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[24842] もしドラッカーのマネジメントを理解できない女子高生が何かを始めたら
Name: みにドラ◆54d6b523 ID:6f465369
Date: 2010/12/10 21:15
TVや新聞の報道で話題になった著者の本を購入したはいいが、
よく内容を理解出来ずに途中で投げ出すといった経験を、一度や二度くらいならした事がないだろうか?

小さなベッドから掛け布団を蹴り落としながら、おヘソを出しながら小さな寝息を立てている少女も、
そんな経験を何度かしており、小学生の頃に両親に買い与えられた勉強机の上には、
途中で投げ出された何冊かの本が無造作に置かれていた。






「おはよう、ユキ!その寝癖を見ると、ちゃんと買った本を読み終えたみたいだね」


眠そうな顔をして教室に入って来た宮下ユキに最初に声を掛けたのは、幼稚園に入る前からの友人の河合恵美だった。
そんな彼女に対し、ユキはそっけなく『まーね』とだけ返し、さっさと自分の席へと座る。

さっぱり理解できない本を読もうとして、夜遅くまで起きていたユキは朝のHRから一限目一杯まで、
寝不足解消のために費やすと決めていたのだ。
固い机がまくらの代わりなのが難点ではあったが、
自分に襲い掛かってくる強い眠気の前では大した問題にはならなさそうであった。

自分の前の席で、堂々と授業中に眠る親友の姿に呆れながら、
それをやさしく微笑みながら見守る恵美は、ユキが買った本を途中で投げ出したことなど、とっくにお見通しであった。
親友が自分に対して素っ気無い態度を取るのは、自分に対する何かしらの弱みがあるときと、恵美は昔からの経験則で知っていたのだ。

一緒に書店に行った際、専門書を買うのはまだ早いのではと疑問を呈した自分に対し、
ユキは『ドラッカーなんて楽勝、楽勝♪』と大見得を切った手前、途中で読むのに挫折したなどとは、口が裂けても言えなかったのだ。


ちょっぴり意地っ張りで、分かり易い親友を優しく見守る少女は、
ユキがこれから起こす、ちょっとした奇跡の一番の協力者となって、彼女を支えていくことになる。





ユキと恵美が通う県立西里高校は、県内ではそれなりの進学校として認知されており、殆どの生徒は卒業後に大学へと進学している。
ただ、学業面の方では、それなりの人数の卒業生を有名大学へと送り出して一定の成功を収めている西里高校であったが、
部活動などといった課外活動では、全国大会出場、大臣賞の受賞等々の輝かしい成果とは無縁で、
在校生達は趣味程度に課外活動を行うだけの者が大半で、
有名大学への進学率を気にする学校や在校生の親達は、それを是としていた。


とりあえず勉強はしっかりやって、後の事はそこそこにやる。
それが、大した特徴の無い西里高校の校風と言えば、校風であった。

この、よく言えば平和、悪く言えば退屈な日常を変えたい。毎日を楽しい日々に変える。
これが、高校入学から一ヶ月たったばかりの宮下ユキの掲げた『目標』だった。

次に目標を立てた少女は、それを達成するためには、どうすれば良いのか思案し、
全く良い方法が頭に浮かんでこなかったので、頼りになる親友に助言を求めることにした。



「『毎日を楽しい日々に変える』か、ユキは相変わらず面白いこと思い付くね」

「ね..じゃないよ!私は真剣にこの目標を達成するために考えて悩んでるんだからっ!」

「ごめん、ゴメン。あんまりユキが一生懸命に話すから
 つい、おかしくなっちゃって、私も一緒に考えてあげるから機嫌直して、ね?」


久しぶりに素っ頓狂なことを言い始めたユキの一生懸命な姿の微笑ましさに
ついつい笑みを溢してしまった恵美は、頬を膨らませて怒っているアピールをする親友の機嫌を直すため、
ユキの『毎日を楽しい日々に変える』という目標達成のため、全面的に協力することを約束する。
この申し出に対し、ユキは渋々許してやるかといった風を装うのだが、滲み出てくる嬉しさを、全く隠しきれていなかった。


こうして、一人から、二人へと人数を一気に二倍に増やした目標を達成するために結成された『組織』は、
目標達成のため、『何をすべきか』を話し合うべく、人も疎らになった放課後の職員室で初めての『会議』を行うことにした。


「毎日を楽しい日々に変えるためには、先ずは何が
 ユキにとって楽しいか、それを知る必要があると思うの」

「恵み、違うよ。私と恵美にとって楽しいことを知る必要があるんだよ」


『組織』が『目標を達成』する事によって得られる『成果』は、
組織を構成する者が『共有』出来るものであることが望ましい。
そんな小難しい考えをユキが頭に浮かべたわけでは決して無い。
ただ、いっしょにやるのなら、皆で楽しくなりたいという気持ちが彼女の発言に強く現れただけである。
そして、その発言の効果が万金に値する事にも気付くことは無い。

最初は面白半分に付き合っていた筈の恵美は、会議が始まった早々に『高い意欲』を持って、真剣に最初の議題へと取組む。
『労力』に対して『対価』を与えない組織は、どのような目標も実現する事は出来ない。
また、『対価』は必ずしも金銭等の物質的な物である必要は無い。
組織や『組織のトップ』から与えられるポストや責任、信頼や感謝の言葉も状況によっては、金銭に代わる物となるのだ。





「とりあえず、恵美は私が楽しそうにしてたら、楽しいってことでホントに良いの?」

「うん、それで良いよ。現にユキのこと手伝ってる今も結構楽しいしね」


自分に対する無償の奉仕を喜んでくれる親友をユキは思わず、ギュッと抱きしめた所で、
二人だけの初めての会議は終わりを迎える。

結局、恵美にとって日々を楽しくさせる『楽しい事』が何なのかは会議をした結果分かったのだが、
ユキの毎日を楽しい日々に変えてしまうような可能性のある『楽しい事』は、どんなに話し合っても分からなかったのだ。

二人は、週末の土曜日に近くの比較的大きな書店に行って、
目標を達成するのに必要な『楽しい事』を見つける手掛かりを探すという『結論』を出した。

会議を行った際は、どのような些細な『結論』であっても、出さなければならないのだ。
何かしらの結論を出すために会議は行われるのだと言うことを、会議に参加する全ての者は認識しなければならない。
また、結論を出すための『情報』が不足している場合は、会議を開くべきではないし、
会議中に情報不足が判明した場合は、即座に閉会すべきである。
答えの出ない会議ほど『生産性』の無いものはないのだから...






初めての会議から数日後、ユキと恵美の二人は出された『結論』に従って、郊外型ショッピングモールにある大規模書店を訪れた。
二人は、ユキの毎日を継続的に楽しいものにする事が出来る『楽しい事』を見つけるため、
様々なジャンルの本をペラペラと捲ったりしながら、楽しくお喋りして週末を満喫する。
勿論、目的を忘れてしまわないように、互いに注意をしながらである。




「とりあえず、スポーツ大全に趣味全集、この中から面白そうなのを見つけて
 部活があるなら入れば良いし、無ければ自分達で作っちゃえば良さそうだね!」

「本屋さんに来て正解だったみたいだね。二人だけで思いつかない物も
 本や雑誌を少し調べてみるだけで、意外と簡単に分かったりするから」


毎日楽しめそうな物の『情報』が沢山詰め込まれた資料を見つけた二人は、
『今日の目標』は一先ず達成したと考え、二冊の本を購入するためにレジへと向かったのだが。
その途中に、冒頭で記したユキが投げ出した本、ドラッカーと出会ったのだ。


「あー!これ、TVでも話題になってる本だよね。確か、高校野球のマネージャーが主役の」

「まぁ、どっちかっていうと、マネジメントの入門本として有名になったんだけどね」
「マネジメント?」

「えーと、私も詳しい事はよく分からないけど、会社とかの組織が成果を出すために
 役立つ手法みたいな物かな?その本では、甲子園出場っていう目標を達成するための
 手法として、ドラッカーのマネジメントを女子マネージャーが利用したって内容みたい」

「へぇ~、なんか今の私にピッタリな本のような気がする。何か部活に入ったり
 部活を作って成果を出すのに、このマネジメントとかってのを上手く使えば
 ちょちょいのちょいって感じで、成果がでるんでしょ?こっちの分厚い本買おっと!」

「えっ!?ユキ、こっちの小説の方じゃなくて、そっちの専門書を買うの?」

「そうだよ?だって、同じ普通の女子高生がドラッカーのマネジメント読んで
 成功したんだったら、私だってきっと読んで成功できるよ。大丈夫、楽勝楽勝!」



こうして、親友の心配を余所にミリオンセラーの小説ではなく、
直ぐ横に関連書籍として平積みされた分厚いドラッカーの専門書を購入したユキは、
冒頭で述べたように、途中で読むのに挫折し、著者の考えるマネジメントを殆ど理解する事は出来なかった。





  もしドラッカーの『マネジメント』を理解できなかった女子高生が何かを始めたら





果たして、その先にはある答えは成功か、失敗なのか?
真直ぐに行動する少女に巻き込まれた人達は、成果を手にする事が出来るのか?

成功のマネジメントサイクルに基づかない挑戦ゆえに、その到達点を予測する事は著しく困難である。
ただ、その不確定さが同時に面白さを生むのかもしれない。
事危なっかしいながらも前に進もうとするユキに対し、少なく無い人々が協力者となって
直接・間接を問わず、様々な手助けをしていく事になるのも、
そんな不確定性に惹き付けられた故と言えなくもない。


成功のセオリーに縛られない挑戦があっても良いのだ。
成功するために一番大事な『情熱』さえ無くさなければ、失敗しても何度だって『挑戦』できるのだから...



[24842] 計画的に行動しました。
Name: みにドラ◆54d6b523 ID:edd412c7
Date: 2011/01/19 20:20
『何がしたいか』ではなく、『何を成すべきか』を考え、
『真摯』に行動することで成果を出すのが、組織における『エグゼクティブ』の仕事である。

利益を出す。売り上げを倍増させる。業界シェアトップを目指す等々、
企業という名の組織が目指すべき、大まかな目標を定めた際、
それを実現するために具体的にどのような事を、どのタイミングで成していくかという指針となる、
『アクションプラン』(以下、AP)を作成した方が良いだろう。


APは立てることによって、自分がどう進んでいくべきなのか、
目標の達成のためにどのような問題が生じているかが、『見える化』され、
期首に建てた計画、自身の行動といった物に対する修正の必要性の有無をより正確に、早く知る事が出来るのだ。




「うん、決めたよ!恵美。私は女子サッカー部を作って、なでしこジャパンを目指す!」



先日購入したスポーツ情報誌の女子サッカーの部分を開けて、親友の河合恵美に見せた宮下ユキは、
自分たちの進むべき道は定まったとばかりに宣言した。

彼女は『毎日を楽しい日々に変える』と言う大き過ぎる目標を実現するために、
『部活』という学生生活において比較的メジャーな組織を新たに創設し、そこに所属する事を決定した。

そして、次に決めたのは、新たに作った部活で何をするか、
ユキは世界的にはメジャーなスポーツではあるが、女子高生、女性がやるスポーツとしては、
まだまだマイナーな『サッカー』というスポーツを取り上げ、
『女子サッカー部』を新たに創設することを選択したのだった。


「えっと、女子サッカー部って、あのボールを足で蹴る、あのサッカーをやるの?」

「うん、そうだよ。『なでしこジャパン』とかで話題になってる女子がやるサッカー」



ユキは頭に疑問符を一杯並べているだろう親友に対し、自分達の『目標』を達成するために、
なぜ、女子サッカー部という名の組織を創設し、そこに所属するのかと言う理由を説明していく事にする。




1つ、どうせやるなら、話題性のある注目されるスポーツをやりたい。
2つ、自分がボスになるなら、既存の部活より新たに部活を作ったほうが手っ取り早い。
3つ、女子ではマイナーなサッカーなら、競争相手も少なく大会とかで優勝しやすい。




その他、余りにも適当で、どうみても思い付きにしか思えない理由を、
得意げにする親友に対し、少し頭が痛くなる恵美だったが、
一生懸命に自分に納得してもらえるように説明してくれる姿を見ているうちに、
嬉しくなってしまい、知らず知らずの内に彼女の無謀とも思える計画に全面的に賛成し、協力することを約束していた。

ユキが何よりも自分の同意を必要としている事が、嬉しかったのだ。



『組織』が目的を達成するためには、組織を構成する人間の『意志統一』を図る必要が往々にして存在する。
『個人』と『組織』にとって『成すべき事』が乖離している場合、『成果』を得ることが著しく困難となる。
無論、組織を構成する要員の全てが同じ行動を取れと言うのではない。
成果を出す為に、組織に属する個々の要員が、どのように行動すべきなのかを理解させる事が、
組織に取って必要な『意志統一』なのだ。

そして、それを行なうために、少なく無い『会議』の開催が必要となり、
自由に行動する『時間』が奪われて行く事になるのだ。
組織を目標に向かって動かすためには、致し方のない事だが、
もともと限られた『時間』を、如何にして『成果』に結びつく物に費やせるかが、
成功の近道になることを、『エグゼクティブ』は深く認識しなければならない。



ユキは、女子サッカー部の立上にあたって、申請書類の作成及び必要手続きの確認といった事務作業については、
河合恵美に全権を与え、一切口を出さないことに決めた、
というより丸投げして、自分は部員集めと顧問就任依頼に奔走することとした。

この役割分担、『人事』は深く考えてなされた物では無かったが、偶然にも成功した人事となった。
恵美はユキよりも思慮深く、その点を周りから評価されて中学時代は生徒会で書記を務めるなど、
学校社会における事務作業に携わった経験があり、与えられた役割を全うする『能力』を持っていた。
また、ユキの方も深く考えずに突っ走ってしまうという欠点はあるものの、行動力は高く、
一度や二度失敗したくらいで凹たれて、その歩みを止めるような性格では無いため、
部員の勧誘を行うと言う役割は彼女にとって打って付けの物であった。


ただ、適材適所の配置を行ったところで、必ず『成果』が出る訳では無いのが、現実世界の厳しい所である。




黙々と新部創設承認申請書、構内部活動予算申請書及び課外活動構内施設利用許可申請書等の準備を進める親友に対し、
ユキの方はというと、部活の顧問を求めて、連日職員室に対する襲撃を繰り返していたのだが…


「吉川先生、女子サッカー部の顧問になって下さい!」
「嫌よ。メンドクサイことはお断り」

「お願いします!!」
「無理な物は無理、他の先生あたってくれる?」


…と、必死の嘆願を繰り返してはいたが、中々色よい返事は貰えず、顧問探しは難航していた。
教師のほうも、日々の業務に加えて、ほぼ義務化された研修への参加が頻繁にあるため、
ボランティアに等しい部活動への参画などしたくないというのが、教師の多くが持つ本音だった。
無論、生徒が自主的に行う課外活動に対して、『真摯』に協力を惜しまない教師も少なくはないのだが、
残念なことに、そういった『真摯さ』を持った教師達は既に何かしらの部の顧問や、地域絡みの役等を勤めており、
新しく作る部活の世話を出来るような余裕を持ち合わせていなかった。

教師だけでなく、一人の人間が出来る事は限られているのだ。成功を得ようとするのであれば、
一番重要な『なすべき事』を一つに絞り、それに注力しなければない。
他の事に手をだせるのは、息抜き程度の仕事を一つか、二つか程度なのだ。

この点で、新部創設を一番の『なすべき事』と考えているユキと、
そう考えていない顧問就任を依頼された教師との間には意識の上で大きな『ミスマッチ』があり、
顧問探しが、遅々として進まず暗礁に乗り上げる大きな理由となっていた。

ユキは、『顧問になって欲しい』という自らの要求を相手に告げるだけで、
相手の教師が抱える様々な事情、『背景』を全く考えないまま行動していたため、『成果』を上げる事が出来なかったのだ。




ユキに顧問就任を要請された彼女クラス1-Cの担任を勤める吉川瑞穂は、教師になって3年目、
今年になって、初めて担任を任されたこともあって、副担時代とは違う忙しさにやりがいを感じる以上に、疲労を感じている状況であった。
そんな状況下で、余計な仕事を生むような少女のお願いなど、迷惑以外の何物でもなく、
上からの圧力で止むを得ずと言う状況でもないので、すっぱりと断り続けていた。



「だいたい、何で私にそれを頼むの?他にも部活やってない先生はいるじゃない
 そっちに頼みなさいよ。私みたいな経験の浅い教師より、そっちのが良いでしょ?」

「だって、先生は若くて可愛いんだもん!」



「はぁ、ユキ、アンタ良くこの高校受かったわね。先生は別の意味で頭痛くなってきたわ」


少女の突き抜けた理由でターゲットにされた瑞穂は頭を抱えながらうな垂れる。
もっとも、そうさせたユキの方は、その理由はさも当然の事だとばかりに小さな胸を反らしている。
『毎日を楽しい日々』にするには、辛気臭い年寄りや、むさ苦しいオッサンよりも
若くて可愛いオネーさんの方が百倍相応しいとユキは考えたのだ。
また、自分の担任がやる気の無い自己紹介をした再に、サッカー観戦が趣味と言っていたことを、少女はしっかりと覚えていたのだ。








「宮下が職員室来るのも今日で六日目ですか。結構、頑張りますね」

「三好先生、頑張りますね~、じゃ、無いですよ
 少しは毎日言われる方の身にもなって下さいよ!」


他人事な感じで話すのはサッカー部顧問の三好義永、吉岡より何年か先輩の教師で、
現在は、初めて担任としてクラスを受け持つ事になった彼女のサポート役として、1-Cの副担を努めている。

吉岡にとってはクラス運営で困ったときに頼れる心強い味方であったが、
宮下ユキから吉岡に対する顧問就任依頼に関しては、不干渉の態度を貫いていた。
顧問を引き受けるにしろ、断るにしろ、自分の受け持ちの生徒と、どう向き合い対応していくのかを学ぶ良い機会を、
下手な口出しをして潰すような真似をする気は、三好には全く無かったのだ。

年甲斐も無く頬を膨らませながら不平を言うかわいらしい後輩の様子に苦笑しながら、
先輩教師は机の上に置かれた書類を淡々と片付けていく。





「はぁ、瑞穂ちんって、意外と頑固なんだよね~。ガっと押せばすんなりと
 引き受けてくれると思ったのに、もっと強引に頼んだ方がいいのかな?」

「う~ん、ユキの熱意は今でも伝わってはいると思うから、これ以上は止めた方が
 吉岡先生も、担任になって日が浅いし、色々と馴れない事の連続で大変だと思うの」

モリモリやる気を見せる親友の暴走を、やんわりと恵美は窘めた。
真直ぐ過ぎるユキの行動が、必ずしも良い結果に結びつくわけでは無いことを、
付き合いの長い彼女は知っていたのだ。



「そっか、確かに瑞穂ちんも、私のお願い以外にも一杯やらなきゃいけないこと
 あるんだよね。私、ぜんぜん相手の事情を考えずに、子供みたいに我侭言ってただけだ」


そして、恵美は間違や失敗をしたと気付いた時に、直ぐに反省できる素直さを親友が持っていることを知っていた。
失敗を正そうと、過ぐに動ける行動力を持っていることも、当然知っていたのだ。

謝って来ると自分に告げて、再び職員室に向かって駆け出す暴走娘を、
母親のような気持ちで見送った恵美は、一旦中断していた必要書類の作成に取り掛かる。






「瑞穂ちん大好き!!」
「ちょっと、ユキ!変なあだ名で呼ばない!!」



大喜びで抱きつく生徒に文句を言ってはいる物の、吉岡の表情は柔らかく、とても優しいものであった。
これまでの非を素直に認め、自分に謝る教え子の『真摯さ』に、
頑なに顧問就任を拒んでいた彼女の心は、一瞬で解きほぐされてしまったのだ。


無論、出来る範囲で顧問を引受けるという条件付きでの承認であったため、
彼女の手が回らないときは、ユキやその他の部員が代わりに行える業務を担い、
それが出来ない場合は、活動が制限される可能性があることを許容しなければならなかったが、
そもそも顧問が居なければ、部活として活動できないのだから、多少の制限はこの際目をつぶるべきだろう。



どのような素晴らしい『AP』を立てたとしても、立案時の目標とした『成果』を達成できないケースは、必ず起きるといって良い。
そういったトラブルが発生した場合は、『AP』を直ぐにでも修正し、問題解決に取組まなければならない。

また、それが担当者の能力や権限、裁量で解決できるなら、直ぐに実行に移せばよい。
それが不可能な場合は、『会議』を開催する等の手法を用いて、他者や他部門の力を借りて解決するしかない。

顧問の就任依頼に行き詰ったユキも、書類作成を担当する恵美の意見、『知恵』を話し合い、『会議』を行う事で、
自分の行動の問題点に気付き、進め方を修正した結果、
色々と条件付ではあるが、吉川を顧問として迎えるという『成果』を出す事が出来た。


優れた能力を持つ『エグゼクティブ』であっても、激しい競争原理にさらされる資本主義社会の中では、
『成果』を出すためには大小様々な障害をクリアして行かなければならない。

学校社会という閉鎖的な、厳しい競争とは無縁な場であっても、要求される能力の水準に差はあるが、
何かを行おうとすれば、幾つかの困難と直面する事になる。

その障害に対し、優れた経営者でも、物語の主人公でもない宮下ユキは
能力でも経験と言う面でも余りにも無力な、極めて平均的な高校生に過ぎない。
だからこそ、目標への到達は非常に困難な道のりとならざるを得ないだろう。


だが、『マネジメント』をしていく上で欠かすことのできない、大事な要素を少女は持っている。



             『真摯さ』という一番大切なものを




不完全で間違った選択や行動を採ることも多い彼女に、
親友の河合恵美や顧問を引き受けた彼女の担任の吉川瑞穂が手を差し伸べた最大の理由は、
真直ぐに目標の達成を目指す、『真摯さ』であった。


宮下ユキという少女はドラッカーのマネジメントを殆ど理解する事はできなかったが、
それでも、自分の目標を諦めなかった『真摯さ』によって、道を切り開いていく。

そして、正しいマネジメントの手法を知らないが故に起こり得る多くの問題と戦っていくことになる。





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