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[18968] 【ヒャッハー!】天空の鳳凰(北斗の拳xなのは)
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:65a0eac0
Date: 2011/01/19 19:59
ヒャッハー!汚物は消毒だぁ~!

北斗外伝で、ジャギ様が終わったら次は聖帝様とお師さんの
温もり溢れる外伝だろうと思ってら、ジュウザだったのでやった。
今は反省している。

以下注意点
・クロス分としては7:3で北斗有利。
・Not世紀末。
・捏造があるかもしれない。
・聖帝様が、鳳凰拳を継承する前の十五歳。
・当然、愛や情けを捨ててないし、超お師さんっ子。
・したがって、ふははは!や皆殺しだ!とか言ってる世紀末とは大分違うので違和感大。
・ジュエルシード関連はあまり出ないかもしれない。
・デバイスの英語は、僕らの味方エキサイト翻訳先生の提供でお送りしております。
・この作品は、超!エキサイティン!世紀末アイドルプロダクション中野TRFプロ所属、アイドル修羅の皆様を応援しています。
・(*´ω`*)←この顔文字ははやる!(キリッ


ダイヤの棒術ぐらいスローなペースになるかもしれないけど、何とか継承の儀のとこまでは進めたいと思う。

北斗七星の数と同じまで進んだ事だし、板移動してもいいかと思えてきたけど
北斗寄りなのにとらハ板でいいのだろうかと思ったり。

6/29
技の部分を北斗っぽいテロップ化にしてみた。

9/25
残業よォォーーーッ!もっと多くッ!残業してッ!SSを書く時間が無くなるぐらいッ!
残業祭りよッ!

ちにゃったわけではないですが、祭りのために中々進みません。
近い内には投稿できるとは思いますが、お師さん……もういちどぬくもりを……

11/13
南斗残業拳の修行の方は若干落ち着いてきましたが、PCの方があべしってしまったので、二~三週はネカフェぐらいからしか作業できません。
修理費用によっては新しい木人形の投入も検討する次第……。

12/2
PCの輸送車がモヒカンの群れに襲われたらしく、全て奪いつくされた模様……!
許さねぇ……!てめぇらの血は何色だぁーーーーーー!!
嘘です。(AAry)
しかしまぁ、佐川で輸送中に梱包ミスか輸送ミスか何かでひでぶったのは事実。
修理費が無償になるっぽいですが、まだまだネカフェ通いだぜ、ヒャッハー!

1/19
PCが、ん?間違ったかな?とばかりに使い物にならなくされてしまったので
ソフマから新しい木人形が届きました。
しかし、南斗残業拳は続く……
いつまでこんな戦いを続ければいいの……!



[18968] 第一話:若き鳳凰と黒の少女
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:65a0eac0
Date: 2010/05/20 21:34
夜は暗い。
当たり前の事ではあるが、それが街灯も無い山道ともなれば、月明かりすら明かりとしての役目を果たさない。
そんな山奥の道とも呼べない道を一つの影が疾駆している。
獣であればそれも可能だろうが、木陰から僅かに差し込む僅かな光に晒された影は紛れも無く人間のものだった。

「……ふっ!」
軽く息を吐くと、目の前の倒木を一足飛びに飛び越える。
獣道でも走る速度が変わらないのという事だけでも驚くべき事なのに、その背中には大きな荷物を一つ抱えていた。

「拙いな。雨が降る」
長年、この山に住んでいるだけに、雨が降りそうな時はなんとなくだが分かる。
さすがに雨まで降られてしまっては足場が悪くなるし、荷物が濡れてしまう。
山の天気は変わりやすいというが、何もこんな時に降らなくてもいいだろうにと、吐き捨て、舌打ちをすると前を見据えた。
水が流れる音が聞こえてきたなら、目的の場所は近い。
茂みから飛ぶように飛び出すと、開けた場所に出た。

「ふぅ……なんとか間に合ったか」
思ったより天気が持ってくれた事に安堵しつつ、ようやく一息付いた。
月明かりに晒された四肢は鍛え込まれ、鋼のような印象を受けるが、それに反してその顔は、まだどこか子供らしさを残している。
事実、先日十五歳になったばかりなのだから少年である。

この国では珍しい短めの金髪は、後ろに流すようにして揃えられ、僅かに額に前髪が降りている。
目を引くのは額に出来た一つの出来物だが、少年が気にした事は無い。
というよりは、人の目など気にする必要が無いと言った方が正しいだろうか。
彼が山を降りるのは年に数える程。
学校にも通わず、拳の修行をしながら暮らしている。
ガスも水道も通わぬ山の中での生活を不便に思ったことは幾度かあるが、辛いと感じた事は一度も無い。
そんな物より、もっと大事な物を与えてくれる人物と一緒に暮らしているのだ。

修める拳の名は、二千年近い歴史を持つ南斗聖拳百八派の一つ。
その南斗聖拳最強という肩書きを持つ南斗鳳凰拳。
天に輝く南斗六星のうち、主星である将星を継ぐ者。
少年の名はサウザー。
世紀末という世で、聖帝と呼ばれるようになった帝王の若き日の姿であった。


「お師さん。ただ今戻りました」
山の中に佇む寺社のような造りの扉を開けたが、返事は無い。
一通り中を見渡しても人の気配が感じられないのだから、出かけているのだろう。
頭をかいていると、今朝方伝えられていた事を思い出した。

「そうか……お師さんは道場の方に行ってるんだった。……参ったな」
本来、六聖拳の師弟ともなれば、その住む場所には必ずと言っていい程に道場もあるのだが、鳳凰拳だけは例外なのだ。
南斗聖拳は陽拳ゆえに、印可を得ることができれば、一つの流派に伝承者が複数存在しても構わない事になっている。
そのため、派生した分派や門弟のために道場が必要になってくる。

だが、南斗鳳凰拳は北斗神拳と同じく一子相伝。
北斗神拳は分派が存在せず、複数の伝承者候補や門弟を取ったりしているので道場は存在する。
しかし、南斗鳳凰拳は伝承者候補すら一人に絞っているため、道場なんて物は必要が無いのである。
組み手をやりたいなら、こっちから一番近くの南斗の道場に出向くといった具合だ。
師父であるオウガイも南斗の交流を欠かさないために、こうして丸一日ぐらい離れる事がたまにある。

慣れた手付きで明かり灯すと、割れ物でも扱うかのようにゆっくりと寝床に荷物を降ろし眺めた。

「それにしても……子供がどうやってこんな所に」
サウザーが寝床に寝かせたのは、十にも満たぬぐらいの少女。
何時もの修行をこなし戻ろうとした時に、耳をつんざくような鳴き声がしたので急いで向かってみれば
傷だらけで倒れる少女を襲おうと、見たことも無い怪鳥が地面スレスレを滑空するように飛んでいたところだった。
見つけるのが後五秒遅ければ、少女の体は怪鳥の鍵爪に掴まれるかして手の届かない場所に連れ去られてしまうところだったのだから、まさしく間一髪。
南斗鳳凰拳の真髄とも言える踏み込みで、怪鳥と少女の間に割って入り、すれ違い様に南斗聖拳の斬撃を叩き込んだ。
不思議だったのは、確かに手応えはあったはずなのに、残っていたのは四つに分かれた大鷲の死体と、真っ二つに切れた青い宝石のみ。
一体、なんだったのだろうかと、悩んだのだが、怪我している子供をこんな山中に放置しておくほど非情ではない。
修行をするだけあって生傷は耐えないし、その為の薬や包帯は常備してある、という事で連れて帰る事に決めたのだった。

「でも、お師さんが居ないんじゃな……」
もう一度頭をかいて少女を眺める。
同じ金髪だが、絹糸を束ねたような印象を受けるのは、単に髪の細さと長さのせいだろう。
サウザーから見れば、かすり傷かもしれないが、幼い少女の全身に切り傷擦り傷打ち身が出来ているのは痛々しい。
骨が折れてないのは幸いだが、あのまま放っておいたら謎の白骨死体が一つ出来上がるところだった。

「……ぅぬ」
そこまで分かっていながら手当てに踏み切れないのは、全身というだけあって、傷が服の中にまで及んでいるせいだ。
ただでさえ山の中で暮らし、普段目にするのはお師さんと南斗の同門ぐらいで、見事に異性に対する抵抗が無い。
手当てはお師さんにやってもらうつもりだったので、まさか自分がやるハメになるとは思っていなかったのだ。

こんな子供に欲情するような趣味や性癖は持ち合わせていないものの、たまに街に下りた時にその手の事件がよく話題になっている事ぐらいは知っている。
人に見られて妙な誤解を産むような場所ではないが、やはり何だか気まずい物がある。
軽く十分ばかり部屋を行ったり来たりしながら悩んだが、不意に少女が苦しそうに呻いた。

「ちぃ……」
そんな声を聞いて、サウザーも声にならない声を出した。
放っておけば、傷口から菌が入り破傷風を起こす事だって十分にありえる。
そんな事になったら、ここでは手に負えない。
一番近い海鳴市の病院でも、山を下りるには軽く一日はかかるのだ。
仕方ないと思い黒い服に手をかけたが、すぐに疑問符が浮かんだ。

「この服……、どうなってる」
一通り見てみたが、継ぎ目のような部分が無い。
背中を見ても、ファスナーなんて物は無く、どう脱がしていいものかさっぱり分からん。
十五秒程悩んだ末に、腰の辺りの部分から切り取る事にした。
さすがに、そんな事に南斗聖拳を使うのも憚られたので、鋏を使おうとしたのだが、薄手の生地とは思えぬ程に硬かった。

何度やっても、刃がなかなか通らない。
刃毀れや錆付いているわけでもなく、至って普通の鋏である。
終いには力を入れすぎて、柄を南斗聖拳で使い物にならなくしてしまったのだから、結局は南斗聖拳を使わざるを得なくなってしまった。

「くそ……、お師さんにも言えんな……、これは」
修行の成果を少女の服を切るというだけに使うというのは何とも情けない。
仕方がないとはいえ、同門連中に知れたりでもしたらと考えただけで背筋が寒くなるし
なにより、北斗の長兄であるラオウにだけは絶対に知られたくない。
あの野郎は、組み手に出向く度に馬鹿力が増してきている。
拳速やスピードではこっちが勝っているので、五分というところだが、こんな事が知れたら組み手どころか本気の殺し合いに発展しそうだ。

これ以上の傷を付けない様に力加減をし、腰周りの部分の生地を切り取り服をめくる。
なるべく変な所は見ないようにと思ったが、新しい切り傷や擦り傷の他に、痣の後がいくつもあるのを見て、そんな考えは一気に吹き飛んでしまった。

「この痕は……鞭か?」
変色した傷跡の形や大きさで、何を使ってどのぐらいの強さで叩いたのかは、肉体を外から破壊するという拳法を修めているだけあって判断は付いた。
上半身に汲まなく付けられた傷跡を見て、これが何を意味するのかは一つしか無い。

そう考えると、少女が一人この山奥に倒れていた事も納得が付く。
暴力に耐え切れずに逃げ出したか、置き去りにされたか。
どちらにしろ、少女には辛い事には違い無い。
自らも孤児という過去を持つだけに、何か思うところがあったのか、数秒目を閉じると傷の手当を始めた。





「お……終わった……」
最後の傷の手当てが済んだのは、空が白くなり始めた頃。
肉体的な疲れは一切無いが、精神的にかなり磨耗した気がする。
南斗十人組み手でも、ここまで疲弊しなかったのにえらい違いだ。

軽く体を伸ばすと、体中の骨が鳴る音が聞こえてくる。
水でも飲もうかと水瓶の蓋を開けたが殆ど残っていなかった。
そう言えば、体を拭くのに随分使ったような気がする。
雨も止んでいたので丁度いいか、と考えると片手で軽く水瓶を持ち上げ、もう片方の手で槍を掴むと外に出て行った。



サウザーが出て行ってから十分程経った頃、静まり返った部屋の中で影が一つ起き上がった。

「……ぁぅ!」
急に起き上がったせいで体を支えていた腕に痛みが奔ったのか、小さく悲鳴をあげると布団の中に倒れる。
今度は、負担をかけないように、ゆっくりと上半身だけ起こすと、今度は痛くなかった事に小さく息を吐いた。

きょろきょろと辺りを見回すと、まず目に入ったのは、壁に立てかけられた何本もの槍。
朝日の光を受けて、剥き出しの穂先が光っているのだから嫌でも目に入る。
光が目に入ったのか、反射的に腕で光を遮ろうとすると、自分の腕に包帯が巻き付けられている事に気付いた。

改めて全身を見回すと、そこらかしこに傷の手当がされている。
誰が、と思うより先に、昨日の最後の記憶を思い出して悲しくなった。
覚えているのは、飛んで逃げる暴走体を追って山の深いところに入ったら、暴走体に急旋回を決められ正面からぶつかった事。
意図せずカウンターの形になり、勢いよく弾き飛ばされ、山の斜面を転がったところからの記憶が無かった。

「ジュエルシード……もう少しだったのに……」
こうして無様に傷だらけでいるという事は、目的を果たせず逃げられたという事になる。
傷を負った事よりも、そっちの方が遥かに辛い。

「追わなきゃ……、母さんのためにも……」
全身の痛みに耐え、寝床から這い出て、壁にもたれ掛かるようにして立ち上がると、伝うようにして歩き始める。
「魔力が感じられない……、そんなに遠くには行ってないと思うけど……」
呟きながら、焦るようにして進むが、半ばまで進んだところで不意に足を襲った痛みに耐え切れずに、体勢を崩し倒れてしまった。

それだけなら、また立ち上がればいいだけの話。
だが、壁には剥き身の槍が立てかけられており、転ぶと同時に手が槍の柄に当たり
運の悪い事にその穂先が自分目掛けて落ちてくるのを少女は見た。

避けようにも、全身が痛くて動けないし、障壁を張ろうにも時間が足りない。
短い時間の中で、色んな事が頭に浮かぶと、心の中で謝りながら目を閉じると、風を切るような音が聞こえた。




「こんなものか」
銛一本で魚を仕留めるなんて事は、もう慣れた物で、今では百発百中と言える程になっていた。
いつもと違うのは、仕留めた魚が一匹多い事。
いつ目が覚めるかは分からないにしろ、どの道必要になるのだから、多めに捕っておいて損はないだろう。

たっぷりと水に入った水瓶を片腕で持ち上げ、肩に担ぐようにして背負う。
これも日課で、最初の頃はもっと小さかったのだが、繰り返すうちにこの大きさでも全く気にしないようになる事ができた。
常人が見たらドッキリか何かだと思うかもしれないが、サウザーにしてみれば至って普通の事である。

地面がめり込むような重い足音を立てながら、水が漏れないように水瓶を置くと顔を洗う。
水道水なんかとは比べ物にならない、鋭いともいえる冷たさは、さながら泰山天狼拳の如し。
おかげで、眠気が完全に吹っ飛んだ。
やろうと思ったら、一週間ぐらいは寝ずにすむ体なのだが、昨夜は色々あったせいで精神的に少し疲れた。
とりあえず水を一杯飲み干すと、様子を見に軽い気持ちで部屋に入ったのだが、その先に映る光景に思わず変な声が出た。

「うわ」
寝床に少女の姿は無く、壁際で仰向けになって倒れてきたところだった。
それだけならまだいいが、壁にかけてあった槍を巻き込んで、その槍の穂先が胸目掛けて落ちそうになっているのだから声も出るってものだろう。
突き刺さる前に間合いに踏み込み、槍の穂先を手刀で切り払ったが、また間一髪だ。
南斗聖拳百八派広しと言えど、神速の踏み込みを持つ南斗鳳凰拳でなければ、二回死んでいる。
鳳凰拳の使い手が近くに居て運が良いのか、それともこの短い時間の中で二回も死にかけ運が悪いのかと考え物だ。
少女の顔を覗き込むと、唇を固く結んで、閉じた目を小刻みに震えさせながら小さく涙を浮かべていた。
じきに目を開けるだろうと思っていたが、それが二十秒ぐらい続いていたので、サウザーも思わず噴出してしまった。

「くっ……はははは!もう、大丈……くく、夫だ、……ふふ……ははははは!」
余程、ツボに嵌ったのか、それはもう盛大に笑う。
薄っすらと目を明けた少女が、自分の胸に槍が刺さってないことを確認し
安心したかのような息を吐くと笑われている事に気付いたのか、顔を赤くした。

「ああ、悪い。だが、目が覚めたのはいいが、その傷では、歩くのがやっとのはず……だ、と」
確かに、こんな目に合ってしまった原因は少なからずある。
普段、ここにはお師さんと自分の二人しか居ないので、そういった物に対する扱いが雑になっていたのは事実だ。
刃物の類の処理は後で考えるとして、一先ず、体を抱えあげると寝床に連れ戻した。

「あ、あの……」
「何だ?槍の事なら気にしなくても構わん。どうせ使い捨てだ」
「いえ、ここは……」
当たり前の事を訊かれてサウザーも少し戸惑った。
陽拳とは言え、南斗聖拳は伝説とも呼ばれる北斗神拳に匹敵する程の暗殺拳。
その名前を、こんな子供に伝えていいものかと迷ったのだが、南斗だけならなんの事か分からないだろうし
あまり使いたく無いが秘孔を突いて忘れてもらうという手もある。

「南斗の修練場だ。昨日、山の中で倒れているのを見つけた」
「なん……と……?」
聞いた事の無い名前に小首を傾げる姿は何とも可愛らしい。
この様子なら、捨て置いても問題は無いはずである。

「そう言えば、まだ、名を聞いていなかったな」
床に刺さった槍を引き抜き、今更のように聞く。
まだ眠っている物だと思っていたところに、あんな事が起これば忘れてしまうのも無理は無い。

名前を聞いても、何やら言いにくそうに俯いているので、これは、さっき笑ったのが拙かったか?と思い、頬を掻いた。
南斗の門弟にも女は居るが、そういうのは決まって男顔負けの気が強い連中である。
なので、さっきもそんな調子で笑ってしまったのだが、この少女はどう見ても拳法やってるようなタイプには見えない。
今までサウザーが見た中で誰が一番近いかと言うと、南斗正統血統を持つユリアあたりだろうが
あれはもっと年下だし、見るのは南斗の里に行った時ぐらいであまり接点は無いのだ。
こんな状況になっても、お師さんや南斗白鷺拳のシュウあたりなら上手い事やるんだろうなと考えると小さく息を吐いた。

「はぁ……まぁ言いたくないなら、それでもいいがな。とにかく、今は休んでおけ。どこへ行こうとしたのかは知らんが、そんな体で山を歩けば死ぬぞ」
呼ぶときに不便だが、別に無理に聞き出す程の物ではない。
それより、あんな体で抜け出されてしまう方が困る。
日も昇ってきた事だし、少し早いが朝餉の準備でもしようかと、背を向けた。
他のとこなら、門弟や従者がそういう事をしてくれるのだが、ここでは二人しか居ないため交代でやっている。
特にお師さんの漬けた漬物なんかは絶品なのだが、それは関係の無い話。

とても、南斗聖拳百八派の頂点に立つ流派の暮らしとは思えないが、当人達は気にしていないので問題は無い。
ただ、お師さんも自分も病気とかになった事が無いので、何を作ったらいいものかと頭を悩ませていると、後ろから声がかかった。

「フェイト・テスタロッサ……」
「フェイトか。準備が出来たら起こすから、もう少し寝ていろ」
どうやら、笑い飛ばしたことに怒ってはいなかったようで安心した。
機嫌を損ねられでもしたら、本当にお師さんに任せるしかなくなってしまっていたところだ。
他にも何か言いたそうではあったが、やはり疲れていたのか、ゆっくり瞼が落ちると寝息をたて始めた。



[18968] 第二話:魔と拳の邂逅
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:65a0eac0
Date: 2010/05/22 18:36
人里離れた山の中。
まるで忍者の隠し里か何かのような雰囲気をかもし出す建物が一軒。
そのままでも飲めそうな清流が流れる河と、澄んだ空気が都会の喧騒で汚れた肺の中まで綺麗にしてくれる。
こう書くと、保養地とか別荘地の類いのようだが、その実態は二千年の歴史を持つ北斗神拳に匹敵する拳法。その名も南斗聖拳の修練場。
正確には、南斗六聖拳が一つ。南斗鳳凰拳の師弟が修練を行う地である。
その、神社のような造りの日本家屋丸出しの建物の一室では、それに似合わぬ二つの金色があった。

「…………」
一つは長く細い金髪を二つに結んだフェイトと名乗った少女。
黒一色の服を着込み、その服装も申し訳程度に付いたスカートと、水着のような薄手の服。
後は色々ベルトのような物が付いているが、ハッキリ言って、このぐらいの歳で着るような代物ではない。
世間一般で美少女と呼ばれる容姿もあってか、そっち方面のご趣味を持つ紳士な方々が見たら道を踏み外しかねないぐらいである。

「ふむ、口に合わないか?」
もう一つは、短い金髪を、いわゆるオールバックで纏めたサウザーと言う名の少年。
少年と呼ぶには憚られる程に鍛え込まれた体と、それに反するような子供の面影を残しながらも精悍な顔つきが実に印象的。
アクション俳優にでもスカウトされれば、銀幕世界の向こうで大活躍出来るぐらいの身体能力を持っているのだが、彼が目指す物は南斗鳳凰拳伝承者ただ一つ。
現南斗鳳凰拳伝承者オウガイが誇る愛弟子である。

一目で外国人と分かる二人が、畳作りの部屋で机の上に乗せられた和食を食べている姿は何ともギャップを感じさせる物がある。
とはいえ、食を進めているのはサウザーだけで、フェイトの方は少しも進んでいない。

サウザーは産まれた時からこれだったから、味覚は完全に日本に馴染んでいるが、フェイトも同じだとは限らないという事を失念していた。
日本語を喋っていたので、特に問題無いだろうと思ったのが裏目に出たかもしれない。

ちなみに、サウザーは日本語の他に、英語、中国語、ラテン語をある程度は習得している。
一般人が見たら地獄の責め苦かと言いそうな荒行をこなせるだけの体力と集中力を持っているのだから、たかが言語の勉強ぐらいなんだって話である。
それに、南斗聖拳の流派は欧米や米国にもいくつか散らばっている。
拳法だからと言って、アジア地方だけに納まるような時代ではない。
将来的に、南斗聖拳百八派の頂点に立つのだから、覚えておいて損は無いのだ。
通訳を介して会話する南斗聖拳最強の使い手。こう考えると非常に情けないしそれは嫌だったのが一番の理由だったが。

それはさておき、ちっとも箸を付けようとしないフェイトを見て、サウザーはどうしたものかと頬をかいた。
あれだけの怪我をしたのだから、少しは食わないと体が持たないし治りも遅くなる。
あのぐらいの歳ならなおさらなのだが、まさか無理にというわけにもいかない。
手を付けなくても、それはこっちで引き受けるから残飯が出る心配は無いのだが、ここにある食材は基本山で採れる物。
米や調味料の類は、南斗の他の道場から定期的に届き、どうしても足りなくなった物が出た場合は、海鳴市まで買出しに向かう。
もちろん、重りを付けて山道を全力で疾走しながら。
重りを外して走って行けば、買出し含めて一日で戻ってこれるのにしろ、怪我人の子供を置いていくのもちょっと問題がある。
お師さんも何時頃帰ってくるのかが分からないので、正直手詰まりになっていたが、ふと、どこか遠いところで雷がなったような音がした気がした。

「む……」
窓の外を眺めてみたが、山一つ先にも雷雲はかかっておらず、雷が鳴るような気配は微塵も無い。
今度は注意深く目を閉じ、音の方向を探ると、それは目の前から聞こえてくるようだった。

思わず噴出しそうになったのを堪え、フェイトを見ると俯きながらも、時折塩焼きにした魚やらを見ている。
さっきの雷の音の正体は、フェイト自身が出した音で、様子を見る限りは口に合わないんじゃなくて、単に遠慮しているだけだと判明した。
常人の何倍も優れた聴覚を以ってして、やっと聞こえたぐらいなのだから、フェイトもまさか聞こえたとは思ってはいない。
わざわざ言うのも後が厄介だとし、ここは何も聞こえなかったという事で通す事にした。

「ああ、遠慮ならいらん。魚はそこの河で獲ってきたし
  他の物もここで採れた物だ。他のも大抵は南斗の道場から送ってくる。それに、食わねば治る物も治らん」
これでまだ意地を張るようなら、雷が鳴ってる事をそれとなく言うつもりで
その反応を見るのもそれはそれで面白いかもしれんと人の悪い考えが浮かんだが
フェイトが小さく唾を飲み込み、若干恥ずかしそうにしながら、これまた小さく呟くように言った。

「……ぃ、いただきます」
「うむ、欲望に忠実でよろしい」
なおも続く雷の音を適当に聞き流しながら、その様子を頬杖付いて眺める。
少女らしく、小さく食べ進む様は、何かを連想させる。
少し考えたが、思い付く物があったのか妙に納得した。
秋口に山の中でよく見かける、木の実を必死になって頬袋に詰め込んでるげっ歯類と同じだ。
そんな見も蓋も無いイメージが浮かんだので、昼は手で掴んで食えるやつだな、と安直に決めているうちに食べ終わったのかフェイトが箸を置いた。

「あの……、ごちそうさまでした」
どうやら、雷雲はどこかに行ったようで、一息ついた顔をしている。
それを見てサウザーは、手早く食器の類を端に寄せると、本題を切り出した。

「さて……、先ほども言ったが、ここは南斗の修練場だ。……どうやってあんな場所まで入り込んだ?」
山全体という程ではないにしろ、多少奥まった所は表向きにはそうなってはいないだけで、一応南斗が管理する土地という事になっている。
鳳凰拳の特性上、そこまで数が多くはないが、街の人間が見たら間違いなくドン引きするような物が沢山置いてある。
火の入った釜の中に、赤熱するまで熱された砂利や石が詰め込まれてるなんてのはまだ可愛い方で、一本の棒の周りに無数の鋭い棘があるなんて物もある。
他のところではこれを集団でやってるのだから、シュールを通り越して、最早ギャグの領域だろう。

昨日は、逃げ出してきたか、置き去りにされたかと考えていたのだが
一晩明けてよくよく考えてみれば、子供が一人でたどり着けるような場所ではないし
置き去りにするにしても、置いたはいいが、自分諸共迷う確立が非常に高い。
どこでもそうだが、人の手が入っていない場所と言うのは、人の目で分かる景色の違いが少なく迷いやすい。
まっすぐ進んでいるつもりでも、いつの間にか曲がってしまって元の場所に戻ってきたというアレだ。
歩いてここまでこよう物なら、それ相応の装備か訓練が必要になる場所である。

「……昨日、妙な鳥を見かけたんだがな。それが関係あるのか?」
陸が無理なら、空からか。
現実として、あんな鳥が居たのだから、どこかでかっ攫われたという事もあり得る。
その言葉に反応したのか、さっきまで縮こまっていたフェイトが身を乗り出すようにして言った。

「そ、それ!どっちに行ったか分かりますか!?早く追わな、きゃあ!」
さっきまで借りてきた猫のように大人しかったフェイトが急に大声を上げたので
何事かと思ったが、急に動いたせいで痛んだのか、バランスを崩し、頭から勢いよく机の上に突っ伏した。

数秒してから顔を上げると、額と鼻を打ったのか痛そうに押さえ、目尻には涙を浮かべている。
結構痛かったらしい。

「……人の話を聞かんヤツだな。その体でどうするつもりだ」
歩くだけでやっとのザマなのに、放っておいたら今にも飛び出していきそうな様子に、さすがのサウザーも呆れ気味だ。
そんなに急いでるならいっそ秘孔でも突いてやろうかと考えたが、南斗聖拳の身では自在に秘孔を操れるわけでもないので考え直した。
押しが強すぎれば肉体は砕け散るし、優しく押せば肉体の持つ治癒力を高めるだけに力加減は紙一重。
下手しても、ん?間違ったかな。では済まないのである。

「ラオウでは話にならんな。となれば……、トキぐらいか」
あまり知られたくないというものあるが、あの筋肉達磨に治癒の秘孔が使えると考えるには無理がありすぎる。
対して、次兄のトキはラオウと血が繋がっているとは思えぬ程に人当たりが良く、性格も良い。
全てを砕く激流のようなラオウの剛拳と、全てを飲み込み流す清水のようなトキの柔拳。
拳才も甲乙付け難く、どちらが優れているかとは言えないが、よくもまぁ実の兄弟で拳質も性格も対極になったものだと感心する。
他にも血の繋がってないジャギと末弟が居るが、ジャギは性格が捻くれてるのと単純に実力が足りず
末弟は幼すぎて実力が未知数のため、今はどうでもいい。
……そう言えば、その真ん中ぐらいにキムってのが居た事を思い出したが、余計どうでもよかった。

ただ、歩いて行ける距離ではないし、山を下りてから電車か何か使って、一番近いとこから北斗の寺院に向かう事になり、今のフェイトには厳しい。
まさか伝承者候補の身で呼びつけるわけにもいかないので、北斗に頼る考えは早々に見切りを付けた。



頬杖を付きながら思案に暮れるサウザーを見て、フェイトも落ち着いたのか小さく座りなおした。
もう、どこにも魔力は感じられないし、あまり動けない事は身を以って味わったので
とりあえず大人しくしておく事にしたのだが、そこでふと、違和感を感じた。
自分の感じ取れる範囲では、魔力の気配は一切感じられなかった。
それなのに、さっきの槍は刃先の真ん中ぐらいから真っ二つに切り裂かれていたのだ。
もう一度サウザーをまじまじと見たが、やっぱり魔力なんて感じられない。
そうこうしている内に二人の目が合った。

「ん、何か言いたそうな顔だな」
「え?い、いえ……ごめんなさい……」
特に責めているわけでもないのに、小さく謝りながら空気の抜けた風船のようにしぼんでいった。
言い方は悪いが、粗相をして叱られる子犬のような印象を受ける。

「……あいつらと一緒にしないでもらいたいものだな」
そんな様子を見て、よもや鬼のフドウやラオウのように思われているのではないかと考えてしまったので思わず口に出た。
道場破り紛いの事をして、色んな物をかっさらっていくようなデカブツと
鳥の卵一個採るために木を丸々一本ぶち倒して、他の卵を潰すような脳筋と同じにされたかと思うと、なんだか腹が立つ。
一瞬、不機嫌そうな表情が表に出たのか、ますますフェイトが縮こまってしまった。
そんな様子に気付いたのか、サウザーも話題を変える。サウザー自身、あの怪鳥には興味があったのだ。

「ああ、こっちの事だ。気にしなくていい。……まぁそれで、あの鳥だが、手応えはあったんだが、消えた」
「……どういう事ですか?」
「そのままの意味だ。すれ違い様に斬ったはずなんだが、鷲の死体しか……、いや、妙な青い宝石も転がっていたな」
水を飲みながら事も無げに言う様子に、フェイトが少し戸惑った。
魔力を持たない人間が暴走体を倒すなんて事は絶対に出来ない。
自分でさえ、遅れを取ったのだから余計に信じられないのだが、まるで出来て当然と言わんばかりに語るサウザーが嘘ついているようにも見えない。
それに、妙な青い宝石は間違いなく捜し求めている宝石なのだ。
半信半疑ではあるが、知っているのなら聞いてみる価値はあると思い、口を開いた。

「その青い宝石は今どこにありますか?」
「……その言い方では、そこまで無理をさせる理由は、鳥ではなく宝石の方か?」
間髪入れずにこくこくと首を縦に振る姿を見て、サウザーの表情に少し雲がかかった。
「……命をかけても必要な物なのか?それは」
やけに歯切れが悪い言葉に、フェイトが少し首をかしげたが、何の迷いも無く「はい」と答えた。

それを見たサウザーは、溜息を吐いた後にポケットに手を突っ込み
意を決したかのように中の物を握ると、拳を握ったまま机の上に置いて、ただ一言「すまん」と言うと、拳を開く。
ことり、という音が二つ聞こえると、机の上には二つに分かれた青い宝石が転がっていた。

「……………え、えぇ~~~~~~~~~~!!」
二つに分かれた宝石が眺め、目の前の現実を受け入れる事に時間がかかったのか
五秒ほど間をおいてフェイトが大声をあげた。
次いで手に取り、見つめ、泣きそうな顔で切断面をくっつけるようとしているのは、見ていて実に痛々しい。
これにはサウザーも、バツが悪そうに視線を外しながら頭をかいた。

確かに、額に青い石みたいなのが埋まってるのは見たのだが、すれ違い様の一瞬だったし、そこを意図して狙ったわけではない。
偶然、指先が掠めたんだとは思うが、少女が今にも崩れ落ちて泣き出しそうな様子を見ると、無条件で悪いような気がしてきた。

「いや、まさか、そこまで大事な物とは……な」
「……いえ、いいんです。わたしが封印できなかったのが悪いんですから……」
この雰囲気は、非常に気まずい。
年下の、しかも少女の扱いに全く慣れていないサウザーにとってみれば、今にも助けてお師さん!と叫んでしまいそうな程に空気が重い。
これなら、まだラオウと正面から全力でやり合った方が気が楽というものである。
今すぐにでも北斗神拳究極奥義を修得できそうなぐらいに哀しみを背負った目をしているフェイトを見て心底仕方ないという具合にサウザーが言った

「そう言えば、さっき他に聞きたそうな顔をしていたな。不足かもしれんが、俺が答えられる範囲でなら答えよう」
これでどうにかならないならお師さんが帰ってくるまで、この気まずい雰囲気に耐えねばならない。
それを聞いてまだ諦めが付かないのか、フェイトは二つに割れたジュエルシードを見つめながら呟くように言った。

「……どうやってジュエルシードを壊したんですか?」
「それを聞くか……、こちらにも相応の事情はある。話すにはいくつか条件は付くがそれでも構わんのだな」
率直にぶつけてきたが、もっともな疑問だ。
だが、南斗聖拳、特に南斗六聖拳は、かつて皇帝の居城を守る六つの門の衛将と呼ばれていたのだ。
いわば、歴史の裏舞台で活躍していた拳だけに、そうそう他人に存在を明かしていいような代物ではない。
フェイトも言葉尻から、言わんとしている事を察したのか、少し考えた後に小さく頷いた。

「ここは南斗の修練場と言ったが南斗聖拳は、外部からの破壊を真髄とした拳法で
  その南斗聖拳総派百八派の中でも最強と呼ばれているのが、俺が使う南斗鳳凰拳だ」
ありのまま、南斗聖拳の事を言ったのだが、どうにも理解できていないのか、フェイトはあっけにとられたような顔をしている。
「信じられん……といった顔だな」
言葉だけで信じろと言っても土台無理な話。
ならば、実際に見せた方が早いと、ジュエルシードとやらの片割れを摘むと指で弾き飛ばす。
ジュエルシードが頂点に達し、サウザーの目線の先まで落ちてくると、あらかじめ構えていた突きを繰り出した。

神速とも呼べる手刀は回りに真空の刃を生み出し、対象を容易に切り裂き貫く。
言葉では言い現せないような音が部屋に響びき、一拍遅れてジュエルシードが床に落ちると同時にさらに二つに分かれ転がった。

「さて、南斗聖拳が理解できたところで、今度は俺の番だ。このジュエルシードとやらがどういう代物で、それを追う理由も聞かせて貰おうか」
相手が少女とは言え、南斗の拳士が手の内を明かしたのだ。
どんな理由があるにしろ、全てを話して貰わねば釣り合いが取れない。
しかし、フェイトの口から話される事は、南斗に身を置くサウザーでさえ想像すらした事の無いような話ばかりだった。





「……あの鳥からして変だとは思ってたけど、まさか魔法か。目の前で見ても信じられないぐらいだ」
想像だにしていなかった突拍子の無い言葉に、思わず地が出た。
将来は南斗の頂点に立つ身なので、お師さん以外には、なるべく意識して硬めの口調を取っているのだが
いきなり魔法とか言われて、平静を保っていられるほど人生経験長くはない。
まだ、元斗皇拳の使い手だと言われた方が衝撃は少なかったはずである。

それでも、魔法という一種の伝説的の存在を、比較的早く受け入れられたのは
自らも歴史に名を刻み、伝説と呼ばれるようになった南斗聖拳の使い手だからか。
魔力を使うのが魔法で、闘気を使うのが拳法と考えれば、ある意味近い存在なのかもしれない。

「わたしだって、素手で物を斬る人なんて見たこと無いんだからお互い様です」
相対するフェイトは、いつの間にか服装が変わっている。
さっきまでのはバリアジャケットという、魔力で出来た戦闘服みたいなものらしい。
衝撃、耐久性に優れ、劣悪な環境でも活動できる優れ物。おまけにデザインは本人の想像力次第。
随分便利な物だと思ったのだが、鋏が入らなかったわけだと、これで納得した。

「つまり、お互いに何も知らなかったわけだ」
そこまで言って、地が出ている事に気付いたのか、サウザーが軽く咳払いすると改めて名乗った。

「南斗六聖拳が一つ、南斗鳳凰拳伝承者オウガイの直弟子のサウザー。一応言っておくが、これでも十五だ」
「あ、えっと、フェイト・テスタロッサ、九歳です」
少し戸惑いながらフェイトも同じように答えたが、思いのほか歳が近かった事にかなり驚いている。
見た目や言葉遣いの雰囲気から、フェイトはサウザーを二十ぐらいと見ていたのだ。

サウザーも、九歳の少女がジュエルシードとか言う厄介な物を追っている事に少し驚いた。
見た目にそぐわず、戦闘訓練も受けているようで、よく分からないが魔力の方もかなり高いらしい。
まぁ、九歳と言えばサウザーも石灯篭を素手で切り裂けるようになっていたので、あまり人の事は言えない。
天武の才を持つ人間は、北斗南斗魔法の種類を問わずどこにでも居るという事か。

それにしても、面倒な事になった物だと思う。
そのジュエルシードとやらは、あの一つだけでは無く二十一個。
叩き斬った物を除いてもまだ二十個もある。
昨日の相手は簡単に倒したように見えるが、並の南斗聖拳の使い手では手に余る程かもしれない代物だった。
いかに、地上のどんな物質をも力で打ち砕く南斗聖拳であっても、百八派もあるのだから使い手によって力量はかなり違うのである。

問題は、強い願いに比例して、暴走体とやらの力が増すようで、つまり欲望や執念が強い人間が持てばどんな事が起こるか分からないという事になる。
無力化するには、物理的な力によるジュエルシードの直接破壊か、フェイトが使う魔法での封印。
直接破壊については、南斗六聖拳レベルの実力が無いと難しいのは手応えで分かった。

幸いなのは、散らばっているのが海鳴市周辺だけという事だろう。
万が一ラオウあたりが手にしたら、世紀末モードに突入しかねない代物が出てきそうだ。

まぁ、それはそれ。
とりあえず、今は見当たらない物の行方を心配するより先にすべき事がある。
おもむろに立ち上がると、有無を言わさずフェイトを抱えあげた。

「ひゃ!な、な、何を……」
抱えあがるというよりは、いわゆるお姫様だっこだったので、フェイトも思わず変な声を出した。
サウザーは特に他意は無く、体に一番負担をかけないようにしただけで、文句を言うなと言わんばかりに続けた。

「さっきも言ったが、お前の体は戦える状態ではないのだからな。少なくとも二、三日はここに居ろ」
「でもジュエルシードを集めないと……」
「返り討ちに合うと分かって、誰が行かせられるものか。いいから寝ていろ」
見た目は大人しそうなのに、こんな状態ですぐにでも出て行きそうなのだから、まったく手がかかる。
だが、悪い気はしない。
伝承者候補すら一人の南斗鳳凰拳。
弟弟子が居ないサウザーには、フェイトの面倒を見るというのは、今まで味わったことの無い新鮮な感覚だった。




ヒャッハー!あとがきだぁーーー!

ラオウ、ジャギ様がリュウケンを親父、トキ、ケンシロウが師父、父と呼んでいるのに対して聖帝様はお師さん。
そんな、いい子が普段から世紀末口調なわけない!という事でそういう設定にした、今ではうわらばしている。

次あたりででアルフとお師さん出したいと思う。

しかし、クロノが十四でアレなのに、聖帝様が十五でアレってどういう事なの……。



[18968] 第三話:ぬくもり
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:65a0eac0
Date: 2010/05/27 21:56
「……なに、してるんですか?」
そう言って眺める先にあるのは、片腕の親指一本で逆立ちをしながら本を読んでいるサウザー。
かれこれ三十分ばかり、殆ど動かずに同じ姿勢を保っているのだから、遂に聞いてしまった。
もっともな質問に対して、サウザーは『作業』と言わんばかりに簡単に言った。

「何と言われてもな。修行としか言えん」
とは言っても、南斗聖拳の中では基礎中の基礎で、鳳凰拳の大半を修めたサウザーがやるようなものではないのだが
目を離したら何をするか分かった物ではないので、こうしてここでやれる物をやっている。
フェイトからしたら、かなり無茶な姿勢で平然と答える様に、どこか気のない返事をすると、それ以上言う事が無いのか黙った。

そして考える。
魔力値が低く、魔法技術が発達していないと思われていた世界で、それに反比例するかのように強力な拳法と呼ばれる力。
南斗鳳凰拳。
南斗六聖拳の一つと言っていた事から、同じような力を持つ物が少なくとも五つもある。

フェイトにとっては、魔力があるのが当たり前で、魔力を持たない人間がここまで強い力を持てるという事が信じられない事なのだ。
しかも、自分でも不覚を取った暴走体をジュエルシード諸共切り裂いた人は、まだ弟子の身であると言う。
ジェエルシードを真っ二つに出来るのなら、人間なんて容易く切り裂く事が出来る。
非殺傷設定も何も無い、そういう力を持った人間が沢山居るかもしれない世界。
……なんだか少しだけこの世界が怖くなった。


『……イ…』
ふと、どこからか声が聞こえてきたような気がして、フェイトが辺りを見回したが
サウザーは已然として本に目を通しながら指一本で体を支えている。
はっとなって、意識を集中させると、今度は、はっきりとした声が聞こえてきた。
『…ェイ……フェイト!聞こえたら返事してよ!』
「ア……『アルフ!』」
咄嗟の事で、少し声に出てしまったのか、ちらりとサウザーの方を見る。
声が小さすぎて聞こえていなかったのか、あるいは恐ろしいほど集中しているのかは分からないが
器用に片腕で本のページをめくっていて、気付いた様子は無かった。

『ああ、よかった。一人で突っ走るもんだから、どうなったのかと心配してたんだよ』
フェイトの頭の中だけで交わされるこの会話。
別に、二重人格とか、木人形にされて気が触れたとかいう類の物では無い。
「念話」と呼ばれる、魔力を持った人間同士で交わされる、一種の通信手段である。

『それで、ジュエルシードはどうだったんだい?』
『……駄目だった』
まさか、真っ二つにされたと言うわけにもいかず、手に入らなかった事だけを伝える。
気落ちしている様子を察したのか努めて明るく、励ますように冗談混じりに続けた。

『そっか……、でも、まだ始まったばかりさ。気長に行こう。ね?
  けど、無事でホントよかったよ。念話も通じないから、やられちゃんじゃないかと思って、泣きそうだったんだからね』
『あはは、ごめんね、アルフ。でも、やられちゃったのは本当だよ』
やられたという言葉に、笑い声がピタリと止まった。
直後、慌てふためいているのだから、普段からフェイトの身を案じている事が容易に見て取れる。

『……えぇ!?け、怪我は?体は大丈夫なのかい!?』
『封印だけならできるけど、今すぐには動けそうにないし、暴走体と戦うのは難しいかな』

『……ちょっと待ってな。すぐそっち行くから』
『ア、アルフ?』
言った瞬間、アルフがやたらとドスの利いた声になったので焦ったのだが、何度やっても念話が繋がらない。
しばらくして、ドドドドドド、と遠くの方から近付いてくる音に、フェイトがまさか、と冷や汗を垂らすと
サウザーが片腕一本で跳躍し、空中で体勢を整え身構えた。

「……来るか」
誰に対してでも無く言った瞬間、部屋の中へと踏み込んできたのは、オレンジ色の毛並みを持った巨大な狼。
口から覗く二本の犬歯を剥き出しにしながら、威嚇行動を取っている。
サウザーもまさか狼だとは思っていなかったらしく、一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに南斗の拳士の顔付きになった。


サウザーが放つ気に当てられたのか、狼が一層威嚇を強めると、体の重心を前にずらし始める。
対してサウザーの取った構えは無形。
両腕を下げた自然体が南斗鳳凰拳の構え無き構えなのである。
一、二秒睨み合ったかと思うと、先に仕掛けたのは狼の方だった。

先手を取られた、と思うより先に目の前に獣の爪が迫る。
即座にバックステップで間合いを取ると、掠めるようにして爪先が通り過ぎ
一瞬の隙が見えた瞬間、サウザーが鳳凰の爪撃を繰り出すべく間合いへと踏む込む。
だが、獣の爪先をも凌駕した拳は、何も無い空を切り裂くに止まっていた。

「俺の拳をかわすとは、ただの獣ではないな」
視線の先には、狼にしては異様なまでの跳躍力で中空を舞う姿。
忌々しげに言った瞬間、サウザーの胸から斜めに裂け目が三本奔り、薄く血が滲み出した。
この攻防は時間にして僅か三秒足らず。
介入する暇も無く始まってしまった戦いを見るだけだったフェイトも、互いに第二撃を繰り出そうと構えている姿を見てようやく声をあげた。

「ま、待ってください!ほら、アルフも止まって!」
サウザーも狼も、今にも必殺の間合いに踏み込もうとしていたのだが、フェイトが心底慌てた声で叫んだので動きを止めた。
「アルフ?まさかこいつの名か?」
アルフと聞いて、何故か砂時計を思い浮かべてしまったが、まぁそれは関係無い。
一旦間合いから離れ、その狼を眺めると、何やら額に赤い宝石のような物が埋まっている。
色こそ違うが、最近、似たような物を相手にしただけに、何となくだがどういう関連なのか分かった気がした。

「随分、派手にやってくれたな。……どういう事だ?」
血を指でなぞりながら、いくばくか語気を強めるサウザーを見て、フェイトが小さくなった。
暗に、まだ隠している事があるなら今の内に話せ、と言われたというのもあるが、サウザーが怪我したというのが原因だろう。
アルフと呼ばれた狼は、威嚇こそしなくなったものの、警戒している事は一目で分かる。
よく見ると、首筋辺りから血を流しており、その傷はサウザーが負った物より少し深い。
両者共に、攻撃を紙一重でかわしたと思っていたのだから、痛み分けというところか。

「この子は、アルフと言ってわたしの使い魔なんです。……いいよ、アルフ」
すると、狼の姿が変わり、人の姿を取るようになる。
五秒も経たないうちに、狼の毛並みと同じ色の長い髪の女がそこに立っていた。

ここまで現実離れさせられた光景を見せられては、これ以上の説明を求める気も失せるという物だ。
まぁ、考えるだけ無駄だと、思考を『あ、新記録……』とばかりに投げ飛ばしたわけで、納得したわけではない。
それは向こうも同じだったようで、狼だった女は首筋を押さえながらサウザーを睨み付けていた。

「……あんた、一体何者なんだい。魔力を持ってない人間が、あたしにこんな傷を付けるなんて」
話す言葉こそ強気だが、その目には、ほんの少しだけ怯えの色がある事が見て取れる。
ただの人間の手刀と思い、避けようともしなかったのだが、突如として凄まじいまでの悪寒が奔り、反射的に中に逃げてしまった。
その選択が正解だったと気付いたのは地面に着地し、フェイトが声を出して止めた瞬間、首筋が浅く裂けた時。
あのまま手刀を受けていれば、間違い無く首が落ちていたのだから、警戒するのも無理は無い。
そんなアルフを抑えるかのように、フェイトが今まであった事の全てを話し始めた。





「へぇ、南斗聖拳ねぇ。そんなモンがあるなんて、全然知らなかったよ」
一通りの事はフェイトが説明したのか、なにかもう自分の家のように馴染んでいるアルフが首を縦に振る。
当たり前のようにフェイトの横にあぐらかいて座っているのは、図々しいを通り越していっそ清々しい物があった。

「いや~、フェイトが動けないって言うから、てっきり早トチリしちゃってさ
  怪我してるみたいだったし、あんたみたいなのが居たら勘違いもするってもんさ。あはははは」
軽く笑い飛ばしているが、この犬畜生様は勘違いという言葉だけで済まそうとしている。
南斗の使い手だから避けられたものの、そうじゃなかったらどうするつもりだと思ったのだが、まぁこの際はいい。

「それで、どうするつもりだ。俺の見立てでは、それなりに動けるようになるまでは二、三日はかかるはずだが」
連れて帰るにしろ、戦えるようになるまではそのぐらいはかかる。
そもそも、一般人なら全身の骨を砕かれ即死してもおかしくないような衝撃を受け
山の斜面に体を激しく打ちつけながら転がり、この程度の傷で済んだのだからバリアジャケット様々である。
それに戦えると言っても、無理を押して何とか戦えるという意味であり、全快には程遠い。
魔法が影響を受けるかどうかは知らないが、肉体的な力は五分も出せれば良い方だろう。
少なくとも、全く体を動かさないというわけではないのだから、どこかに隙は出来る。
昨日のようなのと戦り合うつもりでいるのなら、その一瞬の隙は今度こそ致命的な物になりかねないのだ。

とはいえ、そう忠告してやるだけで、そこから先はサウザーの与り知る所ではない。
相手の力量を見誤り、己の力を過信して、無様に敗れていった拳法家の話なんてのは、拳法に関わる者であれば知っていて当然の事だ。
特に北斗南斗との戦いにおいては、二度目があるという事は限りなく少ない。
病や傷を負っているのなら、それも含めてが今の己の力量。
傷を癒し万全の状態で望むか、傷を押して分の悪い賭けに出るかは当人次第である。


「それなんだよねぇ。あたしは回復魔法なんて使えないし
  時間をかけるしか無いんだけど、フェイトは無茶するからね。ま、そこが可愛いんだけど」
その辺りの事は、アルフも理解しているらしく、何度も首を縦に振りながらフェイトを眺めている。
そして、サウザーの方へと向き直ると、頭を下げて言った。

「だからさ、無理にとは言わないけど、しばらくフェイトをここで預かってくれないかい?」
「アルフ!何……っで!」
予期しなかった申し出に、フェイトが声を荒げ立ち上がろうとしたが、傷が痛んだのかすぐに膝を着く。
サウザーも、さっきまで互いに殺し合う一歩手前だった相手にそんな事を言い出す真意が掴めないのか、いぶかしむ様にして訊いた。

「……本気か?」
「ああ、本気も本気。ジュエルシードはあたし一人で探せないこともないけど
  そうするとフェイトが付いてきそうだし、そんなんじゃ何時まで経っても怪我なんて治りそうにないしね」
フェイトが何か不服そうにしているが、こればかりは聞けないとアルフは断固拒否の構えだ。
「あたしはフェイトの使い魔。フェイトの言うことなら何でも聞くつもりだけど、今はそれ以上にフェイトの体が心配なんだ。……頼むよ」
言うや否や、アルフが床に額を擦り付けんばかりに頭を下げた。
そんな姿を見て少し考えたが、フェイトが心配というのは嘘偽り無いようだし
助け出した時点ではそうするつもりだったので承諾する事に決めたのだった。

「ふぅ……、まぁ、いいだろう」
サウザーがそう言うと、アルフの体がたちまち狼の姿へと変わり人の言葉を吐いた。
どうやら狼の姿でも口は利けるらしい。
「助かったよ。……フェイト、ジュエルシードが見つかったら、すぐ戻ってくるからね」
「うん……。アルフもあんまり無茶しちゃ駄目だよ」
「……念のために言っておくけどフェイトに手を出したらガブっといくよ」
今は動くのは無理だとフェイトも自分で動くのは諦め、別れの挨拶を済ますと、アルフが弾丸のようなスピードで飛び出し山の中へ入っていった。




「……どうも、昨日から信じられぬ事ばかり起こるな」
狼を見送りながら、頭をかいてそう呟く。
願いを叶える謎の宝石に、魔法に、人狼ときた。
ここまでされれば、次に喋るマスコットが現れても驚かない自信はある。
もっとも、大抵の物は素手で引き裂いたり出来るのだから、逆に驚かれそうではあるが。

そんな風にしていると、どこか遠くの方から車が走って来る音が聞こえてきた。
山の中の荒れ道だが、南斗の道場を経由できるぐらいの道は通っている。
それに急時の場合はヘリだって飛ばす事もある。
北斗神拳、南斗聖拳、元斗皇拳。
いわゆる三斗の中では、各拳士の実力の高さはともかく、最も組織力が高いのは南斗である。
南斗列車砲なんていう、頭のネジが軽く二、三本は抜け落ちたような馬鹿げた代物まであるのだから、そのぐらいの装備はあって何の不思議でもない。

とにかく、ここに車で来れるのは南斗の関係者しか居ない。
車のエンジン音が止まって少しすると、また遠ざかっていく。
当代の南斗聖拳において、最強との呼び名の高いオウガイが戻ってきたのだった。

「戻ったぞ。サウザー」
サウザーにとっては聞き慣れた、フェイトにとっては始めての声が響く。
その瞬間、フェイトは少し、いや、かなり驚いた。

「お師さん!」
半ば飛 び出すように表に出て行ったサウザーの顔からは
さっきアルフと対峙した時のような剣呑な表情はなりを潜め、年相応の少年らしい顔付きと口調に変わっていたからだ。

「どうでした?道場の方は」
「それについて後で話がある。わしの留守中に何か変わった事はあるか?」
「それが……少し、思いもしなかった拾い物が」
そんな会話が壁の向こうから少しずつ大きくなってくるのを聴いて、フェイトが顔を強張らせた。
全てを外から破壊する南斗聖拳の使い手。
実際にその力を目の当たりにしただけに、怖いという思いは少なからずある。
サウザーに対しては、助けられたりした経緯から、そういった感情を抱いてはいないものの、その師まで同じかというわけにはいかない。
そんな風にしていると、サウザーに続いて部屋の中に入ってきたのは、長い髪を後ろに結び、同じ色の長い髭を蓄えた、少し厳しそうな人物だった。

「お師さん。この子です」
「うむ……」
値踏みするかのように眺められて、フェイトがまた小さくなった。
元々、人見知りしやすいというのもあるが、オウガイの年齢に似合わぬ体付きや、厳格そうな顔付きに少々萎縮してしまっている。
その丸太のように太い腕が自分の方に向けられたのを見た瞬間、体が小さく跳ね、思わず目を瞑ってしまった。

そして、ポンと置かれるあったかい物。
薄っすらと目を開けると、大きな暖かい手がフェイトの頭の上乗せられていた。

「あ……」
気恥ずかしさから、声が出そうになったが、すぐに止まった。
「大した物は無いが、怪我が治るまではここに居なさい」
フェイトの頭を撫でるオウガイの表情は、今までフェイトが見た誰の物よりも優しく、どこまでも深く大きい。
記憶の中でしか与えられていなかった、親が子に与えるような『ぬくもり』が何とも心地良く感じられる。
そうしている内に、フェイトの頭の中からは、この世界が怖いという感情はどこかへ消え去ってしまっていた。




ヒャッハー!あとがきだーー!
闘気とは非情の血によってのみ生まれる物!
よって聖帝様もラオウも、現時点では闘気を身につけていないため、落鳳破等の闘気技は使えません。
威力的には殺傷設定の場合、無印のSLB=剛掌波ぐらいかと思ってるんですがね。


北斗において、ぬくもり全一のお師さんと、母からのぬくもりに飢えているフェイト。
需要と供給が見事に一致した結果こうなった、今では「たわば」している。



[18968] 第四話:北斗現れる所、乱あり
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:65a0eac0
Date: 2010/06/29 14:58
天空に輝く二つの極星。
即ち、北斗七星と南斗六星。
その極星の名を冠する二つの暗殺拳が存在する。

陰と陽。裏と表。男と女。
表裏一体とも言える拳法の名は、北斗神拳と南斗聖拳。

陰の拳である北斗神拳は一子相伝。
肉体の経絡秘孔に気を叩き込み、表面の破壊よりも内部からの破壊を極意とした一撃必殺の拳法。
時の皇帝を陰から守護する伝説の暗殺拳である。

それに対して、陽の拳である南斗聖拳は外部からの破壊を真髄とし、百八派もの流派を数える。
その南斗百八派の中で頂点に立つ六つの流派を、人はいつしか南斗六聖拳と呼んだ。
南斗六聖拳は、皇帝の居城を守る六つの門の衛将とも呼ばれ、各々が六星に対応した宿命を持つ。
南斗六聖拳が司る星は、その名が示すように六つ。

狐鷲拳の殉星、愛に生き、愛に殉ずる星。
水鳥拳の義星、人のために生き、命を懸ける星。
紅鶴拳の妖星、美と知略の星。又の名を裏切りの星。
白鷺拳の仁星、未来への希望に生きる星。
南斗正統血統が持つ慈母星、母性の星。
そして、南斗六星の主星にして極星・南十字星が鳳凰拳の将星である。

将星の別名は『独裁の星』。
肉親も友も持たぬ、あるのは己ただ一人という生まれながらの帝王の星。
その数多の歴代伝承者の中でも、最も異質な使い手がオウガイだった。




「夜の一族、ですか?」
「うむ。知っておるな、サウザー」
「はい、確か、吸血鬼のような物と聞き及んでいます」
日が沈み、暗くなった家屋の一室では、師と弟子が明かりを挟んで、そんな会話をしていた。
サウザーは吸血鬼のような物と言ったが、夜の一族は紛れも無く吸血鬼。
人より長く生き、血を吸い、驚異的なまでの再生力を誇る。
古来より、世界の影で生き、政治や軍事などを動かしてきた集団である。
それだけに、南斗聖拳との関わりは深い。
時に争い、時に協力し同じ敵を討つという事が、過去幾度もあったし、南斗聖拳の流れを汲む蝙蝠拳などは代々使い手が夜の一族に連なる者達だ。

「その夜の一族がどうかしたのですか?」
「聖司教が動いた」
オウガイのその言葉に、サウザーも幾分か目を細めた。
南斗聖司教は、南斗聖拳百七派の門弟に印可を与える事ができる、いわば南斗の最高権力者。
鳳凰拳は一子相伝のため、その範疇ではないが、それでも南斗全体における権勢は一目置かざるを得ない。
その聖司教が直々に動いたというのはただ事では無いという事である。

聞けば、海鳴市に、純血の血を保った一族がおり、最近その周りで不穏当な動きがある。
そこで、比較的場所が近く、実力の確かな鳳凰拳に声がかかったという事らしい。

南斗聖拳とて、暗殺のみを生業としているわけではない。
中国が共産化され、皇帝たる天帝の血筋は元斗皇拳が直接守護している以上、要人のボディガードのような任を受ける事もある。
鳳凰拳が安く見られているようで、サウザーは気に入らなかったが、聖司教直々となれば、蹴る事はできない。

「では、しばらく家を空ける事になりますね」
サウザーは当然、南斗鳳凰拳伝承者のオウガイが出向く物と思い、そのための準備をしようとしたのだがオウガイはそれを遮るようにして言った。

「いや、これは、お前に行ってもらうつもりだ」
「私が、ですか?お師さん、理由を教えてください」
本来、修行中の身である者が、外で拳を使う事は許されないはずである。
南斗聖拳を封印しても、並の相手なら歯牙にもかけない自信はあるが、それでは万が一があった場合に役に立たない。
それをオウガイが知らないはずはないので、理由を尋ねるとオウガイが続けた。

「サウザー。今年で幾つになる」
「はっ、十五です」
「そうだ。わしが南斗鳳凰拳を継承したのもそれぐらいだ。意味は分かるな、サウザー」
他の流派に比べ、鳳凰拳の継承は比較的早く行われる。
常に師弟が一つとなり修行を行うのだから、その習熟速度は他の五星の及ぶところではない。
サウザーも、遂に鳳凰拳を継承する時が来たという事である。

「南斗鳳凰拳の継承は、目隠しをしての真剣勝負。敗れれば、お前は死ぬ事になろう」
今までに無い表情で話すオウガイを見て、サウザーも本気だと確信した。
今回、出向く事になった理由は、真剣勝負の空気に慣れておくという意味合いが強いという事だろう。
一応の確認の意味も込めて、サウザーがオウガイに尋ねた。

「では、南斗聖拳は」
その言葉にオウガイが首を縦に振る。
「分かりました。お師さん、その間、あの子の事はよろしくお願いします」
一礼して、サウザーが部屋から退室すると、一人残されたオウガイが窓際に移り空を眺めた。


「……弟子に強く慕われるか。ふふっ……、わしは、鳳凰拳伝承者としては幸せ者だな」
オウガイは一つ嘘をついた。
本来の南斗鳳凰拳の継承では、目隠しなどはしない。
目隠しなどせず、正面から師と闘い、殺さねばならぬ。
師を殺すという事で、非情の血を得て闘気を身に纏う事ができるようになる。
真の継承者への道に情けは無いのである。

だが、それではサウザーが南斗鳳凰拳を継承できない事は、誰よりも知っている。
実力的な問題ではない。
この十五年間、厳しくも優しく、ぬくもりを持ってサウザーに鳳凰拳の全てを教えてきた。
サウザーもそれに応え、技の面では教える所は何も無いところまで強くなった。
しかし、鳳凰拳の継承が師を殺す事と知れば、サウザーは鳳凰拳を継がないという道を選ぶ事は目に見えている。
それは、父としては嬉しい事ではあるが、同時に師父としては哀しい事である。

「この命。捨てねばなるまいな」
南斗六星を眺めながら、そう呟く。
師を越えるだけの器量を持った弟子の未来を潰さぬ為に、喜んで捨石となろう。
その悲壮な決意を知っているのは、オウガイと天に輝く将星だけだった。






海鳴市。
人口はそれ程多くない小都市だが、山や海の自然が美しい街である。
最近、野犬騒ぎがあったが、基本的には平和な所だ。
そこに、物騒の塊とも言える南斗聖拳のサウザーが歩いていた。

「月村……か。すぐ分かると言っていたが、どこにあるものか」
その夜の一族の名は『月村』。
この国でも有数の富豪であるだけに、その屋敷も相当な物なのだが、街全体からすれば小さい。
散策がてら適当に歩いていると、ふと一軒の喫茶店が目に入った。

『翠屋』という名前は街に来るたび何度か聴いた事がある。
中々評判の店のようだが、特に用があるわけではないので通り過ぎようとすると、後ろから一台のバイクがサウザーを追い抜き店の前に止まった。

「あー、ここだ!この店のケーキがすっごく美味しいって評判なんだよ!」
ヘルメットとゴーグルを付けた金髪の少女が、その体に似合わぬバイクに跨りながら言う。
言った相手は後ろに跨る少年。
どうも、その少年に見覚えがあったのか、サウザーが話しかけた。

「貴様、ジャ……ジャッキーだったか。こんな北斗の寺院から離れた所で何をしている」
「ああ!?誰がジャッキーだコラァ!って、南斗のサウザーじゃねぇか。てめぇこそ何してんだ」
ヘルメットとゴーグルを外しながら、ジャッキー改めジャギが喚いたが、「冗談だ」と言うと軽く流す。
そうしていると、ヘルメットを外しバンダナを巻いた少女が割り込んできた。

「なになに?ジャギの知り合い?」
「あー、アンナ。まぁ知り合いっちゃあ知り合いだな。滅多に会わねぇけどよ」
その掛け合いを眺めながら、なんとなくだが、ジャギはアンナと呼ばれた少女に頭が上がらないように見える。
「なるほど、そういう事か。兄達に比べて手が早い事だな」
まぁ、そういう関係なのだろうと納得しておくと、幾分か顔を赤くしたジャギが掴みかかってきた。

「ばっ!違ぇよ!俺とアンナはそんなんじゃ」
ジャギが必死になって否定していると、今度はアンナがジャギの顔を覗き込みながら言う。
「ん~?ジャギはあたしの事、嫌いなんだ。そうなんだー」
「いや、そうは言ってねぇけどよ……」
バツが悪そうにアンナから顔を反らす様はどう見てもベタ惚れです。本当にありがとうございました。

「そ、それで、てめぇは何してんのかって聞いてんだよ!」
どもりながら話題を変えようとするあたり、図星なのだが、ここでジャギの相手をしても仕方ないので手短に話した。

「この街にある『月村』という家を探している。知らぬか?」
「あたしは、この店の噂を聞いて来ただけだからねー。ジャギは?」
「俺が知るわきゃねぇだろ」
まぁそれもそうか、と立ち去ろうとすると、後ろから腕を掴まれる。
ジャギかと思い振り向くと、アンナが楽しくて仕方ないというような顔をこちらに向けていた。

「まだ、何かあるのか?」
「いやー、当てずっぽうに探しても時間の無駄でしょ。だったら、聞くついでに、この店に寄ってかない?」
「ア、アンナ!なんでこんな奴!!」
「だって、ジャギは昔のこと話してくれないしー、お寺には入れないから、小さい頃のジャギの話とか知ってたら聞いてみたいんだよねー」
にしし、と愉快そうに笑う辺り、からかうネタが欲しいというところか。
北斗と南斗の男を前に、随分と良い性格をしているようだ。
ジャギはというと、心底嫌そうな顔をしている。
話されるのが嫌なのか、折角二人のところに水を刺されるのが嫌なのか分からないが、こちらとて都合はあるのだから、無視する事に決めた。

「ふむ……、俺も北斗の寺院に行ったのは数年前だしな。色々聞きたい事もある」
本来、北斗神拳は他流試合が禁じられているため、南斗鳳凰拳とて出向く機会は少ない。
たまたま、サウザーとラオウの年と実力が近かったという理由が無ければ、馴染みなどになっていないはずである。
それだけに、今のラオウの実力がどの程度になっているのかというのは、サウザーとしても聞いておきたい事だった。

「ふふん、決まりね。ほら、ジャギ。拗ねてないで行くよー」
「ま、待てよアンナ!……おい、余計な事喋るんじゃねぇぞ!」
ジャギが扉に手を掛けながら、サウザーに指を向け釘を刺す。
来るなと言わない辺り、やはり頭が上がらないという事だろう。
面白い物を見たというような顔をすると、サウザーも店の中へ入っていった。





「くっははは、泣き虫ジャギか。お前にもそんな時代があったとはな」
「そーだよー、この前会った時も泣いてたしね」
「そんな昔の事を、こいつに言わなくてもいいだろうがよぉ」
翠屋の一つのテーブルでは、アンナとジャギが横並びに、サウザーが対面に座って話を続けている。
男二人は店構えとはかなり異なる雰囲気なのだが、そんな事を気にするやつ等ではない。
サウザーは、アンナを北斗の従者か何かと思っていたのだが、実際はジャギが昔、家出した時に世話になって、つい最近再会したと聞いた。
なので、北斗と南斗の話をするわけにもいかず、当たり障りの無い内容になっていたのだが、これが意外と面白い内容だった。

それにしてもと、頬杖を付き、コーヒーを口に運びながらジャギを眺める。
力を付けては来ているようだが、上二人に比べるとどうしても見劣りする部分がある。
劣っているというよりは、ラオウとトキの実力が高いせいで目立っていないと言うべきか。
北斗神拳は一子相伝。
伝承者争いに敗れた者は、自ら拳を封じなければ、拳を潰されるか、記憶を消される。
それだけに必死なのだろうが、こればかりは才能が関わってくるのでどうしようも無い。

案外、南斗聖拳を学んでいればかなりの使い手になるかもしれん、とか考えた。
元々、南斗聖拳は北斗宗家の伝承者争いに敗れた者や、高名な拳法家が集まって南斗を名乗ったと伝えられている。
なので、ジャギが南斗に転向しても何ら問題は無いのだが、そこは本人次第である。


「あー、ごめん。ちょっと席外すね」
席を立ったアンナにジャギが何処へ行くのかと、しつこく聞いたが遂に殴られた。
その際、バカジャギとか言われていたが、まぁ当然だろう。
何で殴られたか分からないような顔をしているジャギは放っておいて
周りに他の客も居ない事だし、これ幸いと本命の話を切り出した。

「ジャギ、そっちの伝承者争いはどうなっている」
純粋な力ではラオウが勝り、技という点ではトキが勝る。
目下のところ、この二人が最有力候補で、これに割って入るのは並大抵の事ではない。
その辺りの事は、痛いほどよく分かっているのか、ジャギも吐き捨てるかのように言った。

「今のままじゃラオウかトキで決まりだろうよ。だが、見てやがれ!ラオウもトキも俺が超えてやる!」」
そう意気込むジャギだったが、サウザーは黙ってそれを眺め考えていた。
確かにジャギには拳才はあるが、他の兄弟のそれは大きく上回っている。
ジャギが一歩進めば二歩も三歩も先へ行くような連中である。
そうであればこそ、先は見えている。
だから、極めて冷徹に告げたのだった。

「貴様、南斗聖拳を学ぶ気は無いか?」
「……どういう意味だよそりゃあ」
真意を掴みきれないのか、聞き返してきたが、その声で店の中の空気が下がった。
だが、サウザーは意に介せず平然としながら続けた。

「北斗の掟は知っていよう。争いに敗れた者は拳を封じなければならん」
「てめぇ……!俺に降りろって言ってんのか!?俺じゃあいつらを超えられねぇって事か!?」
「お前に北斗は向かん」
「ふざけんなぁ!!」
サウザーがそう言った瞬間、乾いた音が店に響く。
テーブル越しに身を乗り出したジャギが拳を放ったのだが
常人では捕らえ切れない程の速さを持った拳は、あっさりとサウザーに受け止められてしまっていた。

「は、離せ!」
振りほどこうとジャギがいくら力を込めても、拳はがっちりと押さえられている。
かれこれ十秒ばかり経ってから、ようやく拳を離したのだが、その間ジャギの拳は全くと言っていい程に動かなかった。

「見ろ。これが今のお前とラオウとの力の差だ」
ラオウとトキは間違いなく天武の才を持っている。
ジャギの才は中の上というところで、仮に強さの上限が同じとしても、伝承者争いという限られた時間の中では差は大きくなる。
ならば、いっその事、時間をかけ南斗聖拳を学んだ方が後々禍根を残さないのではないかと思ったのだが、どうも余計な世話だったらしい。

「……しょう、……ちくしょう!ちくしょおお!」
「あ、ジャギ!どこ行くのよー!」
丁度、トイレから出てきたアンナの静止を振り切ると、ジャギが叫びながら飛び出していった。

男二人に女一人という事もあって、どうもさっきからそっちの方の修羅場的な感じに周りから見られているような気がするが、まぁ気にはしない。
ジャギが飛び出した事情を知らないアンナが、不思議そうに聞いてきた。

「ジャギ、なんか泣いてたけど、何かあったの?」
「こっちの話だ。……だが、放っておくわけにもいかんか」
本音を言えば、放っておいてもいいのだが、自分が原因でヤケになられて、こんな街中で北斗神拳を使われたりでもしたら非常に困る。
巡り巡って、オウガイに迷惑が掛かるのはサウザーとしては何としても避けたい事なのだ。
そう遠くには行ってないだろうと、追う事にしたのだが、その前にアンナに伝票を渡された。

「ジャギの話を聞かせて貰うつもりだったんだけど、話したのはあたしばっかりだったし、まぁ情報料ってとこかな」
同じ金髪でもフェイトとはえらい違いだと思ったのだが、こういうしたたかな性格は嫌いではない。
千円札を三枚程取り出すと、伝票の上に乗せ、返した。

「オッケー。ジャギが戻ってくるまで待ってろって事ね」
伝票の値段の倍の額だったので、その意味を察したのか、嬉々としてメニューに目を通しているあたり、本当に良い性格をしている。
店の中から向けられる異質な視線が少し気になるものの、今はそれどころではないので、ジャギを探すべくサウザーも店を後にした。





「ちくしょう!」
夕暮れの人気の無い公園に、ジャギの叫びと大きな打撃音が響く。
力任せに殴られた木からは、無数の葉っぱと、妙な青い石が落ちてきた。

「何だ?ただの石じゃねぇな。宝石なら、アンナに渡せば喜ぶかな」
青く輝く宝石を手に取り、じっくりと眺める。
その様子を想像して、ほんの一瞬顔がほころんだジャギだったが、すぐに表情が屈辱の色に染まった。

ラオウには見下され、トキに軽くあしらわれ、弟のケンシロウにも追い抜かれかねない。
あまつさえ、部外者である南斗聖拳のサウザーに北斗神拳を諦めろと言われる始末。

「強くなりてぇ……!」
手にした宝石を強く握り締めながら、心底そう願う。

父リュウケンとの関係を家族ごっとと言い、馬鹿にしたラオウを捻じ伏せるような力が欲しい。
すました顔で、俺を見ようともしないトキを屈服させられる力が欲しい。
後から入ってきたくせに、先に北斗神拳を学んだケンシロウに泥を舐めさせるような力が欲しい。
師父リュウケンに伝承者として認めて貰えるだけの力が欲しい。
誰も文句を付けれないような、俺が北斗神拳伝承者であると認めさせるだけの強大な力が欲しい。

「ラオウよりも!トキよりも!ケンシロウよりも強くなりてぇ!!」
ジャギがそう叫んだ瞬間、拳の中の青い宝石が、激しく光りだした。




「あの光……まさか!」
天を貫くような青い光を見て、その方向に駆け出したのだが、近付く事に肌がひり付く様な感覚が強くなってくる。
この感覚は、紛れもなく闘気を前にした時と同じだ。
人気も無い夕暮れ時という事もあって、一足飛びに屋根に飛び移ると光の場所へと向かったのだったが、その先の光景は異様としか言いようが無かった。

「なんと……!あのジャギが闘気を!」
その身から漏れ出すように発せられているのは、まさしく闘気。
真の奥義を極め、その真髄を極めた者のみが身に纏う、拳法を使う者にとっての一つの到達点。
それを、北斗四兄弟の中で最も実力が劣ると評されてきた男が発している。
ジャギの体から噴き出す凄まじいまでの闘気に、思わず生唾を飲んだが
この緊迫した光景に似合わぬ幼い声が聞こえてくると、無数の桃色の帯のような物がジャギの体の自由を奪った。

「リリカル マジカル ジュエルシードシリアルⅩ封印!」
対面の方で、妙な杖を持った子供がそんな事を言っている。
驚くのには慣れたが、まさか似たようなのがもう一組出てくるとは想定外だ。
ただ、これで終われば楽でいいのだが、そうはいかない。

「こんなもんで……、どいつもこいつもバカにしやがって……!この俺様をナメんなぁぁぁぁぁ!!」
苦も無く、桃色の帯を破ったのだから、足止めにもならない。
破られると思っていなかったのか、少女と鼠のような生物が慌てふためいている。
そして、誰に向けて言うでもなくジャギが叫んだ。

「お前ら……俺の名を言ってみろぉぉぉぉ!!!」
「ぐぅ!?」
「きゃあ!」
ジャギから発せられる闘気が暴風となり辺り一面を襲う。
闘いの気迫が無数に繰り出される拳となって、二人と一匹の目に映る。
サウザーは踏み止まったが、少女は吹き飛ばされてしまった。

「くっ……、これ程までに変わるというのか!」
ジャギの手の中に埋まっているのは、間違い無くジュエルシード。
恐らくは、あの暴走体と同じ。
ジャギが北斗神拳の伝承者争いに加わったのは、末弟のケンシロウよりも後と聞く。
他の三人が北斗の伝承者となるために養子に貰われてきたのに対して、ただ一人ジャギはリュウケンの息子として育てられた。

ジュエルシードは願いが強ければ強い程、その強さを増す。
ラオウに見下され、トキに置いていかれ、ケンシロウにも追い抜かれた男が、強くなりたいと願わぬはずがない。
ただの動物であの変貌を遂げるのだから、人一倍執念の強いジャギがこの凄まじいまでの闘気を纏うのも納得がいく。

「俺は……俺は、北斗神拳伝承者……ジャギ様だぁぁぁ!!」
闘気を撒き散らしながらジャギが叫ぶ。
その顔は、目は血走り、顔中に血管が浮き出ており、魔人か悪鬼羅刹の如し。
人と思えぬ程に変貌した様に、サウザーは思い当たる事があった。

「貴様……、まさか魔界に足を踏み入れたとでもいうのか!?」
北斗神拳は一子相伝。
しかし、千八百年前。魏、蜀、呉が割拠する三国志の時代に分裂したと、オウガイから聞く。
魏に付いた北斗曹家拳。呉に付いた北斗孫家拳。蜀に付いた北斗劉家拳。
その中でも北斗劉家拳は北斗琉拳とも呼ばれ、経絡秘孔とは違う経絡破孔を使う。

北斗琉拳を極めし者は、魔界へ至り己を見失う。
事実、北斗琉拳伝承者ジュウケイが魔界へと踏み込み、若き日のリュウケンが引き戻したという。

「ならば、あれが魔闘気か。魔法の力を得て魔闘気を身に付けるとは、笑えん冗談だな……!」
魔闘気とは、魔界へと至った者が身に纏う闘気。
その禍々しさは普通の闘気の及ぶところではない。

げに恐るべきは、ジュエルシード。
あのジャギをここまで変貌させるとは、まさに魔道の力と言うべきか。

横目で少女を見たが、バリアジャケットのおかげか怪我は無い。
だが、体は小刻みに震え、戦意を喪失しているようにも見える。

「なのは、しっかりして!立って!立たないと!」
「ユ、ユーノ君……、た、立てないよ。どうしてかな、にゃははは……」
鼠が何か言っているが、魔法を使うとは言え、子供が魔闘気を前にして立てるという方がおかしい事である。

「失せろ!」
ジャギの掌から血のような赤黒い色の魔闘気が放たれると、無防備な少女に向かう。

“Protection"
それを防ぐべく何やら障壁のような物が張られる
だが、まるで紙のように障壁を突き破ると魔闘気が進んだ。

「ちっ!」
舌打ちをしながら、咄嗟に、一人と一匹を纏めて掴むと、空へと跳ぶ。
その直後、跳んだ場所の地面が激しく砕けたのだから、その威力の程が見て取れるだろう。
子供の未成熟な肉体なら、細胞一つ残さず消滅していたかもしれない程だ。

「あれを受けては、俺とて無事では済まんな……!」
防御魔法やバリアジャケットなどは意味を成さぬ程の闘気量。
闘気を防げるのは闘気のみ。まだ闘気を纏えぬこの身では下手に正面から受ける事はできない。
とにかく、このままのでは拙い。
地面に着地すると、少女の肩に乗っている鼠に話しかけた。

「おい、そこの鼠。奴の魔闘気はジュエルシードとやらが原因だ。どうにかならんのか?」
「あ、あなたはジュエルシードの事を知っているんですか!?」
「なるのか、ならないのか、どっちなんだ」
知っていようが、知らなかろうが、今はどうでもいい。
アルフの例があるし、まぁ同類だろうと思って、封印できるならさっさとしろ、という意を混ぜたのだが、帰ってきたのは頼りない返事だった。

「ぼ、僕は攻撃魔法得意じゃないし、肝心のなのはが……」
なのはという少女の顔に目を向けたが、顔色は蒼白で息も荒い。
妙な杖を持つては小刻みに震えており、ジャギの放つ魔闘気と殺気をモロに受けたと見える。

「だ、大丈夫だよ。ユ、ユーノ君。わたしは、まだ大丈夫だよ。ディバインバスターなら……」
それでも、まだ完全に心は折れていないようで、一人で立ち上がった。
並みの人間なら、肋骨が折れたり、奥歯が取れたりしてもおかしくないのに、大した物だ。

「でも、あの魔力光は異常だよ!近付いただけでも危ないなんて……!それに、砲撃魔法は発動に時間がかかるんだよ!」
ジャギが一歩進むたびに、地面にひびが入り、魔闘気に晒された植物が枯れ果てる。
その様は、まさに魔人とでも言うべきか。
たじろぐ一人と一匹を目にして、サウザーが魔闘気を遮る様に立ちはだかった。

「北斗南斗争えば、大きな災いを呼ぶ……か。だが、こうなっては致し方あるまい。ジャギの動きは俺が止める、その間にどうにかしろ」
あるいは、この状況が大きな災いとも言えなくもない。
人気が無かったから良かったものの、そうでない場所なら魔闘気の影響で人死にが出かねないところだ。

「無茶です!なのはでも危ないのに、魔力を持ってない人が……?」
止めようとしたユーノの目に、サウザーの体で練られた気が全身から外に漏れ出るのが映る。
その色はは薄っすらと輝き、金色の魔力光のようにも見えた。

「わ、わかりました。結界を作ります。無理しないでください」
その間にも、ジャギは魔闘気を放ち続けている。
サウザーも隙をみて、衝撃波を飛ばし応戦しているが埒が明かない。
やはり、この手の事は拳速に優れる南斗紅鶴拳が最も適しているようだ。

突然、目に映る色がモノクロになった。どうやら、これが結界らしい。
放たれる魔闘気を紙一重で見切りながらサウザーがジャギの間合いへと踏み込む。
南斗聖拳は、他の拳法に比べ空中戦に強い。
普通の拳法の場合、空中へ跳ぶという行為は、次の動きが決まってしまうため禁じ手とされているのだが、南斗聖拳程になると話は違ってくる。
特に、南斗六聖拳の一つである南斗水鳥拳は、空中で敵がその動きに見惚れてしまう程の華麗な動きを見せる。
当然、鳳凰拳も例外ではなく、持ち前の踏み込みの速さと跳躍力を生かし、どうにか無傷で間合いへと踏み込んだ。

「やるじゃねぇか。伊達に南斗最強は名乗ってねぇなぁ」
「ふん。仮初の力に酔う愚か者が。今の貴様では、末弟にも遠く及ばん」
サウザーの挑発めいた言葉に、ギリィ、という音が響く。
奥歯が砕けんばかりに力を込めたジャギが、全ての憎しみを吐き出すかのように叫んだ。

「兄より……!兄より優れた弟なんざ存在しねぇんだよ!!」
魔闘気を膨張させたジャギが膝を落とし、両掌をサウザーへと向ける。
その技は、ジャギが唯一リュウケンから直接教わった技。
他者への憎しみ、恨み、妬み等の負の感情の全てを捨て去った者のみが真の力を発揮する事が出来る奥義。

「死ねぇ!」

                    北斗神拳奥義ほくとしんけんおうぎ
                ほく  と   ら   かん げき
               北 斗 羅 漢 撃

そこから繰り出されるのは無数の突き。
ジュエルシードの力によって底上げされた変幻自在の連撃は、サウザーを以ってしても完全には見切れない。

「しぇらぁぁぁ!」

                     南斗鳳凰拳なんとほうおうけん
                なん  と  ほう  ざん  げき
               南 斗 鳳 斬 撃

負けじと打ち返すが、数十発の打ち合いを経てジャギの拳が掻い潜り、たちまち無数の拳がサウザーの経絡秘孔に打ち込まれた。

「ぬぁ!腐っても北斗の兄弟……!甘く見すぎたか……!」
「うるせぇ!俺はぁ!北斗神拳伝承者だ!どうだ、悔しいかぁ!ひゃはははははは!」
サウザーの口から血が毀れ、ジャギが嘲るかのように笑う。
例え南斗聖拳の使い手といえど、秘孔を突かれれば、死の運命から逃れる術は無い。
だが、血を流しながら、サウザーも笑った。

「ぐ……、はははは!この体に北斗神拳は効かん!!」
内臓の位置が逆。経絡秘孔の位置も逆。
経絡秘孔への突きが正確であればあるほど、サウザーに北斗神拳は通用しない。
十万人に一人が持つと言われる体がサウザーの秘密なのである。

伸びきったジャギの腕を掴むと地面へ組み伏せる。
魔闘気こそ凄まじいが、その体は年相応。
サウザーが全力を尽くせば、少しの時間だが動きは封じる事はできるのだ。

「やれ!!」
本来なら、肉ごとジュエルシードを抉り取ってやるのだが、少しでも他の事に力を割けば魔闘気に吹き飛ばされる。
フェイトとアルフから、魔法には魔力にのみ直接ダメージを与える非殺傷設定があると聞いた。
それであれば、魔力などという物を持たぬこの身には大した影響は無い。(していなくても、耐え切る自信はあるが)
だが、魔力の塊とも言えるジュエルシードと、その影響を受けているジャギにはダメージはあるはず。
問題は、魔闘気を打ち抜けるだけの力があるかどうかだ。
もし駄目なら、抑えている手をそのまま突き刺すしか無い。

離れた場所では、白い少女がこちらに向けて立っている。
諸共撃つという事に、少しは抵抗があるのか、申し訳無さそうにしていたが、そんな事考えている場合ではないと考え直したのか杖を向けた。

「いけるね、レイジングハート!」
“Shooting mode set up"
手にする杖が、何やら妙な変形をしたのだが、今のサウザーはジャギを抑えておくだけで精一杯で気にする余裕は無い。
「ごめんなさい、後でお店で一杯ごちそうしますから!」
“Stand by.Ready"
「ディバインバスターーーー!!」
その瞬間、ビームのような閃光が放たれジャギとサウザーに向かった。
「跋折羅!」
「こ、こいつ!まだ!?」
サンスクリット語を叫びながら、ジャギが辛うじて動く右手で魔闘気の塊を打ち出す。
片手だけとは言え、その太さはなのはが放った物に匹敵する。
桃色の魔力と、赤黒い魔闘気がぶつかり合い押し合った。

「う、おおおおおおおおお!」
「頑張って!レイジングハート!!」
どちらかが一瞬でも力を抜けば一気に天秤が傾くこの状況。
魔法を使うとは言え、見た目普通の子供と、仮にも北斗の伝承者争いに加わっている男。
体力面では比較にならず、このまま続けば押し負けると判断したサウザーが手先に力を込め
心臓を貫こうとした瞬間、別の予期せぬ方向から光の弾がジャギにぶつかる。
大したダメージは無いが、ほんの一瞬だけ放つ魔闘気の力が弱まった。

「いっけぇぇぇぇぇぇ!」
その機を逃すまいと、なのはが力を強める。
少しづつ、魔力が魔闘気を押していき、遂にはジャギの眼前まで迫り、それを目にしたジャギが大声で喚いた。
「くそ!くそ!くそぉぉ!俺は北斗神拳伝承者ジャギ、ジャギギギギ!ばわ!!」
完全に押し負けた魔闘気が四散し、光がジャギとサウザーを包むには、そう時間はかからなかった。





ようやく魔闘気が消え去ったジャギの上で、サウザーが一息吐き、手の中のジュエルシードを奪い取った。
ジャギですらこの有様なのだから、ラオウにでも渡れば本当に世紀末モードになりそうだ。
今回改めて分かった事だが、このジュエルシードはロクな代物ではない。
あの時の技が、経絡秘孔を突く北斗羅漢撃だったから良かったものの、あれが南斗聖拳の技だったら、倒れていたのは逆だったはずだ。
いっその事、壊した方がいいかとも思ったが、助けられた手前、先に聞いておく事にした。

「それで、いつまで隠れているつもりだ」
サウザーがそう言うと、木の陰から一人の女が姿を現す。
もちろん、アルフだ。
「バレちゃったか。それにしても、また凄いの相手にしたもんだねぇ。何あれ、魔闘気だっけ?」
「……お前、何時から見ていた」
「ん、最初からかな」
悪びれる様子も無く、軽口を叩く様子にさすがのサウザーも少しイラっときた。
この駄犬は人が必死になってるとこを高みの見物と洒落込んでいたわけだ。
割と本気で南斗殺指葬で、胸にいくつか傷を付けてやろうかと思ったのだが、殺気を感じ取ったのか、慌てて話題を反らしにかかった。

「い、いや、助けてあげたんだから、そのぐらい多目に見てよ」
確かに、アルフが打ち込まなければ、ジャギを殺すしかなかった。
下手すれば、北斗と南斗で戦争である。
理由が魔法では言い訳にもならないので、色んな意味でアルフには助けられたと言うべきか。
そう言った理由から、ジュエルシードをアルフに投げ渡そうとすると、その間にユーノが割り込んできた。

「そのジュエルシードをこっちに渡してください!それは危険な物なんです!」
「なに寝ぼけた事言ってるのさ、この鼠は。あんまりふざけた事言ってるとガブッといくよ」
「鼠じゃない!ユーノ・スクライアだ!」
ユーノとアルフが言い争っているが、危険なんて事は、言われなくても十分体験済みである。
こんな物騒なもの封印するにこした事は無いのだが、どっちに渡せばいいかまではサウザーには分からない。

「どっちでもいいから、早く決めてくれ。三秒数える間に決まらなかったら、壊すからな」
珍しく疲れたのか、硬い口調を維持する気も無く、二匹に向け適当に言う。
その辺りの事情を知っているアルフは、ジュエルシードを壊されては元も子もないと、真剣な表情になってユーノと対峙した。

「一回っきりの真剣勝負。これで文句無いね」
「何だかよく分からないけど、いいよ」
なんだか一対一の闘いが始まりそうなシリアスな雰囲気だが、小動物と女という構図では間抜けにしかならない。
おまけに、どうでもよさ気に「ひとーつ」なんて聞こえてくるのだから、さらに拍車がかかる。
「ふたーつ」と、サウザーが言った瞬間、二匹が同時に拳を繰り出した。


「「じゃんけんぽん!」」
勢い良く振り出された拳の形はユーノはグーで、アルフはパー。
「いっよっしゃああ!」
その結果に、我が生涯に一片の悔い無し!とばかりに、アルフが天に向けて腕を突き上げたが
小動物に勝って本気で喜ぶという光景は、なんだか見ていて痛々しい。
とはいえ、姿が違うだけの同類なので、何も言わずにアルフに向けジュエルシードを投げ渡す。
「これで、フェイトも喜ぶよ。持って行くから、もう行くね。ああ、あんたの事はちゃんと言っとくよ」
喜色満面といった具合に、アルフが飛び去っていくと、後に残された少女と使い魔(らしき物)は酷く落ち込んでいる。
手が届く場所にあったジュエルシードが持っていかれたのだから、分からないでもない。
サウザーも、ジャギを掴むとさっさと立ち去ろうとしたのだが、体の至るところで異変が起きた。

「ごはっ……!な、なに!?」
口からはさっきとは比較にならぬ程の血が溢れ、足元を塗らす。
経絡秘孔が効かぬとは言え、魔闘気の拳を何発も受けたのだ。
その影響が今になってやってきたのだが、これ程までに重たいとは思わなかった。

「だ、大丈夫ですか!?」
「ぐ……心配いら……がっ!……ん」
息を荒くし、中を確かめたが骨は折れていないのは幸いか。
血反吐を吐きながら、今更ながら北斗と南斗が争えば互いに無事では済まないという意味を痛感した。
が、同時に貴重な経験をしたとも思う。
百年ぐらい前ならともかく、このご時勢では表立って死合うなんて事は滅多にできない。
仮初とは言え、あのジャギの強さは北斗最強たるに相応しい強さだったのだから、今後、ラオウとやり合う事になった時に役に立つかもしれない。

手の甲で血を拭うと、やっと落ち着いた。
というより、さっきからユーノとかいう鼠が、肩に乗って何かやっている。

「回復魔法をかけました。本当は時間をかけないといけないんですが、今はこれで我慢してください」
大分楽になった様子に、アルフが言っていた回復魔法がこれか、と内心結構驚いている。
そうしていると、小首をかしげながら、いぶかしむような声でユーノが聞いてきた。

「話して下さい。あなたからは魔力が感じられません。なのに、なぜジュエルシードの事を知っていたんですか?」
その質問ももっともだが、気を失っているジャギが目覚めてしまうかもしれない。
こいつの性格からして、知ったり覚えていたりすれば、またジュエルシードに手をだしかねないのだ。
ジャギを背負うと、とりあえずアンナに引き渡すべく歩を進める。
翠屋が、なのはと呼ばれた少女の家族が経営する店だと知ったのは、それから十分ばかり歩いた先での事だった。


ヒャッハーあとがきだーー!
ジャギ様は南斗に行けば大成したかもしれないというのを、どこかで見た気がするのでこうなった。今では『ばわ!』している。

現在、北斗四兄弟の年齢は、聖帝様15に対してラオウ18~16 トキィ15~14 ジャギ様14~13 ケンシロウ9~7ぐらいと思ってるんだけど、どうも極悪とか見てたら、合わないような気がしてならんけど、まぁそこは次元世界って事でさ……こらえてくれ。



[18968] 第五話:二つの神速
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:65a0eac0
Date: 2010/06/29 03:16
「何で俺が、てめぇに背負われてんだよ」
「貴様が気を失ったからだろうが。まったく、余計な手間をかけさせてくれる」
まるで荷物のように肩に背負われたジャギが、目を覚ますと同時にそう漏らした。
ここまで運んでやったのに、開口一番に悪態とは、師の教育がなってないと見える。
とにかく、動けるようになったのなら、何時までも背負っておく理由は無い。
まだよく状況が掴めてないジャギを片手で掴み持ち上げると、おもむろに手を放した。

「ぶべ!痛ぇな、クソ!」
潰れた蛙のような声を出しながら文句を垂れてきたが、そんな柔な体してないだろうと無視。
その姿は、とても、さっきまで魔闘気撒き散らしながら暴れまわってたやつと同じとは思えない。否、思いたくない。
そんなサウザーの心の内を知ってか知らずか、今更のようにジャギが言った。

「そもそも、なんで俺が気絶してんだ」
あれだけ暴れて何も覚えていないというのも何だか癪に障る物があるが、覚えられていても厄介な事にしかならないので好都合だ。
まぁ、覚えてたら覚えてたで、頭顳を突いて無理矢理にでも忘れて貰うつもりだったが。

問題は、気絶した理由をどう付けるかだが、一般人が束になっても敵わないジャギ相手に
階段から落ちただとか、滑って頭打ったとか、そういうベタな理由は一切通用しない。
少し離れた所を歩く、なのはとユーノを見たが、極星十字拳の如く腕を交差させて首を横に振っている。
言われるまでも無く、魔法の事など話す気も無いし、言ったところでムカつく事を言われるだけだ。
なので、さっきの出来事から魔法を抜いた上で、ある程度捏造しながら話す事にした。

「外で北斗を使っておきながら、覚えていないとは大した頭だな。相手が俺でなかったら、貴様、破門どころの話ではないぞ」
淡々と告げるサウザーを見て、ジャギが思いっきり目を見開いた。
「マ、マジかよ!俺がそんな事したってのか!?」
慌てた様子で声を出しているが、無理も無い。
修行中の身の者が寺院外で北斗神拳の使用、さらに禁じられている他流試合までしたとなれば、これは非常にヤバい。
リュウケンの耳に入れば、キムのように寺院を出る事になってしまう。
息子という立場なら、北斗神拳を学べなくなるだけかもしれないが、どちらにしろジャギにとっては最悪である。
そんな夢の無い未来図を想像してか、とうとうジャギが頭を押さえて座り込んでしまった。
その様子を見て、幾らか溜飲が下がったのか、サウザーが笑いながら言った。

「くっはは。まぁ、貴様の北斗羅漢撃に免じて、リュウケン殿には言わんでおいてやる」
滅多に見る事のできない、北斗神拳の奥義を一つ見れたのだ。
その事を思えば、ジャギが北斗神拳を使った事など取るに足らない小さな事である。
そんな事を言うと、何故かジャギが呆けたような顔をしながら聞き返してきた。

「……今、なんて言った?」
「リュウケン殿には言わんでおいてやる、だ。」
「違う!その前だ!前!!」
「ああ、北斗羅漢撃か。自分で放った奥義も覚えていないとは、余程当たり所が悪かったようだな」
サウザーがそう言うと、ジャギは自分の拳を開いたり閉じたりしながらじっと見つめている。
そして、小さく声を震わしながら訊いてきた。

「お、俺の羅漢撃はどうだったんだ?あ、頭は覚えてねぇけど、体は覚えてるような気がするんだよ」
「どう、と言われてもな……。この俺と五分に打ち合えたのだから、一応、見事だったと言っておいてやる」
正確に言えば、打ち負けたのだが、石の力を差し引いて
さらにジャギの持つ力が最大限に発揮されたという事にして五分というところだろうか。
というより、この様子を見る限り、こいつ北斗羅漢撃を完全に習得してなかったのか、と思うと逆に呆れてきた。
記憶を失っていても、体が覚えているというあたりは、さすが北斗の兄弟というところだが
闘気の事まで覚えていたとしたら、今後、伝承者争いに一波乱起こりそうだ。
とんだ厄介事を起こしてくれたジュエルシードだが、ジャギの願いを叶えたのかもしれない。
あくまで可能性だが、そうなるようであれば、あのラオウの顔が屈辱に歪む顔は是非とも拝みたいものである。
肝心のジャギはというと、南斗最強を謳う南斗鳳凰拳を相手に五分に打ち合ったと言われ、感極まったのか少し泣いていた。

「ふっ……、泣き虫ジャギとはよく言ったものだな」
「う、うるせぇ!」
よくもまぁ、この短時間で表情が変わるものだと感心する。
あの四兄弟の中で一番人間臭いのはジャギだろうが、一昔ならここまではならなかったはずである。
翠屋の前まで歩くと、少し頬を膨らませたアンナがバイクのシートに肘を付いているところだった。

「もう、ジャギ遅いよー」
「ああ、悪ぃ!」
走りながら駆け寄るジャギを見て、変わったのはアンナと出会ったせいかと納得がいった。
長兄は純粋な強さのみを求め、次兄はどこか達観しており、末弟は幼さ故に不明。
人の事言えた立場ではないが、どいつもこいつも仙人みたいだ。
そんな事を考えていると、バイクのエンジン音が聞こえてきた。

「じゃあな。次に寺に来た時はてめぇも倒してやるから首洗ってやがれ」
「ふん……。一度のまぐれで何を調子付いている。寺を抜け出すような未熟者に俺が遅れを取ると思うか」
互いに減らず口を叩くと、バイクが動き出し、あっという間に二人の姿が小さくなる。
その時のジャギは本当に良い顔をしていた。





さて、面倒事の一つは片付いたが、次はこっちだ。
ジュエルシードを知っている理由だけでも話す量が多いのに、魔闘気に北斗神拳と南斗聖拳ときた。
なのはだけなら、秘孔を突いて忘れて貰うのも手だが、あいにく小動物の秘孔なんて知らない。
どうした物かと少し悩んだが、店の中から一人の男が出てきた。

「ああ、少し中で話したい事があるんだけど構わないかな」
そう言って話しかけてきたのは、翠屋の主人だ。
アンナの性格なら、人にツケ残したまま帰ったという事も十分考えられたので
渡した額では足りなかったかと思い、言われるままに店に入ると、どこからか向けられる二つの視線に気付いて目を細めた。
ほんの僅かに敵意と殺気が混じっているように感じられるのだから、少なくとも歓迎はされていないようだ。
遅れて、なのはとユーノも入ってきたが、奥に行くように言われて、渋々と言った具合に消えると、思いもしなかった事を言った。

「悪いと思ったけど、さっきの話は聞かせて貰ったよ。さっきの彼は北斗神拳、君は南斗聖拳を使うんだろう?」
確かに、南斗聖拳とは一度言ったが、北斗神拳は北斗としか言っていない。
どちらにしろ、常人には聞こえないように話したつもりだったので、サウザーもほんの少しだけ手に気を込めながら問い返した。

「……ただの人間ではないと思っていたが、何者だ」
「御神真刀流小太刀二刀術、と言えば分かってくれるかな」
「御神……!あの御神か!」
出した名を聞いてサウザーが大きく声をあげた。
分かるもなにも、御神と言えば南斗聖拳でも、その高名は伝わっている。
北斗南斗が古来中国より伝わる暗殺拳なら、御神は日本に代々伝わる暗殺剣。
表の御神家、裏の不破家と呼ばれる関係は、まさに北斗南斗そのものである。
その実力は、並の南斗の使い手では相手にならず、当代の使い手は南斗十人組み手を無傷で勝ち抜いたと聞く。
犯罪組織「龍」の手によって、その両家の血筋は途絶えた聞いていたのだが、その生き残りがこんな所で喫茶店をやっているなどとは思いもしなかった。

「お互いに立場が分かったところで、改めて自己紹介といこうか。永全不動八門一派、御神真刀流小太刀二刀術師範、高町士郎だ」
人の良さそうな顔をしているが目の奥は笑ってはいない。
サウザーは、その体の一挙一動を見逃さぬように眺めている。
踏み込める間合い、相手の手の位置、それら全てを判断し、今の所は害が無いとしたところで、サウザーも短く名乗った。

「南斗聖拳百八派が一つ、南斗鳳凰拳のサウザー」
何時でも対処できるようにしていたのだが、鳳凰拳と言うと、士郎が本当の笑みを浮かべて言った。

「そうか!君がオウガイ先生のお弟子さんか」
「お師……いえ、師父の事を?」
これまた、思いもよらぬところで師の名が出てきたので、サウザーも幾分か警戒を解く。
少なくとも、オウガイ先生と敬称を付けて呼んでいる以上は、悪い意味での知り合いでは無いはずだ。
そんな様子を察したのか、士郎が昔を思い出すかのように語り始めた。

「オウガイ先生とは、何度かご一緒させて頂いた事があってね。
  昔、爆弾テロに巻き込まれた時、オウガイ先生が止血の秘孔を突いてくれなかったら、こうして喫茶店なんかやってないはずさ」
その瞬間、向けられていた二つの殺気が消えた。

「はぁ……、店の中で北斗だ南斗だの言うから、龍の刺客かと思ったぞ」
息を吐きながら、両手に小太刀の木刀を持っているのは、士郎と似た容姿の若い男。
恐らく、息子というところだろうが、中々に腕は良いという事は動きから見て取れる。

「な、南斗聖拳って暗殺拳なんだよね。怖かったぁ~」
次いでカウンターの下から姿を見せたのは、眼鏡をかけた髪の長い若い女。
こちらもそれなりにやるようだが、まだまだ動きに甘さが見える辺り、修行中というところか。
とにかく、龍のような組織の使い走りと一緒にされてはかなわんとばかりに、サウザーが知っている範囲の事を告げた。

「龍は、南斗水鳥拳のロフウ様と、その奥方のリンレイ様が相手をしている。今は、こちらまで手を出す余裕は無いはずだが」
南斗水鳥拳の道場がある鳥影山は中国にあり、龍も中国を根拠地としている。
南斗聖拳と龍も、その関係から小競り合いが絶えないのだが、最近になって龍の行動が眼にあまるので、遂に六聖拳が動いた。
水鳥拳伝承者であるロフウは、従来の水鳥拳の柔の部分を廃し、鋭く力強い剛拳に組み直した。
対して、リンレイは従来どおりの水鳥拳を使う。
本来はリンレイが伝承者となるはずだったのだが、ロフウを愛していたが故に伝承者の座を譲ったという経緯がある。
その拳は、歴代伝承者の中でも最も優雅で華麗と評され、拳の実力はロフウをも凌ぐと噂されている。
この二人だけでも一拠点を軽々と落とせるだけの力を持っているというのに
南斗水鳥拳直属の十七派までもが動いているのだから、いかに龍とはいえ、たまったもんではないだろう。

「南斗六聖拳が動いたのか。それなら安心してよさそうだ。いや、済まなかったね」
その言葉に裏は無いようで、言い返せば南斗水鳥拳がそうするだけの力を持っていると知っているという事だ。
すると、話の中で分からないところがあったのか、息子の方が士郎に聞いた。

「父さん、南斗六聖拳っていうのは?」
「ああ、南斗聖拳百八派の中でも、特に優れた六つの流派の事だな。優雅で華麗にして残虐非道の水鳥拳
  南斗聖拳でも珍しい脚技を主体とした白鷺拳、拳速では他の追随を許さない紅鶴拳、南斗宗家に最も近い拳と呼ばれる狐鷲拳
 そして、その六聖拳の中でも頂点に立つ南斗聖拳最強の流派がサウザー君の鳳凰拳だ。……後一つあるんだが、それは俺も聞いた事が無いな」
一応の説明を終えると、士郎が目配せを送ってきた。
慈母星については、南斗聖拳の中でも知っているのは限られた一部の者なので、六聖拳への認識は概ね間違ってはない。
肯定の意を送っておくと、納得したのか息子の方が前に出てきた。

「御神真刀流小太刀二刀術師範代、御神の剣士、高町恭也」
「高町美由希です。さっきはごめんなさい。ほ、ほら、恭ちゃんも謝った方がいいんじゃない?」
無愛想な恭也に比べて美由希の方は随分と腰が引けた様子をしている。
南斗聖拳最強の流派の使い手というのもあるだろうが、恐らく、いや、絶対に勘違いをしているので訂正しておく事にした。

「いや、要らぬ世話をかけた。が……一応言っておく。俺は十五だ」
「嘘!わたしより二つも年下なの!?……恭ちゃんより上かと思ってたのに」
どこぞのリアクション芸人顔負けの驚き方をする美由紀だったが、普通はそうだろう。
日本人男性の平均を遥かに上回るガタイといい、少々古風で硬めな話し方といい、これで十代半ばに見えるなら、言い当てた者の眼力は相当に高い。
一見ポーカーフェイスを保っている恭也も内心ではかなり驚いており、この場で平静を保っているのは士郎ぐらいのものだった。

「それで、サウザー君は何をしに海鳴市へ?南斗の使い手が、ただ観光ってわけじゃないだろう?」
「この街にある、月村という家をご存知であれば教えていただきたい。見れば分かる程の屋敷だと聞いていたのだが」
いつの間にか喫茶店の店主らしい雰囲気に変わった士郎が聞いてきたが、もちろん全てを答えるわけにはいかない。
最低限の事だけ伝えると、恭也が一度収めたはずの敵意をまたサウザーに向けてきた。

「……何のつもりだ」
何が気に食わないのかは知らないが、ここまでの敵意を向けられて放置しておける程、甘い人間ではない。
しかも、その相手が御神ならなおさらである。
とはいえ、オウガイの知り合いである、士郎ならもう少し対応が違ってくるのだが。
牽制代わりに視線を送っておくと、恭也が手にした小太刀の木刀を突きつけてきた。

「言え!月村に何をしに行くつもりだ!」
結構な剣幕に、内心で舌打ちをした。
はっきり言って説明するのも手間がかかるし、事は南斗聖拳が関わる事なので、話すなんて事は問題外だ。
「貴様に話す義理など、どこを見渡しても存在せんな」
突き付けられた木刀を手で払うと同時に言い捨てる。
その言い草に、さらに火が付いた恭也が逸らされた切っ先をサウザーに向けると、木刀の刀身に四本の切れ目が奔り、音を立てて床へと落ちていった。

「な……!いつの間に!」
これが南斗聖拳の恐ろしいところだ。
その手足は、如何なる名刀よりも切れ味鋭く、あらゆる物を切り裂き貫く。
おまけに、武器を持ち構える必要すら無いので、剣術などに比べて攻撃への動作にかかる初速が段違いに速い。
もちろん、その辺りの技量は使い手次第なのだが、ここに居るのは南斗聖拳最強と名高いオウガイが手塩にかけて育てた男である。
もう片方の木刀を構えるより先に、サウザーが指先を恭也に突き付けようとした。

「……鋼糸か。御神は暗器も使うというのは知らなかったな」
いつの間にか幾本もの鋼糸がサウザーの腕に巻きつけられている。
そこまで細い鋼糸ではないので、切り刻むような鋭さを持ってはいないが、拘束するには十分な力を持っているようだ。
鋼糸の先に目をやると、相変わらず食えない表情をした士郎がやれやれ、という感じで立っていた。

「うちの恭也が無礼をしたね。サウザー君も拳を納めてくれると有難いのだが」
そう言われ恭也の方を見ると、さすがに父親に言われたのではと、不承不承の体で引き下がっている。
サウザーとて、ここに喧嘩を売りに来たのではないのだから、向こうにその気が無いのなら手を出す気は無い。
巻き付いている鋼糸を切り裂くとサウザーも拳を下ろした。

「いやはや、鋼糸がただの糸くず同然とは、さすが南斗鳳凰拳」
特に驚いた様子も無く鋼糸を仕舞っている事から、切られる事は承知の上という事か。
やはり油断ならんな、と考えていると説明するように士郎が続けた。

「恭也は、月村さんのところの娘さんとは付き合いが深くてね。まぁ、その、何だ、そういう事だから許してやってくれないか」
それを聞いてサウザーも、そういう事かと納得はした。
この様子なら、身内同然の仲なのだろう。
それならば、と要らぬ争いを起こさないために、もう少し踏み込んだところまで話す事にした。

「その月村から、聖司教に働きかけがあった、とだけ言っておく」
聖司教がどういう意味を知っている士郎は納得いったようだが、恭也はまだ何か不服そうな顔をしている。
何を考えているかは大方察しは付いてはいるが、やはり気分の良い物ではない。
少しばかりの苛立ちを隠そうともぜずに恭也に向け言い放った。

「ふん……、俺の力量をまだ疑っているというところか」
「そうだ。実力も分からないやつに、忍の身を任せられるか!俺と立ち会え!」
どうやら、南斗六聖拳の名と、木刀、鋼糸を切り裂くだけでは、物足りないらしい。
サウザーが指先をゴキリ、と鳴らすと互いの視線が空中でぶつかり合う。
一触即発のガンの付け合いに美由希などは、あたふたするばかりだ。
五秒ほど睨み合いが続くと、サウザーが短く簡単に言った。

「断る」
「よし、道場まで……な、なに!?」
まさかこの流れ、この雰囲気であっさりと断られると思っていなかったのか、恭也が間の抜けた声をあげた。
しかし、そんなのは向こうの都合であり、サウザーには全く関係の無いことである。
本音を言えば、やっても良かったが、彼にとってオウガイの命は全てにおいて優先される。
今回、外で南斗聖拳を使う許可は下りてはいるものの、それでも関係無い所でおいそれと使っていいものではない。
さっき二回使ったのも、相手が御神だったからこそだ。
これ以上、手の内を晒すのも憚られたので、適当な理由を話し始めた。

「我が南斗聖拳では、他流試合は禁じられてはいない。が……、敗者がどうなるのかは、士郎殿が一番よく知っているのではないか?」
南斗聖拳に他流の者が挑み敗れた場合は、南斗の掟に則って処刑が行われる。
南斗十人組み手に挑んだ士郎がそれを知らないはずがなく話を振ったのだが、当の本人はコーヒーを淹れているところだった。

「はは、南斗十人組み手か、懐かしいけど昔の事だよ」
軽く肯定しているが、どう見ても気の良い喫茶店のマスターにしか見えないのだから、人は見かけによらないというのはこの事だ。
のんびりした様子に少しだけ場の空気が緩んだが、サウザーの言葉の含むところに気付いたのか恭也が声を出した。

「ちょっと待て。それじゃあ、俺に勝ち目が無いみたいじゃないか」
処刑、という直接的な表現こそ使わなかったものの、よろしくない事が起こるという事ぐらいは理解できる。
だが、他流の敗者は処刑されるという南斗の掟だが、士郎のように勝てば何も問題は無い。
その上で、立会いを断られるという事は、お前では俺に勝てないと言われているようだった。

「ほう、南斗六聖拳を相手に勝つつもりでいたのか」
まぁ実際そう言ったつもりだったのだが。
はっきり言って、北斗南斗の修行メニューは過酷を通り越して、地獄と言ってもいい。
赤熱した石砂利の中に手刀を繰り返し突っ込むなんてのは序の口で
六聖拳ともなると、針の山に囲まれた棒の上で、飲まず食わずで三日間、同じ姿勢で立ちっ放しとかいうのもある。
なんにしろ、どれもこれも、一歩間違えれば命を落とすようなのばかりである。
実際、水鳥拳の伝承者は、正統伝承者になるための試練で半数が命を落としたと聞く。
サウザーも伝承者にこそなってはいないが、ここまで南斗鳳凰拳の修行を成し遂げ、いよいよ継承への試練が行える所まで来たという自負があった。
とはいえ、そんな事を知らない恭也は自分の実力が馬鹿にされているように感じ、自然と口が挑発染みた物になるのも無理からぬ事だった。

「口だけなら、何とでも言えるからな。それとも、南斗鳳凰拳は逃げ回るだけしか能が無いのか?」
お互い言っている事は似たり寄ったりで大差は無いのだが、その中にはサウザーにあって、恭也には無い物があった。
今風に言うなら、地雷を踏み抜いたとでも言うべきだろうか。
何故なら、サウザーは自分の事よりも、お師さんや、お師さんが使う鳳凰拳が貶された事を怒るタイプ!

「いいだろう、それ程までに言うのであれば相手をしてやる。我が師より託された、この拳を受けても、同じ事が言えるか!」
予想以上に感情を顕にした様子に恭也も一瞬怯んだが、すぐに立て直した。
恭也自身も、御神流を身に付けるために修練を重ねてきた。
漫画に出てくるようなバトルマニアのような趣向は持ち合わせていないが、伝説とも言われる一子相伝の北斗神拳に唯一匹敵するとされる南斗聖拳。
しかも南斗六聖拳筆頭の使い手となれば、闘ってみたいと思うのが剣士の性というやつだ。
美由希は二人を止められそうにないので文字どおり右往左往し、士郎は若い二人が熱くなっている様を見て苦笑いを浮かべていた。

「お、お父さん、止めなくていいの?」
「これは組み手だからね。恭也も使うのは木刀、サウザー君も南斗聖拳の斬撃は控えてくれ
  もちろん、どちらが勝っても負けても、そこで終わりにする事。それで構わないのなら、喜んでうちの道場を貸そう」
南斗聖拳に他流の者が挑み、敗れた場合、処刑されるのが南斗の掟なら、御神流に南斗が挑むという形にすれば、どちらが敗れても何の問題も無い。
屁理屈と言えば屁理屈だが、実際に組み手をするのは御神の道場なのだから、自然とそういう形になる。
今更ながら、恭也の安い挑発に乗せられたと、気付いてももう遅い。
オウガイの事になれば、後先考えないのは悪い癖である。
だが、ここまで来れば退く気は無い。
南斗鳳凰拳に後退は無く、あるのはただ制圧前進のみ。
だから、短く了承の意を送った。





御神の道場で向かい合う拳士と剣士。
言葉の響きこそ同じだが、対峙するその姿は実に対照的だ。
小太刀の木刀を両手に携えた御神の若き剣士は構えを取り、何も手に持たぬ南斗の若き拳士は構えを取らない。
何時まで経っても構えを取らないサウザーの姿を不審に思ったのか、恭也が短く聞いた。

「なぜ構えない」
その問いに答えたのは、立会人を務める高町士郎その人。
手には木刀に鋼糸という、万が一を想定し、いつでも止めに入れる格好のまま恭也の疑問に答えた。

「南斗鳳凰拳に構えは無い。防御を捨て、攻撃のみに特化したのが鳳凰拳だ。
  だが、見た目に騙されて迂闊に仕掛けると手痛い目に合うぞ、恭也。剣術で言えば、柳生新陰流の『直立たる身の位』と同じ事だからな」
拳法の事は知らない恭也でも、柳生新陰流と言われれば、どういう意味を持つのかぐらいは用意に理解できた。
『直立たる身の位』とは、尾張柳生の開祖とも言われる柳生兵庫助が編み出した奥義である。
構えを取らず、相手の攻撃に対して無念無想の裡に斬りつける、言わば極まった後の先。
迂闊に仕掛ければ手痛い反撃を食らう事になるし、かと言って仕掛けなければ防戦一方になる。
改めて、無防備に佇むサウザーを見て恭也が息を飲んだ。

「(隙が全く無い……)」
中途半端な実力な者なら、隙だらけに見えるかもしれないが、日々修練を重ね御神真刀流の奥義を体得した身だからこそ分かる。
組み手とは言え、実践であの構えを取るという事は、何も考えてない馬鹿か、相応の実力者しかいない。
なにしろ、一歩間違えれば致命傷に繋がりかねないだけに、諸刃の剣でしかないのだ。
いつ仕掛けるかタイミングを計り損ねていると、唐突にサウザーが、一歩前に踏み出して言った。

「来ないなら、こちらから行くぞ」
二歩、三歩と、ごく自然に歩いて間合いを詰める。
間合いまで、残り三歩の所まで歩くと、サウザーが跳んだ。

そこから放ったのは回し蹴りのただ一発。
その動作にかかるまでの速度が恐ろしく速い。
受けてから反撃しようかとも思ったが、相手が南斗聖拳の使い手という事を思い出して上体を反らす。
すると、目の前をサウザーの脚が通り過ぎ、突風のような風を感じた。

「いい判断だな」
蹴りをかわされ、床に着地したサウザーがそう褒めた。
南斗聖拳を相手に受け技は通用しない。
普通に受けたところで、防御の上から切り裂かれ、砕き散らされる。
防ぐには避けるか、反らすか、さらに間合いへと踏み込んで内側を受けるぐらいしか無い。
もちろん、今のは当たったところで切れはしないが、それでも恭也が腕で受けても、楽にヘシ折るぐらいの威力は持っている。
今のを受けるようなら、大した相手ではないと試したのだが、やはり、中々出来るようだった。

間合いを取ると、サウザーが再び腕を下ろす。
だが、それだけで動こうとはしない。
一目で分かるような挑発的な笑みを浮かべている事から、それがどういう事か恭也も理解した。

「かかって来いって事か……。なら、見せてやる、御神の技を!」
南斗六聖拳を相手に下手な小細工は不要。
出し惜しみはせず、自身の持つ最速最強の技で一気に決める。
二刀の小太刀を納めると、恭也の姿は掻き消えるように消えていた。

――御神流 奥義之歩法 神速

御神の剣士が使う奥義の一つ。
集中力を極限まで高め、自らの時間間隔を引き伸ばし、その内を移動する。
その名が示すように、その動きはまさに神速。
常人では知覚できないモノクロの世界を移動し、相手を一方的に仕留める、恭也が持つ切り札である。

そのモノクロの世界の中を、スローな動きで恭也が突き進んでいる。
今の感覚に運動能力が付いていけないために起こる現象だ。
このまま後ろを取り、得意技で決めるつもりだったのだが、不意に何とも言えぬ悪寒が背中を奔った。
この世界の中で動けるのは、神速に達した人間のみ。
しかし、サウザーは鳳凰が翼を広げるかのように両手を広げ始め、移動する恭也の動きを目で追っていた。

「(まさか、神速に追いつけるのか!?)」
神速の世界故に、声には出ないが、サウザーの動きは確実に恭也を捉えている。
御神が極限まで高めた集中力によって神速の世界へと入るのなら、南斗鳳凰拳は、その超人的なまでの踏み込みによって神速の世界へと達する。
ただ純粋に、動体視力、運動能力の高さだけで神速へと至るのは、ある意味では御神流の物と対極的な存在と言えよう。
鳳凰の翼が広がりきった時、二つの神速が交差した。

「御神流奥技之六――」
「南斗鳳凰拳奥義――」

                              極
   薙                         星
                              十
                              字
                              衝
   旋                         破
                              風


恭也が放った奥義は、抜刀術の剣速と、突進術の威力を併せ持った高速の四連撃。
今回は神速を重ねており、いかな達人でも、神速に達しない限り、その剣を見切るのは不可能とされている。

対するサウザーが放った物は、神速の踏み込みと鳳凰拳の斬撃により、敵をすれ違い様に十字に切り裂く必殺の奥義。
その拳の鋭さは、斬られた相手の傷が浮かび上がるまで数秒を要する程。
背中合わせだった二人が同時に向き直ると、サウザーの両頬と両腕に傷が一本づつ付き、恭也の服は、大きく十字に切り裂かれていた。

「速さだけなら、俺と互角か」
頬から流れる血を親指で拭いながら、サウザーが言う。
息一つ乱していない様子を見て、恭也は四つも年が下の男を始めて化物だと認識した。

互角と言っていたが、恭也はそうは思っていない。
互いに付いた傷がその証拠だろう。
サウザーは、かすり傷が四つ付いただけなのに対して、恭也は服を大きく切られた。
これが真剣勝負なら、今頃は血溜まりの中で倒れ付している事ぐらい嫌でも想像が付く。
それに、剣術三倍段という言葉が示すように、素手の拳法家が武器を持った剣術家と互角に戦えるという事は、単純な技量は拳法家の方が高いという事である。
まぁ、手足が刃物同然の南斗聖拳にそれが当てはまるかどうか分からないが、恭也は潔く負けを認めた。

「俺の負け……だな。さっきの非礼は詫びよう。南斗鳳凰拳、俺の想像以上だった」
小太刀を仕舞い、頭を下げる恭也を見て、サウザーも拳を収めたが少し意外だった。
まだ余力を残してそうだったので続けると思っていたのだが、この潔さと素直さはジャギは少しは見習えと思ったぐらいだ。
そうしていると、士郎が手を叩きながら近付いてきた。

「見事な試合だったよ。オウガイ先生は、良いお弟子さんに恵まれたようだね」
「いや、俺に奥義を使わせるとは、さすが御神の使い手」
実際、極星十字衝破風を使う事になるとは思ってもいなかった。
はっきり言って、恭也は並みの南斗の使い手よりも十分に強い。
特に、あの動きは、極めれば鳳凰拳を除いた六聖拳とも良い勝負が出来るようになるかもしれない。
そこまで考えて、もしやと思い、サウザーが士郎に聞いた。

「士郎殿は、南斗六聖拳と手合わせをした事があるのでは?」
「十人組み手をした後にね。恥ずかしい話だが、静馬と二人がかりでもオウガイ先生には敵わなかったんだよ」
聞けば、静馬というのは御神家の最後の伝承者にして、歴代最強の使い手で、当時、不破を名乗っていた士郎と十人組み手に挑んだ後、六聖拳に挑戦したそうだ。
丁度、道場でそれを見ていたオウガイが、その意気や良し、と挑戦を受けて立った。
結果は、同じように神速を破られ、十字傷を付けられたらしい。
十人組み手を勝ち抜いたのだからと、オウガイの口添えで命は取られなかったようだが
その時から二人にとってオウガイは越えるべき壁であり目標のような存在になっていたという。

オウガイに拾われる前の話を聞いて、サウザーは少し複雑な気分だった。
御神と不破の最強の使い手を同時に相手にして破ったというのは、さすがお師さんだと、誇らしく思ったものだが
まさか、自分の他にオウガイを目標としている人物が居たなどとは考えたことも無かったのである。
とはいえ、それ程、昔からオウガイと縁があるなら、聞きたい事は山ほどある。
なにせ、サウザーは拾われる前の事を聞いた事が無い。
南斗千手龍撃の手刀のように繰り出される質問が終わったのは、日がすっかり沈んだ頃だった。


ヒャッハー!あとがきだぁーー!
極星十字衝破風は無双版を取ってみた。
しかし、全くリリカルしてないってどういう事なの……。
聖帝様が、ロフウやリンレイを様付けで呼んでるのは
外伝で、あのユダもそう呼んでたから、愛を捨てる前の聖帝様なら、付けてもいいかなと思った次第。



[18968] 第六話:天空の鳳凰
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:65a0eac0
Date: 2010/06/11 09:51
「はぁ……、今日は大変だったね、ユーノ君」
実に子供らしい部屋の中でそう漏らすのは、高町家の末娘、なのは嬢、御歳とって満九歳。
私立聖祥大学付属小学校に通う、一見どこにでも居そうな小学三年生である。

「そうだね……、まさかジュエルシードが、あんな危険な物だったなんて……」
もの凄い落ち込んだ声で、それに答えるのは人間ではなく、小動物。
その姿形はフェレットによく似ており、その名をユーノ・スクライア。
もちろん、ただのフェレットもどきが人の言葉を解せるわけはないので、普通ではない。
本人?曰く、魔法が使える別の世界から、事故によってバラ撒かれた件のジュエルシードを追って、地球までやってきた。
暴走体との交戦により、身動きが取れなくなったところ、魔力素質を持つ物に念話を送り助けを求め、それに応えたのがなのはだったのである。
海鳴市でちょっとした騒ぎになった野犬事件というのは、この暴走体の事で、それをなのはは高い魔法資質を以ってして見事に封印する事に成功したのだった。

この二人が落ち込んでいる原因は、今日の夕方での出来事。
ジュエルシードが発動した事を感じ、現場へ向かってみれば、鬼のような形相をした少年が赤黒い魔力光のような物を辺りに撒き散らしている所。
躊躇わずに封印をしようと、拘束魔法であるバインドをかけたのだったが、あっさりと破られ吹き飛ばされてしまった。

その時の事を思い出したのか、なのはが小さく震えると自分の膝を抱き抱え俯いた。
そんな姿を見て、ユーノは何とも言えない、いわゆる針のムシロに座るような気分だった。
ジュエルシードを封印するために、なのはに協力を求めたのは他ならぬ自分。
なまじ、なのはの魔力資質がずば抜けて高かっただけに、どこかで命の危険なんて無いと思っていたのかもしれない。
それが今日、根底から覆された。
放たれる血のように赤黒い光の塊。
紙のように破れた防御魔法。
バリアジャケットなんて無いに等しい程の威力を持った光が視界を覆った時は、思わずなのは共々目を瞑った。
あの人に空に連れて行かなければ、どうなっていたかなんて考えたくも無い。
だから、ほんの少し考えると、ユーノはなのはに向けて言った。

「ごめんね、なのは。こんな大変な事に巻き込んじゃって……、やっぱりここから先は僕一人で……」
漫画だったら額に幾本もの黒い縦線が入ってるぐらい暗い調子でユーノが話す。
多分、今のユーノに最も合うバックBGMは『ぼくたちの失敗』。
足手纏いになったとか、そう言う意味ではなく、ユーノなりに責任を感じ
これ以上なのはを危ない目に遭わせたくないと思ったからこそ、そう言ったのだった。

まるで最弱キャラに、逆に7:3付けられた時のような表情と声で話すユーノの言葉を聞いてなのはも顔をあげる。
すると、籠の中で小さく収まっているユーノを抱きかかえると、自分に言い聞かせるかのように話し始めた。

「違うよ。ユーノ君のせいじゃないよ。最初は、ユーノ君のお手伝いが出来ればいいって思ってたかもしれない。
  ……けど、今は少し違うよ、またあんな事が起きた時に誰も居なかったら、もっと酷い事になっちゃうんだよ?だから、二人で頑張ろう」
「なのは……、ありがとう……」
しばらくの間、お互いに何か思うところがあったのか沈黙が続いたが、二人は同時に声を出した。

「「あの人は……」」
同じ声が重なったので、可笑しくなったのか、沈んでいた顔にほんの少し笑みが戻ると、改めてユーノが続けた。
「あの人、サウザーさんは、南斗鳳凰拳っていう拳法を使うんだったよね。
  ……魔力を持ってない人が身体強化魔法を使わずにあそこまで強くなれるのは、正直驚きだよ」
感慨深げに話すユーノが何故に名乗ってもいないサウザーと南斗鳳凰拳の名を知っていたのかというと、単純に、聞いていたからである。
あくまで奥に行くように言われたのは、なのはだけであって、高町家からペットとして認識されているユーノが留まろうと咎められる事は無い。
なのはの肩から美由希の肩に飛び移り、一部始終をしっかり見届けていた。
突き付けられた木刀、腕に巻きついた鋼糸を素手で切り払い、道場では、恭也の姿が消えたと思ったら、何かもう勝負が決まっていた。
その時の様子は、念話を通してユーノが実況していたので、なのはも知っている。
兄の強さをよく知っているだけに、その結果は驚いた物だ。

「うん、お兄ちゃんに勝てる人なんて、お父さんぐらいしか居ないと思ってたんだけどね」
そう言うと、公園での出来事がありありと浮かんでくる。
魔力光とは違う、金色の薄い光を纏いながら、放たれる死の光を全て紙一重で見切り
まるで腕が何本もあるかのように錯覚してしまうような打ち合いは、正直凄いとしか言いようが無かった。
そう言えば、あのジュエルシードに取り込まれていた少年も、北斗神拳とかいう物を使うと言っていた思い出した。
お互い知っている風だったし、世の中凄い人が沢山居るんだなぁ、と思ったりしたのだが、自分や、その家族も十分凄い範疇に入るという事はあまり考えていない。

「でも、やっぱり一番驚いたのは」
なのはのその言葉に、一人と一匹が同時に頷くと同じ声を出した。
「「サウザーさんが十五才っていうのが一番の驚きだよね」」
やっぱり同じ事を思っていて、にゃはは、と生来の明るさでなのはが笑うと、ユーノも釣られて笑う。
もちろん、なのはは、老けているとか、そう言った悪い意味ではなく、単純に凄いと思っただけ。
ユーノに至っては、自分の本来の容姿を思い出してか、カッコいいし、ちょっと羨ましい、なんて思ってたりする。
サウザーをダシにして、二人に生来の明るさが戻ると、ユーノが一つ気になった事を言った。

「そう言えば、あの後、ジュエルシードを持っていった人が居たよね?」
「うん」
「あれは、使い魔だよ。どうやら、僕達の他にジュエルシードを集めている魔導師が居るみたいだね」
話の本筋がジュエルシードに戻ると、なのはの表情が真剣な物に変わった。
双方がジュエルシードを求めれば、何時かぶつかるのは必定。
身をもって体験したように、ジュエルシードは危険な代物。
動物でちょっとした騒ぎになり、人で危うく命を落としかけた。
万が一、悪意を持った人間がジュエルシードを複数手にしたら、それこそ、世界は次元振の衝撃に包まれた!なんて事になってしまう。
去り際に言った、フェイトというのが主の名前で、サウザーとも顔見知りのようだ。
そのサウザーは特にジュエルシードには興味は示さず、真剣勝負……と言えば聞こえは良いが、じゃんけんに勝てば渡すのはどっちでも良いようだった。

出来るなら、その話を聞いてみたいのだが、サウザーには魔力資質が皆無で念話で話す事は不可能。
しかも、家族の皆には、魔法少女やってます、なんて事は内緒のため、直接会って話すのも難しい。
まさか、部屋に来て欲しいなんて言うと、有らぬ誤解を(主に母)招きそうだったので出来ない。
ユーノと顔を見合わせ、どうしようか?なんて話していると、部屋のガラスが小さく鳴った。

「にゃ?なんだろ」
一度なら気のせいだと聞き逃したかもしれないが、それが二度三度と続けば、いくら運動神経が年中ストライキを起こしているような、なのはでも気付く。
カーテンと窓を開けて外を見渡しても何も無い。
ん~、と少呻りながら窓を閉めようとすると、窓枠に手がかかり、いきなりの事で大きく仰け反った勢いでそのまま倒れてしまった。

「ふにゃ!あいたたた……」
幸い、頭からは落ちなかったものの、しりもちを付いてしまい痛い物は痛い。
ほんのちょっと涙目になりながら、窓に目をやると手が掛かった所からは
なのはが今、一番会いたいと思っていた人物が、勢いよく前転するかのようにダイナミックに入室してきた所だった。

なんだかよく分からないけど、体操選手も顔負けの動きに思わず拍手。
唐突に「いいから、直せ」と言われ、不思議に思ってユーノを見ると、顔を赤くし慌てながら首を捻るようにして別の方向に向けていた。

端的に言うと、拙いのは今の姿勢。
現在のなのは嬢は、上から、黄色の長袖、オレンジ色の少々短めのスカート、黒のニーソックスという出で立ち。
盛大にしりもちを付いたせいで、世間様一般で言うところのM字開脚状態。
身長が高く、至近距離から見下ろす形のサウザーはともかく、ユーノの位置からは、スカートの中の布地が盛大に見えてしまった次第。

いい加減、今の姿に気付いたのか、慌てて姿勢を戻したが、みっともない所を見られたので少し顔が赤い。
ユーノに見られたのは、半分ぐらいペット扱いしている所があるので、あまり気にしてはいないようだ。
ようやく、見れる姿になったので、サウザーがなのはに目を向けると口を開いた。

「それで、何が聞きたい。俺の事は、そこの……、確かユーノが聞いていたはずだが」
一目見て、ここの家の末娘は、剣術をやってはいないという事は見て取れた。
士郎が一人、奥に行くように言ったのは、裏の世界に関わらせたくないという配慮からか。
おまけに、このフェレットもどきも単にペットとして飼われているようで
魔法の事は秘密にしているな、と判断し、恭也が月村に連絡をして、迎えが来るまでの時間、どうせやる事無いので、こうして来たのだった。

「貴方はジュエルシードの事をどこで知ったんですか?あの使い魔の魔導師とは、どんな関係があるんですか?」
矢継ぎ早に質問をぶつけてきたのは、籠の中のユーノだ。
もう南斗聖拳の事は伝わっているようなので、言う手間が省けるのは好都合。
……こうも軽々しく南斗聖拳の事が伝わっていいものかと、少し思わないではないが、一応は御神の血統なので良しとする事に決めた。

「南斗鳳凰拳の修行地で、手酷くやられたそいつを拾った。集めている理由までは言わなかったがな」
フェイトがジュエルシードを集めている理由。
これだけは、どうしても話してはくれなかった。
ただ、必要だからと、どことなく沈んだ感じで言うので、無理に追求してもどうなる物でもなしと、それ以上はしなかったが
あのジャギの変貌っぷりを目の当たりにした以上、無理にでも聞いておけばよかったかと、今は思う。

北斗神拳伝承者争い参加者の中で、ブッチギリの最下位を走っていたあのジャギが、南斗聖拳最強の南斗鳳凰拳次期継承者を相手に五分以上に闘えるようになるなど
北斗南斗に名を連ねる者なら、性質の悪い冗談として頭の中のゴミ箱にスラム断己し、次の瞬間には無かった事にされてしまうような話が現実に起こったのだ。
フェイト自身は封印とやらを出来るらしいし、見たところ、世紀末制覇のような野望を持っているように見えなかったが、その背後に何があるかが問題だ。
はっきり言って、ジュエルシードは個人が扱いきれる代物では無い。

しかし、裏に何らかの組織が居た場合、場所が場所だけに南斗聖拳と全面衝突するかもしれないと、一瞬でもそんな考えてしまった事を少し後悔した。
魔導師の集団と南斗聖拳百八派の対決。
考えるだけで馬鹿馬鹿しい。
が、フェイトの後ろに何かあるのは確実なので、その点については留意しておくか、と考えておくと、次になのはが聞いてきた。

「その魔導師はどんな人なんですか?」
「名は、フェイト・テスタロッサ。歳は、お前とそう変わらん少女。特徴は、黒い服と二つに結んだ長い金髪。性格は、己の身を省みんやつだ」
手短にフェイトの事を説明する。
あの怪我で何度もジュエルシードを探しに出ようとしたのだから、サウザーに省みないと言われても反論はできまい。
なのはの方はというと、自分に近い歳の女の子がジュエルシードを集めていると知って興味を持ったようだった。

「……一度、会ってお話してみたいな。フェイトちゃんはどこに居るんですか?」
「山の中だ。住所や看板があるわけではないからな。俺の脚でも半日、常人なら迷わずに歩き通しで二日かかる場所としか言えん」
まだ会ってもいない人間に、ちゃん付けとは随分とフレンドリーな性格をしている。
色といい、性格といい、表裏一体、これまた北斗と南斗みたいだな、とか思ったのは凄くどうでもいい。
そのままの事を話しておいたが、出来ればあの場所には近寄らないで欲しいというのが本心だ。
前にも説明したと思うが、南斗聖拳の修行地という関係上、危ない物がごろごろ転がっている。
どちらにしろ、正確な場所が分からなくてはどうしようも無いし、わざわざ案内する気なんてのは毛頭無い。
その意味を察したのか、一瞬、沈んだ表情を見せたが、すぐに花の咲いたような顔になって言った。

「そうですか……、でも何時か会えますよね」
前向き思考の極致というやつだろうが、何時までも引き摺られるよりは余程いい。
なのは達が聞きたい事はそのぐらいだったようなので、今度はこちらの番だ。
フェイトに見せた時と同じように、割れたジュエルシードを懐から取り出すと机の上に置いた。

「率直に聞くが、これはどういう代物だ?あのジャギに魔闘気を纏わせ、俺ですら、正面からでは打ち負ける程だ。凡百の物ではあるまい」
割れたジュエルシードを見て、二人が目を白黒させると、顔を付き合わせた。
頭の中では、念話による状況把握という名の慌てふためいたやり取り行われているに違いない。
声には出さなくても、動作や表情には思いっきり出ているので、何を言いたいのかは大体分かる。
三十秒ほど経つと、壊すって、そういう意味だったんだ、という結論に達したのか、少し落ち着いたようだった。

「こここ、これは、僕らの世界の古代遺産で、暴走体というのは、たまたま手にした人や動物が間違って使用してしまって、ジュエルシードに取り込まれてしまった結果なんです」
あくまで少しなので、どこか言葉がおぼつかないが、ここまではサウザーも大体は知っている。
僕らの世界という件については、考えるだけ無駄だと判断し、黙って聞いているとユーノが続けた。
「こうなったのは、僕のせいなんです……。失われた古代文明の遺産。僕の一族は故郷でそんな遺産が眠っているような場所の発掘をする仕事をしていました。
  そしてある日、古い遺跡の中で僕がジュエルシードを発見して、調査団に依頼して保管してもらうつもりが、運んでいた時空間船が事故か、何らかの人為的災害に遭ってしまって……」
「……ボン!というわけか」
握った手を開きながら言うと、ユーノが首を縦に振る。
つまり、ジュエルシードが地球に落ちてきたのは、偶然に偶然が重なった結果か、人為的な工作による第三者の手による物というわけで、ユーノのせいというわけでもない。
それを、あたかも自分の責任であるかのように話すのは、生真面目というか、馬鹿正直というか。
髭と尻尾が力なく垂れ下がる姿を見て、この姿で発掘もあるまいと、少し気になったので聞いてみた。

「やつは狼だったが、貴様は人の姿を取れんのか?」
「あ、違います。僕は、彼女みたいな使い魔なんじゃなくて、変身魔法を使ってこの姿になっているんです」
変身魔法などという事を聞かされても、ああ、そうか、ぐらいにしか思えないのは、どうやら今までの常識は『あべし!』してしまったらしい。
もういっその事、シュウ辺りを巻き込みたいのだが、その現南斗白鷺拳伝承者は妻が妊娠したからと、現在行方知れずで、道場の方にも顔を見せていない。
燻ってはいても仁星は仁星。
自分の妻と子の未来は何を置いても大事なようだ。

その横では、さっきまでフェレットだったユーノが民族衣装っぽい服を着た少年の姿に変わっている。
二人して騒いでいるのは、見解の相違があったらしく
ユーノ・スクライアは、フェレットじゃなくて、れっきとした人間だったという答えに達すると、なのはの顔はどんどん赤く染まっていった。

「うう……、ユーノ君に見られちゃったよぅ……」
「ご、ごめん、なのは……」
体は幼くても、心は立派な乙女。
同世代の男の子に、あんなあられもない姿を見られたのだから、そうなるのも至極道理か。
対するユーノはただ平謝りあるのみ。
そして、その原因を作ったと言えるサウザーは、我に余剰戦力無し、そこで戦死せよ!とでも言わんばかりに
あっさりとユーノを見捨てると、壁に背を預けてその様子を眺めている。
南斗鳳凰拳は帝王の拳。
帝王に愛や情けは不要。
とはいえ、当代の師弟に関して言えば、独裁の星は何処に行ったのかと思えるぐらい、ぬくもりに溢れているのだが。
一頻り誤り倒すと、助け舟を求めるかのような締まらない顔でユーノが話しかけてきた。

「ま、前も聞いたんですが、魔闘気って何なんですか?」
魔導師が放つ魔力光と似ているが違う物。
禍々しく、空間すら歪めそうな赤黒い光は、見ているだけで生命が削られるような感覚を味わった。
魔闘気について聞かれる事は予想の範疇だったのか、すぐにサウザーが答えた。

「闘気とは、真の奥義を極め、その真髄を極めた者のみが身に纏う、言わば闘いの気迫。
  魔闘気は、北斗琉拳を極めた者が魔界に入る事で纏う闘気。本来、北斗神拳を使うジャギが纏う物ではないが……原因は言うまでもないだろう」
「ジュエルシード……、ですね……。そう言えば、サウザーさんも、金色の闘気を纏ってたじゃないですか」
「俺のは、ただの外気功だ。あれでは闘気とは言えん」
通常用いる気なら、ある程度の南斗の拳士なら程度の違いこそあれ習得している。
外気功によってさらに鋭さを増した手刀は、それ自体の破壊力に真空の刃の切れ味が上乗せされる。
南斗聖拳でも武器を使わない素手の流派は、この外気功が基本なのだ。
ただ、闘気を纏えるようになる流派となると、個人の資質を別にしても六聖拳を除けば無いに等しい。
それだけ南斗六聖拳の力は突出しているのだが、それは今関係ある事ではなく、気の事なんか知らないのでなのは達も一応それで納得したようだった。

さて、話す事は粗方無くなったが、一つ試しておきたい事がある。
音が出ては元も子も無かろうと、ユーノに結界を張らすとサウザーがパキり、と拳を二回鳴らした。

「魔闘気相手には役に立たなかったようだが、どれ程の物か試してやろう」
試したいのは、あの障壁の強度。
外部からの破壊を真髄とする南斗聖拳で破壊が可能かどうかを試してみたくなるのは人情という物だろう。
ちなみにこの結界。今は、ユーノ自身が意識してサウザーも入れるように張っているが
そうでなければ、魔力資質皆無のサウザーには結界に入り込む事はもちろん、張られた事を感知するのも難しいらしい。
あって、ほんの少し違和感を感じるぐらいか。
空間のベクトルそのものが違うらしく、一方的に攻撃を受けることは無いが、存在を認識できないというのは結構厄介かもしれない。
肝心要のなのはの方は、試すと言われたので、ちょっと緊張した面持ちで杖を手にしていた。

「お願い、レイジングハート」
“Yes my master Protection"
機械的な音声で杖が答えると、サウザーの目には見えないが、なのはを囲むように壁のような物が張られたと感じられる。
手をかざしてそれに触れてみたが、見えない物に弾かれるのは妙に気色悪い。
そのまま手刀を払うように振ると、障壁が音を立てて手刀を弾こうとするが、関係無いかのように切り払った。

「脆いな。これでは魔闘気など防げぬも道理か」
少しは硬かったが、ただそれだけだ。
これなら、華山角抵戯や泰山寺流拳法の例があるように、肉体を鋼鉄並に硬化させた方が、まだ純粋に強度がある。
あっさりとバリアを破られ、ユーノなどは少しは防御魔法に精通しているだけに、その価値観が崩れかけていた。

「なのはのプロテクションを単純な物理攻撃だけで壊すなんて、どういう力をしているんですか、貴方は!」
思わず声をあげ、人間かどうか疑わしいなんて思ったのは内緒だ。
犬を取り込んだ暴走体の攻撃を完全に防げるなのはのバリアを、いとも簡単に力で押し破るなんて、正直言って同じ人類と思いたくない。
単純な力の問題ではなく、一点にかかる切れ味の問題で、破るだけなら斬るより突く方が適しているが、ユーノ視点では単純に力で壊したとしか見えないのだろう。
もっとも、地上のどんな物質をも力で打ち砕くのが南斗聖拳なのだから、間違ってはいない。
やろうと思えば、ダイヤモンドだって二本の指で砕くことが出来る。無論、勿体無いのでやろうとは思わないが。

しかし、よく考えれば、対北斗神拳のみで考えるなら、案外有効かもしれない。
ラオウ並の剛拳を別にして、基本的に北斗神拳は経絡秘孔に気を送り込む事を重視しているため
秘孔を突かれるという事を無視すれば、一撃一撃の威力は南斗聖拳程高くない。
まぁ、北斗神拳を相手にするという事が無いので、どうなるかなど分かるはずもないし、ジャギがジュエルシードを手にしたのだって事故みたいな物だ。
色んな意味で諦めたユーノがフェレットの姿に戻ると、結界が消えた。

「俺からすれば、魔法の方が余程、どういう力だと言いたいのだがな」
この結界や変身魔法にしろ随分と世の理を無視している気がする。
単純な接近戦での破壊力だけなら、南斗聖拳の足元にも及ばないだろうが、逆に言えば南斗聖拳はそれしかできない。
その内、瞬間移動されたり、空とかを飛ばれそうだ。
互いに、魔法と拳法についての認識が想定以上だったという事か。
もう少しばかり、手の内を見せて貰いたい所だったが、個人的な都合で時間があまりない。
その思考を手早く打ち切ると、短く言った。

「俺は暴走体を見つけても、封印などは出来ん。少しぐらいは待ってやるが、来ないようであれば、破壊させて貰う」
ジュエルシードの場所なんざ感知できるはずもないのだが、今まで二度も遭遇しているだけに三度目が無いとは言い切れない。
そうなった場合、残ったジュエルシードの処理は、先に来た方に渡して、どっちも来ないなら、その場で砕く。
下手に持ち歩いて発動でもしたら、今度こそ世紀末モード突入である。
その辺りの事は分かっているのか、なのはが小さく頭を下げた。

「今日は、サウザーさんが居たから、ジュエルシードが封印できたんです。だから、言います。ありがとうございました」
「気にするな。あれはジャギが特別だっただけだ。あいつのような者が、そうそう居るものではないしな」
北斗の兄弟では、実力は一番下かもしれないジャギだが、北斗神拳を使えるというだけで、凡百の拳法家より数倍強い。
まして、海鳴市に限定すれば、ジャギを上回る使い手は士郎、恭也、それに自分ぐらいの物だ。
居合わせれば手伝ってやる、ぐらいの気持ちで言うと窓枠に足をかけた。

ユーノが後ろで、ここ二階とか言っているが、そういう突っ込みは一切受け付けない。
ぐっ、と力を入れるとサウザーが跳んだ。

魔法という力で空を自由に飛ぶ事ができるなのはにとっては、一瞬の間の飛翔かもしれない。
だが、それでも、両手を翼のように広げて飛ぶ姿は、まるで鳳凰が空を舞っているかのようにも見える。

「本当に凄いね……」
「うん……」
サウザーが地面に降り立っても、まだ空を飛んでいるような気がしていて、なのはとユーノはしばらく窓の外を眺め続けていた。
いつの時代でもそうだ。
今も昔も。そして、これから先も、天空の鳳凰が墜ちる事は無いのだから。




ヒャッハー!あとがきだぁーー!!
(*´ω`*)さんは好きです、でも魔法戦士さんはもっと好きです。

ユリアって、回復能力持ちで、外伝で予知能力も付いたから、魔力資質高そうだとか思ったり。



[18968] 第七話:死兆星
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:65a0eac0
Date: 2010/06/17 00:31
『輔星』

北斗七星の横に寄り添うように光る星。
そのまたの名を死兆星。
その星が見えた者は、その年の内に死が訪れると伝えられている不吉な星。
死を司る北斗に相応しい星とも言えた。


「ここでは星なんか、そう見えないか」
周りに誰も居ないので、肩肘張った力と気を抜いて首を鳴らしながらサウザーが誰に向けてでも無く言う。
大分慣れてきたが、やはりあの口調を続けるのは疲れる物がある。
常時、お師さんの前のような自然体で居られれば、楽なことこの上ないのだが今更である。

小都市とは言え、仮にも技術大国日本。
町の中では、死兆星どころか北斗七星や南斗六星も薄く輝くのみ。
死兆星なんぞ、見えないにこした事はないので、文明の光というやつはまさに平和の象徴とでも言うべきか。

しかし、日本から一歩出れば、世界の情勢は不安定極まりない。
龍を筆頭に各地でテロが横行し、一部の国では軍事化が進められている。
特に偉大な将軍様が治める隣の国では、なにやら怪しげな実験も進めているらしいが、南斗聖拳の情報網を以ってしても、それ以上の事は不明。
海という防壁が無ければ、日本もそんな流れに少なからず巻き込まれているのだから、誰かが言った神の国というのもあながち間違いでは無いのかもしれない。
少し風が吹くと、サウザーがゴキリと指を鳴らした。

塀の向こうから飛び越えるように影が迫ると同時に腕を振るう。
さすがに、高町家に迷惑がかかるので、極力斬れないように手加減したが、なぜか妙な金属音がした。

「は?」
まったく予想外な音に、割と間抜けな声が出る。
聞こえてきたのはボコォ!とか、ドカ!とかいう音じゃなくて、なんだかとっても無骨で金属的な音。
下に鎖帷子とか仕込んだとしても、そんな音はしない。
手加減したとはいえ、一体どういう事なのかと目の前の襲撃者の姿を眺めた。

右腕に付いた鋭い刃を持つ剣はともかくとして、表情は全くの無機質。
人間より、どこか機械に近いような印象を受ける女だったのだが
どこからか、シネェーイシネェーイシネェーイシネェーイシネェーイドコヲミテイルシャオトベウリャドコヲミテイカクゴキリサケ、とかいう実に作業的な声が聞こえてきたので考えるのを止めた。

気をとりなおして腕を下げると、右手を振りかぶるようにして突っ込んできた。
かなり人間離れした勢いだったが、恭也に比べれば止まっているような物だ。
薙ぎ払われるブレードを上体を思いっきり反らし避ける。
そのままの勢いで刃を脚で切り飛ばすと、逆立ちした状態でサウザーが止まった。

今見せた物は、南斗鳳凰拳の技ではない。
脚技を主体として戦う、南斗白鷺拳の基本の技の一つ。
相手の攻撃をかわしながら斬撃を放つ事ができ、極めればそこから変幻自在の蹴り技を繰り出す事が出来る。
見よう見真似なので、サウザーはそこまでだったが、シュウが放つ烈脚空舞は、かわした者が一人も居ない。
体勢を戻し前を見ると、女はもう片方の拳だけを向け、小さく呟いた。

「ファイエル」
なんでドイツ語と考える余裕はあったが、次に見せたあまりの光景に今度は声すら出ない。
弾けるような音がすると、向けられていた拳が文字どおり飛びながらサウザーに向かってきている。
咄嗟に掴むようにして受け止めたのだが、並の人間なら間違い無く昏倒コースだ。
離れ離れになった腕には、細いワイヤーが繋がっており、捕まえられた腕を引き戻そうと機械的な音を立てている。
そうはさせんとばかりに、ワイヤーを切り落そうとすると、高町家の庭の入り口の方から、かなり慌てた様子で髪の長い女が走りこんできた。

「ストップ!ストップ!直すのにも時間かかるんだから、それ以上は止めて!!」
さっきから見てたのはこいつの視線かと、気付いてはいたのだがビックリ人間ショーのおかげですっかり忘れていた。
こちらも、やけに人間離れした動きだったので、普通の人間ではないと考えていると向こうから正体を明かしてきた。

「まさかノエルのロケットパンチを受け止められるなんてね。さすが南斗聖司教が推すだけの事はあるわ」
「……なるほど、月村の手の者というわけか。出迎えにしてはいささか歓迎が過ぎるようだが」
聖司教の名が出たので、受け止めた拳を開くとあっという間に手が腕と合体を果たし一つに繋がる。
目の前の女は、それを実に満足そうに眺めているのだから正直手に負えない。
というより、ロケットパンチとか聞こえたのは気のせいだろうか。
そのノエルとかいう女を指差してサウザーが聞いた。

「で、あれは何だ」
「何って……、科学者のロマンじゃない!」
腕を天に突き上げて、なにやら熱く語りだしたが、ついていけんというのが本音だ。
目からビームがどうとか、自爆装置は積むべきだとか言っているが、分からん物は分からん。
そろそろ怪しいオーラが沸きでてきそうだったので、どうしたものかと天を見上げると、そこには薄く輝く北斗七星の脇に光る小さな星が――

「……なにやってるんだ忍。それにノエルも」
脇で輝く小さな星が見えるより先に、呆れた声で恭也がやってきた。
物音一つ立てずに戦えるのが北斗南斗が暗殺拳と呼ばれている所以なのだが、さすがにロケットパンチの音は大きかったらしい。
忍と言っているので、さっき言っていた月村の娘はこいつかと思い、サウザーが前に出た。

「月村の手の者ではなく、月村の者だったか。ならば、あの動きも納得がいく。吸血鬼を見るのは初めてだが」
「あら、奇遇ね。南斗聖拳を使う人間を生で見るのは、お姉さんも初めてよ」
傍目では二人の視線の重なる場所に何か火花のような物が飛び散っている気がするが、きっと気のせい。
実際、サウザーからすれば、吸血鬼と言われても血を吸うだけで、常人よりちょっと力が強くて、治りが早い人間ぐらいにしか思っておらず他意は無い。
人間離れしたとあったが、あくまで常人からというだけで、南斗聖拳全体からすれば平均的なレベルであったし、そう戦い慣れているという具合でもない。

忍はというと、こちらも南斗聖拳に付いては伝え聞いていただけで、実際に目にした機会は無い。
が、曰く「素手で鋼鉄の塊を切り裂く」、曰く「ダイヤモンドを指の力だけで粉に出来る」などと夜の一族の間でも恐れられていたため
どんな仙人が来るかと期待していたのに、来たのは若い男だったので拍子抜けしたものだ。
電話口で容姿などは聞いていたため、南斗聖拳がどれ程の物かと試したのだが、GOLANの有様である。

一人取り残されて、ぼっち勢となった恭也は何とも言えない微妙な表情をしている。
例えて言うなら、自分だけが知っている意中の人の秘密を、他の男があっさり口にしたというところ。
事実、夜の一族である事を知った人間は、一族の存在を忘却するか、一族と共に生きるかの選択を迫られる。
恭也は後者を選び、将来的には月村家に婿養子になる予定だ。
そんな様子に気付いたのか、忍が恭也の顔を覗き込みながら軽く言った。

「南斗聖拳の歴史は二千年。それだけ長く続いている組織が夜の一族とも関わってないわけないんだし、知ってて当然じゃない」
付け加えるなら、その事を知っているのは高位の使い手のみ。
南斗六聖拳を除けば、今代で知っていそうなのは南斗聖司教とその側近。後は南斗五車星の軍師、海のリハク。南斗の智将と呼ばれる南斗流鴎拳のリュウロウぐらいか。

「実は、昔に返り討ちに遭ってから手が出せなくなったのが本当のところらしいんだけど……」
「ああ、大体の事は分かった」
多少の傷は意味を成さないのなら、一瞬で細切れにすればいい。
そもそも、北斗南斗元斗の前では多少の再生能力などあって無いような物だ。

中国に勢力を広げようとした時の抗争で、一族の血筋が随分と磨り減ったと、老人が酒と涙の混合物に濡れながら語ったのは昔の事。
経絡秘孔に無数の拳を叩き込まれ、死んだ方がマシと思える程の激痛を死ぬまで味わった者や、その頑丈さから捕らえられ新秘孔の実験台にされた者。
一瞬で全身をバラバラにされたり、一撃で心臓を貫かれた者。
果ては細胞一つ残さず地上から消滅した者と、無残に死んでいった者は数知れず。
そんな事があってから、一族の間で何時しか中国は修羅の国と呼ばれるようになり、三斗に手を出す事は禁忌とされているのだ。

北斗は門外不出にして一子相伝の拳。
元斗は天帝の血筋を守護する拳。
必然的に、陽拳である南斗との付き合いが深くなり、昔の轍を踏むまいと、共存路線を取っている。
夜の一族は権力や財力を南斗に提供し、南斗は見返りとして暗殺や護衛といった形で拳を貸す。
今も尚、南斗聖拳が高い組織力を維持できているのもこうした背景があったからである。


「それじゃあ自己紹介ね。名乗るまでもないと思うけど、わたしが月村忍。月村家の現当主で、恭也の花嫁になる女よ」
前半部分は適当に、そして後半部分をやけに力強く言う。
大事な事なので、二回言いそうなぐらいだ。
さすがに人前で面と向かって宣言されては気恥ずかしいのか、恭也は仏頂面を横に背けている。
惚気話なんざ、豚も食わないのでどうでもいい。
軽く聞き流すとサウザーも手早く名乗った。

「南斗鳳凰拳のサウザーだ。聖司教の命で赴いたが……、もう一度聞くがアレは何だ」
「うちのメイドのノエルよ」
「先程は失礼いたしました、サウザー様。ノエル・綺堂・エーアリヒカイトと申します」
丁寧に頭を下げてきたが、聞きたいのはそういう事じゃない。
ロケットパンチとかロケットパンチの事とか主にロケットパンチとか。
もの凄く分かりやすい顔をしていたのか、忍がその事についての説明を始めた。

「ノエルは遺失工学。分かりやすく言えばオーパーツで造られたロボットなのよ。もちろん、ロケットパンチはわたしの趣味だけどね!」
遺失と聞いてサウザーが少しばかり目を細める。
科学と魔法の方向性は違うが、ジュエルシードと同じ類の物かと判断したが、普通にしていれば人間にしか見えない。
正直、崋山や泰山辺りには人間に見えないような人間が沢山居るし。

「まぁいい……。詳しい内容は移動しながら聞かせてもらう」
吸血鬼が居るのだし、魔法なんて物もあるのだから特に気にしない方向で行くことに決めた。
段々、色が染まってきているのだろうかと思わないでもないが、それを言ってしまえば北斗神拳や南斗聖拳だって大概なのである。

「分かったわ。車があるからそれで。ノエル、運転をお願い。恭也も来る?」
「ああ」
家を空ける事を言いに恭也が一度家の中に戻る。
三人は先に車に乗り込んで、少しすると恭也が忍の隣に入ると車が走り出したが
その中は、夜の一族一名、南斗の拳士一名、御神の剣士一名、自動人形一名という非常に濃い面子であった。




「今日は北斗七星がよく見える。……その脇に輝く死兆星も」
街中とは違い、山の中であれば天に輝く星はよく見える。
だが、オウガイが眺める先にある北斗七星の脇には、普段見る事のできない星が小さく輝いていた。

とうとう死兆星が見えるようになったが、微塵の恐怖も無い。
むしろ、その死期や死を与える相手は分かりきっている。
死兆星が消えるとすれば、それはサウザーが命を落とす事ぐらいだが、それは無いと断言して言える。
問題は、その後だが……

そんな事を考えていると、襖の向こうで物音が一つ。
いつもは、物音一つ立てぬ二人が暮らす場所だが、今は違う。
襖を開け、暗い廊下に火を灯していると奥の部屋からゆっくりフェイトが現れた。

「まだ無理をしてはいかん。経絡秘孔を突いたとて、安静にするのが一番良い」
専門ではないにしろ、長い経験からオウガイも秘孔の技は使える。
あくまで肉体の治癒力を高める物なので、魔法のようにはいかない。
治りが一日か二日早くなるぐらいだし、安静にしておくにこしたことはないのである。

勝手に抜け出した事にフェイトが少し俯いて恐る恐る顔を上げたが
その先にあったのは、少々人見知りの気があるフェイトでも気を許す菩薩の如き微笑。
念のために言うが、司る星は独裁の星こと将星。
見た目だけなら、仁星や義星と言っても誰も疑わない。
もちろん、フェイトは南斗六星の宿命の事など何も知らないので、ちょっとばかり恥ずかしそうに言った。

「ごめんなさい……、でも、その……」
また俯いて、もじもじしながら小さく言う。
その様子を見て、オウガイも理由を察した。
サウザーを赤子の時から育ててきた経験値は伊達ではなく、あのシュウが話を聞きに来た程だ。
ほんの少しだけ笑い声を漏らしながらフェイトに近付くと、そのまま抱き上げた。

これがもし、年が近かったりすれば、理由が理由だけにフェイトの顔は茹で上がったタコのようになっているのだが
さすがに自分より軽く六倍以上は長く生きている人生の先達に対しては、あまりそういう気持ちが沸かない。
音も立てずに歩きながら目的の場所に着くと、割れ物を扱うかのようにフェイトを降ろす。
すると、フェイトが扉を開けて中へ入っていった。


「……ふむ」
未だ輝く八つの星を眺めながら、こんな事をするのもいつ振りかと、少し昔を思い出した。
お師さんと呼びながら後ろから付いてくるのは今でも変わらないが、十年ぐらい前は寝床を抜け出して、いつの間にか部屋に入ってきたものである。
それでも、男と女という違いがあるので、ダーマやリハクがユリアを目に入れても痛くない程に溺愛しているのも、今なら少し分かる。
古い傷跡の事は聞いているので、やはり南斗の里に連れて行った方がいいだろうか、とか考えていると扉が開いた。

「あ、ありがとうございます」
「子供がそんな事を気にするでない」
あらかじめ用意していたのか、水の入った手桶で手を洗わせるとタオルでフェイトの小さな手を拭く。
場所が場所だけに、衛生観念に割と厳しいのである。
ほとんどなすがままにされていると、また抱えあげられる。
数歩歩いたところで、フェイトが口を開いた。

「一つ、聞いてもいいですか?」
「はは、一つと言わず幾らでも聞いてくれて構わんよ」
「サウザーさんも、オウガイさんも、どうしてわたしみたいな他人に優しくしてくれるんですか?」
「そうだな、……わしもサウザーも、産まれた時から、血の繋がった家族という物を持たぬからかな」
将星は、肉親も友も持たぬ孤高の星。
宿命を背負う伝承者も天涯孤独の非情が常。
これだけなら、歴代伝承者が繰り返してきた事とそう大差は無いが一つだけ違う事がある。
オウガイが、サウザーを拾い弟子として育て始めたのは歴代伝承者の中でも遅い方だ。

本来、南斗鳳凰拳の修練にはぬくもりが入る余地は無く、鳳凰拳の強さは他の五星の及ぶところではない。
だが、伝承者に求められる資質も高く、選べるのも一人のみ。
継承者候補が中々見つからず、老齢と呼べる年になってもオウガイは一人だった。
その反動のせいか、オウガイはサウザーに惜しみないぬくもりを与える事になり
それが良かったのか、サウザーの才能が頭抜けていたのか、あるいは両方なのか、とにかくサウザーは歴代伝承者の中でも随一の使い手になれるだけの素質と才能を見せた。
だが、愛深き故に、継承者への試練を目隠しという方法で行わなければならないのは皮肉というしか無いだろうが。

優しく頭を撫でられながら、フェイトは羨ましいと思った。
血が繋がっていないにも関わらず、この二人は、お互いが強い絆と信頼で結ばれている。
それなのに自分と血の繋がった母の間には、それが無い。
思い出の中には、優しかった母の事を覚えているが、ある時を境にぷっつりと糸が切れるかのように無くなってしまった。
一方通行の思いをぶつけても何も帰ってこない。
ジュエルシードを集めれば、昔のようにぬくもりを与えてくれる。
そう信じているからこそ、フェイトは幼い身でありながら戦いの場に飛び込む。
だから、サウザーが羨ましかった。




「これじゃあ出ていけないねぇ」
何時もとは違う、仔犬サイズにまでなったアルフがその様子を遠くから眺めながら呟く。
本当は一刻も早くジュエルシードを届けたいのだが、今は無理だ。
魔法の事はなるべく知る者を少なくしておきたいというのが二番目で、一番はオウガイに抱えられるフェイトの顔が、年相応の物になっていたのがその理由。
九歳と言えば、両親に甘えて、友達と遊んでと楽しい盛りで、戦闘訓練を受けたりジュエルシードなんて危険な物を集めるような年頃ではない。

「あの鬼婆……」
いけしゃあしゃあと、フェイトにジュエルシードを集めて来いと言った時は、本気で殺してやろうかと思った。
それでも行動に移さなかったのは、フェイトがそれを望んだからに他ならない。
思い出してムカついてきたのか、普通の獣には出せない殺気が溢れ、辺りの茂みや木の葉がざわめく。

突然ゾクりと、背筋に寒いものが奔り、もう一度前を見るとオウガイが鋭い目を向けながらこっちを見ていて、目が合ってしまった。
慌てず騒がず、獣っぽく座り後ろ足で首筋を掻いていると、オウガイは視線を外して歩き出した。

「……弟子も師匠も化物だね。こりゃあ」
フェイトを見る優しげな表情からは想像も付かないが、自分では勝てない相手だと素体となった狼の本能が警告を放っている。
何というか、ヤバい。
どのぐらいヤバいかって言うと、修羅の国最深部で屠殺場と呼ばれ恐れられている、『慶・阿夷道場』に挑むぐらいヤバい。(参考文献:精密機械工学Ⅲ【民明書房刊】)
圧力だけで、腹ばいになって服従のポーズを取ってしまいそうだ。

「ま……、いいか。フェイトにはよくしてくれてるみたいだし」
どうであれ、フェイトに危害が及ばないなら、それでいい。
二人の姿は、どう見ても優しい爺ちゃんと可愛い孫娘だ。
あいつがこれ以上フェイトに酷い事をするなら、二人で逃げ出して、ここで匿ってもらうのも悪くない。
そう思いながら、アルフは少しの間だけ眠ろうと小さく丸まった。



ヒャッハー!あとがきだぁーーー!
ほんと、牙大王とか獄長様とか何食ったらあんなにデカくなれるんだろうねぇ?
ラオウが虎に死を恐怖をさせ、ケンシロウが死を覚悟させ、相手に死を覚悟させる事こそが暗殺拳の極意とリュウケンが言っていた気がするので
帝王の拳である南斗鳳凰拳は、戦わずして敵を跪かせるのが極意ではないかと、考えたり。



[18968] 第八話:夜天に輝く仁の星
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:65a0eac0
Date: 2010/06/25 19:16
「……なるほど。狙われているのは月村と財産と、自動人形と呼ばれる技術か」
パラパラと、出された資料を流し読みしながら、サウザーがそう結論付けた。
機械や工学に、大して専門知識を持たなくても、ノエルの性能の高さぐらい理解できる。
人と全く変わらぬ外見、感情を持った人工知能、精密さを兼ね備えた怪力にetc……。
四次元なポケットと愉快な道具を抜きにすれば、未来からやってきたネコ型ロボットよりも高性能だ。
製造方法は失われており、それ故に金銭的な付加価値は兆を超える。

「そのとおり。でも、わたしやノエルだけなら、昔から慣れてるしどうにかなる。でも、すずかには、そうもいかないのよ」
「……すずか?」
「忍様の妹のすずかお嬢様の事です」
新しく出た名前に疑問符を付けて返すと、間髪入れずに隣のノエルが答えた。
精密KI械だけあっていい反応をしている。
きっと、ガーキャン狩り虎破龍だって完璧だろう。

それはともかくとして、継承者問題に、遺産争い。
夜の一族だの大層な名前が付いているが、皮一枚剥けば人間となんら変わらない。
なまじ人より力、権力、財力を持っているだけに、性質が悪いのは間違いないだろうが。
半分、呆れたような声でサウザーが続けた。

「それで、南斗聖拳……というわけか」
夜の一族の間で、三斗に手を出すことは禁忌。
北斗は南北争ってはならぬの姿勢を貫いているし、元斗は天帝の命でしか動くことは無い。
その中で南斗がどちらかに付けば、攻めるにしろ守るにしろ必然的に片方は容易には手が出せなくなる。
要は、一族の中で誰が先に南斗の看板を手に入れるかで競争していたようなものだ。
思わず溜息が出そうな様子を察したのか、忍が苦笑しながら言った。

「そういう事。まぁ、実際に目にするまで半信半疑だったんだけどね」
ブレードを装備したノエルの戦闘力は、並の一族を一蹴するだけの力を持つ。
本来、自動人形という物の役割が、主人の護衛、又は主人のために狩りを行うために作られた物。
ノエルはその中でもエーデリッヒ後期形という一級品である。
それと同等に戦える、いや、放っておけば確実に壊されていたのだから、南斗聖拳が禁忌扱いされているのもよく分かった。

話しているうちに月村邸へと到着したのだが、デカい。
敷地面積だけで南斗の道場が丸々一つ入ってしまうぐらいだ。
車から降りると、まずサウザーが聞いた。

「で、俺は何をすればいい」
どうやら、やる事はあまりなさそうだ。
月村が欲しいのは南斗聖拳の力ではなく、南斗聖拳の看板なのだから、極端な話、屋敷の中に居てもらえれば良いって事である。
さすがに無為徒食というわけにもいかないので聞いたのだが、上から下へと嘗め回すように見られた後、音が出んばかりに指差されて言われた。

「そうね、まずはその格好からどうにかしないと」
「ん?」
いきなりそんな事を言われて、サウザーが頭に疑問符を浮かべる。
格好をどうにかしろと言われても、別段おかしなところは無い。
この季節なら袖無しの動きやすい物を着ている。
朝起きて着替え、飯食って修行して、修行終わったら汗流して着替えて本読んで寝るのがサウザー君の超健康優良児な日常。
見て分かるように胴着と私服がほぼ一緒。
胴着と言っても柔道着のような物ではないが、そのまま街へ降りれば結構目立つ。
何の疑問も持たずに、そのまま海鳴市へご訪問と相成ったわけで、忍ちゃんの辛口ファッションチェックに見事に引っかかったご様子。
もの凄く何か企んでいる顔で忍がノエルに告げると、何かを承った様子で近付いてきた。

「お部屋へ案内致します、どうぞこちらへ」
客室に通されるが、どうも気になる。
顔を向けたが、「明日を楽しみにしてなさい」と言われ消えていった。
気にしても仕方ないので、特に考えない事にしたのだが、まさか省みる事になろうとはこの時は想像すらしていなかった。





翌日、月村邸の応接間。
その中からは、なにやら擦るような音が聞こえてならない。
今、その部屋には、なんとも言えない微妙な表情をした忍と恭也。
そして、もの凄い不機嫌なサウザーが居た。

さっきからギリギリと音を立てているのは、サウザーが歯を食いしばっている音。
メイドが二人も居るのだから、アレでいこうという忍の提案により
昨夜ノエルが十秒足らずで寸法を取り、一晩で完成させたのが、この衣装。

その名も執事服。
ノエルが着るメイド服とは、森羅万象二対一体の存在。

せっかく作ったんだからと言うから、上だけ着てやったが結果は玉砕。
お前のような執事がいるか!と海鳴市の全住民から突っ込まれそうな勢いである。

自分で言うのもなんだが、妙な事この上ない。
サイズは一寸の狂いも無いのだが、デザインがガタイと合ってないのだ。
もう少しラフに着崩せば似合うかもしれないが、そんなファッションセンスなんざ微塵も持っちゃいねぇ。

一体、何を元にして、これにしたのかと問い詰めると、一冊の書籍。
砕けて言うと、漫画本を出された。
表紙だけで、元になった人物とサウザーの間に明確なまでの体格差がある。

「うーん。恭也は似合ってたから、いけると思ったんだけどな。失敗!」
テヘ☆と舌を出して可愛く誤魔化そうとしているが、さり気なく不穏当な発言をした事に気付き、恭也に視線を向けた。

「着たのか、これと同じ物を」
「……どうしてもって拝み倒されてな」
この様子だと、漫画に書かれているような内容もやったのだろう。
額に黒歴史と書いてあるのが容易に見て取れる。
普通なら、ちょっと痛い娘で済むのだが、本物のお嬢様なのだから余計に性質が悪い。
婿に入ったら相当気苦労を背負い込む事になるなと思い、今のうちに手を合わせておいた。

「じゃあ、次いってみよう」
そして、当然のように忍が言う。
最善の手が駄目になれば次善の手を打つ準備は出来ていたようで、ノエルが何か手に持っている。

恋人なんだから、なんとかしろと恭也を見たが、生暖かくも悟ったような目を向けていた。
三文字で表すなら、N(ねぇ)D(どんな)K(気持ち)、だろう。

そして出来上がったのがこちら。

「うわぁ……」
「これは、な」
さっきと比べて遥かに似合う。
似合うからこそ、そんな声が出て、平静を保っているのはノエルただ一人。
上から下まで黒尽くめのスーツに身を包み、残っていた少年の面影はサングラスによって完全シャットアウト。
いわゆるゴッドな父親な方々と同じファッションでございます。

「動き辛い」
どうにも釈然としねぇ声でサウザーが漏らす。
まず第一に、体の、特に間接部の稼動域が相当に限定される。
第二に、こんなモン着るのは生れ落ちてこの方初めてって事で窮屈この上ない。
第三に、遊ばれているような気がしてならない。
あれか。そんなに、俗世間から離れた所で生きる人間が珍しいか。

これ以上言っても下がる一方かと妥協し、溜息吐きながら高そうなソファーに座って脚を組むと、猫が一匹飛び乗ってきた。
何故だか知らないが、この家やたらと猫が多い。
別に邪魔にはならないので、一撫でするとごろごろ音を出しながら大きくあくびをした。


「悪の組織の親玉って、こんな感じよねー」
グラスでも傾けながら、モニター越しに部下に命令する姿を想像したが、異様なまでに似合っている。
それで、部下が失敗するとグラスを叩き割って、膝の上の白ペルシャがフシャー!と鳴声をあげて逃げていくのはお約束。
まぁ、今サウザーが手にしているのは牛乳の瓶だが。

勝手に親玉にされている事に返す言葉も無いのか、少しだけ忍に目をやると諦めたかのように牛乳を一気に飲み干す。
すると部屋のドアが開いて、女の子が入ってきた。

「おはよう、おねえ……」
途中まで言いかけて、凍り付いたかのように動きが止まる。
サウザーの視線の先にあるのは、忍と同じ色の髪をした少女が目をパチクリさせて突っ立っている所。
そして、ちょっと泣きそうな顔に変わると、小さく言った。

「こ、殺し屋さんだ……!」
そう言い残すと扉が閉まる。
扉の向こうでパタパタとどこかへ走り去る音が聞こえると、なんとも言えない微妙な沈黙が部屋の中に流れた。

「……ぷっ!あははははは!」
堪え切れなくなったのか、終に忍が噴出し盛大に笑う。
恭也も隠してはいるが、口元が小刻みに動いている。
ノエルは……、何時もと同じだ。
殺し屋さんって俺の事か、と認識した時には、手の中の瓶は握り潰され、音に驚いた猫はサウザーの上から逃げ出していた。





「ごめんなさい!」
お約束をしっかり消化した後、事情を説明しに行ったノエルが、もう一人のメイドと、逃げた少女を連れてやってきたのだが
出会い頭に随分と失礼な事を言ったと自覚しているのか、顔を真っ赤にしながら謝られた。

「もういいから、頭を上げろ」
サングラスを外したサウザーが頭を下げ続ける少女に言う。
これだけ謝っているのに、許さないのも大人気ないし、絵面的にとっても拙い。

「すずかは悪くないわよ。殺し屋さんどころか、ボスって呼ばれても違和感無い姿だったんだし」
それよりなにより気に入らないのは、爆笑した挙句、謝る気ゼロの忍の方だ。
誰のせいでこうなったと思っている。

「南斗聖拳を使うのなら、間違ってはないだろうしな」
裏の不破家の出のやつが何を言うか。
「よし、表出ろ」
「南斗に他流の者が挑んで敗れたら処刑されるんじゃなかったのか」
親指を立てて言うと、南斗の掟を盾にして流された。
矛先が無くなると、露骨に舌打ちをする。
重なる物が重なって、なんだかんだで結構ビキビキきているようだ。
例えるなら、コンボの練習をしようと思った所に、1ステージ目でジョインジョイントキィされた時のように。

「あ、あの……」
今にも台パン始めそうな様子に、すずかがビクつきながら声を出した。
ちなみに、高まりすぎた時にする台パンはレバーの左側を叩くのが正しいマナーとなっております。

「ああ、何だ」
そう返す姿は、うって変わって平静そのもの。
殺気は気配となり、敵に容易に己の位置を掴ませてしまう。
感情のコントロールを出来ないようでは、南斗聖拳の使い手としては未熟もいいところだ。
それでも、恐る恐るといった具合にすずかが続けた。

「知ってるんですよね……。わたしとお姉ちゃんの事」
「夜の一族の事か?そこまで詳しく知っているわけではないが、一応はな」
「怖く……ないんですか?人の血を吸う化物なのに……」
見るからに落ち込んだ風に話すすずかを一瞥すると、厚いテーブルの端を二本の指で掴む。
ほんの少しだけ力を込めた次の瞬間、その部分が音を立てて凹み、綺麗に抉り取られていた。

「化物など、これぐらいの事が出来るようになってから言うんだな」
言いながら、弾き飛ばされたそれを受け取り眺めると、抉り取られた部分がプレス機にでもかけられたように小さくなっている。
凄まじいまでの圧力がかかったのは明白で、すずかは目の前で行われた行為に目を丸くしていた。
出来るか出来ないかで問われれば、間違いなく出来ない事なのだ。

「そうそう。世の中、夜の一族なんかよりもっと化物染みた人間はたくさん居るんだから、気にしちゃ駄目よ」
三斗の流派において、時代の最強の使い手達は、圧倒的なまでの力から死神だの悪鬼羅刹だの言われてきたのである。
そして、忍はサウザーに向けて爽やかに続けた。

「それで、うちの家具を抉ってくれた人は、なにをしてくれるのかしら?」
「む……」
嫌な笑みを浮かべながら言うので、サウザーも言葉に詰まった。
自分の家のような感覚でやってしまったが、この立派な屋敷に置いてあるだけあって、テーブルも相応に立派。
つまり、もの凄い高級品の可能性が高いわけで、それを傷物にしてしまったわけだ。

払えるだけの持ち合わせは無いし、南斗の里に回すにしても理由が理由だけに不問にはならない。
お師さんに迷惑がかかるかもしれないと考えると、自然に口が動いた。

「……何が望みだ」
金がケツを拭く紙にもなりゃしねぇ時代ならともかく、力に直結している今現在。
口振りから見返りを求めているのは明白で、清算できるならしておいた方が得策だろう。
それを受けて忍は、我が意を得たりとばかりに言った。

「簡単な事よ。南斗聖拳がどれだけ人間離れした集団か、ちょっと見せて欲しいの」
つまり、技一つ見せろという事か。
自分にではなく、まだ色々引き摺っているすずかにだろうが。
見世物ではないのだがな、と思ったのだが、そろそろ十年に一度行われる南斗相演会が近い事を思い出して考え直した。

南斗相演会。
それは十年に一度、南斗聖拳百八派が一堂に会す演舞会。
勝負事ではないので勝ち負けは無いが、磨きあった技の数々を披露し合うのは荘厳の一言だろう。
相演会において注目を浴びるのは、南斗聖拳史上最も優雅華麗と呼ばれる南斗水鳥拳だ。
この日だけは、天空を支配する鳳凰がその座を水鳥に明け渡すのだった。

南斗鳳凰拳を伝承するのならば、次回は自分が出ねばならない。
百七派を前に無様な真似は出来ず、それこそ水鳥を落とす気で挑まねば。
少々難度が高いが、そのために暖めてきた技が一つある。
練習がてらやっておくのも悪くはないだろうと考えると、見たいのなら外に出るように促した。





表に出たサウザーの手には一体の人形。
恭也などは、南斗鳳凰拳の技の一挙一動を逃すまいと食い入るように注視している。

片手で持った木人形を天高く放り投げる。
投げられた木人形が頂点に達すると、サウザーも跳んだ。

「高いっ……!」
棒高跳びの世界記録を棒無しであっさり飛び越えたのだから、そんな声も出るってもんだろう。
地上へ落下する木人形を捉えると、まず全力で膝蹴りを叩き込む。
ぐしゃりと砕ける嫌な音が辺りに響くと、勢いそのままに回転するかのように蹴りを繰り出した。

常人では到底到達不可能な跳躍力と、空中という足場が利かない場所での身のこなし。
これが南斗聖拳全体の特徴なのだが、その中でも鳳凰拳と水鳥拳は群を抜いている。
両腕を翼のように広げたサウザーも体勢を戻し地面に着地した。

「くそ、まだ届かんか……」
南斗鳳凰拳、天翔群星脚。
一度だけリンレイの飛燕流舞を見た事あるのだが、幼いながらもあまりの華麗さに目を奪われてしまった事がある。
拳に対する純粋さから、それを不覚と思った事は無いが、いずれ超えてみせると密かに決意したのは昔の話。
威力を無視した演舞という観点からすれば、こちらはせいぜい妙技止まりで、向こうは神技の域。
手応えはあったが、まだ記憶の中の飛燕流舞には及ばない。
幾分か声の調子を落として言うと、二つに割れた木人形が落ちてきて転がった。

「君、本当に人間なのかな?」
どこか引きつったような顔をしながら忍がサウザーに話しかける。
百歩譲って、あそこまで高く飛ぶのはいいとしよう。
でも、空中でいろいろ動いたり、人形が切れたりするのは訳が分からない。
人外と疑うのも無理は無いが、残念ながら正真正銘、純度百パーセントの人間でございます。

「何やったら、そこまで出来るようになるんだ」
恭也は恭也で、御神の剣に役立てたいのか、そう聞いてきた。
そんなモン幼少の頃から『作業ッショ』と言わんばかりの繰り返しの修練の賜物で
片足立ちで同じ姿勢を保ったまま針の山の上に三日間立ち続けれるようになれば出来る。
と、事も無げに言われ、痛めかけた膝を思わず押さえたのは言うまでもないが。

「お前ら俺を何だと思っている」
「少なくとも同じ人間と思いたくないな」
「少なくとも人間と思いたくないわね」
口を揃えて同時に同じ事を抜かしやがった。
南斗聖拳の常識は、一般社会の非常識という事は理解していたが、ここまで人外扱いされる物だとは思っていなかった。
それも、文字通りの人外である忍と、限定されるとはいえ、南斗鳳凰拳に迫れるだけの速度を出せる恭也に。
貴様らには言われたく無い、と言おうとしたが忍に先をこされた。

「それじゃあ、すずかの事はよろしくね」
「……俺がか?理由は」
「夜の一族も黙る南斗聖拳の使い手。傍に居るだけで手が出せなくなるんだから打って付けよ。わたしの事は恭也が守ってくれるんだしね」
「お、おい、俺はそんな事……」
言葉途中で詰まる。
どうやら上目遣いで、少し涙を浮かべた忍にテーレッテーされた模様。
女の涙が武器なのは昔から決まっている事かも知れないが、これでは御神の剣士も形無しだ。
というか、こんな面前で砂糖漬け空間を作らないで欲しい。

「はぁ……、そういうわけだ。しばらくの間は、少し窮屈かもしれんがな」
「は、はい。よろしくお願いします」
思わず唾を吐きたくなるのを我慢してすずかに話しかけると、凄い物見て多少は吹っ切れたようだ。
護衛するなら、対象が暗いよりは明るい方がいい。
こうして月村での生活が始まったのだった。





サウザーが海鳴市に入って三日目。
何も起こらないので退屈極まりない。
どうも動いているのは夜の一族絡みだけではないようなのだが、詳しい事は南斗の里待ちだ。
それなりに気に入っているのか、サングラスを手で回していると後ろから声をかけられた。

「だからって、南斗の拳士がうちで時間を潰すのもどうかと思うけどね」
苦笑いを浮かべながら、翠屋の店主である士郎がサウザーに向けて言う。
そんな事ぐらい分かっているが、仕方ないのだ。

「……俺が小学校などに入れるわけがないでしょうに」
やたらガタイの良い金髪外人黒スーツの人間を迎え入れる学校があれば、そこは相当治安が悪い場所か何かだろう。
そうでなくとも、このご時勢だ。何時もの服を着ていても入れる事は無い。
実際、それとなく小学校の周りの地形を頭に入れていたら、桜の大門の方に引き止められた。
そこの組織のトップの人間なら、南斗の名を出せば済むのだが、自転車乗って地域を見回るような下っ端が知るわけもない。
幸い、周りに誰も居なかったので、頭顳を突いて無かった事にして、事情を知る翠屋にシケ込んだというわけである。
もちろん、この姿で店内に居座るのは営業妨害に近いものがあるので、奥に控えて、力仕事を手伝ったりしてるが。
職質された事を苦々しげ言うと、士郎が思い出したかのように言った。

「そう言えば、サウザー君は学校には通っていなかったんだっけな」
「必要な事は師父が全部教えてくれたので、その必要が無かっただけですが」
十五と言えば、中学三年か、高校一年。
例え外面が、ざわ…ざわ…しそうな姿でも、それは変わらない。
まぁ、それは北斗も南斗も、多分元斗も同じなので気にした事はなく、むしろ拳を学ぶなら邪魔でしかないと思っている。
その辺りの事情は士郎も知っているので深くは追求せず、一つ提案をした。

「それなら、図書館に行ってみるといい。少なくともここに居るよりは暇じゃないはずだ」
それを聞いて少し考えたが、そうした方がいいかもしれない。
昨日で翠屋の力仕事を片付けたため、これ以上サウザーがする事は特に無い。
他にあるとしたら、翠屋全体を物理的に片付ける事ぐらいだろう。
場所を聞くと、それ程離れていないし時間もある。
軽く礼を言うと、サウザーは店を後にした。






よく晴れた天気、湿度も低く絶好の読書日和である事は間違い。
平日の昼間にしては、それなりに人が集っている海鳴市風芽丘図書館。
年中平和そのものと言ってもいい場所なのだが、今日だけは違った雰囲気が支配していた。

「マ、マフィアや……、マフィアが日本の図書館におる……!」
車椅子に乗った一人の少女が、図書館の異様な雰囲気の原因に気付いてそう漏らす。
いつもより人が少ないと思って不思議に思ってみれば、そこを歩いていたのは
短い金髪をオールバックで固め、上から下まで真っ黒の、いわゆるマフィアスーツを着込んだサングラスの男。

どう見てもそこら辺に居るような、妙な因縁を付けて善良な一般市民から小銭をせびるようなチンピラには見えない。
漫画や映画からの断片的な情報を繋げた結果、あの男は少女の中で
あれは、ブッ殺すと心の中で思ったなら、その時スデに行動は終わっているような本物、という事になった。

「ぶつかったりしたら、ハジかれへんやろか……」
銃規制が激しい日本だからといって、懐の中に銃が入っていないとは言い切れない。
その筋の世界に関係無い一般人が、いきなり殺されるのはよくある事だ。主に漫画の中では。

ちょっとビクビクしながら、目的の本がある本棚に向かう。
最近、頼もしい同居人が出来たとはいえ、今日は大事な用があるので一人で来た。
車椅子ゆえに、自宅からここまで来るのに結構な労力を使うのだ。
せめて、本だけでも借りて帰らねば割りに合わない。

「右良し、左良し……。行くなら今やな」
歩道を渡るときよりも慎重に指差し確認をする。
ただし確認しているのは、どれだけ逃げても追いかけてくる無人のトラックとかではなく、鉛弾を懐に忍ばせているかもしれないマフィアだ。
どこぞの潜入工作員のような気分で本棚の間を縫って進むと、ようやく目的地へたどり着いた。
結構な遠回りをした気がする。

「う~ん、もうちょっとのとこで届かへんな……」
苦労して本棚にたどり着いたはいいが、あと少しの所で手が届かない。
司書さんに取ってもらうのが一番いいのだが、生憎と死角。
なら、見える場所まで出ようとは考えたものの、マフィアと鉢合わせしてしまうかもしれないし、もうちょっと頑張れば取れるかと思い断念。
右手を支えにして上半身を必死に伸ばすと、なんとか指先が触れる。
だが、突然車椅子が後ろに下がり始めた。

「うわ!?しもた……!レバーが……」
どうやら、支えにしていた右腕が車椅子のレバーに当たったらしい。
そこまで速度が出る物ではないが、突然の事にちょっとテンパってしまう。

「やば……!本棚のドミノ倒しとか洒落にならへんで!」
冷静に考えれば、少女一人乗った車椅子がぶつかったところで、どうにかなるような作りではないのだが想像はどんどん膨らんでいく。
『風芽丘図書館で大惨事!原因は車椅子か?』
なんていう文字が明日の新聞の一面を飾るかもしれないとか思っていると、唐突に体験した事のない浮遊感を味わった。

キュラキュラと空回りする車椅子の車輪。
誰かに車椅子ごと持ち上げられたと気付く。
一体誰がと思い横を向くと、左手にいくつか本を持ち、右手一本で自分と車椅子を苦も無く持ち上げる金髪の男の姿があった。

「(あ、あかん!マフィアやのうてター〇ネーターやったか……!!)」
三十キロはある電動車椅子を、自分ごと楽々と片手で持ち上げるこのパワー。
きっと皮膚の一枚下はメタリックな金属で覆われていて、サングラスの下の眼も何かあれば赤く光るに違いない。
そんなアホな事を考えていると、遂に男が口を開いた。

「……いい加減、止めたらどうだ」
「あ、はい」
少女の予想に反して出てきたのは流暢な日本語で、想像していたよりも声が若い。
てっきり渋めの声で「You Die!」とか言われ、ハジかれるものと覚悟していたのだが。
言われるまま後進に入ったレバーをニュートラルに戻すと、ゆっくり地面に降ろされる。
とりあえず、ハジかれなかった事に安堵していると、本を一冊差し出された。

「これで構わんのだな」
「あ、ありがとうございます」
それは紛れも無く、手を伸ばそうとして届かなかった本。
一瞬、本の下に銃でも忍ばせているんじゃないかと疑ってしまったが、別にそんな事は無く普通に本を受け渡すと立ち去ってしまった。


「本物はカタギに手ぇ出さへんのは、ほんまやったんやなぁ……」
後姿を見送りながら、どこか感慨深げにそう呟く。
白〇しかり、静か〇るド〇しかり、その筋の道を歩く本物の人間は決してカタギには手を出さない。
架空の産物でしか無いと思っていた任侠の世界を見てしまったのだから、興奮冷めやらぬといった具合である。
そんな気持ちのままどんどん本を読み進めていると、あっという間に時間が過ぎ、いつの間にか日は傾いていた。

「そろそろ帰ろかな。マフィアさんもいつの間にかおらんみたいやし」
車椅子の身で夜道を歩くのは結構危ない。
この前もそれでえらい目に遭いかけた。
その時は偶然によってかすり傷ぐらいで済んだのだが、そんな偶然が二度あるとは限らない。
貸し出しの手続きを済まし出口に向かうと、一人の男が立っている事に気付き、少女の顔が綻んだ。

「シュウさん!迎えにきてくれたんですか」
「ああ、はやて。私は君の世話になっているのだから、このぐらいは当然だろう」
お互いに笑顔を浮かべながら近づく。
男の鍛えられた体付きと、優しさの中に潜む眼光の鋭さは、見るものが見ればただ者ではないと分かるはずだ。
それもそのはず。
彼は南斗聖拳百八派の頂点に立つ南斗六聖拳が一つ。
南斗白鷺拳現伝承者なのだから。

後、一時間ばかり来るのが早ければ、劇的な再会があったのだが、そうはうまくいかないのが世の常である。

夕暮れの町を車椅子の少女と、車椅子を押すシュウが進む。
和やかに会話する様子は、一見して親子かと思わせるような雰囲気もあったが、そう年は離れてはいない。
シュウは二十を過ぎたばかりだし、はやては八歳だ。
しかし、しばらくするとシュウは正真正銘の父親になるので、今からそう呼ばれても本人は怒らないだろう。
もっとも、この男が怒る事など、そう滅多に無いのだが。

「それで、シュウさん。どうでした?」
「三ヶ月。順調だそうだ」
「もう名前は決めたんですか?」
「はは、気が早いな。残念ながらまだ決まっていないんだ」
興味津々といった具合ではやてが聞くと、シュウも嬉しさを隠そうとせず答えた。
シュウが南斗の道場に戻らず海鳴市に留まっているのは、妊娠した妻の身はもちろんの事、この車椅子の少女の身も案じているからだ。

道場の方は先代伝承者に預け、海山の自然や温泉地があり、さらに海鳴大学病院という結構名の通った病院があり
子育て全一のオウガイが近くに居る事もあって、この地で来るべき日を迎えようと海鳴市を訪れたのだった。

そこで八神はやてという少女と出会った。
その縁は、溝に車輪を取られ身動きが出来なくなったのをシュウが助け起こしたというのが始まりである。
八歳の、しかも車椅子の少女が一人暮らしをしていると聞いた時は、驚いたものだ。
はやてもシュウが奥さんのために、そこまで出来るものかと感心していたのでお互い様だろう。

お互いの事を話し合っているうちに、はやてがその間だけでも自分の家に来て欲しいと言い出した。
突然の申し出に少し戸惑いはしたが、そこは未来への希望を司る仁の星。
幼い少女を一人にするなんて事はできないわけで、妻とも話し合った結果、今に至る。

後に、夜天の王と呼ばれ次元世界にその名を知らしめた少女と
世紀末という世で、盲目の闘将と呼ばれ、レジスタンスを率い、最期まで聖帝軍に抗い続け
仁星の宿命に殉じた男が魔法に関わるのはもう少し先の事になるのだった。




ヒャッハー!あとがきだぁーーー!!
北斗勢って大戦前からでも世紀末ファッションなんよねぇ。
聖帝様は、ケンシロウの十人組み手の時、オサレっぽい黒コートを着てたけど。

はやては北斗勢の誰と絡まそうかと思ったけど、やっぱりシュウしか居なかった。

次回は全くリリカル分無しのガチ拳法バトルになるかもしれない……



[18968] 第九話:南斗の追放者
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:65a0eac0
Date: 2010/06/30 15:59
時間は放課後。
学業から開放された生徒が巣穴から這い出る蟻のように湧き出てくる。
そんな中、三人組の少女の中の一人が言った。

「もう慣れたからいいけど、あれはどう見てもイタリアンマフィアかター○ネーターよね」
「あはは……、聞こえちゃうよ、アリサちゃん」
八神はやてが頑張って言わなかった事をあっさり口にするのは、私立聖祥大学付属小学校に通うアリサ・バニングス嬢。
その視線の先にあるのは、ヤの付く自由業の方々のさらに一歩上を行く風体の男。
横に止まっているリムジンがとっても似合う姿のサウザーである。

もちろん、免許など無いのでリムジンなど運転できるわけもなく、運転席に座っているのはバニングス家の執事である鮫島さん。
そのリムジンの中では、眼鏡をかけた執事の鑑のような男が頭を下げていた。

「も、もうしわけありません、サウザー様。何分アリサお嬢様は、ああいったご気性ですので……」
「気にするな。……もう、慣れた」
一般人には聞こえなくても、この二人にはアリサが言った事はしっかり届いている。
親子以上に年が離れた二人のやり取りをアリサが聞けば違和感を覚えるが、何のことは無い。
鮫島も南斗聖拳を使えるからだ。

バニングス家と言えば、日米に股を掛ける大企業。
当然敵も多いわけで、その執事ともなれば、凡百の人間がなれるわけではない。
流派の伝承者というわけではないが、それでも素人相手なら何人同時に掛かられても倒せるぐらいの力量はある。
実際、過去にアリサが金銭目的で誘拐された時、一人で乗り込んで誘拐犯達を殲滅した事があるらしい。

使う流派は、鞭を生きた蛇のように使う南斗蛇鞭拳。
武器を使う流派は南斗聖拳百八派の中でも下位に属するのだが、武器を使うだけ使わない流派に比べて習得速度は速いし、これだって極めれば人を切り裂く威力を持つ。

しかし、南斗蛇鞭拳からすれば南斗鳳凰拳はまさに雲の上の存在。
基本的に南斗六聖拳は、他の流派の南斗の使い手から様付けされるぐらい偉いのである。

「それで、連中の正体は掴めたのか?」
「いえ、残念ながら。しかし、かなりの数の者が雇われ海鳴市に入っているかと」
南斗聖拳が月村の守りに入った事は、夜の一族なら知っている。
忍がそういう風に故意に流したからだ。
それを知って、こうも動いてくるとは、自殺志願者か夜の一族とは関係の無い第三の者のどちらかだろう。
あるいは、その二つが手を組んだか。
どちらにしろ、何の情報も無しに動けるものではない。

「日が浅いからな……、仕方あるまい。他に何か分かれば、委細無く知らせろ」
「かしこまりました」
使う拳が防御を捨てているだけに、サウザー自身も守り一辺倒は好むところではない。
南斗の里に頼んでいた事と並行して、鮫島を通してバニングス家の情報網も使ってはいるが、成果は今一つだ。

いくら下っ端を潰した所で大元には大したダメージは無い。
末端を切り捨ててでも頭を生かすというのが、組織というものの厄介なところである。
頭を誘き寄せるには、やはりそれ相応の餌という物が必要だろう。
そんな事を考えていると、いつの間にかアリサが車のドアの前に立っている。
そのまま五秒ぐらい経つと、サウザーを見て言った。

「ねぇ。こうして、わたしみたいな可愛いレディがドアの前に立ってたらする事があるんじゃない?」
何の遠慮も無しにアリサがそう言った瞬間、掛け値なしに周りの温度が一℃程下がった。
サウザーの顔が少し引きつったような物になり、それを見た鮫島が何度も必死に頭を下げる。
南斗鳳凰拳と、それを使うサウザーの力を見たなのはとすずかはあたふたするばかりだ。
知らない方が幸せなこともあるとはよく言ったものである。

サウザーがゆっくりアリサに向け手を伸ばす。
鋼鉄をも切り裂くその手は、アリサを通り越してリムジンのドアにかかった。

「ん、ありがと」
当然のようにアリサが乗り込むと、次いでなのはとすずかは同じように困った顔を突き合わせると、同時にサウザーの顔を見た。
表情こそ平静を保っているが、その手からは薄く金色の煙のような物が立ち昇っており、どう見ても怒っていらっしゃる。
このままドアを引き千切るんじゃないかと思って不安そうな二人が顔を覗き込むと、力を抜いた。

「……早く乗れ」
二桁にも満たぬ子供相手に本気になってどうする。
雰囲気だけでも大分穏やかになったのか、二人も車に乗り込む。
ここで不用意に「頑張ってください」とでも言おうものなら、時価ウン千万のリムジンに穴が空く事になっただろうが。
力を入れすぎないように閉めると、サウザーも助手席に深く座る。
そして、後ろには聞こえないように小さく言った。

「鮫島」
「はい、サウザー様」
「二度はやらん……が、俺にこのような事をさせるなど、あれは大物になるな」
「それは我らバニングス家に仕える者なら誰もがそう思っている事でございます」
幾分か疲れた様子でサウザーが言うと、どこか嬉しそうに鮫島が返した。
自分を偽ることなく突き通せるというのは、稀有な資質だ。
知らぬとはいえ、南斗鳳凰拳を前にしてそれをやったのだから大した物なのだろう。

しかし、どうもフェイトやなのはといい、周りにそのぐらいの年で才能豊かな人間が増えた気がする。
そう言えば、水鳥拳、狐鷲拳、紅鶴拳共に、なのは達と同じぐらいで、中々筋の良い伝承者候補が揃っているようだ。
自分も含めて六聖拳がこうも近い年に代替わりを迎える事は滅多に無いのだが、どうやら、当たり年というやつらしい。
全部片付いたら帰る前に、ラオウ殴りに行くついでに、北斗の末弟がどんなものか見に行こうかと、通常の約三割り増しでそう思ったのだった。




相手のゴールにボールをシュゥゥゥーッ!!
超!エキサイティン!!

今時、バト○ドームでそこまで興奮できる人が居るかどうか疑わしい。
しかし、ここは屋外、河川敷に面したサッカー場。
本日は日曜、晴天。
高町士郎が監督兼オーナーを務める翠屋JFCが試合を行っている所。

なのは、アリサ、すずかの三人も応援にかけつけ、応援席はいい感じに盛り上がっているのだが
すずかに付いているサウザーは、ただ一人退屈そうにそれを眺めていた。

何分、南斗聖拳の動きに慣れきってしまっているため、どこをどう動けば穴を付けて
どこからシュートを打てばゴールに入るかという事が丸分かりなのだ。
頬杖付きながら眺めているとジャージ着た士郎が話しかけてきた。

「サウザー君も応援してくれると嬉しいんだけどな」
「南斗の道場でやってる事を見慣れているもので、どうも今一つする気に」
サッカーそのものをつまらないとは考えないが、選手が普通の小学生のため、どうしても動きに遅さを感じてしまう。

いっそ選手を南斗の拳士で揃えてしまえばいい。
その名も南斗サッカー。
シュートの余波で地を裂く衝撃波が飛び、ボールを奪うために空中戦が行われ蹴り技がぶつかり合う。
……どう頑張ってもスポーツにはなりそうにないので、それ以上は考えるのを止めた。

ちなみに今日はマフィアスタイルではなく、普通のジャケット姿。
やっぱり気に入っているのかサングラスをしているので、アメリカの裏通りでバスケしているのが似合いそうだ。
なんでバスケかというと、彼は世紀末高校バスケットボール部の部員なのである。

「お……」
そんな風にしていると、翠屋JFCが二点目を入れさらに盛り上がる。
その後も、崩れない硬い守りでゴールを守り通した翠屋JFCが2-0で勝利を収めていた。

「おーし。みんなよく頑張った。良い出来だったぞ、練習どおりだ」
「はい!」
試合終了後、選手を並べて試合の内容の反省会を行っているが、特に悪いところは無かったようで、全員嬉しそうにしている。
そして士郎がなにかを企んでいるような笑みをサウザーに見せる。
どうせろくな事言わないんだろうと思っていると、とんでもない事を言い出した。

「勝ったお祝いに、うちで飯を食うか!……と言いたいところだが、その前に、このサウザー君が海外仕込のテクニックを見せてくれるから、よーく見ておけよ!」
一体何を言い出すのかと思えば、この親父は本当にろくでもない事を言い出しやがった。
ACミランがどうとか、ジュニアキャンプがどうとか、全く与り知らない話がどんどん捏造されていく。
士郎が一つ捏造するたびに、純粋なサッカー少年達が星のように光る目を向けてくるのだから、居辛いことこの上ない。
士郎の肩に腕を回すと、あくまで自然に、それでいて少年達に聞こえないように話し始めた。

「一体、俺にどうしろと?」
「南斗聖拳の動きに比べたら、サッカーボールの動きなんてスローすぎてあくびが出るようなものなんだから、そう難しい事じゃないだろう?」
それは、さっき南斗の道場でやっている事を見慣れていると言った事に対する皮肉か何かだろうか。
やはり、御神は油断ならんと考えながら、ちらりと横を見たが、全員が全員トランペットをショーウィンドー越しに眺めるような素敵な目を向けている。
この国では、外人ってだけで嘘くさい話が真実味を帯びてしまうのだから度し難い。子供ならなおさらか。

確かに出来ない事は無いが、力加減が逆に難しい。
こんな所でボールを破裂でもさせたら、言い訳が立たなくなる。
どうにも難題を押し付けてくれたが、一人応援しなかったツケが回ってきたようだ。
大勢からあんな目を向けられては、もはや断れる雰囲気ではない。
本当にこの一族は人を退けない立場に追い込むのが巧い。褒めていいのか貶せばいいのか分からないが。

「ちっ……、ボールをよこせ。一度しかやらんぞ」
サッカーの事は知らないが、要は手を使わずにボールを運んでゴールに叩き込めばいい。
どちらかというと、これは南斗白鷺拳の領分だろう。
シュウなら、嫌な顔一つせずやりそうなところが目に浮かぶ。
ほんと、何処行ったんだか。

ボールを受け取ると、さっきまで試合の行われていた場所へ行きゴールラインに陣取る。
二、三度ボールを蹴り上げ感触を確かめると、ボールを宙に大きく前に蹴り上げると走り始めた。
素早く落下地点に入ると、足のみで勢いを殺し、今度は南斗聖拳の脚技を交える。
結構無茶な体勢を人並み外れたボディバランスで支えながら、ボールを一度も落とさず蹴り上げ進むが、このぐらいで手間取るようなら南斗聖拳は習得できない。
バランス感覚と言えば、南斗聖拳では手刀の切れ味に勝るとも劣らない程に重要な物である。
両肩に巨大な水瓶背負って、下は針地獄の一本橋を走って渡るとかやってるんだから、身に付かなけりゃあの世に行ってるって話なだけだが。

センターラインを超え、対面のゴールまで十五メートルぐらいになると、一度ボールを垂直に蹴り上げる。
打ち上げられたボールが腰のあたりまで落ちてくると、回し蹴りの要領で蹴り込む。
弾丸のように飛んだボールはゴールの隅ギリギリへと突き刺さり、ゴールネットを大きく揺らした。

切れたり破裂したりしたらどうしたものかと思っていたが、巧く手加減できたらしい。
運動神経の塊でも、初めてやる事には失敗の不安が多少なりとも付きまとうものだ。
軽く息を吐き後ろを向くと、拙い物でも見たかのようにサウザーの顔が引きつった。
何か知らないが、超!エキサイティン!!している少年達が凄まじい勢いで駆け寄ってきた。
そしてサウザーを囲むようにして始まる、質問という名のハイパー起き攻めタイム。
曰く「自分にもできるようになるか」曰く「将来はどのクラブでプレーするのか」と数え上げたらきりがない。
パンチやキックならガーキャンできるが、こんな悪意の無い言葉の数々をキャンセルする術は持ち合わせていない。

いい加減ガードゲージが光りそうだったので、無理やり退路を開くとこの騒ぎの元凶の元に辿り着く。
すると、その元凶は人の悪い笑みを浮かべ、手を叩きながら纏めにかかった。

「ちゃんと練習すれば、みんなも出来るようになる。いいもの見せて貰ったんだから、きちんとお礼を言うように」
「ありがとうございました!」
一糸乱れぬといった具合に、サッカー少年達が頭を下げる姿は凄い爽やかだ。
まぁ、南斗の門弟に稽古付けたとでも考えておけば、腹も立つまい。
あくまで、少年達だけなので、さり気なく裏拳を一発士郎に叩き込んだが、綺麗にかわされた。

「避けないでいただきたい」
「南斗聖拳の一撃は、避けなきゃ痛いじゃ済まないと思うんだが」
手加減している事ぐらい知っているだろうに、抜け抜けと言って返す様は古狸と言っていい程だ。
御神最強の使い手。過去は南斗最強のオウガイには及ばなかったようだが、今どれだけやれるのかは興味がある。
次は本気の一撃を見舞ってみるかと考えると無意識に力が入り、それに気付いた士郎の顔からは笑みが消えた。

「もー!お父さんもサウザーさんも、置いてっちゃうよー!」
先を進む集団から遅れている二人に声がかかる。
頬を膨らませて近付いてくるなのはの姿を見ると、完全に毒気を抜かれたのか二人とも力を抜く。
そして、士郎はサウザーに向けて語りかけるかのように言った。

「君はまだ若いし、強さを求めるのは南斗の拳士としては当然だと思う。でも、俺みたいに年をとって、守る物が出来ると、そういう生き方は出来なくなる」
「……もう一線からは退いたと?」
「ああ。けど、守りたいと思う大切な物があるから、強くなれる事だってある。それを覚えておいてくれ」
その語り口はやけに実感が篭っている。
見た目はまだまだ若そうだが、恭也の年齢を考えると、見た目よりは長く生きている。
その長い経験が物語っているのだろう。
無論、サウザーにも守るべきものは、たった一つだけだがある。
師でもあり、父とも慕うオウガイがそれだ。
技を一つ体得するたびに、あの大きな手のぬくもりに包まれたいがために、ここまで強くなった。

だから、南斗鳳凰拳継承の試練も何の疑いも無く挑む。
このまま、己の手で師を倒してしまえば、この誰よりも愛深き少年の心は、どうしようもないところまで壊れてしまう事は目に見えている。
だが、それを知る術を持つ者は居ない。
この師弟での間でも、師は弟子がこの試練を乗り越えてくれると信じ、弟子は試練の相手が師である事など思いもしていない。
まして、第三者にその結末など分かるはずは無い。
それこそ、予知のような力を持っていない限りは。


少し考え事をしながら歩くと、いつの間にか翠屋に着いてしまった。
店の中では、サッカー少年達が料理が出てくるのを待ち望んでいるところだ。
表では、三人娘がユーノをイジって遊んでいる。
助けて欲しそうな目をしていたが、NDK?と無視。
とりあえず暇そうにしていると、商店街の向こうから結構な速度で走ってくる恭也を捉えた。

それだけなら別段珍しい事ではないが、あの鉄面皮がやけに慌てた顔をしている。
もしや、と思い路地に引き込むと何があったのか問い質した。

「どうした」
「忍が……、忍が攫われた!俺が少し目を離した隙に……!」
「少しは落ち着け。聞こえたらどうする。それで、手掛かりはあるのか?」
「残っていたのはこれだけだ……!俺がついていながら!」
そう言って差し出されたのは一枚の鳥の羽。
よく見ると、それが燕の物である事が分かる。
燕は渡り鳥。
ちょうど今の季節なら巣作りを始める頃合なので、そう珍しい物ではない。
サウザーはそれを目にすると、何か分かりきったような笑みを浮かべた。

「やつらか……、思ったより早かったな」
「心当たりがあるのか!?」
今にも胸倉掴まんばかりだが、軽くいなすと恭也に向けて言った。

「車を用意しておけ。俺は先に行く。詳しい事はノエルにでも聞くんだな」
言うな否や、世界記録を更新しそうな速度でサウザーが走り出す。
急に言われたので、どういう事かと恭也が引き止めようとした時には、サウザーの姿はもう見えなくなっていた。





海に程近い見捨てられた廃倉庫。
明かりは外から差し込んでくる光しか無く、日は高いというのにどこか薄暗い。
普段人など滅多に寄り付かぬであろう、この建物の中には三人の人間が居座っていた。

その内二人は大柄とも言える男。
一人は中年といっていいぐらいの顔付きで、もう一人はかなり若い印象を受ける。
どちらにも共通して言える事は、眼光鋭く只者ではないという事だ。
その足元には、手足を縛られた忍が座らされていた。

「とてもではないが、人の血を吸う様には見えん」
「まったくだ。しかし、連中遅いな」
対象を確保すれば、秘匿回線を使い、人気の無い場所で金と交換に引き渡す。
恐らく、警察権力が介入していないか、何らかの罠が仕掛けられていないか調べているのだろうが
こうも慎重になるとは相手も只者ではないのだろう。
三十分程待っていると、ようやくお待ちかねの一団が入り口から入ってきた。

「これはこれは、遅れてしまったようで申し訳ない」
眼鏡をかけ、くたびれた白衣のような上着に身を包んだ痩せぎすの男が、後ろから何人もの屈強な男達を引き連れ現れた。
手にしているのは、サブマシンガンから銃身の長いアサルトライフルまで。
あって拳銃程度のこの国では、オーバーキルもいいところの装備ばかりだ。
生半な組織が持てる火力ではない。


「こいつが、吸血鬼というやつか。では、その証拠を見せてもらおう」
からん、と投げ渡されたのは鋭いナイフ。
片方の男がそれを手に取り、忍の手の甲に押し当てる。

「ん……っ!」
ナイフの刃が忍の手の甲を軽く切り裂く。
傷口からは少なくない血が流れ出たが、五秒もすると傷口は完全に塞がっていた。

「素晴らしい。これこそ本物の異形だ!これで我が国のフェノメーノ計画も一気に完成に近付く!」

フェノメーノ計画。
遺伝子操作や、違法な薬物投与によって人間兵器を作り出す計画である。
異常とも言える回復力と、獣以上の身体能力を人に与え、人為的に怪物を作り出す。
まさに人が行う悪魔の所業だ。
夜の一族の中でも稀有な純血を保った月村の遺伝子。
人為的に作られた物ではなく、オリジナルのサンプルなら、喉から手が出るほど欲しいのだろう。
その辺りの事で利害が一致し手を組んだというところだろうか。

「怪物計画?捻りの無いネーミングセンスね。一体、どこでわたしの事を知ったのかしら」
「君の叔父だよ。月村安次郎。我々は、君の体を手に入れ、彼は月村家の資産を手に入れる。そういう事だ」
男の答えに、やっぱりか、という思いを乗せて忍がため息を吐く。
自動人形の事は伝わっていないのは幸いだが、もしそうなら安次郎自身が捕らえられて、土の下か、実験動物のような扱いを受けている所だ。
人間と変わらず、人間を遥かに越える性能を持つ死を恐れない兵士。
軍事国家には夢の玩具だろう。
夜の一族だけではないとは聞かされていたが、まさか国家が絡んでいたとは厄介な話である。

「さて、お話はここまでだ。――その前に」
どうやら最初から口封じをするつもりだったらしい。
向こうに居る男達が、忍を攫った二人の男に銃を向ける。
やはり、金で雇われていただけのようだ。
だが、動じない。
慌てもせず、騒ぎもせず。
まるで、最初からそれを想定していたかのように不敵に佇んでいる。

「そう。今は、それだけ聞ければ十分だわ」
いつの間にか忍を縛る縄が解かれると、二人の姿が消えた。
上に跳んだと気付いた時にはもう遅い。
別々の方向に跳んだ二人の手刀が振るわれると、銃は真っ二つに切り裂かれ、急所をしたたかに殴られた兵達は、一瞬で意識を飛ばしてしまった。

「な、なんだ!?お前達は!」
一瞬で崩れ落ちる部下達を見て、男が狼狽し、聞く。
ただの一発も銃を撃たせる事なく残りを片付けると、人間離れした跳躍力で二人が忍の傍に立ち、よく分かるように名乗った。

「南斗聖拳百八派が一つ。南斗飛燕拳のハッカ」
「同じくリロン」
南斗飛燕拳は、南斗鳳凰拳直下の二十九派の一つ。
その使い手は、代々南斗鳳凰拳の伝承者に仕え、拳の実力は南斗六聖拳に次ぐと言われている由緒ある流派である。
南斗双鷹拳のように、個々でも相応の実力を持つが、二人一組となって闘えば、より強さを増す流派で、中年の方がハッカ、若い方がリロンだ。

誰にも気付かれる事無く、海鳴市に入った金で雇われたであろう連中を排除する事ができ、それに成り代わる事が出来る実力者。
サウザーが南斗の里に頼んだ事は、この二人を海鳴市に呼び寄せる事だ。
盗聴されている事も考え、この事は当事者である忍と、言った事は必ず厳守するノエルにしか知らせていない。
もう一人のメイドであるファリンは、一目見て駄目だと判断した。
あれだけベタなドジ踏むとか本当に機械か、あれ。
当家は甘え禁止となっております。という家訓を新設した方がいいと思う。


「さて、形勢逆転。随分、夜の一族に興味があるみたいだけど、そこまで言うならその力、見せてあげなくちゃね」
忍の声質がどこか妖艶さを含んだ物になり、目が赤く染まる。
自分達が作り出し、管理している試作品とは違う、本物の怪物。
慌てて懐から拳銃を取り出そうとしたが、いつの間にか脇に回ったハッカとリロンに腕を押さえられてしまった。

「これが夜の一族の処刑よ。あなたは、どのぐらい血を吸われれば死ぬのかしらね」
くすくすと嗤いながらゆっくり近付く。
いくら抵抗しようにも、南斗の男二人に押さえられていては動くことはかなわず、身動きが取れないまま、艶かしい指先が男の首筋に触れる。
犬歯というより、牙に近い物を見せ付けられた時、男の体は力を失った。

「……肝っ玉の小さい男ね。気絶しちゃった」
つまらなそうに言うと、忍の目の色が元に戻る。
二人が手を離すと、潰れた音を立てながら崩れ落ちていった。

「見たところ、軍人というよりは研究者だな。しかし、真に迫っていたが、本当に血を吸うつもりだったのか?」
気絶した連中を縛りながら、どこか半信半疑でハッカが聞く。
あの様子からして、ただの人間ではない事は分かるのだが、こうしてみるとただの女にしか見えない。
その忍は、二人に向き直って、握り拳を作りながら力強く言った。

「まさか。わたしに吸われていいのは恭也だけなのよ!」
こんな時まで、ごちそうさまです。
しかし、今代の夜の一族が人から直接吸血を行う事はあまり無い。
大抵、輸血パックで済ませられるようになったのだから、良い時代になったものである。
だから、直接吸血するのは、本人がこれと心に決めた人間ぐらいなのだから、間違ってはいない。
軽く惚気ている忍を余所に、ハッカとリロンが同時に目を細めた。

「……リロン。気付いているな」
「ああ」
唐突に二人が背中を合わせるようにして身構える。
今まで感じなかった気配が一つ、沸いて現れたのだ。
南斗飛燕拳の二人に居た事を感じさせないような者。
紛れも無く強敵だろう。

どこからか響いてくる笑い声。
狂人ともとれるそれが鳴り止むと、文字通り男が上から降ってきた。

「上か!」
男が振るう拳をリロンがすんでのところでかわすと、その余波で壁が切り裂かれる。
その拳を見てハッカが信じられぬ物でも見たといった感じに声をあげた。

「こ、この切り口……南斗聖拳!」
面の鋭さ、切れ味。
この男が使った技は紛れも無く南斗聖拳。

「御免!」
状況が掴めていない忍をハッカが担ぎ上げると、一度外へ向かう。
相手が南斗聖拳を使う以上、巻き込まれるかもしれないのだ。
リロンはその場から跳躍し男から距離を取ると、戻ってきたハッカと共に鋭い目で睨み付けた。

「貴様、南斗の拳を使う者であるのなら、流派を名乗れ!!」
南斗聖拳百八派の者なら、南斗鳳凰拳直下の南斗飛燕拳を相手にするという事が、どういう事かぐらい分かっているはず。
すると男は、追求に怯むことなく怪しく笑いながら名乗った。

「くくくく……、よかろう。我が拳の名は、南斗白鷲拳。百年もの前に、南斗百八派から追放されし流派よ」
金髪白皙の端麗な容姿は、拳法使いというより、どこか手品師のような印象を受ける。
だが、男の口からもたらされた拳の名は、二人が知っている物だった。

「なんだと……!幻の拳と呼ばれた、あの白鷲拳か!」

『南斗白鷲拳』
数ある南斗聖拳の中でも南斗鳳凰拳と同じ一子相伝の拳。
しかし、南斗鳳凰拳とは違い、外道の拳、南斗の恥と呼ばれ、遂には同じ南斗の手の者によって滅ぼされた拳である。
今ではどのような拳かは知る術もなく、その存在があったとだけ残されたのみ。
ハッカとリロンが同時に声を上げたのも無理からぬ事で、予想どおりの反応を示したのか、面白そうに続けた。

「死ななかったのだよ。南斗の者共から、嬲り者にされた瀕死の伝承者は
 その後、南斗に復讐を誓った。その末裔でもある伝承者が、この俺ダルダよ。
羅漢仁王拳の伝承者を捕まえた時に比べれば、つまらぬ仕事だと思っていたが、南斗聖拳絡みだったとはな。こいつらもたまには役に立つ」
「ら、羅漢仁王拳だと!?」
羅漢仁王拳の歴史は、北斗南斗よりも古く、古来インドで五千年前に興った殺人拳である。
あまりの残虐さに、時の皇帝より使用を封じられ、今では継承する者は誰も居ないと思われていた拳の使い手を捕らえたという。
百八派から外れたとはいえ、その拳は健在と見える。
一片の油断も無く、二人はダルダを見据え構えた。

「相手が、白鷲拳の使い手であれば是非も無い!」
独特の緊張感が辺りを包み、じりじりと間合いが詰まる。
「我ら二人、同時に仕掛けさせてもらう!」
言うなり、二羽の燕が天へと高く飛び上がった。

                    南斗飛燕拳奥義なんとひえんけんおうぎ
                   そう  えん らん  ぶ
                  双 燕 乱 舞

二人同時に叫ぶと、ダルダの視界から二羽の燕が消える。
南斗飛燕拳の名が示すように、空中での燕のような身のこなしが、この拳の極意だ。
二人が左右二つに別れダルダの頭上を攻めたが、その拳は寸前の所でかわされ空を切り裂いたのみであった。

「ちぃ!よくぞかわした!」
忌々しげにハッカが言うと、ダルダが立っていた場所の地面と周辺に深い亀裂が奔った。
恐ろしいまでの威力を伴った必殺の拳は、頭髪と腕を少し切り裂いたのみで、届いてはいない。
流れる血を舐めながら、ダルダが言った。

「くっくっくく、この俺に手傷を負わせるとは、さすが南斗聖拳百八派。空中での身のこなしは見事なものだ。だが、その程度では白鷲拳には及ばん」
自信満々に言い放つダルダを見て、ハッカとリロンが目を合わせ頷く。
もう一度仕掛ける気だ。
だが、再び舞い上がろうとした時、二人の体を異変が襲った。

「な、なに!?」
唐突にリロンの視界が少しゆらぎ、足元がおぼつかなくなる。
その目でハッカを見たが、同じようにしている。
そんな二人を見て嘲るようにダルダが言った。

「我が拳によって少しでも傷を負った以上、お前たちに生は無い」
「なん……だと……!」
「俺は幼い頃より、毒を飲み続けていてな……、今や俺の体には猛毒が仕込まれているのよ。かすり傷とはいえ、体を麻痺させるには十分の毒がな」
これこそが、南斗白鷲拳が外道邪道と呼ばれ、南斗から追放された理由だった。
外部からの破壊を真髄とする南斗聖拳にあって、それは異端以外の何物でもない。
毒を以って敵を斃す拳など、百八派から追放されて当然ではないか。
二人は自分の脚に付いた一筋の傷跡を見ると、手刀で大きく切り裂き、ダルダを睨み付けた。

「まさか、幻とまで呼ばれた白鷲拳が、このような邪拳だったとはな」
「我が南斗聖拳の名にかけて、貴様を生かしておくわけにはいかん」
南斗飛燕拳は、古来六聖拳から分派した正道の拳。
それが、毒を用いるような邪拳に敗れたとあっては、南斗の先人に合わす顔が無いという物。
動きの鈍くなった体を動かすと、同じように構えた。

「自ら傷口を開き、血と共に毒を出そうというわけか。だが、もう遅い。すでに貴様達の体には十分な毒が回っている。その体で、俺の拳を避けられると思っているのか?」
勝利を確信したような口ぶりだが、二人にも打つべき手は一つある。
南斗聖拳でも、高位の流派のみにしか伝わらぬ技。
己の身を犠牲にしながらも、相手を仕留めきる南斗究極奥義が。
最早、拳をかわす事は考えず、全身の気を高めに高め、迫り来る白鷲を待ち構えた。

「南斗飛燕拳の使い手、ハッカにリロン。今こそ、己が南斗の伝承者である事を悔やみながら死ぬがいい!」
白鷲の毒の爪が燕に振り下ろされ、燕が死を賭して白鷲に襲い掛かろうとした、まさにその時。
空気を切り裂きながら、銃弾の如き勢いで飛来する鉄パイプがダルダを襲い、反射的に後ろに飛び下がる。
怒りに燃えた目で鉄パイプが飛んできた先を見ると、そこには男が一人悠然と歩き、その姿を見たハッカとリロンは跪いていた。

「まさか、お前達程の使い手が梃子摺る相手が居たとはな」
「申し訳ありません。我ら両名ともに不覚を取りました」
結構意外そうな声でサウザーが二人に声をかける、
南斗聖拳でも高位に位置する南斗飛燕拳の使い手が、よもや二人がかりで苦戦するような相手が居るとは思っていなかったのだ。
目の前のダルダを見据えながら、サウザーが聞いた。

「ハッカとリロンをここまで追い込むとは、何者だ」
「お前も南斗の者か。くふふ……、我が名は南斗白鷲拳のダルダ。丁度よい、三人まとめて冥土に送ってやろう」
白鷲拳と聞いて少し驚くも、今回は先に御神と遭遇しているので、その手の免疫はできている。
そうでなければ、もう少し反応が違っていたかもしれない。

「ほう、あの白鷲拳の使い手か。とうに滅んだ物と思っていたがな」
「お気をつけ下さい、サウザー様。あやつの拳は毒手。我らも一傷受けただけで、この有様」
受けた傷に比べて、二人の動きが鈍いのはそういう事かと納得した。
ついでに、白鷲拳が百年もの昔に南斗の先人の手によって滅ぼされた原因もだ。
サウザーは見下したような獰猛な笑みを隠そうともせずダルダに向けて言い放った。

「ふっ、毒などに頼るような未熟な拳と、その使い手に、この俺が遅れを取るはずなかろう」
「……ははっ!」
敵前にも関わらず、平然と言い放つ姿に二人が同時に頭を下げた。
若輩の身でありながら、この風格、この威容。
その姿に、南斗の頂点に君臨する帝王の片鱗を垣間見たのだ。

ならば、何も言うまい。
南斗鳳凰拳は南斗最強にして帝王の拳。そこに後退や敗北の二文字は無い。
まして、南斗聖拳から追放された拳になどに遅れを取って貰っては、代々鳳凰拳に仕えてきた飛燕拳の者としては興醒めも甚だしい。
二人が立ち上がると、それぞれがサウザーの脇に立つ。
さっきまで、足元もおぼつかなかった相手の目に、再び力強さが戻った事がダルダは気に入らなかった。

「我が拳を未熟と言ったか若造。貴様の流派を名乗るがいい」
ハッカのリロンの態度から、六聖拳のどれかだろうと考えダルダが問う。
その問いには、両脇に控えていた二人が答えた。

「貴様如きが、知っていい名ではないが、あえて答えてやろう」
「このお方の拳は、南斗六聖拳筆頭である南斗鳳凰拳。その次期継承者サウザー様」
南斗鳳凰拳。
そう聞いた瞬間、ダルダの整った顔があまりの愉悦によって醜く崩れ、仰け反るようにして笑い始めた。

「ひゃははははは!そうか、この若造が鳳凰拳の次期継承者か!俺にも運が向いてきたようだ。貴様を殺せば、白鷲拳こそが南斗最強という事だからな!!」
気が狂ったかのような笑い声は、まさに狂気の一言。
幼き頃より、毎日のように毒を飲まされ、苦しいのみの修行を強制される日々。
実父である師父から、南斗の者どもに恨みを晴らせ。どんな手を使ってでも、白鷲拳こそが最強である事を思い知らせてやれと言われ続けてきた。
同じ一子相伝でありながら、一つは名実共に南斗最強の名を欲しいままにし、もう一つは外道拳、南斗の恥よと蔑み続けられた二つの拳。
恨み、妬み、憎しみの全て混ざり合ったような百年越しの狂気がダルダを包んでいた。

「ふん……」
嫌な雰囲気が辺りを包むが、サウザーは平然とそれを受け流している。
あのジャギに比べれば、随分とマシな方だ。
それでも、かすり傷一つ貰えば毒も貰ってしまうのは厄介極まりなかったが。

やや遅れて、ノエルが運伝する車が到着した。
途中で拾ったのか忍も乗っている。
いいタイミングで来たものだ。
二本の真剣を持った恭也とノエルが駆けつけて来た。

「ハッカとリロンが毒を食らった。連れて行け」
「分かりました。どうぞ、こちらへ」
コンマ一秒の遅れも無く、肩を貸すように二人を支える。
隠してはいるが、やはり満足に闘える状態ではないようだ。
下手に動けば毒の回りが早くなるし、端的に言えば足手まといでしかない。

「巻き添えで死にたいというのなら構わん。それに、これは南斗の手で片付けねばならん事だ」
それと、加勢しようとする恭也にも釘を刺しておいた。
これからやるのは、正真正銘の殺し合いで
そんな南斗聖拳同士の闘いを興味本位で見ようものなら、巻き込まれて死んでも文句は言えない。
それに、万が一他に敵が居た場合、動けるのは恭也だけなのだ。

「分かった。……そっちは頼むぞ」
もちろん、今の言葉は、ハッカとリロンにも向けたのだが、そちらは今の自分達が満足に闘えるような状態でない事を弁えているのか早々に引き下がっている。
鳳凰の前では、手負いの燕など小さな存在にしか過ぎぬし
南斗聖拳では、決して南斗鳳凰拳を倒す事は出来ないというのは、昔から言われている事だ。

「サウザー様。あまり遊びが過ぎませぬように。万が一の事があれば、我らオウガイ様に合わせる顔がありませぬ」
「無論だ。行け」
それでも、相手の拳の威力を身を以って知ったハッカが言う。
そんな事、言われるまでもない。
促すと、音を立てて車が走り去り、残された者は少し離れて対峙していた。

「くははは、では始めるか。鳳凰拳と白鷲拳、どちらが最強の一子相伝の拳かをな」
「貴様のような者が使う邪拳と、我が南斗鳳凰拳を同じにしないで欲しいものだがな」
「ぬかせ!受けてみろ!」

                    南斗白鷲拳奥義なんとはくしゅうけんおうぎ
                 せん しゅ  げん さつ  そう
                千 手 幻 殺 爪

両腕を広げたダルダが翼を羽ばたかせるように動きを見せる。
そのゆるやかな動きを見るサウザーの眼にはダルダの腕が千もあるように見えた。

「これは……!」
拙いと思った時にはダルダの眼が怪しく光り、サウザーの体の動きが一瞬だけ止まる。
拳法の達人同士の闘いでは、その一瞬の隙が命取りになるのだ。
それを逃すダルダではなく、千本の腕が同時にサウザー向け放たれる。
大気を切り裂く無数の音が辺りに鳴り響びいたが、白鷲の爪は鳳凰を捉える事はできなかった。

「幻術か。姑息な手を使う!」
間一髪、間合いを離したサウザーがダルダを見ながら漏らす。
しかし、効果は絶大だ。
南斗六聖拳の一つ、南斗白鷺拳の技の一つに独特な手の構えによって相手を幻惑させ、完全に気配を消し敵を討つ誘幻掌という奥義がある。
それを知っていたからこそ、避けられたようなものだ。
もっとも、腕の動きだけで動きを止めるなんて事はできない。
重ねて催眠術のような類の物も、使っていると気付いた時には拳が迫っている所だった。

「どうした、南斗鳳凰拳。我が白鷲拳の前では逃げるだけか」
「ほざけ。もはや南斗聖拳の真髄すら忘れ去ったか」
毒を用い、催眠術まで使う。
この拳は断じて南斗聖拳ではない。
サウザーがダルダに向けて言うが、ダルダは意に介した風もなく返した。

「馬鹿め!勝てばいいのよ、何を使おうが」
ダルダの言う事は、ある意味では正しく、ある意味では間違っている。
火器の発明から始まり、戦車、航空機、ミサイル。
近代戦では、個人の能力は付加価値にすぎず、装備の質や数が物を言うようになった。
そんな中、生き残るために足掻き、使える物を使うという考え方は間違ってはいない。

だが、古来より続く南斗聖拳の、それも南斗鳳凰拳の使い手としての立場からすればどうか。
南斗聖拳は北斗神拳と共に伝説と呼ばれてきた拳である。
その長い歴史においても、南斗六聖拳は眼前に立ちはだかる敵を全て力で打ち砕いてきた。
南斗の先人が積み重ねてきた、歴史と誇り。
そして、なにより敬愛するオウガイから学んだ南斗鳳凰拳には、泥一つ付けてなる物かという意地がサウザーにはある。
南斗への憎悪を糧にひたすらに拳を学んだ者と、師のぬくもりを得る為にただひたすら純粋に拳を学んだ者。
これが二人の決定的な違いだった。

「はぁっ!」
「甘いわぁ!」
じりじりと間合いを詰めた二人が同時に空中に飛び、鳳凰と白鷲が交差する。
南斗聖拳ならではの、華麗とも言える空中戦は互いに傷を付ける事なく終わったが、休む暇も無く地上で無数の拳の打ち合いが始まった。

ダルダが一撃を加えようとすれば、サウザーはそれよりも早く間合いへと踏み込む。
サウザーが一撃を加えようとすれば、ダルダは文字どおり一撃必殺の毒爪を振るう。
その繰り返しだ。
何十回か行われた打ち合いはダルダが間合いを取る事で終わりを迎えた。

「はっ……はっ……!おのれ……!」
珍しく息を乱したサウザーがダルダを見据える。
確かに、一子相伝というだけあって南斗白鷲拳とそれを使うダルダは強い。
だが、それでも南斗鳳凰拳には及ばない。
それが何故、こうも苦戦しているかというと、ダルダが使う催眠術にある。

闘う以上は相手を見なければならず、ダルダの使う催眠術は眼を合わすことで効果が現れる。
眼を見てしまえば、致命的な隙が出来る。
至近距離でそうなれば、今度こそ毒を受けてしまい形勢が一気に傾く。
催眠術と毒手。
この二つの存在が、サウザーの踏み込みを少しだけ浅くさせていた。


「ぐっ……!若造が……!」
そして、ダルダも息を乱しサウザーを睨んでいた。
致命傷になる拳は確実にかわしているが、服は至る所が破れ、細かい傷がいくつも付いている。
それに対して相手は全くの無傷。
これが南斗聖拳最強と呼ばれる南斗鳳凰拳の実力かと、今までに無い焦りが生まれていた。

『苦しめ……、もっと苦しむのだ。そして、その恨みを南斗の者どもに、いつの日か叩き付けてやるのだ』
ダルダの脳裏に、過去幾度となく聞かされてきた言葉が浮かぶ。
南斗に復讐するだけのために、幼少の頃から毒を飲ませ、命を落とすような修行を課した父親に親子の情を感じた事は一度も無い。
だから、南斗白鷲拳を伝承したその日に師父を、実の父親を殺しても何の感情も沸かなかった。


「いいだろう……!貴様は白鷲拳最後の秘拳で葬ってやる!」
突如、ダルダが言うと、異様な構えを取り出す。
実父を躊躇いも無く殺した非情によって生まれた闘気がダルダを包んでいた。

「ゆくぞ!」
両手を大きく広げたダルダは、サウザーに覆い被さろうとする。
ダルダが放つ気迫ゆえか、サウザーの眼にはダルダの体は数倍もの大きさになったかのように見えた。

                    南斗白鷲拳秘奥義なんとはくしゅうけんひおうぎ
                 はく  し   げん せつ しょう
                白 翅 幻 截 翔


叫びながらダルダが天高く飛翔し、そこか放たれた数百枚とも知れぬ無数の羽根がサウザーに襲い掛かる
人を惑わすような羽根の動きは、生半可な人間では見る事すら敵わぬような動きだった。

「またかっ……!」
いくらなんでも、数百の拳というのは数が多すぎる。
大方、これも幻術が含まれているのだろうが、サウザーにはそれを破る術が無い。
普通の拳であれば肉を切らせて骨を断つ事も可能かもしれないが、あいにくと相手の拳は普通ではなかった。
一撃目はなんとかかわしきったが、このままではいずれ毒を受けてしまうかもしれない。

「死ねい、鳳凰拳!」
再び白鷲が舞い上がる。
ダルダを見上げながらサウザーは静かに目を閉じた。

「ひゃっははは!遂に覚悟を決めたか!」
その耳障りな声はサウザーには届いてはいない。
継承者への試練は、目隠しをしての真剣勝負というオウガイの言葉を思い出したのだ。
南斗鳳凰拳は防御を捨てた攻めの拳。
このまま消耗するより、前進し、生を拾う方が遥かに南斗鳳凰拳らしい。

全身の感覚を研ぎ澄まし、空気の流れがとダルダが動く気配のみを探る。
すると、閉じた瞼の下に空を羽ばたく白鷲の姿を確かに感じ取った。

「とったぁ!!」
奇声のような叫び声をあげながら、ダルダがサウザーに向けて拳を放つ。
その拳は、ダルダが放った中でも最高の威力と速度を持った、渾身の突きだった。

拳が直前まで迫ってもサウザーは微動だにしない。
これで南斗白鷲拳こそが最強だと、南斗の者どもに思い知らせる事ができる。
南斗百八派の頂点に立つ己の姿を思い浮かべたのか、ダルダの精神は異様なまでに高揚していた。

――勝った!

白鷲の爪が鳳凰の胸元を貫く。
そんな光景を思い浮かべながら拳を突き入れたが、そこにダルダが求めたような手ごたえは存在しなかった。

「消えた!?ど、どこだ!」
ダルダの視線の先にはサウザーの姿は無い。
後一歩で手に入れる事ができた南斗聖拳最強の座が突然掻き消えたのだ。
獲物を見失った白鷲は狼狽し、その動きが止まる。
そして、頭上から巨大な影が迫っている事に気付いた時は、狩る者から狩られる者へと変わった瞬間だった。

「喰らえ!南斗鳳凰拳――」
「し、しま……!」
背後頭上はあらゆる拳法において死角。
目を閉じ、腕を交差させたサウザーが空中から迫る。
辛うじて振り向き、防御の型を取ろうとしたが、ほんの一瞬の差で鳳凰が翼を広げきる方が早かった。

             きょく  せい じゅう  じ  けん
             極 星 十 字 拳


「げふあ!」
十字の型に放たれた手刀がダルダの体を切り裂く。
構え無き構えから放たれる無為夢想の必殺拳。
南斗鳳凰拳の基本でもあり、その場の状況により千変万化するのが、この極星十字拳であった。

「お……のれぇ……!」
夥しい量の血を流し、ダルダがサウザーを憎悪の目で睨みつける。
極星十字拳を正面から受けたというのに、致命の傷に至らなかったのはダルダの底知れぬ執念と言えよう。
傷口を押さえるようにして立つダルダの前にサウザーが立ちはだかった。

「浅かったか。だが、次は逃がさん」
サウザーが再び両腕を下げ構える。
神速の踏み込みからの極星十字拳。
確実に止めを刺す為にサウザーが間合いへと踏み込んだ。

「お、俺は……、まだ死なん。憎っき南斗の者どもに恨みを晴らすまでは……!」
かッと目を見開くと、ダルダが傷口をサウザーに向け胸を突き出す。
開いた傷口から霧のような血が噴出し、サウザーを襲った。

「ぬぐ!味な真似を!」
爪先ですら毒に侵されている身なら、その血液はそれ以上。
一体、どれ程の猛毒か含まれているか分からないが、咄嗟に目を閉じ腕で防ぐ。
すると、ダルダは息を荒くしながらサウザーに向けて言った。

「……俺の拳を破ったのは貴様が始めてだ!南斗鳳凰拳の……サウザー、その名前……覚えておくぞ……!」
そう言った瞬間、ダルダの気配が遠ざかる。
毒の霧が失せた頃には、ダルダの姿は何処にも見当たらず、ただ血の跡が点々と残されていた。


「取り逃がしたか……」
返り血を浴びたサウザーが、ぽつりと呟く。
あの傷ならば、助かる確率は満足な手当てをして五分五分といったところか。
拳の実力はともかく、その執念は大した物だ。

今一歩の所で逃がしたという悔いはあるが、得た物の方が大きい。
目を閉じた時、ダルダの動きが手に取るように分かった。
これならば、継承の試練も成す事ができるという手応えは、ダルダの存在など取るに足らないと思える程の物だ。
無論、追跡しない理由はそれではなく、ちゃんとした理由がある。

「……とんだ置き土産だ。参ったな」
ただ一つ問題があるとすれば、全身が痺れたような感覚を味わっている事だろう。
どうやら、少し毒を吸ってしまったらしい。
よく見ると鼠や虫やらがそこら中に転がっている。
少し歩き、しばらく動かない方がいいと判断したのか、壁を背にして座り込んだ。

「ったく……。疲れた」
サウザーにとってみれば、これは始めての真剣勝負で、肉体はもちろん精神的にも本人が想像していたより遥かに疲弊していた。
ブーストゲージもオーラゲージも全部吐き出したというやつだ。
いくら強いとはいっても、たかだか十五の若造なのである。

ちなみに、北斗神拳が効かない体なのでジャギとの闘いはカウントに入っていない。
ノエルだけでも残しておくんだったな、と考えたが無い物強請りだ。
まぁ、死ぬほど毒を受けたわけでもなし、他の敵は全部縛っている。
待ってればそのうち迎えが来るだろうと思い、とりあえず今は自由の効かない体の回復に努める事に決めた。





イヤッハァー!あとがきだぁーーー!!
南斗飛燕拳のハッカとリロンは、北斗の拳ラオウ外伝天の覇王に出てきた聖帝様の配下の二人。地味だけど、代々鳳凰拳に仕えているらしいので、ご出演。

フェノメーノ計画は、北斗の拳レイ外伝蒼黒の飢狼の中で出てきた、B・Bの二人。リマ&フリーダが居たとこの研究施設でやってた事。
その中で、デビルリバースっぽいやつが居たから、遺伝子操作や薬物投与のせいであんなに大きく育ち、その後脱走して700人殺したと設定させて頂ました。

そして、南斗白鷲拳のダルダさん。
白鷺拳と紛らわしいが、オリキャラというわけではなく、携帯サイト。
『公式!北斗の拳DX』にて連載中の小説『ケンシロウ外伝』に出てくる南斗の使い手でございます。
サザンクロス前とはいえ、毒と催眠術で、ある人物の助けが無ければケンシロウを倒していたという強敵。
『公式!北斗の拳DX』は、月額たったの315円でコミックやSS、その他特典がたくさん付く優良サイト。
月たったの315円。大事なことだから二度宣伝しました。

それはそうと、鮫島さんってダンディだし、鞭とか似合いそうだよね。



[18968] 第十話:Southern Cross
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:65a0eac0
Date: 2010/07/25 23:38
海鳴市から遥か離れた空の上。
何も空を飛ぶのは魔導師の専売特許ではない。
機械音を撒き散らしながら空を突き進む一機のヘリコプター。
その中では、パイロットの他に窓から風景を物珍しそうに眺めているフェイトと、それをブッダ顔負けのスマイルを浮かべて眺めるオウガイの姿があった。

フェイトの体の方は経絡秘孔の効果も相俟って怪我はもうすっかり良くなった。
自分で飛んだ事はあっても、空を飛ぶ乗り物には乗った事は無いのか、興味深々といった様子だ。
フェイトぐらいの年なら、それが普通なので特に誰も気にしてはいない。
そんな風に外を眺めているフェイトの目には、ぽつんと山間に建つ建物の群れを見つけた。
この場所こそ、南斗聖拳百八派の総本山である南斗の里である。

もう少し正確に言うなら、当代の南斗聖司教と、南斗正統血統の者が居る里と言うべきだろう。
山奥のド田舎ながらその性質のためか、世界中から南斗の門弟が印可の儀式を受けにやってくる場所だ。
ヘリが着陸すると、ドアが開く。
すると、そこには一人の男が出迎えに出てきていた。

「珍しいですな。オウガイ様がここにいらっしゃるなど」
「リハクか。久しいな」
この男こそが、世が世なら百万の軍勢を率いさせてみたいと人に言わしめている、海のリハクである。
南斗六聖拳の一つである慈母星を司る将を守護するために存在する五車の星の一つだ。
旧知の仲なのか一つ二つ会話を交わすと、リハクがフェイトに目を向けた。

「その子ですか?」
「うむ。その事で話があってな」
「分かりました。それと、聖司教様にもお会いした方がよろしいかと。月村に向かったサウザー様から、南斗白鷲拳の伝承者と相対したという連絡が入りましたので」
「南斗白鷲拳か……、使い手が生き残っていたとはな。……それで、どうなった」
「飛燕拳のハッカとリロンが毒を受けましたが大事には至らず。白鷲拳の使い手にはサウザー様が深手を負わせたようですが、今一歩のところで取り逃がしたようです」
それだけ聞くと、そうか、とだけ短く返した。
南斗から追放し滅ぼしたはずの流派が生き延び、その使い手が今も生きている。
事は最早、月村だけの問題ではなく、南斗聖拳の問題になった。
場合によっては、南斗六聖拳を集める事になるかもしれない。
その事も含めて聖司教と話をした方がよさそうだ。

「来なさい」
オウガイが促すとファイトがやっとヘリから降りてきた。
リハクも年食ってるとはいえ、五車波砕拳という拳法を使うので結構な体付なのだ。
というか、この里に居る男の大部分は南斗の拳士なので、デカイのも多いし強面なのもたくさん居る。
きょろきょろと辺りを見回しながらオウガイの後を必死に付いて歩くのは、なんだか小動物的な可愛らしさがあった。
しばらく歩き、一際大きな建物に近付くと、どこからか軽そうな声が三人に向けられた。

「ん。誰が来たのかと思えばオウガイの爺様じゃねーか。サウザーが一緒じゃないとは、珍しい事もあったもんだな」
知っている声なのか、リハクがまたかとばかりにため息を吐いた。
この里で南斗六聖拳の頂点に立つ男に、こんなナメた口を利くやつは一人しか居ないのだ。
リハクが上に視線を向けると、木の枝の上には、一人少年が小器用に座っている。
それを観ると、まるで子供を叱り付けるような声を出した。

「降りて来い、ジュウザ!まったく……、雲を継ぐお前がそれでは先が思いやられる」
「俺は五車の宿命なんぞに縛られる気はねぇよ。そんなモンはやりたいやつがやりゃあいいんだよ……っと!」
そう言うと、手に林檎を持った少年が木の上から降ってきた。
その名はジュウザ。
拳の才は北斗神拳現伝承者リュウケンをして、ラオウ、トキに並ぶと言わしめた程。
無論、サウザーとも馴染みで里を訪れた時には嫌でも顔を合わせている。
北斗南斗を通じて、サウザーと同世代で互角に渡り合えるだけの実力を持った数少ない拳の使い手の一人である。
それだけなら何の問題も無いが、その性格が良く言えば自由奔放、悪く言えば自分勝手で、このリハクが手を焼くほどの問題児なのだった。

「はぁ……、あのフドウですら丸くなったというのに……」
「あいつはあいつ、俺は俺さ。んで、そこに居る可愛い娘は、爺様の隠し子か何かか?」
ジュウザが指差す先には、オウガイの後ろに隠れるようにしているフェイトが居る。
ただでさえ人見知りの気があるのに、初対面の相手にいきなり可愛いとか言われては隠れたくなるのだろう。
そんなフェイトをよそにして、リハクはもう何回目になるか分からない怒鳴り声をあげた。

「ジュウザ!オウガイ様に向かってなんという口の利き方だ!」
「うるせぇな、悪かったよ」
どう聞いても、悪いとは思っているような言い草ではなく
そろそろ肉体言語で教え込んだ方が良いかとリハクが構えたが、それよりも先にオウガイが間に入ってきた。

「よい、リハク。わしも今更かしこまられても、ジュウザらしくないと思うだけでな」
「うむむ……。オウガイ様がそうおっしゃるのであれば……」
「さっすが、六聖拳最強だけあって器がでかい。誰かと違ってな」
渋々といった具合に引き下がるリハクとは対照的に、ジュウザは口笛を吹きながらそんな事をのたまっている。
そんなジュウザを見ながら、オウガイが続けた。

「代わりに」
「げ……、食えねぇ爺様だな。やっぱなんかあんのかよ」
言った瞬間、ジュウザが物凄く嫌そうな顔を見せた。
フリーダムにも程があるが、良くも悪くも、これがジュウザという人間なのだ。
何者にも縛られる事なく、己の意思のみで気ままに動く。
おかげで誰にも師事する事は無く、使う拳は己で編み出した我流拳。
我流ゆえに無形。無形ゆえに誰にも読めぬのがジュウザの拳の最大の武器。
無形という点では南斗鳳凰拳と通じるところがあり、オウガイもジュウザの持ち味がどの辺りにあるのかはよく知っているので、苦笑しながら言った。

「そう身構えんでもいい。わしは少しリハクやダーマと話がある。その間、この子に里を案内してやってくれんか」
「そんな事か。いいぜ、引き受けた」
日頃の行いを改めろとかだったら、誰であろうとも聞く気はなかったが、そういう事ならどうせ暇していたところなので、何の問題も無い。
年頃が下過ぎるのが残念だが、それでも暑苦しい野郎どもの相手をするよりは余程良いのである。

「ほら、来なよ」
ジュウザが人好きのする笑みを向けながら言うと、フェイトは二、三度程視線を往復させるとようやくオウガイの元から離れた。
オウガイが言うならと思ったのと、ジュウザの邪心の無い笑顔を見て大丈夫だと判断したらしい。
歩いていく二人を眺めながら、リハクは感慨深そうに言った。

「十年前を思い出しますな」
「十年か。うむ……、早いものだ」
今では想像も付かないが、十年前のサウザーも概ねあんな感じである。
常にオウガイの後ろを歩き、師の言うことをよく聞いていた子が強くなったものだ。
さて、自分の頃はどうだったかと思い出そうとしたが、年のせいかどうにも思い出せない。
静かに息を吐くと、少し疲れたように続けた。

「昔を懐かしむとは、互いに年をとりすぎたな」
「ですが、我らが老いたという事は、それだけ次代の芽が育ったという事でしょう」
いかに南斗聖拳を極めようとも、老いには誰も勝つ事は出来ない。
技や経験はいくらでも高める事はできるが、闘気を満たしても肉体は何時か衰えを見せる。
そして、そうなった者の勤めは、後に続く者に技と南斗の真髄を全て継承させ、より高めてくれる事を見守るのみ。
こうやって南斗聖拳は二千年もの長きに渡って脈々と受け継がれてきたのだ。
取り逃がしたとはいえ、南斗白鷲拳の使い手を倒した弟子の事を心の中で褒めながら、オウガイは前へと歩き出した。





「しっかし、爺様とはどういう関係なんだ?爺様に娘や孫が居たなんて話は聞いた事ないぜ?」
両手を頭の後ろに回しながらジュウザが突然そんな事を聞いた。
なにせこの男。面白そうな事には必ず首を突っ込む性質だ。
前にあった、ラオウが鳥の卵取るために大木を一本破壊したというのはジュウザが情報源である。
それで卵を掠め取り、一個を自分が食い、残りをあのラオウの顔にぶつけてビキビキさせたまま帰ってきたのだから、リハクの心労がストレスでマッハというやつだろう。
そんなわけであわよくば何か面白い事を聞きだせるかぐらいの気持ちで聞いたのだが、フェイトは何やら言いにくそうにしている。

拳力は非常に高いが、魔力が非常に低いこの世界。
この事を知っているのは、直接暴走体と関わったサウザーだけで、オウガイも知らない。
別の世界から来た魔法少女ですなんて事は話すわけにもいかず、どう話したらいいか困ってしまっているのだ。

ジュウザにしてみれば、自身も含めてワケアリの子供なんて腐るほど見てきたのだから言いたくないのなら特に無理して聞き出す事の程ではない。
俯いたまま厩舎の中に入ろうとするフェイトに向けて極めて軽い感じで言った。

「ま、いいけどな。それと、そこ臭いし危ねぇぞ」
「あぅ……、ごめんなさい……」
始めて生で見る馬の群を見て驚いたのか、小さく謝りながら戻ってきた。
慣れてない者には本当に臭いがキツいだろうし、馬は馬で結構凶暴な側面があるので迂闊に近付くと蹴られかねない。
その後も適当に案内され歩いていると、フェイトの目は一体の像に一瞬釘付けになった。
染み一つないような真っ白い像が、まるで里全体を見渡すように佇んでいる様は何故か惹かれる物がある。
それが何かはまだ分からないが、ジッと見つめているとジュウザが説明するかのように言った。

「ああ、あれは、うちの里の女神像さ。そこに付いてる宝石は女神の涙っていうんだ。
  誰が言ったか知らねぇけど、祈れば願いが叶うって言われてるんだとさ。なんかあるなら祈っといた方がいいかもな」
そう言われもう一度女神像の顔を見ると、左目の下に大きくて綺麗な青い宝石が確かに輝いている。
一瞬ジュエルシードかと思ったがどうやら違うらしい。
ふと見ると、女神像の下で一人の少女が祈りを捧げていた。

年頃はフェイトと同じぐらい。
黒髪を長く伸ばした、フェイトにも勝るとも劣らぬ程の美少女が祈っている姿は絵になるものがある。
強いて違うところを言うなら、どこか高貴さを感じさせているので近寄りがたい雰囲気があった。
もっとも、フェイトは別の事で驚いていたが。

「(この子、魔力を持ってる)」
こういった魔法が伝わっていない世界では、魔力資質も持つ人間が現れる事自体が稀である。
普通、デバイスを起動させていない人間からは魔力を感じる事は無いのだが、ユリアからは僅かにその力が感じられる。
魔力資質が桁外れに高いのか、突然変異みたいな物かは分からないがとにかく珍しい。
そんなフェイトをよそにジュウザは構わず気軽に話しかけた。

「お、居たのかユリア。お前ホントよくここに居るよな」
この少女こそが南斗正統血統の血を引く、南斗六星慈母の星のユリアである。
慈母星とは代々その宿命と、ある特殊な力を南斗宗家の女が背負うがゆえに、拳を持たず南斗五車星に守護され、生を司る南斗六星の象徴とも言える星だ。
噛み砕いて言えば、日本で言う天皇のような存在にあたり、政治的な重要度は主星である将星すら凌ぐ。
とはいえ、慈母星の正体については南斗聖拳でも南斗聖司教を初めとする南斗宗家に名を連ねる者達。
拳の使い手では南斗五車星、山のフドウと海のリハク。他には南斗六聖拳ぐらいしか知らない。
何分、南斗聖拳にはその手の敵が多いのだ。
そんな中、南斗正統血統の者の正体が拳を使えない女とでも知れれば、それはもうよろしくない事態が起こる事は目に見えている。
南斗六聖拳ですら、伝承者が若いうちはその正体を知る事は無いし、何より本人も南斗正統血統だという事を知らないのだから徹底ぶりが分かるだろう。
声で誰か分かったのか、ユリアは膝を付いたまま振り向くと笑みを浮かべた。

「女神様はこの里の守り神なのよ。ジュウザもたまには祈ったらどう?」
「はぁ……、お前までリハクみたいな事を言うのかよ。性に合わねぇから勘弁してくれ」
花でも供えて膝を付き手を合わせて女神様に祈る。
そんな自分の姿を想像して、似合わねぇと言わんばかりに肩をすくめ、そう言うと分かっていたのかユリアも小さく笑う。
すると、そのジュウザの後ろから見慣れない金色が見えたので、なにかと思って小首を傾げているとジュウザが少し離れているフェイトを手で招くとユリア紹介した。


「こいつは、オウガイの爺様が連れてきたやつで……。あー……悪ぃ。そういや、俺も名前まだ聞いてなかったな」
「……ジュウザったらいつもそうなんだから」
こまけぇこたぁいいんだよを地でいくジュウザの事だから、そんなのはいつもの事。
頬を掻きながらそんな事を言うジュウザを見てユリアが呆れるように言う。
言葉だけなら、どっちが年上なのか分かったものではない。
それがおかしかったのか、フェイトもほんの少しだけ笑うと名前を言った。

「フェイト・テスタロッサ」
「フェイトか。散々聞いたと思うけど、俺はジュウザ。こっちは――」
「ユリアよ。よろしくね、フェイト」
自己紹介を済ませると、フェイトは改めて女神像を間近で見た。
両眼から流れる涙を象った大小の合わせた宝石が四つ。
涙を流していても悲しそうな印象は受けなかったが、見ていると少し不思議な気持ちになった。
何というか、この女神像を見ていると懐かしいような気がするのである。
そう感じる事に思い当たる事があったのか、それは何かはすぐに分かった。

「……母さんだ」
二人には聞こえないように小さく呟く。
慈母星のまたの名は、万人に慈しみを与える母性の星。
その象徴たるこの女神像は、時が移り変わり、場所を変えながらも長きに亘って数多の南斗の拳士達を母のように見守ってきた。
そして、今も里の人々の心の支えとして崇められている。
だからこそ、この女神像にフェイトは優しかった頃の母の姿を見たのだ。
これが像ではなく、本当の母の姿だったらどれ程いいかと思ったが、本物は遠く離れた所で帰りを、正確にはフェイトがジュエルシードを持って帰るのを待っている。

ジュエルシードを探し始めてからもう一週間程経つ。
そんな中でフェイト達が見つけたのは二つ。
一つは言うまでも無くサウザーが叩き斬ったので実質一つのみ。
おまけに自分達の他にもジュエルシードを集めている魔導師が一組居るのだから、なおさら急がねばならない。
それが何でまた南斗の里を訪れる事になったのかと言うと、オウガイの意向によるところが大きい。
怪我の方は思ったより早く治ったが、問題は負った怪我よりも前に付いていた傷の跡。
経絡秘孔の効果もあってかそっちの方の跡もすっかり消えたのだが、その跡を見たオウガイはフェイトが望むなら南斗の里で引き取ってもらえるように取り計らうと言ってきた。
もちろん、フェイトは断った。……のだが、年の差のせいもあったし、どこか遠慮めいたものになってしまったため、実際に南斗の里を見てからどうするかという事になった。
体は治ったのだから一刻も早くジュエルシードを探しに行きたいとは思ったが、黙って居なくなるのも助けてくれた人に対して悪いと思ったからだ。

実際に里を見てもフェイトの決意は変わらない。
でも、この昔の母の姿を見せてくれた女神像を見れたのは本当に嬉しかった。

「わ、わたしもお祈りさせてもらってもいい……かな?」
気休めかもしれないが、祈れば本当に願いが叶うかもしれない。
人にそう思わせるだけの不思議な雰囲気が女神像にはある。
何かに祈るなんて事は初めてなのか気恥ずかしそうに言うと、ユリアは満面の笑みを見せて答えた。

「ええ、もちろん。ほら、ジュウザも」
「あ、おい!ったく、分かった、分かったから引っ張んな」
散々嫌がってはいたが、服を引っ張られてジュウザも遂には両手を挙げて降参した。
ジュウザはユリアの事を妹のような幼馴染と思い、ユリアも頼れる兄のように思っている。
そんな関係もあってか、ジュウザはユリアに対しては滅法弱いのだ。

しかしながら、実はこの二人は血の繋がった兄妹である。
兄妹と言っても腹違いで母が違うし、もう一人リュウガという兄が居る。
こちらはユリアと同じ母から産まれ、男ゆえに慈母星を継ぐ事ができず
今は泰山流最強と呼び名の高い泰山天狼拳を伝承するための修行を行っているので滅多にこの里には戻ってはこない。
南斗紅鶴拳にも匹敵するその拳速は、切り裂くというよりは削り取りと言った方が近く、受けた者は凍気すら感じ死に至る。
なぜ兄妹である事が知らされていないのかは謎だが、それが後にジュウザが己の事を雲と名乗るようになる一因である事は間違いは無い。
とはいえ、今はそんな事など想像すらしていないので、言われるままジュウザも仕方なさそうに膝を付いた。

「(ジュエルシードが……、違う。昔のように、母さんと暮らせますように……)」
フェイトにとって、ジュエルシードはあくまで母が必要としている物にすぎない。
願いを叶えるジュエルシードを必要としている母のためにジュエルシードを集め
母がジュエルシードを使い願いを叶えれば、きっと昔のような笑顔をまた見せてくれる。
その純粋な想いがフェイトを支えている。
だから二人と同じようにしてフェイトも女神像に祈った。




「あー……やっぱ慣れない事はするもんじゃねぇな」
ほんの短い間だったにも関わらず、まるで一生分の事をしたかのように言うとジュウザが思いっきり体を伸ばした。
年下の少女二人がまだ祈っているのに堪え性の無い男だ。
これで、ラオウ、サウザーに匹敵する実力を持っているのだから人間分からないものである。

「もう……、そんなだからいつも聖司教様にも怒られるのよ」
「勘弁してくれよ。これでも頑張った方だぜ」
これならシュレンあたりと組み手してた方がまだ気が楽だったかもしれねぇ。
本気でそんな事を思い始めたが、ユリアが悪戯っぽく笑いながら続けた。

「そうね。ジュウザが何を祈ったか教えてくれるのなら許してあげる」
「……そんなもん人に言えるか」
何を祈ったのかを知るのは本人だけ。
こればかりは、経絡秘孔『新一』、場合によっては『解唖門天聴』を突かれたとしても言えないし言いたくない。
絶対言わねぇ、と頭を掻きながら言うと後ろから興味深そうな声がかけられた。

「ふむ。それはわしも聞いてみたいものだな」
「げ……、爺様居たのか。盗み聞きは趣味が悪いぜ?」
突然聞こえてきたその声の主は、オウガイその人。
気が他の事に向いていたとはいえ、ジュウザが気配を感じる事無く背後をとられたのだから、老いたりとはいえ南斗聖拳最強の座が揺らぐ事は無い。
その身は未だに負けを知らず、若い頃は北斗神拳のリュウケンと並ぶ程の使い手と称され、南斗宗家から一目も二目も置かれてきた。
そんな男をユリアが知らないはずも無く、小さく駆け寄るとぺこりと頭を下げた。

「オウガイ様、お久しぶりです」
「うむ。しばらく見ぬ間に大きくなったな」
オウガイが前に里を訪れてからそろそろ一年が経つ。
近年はほとんどをサウザーとの修行に費やしているため、オウガイが里を訪れるのは本当に数少ない。
それでも、将星とは思えぬ程の温厚な人柄を慕う者は数多く、ユリアもその内の一人でオウガイの傍を見回すと少し不思議そうに言った。

「今日はサウザー様はご一緒ではないのですね」
「あやつは、少し用があってな」
どうやらこの里でもオウガイの傍には、常にサウザーが控えているという認識のようだ。
そうなった理由は、過去何度かオウガイの事を平然と爺様呼ばわりするジュウザ相手に大立回りを演じたのが原因ではあるが。

互いに無形の拳を使い、戦い方も攻める事を得意としているのだが、いかんせん性格の根の部分が致命的に違う。
大体、それに乗っかったジュウザがわざと怒らすような事を言って、それを真に受けたサウザーがビキビキするというパターンである。
南斗聖拳最強の拳を使うサウザーと、この里で一番の腕を誇る我流の天才ジュウザがやり合えば止められる者はそうは居ない。
結局、ある程度闘ったところでリハクかオウガイ、場合によっては南斗聖司教が割って入り引き分けという形になっている。
もっとも、ジュウザの方は楽しんでやっている感があり、最近はサウザーもジュウザのペースには乗るまいとしているので、犬猿と言う程ではなくラオウ含めて腐れ縁的な感じだ。
まぁこれは南斗の身内の事なので、フェイトには今は関係は無い。
それをどうするかをフェイト本人の口から聞きに来たのだ。
女神像の傍に立つフェイトを見つけると、最初に会った時のような表情を見せながら言った。

「わしは強要はせぬ。自分がどうしたいか、よく考えて決めなさい」
この里には、同じ年頃のユリアや、ああ見えて年下の面倒見はいいジュウザも居る。
リハクやダーマが後見人となるなら、万に一つの間違いも起こさない。
もちろんその言葉に裏は無く、どうするかはフェイトが決める事だ。

そして、その答えはもう決めている。
少し申し訳なさそうに、それでもオウガイから目を逸らさずに言い切った。

「ありがとうございます。でも、わたしにはやらなくちゃいけない事があるんです。だから……、ごめんなさい」
オウガイが真剣な表情でフェイトの目を少し見つめると、すぐにやさしい物に戻り頭を撫でた。
南斗孤鷲拳のフウゲンと並んで、南斗六聖拳最年長であるオウガイの人を見る目は確かだ。
幼いながら、力のある良い目をしている。
なにせ、この十五年ばかりはそういう目をした者と暮らしてきたのだ。分からないはずがない。
古い傷の方も何か訳あっての事だろう。
ならば、他に何も言う事はあるまい。
いつの間にか後ろに控えていたリハクの方へと向き直ると短く言った。

「すまんな、リハク。要らぬ手間をかけさせた」
「いえ。しかし、わざわざオウガイ様にご足労頂いたのに、蜻蛉帰りというのはあまりに味気無い。
  聖司教様とも話さねばならぬ事もあるでしょうし、オウガイ様さえよろしければ夕餉の用意をさせますが。それに、この里にはユリア様に近い者があまり居りませぬので」
言いながらリハクがユリアを見る。
勿論、この里にもユリアと同じぐらいの年頃の子供は沢山いるが、幼い頃は感情を出すことが無かったためどこか一線を引いた物になってしまっている。
昔、ダーマが北斗の寺院にユリアを連れて行ってからは、幼馴染とも言えるような存在が出来たが
慈母星を支える五車星の長としては、同姓の友も持って欲しいというのが本音である。
フェイトはここに留まらないという選択を取ったので、友というわけにはいかずとも何かのきっかけにはなって欲しい。
その辺りの事情を汲み取ったのか、オウガイがフェイトを見ると、それは嫌ではないのか小さく頷いた。

「では、オウガイ様と私は先に行っております。ジュウザが付いていますが、お早めに戻られますよう」
山奥だけあって、日が沈むのも早いし温度も下がるのも早い。
リハクは幼い身を気遣って言ったのだが、さっきからのユリアの目にはこことは全く違う別の風景が広がっていた。




山中の薄暗い闇を切り裂くような雷のような十字の閃光が光る。
辺りを包む雷雲から雨が振り出すと、目隠しを外した少年が己が今切り裂いた者が誰なのかを知って驚愕の表情を浮かべていた。

『お、お師さん!!』
『み…見事だ、サウザー!!』
サウザーの視線の先にあるのは、己の放った極星十字拳により深い傷を胸に受けたオウガイの姿。
口元から血を流すオウガイの表情は、サウザーが今まで見たどれよりも穏やかだった。

『な、なぜ!身を引けたはず!そうすれば俺の拳をかわせたものを!!』
『いや、お前の拳の鋭さにかわすにかわせなかったのだ……!』
それは違う。
南斗鳳凰拳の拳の性質は、拳速では南斗紅鶴拳、純粋な力なら南斗孤鷲拳
技の切れ・華麗さにかけては南斗水鳥拳、脚技の多彩さなら南斗白鷺拳にと、それぞれ他の四星が得意とする分野では及ばない。
全体的に高い水準を保っているので、地力が高い者が使えば万能と言えるかもしれないが
使い手によっては器用貧乏の謗りを受けてしまう事があるだけに、それだけでは長い歴史の中で南斗最強と呼ばれる事は無い。

南斗鳳凰拳が他の南斗百七派を大きく凌駕しているのは、神速を超える踏み込みともう一つ。
どのような状況に陥っても、相手の体の流れを見切る事が出来る力の高さにある。
相手の動きを寸分たがわず見切る事によって一瞬の隙を付き、攻撃すらさせる事なく神速の踏み込みによって間合いに入り敵を仕留めきる。
一つ誤れば己の体が砕け散るような事を常に繰り返してきたのだ。
南斗鳳凰拳に防御は無く、あるのはただ制圧前進のみと言われている所以である。
老いたりとはいえ、南斗鳳凰拳の伝承者があのぐらいの攻撃をかわせないはずはない。
だから、オウガイの言葉が嘘だという事は、サウザーには分かっていた。

『もうお前に教える事は何も無い……』
継承の儀に師に挑む。
その可能性は予見できたはずである。
こうなってしまったのは、誰のせいでもない。
お師さんだと気付けなかった自分のせいだ。

サウザーの両眼からは涙が流れだし、オウガイは震える手で昔のように頭を撫でる。
その手に昔の力は無く、やさしくも寿命を迎えた蜻蛉のような儚い力で。
その事が、オウガイが息絶える事が近いという現実を嫌でもサウザーに突き付け、流す涙が途絶える事は無かった。

『な、泣くでない……。南斗極星の拳、南斗鳳凰拳もまた北斗神拳と同じく一子相伝の拳法。伝承者が新たなる伝承者に倒されていくのも我らが宿命……!」
『お…お師さん……』
『悔いは無い……。わしは…、お前の瞳の中に極星、南斗十字星を見ていたのだ……』
自分のために涙を流す弟子に、最期に言い聞かせるように言い残すと、オウガイの体から力が消え失せる。
それは年老いた鳳凰が全ての想いを子に託し、地に落ちていった瞬間だった。

『おっ…お師……お師さん!!』
その声に応えてくれる者は、もうどこにも居ない。
自らが最も愛した父を、自分の手で殺してしまった。
その後悔の念と、深すぎる哀しみが耐え難いまでの喪失感となってサウザーを襲う。
天を見上げ、ぬくもりを失っていく手を抱き締めながら、血の涙を流さんばかりに叫んだ。

『な、なぜ……、なぜ……!う、あ゛あ゛ああああああ!!』
人は何か大切な物を失った時、二つの道のどちらかを選ぶ。
例えば、ある救世主のように、失った物の哀しみを背負い前を見据え未来へ進む道。
または、一人娘を失った母のように、失った物を取り戻そうと後ろを振り向き過去に固執する道。
だが、少年が選んだ道はそのどちらでもなかった。

『こんなに哀しいのなら、苦しいのなら……、愛など……』
失う事が辛く苦しいのならば、最初から失う物を持たなければ、こんな苦しみや哀しみを味わう事は無い。
将星の宿命は肉親も友も持たぬ、あるのはただ己一人。
ならば……、その定めに従うのみ!

『愛などいらぬ!!』
選んだのは、愛と情けを全て捨て去るという最も哀しい道。
一際大きな雷光が辺りを包んだ時、誰よりも愛深かった少年の姿はそこになく、非情の血に目覚めた帝王がこの世に生れ落ちていた。



「おい、ボーっとしちまってるけど、大丈夫か?ユリア」
「え、ええ。大丈夫よ、ジュウザ」
少々心配そうなジュウザの声を聞いて、ユリアもようやく我に返った。
きょろきょろと周りを見渡すと、そこはやっぱり女神像の前で、オウガイとリハクの後ろ姿はまだ見える。
白昼夢にしては生々しく、はっきりとしすぎていたそれは、ユリアにとってはもう慣れた事だった。

「(あれは……、オウガイ様とサウザー様……。なんて哀しい……)」
天の声。
物心付いた頃から、ユリアは天の声を聞く事ができる。
本来、誰も見る事のできない未来の運命がビジョンとなって浮かび見える。
それは大抵が人の死などに関する物だ。
そして、その結末が外れた事は無い。
他人の運命を見る事ができても、それを変える事はできず見守るだけ。
この予知とも言える力がユリアは嫌いだった。


――オウガイ様は……

どうして、死を選ぶのかと聞こうとしたが、声が出なかった。
予知の中では、オウガイは自ら望んでサウザーに斃されたのだ。
この老人は、もう既に死ぬ事を覚悟している。
それも、誰よりもぬくもりを与え続けた弟子のために。
恐らく、言ったところで何も変わらない。
一子相伝の宿命を背負った南斗鳳凰拳。
その長い歴史の中で繰り返されてきた事は、他の南斗の者が思うより遥かに崇高で重い。
自分のような子供が口を出してはいけないのかもしれない。
けれど、あのサウザーの姿を見ては、黙っていられないと思ったのも事実だった。

サウザーとは親しいわけではないが、南斗の里を訪れた時に何度か顔を合わせた事はある。
始めて会った時は、ケンシロウやトキのように、他人の事を想えるやさしい心を持った人だと思った。
もちろん、二人とは性格も大分違うし、ラオウと互角に組み手をしている時の姿からは想像も付かない。
それでも、人の本質を見抜く力を持ったユリアだからこそ、そうだと感じたのだ。
しかし、あの押し潰されんばかりの哀しみを振り切るかのような慟哭をあげたサウザーは、まるで人が変わったような顔をしていた。

愛と情けを捨てた先にあるのは、他人を想う心など存在しない修羅の道。
さらにその先にある物はユリアでもまだ観る事は叶わないが、なんとなく。
本当になんとなくではあるが、北斗南斗に。ひいては大勢の人にとっての大きな災いを呼ぶ気がしてならない。
そう感じていながら、運命を変えることのできる力を持たない自分が無力だと思い知らされる。

いつもそうする事しかできなかった。
飛行機が墜落し、大勢の人が死ぬ所。
元気そうな人が、突然の事故で死んでいく姿。
数え切れない程の人の死をユリアは見ているだけだった。
そのせいか、一時期心を閉ざしていた事がある。
今、こうしていられるのは北斗の末弟であるケンシロウと知り合えたおかげだ。

それでも、やはり人の死や悲しい未来を見るのは辛い。
どこか虚ろな目で赤くなりかけている空を見上げると、まだ日が出ているにも関わらず、南斗と鳳凰拳の象徴でもある極星、南十字星が薄く儚げに輝いているのが見えた。


ヒャッハー!あとがきだぁーー!
フェイトin南斗の里の巻。
南斗の里や女神像の件は漫画版のユリア外伝から取らせていただきました。
魔力資質ったーで調べてみたところ、ユリアは空戦S+の幻術型との事。



[18968] 第十一話:堕ちゆく将星
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:084b4b14
Date: 2010/10/25 07:32
北斗七星と南斗六星。
古来より北斗は死を司り、南斗は生を司ると言われてきた。
同じ名を冠する拳法もしかり。
歴史の影に潜み、伝説の暗殺拳とまで呼ばれるようになった一子相伝の北斗神拳。
対する南斗聖拳は陽拳として表の世界へと広がり、主な流派だけでも百八派を数えるようになった。
その中でも南斗六聖拳は暗殺拳というよりは活人拳的な要素を持つ。
ただ単純に切り裂き破壊するだけではなく、その力によって天帝をあらゆる外敵から守護してきたのだ。
南斗六星が乱れぬ限り世は平穏を保ち続ける。
だが、一星乱れた時、残る五星も乱れ、世に大きな悲劇を生む。
そして今、その内の一つが大きく変わろうとしている。

その星は将星。
南斗六星の主星にして、南斗鳳凰拳の伝承者が背負う星。
本来、南斗の拳士を率い、六つの門の一つを守る衛将に過ぎなかった拳は、他の五星を圧倒する力を持つようになり
いつしか天帝を差し置いて帝王の拳とまで呼ばれるようにまでになった。
南斗最強を謳い、南斗聖拳百七派ではどう足掻こうと勝ち得ぬとさえ言われている拳が堕ちたとなれば、必然的に他の五星も崩れる事になる。
そして、その悲劇を未然に防ぐ事ができるのは南斗の慈母星ただ一つ。
しかし、慈母の星を継ぐべき者は未だその宿命に目覚めることは無く、ただ空を見上げていた。

「…………はぁ」
あれからそれなりの時間が経ったが、ユリアから出てくるのはため息ばかり。
いっそ、天の声の事を知っているリハクやダーマに言ってしまおうかとも考えたが、それもすぐに考え直した。
リハクもダーマも南斗の流れを汲む拳を使う。
立場的にも六聖拳筆頭であるオウガイよりも下のため、南斗鳳凰拳の継承のやり方に口を挟む事なんてできないかもしれない。
なにせ相手は聖司教ですら一目も二目も置かねばならない南斗の最重鎮だ。
そういう意味で、唯一力になってくれそうな人物はユリアの知る限りはたった一人。
第六三代北斗神拳伝承者リュウケン。
オウガイと若き頃から拳を競い合った強敵とも呼び合った人物ならきっと力になってくれるのだが、あいにく北斗の寺院とこの里では場所が離れすぎている。
せめて兄であるリュウガが居れば、相談ぐらいはできたかもしれないと思っても詮無きこと。
一体どうしたらいいのだろうかと長い渡り廊下を歩きながら考えていると、ふと一人の少女の顔が浮かんだ。

「あの子ならどうするのかな……」
フェイトがそう感じたように、ユリアもまた北斗南斗などの拳法とはまた違った感じの強い力をフェイトから感じた。
ただ観る事しかできない自分とは違って、何をするべきなのかを自覚し、それをやろうとしている。

ほんの少し、流れに触れられるだけでいい。
そうすれば何かが変わるかもしれない。
どれだけ先の悲劇を観る事ができても、力が無ければ何も出来ない、何も変わらない。
だけど自分には、ケンシロウやジュウザのような力は無い。
そんな事を考えていると、同じように空を眺めるフェイトの姿が目に入った。

「隣、いいかしら」
ユリアがそう言うと、フェイトもユリアを見て小さく頷く。
二人ともそのまま無言で空を見つめていたが、しばらくしてフェイトが呟くようにして言った。

「星がこんなにたくさん……」
街中とは違って、この里からは星がよく見える。
大きな星から小さな屑星までが夜空を埋めんばかりに輝いているのは、一般的な価値観から言えば美しいと言って間違いは無い。
ユリアの方は、この光景が当たり前なのか少し不思議そうに聞いた。

「星空を見るのは初めて?」
「そうじゃないけど、こうやってじっと眺めるのは久しぶりだから」
フェイトにとって、満天の星空なんて物はもう過去の物だ。
昔は、まだ母が優しかった頃は、一緒に空を眺めて流れ星なんかを探した事もあったが
ここ数年は魔法の訓練なんかでそんな事を気にかける余裕すらなかった。

昔みたいに戻れれば、母と一緒にこの里に来て、この星空を眺めてみたい。
そう思うとフェイトの顔に自然と笑みが浮かぶ。
すると、ユリアが少し南の空を指差して言った。

「あそこに見える六つの星が南斗六聖拳の南斗六星。その南斗六星の中でも一番強く輝いている星が、オウガイ様とサウザー様が持つ将星」
ユリアが指差した方角を見ると、その先には六つの星の中心で一際強く輝いている星が見えた。
あたかも十字に光を放っているように見える事から別名を極星・南斗十字星。
南斗鳳凰拳の宿星にして、南斗聖拳の象徴とも言える星。
そのまま眺めていると、自然と将星と重なるように二人の姿が浮かんだ。

基本、堅苦しい話し方をするけど、どこか背伸びをしているような感じがするサウザーと、厳格そうに見えるけど、とても優しいオウガイ。
二人とも、並の魔導師なんか歯牙にもかけないぐらい強いのに、見ず知らずの自分に良くしてくれた。
明日からまたジュエルシードを探しに行かなければならないと思うと、ほんの少しだけ名残惜しい。
そんな事を考えていると、その内心を見透かしたかのようにユリアが問いかけてきた。

「オウガイ様の事は好き?」
いきなりだったので、フェイトも思わず戸惑う。
正直なところ、母以外にそういう感情を向ける相手が居るとも思っていなかったのだ。
何かの研究に没頭している母に代わっての教育係も居たが、もう居なくなってしまった。
どう答えようかと迷っていると、フェイトが言うよりも先にユリアが答えた。

「わたしは好き。温ったかくて大きいオウガイ様の事が大好き」
拳法を使う者は、その性質から自然と他者に対して攻撃的になりやすい傾向にある。
しかし、その中にあってもオウガイは全くの異質の存在とも言ってもいい。

サウザーに南斗鳳凰拳の過酷な修練を課しながらも、それ以外では惜しむことなくぬくもりを与え、サウザーもそれをよく理解し慕っている。
拳だけに限らず、師と弟子という間柄において、この二人のような関係は本当に稀だ。
幼い頃のラオウとトキを、言葉そのままの意味で千尋の谷に突き落として放置しかけた北斗と比べようものなら正直、天と地程の差がある。
どっちが拳を修める者にとって良いか悪いかは分からないが、少なくともユリアはこっちの方が好きだ。
だからこそ、あんな光景を実際に起こさせたくないと思っているのだが、どうにも自分の力だけでは手の打ちようが無い。

なんとなくフェイトの方を見るととユリアの体が少し跳ねた。
そして、少し空を見上げたまま目を瞑る。
天の声が聞こえてきたのだ。

またぞろ不吉な未来が見えるのかと思って体を硬直させてしまったのだが、今回はいつも見ているようなのとは何か違う。
桃色と金色の二つの光。
最初はぶつかり合うかもしれないが、いつか二つは繋がり合う。
その光の一つは目の前のフェイト。
そして、もう一つは白い服を身に纏った少女。
まだ漠然としたものだが、二人とも北斗の兄弟や南斗の六聖達と同じような、天から託された使命のような物を持っていると感じる。
観る事しかできない自分とは違って、それがほんの少しだけ羨ましい。
ほんの少し笑みを浮かべると、優しく言った。

「この先、あなたにとって大切な出会いがあるわ。今のあなたには必要無いかもしれないけど、それを忘れないで」
半ば唐突にそんな事を言ったので、フェイトもどういう事だろうかと疑問符を浮かべると、少し言いにくそうにユリアが続けた。

「信じられないかもしれないけど、わたしは人の運命を観る事ができるの」
そんな突拍子もない事を聞いてフェイトも驚きはしたが、その話を真っ向から否定はしなかった。
稀少技能。
魔導師が持つ先天的な固有の技能で、フェイト自身も魔力を雷に直接変換する事ができる魔力変換資質という近い物を持っている。
とはいえ、予知なんて力は次元世界を通しても滅多にお目にかかる事はできず、あったとしても解釈の仕方によって意味が変わってしまう文章ぐらいだ。
映像として明確に運命を観る事が出来るのは、後にも先にもユリアぐらいのものである。

厳密に言えば、デバイスそのものは魔法を使いやすくするための補助装置のようなもので、無ければ使えないというものではない。
才能によるところが大きい稀少技能なら、無意識無自覚に魔力を使っている事もある。
デバイスを持ってもいないユリアから魔力を感じた理由もこれで納得がいった。

驚きながらもこくりと首を縦に振ると、ユリアの表情が少し安心した物になる。
これでこの事を知っているのは、南斗宗家の者、ダーマにリハクと兄のリュウガを除けば、ケンシロウとトキに次いでの三人目である。
そりゃ、その辺の人に自分は運命が見えるなんて言った日には、少し頭の可哀想な子という評価をされかねないのだ。
そういう意味では、ユリアにとっては勇気の要る告白だったのだが、フェイトは信じてくれたようで安心した。

また少し無言が続いたが、冷たい山風が二人の間を駆け抜ける。
ユリアは慣れているのか特に何も感じないが、フェイトの方は身体を小刻みに震わすと小さくくしゃみをした。
その姿がなんだかとても可愛らしい。もちろん、小動物的なという意味でだ。
ユリアですらそう思ってしまったのだから、その破壊力たるや南斗獄屠拳級の代物だろう。

まぁそれは別として、もう一つの事を話すべきかどうかはユリアも迷った。
オウガイが連れてきたとは言え、フェイトが南斗聖拳の事を今一つよく分かっていない事ぐらいは分かる。
しかし、予知の中で見たあの光は、決められた運命さえも変えてしまうかのような強い力を感じた。

話してみよう。
それで、誰も苦しむ事が無くなるのなら話してみるだけの価値はある。
そう決めると、空の将星に向けるかのように小さく語り始めた。

「……極星は一つ。南斗鳳凰拳の伝承者は世に一人だけ」
南斗鳳凰拳の継承の試練は、弟子が師を斃す事。
そこに一切の情けは無く、将星が肉親も友も持たぬ独裁の星と呼ばれている所以である。
無論、それは誰よりもオウガイの事を慕っているサウザーとて例外ではない。
それを知っているからこそ、ユリアは辛そうに続けた。

「雷が落ちる雨の日。サウザー様は、相手がオウガイ様だと知らずに闘ってしまう」
故に、サウザーは相手が誰であるかを知らず、目隠しをしたままで試練に挑む。
その結果、想像を絶するような哀しみがサウザーを襲う。
愛深き故に、その哀しみに耐え切れず、愛と情けを捨て去る。
そうなってしまえば、もう誰にも止められはしない。
自分には二人が闘う事を止めるだけの力は無いが、フェイトにならできるかもしれない。


「こんな事を言うのは筋違いかもしれないけれど……
  オウガイ様とサウザー様を止める事が出来るのは、不思議な力を持っているあなただけかもしれない」
全てを言い切るとファイトに向けてユリアが小さく頭を下げる。
ユリアもフェイトが何かやるべきことをやろうとしている事ぐらいは理解している。
それでも、未来を変える事のできる可能性が少しでもあるのなら頼んでみる価値はある。
その時の言葉と、どこか辛そうなユリアの姿がフェイトの頭の中から消えることはなかった。






『フェイト……?フェイト。どうしたのさ』
ジュエルシードの力によって、そのままの意味で巨大化した仔猫を見ながらアルフが念話を送る。
ジュエルシードの手に入れる為ならどんな事でもすると心に決めているはずのご主人様が、どうにも心ここにあらずと言った様子で集中できていない。
何か迷っている様子だった。
その理由は大方検討は付くが、どうするかはフェイトが決める事で、使い魔である自分が口を出す事はできない。

『ううん、なんでもないよ。起きてバルディッシュ』
“Yes sir”
かぶりを振ると、フェイトが自分のデバイスを起動させる。
母が必要としているジュエルシードが目の前にある。
今はそれを手に入れる事だけを考えればいい。

そう自分に言い聞かせると斧のような形になったバルディッシュを巨大猫に向ける。
だが、ふとあの言葉を思い出すとフェイトの体を違和感が包んだ。
暴走体を攻撃する事は何の罪悪感は沸かない。
非殺傷設定だ。少しは痛いかもしれないが怪我すらしない。
じゃあ、このトゲが引っかかったような違和感は何だろうか。

遠くの山の方では、雷雲がかかっていて雷の音が聞こえてくる。
ユリアの予知が正しければ、今日がその日でその雲の下にはあの二人が居るのだ。
少し前のフェイトなら気にする事は無かっただろうが、今は少し違う。

母さんがジュエルシードを欲しているから、ジュエルシードを集める。
それがフェイト・テスタロッサの価値観の全てでもあり、存在する理由でもある。
今までは、他の事に感情を挟む事は無かった。

『フェイト!』
慌てた具合のアルフに反応してフェイトが前を見ると、辺りにはいつの間にか結界が張られていた。
そして、そこには白いバリアジャケットを纏った少女がこっちに飛んでくる所で、その姿はアルフから聞いていた物と一致する。

『アルフ、あの子が?』
『そうだよ。この前のジュエルシードの時に居合わせた魔導師さ。フェイトの敵じゃないと思うけど、魔力量は大したもんだから注意しておくれよ』
魔法を扱う技術では、訓練を受けたフェイトに敵うはずはないが、内に秘めた魔力資質はフェイトに匹敵する。
押さえ込まれていたとはいえ、世紀末モードに突入したジャギのジュエルシードを封印できたのだから、侮る事はできない。
ほぼ反射的にバルディッシュの矛先を向けると、白い少女が大きな声で話しかけてきた。


「わたし、高町なのは!フェイトちゃんだよね?ジュエルシードを集めてるって事は聞いてるよ。どうしてジュエルシードを集めてるのか、おはなししてくれないかな?」
初めて会うのに名前を知っている理由をを聞こうとしたが、すぐに思い直した。
この世界で自分の名前を知っているのは数少ない。
その内の一人は、目の前のなのはと一緒に居たとアルフから聞いている。
ジュエルシードをくれたのだから、どちらの味方でも無いのだろうけど、ちょっと複雑な気分だ。
サウザーの事が頭をよぎると、またフェイトの心に痛い物が奔った。


南斗鳳凰拳の地。
そこでフェイトは記憶の中以外で、初めて人のぬくもりを与えられた。
少し堅苦しいけど、暴走体から助けてくれたサウザー。
この世界の住人ですらない自分に無償のやさしさを注いでくれたオウガイ。
ユリアの予知を信じるなら、その二人が闘い、殺し合う。
しかも、サウザーは相手が誰であるかを知らないままにオウガイを手にかける。

――嫌だ。

漠然とした思いが時間が経つにつれ、段々大きくなってくる。
オウガイはフェイトにぬくもりを与えてくれたし、それはフェイトにとっても心地よかった。
ジュエルシードの事も大切だし、母の事が一番大事な事に変わりは無い
でも、誰かが止めなければ、どちらとも二度と会えなくなってしまう。
そんなのは嫌だ。
ゆっくりバルディッシュを下げると、なのはに背を向けた。

「ごめん、アルフ。一つだけわたしのわがまま聞いてくれる?」
「分かってるよ、フェイト。こっちは大丈夫だから行ってきなよ」
ずっと張り詰めていたようなフェイトの表情が、あれだけ緩んでいたのはアルフの記憶には無い。
無茶なお使いを命じられる事も無く、年相応で居られる場所。
あんなハリボテの庭園なんかよりは、ずっと居るべき場所だ。
少なくともアルフは、今までジュエルシードの事しか考えてなかったフェイトが、迷い悩んだ末にこういう選択を取ってくれた事を嬉しく思う。
飛び立とうとしているフェイトの背中を合わせるようにアルフがなのはの前に立ちはだかった。

「待って!」
「悪いね。うちのご主人様はちょ~っとヤボ用が出来たのさ。だけど、ジュエルシードは渡さないからね」
追い縋ろうとするなのはを遮るように人型のままアルフが拳を鳴らすと、なぜか両腕を下げてニヤりと笑った。
言うまでも無く南斗鳳凰拳の型である。
もちろん、一度見ただけなので技なんて使えはしないが、そこは魔力ランクAAAと評されるフェイトの使い魔。
力や俊敏さだけでも普通の人間を遥かに凌駕している。
防御を捨てての制圧前進。
性にあっているし、なんだか見た目がカッコいいので凄く気に入ったのだ。
目の前の小さな白い魔導師を見据えると、威嚇するかのように言った。

「来ないなら、こっちから先に行くよ」
「あ……!」
言った瞬間アルフの体が加速すると、身構えて硬くなっているなのはの脇をすり抜けて猫に向かった。
目的はジュエルシードだけで、馬鹿力ならぬ馬鹿魔力を持った砲撃タイプの魔導師と正面からドンパチやる程、自分の実力を知らないわけではない。
戦い慣れてないのなら、スピードで翻弄しまくってジュエルシードを掠め取って逃げる。
背を晒しているのに射撃魔法が一発も飛んでこないのは、猫に当たるかもしれなと思っているからだろう。
思ったとおりの甘い性格だが、アルフにとっては好都合だ。

なら、せいぜい利用させてもらうさ。
そう決めると、猫に向けて最初の一撃を繰り出したのだった。






僅かに覗く月明かりで照らされた山の中を幾つもの雷が照らす。
その光の下では、目隠しをしたサウザーが闇の中で佇んでいた。

「………」
目隠しの下でも目を閉じながら、サウザーはここ最近起こった事を思い返していた。
思えば、この数日は動乱とも言っていいほどに色んな事がありすぎた。
知らなかった他の世界。その力で強くなったジャギ。
そのジャギ相手に退かなかった高町なのは。責任感は強いがどこか抜けている感のあるユーノ・スクライア。
とうの昔に潰えたと思っていた御神流の使い手達。裏の世界で生きる夜の一族。
南斗から追放された白鷲拳を使うダルダ。
そして、その始まりだったフェイト・テスタロッサ。

滅多に山を降りないが、良い経験になったと思う。
もし、フェイトを拾わなければ、魔法の事など知る由も無かっただろうし、月村にはオウガイが行ったかもしれない。
真剣勝負への不安は無く、落ち着いた気持ちで挑む事が出来ているのは、ある意味フェイトのおかげだ。
そんな事を考えているぐらい余裕を持っていたのだが、雷に混じって近付く僅かな気配を察したのか、一瞬で全ての思考を切り替えた。

「(……どこから来る)」
気配の消し方は巧緻を極めていると見た。
ダルダは殺気や闘気を隠そうともしなかったため、一挙一動まで動きが掴む事ができた。
だが、陽拳とはいえ南斗聖拳の本質も北斗と同じ暗殺拳の部分を持つ。
殺気を表に出すなど愚の骨頂。
そういう物を内に秘めてこそ、南斗の拳士。
相手がかなりの使い手と分かると、自然に頬を汗が伝う。

敵の位置が分からないという事ほど危険な物は無い。
いかに優れていようとも、攻撃が来る方向が分からなければかわしようが無いからだ。

僅かに早くなった鼓動を落ち着かせようと、サウザーが深く息を吐く。
これまでずっと、オウガイと共に行ってきた厳しい修行を乗り越えてきたのだ。
南斗鳳凰拳は誇り高き不敗の拳。

いびつながらも北斗と闘い、御神を退け、白鷲を倒した。
過信を持たぬ自信は強さに繋がる。
己を信じられぬ者がどうして強くなれようか。
今までの全てがサウザーを支えている。
それは、嵐で揺るぐ事はあっても、倒れる事は決してない巨木のように。

もう一度小さく息を吐くと力の篭りすぎていた体から程よく力が抜けた。
来たければ来ればいい。
特に力を篭めない自然体とも言える姿が南斗鳳凰拳だ。
本来の構えを取ると、後ろから飛来する一つの気配を確かに捉えた。

「(……来たか!)」
後ろから振るわれる拳を皮一枚のところで、跳躍してかわしきる。
相当な使い手のようだが、最後の最後で気配を現し詰めを誤った。
後は、空中から極星十字拳を見舞えいい。

「はぁーーー!!」
大きく声を上げると、相手が誰であるかも考えずに交差させた腕を解き放つ。
これは、真剣勝負。
情けをかければ自分が死ぬ。
何の迷いも無く拳を振るった。



「だめぇーーーー!!」
「……ぬ!?」
突如として、あらぬ方向からの叫び。
今にも振り抜こうとしていた拳を反射的に止めるとサウザーが地面に着地した。

「く……、誰だ!いや、……考えるまでもないが」
継承者への儀は、一対一の真剣勝負のはず。
他の物が横槍を入れるなどありえない。
その叫びは覚えのあるものだったのか、少し慌てながら目隠しを外した。

「やはりか……、こんな所で何をしている!」
サウザーの傍に立っていたのは、あの黒いバリアジャケットを着て、杖のような物を持ったフェイトに間違いは無い。
どうして戻ってきたのかは分からないが、相手がただの子供ではない事を知っている。
何の真似かと声を出したが、その人形のように整った顔を振り向けると小さく呟くように言った。

「だめだよ……」
「なに……?」
今まで見せたどの物よりも悲しそうな目を見て、サウザーも次第に平静を取り戻すと、今になって次々と疑問が湧き出してきた。
相手も南斗の使い手なら、拳の威力はその身が一番良く知っているはず。
未熟な者ならともかく、あれだけの使い手が何故あの場面で見せ付けるように気配を晒したのか?
それに一体、誰と闘っていた?
南斗鳳凰拳は、文字通りの一子相伝。
師弟を合わせても、一世代での使い手はたったの二人。
あれ程の使い手であれば、他の流派の高位の伝承者だと考えていたが、いかに南斗鳳凰拳とはいえ、敗れれば命を落とす真剣勝負に他の流派の伝承者を使う事は出来はしない。
まさか、と思うと嫌な汗が全身を包む。
震えながら前を見ると、そこに居たのは一つの影。
雨が降り出し、一際大きな雷光が辺りを包む。
その先にあった影は、誰よりもサウザーが知る男だった。

「お……、お師さん……!」
能面のように無表情で佇むオウガイの姿を見ると、支えを失ったかのように膝から崩れ落ちた。
無数の雨粒が身を叩き容赦無く体温を奪っていくが、サウザーの頭の中はかき混ぜられた鍋のように錯綜している。
目隠しをしての試練。
オウガイならば、あの場面でも相手に気配を悟らせるような真似はしない。
無論、気配が無くとも空気が動く僅かな流れを掴めばサウザーならかわす事も十分にできる。
だが、手傷を負う可能性もある。
そうなれば、放つ拳が浅くなっていたかもしれない。
オウガイは最初から死ぬ気だったという結論に達すると、俯いたまま搾り出すかのように声を出した。

「な、なぜ……!どうしてですか!」
フェイトが間に入らなければ、今頃は師を手にかけていた。
知らなかったとはいえ、オウガイを殺そうとした。
他人がやったとしたら万死に値する行為を他でもない自分がやろうとしたのだから、許せる行為ではない。
冗談でもいいから嘘だと言って欲しかったが、返ってきたのは何の感情も篭っていないような冷たい言葉だった。

「……南斗極星の拳、南斗鳳凰拳もまた北斗神拳と同じく一子相伝の拳法。伝承者が新たなる伝承者に倒されていくのも我らが宿命なのだ」
「ならば、なぜその事を俺に隠していたのですか!?」
「お前は、南斗鳳凰拳を継承できるまでに力を付けた。だが……、継承への試練が、継承者を斃さねばならぬ事を知って試練に挑めたのか?」
「そ、それは……」
十五年もの間、オウガイを師と呼んできた。
その存在は、サウザーを構成している若木の幹と言っても間違いは無い。
それを切り崩すという事は、今までの全てを破壊する事に等しい。
まして、サウザーは父のようにオウガイを慕っているのだ。
できるわけがない。

その事を見越しての目隠しだ。
思わぬ横槍はあったが、オウガイはフェイトを責めはしない。
これも南斗鳳凰拳の宿命。
こうなれば、本来のやり方で伝承者への試練を行うまでだ。
そう心を決めると短く告げた。

「こうなっては、致し方あるまい。立てサウザー」
「お、お師さん……」
「師を斃し、その屍を超えてみせよ!わしは、お前の瞳の中に極星、南斗十字星を見ているのだ!お前には鳳凰拳歴代最強の使い手になる資格がある!」
半ば説得するかのように語りかけるとようやくサウザーが立ち上がったが、その心にあるのは迷いの一色。
両眼からは雨に混ざる様に涙を流し、口は奥歯も砕けんばかりに強く噛み締められ、唇を噛み切ったのか血が流れ出ている。

改めて二人が対峙する姿は対極的な物で、サウザーは師を失う事になる悲しみと、師を殺さねばならない自分への怒りが混ざったような壮絶な表情。
対してオウガイは、依然として仮面のように変わらぬ表情を保っている。
これがあのオウガイかと、知っている者が見れば驚くかもしれないが、理由は一つ。
顔を仮面に変えねば、オウガイとて今のサウザーを直視する事は出来ないのだ。
ほんの少し目を閉じた後、オウガイが静かに言った。

「構えよ」
「…っ…ぐ……!お師……!」
その言葉が何を意味するのかは当然知っている。
通常、構えを持たぬ南斗鳳凰拳でも二つだけ例外が存在するのだ。
一つは、北斗龍撃虎に対応する南斗虎破龍の構え。
この構えは南斗聖拳高位の流派では共通の構えであるのでこれの事ではない。

もう一つ。
南斗鳳凰拳奥義、天翔十字鳳。
他の五聖拳を遥かに凌ぐ南斗鳳凰拳の使い手が、対等と認めた相手のみに対して使う不敗の拳。
不敗の拳がぶつかり合えば、どちらかが斃れるのは必定。
サウザーが声にならない声を出しながら、二人同時に構えを取り始める。
老いた鳳凰と若き鳳凰が翼を広げようとした瞬間、その間に割って入る影があった。

構えが完成するより先に、大きく両手を広げてフェイトが立ちはだかる。
そして、対峙する二人を見ると、兎を連想させるような赤い瞳からボロボロと涙を流し出した。

「嫌だよ……、オウガイさんもサウザーさんも、あんなに仲が良かったのに、そんな理由でどっちかが死んじゃうなんて嫌だ……」
優しくしてくれた母さんが、急に愛情を受け入れなくなった。
もう一度、優しかった頃の笑顔を向けてもらいたい。
もう一度、優しく抱きしめられたい。
だから、どんな危険を冒そうとしてもジュエルシードを集めている。

そんな中、出会った二人の父子は、一人は己を殺せと言い、もう一人は血の涙を流しながらそれをしようとしている。
無意識に母と自分を重ねてしまった。
もしそんな事になれば、自分には耐えられない。

それが切欠になったのか、本格的に泣き始めた。
大人びているとは言え、フェイトは九歳の子供。
少しの間でも、自分を家族みたいに優しくしてくれたオウガイの事は好きだし、サウザーだってそうだ。
その二人が闘うのだって嫌なのに、一人が死んでしまうなんて絶対に嫌なのだ。
後は、「フェイト様は本当に頭の良いお方」とダムをダイナマイトで爆破するような物で、あっという間に決壊し、一度流れたら止めようの無い水が流れ出るのだった。


一子相伝、南斗鳳凰拳の宿命。
それは南斗の者なら、侵すことの出来ない崇高な物である。
しかし、深い愛情を分かち合った親と子が殺し合う事には変わりない。
フェイトからすれば、まさしく『そんな理由』なのだろう。
無論、それはサウザーにも言える事だった。

「そんな事は……、分かっている!分かって……いる……」
フェイトに言われるまでもない。
誰が好き好んでこんな事を続けたいと思うものか。
構えを取った腕を下ろすとサウザーの目から光が消えた。

「(わしらの負け……か)」
サウザーが闘える状態でなくなった事を見るとオウガイも構えを解いた。
少なくとも、今は誰にもどうする事もできはしない。

だが、サウザーにとって真に厳しくなるのはこれからだ。
いずれにしろ継承への試練は行わなければならないし、それをしないというのであれば南斗鳳凰拳を継ぐことはできない。
南斗鳳凰拳も北斗神拳と同じく一子相伝だが、伝承者候補はただ一人というのが常だ。

技と体は全てを伝えた。
後は心の問題だが、こればかりは教えられる事ではなく己で掴まねばならない。

少し事を急ぎすぎたと言えば否定は出来ない。
一五という年齢で一つの流派を伝承するという事は、北斗南斗を含めても早過ぎる事なのだ。
少なくとも二、三年は待つべきだったかもしれないのだが、それを前倒しさせたのはオウガイ自身の衰えにある。
肉体の衰えを技で補ってきたが、それも今年で限界を迎える。
そうなってしまえば天を駆ける鳳凰と言えど地に向かって落ちるだけだ。
そうなる前にと思った末だったのだが、裏目に出たのかもしれない。


それにしても不思議な子だと、フェイトを見ながらそう思う。
南斗最強を誇る師弟がたった一人の少女に手も足もでなかったのだ。
それに、送り届けた海鳴市からここまでは、子供一人が来れるような場所では無いはずだが……。

小さく息を吐くと、その事については考える事を止めた。
過ぎた事をいくら考えても、事態が何一つ変わるわけではない。
むしろ、これから先の事について山ほど考えばならないのだ。
とにかく、フェイトが雨に打たれたままというのは良くない
泣くフェイトを抱え上げると、少しサウザーを見た。

「お、お師さん……」
「言うでない。とにかく、一度戻るぞ」
事此処に至っては語るべき事は何も無い。
それを分かっているからこそ、サウザーも何も言えない。
この先がどうなるかなど、誰にも分からないのだ。

ただ一つ確かな事は、雷雲の向こう側では死兆星がまだ輝いているという事だけだった。




ヒャッハー!あとが、あとが、あとがががが……がさのば!!
毎日毎日南斗残業拳……どういう事なの……。

ユリアの幼少時代とか外伝探しても殆ど描写無いから全く分からん……。
とりあえず、ジャギ様にも様付けするようないい子ではあるみたいだけど。

そして、ユリアとフェイトの部分をどうするか悩んでいる間に、次の話のバトル部分が八割完成してたってのはもっとどういう事なの……。

次はもう少し早く投稿したい。



[18968] 第十二話:強敵
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:b58691f1
Date: 2010/12/04 00:33
小都市とは言え、それなりの人口を備えるからには相応の娯楽もある。
夜の繁華街ともなれば結構な人通りだが、少し外れた裏通りのような場所では数人の人影が蠢いていた。

「いい加減……くたばりやがれッ!」
半ば絶叫にも似た叫びと共に鳴り響くのは紛れも無く殴打音。
見たまんまチンピラ丸出しの人相の悪い男達が一人を袋叩きにしているのだが、どれだけ蹴られ殴られようともその男が地に伏せる事は無かった。

「……気は済んだか?」
いい加減、飽きたのか仁王立ちのままサウザーが囲んでいる男達に向けて言う。
しかし、何時もとは様子が違う。
その目に光は無く、声もどことなく抑制を失っているように見える。
まるで夢遊病者か、精神を病んでいる人間のそれだ。

殴られている理由はただ単純。
半ば彷徨うように歩いていた所、肩がぶつかったとかで因縁をつけられた。
心底どうでもよかったのでそのまま無視しようとしたのだが、一人が二人、二人が五人と数が増え今に至る。
いくら数が多くても所詮は素人。
どれだけ袋叩きにしようが、南斗聖拳の修練を積んだサウザーにさしたるダメージも与える事はできない。
蚊が刺した程にも気にも留めないサウザーの態度に業を煮やしたのか、男達が得物を手に取り始めた。

そこら辺に散乱していた廃材からバタフライナイフまで様々だが、それを見てもサウザーが動じる事は一切無い。
背後から鉄パイプを振りかざした男が迫る。
だが、頭めがけて振り下ろそうとした瞬間、いつの間にかサウザーの指先が額に突きつけられていた。

「……死ぬぞ」
どこまでも底冷えするかのような声でサウザーが呟くと、男が握っている鉄パイプに切れ目が奔りあっという間に鉄屑へと化した。
南斗聖拳の、まして南斗最強を誇る南斗鳳凰拳の動きをただの人間が見切る事は不可能に近い。
腕を振るう動作すら見えなかったはずである。
その気になれば、ここに居る全員を皆殺しにするまで三秒とかかるまい。

「ひっ……こいつ、ば、化物だ……!」
その光景を目にし、誰か一人が叫ぶと得物を手放し後ずさる。
今更ながら、目の前の男がただ殴られているだけの木人形ではないと理解したのだ。
そうなれば、後は蜘蛛の子を散らすかの如し。
十秒も経たないうちに、路地裏には一人サウザーが取り残されていた。

「くっく……はははは、化物か」
逃げ惑う男達を眺めながら、どこか自虐的な笑いを込めながらサウザーが呟く。
素手で鋼鉄を容易く切り裂き、ダイヤモンドすら二本の指で砕くなど、確かに化物だろう。
とはいえ、それが南斗聖拳だ。
外部からの破壊を極意とする一撃必殺の拳。
物心ついた時から南斗鳳凰拳を学んでいた。
今までも、そしてこれから先もそれは変わる事は無いと信じていた。
それが甘い考えだったと分かった時には、危うく取り返しのつかない事をしてしまうところだった。
ギリギリのところで踏みとどまれたのはフェイトのおかげだ。
それについては返しきれぬ借りが出来たが、同時に大きな悩みも生んだ。

「……何をやっているんだろうな」
今まで何の為に南斗鳳凰拳を学んできたか。
……それは考えるまでもなくオウガイのためだ。
技を一つ体得するたびに我が事のように喜び、ぬくもりを与えてくれた師の為である。

サウザーに与えられた猶予はあれから一月。
師を斃し南斗鳳凰拳を継承するか、継承を諦めるか決るようにと言われた。
それだけなら、サウザーがこうも思い悩む事は無い。
例え、拳を潰されても、恨みはしないしオウガイを手にかけてまで南斗鳳凰拳を継承しようとまでは思っていないからだ。
それがこうなっているのは、サウザーが南斗鳳凰拳を継承しなければ、南斗鳳凰拳が今代で潰えてしまうという点にある。
すでに老齢のオウガイには、また新たに伝承者を育てる時間は残されてはいないし、なによりその気が無い。
オウガイにとって、サウザーは己が持てる全てを注ぎ込んだ愛弟子なのだ。
師の期待に応えるには、その師を斃さなくてはならない。
サウザーにとっては、バグ昇竜とムテKING……もとい矛盾もいいところだ。
もう一週間ばかり経つが、明確な答えがあるわけでもなくただ虚ろに時間だけが過ぎていっている。
どうしようもないまま一歩踏み出すと、不意にサウザーの体から力が抜けた。

「ぬぁ!?」
急な事に受身も取れぬまま、地面へと倒れ付す。
南斗聖拳の使い手にしては無様としか言いようが無いが、今のサウザーは常人からすれば意識を保っている事すら不思議なぐらいに酷い有様である。
なにせこの一週間は、ろくに寝てもいないし、食事どころか水すらもまともに摂っていないのだ。

どうにか体を仰向けに起こすと、建物に囲まれた先の空をなんともなしに眺める。
この空には星も何も無い。
普段見慣れた空とは違って、それがなんとも言えず空虚だった。

「南斗六星の宿命……か。くだらんな……」
将星の宿命がただ肉親も友も持たぬだけの事であるのであれば、なんとも虚しい星だ。
そんな物を背負うぐらいなら、このままここで野垂れ死んだ方がいいのかもしれない。
全てがどうでもいい。そう考えると視界すら歪む。
死のうが生きようが知った事ではないと自棄気味に意識を手放そうとすると、何だか見覚えのあるような物が見えた気がした。






「……ここは」
気分の悪さを感じながら目を開ける。
どうやらまだ死んではいなかったようだが、視線の先には天井がある。
天井があるという事は部屋の中だろうかと当たりを付け、上体を起こすと見知った顔があった。

「あ、起きた」
「う……アルフ……か?貴様、こんなところで何をしている」
まだ頭が重いし思考がはっきりとしないが、それでも辛うじて相手がアルフだという事ぐらいは理解できる。
頭を押さえながら言うと、何でか知らないが物凄く呆れたような声で返された。

「こんなところって……。はぁ……ここはフェイトの家だよ。ジュエルシードを探してたら、あんたがぶっ倒れてたのを見つけてわざわざ運んでやったんだ。感謝ぐらいしたらどうなんだい」
フェイトの家、と言われ辺りを見回すと、えらく殺風景だがそれなりの家具がおいてある。
窓から見える景色が高いので、マンションか何かの一室だろうかと思っていると、水の入ったペットボトルを投げ渡された。

「む……」
とりあえず、一口飲むと残りは砂漠に落とした水滴のように無くなっていく。
ほぼ一週間ぶりにまともな水を口にするだけあって、どれだけ乾いていたかを嫌でも自覚させられるというものだ。
中身を全て飲み干すと短く聞いた。

「どのぐらいだ」
「三四時間ってとこかな。一体何やってたのさ」
「くそ……、どうりでな……」
体力的というよりはむしろ精神的に大きく疲弊していたというのもあるが、それにしても一日半というのは長い。
それだけ寝続けていれば、この体の重さも納得がいくというものだ。
とにかく、ここでこうしているわけにもいかない。
特に目的があるわけではないが、じっとしている気にはなれないのである。
だが、起き上がろうとすると、アルフに肩を押され倒されてしまった。

「まだ無理しない方がいいよ。あたしに力負けするようじゃ本調子じゃないんだろうしさ」
「……俺の事など放っておいてもよかろう。何故助けた」
どちらかというと本調子ではないのは体より精神の方。
普段の強気がどこへサラダバーしたのか、目に生気という物が感じられない。
事の経緯に関してはアルフも大まかな事はフェイトから聞いているため、少し考えるような仕草をとると言った。

「んー、強いて言うなら目だね。今のあんたが少し前のフェイトみたいな目をしてるからさ」
フェイト、と言われてサウザーの体が少し動いた。
拾って話をした時からだが、常に何か重たい物を背負っているような目をしていたのは感付いてはいた。
フェイトが必死になってジュエルシードを集めている理由もその辺りにあるのだろう。
今やサウザーも南斗鳳凰拳の歴史と師の命を天秤にかけているのだ。
それを一人で背負い込まねばならないのだから、あれと同じと言われれば確かにそうかもしれない。
そう言えばフェイトの家と言っていたが、肝心の主の姿が見当たらない。

「あいつは……」
改めて上体を起こしながら、どうしている、と言い終えるより先に部屋の床が光る。
俗に言う魔法陣のような物が現れると、話そうと思っていたフェイトが姿を見せた。
ただし、経絡秘孔によって癒えたはずの体は再び傷だらけになっていたが。

「フェイト!」
アルフが駆け寄ると、フェイトの体が揺れアルフにもたれ掛かる。
この傷跡は、以前サウザーが見た物とほぼ同じだ。
さすがにこれを見ては言うべき言葉が出ない。
頭の重さを振り切り立ちあがった先では、何を思ったか外に出ようとしているフェイトをアルフが必死になって止めようとしているところだった。

「もう止めようよ!どうしてそんなに傷だらけになってまで、あいつのためにジュエルシードなんか集めなきゃなんないのさ!」
「それがわたしの望みだからだよ。さ、行こう。早しないと、あの子に先をこされちゃう」
「フェイトぉ……お願いだから無理しないでよぅ」
力の無い笑顔でフェイトが言うとアルフが泣きそうな顔になったが、それでもフェイトは歩みを止めない。

「大丈夫だよ……、わたしは強いから……」
アルフの制止を振り切り、フェイトが外に出て行こうとするより先にサウザーがその前に立つ。
フェイトはサウザーを見ると何か言おうとしていたみたいだったが、それよりも早くサウザーの指がフェイトの鼻の下辺りに突き付けられる。
すると、フェイトがピクリと体を震わせると力を失い床に崩れ落ちた。

「あ、あんたフェイトに何したんだい!」
慌てたアルフがフェイトの元に駆け寄るとサウザーを睨み付けた。
今にも掴み掛かってきそうな勢いだったが、傷を負っている所にいきなり何かやったのだから無理も無いのだろう。
なので、今やった事を説明する事にした。

「貴様が騒ぎ立ててどうする。経絡秘孔の一つ『定神』を突いた。しばらくは目を覚まさん」
厳密に言うなら経絡秘孔を突く事を北斗神拳とは言わない。
経絡とは血の流れ。
外部からの破壊を真髄とする南斗聖拳でも人体の経絡の流れを知ることは基本の一つ。
経絡秘孔を突き人体を内部から破壊するのも、経絡の流れを断ち切り外部から破壊するのもそう大差は無いのだ。
極端な話になるが、秘孔の位置を把握し、気を使う事が出来るのであれば誰にでも出来る。
ただ、それを戦いの中で正確に使いこなすとなると話が違ってくるというわけである。

「そ、そうかい。よく分かんないけど、フェイトは大丈夫なんだね」
経絡秘孔の事は理解できていないようだが、フェイトに危害を加えてないのならそれでいいらしい。
安堵したかのように息を吐くとフェイトを抱え上げ寝床へと運ぶ。
動かないフェイトを見つめていると後ろからやけに威圧感の篭った声が聞こえてきた。

「話せ。お前達が、こうまでしてジュエルシードとやらを手に入れようとする理由をな」
傷跡から鞭か何かの類だとは当りを付けてはいたが、さすがにこれは尋常ではない。
拳を学んでいるならともかく、その対極的立場にいるやつがこんな傷を負うなど普通はありえない事だ。

「それは……」
それでも、アルフは話すことを躊躇った。
本来、サウザーはこちら側の世界とは無縁の人間である。
だが、フェイトを助けてくれた事には変わりは無いし、近接戦闘にかけては無類の強さを誇る。
それに今のところ南斗聖拳の人間で魔法やジュエルシードの事を知っているのはサウザーだけなのだ。
最悪の場合、身を隠す為に手を借りる事になるかもしれない。
だから、少し悩んだ末に話す事に決めた。

「フェイトをこんな目にあわせたやつの名前はプレシア・テスタロッサ」
「プレシア……、いや、待て。確かこいつも」
「そうさ。フェイトの母親だよ……」
手を握り締めながら辛そうに言うアルフを見て、やはりかと内心で舌打ちをした。
薄々は予測していた事だが、実際にそうだと知ると改めて気に入らない。

「これ、さ。フェイトとあいつの昔の写真なんだけど」
そう言って渡された写真を手に取り眺める。
写っていたのは、今よりもさらに幼い頃のフェイトと、髪の長い女、恐らくプレシアの姿。
それを見るとまずサウザーは驚いた。

「こいつ、こんな風に笑えたのか」
拾ってからすぐに月村に行ったというのもあるが、サウザーはフェイトが笑っている姿など一度も見た事が無い。
しかし、この写真の中の二人は本当に幸せそうに笑っているのだ。
だからこそ、今が解せない。
この写真のプレシアからは、どう捉えてもフェイトにこんな真似をするようには見えない。
一体、どういう事かとアルフを見ると言いにくそうに答えた。

「あたしがフェイトの使い魔になった時には、もうこんなだったからね。リニスなら何か知ってたかもしれないけど」
リニスというのは、プレシアの使い魔でフェイトの教育係をしており、今はプレシアからの魔力供給を切られ文字通り存在していない。
つまり、何があったかを知る術は無いという事だ。

「たぶんだけど、あいつはジュエルシードをたくさん欲しがってるからね。フェイトが持っていった数だけじゃ足りなかったんだよ。それで……」
言いながらアルフが悔しそうに壁を叩く。
今まで集めた数は五個。
そのうちの三つは、フェイトがなのはと戦って手に入れた物だ。
一つ手に入れるだけでも大変な物を五つも持っていけば喜んでくれるかなと言って、サウザーの事をアルフに任せ届けに行ったのだがGOLANの有様である。

「あんたのとこで世話になってから、フェイトがよく笑うようになったんだ。それなのにこれじゃああんまりだよ……」
オウガイに連れられて南斗の里に行った事。
そこで女神像に祈った事やユリアやジュウザと出会った時の事を楽しそうに話してくれた時は本当に嬉しかった。
それだけに、この仕打ちが我慢ならないし、何よりフェイトを守れなかった自分自身が歯痒い。
奥歯を噛締めながらフェイトに回復魔法をかける。
苦手だがやらないよりは遥かにマシだ。
そのアルフの反対側ではサウザーが血の流れからフェイトの秘孔の場所を探り始めた。
比較的分かりやすい定神はともかく、治癒の秘孔は場所も力加減も紙一重なだけに慎重にならざるを得ない。
壊す事は得意だが、治す事は不得手な二人がフェイトの手当てを終えたのは一時間程後になるのだった。







とっくの昔に日は落ちて、今や深夜一歩手前の海鳴の町をサウザーが歩く。
結局、あの後、気が付いたフェイトは心配するアルフを連れてジュエルシードを探しに出て行った。
傷は完全に癒えていないだろうに無理をするものだ。
気にはなったが、魔力なぞ感じ取れぬこの身。
付いていったところで足手まといにしかならない。

何が、あれほどまでにフェイトを突き動かすのか。
少し考えたが、そんな事は決まっている。もう一度、母からの愛情を受け取りたいという想いだけだろう。
なんにせよ、フェイトは答えを見つけようと前に進もうとしている。
それすら出来ずにこんな所で燻っている自分なんかより遥かに強い。
南斗最強の名が聞いて呆れる。

特にあてもなく歩いていると、潮の匂いが鼻に入ってきた。
辺りを見回してみると海鳴市臨海公園とある。
知らない間に海沿いまできてしまったようだ。
夜のためか人気は無く、人の気配も特に感じられない。
なんとなしに公園に入るとほんの少し違和感を感じた。

「ん……?」
肌がヒリ付くようなこの感覚。
姿は見えないが誰かがどこかで気を放っている。
しかし、この強さ。並どころの話では無い。
自分と互角か、下手をすればそれ以上。
わざわざ見せ付けるように気を放っているという事は、暗殺や闇討ちが目的ではないという事になる。
徐々に気配が大きくなると、公園の反対側から大きな影が姿を現した。

「……!」
あの姿。
記憶にある物より一回り程巨大になったが、幾度も拳を交えた相手だ。
見誤うはずが無い。
北斗の長兄にして、今現在において最も次代北斗神拳伝承者に近い男。
思わぬ伏兵の登場にさすがに今のサウザーも声を大きく張り上げた。

「な……!?ラオウ!なぜ貴様がここに!」
素行不良が目立つジャギならばともかく、ラオウが北斗の寺院から出てくる事など考えられない。
しかも、わざわざ気を放ってきたという事は、自分がここに居ると知っての事だ。
どういうつもりなのかという意味を込めて言うと、ラオウはサウザーを一瞥すると淡々と言った。

「うちの愚弟が、ゴミ共に良い様にやられている貴様を見たと言うのでな。それを確かめにきてやったまでだが……ようやく俺に気付いたようでは、どうやら本当のようだな」
口振りから察するに、ラオウはサウザーをかなり前から見つけていたらしい。
普段なら気付けたはずだが、今日に限ってラオウの気配を掴めなかった。
海が近いだけに、一生の不覚というやつだ。
まぁ、何度不覚を取るか分かったものではないが。

愚弟というからには、また寺院を抜け出したジャギあたりにでも見られたのだろうが、よりにもよって一番余計なやつに余計な事を言ってくれたものだ。
それはそうとしても今はラオウなんぞに関わっている暇は無い。
軽く舌打ちをすると露骨なまでの不機嫌さを隠さずに言った。

「わざわざ俺を探し当てた努力は買うが、俺は貴様などに用は無いんでな。貴様が何をしに来たかは知らんが……!?」
端的にさっさと帰れ、と言おうとしたのだが、ラオウの拳が迫っている事に気付き中断させざるを得なくなった。
炸薬が炸裂したかのような音が響くとサウザーの身体が意思とは別に宙に上がる。
無論、正面から拳を受け吹き飛ばされたわけではなく、咄嗟に両掌を突き出して受け止めたのだが、その威力が半端では無かった。
受ける直前に、自ら後ろに跳んで威力を殺したにも関わらずこの衝撃。相変わらずの馬鹿力だ。
痺れの残る腕を気にしながらも空中で体勢を立て直し着地すると、不敵に佇むラオウを見据えた。

「……どういうつもりだ。よもや、北斗南斗は争ってはならぬという戒めを忘れたわけではあるまい」
今の一撃。
受け損なえば、良くて重症、悪ければ死に繋がる物だった。
いくらこいつでも北斗南斗の掟ぐらいは知っているはずだというのに、それを無視した振る舞い。
下手をすれば北斗神拳伝承者の道を失うかもしれないのだ。
だが、ラオウは動じず手を前にかざしながら見下すように言い放った。

「無論だ。だが、それが何の意味を持つ」
「……貴様、何が言いたい」
「陽拳などと言いながら、南斗など北斗の影に隠れているだけにすぎん。現に、南斗は北斗を恐れ何一つ事を起こせてはおらぬ。
  腑抜けた貴様程度が使う鳳凰拳も含めて北斗の足元にも及ばぬ二流の拳よ。精々口実を作り北斗から逃げ続けるがいいわ」
確かにラオウが言うように北斗神拳と南斗聖拳は互角とは言い難いところがある。

南斗乱るる時、北斗現われり。

古来より言い伝えられるこの言葉は、誇張でも何でもなく事実に則している。
南斗聖拳は陽拳。
表の世界に広がりはしたが、数多くの分派を産み薄まった拳では一子相伝の北斗神拳に勝つ事はできず、分裂した南斗は北斗に征される。
故に南斗の先人達は常に北斗の影に脅え、沈黙を強いられてきた。

そんな中、一つの流派が誕生し力関係が大きく変わった。
北斗に対抗する為に編み出されたと言ってもいい拳の名は南斗鳳凰拳。
南斗鳳凰拳は南斗の頂点のみにあらず。
北斗を越えてこそ初めて意味があるのだ。
まして、こうまで好きに言われて誰が黙っていられるものか。
抜け殻のようだった目に光が戻ると同時に、その場からサウザーの姿が魔法のように掻き消える。
一度の瞬きすら終わらぬ僅かな時間。
その一瞬の間にサウザーが一気に踏み込む。
間合いに入られたとラオウが気付いた時には、喉元に向けて突きが伸びている所だった。

「ぬぅ……!」
「くっ……!」
必殺の威力を持つ手刀はラオウの喉を貫く皮半枚の所でピタりと止まった。
無論サウザーが止めたわけではなく、すんでの所でラオウが腕を掴み止めたのだ。
互いに渾身の力を込めながら睨み合うが、二人ともほとんど同じ事を考えていた。

――こいつ、前よりも力(速さ)が上がってやがる!

ラオウはサウザーの姿を一瞬とはいえ完全に見失い、サウザーはこれ以上無いタイミングで突きを見舞ったというのに手刀が完全に止められている。
以前のままなら、これで完全に決まっていたはずだし、ラオウもサウザーを見失う事などなかった。

とにかく、このままラオウに腕を捕まれたままというのは拙い。
現に今も腕の骨が軋みをあげているのだ。
その体勢からの蹴りで力が弱まった隙に力任せに振りほどくと間合いを取る。
捕まれた腕を見ると、そこにはラオウの手の跡がくっきりと残されていた。

「ちっ……!馬鹿力だけは相変わらずゴリラ以上か」
「貴様こそ、ちょこまかと鼠のようによく動きよるわ」
悪態を付き合うが、それでも二人とも内心では相手のことは認めざるを得ない。
技の技量はほぼ五分。
力と肉体の頑強さではラオウが勝り、拳速と身のこなしではサウザーが勝る。
しかも、二人とも達人級の腕前を持つというのが拙い。
肉を切らそうとしても、下手をすればそのまま骨ごと断ち切られてしまう。
元より長期戦は望むところではないし、長引けば不利になる。
同時にそう考え、次に先に動いたのはラオウだった。

「この俺の剛拳、いつまでも避けきれると思うな!」
ラオウが一歩踏み出す毎に空気が震え揺れる。
凄まじいまでの圧だ。
見るもの全てに恐怖を与えるような姿は、北斗の長兄というだけのことはある。

しかし、南斗鳳凰拳にあるのはただ制圧前進のみ。
ラオウを相手にしても後退などという選択肢は一切無い。
間合いを詰めてくるラオウを見据えながらサウザーも動いた。

「ほざけ!鳳凰拳の真髄、貴様の体に刻み込んでくれるわ!」
確かにラオウの放つ気は凄まじいが、以前闘ったジャギ程ではない。
もう既に極星十字拳の間合いに入った。
攻撃を繰り出す暇など与えるつもりは無い。
だが、不意に嫌な気配を感じ、反射的に後ろに飛びのくと、次の瞬間目の前をラオウの脚が通り過ぎ僅かに額を掠った。

「ぐ……馬鹿な!」
直撃こそかわしたものの、少なくない量の血が額から流れ出す。
そこまで深くは無いが目に入りでもしたら厄介だ。
額を押さえながらラオウを見やったが、その姿に目を見開いた。

「っ!……貴様!」
見ていないのだ。
ラオウはサウザーの姿を見もせずに的確に蹴りを放っている。
神速と評される南斗鳳凰拳の踏み込みを、見もせずに見切るなど不可能だ。
……いや、聞いた事がある。
殺気のみを感じ取り、間合いに入ってきた者へ拳を繰り出す北斗神拳の奥義を。

「こ、これが北斗神拳奥義、無想陰殺か!」


                    北斗神拳奥義ほくとしんけんおうぎ
                   む  そう  いん さつ
                 無 想 陰 殺


「そういう事だ。いくら速く間合いに入ったとしても殺気は消せぬ
  例え殺気を消したとしても、動きは流れる空気が教えてくれる。貴様がどう足掻こうが北斗神拳を倒す事はできんのだ」

殺気を消す事は出来ないわけではない。
しかし、それでは拳の打ち込みが甘くなるし隙も生む。
力量に差がある相手ならそれでも構わないが、ラオウ相手にそれをやるなどナギッが暴発したら挑発で返済する行為に等しい。

潜在能力を全て引き出す天龍呼吸法。
空気の流れを感じ、例え暗闇の中の全方位からの攻撃をも見切る空極流蕪。
そして、相手の殺気を読み、間合いに踏み込まれれば無意識無想に繰り出される無想陰殺。
どれもこれも隙の無い奥義ばかりだ。
一つだけでも並の流派の力を軽く上回っている。
北斗神拳の奥義を極めつつある男からすれば、あのジャギなど闘気だけの小手先の相手にすぎないという事だろう。
最強の暗殺拳と呼ばれているのも頷ける。
だが、南斗鳳凰拳とて伊達で南斗聖拳最強を名乗っているわけではない。

「……その程度でいい気になるなよ」
ならば、南斗極星の拳の使い手として打つ手は一つ。
ラオウが殺気を捉え、反撃してくるよりも先に攻撃を仕掛ける。
肉体の持つ潜在能力を100%出すことが出来るのが北斗神拳が南斗諸派を上回る理由の一つだが、南斗鳳凰拳に関してだけは違う。
あくまでも北斗と南斗は表裏一体。
南斗鳳凰拳にも同じような奥義は存在するのだ。

静寂の中僅かに響く呼吸の音。
サウザーの纏う気の質が変わった事に気付いたのかラオウが僅かに身構える。
瞬間、ラオウが放つ物にも勝るとも劣らない程の圧が辺りを包んだ。


                        南斗鳳凰拳奥義なんとほうおうけんおうぎ
                   ほう  おう  こ  とう  かい  てん
                  鳳 凰 呼 闘 塊 天


南斗鳳凰拳は受けを考えない攻めの拳。
故にその使い手は必然的に剛拳を得ることになる。
二人の拳の質は共に同質。
僅かな油断が、一分の隙すらも致命となり得る。
しかも、北斗と南斗の次代最強を担う使い手同士となれば、どちらかが勝利したとしても相打ちになる公算が大きい。
だが、例えそうであろうとラオウ相手には退けぬ。
深く息を吐くと全身に気を漲らせたサウザーが顔を上げた。

「貴様が望んだ事だ。もう加減はできんぞ!」
「ふっはははは、ようやくその気になりおったか」
いかに拳に優れていようと、敵が居なければそれは無用の長物。
はっきり言ってしまえば、ラオウは敵に餓えていた。
今のラオウの前に立てる者など、同じ程の拳の使い手か、己の実力を知らぬ阿呆のどちらかしか居ない。
その数少ない使い手の一人がさっきまで腑抜けていた男だったのだが、ようやく本気を出した。
そういう相手を打ち倒してこそ己の拳がより高みへと達する事が出来るのだ。
高ぶるなと言う方が無理って話である。

ラオウが構えると同時にまたしてもサウザーの姿がその場から消える。
肉体の持つ全ての力を引き出しての神速をも超えた踏み込み。
ただの人間が目で捉える事など決してできはしない。
まして、そこから放たれる連弾を全て凌ぎきるなど、中野の世紀末覇者か、アストロンがかかった魔法戦士ぐらいってもんだろう。

「ぬりゃあ!」
間合いに入ると同時に殺気に反応したラオウがカウンター気味に仕掛けたが、そう来ると分かっていれば打つ手はいくらでもある。
退くことは考えずに、ただ前へと突き進む。
頬を掠めるようにラオウの拳とすれ違ったが、それだけで十分すぎる程の隙が生まれた。

初撃は踏み込みからの間合いを詰めた十字切り。
本来の用途は崩し技だが、並程度の相手ならこれだけでも十分に必殺の威力を持つ。
その並ではない相手は、そう来ると待っていたとばかりに二の矢を繰り出した。

今までの経験から、一撃目がかわされるなどラオウも承知の上。
腕が立てば立つほど、正確無比にその隙を狙ってくるという事を見越しての誘いである。
これだけ逼迫した状況の中で平然とそれをやるのだから、ラオウの神経の太巻き具合が分かるというものだ。

もっとも、それにかけてはサウザーも負けてはいない。
力で勝るラオウ相手に正面からぶつかった所で不利になるのは目に見えている。
力で及ばぬのなら、力が及ばぬ程の速さで征すればいい。
当たらなければどうという事は無い!と言ったのは元祖三倍早くて赤い人である。
あれが誘いなど見え透いてはいたが、あえて乗った。
乗った上で、罠の存在ごと食い破る。

「ふっ!」
短く息を吐くと姿勢を低くし、低空姿勢のまま至近距離からさらに踏み込む。
ラオウの拳をかわした上で、脚を潰し一気に主導権を握るつもりだ。
しかし、ラオウもさるもの。
体の流れから攻撃の軌道を予測し、必要最小限の動きだけでサウザーの攻撃をかわしきる。
立場が入れ替わったところで反撃するかと思いきや、何を思ったかラオウが上体を沈み込ませた。

「けぇいっ!」
次の瞬間にはラオウの頭があった場所をサウザーの回し蹴りが通っているのだから、下手に反撃しようと思っていればマトモに受けていたところだ。
無論、ただの蹴りではなく南斗聖拳の脚技である。
ラオウのすぐ後ろにあった木がスッパリ両断されたのだから正面から当たれば即死は免れない。
蹴りをかわすと姿勢を戻し前を見たが、呆れた事にサウザーは蹴りを放った勢いのまま、空中で攻撃を仕掛けようとしている。
小賢しいとばかりにラオウが拳を振るうと、その拳の反動を利用しサウザーが間合いから離れた。

流れるような連続攻撃だが、これも極星十字拳という技の一つの形だ。
南斗鳳凰拳は構えの無い無形の拳。
そこから放たれる極星十字拳もまた同じ。
場の状況、相手、そして己の状態によって千変万化する技なのだ。
まぁ身も蓋も無い言い方をすれば、踏み込んでから最終的に十字に斬れればいいって事だが。

それはさておき、極星十字拳を見事にかわしきったラオウだったが、今のところ反撃する暇を与えられないで防戦一方を強いられている。
だが、手数が半端ではない上に、あの身のこなしの軽さは己の及ぶところではないのは昔から分かっている事なので想定の範囲内である。
ラオウとて何もサウザーの攻撃をただ受けていたわけではなく、虎視眈々と反撃の糸口を探っているのだ。
狙う先は間合いを離したサウザーの着地点。

「喰らえぃ!」
間合いを離したサウザーに向けて右腕を突き出す。
まだ闘気には至らぬが、ラオウの身体で練られた気が経絡を伝わり一つに集まり、赤い気の塊がサウザー目掛け打ち出された。


                         北斗神拳ほくとしんけん
                   ほく  と   ごう しょう  は
                  北 斗 剛 掌 波


右の掌から放たれた膨大な量の気の塊。
仮初とはいえジャギにも出来た事が北斗神拳歴代の使い手の中でもトップクラスの才を持つラオウに出来ないはずが無い。
ただ単に気の塊を放つという単純な技。それ故に破壊力は絶大だ。
しかし、それを放ったラオウにはサウザーを仕留めたという手応えは無かった。

「ちぃ!避けたか!」
ラオウが見据える先にはサウザーの姿は無い。
動いた先が左右どちらかならすぐにでも追撃に向かうつもりだったが、そのどちらでもなく姿が消え去っている。
ならば上かとラオウが空を見上げると、予想通り月明かりを背にサウザーが天を舞っていた。

「愚かな。空の不利を知るがいい!」
サウザーの姿を捉えるとラオウが迎撃の姿勢を取る。
いくら南斗聖拳が空中戦を得意としていても、足場が無い以上は地上から迎え撃たれては不利にならざるを得ない。
まして相手が北斗神拳なら、そのダイヤは7:3の値が付く程。
だが、サウザーが技の姿勢に入ったのはラオウの遥か手前。
遠距離への攻撃は、本来、北斗神拳より南斗聖拳の方が得意としている。
鋭い手刀が真空を生み出し、その真空が鉄をも切り裂く衝撃波を飛ばす事が出来る。
当然、その技の系譜は南斗鳳凰拳にも伝えられているのだ。
交差させた腕を解き放つと、大気すら寸断するかのような音がラオウの耳にも届く。
見る事は適わないが、ラオウになら空気の流れから感じる事が出来る。
これこそが南斗鳳凰拳に伝わる秘技が一つ。


                        南斗鳳凰拳なんとほうおうけん
                   なん  と  ばく  せい  は
                  南 斗 爆 星 波


音速を軽く超えた拳速から放たれるのは、十字に重なった衝撃波の刃。
南斗紅鶴拳奥義『伝衝裂波』のように無数に放つというわけにはいかないが、殺傷力に関しては伝衝裂波を大きく上回る。

不可視の刃が近づいて来る事を肌で感じ取ったのか、さすがのラオウも一瞬判断に迷った。
ただの衝撃波なら、鋼とも言える肉体を持つラオウにとってはかわすまでもない。
受けきった上で相手をその上から粉砕すればいいだけのこと。
だが、あれを放ったのは自分に近いか同等とも言えるだけの実力を持った男である。
不意にラオウの頭の中に胸から大きく血を吹き出す己の姿が写ると、瞬時に後ろに飛ぶ。
次いで軽くない衝撃と四散した土や石がラオウを襲ったが、これはダメージにはならない。
土煙が晴れた先を見ると、さっきまでラオウが立っていたはずの地面が大きく抉れ、その跡には深く鋭い巨大な十字の傷跡が残されていた。

「さすがだなラオウ。この技の威力をその身で受ける前に察したか」
地面に降り立ったサウザーがラオウに向けてそう言い放つ。
拳を使う者にとって想像力も重要な要素の一つだ。
相手の動きや流れなどを見切りその先を読む。
初めて見る南斗爆星波の威力を見切ったあたり、嫌でもラオウの実力の高さを認めざるを得ない。
もっとも、それはラオウにとっても同じ事が言える事だったが。

「貴様にはこの手の技は見せた事は無かったが、よくかわせたものだ」
どこか感心したかのようにラオウが言う。
基本的に気を飛ばして相手を攻撃する技は元斗皇拳が得意としている事で、北斗神拳にも同じような技があるという事は秘伝である。
まさか似たような技をジャギが放っていたなどとは夢にも思うまい。
瞬時に北斗剛掌波を見切り、かわしきった上での反撃。
既に北斗神拳の奥義を極めつつあるこの身を以ってしても、あの技を避ける事を余儀なくされた。

不動のまま睨み合う二人の間に時折火花のような物が発生しているように見えるが、幻覚でも錯覚でもない。
二人の剛の気が触れ合う事によって本当に火花が散っているのだ。
そして両者ともに動こうとはしない。

実力はほぼ互角。
しかも、まだ互いに切り札とも言える奥義を何枚も隠し持っている。
それでもどちらかと言えば、北斗神拳が効かぬ体と、天翔十字鳳を持つサウザーの方が有利と言えば有利だろう。
しかし、それを差し引いてもラオウの力と北斗神拳の奥深さは警戒に値する。
下手に仕掛ければ痛手を被る事になりかねない。
そこまで考えてサウザーが頭を振ると小さく笑みを浮かべた。

「次でケリを付けるか」
元より相打ち上等で臨んだ闘いのはず。
それになんと言っても、制圧前進を旨とする南斗鳳凰拳が膠着するなど性に合わないにも程がある。
こいつ程の使い手なら命を賭けるのもそう悪く無い。
サウザーの気が一段と高まった事を見て、ラオウもまた笑みを浮かべた。

「ふはは……、よかろう。小細工は抜きだ」
この北斗の長兄をして全力を尽くすに値する相手だと認めよう。
名を上げるためだけにやってくる道場破りのような連中は一山いくらの雑魚ばかり。
トキを相手にするにしても、組み手という性質上ここまで本気になれる事は無く、日々鬱憤が溜まっていく一方だったが、それが全て解放された気分だ。
やはり闘いとはこうでなくては面白くない。
腕に力が入ると自然にラオウの気も最高潮に達する。

ラオウが手にし得たのは、無類無敵の神の拳。
対するサウザーが身に付けるは、人が神を超える為に練り上げた聖なる拳。
北斗神拳と南斗聖拳。
どちらが上か、相反する二千年の歴史に決着を付ける時がきた。
だが、二人が動き出す僅かに前。
青い光が辺りを包み地面が激しく揺れる。
すると、どこからともなく伸びてきた枝や根がサウザーとラオウの体をきつく縛り上げると巨大な人面樹が雄叫びをあげながら姿を現した。






ジュエルシードが発動するより少し前。
臨海公園から少し離れた所には、二組の魔導士が対峙していた。
すでに封時結界は展開済み。
誰にも気付かれる心配は無く、普段どおりならジュエルシードをかけた少女二人の戦いが始まっているのだが……。

「ジュエルシードには衝撃を与えてはいけないみたいなんだけど……」
「……先、こされちゃったね」
ちらりと公園の方を見てから困ったような顔をしたフェイトがそう言うと、同じようになのも目を向けてから小さく返す。
肝心のジュエルシードは、かなり不安定な状態でいつ完全に発動してもおかしくはないのだが、二人ともその場所には近付けなかった。

「ぬりゃあ!」
「けぇいっ!」
それも仕方ないと言うべきか。
ジュエルシードが反応している場所ではラオウとサウザーが殺り合っている真っ最中だ。
ジュエルシードの影響下にあるだけあって、ユーノの意思とは別に結界の中に入ってしまう形になったのだが、ぶっちゃけ二人とも気付いた様子は一切無い。
巻き添えで公園の備品や木やらが何の遠慮も無くブチ壊されているのだから、結界が張られていなければ色んな意味で騒ぎになっていたはずである。
なにせ、パンチ一発でアスファルトが砕けたり、手刀の一振りで木が根元からスッパリと切れる。
二人と二匹の元に届いてくる音の数々は、とても生身の人間が素手で闘っているような音ではなく、さながら重機集まる工事現場のよう。
普段静かな海鳴市臨海公園は、このイカれた時代へようこそ!と言わんばかりに世紀末と化しているのだった。



「ねぇ」
「……なに?」
そんな光景を並んでぼーぜんと眺めるケモノ二匹。
今日も今日とてジュエルシードを賭けた勝負になると思ってはいたのだが、あんなもん見せられては争う気なんて起きやしない。
目の前で起こっている世紀末スポーツアクションに頭の処理が追いついていかないのだ。
ようやく半分ぐらい我に返ると、まずアルフがユーノに小さく話しかけた。

「ちょっと、あそこ行ってジュエルシードが壊れる前に取ってきなよ」
「何で僕が!?」
「ほら、この中で一番小さいんだから大丈夫だって。…………たぶん」
「たぶんって言った?すっごく小さくたぶんって言ったよね!?無理だよ無理!非殺傷設定とか無いんだよあれ!バリアとか張っても絶対割れちゃうから!」
なにせ、あそこでドンパチやっているのは、なのはクラスの魔導師のバリアを軽く破り、ジュエルシードを真っ二つにする人物。
そのサウザーと互角に闘っているのだから、相手の実力も概ね同じぐらいだろう。
そんな化物同士が闘っている中に飛び込むなど、罰ゲームを通り越して処刑宣告に等しい。
焦燥やらなんやらで良い感じに肋骨が脆くなってきたユーノをよそに、眼前で繰り広げられる世紀末はまだまだ加速していくのであった。



「北斗剛掌波!!」
「南斗爆星波!!」
ラオウの掌からは、なのはが放つディバインバスターよりもぶっとい光が飛んでいき
サウザーはサウザーで、スピードに定評のあるフェイトを上回る速度で空に舞い上がった後、衝撃波を作り出す。
当然、魔法など一切合財使わず全て生身でである。

いつ暴走してもおかしくないジュエルシードのすぐそばでそんな世紀末バトルが行われているのだ。
封印していないジュエルシードの近くで下手に戦えば次元震が起きかねないのは先日の衝突で実証済み。
魔力を使ってないとはいえ、そんな爆弾の横で戦争おっぱじめてるのだから、二組ともドキドキが止まらない。
それが分かっていても止めに入れないのは、ラオウもサウザーもやる気っていうか殺る気全力全開で拳を振るっているから。


「凄いね……」
「うん、凄い……」
ぽつりとなのはが呟くと、オウム返しにフェイトも呟く。
何が凄いかって、非殺傷設定など無いにも関わらず互いに紙一重で攻撃を見切っている事。
防御魔法も、バリアジャケットも無いのにそれをやっているのだから、凄いとしかいいようが無い。
お互いジュエルシードを巡って何度が魔法で戦った事はあるが、あれに比べたら子供の遊びと思えてしまいそうだ。
始まる前ならともかく、世紀末バトル真っ最中の場に飛び込む程の勇気は無鉄砲気味ななのはやフェイトでも無く、今はただ決着が付くのを見守るだけ。
とりあえず、この前出来なかった事をしようとなのはがフェイトの方を向いた。

「この間は聞きそびれちゃったけど、ジュエルシードを集めてるわけを聞かせてくれないかな」
最初の出会いでは、フェイトがすぐに飛んで行ってしまったために聞くことができなかった。
二度目も三度目もジュエルシードを目的としていた事もありフェイトが答える事は無く
四度目は幸か不幸かサウザーともう一人のおかげでこうして話す機会が与えられている。
肝心のフェイトは俯き加減に目を閉じ少し考えた後、なのはに向けて小さく言った。

「母さんのためだ。……それ以上は言えない」
それだけ言うと、フェイトがまた公園の方を眺めた。
その先ではラオウとサウザーが睨み合ったまま対峙している。
止めに入るなら今かと思ったが、誰も踏み込めなかった。

あれだけ激しく闘っていたにも関わらず二人とも笑みを浮かべているのだ。
そこに敵意や憎しみは無く、あるには純粋な感情のみ。
なのはなんかは、普段触れない少年漫画さながらの男の子の世界を見てしまっただけにちょっと感動していたりする。
そりゃあ努力・友情・勝利が基本フレーズの世界の黄金時代を支えていたのは伊達ではないのである。

「なのは、ジュエルシードが!」
目の前の光景に一瞬ジュエルシードの事を忘れ、ユーノの叫び声で気付いたがトキィ既に遅し。
青い光が辺りを包むと地面が激しく揺れる。
次になのはとフェイトが目にしたのは、木を取り込んだ暴走体から伸びる枝や根に捕らえられた二人の姿だった。

「レイジングハート、バスターモード!」
「行くよバルディッシュ!」
二人が同時に杖を構えデバイスを現れた暴走体に向ける。
今は、どちらがジュエルシードを手にするかより二人を助ける方が先だ。
なのはのディバインバスターとフェイトのサンダースマッシャーでの同時砲撃。
言葉は交わさないが呼吸は完璧。
ほぼ同時にチャージを終えるとジュエルシードを封印するべく狙いを定める。
二人が砲撃魔法を放とうとした直前、レイジングハートが光ると機械的な音声で告げた。

"Please wait. The enemy movement is strange”(待ってください。対象の動きが妙です)
言われて二人が暴走体を見ると、確かに少し動きがおかしかった。
魔力反応を感じただろうに、こちらを見ようともせずその場に留まっているのは妙だ。
不思議に思っていると次はバルディッシュが光った。

”This sound ……”(この音は……)
ほんの僅かだが、ミシミシと軋むような音が少しづつ大きくなると、なのは達にも聞こえるようになる。
音の出所は拘束されているラオウとサウザーの場所から。
締め付けられた身体が軋む音かと、なのはもフェイトも焦ったのだが……それは間違いである事がすぐに分かる。
暴走体に締め上げられているにも関わらず、ラオウとサウザーは苦痛の表情など浮かべておらず仮面の如き無表情を保っている。
しかし、ラオウからは赤、サウザーからは金色の光が流れ出ており、その光が一層強まると拘束にひびが入った。

「なんだぁ!?貴様ぁ!!邪魔をするな!!」
二人から凄まじいまでの怒気が人面樹に向けられると、大気が震え辺りを揺らす。
基本的に気というものは感情によって大きく左右される。
つまり、あれだけの気を発揮しているという事は、それだけこの無粋な邪魔者に対する怒りが強いという事だ。
なにせ、互いに全力を尽くしている最中の真剣勝負に水を刺されたのだ。
その迫力たるや闘神の化身と言っても全く差し支えない。
木が動いているという事実すら二人の頭には無く、あるのは目の前の障害物を排除し、サウザーはラオウを、ラオウはサウザーを倒すという事のみ。
両者同時に拘束を力だけで引き千切ると、まずラオウが拳を繰り出した。

「北斗輯連打!!」

                        北斗神拳ほくとしんけん
                   ほく  と  しゅう れん  だ
                  北 斗 輯 連 打

ラオウが放ったのは無数の拳。
並の使い手が受ければ、経絡秘孔など関係無く一発一発が致命傷になるだけの威力を持った拳がジュエルシードを取り込んだ大樹に打ち込まれている。
それだけでも容易に粉砕できそうなものだが、丁度その反対側では同じようにサウザーも手刀を放っていた。

「南斗鳳凰拳!悠翔嶽!!」


                      南斗鳳凰拳なんとほうおうけん
                   ゆう   しょう   がく
                  悠  翔  嶽


ラオウの連撃とほぼ同じだけの手刀が暴走体を襲う。
サウザーが削り取るかのように暴走体を切り刻めば、その向こうではラオウが力で粉砕する。
北斗南斗の違いこそあれど、共通しているのは一撃一撃が洒落にならない程の威力を持っているという事。
そんな二つの拳を同時に受けている方はたまったもんではない。
苦し紛れに根と枝を二人に向けてきたが、どちらも目にも映らぬ程の拳撃によって打ち払われていた。

「ぬぅぅあああぁぁぁ!」
「しぇぇらぁぁぁぁ!!」
一段と繰り出す拳の速さ上げると、ジュエルシードの力によって強化されているはずの巨木があっという間に砕けていく。
北斗と南斗が争えば大きな災いを呼ぶと言うが、その逆。
北斗南斗が一致協力すれば、二つの拳の前に立つ敵は存在しない。
例え、決着を付けるために邪魔だという理由でも共通の敵を討ち滅ぼすという事実には変わりないのだ。
最後の一撃。
互いに渾身の力が込を込めた突きが表裏逆の同じ場所に突き刺さると暴走体は殆ど跡形も無く消し飛んでしまっていた。

サウザーの手刀とラオウの拳がぶつかった衝撃で巻き上げられた木の破片と散った葉がパラパラと雨のように辺りに降り注ぐ。
拳を付き合わせた先からは血が流れ落ちているが、二人にとってはかすり傷だ。
邪魔者は消え去りカタを付けるのはこれからだとサウザーは手刀を引いたが、驚いた事にあのラオウが先に構えを解いていた。


「ふん……、どうやら完全に腑抜けていたわけではなかったようだな」
「……どういう事だ」
傷口を確かめるかのように眺めながら言うラオウを見ても、どういうつもりなのかサウザーにはいま一つ理解し難い。
少なくともサウザーの知るラオウは向けた拳を先に収めるようなタマではなかったはずである。
油断こそしていないが、幾分かいぶかしむような顔をしているとラオウが続けて言った。

「貴様に腑抜けられたままでは、俺の拳を試す相手が居らんのだ。そこらの雑魚では稽古台にもならぬ」
「……トキかジュウザが居るだろうが」
「トキの拳は受けの拳。俺の拳を受け流してこそ真価を発揮する。ジュウザは……、あやつは拳法の極意は逃げる事だ、などとほざきおったわ!」
思いっきり吐き捨てるあたり、またジュウザに逃げられたという事だろう。
トキのように流すわけでもなく、ジュウザのように煙に撒くわけでもない。
ラオウの剛の拳と正面から打ち合える相手。良く言えば敵手、悪く言えば稽古台に潰れて貰っては困るという事か。
随分、自分勝手な理由だがこいつらしいと言えばらしい。
それに、思いっきり打ち合ったおかげかいい気晴らしにもなった。
無論、礼など言うつもりは無いが。
ふと、こいつならどうするかと思ったので代わりにそれを聞いておく事にした。

「ラオウ。お前が伝承者争いに破れ、北斗神拳を捨てるように言われたのならばどうする?」
「知れた事。その時は北斗の名を捨てるのみだ。俺はこの拳さえあれば十分」
ラオウが拳を握り締めると同時に言った言葉には何の迷いも無い。
名は捨てるが、北斗神拳だけは利用すると北斗の掟に真っ向から挑む気でいる。
あまりにもはっきりと言うので数秒間、言う言葉も出なかったが、妙に納得してしまった。

「ふっ……ははははは!貴様らしいわ」
こいつらしい単純明快な生き方だと思いはしたが、それもいいかもしれない。
サウザーは南斗鳳凰拳の名すらも捨てる気は無いが、俺も南斗の宿命と掟に挑んでみるかとすら思えてきた。
それで斃れる事になるなら、そこまでの力量だっただけの事。どの道、南斗最強の拳は継げぬ。
要は吹っ切れたわけで、ようやく何をやればいいかがおぼろげに見えてきたのかもしれない。
ようやく本来の調子が戻ってきたのか表情に余裕めいた物が戻ってきた。
それを見るとラオウが歩き出した。本当に用はそれだけだったのか、俺はもう帰るとでも言わんばかりだ。

ラオウ様お帰りになられます。皆様拍手でお送りくださいませ!

そんな声が聞こえてきた気がしたが、きっと気のせい。
南斗聖拳百八派に南斗実況拳や南斗編集拳なんて物は無いのである。
そのまま近付いてくるのを見ていると、横に並んだ所でラオウが止まった。

「サウザー。いずれ南斗聖拳最強を名乗るつもりなら、その甘さは捨てる事だ。トキもそうだが要らぬ情けは己が身を滅ぼすと知るがいい」
「ふっ……、俺もそう思わない時もないがな。……だがな、これもそう悪い事ばかりではない」
ラオウの言う事にも一理はある。
命をかけたやり取りの中で不用意に甘さを見せれば待っているのは身の破滅だ。
それでも、それが無ければフェイトを拾うことも、それ以上関わる事もしなかっただろう。
そして、そうでなければ、今頃は手を血に染めていたのだから、何が転機になるのか分からないものである。
もっとも、そんな細部の事情までラオウに話す義務も無ければ義理も無い。
ただ、同じようにラオウに向けて一つだけ言っておいた。

「それより、お前も足元を疎かにしない事だ。届かぬ所ばかりを見ていると思わぬ所から足を掬われる事になるぞ」
「そんな事、貴様に言われるまでもないわ」
憮然とした表情で歩き去っていくラオウを後ろ目で一瞥するとサウザーも歩き出した。
ラオウはトキの事を言っていると思っているのだろうが、少し違う。
ジュエルシードによってどこまで伸びるか分からなくなったジャギに、実力が未知数の四男坊。
この二人がどうなってくるかで伝承者争いが荒れる事になるかもしれない。
誰が勝ち残るにしろ面白くなりそうだ。
そんな事を考えていると、木片に隠れるようにして光る青い石が目に入った。

「さて……やはりな」
さっきは気にもとめていなかったが、やはりこいつの仕業だった。
随分と間の悪い所に出てきたようだが、大して邪魔にはならなかったので良しとしよう。
それより問題なのは、ジュエルシードによって起こった被害よりも、ラオウと全力で闘った事で起きた事に対する被害の方が遥かに大きいという事だ。
木々は無残に倒れ、地面は無数にえぐれた跡が残っているというのは、公園と言うよりもちょっとした戦場跡である。
後の始末をどうしたものかと天を仰ぐと、いつの間にか空の景色が少しばかり変わっている。
とりあえずジュエルシードを拾い上げ、動作のみで促すと二組とも出てきた。

「一応聞いておくが、何時からだ?」
どちらともなしにサウザーが言うと、なのはの肩に乗っていたユーノが真っ先に飛び降り、そのまま綺麗に五体倒地の体勢に入った。

「ご、ごごごめんなさい!!ほとんど最初からです」
別に問い詰めているつもりは無いが、完全にビビりきっていて呂律が回っていない。
そりゃ北斗南斗の男が本気で闘い、邪魔をした暴走体が消し飛んでしまった所を見たのだ。
それも、魔力障壁?バリア?なにそれ、おいしいの?みたいな具合に。
下手に邪魔してたりしたら、ああなっていたのは自分達かもしれないのだからユーノがそうなるのも仕方ない事かもしれない。
ある意味では南斗鳳凰拳の使い手を前にした者の正しい姿なのだが、埒が明かない。

「ユ、ユーノ君どこでそんな事覚えたの……」
日本人でも滅多にやらない見事なまでのジャパニーズDO☆GE☆ZA
それも、高所からジャンプしてという高等技術。
これより難度が高いやつは焼き土下座ぐらいしか無い。
いい加減話が進まないので、今度はアルフが前に出てきた。

「それにしても、あんたたちどっちも人間じゃないね」
どこの次元世界に魔法も使わず生身で地面に大穴ブチ空ける程の衝撃波作ったり、暴走体を文字どおり粉砕する人間がいるのかとアルフがまず突っ込んだ。
無茶苦茶なのは知っていたが、今回ばかりはこいつらの方が暴走体なんじゃないかと疑ったぐらいだ。
というか、さっきまで死んだ目をしてたやつはどこ行った。
そういう意味合いから皮肉を込めて言ったのだが、サウザーはラオウと一緒にされたのが気に入らないらしく、若干声の調子を落としながら言った。

「あんな単細胞と一緒にしてくれるな。まったく……、どいつもこいつも」
随分と酷い言い草だが、言葉に反して口調の方はそれ程嫌そうには聞こえない。
なんだかんだで昔から互いに北斗南斗を背負う者として周囲から見られ、口には出さないが自身らも強敵だとは認めているのだ。
そうでなければ、わざわざラオウが北斗の寺院を抜け出してまでここに来るはずが無い。
最近、どうも他人に借りを作りっぱなしだ。
ラオウの方は近い内にに叩き返すとして、フェイトに関しては返せる物が手元にある。

「まぁ、いい。持っていけ」
軽く弾き飛ばすようにして投げるとジュエルシードが寸分違わずフェイトの手の中に納まった。
突然の事だったので、なのはもユーノも、そして投げ渡されたはずのフェイトですらきょとんと目を丸くしている。
欲しいとは思っていたが、まさかいきなり渡されるとは思ってもいなかったのだ。
事の重大さを理解すると、ちょっと土臭くなったユーノが叫んだ。

「ど、どうしてですか!」
「お前達の邪魔をする気は無かったが、そいつをくれてやるだけの理由が俺には出来た。というわけだ」
どちらかに肩入れするつもりは無かったが、今ではこんな物一つでは足りぬ程の借りがフェイトにはある。
だから、フェイトが望むならそれを叶えてやろうという気になっただけだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
何の躊躇無く言うので、ユーノもそれ以上は何も言えなかった。

「なら!」
と、なのはが声を出してサウザーに歩み寄る。
デバイスを握り締めているのでなんだか悪い予感しかしない。
まさかと思っていると、予想していたとおりの事を言った。

「わたしと勝負して、それで、わたしが勝ったら、サウザーさんの事もフェイトちゃんの事も全部話してください!」
そんな事を言うのでサウザーは物凄く嫌そうな顔を見せた。
何が嫌かって南斗聖拳の使い手が九歳の女の子相手に勝負するってのが嫌だ。
それも、いかにも可愛い魔法少女してますって格好してるのに。
さっきまで、あのゴツいラオウと闘ってたのだからなおさらである。

第一、年はそう離れていなくても体格差があるだけに、そんな事をすれば傍から見た場合、もの凄い犯罪臭がする。
それこそ、唯一の紅一点キャラを飛翔白麗でテーレッテーした時以上に。
結界張ってても嫌なもんは嫌なのだ。
そんな複雑な心境とは裏腹に、なのははかなり真剣な表情でこっちを見ているのでどうしたものかと思ったが
どこからともなく気配が一つ増えた事に気付くと目を細める。
隠していたわけでもなく本当に沸いて現れたのだ。

気配が現れたのは直上方向。
二度ある事は三度あると言うが、魔力なぞ持たぬ身でありながらこの手の人間とはよくよく縁があるらしい。
いち早く空を見上げると、黒いバリアジャケットに身を包んだ少年がこちらを見下ろしていた。



ヒャッハー!あとがきだぁーーーー!
リリカル勢、初めての世紀末の巻。

バトルは前回投稿時にほとんど完成してたから、ネカフェからでもどうにか完成させる事ができました。

やっぱ、落ち込んでる時にライバルキャラが勝負がてら叱咤激励に来るってのは少年漫画の王道ですよねー。

この話の最初の方の聖帝様は、シーマ様にフルボッコにされてフォン・ブラウンを彷徨うウラキ少尉のような感じだと思っていただけると幸い(cv的に考えても

このネカフェ、なぜかエラーでプレビューが出ないので技テロップの振り仮名がズレてるかもしれないけど
トキのような有情の心で許して欲しい。



[18968] 第十三話:世界を支える大木
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:a2084d01
Date: 2011/01/20 23:25
次元空間。
それは様々な次元世界を繋ぐ細い回廊。
その中を一隻の船が突き進んでいる。
様々な次元世界を管理する組織である次元管理局が持つ船の一つだ。
向かう先は第九十七管理外世界。
本来、干渉すべきではない世界へ進路を向けているのにはもちろん訳がある。
その船の中では少なくない人間が慌しく働いていた。

「ロストロギアの魔力反応出ました。対象のクラスはA+。動作不安定で無差別攻撃の特性を見せています」
「……次元干渉型の禁忌物品。事態は思ったより深刻そうね。先行したクロノ執務官に続いて武装局員も各自出撃の準備を」
一際高いところから一人の女性がテキパキと指示を飛ばす。
どうやらこの船を仕切っているのはこの女性らしい。

「サーチャーからの映像出ます」
一瞬、メインモニターが揺らぐと鮮明な映像が映る。
そして、そこに映っていたのは紛れもない世紀末だった。

「……どういうことなの」
モニター一杯に映った光景に、思わず誰かがそう呟く。
樹木を取り込んだと思われるロストロギア体が両面から恐っろしい速度で削られているのだ。
そして、それを行っているのは鬼かと見紛う程の迫力を持った男二人。
時折光っているのは張ったバリアが一瞬で破られているからか。
成す術も無く両サイドからフルボッコにされているのは見ていて凄く痛々しい。
ロストロギア体が消し飛ぶと二人の男が手刀と拳を突き合わせている姿が映る。
すると、魔力反応を測っていたオペレーターが信じられないといった感じの声で言った。

「か、艦長……。あの二人からは魔力反応が確認できませんが……」
そのあまりの言葉にブリッジクルー全員の動きが止まる。
魔力反応が無いという事は、完全に力だけでバリアごと本体を木っ端微塵にしたという事だ。
あんな真似、近接戦に特化した近代ベルカ式の騎士でも容易に出来るもんじゃない。
まして、デバイスも質量兵器すらも使わずに素手でとなると想像の範囲外である。
だが、さすが艦長ともなると落ち着いている。
一度モニターを眺めてから深く息を吐くと短く言った。

「モニター消して見なかった事にしましょうか」
「艦長!」
「冗談よ。まだ敵と決まったわけじゃないけど、万が一に備えてクロノ執務官の緊急転送の準備だけは怠らないようにね」
言いながらふと思い出したが、ギル・グレアム提督が冗談交じりにこの世界には人外染みた体術を使う人間が存在すると言っていたような気がする。
確か、北斗聖剣だとか、南斗真拳だったような……。
そんな事を考えながら椅子に座り直すとモニターの先の映像を眺めた。

「……鬼が出るか蛇が出るかってとこかしらね」
一人は去り、残ったのは拾い上げたロストロギアを片方の魔導師に投げ渡す金髪の男の姿。
素手でA+級ロストロギアのバリアを楽々と打ち抜けるのなら、間合いの中ではSランクの魔導士に匹敵する実力を持っていると見た。
向かったのが史上最年少で執務官になった優秀な魔導師とはいえ、AAAでは分が悪い。
願わくば話の通じる相手であって欲しい。
向かう場所は第九七管理外世界。
次元犯罪程ともなると話は別だが、通常魔力を持っていない現地民に管理局法は一切適用されないのだ。
それが局員の殉職という結果を生んだとしても。
映像の中に執務官の姿が映ると、彼女――リンディ・ハラオウンはこの時ばかりは艦長としてではなく、一人の母親として大きく溜息を吐いた。






「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。まずは全員速やかにデバイスを降ろし、そのロストロギアをこちらに引き渡してくれ」
「……あれもお前達の同類か何かか?」
最早、様式美とでも言うべきか。
三人目の登場には特に驚くような感情が沸いてこない。
だが、心底どうでもよさげに言ったサウザーとは対照的にフェイトとアルフは強張った顔をしている。
ロストロギアというのがジュエルシードだという考えに至ると、そういう事かと納得した。
ようやく出てくるべき組織が出張ってきたという事だろう。
とはいえ、なのはやフェイトぐらいの子供が出てくるとは考えていなかったが。

頭をかきながら降りてくるのを眺めていると、目の前を光弾が何発も通り過ぎる。
鼻先を掠めそうなぐらいの至近距離だったが、さっきラオウの拳を似た距離でかわしたばかりなので大して驚きもせずに光弾が放たれた方を見た。
なのははデバイスを下げているが、フェイトと特にアルフは従う気ゼロのようで、今のはアルフが撃ったらしい。
やや不意打ち気味に放たれたそれは管理局の執務官とやらに向かっていた。


「くっ……従う気は無いという事か」
咄嗟にバリアを張って魔力弾を防ぐとデバイスをフェイトに向ける。
だが、そこで動きが止まった。
封印処理をしていないロストロギア目掛けて魔法を放つなど自殺行為である。
少なくともフェイトに向けて射撃魔法は使えない。
選ぶ選択はバインドによる拘束か、増援が到着するまで時間を稼ぐか。
どちらにしろ、あの使い魔を放置していては邪魔になる。
デバイスの先をアルフに移すと射撃魔法を放った。

「アルフ!」
「ああ、もう!分かってるよ!」
フェイトに言われるまでもなくアルフは回避行動に入っており空中へと逃れている。
ジュエルシードを持っているせいか向こうがフェイトを狙ってこないのは幸いだが、転移先を追跡されては元も子も無い。
それに管理局の執務官が一人のはずもなく、このままでは向こうに増援がきて退路が完全に断たれてしまう事になりかねないのだ。
怪我が事を考えるならば、最悪の場合は盾になってでもフェイトを逃がすための時間を作る。
そんな心持のアルフを一目見るとサウザーが小さく呟いた。


「ったく……問題児共ばかりだ」
人を完全に無視して撃ち合っているのだから、『勝手に野試合をする』『他人の組み手の最中に煽りを入れる』『修行中に寝る』
などといったフリーダム行為で世紀末幼稚園と揶揄される南斗聖拳関東方面道場の年少組みと同じぐらい手がかかる。
逃げる方、追う方、そして止めよう間に割り込もうとする方と様々だが、揃いも揃って南斗鳳凰拳の使い手を前にいい度胸をしている。
なんにせよ、そのジュエルシードは突然沸いて出てきた誰かにくれてやったつもりは無い。
軽くため息を吐くと、地面に向け全力で足を踏み込んだ。

「う、うわぁ!」
振動と共に踏み込んだ先の地面が割れると、その衝撃と反動で辺り一面に積もっていた木片や木の葉が土煙と共に煙幕となって舞い上げられる。
一体どれだけの速度と力で地面を踏めばこんな芸当が出来るのかと、唯一地に足を付けていたユーノは気が気ではない。
もしかしてここが管理外世界なのは、管理局でも手に負えないからじゃないだろうか。
人間質量兵器という考えが浮かび上がってきたユーノをよそに、巻き上げられた煙幕は辺り一帯を包み込んでしまっていた。


「な、何だ!前が……!」
「フェイト、今だ!逃げるよ!!」
突如として降って沸いた好機を逃すまいとアルフが叫んだ。
この目くらましに紛れてなんとか結界の外に出てしまえば、少なくとも向こうは派手な魔法を使って追ってくる事は無い。
管理外世界の人間に魔法の存在を知られる事は、管理局の人間にとって都合が良くない事だからだ。
少し躊躇っていたフェイトもアルフに促されると前を向く。
辺りが見渡せるようになった頃には、フェイトとアルフはどこかに姿を眩ませていた後だった。

「逃がしたか……なんだったんだ急に」
ジュエルシードを持っているフェイトに集中していたというのもあるが、まさか生身の人間が地面割ったせいだとは思いもしていないようだ。
どうにも納得がいかない様子で地面に降りてくると、何やら妙な画面がいきなり現れた。

「クロノ、お疲れさま」
「すみません艦長。ロストロギアを持った魔導師には逃げられてしまいました」
「仕方ないわね。全てが上手くいけば苦労なんて言葉は必要無いんだし。
  でね、ちょっとお話を聞きたいから、そっちの子達をアースラに案内してあげてくれるかしら。そちらの方も是非ね」
画面の向こうに映った女性と目が合ったが、どうやらなのは達と同じように招かれたらしい。
物言いは柔らかだが、拒否権はあまりなさそうな感じだ。
ふん、と手を当て数秒間考え込んだが顔を上げると短く答えた。

「いいだろう。俺も聞きたい事がある」
「え!?」
サウザーがそう言うと、なのはとユーノが同時に驚いたような顔をして見ている。
何故か知らないが凄く不快だ。
「……何だ、その目は」
「い、いえ、ただちょっと意外だなって」
「う、うん。てっきりさっきみたいになるかと思ってたの」
「…………貴様らが俺の事をどう見ていたかというのがよく分かった」
サウザーとて南斗聖拳という組織の最上位に立つ人間である。
国ですら根幹を支える大木が無ければ形を保つ事はできない事は歴史が証明している。
まして次元世界などという途方もない規模のレベルなら、そういった組織は必ず必要になる。
程度問題にしろ、管理する者が居なければ理性のタガが簡単に外れ、どこまでも汚くなれるのが人間ってものだ。
どのぐらい汚いかというと、画面見ずに当たる雷震ぱなしたり、ブッパッコーもすり抜ける命中率75%の5クトを繰り出すカラーぐらい汚い。

その辺りの事は承知しているし、こちらとしても聞きたい事があるので応じたまでだ。
人の事を『暴力はいいぞ!』とでも言うような人間か何かだと思っていたようだが、ラオウや昔のフドウよりは常識的な思考をしているという自負はある。

もちろん、一般的な意味での常識があるのなら公園がこんな惨状になっていたりはしない。
世紀末高校バスケットボール部の名は伊達ではなく、なのは達から見れば十二分にぶっ飛んでいるのである。


「艦長を待たせているんだ。できればその話は後にしてもらえないか」
「そうですね、早く行きましょう!」
いい加減、収集が付かないと判断したのか多少苛立ちを混ぜながらクロノが割り込んできたが、ユーノにとっては渡りに船。
何故かと言うと、サウザーの呼び方がお前から貴様に変わってしまっているのだ。
これ以上心象を下げると『汚物』と呼ばれかねないので、できれば終わった後もこの話は一切したくない。
少々ぎこちない動きでクロノの近くまで駆け寄るとその影に隠れた。

どうにも釈然としないが、この場で文句垂れたところで仕方ない。
これがジュウザあたりなら突きか蹴りの一発や二発でも見舞っているところだが、まさか同じように扱うわけにもいかないだろう。
まぁなんにせよ時間も押している事だし、もういいと動作でクロノを促した。




……転送だの何だの聞こえて、何やら妙な所に居たのだが、もう驚きはしない。
今一つ規模が把握しきれなくはあったが、どうやら船の中らしい。
言われるままに付いて行ったが、途中からやたら見られている気がするのが気になる。

「……気に入らんな」
翠屋で恭也から向けられていた時のような物ではなく、興味本位的な感じだったので放っておく事にしたのだが物事には限度がある。
そう言えば別の世界とか言ってたから、なにかこうロズウェル事件的な物として見られているのだろうかと思うと些か機嫌が悪くなってきた。
自然と眉間に皺が寄って少々険しい表情になってしまうのも仕方ない事である。

「何も見てない、僕は何も見てない、何も見てない……」
そして、それを偶然見てしまったユーノが繰り返し小さく呟きながらカタカタと震える。
念話なんざあるわきゃねぇのでサウザーの心境なんか伝わるはずなく、さっきのせいでああなっていると思ってしまったようだ。
今のユーノの頭に浮かぶのは『消毒』と言う名の処刑の二文字。
なにせ本当の姿を見せるまでは本気で鼠扱いだったのだ。
丸焼きかノコかと、そんな物騒な事を考えながら小さく丸まっていると、その体を突然持ち上げられた。

「えひゃい!」
自分でも何を言っているか分からない妙な声が出たが、生死に関わる事なのでそんな事は気にしていられない。
なにせ『汚物は消毒せねばならんな』とか聞こえてきたら、次の瞬間には握り潰されて『あわびゅ!』や『ちにゃ!』とかいう素敵で愉快な叫び声をあげる事になる。
首根っこを引っ掴まれたままじたばたと手足を動かし、必死の抵抗を試みていると凄く呆れたような声が届いた。

「さっきから人の肩の上で何をやっているんだ君は……」
幸いな事にユーノを持ち上げたのはサウザーではなくクロノ。
苦言を言いながらも怪我しないように地面に降ろすあたりがクロノの生真面目さの表れだろうか。
「ここは管理局の船なんだし、元の姿に戻っても大丈夫だよ」
「あ……、そういえばそうですね!」
世紀末が間近に迫っていた(と思い込んでいた)せいか、元の姿に戻るという事をクロノに言われるまですっかり忘れていた。
人の姿に戻れば消毒される事はなくなるのだ。
少なくともそう思いたい。思わないと心が折れてしまう。
急いで変身魔法を解除すると、ユーノの姿は前に見せた少年の物に戻っていた。

「ふぅ……この姿を見せるのは久しぶり……ですよね?」
少しだけ視線を反らしながらちらりとサウザーを見て言う。
これで駄目なら消毒されないように速やかに土下座するつもりである。
もちろん、サウザーはユーノを消毒する気なんざ最初から無いので一目見ると表情を元に戻した。

「相変わらず原理が理解できん」
そしてそのまま怪訝な顔付きになって言う。
あの鼠の姿から小さいとはいえ少年の姿になるのだから、質量保存の法則を発見した科学者が見たら『っざけんな!いいピエロじゃねーかよ!』とでも叫んで台パン始めるところだ。
まぁそういう常識では及びもつかない事が出来るから魔法って言うのだろう。
それにベクトルの向きが違うだけで、南斗聖拳だって魔法の領域に片足どころか両足突っ込んで、そこから派手に底を踏み抜いてしまっている。
素手で岩を砕き鋼鉄をも軽く引き裂けるけど立派な人間ですとか言った日にゃあ、おまえのような人間がいるか!と総突っ込みが入る事間違いないわけで。
とりあえず消毒される事はないと安心したのかユーノが小さく息を吐くと、取り残された感があるなのはの方に顔を向けた。

「なのはもバリアジャケットとレイジングハートを戻してもいいんじゃないかな」
「うん、そうだね」
一連のやり取りを見ていたのか、微妙な笑みを浮かべたなのはの装いがバリアジャケットから、前に見た私服の物へと戻る。
持っていた杖も赤い珠になったのだが、分からない事の理屈をいくら考えたところで分かるはずが無い。
そんな無駄な思考に費やす時間など、大インフレ起こしてケツを拭く紙にもならなくなった紙幣程にも価値が無いのだ。
その辺りの事を聞き出す事を含めての同行である。
手早く思考を切り替えると、何故かクロノがこっちをじっと見ていた。

「何だ」
「いや、君もその服をどうにかした方がいい」
「ちっ……、あの馬鹿力め」
言われて気付いたが、服の至る所に破れてしまっている箇所がある。
あの筋肉馬鹿の攻撃は全てかわしたつもりだったのだが、やはりラオウ相手に無傷とはいかない。
とはいえ同じぐらいの傷は与えているはずなのでどっちもどっちだが。
こちとらバリアジャケットなんていう便利な物ではないので後でどうにかするしか無い。
ちなみに、糸と針さえあればこのぐらいは直せる。
最近はそうでもないが、昔は修行中によく服が破れていた事が多かったので裁縫スキルは必須だ。
無駄なスキルかもしれないが、どこぞのドSな世紀末救世主様だってシャツを自分で破った後には自前で直しているのだからなんの問題も無いのである。
もうしばらく歩くとどうやら目的の場所に着いたようで、扉が開いた先はなんと言うかこう、魔界だった。


「わぁ」
「……解せぬ」
部屋を一目見ただけでクロノを除いた全員からそんな声が漏れ出た。
扉の先でまず目に入ったのは、今までの無機質な感じから一変して和室。
何故か盆栽やら鹿威しまである。
印象としては間違った日本文化にかぶれてしまった外人の部屋という言葉が的確だろうか。
なんだか頭が痛くなってきたが、眼前に写る異界をなるべく視界に入れないようにしていると、部屋の中ではさっき写っていた女性が正座していた。

「艦長、来てもらいました」
「お疲れ様。まぁ皆さん、どうぞどうぞ楽にして」
……なにこの茶番。
そんな事を思ってしまったが、艦長と呼ばれた女性は凄い笑顔なので、きっと本気と書いてマジと読むぐらい大真面目なのだろう。
傍から見れば空回りしているように見えるが、文化の違いというやつで納得しておく事にする。
例えダムがレッパに化けた時ぐらい空回りしていたとしてもだ。
ただでさえ魔法に管理局とかわけわからん事になってるのに、そうでも思わなけりゃこの先やっていけない。

「ようこそ、時空管理局巡航L級八番艦アースラへ。私がこの船の艦長のリンディ・ハラオウンです」
「えっと高町なのはです」
「ユーノ・スクライアです」
「……サウザーだ」
そして、なのはとユーノは、もうこの空間に馴染んで正座しながら挨拶をかわしている。
若干引きつった顔を正すとサウザーも短く名乗ったが、あそこまで早く順応する気にはなれない。
順応力が高いのは子供の特権なので、年とったかなぁなんて考えたりしながら場に座ると、今まであった事の顛末をユーノが話し始めた。



「なるほど、そうですか。あのロストロギア『ジュエルシード』を発掘したのはあなただったのね」
「はい……、それで僕が回収しようと」
「立派だわ」
リンディが言うように責任感が強いのは立派かもしれないが、それを額面どおりに受け取れない者が二人居る。
「だけど同時に無謀でもある」
「同感だな。死ににでもいくつもりだったのか?」
クロノが咎めるように言うと、それに同調したかのようにサウザーも言葉を繋ぐ。
ジュエルシードを発掘した事は聞いていたが、最初は一人で回収しようとしていたなどとは聞いてはいない。
案の定やられてしまい、念話を聞いたなのはが来なければ野垂れ死んでいたのだから、そんな感想も出る。
肝心のユーノはジャギの一件のせいで自分だけではなく、なのはの身も危険に晒したという負い目もあるのか項垂れてしまった。

ユーノが置かれた状況を考えれば厳しい事を言っているかもしれないが
見知らぬ土地での単独行動という見通しの甘さと、ジュエルシードの力を過小評価していたような部分は頂けない。
無謀と勇気を履き違えれば待っているのは確実な死なだけに、これでもまだサウザーなりに気をつかっている。
本気でボロクソに扱下ろす気があるなら、ルール無用の残虐ファイトと名高い口プレイデスマッチだ。

「あの……、ロストロギアってなんなんですか?」
重くなった空気に耐えかねたのかなのはが小さく聞く。
するとリンディは何を思ったか、出されていた緑茶に角砂糖を入れると質問に答えた。

「ああ、ロストロギアっていうのは、遺失世界の遺産……って言っても分からないわよね」
「お前にも分かるように言えば、消えた古代文明のオーパーツというやつだな」
なおももう一つ角砂糖をスラム断固させながら言うリンディの説明を補足する形でサウザーが付け加える。
規模は大分違うだろうが、方向性は概ね間違ってはいないはずだ。
後、砂糖については何も言わないし突っ込まない。
そういう飲み方をする地域は実際にある。
さすがにこれ以上ぶっ込むようなら味覚障害と判断して、北斗でも紹介してやった方がいいかと考えているとリンディが頷いた。

「そうね。次元空間の中にある様々な世界の中でも、進化しすぎて自らの力で世界を滅ぼしてしまった技術の遺産」
「それらを総称してロストロギアと呼ぶ。使用法は不明だが使い方によっては世界どころか、次元空間すら滅ぼす程の力を持つ危険な技術」
「あなたが、あの黒衣の魔導師に渡したジュエルシードは次元干渉型のエネルギーの結晶体。
 一つだけならまだしも、いくつか集めて特定の方法で起動させれば、空間に次元震を引き起こし最悪の場合次元断層を起こす危険物」
そこまで言ってリンディが角砂糖を入れた緑茶に口を付けたが、淡々と洒落にならない事を言うので、さすがのサウザーも少し冷や汗を流す。
次元震や次元断層がどういう物かは想像が付かないにしろ、口振りからヤバそうな臭いがプンプンする。
渡した事はどうでもいいが、核爆弾以上の代物を一つ一刀両断にしたのだ。
さっきはさっきで、勝負邪魔されたという勢いだけでラオウとタンデムコンボ決めてぶっ飛ばしたばかり。
自分が原因で世紀末モードに突入するなど、笑い話にもならないし正直御免被る。
よく何も起こらなかったものだと、やってしまった事を思い返しながら肝を冷やしていると勢いよくクロノが立ち上がった。

「それは本当ですか艦長!それなら、今すぐ彼を拘束し取調べを行うべきです!」
そんな物を正体不明の相手に渡したとなればクロノがそう言うのも無理からぬ事であるが、気に入らない。
「……人から話を聞きだそうという態度ではないな、小僧」
座ったまま、目を細めつつ威圧感たっぷりにサウザーが言う。
ジャギやラオウみたいなのに丁寧な喋り方されても気色悪いだけだが、あれだって一応は馴染みで交流もそれなりにある。
管理局の執務官がどれ程の権限を持っているかは知らないが、それ以前に初対面の子供にこんな態度を取られるのが気に入らないのだ。

凄く偉そうに言うものだから、クロノも言い返す事ができずに黙ってしまった。
なにせ、言った相手が相手だ。
雰囲気や言葉遣いから偉いんですオーラが嫌という程滲み出ている。
もっとも、南斗六聖拳筆頭である南斗鳳凰拳の次期継承者だから偉い事には違い無いのだが。

「……分かりました。ですが小僧というのは止めてくれませんか。僕は十四です」
管理外世界という事もあって言葉を正したのだが、続けて言った言葉にサウザーが少し目を開く。
そして、クロノを上から下までまじまじと眺めると残酷な事実を告げた。

「……なんだ。貴様、俺の一つ下か。こいつらと同じぐらいだと思っていたのだがな」
「ぶっ!」
ちょっと驚いたようにサウザーがそんな事を言うもんだから、今度は緑茶を口に含んでいたリンディが中身を少し外に出した。

「ほ、ほ、本当に……!?」
咽ながらリンディがなのはとユーノを見ると苦笑いを浮かべながら首を縦に振られた。
YouはShock!とでも言いたそうに思わず身を乗り出すようにしてサウザーとクロノを何回も見比べる。
相変わらずの初見殺しっぷりだが、サウザーに言わせてみればおかしいのはクロノの方だ。
言っちゃあなんだが、クロノの身長はかなり小さい。
それはもう、なのはやユーノと同じぐらいの年齢かと思う程に。
まして、既に175cmの壁を突破しているサウザーと年が一個しか違わないというなら、なんというか色んな意味で悲惨。
そしてサウザー以外からクロノに向けられる暖かい目。
それはまるで、春の木漏れ日の中に居るかのような優しさだった。

「か、艦長!今はそんな話をしている場合では!」
それでもクロノは、その優しさに埋もれてしまわないように大きく声をあげる。
だってそうしなければ、泣いてしまいそうだったから。
そんなクロノを見てリンディは優しい笑みを浮かべた。

「大丈夫よ、クロノ。あなたの成長期はまだあるはずだから諦めないで」
親指を立てて諭すようにリンディが言うが、その優しさが一周して逆に痛い。
何が痛いかって主に心が。
まだとか、あるはずとか何気に期待値が低いと見做されているのだから余計だ。
こんなに痛いのは、一部の心無い局員の間で『クロノは執務官の中では下の方』と囁かれていたと知った時以来である。
何かにひびが入るような音がすると、クロノは部屋の隅の方で脚を抱えて座り込んでしまった。
しっかりしているように見えて案外精神的には脆いところがあるようだ。
なお、達人が行う口プレイデスマッチからすれば、この程度の口プレイはまだまだ小手先だということを説明しておく。


「とにかく、これより先はジュエルシードの回収については時空管理局が全権を持ちます」
そのクロノに止めを刺した張本人はというと、こほん、と咳払いをすると場をまとめにかかっている。
放っておいていいのかと思わないでもないが、身内なので特に構わないのだろう。
修羅の国でも煽り合いは身内同士で、という掟がある事だし。
それはいいとして、突然ジュエルシードの探索から手を引けと言われたので、元から探していないサウザーはともかく、なのはは納得できていないようだった。

「でも……それじゃあ……」
「まあ、急に言われても気持ちの整理がつかないでしょう。今夜一晩ゆっくり考えて、それから改めてお話をしましょう」
聞く限りではリンディの言は極めて正論である。
正論だからこそ、何か言いたそうななのはも何も言えず黙ってしまった。

「あまり回りくどい言い方は止めておけ。下手に隠し立てしているようでは、後々禍根を残しかねん」
と、今まで黙っていたサウザーが口を挟んだ。
さっきユーノに言った事もあるので、なのはは少し不安そうにしている。
軽く一瞥すると短く言った。

「まぁ任せておけ。これでもお前達よりはこの手の事には慣れているつもりだ」
南斗聖拳百八派と言っても、全部が全部一枚岩ってわけでもなく結構ドロドロしている部分もある。
個人から流派間といったとこまで相容れない連中はとことん相性が悪い。
そんな一癖も二癖もあるやつらを纏めているのが、南斗六聖拳や海のリハクと言った実力者達だ。
海千山千が形となったようなリハクやリュウロウを相手にすると思えば可愛いもんである。
なんにせよ、こういう場での話は受けに回るとあまりいい結果にならないというのが世の常というもの。
攻めに徹して押し切るか、受け流してのらりくらりとかわしていくかだ。
もちろん、日本国究極奥義『遺憾の意』を使う気は無いので、少し高圧的に話を切り出した。

「組織としての人手不足もそうだが、それ以前に使える者が少ないと言ったところか」
「……どうしてそう思うのかしら?」
ジュエルシードが世界が滅ぶような代物であるのならば、アースラ単艦というのは対応するのに十分な戦力とは言えない。
それに、クロノが一人であの場所に先行してきたのがいい証拠だ。
何事も不測の事態に備えておくのがこの手の組織のやり方だけに、一人というのは普通はありえない。
少し手伝ったにしろ、現にフェイト達は逃げおおせた。
それも、ジュエルシードを持ったままなのだから、回収を目的としているアースラからすれば敗北に等しい。
一人で来た理由を、功名心で突っ走った馬鹿か、単に人手と質の不足のどちらかだろうと考え
クロノが功を焦るようなやつではないと判断した上でそれを纏めて簡単に言うと、リンディは少し残念そうな口調で答えた。

「確かに、管理局では慢性的な人員不足だし、魔力ランクAAA以上の魔導師は全体でも5%に過ぎないのも事実。
  私個人としては、なのはさんみたいな子に危ない目に遭って欲しくはないんだけれど、管理局の人間としては猫の手も借りたいような状況なの。
 でも、変な風に聞こえたかもしれないけど、それを強要する気は無い事だけは分かって欲しいわ」
「……成る程な」
答えを聞いて少し考えたが、それもそうだ。
いくら資質が高いと言っても、なのはは訓練らしい訓練も受けていない正真正銘の民間人。
拳の世界も才能だけで生きていける程甘い代物ではない。
自身も含めて天武の才を持つと周りから言われている者でも、それ相応の地獄を味わってきてこうなったのだ。
それこそ、修行中に死んだと思ったのは十や二十では済まない。
どんな世界でも、俺は天才だ!とか媚びろ凡人が!とか言ってるようなやつはロクなのがいないのである。

ともあれ、物が物だけに怪我どころか最悪、命を失う可能性だってあるのだから、一晩どころか一週間ぐらい時間かけたっておかしくはない。
何か隠しているようなら経絡秘孔『新一』を突いてやろうと思っていたのだが、どうやらその必要は無いらしい。
あんな言い方になったのも組織の上に立つ人間故のジレンマからだろう。
少なくともリンディ個人は悪意のある人間ではなさそうだ。
どうもこういう話になると必要以上に何か裏があると感じてしまうのだが、全部リハクのせいだという事にして納得しておく事にした。

「そちらの立場は分かった。この場で結論を出す必要は無いが、お前達の事はお前達で考えて決めろ」
「え、いいんですか?」
「いいも何も、元から二人で出来ていた事なら特に問題は無いだろう。……あいつらの事もあるしな」
常識的に考えれば、こんな年の子供に戦わすというのも妙な話だが、物心付いた時から南斗聖拳なんていう殺人拳を修めている人間が言えた義理ではないのだ。
どうするかは知らないが、決めた事に口を出すつもりは無い。
魔闘気を前にしても心が折れなかったこいつらの事だ。
関わるなと言っても勝手に横から関わるに決まっている。
それなら、まだバックアップがあった方が不測の事態にも対応できるし、何より集まってくる情報の量と質が違う。
組織力を甘く見ている奴が居たのならこれだけは言ってやる。馬鹿め、と。


「あ、ありがとうございます!」
てっきりサウザーも探索から手を引けと言われると思っていたのでユーノは深々と頭を下げた。
恐らく、この場で最も戦い慣れているであろう人物からのお墨付きが出たのだ。
なのはもそれが嬉しかったのか、いつもの笑顔になった。
そんな二人の様子を見てふと思い出す。
そんなに時間は経っていないが、ラオウと闘っていた時はもう既に深夜一歩手前だったはず。

「ところで……、結構な時間のはずだが、お前は帰らなくても問題無いのか?」
二人して喜んでいるところへ、何気無しにサウザーが言うとピシりとなのはが固まる。
未だ家族に魔法の事なんて話しておらず、今回もジュエルシードの発動を感じたから家を抜け出してきたわけである。
当然無断外出なわけで、時間が時間だけに居ないなんて事が発覚してしまうと凄く拙い。
良くて警察沙汰、悪ければ本気で動く御神の剣士の姿が拝めるかもしれない。
なんにせよ協力するしない以前の問題が起こってしまうわけで、再起動したなのはは、もの凄く慌て始めた。

「リンディさん!今日は帰らせてください!それと……」
「分かってるわ。お家の側に転送してあげるから、また明日ね」
あたふたしながら涙目になっているが、高町家における最大権力者は御神の使い手では無く、ケーキ職人高町桃子その人。
普段は超が付く程に温厚な彼女だが、一度怒らすと嫌でも頭が冷えるぐらい怖いのだ。
その辺りの事は娘であるなのはにもしっかり受け継がれているのだが、今のところ本人にはその自覚が無いようである。
兎にも角にも母親という視点から、その辺りの事情はリンディも察していたようで転送の準備は整っていたらしい。
案内の人間が部屋に入ってくると、小さく頭を下げながらなのはとユーノは部屋から出て行った。


「それで、サウザー……君?はどうするのかしら。私としては協力してくれると助かるのだけど」
言葉の一部が疑問系になっていたが、特に気にはしない。
そんな扱いはもう慣れた。

「今日遭ったばかりの組織の人間を全面的に信用する程、楽観的ではないんでな。正直なところまだ決めかねている」
本来ならあんな物さっさと引き取ってもらうに越したことはないのだが、フェイトの一件がある。
フェイト自身というより、その後ろのプレシアの存在が問題と言うべきか。

あんな真似をするようでは、いつフェイトを切捨てにかかるか分かったもんではないのだ。
それにジュエルシードを集めて何をするかがまだはっきりとしていない。
関係ない所で世界を滅ぼされるような真似をされてはいい気分はしないので、そういう意味では表向きにしろ協力しておいた方が即応出来るかもしれない。
幸い時間はまだ余っているし、どうするかと考えていると、ようやく立ち直ったクロノが割り込んできた。

「艦長、彼はロストロギア不法所持、及び次元犯罪に関わっている可能性があります。それに魔力も持っていないような民間人に介入してもらう必要はありません」
「む……」
どうもこいつどこかで見た事があるなと思っていたが、あれかと思い出した。
言わんとしている事は分からんでもないが、妙に気に障る言い回しをするところとかが南斗孤鷲拳のシンによく似ている。
小僧のくせになまじ実力が高いだけに、兄弟子のジュガイも手を焼いているそうだが、こいつもきっとその手のやつなのだろう。

そんなに魔法の有る無しが大事なら、いっその事このまま壁際に押し込んで
椅子に座らせてから無理矢理浮かせて、マジカルナンバー27をブチ込んで永久的にダムダムしてやろうか。
まぁその大魔法を使えるのは、数多の修羅の返り血で赤く染まった魔法戦士である。

それはそれとしておくにしろ、南斗鳳凰拳の使い手に対してこんなナメた態度を取るやつはジュウザ以来久しぶりだ。
無論、価値観の相違と情報の共有がされていないのだから仕方の無い事ではある。

なにせ現在勤務中のアースラクルーの中で、サーチャーが写し取った世紀末映像を見ていないのは、外に出ていたクロノを含めても極一部。
サウザー自身も魔法とかいう物を知らなかったら、クロノの事をただのクソ生意気なガキとしか思っていなかったので人の事は言えない。
魔法と拳法、水と油の存在が言葉だけで理解し合える物では無い。
手っ取り早くお互いの認識を深め合う為には何をするべきか。
というわけで、アースラの中で





実際に闘ってみた。





ヒャッハー!あとがきだァーーー!!
今回のサブタイトル=クロノ・ハラオウンのガチ撮り百番勝負~序~
というわけで、次は無印編お約束のクロスケとの戦闘ですが
流れとしても分かるように、内容は思いっきり飛ばすつもりです。
室内という限られた空間と接近戦の戦闘力を考慮した結果、どう考えても金払ってコンボを見せてもらうゲームにしかならなさそうっぽいので。
画像や実況があればまた違うんでしょうがね。

そして復ッッ活ッッ!コミックバンチ復ッッ活ッッ!
雑誌名こそ変わったものの、これで聖帝様の外伝が出ると信じたい……


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