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2011年1月21日(金)付

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米中首脳会談―次の30年を見据えて歩め

対立は対立として認めて、関係修復を演出する。双方の思惑どおりの首脳会談だった。ホワイトハウスの庭に礼砲がとどろき、国賓として米国を訪問した中国の胡錦濤(フー・チンタオ)[記事全文]

日中GDP逆転―共に豊かさを問う時代

経済力の指標が3位から2位になる中国の姿は、約40年前の日本と重なる。躍進の中で、豊かさを問い直すうねりも本格化するだろう。「くたばれGNP」という連載を朝日新聞が始め[記事全文]

米中首脳会談―次の30年を見据えて歩め

 対立は対立として認めて、関係修復を演出する。双方の思惑どおりの首脳会談だった。

 ホワイトハウスの庭に礼砲がとどろき、国賓として米国を訪問した中国の胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席は、最大限の歓迎を受けた。オバマ大統領は家族と暮らす居住棟での夕食にも招いた。

 今回の訪米を、オバマ氏は「今後30年間の基盤を作りうる」とたたえた。米中両国が国交樹立した1979年にトウ(トウは登におおざと)小平(トン・シアオピン)氏が訪米し、以後30年余の関係を築いた。その歴史に習おうというのだ。胡主席も「前向きで協調的、かつ包括的な関係を進める」と語った。

 発表された共同声明は、宇宙開発の協力からスーダン和平まで41項目にわたる。だが、オバマ大統領が09年秋に訪中した際のような米中主導(G2)時代の到来を唱える声は聞こえてこない。この間の米中関係は、きしみばかりが目立った。

 オバマ政権は発足当初、中国との「戦略的信頼の確立」を掲げ、中国が「責任ある大国」としての役割を果たすことに期待を寄せた。

 しかし、米国が思い描いた図式に、中国は簡単には乗らない。気候変動問題では「途上国の立場」に回り、米国の意気込みは空振りした。オバマ政権が台湾への武器売却の方針を維持したことには、報復措置をとった。

 今回の会談でも、人民元切り上げや人権問題は平行線のままだった。胡主席は「お互いが選んだ発展の道筋と核心的利益を尊重すべきだ」と、原則的な姿勢を変えなかった。

 それでも、共同声明は北朝鮮のウラン濃縮計画に「懸念」を明記した。人権対話も再開される。小さい一歩だが、前進と評価したい。

 価値観や政治体制が異なる国が協調するのには、おのずから限界がある。急速に台頭する大国と、長年ナンバーワンの大国が、ライバル関係になるのは当然かもしれない。同時に、両国は急速に相互依存を深めつつある。多様な利害が絡まり合う「複雑な関係」(オバマ氏)だから、トップ同士で共通の利益を確認しあう必要がある。

 オバマ氏は「中国の平和的台頭は米国や世界にとって良いことだ」と述べた。ここでいう「平和的台頭」路線を打ち出したのは胡主席である。だが、空母の建造など軍備増強を進める意図は不透明だ。協調路線を歩む決意を、中国は行動で示すべきだ。成長を維持するには、平和な環境が絶対条件ではないか。

 超大国が食糧やエネルギーの争奪戦を繰り広げたのでは、地球の資源はもたない。核軍縮から温暖化対策まで、米中両国が協力しなければ対応できない課題は多い。30年先を見据えて、グローバル時代の超大国として信頼を集める関係を築いてほしい。

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日中GDP逆転―共に豊かさを問う時代

 経済力の指標が3位から2位になる中国の姿は、約40年前の日本と重なる。躍進の中で、豊かさを問い直すうねりも本格化するだろう。

 「くたばれGNP」という連載を朝日新聞が始めたのは、1970年5月だった。いざなぎ景気の終末期。大阪万博が開かれていた。

 その2年前に国民総生産(GNP)で西ドイツを抜き自由経済圏で2位に躍り出た。浪費、公害、過労、過疎など成長の暗部をえぐった連載の初回には「ほかに社会の豊かさをはかる物差(ものさし)はないのか」とある。

 間もなくニクソン・ショック、石油ショックに見舞われて日本経済は減速。所得倍増論のプランナー下村治氏は「環境が変わった以上、ゼロ成長しかない」と喝破した。だが、為政者も国民もそこまで達観できず、国債増発や土地の高騰まで甘受しつつ成長にこだわった。その指標は、93年から国内総生産(GDP)になった。

 旧ソ連を抜いて世界第2位になる一方でバブルが崩壊。公共事業に偏った景気対策の連発や税収不足などで国債は増発の一途をたどる。残高は今やGDPの2倍に近い。

 成長力が弱く、デフレから抜けられない。「成長戦略」はできたが、その効果はあいまいだ。経済全体のパイを大きくするだけでなく、生活の質や安心こそ大切ではないか、との問いは膨らむばかり。だが、それに答えるはずの税財政、社会保障の抜本改革は、いっこうに進まない。

 こうした日本の状況は、中国の人々が今後の進路を考える上で大いに参考になるに違いない。

 中国のGDPも1人当たりでは日本の10分の1だが、ここまで来ると生活の「質」への要求が高まる。自動車が飛ぶように売れる半面、自由や公正、環境、安心への要求が政治を揺さぶることは日本で経験済みだ。政治への圧力を和らげるためにも、中国は年8%以上の高度成長を維持しようとしているようである。

 中国はいずれ経済超大国になろう。だが、格差の拡大や非効率な投資、環境汚染など経済のひずみが蓄積され、日本のようなバブル崩壊から停滞に陥る恐れもある。だからこそ、高い成長を追い求めるだけでは危うい。

 国民生活の安定を図り、均衡のとれた発展の道を歩むことが必要だ。それには政治と経済の両分野にわたる民主化が避けて通れない。共産党と政府が経済運営の全責任を負う方式を改め、企業の自律や個人と家計の選択の自由を拡大することだ。

 真の豊かさとは何か。日本が答えあぐねてきた問いを、中国もまた自問してゆくのだろう。その先に、成熟へ向かう中国と日本、そして世界の新しい関係が描かれる。

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