終わらない夏の1日。循環する世界と5人の女性。絡み合う人の心を解き明かし、モラトリアムから抜け出すことができるのか。
健全な男子高校生とは思えない、哲学者か修行僧のような主人公
『Prismaticallization』。“Prism”に多彩な接尾語を長々とくっつけた造語タイトルに、初見のプレイヤーを突き放す前衛的なシステムとシナリオを伴って世に送り出された本作は、ギャルゲーというジャンルがひときわ脚光を浴びていた発売当時はユーザーに受け入れられず、長らく正当な評価が得られずにいた。
もっとも、自業自得としか言いようがない面もある。
まず、ゲーム全編を通して常に、長いモノローグで小難しい理屈をこねまわす主人公。例えばゲーム開始直後、幼なじみの女の子と荷物持ちのジャンケンをして負けた彼は、心中でこうつぶやく。
「グーで負けた。グーで負けるというのは、保守的なために敗北したかのような、苦い後悔が残るものだ。しかし、(省略159文字)……これは、仕組まれた巧妙なワナだったのだ。」
いやいや、そこはつべこべ言う前に黙って荷物を持ってあげるのが、ギャルゲー主人公としてあるべき姿なのではないか? しかしてこの主人公は、あらゆる物事に対してこんな調子で延々と、愚痴とも屁理屈ともつかない哲学的な思考をウィンドウに垂れ流すのだ。他に、ペンションで出会った女の子たちとバドミントンで勝負するイベントがあるのだが、そこでも彼は、躍動する少女の若い肢体などには目もくれず、相手のプレイスタイルを冷静に分析し、なぜか本気で勝ちに行こうとするのである。
とにかくこの主人公、尋常ではない。このゲームでは文中の一人称を『俺』から自由に変更することができるのだが、その高校生らしからぬ老成ぶりと枯れ果てた思考からは『小生』『我輩』『拙僧』などが最もしっくりと当てはまり、ファンの間でも使用が推奨されているという。
▲幼なじみとは言え、疎遠だった主人公を泊まりの旅行(しかも相部屋)に誘う明美。そこにはある理由が隠されているのだが、「主人公がモテモテだから」という理由には決してならないのがは本作らしい | ▲ペンションに宿泊している女子高生2人組。頭部の2本のヒートロッドが特徴の澄香と、読書好きのお嬢さまタイプの雪乃。仲の良い親友のようだが……? |
難度も繰り返し、循環する閉ざされた時間の中で
本作のシナリオのもうひとつの大きな特徴は、『循環(サークレイト)アドベンチャー』というジャンル表記が示すとおり、いわゆる「ループもの」のアドベンチャーであるということだ。しかし、それらの作品の多くでループの原因や目的となるような重大な事件は、このゲームの中では起こらない。避暑地のペンションで展開される、何気なく、ありふれた夏の1日。それが、ある時刻を迎えた瞬間、翌朝のシナリオの途中でぶっつりと切れ、何の説明もなく最初の画面に戻される。初めて見たときは思わず「え、バグ!?」と思ってしまうほどだ。
循環から抜け出すカギは、『記録』と『解放』という独特のシステム。簡単に説明すれば、天候や物品の所持などの"フラグ"を記録しておいて、ループした次の周に持ち越して再現するという仕組みである。このシステムを理解するまでの本作は、まるで見えない迷路を手探りでさまよっているようなもの。そして理解してからは、自分が望む展開に向けてフラグを組み合わせていく難解なパズルとなる。
▲デカルトなどの哲学用語を引用する末恐ろしい小学生、琴原みゆ。さらに破壊力絶大のこのセリフ。誓って言うがやましいことはしていないぞ | ▲本作独特の『記録』システム。この内容が次回のプレイ時に自動的に反映される。ノーヒントで完全攻略しようと思ったら数百回は循環プレイしなければならないかもしれない |
プリズムに封じられた些細な過去のカケラが現在を変える
一般的なアドベンチャーゲームの選択肢とは、主人公の言動により他者の感情に影響を与えるか、主人公みずから場所を移動してイベントのキッカケを作るか、大別すればほぼこの2種類しかないと言っていい。
しかし本作のフラグは、「午後から雨が降るかどうか」など、自然や物の状態を示すものが多い。そういった、本来は人の手では変えられない"事象"によって人の行動が左右されるということ、そして些細な行動や言葉のすれ違いが、人の心を歪め、関係を崩していってしまうということを、繰り返す時間の中だからこそ、痛いぐらいにハッキリと突きつけてくるのだ。常に受動的で、あきらめにも似た感情を抱く主人公の態度がその感覚に拍車をかける。
そしてまた、その循環を主人公が最後まで自覚していないというのも珍しいパターンだ。
それゆえ出来ることと言えば、プレイヤー目線からの介入によりわずかに事象を変えうるのみで、そんなわずかな介入の積み重ねだけで迷路の出口にたどりつかねば本当に延々と循環を繰り返すだけになってしまう。
そして到達したエンディングでも、謎の解決はプレイヤーの想像に委ねられ、たとえ時間の循環を抜けたところで、その後も試練と苦悩を繰り返す人生が誰の前にも等しく続くことを暗示して終わる。
そこに救いはないのだろうか。
この短くも果てしない夏の1日の中で得た、少女のささやかな笑顔が、その答となってくれるかもしれない。
▲ストーリーの本筋とは関係のないおまけルートの水着イベント。誰が水着になるかはランダム要素やそれまでのフラグが関係し、撮影用のプレイで偶然みゆになってしまっただけであり、決して拙僧にそういう趣味があるわけではない。ほ、本当だっ | ▲レビューだから見栄えの良い場面ばかりを選んで掲載しているが、それだけに惑わされてはならない、とあえて言っておく。ゲーム中の大半はこのように鬱々とした厭世的なテキストだ |
【Text=白川嘘一郎】
(C)ARC SYSTEM WORKS
【スペック】
■PlayStation3 / PSP オンライン配信(アーカイブス)
■アークシステムワークス(株)
■アドベンチャー
■2007年08月30日 配信開始
■600円(税込)
(元スペック)
対応機種 プレイステーション/ドリームキャスト
発売元 アークシステムワークス(SuperLiteを除く) サクセス(SuperLite)
発売日 1999年10月28日(PS) 2000年8月24日(DC) 2002年12月12日(SuperLite PS)
ジャンル サークレイト・アドベンチャー
レイティング 全年齢対象
【攻略ポイント】
独特の魅力があることは間違いない本作だが、適当にプレイしているだけではいつまでも循環から抜け出せないまま、面白さに気付くことなく投げ出してしまうかもしれない。 それもまたもったいないことではあるので、無粋ではあるが以下にいくつかのヒントと、さらに各エンディングまでの最短ルートを掲載することにする。
★『記録』を選択するタイミングでスタートボタンを押しメニューを開くと、【秘密の示唆】という項目が現れ、ヒントを確認することができる
★カード関連の記録は、おまけルート用で、本筋には影響しない。
★午後の天候はランダム。狙ったルートに入れない場合は天候が原因であることが多い。
【山荘への電話】を記録することで意図的に雨にすることもできるが、記録領域が足りない場合もあり、前日のセーブからやり直したほうが手っ取り早い。
◆澄香・雪乃・明美 共通
0周目 『記録』謎のオブジェを入手 【セーブ】
1周目(雨) 『解放』謎のオブジェを入手 『記録』午後から雨天 『記録』山荘への電話
2周目 『記録』自分の荷物を背負う明美 『記録』開放された部屋の錠 『解放』午後から雨天 『解放』山荘への電話 『記録』澄香の居場所
3周目 『解放』自分の荷物を背負う明美 『解放』開放された部屋の錠 『記録』バドミントンの技術
4周目 『記録』自分の荷物を背負う明美 『記録』 開放された部屋の錠
5周目 『解放』自分の荷物を背負う明美 『解放』開放された部屋の錠 『解放』バドミントンの技術 『記録』転倒する雪乃 【セーブ】
6周目(雨) 『記録』午後から雨天 『記録』山荘への電話
7周目 『記録』自分の荷物を背負う明美 『解放』午後から雨天 『解放』山荘への電話 『解放』澄香の居場所
8周目 『解放』自分の荷物を背負う明美 『解放』転倒する雪乃 9周目 『記録』自分の荷物を背負う明美 『記録』開放された部屋の錠 【セーブ】
10周目(晴) 『解放』自分の荷物を背負う明美 『解放』開放された部屋の錠 『記録』部屋に来る澄香 『記録』澄香と遭遇 【セーブ】
▼鳴川澄香ED
11周目(雨) 『記録』自分の荷物を背負う明美 『解放』部屋に来る澄香
12周目 『解放』自分の荷物を背負う明美 『解放』澄香と遭遇
▼沢村雪乃ED
11周目(晴) 『記録』自分の荷物を背負う明美 『記録』開放された部屋の錠 『記録』雪乃と遭遇 『解放』部屋に来る澄香 『解放』澄香と遭遇 12周目 『解放』自分の荷物を背負う明美 『解放』開放された部屋の錠 『解放』雪乃と遭遇
▼柊明美ED
11周目(晴) 『記録』澄香の本の所持 『解放』部屋に来る澄香 『解放』澄香と遭遇
12周目 『解放』澄香の本の所持
◆みゆ・さより 共通
0周目 『記録』謎のオブジェを入手
1周目 『解放』謎のオブジェを入手 『記録』自分の荷物を背負う明美
2周目 『解放』自分の荷物を背負う明美 『記録』片付け進行状況 『記録』山林中の気配 【セーブ】
3周目(晴) 『記録』自分の荷物を背負う明美 『記録』開放された部屋の錠 『解放』山林中の気配
4周目 『解放』自分の荷物を背負う明美 『解放』開放された部屋の錠
5周目 『記録』自分の荷物を背負う明美 『記録』木の幹に付いた傷 『記録』開放された部屋の錠
6周目 『解放』自分の荷物を背負う明美 『解放』木の幹に付いた傷 『解放』開放された部屋の錠
7周目 『記録』自分の荷物を背負う明美 『記録』開放された部屋の錠
8周目 『解放』自分の荷物を背負う明美 『解放』開放された部屋の錠 『記録』みゆとの会話内容 【セーブ】
▼琴原みゆED
9周目(雨) 『記録』午後から雨天
10周目 『記録』自分の荷物を背負う明美 『記録』開放された部屋の錠 『解放』午後から雨天
11周目 『解放』自分の荷物を背負う明美 『解放』開放された部屋の錠 『解放』みゆとの会話内容 『記録』みゆとの会話内容 『記録』みゆとの会話内容
12周目 『解放』みゆとの会話内容
▼木ノ下さよりED
9周目(雨) 『記録』自分の荷物を背負う明美
10周目 『解放』自分の荷物を背負う明美 『記録』酒の発見 『記録』山林中の気配 【セーブ】
11周目(雨) 『解放』酒の発見 【セーブ】
12周目(晴) 『解放』山林中の気配