ここから本文です。現在の位置は トップ > 地域ニュース > 千葉 > 記事です。

千葉

文字サイズ変更

老いの未来図:介護・医療の現場で 「お泊まりデイ」 施設退去、恐れる日々 /千葉

 ◇86歳母預け4カ月 60歳男性、他に選択肢なく

 60歳の男性は、その施設を「頼みの綱」と言った。アパートで同居していた86歳の母親を、4カ月前「お泊まりデイ」に預けた。認知症で現在の要介護度は最高レベルの「5」。助けを求める親族はおらず、地域の支え合いも見いだせない。月20万円の収入で選択肢はなかった。「施設があるからどうにか暮らせる」。しかし、症状が今より悪化すれば退去を求められるかもしれない--。男性は日々、おびえながら暮らしている。【森有正】

 男性は独身で、兄弟姉妹はいない。老母の面倒を見るため、6畳一間に小さな台所のついた県中央部のアパートで7年前から同居。部屋に母親を残し、都内へ通勤してきた。長年勤める繊維関連会社は不況の影響で、十分な給料が望めない。

 母親の“異変”に気づいたのは、昨年春ごろ。突然、大声を上げる。他人とうまく意思疎通ができない。認知症だった。日中、母親を一人で置いておくのが難しくなった。

 頼れる親族も、相談できる地域の友人もいない。7月ごろ、病院や介護施設のリストを役所でもらい、仕事の合間に、わらにもすがる思いで預け先を探した。本当は特別養護老人ホームのような施設に預けたい。だが、ある特養は数百人が入所待ち。ある民間有料老人ホームは月々の費用が30万円以上。男性の収入のうち介護費用に充てられるのは月8万円が限度で、工面できる額ではなかった。

 9月ごろ、ケアマネジャーから教えられたのが、民家を転用した県中央部のデイサービス施設だった。民間業者が運営し、日中は介護保険でデイサービスを実施。夜間は介護保険外の自主事業として利用者を宿泊させている。宿泊費は、朝夕2食の食費を含め、1泊当たり千数百円。

 男性は、施設のデイサービスと宿泊サービスを組み合わせ、母親をすでに4カ月間預けている。アパートに連れて帰るのは週1日ほどだという。

 男性は言った。「仕事を続けながら、年老いた親を支えるのは至難の業。周りにも、介護が必要な親を託せるところがなく、仕事を辞めた人がいる。自分はまだ恵まれているほうです」。しかし、こうも言った。「母親の症状がひどくなり、いつ施設から退去を求められるか不安だ。退去させられたら、預け先を再び見つけられるだろうか」

 取材の途中、男性がふともらした言葉が耳に残る。「母親は私が働いて支え、看取(みと)る。でも、自分を支えてくれる人はいない」

 ◇介護の質、疑われる例も 識者「本人より家族ニーズ優先」

 日帰りを原則とするデイサービス施設が利用者を宿泊させる「お泊まりデイ」。これが今、全国に広がっている。県内では空き民家で高齢者を預かり、建物のドアや道路に面した門扉をチェーンなどで厳重に施錠していた施設もあるなど、一部で介護の質を疑わせるケースもあり、福祉関係者の間に懸念する声が上がっている。

 デイサービス施設は、利用者の健康維持や家族の負担軽減を目的に、食事や排せつの介助や機能訓練などの介護サービスを提供。原則は通所(日帰り)だが、介護保険制度外の自主事業として利用者を宿泊させる施設が急増している。

 県北西部の施設ではドアなどを施錠し、福祉関係者から「火災時に避難の妨げになりかねない」と不安視されていた。施設側は「認知症の利用者が外に出て事故に遭わないための措置」と説明。毎日新聞が取材した直後に施錠を解除した。

 こうしたケースを含む「お泊まりデイ」の実態について、県の政策立案に関与した経験のある福祉の専門家は「認知症者の介護スキルが低いため施錠が必要なのだろう。利用者本人より家族のニーズが優先され、介護ではなくビジネスだ」と指摘。「宅老所など小さな施設を地域に分散させ、住民らで支える仕組みを早急に築くべきだ」と話す。【森有正】

==============

 介護や医療など高齢者を取り巻く問題について体験談や情報、意見、記事への感想、要望をお寄せください。宛先は〒260-0026千葉市中央区千葉港7の3毎日新聞千葉支局「老いの未来図」取材班。ファクス043・247・0508、電子メールchiba@mainichi.co.jp

毎日新聞 2011年1月17日 地方版

PR情報

千葉 アーカイブ一覧

 
地域体験イベント検索

おすすめ情報

注目ブランド