「大相撲初場所12日目」(20日、両国国技館)
右肩には痛々しい治療痕が無数に残っていた。それでも右上手さえとれば、198センチ、186キロの把瑠都でさえも封じ込めてしまう。相手の左腕を手繰り、左四つで寄り切る魁皇ならではの相撲で、通算100場所勝ち越しの金字塔を打ち立てた。
幕内在位105場所と幕内勝ち星866勝は歴代1位。魁皇にとって、「勝ち越し100場所」は多数保持する記録の一つにすぎない。「(勝ち越しは)意識したことない」とつぶやき、節目の数字を知らされても「そりゃまたキリがよくていい」とまるで人ごとのような反応だった。
しかし、この日の土俵に立つまでには、人知れず努力を重ねていた。前夜は約2時間もの治療を要した。病院で痛み止めの注射を打ち、ハリを患部に打ち続けた。「全然動かせないくらいに痛かった」と、不安を抱えたまま朝を迎えたが、辛うじて肩が回せるまでに痛みは和らいでいた。
前日の玉鷲戦では取組後に激痛から顔をしかめた。「自分のまわしをたたくだけで痛かった」という状態からひと晩での回復を強いられる、綱渡りの土俵が続いている。師匠の友綱親方(元関脇魁輝)は「長くやるだけでもすごい。ここ2、3カ月は気迫が出ている」と奮戦する愛弟子を見守る。
千代の富士が持つ通算勝利記録1045勝まであと11勝。高見山の幕内出場1430回の記録にはあと14に迫った。来場所は2つの大記録達成が視野に入る。記録の話題になると「余計なことは考えない」と答えるのが口癖になった。今はただ、一日一番を貫くだけだ。