仮面ライダー555私的名言シリーズ
「生きて行きたいんです。人間として」
──長田結花
Fate/Masked Rider 555 〜疾走する魂〜 第17話
「──変身」
『Standing By』
『Complete』
桜が腰に巻いたのは、ファイズのベルトに似た黒いメカニカルなベルトだ。
しかし、ファイズやカイザのベルトのように携帯電話で変身するのではなく、グリップのような物に向けて『変身』と声を発する桜。
その声を認識したのか、ファイズと同様の電子音声が鳴り、腰のユニットにグリップを装着。
桜の身体に白く光るフォトンストリームのラインが走り、一瞬の内に変身が完了する。
漆黒のボディに白いフォトンストリーム、そしてオレンジに光る瞳──ファイズでもカイザでもない第三のライダー。
だがわからない……巧の話しによれば、各ライダーズギアを扱えるのはオルフェノク、もしくはオルフェノクの記号が強い人間だ。
だが、桜は魔術師とはいえ普通の人間の筈……その桜がどうして変身する事が出来るのか?
「……私がどうして変身できるのか、不思議ですか、姉さん? ライダーズギアの中でデルタギアだけは、人間でも変身して戦えるんですよ?……姉さんなんかには、負けない力です」
「桜、あんたそこまで私を……」
デルタに変身した桜の身体からは、禍々しいとさえ言える魔力が滲み出ている。
正直言って、私はいつも桜に負い目を感じていた。間桐に養子に出された桜を、なにかと気遣ってきたつもりだった。
少しでも桜の為になればと思ってとっていた行動だった……しかし、桜はそれを恨んでいる。
私は、無意識の内に桜を見下してはいなかっただろうか。私は桜に同情していただけなのではないだろうか。
──だが、このままむざむざとやられるわけにはいかない。
そして……これは私と桜の姉妹喧嘩だ。私の手でケリを付けなければならない。
「草加……お前の目的はなんだ。デルタギアがこの子にどんな影響を与えるか、わかってんだろ」
「別に……お前に教えて、何の得があるのかなぁ。だが……教えてやる。桜には聖杯が必要だし、デルタギアで戦う事を望んだのも桜自身だ。自分の居場所と自分自身を守る為には、戦うしかないからな!」
「お前……」
私達の横では、巧と草加が同じように戦闘態勢を取っている。
草加の話しを聞いていると、『桜には聖杯が必要』そして、戦う事を望んだのも桜自身だと言っている。
なぜ必要なのかは知らないし、理由を聞いたからといって負ける気も無い。まして、桜自身が戦う事を望んだのなら尚更だ。
この戦いだけは一対一で。馬鹿だと言われるかもしれないが、それでもだ。
巧にも士郎にも、手を出して欲しくはない……傲慢と言われてもかまわない。
──それが、私のけじめだから。
「巧……今だけは、手を出さないで。士郎もセイバーもよ。……桜、一対一よ」
「良い度胸ですね、姉さん。……草加さん、貴方も手を出さないで下さいね」
「……ああ、わかった」
「…………」
「遠坂……桜……!」
巧や士郎達に、決して手を出さないように指示を出す。
桜も同じ事を考えていたようで、草加に向けて下がるように指示を出し……一時の後、私達は中庭の中心で対峙する。
距離は約二メートル程。デルタの能力がどれだけ強力かはわからないが、少なくともファイズと同等……いや、それ以上だと考えるべきだろう。
だが、桜は格闘技……ひいては戦いにおいては素人だろう。
単純な能力では桜のほうが上……そして戦いの技術においては私のほうが上。
私が勝つ為にはどうすればいいか──答えは一つ!
八番
「────Acht……!」
七番
「────Sieben……!」
六番 冬の河
「──────Sechs Ein Flus,ein Halt……!」
五番、 三番、 四番
「Funf,Drei,Vier……!
終局、 炎の剣、 相乗
Der Riese und brennt das ein Ende────!」
二番 強化
「stark────Gros zwei」
「っ!……姉さん!」
「行くわよ……桜!」
キャスター戦でも使うことの無かった、とっておきの宝石の大判振る舞いだ。
その全てを使い、自身の身体能力を一気に強化。どれほどデルタの力に近付いたかはわからないが──先制攻撃あるのみ!
桜の構えは隙だらけだ。距離を詰めて接近戦に持ち込んでやるわ!
大地を力強く踏みしめ、最大限に強化された脚力を持って、桜目掛けて疾走。
踏みしめた大地が砕け、土ぼこりを上げながら、一気に距離を詰める。
狙うのは腰に巻かれたデルタドライバー。あれさえ取ってしまえば勝負は決する。
だが、そう簡単に取れるなどとは思っていない……だったら、その隙を作ればいい!
「きっついの一発、お見舞いしてあげるわっ!」
「ああぁぁぁぁっ!」
ほんの数秒の後、私は桜の目の前に到達する。狙うはみぞおち──渾身の力を込めての崩拳。
それに合わせるように、桜の手刀が私の頭をねらって振り下ろされる。ただの手刀でありながら、空気を切り裂いて迫り来るその一撃。
たとえ身体を強化していても、こんなのを食らえば一撃で終わっちゃうわよっ!
咄嗟に攻撃を中断し、地面を転がって手刀を辛うじて躱す。……正直、甘く見過ぎていた。
デルタとなった桜の攻撃は、予想以上に強烈だ。僅かに擦った肩はそれだけで酷く痛む──背中には冷たい汗。
いくら強化したとはいえ……ちょっと雲行きが怪しくなってきたわ……
「うふふ……どうしたんですか、姉さん? そんなに慌てて逃げちゃって」
「ふん……せいぜいほざいてなさい! ここからよっ!」
急いで立ち上がり、バックステップで一旦距離を取るが、桜は追ってくる様子は無い。
その声にはデルタの力に対する自信がありありと滲み出ている。
──正攻法では立ち向かえないならば、絡め手を使うまでの話しだ。
いつまでも調子に乗ってると、痛い目見るって事を教えてあげるわよ!
「弾けろっ! neun! 」
「っく! こんなこけおどしで……きゃあっ!」
手に握るは魔力を込めたルビー。それを桜の目の前の地面に向けて投げつけ、魔力を開放。
一拍おいた後に小規模な爆発が起こり、桜の視界を砂埃が覆う。
そのチャンスを逃す事無く、桜の側面に回り込みながら接近し、首めがけて上段蹴りを放つ。
渾身の力を込め、魔力で強化された上段蹴り──それは狙ったところと寸分違わず命中し、中庭に桜の軽い悲鳴が響く。
流石にまともに食らえば効いたのか、今度は桜がよろける番だ。
「次っ! 食らいなさいっ!」
「うくっ!……調子に乗らないで! Fire!」
『Burst Mode』
体勢を大きく崩した桜に向けて、更に追撃を加えるべく跳躍。足を振り上げ、空気を切り裂きながらの踵落とし……狙いは脳天!
しかし……そうそう簡単にやられてくれるわけでもなく、後少しのところで身を捩って躱す桜──しかし、完璧に躱す事は出来なかったのか、肩に命中……手応え有り!
踵落としを食らって片膝を付く桜だったが、腰部のユニットを手に取り、怒気を孕ませた声で再び音声入力。
私を払いのけて距離を取り、光弾を連射してくる。あんなの食らったら、身体に風穴が開いちゃうっての!
「ちょこまかと……! 往生際が悪いんじゃないですか、姉さん!」
「冗談! 簡単に殺られる気なんて毛頭無いわ!」
宝石魔術では連射力に劣る……だったら対抗する手段はガンドだ。
指を銃身に見立て、呪いの籠った魔力弾を連射する。……殺傷力という面では大きな隔たりがあるが、今はこれしか手が無い。
いくらなんでも弾が無限ということは無いだろうから、弾が切れた時の一瞬を狙うしかない。
そう広くない庭を駆け回りながら、ガンドを撃って牽制。
いつ訪れるかわからないチャンスを伺う。──左手にはサファイアを握りしめ、桜の動きだけに集中する。
「っ! 弾切れ!?」
「もらったぁ! Fünf! 凍れぇ!」
「しまった……!」
何発撃ったかは覚えていないが、弾切れになった時の致命的な隙。
桜の足目掛けてサファイアを投げつけ、魔力の開放と同時に冷気で桜の両足を凍らせる。
それほど時間は稼げないだろうが、その一瞬で十分。
大地を砕きながら猛ダッシュ……氷を割ろうともがく桜の足下に潜り込み──
「行くわよ! はっ! ここだっ! 飛んでけぇっ!」
「きゃああぁぁっ!?」
寸勁、回転足払い、回転肘撃ち、崩拳の四連続攻撃を桜に叩き込む。
無防備な状態で食らった桜は、悲鳴を上げながら吹き飛び、土蔵に激突してようやく止まる。
完璧な手応えだった……これ以上ない程の攻撃。
衛宮邸の中庭でなければもっと大掛かりな宝石魔術を使うことも出来るのだが、流石にそんな事をすれば家が壊れちゃうし……とにかく、今の私に出来る最高の一撃をお見舞いしてやったのだ。
デルタに変身しているとはいえ、中身はほぼ一般人の桜……これで勝負有り、かしらね。
そうして、倒れている桜に背を向ける。──その瞬間、にやり……と笑う草加の顔と驚愕する巧の顔が同時に目に入る。
風を感じて振り返った……その瞬間。
「きゃああぁっ!?」
「……痛いじゃないですか、姉さん。本当に痛いです。デルタになってなかったら死んじゃってましたよ……酷いなあ……」
「うぐっ……貴女、まだ……!」
「私は負けられないんです……自分の居場所を守るには、戦うしかないんです! 姉さんを倒さなきゃ、先輩の側にもいられない──!」
振り向いた私の目に入ったのは、唸りを上げて襲い来る桜の右ストレート。
もはや直撃する寸前、狙いは腹部──咄嗟に左手を盾にし、自ら後ろに飛んで威力を減らそうと試みるが、拳が当たって今度は私が吹き飛ぶ。
大地に何度も叩き付けられながら転がり、塀に激突──正直、ものすごく痛い。
盾にした左手は見事に折れちゃってるし、何度も地面をバウンドしたおかげで他の部分もがたがたときた。
たった一撃でこんなにまでなるなんて……なんて反則じみてんのかしら!
痛みを必死に堪えながら、ふらふらと立ち上がる……足下がおぼつかない……まずいわね。
今攻め込まれたら、私に桜の攻撃を避ける程の動きが出来るか怪しいものだ。
そして私の耳に届く桜の慟哭。
『Ready』
「ごめんなさい、姉さん。私、先輩の事だけは……譲れないんです。──Check」
『Exceed Charge』
「あうっ!……さ、桜……!」
桜が右手に持ったユニットにベルトのメモリーをセット──ファイズ同様の電子音声が流れ、銃身らしきものが伸びる。
そして、桜の言葉に反応して右手のフォトンストリームが輝き、エネルギーを供給する。
ヤバい。これってどう考えても必殺技よね……絶体絶命。
桜が撃った光弾が私に着弾。三角錐状の青白い光に拘束され、身動き一つ取る事ができず──
「ああああぁぁぁっ!!」
一瞬躊躇した桜だったが、咆哮した後に空高く跳躍──私に向けて蹴りを放つ。
あ……私死んだかも。
後書き
凛と桜の姉妹喧嘩の巻き……ただし凄く物騒な姉妹喧嘩。
デルタギアが本当に普通の人間でも扱えるかは微妙なところですが、まあこのSSでは大丈夫ということで。
本編でも啓太郎あたりが変身しようとしてくれてたら、はっきりとわかったんですけどね。
桜嬢は凶暴化……というよりも、情緒不安定な感じでイメージして下されば。
相当死亡フラグが立っているようで、感想でも色々と心配されていますが……鬱な展開にはなりません。
そういうのはあんまり好きじゃないんで……ハッピーエンド目指して頑張ります。
あ、草加さんのステータスも近い内に書きますのでお待ちを……