中国が日本を抜き世界第二位の経済大国に躍進しました。巨大市場の成長に期待が高まりますが、総合国力の充実には隣国として不安もあります。
中国国家統計局が二十日、発表した昨年の国内総生産(GDP)はドル換算で約六兆ドルに達し日本の見通し約五兆四千億ドルを上回りました。一人当たりGDPにすれば世界でも九十位以下ですが、富裕層は一部とはいえ数千万人に達し、購買力の発展は目を見張るものがあります。
国防費も二十一年連続で二けた成長させアジアで断トツの軍事大国になりました。最近では東シナ海などの海洋権益問題で、ナショナリズムを背景に力にものを言わせる姿勢も見せています。
米国頼みでは危うい
昨秋、尖閣諸島の日本領海で起きた中国漁船と海上保安庁巡視船の衝突事件では、中国が資源や経済力を武器に対抗措置を取ると、日本は逮捕した漁船の船長を釈放せざるを得ませんでした。
尖閣事件で中国との国力の差を思い知らされ「アジア重視」「緊密で対等な日米関係」を掲げてきた民主党政権がすっかり弱気になり、米国を頼るようになったのは、わからなくもありません。
米国も「尖閣は日米安保条約の適用範囲」(クリントン国務長官)と中国をけん制する発言を繰り返し期待に応えてくれました。
しかし、「対中コスト」も日本に要求し政権交代で民主党が掲げた、在日米軍経費を負担する「思いやり予算」を見直す案は、どこかに消えてしまいました。現実には、中国との関係は米国に頼っていれば日本は安心というほど一筋縄ではいきません。
中国の胡錦濤国家主席が米国を公式訪問しています。中国は台湾に対する米国の武器売却に猛反発し、米国は中国の海洋進出に軍事力を見せつけ対決しました。
内憂外患抱える米中
獄中でノーベル平和賞を受賞した劉暁波氏の釈放を米国は公然と要求し人権をめぐる対立も深刻です。しかし、オバマ大統領は胡主席を国賓として歓待し私的に夕食もともにして話し込みました。
「建設的なパートナーシップ」を掲げた共同声明は地球規模の安全保障や経済のバランス回復、温暖化問題で協力することをうたいクリーンエネルギーの共同開発など具体策も盛り込んでいます。
米中とも相手に激しく反発する国内勢力や同盟国を抱えています。胡主席の訪米に先立つゲーツ米国防長官の訪中では中国軍は胡主席との会談に合わせステルス型戦闘機の飛行実験を強行し米国を威嚇しました。胡主席は実験を知らされていなかったといいます。
両首脳とも内憂外患を抱えるからこそ、意見交換は重要で長時間にわたります。常識で考えて、日本という一国、ましてや、尖閣問題のために自らの国益を犠牲にしたり、米中戦争のリスクを冒すことは考えられません。
日本の政治家や国民が「日米関係さえうまくいっていればいい」と思い込み、努力を怠っていたら米中は日本を軽んじるばかりでしょう。昨年末、発表された「新防衛大綱」が旧ソ連に備え北海道に集中していた自衛力を、南西方面に展開する方針を打ち出したのは努力の一歩かもしれません。
しかし、中国の動向に「懸念」(新防衛大綱)を表明するだけでは不信を買うだけです。海洋進出を抑止するだけでなく中国との対話を深め、協力を求める姿勢を打ち出すことが欠かせません。
菅直人首相は二十日、都内で行った外交演説で日米安保体制の強化とともに「広範な分野で日中の戦略的互恵関係を深めたい」と述べました。今年が清朝を倒しアジアで初の共和制を目指した辛亥革命百年に当たるのを機に、日中関係を発展させたいと考えていると聞きます。
確かに辛亥革命には多くの日本人が身命を賭して協力しましたが、首相が志士たちの偉業を受け継ぎ何をやるのか、必ずしも鮮明ではありません。
中国の海洋権益確保の衝動が強まる背景には、経済成長に伴うエネルギー消費が日本の数倍を要する粗放的発展があり省エネ環境技術は大きく立ち遅れています。
日本の協力は不可欠
環境と調和し国際的にも協調できる発展の実現のため日本が協力できることは少なくありません。
日米は二月の外務・防衛閣僚の安全保障協議委員会(2プラス2)、三月の菅首相訪米を通じ、中国の台頭をにらんだ同盟強化を目指しています。しかし、日中間には昨秋、横浜で行われた二十二分間の菅首相と胡主席の会談以降、首脳が意思疎通する機会がなく相互不信が強まるばかりです。
不信感を減らせる早期の対話実現と、協力の具体策の提案こそ日本に問われているのです。
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