「ワシの本を読んで王を超えろ!!」。楽天・野村克也名誉監督(75)がアスレチックスに移籍した松井秀喜外野手(36)にエールを送った。年末年始に石川へ帰省した松井に星稜高校・山下智茂総監督(65)がノムさんの新刊書をプレゼント。それを聞いたノムさんは、ソフトバンク・王貞治会長(70)が37歳で放った50本塁打を打てとも。また、日本ハム・斎藤佑樹投手(22)について「佑ちゃん、ハムの子、みんなの子」と新作を披露してみせた。 (塚沢健太郎)
ノムさんは20日、昨年11月24日に発売された「野村の実践『論語』」(小学館)のサイン会を東京・八重洲ブックセンターで行った。
同書はノムさんの言葉の端々に、2500年前の中国の思想家・孔子の「論語」と重なる部分があると指摘されたことに端を発して著したもの。ノムさんは「これは出版社がつけたタイトルなんで、こんな大げさになると思わなかった。孔子先生が怒ってくるんじゃない?」と苦笑いするばかりだ。
サイン会の整理券100枚は、あっという間に配布終了。1時間半に渡って、1冊1冊丁寧に筆を走らせた。
松井の恩師である山下総監督は、毎年自身が読んだ本の中から面白かったものを松井に手渡している。今年も6冊をプレゼントしたが、そのうちの1冊が、この「論語」だった。
それを聞いたノムさんは「持って行くなら『野村ノート』の方がよかったのに」とポツリ。2005年10月に発売された「野村ノート」は野球に携わっている人を対象とし、「論語」はビジネスマンを対象にしているだけに、そう思ったようだが、もちろん「論語」も十分参考になる。
特に松井には「論語」の第4章「礼節を知り、徳を磨く生き方を学ぼう」、次に第1章「絶え間なき自己研磨が人間力を育てていく」を読んでほしいと薦めた。
ノムさんはヤクルト監督時代から、ライバルの巨人にいた松井に目をかけていた。1998年の球宴では巨人で3番だった松井を、セ・リーグの4番に起用。97年の最終戦では自軍のホージーを本塁打王争いで1本差で追う松井と全打席勝負し、不発に終わると本気で悔しがったものだ。
そんな松井も、今季はエンゼルスで21本塁打を放ったものの、不完全燃焼のシーズンに終わり、アスレチックスへ移籍。引退も意識しながら、6月に37歳となるシーズンに挑む。
しかしノムさんは「37歳だったら、もっと打たないと。37歳なんて、一番いいときだよ。それに我々のときとは時代が違う。食べ物は違うし、環境はいいから、まだまだ引退なんて考える年ではない。全然できるよ」と太鼓判を押す。
ノムさんは今年の松井と同じ37歳だった72年、最後の本塁打30本以上となる35本を放ち、最後のタイトルとなる打点王を獲得しているのだから、この言葉には説得力がある。
ところが松井に課したノルマは、36本塁打の「野村超え」ではなかった。
「王が37歳のときぐらい打たないとアカン。まぁ、オレの値打ちを下げたのはアイツだけどな。全部記録を王に抜かれて2位になった。こういうのを負け惜しみと言うんだけどな」とエールを送る。
ソフトバンク・王貞治会長(70)が37歳だった77年のシーズンは、ハンク・アーロンを超える756本塁打を打った年。50本塁打、124打点の二冠王となり、MVPを獲得した。
松井がメジャーで30本塁打を記録したのは、31本打った04年の1度だけだが、まだ50本塁打を打つパワーは残っているとみている。
もっとも「日本とメジャーでは優先順位が違う。日本では打つだけでも評価されるが、メジャーはまずは足、守備。そして打撃。みんなそろってないと。打撃がよければ、守備は目をつぶるというのは日本だけ」と松井の厳しい立場は十分に理解している。
果たして「論語」を読んだ松井が、今季どんな成績を残すのか。ノムさんも興味津々で見守っている。