目撃者を消すのは、魔術に関わるものにとっては当たり前の事だ。
だからこそランサーは衛宮士郎をあの場で始末した……たとえ、一般人であろうとも関係なく、だ。

ライダーの言う通り、彼が生きていることを知れば──いや、もう既に知っていると考えたほうがいいだろう。
急がなければ、再び彼が殺されることになってしまう。
今度こそ、私達は間に合わなければいけないのだ。

私達を乗せたバイクが、夜の街を疾走する。
幸いにも既に殆ど車も走っておらず、ライダーはバイクを加速させていく。
ライダーの身体で風が遮られているとはいえ、無防備に晒された身体に冷たい空気が突き刺さる。
もはや寒い云々のレベルでは無く、痛みすら覚えるレベルだ。

「ちょっとぉ! 飛ばせとは言ったけど、一体何キロ出して……!」

「ああ!? 三百キロだよ! 急ぐんだろ――しっかり捕まってろよ!」

「三百って──ちょっと早すぎるってばぁぁぁぁっ!」

流石にこの速度では肉声での会話はとても聞こえず、レイラインを通じてようやく会話が成立する。
それで知った現在の速度は、驚きの三百キロオーバー……生身の人間がバイクに乗っている状況で出す様な速度とは思えない。
その結果──夜の街に、バイクの排気音と私の叫び声が響き渡ることになるのだった。

─────────────────────────────────────────

「おい、凛! ランサーだ!」

「帰って──いえ、それにしては……っ! ライダー!」

ライダーが気違いじみたスピードでバイクをかっ飛ばしたこともあって、目的地の衛宮邸には案外早く到着することができた。
そこで私達が目にしたのは家の屋根を飛び移って衛宮邸から遠ざかっていくランサーの姿。

既に衛宮君を始末した後か……とも思ったが、そんな思考は衛宮邸の塀を飛び越えてきた敵を見た瞬間に吹き飛んだ。
半ば反射的にライダーの名を叫ぶと、ライダーも即座にそれに反応し、私を守るように立ちはだかる。

しかし、その姿は依然として人間のままだ。
ランサー戦で見せた姿に『変身』する為には、幾ばくかの時間が必要だ。
だが──目の前の敵は、そんな時間など与えてくれそうにも無い。

「くそっ!」

「どいてライダー! このぉっ!」

毒づくライダーの後ろから横に飛び、まるで疾風のような速さで迫り来る敵サーヴァントに向けて、魔力を混めたエメラルドを放つ。
少しでも時間稼ぎが出来れば──そんな意図で放たれたエメラルドから、魔力の籠った突風が吹き荒れ、敵を襲う。
だがしかし──まるでそんな攻撃などなかったかのように、平然と踏み込み間合いを詰められる。それも、ライダーでなく私のほうにだ。

ライダーが必死な顔で、こちらに走ってくる──その身体が白く光っているのは、はたして見間違いだろうか。
だが、間に合わない……絶体絶命。そんな言葉が浮かんだその瞬間に。

『Battle Mode』

意外な救世主が現れたのだ。
そう。私の常識ではありえない、鋼鉄の戦士が。



後書き
前回の後書きでファイズのスペックについて書いたのですが、皆さま色々と感想のほうで書いて頂いているようでw
平成ライダーは気分やらテンションで強さがけっこう変わることが多いと思うんですが、555は「ベルトが主人公」なだけあって、中の人によってやたら強さが違うんですよね。
まあ、お察しの通りデルタが一番顕著でしたが。

名言じゃなくて迷言じゃ…なんて意見も頂きましたが、まあ多めに見てくださいw
たっくんがランサーと互角ってのは、まあ…主人公補正がかかってるということで一つw



[15294] 第5話
Name: のっぽ◆5125fdc3 ID:76a543ac
Date: 2010/02/18 11:58
仮面ライダー555私的名言シリーズ

「After all,you are only human」
            ──レオ

Fate/Masked Rider 555 〜疾走する魂〜 第5話

「「なあっ!?」」

迫り来る敵に追いつめられ、もはや絶体絶命。
そんな時に突如として現れた鋼鉄の戦士の姿に、私と敵サーヴァントの双方が思わず声を上げた。
だってそうでしょ?バイクが変形してロボットになるなんて、私の想像の範疇を遥かに超えた出来事だ。

その時生じた一瞬の隙に、ロボットとは思えない程の滑らかな動きで『彼』は私を守るように立ちはだかる。

「しまっ! ぐうっ!」

再び私に攻撃を仕掛けようとした敵サーヴァントに向けて、その鋼鉄の拳を繰り出す。
しかし、不意をつかれたとはいえ流石は英霊。
咄嗟に防御したのか、その拳を受けても吹き飛ぶことは無い。
私の目には見えないが、何か手に持った透明の武器を使い、轟音を上げて唸る鋼鉄の拳を捌いていく。

おそらくは、このまま『彼』が戦い続けても、敵サーヴァントに致命傷を与えることは難しいだろう。
それほどまでに、敵サーヴァントの技量は卓越している。
事実、始めこそ虚をついて攻撃を仕掛けていた『彼』だったが、今は逆に押されているのだ。
迫り来る拳を捌き、逆に攻撃を仕掛ける。
攻撃を仕掛けるその間合いから、武器は剣──おそらくはセイバーか。
その見えない剣が振るわれる度に火花が飛び散り、『彼』の鋼鉄の身体が揺れる。
だが、いくら攻撃を受けても、決して私の前から退くことはない──私を守ることが自分の役目だ、と言わんばかりに。

そしてそれは──時間を稼ぐには、十分過ぎる働きだった。
こちらにはまだ──

『Standing By』

「変身!」

『Complete』

「くっ!」

そう、変身する時間を貰うことが出来たライダーがいるのだから。
ライダーが変身する姿を見て、攻撃を躱しながら苦々しげに可憐な顔を歪める敵サーヴァント。
彼女が思うのは、変身したライダーに対する驚きか、早々に私を始末できなかった悔しさか。

『Ready』

先ほどのランサー戦同様の姿に変身したライダーは、今度は腰に取り付けられたユニットにメモリーをセットし、右手に装着。

『Exceed Charge』

ライダーがベルトに装着してあるベルトを操作すると、再度電子音声が流れ、ライダーの右手の赤いラインに沿って光が走る。
まるで今にも飛びかかろうとするかのようにライダーが低く腰を落とし、セイバーを真っすぐに見据える。

敵サーヴァントと激しい接近戦を繰り広げていた『彼』も、一度セイバーから距離を取り、私の隣りに着陸。
どういう変形をすればこうなるのか、まったく理解出来ない(出来る人間がいたら、是非お目にかかりたい)が、バイクのホイールで出来たシールドをセイバーに向ける。
まさに一触即発──ライダーとセイバーとの間に、張りつめた空気が流れる。

そんな空気の中、少々場違いなそんな事を考えながら私がちらり、と見上げると『彼』も私を見下ろす。
──何か可愛いかも。

「おいセイバー! いきなり飛び出してって、一体何やってんだよって……と、遠坂!?」

「……衛宮君!?」

そんな時に屋敷の中から走り出してきたのは、言うまでも無くこの屋敷の主である衛宮士郎。
彼がセイバーのマスターで、なおかつ何も知らないであろうということは、その表情や言葉、なによりもこんな時に無防備にも飛び出してきた迂闊さから理解することができた。
正規のまともなマスターであったら、ここで私達が戦っているにも関わらず飛び出してくるような愚行を犯すはずもない。

そして、そんな彼の姿を見て私の中にふつふつと怒りの感情が沸き上がってくる。
正規のマスターでもなく、魔術師である事を今の今まで知らず、私達が必死こいて助けようとしていたこの男がセイバーのマスター?
理不尽な怒りだということは解っている。
私の狙っていた最優のサーヴァントを召還された事とか、一度殺された彼を自分の切り札を使ってまで助けた事が私の頭を駆け巡る。

「何を考えているのですか、マスター! 現在のこの状況を理解できているのですか!」

「何をって、分かる訳ないだろ! マスターだの聖杯戦争だの、何一つ分からねぇよ!」

興奮しているのか、私達を無視して2人の口論は続く。
今にも噛み付きそうな勢いでの口喧嘩…私の怒りのボルテージが上がっていくのが自分でも分かる。

「殺すだの何だのって何だよ! なあ遠坂……いったい何がどうなってるんだ!?」

そんな衛宮君の言葉を聞いた瞬間、ぶちん、と私の中で何かが切れた音を、確かに聞いた。
ああ──これが、堪忍袋の尾が切れたってことなのかしら?

「うるさぁぁぁい!! わかってるわよ! けど、こんな状況で呑気に話しができるとでも思ってんの!? ふざけないでよ!」

「「「…………」」」

一度爆発した感情は、簡単には収まらない。
目の前が真っ白になって、今自分がどんな状態なのか──それも分からない。

「あんたがランサーに追っかけられてるのが分かったから、助ける為に必死で追いかけて! やっと着いたと思ったら、あんたのサーヴァントにあわや殺されかける? あははっ……あんたらふざけてんの!?」

「お、おい、ちょっと落ち着けよ、凛……」

ライダーが困惑した声で激昂した私をなだめようとするが、ここまで言ったらもう最後まで言わせてもらう。

「あんた達私の事馬鹿にしてんの? ねえ、ド素人のマスターさん? 教えて欲しいんだったら、あんたのサーヴァントを退かせなさい!」

一気呵成にまくし立てた為、息が上がる。
荒い呼吸をたてながら周りを見渡すと、ぽかん……と口を開けて私を見つめる衛宮君の姿に、必死で状況を整理しようとしているセイバーの姿。
それに付け加えて、いつの間に変身を解除したのか、生身に戻って溜息をついているライダーと、バイクに戻っているロボット。

「あ、ええと、その……セイバー。と、とりあえず剣を収めてくれないか?」

「彼女の言っている通りなのですか、マスター? 説明をお願いします」

「説明って…何がさ」

「ですから、彼女達がマスターを助ける為にここに来たのは本当なのか…ということです」

「ええと、どうやらそうみたいだ。じゃなかったら、遠坂がここに来る理由も無いし……」

頭をかきながら、セイバーと話しを続ける衛宮君。
やはりランサーに再び襲われていたのか、服のあちこちが破れている──その割には、彼自身の身体に目立った傷がないのが不思議だった。

「──もし、貴女の言った事の通りであったならば」

こほん、と咳払いをして話し始めたセイバーの声に、私の意識は再び現実に意識を引き戻される。
その緑色の綺麗な瞳で私をじっと見ると、張りつめていた雰囲気を取り除き、構えていた腕を下げる。
それは事実上、もう戦う意思がないものと見てもいいのだろう。

「どういった経緯でマスターを助けようとしたのかは知りません。しかし、その意思と行動には感謝します──今回は、剣を収めましょう……そこのサーヴァントも、それでよろしいか?」

「ああ、好きにしてくれ」

ライダーは『やっと話しがまとまったか』とでも言いたげな態度で、セイバーに返事を返す。無愛想な態度は相変わらずだ。

「あの、遠坂。その人も、セイバーとかさっきの男と同じ…? ほとんど俺と変わらないように見えるんだけど……。それに、さっきの姿は?」

「ええ……そうよ。彼が私のサーヴァント、ライダーよ」

おずおずと、衛宮君がライダーもサーヴァントなのか、と質問してくる。
まあ、こうして変身していない時のライダーは服装から髪型までまるっきり現代人なのだから、その疑問ももっともな話しだ。──おまけに、変形するバイクまで持ってるし。
変身した時の姿にも質問してくるが、それは私も知りたいところなのよ……ったく。

そうこうしている間も、セイバーとライダーは互いに軽くにらみ合いを続けている。
剣を収めると言った手前、殺気こそないものの互いの心に油断は無いのだろう。

「マスターとかサーヴァントとか、本当に俺は何も知らないんだ。頼む、何か知ってるなら、教えてくれ」

「……言われなくても、私がしっかりあんたの頭の中に聖杯戦争のことを叩き込んであげるわよ」

そう言って、私は電気のついていない衛宮君の家を指す。
いくらなんでも、この寒空の下、外で話す必要もない。

「立ち話ってわけにもいかないし、貴方の家の中で話すことにしましょう。──セイバー、今回はお互いに剣を収める。本当は戦ってもいいんだけど、何も知らない衛宮君と戦うのも気がひけるから、彼に聖杯戦争のことを教えるわ。貴女のマスターのためになることだもの、いいわよね?」

「……メイガス。貴女がどういった考えなのかは聞きませんが、マスターにはしっかりしてもらわなければ困る。貴女の提案を呑みましょう。私は手を出さないことを誓います」

「オッケー。それじゃライダー……さっさと行きましょ?」

「ああ、いいぜ、凛」

堅物そうなセイバーの了解を貰い、私とライダーは玄関へと歩を進める。
何だかどっと疲れたが、今から何も知らない衛宮君に聖杯戦争の知識を叩き込まななければならない。
こんなことは心の贅肉だって分かっている──けれど、自分に嘘をつくことは出来ない。

「マスター、それでは私達も行きましょう」

「あ、ああ……わかった、セイバー。そ、それとさ。俺のことマスターって呼ぶの、止めてくれないか」

「何か不都合でもあるのですか?」

「いや……なんだかこそばゆくて、落ち着かないんだ。俺の名前は衛宮士郎。だから、できればこっちで呼んでもらえると助かる」

「ふむ……それではシロウ、と。ええ……私としてもこの方が好ましい」

「うっ……」

耳をすませば聞こえてくる衛宮君とセイバーのやり取り。
せっかく私がわざわざ説明してやろうというのに、果たして彼にその自覚が存在するのか、はなはだ疑問である。
隣りを歩くライダーも、どこかげんなりした様子を隠さない。

「衛宮君! 早く貴方も来なさい!」

「わ、わかった!」

振り向いて彼を急かしてみれば、真っ赤な顔をしてこちらに駆けてくる衛宮君の姿。
ほんとになにやってんだか……
他人事ながら、先行き不安だわ──ほんと。



後書き
ということで、今回はバジンさん活躍の巻でした。
感想の中にステータスの件で意見を頂いたので、少し調整を入れました。
設定上、パンチやキックの威力が何トンクラスなのでどんなもんかと思っていたのですが、世界観にも合わせなければいけませんしね。
この他にも、是非ご意見、ご感想をお待ちしています。



[15294] 第6話
Name: のっぽ◆5125fdc3 ID:76a543ac
Date: 2010/02/18 12:01
仮面ライダー555私的名言シリーズ

「戦うことが罪なら、俺が背負ってやる!」
                ──乾巧

Fate/Masked Rider 555 〜疾走する魂〜 第6話

「ふーん、外から見た時も思ったけど、随分立派ね。それに、和風ってのも新鮮だわ」

「そ、そうか?」

衛宮邸の廊下を4人で歩きながら、衛宮君に話かける。
しかし、私とライダーの後ろからついてくる衛宮君の声には、濃い疲労の色が残っていた。
まあ、今日1日でここまで色々な事が起これば精神的に疲労するのは無理もない。
──おまけに一回は死んでいるのだから。

そんな衛宮君の様子が気になるのか、セイバーはしきりに彼の体調を気遣っている。
つい先ほど召還された上に口喧嘩までしたと言うのに、随分と仲のいい事だ。
サーヴァントは基本的にマスターと似た者が召還されると言うが、そのせいなのかしらね?

「ええと、ライダー、さん。その……俺、あなたに聞きたい事があるんです!」

「……なんだよ」

そんな事を考えながら歩いていると、いつしか居間に到着する。
すると、衛宮君がいきなり私ではなく、ライダーに話しかけた。
それも、何か意を決したような……それでいて、まるで憧れの存在を見る様な目で。
一方のライダーはと言えば、相変わらずの無愛想な態度で衛宮君に何事か、と聞き返す。

「あの……さっきの姿のことなんですけど!」

「……悪いけど、俺がそれを勝手に言う訳にはいかないな。凛が良いって言えば別だけどな」

「……駄目よ、ライダー」

何かと思えば、先ほど外でも私に質問した事だ。
ライダーの真名である『乾巧』を私は聞いたことが無いし、何より『変身』した姿とバイクは明らかにオーバーテクノロジーの産物だ。
電子機器にはとことん弱い私だけど、あれの異常性は分かるし……彼が『この世界』の英霊では無いのか、未来の英霊なのだろうという推測は出来る。
それゆえ、ライダーが『変身』した姿に言及したとしても、何かしらの弱点が露見する可能性は極めて低いだろう。

──それでも、みすみす自分のサーヴァントの秘密を明かすことなど出来ようはずも無い。
例え衛宮君が純粋に知りたいと思っていても(十中八九、彼の場合はそうなのだろうが)ここにはセイバーもいるのだ。
それに、いくら推測はしていてもそれはライダーの口から聞いた真実では無いのだから、そこにどんな情報が入っているのか分からないのだ。

「……何でさ」

「ふぅ……いいこと、衛宮君。詳しい事は説明するけど、私達は敵同士なの。それなのに、べらべらとこっちの情報を教えるハズないでしょ?」

「敵同士って……俺には遠坂と戦うつもりなんて!」

「だから、その事について教えてあげるのよ」

そういう事情もあり、ライダーには口止めをする(無論、私は後できっちりと教えてもらうつもりでいるが)が、衛宮君は不満そうに口を尖らせる。
まあ、男の子ならあのライダーの姿に興奮するものなのかもしれないわよね──まるっきり、正義のヒーローって感じだったし。

「わかったよ……着替えてお茶と菓子を持ってくるから、待っててくれ」

「あらそう? 悪いわね」

「あ、待って下さいシロウ。私も手伝います」

まだどこか不満げな表情をしていた衛宮君だったが、破れた服を着替え、お茶を持ってくるために席を立つ。
まだ衛宮君の体調が不安なのか、それに連れ立ってセイバーも席を立ち、衛宮君の後を追っていった。
やっぱり仲がいいわね、あの2人。

「おい、凛。これ」

「……なにこれ、ユーザーズガイド?」

「凛にもまだ説明してなかったからな。とりあえず、それ読んどけ」

と、ライダーが私によこしてきたのは何かの説明書。
何の説明書かわからないけど、ライダーの口ぶりから察するに、『変身』した姿に何か関わり合いのあるものなのだろう──って言うか、何で説明書があんのよ!

衛宮君達が帰ってくるまでの間、その説明書を読み始める。
ファイズフォンだのファイズポインターだの、一体なんでみんな電化製品を模しているのかいまいち理解に苦しむ。
このスマートブレインとやらの会社の人達は何を考えていたのだろうか……日常生活で使えるのは、せいぜい携帯電話のファイズフォンとバイクのオートバジンくらいなものではあるまいか。

「お待たせ、遠坂にライダーさん。ん、何読んでるんだ?」

「……え、ええ、ありがとう衛宮君。これは何でも無いわよ?」

そうして説明書を読んでいるうちに(実際、わかったのは変身した姿の名称とウェポン、そして所謂必殺技の名前くらいで、原理はさっぱりだった)衛宮君とセイバーが戻ってくる。
一言礼を言い、彼らが席に座ったのを確認すると、私は聖杯戦争の話しを始める――ライダー、お茶をふーふーしない!

時折入る衛宮君の困惑の言葉や反論こそあったものの、聖杯戦争についての一通りの説明を終えるのには、それほど時間はかからなかった。
俯き、拳を握りしめて黙りこくる衛宮君とは裏腹に、セイバーはきっちりと背筋を伸ばした姿勢で私の話しを聞いている。
隣りに座るライダーは、ようやくお茶が飲める温度になったのか、せんべいを齧りながらお茶を啜っている。

「とりあえず、一回は教会に行っておかないとね」

聖杯戦争の話しをしていた際に、マスター登録の件の説明もしてある。
こんな無知なド素人同然の彼をこのまま放っておけば、いくらセイバーがついているとはいえ、あっさりと命を落としかねない。
やはり、一度は綺礼の話しも聞かせた方がいいだろう──私はできれば行きたくないのだけれど。

「えぇ……教会って、確か隣町だろ?」

「そうね、だいたい歩いて1時間くらいかしら? まあ、夜明けまでには帰ってこれるわ」

「……明日じゃ駄目か?」

「駄目よ」

あからさまに行きたくないオーラを出している衛宮君を無視して、彼の隣りに座るセイバーに話しかける。

「セイバーは、行ってもいいと思ってる?」

「おい遠坂……セイバーは別に関係ないだろ?」

「あら、衛宮君。マスターの自覚が出来てきたのかしら? 大丈夫よ……セイバーを取ったりなんてしないわ。私にはライダーがいるし」

「いや、別にそういう訳じゃなくて……」

頭をかきながら押し黙る衛宮君。ほんと、からかいやすいわね。
そんな彼を見ながら、今まで黙っていたセイバーが口を開く。

「シロウ……貴方の知識の無さは、聖杯戦争では致命的です。意図して私を呼び出したのではないにせよ、契約したからには少しでも貴方に強くなってもらわなくてはなりません」

「うっ」

「教会で話しを聞き、少しでも知識を得る機会があるのだとすれば、私としては賛成せざるを得ません」

「だって。さ、どうするの衛宮君?」

セイバーという強力な援軍を得た私は、ふふん、と鼻を鳴らして衛宮君を見る。
流石にもう抗えないと悟ったのか、観念したように肩を竦めて溜息をつく衛宮君。

「わかった、わかったよ。教会に行くよ。……本当に帰ってこれるんだよな?」

「さっきも言ったでしょう? 夜明けまでには帰って来れるわよ」

念を押すように再び確かめてくる衛宮君に答えて、腰を上げる。
行きたくないのは私も同じなのだから、我慢してほしいものだ。
と、セイバーのほうを見ると、衛宮君を気遣う穏やかで優しい表情を浮かべていた。
その顔はライダーと戦っていた時の険しい表情がまるで嘘だったかのようで──ひどく綺麗だった。

「さ! 行くなら早く行きましょう」

そんな思考を頭の片隅に追いやって、衛宮君に視線を送る。
出発するまでにもたもたしていては、夜明けまでに帰れるものも帰れなくなってしまう。
私も疲れているし、流石にそれは勘弁してもらいたい。
と、目につくのはセイバーの鎧姿……流石にこの格好では外は出歩けまい。

「ねぇ、セイバー。いくらなんでも、その格好で外を出歩くのは……」

「私は武装を解除する気はありません」

「「「…………」」」

まいった……まるで聞く耳を持たない。
私と衛宮君、それにライダーもげんなりした表情を浮かべている。
そんな私達の様子が不思議だったのか、きょとんとした表情で首をかしげるセイバー。
可愛いけれど、ここを譲る事は出来ない。

「何か問題が?」

「あるわよ……って言うか大アリよ……」

唯でさえ一目を引く美貌の美少女に、その身体を覆う銀色の鎧。
いくら深夜とは言え、こんな格好のを連れて1時間も歩くのは、出来ればごめん被りたいところだ。

と言う事でセイバーに話しを聞いてみたり交渉したりを繰り返した結果、衛宮君のお古の洋服を着るということで落ち着いた。
その過程でセイバーの状態があまり思わしくないことがわかったわけだが、やはりへっぽこの衛宮君にはセイバーは勿体ないと言わざるを得ない。
──や、ライダーが私のサーヴァントであることになんの不満もないけれど。

─────────────────────────────────────────

「……凛と俺だけだったらバイクで行けるんだけどな」

「我慢なさい、ライダー。仕方ないでしょ?」

寒空の中、四人で教会に向かって歩を進める。
衛宮君は何を考え込んでいるのか、俯き加減で歩き、セイバーもそれに付き従うように彼の隣りを歩く。
そして私とライダーは、彼らの少し前を肩を並べながら歩いている。
ライダーが白い息を吐きながら、バイクで行けば……といった事を言うが、流石に四人でバイクは無理な話だ。

「やっぱり、落ち着きません……私達に気温の変化など関係ないのですが……」

「ライダーは元からこの格好だし、貴女のは仕方ないじゃない。聖杯戦争前に不審者として捕まりでもしたらしゃれにならないわよ」

「うう……」

しばらく無言で街を歩き続ける。
そんな静かな時間が流れて行くが、やはり着慣れない洋服は落ち着かないのか、困り顔で話しかけてくるセイバー。
私が言った出来事が起こりでもしたら、本当にしゃれにもならない──そういう意味では、ライダーの服装が現代チックだったのは助かった。

その後は特に会話らしい会話も無く、無言のまま教会へ向けて足を動かす。
自然と足取りは速くなり、思っていたよりも早く教会へと着く事ができた。

「さ、着いたわよ。じゃあ、行きましょうか衛宮君。……覚悟してね」

「覚悟って、一体何に対して覚悟しろっていうんだよ?」

「入ればわかるわよ、入ればね……」

彼があの超絶腹黒神父に何を言われるのか、考えただけで私も胃が痛くなる。
教会独特の重苦しい空気に気圧されたのか、どことなく固い表情で衛宮君が聞き返すが、ピンチなのは彼だけではない。
登録の時の電話も話しを聞かずに切ってしまったし、他の呼び出しもなんだかんだと理由をつけてすっぽかしてきたのだ。
そんな私にあのエセ神父がまともな態度や対応をするのか、かなり怪しいところだ。と言うか、絶対にしない。

「あなた達はどうするの?」

「私はここに残ります。監督役のいる教会なら、シロウにも危険は無いでしょうから」

「俺もここに残る。特に入る理由も無いからな」

ということで、サーヴァントの2人は外で私達の帰りを待つ事になった。

「……嫌な臭いがするな」

そんなライダーのつぶやきを聞きながら、私達は教会の扉を開く。
ああ……胃が痛いわ、本当に。


後書き
今回は特に動きは無しです。
士郎と巧の絡みは、また後々ということで。
次回はバーサーカー戦ですね。ご意見、ご感想をお待ちしています。



[15294] 第7話
Name: のっぽ◆5125fdc3 ID:76a543ac
Date: 2010/02/18 12:07
仮面ライダー555私的名言シリーズ

「やってみるさ。俺に何ができるかわからないけど」
                  ──三原修二

Fate/Masked Rider 555 〜疾走する魂〜 第7話

教会での話し合いは、特に何のトラブルが起こる事も無く終わった。
もっとも、あの腹黒神父は予想通りに私にはねちねちした嫌み、衛宮君には無駄なプレッシャーをかけたわけだが。
──最も、それぐらいしないことには平和ボケした衛宮君を聖杯戦争に参加させることは出来なかったのかもしれないけれど。

「事情はわかったし、覚悟も出来た。──俺は、マスターとして戦う」

「では、シロウ!」

「……半人前で、何の役に立つかわからないけど……一緒に戦おう、セイバー」

「貴方がそう言ってくれてとても嬉しい。改めて、私は貴方の剣になると誓います──シロウ」

「そう言ってくれると助かるよ、セイバー」

とりあえず、衛宮君とセイバーはすんなりと話しが収まったみたいね。
少なくとも、衛宮君も教会に来る前よりかはしっかりとした覚悟を持てたみたいだし──私のおせっかいもここまでよね。
これで、聖杯戦争直後に自滅するような可能性も少しは減っただろう……本当はここまでやってあげるのもどうかと思うのだけれど、肝心な所で甘いのよね……私。

「おい凛。用事が終わったんだったら、早く帰ろうぜ。ここは嫌な臭いがする」

「嫌な臭いって……そういえば、教会に着いた時も言ってたわよね。……特に何も匂わないけど。ま、確かに長居は無用よね」

「……これからは、あいつらも敵か。──あんまり、気分の良いもんじゃないな」

「ライダー……」

しかめっ面のライダーが私に近付き、早く帰ろうと促してくる。
私には嫌な臭いなんてぜんぜん匂わないし、衛宮君もセイバーも何かを気にしている様子ではないが、ライダーが嘘を言う必要も無い──とりあえずは、早く帰ることにしよう。
そうして、衛宮君とセイバーに声をかけようとした時にライダーが呟いた言葉を聞いて、私は再び彼の顔を見上げる。
聖杯戦争は、魔術師がサーヴァントを駆り戦う、文字通り殺し合いだ。そんな事は、とっくの昔からわかりきっている事だ。
ただ単純に勝とうとするならば、マスターを狙った方が遥かに安易で確実だ。
ライダーとて、その事は充分承知の上で、そんな事を言ったのだ。

彼の言葉はサーヴァントとしては失格もいいところだ。
私だって、出来るならばマスターも殺すなんてことはしたくない──効率を考えないのならば、マスターを殺す気は基本的にはないんだし。

「それでも、彼らは敵になる。彼だって、覚悟は出来てるのよ……ライダー」

「ああ──わかってる」

ふぅ……と息を吐き、漆黒の夜空を見上げるライダー。
彼が今何を考えているのか、私にはわからない。優しい彼だから、何かしらの躊躇いを覚えているのかもしれないけど──それでも、きっとライダーは戦う。
私は、ライダーの横顔を見つめながら……そんな事を思った。

─────────────────────────────────────────

ライダーの言葉に従い、私達4人は教会を背に向けて歩き始める。
行きとは逆に衛宮君とセイバーが前を歩き、私とライダーが数歩下がって歩く。
本当に、なんて展開になったのだろう──そう私は一人考える。
本来ならば、もうとっくに血なまぐさい魔術師同士の殺し合いに参加しているハズなのに、まだこうしてのんびりと歩いているのだ。

「もっと殺伐としたものだと思ってたんだけどねぇ……」

「何がだよ?」

そんな事を考えながら歩いていると、図らずも言葉が漏れてしまったようで、ライダーが怪訝な顔で聞き返してくる。
私が思うに、妙に現代チックで何だかんだで優しいこのサーヴァントのおかげでリズムが狂っているのではないか、と思わざるを得ない──まあ、それを心地よく思っているのも事実なのだけど。

そんな事を考えながらも足を止める事は無い──なんたって、もう夜明けまでそう時間がある訳ではないのだ。
早く家に帰って休みたいというのが、今の私の偽らざる心境なのである──最も、少しばかりの見回りくらいはするつもりでいるのだけれど。
そんなこんなで長い坂道を下り、外人墓地を越えて歩いた先には交差点が見える。
深山へ繋がっている大橋と、新都の駅前の大通りへと繋がる道への分かれ道だ。
──別れるなら、ここら辺が一番いいかしらね。

「あれ……どうしたんだよ、遠坂」

「衛宮君。私達とは、ここでお別れよ」

「何でさ。帰り道はどうせ一緒じゃないか」

「衛宮君。前にも言ったと思うけど、私達は敵同士なの。特別サービスでここまで付き合って上げたけど、もう聖杯戦争は始まってるのよ」

「……それはわかってるけど」

流石にセイバーの手前聞き分けの良いようなことを言っているが、その表情には戸惑いの色が濃い──まったく、とことん甘いのね。
それは私自身にも言えることかもしれないけど。

「これ以上一緒に居ると色々面倒なことになりそうだし、これで最後。今日は見逃してあげるけど、次に会った時は容赦しないから──覚悟しておきなさい、衛宮君」

「……やっぱり、俺は遠坂とは戦いたくないな。何だかんだで助けて貰ったし……敵同士なんて、なんか嫌だ」

私としては、これ以上ないほどの冷たい声で突き放したつもり(おまけに睨んだ)のだが、少しばかリ考えるそぶりを見せる衛宮君。
その時間は少しの間ではあったものの、顔を上げた衛宮君の言葉は私の予想を斜め45度くらい外れたものだった──恐らく、セイバーとライダーも私と同じ気持ちだったに違いない。
ほんと、馬鹿正直。
開いた口が塞がらないって、こういう状況の事を言うのかー、なんて思ってしまったではないか。
ふと横を見てみれば、ライダーも同じようにあきれ顔だ。
そんな妙な空気に居心地が悪いものを感じているのか、戸惑い顔で衛宮君が言葉を続ける。

「今日の事は、本当に感謝してる。一生忘れない。ありがとう──遠坂とライダーさん」

「……はぁ。ここまで言っちゃうと感情移入になっちゃいそうだから嫌だったんだけど、もう少し自覚を持ちなさい、衛宮君。これから先もそんな風でいたら、あっという間にあの世行きよ」

綺礼の話しを聞いてちょっとはマシになったと思ったのにコレである。
本当に溜息でちゃうわよ……勘弁してほしいわ。

「そうならないように気をつけるよ」

「これほど信用できない言葉も中々無いわよ……ったく」

「……もう十分感情移入してるよな」

そんなやり取りを繰り返していると、横でライダーがぼそりと呟く。
ああもう!そんな事言わなくてもわかってるわよ!もう!

「そろそろいいだろ。乗れよ、凛」

「オッケー。それじゃ衛宮君。くれぐれもさっきの言葉……忘れないでね」

話しを半ば強引に打ち切り、いつの間にか現れていたオートバジンに跨がって新都方面へ向かおうと振り返る。
そして──

「ねぇ。いい加減、お話しは終わった?」

「──え?」

坂道の上に立つ二つの影を目にし、私達はぴたりとその動きを止めた。

─────────────────────────────────────────

目の前にいるサーヴァントの異常性は一目でわかった。
見上げるほどの巨体を持ち、鉛色の筋肉が隆起したそのサーヴァント。

「バーサーカー、よね」

正気を失うのと引き換えにその能力を大幅に強化されたクラスの英霊。
しかし、まさかこれほどまでに圧倒的な能力を持ち得たシロモノとは思ってもみなかった。
軽く見積もっても、単純な能力はセイバー以上。変身したライダーがどれほど戦えるかはわからないが──絶望的な状況であることには間違いなかった。

そんな規格外の化け物を連れた、見た目は十歳前後の銀糸の髪の少女。
その彼女が、何故か衛宮君を見つめ、微笑みながら言葉を続ける。

「こんばんわ。会うのは今夜で二度目だね、お兄ちゃん」

何故衛宮君と面識があるのかわからないが、どう見ても友好的な遭遇とは思えない。
無邪気な微笑みともの言わぬバーサーカーの存在が相まって、何とも言えない不気味さがそこにはあった。
少女と巨人──あまりにも不釣り合いなその二つの影は、私達に同様を与えるには十分過ぎる。
少女に声をかけられた衛宮君も、目を見開いて二人を見つめている。……無理もない、あれを目の前にしては、微動だにできないのも当然だ。

「ねぇ、ライダー。貴方が変身して……何とかなる?」

「……なるならないじゃなくて、何とかしなきゃならない──だろ、凛」

「──ライダー、貴方」

「安心しろよ。凛のことは──」

『Standing By』

「俺が守ってやる! 変身!」

『Complete』

『Battle Mode』

ライダーに問いかける私の声は、幾分か弱気なものを含んでいたように思う。
しかし、ライダーはそんな私の不安を吹き飛ばすかのように、力強くファイズフォンを高く掲げ、三たび『ファイズ』へと変身を遂げ、オートバジンも戦闘形態に変形──臨戦態勢を取る。
私も、覚悟を決めなくてはならない──私の宝石があの化け物に効くのかどうかはわからない。いや、むしろ効かない可能性の方が圧倒的に高いのだろうが、守られるだけというのは性に合わないのだ。
ありったけの魔力を混めた宝石を握りしめ、必死に頭を働かせる……生き残る為に。

「衛宮君。貴方がこの状況でどうするのかは、自分で決めなさい。──逃げれるなら、逃げた方がいいと思うわよ」

微動だにしない彼の耳に私の言葉が届いているのかは定かではない。
しかし、私自身にもそれほど余裕などありはしないのだ──自分の事は自分でしてもらわねばならない。

「へぇ〜。リンってば、随分と変わったサーヴァントを連れてるのね」

「……私の名前を?」

「あら、挨拶がまだだったわね。私はイリヤ。──イリヤスフィール・フォン・アインツベルンって言えば、わかるよね?」

「──なるほど。道理で……」

アインツベルン、という家名を聞いて納得がいった。
しかし、バーサーカーが規格外ならばイリヤスフィールも十分規格外の化け物だ。
あれほどのサーヴァントを連れていながら平然としているなんて、憎たらしいにもほどがあるわ。

「じゃあ殺すね?」

イリヤスフィールが簡潔に事実を告げると、彼女の後ろのバーサーカーが強く地面を踏みしめ、振動が響く。

「やっちゃえ、バーサーカー!」

彼女の無邪気な言葉を引き金にして、地響きを響かせながら鈍色の狂戦士が襲い来る。
私達に逃げ場は無い──ただ、立ち向かうのみ。
私の前に立つライダーの背中を見つめながら、己を奮い立たせる。
私達は、こんなところで負ける訳にはいかないのだから──!


後書き
本当はバーサーカー戦を書ききる予定だったんですが、今回は寸止めでご勘弁願います。
ご意見、ご感想を頂くと非常に励みになりますので、お時間のある方は是非ともよろしくお願いします。



[15294] 第8話
Name: のっぽ◆5125fdc3 ID:76a543ac
Date: 2010/02/18 12:19
仮面ライダー555私的名言シリーズ

「おい、知ってるか。夢を持つとな、時々すっごく切なくなるが、時々すっごく熱くなる、らしいぜ」
「――俺には夢がない。けど、夢を守る事はできる!」
                     ──乾巧

Fate/Masked Rider 555 〜疾走する魂〜 第8話

「■■■■■────ッッ!!」

「はあぁぁぁっ!」

迫り来るバーサーカーの巨体から繰り出される恐怖の一撃。
大気を切り裂きながら私達に襲い来るその斧剣を弾いたのは、一瞬のうちに武装を展開したセイバーの不可視の剣だ。
あれほどの体格差があるにも関わらず、あの巨大な斧剣を弾けるのは技術だけではない──おそらくは、何か他のセイバーの能力が作用しているのだろう。
しかし、狂戦士の名の示す通り、その巨体から繰り出される攻撃には技も技術もありはしない。
だが、その攻撃は他のどんな攻撃よりも苛烈で──脅威だった。

「ほんと──でたらめだわ」

セイバーが疾風だとするならば、バーサーカーは暴風だ。
ただ力任せに振るわれる圧倒的な力──しかし、それに果敢に立ち向かい、暴風のような剣をいなすセイバーの表情に焦りや恐れは見えない。
あんな可憐な少女がバーサーカーと打ち合うその様は、恐ろしくも美しかった。
しかし──その光景を目の当たりにして、私と衛宮君は一歩も動けずにいた。

「ったく。無駄にでかいな!」

『Ready』

そんな激しい戦闘の最中、ライダーはファイズエッジを手に取って駆け出す。
その様子に臆する気配は無く、ただ一直線にバーサーカーの懐へと飛び込み、赤い閃光を力任せに振るう。
振るわれたファイズエッジは、丸太よりも太いバーサーカーの豪腕を切り裂くハズだった──しかし、私の予想に反して、その一撃でもバーサーカーの腕を断ち切ることは叶わない。
だが、セイバーに向けて振り下ろされたバーサーカーの剣先にぶれを生じさせるには、十分な一撃だった。

「■■■■■────ッッ!!」

「甘いっ!」

その僅かな剣先の乱れを見逃すセイバーでは無い。
不可視の剣を巧みに使い、バーサーカーの斧剣をあらぬ方向へと逸らし、次の瞬間──

「たあぁぁぁっ!!」

「はあぁぁぁっ!!」

セイバーとライダー。二人が裂帛の気迫を込めて、手にした剣でバーサーカーの巨体を切り払う。
よし!そう私は小さく声を上げ、震える拳を握りしめる。
タイミングも力の入れようも完璧な一撃──しかし、並のサーヴァントならば勝負は決していたであろうその一撃を受けてなお、その巨体は倒れない。
僅かばかりの揺らぎを見せただけで、その鈍色の身体に付いてたのはかすり傷。

「そんなバカな……!」

思わず私の口から漏れた言葉を聞いて、イリヤスフィールは面白そうに笑って、余裕たっぷりの態度で言葉を続ける。

「そんな攻撃くらいで、私のバーサーカーをどうにか出来るわけないじゃない。バーサーカーは無敵なんだから」

その言葉から感じることの出来る絶対的な自信。
そんなイリヤスフィールの言葉に応えるかのように、バーサーカーが斧剣を振り回し、ライダーとセイバーを薙ぎ払う。
その勢いは凄まじく、後方にいた私の髪が風圧で靡く。

「■■■■■────ッッ!!」

「しまっ──ぐうっ!」

「うわぁっ!」

「ライダーっ!」

渾身の一撃がほとんど効いていない事に少なからず動揺していたのか、二人はその攻撃を避けきることが出来なかった。
ライダーはファイズエッジで、セイバーは不可視の剣で防御し、直撃こそ避けられたものの、二人の身体は凄まじいスピードで吹き飛んでいく──何て馬鹿力。
坂の上まで──おそらくは数十メートルは吹っ飛んで転がっていく。

「追いなさい、バーサーカー!」

「■■■■■────ッ!」

イリヤスフィールの命令にバーサーカーが雄叫びで応える。イリヤスフィールを肩に乗せ、吹き飛んだ二人に向かって跳ぶ。
何の障害も無い一本道を、鈍色の巨体が凄まじい速度で疾走するバーサーカーは、あっという間にライダーとセイバーの元に辿り着く。

「くっ! 行かなきゃ……! 私をライダーの所に連れて行きなさい、オートバジン!」

『Vehicle Mode』

いつしかサーヴァント達の姿は見えなくなっている。戦いの場を路上から側の荒れ地へと移したようだった。
こうしてはいられない。私を守っていたオートバジンに呼びかけると、再び人形からバイクに変形し、乗れ、と促すようにライトを点滅させる。
私は即座にオートバジンに飛び乗り、衛宮君に目を向ける。──この状況で彼を連れて行こうかどうか迷ったが、どの道ライダー達がやられたら私達もゲームオーバーだ。
だったら、私と一緒にいたほうがいい──そう思って、衛宮君に向けて叫ぶ。

「衛宮君! 貴方も乗りなさい──行くわよ!」

「あ、ああ! わかった!」

私の言葉で硬直が解けたのか、慌ててこちらに駆け寄ってくる衛宮君。
顔がこわばっている衛宮君(たぶん私もそんなに変わりはしないだろうが)と私を乗せ、オートバジンが荒れ地に向けて疾走する。
──自動で走ってくれるって、すごい便利よね……これ。今はハンドルが一本無いから乗りにくいけど。

─────────────────────────────────────────

「痛ってぇ……何て力だよ。おいセイバー、大丈夫か?」

「ええ、ライダー。戦闘に支障はありません」

私達を乗せたオートバジンが辿り着いたのは外人墓地だ。
その中央付近に、ライダーとセイバーが居るのが見て取れた──というか、夜のライダー(ファイズに変身した時限定だが)はよく目立つ。
見失うことは無さそうだが、同時に変身を解除しないことには隠れることも出来なそうだ。
当の二人は戦闘には支障は無さそうで、(ライダーは先ほど防御した時に故障したのか、その手にはファイズエッジは持っていない)辺りの様子を探っているのが見て取れる。
それに、あの巨体のバーサーカーがどこにいるのかはわからないが、この場所での戦いはこちらに地の利がある。
先ほどのように何の障害物もない開けた場所では何かに隠れることも出来なかったが、ここではその場所に困る事はない。
──これだけ沢山の墓石があれば、バーサーカーにとっては多少なりとはいえ動きが制限される。
目立つライダーはともかくとして、小柄で素早いセイバーならば、存分に地の利を活かす事が出来るだろう。

「■■■■────ッ!」

その時、大地を震わせる咆哮が再び響き、バーサーカーが墓地に現れた。
狂戦士の片目は赤く光り、ライダーとセイバーを見据えているように見えた。

「ったく……随分としつこい奴だな」

「当たり前でしょう、ライダー。──来ます!」

目の前の墓石を切り払い、踏みつぶし──全てを蹂躙しながら、バーサーカーが疾走する。
流石に多少は速度は落ちているものの、凄まじい音を立てながら墓石を破壊していく様は凄まじい。すごく罰当たりよね、これ。
そんな私の考えをよそに、飛来する砕けた墓石と斧剣をかいくぐりながら、ライダーとセイバーはバーサーカーとの距離を詰める。

「──ふっ!」

「おりゃあ!」

セイバーの不可視の剣が飛来する墓石を切り払い、振り下ろされる斧剣をいなす。
ライダーもそれに合わせるようにして、強引にその拳をバーサーカーの肉体に打ち込んでいく。
しかし、バーサーカーに目立ったダメージは確認することは出来ない。
ライダーの拳が当たる度に、確かにバーサーカーの体勢は僅かに崩れる。だがそれだけだ。
いくらバーサーカーの肉体に拳を打ち込み、蹴りを食らわせようとも、致命的なダメージを与えることが出来ないのだ。
しかし、今うかつに私が行動することは出来ない。──今現在戦況が拮抗しているのは、二人のコンビネーションが上手く機能しているからだ。
そこに水を差せば、一気に流れが悪化する危険性が高い。──リスクが高過ぎる。

「避けて下さい、ライダーっ!」

「くそっ! ぐあっ…………!」

紙一重の攻防を続けてきたライダーとセイバーだったが、やはり綻びが現れる。
左手による強烈な打撃がライダーの目前に迫ったその時には、既に回避することは不可能だった。
咄嗟に最も強固な装甲である胸部のフルメタルラングで受けるものの、やはりその衝撃は凄まじく、墓石を自らの身体で砕きながら吹き飛んでいくライダー。
ダメージの程はわからないが、戦闘不能になっているかもしれない。

「──行って! 今は、セイバーを援護するのよ!」

『Battle Mode』

しかし、今重要なのはセイバーの援護をすることだ。
令呪が消えていないことからライダーの無事は確認できるが、今セイバーもやられてしまえばそれで終わり──チェックメイトだ。
私の言葉に反応し、オートバジンがセイバーの援護の為に飛翔し、セイバーが距離をとったタイミングを見計らってガトリングガンを乱射する。
バーサーカーには大したダメージにはなっていないようだが、セイバーが体勢を整えるには十分な時間を稼ぐことが出来た。

「早く戻ってきて、ライダー……!」

そう呟いて、ぎゅっと拳を握りしめる。
いくらセイバーといえども、そう長くバーサーカーの攻撃を捌ききれるとは思えない。
オートバジンの援護を持ってしても、その状況を覆すことは出来ないのだ。
セイバーの顔にもしだいに焦りが見え始めた──その瞬間。

『Exceed Charge』

電子音声が響き、赤い閃光がバーサーカーへ向けて飛ぶ。セイバーが咄嗟に飛び退き、バーサーカーとの距離を取る。

「バーサーカー!」

その光の危険性を感じ取ったのか、初めてイリヤスフィールが感情の籠った声を上げる。
その光を咄嗟に左手で防御したのはイリヤスフィールの指示によるものか、それともバーサーカーの本能が警鐘を鳴らしたからなのか。
しかし、バーサーカーに着弾した赤い光は、円錐状の輝きへと形を変えてバーサーカーの動きを封じていた。
あれほど傍若無人に暴れ回っていた狂戦士の動きを少しの間でも封じた──そう喜んだ瞬間、遙か後方からライダーが跳ぶ。

「たあぁぁぁぁっ!」

「■■■■■────ッッ!!」

バーサーカーへ向けて水平に跳び、凄まじい速度で必殺の『クリムゾンスマッシュ』を放つライダー。
円錐状の光の中心に飛び込み、まるでドリルのようにバーサーカーを貫かんとするが、バーサーカーはなおも抵抗する。
耳を劈くような咆哮を上げながら、逆にライダーを弾き飛ばそうとするかのように力を込め──

「■■■■■────ッ!」

「そんなっ!」

巨大な斧剣を振り回し、ライダーを遙か上空へと打ち上げる。起死回生の一撃を防がれ、私も、衛宮君も……セイバーでさえも愕然とするその時にでも、ライダーは諦めていなかった。
弾き跳ばされた勢いで、空中で一回転。ミッションメモリーをファイズポインターからファイズショットへと移し替え、再びバーサーカーへと攻撃を仕掛ける。

『Exceed Charge』

右手のラインに赤い光が走り、手にしたファイズショットが光を放つ──『グランインパクト』……必殺技の二連発!
しかし、身体の戒めを解かれたバーサーカーは天空から襲い来るライダーを迎撃すべく、斧剣を振り上げる。
このままならば、ライダーは必殺技を食らわせる事無くバーサーカーの狂刃によって地に叩き付けられるだろう。
だが、バーサーカーが斧剣を振るうその瞬間。

「させませんっ!」

「…………!!」

セイバーとオートバジンが同時に攻撃を仕掛ける。セイバーの不可視の剣とオートバジンの鋼鉄の拳がバーサーカーに直撃し、僅かに体勢を崩す。
そしてライダーは、バーサーカーのその隙を逃さなかった。

「やあぁぁぁぁ!」

「■■■■■────ッ!」

今度こそ、必殺の『グランインパクト』がバーサーカーの胸に叩き込まれる。
その勢いでバーサーカーが地に倒れ、赤いφのマークが浮かび上がる。
……バーサーカーが起き上がることはない。今度こそやった──そう安堵の声を上げようとしたその時、なんら焦っていないイリヤスフィールの言葉が響く。
そう、彼女は自分のサーヴァントがやられたというのに、なんの動揺も見せていない。
そして、それは一体何を意味しているのか──

「やるじゃない、リン。貴女のライダーってば、私のバーサーカーを一回殺すなんて」

「──そんな」

そう、イリヤスフィールの言葉と共に、バーサーカーはまるで何事も無かったかのように平然とした様子で起き上がる。
いったい何がどうなっているのか。一回殺した、とはどういう意味なのか。
この場にいる全員が、動揺を隠すことが出来ない。

「教えてあげるわ、リン。バーサーカーの真名は、大英雄ヘラクレス。バーサーカーは、十二回殺さなければ死なないの」

「ヘラクレスって……そんな!」

バーサーカーの正体と、十二回殺さなければ死なないという信じがたい事実。
バーサーカーとは本来、能力の低い英霊を強化する為のクラスだ。ヘラクレスなんて英霊をバーサーカーとして召喚するなんて、どんなでたらめか。
やっとのことで一回倒したというのに、あと十一回倒さなければならない──そんなことは不可能だ。
今再びバーサーカーが襲いかかってくれば、その時こそ絶体絶命だ。しかし──

「ねえ、リン。貴女のライダー、格好もそうだけどちょっと面白そう。だから、今回は見逃してあげるね」

「なっ!」

イリヤスフィールはこの場に不釣り合いなほど無邪気な笑みを浮かべてそう告げる。
嘘を言っている様子はないし、なによりもつく必要もない。──自信があるのだ、絶対の自信が。
今回見逃しても、いつでも私達を殺す事などできるというメッセージ。

「それじゃあね、お兄ちゃん。また遊びましょう」

そう言い残し、白い少女と黒い巨人は唐突に姿を消す。
現れたのが突然ならば、消えるのも突然か……私達は、何も言えないままその背中を目で追っていた。
そうして、一気に力が抜ける。──それは衛宮君も同じようで、冬だというのに背中にはじっとりと嫌な汗をかいていた。

「……しんどい敵だったな」

ライダーの呟いた言葉には、誰も応えなかった。
沈黙は……何よりも雄弁な答えだった。



後書き
VSバーサーカーでした。
決め技はMr.Jを倒した感じで脳内再生して下さいw
ご意見、ご感想をお待ちしております!



[15294] 第9話
Name: のっぽ◆5125fdc3 ID:76a543ac
Date: 2010/02/18 12:28
仮面ライダー555私的名言シリーズ

「俺のことを好きにならない奴は邪魔なんだよ!」
                 ──草加雅人

Fate/Masked Rider 555 〜疾走する魂〜 第9話

「……な、何で遠坂がここに!?」

「あら、おはよう衛宮君。良く眠れたみたいね」

「ああ、ぐっすり……って、だから何で俺の家に居るんだ!?」

既に時刻は十二時過ぎ。ライダー達と一緒に昼食を食べている最中に、ようやく衛宮君が起きて来た。
──サーヴァントは本来食事をする必要などないのだけれど、ライダーが食べたいと言ったのだから仕方ない。
それにしても、セイバーがこくこくと頷きながらチャーハンを頬張る姿はまるでリスみたいで可愛い。昨夜、あの狂戦士と打ち合っていたのとはまるで別人のようである。

衛宮君は私達が自分の家に居たのに驚いたようで、しきりに説明を求めてくる。
いったいなにをそんなに動揺する事があるのかわからないが、いつまでも混乱させておくのも可哀想なので、とりあえず落ち着かせることにしよう。

「はいはい、ちゃんと説明してあげるから。少し落ち着きなさい、衛宮君」

「あ、ああ……わかった」

衛宮君を座らせ、私手製のチャーハンを机の上に置く。お腹が減っていては頭も回るまい──せっかく作ったのだから、食べてもらわないと損した気になっちゃうし。
そうしてチャーハンを食べ始めた衛宮君を見ながら、何故私とライダーが衛宮邸に居る理由を説明する。
特にどうという理由ではなく、ただ単に昨夜の戦いの後に倒れてしまった衛宮君を運んできた、というだけのことなのだが。

「そう言えば、何か記憶があいまいだな……あの、運んでくれてありがとう」

「何だ、随分素直ね……うん、よろしい。貴方、中々面白いわ」

「いや、面白いって……」

「……運んだのはバジンだけどな」

私が言った事をすっかり信じている衛宮君。素直なのは良い事だけど、こんな簡単に信じてしまうのは、少し危うい。
まあ、それだけ信頼してもらっているというのは、悪い気はしないのだけど。
得意げに頷く私の顔を横目でみながら、衛宮君に呟くライダー。……そんな些細なことを言わなくてもいいの!

「召喚したその日にあれだけ動いたんだし、おまけに呼び出したのはセイバー。ま、恥ずかしいことじゃないわ」

「そっか……そう言えば、ライダーさんもありがとうございます」

「……おう」

私の話しを聞いて昨夜の出来事を思い出したのか、若干顔色の優れない衛宮君。
おおかたバーサーカーの事を考えているのだろうが、それに関しては私も背筋が凍る思いだ。
一歩間違えていたら、もう今日の朝日を拝むことすら出来なかったのだから。

衛宮君は、隣りに座っているライダーにも礼を告げ、ライダーも言葉少なく衛宮君の礼に応える。
衛宮君の顔には、『変身』したライダーの姿の事を知りたそうな色がありありと浮かんでいる。ほんと、『男の子』よねぇ。
だいたい、説明書を読んだとは言え、私もまだライダー自身からは話しを聞いていない──というよりも、あの化け物と戦い終えた後の疲れきったライダーの顔を見てたら、聞くに聞けなかった……というのが正しいのだが。

「その様子だと、身体に異常は無いみたいね」

「ああ、ちょっとだるいけど……特に異常はないぞ」

「そう、よかったわ。貴方には少し話しておきたい事があるから──ま、とりあえずはご飯を食べ終えてからね」

まあ、特に何か攻撃を受けたわけではないのでそこまで心配はしていなかったが、万が一という事もある。攻撃と言えば、腹黒神父の嫌みくらいなものか。
そう言って、残りのチャーハンを食べ終えてしまうように促す。ライダーとセイバーはもうとっくに食べ終えたようで、満足そうな顔を浮かべてお茶を啜っている。
いつの間に仲良くなったのかわからないが、共に戦ったことによって信頼でも生まれたのかもしれない。
最も、これからのことを考えればそれは歓迎すべきことになる。──昨夜の戦いを見ている限りでは、二人の相性は悪くない。
それに加えて、ライダーの宝具であるオートバジンもいるのだ。バーサーカーの事はまた考えるとして、戦力としては十分であろう。
──そう。私は、衛宮君と共闘する気でいるのだ。

「衛宮君も食べ終えたみたいだし──それじゃ、私からの提案。衛宮君、私と共闘しましょう」

「え……? 共闘って、遠坂と一緒に戦うってことか?」

「……成る程、バーサーカーですか」

「そうよ。衛宮君、セイバー。はっきり言って、あのバーサーカーは規格外の化け物よ。昨夜は何とかなったけど、次はどうなるかわからない。だから一緒に戦うの。衛宮君は私と戦いたくないみたいだし、そんな悪い話しじゃないでしょ?」

この事は当然ライダーも承諾済みの事だ。ライダー曰く「別に勝つ方法が無い訳でもない」との事だったが、勝利する確率は少しでも上げておくべきだ……なんてことを言ったらあっさりと納得した。
やっぱり、魔術師としての常識に疎い衛宮君や一度共に戦ったセイバーとはあまり戦いたくなかったのかも知れない。あれだけの力を持っていながら、本当に優しいのよね。
もっとも、遠坂邸から荷物を運ばせた時にはぶつくさ文句を言っていたのだが。──バジンは素直に私の言うことを聞いてくれるのになぁ。

「──わかった。俺は遠坂と一緒に戦う。セイバー、納得してくれるか?」

「シロウが決めた事です。私は貴方の決定に従います。それに……彼女とライダーの人柄は、とても好ましい」

「凛でいいわ、セイバー。これから一緒に戦う仲間ですものね」

「……えらくあっさり決まったな」

提案はあっさりと受け入れられ、私と衛宮君は共闘関係、ということになった。
ライダーが少し驚いているようだけど、その顔には笑みが浮かんでいる──やっぱりあんたも嬉しいんじゃない、素直じゃないのね。
衛宮君はともかくとして、セイバーまでもがあっさりと同意してくれたのは非常にありがたかった。
どうやって説得しようか頭を悩ませていただけに、これは嬉しい誤算だ。

「あ、それと衛宮君。私、ここに居候させてもらうことにしたから」

「へ?」

「居候って言っても、聖杯戦争の間だけよ? もう荷物は運び込んでるから、心配しなくても大丈夫よ? 勝手に客間借りてるからよろしくね?」

「ちょ、ちょっと待ってくれえぇぇぇ!」

伝える事を全て終え、ライダーと一緒に部屋に戻ろうとすると、衛宮君が必死に追いかけてくる。
随分驚いているようだけど、何をそんなに驚く事があるのかしら?ちょっと面白いけど。

「そういえば、どうしてそんなにライダーの事を聞きたいわけ?」

「……俺は、正義の味方に成りたいんだ。ライダーの変身した姿は、なんかヒーローって感じで……」

「──正義の味方、ね」

衛宮君の目標──正義の味方。確かにライダーの姿を見てそれをイメージするのはわかる。
わかるのだが、それは……。
その衛宮君の言葉を聞いた時のライダーの顔は――何かを言いたそうにしていた。

─────────────────────────────────────────

衛宮君を何とか説得し、荷物を持ち込んだ客間へ入る。
共闘関係になったとはいえ、勝ち残るのは一組だけだ……無理に普段の生活で慣れ合う必要もない。
おそらく、今頃衛宮君はセイバーに説教されている最中だろう。それというのも、私達が居間を出て行く時に「やっぱり女の子が戦うのは……」なんて事をのたまっていたからだ。
まあ私から言わなくても、セイバーがきっちりさせてくれるだろうし、無視して出て来たのだが。
本当は、衛宮君とはまだまだ話すべきことは沢山あった。
これからの方針であったり、他のマスターとの戦いについてとか。
だが、それを一旦おいておいても、まずはライダーに話しを聞いておかなくてはならなかった。

「さてと。それじゃ、そろそろ貴方の宝具のことについて話してもらってもいい? 私と貴方はパートナーなんだから、隠し事は無しにしましょ?」

「……ああ」

客間に備え付けられているベッドに腰を下ろし、ライダーに話しを促す。
ライダーもソファに腰を深く沈め、真剣な顔つきで頷く。その表情は、どこか迷っているようにも、恐れているようにも見える。
だが、いまさら隠し事は無しだ。ライダーがどんな秘密が隠しているのかはわからないが、彼は英霊──それ相応の事情があるのだろう。

「……凛。オルフェノクって知ってるか?」

「オルフェノク? 何それ。聞いたことないわね」

「……やっぱりそうか」

ライダーの問いに対し、全く聞いたことのない事を告げると、ライダーは深く溜息をつく。
そして──ゆっくりと話し始めた。

「オルフェノクってのは、人間が進化した種族のことだ。特定の条件を持った人間が死んだ時、自動的に覚醒する。『この世界』にいるのかどうかはわからないけどな」

「ちょ、ちょっと待った!『この世界』ってことは、やっぱり貴方は──」

「ああ、俺はこの世界とは違う世界で生まれた英霊だ」

私が推測した通りというか、やはりライダーは平行世界の英霊だった。
それにしても、オルフェノク──人類の進化系との話しだが、それがいったいライダーにどういう関係があるのか。
もしかしたら、ライダーはそのオルフェノクと戦っていたのかもしれない。
そうして、私が考えを纏めるのを待っていたライダーは、神妙な顔で話しを続ける。

「俺の宝具──ファイズギアは、オルフェノクを倒す為に開発された代物だ。でもな。……ファイズに変身する為には、一つ条件があるんだ」

「条件? 一体どんな──」

やはり、ライダーはファイズギアを使ってオルフェノクと戦っていたのだという。
英霊となったからには、ライダーはそれに相応しい活躍をしていたのだろう。
しかし、その顔にその事を誇ったりする様子は微塵も感じられない。
それは何故なのか、そして変身する為の条件は何なのか──

「――ライダー、貴方……!」

「ファイズギアを使用できる条件──それは、装着者自身もオルフェノクであることだ」

立ち上がったライダーの身体が青白く光った次の瞬間、人間の姿とは似ても似つかない異形の姿になったライダー。
私は、そんなライダーを前にして──ただ息を呑むしかなかった。



後書き
ここで凛に正体を明かすか否かは迷いましたが、こういう形に成りました。
凛だったら受け止めてくれそうな感じはするんですよね、なんか。
それでは今回はこの辺で。ご意見ご感想は大歓迎ですので、どうぞよろしくお願いします!



[15294] 第10話
Name: のっぽ◆5125fdc3 ID:76a543ac
Date: 2010/02/18 12:36
仮面ライダー555私的名言シリーズ

「俺は戦う!人間として……ファイズとして!」
                  ──乾巧

Fate/Masked Rider 555 〜疾走する魂〜 第10話

「ある程度は予想していたけど……まさか、ね」

「……黙ってて、悪かったな」

ライダーの話しが終わった時には、既に日は傾いていた頃だった。
ライダーの姿は既に人間に戻っているが、その正体は私にとって衝撃的だった。
そして文字通り、時間なんてまったく気にすることもなく──私はライダーの話しに聞き入っていたのだ。
初めてライダーが宝具を使って『変身』した時から、ある程度の予想は出来ていた。
だが、実際にライダー本人から話しを聞いてみれば、「まさか」といった思いも出てきてしまうのだ。

「オルフェノクに支配された世界……」

ライダーが生きていた世界──小さな星の物語。
ライダーの話しでは、もう人間は残り少なくなってしまい、必死でオルフェノクと戦っていたのだという。
そして、ライダーはオルフェノクでありながら、人間として戦い続けた。一体それはどんな心境だったのか。
それにしても、オルフェノクに進化したとは言え、元は人間のハズなのにどうしてそこまでやろうとするのか──。

「ちょっと意外だな。──もっと怖がるんじゃないかと思ってたんだけどな」

「それはまあ……少しは驚いたわよ? でも、よく考えてみれば『私達の世界』にも死徒とかいるし……それに、ライダーはライダーでしょ? そのことには変わりないもの」

「俺は俺、か」

何気なく呟いた私の言葉を聞いて、ライダーが少し強ばった顔を緩める。以前にも同じことを言われたことでもあったのか、少し嬉しそうだ。
しかし、ライダーがいくら人間として生きようとしたところで、人間側からしてみれば抵抗があったのであろうということは簡単に予測できる。
それでもライダーは戦い抜き、そして英霊となって、今ここにいる。
第一、英霊って時点で既に人知を越えた存在なのよね。……普段のライダーの様子は、とてもそうは思えないけど。

「まあ、あんまりにも貴方の話しが生々しいんだもの──違う世界の人間としては、現実味が湧かないってのも正直なところでもあるんだけどね」

「そりゃしょうがないさ。俺だって、英霊なんてもんになる気なんてなかった。魔術云々なんて、聞いたこともなかったしな」

私の言葉を聞いて、ふう……と息を吐いて応えるライダー。
私がライダーの世界に現実味をいまいち持てないのも、その物語がまるでテレビや漫画の中の物語のような印象を受けるからだ。
戦うべき敵と同じ存在でありながら、その身を犠牲にして戦い続ける正義のヒーロー。衛宮君の言ってたことも、あながち的外れではなかったのかもね。
──オルフェノクの存在が悪なのかどうか、と言われれば、私の立場からは判断することは出来ないのだが。

「それにしても、伝承とかで語り継がれる英雄そのものね。自分の身を犠牲にして戦う……か」

「……別に、俺はそんな自己犠牲の精神で戦ってたつもりはないぜ、凛」

「え?」

ライダーに聞き返すと、彼は顔の前で手のひらを合わせ、俯いて床を見つめたまま話し始める。

「俺はオルフェノクだ。だけど、それでも俺を信じてくれる奴らがいた」

「…………」

「人間とオルフェノクの共存を夢みた奴がいた。好きな女がオルフェノクだという事を知りながら受け入れた奴がいた」

「……ライダー」

「だから、俺がその夢や理想を守ろうと思った。──俺には夢が無かった。それでも、夢や希望を守ることならできる。……そう思ったからな」

「そんな! そんなの……」

貴方はそれで本当によかったのか。
高ぶる感情のままそう続けようとして──しかし、思いとどまって口を閉じる。
ライダーは随分とオブラードに包んだように自分の事を話していたが、実際はもっと苛烈な戦いだったのだろうと思う。
事実、ほとんど人間がいなくなってしまった世界など、オルフェノク以外には地獄以外の何ものでもないハズだ。
そんなことを考えていると、再びライダーがその口を開いた。

「ま、それにだ。戦いを通して得たものは沢山あった。だから、俺は後悔してないんだ」

「そっか。──うん、わかった。正直に話してくれてありがとう、ライダー」

そうして笑うライダーの顔は、本当に爽やかな笑顔だった。
──私なんかが感じていた事なんて、全部吹き飛ばしちゃうくらい……いい笑顔だった。
そして……私が言い出したこととはいえ、自分の秘密を全て話してくれたライダー。
私はそんな彼の信頼に、絶対に応えなくてはならないのだ。
と、覚悟を新たにしたところで、ライダーにもう一つ質問があったのを思い出す。

「そういえば、ライダー。衛宮君の事……どう思ってるの?彼、随分と正義の味方になりたいみたいだけど?」

「さあな。別に俺は正義の味方になりたい、なんて思ったことはないけどな。大体、正義って何なのか……あいつはわかってんのかな」

「あら、ライダーはわかってるの? 正義って何なのか」

「それこそまさかだ。俺のやったことといえば、俺を信じてくれた奴らの期待にちょっと応えたくらいなもんだったからな。だが、その答えはあいつ自身が見つけるしかないもんだと思う。……そんなに簡単な事じゃないだろうけどな」

「ま、彼がどうしてそんな事思ってるかは知らないけど、結局は自分次第ってことよね。ライダーが言うと説得力あるわ」

そうして、ライダーとの長い話し合いは終わった。
色々と驚く事も多かったが、それ以上に得るものも多かったし、有意義な時間だったと言えるだろう。
さて、衛宮君とセイバーはどうしているのかしらね?

─────────────────────────────────────────

「いただきます!」

私達が今何をしているかといえば、まさに夕食の真っ最中である。
ライダーとの話し合いを終えた後に居間に行ってみれば、そこには頭を抱える衛宮君とお行儀良く座って大福を食べているセイバーの姿だった。
何をそんなに悩んでいるのかと聞いてみれば、もうすぐ藤村先生が帰ってくるらしいということで、急遽私が腕を振るい、自慢の中華料理を作り上げたわけだ。(何でも藤村先生はおいしい物に目がないらしいので、居候を認めてもらいやすくなるかなーなんて思惑があったのだが)

「む、タクミ。その餃子……譲ってはいただけませんか?私はまだそれを食していない」

「ったく、しょうがねぇな。……ほら」

「巧……あんたが猫舌なのはわかってるけど、冷めた中華料理ほどマズいもんはないのよ?わかってるのかしら?」

「あれぇ、乾君ってば熱いの食べられないんだー。じゃあ私が貰っても……」

「藤ねぇは自分の分もう取ってあるだろ!」

という訳で、案外あっさりと私とライダーの衛宮家居候は許可されることとなった。
ちなみに、見た目が完璧に外国人なセイバーはともかくとして、まんま日本人のライダーをそのまま呼ぶ訳にはいかなかった。
その為、ライダーの事は真名の『乾巧』という名をそのまま呼ぶことにした。
幸い、ライダーの場合は真名がばれてもなんら問題ないので助かったのだが、「巧」と呼ばれた時に懐かしそうな顔をしていたのが印象的だったのよね。

五人で食べる夕食は、騒がしくも楽しいものだった。
飢えた虎と龍がテーブルの上で熾烈な争いを繰り広げているが、やっぱり自分の料理を美味しく食べてもらえると嬉しいのよね。──だから、エビチリをふーふーするのを止めなさいってば!

「ふぃ〜、美味しかったよ、遠坂さん! 士郎も桜ちゃんも中華は作らないから、これからの楽しみが増えちゃったな〜」

「いえ……衛宮君には助けて貰うことになりますので、これくらいはお易い御用ですよ、藤村先生」

「うんうん! 遠坂さんならしっかりしてるし、私も安心だよ〜。それにしても、乾君も災難だったね。折角従兄弟の遠坂さんのお家に遊びに来たのに、そこが改装中だったなんて」

「いや……ちゃんと確認しなかった俺も悪いんで。お世話になっちゃって、すいません」

「いいのいいの! 士郎が困ってる人を放っておけるわけないもんね」

「当然だろ、藤ねぇ」

口裏合わせもばっちりなので、藤村先生に疑われる事もないだろう。
即興で考えたにしては、矛盾も無くてなによりだ。

「セイバーちゃんも大変だったわね〜。遠路はるばる日本に来たっていうのに……」

「いえ……キリツグのことは確かに残念でしたが、シロウに出会えた事は僥倖でした」

「うんうん! 折角来たんだから、しばらくはここでゆっくりしていったらいいよ。士郎のご飯も美味しいし!」

「シロウの料理も美味しいのですか……それは楽しみです」

セイバーの事情に関する裏工作も抜かりはないようで、ほっと胸をなで下ろす。
衛宮君は、家族である藤村先生に対しては絶対に魔術は使わないでくれ、と言っていたのでこういう形になったわけだが、上手くいって良かったわ。
後は、最後までボロが出ないように気を付けないと。

「遠坂さんは客間を使うんだっけ?」

「はい。衛宮君がちゃんと鍵を閉められる部屋を選んでくれたので、安心しました」

「大丈夫だと思うけど、何か困った事があったら遠慮なく言ってね? それと、貴方達は高校生なんだから、変な事はしないこと!」

「するわけないだろ! ったく……」

本当に元気な人ね、藤村先生って……。

─────────────────────────────────────────

時間は深夜。
衛宮君達と今後の方針を決めていたらすっかり遅くなってしまったが、まあ致し方ないだろう。
巧を伴って衛宮邸の玄関を出るが、衛宮君とセイバーも私達を見送る気なのだろうか、こちらを見ている。

「じゃあ行ってくるわ。衛宮君は私の言った通り、今日は休んでなさい。セイバーも不満だろうけど、今回は私達に任せて」

「ああ、わかった。今回は遠坂に任せるよ」

「……少々不本意ですが、シロウに何かあっては困る。リンの指示に従います」

「二人とも物わかりが良くて助かるわ」

これだけ話すと、セイバーは衛宮君を連れて家の中に入っていく。
もう時間も遅いし、衛宮君も休むのだろう。セイバーは衛宮君の枕元で身辺警護でもしてそうだけど。

「で、どこ行くんだ?」

「柳桐寺。この街でも随一の霊脈の流れる場所よ」

「そこになんかあるのか?」

「それを調べに行くのよ。──前みたいにスピードは出さなくていいから」

そうして、オートバジンに跨がって夜の街を疾走する。
来るべき戦いに向けて、覚悟を新たにして。



後書き
555本編での食事って、えらく暗いイメージがあるんですよね。いや、別に草加さんがいるからなんて……。
だから、藤ねぇみたいに明るい人がいると、たっくんも嬉しいんじゃないかな、なんて。
それでは今回はこの辺で。ご意見ご感想をお待ちしています!



[15294] 第11話
Name: のっぽ◆5125fdc3 ID:76a543ac
Date: 2010/02/18 12:43
仮面ライダー555私的名言シリーズ

「君は死ぬ事が恐くないのか!?」
          ──木場勇治

「恐いさ……だから一生懸命生きてんだ!人間を護る為にな!」
                         ──乾巧

Fate/Masked Rider 555 〜疾走する魂〜 第11話

「それにしても、この長い階段……嫌になっちゃうわ」

「ここを毎日上り下りしてたら、さぞかし足腰の強化になるんじゃないか?……俺はごめんだけどな」

衛宮邸を出発して三十分ほどバイクを走らせ、到着した柳洞寺。
今私達は、階段の遙か上に見えている山門へと歩を進めているところだった。
思わず愚痴を言ってしまったが、変形したバジンに運んでもらえばよかったかなーなんて思った事は内緒の話だ。
しかし、時間が時間だけあって辺りは不気味な程静かだ。時折梟か何かの鳥の声が聞こえるくらい。

「ま、今日は日が昇るまでそんなに時間があるわけでもないし、軽い様子見くらいにしておきましょう、巧。お寺の朝が、どれくらい早いかわからないけどね」

「ああ、わかった。面倒事はごめんだからな。──それと、こういう時でも巧って呼ぶのか?」

「あら、別にいいじゃない。普段からこうやって呼んでれば、ボロを出す事も無いわ」

現在の時刻は午前二時半。寺の朝がどれくらい早いのかはわからないが、四時くらいまでには此処から立ち去ったほうが良いだろう。
最も、今日は偵察のつもりで来た訳だから、私から積極的に仕掛けようなんて思っていないのだけど。
もし敵が柳洞寺に居ることがわかったとしても、本格的に攻め入るのはやはり皆で一緒に行くべきだ。戦力を分けることは得策じゃないし。
そんなことを考えながら、一歩一歩石段を踏みしめて上へ登っていく。
その間も巧は鋭く研ぎすました神経を張りつめさせ、周りの様子を探っている。(外でも名前を呼ばれることに少し戸惑っている様子だったが、とりあえずは納得したらしい)

「ふぅん。やっぱり此処にはサーヴァントが居るってことで間違い無さそうね。──凄い瘴気。随分魔力を溜め込んでるみたい」

「魔力を溜め込むってことは、キャスターかよ?」

「十中八九、そうでしょうね。覚えてる?最近ガス漏れ事件が多発してた事。それが、おそらくキャスターの仕業よ」

「そうやって、街の人間から魔力をかき集めてたってわけか……」

山門から離れていてもわかるほどの魔力──柳洞寺をアジトにしているサーヴァントがキャスターであろうことはわかったが、うかつに境内に入る事は流石に憚られた。
これほどの魔力を溜め込んでいるのなら、境内はキャスターにとっての神殿だ。
それに加えて、巧には対魔力のスキルが存在していないのだ。近接戦闘で遅れを取る事はありえないだろうが、あまりにも危険が大きい。
やはりここは一旦衛宮邸に戻り、セイバー達と一緒に来るのが定石よね。
そこまで頭を廻らせ、巧に声を掛けようとしたその時。

「おや。このような時間に此処を訪れる者がいるとは……聖杯戦争の参加者であろう?」

「っ! 誰!?──キャスターじゃない?もう一人サーヴァントが居たの!?」

「──侍? おい、お前……何者だ」

誰もいないハズの所から、突然声が聞こえる。
そして次の瞬間──私達のいる石段から少し上、山門の真ん前に突如現れたサーヴァント。
紫色の陣羽織に身の丈程はあろうかという長刀をその手に携え、端正な顔に薄い笑みを浮かべてこちらを見ている。
見た感じからして、キャスターではない。と言うか、完璧に侍そのものの出で立ちをしたそのサーヴァントは、巧の問いにこう答えた。

「アサシンのサーヴァント、佐々木小次郎。お主らがどのような用で此処を訪れたのかは知らぬが──その首、貰い受ける」

─────────────────────────────────────────

「佐々木小次郎だと……!? マジかよ! くそっ!」

名乗りと共に振るわれたアサシンの初太刀が、巧の首を落とすべく迫り来る。
月の光を反射し、暗闇に銀の閃光を描きながら迫るその一太刀を、巧はウルフオルフェノクになって辛うじて避ける。
しかし、もし一瞬回避するのが遅れていたなら、あの一撃で勝負が付いていたかもしれない。――それほどまでに鋭い一太刀。
アサシンとは思えぬ程のその斬撃──セイバーと比べてもなんら遜色は無い。それどころか、単純な剣技だけで言うならば、セイバーすら上回っている可能性すらある。

「佐々木小次郎──本物かどうかは知らないけど、やっかいな相手ね……」

日本人であれば、知らぬ者はいないとも言える伝説の存在。本当に存在していたのかは定かではないそうだが……
かの宮本武蔵の宿敵ともいわれたその剣豪。言い伝えに違わぬ腕前の持ち主が、今私達の目の前にいる──

「ほう、結構結構。今のを躱すか……無論本気では無かったが、そう簡単に避けられるとは思わなんだ。それに、その面妖な姿……」

「ちっ……やってくれるな、おい」

先ほどの攻撃は挨拶代わり……とでも言ったところなのか、避けられたことに対して関心するようなそぶりを見せるアサシン。
自らの真名を惜しげも無く晒す事と言い、よほど自信があるのだろうか。
巧のオルフェノク体を見ても、なんら動揺する気配もない──いや、動揺するどころか、酷く嬉しそうだ。

それとは逆に、対する巧の声は硬い。
見た所、アサシンの長刀には何かの魔術的な力が働いている気配はない。──つまりは、正真正銘唯の日本刀だ。
だが、巧はアサシンから距離を取り、うかつに近寄ろうとはしない。それは今までの戦いで培った経験故のことなのか、それとも野生の感なのか。

「ふむ。私が真名を自ら明かした事が不思議なのだろう? いやいや、それが普通の反応であろうよ」

「別にあんたが真名を明かした事を驚いてるわけじゃないけどな。──佐々木小次郎ってのに驚いただけさ」

「ほほう。佐々木小次郎の名は、お主のような妖にも知れ渡っているか。くくっ、いや失敬」

「ちっ……言ってろ!」

ウルフオルフェノクの影が巧の姿を映し出し、アサシンとの会話が続く。
こうして話している最中にしても、腰を低く落とし、今直ぐにでも飛びかからんとするような気配を見せている巧に対し、アサシンはあくまで脱力。
笑いをかみ殺し、長刀をだらりと地に垂らしたままで巧との問答を続けている。
だが、その実アサシンには一分の隙も無い。──迂闊に近付いたならば、その瞬間に事は終わってしまうだろう。

「さて……今お主がいる位置は私の距離では無い。だがお主の距離でもあるまい。踏み出すのか、それとも身を翻すか──好きな方を選べ」

『Standing By』

「どっちにしても、そう簡単にやられるわけにもいかなくてな!──変身!」

『Complete』

「これは……先ほどの妖の姿といい今の姿といい……お主も相当な変わり種よな。して、その姿になってどう戦う」

挑発するかのように言葉を重ねるアサシンに対抗するように、巧もファイズに変身を遂げる。
確かにファイズであれば、オルフェノク体の時とは異なり遠距離からの攻撃を仕掛ける事も出来る。
だが、このアサシン相手にそれが通用するのか──ここは、当初の予定通り退いておくべきかもしれない。
さて、どうするか。

「まどろっこしい事は嫌いなんだよ! はあぁっ!」

「ふむ、飛び込むか──ならば」

巧が意を決したように、荒々しく石段を踏みしめてアサシンに迫る。
そして、それを待っていたとばかりにアサシンの長刀が横薙ぎに払われ、巧の身体を両断せんと襲い来る。
振るわれた銀色の一閃を、巧はかろうじて避ける。咄嗟に転がって間合いを取りはしたものの、その脇腹には浅い刀傷。
本来ならばとても届く様な距離ではなかったにも関わらず、傷を負った──その技量は、すでに人のそれではあるまい。
アサシンが持っているのが、妖刀や魔剣である──といった話しのほうがよほど現実味があるほどの、尋常成らざる技量。
もはや剣の結界……とでも言ったらいいのかしら?

「今のはよくぞ躱した。あと半歩お主が踏み込んでいたなら、その胴体は真っ二つであったぞ」

「くそっ……どうなってんだ!?」

アサシンの言葉に嘘偽りはない。──それは巧の様子からも如実に見て取れた。
アサシンは刀身を一払いし、僅かに付着した血の雫を払い、こちらを冷たい目で見据えてくる。
やはり、ここは退くべきだ。巧がアサシンに勝てないとは思わないが、もし勝てたとしてもキャスターが何かしらの攻撃を仕掛けてくる可能性も高い。
そして何より、このアサシンと真っ正面から戦った場合、どれほどの傷を負う事になるのか予想が付かない。
やはり攻め込むなら最大戦力を持ってくるべきだ。即ち、セイバーと共に。

『巧、ここは退くわ』

『ああ!? 凛、本気か!?』

『ええ。言ったでしょう、今日は偵察。柳洞寺に二人もサーヴァントがいることがわかっただけでも十分なの。……行くわよ!』

『くそっ……わかった』

レイラインを通じて、巧に撤退する事を伝える。
少々不満そうではあったが、大人しく従ってくれて助かったわ。
だが、このアサシン相手にそう簡単に退くことが出来るのか。迂闊に背を向けるようなことをすれば、私共々真っ二つにされかねない。
──あ、そういえば、こういう時に役に立つ子がいたんだっけ。

「どうした、臆したのか?こないのならば、こちらから──」

「悪いな。マスターの意向で、今日はこれまでだと。……次は倒す」

「むっ!」

こちらに踏み出そうとしたアサシン。その歩みを止めたのは、遥か下の道路から飛んで来たオートバジンだ。
左手に装着されたバスターホイールから発射されるガトリングガンの連射は凄まじく、轟音と共に石段を削り取っていく──その隙に巧が私を抱きかかえ、一気に跳躍。柳洞寺から離脱する。
さしものアサシンもこれ以上進むことが出来ないと判断したのか、追ってくる気配は無かった。
何はともあれ、ひとまずは落ち着く事が出来る。私達とあちら側のサーヴァントの数は同等。次に彼処に行った時が、決着をつける時だ。

「成る程、引き際も中々。ふふ、再び相見える時が楽しみになった」

─────────────────────────────────────────

「まさか佐々木小次郎だなんて……やっかいな相手がいたものね」

「ああ、ほんとにな」

柳洞寺から無事離脱する事が出来た私達は、行きと同様にオートバジンに乗って衛宮邸に向かう。
とりあえずは帰って衛宮君達と情報を共有しなければならない──攻め入るのは今日、もしくは明日の夜になるだろうか。
早いとこ片を付けなければ、キャスターは次々とこの街の人々から魔力を吸い取っていくだろう。
それは、この街の管理者としてはとても許せる行為では無い。(衛宮君に言ったら直ぐにでもすっ飛んで行きそうだから、話さないほうがいいかもしれないが)
ひとまず、今日は早く帰ろう。──そう考えていたその矢先。

「よう、お二人さん。また会ったな」

「お前は……」

私達の目の前に現れたのはランサー。
彼がどんな目的で私達の前に現れたか……なんて、聞くだけやぼってものよね。
ほんと、悪いことって重なるもんだわ……。


後書き
対アサシンに続いて、次回は対ランサー二回戦ですね。
次回は『あのフォーム』でも使わせようかなーなんて考えてますw
それでは、今回はこの辺りで。ご意見ご感想をお待ちしています!



[15294] 第12話
Name: のっぽ◆5125fdc3 ID:76a543ac
Date: 2010/02/18 12:55
【特別編】平成仮面ライダー速さ比べ

( 0w0)「マッハ!」
ファイズ「Start Up!」
カブト「Clock Up!」
( 0w0)「キエタ」
(0w0 )
( 0w0 )

Fate/Masked Rider 555 〜疾走する魂〜 第12話

「オラオラぁ! どうしたライダー! それで本気かぁっ!」

「うぐっ! くそっ……こないだは手ぇ抜いてたな!」

衛宮邸へと帰る途中、突如として目の前に現れたランサーとの戦いは、場所を冬木中央公園へと移していた。
戦い始めて十分程──しかし、巧は防戦一方の戦いを続けている。
ランサーの力は、以前戦った時とはまるで別物。
今の戦況を見ている限りでは、あの時互角に渡り合ったとは思えないわね……ちょっとまずいかもしれない。

「いいや、あん時はあれで全力だったさ。クソマスターにちっとばかし令呪で命令されててな──だが、今度は正真正銘の全力だっ!」

ランサーの紅い魔槍が巧の心臓目掛け、凄まじい速度で突き出される。
その速度は前回よりも遥かに速い──身を捩って何とか躱しはするものの、胸部のフルメタルラングに一筋の傷を作る。
しかし、ランサーの攻撃はそれだけでは終わらなかった。
突き出した槍をそのまま横へ薙ぎ払い、巧の身体をむりやり弾き跳ばす。
あれ程長い槍をまるで自分の手足のように扱う様は、さすがはランサーと言うべきか。

「ぐうぅぅっ!」

「巧っ!」

咄嗟に右手に持ったファイズエッジでガードした巧ではあったが、攻撃の勢いを殺す事は出来なかった。
数メートルほど吹き飛ばされ、地面を転がって行く──が、実際に当たったのは穂先の部分では無かったためか、心配するほどのダメージは負っていないようだ。
素早く立ち上がる巧を見てほっとしたのもつかの間、獰猛な笑みを浮かべたランサーが距離を詰めて行く。その様はまるで獣だ。
全力で戦える事が嬉しくてたまらない──そんな顔をしている。厄介極まりないわよ、ほんとに!

「っあぁ……!」

『Burst Mode』

接近戦では分が悪いと判断したのか、巧がファイズフォンを変形させ、光弾をランサーに向けて連射する。
だが、それでもランサーが止まる事は無い──飛来する光弾を槍で弾き返して行く。
どんな神速で槍を操っているのか──紅い残像すら見ることが出来た。
そして光弾を弾き跳ばした勢いのまま加速し、巧へ向けて突進して鋭い蹴りを繰り出すランサー。
加速する為に踏み込んだ大地は抉れ、一瞬とはいえ空気の壁を突き破るその脚力で繰り出された蹴りをまともに食らえば、いくら巧といえども!

「どうしたよ、ライダー! 成す術もねぇってか! その程度の実力じゃねぇだろう!」

「くそっ! 調子に乗ってんな!」

音速の速さで繰り出されたランサーの蹴りは咄嗟にガードしたものの、その衝撃で後ずさる巧。
それに続いて、息付く間もなく繰り出される槍の連撃をファイズエッジで何とか捌いているが、反撃することができない。
巧が斬り返す時間すら与えてもらえない。これが、ランサーの真の実力。

だが、徐々に巧もランサーの動きに対応し始める。──突き出された槍をいなし、その流れのままにランサーへと斬りかかる巧。
ファイズエッジと魔槍が交差する度に火花が散り、紅い残像が走る。
前回の戦いのように互角以上とまではいかないものの、何とか攻撃を仕掛けることは出来るくらいにはなっている。
しかし、このままではジリ貧だ。
私の宝石魔術では、この乱戦の中でランサーだけ狙って当てる、なんて芸当は到底不可能だ──くやしいけれど、今の私に出来る事は巧を信じる事だけ。

一際強くファイズエッジと魔槍がぶつかり合い、巧とランサーの双方が同時に後方へ飛び退く。
二人の構えに隙は無く、先ほどの乱戦から一変して静寂が訪れる。──じり、と巧が大地を踏みしめる音すら聞こえるようで、私はじっとりと汗をかいた手を握りしめる。
そして、その沈黙を破ったのは──

「なんだっ!?」

ランサーの不意を付く、オートバジンのガトリングガンの轟音だった。
毎秒96連発の魔力の込められた弾丸が、ランサーを撃ち抜かんと迫る──だが、ランサーも流石は英霊だ。
弾丸をステップで躱し、槍を回転させて弾き返し──矢避けの加護でも持っているのか、ただの一発の弾丸もその身に擦らせることなく凌ぎきる。
だが、すべての弾丸を凌いだランサーが着地するその瞬間。

『Exceed Charge』

「はあぁぁぁぁっ!」

「なにぃぃっ!?」

電子音声が流れ、ファイズエッジにフォトンブラッドが注入。
一際明るく刀身が輝き──振るわれたファイズエッジから光が放たれ、地を切り裂いてランサーを拘束する。
赤い光に拘束され、中に浮かぶランサー。必死に脱出しようとするものの、その束縛は強い──今が最大のチャンス!
それを確認した巧がファイズエッジを握りしめ、ランサーに必殺の『スパークルカット』を食らわせるべく疾走するが──

「うおおぉぉぉぉっ!」

「なにっ!? うわあぁっ!」

「そんなっ! 巧っ!」

あと少し、あとコンマ数秒の所でランサーが光の拘束を振り払い、切り下ろされるファイズエッジに向けて槍を突き出す。
その形相はまるで鬼のごとく。魔槍には裂帛の気迫が込められていた。
そして、エネルギーの充填されたファイズエッジと魔槍がぶつかり合い、何かが弾けるような音と目映い光。
思わず目を瞑り、顔を背けてしまったが……二人はどうなったのか。

ようやく光が治まり、視界が正常に戻る。
私の目に映ったのは、ちょうど三メートル程離れて対峙する二人の姿。
今の衝撃で多少はダメージを負ったのか、ランサーの口元からは僅かに血が流れ、ボディスーツにも無数の傷。やはり
一方の巧も無傷ではいられなかったようで、片膝を付いてランサーを睨みつけている。──やはり、蓄積していたダメージは巧の方が大きかった。
このままどっち付かずの攻防が続けば、先に倒れるのは巧の方──ならばどうするか。
賭けるしかない……「バーサーカーに対抗する可能性がなくもない」という、まだ見ぬ巧の宝具に。

「やっぱりお前……俺の見込み通りの野郎だな。さて、前回の戦いの時は邪魔が入っちまったが、今日はそんなこともねぇ。そろそろ決着付けさせてもらうぜ」

「別にお前に評価されたところで嬉しくもなんともないけどな。決着付けるってのには賛成だ」

「いいねぇ。やっぱり俺とお前は気が合うぜ。……それじゃ、決着といこうか。──その心臓、貰い受ける」

「悪いが、そう簡単にやられるわけにもいかなくてな。──使うぜ、凛」

ランサーが紅い魔槍を構え、膨大な魔力が集中していく。──宝具だ。
あの日、衛宮君が現れた事によって終わった戦い……まるでその続きだ。
ランサーの宝具がいかなる力を持っているのかはわからない。だが、それをまともに食らえば巧は唯では済まない。それどころか、一撃で殺られる可能性のほうが高い。
そんな状況の中で、巧の声は相変わらずの調子で、なんの焦りも不安も感じられない。
顔は仮面で隠れていても、きっと笑っている──そんな気がした。

ライダーの声に、私もこくりと頷いて応える。
どんな宝具があるのかはわからないが、巧ならきっとやってくれる。──そう信じて。

「ほう……切り札のご登場ってか? いいぜ、見せてみろよ」

「──後悔すんなよ」

『Ready』

『Complete』

挑発するランサーの言葉に応えるように、ファイズエッジにセットされていたミッションメモリーをファイズポインターに移し替え、右足にセット。
バーサーカー戦で見せた『クリムゾンスマッシュ』を再度見せるつもりなのか……とも思ったが、更にその先があった。
左手首に付けられていた時計のようなユニットからもう一つのメモリーを取り外し、ベルトに装着されているファイズフォンにセット。
その瞬間、再度流れる電子音声と同時にファイズの姿が変化していく。

フルメタルラングが展開して肩部に収まり、黄色く光っていた目は赤く染まる。更に全身を循環していたフォトンストリームは赤色から銀色に。
これが、巧の第三の宝具。一体如何なる力を秘めているのか──

「はっ! 随分ころころと姿の変わる野郎だな。だが──終わりにさせてもらうぜ」

「…………」

もう見慣れた巧の戦闘姿勢。腰を落とし、右手を右足の太ももに乗せて、ただ真っすぐにランサーの姿を見据えている。
巧はもう言葉を発しない。これで最後だ。
どのような結果になろうと、もうすぐ勝敗は決する──

『Start Up』

「そんじゃいくぜ、ライダー! 刺し穿つ──がっ!?」

「えっ!? な、なにっ!?」

ランサーの真名開放の言葉と、電子音声の言葉が重なる。
一体どうなるのか──ランサーの口が宝具の真名開放を終えようとしたその瞬間。
突然のことだった。巧の姿が掻き消え、宝具を放とうとしていたランサーの身体がくの字に曲がったまま吹き飛んで行く──その先には、こちらに背を向けて佇み、軽く右手をスナップさせる巧の姿。
攻撃を食らったランサーは、一体何が起こっているのか理解できていない。無論、私もだ。
他のサーヴァントの攻撃の可能性などあり得ない──ならば、これが巧の宝具の力なの?
見る事も感じることもできない超高速形態。──圧倒的な力。

「がはぁぁっ!!」

吹き飛んで来たランサーを上空へと蹴り上げる巧。
一体巧自身はどのような景色をみているのかわからないが、まるで物理法則を無視したかのように、直角にランサーの身体が跳ね上がって行く。
ランサーの口からは夥しい量の血が吐き出され、その衝撃を如実に物語っていた。
あのランサーが、防御することも回避することもできない──凄い。
勝利を確信し、小さくガッツポーズをして思わず頬が緩む。
そして、バーサーカーをも拘束した赤い円錐状の光がランサーをロック。
だが──

「舐めるなぁぁぁっ!!」

「そんな……!」

満身創痍の身でありながら、裂帛の気迫でその拘束を破るランサー。
それは、最後まで諦めぬという英雄としての誇り故なのか、それとも漢の意地か。
ぎらぎらと光るその瞳は、まるで光を失ってはいなかった。もしこれで仕留めることができなかったら──
その時私が上げた声は、半ば悲鳴じみていたように思えた。──だが。
次々と赤い閃光がランサーをロックしていく。……その数、実に四つ。ランサーの顔が驚愕の色で染まって行く。
必殺のアクセルクリムゾンスマッシュ!

『3……』

「やああぁぁぁぁっ!」

『2……』

「ぐふぅぅっ!?」

『1……Time Out』

四つの閃光が次々にランサーの身体を貫き、電子音声が流れるのと同時に巧の姿が再び現れる。
四連続のクリムゾンスマッシュを食らったランサーの身体にφの文字が浮かび上がり、大量の血を吐きながら落下──大地に転がる。
──完璧な一撃だった。もう、ランサーに戦う力など残っていないだろう。

『Reformation』

巧の姿が元のファイズへ──そして、人間の姿へと戻り、地に倒れ伏すランサーの元へと歩みを進める。
私もランサーの元に駆け寄る。敵だったとは言え、実に清々しく真っ向勝負を挑んで来たのだ。それは、英雄と呼ぶに相応しかった。

「ちっ……やられちまったか。だがまぁ、全力の戦いが出来たんだ。……悔いは無い」

「あんたとは、もう戦いたくないな」

「そいつは残念だ……おい、嬢ちゃん。最後に一つ良い事教えてやるぜ──言峰には気を付けな」

「綺礼に気を付けろって、一体……」

「そいつは自分で判断しろ。──いい戦いだったぜ」

そうして、ランサーは消えた。
全力で戦えた事を誇りに思っているような、そんな笑顔を浮かべて。




後書き
というわけで、アクセルフォームお披露目の巻でした。ランサーには退場して貰うこととなりましたが、雑魚にはならないよう気を使ったつもりです。
それと、後書きの場で感想の中での疑問、指摘等に少しばかりお答えと感謝をしたいと思います。

ラスク様、横線の件でアドバイスを下さり、ありがとうございました。一話から修正してありますので、今後も何かありましたらよろしくお願いします。

しう様、アクセルフォームは確かに反則かなーとも思いましたが、とくに補正は入れていません。
燃費が悪い、という設定は入れるつもりですので、よろしくお願いします。

忠様、ウルフオルフェノクのスペックが公式に設定されている資料を見つける事が出来なかったので、本ssでは基本はファイズと同等にしてあります。
ですが、巧の性格、信念を考えた上で、ウルフオルフェノクになるのはあくまでも「緊急事態」に限っています。

やん様、誤字報告ありがとうございます!修正済みですので、今後もよろしくお願いします。

その他にも毎回感想を下さる方が何人もいらっしゃり、とても嬉しく思っております。
これからも頑張りますので、ご意見ご感想をお待ちしております!



[15294] 第13話
Name: のっぽ◆5125fdc3 ID:76a543ac
Date: 2010/02/18 12:59
仮面ライダー555私的名言集

「俺は生きる。生きて──戦う!」
          ──草加雅人

Fate/Masked Rider 555 〜疾走する魂〜 第13話

「うぅ……眠い」

私が目を覚まし、目向け眼を擦りながら居間に辿り着いた時には、既に他の皆が朝食を食べ終えたくらいの時だった。
言い訳をさせてもらうと、ランサーとの戦いを終えて衛宮邸に帰ってきたのは午前5時。睡眠時間は2時間あるかどうか……といったところなのだから、こうなっても仕方の無い事なのである。
──普段から極端に寝起きが悪い、なんて突っ込みは勘弁してね……巧。
殆ど寝ていないせいか、妙に重い頭に難儀しながら台所へと向かう。
っていうか、皆なんで私の顔を見て驚いてるのかしら……?
不思議に思って頭を働かせようとするが、まるで考えが纏まらない。うぅ、やっぱり朝は駄目だわ……
何とか台所に辿り着き、冷蔵庫を開けて牛乳パックを取り出す。

「ねぇ士郎……ミルク貰っても良いかしら……?」

「うおっ! あ、あぁ……構わないぞ。っていうか、大丈夫か? 遠坂」

台所で洗い物をしていた士郎は、私の顔を見ると顔を引きつらせながら後ずさる。
寝起きの私の顔は、皆が退いてしまう程酷いものなのだろうか?
だがまぁ、今のまるで働いていない頭で考えていてもしょうがない。
士郎の心配そうな声には応えず、グラス一杯に注いだミルクを一気飲み。
冷たい液体が喉を通る度に、いままでぼんやりしていた頭の中がクリアになっていくのがわかる。
きちんと睡眠を取ったときに比べれば雲泥の差だが、随分とマシになった。

「ああ……ごめんなさい。私、朝弱いのよ……大体いつもこんな感じだから。心配してくれてありがと、士郎」

「そ、そうだったのか。随分と凄い目つきだったからアレだったんだけど、大丈夫ならいいんだ……って、士郎!?」

やはり寝起きの私はかなり酷い状況になっているらしい……気を付けたいとは思うが、コレばっかりはどうにもならないのだから、士郎にも慣れてもらうしかない。
と、幾分かマシになった頭でそこまで考えた所で士郎が素っ頓狂な声を上げる。
どうやら私が彼を下の名前で呼んだ事が原因らしいが、そんなに驚く様な事でもないだろうに……

「遠坂……い、今俺の事……」

「別にいいでしょ?私達は味方なんだし、下の名前で呼ぶ事くらい。──もしかして、私に士郎って呼ばれるの……嫌?」

「そ、そんな事ない!むしろ是非呼んで欲しい……って、違う違う!」

士郎の側に近付き、上目遣いでそう告げる……ついでにさっきのあくびのせいで涙目で。
私としてはちょっとからかったつもりだったのだが、予想外のダメージを与えてしまったようで、真っ赤な顔で皿洗いに専念しようとする士郎。
時折頭を抱えて悶えたり、妙に前屈みになっているその様は少し面白いが……桜もよく此処に来ているらしいのに、随分と純情なのね……士郎ってば。

「うふふ。いつの間にか随分仲良くなったみたいだね〜。士郎と遠坂さんってば」

「……まあ、そうみたいっすね」

居間からこちらを覗いてにやにやしている巧と藤村先生。
っていうか、巧だって藤村先生といると随分楽しそうなくせに、よく人のことをからかえるもんだわ……もう。
そういえば、藤村先生って弓道部の顧問のハズだけど、まだ行かなくていいのかしら?

「あの、藤村先生。今日は弓道部の朝練は大丈夫なんでしょうか?桜は来ていないみたいですが……」

「ああぁぁ! そーだったよぅ! 遅刻遅刻────!」

「うおっ!?」

やっぱり朝練の事はすっかり忘れていたようで、私の言葉を聞いた途端に猛ダッシュして消えて行く藤村先生。
そして、その勢いに驚いて尻餅を付く巧……くふふ、私をからかったりするからよ。
それにしても元気よねぇ……藤村先生。

「そうだ。まだ朝飯残ってるけど、食べるか?遠坂」

「う〜ん……ほんとは朝は食べない主義なの。でも……せっかく士郎が作ったんだし、今日はお腹も空いてるし……食べる事にするわ」

「そっか。じゃあ、すぐ準備するから待っててくれ。……でも、ちゃんと朝も食べないと身体に悪いぞ?」

「うん。ごめんなさいね、士郎。朝ご飯に関しては……善処するわ」

前日の夜は色々とハードだった事もあって、私のお腹はちょうどいい具合に減っていた。
鼻をくすぐる味噌汁と焼き魚のいい匂いに、きゅるる……とお腹が鳴る。幸い聞かれなかったみたいだが、今日は素直に朝ご飯をいただく事にするとしよう。食べ物を祖末にしたらばちが当たるし、士郎の厚意を無下にするのは良くないし。
それにしても、ほんとにエプロン姿が様になってるわね、士郎ってば。将来は立派な主夫になれそうだわ……なんてね。

───────────────────────────────────────── 
「えぇと、まずは昨夜の見回りの結果について報告するわね」

「何か得る物があったのですか?」

士郎の作った朝食を美味しく頂いて、シャワーを浴びてさっぱりした所で、全員を居間に集めて話しを始める。
真っ先に質問してきたのは、やはりセイバーだ。昨日は私の提案を呑んでくれて居残りだったが、やはり本当は行きたかったのだろう。
一方の士郎も真剣に話しを聞いているが、柳洞寺にサーヴァントがいることを知ったらどう思うだろうか。
親友の柳洞君のこともあるし、心配するだろうが……やっぱり伝えないといけないわよね。

「とりあえず、柳洞寺にサーヴァントがいることがわかったわ。アサシンと、おそらくはキャスターね」

「柳洞寺って! 彼処には一成達が住んでるってのに……!」

「落ち着きなさい、士郎。昨日は偵察だったから退いたけど、次は貴方とセイバーにも一緒に来てもらうわ。……柳洞寺はもうキャスターの神殿よ。迂闊には入れないけど、高い対魔力を持つセイバーならある程度は大丈夫だと思うし」

「……アサシンもいるだろ。佐々木小次郎だっけか」

やはり柳洞寺に敵がいる……というには驚いたようで、心配そうな顔を浮かべる士郎。
昨夜は巧だけだったから退いたが、セイバーと一緒ならば十分に勝機はある。
最も、ランサー戦で見せた超高速形態『アクセルフォーム』ならば、巧だけでも勝てるかもしれない。
しかし、用心しておく分にはなんら困る事はない。

巧がアサシンの真名を口にした瞬間、士郎が驚いた顔を浮かべる。……っていうか、ほんとくつろいでるわよね、巧。
一人だけ寝っ転がってるし……はぁ。
まあ、それはそうよね……アサシンが佐々木小次郎なんて聞けば、誰でも驚くもの。
……っていうか、佐々木小次郎って暗殺者じゃないと思うんだけど、実際はどうなのだろう?

「佐々木小次郎……日本のサムライですか。それほどまでに腕の立つ相手なのですか、タクミ?」

「ああ? まあ、お前よりも剣の腕は立つんじゃないか?」

「む……その発言は聞き捨てなりません。その佐々木小次郎とやらは、私が必ず倒してみせます!」

巧が無遠慮な発言をしたのがマズかったのか、拳を握りしめて打倒アサシンに燃えるセイバー。
いや、別にやる気を出してもらう分には一向に構わないんだから、これでいいのかしら……?と、それともう一つ伝える事があったわね……

「それともう一つ。ランサーを倒したわ」

「ランサーを! よくもあの男を倒せたものですね……」

「ま、どうやって倒したかは今は省くけどね。それで……今日どうするかなんだけど……」

「やっぱ、学校に行くべきだろ、遠坂」

ランサーを倒した事に食いついてくるセイバーだが、彼女の正体がわからない以上、迂闊にこちらの情報を与えるのは止めておく。
今は共闘しているが、勝ち残るのはたった一組だ。士郎達ともいずれは決着を付けなければいけないんだし。
と……そんな事を考えていると、士郎が横から口を出してくる。

「あら、士郎はどうして学校に行かなくちゃって思うの? 単純に学生だから……って理由?」

「いや、俺だって考え無しなわけじゃない。この時期に揃って休んだりしたら、まず間違いなく疑われるだろ?……それに柳洞寺に敵がいるんだったら、一成にも少し話しを聞いてみたい」

「うん、ちゃんと考えてるのね。ちょっと見直したわ。……柳洞君の事だけど、まずは令呪の有無を確認しなさい。疑いたくはないけど、可能性は一つ一つ潰さないとね?」

「ああ、わかった。……昼休みに確認してみる」

柳洞君の事を調べろ、と言った時にはもっと感情的になって反論されるかとも思ったんだけど、案外素直に頷く士郎。
本心ではそんな事はしたくないのだろうが、可能性は少しでも潰しておかなくてはならないし……我慢してもらうしかない。
私だって、できるなら彼がマスターじゃないことを願ってるのだけれど。

「ま、それじゃ学校に行く事にしましょう。巧は霊体化して付いて来れるから良いとして……セイバーはどうしよう。いざとなったら、士郎が令呪で呼ぶしかないかしらね」

「それでいいんじゃないか?」

学校に行く準備を整え、玄関の扉を潜る。士郎には令呪がバレないように包帯を巻かせている。……少々不自然だが仕方ない。
まあ、そもそもサーヴァントを呼び出さなくてはならないような事態にならなければいいだけの話しな訳で、昼間ならばそんなに気を張る必要もないだろう。

「……随分心配そうだな」

「タクミ……いえ、貴方がいれば大丈夫だとは思うのですが、その……」

「こいつ……使えよ。俺のバイクだ。あらかじめ学校の近くにいれば、少しは安心だろ」

「……感謝します、タクミ」

どうやら巧がセイバーにオートバジンを貸したようで、素直に礼を言われて照れているのか頭をがしがしとかいている。
セイバーは心配性だし、巧も無愛想な癖にお人好しだし……ま、何だかんだいってサーヴァント同士も仲が良いみたいだし、安心して学校に行けるわね。

「そうそう、セイバー。学校の近くで待ってるんだったら、喫茶店とかにでも行ってなさい。少ないけど、お金あげるわ」

「……いいのですか、リン?」

「良いの良いの。……士郎には言っちゃだめよ?」

「やはり貴女は良い人だ。感謝します」

士郎に隠れてセイバーにお金を渡す。
こんなの見られたら、ムキになって俺も渡す!とか言ってやきもち焼きそうだしね。
そんな事をしていれば、いい加減遅刻してしまいそうな時間になってしまったので、士郎と一緒に学校へ向かう。
何にもないといいんだけどねぇ……


後書き
ちょっと短いですが、今回はこの辺で。次回は柳洞寺へ再出発ですかねー。
感想の方で『ジェットスライガー』を出さないのか、という意見を頂いたのですが、宝具にするには違和感あるんですよね。
使ったのは一回だけだし、北崎デルタに壊されちゃったし。
単なるアイテム扱いでなら……出すかも?



[15294] 第14話
Name: のっぽ◆5125fdc3 ID:76a543ac
Date: 2010/02/18 13:11
仮面ライダー555私的名言シリーズ

「知ってるかな?夢っていうのは呪いと同じなんだ。途中で挫折した者は、ずっと呪われたまま……らしい」
「あなたの……罪は重い」
      ──木場勇治

Fate/Masked Rider 555 〜疾走する魂〜 第14話

「さて、目立った収穫も無かったし……やっぱ柳洞寺に直接乗り込むしかないわね」

「一成がマスターじゃなかったのは良かったけど……一体誰が……」

色々と心配しながら学校に行ったのだが、特に問題が起こることも、そして大した収穫も無かった私達は、ひとまず衛宮邸での話し合い中だった。
とりあえず柳洞君がマスターではない、ということは士郎のおかげでわかったのだが、他には何の手がかりもない。
正直危険が高いとは思うものの、やっぱり正面突破するしかないかな。
キャスターの魔術に関しては、やっぱりセイバー頼みになってしまうが……仕方が無い。

当のサーヴァント二人といえば、セイバーはお昼に自分で買って来たらしいケーキをもくもくと食べているし(ちなみにセイバーはバイクを大層気に入ったらしく、また貸して欲しいと巧にねだっていた)巧ときたらこたつの中で丸くなっている始末。
……あんた狼の癖に、まるで猫じゃない。
まあいざ戦うとなれば頼りになる二人なわけだし、あんまりピリピリされてても困るし……これくらいでも良いかもしれないわね。

「士郎……今夜行くわよ。毎晩動き回るのもあんまり良い事じゃないんだけど、キャスターは街の一般人から魔力を集めてる。これ以上好き勝手にやらせるわけにはいかない」

「ああ! 何も知らない人達を巻き込むなんて許せない……!」

士郎もキャスターの所行を知ってやる気満々だ。
無論私だって、これ以上キャスターのやっている事を見過ごすつもりなんて毛頭ありはしないのだ。今夜柳洞寺に乗り込んで、片を付ける。
マスターが誰だか知らないけど、一緒に倒す。それが私の役目だ。

「よし、それじゃ飯にしよう。まだ出かけるには時間があるし、しっかり腹ごしらえしていかないとな!」

「む、流石はシロウ! 腹が減っては戦は出来ぬ……と言いますからね」

「……あんまり熱くないのにしてくれ」

戦いの前に腹ごしらえ……と言うのはわかる。わかるし、私だってそのつもりだったのだが、その話しになった途端に目を輝かせるセイバーに、こたつからもぞもぞと出てくる我らが巧。
本当に彼らは英雄なのだろうか?ちょっと自身が無くなってきた今日この頃なのであった。

─────────────────────────────────────────

「……おい、どうなってんだ」

時刻は午前2時。
草木も寝静まる時間に私達四人は柳洞寺の長い石段を登っていた。
目の前には柳洞寺の境内に続く山門。本来ならば、此処でアサシンが出てくる筈だった。
しかし、目の前に広がる光景は私達の予想とはまるで違っていた。
崩れた石段に、折れた木々。それは、既に此処で戦闘があったという証拠だ。

「私達が来る前に、何者かがアサシンと戦闘を行った……という事でしょうか。アサシンが出てこない事を鑑みれば、既に敗れ去った……そういう事でしょう」

「……あのアサシン、相当な実力持ってたから、ラッキーと言えばそうなんだけど。上の状況がどうなってるかわからないわ……行きましょう」

アサシンは依然として姿を見せることはない。やはり、私達の前に此処を訪れた来訪者にやられたのだろう。
ついでにキャスターも始末してくれていれば手間が省けるのだが……境内の様子を見るに、今だキャスターは健在だろう。
本来はアサシンも倒さなければならなかったのだから、戦力を温存する事が出来ただけ良かったと思うことにする。うん、物は考えようよね。

山門を潜り、濃密な魔力が溢れる境内へと歩を進める。
──その視界の先には、二人の人影があった。紫紺のローブを纏った女、キャスター。
そして、スーツを着た男。私と士郎にとっては毎日見ていたその姿。──葛木宗一郎。
まさか魔術師でもない葛木がマスターだったとは思わなかった。だが、驚いてばかりはいられない。
実際問題として彼は私達の前に立ちはだかっているのだから。

「アサシンの奴……とんだ役立たずね。門番の役目すら満足に果たせないなんて」

「ふむ……まさか衛宮と遠坂がマスターだったとはな。アサシンを倒したのは別のマスター達だったようだが……まあ良い」

既に消え去ったらしいアサシンに対して文句を言うキャスターと、誰に言うでもなく呟く葛木。
見た所、アサシンのマスターらしき人間はいない。ならば、もしかしたらキャスターが召喚したのだろうか?それであれば、キャスターのあの態度も納得がいく。
そして、葛木を見て……まず言葉を発したのは士郎だった。

「葛木……あんたに聞きたい事がある」

「どうした衛宮。聞きたい事があるならば聞こう」

拳を握りしめ、怒りを必死に抑えて葛木に問いかける士郎に対して、葛木の態度は冷静そのもの。学校で教鞭を取っている時となんら変わらない──それが、言いようも無く不気味だった。
互いに出方をうかがっている最中なのだが、士郎は構わずに一歩前に出る。
本来は止めるべき迂闊な行動なのだが、葛木の対応は普段通り──逆に、私も迂闊に行動することが出来なかった。

「キャスターは無関係な街の人達の魔力を集めてる。それは、あんたの指示か?」

「っ……坊や、止めなさい!」

「……いや、その事は知らんな」

ことこの状況になっていても、やはり士郎は士郎。葛木に対して一縷の望みを持っていたらしい。
そして、その士郎の問いは、キャスターにとっては聞かれたくないことだったらしい。
ローブに隠れて目は見えないが、その口元は忌々しげに歪められている。──魔力を集めていたのは、キャスターの独断か。
しかし、その事を聞いても葛木はなんら態度を変えることは無い。キャスターに詰め寄るわけでも、士郎に弁解するわけでもない。
奇妙な沈黙が境内に流れる。──次に口を開いたのは巧だった。

「別にあんたの指示かどうかなんてどうでもいい。あんたはそれを知って、魔力集めを止めさせる意思はあるのか」

「……身に覚えの無い話しだが、キャスターの行為がそんなに酷い物か?私にとって、他人の命などまるで関係ない話しだ。……キャスターは命までは取ってはいないのだろう?」

「……お前!」

「キャスター。中途半端にやるのは効率が良くないのではないのか。一思いに根こそぎ奪ってはどうだ」

そう、なんら自然に葛木はそう言い放った。他の人間などどうなってもいい。
こいつは本気でそう思っている――背筋に冷たいものを感じる。
そして、その言葉を聞いた巧からは怒気が溢れ出している。眼光鋭く葛木とキャスターを見据え、今にも飛びかからんばかりだ。

「私はこの戦いに積極的に関わろうとは思わん。だが、私を阻むのなら全て殺す。……キャスター、後はお前の自由だ。好きにしろ」

全てを言い終えた葛木と、あれだけ狼狽していたにも関わらず、その口元には笑みが戻っているキャスター。
キャスターの既に勝ったかのような様子が尺に触る。
──まったく、不愉快以外の何ものでもないわ。

「ウオォォォォッ!」

葛木の言葉を聞いた瞬間、巧が咆哮──身体を青白い光が包み、その姿をウルフオルフェノクに変化させる。
しかし、その姿は以前見たときよりも攻撃的なものになっていた。──ウルフオルフェノク激情体。
怒れる狼と化した巧が、敵に向けて疾走した──

─────────────────────────────────────────

「っ! 獣の分際で――行かせると思っているの!」

「させませんっ!……タクミ! 貴方は葛木を!」

葛木に向かって疾走する巧に向けて、キャスターが魔術を放つ。
その指先から放たれた膨大な魔力の奔流は──巧には届かなかった。
巧を護るようにセイバーが立ちはだかり、その悉くを無効化。巧の前方を疾風となって駆け抜ける。
葛木との距離はほんの十メートルあまり──今の巧がその距離を詰めるのには、数秒もかかりはしない。
踏みしめた石畳を砕きながら、巧がさらに加速──

「──私の魔術が! 止まりなさい!」

キャスターの表情が驚愕で歪む。その指先から放たれる魔術は、その一つ一つが必殺の威力を持った恐るべき呪文だ。
あれ程の魔術を自在に操るキャスターは侮れない。対魔力を持たない巧がアレを食らえば、確かに唯ではすまないだろう。
だが、それもセイバーにはまるで通じない。
避ける事も弾く事も──何もせずとも、セイバーの身体に当たることすらできずに、キャスターの魔弾は掻き消える。
そして、キャスターの目前にまで迫った瞬間に、二人は散開。
セイバーはキャスター、巧は葛木へと、それぞれの矛先を向けた。

「覚悟しなさい、キャスター!」

「ウオォォォォッ!」

「ぬぐうぅっ!?」

「宗一郎様っ!」

ほとんど同時に、二人の攻撃はキャスターと葛木に向けて繰り出された。
キャスターはローブを切り裂かれたものの、宙に浮遊することで辛くもセイバーの斬撃を躱したが、葛木は違った。
なんの遠慮も無く繰り出された、右手のメリケンサックでの強烈な打撃。
おそらくはキャスターの魔力で強化されているのであろうが、その一撃を受け止めることは到底叶わず、受け止めようとした左手を弾き跳ばす。

──葛木の苦悶の声と、キャスターの悲鳴が境内に響き渡る。
だが、葛木も即座に一歩後退、巧に向けて残った右手から機関銃の如き速さで拳を繰り出す。
中国拳法を齧った私だけど、葛木の繰り出す技はまるで見た事の無いものだ。
一体どのようにしているのかはわからないが、完全に避けた筈のタイミングから更に伸び、ありえない角度から襲い来る拳。
あそこで葛木と戦っていたのが私や士郎だったなら、おそらく一瞬で殺されているだろう。キャスターの強化が無くても、アレは人を殺す為の技だ。
しかし──ウルフオルフェノクになった巧は止まらなかった。

「ウオァァァァッ!」

「ぐっ……!」

葛木の拳をかいくぐった巧が繰り出した渾身の右ストレート。
それを受けた葛木は実に数十メートルは吹き飛び、石畳の上を転がって行く。
その身体は既にボロボロだ。よく見てみればその拳は酷く傷付いており、まともな打撃が放てるとは到底思えない。
だが……それでも葛木は立ち上がり、目前に迫る巧に向けて尚も打撃を繰り出し続ける。
その度にウルフオルフェノクの全身に生える鋭い突起に拳を裂かれるがそれでもなお、愚直なまでに攻撃を繰り返す──

─────────────────────────────────────────

「宗一郎様ぁぁ!」

悲愴な響きの籠ったキャスターの声が、上空から響き渡る。
その杖から放たれる大魔術が、私達を焼き付くさんとばかりに襲いかかる──だが、その悉くがセイバーによって弾かれ、消えて行く。
巧と対峙する葛木は、最早満身創痍……そこまで傷付いても、未だに攻撃を止めることはない。ただ黙って、その拳を巧に向けて放つのみ。
だが、それもウルフオルフェノクになった巧の純粋な力の前では、なんの意味もなさない。

「どうしてそこまで……もう勝ち目なんてないだろ!」

「っ……黙りなさい!」

セイバーの後ろで立ち尽くす士郎が、苦悶の表情でぽつりと呟く。
いくら敵とはいえ、普段学校で接していた葛木が傷付いていくのは辛いのだろう。
それに、葛木の攻撃が巧には通じず、キャスターの魔術もセイバーの前では完全に無力。
士郎の言う通り、完全に詰みだ……もう勝ち目などありはしない。
だが、私達も上空でキャスターが放ち続ける大魔術を防ぐ方法はセイバーだけ。
そういう意味では、私達も決定的な攻撃を仕掛ける事が出来ず、手詰まりといっても良いのかもしれない。

やはり、巧に変身してもらうしかないかもしれない──魔力の負担も身体にかかる反動も大きい事はわかっている。
だが、このまま消耗戦を続けているわけにもいかない──決断しなくてはならない。
そう思って、巧に声をかけようとした、まさにその瞬間。

『Exceed Charge』

「な、いったい……これは……う、動けない……!?」

「何よ、あの光!? あれってまるで……!」

不意に電子音声が流れ、柳洞寺の屋根の上から放たれた、黄色い光──私達に集中していたキャスターはそれを避けることが出来なかった。
それは巧がファイズに変身した時の必殺技、クリムゾンスマッシュを放つ際の光と同様に、着弾した瞬間に形を変える。
ファイズのものよりも少し角張った光がキャスターをロック。そして──

「でぇぇぇやぁぁぁっ!」

「うあぁぁっ……そ、宗一郎……様……」

ファイズと非常に似た姿を持つサーヴァントが跳躍し、ロックしている光の中に向けて両足で跳び蹴りを繰り出す。
そしてそれはファイズのクリムゾンスマッシュと同様、まるでドリルのようにキャスターの華奢な身体を貫く。
キャスターの身体に黄色く輝くXの文字が浮かび上がり……一時の後に地に落ちる。
そして──

「遠坂凛……乾巧。お前達の命を貰う」

一方的な宣戦布告と同時に、謎のサーヴァントが襲い来る。


後書き
最後に出て来た方が誰かはお分かりになると思いますし、マスターもあの子です。
正直、すごく悩みました……素直にアーチャーを出すかどうか。
ですが、今回はこういう形になりましたのでよろしくお願いします。
キャスター陣営が雑魚っぽくなってしまって反省です。

感想の方で騎乗のランクが低い、との意見を頂いたのですが、巧は作中でバイクしか乗っていなかったので設定したのですが、やっぱりちょっと低いですね。
もうワンランクぐらい上げようかな?
ジェットスライガーに関しては、まだ考え中です。



[15294] 第15話
Name: のっぽ◆5125fdc3 ID:76a543ac
Date: 2010/02/18 13:18
仮面ライダー555私的名言シリーズ

「お前ら……そういや随分好き勝手やってくれたっけな」
「今度はこっちの番だ!──変身!」
             ──乾巧

Fate/Masked Rider 555 〜疾走する魂〜  第15話

「お前っ! 草加か!?」

「ふん……オルフェノクの醜い姿を晒しても受け入れてくれるマスターか。うらやましいな、乾!」

突如として現れ、キャスターを倒した謎のサーヴァント。
ファイズに酷似した姿といい、巧の事を知っている口ぶりといい……巧の生前の知り合いなのだろうという予測は出来る。
だが、その雰囲気は友好的なものでは無い。巧はそうでもないが、相手の声には隠しきれない憎悪が滲んでいるのがわかる。
それに、あいつは私と巧の事を名指しで呼んで狙ってきた──士郎やセイバーには目もくれずに、だ。

敵の攻撃にはなんの容赦も無い。黄色く光るフォトンストリームの軌跡を残しながら、巧に向けて苛烈な打撃を繰り出して行く。
それに対して、巧は押されっぱなしだ。草加、というのが敵の真名なのだろうが、巧の動きには迷いが感じられる。
散発的に攻撃は仕掛けているものの、その攻撃を弾かれて逆にカウンターを浴びる巧。

『Ready』

「どうした! いつからこんな腑抜けになったか知らないが……今のお前の力はこの程度、ということで良いのかなぁ!」

「うあぁぁっ!」

「巧っ!」

腰に装着してある奇抜なデザインのウェポンにミッションメモリーをセットすると、ファイズのものよりもトーンの低い電子音声が流れ、黄色く光る刀身が形成される。
逆手でそれを構え、巧を罵倒するような言葉を吐きながら斬りつける。
黄色く光る刀身が巧の身体を捉える度に火花が跳び、一際強く刃を振り上げる──身体を斜めに切り上げたその一撃を受け、巧が派手に吹き飛んでしまう。
ちょうど私の前に転がってくるが、苦しそうな声を上げるとオルフェノク化が解け……人の姿に戻ってしまう。

胸を抑え、苦悶の表情を浮かべる巧を護るように、セイバーが敵サーヴァントの前に立ちはだかる。
私と士郎も慌てて共に巧の元に駆け寄り、身体を支える──強い。巧の動きに迷いがあったとはいえ、あいつの動きには無駄が無い。
巧のような荒々しいスタイルでは無い──明らかに何かしらの武術を収めてるわね……厄介だわ。

「今はお前には用は無い……どけ!」

「そうはいきません。タクミとリンは共闘している間柄……お前の好きにはさせるとお思いか!」

「セイバー!」

やはり、あいつの狙いは私達だ。
ここまで明確に狙われる覚えは、残念ながら思い浮かばない。
……それに、あいつのクラスがわからない。消去法でいけば残りはアーチャーしかないのだが、戦い方がまるで違う。──こればかりは、今考えても仕方が無い。
ひとまず今はセイバーを援護して、巧が回復するのを待つしかない。
幸い、あいつの剣技はセイバーには遠く及ばない──不可視の剣は間合いが取りずらいというのもあるのだろうが、流石は剣の英霊。
致命傷こそ与えていないものの、着実に相手の斬撃を弾き、追いつめて行く。

「ちっ!」

『Burst Mode』

「むっ!」

流石にセイバー相手に接近戦は不利と判断したのか、バックステップで距離を取る敵サーヴァント。
追撃すべく加速するセイバーだったが、相手の放った光弾を不可視の剣で弾いた為、勢いを止められてしまう。
セイバーには遠距離で攻撃する術があるのかどうかわからないが、今の距離は間違いなくセイバーの距離ではない。

……ここからどうするか。巧の変身したファイズと同等の能力を持っていると過程するならば、おそらくは対魔力も持っていない……もしくは低い筈。
ならば、私の宝石魔術ならば大きなダメージを与えられる。──隙を付いて狙うしか無い。
……本来はバーサーカーと再び戦う時の為に取っておきたかったのだが、そうも言ってられないわ。
虎の子の宝石を握りしめ、敵の隙を必死に狙う。……一撃で決めなければ。
──だが。

「……ふん」

『Battle Mode』

「っ! 何っ!」

「ちょ、ちょっと! どうなってんのよ!?」

ベルトから携帯電話を取り外して何かのコードを入力した途端、オートバジンよりも大きなバイクが現れる。
黒いボディにサイドカーが付いたその姿。
あの敵がファイズと同系列のシステムで変身しているとするならば、あのバイクも変形するかもしれない。
セイバーに注意を呼びかけようとしたその時、電子音声が流れると共に瞬時に変形。
オートバジンのような人形では無く、本当に何をどうすればこうなるのか……と文句を言いたくなる巨大なロボットへと変形を遂げる。
オートバジンの変形を初めて見た時も目を疑ったけど、今回のはそれ以上だ。
さしものセイバーも驚きを隠せず、構えこそ崩していないもののあっけにとられている。
……それは私も士郎も同じなのだけれど。

「ぐうっ……に、逃げろ!」

「巧! 逃げろって……ちょっと、嘘でしょ……!」

私達に向けて左手の六本の排気口を向ける敵マシン。
オートバジンはガトリングガンを装備していたが、こっちはその大きさからしてそんな甘っちょろいものではなさそうだ。
巧が苦しそうに声を上げ、私が視線を巧に向けた瞬間、六発のミサイルが私達目掛けて発射された。
更にその六発のミサイルそれぞれの中から、小型のミサイルが大量に出てくる始末。
こんな物、避ける事なんて出来る筈が無い──

─────────────────────────────────────────

『Battle Mode』

「…………!」

「風よ──吹き荒れろ!」

寸での所で突如現れたのは、またしてもオートバジン。
最前線のセイバーの前に立ち、左手に装備されたバスターホイールからガトリングガンを一斉射──殺到するミサイル群を撃ち落とす。
セイバーもそれをただ見ているだけではない。不可視の剣は風を纏っていたらしく、その風を開放。
光輝く剣を振るい、暴風となったそれをミサイルに向け、方向を狂わせて誘爆させていく。
だがそれでも全てのミサイルを撃墜するまでには至らない。
凄まじい爆音と光が境内を包み、私達を爆風が襲う。

「凛、士郎っ!……ぐうぅぅっ!」

「きゃあっ!」

「うわあぁっ!」

咄嗟に立ち上がり、再びウルフオルフェノクとなって私と士郎を爆風から身を挺して守る巧。
もうふらふらのくせになんて無茶をするのか──だが、巧達のおかげで私達は目立った負傷をする事無く、どうにか一時のピンチを切り抜ける事が出来た。
──次第に視界が晴れて行く。境内の中は酷い有様だ……まあ、あれだけばかすかミサイルやらガトリングガンやらを打ちまくれば当然こうなってしかるべきなのだが。
そして敵を再び見据えた時、その隣りには一人の少女がいた。
──そう、絶対にいて欲しくなかった少女……間桐桜。

「さ、桜……? いったい、これは……?」

「桜……貴女」

敵サーヴァントの横に佇む桜を見て、呆然とする士郎。
──無理もない。藤村先生に聞いた話によれば、士郎は桜を妹のように可愛がっていたという。
彼にとっては、いわば『日常』の象徴だったに違いない。
そんな彼女が今こうして、自分達の敵として目の前にいる──その事が信じられない。そんな顔をしていた。
無論、私だって驚いていないわけじゃない。桜は幼い頃に間桐に養子に出された実の妹だ。
遠坂の血を引いている以上、魔術の才はあったのだろうが……まさか聖杯戦争に参加してくるとは、まったく想定していなかった。

「ごめんなさい……先輩。狙うのは姉さんだけにしてってお願いしたんですけど……」

「姉さんって……まさか、遠坂の事か!? どうしてそんな事を!?」

やはり、桜が殺したいのは私か。
私が衛宮邸に居候している事を藤村先生から聞いたのだろうが……
混乱した士郎は、桜に次々と問いかける。私が桜の姉とはどういう事なのか。
そして、なぜ私を殺そうなんて思っているのか──

「だって……姉さんったら先輩を取ろうとしてるんです。私はずっと先輩と一緒にいたのに……ずうずうしいと思いませんか?そんな泥棒猫は、今のうちに始末しなきゃ……」

「そんなの……! なんでそんな事で殺さなくちゃいけないんだ!? 俺と遠坂はそんな関係じゃない! 目を覚ましてくれよ、桜……!」

要するに私に士郎を取られると思って、その前に私を殺そう──そう考えたらしい。
典型的な女の嫉妬、もしくはヒステリーに近いかもしれないが、そんな事を理由に殺されるのはまっぴらごめんだ。
第一私は士郎に恋愛感情云々なんて持っていないのだから、桜の怒りなど関係ない。
間桐の家でどんな生活をしていたのか知らないが、そんな事は私は知らない。

士郎は必死に桜を説得しているが、私もだんだんむかっ腹が立ってきた。
やられっぱなしは性に合わないのだ。せめて一言ぐらいは文句を言わねば気が済まない。

「桜。あんたがどう思ってるか知らないけど――私と士郎は何でもないの。貴女のくだらない嫉妬でここまでやらかして……!」

「……姉さん、今日だけは見逃してあげます。朝になったら、直ぐに先輩のお家から出て行って下さいね?」

「だから……!」

「──桜、行こう。乾……今日はここまでだ。本来なら今直ぐに始末してやりたいが……まあ、せいぜい残った時間を楽しむんだな」

そう言い残して、桜達は境内を後にした。
まったく聞く耳を持っていない……あそこまで思い込みの激しい子だなんて思ってもみなかった。
だが、あの子に言われたからといって、士郎との共闘を解消する気も毛頭無い。──今度戦いを挑んで来たら、一回張り倒してやるしかない。
それが姉である私の責任だし、どの道桜がマスターである以上いずれは倒さなければならないのだから。

「立てる、巧? 士郎、とりあえず帰りましょう。此処にいてもどうにもならないわ」

「あ、ああ……そうだな……」

巧は何とか立ち上がれるようだが、士郎の方のダメージは深刻だ。──無論、心の方のダメージだが。
私が話しかけても上の空で返事をするだけ……はあ、こりゃ深刻みたいね、無理もないけど。
回復するまでしばらくかかりそうだわ。
キャスター達には勝ったっていうのに、次から次へと問題ばかり。
とりあえず、巧に話しを聞くのが先決かしらね……



後書き
カイザの中の人はシンプルに草加さんでした。木場さんでもよかったんですけどねー。
多分土日には本文を更新できないと思うんで、頑張って三日連続で更新しました……短くてごめんなさい。




[15294] 第16話
Name: のっぽ◆5125fdc3 ID:76a543ac
Date: 2010/02/18 13:27
仮面ライダー555私的名言シリーズ

「帰る家がないからこそ、一生懸命生きてるんじゃないかな……」
「そうすれば、そこが自分の居場所になると思うから」
                   ──阿部里奈

Fate/Masked Rider 555 〜疾走する魂〜  第16話

「さてと……傷の具合は大丈夫、巧?」

「ああ……何とかな。おい、士郎……大丈夫か?」

「あ……はい、何とか……」

まるで戦場後のような様相の柳洞寺を後にして、ようやく衛宮邸に辿り着く。
キャスターは消滅したが、葛木は何とか生きていた為、一応は手当をしておいたが……まあ後始末は綺礼にまかせておけばいいだろう。
道中は随分苦しそうだった巧も、今は大分回復していた。オルフェノクって回復力も強いのかしら?
当の巧はといえば、士郎の事を随分と気にかけている。……無愛想な口調なのは相変わらずだが、心底心配しているのだろう。
セイバーも巧と同じような心境なのか、しきりに士郎の事を気遣っている。
──事実、士郎は酷く憔悴していた。キャスター陣営との慣れない戦いに加えて、あの桜の行動だ。
私が思っているよりも遥かにキツいものがある筈だ。
本当は直ぐにでもあのサーヴァントの事を巧に聞きたいところなんだけど、ひとまず今日は休んだほうがいいわね。

「士郎、とりあえず今日は休みましょう。桜の事については……また落ち着いて、ね?」

「……ああ、そうだな。ごめん、心配かけちゃって……」

「……シロウ」

私の目から見ても士郎の様子は心配だ。
セイバーに士郎の事を頼み、巧と一緒に居間を出て、身体の汚れと疲れを落とす為に浴室へ向かう。
今の士郎に何か言ってもしょうがなさそうだし。桜の事はまた明日に持ち越しだ。

──熱いシャワーを浴びながら、今後の予定を頭の中で組み上げて行く。
幸い明日は休日だし、藤村先生もいないそうだからゆっくり話し合いができるだろう。
熱いお湯が疲れを洗い流してくれるような感覚……そして思い浮かぶのは、私を睨む桜の顔。
随分と情緒不安定な様子だったけど、あの様子ではまた近い内に襲ってくるだろう。
……士郎は辛いだろうが、戦うしかない。それにあのサーヴァントの事も気になる。
巧に聞かない事にはなんともならないけど……

「巧、明日はあのサーヴァントの事……聞かせて貰うわよ」

「それはいいけどよ。……俺の事もあいつらに聞かせることになるぞ」

「……しょうがないわ。あんな状態の士郎を放っておけないし、桜が変わった事とも何か関係しているかもしれないでしょ?」

「……ああ、わかった」

シャワーを浴び終わり、自室に入って巧と明日についての打ち合わせだ。
士郎達に巧の正体を教える事になるが……この際仕方が無い。
あの様子の士郎に隠し事をするのは気が引けるし、元々絶対に知られてはならないような弱点など無いんだし。

電気を消して布団に潜り込み、ゆっくりと目を閉じて行く。……ここ数日は疲れが溜まっていた事もあって、あっという間に眠気が襲ってくる。
眠るその瞬間、脳裏に浮かんだのは……子供のように泣いている桜の顔だった──

─────────────────────────────────────────

「おい、知ってるか。夢を持つとな、時々すっごく切なくなるが、時々すっごく熱くなる、らしいぜ」
「──俺には夢がない。けど、夢を守る事はできる!」

「戦うことが罪なら、俺が背負ってやる!」

「待ってろ……草加!」

──夢を見た。
夢の中の巧はいつも戦っていた――オルフェノクでありながらオルフェノクを倒すという矛盾や自分自身への恐怖に苦しみながら、それでもなお戦い続けていた。
人間に恐れられても、いくら傷ついても──それでも、巧は戦う事を止めなかった。
人間を護る為……みんなの夢を守るため。殆ど人間がいなくなってしまった世界の中でも……決して諦めなかった。
巧は正義の味方になる気なんてなかった……英雄になる気なんて無かったと、そう言った。
……それでも、彼のやった事は紛れも無く英雄で。

「俺も自分の夢……見つけたぜ」

「何なの? 巧の夢って」

「……世界中の洗濯物が真っ白になるみたいに……世界中が――」

安らかな顔の巧の言葉は……最後まで聞く事は出来なかった──

「……夢? 巧の記憶──?」

寝起きの霞がかかったような頭を振り、夢に見た内容を思い出す。
ノイズが走る不鮮明な映像に、ところどころ聞こえない音声。
巧と同じ様な灰色の姿をした異型の怪人に、集団で人を襲うライダーの姿。
そして、何故かぼやけてよく見る事が出来ない巧と思われる人物の姿と、その戦いの軌跡。
まるで総集編の映画のように、様々なシーンを繋ぎ合わせてできた不出来な映像。

映画といえば、言い得て妙かもしれない。さっきまで見ていた夢は、まさに映画そのものだ。
敵と同じ身体を持ちながら、人の為……夢の為に戦った一人の男の物語。
──そう、小さな星の中で懸命に戦い抜いた……仮面ライダーの物語だった。

「……起きよう」

寝ぼけた頭を抱えながら、もぞもぞとベッドから出る。
今見た夢の事は、深く考えるのはまた後でも良い……どの道、今日は巧が士郎達にも話しをするのだから。
以前巧から大まかな話しだけは聞いていたが、ああして映像として見てみると──やっぱり私達の世界とは違う世界なんだ、と実感してしまう。
……しっかしまあ、見事なまでに巧は救世主であった訳で、我ながらとんでもない英霊を呼び出しちゃったわけね。
だがまあ、とりあえずは顔を洗ってくることにしよう……気持ちをしっかりと切り替えて、これからの戦いに向けて話さないといけないしね!

─────────────────────────────────────────

「ふう……巧。あのサーヴァントの事、聞かせて頂戴」

「……どこから話したもんか」

顔を洗って居間に出向くと、そこには私以外の全員が既に出そろっていた。
士郎はまだ朝食を作っている最中だったが、その顔色は昨夜よりか幾分は良い……無理しているのはわかってるけど、それをわざわざ言うのは無粋だ。
セイバーも巧も無言……少々気まずい沈黙の中で朝食を食べ終え、私と士郎で食器を片付ける。
その後で、真っ先に口を開いたのは私だ。いつまでも黙っているわけにはいかないし……巧に話しを聞かせて貰う。

「あいつの真名は草加雅人──俺の生前、一緒に戦ってた奴の一人だ」

「一緒に戦ってたって……アイツは乾さんのことを殺そうとしたじゃないか」

「……確かに、あの者はタクミに対して明確な殺意を向けていました。かつて仲間だった者が、なぜそこまで?」

草加雅人──それがあいつの真名か。やはりファイズと同じようにオルフェノクと戦っていた戦士の一人らしい……だが、士郎とセイバーが言ったように、あいつは巧を狙っていた。
桜に命じられたという理由だけでは無い、明確な殺意。まるで巧を憎んでいるかのような……そんな感じだった。

「……それを説明すんのはちょっと長くなるんだけどな。──俺の世界の話しだ」

「乾さんの……世界? それってどういう……?」

「巧は私達とは違う世界……平行世界から呼び出された英霊なの。……巧、お願い」

そうして、巧は私達に自分の世界の事、そして戦いの事を話し始めた。
人類の殆どがオルフェノクに殺され、残り僅かになってしまった絶望の世界の物語──そしてもう一つ、オルフェノクの王を倒す為に仲間と共に戦ったもう一つの物語を。
巧はただ淡々と話しを続けて行く。セイバーはただ巧を真っすぐに見据えて話しに聞き入り、士郎は拳を握りしめている。
正義の味方を目指しているらしい士郎としては、巧の世界の状況が我慢ならないのかもしれないが、口を挟む事は無く。
……巧の話しが終わったのは、士郎の入れたお茶がすっかり冷めきった後だった。
誰もが口をつぐみ、巧の話しを頭の中で反芻している。

「それじゃあ……草加って人は何度も乾さんを陥れた悪人ってことか……! くそっ、あいつが桜に何か言ったのか!?」

「確かに……おおよそ正義の味方とは言えぬ行動を取っていたようですが……」

「……正義ってなんだよ?」

確かに話しを聞いている分には、草加という男の行動には虫酸が走る。
自己中心的かつ陰険。それに加えて残忍で狡猾……現に士郎はそんな草加に対して激しい怒りを感じているようだし、正々堂々と戦う事を重んじるセイバーも眉を潜めている。
だが、そんな二人に対して巧は『正義とは何か』と問いかけた。
以前、巧は自分には正義が何かなんてわからない……そう言った。
そんな事は私にもわからない……その問いに応えたのは士郎だった。

「俺は、全ての人を救いたいんだ! 誰にも涙を流させない──それが俺の目指す正義の味方だ!」

「……確かに草加は姑息な事だってやってたし、お前の言う『正義の味方』なんかじゃない。だけどな……あいつだって自分の守りたい奴の為に戦って、それで死んだ!」

「それでも──!」

「あいつの事を何も知らないお前が、偉そうに批判すんのかよ!」

草加の事を絶対に認めない士郎と、いくら自分が嫌な目にあっていたとしても草加を憎む事が出来ない巧。
士郎の考えている『正義』に照らし合わせるならば、草加は『悪』とまではいかなくとも『悪人』であろう。
だが、いくら動機が復讐であれ何であれ、草加はオルフェノクと戦っていた戦士だ。
それに士郎の『正義』は所詮夢物語だ。皆を救う、誰も泣かせない……聞こえは良いが、そんな事を出来よう筈もない。
──ようするに、士郎は子供なんだ。自分の正義を押し付けようとしている、ただの子供。
客観的な正義ではなく、『士郎の正義』を押し付けている。

はあ……どうしたもんかしらね、これ。今後の事を話し合おうと思っていたのに、士郎も巧もすっかり興奮してしまっていて、それどころではなくなってしまった。
セイバーも士郎の剣幕に困惑している様子だし、巧も不機嫌そうな様子を隠さない。
そんな最悪の空気の中、チャイムが鳴った。

─────────────────────────────────────────

「おはようございます、先輩。──姉さん……私、昨日言いました。朝になったら先輩の家から出て行ってって言いました。なんで、まだ居るんですか」

「……桜、あんた!」

「昨日は見逃してあげたけど……今日は駄目です。……許してあげないんだから!」

「上等よ! 庭に出なさい……その性根、叩き直してあげるわ」

チャイムが鳴って玄関の戸を開けたのは桜と草加だ。
士郎にはいつもどうりの挨拶をしたくせに、私には猛烈な殺気を向けてくる。
近い内にまた戦う事になるとは思っていたが、まさかこんなに早くにその機会がやってくるとは……正直予想外だ。
さっきまで熱くなっていた士郎も桜を見て黙り込み、桜の隣りに立つ草加を睨みつけている。──もっとも、草加本人が見ているのは巧だけなのだが。

早くもやる気になっている桜を庭に出し、私と巧もそれに続く。
ちょっとばかり家や塀が壊れるかもしれないが、ここで戦う分には外からは見える事は無い。
        
       準備。防音──終了
「────Das Schliesen.Vogelkafig,Echo」

衛宮邸に防音の結界を張り、戦闘準備は完了。私と巧……桜と草加が対峙する。
士郎には悪いが、桜は私の手で一発引っぱたいてやらないと気が済みそうもない……妹だからといって手加減などしない。
──全力で叩き潰して、目を覚まさせてやるわ。

「……姉さんはいつもそう。自分に自信を持っていて、いつも輝いてる。……私とは正反対なんです。だから、私は姉さんを倒さないと──」

「能書きはいいわ。かかってらっしゃい、桜。叩き潰してあげるわ」

「いつだってそう! いつも姉さんは自分が正しいって思ってる! 自分じゃ気付いてないけど、どこかで他人を見下してるんです! だから──!」

「桜……」

桜が叫ぶ──涙を流しながら、私を倒す決意を込めた瞳で真っすぐにこちらを見て。
そして、桜は自分の腰に黒いベルトを巻き──

「──変身」



後書き
巧ってあれだけやられても、草加の事助けようとしてるんですよね。
草加のコンプレックス知ってからは何とか歩み寄ろうとしてましたし、なんだかんだである程度の仲間意識はあったと思うんです。
草加嫌いって人のほうが多いと思いますし、嫌われてなんぼのキャラだとは思いますが……俺は好きです。
悩み苦しむキャラが多かった555の中で、最期まで考えを曲げなかった草加はやっぱ嫌いになれません。

それで、桜変身です。正直、これがやりたくて草加出したってのもあったりなかったり。
何に変身して、どうして桜が攻撃的になったのかは……お分かりになると思いますがw





[15294] 第17話
Name: のっぽ◆5125fdc3 ID:76a543ac
Date: 2010/02/20 17:16
仮面ライダー555私的名言シリーズ

「生きて行きたいんです。人間として」
            ──長田結花 

Fate/Masked Rider 555 〜疾走する魂〜  第17話

「──変身」

『Standing By』

『Complete』

桜が腰に巻いたのは、ファイズのベルトに似た黒いメカニカルなベルトだ。
しかし、ファイズやカイザのベルトのように携帯電話で変身するのではなく、グリップのような物に向けて『変身』と声を発する桜。
その声を認識したのか、ファイズと同様の電子音声が鳴り、腰のユニットにグリップを装着。
桜の身体に白く光るフォトンストリームのラインが走り、一瞬の内に変身が完了する。
漆黒のボディに白いフォトンストリーム、そしてオレンジに光る瞳──ファイズでもカイザでもない第三のライダー。
だがわからない……巧の話しによれば、各ライダーズギアを扱えるのはオルフェノク、もしくはオルフェノクの記号が強い人間だ。
だが、桜は魔術師とはいえ普通の人間の筈……その桜がどうして変身する事が出来るのか?

「……私がどうして変身できるのか、不思議ですか、姉さん? ライダーズギアの中でデルタギアだけは、人間でも変身して戦えるんですよ?……姉さんなんかには、負けない力です」

「桜、あんたそこまで私を……」

デルタに変身した桜の身体からは、禍々しいとさえ言える魔力が滲み出ている。
正直言って、私はいつも桜に負い目を感じていた。間桐に養子に出された桜を、なにかと気遣ってきたつもりだった。
少しでも桜の為になればと思ってとっていた行動だった……しかし、桜はそれを恨んでいる。
私は、無意識の内に桜を見下してはいなかっただろうか。私は桜に同情していただけなのではないだろうか。
──だが、このままむざむざとやられるわけにはいかない。
そして……これは私と桜の姉妹喧嘩だ。私の手でケリを付けなければならない。

「草加……お前の目的はなんだ。デルタギアがこの子にどんな影響を与えるか、わかってんだろ」

「別に……お前に教えて、何の得があるのかなぁ。だが……教えてやる。桜には聖杯が必要だし、デルタギアで戦う事を望んだのも桜自身だ。自分の居場所と自分自身を守る為には、戦うしかないからな!」

「お前……」

私達の横では、巧と草加が同じように戦闘態勢を取っている。
草加の話しを聞いていると、『桜には聖杯が必要』そして、戦う事を望んだのも桜自身だと言っている。
なぜ必要なのかは知らないし、理由を聞いたからといって負ける気も無い。まして、桜自身が戦う事を望んだのなら尚更だ。
この戦いだけは一対一で。馬鹿だと言われるかもしれないが、それでもだ。
巧にも士郎にも、手を出して欲しくはない……傲慢と言われてもかまわない。
──それが、私のけじめだから。

「巧……今だけは、手を出さないで。士郎もセイバーもよ。……桜、一対一よ」

「良い度胸ですね、姉さん。……草加さん、貴方も手を出さないで下さいね」

「……ああ、わかった」

「…………」

「遠坂……桜……!」

巧や士郎達に、決して手を出さないように指示を出す。
桜も同じ事を考えていたようで、草加に向けて下がるように指示を出し……一時の後、私達は中庭の中心で対峙する。
距離は約二メートル程。デルタの能力がどれだけ強力かはわからないが、少なくともファイズと同等……いや、それ以上だと考えるべきだろう。
だが、桜は格闘技……ひいては戦いにおいては素人だろう。
単純な能力では桜のほうが上……そして戦いの技術においては私のほうが上。
私が勝つ為にはどうすればいいか──答えは一つ!
          
     八番
「────Acht……!」

      七番
「────Sieben……!」

         六番      冬の河
「──────Sechs Ein Flus,ein Halt……!」

 五番、 三番、 四番
「Funf,Drei,Vier……!
   終局、   炎の剣、   相乗
 Der Riese und brennt das ein Ende────!」

   二番     強化
「stark────Gros zwei」

「っ!……姉さん!」

「行くわよ……桜!」

キャスター戦でも使うことの無かった、とっておきの宝石の大判振る舞いだ。
その全てを使い、自身の身体能力を一気に強化。どれほどデルタの力に近付いたかはわからないが──先制攻撃あるのみ!
桜の構えは隙だらけだ。距離を詰めて接近戦に持ち込んでやるわ!

大地を力強く踏みしめ、最大限に強化された脚力を持って、桜目掛けて疾走。
踏みしめた大地が砕け、土ぼこりを上げながら、一気に距離を詰める。
狙うのは腰に巻かれたデルタドライバー。あれさえ取ってしまえば勝負は決する。
だが、そう簡単に取れるなどとは思っていない……だったら、その隙を作ればいい!

「きっついの一発、お見舞いしてあげるわっ!」

「ああぁぁぁぁっ!」

ほんの数秒の後、私は桜の目の前に到達する。狙うはみぞおち──渾身の力を込めての崩拳。
それに合わせるように、桜の手刀が私の頭をねらって振り下ろされる。ただの手刀でありながら、空気を切り裂いて迫り来るその一撃。
たとえ身体を強化していても、こんなのを食らえば一撃で終わっちゃうわよっ!
咄嗟に攻撃を中断し、地面を転がって手刀を辛うじて躱す。……正直、甘く見過ぎていた。
デルタとなった桜の攻撃は、予想以上に強烈だ。僅かに擦った肩はそれだけで酷く痛む──背中には冷たい汗。
いくら強化したとはいえ……ちょっと雲行きが怪しくなってきたわ……

「うふふ……どうしたんですか、姉さん? そんなに慌てて逃げちゃって」

「ふん……せいぜいほざいてなさい! ここからよっ!」

急いで立ち上がり、バックステップで一旦距離を取るが、桜は追ってくる様子は無い。
その声にはデルタの力に対する自信がありありと滲み出ている。 
──正攻法では立ち向かえないならば、絡め手を使うまでの話しだ。
いつまでも調子に乗ってると、痛い目見るって事を教えてあげるわよ!

「弾けろっ! neun! 」

「っく! こんなこけおどしで……きゃあっ!」

手に握るは魔力を込めたルビー。それを桜の目の前の地面に向けて投げつけ、魔力を開放。
一拍おいた後に小規模な爆発が起こり、桜の視界を砂埃が覆う。
そのチャンスを逃す事無く、桜の側面に回り込みながら接近し、首めがけて上段蹴りを放つ。
渾身の力を込め、魔力で強化された上段蹴り──それは狙ったところと寸分違わず命中し、中庭に桜の軽い悲鳴が響く。
流石にまともに食らえば効いたのか、今度は桜がよろける番だ。

「次っ! 食らいなさいっ!」

「うくっ!……調子に乗らないで! Fire!」

『Burst Mode』

体勢を大きく崩した桜に向けて、更に追撃を加えるべく跳躍。足を振り上げ、空気を切り裂きながらの踵落とし……狙いは脳天!
しかし……そうそう簡単にやられてくれるわけでもなく、後少しのところで身を捩って躱す桜──しかし、完璧に躱す事は出来なかったのか、肩に命中……手応え有り!
踵落としを食らって片膝を付く桜だったが、腰部のユニットを手に取り、怒気を孕ませた声で再び音声入力。
私を払いのけて距離を取り、光弾を連射してくる。あんなの食らったら、身体に風穴が開いちゃうっての!

「ちょこまかと……! 往生際が悪いんじゃないですか、姉さん!」

「冗談! 簡単に殺られる気なんて毛頭無いわ!」

宝石魔術では連射力に劣る……だったら対抗する手段はガンドだ。
指を銃身に見立て、呪いの籠った魔力弾を連射する。……殺傷力という面では大きな隔たりがあるが、今はこれしか手が無い。
いくらなんでも弾が無限ということは無いだろうから、弾が切れた時の一瞬を狙うしかない。
そう広くない庭を駆け回りながら、ガンドを撃って牽制。
いつ訪れるかわからないチャンスを伺う。──左手にはサファイアを握りしめ、桜の動きだけに集中する。

「っ! 弾切れ!?」

「もらったぁ! Fünf! 凍れぇ!」

「しまった……!」

何発撃ったかは覚えていないが、弾切れになった時の致命的な隙。
桜の足目掛けてサファイアを投げつけ、魔力の開放と同時に冷気で桜の両足を凍らせる。
それほど時間は稼げないだろうが、その一瞬で十分。
大地を砕きながら猛ダッシュ……氷を割ろうともがく桜の足下に潜り込み──

「行くわよ! はっ! ここだっ! 飛んでけぇっ!」

「きゃああぁぁっ!?」

寸勁、回転足払い、回転肘撃ち、崩拳の四連続攻撃を桜に叩き込む。
無防備な状態で食らった桜は、悲鳴を上げながら吹き飛び、土蔵に激突してようやく止まる。
完璧な手応えだった……これ以上ない程の攻撃。
衛宮邸の中庭でなければもっと大掛かりな宝石魔術を使うことも出来るのだが、流石にそんな事をすれば家が壊れちゃうし……とにかく、今の私に出来る最高の一撃をお見舞いしてやったのだ。
デルタに変身しているとはいえ、中身はほぼ一般人の桜……これで勝負有り、かしらね。
そうして、倒れている桜に背を向ける。──その瞬間、にやり……と笑う草加の顔と驚愕する巧の顔が同時に目に入る。
風を感じて振り返った……その瞬間。

「きゃああぁっ!?」

「……痛いじゃないですか、姉さん。本当に痛いです。デルタになってなかったら死んじゃってましたよ……酷いなあ……」

「うぐっ……貴女、まだ……!」

「私は負けられないんです……自分の居場所を守るには、戦うしかないんです! 姉さんを倒さなきゃ、先輩の側にもいられない──!」

振り向いた私の目に入ったのは、唸りを上げて襲い来る桜の右ストレート。
もはや直撃する寸前、狙いは腹部──咄嗟に左手を盾にし、自ら後ろに飛んで威力を減らそうと試みるが、拳が当たって今度は私が吹き飛ぶ。
大地に何度も叩き付けられながら転がり、塀に激突──正直、ものすごく痛い。
盾にした左手は見事に折れちゃってるし、何度も地面をバウンドしたおかげで他の部分もがたがたときた。
たった一撃でこんなにまでなるなんて……なんて反則じみてんのかしら!

痛みを必死に堪えながら、ふらふらと立ち上がる……足下がおぼつかない……まずいわね。
今攻め込まれたら、私に桜の攻撃を避ける程の動きが出来るか怪しいものだ。
そして私の耳に届く桜の慟哭。

『Ready』

「ごめんなさい、姉さん。私、先輩の事だけは……譲れないんです。──Check」

『Exceed Charge』

「あうっ!……さ、桜……!」

桜が右手に持ったユニットにベルトのメモリーをセット──ファイズ同様の電子音声が流れ、銃身らしきものが伸びる。
そして、桜の言葉に反応して右手のフォトンストリームが輝き、エネルギーを供給する。
ヤバい。これってどう考えても必殺技よね……絶体絶命。
桜が撃った光弾が私に着弾。三角錐状の青白い光に拘束され、身動き一つ取る事ができず──

「ああああぁぁぁっ!!」

一瞬躊躇した桜だったが、咆哮した後に空高く跳躍──私に向けて蹴りを放つ。
あ……私死んだかも。


後書き
凛と桜の姉妹喧嘩の巻き……ただし凄く物騒な姉妹喧嘩。
デルタギアが本当に普通の人間でも扱えるかは微妙なところですが、まあこのSSでは大丈夫ということで。
本編でも啓太郎あたりが変身しようとしてくれてたら、はっきりとわかったんですけどね。

桜嬢は凶暴化……というよりも、情緒不安定な感じでイメージして下されば。
相当死亡フラグが立っているようで、感想でも色々と心配されていますが……鬱な展開にはなりません。
そういうのはあんまり好きじゃないんで……ハッピーエンド目指して頑張ります。
あ、草加さんのステータスも近い内に書きますのでお待ちを……



[15294] 第18話
Name: のっぽ◆5125fdc3 ID:76a543ac
Date: 2010/02/18 13:46
仮面ライダー555私的名言シリーズ

「人間を捨てようと思っても捨てられないのが、俺様の良い所だ」
                        ──海堂直也

Fate/Masked Rider 555 〜疾走する魂〜  第18話

「あああぁぁぁっ!」

「……桜っ……!」

私の身体をロックする光の拘束は非常に強い。指一本動かすことすら出来ず、ただもうすぐ自分に訪れるであろう死の瞬間を待つ事しか出来ない状況だった。
あの時、桜の戦闘不能をしっかり確認しておけばこんな事にはならなかった。
……まったく、肝心なところで私はいつもぽかをする。……自業自得だ。
目だけを何とか動かして、巧の姿を見る。必死な顔でこちらに駆けてくる姿を見て、彼に謝りたくなってしまう。
本当は十分に聖杯戦争を勝ち抜く事ができる実力だった彼を、私みたいなマスターのせいで脱落させる事になってしまうかもしれないから。

──もう目の前には跳び蹴りを放ち、光に飛び込む寸前の桜の姿。
ほんの一瞬の事なのにこれだけ色々と考えられるなんて……何か変ね。
そうして覚悟を決めた瞬間──私を救うべく駆けて来た士郎の姿が目に入る。

「遠坂っ! 大丈夫かっ!? 死んでないよな!?」

「きゃあっ! ……し、士郎!? あんた、危ないじゃない! 何考えてんのよ……信じられない!」

「遠坂が死にそうになってるのに、ほっとけるわけないだろう!」

絶体絶命の窮地に陥っていた私を救った士郎は、幸いにも怪我はしていなかった。だが……それはただ運が良かっただけだ。
下手をすれば二人とも死んでたってのに、何を考えているのかさっぱりわからない!
しかも助けた理由が「ほっとけない」だから余計にたちが悪い……お人好しにも程があるわよ……本当に、ばかなんだから……
何とか士郎の命がけの行為で助かりはしたものの……状況はそんなに変わってはいない。というか、悪化したとさえ言えるかもしれない。
士郎の肩を借りて、何とか立ち上がる。身体はボロボロで言う事を効かないが、真っすぐに桜を見据える。
私達の目の前には、俯いたまま佇む桜の姿──ヤバい、完っ璧に切れてるわ。

「どうしてなんですか……何で姉さんばっかり! ずるいずるいずるいっ! 私の方が先輩の事好きなのに! どうして姉さんばっかり幸せになるの!? 私だって……私だって!」

「桜……」

「桜……聞いてくれ。昨日も言ったけど、俺と遠坂はそんな関係じゃない。俺は桜と殺し合いなんてしたくないんだ……頼む、桜。どうして聖杯が必要なのか……教えてくれないか?」

「駄目! 先輩……もし話したら、私の事……嫌いになっちゃいます。だから……!」

「大丈夫だ、桜。……俺は、絶対に桜の事を嫌いになんてならない」

変身を解き、頭を抱えて泣き叫ぶ桜。ぼろぼろと大粒の涙を流しながらの悲痛な叫びは、私の胸に否応無く突き刺さる。
士郎の言う通り、私と彼は桜の思っているような関係ではないことは事実だ。
……だが、私の言葉では、今の桜の心には届かない。
唯一桜を止める事が出来る人間……それはやはり衛宮士郎しかいないのだ。

桜の悲痛な叫びを聞いて顔を歪める士郎……桜に歩み寄った彼は、桜の頭を撫でながら静かに問いかけ始める。
突然頭を撫でられた桜は、びくり……と身体を震わせ、俯いていた顔を上げる。強ばっていた身体の力が抜け、硬く握りしめていた拳がほどけていく。
自分の願いを知られる事が恐いのか、頑に首を縦に振らない桜。
そんな桜に対し、士郎は「絶対に嫌いにならない」と断言する。桜から目をそらす事無く──ただ真っすぐに見つめて。
その士郎の言葉と目に安心したのか、桜がゆっくりと首を縦に振る。
本当に士郎のこと、信じてるのね――かなわないわ、本当に。

─────────────────────────────────────────

「それで……一体どういう理由で聖杯を……?」

「それは……」

士郎の説得でひとまず戦いが終わり、私達は衛宮邸の居間で桜の話しを聞くという事になっていた。
折れた左腕はひとまず治癒魔術をかけたから、とりあえずは支障は無い。流石に今直ぐに人を殴れる……なんて事は言わないが、まあ問題ないだろう。
ひとしきり治療を終えた後に桜が謝りにきたが、チョップ一発で許してあげることにした。──まあ、私も散々殴る蹴るしたわけだしね。

それよりも問題なのは、この部屋の深刻な空気だ。
士郎と桜はもちろん悲痛な顔をしているし、セイバーも難しい顔。
巧は相変わらずだからまだ良いとしても、草加が凄い形相で士郎にプレッシャーをかけているのがわかる。セイバーがそれに気付かない筈も無く、二人の間に火花が散っているのが見えるようで何ともいたたまれない。

それはともかくとして、聖杯を欲しがる理由を桜に訪ねる士郎。
先ほどは首を縦に振った桜だったが、今は再び躊躇している様子──よっぽど言いたくない理由なのだろう。
あの様子からしてみると、単純にあの間桐の妖怪爺さんに言われたからというわけでもなさそうだ。
と、居心地の悪い沈黙の中で口を開いたのは意外にも草加だ。

「……桜が聖杯を必要としている理由は、身体の中にいる蟲を取り除くためだ」

「蟲? なんだよ、それ」

「間桐の魔術に適合させるための蟲……そういう事かしら、桜?」

「……はい」

桜の体内に潜む蟲を取り除く為に聖杯を求める。
こう言ってはなんだが、それが草加の願いでもあるなら意外と言わざるを得ない、というのが正直な感想だ。
桜の身体の中の蟲は、本来違う属性を持っていた桜を間桐の魔術に適合させる為のモノなのだろう。
それがどのくらいのレベルなのかはわからないが、それを取り除くのは確かに魔術師ではない草加には出来ないだろうし、残念ながら私にだって出来ない。

「私の身体は……もう自分じゃ制御出来ないんです。もうそんなのは嫌だったから……いつまでも兄さんやお爺様の言いなりになるのは駄目だって……草加さんが言ってくれたんです。戦うしかないって……」

「制御出来ないって……どういう意味だ」

「桜の身体に寄生している蟲は、桜の魔力を食らい続けているらしい。そして……」

「草加さん……後は私が、自分で……」

間桐の魔術に馴染むような調整と言えば聞こえは良いかもしれないが、蟲を使った調整……いったいどれほどのモノだったのか、私にはわからない。
だが、桜の体内に巣食う蟲が何か悪影響を与えていて、それを酷く気に病んでいる――一体どんな事が桜の身体に起こっているのか……私は聞いている事しか出来ない。
草加が苦渋の表情を浮かべながら言葉を続けるが、それを桜が遮る。

桜の口から語られたのは、間桐の魔術に適合させる為の訓練……そういう名目の元で行われていた日常的な虐待。
それもただの虐待ではなく、性的なモノも含まれるというのだから……もう何も言う事が出来ない。──私の想像を遙かに越えていた。
そして、日々そんな仕打ちに耐えていた桜が何よりも大切にしていたものこそ……衛宮邸で過ごす和やかな時間だった。
それを聞いている全員が、怒りで拳を振るわせている。……士郎は勿論だが、巧も草加も同じ様なものだ。
同じ女としても、怒りを感じずにはいられない……それはセイバーも同じようだけど。
──本当に、反吐が出る。

「初めは監視の為でした……でも、いつの間にか先輩と一緒にいる時間が凄く大切な時間になっていたんです。でも、先輩が聖杯戦争に参加してるってわかって……」

「……とりあえず、邪魔な凛を片付けようとした……か。それにしても、間桐ってのはとんでもない家だな」

「……それも全て、間桐臓硯って奴の仕業なんだ。一度倒してやったが、また直ぐに再生するだろう……あの間抜けな慎二とかいう奴もそうだが、虫酸が走る連中だ。まあ慎二は……もう聖杯戦争に参加しようなんて思わないだろうさ」

「再生するって……どういう事よ? 本当に人間なの? っていうか、慎二に何したのよ……」

前々から気味の悪い爺さんだとは思っていたが、まさか本当に妖怪じみているとは思わなかった。
巧は間桐の所行に酷く呆れた様子だが、その意見には賛成だ。そもそも属性の違う桜を無理に調整するという事は、空を自由に飛ぶ鳥を無理矢理泳げるようにすることにも等しい愚行だ。

それにしても、慎二も一枚噛んでいたか……完璧に魔術回路が無くなっているからノーマークだったが、聖杯戦争にも関わろうとしていたらしい。
……まあ、あの無駄に高いプライドを持つ慎二は、魔術の名門に生まれながら魔術が使えないという事に、酷く憤慨していたのだろう。
どうやって魔術回路を持たない慎二をマスターにするのかは知らないが、この草加と組んでまともに戦えるとは思えないのよね……あいつ。
桜にした仕打ちを考えると、私自らぶちのめしてやりたいところだったが……草加の口ぶりからすると、もう既に痛い目に合わせた後のようだ。
まあ、それでも関係ないか……今度会ったら、ガンドをしこたま打ち込んでやる事に決めた、今決めた。

「それで……桜の身体の中の蟲を取り除くには、聖杯しか方法はないのか?」

「そうだ! 遠坂は凄い魔術師なんだろ!? だったら!」

「落ち着きなさい……結論から言うと、桜の身体に巣食う蟲を取り除くのは、私には不可能よ」

「そんな……」

士郎が私に一縷の望みを込めて、蟲を取り除く事が出来ないのか……と問いかける。
その思いは巧も同じようだ……やはり、聖杯頼りというのは非常に不確定な要素だ。
出来うるならば、それに頼らずに桜を助けてやりたいという気持ちは痛い程わかる。……私だって同じ気持ちなんだから。
私だって何とかしてやりたい。何とかしてやりたいが、悔しいけど私の力ではどうにもならないのだ。
私の言葉を聞いた皆の顔が、一様に暗くなる。ああもう!そんな都合良く蟲だけ取り除ける魔術なんて──あった。こういう事を得意とする奴がいたじゃない!
出来れば頼りたくないけど、今の状況でそんな事は言ってられない。

「話しは最後まで聞きなさい。確かに私には出来ない……でも、出来るかもしれない人間はいるわ」

「……誰だ、そいつは」

「言峰綺礼──心霊手術の使い手よ」

─────────────────────────────────────────

「ふむ。凛が私を頼る日が来ようとは、まさか思いもよらなかったな」

「綺礼……悪いけど、あんたの長い説教を聞いてる暇は無いの。──それで、出来るの?」

「……ふむ。この少女の身体の体内に、どれほどの蟲が巣食っているかはわからんが……やってみよう」

「まて、言峰。桜を助けてくれるのは良い。あんたがその代わりに求める代価があるんじゃないのか?」

「勘違いしてもらっては困るな、衛宮士郎。私は心霊手術をするとは言ったが、100%成功するとは言っていない。失敗して恨んでもらっても困るが……私も神父なのでな。困っている者を助けようとしないわけにもいかんのだよ」

皆を連れて言峰教会に訪れる。──言峰に頼むと提案した時には、士郎が激しく反発したが、今はそれしか望みはないのだから、信頼するしかない。
心霊手術で桜の蟲を取り除く事が出来るのか──その問いに、綺礼はやってみよう、と平時と変わらぬ陰気な声で応える。
私が助けを求めてきた事がよほど予想外だったらしいが、こんな事でも無かったら頼りたくなんかないわよ……ったく。
まあそれでも、私は綺礼の腕は信頼しているのだ。何とかしてくれる事を信じるしかないだろう。

「それでは、私は奥の部屋で手術に入る。酷く集中力を使う手術だ……時間もかかるだろうが……どうするかね?」

「……例え何時間かかろうとも、ここで待ってるさ。……頼む、言峰」

そうして、綺礼は桜と共に扉の向こうに消えていった。
士郎の言う通り、私も何時間でもここで待っているつもりだ。……ほんの数時間前に殺し合った仲であっても、やっぱり桜は私の妹だ。
言峰に心霊手術を頼んだのも私が言い出しっぺだし、どんな結果になっても私は見届けなければならない義務があるのだから。

「ごめんなさい、巧。付き合わせちゃって悪いわね」

「気にすんな。……成功するといいな」

私の横に控える巧に話しかけると、巧も軽く笑い返してくれる。
……普段は無愛想なくせに、こういう時は優しいんだから困ってしまう。
本当に、成功して欲しい。こういうシチュエーションってドラマだとよくあるんだけど、まさか自分が当事者になるとは思わなかったわ……頼むわよ、綺礼。

─────────────────────────────────────────

綺礼が心霊手術を初めて実に四時間。教会の中ってどうにも居心地が悪くて仕方が無い。
肩が凝るというか、何と言うか……士郎は落ち着かないのか、礼拝堂の中を忙しなくぐるぐると歩き回っていたが、少しは落ち着いて欲しいものだ。
私達がじたばたしたってどうにもならない事を自覚していても、思わず……という事なのだろうが。
草加はどこからか取り出したウェットティッシュでしきりに手を拭いているし、巧も何か深く考え込んでいる様子。
かくいう私もそんなに落ち着いていられる筈も無く、そろそろ終わった頃だろうか、と扉の方を何度も見てしまう。落ち着いているのはセイバーくらいなものか。
──と、再び扉を見たその時……桜を背負った綺礼が現れた。

「桜っ!……どうだったんだ、言峰」

「正直に言ってちょうだい、綺礼。桜の体内の蟲は……どうなったの?」

「先輩……姉さん……」

ようやく現れた二人に向かって、待っていた全員が駆け出す。
桜は随分と消耗している様子だったが、何とか話す事は出来る様子だった。
綺礼はいつも暗い顔をしているので、手術が成功したのか失敗したのかさっぱりわからない。
勿体付けてないで、さっさと話して欲しい──そう告げる。士郎も同じ気持ちのようで、半ば懇願するような目で綺礼を見ている。

「間桐桜の体内に巣食っていた刻印蟲の摘出は、ほぼ完了した──だが、予想以上に深く食い込んでいてな……心臓に巣食う最も大きい蟲を摘出することは出来なかった」

「そんな……綺礼、ってあんた魔術刻印が!」

「私の魔術刻印は消耗品だからな……なに、気にすることは無い。それでどうするのだ。私の見立てでは、間桐桜の心臓に巣食う蟲は……間桐の翁の本体だ」

「何……! そうか、だから俺では殺せないと……!」

綺礼が自分の魔術刻印を全部使ってまで、桜の体内の蟲を摘出したのには驚いた。──腐っても神父様ってところなのかしら。
だが、桜の心臓に巣食っている刻印蟲をどうすればいいのか……まったく思い浮かばない。
私の考えうる最善の手段が綺礼の心霊手術だったってのに……!
一応孫娘の桜の身体に自分の本体を埋め込むなんて……本当に正真正銘の妖怪で外道。
だけど、どうすればいいの……

「……桜。お前、生きたいよな」

「……はい。私、生きていたいです。生きるだけじゃない……自由になりたい。こんな私でも許されるなら、先輩の側に居たい……」

「……わかった」

「乾……! 貴様何をするつもりだ!まさか……!」

桜の目の前に佇む巧。その表情は真剣そのものだ。
その瞳には覚悟の色が浮かんでいる。いったい何をするつもりなのだろうか。
草加は何をしようとしているか察したのか、巧の胸ぐらを掴んで詰め寄っている。
……その剣幕は尋常ではなく、草加の手は震えてさえいる。

「……桜の心臓の中にいる蟲を、オルフェノクの力で殺す」




後書き
皆さまの予想通り……というか、凛を助けないとそれはもう士郎じゃないですよね。
ディケイドでも案外簡単に士をユウスケが助けてましたから、まあお約束ということで。
凛が強い、というご感想も頂きましたが、中身が桜ですのでご容赦をw

桜救済については……ご都合主義と言われても仕方が無い展開だと思います。
ですが、やっぱり皆に幸せになって欲しいんですよね。ご勘弁下さい。



[15294] 第19話
Name: のっぽ◆5125fdc3 ID:76a543ac
Date: 2010/02/18 13:50
仮面ライダー555私的名言シリーズ

「──変身」
 ──海堂直也

Fate/Masked Rider 555 〜疾走する魂〜  第19話

「オルフェノクの力を使うって……どういう事?」

「……前にも言ったが、オルフェノクには二種類存在するんだ。事故や病気で普通に死んだ奴が自然覚醒する場合。それとは別に、人間の心臓にオルフェノクのエネルギーを送り込み、強制的にオルフェノクにする事も出来る」

「まさか……桜の心臓の中の刻印蟲だけ、そのオルフェノクのエネルギーで焼き尽くそうとしているの!?」

そう言えば、以前巧から聞いた事がある。……確か、死徒再生だったかしら?
成る程……さっきから巧は何か考え込んでいる様子だったが、この事を考えていたという事か。
──だが、上手く刻印蟲だけ狙う事が出来るのだろうか。
もし刻印蟲を捉える事が出来ないままでエネルギーを流し込めば、桜は死ぬかオルフェノク化。
さらに上手く刻印蟲を捉える事が出来たとしても、送り込むエネルギーが多すぎれば桜の心臓をも焼き尽くしてしまう危険性すらある。
あまりにも分の悪い賭けだと言わざるを得ない……というか、賭けになっているかどうかも微妙なところ。
──成功する確率がいかほどかはわからないが、奇跡でも起こらない限りは……

「どうする? 選ぶのはお前だ……戦う事を選んだんだろ。自分の事は自分で決めろ」

「私……私は……」

あくまでも強制はしない。巧はそう桜に問いかける。
桜は祖父や兄の言いなりでは嫌だと、そう決心してこの聖杯戦争に望んだのだ。
ここで桜が拒否したとしても、誰も責める者などいないし、高過ぎるリスクを鑑みれば拒否して当然とも言える。
だが、私達がそれを桜に言ってはいけないのだ。どれだけ悩み苦しんだとしても、桜自身で決めなければならない。

皆同じような事を思っているのか、礼拝堂は再び静寂に包まれる。──誰も言葉を発する事は無い。
草加も巧の胸ぐらから手を離し、桜を見つめているし……士郎も拳を握りしめ、唇を噛んで耐えている。本当は声をかけたくて仕方ないだろうに……

桜が思案しだして実に二十分。桜は俯いていた顔を上げ、口を開く。

「乾さん……やってください。私は草加さんの言葉を聞いて、変わりたいと思いました。でも実際は、デルタの力に惑わされて暴走していただけでした。……今度こそ、自分の意思で決断します」

「……そうか」

桜の言葉に、皆息を呑む。巧を見つめる瞳は以前の弱々しい瞳でもなく、デルタの力に酔っていた時の濁った瞳でも無い。
自分の命を巧に預ける──そう自分自身で決断した、覚悟を決めた瞳だった。
はあ……本人がここまで覚悟決めてるんだから、こっちとしてはもう何も言う事などありはしない。
──ただ、巧を信じるだけの事だ。
巧は今までも幾度となく窮地を切り抜けてきたし、生前は世界を救った英雄なのだ。
きっと……いえ、絶対に桜や私達の期待に応えてくる。そう信じてる。

「令呪に告げる──巧、絶対に成功させなさい!……私のサーヴァントだったら、期待に応えてみせなさい!」

「任せとけよ。……ったく、自分で言い出した事だけど、きっついな」

こういう事に効果があるのかわからないけど、令呪を使う。
私の手の甲に記された令呪の一角が消え、巧に力を与えて行く。妹を助ける為だ……令呪の一つや二つ、惜しくはない。
絶対に失敗してはならない一世一代の大勝負……出し惜しみは無しにしよう。
巧は少し困ったような笑みを浮かべると、一瞬の内にウルフオルフェノクへと変化を遂げる。綺礼は驚いているが、別に説明する必要もないし。
……死に際のランサーの言葉もあるし、綺礼には細心の注意を払っておくべきだ。無駄に情報を与える必要も無いだろう。

変化した巧の右手の甲から、鋭い剣のような突起が現れる。……あれを桜の心臓に突き刺す訳か。
ふぅ……と巧が息を一つ吐き、桜の心臓に狙いを付ける。
桜はぎゅっと目を閉じており、その額には汗が浮かんでいる。──当然だ。横で見ている私でさえ、背中に冷たい汗をかいているのだ。
いくら自分で決断した事であっても、恐いものは恐い筈。

「……乾。今だけはお前を信用してやる。……必ず成功させろ」

「乾さん……桜を、助けてくれ」

「タクミ……貴方なら出来る筈だ」

「任せたわよ……巧」

草加を初めとして、皆が巧に激励の言葉を送る。
その声を背中に受けて、巧の集中は乱れず──まるで研ぎすまされた刃のように意識を集中させていく。
狙うのは桜の心臓に巣食う全ての元凶……間桐臓硯の本体たる刻印蟲。
私達が固唾をのんで見守る中、巧はその刃を桜の胸に突き刺した──

─────────────────────────────────────────

「おはようございます、姉さん」

「ええ……おはよう、桜……悪いんだけど、ミルク頂戴……」

「もう準備してありますよ。……はい、姉さん」

次の日の朝……寝ぼけ眼を擦りながら居間へ向かった私の目の前にいるのは、正真正銘、人間のままの桜だ。
巧の一世一代の大ばくちは、奇跡的にも成功した。心臓に突き立てられた刃は見事に臓硯の本体である刻印蟲を捉え、焼き尽くす事に成功したのだ。
それがわかった瞬間は、思わず巧に抱きついて喜んでしまったわけだが……ちなみに言うとトゲトゲでちょっと痛かった。
きょとんとしている桜に士郎が抱きついて、セイバーと草加の両名に睨まれていたのはご愛嬌か。
なにはともあれ、桜を縛っていた呪縛が解けたのだから、これ以上嬉しい事もそうは無かく……結果として、昨夜はかなり豪勢な夕食と相成ったわけで。

草加が士郎に対して「俺の注いだ酒は飲めないっていうのかなぁ?」などと言っていじめていたり、酔っぱらった桜が私に対して泣きながら謝ってきたり、巧にお礼を言ったり……てんやわんやだったのだ。
桜を救った一番の立役者とも言える巧は、セイバーと一緒に料理に舌鼓をうっていた訳で……とりあえず、妙にほのぼのとしていたのだ。
聖杯戦争の真っ最中にこんな事をやっているのはあまりに不用心だったのだが、まあサーヴァントは酔わないし、結果オーライ。
こうして笑顔で挨拶をしてくれる桜の顔を見れただけで、「ああ、よかった」などと思ってしまうのだ。
うん、無事に桜が助かって良かったわ。

「ふぅ……ありがと、桜。良い匂いね」

「はい。今日は腕によりをかけて作っちゃいました。……姉さんも食べますか?」

「この家に来てからは、朝も食べるようになっちゃったわ。はぁ……運動しないと駄目よねぇ」

「いえ、姉さんはとってもスレンダーで羨ましいくらいですよ?……くすくす」

「……桜、貴方ちょっと性格変わってない?」

聞いてわかる通り、無事に間桐の呪縛から逃れる事が出来た桜は……ちょっとばかり性格が変わった。
具体的に言うならば、黒くなった……と言えば良いのだろうか。デルタギアを使うと性格が変わる事があるって巧が言ってたけど、その影響かしら?
今の桜だったら、例えあの馬鹿慎二に迫られたとしても軽く撃退するような気がする。
……あれ、デルタギアの力とは別に草加の影響でも受けてるような気がしてきたわ。
まあ……日常生活にはなんら支障は無いし、別にそんなに気にする事も無いか。……いや、あんまり桜に黒くなられても困るのだけど。いや、困るのは多分士郎なんだろうけど。

はあ……まずは桜の作ってくれた朝ご飯を食べてから、作戦会議といきましょうか!

─────────────────────────────────────────

「さてと! それじゃ、全員揃ったところで……今後の作戦会議にしましょう」

「……待たせてたのは凛だけどな。あちっ!」

「あぁっ! 大丈夫ですか、乾さん!」

ようやく朝ご飯を食べ終わり、全員が居間に集合する。……それにしても、マスターとサーヴァントが三人ずつか。改めて見ると、凄く異様な光景よねぇ。
一人気合いを入れて皆を見渡したのは良いけれど、横に座っている巧がぼそっと文句を入れてくる。……朝弱いのはどうにもならないんだから、勘弁して欲しいところなんだけど。
なんて事を思っていたら、お茶を呑んで熱がる巧と心配する桜。……そしてそんな桜の姿を見て歯ぎしりする草加と、そわそわする士郎。
──何これ。すっごく面倒くさいわ……はぁ。
落ち着いているのは私とセイバーだけかと思いきや、そわそわしている士郎を見て寂しそうにするセイバーの姿。

「何でこんなに昼ドラみたいにドロドロする要素満載なのよ……」

「はぁ? 昼ドラ? 何言ってんだ?」

ドラマだったらドロドロした関係から殺人事件でも起きそうな……そんな気がする。
特に桜と草加が危ない。セイバーも随分思い詰めるタイプっぽいから心配だ。
──なんてくだらない事を考えていると、いぶかしげな顔の巧が声をかけてくる。
元々あんたのせいでこんな事考えてるってのに……このぶきっちょめ。

「何でも無いわよ! それで本題に入るけど……後残っている敵は、イリヤスフィールとバーサーカー。とりあえず、バーサーカーを倒す事を目的として、私と士郎は組んだわけだしね」

「……ああ、わかってる。バーサーカーを倒したら、共闘も終わりって事だよな」

「そ。しっかり覚えてるみたいで安心したわ。バーサーカーを倒したら、私達は敵同士に戻るの。……桜はどうするの?」

「私が聖杯を求める理由はもうありません。でも、草加さんが聖杯を望むなら戦います」

「ま、そこら辺は自分たちで話し合って頂戴ね? 私は別に聖杯に願う事なんてないけど、やるからには勝つんだから。恨みっこ無しよ?」

そう、後残っている明確な敵はイリヤスフィールとバーサーカーだ。
元々あの化け物を倒すため。という名目で士郎達と共闘していたわけだし、奴を倒した後はまた元の関係に戻るわけだ。
流石に殺そうなんて思ってはいないけどって……随分甘くなっちゃったかしら?

まあ後の事は、バーサーカーを倒してから考えれば良いだろう。
さて、イリヤスフィールの言葉を信じれば、バーサーカーの命は後十一個。
あの規格外の狂戦士を十一回も殺す事が、私達に果たして出来るのだろうか?

「いい? バーサーカーの真名はヘラクレス……イリヤスフィールの言った事が真実だとしたら、あいつをあと十一回殺さないといけないの。最初に戦った時は、セイバーと巧が一緒に戦って……やっとの事で一回殺せたわ。率直に聞くけど……勝算はある?」

「バーサーカーの命の仕組みがどのようなモノなのかはわかりませんが、私の宝具を使えば、何度かは殺せるかと思います、リン」

「俺もまだ一つ宝具はあるしな。ま、何とかなるだろ」

「その言葉……信じるわよ、二人とも」

あの化け物を打倒する手段はあるか、という私の問いに対し、セイバーと巧は何とも頼もしい返事を返してくれる。
セイバーの宝具がどのようなモノかはわからないが、その口ぶりからして相当なモノなのだろう。へっぽこ士郎がマスターで、そう何度も使えるのかどうかはわからないが、当てにしても良さそうだ。
巧に関しても、三つ目の宝具からしてあんなとんでもない代物だったのだから、最後の一つもそれ相応の力を持っているのだろうから、心配無さそうだ。

「……先輩、姉さん。私も一緒に行きます。置いてくなんて……言わないで下さいね?」

「桜……わかった。何かあったら俺が守ってやるからな」

「君には任せられないな。桜は俺が守るから、君はセイバーの後ろにでも隠れていればいいんじゃないのかなぁ?」

「「はぁ……」」

売り言葉に買い言葉……桜は俺が、いや俺がと喧嘩を始めた士郎と草加を無視して、桜と一緒に溜息を付く。
目指すはアインツベルンの森……なんだけど、本当に大丈夫……よね?



後書き
おじいちゃんにピンポイントアタック!
ご都合主義ですが、流石に桜嬢をオルフェノクにすることは出来ません。
無理があるとは思いますが、ご容赦いただきたい。
ウルフオルフェノクの死徒再生の方法がわからないので、完全にねつ造。
背中の棘で刺す事も考えましたが、細かい狙い付けられそうになかったので……。

それと、以前から感想で意見を頂いていたジェットスライガーですが、巧の宝具にはしません。期待していた方がいられたらごめんなさい。
でも、ひょっとしたら桜が使うかも?



[15294] 第20話
Name: のっぽ◆5125fdc3 ID:76a543ac
Date: 2010/02/18 13:56
仮面ライダー555私的名言シリーズ

「お前とは絶交だ。これからは、俺がお前のやろうとしていたことをやる」
「……返すぜ、こんなもん」
       ──海堂直也

Fate/Masked Rider 555 〜疾走する魂〜  第20話

「ふう、ようやく着いたわね。やっぱりバイクだと寒くてしょうがないわ」

「ったく、凛が金が勿体ないからってバイクに乗ったんじゃねえか」

イリヤスフィールとバーサーカーの対策を練った翌日、私達六人は郊外にある森を訪れていた。
この森は第一次聖杯戦争の時にアインツベルンの当主が丸ごと買い取ったらしく、文字通りイリヤスフィールのテリトリーと言って良いだろう。
……土地を買い占める時には、当時の遠坂の当主がかけずり回ったらしいけど、一体いくらあればこんな広大な土地を買い占める事が出来るのだろうか?
宝石魔術を使うせいで万年金欠な私としては、非常にうらやましい話しである。

流石に歩いていくには距離が遠かったので(正直な所、タクシーで行くのは金銭的に辛いものがあった、という理由もあってバイクなのだが)私は巧のオートバジンに二人乗りで、桜は草加のサイドバッシャーのサイドカーに乗って来た。
士郎とセイバーは当初タクシーで……という予定だったのだが、藤村先生の祖父だという雷画さんの貸してくれたバイクをセイバーが運転してくるという事に相成った。
流石に特注品のオートバジンやサイドバッシャーとは性能が違うらしく、ぶつぶつと文句を言っていたセイバーの姿はちょっと意外だったのだけど。
V―MAXはどうのオートバジンがどうのと言っていたけれど、過去にバイクに乗っていた事でもあったのかしら?士郎を後ろに乗せてバイクで疾走する姿は、非常に『男前』であったのは此処だけの話しである。

「ここにイリヤの拠点があるのか、遠坂?」

「ええ、用心して行きましょう。おそらくこの森には結界が張ってあるわ。私達が侵入した事は、多分あっちも直ぐに気付く。いつ何があってもおかしくないわ」

「安心して下さい、シロウ。貴方の命は私が守ってみせます」

「ありがとう、セイバー。だけど、無理はしないでくれ。いざとなったら、自分の身は自分で守るさ」

「……やれやれ。たいした実力も無いくせに、よくもそんな事が言えたものだなぁ。前も言ったが、君はセイバーの後ろで大人しくしてればいいんだ」

「なんだと、てめぇ!」

「クサカ……貴方は我が主を愚弄する気か!」

全員で固まって、森の中へ向けて歩き始める。たぶん、私達が森に侵入した事はイリヤスフィールに伝わっている、と考えた方が良いだろう。
士郎には忠告しておいたが、私も改めて気を引き締め直す。ここは紛れも無く敵地。
地の利はイリヤスフィール側にあるのだ。いつ何が起こっても即座に反応出来るように、常に神経を研ぎすましておかなくてはならない。

……何て事を考えていたら、またしてもうるさいのは士郎と草加だ。この二人、壊滅的に仲が悪い。……犬猿の仲というのがこれほど当てはまるケースは初めて見たわよ……はぁ。
客観的に見れば草加の言っている事は決して間違ってはいない。士郎が自分自身でどうにか出来るレベルではないのだから、セイバーの後ろに居ろ……というのは至極最もな考えだ。
だが、あまりにも言い方が辛辣で嫌味ったらしいにも程がある。
──生前はこんなのに目の敵にされていた巧の事を思うと、目頭が熱くなるわ。私だったら我慢出来ないもの。

おまけに、と言っては失礼かもしれないが、士郎を馬鹿にされてセイバーも怒りだす始末。
この陣営、今のところはチームワークの欠片も見当たらない。今頃イリヤスフィールも呆れてるんじゃないか、とさえ思ってしまう。
巧はしらんぷりを決め込んでるし、桜はにこにこと笑うだけ……本当に大丈夫なのかしら、私達。
まあ、ここまで来てビクビクしていても仕方が無い。腹を括ってやってやろうじゃないか。

「……あれがアインツベルンの城か。随分とでかいな」

「城の周囲にもイリヤスフィールとバーサーカーの姿は無し、か。律儀に城の中で待ってるのかしらね」

鬱蒼とした森をどれだけ歩いたのか……次第に話す言葉も少なくなり、顔に緊張の色が濃く浮かんで来た頃に、アインツベルンの城が見える所まで辿り着いた。
木々が生い茂る森の中で、唯一大きく開けた場所に堂々と聳え立つその城からは、得もしれぬ威圧感を感じる。
その思いは皆同じだったのか、ほとんど誰も口を開く事は無く。
──だが、いつまでも此処でこうしているわけにもいかない。気合い入れて行くしか無いわよね。

「んじゃ行くか。此処で見ててもしょうがないからな」

「ふん……お前に言われるまでもない」

「私達も行きましょう、シロウ。リンとサクラも用心して下さい」

「ええ、わかってるわセイバー。行きましょう、桜……気を緩めちゃ駄目よ」

「はい、姉さん。……気を抜きたくても抜けないです」

巧と草加を先頭にして、城へ向けて歩を進める。こういう場面で臆する事無く先頭を歩く姿を見ていると、やっぱり頼もしいパートナーだという事を再認識する。
……しかし、いくら覚悟を決めて来たとは言っても、私の背中は既に冷や汗をかいているし……不安を必死に押さえつけているのだ。
隣りを歩く桜も私と同じ様な心境らしく、握りしめた手は小刻みに震えている。
以前戦った鈍色の狂戦士の圧倒的な力──巧やセイバーの力を知っている今でも、あの強烈なイメージはぬぐい去る事が出来なかった。
だけど、私達には巧達がついているのだ。マスターたる私が彼を信じずして、誰が信じるというのか。
──そうして、私達はアインツベルン城の門を潜る。

─────────────────────────────────────────

「外から見ても随分と立派だったが……中もえらく広いな」

「油断しないでよ、巧。どこかで見ているに決まってるんだからね」

アインツベルン城の門を潜り、だだっ広いホールに私達は足を踏み入れる。
ここに来るまでに、イリヤスフィール側からは一切の接触が無い──用心していたが、留守って事はないわよね……
私達マスターを守るように、巧達が細心の注意を払って周囲を探る。
バーサーカーはあの巨体だから、近付いて来たらすぐにわかると思うけど……念の為だ。
──と、私達が城の中に足を踏み入れて十分程経過したその時に、足音が一つ。

「こんにちは、お兄ちゃん。リンとサクラも歓迎するわ……ようこそ、私のお城に」

「──イリヤスフィール。ええ、ご丁寧な挨拶をどうもありがとう。この間の決着を付けに来たわよ」

「ふーん、随分自信があるみたいだね。セイバーとライダー、それにアーチャーが加わったんだ。……その程度で勝てると思ってるの?私のバーサーカーに比べたら、貴女達のサーヴァントなんてまるで役に立たないのに」

「何ぃ? 貴様……随分と好き勝手言っているようだが、俺は乾やセイバーとは違う。──何の遠慮もしない!」

「ふふ……こういうのを日本だとなんて言うんだったかしら。そうそう、弱い犬ほどよく吠える……だったよね、アーチャー?――来なさい、バーサーカー」

私達の目の前にある階段……その最上段にイリヤスフィールが現れた。私達の姿を確認するや、スカートの端を摘み、丁寧に頭を下げる。余裕綽々って訳か、本当に良い度胸してるじゃない。
サーヴァント三人を目前にしても、イリヤスフィールの態度が変わる事は無い。
──嫌な予感がする。この間戦ったバーサーカーは、本当に全力で戦っていたのだろうか?
まだ何か、隠している事があるのではないのだろうか。──握りしめた手が汗ばんでくるのを感じる。
そしてイリヤスフィールは草加を挑発するように言葉を重ねる。草加はかなり激昂しているようで、既にカイザドライバーを腰に装着し、カイザフォンを手にしている。

その草加の殺気を直に受けても、イリヤスフィールの笑みは崩れない。
そして彼女が唄うような鈴やかな声でバーサーカーを呼んだ瞬間、何も存在していなかった虚空からバーサーカーの巨体が現れた。
あの夜見た時と変わらぬ威圧感を放つ、その鈍色の巨体。眼光鋭く私達を見据えるその狂戦士は、イリヤスフィールの命令が下れば、直ぐに私達を殺すべく襲いかかってくるだろう。

「あれが、バーサーカー……」

「落ち着きなさい、桜。大丈夫、私達は勝つわ……その為に来たんだから」

「うふふ……リンったら面白い事を言うのね。──そうだ、良い事教えてあげるね? バーサーカーは十二回殺さないと死なないのは前に教えてあげたけど、彼は一回殺された手段ではもう死なないの。だから、ライダーが前にバーサーカーを殺した技はもう効かない。それがバーサーカーの宝具、十二の試練(ゴットハンド)」

「なっ!?」

バーサーカーの威圧感にあてられたのか、桜の声は震えている。一度戦った私でさえそうなのだから、初見の桜は衝撃も強いだろう。
士郎も微動だにせずにバーサーカーを睨みつけているし、巧もファイズドライバーを腰に巻き、ファイズフォンを握りしめている。
セイバーも不可視の剣を正眼で構え、真っすぐにバーサーカーを見据えている。

──と、イリヤスフィールの口から明かされるバーサーカーの命の正体。十二回……しかも違う殺し方をしなければならないというとんでもない宝具の正体。
それを聞いた皆の顔には、少なからず動揺の色が浮かんでいる。まったく、前も思ったけどヘラクレスなんて大英雄をバーサーカーにするアインツベルンには恐れ入るわ。
だが、手の内を全て見せていないのはこちらも同じ事。いつまでも調子に乗ってると痛い目見るって事……教えてあげないといけないわね!

『Standing By』

「ごちゃごちゃ言ってないで、かかってこいよ。俺達の道を阻むなら、倒すだけだ──変身!」

「同感だな。完膚なきまでに叩き潰してやる──変身!」

『Complete』

「風よ……!」

巧の言葉を皮切りに、巧と草加が同時にドライバーにファイズフォンとカイザフォンをセット。微妙に異なる電子音声が流れ、巧はファイズに、草加はカイザへと変身を遂げる。
それに呼応するように、セイバーも不可視の剣の結界を開放。セイバーの凛とした声と同時に、ホールの中を風が吹き荒れ、私達の髪が靡く。
戦闘態勢になった巧達を見て、バーサーカーが一歩前へ進み出る。イリヤスフィールは未だその笑みを崩さず、上から私達を見下ろしている。
──この戦闘が終わった時に、その余裕を保っていられるかしらね。

「巧! 気合い入れていきなさい!」

「草加さん! 頼りにしてます……!」

「セイバー! 俺達の命……預けるぞ!」

私達が声をかけたのと同時に、巧達も一歩踏み出してバーサーカーを睨みつける。
セイバーが光輝く剣を握り直し、草加は右手で首に触れる。そして巧が右手をスナップし、臨戦態勢に入る。
私達は巧達の戦いに巻きこまれないように後退し、イリヤスフィールとバーサーカーの動向を見つめる。来るならいつでも来れば良い──そう簡単にいくと思わない事だ。

「ふふ……弱いサーヴァントとマスターが群れていたって、強者にはかなわないって事を教えてあげないといけないね。行きなさい、バーサーカー! 一匹残らず叩き潰して!」

「■■■■■────ッ!!」

イリヤスフィールの命令を引き金にして、巧達を殺すべく黒い暴風が疾走する。
バーサーカーが踏みしめた床はそれだけで砕け散り、爆音を響かせながら襲い来る狂戦士。
一拍の後、四人のサーヴァントが激突した──



後書き
対バーサーカー二回戦。次回は三対一の戦いですね。
それと、この場を使って感想掲示板の方の疑問等をちょっとお答え。

草加のステータスに関しては、まあ普通の人間ですからあんなものかなと。生身で戦う事は無いですしね。騎乗のランクが巧よりも高いのは、まあバッシャーのバトルモード操縦してたし……みたいな感じで。
ティッシュのランクは、言われてる方もいましたが不明という解釈ですかね。原作でのキャスターも似た様なの持ってましたし。いや、ティッシュと比べるのはアレですけど。
アサシンですが、草加カイザと桜デルタで倒しました。その話しは、余裕があれば書くかも?

4月の入社式までに何としても完結させたいので、これからも頑張っていきたいと思います。
感想を頂くと励みになるので、これからも応援よろしくお願いします!



[15294] 第21話
Name: のっぽ◆5125fdc3 ID:76a543ac
Date: 2010/02/18 14:10
仮面ライダー555私的名言シリーズ

「俺が眠っていた間に、君は変わってしまった」
「──でもね、実はおれも変わったんだよ」
              ──木場勇治

Fate/Masked Rider 555 〜疾走する魂〜  第21話

「潰しちゃえ、バーサーカー!」

「■■■■■────ッ!!」

「はあぁぁぁっ!!」

巧やセイバー、草加よりも遥かに巨大な斧剣を携えたバーサーカーが、咆哮を上げ、巧達を殺すべく襲いかかる。
イリヤスフィールの命令は至極単純なものだ。ここにいる誰一人として生かして返す気等毛頭無いに違いない。
ったく、無邪気な子供は残酷だとはよく言ったものね。
豪快な風切り音と同時に振り回される斧剣を、セイバーが光輝く剣で弾き返す。剣と剣がぶつかり合う度に風が巻き起こり、火花が飛び散っている。
以前にも思ったが、ろくな魔力供給が無いにも関わらず、あの規格外の狂戦士と真っ向勝負できるセイバーの力には舌を巻くが、関心している場合ではない。

巧と草加は二人が打ち合っている場所から少し離れ、攻撃のチャンスを伺っていた。
以前戦った時には、セイバーと巧……そしてオートバジンのコンビネーションが上手くいっていたが、草加が加わってどうなるか。
少々心配だが、セイバーだけに任せておけるような相手では無い──長期戦になればこちらの不利は確実だ。この時ばかりは草加を信用するより他に無い。

「おい……さっさと片付けるぞ、乾。あまり戦いを長引かせて、桜に何かあったら困るからな。足を引っ張るような事は……しないで欲しいな」

「ふん、言ってろ。──行くぜ」

『Ready』

セイバーがバーサーカーを抑えている間に、巧はファイズエッジ、草加はカイザブレイガンにそれぞれミッションメモリーをセットし、電子音声と共に赤と黄色に輝く刀身が形成される。
──セイバーがバーサーカーを抑えているとは言っても、その実セイバーは持ちこたえる事で精一杯と言える。
バーサーカーと打ち合う度にセイバーの顔が苦悶で歪むのが、こちらからでも見て取れるのだ。
……士郎が拳を握りしめながらその光景を見つめているが、当然介入する事等出来ない。
それは私も桜も同様だ。桜はデルタに変身すれば何とかなるかもしれないが、あの化け物に立ち向かうのは、流石にキツいだろう。
……出来ればしたくないけど、いざと言う時の事は考えてあるのだが。

「おりゃあぁぁっ!!」

「──ふんっ!」

「■■■■■────ッ!!」

「──そこですっ! はあぁぁぁっ!!」

しぶとく自分の剣を弾き続けるセイバーに業を煮やしたのか、一際高く斧剣を振り上げるバーサーカー。
嵐のような剣撃が一瞬止んだその瞬間、巧と草加は大地を蹴って一気に加速し、バーサーカーに肉薄。
そして、それぞれの得物に渾身の力を込め、バーサーカーの鈍色の巨体を斬りつけ、体勢を崩すことに成功する。
──二人の斬撃をまともに食らったバーサーカーの肉体には、目立った傷は見られない。だが、それは前回の戦いの時からわかっている事。今更そのくらいの事で動揺なんてしない。
欲しかったのは、その致命的な隙だ。バーサーカーの体勢が崩れたのをチャンスと見るや、セイバーが跳躍。
その剣で、バーサーカーの目を突き刺そうとして──剣が弾かれた。

「■■■■■────ッッ!!」

「なっ!? うあぁぁっ!」

「セイバーっ!」

「止まりなさい、士郎っ!」

「先輩っ! 駄目ですっ!」

目や口、耳は人間にとってどうあっても鍛える事の出来ない部分だ。
片目だけでも潰す事が出来れば、バーサーカーの戦闘力はかなり低下する──そう思っていたが、読みが甘かった。……まさか眼球までもが攻撃を受け付けないとは!
左目に突き立てようとしたセイバーの剣は無情にも弾き返され、今度は逆にセイバーが致命的な隙を晒してしまう。
銀色の鎧で覆われた左足を掴まれ、無理矢理投げ飛ばされるセイバー。小柄な身体が宙を舞い、何度も地面をバウンド──遙か後方に聳え立つ大木に激突して、ようやく止まる。
──土ぼこりが収まった後に見えたのは、剣を支えにして立ち上がるセイバーの姿。額からは血が流れ、そのダメージが軽くない事が見て取れる。

その光景を目の当たりにした士郎が駆け出すが、桜と一緒になって必死に止める。
今セイバーを助けに行けば、必ず士郎は殺される。そんな事を見過ごすわけにはいかないし、セイバーが消えれば巧達とて危ういのだ。
戦いに介入しようとした士郎を見て、傷ついたセイバーが目を見開く。巧も同じ気持ちのようで、私達が後退できるように必死でバーサーカーを抑えている。
オートバジンもバトルモードに変形して、巧をサポート……その隙に、何とか士郎を引っ張って後退する事が出来た。

「何考えてんの!? 今行けば、貴方……殺されるわよ!」

「状況を見て下さい、先輩! 今行っても、邪魔にしかなりません!」

「……でも! セイバーがあんなに!」

「君……何を考えているのかなぁ! 何の役にも立たないなら、せめて大人しくしていてほしいんだが……どうかな?」

士郎が無鉄砲で、サーヴァントを『人』として見ている節があるのは気付いていたが、まさかここまで馬鹿だとは思わなかった。
こいつは何かが致命的に歪んでいる──あの状況でなんの躊躇いも見せずに、戦いに介入しようとした士郎の行動には、背筋が凍る思いだ。
桜とて平気でいられる筈も無く、士郎を諭すその声は震え、顔面蒼白。見ているだけでも痛々しい。

私の叱責と桜の懇願を聞いても、いまだ納得しない士郎。そんな私達の前に、息を切らした草加が現れる。
カイザの装甲は所々に傷が付いており、戦いの激しさを物語るものだ。草加は士郎の胸ぐらを掴んで立たせると、怒気を孕んだ声で士郎を威嚇する。
普段なら止めるような行為だが、草加の言う事は正しいし、正直な所、今の戦況で士郎に構っている暇は無いのだ。
──これで大人しくしていてくれれば、御の字ってところだわ。桜ですら草加の行為を止めようとしないし、少しは懲りてくれれば良いんだけど!

「おい、草加! 早くしろっ! ぐうぅぅぅっ!」

「タクミ! 大丈夫ですか!?」

暴風のように振り回されるバーサーカーの斧剣を、何とかファイズエッジで受け流す巧。
巧は元々純粋な戦闘技術は高くはない。その巧がバーサーカーの剣撃を凌げるのは、オートバジンとセイバーの援護があってこその事。
加えて、セイバーは手負いだ。万全の状態の二人が全力で戦ってようやく戦えるレベルなのに──草加が戦線復帰して、ようやく互角というところか。
だったら、戦力を増やすしか無い。本当は取るべき選択肢で無い事は重々理解しているのだが、そんな事を言っている場合では無いのだ。
私が迷っている間にも、巧とセイバーはバーサーカーの暴風のような剣撃に晒されている。宝具を使うにしても、その時間を稼がない事にはどうにもならないわ!

─────────────────────────────────────────

「──桜! デルタギアを貸しなさい! 今はそれしかないわ!」

「でも──デルタギアを使えば、姉さんが!」

「私を信用しなさい! 命のやり取りをする聖杯戦争に望んで参加したのよ……それぐらいの覚悟はあるわ!」

この戦況を覆す術。それは、私がデルタに変身して、巧とセイバーが体勢を整える時間を作る事だ。
私のお願いに躊躇するそぶりを見せる桜だったが、信用してくれたのか、デルタギアを手渡してくれる。
──デルタに変身する事の危険性はわかっている。だが、私だって聖杯戦争に自ら参加したマスターだ……それくらいの覚悟無くして、勝つ事等出来ない事は承知の上よ!

手渡されたデルタドライバーを腰に装着し、右手にデルタフォンを握りしめる。
咆哮を上げて、その圧倒的な力を振るうバーサーカーを真っすぐに見据えて──

「──変身!」

『Standing By』

『Complete』

「────あああぁぁぁぁ!?」

デルタフォンに音声入力を完了すると、もう聞き慣れた電子音声が流れる。そして、腰のデルタムーバーにデルタフォンをセットする事で、私の身体をデルタのスーツが覆っていく。
変身して初めに感じたのは、溢れんばかりの圧倒的な力の奔流。桜が変身した時に、あれだけの宝石で強化していても負けた理由がよくわかる程の力だ。
──そして次に感じたのは、相手を無理矢理にでも破壊させようとする『破壊衝動』とでも言うべきどす黒い感情だった。まるでもう一人の私がいるみたいに、頭の中で『敵を倒せ』という声が聞こえてくるのだ。
今まで感じた事が無い程、自分が興奮しているのがわかる。呼吸は乱れ、知らず知らずの内に口の端がつり上がっているのがわかるのだ。
じっとしている事が我慢出来ない──この力を思う存分使って、敵を蹂躙してやりたい!抑える事の出来ない激情に、私の身体が熱くなる。

……これが、『闘争本能活性化装置──デモンズスレート』とやらのもたらす弊害か。だが、こんなまやかしの感情になんて、私は負けない。──負けてやるもんか!
私は絶対に自分を見失ったりなんてしない……私は私として、戦い抜いて見せるのよ!
こんなどす黒い感情なんて知らない──!

『Ready』

「──いくわよ、草加! バーサーカーにほえ面かかせてやるわ! Check!」

「ふん……少しは役に立ちそうだな。一気に決めるぞ」

『Exceed Charge』

「食らいなさいっ!」

「────ふっ!」

「■■■■■────ッ!!」

「バーサーカー!」

頭の中に響く声を振り払い、私の様子を見ていた草加に声をかける。相変わらずの憎まれ口を叩く奴だが、今はそんな事はどうでも良い。
デルタムーバーにミッションメモリーをセットすると、電子音声と共に銃身が伸び、デルタの必殺技である『ルシファーズハンマー』を発動させるべく、コードを入力。
私の腕のフォトンストリームのラインに光が走り、デルタムーバーにエネルギーが充填される。
草加も同様に、カイザフォンのEnterボタンを押すと、右手に持ったカイザブレイガンの刀身にエネルギーが充填されていく。

狙うは無防備なバーサーカーの背中だ。今だったら、完璧に食らわせる事が出来る!
バーサーカーの背中に向けて、私と草加は同時に光を放つ。草加がカイザブレイガンから放った光は、着弾と同時に網目状の光に変化し、バーサーカーの動きを拘束。
私がデルタムーバーから放った光も、その上からロック。動きを封じられたバーサーカーを見たイリヤスフィールの声が響くが、そんなものは何の役にも立ちはしない。
以前戦った時は、バーサーカーは一度はクリムゾンスマッシュの拘束を破って見せた。だが、今度はカイザとデルタの同時攻撃──破れるもんなら、破ってみるがいいわ!

「たああぁぁぁっ!」

「はあぁぁ……しゃあぁっ!」

「■■■■■────ッ!!」

白と黄色の光がバーサーカーを拘束し、私は間髪入れずに空高く跳躍。三角錐状の光に飛び込むように、右足で飛び蹴りを放つ。
一方の草加もカイザブレイガンを構え、黄色く輝く光を身に纏いながら一気に加速し、バーサーカーに向けて突進していく。
バーサーカーの咆哮が響くのとほぼ同時に私の放った『ルシファーズハンマー』と草加の『カイザスラッシュ』はバーサーカーの鈍色の巨体を貫き──その身体に、黄色く輝くΧと青く光るΔの紋章が浮かび上がる。
これでバーサーカーが死んだのは三回目!ここで手を緩めては、また戦いの主導権を握られる……!
セイバーと巧が体勢を整える時間を稼ぐ為の変身だったが、倒せる分だけ倒しておいて損は無いわ!

「巧! セイバー! 私達が時間を稼ぐから、後は何とかしなさいよね!」

「ったく……相変わらず無茶する奴だな!」

「わかりました、リン!」

バーサーカーが復活する僅かなタイムラグの間に、巧とセイバーに檄を飛ばす。
二人とも力強く頷き返してくれる──巧達が体勢を整えるまでに、あと二つは貰うわよ!
私は宝石を取り出し、デルタムーバーにリンクさせる。草加もミッションメモリーをカイザポインターにセットし、フォトンブラッドをチャージ──光を放ち、再びバーサーカーをロックする。もう『ルシファーズハンマー』は効かないが、宝石魔術なら!
バーサーカーに反撃の隙を与える事無く、今度は草加が跳躍し、『ゴルドスマッシュ』を発動させる。

「消えろ……! でぇぇぇやぁぁぁっ!」

              狙え、  一斉射撃
「次! とっておきよっ! Fixierung,EileSalve――――!」

「■■■■■────ッ!!」

先ほどの私が放った『ルシファーズハンマー』と同様の必殺技――カイザの『ゴルドスマッシュ』が、ドリルのようにバーサーカーの身体を貫く。
そして草加が離脱するのを確認し、宝石をリンクさせたデルタムーバーで一斉射撃。虹色に光り輝く魔力の奔流が、膝を付いているバーサーカーの巨体を飲み込んでいく。これで五つ目!
十二回も殺さなければならないのは厄介極まりないが、決して倒せない相手では無いのだ──少しずつでも、その命を削らせてもらうわよ!

「調子に乗らないで!……狂いなさい、バーサーカー! もう遊びは終わりよ……油断無く躊躇無く、敵を殺しなさい!」

「■■■■■────ッッッ!!」

「そんな……! 今までは狂化していなかったっていうの!?」

私と草加の奇襲攻撃によって、バーサーカーは更に四つの命を失った。今、戦いの流れは確実にこちらに来ている!
依然としてバーサーカーの動きは鈍っていないが、このままいけば問題無い!
流石に五回も殺されれば、イリヤスフィールも焦る筈──そう思っていたが、激昂した彼女の口から出た言葉は予想外のものだった。
イリヤスフィールは狂いなさい、と口にした。つまりは今までのバーサーカーは狂化しておらず、全力では無かったという事になる。
狂化していなかった時でさえ、あれだけとんでもない能力を持っていたのに……!

イリヤスフィールの言葉に嘘偽りは無く、バーサーカーの動きは目に見えて鋭く……そして力強くなる。
その速度は既に私や草加を越えている──この巨体でこのスピードって、悪い冗談だと思いたいわ!
斧剣を振るう度に大地を抉り、大木をなぎ倒すバーサーカー。あの斧剣をまともに食らうような事があれば、デルタに変身していても命の保証などないだろう。
──紙一重で躱す度に、背筋が凍るような思いだ。一つ選択を誤れば、即座にあの世行きよね、これ!
相変わらず技術も何もありはしない戦い方だが、圧倒的な力の前では技術はさして意味を成さない場合が多い──このバーサーカーを倒すには、それこそ圧倒的な力で対抗するより他に無い。
それは即ち、巧とセイバーの宝具に賭ける、という事に他ならない。仮面に覆われた顔に汗が滴るのを感じながら、巧達の準備が終わるのを待つしか無い──

─────────────────────────────────────────

『Awakening』

『Blaster Mode』

「退けっ、凛! 草加!」

『Exceed Charge』

「■■■■■────ッッッ!!」

「バーサーカーっ!」

狂化したバーサーカーの攻撃は苛烈を極めていた。時折デルタムーバーで反撃するものの、既に目立った効果は上げられていない。
それは草加も同じようで、今のバーサーカーに接近戦を挑むのは自殺行為と言える──もう私達だけでは抑えきれないわよ!

そう悪態を付こうとした瞬間、聞き慣れない電子音声と共に響く巧の声。その声に従い、私と草加は横っ飛び。辛うじてバーサーカーと距離を取る。
私達を追撃しようとしたバーサーカーだったが、その身体に赤い光弾が直撃し、バーサーカーの命をまた一つ奪う事に成功する。あれだけでクリムゾンスマッシュと同等の威力だっていうの!?
驚いて振り返った私の目に入ったファイズの姿は、通常のファイズでも無く、ランサー戦で見せたアクセルフォームでも無い。
全身にフォトンブラッドを流しているのか、今まで黒かったスーツ部分が赤くなり、逆にフォトンブラッドが流れていた部分は黒く変化。
その手には見た事の無い新たなユニットが握られており、今は銃のような形態を取っていた。──あれが、巧の最後の宝具。
ファイズ最強のフォームである『ブラスターフォーム』……その身体からは、赤い魔力がオーラのように立ち上っている。

『Blade Mode』

「随分と好き勝手やってくれたな! これで終わりにさせてもらうぜ……バーサーカー!」

『Exceed Charge』

「決着を付けさせてもらう……!」

ファイズブラスターを、ブラスターモードからブレイドモードにチェンジする巧。
黄金に光る刀身が現れ、その上を赤いフォトンブラッドのエネルギーが覆っていく。
セイバーもその目映いばかりに光り輝く黄金の剣を握り直し、魔力を込めていく──決着の時だ。
バーサーカーも理性が無いなりに、自らの危機を悟ったのか──斧剣を両手で構え、二人を迎撃しようとしている。
丁度バーサーカーを挟む位置取りで、剣を構える巧とセイバー。その魔力は限界まで高められ、もはや目に見えるレベルにまで濃縮されている。
──そして、セイバーは魔力を噴射させて一気に加速し、巧は背面ユニットを起動させ、バーサーカーに迫っていく。
その速度は、既に目で追うのが精一杯。大地を砕き、空気の壁を突き破りながら、バーサーカーの目前へと迫り──

「うおおぉぉぉっ!!」

 約束された  勝利の剣
「エクス──カリバァァァァッ!!」

そして、二人は輝く剣でバーサーカーを切り裂きながらすれ違う。世界の希望を背負った力と、光輝く究極の聖剣の同時攻撃。
二人が交差したその瞬間、目映い光が周囲を照らした──



後書き
バーサーカー戦決着です。わりかしバーサーカーがかわいそうな事になってますが、気にしない方向でお願いしますw
原作ではカリバーンで七回殺してたと思いますので、エクスカリバーなら五回くらいは殺せるかな、と。

今回はちょっと遅くなってしまって申し訳無いです。ちょっと予定が詰まってまして……何て良い訳は良くないですね。
士郎が草加に苛められてますが、別に士郎が嫌いな訳では無いです。念の為。

大分物語も佳境に入って来ましたが、今後もおつきあいして頂ければ幸いです。それでは今回はこの辺で。ご意見ご感想を頂けると励みになりますので、よろしければどうぞ!



[15294] 第22話
Name: のっぽ◆5125fdc3 ID:76a543ac
Date: 2010/02/18 14:19
仮面ライダー555私的名言シリーズ

「俺にとって、オルフェノクは全て敵だ!」
「──例え、それが親であってもなぁ!」
              ──草加雅人

Fate/Masked Rider 555 〜疾走する魂〜  第22話

「バーサーカー……?」

巧のフォトンブレイカーとセイバーのエクスカリバーの同時攻撃。二つの斬撃をその身に受けたバーサーカーは、ただ沈黙して立ち尽くすのみだ。
あれほどまでに暴虐の限りを尽くした気配は何処にも無く、呆然としたイリヤスフィールの言葉にも反応しない。──やったのだろうか?
……先ほどまでの激闘が嘘だったかのような静けさが、アインツベルンの森を包み込んでいく。バーサーカーの残っていた命は六つ──まだ油断は禁物かもしれないわ。
と、次の瞬間……バーサーカーの持っていた巨大な斧剣が砕け散り、黙っていたバーサーカーが口を開いた。そう、理性を失っている筈のバーサーカーが、だ。

「──よもや、お前達の剣で一度に六回も私を打倒するとは、な。予想外だった」

「……ふん。俺達だって伊達に英霊になんてやってないんだよ。ま、良い勝負だったと思うぜ」

「バーサーカー。──いえ、ヘラクレス。貴方がイリヤスフィールを護るように、私達にも護らねばならないものがある。……貴方と戦えた事を、誇りに思います」

消滅の間際に『ヘラクレス』としての本来の人格が戻ったのか、先ほどまでの暴走ぶりが嘘のような穏やかな瞳と声。
流石に一気に六回も殺されるのは彼としても意外だったようで、巧とセイバーに話しかける声は、驚嘆の思いが混じっているみたいね。
それに対し、巧もセイバーも言葉は若干違えど、正々堂々と戦ったヘラクレスを讃えている……巧はこういうのに慣れていないのか、照れくさそうにしているけど。
まあ、セイバーのほうはこういう事でも様になっている。まさか、セイバーの正体がかの有名なアーサー王だったとは。っていうか、なんで女の子?
まあ、そこのところはまた後で聞いてみればいいかも知れないわね。――教えてくれるかはわからないけど。

「バーサーカー! 消えちゃやだ……やだよぉ……!」

「…………」

よく見てみれば、バーサーカーの身体は足下から光の粒子になって消え始めている。……イリヤスフィールは既に涙声だ。
私達を容赦なく殺そうとした少女とはまるで別人のような……歳相応の少女の顔。
だが、もうバーサーカーが消えるのを止める事は出来ない。
──最後に、バーサーカーはその大きな手のひらでイリヤスフィールの頭を優しく撫でると……光の粒になって、完全に消えた。
その最期の瞬間を、私達は誰も喋らずに見つめていた。──二人の時間を邪魔してはいけないと、誰もがわかっていたんだと思う。
最期のバーサーカーの顔は、まるで自分の大切な娘を慈しむかのような……優しい顔だった。

─────────────────────────────────────────

「イリヤスフィール。バーサーカーは消えた……私達の勝ちね」

「──そうだね、リン」

私は変身を解き、背を向けて立ち尽くすイリヤスフィールに話しかける。彼女はこちらを見ようとはしないが、その声はもう震えてはいなかった。
例え敗北したとしても直ぐに意識を切り替える事が出来るのは、彼女自身のプライドによるものか……それとも、名家アインツベルンの魔術師であるというプライドからなのか。
どちらにしても、これで残ったサーヴァントとマスターは私と巧を合わせて三組。これからは共闘も何もありはしない。

「本当はお兄ちゃんも、私のサーヴァントにしちゃいたかったんだけどな……失敗しちゃった。私には……もう何も無くなっちゃったよ……」

「……何でイリヤが俺の事を兄と呼ぶのかわからないけど、行くところが無いんだったら家に来ればいい。もうマスターじゃなくなったんだ……殺し合いなんて、しなくていいじゃないか」

「──え?」

くるり、とこちらに振り返ったイリヤスフィールは、少し戯けたような声と表情で士郎に話しかける。
自分のサーヴァントにしたかった、という願いには渇いた笑みを浮かべた士郎……ま、そんな事言われても困るわよね。
──だが、この馬鹿が次に発した言葉はそれよりも更に間の抜けたもので。
よりにもよって、今の今まで敵だった魔術師の少女に対して、『自分の家に来ればいい』とのたまったのだ。
これは流石にイリヤスフィールも予想外だったようで、大きな瞳を見開いて士郎を見つめている……はぁ、お人好しだとは思っていたけど、これは度を超えてるわよ……
最も、桜も巧もある程度は予想していたのか……二人して顔を見合わせて溜息を付いていたのだけど。──何よ、随分仲が良いじゃない……ふんだ。

まあ……これくらいじゃないと士郎っぽくないかなーなんて思ってしまう辺り、私も慣れて来てしまったのかも知れない。
唯一草加は腹立たしそうに士郎を睨んでいるが……ま、普通からしたら彼くらいの反応が普通なんだろう。
──案外草加の言っている事は正しい事も多い。その言い方とか手段がめちゃくちゃなのが問題なんだろうけど。

「まったく……彼は何を考えているのかな! さっきまで敵だった人間をああも簡単に信用するなんて、俺には理解出来ないな」

「あれが先輩の良い所なんですよ、草加さん。本当に、困っている人とか放っておけないんだから……」

彼のような人からすれば、士郎のような人間は理解する事が出来ないのだろう。もちろん、他人を百%理解する事なんて誰にも出来はしない。
だが、それを差し置いても士郎は異常としか思えない。あえて言うならば、冷静に狂っている……そんな感じだ。
他人を救う為だったら、例え自分が傷ついたり、最悪死んでも構わない……あいつは本気でそう思っている。
他人を助けようとする事を非難するつもりは毛頭無いが、それは自分の命と天秤に賭けてはいけない類いのものだ。──士郎の行動は、人間のそれではない。
例えて言うなら、プログラムで動くロボット……他人を助けるという行動理由で動く機械。
そんな事を考えてしまう程、あいつは歪なんだ。

「──おい、大丈夫か、凛? デルタに変身しておかしくなったか?」

「失礼ね! 私は至って普通よ……あんな機械なんかでおかしくなんてなったりしないわよ!」

そんなとりとめの無い事を考え込んでいると、いつの間にか隣りに来ていた巧が話かけてくる。
開口一番に失礼な男だ……心配してくれているのはわかるが、もう少し言い方があるのでは無かろうか。
私が考え込んでいる間に随分と話しは進んでいたようで、イリヤスフィールは衛宮邸に行く事になったようだった。
そしてその事に対して悪態を付く草加と、にこにこ笑ってそれをなだめる桜の姿が目に留まる。
ま、決めるのは士郎なんだから反論するつもりは無いけど……このまますんなりいくとは思えないのも正直なところだ。
──ランサーが消える間際に言った『言峰に気を付けろ』という言葉の意味。
監督役の綺礼が何らかの形で聖杯戦争に関わっている事は明らかだが……さて、どうしたものかしらね。

「遠坂、イリヤは一旦家に来る事になったから。共闘は終わったっていっても、今日皆で一緒にご飯食べる位は良いだろ?」

「ま、イリヤスフィールを貴方の家に連れて行く事に関しては何も言わないわ。貴方とセイバーが納得しているのであれば、私がどうのこうの言う権利は無いもの」

「私はシロウの決定に従うのみ。イリヤスフィールがシロウに危害を加える気が無いのであれば、問題は無いでしょう」

イリヤスフィールを連れて行く事を報告しにくる士郎とセイバー。この辺は非常に律儀と言うか何と言うか……生真面目って言うべきなのかしら?
セイバーは多少は反対したのかもしれないが、結局のところ、彼女も士郎同様にお人好し。サーヴァントはマスターに性質が似通った者が召喚されるって言うけど、正にその通りね。
──そうなると、桜は草加みたいに腹黒という事になってしまうが。……案外合ってるか。

「決まったんなら早く行こうぜ。ここは寒いからな」

「相変わらずねぇ……ったく。じゃあ、帰りましょう」

戦闘があったとは思えない程の和やかなムードの中、私と巧を先頭にして歩き出す。
振り向いて後ろを見てみると、士郎と手を繋いで笑顔で笑っているイリヤスフィールの姿。
こうして見ているだけなら歳相応の少女なのに……本当は、こうしたかったのかもしれないわね。
視線を前に戻し、再び歩き始めたその時──背後で何かが刺さる音がした。

「────え?」

─────────────────────────────────────────

「なに……これ……?」

「イリヤぁぁっ! 一体誰がっ!? もうイリヤはマスターじゃないのに……どうしてこんな事をっ!?」

イリヤスフィールの呆然とした声と、士郎の悲痛な絶叫に驚いて振り返ると、そこにはお腹に紅い槍が刺さっている彼女の姿。
慌てて二人の元に駆け寄る私と桜。巧を初めとするサーヴァント達は、即座に散開して周囲を探っている。
一目見て、完全な致命傷とわかるその刺し傷。じわり、と紫色の服に赤黒い染みが広がっていく。
唯でさえ白いイリヤスフィールの肌は更に白く……口元からは真っ赤な血が溢れている。
一体誰がこんな事をやったのか──サーヴァントを失ったイリヤスフィールはもはや無力だし、それになにより残りのマスターとサーヴァントは私達三組だけの筈なのに!
それに何より、もう彼女を助ける事は出来ない。あのペンダントさえあればどうにかなったかも知れないが、もうあれには魔力は欠片も残ってはいないのだ。

「凛……この槍は、ランサーの持っていた奴と同じやつだ」

「──確かにそうね。でも、あり得ないわ!ランサーが消えるのは貴方だってはっきりと見たでしょう!?」

イリヤスフィールのお腹に刺さった槍は、ランサーが持っていた紅い魔槍と同じ物。
だが、そんな事はあり得ない……あの夜、ランサーが消滅するのを私と巧は確かに確認したのだから。──だが、宝具というのはそれぞれの英霊のシンボルと言える物だ。
彼以外にこの槍を宝具として持つ者などいない筈だし……仮にいたとしても、サーヴァントの数が合わない。
一体なにがどうなっているのか理解出来ない……落ち着け、冷静になれ、遠坂凛。混乱していては、纏まる考えも纏まらない!状況を把握する事が第一だ!

「──ふん。人形の分際でまだ死んではいないのか。哀れな奴だ……一思いに殺してやろうという我の慈悲を無駄にするとはな」

「貴様……何者だ」

「テメェ……何でイリヤにこんな事を!」

そうして現れたのは、全身を金色の鎧で包んだ男の姿。真っ先に気付いた草加と士郎が鋭い眼光で睨みつけるが、まるで気にもとめていない。
本当に、草加と士郎の存在など見えないかのように振る舞っている……相手にする気すらないという事か。
その瞳は私達を見ているようで見ていない……傲慢不遜な物言いといい、あの態度といい……いったいなに様のつもりなのだろうか。
大体、全身金色で統一しているなんて趣味が悪いにも程があるっての!
草加の問いに、金色の男は答えない。ただ私達をまるで汚物を見る様な目つきで見ているだけだ。──まったく、ここまで腹が立つ奴はそうそう居ないわ!

「おお……セイバー! 随分久しいではないか。以前会った時から十年……我の物になる気になったか?」

「──馬鹿な。何故貴方が此処にいるのです、アーチャー」

「アーチャーって……どういう事!?」

唯一あの男が関心を示したのはセイバーだ。私達に向ける眼差しとは明らかに違う。それにしても、以前会った時から……というのはどういう事なのか。
それに『アーチャー』……まさか、前回の聖杯戦争に参加していたサーヴァントの一騎なのか。だが、もう今回の聖杯戦争で七騎のサーヴァントは召喚された。
ならば何故、こいつは此処にいる──?まさか、これがランサーの警告していた事なのか?

「ふむ……色々と話しをしたいところなのだが、今日はこの人形を取りに来ただけなのでな。名残惜しいところだが、今回はここまでだ」

「待て! アーチャー! 貴方は一体なんの目的で──!」

「柳洞寺だ。我の物になる覚悟があるのなら、其処に来るがいいぞ……セイバー!」

突然空間に穴が開いたかと思うと、そこから何本もの鎖が飛び出してイリヤスフィールを絡め取る。
私や巧が反応する間もなく、もはや虫の息のイリヤスフィールは男の腕の中へと連れ去られ、奴自身もセイバーに柳洞寺へ来るように告げて姿を消した。
──キャスター戦の後と言い今回と言い、一難さって叉一難か。綺礼が何を企んでいるのか知らないが、私達でぶち壊してやろうじゃないか。
私達の事は眼中に無かったあの金ぴかにも、一泡吹かせてやらないと気が済まないしね……!




後書き
バーサーカーの消滅と、我様登場の巻。
どうしても桜は影が薄くなりがちで困る……いや、桜は好きですけどね?
もうそろそろクライマックスも近くなってきましたが、最後までお付き合い下されば幸いです。
それでは今回はこの辺で。ご意見ご感想は随時募集中です!
 



[15294] 第23話
Name: のっぽ◆5125fdc3 ID:76a543ac
Date: 2010/02/24 09:28
仮面ライダー555私的名言シリーズ

「救世主は、この俺だ」
     ──草加雅人

Fate/Masked Rider 555 〜疾走する魂〜  第23話

「……なんか暗いわねぇ。イリヤスフィールが連れ去られた事とか、八人目が現れた事とか色々あったけど、落ち込んでても仕方無いのよ? 聞いてるの、士郎?」

「…………」

「姉さん……今は……」

アインツベルンの森での戦闘を終え、私達は衛宮邸に戻っていた。
本来ならばもう共闘は終わった筈なのだが、予想外の乱入者のせいで、私達は再び揃って作戦会議をしなければならないはめになってしまったのだ。
共闘を続けるかはわからないけど、きっと続ける事になるんじゃないかな?とは思っているのだが。

勝利した直後に私達の目の前で起こった惨劇は、士郎に予想以上のダメージを与えていた。
八人目のサーヴァントが現れた事よりも、イリヤスフィールが殺されたであろう事の方が、士郎にはショックなんだろう。
士郎は仮にも『正義の味方』を目指しているのだから、その心境はわからないでもない。
だが、今ここで落ち込んでいる場合では無いという事を、しっかりと理解してもらいたいものね……もう一人のアーチャーは「柳洞寺に来い」と言っていた。
そこで何をしようとしているのか……綺礼が一枚噛んでいる事は明白だが、私達が動かない事にはどうにもならないのだから。

「今問題なのは、あの八人目のことだろ……セイバーは何か知ってるみたいだったけど、どうなんだよ」

「確かに……乾の話しでは、アインツベルンのマスターに放った槍はランサーの物だったそうだな。こいつが見間違えたのでなければ、いったいどうして同じ物を所有しているのか……興味があるな」

「……彼は、前回の聖杯戦争に参加したサーヴァントの一人です。最後に私と戦ったサーヴァントですが、私にも彼の正体は……」

「前回の聖杯戦争のサーヴァントが残っていた……?」

唯一あの謎の八人目の事を知っているらしいセイバーに、巧と草加が疑問を投げかける。
──あの時も思ったけど、確かにあの紅い槍はランサーの持っていた物と同様の物だった……それは確かだ。
だが、だからこそわからないのは奴の正体だ。あの傲慢な態度からして、生前は相当な権力者っぽいかなと思ったが、あいにくと私は歴史にはそんなに詳しくはない。
それに、もう一つの疑問は、前回の聖杯戦争から十年間……奴がどうやって現界していたのかがわからない。仮に綺礼が黒幕だったとしても、そんな魔力をどこから?

「何か、他に情報は無いのか? あの八人目に関する情報は」

「彼はアーチャーとして召喚されていましたが、弓は使っていませんでした。その代わり、自身の武器をまるで矢のように飛ばしてきます。──その全てが宝具だ、と彼は言っていましたが……私には、彼の真名はわかりませんでした」

「わかるのかよ、草加。あいつの真名」

セイバーの情報を聞いて、考えを廻らせている様子の草加。私はセイバーの情報を聞いても、まったく見当も付かないのだが、草加には心当たりがあるらしい。
口に手を当てて考え込んでいる様子の草加を見て、セイバーも巧も身を乗り出して答えを待っている。
そういえば、草加って生前は大学生なんだっけ。結構優等生だったって巧が言ってたけど……

「俺の言う事はあくまでも推測だが……『宝具を大量に所持している』という事から、奴の真名は古代メソポタミアの王であった、ギルガメッシュの可能性が高い。それであれば、あいつがランサーの槍を持っていた理由も説明できるし、あの気に食わない態度も納得がいく」

「ギルガメッシュ……成程。それならば、納得するところが多いですね……」

「……何でそいつは宝具を沢山持ってんだ?」

「人に教えて貰う時には、それなりの頼み方があると思うんだが……まあいい。いいか、ギルガメッシュは確かに宝具を大量に所持している。それは奴が世界の全てをその手中に収めた王だからだ」

「──つまり、あの宝具はそれぞれの英雄の手に渡る前の原典。そういう事ですか?」

成程……確かに草加の推測ならば、なぜ宝具を大量に所持しているのか、という疑問には説明が付く。
あのランサーの槍も、彼の手に渡る前の原典──言うなればオリジナルということか。っていうか、よくよく考えればとんでもない英霊じゃないのよ、あいつ!
全身金ぴかでやたらと偉そうだったのは、伊達ではない……といったところなのかしら。
いかにも羽振りが良さそうだったし、大体この世全てを手中に収めたってどういう事よ!
あいつ、絶対にお金に苦労した事は無いに違いないわ!

「あいつが柳洞寺で何をしようとしているのかはわからないけど、ご丁寧にセイバーに来いって言ってたんだもの。私としては、行くしかないと思ってるんだけど? 勿論全員でね」

「確かに……何考えてるんだかわからん奴だったからな。倒さなきゃならないって凛が言うなら、従うだけだ」

「……私、あの人は嫌いです。草加さんと一緒に、姉さんに協力します」

「……桜が言うのなら仕方が無い。なれ合うのはごめんだがな」

「私は異論ありません。ただ、シロウが……」

共闘を続け、全員で柳洞時に向かう──私の提案に、皆が首を立てに振る。
草加は桜が賛成したのでしぶしぶ、という感じだったが、口は悪くても戦力としては申し分無いのだから、いてくれる事はありがたい。
巧もブラスターフォームに変身した事で多少のダメージは負っているが、戦闘に支障は無し……ギルガメッシュの実力は未知数だが、そうそう遅れをとる事も無いだろう。
本人も言葉とは裏腹にやる気満々。
やはり巧もイリヤスフィールを目の前で……というのを怒っているのは間違いない。士郎のように落ち込んだりはしないのは、やっぱり違うわね。
セイバーもやる気はあるようだが……やっぱり問題は士郎か。今の状態で連れてったらどうなる事やら……何とかしないといけないわよね。
どうしたものか……と頭を悩ませていると、巧が真面目な顔で口を開いた。

「士郎。お前、正義の味方になりたいって言ってたよな」

「……ああ。俺は誰にも涙を流して欲しくない。皆に笑っていてほしいんだ。だから、俺は正義の味方になって──」

「……一つ聞きたいんだが、正義ってなんだ?明確な答えなんてあんのかよ」

「それは──」

「誰もが納得する正義なんて無いんじゃないのか? だけど皆戦ってんだ。自分の大切なものを守る為にな。お前には、それがあんのか」

巧が士郎に言った言葉は、以前私も聞いた事があった。『正義』という事がなんなのか……巧は自分にはわからないと言っていたし、勿論私だってわからない。
──巧の正体はオルフェノクだ。人間からしてみればオルフェノクは明確な敵である。
無論、巧のように人間の心を持ち続けるオルフェノクに対しても、人は恐怖し、攻撃しようとするだろう。そのことは至極当然の事だ。……人は未知のモノを恐れるのだから。
そして、人を殺すオルフェノクを倒す事は、人間にとっては正義の行いと言えるのだろう。私達の世界で、代行者が死徒を殺す事と同じだ。
しかし、オルフェノクの側からしてみれば、自分たちの同胞を殺すライダー達は明確な悪であるわけで。
……結局のところ、『全てを救う』なんて事は出来はしないし、絶対的な『正義』なんてない。

どちらかを救おうとするならば、どちらかを切り捨てなければならない──士郎はそれを良しとしない。例え自分が死ぬ事になっても、両方助けようとするんだ。
だから、士郎は巧の問いに答える事が出来ない。『困っている人を助ける』以外の選択肢なんて、初めから無いから。
助ける事になんの疑問も抱かず、ただ『そうしなければいけないから』と決めつけて、自分で考える事をしていないから。
──ただ『人を助ける』というプログラムに沿って行動しているだけ。

「俺が大切にしているのは、誰かの為になりたいという思いだ! でもそれは、間違ってなんていないだろ!? あんただって、そうやって世界を救ったんじゃないか! 正義の味方になった男が、なんでそんな事言うんだ!」

「俺は正義の味方になる為に戦ったわけじゃない。それに、自分が正義の味方になったなんて思ってないぜ。……俺はただ、俺の事を信じてくれた女の期待にちょっと応えて、夢半ばで倒れた男の理想を受け継いだだけだ」

「……俺はなんて言われても! 今は力が足りなくても、いつかは──!」

巧と士郎の議論は平行線で、決して交わる事は無い。巧は全てを救う事なんて出来ない事を十分知っているし、大切なモノを守る為に罪を背負う覚悟もある。
勿論私は巧本人じゃないから、本心はどうなのか全部わかるわけじゃないけど。
士郎はそんな巧の言葉を聞いても、『全てを救う』という考えを貫くのか──士郎が声を上げた瞬間、衛宮邸に警報の音が鳴り響いた。

─────────────────────────────────────────

「っ! 今度はどこのどいつが攻めて来たのかしら? 次から次へと想定外の事ばっかり起こるんだから……!」

「中庭に出るぞ、凛! ここにいたら行動が制限される!」

「草加さん! 私達も!」

「シロウ! 行きますよ!」

この警報は、衛宮邸に張り巡らされた結界が鳴らしているものらしい。侵入者に直接危害を加えるものじゃないのは随分と甘いものだけど、無いよりはましよね!
流石に家の中で戦うわけにはいかないので、私達は比較的広いスペースを確保できる中庭へと脱出する。
ここだったらある程度は自由に動けるし、いざとなれば脱出することも不可能では無い。……勿論、そんな事態にならない事を祈ってるのだけれど。
それにしても、攻めて来たのは一体どこのどいつなのかしら。ギルガメッシュは『柳洞寺で待っている』と言った以上、此処に攻めて来る可能性は極めて低い。
でも、他に心当たりが全く無いのよね……ほんとにもう!

「特に敵の姿は見えないようですけど……一体誰が?」

「いや……敵はあそこにいるな、桜。こそこそしていないで、姿を見せたらどうかなぁ……間桐臓硯!」

「──まったく、忌々しいサーヴァントよな、貴様は。桜の心臓に仕込んでいた蟲まで殺しおって……!」

「お、お爺様……!」

「嘘……! どうして臓硯が生きてるのよ! あいつの本体は巧が……まさか!」

「久しいのう、桜。そして、そのまさかよ……遠坂の小娘。一体どのような手段を用いたのかは知らんが、確かに儂の魂は一度死んだ。じゃが、儂は蘇ったのよ……かっかかかかか!」

まるで影の中から出て来たかのように、突如として姿を現したのは、間桐の長である間桐臓硯。あの時確かに巧が殺した筈なのに、なんでまたこの妖怪爺さんが!
──と、思い浮かんだ答え。巧は桜の心臓に寄生していた蟲を殺す手段として、オルフェノクのエネルギーを送り込んだ。
本来それは、人間をオルフェノクにする為の行為であり……臓硯がオルフェノクに覚醒していても、なんらおかしい事ではない。

思いがけず現れた臓硯の姿に、桜はすっかり動揺してしまっている。……無理も無い。今まで桜が間桐で苦しんできたのは、こいつの仕業が大半なのだから、トラウマに近いものを抱いているのだろう。
だが、ここで私達の前に現れてくれた事は好都合だ。こっちには生前オルフェノクと戦っていた巧と草加がいる。
それに何より、私自身あいつを殴ってやらねば気が済まないのだ……ギルガメッシュを叩く前の前哨戦だ!

「……随分と気合いが入っているようじゃが、儂が一人で来たとでも思っておるのか? 遠坂の小娘よ」

「な……あんた、まさか!」

「ふん……随分と仲間を増やしたみたいだな。臭い蟲倉に引き蘢っていればいいものを……! 今度こそ、俺の手で……オルフェノクは全て消す!」

「まさか、聖杯戦争の最中にオルフェノクと戦う事になるとは思ってなかったが……お前の行為を見過ごすわけにはいかないんだよ!」

「間桐臓硯……!」

「先輩……」

臓硯の不吉な言葉と同時に、新たな人影が四つ現れる。おそらくは、あの人達も臓硯の手によってオルフェノクに覚醒させられているのだろう。
死徒再生の確率は非常に低いと聞いていたが、一体何人の人を犠牲にしたのか……そこまで外道だったか……!
士郎も彼らが既に人間では無くなってしまっているのを理解したのか、拳を震わせ、必死に耐えている……そして、その手を握る桜。
この二人にとっては、色々と厳しい戦いになりそうだけど……耐えてもらうしか無い。

だが、その光景を見ても、巧と草加は動じない。腰にドライバーが現れ、その手にはファイズフォンとカイザフォンが握られている。
一歩踏み出して私達の前に立ち、それぞれの変身コードを入力する二人。

『Standing By』

「変身!」

『Complete』

赤と黄色の光と共に、巧はファイズに、草加はカイザに変身する。
向こう側も、一瞬青白く身体が発光し、オルフェノク体へと変化を遂げる。……臓硯は黙って見ているだけだが、余裕ぶっこいてられるのも今の内だって事を教えて上げないとね!

「やっちゃいなさい、巧!」

「草加さん……!」

「くっ……セイバー!」

私達の言葉と共に、三人のサーヴァントが疾走した──




後書き
携帯電話から修正した時に、文の一部が消えてしまっていたみたいです。
指摘して下さったマカロニ様、ありがとうございます!
……保存しておいてよかった。



[15294] 第24話
Name: のっぽ◆5125fdc3 ID:76a543ac
Date: 2010/02/24 09:30
仮面ライダー555私的名言シリーズ

「──ようやくわかったんだ。俺の生きていく道は一つしかない」
「俺はオルフェノクとして生きていく!」
              ──木場勇治

Fate/Masked Rider 555 〜疾走する魂〜  第24話

「こいつら……! 数だけは多いな!」

「化け物の分際で、調子に乗るなぁ!」

「後ろです、タクミ! はあぁぁぁ!」

「…………!」

衛宮邸の中庭では熾烈な戦いが繰り広げられている。
相手のオルフェノクは八体……いくら巧や草加がオルフェノクと戦い慣れているとは言え、そうそう簡単に倒せるような相手では無い。
魔術師が使うような使い魔とはわけが違うのだから当然なのだが、聞いていた以上に厄介な相手だと言う事を実感する。
おそらくは臓硯に操られているのだろう、こちらに対して何らかの言葉を発する事も無い。
更には数が倍違うのだから、苦戦するのもやむなしか……ギルガメッシュの事を考えれば、反動の強い強化フォームを簡単に使わせるのも戸惑われる。

巧はファイズエッジ、草加もカイザブレイガンに刀身を出現させてオルフェノク達の攻撃を捌いていく。
オルフェノクと戦った事の無いセイバーも、流石は伝説に名を残したアーサー王だ。
エクスカリバーは風王結界を纏ったままだが、上手く巧の隙をカバーして立ち回っている。
オートバジンもバトルモードに変形し、オルフェノク二体を相手しているが、この乱戦の中ではガトリングガンはそうそう使えない。
もう少し戦いの場が広ければ、草加のサイドバッシャーのミサイルで一網打尽にしてもらいたいのだが……流石に此処ではそんな無茶をする事は出来ない。
家も塀も一緒に吹き飛ばしてしまっては、元も子もないしね……

「姉さん……私もデルタに変身して……」

「止めなさい、桜。貴女の今の状態でデルタに変身したら駄目よ!」

「そうだ! 今度変身したらどうなるか……!」

戦況はこちら有利とは言えない状況だ。依然として顔色の優れない桜がデルタギアを取り出す。
巧達の不利を感じて変身しようとする桜だったが、それを私と士郎が引き止める。
以前変身した時は、桜はデルタに搭載されているデモンズスレートによって暴走した。
今回もそうなるという確証は無いが、臓硯の思いがけぬ登場に動揺している今の精神状態で変身するのはまずい。
士郎が止めたのは、単純に『桜に戦って欲しくない』という理由なのだろうが、それに私が反対する理由も無い。
しかし、この戦況ならばデルタの力は必要な戦力だ。桜が駄目なのだから、必然的に変身するのは私か士郎だ。
仮に私がもう一回デルタに変身した時に、あのドス黒い感情に抗う事を考えると一瞬尻込みしてしまうが……どうするか。

士郎が変身した場合、彼が理性を保っていられるのか……という懸念もある。それに、オルフェノクとはいえ元は人間なのだ。
『全ての人を救う』と言っている士郎が果たして戦えるのか……なまじ巧という存在を知っているだけに、オルフェノクにも心がある事を士郎は知ってしまっている。
イリヤスフィールの事もある……やっぱり、私が変身して戦うしか無い。一度変身しても大丈夫だったのだから、今回も大丈夫だと思うしかないわ。

「桜! デルタギアをもう一回私に貸しなさい!」

「でも! もう一回変身して大丈夫なんて保証は!」

「あの時も言ったでしょう? 私を信じなさい、桜」

「待ってくれ、遠坂……! 俺が変身する! それで皆が守れるのなら、俺が!」

「だから、その自分を捨てるような考え方が!」

もう一度デルタに変身する事を決断し、桜にデルタギアを渡すよう告げる。……だが、士郎も譲らない。私の腕を掴み、変身するのを阻止しようとしてくる。
自分が変身して、皆を守れるなら──士郎の事だから、変身して自分がどうなろうとかまわない、とか考えているんだろう。
その考え方こそがあんたの歪みだってのに、本当にもう……!私の事を心配してくれるなら、そんな苦しそうな顔をしている自分自身を心配しなさいよ!
だが、議論している時間は今は無い。士郎の手を振り払ったその時、桜の背後に突如現れた黒い影。

「っ……桜! 危ないっ!──きゃああっ!」

「遠坂! 大丈夫か!」

「姉さん! 酷い、腕が折れてます……!」

──桜が危ない。そう感じた瞬間に、私は反射的に桜の身体をこちらに引き寄せ、代わりに私が影の前に身体を晒す。
次の瞬間に感じたのは、左腕を襲う鈍い衝撃と、一瞬遅れて襲ってくる激痛……やばい、完璧に折れたみたいだわ。強化もしていない状態だったから仕方無いけど……!

地面に叩き付けられた私に慌てて駆け寄って来る士郎と桜。
オルフェノクは当然倒れた私に追撃してくるであろう、と思っていたのだが、予想に反してただ立っているだけだ。
今の攻撃にはあきらかな殺意があったというのに、こいつは何を考えているのか──痛みに耐えながら考えを廻らせる。
どうする……今私がデルタに変身してもまともには戦えない。ならば巧を呼び戻す?しかし、今の戦況で巧が抜けるのは……!

──私達の目の前に立つオルフェノクが一歩踏み出す。痛む腕を庇いながら、直ぐに動けるように足に力を籠める。
いざとなれば、二つ目の令呪を使う事も選択肢に入れておかなくてはならない。
……まるで私達が恐怖している様を楽しんでいるかのように、ことさらゆっくりと歩みを進めて来るオルフェノク。こいつ、絶対に陰険な性格だわ。
と、不意に目の前のオルフェノクの身体が発光し、人間の姿に戻っていく。そして、現れたその姿は──

─────────────────────────────────────────

「どうしたんだよ、遠坂。僕がちょっと力入れて叩いただけで、そんなに痛そうにしちゃってさぁ? 衛宮も桜も、何そんなに僕の事睨んでるわけ?」

「な……し、慎二……!?」

「そ、そんな……兄さん……どうして……」

「慎二、あんた……!」

そう、このオルフェノクの正体は間桐慎二。士郎の親友であり、桜の義兄……そして私にとっては、妹を苦しめた憎むべき相手。
その彼が、普段学校で挨拶するのとなんら変わらない態度で私達に話かけてくる。その光景は異常としか言いようが無い。
まるで無理矢理笑顔を顔に貼付けてあるかのような引きつった笑みに、どこか優越感を滲ませている声。
今の姿形は間違いなく間桐慎二だが、その心は既に変質してしまっている──濁りきった彼の瞳を見て、私は確信する。……最悪の状況だ、と。
慎二は見ず知らずの相手ではなく、むしろ士郎と桜にとっては非常に近い存在だ。そんな彼がオルフェノクになり、自分達の命を狙っているという事実。
それを受け入れるのは、そうそう簡単な事じゃない……身近な人間が『変わってしまう』事の意味を、こんな形で知る事になるとは思ってもみなかった。

「お前……なんで今桜を狙ったんだ! いくらオルフェノクになったからって、慎二は慎二だろ!? 義理とは言え、なんで妹を!」

「……いちいちうるさいんだよ、衛宮ぁ。そうだな……しいて理由を言うなら、うっとおしいから。それだけさ」

「うっとおしいって……お前!」

「別にいいだろ? 身体は良いから今まで散々抱いてやったけどさ、他は飯作るくらいしか能の無い女さ。衛宮だって、遠坂とよろしくやってんじゃないの? 邪魔な女殺してやろうってんだから、感謝してくれてもいいんじゃない?」

「慎二…………!」

桜が慎二に強姦されている事は私も士郎も以前聞いていた。だが、改めて加害者の口から事実を聞かされる事が、こんなにも腹立たしい事だとは思ってもみなかった。
こいつは、私の妹を「飯を作るしか能の無い女」とまで言い切ったのだ……腹が立つどころの話では無い。今直ぐ殺してやりたいとさえ思う。
折れていない右腕で、俯いて震える桜を抱きしめる。顔を覗いてみれば、大きな瞳に涙が浮かんでいるのが見て取れる。……やばい、切れそうだわ。
──噛み締めた唇から、血が滴り落ちるのがわかる。『常に優雅に』という家訓……守れそうにないみたい。

「凛! 大丈夫か!」

「……貴様、慎二か。以前から救いようの無い奴だったが、オルフェノクになって魂すら腐りきったようだなぁ!」

「……ここは危険です。私達の後ろに」

窮地に陥っている私達を守る為、巧達がオルフェノクの集団を飛び越えて現れる。今残っているオルフェノクは、慎二と臓硯を入れれば七体。
それぞれが一体ずつ倒したようだが、依然として倍近い戦力が向こうには残っている事になる。慎二の奴は私の手で倒してやりたいところだが、この状況はきついわ……!
──オルフェノク達が、じりじりと距離を詰めてくる。やはり巧に宝具を使わせるしか方法は無い。
消耗するのは避けたいところだが、こんな聖杯戦争とは関係の無い戦いで死ぬのはまっぴらごめんだし、慎二を殴らないままで終わるわけにはいかない。
しかし、巧に宝具を使うよう指示を出そうとしたその時に……士郎がデルタギアを手に持って立ち上がった。

「待てよ、士郎。あいつはお前の友達なんだろ……デルタに変身して戦うって事は、あいつを殺すって事だ。……本当にそれで良いのか」

「俺は……この目に映る全ての人を守りたかった。いや、守らなきゃいけないと思ってたし、救わないといけないと思ってたんだ……でも、今桜は慎二のせいで泣いている! 遠坂だって傷ついた!」
「目の前で大切な人が泣いていて、それを助ける為だったら……! それが罪だって言うんなら……俺が全部背負ってやる!」

「先輩……!」

「士郎、あんた……」

「俺は俺の意思で正義の味方を目指す! 大切な人と平和を守る事……それが俺の正義だ! 変身!」

『Standing By』

『Complete』

無言のままデルタドライバーを腰に装着する士郎に、巧が声をかける。士郎がデルタに変身して慎二達と戦う事は、『全てを救う』という士郎の理想とは反する事。
本当にそれでいいのか……自分の理想を曲げ、戦う事をどう思っているのか。生前、自身がオルフェノクである事に悩み苦しんだ巧の、率直な問い。
──その答えは、やっぱり士郎らしいと言えば士郎らしいこれまた真っすぐな答え。私達の事を大切な人、なんて言われると照れちゃうけど……少しは成長したのかしら?
以前は『ただ守りたい、守らなくちゃいけない』と言っていたのが、明確に自分の意思で守る者を決め、戦う事を誓ったのだ。
くやしいけど、ちょっとかっこいいじゃない。……私の横に座っている桜も、頬を赤く染めて士郎を見つめている。さっきとは別の意味の涙まで浮かべちゃって……もう。

決意も新たに、力強く叫ぶ士郎。デルタフォンをデルタムーバーに装着すると、白く光るフォトンストリームのラインが士郎の身体を走っていく。
単純な力だけで言うなら、ライダーズギアの中でも最上位の力を持つデルタ。きっと、今の士郎だったら使いこなす事が出来る筈。
守るべきモノを自分で決めた士郎だったら、あんな負の感情には負けない……なんだ、本当に正義の味方みたいになっちゃったじゃない。
全員が見ている中、士郎の身体をデルタのスーツが包み……最後にコンパウンドアイがオレンジ色に発光。全身から魔力を迸らせながら、オルフェノク達を睨みつける。
──これで反撃準備は整った。もう大判振る舞いで一気に決着を付けてやるわ!

「巧! アクセルフォームで蹴散らしなさい! 一気に決めるわよ!」

『Complete』

「ふん。今まで好き勝手やってくれた礼もしなくちゃな……いくぜ!」

『Start Up』

ファイズ、カイザ、デルタ……そしてセイバーの四人が並んで仁王立ち。オートバジンは私と桜を守る為に後退しているが、彼らの背中の頼もしさといったらない。
ったく、いっちょまえに英霊達と肩並べちゃって。
巧にアクセルフォームに変身するように指示を飛ばす。ブラスターフォームは流石に消耗が半端じゃないし、ランサーをも圧倒したあの速度ならば十分だ。
左手のファイズアクセルに装着されたアクセルメモリーをファイズフォンにセットすると、電子音声と光と共にアクセルフォームへ変身していく。
見る事も触れる事さえも出来ない、ファイズの超高速形態。アイドリングモードに移行し、機械音が中庭に響き渡り──巧の言葉と同時に、その姿が掻き消える。

「はああぁっ!」

『3……』

「やあぁぁっ!」

『2……』

「でやああぁぁっ!」

『1……Time Out』

手にしたファイズエッジが赤い残像を残す程の超高速移動。私達では体感する事の出来ないスピードで、オルフェノク達を次々に斬りつけていく巧。
アクセルフォームの速さの前では、避ける事も防ぐ事も……ましてや反撃する事など出来る筈も無い。必殺の10カウント。
斬りつけられたオルフェノクは、次々に青い炎を身体から上げ、φの紋章を浮かび上がらせて倒れていく……そして、一瞬の内に灰となってしまう。
改めて思うけど、やっぱりこれ反則よね……強すぎるもの。

──風で舞う灰を見て思う。彼らが悪いんじゃない……でも、私達だって負けるわけにはいかない。許してくれ、なんて言うつもりは無いけど……貴方達の事は忘れない。
私達に出来る事は、全ての元凶を倒す事だけ……!

『Reformation』

「むうっ……まさかこれほどまでの力を持っているとは……!」

「ひ……う、うわああぁぁぁっ!?」

五体のオルフェノクを倒し、アクセルフォームからノーマルフォームへと戻る巧。これで残るはあと二人……!
まさか一気に手駒を倒されるとは思っていなかったらしく、目を見開いて唸る臓硯。そして、狂気の絶叫と共にオルフェノク体に変化し、こちらに駆けてくる慎二。
その灰色の異形は、ただただ叫びながら駆けてくるのみ。彼を動かしているのは、憎しみか……それとも恐怖か。

「── Check。…………慎二ぃぃぃぃぃっ!」

「衛宮ぁぁぁぁぁっ! 僕は! 僕はぁぁぁっ!」

それを迎え撃つのは士郎。ミッションメモリーをデルタムーバーに装着し、静かに音声入力し……一拍おいて、慎二の名を叫ぶ士郎。
それに応えるように、オルフェノクの影が慎二の姿を映し出す。彼の顔は、まるで泣いているのか笑っているのか……私の位置からはわからなかった。
慎二が何かを言う前に、士郎の放った光弾が慎二に着弾し、三角錐状の青白い光が彼を拘束。そして──

「うおああぁぁぁぁっ!」

「え、衛…………」

白い閃光と共に、士郎は慎二の身体を貫いた──





後書き
少し間が空いてしまって申し訳なかったですが、24話を投稿しました。
正直、読者の方の反応が一番恐いところですね……。
正義云々には正解は無い、と感想の中でも意見を頂きましたが、この作品の士郎は『大切な人』を守る道を選びました。
原作でいうならば、HFの士郎に近いと思いますが、個人的にはあの士郎はすごく好きなんです。色々好き嫌いの激しい√ではありましたが。
大切な女の子一人守れないでどうする!みたいな古典的な展開ですが、私はそういうのすごく好きです。

ご意見ご感想があれば、是非お願いします。皆さまの考えもお聞かせ願えればな、と思っていますので。



[15294] 第25話
Name: のっぽ◆5125fdc3 ID:76a543ac
Date: 2010/02/20 16:51
仮面ライダー555私的名言シリーズ

「草加君なんかより、巧のほうがよっぽど信用できるよ!」
                     ──園田真理

Fate/Masked Rider 555 〜疾走する魂〜  第25話

「先輩……兄さん……」

士郎の放った『ルシファーズハンマー』は、寸分違わず慎二の身体を貫いた。
赤い炎が慎二の身体から噴き出し、それとは対照的な青く輝くΔの紋章が浮かび上がり──慎二は灰となって消えた。
文字通り、死体すら残ってはいないのだ。慎二のした事を許す気は無いし、私だって殺してやりたいと願った。
だけど、こうして消えてしまった彼の事を『良い気味だ』なんていう風には思えないし、思ってはいけないのだろう。それはきっと、慎二を倒した士郎だって同じだと思うから。
──桜の声と同時に、一陣の風が吹く。そうして、元は彼であった灰は……冬の寒空に消えていった。

「……人を越えたモノに覚醒できたとて、所詮は失敗作か。まったく、時間稼ぎにすらならんとはのぅ」

「間桐臓硯……!」

残りのオルフェノクはあと一体……間桐の長であり、いつから生きているのか定かではない妖怪こと間桐臓硯。
孫の慎二が目の前で殺されたにも関わらず、その顔からはなんの感情も読み取る事が出来ない。……つくづく不気味な相手だわ。
でも、こいつには慎二同様に桜を苛めてくれた借りがある。いくらあいつが元々人間離れした存在であったとしても、このいかんともしがたい戦力差の前では勝ち目もあるまい。

ただ立ち尽くす臓硯を包囲するように、巧達が距離をじりじりと詰めていく。
いくら四対一とはいえ、相手がどんな手を持っているのか定かでは無い以上、ただやみくもに仕掛けるのは愚行というものだ。
──巧やセイバー、草加はともかくとして、士郎までもが冷静になっているのは驚いた。セイバー達の動向に習っているのか、怒りがリミットを越えて逆に冷静になったのか。
まあ……多分後者な気もするが、今の状況ではありがたい。戦闘技術が未熟な士郎をサポートするにも限度はあるだろうしね。

「間桐臓硯……! 貴様は俺の手で抹殺してやるぞ……桜を苦しめた罪を清算させてやる!」

「かかかかか! 桜の犬ごときがよく吠えおるわ! もはや聖杯戦争も終盤よ……儂は聖杯を手に入れるまでは、死ぬわけにはいかぬ!」

「……これは!? 臓硯が分裂した、だと……!」

カイザブレイガンを構え、臓硯に詰め寄っていく草加。……こんな時に言うのもなんだけど、草加って凄く一途なのね。
桜をここまで想ってくれているのは、姉としてはありがたいんだけど……やっぱり、ほどほどが一番なような気がするわ。

──それはさておいて、草加の言葉を笑い飛ばす臓硯。この状況でここまで余裕をかませるのは流石としか言いようが無いが……
高笑いと共にオルフェノク体に変化する臓硯──顔は骸骨のような不気味な雰囲気に、身体の随所に気色悪い触手が絡み付いているのだ。
人間体の時も充分に不気味だったけど、これはそれに輪をかけて気色悪い。
……うわ、あの触手うねうね動いてるし、何か臭い液垂らしてるし……なんて言うか、その……
悪寒を感じてぶるり、と震えるが、それはセイバーも桜も同じようで、セイバーは眉をひそめて臓硯を睨み、桜は顔を青くして震えている。

だが、真に驚いたのはそこから先だった。臓硯のオルフェノク体──ワームオルフェノクの身体から、次々と蟲のような物体が溢れ出す。
そのおぞましい光景に、皆が顔をしかめていると……その蟲達は、あっという間にワームオルフェノクと同様の姿に擬態したのだ。その数、本体を合わせて五体。
これで少なくとも数の不利は補ったようだが……果たしてその実力はどれほどのものなのか。

「こやつらは皆、儂と同等の能力を持っておる……貴様達に倒せるかのぅ?」

「元から脳みそが腐っていると思っていたが、まさかここまでとはな。こんな人形ごときで本気で俺を倒せるなんて……思っているのかなぁ! ふんっ!」

「ったく、気色悪いったら無いな……全部駆除してやる! たああぁぁ!」

「桜を苦しめた、全ての元凶……! 俺はお前を許さない! うおおおぉぉ!」

「下劣な……! 貴様のような外道は、私の剣で切り捨てる! はああぁぁぁ!」

ワームオルフェノク分裂体との戦いが始まった。とりあえず、一人一殺……あの分裂体を問題なく倒す事が出来るなら、本体である臓硯だって余裕だろう。
あいつと同等の能力を持った分裂体が何十体と出てくるならいざ知らず、これくらいの数だったらなんの問題もあるまい。
なんて言ったって、巧と草加はずっとオルフェノクと戦って来た、いわば『専門家』だし、士郎も変身しているのは最強のデルタ。士郎本人には少し不安が残るけどね。
セイバーだって伝説にその名を轟かせるアーサー王なのだ。この面子で遅れを取る事は、そうそうありはしない。
おまけに今は全員の士気が非常に高いのだ──臓硯は私達の事を見下しているのだろうが、その判断が愚かな間違いである事を教えてあげなければならないみたいね。

──私の予想通り、戦況はおおむねこちらの有利がようだった。この狭い中庭の中で四組だ戦っていると非常に目まぐるしいが……ひとまず、苦戦はしていない。
草加とセイバーは流石とも言える戦いぶりだ。カイザブレイガンとエクスカリバーを巧みに振るい、分裂体の身体から伸びる触手を切断。
その勢いのままに何度も相手の身体を切り付けるその姿に、ほっと一安心。あれなら何の問題も無い。
それとは対照的に、先ほどアクセルフォームを使った巧と士郎は分裂体とほぼ互角、と言った所か。
あれだけ圧倒的な力を誇るアクセルフォームを使用するリスクは、やはりそう軽いものでは無い。
身体への反動は勿論だが、一時的とはいえ戦闘力はかなり下がってしまうのだ。負ける事など無いだろうが、そうそう簡単にもいかないか……

士郎はと言えば、デルタムーバーを片手に持って奮戦しているのを確認する事が出来る。デルタは唯一、近接戦闘用のウェポンを所持していない。
その為、必然的に接近戦では徒手空拳で戦う事になるのだが……士郎はまだ、デルタの力を使いこなせてはいないようだった。
高出力であるということは、逆に言えば扱いにくいという欠点にも繋がりかねないのだ。いくら力が強くても、当たらなくては意味がない。
有り余る力に振り回されている……今の士郎はそんな印象を受ける。やっぱり、私も戦わないと……!

「駄目です、姉さん! その怪我で戦うなんて無茶です!」

「…………!」

「ぐうっ……でも、士郎が……」

「今は、先輩達を信じましょう……姉さん」

ふらつく足を抑えながら、やっとの事で立ち上がる。近接戦闘は無理でも、援護するくらいなら。そう思っていたのだが、桜とオートバジンに引き止められてしまった。
ったく……桜に涙目で止められても動き辛いってのに、バジンに肩を掴まれてはどうする事も出来やしない。機械の癖に、妙に心配性と言うか何と言うか……
憮然とする私に、桜が『信じろ』と言い聞かせてくる。……元々は私がそう言ってデルタに変身しようとしていた手前、反論する事なんて出来よう筈も無く。
私と桜は、文字通り巧達を信じて見守っているしか無い──皆を信じて。

─────────────────────────────────────────

『Exceed Charge』

「死ね……!」

「甘い! はあぁぁぁ!」

分裂体との戦いが始まって十分程、草加の『グランインパクト』とセイバーの袈裟切りがまともに決まり、二体の分裂体が灰となって消えていく。
これで残りはあと二体……新たな分裂体が出現してこない事を考えると、いくらあの妖怪でも無限に分裂体を作り出せる、という事ではないらしい。
これで少なくとも、二対一の状況を作り出す事は出来る──その後は本体を一斉に叩けば、この戦いは終わる。いくら臓硯でも、四対一の状況では勝ち目も有るまい。

『Exceed Charge』

「やあぁぁぁ!」

「だああぁぁぁ!」

──最も、セイバー達が救援に駆けつける間もなく、巧は『スパークルカット』で、士郎は『ルシファーズハンマー』で分裂体を始末し終えていたのだが。
これで残るは間桐臓硯──ワームオルフェノクの本体のみ。視線を廻らせて本体を探す……だが、闇の中に潜んでいるのか、中々その姿を見つける事が出来ない。
まずったわね……まだ此処にはいるんだろうけど、気配を感じる事が出来ないわ。臓硯から目を離すべきじゃなかった……!
感覚を研ぎすまし、周囲の魔力を探っていくが、一向に臓硯の居場所を見つけ出す事が出来ない……本当に奴はまだいるのか?本当はもういないんじゃないのか──?
分裂体を倒されてから、何の動きも見せない臓硯。自分が焦っているのがわかる──額から汗が噴き出し、不安が私の心を支配していく。

「かかかかか……甘いのう、遠坂の小娘」

「えっ!? きゃああっ!」

「凛! しまった……おい、何やってんだ馬鹿!」

姿を一向に現さない臓硯に焦れていたのは、私だけではなかった。焦りは判断力を鈍らせる……いつの間にか、私は自分を守ってくれていたバジンから離れてしまっていた。
そしてそれこそ、姿を隠していた臓硯の待っていた事だったとは、まったく考える事も無く。
──私の耳元に、臓硯のしわがれた声が聞こえる。
まずい……!そう判断した時にはもう遅かった。いつの間にか私の背後に移動していた臓硯の身体に巻き付く触手が、私の身体に絡み付いてくる。
無数の触手が私の身体を這いずり回り、臭い粘液で汚されていく──触手の力は思ったよりも強く、ろくに身動き一つとる事すら出来ない。かろうじて手だけは動かせるけど……!
──捉えられた私を見て、巧達が駆け寄ってくる。だが、今の私は所謂人質だ。このままでは、皆は臓硯を攻撃出来ない……!

「んくっ……はぁんっ……んあっ! ぞ、臓硯……あんた、私をどうするつもり……ああんっ!?」

「なに、桜はもう使えそうにないのでのぅ……お主を間桐の子を孕ませる母体にしてやろうか、と思ってな」

「ぼ、母体って……んんっ!」

「出来損ないの慎二は死におったが、間桐の血筋を絶やすわけにもいかんのでな。お主の身体を使わせてもらうということよ」

粘液が触れた部分が熱く火照り、触手が私の服の中に潜り込んで、身体をまさぐってくる。唇をきつく噛み締めていても、漏れてしまう喘ぎ声。触手が這い回る嫌悪感と、むりやり与えられる快楽で頭の中はぐちゃぐちゃだ。
きっと私の顔は真っ赤になっているのだろうが、こんな事で怯んでなんていられない……!
だが、私の問いに対する臓硯の答えは予想外だった。間桐も魔術師の家系なのだから、血筋を残すのは当然の事。だがこいつは、わたしを『母体にする』とのたまったのだ。
火照る身体とは裏腹に、心の中は嫌悪感と情けなさで溢れかえらんばかりだ。皆をサポートするどころか、こんな形で足を引っ張る事になるなんて……!

「何……もし今回聖杯を手に入れられなくとも、既に人間を越えた儂とお主の子ならば、優秀な魔術師になろう。お主も桜同様に淫乱なようじゃ……直ぐに悦ぶようになるわ! かかかかか!」

「てめぇ……! 遠坂を離しやがれ!」

「衛宮の小僧か……女を取られて悔しいのかもしれぬが、あきらめたほうがよいぞ。貴様は桜でも抱いておるがいいわ!」

臓硯の言葉にぞっとする。私がこの妖怪の子供を孕まされる?……悪い冗談にも程がある。
長い間生きていた上にオルフェノクになって、完全にこいつは狂っている……青白く光る影に映し出される臓硯の、狂気に満ちた顔を見て確信する。
だが、このまま大人しくしているわけにはいかない……どうにかしてこの窮地から脱出しなければ、私に未来は無いのだ。
考えろ……私がこうして捕まっている以上、巧達は臓硯を攻撃する事は出来ない。私は動かせるのが腕だけだが……腰のポーチに入れてある宝石には、手が届きそうも無い。
選択肢は二つだ。令呪を使って巧を臓硯の後ろに移動させ、忌々しい触手を始末してもらう方法。
もう一つは、臓硯の気が逸れた瞬間にガンドを打ち込んで、何とか自力で脱出する方法。
どちらにしても、そう長い間悩んでいる事は出来ない……!

「ふん……さっきから黙って聞いていれば、人間を越えただのと好き勝手言っているな」

「文字通り、儂は人間を越えた。それに儂は死なぬ。この力を受け継いだ子を遠坂に生ませれば、聖杯にも手が届くわ!」

「調子に乗っているところに水を指して悪いが……お前がオルフェノクになった時点で未来などありはしない」

「──な、に?」

「皮肉だな……間桐臓硯! オルフェノクとは『死に至る病』そのものだ! 今は何ともなくとも、貴様の身体と魂は直ぐに崩壊を始める……! もう貴様はおしまいだ!」

草加の言っていた事……オルフェノクの寿命の事は、巧から以前聞いた事があった。
オルフェノクとは人類の進化系だ。だが、人間の身体は急激な進化には耐える事が出来なかったらしい。
人類の進化系である事を誇り、人間を見下していた彼らは──皮肉にもその進化の代償に命を落とす事になる、と。
草加のその言葉は、臓硯に対してはこの上ない『呪い』だ。その『呪い』は、聖杯を手に入れる為だけに生きながらえてきた臓硯の心をずたずたに引き裂くには十分だった。
そして、私が脱出する時間を稼ぐにも、十分過ぎる隙──

「ぬ、ぐぅ……! 貴様……!」

「はぁっはぁっ……! 本当に好き勝手やってくれたわね!」

呆然としている臓硯の身体に向けて、ありったけの魔力を込めたガンドを連射。
質量を持った魔弾は触手の拘束を緩めさせ、やっとの事で脱出する事に成功する……ああ、もう!本当に好き勝手やってくれたものだ……許してはおけない。
だが、私が巧に指示を出す前に、既に草加と士郎が動いていた。

「Check!」

『Exceed Charge』

「桜と遠坂を、よくも……! だああああぁぁぁ!」

「死んで償え……! でぇぇやぁぁぁぁ!」

「儂は……この儂が……!」




後書き
間桐陣営はこれで終わり……あとはラスボス篇ですねー。
臓硯には徹底的に外道になってもらいました。もう魂腐ってるし。
凛に触手責めさせましたが、ちょこっとサービスシーンという事で一つ。
ではちょこっとレス返しです。

黒ポンさん
このSSでライダーに興味を持って頂けて、とても嬉しく思います。
平成ライダーは色々と癖があるのが多いですが、今活躍している俳優さんも多く出演していますので、機会があれば。
士郎のは、やっぱり王道ですよね。でもやっぱり、へたに捻るよりも王道が一番かっこいいと思うんです。
完結までがんばります!

炭素さん
RX程万能ではありませんが、まあそうなりますかW
でも、個人的にはデルタが一番好きでして、ディエンドに召喚された時は小躍りしてました。
最新話も楽しんでいただければ幸いです。

ペケピクプさん
本編の巧も随分と悩み苦しみましたが、ちゃんと自分の答えを見つけました。
きっと士郎も切継の借り物の思いでは無く、自分の正義を貫いてくれると思います。
二人のオルフェノク体ですが、爺はワーム、ワカメはワカメです。
ビジュアルイメージとしては、爺は本編に出て来たワームオルフェノク+触手。ワカメはスパイダーオルフェノクの頭の棘がワカメみたいなふにゃふにゃなイメージです。

kyokoさん
イメージ的にはなんの違和感も無いんですよね、間桐家全員オルフェノク。
ワカメオルフェノクは弱そうと思っても、シーウィードオルフェノクだと強そう!不思議!
神話のベルトですが、非常に資料が少なくて……

ミヅキさん
555ライダーズは基本的に自分勝手なので、あんまり揃って変身しないイメージです。
だけどその分揃うとかっこいいんですよねー。
アヴァロンの扱いに付いては、どこまで大丈夫なのかよくわからないんですよね。
まあ、デルタになって平気なのは主人公補正とアヴァロン込み、という事でW

マカロニさん
映画のUBW√だと異常な成長を遂げていた士郎。このSSではそこまでチートにはなりませんが、出来る限り格好良くしたいなと思います。



[15294] 第26話
Name: のっぽ◆5125fdc3 ID:76a543ac
Date: 2010/02/22 10:30
仮面ライダー555私的名言シリーズ

「俺はなっ? 心の底でお前をずっと尊敬してました。
 ほんとはな? ほんとはお前みたいに生きてみたかったんだよ!」
                         ──海堂直也

Fate/Masked Rider 555 〜疾走する魂〜  第26話

「んん……眠い……おはよ……」

「ったく、相変わらずの寝起きの悪さだな。どうにかならないのか?」

「しょうがないでしょ……ごめん、ミルク頂戴……」

衛宮邸での戦いの翌日……目を擦りながら居間に向かった私を出迎えてくれたのは、あきれ顔の巧だ。
一向に早く起きる事の出来ない私の寝起きの悪さに呆れているようだが、こればっかりは自分の意思ではどうにもならないのだから仕方が無い。
それに昨夜はあんな戦いがあったんだし、あの後で骨折した腕の治療もしていたのだ。
……ちょっとくらい多めに見てもらいたいんだけど、駄目かしら。

「ふん……昨夜は色々あったからな。大方、悶々としていて中々寝付けなかった……といったところじゃないのかな?」

「悶々としてって……遠坂……」

「ぶうっ!? ち、違うわよ! どうして私が! 士郎も何で顔赤くしてんのよぉ!?」

ミルクを呑む私を見ながら、草加がフォローしてくれる。少しいい奴じゃないの……そう思った瞬間に、あいつの口から出た言葉を聞いて、思わずミルクを噴き出してしまう。
こいつ、絶対にタイミングを図っていたに違いない。
鼻で笑うようなそぶりを見せながら私を馬鹿にする草加に、顔を赤くして私を凝視している士郎……おまけに笑いをかみ殺している巧。
昨夜の臓硯──ワームオルフェノクの触手に私が捕まった時の事を言っているのだろうが、嫌味な奴よね……
士郎はともかくとして、この二人は絶対に私をからかって遊んでいる。ほんと、どうしてやろうかしら……!

「シロウ……不潔です」

「うふふふふ……先輩、草加さん……おふざけがすぎるんじゃありませんか?」

「ご、誤解だ、セイバー! うん、やっぱり人をからかうのは良くないよな、桜!」

「も、勿論冗談に決まっているじゃないか! そうだよな、士郎君!」

ま、私が何かする前にセイバーと桜が『お仕置き』してくれそうだし、それで勘弁してあげたほうがいいかもしれない。
士郎は随分と憤慨しているセイバーに、首根っこを掴まれて連れて行かれてるが……おそらく道場でしごかれる事になるのだろう。
元々の発端の草加は、くすくす笑う桜に追いつめられているが、すごい顔をして後ずさりしている。
あいつにも恐いものってあったのか……なんて、少し可哀想になってしまう程の怯えっぷり。我が妹ながら、桜の行く末が気になって仕方が無い。
黒のボンテージを着て、鞭で士郎と草加を叩いている姿が目に浮かぶ……違和感が無いのが恐ろしいところではあるのだが。
マスターを助けようとしない巧には、どういうお仕置きが一番堪えるだろうか……そうだ、今日の夕飯は熱々の中華フルコースにしてやろう。
私自ら小龍包を食べさせてあげれば、嬉しくて泣き出すかもしれない……くふふ、夕飯が楽しみになってきたわ!

─────────────────────────────────────────

「さてと! それで今夜の事だけど……わかってるわよね」

「柳洞寺に行くんだろ? いちいち言わなくたってわかってるさ」

「ったく、ギルガメッシュは強いんだから、皆の団結を高めようって私が考えてるのに……あんたはもう!」

「落ち着いて下さい、姉さん……大丈夫ですよ。私達にはサーヴァントが三人いて、デルタギアもあるんですから」

今夜私達は柳洞寺に向かう。疲労やダメージ、魔力が完全に回復したわけではないが、相手が何をしようとしているのかがまったくわからない。
こちらのダメージが回復しているのを待っている間にとんでもない事をやらかされては、遠坂の名折れでもある。
あいつの正体が草加の見立て通りのギルガメッシュだとしたら、ほんとになにをしでかすかわかったもんじゃないし。……生前はとんでもない暴君だったみたいだし。
セイバーが来る前に事を起こす可能性は低い、とも言えるけど、後手に回るよりは先手必勝の考えで攻め込むほうが私達らしいしね。

──桜の言った通り、戦力差は確かにある。『最優のサーヴァント』であるセイバーことアーサー王に、カイザの力を使いこなす草加。
そして各強化ツールを使用する事で、圧倒的な力を発揮するファイズ──巧の存在。
デルタギアも、使いこなす事が出来れば非常に強力な切り札たりえる力が十分にある。
普通に考えるならば、私達の陣営の圧倒的な優位は揺らがない。
……だが、それでもなお胸の中で燻っている不安を消す事が出来ないのもまた事実。
ギルガメッシュは『英雄王』とまで言われる程の人物なのだから、用心するに濾した事は無い。
それに、私はあいつの能力というか『宝具』の事で気になる事があるのだ。

「あいつって、全ての宝具の原典を持ってるのよね?」

「あくまでも可能性の話しだ。あいつがギルガメッシュだとして、その言い伝えられている伝承とセイバーの話しが真実ならな」

「それじゃあ、貴方達のライダーズギアの原典を持っている……って事は無いの? いえ、貴方達以外にも『仮面ライダー』がいたとして、その変身するアイテムを持っている可能性は? いえ、ベルトの原典ってあるのかしら?」

「……さあな。そんな事は戦ってみなけりゃわからないな。だが……事実俺達の世界とここの世界は違う世界だ。別の仮面ライダーがいたって不思議じゃないが……ベルトの原典、か」

「以前戦った時には、タクミやクサカのような変身する物は使用していませんでしたが……可能性が無いとは言えませんね。ベルトの類いの宝具も、過去にはあったと聞き及びますし」

平行世界は鏡合わせの世界……果ては無い。巧達とは違う世界に、別の『仮面ライダー』が存在している可能性は、十分にある。
問題は、ギルガメッシュがそういったライダー達の『宝具の原典』を所持しているかどうか……という事なのだが、こればっかりは実際に戦ってみなければわからない。
もし万が一、ギルガメッシュがベルトに類する物を所持していれば、厄介な事になりそうだが……一体どうなるかしらね。
『ベルトの原典』たる宝具がどんなものかはわからないが、持っていない事を祈るしかない。
心配していても仕方が無いし、腹を括って戦いに臨むしかないわけだが……さて、夜中までなにをしていようかしら?

─────────────────────────────────────────

「んん〜! 何だか新鮮だわ。聖杯戦争が始まってから、毎夜毎夜戦ってばっかりだったもの。たまにはこういうのも良いわよね」

「どうぞ、先輩。お茶もありますよ? たくさん食べて下さいね?」

「おい、草加とセイバー! お前ら食い過ぎだろ!」

「何を甘い事を言っているのかなぁ! 桜が作ってくれた料理を俺が食べなくて、誰が食べると言うんだ?」

「タクミ、食べないのならそれも私が頂きます……あむっ」

「なんて言うか……にぎやかでいいんじゃないか?」

私達は今、全員で揃って海浜公園で昼食を食べている。いくら今晩戦いに行くとはいえ、日中から緊張していては身が持たない。
幸い今日は快晴で、絶好のお出かけ日和。
一番始めに言い出したのは士郎だが、特に誰も反論する事も無く今に至る、というわけだ。

桜と私、そして士郎の三人で作ったお弁当はかなり豪華で量もあったのだが……飢えた獅子のお腹の中に次々と消えていく様を見ると、少し少なかったかもしれない。
うかうかしていたら、あっという間に無くなってしまうに違いない。
今も巧の持っていた皿の上から、セイバーがフライドチキンをかっさらっていった……しょんぼりしている巧に、犬の尻尾が付いているように思える。
……うん、ちょっと可愛いかも。

「ぼんやりしてたら無くなっちゃうわよ? はい、巧。ちゃんと作って来てあげたわ」

「……余計なお世話だ」

セイバーに食べられるフライドチキンを未練がましく見ている巧。
そんな彼に、あらかじめ作っておいたサンドイッチを渡してあげる。……ぶすっとした顔の巧だが、素直に受け取って食べ始める。
本当素直じゃないって言うかなんて言うか……でも、ここまで美味しそうに食べてくれるんなら、作ったかいがあるってものだわ。

「こうしてご飯食べてると、巧が英霊だって事……忘れちゃいそうだわ」

「そんな大層なモンじゃないって、前も言っただろ。大体、普段からそんな扱いしてないだろ……」

「あら、私はこれでも貴方の事を尊敬してるのに。蔑ろにしているみたいな発言は心外よ?」

なんて事の無い、平凡な会話。こうしていると、巧が人知を越えた存在である英霊だって事だとか、命のやり取りをする聖杯戦争に参加している事を忘れそうになる。
流れる雲とサンドイッチを頬張る巧を眺めながら、穏やかな時間が流れて行くのを感じる。
巧が生きていた世界では、こんな風に呑気な時間を過ごす事もままならなかっただろう事を考えると……こうして楽しんでくれている様子を見るだけでも、案外嬉しいものだ。
……出来る事ならば、聖杯戦争が終わる前にもう一回だけ……こうして遊びに来たいものね。

「遠坂、そろそろ新都へ行こう。買い物するんだろ?」

「もうそんな時間? 巧……そろそろ行きましょうか。夜中になるまでは、たっぷり遊ぶわよ!」

「わかったわかった。……こうしてると普通の女の子みたいなんだけどな、凛って」

「みたいって何よ! ほら、行くわよ!」

お弁当を食べ終えて、士郎が話しかけて来る。ご飯を食べた後は新都で買い物だ。
つかの間の休息は、楽しまなくちゃ損だ。今だけは聖杯戦争の事はきれいさっぱり忘れて、皆で楽しむ事にしましょうか!
苦笑いの巧の腕を取って、私は新都に向けて走り出した──

─────────────────────────────────────────

「さてと……準備はいい? ここに入ったら、もう後戻りは出来ないわよ」

時刻は深夜三時、私達は柳洞寺の山門の少し下に立っている。以前訪れた時と同様に、辺りには何の物音もしない……不気味な程静かだ。
見上げる柳洞寺の境内の中には、禍々しい魔力が渦を作っているのを感じ取る事が出来た。
空は赤黒い不気味な色に染まっており、死地を思わせる空気が辺りに立ちこめている……無意識の内に、自分の身体を抱きしめているのに、少し苦笑い。
私達は今から彼処に突入するのだから、こんなところで震えていてはお話しにならない。

「今更怖じ気づいているようでは、先が思いやられるな。別に、無理して付いてこなくてもいいんじゃないかなぁ?」

「草加さん? 姉さんを苛めるのは駄目って言いませんでしたっけ? そんなにお仕置きされたいんですか……このドM!」

相変わらずの嫌味をかましてくれる草加と、すっかり黒く……もとい、逞しくなってしまった桜。
草加にアイアンクローをかましている桜の顔に、以前の暗い影は無い。
この聖杯戦争を経て一番変わったのは、間違いなく桜だ。身体に巣食っていた蟲がいなくなり、縛り付けていた間桐も先日消えた。
これからは、なんの引け目を感じる事も無く士郎と共に歩んでいけるだろう。
それは、姉としてはこの上無い喜びなんだから、幸せになってほしい。

「行こう、遠坂。ギルガメッシュが何を企んでいるのかはわからないけど、イリヤを殺したあいつは一発殴らないと気が済まない!」

「マスターであるシロウには、あまり前線に出て欲しくないのですが……もう言っても仕方がありませんね」

家族として受け入れていたイリヤを、自分の目の前でギルガメッシュにやられた士郎の鼻息は荒い。
セイバーもそんな士郎はもう止まらない事がわかっているのか、苦笑いをして士郎の側に寄り添っている。
士郎の腰には既にデルタドライバーが装着されているが、彼がデルタを使いこなす事ができれば、私達の戦力は大幅に上がる。
変なプレッシャーをかけるわけじゃないけど、戦うと決めた以上は……期待してるわよ。

「それこそ今更だぜ、凛。逃げ出すくらいなら、此処まで付いて来てないしな」

そして巧。最初に彼と出会った時、内心少し失敗したかなーなんて思いもした。
だって宝具は携帯電話、なんて悪びれずに言うんだもの……でも、巧はやっぱり英雄だった。
オルフェノクの身でありながら、人の夢を守る為に戦い続けた英雄。
本人は否定しているけど、その生涯は間違いなく英雄のそれに違いない。少なくとも、私はそう思っている。
彼が私のサーヴァントじゃなかったら、私はここまで戦い抜けただろうか……なんて、弱気になるのは私らしくないわ!

「それじゃあ、行くわよ! 気合い入れて付いて来なさい!」

自分に気合いを入れて、柳洞寺の山門目掛けて走り出す。
きっとこれが最後の戦いになる……何の根拠も無いけれど、そんな気がする。
この先に何が待っていようと、私達は絶対に勝ってやるんだから!



〜Open your eyes for the nextφ′s〜

「この我に勝てるとでも思っているのか……この雑種共がぁぁ!」

「お前みたいな奴に屈するのは、死んでもごめんなんだよ!」

「貴様らの希望を打ち砕いてやるのも一興か。見るがいい、王の力を……変身!」





後書き
最終決戦前の、ちょっとした日常と決意編。
終わりも見えて来ましたが、最後までがんばりますので、お付き合いして頂ければ幸いです。
それでは、前回の話で頂いた感想へのレス返しです。

窓さん
あれに憧れられては困りますし、痺れられても困りますww

炭素さん
実際問題、四対一じゃ勝負は見えてますしね。ちょっと簡単だったかなーとも思いましたが、あのくらいでご勘弁を。
元々、士郎の決意の為の戦いですしね。
その士郎デルタですが、活躍に付いては……今後に期待、といった感じですかね。
デルタは好きなんですが、武器が少ないから描写しにくい……

たーんあっぷさん
それですね、メギンギョルズ。どんな形だとか、いまいち細かい形とかがわかりにくいんですよね。

ミヅキさん
あれくらいならセーフかな、と。ヒロインの宿命みたいなもんだと我慢してください、遠坂さん……みたいな感じで。
トリプルライダーキックは、言われてから気が付きました。クウガは五代しかいないし、アギトはG3Xはキックじゃない+ギルスは踵落とし。龍騎はそれどころじゃないですし。
オールライダーのやつは完全にギャグでしたけどねww

デルタの件ですが、やっぱり悪役チックなライダーの宿命と言うか何と言うか。
三原は援護してれば活躍出来るんですけどね……ドラゴンの時も決定的なチャンスも作りましたし。

ラスクさん
私もパラロスと555本編を見直して書いてます。
ワカメに関しては、草加に目を付けられたから……合掌。

ペケピクプさん
金ぴかの『ベルト関連』ですが、一応考えてはあります。
次回予告でちょっとネタバレしていますが、今後の展開をお楽しみに……みたいな。
結構無茶苦茶やるかもしれませんが、ご容赦を。

rrさん
面白いと言って頂けて、とても嬉しく思います。
ベルトの件は、まだはっきりとは……申し訳ない。
結構設定を無視する事になるかもしれませんが、お楽しみに!



[15294] 第27話
Name: のっぽ◆5125fdc3 ID:76a543ac
Date: 2010/03/01 19:12
仮面ライダー555私的名言シリーズ

「きっついなぁ、お前の期待に応えるのは!」
                 ──乾巧

Fate/Masked Rider 555 〜疾走する魂〜  第27話

「遅かったではないか、セイバー。王を待たせるとは随分と失礼な女だが……まあ良い」

「アーチャー……いえ、ギルガメッシュ! 貴方の目的は一体なんなのです!」

柳洞寺の山門を潜り、境内に突入する。
そこに待ち受けていたのは、アインツベルンの森で出会った黄金のサーヴァント、ギルガメッシュ。
金色の鎧を纏い、巧達を見ても顔色一つ変えないその様は、正に英雄王と呼ぶに相応しい風格を醸し出している。
淀んだ魔力が溢れているこの境内の中においても、その存在感は圧倒的。
知らず知らずの内に拳を握りしめ、ごくり……と唾を飲み込む。
あいつの真っ赤な瞳を見ているだけで、己の心の中まで見透かされているような……そんな錯覚すら覚えてしまう……いけない、呑まれたら勝ち目なんか無いわ。

「ほう……我の真名を知ったか。雑種の中にも、少しは頭の切れる者もいたらしいな」

「雑種だと……貴様ぁ……!」

「我の目的であったな、セイバー。簡単な事よ……この地に聖杯を起動させ、溢れ出た泥をお前に呑ませる……それだけの事よ」

「泥だと……? 一体泥って何の事だ……?」

草加の推察通り、あいつの真名はギルガメッシュで間違いないらしい。
もっとも、あいつがギルガメッシュだという事がわかっても、さして対策があるわけでも無いのだが。
雑種、と言う言葉に苛ついたのか、顔を歪めてギルガメッシュを睨みつける草加だが、当の本人はまるで草加の事を相手にしていない。
対等に会話する事が出来るのはセイバーのみ、と考えたほうが良さそうね……流石は王様。
自己中心的な所も群を抜いている。性格の悪さも一級品だわ……ったく。

ギルガメッシュはどうやら柳洞寺の境内に聖杯を出現させる腹づもりらしい。
サーヴァントである以上、聖杯を求めるのは至極当然の事だ……英霊達は、何かしらの願いを持っているからこそ召喚に応じるものだから。
だが、『溢れ出た泥』とはどういう事なのか。
ギルガメッシュが聖杯に望むものが、その泥なのだろうか……巧も同じような疑問を抱いたのか、しかめっ面で呟いている。

「その疑問は、私が答えてやろう」

「綺礼……! あんた、監督役の癖によくもこんな事を……!」

「ふ……さて、泥の事だったな。聖杯とは万能の願望機、いかなる願いでも叶える事が出来るモノだ。だが……既に聖杯はアンリ・マユによって汚染されている」

「アンリ・マユ? 聖杯が汚染されているって……!?」

「アンリ・マユとは、過去にアインツベルンが召喚したサーヴァントだ。『この世全ての悪』を背負わされた反英雄によって汚染された聖杯は、使用者の願望を破壊活動によって叶えるように変質したのだよ……そう、十年前の大火災のようにな」

どこに潜んでいたのか、酷く楽しそうな笑みを浮かべて現れたのは、本来は聖杯戦争の監督役である言峰綺礼。
彼は柳洞寺の境内の中にある池の前に佇んでいる。
そしてその後ろには、貼付けにされているイリヤスフィールの姿……ぴくりとも動く事は無く、既に事切れているのであろう事がわかった。
私の隣りにいる士郎が拳を握りしめたのが、視界の端に見えた。
イリヤスフィールの命がもう無いであろう事は予測していたこと……それでも辛い事に代わりは無いのだろう。

綺礼の様子は普段となんら変わる事無く、ただ淡々と言葉を重ねて行く。
そう……『万能の願望機』たる聖杯が、既に汚染されて使い物にならなくなってしまっているという衝撃の事実を、だ。
そして、士郎が両親を失うきっかけとなった十年前の冬木大火災が、汚染された聖杯を行使した事によって生み出された、人為的な災害であったという事実。

「綺礼……! あんた何考えてんのよ! どうしてイリヤスフィールを殺して!」

「……私はな、凛。普通の人間が嬉しいと思うことや、楽しいと思う事になんの価値も見いだす事が出来なかった。私が唯一愉悦を覚える事の出来る瞬間は、他人の不幸であったり、苦悩に歪むその様を見る事なのだよ」
「そしてイリヤスフィールはアインツベルンの作ったホムンクルス……彼女の心臓こそが聖杯となるのだよ」

「だからもう一度汚れた聖杯を起動させようってのか! イリヤを殺してまで……言峰!」

「ふむ……お前が求める悪とは、正に私の事なのかもしれんな。……ならばどうする、衛宮士郎」

告白するとも悔いるとも取れる、綺礼の独白。
──綺礼がどれだけ歪んでいようと、それは私には何の関係も無い話しだ。
だが、今綺礼やギルガメッシュがやろうとしている事を見過ごすわけにはいかないのだ。
冬木の管理者であるから……という事は勿論だが、私はこの街に住む一人の人間なんだ。
ほんのひとつまみの腐った奴らの愉悦の為だけに、何の罪も無い人々を奈落の底にたたき落とすような行為など……到底許せる筈なんて無いじゃない!

憤怒の表情を浮かべた士郎が、綺礼に対して怒鳴り立てる。
無理も無い……自分の両親や他の沢山の人達が無くなったあの火災の原因となったであろう人物が目の前にいるのだから。
──もっとも、綺礼やギルガメッシュの身勝手な行動に腹を据えかねているのは士郎や私だけじゃないみたいなんだけど。

「お前らの勝手な願望や愉悦とやらの為に、他の人達を傷つけさせるなんて……絶対に許さない! セイバーには悪いけど、汚れた聖杯は破壊する!」

「──シロウの言う通りです。そのような聖杯を私は求めたわけではありません! この剣にかけて、聖杯は破壊します!」

「この街に住んでいる人達を不幸にさせるなんて、絶対に許せません……!」

「ふん……お前みたいに上から見下す奴は不愉快だ……! 聖杯諸共消滅させてやる!」

士郎、セイバー、桜、草加。皆考えている事は違うだろうけど、聖杯を消滅させる為に綺礼とギルガメッシュの前に立ちはだかった。
──聖杯戦争に参加して聖杯を得る事は、遠坂家の悲願だった。だけど、私は聖杯を手に入れて何か願いを叶えたかったわけじゃないんだ。
ただ、私が私である為に聖杯を手に入れようと願って、戦いに身を投じた。
だったら、最後まで私らしく戦わなきゃ嘘だ。

「いくわよ、皆! あんな偏屈神父と金ぴかの野望なんて、私達で打ち砕いてやるんだから!」

「おい、似非神父に金ぴか野郎……知ってるか。人の魂ってな、時々揺らいだり冷めたりする事もある。でもな、大切な人やモノを守ろうとする時は、すっごく熱くなる……らしいぜ」
「──俺は人間じゃない。だが、皆を護るためにこの魂を燃やす事は出来る! 変身!」

『Complete』

─────────────────────────────────────────

「──さっきから黙って聞いていてやれば、雑種共が好き勝手な事をぬかしおって……! 貴様ら雑種が、この我を倒す事が出来るわけがなかろうが! 王を愚弄するか!」

「雑種雑種とやかましい奴だな……君は口が悪い。直した方がいいんじゃないのかな……え、どうかなぁ!?」

「ギルガメッシュ……! 貴方は確かに強いが、私達にも負けられぬわけがある! 一歩も引く事は無いと知れ!」

「王様だかなんだか知らないけどよ……お前みたいな奴に屈するのは、死んでもごめんなんだよ!」

変身を終えた巧、草加、士郎……そしてセイバーが、ギルガメッシュと対峙する。
聖杯を消滅させるにしても、この金ぴかを倒さなければならない……セイバーをして強敵と言わしめたその実力はいかほどのものなのだろうか。
そしてあいつは、『仮面ライダー』の力を持った宝具をも所持しているのだろうか?

先ほどの私達の啖呵に、ギルガメッシュは酷く憤慨しているようだった。
この世全てを手中に収めたと言われている王様は、牙を向いて楯突く私達の行動が我慢ならないらしい。
煽るような草加の言葉や、付けねらっているセイバーの態度、巧の目も気に食わないに違いない。

「王に対するその不遜な態度……万死に値する。喜ぶが良い、雑種共! 我が直々に殺して、聖杯にその魂を焼べてくれるわ!」

「最初からその気の癖に……! そう簡単にやられるとでも思ってんのか!」

「ふん……その機械の鎧。『ライダーズギア』だったか?」

「な、なんで知って……」

サーヴァントとマスターが残り一組になった時に聖杯は現れる。
ギルガメッシュの発言を考えれば、聖杯はサーヴァントの魂を吸収してその姿を現す。
と言う事は、綺礼達の目的を果たす為には、巧と草加を殺さなければならない筈だ。
──そこまで思考を廻らせたその時に、不意にギルガメッシュが口にした『ライダーズギア』という言葉。
どうしてギルガメッシュがギアの事を知っている?此処に来てから私達はそんな言葉は発していないのに。
だとしたら、やっぱりギルガメッシュは『仮面ライダー』に類する『何か』を所持している事になる。

「はっ……我は王ぞ! 知らぬ事があるとでも思っているのか……雑種共が!」
「……貴様らをひねり潰すのは簡単な事だが、それではあまりに芸が無い。貴様らの小さな希望を砕いてやるのも一興よ。──見るが良い、王の力を。変身!」

『KAMEN RIDE──DECADE!』

「──な」

何を考えているのか、突然その身に纏った金色の鎧を消したギルガメッシュ。
黒いライダースーツに身を包んだ姿になったギルガメッシュだが、戦う気がなくなった……なんて事は考えられない。
一体何をするつもりなのか、と訝しむ私達を尻目に、ギルガメッシュが虚空から取り出したのは白いバックル。
ギルガメッシュがそのバックルを腰に装着した瞬間、バックルからベルトが伸びて固定され、あいつの手には奇妙なカード。
巧達と同じように『変身』と声を発したギルガメッシュがカードをバックルに差し込むと──ライダーズギアと同様に電子音声が流れ、ギルガメッシュの身体が変化していく。

マゼンタカラーの身体にグリーンの瞳。腰のバックルには九つの奇妙な紋章が刻まれているその姿。
『ディケイド』と電子音声が流れていたが、間違いなくこいつは『仮面ライダー』だ。
半ば予想していた事とはいえ、実際に目の前で変身されるとやはりショックも大きい。
巧=ファイズはフォトンブラッドの毒性と数々のアタッチメントが特徴だったが、ギルガメッシュの変身した『ディケイド』は一体どんな力を持っているのか。

ギルガメッシュを牽制するように、巧達は慎重に距離を詰めていく。
四対一のこの状況を覆す事の出来る力を『ディケイド』は持っているのだろうか?

「そうだな……まずは小手調べといくか。あまり早く終わってしまってもつまらんのでな!」

『KAMEN RIDE──ODIN!』

「す、姿が変わった!? いったいどうなってんのよ!」

「くそっ! 皆を付けろ……ぐううっ!」

「乾さん! うわああっ!」

ギルガメッシュ曰く小手調べ……あいつが腰のユニットから一枚のカードを取り出して、変身する際と同様にバックルにセット。
その瞬間、『ディケイド』の姿は金と茶色を基本カラーとし、おそらくは鳥の類いがモチーフになっているであろう『仮面ライダーオーディン』へと変化する。
『オーディン』に対して強い警戒心を抱いたのか、士郎達に警告を発する巧だったが、変身したギルガメッシュの動きは異常に速かった。
金色に輝く羽根を舞い散らせながら、まるで瞬間移動しているかのようなスピードで巧達に攻撃を仕掛けて来る。
ファイズのアクセルフォームよりかは遅そうだが、なにぶんこちらには制限時間が無さそうな分厄介かもしれない。

「ふはははは! どうした雑種共! まだ力など殆ど出してはいないのだがなぁ!」

「調子に乗るな……ふんっ!」

「油断大敵です! はあああぁぁっ!」

「むっ! セイバーか……!」

巧と士郎を吹き飛ばした後、姿を再び現したギルガメッシュ。
腕を組んで高笑いしているその様は正に王様。……はっきり言って隙だらけ。
その隙を狡猾な草加と鋭い直感を持つセイバーが逃す筈も無く、カイザブレイガンとエクスカリバーで切り掛かる。
さしものギルガメッシュもセイバーを警戒しているのか、一瞬の内に瞬間移動……二人の攻撃範囲から離脱。
牽制のつもりか、ギルガメッシュの背後の空間が歪み……何本もの剣や槍等の武器の類いが放たれる。
幸い数は少なかった為に草加とセイバーは避ける事が出来たが、変身していてもギルガメッシュ本人の能力はそのままか……!

「くそ、無駄に速い! 凛、ちょっと早いが使うぞ!」

『Complete』

「ほう……ランサーを倒した『超高速形態』とやらのご登場か。ならば!」

『KAMEN RIDE──DARK KABUTO!』

『ATTACK RIDE──Clock Up!』

「ちっ……それがどんだけ早いかしらねぇけど、付き合ってやる! 十秒間だけな!」

『Start Up』

「面白い……その力、我に見せてみるが良い!」



〜Open your eyes for the nextφ′s〜

「貴様らの力など、所詮はその程度。大人しく死ぬのが礼儀よ!」

「この街の皆の未来を守る為に……負けるわけにはいかない!」

「草加ぁぁぁぁっ!」




後書き
引っ越し等の作業で中々パソコンの前に座る事が出来ず、更新が遅れてしまいました。
待っていてくれていた方々、申し訳ないです。
さて、ギルガメッシュが変身したのはディケイドでした。
正直な話し、最初の構想ではストレートにオーガだったのですが、悩んだ結果ディケイドに変更と相成りました。
「Fate×555なのに」等いろいろと突っ込みどころはあると思いますが、ご容赦下さい。
あ、あとギルのディケイドはチートですので、オーディンとかにもなれますW

窓さん
ディエンドも考えましたね。ライダー呼び出して戦わせるのって王様っぽいなーと思いましたが、いまいち盛り上がらないかな、と思ってディケイドになりました。

ドラコンさん
スピリッツですとZXと言うか大首領が金ぴかでしたかね。正直各ライダーがZXのプロトタイプってどうよ?と思いましたが。(V3とかXとかは特に)

zeromaruさん
まんま『キング』ですからね。
ウルフェノクの死徒再生ですが、公式設定あったんですねー。
触手だとあんまり正確な狙い付けられそうにないので、このSSの中では違うという事で一つ。

風光さん
ギルを変身させる以上、多少無理矢理でもいけるかな、と思って最初はオーガだったんですけどね。
キバは一応どれも王の鎧ですから、似合いそうですよね。

ペケピクプさん
ディケイド版十面鬼は確かに金ぴかでしたねー。
ギルに「ファイズ返しだ!」とか言わせたら面白いかもしれません。

p-trueさん
キングストーンもアマダムも一応考えました。担い手云々は、多少目を瞑って下さるとありがたいです。

柿の種さん
『キング』ストーンですから、皆さん一度は考えたと思いますが、流石に改造手術無しでは変身できないよな……と思い、渋々没にしました。

ミヅキさん
確かにライダーズギアは携帯性最悪ですよねー。メカニカルライダー系で言えば、多分ブレイドとカブトが一番持ち運ぶのが楽そうです。
おまけに直ぐに外れるから、三原がわたわたしながらデルタドライバーを拾いにいく羽目に……

ながもんさん
常識的に考えれば……ですが、今回はチート満載の破壊者です。ご勘弁を!

闇魔道さん
手が付けられなくなってしまいそうな勢いで暴れてもらうつもりです。やっぱりラスボスですからねー。

反逆者さん
電王の映画は見た事ないって言うか、電王自体ちゃんと見てないんですよね……一応牙王の見た目とかはわかるんですけど。
今回はディケイドになってもらいましたが、楽しんで頂けたら幸いです。

結城さん
アークオルフェノクは確かに「王」ですから、ギルをアーク+オーガにしても面白かったかもしれません。



[15294] サーヴァントステータス
Name: のっぽ◆5125fdc3 ID:76a543ac
Date: 2010/02/11 20:44
【クラス】ライダー
【マスター】遠坂凛
【真名】乾巧
【性別】男性
【身長・体重】177cm、53kg
【属性】混沌・善
【能力】筋力D 耐久D 俊敏C 魔力D 幸運D 宝具EX


【クラススキル】

騎乗:D
自身の愛車であるバイクを乗りこなす技能。


【保有スキル】

オルフェノク化:EX
乾巧のもう一つの姿である、ウルフオルフェノクに身体を変化させる。
武器は全身の鋭い突起と、右手のメリケンサック。
俊敏な動きと強靭な跳躍力が特徴で、夜間での奇襲戦法を得意とする。
また、感情が高ぶるとより能力が強化され、脚部の形状が変化する激情体になることも可能。
このスキルを使用した場合、幸運と宝具以外のステータスが2ランクアップ。
ただし、幸運のステータスが1ランクダウンし、【狂化:D】のスキルが追加される。

毒性:A
ファイズに変身した時にのみ追加される。
ファイズの全身を循環するフォトンブラッドは強力な毒性を持つ。
その為、『クリムゾンスマッシュ』や『スパークルカット』等の必殺技は例え完璧に当たらなかったとしても、このスキルで多大なダメージを与える。

戦闘続行:B
往生際が悪く、瀕死の状態でも戦闘を続行する。

単独行動:B
マスターからの魔力供給が無くても現界していられる能力。
ランクBならば、2日程度現界可能。

魔性:C(B)
自身のもう一つの姿である、オルフェノク体に起因するスキル。
オルフェノクとしてのレベルは高いが、彼自身が「人間として」生きているので、ランクダウンしている。

猫舌:A+
熱いものを食べたり飲んだりすることが出来ない。


【宝具】

世界を救う希望の光(ファイズギア):[ランクC]
携帯電話型トランスジェネレーター、ファイズフォン。
ベルト型変身ツール、ファイズドライバー。
デジタルトーチライト型ポインティングマーカーデバイス、ファイズポインター。
デジタルカメラ型パンチングユニット、ファイズショット。
バイクハンドル型エネルギーブレード、ファイズエッジ。
これらを総括したものを宝具として扱う。
ファイズフォンとファイズドライバーを使用することで、装着者をファイズへと変身させる。

〈ファイズ〉
ギリシャ文字のΦ(ファイ)を模したデザインの仮面ライダー。
数字表記および変身コードは「555」。基本カラーは赤。
フォトンストリームの色は赤で、目の色は黄。最も後期に開発されたシステムであり、拡張性が高い設計(ツール数が最多で、唯一強化変身『フォームチェンジ』が可能)となっている。
変身の際はファイズドライバーを装着しファイズフォンに変身コードを入力、『Enter』を押すことにより『Standing By』と発せられ、ドライバーのバックル部『フォンコネクター』にフォンを突き立て左側に倒す。
装着者が適合者である場合は『Complete』の音声とともに変身が完了するが、不適合者の場合は『Error』の音声とともにはじき飛ばされる。

【ファイズ変身時ステータス】
筋力B 耐久B 俊敏A 魔力D 幸運B 宝具EX


主を守る鋼鉄の従者(オートバジン):[ランクC]
スマートブレイン社の子会社であるスマートブレインモーターズ製の可変型バリアブルビークル。
左側のハンドルグリップは着脱可能。通常は『ビークルモード』で活動しているが、装備されたAIにより『バトルモード』と呼ばれる人型のロボット形態へ自律変形し独自にファイズのサポートを行う。
ビークルモード時の後輪が変形した高速ホバー滑走機能を持つほか、飛行も可能。
ビークルモード時の前輪『バスターホイール』に仕込まれた16門のガトリングマズルから12mm弾を1秒間に96発連射する。

乾巧をファイズギアの正当な持ち主と認識しており、例えギアを奪われた状況であっても、自己判断で乾巧をサポートする。
また、宝具としてのランクはファイズギア同様に高くはないが、乾巧だけでなくそのマスターを守護する。


加速する魂(ファイズアクセル):[ランクC]
リストウォッチ型コントロールデバイス。
プラットフォームにはアクセルメモリーが装填されており、メモリーをファイズフォンのプラットフォームに挿入することで、ファイズをアクセルフォームへ変化させる。

〈アクセルフォーム〉
ミッションメモリーと同型のプログラムキー『アクセルメモリー』をファイズフォンのプラットフォームに挿入することで、「Complete」の音声とともにフォームチェンジする超高速形態。
基本カラーは黒。胸部アーマー『フルメタルラング』が展開して肩の定位置に収まり、眼は赤色に、フォトンストリームは銀色の『シルバーストリーム』に変化する。
フォームチェンジ直後の状態は待機形態『アイドリングモード』であり、ファイズアクセルの『スタータースイッチ』を押すことにより「Start Up」の音声とともに超加速モード『アクセルモード』に移行、あらゆる動作を通常の1000倍の速度で行うことが可能となる。
アクセルモード起動より10秒(アイドリングモードでは35秒)が経過すると「Reformation」の音声とともに通常のファイズへ戻る。
シルバーストリームはフォトンストリームの耐久値の限界を示すいわば危険信号であるため、仮に35秒を超えてアクセルフォームを使用するとフォトンフレームが崩壊してスーツは破壊され、装着者は大量のフォトンブラッドを直接浴びて消滅し、さらに周囲3Km四方は空気に触れて劣化したフォトンブラッドによって汚染されることとなる。

その特性上、必殺技を一度に連続して放つことが可能で、特に『アクセルクリムゾンスマッシュ』は絶大な威力を誇る。
しかしその反面、消費する魔力が多い為に連続してアクセルフォームになる事は出来ず、自身にも反動がある為に多用は禁物。

【アクセルフォーム変身時ステータス】
筋力B+ 耐久B+ 俊敏A+ 魔力D 幸運B+ 宝具EX


ファイズブラスター:[ランクC]
トランクボックス型トランスジェネレーター。
計25種以上のパターンコードにより、必殺技の発動、ブラスター本体のモードチェンジ、オートバジンなどの制御が行える。
ブラスターフォーム変身時は、それぞれのコードを入力することで『Blaster Mode』と『Blade Mode』にチェンジさせる事が可能。

〈ブラスターフォーム〉
ファイズブラスターに変身コードを再入力、スロット部分〈トランスホルダー〉にファイズフォンをセットすることで、『Awakening』の音声とともにドライバーに再起動をかけ、フォームチェンジする、ファイズの最強形態。
基本カラーは赤。スーツ部分にフォトンブラッドが駆け巡ることで全身が赤く染まる。
逆にフォトンストリームの部分はフォトンブラッドの流れていない黒色の〈ブラックアウトストリーム〉に変化する。
変身コードを入力したファイズフォンをファイズブラスターにセットすれば、ノーマルファイズを経ずに直接変身する事も可能。
ほぼ全身からファイズエッジ・ミディアムモードに匹敵するエネルギーを放出している為、並のオルフェノクであれば触れるだけで灰化・消滅させる。
背部には〈PFF(フォトン・フィールド・フローター)〉というマルチユニットを装備している。
ファイズブラスターに「5246 ENTER」のコードを入力すれば、『Faiz Blaster Take Off』の音声とともにユニットが起動、空中を飛行することができる。
さらにブラスターに「5214 ENTER」のコードを入力すれば『Faiz Blaster Discharge』の音声が発せられ、フォトンフィールドジェネレーターが展開し両肩に背負う形になる〈ブラッディ・キャノン〉へと変形する。
非常に強力なフォームであるが、その反面魔力消費が極めて激しい為、一度変身した後はしばらく戦闘力が極端に低下する諸刃の剣。

【ブラスターフォーム変身時ステータス】
筋力A+ 耐久A 俊敏A 魔力D 幸運B+ 宝具EX


【サーヴァント概要】
オルフェノクの支配する世界で、人々を守る為に戦った救世主。
根は優しく思いやりのある性格だが、自身がいつか人を裏切ったり、傷つけてしまうかもしれないという恐怖心の裏返しで無愛想な態度をとることが多く、誤解されやすい。

その正体は、狼の特性を持つウルフオルフェノク。
しかしその素性を隠したままファイズとして、そして人間として、同胞とも言えるオルフェノクと戦い続けた。
平行世界の英霊であり、乾巧自身にももう一つの可能性が存在しているが、英霊としての乾巧はそちらの世界での記憶も『知識として』所有している。




【クラス】アーチャー
【マスター】間桐桜
【真名】草加雅人
【性別】男性
【身長・体重】181cm、——kg
【属性】秩序・悪
【能力】筋力D 耐久D 俊敏D 魔力E 幸運D 宝具EX


【クラススキル】

騎乗:C
自身の愛車であるバイクを乗りこなす技能。

単独行動:B
マスターからの魔力供給が無くても現界していられる能力。
ランクBならば、二日程度現界可能。


【保有スキル】

毒性:A
各ライダーズギアを使用して変身した時にのみ追加される。
ライダーの全身を循環するフォトンブラッドは強力な毒性を持つ。
その為、各オプションツールを利用して発動させる必殺技は、例え完璧に当たらなかったとしても、このスキルで多大なダメージを与える。

戦闘続行:D
往生際が悪く、瀕死の状態でも戦闘を続行する。

嫌み:A+
気に入らない相手に対する嫌み。
かなりの精神的ダメージを与える場合がある。

【宝具】

王を守護せし三つの光(ライダーズギア):[ランクC]
オルフェノクの王を守る為に開発された、三つのライダーズギアを使用する事が出来る。
ただし、ファイズギアとデルタギアは本来の持ち主である『乾巧』と『三原修二』が召喚されていない場合に限り、使用する事が出来る。
ライダーズギアの特性上、カイザギアとデルタギアはマスターも使用する事が可能だが、カイザギアを使用した場合は死に至る。

〈カイザ〉
ギリシャ文字のΧ(カイ)を模したデザインの仮面ライダー。
数字表記および変身コードは「913」。基本カラーは紫と金。
フォトンストリームの色は黄で、眼の色は紫。システムとしてはフォトンブラッドがファイズのものより高出力であるため、パワーでは勝るが瞬発力に劣る。
フォトンストリームは高出力フォトンブラッドの安定供給を図るため2本に分かれてマウントされており、この取り回しから『ダブルストリーム』と呼ばれている。
変身の手順はファイズと同様。オルフェノクおよびオルフェノクの記号を埋め込まれた人間の一部を除き、不適合者は変身解除後に灰化・死亡する。
ただし、システム装着時の身体能力は、適合・不適合に関係なく発揮できる。

【カイザ変身時ステータス】
筋力B+ 耐久B 俊敏B 魔力D 幸運B 宝具EX


〈デルタ〉
ギリシャ文字のΔ(デルタ)を模したデザインを持つ仮面ライダー。
数字表記は「333」。基本カラーは黒と銀色。
フォトンストリームの色はブライトカラー(ファイズアクセルフォームの銀色と同等)で、眼の色はオレンジ。システムとしてはファイズ、カイザよりさらに高出力ではあるが、その構造は前述の2つほど練られていない。
フォトンストリームはブライトカラーのフォトンブラッドを全身に循環させるため、一体のストリームを要所で三股に分けることで逆ボトルネック効果を生み出す『ビガーストリームパターン』という特殊な取り回しになっている。
最初期に開発されたシステムであり、他のライダーズギアとは仕様が異なり、ツールも少ない。
変身の際はデルタドライバーを装着し、デルタフォンのトリガーを引きながら「変身」と音声入力、『Standing By』の音声が発せられ、ドライバーにセットされているデルタムーバーにフォンを接続させることで『Complete』の音声とともに変身する。
全ての人間が変身可能であるが、ガンマ脳波の周波数を強制的に引き上げる特殊な電気信号・デモンズイデアを発生させる闘争本能活性化装置・デモンズスレートが装備されており、これにより不適合者は極めて攻撃的な性格へと変貌していく。

【デルタ変身時ステータス】
筋力A 耐久B 俊敏A 魔力D 幸運C 宝具EX


主に従う寡黙な従者(サイドバッシャー):[ランクC]
スマートブレインモーターズ製の可変型バリアブルビークル。
通常は『ビークルモード(サイドカー)』で活動しており、サイドカー部分『ニーラーシャトル』を切り離しての自走もできるほか、『バトルモード』と呼ばれる大型二足歩行型戦闘メカに自律変形しカイザのサポートを行う。
左腕の6連装ミサイル砲『エクザップバスター』と、右腕の4連装バルカン砲『フォトンバルカン』による砲撃戦を得意とする。
オートバジンと異なり、バトルモードにおいても操縦することができるが、自立行動をすることは不可能。


過去のトラウマ(ウエットティッシュ):[ランクEX]
草加が手を拭う為に常に持っている物。
戦闘においては、特に何の使い道も無い。


【サーヴァント概要】
幼い頃に両親を水難事故で失った孤児で、流星塾の出身者。
一度オルフェノクに殺された際にオルフェノクの記号を埋め込まれて復活。
スマートブレインとの戦いの際には、主にカイザギアを使用して戦った。

一見温厚で頼もしげな好青年だが、本質は好戦的で卑劣かつ自己中心的で、言動に裏表がある。
オルフェノクである乾巧を敵視し、彼を陥れる策略を廻らせる事も多かったが、戦闘の際にはコンビネーションを見せる。
また、唯一三つのライダーズギア全てを使用した人物。
乾巧同様、彼にも二つの可能性が存在していたが、英霊としての草加雅人の記憶は一つだけである。


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