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きょうの社説 2011年1月21日
◎金沢港の機能強化 投資に見合う波及効果を
金沢港の国際コンテナ貨物取扱量が昨年、過去最多を記録し、16年ぶりに輸出超過に
なったことが県のまとめで分かった。リーマン・ショック後に落ち込んだ輸出企業の業績が回復したのが大きな要因だが、金沢港が好調を持続するうえで、より重要な変化は、地元企業が積み出し港として活用する動きがこの1年で加速したことである。港は地域経済とつながっているのが本来の姿だが、今までは企業も神戸や大阪など太平 洋側に貨物を運び、県内企業が輸出で金沢港を使う割合は3割に満たない状況が続いてきた。 それが大水深岸壁の整備に伴いコマツが金沢工場を後背地に建設し、同社や業界団体が 旗振り役となって、一昨年から貨物船を共同チャーターする合い積み輸送が始まった。貨物拡大で船便が増える好循環も生まれてきた。今年はこれらの取り組みを軌道に乗せ、地域経済の「玄関口」としての潜在力をさらに引き出す必要がある。 県は新年度、クレーンの増設や用地のかさ上げなどで荷役の処理能力を高めるが、港湾 活性化の道筋が見えてきた今、機能強化を既存の輸出企業のインフラ充実という側面のみならず、産業集積につなげる視点が大事である。金沢港周辺に整備された工業用地も企業立地が思うように進まず、後背地の活用は十分とは言い難い。 港への公共投資は、港湾活用型企業の経営を安定化させ、新たな設備投資や雇用拡大を 促すとともに、企業を誘致して地域経済を活性化させる狙いがある。機能強化の恩恵を、幅広く地域全体に行き渡らせる戦略が求められている。 民主党政権は港湾政策でも「選択と集中」を打ち出し、新たに「日本海側拠点港」を選 定する方針である。昨年はアジアのハブ港をめざす「国際コンテナ戦略港湾」として京浜、阪神の2港湾が選ばれたが、日本海側の場合、太平洋側と同じ発想では困る。 日本の輸出入貨物は太平洋側に集中し、日本海側の取扱量は1割程度にすぎない。そう した現状が変わる兆しがようやく見えてきた段階である。地方経済を支えるという視点を忘れないでほしい。
◎阿久根市長問題 熟考したい自治法改正
鹿児島県阿久根市の竹原信一前市長が議会を招集せずに専決処分を繰り返し、リコール
に発展した問題が、地方自治法改正論議に大きな影響を与えている。総務省は地方分権時代に備えて地方自治法の抜本改正をめざしているが、阿久根市長問題で議会招集権を議長にも与えることや、自治体に違法行為があった場合の国の権限強化などが同法改正の焦点に急浮上した。首長だけでなく議会側にも議会招集権を付与すべきという声はかねて出されており、議 員が自ら議会を招集できないのは地方自治の二元代表制の本旨に反するという主張は一理ある。が、竹原前市長のケースは極めて非常識で特異な例であり、この問題を一般化して一足飛びに法改正をしようというのは短絡的に過ぎよう。 議会招集権を持つとなれば、本会議に提案する条例などの議案を自ら企画立案する能力 が議会側に必要なことも認識しなければならない。二元代表制の見直しなど地方自治法の改正は深い議論が必要であり、熟考を重ねたい。 議会招集権に関しては、2006年の地方自治法改正で、議員側に臨時会の招集請求権 が認められた。議会運営委員会の議決を経て議長が請求した場合、あるいは議員定数の4分の1以上の議員から請求あったとき、首長は20日以内に臨時会を招集しなければならないと定められたのである。 この規定も無視して議会を開かなかった竹原前市長の態度は論外であり、出直し市長選 で落選したのは当たり前といえる。しかし、議長にも議会招集権を認めるかどうかの議論は別であり、まず、全国の地方議会で臨時会の招集請求権が実際にどれだけ行使されているか検証する必要があろう。 また、法令違反とみられる自治体が国の是正要求に従わない時、国が違法確認を求めて 提訴できる改正案が検討されているが、これも竹原前市長の例をもって、すぐに了とするわけにはいくまい。分権改革に伴う地方自治法の改正は広域連携、住民投票の在り方など多くの問題があり、まさに熟慮、熟議が必要である。
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