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[18122] 魔導戦士ガンダム00 the guardian(機動戦士ガンダム00×魔法少女リリカルなのは)
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:2c640ca7
Date: 2010/11/08 21:58
初投稿のロビンと申します。二次創作は初めてにくわえ、非才の身なのでお見苦しいものになるかも・・・。それでも読んでいただければ幸いです。
これは、ユーノが00世界にトリップする話です。お読みになる際は次のことにご注意ください。
1.基本的に00の世界で話が進みます
2.キャラ崩壊が起こる可能性があります(とくにユーノ)
3.かなりオリ設定がはいります
4.不定期更新になる可能性があります

以上のことを考慮して読むか読まないかを決定してください。


4月17日 チラシの裏で修業(大げさですが(^_^;))することにしました。ややこしくてすいません。

4月19日 ご指摘があったので大変勝手ながら一部を削除させていていただきました。

8月25日 first編が完結しました

8月26日 その他板に戻しました。これからも応援よろしくお願いします!

11月8日 strikers編終了&second編開始しました。
     普通に書くの忘れてた……
     それと、ご指摘があったので頭についてた【チラ裏】を外させてもらいます



[18122] プロローグ
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:2c640ca7
Date: 2010/05/27 18:37
「・・・・え?」

そのとき、なのはには世界が停止して見えた。自分の背中の傷の痛みすらも忘れていた。聞こえるのはシンシンと降り積もる雪の音、遠くから響いて聞こえる爆発音と叫び声、そして、自分の愛しい人、ユーノ・スクライアの体から血が流れ落ちていく音だけだった。

「な・・・んで・・?」

なのはは事態をのみこめずに座りこんでしまう。

「な・・・・の・・・、逃・・・・・・・・て。」

だが、徐々に頭が冷えてくるにつれ何が起こっているかを理解する。ユーノの体を見えない何かが貫いているのだ。

(なんで・・・・!)

“気付かなかったのか”と思ったときに一か月前のユーノの言葉が頭の中に響く。

『あまり無茶のしすぎも良くないよ、なのは。ベストコンディションを保つのも魔導士にとっては大切なことだからね。』

そう、ベストの自分なら気付いていた、気付かなくとも押し込まれることはなかった。彼の言葉を真摯に受け止めていたならば。なのはは理解した。いや、理解していてしまった。自分のせいでユーノは死ぬのだと。

「いやぁ・・、いやあああああああぁぁぁっぁぁぁっっ!!!!」
ユーノを貫いている何かが徐々に姿を現す、そして周りからも同じものが現れる。それはなのはには目もくれずにユーノへと殺到する。

「なのは・・・・っぐう!」

ユーノは残された力を振り絞り笑顔を作り最愛の人への最後の言葉を紡ぐ。

「なのは・・・、ごめんね・・・・」

次の瞬間、ユーノの周りの機械が爆発を起こした。
「きゃああああぁぁぁぁっ!!」

なのはは爆風によって鋭く突き出た岩へと吹き飛ばされそのまま突き刺さる、かと思われたがそこに赤いゴスロリドレスを着た少女、ヴィータがギリギリのところでなのはを受け止めた。

「おい、大丈夫か高町なのは!」

「ぁああ・・・、あああ・・・」

「おい、たかま・・・」

その時ヴィータは気付いた。もう一人いたはずの仲間がいないことに。

「おい!ユーノは!ユーノはどうした!」

「ううぅぅ・・、うわあああああああああああぁぁぁ!!!」

「・・・そ・・んな、こんな、こんなのむごすぎんだろ!!」

ヴィータはなのはの号泣ですべてを理解した。ユーノはもうこの世にはいないことを。

「ちくしょう・・・!ちくしょおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!」







なんてことのない任務のはずだった。その場にいただれもがそう思っていた。
だが、現実はときに残酷な一面を見せる。そう、管理局の若きエースにたいしても・・・。





あとがき・・・・という名の反省会
ユ「このような駄文を読んでいただきありがとうございます。この作品の“主人公”ユーノ・スクライアです♪」

ロ「おいぃぃぃぃっっ!何勝手に人の書いたもん駄文扱いしてんのぉぉ!?」

ユ「でも、事実でしょ」

ロ「うっ(反論できない・・・)、ま、まあそこは置いといて。何お前主人公を強調しようとしてんの」

ユ「だってただでさえみんなから淫獣とかむっつりとか言われてるからこういうまじめなので主人公はめったにないからね」

ロ「まあ、俺もかっこいいユーノとガンダムのコラボをみたいからこれを書いたんだがな」

ユ「まあ、見てくれる人間がいるのかってはなしだけどね」

ロ「・・・・・誰も見てくれなかったらどうするよ」

ユ・ロ「「・・・・・・・・・・・・・・」」

重い沈黙(脳内時間約5時間)

ユ「ま、まあこんな自己満足のようなものを読んでくださる方がいらっしゃったら心からお礼申し上げます。では、次回をお楽しみに!」



[18122] 1.後悔そして遭遇
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:2c640ca7
Date: 2010/05/27 18:37
時空管理局艦船アースラ

「…以上で報告を終了します。」

クロノは画面の向こうの上司に報告を行った。自分の中の感情を押し殺しながら。

「ご苦労だったな、クロノ・ハラオウン執務官。いつもながら鮮やかな手際だったな。ユーノ・スクライア君に関しては残念だったが、彼のためにもこれからの任務もいっそうの尽力を期待している。」

「はい、では事後処理があるのでこれで。」

通信を切ると、それまでため込んでいたやり場のない怒りをぶちまけ拳を何度も壁に叩きつけた。

「っ何がご苦労だっ!何が鮮やかだ!何も、何もわかっていないくせに!!」

そのままクロノは壁にすがりつくように崩れ落ちる。

心に残されたのは激しい後悔と深い悲しみ、そしてかけがえのない友人を失った喪失感だけだった。

(友一人も救えなくて、何が執務官だ……)

そのままクロノは声を上げることもできずにただ泣き続けた。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 1.後悔そして遭遇


その後なのははアースラの医務室に運びこまれた。出血はかなり激しかったが、幸い背中の傷はさほど深くはなく大事には至らなかった。しかし、ユーノのそばにいながら救えなかったということが彼女の心に深い傷を負わせてしまっていた。

「・・・・・・・・・・・・・・」

「ね、ねぇなのは、もう三日もなにも食べてないよ。ほら、リンゴむいてあげるから。」

暗い部屋の中で視線を虚ろにさまよわせているなのはに金髪の少女、
フェイト・T・ハラオウンは懸命の看病を続けていた。

「……ほっといて。」

「なのはのことみんな心配してるよ、ユーノだってこんなの喜ばな…」

「ほっといてって言ってるの!!」

突然語気を荒げたなのはに驚き、フェイトは尻もちをついてしまった。むいたリンゴが床に散らばった。

「ごめんね、フェイトちゃん…、でも今は一人にしておいて。」

「…わかったよ。」

フェイトは立ち上がるとドアを開けた。

「なのは、これだけは覚えておいて。」

今できる最高の笑顔を作りなのはのほうを向く。

「なのはは一人じゃない。どんなにつらいことがあっても、そのつらいことを私やみんなが一緒に背負うよ。」

それだけ言い残すとフェイトは部屋を後にした。なのはのために作った笑顔に涙が流れているのも構わずに。




ところ変わって、アースラの食堂には夜天の王、八神はやて。そして、その守護騎士たち、正確にはヴィータを除いてだが。
本来なら明るく話をしている彼らだが、今回は重く長い沈黙がその場を支配していた。
最初に口を開いたのは湖の騎士シャマルだった。

「シグナム、ヴィータちゃんは?」

「まだ、部屋にこもっている。」

「そう……」

剣の騎士シグナムは深いため息をついた。あれからヴィータも部屋にこもってしまった。なのはのように食事をとらないということはないが、いつもべったりだったはやてにすら、ろくに顔を見せなくなっていた。

「何もアイツのせいではあるまいに。」

「仕方ないわよ、それにわたしたちだって…。」

「だからといっていつまでも自分を責めてもどうしようもなかろう。」

「じゃあシグナムはユーノ君のことを忘れてもいいって言うの!?」

珍しくシャマルが声を荒げてくってかかる。シグナムも最初はシャマルの勢いに驚いたが、すぐに鋭い視線をむける。

「誰もそうは言ってないだろう!」

「同じことじゃない!」

「いい加減にしないか!!」

それまで黙っていた青毛の狼、盾の守護獣ザフィーラが怒鳴った。

「われらが今なすべきことは、言い争うことではないはずだ。」

二人はザフィーラの叱責を受け二人は冷静さを取り戻した。

「…ごめんなさい、シグナム。言いすぎたわ。」

「いや、私も無神経なことを言ってしまった。すまない。」

二人はに視線を落とした。彼女たちはわかっているのだ。あの場にいた全員があの時受けた悲しみを忘れられるはずがないことを。

「あれは……」

はやてが上を仰ぎながら話し始める。

「あれは、誰のせいでもないんや。ただ、偶然起きた不幸が重なってもうただけなんや。」

「主はやて…」

その時、ヴォルケンリッター全員がはやての目から透明なしずくが流れ落ちていることに気付いた。

「ごめんな、みんな。こんな泣いてばっかの弱い主で。でも、あと少ししたら、前を向いて進むから、今だけはこうしていさせてな。」





ヴィータは医務室に向かって歩いていた。あれから、ずっと泣き続けた。すべてから目をそむけて逃げ出したかった。だが

(そんなんじゃ、駄目だよなユーノ!)

だからこそ、彼女に話すことを決意した。彼の過去を、そして覚悟を。彼女がまた大空へと舞いあがれるように。





「ごめんね…、ごめんねユーノ君……。」
〈マスター…〉
なのはは暗い部屋のベッドの上で彼から貰ったデバイス、レイジングハートを握りしめながら泣いていた。幸せに満ちていたあの時を思い出しながら。







二か月前  地球 海鳴市

「ユーノ君?どうしたの?」

「え、えっとね、なのは。きょ、今日の夕方、僕らが初めて会った森に来てほしいんだ。」

なのはは突然ユーノから学校の屋上に呼び出された。行ってみるとそこにはフェレットの姿をしたユーノがいた。よく見ると顔が心なしか赤い。

「?別にいいけど…、ユーノ君ホントにどうしたの?」

「な、なな何でもないよ!じゃ、じゃあ詳しい話は会ったときに言うから!じゃあね!」

それだけ言うとユーノは足早に去って行った。……転送魔法まで使って。

「?へんなユーノ君。」





その日の夕方

「ユ~ノく~ん。」

「なのは~、こっちこっち。」

「おせえぞ、高町なのは」

「ええっ?なんでヴィータちゃんがいるの?」

そこにはユーノと大切な友人の一人、鉄槌の騎士ヴィータがいた。ユーノの顔はやはり赤い。

「こいつに頼まれたんだよ。見届け人になってくれって。」

「見届け人?」

なんの?と言う前にユーノが話し出した。

「あ、あのね、なのは。」

「?」

「え、えっと、その、あの。」

なのはに笑顔を向けられてドギマギしてしまう。

「おい…、早く言えよ。こっちまで恥ずかしいだろ。」

ヴィータも顔を赤くしながら、すごむ。はっきり言ってあまり説得力がない。

「う、うん。」

ユーのはこほんと咳払いを一つすると大きく息を吸い、なのはのほうへ一歩進み出た。

「なのは、僕は…、君のことが好きだ!」

「え、ふええええええええぇぇぇぇぇぇっっ!?!!?」

予想していなかった言葉になのはは混乱してしまう。だが、無理もないのかもしれない。まだ小学生、しかも初めての告白、さらに常にそばにいた家族のような人間にされたのだ。

(ユ、ゆユユユーノ君が、私のことをすすすす、すす好きぃぃぃ!?)

「ご、ごめんねなのは。突然すぎたよね。」

トマトのように赤くなっているなのはを見かねユーノがフォローに入る。

(あ・・)

なのはは改めてユーノの顔を見る。サラサラの髪、中性的な顔立ちに優しげな笑顔。
だが何より自分を幾度となく危機から救ってくれた、辛い時や大きな壁にぶつかったときに支えてくれたこと。
そしてその時自分の心に生まれた温かな気持ち。

(…そっか、私もユーノ君のこと)

なのははユーノをじっと見つめる。そして、ユーノもなのはから目が離せない。

「ユーノ君…、ホントに私でいいの?」

「うん…、なのはこそ僕でいいの?」

「うんっ♪」

「ありがとう、なのは。」

二人はそのまま抱き合った。そして、徐々に唇を近付け……

「あ~、あのさぁ…。」

その瞬間二人は固まり、声のしたほうを見る。そう、彼らは忘れていた。見届け人として連れてきた一人の騎士のことを。

「続きは後にしてくんねぇ?」

ヴィータは背を向けて立っているが、後ろから見ても顔が紅潮しているのがわかった。
二人の頭からはボッという音とともに蒸気が出る。

「「そそそ、そうだね!!」」

二人のセリフがシンクロする。そしてそのまま互いに紅潮した顔を見つめる。その様子があまりにもおかしく

「ぷっ、くくく」
「ふふふふふふふふふ」
「くっ、くくくくく」

「「「あっははははははは!!」」」

そのまま三人は、大声で笑った。



「ねぇ、なのは。」

ひとしきり笑いあった後ユーノが口を開いた。

「なあに?」

「僕がずっと君のことを守るよ…、これから先何があってもずっと君のそばにいる。約束する。」

「…うん、約束だよ。」

ヴィータはこの様子を遠くから眺めていた。いつまでもこの幸福な時間がいつまでも続くように願いながら……







「ユーノ君…」

ユーノは最後に謝っていた。約束を守れなかったことを。約束をやぶらなければならなくしたのは自分なのに。

「そう……、みんな私のせいだ。」

〈それは違います!決してマスターのせいではありません!〉

レイジングハートの言葉も今のなのはには届かなかった。
そして、なのはの心が徐々に黒い感情で埋め尽くされていく。ふと横に目をやるとフェイトが使っていた果物ナイフがあった。
なのははそのナイフを手に取り自分の手首に静かに当てる。

〈マスターいけません!〉

「ごめんね、ユーノ君…」

なのはがナイフを引こうとしたその時

「バカヤロー!なにやってんだ!」

ヴィータが部屋に飛び込みなのはの手からナイフをはたき落した。

「なにやってんだ!」

「ヴィータちゃん…、何って、死のうとしてたんだよ?」

「っっ、そんなことしてユーノが喜ぶわけないだろ!」

「…ヴィータちゃんになにがわかるの?ユーノ君のなに、…が?」

なのはは言葉を紡げなかった。なぜならそこには今までヴィータの見たことがないほどの、はやてから貰ったウサギの人形を落とされた時よりもなお凄まじい怒りの表情があったから。

「てめぇこそユーノの何がわかってるってんだ!アイツの過去も、お前に告白する時に決めた覚悟も、何一つ理解してねぇじゃねえか!」

何を言っているのか?過去、覚悟?一体何のことかなのはにはわからなかった。

「…教えてやるよ、アイツの背負っていたものをな。」

それは、白き少女が最愛の人の真実を知る時……






西暦2304年  地球  ゴビ砂漠

生物の影一つない死の砂漠にそれはいた。萌黄色と白を基調とする巨大な人型のロボット。
額には二対に飛び出たアンテナ、両手にはそれぞれ杭打ち機のようなものがついた盾と、刃が装着された盾があり、背中の動力部と思われる個所からは淡い緑の粒子が放出されている。

「ガンダムシルト、GNドライヴとの同調律97.2%。システムオールグリーン。さっすがイアンが調整しただけはあるわね。いい子にしてくれてるわ。」

ロボットを操縦していた少女、エレナ・クローセルは満足そうに笑った。

『そいつはどうも。さて試運転は終わりだ、戻ってきてくれ。』

「りょうか~、い?」

通信を切り拠点に戻ろうとしたその時、エレナは誰かがすぐ足もとにうつぶせで倒れていることに気付いた。

「ヤッバ、今の見られてた?」

その瞬間、眼鏡をかけた堅物の少年の顔がよぎる。そして、その人物にネチネチ嫌味を言われる光景が目に浮かぶ。が、その思考は長くは続かなかった。

「って、あの人怪我してる!?」

カメラアイにうつった姿は凄惨そのものだった。血で真っ赤に染まったマントと服、そして腹部には大きな刺し傷、さらに体のあちこちに火傷が確認できた。
エレナは応急措置のための道具を持つとすぐさまコックピットから降り、治療を行うためにその人物を仰向けにしたが、

(わ……)

その時になってエレナは、初めて倒れていたのが自分とそれほど年が変わらない少年だと知った。
サラサラの髪、中性的で整った顔立ちをしていて美少年といっても差し支えがないだろう。

「結構好みかも…、じゃなくて!」

ぶんぶんと頭を振って邪念を追い払う。

「意識はないけど、脈はふれてる。これなら助かるかも!」

と思ったところでふと思いだす。自分が所属している組織がまだ人前に、世界にその姿をさらしてはいけないことに。
本来ならここに置いていくべきなのだが…、

「まあ、しょうがないか。これも何かの縁ということで。」

エレナは少年を担ぐとそのままコックピットに乗り込み、通信を開始する。

「イアン、聞こえる~。」

『ああ。どうした?』

「治療の準備しといて。」

『は!?おい、まさかガンダムに不具合が!?』

イアンは心底あせる。が、彼の心配は思いもよらぬ報告で打ち砕かれる。

「大丈夫、お客さまを拾っただけよ。」

『おい、お前まさか!?』

「じゃ、よろしく~♪」

『あっ、コラッ、おいっ!?』

言いたいことを一方的に伝えて通信を切った。

「待っててね、すぐに治してあげるから。死んじゃだめだからね!」

こうして少年は世界に革新を促す者たちに出会うこととなる。










あとがき・・・・・・・という名の自虐

ロ「来ちゃったね~、おい」

ユ「そうだね~。皆様を大変お待たせしての第一話」

ロ「ぐはっ!」  ロビンに何かが刺さる

エレナ(以降 エ)「まったくよね、そのくせ私(オリキャラ)、出しちゃうし。」

ろ「う、うっさいな、ユーノをガンダムに乗せるにはこうする以外思いつかなかったんだから…」

ユ「えっ!僕乗るの!?」

ロ「いやならやめるか?」

ユ「いえいえめっそうもない!S・Y・U・J・I・N・K・O・U なんだから乗りますよ!!」

エ「てか、なんで主人公をそこまで強調すんのよ。」

ロ「くわしくはプロローグのあとがきを読め。」

ユ「それより僕はこの子とどうからんでくの?」

ロ「ネタバレって言葉知ってる?まあ、なのはに告白されたのに他の女になびく淫獣を描こうと思う。」

ユ「だから淫獣言うな!」

ロ「まあ、軽くハーレム的な感じになってユーノがウハウハみたいな?」

ユ「ちょっとぉぉぉぉぉっ!!何言ってんの!?皆さん嘘ですからねぇぇぇ!!」

(注) マジで嘘なのであしからず

エ「でも、私といい感じにはするんでしょ。」

ユ「え、そうなんだ。具体的にはどんな…」

ロ「ストップ!それ以上はホントにネタバレになるから。」

エ「まあ、なにはともあれ、これからよろしくねユーノ♥」

ユ「う、うん。」

主人公、新ヒロイン(?)と握手をしようとするが…

なのは(以降 なor魔王)「ユ~ノく~ん」  ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

ユ「な、なのはっ!?」

魔王「私というものがありながら~!!!!」

ユ「ち、違うんだなのはこれには深いわけが…」

魔王「問答無用!!全力全壊!スターライト・ブレイカー!!」

ユ「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

新ヒロイン(?)どこからともなく現れる

エ「ふう、危なかった。では最後にこのような拙い文を読んでくださった皆様ありがとうございます!では、次回もお楽しみに!!」



[18122] 2.過去
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:2c640ca7
Date: 2010/05/27 18:37
(よかった…、守れた…)

薄れゆく意識の中、ユーノは安堵していた。なのはは傷こそ負っているものの、この程度なら大事には至らないだろう。ただ守られ震えて見ていただけの昔とは違い、今度は守れたのだ。だが、

(約束…、守れなかったな…。)

あの日誓ったこと、ずっとそばにいるという約束をやぶってしまった。これは罰なのだ。本当の自分を打ち明けることができなかったことへの。だが、きっと彼女は自らを責めるだろう。優しいから、優しすぎるがゆえに。
だから、最後に言わなければならない。彼女が前を向いて歩いていけるように。

「なのは…っぐぅ!」

全身を電撃にうたれたかのような激痛が走る。それでもユーノは最後の力を振り絞り笑顔を作り、最愛の人へ最後の言葉を紡ぐ。

「なのは…、ごめんね…」

周りの機械たちが赤く光り始め、爆発した。その時、爆発した機械たちのうちの一機から青い宝石が飛び出し激しい輝きを放った。そのことに気付いた人間は誰もいなかった。



魔導戦士ガンダム00 the guardian  2.過去

西暦2304年  地球  ゴビ砂漠

(ここは…?)

ユーノはぼんやりと思考を巡らせていた。どうやら自分は砂の上に倒れていることが理解できた。そして、

(く、ううぅ…)

自分の命が長くはないことも。

ヒィィィィィィィィン

(………?)

どこからか風のような音が聞こえる。だが、風にしてはどこか機械的で、それでいて澄み切っている。ユーノは力を振り絞り視線を上に向ける。
そして、“それ”を見た。緑色の光をまといながら空を飛ぶ巨大なロボットを。

「天、使…?」

ユーノは思わずつぶやいていた。萌黄色と白の美しい体、何よりまとった光が羽のように見えた。そして、疑問が浮かぶ。あれはいったい何なのか?自分はどこにいるのか?そして、

(僕は…、一体、誰なんだ?)

だが、問いの答えを知る前にユーノの意識は闇へと沈んでいった。










時空管理局艦船アースラ  医務室

「ユーノ君の、過去?」

なのはにはわからなかった。スクライアの一族に育てられ、幼くして遺跡の調査と発掘をしていた。それがすべてではないのか?

「やっぱり、何にも聞かされてなかったんだな。」

ヴィータは深くため息をつく。

「だったら教えてやる、アイツの背負ってたものを。」

そう、話さなくてはならない。もう一度なのはが大空に舞い上がれるように。











なのはが告白を受ける一か月前

「おい、ユーノ。いつになったら高町なのはに言うんだよ?」

ヴィータは桜台で魔法の特訓をしているなのはを見守りながら足元にいるフェレット姿のユーノに言葉をかけた。

「な、何言ってるのヴィータ?」

ユーノの顔が一気に赤くなる。それを見てヴィータは意地の悪い笑みを浮かべる。

「好きなんだろ、高町なのはのこと。」

「え!いや、べべ、別にそんなこと!」

「気付かれてないとでも思ったか?高町のニブチン以外はみんな気付いてるぜ。」

「ええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇっっっ!?!!!!!?」

「ふぇ!?ど、どうしたのユーノ君?」

なのはは驚き特訓を中止して二人のほうを見る。

「な、なんでもないよなのは!」

「いや、こいつがお前のこと・・・」

「ワーーーーーーーーーーー!!」

ユーノはヴィータの体を信じられない速度で駆け上ると、口を必死で押さえこむ。

「ふぁにふんらふぉのひゃるぉ~!(何すんだコノヤロー!)」

「あははははははははははははははははははは!」

ヴィータはユーノを必死ではがそうとするが、ユーノも死に物狂いで押さえようとする。その様子があまりにもおかしくてなのはは笑ってしまう。

「わら、うな~!」

やっとの思いで口からユーノを引きはがす。その口はよほど強い力で押さえられていたのか赤くなっている。ユーノはユーノで普段はきれいに整っている毛並みがボサボサになっている。

「にははは、ごめんごめん。でも二人ともとっても仲がいいんだね♪」

「「よくない!!」」

二人は否定するが、実際ユーノとヴィータはよく一緒にいる。闇の書事件以降、よく二人でアイスを食べに行ったり、はやての誕生日プレゼントを探しに遠出をしたりしていた。その様子はさながら仲のいい兄妹のようだった。
そのためか互いに心の底から気を許しあえる仲になっていたのだ。・・・・本人たちは否定するだろうが。

「ま、まあとりあえず今日はここまでにしておこう、なのは。」

「うん♪」

なのはは肩に頬を紅潮させたユーノをのせて帰途につこうとしていた。ヴィータはその様子を見てチッと舌打ちをする。

(ユーノもユーノだけど、こいつの鈍さも一級品だな。)

ヴィータはなのはに近づくとユーノをガッ、とつかむ。

「きゅっ!?」

「ヴィータちゃん?」

「こいつ借りてくぞ。夜までには返す。」

「うん、わかった。じゃあね、ヴィータちゃん、ユーノ君。」

なのははそのまま桜台の坂道を駆け足で下って行った。




なのはが帰った後ヴィータは人型に戻ったユーノと対峙していた。

「いつまでこのままでいるつもりだ?」

「……何を言ってるの?」

「とぼけんな、あたしたちとの一件以来、お前は意識的に高町を避けている。」

そう、闇の書事件以降ユーノは意識的になのはと会うことを避けている。今日の特訓にしてもヴィータが無理やりユーノを誘ったのだ。ユーノがなのはを避けている、その異変に日頃からともにいるヴィータは誰よりも敏感に気付いていた。

「お前、アイツのこと好きなんだろ。だったらなんで避けんだよ!高町だって、お前に会えなくてさみしがってんだぞ!」

ヴィータはそれまでため込んでいた思いを一気に吐き出す。その目には涙がにじんでいる。

「僕にはそんな資格なんてないよ」

「資格だぁ!?ふざけんな!」

ヴィータはユーノに飛びかかりそのまま押し倒した。

「自分の気持ちを伝えんのに資格もクソもあるか!」

「なにも知らないくせに……」

「ああぁ!?」

「何も知らないくせに勝手なことを言うな!」

「うわぁっ!?」

ユーノは普段の姿からは想像もつかない力でヴィータを払いのけて立ち上がる。

「僕のことを何も知らないくせに偉そうなことを言うなぁ!」

「こ、んの…!?」

ユーノは泣いていた。今まで誰にも見せたことがないような悲しい表情で。

「守るための力もない、管理局を憎むことでしか生きていけない、そんな僕がなのはのそばにいていいわけないだろ!!」

「ユーノ?」

いったい何を言っているのかヴィータにはわからなかった。だから、

「…話してくれよ、お前のこと。話してくんなきゃわかんねぇだろ。」

「うん…」










第7管理世界  ヴェスティージ

第7管理世界ヴェスティージ。管理局の保護下にある世界で貴重な遺跡群が残り、多くの学者たちがこの世界を訪れた。だが、三十年以上の昔から内紛が絶えずにいた。
原因は皮肉にも管理局の介入。改革派は管理局からの技術提供と支援に期待し、友好的な態度を示した。だが、保守派は管理局による支配を良しとせず、伝統を守るという名目のもとに管理局、ならびに改革派と対立した。
もっともその後、宗教、民族、経済格差、さまざまな理由でヴェスティージのあちこちで戦闘が起き、もはや何が理由で始めたのか誰もわからなくなっていた。

そんな荒んだ世界の一角のほろんだ村に、マントをはおった男がいた。がっしりとした体つき、黒い短髪に日に焼けて黒い肌、顔には青い鳥の刺青がある。ぱっと見た感じは30代半ばというところである。

「ひどい有様だな。内紛状態とはいえこれはあまりに…?」

刺青の男、レント・スクライアは何かに気付いた。自分の目の前の崩れた家から、かすかだが魔力の反応を感じる。

「まさか、生存者がいるのか!?」

正直信じられない。ここに来るまでに出会ったのは原型がわからないほど破壊された建造物と焼け焦げた死体、そしてそれらにたかるカラスやハゲタカたちだけだった。生存者がいるわけがないと思っていた。

「…行ってみるか。」

いるはずがない。そう思いながらもレントは歩を進めた。瓦礫をどけ、どんどん進んでいく。と、突然広い空間に出る。どうやら住居スペースのようだ。そしてその奥にいたのは、

「赤ん坊…、だと?」

そこにいたのは小さなゆりかごの中ですやすやと眠っている赤ん坊だった。レントはその赤ん坊を抱き上げる。その赤ん坊に起きる様子はない。

(外がこれだけの騒ぎなのに気楽なものだ)

そう思ったレントだったが、赤ん坊の顔を見たときそれが間違いだということに気がついた。赤ん坊の頬に乾いた涙の跡があった。彼は気楽に寝ていたのではなく、泣き疲れて眠ってしまっていたのだ。

「流す涙ももうない、ということか。」

レントは思う。この子がここで生きていたのは奇跡以外の何物でもないと、そしてこの奇跡を見捨てることは自分にはできないと。

「…一緒に来い。お前はこの悪意に満ちた世界の中の希望だ。」

そして、レントは魔法陣を発動させて、自分と赤ん坊を仲間のところに転送した。
スクライアの一族のもとへと…








「じゃあ、その赤ん坊が…」

「ああ、僕さ。」

ユーノの懐かしむような、それでいて悲しい目を見ることができずに視線を落とした。

「この後僕はレント・スクライア、父さんに育てられ、考古学の知識を学んで父さんの仕事を手伝っていたんだ。すごく楽しくて、幸せな日々だった。でも、それも突然終わりをむかえたんだ。」










第14管理世界  クロア  首都のホテル

クロアは比較的治安が良く、文化レベルがそこそこ高い。ベルカ系の宗教団体と管理局との対立はあったが、それも気にするほどのレベルではなく平和そのものの世界である。

「ユーノ、そろそろ調査に行くぞ。今回調べる遺跡はここから遠いからな。」

「はい、父さん!」

ユーノが拾われてから6年が経っていた。その間にユーノは周りが驚くほどのスピードで考古学と魔法の知識を習得していった。

「他のみんなが到着する前に先行調査を済ませなければならんからな。…ところでだ。」

「?」

「そろそろお前にも遺跡調査の責任者に推薦してもいいかもしれん。」

「ホント!?やったぁ~!」

ユーノはそこいらじゅうを飛び回ってはしゃぐ。遺跡調査を自分が指揮できることへの期待、何より父が自分のことを認めてくれたのがうれしかった。

「まあ、まずは今回の活躍次第だな。頑張って掘り出し物の一つでも見つけるんだな」

「うん!頑張るよ!」

二人は笑顔で部屋を出ようとするが、その時

ドオオオォォォォン!!

「「!!!?」」

凄まじい爆発音とともにホテル全体が揺れる。続いて聞こえてきたのは銃声と阿鼻叫喚の叫び。

「ぎゃああああ!」

「やめて、なんでこんな…ぐあっ!」

「ミッドに従う不信の徒に裁きを下せぇぇ!」

ユーノは何が起きたか分からない。だが、レントはすぐに事態を把握した。

「テロだ…」

「え!?でもクロアは…」

「おそらくベルカ教の過激派の連中が他の信者を焚きつけるためにとうとう行動を起こしたんだろう。」

レントの読みはズバリ当たっていた。この日このホテルでは管理局とベルカ教が友好関係を築くことを目的とした式典が開かれていた。しかし、過激派はこれを良しとせず、テロを仕掛けたのだ。

「とにかく、逃げるんだ!」

二人は部屋から出るとまっすぐエレベーターを目指す。しかし、

「こっちにもいたぞ!」

テロリストに見つかってしまう。その手には使用が禁止されているはずの質量兵器、マシンガンが握られている。

「仕方ない、こっちだ!」

レントはユーノを抱きかかえると来た道を引き返し階段へと向かった。

「逃がすかぁぁ!」

テロリストはマシンガンを乱射するがレントの防御魔法に阻まれた。

「チィ!」

テロリストは追いかけようとするが、

「チェーンバインド!」

「がぁ!」

ユーノが発動したバインドにつかまりそのまま前のめりに倒れた。

「ナイスだ、ユーノ!さあ急ぐぞ、しっかりつかまってろ!」

この時レントは後悔していた。よりにもよって上層階の部屋に予約を入れてしまったことに。

同時刻  管理局クロア支部

管理局支部のとあるオフィスの窓辺に白いあごひげをたくわえたオールバックの初老の男性がいた。その目は老いた姿からは想像できぬほど鋭く、猛禽のそれを思わせた。やがて老人はこらえきれないといった様子で笑いをこぼす。

「くくく、予想したとおりだな。ここまでうまくいくと逆に恐ろしいな。」

『ファルベル一佐、出撃の準備が整いました。』

「ご苦労。相変わらず鮮やかな手際だな。」

ファルベルと呼ばれた人物は画面の向こうの部下に賛辞を述べる。

「は!では、後ほど!」

「くくくく、では行こうか、“正義”をおこないに!」








「よし、やっと5階に到着か。」

その後ユーノたちは幸運にもその後テロリストと遭遇することもなく、5階の大広間に到着していた。式典が行われていたためか、たくさんのテーブル、そして、多くの死体が散乱していた。

「あともう少しだね、父さん。」

「・・・・・・・・・・」

「?父さん?」

「あ、ああそうだな。」

確かにあと少しだ。だが、レントは何か引っかかりを感じていた。

(なぜ、局員がいない?テロが起こってからもうかなりたっているはずだぞ。)

そう、テロリストには会わなかったが、管理局員にも会っていない。もうさすがに、突入を開始していてもおかしくない時間である。しかも、今日は友好式典で穏健派の重鎮もここに…

(!!!!!)

その時レントの脳裏に最悪の仮定が浮かぶ。だが、そうだとしたらすべての説明がつく。なぜテロリストに会えなかったのか。なぜ、局員に会わなかったのか。

(そういう…、ことか!)

レントは唇をかみしめ、自分たちが最悪のルートに来てしまったことを自覚した。

「ユーノ…」

「父さん?」

レントは式典の会場へユーノを抱えたまま進むと死体の山をかき分けそこにユーノをそこに入れた。

「と、父さん!?」

「ユーノ…」

レントはユーノの手をぎゅっと握る。

「ユーノ、お前はこの悪意に満ちた世界の中にある数少ない希望の光だ。だから、これからどんなことがあってもお前はお前でいろ。お前の中にある優しさを決して忘れるな。」

そう言うとめったに見せない笑顔を自分に向ける

「父、さん?」

なぜ父は逃げるのをやめたのか?なぜ自分を隠すのか?なぜ今のような状況下でこのようなことを言うのか?
これではまるで

「父さん!!」

「じっとしてろ。…達者でな。」

その時、下から数人の人間が上ってくる音がした。五階に到着したその姿を見るとそれは

(管理局員!)

三人の管理局員がこちらへ向かってきた。ユーノは助かったと思った。これで父も自分も助かると。だが、

「まだ、生き残りがいたか。」

「上の連中は何をしてたんだ。」

「別にいいさ。始末してしまえば問題ない。」

(!?なにを言ってるんだ!)

局員たちはレントにデバイスを向ける。だが、レントは素早い身のこなしで局員の一人に接近して腹部に掌底をたたきこむ。

「がああぁっ!?」

「なっ!?」

「こ、こいつ!」

残った局員はレントに射撃魔法を放つが防御魔法に防がれた。

「わかってはいたが、つくづく腐っているな、管理局は。」

「すべては正義のためだ。」

「罪もない人間を巻き込み、テロリストを利用しておいて何が正義だ!」

レントは局員へ突撃していく。しかし、それは読まれていた。レントの足元から光の鎖が現れてレントを捕縛する。

「くっ!」

「このっ、手こずらせやがって…。」

レントに掌底をたたきこまれた局員は立ち上がりスフィアを生成する。そして




レントの心臓を撃ち抜いた。

(父さん!!!)

ユーノは飛び出そうとするが、体が動かない。全身が恐怖で震える。

「時間だ、ひきあげるぞ。」

「「了解。」」

局員たちは転送魔法を使って姿を消した。ユーノはのろのろと死体の中から這い出るとレントのもとに歩いていく。

「とうさん?」

震える声でよびかけるが返事がない

「とうさん、とうさん!とうさん!!とうさんっ!!!」

何度もよびかけるがやはり動くことはない。

「っっとうさーーーーーーーーーーーんっ!!!!」

ユーノは泣きつづけた。もう動くことのない父の亡骸の前で









「この後、僕はこの事件の数少ない生存者として地元の救出部隊に助けられたんだ。そのあと、管理局の強硬派がベルカの過激派に日にちや場所、警備に関する情報をリークしていたことに気付いたんだ。邪魔な穏健派をテロリストに罪をなすりつけて消すためにね。」

「……そのことは言ったのかよ。」

ユーノは首を振る。

「言ったけど、子供の戯言だと一蹴されたよ。他の生存者も似たような対応だったらしい。」

「そんな……」

ヴィータの目には涙が浮かんでいた。

「ありがとう、優しいんだねヴィータは。」

「っうっせ~!」

ユーノは微苦笑を浮かべる。

「ともかく、僕はそのあともスクライアの一族に育てられた。みんな、僕のことを本当の家族のように接してくれたよ。でも、どんなに温かく接してもらってもあの日の怒りと悲しみは消えることがなかった。」

ユーノは座っていたベンチから立ち上がるとヴィータに背を向ける。

「そして、十歳のときになのはたちと出会った。最初はジュエルシードで誰も傷つけたくないって思ってなのはに協力してもらったけど。闇の書事件のとき思ったんだ。また誰かを巻き込んで傷つけてしまった、ってね。それに……」

ユーノは大きく息を吐く。

「もう、わからないんだ。」

「わからない?」

「うん。クロノやリンディさんたちに出会って、管理局にもこんな人たちがいるんだってわかって。最初会ったときはホントに憎くてしょうがなかったのに。だんだん、憎めなくなってって、っ・・・」

ユーノは泣いていた。すべてを失くした6年前からため込んできた思いと仲間たちへの思いを吐き出しながら。

「ユーノ…」

「ねぇ、ヴィータ。僕は、僕は、どうすればいいの?みんなと一緒にいたい、なのはと一緒にいたいって思っちゃうんだ!僕はこんなに弱くて、薄汚れてて、一緒にいちゃいけないのに!」

「ユーノ…。お前、高町なのはに自分の思いを言え。」

ユーノは驚いた表情でヴィータを見る。

「今すぐに、全部話せとは言わねぇ。けど、今の自分の気持ちを言わなかったら後悔するぞ。」

「でも、僕は弱くて…」

「お前だけで守りぬけないならあたしがアイツやお前を守ってやる。あたしだけじゃねぇ。テスタロッサやはやてたち、みんなでお前らを守ってやる。だから、覚悟を決めろ。」

「覚悟?」

「アイツのそばでずっと守り続けるって覚悟だ。」

ヴィータはいつものような鋭い目に戻っている。

「アイツがくじけそうな時も、もう立ち上がれないような怪我をしてもアイツを支えてやれ。」

「ヴィータ…」

「それに…」

ヴィータは笑みを浮かべる。

「お前は自分で思ってるよりスゲー強えんだぞ。」

「え?」

「初めてお前のシールドとぶつかったとき、今まで戦ってきた誰よりも重く感じたよ。まるで何が何でも高町のところには行かせないって信念が乗り移ってるみたいにな。」

ヴィータの言葉にユーノは照れた表情をして顔を紅潮させる。しかし、その表情はどこか晴れやかだ。

「ありがとう、ヴィータ。」

「ま、あとでアイスおごれよ。それでチャラにしてやる。」

「ははっ!もちろん。」

そして二人は夕焼けの道を歩いていく。仲のいい兄妹のように……











なのははただ涙を流していた。ユーノが誰にも言えずに背負っていた十字架。誰よりも自分が気付いてあげなければならなかったのに気付いてあげられなかったその後悔で胸が埋め尽くされていく。

「ユーノ君、そんなに苦しんでたのに、私、わたしっ…!」

「ユーノは、こうも言ってたよ。」

ヴィータも泣いている。それでも、話すのをやめない。やめてはいけない、ユーノの思いをすべて伝えるまでは。

「『僕がいなくなっても、僕が好きだった明るくて、強いなのはのままでいて欲しい』って。そう言ってたんだ。なのに、お前がこんなでどうするんだよ。アイツの思いを、大切な人たちを守りたいって思いを受け継ぎゃなきゃいけないお前がこんなところでふさぎこんでてどうすんだ!!」

「…そう、だよね」

なのはの目に光が戻る。

「レイジングハート、また一緒に頑張ってくれる?」

〈もちろんです。マイマスター。〉

「ありがとう、ヴィータちゃん!」

「気にすんな。あたしはユーノの意思を伝えただけだ。」



少女たちは再び立ち上がる。いなくなった仲間の意思を継いで











あとがき・・・・・・・という名の制裁

フェイト(以降 フェ)「というわけでぐだぐだの二話目が終わったんだけど…。」  ゴゴゴゴゴ!

はやて(以降 狸)「あたしらの出番が少ないんやけどどうなってんのかな~。」ゴゴゴゴゴ!

ロ「うっさい空気s!お前らのせいでいろいろ大変なんだよ!必死で登場させる俺の苦労も知らないで偉そうにすんな空気!」

フェ・は「「なんだとーーーーーーーっっっっ!!」」

ロ「あ、やば…、さすがに言いす…」

フェ「サンダー・スマッシャー!」

狸「ブラッディ・ダガー!」

ロ「ぎゃあああぁぁぁぁ!!」  ロビン、星になる

ヴィータ(以降 ヴィ)「えっ、と、作者がなんか星になってしまったので代わりに司会をするヴィータです。まずは毎度毎度拙い文ですみません。あんな奴でも頑張って書いてるんで応援よろしくお願いしま…」

シグナム(以降 シ)「紫電一閃!」

ヴィ「のわああああああぁぁぁぁぁぁぁっっ!?」
鉄槌の騎士、ギリギリでかわす。

シ「チッ、はずしたか。」

ヴィ「チッ、じゃねええぇぇぇ!なにしやがんだああぁぁ!?」

シャマル(以降 シャ)「あら、ヴィータちゃんこそ私たちを差し置いて何をしてるのかしら♪」

湖の騎士、何か黒いオーラをまとっている

ヴィ「はぁ?」

ザフィーラ(以降 ザ)「シグナムとシャマルは自分の出番が少ないのにお前が目立っているのが気にくわんらしい。」

ヴィ「ザフィーラはいいのかよ。」

ザ「私はすでにアイツを見限っている。」

なんだと眉毛犬、コラッ!

ザ「誰が眉毛犬だ!」

ヴィ「どうした?」

ザ「いや何か声が…」

ヴィ「まあ、少し真面目に話すか。」

シ「そうだな。というかユーノの過去話で終わってしまったぞ。どうするんだ。」

ヴィ「なんでもロビンいわくいろいろ伏線はっときたいんだとさ。」

フェ「回収しきれなかったら悲惨だけどね。」

ヴィ「弱気なこと言うな。今からんなこと言っててどうする。(てかいつの間に戻ってきてんだ。)」

シャ「でも、00にまでまだ話がいってないわよね。いまから伏線ってどうなのかしら?」

ヴィ「ああ、それなら心配すんな。次回から本格的にはいるらしいから。」

は「そうなんや?」

ヴィ「ああ、でリリカル組はここからしばらく出番がほとんどないらしい。」

「「「「え??」」」」

ヴィ「まあ、ときどきは出るらしいから安心しとけ。あとなのは、フェイト、はやて、あたしが出んのは確定らしい。」

フェ・は「「やった!!」」

シ・シャ「「…………」」

ヴィ「あ~、心配すんななんとか出すよう頑張るらしいから」

シ・シャ「「よっしゃ!」」

ヴィ「やれやれ…、では最後に。みなさんこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!では、次回をお楽しみに!」






クロノ(以降  黒)「……僕の出番は?」



[18122] 3.ソレスタルビーイング
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:2c640ca7
Date: 2010/05/27 19:15
西暦2304年  地球  ゴビ砂漠西部


「どういうつもりだ、エレナ・クローセル。こともあろうに一般人にガンダム目撃され、あまつさえここに連れてくるとは!」

「しょーがないでしょ!ほっといたら彼、死んじゃうって思ったんだもん!」

「ほう…、なら君は彼が助かりさえすれば、このことが原因で我々の計画が頓挫してもかまわないと言うのだね?」

「うっ!そ、それは、そのぉ…」

格納庫に赤髪のツインテールをした少女と眼鏡をかけた少年の言い争う声が響く。その場にいた全員が『またか』と心の中でため息をついた。
拠点に帰ってきたエレナは案の定眼鏡をかけた少年、ティエリア・アーデにこっぴどく絞られていた。覚悟していたとはいえ、三日間も会うたびに同じような嫌味をネチネチ言われるのはたまったものではない。

「…やはり君はガンダムマイスターにふさわしくない。」

「それ、今日でもう十回近く聞いてるわよ。」

「正確にはまだ九回目だよ、エレナ。でも、ティエリアもその辺にしときなよ。」

二人の様子を見かねたのか、髪で右目が隠れた優しげな雰囲気の青年がロボットの整備を中断して声をかけた。

「アレルヤ~!ティエリアがいじめる~!」

「いや、僕に言われても…(というか、いじめって)」

「アレルヤ・ハプティズム、君も彼女の行動を容認するつもりかい?」

ティエリアは不機嫌この上ないという表情でアレルヤをにらみつける。その気に当てられたのかアレルヤはたじろぐ。

「いや、別にそういうわけじゃ、ないん、だけ、ど…」

「なら、黙っていてもらおうか。まだ、彼女は反省の意を示していないようだからね。」

「うぅ~~。」

エレナがアレルヤに恨めしそうな視線を送る。『フォローしてくれるんじゃないの!?』とでも言いたげだ。

(ご、ごめんねエレナ)

仲間内でもこうなったティエリアを止められる人間は限られてくる。一人は優秀な戦況予報士、そして、自分たちガンダムマイスターのリーダーである…

「そこらへんにしといてやれよ、ティエリア。」

「ロックオン、だが彼女は!」

「終わったことは終わったことだ。なにか問題が起きたならその時対処すればいい。でだ…」

そう言うと丸いボールに目のついたようなものを持ったブラウンヘアーの青年、ロックオン・ストラトスはボールを置くとエレナの頭をぐしゃぐしゃと乱暴になでる。

「お前ももうチョイ反省しろ。お前といい、刹那といい勝手な行動をとりすぎだ。」

「う~~、だって……」

「ま、でも…」

ロックオンは穏やかな笑みを浮かべ、今度は優しく頭をなでる。

「お前の気持ち、わからないでもないさ。」

「えへへ♪」

エレナは顔を赤くして笑った。その様子をティエリアは苦々しげに見つめる。

「…僕は整備に戻るのでこれで失礼する。」

「じゃあ僕も…」

「アッ、コラお前らにもまだ言うことが…」

足早に去るティエリアとアレルヤをロックオンは追いかける。

「フゥ~。助かったぁ~。もうっ、ティエリアってばしつこすぎ。」

エレナは頬を膨らませてぶつぶつと文句を言い始める。すると、ロックオンの置いていったボール、ハロが飛び跳ねる。

「ナカヨクナ、ナカヨクナ。」

「私はそうしてるよハロ。ただ、ティエリアが…」

「ナカヨクナ、ナカヨクナ。」

「…、はいはい、仲良くしますよ。」

はぁ~、と大きく息をはくと自分の乗っていた機体、ガンダムシルトを見上げて、拾ってきた少年のことを思う。

「あの子、大丈夫かなぁ~?」



魔導戦士ガンダム00 the guardian   3.ソレスタルビーイング

医務室

「ここは…?」

少年は目を覚ますと周りを見渡す。周りには透明な壁があり、正面を見ると白い天井と明りが見える。どうやら何かの中に入ってるようだ。
そして、瞬時にさまざまな疑問が浮かぶ。
自分は確か砂漠の上で倒れていたはずだ、なぜここにいるのか?
そもそもかなり重傷を負っていたはずなのに、なぜ体がずいぶん楽になっているのか?
あの時、見たロボットはなんなのか?
そして、

「僕は……、一体誰なんだ?」

自分がいったい何なのか?

その時、透明な蓋の向こうにサングラスをかけ、白衣をまとった金髪の男が現れる。

「うわぁ!?」

「目が覚めたかね?」

そう言うと男は端末を操作して蓋をあけた。少年は起き上がり男をまじまじと見る。

「腹部の傷はまだ完治とまではいかないが、もうICUカプセルを使う必要はないだろう。」

「あなたは?」

「わしはJB・モレノ。お前さんの命の恩人だ!」

モレノと名乗った男はかっかっと笑う。その様子に少年は呆気にとられたがすぐさま冷静な態度に戻る。

「そうですか、お世話になりました。」

「まあ、いいさ人を治すのがわしのしご…」

「おい嘘をふきこむな、エレナが運んだから助かったんだろうが。」

少年が声のほうに視線を向けると、扉のそばに眼鏡をかけた男が立っていた。

「おいおい治療したのは…」

「ほとんどエレナとICUカプセルだろうが。」

「むぅ…」

痛いところを突かれたのかモレノは黙り込んでしまう。

「っと、自己紹介がまだだったな。わしはイアン・ヴァスティ。この組織の整備士だ。」

「組織?」

少年は首をかしげる。

「おっと、悪いがいろいろと秘密にしなくちゃいけないことがあるんでね。まあ、来るべき時がきたらわかることだがな。だが、まずは君のことからだ、“ユーノ・スクライア”君。」

「ユー、ノ?」

「まったく、IDみたいなもんを見つけたもののあちこち焼け焦げてて読めないは、字の形が特殊だったりで読むのに苦労したぞ。」

「ユーノ…、スクライア…」

「「?」」

イアンとモレノはユーノの様子がおかしいことに気付く。

「それが、僕の名前なんですか…?」

「おいおい、まさか…」

イアンの顔に戸惑いの色が浮かぶ。だが、モレノは冷静にユーノを観察し判断を下した。

「…記憶喪失だな。」








ブリーフィングルーム

「ええええええぇぇぇぇぇっっっ!記憶喪失ぅぅぅぅ!?」

ブリーフィングの最中にも関わらず、オペレーターのクリスティナ・シエラは想定外の通信に思わず大声を出してしまう。

「クリス、うるさい!」

「す、すみません。スメラギさん。」

必要以上の大きな声を上げたクリスをスメラギ・李・ノリエガはキンキンという音が残る耳を押さえながら叱責した。

「まったく…」

だが、クリスの気持ちもわかる。試験運用中の機体が帰ってきたと思ったら、その機体に乗っていた超問題児のガンダムマイスターが重傷の人間を連れてきたのだ。
戦場でならどんな状況も読む自信がある戦況予報士もこれにはさすがに驚いた。しかも今度は、その人物が意識を回復したものの記憶喪失なのだ。

「でも、どうするんスかね。あの子の処遇。」

操舵士候補、リヒテンダール・ツエーリは頭の後ろで手を組み壁に寄り掛かる。

「まったく、毎度毎度あいつはトラブルを運んできてくれるな…」

もう一人の操舵士候補、ラッセ・アイオンは腕組みをしたまま唸る。

「でも…、彼女もヴェーダによって選ばれた存在…」

もう一人のオペレーター、フェルト・グレイスは小さな声で、しかしはっきりと言い放つ。

「…そうね、エレナもヴェーダが選んだガンダムマイスターだわ。そして、彼の処遇を決定するのもまたヴェーダよ。」

「じゃあ、あの子の処遇は…」

「そ、ヴェーダからの指示があるまでは保留よ。」

スメラギはフェルトにウィンクした後、パンッと手をたたく。

「さあ、ブリーフィングももう終わったし、これで彼の、ユーノ・スクライア君の話もお終い。みんな、作業に戻って!」

その場にいた全員が部屋を出た後、スメラギは携帯端末でユーノ・スクライアなる少年のことを検索していた。

(戸籍を探っても見当たらない、行方不明者・死亡者リストにもヒットは無し、か…)

そう、彼がここにきてから検索を続けているものの、どんなに探っても彼の名前も写真も出てこない。
まるで、最初から存在していなかったのように。

(まったく、イレギュラーもいいところね。)

スメラギは頭を押さえて、深いため息をつき確信する。今夜はどんな酒を飲んでも酔えそうにないことを。










医務室

「じゃあ、次はこのペンを使ってこの紙に、適当になにかかいてくれるかな。」

そう言ってモレノは脳波を測定するための端末を頭に付けたユーノにペンと紙を渡す。

「…………………」

ペンと紙を見てじっと考え込むユーノ。それを見たモレノが慌てて付け加える。

「ああ、そんなに深く考えなくていい。君のかきたいことをかけばいいんだ。」

「かきたいこと……」

ユーノは思い返す。あの美しい機械天使を、それが放つ暖かな光を。
ユーノはペンを黙々と動かし始める。イアンはその様子を、モレノは脳波計をじっと見る。

「…、描けました。」

十分ほど経つと、ユーノは紙とペンを返す。

「どれど、れっ!?」

イアンは驚きで言葉を失くす。
そこに描かれていたのはガンダムシルト。しかも、わずか十分ほどで描いたとは思えないほど精巧に描かれ、特徴をしっかりととらえている。

(マジかよ……)

彼が見ていたのはわずかな間のはずである。にもかかわらずここまで正確に、しかも信じられないほど素早く描いて見せた。

「…?どうかしましたか?」

「あ、ああ。いや、このガンダムシルトがうまく書けてると思ってな。」

「イアン!」

「え、あ!し、しまった!」

イアンとモレノは慌てるが時すでに遅し。ユーノはしっかりとその言葉を聞いていた。

「ガン、ダム…?」

「そ、ガンダムシルト。私の愛機にして、私たちソレスタルビーイングの切り札よ♪」

「「エレナ!?」」

扉のほうを見ると赤いツインテールの少女と肌が黒い中東系の少年が立っていた。背格好から判断するなら二人ともユーノと同い年くらいだろうか。

「おっはよ~、美少年君。記憶喪失なんだって~?大変だね~。君をここまで運んだのは私なんだよ~。さあ、お礼言って!お礼!君のせいでティエリアに怒られて大変だったんだよ~!」

「あ、ありがとう。そしてごめんなさい。」

エレナはユーノに顔をぐっと近づけると矢継ぎ早にユーノに言葉をかけていく。イアンはその光景を茫然と見つめていたが、ハッと我に返る。

「おい、エレナ!ガンダムは…」

「機密事項だって言うんでしょ。でも、イアンだって言っちゃってたじゃん。」

「いや、あれはだな…、ああ、くそっ!」

イアンは頭をガシガシと掻くと、どっかりといすに座り込む。すると、それまで黙っていた中東系の少年、刹那・F・セイエイが口を開く

「エレナ、こいつはお前が連れてきたんだ。だから、お前が責任を持ってこいつに説明しろ。ソレスタルビーイングと俺たちガンダムマイスターのことを。」

「OK、しっかり説明してあげるわよ。あんたの大好きなガンダムのことから、なにからなにまでね。」

エレナはウィンクをするが、刹那は気にもかけずにさっさと部屋を出て行ってしまった。

「…あいッ変わらず無愛想ねー。あれさえなければ結構いけてんのに。さて、と、いいわよねイアン。」

「はぁ~…。勝手にしろ。俺はもう知らん。」

イアンはため息をつきながら立ち上がるとそのまま部屋を出ていった。

「わしも、検査結果を報告しに行くか。後はよろしく頼むぞ。」

「はいはいは~い。」

モレノは検査結果をまとめた書類を持って出て行った。

「さて、と。」

エレナはユーノに向き合う。その顔からは先ほどまでのへらへらした笑いが消え、真剣な表情だ。

「悪いけど覚悟決めてもらうわよ。私たちにかかわったからには。」








通信室

「おいおい、マジかよ。信じられないな…」

「まったくね。ホントにこの数値は正確なの、モレノ?」

ロックオンとスメラギはモレノの持ってきたユーノの診断結果に驚愕する。

「残念ながら正確だし、マジだ。」

そこにはありとあらゆる数値と専門用語がずらりと並んでいる。しかし、二人はある一点のみを凝視する。

「検査の結果、彼は嘘をついていない。正真正銘の記憶喪失だ。おそらく重傷を負ったときに受けたショックで過去を忘れてしまったんだろう。それより特筆すべきは彼の情報処理速度だ。」

モレノは情報処理速度と書かれた部分を指し示す。

「常人のスピードを10とするなら、彼は軽く100を超えている。はっきり言ってとんでもない化け物だよ、彼は。」

ロックオンとスメラギは感服と驚嘆の入り混じった表情を浮かべた。
しかし、彼の経歴を知っていればそれほど驚くことではない。
幼いころより探索系魔法や検索系魔法の訓練を行い、さらにはジュエルシード事件、闇の書事件以降は無限書庫にこもりその膨大な蔵書の整理を行っていたのだ。
そういった才能は確かに備わっていたのかもしれないが、それを常識はずれした域にまでもっていったのは、大切な人を守るために行った彼の並はずれた努力と過去の厳しい試練を乗り越えてきた経験の賜物である。
もちろん、彼らはそんなことは知らないだろうが。

(いったい彼は何者なの?こんな能力を持っていて、なぜあんなところに一人でいたの?)

考えを巡らせるスメラギを黙って見ていたロックオンだが、ふと何かひらめいたようだった。

「Ms.スメラギ。このこともヴェーダに報告しといたほうがいいんじゃないか?彼と俺たちの今後のためにもな。」

ロックオンは不敵な笑みを浮かべる。

「ロックオン、あなたまさか!?」

「おいおい!」

「決めるのはヴェーダだ。そうだろ?」

スメラギも最初は驚くが同じように笑みを浮かべる。

「そうね、今は少しでも人員が欲しいわ。世界を変えるためにも…」

モレノは二人の様子をみてため息をこぼす。

「…やれやれ、ティエリアが聞いたらなんて言うか。」

そんなモレノの言葉を気にせずスメラギはヴェーダへ情報を送信した。









ヴェーダ  内部

そこには生物の影は何一つない。ただ、広い空間に巨大なコンピューターの部品があちこちに設置されている場所。
だが、部品の一つ一つが輝きを放っている。
そして、ひときわ広い空間にはシステムの根幹をなすコアからいくつものコードが伸びている。
周りの光を受けて輝く姿はさながら教会の大聖堂を思わせた。
そんなコアが今までと異なる輝きを放ちながら澄んだ音を立て始める。それは、ほんの数十秒のことだったが一人の少年の運命を決定するには十分な時間だった。










通信室

「ヴェーダから返答があったわ。」

「いつになく早えな、おい。」

ロックオンとスメラギはヴェーダからの返事を見る。その答えは…

「ビンゴ、だな。」











医務室

「戦争行為を根絶するための私設武装組織…」

「そう、それが私たちソレスタルビーイングよ。」

ユーノはソレスタルビーイングのことについての説明をエレナから聞いた。
太陽エネルギーを手に入れ、24世紀になったにもかかわらず、ユニオン、AEU、人類革新連盟の三つに分かれていて世界が一つになりきれていないこと。
いまだに武力衝突や紛争が絶えないこの世界のこと。
それらを根絶し世界に変革をもたらすために現在使われている軌道エレベーターの発電システムの基礎理論を築いた科学者、イオリア・シュヘンベルグが200年前に創設した私設武装組織、ソレスタルビーイングのこと。
そして、MSガンダムのこと。

「そんなことって…」

「私たちが矛盾したことをしようとしてるのはわかってる。でも、誰かがしなくちゃいけないのよ。この世界を変革させるためには。」

そう言うとエレナは悲しげな笑顔を浮かべる。

「別に、軽蔑してくれてもかまわない。でも、私は止まらない。あんな悲劇をもう起こさないためにも。」

エレナの目が涙で滲んでいく。ユーノはその様子を黙って見つめながら考えていた。
彼女の過去に何があったのか?自分と同じ年頃なのに固い決意をしたその時、何を思ったのか?自分が彼女を支えられないだろうか?
そして何より、自分の中にある何かが呼びかけてくる。『この世界の歪みを撃ち砕け』と。
ユーノの視線で我に返ったエレナは自分が泣いていることに気付いた。

「や、やだ!私ったら、何泣いてるんだろ?」

「…エレナ、僕もソレスタルビーイングに入れないかな?」

「ユーノ?」

エレナはユーノを見て驚いた。先ほどまでの戸惑いに満ちた表情から、固い決意をした男の顔になっていた。

「後悔するよ、たくさん。それでも、止まることが許されない。そんな道だよ。それでもいいの?」

「構わない。先のことを考えて今を後悔するより、この先後悔することになっても今を後悔したくないから。」

エレナはユーノの決意が固いことを感じ取る。そして、ふっと微笑を浮かべた。

「OK、あんたが入れるようにスメラギさんにかけあってあげる。」

「ありがとう!エレナ!」

「じゃあ、さっそくスメラギさんのとこに…」

「その必要はない。」

「「?」」

エレナが部屋を出ようとすると、扉が開きティエリアが入ってくる。

「君がユーノ・スクライアか。」

「あなたは?」

「僕はティエリア・アーデ。ガンダムヴァーチェのマイスターだ。だが、そんなことはどうでもいい。君は…」

そう言うとティエリアはジャケットの下から銃を取り出し、ユーノに向けた。

「ここで死ぬのだから。」

「……、何のつもり?」

「彼は、我々のことを知りすぎた。機密を守るためにこの場で彼を“消す”。」

「仲間になれば問題ないでしょ?」

「僕は彼のことを信用していない。そして、君のこともだ、エレナ・クローセル。」

ティエリアは鋭い視線を二人に向けるが、エレナとはキッとにらみ返す。

「ユーノを殺したら、私があんたを殺す。」

その時ユーノに頭痛がはしり声が響く『また、守られている』と。

(駄目だ、エレナ!)

「面白い、試してみよう。」

ティエリアは銃の引き金を引こうとした。しかし、後ろから誰かがそれをとめる。

「そこまでだ、ティエリア。」

「ロックオン…、あなたも邪魔するんですか?」

そこには長身の青年、ロックオン・ストラトスがティエリアの銃を押さえている姿があった。そして、その後ろから戦況予報士スメラギ・李・ノリエガが現れる。

「まったく、あなたも無茶なマネをするわね。」

「僕は計画のためなら何だってする。」

「じゃあ、なおさら銃を引け。」

ティエリア、そして、ユーノ達も疑問の表情を浮かべる。そんな三人をしり目にスメラギが前に進み出る。

「本日、この時をもってユーノ・スクライアを整備士補佐、ならびにガンダムマイスターの補充要員とします。これはヴェーダの決定よ。」

ティエリアたちの目が驚きで開く。

「そんな馬鹿なことが!」

「あるんだよ。さっきヴェーダから返答を受け取った。俺もじかに見てる。」

「くっっ!!!」

ティエリアはいまだに信じられないといった顔をしていたが、大きく息を吸い込むといつものような冷静な顔つきに戻る。

「……いいでしょう。ヴェーダが彼を認めたのなら僕も彼を認めます。ですが、少しでも不審な行動やソレスタルビーイングの一員としてふさわしくない行いをしたときは僕が彼を撃ちます。」

「僕もそれで構いません。」

ユーノとティエリアはそのままにらみ合う。互いに譲れない思いをその目に宿しながら。

「……それでは失礼する。」

そう言うとティエリアはさっさと帰ってしまった。

「まったく、あいッ変わらず気難しいねぇ~、あいつは。さて、と…」

ロックオンはエレナに歩み寄り、優しく頭に手を置く。

「よく頑張ったな、エレナ。」

「あ……」

エレナは糸が切れた人形のようにへなへなと床に座り込む。

「は、はは…、腰抜けた。」

「足がぶるぶる震えてて、ビビってんのが丸わかりだったぞ。」

そう言うとロックオンは手を貸してエレナを立たせた。ユーノはその時になってようやく気付いた。エレナの足が細かく震えていることに。必死に恐怖を抑えて自分を守っていたことに。

(エレナ……)

「ま、一件落着ね。これからよろしく、セミ・ガンダムマイスター、ユーノ・スクライア。私はソレスタルビーイングの戦況予報士、スメラギ・李・ノリエガよ」

「これからよろしくな、ユーノ。もう知ってるかもしれないがロックオン・ストラトス。ガンダムデュナメスのガンダムマイスターだ。」

「はい、よろしくお願いします。ノリエガさん、ストラトスさん」

二人はきょとんとした顔をした後クスッと笑う。

「おいおい、固ぇなぁ~、おい。俺のことはロックオンでいいぜ。」

「私もスメラギでいいわよ、ユーノ。でも、さすがにさん付けはしてほしいかな。」

「でも……」

「遠慮しなくていいわよ。もう、仲間なんだから♪」

エレナは無邪気な笑顔を振りまく。その笑顔に誰かの影が重なるが頭に靄がかかったようにそこで途切れてしまう。

「?どうしたの?」

エレナの顔が目の前にドアップでうつる。

「うわっ!な、なんでもないよ!」

「変なユーノ。」

そう言って、エレナは笑った。

「じゃあ、改めて…。よろしくスメラギさん、ロックオン。」

「よろしくね。」

「おう、よろしく。」

そう言うとユーノは二人と固く握手を交わした。



少年は覚悟を決める。今度は大切な人を守るためでなく、世界を変えるために











あとがき・・・・・・・・・・という名の土下座

ロ「申し訳ございません。<(_ _)>」

ユ「…いきなり何なの?」

エ「ホントだよ」

ロ「いまさらだけど気付いた…」

ユ「何にさ?」

ロ「戦闘シーンがひとつもねぇぇぇぇ!!!」

エ「今さらだね。ていうか気付くの遅いよ。」

そう、いままで一つも戦闘シーンがない。しかもこの話を書いてるときにやっと気付くというお粗末の一席。

ロックオン(以降 兄)「とんだ馬鹿だな。というか俺のテロップ、兄って…。」

ロ「だって、『ロ』だと俺とかぶるだろ。まあ、兄にしたことに別に深い意味はないよ。うん、そんなものない。」

兄「そうだな。ものッすごい浅はかな考えが見えるもんな。」

ティエリア(以降 ティ)「どうでもいいが、さっさと終わらせてくれないか。早く作戦行動に戻りたい。」

ロ「チッ、わかったよ、ヴェーダ中毒。さっさと終わらせりゃいいんだろ。」

ティ「誰がヴェーダ中毒だ!」

ロ「さて、皆様、00に入るのが遅くてすみません。これからはバリバリ00中心に進めていくので期待していてください。」

ティ「無視するな!」

エ「まあまあ。(ププッ)」

ティ「今笑ったろ!」

ロ「うっさいおまえら!ま、まあこれからもこんなバカな感じでやっていきますが、頑張って執筆していくのでよろしければこれからも末長くよろしくお願いします。」

兄「次回からは一応戦闘も交えてくんだろ。」

ロ「もちろん、てか俺も書きたい。では最後に、このような拙い文を読んでいただいてありがとうございます。そして、UCさん。返事で言いましたが、ユーノはトレミーに行っちゃいます。でも、フェレシュテともからませます。なので見捨てないでください~(>_<)。それでは、せ~の」

「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」



[18122] 4.試験運用
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:2c640ca7
Date: 2010/05/27 18:38
第97管理外世界 西暦2006年 地球

ユーノがいなくなってから1年が経とうとしていた。なのはたちは悲しみを背負いながらもユーノの意思を引き継ぐことを決意し、立ち直りつつあった。
そして、中学に上がり、管理局の任務と学業の両立に邁進していた。もう、あんな悲劇を引き起こさないためにも。

「じゃあね、なのは!」

「またね、なのはちゃん。」

「うん、またね!」

なのはは小学校からの友人であるアリサ・バニングスと月村すずかに手を振りあって別れた後、自分の家に至る道を歩いていった。その後ろ姿を二人は眺める。

「…なのはちゃん、もう立ち直ったんだね。」

「完全にではないけど、ね…」

二人はあの日のことを思い出す。
泣きながら帰ってきた友人たち。そして知らされたもう帰って来ることのない友人の最期とその決意。
その話を聞いて二人も決意した。何があっても、なのはたちが完全に立ち直るまでは泣かずに彼女たちを支えていくことを。
それが、ユーノの願いだろうから…。

「……なんでもかんでも一人で背負ってくんじゃないわよ、馬鹿。」

「アリサちゃん…」

アリサは泣きそうになるがそれをぐっとこらえる。

「見てなさいよユーノ!あんたがいなくったって私たちがなのはを立ちなおらせてやるんだから~~っっ!!」

アリサは大声で空に叫ぶ。ここにはいない大切な友人の恋人にまで自分の言葉が届くように。




魔導戦士ガンダム00  the guardian   4.試験運用



並行世界   西暦2305年  地球  オセアニアの無人島  格納庫

「ユーノォ!キュリオスの武装の調整はお前がしといてくれぇ!」

「………キュリオスも、の間違いだろ!もう、デュナメスとヴァーチェのGNドライヴの調整であっぷあっぷなんだよ!俺をどれだけ酷使するきだぁぁぁ!」

ガンダムデュナメスとガンダムヴァーチェの足元でユーノはガンダムエクシアの顔の横からしれっと無茶な注文をするイアンを二台のパソコンを同時に操りながら怒鳴りつけた。
ここ一週間の間、イアンは何かの設計と製造をしているらしいが、そのツケはユーノに回ってきていた。その状況たるやセミ・マイスターとしての訓練を行うどころかまともに眠る暇さえないほどである。そのうっぷんがついに爆発した。

「いや、システム関係の調整はお前がやったほうが早いからな。」

「ふざけんなぁぁぁぁぁぁ!俺に訓練受けさせろよ!いやそれよりベッドの上で寝かせてくれ!いいかげん格納庫の床に寝袋で寝んのはキツイから!」

「俺だって同じだ。それに俺はお前等のために頑張ってたんだぞ。文句言うな。」

「「「文句イウナ、文句イウナ。」」」

イアンはそう言うと大きく欠伸をする。ハロ達が協力してくれているものの、やはりGNドライヴとガンダムの調整はそう簡単ではないようだ。

「ちぇっ。」

ユーノは文句を言いつつデュナメスとヴァーチェの調整を完了させて、キュリオスの武装、GNビームサブマシンガンの調整にはいろうとする。そこにキュリオスのマイスター、アレルヤ・ハプティズムがやってくる。

「ユーノ、大変そうだから僕も手伝うよ。キュリオスなら僕もある程度力になれると思うから。」

「サンキュー、アレルヤ!助かるぜ!」

二人はさっそくサブマシンガンの調整を始める。

「ユーノ、ここはどうしたらいい?」

「ん?ああ、ここはGN粒子の伝導回路をこの配置どうりにインプットしてくれ。」

そう言ってユーノはメモ用紙ほどの紙を3枚渡す。そこには図面と小さな文字でびっしりと説明が書かれていた。アレルヤはその一つ一つを真剣な表情で読んでいく。

「……今までと比べてすごく複雑だね。」

「だがその回路に変更すれば弾自体は少しばかり小さくなるかもしれないが粒子の拡散が減る。計算上では速射性が12.3%、威力は9.8%。総合的な攻撃力は14.5%は上昇するはずだ。」

「……君はすごいな、たった一年でここまでのことができるなんて。」

「みんなのおかげさ。とくにイアンとロックオンにはみっちりしごかれたからな。」

ユーノがソレスタルビーイングにはいってからちょうど一年になろうとしていた。記憶を失くしていたユーノだったが、持ち前の理解力、判断力、情報処理能力で、まったく知らなかった整備、ど素人だったMSでの戦闘の技術、その両方を周りが驚くほどのスピードで会得していった。
とくにシステムの構築、改良に関してはすでにイアンを超えつつある。
さらに、戦闘訓練でも高い判断力とロックオン直伝の操作技術によって正規のマイスターと肩を並べるほどの力を持つに至っており、あのティエリアでさえも

「君のセンスは認めてあげよう。」

とまで言っていて、それを目撃した他のメンバーを驚かせていた。
性格も最初は慣れない状況と環境に戸惑い、内気になっていたが、ロックオンやエレナが率先してユーノとの交流を持つことで他のメンバーともなじんでいき(刹那やフェルトのような例外はあるが〉、明るく活発なみんなのムードメーカーになっていた。


「よし、これで終わりだね。」

アレルヤとユーノが一息つこうとした時、フェルトからの通信が入る。

『マイスターズにヴェーダからのミッションを伝えます。現在、オーストラリア東部の沖合でユニオンの不正規部隊と海賊行為を行っていた地元の軍隊との戦闘が発生しています。』

南北アメリカ、オーストラリア、日本までも取り込んだ経済連合国家ユニオン。
オーストラリアはかなり初期の段階でユニオンと同調し歩んできていたが、北東部には北アメリカ、とりわけ合衆国に反感を持っていた旧政権の軍隊の残党が合衆国の船舶にMSを用いての海賊行為を行っており、オーストラリアと合衆国との関係を悪化させる一因となっていた。

『デュナメス、キュリオスで介入。両者の殲滅、ならびにデュナメスとキュリオスの新装備のテストをお願いします。』

「よっしゃ、そんじゃあ行きますか!」

二人の後ろにはいつの間にかパイロットスーツを装着したロックオンがいた。

「ロックオン!」

「整備あんがとさん、ユーノ。いくぞ、アレルヤ!」

「りょうか…。」

「待って!」

三人は声のほうを向く。そこには私服姿の刹那、そして、ロックオンと同じ深緑と白を基調としたパイロットスーツを着たエレナがいた。

「どうしたんだ、エレナ!?そんなカッコして!」

「私に、私にも行かせて。」

三人は驚く。しかし、いち早く冷静さを取り戻したロックオンにたしなめられる。

「今回はデュナメスとキュリオスの武装テストだ。ソリッドの、お前の新しいガンダムのテストじゃない。」

「それでも行きたいの!お願い!」

エレナは必死にロックオンに懇願する。その様子を見ていたユーノはエレナに声をかける。

「けどエレナ、オーストラリア軍はお前の…」

その言葉を聞いた瞬間エレナは腕を組んでカタカタと震えだす。

「わかってる…、だからこそ行きたいの。ここで何もしなかったら、私は世界ときちんと向き合えない!」

エレナの心からの叫びが格納庫の中の冷たい空気を震わせ、熱くする。実際はそんなことはないのだろうが、その時そこにいた人間にはそう感じられた。
それまで黙っていた刹那が語りだす。

「ロックオン、エレナは今、自分の中の歪みと戦おうとしている。憎しみ、恐れ、怒り。あらゆる感情と向き合おうとしている。だから…」

刹那が頭を下げる。

「頼む、行かせてやってくれ。」

「刹那……」

ユーノはここまで感情をむき出しにして喋る刹那を初めて見た。

「そんなことは許されないぞ。」

エレナたちの後ろからティエリアが現れる。

「ヴェーダの命令は絶対だ。背くことなど許されない。」

「でもっ!」

「でも、なんだ?ユーノ・スクライア。君もエレナが出撃することには反対のはずだ。」

「ッッッ!!!」

図星だった。自分は確かに今のエレナに出撃してほしくはない。いつもと違い、頭に血が上った今の状態では危険すぎる。
しかし、エレナの意思も尊重したい。

(いったいどうすればいいんだ!?)

「……ユーノ、ヴェーダに通信入れろ。デュナメスとキュリオスの新装備は性能に不備がある可能性があるので護衛として第二世代機のシルトを連れていくとな。」

「ロックオン!?何を言ってるんだ!二機の整備はイアンとユーノが完璧に仕上げている!」

ティエリアはロックオンにかみつくが、ロックオンはお構いなしといった感じで、ニッとエレナに笑顔を向ける。

「そんな屁理屈が許されると思っているのか!?」

「許すもクソもあるか、エレナが行くって言ってんだろ。」

「ユーノ…」

ユーノは決意した。彼女がそれを望むなら行かせるべきだと。そう、彼女が世界と向き合うためだけではなく、自分が彼女と向き合うためにも。

「4対1、きまりだなティエリア。」

ロックオンの発言にティエリアは言葉を詰まらせる。

「いいだろう。だが太陽炉が破壊されるようなことがあったら命はないと思え!」

ティエリアはそれだけ言い残すと扉のおくへと戻って行った。






十分後

ユーノはキュリオスにテストを行う武装、GNシールドクロウの換装をしていた。そんな時、

「ユ~ノッ♪」

エレナがいつものような人懐っこい笑顔を浮かべて話しかけてきた。

「ユーノ…、ありがとう。」

「え?」

「心配してくれてたんだよね。ありがとう。」

「いや、俺は別に…」

「またまた照れちゃって~。」

「だ!誰が照れてなんて…」

「……戻ってくるよ。」

ユーノが顔を赤くしながら怒ろうとした時、エレナが真剣な表情を向ける。

「絶対、生きて戻ってくるよ。だってユーノに言いたいことがあるんだから。だから心配しないで。」

「言いたいことって?」

ユーノが顔を近付けるとエレナは頬を紅潮させる。その様子を見たユーノも顔を赤く染める。

『…………、二人とも僕がいること忘れてない?』

コックピットの中にいるにも関わらず、その存在を忘れ去られていたアレルヤがたまらず二人に声をかけた。
二人はばっ、と一気に離れる。

「か、帰ってきたら言うから!うん、帰ってきたら!」

「そ、そうだな!あ、あはははははははは!」

そう言うと二人は照れ隠しに笑いあう。

『やれやれ……』

「あ、そうだ。」

エレナは何かを思い出し、ポケットから青いひし形の宝石を取り出し、ユーノにさし出す。

「今日はユーノの誕生日だからプレゼント。っていうかユーノが最初に握ってたのを私が預かって返し忘れてただけなんだけどね。」

「なんじゃそりゃ。」

ユーノはあきれ笑いを浮かべながら宝石を受け取る。
ちなみに誕生日は、ユーノが拾われた今日、2月3日のことである。

「…気をつけてな。」

「うんっ!」

そう言うとエレナは自らのガンダム、シルトのほうへ向かって走っていく。このあと起こる悲劇を知らずに。









「デュナメス、ロックオン・ストラトス。出撃する!」

「キュリオス、アレルヤ・ハプティズム。目標へ飛翔する!」

「シルト、エレナ・クローセル。いきます!」

デュナメス、キュリオス、シルトはGNドライヴを起動し、空高く舞い上がり飛んでいく。
デュナメスはすでに最大の特徴であるGNスナイパーライフルを構えている。
キュリオスは戦闘機形態に変形し、先行するようだ。

「先に行って敵をかく乱しておくよ。」

「エレナ、あんま無茶すんなよ!」

「わかってるって。」








オーストラリア  東部沖合
今一人のパイロットが、水色の戦闘機、フラッグに追いかけまわされていた。フラッグはリニアライフルを彼の機体、リアルドに撃ちまくってきた。
それをきりもみや低空飛行を使い紙一重でかわしていくが周りでは仲間の機体が次々に爆散し海へ落ちて行った。

「くっ、ユニオンめ、新型のMSまでだしてきたか!!」

旧政権軍は圧倒的不利な状況に置かれていた。
まず、第一に物量差。旧政府軍が母艦3隻にMSが30機なのに対し、ユニオンは母艦5隻にMSが80機と圧倒的に有利である。
さらに、旧政府軍のMSが旧式のリアルドであるのに対し、ユニオン軍は最新鋭機フラッグで挑んでくるのだから勝ち目などあるはずがない。
実際、リアルドとフラッグはソニックブレイドやリニアライフルで撃ち合うが、フラッグの動きに翻弄されバックをとられて弾を撃ち込まれあえなく撃墜されたり、つばぜり合いの果てに押し込まれて切り捨てられるかのどちらかだった。

そして、リアルドのパイロットの目の前に突然ブレイドを構えたMS形態のフラッグが出現した。

「くそ、ここまでか…」

と、そのときピンク色の何かが自分の目の前を通り過ぎたかと思うと、コックピットに穴のあいたフラッグが海に落ちていき爆散した。

「な、なにが?」

パイロットは光の飛んできた方向を見る。そこには、淡い緑の粒子、GN粒子を放出して飛び回るオレンジの戦闘機、キュリオスの姿があった。










先行していたアレルヤはMS群と母艦を発見した。

「見つけた!」

戦闘を確認するとGNドライヴの出力を上げて一気に突っ込んでいく。そしてフラッグの一機に狙いを定めるとトリガーを引いた。弾は当たり、フラッグは海に落ちて爆散した。
他のフラッグたちがこちらを見る。

「なんだ、あれは!?新型か!?」

「キュリオス、介入行動に入る!」

アレルヤはそのまま戦闘の中に突っ込んでいきサブマシンガンを連射する。
フラッグたちは反撃を試みるものの、戦闘機形態がバックをとろうとしても突き放され、リニアライフルに至ってはそのスピードとアクロバティックな動きの前では当たる気配すらなかった。

「悪いけど、エレナが来る前にあらかた片付けさせてもらうよ!」

旧政府軍の部隊は最初は戸惑っていたが、このチャンスを黙って見ているはずがなかった。

「い、今だ、反撃するんだ!撃て、撃て!」

一機のリアルドが敵の母艦めがけライフルを発射しようとするが、再び桃色の閃光が奔る。

「なん………、だと…………」

リアルドは火花を散らした後、爆散した。残った全員が閃光が飛んできたほうに目を向ける。
そこには、かなり遠距離にあるためはっきりとは見えないが緑色のMS、ガンダムデュナメスがライフルを構えながら高速で接近するのが確認できた。

「あ、あんな遠くから当てたのか!?」

さらに三発の追撃が飛んできて、三発すべてが命中した。

「全弾命中、全弾命中。」

「はしゃぐなよ、相棒。今回試すのはこいつじゃなくて、こっちだ!」

デュナメスはライフルを肩に装着すると腰から二丁の拳銃、GNビームピストルを抜いた。

「デュナメス、ロックオン・ストラトス、目標を狙い撃つ!」

ロックオンは敵部隊との距離をある程度つぶすとビームピストルによる掃射を開始した。

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

弾はリアルド、フラッグ、母艦に分け隔てなく当たり、撃墜していく。

「てめえら!全員逃がしゃしねえぞ!」

「逃、逃げろぉ!」

「ば、化け物だぁぁぁ!」

リアルドとフラッグは二機のガンダムにすっかり翻弄させられ、戦意を失ったものたちはその場を離れようとした。

が、デュナメスの来た方向からもう一機、萌黄色のボディに、純白の腕と脚部。そして額に左右に飛び出たニ対の角の下にある目が瑠璃色に輝くガンダム、シルトが迫ってきた。

「シルト、目標を粉砕する!」

エレナは左腕の刃のついた巨大な二等辺三角形の盾、GNシールドブレードを横に薙いで一気に2,3機の戦闘機形態のフラッグを切り裂く。そして、近くにいたリアルドに目を向ける。

「あんたには“大砲の弾”になってもらうわよ!」

エレナはリアルドめがけ高速の突進を仕掛ける。そして、右腕に持った盾を突進の勢いをのせてMS形態のリアルドの胸部にたたきつけた。
しかし、さすがにそれだけでMSは墜ちない。が、そのままエレナはリアルドをおしていく。

「くっ!(こいつ、一体何のつもり…!?)」

リアルドのパイロットは気付く。自分が押し込まれていくその先には……

「ぼ、母艦に叩きつけるつもりか!?」

リアルドのパイロットは戦慄する。が、事実はもっと残酷なものだった。

「圧縮粒子解放、GNバンカー、ファイアッ!」

「!?!!!!?」

リアルドのパイロットは何が起こったのかわからなかった。突然とんでもない衝撃がはしったかと思うと左上の部分が弾け飛んで外が見えた。そこから見えた光景によって自分と敵との距離が離れたことを知った。
そして、そのまま母艦に向かって一直線に飛んでいく。

「う、うわぁぁぁぁぁ!!!」

腕を胸部ごとえぐられるように失ったリアルドは母艦のブリッジすら突き破り、その後、爆散した。パイロットにとっての唯一の救いはその母艦がユニオンのものだったことだろうか。







「ほ、本国に通信を!!」

ユニオンの母艦の艦長は本国に連絡を取ろうと試みる。しかし

ザザザザザザザザザザザザザザザザ

「な、なぜだ!?なぜ通信が繋がらない!?」

通信が繋がらないわけ。それはGN粒子による通信妨害が原因なのだがこのとき彼は知る由もなかった。そして、

ずんっ!!!

「ひ、ひぃっ!!」

MS形態のキュリオスが甲板に降り立ちシールドをブリッジに向ける。
すると、シールドが開き中からGN粒子をまとい赤熱した刃、GNシールドクロウが現れる。

「や、やめてくれぇぇぇぇぇぇっっ!!!!!!」

「っく!」
その声を聞いたアレルヤは一瞬ためらうがそのままブリッジにシールドクロウを突き立てた。








「よし、ほとんど片付いたな。後は母艦とリアルドが少しか・・・」

アレルヤが最後のユニオンの母艦を墜としたのを確認するとほっと一息つく。だが、

「シルトニ敵機接近!敵機接近!」

「なに!?」

見るとぼろぼろのリアルドがシルトの背後からブレイドを構えて特攻をかけてる。
だが、エレナは破壊した母艦の上で動きを止めてフラッグの残党をしつこく狙ってバルカンを撃っているためか、そのことに気付かずよけようとしない。

「やべぇ!!」

ロックオンは慌ててビームピストルを撃つが、距離があるためなかなか当たらない。

「エレナ、避けろぉぉぉおぉぉッッッッ!!!!」

しかし、その声はエレナには届かない。
そして、ブレイドがシルトの頭部から胸にかけて深々と突き刺さった。






それは、革新を望むものたちが払わなければならない代償だったのか…………










あとがき・・・・・という名の自己満足

ロ「やっと戦闘シーン書けたぁぁぁぁぁぁ!!」

刹那(以降 刹)「ホントにやっとだな。しかも無駄に長い。」

ロ「いいんだよ、とにかく書けたんだから。」

アレルヤ(以降 ア)「でも早く締めないとまずいよ。あんまり長いのもあれだし…」

ロ「それもそうか。じゃ、手短に済ますぞ。まず今回の目的は00での本来のリリカルなのはの歴史の再現だ。」

刹「どういうことだ?」

ロ「つまり、エレナがなのはの立ち位置なのさ。無理をおして出て行って敵にやられてしまうってこと。」

ア「ああ、なのはちゃんが負傷しちゃって魔法が使えなくなるかもってゆうはなしか。」

ロ「そ、ここではその役回りをエレナに演じてもらったわけ。」

刹「お前のことだ、なにか目的があるんだろ。」

ロ「うっ!するどい。まあ、ネタバレになるからここでは言わないけどな。では最後に、いつものようにこのような拙い文を読んでくださった皆様に心からお礼申し上げます!では、せ~の」

「「「次回をお楽しみに!!」」」



[18122] 5.代償
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:2c640ca7
Date: 2010/06/22 14:58
多くの人からのご指摘をいただいたので4月19日に4話目を一部かなり修正しました。まだ、読み直していない人はそちらを先にお読みください。手間とご迷惑をおかけして申し訳ありません。








半年前

ユーノとエレナは二人きりで萌黄色と白を基調とした巨人、ガンダムシルトを見上げていた。
通常のMSとは違い限りなく人間の体に近いフォルム、しかし、人間とは比べ物にならないほど力強い体のつくりをしている。

「綺麗だ……」

ユーノは無意識のうちにつぶやいていた。
生死の境をいた自分の前を輝く翼をまといながら舞い踊っていた機械天使。目を閉じれば今でもその荘厳な姿をはっきりと思い出すことができる。

「見るたびにそればっかね。刹那もそうだけどあんたもガンダム好きだよねぇ。」

半ば呆れながらエレナは恍惚の表情を浮かべるユーノに語りかける。

「出会いが衝撃的だったのはわかるけどさぁ、普通そこまで夢中になれるもん?」

「夢中、ね。ちょっと違うかな。」

「?」

そう、すこし違う。
好きというよりは憧れ。夢中というよりはこの機体を操ることへの期待感である。

「まあ、なんでもいいけどね。もうすぐこの子はユーノの機体になるんだから。」

もうすぐエレナは新しい機体に乗ることになる。そして、第二世代機のガンダムシルトは予備の戦力としてユーノに割り当てられることになっていた。

「この子のこと、かわいがってあげてね。私がイアンたちに直談判して造らせた大事な子なんだから。」

そう、GNY-00X、ガンダムシルトは本来なら製造されることのなかった機体である。
絶対的な防御力と圧倒的な突進力を用いて単機で敵陣を突破し、拠点を制圧するというコンセプトの元で設計が開始された。
しかし、その特性上武装は近接戦闘のものに限られるというバランスの悪さと、パイロットの技術に依存しすぎる操作性がたたり開発は中止された。
しかし、ひょんなことからそのデータを見つけたエレナがイアンたちに直談判。
ヴェーダの判断により試験運用の後に欠点を克服した第三世代機を製造することを条件に、本来彼女のためにつくられるはずだった機体に代わり、シルトが製造された。
そのため、型式番号も00Xという特殊なものになってしまったのだが、当の本人は「みんなと同じより変わっているほうがおもしろい!」とあまり気にしていなかった。

「でも、なんでわざわざ、こいつにしたんだ?他にもあったろうに。」

「ああ、それはね……」

エレナの表情が少し曇る。

「みんなのことを守れると思ったから、かな……」

「守る?」

ユーノは疑問に思う。シルトの防御力の高さは敵陣を突破するためのものであり、味方の援護に使われるものではない。

「この子のコンセプトはわかっているけど、それでもみんなを守るために力を使いたかったの。あんな思いはもうごめんだから……」

エレナの目がうるんでいる。

「……あたしの本当の名前はね、リリー・A・ホワイト。オーストラリア北東部の地主の家で生まれたの。」

本来機密事項であるはずのことを語り始めるエレナにユーノは驚く。
しかし、エレナの悲しそうな表情を見ていると止めることはできなかった。

「地主だった父はユニオンとの同調路線を指示していたわ。周辺住民の安全と生活の安定を図るためにね。そんな父を私は尊敬していたし、周りのみんなも慕っていた。でも……、ユニオンはそんな父の信頼を裏切った!」

エレナが怒りに拳を震わせる。瞳からはとめどなく涙があふれおち、頬にいくつもの歪なラインが描き出されていく。

「私が六歳の時だったわ、旧政権とステイツとの対立が激化したの。そしてユニオンから軍隊が派遣されることになって、私たちがいた場所も戦場になると聞いて、ユニオンから指示された避難場所に向かって移動していた。その道の途中だったわ、突然旧政権の連中が現れて民間人の私たちに攻撃し始めたの。私たちは必死に逃げた。一人、また一人と人間が撃ち殺されていく中を、ね。」

「……それでどうなったんだ。」

「逃げ切れない悟った父と母は幼い私を逃がすために囮になったの。私は止めようと思った。けど、口が凍ったみたいに動かなくなって言いたいことも言えずに、促されるままに走り出した。そして次の瞬間、父と母がいたところが爆発して私は爆風でふっ飛ばされて石にでも頭をぶつけたのか気を失ってしまったの。
そして、意識を取り戻した時に目の前に広がっていたのは、真っ赤な炎で焼かれている故郷を攻撃しているMSや戦闘機がいる光景だった……」

エレナは自分の中で燃えたぎる怒りの炎を吹き消すようにふうと一息つく。その目からは涙はもう流れておらず、ただ悲しみだけが残った表情を浮かべて再び話しだす。

「ユニオンは私たちを旧政権軍をおびき出すための餌にしたの。そして、そこを重点的に爆撃した……。そのことを知った住民たちは手のひらを返して旧政府軍の支持に回ったわ。口々にそれまで慕っていた父への罵倒の言葉を言いながら。ユニオンはユニオンで自分たちが攻撃している近くに私がいることも知らずに父を役立たずだと嘲笑っていたわ。」

ユーノはエレナを見る。いつもの明るい彼女からは想像もつかない壮絶な過去。そんな過去を背負いながら彼女はいつも笑って自分や仲間を励ましてくれたのだ。そんな彼女に自分は何もしてやれない。それが歯がゆかった。

「その四年後、反旧政権組織で戦っていた私をソレスタルビーイングのエージェントがスカウトしたってわけ。」

そう言うとエレナはいつもの明るい顔に戻り、穏やかな笑みを浮かべシルトを見つめる。

「だから、この子ならもうあんなことにはならない。ユーノやロックオン、刹那にアレルヤにティエリア、みんなのことを守れると思ったんだ……」

「…………………」

二人はシルトを見つめ続ける。互いに大切な思いを再確認しながら。



魔導戦士ガンダム00 the guardian  5.代償

(あ…、れ?)

エレナは意識を取り戻した。いきなり衝撃を受けたところまでは覚えているがそこから先は覚えていない。周りを見ると何か異常が起きたのかぼろぼろでむき出しになった赤熱している基盤や配線に目が行く。
そして、続いて体に痛みがあることに気付く。下に目をやると薄い一枚の板状の金属が右胸から腹部にかけてを貫いていた。

「っ、はぁ…!ここ…、まで、かぁ……」

エレナは一人きりのコックピットでつぶやく。息はすでに荒く、はくたびに血も一緒に口から出た。後悔で心が埋め尽くされていく。だが、同時に仕方がないという思いがわき起こる。

(みんなを、守るための力を、復讐に使ったから、ばちがあたった、かな?)

世界と向き合う。そう言ったのに敵を見るとすべてが頭の中から吹き飛んだ。怒りで周りが見えなくなっていた。

(迷惑、かけちゃった、な……。でも……)

死ぬにはまだ早い。最後の力を振り絞り、エレナはかろうじて生きていた回線を開いた。










オーストラリア東部沖合

「くっそぉぉぉぉっっっ!!」

「ちぃ!こいつらシルトばっかり狙ってきやがる!」

ロックオンとアレルヤは窮地に立たされていた。残っていたリアルド達は特攻のために頭部と胸部を破壊されたシルトをしつこく狙って撃ってきた。
ロックオンとアレルヤはシルトに装備されたGNドライヴを守るために…、
否、実際は自分たちの仲間を守るためにシルトの周りに立ち、防御をしながら迎撃を行っていた。
その時、キュリオスの肩に弾が当たる。

「ぐぁっ!」

「アレルヤ!っく!」

続いてデュナメスにも弾がヒットする。
これしきの弾では墜ちはしないが、衝撃は内部に伝わってコックピットを揺らした。
母艦からの援護砲撃で足場が揺れるとはいえ通常の戦闘でなら100%遅れはとらないだろう。しかし、仲間を守りながら、しかもその仲間が墜とされたという事実が二人に焦りを生じさせ知らず知らずのうちに操作を鈍らせていた。

「シルトヨリ通信!シルトヨリ通信!」

「何!?ほんとか!?」

ロックオンは驚きと喜びの声を上げた。先ほどまで沈黙していた仲間が通信をしてきたのだ。だが、喜びは無情にも打ち砕かれることとなる。

「エレナ!無事なのか!?心配かけさせんな!」

『ロ…、ックオン……』

ロックオンは異変に気付いた。ノイズが混じっているだけでなくエレナの声がよわよわしい。

「おいっ!どうしたエレナ!」

『シルトの……太陽炉…持って、逃げて……』

「何言ってんだ!お前を置いてなんて!」

『私、は…、もう駄目、だから…せめて、太陽炉を………』

「あきらめんな!こんな奴らすぐに!」

エレナの声はますます弱くなる。

『ユー…、ノに…謝っ、といて…。やくそく、守れなくて…ごめん、って…』

「っ!ばかやろぉ…」

エレナはこんなときまで人の心配をしている。その事実にロックオンの目頭が熱くなる。

「連れて帰ってやるから自分で言え!自分からあいつに言ってやるんだ!」

ロックオンはそう言うと再びデュナメスの固有装備であるガンカメラ用のカメラアイからリアルドに狙いをつける。

「デュナメス、目標を狙い撃つ!」

そう言うとスナイパーライフルのトリガーを引くが、いつもと違い狙いが甘いのか、外れてしまう。それでもロックオンは構わずにスナイパーライフルを撃ち続ける。

「ちくしょう…、ちくしょおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」

ロックオンが叫んだとき、何かが戦闘機形態のリアルドの一機に突っ込んできた。
その何かはリアルドに手に持った桃色の閃光を突き刺し、袈裟がけに振り下ろした。
リアルドは中心から左脚にかけて赤いラインを刻むと海へ向かって落下し、爆散した。

「あれは…!」

アレルヤはその機体を見た。丸い顔の額には正五角形を逆さにしたものにV字の角が伸びている。
その下には緑に輝くカメラアイがあり、人間なら口がある部分からは赤い突起物が突き出ている。
顔の両横の部分には後ろにかけてすらっと伸びた鳥の翼を思わせるような突起物があり、その正面には銃口がうかがえる。
コアのようなものがあるボディはシルトのような萌黄色一色で染められ、ふちには赤いラインが入っている。
肩には白と萌黄色で彩色された台形のプロテクターがあり、そこからのびる純白の腕には、右に先端が鋭く研ぎ澄まされた刃、反対側には二つのとがった突起物がある盾を持ち、左には剣をかたどった桃色の閃光、GNビームサーベルが握られている。
左の腰にはキュリオスのサブマシンガンとほぼ同じ長さの銃身をした銃が装備されている。それは白を基調とし、黒いラインが入っている。
腕と同じく純白に彩られた脚の関節部分にはこれまた萌黄色のプロテクターのようなものが見られる。
何より特徴的なものは、背中から飛び出た円錐の動力部、GNドライヴである。

その姿を見たロックオンは唖然とする。

「ソリッド……!?まさか、乗ってんのは!」

そのまさかだった。

「ユーノ・スクライア…、ガンダムソリッド…、目標を殲滅する!!!」











無人島  格納庫

『シルト、敵の攻撃を受け損傷!マイスターの生死不明!!』

「シルトが損傷だと!?」

壁に寄りかかり三人の帰還を待っていたユーノはクリスティナのあせった声で壁から跳ね起きた。しかもエレナの生死が不明だと聞き焦りと後悔が生じる。

(なんで行かせちまったんだ……!)

あの状態では危険だとわかっていたのに。それでも彼女の意思を尊重して行かせた。自分なら止められたのに!

「っく!!」

ユーノは整備が済んでいるヴァーチェへと向かう。が、それをイアンに腕を掴まれとめられる。

「どこに行く気だ!ユーノ!」

「ヴァーチェでエレナたちを助けに行く!」

「無理だ!個人認証システムを解いとっては間に合わん!」

「じゃあどうしろってんだ!」

ユーノはイアンの手を振りほどくと鋭い視線を向ける。

「ティエリアに頼むしかないだろう。少なくともお前じゃどうにも……」

「僕は行かないぞ。」

言い争う二人のもとにティエリアがやって来る。

「どういうつもりだ!ティエリア!状況からして援護に向かうべきだろう!」

イアンはティエリアを怒鳴りつけるがティエリアは顔色一つ変えずに言葉を続ける。

「彼女は自ら護衛をかってでたんだ。ロックオンたちが無事にGNドライヴを確保し、機密保持のためにシルトを破壊して戻ってくればいいだけの話だ。救出に向かう必要はない。……そう、必要ないんだ。」

よく見るとティエリアの腕がわずかだが震えている。今までにない反応だがユーノはその時、そのことに気付くことはなかった。

「くそぉ……!」

ユーノは悔しさに震える。自分には何も出来ることがないのだという無力さをかみしめながら。

その時、ゴゴンという音とともに外から格納庫のドアが開けられる。
そこには緑がかった黒髪を後ろでツインテールでまとめ、冒険映画にでも出てきそうな服と帽子をした少女が、長い後ろ髪を後ろで結わえた、長身の男にお姫様だっこをされた状態でいた。
少女の顔には若いながらも妖艶な美しさをたたえた微笑みが浮かんでいる。

「何かお困りかしら。」

「王留美!!」

イアンが驚きの声を上げる。
王留美。各国をまたにかけるソレスタルビーイングのエージェントである。

「あなたがユーノ・スクライアね。はじめまして、王留美よ。」

(こいつが……)

留美の笑顔を見た瞬間、ユーノの体に緊張感が走り脳が警告を発する。
『こいつを信用してはいけない』と。
それが彼女の持つ妖艶な気配によるものなのか、はたまたエージェントという彼女の性質故なのかはわからないが、油断ならない人物だということは確かだ。
ユーノの気配を察知したのか長身の男、紅龍は顔つきを厳しくした。

「そんなに警戒しないでいただきたいわね。」

「それより何の用だ、こっちは今取り込み中なんだ。後にしてくれ。」

「あら、つれないことをおっしゃるのねイアン・ヴァスティ。せっかく状況を聞いていいものを届けに参りましたのに。」

その時、三人はようやく留美のはるか後ろに何かがあることに気付く。

「いいもの…?っ!まさか!」

イアンの顔が信じられないといった表情になる。

「そのまさか、でしてよ。」

留美がパチリと指を鳴らすと横になっていたであろう何かがゆっくりと起こされていく。
それは、太陽の光を浴びて萌黄色の体を輝かせる機体、ガンダムだった。

「ソリッド!完成していたのか!」

普段は冷静なティエリアも驚く。なにせ最後の機体、ガンダムソリッドはロールアウトまでまだかかると思われていたからだ。

「本来はエレナ・クローセルで登録するのですが、彼女はいまこの場にはいません。そこで……」

留美が真剣な顔でユーノをみる。

「セミ・マイスター、ユーノ・スクライアで登録してあります。ヴェーダからはソリッドで出撃して先に出撃した三機を援護。敵残党の殲滅をせよとのことです。」

「馬鹿な!準マイスターを第三世代機に登録だと!?そんなことをヴェーダが許すわけがない!」

ティエリアは声を荒げる。それを見た留美が目を細める。

「あら、なら試してみればよろしいじゃありませんか。彼が動かせるかどうか。」

「くっ!」

二人は同時にユーノに視線を向ける。その先には決意に満ちた表情のユーノがいた。
そして、ユーノは作業着のままソリッドのもとへと走りだす。

「待て!ユーノ・スクライア!」

ティエリアは呼びとめようとしたがユーノは構わずソリッドへと走って行った。









素早くパイロットスーツに着替えコックピットに乗りこむと起動コードを音声入力する。

「GNシステム、リポーズ解除、プライオリティをユーノ・スクライアへ。」

ユーノの言葉に反応してコックピットの中に機械の駆動音が響き、外の様子が映し出された。
ユーノは目をつぶり大きく深呼吸をする。初めての実戦、だが関係ない。仲間が、あいつが待っているから。
ユーノは目を見開くと操縦桿を握りしめる。

「ユーノ・スクライア。ソリッド。出るぞ!」

ソリッドはふわりと浮きあがると急加速して蒼天のかなたへ向かって飛びたって行った。










オーストラリア東部沖合

「いた!」

まだまだ距離はあったが、ユーノは5機の上空を飛びまわるリアルドと援護射撃をする母艦を発見する。

「エレナたちは!?」

ユーノはリアルドの下にあるブリッジが丸々なくなっている母艦の甲板をズームで見る。
そこにはらしくない動きをするデュナメスとキュリオス、そして、




首から上が吹き飛び胸部の傷から火花を散らして倒れているシルトがいた。






ブツンッ



ユーノの中で何かが切れた。

「きさまらぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」

ユーノは右の腰に備え付けていたビームサーベルを抜いて突進を開始した。
そのコンセプト上、第三世代機のなかで群を抜く推進力はリアルド達との距離をあっという間に縮める。
そして、飛んでいた一機にビームサーベルを突き刺すと袈裟がけに振り下ろした。
リアルドは赤いラインを刻み海へ落下していき爆散した。

「あれは…!」

「ソリッド……!?まさか、乗ってんのは!」

「ユーノ・スクライア…、ソリッド…、目標を殲滅する!!!」

リアルド達は散開するとソリッドに対してリニアライフルを発射する。母艦も援護射撃をしかける。
ユーノが操縦桿を軽く動かすとソリッドは横滑りをするかのようななめらかな動きで五方向から時間差で向かってくるライフルの弾と砲弾を紙一重でかわしていく。

「こ、こいつも新型か!?」

「撃、撃て!とにかく撃つんだ!!」

リアルド達はライフルを撃とうとした。が、突然ボッ!という音とGN粒子を残しソリッドの姿が消えた。
と次の瞬間、

「う、うわああぁぁぁぁっ!」

自分たちの上空に仲間の一人が刃のついた盾、GNアームドシールドに貫かれ持ち上げられていた。

「や、やめろぉぉっ!やめてくれぇぇぇぇぇっ!!!」

パイロットは痛みと恐怖からのがれるために懇願するが、やめるはずがない。
なぜならユーノはわざとコックピットを外していたのだ。そして、怒りに震える声でまだ生きているであろうパイロットに語りかける。

「痛いか…?苦しいか…?そうだろうな…、だがな………。エレナが…、アイツが受けた痛みや苦しみは………」

ソリッドのGNドライヴが澄んだ音をあげて粒子の放出量を増加させる。するとアームドシールドのブレードがGN粒子を纏い振動を始めた。

「こんなもんじゃねぇぇぇえぇぇぇぇぇええぇっっっっっっ!!」

ユーノが一気にブレードを振り抜くとリアルドは真っ二つになって海へと落ちて行った。

ユーノは憤怒に身を焦がしていた。ロックオンとアレルヤから通信が入っているが知ったことではない。




こいつらがエレナを苦しめていたんだ。
エレナにあんな辛い表情をさせたんだ。
許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない!!!!

「ヒッ!」

ソリッドの視線を受けた残り二機のパイロット達は戦慄する。
ソリッドは元の場所にサーベルをしまうと反対側の腰に装備している銃を手に取った。

「う、うわあああぁぁぁぁぁぁ!!」

恐怖に押しつぶされたパイロットの一人がライフルを撃ちながら特攻をかける。
しかし、ソリッドは動くそぶりを見せない。結果、全弾命中し煙が上がる。

「「ユーノ!」」

ロックオンたちは思わず叫ぶ。
が、煙がはれるとそこには右手に白を基調とし、黒いV字のラインの入った縦に長い六角形を中心に、周りには桃色の大きな六角形の網目状のビームが張り巡らされている。
ソリッドには傷一つついていない。

「ロックオンじゃないが狙い撃たせてもらう!」

ビームが消えるとシールドは変形し銃の形、GNシールドバスターライフルになる。
ユーノは銃口をリアルドに向けると三発の光弾を放つ。
それはリアルドに全弾命中し爆発を起こす。

それを見た最後の一機が逃亡を図るが、

「逃がさん!!」

右腕に装備したシールドが180度回転して、突起物、バンカーの部分を下にした状態でがちりと音を立てて固定される。そして、

ゴウッ!!

ソリッドはMSとは思えない速度で突進し戦闘機形態のリアルドに盾をぶつけ、方向を修正し、砲弾もお構いなしに母艦めがけ突っ込んでいく。

「圧縮粒子解放!GNバンカー、バーストッ!!」

ドンッ!!

リアルドは二つの穴を穿たれ、うなりをあげながら斜め上から母艦に激突する。
母艦はさながらタイタニックのように真っ二つになり爆発した。











ユーノ達はシルトの横たわる母艦の上にいた。
エレナを救出したものの、出血量と傷の大きさからもう持たないことが明白だった。

「すまねぇ、ユーノ…。エレナを守ってやれなくて……!!」

ユーノは首を静かに振る。

「そんなことない。約束どうり、エレナとこうして会えた。」

「ユー…ノ…」

エレナがかすれた声でよびかける。

「ごめん…ね。失敗、しちゃった……」

ユーノは瞳を潤ませながら首を振る。

「違う!俺が…俺が止めていれば、こんなことには…!」

「ねぇ…、ユーノ…、知ってた………?私、あったとき、から…、ずっと、ユーノのこと、好き、だったんだよ……?」

切れ切れの言葉でユーノに告白するエレナ。
あまりにも純粋で、あまりにも悲しすぎる告白。
その様子をロックオンとアレルヤは黙って見つめる。
目をそらしてはいけない。これが自分たちが負うべき罰なのだから。

「キス…、して……っかは…!最後……くらい、わがまま、きいて………」

ユーノは横たえていたエレナの背中に手を回し抱き上げると、涙を流しながら口づけをした。
パイロットスーツは血で汚れ、口の中にはしょっぱい鉄の味が広がっていく。悲しいキスだった。

どれだけ経っただろうか不意にエレナの体の重さが増したように感じ唇を離す。

「エレナ……?」

声をかけるがエレナは満足そうな笑顔のまま動かない。

「エレナ…?エレナッ!?エレナッッッ!!!」

何度も呼びかけ体をゆするが目を覚まさない。そして実感する。エレナの死を。

「ーーッッ!!エレナーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!!」

海上にユーノの叫びが響いた。











悲しき代償と引き換えに少年は世界を変える力を手にした………。










あとがき・・・・・・・・・という名のお詫び

ロ「と、言うわけでユーノがガンダムに乗って大暴れ、の回でしたが、まず最初に4話に大量の矛盾があったので一部を大幅に改編しました。誠に勝手で申し訳ありません。」

ユ「ホントにアホな作者ですいません。しかし、これからはビシバシしごいていくので暖かな目で見守ってやってください。」

エ「しかし、私はここでいなくなっちゃうのかぁ~。」

ロ「それについては心配すんな。サイドストーリーを書いていくつもりだからそこで出してやる。」

エ「ホントッ!?」

ロ「ただしギャグになる可能性が大だけどな。」

エ「え~~!?」

新ヒロイン(?)、不満そうに口をとがらせる。

シ「出れるだけありがたいと思え!!」

シャ「私たちなんて本編でも全然……」

エ「え!?何この人たち!?」

シ「死んだ貴様に代わり我々が……」

ロ「退場おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

ロビン、某月の巨砲を持ち出し発射する。

「「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

出番がない憐れな人たちは星になりましたとさ。

エ「なんだったの…?」

ユ「俺たちの白昼夢だ。気にすんな。てか、ここでも俺の喋り方変わるんだな。」

ロ「一応な。まあ、おふざけはここまでにしてまじめに解説するぞ。今回はなんとかユーノをなんとかオリジナルのガンダムに乗せたかったんだよな。」

ユ「あの、お前の舌ったらずな妄想機体のことか。」

ロ「ぐはっ!キ、キツイこと言ってくれんな……。お前のってただろうが。」

ユ「なんかフワフワで乗ってて気持ち悪かったぞ。」

ロ「ヒドイ!!武器は結構自信あったのに!!」

ユ「調子に乗んな。」

冷ややかな視線にビビりが入る。

ロ「すんません!!!!」

エ「………。これからもこんな感じで行きますがご意見、応援、感想をお待ちしています。最後に、こんな拙い文を読んでくださった皆さんに心からのお礼を申し上げます!それじゃあ、せーの…」

「「「次回をお楽しみに!!」」」



[18122] 6.決意の夜
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:2c640ca7
Date: 2010/05/27 18:39
オセアニアの無人島  格納庫

「では、私たちは損傷したシルトとGNドライヴを回収させてもらいます。」

留美はそれだけ言うとその場を後にし、森の中を歩いていく。
GNドライヴは無傷で、シルトは損傷が軽微だったもののコックピット内で小爆発が起こっていたため回収し修復されることになっていた。
もっとも、本来の目的は違うのだが。
その道の途中で紅龍は留美に“本来の目的”に関しての疑問をぶつける。

「お嬢様、本当によろしいのですか?彼らにもう一機のガンダムと太陽炉を与えても?」

「彼らも世界を変えるため活動していることに変わりはありません。」

そう、彼らフェレシュテにも世界を変えるための力、ガンダムは必要なのだ……









魔導戦士ガンダム00 the guardian  6.決意の夜


ブリーフィングルーム

いつもは大量の言葉が飛び交っているブリーフィングルームだが、その日は違った。
ロックオンからの報告を受けた面々は各々違う反応を示した。
泣きながら崩れ落ちるもの。
うつむいて涙を流すもの。
いまだに信じられず困惑の表情を浮かべるもの。
悔しさから壁に拳を叩きつけるもの。

それらを眉間にしわを寄せたスメラギは見つめていた。
本当は自分も泣き出してしまいたい。悲しみに身を任せて思考を停止してしまいたかった。
だが、それは許されない。戦況予報士の自分が思考を放棄してしまえば仲間たちは再び危険にさらされる可能性がある。
そんなことは許されない。もう、大切なものを奪わせたりなどしない。

「……ヴェーダに報告を。エレナ・クローセルは死亡。マイスターの欠員を埋めるためにユーノ・スクライアを正規のガンダムマイスターとすることを希望する旨を伝えて。」





個室  ティエリアの部屋

自室のベッドの上に座っていたティエリアは不可解な感情におそわれていた。

エレナ・クローセルは死んだ。しかし、GNドライヴは無事だったのだ。
損傷したシルトもしょせんは第二世代機。しかも、損傷は軽微でもう使用できないということはない。
それに、彼女の行動には今まで問題があった。いなくなって清々したはずだ。
なのに、

「なんなんだ…、この感覚は…」

胸が締め付けられるような、心がかき乱されるようなこの感覚。
ティエリアは胸を押さえてうめく。

「いったいなんだというんだ……」

それが、仲間を失った悲しみだということを後に思い知ることとなるのだが、この時のティエリアはそんなこと知る由もなかった。





無人島 海岸

「エレナ……」

アレルヤは海岸で仲間との思い出を振り返りながら空を見上げていた。
ある日紹介された自分よりもずっと年下の女の子。
本当は戦ってほしくないと思っていた。こんなことをするのは自分だけで十分だ。
しかしその後、彼女の能力の高さに驚かされた。そして何よりも笑顔の奥に秘めた悲しみと固い決意に…

だからこそ、許せない。そんな彼女の命を奪い去ったこの世界の悪意が。

『だったら全員ぶっ殺しちまえよ、アレルヤ!きっと最高の気分だぜぇ!?ひゃははははははははは!!』

もう一人の自分が語りかけてくる。だが、

「……彼女はそんなこと望まない。彼女が望んでいたのは、世界を変えることだ。」

『ハッ!相変わらずつまらねぇ野郎だ。気にくわねぇ奴らは全員殺しちまえばいいんだよ!そうすれば…』

生きていると実感できる。
あの忌々しい記憶のことを忘れていられる。

しかし、アレルヤは拒否した。

「僕はあの事を忘れないよ。戦っている時も、そうでない時も。」

あの記憶を捨てるということ。それは、自分はここにいる目的を失ってしまうことと同義だ。

「あの記憶から逃げるために戦うんじゃない、もう僕たちのような存在を創らせないために戦うんだ。」

アレルヤは記憶の1ページにエレナを守り切れなかったことを書き加える。
どんなに苦しい戦いの中でも決意が揺らがないように。







医務室

イアンとモレノの前の机には脇に寄せられた書類の山と酒の入ったグラスが置かれていた。
足元にはすでに大量の空瓶が転がっているが、モレノはそれを気にも止めずにグラスを手に取り一気に中身を飲み干す。そして、再びグラスを琥珀色の液体で満たした。

「それぐらいにしとけ。医者の不養生なんてシャレにならんぞ。」

「ほっとけ…」

モレノはイアンの制止を無視して再び飲み干して酒を注ぐ。
イアンもそれ以上は何も言わずに、同じように飲み干す。

「思い出すな……」

イアンはぽつりとつぶやいた。
かつて、ここでモレノと酒を飲んでいたときにエレナがやってきて、医務室で飲酒するのは不謹慎だと自分たちから酒を取り上げたこと。
それを止めようと千鳥足で追いかけたこと。
ベーッ、と舌を出し、まわれ右してかけて行った後ろ姿。

そんな日々がもう来ないことを二人は痛感していた。

「ルイードやマレーネやグラーベといい、エレナといい、いいやつ等から死んでいっちまうな…。いやな世の中だ。」

「モレノ……」

二人はかつての仲間のことを思い出す。
危機に陥った若い仲間のためにその身を呈して救い出したものたち、フェルトの両親のことを。
そして、今のマイスター達ともかかわりの深い男のことを。

「また、救えなかったな……」

モレノは天井を見上げてため息をつく。
国境なき医師団に所属していた時から人間が死んでいく様を数えきれないほど見てきた。しかし、どうしても慣れない。

(いや、慣れてしまってはいけないんだ…)

慣れてしまえば目の前の命を軽んじてしまう。そんな気がした。

「お前のせいじゃない。ルイードも、マレーネも、グラーベも、そしてエレナもどうしようもなかったんだ。」

「それでも、やはり自分にも何かできたんじゃないかって考えちまうのさ。どれだけ時間が経とうとな。」

そういうとモレノは再びグラスをあおった。
その様子を見てイアンは嘆息する。

(まったく、医者ってやつは難儀なもんだな……)







個室  刹那の部屋

刹那は明りのついていない自室の床で腕立て伏せをしていた。途中から回数は数えていない。
ただ、かなり前からしているのか体中に玉のような汗がついている。

「はぁ…、はぁ…、っくぁ…!」

とうとう限界を迎えたのか、刹那は手を滑らせて肩から床にぶつかった。
荒い息を整えるように大きく息を吸うと床に大の字になり天井を見上げた。

(ユーノ・スクライア………)

刹那は天井の明りを見ながらユーノからかけられた言葉を思い返していた。





数時間前、ユーノが血まみれの、だがしかし満足そうな笑みをを浮かべたエレナを抱きながら帰還してきた。刹那は無表情で出迎えるが心は乱れていた。
世界と向き合いたいと打ち明けられた時、そのためなら戦うべきだと思って送り出した。
そして命をおとした。自分が戦わせたせいで。

ふと、ユーノと目が合うと彼はこちらに歩いてくる。刹那はまっすぐユーノを見つめ返す。
何を言われるかは大体わかっている。ならば、その言葉を受けよう。それでユーノの気がすむのなら。
しかし、ユーノの口から出てきた言葉は刹那の予想していたものと違っていた。

「……ありがとう、刹那。エレナを、世界と向きあわせてくれて……」

予想外の言葉に驚く。

何を言っているんだ?
自分が殺したも同然なのに。
なのになぜそんな言葉をかけるのか?

エレナを抱いたまま歩いていくユーノに言葉をかけることができず、刹那はその背中を黙って見送ることしかできなかった。




「なぜ、あんな……」

どんなに考えてもわからない。それは自分が戦い続けることしかできない歪な存在だからなのか。

ならば、自分はあえて戦い続けよう。
その答えを見つけるために、世界を変えるために。










廊下

ロックオンは走っていた。
ユーノが正式なマイスターになったことを伝えるために。そして、それよりも伝えなくてはならないことがある。
拠点に戻ってきたときにユーノがしていた顔。あれには見覚えがある。
目は鋭くつりあがり、口は真一文字に結ばれていたあの顔はかつての自分そのものだ。
いや、今もそうだ。自分はいまだに復讐心に振り回されて戦っている。
だからこそ話さなければならない。
自分の過去を。

(ユーノ、お前は俺じゃねぇだろ。お前は、俺のようになっちゃいけないんだ!)









個室  ユーノの部屋

ユーノはベッドに座り暗い虚空をまっすぐ見つめていた。その目には怒りの炎が宿り暗闇の中でも爛爛と輝いている。

ユーノはエレナに過酷な運命を強いたこの世界を創り上げたものたちがどうしても許せなかった。
だから自分がこの手で歪んだ世界を裁く。ガンダムを使って。

ユーノが決意を固めていると扉が開き暗い部屋の中に光が差し込む。

「うっ………!」

闇に目が慣れていたユーノは差し込む光がまぶしく、目を細くする。
そこには誰かが立っているがまだ目が慣れず、よく見えない。

「明りぐらいつけとけ。目が悪くなんぞ。」

どこかひょうひょうとした口調、そして目が慣れてきたことからその人物が誰なのか判明する。

「ロックオン…、どうかしたのか?」

ロックオンは部屋の明かりをつけユーノの前に立つ。

「さっき、ヴェーダから連絡があった。お前を正式なガンダムマイスターとするそうだ。だが……。」

ロックオンは表情を厳しくする。

「俺は今のお前をガンダムに乗せるのは反対だ。」

ユーノは目を見開き驚いた表情でロックオンを見る。

「なぜだ!?」

「なんでもクソもあるか。今の自分の顔を見てみろ。ひでぇ面してんぞ。」

ユーノは自覚があるのかそれきり黙りこんでしまった。
ロックオンはその姿を見てまいったなとつぶやき、深くため息をつく。

「復讐のために戦ったって虚しいだけだぞ。」

「お前に何がわかるんだよ!エレナを奪ったこの世界と向き合うには復讐にすがるしかねぇだろうが!!!」

ロックオンはユーノの目を見る。怒りに心を焼き尽くされた悲しい目。かつての自分と同じ運命を歩もうとしている人間の目だ。
だが、まだ引き返せる。そう信じてロックオンは語り始める。

「……ある男の話をしてやる。そいつの名前はニール・ディランディ。アイルランド生まれのどこにでもいるただのガキだった。あることが起きるまでは……」

ユーノはいきなり喋り始めたロックオンに困惑するが、黙って聞いていた。

「14の時のことだった。そいつは家族と一緒にとあるデパートに行った。家族がデパートで買い物をしている間そいつは外で待っていた。だが、家族が戻ってくることはなかった。
突然後ろで爆発が起こりそいつは吹っ飛ばされた。そして、後ろを振り返ると、家族がいるデパートは瓦礫の山に変わっていた。」

ユーノはそのとき、ロックオンの目の奥に宿る炎を見た気がした。自分と同じ復讐の業火を。

「その後、そいつはそれが無差別テロだと知り、誰よりもテロを憎むようになった。そしてその後、そいつはソレスタルビーイングに勧誘され、その理念に共感してはいることを決意した。入った後も何年経とうと憎しみは消えることがなかったがな。でも…」

ロックオンはユーノに笑いかける。

「そいつは仲間と出会い、初めて守りたいと思えるものを見つけた。そして今、仲間が自分と同じ存在に、復讐者にならないように昔話をしに来たってわけさ。」

ユーノの目から涙がぽろぽろと零れ落ちる。
ロックオンがこんな醜い自分のために、無力な自分のために辛い過去を話してくれたという事実が無意識にユーノの目に涙を生んでいた。

「ロック…オン、……オレッ、は……俺は…!」

ユーノはしゃくりあげながらも言葉を紡ごうとする。

「俺はっ…、俺は、ロックオンほど強くはないんだ!わかってたさ!アイツが復讐なんて望んでないことも!そんなことしたってもうエレナが戻っていないことも!でも、どうすればいいかわからないんだ!この感情はどうしたって消せはしない!そんな俺が何のために戦えばいいのか!」

ユーノは思いのたけを吐き出す。自分の心を縛り付けているその思いを。

「なら、こいつで隠せ。」

ロックオンはユーノに何かを投げる。それは、鈍く黒い光を反射するサングラスだった。

「瞳の奥に何もかも封じ込めて、そいつで隠しとおせ。今お前が持っている感情を捨てろとは言わない。だが、そいつにお前自身を支配させるな。」

ロックオンはユーノの頭を優しく、しかし力強くなでる。

「エレナが好きだったのは、復讐に駆られたお前じゃない……。何かを守るために戦うお前だろ。」

「う、ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

ユーノは泣いた。それまで自分の心を覆っていた闇を晴らすかのように。
膝の上に置かれたサングラスの上には今のユーノの心を現すかのような澄んだしずくが輝いていた。










彼らはそれぞれの決意を固める。世界に変革をもたらすその日のために。










あとがき・・・・・・・・という名の懺悔

ロ「というわけで第六話でした。なんかぐだぐだですんません。」

兄「ホント駄目駄目だな。まあ、なんか俺がいいこと言ってたから良しとするか。」

ア「あのものすごいクサイセリフのこと?」

兄「クサイ言うな!」

ユ「………………////」⇐感動していたので何も言えない

ロ「書いた俺が一番恥ずいから言い争うのやめてくんない?」

ア「それじゃ、解説行こうか。なんかすごい強引にユーノをマイスターにしちゃったね。」

ユ「主人公だからいいじゃん。」

ロ「お前、それで全部許されると思うなよ。」

兄「てか、ティエリアのキャラが違うよな。」

ロ「これのティエリアは少し丸くしようと思ってるからな。ギスギスしたの嫌いなんだよ。さて、次回からはいよいよ本編行くぞ。」

ア「やっと介入行動を開始するのか。」

ロ「待ちわびたろ。」

ア「僕は憂鬱だよ……(いろいろとね)」

ユ「俺は最初どこに行くんだ?」

ロ「秘密に決まってんだろ!」

兄「ユーノ…、お前いい加減ネタバレって言葉を覚えろよ……。では最後に、こんな拙い文を読んでくださった皆さんありがとうございます!よろしければこれからもご意見、感想、応援をよろしくお願いします!そんじゃいくぜ、お前ら!せ~の…」

「「「「次回もお楽しみに!!」」」」



[18122] 7.介入開始
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:2c640ca7
Date: 2010/06/24 23:22
西暦2307年
地球の化石燃料は枯渇し、人類は新たなるエネルギー資源を太陽光発電にゆだねた。
半世紀近い計画の末、全長約5万キロにも及ぶ三本の軌道エレベーターを中心とした太陽光発電システムが完成する。
半永久的なエネルギーを生み出すその巨大構造物建造のため世界は大きく、三つの国家群に集約された。

米国を中心とした世界経済連合、通称ユニオン。

中国、ロシア、インドを中心とした人類革新連盟。

そして、新ヨーロッパ共同体AEU。

軌道エレベーターはその巨大さから防衛は困難であり、構造上の観点から見てもひどく脆い建造物である。
そんな危うい状況の中でも各国家群は己の威信と繁栄のため大いなるゼロサムゲームを続けていた。

そう、24世紀になっても人類はいまだ一つにはなりきれていなかったのだ。


だが、そんな世界に大いなる楔がうちこまれようとしていた………





魔導戦士ガンダム00 the guardian   7.介入開始

西暦2307年 AEU軌道エレベーター  AEU軍事演習場

ビルの屋上に設置された全自動銃座のカメラ達はビルの間から飛び出てきた薄緑色のMSを捕捉すると一気に銃弾(もっとも、模擬弾なのだが)の掃射を開始する。
しかし、そのMSは銃弾をかわしながら接近し、その上に備え付けられた的を撃ち抜いていく。

一通り的を撃ち終えたMSはビルの間の道へと着陸するが、今度はその左から弾丸が飛んでくる。
MSは慌てる様子もなく左腕に装備した棒状のものを回転させて弾をはじいていく。
そして、弾丸が飛んできた方向に体を向けて飛びあがり弾丸の雨を潜り抜け上空のバルーンの的を撃ち抜いた。

そのまま高度を上げ、空中でバク転のように後ろを向くと銃座の上の的を撃ち抜いていく。
観客席からその様子を見ていた人々の間から感嘆の声が漏れる。

そんななかただ一人、ビリー・カタギリだけは冷静にその様子を見ていた。
長身を白のスーツで固め、長い髪を後ろで結び眼鏡をかけたその姿は大企業の営業マンのようにも見えるが、実際はユニオンのモビルスーツ技術開発顧問である。

「MSイナクト…。AEU初の太陽エネルギー対応型、か……」

カタギリが分析を進めているとクセッ毛の金髪の男が歩きながら彼に話しかけてきた。

「AEUは軌道エレベーターの開発で後れを取っている。せめてMSだけでもどうにかしたいのだろう。」

男が隣に来るとカタギリは笑みを向ける。

「おや、MSWADのエースがこんなところにいていいのかい、グラハム?」

グラハム・エイカー。ユニオン直属米軍第一航空戦術飛行隊、通称MSWADのエースにしてカタギリの親友である。年齢こそ自分より若いものの、そのMS操作技術はカタギリが知る中ではかなり抜きんでている。
だが、その口調や行動から周りからは変わり者と言われているが、その愚直なまでに自らの信念を貫こうとする姿にカタギリは好感を持っていた(もっとも、彼もまた相当の変わり者なのだが)。

「もちろんよくはないさ。」

グラハムは肩をすくめてカタギリの隣の席に座る。

「しかし、AEUも剛毅だよ。人革の十周年記念式典に新型の発表をぶつけてくるんだから。」

現在、人革連の軌道エレベーターの静止衛星軌道ステーション、天柱の中では電力送信十周年を記念する式典が行われている。
AEUはその式典と同じタイミングで新型のMS、イナクトの発表を行っている。
これは、人革連への対抗心と牽制の意味があるのはだれの目から見ても明らかだった。

カタギリとグラハムが話しているうちにイナクトはデモンストレーションを終えて着地した。

「どう見る?あの機体。」

「どうもこうも、うちのフラッグのサルまねだよ。独創的なのはデザインだけだね。」

カタギリの言う通り、イナクトはフラッグのデータをかなり流用している。
もっとも、デザインの他にも違う点がもちろんあるのだが。

「おいそこぉ!聞こえてッぞ!」

突然の声に二人はイナクトのほうを向く。
すると、中からパイロット、パトリック・コーラサワーが出てきて二人のほうを向く。

「今なんつった!?えぇ!?」

その様子を見ていた二人から苦笑が漏れる。

「どうやら、集音性は高いようだな。」

「みたいだね。」

このとき、まだ誰も予想だにしていなかった。
このイナクトの発表が後々、AEUにとってこの上ない不名誉になることを。




AEU軌道エレベーター上空

突き抜けるような晴天の中を降下してくる一つの光があった。
よく見ると、その光の正体はMSだが、白と青を基調とする人間のような容姿をしていて人革やAEU、ユニオンのものとは違っている。
そして、人間で言うところの額にはV字の飾りがあり、右腕についている長い刀身のついた盾のようなものが特徴的である。

「2400-82、エクシア目標地点捕捉、目標到達と同時に終了させる。」

MSのパイロット、刹那・F・セイエイは自分の愛機であるガンダムエクシアの中で状況整理を行っている。
今回の目的は新型のモビルスーツを撃破することで自分の機体、ガンダムの性能を世界に見せつけること。そして…

「目標対象確認、予定どうりファーストフェイズを開始する。」

目標のモビルスーツ、イナクトが画面に写ったことにより、刹那は思考を切り替える。
そしてそのままイナクトのもとへと降下していった。





管制室

「大尉、接近する機影を確認。」

「なに?」

管制室にいた兵士の一人がMSを発見して報告する。
上官は演習中にもかかわらず接近してくる機体がいることを知って少しいらだった。

「どこの部隊だ?演習中なんだ。さがらせろ!」

いつもならトラブルメーカーのパトリックとすぐに断定できるのだが、その本人は今まさに演習中なのだ。

(まさかアイツ以外にも馬鹿がいたとは………)

頭を抱えようとした時、部下が慌てた様子を見せる。

「レーダー反応、ありません!」

(なんだと!?)

レーダーにうつらないなどステルスを施された機体しかあり得ない。自分たちの部隊にはそんなものは存在していない。

「カメラで追え!」

すぐさまカメラでその姿を補足する。今まで見たこともないような機体を目にしてその場にいた全員から戸惑いと驚きの声が上がる。

「なんだ……あの機体は……」

その問いかけに答えられるものは誰もいなかった。







演習場

「あぁ?アンノウンだぁ?」

「今そちらに向かっている!気をつけろ!」

パトリックは管制室からの報告を半信半疑で聞いていた。
こんなときに仕掛けてくるものがいるとは思っていなかったのだ。

「どうしてこんなときに……」

続きを言おうとしたその時

ザザザザザザザザザザザザザザザザ

「っ!!な、なんだぁ!?」

突然ノイズが走るとそれきり通信ができなくなってしまった。

(なんだってんだまったく……)

そう思いながらふと上を見上げるとたしかに何かが近づいてきている。

そのことにデモンストレーションを見ていたカタギリ達も気づく。

「MS……?すごいな、もう一機新型があるなんて。」

「いや、違うな…」

グラハムはその形状からAEUのものではないことを判断する。
そして、何より背中からこぼれている光が気になる。

(あの光……)

とグラハムたちが思考を巡らせているうちにその機体はイナクトの数十メートル手前に着地した。

呆気にとられる観客たちの中で軍の関係者と思われる人物がイナクトと通信を試みるがどうやら繋がらないようだった。

「通信が……?」

グラハムがつぶやいたその時一人の兵士がその場にいた人間を避難させるために案内をしに来た。
が、そんな中カタギリとグラハムはMSを観察する。


パトリックはコックピットに戻ると突然の乱入者を見据える。

「おいおい、どこのどいつだぁ?ユニオンか?人革連か?ま、どっちにしても他人様の領土に土足で踏み込んだんだ……。ただで済むわけねぇよなぁ!」

そう言うと機体を待機モードから通常モードへと切り替え挑発する。
だが、目の前の機体は微動だにしない。

(なろぉ、なめてんのか!)

パトリックはすこしイラッとくるがまだ笑みは浮かんでいる。

「きさまぁ、俺が誰だかわかってんのか?AEUのパトリック・コーラサワーだ。模擬戦でも負け知らずのスペシャル様なんだよ!しらねぇとは言わせねぇぞ!」

そういうと左腕の中に装備されたソニックブレイドを抜き放って構える。
ブレイドが振動を開始し耳をつんざくような高周波に観客達が耳を押さえて呻くがパトリックは気にしない。
だが、それでもまだ動くそぶりを見せないアンノウンに遂にきれた。

「なめやがってぇ…、その面切りおとされりゃ少しは反省するかぁ!?ええ、おい!」

イナクトはそのままアンノウンへと突っ込みブレイドを突き立てようとした。だが、

「…エクシア、目標を駆逐する。」



斬ッ!


アンノウンは装備された盾の刃を起こすとそのまま上に振る。
イナクトの左手はブレイドを握ったまま金属の切断音とともに空高く舞い上がり地面に落ちた。

その場にいた人間全員が呆気にとられながらその様子を見ていた。
だが、誰よりも驚いていたのはイナクトに乗っていたパトリックだった。

「て…、てめぇ、わかってねぇだろぉ…!」

イナクトはライフルを向けると模擬弾から実弾に変えて至近距離から発射する。
しかし、放たれた弾はあっさりとかわされる。

(馬鹿な!)

パトリックは驚いて冷静ではいられなかった。誰よりも特別な自分がこんなことになるはずがない。これは悪い夢なのだと思わずにはいられない。
だが、悪夢はまだまだ続く。

アンノウンは肩から桃色の閃光を抜き放つと右斜めに切り上げる。

「俺はぁ!」

左腕が空を舞う。
続いて右腕に装備された剣が左に振られる。

「スペシャルでぇ!」

右腕が切り落とされる。
とどめとばかりに桃色の閃光がまっすぐ振り上げられる。

「2000回でぇ!」

イナクトの頭が宙へと放り出される。
アンノウンは終わったのを確信したように再び2つの刃を元の状態に戻す。

「模擬戦なんだよぉぉっ!!!」

イナクトはまっすぐ後ろに倒れて土煙を上げた。

その場にいた人間全員が逃げることも忘れて茫然とその様子を見ていた。

と、そんな中グラハムは前にいた男が持っていた双眼鏡を「失礼」と言ってとった。

「なにをする?」

「失礼だといった。」

男の不満を一蹴したグラハムは乱入してきたMSを双眼鏡で全身をくまなくみる。
すると額の飾りの上、カメラかセンサーだと思われる部分の上にGUNDAMという文字が刻まれていることに気付いた。

「ガン……、ダム?あのMSの名称か?」

「ガンダム……」

カタギリが小声で復唱した。





「エクシア、ファーストフェイズ終了。セカンドフェイズに移行する。」

目的を果たした刹那は次なる目的のために軌道エレベーターを上昇していく。
だが、AEUがここまでされて黙っているはずもなかった。

基地内の格納庫から三機の飛行形態のMS、ヘリオンが飛び立っていった。







ソレスタルビーイング輸送艦   プトレマイオス

静止軌道上の発電衛星の影に巨大な青と白でカラーリングされた艦があった。
ソレスタルビーイングの多目的輸送艦プトレマイオス。ガンダムを収容し航行することを目的として作られた。そのため、この艦自体には武装が何一つないのだがGN粒子のおかげでめったなことがない限り発見されることはない。

そんな艦のブリッジで4人のクルーたちがそれぞれの位置に座りキーボードを叩いている。

「エクシア、ファーストフェイズの予定行動時間を終了しました。セカンドフェイズに入ったと推測します。」

オペレーターの一人、クリスティナがいつになく真剣な表情でミッションの進み具合を告げる。

「ちゃんとやれてんのか刹那は?」

「でなきゃ、ソレスタルビーイングはそれまでってことで…」

「無駄口たたかないで。」

二人の操舵士、ラッセとリヒテンダールをクリスが叱責する。
そんないつもと様子が違うクリスティナを見てリヒテンダールがラッセに小声で話しかける。

(なんかいつもと雰囲気が違いますよね。)

(緊張してんだろうさ。実際俺もそうだ。)

(そうは見えませんけど…)

「二人とも何か言った?」

振り向くとじーっと視線を向けているクリスティナがいた。二人は蛇に睨まれた蛙のように固まり、顔をこわばらせた。

「そんなに緊張しないで。私たちソレスタルビーイングの初お披露目よ。ド派手に行きましょ。」

戦況予報士、スメラギがブリッジに入ってきて自分の席まで進むその手には…

「あーっ!お酒飲んでる!!」

「マジですか!?」

クリスティナの指摘に反応したリヒテンダールがスメラギの手に視線をやる。
そこには確かに彼女が酒をいれて携帯させているボトルがある。

「いいでしょ、私は作戦を考える係。後のことは任せるから。」

そう言ってクリスティナの批判的な視線を背に受けながらもボトルに口をつけて中身を飲んだ。
が、口を離すとそこには戦術予報士としての厳しい表情があった。






プトレマイオス  カタパルト

『コンテナ、ローディング終了。キュリオス、カタパルトデッキへ移動。」

周りに装備された五つのコンテナのうち、上の部分に来たものからキュリオスがカタパルトに降ろされていく。

「いよいよだ、ハレルヤ。……待ちわびた?僕は憂鬱だよ……」

キュリオスのマイスター、アレルヤはそう言うとヘルメットをかぶった。

『キュリオス、カタパルトデッキに到着。リニアカタパルトボルテージ230から520へ上昇。キュリオスをリニアフィールドに固定。射出準備完了。』

オペレーターのフェルトは機械的に確認を行っていく。

『タイミングをキュリオスに譲渡』

「I have control.キュリオス、作戦行動に入る。」

次の瞬間プトレマイオスからオレンジの戦闘機、キュリオスが勢いよく飛び出していった。






人革連軌道エレベーター   天柱

天中の静止軌道衛星内部では華やかなパーティが開かれていた。横の二つの壁に人々が立ち談笑するその光景は宇宙にいることを否が応でも実感させた。
そんななか王留美は飲み物を持っていなかったためかボーイに話しかけられた。

「お飲み物はいかがですか?」

留美が振り向き笑顔を見せるとボーイは顔を赤くした。

「いただくわ。」

ドリンクを受け取った留美はボーイがじっと自分の顔を見ていることに気付き、再び笑顔を見せる。

「そんな顔をしてると男が下がるわよ。」

くすっ、と笑うと反対方向へと浮遊していく。
そんな留美にマネージャー兼護衛の紅龍が話しかけてきた。

「お嬢様、はじまりました。」

その言葉を聞いた瞬間、留美の表情が凛としたものになる。

「…遂に、彼らが動き出すのね…。ソレスタルビーイングのガンダムマイスター達が…」






AEU軌道エレベーター 上空

上空を飛行していたエクシアに下から弾丸が向かってくる。刹那は軽く操縦桿をずらして射撃を避ける。
見ると下からは三機のヘリオンが一気に自分へと向かってきて、
そして追い越した。

ヘリオンたちはエクシアの周りを大きく旋回し続けている。
刹那はGNソードをライフルモードに変えると、編隊を組んでいたヘリオンたちへ向けて弾丸を発射した。
しかし、それらは当たらず、ヘリオンたちはエクシアへと向かってくる。
だが、エクシアは素早くソードの刃を起こすと一機のヘリオンへとそれを振る。
金属の切断音とともに機体の一部を失ったヘリオンが地上に向けて落下していった。

刹那はそのまま一気に殲滅しようとするが距離を取られてしまい思うようにいかない。戦闘機タイプなのでブレイドによる近接攻撃は警戒しなくてもいいが長引くのはまずい。

一方、ヘリオンのパイロットたちもあせっていた。なにせどれほど狙いをつけて撃とうと軽く避けられてしまうのだ。

「なんて機動性だ!あんな機体が存在するなんて!」

「編隊を崩すな!間もなく増援が到着する!」

軌道エレベーターの中から次々とヘリオンたちが飛び立ってくる。刹那はそれをモニターで確認する。

「やはり、AEUはピラーの中にまで軍事力を……」

刹那の第二の目的、それは条約以上に配備された軍事力を白日の下にさらすことである。AEUはその思惑にまんまと乗せられてしまったわけである。
数を確認した刹那はヘリオンの大群の中へと向かっていった。





AEUの演習場の近くの荒野の岩陰に深緑の機体、デュナメスがいた。

「ロックオン、増援接近、増援接近。」

コックピット内の専用ポッドに入っているハロが相棒のロックオンに状況を説明する。

「はははっ、こりゃあ流石の刹那でも手を焼くかぁ。なら、狙うとしようか。」

そう言うとロックオンはコックピットのイスから体を起こすとデュナメス最大の特徴である精密射撃用のスコープを降ろしてセットする。
横から飛び出た接眼レンズを覗き込みロックオンは笑みを浮かべる。

「いこうぜ……、ガンダムデュナメスとロックオン・ストラトスの初お披露目だ!」





刹那は距離をとって攻撃を仕掛けてくるヘリオンの大群に苦戦していた。
四方八方から飛んで来る弾丸をGNソードを使って巧みにかわしていくがこのままではらちが明かない。

と、その時だった。細い閃光が一機のヘリオンの翼を穿った。
バランスを崩したヘリオンは黒い煙を上げながら落ちていく。

「て、敵襲です!」

「どこから…」

下の雲を払いのけて再び閃光がヘリオンを襲う。

「下からか!」

閃光を見た刹那は仲間が援護していることを確信する。

「ロックオンか。」





軌道エレベーターのはるか下にいるデュナメスは額のV字型のセンサーを降ろし精密射撃用のカメラで狙いを定め敵を撃っていた。

「デュナメス、目標を狙い撃つ!」

ロックオンはカメラで捕捉した敵の翼のみを正確に撃ち抜いていく。
それはまさに狙い撃つという表現がぴったりくるものだった。

だが、AEUも黙ってはいない。即座に地上の基地からヘリオンを発進させる。

「ビームの位置から場所は割り出した!かなり近いぞ!」

三機のヘリオンがデュナメスのもとへと刻一刻と近づいてくる。

「敵機接近、敵機接近!」

ハロが慌てた様子でロックオンに告げるがロックオンはお構いなしといった感じだ。

「あわてんなよ相棒。何のためにこんな見つかりやすい場所にいると思ってんだよ。それにアイツも出番が欲しいだろうぜ。なぁ……」

「そこだぁぁぁぁ!」

ロックオンはモニターに写った攻撃態勢のヘリオンを見てにやりと笑う。

「ユーノ。」

ヘリオンから弾丸が発射される。が、その時射線軸上にGN粒子の壁をまとった萌黄色の機体、ソリッドが現れる。
弾丸はGN粒子の壁に当たると呆気なくはじかれた。

「も、もう一機だと!?」

驚くパイロットをしり目にソリッドはGN粒子の壁、GNフィールドを解除する。

「未完成だって言ってた割にはめちゃくちゃ使えんじゃねぇかこれ。」

ユーノはイアンからまだ調整中だといわれていた自分の機体のGNフィールドの能力の高さに感嘆の吐息を洩らす。

「アンマ使ウナ、アンマ使ウナ。」

コックピットの右手前にいる青色のハロが耳(?)をパタパタさせながらユーノを注意する。

「わかってるつーの。たくっ、イアンよりお前のほうが口うるさいぜ、967(クロナ)。」

目の前の相棒、967に文句を言っている間も攻撃はされているのだが二人(正確には一人と一機)は極小のGNフィールドのコントロールと巧みな動きでそれらをこともなげにさばいていく。

「んじゃ、ロックオンの期待に添えるように頑張りますか。」

ユーノは表情を厳しくして敵を見据える。

「ソリッド、目標を粉砕する!」

そう言うとユーノはアームドシールドをブレードモードにしてヘリオンに突進していき翼を切り落とす。
バランスを崩したヘリオンは地面をこすりながら進み停止する。
第三世代機の中で随一の突進力をもってすればヘリオンに一気に接敵することなど訳もなかった。

「ば、化け物め!」

「……なーんてこと言ってんだろうな。」

ユーノは相手のセリフをずばり当てるとシールドバスターライフルを抜いて構える。

「狙い撃つぜ!ってか?」

ロックオン直伝の射撃技術で的確に残りのヘリオンの翼を撃ち抜いた。





ちょうどその時、刹那とロックオンが上空のヘリオンをすべて撃破した。

「セカンドフェイズ…」

「…終了だ。ご苦労さん、刹那、ユーノ。」

『お前らだけで十分だっただろうが。なんで俺まで…』

「お前だけ参加できないのは不公平だと思ってな。さて、二人ともさっさとひきあげるぞ。」

『『了解』』

そういうと三人はその場を後にした。







天柱  管制室

「またEセンサーに反応だ今日はやけにデブリが多いな……」

モニターの反応を見て管制官の一人がつぶやく。実際この日はやけに反応が多い。

「質量大きくないか?」

「旧世代の衛星の残骸が引っかかったんだろ。」

と、そこへ指揮官と思われる男がやって来る。

「最大望遠で視認しろ。今が式典中だということを忘れるな。」

指揮官は管制官を注意する。
今日は式典で人革連の重要人物が大勢いるのだ。もし、万が一のことがあればとんでもないことになる。

「了解です。」

モニターに高軌道リングとそこに備え付けられた発電衛星と親機衛星が映し出される。と、突然その周辺に光が走る。

「な、なんだ!?」

「え、映像を拡大します!」

管制室にいる全員が光った場所を注視する。するとそこには、

「MSだと!?」

そこにはシールドに張り付くように進んでくるヘリオンがいた。

「馬鹿な!デブリにまぎれるなんて!」

「シールドの干渉で機体どころか、人体にだって…」

と、その時先頭の一機が爆発して散っていく。

「言わんこっちゃない!」

管制官が顔をしかめる。

「それだけの覚悟だということだ。」

「テロですか?」

部下の当たり前の質問には答えず指揮官は防衛部隊にスクランブルをかけた。





防衛部隊待機場

防衛部隊の人間はあわただしく動いていた。そんな中左目に大きな傷痕を持った人物が廊下を進んでいた。

セルゲイ・スミルノフ。第四次太陽光戦争時の英雄のひとりでロシアの荒熊の異名を持つ。しかし、その異名とは裏腹に温厚な人柄から、周りの信用は大きい。

普段は温厚な彼だが今回ばかりは憤慨していた。

「ヘリオンだと?AEUめ、無作為に第三国に売りつけるからこういうことになる。」

ヘリオンはAEU製の機体だが、セルゲイの言った通り、あちこちに売りつけているせいもあってテロリストが使うもっともポピュラーなMSになっていた。

(いまからでて間に合うか……?)

セルゲイはあせるが、その心配は杞憂で終わることになる。







周辺宙域

「くそぉ、もう駄目か!?」

「あきらめるな!」

防衛部隊が出撃したもののシールドに沿って接近するという馬鹿げた方法を想定していなかったためかなり深くまで侵入されてしまっていた。
しかも、敵はリングの影に隠れてさらに近くまで接近してくる。

「くっ!」

藍色にカラーリングされた武骨に角張った機体、ティエレン宇宙型がヘリオンに向け弾丸を発射するがリングを気遣っているせいで当てることができない。

「チッ!くそ!」

指揮官が舌打ちをした瞬間ヘリオンが持っていた箱のようなものを開くその中には本来の半分しかないものの三本のミサイルが確認できる。
本来の半分しかないとはいえ、直撃すれば静止軌道衛星ステーションなど呆気なく吹き飛んでしまうだろう。

そして、遂にミサイルが発射された。

「直撃コースです!」

「迎撃、間に合いません!」

もう駄目だ。誰もがそう思った時、桃色の閃光がミサイルを射抜き爆散させた。
爆発に巻き込まれたほかのミサイルも一緒に爆発していく。
破片がぶつかりステーションが揺れるが、被害はないに等しい。

閃光が飛んできたほうを見るとそこには急接近してくるキュリオスがいた。

「大したもんだ、スメラギさんの予報は…」

自分たちの作戦指揮官の優秀さを改めてかみしめながらアレルヤはヘリオンへと向かう。二機のヘリオンが攻撃してくるが、機動性に優れたキュリオスに当たるはずもなく、GNサブマシンガンで返り討ちにされてしまう。
が、それは囮だった。最後の一機がステーションへと向かっていく。

「特攻?まったくテロリストってのは!」

アレルヤは激しい怒りを覚える。が、その先には彼の仲間が待っている。

「ティエリアッ!」

ヘリオンが突っ込んでいくその先にごつい体つきをした白と黒を基調とした機体。ヴァーチェが下から出現する。両肩からはGN粒子が放出されている。

「ヴァーチェ、目標を破壊する。」

ヴァーチェは右手に持っていた巨大な大砲、GNバズーカを胸の前に構える。
胸のコアのような部分が輝くと同時にバズーカ内に光がたまっていく。そして、ある一定量の光がたまった瞬間それは巨大な光の柱として放出された。
光の柱にのまれたヘリオンは装甲を蒸発させながらその形を崩していき最後には爆発した。
それを確認したティエリアはバズーカをおろした。

「サードフェイズ終了。」

「やりすぎだよ…、まったく。」

アレルヤはヘリオン一機にバズーカを使ったティエリアに対してポツリとつぶやいた。








日本  経済特区東京

『地球で生まれ育ったすべての人類に報告させていただきます。私たちはソレスタルビーイング。機動兵器ガンダムを所有する私設武装組織です。』

「武装組織?」

「ソレスタルビーイング?」

沙慈・クロスロードとルイス・ハレヴィがその映像を見ていたのは昨日の事件があった翌日だった。
その日二人は授業が終わった後、学内に設けられたテレビを見ていると昨日起きた事件の概要。そして、事件を解決した組織からの声明が読み上げられていた。
テレビに写ったその人物は頭のてっぺんが禿げあがり、長いひげをしていて眼鏡をかけている。声明を述べている場所はどこか古い建築物の書斎のようだ。






『私たち、ソレスタルビーイングの活動目的はこの世界から戦争行為を根絶することにあります。私たちは自らの利益のために行動はしません。戦争根絶と言う大きな目的のために私たちは立ちあがったのです。』

声明を街で聞いていた絹江・クロスロードは画面に写る人物に見覚えがあった。

(あれは……!)

声明を最後まで聞かぬまま、絹江は自分のオフィスへと走っていた。







『ただいまをもってすべての人類に向けて宣言します。領土、宗教、エネルギー……、どのような理由があろうとも私たちはすべての戦争行為に対して武力による介入を開始します。戦争を幇助する国、組織、企業なども我々の武力介入の対象となります。我々はソレスタルビーイング。この世から戦争を根絶させるために創設された武装組織です。繰り返します……』

世界中で同じ放送が行われ、それを見ていたものたちは各々違う反応を見せていた。







プトレマイオス ブリッジ

帰還したアレルヤとティエリアはブリッジで声明を聞いていた。
もう、後戻りはできない。たとえこれからどんなに誰かを傷つけることになろうとも立ち止まることは許されない。

「ハレルヤ、世界の悪意が見えるようだよ…」

「人類は試されている。ソレスタルビーイングによって。」








南太平洋の孤島

満天の星空の下でロックオンは声明を聞いていた携帯端末のスイッチを切った。

「始めちまったぞ。ああ、始めちまった。」

ロックオンは自分に言い聞かせるように何度も繰り返しつぶやいた。
とうとうはじまるのだ。多くの犠牲によってここまでこぎつけられた。
正直、始まるまでは自分の中には疑惑に似たわだかまりがあった。しかし、ミッションが始まるとそんなものは吹き飛んだ。

「もう、止められない。」

「止マラナイ、止マラナイ、止マラナイ。」

ロックオンの言葉に反応してハロが飛び跳ねる。

「俺たちは世界に対して喧嘩を売ったんだ。わかってるよな、刹那。」

ロックオンは自分の近くにいた少年に言葉をかける。
彼の覚悟を確かめるために。

「ああ、わかっている。」

刹那はロックオンのほうへ向かずに自分の機体、エクシアを見上げたまま答える。
しかし、ロックオンにとってはその一言だけで十分だった。

刹那はエクシアを見上げながら思い返していた。
神がいないことを知ったあの日、自分を窮地から救ってくれた機体、ガンダム。
それが今は自分の手の中にある。世界を変えることができる力が。
そして、その力をふるうことができる。なぜなら、

「俺たちはソレスタルビーイングのガンダムマイスターだ。」

ガンダムに夢中の刹那にロックオンはため息をつき周りを見渡す。そして、一人足りないことに気付く。

「ユーノはどうした?」

「ロックオン、ロックオン。」

下にいたハロがぴょんぴょん跳ねる。

「967ヨリ通信。ユーノ、海岸、海岸。」

ロックオンはまたかと思い、はぁとため息をつく。

「ま、今日は一人にしてやるか。いろいろ思うところもあるだろうしな。」








海岸でユーノは夜空を見上げていた。足には波が来るたびに海水がかかるがそんなことは気にせずに物思いにふけっていた。
膝の上あたりまで伸びた髪は風になびいている。そして、その目にはロックオンから貰ったサングラスがかけられ、首にはひし形の青い宝石がかけられていた。

エレナが死んだ日からユーノはこうして夜に一人でいることが多くなった。サングラスをかけたまま夜空を見上げても何も見えるものなどない。だが、ユーノには何かが見える気がした。この世界の何かが。

「まったく、いつになっても振り切れないもんだな…。」

だが、自分は戦い続けなくてはならない。
復讐のためではなく世界を変えるために。そして、仲間たちを守るために。

「967、こんな未練たらしい俺についてきてくれるか?」

「言ワズモガナ、言ワズモガナ。」

当然だとばかりに967は跳ねる。

「サンキュー、967。」

ユーノは967をひょいと持ち上げるとロックオンたちのもとへと歩いていく。覚悟をその胸に刻みながら。









世界に今、変革が訪れようとしている。











あとがき・・・・・・・・という名の暴走

ユ「いやー、いよいよ介入開始か。」

兄「てか、ほとんど第一話をなぞってただけだな。せいぜいユーノが出てくるぐらいしか独創性がない。」

ロ「ぐはぁぁぁっっっ!!」←クリティカルヒット

刹「まあ、俺たちを全員が本編に出れたから良しとしよう。」

ア「でもなんか次回もただなぞるだけになっちゃいそうだよね。」

ロ「そこはまあ何とか頑張ってオリジナルストーリーを加えてみようかと思う。」

ティ「どうやってだ?」

ロ「……………………」

ア「考えてないんだね。」

ロ「な、なんとか頑張ってオリジナルストーリーを加えるように努力するので皆様見捨てないでください!」

兄「必死だな。」

ア「必死だね。」

ユ「必死だな。」

ティ・刹「「………………………………」」
冷ややかな視線

ロ「と、とにかく最後にこのような拙い文を読んでくださった皆さんありがとうございます!ホントに頑張るのでご意見、感想、応援をよろしくお願いします!では、せーの…」

「「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」」



[18122] 8.ガンダムマイスター
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:2c640ca7
Date: 2010/05/27 18:39
インド洋 海上

「はぁ~~………」

ユーノはコックピットで本日六度目のため息をついていた。

「なんでよりよってあの二人と俺だけなんだよ……」

「ドンマイ、ドンマイ。」

「ドンマイじゃねえよ…。今から胃に穴があきそうだっつーの。モレノに胃薬用意してもらおうかな…」

ユーノはかれこれ一時間以上、目の前にいる相棒に愚痴をこぼしている。
967はマシンなのだがどことなくうんざりといった感じがする。しかし、それでもずっと相手をしているのは彼(?)なりの優しさ故なのか…

「けど、お前だけだよ、俺の愚痴に付き合ってくれるのは……」

「ガンバ、ガンバ。」

必死に励ます967のその姿は同情すら誘ってくる。

なぜこうなったのかは昨日に遡る









前日 南太平洋上の孤島

『ユーノ、あなたにはセイロン島の民族紛争に介入してもらうわ。』

ユーノがロックオンたちのもとに戻ってくるとスメラギから明日のミッションについての説明を受けた。

旧スリランカでは二十世紀から断続的に多数派のシンハラ人と少数派のタミル人の間で民族紛争が起きていた。人革連はこの紛争を平和的に解決するという名目のもとタミル人に協力していた。
しかし、人革連の本当の目的はタミル人勢力が掌握しているセイロン島東部の海底を通っている太陽エネルギーケーブルの安全の確保である。
しかも、人革連が介入してきたことにより紛争は悪化し無政府状態にまで陥ってしまった。
そんな、泥沼の紛争に介入するのだが、ユーノが先行しまず人革軍を攻撃。人革軍とシンハラ軍の双方が撤退すればいいが、そうでなかったら…

『それから……』

スメラギがさらに付け加える

「ロックオンとアレルヤは別の任務があるから、後から刹那とティエリアを向かわせるわね。」

「え゛。」

刹那と?ティエリア?
あの二人だけ?仲介役のロックオンやアレルヤがいない?自分だけであの二人をどうにかする?
………無理だ。

「い、いやいや、スメラギさんそれはさすがにちょっと……」

ユーノの困惑した表情を見てスメラギは困ったような笑顔を浮かべる。
横のロックオンやモニターの奥のアレルヤも苦笑いをしている。

『まあ、頑張ってね。』

「頑張ってね、じゃなくて!あの二人がそろうと(俺にとって)ろくなことがないじゃないですか!」

ユーノは本人たちが聞いているのもお構いなしで必死に抗議する。
と、それまで黙っていたティエリアと刹那が口を開いた。

『「「問題ない。」』

「お前らはなくても俺にとっては問題大有りなの!!てか、お前らが原因なの!!」

いつもと変わらぬ様子で答える刹那とティエリアにユーノはイラッとする。

『まあ、今回はあきらめて頂戴。お願い!』

スメラギが手を顔の前に合わせてユーノに頼む。

「……はぁ~。わかりましたよ。」

ユーノはガシガシと頭をかく。

「ところで…」

ユーノのサングラスの下の目が真剣なものになる。

「スメラギさん、人革軍に攻撃した結果シンハラ軍が人革軍に追撃を加えようとした場合は…」

『ええ。』

スメラギも真剣な表情に変わる。

『攻撃してもかまわないわ。それが私たちソレスタルビーイングの使命なのだから。』








インド洋 海上

「……あいつらが来る前に終わらせるしかねぇか。」

ユーノは憂鬱な気分を振り払うように操縦桿をぎゅっと握りしめるが、気分ははれない。

(紛争、か……)

自分たちが人革軍を攻撃すればシンハラ人はそれに便乗し人革軍やタミル人を追撃するだろう。
彼らの気持ちはわからなくもない。だが、

「だからって、それじゃ何にも変わんねえだろぉが……」

憎しみに憎しみを返しても何も変わらない。
ユーノも本音を言えば自分から大切な仲間を奪ったものたちが憎い。だが、それでも必死に変わろうと足掻いているのだ。苦しみながら自分と向き合い前に進もうとしているのだ。

しかし、それでも世界は変わろうとしない。

「なら、俺たちが変えてやる!」

「ヤッテヤルゼ!ヤッテヤルゼ!」

「ああ、967。やってやろうぜ!」

変わろうとしないのなら自分たちが変えよう。なぜなら自分たちは、

「俺たちはソレスタルビーイングのガンダムマイスターだ!」





魔導戦士ガンダム00 the guardian     8.ガンダムマイスター

大気圏周辺宙域



大気に覆われ青く輝く地球。
そのすぐ手前にアレルヤとティエリアはいた。

「GN粒子、最大散布。機体前方に展開。」

ヴァーチェの肩と脚が開き大量のGN粒子がヴァーチェを包みこんでいく。
キュリオスもまたGN粒子に包まれ大気圏突入の準備を開始する。

「シミュレーションは何度もやってきたけど……」

「降下ポイントに到着。大気圏突入を開始する。」

アレルヤが不安を口にしようとするがティエリアの淡々とした口調に阻まれた。

「ティエリア……まったく度胸がいいっていうか……」

フッ、と笑うとアレルヤも自分の降下ポイントへ向かって降りていく。
ヴァーチェとキュリオスが空気との摩擦で赤く発光しながら地球へと向かうその姿は赤い流星が尾を引きながら落ちていくようだった。






同時刻 人革連静止衛星軌道ステーション

ステーション内にけたたましいアラームが鳴り響いた。

「大尉、Eセンサーに反応。大気圏に突入する物体があります。」

「なに?そんな報告は受けてないぞ!」

「最大望遠映像出ます。」

モニターには二つの何かが赤い尾を引きながら地球に降下していっていた。

「あ、あれは……?」

「ガンダムだ…」

大尉と呼ばれた男は声のほうに振りむく。そこには自分の上官に当たるセルゲイがいた。男はセルゲイに対して敬礼するが、セルゲイの目は二つの赤い流星、ガンダムにくぎづけだった。

「あの機体は単独で大気圏突入が可能だというのか……。機体の進行ルートは?」

「お待ちください。」

管制官の一人が降下ポイントの算出にかかる。

「現行のままですと降下予測ポイントは…、一機はタリビア共和国もう一機は……」

管制官は計算結果を見て驚いた。

「インド南部セイロン島!われらの領土内です!」

「やつら、本気で武力介入をするつもりか……!」








旧スリランカ領 セイロン島西部

煙がもうもうと立ち込める中、ティエレンが黄土色と緑の二色に分かれ戦闘を行っていた。
黄土色のティエレンは緑のティエレンに砲撃をしかけるが肩のシールドで防がれる。

「くそっ!人革め!」

黄土色のティエレンのパイロット、シンハラ人は悪態をつく。
そしてそれが彼の人生最後の言葉となった。
横からの砲弾が彼の機体に当たり、吹き飛ばされるように倒れるとそのまま爆発して黒い煙を上げた。
砲弾が飛んできた丘の上には数機の砲撃型ティエレンが配置されている。
それらは幾度か砲撃を繰り返し敵機を確実に減らしていく。
敵の近くで戦闘を行っていたものたちも数人がかりで確実に仕留めていく。

「敵部隊の30%をたたいた!このまま一気に殲滅させるぞ!!」

指揮官が部下に発破をかけていたその時だった。突然の通信が入る。

「大尉、本部からの緊急連絡です!」

「なんだ、どうした?」

「ソレスタルビーイングが来るそうです!」

「そうかここに来るか……、各部隊に通達……」

ザザザザザザザザザザザザザ

「っ!?な、なんだ!?」

部下に指示を出そうとした瞬間、突然のノイズとともに通信が途切れる。

「ま、まさか!もう来たのか!?」







セイロン島東部

「うわぁぁぁぁぁっ!!!!」

シンハラ軍のティエレンが足を撃ち抜かれバランスを崩す。
人革軍のティエレンはそのすきに接敵してカーボンブレイドを振り上げ振り下ろす。
だが、それは当たることはなかった。
桃色の閃光がティエレンの腕に当たりカーボンブレイドを持ったままのそれを切断した。
人革軍の兵士が苦々しげに視線を向けるとそこにはライフルを構えたソリッドがいた。

「来たのか……!ソレスタルビーイング!」

ソリッドはライフルをしまいビームサーベルを抜き放つ。

「ソリッド、紛争を確認。根絶する。」

ソリッドはそのまま敵陣への突入を開始する。
腕を落とされたティエレンが仇とばかりに迫るがビームサーベルで脚を切り落とされそのまま倒れてしまう。
周りも機銃で攻撃をしかけるがそのほとんどがかわされ、当たったとしても967が制御する極小のGNフィールドに防がれる。

「くそっ!」

しびれを切らした一機がソリッドに接近しようとする。が、ソリッドは滑るような動きでバックをとり、ビームサーベルとアームドシールドのブレードの二刀流で脚と腕を切断して無力化する。
そして、その勢いのままに残っていた機体も同様に手足や武器のみを切り裂き無力化した。

「オミゴト、オミゴト。」

「そらどうも。って!」

967の賛辞をさらりと受け流すユーノ。と、そこに砲弾が飛んできてソリッドにヒットして黒煙が発生する。

「やったか!?」

人革軍のパイロットは倒すに至らぬまでも手傷を負わせたことを確信していた。だが、煙がはれるとアームドシールドを構えたソリッドが無傷で出現する。

「む、無傷だと!?」

その光景を見ていた全員に動揺がはしる。やっと自分たちの攻撃がまともに当たったのにダメージがないのだから当然である。

「不意打ちとはやってくれんじゃねぇか。」

「油断スンナ、油断スンナ。」

「わかってる、よっと!」

ユーノは操縦桿を前に倒してティエレンに接近していく。
恐れをなしたのか撤退しようとしているが、構わずに勢いをのせたブレードで両脚を切断する。

「一時退避だ!急げ!」

「逃がすかよ!」

ビームサーベルをしまい、再びライフルを抜いて逃げるティエレンを撃ち抜いていく。
そして、敵を戦闘不能に追い込むとあたりを見回し周辺に敵がいないことを確認する。

「ここはあらかた片付いたな…、そんじゃお次は頭をつぶすとしますか。」

とそこに通信が入る。

「あらら、結局来ちゃったか……」

モニターに映し出されたのは二機のガンダム、ヴァーチェとエクシアだった。







人革連 駐屯基地

けたたましいアラームの中、兵士たちは増援の発進準備を進めていた。

「急げ!」

が、そこにヴァーチェが現れる。

「ヴァーチェ、目標を殲滅する。」

ヴァーチェは両肩に装備された砲門、GNキャノンを下に向け光の柱を発射する。
激しい光にさらされた駐屯基地は爆発することも許されず溶解した。

「目標の殲滅を確認。残存勢力の掃討に入る。」

それだけ言い残すとティエリアは新たな標的を求め飛んで行った。




セイロン島沿岸

「く、くそっ!化け物め!!」

人革軍の艦艇の甲板の上ではティエレンが上空を舞うエクシアに対して砲撃を行うが、それをあざ笑うかのようにエクシアはかわしながら接近してくる。

(民族紛争……)

刹那は対峙するティエレンの攻撃をかわしながら自分にとっての始まりの場所を思い返していた。








硝煙と血のにおいが漂う中、先に逃げてしまった大人たちの無責任な言葉が響く戦場。
周りには仲間だったものの死体が転がり、MSが周りに向けて機銃を掃射する。それを紙一重でかわし必死に市街を駆け抜ける。
そんな死臭が漂う中、刹那は大人たちが言う“神”がどこにもいないことを確信していた。
だが、それでも戦わなければならない。生き残るために。
そして、ガンダムに出会った。彼が今ここにいるきっかけを作ったものと。








刹那はキッと視線を鋭くして敵を見る。この世界を歪ませているものを。

「エクシア、目標を駆逐する。」

刹那はGNソードの刃を起こすと甲板の上のティエレンを次々に切り裂き全滅させた。
そして、艦艇の先頭部へと飛翔するとそのまま旋回しソードを突き立てる。

「うおおおおおぉぉぉぉぉっっっ!!!!」

刹那の咆哮に呼応するようにGNドライヴから漏れる粒子が増加する。
エクシアはそのまま加速し艦の後部へと突き進み一直線の赤いラインを刻んだ。
ラインから断続的に火花が散り、その量が増えたかと思った瞬間そこから爆発が起こった。

「目標の破壊に成功。これより残存勢力の殲滅に向かう。」

刹那はこみ上げてくる思いをぶつけるように操縦桿を深く倒し内陸部へと向かっていった。








セイロン島 内陸部

「ふぅ。」

ユーノは撤退を開始した人革軍とタミル軍を見ながら一息ついた。

「オリコウサン、オリコウサン。」

「ああ、あっちはな……」

今のところシンハラ軍は動きを見せてはいない。このまま戦闘が終了すればベストなのだが、そうもいかないようである。

「協力を感謝する!今までの借りを返してやる!」

「チッ!」

ユーノは即座に攻撃態勢に入るが、攻撃の必要はなかった。
上空からエクシアが降りてくると同時にティエレンを両断した。

「刹那……」

ユーノはほっとしたような、そしてどこか悲しげな笑顔でエクシアを見つめる。

「……これが、ガンダムマイスターだ。」

刹那は自分たちの意思を自らに言い聞かせるようにつぶやいた。







JNN本社ビル

「どう?見つかった?」

「ビンゴですよ、絹江さん!」

絹江・クロスロードは同僚が見つけ出したデータを見て満足げな笑みを漏らす。

「やっぱり…イオリア・シュヘンベルグ。」

絹江は最初に街で見たときからモニターの奥の人物がイオリアだということに気付いた最初の人間だろう。
彼女は自身の予測が当たっているのかどうかを確かめるため同僚に頼み調査してもらっていたのだ。
そして、その予測は当たっていた。しかし、

「でも、この人に二百年以上前の死んでますよ。」

そうなのだ。彼は二百年以上前の科学者である。そんな人物がガンダムのような超高性能なMSをつくりあげていたことに驚かされる。
いや、そもそもソレスタルビーイングが二百年以上前にすでに存在していた可能性があるのだ。

(すごい…なんてもんじゃないわね。)

絹江が感心していた時オフィスに声が響く。

「ソレスタルビーイングが出た!?」

その場にいた全員が声のほうを向く。

「タリビアの麻薬畑を爆撃…、南アフリカの鉱物資源をめぐる紛争に介入…、そして、旧スリランカの紛争に武力干渉…双方に攻撃!?」

オフィスにざわめきがはしる。

「そんなことしたら双方の感情を悪化させるだけなのに……」

300年以上続いている紛争がたった一回の介入で止まるわけがない。
そのことはソレスタルビーイングもわかっているはずだ。

(だったらなぜ……?)

彼らが何を目的にしているのかが絹江にはわからない。
だが、彼らの行動には何かしらの目的があるはずだ。

(だったら、とことん調べるまでよ。)

絹江はソレスタルビーイングについての本格的な調査を開始することを決意した。
後にそれが彼女に思いもよらぬ結果をもたらすことも知らずに……。







ユニオン軍輸送機

「旧スリランカ領セイロン島に三機のガンダムが出現しただと!?」

グラハムは通信を聞いて驚かされる。
ほんの少し前まで自分たちの目の前にいた機体がもうすでに別の場所に出現したのだ。

「セイロン島…確か少数派のタミル人と多数派のシンハラ人との間で民族紛争が起こっていたね。」

「ああ、人革は平和的解決のためと称してタミル人に肩入れしているが、実際は太陽エネルギーケーブルの安全確保のためだ。」

話が終わるとグラハムは少し考え込んで通信を開いた。

「キャプテンに言って進路を変えてもらってくれ。あとフラッグの整備を頼む。」

カタギリは驚いて椅子から腰を上げる。

「まさか…!それは無茶だよ…」

「フッ、熟知している。」

カタギリが見つめる先には少年のような笑みを浮かべたグラハムがいた。









インド洋  海上

『そっちもうまくいったみたいだな。』

ユーノとティエリアは別のミッションに行っていたロックオンとアレルヤから無事に済んだとの連絡を受けてホッとしていた(ティエリアは相変わらずの無表情だが)。

『ところで刹那は?いくら呼びかけても通信がないし…。まさかやられたんじゃ!?』

「全員無事だって言っただろ。先に帰頭したよ。」

アレルヤは報告を受けほっとする。

『初めての紛争介入だ。思うところがあるのさ。』

『わからないな…なぜ彼がガンダムマイスターなのか…』

ロックオンの意見を否定するかのような話し方にその場にいた全員がおもわず苦笑する。

『そして、君もだ、ユーノ・スクライア。なぜ、いちいちコックピットを外している。』

確かにユーノは最初の介入の時から極力コックピットに当たらないよう心がけて攻撃していた。

「別にいいだろ。戦闘不能に追い込めば問題ないはずだ。」

『ガンダムマイスターとしての覚悟が足りないと言っている。』

「なかなか手厳しいね。けどな……」

ユーノの表情が厳しくなる。

「いざという時にはきっちり覚悟を決めるさ。仲間を守るためならな。」

そうだ。仲間を守るためならどんなに罵られてもかまわない。
世界から拒絶されてもかまわない。
それが自分のガンダムマイスターとしての覚悟なのだ。

『ならば、今度のミッションでその覚悟とやらを見せて欲しいものだな。』

嫌味ったらしい野郎だ。そう言おうとした時、アラームが鳴り響く。

「!?エクシアに急速に接近する機影!識別は…ユニオンの輸送機!?なんでこんなところに!」

しかも、ご丁寧にステルス使用である。
エクシアが接触していなければまず気付かなかっただろう。

「先行して刹那を援護する!」

『あっ!おいっ!!』

ロックオンが止めようとするのにもかかわらずユーノは刹那のもとへと加速していった。






インド洋 海上

「くっ!!」

刹那は驚愕した。
突然、輸送機から現れたフラッグは空中変形という離れ技をやってのけ、今まさに自分と鍔迫り合いをしているのだ。

「はじめましてだな!ガンダム!」

「くっ!何者だ!?」

刹那の言葉はフラッグに乗っているグラハムには聞こえないのだがそれにこたえるかのようにグラハムは叫ぶ。

「グラハム・エーカー……君の存在に心奪われた男だ!!!」

鍔迫り合いの中グラハムは親友のカタギリにすら見せたことのない最高の笑顔を見せる。
そして、背中のイオンプラズマジェットの出力を上げじりじりと押していく。
だが、刹那も黙ってはいない。
GNドライヴの出力を上げ相手のブレイドを弾き飛ばした。

「圧倒されただと!?だが…」

ソードを振りかざしてせまってくるエクシアを見てにやりと笑う。

「その大きな得物では当たらんよ!!」

自分の攻撃が軽々と避けられたことで刹那に動揺がはしる。
だが、それはすぐに消え去ることとなる。
フラッグは右手でエクシアの肩を掴みそのまま力を加えていく。

「手土産に破片の一つでもいただいていく!!」

刹那の心の中から動揺が消え去り、同時に怒りがわいてくる。
こいつは今何をしようとしている?
なぜ、自分のエクシアの肩を掴んでいる?
なぜ、自分に触れている?
なぜ……俺に触れている!!!!

「俺に…さわるなぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

刹那の咆哮とともにエクシアは回転しフラッグを引きはがす。
それでも、フラッグはライフルで反撃を試みるがそれは思わぬ妨害で失敗に終わる。
突然遠方から光の弾丸が飛んできてフラッグをかすめた。

「なにっ!?もう一機だと!」

グラハムが視線を向ける先には萌黄と白の機体ソリッドがライフルを構えてこちらに向かってきていた。

「ハズシタ、ハズシタ。」

「いいんだよ。やっこさんと本格的にやりあう気はない。もっとも、しつこいようなら容赦はしないがな。」

ソリッドはエクシアの隣に並び立ち、フラッグをにらみつける。

「どーする、フラッグのパイロットさんよ……」

ユーノの思いが通じたのかフラッグはひいていく。

「さすがに二体を同時に相手をする気はないのでね…。また会おう!」

グラハムは遠のいていくガンダム二機を見て思う。
ますます、恋焦がれていってしまうな、と。









?????

「あげゃあげゃあげゃあげゃ!こいつがイレギュラーの乗っている機体か!」

金髪の男が変わった笑い声で笑いながらソリッドの戦闘シーンを見ていた。
その手には手錠がかけられ、首には小型の爆弾が仕掛けられている。しかし、その目は鋭く、猫科の猛獣を思わせた。

「ユーノ・スクライア…。ソレスタルビーイングに保護され、そのままマイスターにまでのぼりつめた存在。」

眼鏡をかけた女性の言葉に隣にいたウェーブがかった髪の男がむっとする。

「こんなどこの馬の骨とも知れないやつをガンダムに乗せるなんて……」

「あげゃ、あんたより数段腕が良さそうだからな。だから乗ってんだろ。」

「なんだと!!!!」

ウェーブの髪の男、エコ・カローネは金髪の男に掴みかかろうとするが眼鏡の女性、シャル・アクスティカにとめられる。

「いい加減にしなさい。私たちはミッションの解析を行っている真っ最中なのよ。」

「グッ……!」

エコはそれきり黙ってしまい恨めしそうに金髪の男をにらむが、そんなことを気にせず男はソリッドの動きを観察していた。

(何やってんだこいつは?俺様たちはボランティアじゃねぇんだぞ。)

コックピットを狙わずに無力化していくソリッドを見ていらだちを募らせる。だが、

(だが、こいつは必死に感情を押さえこんでいる……)

ソリッドの攻撃は確かにコックピットこそ狙っていないが戦闘不能に追い込むには強すぎるものがいくつか混じっている。
まるで世界に対して怒りをぶつけるかのように。

(面白い……!)

男は口の端を釣り上げる。その様子を見ていたシャル達は彼の気配に当てられびくっと体を震わせた。

「おもしれぇ…、会いに行くぜ。」

予想だにしない言葉に固まっていたシャルが反応する。

「待ちなさい!我々の存在は彼らに知られては……」

「問題ないだろ。目的は一緒なんだ。遅かれ早かれ俺様たちのことは連中にもばれるさ。」

そう言うと男は立ち上がり扉へと向かう。

「確かシルトタイプFが完成したところだったな。それで行くぜ。」

シャル達は男を止めようとするがそれが不可能だと悟りその場に立ち尽くした。

(ユーノ・スクライア……。俺様がお前を見極めてやるよ。)

「あげゃあげゃあげゃあげゃあげゃあげゃ!!!!」

金髪の男、最凶最悪のガンダムマイスター、フォン・スパークは不愉快な笑い声を残し格納庫へと向かっていった。









変革を望む者は必ずしも同じ志をもつとは限らないものである。








あとがき・・・・・・・・という名の感謝

ロ「というわけでセイロン島編とフェレシュテ登場の回でした。」

ユ「それより言うことあんだろ。」

ロ「そうでした。ノイバーさん、おかげさまでPが手に入りました!!ご助言ホントにありがとうございました!!」

兄「一時期ホントに世界の悪意が見えるとかつぶやいてたもんなお前。」

ロ「いや、マジでそう思いたくもなるよ。ホントにいじめかと思ったもん。」

ア「まあそれはさておき、次回はサイドを書こうと思ってるんだよね。」

エ「てことはあたしの出番!?」

ロ「まあそうなるな(いつの間に……)。」

エ「ということで次回のあたしの活躍にみんな注目!そしてほめたたえなさい!」

ロ「いや、一応ユーノ中心の話だから。」

エ「ガーン!!!!」

ユ「具体的にはどんな?」

ロ「まあ、出来てからのお楽しみだ(にやり)。」

ユ「……なんか激しく嫌な予感しかしないな。では、最後にこのような拙い文に毎度付き合っていただいてありがとうございます!これからもよろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!!じゃあ、せーの…」

「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」



[18122] side1.run away ferret
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:2c640ca7
Date: 2010/05/27 18:39
これは、ユーノがソレスタルビーイングに馴染み始めた頃のお話です。



ソレスタルビーイング拠点 廊下

「はぁぁ~~~……。キツイ……」

ロックオンの猛特訓から解放されたユーノは肩を落としながら二階の廊下を歩いていた。
とそこに、

(ん?リヒティ?)

前から山積みの書類を両手に抱えたリヒテンダールがよろよろとこちらに歩いてきていた。

「おい、危ねぇぞリヒティ。」

「あ、ユーノ。ちょうどよかった。手伝ってく……うわわわわわ!!?」

「へっ!?」

協力を求めようとしていたリヒテンダールが躓き書類の波がユーノに襲い掛かった。

「おわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?」

そして、ユーノはそのまま近くの階段から転げ落ちていった。

「ご、ごめんユーノ!大丈夫……?」

リヒテンダールは慌てて階段の下を見るが、そこにはユーノの姿はなく書類が散らかっているだけだった。

「あれ?どこ行ったんだろ?怒って行っちゃたのかな?」

首をかしげながら書類を拾いリヒテンダールは目的地へと向かって歩いて行った。

彼は気付いていなかった。
階段のすぐ近くに一匹のフェレットが横たわっていることに……






魔導戦士ガンダム00 the guardian  side1.run away ferret

(い、てて……)

ユーノはしばらくして意識が戻った。
そして、あたりを見回すがリヒテンダールの姿は見当たらない。

(くそ、リヒティの野郎おいてきやがったな…。後で絶対シメテやる……!)

とリヒテンダールへの復讐を誓うユーノだったが自分の身に異変が起こっていることに気付く。

(?なんか周りのものがめちゃくちゃでかい…)

天井がいつもよりはるかに高い所にあり壁も心なしかいつもより威圧感を感じる。

(いったい何、が!?!!?)

そして、後ろを見た瞬間驚愕する。
そこには自分の背丈の数倍はあろうかという階段が連なっていた。

「きゅーーーーーーーっ!!!!?!?!!?(なんじゃこりゃぁぁぁーーーーーー!!!!?!?!!?)」

ユーノは叫んだ。
しかし、それは声にはならず代わりに甲高い鳴き声があがる。

(えっ!?なんだこれ!?なんで声でないわけ!?なんで、きゅーーーーーっ!なんて叫んでるわけ!!?)

続いて自分の手を見て驚愕する。
そこには自分の手ではなく小動物のような丸い手がある。

(うそぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!!!!)

ユーノはその場で慌てふためく。
その姿はまさに捕食者に追われる小動物のようだ。

(え、なに!?着グルミ着せられて妙な所に放り込まれたの俺!?)

とあり得ない考えを張り巡らせていた時、誰かに首を掴まれひょいと持ち上げられた。

「なんだ、こいつ?」

「きゅきゅっ!!(ロックオン!!)」

そこには自分のMSの操縦の教官、ロックオン・ストラトスの顔が目の前にある。

(でかっ!!成長期かなんかか!?)

ロックオンの顔も手もいつもよりはるかに大きい。

「フェレットかなんかか?大方、物資の搬入の時にでも紛れ込んじまったか。」

ははは、といつものような笑いを見せるとフェレット(ユーノ)を持ったまま自室へと向かう。

「まあ、元いた場所も分かんないからな。俺達で飼ってやるか。」

「きゅきゅきゅっ!きゅっきゅっ!きゅっー!(おいロックオン!俺だ俺!ユーノだ!)」

「ははは!お前も嬉しいか!かわいがってやるからな。」

「きゅーーー!!!(気付けよぉぉぉぉ!!!)」

必死で叫ぶがロックオンには理解されずにそのまま連れて行かれる。

(こうなったら……!)

ユーノは腹をくくると体をジタバタと動かし始める。

「こ、こらっ!暴れんな!!」

ロックオンは暴れるフェレット(ユーノ)を押さえようとするがフェレット(ユーノ)はするりと手から抜けるとひらりと着地して逃げ出した。

「あっ!待て!」

(待つかっ!!)







医務室

(フゥ~……なんとかまいたか。)

ユーノはロックオンの追跡から逃れ医務室に来ていた。

(たぶんモレノならなんとかしてくれる!……はず。)

期待半分、不安半分で扉の前に立つが

(………あかない。)

当然と言えば当然なのだが今の大きさでは扉が開くはずもない。

(どうすっかな……)

とその時、考え込んでいたユーノの前の扉が開き、その前には靴が見える。

(やっ、た!?)

喜びに浸ったのもつかの間、強烈なにおいが鼻をつく。

(酒臭っ!)

と、目の前の足がふらふらと動きユーノのすぐ近くに降りてくる。

「きゅーーーっ!!(あぶねぇぇぇ!!)」

「あ?モレノォ、なんか言ったかぁ?」

見上げるとそこには整備士のイアンが顔を赤くしながら同じく顔を赤くしているモレノに話しかけている。

「いんや?なんだ、もう酔ったかイアン?」

「ふん、まだまだいけるぞ!」

昼間から酒を飲み、あはははと馬鹿笑いをする二人を見てユーノは呆れる。

(駄目だこいつら……。もう出来上がっちまってる……)

ユーノは呑ん兵衛二人を見限り見つからないようにその場を後にした。







廊下

とぼとぼ歩いているとユーノは後ろから気配を感じて振り向く。
とそこには

「……………………」

自分をじーっと見ている刹那がいた。

「………………」

「………………」

二人はそのまま見つめあうが、刹那は視線を外しそのまま歩いて行った。

(……刹那ってやっぱ変わってるよな。)

そんなことを考えていると突然持ち上げられる。

「きゃーーー!!この子かわいいー!!」

「ホント!このふさふさ具合がサイコー!」

「きゅーー!!?(エレナとクリス!!?)」

ユーノが上を向くと自分を抱き上げているクリスティナとそれを覗き込んでいるエレナが見える。
二人ともペットがいないここでは珍しい小動物にはしゃいでいる。

「この子毛並み綺麗だね。でも少し汚れてるかな?」

クリスティナはフェレット(ユーノ)をなでながらポツリと漏らす。

「じゃあこの子と一緒にお風呂入って洗ってあげよう!」

「あ、それいいね!」

エレナとクリスティナはそう言うとユーノを連れて自室に向かう。が

「きゅーーー!!きゅっきゅっきゅーーー!!!!」

フェレット(ユーノ)が全力で暴れだす。

「きゃっ!どうしたの!?」

「きっと嬉しいんじゃないかな♪」

(いやいやいやいやいやいや!!風呂はまずいって!!!人から小動物になったけど今度は小動物から狼になっちゃうって!!!!!小さくても男はみんな狼なの!!!)

しかし、抵抗も空しくそのまま風呂場へと連れて行かれるユーノであった。










ユーノの人間としての尊厳を尊重して風呂で何があったかは語らないでおこう。







ユーノは服を着たエレナの腕の中で灰になっていた。

「なんか元気なくなっちゃたね。」

「エレナがあんなにゴシゴシ洗うからだよ。」

二人が見当違いな議論を進める中フェレット(ユーノ)の目に再び火がともる。

(うう……挫けるものか…。絶対もとに戻る方法を探し出してやる!)

とその時、扉が開きアレルヤが入ってきた。

「エレナ、スメラギさんが君に用だって……」

(今だ!)

フェレット(ユーノ)の目がキランと光る。
フェレット(ユーノ)はするりとエレナの腕から抜けるとアレルヤの足元を潜り抜けそのまま廊下に向かって駆け抜けていった。

「あ!待って!!」

「うわ!なんだ!?」

「アレルヤ!その子捕まえて!!」

クリスティナがアレルヤに頼むが時すでに遅し。
フェレット(ユーノ)は遥か彼方へと逃げていってしまった。








ブリーフィングルーム

「遅いわねあの子……」

「そうっすね……何かあったのか?」

スメラギとラッセはブリーフィングルームでエレナを待っていた。
とその時、廊下からドスドスと走り回る音が聞こえる。

「「??」」

二人が頭にクエスチョンマークをいくつも浮かべていると突然扉が開きエレナとクリスティナ、そして引きずられるようにアレルヤが飛び込んできた。

「エレナ遅いわよ!それに何の騒ぎ……」

「スメラギさん!ここにフェレット来ませんでした!?」

「「フェレット?」」

エレナの問いにスメラギとラッセは首をかしげる。

「えっと、なんでもエレナとクリスが見つけて飼おうと思っていたらしいです。あと、ロックオンも同じようなこと言ってました。」

アレルヤが事情を二人に説明する。

「なるほどね……。わかった、協力してあげるわ。」

スメラギがニヤリと邪悪な笑みを浮かべる。

「ス、スメラギさん……?」

その気配をいち早く感じ取ったクリスティナは恐怖に震える。

「クリス………これから言うことを全館に流しなさい……。ふふふふふふふふ…………」










廊下

(ここまでくれば………)

ユーノはエレナの部屋からかなり離れたところで一息ついていた。が、安息の時は短かった。

『総員に通達!現在フェレットが逃亡中!!全員で捜索してこれを捕獲せよ!!繰り返す……』

(なにぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!?)

ユーノは予想外の展開に驚愕する。とそこに、

「みーつけた!!」

再びエレナ登場。そして、突進。

(NOーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!)

ユーノは全力で走りだすがなかなか距離が広がらない。
まさに乙女の底力とでもいうものだろうか。

そんな中、ユーノは走りながらこの事態についての思考を開始し、即座に答えへと到達する。

(スメラギさんかぁぁぁぁぁぁ!!!!あの人何悪乗りしてんのぉぉぉぉぉぉ!!!!!!)

いつもはまじめなスメラギだがごくたまにこういった悪ふざけをする。
普段は大したことはないのだが、今回ユーノにとっては最悪の事態である。

「待って~~!!せっかく餌も用意したのに~!」

エレナの手にはどこから持ってきたのかペットフードが握られている。

(いやぁぁぁぁぁぁ!!それはホンットにやばいって!!)

確かにあれを口にしてしまえばもう完全なペットになり果てるだろう。それは何としても避けたい。

(こうなったらエレナのスタミナが切れるまで逃げ回るしか…ってうおおおおおぉぉぉぉぉぉ!?)

ユーノの目の前に『カカッ!』という音ともにナイフが刺さった。

(いったい……!?)

ナイフの飛んで来た方向を見るとそこには……

「刹那・F・セイエイ、目標を駆逐する。」

指に投げナイフをいくつもはさんだ刹那が自分を見下ろしていた。

(ぎゃぁぁぁっっっ!!刹那ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!)

「ちょっと刹那!その子を始末するんじゃなくて捕まえるの!」

「…急所は外してある。」

(いや、はずしててもダメだろ!!)

心の中でつっこむユーノだがはたと気付く。
二人は話に夢中で自分のことを忘れているようだ。

(今のうちに……)

気付かれないようにユーノはそろりそろりと歩いて逃げ出した。







廊下

(はぁはぁ…ここまでくれば。)

その後、途中でロックオンやラッセ、そしてなぜかいつもとは打って変わって凶暴な性格のアレルヤ(?)に追いかけまわされたユーノだったが、なんとかここまで逃げ切ってきた。

「?この子……」

「なるほど、どうやらこれが今回の馬鹿騒ぎの原因らしいな。」

聞きなれた声にユーノは凍りついた。
振り向くとそこにはいつも無表情な二人、フェルトとティエリアがいた。

(やばい……!これはマジでやばい!)

フェルトはともかくティエリアは本気で自分を駆除しかねない。
しかし、その心配は必要なかった。

「むっ……」

ユーノの振り向いた姿を見た瞬間ティエリアの頬が赤く染まる。
よく見るとフェルトも頬を赤くし、目をキラキラ輝かせ年相応の女の子のように見える。

「きゅう?(えっ?何これ?)」

ユーノはクエスチョンマークを頭の上に大量に浮かべているとフェルトが突然抱き上げた。

「かわいい……」

「まさか、この僕が!?いや、しかしこの感情は…!」

(おいぃぃぃぃ!!なんか二人ともキャラ変わっちゃってるから!しかも、ティエリアがハァハァ言ってて怖い!!)

普段の二人からは想像できない姿にユーノは驚きを通り越して恐怖すら覚えてくる。

「きゅうぅぅぅ!!!(燃えろぉぉぉぉ!俺の中の何かぁぁぁぁ!!)」

ユーノは全力で体をくねりフェルトの腕から脱出する。

「あっ!待って…!」

走り去るフェレット(ユーノ)の背中をフェルトは寂しそうに見つめていた。









二階廊下 階段付近

結局ユーノはリヒテンダールとぶつかった地点に戻ってきていた。

(…俺、一生このままなのかな……)

言いようのない不安がユーノを襲う。
とその時、誰かがユーノを蹴飛ばした。

(いってぇぇぇ!って、うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!?!!?)

そして、そのまま階段の上空に放り出される。
ユーノを蹴った人物それは

「ん?今何か……」

ユーノの現状を生み出した張本人、リヒテンダールだった。

(リヒティィィィィィィィ!!!!!!!!)

再びユーノはリヒテンダールに何も言えぬまま階段の下へと落ちていった。










一階廊下 階段下

「……ノ。」

(う、ん……)

誰かがよびかける声でユーノは徐々に意識がはっきりしてくる。

「ユーノ。」

「んあ?」

ユーノが目を覚ますと目の前にはリヒテンダールがいた。

「リヒティィィィィィ!!!!!!!!」

「ぐはっ!」

ユーノは起きると同時にリヒテンダールに鉄拳制裁をくわえる。

「てんめぇぇぇぇぇぇ!!!俺置いていくたぁいい度胸だなぁぁぁぁ!!!!!!!」

「な、何言ってんの!?落ちたから心配で見に来たのに!」

「へ?」

リヒテンダールはユーノに殴られた頬をさすりながら抗議する。
そして、ユーノは重要なことにこのときになってようやく気付く。

「……リヒティ、俺の言葉がわかんのか?」

「…何言ってんの?」

訳がわからないといった様子でユーノを見るリヒテンダール。

「頭うった?」

「い、いや、なんでもないんだ。」

二人はそれだけ言葉をかわすと背を向けあって去って行った。

(夢……だったのか?それにしちゃやたらリアルだったような……)

ユーノは頭の中に浮かんだ風呂場の光景を必死に頭を振って振り払う。
そして、悶々としたまま自室へと帰って行った。

(危な~~。なんとかごまかせた。)

実はリヒテンダールが件の階段を通りかかるとそこにユーノが倒れていたのだ。
そこで、リヒテンダールは自分の失敗を誤魔化すことにしたのだ。

(それにしてもフェレットってどんなんだったんだろ?)










その後、フェルトとティエリアが怒鳴りこんできて騒ぎは一応の終息を見た。
そして、スメラギ達はフェルトとティエリアのこのことは二度と口にしないという要求をのむはめになる。
そして、ある時までユーノはこの件を夢だと思い込んだままになるのだった。










あとがき・・・・・・・・という名の激怒

ユ「ロビィィィィィィィン!!!!!!!!!あのクソ作者どこだぁぁぁぁぁ!!!!!!」

黒「いやな予感がするからと言って僕にメモを渡して逃げた。というか僕は初めてまともな形であとがき登場だな。みなさまお忘れかもしれませんがクロノです。」

ユ「そんなことどうでもいいんだよ!なんなのこれ!きっと読者の皆さまもきっとお怒りだよ!」

黒「それは読んでいただかないとわからんさ。あと、これがお前の本来あるべき姿だ。」

ユ「なんだとぉぉぉ!!!!仕事漬けの青春でまともな恋もしたことないくせに!!!!!」

黒「失礼なこと言うな!!しっかりエイミィと恋愛結婚してるぞ!むしろお前やなのは達のほうが灰色の青春だろうが!!」

ユ「うっさい!!!お前らが仕事を大量に持ち込むからあんなことになったんだろうが!!!」

ぎゃあぎゃあ言いあう二人を見るヒロインとその友人二人。

狸「…管理局、大丈夫なんかな?」

フェ「あの二人が特殊なだけだよ。」

な「そんなこと言ったら私たちもだけどね。さて、みなさん。次回はいよいよフォン・スパークが接触してきます!」

フェ「シルトはどんな感じになってるんだろう?」

狸「まあ、あんま期待するのはアカンと思うで。」

な・フェ「「なんで?」」

狸「だってこの状況作って逃げるやつが書いとるんやで?」

魔法少女三人、魔法やMSまでもちいて乱闘を繰り広げる二人を見て遠い目をする。

な「まあ、どうしようもなかったらアクセルシューターをちらつかせればいいと思うよ♪」

狸「なのはちゃん、それは脅迫や。」

フェ「で、では、最後にこのような拙い文章を読んでくださった皆さん、本当にありがとうございました!では、せーの……」

「「「次回をお楽しみに!!!」」」






黒「ブレイズキャノン!!!!」

ユ「なんの!GNバンカーをくらえぇぇぇぇ!!!!」

二人の戦いはいつまでも続く……





[18122] 9.接触
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:2c640ca7
Date: 2010/05/27 18:39
ユニオン 経済特区 東京

『…私たちはソレスタルビーイング。機動兵器ガンダムを有する…』

「またやってる…、これで何度め?」

ルイス・ハレヴィは夕方の帰り道でつい先日放送されていた声明を再び聞いていた。
ここのところどこへ行ってもこの放送ばかりが流れていることが平和なこの国で過ごしているルイスにとっては不思議で仕方がなかった。

「お~い、ルイス~!」

そこへ、彼女の友人、沙慈・クロスロードが走ってきた。
長い距離を走ってきたのかルイスの隣までくると膝に手をついて荒く呼吸をした。
しかし、落ち着いてからルイスが見ているものを見て先ほどとは違って困惑した表情を浮かべた。

「ねぇ、ルイス。ソレスタルビーイングなんているのかな?」

「え?」

沙慈の突然の質問にルイスは間の抜けた返事をしてしまう。

「自分の利益にならないのに行動する人たちなんているのかな?」

「きっとすごいボランティアなんじゃない?」

沙慈の問いに対し、無垢な笑みを浮かべてどう考えても的外れな答えを言うルイス。
その顔を見て思わず沙慈はため息をついて視線をそらし、一人で歩いていってしまった。

「あっ、沙慈!待ってよ。」

ルイスは慌てて沙慈のあとを追いかけていった。
画面の向こうで老人がしゃべっていることは自分たちとは無縁のものだと思いながら。







魔導戦士ガンダム00 the guardian 9.接触

人革連軌道エレベーター 天柱 地上ステーション

宇宙へと上がる人々の声とアナウンスが響く空間にロックオンたちはいた。

(遅いな、あいつら)

ティエリアを宇宙へ送り出すためマイスター全員がここに集まることになっていたのだが、まだ刹那とユーノは到着していなかった。

そこへ、自動ドアの向こうから刹那とユーノが現れた。
それを見たロックオンは顔をほころばせる。

「よお、遅かったじゃないか、このきかん坊め。」

「それは、刹那のことか?俺のことか?」

「どっちもだ。」

ロックオンの答えを聞いたユーノは「ちぇ。」と舌打ちすると三人のたつテーブルへ歩いていく。

「死んだかと思った。」

ティエリアの発言に刹那との間の空気が険悪なものへと変わる。
ロックオンとユーノはフゥとため息をつき、アレルヤは困ったような笑みを浮かべた。

「ヴェーダに報告書を提出していた。」

「あとで閲覧させてもらうよ。」

「ああ、好きにしろ。」

「ま、まあ全員無事で何よりってことで!」

その場の雰囲気にたまりかねたロックオンが必死の笑顔で場を和ませる。
しかし、言い終えた次の瞬間にはその笑顔は鋭いものになっていた。

「ティエリア、宇宙のほうはよろしくな。俺たちは次のミッションに入る。」

「命令には従う。不安要素はあるけど。」

そう言ってティエリアは刹那とユーノに視線を向ける。
刹那は相変わらずの無表情だがユーノの口元には苦笑が浮かぶ。

と、そこへウェイターがマイスターズのテーブルにやって来る。

「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ。」

そう言って彼は刹那とユーノの前に液体の注がれたコップを置いて去っていく。
そのコップの中身は、

「「……ミルク?」」

二人は同時に顔を上げロックオンの顔を見る。

「俺のおごりだ。」

「……ガキ扱いすんなよな。」

「未成年がナマ言うんじゃない。そういうことは酒を飲めるようになってから言え。」

ユーノはロックオンの笑顔の前に今回もしぶしぶ引き下がった。




リニアトレイン

その後ティエリアはロックオンたちと別れ、宇宙へと向かうリニアトレインの中にいた。
遥か上空へと登っていく様子を窓から眺めて物思いにふけっている。

「…やっと戻れる。地上は嫌いだ…」





地上ステーション

「しかし、本当にできるのかい?機体を軌道エレベーターで宇宙に戻すなんて…」

アレルヤの心配は当然のものだった。
ガンダムは単機での大気圏突入はできても離脱することはできない。
そのため宇宙に戻すには資材搬入用のリニアトレインに乗せるしかないのだが、ばれれば当然大騒ぎになり、軍も出動するだろう。

「心配ない、予定通りコロニー開発用の資材に紛れ込ませた。重量が同じで搬入されちまえば荷のチェックはないに等しい。特にここではな。」

アレルヤはロックオンの説明を聞いてなるほどと納得する。

「……まさしく盲点だね。僕たちに弱点があるとすればガンダムがないとプトレマイオスの活動時間が極端に限定されてしまうところかな。5つしかない太陽炉が……」

言葉の続きを言おうとするが刹那に肩を掴まれ強制的に止められる。

「機密事項を口にするな。」

「わ、悪かったよ……」

「そんなむきになんなよ。普通の奴らには何言ってるかさっぱりなんだから。」

困っていたアレルヤにユーノが助け船を出しその場を収めた。
そして、ステーションの外へ出るとロックオンが大きく伸びをする。

「さぁ~て、帰るかぁ。」

「少しは休暇が欲しいけどね。」

「全力で同意させてもらうよ。」

「まあ、そう言うな。鉄は熱いうちに打つのさ。一度や二度じゃ世界は俺たちを認めたりはしない。」

各々意見を言いながら帰っていくその後ろでは人革連の軍人達が扉の前で誰かを待っていた。
そして、自動ドアが開きその誰かがやってきた。

「お待ちしておりました中佐。」

そう言うとその場にいた全員が宇宙から戻ってきたセルゲイに対して敬礼をした。

「宇宙はいかがでしたか?」

「…心地いいな、重力というものは。」

「お察しいたします。」

普通の人間にとって無重力空間の宇宙より地上にいるほうが気分が安らぐものである。
軍人である彼らも例外ではない。

「では、司令がお待ちです。」

そういって、セルゲイの荷物を持とうとするが手で止められる。

「その前にセイロンへ立ち寄りたい。」

「しかし、それでは……」

「私は自分の目で見たものしか信じない男だ。司令も了承される。」

そして、セルゲイたちはセイロン島へと向かった。
そこで、刹那とエクシアに出会う事など知らずに……。






MSWAD本部

「転属命令…?」

「対ガンダム調査隊……ですか。」

エクシアとの戦闘後、カタギリとグラハムはMSWADの本部へと招集された。
ライフルを失ったことに対し何らかの叱責があると思っていたグラハムだったが、予想に反し何の咎めも受けず、逆に対ガンダム調査隊への転属命令という彼にとっては僥倖ともいうべき措置が待っていた。

部隊の構成員を見ていたカタギリだったが、その中に見知った名前を見つけた。

「レイフ・エイフマン教授…!技術主任を担当するんですか!」

「上はそれだけ事態を重く見ているということだ。早急に対応しろ。」

「はっ!グラハム・エーカー中尉、ビリー・カタギリ技術顧問。対ガンダム調査隊への転属命令、受領いたしました。」

こうして、彼らのガンダムとの長い付き合いが始まった。






南アメリカ ユニオン軌道エレベーター『タワー』 北西部

「テロリストねぇ……遠路はるばる中東からとはご苦労なこった。」

ユーノはヴェーダからのミッションプランを再確認してため息をついた。
今回のミッションは中東からきた過激派のテロリストを邀撃するというものだ。

「石油が使えなくなったのは気の毒だけどもっと穏便にできないもんかね。」

中東の国々の多くは軌道エレベーターの建設には参加していなかった。
そのため、太陽光発電の恩恵を受けることができず、二酸化炭素の回収義務や主財源であった石油の輸出ができないことによる経済的圧迫によって厳しい状況に置かれていた。
くわえて、宗教や政治的対立から紛争が絶えず起こっていた。
そのため、そこは戦闘を行い利益を得るような人間や過激な思想の持ち主の温床となっていた。

「しかし、皮肉なもんだな。まさかユニオンを守るはめになる日が来るとはな。」

ユーノはユニオンのエレナに対する仕打ちをいまだに忘れてはいなかった。
それでも戦うと決めたからには軌道エレベーターを守り抜くが、それでも許せないという思いを消すことはできない。

「…やっぱ連中は許せそうにねぇや、ロックオ、ンッ!」

独り言をつぶやいていたユーノだったが、突然頭を万力で締め付けられるような痛みに襲われた。

「くっ……!ああぁぁっ!」

「ユーノ、ダイジョブカ?ダイジョブカ?」

967が心配そうにユーノに話しかけるが、しばらくするとユーノは少し息が荒いもののいつものような人懐っこい笑みを967に向ける。

「…大丈夫だ。心配かけたな相棒。今度モレノに頭痛薬貰っとくよ。」

967の頭をなでるとうれしそうに耳をパタパタさせる。
しかし、ユーノは別のことを考えていた。

(ここんとここういうのが多いな…。記憶が戻りかけてんのか……?)

ユーノはエレナの死後からちょくちょく今回のような頭痛に悩まされていた。
しかも、そのたびに見覚えのない光景や声が頭の中に浮かんではすぐに消えていく。
しかし、今回は少し違っていた。

(……よりによって死体の山の中に入っているヴィジョンとはな。しかも、今までで一番はっきりとしたものだった。)

普通はすぐに消えてしまったり、大した情報ではないものばかりだった。
しかし、今回のものははっきりしたものだった。
それだけでなくユーノ自身、どこか自分にとって重要なもの、忘れていてはいけないもののように思えた。

(喜ぶべき、なんだろうけどな……)

ユーノは不安だった。
もし記憶が戻ったら自分はどうなるのか。
今までのことを忘れてしまうのではないか。
忘れなかったとしても仲間たちを裏切ることになってしまうのではないか。

「ユーノ?ユーノ?」

967のよびかけにユーノは意識をそちらに向け、フッと笑う。

(考えてても仕方ないよな。それに、その時何かあったらあいつらがなんとかしてくれる。)

頼りになる仲間たちの顔を思い浮かべた。
と、その時

「目標補足!目標補足!10時方向30㎞!」

967があわただしく報告をする。
それを聞いたユーノは気を引き締め操縦桿を握る。

「チッ!もうチョイタイミング考えろよな!ユーノ・スクライア、ソリッド、目標を粉砕する!」

ユーノはソリッドを起動し目標地点に向けて飛び立っていった。









ジャングル地帯

うっそうとしたジャングルの中を頭が極端に飛び出たティエレン似の機体、ファントン十機が進行していた。

「もうすぐだ…もうすぐあの忌々しい軌道エレベーターに神の鉄槌を下せる!」

彼らは全員息まいていた。
ユニオンのタワーは彼らの国の状況とは直接的には関係ないが、それでも怒りというものの矛先はどこへでも向けられるものなのだ。

「見ていろ……!今に…」

と、その時だった。
突如空からピンク色の閃光がファントンの頭を貫いた。

「な、なんだ!?」

全員が空の向こうへと視線を向ける。
その先にはライフルを構えたソリッドがいた。

「ガ、ガンダム!!!」

「さっさと逃げろよ。俺はともかくユニオンの連中は容赦ないぞ。」

ユーノはそのままライフルをファントンの周囲へライフルを発射する。
しかし、ファントンたちは構わず進行する。

「くっ!しゃあない!」

ユーノはビームサーベルとアームドシールドを構えそのまま突進し、ファントンたちの武器や脚部を次々と切り捨てていく。

「ラストォ!」

最後の一機の両腕を切断し蹴り飛ばして倒すとビームサーベルをしまう。

「……くくくくくっ。」

突然最後の一機から笑い声が聞こえる。

「あれを狙っているのが我々だけだとでも思ったか?」

ユーノはハッとする。

「!!しまった!」

「もう遅い!」

突然最後のファントンの内部から強烈な光が放たれ爆発が起こる。
しかし、もうもうと立ち込める爆煙のなかからGNフィールドをまとったソリッドが飛び立った。

「馬鹿野郎……!」

煙を見つめながらユーノは苦々しげにつぶやいた。







軌道エレベーター

タワー周辺に三機のファントンがいた。
ガンダムが出現したとの報告を受けて警備にあたっていたMSもそちらに向かい手薄になっている。
それでも、彼らもただでは済まないだろうが最初から死ぬ気なのだから関係ない。
肩に装着した特注の200mmキャノンを構えて発射態勢に入る。

「同志よ、よくやった。これで…」

「お前らも死ねるなぁ。」

そんな言葉とともに突如紫紺の突風が吹き荒れキャノン砲を構えたファントンが真ん中から両断され爆発した。

「「!!!!?」」

残りの2機はその突風の正体を見る。
全体がどこか禍々しさを感じさせる紫紺でカラーリングされ、両手には2種類の巨大な盾を持っている。顔の部分にはフラッグを思わせるようなバイザーが装着されている。

「あげゃげゃげゃ!残念だったな!防衛任務なんざ柄じゃないがアイツももうすぐMS隊と接触するだろうからな。さっさとお前らをしとめて行かせてもらうぜ!」

紫紺のMS、ガンダムシルトタイプFのパイロット、フォン・スパークはそのまま右腕に装備したバンカーシールドを一機に叩きつけ、もう一機のほうへと向け圧縮粒子を解放した。
勢いよく飛んで行ったファントンともう一機のファントンが激突し、二機は爆発、炎上した。

「さて……行くとするか。あげゃげゃ!」







ジャングル上空

「くそっ!どけ馬鹿野郎!別働隊が狙ってんだぞ!!」

ユーノは毒づくがそんなことを知らないフラッグ達は包囲してなかなか道を開けない。
しかも、コックピットを外して撃っているのでなかなか決定打を与えることができない。

「くそ!間に合わねぇ!!」

「あげゃ。じゃあ、手伝ってやるよ。」

「!?」

突然の声に驚くユーノだが、そんな暇もなく目の前にいた二機のフラッグが何かに切り裂かれ爆散する。

「そんな…馬鹿、な……」

ユーノは自分の目を疑った。
目の前にいる紫紺の機体。
細かいところに差異はあり、フラッグのようなバイザーを顔につけGNドライヴの部分が偽装されているが見間違えるはずがない。
大切な仲間が乗っていた機体。
自分が本来受け継ぐはずだった機体、ガンダムシルトがそこにいた。

「なんで…なんでここにいるんだ!!」

回収されたあの日以来見ていないエレナの機体を見て動揺を隠せないユーノ。
しかし、状況がそれを許さない。
周りのフラッグが一斉にユーノ達に接近してくる。

「あげゃ、ボーっとすんなよ!」

シルトはブレードシールドを横に振りフラッグたちを切断していく。

「めんどくせぇ!これで充分だろ!」

周りのフラッグをブレードシールドで切り裂きながら遠方の敵に対してはコックピットを頭部のバルカンで的確に潰していく。

「あげゃげゃげゃげゃげゃ!!!!」

「やめろ…」

自分とは正反対の戦い方をするシルトをユーノは茫然と見つめる。

「やめてくれ…」

ユーノの心が悲しみで埋め尽くされていく。
まるで、エレナがよみがえり復讐にはしってしまっているようで。
エレナが今の自分のような存在になっていくようで。

「やめろぉぉぉぉぉ!!!!!」

ソリッドははじかれたようにシルトへと飛び出し後ろから抱きつくようにその攻撃を止める。

「やめろ!こいつらを攻撃する必要はないはずだ!」

ユーノは接触回線でシルトのパイロットに語りかける。

「あげゃげゃげゃげゃ!何言ってんだ!てめぇが余計なもんにとらわれてるせいでできないことを俺様が代わりにしてやってんじゃねぇか!」

ユーノはその時シルトのパイロット、フォン・スパークの顔を見た。
猛獣を思わせる鋭い目を持ち、笑っている口からは牙のような八重歯がのぞいている。

「てめぇだってホントはこいつらが憎くて憎くてしょうがねぇんだろ!この世界が憎いんだろ!?だから世界を変えようとしてんだろ!!」

「違う!俺は……がぁっ!?」

再び、ユーノの頭に激痛がはしる。
その影響でシルトの拘束が緩んでしまいシルトが解き放たれた。

「GN粒子チャージ完了!チャージ完了!」

シルトのコックピットにいた三角耳のハロ、874がフォンに報告をする。

「あげゃ!やっとか!」

待ちかねたというようにフォンは右腕のバンカーシールドを近くのフラッグに叩きつけると、そのまま数機のフラッグも重ねておしていく。

「何があったか知らねぇが、そこで黙って見てな!」

フォンはそう言うとバンカーシールドにため込まれた粒子を解放し、フラッグたちを残りの機体に向けて吹き飛ばし全滅させた。

「う、ううぁぁっ……!!」

「ユーノ!ユーノ!」

967が必死に話しかけるがユーノはそれどころではない。
ずきずきと痛む頭をかかえて尋常ではないほど苦しんでいる。

「フォン、ソリッド変!ソリッド変!」

「あげゃ?」

874の言葉を聞いてソリッドのほうを見る。
そこにはふらふらと揺れるソリッドが徐々に高度を下げている光景があった。

「チッ。874、お前の兄弟に連絡しな。治療できる施設に連れていってやるから誘導に従えってな。」

「了解!了解!」

874は耳をパタパタ動かし967との交信を開始する。

「ハロー、967!ハロ!」

「了解、874!了解!」

すると、それまでふらふらしていたソリッドの姿勢が安定する。

「おい、なにやってんだてめぇ。」

「ぐぅぅああぁぁぁ!!!」

フォンは呆れたように聞くが、ユーノは苦しみ続けフォンの問いに答えることができない。

「う……あ…………」

そして、そのままユーノは意識を手放してしまった。









???

『やれやれ、世話の焼ける奴だ……』

その男は光の流れの中にいた。
周りには何もなく、ただ光の奔流といくつものモニターがあるだけである。
その光景から、そこが現実に存在している空間でないことがうかがえる。

『ユーノ…お前はどちらを選ぶ?奴の言うように復讐のために世界を変えるのか。それとも……』

『グラーベ・ヴィオレント…』

男は長い黒髪をなびかせ声のしたほうを向く。
そこには水色のショートヘアをした少女がいた。

『874か…。』

『指示に従って。』

少女は無表情で機械的に用件を伝える。

『フェレシュテのことはソレスタルビーイングには明かさない約束のはずだ。』

グラーベと呼ばれた男は874に鋭い視線を飛ばす。

『今回はこちらも予想外でした。しかし、ヴェーダはフォンの行動を容認しています。』

『フォン…奴か…』

グラーベはどこか疲れたような表情を浮かべる。

『とにかく今はユーノ・スクライアの治療が最優先です。こちらの指示に従ってください。』

グラーベはフゥとため息をつくと874を見る。

『了解した。だが、一つだけ言わせてもらおうか。』

『?』

『俺はグラーベ・ヴィオレントではない。俺は967、グラーベ・ヴィオレントの人格と記憶をもとに構成されたサポートプログラムにすぎない。』

874はきょとんとした顔をするがすぐに無表情に戻ってしまう。

『了解しました、967。』

そう言うと、二人は光の向こうへ向かって流れていった。







???

「ここは……?」

ユーノは見覚えのない建物の中にいた。
あたりには死体の山がいくつも築かれ、血と煤で床や壁は赤黒く汚れていた。

「このっ、手こずらせやがって…」

「!!?」

ユーノは声のした後ろを向くと光る鎖で拘束された男が必死で抜け出そうとしている。
しかし、目の前にいる制服をきた男たちの一人に何かで心臓を撃ち抜かれそのまま倒れた。
その光景を見ていたユーノは右手で頭を押さえる。

「あ、ああぁぁ……」

男たちが去ったあと、死体の山から一人の子供が這い出し、男の死体へのろのろと歩いていく。
ユーノは驚愕する。
体のあちこちが死体の血で汚れ、幼さが残り、今のように長髪ではないが間違いない。

「お、れ…?」

幼い自分は男を必死に揺さぶる。

「とうさん、とうさん!とうさん!!とうさん!!!」

何度もよびかけるが男は起きることがない。

「っっとうさーーーーーーーーーーーん!!!!」

その光景を頭を押さえたままユーノは茫然と見つめる。

「そうだ…父さんはあいつらに……!!!」

ふつふつといままで眠っていた怒りがこみ上げてくる。

「許さない…許さないぞ…。管理局ーーーー!!!!!」









ユーノはバッとベッドの上で飛び起きた。

「はぁ、はぁはぁはぁ……夢……?」

ユーノは自分の見ていたものが夢だと認識するが、同時に思い出したことも確認する。

「管理局…あいつらが父さんを……」

しかし、それ以上は思い出せない。
管理局がどんな組織なのか、なぜあんなことになったのか。

「思い出すんなら一気に全部思い出したいんだがな。」

独り言をつぶやいていると、隣でドアが開いた。

「目が覚めたようね。」

「ふん、治療してやったんだ。感謝しろよ。」

ユーノが顔を向けるとそこには傷が刻まれた目に眼鏡をかけた銀髪の女性とウェーブのかかった髪をした男がいた。

「あんたらは?」

「私たちは……」

「あげゃ!起きたか!」

「ぶっ!!」

突然ウェーブヘアーの男を乱暴に押しのけシルトに乗っていた男が現れる。

「お前は!」

ユーノが掴みかかろうとするが押しのけられた男が先にくってかかった。

「何すんだ!」

「邪魔だったんだよおっさん。」

「なんだと!」

「やめなさい!」

銀髪の女性に怒られウェーブヘアーの男はしゅんとするが、金髪の男のほうはへらへら笑ったままだ。
その様子を見たユーノは毒気を抜かれフゥとため息をつく。

「にぎやかだな、おい。」

「みっともないところを見せてしまったわね。改めて紹介させてもらうわ。」

銀髪の女性はこほんと咳払いをするとユーノに真剣なまなざしを向ける。

「私たちはフェレシュテ。あなたたちソレスタルビーイングと運命を共にするものたちよ。」









狂気を纏う戦士と出会い、少年は何を思うのか……






あとがき・・・・・・という名の紹介

ロ「というわけでフェレシュテ接触!の回でした。」

967(以降9)「というかまたトンでも設定が加わったな。よりによって俺がグラーベか。」

874(以降8)「無計画。」

ロ「だーかーらー、グラーベの人格と記憶をもとに作っているけど本人じゃないって言ってんだろ!」

ユ「それでも読者の皆様は違和感ありまくりだろうけどな。てか、なんでお前なんで生きてんの?なんで生まれてきちゃったの?」

ロ「…なんかいつになくドSじゃないすか、ユーノさん。」

9「まあ、あんな仕打ちを受ければな。」

8「ご愁傷さま。」

ユ「そんな憐みに満ちた視線を向けないでくんない!?マジで泣きたくなるから!みたらしだんごさんにはもう宿命だとか言われちゃったし!」

ロ・9・8「「「そうなんだろ(でしょ)」」」

ユ「しばくぞてめぇらぁぁぁぁ!!!!」

9「さて、次回だがユーノとフォンとヘタレが大活躍するぞ。」

ユ「無視すんな!」

8「エコのヘタレッぷりにこうご期待。」

ユ「あれ!?俺空気!?クロノ並みに空気!!?」

ロ「967も少し活躍するので期待してください!!」

ユ「……もう、疲れたよ。なのはに会いたい……」

ロ「では、最後にこのような拙い文に付き合ってくださった皆様に心からお礼申し上げます!じゃ、せーの…」

「「「次回をお楽しみに!!」」」

ユ「ふふふふふ…所詮俺は淫獣か……。ラッキースケベしか存在理由がないのか……」

主人公とことんネガティブになっていく。

ロ「……いい加減なんかいいとこ見せてやるか。じゃないと大変なことになりそうだし。」



[18122] 10.フェレシュテ
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:2c640ca7
Date: 2010/07/11 18:13
某国 某ホテル

「アレハンドロ様、フェレシュテがマイスターの一人と接触したようです。」

黄緑色の髪をした青年、リボンズ・アルマークが主人、アレハンドロ・コーナーに“自らが見た”情報を伝える。

「“彼”かね?」

「はい、ユーノ・スクライアです。」

「やれやれ……とことんかき乱してくれるよ、彼は。」

アレハンドロは薄い笑いを浮かべながらため息をついた。

「排除しますか?」

「かまわんさ。どんな計画にも多少の狂いはある。たかが一つの不確定要素で揺らぐほど私の計画はずさんにはできていない。」

リボンズは笑顔を浮かべたままククッと笑う主人を見つめる。

「さあ、再生のために奔走するがいい、ガンダム!」




魔導戦士ガンダム00 the guardian 10.フェレシュテ

南太平洋孤島

「ユーノからの連絡がない!?」

珍しくロックオンが大声をあげたことと予想外の仲間の情報にアレルヤは戸惑う。

「どういうことだ!?」

『わからない……。ただ、ミッション自体はこなしてあるんだけど……』

そう言ってクリスティナは顔をしかめながら画像を送信する。

「これは……!?」

画像を見たアレルヤは自分の胃からこみ上げてくる酸を必死に抑え込んでいた。
そこには脚部や武器だけを的確に破壊されたファントン数機。
そして、情け容赦なく破壊され、コックピットからは赤黒い血が流れ出しているフラッグの大群が写っていた。

「まさかユーノはまだエレナのことを……!」

「アイツはそんな奴じゃない!!」

アレルヤはロックオンの怒鳴り声に驚く。

「ユーノはこんなことしない……するはずがない。」

「ロックオン…ごめん、そうだね。」

アレルヤは一瞬でもユーノを疑ったことを恥じた。
自分たちの中で誰よりも優しい彼がこんなことをするはずがない。

「クリス、今のユーノの位置を教えてくれ……」

『アフリカ北西部の海岸線よ。たぶんヴェーダのミッションに従っているんだとは思うんだけど……』

「いまからアイツをむかえに行く。幸い俺たちにまだ新しいミッションは来ていない。」

そう言うとロックオンはヘルメットとハロを持ってデュナメスの待つ格納庫へと向かう。

『ロックオン!!』

クリスティナの声にロックオンはモニターを向く。

『ユーノをお願い…。もう、あんな思いはしたくないよ……』

「ああ、まかしとけ。」

力強い答えを聞いてクリスティナは安心したような顔で通信を切った。

(信じてるぞユーノ……。お前は自分の闇にのまれるほど弱くないだろ!)







三時間前 フェレシュテ拠点 格納庫

「ユーノこれでいい?」

「ああ、それでいい。そうすりゃサダルスードのセンサーはもうチョイ感度が良くなるはずだ。」

ユーノと褐色の肌の少女、シェリリン・ハイドはフェレシュテの持つ第二世代ガンダムを整備していた。

「…ごめんね、ユーノ……」

「?なにがだ?」

「シルトに…あなたの大切な人のガンダムにあんなことをさせて…」

シェリリンはうつむいたままユーノに語りかけた。

「……ヴェーダの決定だ。従うしかないさ。」

「でも!」

「それに……」

ユーノはシェリリンの肩にポンと手を置く。

「アイツの思いはシルトじゃなくて俺が背負っているつもりだ。だから、心配すんな。」

「ユーノ……」

「あげゃ!おセンチなこった。おまけに死んだ人間から貰ったもんを後生大事に首から下げてるとは笑わせやがる。」

二人は声のしたほうを向く。

「手錠をしていることを忘れないほうがいいぞフォン・スパーク。俺は正直てめぇの面を殴って整形したい気分だからな。」

ユーノは視線をフォンに向けながらぎりりと歯ぎしりをする。

「ふん、やれるもんならやってみろよ。ひと一人殺せないこの腰抜けが。」

ユーノがフォンに近づき胸ぐらをつかむ。

「ユーノやめて!フォンも!」

「人を傷つけないようにすることの何が悪い……!」

「あげゃ!何が悪いだと?」

フォンは鼻で笑う。

「稀代のテロリストのくせにいまさら人を傷つけたくないだ?笑わせるぜ。」

「お前なんざと一緒にするな!」

「一緒さ。お前の戦い方を見たときからある程度の確信を持っていた。」

それまで凶暴な笑みを浮かべていたフォンの顔が一転して理智的なものになる。

「俺は己の楽しみのために戦いを求め、お前は憎しみに身を任せて戦いを求める。根源は違えど戦いを求めていることには違いない。」

「……俺は戦いを求めてなんていない。」

ユーノの顔が陰る。
確かに自分は世界を憎んでいるのかもしれない。
だが、自分が戦う理由は純粋に世界を変えるため、そして仲間たちを守るためだ。

「ならお前は戦争を根絶した後どうする気だ?すべてを許して静かに暮しますってか?」

フォンの顔に再び酷薄な笑みが浮かぶ。

「宣言してやるよ。お前はたとえ世界が変わっても戦いをやめられない。」

「……そんなことない。」

ユーノはフォンから手を離すとふらふらと後ずさりをする。

「どうかな?お前も自分でわかってるはずだ。記憶もなく、存在していた痕跡もなく、ただ怒りのみが自身の中で渦巻いているお前に出来ることは戦うことだけだ。」

「そんなことない…俺は、俺は……うっ、ああぁぁ!」

「ユーノ!?」

突如頭を押さえ苦しみだしたユーノにシェリリンが心配そうに近づき、彼女にしては珍しく感情をあらわにしてフォンをにらみつける。

「フォン、いい加減にして!ユーノはそんな人じゃない!」

フォンはシェリリンの言葉を聞いてなお不遜な態度を崩さない。

「フン、どうだかな。自分を偽る奴がそんなに信用できるのかねぇ。」

「フォン!!」

「……シェリリン、もういい。」

ユーノはまだ息が荒いままシェリリンを手で制し、フォンの前に立つ。

「ユーノ、大丈夫?」

「心配するな。持病みたいなもんだよ。」

先ほどの険しい顔に代わっていつもの人懐っこい笑みをシェリリンに向ける。

「俺はこいつにどうこう言われてどうにかなっちまうほどやわじゃないさ。」

ユーノはそう言うと続いてフォンへ視線を向ける。
その目は怒りではなくただ純粋な強さをたたえていた。

「フォン、俺は確かにこの世界を許せない。」

その言葉を聞いてフォンはフンと鼻で笑う。

「だが、俺はお前のようにはならない。俺のような、俺やエレナたちのような人間をこれ以上増やさないために、そして仲間を守るために戦ってるんだ。」

そう言うとユーノはにやりと笑う。

「んでもって、一応お前もその仲間の一人だと思ってる。ムカつくけどな。」

フォンはユーノの言葉に呆気にとられてしまい一瞬ポカンとするが、すぐにいつもの笑みを浮かべ、心底おかしいというように笑い出す。

「あげゃげゃげゃげゃげゃげゃ!!!…おもしれえ、だったら最後まで足掻いて見せろ。俺を楽しませてみろ!」

フォンは楽しくて仕方なかった。
ユーノの本性を引き出すつもりが逆に決意を固めてしまった。
予想外のことだ。だが、だからこそ面白い。
自分の言葉に従うわけでもなく、自分の思ってもみない反応が返ってきた。

(予想以上だな。とことん楽しませてもらうぜ……あげゃげゃげゃ!)

フォンが心の中で笑っているとユーノの端末に通信が入る。

「ヴェーダからのミッション……」

「こちらにも届いたわ。」

シャルとエコが扉を開けてやって来る。

「アフリカ北西部の沿岸、マイスターユーノは麻薬密輸の阻止、我々はそのサポートをします。」

「了解。すぐに出る。」

「フォンはシルトでソリッドとともに敵を制圧、エコはサダルスードで…」

「俺も出れるんですか!?」

シャルの言葉にエコの目が輝く。
ユーノとシェリリンはその様子を見て若干距離をとる。

(……なんなのアイツ?)

(エコは今まで出番がなかったから……)

ユーノの質問に苦笑しながらシェリリンが答える。

(なるほどね。)

ユーノはハァ、とため息をつく。

(こいつら大丈夫かよ……?)

そんな思いを抱きながらユーノはソリッドへと歩いて行った。







アフリカ北西部 旧セネガル共和国沿岸

旧セネガル共和国。22世紀に紛争を理由に介入してきたAEUにより占拠、支配され現在にいたっている。
AEUは軌道エレベーターへの武力の派遣のために基地を建設し支配こそしているものの内紛に関しては無関心であり、結果として麻薬の栽培が盛んになりテロリストたちの資金源となっていた。
残り二つの国家群から非難は受けているものの必要以上に介入すると自主性が損なわれるとしていまだに手を出さずにいた。

『でもなんでAEUはそんな状況を放置しているんだ?自分たちの軌道エレベーターにも被害が出るかもしれないのに。』

『あげゃ。ホントに馬鹿だなおっさん。』

『なんだと!!』

水中で待機しているサダルスードでエコがほえる。
そんな様子を見て呆れながら嘆息する。

「AEUが連中の摘発に乗り出さないのは金がかかるからだ。連中が軌道エレベーターに手を出さない限りは金をかけて摘発するより、放っておいたほうがいいと思ってんのさ。」

『連中もそのことが分かっているから今のところは軌道エレベーターに手を出していない。もっともこの先どうなるかはわからないがな。』

エコは地上で待機していたフォンとユーノの説明になるほどとうなずいて納得する。

『やっぱ正規メンバーのほうが落第生のあんたより優秀みたいだぜ。あげゃげゃげゃげゃげゃ!!』

『なにぃ!!?』

そういってエコはフォンをにらみつけるかと思いきや、ユーノに対して凄まじい嫉妬のこもった視線を向けてきた。
ユーノは目をそらして苦笑するが、即座にエコとの回線を切りフォンにかみつく。

「余計なこと言ってんじゃねぇよ!なんで俺がアイツの恨みを買わなきゃいけないいんだよ!!」

『おもしろいから。』

「そんな理由で俺を巻き込むな!」

『「ドンマイ!ドンマイ!」』

「ドンマイじゃねぇっ!!」

967と874につっこむユーノだったが和やか(?)な雰囲気は長くは続かなかった。


『6時方向に目標を確認!これよりミッションを開始する!!』

センサー能力に特化したサダルスードに乗るエコから通信が入り二人も戦闘態勢に入る。

「了解。ソリッド、ユーノ・スクライア、ミッションを開始する。」

『手錠解除!手錠解除!』

『あげゃ!シルト、俺様、出るっ!!』








現在、港には五隻のタンカーが停泊していた。
しかし、その実態は麻薬を密輸するためにテロ組織、ラ・イデンラがカモフラージュした戦艦である。
巨大な船体の中には大量の麻薬と万が一ばれた場合それを守るためのMSやMAが積み込まれている。

「これで最後だな。」

積み荷を確認していた男が最後の積み荷が運び込まれたことを確認する。

「ユニオンや人革じゃここまで簡単にはいかないな。まったく、AEU様様だぜ!」

男がゲラゲラと笑っていた時、萌黄色の何かが後ろのタンカーの一隻にズンッという音ともに降り立った。

「な、なんだ!?」

振り向くと、そこにいたのはアームドシールドをバンカーモードに切り替えたソリッドだった。

「ガ、ガンダム!?」

「ソリッド、目標を粉砕する!」

ソリッドはアームドシールドをタンカーにまっすぐ振り下ろし圧縮粒子を解放する。

「GNバンカー、バーストッ!」

凄まじい炸裂音とともにタンカーは真っ二つになり、ソリッドが上空に舞い上がると同時に爆発した。

「ガ、ガンダムだ!MS隊、発進しろ!!」

男は発進を指示するが今度は離れたところに停泊していたタンカーが水中につかっていた部分に魚雷を受けて爆発する。

「伏兵だと!?」

水中からの予想外の攻撃に戸惑う。
その攻撃をした人物はというと、

「やった!!見たか俺の実力を!!!」

ミッション中にもかかわらず必要以上に喜び、ガッツポーズまで決めていたが油断が災いする。
突如サダルスードの横で爆発が起こり、その衝撃で態勢が崩される。

「うわあぁぁ!!!な、なんだ!?」

エコが爆発の起こった方向に視線を向けると水色の長細いフォルムに二つのアームがついた機体が何機もいた。

「MA!?こ、こんなものまで!」

エコは慌ててデュナメストルペードから流用されたGN魚雷を構えて発射するがまったく当たらない。

「くそっ!くそっ!」

エコが正規のマイスターとして選ばれなかった最大の理由。
それは、予想外の事態に極端に弱いこと。
操作技術自体は優秀なのだが判断に甘い部分があり、それによって引き起こされる不測の事態に混乱してしまう傾向があった。
そして、その弱点が今回も出てしまった。
必要以上に目標に接近し、一つだけに意識を集中させていたため他のタンカーから出現したMA、シュウェザァイに気付かなかったのだ。

「ど、どうすれば!?」

エコが戸惑っているとシュウェザァイ達が一気に距離を詰めてくる。
しかし、サダルスードに攻撃をすることはできなかった。
海面から巨大な水柱とともにヘリオンが突入しシュウェザァイを巻き込み爆発した。

『あげゃ!おっさん、俺のガンダムを壊すなよ。』

「う、うるさい!お前の手助けがなくてもこのくらいなんとかなってた!というかお前のガンダムとはなんだ!!サダルスードはフェレシュテの……」

『オ・レ・の、ガンダムだ。』

フォンの言葉にエコは顔をしかめて黙ってしまう。

『……お前らこの状況でよくコントができるな。』

ユーノが呆れているとヘリオンがこちらに向かってくる。

「それで不意打ちのつもりかよ。」

ソリッドはビームサーベルを抜き放つとヘリオンをこともなげに真っ二つに切り裂き爆発させる。

「…運がなかったお宅ら。記憶が戻ってなけりゃ手加減してやれたんだがな。けど……」

ソリッドは手近なヘリオンにバンカーを叩きつけてチャージが完了した圧縮粒子を解放する。
ヘリオンは勢いよく飛んでいき爆発した。

「テロリストは俺の仇みたいなんでな。今回ばかりは容赦しない!!」

ユーノの脳裏につい先ほどフォンとの言い争いの中で取り戻した記憶とその光景が浮かぶ。




爆発音に阿鼻叫喚の叫び声、そしてマシンガンを構えた男のヴィジョン。
自分の父が死を迎える原因を作ったものたち、テロリスト。



その同類が目の前にいるのだ。
流石のユーノも怒りを抑えることができなかった。
ロックオンとの約束や自分に課したものははっきりと覚えている。
だが、今日はその枷を外す。

『あげゃ!どういう心境だ?あれほど嫌っていた人殺しをするなんざ。さっそく宗旨変えか?』

「……今回だけさ。俺自身にケリをつけるためにも今回だけは容赦はしない。」

今回だけ、今回だけはロックオンとの誓いをやぶる。
これから自分が世界と向き合えるように、憎しみにとらわれず戦うために。

『フン、好きにしな……っと、お客様だ。』

「三時方向ヨリ敵機接近!」

967の言葉通り、そこにはAEUのヘリオン部隊がこちらに向かってきていた。

「今まで放っておいて俺たちが介入したら出てくんのかよ。」

ユーノはソリッドをまだ遠方にいるヘリオン部隊に向ける。

「お前らにも少しばかりお仕置きが必要だな。」

そう言うとアームドシールドをブレードモードにしてその先端を向ける。

「距離、効果範囲ならびに発動タイミング計算完了。967、GNグラム発射。発動タイミングは任せるぜ!」

「任サレタ、任サレタ。」

シールドの中心部が開きそこからミサイルらしきものが発射される。
そのまま広域に広がりヘリオン部隊に向かっていくが数が少なく、とてもすべてを撃墜することはできない。
しかし、ユーノ達の狙いは撃墜することではなかった。

「発動!発動!」

967の合成音とともにミサイルが爆発しGN粒子と弱い電撃のようなものが奔る。

「こんなもので…」

ヘリオンのパイロットたちが鼻で笑おうとした時、機体が突然全機能を停止する。

「な、なんだ!?どうなってんだ!?」

その様子を見てユーノは満足そうに笑う。

「どうだい?GN粒子と特殊周波の電撃による電子機器への攻撃は。」

GNグラムは電子機器を狂わせることによりMSを行動不能に追い込む兵器である。
ただ、その強力さゆえにガンダムにも少なからず影響が出るため使用距離と発動タイミングが難しい。
なので、ユーノと967のコンビネーションがあって初めて使用が可能になる兵器である。

「お仕置き完了っと。」

フォンたちも残っていた敵を殲滅したようだ。

「そんじゃひきあげると……」

「ところがぎっちょん!!」

「!?」

突然響いた声にユーノは驚くが、さらなる驚愕が襲う。
上空から赤く塗装された飛行形態のリアルドが突撃してくる。

「特攻か!?」

とっさに操縦桿を倒してよけようとするが敵は直前で方向を変えてソリッドが動いた方向とは逆の方向へ移動し、バックをとった。

「なっ!?読まれた!?」

「おらおら、どうしたぁ!!」

赤いヘリオンのパイロットはそのままライフルを発射する。

(この程度…!)

「見えてんだよ!!」

「つあっ!!」

ソリッドが動く先を読んでいるのか弾はことごとくヒットする。

「この…」

ユーノはソリッドを一気に加速させ距離があいた所で振り向いてヘリオンと対峙する。

「まさか仕事に向かう途中で会えるとはなぁ。ええ!?ソレスタルなんたらのガンダムさんよ!!」

「こいつ……!」

「気ヲツケロ!気ヲツケロ!」

ヘリオンがまっすぐこちらに向かってくる。
だが、それはヘリオンのパイロットにとっては予想外の妨害に阻まれた。

「あげゃ!俺も混ぜなぁ!!」

距離を詰めてきていたシルトがブレードシールドを振る。
しかし、ヘリオンはバランスを崩したものの紙一重のところでかわした。

「チッ!てめぇ、新手のガンダムか!!」

「その声……」

フォンがヘリオンのパイロットの声を聞き笑いを浮かべる。

「あげゃげゃげゃげゃげゃげゃ!!まさか生きてたとはな!」

「「!?」」

フォンの言葉に疑問を持つ二人だったが、ヘリオンのパイロットは素早くその場を離れた。

「逃がすか!!」

「待ちな。」

ヘリオンを追跡しようとしたユーノだったがフォンにとめられる。

「任務は終わった。さっさと帰還したほうが得策だぜ。」

「だが……」

「心配するな。ミッションをこなしていればいずれ奴にはまた会えるさ。」

「?奴を知っているのか?」

「ああ、よく知ってるぜ。だが……」

フォンが楽しくて仕方がないといった様子で笑みを浮かべる。

「お前の仲間にも俺より詳しく知ってる奴がいるぜ。」

「!?」

「ソラン・イブラヒム。いや…刹那・F・セイエイ。」

「刹那が…?」

「教えてやるよ…アイツの過去をな。」







アフリカ上空

「チッ!クソが!」

アリー・アル・サーシェスは自らの乗るヘリオンの中でいら立っていた。
最初にガンダムを見つけたときは嬲るなり、鹵獲するなりしようと思っていた。
パイロットも腕は多少立つようだったが自分の敵ではないと思っていた。
だが、予想外の妨害にあい逃げ出してしまった。

「それにしてもあの笑い声…」

かつて、自分の配下にいた少年兵。
ただ、能力は優秀なのだがあまりにも度が過ぎるため手放さざるをえなかった男を思い出していた。

「まさかな、考えすぎか。」

そもそも奴もソレスタルビーイングに介入される側のはずだ。
あんなところにいるはずがない。

「さて、そろそろ急いだほうがいいか。」

サーシェスは大金のかかった仕事に向かうためガンダムのことについて考えるのをやめ、目的地へと急いだ。








「刹那が…テロリスト!?」

「もと、だがな。サーシェスの野郎に洗脳されて人殺しを繰り返していやがったのさ。」

ユーノは仲間の過去を知り困惑する。

「詳しくは本人に聞きな。お迎えも来たようだしな。」

モニターを見ると遠方からデュナメスとキュリオスがこちらに向かってきていた。

「あげゃ!せいぜいお前の意地を貫き通すんだな。」

『フェレシュテのことは喋るなよ。いいな!』

フォンとエコはそれぞれ言いたいことを言うとそのまま帰って行った。

『ユーノ!大丈夫か!?』

『よかった…無事だったんだね!』

モニターに懐かしいロックオンとアレルヤの顔が写る。

「悪い、心配かけた。」

『悪いじゃねぇ!あとでたっぷり絞ってやるからな!』

今のユーノにはロックオンの怒鳴り声がいつもと違い心地よく聞こえていた。

(そうだ……刹那が何をやっていたかなんて関係ない。今の俺には世界を憎む以上に、守りたいと思える仲間に出会えた……。これ以上幸せなことはない。)

思わずこぼれそうになった涙をを誤魔化すため上を見上げ完全には思いだせていないかつての友に向かってつぶやく。

「守るために戦う……。これでいいんだよな、ヴィータ……」








己の過去と向き合い、少年は改めて決意を固める。





あとがき・・・・・・という名の謝罪&予告

ロ「共闘編その1終了の10話でした。」

フォン(以降 フォ)「あげゃげゃげゃ!今回もグダグダだったな!!クソ作者!」

最凶のマイスター、ロビンにコブラツイスト。

ロ「あだだだだだだ!!!!いきなり何すんのお前!!」

フォ「あげゃ。読者の怒りをお前にぶつけている。」

ロ「ふざけんなこのやろ…いだだだだだだだ!!!すんません!!もう調子のらないからきつくしないで!!」

エコ(以降もエコ)「おい、いい加減にしろ。まじめに解説に…って何で俺だけテロップに変化なし!?」

ロ「ああ、それはめんどかったからだ。」

エコ「なんで!?何で俺だけ!?てかそのまま表記のほうがめんどくさいよね!」

シェリリン(以降 シェ)「細かいこと気にしないの。だからエコはエコロジーじゃなくてエコ止まりなんだよ。」

エコ「何その言い方!!てか俺の名前の由来それじゃないよね!?」

8「どうでもいいから解説と次回予告。」

フォ「あげゃ!そうだったな。今回はユーノの記憶を少しだけ戻すことがメインの目的だったんだよな。」

シェ「どうやらテロが原因で父親が死んだところや向こうの仲間のことを少しだけ思い出したみたいだね。」

エコ「でも彼女のことは思い出したないみたいだな。」

ロ「当たり前だろ。お前ら自分が記憶喪失になって小学生で告ってあんな甘甘な空気出してたの思い出したら悶絶もんだぞ?」

エコ・シェ「「…………………確かに/////」」

フォ「あげゃ!軟弱もんどもめ!」

8「理解不能。」

エコ「うっさい!!」

シェ「さ、さて次回とその次は連続でサイドなんだよね!」

エコ「えっ!そうなの!?」

8「なんでもリリなのサイドの話とユーノの口調が変わったわけを描くらしい(というか話そらした…)」

フォ「リリなのサイドはその後のなのはたちの日常+αを書いて、00サイドは二人のマセガキの話をするらしいぞ。」

エコ「てかロビンの体があり得ない方向にねじれてるぞ。しかも、口から泡吹いてるし。(どうでもいいけど)」

シェ「気にしなくていいって♪それでは最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただいた皆様にお礼申し上げます!それでは、せーの……」

「「「「次回をお楽しみに!!」」」」



[18122] side2.繋がるオモイ
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:2c640ca7
Date: 2010/05/27 18:40
西暦2008年 地球 海鳴市 中学校屋上

「ごめんなさい。私もう好きな人がいるんです。」

サイドアップで髪をまとめた少女、高町なのはに頭を下げられ、彼女の前にいた男子生徒がふらふらと後ろに下がる。

「そ、そうだよね!高町さんみたいに綺麗な人は俺なんかとじゃ釣り合わないよね!!」

「……本当にごめんなさい。」

「い、いや!俺が勝手に好きになっただけだから!それじゃ!!」

そう言うと男子生徒は滝のように涙を流しながら屋上の扉の中へと消えていった。

そして、そんな様子を貯水タンクの裏に隠れてのぞいている四つの影があった。

「……今回もまたバッサリいったわね。」

「なのはちゃん嘘つけないから…」

「それにしたって…!彼ってサッカー部のキャプテンで狙ってる子は何人もいたのよ!?それをあの子は……!」

「ま、まあまあ。落ち着いてアリサ。なのはに気付かれちゃうよ。」

「それにしても今回もまた派手に泣いとったなwww」

「はやて……あんたは毎度見るたびにそのいやらしい笑いを浮かべるのはやめなさい。」

アリサはにやにや笑いながら見ているはやての頭をガッシリと掴み、力をくわえていく。

「いたたたたた!アリサちゃんギブギブ!!」

「やめてアリサちゃん!これ以上はやてちゃんの性格が歪んじゃったらどうするの!?」

「すずか…なに普通に失礼なこと言ってるの。否定はしないけど。」

〈サーも十分失礼です。というよりこのような行動をしている時点で失礼の極みです。〉

すずかの天然発言にフェイトがつっこみ、さらにフェイトに彼女が持っていた金色の宝石、バルディッシュがつっこむ。

彼女たちは自分たちがなのはにその存在がばれていないと思っていたようだが、

「ねぇ…レイジングハート。またみんな来てるね。」

〈……イエス、マスター。〉

彼女たちは呆れたようにため息をつく。

(とりあえずはやてちゃんだけはあとで“お話”しないとね。)

はやてが聞いたら「なんでや!?」とつっこみそうなことを考えながら空を見上げる。

「……もうずいぶん経つのにな……」

ユーノがいなくなってから三年が経とうとしていた。
あの日のことを忘れたつもりはないが、それでも立ち直った。
そのつもりだったが、それでもなのははユーノへの思いを捨てることができずにいた。

「会いたいよ…ユーノ君……」



魔導戦士ガンダム00 the guardian side2.繋がるオモイ

第1管理世界 ミッドチルダ クラナガン郊外

「ま、待て!待ってくれ!!大人しくするからもうやめてくれ!!」

黒いジャケットにフードを被った男が目の前の赤いドレスを着て巨大なハンマーを構えた少女に泣きながら必死に懇願していた。
彼女は男よりはるかに小さく、周りにギャラリーがいれば情けないと思われるのかもしれないが、なりは小さくとも彼女は古代ベルカの騎士である。
普通の人間が対抗しようとするのが間違いというものだ。

「いまさら許せだ…?ずいぶんなめたこと言ってくれんな。」

ガシャコン!という音とともにハンマーの根元から魔力を吸収されたカートリッジの薬莢が排出される。

「ひ、ひぁぁ……」

男は情けない声とともに追い詰められたビルの壁に寄りかかる。

「牢屋に入る前にいいこと教えといてやる……。あたしがこの世で一番嫌いなもんはな、こそこそ裏でいらないことをする下衆と……」

赤いドレスの少女、ヴィータが思いきりハンマーを振りかぶる。

「てめぇらみたいなテロリストだぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

振り下ろされたハンマーに顔を打ち据えられた男は横に一直線に飛んでいき、別のビルの壁に叩きつけられ、ズルズルと壁をずり落ちるように崩れ落ちた。
その顔はハンマーの跡が赤くはっきりと残っており、ヴィータの一撃の衝撃で歪んでいる。
目の周りは涙でぐしゃぐしゃになっており、口からは泡をぶくぶくと吹いてのびていた。

「…やりすぎだ、ヴィータ。」

「そうですよ!この人たちきっと毎晩ヴィータちゃんの悪夢にうなされちゃいますよ!」

上空からピンクのポニーテールをした騎士、シグナムと銀色の髪をした人形のような容姿の融合騎、リインフォースⅡがやってきた。

「死んでないだろうな?」

「きっちり非殺傷でやってるからな。そこんとこは心配ない。」

しかし、周りの状況を見てシグナムたちはこめかみを押さえ唸る。
確かに全員生きてはいるのだが、意識がある者は一人としていない。

「…どっちにしろやりすぎだ。少し加減というものを知れ。ここのところお前は少し暴走しすぎだ。」

あの日以来、ヴィータは任務中に時々殲滅戦かと思うような攻撃をすることがあった。

「ユーノのことを悔いているのなら、なおのことこんな行いをするものじゃない。」

「関係ねぇよ。ただ……」

「?ただ……?」

リインフォースが首をかしげる。

「ここんとこ変な夢見てイライラしてんだよ。憂さ晴らしぐらいさせろ。」

ブツン、という音ともに遂に二人がキレた。

「馬鹿者!!任務をなんだと思っているんだ!?憂さ晴らしがしたいならよそでやれ!!」

「そうです!!ヴィータちゃんのおたんこなす!!!」

「うるさい!!無理やり任務に連れてきたのはお前らだろ!!てか、リインのそれは関係ないだろ!誰がおたんこなすだ!!」

ぎゃあぎゃあ言い争う三人の周りに他の局員が報告を受けるために集まってきていたが話しかけられずにいた。
と、そんななか、一人の局員が恐る恐る近づいていくが、

「あ、あのぉ……」

「「「なんだ(ですか)!!!!?」」」

「ひぃっ!!な、なんでもありません!!」

あっさりと引き下がってしまった。




その後、三人の言い争いが終わるまで他の局員たちは待たされることとなる。
そして、そのことを聞いたはやてとシャマルによって三人はこってり絞られることになるのだった。





海鳴市 八神家

「……なんだか嫌な予感がするわね。」

湖の騎士、シャマルは洗濯物を干しながら遥か彼方の異世界で起こったことを直感的に察知する。
実に恐ろしいお方である。

「気のせいだろう。それよりも早く全部干してくれ。重くてかなわん。」

背中に絶妙のバランスで洗濯物の入ったかごをのせたザフィーラがプルプルと震えながら訴える。

「ああ、ごめんなさいザフィーラ。もう少しで終わるからそれまで我慢してね。」

「…ところでなぜ私がこのようなことをしなくてはならない?」

「いちいちかがんでると時間がかかっちゃうから♪」

ザフィーラの不満を一蹴するとシャマルは鼻歌を歌いながら再び洗濯物を干し始める。
しかし、シャマルの楽しそうな様子を見てザフィーラは安堵のため息を漏らす。

(…もう誰もが、前を向いて歩き始めている。ユーノ、お前の思いは確かにここに息づいているぞ。)

とその時だった。

「うおっ!?」

「え?きゃあぁぁ!?」

気が緩んだのかザフィーラはバランスを崩し、残っていた洗濯物をぶちまける。
その煽りをくらったシャマルが物干しざおを倒してしまいかかっていた洗濯物が地面に散らばった。

「「………………………………」」

散らばった洗濯物を見て二人は沈黙する。

「…シャマル。次からは素直にかごを置いて干すことを推奨する。」

「…そうする。」

そう言って二人はどんよりした表情のまま散らばった洗濯物を再び洗濯するために回収を開始した。







無限書庫

「あ~、それそっち!これもそっちにやっといて!」

子ども姿のアルフはきびきびと司書たちに指示を出す。
無限書庫で一番優秀だったユーノがいなくなって以来、ただでさえ忙しかった無限書庫の整理がいっそう大変な状況になってしまった。

「…こんなときユーノがいてくれたら……」

自分が口にしたことにハッとして首を振る。

(甘ったれるな!!ユーノはもういないんだ!あたしが頑張るしかない!)

そして、キッと無限に続く本棚をにらみつける。

「こんなもんに負けてたまるか~~~!!!」

周りが何事かと見つめるのもお構いなしにユーノへ高らかに自分の意思を宣言した。






海鳴市 某マンション

「ただいま!」

フェイトは自宅に帰って来るとしばらく会っていない人物がリビングで待っていた。

「クロノ!」

「久しぶりだな、フェイト。」

クロノはコーヒーをすすりながら手を挙げてフェイトに挨拶をする。

「いつ帰ってきてたの?」

「ついさっきだ。久しぶりに、その、エイミィに顔を見せようかと思って…」

顔を赤くしながら自分の妻の名を口にする。
そこからは若くして提督までのぼりつめた者の威厳はかけらもない。

「ふ~ん、ラブラブなんだ♪」

フェイトがにやりと笑ってからかうと焦り始める。

「ば、馬鹿っ!年上をからかうんじゃない!」

「あはは!ごめんごめん。」

「まったく…」

クロノはため息をついてテーブルの上に飾ってある二人の花婿姿と花嫁姿の写真を見て少し顔を曇らせる。

「どうしたの?」

「いや…」

「ただいま~!あっ、フェイトちゃん帰ってたんだ!」

「おかえり、フェイト。」

「ただいま。エイミィ、母さん。」

買い物でもしていたのか大量の荷物とともにエイミィ・ハラオウンと二人の母親、リンディ・ハラオウンが帰ってきた。

「どうしたのクロノくん?なんかブルーみたいだけど。」

「ああ…。これを見ているとつい、な。」

自分たちの写真を見つめながらつぶやく。
その場にいた全員がクロノの心情を理解し少し暗くなる。

「そっか…ユーノ君を呼べなかったもんね…」

クロノにとっての心残り。
それは自分たちの結婚式に親友を呼ぶことができなかったことだった。

「いまでも思うんだ。僕が、アイツからすべてを奪った組織に所属しているこの僕が幸せを掴んでしまっていいのか…」

「クロノ…」

リンディがつらそうに顔をしかめる。

「アイツが、ユーノが本当は、最後までアイツを守ってくれなかった管理局を、僕を怨んでいるんじゃないかと思ってしまうんだ。」

「そんなことない!!」

フェイトが声を張り上げる。

「ユーノはそんな人間じゃない!そのことはクロノも知ってるでしょ!?」

クロノはハッとして思い出す。
最初にあった時、ユーノは無茶だと知りながら必死でジュエルシードを回収しようとしていた。
あの時のただ誰も傷つけたくないという強い意志が宿ったまっすぐな瞳を思い出す。

「…そうだな。すまない。」

と、そのときパンとリンディが手を叩く。

「暗い話はお終い。早くご飯の支度をはじめましょう。今日はクロノが帰ってきたからごちそうよ!」

そう言ってリンディとエイミィは台所に向かい調理を開始した。
その姿を見ながらクロノとフェイトは幸福をかみしめる。

(ユーノ…もし許されるなら、これからも僕を君の友人でいさせてほしい。君が守ろうとしたものはなにがあっても僕たちが守っていくよ。)






図書館

アリサ、すずか、はやての三人は帰りに図書館によっていた。

ちなみにはやてはなのはのお話の影響なのか服からところどころ白い煙が上がっている。

「…今日も容赦ないな、なのはちゃん。」

「あんたは日頃の行いを改めないからそういうことになんのよ。」

どんよりした空気を纏ったはやてにアリサがつっこむ。

「アリサちゃんやすずかちゃんかて同罪やんか!?」

「私たちはあの光景をビデオにとって本人に売りつけるようなえげつないマネはしてないわよ。」

「うぐっ!」

「ま、まあ今回のことではやてちゃんも反省したよね!?」

うんうんとうなずくはやてだが全く反省した様子はない。

「まったく…」

とその時、アリサが何気なくとった本にはやてとすずかの視線が集まる。
その様子を見たアリサに戸惑いの表情が浮かぶ。

「な、なによ?」

「これ…懐かしい。」

「ほんまや…」

二人が微笑みながらアリサの手から優しく本を受け取る。

「これね、ユーノ君のために初めて借りてあげた本なんだ…」

「そうそう。地球の言葉を勉強したいからって。」

二人は児童用の本をぱらぱらとめくる。

「でも、さすがにこれはあかん!って言われて返しに来たんやったよね。」

「あはは!そうだったね。」

二人はくすくすと笑うが徐々にその声が小さくなって消える。

「…もう三年、か。意外とふっきれるもんやね。」

「それでいいのよ。ユーノだっていつまでもズルズル引きずってられちゃたまんないでしょ。」

「でも…忘れちゃいけないことだよね。」

すずかの言葉に二人はうなずく。
最初はみんな忘れてしまいたいと思っていた。
だが、あの時の悲しみを忘れてはいけない。
忘れてしまえば、ユーノの願いを汚してしまうことを誰もが知っていたから。

「まったく。あのエロ助は余計なものばっか背負わせてくれるわね。」

「まあまあ♪アリサちゃんかてエロいの嫌いじゃないやろ?」

「うん、まあどっちかというと……ってあんたは何言わせんのよ!!!!」

「げふっ!」

アリサがはやての頭にげんこつを叩きこむ。
そのあまりの威力にはやては白目をむいて倒れた。

「あはは!二人とも仲いいね♪」

「あんたはその天然発言をなんとかしなさい!!」

図書館の中にもかかわらず、騒がしくも愉快な時間は少しづつ流れていった。





高町家

「ただいま~!」

「おかえり、なのは。」

「おかえり。」

なのはが自宅に帰って来ると自分の両親、高町士郎と高町桃子が出迎えてくれた。
……この二人、結婚してかなり経っているのだがいまだに結婚したてのようにアツアツである。
しかも、いまだに若い姿のまま。
……ロストロギアでも使っているのだろうか?

「「なにか?」」

「どうしたの二人とも?」

「いや、なにか失礼なセリフが聞こえたような…」

首をかしげる二人を放っておいてなのはは道場へと向かう。

「おかえり、なのは。」

「おかえり~。」

彼女の兄と姉、高町恭也と高町美由希が鍛錬を中止して出迎える。

「なのは聞いたよ~?」

美由希があやしげな笑みを浮かべながら近づいてくる。

「またふったんだって~?いい加減彼氏作ったほうがいいよ~。」

最初は笑っていた美由希だったがその顔が徐々に曇っていく。

「彼氏のいない学生生活より悲壮なもんなんてないわよ。…そりゃ私だって最初は大丈夫だって思ってたわよ。なのに年を重ねるごとに焦りが募って、それに比例するように男子が遠ざかっていって…」

「あ、あの、お姉ちゃん?」

美由希はとうとう耐えきれなくなったのかさめざめと泣き始める。

「なんで私じゃなくてなのは…?やっぱり若い方がいいの?男はみんなロリコンなの!?」

「美由希…話がずれてるぞ。」

恭也がため息をつきながらつっこむが、それでも暴走が止まりそうになかったので無視してなのはのほうを向く。

「なのは、美由希じゃないがそろそろ新しく自分をスタートさせてもいいんじゃないか?ユーノだっていつまでもお前がそんな調子じゃうかばれないぞ。」

恭也の言葉になのははうつむいてしまう。

「うん…わかってるよ。私も最初はそう思ってた。でも…」

「でも?」

なのはは顔を上げる。
そこには笑顔とも泣き顔ともとれるような表情があった。

「最近、変な夢を見るんだ…」

「夢……?」

恭也が問いかける。

「うん。ユーノ君がまだ生きてて、未来の地球で戦っている夢…」

「…夢は夢だ。そんなものに振り回されているとロクなことがないぞ。」

「わかってる。わかってるけど、それでも……」

そう言うとなのははいつもの笑顔に戻る。

「変なこと言っちゃってごめんね。私は大丈夫だよ。じゃあ、二人とも頑張ってね!」

そう言って自分の部屋に向かってかけていくなのはを二人は見送る。

(…なにが大丈夫だ。心が揺れ動いているのがまるわかりだったぞ。)




?????

その晩、ヴィータは再び奇妙な夢の中にいた。

(またかよ…)

最初は巨大なロボットが砂漠の上空を舞っている夢。
続いて、同タイプの5体のロボットが整備されている夢。
そして、はやてたちと同年代の少年や大人びた雰囲気の青年たちが訓練をしている夢。

すべてに共通しているもの、それは…

(ユーノ……)

あの日失ってしまった仲間、ユーノ・スクライアが登場すること。

今日の夢はユーノが格納庫のような場所で壁にもたれかかって何かを待っている。

「おい、ユーノ!!」

ヴィータはすぐ近くで叫ぶがユーノには聞こえていないようだった。
と、そこへ連絡が入る。
それを聞いたユーノは壁から飛び起き、一体のロボットのほうへ向かおうとする。
が、仲間と思われる二人にとめられる。

「おい!ユーノの邪魔すんじゃねえ!!」

ヴィータは殴りかかるがすり抜けてしまう。

「くそっ!!」

とヴィータが振り向くと、外に最初に見た巨人に似た萌黄色の巨人が立っている。
ユーノはそれへ向かって走り出し、起動させて彼方へと飛んでいく。

「ま、待てよ!」

ヴィータが呼びとめようとするといきなり場所が変わり、ぼろぼろの戦艦が浮く海の上空にいた。

「一体…?」

「きさまらぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「!?」

突然ユーノの咆哮があたりに響く。
ヴィータが後ろを向くとそこには戦闘機やロボットを憎しみに任せ、萌黄色のロボットを使い一方的に破壊している姿があった。

「やめろユーノ…やめてくれよ……」

ヴィータは涙ながらに訴える。
だが、ヴィータの声は届かずユーノは残っていたロボットを全滅させた。

「う、ううぅぅぅ………」

ヴィータは泣いていた。
自分の知っているユーノが消え去っていってしまうようで。

『…ごめんね、辛いものを見せちゃって。』

「…また、てめぇなのかよ。」

ヴィータは顔をあげて目の前の人物、赤いツインテールの女の子をにらみつける。

『ごめんね。でも、ユーノのことを強く思ってくれているあなたとあの子にはユーノと彼らが背負ってしまったものを見ておいてほしかったの…』

「ふざけんな!!ユーノは死んだんだ!あたし達の、目の前でっ……!」

少女はゆっくりと首を振る。

『あなたもわかっているはずだよ。ユーノは今でも戦っている。自分と、この世界と。』

「そんなことない!ユーノが、アイツが自分から戦うなんて…」

『それは、私たちにも非がある。でも、ユーノの決意は本物だよ。』

「違う…アイツがこんなことするはずない…こんなこ…と…」

ヴィータの意識が徐々に薄れていく。

『ごめんね…今日、あなたはここまでみたい。つらいかもしれないけど、最後までユーノの思いを見つめて…』

その言葉を最後まで聞けずにヴィータは意識を手放した。






?????

なのはは巨大な塔が見える場所にいた。
そこでは、細い手足のロボットが空を舞いながら的を撃ち抜き、彼女の目の前に降り立つ。

「また、この夢……」

なのはがため息をつこうとした時、空からもう一体ロボットが降りてきた。

(でも、やっぱりこのロボット、綺麗だな…)

最初に見たときから思っていた。
光を放ちながら空を舞うその姿はなのはの目には天使に写った。

斬ッ!

なのはが見とれていると機械天使がロボットの手を切り落とす。
天使はそのままあしらうようにロボットを打ち倒してしまった。

「すごい………!」

感心していると突然場面が変わる。
深緑の機体が狙撃しているところに数機の戦闘機が向かってくる。

「危ない!!」

なのはは思わず叫ぶが、戦闘機の攻撃は突然出現した萌黄色の機体に阻まれた。

「ユーノ、くん…」

前の夢で知っている。
かつてと違い、背丈や髪が伸び、サングラスをかけていたが見間違うはずがない。
自分の最愛の人、ユーノ・スクライアが乗っている機体。

『ソリッド…ユーノの機体はどう?』

なのはは声のほうへ振り向く。

「また、あなた…」

いつも出てくる赤いツインテールの女の子をまっすぐ見つめる。

「あなたはいったい誰なの!?なんで私にこんなものを見せるの!?」

『あなたたちに知ってほしかったから…。ユーノの戦いを。』

なのはの隣を翼を撃ち抜かれた戦闘機が落ちていく。
地面をこすって止まるが、中の人間は無事のようだ。

『ユーノが枷を課して、自分と、世界と向き合っていることを知っておいてほしいの。いずれ、ユーノがあなたたちのもとに戻った時にユーノの苦しみや怒りを受け入れて欲しいから。』

「ユーノ君が…戻って…来る……?」

なのはが声を震わせて少女を見つめる。
少女はゆっくりとうなずく。

「うそっ…!そんなこと!」

必死で起こるはずのない奇跡への喜びを打ち消すように頭を振る。

『今は信じられないかもしれないけど、いずれ時が来たらわかるよ。私と、私の心を捕まえてくれたこの子が絶対にあなたたちのもとへユーノを導く。』

そう言うと少女は手の中にあるひし形の宝石を見つめる。

「それは、ジュエルシード!?」

なのはが驚きで目を見開く。

「なんであなたがそれを!?」

『この子が、私の心を拾ってくれた。ユーノのそばにいさせてくれた。』

「それは危険なものなの!早く封印しないと!」

『大丈夫……』

近づこうとするなのはを制する。

『この子はあなたたちが思ってるような危険なものじゃない…。ただ、歪んだ使い方をされてしまっただけ。』

とその時、なのはを強烈な目まいが襲う。

「なに…が…」

なのはの視界が徐々に薄れていく。

『またね…なのはちゃん…』

その声がこの日のなのはにとっての最後に聞いた言葉となった。







高町家 なのはの部屋

なのははゆっくりと目を開け耳元でなっていた目覚ましを止める。

「ユーノ君が、戻って来る?」

あり得ない。
だが、あり得ないとわかっているのにどこか期待してしまう自分がいる。

「なのは~!ご飯だよ~!」

「ふぇっ!は、は~い!」

なのはは美由希の声にびくっと体を震わせ返事をすると思考を中断し下へと降りていった。






八神家

ヴィータはベッドの上で飛び起きた。

「なんやヴィータ?今日も珍しく早起きやな。」

もうすでに起きて着替え始めていたはやてが驚いてヴィータのほうを見るが、当のヴィータははやての言葉など聞こえていない。

(あの野郎…ユーノが戦っているだと…?)

「おーい、もしも~し?」

(ユーノは死んだんだ!あんなものは幻だ!あんな奴の言うことなんて…)

「……てい。」

「うわわわ!?」

それまでヴィータに話し続けていたはやてだったが、しびれを切らしヴィータの胸をもむ。
だが、

「……ちっちゃいな。やっぱシグナムかシャマルやないとあかんな。」

「なんだとぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!人の胸もんどいてその言いぐさはなんだぁぁぁぁ!!!!」

「「「「ヴィータ(ちゃん)うるさい!!!」」」」

こうして今日も八神家の騒がしい日常は始まった。







?????

『ユーノ……。あなたの大切な人たちとあなたの思いは私が繋ぐよ…。あなたがいつか、彼女たちのもとに帰る日まで…』





あとがき・・・・・・という名の達成感

ロ「な、なんとか、リリなの組の主要キャラ全員を登場させたサイド、でし…た……」

ロビン、そのまま倒れこむ。

狸「え~、作者がオーバーヒートのためぶっ倒れたのでここからは夜天の王こと、うち八神はやてが進行させていただきます。」

シ「しかし、書き終えた瞬間倒れこむとは…。今回は期待でき……」

狸「ああ、ロビンが倒れたのはメタギアを朝の5時までぶっ通しでやっとたからやで?いやぁ~、やっぱラストシーンは泣けるなぁ…」

魔王「どうやら…作者とは少し“お話”しないといけないみたいだね…」

フェ「今のなのはだとホントのお話するまえに消し炭になっちゃうから。誰か別の人に付き添いしてもらってね。」

黒「しかし、僕はすごくネガティブだったな。大丈夫か僕?」

狸「駄目なんやろ。」

黒「あとで付き合えはやて。じっくり“お話”しよう。」

アリサ(以降 ア)「てか、なんかあたしえらく凶暴になってない?」

すずか(以降 す)「あのアリサちゃんもワイルドでかっこよかったよ♪」

ア「正直微妙なフォローをありがとう。」

シャ「というか、誰だかモロわかりの人間が夢に出てきてたわね。」

ヴィ・な「「あれは驚いた…」」

リインフォースⅡ(以降 リ)「お二人だけ目立ってずるいです!」

リンディ(以降 糖)「若いうちは目立ってるくらいがいいのよ♪」

リ「じゃあリインも強引に00に介入…」

アルフ(以降 豆犬)「するなよ。」

ザ「それではそろそろ次回予告行くぞ。」

エイミィ(以降 嫁)「次回はユーノ君の口調が変わるきっかけだったね。というか私のテロップ雑……」

シャ「確か惚気が入るんだったわね。」

糖「若いっていいわね♪」

魔王「……………………………………」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!

狸「なのはちゃん、無言のプレッシャーはやめて。リインとヴィータが泣きそうやから。」

魔王「何言ってんのかな♪私はただどうやってユーノ君を炭人形にして自室に飾ろうか考えてるだけだよ♥」

ア「ハートつけたって言ってること怖いって!!」

嫁「ヤンデレか…最近クロノ君との仲が冷えつつあるからなぁ…。ここらで趣向を変えて…」

黒「やめろよ。」

リ「じゃあリインも…」

八神家一同「「「「やめろ!!!!」」」」

狸「ではこれ以上カオスになる前にしめよか。今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!!ほな、せーの……」

一同「次回をお楽しみに!!」



[18122] side.3 僕が俺になるまで
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/05/27 18:40
ソレスタルビーイング拠点 訓練場前の廊下

「………は?」

「?どうしたの、ロックオン?」

アレルヤがスポーツドリンクを飲みながら歩いていると、ロックオンが今まで見たこともないような間の抜けた顔でユーノの前に立っているのを見つけた。

「いやいや…聞き間違いだよな。うん、そうだ。俺は刹那やティエリアの相手をしすぎて疲れてるんだ。」

するとユーノが少しムッとする。

「……“俺”が俺って言ったらそんなに変かよ。」

アレルヤは盛大にドリンクを吐き出しロックオンにかけてしまったが、二人ともそんなことを気にしている余裕などなかった。




魔導戦士ガンダム00 the guardian side3. 僕が俺になるまで

ブリーフィングルーム

ユーノがここに来てから一か月の時が経とうとしていた。
そして、今までで最大の問題が発生したため年長者だけによる緊急会議が今開かれようとしていた。

「今日みんなに集まってもらったのは他でもない、ユーノのことよ。」

スメラギの言葉にその場にいた全員に緊張がはしる。

「私たちは突き止めなければならない………そう…」

スメラギはモニターへと振り向く。

「なぜユーノがこんなにも変わってしまったのか!!!」

モニターに映し出されていたのはつい先日までの大人しいユーノではなく、口調が荒くなっているユーノだった。

「これが反抗期ってやつなの!?お母さんどうしたら……!?」

「いつからスメラギさんが母親になったんですか……?」

「一度言ってみたかったのよね♪」

スメラギはアレルヤのつっこみを華麗に受け流すと全員のほうに向く。

「さて、じゃあ本題に移りましょうか。ユーノが変わったことについて誰か心当たりがない?」

「待て、その前になんでわしらのこの姿がここにあるんだ?」

イアンの意見ももっともである。
そこにはユーノの変化に驚いた時の全員の顔が映し出されている。
イアンが思わず持っていたパソコンを落とし、足にぶつけて悶絶する姿。
書類整理をしていたモレノが一緒に整理していたラッセの腕にうっかりボールペンを突き刺している映像。
リヒテンダールが後ずさりをして階段に気付かずそのまま転げ落ちていく光景。
クリスティナが持っていたコーヒーをこぼし、お気に入りの服にしみを作ってしまい慌てふためく姿。
ここまで間の抜けた顔はドッキリ企画でもそうそうみられるものではないだろう。

「それはもちろん隠しど……ゲフンッ!ゲフンッ!偶然見つけたのよ♪」

「うそつけぇぇぇぇ!!!今隠し撮りって言いそうになったろ!」

「ヒドイですよスメラギさん!!僕のこんなところとるなんて!」

「お前は俺にドリンク吹きかけただけだろ!俺なんてびしょ濡れに…いや、でもこれはこれでいい男だな。さすが俺。」

イアンとロックオンたちはそれぞれ不満を言うがスメラギはものともしない。

「……今思い出しても痛い。」

「……すまん。」

包帯が巻かれた腕を見つめながらラッセとモレノの顔が暗くなる。

「……あの…クリスの映像もう少しないですか?」

「あんたは何を期待してんのよ!!!」

「ぐはぁっ!!」

鼻の下を伸ばしたリヒテンダールにクリスティナのげんこつが幾度も降り注ぐ。

「大体、自分のだけないだろうが!」

そう言ってイアンは端末を操作し始める。

「あっ!ちょ、ちょっと!!」

スメラギは慌てだすがもう遅い。

「これかぁぁぁぁ!!!!」

イアンが勢いよくエンターキーを押すとモニターにでかでかと映像が映し出される。

「「「「「「「あ゛。」」」」」」」

そこには飲んでいた酒を全身に被ってしまい、体のラインが出たまま尻もちをついているスメラギの姿があった。

「…………………///////」

スメラギは両手で顔を押さえてその場にうずくまる。

「…その……すまん。」

イアンの言葉を最後にしばらくブリーフィングルームを沈黙が支配した。






一時間後

「じゃあ、まじめに始めましょうか。」

復活したスメラギが再び場を仕切る。

「え~と、じゃあ私から。私と仲のいい(?)Fさんの証言です。」

クリスティナが携帯端末をいじると目元を隠されたピンクの髪の少女が映し出される。
……はっきり言ってあまり意味がない。

『…エレナが何か言ってた。』

そこで映像は終了する。

「簡潔すぎて面白くないわね。次。」

「いやいや!それでいいじゃないですか!ていうかスメラギさん全然懲りてないですよね!?」

「じゃあ、次は俺だ。T・EとS・F・Sの証言だ。」

「またモロわかりだな。」

スメラギにほえるクリスティナを無視してロックオンにつっこみを入れるラッセ。
もう会議とは呼べない状況だ。
そんな状況のなかモニターにこれまた目元を隠された紫の髪の少年と黒髪の少年が映し出される。

『最近のユーノのこと?…知らない。』

『まさか、何か余計なことを!?万死に値する!!!』

紫の髪の少年は銃を取り出すと勢いよく走りだす。

『ユーノ・スクライアーーー!!!』

パンパン!!

『わああぁぁぁ!!!なんだぁぁぁ!!?』

遠くから銃声と叫び声が聞こえる。
黒髪の少年はわれ関せずといった感じで反対側にあるいていってしまった。

「……これ、この後どうしたんすか。」

「もちろん誤解は解いたよ。」

青ざめた顔のリヒテンダールにロックオンが説明する。

「なかなかおもしろかったけど、もうひと押しほしいわね。」

「じゃあ、わしがとどめを。E・Cの証言だ。」

そう言ってイアンは端末をいじって赤髪のツインテールをした少女の映像を映し出す。

『ユーノ?ああ、あの堅苦しい口調をもうチョイなんとかできないかって言っといたの。なんでって…もうあたしたち仲間なんだし、それに…』

少女が急にもじもじし始める。

『今のユーノもいいけどちょっと変わったユーノも見てみたいというか…、こう、もうちょっとワイルドな感じで迫ってくれれば私だって……』

スメラギが携帯端末をモニターに思いっきり投げつける。
端末は凄まじい風切り音とともにモニターに突き刺さり小爆発を起こした。

「あ、あのスメラギさん……?」

「なぁに?クリス?」

クリスティナは恐る恐るスメラギを見る。
そこには笑顔なのに後ろに死神が鎌を構えている幻が見える。
いや、幻かどうかも正直怪しい。

「ど、どうしたんですか……?」

「クリス、よく覚えておきなさい♪若いうちからいちゃついていると身内の反感を買うものよ♪」

クリスティナはスメラギの闘気におされじりじりと後ろに下がる。
その様子を見て見ぬふりをして残りのメンバーは話し合いを続ける。

「原因はエレナか……。ユーノの奴まじめだからな。」

「しかし、だからといってなぜああなる?もっと別の方法が…」

「……あ。」

ロックオンが何かを思い出したようだ。

「なにか知ってんのか?」

「いや、ニ・三日前にな…」





三日前 訓練場

「口調をなんとかしたい?」

「うん。ロックオンなら何かいいアドバイスをくれると思って。」

訓練が終わった後、ユーノはエレナの要望をかなえるためロックオンにアドバイスを求めていた。

「……というかそれはエレナがもうチョイお前にかまってほしいってことだぞ。」

「そんなことあり得ないよ。ホントに困った顔をしてたんだから。」

(こいつは………)

おそらくエレナは照れていたのだろうがそういうことに鈍いユーノには自分のせいで心底困っているように見えたのだろう。
ロックオンはため息をつくとユーノを見る。

「まあ、確かにお前の喋り方は少し堅いな。もうちょっとラフなしゃべり方をしたらどうだ?」

「ラフ?」

「そうだ。もっとこう荒っぽい感じで“俺”とか言ってみたり。」

「い、いいのかな…?」

ユーノは少し困惑気味にロックオンを見上げる。
その小動物のような仕草がロックオンの悪戯心に火をつけた。

「そうだ!口調を変えて自身を改革することでMSの操縦も格段にうまくなると偉~~~い学者が言ってた!!」

「そ、そうなの!?」

「お兄さんは嘘をつかない!!」

言ってることが何もかも大嘘なのに自信満々に言い放つロックオン。
だが、自分のした行為がとんでもない過ちだったことにすぐさま気付いた。

「そ、そうなんだ…やっぱりロックオンはすごい…!」

ロックオンの視線の先には目をキラキラ輝かせながら真剣な表情でうなずくユーノがいた。
記憶がなくしてしまったせいでさらに純粋になっていたユーノは些細な冗談も真に受けるようになっていた。

「あ、あのなユーノ…」

「ありがとうロックオン!僕…じゃなくて俺、さっそく練習(?)してくるよ!」

「い、いや今言ったことは…」

ロックオンが言葉を言いきる前にユーノはダッシュで自室に向かっていった。

「違うんだユーノ!!今言ったことは冗談なんだ~~~!!!」







現在

「…ユーノもユーノだが、お前も軽率だぞ、ロックオン。」

「面目ない…」

イアンの叱責を受けながらロックオンは小さくなる。

「ま、しかしアイツがいまだにどこか他人行儀なのは事実だしな。」

ラッセが腕を組みながら唸る。

「それにあれにしたってこっちが慣れればいいはなしっすからね。エレナの恋も応援してやりたいし。」

「よくないわよ!!」

リヒテンダールの言葉に反応しネチネチとクリスティナに迫っていたスメラギが男性陣のほうを向く。

「男女交際は18過ぎてからよ!!わたしはそれ以外認めない!!」

「そりゃ単なるひがみ…」

モレノが言い終わる前に壁に無数の投げナイフが突き刺さった。

「なにか?」

「…いや、なんでも。」

「よろしい。それじゃ、今すぐユーノのところに行くわよ!!」

スメラギに率いられ、いやいやながら全員がユーノが今いるであろう食堂に向かった。






食堂

(なんで……?)

食堂にいるエレナは不満たらたらだった。
ユーノの口調が変わったのは確かに驚いたがまあいい。
机に向かってイアンに言われた作業をしているのもこの際許そう。
だが、

(なんでこのカッコ見て無反応!?)

エレナは今、お気に入りのワンピースを着てユーノのそばにいる。
ユーノの反応が楽しみで来たのに様子はいつもと変わらないのだからたまらない。

「このばかち~~~ん!!!」

とうとう我慢の限界が訪れたのかユーノの頭をばちこ~んと叩く。

「あだっ!何すんの!?」

「何じゃないわよ!あんたこれ見て何にも思わないの!?襲おうとか、襲おうとか、襲おうとか思わないの!?」

「選択肢が襲うだけってどうよ!?獣か俺は!」

「そうでなくてもかわいいとか言ったらどうよ!せっかくユーノを誘惑するために頑張ってきたのに!」

エレナは勢いに任せてユーノへの思いを言ってしまう。
しまったとばかりに口を押さえるが時すでに遅し。

「エレナ……」

「…何よ。私があんたのこと好きじゃ悪いの!?」

エレナの顔はすでに真っ赤で、涙でクシャクシャになっている。

「……僕も、エレナのことが好きだよ。」

「え………?」

ユーノが普段の口調に戻り予想外の答えを言うのでエレナは泣くことも忘れて呆けてしまう。

(ユーノが私のこと……!)

喜びに浸ろうとした時、ユーノの言葉で再び現実に引き戻される。

「ロックオンのことも好きだし、スメラギさんのことも好きだし、あと…」

「……………は?」

メンバーの名前を次々と挙げていくユーノを見てエレナはようやく気付いた。
ユーノの好きはloveではなくlikeなのだ。
もっとも、まだ小学生ほどの人間に恋愛感情を理解しろというほうが無理な気もするが。

「それに、エレナはいつもかわいいよ。」

そんな中、ユーノのさりげなく言った発言にエレナは顔を真っ赤にする。

「………馬鹿。」

エレナはユーノの隣に座りユーノに体を寄せる。

「エレナ?」

(普通これだけやったら気付きそうなもんだけどな…)

ハァとため息をつくそんなエレナの姿を部屋の角から見ているいくつもの影があった。






「ふふふふ…甘いわねエレナ。ユーノくらい鈍い子には下着姿で迫るくらい積極的に…」

「子供になにさせる気ですか!?というかもう少し発言に気を使ってください!同じ女子として恥ずかしいですよ!」

「こんなことしてる時点で恥ずかしいも何もあったものじゃないと思うけどね…」

『とか言いつつお前もノリノリじゃねぇか!楽しいよなぁ!アレルヤ!!』

「うるさい///!!」

「どうかしたか、アレルヤ?」

「い、いやなんでもないよロックオン。でもほんとにいいのかなこんなこと?」

「わしらはユーノ達が清く正しい交際をしているか見守っているだけだ。」

「そうそう。」

「おやっさん、説得力ないぞ。」

「そういうラッセさんもですけどね。俺も人のこと言えないけど。」

すし詰め状態で押し合いながら二人を見守る(?)スメラギ達。
とその時、そのことに気付かないユーノ達が話し始めた。






「……で、なんでなの?」

「?…なにが?」

「喋り方変えた理由。なんなの?」

エレナがユーノに寄り添ったままつぶやく。

「それはエレナに…」

「そんなんじゃなくてホントの理由。ロックオンがからかってたのだってホントは気付いてたんでしょ?」

ロックオンは「マジか!?」と叫びそうになるが全員に抑え込まれる。

「ははは、気付いてたんだ。」

「伊達にマイスターやってないっての。」

「うん、そうだね…」

そう言ってユーノは遠い目をする。

「…ここに来て結構経つけど、まだみんなに馴染めてないような気がしてさ。だから、自分を変えれば早く馴染めるんじゃないかと思って……。エレナやロックオンは冗談のつもりだったのかもしれないけど、僕にとっては背中を押してくれたような気がしてたんだ…」

遠くから覗き見ていたスメラギ達の表情もどこかせつないげなものになる。

「別にそんなことない気がするけどな。」

「それでも、この喋り方がみんなとの間に壁を作っているような気がしてね。だから……」

ユーノの顔に人懐っこい笑みが浮かぶ。

「自分を変えるのさ。“僕”から“俺”へな。」

「……そんな必要ないのに。」

二人は声のしたほうを向く。
そこにはスメラギ以下、会議に参加した面々が笑顔で彼らのそばにいた。

「「スメラギさん!」」

「ユーノはもう私たちの仲間なんだからいちいちそんなことに気をつかわなくてもいいのよ。」

「そうだよ!」

クリスティナが二人にガバッと抱きつく。

「ユーノはもう十分私たちと仲良しだよ。でも…」

クリスティナはユーノのおでこに指をチョンとつける。

「エレナは今の喋り方がいいみたいだけどね♪」

クリスティナの発言にエレナの顔が一気に赤くなる。

「な、なななに言ってんのクリス!!!?私は別に……」

「いやなのか?」

意地の悪い笑みを浮かべたロックオンが援護射撃をする。

「い、いやじゃないけど…」

「今のほうが好きだから続けてくれだとさ♪」

「ラッセ!!!!」

珍しくラッセも悪ノリをする。

「まあ、いいじゃないか。青春万歳ってか?年のいったおっさんたちにはうらやましい話だ。」

「~~~~~~~~~~~っっっ!!!!」

イアンとモレノもにやにや笑いながら二人を見つめる。

「どういうことだ?」

「つまり、エレナはユーノのことを……」

「わーーーーー!!!!」

エレナはユーノに説明しようとしていたリヒテンダールをラリアットで吹き飛ばす。

「…とりあえずみんながいいならこのままの喋り方にするけど……」

「そのことは私たちじゃなくて、エレナに聞くのね。」

そう言って全員がエレナのほうへ視線を向ける。

「えっと、じゃあこのままでいいか、エレナ?」

「……うん、今のままがいい。」

悔しそうな顔をしながらもエレナはうなずく。

「じゃ、そうするわ。それじゃみんな、これからもよろしくな!」









こうして少年は自らを少しだけ変革する。仲間たちとの絆を確かめながら…



あとがき・・・・・という名の烏合の衆

ロ「というわけで、ユーノの口調が変わったきっかけでした。」

ラッセ(以降 筋)「これでみんなが納得してくれるかどうかは謎だがな。というかなぜ俺のテロップ筋?」

ロ「筋トレマニアの筋。」

リヒテンダール(以降 ム)「なるほどね。じゃあ俺のムは?」

クリスティナ(以降 ク)「むっつりスケベのムでしょ。」

ロ「ビンゴ!」

ム「ヒドッ!!」

エ「事実だからいいでしょ。」

フェルト(以降もフェルト)「私はそのままなんだ…」

ロ「フェイトと被るからな。向こうもフェからそのままに格上げだ。」

スメラギ(以降 酒)「なんだかうらやましいわね。」

イアン(以降 眼鏡)「お前らの紹介はいいから解説行くぞ。それに今回はゲストもいるんだからな。」

モレノ(以降 医者)「ゲスト?誰なんだ?」

急に周りが暗くなり、空中の一点がライトアップされる。

酒「それでは紹介しましょう。管理局のエース・オブ・エース!誰がよんだか管理局の白い悪魔!高町なのはさんです!」

な「どうも、みんなのヒロイン高町なのはです♥」

ヒロイン、何やら人型の黒いものを抱えながら着地する。

筋「…それはなんだ?」

な「にゃははは♪ヤダなラッセさん。きまってるじゃないですか…」

ヒロイン、艶消しの目で笑みを浮かべる。

魔王「ユーノ君だよ♪」

ム「……え?」

しんと静まり返る。

酒「い、いやねなのはちゃん。そんな冗談…」

魔王「冗談じゃないですよ。だってほら…。」

魔王、後ろから何か取り出す。

魔王「ユーノ君のサングラス♪」

00の皆様絶句する。が、

眼鏡「ユーーーーノーーーー!!!!?」

医者「何してんの君ぃぃぃぃ!!!!?」

魔王「にゃはははは♪泥棒猫からユーノ君を奪還してやっただけなの♪」

ク「怖っ!!この子怖っ!!てかユーノ生きてんの!?」

ロ「まあここはギャグパートだからな。今は炭でも次回までには復活してるよ。」

エ「あんたは身も蓋もないことをサラっと言うな!というかユーノしっかりしてぇぇぇ!」

魔王「あ、泥棒猫だぁ。」

魔王、もう一人のヒロインに視線を向ける。

エ「え?」

魔王「あなたさえいなければユーノ君はこんなことにならなかったんだよ。」

レイジングハート(以降 R・H)〈Accel shooter〉

魔王の周りに無数の光弾が浮かぶ。

エ「いやいや!ユーノがそうなったのあんたの……」

魔王「にゃははは!ひき肉にしてやるの!!」

エ「きゃああああぁぁぁぁぁぁ!!!!??」

光弾が泥棒猫を襲う

フェルト「……じゃあ、次回予告。」

ロ「そうだな。次回はアレルヤが主役のあの話です!!」

フェルト「ユーノはミッション以外のところに出てくる。」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!!次回も頑張るのでよろしければ読んでご意見、感想、応援をよろしくお願いします!じゃあ、せーの…」

「「次回をお楽しみに!!」」

「「「「「「「こっちが大変な時に勝手に締めるな!!!!」」」」」」」

魔王「にゃははははは!!根絶してやるの!!」

一同「ぎゃあああぁぁぁぁぁ!!!!」



[18122] 11.限界離脱領域
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/05/27 18:40
アザディスタン王国 王室

「そんな……、タリビア軍に攻撃するなんて…」

アザディスタン王国の第一皇女、マリナ・イスマイールはソレスタルビーイングがユニオン脱退を宣言したタリビア共和国のMS部隊に攻撃を仕掛けたという報道を見て声を震わせながらつぶやく。

タリビア共和国は太陽光エネルギー分配権を持つアメリカに反発しユニオンの脱退宣言をしたのだが、物量差を考慮するととても賢明な判断とは思えないものである。
しかし、すべての戦争行為に対し武力介入をするソレスタルビーイングを利用することで自軍に被害を出すことなくアメリカ軍とユニオン軍を撃退できると踏んでいたのだ。
だが、予想外の事態が起こる。
ソレスタルビーイングはタリビア共和国を紛争幇助国と認定し、進軍してくるユニオン軍ではなくタリビア軍に攻撃したのだ。
そして、結果は言わずもがな。
タリビア軍は壊滅状態にまで追い込まれ、ユニオンとアメリカに救援を要請したのだった。

「タリビアも、そしてアメリカも、こうなることを予測していたようね。」

「予測していた…?」

マリナはそばにいた眼鏡の女性、シーリン・バフティヤールのほうに振り向く。

「ソレスタルビーイングに介入されたタリビアは率先して米軍の助けを借りたのよ。これによりタリビア国内の反米感情は沈静化し、アメリカ主導の政策に切り替えることができる…。タリビアの現政権もアメリカの支援を受けて安泰。他の国々もタリビアの二の舞を避けるべく、露骨な反米政策は打ち出そうとはしないでしょうね。」

シーリンはクスリと笑ってマリナを見つめる。

「この一連の事件で一番得をしたのはどこかしら?…もし、わからないのであればあなたにこの国を救う資格はないわ……アザディスタン王国第一皇女、マリナ・イスマイール様。」

マリナは目をそらして答えなかった。
否、答えることができなかった。
争いを望まぬ彼女は危機的状況にあるこの国を救うためとはいえ、タリビアのようにソレスタルビーイングを利用することを良しとしなかった。

彼女にとって彼らは戦いの権化に他ならない。
そして、その彼らがひょっとしたらこの国にも来るかもしれないのだ。
そんな中で、彼らを利用するなど思いつくはずもなかった。

(確かにこの世界は争いで満ちている……。でもだからと言ってこんなことが許されるはずがないわ……)

そんな思いを抱きながら数日後、太陽光発電システムの技術支援と協力を得るためにSP達とともにAEUに旅立つのであった。
そこに運命の出会いが待っているとも知らずに……。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 11.限界離脱領域

経済特区東京 某マンション 刹那の部屋

「……何の用だ、ユーノ。」

「何の用だはないだろ。ミッションの分析でもしようと思ってよ。…あのフラッグの印象はどうだ?」

タリビアでのミッション後、刹那とユーノは自分たちの部屋で待機していた。
そんな中ユーノはタリビアからの撤退時に追跡しエクシアに攻撃してきたフラッグについて質問した。

「…通常のフラッグではありえない性能だった。だが、あの動きでは中のパイロットの負担も他のものに比べかなり大きいだろう。」

刹那は筋トレをしたまま感情のこもっていない声でベッドの上で寝転がっているユーノにこたえる。

「だろうな。しかもたぶん装甲はペラペラ。燃料も限界ギリギリじゃないとどんなにフライトユニットを大型化してもあの速度は説明がつかない。」

刹那は筋トレを中断しユーノのほうを向く。

「わかっているならばなぜ聞いた?」

「あ~…それはな……」

マイスターの中でメカニックに精通しているユーノは自分に聞くまでもなくその事実に気付いていることを刹那は知っていた。
そして、何か別に聞きたいことがあることも。

「……いったい何が知りたい。アフリカでのミッションで何があった?」

アフリカでのミッションのレポートはあくまでソリッド一機によってなされたことになっている。
だが、明らかにソリッドの使用している武装によって撃墜されたものでないMSやタンカーもソリッドによるものとなっていたので、ティエリアをはじめとするメンバーは疑問に思っていた。
もっとも、スメラギはなにかに感付いているようだったが。

「ティエリアみたいなこと言うんだな。けど、アイツにも言った通り何にもない。」

「なら、なぜあんなことをした。」

それまで余裕の笑みを浮かべていたユーノだったが表情が硬直する。

「なぜ、あそこまで攻撃した。南アメリカでのミッションも、アフリカでのミッションも……」

そう、ロックオンたちがなにより気にしていたのは相手の被害状況。
普段のユーノらしからぬ残酷な撃墜法を誰もが気にしていた。
もちろん大部分がフォンの手によるものなのだが、アフリカではユーノもテロリストに対して容赦をしなかった。

「……南アメリカであれをやったのは俺じゃない。だが、アフリカでは俺も何機か墜とした。」

「なら、誰がやった?なぜ、お前もガンダムであんなことをした?」

しばしの沈黙が二人の間に流れる。
沈黙を最初にやぶったのはユーノだった。

「俺が………俺が、俺として戦い抜くためだ。」

ユーノは体を起こしサングラスを外して刹那を見つめる。

「答えになっていないかもしれないことは重々承知だ。だが、今はこれだけしか言えない。」

「…………………」

刹那は黙ったままユーノの話を聞いている。

「俺以外に誰がいたのかも今はまだ言えない。けど、俺はみんなと同じ思いで戦っているつもりだ。」

刹那はユーノの瞳をじっとのぞきこむ。
深い悲しみと怒りを、そして固い決意を宿した碧の瞳。
自分と同じ、ガンダムに乗る者の瞳だ。

「……わかった。今は聞かない。だが、いずれ話してくれると信じている。」

「その時がきたら、な。」

ユーノは再びサングラスをかけると今度は自分が質問をする。

「聞きたいことはなんだ、だったな刹那。」

「……ああ。」

「…お前自身のことだ。今のお前はガンダムマイスター、刹那・F・セイエイとして戦っているのか?それとも…」

ユーノのサングラスの奥の眼光が鋭くなる。

「KPSAの少年兵、ソラン・イブラヒムとしてか……どっちだ?」

いつも無表情な刹那の顔に明らかな驚きが浮かぶ。
だが、すぐに普段のポーカーフェイスに戻る。

「……ホントはフェアじゃないから聞こうかどうしようか迷ってたんだがな。やっぱ知っときたいのさ。お前があそこまでガンダムに執着する理由をな。」

「……了解した。」

二人は正面から向き合う。
真実を知るために。
真実を伝えるために。




天柱 低軌道リング上

「ねぇ、沙慈!見て見て!!」

「ル、ルイス!!勝手にそんなとこに行っちゃ駄目だって!!」

自分たちの担当していた職員から説明を受けていた時、沙慈はリングの端に行っていたルイスからの突然の言葉に驚いて彼女に近づく。

「あ……」

注意しようとした沙慈だったが目の前の光景に圧倒されてルイスとともに見とれてしまう。

「すごい……映像で見ていたのと全然違う……」

「うん……やっぱり宇宙はすごいや……」

ルイスと沙慈は眼前に広がる宇宙の黒と星の白、そしてその下に広がる地球の青のコントラストに目を奪われていた。
それは今まで見た星空がつくりものだったと思えるほど美しく壮大なものだった。

沙慈とルイスはハイスクールの宇宙実習で低軌道ステーションを訪れていた。
本来成績優秀者の沙慈だけが来る予定だったのだが彼のガールフレンド(?)のルイスも自費参加で一緒に参加している。
宇宙で働くことが夢の沙慈は今回の実習を心の底から喜んでいた。
憧れていた仕事への第一歩を踏み出せたと思っていた。
しかし、そんな彼の事情を知ってか知らずか一緒についてきたルイスはただ自分が今地球を離れ宇宙にいるということを観光感覚で楽しんでいた。
沙慈は若干呆れてはいたものの、彼女と一緒にいられるということが正直うれしくて仕方なかった。

「二人とも気をつけて。高度一万メートルとは言え、微重力はあるんだから。足を踏み外したら地球へまっさかさまだぞ。」

「あ、はい!」

「すいませ~ん!」

職員の言葉にルイスは手を振る。
が、その瞬間。

「へ?あ、ああ、きゃああぁぁ!?」

「あ!ル、ルイス!!」

足を踏み外してしまったルイスがリング上からのろのろと地球に向かって落ちていく。
その落下速度があまりに遅く危機感を感じにくいが、高度が下がればその分重力も大きくなり落下速度も爆発的に増加する。
人間などひとたまりもないだろう。

「くっ!!」

沙慈はとっさに落下を開始していたルイスの手を掴む。
だが、

「わ、わ、わああぁぁぁ!!?」

そのまま彼もいっしょに落ちていってしまう。

「わぁぁ!!沙慈の馬鹿ぁ!!ちゃんと助けてよぉぉ~~~~!!!!!」

二人は手をつないだまま落下していく。
もはやこれまでと思ったその時、二人の体が上に引っ張られ停止する。
上を見ると職員が二人のケーブルを引っ張り支えていた。

「やれやれ……」

間の抜けた泣き顔で自分を見る二人の無事を確認し、職員は安堵とも呆れともとれるため息をついた。





経済特区東京 某マンション 刹那の部屋

「なるほどね…」

刹那から彼の過去を聞いたユーノは怒りから表情が厳しくなる。

(あのだみ声野郎……。国一つ滅びてもまだ戦い足りないってか。)

アリー・アル・サーシェス
刹那に戦い方を教えこんだ人間。
そして、刹那から戦う以外の未来を奪い取った人間。

「奴がまだ生きているなんて……奴が今何をしているのかわからないのか?」

「悪い、そこまではわからない。そもそも、あのテロ組織に加担しているのかどうかも怪しい。仕事に行く途中とかぬかしてたからな。」

そう言って二人は黙り込む。

「……この世界に神はいない。」

刹那が唐突に沈黙をやぶる。

「?何言ってんだ?」

刹那はユーノの質問に答えずそのまま喋り続ける。

「神がいないことを知った時、俺は戦う理由を失った。だが、ガンダムが俺に戦う理由を、生きる意味をくれた。」

「だから、ソレスタルビーイングに……?」

刹那は力強くうなずく。

「俺のコードネームは刹那・F・セイエイ。エクシアのガンダムマイスターだ。」

刹那は過去の自分を払拭するように言い放つ。
それを見たユーノは苦笑を浮かべる。

「……そうだったな。エクシアに乗ってんのは刹那・F・セイエイ、世界一のガンダム馬鹿だ。」

「ありがとう……最高の褒め言葉だ。」

刹那にしては珍しくはっきりとした笑みを浮かべる。

「そんなつもりで言ったんじゃないんだがな……やっぱ、お前は変わってるよ。」

二人は揃って小さな声で笑ったがユーノの心の中は複雑だった。

(刹那は自分の過去から一歩を踏み出そうとしている…けど俺は取り戻せてもいない過去に縛られたままだ……。)

「ユーノ……」

ユーノのわずかな心の機微を察知した刹那が普段の表情に戻り話しかける。

「何に迷っているのかは俺には分からない。だが、お前もガンダムマイスターだ。だから、戦え。お前が“今”信じるもののために。」

「……俺は…」

その時二人の携帯端末からアラームが鳴り響いた。

「新しいミッション……」

「アレルヤとキュリオスか。」

二人が見ているそこにはアレルヤが二日後に人革連のMSの性能実験の監視をするとの文が記載されていた。






低軌道ステーション 『真柱』 周辺宙域

沙慈たちの一件から二日後、低軌道ステーション周辺宙域に二機のモビルスーツがいた。

一機は藍色のゴツゴツしていかにも兵器といったような風貌のMS、ティエレンの宇宙型。
もう一機もティエレンなのだが細部の装備が通常のものとは違い、その無骨な相貌に似つかわしくないピンクでカラーリングされている。

「少尉、機体の運動性能を見る。指定されたコースを最大加速で回ってみろ。」

藍色のティエレンのパイロット、セルゲイ・スミルノフはピンクのティエレン、ティエレンタオツーのパイロットに指示を出す。

「了解しました、中佐。」

パイロットの声は若い女性のもので、これまた無骨なティエレンとは縁遠いものに思える。

「……いきます。」

彼女の言葉とともにティエレンタオツーのスラスターが作動し、加速を開始する。

「最大加速に到達。」

ティエレンタオツーは最大加速に到達すると姿勢制御用に装備された各部スラスターを使用し、華麗に旋回していく。

「……最大加速時でルート誤差が0.25しかないとは……これが超兵の力なのか……」

セルゲイはディスプレイに表示されたデータに感嘆の言葉を漏らす。

「しかし……彼女はまだ乙女だ……」

そうつぶやきセルゲイは彼女、ソーマ・ピーリスと出会ったときのことを思い出していた。






人革連 総合司令部

「で、どうだった中佐?」

人革連の司令部でセルゲイは司令官に向きあい報告を行っていた。
セイロン島でエクシアと交戦した彼は善戦したもののエクシアにティエレンを潰されてしまった。

「ガンダムと手合わせしたのだろう?忌憚のない意見を言ってほしい。」

「……私見ですが、あのガンダムと言うMSに対抗できる兵器は今のところこの世界のどこにもないと思われます。」

そう、侮っていたわけではない。
それでも、自分の予想の遥か上をいく性能は驚異的の一言に尽きる。

「それほどの性能かね?」

「あくまでも私見です。」

セルゲイの言葉を聞くと司令官は満足そうに笑う。

「なら、君を呼び寄せた甲斐があるな。」

司令官の表情が厳しいものに変わる。

「中佐、ガンダムを手に入れろ。ユニオンやAEUよりも先にだ。」

「はっ!」

セルゲイもまた表情を引き締め敬礼をする。

「専任の部隊を新設する。人選は君に任せるが……一人だけ面倒を見てもらいたい兵がいる。」

「?」

セルゲイの頭に疑問が浮かぶが考えている暇は与えられなかった。

「はいりたまえ。」

司令官は後ろにある扉によびかける。
そして、扉が開き一人の兵士が入ってきた。

(これは……!?)

セルゲイが驚くのも無理はない。
長く白い髪、兵士と呼ぶにはあまりにも華奢な体つきをしている。
だが、その眼光は鋭く、まさに戦う者の目だ。

「失礼します。」

そういうと彼女は敬礼をする。

「超人機関技術研究所より派遣されました、超兵一号、ソーマ・ピーリス少尉です。」

「超人機関……!?」

セルゲイがあからさまに嫌悪感を示す。

「司令……まさかあの計画が……」

笑ってこそいるが司令官もどこか呆れた様子が見受けられる。

「水面下で進められていたそうだ。上層部は対ガンダムの切り札と考えている。」

ピーリスが一歩前に出る。

「本日付けで中佐の専任部隊に着任することになりました。よろしくお願いします。」

セルゲイはピーリスのまっすぐな瞳を見つめたままやりきれない気分になる。
おそらく彼女は自分の息子よりも年下だろう。
そんな彼女を戦わせるという事実がセルゲイの胸を締め付けた。

(………やりきれんな、まったく。)

そんな思いを抱きながらもセルゲイは対ガンダム部隊を指揮することとなった。






低軌道ステーション 真柱 周辺宙域

ピーリスは何の問題もなく上官の命令をこなしていた。
超兵たる彼女に自身の考えなど必要ない。
ただ忠実に命令をこなすことが彼女にとっての存在意義だった。
だが、そんな彼女に予想だにしない事態が起こった。

「な、なに…!?この感じ………!?」

突然何かが自分の頭に入り込み、ありとあらゆるところを駆け巡っているような感覚。
激痛を伴うそれは彼女から徐々に冷静な判断力を奪っていった。




真柱内部 リニアトレイン発着ロビー

「うっ!な…なんだ……!?頭が………!?」

時を同じくして、真柱に到着していたアレルヤにも同様の感覚が襲う。
自分の頭に無断で他人が入り込んでくるような感覚。

「うっ……!っっくぅ!!」

痛みに耐えかね、遂には床に手を突いてしまう。
周りの人間が何事かと騒ぎ始めるが、アレルヤはそれどころではない。

「な、なんなんだ……!?この頭痛は!?」

(あ…たは……)

「!?ぐぅぅぁぁぁ!!!」

突然頭の中に女性の声が響き痛みが増す。
アレルヤは再び呻き顔を下げるが、すぐに顔を上げる。
だが、普段の彼とはかなり印象が違う。
常に隠れていた金色の右目が見え、表情が苦しみだけではなく憤怒が混ざったものになっている。

「くそっ!どこのどいつだ!!勝手に俺の中にはいってくんのは!!」

(あなたは誰!?)

彼の疑問に答えるかのように声が響いたが、答えになっていないそれはただ彼の怒りを増幅させたにすぎなかった。

「てめぇ……!殺すぞ!!」

普段の彼からは想像できないほど荒々しい口調で暴言を吐きながらアレルヤ(?)は立ち上がった。





真柱 周辺宙域

(てめぇ……!殺すぞ!!)

「っっ!!!!!」

今まで頭痛に苦しんでいたピーリスにはその猛獣のような殺意に耐えることができなかった。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

彼女は恐怖から模擬弾の入った銃を“それ”がいると思われる低軌道ステーションのリニアトレインの発着ロビーへと向ける。

「!?やめろ!少尉!!」

異変に気付いたセルゲイが接近していくが彼の健闘もむなしく何発もの模擬弾が発射される。
いくら模擬弾とはいえどかなりの大きさとスピードである。
当たれば、低軌道リングはただでは済まない。

「いやぁぁぁぁぁ!!!!!やめて!!!!いやぁああぁぁぁ!!!」

ピーリスの目は瞳孔が開ききり、動き回って焦点が合わない状態だった。
叫び続けるその姿からは超兵という肩書は見うけられず、ただ駄々っ子が恐怖から逃れるために必死に抵抗しているようだ。

「やめろ!少尉!やめろぉぉぉ!!」

「いやぁぁぁぁ!!やめてっ!!!やめてぇぇっ!!!」

ようやくティエレンタオツーに追いついたセルゲイが抑え込む。
だが、それでも彼女は銃撃をやめない。

「やめろ!やめるんだ少尉!!」

「ああぁぁぁあああぁぁぁ!!!!」

必死で止めようとするがそれでもやめない。
そして、恐れていた事態が発生してしまう。
当たり所が悪かったのか重力ブロックの一部がリングから切り離されてしまったのだ。





重力ブロック

「!?」

重力ブロックの揺れを沙慈たちは最初のうちはデブリがぶつかっているのかと思っていた。
だが、絶え間なく続くそれがデブリによるものでないことを徐々に理解していた時だった。

「わ!?」

「きゃあ!?」

突然今まで比べ物にならないほどの揺れとともに中の明かりがすべて落ちる。
そして、暗闇の中で二人は本来あるはずのない感覚に襲われる。

「わ、わっわっ、ひゃあぁ!?」

「ルイス!!」

体が浮いていく中で沙慈はルイスを抱きとめる。
明りが戻ると周りの人々も体が浮きあがっている。

「なんなのよぉ~?」

「重力が……消えた!?」







リニアトレイン発着ロビー

「誰だ…奴は誰なんだ……?」

アレルヤ、いや、もう一人の彼、ハレルヤは突然切れた声にいら立っていた。
もともと攻撃的な彼だが、勝手に自分の中に入ってきた彼女を殺せなかったことがさらにいらだちを増幅されていた。
と、周りが騒がしいことに気付き窓の外を見る。
そこには切り離された三つの重力ブロックが仲良く地上へと落下していっていた。

「事故か……ククク………ご愁傷様だなぁ。」

ハレルヤはそれまで感じていた怒りを忘れ、重力ブロックを見ながら歪んだ笑いを浮かべる。

(クククク……さぁて、どうなるかね?)

ハレルヤは脳をフル回転させてこれから起こることを想像し始める。

徐々に薄くなっていく酸素を醜く奪いあい、殺しあう姿。
助からないと知りつつ神にすがる者。
絶望から自ら命を絶つ者。
愛する者の名前を届かないにもかかわらず叫び続ける者。

(くはははは!たまんねぇな、おい!)

かつて自分たちも味わった宇宙をさまよい、ゆっくりと、しかし確実に近づいてくる死への恐怖。
その光景を今度は自分たちが外から、しかも特等席で拝めるのだ。
ハレルヤからしてみればこれほど愉快なことはない。

(ハレルヤ……)

「!?」

ハレルヤは内側にいるアレルヤの声に反応する。

「……出しゃばんなよ。これからがいいとこなんだ。」

ハレルヤは先ほどまでの下卑た笑みから鋭い表情に戻る。
そう、地球の重力につかまり赤くなりながら高熱にさらされ苦しみ、悶え、絶叫していきながら燃え尽きていく。
まもなくそれが見られるのだ。
邪魔などさせない。

(ハレルヤッ!!)

「!!」

アレルヤの叫びと同時に二人の脳内に忌まわしい記憶がよみがえる。

何もない宇宙を彷徨っていたあの日。
食糧、そして酸素がなくなっていくなかでハレルヤが仲間たちを殺していく。
生き残りたい。
ただそう願ってしまっただけでもう一人の自分は仲間たちを手にかけてしまった。
そんなことは望んでいなかったのに。

(駄目だ……!)

(……チッ!わかったよ。好きにしな。)

ハレルヤはそう言ってふて寝してしまった。

「駄目だっ!!」

ハレルヤのことは気にせず、アレルヤはキュリオスの納められたコンテナへと走って行った。






周辺宙域

「なんということだ……」

セルゲイはあまりに信じがたい光景に言葉を失ってしまう。
だが、すぐに正気に戻るとティエレンタオツーに乗っているピーリスに呼び掛ける。

「少尉!少尉!!」

どれほど呼びかけても反応がない。

(気絶しているのか。)

なぜ彼女がこのようなことをして、気を失っているのかについて考えたかったがそんな時間はない。
セルゲイはティエレンタオツーを支えたまま管制室に緊急連絡を入れる。

「管制室、こちらセルゲイ、重力ブロックの被害状況を知らせろ。」

『こちら管制室。中佐、災害時の緊急情報送信によると、流された第七重力区画には232名の要救助者がいる模様です。』

「救助隊は?」

『救助隊は七分後に発進予定、護衛のための小隊にもスクランブルをかけました。ですが……』

管制官が言い淀む。

『爆発の衝撃と空気の流出で第七重力区画の速度が急激に落ちています。あと十四分で地球の重力圏へ引き込まれます。』

「なんだと!?」

セルゲイの目が驚きによって見開かれる。
今、自分の前で232名の命が散ろうとしているのだ。

(……やるしかない!)

セルゲイは覚悟を決めるとティエレンタオツーから離れ、再度管制室へ通信をつなぐ。

「救助行動に入る。少尉の機体回収班を出させろ。」

『し、しかし、あれだけの質量の物を……』

「人命がかかっている!!」

管制官を一喝するとセルゲイは切り離されてしまった重力ブロックへティエレンを発進させた。






第七重力区画

「この区画全体がステーションから離れている!?」

沙慈は近くにあった端末を操作し自分たちのおかれた状況を把握する。
周りの人間はどうにもならないということを知りながらあわただしく動き回っている。

「うそ……それじゃ私たち宇宙を漂流してるの!?」

「救助隊が来るよ。それまでの辛抱だ。」

不安そうなルイスの声に沙慈が笑顔で答えるが、突如なにかがぶつかったような大きな揺れが彼らを襲った。

「な、なんだ!?」






周辺宙域

セルゲイは切り離された区画のすぐそばに着いたが、それまでにかなりの時間をつかってしまっていた。

「限界離脱領域まであと七分……重力区画を軌道高度まで押し上げるには、あのでかぶつを加速させるしかない!!」

ティエレンは一気に加速し重力区画に両手をついてそのままスラスターをふかす。

「ぐぅぅぅぅぅぅっっ!!!」

ティエレンのボディがギシギシと軋みながらも必死で重力区画を押し上げようと奮闘を開始した。





第七重力区画 内部

「大変だ!!」

一人の男の声にその場にいた全員が反応する。

「今端末で計算してみたがこの区画はあと五分で地球の重力圏につかまっちまう!!」

「なんだって!!」

「そんな……」

「あぁ…神様ぁ……」

全員が混乱を始める中、沙慈とルイスも残酷な事実におびえていた。

「さ、沙慈ぃ……」

「あと五分……冗談だろ!?」

あと5分で自分たちは死ぬ。
そんな現実を二人はかみしめていた。








第七重力区画 外部

セルゲイとティエレンは必死で加速させようと努力していたが、第七区画は徐々に高度を下げていた。

「第七区画の質量が大きすぎる……ティエレンの推進力では……!」

頭に付けられたヘッドマウントディスプレイには残酷に刻まれていく限界離脱領域までの時間が表示されている。

「限界離脱領域まであと200秒…このままでは私の機体も地球の重力にとらわれてしまう!」

表示された時間を見て焦りが募る。

「見捨てるしかないというのか……!200人以上の人間を!」

だが、それでもセルゲイは離れようとしない。
かつて、自分は何よりも大切な存在を守り抜くことができなかった。
そのせいで自分の息子、アンドレイにもつらい思いをさせてしまった。
だから、

「あきらめん……!あきらめんぞ!!」

セルゲイは奇跡を信じながらスラスターをふかし続ける。
しかし、奇跡が起きる気配はなく、ただ残酷な現実を突き付けてくる。

「っ……宇宙はなぜ、こうも無慈悲なのだ!!」

セルゲイの心が折れかけたその時だった。
ヘッドマウントディスプレイにアラームが鳴り響き、なにかが高速接近してきていることが分かった。

「この速度で近づいてくる機体だと……!?なぜ今までレーダーに……!!」

セルゲイの中である仮説が組み立てられる。

「まさか!」

そのまさかである。
暗い宇宙の遥か彼方からオレンジ色の戦闘機、ガンダムキュリオスが接近してきていた。





周辺宙域

キュリオスのコックピットの中、アレルヤは決意に満ちた表情で操縦桿を握っていた。

そんな時、王留美の顔がディスプレイの脇に写り、通信をしてくる。

『アレルヤ、アレルヤ・ハプティズム!何をしているの!?あなたに与えられたミッションは……』

アレルヤはウンザリといった様子で通信を遮断する。

「……あなたにはわからないさ。宇宙を漂流する者の気持ちなんて。」

そう呟き、モニターに視線を移すともう時間がないことが分かる。

「限界離脱領域まであと20秒……!キュリオス!!」

アレルヤは急いでキュリオスをMS形態に変形させると、両手を突き出したまま第七重力区画に突進した。

「な、なんだと!?」

「いけぇ!!」

残り時間が0になるがキュリオスが出力を上げるとそれまでじりじりと地球に近づいていた重力区画が徐々に加速していく。

「持ちこたえた…。しかし、ソレスタルビーイングが人命救助とは……」

セルゲイにしてみれば意外だった。
ただ戦いに介入し、その場を混乱させ、無駄に命を奪うだけのはずのテロリストが人の命を救おうとしているのだ。

「あとは…スメラギさん次第だ……」

アレルヤは願うような気持ちでキュリオスを操縦し続けていた。





JNN 天柱極市支社

「速報!行方不明者リストが出た!!」

ざわめきがはしる中、絹江は見覚えのある名前を見つけ愕然とする。
それは自分の弟、そしてそのガールフレンドの名前だった。

「そんな……」

彼女はその場に泣き崩れる。
見送った時の楽しそうな二人の笑顔。
そして、沙慈との今までの思い出が彼女の頭の中を駆け巡っていた。




第七重力区画 外部

キュリオスとティエレンがともに重力区画を推し始めてしばらくが経っていたが、それでも安定速度にのせることができずにいた。

「ガンダムの推進力をもってしても、現状維持がやっとか……!」

セルゲイが呻く。
しゃくではあったがガンダムが来てくれたおかげで希望の光が差し込んだように思えた。
しかし、このままではいずれ落ちていってしまうだろう。

『聞こえるか!?全員中央ブロックに集まれ!』

「!?」

セルゲイは突然入った通信の声に驚く。

「この声…ガンダムのパイロットか!」

『繰り返す、死にたくなければ真ん中に集まるんだ!!時間がない!急げ!!』

「若い…男の声。」

セルゲイはその男の声を、後々自分と深くかかわる男の声をこの時初めて聞いた。





第七重力区画 内部

「ねぇ、沙慈……」

アレルヤの指示に従って移動していたルイスは不安そうな顔で沙慈を見つめる。

「もしかしたら死んじゃうかもしれないから、今のうちに言っとくね……」

「ルイス……」

その顔は不安に染まっているものの、若干紅潮している。

「私…沙慈のことが!!」

とその時、後ろから来た男に二人は押される。
二人は体勢を崩したものの、なんとか手をつないで離れずにいた。

「トロトロすんな!」

「「す、すみません!」」

二人が謝るのも聞かずに、ぶつかった男はさっさと行ってしまった。

「ルイス!僕らも急ごう!」

「あ!ちょ、ちょっと!!」

ルイスは伝えるべきことを伝えられぬまま沙慈に手をひかれ中央ブロックへと向かっていった。






第七重力区画 外部

(まだか……!)

アレルヤはあせっていた。

彼がこのような無茶な行動に出たのは勝算があったからだ。
キュリオスを失わないようにスメラギがフォローを入れてくると踏んでいたのだ。
だが、いまだにそのフォローが来ない。

『聞こえるか、ガンダムのパイロット!』

ティエレンのパイロットから通信が入るが歯を食いしばったまま操縦桿を握り続ける。

『この区画は間もなく限界離脱領域に入る。』

悔しさが通信からでもはっきりとうかがい知ることができる。

『ここまでだ……離れろ……』

「フッ…できないね!」

アレルヤにしては珍しく勝気な声を出す。

「ソレスタルビーイングに……失敗は許されない。それに……」

その続きを言おうとして言葉に詰まる。
ひょっとしたら自分は機体ごと見捨てられたのかもしれない。
そんな不安が駆け巡る中、ふとある人物のことを思い出していた。

サングラスをかけた長髪の男の子。
一番最後に仲間になった優しい少年、ユーノ・スクライアのことを……。







1年前 ソレスタルビーイング拠点

その日、アレルヤとユーノは遅くまでキュリオスの整備を続けていた。
イアンすらもいない暗い格納庫でキュリオスの周りとパソコンの明かりだけを頼りに二人は調整を続けていた。

「これで、よしっと。さぁ、帰って寝ようぜ。正直もうパソコンとは向き合いたくねぇや。」

「うん、そうだね……」

体を伸ばしながら歩いていくユーノの後ろ姿をアレルヤはじっと見つめる。

エレナの死からまだそれほど月日は流れていないが、ユーノはマイスターとして自分の役割を果していた。
どれほど覚悟を決めようと、過去から逃げ続けている自分とは違って。

「やっぱりすごいな……ユーノは。」

「んあ?」

間抜けな声とともにユーノが振り向く。

「僕よりずっと若いのに、もうしっかりと自分の道を歩いていっている……少し、うらやましいかな。」

「…………………………」

苦笑するアレルヤを見てユーノは黙り込んでいる。
と、思いきや。
全身がプルプルと震えている。
サングラスで表情こそ読めなかったが、口の端が徐々につりあがっていく。

「………っ、く、あっははははははは!!!やばいもう限界だ!あ~腹痛ぇ!!」

とうとう耐えきれずに笑いだしたユーノをアレルヤは茫然と見つめていたが、ハッと正気に戻ると怒り始めた。

「僕はまじめな話をしてたんだ!!それを君は!」

「わ、悪い悪い!っ!プッ、クククク……」

それでもこらえきれないといった様子で再びクスクスと笑う。

「………それは、僕は君からしてみれば滑稽な存在かもしれないけど、僕は僕でいろいろ悩んで……」

「ああ、違う違う。俺が笑ったのはそのことじゃねぇよ。俺自身のことさ。」

「君自身……?」

アレルヤがわからないといった表情で淡い光に照らし出されたユーノの顔を見る。

「俺はアレルヤが思ってるほど大層な人間じゃないよ。そんな俺を一人で何でもできてるお前にうらやましいなんて言われたのがおかしくてよ……。」

ユーノは上を見上げどこか寂しそうに話し始める。

「エレナのこともふっきれてないし、自分の過去がわからなくて不安な時もある。でもよ……」

ユーノはサングラスを外し、憂鬱な気持ちを吹き飛ばすような人懐っこい笑みを浮かべてアレルヤを見る。

「みんなが俺のことを支えてくれている。だから、俺は進んでいけるんだ。みんなを信じることでな。」

「信じる………」

「ああ。スメラギさんにイアン、ラッセとアホのリヒティにクリス。あと、まあ何考えてっかわかんねぇけどフェルトにティエリアに刹那もいざという時はたぶん見捨てねぇだろうし、モレノやロックオンはやたら世話を焼いてくるしな。それに……」

アレルヤの胸にトンと拳を軽くぶつける。

「アレルヤも俺やみんなになにかあったらすっ飛んできてくれるだろ?キュリオスのマイスターさん♪」

「……ああ!もちろんだよ!」

アレルヤは笑顔で力強くうなずく。

「けど、僕も君が思ってるほど大層な人間じゃないよ。だから、僕が助けを求めていたら駆けつけてくれるかい?」

「モチのロンだよ。俺はそのためにここにいるんだからな。マイスター全員かき集めてすっ飛んで行ってやるよ!!」







第七重力区画 外部

(そうだ…僕は何を疑っていたんだ。)

アレルヤは操縦桿を握る手に力を込める。

(絶対、みんなが力を貸してくれる!僕はもう、あのときのように一人じゃない!)

そう、

「ガンダムマイスターは独りじゃない!!」

『……That’s right.しっかり覚えてたな、アレルヤ。』

「!!」

通信に合わせたように地球から桃色の閃光が駆け抜け、右側のブロックを連結していた部分が破壊されるとそのままゆっくりと中央ブロックから離れていった。

アレルヤは遠い地上へと視線を向ける。
自分の仲間がいるであろう地球へと。  

「…流石だ、ロックオン。そして……」

モニターの角に写ったあどけなさが残る少年に目を向ける。

「ユーノ…」

『悪いな、アレルヤ。そっちにすっ飛んでくのは無理だから、ここから援護させてもらうぜ。もっとも……』

二人の顔に同時に苦笑が浮かぶ。

『ほとんどロックオンがやるんだけどな。』






地球 某所

見渡す限り何もない荒野にデュナメスとソリッドがいた。
ソリッドは普段と変わらない姿をしているが、デュナメスは反動防止用のユニットにしっかりと固定され、巨大な超高々度射撃用ライフルを空に向けていた。
横にはGN粒子コンデンサーが置かれ、高威力の狙撃を可能にしていた。

「GN粒子、高濃度圧縮中、チャージ完了マデ、20、19、18…」

ロックオンは超高々度射撃用ライフルに接続されたカメラアイから様子をうかがっているとユーノから通信が入る。

『ロックオン、二発目の軌道計算が終わった。データをそっちに送る。』

「了解。」

それまでスコープ越しに見ていた光景がデータによって補正されよりはっきりとしたものになり、さらに照準もより正確なものになる。

「これだけ距離があってもお前がいるとはずす気がしねぇな。」

『そらどうも。』

「チャージ完了。」

二人が話している間にGN粒子のチャージが完了する。
しかし、問題が発生する。
雲によってターゲットが隠れてしまい、狙い撃てなくなってしまった。

「発射方向の軸線上に雲がかかりやがった……」

だが、ロックオンたちは慌てない。
上空にはもう一人のマイスターがいる。

「切り裂け、刹那!!」

『了解。』

エクシアはGNソードの刃を起こし、振りかぶると一気に振り下ろした。

「はぁぁぁっ!!」

剣圧によって生じた突風により射線軸上の雲がかき消される。
そして、ロックオンの目にはターゲットがはっきりと見えた。

「狙い撃つぜ!!」

ロックオンがトリガーを引くと同時に圧縮された粒子が光の矢となって空を駆け上って行った。






第七重力区画 外部

「ナイスサポートだ、スメラギさん!!」

ロックオンの狙撃によって今度は左側のブロックが切り離される。
アレルヤはその様子を見ながらこの作戦を指揮したであろう戦況予報士に賛辞を送る。

(これだけ質量が落ちれば、ガンダムの推進力ならお釣りがくる!!)

アレルヤはペダルを踏み込みさらに加速をかける。

「上がれぇぇぇぇぇぇっ!!」

光とともに先ほどまでとは比べ物にならない加速を開始した中央ブロックはまたたく間に安定軌道まで加速した。

「……地上から二つの区画を狙撃してパージ、質量を減らし安定軌道にまで加速させるとは……」

信じられないことばかりが目の前で起き、セルゲイはコックピット内で呆気にとられながらも考えを巡らせていた。
ただ戦いを引き起こし、命を無駄に奪っていく存在と思っていたソレスタルビーイングに助けられた。
そんな組織の手を借りてしまったという憤りと彼らがはたして悪なのかという思いの中でセルゲイは悩んでいた。
と、そこに遅れてやってきた救助隊の艦とMSが近づいてくる姿が見えた。

「救助隊が来たか……」

セルゲイがホッとすると同時にキュリオスが手を離し、戦闘機に変形して宇宙のかなたへと飛び去ってしまった。

『ちゅ、中佐!ガンダムが!』

「救助作業が最優先だ。」

『りょ、了解!』

「……私にも、恩を感じる気持ちぐらいはある……」

セルゲイは一人でつぶやく。
その言葉が部下へのものなのか、それとも複雑な心境にある自分へのものなのか、または助けてくれたガンダムのパイロットに対するものなのか、それは彼自身にもわからなかった。
だが、

(次に会ったとき、容赦はせんぞ…ガンダム。)





JNN天柱極市支社

「速報!!要救助者、全員無事救出!!」

歓声が起こる中、祈るように手を組んでいた絹江は顔をあげて安堵する。

「よかった……沙慈、ホントによかった……」

「なお、未確定の情報だが、ガンダムが救出に協力したとのことだ。全員忙しくなるぞ!!」

普段の絹江ならその話題に食いつくのだろうが、今はそれどころではなかった。





救助船内部

「私たち……あともうちょっとで死んじゃってたんだね……。」

ルイスは沙慈の腕をギュッと握りながら震える声で言った。

「ルイス…」

「実感ないよ……でもよかった。」

それきり二人の間の会話が途切れてしまう。
だが、重苦しい空気を変えようと沙慈が話題を振る。

「ねぇ、ルイス。最後に言おうとしてた言葉って何?」

「えっ!?」

沙慈がとうにあの混乱の中でそんなことを忘れてしまったと思っていたルイスは思いがけない質問に顔を赤くして戸惑う。

「教えて。」

まっすぐな沙慈の瞳を見つめるルイス。
だが、そこから自分が言おうとしていたことに何一つ感ずいていないことに気付くと深くため息をつく。

「……教えない。馬鹿……」







周辺宙域

『ご苦労さん、アレルヤ。』

「ありがとう。」

アレルヤはプトレマイオスに帰還する道すがら、通信でユーノと話していた。

「本当にありがとう。約束通り助けに来てくれて。」

『……馬鹿、勘違いすんなよ。これでお前は俺たちに貸し一つだからな。』

「ははははは。そのうち返させてもらうよ。」

照れるユーノを見ながらアレルヤは笑う。
この後、何らかの罰が与えられるだろうが後悔はしない。
これが、自分で決めた道なのだから……。








過去への重力を断ち切ろうとするものたち。その先にあるのは希望か。それとも……







あとがき・・・・・・・という名のお詫び

ロ「アレルヤ人命救助の回でした。」

ア「場面転換が多くてとんでもなくわかりづらいね。まあ、わかりづらいのはいつものことだけど。」

ロ「お前ここだと割と毒はくよな。」

ティ「そんなことはどうでもいい。今回もゲストがいるのだろう。」

ア「そうだったね。今回のゲストはリリなのにおける元祖ライバルキャラ、フェイト・T・ハラオウンさんです!」

フェイト「ど、どうも……」

ティ「?どうした?」

フェイト「えっと、私あんまり男の人ばっかりのところにいたことがないから。少し戸惑ちゃって…」

ロ「流石、なのはと百合疑惑が浮上するだけのことは……」

フェイト「プラズマ・ザンバー・ブレイカー!!!」

ロ「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁ!!」

アレルヤ(?)「はっ、相変わらず余計なことして生き急ぐ野郎だ。」

ティ「貴様は………!」

ア「ハレルヤ!?なんで実体化してるんだ!?」

ハレルヤ(以降 ハ)「ここはしょせんロビンの妄想で成り立っている空間だからな。あんまり気にすんな。」

ア「気にするよ!!」

ティ「あまり長引くといけないから早めに済ませるぞ。君も協力しろ。」

フェイト「え!?は、はい!?」

ハ「オイオイつまんねぇな。これからせっかく俺がそいつに面白いことを……」

ア「させるかぁぁぁ!!この作品を打ち切りにしたいのか!!」

ティ「今回はユーノとアレルヤの間の絆を描くのが目的だったようだな。」←後ろのごたごたを無視

フェイト「ほとんど原作と変わってなかったですけどね。」←後ろがさらにもめているが超無視

ティ「まったく、どうしようもないやつだな。」

フェイト「まあ、次回に期待しましょう。」

ティ「そうだな。しかし、君のような常識人が来てくれてよかった。」

フェイト「あ、ありがとうございます。」

ティ「じゃあ、最後に……」

ア・ハ「「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」」

フェイト「ひゃっ!?ど、どうしたんですか!?」

ハ「どうしたじゃねぇ!!俺があとがき初登場なのにこの仕打ちはないだろう!」

フェイト「あなたがセクハラしようとするからです。」

ハ「するかぁぁぁぁぁ!!!俺はただお前にあんなことやこんなことをして辱め……」

フェイト「十分にセクハラじゃないですか!!」

ア「ハレルヤはともかく僕は必死に止めてたのに!!」

ティ「つっこみの宿命だ。」

ア「そんなっ!!」

フェイト「もうグダグダだから締めるよ。」

ハ「チッ!しゃあねぇな。次回はモラリア編だったな。」

ア「エクシアの新装備が登場!ユーノの活躍にも期待してください!」

フェイト「そして、宿敵サーシェスとの再会に刹那は何を思うのか!」

ティ「任務には関係ないがな。」

ア「ははは……」

フェイト「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただいてありがとうございます!!これからもご意見、感想、応援をよろしくお願いします!!では、せーの……」

「「「「次回をお楽しみに!!」」」」



[18122] 12.過去との対峙
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/05/27 18:40
第197観測指定世界

「こちらフェイト。目標の確保に成功しました。」

『ご苦労さま。はやてちゃんとなのはちゃんたちのほうも終わったみたい。目的は達成したから戻ってきて。』

「了解。」

任務を終了したフェイトはエイミィとの通信を切り、封印したロストロギアを苦々しく見つめる。

「……ジュエルシード。」

自分となのはたちが出会うきっかけになったロストロギア。
そして、ユーノを奪っていったものが使っていたロストロギア。

「なんで今頃になって……」

ここ最近、ジュエルシードが使用された兵器が出現する事件が多発している。
人がいない場で事件が発生しているため今のところ実害はないが、管理局が保管していたものが使われていたので、内通者がいるのではないかと問題になっている。
さらに、管理局が保管していたもの以外にも新たに発見されたと思われるジュエルシードまで出てきていた。

「でも、なんで人がいないようなこんな場所でばかり……」

フェイトの疑問ももっともである。
これまで起きたジュエルシードが使われた兵器たちは観測指定世界、しかも狙い澄ましたように人がいない場所だけに出現し、まるで見つけてもらうことが目的のように大きな反応を出して局員を呼び寄せている。

(私たちに発見させることが目的……でも、何のために?)

フェイトは疑問に思うが、再び帰頭命令が下ったのでそのままアースラへと向かった。
この事件を追っていくことで思いもよらぬ出来事が起こることも知らずに……






魔導戦士ガンダム00 the guardian 12.過去との対峙

経済特区東京 某マンション

「……どうしよう。」

隣人の部屋の前で沙慈は手に筑前炊きを持ちながら迷っていた。
彼の隣人、刹那・F・セイエイは無表情で愛想がなく、どこかつっけんどんで近寄りがたい雰囲気の人物である。
だが、なんとか親睦を深めようと姉のつくった料理をおすそ分けするために彼の部屋の前まで来ていたのだが、なかなか踏ん切りがつかないでいた。

「……自然にやれば大丈夫だよね。」

と、沙慈が決意を固めていると突然扉が開き、中から刹那が出てきた。

「ああ、ちょうどよかった。筑前炊き、姉さんがつくりすぎちゃったから。よかったらいかがかな~、と思って…」

「今から出かける。」

「あ……そう……」

刹那の答えに少しがっかりした沙慈だったが、隣の部屋からもう一人の少年に呆気にとられた。
長い髪にサングラスをかけ、グレーと白のジャケットにジーパンという、何とも怪しさ満点の恰好をした人物だ。

(……………誰?)

「待てよ刹那……って、おたく誰?」

二人そろって同じことを考えるが、少年が沙慈の持っていたものに目を向ける。

「煮物?」

「え?あ、ああ、これね。セイエイさんに食べてもらおうと思ってたんだけど……」

そう言ったところで少年の顔つきが変わる。

「なにぃぃぃぃぃ!!刹那ぁぁぁぁ!お前こんなうまそうな煮物のおすそ分けを断ったのか!?」

「いや、別に用事じゃ仕方ないかなと思うけど……」

「じゃあ、俺にくれ!いや、ください!!是非に!!」

「じゃ、じゃあ、どうぞ。」

沙慈は苦笑しながら少年に料理の入った保存容器を渡す。

「ありがとう!!ここのとこ忙しくてこういう料理を食べてなくてさ。ホントうれしいよ!」

「喜んでもらえて何よりだよ。え~と……」

沙慈が表札を見て名前を確認しようとするが必要なかった。

「俺はユーノ・スクライア。ユーノでいいよ。えっとそっちは…」

「沙慈・クロスロードです。僕も沙慈でいいよ。」

「そっか。改めてありがとな、沙慈。」

そう言ってユーノはさっさと先に行ってしまった刹那を苦笑しながら見る。

「大変かもしれないけど、刹那とも仲良くしてやってくれないか?アイツ、あんな感じだけど根はいいやつだからさ。」

「ははは……、努力するよ。」

沙慈は乾いた笑いをこぼす。

「じゃ、俺も用事があるから。食べ終わったら容器を返しにくるよ。」

「うん。それじゃまた。」

そう言ってユーノは沙慈に向かって手を振りながら刹那の後を追いかけた。





フランス首都 外務省

フランス首都にある外務省の官邸では、外務大臣が中東からの客人、マリナ・イスマイールの相手をしていた。
客人といっても彼女は観光などのためにこの国を訪れているわけではない。
彼女の国、アザディスタン王国へ太陽光発電の技術支援を求めてこの国を訪れていた。

「太陽光発電の技術支援ですか……」

「ぜひともお願いしたいのです。」

大臣はフゥとため息をこぼす。

「我が国としても協力したいところではありますが……。帰国の情勢は不安定です。技術者の安全が保障されなければ議会は承認しないでしょう。」

大臣は顔を少し曇らせるがマリナを見据えたまま話を続ける。

「そうでなくてもAEUの軌道エレベーターは完全稼働には至っていません。技術者を他に回す余裕があるかどうか……」

「そうですか……」

マリナは終始浮かない顔のまま話を聞いていた。
慣れない外交に加え、なかなか支援が得られない現状が彼女の心を徐々に疲弊させていた。

「アザディスタンへの食糧支援は続行させるよう尽力します。力になれず、申し訳ない。」

「感謝します。」

二人は立ち上がり握手を交わして別れた。
その後、大臣は車に乗り去っていくマリナを複雑な心境で窓から見ていた。

「うら若き王女が慣れぬ外交をして国を守るか……哀れではあるが、我々としても施しをする余裕はない。」

アザディスタンが国の衰退を避けるために王政を復活させ、古い血筋の中からマリナを担ぎ出したことは国際社会では周知の事実だった。
マリナ自身もそのことはよく理解していたが、国を救うためならとその役を買って出ていた。
だが、それでも現状を打破することはできず、さらには彼女が出てきたことで改革派と保守派の対立が一層深まってしまった。

大臣もそのことを理解しているからこそ支援をしてやりたいが、軌道エレベーターの開発に遅れているAEUが、もはや何の見返りもない中東の国を支援するなど無理な話である。
しかも、ソレスタルビーイングの登場で自体はさらに悪いほうへ向かっている。

「それも、モラリア次第か……」

そう言って大臣は窓のそばを離れた。







軌道エレベーター リニアトレイン

(モラリア共和国、23年前の2284年に建国したヨーロッパ南部に位置する小国。人口は十八万と少ないが三百万人を超える外国人労働者が国内に在住。約4000社ある民間企業の二割がPMC。PMCとは傭兵の派遣、兵士の育成、兵器輸送、および兵器開発、軍隊維持、それらをビジネスとして行う民間軍事会社……)

「熱心ね、フェルト。」

ミッションのため、地球へ向かうリニアトレインの中でフェルトがデータを参照しているとスメラギから声がかかる。

「任務ですから。」

フェルトはスメラギのほうを向くことなく抑揚のない声で答える。
その反応に苦笑を洩らしていたスメラギにクリスティナが素朴な疑問をぶつけた。

「スメラギさん、モラリアって誘致した民間軍事会社を優遇して発展してきた国でしたよね。どうして今まで内の攻撃対象にならなかったんですか?」

ソレスタルビーイングの声明で紛争を幇助する国も攻撃対象だと言っていたにもかかわらず、軍事会社によって発展してきたモラリアに対する介入が今までなかったのは確かにおかしな話である。

「……それはね、世界の戦争が縮小していけば、彼らのビジネスは成り立たなくなる。……このまま自滅してくれればよかったんだけどね。」

そう言ってスメラギは愁いを帯びた顔で窓の外へと目を向けた。








大西洋 孤島

刹那とユーノが合流ポイントに到着すると、ロックオンと待ちかねたといった面持ちのイアンが話しかけてきた。

「おー、久しぶりだな、刹那。」

「イアン・ヴァスティ…」

本来ミッションに訪れることのないイアンがわざわざやってきていることが刹那には意外だった。

「ん、ふぁれがふいにれきらのふぁ(あれが遂にできたのか)?」

自体を理解したユーノはおにぎりを片手に持ち、口をもごもごさせながらイアンに話しかける。

「ああ。…それよりもお前は口の中のものをなくしてから喋れ。」

「何食ってんだ?」

ロックオンの問いにユーノは口の中のものを胃へと流しこんで答える。

「ご近所さんのおすそわけとおにぎり。」

ロックオンとイアンは顔を見合わせて呆れる。

「おまえなぁ、もう少し緊張感というものを……」

「整備中にやたらと娘と犯罪行為をして結婚した年下の妻の話をしてくる奴に緊張感とか言われたくねーよ。」

「別にそのくらいいいだろうが。というか犯罪行為なんてしとらんわ!!わしらは互いに愛し合ってだなぁ……」

「おやっさん、おやっさん。話ずれてるぞ。」

ロックオンのつっこまれ、再び表情をまじめなものに戻すと咳払いを一つして刹那のほうを向く。

「お前にどうしても届けたいものがあってな。」

「?」

刹那の顔を見たロックオンが笑顔で続く。

「見てのお楽しみって奴だ。」

「プレゼント、プレゼント。」

ハロもどこか楽しげに飛び跳ねる。
彼らの後ろを見るとコンテナと以前とは違った姿のデュナメスがあった。

「デュナメスの追加武装は一足先に実装させてもらった。」

デュナメスの前には同じカラーリングをしたマントのような装甲が装備されている。

フルシールド形態。
デュナメスが狙撃時に死角からの攻撃を防ぐためのものである。
ロックオンの相棒、ハロによって操作され、高い防御性能を持つ装備である。

「で、お前さんのはこいつだ。」

イアンが端末を操作するとコンテナが起き上がり、中から大小二本の剣が出てきた。

「エクシア専用、GNブレイド。GNソードと同じ、高圧縮した粒子を放出。厚さ3mのEカーボンも難なく切断できる。どうだ、感動したか?」

「GNブレイド…」

つぶやく刹那にロックオンが話しかける。

「ガンダムセブンソード……ようやくエクシアの開発コードらしくなったんじゃないか?」

しかし、刹那は二人のことなどお構いなしといった様子でエクシアのほうへ歩いていってしまった。

「なんだアイツは。大急ぎでこんなしまくんだりまで運んできたんだぞ!?少しは感謝ってものをだな……」

「十分感謝してるよ、おやっさん。」

「へ?」

刹那の反応にイアンは不満を漏らすがロックオンにたしなめられる。
二人の視線の先にはエクシアを見上げている刹那がいる。

「刹那は……エクシアにどっぷりだかんな……」

「そうそう。」

最後のおにぎりをパクついていたユーノが二人の会話に加わる。

「なにせ世界一のガンダム馬鹿だからな。」

「ガンダム馬鹿か……違いねぇ。」

3人が笑っていると空から二つの光、キュリオスとヴァーチェが降下してきていた。

「来たか。」

刹那がようやくかといった様子でつぶやく。
こうして、初のガンダム全機によるミッションの役者がそろった。






ユニオン領内 某ホテル レストランバー

(やはりAEUも動く、か……。私たちが動けとなると当然と言えば当然なんでしょうけど……)

携帯端末でニュースを見ていたスメラギ……いや、リーサ・クジョウは沈んだ気分をグラスに注がれた酒で薄めていた。

「やはり気になるかい?」

突然の懐かしい声にリーサは横を向く。

「やぁ。」

彼女にとって旧知の仲であるビリー・カタギリがいつの間にかそばにいた。
彼が注文をしている間に、リーサは端末のスイッチを消した。

「…君ならどう見る?モラリアの動向を。」

「そういうのやめましょ。久しぶりに会ったんだから。」

唐突に質問されたリーサは苦笑を交えながら返す。

「大学院以来だよね……何年ぶりかな?」

「言わないで歳がばれるから。」

少し拗ねた様子で答えるリーサを見てカタギリは微笑む。

「フフ……もう知ってるけど。」

「女はね…実年齢を言われるとその分だけ若さが減るの。」

「初耳だな、そんな実証データがあるなんてね。」

二人は注文したカクテルを飲みながら静かに笑いあった。

「変わってないのね、ビリー。」

「誘ってくれてうれしかったよ。」

リーサは“仕事”の都合でここを訪れていたのだが、ふと大学からの友人であるビリーがこの近くでユニオンの技術者を務めていることを思い出し、久しぶりに会おうと提案したのだった。

「それにしても、やっぱりあの子と同じようなことを言うのね。会った時から思ってたけど、あなたとあの子は似てるわ。」

「?誰だい、あの子って?」

ビリーの心が純粋な興味と焦りの間で揺れ動く。
そのことに気付いたリーサはクスリと笑うと彼の焦りを取り除く。

「少し前から優秀な技術者達と仕事をしてるの。そのうちの一人が私たちより十歳近く下なのにすごく優秀なのよ。きっとあなたと気が合うと思うわ。」

「十歳近く……ということはまだ学生かい!?」

ビリーの顔が焦りから一変、驚きに満ちたものになる。

「ユーノって言ってね。学校にはいろいろ事情があって行けなかったの。ただ、現場で技術をすぐに吸収していったわ……。プログラミングに関してはあなたも負けるかもよ?」

「驚いたな…ぜひとも一度会ってみたいね。」

リーサは苦笑しながら首を横に振る。

「駄目よ。あの子意外と頑固でね……。戦争のために自分の技術を使いたくないって聞かないのよ。」

「戦争……まさかその子は……」

「……戦争孤児、それもユーノ自身もその時の傷が原因で過去の記憶をなくしてしまったの。」

リーサは当たり障りのない事実と少しの嘘で彼、ユーノ・スクライアを紹介する。

リーサはなぜ彼の話をしたのか自分でもわからなかった。
ただ、

(……あの子達にとっては、こちらにいるほうがよかったのかもね。)

いくら覚悟を決めていると言っても、ユーノや刹那やフェルトはまだ幼い子供なのだ。
ビリーのように日のあたる場所で自分の才能を使い、幸せになってほしい。
ビリーに話してしまったのは、叶わぬ願いと知りながらもそう思わずにはいられなかったからだろうか。

「……暗い話をしちゃってごめんなさい。飲み直しましょ。」

「いや、こちらこそ無神経なことを言ってしまってごめん。でも残念だよ。今エイフマン教授が技術主任に来てくれてるんだけどね。」

「技術主任……?」

よく知った名前と予想していなかった単語に問いかけるような形で返事を返してしまう。

「ああ、言ってなかったっけ。今、僕と教授は対ガンダム調査隊に所属してるんだ。」

「対ガンダム調査隊……?なにそのネーミング。」

あまりにもストレートすぎる名称にリーサは思わずふきだすが、心中穏やかではいられなかった。

「新設されたばかりで、名称がまだ決まってないんだよ。」

「その部隊にあなたが所属しているの?」

「僕だけじゃないよ。さっきも言ったけどエイフマン教授も来ているし、変わり者だけど、うちのエースも所属している。」

「へぇ……」

リーサは素気ないふりをするが、ビリーの言葉を一字一句聞き逃さないように耳を傾ける。

「教授はすでにガンダムの放出する特殊粒子の概念に気付いている。」

(!!!!)

リーサは驚いた。
長い時をかけて完成させた太陽炉の原理がこのわずかな間に見破られつつあるのだ。
だが、そのことは表情には出さずビリーに問いかける。

「ふーん……興味あるわね。それってどういう粒子なの?」

「それが……どんなに聞き出そうとしても、教えてくれなくてね。」

ビリーは苦笑しながら肩をすくめる。

「そう……残念だわ。」

「そのことはともかく、君は今何をしているんだい?技術者とかかわりのある仕事みたいだけど。」

「まあ、いろいろとね……」

「…………あの事は……」

それまで和やかな雰囲気だった二人の間に重い空気が流れる。

「……もう…忘れたわ。」

嘘だ。
忘れてなどいない。
だからこそ、今自分はこうしてここにいるのだ。
リーサ・クジョウとしてではなく、ソレスタルビーイングの戦況予報士、スメラギ・李・ノリエガとして。

「そう……」

ビリーはスメラギの思いには気付かず、彼女の手に自分の手を重ねる。

「こうしてまた会えてうれしいよ。」

「うん……」

スメラギは複雑な思いの中にいた。
久しぶりにビリーに会えたことを素直に喜ぶ自分。
だが、そんな彼に対して偽りを語り、情報を聞き出そうとする自分。
久しぶりの友人との再会にもかかわらず、まったく異なる二つの思いが彼女の心に深い傷を残していた。








PMCトラスト 武器格納庫

アリー・アル・サーシェスはアフリカでの任務から呼び戻されるとすぐに格納庫に連れてこられた。

「合同演習ねぇ…まさかAEUが参加するとは思わなかったぜ。」

自分の上司に対してもサーシェスはいつもの軽口をたたく。

「外交努力のたまものだ。我々ばかりがハズレを引くわけにはいかんよ。」

サーシェスの軽口を気にもとめず、苦々しくつぶやく。

「AEUにも骨を折ってもらわんとな。」

「へっ、違いねぇ。」

そんな話をしながら奥へ進んでいくとライトが付いていない部屋に出た。
明りこそないが、そこには巨大な何かがある。

(こいつは……?)

サーシェスが質問しようとした瞬間ライトがつけられ、それは照らし出された。
紺色にカラーリングされたボディに鋭い翼を持った戦闘機。

「この機体をお前に預けたい。」

「AEUの新型か…」

AEUイナクト
最初にガンダムに倒されたMSである。

「開発実験用の機体だが、わが社の技術部門でチューンを施した。」

「こいつでガンダムを倒せと?」

サーシェスの顔に凶暴な笑みが浮かぶ。
彼はアフリカでのソリッドとの一件以来、ガンダムを倒すことを考えていた。
その念願がようやく叶うのだ。

「鹵獲しろ。」

「チッ…言うに事欠いてそれかよ。」

サーシェスは不機嫌そうな声をだすが、凶暴な笑みはそのままだ。

「……一生遊んで暮らせる額を用意してやる。」

「ひゅ~♪そいつは大いに魅力的だな。」

そういうサーシェスだったが、実のところ金などどうでもいい。
ただ、あの機体とまた殺し合いができると言うだけで胸が躍る。

(ククククク…さぁて、でっかい戦争を始めるとしようや!)








モラリア 軍事演習場

翌日、ガンダム全機はモラリアの軍事演習上にいた。

130機のMS対ガンダム5機。
全世界が注目する戦いの火ぶたが切って落とされようとしていた。

「敵さんが気付いたみたいだ。各機、ミッションプランに従って行動しろ。」

ロックオンが全員に指示を飛ばす。
その顔は緊張に満ちながらも晴れやかで、最高のコンディションと言って差し支えがなさそうだ。

『暗号回線は常時開けとけよ。Ms.スメラギからのミッションプランの変更が来る。』

「「「「了解。」」」」

そう言ってマイスターズはそれぞれの敵のもとへと向かっていった。





軍事演習場 北東部

「ほいほいっと!!」

ユーノは軽やかにソリッドを操縦し、敵ヘリオン部隊を無力化していっていた。

「敵機接近!敵機接近!」

「おっ!来た来た!」

ソリッドが後ろを向くと6機のMS形態のヘリオンが地上からこちらに向かってきていた。
だが、想定通りの展開だ。

「ホント、スメラギさんの予想はすげぇな。」

ユーノは感心しながら967に指示を出す。

「967、グラムを発動!」

「了解!了解!」

967が耳をパタパタ動かすと同時にヘリオン部隊の足元からGN粒子と電撃があふれ出す。
するとそのままヘリオン部隊は糸の切れた人形のようにその場に倒れこんでしまった。

「グラムはこういう使い方もできるってことさ。」

ユーノはこのポイントに進軍すると同時に、GNグラムを地上に配置。
撃破したMSの破片などでカモフラージュし、近づいてきた敵を一気に戦闘不能に追い込んだのだ。
扱いの難しいグラムだが、今回はスメラギの予報と組み合わせることによってその性能を最大限に生かすことができた。

『ソリッド、フェイズ1終了。フェイズ2に移行してください。』

「了解。……しかし、今回の俺の役割きつくない?」

『ユーノなら大丈夫だよ。頑張って!』

「へいへい。」

ユーノはクリスティナに励まされながら次のポイントへと向かおうとした。
その時、突然アラームが鳴り響きディスプレイに信じられない光景が映し出される。

「っ!?刹那!!」

そこにはエクシアが紺色のMSに押されている光景が映っている。
と、ユーノは敵の動きを見て何かに気付く。

(この敵の行動を読んでの攻撃……まさか!?)

アフリカで出会ったあの男、

(アリー・アル・サーシェス!なんであいつが!?まさかPMCに所属してたのか!?)

『デュナメス、ソリッドはエクシアの援護に向かって!!』

『『了解!』』

ロックオンとユーノはミッションプランを変更し、刹那とエクシアの援護に向かった。






軍事演習場 東部

エクシアが両手に握られたGNブレイドを振るたびに周りにいたヘリオン達は倒れていった。

(これが…GNブレイド。)

イアンが言っていた通り、これなら大概のものを難なく切断することが可能だろう。
ガンダムセブンソード
これなら確かにその開発コード通りの機体に仕上がったと言えるだろう。

刹那はそのまま感動に浸っていたかったが、すぐさま意識を切り替えると目の前の敵に接近していき右手に持ったブレイドで斬り上げると同時に空高く跳びあがる。
二機のヘリオンがライフルを撃ってくるが、エクシアは体を空中でひねりながら降下していき両手を振るいヘリオン達を切断する。

「そこだ!!」

その時、攻撃の終わった隙を突いて一機がソニックブレイドを突き立てようとしてくる。

「甘いっ!」

しかし、その手を左手に装備した小型のブレイドで切断し、続いて大型のブレイドで頭と左腕を切断した。

「くそっ!!」

周りにいたヘリオン達が接近してくるが、刹那はブレイドを腰に戻し、後ろからGNダガーを抜くとそのまま前方の二機の頭に投擲して突き刺す。
そして、振り向きざまに二本のビームサーベルを抜き、後ろから迫っていた二機を腰の部分から切断した。

「エクシア、フェイズ1終了。フェイズ2に…」

刹那が言葉を紡ごうとした瞬間、コックピット内にアラームが鳴り響いた。

「くっ!!」

刹那はとっさに操縦桿を動かし背後からの弾丸を避ける。
外れた弾丸は地上に着弾し、土煙を発生させる。
ディスプレイには上空を飛ぶ紺色の機影が見えた。

「新型か!?」

それは刹那が最初に相手にした機体、イナクトだった。

(チューンしたあるようだが性能は十分把握している。)

そう思いながら撃ってくる弾丸を避けていた刹那だったが徐々に弾丸がエクシアに近づいていき、遂には正確にとらえた。

「なに!?」

動揺する刹那だったが即座に回避のパターンを大きなものに変える。
だが、それでも敵は確実に当ててくる。

(動きが読まれている!?)

度重なる動揺で動きが鈍くなった所にそのまま紺色のイナクトに体当たりをしかけられ、エクシアは倒れてしまった。

「ぐぅ!!」

「はははははは!機体はよくてもパイロットはいまいちのようだなぁ。ええ!?ガンダムさんよ!!」

刹那はエクシアを起こしながらイナクトのパイロットの声を聞いた。

「あの声……ま、まさか!?」

刹那はユーノとの会話が思い出す。

自分をゲリラに仕立て上げた男。
自分の神への信仰を利用した男。
自分に両親を殺させた男。

「商売の邪魔ばっかしやがって!!」

「!!」

刹那の脳裏にあの日の光景がはっきりと浮かぶ。
赤いウェーブのかかった長髪を風になびかせながら自分の前に立っていた姿。
そして、ナイフの訓練で自分をあしらった時のあの嘲笑。

(やはりそうなのか!?)

「こちとらボーナスがかかってんだ!!」

紺色のイナクトは旋回するとそのまま蹴りを入れてくる。
刹那は腕をあげてブロックするが衝撃でコックピットが揺れた。
しかし、刹那はそんなことを気にしてはいなかった。
目の前にいるこの男が本当に奴なのかということしか頭にない。

(チッ!なんつー堅さだ!!だが…)

イナクトが腕からソニックブレイドを取り出す。

「別に無傷で手にいれようなんて思っちゃいねぇ。リニアが効かないなら……切り刻むまでよ!!」

「くっ!!」

刹那はブレイドを構えて向かってくるイナクトをかわすとビームサーベルで斬りかかる。
だが、

「ちょいさぁ!!」

イナクトが振り向くと同時にエクシアの右手を蹴りあげ、ビームサーベルを弾き飛ばす。

(この動き……間違いない!!)

刹那は激情に任せもう一方のビームサーベルで斬りかかるが、ブレイドで上手く弾かれビームサーベルを手放してしまう。

「………!!!」

刹那は左腰に装備されたGNブレイドを抜いて再びイナクトをにらみつける。
GNブレイドは刹那の感情に反応するかのように激しく振動している。

「何本持ってやがんだ…けどな!!」

そのままイナクトとエクシアは同時に相手へと踏み出し剣戟を重ねていく。
だが、エクシアは鍔迫り合いに持ち込まれるとそのままじりじり押されていく。

「動きが読めんだよ!!」

「くっ!!」

その時、刹那の忌まわしい記憶が呼び起こされた。

自分に銃を向けられ、驚きと戸惑い、そして悲しみの目を向ける母親。

「やめて、ソラン……なぜ、どうしてなの………!?」

そして、乾いた発砲音と火花の後、彼の母親は力なく倒れた。




「う……ああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

刹那の咆哮と同時にエクシアの胸部のジェネレーターが激しく輝き、解放された圧縮粒子とともにGNブレイドの切れ味があがっていく。
そして、

「なに!?」

危険を察知したイナクトはソニックブレイドを手放し、後ろに飛んで距離をとる。
ソニックブレイドはGNブレイドに刺さったような状態だったが、離れた瞬間にガランと音を立てて二つに切断された状態で落下した。

「なんて切れ味だ……これがガンダムの性能ってわけか!!」

と、感心しているとエクシアの動きが止まり額の部分が点滅する。

「光通信……?コックピットから出てこいだと……気でも狂ってんのか!?」

イナクトのパイロットがそんなことをつぶやいているとエクシアのコックピットハッチが開いていった。






モラリア共和国 王留美の別荘

「!?エクシアのコックピットハッチが解除されました!!」

「なんですって!!?」

王留美が用意した別荘でオペレーションをしていたスメラギ達に動揺がはしる。
ガンダムマイスターの正体は太陽炉と同じSレベルの秘匿事項なのだ。
ハッチを開けて敵に正体がばれたら今後の計画に影響が出てしまう。

「やめなさい刹那!!計画をブチ壊すつもり!?」

スメラギが必死で通信で呼び掛けるが返事がない。

そして、遂に刹那は外へと出てしまった。

「なんてこと……」

その場にいた全員がその様子を茫然と眺めることしかできなかった。







軍事演習場 東部

「正気かよ……ホントに出てきやがった……」

そして、刹那を見ると彼の口から笑いがこぼれる。

「しかもあの体つき……どう見てもガキじゃねぇか。くくく、はははは!おもしれぇ……おもしれぇぞ!ソレスタルなんたら!!」

イナクトのパイロットもハッチを開け外に出てくる。

「素手でやりあう気か?えぇ?ガンダムのパイロットさんよ!!」

「!!」

ヘルメットを脱いだ瞬間に出てきた顔に、刹那は息をのんだ。
長い赤髪に黄色の瞳。
昔と違いあごひげを伸ばしているが間違いない。

(アリー・アル・サーシェス!!)

その瞬間、刹那の中をありとあらゆるものが駆け巡る。
戸惑い、疑問、決意、悲しみ、そして……怒り。

刹那は気付くとサーシェスに銃を向けていた。
サーシェスも銃を抜いている。

「なんだよ……わざわざ呼び出しておいてこれか!!面ぐらい拝ませろよ!えぇ、おい!?」

二人は徐々に引き金にかけている指に力を入れていき撃とうとする。
その時、エクシアとイナクトの間を閃光が奔り抜けた。

「チッ!!」

サーシェスはいち早くコックピットに戻るが、刹那は光が飛んできたほうへと顔を向ける。

「デュナメスか!」

刹那の視線のはるか先には額のカメラアイをセットし、スナイパーライフルを構えているデュナメスがいた。

「ハズレタ!ハズレタ!」

「外したんだよ!当てりゃ刹那も巻き添えだ、たくっ!!」

相棒の言葉と刹那の予期せぬ行動にいら立ちながらもロックオンは威嚇射撃を続ける。
すると、敵が距離をとっていく。

「離れた……狙い撃つぜ!」

お決まりのセリフとともにライフルを発射するが、イナクトは地面に水平になるような姿勢で弾丸をかわしていく。

「避けやがった!?」

ロックオンの驚きの声と同時に、イナクトは戦闘機形態に変形し、飛び去っていった。
ロックオンは歯噛みしながらも刹那に通信を入れる。

『刹那!!おま……』

『事情はあとで聞かせてもらうわ!ミッション…続けられるわね……?』

「了解。」

スメラギの割り込みをくらったロックオンが不服そうな顔をするが、さらに予想外の事態が起こる。
萌黄色の影が件のイナクトのとんだ方向へと高速で向かっていったのだ。

『ユーノ!?お前まで何を!』

「機密保持のため、奴を始末する。」

ユーノらしからぬ発言にロックオンは慌てる。

『お、おい!たぶん誰かまではばれちゃいない!そんな必要は……』

「ティエリアじゃないが万が一ということもある。奴は何が何でも始末する!」

『ユーノ!今回のあなたの役目は……』

スメラギが非難の声を上げるがユーノは気にしない。

「同時にこなせば問題ない。」

『ちょ、ちょっ……』

スメラギがさらになにか言おうとするが、ユーノは通信を切った。

「イイノカ?イイノカ?」

967が不服そうな声を出す。

「いいんだよ。それより、刹那に暗号通信だ。」

そう言ってユーノはコンソールを叩きだした。







「?ユーノから暗号通信……」

再びミッションに戻った刹那は突然のよびかけに戸惑いながらも、モニターを見る。

「!!」

そこには以下のようなことが記載されていた。

『サーシェスは俺が追う。仕留められるかどうかはわからないがやるだけやってみる。』








軍事演習場 上空

「チッ!結局ボーナスはなしかよ。」

サーシェスはイライラしながら仲間との合流ポイントに向かう。

(しかし…あのガキ何者だ?俺のことを知っているようだが……)

その時、自分がかかわった中東での戦争を思い出す。

(あの剣さばき、まさかクルジスん時の……)

だが、サーシェスは笑いながら首を振る。

「ハッ!考えすぎか……!?」

とその時、突然後ろから光の弾丸がサーシェスを襲う。

「チッ!!」

サーシェスは操縦桿を動かし、きりもみをしながらそれをかわしていく。

「あれはあの時の!!」

後ろからアフリカで会った萌黄色のガンダム、ソリッドが猛スピードで追撃してきていた。

「ハッ!相手をしてやりてぇところだが、こちらにもいろいろと都合があるんでなぁ!」

そう言ってサーシェスは足元のペダルを踏み込む。
しかし、

「てめぇみたいな奴を逃がすわけねぇだろ!!」

ソリッドはさらにスピードを上げて追ってくる。

「くっ!あの野郎……ホントにMSか!?」

サーシェスはコックピットの中で毒づく。

「ターゲット……ロック!もらったぁぁぁぁっ!!!」

「!!」

ソリッドが狙いを定めてライフルを撃とうとする。
だが、下から飛んできた弾が左腕に当たり、照準がずれてしまう。

(いまだ!!)

その隙にサーシェスはその場を離脱する。

「待て!っく!!」

ユーノは追おうとするが、下からの銃弾にさらされ思うように進めない。

「邪魔だ!」

ソリッドがライフルで下にいた数機のヘリオンの頭を撃ち抜き無力化するが、イナクトの姿はもう見えなくなってしまっていた。

「………967、お前下のヘリオンに気付いてたのに黙ってたろ。」

「ナンノコト?ナンノコト?」

「チッ……」

967のとぼけた声に舌打ちをするとユーノは本来の自分の任務に戻っていった。







軍事演習場 渓谷

狭い渓谷の間をソリッドを除いたガンダム全機が飛んでいた。

「まったく……こんなルートを通らせるなんて。」

狭い谷の間を飛びながらアレルヤはぼやく。

「ぼやくなよ。敵さんは電波障害の起こっている地点を重点的に狙ってる。隠密行動で一気に頭を叩くのさ。頼んだぜ……水先案内人。」

とその時、戦闘にいたキュリオスが壁にぶつかり、破片を後ろに飛ばしてしまい、デュナメスに当たりかける。

「あっぶねーなおい!!」

「ヘタッピ!ヘタッピ!」

「ドンマイ。」

「そりゃこっちのセリフだ!」

アレルヤとロックオンがコントを繰り広げているころ、後ろの刹那は先ほどのことを思い返していた。

(なぜ奴がここに……行き場がなくなって、PMCに所属したのか?だとしたら……奴の神はどこにいる……!!)

そんなことを考えていると、一番後ろのティエリアから通信が入る。

『刹那・F・セイエイ。』

「ティエリア・アーデ…」

『今度また愚かな独断行動をとるようなら君を後ろから撃つ……』

今のこの状況では冗談にならないことをティエリアはさらりと言ってのける。

「太陽炉を捨てる気か?」

『ガンダムの秘密を……そして、ソレスタルビーイングを守るためだ。』

険悪な雰囲気を漂わせていると、ロックオンから通信が入る。

『そこまでだ。ユーノが今頃苦労しているときに何やってんだお前らは。』

「『………………………』」

それきり二人は黙り込んでしまう。

(はぁ~……ったく。にしてもユーノは大丈夫なんだろうな?)







軍事演習場 渓谷の反対側

「やれやれ。囮をしろ、なんて言われるとはな。信用してくれてんのか殺したいのか、どっちなんだか…なっ!!」

ユーノはブレードモードにしたアームドシールドを振るい、近づいてくる敵を無力化していく。
すると接近戦は不利だと知ったのか、ヘリオン達は距離をとってライフルを撃ってくる。

「圧縮粒子全面開放っと。……ふ、わぁあぁ~…」

ユーノはGNフィールドを張ると大きく欠伸をする。

「無理に墜とす必要もないから楽っちゃ楽なんだけどなぁ。」

そう言いながらモニターに表示された時間を見る。

「そろそろラストフェイズか……」







軍事演習場 司令部

それはあっという間の出来事だった。

突然、司令部の目の前の渓谷から飛び出てきたガンダム四機は配置されていた部隊を五分もかからずに全滅させた。
大部分はヴァーチェの砲撃によって溶解させられ、残ったものたちもデュナメスとキュリオスの射撃によって倒れ、一矢報いようと近づいていこうとしたものたちはエクシアによって切り刻まれた。

そしてその数十秒後、無条件降伏信号が晴れ渡った空に打ち上げられた。







大西洋 孤島

その夜、ユーノが拠点としていた島に着くとロックオンが拳を握りこみながら刹那へと近づいているのが見えた。

「やっば!!」

「ロックオン怒ッテル!ロックオン怒ッテル!」

ユーノは持っていた967を乱暴に放り出すと二人のもとへと駆け寄る。
しかし、すでにロックオンは刹那の肩を掴み拳を振り上げている。
と、その時

(ぐっ!!)

ユーノの頭に激痛がはしる。
しかし、それでもユーノは止まらない。

(ええい!ままよ!!)

ユーノは刹那を押して彼のいた位置で止まる。
ロックオンは慌てて拳を止めようとするが止められずにユーノを殴り飛ばしてしまった。

「ユ、ユーノ!?」

「だ、大丈夫かい!?」

ロックオンは茫然とし、アレルヤが衝撃で飛んでしまったサングラスを拾って駆けよってくるがユーノは殴られた箇所とは違う、頭を押さえたまま唸り続ける。

「わ、悪い!ホントに大丈夫か!?」

その様子に気付いたロックオンも駆けよってくる。

「だ、大丈夫だ……。いいパンチ持ってるぜ、ロックオン。」

ズキズキと鈍く痛みが残っている頭を押さえながらユーノはへらへと笑いながら立ち上がる。

「ユーノ……」

「………………」

その様子に呆気にとられていた刹那とティエリアも近づいてきた。

「あんま無茶なマネすんなよ……。でだ、なんで殴られそうになったか、わかるだろ刹那。」

ロックオンが刹那に厳しい表情を向ける。

「なぜ敵に姿をさらした?」

だが、刹那は黙ったままだ。

「理由ぐらい言えって。」

「…………」

ロックオンの表情が一層厳しくなる。

「強情だな…お仕置きが足りないか?」

ロックオンが再び殴ろうとすると、横から銃を構える音がした。

「言いたくないなら言わなくていい。君は危険な存在だ。」

「やめろティエリア!」

ロックオンが慌ててティエリアの銃を押さえ込む。

「彼の愚かな振る舞いを許せば、我々にまで危険が及ぶ!また、エレナ・クローセルのような事態が起きてしまうかもしれない……!」

ティエリアはそう言ってうつむいてしまう。
それに合わせるかのようにマイスターズ全員の顔が暗くなる。

「ティエリア……」

「……………」

ユーノがティエリアの前に進み出ていく。

「………なんだ?」

「……なんか今日のお前、らしくないぞ。悪いもんでも食ったのか?」

全員が茫然とした顔になるがティエリアはいち早く元に戻ると顔を赤くして怒鳴り始める。

「君という人間は!!少しはまじめな話ができないのか!!」

「あははははははは!!悪い悪い!!」

ティエリアが殴りかかるがユーノはその拳をひょいとかわす。

「よし、元のティエリアに戻ったな。」

「なに!?」

「エレナのことを気にすんのは勝手だけどよ。こんなところで引き合いに出すなよな。自分のせいで俺らが暗くなってんの知ったら、アイツのことだから化けて出てくるぞ。」

二人のやり取りを見ていたロックオンたちも元の穏やかな顔に戻る。

「ははは……まったく、お仕置きすんのがあほらしくなってくんぜ。」

「でも、確かにそうだね。こんなところで落ち込んでる場合じゃないね。」

「ソウダゾ。ソウダゾ。」

「ミンナ、仲良ク。仲良ク。」

967とハロが砂浜の上を跳ねながら近づいてくる。
が、

「「ワー!」」

「「あ。」」

海岸に打ち寄せていた波にさらわれてしまう。

「おいおい相棒!」

「何やってんだよ967!?」

こうして一人と二機のせいで張りつめた空気はどこかへ霧散してしまった。





経済特区 東京

そのころ、授業が終わった沙慈とルイスは街に出かけていた。

「何もこんな時に出かけなくたって。」

「まだモラリアのこと気にしてるの?」

「ルイスこそAEU側じゃないか。気にしないわけ?」

「モラリアなんて行ったことないし、わかんないって。」

二人は授業の合間にソレスタルビーイングに関するニュースを見ていた。
それを見ていた沙慈の心境は複雑なものだった。
自分とルイスを助けてくれたガンダムが今度は正反対の行動をしている。
なぜ彼らが憎しみの連鎖を生みだすようなことをするのかが沙慈にはどうしてもわからなかった。

しかし、ルイスは気にしていない様子で一日を過ごしていた。

「で、どこに行こうとしてるの?」

彼らの隣を一台のバスが通りぬけていく。

「ウフフ、まずは洋服を見て、洋服を見て、洋服を見る。」

「みんな自分のでしょ。」

沙慈が呆れてため息をつこうとしたその時だった。
通り過ぎてバス停で止まっていたバスが突然大爆発を起こした。
爆風で周りの建物のガラスが割れ、黒い煙があたりを包み込んだ。

「っく……!なんだ……!?」

とっさに前かがみに倒れた沙慈は前方を確認する。
倒れている人、転倒した車と小さな火がいくつも道路上に存在している。
そして、バスの周りには目を向けるのもためらわれるような状況が広がっていた。

「バスが…!!」

周りが騒ぎ始める中、関西弁の男が声を張り上げる。

「テロや!!これはテロやで!!」

「……う…テロって……?」

その声で意識を取り戻したルイスだったが、いまだに状況が把握しきれていない。

「ここから離れよう、ルイス!早く!」

沙慈はルイスの手をとり立たせると、周りには目もくれずその場を後にした。







大西洋 孤島

「おい、お前たち!大変なことになっとるぞ!!」

イアンがマイスターズに駆け寄ってくる。

「何があった、おやっさん?」

「世界の主要都市七か所で同時にテロが起こった!!」

「なんだって!?」

ロックオンの顔に明らかな動揺が浮かぶ。

「多発テロ……」

「被害状況は!?」

アレルヤがイアンに掴みかかる勢いで問いかける。

「駅や商業施設で時限式爆弾をつかったらしい。爆発の規模はそれほどでもないらしいが人が多く集まる場所を狙われた。……百人以上の人間が命を落としたそうだ。」

「なんてことだ……」

話し終えると、ちょうどロックオンの端末に通信が入る。

「俺だ。」

『ガンダムマイスターの皆さん。同時テロ実行犯から、たった今ネットを通じて犯行声明文が公開されました。』

王留美が淡々と情報を伝えていく。

『ソレスタルビーイングが武力介入を中止し、武装解除を行わない限り、今後も世界中に無差別報復を行っていくと言っています。』

ティエリアが目を細める。

「やはり目的は我々か。」

「この声明を出した組織は?」

『不明です。エージェントからの報告があるまで、マイスターは現地で待機していてください』

それだけ言うと王留美からの通信が切れた。

「……どこのどいつかわからないが、やってくれるじゃねぇか。」

「無差別殺人による脅迫……そんな方法で僕らを止めにかかるなんて。」

「愚かな……そんなことで我々が武力介入をやめるとでも思っているのか……!」

マイスター達に怒りの表情が浮かぶ。
だが、そんなマイスターの中でも激しい怒りと憎しみの炎を宿す者がいた。

「一般人を犠牲にしやがって……!」

ロックオンは歯ぎしりをしながら爪が手のひらに食い込むまで拳を握りこむ。

「……ロックオン。今のあなたはガンダムに乗るべきじゃない。」

「…何だと?」

唐突なティエリアの言葉にロックオンが振り向く。
その顔にはいつもの飄々とした笑顔ではなく、檻に閉じ込められていた獣のような表情が張り付いていた。

「今のあなたがガンダムに乗ったところで足手まといになるだけだ。」

「なにぃ!!」

ロックオンがティエリアの胸ぐらをつかむ。
しかし、ティエリアはいつものポーカーフェイスを崩さない。

「……そんなにテロが憎いですか?」

「テロが憎くて悪いか……!!」

ティエリアは短く嘆息する。

「……憎しみに自らを支配させるな。彼にそう言ったのはあなたではありませんでしたか?」

ロックオンはハッとした表情でユーノを見る。
サングラスで表情が読み取りにくいが、どこか悲しげに見える。
そんなユーノの姿を見て、大きく息を吐きいつもの顔に戻す。

「……悪かったな、ティエリア、ユーノ。」

「別に気にされなくても結構です。」

「そうそう。人間、誰だってそういうことがあるもんさ。」

二人の予想道理とも言える答えを聞いて、ロックオンは苦笑した後、全員に指示を出す。

「そんじゃぶっ続けになるが、各自指定されたポイントに向かってくれ。みんな、よろしく頼む。」

「「「「了解。」」」」

「ああ、それと……」

ロックオンがユーノと刹那を見る。

「お前ら二人は一緒に行動しろ。ユーノは刹那のお目付け役だ。」

「別にかまわないけど、刹那はいいのかよ?」

「なんだかんだ言っても刹那が問題行動を起こしたことには変わりないからな。お前は刹那が無茶しないように監視してくれ。」

「はいよ。」

「了解した。」





そしてその後マイスターズは各々指定されたポイントに向かって飛び立っていった。






大西洋上

「……………」

ユーノはエクシアとともに指定されたポイントに向かう中でつい先ほど見たヴィジョンを思い返していた。






雪が降り積もる中、白い服を着た少女になにかが襲いかかろうとしている。
それを見ていた自分は彼女を守ろうとつっこんでいった。
そしてその後、その少女が泣く声が聞こえる。
顔が思い出せないが自分にとってかかわりの深い誰かが泣いている。

(ヴィータ?フェイト?アルフ?はやて?)

違う。

(クロノ?シグナム?シャマル?ザフィーラ?)

違う。

完全には思い出せていない人物の名前を挙げていくがどれもなにかが違う。
全員自分にとって大切な人には違いないのだろうが、なにかが決定的に違う。

『……ノ君。大……だよ…』

『…束だよ……』

『あ………とう、ユ………』

断片的な言葉が浮かんでは消えていく。
何よりも思い出さないといけないと全身が告げているのにそれができないことがはがゆかった。








「……なんだってんだよ。くそっ……」

ユーノはイライラを誤魔化そうと沙慈から貰ったおすそわけを食べようと容器を手に取ったが、もうすでに食べきってしまってることを失念していた。

「……いいやつだよな。アイツ。」

おすそわけを食べることはできなかったが、優しそうな隣人、沙慈・クロスロードのことを考えることでモヤモヤした気分を忘れることはできたようだった。










世界の悪意と向き合う二人の少年に運命の出会いと過去との再会が迫る。






あとがき・・・・・・・という名の愚痴

ロ「モラリア編の第十二話、いかがだったでしょうか?」

刹「聞くまでもないだろう。」

ロ「聞くまでもなく高評価!?」

兄「現実突き付けて欲しいか……?」

ロ「……いや、いいや……。」

刹「ところで今回のゲストは誰なんだ?」

ユ「なんかもうゲスト呼ぶのが定番になりつつあるな。まあ、どうなろうがロビンが苦しむだけなんだけど。」

ロ「苦しむの前提にすんのはやめてくんない!?……コホン。さて、今回のゲストは湖の騎士、☓☓料理人のシャマルさんです!」

シャ「どうも、湖の騎士、そして全世界における最高の料理人、シャマルです♪」

ユ「いやいや。あなたは誰が何を言おうと☓☓りょう……」

ギロン!!

ユ「すみません失言でした。」

シャ「よろしい♪」

刹「お前は歪んでいる………!」

シャ「あらあら元気のいい子ね♪」ごごごごごごごごごごごごご!!!!!

兄「刹那……こいつを敵に回すのだけはやめとけ。次の日に絶対変死体にされちまうから。」

ロ「お~い。とりあえずギャグはいったんそこまでにしといて解説行くぞ。」

刹「了解した。今回はモラリア編だったな。そう言えばユーノと沙慈はここで知り合うのか。」

ロ「まあ、この作品が将来も存在を許されていたらsecondまでいくつもりだからな。四年後に初めて会いましたじゃちょっとからませづらいかと思ってな。」

兄「なるほどな。まあ、獲らぬ狸のなんとやらだな。」

ロ「うっさい!!」

ユ「しかし、俺とサーシェスが対決すんのかと思ったら、あのひげ野郎あっさり逃げたぞ。」

ロ「だって実質グラーベの967と仮にもマイスターやってる奴が一緒のに乗ってたら流石に仕留めちゃいそうだからな。だから、今回は遠慮してもらった。」

シャ「そう言えば、もうかなりオリジナル要素がはいってきてるわよね。喜んでいいのか悪いのか……」

刹「それはこれから次第だろう。読者の皆様もロビンをびしばししごいてやってくれ。」

兄「そんじゃそろそろ次回予告行くぞ。いよいよ刹那とあの人物が出会う!」

シャ「ユーノ君は徐々に戻っていく記憶に翻弄されながらも戦いつづけていく!」

ロ「次回も皆様が読んでくださるような作品に仕上げますのでよろしくお願いします!」

刹「それでは最後に……」

シャ「あ!ちょっと待ってね。」

ロ・兄・刹・ユ「「「「?」」」」

シャ「うふふふ!久しぶりの出番だからお料理を持ってきてみたの。はい、唐揚げ♥」

湖の騎士、何やら紫でドロドロした塊を取り出す。

ユ「……シャマルさん、唐揚げの何をどうしたらこうなるんですか?」

シャ「愛を込めたらこうなりました♥」

刹「世界の悪意しか感じられないぞ。」

シャ「じゃあ、ロックオンさんに食べてもらおうかしら♪」

兄「刹那の発言はまるきり無視か!!てか、地雷踏まないように黙ってたらスク○ア・クレイ○アになって飛んできたよ!!もう全弾被弾確定だよ!!」

シャ「じゃ、あ~んして♥」

兄「………………………………………」←必死で口を閉じている

シャ「……えいっ、転送♪」

兄「ぐっっっはあああぁぁぁぁぁぁぁ!!?!!?!?!?!?!!!!?」

ユ「ロックオーーーーーーーーーーーン!!!!!?」

兄「口がぁぁぁ!!!口が爛れるぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

シャ「あらあら、元気になったわね♪」

ユ「いやいや白目むいて倒れちゃってるから!口から泡出てるから!!あといちいち♪や♥をつけんな!!果てしなくウザくていらっとくるから!!」

刹「おい!しっかりしろロックオン!!」

兄「はぁはぁ……なんでか知らんが悪の組織に所属してポ○モンバトルしてる自分がいた気がした……」

ロ「……さて、場が盛り上がってきたのでここらで締めたいと思います。今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想などをお待ちしております。それでは次回をお楽しみに!!」






シャ「じゃあ次は刹那君にでも……」

ユ「お前が責任もって全部食えぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」



[18122] 13.交わる運命
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/05/31 19:42
時空管理局 本局

観測指定世界の任務の後、フェイトは本局で犯罪者のデータを検索し、そしてその男を見つけた。

「ジェイル・スカリエッティ……この人がユーノを………!!」

フェイトは怒りに震えながらモニターに映る紫のウェーブヘアーをした男を睨む。

ジェイル・スカリエッティ
学者として優秀な能力を持ちながら、それを違法な生体研究などに使っている。
そして、彼の犯した違法行為の中にはフェイトにもかかわりの深いものがある。
彼女がこの世に生まれるきっかけとなった研究、

「プロジェクトF・A・T・E……」

フェイトの悲しい記憶の一つ。
母親に捨てられ、自分を見失いそうになったあの日の出来事を思い出す。
そんな彼女を救ったのはなのはとユーノだった。
だからこそ、そんな二人のなかを引き裂いたこの男が許せない。
だが、

(……今はまだみんなに言うわけにはいかない。とくにあの二人には。)

そう、なのはとヴィータには言えない。
あの二人がこのことを知れば、間違いなく自分のことをかえりみずに彼を追うだろう。

「ユーノはそんなこと望まない。」

フェイトはこのことを自分の胸の中のみに留めておくことを決意した。
すべてが明らかになるその日まで…………




魔導戦士ガンダム00 the guardian  13.交わる運命

ユニオン領 海上

夕焼けの赤に染まった空をバックに黒いフラッグとそれに続いて二機のフラッグが白い飛行機雲をつくりながら飛行していた。

『中尉、こんなことをしたって敵さんは見つかりませんぜ。』

後ろにいたフラッグの一機から色黒の男、ダリル・ダッジ軍曹から黒いビームコーティングをされたカスタムフラッグに乗るグラハムへ通信が入る。

「フッ……わかっている。だが、私は我慢弱く、落ち着きがない男なのさ……。」

ダリルからあきらめにも似たため息が漏れる。
そんなことはお構いなしにグラハムは言葉を続ける。

「しかも、姑息なマネをする輩が大の嫌いときている。ナンセンスだが、動かずにはいられない。」

彼らの所属するユニオンでも無差別テロが発生していた。
グラハムはテロ組織にガンダムが介入するかもしれないことを理由に部下の二人を連れて発進した。
だが、今回ばかりはガンダムが目的ではなく、純粋にテロが許せなかった。

『お供しますよ、中尉。』

グラハムにもう一機のフラッグからハワード・メイスン准尉の通信が送られてくる。
そう、彼らもまたテロが許せない。
そして何よりグラハムのことを尊敬しているのだ。
だからこそ彼についてきたのだ。

「その忠義に感謝する!」

グラハム達はどこにいるかわからない敵を求め、遥か彼方へと飛んでいく。
愚直なまでにまっすぐに飛んでいくフラッグ達のボディは沈みゆく太陽の光を受け、彼らの心を体現するかのように美しく輝いていた。





経済特区東京 某マンション 沙慈の部屋

「あ、ルイス。僕だけどどう?平気かい?」

沙慈は携帯端末に映るルイスに向かって語りかける。

『私は大丈夫。けど、ママがスペインに戻って来いってしつこくて……』

ルイスは不満げに顔を膨らませる。
その顔を見た沙慈は苦笑を浮かべながら諭すように語りかける。

「一度戻って安心させてあげたら?」

『駄目よ。もともと留学には反対だったんだから。あれこれ理由つけられて引き留められちゃうんだから。』

その時、玄関のドアが開き絹江が帰ってきた。

「ただいま~。」

「姉さんが帰ってきた。またね、ルイス。なにかあったら連絡して。」

『うん、それじゃ。』

端末からルイスの顔が消えると同時に、絹江が扉を開けて部屋に入ってきた。
その顔からは疲れがにじみ出ている。

「おかえり、姉さん……って、疲れてる?」

「そりゃ疲れるわよ。」

絹江はバッグを降ろすとソファーに寝転がってしまった。

「モラリアの大規模戦闘に同時多発テロ……各国首脳人の公式声明、世界中で起こってるソレスタルビーイングの排斥デモ……社員総出で取材してもしきれないって。」

沙慈は絹江と話しながら冷蔵庫を開けてミネラルウォーターを取り出す。

「正直、今まで他人事のように考えてたよ。」

「何が?」

「なんて言うか……世界の状況みたいなこと。……はい。」

沙慈は絹江にミネラルウォーターを渡し、テレビで流れている自分が巻き込まれた事件の報道を見る。

「ん……ありがとう。」

「ソレスタルビーイングが現れても、ここは戦争なんてしてないし……自分には関係のないことだって……」

沙慈の脳裏に夕方の光景がよみがえる。

「バスが爆破されて、大勢の人が巻き込まれて……それを見たとき、関係なくなんてないんだって…わかってなかっただけで、何も知らなかっただけで………」

「私もよ。」

「え?」

絹江はミネラルウォーターを見たまま話し始める。
よく見るとそれを持つ手が小刻みに震えている。

「さっき被害者の遺族を取材してきたけど、正直きつかったわ。何も知らないのに……ただその場に居合わせたと言うだけでその人たちの命は消えたのよ……」

絹江の持つミネラルウォーターのペットボトルが彼女の力によってひしゃげる。

「遺族たちがソレスタルビーイングを恨む気持ちがわかるわ。」

「土台無理なんだよ……世界から戦争を失くすだなんて。」

「……彼らもそう思ってるんじゃないかしら?」

「え……どういう意味?」

「戦争根絶なんて言う無茶な目的の裏にはなにかがある。ソレスタルビーイングが成し遂げたいと思っている、本当の目的が…」

そう言って絹江はミネラルウォーターを口に含む。

「……ただの憶測だけどね。」

「でも人は死んだよ。大勢死んだ……悲しんでいる人たちもいっぱいいる。」

沙慈が不満そうに反論する。

「そうね……ホントそう思うわ……」

「父さんたち生きてたら……どう思うだろう?」

沙慈は窓の外を見ながらつぶやく。

「きっと悲しむわ……沙慈のように。」








AEU スコットランド 山間部

岩肌に囲まれた山の中に刹那とエクシア、そしてユーノとソリッドがいた。
エクシアの中で刹那は目を閉じ、かつての自分を思い出していた。







「行っちゃうのか!?」

ソランは戦闘に行こうとする仲間を呼びとめる。
彼は親友だ。
なににもかえがたい大切な友達だ。
だから、行かないでほしい。

「俺は神の代わりに務めを果たしに行くんだ。」

彼はソランのほうを振り向き、凛とした表情で言い放つ。

「駄目だよ!死んじゃうよ!!」

その言葉を聞いた彼はソランの胸ぐらをつかむと怒りの表情を浮かべる。

「なんだお前……怖いのか!?それは神を冒涜する行為だぞ!」

ソランは目をそらし、小さな声でつぶやく。

「違う……お前が死んじゃうのが嫌なんだ。また、仲間が死んでしまうのが嫌なんだ。」

ソランの不安そうな顔を見ると彼はソランから手を離し笑った。

「俺が死んでも、きっと神が救ってくれる。だから心配なんかするな。」

そう言うと彼は自分の首に巻いていたスカーフをソランに渡す。

「後は頼むぜ、ソラン……」

彼はそれだけ言い残すと扉を開けて出ていく。
そして、二度と戻ってはこなかった。







(死のはてに神はいない……)

刹那が考えを巡らせているとユーノから通信が入った。

『刹那、さっき王留美から連絡があった。どうもここで爆破テロが起こったらしい。その時に怪しい男がその場から立ち去るところを監視カメラがとらえていたらしい。一番近い俺達でそいつを追うぞ。』

「了解。」




市街地

刹那とユーノは大型のバイクを使い現場へと別々のルートで駆けつける。
そこからは黒い煙が上がり、パトカーや救急車などのサイレンが鳴り響いている。
二人はあたりを見渡し、情報に会った茶色のクーペを探す。

「!」

刹那が止まっていた前の角を茶色のクーペが猛スピードで駆け抜けていった。

「目標を発見した。追跡に入る。」

『了解。こっちもすぐに追いかける。』

刹那はすぐさまアクセルを踏み、追跡を開始した。
広い道路に出たところで刹那はクーペの隣にバイクをつける。

「目標を確保する。」

刹那はバイクの窓をあけるとクーペへ向かって発砲する。
しかし、窓に当たったものの弾かれてしまう。
やはり、ただの車ではないようだ。

「チッ!」

刹那が舌打ちをすると同時にクーペは加速する。
そして、ある程度距離が離れたところで急にUターンして、もと来た道を走っていってしまった。
刹那もUターンをしようとするが小回りの利かない大型バイクのせいで上手くできない。
刹那はバイクをいったん止めて降りるとクーペの逃げた方向に銃を構える。
しかし、かなりの速さで逃げていたクーペはもうそこにはいなかった。

「クソッ!」

刹那はバイクに戻って追いかけようとするが、地元の警察に見つかってしまった。

「おい、なにをしている!」

刹那は服の下に銃を隠すと両手をあげて敵意がないことを示す。

「貴様、なにをしようとしていた?」

警官は銃口をこちらに向けてじりじりと近寄ってくる。

「別に。」

「IDを確認する……どうした早くIDを出せ。」

刹那の顔に焦りが浮かぶ。
自分がIDを持っていないことを知ったら、テロが発生したこの状況では怪しまれるだろう。
最悪、連行されて機密を掴まれてしまうかもしれない。

(やるしかない!)

刹那が服の下の銃に手を伸ばそうとした時だった。
隣の車線に黒いリムジンが止まり、中からサングラスをかけ、黒のスーツを着た男が出てきた。

「失礼。この少年は我々の連れなんですが。」

(!?)

刹那は驚きの声をあげそうになるがぐっとそれを飲み込む。

「あなたは?」

「こういう者です。」

警官は男のIDを見た瞬間、顔色を変える。

「し、失礼しました!」

警官が敬礼していると刹那の前の窓が開き一人の女性がやわらかな笑みを浮かべながらこちらを覗いている。

これが、刹那とマリナの初めての出会いだった。





市街地

「おいおい……あれヤバいんじゃねぇ?」

刹那の後を追いかけて、クーペを発見したユーノだったが、その後ろに刹那が警官に発見されてしまいもめている様子が見える。

「どうする……って、あれは……?」

刹那を助ける方法を思案していたユーノだったが、突然やってきたリムジンから黒いスーツの男が出てきて警官と話している。

(エージェント……?いや、違うな。)

その時、リムジンの後ろの席の窓があいた。
よく見ると刹那と何か話しているようだ。

「何話してんだ……って、えええぇぇぇぇぇ!!?」

ユーノは目の前の信じられない光景に思わず叫んでしまう。
刹那はバイクに乗るとそのままリムジンの後についていってしまったのである。

「何考えてんだ刹那!!」

ユーノもアクセルを踏んで二台の尾行を開始した。






市街地 自然公園

その後、二人は郊外の森林の中につくられた公園にいた。
野鳥の鳴き声が青々とした葉のグリーンと調和し、落ち着きのある空間だ。
そんな雰囲気に合わせるように二人はついてからもお互いに黙っていた。

「余計なことをしたかしら?」

長い沈黙をやぶったのはマリナだった。

「いや。」

「こんな場所で同郷の人と出会うなんて思わなかった……」

前日、マリナは保守派の重鎮が改革派によって負傷したとの連絡を受けていた。
市民の衝突に発展するのは時間の問題となり、その仲裁を務めるために帰国を余儀なくされていた。
しかも、今日はイギリス外務省と会談をするはずだったのだが、階段を執り行うホテルの近くでテロが発生した。
そこで、急遽場所を変更し、郊外のホテルへと向かっていたのだ。
そして、移動のために乗っていたリムジンから自分と同郷だと考えられる少年を見つけた。
疲労の極限にいたマリナにとって、彼の存在は多少なりとも心労を和らげるものとなった。
だが、彼女の予想は半分は当たりで、半分は外れていた。

「あなた、アザディスタンの出身でしょ?」

マリナは嬉しそうに顔をほころばせながら少年に問いかけるが予想だにしない答えが返ってくる。

「……違う、クルジスだ。」

「クルジス…!?」

少年の答えにマリナの顔から笑顔が消える。

クルジス共和国は6年前にアザディスタンの進行を受けて崩壊した。
アザディスタン領となってからもクルジスの出身者は当然のことながらアザディスタンの存在をよく思ってはいない。

そんな国の人間がクルジスの人間に出身地を聞いてしまったのは大きな失敗であろう。

「そ…そうなの……私、なんて言ったらいいか……?」

マリナはすまなさそうに視線を泳がせながら、かろうじて言葉を紡ぎだす。

「自己紹介してなかったわね。私、マリナ・イスマイール。」

空気を変えようと、マリナは自己紹介をする。

「カマル・マジリフ。」

少年は面倒だと言わんばかりに素気なく答える。

「この国には観光できたの?」

マリナは必死で話題を提供するが、少年はもうたくさんだといった様子で視線を外すと自分のバイクのほうに歩いていく。

「待って!もう少しだけお話させて……お願いだから。」

マリナは少年を呼びとめる。
彼が自分のことを認めたくないことはわかっている。
だがそれでも、わかりあう努力もなしに諦めてしまうことはどうしてもできなかった。

「…………」

少年は足を止めてマリナをじっと見据える。
その瞳にマリナはあるものを感じ取った。

(なんて鋭くて、悲しい目………)

まだ年端もいかない少年にもかかわらず鋭い眼光を放ち、何者も寄せ付けないような覇気をその身にまとっている。
それは戦う者の気配そのものだった。

「…………」

少年は黙ったまま手すりに近づき街を眺め始めた。
マリナはそれを承諾のサインと受け取り、少年の近くの手すりから街を眺める。

「私はね、外交のためにこの国に来たの。」

「外交…?」

「そうなの。カマル君も知ってると思うけど、アザディスタンは改革派と保守派に分かれて、国内は乱れているわ。」

マリナの顔がつらそうに歪む。

「石油の輸出規制を受けているアザディスタンを立て直すには太陽光発電システムが必要……でも、私たちの生活が悪くなったのも太陽光発電システムができたから……保守派の人たちはそれを快く思ってないの。」

マリナの顔がさらに悲しげなものになる。

「両者の対立を止めないと、彼らがやって来るわ……」

「……ソレスタルビーイング。」

マリナがうなずく。

「狂信者の集団よ。武力で戦争を止めるだなんて……。確かに戦争はいけないことよ、でも一方的に武力介入を受けた人たちが現実に命を落としているわ…経済が傾いた国もある……。彼らは自分たちのことを神だとでも思っているのかしら……」

「……戦争が起これば人は死ぬ。」

それまで黙っていた少年が静かに、しかし、はっきりとした意思を込めて言い放つ。

「介入の仕方が一方的すぎるって言ってるの!」

マリナはつい語気を強めて反論してしまう。

「話し合いもせず、平和的解決も模索しないで、暴力という圧力で人を縛っている。……それはおかしなことよ!」

「話してる間に人は死ぬ。」

「でもっ!!」

「クルジスを滅ぼしたのはアザディスタンだ……!」

マリナは少年の気に当てられ、思わず後ろに下がる。

「確かにそうよ……でも、二つの国は最後まで平和的解決を……」

「その間に人は死んだ!!」

さらに目つきを鋭くした少年を見てマリナは思い出した。
クルジスが終戦間際には成人だけでなく多くの少年兵を使い、無茶な戦いをしていたことを。

「カマル君、まさか………!?でも、戦いが終わったのは6年も前よ………あなたは、まだ若くて……」

少年の顔を見つめる。

「戦っていたの!?」

「今でも戦っている。」

「え……?」

「戦っている。」

「!!?」

マリナは少年と距離をとる。
アザディスタンに対して不満を持つクルジスの人間を、保守派が利用して自分を消そうとする可能性は十分にある。
だとしたら、この状況はまずい。

「あなた、保守派の!?もしかして私を殺しに!?」

だが、マリナの予想は思わぬ真実によって打ち砕かれることとなる。

「あんたを殺しても何も変わらない。世界も変わらない。」

「カマル君……」

「違う。」

「え……?」

少年はマリナにまっすぐ向かいあう。

「俺のコードネームは刹那・F・セイエイ。ソレスタルビーイングのガンダムマイスターだ。」

「ソレスタル…ビーイング………!?」

マリナの頭の中にさまざま疑問が浮かんでくる。
彼は何を言っているのか?
彼がソレスタルビーイングの一員?
ガンダムで人を傷つけてきた?

マリナはそれらを言葉にしようとするが、驚きのあまり声が出ない。

「紛争が続くようなら、いずれアザディスタンにも向かう。」

そういうと刹那は自分のバイクへと向かい、その場を後にしてしまった。
残されたマリナは地面に手を突き力なくうなだれる。

「そ…そんな……笑えない冗談だわ……」

「悪いけど、冗談でも何でもないよ。」

「!?」

マリナが後ろを見ると長髪にサングラスをかけた少年が彼女を見下ろしていた。
首には青く輝く宝石がかけられている。

(いつの間に!?)

マリナは慌ててたちあがり、謎の少年と距離をとる。
そして、SP達を探そうとすが、誰もいない。

「ああ、あいつらなら少し眠ってもらってる。殺しちゃいないから安心していいですよ。アザディスタン王国第一皇女、マリナ・イスマイール様。」

「あなたはいったい!?」

「刹那の仲間さ。ソレスタルビーイングのガンダムマイスター、ユーノ・スクライア。以後、お見知りおきを。」

「そんな……あなたみたいな若い人が……」

ユーノがムッとした表情になる。

「別にいいでしょ。戦うのに年齢なんて関係ないですよ。」

「でもあなたたちみたいな子供が…」

「戦う理由があれば、誰だって戦士だ。銃を持とうが持つまいがね。あなただってそのはずだ。」

(この子は………!)

マリナは自分の心底を見透かされたようで驚いた。
彼女もまた望まないながらも自分なりの方法で戦っている。
アザディスタンのため、そこに住む民のために。

「ソレスタルビーイングにいる奴らは全員戦う理由を持って所属している。その思いを否定する理由は誰にもないはずだ。」

「でも、あなたたちのしていることは間違っているわ!」

「……確かにそうかもな。でもな。だからって、今この瞬間に誰かが傷ついていくことを認めていいことにはならない。」

「それでも……ううん、それならなおさら時間をかけてでも話し合いをするべきよ!」

ユーノはギリリと歯ぎしりをしてマリナをにらみつける。

「じゃあアンタはそいつらに、いつかなんとかするから今は我慢して死んでいけって言うのか!!!」

「そ……れは………」

「それでもあんたは話し合いだけでどうにかなるって言うのか!!俺やエレナや刹那のような存在を生み出してもそんなことが言えるのか!!」

ユーノの言葉に視線をそらしていたマリナだったが、なにかを決意するとユーノの顔をまっすぐ見つける。

「……それでも私は話し合うわ。確かにあなたたちの傷みを理解することはできないかもしれない……でも、言葉にしなくちゃ何も伝わらないわ!」

「そんなこと……!!?あぐ…う、あああぁぁぁぁぁ!!」

「!?ど、どうしたの!?」

頭を押さえて苦しみ出すユーノを見て、マリナは戸惑いながらも心配して駆けより、手をさしのべる。

(くぅ、ああ、ぐぅうぅぅぅ!!?)





ユーノの脳裏に二人の少女がビルの間に浮きながら対峙する光景が浮かぶ。
一人は黒い服を着た少女。
もう一人は白い服を着た少女。
そして、白い少女が喋り始める。

『…………言葉にしないと伝わらないこともきっとあるよ……』

(うるさい…うるさい……!)

白い少女は金髪の少女に語りかけている。
だが、ユーノは白い少女に今の自分を否定されているような気分になる。

『何も知らないでぶつかり合うのは、私……いやだ!』

(うるさい……うるさいうるさいうるさい!!!)

必死に少女の言葉を否定するユーノ。
すると、白い服を着た少女はいつの間にか金髪の少女の前ではなく、ユーノの前に立っていた。

『だから教えて……なんでこんなことをするの……?』

少女はユーノの頬に優しく手を伸ばす。
が、







「黙れぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

「きゃっ!?」

ユーノはマリナの手を乱暴に払いのけるとフラフラと立ちあがる。

「……お前たちに何がわかる……!大切な人を奪われる気持ちが…お前たちなんかに…わかってたまるか……!!」

「ユーノ君……」

獣のように唸りながら自分を睨みつけるユーノを見て、マリナはただ悲しかった。
ユーノや刹那に何があったのかはわからない。
だが、二人とも抱えきれない傷を背負いながら生きている。
それでも自分にもできることがあるはずだ。

「……大丈夫。」

「あ………」

マリナは優しくユーノを抱きしめる。

「あなたや彼になにがあったかはわからないわ。……でも、あなたたちのことをわかってあげられるように努力することはできる……だから、教えて……」

「俺は……」

その時、ユーノの端末から呼び出し音が鳴り響く。

「!!」

ユーノはマリナの腕を振りほどくとそのままバイクが置いてある場所に走りだす。

「ユーノ君!!」

「悪いな!話はまた今度だ!」

マリナは走り去っていくユーノの後ろ姿をただ見送ることしかできなかった。







AEU領 海上

刹那とユーノは王留美からの報告によって国際テロネットワーク、ラ・イデンラが一連の事件の犯人と知った。
そして、主要な拠点などの位置情報を受け取り、そのまま現地へと向かった。

「いた!」

刹那はターゲットである戦艦を発見する。
が、同行しているユーノの様子がおかしい。

「どうした、ユーノ?」

『なんでもない……っく!』

時折頭を押さえ、苦悶の表情を浮かべるその様子はとてもじゃないがなんでもないとは言い難い。

「無理をするな。」

『わーってるよ。』

呻きながらユーノは刹那とともに戦艦に近づいていく。

「エクシア、刹那・F・セイエイ、目標を駆逐する。」

「ソリッド、ユーノ・スクライア、目標を粉砕する。」

二機は戦艦の上に勢いよく降り立つと、エクシアはブリッジを、ソリッドは格納庫と思われる場所を切り裂いた。

「ミッションかんりょ……」

二人が安心したその時だった。
ソリッドの足を水中からのびたアームががっちりと掴み、そのまま水中へと引きずりこんだ。

「うあああぁぁぁ!?」

「捕マッタ!捕マッタ!」

967があせった様子でユーノに告げる。

「ユーノ!」

刹那が水中に飛び込むと、そこには青いMA、シュウェザァイがソリッドを掴んでいる。

「ユーノ!早く反撃しろ!」

「う、あああぁぁぁぁ!!」

「ユーノ!?どうしたユーノ!?」

刹那は何度も呼びかけるが、ユーノは頭を押さえたままソリッドを動かそうとしない。
と、それまで様子をうかがっていたシュウェザァイが発射口を開き、魚雷を発射しようとする。
これだけ至近距離で魚雷を受ければ、ソリッドといえども無傷では済まないだろう。

「クッ!!」

エクシアはシュウェザァイに向かっていくがとてもじゃないが間に合いそうにない。

「クソォォォォ!!」

そして、魚雷は発射された。





?????

光の中で黒い長髪の男、967は外の様子を見ながらため息をついた。

『仕方がない。手伝ってやるか。』






AEU領 海上

シュウェザァイのパイロットはなにが起こったのかわからなかった。
突如動き出したソリッドは相手のアームを切り落とすと、そのままアームドシールドで防御したはずだった。
だが、爆発で生じた泡が消えるとそこにはシールドしか残っていなかった。

「いったいどこに!?」

あたりを見渡すがどこにもいない。
が、突然の衝撃が彼を襲う。

「な、なんだ!?」

「あれは……」

外から見ている刹那にはすべてが見えていた。
泡を利用して消えたソリッドが下からビームサーベルを突き刺しているのだ。

『……まだだ。』

ソリッドはビームサーベルから手を離すと、沈んでいっていたアームドシールドを掴み、再びシュウェザァイに向かって突進していく。
そして、バンカーモードに変えると同時に敵へシールドを叩きつけ、圧縮粒子を解放した。
凄まじい水流とともに、二つの穴をうがたれたシュウェザァイは飛んでいき、爆散した。

「……誰だ、お前は?」

刹那がソリッドによびかける。

「今の動きはユーノのものじゃない。お前は誰だ……!?」

ソリッドはエクシアのほうを向くと額の飾りから光通信を開始する。

「ユーノは無事……だが、意識はない!?」

それだけ告げるとソリッドは力なく沈み始める。
刹那は慌てて腕を掴むとそのまま海上に引っ張り上げる。

「ユーノ!おい、ユーノ!!」

『ん………ああ、聞こえてるよクロノ……』

ユーノの声を聞いた刹那はホッと胸をなでおろす。

「何を言ってる……俺は刹那だ………」

『あ、ああ!そうだったな!』

『ユーノ、ヨカッタ!ヨカッタ!』

ユーノは照れた様子で笑うがすぐさまコックピットの中を見渡す。

『刹那……ここに俺以外に誰かいなかったか?』

「わからない。だが、お前以外の誰かがソリッドを動かしていたのは間違いない。」

『……まさか?』

ユーノはパタパタと耳を動かす967を見る。

『あほらし……んなわきゃないか。』

「どうした?」

『いや、なんでもない。さっさと戻ろうぜ。』

そう言うと二人はその場を離れ、空高く飛んでいった。







AEU領 航空機

『姫様、フィンランド外務大臣との連絡が取れましたわ。もっとも、大した支援は期待できないでしょうけど……』

今のマリナにはシーリンの声は届いていなかった。
夕焼けでオレンジ色に染まった雲を見つめながら、スコットランドで出会った二人の少年のことを考えていた。
カマル・マジリフ……いや、刹那・F・セイエイ。
そして、ユーノ・スクライア。
あの時は彼らの話を信じてしまったが、よく考えてみればあんなに若い二人がMSで戦っているところなど想像できない。

「……まさかね。」

きっとたちの悪い冗談か何かだったのだ。
自嘲気味に笑い、彼らのことから頭を切り替えようとした。
その時だった。

「おい見ろ。MSだ。」

「どこの国のだ?」

マリナが声のしたほうを向くと白と青の機体、そして白と萌黄色の機体が飛行機と並ぶように飛んでいる。

「あの白いのは……ガンダムじゃないか?」

二機は飛行機の上にあがると天蓋窓からからこちらを見下ろしている。

「ガンダム……」

マリナはその二機が自分を見ているように思えた。
あの二人の少年が自分を見ている。
ばかばかしいと思ってもその考えが頭にこびりついて離れない。

二機のガンダムは徐々に距離を取り始め、そのまま星がちらつき始めた空へと飛び立っていった。


「もういいのか、刹那。」

「ああ。つきあわせてしまってすまない。」

「気にすんなよ。俺もあの人と接触しちまったし、ついてきたのも俺の勝手だ。」

刹那とユーノはそれぞれ過去の記憶をたどっていた。
刹那は彼女と同じ声の持ち主だった自分の母を。
ユーノは彼女と同じ思いを抱く少女のことを。

(……なのは。君も今の俺のやっていることを見たら、俺を否定するのか?)







ユーノの問いに答えてくれる者はいない。
彼が自らの記憶を取り戻さない限り、その答えは出ないのかもしれない。






あとがき・・・・・・という名の平謝り

ロ「というわけでマリナと接触する13話でした。毎度毎度グダグダですみません。」

刹「いきなり謝罪か?まあ、それでも足りないくらいだけどな。」

ア・ハ「「さぁ、お前の罪を数えろ。」」

ロ「それはよそ様のセリフだろ!!お前ら自分のキャラをどこに置いてきた!?」

ア「僕らは二人で一人の超兵だ。」

ハ「ハードボイルドにいくぜ!」

ロ「もうネタはいいって言ってんの!いい加減にしろや!!」

ティ「馬鹿は放っておいて今回のゲストを紹介する。鉄槌の騎士、永遠の幼女、ヴィータだ」

ヴィ「……なんか引っかかるものがあるが紹介ありがとう。」

刹「では、解説に行くぞ。」

ティ「今回はなかなか書くのに苦労したようだな。」

ハ「いつもも相当なもんだが今回のグダグダ感は別格だったな。」

ロ「………ホントにスンマセン。」

ヴィ「間違いなくボロクソにたたかれるな。」

ア「書くの停止に追い込まれたりして。」

ロ「不安にしないでくんない!?マジで一生懸命書いてんだからお前らだけでも優しくしてよ!!」

「「「「「断る。」」」」」

ロ「己らは鬼かぁぁぁぁぁ!!!」

ハ「まあ、次回はちゃんとするんだな。こんな物でも読んでくださってる皆さんがいるんだからな。」

ヴィ「そういや次回はオリジナルミッションだったな。」

ティ「ああ。だからここではあまり話せない。」

刹「ただ、ノイバーさんの意見を参考にすると言ってたな。」

ア「そうなんだ……って、えええぇぇぇぇぇぇ!!?あれはなんとかsecondまでとっといてパーっと派手にやろうって言ってたよね!?さっそく使っちゃっていいの!?」

ハ「いや、よくないだろ。」

ヴィ「うん、よくない。」

ティ「まったくだな。」

ロ「…………ノイバーさん、マジでごめんなさい。こんなところでさっそく使ってしまって。」

刹「せめてみんなが納得してくれるようなものに仕上げるんだな。」

ロ「もちろんだ!!なので、かなり更新が遅れるかもしれません。」

ハ「うわ、今のうちから防衛線張りやがったよ。セコイな~。」

ロ「うっさい!!そんだけ大事に仕上げたいんだよ!」

ヴィ「やれやれ……。それでは最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただいてありがとうございます!よろしければこれからも読んでいただいて、感想、ご意見をいただきたい所存です!じゃ、せーの……」

「「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」」



[18122] 14.牙をむく悪意(前編)
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/07/11 18:22
人革連領 インドネシア近海

月と星の明かりだけが照らす海にそれは浮いていた。
淡い光に照らし出された黒い船体は鈍く輝き、普通の船とは違い甲板と呼べるものはなく、ただ内部に出入りするための出入り口が上にあるだけだ。
そして、一般に潜水艦と呼ばれるそれに近づいていく一艘の小舟があった。
金属の塊である潜水艦に対し、木でできた小舟は何とも心もとなく見える。

「なんでわざわざこんなボロ船に乗らなくちゃなんねぇんだよ。」

「周りに警戒されないためだ。我慢していただきたい。」

船の先頭で夜になって一層冷え込んだ海風に当たりながらサーシェスは不満を漏らすが、舟を漕いでいる二人のうちの一人にいさめられる。
この二人組、肌はパッと見た感じでは地元の人間のように浅黒いものだが、はねたしぶきが当たったところから茶色の雫が垂れて白い肌が見えている。
どう考えてもまともなことをしている人間ではなさそうだ。

「ハッ!しかし、ソレスタルなんたらに派手にやられたって聞いてたが、まさかこんなもんを使って自分たちだけ逃げ出してたとはな。とんだ臆病もんどもだ…」

「なんだと貴様……!!」

もう一人の男が漕ぐのをやめてサーシェスを睨む。
だが、それでもサーシェスはふてぶてしい態度を崩さない。

「おっと、すまねぇな。本当のことは聞きたくなかったか?ククク……」

「どうやら死にたいらしいな!」

「おい、よせ!」

仲間の制止も聞かず男はポケットから銃を取り出すとサーシェスに向けるが、向けられている本人は薄く笑ったままとくになにかを構えるそぶりを見せない。

「おいおい、いいのか?俺を殺っちまったらお前らの欲しがってるもんは手に入らないぞ?」

引き金を引こうとした男の動きがピタリと止まる。
その顔は憤怒と悔しさが入り混じった醜悪なものになっている。

「クソ!!」

男は銃をしまうと再びボートを漕ぎ始めた。
もう一人の男も安心した様子で作業に戻った。

「サーシェスさん、こちらとしてもトラブルは避けたい。いたずらにメンバーを刺激するマネは控えていただきたい。」

「わーったよ。たく、冗談の通じねぇ奴だぜ。」

「しかし、本当なのですか?“あれ”を我々に譲ってくれると言うのは。」

「ああ。大マジだぜ。」

サーシェスはにやにやと、心底楽しそうに笑う。

「SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)……きっちり金を払ってくれりゃあ譲ってやるよ……」

「しかし、いいのですか?あなたの上の人間が黙っていないでしょうに。」

「なぁに、そこんところは上手くやるさ。それに、これがきっかけででっかい戦争が始まりゃ、俺としても連中としても万々歳さ。」

「…………」

男はサーシェスに空恐ろしいものを感じていた。
一歩間違えば世界が滅びかけないかもしれないにもかかわらず、自らの欲望につき従い、迷わず戦いを引き起こそうとしている。
気が狂っている、などという言葉で片付けることなどできない。

「ああ、それとあの約束も守れよ。」

「もしも戦闘が始まったら自分も参加させろというあれか?」

「おうよ。もし、これを止めに来るやつらがいるなら、その中にガンダムもいるはずだ。」

「鹵獲するつもりか。」

「いんや……」

サーシェスは立ち上がり、空を仰ぐ。

「連中の前で思い知らせてやるのさ……てめぇらのやってることがいかに無駄なのかをな!!ハハハハハハハ!!」

狂気に満ちた笑いは暗い空に消えていく。
だが、そこに込められた悪意はこの世界を確かに侵食しようとしていた。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 14.牙をむく悪意(前編)

経済特区東京 某マンション

「ありがとな、沙慈。美味かったよ。」

「ああ…、どういたしまして……」

ユーノは沙慈に容器を渡しに行ったのだが、どうも様子がおかしい。
ユーノがいくら話しかけてもどこか上の空で、ボーっとしていたかと思うと突然びくりと体を震わせ、頭を押さえてうずくまるということを繰り返している。

「……何かあったのか?」

「……ちょっとね。」

沙慈は「ははは…」と力なく笑うとユーノに背を向け部屋へと戻ろうとする。

「悩みがあるなら聞くけど?」

その言葉を言い終わる前に沙慈はバッと振り向きユーノの手をとる。

「聞いてくれる!?」

「ま、まあ……アドバイスできる範囲なら……」

「本当かい!?ありがとう!!」

「お、おい!!」

沙慈は手を掴んだまま強引にユーノを自分の部屋へと連れ込んで行った。







宇宙 プトレマイオス

「ラ・イデンラも叩いたし、やっとみんな帰ってきますね。」

ブリッジで端末を操作しながらリヒテンダールがラッセに話しかける。

「ああ。ガンダムもそろそろ整備が必要になってくるころだろうしな。」

「それにしても、なんでうちらだけ居残りなんスかね?」

「なにか不満か?」

「当然すよ!!俺だって行きたかったのに!!」

グッと拳を握りながらリヒテンダールが熱く語り始める。

「だってあの三人の行くところって海の近くですよ!?期待してしまうのが男ってもんでしょ!!」

「それが理由か……」

ラッセはあきれた様子でため息をつくが、リヒテンダールの喋りは止まらない。

「きっと今頃、三人で水着を着て泳いだりとかして……」

「フェルトに関してはそんなことないと思うがな……」

二人でそんな馬鹿話をしていると、突然ヴェーダからの通信が入る。

「ん?これは……?」

さっきまで騒いでいたリヒテンダールだが、通信内容を見たとたんに顔が青ざめる。

「そんな、まさか!?」

「どうした?」

様子が変わったリヒテンダールを不思議に思ったラッセもそれを見る。
そして、彼の顔色も一変した。

「おいおい……なんの冗談だこりゃあ!?」

いま、悪意の残照が無垢なる人々に忍び寄ろうとしていた。







経済特区東京 某マンション 沙慈の部屋

「…………と、言うわけなんだよ。」

「……………あっそ。」

夕焼けの光で照らされたソファーに座りながら沙慈の悩みを聞いていたユーノだったが、正直なところバカバカしくなってきていた。
その悩みというのが、彼のガールフレンド(?)のルイスの母親が遥々スペインから日本に来たというものだ。
ルイスは母親の前で沙慈を彼氏と言ってしまったらしく、その場で猛反対を受けてしまい(加えて沙慈の“お母さん”発言によって)、微妙な空気になってしまったらしい。

「どうしたらいいと思う?」

「沙慈さんや……それって年下に聞くことじゃないと思うのは俺だけかね?」

「でも、他に頼れる人はいないし……」

「お姉さんがいるんだろ?」

「駄目だよ。姉さんはそっち方面には疎いから……」

ユーノは大きくため息をつきながら沙慈を見る。

(ハハハ……俺もこんな感じだったのかねぇ?)

完全ではないが彼女に、なのはに告白した時のことはうっすらと思い出していた。
一人では不安だったのか親友についてきてもらい、思いを告げたあの日。
そして、そのまま互いに顔を近付けていき……

「…………………/////」

「ど、どうしたの!?」

突然、両手と膝を床につけてうつむき始めたユーノに沙慈は心配そうに話しかける。

「いや…少し物凄く恥ずかしいことを思い出しただけだから………」

「そ、そう……(少しなのか、物凄くなのかどっちなんだろ?)」

しばらく経つとユーノはコホンと咳払いをして再びソファーに座る。

「まあ、俺に言えることがあるとすれば、お前がどうしたいって聞くことぐらいだな。」

「え?」

「え?じゃねぇっての。お前はそのルイスって子のことをどう思ってるんだ?ただの友達か?それとも好きなのか?」

「す……//////!!?!?」

ユーノのストレートな言葉に沙慈の顔が一気に紅潮する。

「それは……その……」

「あ~もう!好きなんだろ!?その顔見ればわかるっつの!!」

「え!いや、そんなこと……」

「あるんだろ。」

「…………うん。」

コクリとうなずくと、沙慈はそれきり顔を赤くしたまま黙ってしまう。
そして、しばらく二人の間に沈黙が漂う。
時間にしてみれば2、3分だったのだが、二人にとっては何時間も喋っていない気がしていた。
そんな沈黙をやぶったのはユーノだった。

「……沙慈、今の自分の気持ちは伝えたほうがいいぞ。あとで後悔しないようにな。(まあ、俺が言えた義理じゃないけどな)」

「けど……」

「母親に反対されようが何されようが自分の気持ちだけは誤魔化すなよ。……俺みたいになりたくないならな。」

「え……?」

それがどういうことか聞こうとした時、チャイムやノックもなく突然玄関のドアがバーンと勢いよく開いた。

「沙慈~~~~!!開いてたから勝手に入ってきちゃっ、た………」

ルイスは沙慈とユーノを見てその場で固まり、脳をフル回転させる。

(え、何この子?サングラスとかかけてちょっと変だけど、すっごい綺麗な髪してる。女の子?え、なんで沙慈が私以外の女の子と一緒にいるの?それってつまり………)

ルイスはある結論に到達する。
そう、とんでもない結論に。

「……………の。」

「?」

「沙慈の……浮気者ぉぉぉぉ~~~~!!!!!!」

「「えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?!!!!?」」

いきなり突拍子もないことを言い始めるルイスに二人とも驚く。
しかし、ルイスはそんなことなどお構いなしに沙慈の襟を掴んでソファーから引きずりおろし、前後に揺さぶる。

「この子だれよ!!私というものがありながら~~~~!!」

「ご、誤解だよルイス!!この子はご近所さんで……」

「ご近所さんと浮気してたの!?サイテーーー!!」

「だから違うって!!」

「…………あの。」

ユーノは恐る恐るルイスに話しかける。

「なに!?沙慈の次はあなた……」

「いや……俺、男なんだけど。」

「………へ?」

ルイスは動きを止めて沙慈を見る。
あっけらかんとしたルイスの顔を見ながら沙慈は首を縦に振る。

「………男の子?」

「「うん。」」

「………浮気相手?」

「「違う違う。」」

ルイスは沙慈から手を離し、そのままソファーに座る。
そして、

「こんばんわ、沙慈♪」

笑顔であいさつする。
しかし、

「……あんたそれで今までの全部リセットできると思ってんの?」

「………無理かな?」

「うん。無理。」

その後、ルイスは床に正座したままユーノに30分近く説教をされることとなった。








30分後

「そっか。セイエイさんの知り合いなんだ。」

「うん。それで、この間おすそわけの時に渡した容器を返しに来てもらってたんだ。」

「嘘つけ。俺に恋愛のアドバイスを……」

「ワーーーワーーーッ!!」

「え?なに?」

「な、なんでもないよ!」

「……根性無しめ。」

ルイスが不思議そうな顔をする中、沙慈はユーノを呼んだ本当の理由を誤魔化そうと必死である。

「そう言えば今日は何で沙慈に会いに来たんだ?なんか急ぎの用みたいだったけど。」

「あっ!そうだった!!」

ユーノの言葉でルイスは本来の目的を思い出す。

「今晩、ママと一緒に料亭でお食事するの。だから沙慈も来て。」

「えええぇぇぇ!?」

ルイスの突拍子もない話に沙慈は驚いてしまう。

「ちょうどよかったじゃん。行っちゃえよ。」

「ユーノ!?」

「何がちょうどよかったの?」

「いや、こっちの話だ。」

ユーノは沙慈の耳元に口を近づけささやく。

(行ってきて“お母さん”に認めてもらってこいよ。)

(む、無理だよ!そんな急に!)

(男だろ!?覚悟決めちまえよwww)

(……なんか楽しんでない?)

(まあ、他人事だからな。)

(ヒドイよ!!)

(別にいいじゃん。)

「?二人で何してるの?」

「いや、沙慈がどんなカッコで行こうかって相談してきてさ。」

「ちょ………!?」

「じゃあ、来るのね!?」

ルイスの目がキラキラと輝き始める。

「そうそう。俺はこれでお暇するから、沙慈の服を選んでやってくれや。」

「ユ、ユーノッ!!」

沙慈は精一杯の声でユーノを呼ぶ。
が、

「沙慈……頑張れよ。」

ユーノは振り返るとニヤリと笑って部屋を出ていった。

「ユーーーノーーーーー!!」

「さ、服を選ばなくちゃ♪」

日が沈みかけた部屋の中にはウキウキと沙慈の服を選ぶルイスとこめかみに青筋を浮かべた沙慈が取り残された。








ユーノの部屋

「で、いきなり呼び出しってなんだよ?宇宙に上がって、トレミーでガンダムの整備じゃないのか?」

ユーノは刹那とともに自室でスメラギからの通信を受けていた。
スメラギの顔はいつも以上に緊張感に満ちている。

『その前にもう一仕事してもらうわ。』

「何があった?」

『……今しがた、各国家群の上層部にラ・イデンラの残党から犯行声明が届けられたわ。こんな画像と一緒にね。』

スメラギは二人の端末にある画像を送る。

「これは……ミサイル?」

刹那にはそれがなにかわからないようだったが、それを見たユーノが凍りつく。

「おいおい……!連中、弾道ミサイルなんてどこで手に入れたんだよ!?骨董品なんてレベルじゃねぇぞ!!」

「弾道ミサイルだと!?」

『SLBM……二日後のグリニッジ標準時の午後2時にこれをどこかに向けて発射すると言ってるわ。私も最初は信じられなかったけど、たぶんどこかが所持していたものを拝借してきたんでしょうね。どこも混乱を避けるために公表はしていないわ。』

22世紀にはいってからは、世界では核兵器の使用、所持、開発を原則禁止した。
これは核による抑止力に変わる新たな抑止力として高性能なMSが開発されてきたということもあるが、なにより使用した際に軌道エレベーターへのダメージが深刻なものになる可能性があることが最大の理由だろう。
しかし、それでもいまだに核兵器を秘密裏に所持している国は存在し続けていた。

『どこも海岸線の防備を固めたり、捜索はしているけど、とてもカバーしきれるものじゃないわ。』

「だが、いくらラ・イデンラが巨大な組織とはいえど、テロリストがそう簡単に核を手に入れられるとは思えない。」

「どっかの馬鹿がテコ入れしたってことか。」

『ええ。ヴェーダは形状から人革連に所属するどこかの国家が所持していたものと予測しているわ。ただ、仲介したのはおそらくモラリア……それも、PMCよ。』

「なんだと!?」

『彼らは平和事業と言う名目で廃棄された核兵器の処理や管理を行っているわ。おそらく、処理の依頼を受けたものを横流ししたんでしょうね。』

「そんなバカな……いくら連中でも金のためとはいえ、こんなバカげたことするはずが……!?」

ユーノはそこまで言って、ある男のことを思い出す。
刹那のほうを見ると、どうやら彼も同じ結論に達していたようだ。

(サーシェス……!!)

そう、奴ならやりかねない。
戦いを望み、殺戮を楽しむあの男ならやりかねない。

『PMCも今回の件に関しては関与を否定してる。AEUはもとより、それ以外の国家群も流石にそこまでのことはしないと考えてるみたい。』

「そんなもんやってたって否定するに決まってんだろうが!!」

『そうね……。でも、確たる証拠もなしでは彼らがかかわっていると決めつけることはできない……それが世界のルールってものなの。』

「クソッタレめ……!!」

ユーノが悔しそうに歯を食いしばる。

『悔しいでしょうけど、私たちは今できることをするしかないわ。彼らの目標がどこかわからないからマイスターズも散らばって情報収集や捜索をしてもらいます。刹那はアメリカ西海岸に、ユーノはミクロネシアに向かって頂戴。』

「おいおい、SLBMってことは、連中は潜水艦使ってんだろ?そんなもん見つかるわけないだろ!?」

『わかってる!!でも、今の私たちにはこれぐらいしかできることがないの!』

スメラギが珍しく声を荒げる。

『……ごめんなさい。戦況予報士の私がこんな調子じゃ駄目ね。』

「……いえ、こっちも熱くなりすぎました。」

「とにかく、すぐにでも奴らを探そう。まだ時間はある。」

刹那の言葉に二人はうなずく。

『ユーノ、今回はエクシアの探査能力を少しでも上げておきたいの。967やハロは他のマイスターに預けてもらうわよ。』

「了解。合流ポイントで渡します。」

『本当にごめんなさい。肝心な時に役に立たなくて……』

「そんなことはない。あんたの戦術にはいつも助けられている。」

「そうですよ。そんなこと言ってる暇があったら、スメラギさんはもしもの時のための戦術を考えてください。」

『もしものときね……。そんなことが起きないことを願うわ。』

そう言うとスメラギは苦笑しながら通信を切った。

「じゃ、行くか。」

「ああ。」

ユーノと刹那もガンダムのもとへと向かう。
悲劇を引き起こさせないために。






PMCトラスト本社

「どういうつもりだ!!あんなものをテロリストに渡すなど!!」

「あ~?」

PMCトラストの一室でスーツを着た男がサーシェスを怒鳴りつける。
だが、サーシェスはいつものラフな格好のまま机の上に足をのせ上の空といった様子だ。

「ただでさえ国際社会における我々の立場は先の戦闘の結果で危ういものになっているんだ!!そんな中であれを使われたら……」

「ククククク……心配すんなよ。連中には何もできやしないさ。」

サーシェスはそう言って端末を投げ渡す。

「これは………なるほどな。確かにこれなら……」

「そういうこった。せいぜい連中には、俺らの役に立ってもらうさ。ククク…ハハハハハハハ!!」

広い部屋の中にサーシェスの笑いが響いた。







一日後 グリニッジ標準時午前10時 発射まで残り28時間

ユニオン MSWAD本部 格納庫

「グラハム、出撃準備が完了したよ。」

「急ですまない、カタギリ、プロフェッサー・エイフマン。」

グラハムたち、フラッグファイターはカタギリとエイフマンに深々と頭を下げた。
弾道ミサイルによる攻撃予告を受け、グラハムは独断での出撃を決意した。
カタギリやエイフマンは反対したが、グラハムは頑として聞かなかった。
そして、二人は仕方なくフラッグの整備を急ピッチで進めることとなった。

「そう思うなら、いかないでもらいたいものじゃがな。」

「申し訳ありませんがそれはできません。何の罪もない多くの人間が犠牲になるかもしれない時に、指をくわえてそれを見たいることはできません。それに……彼らもおそらく来る。」

「ガンダム……」

エイフマンの言葉にグラハムは笑顔でうなずく。

「彼らも今回の件を黙って見ているはずがない。今度こそ口説き落として見せるさ。」

「やれやれ……君に付き合わされる僕たちは大変だよ。けど……」

カタギリはグラハム達を励ますように笑顔を向ける。

「そんな君だから最後までついていくことに決めたんだ。」

「フッ………その友情に感謝する。」

そう言ってグラハムたちはフラッグに乗り込んでいった。





大西洋海上

「どこだ……どこにいる……!?」

デュナメスとロックオンは大西洋上を飛行しながら捜索をしている。
普段はコックピットの右前に相棒のハロがいるのだが、今は刹那と行動しているためいない。
デュナメスは狙撃戦を想定して作られているため、センサー類が他のガンダムに比べ優れているのでハロなしでもそこそこの探査能力を発揮する。
だが、流石にこの大海原で目的の潜水艦を発見するのは容易ではない。

「クソッ!!早く見つけねぇと……」

その時、コックピット内にアラームが響く。

「チッ!またかよ!!」

デュナメスの後方からヘリオン部隊が接近してくる。

「お前らも探しもんは一緒だろうが!邪魔すんじゃねぇ!!」

ロックオンは水面に背を向けるとヘリオン部隊に対しビームピストルを連射する。
ヘリオン達は光弾の嵐をかわしきれずにあえなく撃墜された。

「今ので四回目か……嫌んなるぜ、まったく……」

各国家群は犯行予告を公表こそしなかったが捜索自体は行っていたので鉢合わせになってしまい、ロックオンは彼の意思とは関係なく戦闘を行ってしまっていた。
もっとも、どこもテロの阻止と同時にガンダムの鹵獲を考えているのだから当然と言えば当然かもしれないが。
だが、この状況下でこんなことをする者たちに対してロックオンが落胆しないはずがない。

「そんなに世界を守るより俺たちの相手を優先したいかよ……!」

ロックオンの悔しさのにじむ声にこたえてくれる者はいない。
だが、それでも彼は捜索をやめない。
彼が体験したものを二度と引き起こさないために……。





グリニッジ標準時午後1時 残り25時間

インド洋海上

太陽の光を反射して輝く海面に戦闘機の影が走る。
その戦闘機、キュリオスの中でアレルヤは疲れた顔をしていた。
彼はキュリオスの機動性を生かし、他のガンダムよりも捜索範囲が広いインド洋と太平洋の西側を担当していたが、捜索範囲が広いということはその分他に比べ消耗も激しくなってしまう。
そんな中で休憩をはさんでいると言っても、もう14時間以上も捜索を続けているのだ。

「エージェントからの情報がないだけでここまで後手に回るなんて……」

これまでのミッションではエージェントやオペレーターからの情報提供のおかげでスムーズに事が運べたが、今回は情報は全くなし。
だが、時間もないという最悪の状況だ。

『チッ!こんなめんどくせぇことさせやがって……見つけたら根絶やしにしてやる!!』

ハレルヤが頭の中ですんなりと戦えない不満と怒りを漏らすが、今のアレルヤはそんなことに構っている余裕はない。

「頼む……間に合ってくれ!!」

アレルヤは気を引き締め直すと、祈るような思い出捜索を再開した。





太平洋中央部

青で満たされた海中を黒と白でカラーリングされたヴァーチェがゆっくりと進んでいた。

「残り24時間37分……。ヴァーチェ、捜索を継続する。」

「急ゲ!急ゲ!」

ティエリアは淡々と作業を進めるが、967はそんな彼とは対照的に焦っているようである。

「問題ない。967は現在の探索深度と範囲を継続。」

「急ゲ!急ゲ!」

自分の言葉を無視して急かし続ける967にとうとう我慢できなくなったのかティエリアは声を荒げる。

「いい加減にしろ!!焦ったところでどうにもならないんだ!今はエージェントと協力して捜索に専念するしかない!」

ティエリアの怒った声を聞いて967は嬉しそうに耳をパタパタさせる。

「ヤット怒ッタ!ヤット怒ッタ!」

「?」

「ユーノ言ッテタ!ティエリア、怒ラセル。ティエリア、リラックス。イイコト!イイコト!」

(……あとで覚えていろ、ユーノ・スクライア!)

ユーノへの復讐を誓いながら、なんだかんだでリラックス(?)できたティエリアはそのまま捜索を続行した。





グリニッジ標準時午後3時 残り23時間


太平洋西部

「ハロ、捜索深度をさらに深くしてくれ。」

「了解!了解!」

刹那は海中での操作に慣れないながらも捜索を続けていた。
海中から探していることもあってMSに遭遇することはなかったが、もともとエクシアはこういった任務に向いていない機体である。
ハロのサポートがあるといっても楽なものではない。
だが、ここで諦めるわけにはいかない。

(もし、奴が……サーシェスがからんでいるなら、放ってはおけない!!)

刹那は無意識に操縦桿を握る力を強くしながらエクシアを操縦していく。
その時、コックピット内にアラームとハロの声が響く。

「海上ヨリ攻撃!」

「なに!?」

海面からドラム缶のようなものが落下してくるとエクシアの周りで爆発する。
その衝撃でエクシアは体を揺さぶられる。

「クッ!!」

「6時方向ヨリ敵機接近!!」

刹那はたまらず海中から海面に飛び出すと、待ち構えていたフラッグが斬りかかってきた。

「そこだ!!」

「やらせるかよ!!」

エクシアはとっさにビームサーベルを抜いて防ぐが、今度は後ろから別のフラッグが斬りかかる。

「おおおおぉぉぉ!!」

「クッ!」

今度は左手で腰に装備されたGNブレイドでブロックする。
ちょうど左右両側から挟まれたような体勢で二機のフラッグと鍔迫り合いをするエクシア。
剣からはパチパチと小さな火花が散っている。

「この程度……グァッ!?」

刹那が二機を振り払おうとした瞬間、正面から弾丸が飛んできてヒットする。
致命傷ではないが強烈な一撃に吹き飛ばされ、そのまま数十メートルを慣性に従って移動してしまう。

「あれは…!」

刹那が顔を上げると、そこには以前タリビアでのミッションの撤退時に追跡してきていた黒いフラッグがいた。

『隊長、おいしいとこだけ持ってかないでくださいよ。』

「スマン、スマン!だが、まだ活躍の機会はあるようだぞ、ダリル。」

『あれをくらって無事なんて……呆れた装甲ですね。』

「おそらくあれは接近戦主体の機体なのだろう。他のものに比べ、ある程度装甲は厚いだろうな。」

黒いフラッグのパイロット、グラハムは努めて冷静に話そうとするがどうしても喜びから興奮した口調で喋ってしまう。
よもや、こんなところでガンダムと、しかも白と青のガンダムに会えるとは思っていなかった。

そんなグラハムとは裏腹に、刹那の心は怒りで埋め尽くされていく。

「こいつらは……!!」

あと一日ほどで核が発射されるかもしれない。
にもかかわらず、奴らはこうして自分と戦おうとしている。
なぜだ……

「なぜ……お前たちは戦おうとする!!」

「刹那ヤメロ!刹那ヤメロ!」

ハロの制止も聞かず、エクシアは弾かれたように飛び出すと黒いカスタムフラッグにビームサーベルを振るう。
しかし、カスタムフラッグは急速にバックしてそれをかわす。
が、

「まだだ!!」

今度は左手に握ったGNブレイドをフラッグの顔めがけ突き出す。
しかし、

「甘いな!!」

グラハムは左利きの彼に合わせて右腕に装備されたディフェンスロッドが回転させ、GNブレイドの柄にぶつけてそのまま弾き飛ばした。

「な!?」

「ノーマルフラッグとは違うのだよ!ノーマルとは!!」

カスタムフラッグは続けざまにエクシアの顔を蹴り飛ばして距離をとると、リニアライフルを連射し始める。
すると、それまで様子をうかがっていた二機もライフルを発射する。

「グ、アアアアァァァ!?」

「装甲表面ヲ損傷!」

エクシアはそのまま棒立ちのような状態でライフルの掃射を受け続ける。
しかし、刹那の闘志はそれに比例するかのように激しく燃え上がっていく。

(変わらない……あの時から何一つ変わっていない!!)

力に任せすべてを蹂躙する者たち。
たとえ誰かが傷つくとわかっていても、戦い続ける者たち。
そんな世界を変えるために、もう自分のように戦うことしかできないものを生み出さないように。
だから、

「俺は……生きているんだぁぁぁぁぁ!!」

エクシアは背部からダガーを抜くと斜め後ろにいる二機のフラッグめがけ投げつける。

「クッ!」

「こいつ!」

ハワードとダリルはとっさに避けるが、その瞬間射撃が止んでしまう。
その隙を刹那は見逃さなかった。

「はあああぁぁぁぁ!!」

GNソードの刃を素早く起こすと二機のフラッグのライフルを斬り捨てる。

「おのれ!!」

それを見たグラハムはソニックブレイドを抜き、エクシアへと向かってくる。

「ハロ、姿勢制御ならびに照準合わせ開始!」

「了解!了解!」

ハロの声と同時にディスプレイに照準ポインタが現れる。
刹那はGNソードをライフルモードに変えて、狙いをつける。

(上だとディフェンスロッドに防がれる。狙うとしたら……足元!!)

ポインタと目標が重なった瞬間、刹那は引き金を引いた。

「エクシア、刹那・F・セイエイ、目標を狙い撃つ!」

銃口から放たれた光はカスタムフラッグの左足に当たり、体勢を崩させた。

「クッ!小癪なマネを!」

グラハムは体勢を立て直すが、その間にエクシアは間合いを詰めていた。

「う、おおおおおぉぉぉぉぉ!!!」

咆哮とともに振られたGNソードはカスタムフラッグの右腕を斬り落としていた。

「おのれ……よくも私のフラッグを!!」

グラハムは激情に任せ突っ込もうとするが、ダリルとハワードにとめられる。

『隊長、いったん引きましょう。このままじゃ流石に……』

『悔しいですが、今回はここまでです。』

「……了解した。」

グラハムはしぶしぶ基地への帰路に着いた。

「この屈辱……忘れんぞ、ガンダム!!」

彼方へと去っていくフラッグを刹那は肩で息をしながら見つめる。
その目には先ほどまでの怒りではなく、悲しみを宿している。

(なぜだ……なぜ、ここまで世界は歪む……)

自分たちが紛争を根絶するために戦うほどに、この世界は悪意に満ちていく。
すぐには世界は変わらないとわかっていた。
わかっていたはずだった。
だが、それでもやるせない気持ちはぬぐえない。

『話し合いもせず、平和的解決も模索しないで、暴力という圧力で人を縛っている。……それはおかしなことよ!』

(!!)

ふと、先日会った彼女の言葉を思い出す。

(マリナ・イスマイール……)

マリナはあくまで話し合いで平和を掴もうとしている。
自分たちとは正反対の“戦い”をして。

(俺たちは……間違っているのか……?)

刹那の心に迷いが生まれる。
だが、それでも彼は力を振るって戦うことしかできない。
彼女のようにはなれない。

(それでも止まれない……止まるわけにはいかないんだ。)

「捜索続行!捜索続行!」

「……了解。エクシア、ミッションを続行する。」

刹那は操縦桿を前に倒し、再び海中にエクシアを沈めていく。
生まれた疑問をその胸に抱きながら……







グリニッジ標準時午後4時 残り22時間

インドネシア 市街地

「で、なんで俺らだけこんなところを歩いてるんだ?」

「……………」

赤道近くの太陽の光を浴びながらユーノとフェルトは地道に聞き込みを(主にユーノが)続けていた。
フェルトはモラリアの時と同じ軽装で来ているのだが、ユーノはいつものジャケットにジーパンだったので汗が止まらなかった。

「………アッチィ~。」

「…………………」

「……あのさ、フェルト。なんか喋ってくんない?」

「…………………」

このミッションに同行してきたフェルトだが、ユーノとはいまだに言葉をかわしていない。

(……やっぱ嫌われてんのかな~、俺?)

と、そんなことを考えながら歩いていると二人の男が話しながらこちらに近づいてきた。

「それにしても妙な奴らだったな~。」

「ああ、あんなに食糧買い込んでどうすんだか。」

(食糧?)

ユーノは引っかかるものを感じ、その二人に話しかける。

「すいません。その人達ってどんな感じでしたか?」

「ん?あんたは?」

「旅行者です。俺たち連れとはぐれてしまって。もしかしたら、その人たちがそうじゃないかなって……」

「ああ、そうかい。もしそうならあれも納得だな。」

「?どういうことです?」

ユーノの疑問にもう一人の男が答える。

「いや、この時期にあんなに食いモンを買い込むなんて地元の人間にしちゃおかしいと思ったんだが、客が来てたんなら納得だ。」

「……どんな人たちでした?」

「ああ、二人ともがたいが良くて……それから、ヨーロッパ訛みたいな喋り方をしてたな。」

「そうですか。ありがとうございました。」

二人と別れを告げた後、フェルトはすぐさまスメラギに連絡を入れる。

「こちら、フェルト。ユーノが地元住民から入手した情報によると、ラ・イデンラのメンバーと思われる二人組が目撃されていました。確認を行った後、また報告します。」

『了解!相変わらずユーノの引きの強さには感心するわ。』

「それ喜んでいいんですか?」

ユーノは苦笑しながら返事をする。

『いいことじゃない。少なくともこんなことをしているときは。』

「ははは…そらどうも……。それじゃまた。」

会話が終わったことを確認するとフェルトは通信を終了した。

「そんじゃ、捜索再開といきますか。」

「了解。」

「……初めてかけてくれた言葉が『了解』って………なんか悲しい。」

「?なんで?」

「いや、わからないならいいんだ……ははは……」

「?」

フェルトは不思議そうな顔のままとぼとぼと歩くユーノの後ろをついていった。
と、大きな通りに出たところでユーノの視界に見知った人物が写る。

(あれは……!?)

金色の髪をし、手には黒い拘束具のようなものをした男と銀色の髪をした眼鏡の女性。
銀髪の女性はこちらに気付いていないようだが、金髪の男は人ごみの向こうからこちらを見て不敵な笑みを浮かべている。

「どうしたの、ユーノ?」

「……フェルト、悪いけど一人で捜索を続けていてくれ。」

「あっ!ユーノ!」

フェルトは引き留めようとするが、ユーノはそのまま人ごみへと走り出した。






裏路地

(確かここに……)

ユーノは表通りから外れた裏路地にやってきていた。
昼間にもかかわらず日が差しておらず、じめじめとした地面からはごみの腐ったようなにおいがする。

(なんで奴がここに……って!!)

ユーノが一歩進んだところで上から黒い影が襲いかかってきた。
影は拳を振りおろしてくるが、ユーノはバックステップでかわし、右脚で蹴りあげる。

「らぁっ!!」

「あげゃ!!」

影はユーノの足を掴んで防ぐと、そのまま投げ飛ばした。

「っ!!」

ユーノは空中で態勢を立て直し、なんとか地面に着地する。

「あげゃげゃげゃ!操縦だけじゃなくて生身でもそこそこやるじゃねぇか。」

「……なんでお前らがここにいるんだよ、フォン。」

かすかに差し込んだ光に照らし出されているのはフェレシュテのガンダムマイスター、フォン・スパークその人だった。
その手には、普段は彼の自由を奪っている拘束具が解除されている。

「今回のミッションはあなたたちだけでは困難だと判断したヴェーダが私たちをバックアップとして送り込んだの。」

フォンの後ろから銀髪の女性、シャルが現れる。

「なるほどね。でも、なんでまたこんなところに?」

「あげゃ!ここには奴の古い知り合いがいるからな。」

フォンの言葉にユーノは固まる。

「奴ってまさか……」

「アリー・アル・サーシェス。今回の騒動を仕組んだのは奴さ。」

「やっぱり……!!」

「足取りはこちらである程度掴んでおいたわ。あなたは情報をマイスターズに…」

「……ユーノ?」

「「!?」」

「あ゛?」

三人は声のしたほうを振り向く。
そこには、ユーノのあとをつけてきていたフェルトがいた。

「フェ、フェルト…こ、これはだな、その、なんというか……」

ユーノは必死に言い訳を考えるが、なかなか思いつかない。

「あげゃ。もう俺らのことばらしちまえばいいじゃねぇか。」

「いや、駄目だろ!!シャルもなんとか言って…………?」

ユーノがシャルに同意を求めるが返事がない。
振り向いて見ると蒼白といった様子がぴったりくるほど顔が青く、細かく体を震わせている。

「あなたたちは……?」

「あ………わ、私は……」

フェルトの問いかけにもまともに答えることができない。
普段の彼女からは想像もできない姿だ。

「あげゃ……そうか、お前がフェルト・グレイスか……。よかったじゃねぇか、シャル。」

フォンがにやにやと笑う。

「お前のお仲間の娘に会えてよ。」

「仲間……?」

普段は無表情なフェルトが珍しく驚いた様子でシャルに駆け寄り、服を掴む。

「お、おい!フェルト!?」

「あなたも第二世代のガンダムマイスターなんですよね!?だったら、お願いだから教えてください!母さんと父さんは……マレーネ・ブラディとルイード・レゾナンスはどうして死んだんですか!?」

「それは………」

「教えて……お願いだから……」

うつむくシャルを掴むフェルトの声は震えている。

「教えて……ください……ひっく……お願い、します……」

シャルはうつむいたまま答えることができない。
空からはぽつぽつと雨が降ってきたが、誰ひとりとしてその場を立ち去ることができなかった。







かつて少女だった者は、自らを縛る過去と向き合う。
今進むべき道を踏み外さないために。








あとがき・・・・・・・という名の自爆

ロ「オリミッション1の前編でした。なんかかなり長くなりそうだったので前後編に分けました。」

ユ「で、本音は?」

ロ「……スンマセン、長くなりそうだったのもありますが、テストと被ってしまったのでそちらを優先します。ホントにごめんなさい。」

フォ「あげゃ!軽く死んどけ。」

ロ「死ぬか!!secondを書くまでは死ねんよ!!」

シャル(以降も変わらず)「まあ、それは勝手だけど。さて、今回のゲストは盾の守護獣、眉毛犬、ザフィーラさんです。」

ザ「紹介にあずかったザフィーラだ。というか眉毛犬ではない!!」

ロ「うっさい、眉毛犬。」

ザ「違うと言っている!!」

シャル「まあまあ……さて、解説行きますか。そう言えば今回、書かないとか言ってたくせに私とフォンをフェルトに会わせちゃったわよね。」

ロ「まあ、これは俺も正直どうしようかと思ったけどこの後の展開につなげやすそうだったからな。」

ユ「この後?」

ロ「ロックオンのロリコン疑惑(笑)」

ユ・フォ・シャル「「「ああ……」」」

ザ「なんのことだ?」

ユ「まあ、いろいろあるんですよ。」

ロ「そして、正直SLBMを出したことに一番ひやひやしてる。」

シャル「なにせ名前を聞いたことがあるだけで、あとは必死で調べた付け焼刃の知識だからね。」

ロ「なんか矛盾が出てたらごめんなさい。直せる範囲で直していきたいと思います。」

フォ「しかし、もう後編の構成はできてるくせにテストなんぞのために完成を遅らせるとはな。」

ユ「え!?じゃあ、すぐにでも書けよ!!」

ロ「……赤い彗星をやり過ごしたらな。」

ザ「素直に赤点とりたくないと言え。」

ロ「うるさい!あいつらは3倍の速さで俺の回答時間を奪ってくんだよ!!」

シャル「それ普通にあなたの勉強不足でしょ。」

ロ「だからこれ書き終わったらすぐにでも勉強開始さ!ノイバーさん、完成はまだ先になりそうですが、テストが終わったら速攻で仕上げますのでお楽しみに。」

フォ「じゃ、そのかな~~~り先になりそうな次回を予告するか。」

ザ「いよいよ現れる敵とマイスターズは戦闘を開始する。」

ユ「だがそんな中、次々に起こるアクシデント!」

シャル「はたしてミサイルの発射は阻止できるのか!?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでくださった皆さんに心からの感謝をさせていただきます!本当にありがとうございました!!では、せーの……」

「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」



[18122] 15.牙をむく悪意(後編)
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/09/04 00:31
インドネシア 某ホテル

「落ち着いたか、フェルト?」

ユーノは雨で濡れた髪を拭きながらフェルトに問いかける。
だが、フェルトはうつむいたまま答えようとしない。
シャル達が手配していたホテルに着いてからも髪も拭かずに黙ったままだ。

「髪ぐらい拭けよ。ミッション前に風邪ひくなんざシャレになんねぇぞ。」

「………………」

ユーノはため息をつくとフェルトの髪を乱暴にゴシゴシと拭き始めた。
女性の髪を拭いたことなどないユーノが拭いているので、フェルトの髪はクシャクシャに乱れていく。
クリスティナがこの場にいたらユーノを烈火のごとく叱りとばすだろうが、フェルトは放心したまま大人しくしている。

(……ま、気にすんなって方が無理か。)

自分の両親の死に関わっているかもしれない人間がここにいるのに、それを知ることができないのだから、言葉では言い表せないほど辛いだろう。

「俺はこれからシャル達のところに行って情報を聞いてくる。帰ってくるまでに着替えを済ましとけよ。」

「………………」

フェルトがうなずくのを見た後、ユーノはフェルトの様子を気にしながら部屋を出た。
扉を閉めると、そのまま扉に寄りかかり天井を見上げる。

「フェルトがあの調子じゃ、ホイホイと出撃できないな。」

そう呟きながら先ほどのシャルの様子を思い出す。
あの時の彼女はフェルトを見て明らかに動揺していた。
間違いなく何かを知っている。

(……聞いてみるしかないだろうな。答えてくれるかどうかはわからないがな。)

ユーノは少しあきらめを抱きながらもシャルの部屋に向かった。




魔導戦士ガンダム00 the guardian 15.牙をむく悪意(後編)

シャルの部屋

シャルは普段着からホテルに用意されていたバスローブに着替えベッドに座っていた。
ホテルに着いてからシャワーを浴びたもののいまだに震えが止まらない。
雨の冷たさからくる震えではない。
そうわかっていながら熱いシャワーをずいぶん長い間浴びていた。
だが、寒さを洗い流すことはできても、自身の過去を洗い流すことはできなかった。

(……なんで?なんであの子がここに………)

涙をたたえながら自分を見上げていた瞳を思い出す。
秘匿義務があるため、娘である彼女にもあの日の真実は知らされていないだろう。

(私が……私とプルトーネがあの子の両親の命を奪ってしまった。)

本当はあの場ですべてを打ち明けたかった。
だが、できなかった。

(秘匿事項を守るため……?違う、私は怖かった……あの子に真実を告げるのが……)

真実を告げれば彼女は間違いなく自分を恨むだろう。
あの日から憎まれて当然だと覚悟していたはずなのに、いざ彼女を目の前にすると自分の中にある覚悟も信念も、何もかもがぐらぐらと揺らいで崩れてしまった。
ふと、テーブルの上にある髪飾りに目が行く。
自分のせいで命を落としてしまった仲間、マレーネ・ブラディの遺品だ。
それを手に取るとぎゅっと抱きしめ、ここにはいない彼女に問いかける。

「マレーネ……私は、どうすればいいの?私の罪があの子を追い詰めているのに、私は何もできない……してあげられない……!」

涙が自分の意思とは関係なく零れ落ちようとした。
その時、扉がノックされる。
シャルは慌てて涙を拭き、いつもの表情に戻そうとするがなかなか戻ってくれない。

「シャル、入るぞ。」

「あげゃ。いちいちそんな面倒なことをすることなんざねぇ。」

「あっ、おい!」

扉の鍵が外され、乱暴に開かれた。
開かれた扉の前には額に手を当てて呆れているユーノと874を持ったフォンが立っていた。

「わ、悪いなシャル。急に来ちまって。」

「いえ、ちょうど情報を伝えようと思っていたところだったから……」

シャルは端末からメモリを抜きとりユーノに渡す。

「ここに敵の足取りと予測到達ポイントが記録されているわ。」

「ああ、サンキュー。」

ユーノはメモリを受け取ると扉の前まで歩いていくがノブに手をかけたところで立ち止まる。

「いいのか?聞きたいことを聞かなくて?」

フォンが不敵な笑みを浮かべながらユーノの顔を覗き込む。
ユーノはノブから手を離してシャルを

「……シャル。フェルトの両親の死について知ってることを聞かせてくれ。」

ユーノの言葉にシャルがビクリと肩を震わせる。

「それは……できないわ。秘匿事項を許可なしに話すことは………」

「あげゃげゃげゃげゃげゃ!!違うだろシャル!お前が話せないのはそんなもんのせいじゃない!お前自身が過去を恐れているからだ!過去がお前の今を壊してしまうことが恐ろしくてしょうがないんだろ!?」

「違う……私は……私は……」

フォンがさらに言葉を放とうとするが、ユーノがそれを遮った。

「シャル、あんたの過去に何があったのかは知らない。だけど、言ったはずだ。俺は仲間を守るために戦ってるんだ。だから、お前とフェルトを守るためにも教えてくれ、お前の過去に何があったのか。」

「………わか……」

「それは許可できません。」

「!?」

突然フォンが持っていた874から普段の合成音とは違う声が発せられる。
874はフォンの腕の中から落ちると口の部分が割れる。
そして、中から水色の髪をした少女が光とともに出現した。

「お前は………?」

「874……」

「874!?こいつが!?」

シャルの言葉に驚くユーノ。

「874ってハロの一種じゃなかったのか!?」

「正確に言うと少し違います、ユーノ・スクライア。」

「……彼女も私と同じ第二世代のガンダムマイスターよ。」

「マイスター!?こんなチビが!?」

「あげゃ。お前らだってソレスタルビーイングに入った時はこんなもんだったろ。」

「いや、だって第二世代のマイスターってことは……」

そう、第二世代のマイスターということは間違いなくユーノより年上のはずなのだ。
だが、目の前にいる女の子はどう見ても年下だ。

「私はあなたが思っているような存在、つまり人間ではありません。」

「じゃあなんだってんだよ?」

「私はヴェーダとフェレシュテをつなぐ端末にすぎません。」

「俺の期待してた答えと違うんだけど。」

「それ以上はあなたの権限では知ることはできません。」

「またそれか……でも、なんとなくわかるよ。喋り方や気配からわかる……確かに人間じゃない。」

ユーノの中には確信めいたものがあった。
彼のかすかな記憶の中にある彼女たちも人間の形こそ取っているが、どこか浮世離れした感じが残っていた仲間も人間ではなかったはずだ。

(もっとも、じゃあヴィータ達はなんなんだよって話なんだけどな。)

「とにかく、シャルの過去を教えることはできません。」

「ヴェーダの決定だからか?」

「そうです。」

ユーノは呆れた顔で頭をガシガシと掻く。

「お前はお前だろ?ヴェーダの端末だろうがなんだろうが自分の意思ぐらいあるだろ。お前の意思で教えたくないならまだ納得できるけど、ヴェーダに従ってるだけってのは気にくわないな。」

「私は……」

「ただの端末だってか?違うな。お前は間違いなくヴェーダから独立した思考を持っている。なのになぜ自分で考えて行動しない?」

「論点がずれているように思われますが?」

「あいにくと俺にとっちゃこれもシャルの話を聞くための重要なことなんでな。」

874は無表情のまま肩をすくめて笑うユーノを見る。

(参照した情報と違う……)

874が事前に見ていた情報ではユーノ・スクライアは情報処理能力に特化し、あくまで合理的な行動をとる人物だと聞いていた。
だが、今目の前にいる人物はミッションや彼自身には関係のない話にこだわっている。
ヴェーダの情報が間違っているのか、それともヴェーダですら測れない何かが彼にはあるのだろうか。

874はヴェーダと繋がり、報告を行う。
そして、ヴェーダに秘匿事項を教えることの許可を申請する。
より、彼を理解するために。

「……ヴェーダに許可をとりました。シャルの過去を知ることは許可します。」

「おいおい、いきなりだな。」

「あなたの当初の目的が果たせるのだから問題がないように思われますが?」

(……874の正体を知られたくないから、秘匿レベルの低いものを教えて誤魔化すつもりか?だが、そんなことであのポンコツコンピューターが許可するとは思えないがな?)

「ただし……」

874の言葉でユーノは思考の海から現実に引き戻される。

「このことはシャルから直接話してもらうことが条件です。」

「「!?」」

予想しない言葉にシャルとユーノの顔に困惑の色が浮かぶ。
だが、874はそれだけ言うと再びハロの中に戻ってしまった。
シャルから話すように決定したのはヴェーダではなく874自身だ。
あくまでユーノのことをより知り、ヴェーダにデータを送るためにした行動である。
彼女はあくまでそう思っているが、それがユーノの言う自らの意思だということをこの時の彼女は知る由もなかった。







廊下

フェルトは予備の服(モラリアでのミッションの時にクリスティナに連れまわされて買わされたもの)に着替え、廊下に出てユーノを探していた。
いまだに沈んだ気分は晴れないがソレスタルビーイングの一員としての自分が自然とシャルの部屋へと足を進めさせる。

(何やってるんだろ、私………)

ソレスタルビーイングの一員になる時に過去はすべて捨てたつもりだった。
だが彼女を、フェレシュテという組織のシャル・アクスティカに会った時、今まで押さえこんでいたものが一気にあふれ出した。
だが、いつまでもこうしているわけにはいかない。
自分はユーノをサポートするためにここにいるのだ。
それ以外のことなど気にする必要などない。

(うん……あの人がなんであっても関係ない。)

フェルトは頭を振るとシャルの部屋の前へと歩を進める。
フェルトが扉を開けようとノブに手をかけようとした時、中から話し声が聞こえた。

「わかったわ、あの日……彼女の両親が死んだときの真実を教えてあげる。」

(!!!!)

フェルトはノブに手をかけようとしている体勢のまま固まってしまう。
かなり古いホテルのため、声が外にもだだ漏れだ。
本来ならかなりまずいのだが、もともと人通りが少ない場所に建っていて、客が少ない。
しかも、エージェントによって人払いも行われているので今日泊まっている客は皆無に等しい。

「…………」

フェルトはしばらく考え込んでいたが、すぐにドアに耳をあてて中の話し声を聞き始めた。






シャルの部屋

「あの日、私たちは人革連の軌道エレベーターに対するテロを食い止めるためにある作戦を行うことを決めたの。」

シャルが静かに、しかし、はっきりとした声で話し始める。

「当時、まだガンダムの存在を知られるわけにはいかなかった私たちはプルトーネのGNコンデンサーを暴走させることでGN粒子を大量放出してコンピューター類を狂わせることで敵を行動不能に追い込むことにしたの。これならビームサーベルなどと違って痕跡は残らない。そう、敵も味方も、誰も死ぬことなんてないはずの作戦だった……」

ユーノとフォンは真剣な表情でシャルの話を聞いている。
聞きたいことはいくつもあったが、今は聞くことができなかった。

「………コンデンサーを暴走させた私はコアファイターを使って脱出するはずだった。けど、システムが作動せず、コンデンサー内のGN粒子のレベルも想定値を大きく超えていた。……私はその時プルトーネとともに死ぬはずだった。でも、そうはならなかった。」

シャルはぽろぽろと大粒の涙をこぼし始める。

「フェルトの両親、ルイードとマレーネが私を助け出してくれた。けど……かわりに二人は………!!」

シャルの話を聞きながらユーノは震えていた。
ある推測が頭にこびりついて離れない。
そんなはずがないと何度も自らに言い聞かせるが、それでも確信してしまう。
ソリッドの使っている武器の一つ、GNグラム。
それはおそらく、

(その時のデータを流用しやがったのか…………!!)

おそらく、シャルもそのことに気付いているだろう。
突然、ユーノは自分たちの乗っている機体、ガンダムがとてつもなく汚れたものに思えた。
自分を助け、ここまで導いてくれたものが、実は仲間の家族や大勢の人間の犠牲の上にできていたのだ。
わかっていたつもりで、本当は何一つわかっていなかった。
犠牲になった人間がいるということは、そのせいで泣いた人間も大勢いるということなのだ。

「ユーノ……どうして泣いてるの……?」

「え………?」

ユーノはシャルに言われてようやく気付いた。
いつからかはわからないが、自分が涙を流していることに。
それは自分が何も知らずにガンダムで戦っていたことに、シャルを縛り付けているものに、そして、フェルトの両親の死に対する涙だった。

そんなユーノにシャルは優しく語りかける。

「ありがとう………優しいのね……。でも、あなたが気に病むことはないわ。」

「けど……」

「あの二人のことを思って泣いてくれているなら戦って。あの二人の意志を無駄にしないためにも。」

「あげゃ。そう言うお前はどうなんだ、シャル?さっきまでめそめそ泣いていたくせに。」

「……私は自分の罪を忘れることはできない……いいえ、忘れてはいけない。だから、もう目を背けはしない。フェレシュテとともに、この世界を変えるために戦うわ。」

シャルは泣いていたせいで赤くなった、しかし晴れやかな顔でユーノを見る。

「ありがとう、ユーノ。」

「俺は何も……」

まだ何もできていない。
そう言うつもりが、シャルの言葉に遮られる。

「いいえ……あなたの優しさは私の心を救ってくれた。」

「優しさ、ね……俺はそんなこと一度も意識したことはないんだがな。」

照れくさそうにユーノは鼻の頭をかく。

「どうでもいいがあのガキにはこのことを伝えるのか?」

「俺が……」

「いいえ、私自身が伝えるわ。」

シャルはベッドから立ち上がる。

「このミッションが終わったら私から言うわ。だから……」

「わかった。」

ユーノは深くうなずくと部屋から出ていった。




この時、彼らは気付いていなかった。
フェルトが部屋の外ですべてを聞いていたことを……



ユーノの部屋

「あの人が……」

フェルトは泣いていた。
不思議とシャルに対する恨みはない。
だが、それでも涙が止まらない。

「父さん……母さん……」

「フェルト……」

フェルトが顔を上げると、いつの間にかユーノが部屋の中にいた。

「あのな………フェルト。」

「………あの人のせいなの?」

「!お前まさか聞いていたのか!?」

フェルトは震えたままうなずいた。

「違うんだフェルト。シャルのせいじゃない。」

「わかってる……でも、涙が止まらないよ………こんなのじゃいけないのに………!」

フェルトが再びうつむこうとするが、ユーノは優しくフェルトを抱きしめた。
彼女が、マリナ・イスマイールがそうしてくれたように。

「あ………」

「フェルト………お前のつらい気持ちをわかってやることは俺にはできないかもしれない……でも……それでも、お前の心を和らげてやることはできると思う。それに、俺だけじゃない。みんな、フェルトが悲しいと思ったときには、きっと支えてくれるよ………」

「ユーノ……」

「だからさ、自分の思いにもっと素直になっていいと思うぞ。みんなは受け止めてくれる。」

「……うん。ありがとう、ユーノ……あり…がとう……」

フェルトはしゃくりあげながら必死でユーノに感謝の言葉を紡いでいた。



その晩、フェルトはユーノに頼み、彼の部屋で過ごした。
ユーノはベッドをフェルトに譲り、自身はソファーで横になった。
ベッドですやすやと眠っているフェルトは、どこにでもいる普通の女の子だった。
ソレスタルビーイングのオペレーターではなく、弱いところも、傷ついて泣くこともある女の子として眠りについていた。

フェルトが眠ったことを確認したユーノはソファーから起きる。

「……シャル、フェルトのことは任せたぞ。」

『ええ、必ず彼女の安全は守るわ。』

シャルの力強い言葉を聞き、安心したユーノは眠っているフェルトを見る。
いつもの無表情で、自分を押し殺したような無理な顔ではなく、年相応の女の子の顔だ。
それを見たユーノはフッと笑うと、部屋に書置きを残してミッションへと向かった。





グリニッジ標準時午前2時 残り12時間

インドネシア近海 オーストラリアとの国境線付近の無人島

「まだか……」

連絡を受け、合流ポイントにいち早く到着していた刹那は焦れていた。
発射までの時間にはまだ余裕があるが、ここまで待たされるのは流石におかしい。

「なにかあったのか………?」

「ソリッド来タ!ソリッド来タ!」

刹那が連絡を入れようとした時、上空から緑の光を放出しながらソリッドがこちらへ向かって来るのが確認できた。

『悪い、待たせたな。……?ロックオンたちは?』

ユーノはあたりを見渡すが他のガンダムの姿が見えない。

「まだだ。」

『まだって……もう連絡してからかなりたってるぞ!?』

ユーノが困惑の表情を浮かべていると二人にスメラギからの暗号通信が届く。

『おいおい……』

「これが世界の答えか……!」

刹那は目の前のコンソールに拳を打ち付ける。
手にはじんわりと痛みが広がっていくが、それよりもなお怒りが上回り、痛みを感じさせることはなかった。






太平洋南西部 人革連領

本来なら静かで穏やかな海に大きな砲撃音が響きわたる。
キュリオスは人革連の母艦からの砲撃をかわしながら距離を引き離していく。

「クッ!ここもか!!」

アレルヤは合流地点に向かっているのだが、どこもかしこも人革軍が配備されているせいで否応なしに遠回りを強いられていた。

(チッ!おいアレルヤ、俺と変われ!さっさと連中を皆殺してやる!!)

「駄目だ!戦闘行っているような時間はない!!」

アレルヤの言うとおり、この数の相手をしていたら流石のガンダムでも大幅なタイムロスになるだろう。

「遠回りになってでも戦闘を避けて行くしかない!!」






太平洋中央部

「邪魔をするな!!」

ユニオン軍と人革軍の攻撃の中を進んでいくティエリアは苛立ちを抑えきれずにいた。
この程度ならバーストモードを使用したGNバズーカなら一気に殲滅できるだろうが、あれを使用しながら合流地点まで到達しても粒子残量は戦力として期待できるほどには回復していない可能性がある。
となると否が応でも無理につっこんでいくしかない。

「967、GNフィールドのコントロールは任せた!」

「了解!了解!」






大西洋 アフリカ南部 AEU・ユニオン境界線

「クソッ!!てめぇらは何してんだ!!」

ロックオンは空を飛び交いながら戦闘をするAEU軍とユニオン軍に悪態をつきながら必死で前へ進もうとするが前に立ちはだかるイナクトやフラッグに足止めをくらってしまう。
そうでなくても流れ弾や撃墜されたMSの破片が降り注いで来るのだからなかなか思うように進めない。

「クッ!!今なにと戦うべきかぐらいわからないのか!?」

デュナメスは右手にスナイパーライフル、左手にはビームピストルを構えて立ちはだかるMSに攻撃するが、捜索やその際に行った戦闘で体力と気力を消耗していたせいでなかなか当たらない。

「ハロがいてくれたら……」

思わず弱音を口にしてしまうが、すぐさま気を引き締める。

「こんなことしてる暇はねぇ!」

ロックオンは操縦桿を勢い良く倒すと同時にペダルを思い切り踏み込んでデュナメスを加速させる。
攻撃や防御を度外視しているため周りの攻撃によってデュナメスのあちこちに細かな傷がついていくが、それでも構わずに弾丸の雨を潜り抜けていく。

必死で前に進むロックオンにある疑問が浮かぶ。

(しかし、いくらなんでもあちこちで戦闘がおこりすぎている……。まさかこいつも連中がかかわっているのか!?)




ロックオンの読みはズバリ当たっていた。




グリニッジ標準時午前4時 残り10時間

オーストラリア西部 沖合 潜水艦内部

「情報は流しといた。あとは好きにやんな。」

『まったく恐ろしい男だな。世界がこんなに騒いでいるときにダミーの情報を流すとはな。』

「ククククク……儲けられるときには儲けとくのは当然だろ。」

サーシェスはダミーの情報を流し、世界各地で戦闘がおこるように仕向けていた。
その情報には全く無関係の国がラ・イデンラに核を流出したというような根も葉もないものから、ガンダムが出現したという情報からなんでもござれといった感じだ。
どこも疑心暗鬼に陥っているせいで普段は信じないような情報に踊らされてしまっていた。
そして、PMCは混乱のただなかにある各地に軍を派遣して戦闘を行うことで利益を上げている。
だが、彼らの真の目的は別のところにある。

『それで、準備は順調か?』

「ああ、連中は何も知らずにはしゃいでやがるぜ。ちょろいもんだ。」

『そうか……では、頼んだぞ。」

サーシェスが通信を切って部屋から出ると扉の前にラ・イデンラ残党の指揮官が立っていた。

「サーシェスさん、各地でガンダムが足止めくっているらしい。残念だが奴らが来ることは……」

「いや、たとえ一機だろうと来るさ。そういう奴らだからな。」

サーシェスはそういうと廊下の向こうに歩きだす。

「どこに?」

「格納庫だよ。あんなクソ狭い所に押し込められていたらせっかくの新型が台無しになりそうだからな。ちっと整備してくらぁ。」

指揮官の男はサーシェスの背中を見送るが、彼の顔に張り付いた邪悪な笑みと漏らした呟きには気付かなかった。

「ま、せいぜい派手に騒いで死んでくれや……ククククク……」



グリニッジ標準時午前6時 残り8時間

某国 某ホテル

「まずいわね……」

スメラギは端末に表示された残り時間を見て焦りを覚え始めていた。
今のように各国家群の攻撃にさらされていては時間通りの到着は期待できない。
スメラギは端末を操作してあるプランを表示する。
ユーノと刹那に言われ、万が一の時のために考えておいたプランだ。
ただ、

「……この方法だけはできれば使いたくはないわね。」

仮にこの作戦が成功したとしても、周囲に甚大な被害が及ぶのは間違いないだろう。
だからこそギリギリまで使わないようにしておかなくてはならない。

「頼んだわよ、みんな………」





グリニッジ標準時12時34分 残り1時間26分

アフリカ マダガスカル島 東の沖合

現在の世界において電力という恵みを与える太陽の光を浴びながら黒い潜水艦と数機のヘリオンが進んでいく。
その恵みをもたらすもの、軌道エレベーターを破壊するために。

「やっとここまで到達かよ。」

『どこも軍が目を光らせているんだ。多少遠回りになってしまったことには目をつぶっていただきたい。』

サーシェスはイナクトで上空に待機しながら舌打ちをする。
ここに到着することが遅れてしまったこともあるが、なにより本来いるはずのものがまだ来ていないのだ。

(……さっさと来いよな。連絡入れたんだからよ。)

「?どうしたサーシェスさん?」

「いやなんでも……」

サーシェスが答えようとした時すぐそこにいたヘリオンが桃色の閃光を受けて爆散する。

「チッ!こっちが来やがったか!!」

サーシェスはイナクトを閃光の飛んできた方向に向けてそれを放ったものを見る。

「ガンダム!!」

そこには右腕のGNソードの刃を起こした青と白の機体、エクシアと白い銃身を構えている萌黄色と白の機体、ソリッドがいた。

「刹那、俺たちだけだけどなんとかするぞ!!」

『了解!!』

2機はまっすぐ潜水艦めがけて突っ込んでいく。
だが、その前にMSが立ちはだかる。
二人はその中に見覚えのある紺色の機体を見つける。

「あれは!」

「アリー・アル・サーシェス!!」

因縁の敵を見つけた刹那はまっすぐサーシェスの駆るイナクトへと突っ込んでいきGNソードを振り下ろす。
イナクトは腕から取り出したソニックブレイドでそれを防ぎ、鍔迫り合いへと持っていく。

「ハッ!またてめぇか、剣使い!!」

徐々に押されていたイナクトはエクシアのコックピット部分を蹴りとばして距離をとる。

「クッ!まだ……」

刹那は再度接近戦をしかけようとするが、ガクンと傾く感覚に襲われ、続いてアラームとハロの声がコックピット内部に響く。

「脚部ニ異常発生!」

「なに!?」

刹那は思いもよらない事態に混乱する。
確かにエクシアの左脚が力なく伸びきり、どれだけ動かそうとしても動かない。
そのせいなのかかなりバランスが悪くなってしまっている。

「ハロ、姿勢制御!」

「了解!了解!」

かろうじて態勢を立て直すが、これでは普段の動きはできないだろう。

(いったいなぜ……ッ!)

その時刹那は先日のフラッグたちの襲撃を思い出す。
あの時は気付かなかったが、おそらく脚の駆動系にダメージを受けていたのだろう。
今の衝撃でそれが表に出てきてしまったのだ。

「?なんだ、今のでどっかいかれたのか?だったら……」

サーシェスはにやりと笑うとソニックブレイドの切っ先を目の前につきだしてエクシアのコックピットに突進していく。

「死んどけやぁぁぁぁぁ!!!」

「クッ!!」

刹那は操縦桿を動かすがエクシアの動きにはいつものキレがない。
猛スピードでソニックブレイドの切っ先がエクシアめがけ接近してくる。
が、

「させるかよ!!」

ソリッドがその間に滑り込み、ブレードモードのアームドシールドでソニックブレイドを上へと弾き飛ばし、くるりと右に1回転して横薙ぎの追撃をくわえる。

「チィ!!」

サーシェスはディフェンスロッドを回転させて軌道をずらして間一髪でかわすが、その代償としてディフェンスロッドを吹き飛ばされてしまう。

「大丈夫か刹那!?」

『ああ。』

ユーノはディスプレイ越しにエクシアの状態を確認し、即座に判断を下す。

「刹那、お前は連中の潜水艦を墜としに行け。ここは俺が引き受ける。」

『だが……』

「今のエクシアじゃMS戦はきつい。お前は発射阻止を優先しろ。」

「……了解。」

刹那は苦い顔をするがユーノに従い、潜水艦へと向かっていく。

「行かせるかよ!!」

サーシェス達はエクシアに射撃をしかけようとするが、その前にソリッドが立ちはだかる。

「そういやお前とはまだ本格的に戦ったことがなかったな……ええ!?盾持ちガンダム!!」

紺色のイナクトはライフルを構えてソリッドへと向かっていった。





グリニッジ標準時12時49分 残り1時間11分

インドネシア 森林地帯

熱帯特有の植物がうっそうと茂るジャングルの中にフェルトとシャルはいた。
かなり前にフォンとアストレアタイプFの出撃を見送った二人はそこに残されたガンダムの搬送機の中にいた。
フェルトから昨日の夜のことを聞いたシャルはうつむいたまま黙っていた。
フェルトも同じように黙ったまま喋ろうとしない。
互いに声をかけることができずに、重苦しい沈黙が二人の間を流れる。
が、その沈黙は備え付けられていた通信用モニターの起動音にやぶられた。
二人は同時に表示されたデータに目をやる。

「エクシアに異常発生!?」

フェルトは立ち上がるとモニターの端末を操作してさらに詳しい情報を参照する。

「左脚部の駆動系に異常……マイスターには問題なし……」

ホッと息をつくフェルトをみてシャルが微笑む。

「……大切に思っているのね、仲間のことを。」

「……シャルさんもですよね。」

ようやくのフェルトの言葉にシャルは少しバツが悪そうな顔をする。

「そうかしら……最初、私はそれほどソレスタルビーイングの理念を理解してはいなかったし、みんなに迷惑ばかりかけていたわ。今でもそう。何もできずに、こうやってただ送られてくるデータを眺めるだけ……。仲間を大切にしているって言葉はあなたやユーノのような人が受けるべき言葉よ。」

「違います!!」

フェルトはシャルのほうに振り返りながら叫ぶ。
思いもよらない大音声にシャルは目を丸くする。

「シャルさんは母さんや父さんのために泣いてくれた!母さんと父さんの意志を引き継いでくれた!シャルさんは私のために、辛い過去を打ち明けてくれた!」

フェルトの目から涙が零れ落ちていく。

「だからシャルさんは胸を張っていいんです!自分が今していることに、誇りを持っていいんです!」

「フェルト……」

それでもシャルはフェルトから目を背けてしまう。

「でも……今の私は無力だわ……。戦うこともできずに、ただここで戦況を眺めるしかない……」

「……そんなことありません。」

シャルは顔をあげてフェルトを見る。
そこにはソレスタルビーイングのオペレーターとしての強さに満ちた姿があった。

「みんなを信じましょう………それが私たちにできる戦いです。」

「信じる……」

ふと、フェルトに彼女の母親と父親の姿がだぶって見えた。

『あんたは生きなくちゃならないよ、シャル。』

『俺たちはガンダムマイスターだ!きっとできる!!』

憂いの中に強さを秘めた瞳、明るくみんなを引っ張っていた笑顔。
そんなかつての仲間の強さは、確かに彼女に受け継がれていた。

「……そうね。ありがとう、フェルト。」

この時、シャルは自分の中の枷が外れたような気がした。
そして、仲間への贖罪のために戦うのではなく、仲間の意志を受け継いで戦うことができることを確信した。





グリニッジ標準時12時53分 残り1時間7分

「チィ!!やるじゃねぇか!!」

サーシェスは以前とは違うソリッドの動きに翻弄されていた。
以前はただ性能差をいかして戦うだけだったが、今は低速と急加速のトリッキーな動きと攻撃形態の変化を繰り返す変則的なアームドシールドとシールドバスターライフルによって徐々に追い詰められていく。

「しまいだ!!」

ユーノはアームドシールドをバンカーモードに切り替えてイナクトに突進していく。

「チッ!!」

イナクトはライフルを撃ちながら後退するが、ソリッドはGNフィールドを張ってあっさりと防いで見せる。

「うおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」

「くぅっ!!」

サーシェスの背中に冷たい汗が流れる。
と、その時

「いやっほぉぉ!!」

叫びとともに横から弾丸が飛んできてソリッドの体勢を崩した。

「なに!?」

「へっ……ようやく来やがったか。」

サーシェスはアフリカ大陸から飛来するAEUとPMCの混合部隊を見ながら笑いを浮かべた。

「てめぇ……あの時に青い奴と一緒にいたガンダムだなぁ!?きっちり借りは返させてもらうぜ!!」

サーシェスの企みなど知らないイナクトのパイロット、パトリック・コーラサワーはソリッドにうすら笑いを向けていた。






潜水艦周辺

「ク!!どこまでついてくる気だ!!」

執拗に追跡してくるエクシアを見ながら指揮官は焦りを見せる。
さいわい、相手はどこか不具合があるのかいまだに射撃をこちらに当てることができていない。
だが、このままでは時間の問題だろう。
そんな時、焦れた刹那はエクシアを加速させ、一気に潜水艦へと詰め寄った。

「終わりだ!!」

エクシアはソードライフルを潜水艦へと向けて引き金を引こうとする。
だが、

「ガンダムゥゥゥゥゥゥ!!」

「!?貴様は!!」

正面から昨日の黒いフラッグがライフルを撃ちながら接近してきた。
エクシアは発射を中止して高度を上げて回避する。

その様子を見ていた指揮官は慌てる。

「ユ、ユニオン!?どうしてここが!?」

黒いフラッグの後ろからは続々とMSが押し寄せてくる。
だが、

「先日の恨み……ここで晴らさせてもらうぞ!!」

すぐそこにいる潜水艦には目もくれずに全機がエクシアへと殺到する。

「クソ!邪魔をするな!!」

エクシアはライフルで応戦するが不調もたたり、かすらせることすらできない。

「なんだか知らないが今のうちだ!!」

潜水艦はその隙をついてその場を離れようとする。

「待て……ぐぁっ!!」

エクシアは追おうとするが、ライフルの弾を受けて止まってしまう。

「勝ち逃げはさせんよ!」

黒いフラッグのパイロット、グラハムはにやりと笑って見せる。

「とことん付き合ってもらうぞ、ガンダム!!」






グリニッジ標準時13時03分 残り57分

「うおおおおぉぉぉぉぉ!!」

ソリッドはアームドシールドを振るい、敵のヘリオンの翼を切り落とし、遠方の敵に対してはバルカンとライフルで応戦するが、いかんせん数が多すぎる。

「っ……はぁっはぁっ!」

ユーノは肩で息をしながらヘリオンとイナクトの大軍を睨みつける。

「お前らのとこの……軌道エレベーターだろうが……だったら……」

「いただくぜぇぇぇぇ!!」

パトリックは戦闘機形態でソリッドへと突っ込んで行く。
が、

「自分で守れやぁぁぁ!!」

あえなく翼を斬り落とされて海へと向かっていく。

「うっそぉぉぉぉぉぉぉ!!?」

彼の操るイナクトは情けない声を上げながら派手に水柱をたてて海中へと沈んでいった。

「で……あと、何機だ……?」

目の前にいるMSの大群へと目を向けるが全然減った様子がないそれに嫌気がさしてくる。

「はぁっはぁっ………やっぱ……二人じゃ無理があったかな……?」

とそのとき、後ろからピンクの光弾の雨が通り抜けたかと思った瞬間、目の前のMSが大量の火球に変わった。
ユーノはディスプレイに映った後ろの機体を見る。

『ごめん!遅れた!』

「アレルヤ!!」

オレンジの戦闘機、キュリオスが遅れたお詫びとばかりに前方にミサイルを発射して敵を薙ぎ払っていく。

「サンキュー、アレルヤ!!よく来てくれたぜ!」

『あははは………ま、まあ少し、想定外のことも起きちゃったんだけどね……』

「?」

アレルヤは気まずい表情をしたまま目を合わせようとしない。
と、突然後ろから巨大な砲弾がソリッドを襲う。

「のわああぁぁぁ!!?」

紙一重でかわしたユーノは砲撃が飛んできた方向を見る。
そこには甲板にティエレン、水中にはシュウェザァイを引き連れた人革軍の艦隊が見えた。

「………おい。」

『ごめん……、ここのすぐ近くで見つかっちゃって、撒こうと思ったんだけどなかなか思うようにはいかなくて………』

ユーノはヘルメット越しに頭を押さえるが、すぐさまアレルヤに指示を飛ばす。

「ここは俺一人で何とかする。お前は刹那の援護に向かってくれ。エクシアの調子が悪いから苦戦しているはずだ。」

『でも……』

「でももクソもあるか!あれぐらい俺が面倒をみてやる!!」

『………わかった。気をつけてね!』

そういうとアレルヤはキュリオスを刹那が向かった先へと向けた。





グリニッジ標準時13時13分 残り47分

「どうした!その程度か、ガンダム!!」

グラハムは一方的にソニックブレイドでエクシアを斬りつけていく。

「このっ!!」

刹那も必死で避けていくがそれでも何発かはかすってしまう。
普段ならサーベルで受け流すのだが、今は斬撃を受け止めただけでバランスを大きく崩してしまうだろう。

「どうやら不調のようだが……つけ込ませてもらうぞ!!」

カスタムフラッグはエクシアが剣を抜かないのを確信したのか、斬撃の終了時に肩でぶつかり態勢を崩させた。

「ク、アアアァァァァ!!」

「幕引きとさせてもらおう!!」

カスタムフラッグはソニックブレイドを振りおろそうとする。
しかし、彼方から飛んで来る光に気付くと素早く回避行動をとる。

「新手か!!」

「アレルヤか!」

刹那が目を向ける先にはMS形態になったキュリオスがビームサーベルを抜いてこちらに向かってくる姿が見えた。

「はああああぁぁぁぁ!!」

キュリオスはカスタムフラッグにビームサーベルを振り下ろすがソニックブレイドでいなされた。

「そんな!?」

「貴様の相手はあとだ!」

キュリオスはカスタムフラッグから蹴りを受けて、そのまま海面に向かって落ちていくが態勢を整えて再度攻撃を仕掛けていく。
その動きは先ほど違って荒々しい印象を受ける。

「ザコの分際でやってくれんじゃねぇか!!」

疲労していたアレルヤを無理やり押しのけて表に出たハレルヤはキュリオスを加速させるが、その前にヘリオンとフラッグが立ちはだかる。

「邪魔してんじゃねぇよ!」

キュリオスはビームサブマシンガンを乱射して見境なしに敵を墜としていく。

「ハハハハハハハハハ!!どいつもこいつもカスばっかだな!!もっと足掻いて見せろよ!!」

ハレルヤは本来の目的を忘れてMSたちの相手を開始する。

「さて……思わぬ邪魔が入ったが、どの道これで最後だ!!」

カスタムフラッグはソニックブレイドで態勢を立て直そうとしているエクシアに斬りかかる。

「あげゃげゃげゃ!!まだガンダムを失うわけにはいかねぇんだよ!!」

「「「!!?」」」

その場にいた全員がその機体の登場に驚いた。
真紅に染まった機体が右腕に装備した剣ですんでのところでソニックブレイドを止めたのだ。

「この機体は!?」

刹那はその機体に既視感を覚える。
顔にバイザーがつけられ、血を思わせるような真紅にカラーリングされているが、使ってる武器といい、細部の構造といい自分のエクシアにそっくりだ。
その時、突如としてモニターが開かれる。

「!?暗号通信!?」

そこには潜水艦を追うよう指示されていた。
刹那は一瞬迷うが、即座にその場を離脱して潜水艦を追いかけた。

「逃がすか!!」

「おっとぉ!!」

グラハムはエクシアを追おうとするが、目の前の赤い機体、アストレアにとめられる。

「貴様もガンダムか!」

「あげゃげゃげゃ!!そう焦らず楽しもうじゃねぇか!!」

カスタムフラッグはいったん距離をとって空中変形をやってのけると距離をとって弾丸を放つがアストレアは紙一重でかわしていく。

「ほう!やるじゃねぇか!!だが……」

フォンは凶暴な笑みを浮かべると操縦桿を縦に横にとせわしなく動かしながらペダルを踏み込む。

「俺様の目に捉えられないものはねぇ!!」

アストレアはビームライフルを抜いて見当違いと思われる方向に撃つが、次の瞬間そこにカスタムフラッグが現れる。

「ぬぅっ!!」

グラハムは操縦桿を倒してカスタムフラッグをきりもみさせてかわすが、翼にかすったせいでバランスを崩してきりもみしたまま海面に向かう。

「ぐううぅぅ!!」

グラハムは操縦桿を渾身の力でひきあげてなんとか墜落を免れるが、翼に傷を負ったその姿では戦闘不能なのが誰の目にも明らかだった。

「一度ならず二度までも私の誇りに泥を塗るとは!!」

グラハムはアストレアを恨みがましく見ながらその場から去っていった。

「追撃!追撃!」

「必要ねぇ。奴はまだ生きていたほうが面白い。」

フォンは874の意見を一蹴すると残ったMSに目を向ける。

「さあ、もっと俺を楽しませろ!!」



グリニッジ標準時13時25分 残り35分

某国 某ホテル

残り時間がわずかになったにもかかわらずミッションが成功した知らせが来ない。
そんな状況でスメラギは最後の手段をとること決意した。

「ロックオン、ティエリア、聞こえる?」

『なんだ、Ms.スメラギ?今やっと連中をまいて急いで現地に……』

「作戦変更よ。あなたたちには最終手段のためのポイントに向かってもらうわ。」

『最終手段?』

いぶかしげな表情を浮かべるロックオンとティエリアにミッションプランを送る。
それを見たロックオンの顔が苦いものに変わる。

『オイオイ……こいつは………』

「言いたいことはわかるけど、それが成功すれば最悪の事態だけは避けられる。」

『けどよ!』

『やりましょう。』

『ティエリア!?』

ティエリアは無表情のまま語り続ける。

『これが戦況予報士としてヴェーダの提示したミッションを成功させるものなら従います。』

『………わかったよ。チッ……最初から決まっちゃいたけど、こいつを成功させても失敗させても地獄行き決定だな。』

「………ごめんなさい。」

『気にすんなよ。たぶん刹那たちがうまくやってくれるさ。俺たちは万が一の時の保険だ。』

(………だといいんだけどね。)

ロックオンの笑顔に愛想笑いを向けながら、スメラギは一抹の不安を抱いていた。





グリニッジ標準時13時30分 残り30分

「クソ!もう時間がない!!」

ユーノは焦り始めるが、目の前にいるサーシェスとAEU軍が前に進むこと許さない。

「もう十分だな……。仕上げに入るとするか。」

サーシェスはそう言うとソリッドに背を向けて潜水艦が向かった方向に向かう。

「なろ!待て!!」

ユーノは追おうとするが周りのヘリオン達が邪魔で進めない。

「お前ら……何してんだよ……!!」

軌道エレベーターの周りには多くの人が住んでいる。
にもかかわらず、救援にも向かわない。
そう、自分の父親をエゴで殺したあの組織のように。

「ッッッ!!!どけぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

ソリッドはGNフィールドを発生させると猛然と敵の中を駆け抜けていく。
近づいて斬りつけようとする者たちがいるが、そんなものなどお構いなしに突進していく。

「発射なんてさせるかよ!!」





グリニッジ標準時13時39分 残り21分

刹那はやっとの思いで潜水艦に追いつくが敵はすでに発射態勢に入っている。
おそらく、この乱戦状態を見て発射時刻を早めたのだろう。

「させるかぁぁぁ!!」

刹那はライフルを構えるが、後ろから突然の衝撃が襲う。

「グアァッ!?」

そこには紺色のイナクトがライフルを構えていた。

「悪いな。そいつをお前にやらせるわけにはいかねぇんだ。」

『おおお!サーシェスさん!すまない、助かった!!』

指揮官たちは通信で満面の笑みを浮かべる。
サーシェスもそれに爽やかな笑顔で返す。

「はっはっは!礼はいいさ。なにせ……」

サーシェスの笑顔が唐突に残酷なものに変わる。

「お前らは俺の手で死ぬんだからな。」

サーシェスは持っていたスイッチを押す。
次の瞬間、潜水艦の後部から爆発とともに黒煙が上がった。

『な、ななな!!』

「いや~、助かったぜ。何せこれでPMCはテロを未然に防いだ英雄になれるんだ。失墜した信用も戻ってくるって寸法さ。」

指揮官の顔が怒りと驚きで醜く歪んでいく。

『貴様ぁ………!!』

「おっとぉ、そう厳しい顔をすんなよ。最後くらい堂々とした顔でいろって。はっはっは!!」

「サーシェス!!!」

「おっと!」

後ろから追いついたソリッドがイナクトに斬りかかるがあっさりと避けられてしまう。
ユーノはすぐさま追撃しようとするが、潜水艦の異変に気付く。

「刹那、どういうこったよこれは!?」

『わからない!だが、奴が何かしたのは間違いない!!』

エクシアとソリッドはイナクトと対峙するが、潜水艦はまだ完全に機能を停止したわけではない。

『貴様らの思い通りにはさせん!!』

指揮官は潜水艦のブリッジのコンソールに向かう。
そして、

『どいつもこいつも道連れだぁぁぁぁ!!』

発射ボタンを押した。

「しまった!!」

「まずい!!」

刹那とユーノは慌ててミサイルを追いかけるがとても間に合わない。

「あららぁ。撃っちまったか。」

サーシェスは笑いながらミサイルとそれを追いかける二機のガンダムを見ながらクックッと笑う。

「駄目だ!間に合わない!!」

「クソ……ちくしょおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

『諦めるな!!』

「「!?」」

二人の機体のモニターにロックオンとティエリアの顔が写る。

『今からヴァーチェであれを破壊する。俺は捕捉役。ユーノは軌道計算を……』

「お、おい、待てよ!今あれを破壊したら居住区に放射能がまき散らされちまう!」

『軌道エレベーターに着弾しても結果は同じだ。死ぬ人間が変わるだけだ。』

「けど!!」

『ユーノ!!』

ティエリアの言葉にユーノは顔を真っ赤にして反論しようとするが、ロックオンに一喝される。

『……もう遅いんだ。今の俺たちにできることは軌道エレベーターを守ることだけだ。もちろん、一番人口が少ないところで爆発させる。』

「人数なんか関係ない!!どいつにだって家族がいて、死んだときに涙を流す奴らが大勢いるんだ!!」

『……それでも頼む。』

ロックオンの声を聞いてユーノは気付いた。

(泣いている……)

そう、この中で一番つらいのは彼なのだ。
テロで家族を失くした彼が、テロを防ぎきれずに多くの人を犠牲にしようとしているのだ。
つらくないはずがない。

「………967、観測データを片っ端からこっちに送れ。」

『ユーノ……』

「地獄行きに付き合ってやるよ。」






アフリカ大陸 軌道エレベーター周辺

「ティエリア、きっちり照準つけてやるから外すなよ。」

「わかっている。」

「データ転送中。データ転送中。」

デュナメスは額の狙撃用のカメラアイでミサイルをとらえ続けている。
超高々度用の装備はなしなのでかなり照準をつけにくいが、それでも狙いをつけられているのは流石と言うべきだろう。

「ロックオン、デュナメスの損傷は……」

「大丈夫だよ。思ったより大したことはない。」

狙い撃つ係がヴァーチェに割り当てられたわけは高威力の砲撃がデュナメスでは不可能という理由もあるが、なによりここに来るまでの損傷で左脚がやられてしまっているのだ。
そのせいでエクシアと同じくバランスが崩れてしまっている。

「データ受信中。データ受信中。」

「ティエリア、そろそろ準備しとけ。」

「了解。GNバズーカ、バーストモード。」

ヴァーチェの持つGNバズーカの砲身が伸び、徐々に光が発射口に蓄えられていく。

「カウントダウン開始!10、9、8……」

(……すまねぇ、ユーノ。)

ロックオンは967のカウントダウンを聞きながら心の中でユーノに謝罪する。
実際に引き金を引かなくても、これから大量殺人の片棒を担がせてしまうのだ。
謝ってすむものではない。
マイスターだから仕方がないというわけにもいかない。
だが、それでもこのミッションが終わったら、話をしよう。
せめて、心が折れてしまうことがないように。

「………3、2、1………」

「GNバズーカ、発射!!」

次の瞬間、極大の光の奔流が空を引き裂いていき、ミサイルに直撃した。







マダガスカル沖合

「……直撃を確認。放射能は………」

ユーノは暗い面持ちでモニターを見る。
だが、予想だにしない答えがそこに待っていた。

「!?放射能反応なし!?」

「何!?」

刹那も確認するが確かに放射能の反応がない。

「外したのか!?」

「そんなはずはない!!確かに当たって……」

「ハハハハハハハハハ!!」

後ろでそれまで黙っていたサーシェスが笑う。

『サーシェス……貴様まさか……』

「そうよ!初めからあれには核なんて積まれてなかったのさ!!しっかりと確認しておくんだったな!!」

指揮官の顔が真っ赤に染まり、その醜悪な顔と相まってさながら日本の神話に出てくる鬼のようだ。

『サーシェスゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!』

「うるせぇ奴だ。」

鬼の咆哮を聞いたサーシェスは面倒そうに引き金を引き、沈みかけていた潜水艦にとどめを刺した。

「………経過はどうあれ、結局ミッションは成功した。帰頭……」

「おい!ガンダムに乗っているガキ!!」

帰ろうとする二人にサーシェスは外部音声で語りかける。

「まさか勝ったとでも思ってんのか!?違うな!今回は俺の勝ちだ!!」

「ハッ!負け惜しみを……」

「今回てめぇらは見たはずだ!どこかに核がぶち込まれようとしているにもかかわらず、お前らを求めたり、疑心暗鬼で関係ないところを攻撃する連中の姿をな!!」

「「!!!!」」

二人はハッとした。
確かに今回の件は三国家群が自分たちを求めようとしたり、無意味な小競り合いがなければ発射自体を阻止できていたはずだ。
もし、実際核を積まれていたら間違いなく多くの犠牲が出ていた。

「しかもこれからも全世界で犯人探しが続くだろうぜ!!無関係で弱い奴らを巻き込みながらなぁ!!はははははははは!!」

サーシェスはげらげらと笑う。

「お前らのやってることはなぁ、無意味な行為なんだよ!!この世から争いがなくなるのは人間が一人もいなくなったときだけだ!!」

「っるせぇ!!」

ユーノはイナクトめがけライフルを撃つがあっさりと避けられ、イナクトはそのまま逃げていく。

「せいぜい無駄なことを繰り返してな!紛争根絶を掲げるテロリストさんよ!!」

逃げていくイナクトを二人はただ茫然と見送ることしかできなかった。






太平洋海上

五機のガンダムは宇宙に上がるために軌道エレベーターに乗る準備をするためのポイントに向かっていた。
互いに言葉はない。
サーシェスの残した言葉が深々とそれぞれの心に突き刺さっていた。

「……………………」

ユーノはおもむろにヴァーチェとの回線を開く。

『………なんだ?』

ティエリアは普段と同じ無表情を向けてくる。
だが、不機嫌なのは見た瞬間にわかった。

「ティエリア、俺たちのしてることは本当に無意味なのか………?」

『……………』

「もし、本当に無意味なら、俺たちのしてることは……!」

ティエリアは黙ったまま喋らない。
ユーノはどこか期待している自分がいることに気付いていた。
いつものティエリアの迷いのない答えが返ってくることを。
でなければ、フェルトの両親や、自分が奪った命の犠牲が無意味だったことになってしまう。

『………君はどう思っている?』

「俺は……」

期待と違う答えにユーノはうろたえてしまう。

『やめたいなら勝手にやめればいい。だが、そうなれば君のしてきたことは本当に無意味なものになってしまうことを忘れるな。』

そう言うとティエリアは回線を閉じてしまった。

(俺は………)

その時、回線が開きフェルトの顔が写る。

『ユーノ、みんな!大丈夫だった!?』

「フェルト……」

『よかった………みんな無事で、本当に……』

フェルトの安堵した表情を見て、全員の顔が自然とほころぶ。

「大丈夫、全員無事だ。ガンダムのほうは整備する俺やイアンのことも考えずに多少無茶した馬鹿どものせいで多少ボロくなっちまったのが二機ほどあるけどな。」

『おい、それは俺のことか!?』

『……………………』

「そう聞こえなかったか?」

ロックオンと刹那が睨んでくるがユーノは鼻で笑う。
その様子がおかしかったのか、フェルトはクスクスと笑う。

(………そうだ、無意味なんかじゃない。世界だけじゃない、俺たちは変わっていけているんだ。多くの人の思いを背負いながら。)

ユーノはオレンジに染まった空を見る。
水平線のかなたでまぶしく輝く太陽が自分たちを照らし出していた。
ボロボロでどうしようもなくみっともない姿だが、ユーノにはそれが誇らしいものに思えた。








世界は簡単には変わらない。
だが、それでも人は少しづつでも変わっていける………






あとがき・・・・・・・・・という名の謝罪会見

ロ「というわけでオリミッションその1の完結編でした。そして、更新遅れて本当にすみませんでした。楽しみにしていてくれた皆様に心から謝罪します。」

ユ「いやいや全然反省してないだろお前。反省の意もこめて三話連続投稿しろよ。それが終わるまで寝ることも飯食うことも学校行くことも許さないからな。」

ロ「いやいや無理だって!!学校いかないとかはマジで駄目だって!!」

フェルト「でも、テストが終わったとき、もうあんなとこ行きたくないって言ってた。」

ロ「………私は一切覚えておりません。」

ユ「おい。」

9「まあ、こいつを責めるのはそろそろやめておけ。言ったところで無駄だしな。」

ロ「ヒドイ!!」

ユ「事実だからしょうがないだろ。さて、馬鹿はほっといてゲストを紹介させていただきます。今回のゲストは烈火の将ことシグナムさんです。」

シ「紹介にあずかったシグナムだ。そう、猛烈に出番が欲しいシグナムだ。」

9「そう言うことは作者に言え。」

シ「こいつではあてにならん。読者の心情に訴えかけて出番をもぎ取る。」

ロ「まあ、またしばらくは何があっても出さな……」

シ「紫電一閃!!!」

ロ「ぎゃあああああぁぁぁぁぁ!!」

ユ「……ロビンが肉塊になったところで解説行きます。」

フェルト「今回は私とシャルさんが結構出てたね。」

シ「ロビンいわく、『出さないって言ってたけど出しちゃったもんは仕方ないから徹底的に使っちまおう。』らしい。」

ユ「駄目作者め………」

9「そして私とハロの活躍が結局データ送信と姿勢制御だけだったな。」

フェルト「そこはロビンの想像力じゃそれぐらいしか思いつかなかったんだから仕方ないよ。アイデアをくれたノイバーさん、本当にごめんなさい。」

シ「しかし、あのサーシェスという男は最低だな。」

9「それが読者に伝わったかどうかはわからんがな。」

ユ「ま、これからも努力が必要ってことだな。」

フェルト「いい感じにまとまったところで次回予告行くよ。」

ユ「宇宙に戻ったガンダムとマイスターたち。しかし、いよいよ人革連が本格的に動き出す!」

9「敵の指揮官、セルゲイ・スミルノフの戦略に翻弄されるソレスタルビーイング。」

シ「そんな窮地の中、遂にユーノのあの能力が解禁される!!」

フェルト「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただいてありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!!じゃ、せーの……」

「「「「次回をお楽しみに!!」」」」



[18122] 16.ガンダム鹵獲作戦
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/10/16 11:28
?????

何もない真っ白な空間にユーノは立っていた。
いや、立っているかどうかすら感覚的には怪しい。
普通の人間なら戸惑いを覚えるような光景だが、さんざん似たような経験をしてきているユーノは「またか……」とため息をつく。

「まったく、記憶がないからってこんなもんばっか見せられる俺の身にもなれよな……」

「ユーノ・スクライア………」

「?」

後ろから声をかけられ、ユーノは振り向く。
そこには一人の女性が立っていた。
長く美しい銀髪と赤い瞳が印象的だ。

「あんたは?」

「……彼女の言うとおり、本当に忘れてしまっているのですね。」

「ああ、あんた俺の昔の知り合いか。だったら名前ぐらい教えてくれや。たとえ俺の脳みそがつくりだした幻でもそんぐらいのサービスはしてくれ。」

ユーノの言葉にその女性はポカンとした顔をする。

「……残念ながら私は幻ではありません。もっとも、この世に存在しているわけでもありませんが。」

その言葉にユーノはカチンとくる。

「おいおい……俺の幻のくせにえらく冗談が下手だな。じゃあおたくは幽霊か何かってわけか?」

「概念としては近いかもしれませんが、私は人ではなくプログラムなのでメモリーの欠片とでも言うべきでしょうか。」

女性の淡々とした口調と言っていることがさらにユーノの神経を逆なでしていく。

「ほほう、プログラムの割にはずいぶんと人間臭い喋り方するんだな。どこの技術ならそんなことが可能なのか……」

ユーノはあくまで笑顔で受け答えをするものの、声が心なしか苛立ちで震えている。

「ここではない世界です。」

ブツンという音ともに、遂にユーノがキレた。

「ざっけんな!!いい加減にしろよな!俺の妄想の産物のくせに訳わかんないことばっか言いやがって!!」

女性はユーノの怒鳴り声にも動じないが、解せないといった顔で首をかしげる。
しかし、ポンと手を叩いて一人で納得する。

「ああ……そうか、あなたは“ま……”のことも失念してしまっているのですね。」

「あ゛!?」

「そうですね……もしそれに関する知識が残っているのなら、あなたならすぐにでも帰る方法を模索するでしょうからね。」

「何を訳のわからないことを……」

ユーノを見ながら女性は悲しい顔をする。

「あなたは戻らなくてはならない……彼女たちのもとへ……。これ以上ここで戦ってはいけない。」

その言葉にユーノは目を見開いて怒りをあらわにする。

「ふざけんな!!ここで俺だけ逃げられるか!みんなが戦っているのに俺だけが……」

『……ノ。』

「!?」

突然声が響き、白い空間が歪む。

「ここまでですね……」

女性はユーノに背を向けて歩きだす。

「待て!!名前ぐらい名乗っていけ!!」

「……リインフォース。私の主、夜天の王、八神はやてが与えてくれたなによりも大切な名前です。」

「はやて!?お前はやてのこと……」

『…-ノ!』

知った名前を口にした彼女にユーノは詰め寄ろうとするが、突然足元の床が抜けたような感覚に襲われ、終わりのない空間を落下し始める。

「わあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

どこまでも落ちていくと思われたユーノの落下だが、突然現れた光の渦の中にユーノがのみこまれることで終了した。






リニアトレイン 個室

ゴツンという音ともにユーノは頭から壁にぶつかり、現実に引き戻された。

「ッツゥ~~……」

ぶつかったところをなでながらユーノがあたりを見るとアレルヤと刹那が心配そうに自分の顔を覗き込んでいる。

「大丈夫かい、ユーノ!?」

「あ、ああ。たんこぶできるほどじゃ……」

「そうじゃなくて!いきなり意識が飛んでいるんだからびっくりしたよ!!」

「は?」

「お前はさっきまで気を失っていたんだ……。覚えていないのか?」

刹那の言葉でユーノは今自分が何をしていたのか思い出す。
地上でのミッションを終えた自分たちは、ガンダムの整備を行うためにリニアトレインを使い、トレミーに戻るところだったのだ。
だが、気付くといつの間にかあの空間にいたのだ。

「……どれくらい気絶してた?」

「十数秒ほどだったけど驚いたよ。ボーっとし始めたと思ったら目を開けているのにいくら声をかけても起きないんだから。」

(十数秒……あれがか!?もっと長かったはずだぞ!?)

「どうした?」

「い、いや。なんでもない……」

ユーノは二人に笑顔を向けるが頭の中はさっきの女性が言っていたことでいっぱいだった。

『“ま……”のことも失念してしまっているのですね。』

(何を言おうとしていたんだ?)

どうでもいいことのはずなのに、どうしても思い出さなければいけないことのように思えてきてしまう。
そう、ソレスタルビーイングに加わった時から感じていた脳の奥を使いきれていない感覚の答えがそこにあるように思えて仕方がなかった。




魔導戦士ガンダム00 the guardian 16.ガンダム鹵獲作戦

人革連 高軌道ステーション ブリーフィングルーム

「特務部隊、“頂部”諸君。諸君らは母国の代表であり、人類革新連盟の精鋭である。」

ずらりと兵士が並んでいる中、その前に立って喋っているセルゲイは少々緊張していた。
いくら階級があがり、長きにわたり軍に所属していてもこれだけはどうしても慣れることはできなかった。
さしずめ、“ロシアの荒熊”の唯一の弱点とでも言うべきだろうか。
もっとも、そんな様子を部下の前で見せはしないが。
セルゲイはそんな中でも部下を鼓舞するために言葉を続ける。

「諸君らの任務は世界中で武力介入を進める武装組織の壊滅、およびMSの鹵獲である。この任務を全うすることで我ら人類革新連盟は世界をリードし、人類の発展に大きく貢献することになるだろう。諸君らの奮起に期待する。」

目の前の部下たちと敬礼をかわしながらセルゲイはある一点を見る。
体格のいい兵士の中に一人だけ小柄な兵士がいる。
その小柄な兵士、ソーマ・ピーリスを見ながら以前の事件を思い出す。
あの時は一人の死者も出なかったが、今回もあのようなことが起きれば間違いなく多くのものが死ぬだろう。
何せ今回の任務はあのガンダムを鹵獲することなのだから……






プトレマイオス 医務室

ユーノは上半身に何も着ないままモレノと向き合っていた。
その体は筋骨隆々というわけではないが、引き締まった体つきをしている。
腹部と背中には大きな赤い円状の傷痕が痛々しく刻まれているが、本人はいたって気にしていないようだ。
聴診器をあてていたモレノは大きく息を吐くと聴診器を外してユーノに笑いかける。

「うん、もういいぞ。今回も異常なしだ。」

「はいよ。」

ユーノはイスから立ち上がり、机の上に置いてあった自分の服を着ていく。

「ったく。完治ならとうの昔にしてんだろうが。なんでお前んとこに来るたびに調べるんだよ。」

「“天災”は忘れたころにやってくる、ってな。一応検査は続けないとな。」

文句を言いながらもユーノは着替えを済ませて再びモレノの前に座る。

「さて、本題に移ろうか。記憶のほうはどうだ?」

「相変わらずだよ。ぽつぽつと人の名前なんかは思いだしてはいるけど、点と点のまんまで繋がらない感じだな。ただ……」

「ただ?」

暗い顔をして笑うユーノにモレノは問いかける。

「俺がソレスタルビーイングに入りたいと思ったわけはわかったけどな。」

「……聞かせてくれるか?」

「ああ。」

そして、ユーノは語り始めた。
ホテルに宿泊していた時に父とともにテロに巻き込まれたこと。
その中で自分たちを守ってくれるはずの警察機構に父が殺されたことを。

話を聞き終わったモレノは顔をしかめる。

「そうか……つらい思いをしたんだな。」

「別にそっちまでブルーになることはないさ。もう、終わったことだしな。」

「しかし、その管理局ってのはいったい何なんだ?そんな名前の機関ならいくらでもありそうだがな……」

「名前の頭にもう少しなんかついていた気がするんだけどな。そこまでは思い出せねぇや。」

そう言うとユーノは大きく伸びをしてイスから立ち上がる。

「またなんかあったら来るよ。薬は……」

「机の上だ。最後に一言だけ言っておくが、あまり無茶はするなよ。お前のその頭痛は精神的なものも関係しているからな。お前が精神的に大きなショックを受けたら、そのはずみで記憶が元に戻ることもあるかも知れんが、また記憶の混乱を引き起こす可能性がある。薬はあくまでそれを抑えるためのものにすぎん。そのことを忘れるなよ。」

「わーってるよ。あ、そうそう……」

ユーノはドアの前まで行って立ち止まり、モレノのほうを向く。

「モレノってさ、喋る犬や空飛ぶ人間って見たことあるか?」

「…………は?」

モレノは呆気にとられた顔をする。

「いや、どうにも俺の知り合いにそんな感じの奴らがいるみたいで………って、おい。なんだその危ない奴を見るような眼は。」

「ユーノ、再検査だ。きっとお前は脳に、いや、心に大きな障害を持ってしまっているんだ。なに、大丈夫だ。わしが何が何でも直して……」

「そんなもんねぇっての!!勝手に俺を危ない奴に仕立て上げるな!!」

「はっはっはっ!!いや、スマンスマン。あんまりおもしろかったもんでな。それから喋る犬や空飛ぶ人間はお前の記憶の混乱だよ。ときたま漫画やアニメなんかの記憶と現実の記憶がごっちゃになっちまう奴がいるのさ。あんまり気にする必要はないさ。」

モレノはそう言うと自分の机に向かい、書類のチェックを始めた。
ユーノは不機嫌そうに舌打ちをしながら医務室を出たが、やはり疑問は晴れない。

(記憶の混乱……本当にそうなのか?)





人革連高軌道ステーション 管制室

人革連高軌道ステーションの周辺宙域に三つの六角形箱を装備した艦が姿勢を制御しながら目標地点へと到達する。

「姿勢制御完了。ハッチオープン。」

「リニアカタパルト、電圧上昇。双方向通信システム、射出準備完了。」

箱のハッチが開くと、そこには長方形のブロック状の何かが詰め込まれていた。

「射出。」

船員の声とともにそれらが発射される。

「通信子機、全体分離。」

それらの横の部分が開くと、今度は小さな立方体の射出され、周りに電波を飛ばし始める。

「通信子機、全体分離開始。予定位置に移動中。双方向通信、正常です。」

「これでわが軍の静止衛星軌道領域の80%を網羅したことになります。」

ミン・ソンファ中尉は隣にいるセルゲイに対して報告を行う。
セルゲイは満足そうにうなずくとふたたびモニターに視線を向ける。

「ガンダムが放射する特殊粒子は効果範囲内の通信機器を妨害する特性を有しています。それを逆手にとり、双方向通信を行う数十万もの小型探査装置を射出。通信不能エリアがあれば、それはすなわちガンダムがいるということ。」

目の前のモニターを操作しながら作戦の概要を再度頭の中に叩きこむ。

「中佐、魚はうまく網にかかるでしょうか?そうでなくては困るよ、ミン副官。これほどの物量作戦、そう何度もできはしない。」






プトレマイオス ブリッジ

ブリッジに一人残されたクリスティナは黙々と自らの作業を進めている。
地上で思いっきり楽しんだ分、仕事に従事しているのだが、なかなか休憩に入れないのは少々きつい。
と、そんなところにリヒテンダールが入ってくる。

「あれ?フェルトは?」

「気分が悪いからって、モレノさんのところに行ったわ。」

「当直連チャンすか?」

「そうなのよね~」

クリスティナが肩をトントンと叩いているのを見て、リヒテンダールの目がチャンスとばかりに光る。

「ここ俺見てますから、食事してきていいですよ。」

「え!?本当!?優しい!」

「いやぁ、それほどでも………(おっしゃ!!)」

クリスティナの嬉しそうな顔を見てリヒテンダールは心の中でガッツポーズをする。
これで、彼女の自分への評価も少しは上がるだろう。
が、喜びもつかの間。

「でも、好みじゃないのよね~。」

クリスティナの一言がグッサリと彼の心をえぐる。
彼女が出ていくまで引きつった笑みを浮かべていたが、出ていくと同時にがっくりと肩を落とした。

「………悲しい。」

哀愁の漂う彼を慰めてくれるものは、ブリッジにはいなかった。
いや、むしろこのやり取りがみられていなかったのはかれにとってせめてもの救いだろうか。





食堂

「さて、飯でも食うか。」

ラッセが食堂のドアを開けて中に入っていくと、思わぬ先客がいた。

「ユーノ?整備はいいのか?」

本来なら整備をしているはずのユーノがごつい本を無重力を利用して片手で持って読んでいる姿を見つけて、問いかける。

「イアンが休んでろだってさ。おおかた、モレノに釘を刺されたんだろ。」

「休ミ大切!休ミ大切!」

967がふわふわと浮きながらユーノの周りをぐるぐる回る。

「なるほどな。で、なんでここで本を読んでんだ?自室で読めばいいだろうに。」

「ここにいたほうがコンテナに近いからな。そのうちイアンが泣きついてくるだろうからここで待機してるってわけさ。」

「なるほど。」

ラッセは苦笑を漏らしながらユーノの持っている本の表紙を見る。
そこには茶色の厚紙の真ん中に大きな字が書かれ、その周りには細かな文字が大量に描かれているだけで、絵がない。
ラッセは全く本を読まないというわけではないが、この手の専門書のようなものはかなり苦手な部類に入る。

「……何読んでんだ?」

「ん?ああ、これか。考古学の古い論文集だよ。」

「考古学?そんなもんに興味があんのか?」

「そんなもんとは失敬だな。これはこれでなかなか面白いもんだぜ。」

「俺にはさっぱりだな。」

ラッセはユーノと喋りながら食事を盛りつけていく。

「まあ、面白いってのもあるんだけど、どうやら昔の俺はこの手のものに興味があったみたいでな。記憶が全部スッ飛んじまっても、こいつに対する情熱だけは残ってたみたいだ。」

ラッセは苦笑しながらユーノの前に座る。

「考古学者の卵でもやってたのか?だったらなんであんなところに倒れてんだよ。」

「そんなもん俺が知りたいよ……って、食うの早ぇな、おい!」

ユーノと話している間にラッセは自分の食事を平らげていた。

「毎日似たようなもんを味わって食ってたってどうしようもないだろ。さて、じゃあ俺もしばらくここでゆっくりと……」

その時、ドアが開き、二人の少年が入ってきた。
そう、最悪の組み合わせの二人が。

「………………………」

「………………………」

ラッセとユーノは自分たちのオアシスに侵入してきた人物、刹那とティエリアを見ながら固まる。
当の本人たちはそんなことなどお構いなしに食事を盛り付けていくが、明らかに二人の間の空気は重苦しい。

「………さて、部屋に戻って書類の整理でも………」

ラッセは立ち上がってオアシスから一転、地獄のような重苦しい空気が立ちこめる空間を脱出しようとするがユーノに腕を掴まれる。

「待った。そんなもんないだろ。」

「いやいや、これがあるんだ。じゃあ、そう言うことで。」

ラッセはするりとユーノの手を抜けるとドアの奥へと消えていった。
残されたユーノが後ろを向くと刹那とティエリアがこちらを凝視している。

(ま、まずい!この状況は非常にまずい!)

なんとかここからの脱出方法を考えるユーノだが何も思いつかない。
と、そこへ

「さ~て、久々にゆっくり食事しよっと♪」

クリスティナ(生贄の羊)がやってくる。
上機嫌で入ってきたクリスティナだったがその場を見た瞬間、すぐさま出ようとするが、ユーノにしっかりと腕を握られる。

「よ~、クリス!食事か?遠慮なくゆっくりとってけよ!!」

「え、えっと、私、その………」

「遠慮スンナ!遠慮スンナ!」

967の援護も加わったユーノはそのまま強引にクリスティナを部屋の中に放り込む。

「俺らは自分の部屋でデータの整理をするから。それじゃ!」

「ちょ、ちょっと……」

クリスティナが何か言おうとするが、ユーノと967はわき目もふらずにその場を離れていった。





その後、クリスティナは気まずい雰囲気の中で食事をする羽目になった。
食事の味など当然わかるはずもなかった。






展望室

「…………………」

フェルトは展望室で一人、漆黒の宇宙を眺めていた。
地上でのミッションの際、両親の死の真相を知った。
フェルトは幼い時に両親を失くしたため、あまり覚えてはいないが父はとても明るく、そして母はとても優しい目をしていたことをうっすらと覚えている。
そのことを思い出すと涙があふれてくる。
ましてや、今日ならなおさらだ。
なぜなら、今日は………

「よう、何してる?」

「!!ロックオン……」

突然の訪問者の声に驚いたフェルトは慌てて目に溜まっていた涙を拭う。
だが、無重力下ではどれほど拭おうと、涙は小さな光の玉となってあたりを漂ってしまう。
ロックオンはフェルトが泣いていたことに気付くと優しく微笑みかける。

「どうした?」

「……父さんと母さんのことを、私が小さい時のことを考えてたの。」

ロックオンはその一言ですべてを悟った。

「へぇ……フェルトの両親はソレスタルビーイングにいたのか。」

ロックオンはフェルトの横に行き、展望台の手すりにもたれる。

「二人とも第二世代のガンダムマイスターだって……」

「そうかい……俺は君の両親のおかげでここにいるんだな……。そんでもってフェルトはホームシックにでもかかったか?」

「今日は命日……二人の。」

飄々とした態度を保っていたロックオンだったが、フェルトに威圧感をかけない程度に表情を少し引き締める。

「何があった?」

ロックオンの質問にフェルトは答えようとするが、秘匿義務を思い出す。
ここで打ち明ければ自分だけでなくロックオンにも迷惑がかかるかもしれない。

「わからない……ただ、死んだとしか。」

「ソレスタルビーイングのメンバーには守秘義務がある。俺も今のメンバーの過去を知っちゃいないが………そうか、両親の情報もか………」

フェルトの心にチクリと痛みがはしる。
自分のことを心配してくれているロックオンに嘘をついてしまったことに罪悪感を覚えてしまう。

「両親の意思を継いだんだな……」

フェルトは静かにうなずく。
ロックオンはフェルトの頭に手をのせて優しく自分のほうに引き寄せる。

「君は強い……強い女の子だ。」

ロックオンに寄りかかりながらフェルトはユーノの言葉を思い出していた。

『みんな、フェルトが悲しいと思った時には、きっと支えてくれるよ………』

(うん………ありがとう、ユーノ。)

「……ニールだ。」

「え………?」

ロックオンの突然の言葉にフェルトは彼の顔を見上げる。

「俺の本名、ニール・ディランディ。」

「あなたの名前……」

「ああ、そうだ。出身はアイルランド。両親はテロで殺された。……このことはユーノにしか言っていない。君で二人目だ」

「……どうして?」

「教えてもらってばかりじゃ不公平だと思ってな。」

(違う………)

フェルトは胸が締め付けられるような思いだった。
自分は本当のことを、両親の死の真相を話していないのに、彼は自らのことを話してくれた。
けど、それでも教えられない。
だから、今の自分の気持ちを、感謝の思いを精一杯伝えよう。

「………優しいね。」

「女性限定でな。」

ロックオンは少しはにかんだ笑みを浮かべた。
とその時、

「ロックオン……」

ドアを開けて入ってきたアレルヤは、予想だにしない光景にその場で固まってしまう。
そして、顔を赤らめて視線を外す。

「し、失礼!」

「ご、誤解をするな!」

ロックオンが弁解しようとした時、艦内にクリスティナの声が響いた。

『緊急連絡!敵にこちらの位置が探知されました!総員、至急戦闘配備についてください!!』





オービタルリング周辺

『トレミー、オービタルリングの電磁波干渉領域に入りました。』

『光学カメラが敵部隊を補足。』

「来たか……!」

刹那はコックピットの中で気を引き締める。
プトレマイオスは輸送艦であるため、攻撃手段を持っていない。
GNフィールドこそ装備しているが、それでも艦隊戦をしかけられたらアウトだろう。
しかも、今はキュリオスとヴァーチェが迎撃に出てしまっている。
だからこそ、自分たちが戦わなくてはならない。

『全乗組員に、戦術予報士の状況予測を伝えるわ。接近する艦船は輸送艦、ラオホゥニ隻。おそらく、そこに敵戦力のすべてが集中しているはずよ。』

『どういうことです?』

『敵艦二隻はキュリオスとヴァーチェの迎撃に向かったはずだろ?』

スメラギの声に混じり、クリスティナの不安そうな声とラッセの声が聞こえてくる。

『本来はそうしてほしくなかったの。最初のプランではこっちの陽動に気付いた敵艦隊がアレルヤ達を無視、直接本艦へ向かう……そうなれば予定通り、回り込んで挟み打ちができたんだけど………』

スメラギが悔しそうにギリリと歯を食いしばる。

『敵は、こっちの陽動を陽動で答えたのよ。おそらく、搭載された敵輸送艦のMSは発進済み、逆にアレルヤとティエリアは今頃、輸送艦の迎撃に時間を取られているはず………敵の陽動を受けたアレルヤ達が戻ってくるのはあたしの予測だと6分………その間、敵MSの波状攻撃を受けることになる。』

『Ms.スメラギがそう予測する根拠は?』

ロックオンの疑問にスメラギは厳しい表情のまま答える。

『18年前、第四次太陽光紛争時にこれと同じ作戦が使われたわ。人革連の指揮官は“ロシアの荒熊”の異名をとる、セルゲイ・スミルノフ!』

説明を受けた後、ガンダム三機は発進準備に移る。

『エクシア、ソリッド、デュナメス、コンテナハッチオープン。エクシアとソリッドはプトレマイオス前面で迎撃態勢で待機。』

エクシアとソリッドの目に光がともると勢いよくトレミーの前へと飛び出していく。

『刹那、エクシアの左脚の調子はどうだ?』

「問題ない。」

『了解だ。問題はあっちか……』

ユーノが目を向けた先には左脚が黄色の鉄骨に変えられているデュナメスがいた。

『デュナメス、脚部をコンテナに固定、GNライフルによる迎撃射撃体勢で準備。』

『トレミーのプライオリティを防御にシフト。通常電源をカットする。』

ラッセの言葉とともにブリッジの明かりが落ち、モニターやパネルの明かりだけがその場を照らしている。

『ほ、ホントに戦うの!?この艦、武装ないのに!?』

『ガンダムがいますよ!!』

『三機だけじゃない!!』

クリスティナの弱気な言葉をスメラギが遮る。

『さあ、そろそろ敵さんのお出ましよ!!360秒耐えて見せて!!』

『リングの影から、敵輸送艦出現!』

『デュナメス、砲狙撃戦開始!!』

スメラギが言うか言わないかのうちにロックオンは引き金を引いた。

「逝けよ!!」

閃光が駆け抜けるが、敵の輸送艦には当たらず、遥か彼方へと消えていってしまう。

「クッ!機体重量の変化で照準がずれてやがる!」

「ハロ修正!ハロ修正!」

ハロが目を点滅させながら計算を開始する。
しかし、

「時間がねぇ!手動でやる!」

ロックオンはスコープの横のパネルを叩き始める。

『ハロ、今の狙撃データを送れ!俺と967で軌道修正する!』

「ユーノ!?間に合うのか!?」

『俺たちを誰だと思ってんだよ。マイスターであると同時にガンダムの整備士だぞ!』

そんな話をしている間に修正したデータが送られてきた。

「ありがてぇ!これで狙い撃てる!!」

『修正はしたが違和感は変わらないはずだ!気をつけろ!!』

「ここまでしてくれりゃ十分だ!!」

そんな時、敵からミサイルが発射される。

『ミサイル接近!数、24!』

フェルトの声を聞いた三人はミサイルを撃ち落としにかかる。

「狙い撃つぜ!!」

「当たれぇぇ!!」

「いけえぇぇ!!」

三方向から何度も閃光が放たれるが、すべては落としきれずにトレミーに向かっていく。

「しまった!!」

「GNフィールド展開!!」

「りょ、了解!」

ミサイルが着弾するが、そのすべてがGNフィールドに阻まれた。
しかし、衝撃までは消せずに、トレミーの内部を大きく揺らす。

その時、スメラギとロックオンは敵艦の異変に気付く。
ここまで接近してきてもまったく進む勢いを落とさないのだ。

「無人艦による特攻!?」

「と、特攻って………!?そ、そんな!?いやああぁぁぁぁ!!!」

クリスティナは恐怖のあまり頭をかかえてその場に丸まってしまう。

「やらせるか!!」

ロックオンは素早くコンソールを操作し、デュナメスの腰部からGNミサイルを発射する。
敵艦に突き刺さったミサイルは圧縮粒子を解放する。
敵艦はぶくぶくと膨らんでいき、限界に達したところで大きく爆発した。
が、敵艦の破片がこちらへと向かってくる。

「GNフィールド再展開!!」

「いや……いや………!」

スメラギが指示を出すが、クリスティナは丸まったまま動こうとしない。

「クリス!?」

そして、トレミーは破片のシャワーを浴びて大きく揺れる。
一つ一つは小さな破片だが、宇宙空間では加速がついたデブリは凄まじい破壊力を秘めている。
それが容赦なく襲ってくるのだからたまったものではない。

「早く来てアレルヤ……私……死にたくない………」

そんな中でも、いや、だからこそクリスティナは恐怖に呑みこまれていっていた。

「クリスティナ・シエラ!!」

スメラギが一喝するがクリスティナは震えたまま動かない。

「生き残る!!」

フェルトの声がブリッジに大きくこだまする。
全員が思わずフェルトのほうを向いた。
いつもの彼女とは違う、強い意志がこもった目にスメラギですら圧倒されそうだった。

「……全員、生き残るの。」

「フェルト……」

フェルトの声にクリスティナは正気に戻る。
それを見たスメラギはクスリと笑って前を見据える。

「フェルトの言う通りよ!私たちは生き残る!凌ぐのよ、なんとしても!!」

そこにロックオンから通信が入る。

『敵MS部隊を確認した!』

スメラギがモニターを見ると、そこには青にカラーリングされたティエレンの大群がこちらに向かってくるのが見えた。

「輸送艦の後ろに隠れてやがったのか………!」

「敵総数、36機!」

「おいおい、シャレになんねえって!!」

「シャレたまねを!!」

デュナメスがライフルを発射するが、ティエレンたちはデュナメスの死角に回り込む。

「死角に入られた……!ブリッジ、コンテナを回してくれ!」

コンテナを回す間に、ティエレンたちは集中砲火をかける。
トレミーもGNフィールドを張って防ぐが、かなり厳しい状況だ。

「はあああぁぁぁ!!」

エクシアはティエレンの大群の中に飛び込んでいき、一機を斬り伏せるがそれを見た他の機体は戦いもせずに逃げていく。

「誘っているのか……!?」

刹那はGNソードをライフルモードに変えて発射するが、敵は大きく避けて距離をとってくる。
もともと刹那は全マイスターの中でも射撃が得意なほうではない。
そのことも祟って、敵のかすらせることすらできない。

「打ち砕く!!」

ソリッドは側面にいる敵に攻撃を仕掛けるが、距離を取られてしまう。

「しゃらくさい!!」

ユーノはペダルを踏み込んで急加速して突っ込もうとするが、そうすると周りにいる他の機体が射撃で動きを止めにかかってくる。
GNフィールドのおかげでダメージこそないが、敵に近づくことができない。

「クソっ!!もっと前に出て……」

「駄目だ!前に出れば防御が薄くなる!」

二人は必死でヒットアンドアウェイで来る相手を墜とそうとするが思うようにいかない。

一方ロックオンも、

「とらえた!」

敵を照準に捉えるが、すぐさま敵は死角に逃げ込んでしまう。

「またかよ!!」

ロックオンにいら立ちが募る。
こんなことなら左脚がジグでも離れて戦うのだったと考えてしまうがもう遅い。
今はできることをするしかない。

『敵さん及び腰だ!!』

『この程度ならGNフィールドで対応できる!』

(この程度……?)

ラッセとリヒテンダールの言葉にユーノは引っかかる物を覚える。
確かにガンダムの性能は恐ろしいだろうが、いくらなんでもこの数でこの程度の攻撃では消極的すぎる。
元来、MSによる艦船攻撃はここまで距離をとるものじゃない。

(………ッ!!まさか!?)

ユーノは慌ててブリッジに通信を入れる。

「スメラギさん!敵の狙いはトレミーじゃない!!」

連絡を入れるまでもなくスメラギもどうやら気付いているようだ。

『ええ!人革の狙いはガンダムの鹵獲よ!!』

スメラギは自分の席の手すりを叩き、悔しさに顔をゆがませる。

『もう、間違わないと決めたのに………!』

「スメラギさん……」

ユーノは戦闘中であることも忘れて、泣き出しそうなスメラギを心配そうに見ていた。






オービタルリング周辺宙域

「捉えたぞ!!」

急いで引き返していたアレルヤはトレミーと攻撃をくわえる敵を睨みつける。
だが、彼は重要なものを見落としていた。
モニターにある物が表示され、アレルヤに驚愕がはしる。

「機雷群!?誘われた!」

気付くのが遅れたためアレルヤはそのまま機雷が道構える中へと突っ込んでいってしまう。
そして、機雷の爆発を確認したラオホゥからティエレン、そしてピンクのカラーリングをしたティエレンタオツーが発進する。

「この程度でキュリオスが……ッ!?グ、ウウウウゥゥゥゥゥ!?」

いったん引き返し敵部隊を攻撃しようとした時、アレルヤの頭が激しく痛みだす。

「なんだ……この頭を刺すような痛みは!?」

痛みの中でアレルヤは天柱でのミッションを思い出す。

「お、同じだ……あの時と同じ痛み……!!」

痛みとともに頭をかき乱されるようなあの感覚。
二度と味わいたくなかったあの感覚が再び襲ってきている。

「な、なにが……いったい何が!?」

アレルヤは前から近づいてくるピンクの機体を見つける。

「あの機体は!?」

自分の忌まわしい記憶の一部。
あそこにいたときに見たものだ。

「知っている………知っているぞ!!」







プトレマイオス周辺

暗い闇に浮かぶ青いティエレンをエクシアはまた一機斬り伏せるが、それだけだ。
いつものように周りにいる敵もそのまま斬り裂くのだが、今回は一機斬り捨てたらそこまでだ。
他の機体は距離をとって逃げの一手に出てしまう。

「クッ!間違いない……この敵は時間稼ぎをしている!」

デュナメスも狙撃を繰り返すがなかなか当たらない。

「ちっくしょう!持久戦かよ!!」

「…………………」

ユーノは黙ったまま攻撃もしかけずにトレミーの周りの敵を動きで牽制していたが、何を思ったのか敵の大群に向けて突進していく。

「ユーノヤメロ!ユーノヤメロ!」

『!?ユーノ!何をしているの!?戻りなさい!!』

「敵の目的がガンダムの鹵獲なら、これで何機かトレミーから引きはがせるはずだ!!ついでにアレルヤとティエリアの援護に向かいます!」

『無茶よ!ソリッドも鹵獲されてしまう可能性があるわ!』

「大丈夫です!!ついてくる奴らは一気に片付けられます!」

ユーノはそう言うとGNフィールドを張ったままアレルヤとティエリアの向かったほうへと向かっていく。
それを見ていたティエレン六機が我先にと追いかけていく。

「ユーノ!!」

刹那は叫ぶがもうユーノには届かなかった。



ある程度トレミーから距離が取れたソリッドは加速しながらアームドシールドの中から円柱状のものを排出する。
そして、ティエレンたちがそこに接近したところで967に指示を出す。

「967、GNグラム発動!」

「了解!GNグラム発動!!」

次の瞬間、闇の中に青い閃光がはしったかと思うとティエレンたちは動きを止めた。

「よし!さっさとアレルヤ達の救援に向かうぞ!」

「戻レユーノ!戻レユーノ!」

967はユーノに戻るように進言するが、ユーノは聞く耳を持たない。

「ここまで来て引き返せるかよ!!」

ユーノはペダルを大きく踏み込んで仲間のもとへと向かった。






オービタルリング周辺宙域

「中佐、羽根付きの動きが妙です。特殊粒子も出ていません。」

「機体の変調か……それとも罠か……?」

目に見えて様子がおかしいキュリオスにいぶかしげな視線を向けるセルゲイ。
そんな彼にティエレンタオツーを駆るピーリスから通信が入る。

「中佐、私が先行します。」

「カーボンネットを使ってからだ。ミン中尉!」

「了解!」

セルゲイの指示を受けミン達はティエレンの腰に装備されたカーボンネットを発射し、キュリオスの動きを封じる。

そして、徐々にティエレンタオツーが上からキュリオスに近づいていく。

「来るな………!」

ティエレンタオツーが近づくほどにアレルヤの頭痛はひどくなっていく。
だが、そんなことなど知らないピーリスはどんどん近づいていく。

「来るな………!」

アレルヤの脳裏に幼い日に見たティエレンタオツーの姿がよみがえる。
そして、あの悪夢のような出来事も。

「来ないでくれぇぇぇぇぇ!!!!」

アレルヤの懇願もむなしくティエレンタオツーはキュリオスに触れた。
その瞬間、アレルヤは今までに味わったことのない苦痛に襲われた。

「ッッッ!!!グアアアアアアアアアアアアァァァァァァ!!!!!アッァッァァアアアアア!!!!!!」

「なに!?」

接触回線からその声を聞いたピーリスはアレルヤがいったいなぜ苦しんでいるのかわからなかった。

「この声は!?」

セルゲイもまたその声を聞いて驚いた。
前に重力区画を押し上げてくれたあのパイロットの声だ。

「あの時と同じ、若いパイロットの声!だが……なぜ苦しむ?」

そして、今の彼が置かれている状況を見てピンと来る。

「ピーリス少尉を拒んでいるのか……?ッ!もしや!?」

ピーリスが暴走したあとに超兵機関の人間が彼女の脳量子波によって外部から影響を受けた可能性があると言っていた。

「ピーリス少尉と同類……」

ピーリスはその後、二度とそうならないように処置をされたが、彼はそれを受けていない。
その差が今出たのだろう。

(だが、そうならなぜ敵がたにいる?裏切り……?それともあそこを脱走したところを拾われたか?)

『中佐、パイロットの意識が途絶えました。』

ピーリスの声でセルゲイは一時考えることを中断する。

「了解した。各機、羽根付きを4番艦に収容後、安全領域まで離脱。イワン軍曹は本隊に合流し、撤退信号を送れ。」

なぜ彼がソレスタルビーイングにいるのかは捕えた後に聞き出せばいいだけの話だ。
そんなことを考えながらセルゲイは味方の艦の待つ場所まで向かった。
それが思いもよらぬ結果を招くことも知らずに……






?????

光の流れの中で髪をなびかせながら967は嘆息する。

『まったく……自分の思いに一途なのはいいことだが、後先考えずに行動するのはいただけないな。』

ユーノは一度これだと決めるとなかなか考えを変えない。
967も何度かそれが原因のトラブルに巻き込まれている。
だが、彼がユーノについて本当に心配していることはそれではない。

『……どうにもアイツは自分の命を軽く見すぎている。』

そう、ユーノは他人の死には敏感なのだが、どうにも自分のことは戦場にいたとしても後回しにしがちだ。
他者の命を救うことを優先してしまう。
たとえ自分の命を犠牲にしてでも。

『何事もなければいいが…………』






ラオホゥ4番艦

『羽根付きの収納完了。』

「作業兵はパイロットを機体から離し、拘束せよ。」

『作業班、了解!』

ガンダムの収容を完了したセルゲイは思わず安堵のため息をつく。
鹵獲する際には味方機の損傷、最悪死人が出るかもしれなかったが、なんとか全員無事に帰ってくることができた。

『4番艦、発進準備完了。』

「ピーリス少尉としては物足りぬ初陣となったな。」

何気なくそう言ったセルゲイに機械的な答えが返ってくる。

『私にそのような気持ちはありません。作戦を完遂させることが私のすべてです。』

その答えを聞いてセルゲイは渋い顔をする。
まだ若い彼女が自分のことを兵器として認識しているのがセルゲイにはどうしても我慢ならなかった。
本来なら穏やかな日常の中である時は笑い、ある時は泣き、ある時は喜びながら生きているのが正しいのだろう。
だが、彼女はここでこうして兵器として戦っている。
そうさせてしまった罪の一端は自分にもある。

(……なら、せめて私の手で、戦場の中にあっても彼女に人として生きる道を示してやりたい……。偽善かもしれないが、今の私にできるのはそのくらいしか……)

その時、ピーリスのディスプレイに高速でこちらに接近してくる光が写された。

『中佐、熱源が!!』

ピーリスは光が来る方向にティエレンタオツーを向ける。

『来ます!!』

巨大な光は逃げ遅れた二機を包み込み、爆煙へと変えた。

「全機散開!!4番艦は現宙域より緊急離脱せよ!!(この攻撃は……デカブツか!!)」

セルゲイが目を向けた先には肩にバズーカを背負いながらこちらへと向かってくるヴァーチェの姿があった。
ヴァーチェは再びバズーカを発射してティエレンをもう一機墜とす。

「別働隊がいたとは………ん?」

ティエリアはディスプレイにうつされた情報を見る。
そこにはラオホゥから発せられるキュリオスの反応があった。

「なに?敵輸送艦からキュリオスの反応………ッ!敵に鹵獲された!?」

ティエリアの怒りのボルテージは一気に上昇する。

「なんという失態だ!!万死に値する!!」

ヴァーチェはGN粒子排出口を開いてGNフィールドを纏うと、敵の攻撃を受けながらも狙いを定める。
狙いはガンダムがのせられているラオホゥだ。

『中佐、敵が射撃体勢に入りました!4番艦を狙っています!』

「馬鹿な!味方がいるのがわかっているはずだ!それでも撃つというのか!!」

そう、ティエリアはそれでもバズーカの粒子濃度を上げていく。

「アレルヤ・ハプティズム……君もガンダムマイスターにふさわしい存在ではなかった……」

以前は独断行動で全世界にデュナメスの超高々度狙撃能力をさらしてしまい、挙句の果てには鹵獲された。
そんな存在など、ガンダムマイスターにはふさわしくない。
太陽炉を一基失うのは痛いが、敵の手に渡るよりはこの場ですべて破壊してしまうほうがましだ。
ティエリアは引き金を引こうとした。
だが、

(……なぜだ?なぜ、引けない!!)

指先が凍りついたように動かない。
頭では引かなければいけないとわかっているのに撃つことができない。

(クソ!動け………動け動け動け動け…動け!!)

必死に自分に言い聞かせるがそれでも動かない。
それどころか余計な光景まで、エレナ・クローセルの笑った顔、怒った顔、泣いた顔、そして死に様まで浮かんできてしまう。

(何を考えているんだ!!早く……早く撃つんだ!!)

ティエリアの指が震えながら徐々に曲げられていく。
しかし、

「!?な!」

こちらに高速で接近してくるピンクの機体が目に入るとそれまでのことは頭からなくなり、すぐ近くの敵を倒すことのみが思考を支配する。
ピンクの機体ティエレンタオツーは射撃をしかけるがGNフィールドに阻まれてヴァーチェにダメージを与えることはできなかった。

「早い!!ティエレンとは違う……新型か!」」

ヴァーチェはGNフィールドを解除して肩にあるGNキャノンをティエレンタオツーに二回発射する。
しかし、すべて避けられてしまった。

「二度も避けた!?」

ティエリアが驚愕する暇もなく、敵はヴァーチェに近づいてくる。

「中佐、ここは私に任せて羽根付きを!!」

「ピーリス少尉!!ク………!4番艦は指定宙域で待機、羽根付きからパイロットを引きずり出すのを忘れるな!場合によってはカッターの使用も許可する!」

『りょ、了解!』

セルゲイの指示を受けたラオホゥは撤退を開始する。

「ッ……輸送艦が!」

ティエリアは追跡しようとするがティエレンタオツーが高速でもうすぐそこまで迫っていた。

「たった一機でヴァーチェに対抗する気か!!」

「邪魔はさせない!!」

ヴァーチェは再びGNキャノンを撃つが、ティエレンタオツーは避けてヴァーチェの後ろをとる。

「な、なに!?」

「至近距離なら、弾をはじかれても!!」

ヴァーチェはGNフィールドを再度展開するが、ティエレンタオツーの射撃位置が近すぎるため勢いを殺しきれずに被弾してしまう。

「ク!調子に乗るな!!」

ヴァーチェもまたGNキャノンを発射してティエレンタオツーの右脚を吹き飛ばす。

「うっ!よくも……私のタオツーを!!」

「こいつ!!」

ティエリアは損傷した右脚をパージして向かってくるティエレンタオツーを忌々しげに睨みつける。
だが、彼は忘れていた。
敵が一人ではないことに。

『中佐!少尉の機体が!』

「わかっている!MS隊はピーリス少尉を援護しつつ、デカブツの鹵獲作戦に入る!」

セルゲイの指示でMS隊がヴァーチェへと殺到していった。






ラオホゥ4番艦 コンテナ

「駄目だ、機体外部にスイッチ類が見当たらん。カッターを使用する。」

ラオホゥ4番艦の作業兵は赤熱したカッターを取り出してキュリオスのハッチを切断しようとする。
だが、アレルヤはその音ではなく、頭の中に響く声に気を取られていた。

(聞こえる……声が……)

(邪魔はさせない!!)

「そうだ……この声は……ううっ!」

アレルヤは大きく身震いをする。
そして、もう一人の自分に体をあけわたす。

「ああ……そうだ……あの時の女の声だ!」

ハレルヤは周りにいる作業兵など気にも留めずにキュリオスを起き上がらせ、拘束具を力任せに引きちぎる。
そして、シールドクロウを展開し、自分が収められていたコンテナを切り裂いていき、破壊した。

「ハハハハハハハハハハ!!!さぁて……狩りの時間といきますか!!!ハハハハハハハハ!!!!!」






オービタルリング周辺宙域

「4番艦の反応が消えた!?なんということだ……すべては私の判断ミス……しかし、手ぶらで帰るわけにはいかん!!」

セルゲイ達はティエレンのスラスターをふかしてヴァーチェへと向かう。

「是が非でもあのデカブツを鹵獲する!」

そのころ、ヴァーチェとティエレンタオツーは凄まじい戦闘を繰り広げていた。

「あの機体から特別なものを感じる……ヴェーダ、あの機体は……?」

その時、ティエレンタオツーの後ろから大量のティエレンがこちらに近づいてきている。

「新手か!?……なめられたものだ!!」

ヴァーチェはバズーカを発射するが、敵が散開していたため狙いが定まらずに外してしまう。

「なに!?」

発射までのタイムラグを利用して接近したティエレン達はワイヤーを射出してヴァーチェの両手両脚の自由を奪う。
ヴァーチェの体は四方向に引っ張られ、ミシミシと嫌な音が機体内部に響く。
続いて遠くにいたティエレンから円柱状のものが射出され、その中から液体状のものがヴァーチェの伸ばされた関節部分に付着する。
すると、それは青い色の液体から鼠色の固体へと変わり、完全にヴァーチェの自由を奪った。

「これしきのことで!」

ティエリアはそれでもバズーカを撃とうとティエレンに銃口を向ける。

「やらせるか!!」

しかし、ティエレンタオツーがバズーカを蹴り飛ばす。

「ク!それでも!!」

続いて、GNキャノンを撃とうとする。
しかし、これは二機のティエレンが後ろから抱きつき動きを止める。

「だとしても!!」

ヴァーチェはGNドライヴの出力を上げて六機のティエレンを引きずりながら移動を開始する。

「このデカブツはティエレン六機の推進力を上回るというのか!?」

セルゲイは内心焦るが、それでも自分を落ち着かせて指示を出す。

「少尉!腕でも首でも構わん!奪い取れ!!」

『了解!!』

ティエレンタオツーはまっすぐヴァーチェに向かっていく。

「GNフィールド!!」

ティエリアはGNフィールドを張って攻撃を防ごうとするが、GN粒子排出口が開かないため発動しない。

「な、展開が!?」

焦るティエリアの前にティエレンタオツーが迫る。

「来る!」

「はああああぁぁぁぁ!!!」

(やられる!!)

銃身を叩きつけられそうになったティエリアは本能的に自らを守るために、彼自身も気づいていない能力を発動させてしまった。
虹彩が金色の輝きを放ち、電子部品のように虹色のラインがいくつも駆け巡る。
そして、彼の前のモニターには文字が表示された。
GN―004 NADLEEH、と。


次の瞬間、ヴァーチェの外部装甲がワイヤーやジェルなどを弾き飛ばしながらパージされていく。
すると、中から無骨なヴァーチェからは想像もできないスマートなフォルムのガンダムが出現する。
なにより印象的なのが頭部にある赤いコードである。
近くで見ればコードだとわかるのかもしれないが、遠くから見る限りでは赤い髪が無重力下で揺れているようにしか見えない。

「装甲をパージしただと!?」

驚くセルゲイたちをしりめに、ヴァーチェの中から出現したガンダム、ナドレはパージしたGNキャノンを手に取る。

「ガンダムナドレ……目標を消滅させる!!!!」

ティエリアはそれまでの鬱憤を晴らすかのように周りのティエレンへGNキャノンを照射していく。
よけきれなかったティエレン達のパイロットはセルゲイの名前を叫びながら虚空の闇へと消えていった。

「作戦中止!!現宙域より離脱!」

『了解!』

『中佐!』

ピーリスが不満げに叫ぶが、現状の戦力は自分とミンとピーリスだけだ。
万が一にも勝ち目はない。

「撤退だ!」

撤退を告げるセルゲイの顔は後悔と怒りで苦々しい表情を浮かべていた。











「おあああぁぁぁぁあぁぁぁ!!!!!」

敵が撤退したのち、ティエリアはコンソールに拳を振り下ろす。
自分へのふがいなさから。
ヴェーダの計画をゆがめてしまったことに対する自らへの失望から。
そして、キュリオスを、いや、アレルヤを撃つことをためらってしまったことに対する怒りから。

「なんという失態だ………!!こんな早期に、ナドレの機体をさらしてしまうなんて………!!」

ティエリアはわなわなと震えながら泣き始める。
普段の彼からは想像もつかない、赤子のような泣き顔だ。

「計画をゆがめてしまった……!!あぁ……ヴェーダ……俺は…僕は………私は………!!」

その時、通信が入る。

『よかった!無事だったんだな、ティエリア!!』

モニターにユーノの顔が映し出されるが、ティエリアは見向きもしない。

『!?どうした!?なにかあったのか……って!!』

ユーノもようやくヴァーチェがナドレになっていることに気付く。

『……そうか、使っちまったんだな。』

ユーノはすべてを理解し、ティエリアに話しかける。

『とりあえずトレミーに帰頭しろ。泣くのはそれからだ。』

ユーノはそれだけ言うと再びソリッドを加速させ、アレルヤの捜索を開始した。
だが、ソリッドが去った後も、ティエリアはそこにとどまり泣き続けていた。






オービタルリング周辺

一方、輸送艦が破壊されてしまったセルゲイたちはMSで高軌道ステーションを目指していた。

「少尉、機体の状況はどうか?」

『長距離加速は無理ですが、航行に支障はありません。』

「そうか……」

セルゲイは安堵のため息を漏らすが、同時に自責の念が胸を締め付けてくる。
自分の判断ミスで多くの部下の命が奪われてしまった。

「これほどの規模と人員を駆使して、一機たりとも鹵獲できんとは……」

その時、ミンから通信が入る。

『中佐、前方より接近する機体があります!』

「何!?」

セルゲイは自身のディスプレイにも表示された機影の速度で相手が何者か判断した。

「羽根付きか!!」

正面からオレンジの機体がセルゲイたちに、いや、正確にはピーリスに向かってくる。

「見つけたぜ……ティエレンの高機動超兵仕様!」

ハレルヤはそれを見ながら凶暴な笑いを浮かべる。

「ああ、間違いねぇ……!さんざんぱら俺の脳量子波に干渉してきやがって!てめぇは同類なんだろ!?そうさ……俺と同じ、体をあちこち強化され、脳をいじくりまわされてできた化け物なんだよ!!!」

ピーリスは気付いた。
キュリオスが狙っているのは自分だということに。

「いきます!!」

『少尉!』

セルゲイは止めようとするがピーリスはキュリオスへと向かっていく。
それを見てハレルヤはいっそう残酷な顔になる。

「いい度胸だな……おんなぁぁぁぁぁ!!!」

キュリオスがビームサブマシンガンを連射するが、あっさり避けられてしまう。
しかし、それがハレルヤの目的だった。
動く方向を先読みして、再度発射する。
今度は全弾命中する。
だが、威力が抑えられているのかティエレンタオツーが爆発することはなかった。

「クッ!?」

ピーリスは再び攻撃から逃れるが、逃れた先でもまた被弾してしまう。

「何!?遊んでいるの!?」

ピーリスはようやく自分が手加減されていることに気付いた。
そして、激しい怒りを覚える。
超兵たる自分をまるでおもちゃのように扱い、もてあそぶこいつが許せない。
だが、そんな彼女の思いとは裏腹に、ハレルヤは“遊び”をやめない。

「ほらさぁ!同類だからさぁ、わかるんだよ!」

ハレルヤは子供のようにはしゃぎながら、しかし、顔には悪魔のような残酷な笑みを浮かべながらビームサブマシンガンを連射する。

「少尉!!」

セルゲイはピーリスの救出に向かおうとするがミンにとめられる。

『中佐!少尉とともに離脱してください!』

「何!?」

『中佐と少尉の能力は、頂部に必要なものです!!』

その時、セルゲイはミンが何をする気なのか理解した。

『仇討ち……願います!!』

「ミン中尉!!」

セルゲイの制止も聞かずにミンは飛び出していった。
そして、キュリオスに特攻をかける。

「少尉はやらせん!!」

「邪魔すんなよ一般兵!!命あってのものだねだろうが!!」

ミンのティエレンがキュリオスの両手を封じるが、ハレルヤは蹴りとばして引きはがすと先の割れたシールドでコックピットの前の部分を挟み込む。
そして、徐々に徐々にシールドをめり込ませていく。

「ミン中尉!!」

『中佐!離脱してください!!』

声が震えていることから彼がとてつもない恐怖に襲われているのがわかる。

「ミン中尉!!」

『離脱するぞ!少尉!』

「しかし!!」

ピーリスは救援に向かおうとするが、セルゲイにとめられる。
彼女の心を後悔が埋め尽くしていく。
自分が無茶をしたばかりに彼が犠牲になろうとしている。
それがピーリスには耐えられなかった。
だが、それはセルゲイも同じことだった。

『……男の覚悟に水を差すな…………!!』

セルゲイは操縦桿を握る手の力を強める。
ピーリスにも彼の握る操縦桿の軋む音が聞こえた。

「了解……しました……!!」

二人はその場を離れていく。
ミンのティエレンが見えなくなるまで、その様を目に焼きつけながら。

「なんだぁ……?仲間見捨てて行っちまうのか?」

ハレルヤはククと笑いながらその背中を見つめたまま追いかけようとしない。
なにせ、多少質は落ちるが、新しいおもちゃを手に入れたのだから。

「やることが変わらねぇよな、人革さんはよ!」

『………いつか……』

「あ?」

ハレルヤは通信回線で話しかけてくる声に耳を傾ける。

『いつかお前たちは……報いを受ける時が来る………我々が築き上げてきて国を……秩序を乱した罰を………!!』

ハレルヤは呆けた顔で聞いていたが、再び笑みを浮かべる。

「そんな大層なもんじゃねぇだろ?人を改造して兵士にする社会に、どんな秩序があるってんだ?」

ハレルヤの顔が少し退屈そうなものになる。
よくしゃべるおもちゃだが、もう飽きた。
そう思った彼は最後に最高の思いつきをする。
普通の人間からすれば最悪の思いつきを。

「そんでもって……俺は女に逃げられて少々ご立腹だ……だからさぁ………楽には殺さねぇぞ!!!」

キュリオスのシールドからクロウの部分が出現し、少しづつ機体を貫きコックピットに近づいていく。

「な、なに!?」

ミンは起こっている事態を把握できずに戸惑うが、すぐに理解させられた。
目の前に赤熱した刃が近づいてきたのだ。

「う。うわああああぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁ!!?!?」

ハレルヤは彼の叫びを聞きながら恍惚の表情を浮かべる。

「ハハハハハ!どうよ……一方的な暴力になすすべもなく命をすり減らしていく気分は!?」

「わああああぁぁぁぁ!!や、やめてくれ!ああああああああっ、あっああああああああぁぁぁぁぁっ!!!!」

ミンからは先ほどの勇敢な様子は見て取れない。
そこにはただ、死に恐怖する一人の人間がいた。

「ハハハハハ!こいつが命乞いってやつだなぁ!?最後はなんだぁ?ママか?恋人か?今頃走馬灯で子供のころからやり直している最中か!?」

ハレルヤは反応を楽しみながら少しづつ刃を近づけていく。
が、

(やめろ……ハレルヤ……!)

頭の中に先ほどまで眠っていたアレルヤの声が響く。

「あ……?待てよアレルヤ、今いいところなんだから……」

(やめてくれ………!)

ハレルヤはチッと舌打ちをして顔をしかめる。

「何言ってんだよ……お前ができないから俺がやってやってんだろ。」

(やめるんだ!!)

頭の中に響くアレルヤの大声にハレルヤは顔をゆがめる。
しかし、彼はあることを閃く。
アレルヤにもこの快感を味あわせる方法を。

「ああそうかい。わかったよアレルヤ……まったくお前にはかなわねぇよ……」

(ハレルヤ……)

アレルヤが気を緩めた瞬間、ハレルヤの表情が一転して凶暴なものに変わる。

「なんてな!!」

キュリオスはいったん刃を引き抜くと加速をつけて一気につき立てようとした。
しかし、

「!!!!?」

そうはならなかった。
キュリオスの腕が薄緑色の巨大な輪によって固定されていた。

「なんだこりゃあ!?」

ハレルヤが混乱していると、突然、萌黄色の旋風がその場を駆け抜け、ティエレンを連れ去っていた。
ハレルヤはこれまでにないほどの怒りを込めた目で旋風の正体を睨みつける。

「てめぇは……!」

そこには巨大な盾を持ったガンダム、ソリッドがティエレンの腕を持った状態で立っていた。








数分前

「………頼むぜ、ソリッド!」

ユーノは一番奥までペダルを踏み込みながらつぶやく。
先ほどから嫌な予感がする。
アレルヤがどこか遠くに行ってしまって、もう自分たちのところには戻ってこないような気がしてくるのだ。

「何もなければいいが………」

ユーノは嫌な予感を頭の中から消すかのように猛スピードでキュリオスの反応があった場所に急ぐ。
モニターを見るともうすぐ着くはずだ。

「いた!」

ユーノはキュリオスを発見するが、次の瞬間大きな衝撃に襲われる。
キュリオスが、アレルヤが動かないティエレンにシールドクロウを突き刺しているのだ。

「アレルヤ!?」

普段の温厚な彼からは想像できない行為だ。
アレルヤは倒れたものに攻撃をくわえるような人間ではない。
そう思っていたからこそ、なおのこと衝撃は大きい。
そんなことを考えているうちにキュリオスはシールドクロウをいったん抜いて再びつき立てようとする。
その瞬間、ユーノの頭にいつもの頭痛がはしり、過去の光景がよみがえる。
何も救えなかったあの頃の光景が。

「やめろ………!」

ユーノは頭痛などお構いなしにつっこんでいく。
今はティエレンのパイロットを救うことしか頭にない。
敵だろうと関係ない。
もう、誰も自分の前で傷つけさせはしない。
あのころとは違う。
自分には必死で学んだあの力があるのだから。

「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!!」

ユーノが叫んだ瞬間、コックピット内に文字が描かれた萌黄色の円が描き出される。

「バインド!間に合え!!」

キュリオスの腕の周りに萌黄色の光が集まり、大きな円を作るとそのままキュリオスの腕を締めあげていく。
その隙にユーノはティエレンの救出に成功する。

「967、中のパイロットは!?」

「生キテル。生キテル。」

967の言葉にユーノはホッと一息つくが、キュリオスがこちらを睨んでいることに気付くと、先ほどまでの喜びを心の奥深くに沈めて気を引き締める。

「さて……久々に“魔法”を使っての戦闘になりそうだが、うまくいってくれるか………」







少年は仲間と戦う覚悟を固める。
もう、何も失いたくはないから……





あとがき・・・・・・・・という名の万歳(ユーノ的に)

ロ「というわけで、ガンダム鹵獲作戦編のはな……」

ユ「ばんざぁぁぁぁい!!やっと魔法が使えるぅぅぅぅぅっ!!!!」

ロ「うるせぇぇぇぇ!!ちっと黙ってろ淫獣!!」

ユ「ばんざぁぁぁぁぁい!!」

兄「駄目だこりゃ。諦めてさっさとゲストの紹介に行くぞ。」

ティ「……今回のゲストは……夜天の王……八神はやてだ……」

狸「や~どうもどうも。……てか、この人なんでこんなにへこんでるん?」

ロ「本編読め。」

ティ「あぁ……ヴェーダ……」

狸「……まあ、ええわ。それより、いいお土産があるんやけど。」

兄「へぇ、なんだ?」

狸「これや。」

狸、手の中のスイッチを押すと後ろのスクリーンに映像が映される。

『………優しいね。』

『ちっちゃい女の子限定でな。』

兄「ぎゃああぁぁぁぁぁぁ!!?!!?!?!?!!??なにしてんだてめぇぇぇぇぇ!!!?」

狙撃手、慌てて映写機を狙い撃って破壊する。

狸「いやぁ、ちょおそこでなんかウェーブヘアーの巨乳美人にあってな。気があったからこれをもらったんや。」

兄「あの戦況予報士なにしてくれてんだ!?」

ロ「ロックオン……お前……」

ティ「まさかそんな趣味があったとはな。」

兄「ちげぇっての!!てかティエリアはいつ復活した!?」

ロ「ラジエルに入れといたら元気になったぞ。」

ユ「ばんざああぁぁぁぁぁい!!」

兄「うるせぇぇぇぇぇぇ!!このタイミングでそれ言われると頭くんだよ!!」

狸「でもここできっちりロリコン宣言しとるで?」

兄「本編では言ってないだろ!!」

狸「安心しぃ。うちがあんたの心の叫びを付け加えといたから。」

兄「どこに安心できる要素がある!?それお前が勝手に改竄したってことだろうが!!」

狸「さて、これをトレミーの皆様に……」

兄「人の話を聞けぇぇぇ!!!そしてやめろぉぉぉぉぉぉ!!!いや、やめてください!!!」

狸「いいやん。面白いんやから。」

兄「よくねぇぇぇぇ!!!なに!?こないだの殺人シェフといい俺があとがきに出るときのゲストはこんなんばっかか!!?」

ロ「ピンポン。」

兄「ふざけんなぁぁぁぁぁ!!!」

ユ「ばんざあぁぁぁぁぁぁぁい!!」

兄「お前いい加減にしないとマジで狙い撃つぞ!!」

狸「何?ユーノ君を黙らせたいん?」

ティ「そうらしい。」

狸「じゃ、これやな。」

狸、今度は一枚の写真を取り出す。

ロ「これは?」

狸「15話でのワンシーンや。」

そこにはユーノがフェルトを抱きしめている姿が写されている。

狸「ユ~ノく~ん。これなのはちゃんに見せるけどええよな。」

ユ「調子こいてスンマセン!!」

兄「変わり身はやっ!!」

ティ「よほど彼女が恐ろしいのだな。」

ユ「お前らも一回炭にされたらわかるよ。」

ロ「さて、時間もないしそろそろ解説に行くか。」

ユ「今回は鹵獲作戦編か。そして、とうとう俺の記憶が……」

ロ「まだ戻ってないぞ。」

ユ「へ?」

ロ「今回はお前が魔法を使えることを思い出すだけだからな。まだ記憶は完全には戻っていない。」

狸「そんなんでいいんかい。」

ティ「仕方ないだろう。まだこのネタで引っ張りたいらしいからな。もっとも、そろそろ戻すらしいが。」

兄「てか、あのミン中尉とかいうの生き残らせちゃったな。」

ロ「ネタバレになるがあの人、というかセルゲイさんたちはこれからのユーノに関しての展開のキーマンにしていくつもりだからな。」

ユ「そうなの!?」

狸「まあ、どうせしょうもないもんに仕上がるんやろうけどな。」

ロ「はやてさんや、俺は今ほどウィングぜロカスタムが欲しいと願ったことはないよ。今すぐゼロシステムを使ってお前を消し飛ばす方法を知りたい。」

ティ「さて、ロビンが本当にゼロを持ち出さないうちに次回予告に行くぞ。」

兄「アレルヤのもとへと駆けつけたユーノを待っていたのはハレルヤが操るキュリオスだった!」

狸「想定外のガンダムどうしの戦いに、ユーノ君は生き残ることができるのか!?」

ティ「そして、いよいよあの人物がユーノに正体を明かす!!」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでくださった皆様、本当にありがとうございました!!よろしければご意見、感想、応援をお聞かせください!じゃ、せーの……」

「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」



[18122] 17.キュリオスVSソリッド
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/07/12 09:23
オービタルリング周辺

「う………ぁ……」

ミンは力なくコックピットの席に寄りかかっていた。
体のあちこちに突き刺すような激しい痛みがあるおかげか、何とか意識を保っていられる。
先ほどの攻撃で火傷を負ったようだが、なぜか生きている。
壊れかけたヘッドマウントディスプレイからノイズがひどいながらも多少の映像は見ることができる。
そこには、信じられない光景があった。

(盾……持ち……?)

おおきな盾を持った萌黄色のガンダムが自分のティエレンの腕を支えながらオレンジのガンダムと向き合っているのだ。
オレンジのガンダムは銃をこちらに向けるが、萌黄色のガンダムは自分の前に盾を持ってくる。

(守って……くれているのか………?)

自分の仲間の命を奪っていたガンダムが今度は自分の命を守ろうとしてくれているのだ。

(な……ぜ………?うっ………)

ミンは問いの答えを知る前に気を失ってしまった。




魔導戦士ガンダム00 the guardian 17.キュリオスVSソリッド

(さて、どうするか……)

魔法のことを思い出したのはいいものの、自分が使えるのは敵の動きを封じるバインド系、敵の攻撃を防ぐ防御系、怪我などを治す治療系、そして検索や探索系の魔法だ。
攻撃系の魔法は使えることは使えるが素人に毛が生えた程度だ。
MS戦において防御魔法がどの程度使えるかわからないし、攻撃魔法と探索魔法にいたっては論外だ。
唯一使えるとすれば先ほど使ってみて有効性が証明されたバインド系ぐらいだろう。

(まあ、まずはアレルヤに通信だな。)

ユーノはキュリオスとの回線を開いて、アレルヤ(?)の様子をうかがう。
いつもは隠れている金色の右目をぎらつかせるアレルヤ(?)にユーノはうすら寒いものを覚えるが、それでも話し合いを試みる。

「アレルヤ、ここまでだ。みんなが心配している。早くトレミーに……」

『あぁ、戻ってやるさ…………てめぇとそいつをぶち殺したらな!!!!』

「!!!」

アレルヤ(?)はキュリオスのシールドクロウを拘束していたリングバインドを外すと、ソリッドのコックピットに向けて伸ばしてくる。
しかし、ソリッドは腰からビームサーベルを抜いて斬り払って距離をとる。

(……俺の勘違いであってほしかったがな。)

ユーノは自分の仮定が正しいことを確信する。
今、キュリオスを操縦しているのはアレルヤではない。

「……お前、誰だ?アレルヤそっくりの姿をしやがって……」

『ハッ……これから死ぬ奴に、名前なんざ名乗ってどうすんだよ!!』

(速い!!)

キュリオスがビームサーベルを抜いてジグザグの軌道でこちらに向かってくる。
今まで戦ったことがなかったから気がつかなかったが、キュリオスの機動力は桁外れだ。

「そおら!まずはそいつからだ!!」

「!させるかよ!!」

ユーノは操縦桿を倒してソリッドをティエレンの前にもっていってキュリオスのシールドクロウをアームドシールドで防ぐ。
だが、

「それで防いだつもりかよ!!」

キュリオスはアームドシールドをシールドクロウで固定したままソリッドごと振り回して投げ飛ばす。

「うわあああぁぁぁぁ!!?」

「こいつでくたばりなぁ!!」

キュリオスは取り残されたティエレンにビームサーベルをつき立てようとする。

「ク!バインド!!」

ユーノは再びリングバインドを使用してキュリオスの動きを止める。
だが、

「それがどうしたぁ!!」

キュリオスは強引にバインドを破壊してそのままビームサーベルをつき立てようとする。
しかし、今度はさまざまな文字や図形が刻まれた萌黄色の巨大な円がそれを阻む。

「チッ!!今度はなんだってんだ!!?」

キュリオスが力を込めて円にビームサーベルを押し込んでいくほどに細かなひびが円に広がっていく。

「なんだ!?見かけ倒しかぁぁぁぁ!!?」

アレルヤ(?)は凶暴な笑みを浮かべながらビームサーベルを押しこんでいき、円を破壊する。
しかし、その切っ先の先にはもうティエレンはいない。
そして、横から大きな衝撃が彼を襲う。

「ぐあああぁぁぁぁぁぁ!!?」

キュリオスを蹴りとばしたソリッドは続いてバルカンによる追撃をくわえるが、戦闘機形態になり距離をとると、再びMS形態に戻って後ろにティエレンを置いたソリッドを見据える。

「…………はぁっはぁっはぁっはぁっ!!」

ユーノはコックピット内で荒く息をする。

(た………たった………一発、防いだだけで………こ、ここまで消耗するのかよ………!!)

バインドをやぶられた時、咄嗟にシールドを発動してしまったが、ティエレンを助けるまで破壊されないように保っていただけで魔力の半分を持っていかれてしまった。

(こりゃ……とてもじゃないが………使えそうに……ないな……)

ユーノが必死で呼吸を整えていると、今度はアレルヤ(?)から通信が入る。
モニターの向こうのアレルヤ(?)はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべている。

『やるじゃねぇか……まさかあんな隠し玉を持ってたなんてな。』

「俺も……ついさっき……思い出した、ばっかなんでな………はっきり言って、かなり、キツイぜ……」

荒く息をつきながらもユーノはにやりと笑って見せる。

「それより、お前の名前を言え……んでもって、アレルヤはどこだ……?」

それを聞いた彼はげらげらと笑いながら答える。

『アレルヤなら今は俺の中だ……必死にお前殺すなって言ってきてるぜぇ?』

「お前の中だぁ………!?」

『そうよ!!脳をいじくりまわされた化け物……それがお前の仲間の正体さ!!アレルヤと俺……ハレルヤ様の二人で完璧な人間兵器、超兵ってわけさ!!ヒャハハハハハハハハ!!!』

ハレルヤの下卑た笑いを見ながらユーノは疲労と不快感で顔をしかめる。

「ハレルヤとはお前にはもったいない名前だな。どこのどいつが名付けたか知らないが最悪のセンスだ。俺ならお前にもっとお似合いの名前をくれてやるね。『クソ野郎』って名前をな。」

ハレルヤは自身への罵倒のことばなど気にも留めずに笑い続ける。

『ハハハハハ!!言ってくれるじゃねぇかクソガキィ!!』

キュリオスはビームサブマシンガンを構えてソリッドへと攻撃を開始する。
銃口から放たれる光の弾丸は何度もソリッドに当たる。

「クッ!GNフィールド!!」

ユーノはGNフィールドを張って対抗するが、後ろにティエレンがいるため動くことができずにいい的になってしまう。

「そらそらどうした!?後ろの雑魚を放っておけば思う存分戦えるぞ!?それとも何か!?お優しいユーノちゃんには見捨てるなんてできねぇかぁ!!?」

(やめろハレルヤ!やめてくれ!!)

「てめぇは黙ってな、アレルヤ!!」

「な……ろぉ……!!」

ユーノはハレルヤの駆るキュリオスの猛攻を防ぎながら考えを巡らせる。

(バインドで動きを止めて……いや、駄目だ。あそこまで素早く動かれるときっちりバインドをかけられるかあやしい。シールドはあと一回使えるかどうか……しかも完全に防ぐことはまず不可能なうえに使えばガス欠でこっちがぶっ倒れる……。駄目だ!手が思い浮かばない!!)

ユーノは後ろにいるティエレンに目をやる。
確かにさっきまでは自分の仲間を苦しめた敵かもしれない。
だが、それは彼を見捨てる理由にはならない。

(諦めるものか!なにかいい方法が……)

その時、ユーノは気付いた。
ハレルヤが先ほどまでと違い接近戦をしかけてこないのだ。

「ギヒャハハハハハハハハハ!!!!最高の気分だよなぁ、アレルヤァァァ!!」

(遊んでんのか……?)

ユーノの予想はあたっていた。
ハレルヤは今度はユーノとソリッドをおもちゃにしている。
珍しいおもちゃを与えられた子供はそれに夢中になり、なかなか飽きがこないものだ。

(だったら……そいつを利用させてもらう!)

ユーノはGNフィールドを解除するとティエレンを引っ張りながら逃走を開始する。

「逃げんなよぉ!これからがお楽しみなんだろうがぁぁぁぁぁぁ!!」

キュリオスは当然ソリッドを追跡しながら射撃を続ける。
瞬間的なスピードならソリッドが上だろうが、長時間高速を保っていられるキュリオスのほうがこの場合では遥かに有利だ。
ハレルヤはそれがわかっているからこそいきなり相手に当てるようなことはしない。
最初はかする程度に、そして徐々に手足をもいでいって絶望感を与える。
それが彼のシナリオだった。
だが、ソリッドは急に動きを止めてこちらを向くとアームドシールドをバンカーモードに変える。

「ああ?まさかその状況で俺と真っ向からやりあう気か?」

ハレルヤは訳がわからないといった様子だが、ユーノはシールドバスターライフルをシールドモードにして守りを固める。

「ク……アッハハハハハハハ!!!!おもしれぇ……!!そのお荷物を背負った状態でどんだけやれるか見せてみろよ!!!」

(無茶だユーノ!!よすんだ!!)

「もう遅えよ!!」

ハレルヤはビームサーベルの切っ先をソリッドに向けて突っ込んでくる。

(かかった!!)

ソリッドはビームサーベルをシールドバスターライフルで防ぐ。
そして、バンカーをキュリオスに…………撃ち込まなかった。

「いけぇぇぇぇぇ!!!」

バンカーモードのまま肘の部分からはみ出したブレードの部分にGN粒子を纏わせて振動させ、肘を空高くつきだすように振り抜いた。
だが、

「………………おしかったな。」

ユーノの一撃はキュリオスのシールドクロウの刃にとめられていた。

「いやはや………バンカーと見せかけて本命はブレードか……常人ならくらってたんだろうが、あいにくと俺たちは………」

ハレルヤが残酷な笑みを浮かべる。

「超兵なんだよぉぉぉぉぉ!!!」

キュリオスはビームサーベルを捨ててビームサブマシンガンを抜くと至近距離で発砲した。

「う、あああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

「ダメージ深刻!!危険!危険!」

いくら威力が調整されているとはいえ、この距離で受ければガンダムといえども無事ではない。
事実、力なく離れていくソリッドの胸元は真っ黒に焼けている。
そして、モニターにはぐったりとしたユーノの姿が写っていた。

(ユー、ノ……?)

アレルヤはしばらくその光景が信じられなかった。
自分の生み出したものが、大切な仲間を、信じていると言ってくれた人を傷つけてしまったのだ。

(あ……ああぁぁ……)

「ありゃりゃ………死んじまったかぁ!?ハハハハハハハハ!!!」

(あああああぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁっっっっ!!!!!!!!)

アレルヤは絶望の叫びをあげた。
そして、もう一人の自分に初めて憤怒と憎悪の感情を向ける。

(ハレルヤァァァァァァァァ!!!!!)

「ハハハハハハハハハ!!!何キレてんだよアレルヤ!?お前がやったも同然じゃねぇか!!」

(許さない!!たとえ僕の命をなげうってでも君を殺す!!)

「無理だな!!お前はあの時も結局自分を犠牲にできずに俺に引き金を引かせた!!そんなお前が俺を殺すだぁ!?笑わせんな!!」

アレルヤの言葉に下品な笑いをこぼすハレルヤだが、突如入った通信に驚く。

『アレ………ルヤ……』

モニターの向こうには疲労しているが、しかし、無傷のユーノがいた。

「馬鹿な!!?あの距離で受けて無事なわけが……!」

『極小の……GN、フィールドを……コントロールして………防いだ……』

そう、ユーノは967とともに極小のGNフィールドをいくつも作り、ダメージを最小限にとどめたのだ。

『ア……レルヤ。聞こえてんだろ………』

ユーノは必死で声を絞り出す。

『大方………また、めそめそと………泣いてん、だろう……けど、心配…すんな……俺、は……こんなバカに…負けない………から………』

ユーノはそう言ってモニターの奥にいるハレルヤ、そして、さらにその奥にいるであろうアレルヤにニヤリと笑いかける。

「うぜぇ……うぜぇうぜぇ!!たとえ今のを防いでも無駄だ!!こいつで……」

ハレルヤはシールドクロウを構え距離が開いたソリッドに突進するが、その瞬間、四方に萌黄色の円が発生し、そこから同じ色をした鎖がキュリオスをきつく締めあげた。

「クソがぁぁぁぁ!!なんだこいつは!!?」

「ディレイドバインド……俺の残った力をすべて注ぎ込んだ……そう簡単にはやぶれないぞ……」

ディレイドバインド
範囲内に侵入した対象を捕縛する魔法だ。
ユーノの作戦は裏をかいた不意打ち、そして、接近したところをディレイドバインドで捕縛する二段構えだったのだ。
もちろんかなりリスキーだったが。

「967、被害状況は?」

「胸部装甲破損!」

「戦闘は?」

「可能!可能!」

「OKだ、相棒!」

ユーノはソリッドの体勢を整えて、アームドシールドをブレードモードに変更し、キュリオスに突進していく。

「ユーノヨセ!!」

「知るか!!ここまでやられたんだ!腕の一本くらいもらってもいいだろうが!!」

ソリッドはそのままキュリオスの左腕めがけアームドシールドを振り下ろす。
だが、

「この馬鹿者。」

「!?」

967から聞き覚えのない声が響くと目の前のモニターに967の文字がいくつも浮かぶ。

「なんだこりゃ!?」

「拘束できれば十分だ。」

967が口の部分で二つに別れると中からサングラスをした黒い長髪の男が出てきた。

「ミッションの途中でガンダムを破壊するな。」

「誰だお前?人の相棒の中からいきなり出てきてべらべら……」

ユーノはハッとした。

「お前……967か!?」

「いつになく鈍いな、ユーノ。」

ユーノは魔力を使いすぎたせいでチリチリと痛む頭を押さえて唸る。

「マジか……てことはお前も874の同類?」

「まあ、そうなるな。」

967は淡々と答える。

「どうでもいいがソリッドを止めたのはお前か?」

「そうだ。ガンダム同士の戦いは推奨できない。」

「先にしかけてきたのはアイツだぞ。」

「だが、アレルヤ・ハプティズムにはもうその気はないようだぞ。」

ユーノがモニターを覗くと荒く息をしながらこちらを向くアレルヤがいた。

「アレルヤ……か?」

『……うん。迷惑掛けてごめん。』

確かにアレルヤだと確認して、ユーノはバインドを解除する。

「いや、別にどうってこと……あるけど、まあ、大丈夫だ。それよりアイツは…」

『ハレルヤなら抑え込んだよ。まだ君と戦いたがってるけどね。』

ユーノとアレルヤは苦笑しながら互いの無事を確認すると、アレルヤはソリッドのコックピットの中に現れた人物、そして、キュリオスを縛りあげていたものについて質問する。

『ユーノ、彼は……?それにあれは一体何なんだい?』

「あ~、いや、これはな……」

「話はあとだ。お迎えが来たようだからな。」

967の視線の先にはこちらに向かってくるトレミーの姿が見えた。

『ユーノ!アレルヤ!聞こえるか!?』

「ああ、だいじょう……」

『この大馬鹿野郎!!!』

突然の怒声にユーノは腰を抜かしてしまう。

『勝手に敵に突っ込んで行きやがって!!しかも、ソリッドがボロボロじゃねぇか!!』

『ロックオン、それは僕が……』

アレルヤが弁護しようとするがユーノはそれを止める。

「ワリィ。ちっと油断しちまってた。」

『……二度目はない。いいな。』

ロックオンはため息をつくと続いてユーノの後ろにいるものに目を向ける。

『で、それはどうすんだ?』

ティエレンを見ながらロックオンは問いかける。
本来なら機密保持のために始末しなくてはならないのだが、

「返してくる。」

『はぁ!?』

思いもよらない答えにロックオンは間の抜けた声を上げる。

「967、やっこさんたちまだそんなに離れていないよな。」

「遠クナイ。遠クナイ。」

いつの間にかハロに戻った967は目を点滅させる。

「じゃ、そう言うことで。」

『お、おい!!コラ!!』

ロックオンは止めようとするが、ユーノは構わずティエレンを引っ張っていってしまった。







オービタルリング周辺

セルゲイとピーリスはたった二人で高軌道ステーションを目指して進んでいた。
ガンダムを鹵獲できなかったばかりか、多くの仲間を失った。
その事実がセルゲイを苦しめていた。

『中佐……』

ピーリスがそんな彼を心配したのか通信を入れてきた。

『申し訳ありません、中佐。私のせいでミン中尉が……』

「彼が自身で選んだ道だ。自分を責める暇があるなら、彼の思いを無駄にしないようにしろ。」

セルゲイはピーリスにはっぱをかけるが、彼自身かなり精神的に参っていた。
ミンとは頂部に入ってから知り合ったが、第一印象は理想に燃えた若者といったところだった。
歳はもう三十にさしかかっていたが、それでもなお祖国のために戦い、人々を守るという熱い情熱をもっていた。
そんな彼をあの時と同じように見捨ててしまった。

(ホリー、私は……)

その時、ディスプレイに自分たちの後ろから高速で近づいてくるものをとらえる。

『中佐!』

「この速度……ガンダムか!!」

二人は慌てて後ろを向いて武器を構える。
だが、その姿を見て驚きで言葉を失った。
萌黄色のガンダムがボロボロのティエレンを抱えてこちらに向かってきていたのだ。

「まさか、ミン中尉か!?」

セルゲイの問いには答えず、萌黄色の機体、ソリッドはある程度距離を置いたところで止まり、光通信を行う。

「パイロットは無事だと!!?」

セルゲイが戸惑っているとソリッドは徐々に近づいていく。

「動くな!!」

ピーリスが攻撃態勢に移るが、それでもソリッドは止まらない。

「!!」

「よせ少尉!!」

セルゲイの制止もむなしくティエレンタオツーから砲弾が放たれ、ソリッドをとらえる。
だが、それでもソリッドは攻撃する様子はない。
それどころか、アームドシールドなどの武器を捨てた。

「馬鹿な!!それで無抵抗のつもりか!?」

(罠か……?)

セルゲイは戸惑いながらも警戒するが、ソリッドに乗っているユーノはもっと神経をすり減らしていた。

「頼むぜ……撃ってくれるなよ………」

ダメージを受け武器がない今の状態のソリッドなら鹵獲も可能だろう。
だが、もしそうなればソレスタルビーイングは容赦なく彼ら叩き潰すだろう。

「ティエレンを置いて逃げればいいものを。」

「俺なりのけじめのつけかたさ。」

ユーノは苦笑しながら指揮官機と思われるティエレンにソリッドを近づけていく。
そして、それに応えるように相手もゆっくりと近づき、ソリッドの両手に抱えていたティエレンを受け取った。
その時、ティエレンから接触回線で通信が入る。

『仲間を救ってくれたことのは礼を言おう。だが、君たちはそれ以上に私たちの仲間の命を奪った。いずれその報いを受ける日が来ることを忘れるな。』

「……………」

ユーノは相手に文を返信する。
その文をセルゲイは黙って読んだ。
その後、二人はミンの乗ったティエレンを引き連れて離れていった。
その後ろ姿を見ながらユーノは全身から緊張からくる力が抜けていくのがよくわかった。

「ふぅ、ヒヤヒヤもんだったな。」

「帰ったらもっとヒヤヒヤする事態が待っているだろうがな。」

「………帰宅拒否症になりそうだ。」

そんなこと言いながら、ユーノもトレミーへの帰路についた。







高軌道ステーション周辺

「……………」

セルゲイは先ほどガンダムのパイロットから受け取った返事を思い返していた。

『私は自分の犯した罪から逃げません。誤ってすむ問題でもないことも重々承知しています。ですが、それでもこの人を助けることだけは許してください。』

「助けることは許してくれ、か……」

『中佐?』

「いや、なんでもない。早く帰還するぞ、少尉。」

『了解。』

この時、セルゲイは想像もしなかった。
ミンを助けたパイロットとじぶんの運命が深く交わることになるなど……






トレミー 展望室

アレルヤは一人で外を見つめながら先ほどの戦闘を思い起こしていた。
下手をすれば仲間の一人の命を自分の手で奪ってしまっていた。
そう思うと全身から嫌な汗が噴き出してくる。

『チッ!結局殺しそこねちまったか。』

突然響くハレルヤの声にアレルヤは体をびくりと震わせる。

「ハレルヤ……どうしてそんなに人を殺したがるんだ……」

『はぁ?なんでだと?決まってんだろ、お前がそれを望んでいるからさ!!』

「違う!僕は……」

『だったらなんでその手に握られてるもんはなんだ?これから俺たちの同類を皆殺しに行くんだろぉ?』

アレルヤの手にはあるメモリーが握られている。
自分の過去にかかわるミッションを提案するためにスメラギに提出しようと思っているものだ。

「違う!殺さなくても、保護すれば……」

『戦闘用に改造された人間にどんな未来がある?そんなこと自分がよくわかってんだろ?え、ソレスタルビーイングのガンダムマイスターさんよぉ!?』

「違う!僕がここに来たのは……」

『戦うことしかできないからだろ?』

「違う!!」

『それが俺たちの運命だ。』

「違うっ!!!」

『現実から目を背けるな。』

「僕はっ!!」

「アレルヤ?」

アレルヤがハレルヤの声にこたえるように振り返るが、そこに彼は存在せず、かわりに先ほどもう一人と死闘を繰り広げたユーノがいた。

「………アイツか?」

「ああ……」

ユーノがアレルヤに近づいていく。
だが、

「来るな!!」

「!?」

アレルヤに大きな声で止められる。

「……ごめん。でも、ハレルヤが何をするかわからないから。」

『おいおい、ずいぶんなことを言ってくれるな。まあいい……ちょうどそいつに話があったところだ。代われ、アレルヤ。』

「ハレルヤ!?うっ……」

「アレルヤ!?」

ユーノはその場に膝をつくアレルヤに心配そうに話しかけるが、距離はとったままだ。

「おいおい……心配するんならもっと近くに来いよ。」

「……あいにく俺が心配してんのはアレルヤであってお前じゃねえんだよ、クソ野郎。」

金色の目で笑うハレルヤを見ながらユーノは苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべる。

「クククク……まあ、いいさ。聞きたいことは別にあるしな。」

「聞きたいこと?」

ハレルヤの顔がいっそう凶悪なものになる。

「お前はどこで脳やら体やらをいじくりまわされたんだ?」

「は?」

「とぼけんなよ。俺の動きを止めてたあの輪っかのことだ。」

ユーノはようやくハレルヤの言葉の意味を理解した。
彼はユーノの魔法のことをどこかの研究機関の実験体でいたことによって得た力だと勘違いしたのだ。

「あれはそんなもんじゃねぇよ。」

「だったらなんだってんだ?それとも俺じゃなくてアレルヤになら話せるってか?」

「いや………悪いけど俺自身よくわかっていないところが多いんでな。それまでは誰にも言うつもりはない。」

魔法のことについては大方思い出していたが、いきなり「実は魔法が使えました。」などユーノ自身がいまだに戸惑っているのに、他のみんながそう簡単に受け入れられるはずがない。

「チッ……まあいい、そのうち化けの皮を剥いでやるよ………」

そう言うとハレルヤの体から力が抜けて崩れ落ちそうになるが、アレルヤがなんとか踏ん張る。

「ユーノ、ごめん。ハレルヤがまた勝手なことを……」

「気にすんなよ。」

「けど、僕もいろいろ聞きたいことがあるんだ。戦闘の途中で現れた彼は一体誰なんだい?」

「それは……」

「それは俺自身が答えよう。アレルヤ・ハプティズム。」

「「!?」」

二人が扉のほうを向くといつの間にか967がコロコロと転がってきていた。
そして、部屋に入るとなかから男の姿で現れる。

「まさか、967なのかい!?」

「まあ、そうらしい。」

アレルヤの反応を見てユーノは視線を外す。
今まで単にハロの仲間だと思っていたものの中からこんなものが飛び出てくれば驚くのも当然だが、なんだか今まで隠していたようでバツが悪い。

「お前も気づいていなかったのだからそこまで気に病むこともなかろう。」

「人の考えてること当てんなよ!!」

「あはは………と、とりあえずいろいろと聞きたいことがあるんだけど。」

アレルヤは苦笑しながら967に質問する。

「答えられる範囲でなら回答できるが。」

「じゃあ、君は一体何なんだい?見たところ実体があるわけじゃなさそうだけど……」

「俺はグラーベ・ヴィオレントの記憶と人格をもとにつくられたサポートデータだ。」

「グラーベ・ヴィオレント?」

「お前たちのスカウトに関わった人間だ。」

「な!?」

「なるほどね。じゃあなんでそんな記憶と人格データを持ったお前が俺のサポートについたんだ?確かに俺は以前、サポートにハロが欲しいと言ったがお前がおまけについてくるなんて聞いてなかったぞ。」

驚くアレルヤをよそに、ユーノは質問をぶつける。

「ソリッドの追加武装を加えるべきか否かについて見極めるためだ。」

「追加武装?ソリッドにそんなもんあったか?」

「正確に言うならGNアーマーの追加武装だ。」

そこまで言われてユーノはハッとする。

「GNビットか!?前にも言ったけどあんなもん使いこなせるわけないだろうが!あんなもん処理速度云々の話じゃねぇっての!」

「もうヴェーダは追加することを決定した。心配するな。使うときは俺がサポートする。」

「………お前意外と強引なところがあるよな。」

「合理的に判断したまでだ。」

967はため息をつくユーノを一蹴する。

「このことはイアンは知っているのか?」

「いや、彼は何も知らない。何も知らずにヴェーダが推奨した俺をダウンロードしたにすぎない。もっとも、もうすでに俺のことは全員に報告したがな。」

「確認ぐらいしろよ……」

ユーノは頭を抱える。

「聞きたいことはそれだけか?」

「まあ、そんぐらいだな。」

「僕もそれぐらいかな……」

「なら、俺はガンダムの整備に戻らせてもらおう。」

967はそう言うとハロの中に入り、コロコロと転がっていった。






アザディスタン王国 某ホテル

「おやおや、もう彼らに教えてしまうのかい、グラーベ・ヴィオレント?」

整った顔に爽やかな笑みを浮かべながらリボンズはヴェーダからの情報を参照する。
彼は現在、アレハンドロの本来の仕事に同行してアザディスタンにいる。

「まあいいさ。イオリアの、いや、僕の計画には関係のないことだからね……フフフ………」

彼の笑いは誰に知られることもなく夜の闇に消えていった。










過去からの来訪者は、少年に新たなる変化をもたらす。
それは希望か、それとも………







あとがき・・・・・・・・という名のささやかな復讐

ユ「というわけで、タイトルの割には戦闘シーンが短い十七話でした。」

ロ「痛いとこつくのやめてくんない?」

9「事実だから仕方がないだろう。

ア「今回のゲストは若き提督、実はムッツリ?クロノ・ハラオウンさんです。」

黒「久しぶりだがクロノだ。そして僕はムッツリじゃない!!」

ア「だってユーノが……」

ユ「俺の苦しみをお前も味わえ。(サイド1を参照)」

黒「お前かぁぁぁぁ!!何適当なことを言ってるんだ!!」

ユ「勝手に淫獣扱いするお前たちが悪いんだ。」

ハ「それも事実のような気が……」

ユ「チェーンバインド!!」

ハ「あっ!このやろ!本編で魔法が使えるようになったからってここでも使いやがって!!」

黒「こいつはこういう奴だ。」

ユ「うるさいド外道に隠れ変態。お前なんてsecondいったらしばらくでないくせに。」

ハ「痛いとこついてんじゃねぇぇぇぇぇ!!」

黒「誰が変態だ淫獣!」

ユ「俺をその名で呼ぶなぁぁぁぁ!!」

9「……もう無視して解説に行くぞ。」

ア「最初に言ってたけど戦闘シーンが短かったよね。」

ロ「まあ、今回はセルゲイさんとのフラグの回にしたかったから仕方ないということにしてくれ。」

9「言い訳するな。」

ア「ははは………。そう言えば戦闘の最後あたりにかなりまずいのがあったよね。」

9「あれか。」

ア「まんま麒○だったからね。」

9「もう、某隊長が『コード○麟!!』って言わんばかりの勢いだったな。」

ロ「……………ア○シックバ○ターやコス○ノヴァ使ってないんだからいいじゃん。」

ア「よくないよ!!それ単に君が好きだから出したいってだけじゃん!!」

9「まあ、のちのち魔法がからんでくるから出てこないと否定できないのが怖いな」

ロ「まあ、流石にサ○バスターネタは出さないから安心しとけ。てか、出しようがないから。」

ユ「大人しくミッドに帰れ!!」

黒「せっかく来てやったのにその言いぐさはなんだ!!」

ハ「しばき殺すぞ!!」

ア「まだやってるのか……ん?」

魔王「にゃははは……うるさいよ三人とも……スターライト・ブレイカー!!」

「「「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁ!!?」」」

9「………静かになったところで次回予告だ。」

ロ「次回はサイドで967の誕生秘話を書きたいと考えています。」

ア「さっさと本編進めろと思っているみなさん、勝手で本当にすみません。」

ロ「皆さんが楽しめるよう頑張りますので見守っていてください。」

9「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!もし、時間があればご意見、感想、応援をよろしくお願いします!では、せーの……」

「「「次回をお楽しみに!!」」」



[18122] side.4 仲間の意味
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/08/14 21:59
西暦2306年 プトレマイオス コンテナ

「イアン、こっちは終わったぞ。」

「ご苦労さん。次はこっちを頼む。」

「「「「オ疲レ。オ疲レ。」」」」

ユーノとイアンはコンテナに収容されているソリッドの最終調整に入っていた。
一番最後にロールアウトしたソリッドは未調整の部分が多く、今のままでは安定した運用が困難な状態だ。

「やっとシールドバスターライフルか。このペースじゃ介入後も調整を進めなければいかんな……」

「悪いな、イアン。」

「気にするな。これがわしの仕事だからな。」

「ところで例の話は……」

「駄目だ。なんども言っただろ。」

イアンはため息をつく。

「別にいいじゃんかよ!俺にもハロを相棒につけてくれよ!」

「お前の処理速度があればハロなんていらんだろ。大体ロックオンにハロのサポートをつけているのはデュナメスの能力を最大限に生かすためだ。」

ユーノは以前から自分にサポートとしてハロを一機つけることをイアンに頼んでいた。
だが、ただでさえ人員がいないソレスタルビーイングにそんな余裕は今のところない。

「だ~か~ら~、今はいいかもしれないけど介入を始めたら地上で整備すんのはほとんど俺一人なんだぞ。それに俺は未調整のソリッドに乗ってんだから、できることなら戦闘データを細かく解析して記録しておきたいんだよ。」

「ソリッドは介入を開始するまでに完璧にしておく。それにわしも極力下に降りて整備をしに行く。」

「今のペースで可能だと思ってんのか?しかもGNアーマーの設計も並行してやってんのに間に合うだの下に降りてきて整備するなんてよく言えたもんだな。」

「む……」

痛いところをつかれてイアンは黙ってしまう。

「だからいいだろ。頼むよ。」

イアンはしばらく腕を組んで黙っていたが、大きく嘆息するとユーノのほうを見る。

「わかったよ。新しく一機こさえてやる。」

「マジで!?サンキュー!!」

「ただし!」

はしゃぐユーノだったが、イアンの厳しい顔を見てなにかよからぬものを察知する。

「例のあれの搭載を考えてもらうぞ。」

「あれ…………?って、まさか!?」

イアンの口元がにやりと歪む。

「だから何度も言ってんだろ!あんなもん使いこなせるか!使いこなせる奴がいるんなら見てみたいぜ!!」

「嫌なのか?ならこの話はなしだ。」

「うっ………」

ユーノは言葉に詰まるが、根負けしたのか、嫌そうにうなづいた。

「わかったよ。やるだけやってやるよ。それでいいだろ。」

「うむ。じゃあ今晩から作成に入るから、できたら教えてやる。」







?????

俺は気付いたらそこにいた。
生まれてすぐさま使命を与えられ、そのための知識も自分が何者なのかについての情報もすべて受け入れさせられた。
普通なら混乱するところなのだろうが、人格データのもとになった人物のせいなのか、はたまた自分がこういう存在だからなのかはわからないが、戸惑いも何もなくあっさりと受け入れてしまった。

『それじゃ、行くか。』

俺は光の中へ歩いていく。
そして、目的の場所へと向かった。






魔導戦士ガンダム00 the guardian  side4. 仲間の意味

プトレマイオス イアンの自室

俺が目を開けた時(正確に言うならダウンロードが終了したらと言うべきか)目の前に眼鏡をかけた人物がいた。
彼のことはグラーベの記憶、そしてヴェーダからの情報で知っている。
イアン・ヴァスティ
元AEUのメカニックで、今はソレスタルビーイングでガンダムの整備にかかわっている。

「よお、わしがわかるか?」

「OK!OK!」

俺は電子音で構成された声でイアンの質問に答える。
本来の姿を現してはいけないというわけではないのだが、別にそうすることもないだろう。

「よしよし。問題はなさそうだな。しかし、ハロを作ることを報告したくらいでわざわざヴェーダがAIのデータを推薦してくるとはな。」

どうやら彼は俺の任務について知らされていないようだ。
まあ、あの内容では拒否するのは目に見えているからな……

「よし、じゃあお前さんの相棒になる男のところに連れて行ってやる。」

そう言うとイアンは俺を持って部屋を出た。






コンテナ

コンテナについたイアンはそこにいた人物に近づいていく。
ノーマルスーツから覗く顔にはあどけなさが残っているせいか、長髪が無理に大人びようとしているように見える。

(こいつが………)

「ユーノできたぞ。お前の相棒だ。」

「ヨロシクナ!ヨロシクナ!」

「できたのか!?」

俺の観察対象、ユーノ・スクライアは満面の笑みで俺に近づいてくる。

「こいつなんて名前なんだ?単にハロじゃ味気ないだろ。」

(?)

訳がわからなかった。
俺は単なるサポートをするための道具にすぎない。
なのにこいつは俺の名前を気にしている。

「なあ?お前はどんな名前がいい?」

「おいおい、いくらなんでもそれは無理な注文ってもんだろ。俺が名前をつけてやるよ。そうだな……」

イアンは閃いたのかポンと手を叩く。

「967でクロナってのはどうだ?」

「967?なんか女みたいな名前だな……」

「いいだろうが。女も男もないんだから。」

(一応、性別上は男………でいいのか?)

正直俺自身もわからない。
なにせデータとしての存在なのだから性別は関係ないのだが、もとになったものから考えると男なのかもしれない。
だが、不思議とこの呼ばれ方は嫌いじゃない。

「967!967!」

「おっ!気にいったみたいだぞ。」

「おいおい、お前それでいいのかよ。お前(たぶん)男だろ?」

「967!967!」

「………わかったよ。これからよろしくな、967。」

そう言ってユーノは俺を持ち上げて頭をなでてくる。

「ヨロシクナ!ヨロシクナ!」

とりあえずこれで、第一目標は達成された。
これからこいつと一緒に生活を送り、見定めなければならない。
イアンの目的であるGNビットに対する適正、そしてこいつが計画の支障にならないかについてを。








一週間後 ユーノの自室

一週間ユーノを観察してきたが、わかったことと言えば能力の高さとこいつが常識外れの変わり者だということだけだった。
初のGNグラムを搭載してのテストを成功させたのまではよかったのだが、その後周辺に浮いていたデブリの中につっこんでいったかと思うと、「使えそうな物を持って帰ってあそ……じゃなくて、なんかいい感じのものを作る!」なんて言っていくつか持って帰ったり、ヴァーチェの整備のために呼んだティエリアに、整備が終わった後からかってふざけてみせたりするなど、おおよそ理解しがたい行動ばかりをとっていた。
だが、俺がなによりわからないことはユーノが俺を道具としてではなく、一人の仲間として接してくるということだ。

(わからないな……)

俺はユーノをじっと見つめる。
今は穏やかな顔をしているが、いったんソリッドに乗ったら人が変わったように鋭い顔つきになる。
そこからはどこか怒りにも似た感情が、そして激しい悲しみが感じられる。

(やはり、いまだにエレナ・クローセルのことを気にしているのか……)

ユーノがソリッドのマイスターになれたのは正式なマイスターだったエレナ・クローセルが死んだからだ。
そのことをまだこいつは引きずっている。

「?どうした967?」

俺がじっと見ていることに気付いたユーノがこちらを向く。
そこで俺は思い切って自分の質問をぶつけてみる。

「ユーノ、俺、仲間?仲間?」

ユーノはポカンとするが、すぐにクスクスと笑い始める。

「ああ、967は俺たちの仲間だよ。どうしたんだよ急に?」

「ナンデ?ナンデ?」

「なんでって言われてもなぁ……」

ユーノは笑いながらも困った顔で俺を両手で持ち上げる。

「仲間なんて気付いたらなってるもんだからな……あえて理由をつけるならお前は俺が困ってるとき助けてくれてるだろ?俺もお前が困ってたら助ける……それが仲間である条件ってやつじゃないのかな。」

そう言った後、ユーノの顔が少し陰る。

「………俺はアイツに助けてもらってばっかで何にも返せなかったからな……だから今度は俺がみんなを支えていきたいんだ……お前も含めてな。」

俺はこの時、ユーノの強さの根源を見た気がした。
悲しみを背負いながら、誰かを思いながら戦うことができることがユーノの強さの理由の理由なのだ。
今の俺には理解することはできない。
だが、それでも喜びと思われるを感情が湧いてくるのはなぜなのだろうか。
こいつの強さの理由は計画の支障になるかもしれない。
だが、それでもこいつの優しさというものを認めたい自分がいる。

(わからない……だが………)







その晩、俺はヴェーダに報告を行った。
ユーノ・スクライアは俺のサポートがあればGNビットの使用が可能であるかもしれないということ。
そして、ユーノの力は今のソレスタルビーイングに必要であることを。
ヴェーダからしてみればこれだけ早く報告を行ってくると想定していなかったせいか、若干戸惑いのような反応が見られたが、観察を継続ということになった。

俺は暗い部屋の中で明かりのついた机に突っ伏して静かに寝息を立てるユーノを見る。
こいつの考えていることは俺にはわからない。
だが、いつか俺にもこいつが考えていることがわかる日が来るのだろうか。
もし、そうなったら俺は………








西暦2307年 アフリカ大陸 AEU軍事演習場付近

「おい、967!967!」

ユーノの呼ぶ声に俺はハッとする。
どうやらメモリーを整理するために過去のデータがフラッシュバックしていたようだ。
人間で言うところの夢というやつだ。

「まったく、ボーっとしやがって……もう、ロックオンたちは介入を開始してんだぞ。」

「ワカッテル。ワカッテル。」

ユーノは俺を見ながら呆れ笑いをするが、ロックオンにヘリオンが近づいて来ていることに気付くとすぐに気を引き締める。

「おいおい、気付いてんだろロックオン……自分で何とかしろよな。」

文句を言いながらも、ソリッドを起動させてロックオンの援護に向かう。

「……967、GNフィールドはいけるか?」

GNフィールドは使えることは使えるが安定的な使用はできない。
全体を覆うようなものはせいぜい十秒、小さなものは制限なく使えるかもしれないがコントロールに手を焼きそうだ。
だが、

「問題ナシ!問題ナシ!」

俺とユーノなら問題なく使いこなせるだろう。

「よっしゃ、行くぜ相棒!!」

「了解!了解!」








あのときはわからなかったが、今ならユーノが言っていることがわかる気がする。
確かに俺はみんなと違い人間ではないのかもしれない。
だが、それでもみんなを支えていきたいという思いは俺のものだ。
ヴェーダに与えられたものではなく、グラーベ・ヴィオレントとしてのものでもない。
ソレスタルビーイングの一員としての、967としての確たる意思だ。
たとえヴェーダに否定されようとこの思いを曲げることはない。
それが、この気持ちを教えてくれたユーノに対して俺が返してやれるものだと思うから………








あとがき・・・・・・・・・という名の自問自答

ロ「と、いうわけで967に与えられた任務とユーノとの出会いでした。てか、これでよかったのかな?」

ユ「自分で書いといてそれはないだろ。」

9「いつもそう思っているくせになんで今回のかぎって言うんだ。」

ロ「なんとなく。」

眼鏡「いや、それは駄目だろ。」

ユ「というか、イアンいたのか……」

眼鏡「いたっての!今回出てただろうが!」

9「まあ、そんなことよりも今回のゲストを呼ぶぞ。今回のゲストは初代祝福の風、リインフォースだ。」

リインフォース(以降 初代)「どうも、本編でも少し出てきたリインフォースです。」

ユ「またしばらくは出ないみたいだけどな。というかあれ知らない人間が聞いてたらお前電波ちゃん扱いだぞ。」

初代「大丈夫です。宇宙人、未来人、超能力者がいたら私のところに来なさいとは言いませんから。」

眼鏡「言われても困るけどな。」

9「さて、グダグダにならないうちに解説に行くぞ。」

初代「今回は967さん視点で話が進行していましたね。」

ロ「ちょっとチャレンジみたいな感じでやってみました。……正直あとで感想見るのが怖い。」

眼鏡「やれやれ……」

ユ「てか967が俺んとこ来たのって監視が目的かよ。」

ロ「もちろんトレミーの皆様は知らないけどな。てか、967もだんだんそんなのどうでもよくなってきてるし。」

眼鏡「本編と違ってなんか考えてること人間臭かったな。」

ロ「本編でこんな感じじゃないのは照れ隠しみたいに思っといてくれ。」

初代「無理がないですか?」

ロ「アーアー。聞こえない聞こえない。」

ユ「………ロビンが現実逃避に入ったので次回予告に行きます。」

眼鏡「次回はアレルヤのエピソードをすっ飛ばして一気にアザディスタン編に行きます。期待してた皆様、ホントにごめんなさい。」

ユ「アザディスタンで保守派の指導者、マスード・ラフマディーが何者かに拉致された!」

初代「第三者の存在を感じたソレスタルビーイングは調査を開始する。」

9「そんななか、刹那は自らの過去と再度向き合うことになる。」

眼鏡「そして、ユーノにある人物が接触してくる。その人物とは!?」

ロ「それでは最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただいてありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!じゃ、せーの……」

「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」



[18122] 18.呼び起こされる戦禍
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/06/29 12:04
アザディスタン王国 寺院

「ラサー!議会は神の教えに反している!」

三日月の明かりに照らされた建物の中から夜の沈黙を破り男の声が聞こえてくる。

「この国の土地は神に与えられし場所、その契約の地に異教徒を招き入れるなど!」

「改革派はいずれ我らからこの土地を取り上げに来ますぞ!」

「ラサー、あなたの言葉で多くの民が立ち上がるでしょう。今こそ……」

「落ち着きなさい。」

ラサーと呼ばれた老人は男たちを静かに、しかし強い意志を持ってたしなめる。
彼の名はマスード・ラフマディー。
アザディスタンの保守派の高名な宗教的指導者である。
保守派の多くの人間から慕われているが、あくまで穏健な人物であり、アザディスタンの人間同士の争いで血が流れることをなによりも嘆いている。

「教えに背いた王女と議会にはいずれ神罰が下されよう。我らは神の報いを待てばよい。」

「いつまでそのようなことをおっしゃるつもりか!このままでは我々もクルジスの二の舞になる!」

「我々が神の矛となり、改革派に神の罰を与え、」

「異教徒をこの地から追い出すのです!」

「私腹を肥やす改革派に神の雷を!すべての恵みを我らへ!」

「教えを忘れたものたちに神罰を!」

男たちはマスードに詰め寄ってくるが、彼は頑として首を縦に振らない。
その時だった。
外で発砲音と同時に銃特有の光が点滅する。

「!?」

「なんだ!?」

「銃声!?」

「まさか改革派の連中が!?」

その場にいた全員が扉のほうを向く。
そこへ、一人の男が駆け込んできた。

「ラサー!賊が…グブッ!!」

男は頭を撃ち抜かれ、血を飛び散らせながら倒れる。
続いて銃を持った数人の男たちが部屋の中に飛び込んできた。
マスードは毅然とした態度で侵入者たちを見据える。

「…………何者だ?この場をどこと考えておる!」

「……フン。」

男の一人が笑うと同時に弾が発射され、マスード以外の人間が血の雨を降らせながら力なく崩れ落ちた。

「どこねぇ……さしずめ昔の商売道具を後生大事にあがめてる馬鹿どもの本拠地ってとこか。」

侵入者たちの後ろから赤髪の男が現れる。

「んでもってあなたはこれから俺たちに協力してもらう運命ってことです、マスード・ラフマディー殿。ククク……ハハハハハハハハハ!!」






この三日後、アザディスタン国内だけでなく、全世界にマスード・ラフマディーが誘拐されたとの知らせがはしった。






魔導戦士ガンダム00 the guardian 18.呼び起こされる戦禍

経済特区東京 某マンション

「ふ、あ~あ……」

ユーノは刹那と廊下を歩きながら大きな欠伸をする。
整備の完了したエクシア、デュナメス、ソリッドは地上に降りると同時にアフリカでの紛争に介入、そして終了と同時にそれぞれの拠点に帰還したのだが、かなり長引いてしまったせいで三人ともろくな睡眠をとっていなかった。
刹那やロックオンにいたっては帰還時にうっかりと寝てしまって地上に落下しかけてしまうといったハプニングが起こっていた。
その二人に比べれば欠伸程度ですんでいるユーノは超人的と言って差し支えないだろう。

「……眠いのか?」

「お前もだろ。もっとも、俺の場合は居眠り運転はしないけどな。ったく、こんなときほどイアンのせいで徹夜に慣れちまったことをありがたく思ったことはないぜ。」

そんな他愛のない話をしながら進んでいくと眼鏡をかけた女性と長い髪の少女が言い争っている姿が見えた。
少女が眼鏡の女性を引っ張ってどこかに連れて行こうとしているようだ。

(あれは確か……ルイスだったっけ?)

ユーノは記憶の引き出しからルイスの名前を取り出す。
彼女たちが争っているのは自分たちの部屋の前だ。

「ルイス!私は彼に会うとは一度も言ってないわよ!」

「少しは私の話を聞いてよ!」

「あの……」

ユーノは恐る恐る二人に話しかける。

「あら……ごめんなさい。お騒がせしたわね。」

「あっ!ユーノ!ねぇ聞いてよ、ママが!」

「あれ?ユーノに刹那さん?」

そんな時、二人の後ろから沙慈がやってくる。

「どうしたの?ってルイス!?」

沙慈がルイスと彼女の母親を見た瞬間、顔をひきつらせる。

「…………………」

そして、ルイスの母親はその沙慈の顔とユーノの顔を交互に見ながら脳をフル回転させる。
その結果、

「あなた!ルイスとこの子と二股をかけていたのね!!」

「「ええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」」

やはり親子。
ルイスと同じ考えに行きつく。

「うちの子の気持ちをもてあそぶなんてひどいじゃない!!」

「ち、違うんです!お母さん!」

「そうよママ!!」

「ルイスは黙ってらっしゃい!二股してる男はみんなそう言うの!!」

「あの……」

ユーノは頭痛を覚えながらもルイスの母親に話しかける。

「あなたからもじっくりお話を……」

「俺、男ですけど。」

「へ?」

彼女も以前のルイスと同じ間の抜けた顔をする。

「…………………」

「「「…………………」」」

「……今日のところはお暇させていただきます。それでは。」

そう言うとルイスの母親はそそくさと帰っていった。

「……あの親ありてこの子ありってわけか。」

「どういうことだ?」

「そういうことだ。」

「ははは…………」

「もう!ユーノのせいで予定が狂っちゃったじゃない!」

「俺のせいかよ!」

理不尽なルイスの怒りを受けながらユーノは自室へと戻っていった。






ユーノの自室

自室についたユーノはジャケットを脱ぐと、ベッドの上に携帯端末を置いてその前に立ち、精神を集中させ始める。

「さて……やってみますか……」

足元に萌黄色の魔法陣を展開し、端末に意識を結合させる。

「………案外うまくいくもんだな。」

多少違和感があるのは否めないが、これから行う作業に問題はない。

「さてっ、と。」

ユーノは一気にありとあらゆる情報を参照し始める。

(魔導士……って堂々とのってるわけないか。じゃ、それらしいのを探しますか。)

ユーノはそのまま魔導士、自らの記憶のヒントを探す。

『自分の過去が気になるのはわかるが、勝手に不用意な検索をするのはあまり感心しないな。』

「うわ!?」

突然、目の前の端末に967の顔が写る。

「お、驚かすなよ!」

『その力……』

967は自身の力と似たものを感じる。

『ユーノ、お前は……』

「ん?」

(気付いていないだけか……?いや、ヴェーダにはその痕跡はなかった。)

「?どうした?」

『いや、なんでもない。お前が俺たちに関する情報を流出させない限りその行動は容認される。だが………』

967は表情を硬くする。

『ヴェーダは……いや、ヴェーダにアクセスできるものは常にお前の動向を監視している。そのことを忘れるな。』

「?了解。気をつけるよ。」

967はそう言って通信を切るが、ユーノは967が言ったことがいまいちよくわかっていないようだった。

「どういうことだ………?まあ、あのポンコツのことはもとからそんなに信用していないけどな。」

ユーノは端末との同調を解くと、続いて防御魔法を展開する。

「さて、今度はこいつをMS戦でもなんとかいかせるようにしないとな。」

その晩、電気の消えたユーノの部屋に萌黄色の明かりが灯り続けていた。







アザディスタン王国 王宮

マスード・ラフマディーが誘拐されたとの報道がされた翌日。
マリナは王宮の窓から外を眺めながら彼の安全を祈っていた。

「ラサー………マスード・ラフマディー…………」

彼女がこの国の王女に即位する直前に彼と会っていた。
王族と宗教的指導者として何度か面識があった彼のもとを訪れ、自らの決意を聞いてもらい、保守派の説得を考えてもらおうと思っていたのだ。
だが、彼は反対の立場をとった。
マリナ達が改革を進めていくうえで不満を募らせる者たちの思いを受け止めるために、彼はあえて彼女と違う道を歩むことを決めた。
その行きつく先が彼女たちも目指している場所だと信じて。

だが、それもいまは水の泡となりかけている。

「ラサー………私のしたことは、間違いだったのでしょうか……」

マリナは額を窓にあててつぶやいているとシーリンが入ってきた。

「シーリン、議会は私の意見を取り入れてくれそう?双方の歩み寄りは…」

「そんな状況じゃないわ。」

「え………?」

シーリンの顔にいつもの余裕の笑みはなく、かわりに緊迫感に満ちた厳しい表情が浮かんでいる。

「保守派は議会をボイコット、改革派はユニオンから秘密裏に打診された軍事支援を受ける方向で話を進めているそうよ。」

「そんなことをしたら超保守派を刺激するだけだわ!それに……どうしてユニオンが……この国を守っても利益なんて……」

マリナの疑問はもっともである。
太陽光紛争によって疲弊し、石油を輸出することもかなわず、世界から見捨てられた中東を支援する国家など存在するはずがない。
だが、現にそれでもユニオンはここに来るのだ。

「………あるんでしょ………きっと。」

シーリンは遥か彼方から立ち上る煙を見ながらつぶやいた。








太平洋上空 ユニオン輸送機

アザディスタンに向かう輸送機の中でグラハムとカタギリはコーヒーをすすりながら人革連の作戦内容を見ていた。
詳しいことは判明していないが、かなりの規模の物量作戦をとったようだ。

(流石は人革連というべきか、それともここまでして逃げられたというべきか…)

グラハムがそんなことを考えながら微笑んでいると目の前のモニターにハワードとダリルが写る。

『中尉、久しぶりにガンダムに会えそうですな。』

「そうでなくては困る。」

『しかし、アザディスタンに出兵とは………』

「軍上層部が議会に働きかけた結果だよ。人革に後れをとるわけにはいかないからね。」

ユニオン軍は人革連がガンダム鹵獲作戦を行ったとの報告に焦りを見せていた。
結果は失敗だったものの、ユニオンの軍上層部が焦燥感を募らせるのには十分だった。

しかし、グラハムにはそんなことなど関係ない。
彼の望みはただガンダムと死合うことだけだ。

(待っていろ……ガンダム!)





アザディスタン王国 砂漠地帯

「内戦が始まるまで、機内でお待ちください。狭いですが部屋を用意しておきました。」

紅龍はコーヒーの入ったカップを刹那とロックオンの前に置きながら状況を伝える。

「気がきくね。」

「ホテル。ホテル。」

ロックオンの言葉に合わせるようにハロが楽しそうにピョンピョンと跳ねる。
そんな中、刹那はあたりを見渡してここにいるはずの人物がいないことに気付く。

「……ユーノは?」

「なんでも寝不足だそうで……ソリッドの中で仮眠をとるとのことです。」

「おいおい、わざわざガンダムの中で寝なくてもいいだろう。」

「いざという時に備えておく、だそうです。」

「やれやれ……」

ロックオンは呆れながらコーヒーを一口飲むと、顔つきを厳しくする。

「で、そっちは?」

「アザディスタンの内紛を止めるには、誘拐されたマスード・ラフマディー氏を保護し、全国民に無事を知らせる必要があります。」

「とはいえ、この国の人々は異文化を嫌います。どれだけの成果が出せるか……」

留美と紅龍が申し訳なさそうな表情をしていると、珍しく刹那が自分から喋る。

「俺も動こう。」

「あなたが?」

「俺は、アザディスタン出身だ。」

その言葉にロックオンの眉がピクリと動く。

「刹那。」

ロックオンは扉に向かっていく刹那に声をかける。

「故郷の危機だからって、感情的になるんじゃねぇぞ。」

「……わかっている。」

その後、刹那はアザディスタンで一般的な服に着替えると街へと向かった。
その後ろを一匹のフェレットがつけていることも知らずに……







アザディスタン王国 居住区

刹那が街を歩いていると、否が応でも人々の視線を集めた。
刹那の出身地は確かにアザディスタンだが、より正確に言うならクルジスである。
アザディスタンの人間は戦争が終結したのちもクルジスの人間を忌み嫌い、クルジスの出身者もまたアザディスタンに対してドス黒い感情を抱いていた
そして、地元の人間が見ればクルジスとアザディスタンの人間との区別はあっという間についてしまう。
つまり、街に出た瞬間に刹那は周りから警戒と侮蔑を集める対象になっているのだ。
そんなこの国の人間の様子を見ていると、刹那はあの頃のことを思い出す。

瓦礫と化した街を駆け巡りながら、死の臭いが充満する中で神のためにと戦っていたあの頃のことを。

(あんなことを……まだ続けるつもりなのか……)

刹那が静かに怒りに燃えていると、目の前に10歳ほどの少年が歩いてきた。
肩には二つの壺がくくりつけられた棒を担いでいる。

「お兄さん!水買わないか?」

「いや、間に合っている。」

「え~?でも、そいつはいいのかい?ここでそんだけ毛深いとしんどいんじゃないか?」

「そいつ?」

刹那が少年の視線の先、自分の足元に目をやると、金色の毛並みをしたフェレットがいた。

「こいつは……」

刹那には見覚えがあった。
昔、エレナたちが大騒ぎしながら追いかけていたフェレットだ。

「ほら、やっぱお兄さんのじゃん。そいつのために買ってやらない?今ならまけとくよ。」

「いや、こいつは……」

刹那はそう言いながらフェレットを見る。
とくに愛着があるわけではないが、ここで見捨てるのも忍びない。
刹那は財布を取り出そうとする。
すると、フェレットが首を横に振ったような気がした。

(……まさかな。)

刹那はそう思いながらも取り出しかけた財布をしまう。

「大丈夫だ。こいつはいろいろな所に行っているおかげで多少のことなら我慢できる。」

「キュッ!」

その通りと言わんばかりにフェレットは刹那の肩に上って一声鳴く。

「ちぇ。残念。」

少年はそう言いながらなかなか刹那から離れようとしない。

「ひょっとして、ここは初めて?」

「ずっと世界を旅している。」

その言葉を聞いた少年が目を輝かせる。

「ねぇねぇ!族長に聞いたんだけどさ、この世界にはすっごく高い塔があって、宇宙まで行けるって本当なの!?」

「……ああ。本当だ。」

「もしかして行ったことある!?」

質問攻めにあう刹那は思わず半歩下がってしまう。

「ま、まあな……」

「すっげぇ~~!!」

少年は感極まって両手を強く握る。

「マリナ様が言ってたよ!いつか僕たちも宇宙に行けるって!」

「マリナ……」

「キュ……」

「知らないの?ほら、あそこにあるポスターが、マリナ・イスマイール様だよ。」

刹那が視線を向けた先には、ミッションの最中に出会ったあの女性の写真が確かにそこにあった。

(マリナ・イスマイール……)

「おい、なにしてる。」

刹那が考えに浸ろうとした時、後ろにいた老人から敵意がこもった声をかけられる。

「お前クルジス人だな。顔見りゃわかる。」

「おじいちゃん?」

少年は自分の祖父が何を言っているのか理解できない。
先の紛争を知らないのだから当然なのだが、そんなことなどお構いなしに老人はまくし立てる。

「ここはお前がいていい場所じゃない!とっとと出ていけ!」

刹那は怒るでもなく、どこか呆れた、そして諦めのような顔をして歩きだそうとした。
だが、

「キュゥーー!!」

「!?」

肩に乗っていたフェレットが全身の毛を逆立てて老人を威嚇するように睨みつける。

「なんだ?文句でもあるのか?」

老人は軽蔑のまなざしをフェレットと刹那に向ける。

「キューーッ!!」

フェレットはとうとう我慢ならないといった様子で飛びかかろうとするが刹那に押さえられる。

「よせ。」

「キュ~~………」

刹那にそう言われるとフェレットは力なくうなだれる。
そんな、フェレットをひきつれて、刹那は街の中を歩いていった。






アザディスタン王国 某ホテル

「まさかな…ユニオンに支援を要請するとは。」

アレハンドロはホテルの高層階の部屋からロックのウィスキーの入ったグラスを傾けながら、街から立ち上る煙を窓から眺めていた。

「彼らは軍の中にも保守派がいることを知らないと見える。まったく……自身の国の状態も知らないとは情けないことだ………そうは思わないか、リボンズ?」

笑みを浮かべながらすぐそばにいるリボンズに語りかけるが、リボンズは虹彩を輝かせた状態のまま喋らない。

「リボンズ………?」

「………ああ、すみません。少し考えことをしていたもので………」

「フッ………まあいいさ。大したことでもないからね。」

アレハンドロは再び窓の外の景色を眺めるが、リボンズは難しい顔をしたままだ。

(まさか彼がここに来ているとは……)

ヴェーダと繋がっていた時に見つけた予想外のファクターに若干の焦りを覚える。
もし、彼に自分の存在が知られたら……
そんな不安が彼を包み込むが、すぐにいつもの笑みを浮かべる。

(なあに、彼は気付きはしないさ。それに、おそらく目的は彼のほうだろうからね。)

夕日の中でリボンズは自らを安堵させるように心の中でつぶやいた。








太陽光発電受信アンテナ施設

夜の暗闇の中でモノアイの機体、アンフがアンテナ施設の警備にあたっていた。
その時、一機のアンフの目が光ったかと思うと、背中から大量の煙が排出される。

「ん!?どうした?」

その異変に気付いた一機が何事かと後ろを向くと、銃口をこちらに向けている。
だが、そのことに気付く間もなくコックピットめがけて銃弾が発射される。
銃弾を浴びたアンフは爆炎に包まれる。

「この地を荒らす不信仰者どもに神の雷をぉぉぉぉ!!」

そう言うと最初に動いたアンフの後ろにいたもう一機も残っていた機体に攻撃を開始する。

『ポイントDで交戦!』

「やはりアンテナを狙うか!行くぞフラッグファイター!」

『『了解!!』』

ダリルの言葉に付近の上空を巡回していたグラハム達は高度を下げて一気に目標に近づいていく。
だが、下で戦闘を行っていたのは本来味方同士であるはずのアンフ達だった。

『中尉!味方同士でやりあってますぜ!?どうします!?』

味方に加勢したいのはやまやまだが、機体もカラーリングも一緒ときては区別がつかない。
不用意に攻撃すれば味方を撃ってしまうかもしれない。

「どちらが裏切り者だ……!?」

グラハムたちが迷っているとレーダーにノイズがはしる。

「レーダーが!?」

遥か彼方が光ったかと思うと、そこから閃光が闇を切り裂きアンフめがけて駆け抜け、巨大な穴を開通させた。

「なに!?」

グラハムが驚いている間に、反対方向からもビームが放たれ、次々にアンフを撃墜していく。

「この粒子ビームの光は……ガンダムか!!」

グラハムが睨む先にはスナイパーライフルを構えたデュナメスが、そして、その反対側の岩陰にはシールドバスターライフルを構えたソリッドがいた。

「全弾命中。全弾命中。」

「待機しといて正解だな。」

『まったくだな。』

『正解。正解。』

ロックオンとユーノはフゥと一息つく。
だが、

「ところがギッチョン!!」

別方向から4基ミサイルがアンテナめがけて飛んでいく。

「なに!?」

「なんだ!?」

「ミサイルだと!?」

ロックオン、ユーノ、グラハムは驚きの声を上げるが、ロックオンはすぐさま狙撃体勢に入る。
だが、途中でミサイルの中からさらに細かなミサイルが発射される。

「数が多すぎるぜ!」

それでもデュナメスはミサイルを撃ち落としていくがほとんどがアンテナ施設に落ちていく。

「させるかぁぁぁぁぁ!!」

『馬鹿!!よせ、ユーノ!!』

ユーノはミサイルの先にソリッドを割り込ませると出力を全開にしてGNフィールドを張る。
だが、それでも防ぎきれずにミサイルはアンテナに次々に着弾し爆発していく。
そして、ソリッドもまたその爆炎によって体を大きく揺さぶられる。

「うあああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

「危険!危険!」

とうとう耐えられなくなったのか、ソリッドは力なく炎に包まれたアンテナ施設に仰向けに倒れた。

「ユーノ!おい、ユーノ!」

ロックオンは通信を試みるがユーノからの返事はない。
そのとき、967が通信をしてきた。

『ロックオン、ユーノは今の攻撃で気絶してしまった。ソリッドは安全な場所まで撤退させてもらう。』

「了解だ!敵はこっちで引きつける!あと、ユーノにあとで拳骨だって言っといてくれ!」

『了解。』

967の通信が終わるとソリッドはフワリと浮かびあがり、撤退を開始する。

「逃がすか!!」

グラハムの駆るカスタムフラッグがそれを追いかけようとするがデュナメスの狙撃に道を阻まれる。

(仕方ない……!)

グラハムは即座に決意するとハワードとダリルに指示を出す。

「ハワード、ダリル、ミサイル攻撃をした敵を追え。ガンダムは私がやる!」

『けどもう一機はどうするんです!?』

「口惜しいが逃がすしかあるまい……。我々に与えられた任務はガンダムの調査とアザディスタンの治安維持だ。どちらもおろそかにするわけにはいくまい。」

『中尉……わかりました。』

『その代わり、ガンダムは任せますぜ!』

「フッ!無論そのつもりだ!!」

グラハムは二人と別れデュナメスのいる崖を目指す。

「おいおい……ユニオンはアザディスタン防衛が任務じゃないのか……?」

ロックオンはうんざりした顔でスコープを覗き込みカスタムフラッグに照準を合わせる。

「やっぱり俺らが目当てかよ!」

デュナメスの額の飾りが下にスライドし、狙撃用のカメラアイが現れる。
さいわい遮蔽物になるようなものがないところから向かってくるので簡単に撃ち落とせる。
ロックオンはそう思っていた。

「狙い撃ちだぜ!!」

デュナメスの構えたスナイパーライフルから光弾が放たれるが、敵は一瞬のうちに空中変形をして攻撃をかわす。

「なっ!?」

予想外の行動にロックオンは動揺する。
確かにフラッグは可変機構を持っているがあくまで地上での変形が前提だ。
空中での変形も可能かもしれないが下手をすれば機体はバラバラに分解してしまう。
しかも、通常のフラッグの何倍ものスペックを持ったフラッグであれをやれば機体が無事だったとしてもパイロット自身がただでは済まない。

「ぐぅぅぅ!!人呼んで……グラハムスペシャル!!」

グラハムはライフルを発射する。

「ハロ!!」

「了解!了解!」

ハロにライフルの弾を防がせている間にロックオンはヘルメットをかぶる。
そして、再びスコープからフラッグの姿をとらえる。

「二度目はないぜ!!」

スナイパーライフルから二発の光弾が放たれるが、フラッグは大きな動きでそれをかわす。
機体のスピードにパイロット自身も完璧にはついていけていないからかまるで巨人に掴まれて振り回されているような動き方だ。

「俺が外した!?何なんだこのパイロット!?」

「あえて言わせてもらおう……グラハム・エーカーであると!!!」

かわした勢いをそのままにグラハムは一気にデュナメスに接近してその顔面に強烈な蹴りをお見舞いする

「蹴りを入れやがった!!?」

カスタムフラッグは腕からソニックブレイドを抜いて大きく振りかぶる。

「チィ!!」

デュナメスも腰の後ろに装備されているビームサーベルを抜いて振り下ろされたソニックブレイドを受け止める。

「俺に剣を使わせるとは!!」

「身持ちが固いな、ガンダム!!」

デュナメスにはビームサーベルが装備されてはいたが、狙撃に特化した機体だということもあってロックオンは使うことはおそらくないだろうと踏んでいた。
だが、今こうして使わないと思っていたものを使わなければならないほど逼迫した状況にある。

「こいつで!!」

デュナメスはあいていた右手でビームピストルを抜いてその銃口をフラッグに向ける。

「何!?」

いくつもの弾がカスタムフラッグに近距離で炸裂するが、グラハムは距離をとって
ディフェンスロッドを使い直撃を避ける。

「な!?受け止めた!?」

だが、いくら対ビームコーティングが施されているといってもこの距離でくらえば流石に無事では済まない。
その証拠に左利きの彼のために右腕に装備されたディフェンスロッドはもはやボロボロで使えない。

「よくも……私のフラッグを!!」

自らの誇りを傷つけられたグラハムは激情に任せてデュナメスへと突進する。

「このしつこさ尋常じゃねぇぞ!!ハロ、GN粒子の散布中止、全ジェネレーターを火器に回せ!!」

「了解!了解!」

「たかがフラッグに!!」

ロックオンも二丁のビームピストルを構えて迎撃態勢をとる。
だが、グラハムのコックピット内に突然の電子音の後に声が響く。

『アザディスタン軍、ザイール基地よりMSが移動を開始。目的地は王宮の模様。至急、制圧に向かってください。』

「緊急通信!?」

一方、ロックオンも留美からの通信で状況を把握する。

「アザディスタン軍が!?」

二人は互いに武器を構えたまま相手の動向をうかがいながら動こうとしない。

「クーデターだとよ。どうする……フラッグのパイロットさんよ。」

「ようやくガンダムと巡り合えたというのに……口惜しさは残るが、私とて人の子だ。」

グラハムは悔しさに顔をゆがめながら操縦桿を倒してカスタムフラッグをデュナメスの背後の空へと舞い上がらせ、戦闘機へと変形させる。

「ハワード、ダリル、首都防衛に向かう!」

『『了解!』』

「ミサイルを発射したものは!?」

『MSらしき機影を見かけましたが、特殊粒子のせいで……』

グラハムは悔しさの残る顔のまま苦笑いをする。

「ガンダムの能力も考えものだな……」

そんなグラハムの乗るカスタムフラッグの後ろ姿を見ながらロックオンは一息つく。

「フゥ。一体なんだったんだアイツは?」

「オ仕事!オ仕事!」

少し緩んでいたロックオンはハロからの催促を受ける。

「あいよ。ところでユーノは無事なんだろうな……」






砂漠地帯

砂漠地帯は昼は灼熱の熱気に包まれるが夜は一転して激しく冷え込む。
そんななかなか植物も育たないような厳しい環境に長い影とそれにつき従うように近くを歩く小さな影があった。

「ひっくち!!もう、ヒクサー!なんでこんなところに来んのよ。ヒクサーはパイロットスーツを着てるから体温の調整も自由自在だろうけど、私はこんなに薄着なのよ?」

そう言って青髪の小さな少女は子供らしからぬ笑みを浮かべながらスカートをちらりとめくるが、長いコートを着た男は前を見たままクスリと笑う。

「だからしっかり着こんできたほうがいいって言ったのに。」

「だって~。そんなことしたらヒクサーが嬉しくないでしょぉ~。」

「どうしてだい?」

「えっ!?そ、それはまあ、その……」

少女は口ごもるのを見て男は再び小さく笑う。

「もう少しの辛抱だよ。もうすぐ彼が来るはずだから。」

「彼?」

男が空を見上げるのに合わせて少女も空を見上げる。
すると、自分たちのすぐ近くへと降りてくる光が見えた。

「あれって!?」

「そう、ガンダムソリッド……ヴェーダにとってこの計画における最もイレギュラーな存在、ユーノ・スクライアが乗る機体。そして……」

穏やかだった男の表情が一変して激しい憎悪に満ちたものへと変貌する。

「僕が最も消し去りたい存在、グラーベのまがい物が乗っている機体さ!」







某ホテル

アレハンドロとリボンズは夜の街に時折輝く光と、それとともに発生する煙を窓から見つめていた。

「避難しなくてよいのですか?」

リボンズがアレハンドロに問いかけるが、口元に笑みを浮かべながら振り返る。

「リボンズ、君も見ておくといい。ガンダムという存在を。」

そう言ってアレハンドロが再び窓の外に視線を向ける。
その先には闇にまぎれて街に近づく一筋の光が見えた。






市街地

瑠璃色の光とともにエクシアが市街地を練り歩く超保守派のアンフに降下していく。

「刹那・F・セイエイ、エクシア、目標を駆逐する。」

乱入者に気付いたアンフ達はエクシアに砲撃を開始するが、シールドと動きに阻まれて当たらない。
そして、接敵したエクシアはGNソードを振るってアンフを腰の部分で両断する。
残ったアンフが攻撃をしかけるが、エクシアはそれらをことごとく斬り捨てた。
その残骸を見つめていた刹那に留美から通信が入る。

「なんだ?」

『カズナ基地からもMSが発進。現在ケヒ地区を通過中よ。』

「了解。」

エクシアは空に浮かび上がると、報告にあったポイントへと向かっていった。







砂漠地帯

「ソリッド、安全地帯まで撤退完了。外部迷彩被膜を展開」

967は安全地帯まではこんだソリッドの中で眠り続けるユーノを見る。
いつもとは違い、穏やかな表情のまま目をつぶっている。
起きているときはなかなかこんな顔を見せないが、こちらが本来の彼でいつもはどこか強がっているような感じがする。
もっとも、そんなことは口が裂けても言えないが。
967がそんなことを考えているとユーノの眉間に少ししわがより、目の端から透明な雫が頬を伝って落ちていく。

「とう……さん………」

967はあくまでデータの集合体であり、涙を流すことはできない。
だが、悲しいという気持ちは理解できる。

「なのは……エレナ………」

「………大丈夫だ。俺はここにいる。お前を置いて、どこにも行きはしない。」

ハロボディの中から出てきた967は子供をあやすように優しく頭をなでる。
ホログラムだから触れはしないのだが、ユーノは元の穏やかな顔に戻る。
とその時、コックピット内で電子音が鳴り、モニターに外から見えないはずのこちらをじっと見る二人が写された。

「こいつは………!」

「ん………うっ……うぅ……96……7?ここは……?」

「ミサイルを防いだ時の衝撃で気を失っていたんだ。それよりも注意しろ。」

「注意しろって……!」

ユーノもこちらを見ている二人に気付く。
そのうち一人は見覚えがある。

「874!?なんでアイツがここにいるんだ!?もう一人は誰だ!?」

ユーノは疑問を一気に吐き出すが一番重要なことを思い出す。

「967、迷彩被膜は?」

「もう使ってる。」

「じゃあなんであいつらは……」

『出てきなよ。聞こえているんだろう?それとも大声でここにガンダムがいると叫んでみようか?』

男の言葉に二人は顔を見合わせる。

「出ていくしかないな。」

「そうみたいだな。967、お前はその中に入っておけよ。」

「……奴には無駄だと思うがな。」

967はユーノに聞こえないようにつぶやくとハロの中に戻る。
ユーノは迷彩を解くと967を持ってハッチを開けて外へ出て彼らのもとへと歩み寄る。
男はにこやかな顔をしているが、隙が見当たらない。
一方、874に瓜二つの少女のほうは退屈そうに唇をとがらせていたが、ユーノの視線に気付くと「ベーッ!」と赤い舌を突き出した。

「はじめまして、ユーノ・スクライア。さっそくだけど君の相棒をこっちに渡してもらおうか。」

「まともに教育受けてないのかお前は?用件言う前に名前を言え。」

「何よあんた!!ヒクサーが頼んでんだから大人しくそいつをよこしなさいよ!!」

「黙れチビジャリ。お前も礼儀をわきまえろ。」

「なんですって!?」

「887!」

男が少女を止める。

「失礼、確かにそうだね。僕の名前はヒクサー・フェルミ。このチャーミングな子は887(ハヤナ)。」

「チャーミングなんて………そんな、ヒクサーこんなところで大胆……♥」

「あんた頭ん中大丈夫か?いい医者紹介するよ。」

「どういう意味よ。」

「そういう意味。」

「お話中悪いけど、僕の要件を聞いてくれるかな?」

ヒクサーは笑みを崩さずにユーノに歩み寄る。

「君は知っているはずだ。君が今持っているそのマシーンの正体を。」

(!!)

ユーノは動揺するが表情は崩さない。

「なんのことだか。」

「隠したって無駄よ、ボーヤ。ヒクサーは知ってるんだから。そいつがグラーベ・ヴィオレントのまがい物だってことに。」

「………ユーノ、こいつらはもうすべて知っている。」

967はハロのボディから出てくる。
その姿を見てヒクサーは顔を怒りで歪ませる。

「ホントにそっくりだ………ああ、そうだ。だからこそ許せない!!」

ヒクサーは懐から銃を取り出してハロボディに向ける。

「させるか!」

「こっちのセリフ!!」

ユーノもヒクサーに銃を向けようとするが887に銃を持った手を蹴りとばされる。

「クッ!!」

ユーノは967の前にかばうようにして立つ。

「こいつはやらせない………何があっても!!」






ケヒ地区

刹那は指定されたポイントの近くの上空を飛んでいた。

「ん?あれは……」

指定ポイントから上がる煙に刹那は嫌なものを感じる。
そして、丘陵地帯を越えてそれがはっきりと見えたとき、刹那は言葉を失った。

「!!」

瓦礫と火の手で溢れかえった街を見て刹那はあの時の光景とそれを無意識にだぶらせる。

長い顔をしたMSが一方的に人間を蹂躙していく姿。
それでも逃げようともせずにMSに向けて発砲する人々。
その中には小さな子どもたちも交じっている。
そして、下半身や上半身のない死体や腕がもがれて呻いている者。
何もかもがあの頃の自分の見たものと、あの頃の自分と同じだった。

「ッッ!!エクシア!!!」

刹那の中でなにかが弾け飛んだ。
GNソードをライフルモードに変えて上空から銃撃を開始する。
そして、当たって体勢が崩れたアンフめがけて刃を起こしたGNソードを振り下ろす。
そのまま残りのアンフにも荒々しい動きで斬りかかる。
その場にいたアンフを全機撃墜してGNソードをライフルモードに戻してアンフの残骸へと目を向ける。
だが、刹那の視線はすぐさま別のものに移った。
自分が通ってきた道にたくさんの子供たちが倒れていた。
彼らは黒い煤をつけたままピクリとも動こかない。

(なぜだ…………?)

あの時、自分はガンダムに救われた。
そして今、自分はその力を手にしている。
なのに、彼らを救えなかった。

呆然と立ち尽くすエクシアに別の場所から現れたアンフ達が攻撃をくわえてくる。
エクシアはそれらをすべて受けるが、それでもまだ動かない。
だが、その攻撃の振動を感じながら刹那は震えていた。
こんな行いを続ける者たちに、そして、力を手にしたのにあの時のガンダムように救うことができなかった自分に対してとどまるところを知らない怒りが湧き上がってきた。

「うううあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

朝焼けの街に刹那の悲しい咆哮が響いた。











一時間後、デュナメスが到着したときにはすべてが終わっていた。
まともな形をとどめているものは建造物、人間ともに少なく、慣れていない者ならその様子を見ただけで胃の中のものをすべて吐き出してしまいそうな光景だった。

「こりゃひでぇ……」

「エクシア発見!エクシア発見!」

この惨状を見ながら顔をしかめるロックオンにハロはエクシアをモニターに映して見せる。
周りにはガンダムセブンソードと呼ばれる所以であるGNブレイドやGNダガーが散らばっていた。
だが、エクシアはそれらに目を向けるずにただ黙って立っていた。

「刹那…………」

ロックオンは通信を入れようとしたハロを止めた。
今の刹那に、かける言葉が見つからない。
ユーノならこんな時にもなにか言ってくれるのだろうが、自分はそこまで器用じゃない。
ロックオンは黙って周辺の警戒に入った。

刹那はデュナメスが来たことにも気付かずにコックピットの中でうつむいていた。
そして、唇をかみしめながらやっとの思いで言葉を吐き出した。

「俺は……ガンダムになれない……!!」









少年はあの日の天使にあこがれた。
たとえそれが遠く、険しい道だったとしても。







あとがき・・・・・・・・・・という名の拷問

ロ「アザディスタン編1でした。」

兄「またヒヤヒヤ設定出したな。いきなりヒクサー&887登場かよ。」

ロ「一応967のキャラ付けが決定した時点でヒクサーとの絡みはいれるつもりだったからな。」

9「しかし、この時点のヒクサーと887は何してたかわからないのだろう?」

ロ「そこは二次創作だっていうのと妄想を加速させてだね………」

ユ「お前の脳みそがとてつもなく腐ってるってことがよくわかったよ。」

ロ「うっさい!」

刹「ゲストを紹介するからそこまでにしておけ。今回のゲストは元アースラ艦長、糖尿病予備軍、リンディ・ハラオウンだ。」

糖「は~い、リンディです。ちなみに美しい女性はどれだけ甘いものを食べても病気にはならないのよ♪」

兄「あんな飲み方してる時点で舌が病気だと思うが。」

糖「あら、そんなこと言わずにおひとつどうぞ♪」

元艦長、角砂糖で埋もれたミルク入り抹茶を出す。

兄「………これもうお茶じゃなくてお茶シロップって呼んだほうが正しい気がする。」

糖「さ、遠慮なく。」

兄「遠慮以前の問題だろ。こんなもん……」

糖「遠慮なくどうぞ。」

兄「いや、そんな口元にグリグリ押しつけられても………」

糖「どうぞ。」

兄「ちょ、なにバインド使って………ぐああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

ユ「……さ、尊い犠牲が出たところで解説に行きます。」

9「そう言えばまたお前はフェレットになってたな。」

ユ「やめて。人の傷口に塩を塗りたくらないで。」

ロ「なんかユーノは誰でもいいから肩に乗せたくなるんだよな。なぜか。」

刹「なんとなくわかる気がするな。実際、乗せてて悪い気はしなかった。」

ユ「そんな俺はいつの間にかソリッドに乗っちゃってるし。」

ロ「そこは各自想像力を働かせて下さいませ。」

9「………思いつかなかったんだな。」

ロ「………スンマセン。」

兄「しかもヒクサーとの絡みを中途半端なところで終わらせちまうし………ゲフッ!」

ロ「それは最初からそうしようと思ってたんだ。中途半端に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、後半でみっちりやるためなのでお許しください。」

糖「そう言えばいるはずのフォンさんが出てきてなかったわね。」

ロ「アザディスタン編が終わったらオリミッションで出す予定なのでここで使うのはどうかと思って出せなかったんだ。正直出すべきかどうかかなり悩んだ。」

ユ「出せばいいのに。」

ロ「勘弁してくれ。オリでアブルホールを使いたいからここではだしたくねぇんだよ。」

兄「別の機体で出せばいいものを。」

9「ここで議論しても仕方なかろう。」

糖「それもそうね。さて、次回予告に行くわよ。」

ユ「戦闘から一夜明け、緊張感がピークに達したアザディスタンは崩壊一歩手前に追い込まれる。」

兄「そんな中、刹那は自分にできることに取り組んでいく。」

刹「そして、ユーノとヒクサー、そして、グラーベの記憶と人格を受け継ぐ967の関係はどうなるのか。」

9「各自の思惑が交錯する中、マスード・ラフマディーの救出は成功するのか!?」

ユ「そして、刹那はガンダムになることはできるのか!?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!じゃ、せーの……」

「「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」」



[18122] 19.聖者の帰還
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/07/04 09:53
西暦2307年 USA ニューヨーク

ソレスタルビーイングが介入を開始した時、ヒクサーはアメリカにいた。
今まさにエクシアがAEUの軍事演習に現れたところなので誰一人としてソレスタルビーイングの存在を知らない。
だが、ヒクサーの目にはすべてがありありとうつされている。
そんな時、気になるデータがヴェーダから送られてきた。

(これは………?)

今回の介入行動に参加しているユーノ・スクライアをサポートしている自立AIに関するデータ。
今回の介入においてさほど重要なものとは思えずに無視しようとした時、そのデータの中で彼は気になる名前を見つける。

(グラーベ……?なぜ彼の名前が……)

ヒクサーはそのデータをさらに詳しく調べ、愕然とした。
ソリッドに乗っているそれは自らの手で殺してしまった彼の人格と記憶を引き継いでいるというのだ。

「馬鹿な!そんなことが!」

「ふにゃ…………?」

ヒクサーは座っていたベンチから勢いよく立ちあがる。
隣で寝ていた887がうっすらと目を開けて彼の顔を見る。
いや、887だけではない。
街を行きかう人々も突然大声を出して立ち上がったヒクサーに視線を向ける。

「どうしたのヒクサー?いきなり大声出して?」

「………887、少しやらなきゃいけないことができたよ。」

ヒクサーは887のほうを向くことなく話す。

(なぜヴェーダがこんな情報を僕に……?いや、一番の問題はそれじゃない。)

そう、彼にとって一番気にしなくてはならないことはそれではない。
彼にとって大切な、かわりなどいるはずのないグラーベのコピーがこの世に存在し、彼の命をもてあそんでいることが許せない。

「………ヒクサー?」

ヒクサーがようやく887に目をやると、彼女は不安そうに彼を見ていた。

「ああ、ごめん887。僕は大丈夫だよ。」

ヒクサーの言葉を聞いて887はニパッと笑う。

「よかった♪それはそうとこれからどうするの?やらなくちゃいけないことって?」

「その時がきたら話すよ。そう………チャンスがきたらね。」

二人は話をしながら人ごみの中へと消えていく。
ソリッドに、グラーベのまがい物に会うその日を待ちわびながら。




魔導戦士ガンダム00 the guardian  19.聖者の帰還

アザディスタン王国 砂漠地帯

刹那たちが保守派の進軍を止めているころ、ユーノと967はヒクサーに銃口を向けられて動くに動けない状況にあった。
ユーノは967の前に立ち、両手を広げて仁王立ちをする。

「どいてくれないかな?僕はそのまがい物を壊したいだけなんだ。ガンダムマイスターである君を撃つわけにはいかない。」

「だったらこいつを殺すのもご法度なんじゃないか?こいつはマイスターである俺のパートナーなんだぜ。」

「ユーノ………」

「っっ!わかっていないな。僕のこの行動はヴェーダが容認しているんだよ。」

「なに?」

ヒクサーの含み笑いを見てユーノがいぶかしげな顔をするとヒクサーはコートの首元をめくって見せた。
そこにはフォンがつけていたものと同タイプの小型爆弾がつけられていた。

「それは………!」

「わかったかい?もしこの行為が認められていないなら僕の首はとうの昔に吹き飛んでいる。」

「つまりそいつをぶっ壊してもノープロブレムってわけ。」

「これでわかったろう。それを壊しても何の問題もない。君は新しいパートナーを作ればいいだけだ。さあ、そこをどいてくれ。」

「ユーノ、もういい。どいてくれ。」

967の言葉を聞いたヒクサーは穏やかな笑みを向けながら、しかし、憎悪に満ちた心に従い、引き金にかけた指に力をかけていく。
だが、それでもユーノはどかない。

「悪いけど967を殺りたいんなら俺を殺すんだな。もっとも、簡単に死んでやるつもりはないけどな。」

「ハッ!あんたバッカじゃない!?」

887は967をかばうユーノを鼻で笑うと得意げに話し始める。

「そいつは機械なのよ。代えのきく部品みたいなもんなのよ。いちいちそんなもんのために命をかけるなんてとんだアホね!!」

「…………………」

ユーノは黙っているがその顔は徐々に怒りに満ちていく。
そんなことには気づかない887はここぞとばかりにユーノを罵倒する。

「そんなことでよくマイスターになれたわね。あ、そっか!あんたを拾ってくれたあの馬鹿な小娘が死んじゃったもんね~。なんだかんだ言いながら結局は復讐にはしって勝手に死んでったあのお子ちゃまのおかげで何とかマイスターになれたんだもんね~。そんな落ちこぼれ君じゃまともにものを考えられないのも当然かぁ。キャハハハハハハハ!!」

「887、言いすぎだよ。」

ヒクサーにたしなめられると887はプーッと頬を膨らませるが反省している様子はない。

「………最後にお前らに言っといてやる。」

「「?」」

「………お前らは俺がこの世で何よりも許しがたい行いを二つした。」

「負け惜しみ?普段なら聞かないんだけど今回は特別に聞いておいてあげるわ。」

「一つは俺の相棒を、967を物扱いしたばかりか、殺そうとした。」

「事実を言ってやっただけじゃない。」

「そして、もう一つは……アイツを………エレナの覚悟と死を侮辱したことだ!」

言い終わるのが早いか、ユーノの足元に萌黄色の魔法陣が展開され、続いてヒクサーと887の足元にも魔法陣が発生したかと思うと、そこから出てきた光の鎖が彼らを拘束した。

「「!!?」」

二人が事態を飲み込めずにいると、ユーノがヒクサーめがけ突進していく。

「はあああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

「グッ!!」

ヒクサーの顔にユーノの拳が打ちこまれ、その衝撃から銃が手放されてしまう。

「ヒクサー!!」

887が悲痛な叫びをあげる中、ユーノはヒクサーの銃を左手に、そして右手に小さな魔法陣を作り、そこから出した鎖で887に蹴りとばされた自分の銃を器用に自身の上に跳ねとばして回収する。
そして、鎖にぐるぐる巻きにされて横たわる二人に銃口を向けた。

「形勢逆転だ。」

「クソ!なんなのよこれ!?」

887は理解不能な状況に混乱して喚くが、ヒクサーはあくまで冷静に自分を縛り付けるものを観察する。

「これは一体何だい?君がやったんだろう?」

「ちょいと小粋な手品の一種さ。あんまし人に見られるのは好きじゃないんだけどな。」

「それじゃ手品とは言えないな。手品や見世物は人に見られてこそ手品と言えるものだよ。」

「ま、確かにそういうものかもな………。さて、お喋りはここまでだ。967とエレナを侮辱した罪を償ってもらおうか。」

ユーノは引き金を引こうとする。
だが、

「待て、ユーノ。」

「?」

967にとめられ、ユーノは後ろを向く。

「そいつを、ヒクサー・フェルミを始末する必要はない。」

「おいおい……命を狙われた奴の言うことじゃないぞそれ。」

「ここは俺に任せてくれないか?」

967ヒクサーの前まで歩いていく。

「ユーノ、こいつらの拘束を解いてくれ。」

「967、それは流石に………」

「頼む。」

サングラス越しの967のまっすぐな視線にユーノはしぶしぶバインドを解除する。
ヒクサーと887は服についた砂を払いながら立ち上がり、967を厳しい表情で睨む。

「ヒクサー・フェルミ、確かに俺はグラーベ・ヴィオレントの人格や記憶を有している。そういった意味ではお前たちの言う通り、コピーと言ってもいいのかもしれん。」

「そうだ。だからこそ僕は君を………」

「だが、俺はグラーベではない。ヴェーダの道具でもない。」

「!!………ずいぶんとおかしなことを言うんだね。君はヴェーダによって計画のためだけに創りだされた存在だというのに自分の意志を主張するつもりかい?」

「確かに以前の俺なら否定していたかもしれないな………。だが、ユーノは俺を仲間だと、相棒だと言ってくれた。自分の意志を持つことの意味を教えてくれた。だから、俺はたとえヴェーダから与えられた任務を放棄してでもユーノとともに戦い抜く……そう誓った。」

「967………」

「………だが、それでも僕は君の存在が許せない………!グラーベの命をもてあそんだ存在である君を許すことはできない!」

「………なら、グラーベはお前にこんなことをさせるためにあの時、あの言葉をかけたのか?」

「!!」

「グラーベ・ヴィオレントとしての最後の言葉は、俺を破壊するために言ったわけでも、お前をヴェーダの目にするためでもないはずだ。」

967の言葉にヒクサーは俯く。

「グラーベの願いを知ってもなお俺を殺したいのならそうしろ。だが、それがきっかけでお前の苦しみが増すのなら、俺はお前に殺されてやるわけにはいかない。」

「……………なら、僕はどうすればよかったんだ………グラーベをこの手であやめ、君を知った時、僕はどうすればよかったんだ!?」

「………自由に生きればよかったんじゃないか?」

ユーノが不意に口を開く。

「詳しい事情は知らないけどさ、きっとそいつはあんたに自由に生きていて欲しかったんじゃないのか?自分のせいであんたに苦しんで欲しくなかったんだよ。」

「けど、僕は彼を………」

「だ~か~ら~!そんなふうに引きずって欲しくなかったんだろ!あんたホントにそいつに悪いと思ってんなら自分の思うように生きてみろよ!!」

「……………」

「ちょっとあんた!さっきからべらべら偉そうに……」

「887、いいんだ。」

ヒクサーは顔を上げる。
そこにはいつものヒクサーの笑みがあった。

「………今からでも、間に合うかな?過去にとらわれずに自分らしく生きていくことができるかな?」

ユーノはその言葉を聞いてフワリと笑い返す。

「できるさ。なんならお手本を紹介してやるよ。………もっとも、そいつの場合はホントに自由すぎて参ってるがな。」

フォンのことを思い出してユーノは苦笑する。

「へぇ……その人に一度会ってみたいね。」

「あんまりお勧めしないがな。」

二人は小さく笑う。

「………また、会えるかな?」

「どっちも生きてればな。」

「っっ!それはそうだ!」

ヒクサーは最後にいつもの彼のように声を殺して笑うと、887の手を引いてその場を離れようとした。
しかし、887はヒクサーの手を振りほどいてユーノ達のもとに戻る。

「887?」

「先に行ってて!こいつらに少し話があるから!」

「そう……」

ヒクサーは先にスタスタと歩いていってしまう。
そんな中、887はユーノに歩み寄る。

「わかってると思うけど、私はあんたたちのことが大っきらいよ。」

「奇遇だね、俺もだ。」

「でも……ヒクサーを元気にしてくれたことには礼を言うわ。ヒクサーがあんな風に笑うとこ初めて見た。」

887はそう言うとそっぽを向いてしまう。
しかし、真剣な顔ですぐにこちらに向き直る。

「お礼にいいことを教えてあげる。あんたやそいつに興味を持ってるのはなにもヒクサーだけじゃないわ。ヴェーダにアクセスできるやつ全員があんたたちの動向を気にしている。下手に動けば厄介なことになるから気をつけておきなさい。」

887はそれだけ言い残すとさっさとヒクサーのところに走っていってしまった。

残されたユーノと967はソリッドに乗り込むと市街地の近くのポイントへ向けて出発した。

「………聞かないほうがいいか?」

「何がだ?」

「アイツとグラーベ・ヴィオレントの間に何があったか……だよ。」

「………いつかゆっくり話す機会があったら話してやる。」

「フッ……OK、期待しないで待ってるよ。」






一方、朝焼けに染まり、気温が高くなってきている砂漠をヒクサーと887は歩いていた。

「彼が気にいったのかい?」

「な!?いきなり何言ってんのヒクサー!?なんで私があんなあまちゃんのことを……」

「887は嘘をついていると頭の飾りがピクピク動くんだよ。」

「うそっ!?」

887は慌てて頭をぺたぺた触るが、その様子を目を細めて眺めるヒクサーを見て気付く。

「嘘だよ。」

「もう!ヒクサー!」

「また会えるといいね。」

「だから私はそういうわけじゃ!!」

「さて……彼の性格とこの後のこの国の状況を考えると少し根回しが必要かな?」

「誤魔化さないでよ!!」

生物のいない空間に887の大きな声とヒクサーの控えめな笑いがいつまでも聞こえていた。






アザディスタン王国 市街地

『アザディスタン第一王女、マリナ・イスマイールです。みなさん、どうか落ち着いてください。神に与えられし契約の地で国民同士で傷つけあうのはあってはならないことです…………』

あちこちがボロボロの状態のままラジオやテレビからマリナのよく通る声が街中に響いていた。
だが、保守派の人間からすれば憎い敵がおおっぴらに喋っているに過ぎず、改革派の人間もその話をまともに聞ける状況にあるのはわずかな人数であり、聞いていた者たちも街の惨状を見ていると彼女の言葉が空虚なものに思えて仕方なかった。





王宮

「マスード・ラフマディーの行方はまだわからないの?」

「ユニオン軍と共同で鋭意捜索中。けど、まだまだ時間がかかりそうよ。」

「………そう。」

普段ならいないはずのSPが扉を固めた部屋の中で二人は深くため息をつく。
なんとかこれ以上の混乱を避けるために自ら国民にメッセージを発信したが、混乱が収まる見込みはなかった。

(状況は最悪ね………受信アンテナは破壊され、国連の技術者たちも撤退………しかもソレスタルビーイングにまで介入されてしまった。)

シーリンは疲労の色を隠せないマリナをしり目に考えにふける。

(この状況を打開するにはマスード・ラフマディーを保護するしかない。そうするしか………)

しかし、こんなことを考えたところで自分たちにないもできないことはわかっている。
それでも、いや、だからこそ考えなくてはいけないのだ。
この国を守るために。



しかし、シーリンとは違い、マリナは以前あった二人の少年のことを思い出していた。

『戦争が起これば人は死ぬ。』

『戦う理由があれば誰だって戦士だ。』

こんなことを考えている場合ではないと思っても、彼らの言葉が頭の中をグルグルと駆け巡って離れようとしない。
そんな思考の海の中、マリナはただマスード・ラフマディーが救出されたとの知らせを待ち続けていた。







アンテナ施設付近

昨晩の戦闘でソレスタルビーイング、ユニオンのどれでもない第三勢力が内紛を助長している可能性が示唆されたので、刹那はアンテナ施設を破壊したミサイルが発射されたと思われる場所に来ていた。
そこは昼間にもかかわらず人っ子一人おらず、昨晩あれだけ激しい戦闘が行われていたとは思えないほどだ。

「ロックオンの情報だと、この辺りからミサイルが発射されたようだが………」

刹那は地面に計測用の端末を近づけてさまざまな数値を計測する。

「残留反応……?確かにここにMSがいた……しかし、どこに……」

刹那は立ち上がり計測しながら小さな崖になっている場所へと歩いていく。
と、その下にフラッグと二人の人影を見つけた刹那は岩陰に隠れ、様子をうかがう。

「ユニオン?奴らもここの捜索を?」

「回収したポッドもそうだけど、この反応はやはり間違いないね。」

「PMCトラスト側の見解は?」

「モラリアの紛争時に紛失したもの……」

軍服を着た男が白衣を着た男の話を手で制止すると、鋭い視線を刹那がいる岩陰に向ける。

「なんだい?」

「……立ち聞きはよくないな。」

(ッ!?見つかった!)

「出てきたまえ!」

刹那は慌てることなく、訓練の通りに一般人を装って岩陰から出ていく。
弱気な少年を演じながら彼らの前に姿を現した刹那は両手をあげて無抵抗の意志を示す。

「地元の子かな?」

「どうかな。」

白衣の人物は疑っていないようだが、軍服を着た男は警戒したままだ。

「あ、あの……僕、このあたりで戦闘があったって聞いて、それで……」

刹那はあくまで興味本位でここを訪れたと思わせようとする。
この国の出身である刹那だからこそできるカモフラージュだ。

「なるほど。」

白衣の男はフムとうなずく。

「そういうことに興味を抱く年頃であるのはわからなくはないけど、このあたりはまだ危険だよ。早く立ち去ったほうがいい。」

白衣の男は刹那のことを信じているようだが、刹那は白衣の男と話している間も軍服を着た男が気になっていた。
会った時から鋭く自分を睨みつけ、疑っていることがまるわかりだった。
これ以上疑われないためにも早くここから立ち去ったほうがいい。

「はい、そうします。失礼します。」

刹那は一礼すると、彼らに背を向けて歩きだそうとした。
その時、

「少年。」

軍服の男に声をかけられた刹那は凍ったように固まる。

「君はこの国の内紛をどう思う?」

「え?」

自分のことを探っているのか……?
さまざまな推測が刹那の頭の中を埋め尽くす。

「グラハム……?」

「この国の内紛をどう思うかな?」

鋭い視線を背に受けながら、刹那は脳をフル回転させる。

「ぼ、僕は……」

「客観的には考えられんか。なら、君はどちらを支持する?」

その時、刹那はハッとし、ある答えにたどりつく。
この状況から逃れるためでなく、自分が素直にそう思った答えを彼に告げる。

「……支持はしません。どちらにも正義はあると思うから。でも、この戦いで人は死んでいきます…………たくさん、死んでいきます………」

マイスターとしてではなく、素の自分の考え。
戦うことしかできない道にいるからこそたどりついた、自分なりの答え。
今の自分と矛盾していることはわかっている。
答えにもなっていないこともわかっている。
だがそれでも、悩み抜いた果てに導いた刹那だけの答えだ。

「………同感だな。」

軍服の男は目をつぶって答える。

「……軍人のあなたが言うんですか?」

「この国に来た私たちはお邪魔かな?」

子供のように無邪気な、それでいて凛々しい男の笑みを見て刹那は少し気を緩める。

「だって……軍人がたくさん来たら、被害が増えるし……」

「君だって戦っている。」

「え!?」

刹那に再び緊張がはしる。

「後ろに隠しているものは何かな………?」

「ッ!!」

男の笑みが鋭いものに変わり、刹那の後ろにやった手に注目する。
その手には、銀色に光を反射する銃が握られていた。
刹那はそれまでの気弱な表情から一変して、鋭い顔つきに変わる。

「怖い顔だ……」

二人はそのまま睨みあうが、軍服の男は一息つくと隣にいた白衣の男に話しかける。

「カタギリ、一昨日、ここから受信アンテナを攻撃した機体はAEUの最新鋭機、イナクトだったな。」

「!?」

刹那は思いがけない情報に、そして、自分の前で話し始めた男に驚く。

「いきなり何を……?」

カタギリと呼ばれた白衣の男も驚くが、それでも男は話すことをやめない。

「しかもその機体は、モラリアのPMCから奪われた機体らしい。」

そこまで話すと、男は満足そうに一息つく。

「撤収するぞ。」

「あ、ああ……」

男は素早く背を向け、フラッグのもとに歩いていった。





その後、刹那はしばらく動かずに彼の言葉を反芻していた。

「PMCのイナクト……?」

そして、刹那はハッとする。

「………まさか!?」

あの時、イナクトの中から姿を現した赤髪の男、アリー・アル・サーシェスのことを思い浮かべる。

「奴が……あの男が、この内紛にかかわっている……!?」

奴はもう戦いが終わったこの国に用はないはずだ。
なのにまた、戦いを引き起こしている。

「なぜだ……?なぜ、今になって……」

だが、もしそうだとすれば、奴がいるかもしれない場所は、いや、いるであろう場所はあそこだ。






市街地

爆音と銃声が支配する街にユーノはいた。
ヒクサーと別れてから、再びフェレットになって情報収集にあたろうとした時、街から火の手があがるの見たユーノはすぐさま駆けつけた。
そこはまさに地獄絵図だった。
車や建物が燃え盛り、多くの人が血の海に沈んだまま放置されていた。
その様子をユーノは唇をかみしめながら見ていた。

(………同じだ。どこにいたって、人間なんてそう大差なんてない………!!)

自分にとって始まりの場所。
記憶のない自分が本能的にガンダムを欲するきっかけを作ったあの場所とまったく同じだ。
信仰のために他者の命を平然と奪うものたち。
そこに正義のためと言って介入しながら、誰も救おうとしない者たち。
人間のもっとも醜い面を寄せ集めた最悪の場所だ。

「何してんだよお前ら………!こんなことして、何にも感じないのかよ!?そんなに信仰って奴が大切なのかよ!?人の命より重いっていうのかよ!!?」

ユーノが叫んだその時、近くの商店から銃の発砲音が響いた。
ユーノはそこに駆けつけると数人の男が店の金や品物をバッグいっぱいに詰めて飛び出してきた。
男の一人は外に出ると店の中にいるなにかに銃を発砲した。

「待て!!」

ユーノは男たちのあとを追おうとするが、店の中からかすかに聞こえる鳴き声に足を止める。
そして、店の中に入ると、赤ん坊を抱いた女性が焦点の定まらない目のまま倒れていた。

「大丈夫………!!」

女性を仰向けにしたとき、ユーノは絶句した。
腹部にはいくつも穴があき、そこから蛇口をひねったかのように血が零れ落ちていた。
女性の抱いていた赤ん坊は血にまみれてはいたが無傷だった。
だが、このままでは母親は間違いなく死ぬだろう。

「大丈夫だ!お前の母さんは絶対助けてやる!!お前を絶対に一人になんてさせやしない!!」

ユーノは近くにあった石をバインドを利用して銃創に固定して止血すると、続いて回復魔法を使いながら、持ち歩いていた簡易救急キットによる治療を開始する。

「マ……マリナ……さま……」

女性はかすれた声でマリナの名前を呼ぶ。

「マリナ様じゃなくて悪いね!けど、治療してんだから文句は言いっこなしだ!!」

ユーノは軽口を叩きながら治療をするが、女性の呼吸は徐々に弱まってくる。

(クソ!やっぱり俺には何もできないのか!!?こいつも俺と同じような運命にさせちまうしかないのか!?)

ユーノが諦めかけたその時、店の前に車が止まる音がした。
そして、車から降りた二つの影が扉から中に入り、ユーノに近づいてくる。
ユーノは慌てて魔法を解除して二つの影を待ち受ける。

「君……」

「悪いけど取り込み中だ!殺したいんならせめて後にしてくれ!」

「見たところ君はこの国の人間じゃないな。ここは危険区域だ。君を保護させてもらう。」

ユーノが治療をしながら後ろを向くと、白衣に眼鏡をした男、ビリー・カタギリと青いユニオンの軍服に身を包んだ金髪の男、グラハム・エイカーが立っていた。






数分前

「グラハム!流石にこれは無理があったんじゃないかい!!?」

あちこちで爆炎があがる中、カタギリは飛び交う弾丸を避けるために頭を低くしながら、こともなげにジープを運転するグラハムに叫ぶ。

「そうかもしれないな!!だが、放っておくわけにもいかない!!」

グラハムはアクセルを踏み込もうとするが、ふと一軒の商店に目がとまる。

(あれは……?)

中にこの国の人間の来ている服とは明らかに違うものを着た少年がかがんでなにかをしている。
グラハムはその商店の前にジープを急停止させる。

「グラハム?」

「行くぞ、カタギリ。」

「おいおい、ちょっと……」

カタギリはグラハムを止めようとするがグラハムは扉の向こうに行ってしまう。
仕方なくカタギリもついていくと、灰色のジャケットを着た少年がこの店の住人と思われる女性の治療をしていた。

「君……」

「悪いけど取り込み中だ!殺したいんなら後にしてくれ!」

カタギリが少年に話しかけるが、少年はこっちを見ずに答える。
二人は顔を見合わせると、続いてグラハムが言葉を放つ。

「見たところ君はこの国の人間じゃないな。ここは危険区域だ。君を保護させてもらう。」

少年はこちらを向くと軽蔑のまなざしを向けた後、再び治療を開始する。

「聞いているのか?すぐに我々とここを離れるんだ。」

「あんたらユニオンか?こんな状況で誰も助けないで、よくもまあえらそうに……」

少年の言葉にカタギリが苦笑する。

「耳が痛いね。だが、ここにいたら君も危険だ。」

二人は話をしながら少年を観察する。
長く美しい髪によく通る声も加わると女性と間違えるものがいてもおかしくないと思えてきてしまう。
だが、その中性的な容姿からは想像できないほど固い決意がうかがい知れる。

同行することを拒み続ける少年に対してカタギリはある提案を持ちかける。

「その人を本当に助けたいと思うのなら、僕たちとここを離れるのが得策だと思うよ。もちろん、君達の安全は保障する。」

「……ガンダムが目的でやってきた奴らがよく言うぜ。」

「確かに我々の任務はガンダムの調査だ。だが、同時にアザディスタンを救いたいと思う気持ちがあるのもまた確かだ。少し強引だが失礼する。」

グラハムは少年の背中と両足に自らの両手を滑り込ませて持ち上げるとジープへ歩いていく。

「な!?離せ!!」

「世話を焼かせないでもらおうか。」

「グラハム、急いでくれ。この傷だと長くは持たない。」

「了解した。」

グラハムとカタギリは強引に少年と負傷した女性とその子供をのせると難民キャンプに向かってジープを飛ばした。






難民キャンプ

ユーノ達が難民キャンプにつくとすぐさま医療スタッフが女性の治療に取り掛かった。
ユーノの治療が適切だったおかげか女性はなんとか一命を取り留め、今は安静な状態で子どもとともに眠っている。

「よかった………」

ユーノが安堵のため息を漏らしていると、グラハムとカタギリが歩いてきた。

「君の初期治療がなかったら助かっていなかったそうだよ。」

「君のお手柄だ、レディ。」

グラハムのレディ発言にユーノのこめかみに青筋が浮かぶ。

「……おれは男だ。」

「な!?そうだったか……それは失礼した。」

「だから男の子だって言ったのに……」

「別にいいけどさ、慣れてるから。」

ユーノは泣きたくなったが、グラハムとカタギリの顔つきが真剣なものに変わったことに気付くと、警戒を強める。

「さて、世間話はここまでにして……。君のことについて話してもらおうか。」

「君はどうしてあんなところにいたんだい?見たところこの国の人間でもユニオンの人間でもないようだが?」

「………………………」

「だんまりか。だが、私の部下に君のことを調べるように言ってある。黙っていてもすぐに君が何者なのかわかるぞ。例えば………君がソレスタルビーイングの人間だということもな。」

(ばれた!!?)

ユーノはポーカーフェイスをかろうじて保つが、手のひらにはじんわりと嫌な汗がにじんでいく。

「グラハム、悪ふざけが過ぎるよ。」

カタギリにグラハムを注意するのを見てユーノは安堵する。
だが、

『中尉、詳細が判明しました。』

グラハムが持っていた端末から声が聞こえた瞬間、再び緊張で固まる。
ユーノに関するデータはどこにも存在していない。
もしそのことがわかれば間違いなく彼らは疑いの目を向けてくるだろう。
しかも先日ガンダムでの戦闘があったばかりなのだ。
下手をすればガンダムマイスターであることがばれる可能性もある。

(………やるしかないのか!?)

ユーノはジャケットの下から銃を取り出そうとする。
だが、その必要はなかった。

『彼はNGOのメンバーの一人です。アザディスタンの救済に訪れていたようですが、退去勧告を受けていなかったようです。』

(NGO!?どうなってるんだ!?)

『主催者の名前はハヤナ・フェルミ、ギリシャの投資家らしいです。』

(!あいつら………)

名前から察するにヒクサー達がなにか根回しをしたようだ。

(しかし、よくこんな短時間でこんな無茶なこじつけを………)

『彼の名前はユーノ・スクライア。彼女の企画する事業のもとで技術者をしているそうです。』

「ユーノ!?」

カタギリが突然大声を出したのでその場にいた全員が作業をやめて彼らを見る。

「カタギリ、彼のことを知っているのか?」

カタギリは呆けた顔で自分を見る二人に気付く。

「ああ、大きな声を出してすまないね。グラハムには言ってなかったかな?彼はクジョウの仕事仲間だよ。なんでも、凄腕の技術者だとか。」

「ほう……」

グラハムは感心した様子でユーノをまじまじと見るが、ユーノは知らない人間の名前を出されて少々困惑気味だ。

(クジョウ……メンバーの誰かの本名か何かか?)

「君もクジョウから何か聞いていないかい?もっとも、僕は君の毛嫌いする兵器開発にかかわる人間だけどね。」

苦笑するカタギリにユーノは慌てて手を振って否定する。

「い、いえ!嫌いなんじゃなくて、俺のせいで誰かが傷つくのが嫌だって言うだけで……」

「ハハハ……無理はしなくていいよ。僕自身も自分で自分が嫌いになる時があるからね。でも、僕は自分の作ったものがいつか本当に争いをなくせると思っていたいんだ。」

「…………………」

ユーノはバツが悪くなってカタギリから視線を外す。
そう、誰だって平和を望んでいるはずなのだ。
自分たちだけではない。
みんながそれぞれのやり方で平和を勝ち取ろうとしているのだ。

「大丈夫かい?本当に気にすることはないよ。本来、戦いを嫌うのが人間のあるべき姿だからね。」

「すいません……」

「さて、暗い話はここまでにして少しコーヒーでも飲んで休まないかい?……と言っても、インスタントだけどね。」

カタギリはそう言ってユーノをテーブルのあるテントに案内した。







「へぇ……人命救助に……」

「はい。国境なき医師団とは活動内容がまた少し違ってまして。」

「君は技術者だと聞いたけど、治療のほうも手慣れた様子だったね。」

「それはまあ、昔からやってますからね。ここまで来て何もできませんなんて冗談にもなりませんから。」

二人がコーヒーを飲みながら話していると、端末を見ていたグラハムの表情が変わる。

「カタギリ、本部に戻れとの連絡があった。すぐに行くぞ。」

「わかった。……じゃあ、僕たちは戻るけど、君はすぐにこの国を出るんだ。いいね。」

二人はユーノを残してテントを出ていく。

ユーノもテントを出て人気のないところに行って携帯端末を使って通信をする。

『ユーノ!?お前今までどこに……』

「少し調べ物さ。それより、ユニオンの動きが活発になってきてる。さっさとケリをつけたほうがよさそうだ。」

『それについては刹那が動いてくれた。おかげで手掛かりが見つかった。』

ロックオンからあるポイントの座標が送られてくる。

「ここに何が?」

『さあな。』

「さあな、って……」

『まあ、ジッとしてるよりはましだろ。俺も向かうからお前もすぐに来い。』

通信が切れるとユーノはため息をつく。
だが、自分たちの中では一番この国に精通している刹那が掴んだ手掛かりなのだ。
なにかあると考えたほうがいい。

「ったく……とにかく行ってみるしかないか。」






王宮

『……みなさん、どうか落ち着いてください。神に与えられし……』

マリナは自分の映るテレビを消してうつむきながら声を絞り出す。

「なんて無力なの、私は………」

そばにいたシーリンも眉間にしわを寄せて黙ったままだ。
そんな時、不意にドアがノックされる。
SPの一人がドアを開けると、アザディスタンの民族衣装に身を包んだ女性が部屋に入ってきた。

「失礼します。」

「何の用かしら?」

シーリンが視線を向けると同時に、女性は手に持っていたかごを離し、隠し持っていた銃を構える。

「死ね!!改革派の手先が!!」

「!!」

「マリナ!!」

驚いて立ち上がったマリナをかばおうとシーリンが駆け寄ろうとするが、それよりも早く銃声が鳴り響いた。

「ッッ!!」

マリナは思わず目を閉じてしまったが、体のどこにも痛みがない。
恐る恐る目を開けると、マリナを撃とうとした女性は床に倒れ、SPが扉の近くで拳銃を握っているのが見えた。
シーリンはホッとする。
しかし、

「どうして……」

マリナはよろよろと床に膝をつく。

「なぜ……なぜ私たちはこんなにも憎み合わなければならないの……?」

マリナは涙を流しながら問いかける。
だが、彼女の問いに答えてくれる者などいるはずもなかった。







旧クルジス領 キャヴィール砂漠 廃墟

「ふぁ~~あ~~ぁ……」

サーシェスはイナクトのコックピットの背もたれに寄りかかりながら大きな欠伸をする。
マスードをさらってからしばらく経つが、ガンダムが来たせいで彼らの計画は少しばかり予定が狂ってきていた。

『隊長、このジーさん飯どころか水も飲みませんぜ。』

「ほっとけほっとけ、敵の施しを受けたくねぇんだろうよ。」

サーシェスは「またか。」とつぶやいて自分はペットボトルに入った水をあおる。

「まったくこの国の奴らは融通が利かねぇ。」

空になったペットボトルから口を離すとサーシェスは不愉快そうにそれを握りつぶす。

「ソレスタルなんたらの横やりで段取りがぐちゃぐちゃだぜ……」

これからどうするかについてサーシェスが思案し始めると、再び彼の部下から通信が入る。

『隊長!こちらに接近する機影があります!!』

「ユニオンの偵察か?」

『違います!』

一瞬、サーシェスは部下が何を言っているのかわからなかったが、映像が映された瞬間、すべてを理解した。
太陽を背に、こちらに近づいてくる青と白の機体。

『あの白いMSは……』

「ガンダムか!!」

どうしてここに、と言いかけてサーシェスは言葉を飲み込む。
モラリアでの戦闘の際にあの剣を使うガンダムが見せた動き、そしてそのパイロットの不可解な行動。
そして、今回ここを嗅ぎつけたことから確信した。

「やっぱりあの時の生き残りか!!」

サーシェスは犬歯を見せて笑う。

「上等だ……てめぇもお仲間のところに送ってやるよ!!」







廃墟上空

「エクシア、目標ポイント到達。」

刹那は廃墟と化した街をくまなく見て回る。
そして、MSの残留反応と数台の車を見つける。

「やはりここにいたか。」

刹那は口を真一文字に結んで昔の自分と仲間を思い出す。
その時、電子音が鳴り、街のはずれからMSの起動反応が検出される。

「MS!!」

オレンジの夕日に照らされながら紺色のイナクトが風切り音とともにエクシアに近づいていく。

「ガンダムはこっちで引きつける!ジーさんを連れて脱出しろ!!」

『了解!!』

サーシェスは通信を切ってエクシアを見る。

「いやいや……あの時の馬鹿なガキがずいぶんと立派になってくれやがって。師匠としちゃあこれ以上うれしいことはないぜ。だがな……俺を殺ろうとするなんざ思い上がりもはなはなしいんだよ!!」

イナクトのライフルから弾丸が発射されるが、エクシアは前回とは違いすべてよけきった。

「あのイナクト!!」

サーシェスの言葉が聞こえていたわけではないが刹那はサーシェスの言葉を否定するようにイナクトに対してGNソードで斬りかかるがイナクトはソニックブレイドで受け止める。
鍔迫り合いでの押し合いの中で両者が互いに譲るまいと前に力をかけるので二つの剣の間から激しく火花が散る。

「まさかな……あんときのガキがガンダムに乗ってるとは!」

『あんたの戦いは、終わってないのか!!』

「!!音声!?」

『クルジスは……滅んだ!!』

鍔迫り合いはエクシアに軍配が上がるが、イナクトは追撃をくわえようとしたエクシアを蹴りとばす。

「知ってるよ!!」

イナクトのライフルが火を吹くが、エクシアは地面すれすれを滑るように移動し、再び空へと舞い上がるとソードライフルでイナクトを攻撃する。
イナクトはディフェンスロッドを使って弾を防ぎながら距離をとるが、エクシアは再びGNソードの刃を起こしてイナクトへ向かっていく。

「あんたはなぜここにいる!!」

刹那は幾度も剣を交えながら叫ぶ。

「あんたの神はどこにいる!!」

大きく振ったGNソードが空をきる。

「答えろ!!」

「そんな義理はねえな!」

エクシアは後ろに回ったイナクトめがけ横薙ぎを放ち、見事ライフルを切断する。
だが、その爆煙にまぎれてイナクトがエクシアをがっちりと掴むと、地上へ加速しエクシアを叩きつけた形で抑え込んだ。

「ぐあぁぁっ!!」

地面に叩きつけられた衝撃が刹那を襲う。
そして、イナクトはエクシアのハッチを掴んで引き剥がそうとする。

「もったいないからその機体、俺によこせよ!え!!ガンダムゥ!!」

サーシェスの言葉を聞いた刹那が怒りをあらわにする。

「誰が!!」

エクシアは腰に装備されたGNブレイドを固定されたまま回転させてイナクトの右腕を切断した。
イナクトは驚いたように飛び退くとそのまま撤退を開始した。

「やってくれたな……しかし……」

サーシェスの視線の先にはマスードを荷台に乗せた車が戦闘のあった場所から離れていくのが見えた。

「予定通りではある……」

刹那はエクシアを立たせると、逃げるイナクトを黙って見つめた。

「……それはどうかな。」







砂漠地帯

サーシェスの部下たちは指示通りに砂漠地帯を通って逃げようとしていた。
だが、先の戦争に参加していた刹那はこのルートも当然知っていた。

「ん!?」

「あれは!!」

暗くて遠くからではよく見えなかったが、近づいたことで彼らはようやくそれの存在に気付いた。
肩に巨大なライフルを背負い、月をバックにたたずむその姿は見るものすべてを圧倒する風格があった。

「ガンダムか!!」

運転をしていた男がルートを変えようとするが、ライフルを背負ったガンダム、デュナメスはビームピストルの弾を彼らの周りに着弾させる。
そして、煙の中からスリップをするような形で車が飛び出してきた。

「隊長!こちら撤収部隊!」

サーシェスに通信を試みるがノイズがはしるだけでいっこうにつながる気配がない。

「チィ!反応しねぇ!!」

「!来るぞ!!」

助手席に乗っていた男が近づいてくるマスクで目の周りを隠した長身の男に気付く。

「クソ!!」

二人は手に持っていたマシンガンを撃つが、マスクの男は空高く跳びあがって近づき二人の顔を素早く蹴り飛ばした。

「野郎!!」

後ろにいた車から仲間が出てきて銃を構えるが、気配をいち早く察知したマスクの男によって蹴り倒されてしまった。
マスクの男はトラックの後ろの荷台にいたマスードのほうを向く。
しかし、

「動くな!!」

三人の男が銃をマスードにつきつけていた。

「その方を引き渡してもらおう。」

マスクの男は動じることなく言い放つ。

「ふん。」

強がりだと思ったのか、男の一人がマスードへ銃口を近づける。
その時だった。
ヒュン、という短い音がしたかと思うと、男はこめかみに赤い穴をあけて白目をむいて倒れた。

「な!?」

残りの二人は音のしたほうを向くが、顔を向けると同時に眉間に風穴をあけられ、力なく大の字に倒れる。

ハッチのあいたデュナメスのコックピットでロックオンは長らく握っていなかった愛銃のスコープからトラックの様子をうかがう。
敵が残っていないことを確認するとスコープから目を離す。

「まだ腕は錆ついていないようだな……」

孤高の狙撃手は自身の能力の健在を確認すると、悲しげに呟きを洩らした。






マスードはマスクの男、紅龍に縄を解いてもらうと、いぶかしげな視線を向ける。

「あんたは?」

「ソレスタルビーイング。」

「ソレスタルビーイング?」

「アザディスタンの紛争に介入する、私設武装組織です。」

「そうか……お前たちが……」

マスードは内心、複雑な思いだった。
自らを助けてくれた恩義は感じているが、アザディスタンに多くの血を流させる原因の一端であったこともまた事実だ。
だが、そんなことは今はどうでもいい。
早く戻って自分の無事を伝えなければこの国は崩壊してしまう。
マスードがそう思っていた時、夜空から萌黄色と白の機体、ソリッドが降りてきた。

ソリッドは膝をつくとマスードの前に手を差し伸べ、コックピットハッチを開く。
そして、ハッチの中から現れたパイロットの姿にマスードは驚いた。

(子供だと!?)

背丈から察するに14~15歳だろうか。
腕も大人より若干細く、少女のような印象を与える。

「乗ってください。」

「なに?」

「この国でこれ以上血が流れないよう、協力してください。」

「オ願イ!オ願イ!」

マスードはしばらく黙っていたが、首を縦に振ると手の上に乗った。
そして、手はコックピットに近くにつけられ、そこからコックピットに乗り込んだ。
ハッチが閉められ、ソリッドがふわりと浮かびあがるのを感じるとマスードは疑問を口にする。

「君はなぜこの国を救おうとするのかね?見たところ君はまだ若いし、この国とは関係ないように思えるのだがね。」

「なぜ、ですか……」

パイロットは困ったような笑い声を出す。

「俺は与えられたミッションをこなしているだけ……というのは建前で、理由の一つはこれ以上俺の前で誰かが傷ついて倒れていくのが嫌だから。もう一つの理由は、この国がなくなると俺たちの仲間の一人が悲しむからです。」

ソリッドのパイロット、ユーノは遮光処理の施されたヘルメットの奥ではにかんだ笑みを浮かべた。






砂漠地帯

留美は明かりの消えた部屋でモニターに記されたミッションを読んでいく。
驚くべき情報がいくつもあったが、動じることなく読んでいったのは王家当主としての彼女の胆力のなせる技だろう。

「ラストミッション、確かに受け取りましたわ、スメラギさん。」

モニターを消して完全な闇に包まれながら、彼女はスメラギからのプランを了承した。






プトレマイオス

「なんという作戦だ!!本当にあのような指示を出したのですか!!」

人革連の非人道的研究施設を破壊してから5日の時が流れていた。
それまでは大人しかったティエリアの怒鳴り声が久々にブリーフィングルームに響く。

「一歩間違えばエクシアは……」

「これが一番確実な方法よ。」

スメラギは語気を強めてティエリアに言い放つ。

「しかし!」

「僕はスメラギさんのプランに賛成だ。」

「なに!?」

それまで黙っていたアレルヤの発言に再びティエリアの感情が昂る。
しかし、アレルヤは喋るのをやめない。

「世界に見せつける必要があるのさ……ソレスタルビーイングの想いを。」

それは、望まない力を与えられたアレルヤが心から願ったものだった。






王宮

翌日、王宮の外には多くの市民が集まっていた。
その全員が口々に王宮の入口に配置されたアンフに向かった罵りの言葉を浴びせる。
各国のテレビ局の人間も遠くからカメラを回しながらこれから起こることを撮り逃すまいと神経をとがらせている。
一方、アンフ達から距離を置いた所に立っているフラッグのパイロットたちも固唾をのんで見守っている。

そんな中、一人の市民が後ろの空から近づいてくる光に気付いた。

「あ、あれは!?」

その声に兵士に罵声を浴びせていた人々が後ろを振り向く。
空から降りてくる青と白の機体、エクシアにその場にいた全員の注目が集まり、大きなどよめきが起こる。
エクシアは王宮の前に着地した時、兵器について多少の知識がある者はあることに気付いた。

「武装を解除しているだと!?」

カスタムフラッグに乗っていたグラハムもこれにはさすがに驚いた。
そのままやってくれば間違いなく反感を買うのは目に見えていたが、まさかここまでしてくるとは思わなかった。

「馬鹿よ!ここに非武装で来るなんて!!」

王宮の二階にいたシーリンとマリナも慌てる。
昨晩、ソレスタルビーイングからマスード・ラフマディーを保護したとの知らせを受けて会談の準備をして彼らを待っていた。
そして、約束通りに現れはしたが、周りにMSがいるのに非武装でやってくるなどいくらガンダムでも自殺行為だ。
もし、ガンダムが攻撃されて中にいるであろうマスード・ラフマディーの身に何かあれば大変なことになる。

「ガンダムに攻撃はしないで!」

マリナはその場にいた兵士に命令する。

「し、しかし……」

「これは命令です!!」

その時、遠くにいるマリナ達にもエクシアのいるあたりから銃声が聞こえた。

「約束の地から出ていけ!!」

数人の男たちがエクシアに向けて銃を発砲する。
しかし、エクシアは動じることなく王宮へ向けて歩きだす。
それを見たアンフ隊は砲口をエクシアに向ける。
驚いた市民たちが慌てて逃げ出す中、アンフから警告が発せられる。

「保護した人質を解放せよ!繰り返す、保護した人質を解放せよ!」

だが、それでもエクシアはゆっくりと、しかし確実に王宮へと近づいていく。

(まだだ……ここで開放すれば、また何者かに撃たれる可能性がある。)

エクシアを動かしながら刹那は思考を働かせる。
そして、アンフの足元にいた一匹のフェレット、ユーノもまた同じことを考えていた。

(馬鹿野郎、メンツの前に安全に王宮に送り届けることを最優先しろよ。)

スメラギはエクシア一機でやることを決定していたが、どうしても不安だったユーノはこうしてフェレットになって潜り込んでいた。
しかし、二人の願いは届かず、無情にもアンフ達の大砲から轟音とともに弾が発射されてしまった。
直撃を受けたエクシアはその衝撃から歩みを止めてしまう。

「どうして!?」

マリナから悲痛な叫びが上がる。
彼女はそのままテラスに飛び出そうとするが、シーリンに袖を掴まれて止められる。

「シーリン、離して!」

「落ち着いて。……あれを見なさい。」

シーリンに促されるままマリナが外を見ると、煙の中から体の前で両手を十字に重ねて攻撃を防いだエクシアが無傷で現れた。

「ガンダム……」

マリナは小さくその様子を見ながらつぶやく。
あの日であった少年たちが乗っている機体。
自分とは違う方法で平和を作ろうとしている者。
彼らのしていることを認めたくはない。
でも、確かに今、彼は戦っているのだ。


刹那は再びエクシアをゆっくりと歩かせ始める。
普段の自分ならここまでされれば容赦なく斬り捨てるのかもしれないが、今は武器がないせいか、不思議と落ち着いたままエクシアを操縦できている。

まるで、自分がガンダムになったように。







昨晩

スメラギからのミッションを見た刹那たちは驚きを隠せなかった。
なにせ一切の武装なしで王宮にマスード・ラフマディーを届けるのだ。
無謀などという言葉では済まされない。

「本当にMs.スメラギがこのプランを?」

「信じられませんか?なんならこの場で確認をとってもよろしくてよ。」

「別にいいよ……ある意味スメラギさんらしいと言えばスメラギさんらしいプランだ……いてて……」

頭にできた大きなたんこぶをさすりながらユーノが答える。

「ただ……唯一疑問を上げるとすれば、なんでエクシアなんでしょうか?普通に考えれば武装なしでも防御力の高いソリッドが適任なのに……」

「…………………」

確かに刹那自身にも理由がわからない。
問題ばかりを起こしている自分がなぜこの局面で選ばれたのか。

「それは刹那だからだろ。」

全員の視線がユーノに集まる。

「この国のことを誰より知ってて、誰よりもガンダムとしての戦いに憧れる刹那にこそ、このミッションは最適なんだろ。」

ユーノはそう言って刹那にウィンクをする。

「頑張れよ、エクシアのマイスターさん。」







王宮

(そうだ……今度こそガンダムに……!)

刹那の手に力がこもる。
エクシアもまた刹那の堅い決意を受け、まっすぐに王宮に向けて歩を進める。
その姿に圧倒されたのか、アンフ達は武器を降ろし、エクシアに道を譲った。

(すごい…………)

ユーノはその姿に見とれていた。
今のエクシアはさながら巡礼のために道を行く聖者のような神々しさがある。
エクシアは王宮のテラスまで行くと、その場にかがんで手をハッチとテラスの間にもっていく。
そして、ハッチが開くと、中からまず刹那が。
続いてマスードが出てきた。

「王宮へ。」

「うむ……あまりいい乗り心地ではないな。」

「申し訳ありません。」

マスードは彼の皮肉にまじめに答える刹那に対し軽く頭を下げる。

「………礼を言わせてもらう。」

「お早く。」

マスードは刹那に促されテラスへと降り立った。
すぐさまSPが周りを固め、マリナのもとへと彼をいざなった。
その背中を見送った刹那はコックピットへ戻ろうとした。
だが、後ろから声をかけられる。

「刹那・F・セイエイ!」

その言葉に刹那は足を止めて後ろを見る。
来ている服は違うが、確かにあの時の女性だ。

「本当に……本当にあなたなの?」

刹那は後ろにいるマリナにしっかりと真正面から向き合う。

「マリナ・イスマイール、これから次第だ。俺たちがまた来るかどうかは。」

マリナはもっと話したいことがあるのに、それは言葉にはならなかった。

「刹那………」

「戦え。お前の信じる神のために!」

「刹那!」

刹那はコックピットに戻ってハッチを閉めるとそのままエクシアとともに上空に飛び去っていく。







『中尉、追いかけましょう!』

『今ならガンダムを……』

ダリルとハワードが追跡を申し出る。
だが、

「できるものか!」

グラハムは一喝する。

「そんなことをしてみろ。我々は世界の鼻つまみ者だ……!」

だが、グラハムが追跡をしなかった理由はそれだけではない。
先日会ったあの少年たちの言葉が胸を締め付ける。

『この戦いで人は死んでいきます…………たくさん、死んでいきます………』

『こんな状況で誰も助けないくせに、よくもまあえらそうに………』

この国のために何もできなかった自分へのいら立ち。
そして、一方でガンダムがこの国を救ったという事実がグラハムにガンダムを見逃すという選択肢を与えることとなった。

「………すまんな、少年。これが今の私にできる精一杯だ。」

グラハムは上を見上げながら操縦桿を強く握りしめた。






砂漠地帯

「フゥ……ヒヤヒヤもんだぜ。」

ミッションが無事終了したことをテレビで確認したロックオンは体から力を抜く。
しかし、目つきは鋭くしたまま留美のほうを向く。

「けどよお嬢さん。これでこの問題が解決するのかい?」

「……できないでしょうね。」

留美はきっぱりと言う。

「でも、人は争いをやめるために歩み寄ることができる………歩み寄ることが。」

留美はそれまでの厳しい顔からいつもの微笑みへと表情を変える。

「私はそう信じていますわ。」

「信じる、ね……」

ロックオンは苦笑とも呆れともとれない笑いを浮かべながら壁に寄りかかった。












マスード・ラフマディーは誘拐の首謀者が傭兵部隊であり、この内紛が仕組まれたものであると公表。
黒幕はアザディスタンの近代化を阻止しようとする勢力との見方が強いが、犯行声明は出されていない。
その後、マリナ・イスマイールとマスード・ラフマディーは共同声明で内戦、テロ活動の中止を国民に呼びかけた。






しかし、アザディスタンでの内紛はいまだ続いている………










あとがき・・・・・・・・・という名の足掻き

ロ「アザディスタン編2でした。いいペースで書くと言いながら舌の根の乾かぬうちに遅れて申し訳ありません。」

ユ「こいつが調子こいて五万字とかいうとんでもない量を添削(主に削のほう)するのに大変時間がかかってしまったのが原因です。おかげで俺の活躍する場面が減ったこと減ったこと。」

刹「あんだけでてれば十分だろう。」

ユ「戦闘が一切ないだろ!少しは出せよな!!ホントなら対ヒクサー戦があったのに!!」

兄「おいおい……また無茶するなぁ。」

9「ヒクサーが以前ユニオンから奪い取ったフラッグを自己流でカスタムしたものが近くに隠されていてそれを使って戦うという予定だったのだが、文字数の関係上削られてしまったというわけだ。おかげでグダグダだったものがさらにグダグダに…」

ロ「気にしてること言うんじゃない!構想十分の機体が……」

ユ「時間短っ!」

刹「出さなくてむしろ正解だったのでは?」

ロ「そのうち出してみせる!!」

兄「本音は?」

ロ「ごめんなさい、無理です。」

ユ「いつものことながら変わり身も早っ!」

ロ「だってここからはヒクサーはあんま出ないもん。出たとしても戦闘には出せない可能性のほうが大きいから。」

9「まったく………。では、ゲストの紹介に移るぞ。今回のゲストは、猫まっしぐらではなく猫“を”見たらまっしぐら、月村すずかだ。」

す「どうも~。ちなみに猫は世界遺産に認定するための署名運動をしています。皆様、ぜひとも清き一票を!」

兄「もうどこにつっこめばいいかわからない登場だな。」

ユ「カオスに磨きがかかりそうな予感がするな。」

す「火悪主?」

ユ「発音同じだけど百パー違うから。なんか中二病通り越してさらにやばい臭いがする発言だから。」

す「なんだか照れるなぁ~♪」

兄「何この子?俺が出てくるあとがきで一番まともなゲストだけど、すっごい纏ってる空気がふわふわしてて一番やりにくいんだけど。」

刹「それじゃこれ以上脱線しないうちに解説に行くぞ。」

9「ヒクサーはずいぶん大人しく引き下がったな。」

ユ「それ言うなら俺もだろ。普通あの状況であそこまで言われたらどんなに温厚な奴でも間違いなくボッコボコにしてるよ。カ○ーユだったら大変だよ。もうウェ○ライダーで特攻かけちゃうよ。」

ロ「俺としてはヒクサーがヴェーダの指示によってでなく自分の意志で動くきっかけとフェレシュテで活動するフォンの存在を知るきっかけとして登場させた。」

兄「というか魔法見せてよかったのか?俺たちもアレルヤ以外いまだに見てないのに。しかも、アレルヤ自身もよくわかっていないのに。」

ロ「ここだけの話、ヴェーダのデータを覗ける皆様はこれでユーノに対して一層興味と警戒心を示すことになる。」

刹「まあ、そうだろうな。といってもかなり一部の人間に限られてくるがな。」

す「たとえば?」

ユ「今んとこ出てきてる奴らはリボンズ、ティエリア、874、ヒクサー達ぐらいだな。こいつらから話を聞ける連中を含めればもうチョイいるけど。」

す「ふ~ん。じゃあ、ユーノ君こっちじゃモテモテなんだね♥」

ユ「こいつらにモテても嬉しくないから。」

す「そっか~。ユーノ君はなのはちゃん一筋だもんね♥」

ユ「何この子!?なんか強引にそっち方向に話持ってこうとしてんだけど!?下手な誘導尋問より怖いぞこれ!!?」

9「天然キャラの特性を把握しきっていなかったな、ユーノ。まだまだ甘いな。」

兄「お~い、解説続けるぞ。そう言えばユニオンの連中とも接触してたな。」

ロ「スメラギさんがビリーさんに話してるとこかいたからOKかと思ってやっちゃいました。だが後悔はしていない。」

刹「後で展開に困っても知らないぞ。」

ロ「大丈夫。いざとなったらお前らに無茶させるから。」

ユ「人権侵害で訴えるぞ。」

兄「まあまあ……それにそこ以外は基本的にストーリー通りだったんだから問題ないだろう。」

9「それが最大の問題ともいえると思うがな。」

す「大丈夫だよ。こんなにネガティブでいいとこまったくなしのロビンさんが書いてるのにここまで続いてるんだからこれからもなんとかなるよ♪」

ロ「お前マジで帰れ!!無垢な笑顔で言いたい放題言いやがって!!」

す「私何かしました?」

兄「自覚なしかよ。俺達でも流石に無自覚であそこまでは言わないぞ。」

ロ「もうこれ以上天然に傷をえぐられたくないから次回予告行きます!!」

刹「次回はオリミッションだ。」

兄「ユーノはロシアのAEUと人革連領の境界で紛争が勃発するとのヴェーダの予測に従い現地に向かう。」

9「そして、現地でユーノはある人物との再会を果たす。」

す「そんな中、紛争の火種は確実に大きくなっていく。」

刹「はたしてユーノは紛争を食い止められるのか!?」

ユ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!お時間があればご意見、感想、応援をよろしくお願いします!じゃ、せーの……」

「「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」」



[18122] 20.Ash Like Snow(前編)
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/07/09 19:37
この想いは寂寞の夜空に
舞い上がり、砕けた
この世界が形を変えるたびに
守りたいものを壊してしまっていたんだ………







地中海 王留美の別荘

「じゃ、これ向こうの情報。何かわからないことがあったら連絡頂戴。」

「了解。……しかしその格好はどうにかならないか?」

ユーノは若干顔をしかめながらクリスティナの姿をまじまじと見る。
水着姿で携帯端末を渡す彼女はそわそわと落ち着かない様子で中庭に作られたプールをちらちらと目を向ける。

「仮にも命をかけに行く人間を送り出すのにふさわしいもんだとは思えないんだけど。あと、ちらちらとプールを見るな。」

「だって~!」

ユーノはやれやれとため息をつきながらクリスティナの手にから渡されようとしている端末に映った光景に目がとまる。
激しく雪が降っているが、周りにいくつも存在する炎のせいか石畳の上には雪がうっすらとしか積もっておらず、遠くではと煙があがっている。

「これ……」

「ああ、これ?これからユーノが行くところの戦時中の冬の景色だって。AEUと人革連のどちらにつくかですっごく揉めたみたいで……?ユーノ?」

クリスティナはユーノの異変に気付いた。
目がせわしなく動き回り、体は小刻みに震えている。

「ねぇ、どうしたの?」

クリスティナは一歩前に進み出るが、そのことによって端末の光景がさらにユーノに近づいてしまう。
そして、ユーノの脳裏にある光景がよみがえる。




曇った空からしんしんと雪が降る中、白い服を着た少女が背中から血を流し、こちらを見ている。
自分の周りには雪が積もっているのだが、白い雪のカーペットの上にところどころ赤い点が散らばっている。
いや、足元はすでに赤い水たまりができている。
少女は信じられないといった表情でこちらを見ていたが、次の瞬間悲鳴を上げる。
しかし、すぐさまユーノの視界は爆炎に包まれてブラックアウトした。





「ユーノ?」

「……な。」

「?」

「来るなぁぁぁぁっっ!!」

「キャ!?」

ユーノはクリスティナの手を力いっぱい叩き、端末を、そこにある光景を弾き飛ばす。
端末はからからと音をたてて床を滑っていくが、クリスティナはユーノの突然の行動に目を丸くして呆然としている。
しかし、すぐにユーノは正気に戻り、自分がなにをしたのか理解する。

「わ、悪い!大丈夫か!?」

「う、うん……」

クリスティナはユーノに叩かれたことによほど驚いたのか、まだ少し呆けている。

「ホントにごめん!今度なんかおごるからさ!」

「私のことはいいよ。それより、ユーノは大丈夫なの?」

クリスティナは心配そうにユーノの弾いた端末のもとに駆け寄ってそれを拾う。

「なんか、最近のユーノ変だよ。ボーっとすることが多くなったし、頭痛の頻度だって増えてきてるし……」

「大丈夫だよ。最近寝不足だからそうなっちまうんだ。心配かけてごめんな。」

ユーノは改めてクリスティナから端末を受け取り、別荘の玄関へ向かう。
その途中でユーノはクリスティナの方を振り向く。

「すぐに終わらせて戻ってくるから心配すんな。ゆっくりプールを堪能しながら待ってな。」

いつものユーノの笑顔を見たクリスティナは安心から思わず顔がほころぶ。

「うん!頑張ってね!」

「おう!」

ユーノはそう言ってクリスティナと別れた。
この先、運命的な出会いと三年前から追い求めていたものが待っているとも知らずに……




魔導戦士ガンダム00 the guardian 20.Ash Like Snow(前編)

モスクワ北部 ロシアとの国境付近

人気のない森の中に黒のボディのふちにオレンジのラインが入った戦闘機が木漏れ日を浴びながら自らを操る主のようにその存在を主張していた。

「まさかこんな田舎くんだりに来るはめになるとはな。」

手錠で両手を拘束されたフォンは目を細くして周りの様子をうかがう。
北の大地とは思えないほど緑に包まれた景色は精神に癒しをもたらしそうだが、フォンにとっては植物が存在するだけのつまらない場所にすぎない。
ここに来てからもう二日たつが何も起きることなく静かに時が流れていっていた。
せっかく見つかりやすい場所を選んで潜伏したのにこれでは意味がない。

「まあ、それだけここに来たがる奴が少ないってことか。」

フォンが今いるのは旧ロシア連邦から独立したモスクワ連邦の国境付近だ。
かつてロシアはAEUか人革連のどちらにつくかで国内がもめ、とうとうモスクワを中心とした西側の州がモスクワとして独立を果たし、AEUに加盟することとなった。
だが、その結果ロシア側と対立が起こり、2133年から2137年の実に4年間ものあいだ泥沼の戦いが繰り返された。
その後、ロシア連邦はモスクワを独立国家として認め、和平条約を結んだが水面下では対立は続いており、国境付近の地域では両者が牽制しあっている結果、政治的空白地帯になっているところが少なくない。
そこではいまだにAEU派の市民と人革連派の市民に分かれていて、小競り合いがしばしば起きていた。

そんな地域の一つであるこの近くの山間の街はモスクワ、ロシア連邦の両者が他の地域とは違い不可侵の取り決めをしたものの、それを理由にどちらも治安維持に取り組もうとはせずに放置されたことにより、世界でも有数の危険地帯と化していた。
以前は観光客などで賑わっていたこの街も今では誰も近づくことがなくなっていた。

「軍人まで近づくことがそうそうないってんだから呆れちまうぜ。……ん?」

フォンはニヤニヤしながら見飽きた光景を眺めていると人革連の軍服を着た男が遠くから駆けてきた。
男はフォンの乗る戦闘機、アブルホールには気付いていないようだが、物陰から現れたハンチング帽を深くかぶった男としばらく話をした後、何やら分厚く膨らんだ封筒を受け取って去っていった。
ここは確かにAEUと人革連のどちらがいてもおかしくはない場所ではあるのだが、今の男の様子は明らかにおかしかった。

「…………なるほど、そう言うことか。」

フォンはギラリと男たちのいた場所を睨みつける。

「こいつは流石のヴェーダも予想外だったろうな………。どうなるのか楽しみだぜ!あげゃげゃげゃげゃ!!」






経済特区東京 公園

ミッションに行く前に東京に戻ってきていたユーノは一人で公園のベンチに座り道行く人々をボーッと眺めていた。
ここのところクリスティナが言っていたように頭痛の頻度が増し、過去の光景を見ることも増えていた。
魔法に関する知識も日が経つにつれて思い出してきていた。
だが、決定的に何かが思い出せない。
思い出さなくてはいけない何かが。

(………俺は……思い出したくないのか?自分の過去を知るのが怖いのか?)

そんなはずはない。
そう言い聞かせても不安が頭から離れようとしない。
三年前から求めていた答えがもうすぐそこなのに、自分でそれを手にすることを拒んでいるようだ。

「………だったら、いっそこのまま………。」

「このまま、なに?」

「おわぁ!!?」

ユーノは横からの声に驚いてベンチからずり落ちて尻もちをついてしまう。

「ご、ごめん!!そんなにびっくりするとは思ってなくて……」

「いや、大丈夫だ。いてて………」

ユーノに声をかけた人物、沙慈は手を貸してユーノを立ち上がらせる。

「ユーノがここにいるなんて珍しいね。どうかしたの?」

「いや、ちょっとな………。ところで“お母さん”とはうまくいったのか?」

「まあ、ね………ははは………」

まさかピザ一枚とお涙頂戴で何とかなったとは言えない沙慈は乾いた笑いを洩らす。

「そりゃよかった。」

「………あれでよかったのかなぁ?」

「は?」

「う、ううん!なんでもない!」

「?変な奴だな。」

二人はしばらくとりとめのない話をした後、沙慈は部屋に、ユーノはソリッドが待機されている場所に向かおうとした。
その時、ユーノが沙慈を呼びとめる。

「沙慈!」

「ん?なに?」

ユーノは呼びとめたものの、すぐには言葉に出せずに俯いてしまうが、覚悟を決めると沙慈の目をじっと見つめる。

「………思い出さないほうがいい思い出ってあるものかな……」

「?」

沙慈は首をかしげるが、ユーノは言葉を続ける。

「すごく辛くて……逃げ出したくなるかもしれないことって、忘れたままのほうがいいのかな………?」

「……………………」

「もし思い出した時、どうしようもなく苦しいのならいっそ……」

「そんなことはないんじゃないかな。」

沙慈は穏やかな笑みをユーノに向ける。

「辛いからって苦しい思い出から逃げ出したら、その思い出の中にいる人たちも一緒に消えちゃうと思うから……。だから、思い出さないほうがいいものなんて何一つない。僕はそう思うよ。」

「……………そっか。」

「何かの参考になったかな?」

「ああ、ありがとう。」

そして、ユーノは己の向かうべき場所へ歩きだす。
自分のなすべきことをなすために。
取り戻さなくてはならないものを取り戻すために。






ロシア連邦北部 モスクワとの国境線

人気の少ない石畳の古風な街を人革連の軍服に身をつつんだ三人が歩いていた。
わずかに街の外にいるある者は彼らに畏怖と軽蔑の眼差しを、ある者は希望と尊敬の眼差しを向けていた。

「中佐、私たちの任務はガンダムに対する作戦だけであり、今回のような任務は引き受けるべきではないのでは?」

「少尉、我々がガンダムと戦うのは国のためだ。ならば、国のためならそれ以外の任務もこなすべきだろう。」

セルゲイはピーリスに諭すが、それでも彼女は納得がいかないのかムスッとした表情で先に歩いていってしまう。

「しかし、このくらいの任務でなにも中佐や少尉がついてくることは……」

「病み上がりの人間を一人で行かせるわけにはいかんよ。それに…」

セルゲイは本来この任務に一人で来るはずだったミンにだけ聞こえるように小声で話す。

「少尉がどうしてもとついていきたいと言ってきてな……まだあの時のことを気にしているようだ。」

セルゲイの言葉を聞いたミンは自分の右頬にある火傷のあとをそっとなぜる。
あの後、すぐさま治療を受けたミンは全身に火傷を負っていたものの幸いにも軽度のものですみ、すぐに戦線に復帰することができた。
ピーリスはミンが病院にいるときに何度も見舞いに訪れ、謝罪していた。
ミン自身はそれほど気にしていなかったのだが、ピーリスはよほど責任を感じていたのか来るたびに羽根付きガンダムを今度こそ倒して見せると息巻いていた。

「それにしてもガンダムに殺されかけているところをまさかガンダムに助けられるとは思いませんでしたね。」

ミンは自分が何気なく言った言葉を聞いてセルゲイは顔をしかめたのを見て自分の言ったことが失言だったと気付くがもう遅い。

実はつい最近ガンダム、それも件の羽根付きによって人革連の研究施設が破壊された。
そこは超人機関の研究施設であり、非人道的な実験が行われていた場所である。
このことにより超人機関の人間は逮捕され、羽根付きのパイロットが超人機関の出身者であることがはっきりしたが、人革連にとってはソレスタルビーイングに華を持たせる形になってしまい、国際世論も人革連への非難を強めている。
その結果、人革連派とAEU派で分裂していたこの地域の住民同士の対立が激化し、こうして現状視察を行うとの名目のもと軍隊を派遣するため先発隊として頂部の兵士である彼らが派遣されたというわけだ。

「どんな理由があろうと奴らのしていることはテロだ。私はガンダムという存在を認めるつもりはない。しかし……」

セルゲイの表情がいくばくか緩む。

「あの盾持ちのパイロットがなぜソレスタルビーイングにいるのかがわからん。」

「どういうことです?」

「わが陣営以外のものも含めて今までの戦闘記録を見たが、あのガンダムはどのような状況下でもパイロットを傷つけないよう戦っている。」

「はぁ………」

「あの戦い方を見る限り私にはあのパイロットが自分から望んで戦う人間には見えない。まるで自分を押し殺しているように思えて仕方ないのだよ。」

「関係ありません。」

ピーリスは鋭く言い放つ。

「たとえどんな理由があろうと彼らは私たちの敵です。敵である限り見つけ出して排除するだけです。それと……」

戦闘を歩いていたピーリスが二人のほうを向く。

「私がここに来たのはあくまで中佐の護衛のためであり、先の作戦の責任を感じてでは断じてありません。」

ピーリスはそれだけ言うと再びスタスタと歩いていってしまう。

「……聞こえていたようだな。」

「みたいですね。」

二人は苦笑してピーリスの後を追いかけようとする。
その時、建物のかげから4人組の男が拳銃を持って飛び出してきた。

「ッ!!」

「死ね!!人革の犬が!!」

男の一人が引き金を引くと銃口から煙とともに銃弾が空気を切り裂いてセルゲイに向かって飛び出していく。

「中佐!!グァッ!!」

ミンはとっさにセルゲイの前に出て盾になるが左腕に銃弾がかすり、その勢いに負けて倒れてしまう。

「ミン中尉!!」

ピーリスも襲撃に気付き、急いで来た道を引き返すが男たちは次の弾を発射すべく引き金に力を込める。

「クッ!!」

ピーリスが諦めかけたその時、彼女の後ろからウォッカの入った瓶がブンブンと大きな音をたてながら猛スピードで通り過ぎていったかと思うと男の一人の頭にぶつかって派手に割れる。
瓶がぶつかった男は前のめりに倒れこむ。

「なんだ!?」

残りの三人とピーリスは思わず瓶の飛んできた方向を向く。
しかし、ピーリスには自分の隣を何かが駆け抜けていったことしか、そして瓶の飛んできた方向に一番近かった男には土のついた靴底しか見えなかった。

「ぶべっ!」

男は間抜けな声を上げながら倒れる。
その時になって全員がそれが何なのかわかった。
金色の長髪にサングラスをかけ、灰色のジャケットを羽織った少年が蹴った男の顔を踏み台にふわりと空中で一回転して地面に着地した。
サングラスがずれて覗いた目はあどけなさを残しながらも鋭い視線を襲撃者たちに向けている。

「さて……次はどっちが蹴られたい?」

ユーノはにやりと笑うと男たちを射竦めるように睨みつけた。








数分前

「やれやれ……着いたのはいいけどここまで人がいないとはな。」

ユーノは目的地に着いたものの人が少ないこの街でどうすれば情報を集められるか思案していた。
アザディスタンほど来訪者に対して閉鎖的ではないものの、戦時中から続く争いの中で育ってきたためか、数少ない外にいる人々もユーノにいい感情を抱いていないようだった。

(ははは………ホントにここ観光地だったのか?会う人間全員がビビって逃げ出すか睨みつけてくるってどうよ?)

ユーノがそんなことを考えながら歩いていると銃声が晴天の空に響く。

「なんだ!?」

ユーノは銃声が聞こえた場所へ駆けつけると4人組の男たちに撃たれたのか、人革連軍服を着た左目に傷がある男の前にその部下と思われる男が腕を押さえて倒れている。
少し離れたところに軍服を着ていることから彼らの関係者と思われる白いロングヘアーの女性がいて、駆けつけようとするが間に合いそうにない。
しかし、それでも周りの住民はまるでそれが見えていないかのように助けようともせずに道を歩いている。

「チッ!」

ユーノはすぐそこの露店で瓶詰めのウォッカを見つけるとそのうち一本を手にとって男たちのところに駆けだす。

「ちょっと!!お金!!」

「後で払う!!」

露店でウトウトしていた老婆の声を振り切って、ユーノは瓶を男の一人めがけて投げつける。
凄まじい音ともに男の頭にぶつかった瓶は砕け散り、男は倒れこむ。

「おりゃ!!」

残りの三人がこちらを向くが、ユーノは大きく跳びあがると一番近くにいた男の顔に自分の足をめり込ませた。
男の顔はユーノの足が顔を進むにしたがってってひしゃげていき、ゴキゴキと嫌な音を出しながら地面にキスをした。
ユーノは蹴った反動を利用して空中に舞い上がり、クルッと後方に一回転して着地した。

「さて……次はどっちが蹴られたい?」

「こ、このガキ!!」

男たちはユーノに向けて銃を撃とうとする。
だが、

「おっといいのかい?俺が最初にプレゼントしたもんをよ~く見てみな。」

男たちはその時になってようやく自分たちが置かれている状況に気付いた。
最初に投げつけられたウォッカのアルコール度数はかなり高い。
そして、仲間だけでなく自分たちもそのしぶきをたっぷりと浴びてしまっている。
下手に火薬を炸裂させれば自分たちにも引火する可能性がある。

「うっ……」

「隙あり♪」

ユーノは一瞬戸惑った男たちの懐に素早く潜り込むと腹部に掌底を叩きこむ。
男たちは声を上げることも許されず、胃の中のものをすべてぶちまけてその上に顔を突っ伏すような形で倒れた。

「よし。これでおしま……」

「クソガキィィィィ!!」

「!!?グァッ!」

敵を全員気絶させて油断してしまったユーノは一番最初に倒した男が起き上がっていることに気付かなかった。
男はユーノの首を片腕で締めるともう片方の手にナイフを握る。

「死ねぇぇぇぇ!!」

男はユーノの首にナイフを振り下ろそうとする。
しかし、

「むん!!」

左目に傷のある男がナイフを持つ手に手刀を打ちおろしてそれを弾くと、続いて顔面に堅い握りこぶしを叩きこむ。

「ぐぼっ!!」

ナイフを持っていた男の口から血とともに数本の歯が流れ落ち、それを追いかけるように顔も地面に落ちていった。

「げほっ!げほっ!あー死ぬかと思った……」

ユーノは首をなでながら吸えなかった分の空気を補充するように何度も不規則な呼吸を繰り返す。

「助けてくれたのは嬉しいが、無茶は感心しないな。」

「げほっ!……助けてもらっといて説教はないだろ。(ん?この声どっかで…)」

「中佐!中尉!ご無事で!」

「ああ。彼のおかげでな。」

駆けよってきた女性はユーノに敬礼する。

「危ないところをありがとうございます。ですが……」

女性につられてユーノは周りへ視線を向けるとそれまで家の中にいた人々が外に出てこちらの様子をうかがっている。

「早くここから離れたほうがいいですね、中佐。っつ……!」

「大丈夫ですか!?あまり無理をしないほうが…」

「かすり傷だ……それより君もここを離れたほうがいい……」

「そうだな……君も我々と来たまえ。」

「え、でもあなた方は……」

「大丈夫だ。街の外れに宿をとってある。何も基地に連れて行って尋問をしようというわけじゃない。」

「セルゲイ中佐、お早く。」

(!!)

女性が男の名を呼んだ時、ユーノは思い出した。
人革連との戦闘の際、ティエレンを引き渡しに行った時に通信をしてきたあのパイロットだ。

(まさか、セルゲイ・スミルノフ本人だったとはな……)

「さあ、君も早く!」

「あ、ちょ……」

セルゲイに手をひかれユーノは半ば強引に彼らの宿泊するホテルへと向かうことになった。







モスクワ北部 国境線

時を同じくしてAEUの士官服を着た女性がユーノ達が騒動に巻き込まれていた街から少し離れたもう一つの街にいた。

「やれやれ……例の作戦までもう間もなくだというのに、こんな形で新任した部隊の指示をする羽目になるとはな……」

彼女、カティ・マネキンは室内から屋外へ出た温度差でついた水滴を眼鏡から拭きとって再びかけると大きくため息をついた。

(まったく、政治家というやつらは……)

マネキンは今回の作戦に乗り気ではない。
上の人間としては今回の人革連の失態を利用してここをはじめとする国境線を掌握したいのだろうが、そのために派遣される自分たちが犠牲になることなど全く考えていない。
ましてやここの住民のことなど気にしてすらいないだろう。
自分たちを派遣する前に人革連との協力を取り付けるなどやるべきことは山積しているはずなのだが。

「まったく……何のための政治なんだか。」

「大佐ーー!!」

聞こえてきた声にマネキンは思わず頭を押さえて再び大きくため息をつく。

(そう言えばこいつもいるんだったな。)

マネキンは頭を押さえたままもう一つの頭痛の種のほうを見る。
そこには新任した部隊にいたパイロット、パトリック・コーラサワー少尉が周りの冷たい視線などものともせずに満面の笑みで手を振りながら近づいてくる。

「少尉、周囲の状況はどうか?」

「はい!異常なしです!」

「そうか。それと少尉。」

「はい!」

「私たちは今どこにいると思う?」

「国境地帯です!」

「ならば、それ相応の行動を取るべきだとは思わんか?」

「はい!大佐の安全は自分が死に物狂いで確保します!!」

マネキンはプルプルと震えながらひきつった笑みを浮かべ、どんどん頭痛がひどくなる頭を押さえる。
しかし、彼の人懐っこい笑みとそれとはおよそ不釣り合いなほどピッチリと決まった敬礼がおかしくて思わず笑ってしまう。

「プッククク……!もういい……お前に聞いた私が間違っていた。」

確かにこの男は頭痛の種ではあるが、同時になかなかユニークな面も見せる。
良くも悪くも部隊の緊張感を取り除いてくれる。

「?はぁ。」

間の抜けた声を出すパトリックを引き連れ、本隊が待機している場所にマネキンは向かう。
その顔をは先ほどまでの緩んだものではなく、作戦指揮官としての厳しいものになっていた。

(あの噂……こちらにとっても人革にとっても噂で終わってくれればいいが……)








郊外 某ホテル

街から離れたユーノ達は郊外のホテルのロビーでコーヒーを飲んでいた。
ホテルの内部は古風な作りでなかなかいい雰囲気なのだが、窓の外には無残に両腕が破壊された像や、黒くすすけたボロボロのモニュメントが目についてしまうため台無しになってしまっている。

「気になるかね?」

「え?」

突然セルゲイがユーノに話しかける。

「元はここも風光明美な場所で観光に来る人間が絶えなかったらしい。だが、今となってはこのありさまだ。」

「え!?あ、はい知っています。昔の写真、見たことがありますから。」

いつもよりたどたどしい口調でユーノは答える。
そして、セルゲイの顔をまじまじと見る。

(………似てる、よな。)

顔は似ていないかもしれないが、彼の行動、言動、そして何よりいるだけで落ち着ける感じといい、自分の父に近いものを感じる。

「どうかしたかね?」

「え!?あ!す、すいません!少し考え事をしていて………」

「………迷惑だったかね、ここに連れてきて。」

「いえ、そんなことは……」

「見たところ旅行者のようだったから保護したのだが、あれだけの動きができるのなら余計なお世話だったかもな。」

「そんな大層なものじゃないですよ。ちょっと護身術をかじってるだけです。」

それを聞いたピーリスがブスッとした表情のまま口をはさんでくる。

「それにしては見事な腕前でしたが。軍人と見間違えるほどに。」

「少尉。」

セルゲイがたしなめるがピーリスはプイッと横を向いてしまう。
どうやら一般人であるユーノに助けられたのがよほど気に入らないようだ。

「……すまないね。彼女は少しナーバスになっていてね。」

隣に座っていたミンがフォローするが、ピーリスはギロリとミンとユーノを睨む。

「自己紹介がまだだったね。私はミン・ソンファ中尉。ミンでいい。彼女は……」

「ソーマ・ピーリス。」

「……だそうだ。」

「ユーノ・スクライアです。」

ユーノはミンと握手したのちピーリスにも手を差し伸べるがピーリスは睨んだまま手を取ろうとしない。

「ま、まあ、よろしく。」

ユーノは手を引っ込めると気まずそうに視線を外す。

「しかし、ここに旅行で訪れるとは君も相当の物好きだな。」

ユーノはセルゲイのほうを向く。

「ここがどういうところかわかっているだろう。中東と並ぶ軌道エレベーター開発の影の側面だ。普通なら来る人間はいないだろう。」

「まあ、世界中回っているのでここだけ避けるわけにもいきませんからね。」

「驚いたな……長期旅行者かね。」

「まあ、そんなところです。」

「家族は心配していないのかね?」

「家族は………死にました、テロに巻き込まれて。」

ユーノの言葉にセルゲイ達はコーヒーの水面に視線を落とす。

「そうか……余計なことを聞いてしまったな。」

「そんな!気にしないでください!それに、家族といっても血のつながりはありませんから。」

「どういうことだ?」

「なんでも父に紛争地帯で赤ん坊の時に拾われたらしくて。」

「なるほど……君はある意味で我々のような戦う人間の犠牲者というわけか。」

「えっ!?いや、そういうつもりで言ったわけじゃ!」

「ハハハハハ、気にしなくてもいい。私が自分で勝手に責任を感じているだけだ。」

「……すいません。まあ、僕もそうらしいってことぐらいしかわからないんですが。」

「「「?」」」

セルゲイたちは首をかしげる。

「三年前より以前の記憶がないんです。砂漠のど真ん中で血を流して倒れているところを助けてもらったんです。その時受けたショックのせいで前の記憶が飛んでしまっているんです。」

「そうだったのか……じゃあ、世界を回っているのも。」

「はい、記憶を取り戻すきっかけがあるんじゃないかって思って。おかげでいくらか記憶は戻りました。」

「そうか……」

セルゲイは微笑むとぬるくなってしまったコーヒーをすする。

「しかし、それもここまでにしておいたほうがいい。ソレスタルビーイングが出てきてからというもの、世界各地で戦いが頻発している。しばらくどこかに腰を落ち着けたほうがいい。」

ソレスタルビーイングという単語が出た瞬間、ユーノの顔がそれまでと違い鋭いものに変わる。

「セルゲイさんたちはガンダムを追ってここに?」

「いや、今回はここの現状視察だ。なにせ、あんな失態があった後だから、我々にい感情を持つ者は少ないからな。」

ピーリスの眉がピクリと動く。
それにあわせるようにミンの表情も厳しくなる。

「……ソレスタルビーイングが告発したのがそんなに気にいりませんか?」

「それ以前の問題だ。彼らのやり方はあまりにも一方的すぎる。私は国を守る軍人として彼らの存在を認めん。」

「あいつらは私たちの同胞を殺した。許すわけにはいかない!」

「……なら、あなたたちは救ってくれるんですか?」

ユーノは静かに、しかしはっきりと怒気がこもった声で語り始める。

「一方的な暴力の前になす術もなく大切なものを奪われる人間を救ってくれるんですか?」

ユーノの言葉にミンが思わずかみつく。

「それは……できないかもしれない。だが、彼らのしていることで大勢の平和に暮らしている人間が傷つくはずだ!」

「なら、自分たちだけ平和ならそれでいいんですか!?自分の周りの人間だけが幸せでいればそれでいいんですか!!」

「それは……」

ミンは言葉に詰まる。

「………すいません。少し熱くなりすぎました。」

「いや、こちらこそ君の事情を聞かされたばかりだったのに少し無神経なことを言いすぎた。」

二人が互いに視線を落としているとセルゲイが不意に口を開く。

「ユーノ君、君はソレスタルビーイングを指示するのかね。」

「え?」

「確かに君の言うことも一理ある。我々……いや、AEUやユニオンにいる人間すべてが自分の平穏しか考えていないのかもしれない。だが、彼らがそれを奪う権利もないはずだ。たとえ、君のような境遇の人間を生み出さないためであってもな。」

セルゲイはまっすぐにユーノの目を見つめる。

「それでも君はソレスタルビーイングを指示するのかね?」

ユーノは下を向いて少し間をおくと、顔をあげて自分もセルゲイをまっすぐ見る。

「俺は………彼らのしていることをすべては指示しません。ですが、世界が今のままでいいとも言うつもりはありません。ソレスタルビーイングはどんな理由があっても罰を受けるべきです。でも、そうだとしたら彼らが生まれてしまうような世界を放置していた人たちも何らかの罰を受けるべきだと思っています。」

「……そうか。」

セルゲイは静かに目を閉じて大きくため息をつく。

「すまなかったな。変なことを聞いてしまった。」

「いえ、俺のほうこそえらそうにべらべらと喋ってすみませんでした。」

「それじゃ、難しい話はここまでにして、君の話を聞かせてくれないかな?」

「?俺の?」

「世界中回ってきたんだろう?だったら、何か面白い話を聞かせてくれないか。」

ミンはそう言って横に置いていたレトロな地図を広げる。

「こう見えても旅行が趣味でね、妻と一緒にいろいろな所をめぐったんだが、まだ行っていないところの話を聞いてみたくてね。」

ミンは子供のような無邪気な笑みを浮かべるが、ピーリスが釘をさす。

「中尉、我々は任務中です。そのようなことをしている暇は……」

「構わんさ少尉、たまにはこういった息抜きも必要だ。」

「しかし、中佐!!」

「そう、マチュピチュに遺跡を見に行ったときは大変でしたよ。」

「へぇ、君は遺跡に興味があるのかい。」

「ええ、考古学を少しかじってまして。」

そんなピーリスをしり目に二人は共通の話題で盛り上がり始める。

「少尉、これが我々の守るべきものだ。」

セルゲイは楽しそうに話す二人を見ながらピーリスに話しかける。

「……よく、わかりません………中佐。私の存在理由は戦うこと……」

「それだけでは守れんものもあるさ。少尉にもいつかわかる日が来るさ。」

その後、ユーノとセルゲイたちは夜が更けるまで語り明かした。
まるで、家族のように………







三日後

国境線 森林地帯

翌日、ユーノは紛争が起きると予測された地点で待機していた。
だが、いつもと違い967への口数が少ない。

「………どうした?このまえ遅く帰ってきたと思ったら黙ったままで。」

「俺が喋らないのがそんなにおかしいか?」

「経験上、お前がそうしているときは何か悩んでいる証拠だ。」

「お前、エスパーかなんかかよ………」

ユーノは大きくため息をつくと再び黙りこくってしまう。

(………大丈夫だ。なにもセルゲイさんたちの部隊が来るとは限らない。それに、今回の任務はあくまでAEUと人革連への牽制だ。墜とす必要はない。)

何度も自分に言い聞かせるが、それでも心の中がモヤモヤする感じが消えない。

(大丈夫………)

その時、突然アラームが鳴る。

「なんだ!?まさかAEUと接触したのか!?」

早すぎる。
ユーノは焦るが、写された光景に凍りつく。
そこには、黒とオレンジの戦闘機がティエレンを屠っているのだ。

「アブルホール!?まさか!」

ユーノは急いでソリッドを戦闘の起きているポイントへ走らせる。

「なんでお前がいるんだよ………フォン!!」







国境線手前 森林地帯

森の緑をかき分けて十機以上のティエレンが北の大地を踏みしめていく。
そんな中、セルゲイは一番後ろについている白を基調とし、赤く巨大な肩とキャノン砲をもったティエレンを苦々しげに見る。

「ティエレンチーツー………少尉より前に前線に投入されていた超兵の乗っていた機体、か……」

ティエレンチーツー
超人機関を捜索した際に発見したデータをもとに再現された機体であり、本来は超兵が操縦を担当し、もう一人が砲撃を担当していたようだが、今は操縦も砲撃も一般兵が担当している。

「稼働でのデータの回収をもとに実戦投入を検討するか……」

昨晩、ユーノと別れた後、突然連絡を受けティエレンチーツーとその一行の同行を許可したが、やはりセルゲイは彼らを受けいるのは抵抗がある。
なぜなら彼らは、

「超人機関の生き残りか。まさかこんなに早く、それもこんな形で再会することになるとはな。」

難を逃れた一部の関係者、主にそこに所属していた兵士たちは一般兵としてさまざまな部隊に組み込まれていっていた。

(そういえば、ユーノ君は無事にここを離れられただろうか。)

昨晩、別れる前に見せた太陽のような少年の笑顔を思い出す。

(父さん、か………もう二度とそう呼ばれることはないと思っていたが、まさかあんなところで聞けるとはな。)







三日前

「本当に送っていかなくていいかね?」

「はい、これ以上お世話になるわけにはいきませんから。」

街灯のしたで深々と頭を下げるユーノにセルゲイ達は心配そうに声をかける。
ほんの数時間のことだったが、不思議とここ十年ほどで一番楽しい時間を過ごせた思える。
ピーリスも珍しく話に参加していたこともあって本当に話が弾んだ。

「それじゃ、気をつけてな。」

「はい、父さん!」

「ん?」

予想外の言葉にセルゲイ達は目を丸くする。
ユーノはしまったといった感じで口を押さえる。

「ユーノ君、今のは……」

「え!?いや!その!!」

ミンが指摘しようとするが、すぐ横に立っていたセルゲイもどこか照れた表情をしているのに気付き、言うのをやめる。

「………セルゲイさんの雰囲気がどことなく父に似ていまして。思わず………」

「父さん、か……」

セルゲイは悲しそうに笑う。

「私は軍人としては申し分なかったかも知れんが、父親としては最悪の男だ。」

「え……?」

そう、あの時ももっと親として息子にしてやれることがあったはずだ。
なのに自分は、

「そんなことないですよ。セルゲイさんは俺のことを心配してここまで連れてきてくれたじゃないですか。」

「だが、私は……」

「………中佐。私たちは先に戻っています。では。」

「自分もこれで失礼します。」

ピーリスとミンはそう言うとホテルに向かって歩いていってしまう。
二人取り残されたユーノとセルゲイは近くのベンチに座る。

「やれやれ……変な気を使いおって………」

「すいません。なんだか変なことになってしまって。」

ユーノとセルゲイはしばらく互いに視線を合わせることもなく黙っていた。
街灯の上の空はすでに星たちが遠慮がちに輝き始めている。

「父はテロで死んだといいましたが、違うんです。」

「?」

「テロを利用して第三者に殺されたんです。それも、本来なら治安維持のために動くべきだった人間に。」

「なんだと!?」

「俺の目の前でそいつらは正義のためだといって父を手にかけました。だから、俺はテロリスト、そして正義のためだと言って人を殺す軍人が嫌いです。」

「………………」

「でも、セルゲイさんは違う……あの時、俺を助けてくれました。」

「あのときはどちらかというと私たちが君に助けられたんだがな。」

「でも、あの時俺を見捨てることもできたはずでしょ?」

ユーノは穏やかな笑みを浮かべる。
それを見たセルゲイは少し救われた気がした。
自分のしてきたことは無駄ではなかったのだと。

「それじゃ、俺はこれで。」

「ああ、気をつけて。」

ユーノはセルゲイに背を向けて歩いていくが、別の街灯の下に来るとセルゲイのほうを向く。

「父さん!またね!」

「!ああ、また会おう。」

セルゲイはユーノの言葉を胸に刻み、ミン達の待つホテルへと向かった。
いつか、こんな自分を父とよんでくれた少年に再び会えることを願いながら。







森林地帯

「フッ……歳をとったものだな。」

セルゲイは喜びに浸っていた自分を自嘲するとディスプレイの端を見る。
もうすぐ、目標地点だ。

「よし、もうすぐ待機地点だ。各員、気を引き締めろ。」

セルゲイが指示を出した時だった。
突然ディスプレイにノイズがはしったかと思うと部隊の周りで爆発が起こった。

「敵襲!?AEUか!!」

セルゲイはすぐさま確認を行うが予想していたものとは違う答えが返ってくる。

『ち、違います!この反応は……ガンダムです!!』

「なに!?」

セルゲイは慌てて上空の様子をうかがう。
そこには黒とオレンジでカラーリングされた機体が部隊の周りを旋回している。

「あれはあの時の!?」

「羽根付き!?いや…違う!!」

羽根付きとよく似ているがカラーリングや武装が明らかに違う。
それにピーリスの脳量子波の影響を受けている様子はうかがえない。

「ソレスタルビーイングめ!まだこんな機体を隠し持っていたのか!!全機、攻撃開始!!」

セルゲイ達は空中を飛び交う戦闘機に攻撃をしかけるが、空中対地上の不利、さらに相手のスピードもあいまってかすりもしない。

「あげゃげゃげゃげゃ!!関係ない奴らには悪いがそいつらを逃がすわけにはいかないんでな!!」

フォンの操る戦闘機、アブルホールは地上すれすれまで降下するとそのまま一番後ろにいるティエレンチーツーに向かって突進していく。

「まずはてめぇだ!!」

アブルホールの鋭くとがった先端がすぐそこまで接近する。

「狙い撃つ!!」

「おっと!!」

アブルホールは真上から降ってきた光をかわすが、そのせいで軌道がずれてしまいティエレンチーツーを貫くことなく再び空へと舞い上がる。
そこには萌黄色のガンダム、ソリッドが銃をこちらに向けている。

「何のつもりだフォン!!今回のミッションはあくまで牽制!攻撃をしかけるのはAEUとの戦闘に発展した場合だけだ!!」

「あげゃ!だが、こいつらがAEUとぶつかる前に潰しちまっても問題なしだ。」

「だが!」

「あめぇこと言ってんじゃねぇよ。こいつらをほっといたらもっと厄介なことになるぜ!」

「何!?」

フォンはそう言うと戦闘機の先端にあるガンダムヘッドを起こしてバルカンを発射する。
ユーノは不意をつかれ反応が遅れるが、967がGNフィールドを起動してすべて防ぐ。

「クッ!!やるしかないか!」

「邪魔すんなら容赦はしねえ!!」

戦闘を開始する二機のガンダムにセルゲイ達は呆気にとられる。

「何をしている?仲間割れか?」

『中佐、今のうちに。』

「ああ………」

セルゲイは目標地点を目指しながら空中にいるソリッドを見あげる。
ソリッドを見ているとどうしてもユーノの姿がだぶって見える。

「まさか、な……」

セルゲイはあり得ない仮定を頭の中から消し去ると目標地点へと急いだ。

「ユーノ、人革軍が国境線に!」

「わかってる!!でも、こいつの相手が先決だ!!」

ユーノは必死で全火器を使ってアブルホールに攻撃するがなかなか当たらない。

「フォン、彼に事実を伝えては?」

「言ったところでこいつにはどうにもできないだろうぜ。」

「ですが、このままというわけにはいかないでしょう。」

「チッ……まあ、いいだろう。」

フォンは少し不満そうに舌打ちするとソリッドと通信をつなぐ。

「おい、少しは話を聞け。俺が連中を潰そうとした理由を教えてやる。」

『あ゛!?』

「連中の中にAEUへ亡命を図ろうとしている奴がいる。」

『!?』

「大方この間潰された超人機関の奴らが研究を続けることを条件にAEUに協力するんだろうぜ。」

『でもあの中には正規軍も……』

フォンの顔がニヤリと歪む。

「だから、ついでに潰す気なんだろうぜ。無関係の奴らをな。」

『!!?』

ユーノの脳裏にセルゲイ達の顔がうかぶ。

「そんな……」

「ユーノ?」

ユーノに967の声など聞こえない。
今、彼の頭を埋め尽くしているのは自分のせいでまた大切な人たちが死に直面しているかもしれないという確信に近い不安だけだ。

「ッッ!!」

ユーノはソリッドをセルゲイ達が向かった先に全速力で飛ばす。

「あげゃ。俺たちもいくぞ。」

「了解。」

アブルホールも戦闘機形態でソリッドの後を追った。







国境線

「ククク……ロシアの荒熊もやきが回ったな。この程度のことも見破れないとはな。」

ティエレンチーツーの中にいるうちの一人の男が下卑た笑い声を出す。

「おいおい、本番はこれからだぞ。思い知らせてやろうぜ……ロシアの荒熊と超兵のお嬢さん達に俺たちを切り捨てた報いってやつをな。」











灰の雪は降り積もる。
再び舞い上がり、空を闇で覆い尽くすその時を待ちわびながら。






あとがき・・・・・・・・・という名の焦り

ロ「オリミッション前半戦でした。」

ユ「ようやくセルゲイ中佐登場か。」

9「まったくだな。それより今回も感想が怖すぎるな。」

ロ「やめて。本当に心が折れるから。」

ユ「さて、いきなりですがロビンはほっといてゲストの紹介に移ります。今回のゲストはリリなのにおける元祖ツンデレ、アリサ・バニングスさんです。」

ツン「何よその紹介……ってテロップ変わってる!!?」

ユ「デレ期に入ったらデレに変更らしい。」

ツン「ふざけんじゃないわよ!!」

元祖ツンデレ、主人公にシャイニングフィンガー

ユ「あだだだだだだだだ!!!!俺じゃなくてロビンにやれ!!」

ツン「うっさい!!そもそもあんたがあんなややこしいことになってるからあたしまでこんなことになってるんでしょうが!!!」

ユ「いや、アリサがツンデレなのはどの作品でも………いだだだだだだだだ!!!ごめんなさい!もう勘弁……ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

ロ「さ、解説解説。」

9「お前が本来くらうはずだったものをくらってる奴に何か言うことは?」

ロ「死ぬなよ!」

9「満面の笑みで言われても説得力ないぞ。」

ロ「いいんだよ。」

9「フゥ……さて、まず今回のタイトルだが……」

ロ「そこはツッコまないでくれ。」

ユ「とか言ってる時がお前がツッコミ待ちの時だよな。………いてててて。俺頭変形してない?」

9「いつも通りだから安心しろ。仮に脳漿ぶちまけてても黙ってれば読者の皆様にはわからない。」

ツン「何気に恐ろしいこと言うわねあんた。」

ユ「それよりこれってやっぱ。」

ロ「うん。やっちゃった♪」

ツン「『やっちゃった♪』じゃないでしょうが!!歌詞まで一部入れちゃってるし!!」

ロ「しゃあないだろ!!歌詞の感じとタイトルがユーノが00世界にとんだ時と(俺的に)あうんだから!!」

9「接点雪だけだろ。」

ロ「まあ、そうとも言う。ただ、後編ではいろいろ加味していきたいと思ってる。」

ユ「というかここまでフラグ立てた感じの回見たらほとんどの人が次回どうなるかわかると思うぞ。」

ロ「いやぁ、どこまでがセーフなのかわからなくて。まあ、ここで気付く人もたくさんいると思うけど。」

ツン「だったら言うんじゃないわよ!!」

9「もう、遅い。」

ロ「ハッハッハ!しかし、今回もグダグダだったなぁ。」

ツン「自分で言っちゃった!!」

9「これは周知の事実だから問題ない。」

ツン「いやよくないでしょ!!」

ユ「気にしたら負けだ。」

ツン「少しはしなさいよ!!」

ロ「なんだか泣けてく~るぅ。思わず泣けてく~る。」

ツン「あんたもさりげなく被害者面すんな!!」

ユ「人は何かしら誰かに傷つけられる被害者だ。」

ツン「あんたはいきなり何言いだしてんのよ!!」

9「というかもはやツンデレというよりもどちらかというとツッコミだな。」

ツン「ムカつくぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!自分でもそう思うけど人に言われるとムカつく!!」

ロ「さあ、ツンデレのツッコミがさえてきたところで次回予告です。」

ツン「このタイミングで!?ああもう!わかったわよ!!」

ユ「AEUへと亡命を図ろうとする超人機関の生き残りがセルゲイ達に牙をむく!!」

ツン「その場に急行するソリッドとアブルホール。そして、遂にユーノが……!」

9「はたして、ユーノは大切な人たちを守れるのか?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!では、せーの…」

「「「「次回をお楽しみに!!」」」」



[18122] 21.Ash Like Snow(後編)
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/07/12 09:27
この想いは寂寞の夜空に
舞い上がり、砕けた
闇を拓く栄光と引き換えに
守るべきものを失ってきた……

虚しすぎる…………








前日 人革連目標待機ポイント

「ここか……」

月の輝きが照らし出す中、ユーノは森林地帯を抜けた国境線付近の村に来ていた。
いや、正確には村だったところというべきだろう。
つい先月ここで住民同士の争いが発生し、村は炎に包まれた。
残されたのは黒く焦げた家畜や人間の骨。
そして、白に変わった木の柱だけだった。
白く変わった柱からは灰が崩れ落ち、村全体を埋め尽くしていた。
まるで、雪のように。

「ッ!!ク、ああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

ユーノは今まで一番激しい頭痛とともに地面に膝をつく。

「く………そ………!」

思えばあの映像を見たときから自分はどこかおかしい。
あの映像、そう、雪を見たときから頭の奥が疼く。

「そういえば、拾われてから雪を見たのは初めてかもな………」

ユーノはそんなことをつぶやきながら立ち上がる。

「………よくわかんねぇけど、雪はどうにも好きになれそうにないな。」

ふと上を見上げると淡い金色の光を放っていた月に雲がかかっていく。

「明日の天気は雪かな……って、この時期に降るわけがないか。」

ユーノは膝についた灰を払うとソリッドの待つ場所まで歩いていく。
明日のミッションで季節外れの雪を見ることになるとは毛の先ほども考えずに。





魔導戦士ガンダム00 the guardian 21.Ash Like Snow(後編)

国境線 上空

「クソ!!もっとスピードでないのかよ!!」

「これで限界だ。お前が一番よくわかっているだろ。」

967はユーノの顔を見る。
そこにはいつもと違い、全く余裕のない表情で操縦桿を操る相棒がいた。

「落ち着けユーノ!お前らしくないぞ!!どうしたって言うんだ!?」

「……もう、繰り返させない……あんなこと、“僕”の前で二度と………!!」

「ユーノ!?」

ユーノが自分の声など聞こえないかのように呟く姿に967は違和感を覚える。
まるで今、目の前にいるのはいつも人懐っこく、活発で明るい笑みを振りまくユーノではなく、自分の知らない人物のようだ。

「クソ……お願いだ!もっと早く……」

『あげゃ、世話のやける奴だ。』

聞き覚えのある声とともに、横にフォンの操るアブルホールが現れる。

『乗れ。そいつよか少しは早くつくだろう。』

「……!!あ、ああ。すまない。」

「?」

ユーノが返事をして、ソリッドにアブルホールをつかませる。
いまは普段のユーノと変わらぬものであり、先ほど感じた違和感は消えている。

(気のせいだったのか……?)

だが、それでも967の中にしこりのようなものが残って消えない。

(さっきのユーノは確かに俺の……いや、俺たちの知らないユーノだった。だが……)

967はある仮定を思い浮かべる。

(普段のユーノではなく、さっきのユーノが本当のユーノの素顔だとしたら……)

間違いなくユーノは、

『しっかりつかまってろ。飛ばすぜ!!』

フォンの言葉と同時に急加速によってGが増す。

(今はそれどころではないか。とにかくミッションをこなさなければ。)

割りきろうとする967だが、自身で生み出してしまった不安が心の中に残ってしまう。
もし、ユーノの記憶が戻ったら、ソレスタルビーイングから去ってしまうのではないかという不安が。






国境線 AEU側

「なに!?人革連側でガンダムが出ただと!?」

マネキンは予想もしない知らせに驚く。

「はっ!羽根付きに似たものが人革軍に襲撃をかけ、それにつられるように盾持ちも出現したとのことです!!ただ……」

「?なんだ。」

「盾持ちは出現と同時に羽根付きもどきに攻撃を開始して人革軍を守ったと……」

「なんだと?」

マネキンは部下の報告を聞いていぶかしげにあごに手を当てる。

(どういうことだ……?奴らはいままでどこの国家を守るような行動はとらなかった……それがなぜ今になって。)

「大佐!本国より伝令です!!」

マネキンの考察は部下の言葉に中断された。

「どうした。」

「それが……」

渋い顔をした兵士はマネキンに手に持っていた紙を手渡す。

「……やはり噂は本当だったか。」

マネキンは厳しい表情で顔を上げる。

「今回この作戦に参加したものの経歴を調べあげろ!急げ!!」

「はっ!!」

「貴様らの思い通りになると思うなよ、ろくでなしどもめ。」







国境線 人革連目標ポイント

『なんとか着きましたね、中佐。』

「ああ……」

セルゲイは奇跡的に部隊が無傷でガンダムを振り切れホッと一息つく。
だが、油断は禁物だ。
後続部隊が到着する前にあの羽根付きもどきに追いつかれれば今度こそ終わりだ。

「中尉、全員に警戒を怠るなと伝えろ。AEUの動向に対しても気を抜くな。」

『了解!』

「……くくくくく。」

「!?」

ミンの返事と同時に外部音声で曇った空のもとにくぐもった笑いが響く。

「貴様、何がおかしい!!」

ピーリスが笑い声を出したティエレンを怒鳴りつける。

「黙れ、超兵一号。」

今度はその隣にいたティエレンから冷たい声が発せられる。

「セルゲイ中佐ぁ。後続部隊が来るまで警戒ですか……」

「当然だろう。何か問題でもあるのか?」

「いやぁ、そんなことありません……ただ、警戒するんなら味方のほうも警戒しないと。」

その言葉が言い終わるか終らないかのうちにセルゲイ達の乗っていたティエレンの脚部で小爆発が起こる。

「なんだ!?」

「いやいや…………予想以上に信用していただいて我々も嬉しいですよ……おかげで細工がしやすかった。」

「貴様ら………!!」

後方にいたティエレン四機、そして、一回り大きな体を揺らしてティエレンチーツーが砲口を向ける。
黒光りする砲身を睨みながらセルゲイは唸るような声を絞り出す。

「………超人機関の者だな。」

「ご名答。しかし、我々を毛嫌いしていた割にはすんなりと受け入れてくれましたな。」

「たとえ罪があろうと同志だと思ったから受け入れたのだ。」

セルゲイの言葉を聞いた一人が高笑いをする。

「ハハハハハハハハハハ!!!!こいつはご立派だ!!だからあの時も彼女を見捨てたんですかぁ!!?祖国のために!!?」

「貴様、それをどこで!!?」

セルゲイはヘッドマウントディスプレイの下で顔を真っ赤にして怒りをあらわにする。

「有名な話ですよ。任務のために……」

「貴様!中佐を侮辱するな!!」

ミンの声に男の言葉は途中で遮られる。

「うるさい奴だ………おい。」

リーダーらしき男は隣にいたティエレンに指示を出す。
指示を受けたティエレンはミンの乗るティエレンの右腕をカーボンブレイドで斬り落とす。
かなり乱暴に切断したため機体自体が大きく揺れて、左腕もその衝撃であり得ない方向にねじれる。
ミンのいるコックピットも当然激しく揺れる。

「ぐあああぁぁぁぁぁぁ!!!」

「「ミン中尉!!」」

「おっと!長生きしたけりゃ妙なマネをするなよ。もっとも、全員どの道死ぬ運命だがな。しかし………」

超人機関の兵士の乗るティエレンのモノアイが体をピンクに塗られたティエレンタオツーに向けられる。

「超兵一号、お前は一緒に来てもらおうか。向こうもお前に興味があるらしい。」

「ふざけるな!!私は中佐の部隊でガンダムを……」

「兵器であるお前が感情を持つな。」

ピーリスにピシャリと言い放つとそのままティエレンタオツーの腕を持ち上げる。

「来い。」

「ク!!中佐!!」

「少尉!!」

ピーリスとは思えないような悲痛な叫びにセルゲイは必死に彼女に呼び掛ける。
だが、それでも事態が好転するはずもなく、逆に超人機関の兵士たちを苛立たせてしまう。

「本当にうるさい奴だ……そんなにこんな兵器が大切か?」

「少尉は兵器ではない!!」

「貴様がどう思おうが事実は変わらん。しかし……」

リーダーの男はティエレンタオツーに視線をやる。

「超兵一号に感情の揺らぎが増えたのはお前のせいか。興味深いが……」

リーダーの乗るティエレンはカーボンブレイドを抜いてセルゲイの乗るティエレンにゆっくりと近づいていく。

「やめろ!!中佐に手を出すな!!」

「全員殺すんだ。遅いか早いかだ。」

「頼む………お前たちに従うから、中佐たちには………」

ピーリスはよわよわしい声で嘆願する。
だが、

「お前がそうなったからこいつらは死ななくてはならんのだ。」

「私の………せい?」

「少尉、こいつらの言うことに耳を貸すな!!」

セルゲイは必死でピーリスに呼び掛けるが、彼女にその声は届かない。

「そうだ。兵器であるお前が人間のように感情を持ってしまったせいでこいつらは死ぬんだ。」

「違う………私は……超兵だ……。感情など……」

「どうかな?貴様自身も望んでいたのではないか?人間らしくいきることを。」

「ち……がう………私は………私は……!」

「勝手な奴だな。そのためにはこいつらが死んでもいいというわけか………兵器のくせに大した思い上がりだな!!」

「いや………いやぁぁぁぁぁぁ!!!」

「少尉!!」

セルゲイは血が出るのもかまわずに唇をかみしめる。
自分の判断ミスで部下たちの命が奪われようとしている。
それが何よりも悔しかった。

(何も………何も出来んのか!!)

「死ね。」

セルゲイの乗るティエレンにカーボンブレイドが振り下ろされた。
だが、それが届くことはなかった。
セルゲイのティエレンの前に瑠璃色の光を背中から大量に放出するソリッドが立ちふさがったのだ。

「なに!?」

「………大丈夫ですか?」

ソリッドから声が響く。
その声を聞いたセルゲイ達は驚きで自分たちの置かれている状況すらも忘れてしまう。

「この声は………!」

「まさか!」

ピーリスとミンが目を丸くして愕然とする。

「ユーノ君なのか!?」

セルゲイの声に答えるように、ソリッドがティエレンを押し返してカーボンブレイドの握られていた腕をビームサーベルで切断する。

「ソリッド、ユーノ・スクライア、目標を粉砕する!!」











その時、ユーノは何も考えずに飛び出していた。
目の前には脚部が焼け焦げたティエレンがそうでないティエレンの手によって破壊されようとしている。
そして、先ほどの外部音声で確信した。
あれに乗っているのはセルゲイだと。

曇った空の下、降り積もった灰が戦闘の衝撃で舞い上がり雪のように再びゆっくりと下に引き寄せられていく。
そう、あの時と全く同じだ。

頭がズキズキと痛むが関係ない。
もう、自分の目の前で誰も傷つけさせはしない。
あの時彼女を、なのはを守ったときのように。
だから、

(俺は……………“僕”は!!)

不思議な感覚だ。
今まで自分を苦しめていた頭痛が消え、それまでかかっていた靄が晴れていく。

「967、外部音声をオン。GN粒子の散布を中止、ジェネレーターをすべて推進力に回して。」

「!?ユーノ、正気か!?」

わかっている。
マイスターの情報は太陽炉と同じSレベルの秘匿事項。
だが、今回のミッションで自分がセルゲイ達の敵でないと認識させるためにはこうするしかない。

「いいからお願い!!」

「わ、わかった!」

いつもと違う、だが強い意志のこもった声に967は指示通りに外部音声を入れる。
ソリッドは最大加速でティエレンの前に躍り出るとアームドシールドでカーボンブレイドをこともなげに防ぐ。

「………大丈夫ですか?」

「この声は………!」

「まさか!」

「ユーノ君なのか!?」

ユーノはセルゲイ達の驚きの声を聞きながら安堵する。
そして、気を引き締め目の前の敵を見据える。
目の前のティエレンはなんとか刃を届かせようと力を込めてくる。
だが、

「ティエレン程度の推進力でソリッドに押し合いで勝てるものか!!」

カーボンブレイドをそのまま押し返したソリッドは体勢を崩したティエレンの腕をビームサーベルで斬り落とす。

「ユーノ君………本当に君なのか?」

後ろで倒れたティエレンからセルゲイの声が聞こえてくる。

「黙っていてすいません。でも、僕は………」

二人の会話は長くは続かなかった。
普通のティエレンの打ち出す砲弾よりも一回り大きいものがソリッドめがけて発射される。
ソリッドはGNフィールドを発生させて防ごうとするが、砲弾はフィールドを突き抜けてソリッドに着弾する。

「うあああぁぁぁぁ!?」

「クハハハハハハ!!見たか!?このティエレンチーツーさえあればガンダムなど敵ではない!!」

「ガンダムの首もらったぁぁぁぁぁぁ!!」

周りにいたティエレンたちもティエレンチーツーに続けとばかりに砲撃を開始する。

「ク……あまり調子に乗らないでもらおうか。」

ソリッドの足元に巨大な魔法陣が展開される。

「なんだあれは?」

「気にするな!撃て撃て!!」

元超人機関の兵士たちはそんなものなど気にせず砲弾を撃ちまくる。
だが、

「な!?た、弾が!?」

「完全にはじかれるだと!?」

その場にいた敵、味方、全員がMS戦では起こり得ない事態に混乱する。
本来、弾は弾かれたといっても、あくまで砲弾を防いだといった意味でしか使うことはない。
だが、自分たちの前にいるガンダムは自分の周りにいくつもの回転する奇妙な円形の力場に砲弾を当てることによって完全に別方向に弾をそらしている。

「MSの攻撃を受ければどんなに強固なシールドでも砕けるのは当然だ。けど、当てる角度を調整して正面から受けるのではなく別の方向にいなす形をとれば防御手段として成立する。そしてうまく使えば…」

「くそぉぉぉぉぉ!!」

「こういうこともできる。」

ソリッドに向かって放たれた砲弾は再び出現した力場に弾かれ別のティエレンの腹部に当たった。

「な!?」

弾に当たったティエレンのパイロットは信じられないといった様子で損傷箇所を見るが、そのまま力なく仰向けに倒れこみ灰を巻き上げる。
残った兵士は灰の奥で顔のあたりで光る二つの緑の光がゴッという音とともに消えた瞬間、どうしようもない恐怖に支配された。
現存するどのMSよりも優れた性能を持つ機体が、自分たちの理解の及ばない力を使っている機体がどこからか自分たちを狙っているのだ。
先ほどから物音一つしないのがさらに恐怖を加速させる。
そして、恐怖がピークに達した時、



カラ…………



「っ!!!あああ、あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

普段なら気にもしない小さな音をかわきりに一人が砲弾を乱射し始める。
それにつられるように周りにいた者たちも緊張の糸がプッツリと切れ、同じ方向に攻撃をくわえていく。
だが、灰の煙幕が晴れたときそこにあったのはボロボロだった民家が彼らの攻撃で跡形もなく吹き飛んだ形跡だけだった。
そして、彼らの背後から何かが猛スピードで突っ込んできて一機のコックピットを貫き上空へと舞い上がる。

「あげゃげゃげゃ!!俺のことを忘れてんじゃねぇよ!!」

先にティエレンを突き刺したままアブルホールを変形させたフォンはクルリと機体を一回転させてティエレンを空高く放りあげる。
放り投げられたティエレンは細かな部品をばらまきながら轟音を上げて地上に激突する。
その姿はもはや何なのか区別できないほどグシャグシャにつぶれていて、隙間があいたコックピットからはポタポタと控えめに血が垂れている。

「ひ、ひぃぃぃぃぃ!!」

恐れをなしたのかティエレンタオツーを持っていたティエレンがそれすら捨ててフォンに追われて来た道を引き返そうと踵を返す。
だが、振り返った瞬間、すぐ目の前にソリッドを発見してパニックが頂点に達する。

「ひゃあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

男は奇声を発しながらティエレンを突進させるがソリッドはその両足をブレードモードにしたアームドシールドとビームサーベルで斬り裂く。
ティエレンはまるで小石につまずいたように無様に前のめりに倒れる。
しかし、それでもなんとか逃げようと手を必死で動かすが、ピンクの閃光がはしり肩から腕を切断される。

「これで残りは二機か。」

『あげゃげゃげゃ!なかなかえげつない方法をとるじゃないか。』

「まずないだろうけどセルゲイさんたちを人質に取られたら厄介だったからね。姿をくらませて冷静な判断を奪わせてもらったんだ。それに、フォンにも少しは働いてもらわないとね。」

『ハッ!まあ、いいさ。それよりお前………』

「君や967が考えている通りだよ。全部思い出した。」

「僕の正体を聞いても信じられないだろうけど……」とユーノがつぶやいていると灰の向こうから赤と白の巨体、ティエレンチーツーが現れる。

「そうそう……こいつも倒さなくちゃいけないんだった。」

『手伝ってやろうか?』

「いらないよ。一人で十分、だっ!!」

砲弾が発射されると同時にソリッドは懐に潜り込み、アームドシールドをバンカーモードに切り替えて腹に静かに押しあてる。

「切り札………切らせてもらうよ。」

圧縮粒子を一気に開放したバンカーによってティエレンチーツーは穴を穿たれ上空へと撃ち上げられる。
ソリッドはバルカンを連射しながらティエレンチーツーへと接近する。
そして、バンカーモードのままGN粒子を纏わせたブレードの刃を空高く突き上げる。

「でやあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

ティエレンチーツーは丁度左右対称に真っ二つになり、激しい爆炎とともに空に散った。

「さて、と。」

ソリッドとアブルホールは残った隻腕の機体を見る。
その視線を受けたリーダー機は後ずさる。

「ば、馬鹿な………!こんなことが……!」

じりじりとよってくる二機を見ながら後ろにさがっていく。
その時、曇った空に緑色の機影がいくつも現れる。

「おおぉ!!や、やっと来たか!!」

緑の機体、ヘリオンを見たリーダーは歓喜の声とともに二機のガンダムを見る。

「クハハッハハハ!!私の勝ちだ!!こうなれば私だけでも………」

『悪いがそれは叶わん。』

「!!?」

突然ディスプレイに現れた眼鏡の女性にリーダーの男は動揺する。

「だ、誰だ!!?」

『カティ・マネキン大佐。貴様を亡命させようとしていた馬鹿者どもをとらえた者だ。』

「な!?」

『貴様が当てにしていた上層部の人間もつい先ほど本国で逮捕されたそうだ。これで貴様のバックはなくなったというわけだ。』

「そ、そんな……」

マネキンの言葉を聞き終えた男の周りにMS形態のヘリオンとイナクトが着陸する。

「ホールドアップ!!へっへ~。大佐ぁ、見てますかぁ?」

イナクトに乗るパトリックはマネキンに緩みきった笑顔を向ける。
だが、マネキンはそんな彼を見ずに頭を押さえる。

(まったく………上層部がここまで腐敗しているとはな。わが軍のことながら情けない。)

マネキンが大きくため息をついていると人革連側から通信が入る。

『人類革新連盟、セルゲイ・スミルノフ中佐です。』

『AEU、カティ・マネキン大佐です。』

『今回は我々の不手際でとんだ面倒をかけましたことをお詫びします。』

『いえ、こちらこそ馬鹿どもが勝手なことを……。まことに申し訳ありません。今後のことについて話し合いたいのですが……』

『助かります。それでは後ほど。』

セルゲイはAEUとの通信を切ると、今度はソリッドと通信をつなぐ。
ディスプレイに映された顔はヘルメットで隠れているものの、確かにユーノだった。

「……まさか君がソレスタルビーイングだとは思わなかった。」

『……ごめんなさい。』

「……我々の情報を知るために近づいたのか?」

『……ごめんなさい。』

セルゲイの質問にユーノは俯きながら謝るだけだ。

『……ごめ……なさい……!』

ユーノは泣いていた。
自分を信じてくれたセルゲイの信頼を裏切ってしまったこと。
そして、もう会うことすら許されないのだという事実が悲しかった。

だが、セルゲイもユーノの涙ですべてを悟った。
本当は隠したくなどなかったのだと。

「そうか……君も辛かったな。」

『ッッッ!!!うっ、うっ!!』

ユーノはこらえきれなくなりポロポロと大粒の涙を流し始める。

「……ユーノ君、我々と来るんだ。君はこれ以上戦ってはいけない人間だ。君のしてきたことは許されることではないが、私がなんとか君を普通の生活に……」

『……できません。』

「なぜだね?」

セルゲイはあくまで穏やかに語りかける。

『あの時……言いましたよね。僕は自分たちのしていることも今の世界も許すことはできません。だから、この世界を変えてから罰を受けます。それが、ここまで進んできてしまった僕にできることだから。』

「そんなことはない!君はこの前も、そして今回も自分の正体が明らかになることもかまわずに私たちを助けた!そんな優しさを持つ君なら……」

『……ごめんなさい。』

ユーノはそれだけ言い残すとソリッドを浮上させて遥か彼方へと去っていった。

「!大佐、ガンダムが!!」

『よせ、少尉。今はセルゲイ中佐たちの保護が先だ。』

マネキンは追いかけようとするパトリックを止めると、遠ざかっていく背中を見つめる。

「……なぜかな。どうしてここまで胸が締め付けられるのだろうな。」

人革連、AEUの両兵士の区別なく、その場にいた全員には降り始めた雨のせいかソリッドの背中が泣いているように見えた。







数時間後

AEU拠点

AEUの拠点でセルゲイは温かいコーヒーを飲んでいた。
部下は奇跡的にも全員無事。
生き残った超人機関の生き残りは全員が本国に送られ、しかるべき処置を受けるとの決定がなされた。
また、他の部隊に散っていた元超人機関の人間たちにも厳しい対応がとられることとなった。
結果的にみれば、あれだけのことが起こったのにそれほど被害が出ず、超人機関という忌まわしい存在を完全に消し去ることができたのだから喜ぶべきなのだろう。
だが、どうしてもそんな気にはなれない。
おそらく、ミン達も同じだろう。

セルゲイはそんな気分を消し去ろうと紙コップに入ったコーヒーをすする。
だが、あの日ユーノと一緒に飲んだものと同じブランドのものなのにまったく美味く感じない。

『……ごめんなさい。』

ユーノの言葉が耳に残って離れない。

「我々が………彼のような優しい少年をあそこまで追いつめてしまったのか……!?」

セルゲイはコーヒーの入った紙コップを握りつぶしてしまう。
熱いコーヒーが手にかかるが、セルゲイは自らへの怒りで熱さを感じることができなかった。

「だとしたら………我々は……軍人は、何のために存在しているんだ!」

セルゲイの目から涙がポタポタと落ちていく。
自分を父と読んでくれた少年を、息子を、また悲しませてしまった。

「すまん………!すまん……!」

セルゲイは熱い涙をぬぐうことなく声を殺して泣き続けた。
それは、枯れ果てたと思っていたロシアの荒熊の最後の涙だったのかもしれない。







ロシア上空

「うああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ユーノ……」

967に操縦を任せたユーノはコンソールに突っ伏して大声で泣き始める。
そして、あの日エレナの言葉を思い出す。

『後悔するよ、たくさん。それでも、止まることが許されない。そんな道だよ。それでもいいの?』

「わかってる………わかってるよ、エレナ……。もう、戸惑うことも、立ち止まることも許されない。家族の温かさのもとに帰ることも、なのはたちのところに戻ることも、もう、できない……できないんだ。」

すべて覚悟していた。
それでも、涙が止まらない。
悲しさや虚しさで心が埋め尽くされていく。

「ごめん………なさい……!父さん…セルゲイさん……エレナ……なのは……!」

ユーノは大切な人たちに謝る。
その声が届かなくてもただひたすら謝る。
心に刻まれた深い傷を自らの言葉で必死で埋めるように。



ユーノを乗せたソリッドの装甲から灰が混ざって濁った雨粒が落ちていく。
まるで、灰色の雪が無理だとわかっていながら、悲しみで満ちた大地を覆い隠そうとするように。
その灰色の雪を降らせながら、ソリッドはユーノの“仲間”の待つ場所へと向かっていく。
どれほど、自らの主が悲しみに打ち拉がられようと、止まることなど許されぬとばかりに、雨の中を突き進んでいった。














砕け散った、欠片に傷つくたび
閉ざされた僕の心は
強くなることを選んで
ここまで来たんだ………







あとがき・・・・・・・・という名の注意報

ロ「オリミッション完結編でした。」

ユ「今回はリリなのの登場人物ではなく、00からスペシャルゲストをお呼びしております。」

9「ロシアの荒熊、ユーノの00世界における父親(?)、セルゲイ・スミルノフ中佐だ。」

セルゲイ(以降 荒熊)「紹介にあずかったセルゲイだ。よろしく頼む。」

ロ「こちらこそよろしくお願いします。」

ユ「……なんか他のゲストに比べて態度が違いすぎない?」

ロ「俺が00でもっともリスペクトするお方だからな。お前らも無礼がないように。」

ユ・9「「了解。」」

ロ「というわけで、今回はギャグなしで解説に行くぞ。セルゲイ中佐、どうぞよろしく。」

荒熊「うむ、よろしく。」

9「ようやくユーノの記憶が戻ったな。」

ユ「そしてせっかく僕の記憶が戻ったのになんでこんな微妙に暗い感じになってるの。あ、喋り方戻った。」

ロ「ここではセルゲイ中佐達とのつながりとなのはたちとの絆、それとマイスターとしての自分との間の葛藤を描きたかったからちょっと暗い感じになっちまったんだ。」

荒熊「実際、人を殺しておいて好きな人間に平然と向き合える人間は普通いないだろうな。」

9「そして、セルゲイ中佐たちに正体がばれたがいいのか?」

ロ「あとで書くけどセルゲイさんたちは助けられた恩もあるからしばらくは黙っておく予定だ。」

荒熊「うむ。」

ユ「でもヴェーダは?」

ロ「もちろん、ユーノのことは槍玉にあがるけど審議中ってことにする。んでもってその間に………これ以上のネタばれは流石にまずいんでここまでだ。」

9「ティエリアあたりが強引にソリッドから降ろしそうだがな。」

荒熊「私とユーノ君との関係はこれからどうなるのかね?」

ロ「それももちろん描いていきます。ただ、どうしてもsecondのほうがメインになるかもしれないけど。」

ユ「ま、そこまで続くように頑張りますか。」

ロ「じゃ、次回予告行くぞ。」

9「記憶を取り戻したユーノは仲間たちのもとに戻るが、その心は晴れない。」

荒熊「そんな彼の心の動きを感じ取った者たちがいた。」

ユ「そして、遂に三国家群が足並みをそろえ始める。」

ロ「ソレスタルビーイングに対する世界の答えとは?」

ユ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!じゃ、せーの……」

「「「「次回をお楽しみに!!」」」」



[18122] 22.嵐の前の……
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/08/18 00:24
?????

「ここは……」

見覚えのある景色に懐かしさを感じながらユーノは足を進めていく。
みんなと出会った街、悲しいことも楽しい思い出も詰まった街、海鳴市は3年経とうとなにも変わらない。
だが、空の色はまるで水面に油を落としたようにさまざまな色が混じりながら蠢き、街の中には人が見当たらない。

「固有結界?」

固有結界は戦闘、または対象となる何かを周りに被害が及ばないように閉じ込めるためのものだ。

「特に危険な反応は感じられないけど……」

ユーノはあたりの様子をうかがう。
すると、見覚えのある背中を見つける。
金色の髪をツインテールでまとめ、黒いマントをはおった少女。
この街で互いに譲れないもののために戦い、友達となった人物がいた。

「フェイト!!これは一体……?」

ユーノはフェイトの肩に触れようとした。
しかし、フェイトは振り向きざまにバルディッシュに鎌状の魔力刃を発生させてユーノの首に当てる。

「な、何を……!?」

「黙れ。」

冷たい声と目にユーノは固まる。
だが、すぐさま声を張り上げる。

「フェイト!いったいどうしたって言うんだ!?」

「どうした、か…………私たちは気付いたのさ。お前の本性に。」

後ろから聞こえた声に振り向くとピンクのポニーテールの剣士が愛剣のレヴァンテインに炎をともして歩いてくる。

「シグ………ナム……?」

「お前はおぞましいほどの殺意を隠し、我々を騙していた。」

「その報いを受けてもらうよ。」

「違う!!僕はみんなと一緒にいたかっただけだ!!」

ユーノはフェイトの魔力刃をかいくぐり路地裏に入る。
狭く、足元にさまざまなものが散らばっているせいで何度も躓いてしまうが、必死で走る。
どこまで来ただろうか。
気付くと闇の書事件を終結させた海辺に出ていた。

「こ…ここまでくれば……」

「あんたも諦めが悪いねぇ。」

「!!?」

突然目の前から聞こえた声に顔を上げる。
犬のような耳にオレンジの長い髪をした女性がユーノを空から見下ろしている。

「アルフ……!?」

「……あたしの名前を気安く呼ぶな、人でなし。」

アルフは不愉快そうに顔をしかめながらユーノを睨みつける。

「貴様のような裏切り者に呼ばせるほど我らの名前は安くはない。」

ユーノは踵を返して逃げようとするが目の前にアルフと同じ犬の耳に白い髪と浅黒い屈強な体つきをした男が道をふさぐ。

「ザフィーラ!?」

「名を呼ぶな。そう言ったはずだ。」

ザフィーラは拳をユーノの腹部に打ち込む。
ユーノは拳の形をした鉄の塊を叩きつけられたような感覚に空気を吸うこともままならなくなり、その場に膝をつく。

「か………ぁ……」

「あらあら、もうおしまいかい?」

アルフは降りてくるとザフィーラの隣に立ち、襟を掴みユーノを無理やり立たせる。

「………くは……」

「は?」

「ぼく……は、裏切り者………なんかじゃない……!」

「ク……アッハハハハハハハ!!裏切り者じゃない!?じゃあなんでみんなに自分のことを黙っていたのさ!?」

「それ………は……」

「誰も信じられなかったんだろう!?そのくせ友達面をしてみんなを騙してたんだ!!」

「違う!!」

「何が違うのかしら?」

いつの間にか横に黄緑色の服を着た女性がこちらを見つめていた。

「シャ……マル……」

「なのはちゃんを自分のエゴで巻き込んで、挙句、何度も守れずに傷つけたくせによくそんなことが言えるわね。」

「違う……」

「違わないわ。」

「違う!!」

ユーノはアルフの手を払いのけて再び道を走っていく。
その足元には小さく濡れた箇所がいくつもあった。
ユーノは無意識のうちに泣いていた。
誰も受け入れてくれない悲しさと仲間から拒絶の言葉をかけられる恐怖から。

ユーノは小学校の前で再び足を止める。
目の前に帽子をかぶり、十字の杖を構えている少女がいたからだ。

「はや……て……」

ユーノの脚がガタガタと震える。
少しでも気を緩めるとその場で尻もちをついてしまいそうなほどの恐怖がユーノの体を駆け巡る。

「ユーノ君が悪いんよ……うちらのことだまして……おまけにあんなことまでして。」

「あんな……こと………?」

ユーノは震える声でオウム返しに質問する。

「とぼけるな。」

低く鋭い声に後ろを振り向く。
黒いバリアジャケットに白銀の杖、デュランダルを構えた親友が空からゆっくりと降りてくる。

「お前はガンダムで大勢の命を奪ってきただろう。」

「戦いで戦いを終わらせるなんて馬鹿げた理念のせいでたくさんの人が苦しんだこと、知らへんなんて言わせへんよ。」

はやての言葉が終わると同時にユーノの周りに大量の死体が現れる。
ユニオンの軍服を着た者、人革連の軍服を着た者、AEUの軍服を着た者。
一般人、子供、女性、老人。
ありとあらゆる死体がユーノを埋め尽くす。

「あ……あ………」

「何驚いとるん?………みんなユーノ君がやったんやん。」

「そうだ、お前が殺したんだ。自分のエゴを押し通すために!!」

「う……わあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

ユーノは空高く飛び立ち、固有結界が張られた意味を理解した。
これは自分を逃がさないために張ったものなのだと。
結界の端まで来るとユーノは必死で結界を叩く。

「出して!!ここから出して!!お願いだ!!出してぇぇぇぇぇぇ!!!!」

出られるはずがないとわかっているはずなのに、何度も何度も叩いてしまう。
もうみんなの言葉を聞きたくない。
涙がとめどなくあふれ、頬には激しく動いたせいでいくつも歪な涙の通り道ができている。
そんなことをしていると後ろに気配を感じる。
恐る恐る後ろを向くと赤いゴスロリドレスを着た少女がゴミでも見るような眼でこちらを見ている。

「よく私たちの前に出てこれたもんだな、この人殺し!!」

「違う………違うんだヴィータ………これは……」

違わないとわかっていても言い訳じみた言葉ばかりが口から出てくる。

「お前、アイツをどれだけ悲しませる気だ………?」

「違う………」

「違わないだろ?お前は………」

ソレスタルビーイングの一員で……

「やめて……」

ガンダムマイスターで……

「お願いだ、やめてくれ!!」

人殺しだろ!!

「やめてぇぇぇぇぇ!!!!」

ユーノはその場から弾かれたように飛び出すが、周りはすっかり仲間、いや、仲間だった者たちに囲まれている。
その中から、一人が前に進み出る。
白と青のバリアジャケットに赤い宝石がはめ込めれた杖を持ったブラウンのツインテールの少女。

「な………のは……」

なのはは何も言わない。
目は少しうつ向き気味なせいで前髪に隠れてよく見えない。
ユーノはなのはに少しづつ近寄っていく。

「なのは、僕は……」

「うるさいよ……」

冷たい言葉にユーノは止まる。

「私の知ってるユーノ君は優しくて、人殺しなんて絶対しない。」

「それは……!」

「私が好きになったのはアナタみたいなニセモノじゃないよ………」

なのははレイジングハートをエクセリオンモードに変えてA.C.Sを展開する。

「なのは……」

ユーノは涙の枯れ果てた目でなのはを見つめる。
だが、なのはは無表情のまま発生させた魔力刃でユーノの腹部を貫いた。

「か………は……」

「消えて。私たちの前から。」

ユーノは桃色の魔力の奔流に飲みこまれ、絶望感を抱いたまま意識が途絶えた。








地中海 王留美の別荘

「ああああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!」

ユーノは絶叫とともにベッドから飛び起きる。
窓から外を見るとまだ星が我が物顔で漆黒の空に輝いている。

「………ハハハ。なんでいまさら。」

ユーノは笑う。
笑おうとするが自分の意志とは関係なく涙が零れ落ちていく。

「ハッハハ……戻ることなんてできないってわかってるくせに……………わかってるだろっ!!!!」

ユーノは近くにあった携帯端末を手に取ると床に思い切り叩きつける。
叩きつけられた端末は凄まじい音ともに部品をあたりかまわずばらまく。

「………………わかってるから……もう、忘れさせてよ……」

ユーノは首にかけられた青い宝石、ジュエルシードを握りながらつぶやく。
ジュエルシードの性質を考えれば、暴走を開始してもおかしくないのだが、いっこうに何も起こる気配がない。

「なんで……忘れさせてくれないんだ……」

ユーノは呟く。
だが、その問いかけに答えられる人間がこの世界にいるはずもなかった。




魔導戦士ガンダム00 the guardian 22.嵐の前の……

アレハンドロ邸 

アザディスタンから戻ったアレハンドロはロシアでのミッションの経過と結果を聞くとすぐさまある一室に向かった。
円柱状の壁が遥か上まで続くその部屋にはさまざまな絵画や彫刻が壁に飾られている。
しかし、アレハンドロが部屋の中心にある椅子に座った瞬間、絵画や彫刻の目やブローチから赤い光が放たれる。

「では、始めましょうか、監視者諸君。」

『あまりにも会談の開始が遅すぎるのではないか?何かあってからでは遅いのだぞ?』

「申し訳ありません………ここのところ多忙を極めましてね。」

アレハンドロが涼しい顔で笑うと周りからは不機嫌そうに鼻を鳴らす声がいくつも聞こえてくる。

『早速だが議題に移ろう。ユーノ・スクライア……奴をマイスターから外すか否か?』

『即刻外すべきだろう。不用意にマイスターであることを明かすなどあってはならん。』

『だが、しばらく経つが人革連からは何の発表もない。問題はないのでは?』

『発表されていないだけで軍内部にはすでに情報が……』

『それはあり得ませんな。それならば私の耳にも入っているはずです。』

『情報流出だけが問題なのではない。奴の行動には問題がありすぎる。なにより、奴の使う力が問題だ。』

『あのリングや鎖か。』

『さよう。あの力はあまりにもイレギュラーすぎる。そんな力を持つ者をガンダムに乗せるなど……』

「みなさん。」

互いに姿が見えない状態で喧々諤々の議論を繰り広げる監視者たちの言葉をアレハンドロが遮る。

「どうやら大切なことをお忘れのようだ。彼をマイスターにしている最大の理由は監視、そして、彼の正体を明らかにすることではありませんでしたか?」

三年前、ユーノが発見される直前にゴビ砂漠で正体不明の高エネルギー反応が観測された。
そして、その反応の中心でユーノが発見された。
しかも、彼の存在は現存するどのデータをあたっても見つけることができない。
ユーノがマイスターに選出されたのはその能力値の高さもあるが、イオリアの計画、いや、この世界にとってイレギュラーな存在であるため監視、そしてその正体を明らかにすることも目的の一つになっている。

「考えてもみてください。これはある意味最大のチャンスかもしれません。」

『チャンスだと?』

「そう、彼の情報が世界中に広まれば彼が何者なのか明らかになるかもしれません。」

『だが、マイスターである以上Sレベルの秘匿事項であることには変わりない。』

『そもそも監視のためならガンダムに乗せる必要など……』

「彼の高い能力を利用しない手はないでしょう。それに、イレギュラーを乗せたガンダムがこれからどうなるのか……興味深いではありませんか。」

アレハンドロの発言にさらに議論は混迷していく。

「………今日はこの辺にしておきましょうか。互いの意見を考える時間もいるでしょうし。後日改めて議論するということで今日はここまでで。」

アレハンドロの言葉を皮切りに赤い光が次々に消えていく。
そして、最後の一個が消えるとアレハンドロはけだるそうに立ち上がる。

「やれやれ………彼の存在がよもやここまで大きくなろうとは……ここらが潮時か。」

アレハンドロはにやりと笑うと部屋を後にした。






地中海 王留美の別荘

絶好のプール日和にクリスティナはパラソルの日陰で壊れた携帯端末をジッと見たまま泳ごうとしない。

『これ、踏んで壊しちゃ……壊しちまったから新しいの頼むわ。』

そう言って朝に壊れた携帯端末を渡しに来たユーノの顔を思い出す。
いつもと変わらない笑顔だったが、明らかに何か苦しんでいることを隠している。

「どうしたんスか?」

らしくないクリスティナを心配したのかリヒテンダールが声をかける。

「べっつにぃ~。」

「!それ………」

壊れた端末を見てリヒテンダールも黙る。

「………どう見ても踏んだって感じの壊れ方じゃないっスよね。」

「それに、無理して笑っちゃって……」

この前のミッションから帰ってきてからどうもユーノの様子がおかしい。
みんなの前では普段と変わらないようにしているつもりなのだろうが、全員ユーノが何かに悩んでいるのがはっきりとわかっていた。

「……そうだ!いまから会いに行かないっスか?」

「今から?」

「何をしてあげられるかわかんないけど、何もしないよりはマシっしょ。」

「そうだね。うん、そうしよっか。」








ユーノの部屋

朝からユーノは魔法陣を展開して目の前に浮くある物を調べていた。

「………やっぱり封印処理はされていない。なのに、ここまで安定した状態にあるなんて……」

青い宝石、ジュエルシードを手にとって自らの願いを強く思ってみるが、それでも以前のように暴走するような気配はない。

「……その石が力を発揮しないのがそこまでおかしなことなのか?」

「まあね……。封印処理をされていないこれがここまで強い願いを持った人間が集まる場所で発動しないなんてことあり得ないんだけど……」

「俺としては発動しないほうが助かるがな。お前からロストロギアの話を聞いて正直ゾッとしたよ。」

「僕だって暴走はさせたくないけど、どういうわけかジュエルシードが封印を受け付けないんだ。暴走状態にあるならまだしも、ここまで安定した状態にあるのに封印できないなんてことはないんだけど……」

967は魔法陣の中をコロコロ転がりながらユーノがジュエルシードを調べる姿を見ていた。

「しかし、僕が魔導士なんて話をよく信じたね。もっと驚いたり信じてくれないと思ったんだけど。」

「これでも驚いているんだがな。だが、あそこまでのものを見せられて信じるなというほうが無理だろう。」

967はユーノから彼の正体を聞いた。
ユーノがここではない別の世界から来た人間だということ。
その世界では魔法という技術が現実に存在しているということ。
各世界の安全を管理する時空管理局という組織に所属していたこと。
そして、その管理局の人間に父親の命を奪われたことを。

「しかし……300年以上前の地球に行ったことがあるとはな……」

「正確に言うならこの世界の地球とは全く別の地球なんだけどね。」

「?どういうことだ?」

「記憶が戻ってから調べてみたけど、この世界とあっちの世界では少しずつ歴史に齟齬があるんだ。例えば僕の知ってる地球ではベルリンの壁が崩壊したのは1989年なのに、こっちでは一年早い1988年なんだ。他にもいろいろ調べてみたけど大きいものでは十年以上のずれが出てたり、結果が違うものがいくつもあった。それに……」

ユーノは大きく息を吸う。

「この世界には魔導士も管理局も干渉していないし、まず存在すらしていない。あくまで仮定だけど、この世界は歴史の流れの中で僕の知っていた世界と枝分かれした世界なんじゃないかな。」

「パラレルワールドというやつか。」

「うん。だとすれば管理局が存在していないのも説明がつく。」

967は転がるのをやめると中から出てくる。

「このことは報告するのか?」

「…………実は僕魔法使いで異世界から来た人間で~す!………なんて報告できるとでも?」

「………言い方さえ何とかすれば。」

「仮に信じてくれたとしても今度はガンダムから降ろされる可能性もあるしね。異世界の人間、おまけに魔法なんてここにはないような力があるなんてわかったら危険だと思われるだろうしね。ま、それについてはもう手遅れかもしれないけど。」

肩をすくめて苦笑いをする。

「だが、いつまでも黙っておくわけにはいかないだろう。」

「わかってるよ。話さなきゃならない時がきたら話すさ。」

二人はジュエルシードを見つめながら話すが、そのせいでドアの隙間から二人の人間が中の様子を覗いているのに気付かなかった。

「………ねぇ、私たち夢でも見てるの?」

「僕もそう思ったんスけど、今の発言で違うんだってことがわかりました。」

クリスティナとリヒテンダールはユーノに話を聞こうと部屋まで来たのだが、とんでもないことを聞いてしまった。
魔法、異世界、管理局。
どれもとてもじゃないが信じられない話ばかりだ。

「ねぇ、どうする?」

「どうするって言われても………って、おわ!!」

「へ?きゃあ!?」

プールに入った後で足も拭かずに来たので水で滑ったリヒテンダールがこけてしまう。
そして、それに押し倒されるような形でクリスティナも倒れてしまう。
ドアに向かって倒れた二人はそのまま部屋の中に滑り込むように入る。
当然、中にいたユーノと967は二人を見る。

「「ど……どうも~。」」

「………さっそく話さなきゃいけないみたいだぞ。」

「………みたいだね。」







ラグランジュ1 アステロイド群 

ラグランジュ1
地球と月の間にある重力と遠心力のバランスポイントであり、そこにはいち早く宇宙開発に乗り出したユニオンのスペースコロニーがある。
そこから約300㎞離れた地点にはコロニー開発のために運び込まれた多くの資源衛星があり、巨大なアステロイドエリアを形成している。
その中に、私設武装組織、ソレスタルビーイングの秘密ドッグが存在する。

「アレルヤ、状況はどうだ?」

「問題ありません。衛星周辺のGN粒子散布も基準値を示しています。」

誰もいなくなったプトレマイオスのブリッジで作業をしていたアレルヤに同じくここに残ったイアンが話しかける。
プトレマイオスを整備するために二人はここに残っていたのだが、整備担当のイアンとは違いアレルヤは自分から進んでここに残った。

「ここはわしらに任せて、地上に降りてもよかったんだぞ?」

「大丈夫です。僕の体は頑丈にできていますから。……それに、少し考えたいこともあって。」

アレルヤの言葉を受け、イアンは視線をデータが表示されたパネルに移す。

「……わしらはもうことを始めた。後悔すら許されぬ所業だ。」

「わかってますよ。でも、その言葉はユーノには酷じゃないですか?」

「そうは思うんだがな……アイツも強情だからな。わしらの前じゃ弱音の一つも吐かんのが逆に見ていてつらいよ。」

「だからこそ、僕たちで支えてあげないと。」

アレルヤの柔らかな笑みを見てイアンもつられて微笑む。

「……そうだな。」

「それはそうと、もうすぐ終わりそうですね。」

「ああ、あと一時間ほどで出発できるぞ。」

プトレマイオスの周りにいるハロ達もその言葉が聞こえていたのか仕上げにかかる。
それに合わせてドッグの中は増えた火花で明るく照らされていた。






アイルランド 慰霊碑

暗くなった街の片隅にある長いモニュメント。
そのそばにロックオンの乗る車がとまっている。
ロックオンはシートに身を預けてラジオを聞いていたが、スイッチをひねり電波の受信を中止する。

(こんなにきれいになっちまって……)

あの時、ここで起きた出来事を覚えている人間はこのあたりでももうそれほどいないだろう。
それが証拠に最初は溢れるほどあった花束が今はもう数えるほどしか置かれていない。
もう、多くの人があの時のことを忘れて歩き始めているのに、自分の時間はあの時から止まったままだ。
だが、忘れるということはあの時の悲しみを風化させてしまうということだ。
そうなればいつかまた同じようなことが起こるだろう。
だから、たとえ自分の中の時計の針を止めることになっても、決して忘れはしない。

(そうだ、忘れてたまるかよ。)





王留美の別荘 地下室

暗い地下室の一角、いくつもの巨大なモニターに大量の文字が記されている。
その前でティエリアは自分たちが行った結果を確認していた。

(ソレスタルビーイングが行動を開始してから世界で行われている紛争が31%低下、軍需産業にかかわりを持つ企業の63%がこの事業からの撤退を表明。)

ティエリアは無表情なまま操作を続けていく。

(この数字だけ見るとヴェーダの計画予測水域には到達している。……問題はデュナメスの高々度砲撃能力とGN-004、ナドレを世界にさらしてしまったこと。そして……)

ティエリアの顔が不快感で少し歪む。

(刹那・F・セイエイとユーノ・スクライア。)





東京 某マンション

「ふええええぇぇぇぇぇん!!!」

つい一時間ほど前からルイスは顔をソファーの上のクッションに押し当てたまま泣き続けている。
母親が帰ってしまい寂しいのだろうが、刹那にはおおよそ理解しがたいことだ。

「やっぱりこうなったか。」

沙慈は刹那の隣でため息をつく。

東京に帰ってきた刹那は沙慈に誘われ、こうしてルイスを励ます会に参加することになった。
だが、これまで沙慈との関係を上手く取り持っていたユーノがいないせいで、刹那は少しやりにくい感じがする。

「来てくれてありがとう。人数が多いほうがルイスの気も紛れると思って。」

「……そうでもないようだが。」

「ふええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!!!!」

一層大声で泣き始めるルイスを刹那の一言がつきささる。

「………母親が帰ったくらいでなぜ泣く。」

「ぐすっ!!寂しいからよ!!」

「会おうと思えばいつでも会える。……死んだわけじゃない。」

「ふええぇぇぇぇん!!!沙慈!こいつ嫌い!!叩くか殴るかして!!」

「いや、できないって……ていうか同じ意味だ…フグッ!!」

沙慈の顔にルイスの涙がしみ込んだクッションが投げつけられる。
そして、ルイスは再び泣き始める。

「…ごめんね。」

苦笑しながら刹那をみる。
呆れた様子で、しかし、今この場のことではない何かに呆れているようだ。

「………平和だな。」

「え?」

沙慈が不思議そうな顔をすると、刹那の持っていた端末から呼び出し音が鳴る。

「すまない。用事が出来た。」

「ああ、うん。」

「帰れ帰れ!!バーカバーカ!!」

ルイスの罵倒の言葉を受けながら刹那は部屋を後にした。






王留美の別荘

「魔導士?」

「管理局?」

クリスティナとリヒテンダールはユーノから事情を聞いているのだが、はっきり言ってユーノが言っていること疑わしく思えてくる。

「………なんかスケールがおっきすぎてピンとこないなぁ。」

「世界に対して宣戦布告しといてそれはないんじゃないの?」

「だって私たちのいる世界以外にもいっぱい別の世界が存在しているなんて信じられないよ。それに魔法なんてお伽話の中だけの話だと思ってたし……」

「それはさっき説明したけど、僕たちの使う魔法はクリスたちが考えているようなものとは違って、どちらかというとプログラムに近いんだ。魔力っていうエネルギーを使ってそのプログラムを発動させて効果を得るっていうものだから…」

ユーノは頭から煙を出している二人を見て慌てて話を簡略化する。

「ええと、つまり魔力を使って機械を動かすっていう風に考えてくれればいいよ!!」

実際はかなり違うのだが、そういうことにしておく。

(だからもっと簡単な説明にしろと言ったろ。)

(あれでもかなり簡単にしたほうなんだよ!?)

「きこえてるよ~。」

ジト目で睨むクリスティナに気付くとユーノと967は苦笑する。
そこに、頭からの煙がとまったリヒテンダールが話に加わる。

「でも、やっぱり俺らには魔法使いって言ったら黒いローブを着てでかい鍋で紫の怪しい液体を杖を使って混ぜてるのくらいしか思い浮かばないなぁ。」

「私はマジカルなんとか~!ってミニスカで高いところにたってポーズ取ってるのくらいしか思い浮かばない。」

「二人とも、それは偏見だよ………」

とその時、ユーノは二人の様子がおかしいのに気付いた。
自分が話すたびに二人が徐々に距離をとっているように思えて仕方ない。

「………ねぇ、なんでそんなに離れていってるの?」

「だって……」

「ユーノがそんな喋り方してるのってなんか変だもん。」

「なんか企んでいるようにしか思えないっス。」

「こっちが本当の僕の喋り方なんだけどなぁ。ていうか二人とも僕をそんなふうに見てたの?」

「「うん。」」

「ヒドイよ二人とも!!」

「でも、みんなに知られたくないんなら話し方には気をつけたほうがいいわよ。いきなり口調が変わったら流石にみんな気付くだろうしね。」

「それは気をつけてるんだけど……どうにもあの喋り方は疲れるんだよなぁ……」

頭をポリポリと掻くユーノを見て、二人はいよいよ本題に入る。

「で?一体どうしたんスか?」

「なにが?」

「何がじゃないわよ。帰ってきてからユーノが笑ってないからみんな心配してるんだよ?」

「そんなこと……」

「嘘。ユーノ表面上は笑ってるけど、心の中で泣いてるの丸わかりだよ。」

「俺でも気付くんだからみんなが気付かないわけがないっしょ。」

二人の真剣な顔を見て、ユーノは上を仰ぎ見る。

「そっか……なのはたちにはバレなかったんだけどなぁ。ずいぶん下手になっちゃたな。」

「話してくれない?ユーノが何に見苦しんでいるのか。」

「それには俺も同意見だ。俺も魔法などのことは聞いたがお前自身の話はまだ聞かせてもらってないからな。」

三人に見つめられ、ユーノは観念したように息を吐く。

そして、ユーノはすべてを話した。
赤ん坊のころに内紛で故郷の世界を去ることになったこと。
父親を管理局に奪われたこと。
その後、なのは達と出会ったこと。
自分の気持ちを隠して彼女たちと生き続けてきたこと。
自分の想いをなのはに打ち明けたこと。
そして、あの日の事件が原因で離ればなれになってしまったこと。

「で、エレナに拾われて今に至るってわけ。」

「そうなんだ……」

「でも、それならこれ以上戦い続けることはないんじゃないっスか?」

ユーノは静かに首を横に振る。

「並行世界から戻る方法なんて僕にはわからないからね。この世界で生きていくしかないさ。それに、ここまで来て僕だけ逃げるわけにはいかない。」

「でも!!」

「それに……」

ユーノは悲しそうに笑う。

「僕はどこにも戻れないんだ。数えきれない人を傷つけた僕がなのは達のもとに戻れるわけがないじゃないか。」

ユーノは笑いながら声を張りあげる。

「そうさ!僕はずっとなのは達を騙してきていたんだ!そんな僕にできることはただ戦うだけだ!」

「違う……違うよユーノ!!」

「違わないさ!!いままでが僕にとって異常だっただけだ!!きっと本当はみんなだって僕のことなんか!!」




パンッ!!



乾いた音が部屋に響く。
サングラスが取れたユーノの目には涙がたまっている。
クリスティナはユーノの頬を叩いた手で優しく赤くなった頬をなでる。

「……戦うことしかできないなんて悲しいこと言わないで。ユーノが誰よりも優しいこと、私たちは知ってるよ。」

「でも………きっとなのは達は僕のこと……」

「大丈夫っスよ!ユーノが好きになった子ならユーノことをちゃんとわかってくれてるって!」

「それにユーノが戻ってこれる場所ならもうあるじゃない。」

「?」

クリスティナはユーノの頬をプニプニとつっつく。

「どんなことがあっても、私たちはユーノ達が無事に帰ってくるのを信じて待ってるよ。」

「クリス……リヒティ……」

ユーノは目に溜まった涙をゴシゴシと乱暴に拭うといつもの笑顔を浮かべる。

「やっと笑ったスね。」

「ごめん、心配かけて。」

「ホントだよ。だ・か・ら……」

「?」

クリスティナはニヤリと不気味な笑みを浮かべて手をワキワキと動かす。

「それーーーー!!」

「うわぁぁぁぁ!!?」







十分後
「フ、ククククク……」

「プ、ククククク……」

「わぁ!やっぱりかわいいよユーノ!!」

「……これはヒドイよ。」

三人の視線の先には三つ編みのツインテールをしたユーノがプルプル震えながら顔を真っ赤にしてベッドに座っていた。

「リヒティも967もそんなに笑わないでよ。」

「悪い悪い。しかし、やはり……ククク。」

「そうそう可愛いっスよ。……ククク。」

「………二人とも覚えてなよ。」

「でもユーノは髪が綺麗なんだからもっと気を使わなくちゃだめだよ。」

クリスティナはユーノの三つ編みをほどくと髪を後ろにまとめて根元をリボンでとめる。

「うん。これなら男の子でも違和感はないかな?」

完成した髪型を見てクリスティナは満足そうにうなずく。

「まあ、これなら……」

「「チッ。」」

「ホントに君らあとで覚えてろよ。でも、このリボン……」

ユーノは自身の髪をまとめる赤いリボンを触る。

「いいよ、ユーノにあげる。………そのほうがエレナも喜ぶだろうし。」

「何か言った?」

「ううん!何も!」

クリスティナはエレナから譲り受けていたリボンと同時に本当の意味で彼女の願いをユーノに託せた気がした。

「それと、このことはみんなには……」

「わかってるよ。」

「ユーノが言うって決めるまでは秘密にするから安心していいっスよ。」

「でも二人とも口が軽そうだからなぁ。」

「失礼な!そんなことないよ!」

「そうっスよ!」

二人がユーノを非難していると端末に通信が入る。

「ユーノ、今から集合だってさ。」

「了解。それじゃ行こうか。」

ユーノは967を抱えて広間に向かった。







広間

「合同軍事演習?」

「ユニオンとAEUと人革連が?」

広間に集まっていた全員が表情をこわばらせる。

「エージェントからの報告です。」

「数日後には公式発表があるでしょう。」

ラッセは留美の報告をまさかといった顔で聞いている。

「それが本当ならすげぇ規模だぞ。」

「ユニオンや人革が急に仲良くなっちゃって、なんなんスか?」

「そらま、俺たちのせいだろうな。(やっぱりこの喋り方やりにくいなぁ……)」

ユーノがリヒテンダールの質問に答える。

「そう考えるのが妥当でしょうね。鹵獲作戦に失敗した人革連は他の陣営と組むことで私たちを牽制しようとしている。」

「軍事演習ならわざわざ俺たちが介入する必要なんてないんじゃないか?」

「なにかがある。」

ラッセの言葉を否定するようにティエリアが話す。

「軍の派遣には莫大な資金がかかる。たかが牽制で大規模演習を行うなどあり得ない。」

「同意見よ。王留美、演習場所の特定を。」

「させています。」

「お願いね。…みんな、出撃することになると思うわ、今のうちに羽根を伸ばしておきなさい。」

スメラギがウィンクするとクリスティナはハッとして、気合を入れる。

「フェルト、買い物行こう!」

「え?」

「ほらほら♪あ、あとユーノも来てね。」

「なんで俺まで……」

「……さっきの格好、写真にしてあるんだけどなぁ?」

「な!?脅迫する気か!?」

「?さっきのって?」

「な、なんでもない!なんでもないからなフェルト!!」

「二人きりだとフェルトに見せたくなっちゃうな~♪」

ユーノの顔が一気に青ざめる。

「……どうしろと?」

「荷物持ちお願いね♪あと、他にもいろいろたのしませてもらおっかなぁ~。」

スキップをし始めそうなクリスティナの後をがっくりと肩を落としたユーノと話しについていけていないフェルトがついていった。

「……何があったの?」

スメラギは思わずリヒテンダールに問いかける。

「いやいや……ククククク……」

「別にばらしてもいいんじゃないか?……フフフフフ……」

その後、967が画像データに残しておいたユーノの三つ編みを見てこの場にいた全員がさまざまなリアクションをする。
当然、帰ってきたユーノにリヒテンダールは制裁をくわえられるのだが、街で撮ったクリスティナのある写真によってユーノは否応なしに大人しくさせられることになるのだが、それは別の機会に話そう。






JNN本社

「喜べ絹江!!昨日の報道特集、視聴占有率が40%を超えたぞ!!」

「本当ですか!?」

絹江は上司の言葉を思わず疑ってしまう。
自分がかかわった仕事でここまでの成果が出たのは初めてだ。

「冗談でこんなこと言うか!番組始まって以来の数字だそうだ!」

だが、この結果はあくまで彼女にとっては手段でしかない。
彼女が本当に知りたいことを知るための。

「じゃあ、取材を続けても……」

否が応にも期待が膨らむ。
しかし、上司が言ってきたことは彼女の望むものとは違っていた。

「ああ!上もそう言ってきてる!次はソレスタルビーイングの活動における世界経済への影響を特集するぞ!!」

「……部長!」

突然の絹江の大きな声に言葉を途切れさせてしまう。

「イオリアの取材、続けさせてください!」

「なんでだ!?」

想像もしていなかった申出に動揺する上司に絹江はさらにまくしたてる。

「戦争根絶ではなく、ソレスタルビーイングには本当の目的があるように思えるんです。イオリア・シュヘンベルグを調べていけば真実がわかるかもしれません!だから私は……」

「……わかった好きにしろ。ただし!」

「?」

「無理はするな絹江。深みにはまったら抜け出せなくなる。」

「……はい。」

絹江は自分の父のことを思い出す。
彼もまた真実を追い求め、その中で死んでいった。
あの時の沙慈の泣き顔を忘れたことなど一日たりともない。
だから、自分は死ぬわけにはいかない。
無事に帰ってきて、そのうえで真実を突き止めて見せる。
そんな決意をしながら絹江はイオリアの取材を続行することとなる。



ひょっとしたらこの時すでに彼女の運命は決まっていたのかもしれない。






ユニオン アメリカ MSWAD基地

「オーバーフラッグス?」

「ああ、対ガンダム調査隊の正式名称だ。公にはフラッグのみで形成された第8独立戦術飛行隊として機能することになる。」

「パイロットの補充はあるんですか?」

「だからこそ、ここにいる。」

グラハムが空に視線を向けるのにつられ、ダリルとハワードも上を見上げる。
そこには、白い飛行機雲を発生させながら優雅に飛ぶ12機のフラッグがいた。

「12機も!?」

「あの機体のマーキング……」

ハワードは手に持っていた双眼鏡で先頭のフラッグの腕に着いたマークを拡大する。

「先頭を飛んでいるのはアラスカのジョシュアか!?」

拡大したまま他のフラッグのマークも見る。

「ジョージアのランディ、イリノイのステュアートまでいやがる!」

「各部隊の精鋭ばかりだぜ……」

豪華な顔触れにダリルは思わず感嘆のため息をついてしまう。
だが、グラハムの口からさらに信じられない報告を聞くこととなる。

「驚くのはまだ早い。プロフェッサー・エイフマンの手で、フラッグ全機がカスタム化される予定だ。」

「本当ですか!?」

「嘘は言わんよ。」

グラハムの顔に笑みが浮かぶ。

「調査隊が正規軍となり、12人ものフラッグファイターが転属……かなり大掛かりな作戦が始まるとみた。引き締めろよ!」

「「了解!!」」

二人の姿を見てグラハムは頼もしさを感じる。

(これならば、今度こそ一矢報いることができるやもしれんな。)





人革連 砂漠地帯駐屯基地

何もない砂漠のど真ん中にポツリと人革連の駐屯基地が一つだけ建てられている。
夜になって冷え込んだその外でセルゲイはティエレンを見上げていた。

「出動ですか、中佐。」

いつの間にかやってきていたピーリスから声をかけられる。

「おそらくな。まだ私に作戦の内容は伝えられていないが、我々だけでなく、他のMS部隊にも指示があったようだ。」

「今度こそ、任務を忠実に実行します。」

この前からピーリスは少し治ってきていた機械的な感じが戻ってきてしまった。
よほどあの時言われたことが堪えたようだ。

「……気負うなよ。」

「了解!」

ピッチリとして機械的な敬礼の後、ピーリスが去っていく。
そして、入れ替わるようにミンがやってくる。

「……あの子のことを考えているのですか?」

「……わかるか。」

「わかりますよ。私も同じことを考えていましたから。」

ミンは悲しそうに笑う。

あの後、セルゲイはユーノに関する報告を行わなかった。
ピーリスは猛反発をしたが、彼女を除くあの場にいた全員がその意見に同意した。

「私はまだあきらめたくないのだよ。できることなら彼を救いたい。」

「そのことで少しお話がありまして……」

「?なんだね。」

セルゲイが首を傾げる中、ミンは意を決したように大きく息を吸い込む。

「彼を保護したら、私の養子に迎えようかと思うのです。」

「なに?」

「彼が罪を償って社会に出てきたときに、帰ってこれる場所を用意してあげたいんです。」

「ふむ……」

セルゲイはあごに手を当てながら思案する。

「二度も助けてもらった礼……というわけじゃないんですが、せめてしてあげられることはしてあげたいんです。」

「なるほどな。ところでこのことは君の奥さんには……」

「次の作戦が終わったら話そうと考えています。」

「そうか……そういえば、確か子供が生まれたといっていたな。遅れてしまったが、おめでとう。」

「ありがとうございます。でも、正直あまり実感がわかないんですよ。なにせ生まれた時、私はベッドの上でうんうん唸ってましたから。」

二人は苦笑しながら空を見上げる。

「………次も生き残りましょう。」

「ああ。」








プトレマイオス

「少し加速します。加速Gに注意してください。」

「年寄り扱いするな。」

少し渋い顔で自分の気遣いの言葉を聞き流すイアンを見て、アレルヤはフッと笑う。

「ご無礼。」

そう言ってプトレマイオスを加速させると、イアンはやはり少しつらそうな顔をする。
が、

「だ、大丈夫だ!!」

「そ、そうですか?」

こうして一抹の不安を抱えながらもアレルヤ達は目標地点である地球周辺まで進んでいくのであった。



別荘 地下室

「どうです?」

「私とヴェーダの意見が一致したわ……」

少し疲れた様子でスメラギはティエリアの問いに答える。

「紛争が起こるというのですか?」

「確実にね。」

「場所は?」

スメラギはモニターの上へと視線を向ける。

「中国北西、タクラマカン砂漠……濃縮ウラン埋設地域。」

「濃縮ウラン……」

「どこの組織か知らないけれど、ここの施設をテロの標的にしてる。ユニオンか人革かがこの情報をリークして演習場所に選んだのよ。施設が攻撃されれば放射性物質が漏出し、その被害は世界規模に及ぶわ。」

「すぐにでも武力介入を。」

説明を聞いてすぐさまティエリアは自らの意志を伝える。

「敵の演習場のただなかに飛び込むことになるわ。演習部隊はすぐに防衛行動に出るわよ。……いいえ、ガンダムを手に入れるために本気で攻めてくる。」

「それでもやるのがソレスタルビーイングです。」

「ティエリア……」

ティエリアの顔を見て、スメラギは決意が固いものだと理解した。

「ガンダムマイスターは生死よりも目的の遂行、および、機密保持を優先する。ガンダムに乗る前から決まっていたことです。……いいや、その覚悟なくしてガンダムに乗れません。」

そうだ。
ガンダムマイスターである自分はが再びあのような失態を犯すわけにはいかない。
だから、証明しなくてはならない。
自分がガンダムマイスターにふさわしい存在であるということを。





アイルランド

「了解だ、アジトに戻る。」

夜の道路を愛車で飛ばしながら通信をしたロックオンの表情は自然と厳しくなる。

「こいつはヘビーだな……手加減はできそうにないな!!」

アクセルを思い切り踏み込まれた車は道路とタイヤとの摩擦音をあげながら車のない道をひた走った。




プトレマイオス

プトレマイオスからキュリオスが光とともに飛び出していく。
その中にいるアレルヤは先ほど聞いた情報のせいで憂鬱な気分だった。

「これが世界の答え……」

世界を変えようとした者たちに対する人々の意志。
だが、それを認めるわけにはいかない。
アレルヤはキッと顔をあげて前を、地球を見据える。

「GN粒子最大散布。機体前方に展開。キュリオス、大気圏に突入する!」







地中海 ショッピングモール

『了解、指定時間に合流する。』

「うん、お願いね。」

荷物をすべてユーノに持たせて手が空いているクリスティナは刹那に連絡を終了する。
しかし、

「え!?なんで!?」

彼とエクシアがどこにいるのか表示された瞬間、焦りで言葉を失ってしまう。

「どうかした?」

「!!う、ううん!なんでもない!」

ユーノに突然声をかけられて焦るが、なんとか取り繕う。

「?あっそ。」

ユーノが向きを変えるとクリスティナはホッと息をつく。

(もう……勝手なことしちゃって。怒られても知らないから。)

彼女の持つ端末の地図の上にはエクシアを示す点がアザディスタンにあった。






アザディスタン 王宮

マリナは浅いまどろみの中にいた。
マスードが戻ってきてからも争いが絶えないこの国のことを考えているとなかなか寝付けなかった。
そんな時、彼女は冷たい夜風が肌に当たるのを感じた。

(…………?)

窓は閉めているはずだから風などはいるはずがないのだが、確かに風を感じる。

「ん………うん……」

薄く眼を開けて窓を見る。
閉めたはずの窓が開いている。
閉めたつもりが忘れていたのかと思ったが、そこから影が徐々に部屋に近づいてくる。

「?」

起きたばかりで意識がはっきりしないせいで事態を把握できないが、少しづつ意識を覚醒させていく。

「そこにいるのは誰?」

影の主は彼女の眠るベッドのそばまでくる。
月明かりに照らし出されたその顔は、幼さを残しながらも鋭い眼差しをしたあの少年のものだった。

「せ……刹那・F・セイエイ……どうして?」

なぜ彼がここに来たのかわからない。
彼がこの国を訪れるとすれば武力介入を行うためであって自分のところに来るためではないはずだ。
しかし、現に彼はここに来ている。
マリナが混乱していると、刹那が口を開く。

「……なぜ、この世界は歪んでいる。」

「え……?」

「神のせいか……?人のせいか……?」

「……………………」

突然の質問だった。
刹那はそれきり何もしゃべらない。
ただ、マリナをまっすぐ見つめている。
自分が納得する答えを言うのを待っているかのように。
だが、そのまっすぐさからたまらずマリナは刹那を避けるように視線を落としてしまう。

「……神は平等よ。……人だってわかりあえる。でも……どうしようもなく世界は歪んでしまうの。」

答えになどなっていない。
そんなことはマリナ自身がよくわかっている。
だが、今はこれだけしか思いつかない。

(だから……時間をちょうだい、刹那。私はあなたの納得する答えを………)

声に出そうとするが、思っていることとは違う言葉が口から出てしまう。

「だから、私たちはもっとお互いのことを……」

顔を上げた時、刹那はもうすでにそこにはいなかった。

(夢……?)

そんなはずはないと窓によって外を見る。
そこからは星が輝く夜空の中に緑色の淡い光の点が月へと向かっていく姿が見えた。

「刹那……」

マリナは後悔していた。
今、言わなければもう二度と刹那の問いに答えることができない。
そう思えて仕方がなかった。



刹那はエクシアの中でマリナの答えをかみしめていた。
自分とは違う方法で世界を変えようとしている彼女なら答えてくれると思った。
だが、教えてはくれなかった。
わかったことは世界をゆがませるのは神でも、そして人でもない。
だとしたら、

(何が歪んでいる……それは、どこにある……!)

その問いの答えは今の自分の中にはない。
ならば、探し出すまでだ。

(俺とエクシアで……!!)







AEU フランス 外人部隊基地

さまざまな人種が集まる外人部隊基地の指令室にスーツを着た赤髪の男がソファーに座ってデスクに座っているAEUの士官と話している。
髪を髪留めで後ろにまとめ端整な顔立ちをしているが、浅黒い肌をしているせいか粗野な印象も受ける。

「我が隊に極秘任務ですか。」

「詳しくは指令書を読んでくれ。この私ですら知らされていない。」

司令官は嫌なことでも思い出したのか不愉快そうに顔をしかめる。

「私に与えられた任務はこの指令書とアグリッサを君に渡すことだ。」

「アグリッサ?第5次太陽紛争で使用した、あの機体を……」

「機体の受け渡し場所も、資料に明記されている。」

男は薄く笑った後、立ち上がって司令官に敬礼する。

「了解しました。第4独立外人機兵連隊、ゲーリー・ビアッジ少尉、ただいまを持って極秘任務の着手します。」







外人部隊基地の外で、髪留めを外しながら男は笑う。

「フフフ………ヘヘヘヘヘ………楽しくなってきたじゃねぇか……」

その顔は先ほどまでの爽やかな印象はなく、凶暴なものに変わっている。

「こりゃ戦争だぜ……そりゃもうとんでもねぇ規模のな!!ハハハハハハハハハハハ!!」

ゲーリー・ビアッジこと、アリー・アル・サーシェスの笑い声が夜空に響き渡った。









間もなく、マイスター達は世界と向き合うこととなる。
悪意も、希望も存在する世界と……









あとがき・・・・・・・・・という名の希望的観測

ロ「いろいろ準備中の22話でした。きっと皆様満足して……」

ク「いいわけないでしょうがぁぁぁぁぁぁ!!!!」

ロ「ぐはぁぁぁぁぁ!!!い、いきなり何すんの君!!?出て来るなり人の顔殴りやがって!!親父にもぶたれたことないのに!!」

ユ「それどっちかっていうとリボンズが言ったほうが……」

ク「それは言っちゃ駄目ぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

ユ「ドゥブッハァァァァァァァァァ!!!?!?」

ム「………ええと、クリスが無茶(?)ばかりする人たちを押さえてる間にゲストの紹介に行くっス。今日のゲストは眉毛犬第1号、今はロリっ娘、アルフさんっス。」

豆犬「あんたかなり失礼なやつだね。あんまりお痛するとガブッといくよ。」

ロ「うっさい、このいじめっ子。いたたたた………」

豆犬「あれあんたがやらせたんだろうが!!」

ク「でもあれはやりすぎだよねぇ~。正直かなりドン引きした。」

豆犬「えぇぇぇぇぇっ!!?なんで私のせい!!?」

ム「だってそうでしょ。ほら、ユーノなんてあっちで血の海で倒れてるっス。」

豆犬「それそこの女がやったんだろうが!!」

ク「私そんなことしないもん、てへっ♪」

ロ「取り繕っても無駄だと思うぞ。あんなケン○ロウ顔負けの暗殺拳法……」

ク「石破天○拳ーーーーーーーっっ!!!!!」

ロ「ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

ユ「ししょおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!?」

ロ「グハッ……!ド○ン……見よ!東方は!」

ロ・ユ「「赤く燃えているぅ~!!」」

ロ「ぐほっ!」

ユ「ししょおぉぉぉぉぉぉぉ!!」

豆犬「……ねぇ、なにあれ?」

ム「いつもの悪乗りっス。」

豆犬「………もう解説行こう。」

ム「そうっスね。」

ク「それにしても冒頭のあれはやりすぎじゃない?」

ム「かなりえげつなかったな~。」

豆犬「あんなもんリリなのじゃねぇぇぇぇぇ!!!!って人たちはごめんなさい。いや、ホントに。」

ロ「まあ、あれはユーノの罪悪感で脳内補正がかなりかかってるからな。正直書いてる俺もどうかと思ったけど。」

ユ「………と、ところでクリスとリヒティに魔法がばれちゃったね。」

ク「(話そらした。)なんで私たちだけなの?」

ロ「はっきりとばれる奴らは967、フォン、お二人さん。あともう一人にもばれる。ちなみにそのもう一人ももう決まってる。」

ム「いや、だからなんで?」

ロ「967とフォンを除いた皆様、つまりお前らの共通点は?」

ク「それはまあ……」

ム「最終戦で……」

ク・ム「「……………………」」

ロ「そういうこと♪」

ク・ム「「えええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」」

ユ「じゃあ、もう一人って!?」

ロ「そ、あの二人のどっちか。てかもう確定したも同然だけど。」

ク「そうじゃなくて私たち原作通り確定!?」

ロ「何期待してんの?当たり前だろ。」

ム「ヒドイっスよ!!」

豆犬「諸行無常。」

ク「うっさい!!」

ユ「それよりクリスたちとのショッピング中僕どうなってんの?なんかいやな予感しかしないんだけど。」

ロ「基本書く予定はないけど気が向いたらサイドで……」

ユ「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

豆犬「いいじゃん。面白そうだし。」

ク「ユーノのあんな姿やこんな姿が……」

ユ「え!?なにされんの!?僕何されてたの一体!!?」

ロ「余裕があれば書きたいなぁ。」

ク「是非に♥」

ム「なんかやばい世界の扉が開きそうっスね。」

豆犬「しかし、今回は戦闘がなかったね。」

ロ「準備の回だから仕方がないんだよ。」

ク「そればっかね。」

ロ「次回は戦闘づくめだから安心しろ。」

ム「それ安心していいの?」

豆犬「だって戦闘なしばっかでもあれだろ。」

ユ「というわけで次回は結構凄そうです。」

ク「じゃ、その期待の次回予告にゴー!!」

ロ「リークされた情報が原因でタクラマカン砂漠で紛争が発生!」

ム「そして、罠だとわかりながら死地へと赴くマイスターズ!!」

ユ「マイスターズは圧倒的物量差の前に苦戦を強いられる!」

ク「はたしてこの危機を乗り切れるのか!?」

豆犬「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!それじゃあ、せーの……」

「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」



[18122] 23.嵐の中へ
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/07/20 13:07
タクラマカン砂漠

白み始める薄い闇の砂漠をいくつもの緑色の点が埋め尽くしている。

『双方向通信システム全機、予定ポイントに設置完了!』

『ユーロ2より入電!これより浮遊型双方向通信システムの散布を開始する!』

空を飛んでいた飛行機から大量の丸い浮遊物が落とされ、同じように緑の光を放ち始める。

『ユニオン3からの通信も通信状況、オールグリーンです!』

『シミュレートプラン、オールクリア!』

この時をもって、部隊総数52、参加MS832機という空前絶後の作戦の幕が上がった。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 23.嵐の中へ


タクラマカン砂漠

早朝、音一つしない砂漠の真ん中に轟音を響かせながらとある施設に近づく3機のアンフと4台の車があった。
濃縮ウランが保管されたその施設に向かう者などそうはいない。
いるとすればテロリスト、そして、そのテロリストを狩る存在ぐらいのものである。

遥か上空、キュリオスに乗って雲の中を突き進むデュナメスは狙撃用のカメラアイを展開する。

「アレルヤ、速度と高度を維持しろ。……うおっ!?クッ!」

突然の揺れに照準がぶれる。

「機体を揺らすな!」

「…無理言いすぎ。」

無茶な注文をつけてくるロックオンにアレルヤは困ったように笑うと、キュリオスを雲の中から飛びださせる。
見下ろすとアンフ達はすでに施設への攻撃を開始している。

「いたぞ!今度は揺らしてくれるなよ!」

「了解!」

地上と水平に移動するキュリオスの上でデュナメスは狙いを定める。

「デュナメス、目標を狙い撃つ!」

放たれた光弾は一機のアンフの頭部を穿つ。
続いて放たれた二発の弾も見事アンフ達をとらえ爆散せしめる。
そして、ロックオンは仲間がやられたにもかかわらずそのまま施設へと向かうトラックを補足する。
引き金を引くたびに車から信じられないほどの爆炎があがる。
どうやら爆薬を仕込んでいたようだ。

「全弾命中、全弾命中。」

「離脱するぞアレルヤ。」

『了解。』

狙撃用のスコープを戻すロックオンだが、モニターに異変が表示される。
複数の熱源がこちらに向かって飛んできている。

「!?敵襲!」

反応に気付いたアレルヤはかわそうとするが、反応が途中からさらに増加する。
そして、分裂したミサイルの爆発によって二機は激しく揺さぶられる。

「ぐああぁぁ!!」

「敵機接近!敵機接近!」

「チィ!くそ!」

ミサイルの爆煙の中から飛び出した二機の前に無数のリアルドが出現する。

「ロックオン!!」

「わーってる!!」

ロックオンはすぐさまスコープを降ろして狙撃を開始する。
そして、キュリオスから離れ腰に装備されたミサイルを発射する。
キュリオスもテールユニットからミサイルを放出して迎撃に当たる。
二機の猛攻を受けたリアルド部隊は大量の被害を出すが、それでもまだまだ機体は残っている。
残った機体は攻撃の合間をついて二機へと向かう。
そして、

「!?」

そのまま体当たりをくわえる。
ぶつかった瞬間に生まれた黒い煙と衝撃によってキュリオスはバランスを崩して戦闘機形態のまま地上へと落下していく。

「アレルヤ!!」

仲間の安否を気づかうロックオンだが、自身の周りも大量のMSが取り囲む。
ビームピストルを抜いて応戦するが、文字通り四方八方から飛んで来る弾丸に翻弄される。
そして、何機かのリアルドに抱きつかれてしまう。

「なに!!?」

ディスプレイに映ったリアルド達を見て不審に思うが、表示された文字で狙いを理解する。

「!こいつら!!」

リアルド達は上半身を残した状態で下半身を切り離して離脱していく。
そして、ある程度距離が取れたところで残された上半身が一瞬で爆炎に早変わりする。
そして、デュナメスは力なく空を漂いながら地上に降りていった。

「ロックオン!!」

いち早く地上に降りてMS形態になっていたキュリオスが地上に膝から砂に不時着するデュナメスに駆け寄る。

「ロックオン!」

「大丈夫だ……。」

休む暇なく、今度は別方向から大量の赤い点が近づいてくる。

「ッ!!来るぞ!!」

手前から徐々に近づきながら着弾していくミサイルに対して、二機はそれぞれシールドで防御するが、上空からヘリオンの爆撃、地上からはティエレンと地上型に銃装備にカスタムされたフラッグの砲撃と、猛攻はやむ気配を見せない。

「案の定持久戦かよ!!」

「っ……!これは流石にキツイね……!!」

激しい揺れに襲われながら、ロックオンはある方向を見る。

(頼むぞ……ティエリア、刹那、ユーノ!!)





王留美の別荘

夜の帳が下りた中、街から離れた別荘にはいまだ明かりが灯り続けている。
フェルトはコーヒーメーカーの前に座りながら、容器に濃い茶色の液体がたまり続けているのを見ている。
他のメンバーも静かに情報が入るのを待っている。

「……ファーストフェイズの終了予定時刻が過ぎました。」

「作戦開始から一時間……無事に離脱できればいいんですけどね。」

クリスティナとリヒテンダールの顔には若干の不安がうかがえる。

「……スメラギさんの予測は?」

スメラギは眉の間にしわを寄せながら、ラッセの問いの答える。

「………おそらくは、プランB-2に移行しているはず。」

「……エクシア、ヴァーチェそしてソリッドの投入。」

それは、ロックオンとアレルヤが離脱できなかったということだ。
あくまで予測なのだが、この場にいる全員にとって彼女の言葉そのものがその証拠のように思えた。







タクラマカン砂漠 AEU司令本部

「ユニオン3、初期攻撃に成功!ガンダム二機、TF41-22ポイントです!」

「遠距離砲撃続行!」

「了解!遠距離砲撃続行!」

あわただしく全員が動く中をマネキンの鋭い指示が飛ぶ。
モニターに映された情報は毎秒変化し、状況の変化を伝えてくる。

「キューマ1から有視界暗号!TF21-23へ部隊の派遣を要請してきました!」

報告を受けたマネキンはにやりと笑う。

「やはり手薄の場所を狙うか……第23MS隊を発進させろ!」

マネキンが指示を出した時、パトリックが不満そうな顔で部屋に飛び込んできた。

「大佐!!なぜ私に出撃命令を出さないのですか!!?俺はガンダムを……」

「今は待機だ。」

「しかし!!」

ごねるパトリックにマネキンは鋭い笑みを向ける。

「信用しろ。私がお前を男にしてやる。」

マネキンの言葉に呆気にとられるパトリックだが、すぐさまいつもの自信満々な笑いを浮かべ敬礼をする。

「了解しました!!このパトリック・コーラサワー、大佐の期待にこたえてみせます!!」

「そうか。」

マネキンはあっさりとパトリックの返事を流して前を向くが、彼女は多少ではあるが彼に期待していた。

(………シミュレーションエースとは言え、腕前はそこそこのはずだ。自称エースの腕前を見せてもらおうか。)

だが、彼女はこの時一つ大きな誤解を生んでしまっていたことを知らなかった。

(男にしてくれるってやっぱ………クゥゥゥッッ!!よっしゃ!!やってやるぜぇぇぇぇぇ!!)

流石のマネキンもパトリックの思考回路を読みきるのは不可能だったようだ。





タクラマカン砂漠 東部

スリープモードのエクシアのコックピットで目を閉じて待っていた刹那にヴァーチェに乗るティエリアから通信が入る。

『ミッションプランをBー2に移行する。』

「了解。エクシア、外壁部迷彩被膜解凍。ミッションを開始する。」

刹那の声に反応し、エクシアは砂漠の一角にその姿を現す。
二本のGNブレイドを装備した万全の状態で肩のセンサーを起こして立ち上がると、隣にいたヴァーチェもそれに続く。
その時、近くを巡回していた二機のリアルドがエクシアとヴァーチェを発見する。

「ガンダム二機発見!!本部に連絡!」

リアルドのパイロットは即座に本部に連絡を入れるが、エクシアが空へと舞い上がりGNソードで二機を斬り捨てる。
地上に残されたヴァーチェはバズーカを構える。

「ヴァーチェ、離脱ルートを確保する。」

ヴァーチェは胸部のジェネレーターにバズーカをつけ、砲身を伸ばす。

「GNバズーカ、バーストモード。」

伸びた砲身の間に光が徐々にたまっていく。

「粒子圧縮率、97%。GN粒子、解放。」

ティエリアが引き金を引くと同時に溜まった光が巨大な光の柱として放出される。
あまりにも大きいその勢いでヴァーチェの巨体が後ろにさがっていく。
光の柱は砂の大地を削りとり、MSを巻き込みながらあたかも塹壕のような地形を形成していく。
そして、その様子をロックオンたちはしっかりと見ていた。

「ティエリア……!?プランがBー2に移行したのか…」

ある程度予見していたとはいえ、予想外の事態であることには変わりない。
すぐにでも撤退しなくてはならない。

「離脱するぞアレルヤ!」

「了解!」

二機はヴァーチェが作った溝に全速力で向かう。

「ファーストシュート完了。GN粒子、チャージ開始。」

離脱ルートを作り上げたティエリアと刹那は自分たちもデュナメスとキュリオスに続き離脱しようとする。
しかし、そんな二人の後ろから無数のミサイルが出現した。

「この物量は!!?」

「対応が早い!!」

反応が遅れ逃げ遅れたエクシアとヴァーチェはミサイルの雨を受け、炎の壁の中へと取り込まれる。

「ぐああぁぁぁ!!!」

「くううぅぅぅ!!!」

二機はミサイルに押されるような形で地上で動きを封じられる。

「く!ソリッドの援護はまだか!?」

ティエリアは歯を食いしばりながら怒鳴り声を上げる。
しかし、モニターに映ったソリッドを示す点は待機していたポイントから少し離れたところを大量の敵に囲まれて右往左往している。

「クソッ!読まれていたというのか!?」







北部

ティエリアたちがミサイルの豪雨を浴びているころ、ユーノは自分の周りを飛び交うヘリオン達に弄ばれていた。
相手をしようとすれば距離を離され、かといって突破しようとすれば火器の雨あられ。
どうあっても援護に向かわせないつもりだ。
いや、

「まずは僕とソリッドが狙いか!?」

地上すれすれを飛びながらライフルを発射するが、あまりにも距離が離されているため当たらない。

「だったらこのまま!!」

ライフルを前方に乱射しながら突破を図るユーノ。
しかし、後ろからの衝撃でソリッドが顔から砂に叩きつけられる。

「クッ!!」

慌ててソリッドを立ち上がらせるが、その間に来ると思っていた敵からの追撃が来ない。

「やっぱりこいつらの狙いは……!」

「消耗戦か!」

物量にものをいわせ、こちらを追いこんでいくつもりなのだろう。
当然向こうも消耗しないわけではないだろうが、こっちが5人に対し敵は数えきれないほどの人員を抱えている。
だが、ユーノとてそう簡単にやられてやるつもりはない。

「多数が少数を押しつぶすか……どこの世界でもそれだけは変わらないね!!」

そう言うとユーノはソリッドをMSの大群の中へと突っ込ませていった。






王留美の別荘

空が白み始めたころ、空っぽのコーヒーメーカーの前でフェルトは眠っていた。
周りはみんな起きているのだが、まだ幼いフェルトにこの時間まで起きていろというのが酷だとわかっていたので誰も何も言わなかった。

「作戦開始から二時間か……」

「プランBなら、デュナメスとキュリオスは間もなく合流ポイントに到着するはずだけど……」

全く連絡がこないため、リヒテンダールとクリスティナは不安を募らせる。

「せめて……GNアームズが使えれば……」

ラッセは悔しそうに歯ぎしりをする。
GNアームズがあれば自分もマイスター達を手伝うことができるのにそれができないことがどうにも歯がゆい。
全員が不安を見せる中、スメラギは星が消えた空を見上げていた。

(時間からして、プランBー2からE-5に移行しているはず……だとすれば、あの機体が来る。)

そう、キュリオスを、アレルヤを苦しめるあの機体が。

(アレルヤ……)






タクラマカン砂漠 脱出ルート

「ッ!!?うぉっああぁぁっ!!!」

半円形の窪地の中を爆撃をかわしながら突き進むアレルヤに突然の頭痛が襲った。
主のコントロールを失ったキュリオスはその場にばったりと倒れこみ、ピクリとも動かなくなる。

「!?どうした、アレルヤ!?」

後ろからついてきたロックオンが心配して声をかけるが、アレルヤは目を見開いて頭を抱えて苦しむ。

「あ、頭が…………!ううっ!!」

この痛みは知っている。
何度も味わったこの感覚が全力で自分に伝えてくる。

「来る……!超兵が………!!」

「超兵だって……!?」

ロックオンはアレルヤの言葉で思い出す。

「報告にあった人革の専用機か……」

「敵機接近!敵機接近!」

「!!?」

ハロの言葉で溝から上を見上げるが、まだ目視できない。
だが、アレルヤは確かにその存在を感じ取っていた。

「来る!!」

アレルヤの言葉と同時に上空にピンク色のティエレンタオツーが飛び出してきた。

「!!!!!」

それを見て固まるアレルヤとは対称に、ロックオンはビームピストルを抜いて攻撃する。
しかし、ティエレンタオツーはそれをかわすとデュナメスには見向きもせずにキュリオスへと向かう。
キュリオスを捕まえたティエレンタオツーは推進力を増して無抵抗のキュリオスを押し込んでいく。

「アレルヤ!!」

追いかけようとするデュナメスだったが、溝の上から残りの機体の攻撃を受けて足止めされてしまう。

「うっ!!思うつぼかよ!!」

ビームピストルを残ったティエレンに発射するが、溝のかげに隠れてしまい当てることができない。

(クソ!この脱出ルートも考えもんだ……!!?)

ロックオンは思わず目を見開く。
ティエレンが全機消えた瞬間、大量の爆雷が降り注いで来たのだ。

「うあっ!!くぅ!」

砂漠にまっすぐ作られた脱出ルートは敵の攻撃を防ぐには確かに有効なものかもしれないが、逆に言えば敵の目標になりやすく攻撃が集中してくる。
もっとも、このMSの大群から逃れる方法は他にないのかもしれないが。
その証拠に、刹那とティエリアはさらに苦戦を強いられていた。








東部

窪地から少し離れたところでは、エクシアとヴァーチェが身を寄せ合うように砲弾やミサイルの嵐に耐えていた。
やまない攻撃の前に刹那とティエリアは退くことも攻めることもかなわぬまま必死に足を踏ん張りコックピットを襲う揺れに耐える。

「くぅっ!!ティエリア!チャージまでの時間は!?」

『あと170だ。』

ティエリアはあくまで冷静でいようとしているようだが、その表情は明らかに苦しそうだ。

「長すぎる……!」

刹那は歯噛みをしながらこちらに向かってくる攻撃の数々を睨む。

(あと170秒もこれを耐えなくてはいけないのか!?)







脱出ルート

ピーリスは押し倒したキュリオスの上に満足そうにティエレンタオツーの足を乗せてゼロ距離から砲弾を撃ち込んでいく。

「うわあああぁぁぁぁぁっ!!」

キュリオスの中にいるアレルヤは叫ぶが、もはや脳を突き刺すような痛みに対してなのか攻撃の衝撃に対するものなのかわからない。
アレルヤの悲鳴に対し、ピーリスは無慈悲なまでに何度も砲弾を撃ち込む。

「ぐあああああぁぁぁぁぁっ!!」

「今度こそ……今度こそ任務を完遂させる!超兵として!」

『…………おい。名前は?』

突然、相手から入った通信にピーリスは攻撃しながらも戸惑う。

「通信……!?」

『教えろよ……』

「超兵一号、ソーマ・ピーリス少尉だ!」

『ソーマ・ピーリスか………いい名前だ。殺しがいがある……!」

「!!!!!」

突然キュリオスの持っていたシールドが開き、中から刃がティエレンタオツーに向かって突き出された。
しかし、本能的に危険だと察知していたのか、ピーリスはタッチの差で操縦桿を少しずらして紙一重でかわす。
と、そこに上からミンの駆るティエレンの援護射撃が降り注ぐ。

「いったん離れろ、少尉!!」

「中尉!?」

「早く!!」

ミンが一喝するとピーリスは体をびくりと震わせキュリオスから離れる。
ティエレンタオツーが離れると、キュリオスはゆっくりと立ち上がる。

「チッ………つまんねぇなぁ。あとは任せたぜアレルヤ………」

狩りの対象が逃げてしまったせいで興をそがれたハレルヤはうつむいて目を閉じる。
そして、

「ハレルヤ!?ぐぁ、あああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

先ほどまでの頭痛から解放されたアレルヤが目を覚ますが、今度はティエレンからの攻撃にその身をさらされることとなった。








北部

「はぁはぁ………」

どうにかヘリオン部隊を退けたユーノは肩で息をする。
まだ脱出できていないにもかかわらず額には大粒の汗がにじんでいる。

「大丈夫か?」

「うん……みんなを………援護しに行かな…………ぐあっ!?」

背中を襲った突然の衝撃にソリッドは再び倒れる。

「新手か!?」

967は慌てて後方を確認すると砂煙をあげながらティエレンの波がこちらに押し寄せてきていた。

「ティエレン!?まさか指揮をしているのは!?」

ユーノはティエレン部隊と向き合い、先頭を走ってくる指揮官機を見据える。

「セルゲイさんか!」

「全機、鶴翼に陣形を展開!砲撃開始!!」

セルゲイの一声でそれまで横に一直線だったティエレンたちが端から徐々に曲がっていき、すべての砲門がソリッドに向く。

「これは………マズイ!!」

ユーノは慌ててティエレンたちへとソリッドを突っ込ませていく。
次の瞬間、先ほどまでソリッドのいた場所に巨大な砂の柱があがる。
いや、それどころかその柱はソリッドを追いかけていく。
しかし、セルゲイの乗るティエレンの近くまで行ったところで砲撃が止む。
ソリッドはブレードモードのアームドシールドをセルゲイ機に振り下ろすが、セルゲイはそれをカーボンブレイドで上手く受け止める。

「セルゲイさん!!」

「やはり来ていたかユーノ君!!」

「退いてください!!あなたとは戦いたくない!!」

「無理だな!!私は君を救うまで君たちを追い続ける!!」

「ク!!」

ソリッドは鍔迫り合いを放棄して空高く舞い上がる。
地上から砲撃を受けるがGNフィールドで受け流しながらセルゲイ達の来た方向に行くことで距離をとっていく。

「967、グラムをスタンバイ!!」

「了解!」

ユーノは逃げながら足元にグラムを撃ち込んでいく。

「さぁ来い!!」

しかし、ユーノの考えが読まれているのか、グラムが撃ち込まれた場所を避けてこちらに向かってくる。

「クソ!967、グラム発動!」

ユーノの合図と同時に瑠璃色の粒子と電撃が発生するが、比較的近くにいたティエレン2、3機の動きが少し鈍った程度だった。

「やっぱりもっと引きつけないと駄目か!967、もう一度……」

「無理だ!さっきのヘリオンと今ので全部使い切った!」

メーターを見てみると確かに残弾数はゼロだ。

「仕方ない、全力で逃げるよ!!」

「了解!!」

ソリッドは方向転換して脱出ルートに近づくように西に向かって飛んでいく。
そこが地獄に通じる一本道だとは知らずに。








某国 某ホテル

「作戦開始から五時間か。」

アレハンドロは夕焼けに染まった美しい砂浜を見ていたが、ゆっくりとどこかへ歩きだす。

「どちらへ?」

「他の監視者たちの意見を聞きに行く。……私の仕事もここまでかもしれんしな。」

夕日に照らされた主人の背中を見て、呆れながらリボンズは笑う。

「そんな気なんかないくせに。」

そう、これからのことについて考えているアレハンドロがこんなところでやめるはずがない。
そのことをリボンズだけが知っていた。

「………大人は嫌いだね。」







タクラマカン砂漠 脱出ルート

もう、夕日も落ちて暗くなり始めた空のもとではいまだに爆音と炎の赤白い光が砂漠を支配していた。
脱出ルートの中で、キュリオスはGNフィールドを張りながら身動き一つせずに攻撃に耐えていた。
しかし、キュリオスは平気でも中にいるアレルヤの体力はピークに達していた。

「いつまで続くんだ……この攻撃は………うっ!!」

そして、別の場所ではデュナメスもまたフルシールドに身を包んで砲撃を耐えていた。

「飯ぐらい食わせろって………ぐああぁぁっ!!」






東部

無数の砲撃に耐えていたエクシアが遂に膝をつく。
しかし、その後ろにはバズーカを構えたヴァーチェがいた。
砲身に溜まった光を一気に放出するが、距離をとったヘリオン達にかする気配すらなく虚空へと消えていく。

「く……はぁ……ガンダムを渡すわけには……!」

「はぁはぁ………っ、はぁはぁ………」

すでに二人のヘルメットには飛び散った汗が大量についており、そのことからも戦闘の続行が厳しいことがわかった。







北西部 脱出ルート付近

なんとかティエレン部隊を振り切って脱出ルートまであと一歩と言うところまでこぎつけたユーノだったが、今度はリアルド部隊に捕まり、執拗なまでの自爆攻撃を受けていた。

「ぐああああぁぁぁぁっ!!」

またとりついた一機が上半身だけ残して離れ、それを爆発させる。
地上に落ちたソリッドに今度はフラッグたちの砲撃が加えられる。

「ク!!」

再び空に上がるソリッドだったが、再びリアルドに捕まり自爆される。

「うわああぁぁぁぁぁっ!!」

もう何度繰り返したかわからないこの連鎖に疲労が極限を超えて蓄積されていく。

「………ける、もんか。お前達……なんかに………負けるもんか………!!」




消耗しきったマイスター達。
しかし、そこに日本は沖縄から最悪の増援が向かおうとしていた。





沖縄 海上

夜であっても陰ることのない美しい沖縄の海の上に、巨大な空母がいくつも浮いている。
そして、そこには漆黒の対ビームコーティングを施されたフラッグが並んでいた。

『オーバーフラッグス隊、ミッションレコードクリア!』

「了解した!グラハム・エーカー、出るぞ!」

滑走路から夜空へと舞い上がったフラッグたちはまっすぐにタクラマカン砂漠を目指していった。








東部

「せ………戦闘開始から十五時間……ぐあっ!」

GNフィールドの中にいるヴァーチェの中でティエリアはモニターに表示された数字で確認をとるが、もう今がいつなのかすらわからないし、どうでもいい。
とにかくこの状況を抜け出すことだけが頭を支配している。
そして、ヴァーチェに生み出したGNフィールドの中で膝をつくエクシアの中の刹那にいたっては確認をとることすらできないほど疲労していた。

「……はぁはぁ………はぁはぁ……」

そんな時、急に攻撃がやむ。
先ほどまでとはうって変わって静寂があたりを支配する。

「……なんだ?砲撃が止んだ……?」

『離脱する!』

「!了解!!」

ヴァーチェは地上から、エクシアは上空から撤退を開始する。
しかし、

「見つけたぜ!ガンダム!!」

パトリックの駆るイナクトが後ろからヴァーチェのまえに躍り出る。
ヴァーチェはバズーカを発初するが当たらない。

「どうしたぁ!?動きがのろいぜガンダム!!」

パイロットであるティエリアが疲労しているのだから動きが鈍くなっていて当然なのだが、AEUの(自称)エースであるパトリックはそんなことなど気にしない。

「やれ!!」

両肩に板状のものを乗せた四機のヘリオンが彼の号令に従いヴァーチェを取り囲む。
そして、肩の板を前に倒すと対象の構造物質を磁気化する力場、リニアマグネティックフィールドでヴァーチェを抑え込む。

「ッッッ!!!!!ぐあああぁぁぁああぁぁぁぁあっぁぁぁぁっ!!!!!」

リニアマグネティックフィールドの影響で電気椅子に座らせられているような激痛がティエリアを襲う。

「ガンダム確保!!」

「よくやった!!俺のおかげだな!!」

パトリックは(何もしていないのだが)満足そうにうなずく。
だが、彼の言葉に同意する者は誰もいなかった。






脱出ルート

闇の中でも目立って見えるピンクの足がキュリオスに当たると、そのまま重力に従って倒れていった。

「中尉、羽根付きを鹵獲します。」

「注意しろよ少尉。以前のように突然動き出すかもしれない。」

「了解!」

ティエレンタオツーと周りのティエレンは腰に装備されたカーボンネットでキュリオスの動きを完全に封じ、砂の上を乱暴に引きずっていった。







「クソ!いい加減にしやがれ!!」

ロックオンは真上にライフルを向けて何度も発射して上を飛び交う敵を牽制する。
とそこに、アザディスタンで見たタイプと同じフラッグが上空から現れ横につける。
だが、その動きは以前であったものとは違い、かなり雑だ。

「邪魔だ!」

デュナメスは左手のビームピストルを向けて引き金を引く。
放たれた閃光はコックピットを貫き爆発を起こす。
しかし、即座に同じタイプのフラッグが殺到してきた。

「なめるな!!」

ロックオンは先頭の一機を狙い撃つが、あっさりとかわされる。

(あの動き……アザディスタンの時の奴か!!)

だが、それだけが外した原因ではない。
その証拠に、体に、特に目に続くスナイパーの命である指先が痙攣したように震えてきている。

「指先の感覚が……!」

「抱きしめたいな……ガンダム!!」

グラハムの駆るカスタムフラッグが地面すれすれまで接近したかと思うと、変形してデュナメスを飛びつくような形で押し倒す。

「ぐあああぁぁぁぁぁっ!!」

衝撃でスコープから目が、そして引き金からは指が離されてしまう。
慣性に従って地面を滑って止まると、カスタムフラッグはデュナメスの頭を掴む。

「まさに……眠り姫だ!」

姫を扱うにしてはあまりにも乱雑な扱いをしながらグラハムは恍惚の表情を浮かべた。







北西部

「はぁはぁ………みんなを……助けなきゃ……」

疲れ切った体に鞭を打ってユーノは操縦桿を動かす。
が、後ろからこちらに来る砂煙に気付く。

「セルゲイさん………もう、追いついたのか……」

汗がついて前が見えにくくなったバイザー越しに後ろから来る集団を悲しそうに見る。

(………違うと信じていたのに。あなただけは、アイツらのような……管理局のようなことだけはしないと信じていたのに………)

テロを利用して自分の大切なものを奪おうとする。
この世界の軍人はそんなことだけはしないと思っていた。
もちろん、自分たちのしていることは許されることではない。
だが、それでもここでも同じ思いを味合わされると悲しさで胸が埋め尽くされていく。

「僕は………」

「!?ユーノ上だ!!」

「!!?」

疲労から気を緩めていた。
いつの間にか大量のヘリオンとイナクトで空が埋め尽くされていた。
そして、肩に板をつけた四機のヘリオンがソリッドの周りを取り囲む。
そのままソリッドは逃げる暇もなくリニアマグネティックフィールドで押さえこまれてしまう。

「ぐ、あああああぁぁぁぁああぁぁっぁぁああぁぁっっ!!!!!!」

「くうううううぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」

人体だけでなく機械にも影響が出るので967も今まで見せたことがないほど苦しみ出す。

「しまった!!!!」

その様子を見ていたセルゲイは焦る。
AEUはアフリカ、モラリア、さらには弾道ミサイル発射阻止などのミッションでソリッドにかなり痛い目にあわされている。
そのソリッドのパイロットであるユーノはAEUに捕らえられれば何をされるかわからない。
セルゲイはヘリオン部隊に近寄る。

「人類革新連盟のセルゲイ・スミルノフ中佐だ。そのガンダムをこちらに渡してほしい。」

ヘリオンのパイロットたちは最初は呆気にとられるが、次の瞬間大声で笑い始める。

「ハハハハハハハハ!!!それは無理ですな中佐殿。このガンダムを鹵獲したのは我々です。そちらに引き渡す義理はありませんな。」

「なら、パイロットだけでも………」

「無理です。何やら思い入れでもあるようですが、そこで指をくわえて見ていてください。」

あざけるようなヘリオンのパイロットの声に歯ぎしりをしながらセルゲイはソリッドを見つめるしかできない。
だが、この時は誰も知らなかった。
この後、最悪の惨劇が起こることを………






北東部

ティエリアとはぐれてしまった刹那は砂漠の空を飛んでいた。
朝焼けでキラキラと砂が輝く光景が幻想的だが、刹那にはそれを楽しむ余裕などありはしなかった。
疲労と眠気で意識を手放しそうになる中、必死で操縦桿を握る手に力を込め、仲間のガンダムを探す。

「……他の…マイスター達は……」

その時、コックピット内に響いた電子音で刹那の意識は無理やり覚醒させられる。

「三時の方向に敵影!?」

視線をやると上りゆく太陽をバックに、こちらに近づいてくる巨大な何かがいた。

「MA!?」

大きな赤い長円型の下半身の上にイナクトの上半身がくっついているという何ともアンバランスな姿をしているが、刹那が注目したのはそこではなかった。
上半身に使われているイナクトには見覚えがある。
細かな違いしかないが忘れるはずがない。

「あのイナクトは!!」

イナクトはゆっくりとこちらにライフルの銃口を向ける。

「この前の借りを返してもらうぜ……えぇ!?ガンダムさんよぉ!!」

サーシェスの声とともに弾が何発も放たれる。
エクシアはそれらをすべて避けるが、接近してきた赤い機体、アグリッサに対応しきれず体当たりをくらう。
MSの何倍もの質量があるMAに激突されたのだから、その衝撃は半端なものではない。
エクシアは無様に砂の大地に叩きつけられ力なく四肢を伸ばす。

「う……あ………」

刹那はなんとかエクシアを起き上がらせようとするが、体に力が入らない。
そこに、体の横に折りたたんでいた6つの足を展開したアグリッサがエクシアの上に覆いかぶさるように着地する。

「フ……逝っちまいな。」

足の一本一本が光ったかと思うと、凄まじい電撃がエクシアを包み込んだ。

「うわああああぁぁぁぁぁああぁっぁぁあぁあっ、ぐぅ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

焼けるような痛みと凍りつくような痛みが同時に襲い、全身の筋肉が弛緩する感覚で刹那は叫び声を上げる。

「どうだぁ?アグリッサのプラズマフィールドの味は?機体だけ残して消えちまいな、クルジスのガキがぁ!!」

サーシェスの言葉も今の刹那の耳には届かない。
瞳孔が開き、体中を痙攣させる刹那には目の前の光景すら見えているのかどうか怪しい。

そんな中、刹那の脳裏にはクルジスの少年兵として戦っている自分の姿が浮かんでは消えていっていた。
両親に数を向ける自分。
銃を持って廃墟となった街を駆け抜けている自分。
親友を止められなかった自分。
大勢の人間を殺した自分。
なににもなれない自分。

(死ぬ………死ぬのか……?この歪んだ世界の中で……………なににもなれぬまま…………失い続けたまま……朽ち果てるのか………?)

そして、ガンダムを見上げて涙をこぼす自分。

「……ダム…。ガン………ダム……」

無意識のうちにエクシアの手を動かすが、わずかにしか動かない。
そして、刹那は意識を手放そうとする。

その時だった。
上空から赤い閃光が何度も駆け抜け、アグリッサを穿つ。
サーシェスは慌ててイナクトをアグリッサと分離させて離れる。

「な……なに!?」

サーシェスは閃光の飛んできた方向にイナクト向ける。
刹那もまた意識がはっきりしないまま空を見上げる。

「あれは…………」

背中から赤い光を翼のように放ち、悠然と自分を見下ろす赤い機体。
姿かたちは違えど、その様子からそれが何なのかはわかる。

「ガン……ダム………」

刹那はエクシアの中で必死に空へと手を伸ばす。

「ガン……ダム………!」

あの時自分に生きるきっかけをくれた存在。
自分が今ここにいる理由そのもの。

「ガン……ダァァァァァァムッ!!!!」









その赤いGN粒子が照らし出す未来は希望か、それとも………





あとがき・・・・・・・・・という名の遂にここまで来ちゃったよオイ

ロ「マイスターズボッコボコ、いいとこなしのタクラマカン砂漠編1でした。」

兄「あとがきで最初に言うのがそれかよ。」

ティ「無能な君に言われたくはない一言だったな。」

ロ「うるさいヴェーダ中毒。アニメじゃお前が一番最初に捕まったくせに。」

ティ「うるさい!!時系列的には大体一緒だろう!!」

ユ「でもちっちゃいお子さんたちは間違いなくティエリアが一番最初に捕まったと思っちゃうよね。」

ティ「そもそもガンダムは大人向けだ!!」

ア「いや、そんなことはないんじゃ……」

刹「ガンダムファンに怒られる……」

ティ「ぐ………」

兄「ティエリアが泣きそうなのでゲストの紹介に行きます。」

ティ「泣いてなんていない!!グスッ………」

兄「(泣いてんじゃんか……)……え~、ヒロインの姉といういいのか悪いのかよくわからないポジション、ユーノの将来の義姉さん、高町美由希さんです。」

美由希(以降 姉)「どうも、高町美由希です。ていうか私のテロップもこれ以上ないくらい雑……」

ロ「じゃあ『義』をつけてやろう。この作品では一応ユーノが主役なわけだし、テロップもそれに合わせたほうがいいか。うん、そうしよう。」

義姉「いや、それはむしろいやだ………って、もう変わっちゃってる!?」

刹「別に問題ないだろう。なぜそんなにいやがる?」

義姉「いや、私はいいんだけどお父さんがね……『ぜったいなのははあの淫獣にはやらん!』て言いながらMURAMASA研いでたから……」

ユ「なんでMURAMASA!?ていうかなんでローマ字!?竹内の兄貴リスペクト!?ていうか僕死亡決定!!?」

ティ「短い付き合いだったな。」

兄「お前のことは忘れない。」

ユ「諦めんのやめてくんない!?」

ア「でも、この調子だとそのうちゲストで来るよね。」

刹「どうするつもりだ?」

ユ「………あの、その時僕はパスで……」

ロ「無理(笑)」

ユ「そうだと思ったよコンチクショウ!!(泣)」

義姉「まあ、なんとかお母さんもセットで来させるようにするからそれで何とか頑張って……」

ロ「さ、問題が解決したので解説へ行くぞ。」

ユ「あんまりそんな気はしないけど………とりあえず張り切って行ってみよう!」

兄「しかし、ロビンじゃないけどこの回、何度見直しても俺らぼろぼろだな。」

ア「もうちょっとどうにか……」

ロ「だが断る。」

義姉「返答はやっ!」

刹「まあ、“奴ら”を登場させるにはここで俺たちが……」

ロ「ああ、それは関係ない。ただ単に俺がユーノをいじめたかっただけ。」

義姉「ヒドッ!!」

ユ「僕君になんかした!?」

ロ「いや、気分で。」

ユ「君は気分で人をあんな仕打ちにあわせるのか!!?」

ティ「ならユーノだけにしてもらいたかったがな。」

ロ「連帯責任ってやつで。」

兄「なんだよユーノのせいかよ。」

ユ「あれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?いつの間にか全部僕のせい!?」

刹「鬼。」

ア「悪魔。」

ユ「君らも悪ノリやめて!!」

義姉「あははは………でも、ユーノをピンチにしたのはそれだけが理由じゃないんでしょ?」

ティ「何?」

ロ「それは次回予告で触れます。ちょびっとだけ。」

刹「しかし、今回は本当に戦闘ばかりだったな。」

ア「世界の悪意が見えるようだよ。」

ロ「脳みその中に悪意の塊みたいなのを飼ってる奴が言うな。」

ア「う……」

義姉「ああ、あの性悪ヤッ○ーマンね。」

ア「中の人ネタはやめて!!というかそれ僕に待てはまるから!!」

兄・刹・ユ「「「ヤッ○ー、ヤッ○ー、ヤッ○ー……」」」

ア「だから駄目だって!!」

ティ(…………面白い。)

義姉「ねえ、なんか眼鏡の人がやばい世界の扉を開いちゃいそうなんだけど?」

ロ「じゃ、そうならないうちに次回予告に行きますか。」

ユ「マイスターの危機に登場した新たなガンダムたち!」

兄「追い詰められたマイスターを救出しようとするがその真の目的とは!?」

義姉「そして、追い詰められたユーノ自身ですら知らなかった能力が最悪の形で覚醒する!!」

ティ「はたしてその能力とは!?」

ア「そして、その時マイスターズとセルゲイ中佐は!?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!じゃ、せーの……」

「「「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」」」



[18122] 24.暴走
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/07/21 12:39
4年前 無限書庫

縦にどこまでも続く無重力空間でユーノはフヨフヨと浮きながら検索魔法を駆使しながらいくつもの資料を探し当て、読解し、整理していく。

「……あんたのスピード見てると私たちがここにいる意味があるのか疑わしくなってくるよ。」

最近ようやく覚えた子供形態になっているアルフは若干落ち込んだ様子で本を棚へと運ぶ。
司書として無限書庫で働くことになったユーノのサポートをするためにやってきたアルフだが、この手の作業はユーノの十八番なので手伝うといってもあまりできることはないようだ。
実際、正式に管理局に所属している他の司書たちよりも早く、実質ユーノ一人で整理しているといっても過言ではない。

「ハハハ……アルフがいるからここまで早く出来てるんだよ。」

「ここで謙遜されると嫌味にしか聞こえないよ。」

アルフはため息をつきながら本を棚に入れながらユーノのほうを見る。

「?」

アルフは妙な違和感を感じた。
ユーノの魔法陣が徐々にではあるが大きくなってきている。
そして、無限書庫の棚にまで魔法陣が広がった時にそれは起こった。

「ん?あれ?なんだ、魔法が発動しない?」

下にいた局員からすっとんきょんな声があがる。

「こっちもよ。」

「あれ?俺もだ?」

他の場所にいた局員からも同じような声があがる。
アルフも魔法を発動しようとするが、やはり発動しない。

「どうなってんだ?ユーノ、あんたは使えてるけど一体どうやって……!!?」

唯一魔法が使えているユーノを見てアルフはギョッとする。
魔法を発動し続けているユーノの顔から感情が感じられない。
目には理性の光が宿っておらず、機械のように検索を続けている。

「ユーノッッ!!?」

アルフは慌ててユーノに近づき肩を掴んで体を揺らす。
すると、ユーノの目に光が戻り、驚いた表情でアルフを見る。

「!?ど、どうしたのアルフ!?そんなに慌てて!」

「そりゃこっちのセリフだよ!!あんたなんか変だったけど大丈夫かい!?」

「?いや、別にどうもしてないけど……。何かあったの?」

どうやらユーノはさっきのことを覚えていないようだ。
と、その時。

「お、使えるようになった。」

「俺もだ。ったく、何なんだよ一体。」

局員たちは再び魔法を使って検索を開始する。

「一体どうしたの?」

「さっき魔法が使えなくなって……って、気付いてなかったのかい?」

「え?だって僕は使ってたし……」

ユーノは自分の足元を見る。
アルフもつられて視線を落とすと先ほどまでの巨大化していた魔法陣が元の大きさに戻っている。

(……なんだったんだ?)

「……アルフ?」

「ううん、なんでもないよ。さ、作業に戻ろう。早くしないと飯を食い損ねちまうよ。」

「そうだね。」

アルフは先ほどまでの出来事を頭から消去して作業に取り掛かる。

これがのちに異世界で惨劇を引き起こすことも知らずに…………




魔導戦士ガンダム00 the guardian 24.暴走

タクラマカン砂漠 北東部

夜が明け、日の光がまぶしい砂漠の真ん中に突如出現したガンダム。
そのガンダムから刹那に通信が入る。
刹那たちの使っている物と同じように遮光処理が施されたバイザーのせいで顔が見えないが、声と体型から察するに女性のようだ。

『だいじょぶしてる?エクシアのパイロット君。』

「お前は……?」

刹那の問いに答える前に謎のガンダムのパイロットは顔が見えるように遮光処理を解く。
幼いその顔には明るい笑みが浮かび、彼女の魅力を際立たせている。

『ネーナ・トリニティ。君と同じ、ガンダムマイスターね♪』

(マイスター……だと!?)

ウィンクをするネーナを見ながら刹那はいぶかしげな表情をする。
マイスターは自分たちだけのはずだが、彼女は自分をマイスターと言っている。
最初は以前見たエクシアに似た機体のパイロットかと思ったが、彼女の乗る機体はそれとはまた違う。

「その機体は?」

『ガンダムスローネ三号機、スローネドライ。』

「三号機……?」

『一号機と二号機にはね、ニィニィが乗ってるよ。今頃きっと……』







東部

「全機、フォーメーションを崩すな。そのままガンダムを本部へ連行する。」

ヴァーチェの動きを封じているヘリオン達を先導しながらパトリックは締まりのない顔をする。

「指揮を執ったのはこの俺、パトリック・コーラサワーだ!(これで大佐と……フフフフフ!)」

一目ぼれした上司の顔を思い浮かべると再び顔がほころんでしまう。

「そうさ……ガンダムさえ手に入れば大佐の気持ちだって……」

その時、コックピット内にアラームが鳴り響く。

「ん?」

何事かと思っているうちに、遥か彼方から紅蓮の閃光が駆け抜け彼の乗るイナクトを貫く。

「なぁ!!?おわぁぁぁぁ!!!」

奇跡的にもコックピットを外れていたため上半身と下半身が泣き別れたにもかかわらずパトリックは生きていた。
そして、パトリックに続いてヴァーチェを拘束していたヘリオン達も次々に墜とされていく。
解放されたヴァーチェはそのまま砂漠に着地すると砂の上を滑っていく。

「なんだ……!?」

ティエリアは紅蓮の閃光が放たれた場所を痛みが残る体を動かして見る。
そこには長い砲身を肩に背負った黒い機体がこちらを見ていた。

「目標ヘリオン部隊、大破確認。引き続き、ミッションを続行する。」

こちらに背を向けて飛び去っていくその機体から放たれている光の粒子を見たティエリアは驚くが、痛みからまともに考えることができない。

「あの光は……!?」

しかし、痛みが引くにつれ彼の思考は戻っていき、ある結論に達する。

(GN……粒子だと……!?)







脱出ルート近域

カーボンネットにくるまれたキュリオスを引きずって基地を目指すミン達はある種の達成感で満たされていた。
だが、こういうときほどアクシデントは起こるものである。

「総員、油断するな!羽根付きがいつまた暴れ出すかわからん!」

『『『了解!!』』』

ミンは全員の気を引き締めさせるとセルゲイとユーノのことを気にかける。

(中佐……彼を無事保護できただろうか?)

そんなミンに対し、ピーリスはキュリオスを見ながら憎悪で顔をゆがませる。

(このガンダム……超人機関の施設を攻撃し、私の同胞を殺した……)

ロシアでのことがあってから超人機関そのものはどうでもよくなったが、それでも自分の同胞を、兄弟と言っても過言ではない存在を殺したことは何があっても許せない。
ましてやそれが自分と同じ超兵ならばなおさらだ。

(なぜなの……あなただって…………!?なに、このプレッシャーは?)

奇妙な感覚でピーリスは思考を中断してしまう。
自分の上から何かよくないものが近づいてくるのが感じられる。
その時、上から降ってきた何かが周りのティエレンを貫いていく。

「ミサイルだと!?」

その何かはミン達にも襲いかかる。
ミンはその何かの正体を見た。
白く尖ったものが赤い粒子とともにこちらに向かってくる。
しかも、まるで自分の意志があるかのように細かく軌道を変えながら的確に近づいてくる。

「なんだこれは!?」

「ミサイルじゃない!?」

二人が紙一重でかわしていく中、周りの仲間たちはその動きについていけずに墜とされていく。
最後に残された二人は互いに背を合わせて白い何かへ向けて攻撃する。
そんな中、ピーリスは自分たちを見下ろしていた存在に気付く。

「あの機体は!?」

周りを飛び交っていた白いものが自分たちを見下ろしていた赤いガンダムの腰に吸いこまれていく。

「ガンダムスローネ二号機、スローネツヴァイ、ミハエル・トリニティ、エクスタミネート!!」

赤いガンダムの主、ミハエル・トリニティは凶暴な笑みを浮かべる。

「行けよファング!!」

彼の号令とともに再び白い兵器、GNファングが放たれる。
ただ突っ込んでくる先ほどまでのパターンと違い、ファング達は赤い弾丸を発射して二人を攻撃してくる。
その姿はまさしく牙(ファング)の名を冠するにふさわしい光景だった。
突然変わった攻撃パターンについていけなかったミンは次々にファングから放たれる弾に被弾していく。

「ぐあああぁぁぁ!!」

「中尉!!」

砂漠の上で倒れこむミンのティエレンを救援すべくピーリスはティエレンタオツーを向かわせるが、自身もファングの攻撃に翻弄され避けるので精いっぱいだ。

「ハハハハァ!!脆い、脆いぜ!!」

ミハエルはゲラゲラと笑いながらファングを操るが、モニターに映った光景を見て興味の対象をそちらに移す。

「ほぉ……こいつが一番甘ちゃんだって聞いてたけどな……なかなか俺好みの戦い方をするじゃねぇか。ま、派手さに欠けるのが残念だがな。」

そう言うと、モニターの奥のソリッドを見ながらニヤリと笑う。

(そうだ、このミッションが終わったらこいつに話を聞きに行くか……。案外気が合うかもな♪)

ミハエルの視線の先には煤の黒と血の赤に染まったソリッドがMS群を屠っている姿が映っていた。




脱出ルート

グラハムはデュナメスを乱暴に持ち上げようとした時、アラームと同時に隣にいたカスタムフラッグが赤い何かに貫かれて爆発する。

「なに!?敵襲!?」

『ランディがやられた!!』

聞こえてくる部下の声に慌てて振り返ると再び閃光がはしり、カスタムフラッグを貫く。

『ステュアート!!』

『散開!!』

仲間の死を悼む暇もなくフラッグたちは的にならないよう分散する。

「この射程距離は通常兵器じゃないぞ!!」

ダリルは歯を食いしばりながら必死で赤い砲撃をかわしていく。

「まさか他にも機体があったとは……聞いてないぞガンダム……!!」

グラハムは忌々しげに砲撃を撃ってくる方向を見ようとするが、幾度も降り注ぐ粒子ビームの前にそんな余裕は捨てざるを得ない。

「フォーメーションをズタズタにされた!一時撤退する!」

指示を出すころには12機いたカスタムフラッグが半数以上落とされていた。
悔しさからグラハムは血が流れるのもかまわず唇をかみしめ続ける。

(おのれ……あと一歩まで追いつめておきながら!!)

そんな彼とは対称的に、ロックオンは憔悴しきった体に鞭を打ち、自分を助けた者を確認しようとする。

「誰だ……?」

ロックオンはモニターに映った黒い機体を見る。
V字の角がついた顔に人間に近いフォルム、なにより色こそ違えど背中から放出されている粒子は自分たちが乗っている機体が出している物と同じGN粒子だ。

「あの機体は……?」

ロックオンは目の前にいる相棒に目をやる。

「ハロ、知ってるか?」

「データ無シ!データ無シ!」

その時、通信が入り端整な顔立ちをした男が映される。

『どうやら間にあったようだな。』

「あんたは……?」

『スローネアインのガンダムマイスター、ヨハン・トリニティ。』

「ヨハン……トリニティ?」

聞いたことのない名前に首をかしげるロックオン。
そんな彼の前にヨハン・トリニティと彼のガンダム、スローネアインが降り立つ。

『君の仲間のマイスター達にも、私の弟と妹が救出に向かっている。』

「どういうことだ……?」

その問いに答えようとするヨハンだが、誰かから通信が入ったようだ。

『失礼、また“あと”で。』

ヨハンはロックオンに一礼するとそのままどこかへ行ってしまう。

「……何なんだアイツ?」

ロックオンが去っていく背中に疑いの目を向けるが、再度コックピット内に電子音が鳴る。

「今度はなんだ……ッ!!?」

ロックオンはモニターに映された光景に凍りつく。
しかし、すぐに操縦桿を力強く握る。

「ハロ、また仕事で悪いけど飛ばすぜ!!」

「了解!了解!」

デュナメスを操縦しながらロックオンは嫌な汗が背中を伝うのを感じる。

「やめるんだ……ユーノ!!お前はそんなことをしちゃいけないんだ!!」









北西部

「ぐああああぁぁぁぁぁああっぁぁぁぁぁ、あぁぁぁぁぁぁっぁあぁ!!!!!」

リニアマグネティックフィールドの発する電撃にユーノは苦しみ続ける。
気絶してもおかしくないのだが、体中を駆け巡る激痛がそれを許さない。

(967……ロックオン……ティエリア……アレルヤ……刹那……)

仲間たちの顔が浮かんでは消えていく。
死ぬのが怖くないわけではないが、それよりも彼らが無事なのかどうかが気になる。
ふと目の前のヘリオンを見る。

(…………お前たちは……)

こいつらはテロを利用して自分からまた大切なものを奪おうとしている。
あの時の管理局と同じだ。

(お前……たちは………!)

痛みの中で激しい憎悪が湧いてくる。
テロで自分と父を嵌め、目の前でその命を奪った。

(お前たちは……!!)

誰も裁こうとしない。
それをいいことに自分からすべてを奪おうとしている。

(許……い……!!)

こいつらに生きる価値などない。

(許さない……!!)

そうだ、消してしまえ。

(許さない……許さない、許さない!!ゆるさない、ユルサナイ!!!!)

あの時、自分が受けた痛みを、父さんが受けて痛みを味あわせろ。

(コロス……!コロス、コロス!!!コロスコロスコロスコロス!!!!!!)

皆殺せ!!

「ウ……!オオオオオオオオオォォォォォォォォォ!!!!!!!!」

ソリッドの足元に巨大な魔法陣が展開される。

「!?な、なんだ!?」

驚くAEUの兵士だが、さらに驚くべき事態が発生する。
彼らの意志に反してリニアマグネティックフィールドが解除されたのだ。

「な、なんで!!?」

しかし、そんなことを気にしている場合ではない。
目の前にいるソリッドの目が鋭く光り、再び動き始める。

「に、逃げ……!」

恐れをなしたヘリオン達は逃げようとする。
しかし、

「!!?な、なんでだ!?なんで動かない!!?」

どれほど操縦桿を倒そうと、ペダルを踏もうと動かない。
それがわかっているように、ソリッドはゆっくりと振動するアームドシールドの刃を寝かせた状態でコックピットに沈めていく。

「ギ、アアアァァァァァッッ!!ゴブッ!!!」

刃の先端がパイロットの体に刺さった瞬間、血を吐く音ともに静寂が訪れる。
しかし、通信が生きていたせいで残りのヘリオンのパイロットはその静寂のせいでガタガタと震え始める。

「ひ……ひぃぃ……」

「た、助け………」

聞く耳持たないといった様子でソリッドは刃を横に振って一回転する。
元の位置に戻るとヘリオン達の上半身が下半身を追いかけるように地上に落ちていくが、地上に到達する前に爆散する。

その様子を見ていた人革連、AEU両軍は恐怖で固まる。
情報ではパイロットの命を奪うことはなく、一番捕獲が容易だと聞いていたのにこれでは話が違う。

ソリッドはゆっくりとAEU部隊のほうへゆっくりと体を向ける。
美しかった白と萌黄の体は煤で黒く汚れ、巨大なアームドシールドには赤い点がついている。

「な、何をしている!?早く鹵獲するぞ!!!」

「りょ、了解!!」

残っていたヘリオンとイナクトの大群がソリッドめがけ殺到する。
だが、凄まじい轟音とともにその姿が消える。

「ど、どこに!!?」

「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

叫び声に振り向くと一機のヘリオンがアームドシールドに刺さった状態で持ち上げられている。

「………シネ。」

ユーノは無表情なままソリッドに腕を振らせる。
二つに分かれたヘリオンは火花を散らしながら落下していき爆散する。

「もうよせユーノ!!!ここまでする必要はない!!早く離脱するんだ!!」

「……コロス………!オマエラニモ、トウサンノウケタクルシミヲ、アジアワセテヤル………!!」

「ユーノ!!?」

967はユーノの様子がおかしいことに気付く。
無表情のまま敵を見つめるその目は冷たく、いつもの優しさが感じられない。

(………仕方ない!)

967はユーノからソリッドのコントロールを奪おうと試みる。
この状況では危険かもしれないが、今のユーノに任せていてはマズイ。
しかし、

(!!?アクセスを拒否だと!?)

ソリッドが967のアクセスを受け付けようとしない。

(まさかユーノがやっているのか!?)

ユーノが先ほどから展開している魔法陣に注目する。

(たしか以前、端末を操作して情報を見ていたな……だが、ガンダムをコントロールするには少なくともトライアルが必要なはず……しかもこれは……)

そう、コントロールなんて生易しいものではない。
ユーノはソリッドを完全に支配している。

(だが、相手はあのヴェーダだぞ!?そこからガンダムを完全に自分の支配下に置くなど……)

できるはずがない。
しかし、現にユーノはそれを行っている。

(だとすると、俺にはどうすることもできない………!)

967が絶望する中、ユーノはAEU部隊のMSを墜としていく。
それも、コックピットのみを的確に潰しながら。

「やめろ……」

「シネ……」

少しづつではあるが、確実にソリッドの体が血の赤で染まっていく。

「もう……やめてくれ……!」

「シネ……!!」

「やめろぉぉぉぉぉ!!!」

967の声も今のユーノには届かない。
アームドブレードが最後のイナクトに振り下ろされる。
その時だった。
下から放たれた何かがアームドシールドに当たって斬撃の軌道がそれる。

「…………………」

「あれは……」

967は下を見る。
そこには砲身をこちらに向ける一機のティエレンがいた。

「セルゲイ・スミルノフか!」

セルゲイは砲身を向けながらも体中から汗がとまらないでいた。

(いったいどうしてしまったんだユーノ君!)

今のソリッドからはそれまで感じていた人間らしさがまったく感じられない。
まるでパイロットがただ目的を遂行するためのマシーンに変わってしまったようだ。

「………ジャマ………スルナ…………!!」

ソリッドは猛スピードでセルゲイの乗るティエレンめがけ突進していく。

「総員待避せよ!!」

『ちゅ、中佐は!?』

「私は盾持ちを引きつける!」

『し、しかし!!』

「急げ!!」

セルゲイが一喝するとティエレンたちは撤退を開始する。

「ニガ………スカ……!」

それに気付いたユーノは突進を中断しライフルをティエレンたちに向ける。

「させるかぁぁぁ!!」

セルゲイは自身のティエレンをぶつけてソリッドの態勢を崩させ、そのまま地面に押し倒して馬乗りになる。

「ジャマ………」

しかし、ソリッドは面倒そうに払いのけて立ち上がる。

「ジャマスルナラ……オマエカラダ……!!」

ソリッドはアームドシールドを振りかぶる。

「クッ!!」

セルゲイの額に冷たい汗が流れる。
だが、その刃は振り下ろされることはなかった。
遥か彼方から駆け抜けた閃光がアームドシールドに当たりソリッドの態勢を崩した。
セルゲイはその隙にソリッドから距離をとり、自分を救った者の正体を確かめる。

「あれは……狙撃型!?」

「ロックオン!無事だったか!」

離れたところに深緑の機体、デュナメスが狙撃用のカメラアイを展開してスナイパーライフルをこちらに向けている。
967はホッと安堵するが、慌てて通信をつなごうとする。
だが、

「ク!やはり繋がらないか!!」

完全にユーノに支配されているソリッドからでは通信をつなぐことはできなかった。
が、

『どうしたんだユーノ!?なにやってんだお前は!?』

ロックオンの方から通信をつないで来た。

「ロックオン、助かった!」

『967か!?どうしちまったんだユーノは!?どう見たってその状態は普通じゃないだろ!』

「詳しい説明はあとだ!すぐにソリッドを止めてくれ!」

『はぁ!?お前が止めればいいだろ!!』

「ユーノがソリッドのプログラムを完全に自分の支配下においてしまっているせいで干渉できないんだ!!」

ロックオンの顔に驚きの表情が浮かぶ。

『そんな馬鹿な!ガンダムを支配するってことはヴェーダを……』

「そんなことはわかっている!!でも実際こうして起こっているんだ!!」

それでもロックオンはまだ疑っているようだったが、自身が操るデュナメスにも異変が起こり始める。

『!!?な、なんだ!?デュナメスが勝手に!?』

デュナメスがじりじりとスナイパーライフルの銃口を逃げるティエレンたちに向けようとする。
ロックオンはそうはさせまいと必死に操縦桿を動かすが、思いどうりに動かない。

『クソッ!!こいつもユーノがやってるっていうのか!?』

「ロックオン、すぐに通信を切れ!まだ間に合う!」

『チッ!後でどういうことかきっちり聞かせてもらうからな!!』

ロックオンが通信を切るとデュナメスのコントロールが戻ってくる。

「フゥ~……まだ信じらんねぇけど、どうやら本当にユーノがやってるみたいだな。」

その時、ティエレンから外部音声が響く。

「狙撃型のパイロット!聞こえるか!?」

「指揮官機……?」

ロックオンはセルゲイの乗るティエレンに視線を向ける。

「今は目的が一緒のはずだ。協力してほしい。」

セルゲイの落ち着きはらった声にロックオンは顔をしかめる。

「俺らにここまでしといて協力しろたぁな……。けど……」

ロックオンはコンソールを操作して光通信を開始する。

「協力する……か。話が通じる相手で助かったな。」

セルゲイは安堵するが、すぐさま気を引き締めてソリッドを睨む。
ソリッドは先ほどから動こうとしないが、肌を刺す殺気は衰えていない。

(………来る!)

セルゲイがティエレンを半歩下げた瞬間ソリッドが猛烈な突進で一気に距離を詰めてくる。

「ク!これほどとは!!」

セルゲイはソリッドの瞬発力に驚愕しながらもカーボンブレイドでソリッドの斬撃を上手く受け流していく。
だが、武器のもともとの強度の差から少しずつカーボンブレイドが削られていく。

「ユル………サナイ……!」

「!!?」

突然の外部音声にセルゲイは動揺してしまう。
その一瞬の隙をつき、ソリッドは強烈な一撃を放つ。
しかし、セルゲイはティエレンを巧みに操作しギリギリのところで白刃取りをする。

「ぐううぅぅぅぅ……」

セルゲイは汗をたらしながら徐々に近づいてくる刃をなんとか止めようとする。

「ウバワセ……ナイ………!」

「!?」

「ボクノ……メノマエデ………モウダレモ……キズツケサセナイ……!!」

「それが君の原点か……!!」

ユーノの声を聞いたセルゲイは思わず気を緩めそうになるが必死に刃を食い止める。

「敵を助けるのはしゃくだが、狙い撃つぜ!!」

そこにデュナメスの狙撃によるサポートが入るが、ソリッドは迷うことなくアームドシールドを捨てて距離をとってそれをかわす。
そして、鋭い動きでデュナメスに近づくとビームサーベルで斬りかかる。
デュナメスもビームサーベルを抜いて受け止めるが、ソリッドはすぐさま離れると後ろに回って再び斬りかかる。

「うぉっ!!?」

慌てて方向転換して再度受けるが、その後についてきた蹴りを受けて地上へと真っ逆さまに落ちていく。

「ぐあああぁぁぁぁっ!!!」

デュナメスが砂煙をあげて砂漠に激突すると、ソリッドはそこめがけて切っ先を向けて突進していく。

「させん!!」

セルゲイは援護射撃をするがソリッドは急停止とバックを使ってそれをかわし、セルゲイが置いたままにしていたアームドシールドを回収して空へと舞い上がる。
そして、シールドバスターライフルを地上の二機に向けて連射する。

「チィ!!」

「ク!!」

二人はそれを何とかかわすが、反撃の糸口がつかめない。

「これが優しさを捨てたユーノの本当の実力ってわけか……。」

「…………………………」

ロックオンが顔をしかめて感心する中、セルゲイは目を閉じ、ある覚悟を決める。

「………私が彼を正気に戻す。」

「!?」

セルゲイの言葉にロックオンは耳を疑う。

「援護しろ、狙撃型!」

「おいおい!!」

セルゲイがソリッドにティエレンをつっこませていく姿を見て慌ててロックオンも援護射撃を開始する。
ユーノもセルゲイの突進に応えるようにソリッドを突進させる。

「正気かアイツ!?ティエレンがソリッドと押し合いで勝てるわけねぇだろ!!」

ロックオンは狙撃でソリッドの勢いをなんとか殺そうとするが、GNフィールドに阻まれて意味をなさない。
そして、ティエレンとソリッドが真正面から激突する。
当然ソリッドが押し勝ち、ティエレンを押し倒して馬乗りになる。
が、セルゲイの当初の目的は果たせた。
セルゲイは接触回線でユーノに語りかけ始める。

『ユーノ君!聞こえるか!?』

「ユルサナイ………!!」

ユーノはセルゲイの声など聞こえていないように無表情なまま怒りをあらわにする。
だが、それでもセルゲイは必死に語りかける。

『頼む、聞いてくれ!!』

「トウサント………オナジメニ……」

『もうやめるんだ!!君の中にある優しさを忘れるな!!』

「!!!!!」

セルゲイの言葉にユーノが反応を示す。
そして、ジッとセルゲイの顔を見つめる。

「ア……?トウ………サン……?」

『頼む……もうこれ以上自分を追い詰めるな……」







ユーノは記憶の海から父の最後の瞬間を探し出す。

『お前の中にある優しさを決して忘れるな。』

最後まで自分のことを気にかけていた父。
その時に交わした約束。
それを自分は……………




「ア……アああ…………ああぁぁぁぁ………!!」

『ユーノ君……』

理性の光が戻った目でユーノはあたりを見渡す。
ヘリオンやイナクトの残骸。
潰れて肉塊になりはてた人間。
そして、血まみれになったソリッドの姿。

「これを……全部…………僕……が………!?」

そう。
すべて、自分がやったのだ。
ここに横たわるすべての人間の未来を奪った。
自分のエゴで。

「うあ……ああぁ……ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!!!!」

『落ち着くんだ!君は……』

「離して!!離してぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!!!!!!」

ユーノは必死でソリッドを動かしてティエレンをどけようとする。
しかし、セルゲイはがっちりと押さえこんで離さない。

「離し……て……」

ユーノはひとしきり騒いだところで意識を手放す。
その顔は涙と汗でクシャクシャになってしまっている。
セルゲイはティエレンをソリッドの上からどけると二挺のビームピストルを構えるデュナメスのほうを一瞥して基地へと向かう。
それを見たロックオンは警戒を緩める

「どういうつもりだ……?ユーノのことを知ってるみたいだったが……」

「ソリッド起キタ!起キタ!」

ハロの言葉でロックオンはソリッドのほうを向いて通信をする。

「ユーノ!?」

『残念だが俺だ。』

967だとわかったロックオンは落胆の表情を浮かべるが、すぐさまあることに気付く。

「コントロールが戻ったのか!?」

『ああ……やはりユーノが原因だったようだ。正気に戻った瞬間にコントロールが戻った。』

「そうか……」

『そのユーノだが意識はないが心拍数も呼吸も正常だ。』

その時、ロックオンが一息つくと同時に空が赤で覆われていく。

「これは……!?」

『GN粒子か?そう言えば先ほどから妙な反応があるが、一体これは………』

「そいつも帰る時おいおい説明してやるよ。」

ロックオンは顔を曇らせながら撤退を開始する。
967もそれに従ってソリッドを空へと向かわせた。








北東部

「ヨハン兄ぃ、こっちのミッションはクリアしたわ。」

『そうか……』

ヨハンは満足そうにうなずき、ネーナに次なる指示を出す。

『ネーナ、GN粒子、最大領域で散布。現空域より離脱する。』

「了解ね♪」

ネーナは画面の向こうのヨハンにピースをすると足元にいる紫のボールに語りかける。

「いくよ、HARO。」

「シャーネーナ!シャーネーナ!」

「GN粒子、最大散布!」

スローネドライは上空に浮かびあがると胸部のジェネレーターを赤い光で埋め尽くしていく。

「いっけぇぇぇぇぇ!!」

そして、肩の放出口を開いて一気に赤いGN粒子を撒き散らす。

「ステルスフィールドッ!!」

赤い粒子はあっという間にあたり一面を覆い尽くし、通信機器を狂わせていく。

「この……光は……!?」

空一面を覆い尽くす赤。
美しくもあるが、通常のGN粒子の淡い瑠璃色と違い禍々しさが感じられる。
そう、まるでこの世界そのものが終局に向かおうとしている。
刹那にはそう思えた。






王留美の別荘

「ハロからの暗号通信です……ガンダム、5機とも健在!太平洋第6スポットに帰頭中だそうです!」

その言葉を聞いた瞬間全員に安堵の表情が浮かぶ。

「マジかよ!?」

「心配かけやがって……」

「みんな……」

「ミッションコンプリートですわね、スメラギさん。……?」

留美はスメラギの様子がおかしいことに気付く。
喜ぶでもなく、安堵するでもなく、彼女は驚いた顔をしている。

「どうして……?」

「え?」

「……ううん、なんでもないわ。」

スメラギは慌てて笑顔をつくるが、疑問が晴れることはない。
彼女は今回のミッションでガンダム全機が鹵獲、もしくは破壊されると踏んでいたのだ。
しかし、経過はどうあれ結果は上々。
今回ばかりは予想が外れてよかった。

その後、スメラギは広間で一人、窓から外を見つめる。
あの時、彼を自分のミスで死なせてしまってから予想が外れないようにしてきたのに今回は外して喜んでいる自分がいる。

「予想が外れて嬉しいこともあるのね……」

スメラギは今の自分の感情に困惑しながらも穏やかにほほ笑んだ。







太平洋 海上

先ほどの先頭で消耗しきったマイスター達はエクシアを先頭にオートパイロットで拠点に向かっていた。
だが、誰もが突然現れた新しいガンダム三機に戸惑いを見せていた。
一人を除いては。

「……………………………」

ユーノはミッションが終わってからも眠ったままだ。
ソリッドを操縦をしている967も心配そうにユーノを見る。
あの時の冷たい眼差しを思い出すと言いようのない不安に襲われる。
あのままユーノが戻ることのできない領域に足を踏み入れようとしているような気がしてしょうがない。
だが、

「そんなことは俺がさせない………」

967は決意する。
たとえ何があろうと自分だけはユーノを守り続けることを。
しかし、これまでにない危機がソレスタルビーイングを襲おうとしていた。







今、潜んでいた野望が動き始める。




あとがき・・・・・・・・という名のカウントダウン

ロ「タクラマカン砂漠編2でした。そして、ユーノの手による大虐殺。」

ユ「その言い方やめてくんない………?マジでヘコんでるんで。」

兄「まぁ、いつぞやのいじめ並みにやばいな。」

ティ「だからフェレットはガンダムに乗せるなといたのに。」

ユ「君はこの作品のコンセプト自体を全否定か!?」

刹「やってしまったものは仕方がないだろう。前を向いていこう。」

ア「ていうか今回僕まったく出番がなかったんだけど。」

ロ「だってアニメでもお前この回たいして活躍してないもん。小説でもあんま喋ってないし。」

ア「だからなんでやたらそういうところは本編に沿っちゃうの!?」

ロ「いいじゃん別に。」

ア「よくない!!」

ティ「………不毛な会話が続きそうだからさっさとゲストを紹介させてもらう。今回のゲストは実は女性を口説くのが上手い!?高町恭也さんだ。」

義兄「………別にそんなことはないぞ。というかこのテロップはまずいと言っただろう。父さんがあとでうるさいんだ。」

ロ「じゃあ、ヒ○ロかリ○ンでいいか。」

兄「よくねぇぇぇぇぇぇぇっ!!!てか最後のはガンダムじゃなくてテイ○ズだろうが!!」

ア「だから中の人ネタはやめようって言ってるだろう!!?」

ロ「いいじゃんべつに。」

義兄「………いつもこんな感じなのか?」

ユ「まあ、大体は。」

刹「これよりひどい時もある。」

ティ「そうならないうちに解説に行くぞ。」

刹「しかし、ユーノの暴走はすごかったな。」

ア「あれって一体どういう能力なの?」

ロ「一応検索、探索魔法が発展したものっていうつもり。相手のプログラムに侵入して自分の支配下に置くって効果。ただしユーノの並行処理能力があって初めて成立する荒技だ。」

兄「しかしヴェーダにすら勝つ能力か………。いいのかこんなトンでも能力出しちゃって。」

ロ「………どうしよう。」

義兄「考えていなかったようだな。」

刹「また行き当たりばったりか。」

ティ「毎度のことは言えヒドイな。」

ロ「聞こえない聞こえない聞こえない聞こえない……」

ア「あ、現実逃避した。」

ユ「もうほっとこう。」

義兄「ところで………よくよく考えればユーノはこんなところで悠長に話しこんでていいのか?」

ユ「へ?」

兄「まあ、こないだ来てた美由希さんが言ってた通りなら次回あたりに桃子さん付きとはいえ士朗さんが来るぞ。」

ユ「………………(汗)」

義兄「そう言えばこの間シャ○ティエを貸してくれと言ってたな。さすがにそれは渡せないからス○ンからディム○スを借りてきて渡しておいた。」

ユ「………………………………(汗)」

ア「え~と、なんて言うか………ご愁傷様?」

ティ「君のことは忘れない(棒読み)」

刹「諦めろ。」

ユ「あの……誰か助けて……」

「「「「「「無理。」」」」」」

ユ「神様ぁぁぁぁぁぁぁ!!どうにかしてくださぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!」

刹「この世界に神は……」

ユ「知らんわぁぁぁぁぁぁ!!この状況だと神頼みでもしないとやってけないの!!」

ロ「さ、ユーノに死亡フラグが立ったところで次回予告へゴーww」

ユ「今死亡フラグって言った!!?」

義兄「まあ、俺からもあんまり無茶はしないように言っておくから安心(?)しておけ。」

ユ「すっごい不安なんですけど。」

ロ「ほらほら、そこまでにしとけ。」

兄「じゃ、気を取り直して。」

刹「宇宙に戻ったトレミーのクルーにチームトリニティが接触してくる。」

ユ「トリニティの態度に反感を募らせるクルーたち。」

ティ「そして、ユーノはロックオンに自身の正体を明かす。」

ア「その時、ロックオンの反応は!?」

義兄「そして、トリニティの介入によって多くの人々が傷ついていく中、彼らに対するマイスター達の答えとは!?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただいてありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!じゃ、せーの……」

「「「「「「「次回もお楽しみに!!」」」」」」」



[18122] 25.強襲
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f67ac0c6
Date: 2010/08/05 13:01
プトレマイオス ユーノの部屋

明かりの消えた部屋の中、ユーノはベッドの上で布団にくるまり震えていた。
一人にしてほしいと言って相棒である967も心配して訪れたクリスティナやリヒテンダールも強引に追い出した。
はっきりとは覚えていないがこの手には確かに感触が残っている。
今までとは明らかに違う感触。
フォンとのミッションの時も同じことをしたはずなのに明らかに違ったものに思えた。
怒りに任せて無差別に命を奪ったという感覚。

「うっっ!!」

そのことを確認するたびに吐き気が押し寄せてくる。
ユーノは喉もとまで来ていた胃液を無理やり押し戻す。
そして、声を殺して泣く。

「…………………」

帰って来た時みんなは暖かく迎え入れてくれたが、ユーノにはそれが辛かった。
ミッションレコーダーを見れば自分が何をしたのか一目瞭然のはずだ。
なのに誰もそのことには触れようとしなかった。
危機的状況だったから仕方がなかったと言えばそれまでだが、明らかな憎しみをもって殺したことには変わりない。
こんなことを言ってはなんだが、間違いなくなのはたちなら自分がしたことを絶対に許しはしないだろう。

「いや………そんなこと以前の問題か………」

話し合いの場を持つことなく一方的に相手を蹂躙していく自分が彼女たちと話し合いができると考えるなど思い上がりもはなはだしい。

「ハハッ……!なんだ………」

ユーノは自嘲する。

「結局、僕も管理局と同じじゃないか……」

自分たちがしていることは一方的に父の命を奪ったあの組織のしていることとなんら変わらない。
平和のためと言いながら多くの人間の命を、未来を踏みにじっていく。

「だったら、僕の今までしてきたことはなんなんだ……!」

エレナの意志を継ぎ、仲間を守り、世界を変えるために戦ってきたはずなのに、気付けば憎むべき対象と同じことをしている。
しかも、誰も自分の怒りも、悲しみも、苦しみも受け入れてはくれない。

「なんで……僕はこんなに孤独なんだ………」





魔導戦士ガンダム00 the guardian 25.強襲

プトレマイオス ブリッジ

タクラマカン砂漠でのミッションの後、プトレマイオスに帰還したスメラギ達はマイスターズを救った者たち、ガンダムスローネ三機とそのマイスター達のことを調べていた。
しかし、

「第一世代、第二世代の機体とも違う……ヴェーダのデータに存在しないガンダム。」

どんなに探してもスローネという名前は見当たらない。

「本当にそんな機体があるんですか?」

怪訝そうな顔をするクリスティナにロックオンが笑いかける。

「あるもないも、この目で見ちまったからな。な?」

「シッカリ見タ。シッカリ見タ。」

目の前に浮く相棒に確認するように視線をやるとハロもそれに答えるように耳をパタパタと動かす。

「ガンダムらしきMSは少なくとも三機存在している。」

「僕らの太陽炉とは違うけど、GN粒子らしきものを放出していました。」

報告を行いながらマイスター達はスローネの姿を思い出す。
彼らの操るMSはガンダムには違いないという確信はある。
だが、

(……気にいらねぇな。)

ロックオンは心の中で舌打ちをする。
確かに彼らは自分たちを助けてくれた。
しかし、なぜかすんなりとは受け入れられない。

(つっても俺の勘にすぎないしな。……でも、気にくわないのはみんな一緒か。)

ロックオンは横にいるアレルヤとティエリアを見る。
ティエリアはあからさまに、アレルヤも戸惑ったような表情をしているがおそらく彼も心中穏やかではないだろう。

「で、お前らはそのガンダムに助けられたってわけか?」

「ああ。」

「で、次の問題はこれね。」

ロックオンがラッセの問いかけに答えるとスメラギはモニターにミッション中の映像を映し出す。
そこにはソリッドがAEUのMS部隊を殲滅している光景があった。

「うわ……」

リヒテンダールはそのあまりの酷さから思わず視線を外す。

「……この時、967はソリッドのコントロールをユーノから奪おうとしたけどそれができなかった。それでいいのね?」

「ああ。それどころかデュナメスのコントロールまで奪われそうになった。あとで967から聞いたが、あれはコントロールというよりソリッドそのものを支配しているって言ったほうが的確だったそうだ。」

「馬鹿な!!」

ティエリアが声を荒げる。

「ガンダムを自らの支配下に置くなど不可能だ!それはすなわちヴェーダの演算処理能力を上回るということだ!第一、彼がそんなことをしている様子は一切……」

「お前も気づいてるだろティエリア。たぶんその秘密はあの円さ。」

ロックオンの視線の先にある映像に全員が目を向ける。
そこにはソリッドの足元に広がるさまざまな文字が描かれた大きな円がある。

「そう言えば、人革の鹵獲作戦の時にも……」

「そうか、アレルヤは俺たちの中で最初にあれを見てたんだったな。」

「でも、あの時は光の輪や鎖で動きを封じたり、円で攻撃を防いだりするくらいで、ガンダムのコントロールを奪うなんてことはなかったけど……」

「はっきりさせる時が来たということだ。」

全員、ティエリアのほうを向く。

「彼が何者で、一体何を隠しているのかを。」

「ティエリア!アイツは俺たちの仲間だぞ!その言い方じゃまるで……」

「敵になる可能性はゼロではないということです。それに最近になって彼が僕たちに何かを隠していることは間違いない。」

ティエリアの言葉にクリスティナとリヒテンダールは視線を落とす。
真実を伝えるべきなのだろうが、みんなが彼の力を受け入れてくれるかどうか自信がない。
もし、拒絶されればユーノはこの世界で文字通り一人きりになってしまう。
ブリッジが重苦しい空気に包まれる中、スメラギが口を開く。

「ティエリア、ユーノは私たちの仲間よ。けど、確かにあなたの言うことも一理あるわ。私たちは彼に話を聞く必要がある。」

「……Ms.スメラギ、その役目、俺に任せてくれねぇか?」

「ロックオン………彼のことを心配するのはわかるけど、私情をはさむのは…」

「わかってるさ。でも、行かせてくれないか。ここで下手うっちまったらユーノは二度と俺たちのもとには戻ってこない。そんな気がするんだ。」

ロックオンの真剣な表情にスメラギはため息をつく。

「わかったわ。でも…」

スメラギはプトレマイオスの前方にいる輸送艦に視線を向ける。

「彼らから話を聞いた後でね。」







廊下

エアロックの施された部屋に空気が満たされ、続いてドアが開けられる。
そこにはロックオンたちのものとは違ったパイロットスーツを着た二人の青年と一人の少女、そして、見覚えのある丸いものが浮いていた。

「着艦許可をいただき、ありがとうございます。」

先頭に立っていた青年はヘルメットをとり、軽く会釈する。
ヘルメット越しではわかりにくかったが少し肌が黒く、整った顔立ちをしている。

「スローネアインのガンダムマイスター、ヨハン・トリニティです。」

「スローネツヴァイのガンダムマイスター、ミハイル・トリニティだ。」

「スローネドライのガンダムマイスター、ネーナ・トリニティよ♪」

「みんな、若いのね……」

スメラギは戸惑った表情を浮かべる。

「それに、名前が……」

「血が繋がっています。我々は実の兄弟です。」

ヨハンは柔らかな笑みを浮かべて説明するが、ネーナの声がそれを遮る。

「ねぇねぇ!エクシアのパイロットって誰!?」

無邪気な笑みを振りまきながらネーナはあたりをきょろきょろと見回す。

「あなた?」

「いいや、違う。」

ティエリアは不快感を隠さない声で答える。
しかし、ネーナは「チェ…」と唇を尖らせるだけであまり気にしていないようだ。
と、そこに

「俺だ。」

出迎えたスメラギ達の後ろから刹那がやってくる。

「エクシアのガンダムマイスター、刹那・F・セイエイ。」

刹那を見た瞬間、ネーナは目を輝かせる。

「君ね!無茶ばかりするマイスターは!」

ネーナはそのままスメラギ達の間をぬけて刹那に近寄り、笑みを浮かべる。
そして、

「そういうとこ、すごく好みね♪」

刹那の唇を奪った。
最初は戸惑った刹那だったがすぐさま目つきを鋭くして彼女を払いのける。

「アゥッ!!」

「俺に触れるな!!」

それを見たミハエルはそれまでのへらへらした笑いをやめて、凶暴な顔つきになる。

「貴様!!妹に何を!!」

ミハエルは腰から細かく振動するナイフを抜いて刹那に向ける。

「妹さんのせいだろう!」

「うるせぇぞこのニヒル野郎!!」

ミハエルは今度は仲裁に入るロックオンに対してナイフを向ける。

「切り刻まれたいか!!?ああ!!?」

「やめろ、ミハエル。」

ヨハンはあくまで穏やかな口調でミハエルを止める。
しかし、紫色をしたハロがミハエルをたきつける。

「ヤッチマエ!ヤッチマエ!」

プトレマイオスクルーも敵対心をむき出しにしてミハエルを睨みつける。
まさに一触即発といった状況だ。
と、そこに

「兄サン!兄サン!」

ハロが慌てた様子で飛んでくる。
その様子にその場にいた全員が呆気にとられ、毒気を抜かれる。

「兄さんだぁ?」

ロックオンがいぶかしげな顔をする中、ハロは構わず紫色のハロに近づいていく。

「会イタカッタ!会イタカッタ!」

ハロはクルクルと回りながら喜ぶ。
しかし、

「誰ダテメェー!誰ダテメェー!」

紫色のハロはハロの言葉にとげとげしい言葉を返す。
それでもハロはあきらめずにコンタクトを図る。

「ハロ!ハロ!」

「知ンネェーヨ!知ンネェーヨ!」

だが、ハロの健闘もむなしく紫色のハロが体当たりをしてハロを弾き飛ばす。

「兄サン!記憶ガ!兄サン!記憶ガ!……」

ハロはそんなことを言いながら無重力空間を壁にぶつかりながら遥か彼方へ消えていった。
全員、狐につままれたような表情のまま固まっていたが、スメラギの咳払いでハッとする。

「とにかく、ここじゃなんだから部屋で話しましょ?」

「わかりました。」

三人はスメラギについてブリーフィングルームに向かうが、壁に寄りかかる刹那を見たミハエルは殺意がこもった視線を、ネーナはピースを向けながら笑いかけてきた。
そんな三人を見ていた刹那だが、心の奥にわだかまりのようなものを感じる。

(アイツらが新しいガンダムマイスター……)

「初めて意見があったな。」

めったに自分に話しかけてこないティエリアが話しかけてきたことに刹那は驚いた。

「なにがだ?」

「口にしなくてもわかる。」

ティエリアはそう言うとさっさとブリーフィングルームに向かう。
その背中を見ながら刹那は彼がスローネのマイスター達に対し自分と同じ感情を抱いていることに納得と自分と意見が一致したという意外性を感じていた。







ブリッジ

「なんか、すごい連中っすね。」

廊下に設置されたカメラから様子をうかがっていたリヒテンダールは顔をひきつらせる。
まあ、やってきていきなりキスをしてきたり、喧嘩を吹っ掛けてくれば当然の反応とも言えなくはないが。

「私あの子嫌い。」

クリスティナの言葉を聞いたラッセは驚く。

「まさか刹那のこと!?」

「そう言うことじゃなくて!!」

騒ぎ始めるラッセとクリスティナから離れたところでフェルトは物思いにふけっていた。

「こんなガンダム、パパやママに聞かされてなかった……」

スローネを見ながらフェルトは両親から聞かされていたガンダムのことを思い出す。
フェルトの両親達が乗っていた第二世代機は言わば第三世代機のテストベッド。
フェルトはうろ覚えではあるが父から両世代の機体の話は聞いていた。
その中にあの機体の話は一切なかった。
最初はシルトの発展型かとも思ったが、それもあり得ない。
シルトも一度は開発されたらしいがなぜか彼らの手に渡ることなく破棄されたという。
なんでも別のパイロットが試験運用を行ったらしいが、その時に問題が発生して開発が中止されたそうだ。
もともと操縦性に問題があったのだが、それが追い打ちになりシルトやその発展型が開発されることはなくなったそうだ。

(でも、だとしたらこの機体は一体……)

フェルトはスローネアインを見つめる。
スローネアインの赤い瞳は美しくもあったが、どこか残忍な印象を感じる。
そう思うたび、フェルトはできることなら両親がこのガンダムの開発にかかわっていないことを祈らずにはいられなかった。








ブリーフィングルーム

ヨハンたちをブリーフィングルームに案内したスメラギ達は彼らと向かい合う形で立っていた。

「なぜ、あなたたちはガンダムを所有しているの?」

「ヴェーダのデータバンクにあの機体がないのはなぜだ?」

「答えられません。私たちにも守秘義務がありますから。」

「はぁ~ぁ、残念♪」

スメラギとティエリアの質問を涼やかな笑みで流すとミハエルが鼻で笑う。
それを見たティエリアは隠しきれない嫌悪感をあらわにする。

「太陽炉……いや、GNドライブをどこで調達した?」

「申し訳ないが、答えられない。」

「またまた残念♪」

ロックオンの質問にも答えないことに苛立つプトレマイオスのクルーを見てミハエルは再び憎たらしい笑みを浮かべる。
すると、先ほどからの対応に業を煮やしたティエリアが敵対心をむき出しにした声でクルーの誰もがしたかった質問をする。

「なら、君たちは何をしにここに来たんだ?」

「旧世代のMSにまんまとやられた、無様なマイスターたちの面をおがみに来たんだよ。」

「なんだと!!?」

「ナーンツッテナ!」とHAROの真似をするミハエルをにらみながらティエリアはつかみかかりそうなほどの剣幕を見せる。

「……気分が悪い。退席させてもらいます。後でヴェーダに報告書を。」

「悪いけど、俺もパスだ。」

「わかったわ。」

ティエリアとロックオンはそれだけ言うとさっさとその場を離れてしまった。

「おっしーねぇ。女だったらほっとかねぇのによ。……あのニヒル野郎は刻んでやりてぇけどな。」

「ミハエル。」

ヨハンにたしなめられたミハエルは返事こそするが反省の色は見られない。
そして、今度はネーナから声が上がる。

「ヨハン兄ぃ、あたしつまんない。……そうだ!船の中、探検するね!」

「……よろしいですか?」

「え……ええ……」

スメラギは呆けた声で返事をするが、その前にネーナは動いていた。
扉の前まで来ると刹那の方に振り向く。

「一緒に行く?」

ネーナは明るい笑みを浮かべながら刹那に問いかけるが、刹那は黙って前を向いたままだ。

「行く?」

ネーナは再度刹那に問いかけるがそれでも刹那は答えない。
すると、ネーナは刹那のそばにまで寄ってくる。
そして、

「………あたしを怒らせたら……駄目よ……!」

(!!!)

それまでと違い、鋭い眼光に刹那は思わずいつ攻撃されてもいいように構えようとする。
しかし、彼女はすぐさま踵を返して扉まで移動する。
そして、最後に意味深な笑みを刹那に向けると扉の向こうに消えていった。

「そうだ!兄貴、俺もチョイ抜けさせてもらうわ。いくぞ、HARO。」

「シャーネーナ!シャーネーナ!」

ミハエルはHAROをつかむとネーナに続いて退席する。
その後、スメラギが口を開く。

「とにかく、これだけは教えてくれない?あなたたちがあのガンダムで何をするのか。」

スメラギの問いにヨハンはフッと微笑む。

「もちろん、戦争根絶です。」

「……ホントに?」

「あなたたちがそうであるように、我々もまたガンダムマイスターなのです。」

「つまり、僕たちに協力してくれるのかい?」

「いえ、我々は独自に介入行動をさせてもらいます。あなた方と行動を共にすることはない。そう思ってもらって結構です。」

その場にいた全員の顔が厳しいものに変わる。
言い方こそ穏やかだが、ようは邪魔をするなということを暗に示しているのは誰の目にも明らかだった。

「気に障ったのなら謝罪します。しかし、我々に武力介入を命じた存在は、あなた方の武力介入のやり方に疑問を感じているのではないでしょうか?」

「私たちは……お払い箱?」

スメラギは目つきを鋭くしたままヨハンに問う。
そんなスメラギ達に対し、ヨハンは再び微笑む。

「今まで通りに作戦行動を続けてください。私たちは、独自の判断で武力介入を行っていきます。もちろん、場合によっては同じ作戦を共に行うこともあるでしょう。」

「あなたたちは、イオリア・シュヘンベルグの計画に必要な存在なのかしら?」

「どうでしょう?それは、我々のこれからの行動によって示されるものだと思います。」

スメラギの皮肉がこもった質問にもヨハンは余裕の笑みで対応する。
この時、その笑みの裏にあるなにかを、誰もが感じていた。
不吉な何かを。







廊下

つまらない話につきあいきれなくなったミハエルはHAROとともにある場所を目指していた。

「さ~て、アイツの部屋はどこかなー?」

タクラマカン砂漠でのミッションの際に、プトレマイオスのクルーの中で、唯一気が合いそうだと確信していた相手。
情け容赦なく相手を屠り、殲滅していくあの姿にはどこか引き付けられる物がある。
それに、

「あのみょうちきりんなもんのことも教えてもらわないとな♪」

本来ガンダムに、いや、現存するどのMSにもないあの力。
そのことも気になってしょうがない。
ミハエルは子供のようにウキウキしながら廊下を進んでいると青いハロがある一室の扉の前に浮かんでいた。

「お、あそこか。」

ミハエルはそのまま扉の前に近づいていくが、それに気付いた青いハロ、967がミハエルの方を向く。

「よぉ、ここにユーノ・スクライアがいるんだろ?会わせてくれよ。」

「ユーノ、会イタクナイ、言ッテル!ダメ!ダメ!」

その言葉を聞いたミハエルはにやりと笑う。

「別にいいだろうが……それと、俺らはお前の正体を知ってるぜ、グラーベ・ヴィオレント。」

967はしばらく考え込むように動きを止めていたが、ハロを開けて中から姿を現す。

「…………………」

「ハッ!せっかく出てきたのにだんまりかよ。まあいい。さっさと扉を開けな。」

「拒否する。」

967は断るが、ミハエルはそれを見越していた。

「そう言うと思ったぜ。HARO。」

「シャーネーナ!シャーネーナ!」

HAROは扉の電子ロックの前に行くと通信をしてロックの解除を試みる。

「やめろ!!」

967は止めようとするが実体のない体ではどうすることもできない。

「うるせえなぁ……少し会うくらいかまわねぇだろうが。」

「ユーノに会ってどうする気だ!!」

「なぁに、大したことじゃねぇよ。」

ミハエルの顔に邪悪な笑みが浮かぶ。

「アイツを俺たちと一緒に連れていくだけさ。」

「な!!?」

「お前らといたらあいつまで腑抜けになっちまうだろうが。だから俺たちと一緒に介入行動をさせる。それが一番さ。」

「ふざけるな!!そんなことさせるものか!!」

「お前がどう言おうと決めるのはアイツだ。」

とその時、電子音とともにロックが解除される。

「さて、ロックも解除されたことだし、ご対面と……」

「おい。」

ミハエルが扉を開けようとしたその時、腕を誰かにつかまれる。

「てめぇ……!」

「ロックオン……」

ミハエルの後ろに憤怒の表情を浮かべたロックオンが彼の腕をつかんでいた。

「ユーノは会いたくないと言っているんだ。無理に会うのはやめてもらいたい。」

「誰がてめぇの言うことなんぞ……」

ミハエルはナイフを抜こうとするが、その瞬間、彼の腕を握るロックオンの手の力が強まり、みしみしと音が鳴る。

「っつ……!」

「ユーノに妙なまねをしてみろ……お前らがなんであろうとただじゃおかない……!!」

ミハエルはロックオンの手を払うと、掴まれていた部分を押さえながらロックオンを睨みつける。
しかし、ロックオンの静かな怒気にあてられ、さすがの彼もあきらめたようだった。

「チッ……いくぞ、HARO。」

「負ケタナ!負ケタナ!」

「うるせぇ!!」

ミハエルがHAROに怒鳴り散らしながら元来た道を戻っていくのを見送ると、967がロックオンに話しかける。

「すまない、助かった。」

「いや、俺もユーノに用があってきたからな。そこで偶然、ってわけさ。何事もなくてよかったよ。」

ロックオンはいつものひょうひょうとした笑みで話すが、967の表情は晴れない。

「ユーノに用があると言っていたが、悪いがしばらく……」

「わかってるよ。でも、どうしてもちゃんと話をしたいんだ。アイツが何に苦しんでいるのか、そして、できることならその苦しみから救ってやりたいんだ。」

967はしばらく考え込んだ後、ロックオンに道をあける。

「………ユーノを頼む。」

「まかしとけ。」

ロックオンは967の横を通り、暗い部屋の中へと入って行った。






ユーノの部屋

暗い部屋の中に光が差し込むが毛布にくるまったままのユーノはそのことには気づかない。
しかし、部屋に明かりがともされ毛布をはぎ取られる。

「ったく、ひきこもりかお前は。」

「ロック……オン………」

ユーノがロックオンの方へ顔を向けると赤いリボンでまとめられた髪がふわりと揺れる。
いつもしているサングラスはしていないせいで不安に揺れる瞳があらわになってしまっている。

「どうしてここに……」

「おいおい……心配して来てやったのにどうしてはないだろ。それに、あのときのことを話してもらっていないからな。」

ロックオンの言葉にユーノの肩がびくりと震える。

「話してくれないか?お前が何に苦しんでいるのか。」

「僕……っは…!」

ユーノの目から涙が次々にあふれてくる。
その様子を見ていたロックオンが苦笑しながら頭を掻く。

「今からそんな調子でどうすんだよ。」

「ごめっ……ん………!」

ロックオンはしゃくりあげながら話すユーノの頭をやさしくなでる。

「ゆっくりでいいから話してくれ。あの時、何があったのかを。」

ユーノはゆっくりと首を縦に振る。



そして、ユーノはすべてを打ち明けた。
自分の正体、異世界と魔法のこと、ロストロギアのこと、自分の過去、そして、かつての友人たちのことを。

「魔法に異世界………か。ずいぶんと話がすっとんじまったな。」

「クリスとリヒティにも言ったんだけど、みんな以外と驚かないんだね……」

ユーノは何とか笑おうとするが、よわよわしくぎこちないものになってしまう。

「ま、この目で見ちまって、実際に体験してるわけだしな。否定するわけにはいかねぇさ。」

「ごめん………僕はあの時、ロックオンとセルゲイさんを………」

ユーノはタクラマカン砂漠でのミッションを思い出したのか腕を組んでカタカタと震える。

「気にすんな。俺もアイツも無事で……」

「気にするよ!!」

突然の大声にロックオンは目を丸くする。

「一歩間違っていたら僕は二人を………いや、そうでなくても僕は大勢の命を……!!」

「あれは仕方なかったんだ!それに俺たちだってこれまでに……」

「そんな問題じゃない!!僕は怒りにまかせてソリッドを……エレナから受け継いだ力であんなことを……!」

ユーノの握りこぶしの間から強く握りすぎたのか血が漏れてくる。

「なのはも、みんなだってきっと僕のことを許さない!!ヴィータだってホントは僕の話を聞いて嫌な奴だって、卑怯者だって思ってる!!」

「ユーノ……」

ロックオンはユーノの肩に手を置こうとするが、ユーノがさらにまくしたてるので手を止めてしまう。

「でも、仕方じゃないか!!誰も信じてくれないんだから!!本当の両親も、拾ってくれた父さんの命も奪ったのは管理局なのに、誰も信じてくれなくて!!そうさ、きっとなのはたちだって僕のことなんて!!」

ロックオンは眉間にしわを寄せる。

「おい、それは……」

ロックオンは何かを言おうとするが、ユーノが震える瞳でロックオンを睨みそれを止める。

「ロックオンたちだって!みんなだってホントはあんなことをする僕と一緒にいたくないって思っているくせに!!」

ユーノはロックオンの胸に顔を押し当て両手のこぶしで何度もロックオンの体をたたく。

「でも仕方じゃないか!!誰も僕のことを受け入れてくれないんだから!!僕にはこうするしか思いつかないんだから!!」

ユーノは子供のように泣きじゃくる。
幼い日からため込んでいた悲しみや怒り、誰にも、大切に思っている者の前でも本当の自分を隠してきた孤独を一気に爆発させた。
そんな涙だった。
その様子を見ていたロックオンは悲しげな表情でため息をつく。

(誰かを守りたいと思うと同時に、幼い日のトラウマから誰にも心を開くことができないのか……ったく、こいつは……)

ユーノが武力介入に参加するきっかけを知って納得すると同時に悲しくもある。
おそらくこれまでもどれほど身近にいる人たちにも本当の自分をさらけ出すことができなかったのだろう。
しかも、やっとのことで自分を受け入れてくれると思っていた仲間たちとも離ればなれになり、この間のミッションの時の出来事で罪の意識を抱いてしまったことで再び誰も信じることができなくなってしまっている。

(けど……だからこそ救ってやりたい…………。確かに俺たちやユーノのしていることは許されることじゃない。でも、こいつにも未来をつかむ権利はあるはずだ!)

ロックオンは自分の胸を叩き続けるユーノの頭を抱き寄せる。

「ユーノ、聞いてくれ……」

「……………………………」

「前にも言ったが、俺がソレスタルビーイングに入った理由は家族をテロで奪われたからだ。お前と同じようにな。」

「……………………………」

「けど、俺の時間はその時から止まったままだ。どれほど世界を変えるために戦っていると思っても、テロリストに対する憎しみから抜け出せない………変わることができなかった。でも………」

ロックオンはユーノの顔を上げさせて自分の方へと向ける。

「お前は少しずつだけど変わってこれただろう?俺やアレルヤ、刹那やティエリアだってお前に何度も救われた。だからさ、これからからも少しずつ、一歩一歩でいいから変わっていけばいいじゃないか。誰のことも信じられないって言うんならまず俺がお前の絶対信じられる存在になってやる。それにお前がどう思おうが俺たちはお前のことを突き放したりしないし、どんなことがあっても信じ抜く。」

ロックオンは自分からユーノを離して真っすぐに瞳を覗き込んで笑う。

「それが仲間ってもんだろ?お前がいつも言ってることだろ。」

「ロックオン………僕は……」

「……今の話は報告しなくちゃいけないんだが………ま、お前から直接みんなに言ったほうがいいだろ。」

ロックオンはそれだけ言うと扉の方へ歩いていき、最後にユーノの方を向く。

「信じてるぞ、ユーノ。」

そう言い残すとロックオンは部屋を出る。
一人残されたユーノは天井の電灯を見上げる。
白い光を放つそれがユーノの目にはやけに眩しく写っていた。







輸送艦 ブリッジ

プトレマイオスから帰還したヨハンたちはHAROから来たミッションを確認していた。

「0ガンダムとシルトの太陽炉の回収かぁ。いかれた奴が乗ってるって聞いてたけど、楽しませてくれんのかねぇ?」

ミハエルはにやにや笑いながらフェレシュテの所有する第二世代機の戦闘記録を眺めている。

「ミハエル、我々は遊びをしに行くんじゃない。」

「わかってるよ。でも、もし連中が反抗的な態度をとったら……」

「そうそう!ボッコボコにしちゃおう♪」

「残念だが、その可能性は低いだろうな。彼女がヴェーダの決定に従わないはずがない。」

ヨハンはそう言いながら自分の前にあるモニターを切り替える。

「シャル・アクスティカ……彼女にとってヴェーダは絶対だろうからな。」

しかし、自分の予想が外れることになることをヨハンはこの時まだ知らなかった。







プトレマイオス コンテナ

イアンは先ほどの接触の際に取得したスローネやその太陽炉のデータの解析に勤しんでいた。
しかし、普段はユーノと二人で、とくにデータ解析の時にはユーノの力に頼っていたため、一人でこなすのはなかなかの重労働だ。

「しかしまあ、あいつに頼りきりってのはいかんからな……。それに、なんだかんだ言ってもまだまだアイツは子供だ。いままでこんなことがなかったのが不思議なくらい………」

「誰が子供だって?」

イアンは驚いて声の主の方を見る。

「ユーノ!?」

「スローネのデータの解析をしてるんだって?だったら、俺の出番だろ。」

「けど、お前……」

「………心配かけて悪かったな。何があったのかはいつか絶対話すから、今は聴かないでおいてくれないか?」

イアンは強い意志を感じさせるユーノの顔を見てため息をつきながらも安心した笑みを浮かべる。

「わかったよ。そのかわり、いままでサボってた分、きっちり働いてもらうからな。」

「へいへい。病み上がりなのに人使いが荒いねぇ。」

「別に病気だったわけじゃないだろ。」

他愛のない会話をしながら作業を開始する二人。
と、そこに

「ユーノ!」

「もういいんすか!?」

「大丈夫……?」

「もう!ホントに心配したんだからね!!」

ユーノを心配していたメンバーたちがコンテナの扉からなだれ込んでくる。

「ちょ!お前らどうして!?」

「ロックオンが教えてくれたの……ユーノはきっともう大丈夫だって…」

「僕らも何かしてあげられないか考えてたんだけどなにも思いつかなくて……」

フェルトとアレルヤの言葉にユーノは呆けたような表情を浮かべる。

「あんなことの跡だからきっとユーノは自分のことを責めてるってみんな心配してたんすよ。」

「なのにいつの間にか勝手に立ち直ってこんなところでこんなことしてるんだもん。ホントに勝手すぎるよ!!」

「なんで……」

「?」

その場にいた全員がユーノの方を向く。

「なんで……俺はガンダムであんなことをしたのに………なんでお前らは……」

「だって……ユーノだもん。」

クリスティナが口火を切る。

「確かにびっくりしたけど、きっと何か理由があってあんなことしちゃったんでしょ?ユーノは人一倍優しいからねぇ~。」

「そうっすよ!他の誰が何と言おうと俺たちはユーノのことを信じるよ!」

「僕もユーノに何度も助けられたからね……だから今度は僕が何かしてあげなくちゃね。」

「私もユーノに過去と向き合う勇気をもらった……それに……」

フェルトはユーノの手を優しく握る。

「私は……ううん、私たちは一人じゃないって教えてくれたのはユーノだよ。だから、一人で悩んだりしないで。」

ユーノはじっとフェルトの手をじっと見つめる。

(温かい……)

この温かさを、ずっと忘れていた人とふれあうことで感じる温かさを取り戻すようにユーノはギュッとフェルトの手を握った。

「えっと……ユーノ、そろそろ……」

ユーノが顔をあげるとフェルトが顔を赤くしている。
それにつられてユーノも頬を赤く染める。

「うわっ!!ごめん!!」

「えへへへへへ~♪」

二人はハッとすると横にいるギャラリーの方を向く。

「青春だね~。」

「青春っすね~。」

「若いってのはいいねぇ~。」

「……えっと、とりあえずこういうことは人のいないところでやった方がいいんじゃないかな……///」

フェルトとユーノの顔が一気に真っ赤になる。

「ち、違うから!!?俺はそんなつもりじゃ!!」

「………………//////」

ユーノが全力で弁解しようとした時、全員にスメラギから通信が入る。

『スローネが介入を開始したわ。………最初の標的はアメリカ、ユニオンのフラッグ部隊の基地よ。』

「!?ちょ、ちょい待ち!そこって別に紛争を起こしたわけじゃ……」

ユーノは慌てて確認をとる。

『ええ、そうなんだけど………』

スメラギの表情も心なしか戸惑ったものになっている。

『それでも、おそらく彼らはやるわ。』







ユニオン アメリカ MSWAD基地

外には曇り空が広がるなか、エイフマンは自分の研究室でガンダムの発生させる粒子、ならびに動力機関についてのデータを再確認していた。

(私の仮説通り、ガンダムのエネルギー発生機関がトロポジカルディフェクトを利用しているなら、すべてのつじつまが合う。ガンダムの機体数が少ない理由も、200年以上の時間を必要としたことも。あのエネルギー発生機関を作れる環境は木星……!)

エイフマンのなかで点と点が線で結ばれていく。

(120年前にあった有人木星探査計画!?あの計画がガンダムの開発にかかわっておったのか!だとしたら、イオリア・シュヘンベルグの真の目的は戦争根絶ではなく……)

その時、目の前のモニターに表示されていた数列や文字が消え去る。

「な、なんだ!?」

続いて彼の問いに対する答えが暗くなったモニターに表示された。

You have witnessed too much…(あなたは知りすぎた…)


「なに!?」

驚く暇もなく警報が鳴り響く。

「何事じゃ!」

『観測室より通達!ガンダムと思われるMSが三機、EW9877方面から当基地に向けて進行中!』

「なんと……!」

エイフマンは即座に頭を働かせる。

「まさか、軍内部にも協力者が!?」

そうでなければ自分がガンダムの真実に近づいたことをソレスタルビーイングが知りえるはずがない。
しかし、彼の背後から迫る赤い光が部屋に至った瞬間、エイフマンの意識はこの世から消え去っていた。




遅れてやってきたオーバーフラッグスは自分たちの基地から黒煙が上がっていることに気付くと焦りを覚え始める。

『隊長、新型が三機です!』

「見ればわかる!!」

いつもは冷静なグラハムも無意識に声を荒げてしまう。
しかし、眼前に自分たちの返るべき場所であった基地が無残に破壊されている様が広がっているのだから無理もない。

「我々の基地が……!」

しかし、それでも何とかクレバーになろうとする彼らに追い打ちをかけるような情報が入る。

『グラ……ハム……』

「!?カタギリ!無事だったのか!!」

グラハムは友人が無事だったことから安堵の笑みを浮かべる。
だが、

『教授が……エイフマン教授が……!』

「なんだと!!?」

グラハムの顔が怒りと悔しさで歪んでいく。

「堪忍袋の緒が切れた!!!許さんぞガンダム!!」

グラハムたちは悠然とこちらを見るガンダムスローネへ向かっていく。
するとスローネツヴァイもフラッグたちを迎え撃たんと向かってくる。

「行けよ、ファング!!」

腰に装備されたファングが放たれ、グラハムの駆るカスタムフラッグへと殺到する。
しかし、

「それがどうした!!」

グラハムは向かってくるファングをことごとくかわし、さらには反撃を開始する。

「うおっ!?こいつ!」

ミハエルは目の前のグラハム機のみに気を取られるが、続いて周りからの射撃にさらされる。
ダメージこそないがここまでてこずるとは思っていなかった。
そんな時、一機のカスタムフラッグがスローネツヴァイへと急接近を開始する。

「ハワード!!」

ダリルは同僚の無茶な行動を止めようとするが、ハワードはそんな事などお構いなしに突っ込んでいく。
そして、カスタムフラッグを空中変形させると腕からソニックブレイドを抜いてスローネツヴァイに斬りかかる。

「見せてやる!ガンダム!!」

「なに!?」

予想外の行動にミハエルはスローネツヴァイの背中に装備された大剣、GNバスターソードを抜いて防ぐ。
しかし、徐々にではあるがカスタムフラッグがスローネツヴァイを押していく。

「これがフラッグの力だ!!」

勝利を確信したハワードはさらに力を込めて操縦桿を押しこんでいく。

「くっ!このままではやられる……」

ミハエルは焦ったような表情を浮かべる。
しかし、すぐにその表情は余裕の笑みへと変貌した。

「わけねぇだろぉ!!」

後ろを飛び交っていたファング達が一斉にハワードのカスタムフラッグに襲いかかった。

「ぐ、おあああああぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

両脚、腰、肩、そしてとどめとばかりに頭に赤いビーム刃が突き刺さり、センサーマスクから光が消え失せ、カスタムフラッグは力なくうなだれ、その態勢のままゆっくりと地上に降りていく。

「ハワード!!」

「ハワード・メイスン!!」

ダリルとグラハムはあらんかぎりの力で叫ぶが、もはやハワードに届くはずもない。
しかし、二人の思いに応えるかのようにハワードの最後の言葉が辛うじて生きていた通信機器を通して聞こえてきた。

『隊長…………フラッグは………』

しかし、ハワードは言葉を最後まで伝えることができなかった。
コックピット部分から火花が散ったかと思うと、次の瞬間には小さく爆発を起こしたフラッグがほとんど部品の原形を留めたまま地上へと落下していった。

スローネツヴァイはというとファングを腰に回収し終えると名残惜しそうにフラッグたちを見ながら遥か彼方へと去っていく。

『隊長!』

「っっ!!無策だ追うな!!」

グラハムは真っ先に追いそうになる自分を歯を食いしばりながら必死で抑える

「プロフェッサー……ハワード……!!くっ!」

グラハムは初めてガンダムに対して今まで感じたことのない怒りを感じていた。
今まではどこか好敵手のように感じていた存在が、憎むべき対象へと変わっていく。

「私の顔に何度泥を塗れば気が済むのだ……ガンダム!!」

この時から、グラハムの根底にあったものは少しずつではあるが歪んでいく。
憎しみという名の感情によって。





太平洋 孤島

あれから数日後、アレルヤとティエリアをプトレマイオスに残して地上に降りて来ていたマイスターたちだったが、全く介入行動はしていない。
なぜなら、

「これでやつらの武力介入は七度目………あれこれかまわず軍の基地ばかりを攻撃……しかも殲滅するまで叩いてやがる………アレルヤじゃないが世界の悪意が聞こえるようだぜ……」

ロックオンはいつもの態度を崩すまいとしているが、言葉の端々から怒りが感じられる。

「トレミーからの連絡は?」

「待機してろと。やつらのせいでこっちの計画は台無しだからな。Ms.スメラギもプランの変更に追われてるんだろうよ。」

刹那はロックオンの言葉を聞きながらハロ達が整備を進めるエクシアを見る。
紛争を根絶するための力であるはずのガンダムで無差別に攻撃を仕掛けるトリニティたちを見ていると言い表しようのない感情が渦巻く。

「………あれが、ガンダムのすることなのか……!?」






アメリカ 某墓地

曇り空のもと、都市部から少し離れた墓地にグラハムとダリルはいた。
軍服のまま訪れたグラハムは勇敢な仲間の墓前に屈み、そこに掘られた名前をじっと見つめる。

「ハワード・メイスン……」

「……やつは、隊長のことをとても尊敬していました。次期主力MS選定にフラッグが選ばれたのは、テストパイロットをしていた隊長のおかげだと……」

ダリルの言葉を受けグラハムは静かに目を閉じる。

「………私は、フラッグの性能が一番高いと確信したからテストパイロットを引き受けたにすぎんよ。………しかも、性能実験中の模擬戦で…」

「あれは不幸な事故です!」

ダリルは何とか弁護しようとするがグラハムがゆっくりと首を横に振ると黙り込んでしまう。
しかし、それでも仲間の思いは伝えなければならない。

「隊長、やつはこうも言ってました。『隊長のおかげで自分もフラッグファイターになることができた。これで隊長とともに空を飛べる。』と。」

「……そうか。」

グラハムは悲しげに微笑む。

「彼は私以上にフラッグを愛していたようだな……」

グラハムは何かを決意したのか、表情を引き締め立ちあがり、今は亡き仲間に対して敬礼する。

「ならば、ハワード・メイスンに宣誓しよう。私、グラハム・エーカーは、フラッグを駆ってガンダムを倒すことを。」

二人はしばらくそのまま敬礼していた。
涙を流すことのない、軍人然としたグラハムらしい姿だった。





ユニオン アメリカ南部

夜の繁華街の一角、パッと見ごろつきといった男たちがひしめく酒場に絹江はいた。
横には屈強な体つきの男が琥珀色をした液体の注がれたグラスを持っている。

「突然お呼びたてしてすみません。」

「軍の近くで会うよりいいさ。それより、謝礼の方は?」

絹江は黙って男に封筒を渡す。
男は封筒の中を確認すると満足そうに微笑む。

「で?」

「タクラマカン砂漠の合同軍事演習で、あなたは新型のガンダムを目撃したそうですね?」

「ああ、確かに見たぜ。」

男の顔が神妙なものに変わる。

「見ただけですか?」

男はしばらく考え込んでいたが、絹江の熱意に押されて口を開く。

「……パイロットの会話を偶然聞いちまった。」

「会話を!?」

「ああ。俺の乗っていたリアルドがガンダムに撃ち落とされちまってな。救助を待っている間に見つけちまったのさ。」

男は自分が聞いたことを話す。

「ヘルメット越しで顔はわからなかったが、声や体格からして若い女だ。」

「会話の中で、ラグナに報告と言ったんですね?」

「聞き間違いかもしれないがな……俺が知っているのはこれだけだ。」

男はグラスに注がれた酒を飲み干す。

「このことを軍には?」

「報告はしていない。あんたみたいな人が高く買ってくれそうだったんでな。」

「…この話、しばらく誰にも言わないでおいてもらえませんか?」

「謝礼に上乗せが必要だな。」

「後日現金でそちらに送金します。」

男はにやりと笑って絹江を見る。

「ありがてぇ。これで娘の誕生パーティも華やかになる。」

男は席を立つとそのまま酒場の外へと出て家への近道である裏通りを鼻歌交じりに歩く。

「~~♪」

しかし、その時車のスリップ音が後ろから迫ってくる。

「?うっ!?」

車のヘッドありとに目をつぶった瞬間、夜の街に銃声が響いた。






AEU スペイン 北部 教会

人気のない緑の丘の上にぽつんと建っている教会の中庭に、珍しく大勢の人間が押し寄せていた。
誰もが美しく着飾り、豪勢な料理がテーブルの上に並ぶ中、ルイスは人込みから離れた場所で沙慈と連絡を取っていた。

「はぁ~い、沙慈。元気してる?」

『バイトの途中。もうシフト入れすぎてくたくただよ。そっちは?』

「結構盛り上がってる。あ!花嫁さんがすっごく美人でね!料理もいい感じだし、それから………」

続きを話そうとしたところで通信が切れる。

「あれ?沙慈?沙慈!もう!どうなって……」

ルイスがふと空を見上げると三つの赤い光の線を描きながら何かが飛んでいる。

「あの光は、もしかして……ガンダム!?すっごい!初めて生で見た!」

ルイスが感心して見ていると三機のガンダムのうちの一機がこちらに近づいてくる。
周りの人々も気付いて騒ぎこそするが、誰も逃げようとはしない。
そして、近づいてきたガンダムが銃口をこちらに向ける。

「え……?」

ルイスが呆けた声を出した次の瞬間、赤い光弾が結婚式会場の真ん中に突き刺さる。
一瞬の悲鳴とともに凄まじい爆風で窓ガラスが割れ、炎と黒煙が辺りを包みこむ。
ルイスは何とかその衝撃に耐え立っていることができたが、目の前に広がる光景を見て凍りつく。
つい先ほどまで幸せな気分で満たされていたそこには倒れて動かない人たちとガンダムの攻撃で抉られた地面の周りが散乱した瓦礫で埋め尽くされ、地獄絵図と化している。
そして、ルイスは会場の中心にいたはずの二人の人物がいないことに気付く。

「パパ……ママ……?」

いくら呼んでも返事がないという事実にルイスは青ざめる。

「パパ!!ママ!!」

ルイスは両親を探そうと瓦礫のそばに駆け寄ろうとするがそこにガンダムからの追撃が加えられる。
ルイスの後ろにあった教会に着弾したそれは爆風を発生させ、ルイスを吹き飛ばす。
そして、ルイスも瓦礫に埋もれ、身動きが取れなくなる。

「パ……パ………マ…マ……」

頭からは夥しい量の血が流れ、左腕は完全に瓦礫の中に埋まってしまっている。
それでもルイスは何とか這い出て家族を助けようとするが、血を失いすぎたのかそのまま気を失ってしまった。







『ネーナ、何をしている?』

ヨハンが少し怒った表情でモニターに向こうからネーナを睨む。

「ごめ~ん!スイッチ間違えちゃって!」

ネーナは困ったような笑みを浮かべてこつんとヘルメット越しに頭をたたく。
彼女は間違えて攻撃したわけではない。
明確な悪意を持って攻撃をした。
ただ、自分が働いているそばで幸せそうにしていたという理由だけで。

『作戦続きで疲れてんだろ。』

『勝手な行動は慎め。』

「はぁ~い!」

二人の兄からの通信が終わるとネーナは後ろを振り向いて赤い舌を出して笑う。
そこにいた人々がどれほど傷ついたのかも知らずに。







プトレマイオス ブリッジ

「トリニティが一般人に攻撃したって一体どう言うこと!!?」

ブリッジに入ってきたスメラギは開口一番で怒鳴るように問いただす。

「紛争幇助の対象者でもいたんじゃねぇか?」

「それが…そうでもないみたいです。ヴェーダにあるトリニティのミッションデータにも記載されてないし……」

「意味もなく攻撃したというの……?そんな……」

ガンダムの力は強大だ。
だからこそ、その力を振るうにはそれ相応の覚悟と倫理観が伴わなくてはならない。
だが、トリニティは違う。
明らかに力を振るうことそのものを楽しんでいる。

(……やはり彼らを認めるわけにはいかない。)

スメラギの腹は決まったようだ。





太平洋 孤島

「クソッ!!」

ロックオンは壁に怒りをぶちまけるように拳を叩きつける。

「何やってやがるアイツら!!遊んでんのか!!」

ロックオンのすぐそばでエクシアを見つめている刹那も拳を握る力を強める。

(一般市民への攻撃……ガンダムが……!?)

ハロとともに整備をしていたユーノも顔をしかめる。

(無関係の人間を傷つける……マイスターがすることじゃない……!!)

自分も多くの人を傷つけてきた。
だが、彼らはそんな良心の呵責さえ感じていないだろう。

「…………もう、我慢の限界だ!」

ユーノは整備を中断すると自室へと向かう。
おそらく来るであろう戦いの準備をするために。






スペイン 国立病院

沙慈は全力で廊下を走っていた。
看護婦から注意されたがそんな事など関係ない。
ルイスが怪我をしたと聞いて大学も休んでここまで飛んできたのだ。
こんなところでもたもたしていられない。
一刻も早くルイスにあって無事を確認したい。
その一念のみで沙慈は走っていた。

受付で聞いた号数の部屋を見つけて沙慈はそこに飛び込んだ。
そこにはベッドの上で頭に包帯を巻いたまま風で揺れるレースを通して外を眺めているルイスがいた。

「ルイス……」

「沙…慈……?どうして……?」

ルイスは驚いたのか、呆けた顔で沙慈を見る。
その様子を見た沙慈は安堵から思わず笑う。

「事故にあったって聞いて……ごめん、来るのが遅くなって。」

「学校サボって。」

「そんなのいいよ。」

沙慈はルイスのベッドのそばにある椅子に腰かける。

(………?)

何か違和感がある。
ルイスはいつもと変わらず微笑んでいるのに何かおかしい。
しかし、沙慈はそれを頭から取り除いて自分もいつものようにルイスに笑いかける。

「でもよかった、元気そうで。ホントよかった……」

ホッと息をつくが、何かを思い出したように急に顔を上げる。

「あっ!そうだ、お見舞いってわけじゃないけど……」

沙慈は持っていたカバンをガサゴソとさせると中から小さな藍色の箱を取り出す。

「これ。」

「なに?」

沙慈が箱を開けると、そこには金色をした大小二組の指輪があった。

「これ……」

「フフフ……ほら前にルイスが欲しがっていたやつ。試験休みの間にバイトしまくってさ!ようやく買ったんだ!」

宅配ピザのバイクを運転する真似をする沙慈。
そして、一通り説明が終わったところで箱を前に出す。

「受け取って、ルイス!」

ルイスは右手で小さな方の指輪を取って顔に近づけじっくりと見る。
日の光を浴びて光る指輪を見ながらルイスは微笑む。

「綺麗……」

その様子を見ていた沙慈は頬を赤く染め、真剣な顔をする。

「ル、ルイス……僕、ルイスのことが……ルイスのことが!!」

「ごめんね、沙慈。」

「え?」

沙慈は最初、それが告白を受け入れてもらえないという意味だと思った。
だが、すぐにそれがルイスの心からの謝罪だったことに気付かされる。

「せっかく買ってもらったのに……すっごく綺麗なのに……」

辺りを沈黙が包む。
自分の心臓の音だけがいやにはっきりと聞こえてくる。
なぜだかはわからないけど、嫌な汗が止まらない。

ルイスはそれまで隠すようにしていた左腕を体をよじって沙慈の前に出す。

「もう……はめられないの。」

そこには、あるべきはずのものがなかった。
ルイスの左手首から先がない。
包帯でぐるぐる巻きにされているが、明らかに途中で途切れている。

「……え………?」

沙慈は事態を飲み込めずにいた。
ルイスはサッと左腕を隠し、震える声で、念を押すように言葉を発する。

「はめられないよ……!」

沙慈は驚愕から目を見開く。
たった今、現実に見ていたはずなのに悪い夢だと思わずにはいられない。

「ルイス……そんな……」

「ごめんね、沙慈……ごめん………」

涙をこぼし始めるルイスに手を差し伸べようとするが、体中が震えて上手くできない。
すると、後ろから腕を掴まれる。
振り向くと看護婦が、彼女もまた辛そうな表情で首を横に振っている。



彼女に連れられ廊下に出た沙慈は説明を受けた。
両親も親せきも、事故で全員亡くなったということ。
その事故を引き起こしたのがガンダムだということを。



周りの看護婦や医師たちが噂話や世間話をしているが沙慈の耳には届かなかった。
目に写るものすべてが真っ白になった世界の中をトボトボと歩く沙慈は何もないところで躓く。
ふらふらと立ちあがるがそのまま壁に寄りかかる。
ふと、ポッケトの中の箱の感触で我に返る。
取り出して開けてみようとするが、体が拒絶してできない。
すると、ポタリポタリと雫が箱の上に落ちては消えていく。

「っっ!!ルイス………!うっ……う……!!」

沙慈はこの時になってようやく、戦争というものを理解した。
それまで、どこか遠くの、他人事のように思えていたことが急に身近なものに変わった。
大切な人たちが傷つき、深い悲しみのどん底に突き落とされる。
そして、彼にも憎むべき対象が生まれた。

(ガン……ダム……!ガンダム……!!)







太平洋 孤島 コンテナ

パイロットスーツに着替えた刹那はエクシアのもとへと歩み寄る。
先程、トリニティたちが再び介入行動をしたという報告が入った。
しかも、民間人が働く軍事工場に対してだ。
もう、見過ごすわけにはいかない。

「よう、大将。どこに行くんだ?」

刹那は声がした方を向く。
そこには刹那と同じようにパイロットスーツに着替え、サングラスをかけ長い髪を赤いリボンでまとめ、青い宝石を首からかけている少年がいた。

「ユーノ……」

刹那は身構えるが、ユーノはひらひらと手を振る。

「そんなに警戒すんなよ。止めたりはしないって。むしろ逆だな。」

そう言うと、ユーノも自分の愛機、ソリッドへと歩いていく。

「………お前も行くのか?」

「ああ、あの阿呆どもにはさすがに俺も腹にすえかねた。」

ユーノは歩みを止めてそのまま話し始める。

「……実は少し記憶が戻ってよ。俺の根底にあるもの、ソレスタルビーイングに入ろうと思った理由がわかったよ。」

「…………………………」

「俺の父さん……つっても、育ての親だけどな。宗教関係のテロに巻き込まれて俺の目の前で殺されたんだ。」

「!!!」

「でも、殺したのはテロリストじゃなかった。本来なら俺たちを守ってくれるはずの組織に、正義のためだとか言って殺された。………俺は、それがどうしても許せなかったんだろうな。三年間も何もかもずっと忘れてたのに、そのことだけは頭のどっかに残ったまんまだった。」

「……だが、俺たちのしていることは……」

刹那の言葉にユーノは自嘲する。

「わかってるさ。俺もその組織の人間と変わらない、ただの人殺しさ。でも、やつらとは違う点が一つだけある。」

ユーノはサングラスを取って振り返る。
その眼には、かつてのような迷いや怒りは一片も感じられない。

「俺は……僕はあいつらのように正義なんてものに逃げ込む気はない。自分の罪を真正面から受け止めて、背負って、そのうえで戦っていく。それが、僕の選ぶ道だ。」

「………そうか。」

二人はそれ以上何も語らずにそれぞれのガンダムに乗りこむ。

「刹那・F・セイエイ、エクシア、出るぞ」

「ユーノ・スクライア、ソリッド、出撃する。」

エクシアとソリッドが朝焼けの空へと飛び立っていく。
ロックオンはその後ろ姿を薄く笑いながら見送っていた。

「やっぱり行くか………あのきかん坊どもめ……」

「追イカケル?追イカケル?」

「もう少ししたらな。それに、アイツも多分行くだろうしな。」

ロックオンは無愛想だった仲間の変化に喜びながらデュナメスのあるコンテナへと歩いて行った。





太平洋上

チームトリニティは片腕のとれたスローネアインを先頭に太平洋上を進んでいた。
アメリカの軍事工場に攻撃を仕掛けたのだが、その際に一機のカスタムフラッグにビームサーベルを奪われ、腕を斬り落とされてしまったのだ。

『まさか、兄貴をてこずらせるやつがいるなんてな。』

『油断大敵ね。』

「肝に銘じるしかないな。」

ヨハンはフゥとため息をついたその時、モニターに警告が表示され、すぐさま桃色の光弾が雨のように降り注ぐ。
三機のガンダムスローネは慌てて回避する。

「なに!?」

「この粒子ビームは!?」

「くっ!ガンダム!!」

ヨハンたちが視線を向ける先には海上をライフルを構えながら向かってくるエクシアとソリッドがいた。

「ガンダムエクシア!!ガンダムソリッド!!」

驚きながら見つめる三人に対し、エクシアとソリッドに乗る刹那とユーノはあくまで冷静に“敵”を見据えていた。

「エクシア、目標を捕捉。」

「ソリッド、同じく捕捉。三機のガンダムスローネを紛争幇助の対象と断定。」

「これより、武力介入を開始する!」

エクシアはGNソードを、ソリッドはアームドシールドの刃をそれぞれ構える。

「エクシア……」

「ソリッド……」

「「目標を駆逐する!!」」

二機のガンダムは猛然とスローネ達に突進していった。






世界は変わってゆく………
多くの人間の悲しみを糧としながら





あとがき・・・・・・・・・・という名の虐殺ショー

ロ「というわけで遂にスローネとガチバトル突入!の一歩手前編でした。」

兄「さて、それはさておき、今回は皆様お待ちかね(?)、ユーノ対高町士郎のという頂上決戦(という名の虐殺ショー)をお楽しみください。」

ユ「今ちっちゃい声で虐殺ショーって言わなかった!!?てか、なんで僕リングの上にいるの!!?」

ハ「では、赤コーナーより本日のゲスト、ヒロインの父親、ザ・キング・オブ・親馬鹿、高町士郎さんの入場です!」

士郎(以降 親馬鹿1)「どうもどうも。」

ユ「君ら止める気ゼロか!!?て言うか桃子さんも一緒に来るって言ってなかったっけ!!?」

ティ「大丈夫だ。向こうのセコンドについている。」

桃子(以降 親馬鹿2)「こんにちは~。」

ユ「止めてくれるんじゃないの!!?」

兄「だって自分の娘に手ぇ出しといて他の女といちゃつくようなやつは助けたくないだろ。あと、読者の皆様もそろそろお前のハーレムなんて見たくないって思ってるだろうし。」

ユ「いや、あれはね……」

ハ「おい、コラ。そこの淫獣。ルールの説明すっからリングの中央に来い。」

ユ「ちょっとぉぉぉぉぉ!!!!!よりにもよってなんでハレルヤがレフェリーしてんの!!?」

ロ「面白そうだから。」

ユ「後で覚えてろよ!!」

ハ「とりあえずルールは何でもありの方向で。」

ユ「それルールないのといっしょじゃん!!」

親馬鹿1「娘をたぶらかす淫獣にルールなんているのかね?」

ユ「だから誤解だと……」

ハ「んじゃ、ファイっ!!」

ユ「いやいや!!ファイって……ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!本気であの人ディ○ロス持ってきたぁぁぁぁ!!?」

親馬鹿1「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

ユ「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

刹「………では、解説に行くぞ。」

ア「ほっといていいの、あれ?」

親馬鹿2「いざとなったら私が士郎さん(の息の根)を止めますので心配しないでください♪」

兄「むしろ猛烈に心配だ。」

ティ「それはそうとして今回もかなり苦しい展開だったな。」

ア「やめとけばいいのにアニメで換算すると二話分詰め込んだからね。」

兄「そのせいであんな名場面やこんな名場面が……」

ロ「すんません。」

刹「しかし、いよいよ佳境に入ってきたな。」

親馬鹿2「この調子だと私たちももうすぐ出れそうね♪」

ロ「いや、あなた方を出す予定は……」

親馬鹿2「出れるわよね?」

ロ「………はい。」

兄「何この人?めっちゃ怖いいですけど。」

ロ「魔王の親だからな。」

ア「そんなこと言ってるとまた炭にされるよ。」

ユ「ちょ!!いい加減こっちを何とかしてくれませんかね!!?」

兄「まだやってたのか?」

親馬鹿2「じゃあ、そろそろ止めましょうか。」

親馬鹿2、親馬鹿1に近づく。

親馬鹿1「桃子?」

親馬鹿2「はぁー………!!」

「「「「???」」」」

親馬鹿2「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁっっっっ!!!!!」

親馬鹿1「ぐはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「「「「ええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!?」」」」

刹「…………見事だ。」

兄「いやいやいやいや!!ここでなんでジョジョネタ!?」

ロ「いいじゃん。強いだろディ○。」

ティ「いくらなんでも自由すぎだろ!?」

ロ「素晴らしいじゃないか自由。Freedom!」

親馬鹿2「ふぅ、久々にザ・ワー○ドだしたら疲れちゃった❤」

ユ「それハートつけていいセリフじゃない!」

ア「………これ以上放っておくとカオスになりそう(いや、もうなってるか)なので次回予告に行きます!」

ティ「スローネ三機に立ち向かう刹那とユーノ!」

ア「苦戦を強いられる中、あの人物が戦いに参加する!」

ユ「そして、復讐すべき対象を知ったロックオン。」

刹「激情のままに銃を手に取る彼が出した答えとは。」

親馬鹿2「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!では、せーの……」

一同「次回もお楽しみに!!」



[18122] 26.絆
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f67ac0c6
Date: 2010/10/17 11:19
太平洋 海上

「エクシア、目標を駆逐する!!」

GNソードの刃を起こしたエクシアはスローネドライに斬りかかる。
しかし、その間にスローネツヴァイが割り込み、バスターソードでエクシアの斬撃を受け止める。

「てめぇ!!何しやがる!!」

「あたしら味方よ!?」

「違う!!」

「え!?」

ネーナは下から迫っていたソリッドに気付かず、スローネドライを蹴り飛ばされる。

「きゃあああぁぁぁ!!」

「「ネーナ!!」」

弾き飛ばされたスローネドライを受け止めるようにスローネアインとツヴァイがその後ろに回る。

「くっ!!」

ヨハンたちはエクシアとソリッドを睨みつけるが、刹那とはそんなことなどお構いなしにGNソードの切っ先をスローネ達に向ける。

「お前たちが……!」

続いてユーノがアームドシールドをバンカーモードに変える。

「その機体が……!」

「「ガンダムであるものか!!」」

エクシアとソリッドは背中から大量のGN粒子を放出しながら三機のガンダムスローネへと向かって行った。






魔導戦士ガンダム00 the guardian 26.絆

エクシアはスローネツヴァイと幾度も剣を交えながら徐々に押していく。
ソリッドはスローネドライにライフルから幾度も弾を発射する。

『ちょ、ちょっと!どうするのヨハン兄ぃ!?』

ヨハンは小さく舌打ちをするとエクシアとソリッドとの回線を開く。

「聞こえるか、エクシアとソリッドのパイロット、なぜ行動を邪魔する?我々は戦争根絶のために……」

『ふざけるな!!』

通信機器の奥からユーノの怒鳴り声が聞こえてくる。

『お前たちの行動でどれだけ関係のない人間が傷ついたと思っている!!』

ヨハンはユーノの言葉に顔を少ししかめる。

「何を馬鹿な……戦争根絶という大きな目的のために犠牲は……」

『違う!!』

続いて刹那から声が上がる。

『貴様はガンダムではない!!』

刹那とユーノはそのまま目の前にいる敵に対して攻撃を加えていく。

「錯乱したか……」

ヨハンは呆れたようにため息をつくとツヴァイとドライに指示を出す。

「ミハエル、ネーナ、応戦しろ。」

「了解だぜ兄貴!!」

「待ってました!!」

それまで防戦一方だった三機がついに攻撃を開始する。
ツヴァイが強引にバスターソードを振ってエクシアをひきはがすと、そこにアインからの砲撃が撃ち込まれる。

「くぅっ!!」

砲撃のうちの一つがエクシアの左腕をかすめ、シールドを砕く。

「刹那!!」

「おっと、あんたの相手はこのあたしよ!!」

エクシアの救援に向かおうとしたソリッドの前にビームサーベルを抜いたドライが立ちはだかる。

「どけ!この性悪アリサ!!」

「何言ってんのかさっぱりだっての!!」

ユーノはソリッドの腰からビームサーベルを居合のように抜き放ち、横薙ぎに斬りつけるが、ドライはバックステップを踏むように退がると腕に装備されたビームガンを連射する。

「967、GNフィールド!」

「了解!」

咄嗟にGNフィールドを張るものの、距離が近すぎるためか衝撃で機体が揺れる。
さらに、

「ファングゥ!!」

「くっ!?」

赤いビーム刃を発生させたファングがソリッドのすぐそこまで迫る。

「させるか!!」

エクシアは腰の後ろに装備されたビームダガー、そして、短めのGNブレイドを投擲してソリッドに迫るファングを破壊し、自身に迫っていたファングは二本のビームサーベルで斬りおとす。
だが、

「まだあんだよ!!」

腰に残っていた二機のファングを放出し背中ががら空きになったエクシアへと向かわせる。

「ヤバい!!」

「くっ!!」

しかし、そのファングがエクシアに届くことはなかった。
横から迫ってきた巨大な光の柱にのまれたファングは爆発することも許されずに跡形もなく消え去った。

「なに!?」

「援軍!?」

「なによ!?」

トリニティが光の柱が飛んできた方向を向くと、そこにはひときわ大きな体が特徴的なガンダム、ヴァーチェが接近してくるのが見えた。

「ティエリア・アーデ!?」

「来てくれたのか!」

二人の声に応えるようにヴァーチェは再度バズーカを構える。

「ヴァーチェ、目標を破壊する!」

再び放たれた砲撃はスローネ三機のちょうど真ん中を貫く。
しかし、気付かれたせいか今度はかわされる。

「たった一機増援が来たくらいで……」

『一機じゃないぜぇ?』

「「「!!?」」」

太陽を背に迫っていた何かがスローネツヴァイに斬りかかる。
ミハエルは操縦桿を倒して慌ててツヴァイを振り向かせるが、斬撃を防ぐのがやっとで、勢いに負けて弾き飛ばされる。

『この前の礼だ。』

「くっ!?」

「ミハ兄ぃ!!」

心配するネーナをよそに、ミハエルは何とかツヴァイを踏みとどまらせると襲撃者を睨みつける。
血のような深紅のボディにエクシアのような大剣を右手につけ、左手にはやや大型のビームライフルが装備されている。

「貴様は……!!」

「……生きていたか、フォン・スパーク!」

擬装用のマスクを外したエクシアのテストベッド、アストレアに警戒を強めるスローネを上から見下ろしフォンは鼻で笑って見せる。

「あげゃげゃげゃげゃげゃ!!ずいぶんと派手にやってるみたいじゃねぇか!だが、お前らにオリジナルの太陽炉をくれてやる気は俺にもシャルにもないぜ!」

突然登場したフォンに戸惑いを見せているのは何もトリニティだけではない。

「あの機体はあの時の!?」

「やつは一体!?」

混乱する刹那とティエリアだが、ユーノは頭を押さえて唸りながら通信回線を開く。

「フォン!!なんで君が出てくるんだ!?」

『あげゃ。助けてやったのにずいぶんな言い草だな。』

「だいたい擬装用のマスクはどうしたんだ!?まだフェレシュテのことはみんなには……」

『ああ、それなら心配すんな。少し前にシャルと一緒にトレミーに治療がてらに顔を出してきたからな。シャルは今頃まだ連中と一緒に空の上さ。』

「えええええぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!?」






プトレマイオス ブリッジ
銀色の髪が無重力の影響も受け普段よりも柔らかに揺れる。
シャルは久々の感覚に戸惑いながらもスメラギ達と向き合う。

「スメラギさん、我々を受け入れていただいてありがとうございます。あらためてお礼を言わせてもらいます。」

「いいえ、こちらとしても協力者がいることが分かって心強いです。」

「あのパイロットはちょっと強烈だったけどね……」

クリスティナがポツリとつぶやくのを聞いたスメラギは厳しい視線をクリスティナに向ける。

「ご、ごめんなさい……」

「いえ、事実私たちもフォンを持て余していますから。」

シャルが苦笑しながらフォローを入れる。

「でもシルトと0ガンダムの太陽炉を守ってくれたのはフォンだよ。」

シャルの後ろにある扉が開き、シェリリンとエコ、そしてその後ろからイアンとモレノがやってくる。

「俺も活躍しただろ!?」

「エコはフォンとスローネが戦闘している隙を突いて逃げただけでしょ。」

「う……」

痛いところを突かれたエコは黙ってしまう。

「でも……本当にこれでよかったんでしょうか?」

シャルが顔を曇らせながら呟く。

「ヴェーダは私たちの所有する二基の太陽炉を彼らに引き渡すよう指示しました。やはり、従うべきだったのでは……」

「そんなことない!」

その場にいた全員が珍しく大きな声を出したフェルトの方を向く。

「パパやママはあんなことをするためにガンダムに乗ってたんじゃない……!トリニティにオリジナルの太陽炉を渡したらきっと大変なことになってた。」

「そうっすよ!」

コンソールを叩いていたリヒテンダールが続く。

「トリニティのやつら、むかつきますよ!」

「俺も同感だな。連中とはどうにもそりが合わねぇ。」

「……はぁ~……いい男だったのにな。」

クリスティナはしばらく接触してきたときに撮ったヨハンとのツーショットを見つめていたが、ため息をつくとそのデータを消去する。
それを見ていたリヒテンダールが小さくガッツポーズをとるが、話に夢中で誰もそのことには気付かなかった。

「しかし、ユーノがあなたたちとすでに接触していたなんてね……しかも報告もなし。」

スメラギはにこやかな顔で話しているのだが、背中から黒いオーラがあふれだしている。

「あの……それは私たちが彼に口止めを……」

「それにお前さんはとっくの昔にシャル達の存在に気付いて……」

「それがなにか?」

「「いえ、なんでもありません。」」

いっそう量が増すスメラギの黒いオーラに気圧されてフォローをしたシャルとイアンはそれきり黙ってしまう。

「ま、まあ、それはそれとしてシルトの太陽炉を守ってくれてありがとうございます。」

アレルヤはシャルに頭を下げる。

「きっとエレナも彼らに自分の使っていた太陽炉を渡したくなかったはずですから。」

「それと、ユーノもな。」

モレノがアレルヤの発言に付け加える。

「あいつがここまで戦ってこれたのはエレナの影響が大きいだろうからな。シルトの太陽炉が連中の手に渡ったとわかったらわしらがどれほど止めても奪い返そうとしただろうな。」

「そうですか……」

シャルはフッと微笑む。

「……久々に見たな。」

「え?」

イアンの言葉にシャルは首をかしげる。

「いや、お前さんがそんな風に笑うところなんて久しぶりに見たんでな。」

「うん、私も初めて見た。」

「俺も…。」

エコもシェリリンも目を丸くする。

「これもユーノの影響かもな。」

モレノはからからと笑いながら天井を見上げる。

「さて、その本人は今頃は連中とやりあってる頃か。」

「大丈夫かなぁ?」

モレノの言葉を聞いてリヒテンダールは不安そうな声をだす。

「大丈夫!ユーノ達はあんな奴らになんか負けないよ!」

「うん、ユーノはすっごく強いから……」

そう言ったシェリリンとフェルトは互いに顔を見合わせる。

「……まさか、あなたもユーノのこと……」

「え?」

シェリリンが神妙な顔をしてフェルトをまじまじと見る。

「私は絶対負けないんだからね!!」

「え?え?」

シェリリンが何を言っているのかさっぱりわからないフェルトは首をかしげる。

「……ユーノも罪つくりねぇ。本人にその自覚がないのがまた厄介。」

クリスティナのため息をきっかけにブリッジの空気はそれまでと違うほのぼのとしたものに入れ替わった。






太平洋 海上

「………なんだか猛烈にトレミーに帰りたくない。」

「スメラギ・李・ノリエガか?」

「それもあるけどなんだか嫌な予感がする。」

967と話していたユーノだが、突然刹那とティエリアから通信が入る。

『ユーノ、やつを知っていたんだな。』

『どういうことかきっちり説明してもらおうか。』

心なしか二人がいつもより怖い。

「いや、これは、その、深いわけが……」

『『なにが?』』

「………………………………………」

そこにさらにフォンが割り込む。

『あげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃ!!なかなか苦労してるな!』

「もとをただせばフォンたちのせいだろ!?」

「………お話し中悪いが。」

スローネアインから外部音声が響く。

「こちらは君たちの口論につきあうつもりはない。」

「ハッ!死にぞこないがぁ!また斬り刻んでやるぜ!!」

「けちょんけちょんよ!!」

三機のガンダムスローネが戦闘態勢に入ったのを確認するとユーノ達も構える。

『………そこの機体、今は味方…ということでいいんだな?』

『ああ、今はな。』

「………頼むから人の機体を通して話しするのはやめて。」

刹那とフォンはそんなユーノの苦情など聞かずに話しこむ。
そして、ティエリアは

『………あとで何もかも話してもらうぞ。』

今までユーノに見せた中で一番厳つい表情を見せて通信を切った。

「……………………………………」

「………あとでフォローはしてやる。」

「………期待はしないけどね。」

ユーノのその言葉を合図に三機のスローネと四機のガンダムたちの戦いが再開された。

「(刹那とティエリアはフォンと組んで作戦を行ったことがない……。正直、あの二人を組ませるのは不安だけど、やるしかない!)刹那とティエリアはフォーメーションS-32で攻撃!フォンは好きに暴れて構わない!こっちで合わせる!」

『『了解!』』

『あげゃ!!』

ヴァーチェはエクシアの前に出ると機体のあちこちにあるGN粒子放出口を開き、GNフィールドを展開する。
三機のスローネはそれぞれの装備する射撃武器で応戦するが、全ガンダムの中でも指折りの強度を誇るヴァーチェのGNフィールドはそう簡単には揺るがない。

「GNフィールドか……厄介なものを……」

ヨハンはビームガンではダメージが与えられないと思ったのか肩に装備されたランチャーで攻撃しようとする。
しかし、

『ヨハン兄ぃ!!』

「!!」

ネーナの声でハッとするがもう遅い。
フィールドを張っていたヴァーチェの後ろの影からGNソードを構えたエクシアが飛び出してくる。
スローネアインは慌てて回避するが、エクシアは勢いを殺さずにドライにも斬りかかる。

「くっ!!」

思わぬ不意打ちにアインとドライは態勢を崩してしまう。

「てめぇ!!」

ミハエルは激怒して追撃態勢に入っていたエクシアにバスターソードを振り下ろすが、エクシアはそれを読んでいたようにかわす。
そして、エクシアがそれまでいたため隠れていた地点にヴァーチェがバズーカの砲門に光をため込んだ状態で出現する。

「なに!?」

あわてて三機は回避行動を取るが、その先には深紅の機体が待ち構えていた。

「あげゃ!!」

アストレアはプロトGNソードを真一文字に振るうが、アインとドライのビームサーベルによって押し返される。
しかし、

「もう一撃!!」

今度は真上から降下、いや、もはや落ちてくると言った方が適切なほどの速度でブレードモードのアームドシールドを構えたソリッドが迫る。

「なろぉ!!」

今度はツヴァイが自慢のバスターソードで受け止めるが、真上から高速でアームドシールドを叩きつけられたため、真下に数十メートル下がってあわや海面に衝突するかと思われたが、ギリギリのところでGNドライブの出力を上げて踏みとどまる。

「くっ!残念だな!お前とは仲良くできると思ってたんだがな!!」

「迷惑な勘違いすんじゃねぇよ!!」

ユーノは強引に振り抜かれようとしていたバスターソードの動きを感知していったん距離をとる。
三機のスローネと四機のプトレマイオス、フェレシュテのガンダムたちは互いに相手を変えながら凄まじいばかりの戦闘を繰り広げる。

「フッ!まさか君とともにフォーメーションを使う日がこようとは思ってもみなかった。」

「俺もだ。」

ティエリアと刹那は互いに笑うと再びフォーメーションでスローネたちを攻撃する。
そして、エクシアの刃が遂にツヴァイをとらえる。
右腕をかすめた程度だが、この調子ならいずれは綺麗に一撃入るだろう。
だが、トリニティも黙ってはいない。
ツヴァイがエクシアと鍔迫り合いを開始すると、アインとドライは上空に上がり距離をとる。

「ネーナ、ドッキングだ。」

『OK!』

ドライのアームビームガンの下の装甲が開くと中からケーブルが出現する。
そして、アインの背中にあるGN粒子受け取り口に接続しようとするが、

「そんな時間が与えられるとでも思っているのか!!」

ヴァーチェがビームサーベルを振るいそれを妨害する。
しかし、彼らの本当の狙いはこれだった。
ヴァーチェの攻撃をかわした二機はすぐさま射撃態勢へと移っていた。

「その機動性では!」

「いっただきぃ!!」

ヨハンとネーナは勝利を確信するが、ティエリアにはまだ奥の手が残っていた。

「ナドレ!!」

ティエリアの虹彩が金色に輝くとモニターにNADOLEEの文字が浮かび、さらにその上にTRIALの五文字が浮かぶ。
次の瞬間、ヴァーチェの分厚い装甲が次々にパージされ、長い髪のようなケーブルを持つガンダムナドレが現れる。
ナドレは胸部にあるジェネレーターを発光させ、周囲に“何か”を放つ。
すると、その何かを浴びたスローネに異変が起こる。
モニターにエラーの文字が表示され、完全に動きが止まる。

「なんだ!?機体の制御が!!」

「システムダウン!?」

「苦シイゼ!苦シイゼ!」

当然GNドライブも停止したので、フッと糸が切れたように地上へ向けて自由落下を始める。

「きゃあああぁぁぁぁぁ!!」

「ぐううううぅぅぅぅぅぅ!!」

二機は近くにあった島に落下して、黒い土煙を上げる。

「ぐ………なにが……!?」

ヨハンは落下の衝撃で痛む体を起こして自分たちを見下ろすナドレを見上げる。
しかし、ディスプレイも機能を停止しているため、その姿をとらえることができない。

一方、当然の結果というようにティエリアは無表情のままスローネを見下ろす。

「ヴェーダとリンクする機体をすべて制御下に置く……これが、ガンダムナドレの真の能力。ティエリア・アーデにのみ与えられたガンダムマイスターへの裁判(トライアル)システム。」

ミハエルは二人の異変に気付く。

「兄貴!ネーナ!」

二人のもとへ向かおうとするが、エクシア達に阻まれて思うようにいかない。
そんなミハエルの前で、ナドレはビームサーベルをゆっくりと抜く。

「君たちはガンダムマイスターにふさわしくない……そうとも、万死に値する!!」

ナドレは動きの止まった二機へと突進していく。
しかし、

「なに!?」

突然ヴェーダとのリンクが切断され、トライアルシステムが停止してしまう。
その結果、スローネは動きだし、ナドレの攻撃をかわす。

「トライアルシステムが……強制解除された!?いったい、なにが……!?」

その時、以前ヴェーダとリンクするためのターミナルでの出来事を思い出す。
書きかえられた領域を発見し、詳しく閲覧しようとした瞬間アクセスが拒否された。
今回もあのときよく似ている。

「やはりヴェーダは……!!」

物思いにふけっていたティエリアのバックをとったスローネは反撃を仕掛けようとする。

「お返しよ!!」

「くっ!」

ティエリアも気付くが、二機はすでに攻撃態勢に入っている。
しかし、遠方から飛んできたビームに阻まれる。

「またガンダム!?」

「デュナメスか。」

遥か彼方にスナイパーライフルを構えたデュナメスがたたずんでいる。

「これで5対3だ。ちっとずるいが容赦はしないぜ!」

「野郎!!やってやんよぉ!!」

ミハエルはデュナメスへと接近しようとする。
だが、

『ミハエル、ネーナ、後退するぞ。』

「な!?そりゃねぇぜ、兄貴!」

「どうして!?」

「ガンダム同士でつぶしあえば、計画に支障が出る。」

「チッ……わかったよ。」

ミハエルとネーナはしぶしぶヨハンに従い戦闘を中止する。
刹那たちも戦闘をやめるが、まだ警戒は解いていない。
スローネが並び立つと、それに向かいあうようにエクシア達も並び立つ。

「逃げんのかい?」

ロックオンが挑発するが、ここでヨハンは思わぬカードを切ってくる。

『……君は私たちより先に戦うべき相手がいる。そうだろう、ロックオン・ストラトス……いや、ニール・ディランディ。』

「!!」

ロックオンは驚いた。
ソレスタルビーイングの中でも自分の本名を知っているのはユーノとフェルトだけのはずだ。

「二―ル……ディランディ?」

仲間が自分の知る名前以外の呼ばれ方をしたことに刹那は戸惑いを覚える。

「貴様!俺のデータを!」

『ヴェーダを通じて閲覧させてもらった。』

(!!レベル7の情報を!?)

あり得ない。
自分が拒否されたにもかかわらずやつらはヴェーダにあるデータを閲覧できたという事実がティエリアを動揺させる。

『ロックオン……君がガンダムマイスターになってまで復讐を遂げたい相手の一人は、君のすぐそばにいるぞ。』

「なんだと……!?」

(復讐を遂げたい相手……?)

ユーノはすぐさまヨハンの言葉と自分の持つ情報を照らし合わせ始める。

ロックオンはテロで家族を失った。
そのテロの実行犯は軌道エレベーターの太陽光発電の影響で衰退した中東の組織だったという。

(……!まさか!?)

最悪の仮説が組みあがる。

「ロックオン!そいつの言うことを聞くな!」

しかし、ユーノの制止もむなしくヨハンはユーノの仮説通りの答えを話し始める。

『クルジス共和国の反政府ゲリラ組織、KPSA……その構成員の中に、ソラン・イブラヒムがいた。』

「!!!」

「あぁ!?誰だよそいつは!!」

『ソラン・イブラヒム……コードネーム、刹那・F・セイエイ。』

「な……!?刹那だと!?」

衝撃の事実にロックオンの声が震える。

『そうだ、彼は君の両親と妹を殺した組織の一員……君の仇というべき存在だ……』

ロックオンはエクシアを睨む。
刹那はその答えを否定せずに、身じろぎひとつせずにいる。

「……それ以上余計なことをぬかしてみろ。ただじゃおかない……!!」

ユーノはドスのきいた低い声でヨハンを脅すが、それ以上話す気がなかったのかミハエルとネーナとともに駆るか彼方へと消えていった。
しかし、彼が残して言った言葉はあまりにも重く、そして、厳しい現実を突き付けていった。







スペイン 国立病院

『………攻撃を受けたアイリス社工場跡には、多くの遺族が駆け付け、深い悲しみに包まれています。』

端末から聞こえてくるニュースを聞きながら沙慈は花瓶を丁寧に洗っている。

『………なお、攻撃をしたのは新型のガンダムと思われ、その過激な行動に……』

「ガンダム………」

沙慈はその名を聞いた瞬間、憎しみで顔を歪ませる。
ルイスの家族を奪った存在。
そして、彼女の左腕を永遠に奪い去った存在。

ルイスと会った後、看護婦から彼女の左腕の再生治療が不可能だと聞いた。
ガンダムの放つ特殊粒子のせいで細胞の再生が阻害されてしまったためだそうだ。

沙慈は暗くなるが、首を横に振ると精いっぱいの笑顔を作り、花をさした花瓶をルイスの部屋まで運ぶ。

「ルイス……お花……」

ルイスはこたえない。
窓の外をじっと見つめたまま沙慈の方を向こうとすらしない。

「こっちに置くね。」

沙慈はテーブルの上に花を置くとルイスの背中を見ながらうつむく。
日の光を浴びた色とりどりの花が今は恨めしく思える。
そして、ルイスから思いもよらぬ言葉が発せられる。

「………沙慈、日本に帰って。」

「え!?」

「学校休んじゃ駄目だよ。……一緒にいてくれるのはうれしいけど、でも……いつまでもいたらいけないよ。」

「そんなことできないよ!ルイスを一人にして帰るなんて!」

「……沙慈の夢は、宇宙で働くことでしょ?」

沙慈の方を振り向くルイスの顔はいつもの彼女の明るい笑顔だ。
だが、無理をしているのは明らかだ。

「私のせいで、沙慈の夢がかなわないのは、いや。」

それでも、何とか沙慈を送り出そうとする。

「でも!」

「今一緒にいても、後でつらくなるよ。」

ルイスは目を伏せる。

「私はずっと引け目を感じて……沙慈はずっと後悔し続ける。」

「そんなこと……」

『ない』と言いかけて沙慈は口をつぐむ。
そう言いたいのに、言えない自分が心の中にいる。

「ねぇ私の夢を沙慈に託してもいい?」

「え……?」

「……夢をかなえて。それが、私の夢なの。だから、私の夢をかなえて、沙慈。」

「ルイス……」

泣きそうになる沙慈にルイスは笑顔を見せる。

「約束よ。」






病院の外を歩く沙慈の背中をルイスは窓辺から見送る。
時折、沙慈がこちらを心配そうにむくので笑顔で手を振る。
沙慈も笑顔で応えるのだが、それがどうにもぎこちない。
そして、沙慈がもう見えなくなるところまで行くと、自然と涙がこぼれおちていく。

本当はずっと一緒にいてほしかった。
自分のそばで支えていてほしかった。
でも、それ以上に自分のせいで彼に夢を犠牲にしてほしくなかった。






空港へ向かう道で、沙慈の脳裏にルイスとの思い出が駆け巡る。
彼女が帰省するための飛行機に乗る時の見送りの際、キスをねだられて困ったこと。
母親が帰ってしまい、泣いていた時のこと。
低軌道ステーションでの出来事。
そして、彼女と初めて出会った時のこと。
少しわがままだが、優しくて、あの明るい笑顔を見ていると心が落ち着いていく。

そんな日がこれからも続いていくはずだった。
……こんなことになるはずじゃなかった。







太平洋 孤島

小川の流れる森の一角に、瑠璃色の粒子を放つコンテナのそばで刹那とロックオンは向かい合っていた。
周りには刹那の後ろで心配そうに事の成り行きを見守るユーノと二人の間にある木に寄りかかるティエリア、そして、ロックオンの後ろでへらへらと笑うフォンがいた。

「本当なのか、刹那。お前はKPSAに所属していたのか?」

「……ああ。」

言い淀むことなく刹那は答える。

「クルジス出身か。」

「ああ。」

(ゲリラの……少年兵……)

ティエリアは目を細めて刹那とロックオンを交互に見る。
どちらも戦争によって人生を狂わされた存在。
加害者と被害者の違いはあれど、そこは変わらない。

「で、あんたもそれに参加していたのか?」

ロックオンは振り返らずにフォンに問いかける。

「ああ。だが、俺は連中がアイルランドでテロを行う随分前に追い出されたんでね。あの一件にはかかわっちゃいない。」

ロックオンは納得がいかないようだが、刹那が話を再開したためそちらに意識を向ける。

「ロックオン、トリニティの言っていたことは……」

「事実だよ。俺の両親と妹はKPSAの自爆テロに巻き込まれ死亡した。」

ロックオンは一拍置くと、刹那をキッと見据えて話し始める。

「すべての始まりは、軌道エレベーターによる太陽光発電が開始され、世界規模での石油輸出規制が始まってからだ。化石燃料に頼って生きるのはもうやめにしようってな。……だが、一番わりを食うのは中東諸国だ。輸出規制で経済は傾き、国民は貧困にあえぐ。」

ロックオンの声に徐々に怒りがこもっていく。

「貧しきものは神にすがり、神の代弁者の声に耳を傾ける。富や権力を求めるあさましい人間の声をな。」

刹那は目を伏せる。
かつての自分も神を信じ、そのためなら命も惜しくないと思った。
いわんや、他人の命すらも。

「そんでもって、二十年にも及ぶ太陽光紛争の出来上がりってわけだ。神の土地に住まうものたちの聖戦……自分勝手な理屈だ。もちろん、一方的に輸出規制を可決した国連もそうだ。……だが、神や宗教が悪いわけじゃない。太陽光発電システムだってそうだ。けどな、その中でどうしても世界は歪む。それくらいわかってる。」

ロックオンは視線を下に外して悲しみと怒りが混じったような複雑な表情をする。

「お前がKPSAに利用されていたことも、望まない戦いを続けていたこともな。……だが、その歪みに巻き込まれ、俺は家族を失った……!失ったんだよ……!!」

「だから……マイスターになることを受け入れたのか。」

「……ああ、そうだ。矛盾していることも分かっている。俺のしていることはテロと同じだ。暴力の連鎖を断ち切らず、戦う方を選んだ。」

ロックオンはティエリアから再び刹那へと視線を移す。

「人を殺め続けてきた罰は世界を変えてから受ける。だが、その前にやることがある。」

ロックオンは携帯していた銃を取り出し、ゆっくりと刹那に向ける。

「「ロックオン!!」」

ユーノとティエリアが声を上げるがロックオンは銃を下ろさない。

「刹那、俺は今、お前を無性に狙い打ちたい。家族の仇を討たせろ……!恨みを晴らさせろ……!」

「あげゃげゃげゃ!さっきまで仲間だと言っていたやつに銃を向けるなんざ、なかなかやるじゃねぇかロックオン!」

「仲間である前に仇だ。お前もな。」

「ふん!」

フォンは鼻で笑うと再び黙り成り行きを見守る。
ロックオンは徐々に引き金にかけている指先に力を込めていく。
だが、刹那の前にユーノが立ちはだかる。

「……なんのまねだ?」

「撃ちたきゃまず俺を撃てよ、ロックオン。」

「これは俺たちの問題だ。お前の出る幕じゃない。」

「悪いけど俺たちの問題でもある。なにせ、俺もティエリアもマイスターなんでね。」

ユーノは笑ってみせるが、その笑顔はいつもと違って鋭い。

「………お前ならわかるだろ。不条理に家族を奪われるのが、どれほどつらいことか。」

「だが、同時に仇を恨むことでしか生きていけない虚しさや哀しさもわかるさ。」

ユーノはサングラスを外して真っすぐにロックオンを見つめる。

「だけど、そんな俺に変われと言ったのはあんただ。」

「俺はお前ほど強くないんでね。仇をすんなり許せるほど人間ができてない。」

「俺だって、一生連中を許すことなんてできない。でも、それでも、前を向いて歩き続けることはできる。」

「………ユーノ、もういい。」

刹那はユーノを押しのけて前に進み出る。

「……ありがとう。だが、これは俺が受けるべき罰だ。どれほど理屈を重ねても俺がロックオンの家族の仇であることには変わりない。」

刹那はロックオンに正面から向かい合う。
そして、再びロックオンの指に力が込められ、乾いた発砲音が島に響いた。

驚いた鳥たちが飛び立つ中、ロックオンは銃を下ろさずに、弾丸が髪をかすめたにもかかわらず瞬きもせずにじっとしている刹那を見据える。
少し癖っ毛の黒髪がはらはらと落ちていく中、刹那は目を閉じる。

「………俺は、神を信じていた。信じ込まされていた。」

「だから俺は悪くないって?」

ロックオンは眼光を一層鋭くして刹那を睨む。
しかし、刹那は臆することなく話し続ける。

「………この世界に神はいない。」

「答えになってねぇぞ!!」

「神を信じ、神がいないことを知った。………あの男がそうした。」

「あの男………?」

ロックオンはいぶかしげな表情を浮かべる。

「KPSAのリーダー、アリー・アル・サーシェス。」

「アリー・アル………」

「サーシェス……?」

「やつはモラリアで、PMCに所属していた。」

「民間軍事会社に!?」

「ゲリラの次は傭兵か!?ただの戦争中毒じゃねぇか!!」

ロックオンは苦虫をかみつぶしたような声で唸る。

「モラリアの戦場で……俺はやつとであった。」

「そうか……!あの時コックピットから降りたのは。」

「……やつの存在を確かめたかった。……やつの神がどこにいるのか知りたかった!もし、やつの中に神がいないとしたら……俺は……いままで……」

刹那は視線を落とす。
ロックオンはそんな刹那を見ながら心の中で自嘲する。

(ハハッ……何やってんだかな……。仲間に銃を向けて……責めるような真似をして……これじゃ俺が……)

テロリストのようだ。
だが、それでも確認しなければならないことがある。

「刹那、これだけは聞かせろ。お前はエクシアで何をする?」

「戦争の根絶!」

刹那は力強く言い放つ。

「俺が撃てばできなくなる。」

「構わない……かわりに、お前がやってくれれば。この歪んだ世界を変えてくれ。だが、生きているなら俺は戦う。ソラン・イブラヒムとしてではなく、ソレスタルビーイングのガンダムマイスター、刹那・F・セイエイとして。」

「……ガンダムに乗ってか。」

「そうだ。俺が……ガンダムだ。」

迷いのない瞳。
それを見ただけで、ロックオンには十分だった。
フッと笑うと銃を下ろす。

「ハッ!あほらしくて撃つ気にもならねぇ。……まったくお前はとんでもねぇガンダム馬鹿だ。」

「……ありがとう。」

「?」

「最高の褒め言葉だ。」

珍しく刹那が笑う。
それを見ていたユーノやティエリアたちも呆気にとられるが、ロックオンが笑いだすのにつられ、自然と笑いだす。

「これが……人間か……」

ティエリアは柔らかに微笑むと再び木に体重を預ける。

「……なかなか面白いもんを見せてもらったぜ。やっぱりお前らはおもしれぇ!」

フォンもまた、小さく笑う。
その場にいた全員は疲れるまで心の底から笑った。
自分たちの築きあげた絆が本物だったことを確信しながら。







南極大陸

ソレスタルビーイングの関係者なる人物から連絡を受け、集められた各陣営の軍事関係者は南極にポツリと作られたとある施設に足を運んでいた。
彼らの乗ったエレベーターはぐんぐんと下がっていき、ある地点を過ぎたところであるものが見えたとき、歓声が上がる。
何十基もの円錐状の部品がすらりと並べられた光景。
それは、彼らにとって見覚えのある、忌々しい存在がつけている代物であった。

GNドライヴ
ガンダムの強さの最大の秘密。
それが今、目の前にあるのだ。

「これで、ガンダムもおそるるに足らん。」








いま、世界の統合が始まる






あとがき・・・・・・・・・という名の忘れてた存在

ロ「というわけで、VSスローネ編でした。」

フォ「俺出してよかったのか?タイミング的には原作とかなり違うぞ。」

ロ「いいんだよ。二次創作なんだから。それにそろそろトレミー組とフェレシュテを合流させようと思ってたし。」

兄「結局、共闘路線か。」

ロ「だって対立させちゃったらこの先どうすればいいかわかんなくなるし。」

フォ「それくらい捻り出せ、このまるで駄目なガンオタ。略してマダオ。」

シェ「……少し無理がない?」

ロ「言われてる側の俺もそう思う。」

フォ「いいんだよ。俺が神なんだから。」

兄「何この俺様キャラ?むかつくんだけど。無条件でむかつくんだけど。」

フォ「黙れ愚民。」

兄「お前こそ黙れ。」

フォ「いや、お前こそ……」

兄「いや、そういうお前こそ……」

シェ「……馬鹿はほっといてゲスト紹介に入りたいと思います。夜天の王のユニゾンデバイス、八神家のマスコット、リインフォースⅡさんです。」

Ⅱ「どうも!お茶の間のアイドルリインです!」

フォ「何がアイドルだ。ロビンが今まで忘れてたのを思い出してなけりゃお前はファースト終わるまであとがきでの出番なしだったぞ。」

Ⅱ「え゛?」

兄「side2を読み直している時にお前もいたことに気付いてここで出したんだよ。じゃなけりゃ多分今回でゲスト出演二回目のやつがいたはずだ。」

Ⅱ「えええぇぇぇぇぇ!!!?ひどいですよ!!ロリコンから普通の人まで幅広く愛されているリインの存在を忘れるなんて!!」

兄「何この異常なまでに自信満々な子?あとヤバい発言をさも当然のようにぶち込んでくるな。」

ロ「さ、忘れられた存在が出せたところで解説へゴー♪」

Ⅱ「え!?リインの出番少ないです!!」

シェ「これからしゃべっていけばいいじゃない。」

Ⅱ「はっ!!そ、そうですね!がんばるです!!」

兄「そんじゃあ戦闘シーンだが、まさかフォンを出すとはな。こいつが治ってるのは時系列的にはトランザムが使えるようになる直前だろうが。」

ロ「だから、そこは二次創作だから目をつぶってくれ。」

Ⅱ「………………………………」←予習して来てないので話についていけない

フォ「しかも刹那との過去話の時は俺様のことはほとんどスルーか。」

ロ「だって共闘しようって時に仲悪くなっちゃまずいだろ。」

Ⅱ「……………………ぇ…………」←さらについていけない

シェ「ところでなんかユーノが私とフェルトにまでフラグ立ててるんだけど。」

ロ「この作品ではユーノは天然ジゴロだからな。無自覚にありとあらゆる方とフラグをたてていく。」

Ⅱ「ユーノさん女ったらしです!」←ようやくわかる話題になって喜ぶマスコット

兄「じゃあ、今日ユーノが出てないのは……」

ロ「シェリリンに会うのが怖いからだってさ。」

シェ「……何がそんなに怖いのかな……?かな……?」

ロ「十分怖ぇよ。」

Ⅱ「なのはさんだともっと怖いです!」

兄「不用意な発言は控えろ。俺たちまで被害をこうむるだろうが。」

フォ「じゃあそうならないうちに次回予告だ。」

兄「疑似GNドライブを手に入れた各陣営が遂に本格的に対ガンダム作戦を開始する。」

フォ「スローネ達に襲いかかるGNドライブ搭載機。」

シェ「そして、沙慈にさらなる悲劇が……」

Ⅱ「次々に悲劇を生みだす裏切り者ははたして誰なのか!?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!じゃ、せーの……」

「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」



[18122] 27.統合
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f67ac0c6
Date: 2010/10/17 11:24
アメリカ 国連議会場

「ソレスタルビーイングによって、度重ねて行われてきた凶悪なテロ行為に対して、ユニオン、人類革新連盟、AEUは軍事同盟を締結、国連の管理下でソレスタルビーイング壊滅のための軍事行動を行っていくことを、ここに宣言いたします。」

国連議長の宣誓が終わった瞬間、主石器していた人間全員が立ち上がって会場が割れんばかりの拍手を送る。
その中には、かつてソレスタルビーイングに介入行動を受けたもの、利用しようとしたもの、あるいは救われたものもいた。
そして、己が野望に燃えるものも………





魔導戦士ガンダム00 the guardian 27. 統合

「ようやく計画の第一段階をクリアしたってところか。トリニティの行動が引き金になっているのが解せないがな。」

「それにしては不可解だ。」

ロックオンは見ていたニュースをきり、座っているティエリアを見る。

「なにがだ?」

「各国の軍事基地はトリニティによって甚大な被害を受けている。そんな状況で軍を統合させても、結果など出るはずがない。世論の失望と反感をかうだけだ。」

「何か裏がある。」

エクシアを見つめていた刹那が呟く。

「……正直、僕は不安に思う。」

ティエリアは珍しく弱気な発言をする。

「ヴェーダの情報に明示されていなかったトリニティの存在、そのヴェーダがデータの改ざんを受けたという事実が、どうしようもなく僕を不安にさせる。」

「ヴェーダだってパーフェクトじゃないさ。」

ジャケットを腰に巻きつけてオイルで黒く汚れた顔をタオルで拭いながらユーノが現れる。

「どんなに優秀でも所詮は機械だ。ハッキングも受けるし、すぐれたファイアーウォールを使ったとしてもウィルスにも万全じゃない。俺に言わせりゃ、そこまであのポンコツコンピューターの言う通りに動くべきなのか疑問だよ。」

普段ならここでティエリアがユーノにかみつきそうなのだが、ティエリアはうつむいたまま黙っている。
重苦しい空気がたちこめようとした時、それぞれの携帯端末に通信が入る。

「スメラギ・李・ノリエガからの暗号通信……マイスターは機体とともにプトレマイオスに帰還せよ。」

「OK、作戦会議だ。宇宙に戻るぞ。ユーノ、お前はアイツの面倒をちゃんと見ろよ。」

「了解。」

盛大にため息をついたユーノは宇宙に戻ることを伝えるため、フォンのもとへと足を向けた。





プトレマイオス ブリーフィングルーム

「で、どうするんだ、俺たちは?」

それまで見ていたニュースの映像が消えるとラッセはスメラギに問いかける。

「国連軍の動きを見てからね。」

「あんたのことだ、予測はしとるんだろ?」

「……そのためにも、準備できることはしておかないと。イアンさん、ラッセを連れて、GNアームズの受け取りに行ってもらえます?」

「了解だ!」

イアンは目を光らせると扉へと向かう。

「GNアームズがロールアウトしたのか!」

「とりあえず、一機だけだがな。」

イアンとラッセは嬉しそうにブリーフィングルームを後にする
スメラギは厳しい顔つきのまま残ったメンバーを見渡す。

「残っているメンバーは、上がってくるガンダムの回収にあたります。」

「「了解。」」

「あの…」

モニターをコントロールしていたフェルトがおずおずと手を挙げる。

「シャルさんたちは……」

「彼女たちの処遇もガンダムの回収が済んでからね。なにしろ、フェレシュテのマイスターの一人は地上にいるんですもの。」

「そうですね……」

フェルトは不安そうに視線を落とすが、スメラギは笑いかける。

「大丈夫よ。彼女たちが仮に私たちと別行動になっても、きっと生き残るわ。」

「…………はい!」

嬉しそうにうなずくフェルトを見てスメラギも顔をほころばせる。

(……たしかに、私たちは戦争をしている。けど、この子たちには、戦うだけの存在にはなってほしくない。だから……)

「?スメラギさん?」

いつの間にか表情が暗くなってしまっていたのかクリスティナから心配そうに声をかけられる。

「何でもないわ。さあ、仕事を始めましょ。」

彼女の一声でクリスティナたちはブリーフィングルームを出てそれぞれの持ち場へと向かった。








リニアトレイン公社 会長別荘

「またJNNの取材か。それについては答える気はないと言ってくれ。」

『かしこまりました。』

ひげを蓄えた小太りの男は大きくため息をつく。

「人気者は大変ですな。」

「茶化すな。それより、機体の搬送は順調に進んでいるようだな。」

小太りの男、ラグナ・ハーヴェイは赤髪の男に話しかける。

「代金の分の仕事はさせてもらいますよ、ラグナ・ハーヴェイ総裁。」

「で、なにかね?」

先程のこともあったせいかラグナは少々不機嫌な様子で赤髪の男に問いかける。
男は笑みを崩さずに答える。

「単刀直入に言わせていただきます。搬送中の新型を一機、私に譲渡していただきたいのです。」

男の言葉にラグナの眉間がピクリと動く。

「何を馬鹿なことを。」

「なら、ユニオンでもAEUでも構いません。私を軍にはいれるように配慮していただきたい。」

ラグナは笑みを崩さない男をなめまわすようにじっくりと見る。
物腰こそ柔らかでパッと見では好印象を与えるが、どこか胡散臭い。

「……君は外人部隊にも所属していたな。」

「ゲーリー・ビアッジ少尉と呼ばれています。」

「君のセンスの高さは聞いている。だが、そうまでしてあれに乗りたい理由はなんだ?」

男の顔から笑みが消え、獣のような鋭い気配とともに表情が厳しくなる。
しかし、それは一瞬にして消え去り、またもとの穏やかな笑みが男の顔に浮かんでいた。

「三度も借りを作った相手がいるから……て言うのもあるんですが、私の勘なんですが、近い将来傭兵なんてものが必要なくなる時代が来ると思っていまして。せめて、戦える場所へ行きたいと………そういうことです。」

男の言葉を受けたラグナは不機嫌な顔をさらに厳しいものにする。

「……君はどこまで知っている?」

「だから、ただの勘ですって。」

困ったような笑いを浮かべているが、この男は間違いなくある程度何かをつかんでいる。

「ご配慮頼みますよ、総裁。」

男はそれだけ言うと部屋から出ていく。
その背中をラグナは忌々しげに見つめていた。







「はぁ~……取材は空振り。どうすれば……」

タクラマカン砂漠での作戦に参加していた兵士から得た情報でリニアトレイン公社会長、ラグナ・ハーヴェイにまでたどり着いた絹江だったが、取材を申し入れたものの断られ途方に暮れていた。
相手は自分の会社の大株主。
そう簡単に情報が得られるとは思っていなかったが、わざわざここまで訪れて何の手がかりも得られなかったのは精神的にこたえる。

とその時、大きなマフラー音とともに赤いスポーツカーが飛び出してくる。

「さっき、総裁は面会中だって……」

記者の勘に従い、絹江はスポーツカーの前に出る。
スポーツカーの運転手は突然飛び出してきた絹江に驚いて急ブレーキをかけるが、絹江はそんなことに動じずに運転手とコンタクトを図る。

「あの…」

「何か御用かな?」

車を運転していた男は赤髪で、端整な顔立ちをしているが、少し日に焼けているせいか粗野な印象を受ける。
しかし、話し方はいたって穏やかで好印象を持たせる。
絹江はバッグの中から身分証明証をとりだす。

「私、JNNの特派員なんですが、2、3お聞きしたいことがあるんですが、よろしいでしょうか?」

「JNNの記者さんねぇ……」

男は困ったような笑みを浮かべる。

「構いませんが、私は少し急いでまして……車中でよろしければ…」

「!い、いえ……それは……」

絹江は一瞬迷った。
それまではそれくらいのことはかまわないと思っていたのだが、男から感じた何かが自分を踏みとどまらせようとしている。
しかし、

「……やめておきますか?」

「………………」

少し考えた後、絹江は答えた。

「では、お言葉に甘えて……」






別荘から離れた二人は海が一望できる橋の上を車に乗って走っている。
車を運転している男、ゲーリー・ビアッジは絹江が乗ってから何も話そうとしないが、橋の真ん中あたりに差し掛かったところで話し始める。

「絹江・クロスロードさんですか………いいですね、あなたのような美人の記者さんがいて。」

「そんな……」

お世辞だとは分かっているが、綺麗と言われてうれしくない女性はそうはいない。
だが、絹江はすぐさま気を引き締める。

「で、私に聞きたいこととは?」

「間違っていたら謝りますが、ビアッジさんは先ほどトレイン公社の総裁、ラグナ・ハーヴェイ氏と会われていませんでしたか?」

「ええ、会いましたよ。」

ビアッジがあまりにもあっさりと答えるが、絹江はさらに突っ込んだ質問をする。

「どのような話を?」

「私は流通業を営んでおりましてね。物資の流通確認のために総裁に報告に来たんです。」

「わざわざ、総裁に?」

「ええ。」

「それは、私用ですか?」

「ええ、私用です。」

絹江は男のほうに身を乗り出す。

「差し障りなければその物資がなんなのか、教えていただけないでしょうか?」

ビアッジは間を置くが、すぐに八重歯がのぞくような笑い方をする。

「GNドライヴ……」

「GN………ドライヴ……?リニアトレイン関係の機材か何かですか?」

聞いたこともないような言葉に戸惑う絹江だが、それ以上に、隣にいるビアッジが先程から放つ気配は異常だ。
それでも絹江はビアッジの言葉にじっと耳を傾けている。

「いえ、MSを動かすエンジンです。」

「MSの……?」

「………ガンダムですよ。」

「っっ!!!?」

ビアッジの気配が一段と異常さを増す。
自分が期待していた以上の答えとビアッジの気にあてられ、絹江は身震いする。

「知っているでしょう?ソレスタルビーイングの所有する………あのクルジスの少年兵がパイロットをしている、あのガンダムです……」

「クルジスの……少年兵……?」

おかしい。
この男はどこの陣営もつかんでいないはずのガンダムのパイロットについて何かを知っている。
どう考えても、普通の人間じゃない。
そんな絹江の不安をよそにビアッジは語り続ける。

「その餓鬼をですね……誘拐して、洗脳して、戦闘訓練を受けさせ、ゲリラ兵に仕立て上げたのは何を隠そう、この私なんです…。」

「あ……あなた……」

絹江の声が震える。
その様子を見ていたビアッジの笑顔に凶暴なものが入り混じっていく。

「戦争屋です。戦争が好きで好きでたまらない……人間のプリミティブな衝動に順じて生きる、最低最悪の人間ですよ。ククク………」

ビアッジ、いや、アリー・アル・サーシェスはこれから彼女の身に起こることを考えながらほくそ笑んだ。







雨が降り注ぐ夜の裏路地で絹江は血があふれる腹部を押さえながら倒れていた。
ICレコーダーのようなデータを残しておく機材はすべて壊され、そこら辺に転がっている。
バッグの中身もすべてぶちまけられ、無残にも雨にうたれている。
その中に写真の入った定期入れが絹江の近くに転がっている。

「う……あ……」

絹江は残った力を振り絞り、写真へと手を伸ばす。

「と……父さん……」

絹江、沙慈、そして二人の父の三人で撮った写真。
家族の大切な思い出だ。

「さ……沙慈………」

自分の弟の名を喉の奥から振り絞り、何とか写真をつかもうと手を伸ばすが、その一歩前で彼女は力尽きた。






ユニオン 高軌道ステーション

巨大な船が今、高軌道ステーションからゆっくりと星の海へと漕ぎ出していく。
乗組員はたったの二人だが、オートパイロットがあるためそれほど人数は必要ない。
いや、今回は多いと逆に不都合だ。

「わざわざアレハンドロ様が同行なさる必要はないと思いますが?」

ブリッジの特等席から星々を眺めていたアレハンドロにリボンズが問う。

「君が苦労して手に入れてくれた情報だ……この目で見させてもらうよ。それに、これはコーナー一族の長きにわたる悲願でもあるのだから。」

「アレハンドロ様……いえ、コーナー家は何世代も前から計画への介入を画策していたのですね。」

「その通りだ。だが、ヴェーダがある限り私たちにはどうすることもできなかった。………そんなとき偶然にも私の前に天使が舞い降りた。」

アレハンドロは笑みを浮かべながらリボンズの方を向く。

「君のことだよ。リボンズ・アルマーク。」

「拾ったことへのご恩返しはさせていただきます。」

「しかし、よもや本体の場所を突き止めようとは。」

アレハンドロは再び前を向いて感嘆の声を漏らす。

「時間がかかって申し訳ありませんでした。」

リボンズがすまなさそうに苦笑するのを見てアレハンドロは微笑む。

「フッ……リボンズ、君はまさしく私のエンジェルだよ。」







アフリカ 北西部

アフリカ
かつては暗黒大陸と呼ばれ、人を寄せ付けなかった土地の名残がいまだに残っている。
そんなジャングルに囲まれた山の一つにトリニティたちの拠点があった。

「今までさんざん働かせといていきなり連絡なしってどういうこと!?」

ネーナの声がガンダムが置かれた格納庫に響く。
ここのところトリニティはミッションを行っていない。
というより、ミッションが送られてきていない。
国連軍が統合されたという知らせが入る少し前からミッションどころか音信不通だ。

「俺に聞くなよネーナ。難しいこと考えんの苦手なんだからよ。」

へらへらと笑いながら手を振るミハエルを見てネーナも笑う。

「ミハ兄ぃはそういうタイプだよね。」

「な、馬鹿にすんな!」

流石に気に障ったのか顔を赤くしてネーナを睨む。

「バーカ!バーカ!」

ネーナに同調するようにHAROがおちょくる。

「てめぇHARO、刻まれてぇのか!」

ミハエルは顔をひきつらせながらHAROを睨む。

「ミハエル、HAROはトリニティに欠かせない戦力だぞ。」

「うぉわ!?冗談だって兄貴!」

ミハエルは後ろから現れたヨハンに弁解する。
だが、ヨハンはそんなことなど気にせず淡々と話し始める。

「ラグナからミッションプランが届いた。内容はいつもと同じ。作戦は三日後に決行される。」

「待ってました!」

ミハエルは久々のミッションに張り切る。
と、その時。

「ようやく見つけましてよ。」

「「!!?」」

自分たちしか知らないはずのこの場所に女性の声が響く。
声の方を向くとツインテールの女性が長身の男を連れてこちらに歩いてくる。

「なんで!?どうやってセキュリティを!?」

「いいじゃねぇか……どっちにしろ、ここを見られたからにはただで帰すわけにはいかねぇ!!」

ミハエルはナイフを抜いて振動を開始させる。
だが、

「待てミハエル。そこのご婦人、ヴェーダの資料の中で見た記憶がある。」

「記憶にとどめていただいて光栄ですわ。」

ツインテールの女性は軽く会釈をする。

「私の名は王留美。ソレスタルビーイングのエージェントをしております。こちらはパートナーである紅龍です。」

「ちょっといい男じゃん。」

「そぉかぁ?」

ミハエルは敵意むき出しで留美と紅龍を睨む。
しかし、そんなことなど気にせずヨハンは留美と話し始める。

「この場所に来たことで、あなた方の能力の高さはわかりました。それで、私たちに何かご用ですか?」

「ただ、ご挨拶に伺ったまでです。」

「?」

ヨハンのいぶかしげな表情とは対照的に留美は涼やかに笑う。

「チームトリニティも私たちと同じソレスタルビーイング。エージェントである私たちがあなた方をサポートするのは至極当然のこと。」

「何言ってやがる!!」

「あたしらそっちのガンダムの攻撃を受けたんだよ!!」

ミハエルとネーナは口をそろえて留美を非難する。
が、

「そのことについては聞き及んでおります。ですが、私はあちら側の人間というわけではありません。」

「つまり、中立の立場であると?」

「いいえ、私はイオリア・シュヘンベルグの提唱した理念に従う者……それ以上でもそれ以下でもありません。」

「…………なるほど、そういうことですか。」

ヨハンは微笑むと納得したようにうなずく。

「「???」」

ミハエルとネーナは何のことかさっぱりだが、そんな二人を置いてヨハンは話を進める。

「わかりました、王留美。必要に迫られた時、あなたの援助を期待させてもらう。」

「よしなに。」

「この場所を彼らには…」

「伝えないことをお約束いたしますわ。では。」

留美は一礼すると帰っていく。
扉が閉まった瞬間、ミハエルがしゃべりだす。

「いいのかよ兄貴、あっさり帰しちまって。」

「なに、構わんさ。それに、使えるカードは一枚でも多い方がいい。」

「美人ダッタナ。美人ダッタナ。」

HAROの言葉を聞いたネーナの眉がピクリと動く。

「るっさい!」

ネーナは足元のHAROを軽く蹴る。

「ヒガムナヨ!ヒガムナヨ!」

HAROはネーナを挑発しながら蹴られた勢いに任せて機体の後ろに転がって行った。








プトレマイオス ブリッジ

地上から戻ってきたマイスターズはスメラギ達の待つブリッジへと来ていた。

「状況は?」

「今のところ、変化はないわ。」

「トリニティも沈黙してる。」

スメラギとアレルヤがロックオンの質問に答えるとティエリアが口を開く。

「命令違反を犯した罰を。」

ティエリアが真面目な顔で言うので、スメラギはポカンとした後、クスクスと笑う。

「そんなのいつしたっけ?」

「しかし…」

ティエリアがスメラギに抗議しようとするとロックオンに肩を掴まれる。

「そういうことだ。」

ロックオンがウィンクをするとティエリアは少し戸惑うが、すぐにフッと微笑んだ。

「何かあった?」

「さぁ?」

ティエリアの様子がいつもと違うことに気付いたアレルヤは問いかけるが、ユーノがはぐらかすように小さく肩をすくめるとアレルヤは小さく笑ってそれ以上追及はしなかった。

「スメラギさん。」

和やかな空気が流れている中、クリスティナから声が上がる。

「トリニティが動き出したようです。」

「なんだって?」

ロックオンが驚いている中、スメラギがフェルトの方を向く。

「フェルト、彼らの攻撃目標は?」

「進行ルート上にある基地は……人革連、広州軍管区です。」

フェルトの言葉を聞いたユーノの肩がピクリと震える。

(セルゲイさん………)

タクラマカンでのミッション以来会っていないが、おそらくトリニティを追って彼も来るだろう。

(何事もなければいいけど………)

しかし、ユーノの不安は思わぬ形で裏切られることとなる。







人革連 広州方面軍駐屯基地

夜明けが間近な空に三つの赤い彗星が尾を引きながら地上へと向かって行く。
地上にある人革連の基地では人もMSも慌ただしく動いている。

『観測班から通達!三機の新型のガンダムと思われる機影がS-9788方面より飛来!当基地に対する軍事介入行動と思われる!直ちに迎撃に移れ!』

その様子を見下ろすミハエルの目は敵を蹂躙する期待とこの前ガンダムから受けた攻撃に対する怒りによる興奮で見開かれている。

「こっちはこの前の鬱憤がたまってんだ!吐き出させてもらうぜ!!いいよな、兄貴!?」

ヨハンは呆れた顔をするが、こうなったミハエルには何を言っても無駄だということはよくわかっている。

「作戦上は問題ない。」

「そうこなくっちゃなぁ!!」

地上から機関銃と砲撃による攻撃が開始されるが、三機は別れて行動を開始する。

「おらおらぁ!!」

「当たれ当たれぇ!!」

ツヴァイとドライの射撃にさらされるティエレンたちはその数を減らしていく。

「そろそろ片をつける。ドッキングするぞ。」

『『了解!!』』

それまで好き放題に暴れていたスローネ達がアインのもとに集結しようとする。
その時だった。
赤い光が三機の間を奔り、分断させる。

「な、なに!?」

「またエクシアかよ!?」

「いや、違う……!」

ヨハンはモニターに表示された敵の数を見て動揺する。

「十機の編隊だと!?」

ちょうど夜が明け、日の光がその正体を照らし出した。
全身が白でカラーリングされ、胸部からでた突起状のものが肩の後ろまで伸びている。
顔は額に紫色のクリスタル状のものが埋め込まれ、顔の切れ目からは紫に光る四つの目がのぞいていて、中世の甲冑に身を包んだ騎士を連想させる。
そして、何より着目すべきは背中から放出されている赤い粒子と三角錐の出力機関だ。
それは紛れもなくGNドライヴとGN粒子なのだが、

「これは……ガンダムではない!!」

「どういうこったよ!?」

「でもGN粒子は放出してる!」

「あれもまた、ソレスタルビーイングだというのか……!?」

トリニティたちが動揺するなか、白いMSを指揮するセルゲイから各員に指示がとぶ。

「頂部GN-X部隊……攻撃行動に移る。虎の子の十機だ、大破はさせるな。かかれ!!」

セルゲイの怒号とともに十機のGN-X、ジンクスから赤い光の弾が発射される。

「くっ!!」

その威力に顔をしかめながらもネーナは全く別のことに驚いていた。

「何よ、この機動性!?」

今までのMSとはわけが違う。
多彩な動きにそれを生かしきれるスピード。
ガンダムには少々劣るが、これだけの数が相手だとかなりきつい。

「なんという性能だ……!やはりこの機体…すごい!!」

セルゲイはGNドライヴ搭載機の性能をかみしめながら腰のビームサーベルを抜いてドライへと斬りかかる。

「何すんのよあんた!!」

ネーナは激昂するが、セルゲイは動じない。

「もはやガンダムなど……おそるるに足らん!!」

「冗談!!」

セルゲイの言葉が聞こえたわけではないが、自ら斬りかかったことを余裕の表れととったネーナがドライの腰に装備されたミサイルを発射する。
しかし、

「うそ!!?」

「でぇやあああぁぁぁぁぁ!!!!!」

セルゲイの操るジンクスはこともなげにそれをよけ、ドライの顔に回し蹴りを入れる。

「きゃああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「ネーナ!!」

地上へと落下していくドライの救援にツヴァイが向かおうとするが、

「貴様の相手はこの私だ!!」

「なめるなぁ!!行けよファング!!」

ツヴァイは自身を止めようとしたピーリスのジンクスにファングを飛ばす。
中距離から嵐のように赤い光弾が降り注ぐが、ピーリスはこともなげによけていく。

「なんだと!!?」

ミハエルは完全によけられたことで動揺するが、ピーリスはさらにファングにビームライフルによる反撃を行う。
数機のファングが破壊され、残ったファングは攻撃を続けるが一向に当たる気配がない。

「機体が私の反応速度についてくる……!これが、ガンダムの力!!」

ピーリスは自分の能力をフルに活かしきって戦えているためか、今までに見せたこともないような笑顔を見せる。

「よくもファングを!!」

ミハエルは借りを返そうとペダルを踏み込むが、ヨハンから通信が入る。

『撤退するぞ!』

「兄貴!!」

『反論は聞かん!!』

よく見ればヨハンも一機のジンクスに押され始めている。

「ガンダム覚悟!!」

「くぅ!!」

ミハエルは舌打ちをしながらも、ヨハンを追い詰めていたミンのジンクスを牽制しつつ撤退にかかる。
アインに乗るヨハンもネーナの乗るドライを片腕に抱えながら上空へと退避する。

「待てっ!!」

ピーリスは追おうとするがセルゲイに止められる。

『今日はここまででいい。』

「しかし中佐!!」

『眼下の基地を見ろ。』

「?」

ピーリスはセルゲイに言われた通り、眼下の基地に目を向ける。
そこには生き残った者たちが歓声とともにこちらに手を振っている。

「これは……どうして………?あれだけの被害を受けたというのに。」

『……そういえば、少尉は初めて味わうんだったな。』

ピーリスは不思議そうに首をかしげる。

『これが、勝利の美酒というものだ。』

「勝利の……美酒…………」

敵をしとめきれなかった。
味方の被害も甚大だ。
なのに、胸の奥からこみ上げてくるものがある。
ピーリスはその感情につき従い、満面の笑みを浮かべた。
しかし、そのピーリスとは対照的にセルゲイの表情は暗い。

(確かにこの力があればガンダムとも渡り合える。しかし………)

そうなれば今度は間違いなくユーノと正真正銘の殺し合いをする羽目になるだろう。

(やりきれんな……。)

セルゲイは沈んだ気分を背負いながら、地上の基地へと進路をとった。







プトレマイオス ブリッジ

「トリニティ、戦闘区域から離脱した模様。」

「まさか撤退!?」

「何があった?」

「人革連側が……太陽炉搭載型MSを投入したのよ。」

渋い顔でスメラギが話す。

「太陽炉………!?」

「そんな……」

「やはり、ヴェーダから情報が……!」

マイスターズに動揺がはしる中、スメラギはいっそう顔つきを厳しくする。

「これからは、ガンダム同士の戦いになるわ。」

スメラギの言葉にブリッジは水をうったように静まり返る。
今まで自分たちが使っていた力が、今度は自分たちに牙をむいてくるのだ。
誰しも不安に襲われる中、スメラギはある決断をする。

「フェルト、フェレシュテの皆さんをここに呼んで。」

「?どうする気だ?」

ロックオンの問いにスメラギが答える。

「彼らには別行動をとってもらうわ。」

「そんな!どうして!?」

「そうっすよ!戦力は多い方が……」

クリスティナとリヒテンダールが抗議する。

「……いざという時、彼らが最後の砦になるかもしれないわ。だから、ここで共倒れになるのはまずいの。」

「それって……」

「つまり、俺たちがやられる可能性もあるってことか?」

アレルヤとロックオンは表情をこわばらせる。

「万が一のための保険よ。」

「でも………」

「いえ、そうさせてもらいます。」

クリスティナが反論しようとした時、扉からシャルが現れる。

「私もスメラギさんと同意見です。それに、私たちは別のことを探ろうと思っていましたから。」

「別のこと?」

クリスティナは首をかしげる。

「………ヴェーダの情報を流出させた人物、裏切り者を探そうと思います。」

「見つけられますか?」

スメラギから鋭い声がとぶ。
しかし、シャルは動じることなく力強くうなずく。

「見つけます。たとえ、なにがあっても。」

その決意に満ちた瞳を見てスメラギは微笑む。

「わかりました。気をつけて。」

「はい、ありがとうございます。」

二人は固く握手をするとそれぞれの役割を果たすために動き始めた。









「こちらです、アレハンドロ様。」

月の裏側に隠されていたとある施設へと侵入したアレハンドロはリボンズに導かれその奥へと向かう。
そして、壁と見間違うような巨大なゲートの前で二人が立ち止まると、リボンズは虹彩を輝かせる。
すると、動く気配を見せなかったゲートが上へと持ちあがる。
その奥には赤いカーペットがひかれ、美しい模様が刻まれた飾りがいくつもある。
アレハンドロとリボンズは奥へ向かって進んでいくが、その途中で自分たちの足元にあるものに気付く。

「!!」

クレーターを思わせるようなおうとつがついた球体が淡い青い光を放ちながら静かにたたずんでいる。

「これがヴェーダ……!ソレスタルビーイングの…いや、イオリア・シュヘンベルグノ計画の根幹をなすシステム!!」

アレハンドロは狂った笑みを浮かべながらヴェーダを見下ろす。
その後ろでリボンズが邪な微笑みを浮かべていることなど知らずに。







人革連 天柱極市警察署

スペインから戻ってきて数日後、沙慈に姉である絹江が働くJNNの人間からとある連絡が入った。
その知らせを初めて聞いたとき、沙慈は信じられず思わず笑ってしまった。
だが、頭が冷えていくのと同時に全身から冷たい汗が滴り落ちていった。

絹江の上司に連れられ、人革連の警察署へと足を運んだ沙慈を待っていたのは残酷な現実だった。
人の身長ほどの灰色の袋のもとに案内された沙慈は説明を受ける。

「生体照合の結果、絹江・クロスロードさんであると……」

嘘だ。
声を出そうとしたが喉の奥が渇いて声が出ない。

「確認してください……」

担当者が袋のチャックを開ける。
そこには目を閉じている絹江がいた。
心なしかいつもより肌が白く、穏やかな表情に見えた。
とても死んでいるとは思えない。

「姉さん……?」

沙慈は問いかけるが絹江は答えない。

「どうして…………!!」

絹江の頬に沙慈の涙が当たる。
沙慈の体温がこもった涙は冷たくなった絹江に温度を奪われ冷えていく。

「どうして……どうしてっ……!!!」

沙慈は絹江の頭を抱え込むように抱きつくが、ただ絹江の体がすでに冷たくなっていることを、死んでしまったことを思い知らされるだけだった。

「姉さん……!!姉さん!!」

遺体安置室に沙慈の悲痛な叫びがこだまする。
その姿にたまりかね、全員がその場から彼を残して部屋を出た。
しかし、どれほど離れようと沙慈の声が届かなくなることはなかった。







戦いの果てに傷つくのが人ならば
なぜ、誰もが戦うことを選んでしまうのか……








あとがき・・・・・・・・・・という名のカオス

ヨハン(以降 長男)「というわけでジンクス登場編だった第二十七話だ。」

ツン「え~と、今回はとてつもなく怖いことになりそうだということを理由にロビンがメモを残して逃げてしまったので仕方なく初登場のヨハン・トリニティさんとあとがき二度目の登場の私ことアリサ・バニングスがお届け……」

ツンデレ、プルプルと怒りに震える。

ツン「って!!なんで私がこんなことしないといけないのよ!!(怒)」

メモを地面にたたきつけ思いきり踏みつける。

フォ「仕方ねぇだろうが。ロビンのやつが『面白そうだから性格悪い奴らを集めてあとがきに出そう(笑)』なんて言って逃げ出しちまったんだからな。比較的まともな性格の俺が戦う以外無能などうしようもない他の阿呆どもに代わって進行を務めてやりたかったんだが……」

ネーナ(以降 三女)「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

ミハエル(以降 二男)「戦う以外無能ってのは俺たちのことかぁぁぁぁぁ!!!!」

ハ「シバキ倒すぞこらぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

フォ「うるさい、まるで戦う以外は駄目な男&女。略してマダオ。」

三女「黙れこの俺様キャラ!!マダオはグラサンかけてるやつ専用の称号アル!!」

ツン「いや、あんたキャラが別のやつになりかかってるわよ!?」

三女「あんたもあの大食いと声一緒でしょうが!!」

ツン「あんなの私じゃないわよ!!」

ハ「うるさいアルアルチャイナ娘ども。おとなしく親父と同じように頭を焼野原にして涙にくれてろ。」

ツン・三女「「なんだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」」

ツン「あんたなんてヤッ○ーマンじゃないの!!」

ハ「その名で呼ぶなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!どっちかっていうとア○ンがいい!!」

二男「そんなマイナーなもん覚えてるやついねぇよ!!」

ハ「うるせぇぇぇぇぇぇこの脳みそ海綿体!!テメぇなんざロビンが咄嗟に中の人が演じてる別のやつ思いだせなかったからお前だけ中の人ネタなしなんだよ!!一人孤独感にさいなまれてろボケッ!!」

フォ「うるせぇぞ愚民ども!とりあえずお前らは×××××にしてやろうかぁ!?」

三女「何の権限であんたが私たちに伏字にしなきゃいけないような仕打ちを受けなきゃいけないのよ!!!」

フォ「お前らの存在は俺のためのもの!俺の存在も俺のためのものだぁ!」

ツン「何このジャイアニズム!!?」

ギャーギャーギャーギャー!!

長男「…………予想以上の事態になってきたのでここいらで終わりにさせてもらう。ちなみにロビンの処遇についてはあんずるな。このようなことを引き起こさないよう私がきっちり体に教え込む。今回の一件についてはそれでお許し願いたい。では、次回もよろしく……」






ハ「死ねやこらぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

三女「お前がくたばれぇぇぇぇぇぇ!!!!」

ツン「とりあえずあんたらうるさい!!」

二男「俺を忘れてんじゃねぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

フォ「あげゃげゃげゃげゃげゃ!!……ん?やつが来たか。それじゃ俺はそろそろ退散するか。」

俺様キャラ、さっさと逃げ出す。
そして限界突破状態で魔王降臨

魔王「…………みんな、あとがきくらいまじめにやろうよ。私の言ってること、そんなにまちがってるかなぁ…………?」

「「「「うっさい!!!!」」」」

魔王「…………にゃはははははは!少しお仕置きなの!」





その後、彼らの行方を知る者はいない。

………はしゃぎすぎてスイマセン<(_ _)>



[18122] 28.選ぶ道
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f67ac0c6
Date: 2010/10/17 11:31
月 ヴェーダ内部

「これがヴェーダの本体……イオリア・シュヘンベルグの計画の根幹をなすもの…」

アレハンドロ達はコントロールパネルらしき物の前まで進む。

「できるかい、リボンズ?」

「少々お時間をいただくことになりますが。」

「かまわんさ……コーナー家はこの時のために200年以上も待ち続けてきたのだから。」

200年の時を超え、今、歪んだ野望が胎動を始める。





魔導戦士ガンダム00 the guardian 28. 選ぶ道

プトレマイオス ブリッジ

GNドライヴ搭載機が出たとの知らせを受けた翌日。
シャル達と別れたプトレマイオスのクルー達は慌ただしく事態の把握に努めていた。

「クリス、ヴェーダを通じてトリニティを退けた部隊の映像を出して。……できれば、こちら側のデータは…」

「ブロックしてます。フェルト。」

「ダウンロード終了。映像、でます。」

フェルトがエンターキーを押した瞬間、ブリッジの前にある大きなモニターにその姿が映し出される。
白いボディに赤い疑似GN粒子をまきちらしながら飛びかうその姿はさながら白い悪魔といった感じだ。

「この機体は……!?」

「やはり疑似太陽炉搭載型……!」

スメラギが呻くように声を絞り出す。
刹那は疑似太陽炉搭載型MS、ジンクスの太陽炉を見つめながら自分の行ってきたことを思う。

(戦いが広がっていく……)

自分たちが世界から争いをなくそうとすればするほど世界は歪み、戦いが各地へと広まっていく。
ならば、自分の、ガンダムのしてきたことは世界を歪ませただけなのだろうか。

「………迷うなよ、刹那。」

不意に隣に立っていたユーノから小さく声をかけられる。

「迷ったら死ぬ。お前も、仲間もな。……俺たちの戦いは、そういうレベルにまで来ちまってるんだ。」

ユーノの言葉を受けて改めて映像へと視線を向ける。

(…………ガンダム。)

刹那は心の中でガンダムの名を呼ぶ。
自身の中に芽生えた迷いを払拭するように。





月 ヴェーダ内部

パネルのキーを叩くリボンズの傍らにいたアレハンドロは待ちきれなくなり彼に問いかける。

「どうだね、状況は?」

確かに200年の歳月に比べれば、この程度待たされるのは大したことではない。
だが、それでも間もなくヴェーダを完全に掌握できると考えただけで気持ちが先走る。

「現在レベル5をクリア。レベル6の掌握作業に入りました。」

「そうか……」

「退屈しのぎにこのような情報はいかがでしょう?」

アレハンドロのはやる気持ちを察知したのか、リボンズは面白いデータを見つけたのでそれを見せる。
アレハンドロの目の前にとある情報が開示される。

「ほぅ……ラグナ・ハーヴェイはジンクスの配置を終えたか。ということは、彼の役目もここまでか……」







ユニオン 高軌道ステーション

グラハムを残し、宇宙へと上がってきていたダリルは目の前にあるジンクスを頼もしく思うと同時に疎ましくも思っていた。
グラハムはハワードの墓前での誓いを守るため、ジンクスに乗ることを拒み、あくまでフラッグでガンダムと戦う道を選んだ。
だが、ダリルはグラハムと違い、ジンクスに乗って戦う道を選んだ。
戦友の仇を討つために。

「よぉ、あんたフラッグファイターだろ?」

後ろから声を掛けられたため、考えるのをいったん止めて声のした方を振り返る。
AEUの軍服に身を包んだ軽薄そうな男がこちらに近づいてくる。
AEUの名のあるパイロットなら知っているはずだが、咄嗟に浮かぶ名前と顔の中に一致するものはない。

「………誰だ?」

素直にそう言ったダリルの反応を受けて男は盛大にずっこける。

「この俺を知らないとはモグリだな!?AEUのエース、パトリック・コーラサワー様だ!」

「コーラサワー……?」

うんうんとうなずく男の顔を見ながら記憶の引き出しを開けていく。
そして、

「ああ!一番最初にガンダムに介入され、ボコボコにされた。」

「うぐっ!古傷をえぐるな!!」

パトリックはおおげさなリアクションをするが、すぐに立ち直るとあたりをきょろきょろし始める。

「それより、ユニオンのトップガンどこよ!?」

ダリルはため息をついて話し始める。

「エーカー上級大尉は本作戦には参加しない。」

「え?どういうことだ!?あ……フッ、そうかい。臆病風に吹かれたってわけか。ユニオンのエースも大したことな……うぐぉ!!?」

胸倉を掴まれたパトリックはダリルのもとに強引に引き寄せらる。

「な、なによ?」

突然の出来事に驚いたせいで女性のようなしゃべり方をしてしまうパトリックをダリルは容赦なく睨みつける。

「隊長を愚弄するな!!」

「ゲホッ!!ぼ、暴力反対!!」

「そこまでだ!」

ギリギリと首を絞めつけていた襟の圧迫感から解放されたパトリックはダリルとともに声のした方を向く。
そこにいたのは自分の上官であるカティ・マネキン大佐、その人であった。

「部下が失礼をした。」

「た、大佐ぁ…」

「ユニオンのダリル・ダッジ准尉です。」

情けない声と笑顔を向けるパトリックは一旦放っておいて、敬礼をするダリルに視線を向ける。

(……できるな。)

能力の高い者はその振る舞いや雰囲気にそれが現れるというのがマネキンの信条だ。
ダリルの振る舞いや軍人然とした気配から敏感にその能力の高さを感じ取った。

「AEUのカティ・マネキン大佐だ。本作戦の指揮を任された。よろしく頼む、准尉。」

「ハッ!全力を尽くします!」

マネキンはダリルに頼もしさを感じるが、同時に不思議な感じもする。
これまで表立っての戦いはなかったものの、たがいに敵対していた者同士が今はこうして互いに協力し合い、ガンダムという共通の敵に立ち向かおうとしている。
ここに来るまでもユニオンの軍人とは何人かあったが、誰もが、というわけにはいかなかったが、気さくに話をする人物もいたし、協力し合えることを喜ぶ者もいた。
国で分けられていても、そこはやはり人間同士だ。
わかりあうことができるのだ。

「戦果を期待する。」

そんな思いをかみしめながらマネキンも敬礼を返す。
そして、ダリルの前で情けない顔をしている部下に厳しい声をかけて先に歩きだす。

「パトリック、来い!」

「あ!待ってくださいよ、大佐ぁ!」

パトリックはフラフラとマネキンの後を追いかける。
その後ろ姿を見ながらダリルは先程のマネキンの言葉をかみしめていた。

「戦果はあげるさ……そうでなくてはフラッグを降りた意味も……隊長に合わせる顔もなくなる。」

ダリルは固い決意を胸にガンダムとの戦いを今か今かと待ち続けた。









プトレマイオス ブリッジ

人気のなくなったブリッジで淡々とキーを叩くフェルトとクリスティナ。
そこにスメラギがドリンクの入ったボトルを持って入ってくる。

「ごめんね、無理させちゃって。」

「助かります。」

クリスティナはスメラギからボトルを受け取る。
そして、スメラギは自分が入ってきても作業を続けていたフェルトの方を向く。

「フェルトもね。」

「あ……任務ですから。」

以前にも聞いたセリフだが、前は無表情だったものが今は笑顔になっている。
それを見たスメラギもつられて微笑む。

「システムの構築具合は?」

「八割と言ったところです。でもいいんですか?ガンダムからヴェーダのバックアップを切り離すとパイロットへの負担が……」

クリスティナはボトルのストローから中の液体をすする。
が、

「プッ!!これお酒じゃないですか!!」

「ああ、ごめん♪」

「……確信犯じゃないですか。」

クリスティナは恨めしそうにスメラギを睨むが、当の本人はどこ吹く風といった様子だ。

「フ……フフフ!」

「……最近、柔らかくなってきたわね、フェルト。」

「え!?そ、そうですか。」

フェルトは慌てていつもの調子に戻すが、頬が紅潮している。

「そうよ。」

「いい傾向いい傾向!」

「じゃあ、もうひと頑張りお願いね。」

「「はい。」」

二人を残しスメラギはその場から退散する。
その背中を見送りながらクリスティナは今行っている作業とは別のことを考える。

(さて……そのいい傾向をもたらした二人は今頃どうしてるのかな?)







ロックオンの部屋

「ハックション!!」

「風邪?風邪?」

「ちげぇよ。きっと、誰かが俺の噂をしてんのさ。」

ロックオンはそう言うとハロを残して廊下に出る。

「ドコ行ク?ドコ行ク?」

「なぁに、ちょっとへこんでるやつに発破かけに行くだけさ。」







ユーノの部屋

「へっくし!!」

「どうした?」

いきなり大きなくしゃみをしたユーノに967は心配そうに声をかける。

「いや、なんだか鼻がむずむずしちゃって……」

「体調管理には気を付けろ。こんなときに不調で出られないなんて洒落にならんぞ。」

「わかってるよ。」

「よし、それじゃ再開するぞ。」

ユーノは967に元気そうなそぶりを見せた後、再び意識を集中し始める。
足元に魔法陣を展開して、目の前にいる967へとアクセスを図る。
967へとスムーズにアクセスし全権を支配するが、さほど時間がたっていないにもかかわらず、額には大粒の汗がにじんでいく。

「…………ハァ……ハァ……!」

肩で息をし始めるがそれでもユーノはやめない。

(………あの時タクラマカン砂漠で使った力を自由に使えるようになりたい……か。まったく、こいつの向上心には感服する。)

地上にいたときから練習はしていて、短時間ならありとあらゆる機械を支配できるようにはなったが、実戦で使うには効果の持続時間が短すぎる。

(せめて三分………最低でも一分はほしいところだな。)

とその時、ユーノの足元から魔法陣が消えばったりとユーノが倒れこむ。

「ユーノ!」

「だ……大丈夫……いつもの魔力切れだよ。しばらく経てばどうってこと………ないから。」

「……今日はここまでにしておけ。」

「………うん、そうするよ。」

ユーノは何とかベッドまでたどり着くと力を抜いて大の字になる。
頭は疲労しているのにちっとも眠くならない不思議な感覚だった。

「………ティエリア大丈夫かなぁ?」

ふとティエリアのことを思い出す。
ヴェーダが何者かにハッキングを受けたことに一番動揺していたのは彼だ。
いや、動揺どころか不安に押しつぶされそうにも見える。

「………アイツはお前たちとは少し違うからな?」

「?違うって?」

「ティエリア自身が気付くまでは俺の口からは言えない。」

「それってようは教えてくれないってことでしょ。」

「まあ、そうなるな。」

ユーノは967の答えに大きくため息をつくと意識を覚醒させたまま体を休ませることを優先した。。








ブリーフィングルーム

床に設置されたモニターにジンクスの戦闘シーンを写しながらティエリアは固い面持ちでそれを見つめる。

(状況から見て、ヴェーダのシステムを何者かが利用しているのは確実……しかし、ヴェーダなしに同型機に対抗することなどできるのか……)

誰よりもヴェーダのことを知るティエリアだからこそ、その恩恵の大きさもよく知っている。
しかし、これからはその恩恵なしに戦っていかなければならないかもしれない。
ティエリアが不安に駆られる中、扉が開き誰かが入ってくる。

「悩み事か?」

「……ロックオン・ストラトス。」

ひょうひょうとした笑みを浮かべながらやってきたロックオンだったが、すぐに真剣な表情になる。

「気にすんなよ。たとえヴェーダのバックアップが期待できなくても、俺らにはガンダムとMs.スメラギの戦術予報がある。」

ティエリアはむっとする。
ティエリアが不安になっているのを感じて来たのだろうが、それでも、いや、だからこそティエリアは素直になりきれない。
すぐさまいつもの皮肉のこもった笑みを返す。

「あなたは知らないようですね。彼女の過去に犯した罪を。」

「知ってるさ。」

「え!?」

予想外の答えに驚くティエリアにロックオンは話し続ける。

「誰だってミスはする。彼女の場合、そいつがとてつもなくでかかった……が、Ms.スメラギはその過去を払拭するために戦うことを選んだ。折れそうな心を酒で薄めながらな。」

話し終わるとニヒルな笑みをティエリアに向ける。

「そういうことができるのも、また人間なんだよ。」

「人間……か……!?」

ティエリアはそこでロックオンの言葉の不可解な点に気付く。

「ロックオン、あなたは僕のことを……」

ティエリアが問いかけようとした時、アレルヤの顔が二人の前に現れる。

『二人とも、スメラギさんからコンテナでの待機指示が出た。』

「了解だ。」

ロックオンが返事をするとアレルヤの顔が消え、再びティエリアとロックオンの二人きりになる。
ティエリアは再度質問を試みるがロックオンの真剣な眼差しに言葉を止められる。

「ティエリア、これだけは言わせてくれ。状況が悪い方に流れてる今だからこそ、5機のガンダムの連携が重要になる。」

ロックオンの顔がいつもの笑顔に戻る

「頼むぜ。」

その言葉を聞いたとき、ティエリアは確信する。
自分が何者だろうと、ここにいていいのだと。

「フッ……その言葉は、刹那・F・セイエイとユーノ・スクライアに言った方がいい。」

「ま、そりゃそうだ。」

二人は小さく笑うと自身のガンダムの待つコンテナへと向かった。







?????

黒い煙の立ちこめる廃墟の中に刹那は銃を持って立っていた。
辺りには破壊された兵器や建造物が広がっている。
変わり果ててしまったが見間違うはずがない。
自分の故郷、クルジスだ。
両親とともに何度も見た夕焼けに染まる空はどれほど街が壊されていようと変わらない。

「ソラン……」

「!」

ふいに後ろから声をかけられる。
懐かしい声だ。
だが、振り向いたその先にいたのはアザディスタンの王女、母とよく似た声の持ち主、マリナ・イスマイールだった。

「マリナ・イスマイール……?」

彼女が限られたものしか知らないはずの自分の本当の名を呼んだこと以上に、なぜここにいるのかがわからない。

「こっちへ来て、ソラン……」

刹那はマリナの優しい笑顔に導かれるように歩を進める。

「見て……」

刹那、いや、ソランがマリナもとまで行くと、彼女は屈んである一点を見つめる。
そこには一輪だけ、黄色く美しい花が荒れ果てた大地の上で夕陽を受けてシャンと咲いていた。

「この場所にも……花が咲くようになったのね……」

ソランはじっとマリナの言葉に耳を傾ける。
それは心地よい音楽のようにソランの思考を奪っていく。

「太陽光発電で、土地も民も戻ってくる。ううん……きっと、もっと良くなるわ。」

「マリナ……」

「だからね……もう、戦わなくていいのよ……」

このまま銃を、戦う力を下ろしてしまいたい。

「いいのよ、ソラン。」

マリナの言葉に誘われ、ソランは銃を握る手の力を緩めていく。
そして………




コンテナ 待機室

「!!」

刹那は夢の中の銃が地面にぶつかる音で目を覚ました。
起きてみれば自分の目の前に広がっているのは窓から見える漆黒の宇宙だ。

「夢……か………?」

夢とは思えないほどリアルだった。
現実ではありえない光景なのに、手を伸ばせば届きそうな、そんな夢だった。

「なぜ……マリナ・イスマイールが……」

なぜ彼女が夢に出てきたのか。
やはり、彼女のことを意識しているからなのだろうか。

「いや、それよりも……」

戦いではなく、話し合いで平和を勝ち取ろうとしている彼女の方が正しいと思い始めているのではないか。

「やめたいのか……?やめたがっているのか………?俺は……」








?????

ユーノは血や煤がこびりついた大きな広間にいた。
あの出来事があってから忘れたことなどない場所。
クロアの首都にあるホテル。
自分の父が殺された場所。

「なんで……ここに……」

天井のシャンデリアから床に敷かれたカーペットの色まではっきりと覚えている。
なのに、違うところが一か所だけある。
そう、死体がないのだ。

「もう……いいんじゃないかな………」

「!?」

背後から声をかけられ振り向くと、すぐ手の届きそうな距離にあの時の姿のままのエレナがいた。

「エレナ……」

「ユーノは頑張ったよ。だから、もうなのはちゃんたちのところに戻っていいんだよ。」

優しい笑みを浮かべたエレナはユーノの心に語りかけるように話しだす。

「もう、これ以上傷つかなきゃいけない理由はないよ……」

「けど、僕は!」

「たくさんの人を傷つけたから責任をとらなくちゃいけない?」

言おうとしたことを先に言われてユーノは押し黙ってしまう。

「そんな理由で戦っても、何も変えられない………」

「そんなことない!!」

「彼女たちだって、ずっとユーノのことを思ってるんだよ?ユーノが消えたあの日から、ずっと苦しみながら前に進んで、それでも忘れられなくて悲しんでるんだよ?」

「でも、僕はもう……」

戻りたいと思う心を否定するように言い訳をつぶやくがエレナの言葉にかき消される。

「大丈夫………。きっとわかってくれるよ。さぁ……」

エレナがユーノの後ろを指さす。
そこからはさながら死者を受け入れる天界の扉のように光が漏れている。
ユーノはその光に引き寄せられるように歩き出す。
そして……





コンテナ 待機室

「!!」

ユーノは視界が光に包まれたところで目が覚めた。

「ここは……?」

そこはいつもの見慣れた光景だった。
暗い宇宙の広がりを間近で感じられる窓がある待機室。
いつも通り、出撃に備えているところだ。

「………いまさら……戻れるはずがない。」

そう割り切ったはずだ。
首にかけているジュエルシードもどんなことをしても発動する気配すらない。
仮にジュエルシード、もしくはそれに準ずるロストロギアの力でなのはたちのところに帰れたとしても、今までのような関係には戻れはしない。
だからこそ、この世界で生きていくと決めたのだ。
罪も、悲しみも、怒りも、すべてを背負って生きていくと決めたのだ。
なのに、

「まだ……迷っているのか………」

刹那に迷うなと言ったばかりなのに、誰より自分が戦うことを迷っている。

「戻りたいのか……?僕は……」






アフリカ 北西部

晴れ渡った空に赤い粒子を背中から放ちながら頂部の兵士が乗るジンクスが目標地点へと向かっている。
ミンはジャングルが広がる中に連なる山々のある一点を拡大してセンサーなどを使って調べる。
すると、明らかに反応が違う場所がある。

『間もなく、目標ポイントに到着します。』

「了解した。頂部ジンクス部隊、ソレスタルビーイングの施設に対して攻撃を開始する。」

ジンクスたちは高度を下げ、ターゲットがいるであろう山に近づいていく。
ピーリスはガンダムを退けた戦闘の余韻を思い出しながら操縦桿を強く握りしめる。

「再び、勝利の美酒を………っ!?中佐!!」

ピーリスはただならぬ気配を察知して、セルゲイへと伝えるが、それよりも早く山の一角から巨大な赤い光の柱が一機のジンクスを破壊せしめた。

「読まれていたのか!?」

セルゲイがビームのとんできた地点を拡大すると大きく開いた穴の中から三機のガンダムが砲門を構えながらこちらを見ている姿があった。

『ハハハ!一機撃墜!』

『ハイメガ使って一機かよ。』

はしゃぐネーナと不満そうに唇を尖らせるミハエルと違い、ヨハンは焦っていた。
いずれこの場所も敵につかまれるだろうとは思っていたが早すぎる。
誰かが情報を漏らしたと考えるのが妥当だ。
となると、

「我々を裏切った……いや、最初から葬り去るつもりだったのか、ラグナ・ハーヴェイ!!」

自分たちへとミッションを出していたリニアトレイン総裁、ラグナ・ハーヴェイの思い通りにさせるものかとヨハンは怒りに燃える。

「スローネ、ドッキング解除。敵部隊の中央を突破する!」

ドッキングを解除したスローネ三機は自らのあけた穴からジンクスたちの待つ外へと飛び出して行った。







プトレマイオス ブリッジ

スメラギがブリッジの扉を開けて中へ入ると、そこには目の前のキーボードに突っ伏して眠るフェルトとクリスティナの姿があった。

「……御苦労さま。二人とも、ありがとね。」

スメラギはクリスティナの前にあるモニターを除いて作業の進行具合を確認しようとする。
だが、すぐに表れたEセンサーの反応が表示され、その下に隠れてしまう。

「敵襲!?(ここまでEセンサーに反応しないとなると……)」

「あ……スメラギさん……?」

「なにか……?」

スメラギの気配で起きた二人は眠い目をこすりながら意識を覚醒させていく。

「二人とも、ノーマルスーツに着替えて!」

スメラギはすぐに中央にある自分の指定席へ向かうと艦内に放送をかける。

「総員、第一種戦闘配備。敵は疑似太陽炉搭載型19機と断定!すでに相手はこちらを捕捉してるわ!ガンダム5機はコンテナから緊急発進、フォーメーションS-34で迎撃!」

クルー達は素早くノーマルスーツやパイロットスーツに着替えるとそれぞれの持ち場へと向かう。
スメラギ達はブリッジから正面からこちらに向かってくる赤い点を肉眼でとらえる。

「不意を突いたつもりでしょうけど……!」

そう簡単にはやられはしない。
こちらにはガンダムがいるのだから。






コンテナ

『コンテナ、ハッチオープン。』

『ガンダム出撃します。』

いつも通りフェルトとクリスティナの言葉で送り出されるガンダム5機だが、いつもと大きく違う点が一つ。
これから相手にするのは自分たちと同格の力を持つ機体なのだ。

「各機、フォーメーションS-34!油断すんなよ!」

「「「「了解!!」」」」

ガンダム5機はエクシアを先頭に一列に並ぶと無数の赤い点へと突撃していく。

『ガンダム、視認しました!』

「こちらの行動を予測していたのか……。優秀な指揮官がいるようだな。」

ダリルはにやりと笑って相手の指揮官への賛辞を述べる。
一方、

「どっちでもいいさ!!同性能の機体なら、模擬戦で負け知らずの俺に分があるんだよ!!」

パトリックは持っていたビームライフルを発射して先陣を切る。
周りの機体もそれに続く。

「GNフィールド!」

ティエリアは余裕を持ってGNフィールドを展開する。
しかし、パトリックの放った弾丸はそれを貫いてヴァーチェに直撃する。

「ぐあっ!!フィールドを抜けてきた!?こちらの粒子圧縮率が読まれているのか!?」

ティエリアは動揺しながらも続けて放たれた攻撃をからくもかわしていく。
すると、その後ろから戦闘機形態のキュリオスが飛び出し、普段よりも近い距離からジンクスたちにビームサブマシンガンを発射する。
しかし、ジンクスたちはその攻撃をあっさりとかわす。

「速い!」

しかし、分断されたジンクスの一機をデュナメスが捕捉していた。

「狙い撃つぜ!」

しかし、デュナメスの放った弾はジンクスの肩をかすめただけ。
しかも、普通のMSならば多少のダメージは残せているはずが何事もなかったように動き出す。

「かすっただけかよ!?」

それでもロックオンは狙撃をやめない。
しかし、いつもなら百発百中の狙撃も今回は当たる気配がない。
三人が目の前のジンクスたちに気をとられていると今度は奥に整列しているジンクスたちが一斉に射撃を始める。

「おわ!?」

「くぅ!!」

「この程度!!」

ティエリアはデュナメスとキュリオスの前に出ると先ほどよりも粒子圧縮率を高めたGNフィールドを展開してそれを防ぐ。
だが、攻撃を集中され徐々に押されていく。

一方、敵へ接近戦を仕掛けていたエクシアとソリッドも苦戦していた。
二機のジンクスへとソードライフルと左手に装備された小型ビームガトリングで攻撃するが、かする程度で終わってしまい決定打を与えられない。
二機のジンクスは腰からビームサーベルを抜くとエクシアへと斬りかかる。

「くっ!!」

エクシアは二本のGNブレイドを使って防ぐが、今までに退官したことのない重い一撃が刹那が握る操縦桿をじりじりと後ろに上げようとする。

「ぐぅぅぅ!!」

エクシアはとうとう押し切られて左手に握っていた小型のGNブレイドをはじかれてしまう。
いったん距離をとってダガーを投擲するがそれもはじかれる。

「やる!!」

「けど!!」

続いてソリッドが自慢の突進力を利用してバンカーを叩きつけようとする。
しかし、速くても直線的な動きのため二機のジンクスの弾幕に阻まれ突進がとまる。
そこに弾丸が雨あられと降り注ぐ。

「ぐああぁぁぁぁぁ!!!!」

「ユーノ!!」

刹那は慌てて二機にGNソードを振るうが、やはりよけられてしまう。

「大丈夫か!?」

「な……なんとかな。」

ユーノと刹那が追いつめられる中、ロックオンたちにも危機的状況が訪れる。

「出番だぜ野郎ども!やっちまいな!!」

パトリックの号令とともに吹き荒れる光弾の嵐がデュナメス達を襲う。

「回避ポイントナシ!回避ポイントナシ!」

「くっ!!」

フルシールドのおかげで致命傷は避けられているが、どの道長くは続きそうにない。
アレルヤもよけきれないと判断したのかMS形態に変形してシールドで攻撃を防ぎながら反撃する。
だが、アレルヤの脳裏にある不安がはしる。

「僕らの滅びは、計画に入っているというのか!!?」

「そんなことが!!」

ティエリアはそんなアレルヤの考えを否定するようにヴァーチェの両肩のGNキャノンを発射する。
激しい光の流れが二機のジンクスをかすめてそれぞれの肩から先と左脚を奪い去る。

「やりやがったなぁぁぁぁぁ!!!!!」

パトリックはヴァーチェへと射撃をしながら突進していく。

「まだまだぁ!!」

いくつか弾丸に被弾しながらもティエリアはヴァーチェにGNバズーカを構えさせ、敵を捕捉する。
ところが、突然ディスプレイが消え、コックピット内の明かりも消える。
それどころかガンダムがどれほどペダルや操縦桿を動かそうとうんともすんともいわなくなってしまった。

「な!?ヴェーダからのバックアップが!!」

ヴァーチェだけでない。
他のガンダムも動くのをやめてしまう。

「システムエラー!システムエラー!」

「嘘だろ!?」

「やはり、僕らは……!」

「どうしたんだエクシア!?ガンダム!!」

「動け!!くそ!967、復旧は!?」

「無理だ!!ヴェーダからのバックアップが再開されるか独立して動けるようにならないと再起動は無理だ!!」

マイスターズが戸惑う中、ジンクスたちは急に動きを止めたガンダムに様子を見るように間をおいてライフルを発射する。
何発当てても反撃どころかよけようともしないが、それでも不審がって近づこうとしない。
暗い宇宙を漂いながらマイスターズはそれぞれ思いをはせる。

「僕らは……裁きを受けようとしている……」

自分たちの滅びが運命だとし、裁きを受けようとしているアレルヤ。

「冗談じゃねぇ!!まだ何もしていねぇぞ!!」

何も変えられていないにもかかわらず、消え行こうとしている自分に怒りを覚えるロックオン。

「僕は……ヴェーダに見捨てられたのか……?」

依存しきっていたヴェーダの見捨てられたという事実に目を見開き驚きながら絶望するティエリア。
そして、

(同じだ……あの時と……)

刹那は戦場を駆け抜けていた頃を思い出す。
ガンダムにあったあの時のことを。
そして、ユーノもまたかつての自分の姿を思い起こしていた。

(やっぱり……僕はなにも救えないのか……?)

目の前で父親が殺されそうになっているのに、ただ震えていることしかできなかった自分。
そんな自分がいやで、ガンダムという力を欲した自分。

刹那とユーノ。
どちらも過去の自分になかったものを求めてガンダムに乗った少年。
なのに、そのガンダムに乗りながらかつての自分を変えることができない。
その悔しさは計り知れないものがあるだろう。

(エクシアに乗っているのに……ガンダムにもなれず……)

(ソリッドに乗っているのに……誰も救えない……)

(俺は……!!)

(僕は……!!)







月 ヴェーダ内部

「よろしいのですか、アレハンドロ様?」

「世界統合のために国連軍の勝利は必須事項だ。」

リボンズは口元に薄い笑いを浮かべながらアレハンドロに問う。
そして、アレハンドロも笑いながらリボンズの問いに答える。

「GNドライヴさえ残れば、いつでもソレスタルビーイングは復活できる。」

アレハンドロの口元が邪悪な笑みによっていっそう歪む。

「私は欲深い男でね。地球とソレスタルビーイング、両方手に入れたいのだよ。」







プトレマイオス ブリッジ

「ガンダム、システムダウン!!ヴェーダからの介入です!!」

クリスティナの慌てた声にブリッジ全体に動揺がはしる。
しかし、その中でスメラギは焦らずに指示を出す。

「予定通り、こちらのシステムに変更!」

「「了解!」」

クリスティナとフェルトはキーボードを素早く叩き始める。
かすかな希望を指先に込めながら。






周辺宙域

「ここまでなのか……俺の……命は……」

「こんなところで……諦めろっていうのか……」

そんな二人の脳裏に先ほどの夢で出てきた人物たちが自分に語りかけてくる。

『もう、いいのよ……ソラン……』

『もう、いいんじゃないかな……ユーノ……』

一瞬、二人はそちら側に歩もうとしてしまう。
戦いのない、安寧の日々を送ることを選ぼうとしてしまう。
だが、

「「違う!」」

「俺はまだ生きている!!」

「僕はまだ戦える!!」

「生きているんだ!!」

「守るために戦うんだ!!」

刹那とユーノは懸命に操縦桿とペダルを動かし始める。

「動けエクシア!!」

「動けソリッド!!」

「「動いてくれ!!ガンダァァァァァァム!!!!」」

二人の叫びが重なった時だった。
その響きに共鳴するかのようにエクシアとソリッドの背中にあるGNドライヴが再び淡い瑠璃色の光を放ち始める。
そして、それはほかのガンダムにも起こっていた。

「システムが!?」

「いけるぞ!!」

キュリオスとデュナメスの目に再び光がともる。
しかし、一機だけがいまだに動けずにいた。

「!?ティエリア!!」

ヴァーチェが止まったまま動く様子がない。
ただ単にティエリアが動かそうとしていないのか、それともヴァーチェに問題があるのかはわからないがまずいことには違いない。
しかし、ガンダムが再び動き始めたことで敵も攻撃態勢を取り始めている。
だが、動揺しているせいか動きに精彩を欠いている。
やるなら今だ。

「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」

刹那は猛然とエクシアを突進させて目の前にいたジンクスに斬りかかる。
不意を突かれたため紙一重でかわすが、それ以上にいきなり動き始めたガンダムにダリルは戸惑う。

「こいつ、いきなり!!?」

ダリルはライフルを発射するがエクシアは舞うような動きでそれらをかわしていく。

「はああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

ユーノもソリッドを突進させ、ブレードモードに切り替えたアームドシールドとビームサーベルで敵を圧倒していく。
エクシアとソリッドが奮闘する中、デュナメスとキュリオスは動かないヴァーチェの前に立ち、敵を牽制する。

「どうした!ティエリア!!」

ロックオン発心を試みるが一向に反応がない。
その時、ヴァーチェを守るデュナメスたちの下からパトリックの乗るジンクスが近づいてきていた。

「デカブツの動きが鈍い!!いただくぜ!!」

「!!!」

ロックオンはパトリックたちに気付くと腰に装備されているミサイルを下に向けて放つ。

「なぁ!!?よくも!!」

パトリックは驚くものの左腕に装備されていたGN粒子の力場を形成して敵の攻撃を防ぐGNシールドを使ってミサイルを防ぎ、ライフルで反撃する。
パトリックの放った弾丸はデュナメスの左腕に当たり、爆風を巻き起こしてライフルから左手を離させる。

「しまっ………!」

ロックオンがその衝撃で目を自分の横にあるディスプレイに移すとエクシアが目の前のジンクスと鍔迫り合いをしている隙をついて、うしろからもう一機のジンクスがエクシアにビームサーベルを突きたてようとしている。

「刹那!!」

ロックオンは叫ぶが、心配は無用だった。

「まだだ!!」

刹那はビームサーベルを抜くと後ろから迫っていたジンクスへと投げつけ、串刺しにする。
コックピットを貫いたビームサーベルの刃はGNドライヴにまで達し、紫の爆煙を上げながら爆散した。

しかし、ロックオンはエクシアの戦闘に気をとられていたせいで後ろにいるヴァーチェに接近する機影に気付かなかった。

「大佐のキッスはいただきだぁぁぁぁぁ!!」

嬉しそうに叫びながらパトリックはヴァーチェにビームサーベルを突きたてようと迫る。

「!しまった!」

気付いたロックンがビームピストルを撃ちまくるが、パトリックは巧みにそれをよけながらヴァーチェへと迫る。

「くっ!!」

「ロックオン!?ぐぅ!!」

突然後ろへと向かったロックオンにアレルヤは驚くが敵の攻撃にさらされているせいで気にし続ける余裕がない。

「積年の恨みぃぃぃぃ!!喰らえぇぇぇぇぇぇ!!」

パトリックのいままでガンダムから受けた屈辱、恨みを込めた刃がヴァーチェに刺さろうとした。
その時だった。

「ティエリア!!」

間にデュナメスが割って入り、ビームサーベルを身を呈して防ぐ。
だが、フルシールドの部分で受け止めたもののビームサーベルの熱で徐々に溶解し、貫き、遂にはコックピットをかすめた。

「う、あああああぁぁぁぁぁああぁぁぁあぁっっ!!!!!!!!」

凄まじい痛みにこの世のものとは思えない叫びをあげるロックオン。
しかし、その叫びでティエリアは正気に戻る。
目の間でジンクスがデュナメスを煩わしそうにビームサーベルを振って引き抜く。

「ロックオン!!」

『ロックオン!!ティエリア!どうした!!?』

アレルヤが心配そうに問いかけるが自分のせいでロックオンが傷ついたという事実に動揺するティエリアには答えることができなかった。
そこへ、再びジンクスのビームサーベルが迫る。

「もういっちょぉぉぉぉ!!」

だが、それが届くことはなかった。

「!!?なんだぁ!!!?」

パトリックはそれが何をしたのか見えなかった。
ただ、自分の乗っていたジンクスの右腕が斬りおとされ、目の前を爆発すらせずにふわふわと浮いていた。
その奥には怒りで(少なくともこの時はそう見えたと後にパトリックは語っている)目の光を一層増しているソリッドがこちらを睨んでいた。

「な、な!!?」

「ソリッド……目標を粉砕する!!」

ソリッドは素早くアームドシールドをバンカーモードに切り替えるとジンクスの頭に思いっきりそれを叩きつける。

「消し飛べ!!!!」

激情に任せユーノが操縦桿のスイッチを押すと、パトリックの乗るジンクスは頭部を粉々にして部品をばらまきながら、バク宙をするように後ろに回転しながら遥か彼方へと飛んでいく。

「おわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」

遊園地の絶叫マシーン顔負けの回転を味わいながらパトリックは意識を失った。

「くぅ!息を吹き返したぐらいで調子に乗るなよ!!」

ダリルの言葉通り、初めは動揺から動きを乱していたが数で勝るジンクスたちが再び押し始めていた。
しかしその時、彼方から放たれたビームによってジンクスがさらに一機撃墜される。

「新手か!?」

ダリルがビームの来た方向を見ると一機の重装備の戦闘機らしきメカが攻撃を仕掛けながらこちらに向かってくるのが見えた。

「残量粒子は少ないが……」

ラッセはガンダムのサポートメカ、GNアームズの操縦桿についていたスイッチを押す。

「いけよ!!」

大口径の砲門から放たれた光はジンクス部隊の真ん中を奔り、敵を分断する。
ジンクスたちは当然反撃するが、ラッセは巧みにそれをかわしていく。
そして、

「捉えた!!」

再び放たれた光が的確にジンクスに命中する。
GNシールドで防ごうとするが、威力が大きすぎたため防ぎきることができずに爆散する。
ちょうどその時、黒い宇宙の中に白い光の球が上がった。
それを見たジンクスたちは背を向けて撤退を開始する。

「全員無事か!?」

すぐにラッセの問いの答えは返ってきた。

『デュナメス、損傷!デュナメス、損傷!』

「なに!?」

『ロックオン、負傷!ロックオン、負傷!』

「ロックオンが!?」

ラッセと刹那は驚きを隠せない。
だが、誰よりもティエリアの心がグラグラと揺れ動く

「そんな……!僕を……かばって……!」

視界がグニャグニャと歪んでいく。
頭が何かにつかまれて前後左右に揺さぶられているような感覚に襲われる。
だが、そんなことを気にするより、もっと大切なことがある。

「ロックオン・ストラトス!!」

ティエリアはロックオンの安否を確かめるために通信をつなぐ。
だが、ロックオンからの返事は返ってこなかった。






プトレマイオス ブリッジ

「ガンダム各機、デュナメス、ヴァーチェを回収!急いで!」

スメラギは動けるガンダムに対し指示を出し、続いてクリスティナにも指示を出す。

「クリスティナ、モレノさんに連絡を!」

「はい!!」

スメラギはちらりとフェルトを見る。
気丈にふるまってはいるが、明らかに動揺している。

「ロックオン……」

フェルトが誰にも気づかれずにつぶやいたと思った言葉は、スメラギの耳にははっきりと届いていた。





月 ヴェーダ内部

「やってくれるな、ソレスタルビーイング……まさか予備のシステムを構築しているとは……!」

アレハンドロの顔が怒りで歪むが、すぐに笑みが戻る。

「素晴らしい戦術予報だ。流石はスメラギ・李・ノリエガ……。だが、無駄なことだ。」

「アレハンドロ様。」

リボンズから声が上がる。

「レベル6を掌握しました。レベル7へのアクセスを開始します。」

「ふ……もうすぐだ。もうすぐ……!」









悪意が蔓延る中、それでも世界は変わりゆく……






あとがき・・・・・・・・・・・という名の平和的話し合い

ロ「というわけでVSジンクス編でした。」

刹「今回のゲストは二度目の登場、高町なのはだ。」

な「どうも。」

ユ「……なのはが出てきたばかりで悪いんだけど、とりあえずツッコんでいいかな?」

兄「どうした?」

ユ「なんでこんなに今回はあとがきがおとなしい感じで進んでんの!?」

ロ「前回のあとがきの後道化三3きょうだ……ゲフンゲフン!!ヨハンさんから注意を受けたので今回はお堅くやります。」

ティ「……その腕のあざはなんだ?」

ロ「今朝寝ぼけてベッドから転げ落ちただけだ。……ウン、ホントウニナンデモナイヨ?」

ア(どんな目にあったんだろう?)

な「え~と、とにかく解説に行こうか?」

ユ「今回も重い話だったね。」

ロ「そうでもないぞ。お前はVガンダムを見てないからそう思うだけだ?」

ア「Vガンダム?なにそれ?」

ロ「ガンダム作品を見るなら絶対に一番最初に見てはいけないものだ。俺の友人は最初にこれを見て以来ガンダムを見なくなった。」

兄「お前の友人どんだけ打たれ弱いんだよ…」

ティ「話を脱線させるな。」

ユ「あれ、いつものようにカオスな展開に突撃しない。」

刹「してほしいのか?」

ユ「いや、そうじゃないけど……」

な「それはそうと私たちの出番が全然ないんだけど。」

ロ「いや、だから最初に断ったじゃん。ファーストの間は00中心で話進むって。」

な「……私ヒロインなんだよね?泥棒猫は死んだはずなのにバンバン出てるのに対して、私は集団リンチの夢に出ただけだよ?」

ロ「だって魔王だし。」

な「レイジングハート、セットアップ。」

兄「……あの、今回はカオスはなしだって…」

魔王「にゃははははは……!もう関係ないの!私を魔王と呼ぶやつは管理局に代わってお仕置きなの!!」

兄・ティ「「いけ、ユーノ!!」」

ユ「え!?」

ア「彼女を止められるのは君しかいない!!」

ユ「わ、わかった!」

主人公、勢いに負けて魔王の前に立つ。

ユ「なのは!」

魔王「なぁに!?」

ユ「う……(こ、怖い!!)」

魔王「なぁにって聞いてるの。」

ユ「す……好きだよ。」

「「「「「……………………………」」」」」

な「……もう、ユーノ君ったら❤」

兄「………結局、惚気で終わるのか。」

ア「なんでだろう、あの二人を見てると無性に破壊衝動に駆られる。」

ティ「君は彼女と上手くいってないからな。」

ア「別れかけのカップルみたいな言い方やめてくれる!?」

刹「というかカオスにはしないと言いながら結局こういう方向に行ってしまうんだな。」

ロ「自分でもびっくりだよ。」

ユ「……じゃ、じゃあそうならないように速く次回予告をして締めよう。」

ア「国連軍を退けたマイスターズだったが、ロックオンが負傷してしまう!」

刹「自責の念とヴェーダから見捨てられた不安に駆られるティエリアのもとに現れたのは傷が治りきらないロックオンだった。」

ユ「そこでティエリアは自分の存在理由を問う。」

兄「そして、トリニティのいる地上へと向かう刹那。」

ロ「そこで待っていたのは予想外の事態と危機だった!」

な「そんな時、トレミーに敵が迫る!」

ティ「意を決したユーノが囮をかって出るが、刹那と同じく窮地に追い込まれる!」

刹「その時、ガンダムに秘められていた能力が明らかになる!」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございました!お暇があればご意見、感想、応援をよろしくお願いします!では、せーの……」

「「「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」」」



[18122] 29.TRANS-AM
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/10/17 11:38
プトレマイオス 集中治療室

今まで誰も来たことのなかった集中治療室のカプセルの中に右目に眼帯をしたロックオンが横たわっている。
幸い体の傷は大したことはなかったのだが、効き目である右目がふさがってしまった。

「Dr.モレノ、傷の再生までの時間は?」

「最低でも三週間は必要だ。」

モレノの言葉にスメラギは眉間にしわを寄せる。
三週間。
その間に敵は何度もこちらに攻撃を仕掛けてくるだろう。
それをガンダムが一機かけた状態で、いや、マイスターズにとっても精神的な支えであるロックオンなしに切り抜けなければならないのだ。

「わかってると思うが、一度カプセルに入ったら治るまで出られんからな。」

「治療をお願いします。」

念を押すモレノにスメラギは頭を下げる。

「その間に私たちはドッグに戻ってガンダムの整備を……」

『おいおい……』

スメラギ達が部屋を出ようとしたその時、思いがけない人物から声をかけられる。

『勝手に決めなさんな。』

「ロックオン……」

モニターの奥にいたロックオンがゆっくりと体を起してこちらを見ている。

「敵さんがいつ来るかわかんねぇ……治療はなしだ。」

「しかし、その怪我では精密射撃は無理だよ。」

『俺とハロのコンビを甘く見んなよ。』

「モチロン!モチロン!」

アレルヤの心配をよそにロックオンの言葉をハロが嬉しそうに肯定する。

『それにな……』

ロックオンはフッと短く笑う。

『俺が寝てると気にするやつがいる。いくら強がっていても、アイツはもろいからな……』

「ティエリアか。」

刹那があまりにもきっぱりと言うのでその名を口にできなかったスメラギ達は困ったように笑う。

「あのさ、ロックオン……ティエリアも悪気があったわけじゃ…」

『わかってるよ、なんでお前がそんな申し訳なさそうな顔してんだよ。』

ロックオンはティエリアを弁護しようとしたユーノを笑う。

『俺が起きれば、アイツもすぐにいつもの調子に戻るさ。』

そういうとロックオンはカプセルから出て自分の服が置いてある方へと歩いていく。
カメラから彼が消えると誰からでもなく諦めのこもったため息がふきだした。







魔導戦士ガンダム00 the guardian 29.TRANS-AM

プトレマイオス コンテナ

「ガンダムの整備状況はどうですか?」

「ヴァーチェの損傷は何とかなりそうだ。」

「………デュナメスは?」

不安そうなアレルヤの声にイアンとユーノは手元の資料から目を離して顔を上げる。

「……流石にあれは無理だ。コックピットが手ひどくやられちまってる。ここじゃ完全には直せないだろうな。ぶっちゃけ、あれであの程度の傷ですんだのが不思議なくらいだよ。」

「ドッグに戻って、ユニットごと取り換える必要があるな。」

イアンはそう言うと忙しそうにどこかへ行ってしまう。
ユーノもハロ達のもとへ向かい、作業を再開する。
刹那は破壊されたデュナメスを見て、顔つきを厳しくする。

(活動できるガンダムは4機……対抗できるのか?あれに……)







ブリッジ

「なーにがフォーリンエンジェルスだ。ふざけやがって。」

ラッセはつい先ほど見たユニオン基地での会見を、苦虫をかみつぶしたような表情で思い出す。
つい数分前、国連軍がガンダムの掃討作戦を公表した。
作戦名はフォーリンエンジェルス(堕ちた天使たち)。
おそらく自分たちのことをさしているのだろうが、堕天使と言われて素直に喜べるはずがない。
それが敵の言っていることならなおさらだ。
おまけに連中が自分たちで太陽炉を開発したかのように行っていたのがさらに気に喰わない。

「私たちは堕ちた天使ってわけね。」

クリスティナは呆れたような笑みを浮かべながらキーボードを叩き続ける。

「そう言えばフェルトは?」

リヒテンダールが思い出したようにあたりを見渡す。

「気になっちゃう年頃なのよ。」

「なにが?」

「……はぁ~…鈍感。」

「な、なんだよ……」

クリスティナの鈍感発言に唇を尖らせるリヒテンダール。
その様子を見ながらラッセはため息をつきながら自分の作業を再開するのであった。






廊下

フェルトはブリッジを離れ、彼に会いに行こうとしていた。
負傷したと聞いた時は心臓が止まるかと思ったが、大事には至らなかったとの知らせを聞いて安心した。
しかし、今度は傷が完治していないのにカプセルから出たという。
どうしても気になったフェルトはブリッジを抜けて彼を探していた。
自室を訪れてもいなかったので、諦めて戻ろうかと思っていた時、その姿を見つける。

「ロックオン……」

廊下の交わっている地点で私服を着て廊下を行くロックオンの姿を見つけたフェルトは後を追う。
ロックオンはフェルトには気付かなかったのかフェルトを置いてそのまま進んでいってしまう。
フェルトは追いかけるが、ロックオンがある一室に入ったのを見て廊下の影に隠れる。
ロックオンの入った部屋には窓から外を眺めるティエリアがいた。

「いつまでそうしているつもりだ?」

ロックオンの言葉を受けてもティエリアは微動だにしない。

「……らしくねぇな。いつものように不遜な感じでいろよ。」

ロックオンは笑みを浮かべながら話すがティエリアは一向にこちらを向こうとしない。
しかし、こらえきれなくなったようにティエリアは話し始めた。

「……失った。」

「?」

「マイスターとしての資質を失ってしまった。ヴェーダとの直接リンクができなければ、僕はもう……」

(ヴェーダとの直接リンク……?)

フェルトはティエリアの話を聞きながら数日前の戦闘を思い出す。
他のガンダムがすぐに予備システムに切り替えることができたのにティエリアの乗るヴァーチェだけがそれを行えなかった。

(新システムの移行がうまくいかなかったのは、ティエリア自身が障害となって……でも、そんなことが人間に……)

常識的に考えればできるはずがない。
しかし、ユーノも何らかの方法でガンダムを自分の支配下に置いていた。
もはや、あり得ないなどと言いきることなどできない。

「僕は……マイスターにふさわしくない。」

(ティエリア…)

背を向けたまま肩を震わせうなだれるティエリアからはいつものような覇気が感じられない。
まるで、子供に戻ってしまったかのようだ。
そんなティエリアの隣にロックオンは立つ。

「ふさわしくない、か……。いいじゃねぇか、別に。」

「なに!?」

ティエリアは驚いたようにロックオンの横顔を見る。

「単にリンクができなくなっただけだ……俺たちと同じになったと思えばいい。」

「だが、ヴェーダは何者かに掌握されてしまった……ヴェーダがなければこの計画は…!」

「できるだろ。」

ロックオンの力強い言葉にティエリアは泣き出しそうな顔を上げる。

「戦争根絶のために戦うんだ。ガンダムに乗ってな。」

「だが、計画実現の可能性が…」

「四の五の言わずにやりゃあいいんだよ。お手本になるやつがすぐそばにいるじゃねぇか……自分の思ったことをがむしゃらにやる馬鹿がな。」

「自分の……思ったことを…」

ティエリアが困惑した表情でつぶやく。
今まで自分はヴェーダこそが絶対だと思ってきた。
自分の考えで行動するなど無意味だと思っていた。
だが、

「じゃあな。部屋戻って休めよ。」

いつの間にかロックオンは廊下に向かって歩き出していた。

「ロックオン。」

「?」

「……悪かった。」

素直な言葉をかけるティエリア。
その謝罪の言葉は自分のせいでロックオンを傷つけてしまったことに対してだけではなく、心配をかけてしまったことに対するものでもあるということをロックオンはわかっていた。

「Ms.スメラギも言ってただろ。失敗ぐらいするさ、人間なんだからな。」

そう言うとロックオンは廊下を進んでいく。
隠れながら今のやり取りを聞いていたフェルトは目を閉じて微笑む。

(優しいんだ……誰にでも…)

自分だけでなく、誰にでも優しい言葉をかけてくれる。
少し寂しい気がするけど、それでもあの優しさに自分は惹かれたのかもしれない。
フェルトとティエリアはそれぞれの思いを胸に抱きながら、しばしの平穏を過ごした。





中東 ドウル 砂漠地帯

「ん、あ~肉食いてぇ~!」

ミハエルは未開封のレーションの缶を投げ出して仰向けになる。
人革連のジンクス部隊を突破してきたものの、どこにも立ち寄ることができず、ろくな食料が買えないのでここ数日、単調な味のレーションばかりを食べている。
ハイカロリーで誰にでも受け入れられる味を目指して作ったのだろうが、これではすぐに飽きてしまう。

「缶詰ばっかで飽きたぜ。」

「私もスイーツ食べたい!!」

二人は無茶な注文ばかりを言う。

「いつまで逃げ回んなきゃいけねぇんだよ、兄貴!?」

「粒子も残り少ないよ!?」

文句を言う二人を相手にせずに、ヨハンは携帯端末で留美と連絡をとる。

「我々を機体ごと空に戻す手はずを整えてほしい。」

『よろこんで……と、言いたいところですが、少し遅かったようですわ。』

「なに?」

『すでに国連軍の部隊がそちらに向かっています。』

「なんだと!?」

『早めの対処を。』

留美が言い終わる前にヨハンは通信を中断する。

「ミハエル、ネーナ、スローネを起動させる!急げ!」






十分後

上空を赤い点が隊列を組んで進んでいる。
その点の一つ、ピーリスの乗るジンクスから通信が入る。

『中佐、ガンダムを発見しました!ポイント、E-8590。』

「全機、迎撃フォーメーション!」

『『『『了解!』』』』

セルゲイの号令とともにジンクスたちは隊列を変更して三機のガンダムスローネを迎え撃つ。

「ミハエル、ネーナ、ドライヴの粒子発生率が低下している。無駄遣いをするなよ!」

『OK!』

『了解!』

(残り30%か……しかし!)

アインはビームライフルをジンクスたちへ向けて発射する。

「散開!」

セルゲイの号令でジンクスたちが散らばり、各機攻撃を開始する。

「チィッ!!」

威力こそガンダムのものに比べれば劣るがGN粒子のビームだ。
それがこれだけの数で襲ってくるのだからたまらない。

「兄貴にゃ悪いが、俺は出し惜しみなんかしねぇぞ!!いけよファング!!」

ミハエルは出力を上げてツヴァイの腰からファングを放つ。

「密集隊形!!」

ファングが放たれたのを確認するとセルゲイ達は円運動をしながら徐々にその円を狭めて互いに近づいていく。
そして、回転を続けながら周囲にビームライフルを乱射する。
不規則な動きが売りのファングだが、これだけ弾幕を張られたのでは攻撃をするどころではない。
次々に粒子ビームに当たり墜とされていく。

「やりやがったなぁ!!」

ファングを墜とされ激怒するミハエルだが、弾幕を突破することができない。
見かねてヨハンがアインのGNランチャーを使ってジンクスを一気に粉砕しようと試みるがジンクス部隊はあっさり密集隊形を解いて再びばらばらに攻撃を仕掛けてくる。

「くそ!!」

「墜ちちゃえぇぇぇぇ!!」

「もう一度アタックだ!!」

ネーナは射撃、ミハエルは残ったファングで攻撃するが、再び密集隊形をとられ、再び数で圧倒されてしまった。







経済特区東京 某マンション

沙慈は部屋の明かりもつけずにテレビを食い入るように見ていた。
後ろにあるテーブルにはルイスに渡すはずだった指輪、そして絹江の遺品が置かれていた。
ここに戻ってきてからどれほど泣いたかわからない。
涙はすっかり枯れ果てた。
この世界に絶望して死のうとも考えた。
だが、やめた。
やつらを、自分からルイスと姉を奪った存在の最後を見届けるまでは自分は前に進めない。
何もできない。
そんなことを考えていた時、テレビでガンダム掃討作戦が行われることを知った。
リアルタイムで中継が行われ、ガンダムが追いつめられていく。
それを見ていた沙慈の口元に何日ぶりかの微笑みが浮かぶ。
しかし、以前のような朗らかなものではなく、ハンターが弱りきった獲物をいたぶっているかのような笑みだった。
そして、その後もじっとテレビの前で戦闘の様子を見続けている。

「やられちゃえよ………ガンダム…………」

テレビの明かりが反射する沙慈の目は虚ろだ。
その虚ろな目のままガンダムへの呪詛の言葉を呟く。
それが自分をさらに追い詰めるものだとも知らずに………







中東 ドウル

ファングもすべて墜とされ、とうとう打つ手がなくなるツヴァイ。
しかし、ドライがジンクスたちに突進していく。

「ネーナ!?」

「数が多いからって!!」

ハンドガンを連射しながら突撃していくドライ。
しかし、ドライは本来支援用の機体であり戦闘能力はアインやツヴァイほど高くない。
それに、感情的になっていた攻撃はあまりも単調になっていた。

「そんなものが当たるか!!」

ミンはビームサーベルを抜いてドライの肩のGN粒子排出口を斬りつけ、態勢を崩したところに蹴りをみまう。

「きゃああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

「これで終わりだ!!」

「させるかよ!!」

ピーリスが追撃しようとするとツヴァイが間に割って入り、何とかピーリスを押し返す。

「兄貴!」

「了解だ!」

アインはドライを支えながらはモークグレネードを発射する。
辺りが白い煙につつまれていく。

「離脱する!」

『っつ……了解!』

『くそ!こちとらガンダムなのによ!!』

ヨハンは相手が視界を奪われているうちに逃げようと考えているのだが、それが通用しない相手もいる。

「逃がさない!!」

ピーリスは操縦桿を勢いよく前に倒す。
が、

「追わんでいい。」

セルゲイのジンクスに肩を掴まれ止められる。

「しかし!」

「やつらのアジトは叩いた。いずれドライヴの活動限界が来る。」

ピーリスは少し寂しそうにうなずくと、セルゲイにつき従って基地への帰路に就いた。







プトレマイオス ブリーフィングルーム

床に設置された丸い大きなモニターにはガンダムスローネとジンクス部隊の戦闘が映されている。
数で勝るジンクスがスローネを追い詰めていくその光景を全員が複雑な心境で見ていた。

「遂に国連軍がトリニティに攻撃を行ったか……」

イアンは渋い顔でつぶやく。

「ガンダムを倒すことで、世界がまとまっていく……」

「やはり、僕たちは滅びゆくための存在……」

「これも、イオリア・シュヘンベルグの計画……」

「だとしたら!」

刹那が大きな声を出す。

「何のためにガンダムがある!?戦争を根絶する機体がガンダムのはずだ!なのに、トリニティは戦火を拡大させ、国連軍まで………。これがガンダムのすることなのか!?これが……」

刹那の言葉を聞いたロックオンはフッと笑う。

「……刹那、国連軍によるトリニティへの攻撃は紛争だ。武力介入を行う必要がある。」

「おいおい!何を言い出す!?」

「無茶だよ!僕たちは疲弊してるし、軌道エレベーターも抑えられてる!この前、敵に襲撃されたのも、エクシアとデュナメスがトレースされたからで……」

「ソレスタルビーイングに沈黙は許されない。」

イアンとアレルヤの反対をロックオンは一蹴する。

「そうだろ、刹那。」

「……ああ。」

刹那もまた力強くうなずく。

「二度と宇宙に戻れなくなるかもしれない!」

それでも、アレルヤは反対し続ける。

「俺一人ででも行く!俺は確かめたいんだ。ガンダムがなんのためにあるのかを。」

「俺も付き合うぜ。」

ロックオンが刹那の付き添いを志願する。
が、

「怪我人はおとなしくしてろ。俺が行く。」

「ラッセ!?」

薄暗いブリーフィングルームにラッセが入ってくる。

「強襲用コンテナは大気圏離脱能力がある。ついでに、GNアームズの性能実験もしてくるさ。」

「今、戦力を分断するのは……」

「諦めろよ、アレルヤ。」

最後まで反対しようとしていたアレルヤをユーノが止める。

「止めたって聞かねぇのはわかってるだろ。」

「でも!」

アレルヤが反論しようとする中、スメラギは刹那の前に行き、苦笑を浮かべながらメモリーを渡す。

「ミッションプランよ。不確定要素が多すぎてあまり役に立たないかもしれないけど」

刹那がメモリーを受け取ると、真剣な顔つきになる。

「ちゃんと、帰ってくるのよ。」

「わかっている。」

刹那はブリーフィングルームを出てコンテナへと向かう。
自分なりの答えを見つけるために。





コンテナ

刹那が地上に向かってから数時間後、ユーノはソリッドのコックピットで待機していた。
だが、ユーノ以外はアレルヤもティエリアもガンダムで待機はしていない。

「いいのか?あの二人にも言わなくて。」

「言ってもどうしようもないよ。ヴァーチェの修理は完全には終わっていないし、アレルヤは戦えるような精神状態じゃない。となると、必然的にこうするのが一番さ。」

ユーノは967の質問にスラスラと答えていく。

「しかし、本当に来るのか?」

「たぶんね。どこの誰だか知らないけど、ヴェーダを掌握しているならガンダム一機がトレミーから離れたことくらい気付いてるはずさ。そんな状況で襲ってこないほうがおかしい。」

ユーノが説明し終えると同時に、ソリッドのモニターに3~5機の反応が映し出される。

「ほら、おいでなすった。太陽炉搭載型をケチって別のMSを斥候として使ってるみたいだけど、間違いなく国連軍だ。」

ユーノはブリッジとの回線を開く。

「じゃ、よろしくね、クリス。」

『……本当に行っちゃうの?』

クリスティナは誰もいないブリッジで不安そうな顔になる。

「そんなに心配しなくていいよ。敵の気をそらしたらすぐに逃げるから。」

『でも、やっぱりアレルヤかティエリアを…』

「あの二人にはもう少し時間が必要だよ。そっとしておいてあげて。」

クリスティナは納得がいかない様子だが、それでもソリッドの発進準備を進めていく。
ハッチをオープンし、後はソリッドが飛び出していくだけとなった時、ユーノにクリスティナが釘を刺す。

『……絶対、絶対無事に帰ってきてね!』

「もちろん。ここで終わる気なんて毛頭ないよ。」

ユーノはそれだけ言うとペダルを強く踏みしめる。

「ソリッド、出撃する!」



ブリッジ

GN粒子を残して遠ざかっていくソリッドを見送るクリスティナ。
と、そこへ

「……行っちゃった?」

「ス、スメラギさん!?」 

あまりにもタイミングよく入ってきたスメラギにクリスティナは慌てる。
今回の出撃はユーノとクリスティナの独断であり、他の誰のもまだ知らせてはいない。

「そんなに焦らなくていいわよ。今日のユーノを見てたらこれくらいわかるわ。」

「気付いてたんですか!?」

「当然よ。あの子、今日はあんまりしゃべらなかったから。きっと何かする気だってことくらいすぐにわかったわ。」

「あの、ユーノのこと……」

クリスティナが心配そうにスメラギを見る。

「大丈夫、別に怒らないわよ。後で少しお説教をしなくちゃだけどね。」

笑いながらスメラギはウィンクをすると、もう小さな点としか思えないほど離れたソリッドを見つめる。

「刹那……ユーノ……無事に戻ってきて。」








大西洋上 孤島

「あぁ~!!あたしのドライが!!」

肩にはっきりと残された傷を見た瞬間、ネーナから叫び声が上がる。

「どうすんだよ、兄貴!」

「王留美に空へ上がれる手配を頼んでいる。」

「信用できんのかよ?」

ミハエルがヨハンに文句を言い始めた時だった。
上空から何かが近づいてくる音がする。

「なんだ?」

「AEUのイナクト……」

木の間から見える赤い機体はAEUのイナクトだった。
赤いイナクトはヨハンたちを見つけると攻撃はせずに光通信を始める。

「攻撃の意思はないだと……?」

だが、この状況でそんなことを信じるヨハンではない。
自分は銃を、ミハエルにはナイフを抜かせ、イナクトを操る何者かに備える。

「ネーナ、スローネで待機だ。」

「ラ~ジャ♪」

ネーナがスローネに乗ると、イナクトは着地する。
コックピットが開き、中から一人の男が現れる。

「よぉ!世界を敵にして難儀してるってのはあんたらか?」

「何者だ。」

男はヘルメットを外し、赤い長髪を外気にさらす。

「アリー・アル・サーシェス。御覧の通り傭兵だ。スポンサーからあんたらをどうにかしてくれって頼まれてなぁ。」

サーシェスの言葉にミハエルはムッとする。

「援軍って一機だけじゃねぇか。」

「誰に頼まれた?ラグナか?」

「ラグナ?あぁ、ラグナ・ハーヴェイのことか。」

男は地上に降りてにやりと笑う。

「やっこさん死んだよ。」

サーシェスはまるで世間話でもしているように軽く言い放つ。

「なに!?」

「!!」

ミハエルが用心してナイフを構えようとした時だった。
サーシェスは隠し持っていた銃を素早く出して引き金を引いた。

「俺が殺した。」

「ミハエル!!」

「ミハ兄ぃ!!」

ミハエルは目を見開いたまま背中から地面に倒れこむ。
これまでガンダムで暴れ回ってきた者の最後としてはあまりにも呆気ないものだった。

「ご臨終だ。」

「貴様ぁ!!」

ヨハンはサーシェスに向けて発砲するが、サーシェスは素早く身をかがめてヨハンに近づき、スライディングでヨハンの態勢を崩して倒す。

「くっ!」

ヨハンは銃を向けようとするが、足で銃を抑えつけられ、さらに肩に銃弾を撃ち込まれる。

「グアッ!!」

「ヨハン兄ぃ!!」

「に、逃げろ!!ネーナ!!」

「でも!!」

「行けぇーーー!!」

「っっ!!は、はいっ!!」

会話を聞いていたサーシェスはクックッと笑う。
そして、銃を押さえていた足をどける。

「美しい兄弟愛だ……早く機体に乗ったらどうだぁ?これじゃ戦いがいがない。」

ヨハンは唇をかみしめると傷を負った肩をかばいながらゆっくり立ち上がりアインのもとへと向かう。

「いい子だ。」

上空へと上がっていくアインを見ながらサーシェスは満足そうにつぶやく。

「さて、それじゃ俺は……」

サーシェスはミハエルを蹴飛ばして仰向けにするとそのままつかつかと歩いていく。
その視線の先には主を失ったスローネツヴァイがサーシェスとミハエルを見ていた。







ラグランジュ3 周辺宙域

ラグランジュ3は宇宙進出の初期時代のコロニー群が集中している。
中には廃棄されたものや、これから廃棄される予定のものも多く、そのため基本的にはコロニー周辺での戦闘は非常時以外タブー(と言ってもどこの国家群もそれを守っていたかどうかは怪しいものだが)なのだが、ここでの戦闘は大っぴらに認められていた。
そのため、軍事演習にもよく使われ、MSの性能実験もよくおこなわれていた。
しかし、ガンダム開発の礎が築かれたのもここであることを知る者は少ない。

そんな、宙域に宇宙対応型のフラッグとイナクトが辺りを哨戒している。

「こちらユニオン1、異常なし。」

「了解。引き続き捜索にあたれ。」

イナクトに乗るAEUの指揮官はモニターの反応を見ながら辺りを注意深く探すが、目当て反応は見当たらない。

「たくっ!本当にこのあたりにいるのか?最初に大気圏に突入したやつの後にここに向かうやつを見たって上のやつらは言ってるが、信用できるのか?」

愚痴りながら捜索を続ける。
その時、目の前をピンク色の光弾がかすめる。
慌てて飛びのいて光弾が発射された方向を拡大する。

「いた!」

ライフルを構えるソリッドを見た瞬間、指揮官の顔が憎しみに染まる。

「こちらトライ1!目標を発見!!」

手早く通信を終わらせると指揮官はイナクトをソリッドへ突進させる。

「仲間の仇を討たせてもらうぞ!!」

ソニックブレイドを突きたてようとするイナクトに対し、ソリッドはブレードモードのアームドシールドを使って受け流し、そのままイナクトの肩を斬り落そうとする。
だが、

「甘い!」

攻撃が読まれあっさりと防がれる。

「クッ!!」

「余裕のつもりか!?それともいまさら人を殺すことをためらうか!?俺たちの仲間を殺しておいて!!」

「ッッッッ!!!!」

接触回線で聞こえてきた声にユーノは動揺する。
一瞬、ソリッドの動きが硬直する。
そして、後ろからぶつかった何かがソリッドの体を揺らす。

「グアアァァァァァァッ!!?」

「クッ!この威力は!?」

967が後ろから接近してくるものを確認する。

「もう来たか!」

「ありゃりゃ………ちょっとまずいかな……!」

そこには周辺を捜索していたイナクトとフラッグ、そして、十数機単位のジンクスが武器を手に取って近づいてきている。

「……967、太陽炉の自爆システムの安全装置をいつでも解除できるようにしておいて。」

「ユーノ、それは……!」

967の不安そうな声にユーノは笑顔で答える

「万が一の場合だよ。でも……」

「なんだ?」

「……ごめん。こんなことにつき合わせちゃって。」

「……フッ。」

今度は967が笑う。

「気にするな。俺はお前の相棒だからな。お前が行くと言うなら地獄でもどこでもついて行ってやる。」

「…ありがとう。」

「お喋りはここまでにしておいた方がよさそうだ。来るぞ!!」

ジンクスたちが一斉にソリッドへと殺到する。

「967!グラムを使うよ!」

「了解!」

アームドシールドの先が開き、そこからグラムが発射される。
それと同時にソリッドは急速にバックする。
ジンクス部隊も散開するが、967たちの方が少し早かった。

「グラム発動!」

6機のジンクスがよけきれずにグラムの効果範囲に取り残され動きを止められてしまう。

「おのれ!!」

残ったジンクスたちはソリッドに向けて一斉に射撃を開始する。
さながら光弾の壁のような弾幕にさらされるソリッドだが、そう簡単にやられてやるつもりはない。

「GNフィールド、最大圧縮率で展開!」

今まで一番厚い光の膜がソリッドを包み込む。
だが、

「あんな出力がいつまでも続くはずがない!!集中砲火で足止めしろ!!」

四方八方から降り注ぐビームの雨にソリッドは身動きを取れない。

「ク……!ユーノ、出力を下げて少し機動性に回すんだ!」

「駄目だ!この状況でそんなことしたらすぐにフィールドを破られる!!」

ユーノの顔に汗がにじみ始める。
もう間もなくフィールド発生の限界時間だ。

「くそ……!まだ終われないのに……!」

まだ答えを見つけていない。
自分たちが戦い続けてきた意味を。
ガンダムという存在の意味を。

「まだだ……!」

「これで終わりだ!!」

ジンクスのうちの一機がソリッドへ向けて突進していく。

「まだ……諦めるもんかぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」

ユーノの叫びがコックピットに響いた瞬間、ジンクスのビームサーベルがソリッドに向けて突き出された。









大西洋上 孤島

『ヨハン兄ぃ!ミハ兄ぃが!!』

「仇は討つ!!」

しかし、予想外の出来事が起こる。

「なに!?」

主を失ったはずのスローネツヴァイがヨハンの操るアインへと向かってきたのだ。
振り下ろされたバスターソードを間一髪ビームサーベルで防ぐが、ヨハンの頭の中は混乱したままだ。
そんな時、ツヴァイから外部音声でサーシェスのだみ声が発せられる

「はっはっはぁ!!」

「馬鹿な!!ツヴァイはミハエルのバイオメトリクスがなければ!!」

そこまで言って、ヨハンは気付く。

「書き換えたというのか!?ヴェーダを使って!!」

そんなヨハンとは引き換えにサーシェスはご機嫌である。
なにせ、最高の戦争の道具を手に入れたのだから。

「慣れねぇとちと扱いづれぇが……武装さえわかれば後は何とかなるってな!!」

サーシェスはバスターソードを振り抜いてアインを弾き飛ばすと、そのままアインに襲いかかる。

「なぜだ!!?なぜ私たちを!!」

「生贄なんだとよ!」

「そんなことが!!」

サーシェスの言葉を否定するようにライフルを連射するヨハン。
しかし、サーシェスの操るツヴァイはスイスイとそれらをよけて斬りつけてくる。

「同情するぜ!!可哀そうになぁ!!」

「私たちはガンダムマイスターだ!!」

ヨハンはツヴァイをひきはがすとランチャーをめちゃくちゃに撃ちまくる。

(認めるものか!私たちはガンダムマイスター、選ばれた存在なのだ!)

ヨハンの思いとは裏腹に、ランチャーによる攻撃は当たる気配を見せない。

「世界を変えるためにぃぃぃぃぃ!!」

「御託はたくさんなんだよぉ!!」

サーシェスはランチャーをかわしてアインの懐へ一気にもぐりこむ。
アインはビームサーベルを突きだすがバスターソードの刃に沿って受け流され、そのまま体のど真ん中に刃を沈められた。

「ヨハン兄ぃ!!」

「逝っちまいな!!」

サーシェスは後ろから容赦なくハンドガンでの追撃を加える。
体のあちこちを貫かれたアインは火花を上げる。

「……馬鹿な………私たちは…………マイスターになるために生み出され………そのために……生きて……」

アインは主の言葉とともに爆発、炎上し赤いGN粒子とその部品だけが夜空に散らばった。
ネーナは放心状態でその光景を見ていたが、煙の中からツヴァイが飛び出してくる。

「綺麗なもんだなGN粒子ってのは!!そうだろお譲ちゃん!!」

ツヴァイはドライを蹴り飛ばして地面にたたきつけるとそのそばに着地する。

「クッハハハッハハハハ!!!」

サーシェスは高笑いをしながらドライに刃を突き付ける。
が、

「!!?グアッ!!」

「!!?」

横から何かがぶつかったツヴァイはそのまま引きずられるように空へと持ちあげられる。

「なに!?」

その何かが離れると、今度は中から何かが出てくる。
その何かは右手に装備された刃を起こすと、ツヴァイへと斬りかかった。

「邪魔すんなよ!!クルジスの小僧が!!」

「!?アリー・アル・サーシェス!!なぜだ!なぜ貴様がガンダムに!!」

予想外の人物に乱入者、刹那・F・セイエイは激しい怒りを覚える。

二機が互いに距離をとると、エクシアが刃を元に戻し、ライフルで攻撃するが、ツヴァイはそれを軽くよけてハンドガンで反撃する。

「オラオラ!!どうしたガンダム!!」

「貴様のような男が、ガンダムに乗るなど!!」

「テメェの許可がいるのかよぉ!?」

二機は互いに近づくと斬りあいを始める。
エクシアはGNソードを縦一文字に振り、その後左手のシールドをツヴァイの顔面に叩きつける。
しかし、ツヴァイはその盾をつかむと剥ぎ取って投げ捨て、バスターソードをエクシアの顔面へ向けて突き出す。
エクシアはすれすれでそれをよけて、左腕のガトリングを発射してツヴァイを引きはがそうとするが、ガンダムの装甲を相手にバルカンではどれほどの役にも立たない。

「クッ!!」

「刹那!!」

強襲用コンテナを操縦していたラッセはビームガンで援護するが、ツヴァイの射撃の前に距離をとらざるをえなくなる。

「なんて正確な射撃だ!!」

「最高だな、ガンダムってやつは!!覚悟しな!!」

サーシェスはエクシアにめがけバスターソードを振り下ろそうとするが、エクシアが二本のGNブレイドを構えているのを見て距離をとる。
その瞬間、それまでツヴァイがいた場所がGNブレイドによって斬り裂かれていた。

「はぁはぁ……」

「ガンダム……こいつはとんでもねぇ兵器だ!戦争のし甲斐がある!!」

刹那は肩で息をするが、サーシェスの息も興奮からか荒い。
水平線からは陽が昇り始め、戦いがどれほど長く続いているのかを表している。

「テメェのガンダムもそのためにあるんだろ!!」

ツヴァイがエクシアへとバスターソードを構えて突進する。

「違う!!」

刹那はその刃を左手のGNブレイドで止める。

「絶対に違う!!」

ツヴァイに残った右手のGNブレイドを振るう。
しかし、たやすく弾き飛ばされてしまう。

「俺のガンダムは!!」

左手のGNブレイドもすれ違いざまにはじかれる。

「こいつで終わりだ!!」

エクシアにサーシェスの凶刃が迫る。
その時、刹那は驚愕から目を見開いた。
もうすぐ死ぬことに対してではない。
目の前に表示された見たこともない文字に対してだ。
いつも見ていたモニターには羽根のついた金色の楔を模したソレスタルビーイングのマーク。
それが赤く輝き、その上にはTRANS-AMの文字が煌々と光っていた。










月 ヴェーダ内部

「レベル7クリア。ヴェーダを完全掌握しました。」

「そうか、遂に………!」

アレハンドロ達の前の舞台のような場所の下から、光とともに何かがせりあがってくる。
白いカプセルのようなそれの中には、ガラスでできたのぞき窓からモノクルをかけた老人が中で眠っているのがうかがえる。

「やはりいたか、イオリア・シュヘンベルグ。世界の変革見たさに、よみがえる保証もないコールドスリープで眠りにつくとは……」

アレハンドロはカプセルへと近づいていく。

「しかし、残念だがあなたは世界の変革を目にすることはできない。」

アレハンドロは金色に輝く銃を取り出し、安全装置を外す。

「あなたが求めた統一世界も、その抑止力となるソレスタルビーイングも、この私が引き継がせてもらう。そうだ……世界を変えるのはこの私、アレハンドロ・コーナーだ!」

アレハンドロの銃が火をふく。
のぞき窓に細かなひびが入り、イオリアの顔が見えなくなる。

「ハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

アレハンドロは狂ったように笑いながら何度も引き金を引く。
だがこの時、彼は重大な過ちを犯していたことに気付かなかった。
そのことに最初に気付いたのはリボンズだった。
周りにあったヴィジョンにノイズがはしる。

「なにが!?」

「リボンズ!これは!?」

戸惑う二人の前に、壁と思われていたものが巨大なモニターに変わり、イオリアの姿が映し出される。

『この場所に、悪意を持って現れたということは残念ながら、私の求めていた世界にはならなかったということだ。』

「イ、イオリア・シュヘンベルグ……!」

「システムトラップ……!」

『人間は今だ愚かで、戦いを好み、世界を破滅に導こうとしている。だが、私はまだ人類を信じ、力を託して見ようと思う。世界は、人類は、変わらなければならないのだから……』








大西洋上 孤島

サーシェスはわが目を疑った。
いきなり目の前から、あれほどはっきり見えていたエクシアが突如消えたのだ。

「なに!?どこだ!!」

後ろに気配を感じハンドガンを放つが当たらない。
今度は別方向に機影を見つけて発射するがやはり当たらない。

「なんだ!?あの動きは!?」

今まで戦っていた時の動きとは明らかに速度が違う。

「そこか!!」

サーシェスは振り向きざまに撃つ。
だが、エクシアは信じられない速度で縦横無尽に移動しながらサーシェスの放った弾をよけていく。
いや、サーシェスにはそれすら見えていない。
わかるのは赤い閃光が徐々に近づいてきていることだけだ。

「当たらねぇ!?」

サーシェスが驚愕の声をあげていると、赤い閃光が目の前から消え去る。
そして、すぐさま背中に衝撃が走る。

「俺の背後を!?」

慌ててバスターソードを後ろに振るが、それよりも早くエクシアの拳がツヴァイにたたきこまれる。
凄まじい衝撃にツヴァイは地上に仰向けに落下する。
エクシアがその動きを止めたとき、ネーナとラッセは唖然とする。

「なに……あれ……?」

「エクシアが……赤く……」

エクシアの装甲全体が赤く発光し、胸部のジェネレーターも激しく輝いている。
周りが驚く中、一番驚いていたのはエクシアを操る刹那だった。

「この……ガンダムは……?」

『……GNドライヴを有する者たちよ。』

「イオリア・シュヘンベルグ!?」

突如目の前のディスプレイに現れたイオリアに刹那は驚く。

『君たちが私の遺志を継ぐものなのかはわからない。だが、私は最後の希望を、GNドライヴの全能力を君たちに託したいと思う。君たちが真の平和を勝ち取るため、戦争根絶のために戦い続けることを祈る。ソレスタルビーイングのためではなく、君たちの意思で、ガンダムとともに……』

「ガンダム……」

刹那は改めて確信する。
この機体はただ戦うための道具なのではない。
戦争根絶を、本当の平和を勝ち取るための力なのだと。

(ならば……)

そのために

(俺は……)

戦う!

「どんな手品かしらねぇが!!」

背後からいつの間にか上空に戻っていたツヴァイがビームサーベルを振り下ろす。
だが、エクシアはGN粒子を残してその場から消える。
そして、目にもとまらぬ速さで縦、横、下、上からすれ違いざまにツヴァイを斬り刻んでいく。

「この俺がぁぁ!!」

「うああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!」

まだ月が輝く薄暗い空に無防備な状態で投げ出されたツヴァイへエクシアの二本のビームサーベルが交叉された。
しかし、斬り落としたのは左腰のスカート部分だけであった。
サーシェスは命からがらエクシアから逃げ出す。

「なんだ……!なんなんだありゃあ!!」

エクシアはツヴァイを追わずにただその背中を見つめている。
両手に持ったビームサーベルの刃を消すと。刹那は改めてモニターに表示された文字を見る。

「TRANS-AMシステム……これが…TRANS-AM(トランザム)!」







ラグランジュ3 クルンテープ周辺宙域

かつてガンダムの開発がおこなわれていたコロニー、クルンテープ。
その後ろに隠れるように小さな資源衛星がポツリと存在していた。
その中にはおよそただの資源衛星だとは思えないような量のコンピューターやその端末が残されている。
長年放置されていたにもかかわらず綺麗な状態で残されているそれはある種の異様な空気を漂わせている。
そんな中の一台のパソコンのモニターの明かりがつき、ある文字が表示される。

GN-EXCEED system









ラグランジュ3 周辺宙域

「!?消えた!!?」

目の前からソリッドが消え去り動揺するジンクスのパイロット。

「うあああぁぁぁぁぁ!!?」

「!!?」

後ろで何かが光ったのに気付いて振り返ると、そこには赤い何かが駆け抜けながらジンクスたちの手足を斬り落としていく光景があった。
その赤い何かが動きを止める。

「これは……!?」

ユーノは突如発動したシステム、TRANS-AMに動揺する。

「967、このシステムは一体!?」

「わからん。だが、事態が好転したのは確かだ。」

「でも、さすがにこの数を相手じゃ……!」

ジンクスたちは腕や脚が多少なくなった程度では戦闘をやめる気はないようだ。
むしろさらにソリッドとユーノへの憎しみを募らせているようにも見える。
それでもソリッドを警戒しているのかなかなか近づこうとせずに退路を断つような配置についている。
だが、相手が仕掛けてこなくてもこのままではらちが明かない。

「このままじゃ……」

ユーノが弱気になっていると、モニターに二人の人物の姿が映される。
一人は赤髪の男性。
際立って美男子というわけではないが、人のよさそうな笑みでこちらを見ている。
もう一人は金色の髪を後ろでまとめた女性。
美しい顔立ちをしているのだが、厳しい表情でこちらを見ている。

「こいつらは……!!」

「知ってるの、967?」

「ああ、こいつらは…」

『これを見ているってことは…』

967の言葉を待たず男性が話し始める。

『きっとなにかトラブルが起こったっていうことなんだと思う。』

『ルイード、いきなりそれじゃ見てるやつが混乱するだろ。自己紹介くらいしたらどうだい。』

女性は呆れたように男性の頭を軽く小突く。

『おっと、そうだな。俺の名前はルイード・レゾナンス。これを見ている君にとって先輩に当たる男さ。』

『あたしはマレーネ・ブラディ。ガンダムアブルホールのマイスターをしている。』

「ルイードとマレーネって!」

ユーノは以前シャルが話していたことを思い出す。
シャルとともにガンダムの開発にかかわった人物。
そして、フェルトの両親だ。

『それでいきなりだけど、これから俺たちが君に託すのは俺たちとは別のやつがテストをしていたシルトのデータから拝借してきたもんでね。こいつが起こしたとある事件のせいでシルトの開発は凍結されちまったのさ。』

『けれど、もしも介入を開始した時、何か問題が起こったら……例えば、組織内に裏切り者が出たときにこいつが何とかしてくれるかもしれない。そう思ってこいつをあたしたちの仲間の一人に頼んでヴェーダのシステムトラップの一部に組み込んでもらうことにした。』

『こいつの……GN-EXCEEDの発動条件は二つ。ひとつはヴェーダ、もしくはガンダムに何らかの問題、または変化が起きること。』

『もうひとつは、シルトの系列の機体が開発されていること。このシステムはもともとシルトに備わっていたものだからその系列の機体が開発されないことにはどうしようもないんだ。』

『はっきり言ってとんでもなく分の悪い賭けだ。けれど、俺たちはそれでもそのわずかな可能性に賭けてみようと思う。』

『あんたがどういうやつかわからないけど、こいつをどう使うかはあんたの自由だ。』

ユーノと967はじっと二人の言葉を聞いている。
過去のマイスターたちが、今のマイスターを、自分を信じてくれていたということが胸を熱くさせる。

『最後に……もし、俺たちの娘……フェルトに会うことがあったら伝えてほしいことがあるんだ。』

『……フェルトには自分が思ったように生きてほしい。私たちがマイスターだからじゃなく、フェルト・グレイスとして生き方を選んでほしい。』

『……愛してるよ、フェルト。』

二人はすべて言い終わると満足そうに微笑み、そしてゆっくりと消えた。
二人が消えた後のモニターにはGN-EXCEEDの文字が残されている。

「どうする?」

967がユーノに問いかける。
ジンクスたちは業を煮やしたのかじりじりとこちらに近づいてくる。

「……やるしかないさ。先のことを考えて今を後悔するより、この先後悔することになっても今を後悔したくない!!」

「了解だ!!GN-EXCEED発動!!」

モニターの文字が淡い萌黄色の光の粒になり消えていく。
そして次の瞬間、ソリッドの外見に変化が起こる。
両脚、両腕、肩の装甲が開き、それぞれ三枚ずつ放熱板のようなものが出てくる。
それはさながら鳥が今までたたんでいた羽根を広げたかのようだ。
GNドライヴもコックピットに聞こえるほど激しい唸りを上げて粒子を爆発的に生成していく。
そして、開いた羽根の間から大量の粒子が溢れだしていく。
だが、急激に増えたGN粒子の影響からかソリッドのボディが軋むような不気味な音が聞こえ始める。

「粒子生産量200%!?馬鹿な!この調子では機体どころか太陽炉そのものが持たないぞ!!」

コックピット内にもアラームが鳴り響く。

(まだまだこのくらい!!なのはだってあの時、耐えてみせたじゃないか!!)

なのはの使った力と同じ名前のシステム。
自分だって使いこなせるはず。
そう信じてユーノは意識を集中し魔法陣を展開してソリッドのシステムへのアクセスを開始する。

「これでぇ…どうだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

ユーノの叫びと同時にソリッドの異常振動が収まり、赤く輝く体に瑠璃色の六枚のGN粒子の翼を広げる。

「天使…………」

ジンクス部隊の隊員全員が誰が言ったかもわからないその言葉に無言で同意する。
本来は敵であるのだが、その姿は神話に出てくる天使に似て確かに美しい。

「ソリッド、目標を粉砕する。」

ユーノは軽く操縦桿を倒す。
その瞬間、見とれていたジンクスにソリッドが一気に接敵する。
そして、すれ違いざまに掴んだ左手を無造作に引きちぎる。
その光景で我に返ったジンクス部隊はソリッドへの集中砲火を再開する。
だが、ソリッドは避けるどころかGNフィールドを使う気配すら見せない。

「馬鹿め、これで消えされ!!堕ちた天使がぁぁぁぁ!!」

だが、放たれた弾丸はソリッドに当たることはなかった。
すべて見えない壁に阻まれるように方向を変えて飛び去っていく。

「そんな!?」

ソリッドはその場から動こうとはせずにジンクスたちを見渡す。

「どんな手を使ったかは知らないが!!」

一機のジンクスがビームサーベルの先をソリッドに向けて突進していく。
だが、それでもソリッドは避けようとはせずにただ手のひらをビームサーベルに向けてつきだすだけだ。

「それだけで防げるとでも…」

「GNリフレクション。」

その場にいた全員が驚愕する。
確かにソリッドの手のひらに刺さるはずだったビームサーベルがソリッドの手のひらに吸い込まれるように消えていったのだ。

「あ……あ………!?」

訳がわからずパイロットは操縦桿を動かすことも忘れて口をパクパクさせる。
ソリッドはおもむろにジンクスのビームサーベルを握っていた腕を掴み、自分の腰から抜き放ったビームサーベルでその腕を斬りおとす。

「て、撤退!!」

残っていたジンクスたちはグラムで動きがとまったジンクスを回収すると全速力で撤退していく。
ユーノはそんなジンクスたちを追わずにただ見送っている。

「なんとか………なったね…」

そう言った瞬間、ユーノの全身から力が抜けて操縦桿で体重を支えるように前のめりになる。

「まったく……実戦で使ってさっそくこの戦果か。お前の底力には毎回驚かされる。」

「自分でも……びっくり………だよ………」

「トレミーまでは俺が連れて行ってやる。しばらく休んでろ。」

「そう………するよ…………」

ユーノは操縦桿から手を離し、覚醒しきった頭をシートに預ける。

(……おそらくこの力は疑似太陽炉搭載型に対する切り札になる……。そして、おそらくエクシアのGNソードも……。)

GNフィールドの影響を受けないエクシアの実体剣、そして、圧倒的な出力とGN粒子を完全にコントロールするソリッドのGN-EXCEED。
この二つがあればなんとかなるかもしれない。
この時、少なくともユーノはそう考えていた。
すぐそこまで悲劇が近づいていることも知らずに。











天使たちは統合されていく世界に対し、答えを見つけ始める







あとがき・・・・・・・・・・という名のカウントダウン開始

ロ「TRANS-AM&オリシステム登場回でした。」

兄「でした、じゃねぇぇぇぇぇ!!!!」

狙撃手、ロビンに飛び蹴り。

ロ「どぅぶっはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

ティ「こんなトンでもチートシステムを出してどうする気だ!?」

ア「おまけにまた原作無視するし!!」

ユ「僕も使っておいてこんなこと言うのもどうかと思うけどこれはないよ。」

刹「とどめはネーミングセンス。」

ロ「おま……肉体的にボロボロなのに精神的に追い詰めるのはやめてくんない…………?」

ティ「貴様に人権などない。」

ロ「さりげなくひどいなお前!!」

フェイト「えっと……私の紹介は……」

兄「悪いけど今回はなしだ。というか勝手に登場したしな。」

ユ「フェイトもロビンに対して制裁をくわえない?」

バルディッシュ(以降 B)〈よろこんで。〉

フェイト「私の代わりに答えるのはやめてくれないかなバルディッシュ!?」

B〈といっているSirが一番乗り気なのだった。〉

フェイト「勝手に人の思考を捏造するのもやめよう!?いつからそんなふうになっちゃったの!?」

刹「出番がないことが原因だろう。お前たちの出番がないということはデバイスであるそいつらの出番もないということだからな。」

B〈………………………………〉

フェイト「ひょっとして図星!!?」

B〈さあ、今回の解説に行きましょう。〉

ア「誤魔化した!?」

ロ「フェイト……ちゃんと後でバルディッシュのご機嫌とっといてね…………ゲフッ!」

フェイト「あの、口からいろいろ出てるんですけど………」

ロ「それはお前の幻覚だ……そう思えば読者の皆様そう思ってくれるから…」

兄「……そういうもんか?」

ア「さあ……て言うか君とティエリアがほとんどやったんじゃないか。」

ロ「さっさと解説いけや!!もうかなり文字数オーバーしつつあるんだからさっさと締めないとまずいんだよ!!」

ユ「(自分が原因のくせに……)え~と、今回で遂にトランザム解禁だね。そしてソリッドはあのチート能力もついでに解禁。」

ロ「だからチート言うな!!あれにはちゃんと弱点的なものもあんの!!次回でちゃんと書くからチートって言うのはやめろ!」

ア「そうでなくてもいろいろマズイ表現があったよね。フェルトのご両親とか。粒子生産量とか。」

ロ「確かにこんな形で出して大丈夫かと思ったけどここいらで出しときたかったから。あと、粒子生産量に関してはさっきも言ったけど次回説明する。」

兄「お前あれだろ。夏休みの宿題を先延ばしにして最後の一週間で苦しみ抜くタイプだろ。」

ロ「……さあ、説明終了!次回予告へゴー!!」

フェイト(誤魔化した。)

刹「ガンダムを託されたマイスター達!」

ティ「新たに手にした力で国連軍に挑むガンダム!」

ア「だが、国連軍の中にサーシェスとスローネツヴァイの姿が!」

ユ「怪我をおして出撃したロックオンはサーシェスに戦いを挑む!」

フェイト「仇を討つための戦いの結末とは!?」

兄「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでくださってありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!そんじゃ、せーの……」

「「「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」」」



[18122] 30.ロックオン・ストラトス
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/10/17 11:45
プトレマイオス ブリーフィングルーム

ラグランジュ1の資源衛星内でのプトレマイオスへの強襲用コンテナの装備、キュリオスのテールブースターの搭載、デュナメスのコックピット部分の修理と大量の作業をクルーがこなす中、スメラギと刹那とユーノを除くマイスター達はブリーフィングルームでイオリアが自分たちに託したシステムについて話し合っていた。

「機体に蓄積した高濃度圧縮粒子を全面開放し、一定時間スペックの三倍に及ぶ出力を得る……」

「オリジナルの太陽炉のみに与えられた機能……」

「TRANS-AMシステム……」

「ハッ……イオリアのじいさんも大層な置き土産をしてくれたもんだ。」

ロックオンは眼帯で右目が隠れた顔で笑う。

「でも、TRANS-AMを使用した後は機体性能が極端に落ちる……まさに諸刃の剣ね……」

「んで、とどめはこいつか。」

ロックオンの言葉に続くように足元のモニターの画面が切り替わりソリッドの姿が映し出される。

「GN-EXCEEDシステム……さしづめ、こっちはシルトの置き土産ってところだね。」

「太陽炉を一時的に暴走状態にまでもっていき、それをコントロールすることで爆発的な出力アップと自分の周りに放出されたGN粒子で光学兵器類をすべて無効化する……」

「それとTRANS-AM使用時にも使えるGNリフレクションの完成形までもつかえている。はっきり言って現存する全ガンダムの中でも最強の部類に入るだろう。」

「けど、リスクも大きいわ。まず太陽炉の暴走状態をコントロールできるだけの優れたシステム操作能力がいるわ。」

「なけりゃ失敗してGNドライヴごとボンッ!ってわけか……」

「そうならなかったとしても機体と操縦者はただでは済まないだろうね。」

ユーノがそうなっていたかと思うだけでアレルヤの顔は青くなっていく。

「そして、発動した後もその出力と飛躍的にアップした性能を生かしきるためにはタイミングや敵や自分の攻撃軌道を即座に算出するような人間離れした演算能力が必要だ。」

「そして、偶然ユーノはそれをもっていたってことね。」

「そういや、その本人は今どうしてるんだ?」

「部屋で休ませてるわ。あれを使った反動なのかどうかはわからないけど、ひどく消耗してたから。」

「しかし……」

ロックオンの口元に笑みが浮かぶ。

「こんなトンでも能力があるんならソリッドだけでもなんとかなっちまいそうだな。」

「残念だけどそれは無理ね。」

スメラギが厳しい顔つきでロックオンの意見を否定する。

「どう言うことですか?」

「ソリッドのGNドライヴの現在の粒子生産率は20%未満よ。」

「なに!?」

ティエリアが目を見開く。

「GN-EXCEEDを使った後のソリッドのGNドライヴは極端に粒子生産率が落ちるみたいなの。ここまで戻ってこれたのもコンデンサーや機体の各部に残されていたGN粒子を使いながらなんとかたどりつけたというのが現実なの。」

「おいおい……じゃあ、GN-EXCEEDを使った後のソリッドは……」

「性能が落ちるどころか行動不能に陥る可能性もあるわ。イアンさんが改良を進めてくれてるみたいだけど、次の戦闘に参加するまでにはGNドライヴはもとに戻るかもしれないけど、改良自体は間に合いそうもないらしいわ。」

スメラギが説明を言い終わった時、正面のモニターに暗号通信が表示される。

「刹那からの暗号通信。」

「開いて。」

モニターから刹那の声が響く。

『エクシア、トレミーへの帰頭命令を受領。報告要件あり。地上にいた疑似太陽炉搭載型が全機宇宙に上がった。』

「やはり……」

『また、ガンダムスローネの一機が敵に鹵獲。』

「鹵獲!?」

マイスター達に緊張がはしる。

「国連軍か?」

アレルヤの質問に刹那は口ごもるが、意を決したように話しだす。

『……スローネを奪取したパイロットはアリー・アル・サーシェス。』

「!!!!」

ロックオンに衝撃がはしる。

『……以上だ。』

刹那はそれ以上会話に参加したくないのか通信を終了する。
ロックオンの肩が怒りに震える。

「アリー・アル・サーシェス……野郎がここに……!?どこまでコケにするつもりだ……!!」

この時、誰も見ていなかったため気付かなかったが、ロックオンの顔は見たこともないほどに憎悪で歪んでいた。
そして、誰でもいいからこのことに気づいていれば、あんな悲劇は起きなかったのかもしれない……






魔導戦士ガンダム00 the guardian 30.ロックオン・ストラトス

国連軍 バージニア級大型輸送艦

「フヘヘ……ご丁寧に予備パーツまでくれるとは気がきくねぇ。」

サーシェスは目の前で修理されていくガンダムを見ながら満足そうに笑う。
不本意だが国連軍にはいるために手土産のつもりで持っていったのだが、幸運なことにそのままガンダムのパイロットに任命された。
まだまだガンダムを使い足りなかったサーシェスとしてはこの上ない僥倖だ。

「貴官か、このガンダムを鹵獲したのは。」

サーシェスは部屋に入ってきた人物の方へふりかえる。
左目に傷のある顔にサーシェスは見覚えがある。

「頂部特務部隊のセルゲイ・スミルノフ中佐だ。」

「ロシアの荒熊から直々に挨拶していただけるとは……」

サーシェスはいつもの作り笑顔をセルゲイに向けながら自分も敬礼する。

「フランス第4外人独立機兵連隊、ゲーリー・ビアッジ少尉です。ガンダム掃討作戦に参加させていただきます。」

サーシェスはいつも通り素の自分を隠しとおせたと思っていたようだが、セルゲイはサーシェスの持つ、おぞましさとでも言うべきものを感じ取っていた。

「聞かせて欲しいものだね……どうやってガンダムを鹵獲したのか。」

サーシェスもセルゲイが自分の本性をある程度見透かしていることに気付いたのか、慌てることなく仕事、戦争をしている時の顔になる。

「へへへ……そいつは企業秘密ということで。」

サーシェスはそう言うと部屋を後にして廊下で顔をしかめる。

「ケッ!ロシアの荒熊だかなんだか知らねぇが俺に目をつけるならそれ相応の覚悟をしておいてもらうぜ。」







オービタルリング 周辺宙域

強襲用コンテナに乗っているラッセと刹那はようやくオービタルリング地帯を抜け出していた。
敵に発見されないためにかなり遠回りをしてしまったが、結局発見されることなく
無事にここまでこれた。

「答えは出たのか、刹那。」

ラッセは無事にオービタルリング地帯を抜け出せたことに安堵したのか、大きく嘆息しながら刹那に問いかける。

『わからない……』

「なに?」

『だが、俺は……俺たちはイオリア・シュヘンベルグに託された。なら、俺は俺の意志で紛争根絶のために戦う。ガンダムとともに。』

刹那の言葉を聞いたラッセはフッと笑う。

(それが答えなんだよ、刹那。今はまだわからないかもしれないがな。)

そして、今度はラッセが自分自身の答えを刹那に語り始める。

「……正直、俺は紛争根絶ができるなんて思っちゃいねぇ。だがな、俺たちの馬鹿げた行いは良きにしろ悪しきにしろ人々の心に刻まれた。……今になって思う。ソレスタルビーイングは、……俺たちは存在することに意義があるんじゃねぇか、ってな。」

『存在すること……?』

「人間は経験したことでしか本当の意味で理解しないということさ。」

ラッセとの話を終えて刹那は考え込む。
介入を開始してから何度も現実を突き付けられた。
自分のやっていることが無意味に思えた時もあった。
それでも、ここまでこれた。
迷いながら、躓きながらも進んできた。
もしラッセの言うように存在することに意味があるのなら、自分のしてきたことは無駄ではなかったのではないか。

(俺の戦いは……無意味じゃなかった。)

目の前に自分の瞳からこぼれた涙が球になって漂う。
刹那はハッとすると涙をぬぐい、途切れた緊張感を取り戻す。
まだ終わってはいない。
そう自分に言い聞かせ気を引き締めているとモニターに電子音とともに文字が出現する。

「トレミーが国連軍の艦隊を捕捉!?」

「チッ!刹那、しっかりつかまってろ!!」

刹那がバイザーを下げると同時に加速による凄まじいGが発生する。
だが、二人はそんなことなど気にせずに仲間の待つプトレマイオスへと急ぐのだった。







ラグランジュ1 周辺宙域 プトレマイオス

「接近する輸送艦はユニオンのバージニア級三隻と推定。」

「有視界戦闘領域まで、あと4200。」

予想より早く現れた国連軍だったが、スメラギは冷静だ。

「資源衛星を利用しながらトレミーは後退。キュリオス、ヴァーチェは防衛戦用意。ソリッド、デュナメスはトレミーで待機。」






「おいおいそりゃねぇだろ!」

待機していた部屋から出ようとするロックオンはスメラギの指示に文句を漏らしながら扉を開けようとする。
だが、

「!?」

ボタンを押しても扉が開かない。
何度も押してみるがやはり開かない。

「ク!ロックがかかってやがる!」

ロックオンは歯ぎしりをする。

「こんなことをするのは……ティエリアか!」







「少し強引じゃないか?」

アレルヤが眉をひそめながらティエリアに問いかける。
ロックオンを出撃させないことには賛成だが、これは少しやりすぎだ。

「口で言って聞くタイプじゃない。」

「でも……」

「私は前回の戦闘で彼に救われた。今度は私が彼を守る!」

「ティエリア……」

感情をむき出しにする。
ここまでムキになるティエリアをアレルヤは初めて見た。
これまでにないほどの人間としての強い意志をもって、ティエリアはヴァーチェに乗り込んだ。







周辺宙域 衛星群外

「全パイロットに通達。出撃したガンダムは2機だけだ。フォーメーション245で対応。包囲して殲滅するぞ!」

セルゲイの指示で一斉に目標地点に向かっていくジンクスたちをサーシェスはツヴァイに乗って後ろの離れたところから眺めている。

「おうおう、皆さんお元気なこって。……ん?」

サーシェスの目の前のモニターに拡大されたキュリオス、ヴァーチェが映される。

「来たか…!」

戦争をすることの喜びを全身で感じていた。






テールブースターを装備したキュリオスを駆るアレルヤはいち早くジンクス部隊を捕捉する。
デュナメスは今のロックオンを乗せるわけにはいかずに出せない。
ソリッドもGNドライブは通常の状態に戻ったがユーノがまだまともに動ける状態ではない。
となると自分とティエリアで何とかするしかない。

「先制攻撃をしかける!」

アレルヤの声とともにキュリオスに装備されたテールブースターの二つの砲門に光がたまっていく。

「いけぇぇぇぇ!!」

テールブースターから放たれた巨大なビームの奔流が逃げ遅れたジンクス一機を飲み込み爆散させる。

「なに!?」

「新装備か!?」

「しゃらくせぇ!!」

セルゲイとダリルが動揺する中、パトリックが一人攻撃を開始する。
これが合図となりジンクスたちも一斉にビームライフルによる射撃を開始した。
だが、

「テールブースターで機動性は上がっている!」

キュリオスは赤い弾幕をかいくぐって再度GNキャノンをおみまいする。
今度は避けられてしまうが、後ろから放たれたヴァーチェの二門に増えたGNバズーカの一撃が一機を確実にとらえ、煙とともに爆散させる。

「各機フォーメーションを崩すな!」

セルゲイは動揺する部下に檄を飛ばす。

「プランEで各個撃破を行う!」

冷静さを取り戻した国連部隊は二手に分かれたヴァーチェとキュリオスを追う。

ヴァーチェの撃破に向かったジンクス達は砲撃を警戒しているのか細かく動きながらビームライフルを連射する。
ヴァーチェはGNフィールドを張って防ぎ、相手の隙をついて両肩のGNキャノンをみまう。
逃げ遅れた一機が墜ちるが、他のジンクスたちはひるむことなく攻撃を続行する。
しかし、GNフィールドに阻まれ攻撃が効かない。

(これなら………いける!)

時間はかかるがなんとか退けることができる。
ティエリアはそう思った。
だが、後ろから何かがこちらに近づいてくる。
オレンジの体に巨大な剣を持ち、自分たちの機体と同じような顔をしている。

「!!スローネか!!」

ティエリアはGNバズーカ、GNキャノン、合計四門から強烈な砲撃を放つ。
しかし、スローネツヴァイはそれをかわす。

「行けよファング!!」

ツヴァイの腰から四つの刃が放たれ、不規則な動きでヴァーチェに迫る。
ヴァーチェは両肩のGNキャノンでファングの破壊を試みるが、二つは撃破するものの残り二つがGNフィールドを突き破り右肩と左脚の装甲を貫いた。
ファングが離れると損傷した箇所から火花とともに小爆発が起こった。
そして、その衝撃でGNバズーカを片方手放してしまう。

「うあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

激しい揺れがティエリアを襲う。
ヴァーチェがぐらぐらと揺らぐのを見たサーシェスはにたりと笑ってジンクスたちに通信を入れる。

「あとは好きにしな!」

そう言ってサーシェスは背を向けてその場を離れる。
ジンクスたちは今までの鬱憤を晴らすようにヴァーチェへと集中砲火をくわえて小さな衛星に磔にする。
ヴァーチェもGNフィールドを張って防ごうとするが先ほどのツヴァイの攻撃で出力が落ちてしまい、少しづつフィールドを突き抜けてくるものも増えてくる。

「ぐああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

ティエリアの悲鳴がコックピットに響くがジンクスたちは容赦しない。
それどころかさらに弾丸の数を増やしてヴァーチェを攻め立てた。

一方、アレルヤはテールブースターを装備したキュリオスでジンクスの大軍を相手に善戦していたが、ジンクスにめった撃ちにされているヴァーチェを見つける。

「ティエリア!!」

アレルヤは気をとられてしまい操縦がおろそかになってしまう。
その一瞬をつかれテールブースターの後部に一発の光弾が直撃する。

「グァ!!直撃!?」

その時、アレルヤの頭を強烈な頭痛が襲う。

「っつ!!?頭が!!グァァァァ!!」

アレルヤが頭痛に苦しんでいるとキュリオスにさらに攻撃が加えられる。
だが、アレルヤにはそんなことを気にしている余裕はない。
この痛みには覚えがある。
今まで散々苦しめられてきたものだ。

「ソーマ・ピーリスか……!!」

上からビームサーベルを抜いて迫るジンクスに対してアレルヤはテールブースターを切り離してMS形態に変形してビームサーベルで受け止める。

「被験体E-57!!」

「クゥゥゥ!!」

アレルヤは頭痛に耐えながらピーリスのジンクスと鍔迫り合いをする。
その時、キュリオスの背後に二発の赤い光弾が突き刺さる。

「ぐああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「いまだ、少尉!!」

「我々が援護する!!」

「了解!!」

セルゲイとミンの言葉に背中を押され、ピーリスは再度キュリオスに襲いかかった。






プトレマイオス ブリッジ

「キュリオス、テールブースター破損!超兵と思われる機体と交戦中!」

「ヴァーチェ、敵MSの集中攻撃を受けています!」

スメラギは誰にもわからないよう唇をかむ。
不利だとはわかっていたがここまで押されるとは思っていなかった。
これ以上は危険だ。

「……ガンダムに後退命令を。」

スメラギが後退命令を出すが誰も否定する者はいない。
ガンダムを下げればプトレマイオスが攻撃にさらされるが、仲間がやられるているのを黙って見ているわけにはいかない。
誰もが覚悟を固めたその時、ブリッジに電子音が響く。

『ブリッジ、聞こえるか!?デュナメスが!!』

「!!?」

イアンの慌てた声にブリッジクルーは動揺する。
そこに、

『デュナメス、出撃する!!』

「ロックオン!?」

(ロックオン!?)

スメラギは驚きの声を上げるが、フェルトはそれ以上に驚く。

『GNアーマーで対艦攻撃をしかける!あんたの戦術通りにやるってことだ。』

「でもその体で!!」

スメラギは止めようとしたがロックオンからの通信が切れてしまった。






コンテナ

通信を切った後、ロックオンは静かに左目を閉じ、これまでのことを思い起こす。

家族を失った瞬間。
その後、一人で生きてきた日々。
ソレスタルビーイングにスカウトされた時のこと。
アレルヤ、ティエリア、刹那、エレナと初めて顔を合わせた時の思い出。
エレナが拾って来たユーノが仲間になった時。
エレナが死んだ時のユーノの泣いている姿。
介入を開始してからのこと。
そして……

ロックオンは目を開けてハロに笑いかける。

「ハロ、悪いがつきあってもらうぜ。」

「了解!了解!」

自分の無茶に付き合ってくれる相棒への礼を込めた笑みから、鋭い目つきに変わる。

「アリー・アル・サーシェス……!」

憎い敵の名を呟くとロックオンは時折火球が瞬く宇宙へと飛び出していた。








ラグランジュ1 周辺宙域

「墜ちろぉぉぉぉぉ!!」

キュリオスのすぐそこまでジンクスの刃が迫る。
その時、キュリオスの体全体が赤く輝き、ピーリスの攻撃をかわす。

「!!?」

「なんだ!?」

「あれは!?」

三人が驚く中、赤い閃光と化したキュリオスはジンクスたちの弾丸を潜り抜けて戦場を駆ける。
そして、TRANS-AMを使ったキュリオスだけでなくアレルヤ自身にも変化が起きていた。

「!頭痛が!?」

あれほど痛んでいた頭が今は嘘のように何ともない。

(脳量子波は俺が遮断してやったぜ……)

「ハレルヤ!」

今まで自分に協力したことのないハレルヤが進んで力を貸している。
その事実に戦闘中にもかかわらずアレルヤは呆けてしまう。

(ボーッとしてんじゃねぇよ……ブチ殺せ!アレルヤァァァァァァ!!)

降り注ぐ赤い雨をかいくぐるキュリオス。
そして、いつもとは違いよく狙いを定めて二発だけビームサブマシンガンを発射する。

「うぁ!!」

「「少尉!!」」

ピーリスのジンクスはそのうち一発は避けたが、残り一発は左脚に被弾する。
そして、ピーリスのもとに駆けつけようとしたセルゲイとミンにもキュリオスの弾丸が当たる。

「ぬおおぉぉぉ!!?」

「チィっ!!」

だが、いずれも右腕と左腕を奪う程度で致命傷とは言えない。
そして、この敵を圧倒している時間がもうすぐ終わる。

「クソ!TRANS-AMの限界時間が……!」

高速の移動によるGに耐えながらアレルヤはメーターを見て唸る。
もし、TRANS-AMが解除されれば機動性はガタ落ちだ。
そうなってしまえばいい的だ。
粒子残量がもう残りわずかになり、ここまでかと思われたその時。

「撤退した!?」

どういうわけかジンクスたちは我先にと撤退していく。

(詰めが甘ぇなぁ。)

ハレルヤの呆れぎみのため息を聞きながらアレルヤは粒子残量がなくなって機動性の落ちたキュリオスを引きずるように動かしながらプトレマイオスへの帰路についた。







四方八方からの攻撃にピンポン玉のように巨体を弾かれるヴァーチェ。
ティエリアはリスクを考えつかってこなかった切り札を遂に切る。

「ト……TRANS-AM!!」

ヴァーチェの体が赤い輝きに包まれていく。

「あ、あれは!?」

「あの光は!?」

「例の報告にあった敵の新能力か!!」

国連軍が動揺する中、ヴァーチェはGNバズーカのバーストモードを発動する。
今までため込んだことのない量のGN粒子をため込んで悲鳴を上げるGNバズーカの引き金を引く。
その瞬間、これまで撃った中で最大級の光の柱、いや、もはや光の壁と化したビーム光がジンクスたちに押し寄せる。
その巨大さから逃れる場所を失ったジンクスたちは次々に跡形もなく消え去っていく。
射線軸上にある衛星の後ろに隠れて安心していた一機もその衛星ごと撃ち砕かれる。

「敵の新兵器か!?」

いち早く危険な気配を感知し、少し離れたところでその様子を見ていたパトリック。
そんな彼に思いがけない不幸が降りかかる。
彼の乗るジンクスの頭めがけヴァーチェが砕いた衛星の小さなかけらが高速で迫る。

「へ?おわぁぁぁぁぁぁ!!た、大佐ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

一方的に惚れ込んだ上司の階級を叫びながらパトリックは遥か彼方へと飛んでいった。

砲撃が終わるとヴァーチェの体から少しずつ赤みが抜けていく。

「粒子残量が……!うっ!!」

モニターを見て残りの粒子が少ないことを思い知らされていたティエリアに残っていたジンクスたちが襲いかかる。

「よくもやってくれたなぁ、ガンダムゥゥゥ!!」

ダリルは怒りに身を任せてヴァーチェへと突っ込んでいく。
しかし、

「敵機、急速接近!!」

「なに!?」

別方向から二つのビームの奔流がジンクスたちを何度も襲う。
ティエリアはその方向を見て驚く。

「GNアーマー!?」

右には二つの長い砲身が、左には長い大きな箱状のものを、そして肩には二つの大きな砲門と鋭い刃のような翼をもった重装甲の機体、GNアーマーが接近してくる。その青い鎧に身を包むのは深緑の機体、デュナメスだ。
乗っているのは当然、

「ロックオン・ストラトス!!」

ダリル達は新たにやってきたGNアーマーtypeDに攻撃を集中し始める。

「新手に攻撃を集中しろ!!」

しかし、GNフィールドに阻まれてビームライフルの弾は弾かれていく。
デュナメスの中でロックオンは不敵に笑う。

「悪いが今は狙い撃てないんでね……圧倒させてもらうぜ!!」

「砲撃開始!砲撃開始!」

右手に装備されていた箱が開き、中から無数のミサイルがジンクスたちに放たれる。
ジンクスたちは撃ち落とす、もしくは避けようとするが、大量のミサイルからは逃げ切れずにGNミサイルに食い込まれ、圧縮粒子を注がれて体を膨らませて爆散していく。
大量の火球が宇宙に咲き乱れた。

「このまま対艦攻撃に移行する。」

ロックオンが敵の輸送艦に向かおうとした時、ティエリアの顔が横に映る。

『ロックオン、そんな体で……!』

「気遣い感謝するよ。だがなぁ、今は戦う!!」

ペダルを踏んで急加速をしたGNアーマーは光の筋を残して彼方へと向かっていった。







プトレマイオス ブリッジ

「キュリオス、ヴァーチェ、TRANS-AM終了。粒子の際チャージまで機体性能が低下。」

「ロックオンは?」

スメラギはフェルトのほうを向いて尋ねる。
ロックオンの状況を聞くことも目的だが、フェルトのことも心配だ。
震える指でキーボードをたたくその姿は見ていて痛々しい。

「敵MS部隊を突破。対艦攻撃に突入しました。」

MS部隊を突破できたと聞いてスメラギは一安心するが、それでも危険な状態には変わりない。
そんな時、再びイアンから通信が入る。

『すまん!!今度はユーノだ!!』

『何チクってんだイアン!俺は大丈夫だって言ってるだろ!?それに今は少しでも戦力が欲しいところだろ!?』

『それとこれとは話が別だ!!あんなに消耗してたやつが無理をするな!!』

『グダグダ抜かすな!!それにもうGNアーマーに乗っちまったんだから出るしかないだろ!』

通信機器を通して言い争う二人だったがスメラギの一声で決着がつく。

「GNアーマーtypeSはロックオンの援護に向かって。」

『おい!!』

イアンはスメラギに抗議しようとするがスメラギとユーノはどんどん話を進めていく。

「そのかわりGN-EXCEEDは絶対使用しない。これが条件よ。」

『了解!じゃ、そう言うわけだから頼むぜ、イアン。』

『ええい!!もうどうなっても知らんからな!!』

イアンはやけっぱちと言った感じで了承する。

『GNアーマー、ユーノ・スクライア、出撃する!』

右手に巨大なブレードが装備され、左には大型ガトリングが装備された青い鎧がコンテナから漆黒の宇宙に飛び出していく。
なにより特徴的なのは両脇に水色の巨大な畳まれた翼のような大きなビットが装備され、両肩の部分には一回り小さな青いビットが2対ずつ装備されている。

「967、バスタービットの制御と回避は任せるよ!」

「承知した!!」

ユーノはこの時、嫌な予感がしていた。
なぜか父やエレナの死に様が頭から今日に限ってこびりついて離れない。
普段なら操縦桿を握れば大抵のことを頭から切り離して操縦に集中するのに今はなかなかそれができない。
まるで、これから誰かがいなくなってしまうような、そんな不安がユーノの頭の中で渦を巻く。

(……だったら、僕の手でそれを防ぐまでだ!)

ユーノは仲間の待つ戦場へと急ぐ。
自分ならきっと救えると信じて。








ラグランジュ1 周辺宙域

マネキンたちにも近づいてくるそれが肉眼で見えた。
それの持つ巨大な砲門が火をふけばひとたまりもないだろう。

「敵MA接近!」

「リニアカノンで応戦しろ!」

三隻のバージニア級は装備されたリニアカノンでGNアーマーを攻撃する。
だが、本来MSやMAとの戦闘を考えて作られていないので、GNアーマーは苦も無く射程内まで接近する。

「一気に本丸を狙い撃つ!!」

両肩の大型GNキャノン、そして右側に装備されたGNツインライフルが同時に発射される。

四つの光に貫かれたバージニア級が爆炎を上げて宇宙に散っていく。
自分のすぐそばで味方がやられたことで流石にマネキンの顔にも冷や汗が滴る。

「MS隊はまだか!?」

「到着まで180セコンド!!」

マネキンの隣にいたもう一隻の艦が墜とされ遂にマネキンの乗っている艦が最後となる。

(やられる!)

マネキンは思わず目をつぶった。

「これで終わりだ!!」

ロックオンは最後の一隻に向けて引き金を引く。
しかし、横から飛んできた赤い光弾にツインライフルを破壊され発射が阻止される。

「なに!?」

ロックオンは飛んできた方向を見てしまうが、目の前にいたバージニア級が発射したリニアカノンが機体に当たる。

「グッ!!しまった!!」

バージニア級、そして横からの攻撃にGNアームズはあっという間にボロボロにされていく。

「クソ!!」

これ以上GNアームズを使っていたらマズイと判断したロックオンはドッキングを解除する。
その次の瞬間、リニアカノンがGNアームズを直撃し、煙とともにGNアームズはバラバラになった。
ドッキングを解除したデュナメスにさらに赤い光弾が襲いかかる。
ロックオンは身軽になったデュナメスを巧みに操縦してその攻撃をかわす。
攻撃をしかけた機体はまるで戦いを楽しむかのように無用と思われるようなアクロバティックな動きで接近してくる。
オレンジの装甲に赤い瞳をしたガンダム、スローネツヴァイは狂った喜びに振り回され、ハンドガンを乱射しながらデュナメスとすれ違いそのまま去っていく。

「あれはスローネ……!!アリー・アル・サーシェスか!!!!」

ロックオンはガンッ!と乱暴にペダルを踏んでスローネの、いや、サーシェスの追跡を開始する。
資源衛星群に紛れ込んだスローネを発見したロックオンはスナイパーライフルを発射する。
しかし、スローネは進路を阻む衛星をものともせずに突き進みながら、同時にロックオンの狙撃をかわしていく。
だが、かわされているのはサーシェスの技術のせいだけではない。

「クッ!!利き目のせいで!!」

利き目が見えないせいで上手く狙いがつけられない。
これではスローネの機動力を相手にこれでは当てることは難しい。
スローネはデュナメスの狙撃から逃げるように衛星のかげに隠れると、旋回するように反対のかげからバスターソードを構えて飛び出してくる。
デュナメスは後ろの腰のビームサーベルを抜いてそれを受け止める。
ロックオンはディスプレイ越しに仇が乗っているであろうコックピットを睨む。
鍔迫り合いで発生している光でよく見えないが、ロックオンにははっきりとその位置が見えていた。
狙い撃つべき位置が。

「KPSAのサーシェスだな!?」

「へっ!!クルジスのガキにでも聞いたか!?」

その声を聞いた瞬間、ロックオンの瞳は怒りで大きく見開かれる。

「アイルランドで自爆テロを指示したのはお前か!?なぜあんなことを!!」

「俺は傭兵だぜ!!それになぁ……」

サーシェスはにやりと笑って大きく操縦桿を前に倒してバスターソードを振るう。
デュナメスは押し飛ばされるような形でスローネから離れる。
スローネは勢いをつけて再度デュナメスに斬りかかり、再び鍔迫り合いを開始する。

「AEUの軌道エレベーター建設に中東が反発するのは当たり前じゃねぇか!!」

「関係ない人間まで巻き込んで!!」

「テメェだって同類じゃねぇか!!紛争根絶を掲げるテロリストさんよぉ!!」

「咎は受けるさ!お前を倒した後でなぁ!!」

ロックオンは鍔迫り合いをしながらデュナメスの腰に装備されたミサイルを発射する。

「おっとぉ!!」

気付いたサーシェスは発射する直前に後ろに下がると向かってくるミサイルをバク宙するように上に上がって避ける。
ミサイルは後ろにあった資源衛星にぶつかって光と爆煙を発生させる。
サーシェスは挑発的に笑うとその場から離れていく。

「待ちやがれ!!」

ロックオンはその姿を見失わぬように猛スピードで追跡する。
その姿は世界を変えるために戦うガンダムマイスターではなく、ただ復讐を果たそうとする一人の男のものになっていた。







別ポイント

「刹那、ポイントの座標を確認した。ドッキングを解除する。」

「TRANS-AMで戦闘宙域に向かう!」

体を赤く発光させたエクシアが急加速を開始する。
刹那もまた、ユーノと同じく戦場を漂う嫌な気配を感じ取っていた。
昔、よく似た空気の中で戦っていたことがある。
こんな空気が漂っている時には必ず誰かが死ぬ。

(頼む……!間に合ってくれ!!)








衛星群

衛星の中を寝そべった状態でデュナメスのほうを向きながらスローネツヴァイは狙撃を回避する。
デュナメスは左手のライフルを下げて右手に握ったビームサーベルでツヴァイを斬りつける。
ツヴァイはそれをバスターソードで受け止める。

「絶対許さねぇ!!」

二機は幾度も剣を交え、撃ちあう。
片方は戦いを楽しむため。
もう一方は復讐のため。
歪んだ感情が交錯し合う。

「テメェは……戦いを生み出す権化だ!!」

「喚いてろ!!同じ穴のムジナがぁ!!」

「テメェと一緒にすんじゃねぇ!!!!」

デュナメスは鍔迫り合いのさなか、左手のライフルを捨てて腰に装備されていたもう一本のビームサーベルを抜き放つ。
勢いよく振られたそれはバスターソードを握るツヴァイの右腕を切断する。

「やべぇ!!」

ツヴァイは慌てて逃げるがデュナメスはライフルを拾って追いかける

「俺はこの世界を……!」

その時だった。

「敵機接近!敵機接近!」

「!!?」

目の前のツヴァイに集中しすぎていたロックオンは上空から近づく一機のジンクスに気付かなかった。

「そこにいたかガンダム!!」

そのジンクスに乗るダリルは何も持たずに突っ込んでいく。

「ハワードの仇!!」

「邪魔すんじゃねぇ!!」

ロックオンは残っていたミサイルをジンクスに向けて放つが、ダリルはジンクスの両腕を前で交差させて突っ込んでいく。
ヒットしたミサイルが圧縮粒子を注ぎ込む。
左腕がもげ、コックピットも激しく損傷する。
デュナメスからさらにライフルでの追撃が来るがダリルは構わず突っ込んでいく。

「俺は……!フラッグファイターだぁぁぁぁぁ!!!」

その時、最悪の偶然が起こってしまった。
フラフラと軌道を変えたジンクスがデュナメスの右側、ロックオンの死角に入り込んでしまったのだ。

「しまった!!」

一瞬敵を見失ってしまったロックオンはデュナメスの右手のビームサーベルを振るのが遅れ、特攻をしかけたジンクスに右腕を肩から持っていかれる。
ジンクスも限界だったのか満足そうにデュナメスの腕をもったまま爆煙へと変わった。

その様子を見ていたサーシェスの顔が醜悪な笑みで歪む。

「右側が見えてねぇじゃねぇかよ!!」

ツヴァイの腰からファングを放ち、デュナメスの死角から攻撃を仕掛けさせる。
デュナメスはビームピストルを抜いてなんとかファングを落としていくが、遂に対応できなくなりファングの接近を許してしまう。

「ロックオン!ロックオン!」

「見えねぇ!!」

ファングはデュナメスの頭と右脚に刺さった。
しばしの沈黙ののち、デュナメスの火花が大きくなり、耐えきれなくなったように爆発を起こした。

「ぐあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!」

煙の中から出てきたデュナメスはもはや原型をとどめていなかった。
顔は吹き飛ばされ、両脚は途中からなくなり、傷口からは火花が散っている。
武器は何一つ残っておらず、体中には爆発の凄まじさを物語る黒く焼け焦げた跡がいくつも刻まれている。

「損傷甚大!損傷甚大!損傷甚大!戦闘不能!戦闘不能!戦闘不能!戦闘不能!」

ハロの騒がしい声でロックオンは意識を取り戻す。
ほんの十秒ほど気を失っていただけのはずなのに何時間も眠っていたような気がする。

(…………逃げねぇと……せめて……太陽炉は……)

肋骨が折れているのか口の中は血の味が広がり、ヘルメットのバイザーにもひびが入り、右腕も傷を負っている。
本来なら痛みで全身が動かないはずなのだが、不思議とロックオンは痛みを感じなかった。
それが使命感から痛みを感じないのかどうかはわからないが、ロックオンはなんとか操縦桿を動かしデュナメスを衛星のかげに隠す。

(……エレナも……こんな、感じだったのか……?)

ふとエレナのことを思い出す。
エレナも怒りにまかせて戦い、命を落とした。

(……ははっ……目の前で見てたはずなのに……何一つ、学んでねぇな…)

それでも、エレナは最後にユーノに笑いかけた。
変わることができた。
けど、

(………悪いな、エレナ……。俺は変われそうにねぇや。)

ロックオンは狙撃用のスコープを降ろすとコックピットの天井と固定していたロックを外して取り外す。
そして、ロックオンはコックピットのハッチを開ける。
ギシギシと軋みながらもゆっくりと口をあけて宇宙への出口を作る。
何事かとハロはキョロキョロとあたりを見回す。

「ハロ………デュナメスを……トレミーに戻せ……」

ハロに話しかけるその声は内臓にダメージを追ったせいでとぎれとぎれになってしまう。
自分のダメージがどれほどかはわかっているが、ロックオンは無限の闇が広がる宇宙へとスコープを両手に抱えて出ていこうとする。

「ロックオン!ロックオン!」

ハロがロックオンによびかける。
だが、

「命令だ。」

いつもは相棒と呼ぶハロに対して冷たい言葉をかける。
それでもハロはロックオンの名を呼ぶのをやめない。

「ロックオン!ロックオン!」

ロックオンは足を止めてハロの方へふりかえる。
先ほどとは違い、その顔にはいつもの飄々とした笑顔が浮かんでいる。

「心配すんな……生きて帰るさ…」

ロックオンは優しくハロの頭をなでると背中に付けた移動用のバーニアをふかして宇宙へと飛び出していく。

「ロックオン!ロックオン!」

ロックオンの耳にハロの声が悲しげに聞こえる。
単なる電子音の集合に過ぎない音がこれほど悲しく聞こえるのはエレナの最後を思いだして、感傷的になっている自分の妄想なのだろうか。

(………かまわねぇさ……。たまには……いや、最後くらい感傷的になるぐらいいいだろ…)

振り返るとハロが目を点滅させて自分に呼び掛けてくる。
しかし、その声は通信範囲を離れつつあるためか、もうかなりノイズが混じっている。

「太陽炉を頼むぜ……あばよ、相棒。」

ロックオンの言葉を最後にハロの声が聞こえなくなる。

(………こんなずるいマネしてごめんな…)

迷いを振り切るように口を真一文字に結ぶとロックオンはそのまま目の前のGNキャノンの残骸まで向かった。







衛星群外

刹那は戦闘が終わって静まり返った戦場を駆けていく。
今のところジンクスの残骸だけでガンダムがやられたような残骸は残っていない。
その時、コックピットの中にアラームが鳴る。

「TRANS-AMの限界時間が……!」

メーターを見ると残量粒子が底を尽きかけていることがわかった。
このままTRANS-AMを使い続ければ救援に間に合ったとしても役には立たないだろう。
だが、それでも刹那は止まらない。

「頼む!間に合え!!」









「僕は急いでるんだ!悪いけど手加減はできないよ!!」

ユーノは左手に装備されたガトリングを乱射しながらジンクス部隊を突っ切っていく。
後ろに回ったジンクスがライフルを構えるが、そのさらに後ろに巨大な二機のビットが現れる。

「バスタービット、チャージ!!」

二機の砲撃専用のバスタービットにエネルギーがたまるのに合わせて発射口の前にある隙間にピンクの稲妻が奔る。

「「いけぇぇぇぇぇぇ!!!!」」

放たれた光が攻撃しようとしたジンクスを飲み込み、そのまま射線軸上にいたGNアーマーも襲う。
しかし、

「マルチビット、リフレクト!!」

すぐ後ろに展開していた小さなマルチビットが二機ずつの組になる。
そして、発射口を中心として羽根の部分が直角に開きそこから出てきた光の線で互いに結び付いて四角い力場を形成する。
バスタービットの砲撃はその力場に弾かれ別の方向に曲がり別のジンクス二機を撃破する。

「967、早く行こう!!」

「焦るな!こいつらをなんとかしないことには俺たちも危険だ!」

「でも!!」

「動きは俺に任せると言ったのはお前だろう!!俺を信じろ!!」

回避行動をとりながら967は叫ぶ。

「……わかった。早くこいつらを片付けよう!」









衛星群

ロックオンはGNキャノンの残骸の上でジッとスコープを構えていた。
確認したがあと一発程度は発射できる。
その一発で奴を仕留める。
しかし、最初はそれほど感じてなかった痛みが全身を襲う。
肋骨が折れて肺をかすめているのか、いくら息を吸っても体にしみわたる感覚がない。
胃からは何度も胃液と血が混じったものがせりあがっては口の中に溜まったが、視界を遮ってはいけないと思い、無理をして再び胃の中に押し込む。
そのたびに吐き気が襲ったが、それよりもサーシェスに対する怒りのほうが勝ち、再びふさがった右目の代わりに左目でスコープから宇宙を覗く。
どこまでも広がる闇の中にポツリと立っていると自分以外には誰もいなくなってしまったような錯覚に襲われる。
そんな自分が滑稽に思えてロックオンは自嘲する

「はぁ……はぁ……何やってんだろうな………俺は……」

荒く乱れた息を吐きながらロックオンはつぶやく。

「こんなところで………こんなことして……」

その時、赤いGN粒子を撒き散らしながらスローネツヴァイが現れる。

(そうだ……俺はこいつを……!)

痛む体に鞭を打ち、スコープを構え続ける。
ツヴァイはロックオンを探しているのかあたりを見渡しながらゆっくりと近づいては離れ、近づいては離れを繰り返しながら徐々に距離を詰めて来る。
照準をツヴァイに合わせながら確実に仕留められる距離に近づいてくるのを待つ。

『………駄目だよ……』

「!?」

不意にエレナの声が聞こえてくる。

『早く逃げて………!』

出血のせいで意識が混濁しているせいだろうか。
ますますエレナの声がはっきりと聞こえてくる。
でも、どうしてもそれが自分の幻聴だとは思えずロックオンは答えてしまう。

「ハハハ……悪いな……エレナ。俺は……お前みたいに変われるほど……強くねぇんだ……」

ロックオンの顔がゆるむ。

「こいつを……殺ったって………アイツらが悲しむだけってことも……わかっているさ………」

ロックオンは顔つきを厳しくする。

「でも……俺はこいつを殺らなきゃ………仇を取らなきゃ……俺は前に進めねぇ………世界とも向き合えねぇ……!」

生体反応を感知したのかツヴァイが急加速をしてこちらに向かってくる。

「だからさぁ……!」

ツヴァイが射程範囲に入り、照準がきっちりと合わさる。

「狙い撃つぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

GNキャノンから放たれた光がツヴァイへと唸りを上げながら向かっていく。
ツヴァイは上に逃げるが避けきれずに下半身を光にのみ込まれ爆発する。
しかし、その直前に放たれた赤い光がGNキャノンの砲口に飛び込み爆発を引き起こした。
瑠璃色の粒子があたりに雪のように散らばっていく。
その中を、衝撃で放り出されたロックオンが漂っていた。

「父さん……母さん……エイミー……」

ロックオンの脳裏に幸せだったあの日の光景が浮かぶ。
クリスマスの夜、外には雪が降っているが、家の中は暖かく、豪華な料理が並べられている。
家族の誰もが笑い、楽しげに話している。

「わかってるさ……こんなことをしても………変えられないかもしれないって………もう…元には戻らないって………」

そう、家族を失ったあの日の前には戻れない。

「それでも……これからは…明日は……ライルの生きる未来は……」

自分に唯一残された肉親である双子の弟。
風のうわさでAEUの大手商社に勤めていることを聞いた。
自分はソレスタルビーイングで戦う道を選んだが、平和に暮らしているライルの未来は守ってやりたかった。

ロックオンの視界に二つの光の筋がうつる。
ひび割れたバイザー越しにエクシアとソリッドがこちらに向かってくるのが見えた。








火花が散り、いつ爆発してもおかしくないGNキャノンの残骸へと向かう二人は互いの存在に気付く。

「刹那!!」

「ユーノか!!」

ユーノはジンクスたちを退けた後GNアームズとのドッキングを解除し、TRANS-AMを使いここまで来ていたのだ。
しかし、エクシアもソリッドもTRANS-AMの限界時間がおとずれてしまいスピードも落ちていた。

「ロックオンが!!」

「わかっている!!」

二人は急ぐがそれでもスピードが出ない。
ユーノは意識を集中し始める。

「GN-EXCEEDを使う!!」

確かにGN-EXCEEDを使えばGN粒子の再チャージまでの時間を縮めるだけでなくスピードも飛躍的に上がりロックオンを救えるかもしれない。

「よせ!!まだ調整が…」

「かまうものか!!」

ユーノは967の言葉を無視して発動しようとする。
だが、よわよわしい音を立てるだけで一向に発動しない。

「!?なんでだ!!?なんで発動しないんだ!!!」

ユーノは何度も発動しようとするが反応はない。

「どうして!!?僕に託してくれたんじゃないのか!!誰かを守ることができる力をくれるんじゃないのか!!!!」

無理やり魔法を使って発動しようとしたせいでユーノの頭に鈍い痛みがはしるが何度も繰り返す。

「動け!!動けよ!!動いてくれ!!!」









ロックオンはこちらを目指す二機を見て穏やかにほほ笑む。

「刹那……ユーノ……答えは出たのかよ……?」

ロックオンが自嘲気味に声を出して笑うと口から血があふれる。

(いや………出てても気付くわけねぇか……。お前らはそういうやつらだからな………〉

二人との思い出が甦る。
手を焼かされたこともあった。
自分のようにならないように諭したこともあった。
憎んだこともあった。
そんな二人が自分なんかを救うために必死にこちらに向かってくる。

(俺は阿呆でよ………過去にとらわれて……変わることができなかった……世界を変えようとしてたのによ………。けど、お前らは違うよな……お前らは変わりつつあるんだ……過去の自分から、新しい自分へと…。だから、お前らは変われ……変われなかった、俺の代わりに……)

今度はロックオンの目の前に青い球体が輝く。
地球
人間が、ありとあらゆる命が生まれ、生きている星。
ガガーリンが宇宙をから初めて地球を見た時に国境は見えなかったと言っていたが、現実は国で別れ、いがみ合い、殺し合いが起きている。
だからこそ、問わずにはいられない。

「よぉ……お前ら……満足か………?こんな世界で……」

自分たちを、ソレスタルビーイングを生み出してしまうような世界で。
誰かが途方もない悲しみや怒りを背負わされてしまう世界で。

ロックオンの後ろでGNキャノンが小爆発を始める。
しかし、ロックオンはそんなことなど構わずに左手を指に形にして、自分の想いという弾丸を込める。
たった一発だけの弾丸を。
そして、地球へと銃口を向ける。
いや、本当に自分の想いを撃ちこみたいのは地球ではなくそこに住む人々だ。

「俺は……嫌だね…」

ロックオンが自分の想いを人々へと撃った瞬間、後ろにあったGNキャノンの残骸が爆発し、その炎がロックオンをのみ込んだ。

「「ロックオーーーーーーーーーン!!!!!」」








プトレマイオス ブリッジ

「キュリオス、ヴァーチェ、ともに健在!」

クリスティナが嬉しそうに報告する。

「デュナメスを確認!トレミーへの帰還ルートに入りました!」

フェルトもデュナメスが無事なことを確認するとホッとする。

「全員無事っスね!!」

「うん!!」

ブリッジが喜びに包まれ、スメラギの表情も緩む。
その時だった。
電子音とともに通信回線が開く。

『ロックオン!ロックオン!』

「!?どうしたのハロ!?」

「ロックオン!ロックオン!』

フェルトの質問にも答えずハロはロックオンの名前を呼び続ける。
だが、その声にこたえるべき人間の声がしない。

『ロックオン!ロックオン!』

「!!!!」

「ま……まさか……」

スメラギはよろよろと立ちあがる。
その通信を聞いている全員が呆然とした表情を浮かべる。

「っ……っ……!」

誰もが唇をかみしめ涙をこらえる中、フェルトの瞳からため切れなくなった雫がこぼれ、顔の前を漂う。
それでも、フェルトは声をあげて泣くことはなかった。
だが、その姿は見ている者にとってはただ悲しみを加速させるだけだった。








ラグランジュ1 周辺宙域

刹那とユーノはその場にただとどまっていた。
助けられたはずなのに、そのための力を持っていたはずなのに助けられなかった。

「ロックオン……ストラトス……!」

「ロック……ッ……オンッ……!」

通信を開けば今でもあの快活な声で話しかけてくれるような気がしてしょうがない。
飄々とした笑みを見せ、自分たちを引っ張ってくれる。
時に厳しく、しかし優しく導いてくれるはずだ。

だが、現実は違う。
デュナメスとの回線から聞こえてくるのはハロの悲痛な声だけだ。
もう、彼に会うことはできないのだ。
あの声も、笑みも、優しさも、もう、何も戻ってはこない。

「ロック……オン……!!」

「ッッッ!!!!」

「「うああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」」

二人の少年の叫びが漆黒の宇宙を震わせる。
だが、その悲しみを受け止めることができる者は誰もいなかった。









?????

ロックオンは静かに目を開ける。
どこが上で横なのかわからない真っ白な空間に横たわっている。

(俺は確か……爆発に巻き込まれて……〉

そこまで思い出したところで自嘲気味に笑う。

「そっか……ここはあの世ってわけか。」

ゆっくり起き上がるとあたりを見回す。

「昔、聖書であの世がどんなところか読んだことがあるんだけどな………天国にしても地獄にしても殺風景すぎないか?」

「残念だけどここは天国でも地獄でもないのよね。」

ロックオンは声のする方へと振り向く。
懐かしい姿を見つけて思わず表情が緩む。

「……お前がいるのにあの世じゃないってのはどういうこったよ。それともお前、自分がどうなったかわかってないんじゃないだろうな、エレナ?」

あの時の姿そのままでこちらに笑いかける赤髪のツインテールの少女、エレナ・クローセルにシニカルな笑みを向ける。

「……変わらないね、ロックオン。」

「……変われなかったのさ。変わらなきゃいけなかったのに。」

「その軽い感じまで変える必要はないと思うけど?」

「褒めてんのかよそれ……」

ロックオンは苦笑いをしながら上を仰ぐ。

「で、話の続きだ。あの世じゃないとしたらここはどこなんだ?」

「ユーノからロストロギア……それもユーノが首にいつもかけてる宝石のことは聞いたでしょ?」

「ああ……確かジュエルシードだったか?……って、なんでお前がそんなこと知ってんだよ?」

「だって私もロックオンがユーノにいろいろ教えてもらってるその場所にいたんだもの。」

「へ?」

ロックオンは間の抜けた声を上げる。

「それにそのずっと前からユーノと一緒にいたんだよ。」

「おいおい……俺もお前も幽霊になったなんて言い出すんじゃないだろうな?」

「う~ん…少し違うかな?正確に言うなら私たちの残留思念が感情や意志、つまり心を持ったもの……らしいよ?」

「らしいって……」

「だって私もこの子からそんな感じのことぐらいしか聞いてないんだもん。」

「この子?」

ロックオンが首をかしげていると上から青い光の球が降りてくる。

「なんだこりゃ?」

「その子が私の心を捕まえてくれたの。ていうかこの空間そのものがその子ってところかな?」

ロックオンは大きくため息をついて頭を掻く。

「つまりどういうこったよ?」

「え~とね。」

エレナは間をとったあと一息に話し始める。

「つまりここはロストロギア、ジュエルシードの中で、私たちはそこに住む情報生命体とでも言うべきものになったってこと……らしいよ?」

「…………………………………」

「…………………………………」

二人の間の空気を沈黙が支配する。
ロックオンは疑いの目を向け、エレナは気まずそうに視線を外す。
しかし、しばらくの後にロックオンはフッと微笑んだ後エレナの瞳をまっすぐに見る。

「なるほどな………お前の言ったこと、信じるぜ。」

「驚いた………最初は否定するって思ってたのに。」

「魔法だのなんだの聞かされてるせいか多少のことじゃ驚かなくなったからな。」

「私はしばらく信じられなかったんだけど……」

「子供のくせに頭が柔軟じゃないな~、おい。」

「子供で悪かったわね!」

「怒るとこそこかよ……」

ロックオンは怒るエレナをたしなめながら、クックッと笑う。

「それで、これからどうすんだ?」

「これから?」

「とぼけんなよ。俺をわざわざあの世に行かせないでここに呼んだってことはなんか用があんだろ?」

「そっか……うん、そうだね。ロックオンには聞いてもらった方がいいかもね。これから私がやろうとすることを。その上で協力するかどうか決めて。」

エレナはロックオンにこれから自分がすることを話した。

「なるほどな……」

「協力してくれる?」

「まあ、俺もそれが本当にできるならしてやりたいけどよ。」

「やった!!」

「でも、本当にそんなことが可能なのか?できたとしてもユーノのことだから間違いなく断るぞ?」

「大丈夫、無理やりやるから。」

「おいおい………」

「それにね………」

エレナの表情が複雑なものになる。
嬉しいような、悲しいような、切なげな顔つきになる。

「どんな理由があっても、やっぱりユーノはあの子たちのところにいたほうがいいんだよ。」

「エレナ……」

エレナはキッと澄み切った空のように笑う。

「だから、ユーノを元いた世界に帰すよ。」








運命の歯車は止まらない………
その果てに待つものが別れだとしても









あとがき・・・・・・・・・・という名の残り2

ロ「ロックオーーーーーーーン!!!!!!」

兄「いきなり何だよ!?」

ロ「俺はこの回見ていてガチで泣いてしまった。そして家族にドン引きされた。」

兄「そら普通そうなるだろうな。」

ロ「馬鹿野郎!!最初から見てたら男なら誰だって泣くよあの場面は!!!」

兄「泣かない奴は山ほどいると思うぞ。」

ロ「そいつらはきっと男じゃない!!去勢されて……」

兄「お前何ヤバいこと言おうとしてくれてんの!!?あと今回は特別に俺とサシであとがきで話すって言ってたのに俺やってることっていったらツッコミだけじゃん!!」

ロ「まあ、とにかくあの場面はガンダム作品見てきた奴なら感動するってことを言いたかったわけよ。」

兄「素直にそう言えよ。」

ロ「とにかく今回は俺としては中途半端なものにしたくなかったからこの三日間の自由な時間をほとんどをこれにつぎ込んだ。いきなりだけど読者の皆様もここをこうしたらよくなるというところがあるというご意見があったらバンバン言ってください。」

兄「だったら文才を身につけろ。」

ロ「………努力します。」

兄「まあ、その前向きな所は評価してやらんこともない。」

ロ「では解説……と言いたいところだけど、今回はあえてなしにします。」

兄「余計なもんでこれ以上カオスにするのもあれだしな。しかし、この後も俺の出番ありそうじゃね?」

ロ「実際原作のsecondでもちょいちょい出てたじゃん。ここではそれにリリなの風味を足していくって感じにするつもりだ。あ、もちろん普通に出る場面もあるよ。」

兄「てかもうfirstの後のことも考えてんのかよ。」

ロ「ある程度こうしていこうって構想はできているけど実際に書き始めてみないと何とも言えないってのが現実だな。」

兄「それじゃそろそろ次回予告に行くか。」

ロ「ああ、次回はサイドだよ。ちなみにこれと同時投稿するつもり。」

兄「え!?」

ロ「そしてfirstでのサイドはそれで最後になる。」

兄「いやいや!ここでサイドかよ!?せっかく感動的な感じにしたのにまた暴走する気かおのれは!!」

ロ「心配するな。今回はシリアスな感じにしてる。」

兄「本当だろうな?」

ロ「まあ、ツッコミどころ満載だけど。題名読んだだけでたぶんみんな気付く。」

兄「?」

ロ「ま、見てのお楽しみってことで。」

兄「それでは最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!そんじゃ、せーの……」

「「次回をお楽しみに!!」」



[18122] side.5 フレンズ
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/09/01 09:22
同じ笑顔してた、そんな僕らを幾年も重ねすぎて
すれ違う景色を受け入れられずにもがいてる
無駄なプライド捨て去り、この世界に優しさを……

I Gotta Say……

勇気を見せつけても、強がっても、一人では生きられない……
あの日の約束なら、心の深くに残っているよ

今でも……



南大西洋 孤島

「「臨時休暇??」」

ロックオンとユーノは思わず声を合わせて輸送機に設置されたモニターの向こうのスメラギに問いかけてしまう。
二日後にタクラマカン砂漠でのミッションが始まるのでマイスター全員が拠点として使っていたこの島に集められていた。
しかし、まさか休暇を与えられるとは誰も思っていなかった。

『そ♪今度のミッションはかなり厳しいものになるからみんなに休んでもらおうと思ってね。』

「……おかしいと思ったんだよな。目標地点からめちゃくちゃ離れたここに集められるなんて。」

ロックオンは頭を押さえながら苦笑する。

「まあ、休暇が欲しいとは言ってたけど、まさかこのタイミングだとは……」

ユーノもタラリと汗をたらしながら引きつった笑いを浮かべる。

『ゆっくり休んで英気を養ってね♪』

「でもなぁ、Ms.スメラギ……」

ロックオンが何かを言おうとするが、後ろからティエリアに話しかけられる。

「ロックオン。指示をお願いしたいのだが。」

『ほらほら、呼んでるわよ。』

「……なんかはめられた気がするのは俺の気のせいか?」

「……心配しなくていいよ。休みたいって言ってた俺もそう思ってんだから。」

二人はティエリアに連れられてアレルヤと刹那が待つ砂浜へと歩いていく。
その時、

『ロックオン。』

ロックオンが突然スメラギに呼びとめられる。

「悪いな。二人とも先に行っててくれ。」

ユーノとティエリアを輸送機の外にやると、再びモニターの前に立つ。

『…………今回、あなたたちに集まってもらったのはマイスターズの結束を強めるため、そして、あなたたちが戦う理由を再確認してほしかったからなの。』

「……どういうことだ。」

ロックオンの表情が真剣なものになる。

『あなたも感じてると思うけど、これまでのミッションであなたも含めてみんな思うところがあるみたいだから。そのせいで少し揺らいできてしまってる子もいるでしょ?だから、この休みの間になんとか自分の意志を確認してほしいの。その上で決断してほしいの………これからもガンダムに乗って戦うかどうかを。』

「おいおい、それは……」

『もし、あなたたちの中に戦うことをやめたいと思っている人間がいたなら、私はガンダムを降りることを止めないわ。』

「………言ってることの意味がわかってんのか?」

『あなたぐらいにはね。』

ロックオンはフゥと一息つくと片目だけを開けた状態で笑う。

「OK、確かに俺もアイツらもここらで気持ちの整理をしといたほうがいいかもな。」

『じゃあ、よろしくね。』

スメラギの顔がモニターから消えるとロックオンの顔に影が差す。

「………戦う理由、か……。俺の理由はアイツらと違ってそんな高尚なもんじゃないけどな。」

ロックオンは外に向かって歩き出す。
先ほどまでの悲しい顔からいつものひょうひょうとした笑みに表情を変えて。





魔導戦士ガンダム00 the guardian side5.フレンズ

「おっと……あんま動くなよ、刹那。丸刈りにしなくちゃいけなくなるぞ。」

「…………………………」

ムスッとした顔をしているが刹那はロックオンの鋏に身を任せている。
少し髪が伸びていた刹那を見かねたロックオンが、整える程度に髪を切ることにしたのだ。
刹那は遠慮したようだが、強引にロックオンに椅子に座らされ、上を脱がされて布をかけられた時点で観念したようだ。

「でも意外だったな。まさかロックオンにそんなことができるなんて。」

アレルヤが少し離れたところでリンゴを剥きながらロックオンに話しかける。

「すこし教えてもらっただけだよ。」

「それにしてはすごくきれいな手さばきだけど。」

「教えてくれた人が上手かったからな。………教えてくれた人が、な………」

ロックオンは少し思い出す。
幸せに満ちていたあの日のことを。









15年前 アイルランド

「お母さんすご~い!」

妹の髪を切る母親の手つきを見て、俺は思わず感嘆の声を漏らす。

「フフフ………ありがとう、ニール。」

「母さんは美容師を目指していたからなぁ。今でも下手な床屋よりよっぽど上手いぞ。」

「もう、あなたったら。」

顔を赤らめて照れて笑うその姿にテーブルで新聞を読む父親さんもつられて笑う。

「ねぇねぇ!!僕にもそれ教えてよ!!」

父さんの隣に座っていた双子の弟、ライルが母親のもとに駆け寄ってせがむ。

「あっ!ずるいぞライル!俺も教えてもらうんだ!」

「お兄ちゃんたちばっかりずるい~!!私も私も!!」

「ほらほらエイミー。あんまり動いちゃ可愛くできなくなるわよ。」

母さんは手を止めて騒ぐ俺たちの相手をし始める。
しかし、収拾がつかなくなったのか大きくため息をつくと少し困った表情で笑う。

「はいはい!後でみんなに教えてあげるから喧嘩しない!」

「本当!?やったぁ!!」

「ありがとうお母さん!」

「じゃあ早く私の髪切って~!」

「はいはい。」







その後、俺たちは母さんが倉庫から引きずり出した古びた三つの頭だけのマネキンの前に立っていた。

「じゃあ、教えるわよ。まずはこうして………」

母さんは自分のマネキンを使って丁寧に教え始める。
俺たちは見よう見まねでなんとか母さんと同じようにこなそうとする。
しかし、まだ子供のせいかなかなかうまくいかない。
でも、俺はなんとかそれらしい形にして見せる。

「すごいわねニール!上手く出来てるわ。」

「えへへへ……」

俺は最初こそうれしくて照れ笑いをしていたが、右隣にいるライルの不満そうな顔を見て「しまった。」と呟く。

「………僕もういい。」

「ライル、最後までやろうよ。きっとライルも上手く……」

「つまんないからもういい。」

ライルは拗ねたまま向こうの部屋に行ってしまった。
………アイツは俺のことを気にしすぎるんだよな。
アイツにはアイツのいいところがあるのに………

「………ごめんなさい、お母さん。」

「ニールが謝ることじゃないわ。ライルには後でお母さんが秘密の猛特訓をしちゃうんだから♪」

ウィンクをする母さんを見て俺はホッとするが、ふと左を向くとマネキンの髪が気の毒なほどにぐしゃぐしゃになっているのが目についた。

「エ、エイミー……?」

乱れたマネキンの髪を直そうと奮闘するエイミーに話しかけるが、必死に涙をこぼすまいとする彼女にそれ以上言葉をかけられなくなってしまう。

「あらあら……少し直さなくちゃいけないわね。ニール、エイミーを手伝ってあげて。」

母さんに促されるままに、俺はエイミーの手をとる。

「…………ひっく、お兄ちゃん?」

「エイミー、俺が手を動かすからエイミーは鋏を使って。」

俺はできるだけ優しく手を動かし、切るべき場所へと彼女の手を導いていく。
そして、

「ほら、上手く出来たろ?」

「うん!!」

満面の笑みでうなずくエイミーを見て俺も嬉しくなって笑ってしまう。

「じゃ、次の練習しましょっか?」

「「うん!!」」






その後も、俺たちは何度か母さんに教えてもらって美容師のまねごとをしていた。
……ライルは別の学校に行くために家を離れてしまった。
俺と比べられるのが嫌だったのだろうが、それでも行かないでほしいとは言えなかった。
いや………今思えば、あれに巻き込まれずに済んだんだから、むしろ正解だったのかもな………
トレミーでフェルトに美容師のまねごとを教えている時も思い出しちまったし、やっぱり俺の時間はあの時から止まったまんまか……………








孤島

「ロックオン?」

「あ、ああ。悪い、少しボーっとしてた。」

「刹那を丸刈りにするなよ。」

パラソルを刺した砂浜の上で寝転がりながらジャケットを腰に巻きつけ、白のTシャツ姿で本を読んでいるユーノがサングラスを少し下にずらして意地の悪そうな笑みを向ける。

「するかっての。」

しかし、当の刹那は文句ひとつ言わずにじっとしている。

「ねぇ、二人とももっと刹那に気を使おうよ………」

「いいじゃん別に……それよりアレルヤが料理できるなんて知らなかったな。」

ユーノは意外そうにアレルヤの包丁さばきを見つめる。

「ソレスタルビーイングに来るまで、僕は一人で生活してからね。………そう、一人きりだった………」








12年前

今思えば、あれが僕にとって初めて誰かと心を通わせることができた瞬間だった。
頭の中に聞こえてくる声を頼りに、たどり着いたその場所で出会った一人の少女。
目を開けたままピクリとも動かないその姿から、最初は人形かとも思った。
けど、

「……君が、僕に言ってるの?」

(!私の声が聞こえるの!?どこ?どこにいるの?)

その時確信した。
この子は、人形なんかじゃない。
ちゃんと生きているんだって。

「君の目の前にいるじゃないか…?」

不思議そうに僕が言うと、悲しそうな感じが頭の中にまで伝わってきた。

(ごめんね……わからないの……)

「?」

この時はわからなかったけど、今ならわかる。
きっと、無茶な実験のせいで体を動かすことも、声を出すこともできなくなってしまったんだろう。
でも、この時の無神経な僕の質問にも彼女は怒らなかった。
それどころか、

(でも、お話できてうれしいわ。ずっと、一人ぼっちだったから……)

彼女はうれしいと言ってくれた。
その声が、本当にうれしそうで、なんだか僕まで嬉しくなっていた。

(ここまで来てくれてありがとう。)

「君は……?」

(マリー。マリー・パーファシー。)

「マリー……」

(あなたは?)

「わかんない……思い出せないんだ……。僕が誰だったか……なぜ、ここにいるのか……名前さえ、思い出せない…………」

そうそう、名前を聞かれて困ったんだっけ……
あの時、僕にはあそこにつれてこられる前の記憶がなかったから名前がわからなかった。
いや……もとから名前なんてなかったのかもしれない。

(だったら、私が名前を付けてあげる!)

「?」

(そうね……あなたの名前は………アレルヤがいいわ!)

「アレルヤ……?」

アレルヤ……
僕の名前。
そして、彼女との大切な絆そのもの。

(神様への感謝の言葉よ。)

「感謝……?何に感謝するの?」

(決まっているじゃない!生きていることによ!)

「!!」

そんなこと、今まで考えたこともなかった。
だけどこの時から、僕は生きているという実感を持てた。



そう、それはまさに、僕にとって洗礼だった。
そして、彼女との交流はしばらく続いた。
けど、結局あそこから救うことができなかった。
それどころか、僕は自分のエゴで多くの同胞をこの手にかけてしまった…………
けど、だからこそ僕は…………………!!








孤島

「………一人で生活するには、ある程度料理ができないと困るからね。」

「ま、それもそうか。」

「アレルヤ、手が止まっているぞ。それに、リンゴの皮は1mmで剥かなければならないのに、何だその厚さは!!」

ティエリアは目をつり上げて怒る。
だが、他の四人は何を言っているんだといった表情でポカンと口をあける。
いち早く立ち直ったロックオンはため息をつく。

「………そんな細かくやらなくてもいいだろ。そんなんはだいたいでいいんだよ。」

「いいや!!料理は科学だ!!すべて厳密に計測、計算されていなければならない!!」

ティエリアはすぐさま、生クリームの計量に戻る。

「生クリームは250cc!!だが、容器にこびりついて残る分を……」

「……アレルヤ、もうそいつは包丁握らせといたほうがいいんじゃないか?晩飯が朝飯になるなんて俺はごめんだぞ。」

「俺もユーノの意見に一票だ。」

「……同じく。」

三人の意見が一致するが、それが原因でティエリアは再び怒る。

「何を言っているんだ!!何事もきっちりと……」

「別にいいじゃねぇか。」

ロックオンが苦笑する。

「俺たちは人間なんだ。そんな何でもかんでも完璧にできるわけじゃない。」

その言葉にティエリアはいっそう眉をひそめる。

「われわれはガンダムマイスターなんだ。常に完璧でなければならない。……そう、でなければ、僕は………」







5年前

ラジエルとの模擬戦を終えた僕はいつもの日課を行うため、ある一室に向かった。
予想外の事態が起こっていたようだが、そんなものは関係なかった。
僕は光で囲まれた丸い部屋に入るとヴェーダとつながる。
なぜこのような力が自分にあるのかはわからない。
だが、この力があるからこそ僕はヴェーダからナドレを託されたのだ。

「ガンダムマイスターであることが、そしてヴェーダこそが僕の存在意義だ。」

まだ、正式にマイスターになったわけではないが、必ずなれると確信していた。
完璧であり続ければ、自分でいられる。
だがこの時、僕の中に不可思議な感覚が渦巻いていた。
先ほどのGNセファーの行動。
明らかに危険だとわかっていながら、迷うことなくあんな危険な行動をとった。
ソレスタルビーイングのメンバーにはふさわしくない行動だ。
なのに、

「なぜ、こんなにも心がざわめく……」




この後も、僕はしばしばこの感覚に悩むことになる。
僕は人間である前にガンダムマイスターなんだ。
こんなものに振り回されるわけにはいかない!
…………だけど、もし、この感覚を捨ててしまえば、僕は…………







孤島

「……とにかく!僕はきっちりやらせてもらう!」

ティエリアはそう言うと包丁を持ち、どこから持ってきたのか定規を持ち出す。

「じゃがいもは4㎝角に、ニンジンは5㎜のイチョウ型に切る!!

「………ユーノ、手伝ってくれないかい?」

アレルヤがユーノにひきつった笑みを向けて応援を要請する。
だが、

「却下だ!!」

ロックオンが真っ先にそれを拒否する。

「ど、どうしたの、ロックオン?」

「……お前らは知らないんだ!そいつの作った料理を!」

「?前見たのは普通だったけど。」

「俺とジャングルでサバイバル訓練をしていたときにその馬鹿はあろうことか蛇や木からほじくりだした虫の幼虫を料理しやがったんだぞ!!?」

それを聞いたアレルヤとティエリアは凍ったように固まる。

「失礼なやつだな。貴重なタンパク源だぞ。」

「お前はどこかの原住民か!!?」

「まあ、今回もすぐ近くに森があるから食料を調達しに…………」

「ユーノはゆっくり本を読んでて!!日頃、整備で疲れてるだろうからこんなときくらい好きにしてていいよ!!?」

アレルヤが物凄い形相でユーノの参加を必死で止める。
刹那を除く三人もうんうんとうなずく。

「なんだよ、ったく……軽い冗談だろうが。」

「君が言うと冗談に聞こえない。」

珍しく表情を表に出したティエリアはホッとすると、残念そうにまた寝転がるユーノの持つ本に視線をやる。

「その本は?」

「ああ、これか?古い考古学の論文さ。この間、街で見つけたから買ったんだ。」

「一体いくらしたんだ?」

「200EV。」

「高っ!!」

ロックオンは思わず声を大きくしてしまう。
ちなみに1EVは100円だ

「安いくらいだよ。俺にとっては。」

「俺ならそんなゴツイ本に200EV出すくらいならどっかいいとこでいい飯を食うけどな。」

「僕もちょっと………」

「なんでそんなものを読む必要がある?」

「お前らもう少し学問探求の意識を持てよ………ていうかティエリアに至っては考古学の存在自体を全否定か。」

ユーノは呆れながら再び大きな本に視線を落とす。

「でも、ユーノって一体何者なんだろうね?」

「そういやそうだよな。どこぞの原住民みたいなもん平気で食ったりするかと思えば考古学やらいろんなもんに詳しかったり………」

「なにか覚えていないのか?」

「覚えてりゃ苦労しないっての。」

苦笑するユーノを見て、アレルヤはポンと手をたたく。

「案外、冒険家なんじゃないかな?」

「冒険家?今時そんなもんやってるやついるかぁ?」

「まったくだな。」

「アハハハハハハハハハ!それもそうか!」

そう言ってアレルヤとロックオンは笑うが、内心ユーノは顔から汗がたらたら垂れているのを気付かれないか心配だった。

(ハハハハ………まさかありとあらゆる異世界を回ってそこの遺跡から出土したもので生計を立てている旅の民族出身です、なんて言えないよなぁ。)

そんな時、ユーノは本に載っていた一枚の写真に目がとまる。
それは、階段状に四角い石が積まれたエジプトのピラミッドだった。

(………そう言えば昔、なのはたちに行ってみたいって言ったことがあったっけ………)






5年前 地球軌道上 アースラ

「うわぁ………」

闇の書が起動したことが明らかになってからしばらくして、久々にフェレットから元の姿に戻っていた僕はなのはの持ってきた本に載っていたエジプトというところのピラミッドに夢中になっていた。
ピラミッドはなにも地球だけのものではない。
どの世界にもいくつかは存在している。
だが、こんなまで見事に四角錐の形をとっているものは2、3個ぐらいしか知らなかった。

「……リンディさん、今すぐエジプトに行けませんか。」

「無理です。」

困ったように笑うリンディさん。
今思えば、当然と言えば当然か。
周りにいたフェイトやアルフ、そしてなのはも同じように笑っていたな。

「じゃあ、この事件がひと段落してから……」

「それでも無理だ。」

クロノも呆れたようにため息をつく。

「君は管理局を便利屋か何かと勘違いしていないか?」

「そんなことはないけど……でも、やっぱり行きたいなぁ……。そうだ、転送……」

「……私事で使えるわけがないだろう。」

僕はがっくりと肩を落とす。
僕がここに行きたかったのにはちゃんとした理由があった。
このピラミッドは、父さんが連れて行ってくれた初めての遺跡と瓜二つだった。
三つのピラミッドが砂漠の中に建っている光景。
僕が父さんのような考古学者になりたいと決意するきっかけを与えてくれた場所。
父さんが亡くなってから行くことはなかったけど、ここに行けたら、あの日失ってしまった何かを取り戻せるような気がした。

「ユ、ユーノ君、そのうちなのはが連れてってあげるよ!だから、そんなに落ち込まないで!」

「ありがとう、なのは。でも、それじゃなのはに悪いから遠慮しとくよ。」

あの時の約束を僕はまだなにも果たせていない。
『このお礼はいつか必ずします。』
そんな当てもないのに、思わず口にしてしまったあの言葉。
なのははそんなことなど気にせず戦ってくれたが、僕にはそれがつらかった。
管理局を疑い、一人で解決しようとして巻き込んでしまった身勝手な僕を彼女は友達だと言ってくれた。
本当のことを何一つ話さない僕を…………

「そうだな………フェレットもどきにそんなに気を使う必要はないぞ、なのは。」

「ク、クロノ………」

フェイトが慌ててクロノをたしなめるがもう遅い。
なんか、今思い出しても腹が立つな。

「誰がフェレットもどきだって、無能執務官殿。」

「おや、性格だけじゃなくて耳まで悪くなったのか?フェレットもどき。」

そのまま僕とクロノは睨みあう。
が、

「いい加減にしなさい!!」

「「ぐぁっ!!」」

エイミィさんの拳骨が僕たちの頭を正確にとらえた。
僕たちは頭にできたたんこぶを押さえながらその場にうずくまる。
みんなはその様子を見てやれやれとため息をつく。
………本当に痛いんだよ!!?
だが、僕たちはお互い弱みを見せないように顔をあげて無理やり笑顔を作る。

「……この勝負、預けたぞユーノ。」

「……こっちのセリフだ、クロノ。」

そう言って僕たちは涙目でお互いを笑いあった。






この事件で、僕は本当の意味でクロノたちアースラのクルー、そして、なのはやフェイトたちと友達になれた気がした。
でも、グレアム提督の行い、そしてその行いに対する罰の軽さに僕は納得がいかなかった。
はやてたちには悪いが、正直言うとヴォルケンリッターのみんなに対する処罰にも納得がいっていない。
一方的な暴力や権力であれだけ理不尽なことをしたのに、仕方がなかったの一言で済まされたのがどうしようもなく悔しかった。
だからこそ、僕はみんなと距離を置いた。
………いや、置かざるをえなかった。
今まで言ったこともすべて言い訳に過ぎないのかもしれない。
でも、この事件をきっかけに僕は無意識のうちに自分の根源の部分でみんなと相容れない存在だということを否応なく理解していたのかもしれない。
なのはに告白する勇気をくれたヴィータには悪いけど、この世界に飛ばされていなくても、きっと僕は今とそうたいして変わらない道を歩んでいただろう。
そう、世界に対して戦いを仕掛けるような、みんなの敵になるよう道を………………
そして、どんなに話し合っても、ぶつかり合ってもわかりあうことなんてできはしない。
互いに、どれほどわかりあいたいと望んでいても……………








孤島

「……あんまり馬鹿なことばっか言ってると手を切るぞ?」

「俺の場合は刹那の髪型がおかしくなるだけだから別にいいんだよ。」

「いや、そこはむしろもっと気を使うべきじゃ………」

アレルヤがロックオンにつっこむが、ロックオンはいつものようにひょうひょうとした笑みを浮かべるだけだ。

「そういや、お前はさっきから全然話に参加しねぇな。」

「…………あまり動くなと言ったのはお前だろう。」

刹那はふて腐れた声で答える。

「おいおい………まだ根に持ってんのかよ……」

「そんなことはない。」

刹那は否定するが誰の目にも拗ねているのがわかる。

「そんなに拗ねるなよ刹那。久々の美味い飯がまずくなるぞ。」

ユーノは苦笑しながら刹那の機嫌を直そうとする。
しかし、ユーノの言葉を聞いた刹那はなぜか驚いた顔をする。

「どーした、刹那?」

ロックオンが問いかけると刹那は慌てていつものポーカーフェイスに戻る。

「いや、なんでもない。早く済ませてくれ。」

「?ああ、わかった。」

ロックオンがすいすいと鋏をはしらせる中、刹那は先ほどのユーノの言葉を反芻していた。
だが、声はユーノではなく低い声をした男のものだ。
そう、自分が神のためだとして、切り捨ててしまったモノだ。

(…………父さん。)





8年前 クルジス

その日、俺は近所の幼馴染と遊んでいるとき、転んで膝を擦りむいてしまった。
痛くて、大声で長い間泣いていた。

どれくらい泣いていただろうか………
気付くともう夕方で、仕事帰りだったのか、額に玉のような汗をいくつもつけた父さんが俺を見下ろしていた。

「お……お父さん…………」

父さんは当時の俺にとって何よりも恐ろしいものだった。
無口で厳格で、俺を何度も叱った。
この時の俺も、『泣くな。』といつものような低く鋭い声で叱られると思った。
だが父さんは俺を抱き上げると、めったに見せない笑顔を見せてくれた。

「泣くな、ソラン。お母さんがせっかく美味い飯を作って待ってくれているのに、そんなに泣いててどうする?」

「だって………だって…………」

俺は何度もしゃくりあげ、言いたいことも言えずにいた。
そんな俺を、父さんは肩に乗せ、家に向かって歩いていく。

「ソラン、よ~く覚えておけ。飯を食う時は笑顔でいろ。泣いて食ってたら、どんなに美味い飯でもまずくなっちまう。とくにみんなで食う時はな。」

父さんも顔は見えなかったが、なんとなく泣いている気がした。
アザディスタンとの戦争が激化してきていたこの時期、父さんの両親、つまり、俺の祖父母にあたる人物が戦闘に巻き込まれて死んでいた。
この時すでに、クルジスという国は少しずつではあるが、どこかおかしくなってきていたのかもしれない。
でも、この時の俺にはそれがどこか遠い別の場所で起こっていることのように思えた。
昨日も、今日も、そして明日も、こんな当たり前の日々が続くことが当たり前のことだと思っていた。
だが、おそらく父さんは気付いていたのかもしれない。
こんな幸せな日々がもうすぐ壊れてしまうことを………

「さぁ、早く帰るぞ。お母さんが待っている。」

「うん!」

父さんの笑顔。
俺はこの時を最後に、それを見ることはなくなった。








それからしばらくの時が流れ、戦闘は俺たちの暮らす地域にまで波及してきていた。
隣に住んでいた幼馴染が死んだとき、俺は否応なく戦争を、死というものを実感させられた。
死ぬことが怖くて仕方なかった。
そんな時、神が、いや、あの悪魔が俺の耳元で囁いた。

「死を恐れるな。君たちの魂はこの国を侵略する者たちと戦い、死すことによって神によって救われる。死を恐れることは神への冒涜である。」

そして、俺はやつに、サーシェスに利用された。
………いや、やはり言い訳だな。
経過はどうであれ、最終的に俺が母さんと父さんの命を奪ったんだ。

サーシェスに拳銃を渡され、家に帰ってきた俺を母さんと父さんはいつものように迎え入れてくれた。
だが、俺は家に入った瞬間、母さんに銃口を向けた。
それに気づいた父さんは母さんの前に立ち、俺の放った銃弾を自らの体で防いだ。
口から血の泡を吐きながら倒れた父さん。
だが、俺はそのことについて何も感じなかった。
………感じることができなかった。
母さんは何が起こったのか分からないままその場にへたり込んだ。
そして、俺を見ながら震える声で何とか言葉を絞り出した。

「やめて………ソラン………。」

それでも、俺は確実に銃弾を当てるために近づいていく。

「どうして…………」

母さんはそれでも後ろに下がろうとはしなかった。
父さんに寄り添ったまま震えていた。

「なぜなの……ソラン……ソラン……ソラン……」

そして、俺は引き金を引いた。
母さんも力なく倒れ、家の中は焦げ臭い硝煙と鉄臭い血の臭いで埋め尽くされた。
俺はそのまま家を出た。
周りの家からも同じように銃を持った子供が出てくる。
そして、俺たちを見たサーシェスは満足そうにこう言った。

「おめでとう。これで君たちは神に認められ、聖戦に参加することを許された戦士となった。」

………この世界に神はいない。
なぜこの時気付くことができなかったのか。
気付いていれば、いまでも母さんや父さんと一緒に………
……いまさら言い訳はしない。
だから、俺は戦う。
破壊するしかできないと、何も生み出すことができないとわかっていても戦う。
それしか、俺にはできないから………







孤島

雑談をしながら各々の作業を進めていく。
そして、10分程たったころ、ロックオンは刹那の髪を切り終わった。

「よーし、もういいぞ刹那。」

「………………………」

「?刹那?」

ロックオンは反応のない刹那の前に回って顔を覗き込む。
刹那は静かに寝息をたてていた。

「ありゃりゃ……寝ちまったか。」

ロックオンは頬をポリポリとかきながら苦笑する。

「ロックオン。」

アレルヤが小さな声で呼ぶんでいるのに気付き、ロックオンは声のほうを向く。
そこにはうつぶせのまま刹那と同じように小さく肩を一定のリズムで上下させているユーノがいた。

「そっちもか………」

ロックオンはユーノの横にいたアレルヤのもとに向かう。
そこから見るとユーノのサングラスがずれ、瞼が閉じられた目が見えた。

「………どうする?」

「夕飯の時にでも起こせばいい。彼らがいると作業がはかどらない。」

「そうだな………この天気だから風邪をひくことはないだろ。じゃ、さっさと料理を終わらせちまおうぜ。」

3人は料理に取り掛かる。
この時、ユーノの首に掛けられていたジュエルシードが淡く輝きを放っていることに誰も気付かなかった。








別れてまた出会い、新たな道に光見つけ歩き出す
生まれてからずっと、繰り返すことで繋がってく
いつの間に君と僕も、それぞれ未来を手にして……

I Gotta Say……

遠く離れていても、会えなくても、強い絆はあるから……
『夢が叶いますように』、心の底から祈っているよ

We’re friends forever

また会うことを誓い、ゆびきりして、僕らは歩き出したね……
見えない行き先へと迷いながらでも進んでいるよ

いつでも………








孤島(?)

心地よい風が俺の頬をなでていく。
いつの間にか眠っていてしまったらしい。
ゆっくりと目を開けて周りを見渡すがロックオンも他のみんなもいない。
空もいつの間にか暗くなっている。
………だが、何かがおかしい。
空が暗いのに、うっすらと赤い。
夕焼けとはまた違う赤さだ。
どこか禍々しく、死をイメージさせるような赤だ。

「一体何が………!!?」

目の前を見たとき、絶句した。

「海が………赤い……!?」

それもただの赤ではない。
よく見るとそれは血だ。
海水と混じっているせいか透明感があるが、この臭いは間違いない。
生物と鉄が混じったような臭い。
昔、嫌というほど嗅いだ臭いだ。

俺は布を脱ぎ捨てて波打ち際まで走っていく。
そこで、見覚えのあるものを見つけた。

「これは………ロックオンの鋏……!!」

全身から汗が噴き出す。

「まさか、みんな………!?」

俺は急いで島の中心に向かう。
きっとみんながいるはずだと信じて。
だが、途中で足を止める

「………見つけたとして、俺に何ができる?」

破壊することしか、何も生み出すことができない俺に、一体何ができる?
そもそも、この惨状を作ったのは俺ではないのか?
血で染まったあの海と空は、俺が殺してきた人間の血で染まっているのではないか?
そんな俺を誰も受け入れてくれるはずがない。
結局、俺は

「俺は………ガンダムにはなれないのか………?」

アザディスタンではガンダムになれた気がした。
だが、違っていたのか………?
なにも守れずに、ただ奪っていたあの頃と何一つ変わらないのか!?

答えてくれ、エクシア………………!!










僕は混乱していた。
いつのまにか寝ていたのは何となく理解できた。
けど、起きた時にみんながいない。
さらに目の前に広がる血で染まった海と夜空。

「ロックオーーーン!!アレルヤーーー!!ティエリアーーー!!刹那ーーー!!」

どれほど叫んでも返事は返ってこない。
本当にこの島には誰もいない。
いや、まるでこの世界から人間すべてが消え去ってしまったようだ。

「そんな……そんなことって!!」

僕は飛行魔法を使って海の上へと飛び立つ。
上から見下ろすと本当に海が一面、赤に染まっている。

そして、僕はあることに気付いた。
音が全くしないのだ。
聞こえてくるのは波と風の音だけ。
人が話し合う声も、誰かと一緒にいて笑いあう声も、そして、争いあう音すらも聞こえない。

人間が全くいない世界。
つまり、争いも全くない世界。
ソレスタルビーイングの理念が成就した世界。

「けど……僕は……僕たちはこんな世界を望んでいたわけじゃない!!」

けれど、結局はこうなってしまうのかもしれない。
そう言えば、誰かがこの世で最も残酷な生物は人間だと言っていた気がする。
人間は狩りという形で、生きるためとは関係なくほかの動物を殺して楽しめる存在だ。
それだけじゃない。
戦争という名目のもと、正義なんてあやふやなものを掲げて平然と同類である人間を殺して見せる。
確かに人は他の誰かを思いやることはできるかもしれない。
だが、誰かが受けた痛みを完全に理解することなどできはしない。
それが人間という生き物の限界なのだ。

「でも……なら僕たち、人間という存在は一体…………!!」

情けなくて、悔しくて、悲しくて、それでもどうする事も出来なくて、涙を流すしかない。
こんなにわかりあいたいと思っても傷つけあうことしかできない僕らはいないほうがいいのか………!?
それがあなたの答えなのか、イオリア!?
それに気付かせるために僕たちガンダムマイスターは戦っていたのか!?

教えてくれ、ソリッド………………!!





孤島 砂浜

料理が終わった後、僕たちはロックオンからこの休暇の理由を聞いた。
まったく……スメラギさんには敵わないな。
でも、今だからこそ考えるべきなのかもしれない。
数えきれない人たちを犠牲にしてまで僕たちが戦う意味を。
みんながいた方とは反対の砂浜で僕は静かに目を閉じる。

超人機関から逃げ出したあと、僕はハレルヤと一緒に暮らしていた。
僕たちはそれほど仲が良かったというわけじゃないけど、お互いいないといけない存在だとは認めていた。
けれど、僕は鏡をのぞきこむのが怖かった。
鏡を見たときに映る自分の姿がハレルヤに見えて怖くて仕方なかった。

(違うだろアレルヤァ!お前が本当に恐れているのは俺じゃなくて誰かと関わりをもっちまうことだろ!!)

記憶の中の鏡に写るハレルヤが僕を笑う。

「そんなことない!!僕は……」

(強がんなよアレルヤ!!俺はお前なんだ!隠せると思うな!!)

「違う!!」

僕は目の前の鏡を叩き割る。
それでも、割れた鏡にハレルヤが写る。

(認めちまえよアレルヤ……お前は一人で生きていくこともできないくせに一人で平気だと強がってんのさ!!ソレスタルビーイングに入ってからも、無理だと知りながら一人でいたいと思ってんだろ!!)

違う…………
違う………違う…………
違う違う違う違う違う違う違う違う!!!

「僕は…………!!」

目を開く。
吸い込まれそうな夜空にたくさんの星が光っていて綺麗だ。
なのに、僕はどうしてこんなに孤独を感じているんだろう………

「…………だって、そうするしかないじゃないか…………。僕のせいで、みんなが傷ついてしまうんなら、いっそ……」

『そんなことないよ………』

「!!?」

突然の声に僕は驚く。
なぜなら、もうその声を聞くことなんてできるはずのない声だったから。

「エレ………ナ?」

そんなはずはない!
エレナはあの時僕たちの目の前で死んだんだ!
僕が………守り切れなかったせいで……

『ううん………アレルヤはちゃんと守ってくれたよ。私は最後まで人の心を持ったまま生きていられた………。大好きなユーノに復讐にはしった私じゃなく、いつもの私のまま最後に会うことができたんだよ………。』

エレナ………

『アレルヤが優しいことはみんな知ってるよ。だから………もう一人で強がらなくてもいいんだよ。』

その時、夜空に翼をもった翠色のなにかが飛んでいく。

「あれは………?」

『私がみんなのところに連れて行ってあげる……』

「エレナなのか…………?」

信じられない。
けど、なぜだかそう思わずにはいられない。
そのまま僕は、翠に光る鳥の後をついて行った。






コンテナ

ロックオン・ストラトスからこの休暇の理由を聞いた。
戦う理由を確認しろだと………!?
そんなことなど必要ない!
マイスターとしての覚悟なら当の昔にできている。
いまさら確認する必要など………
…………いや、やはりあるのかもしれない。
僕は人革連に捕えられたキュリオスを撃てなかった。
ガンダムマイスターとして撃たなければいけなかったはずのあの場面で。

「いや、それだけじゃないか………。」

僕は静かに目を閉じる。
紛争に介入した後、初めて近くの街に降り立ったとき、頭をハンマーで殴られた気分だった。
そこに確かにあった人の営みが何も感じられず、血の跡がべったりと残った建物がいくつもあった。
比較的形が残っていたビルの上から街を見ると信じられないくらい怖かった。
死体があちこちに転がり、その肉をはぎ取って戦いが終わった後もくすぶる火でそれを焼いて食う子供たち。
僕は後ろを向いてフェンスに背を預けて座り込む。
いままで自分のやっていることは正しいことなのだと思っていた。
だが、この惨状を生み出す一端を担ってしまったのは僕たちだ。
それでも、この光景は目に焼き付けなくちゃいけない。
僕は勇気を振り絞って再びその光景を見る。
胃の中から何もないはずなのになにかがせりあがってきた。
僕はたまらずその場にしゃがみ込んで吐いた。

目をあけると森の中にあるコンテナに寄りかかっていた。
勇気を示さなければいけないときにそれができず、自分のしたことの結果を直視できない僕にガンダムに乗る資格があるのか……?
選ばれた存在だと思っていたのに現実に向き合う勇気もない僕は、マイスターにはふさわしくない。
………………辞退しよう。
僕は……マイスターにふさわしくない。

『………相変わらず小難しいことを考えてるのね。』

!!?この声は!?

「馬鹿な、彼女がここにいるはずがない!」

彼女は三年前に死んだはずだ!
必死で空耳だと思うようにするがそれでもはっきりと彼女の声が耳に残っている。
仲間だったエレナ・クローセルの声が。

『そんなに思いつめなくてもいいよ…………ティエリア。』

「けど、僕は……」

『ティエリアは初めて会った時よりずっと強くなったよ。』

そんなこと………

『だって、ティエリアは誰かの苦しみを理解してあげられるようになったでしょ。』

「何を馬鹿な……」

『じゃあ、あの時なんでアレルヤについて行ったの?ガンダムから降ろそうと考えていたのに。』

「……………………」

人革連の研究施設に攻撃するとき、確かに僕はアレルヤの援護に向かった。
だが、あれは彼に迷いを振り切らせるためで……

『フフフフフ……嘘ばっかり。ほんとはアレルヤができなかったらあなたがやってあげるつもりだったんでしょ?』

「!!!」

『勇気を見せつけるだけが強さじゃないんだよ……。誰かを思いやることも、強さなんだよ……』

その時、葉の間から翠に光る何かが見えた。
僕は立ちあがり目を凝らす。
それは翠の光を放つ鳥だった。

「あれはエレナなのか……?」

『ついてきて……みんなが待ってるよ……』

僕はそのまま何かに引き付けられるようにその鳥の後ろについていく。
心に迷いを持ったまま……









俺はレンガで建てられたボロボロの小屋の壁に背を預けている。

Ms.スメラギに戦う意味を再確認してほしいと言われた時、できれば俺はそんなことをしたくないと思っていた。
俺は確かに世界を変えたいと願った。
だが、それでも今の俺の根幹をなしているのは復讐心だ。
テロが憎い。
家族の命を奪ったやつらをこの手で殺してやりたい。
戦いを終わらせるために戦うことを選んだのに、俺自身が戦いの連鎖に囚われちまっている。

目を閉じれば今でもあの日の光景をはっきりと思い出せる。
家族を失った俺はソレスタルビーイングに正式に合流する前に家族と過ごした家に行った。
……いや、正確にいえば家が建っていた場所、と言うべきか。
そこに残されていたのはちょうど俺が今背を預けているレンガ建ての家のように、ボロボロに崩れたレンガの壁だけだった。
なんでだろうな……それを見たとき、俺はどうにもやるせなくなって笑っちまった。
ひとしきり笑った後、その壁に体を預けて今度は一晩中泣いた。
家族との思い出が、あのテロの記憶が風化していくにしたがって俺の中から消えていっているようでどうしようもなく悲しかった。

俺は目を開けて空を見上げる。
そこにはムカつくほど綺麗に晴れ渡った夜空がそこに広がっていた。

「……どんな時でも変わんねぇんだな、空ってやつは。」

家族を失った時も、エレナを守りきれなかった時も、空はいつもと変わらず綺麗だった。
そして、世界も、そこに住むやつらも何も変わりはしない。
今この瞬間に不条理に命を奪われているやつらがいるにもかかわらず。

「でも、俺のやっていることは連中よりももっと性質が悪いか……」

なにせ、命を奪う側なんだからな。

「………俺は変われない……デュナメスに乗っていても、何も……。そんなやつが世界を変えるなんて……」

『……でも、ロックオンはみんなを変えてきたよ。』

「!!?」

俺は驚いて立ち上がる。
この声…………!
そんな馬鹿な!
アイツは……エレナは俺たちが最後を看取ったんだ!!
ここにいるはずが………

『ロックオンはみんなのことを変えてきたよ……刹那にユーノ……それにティエリアにフェルト…………他のみんなにも、私にもたくさん大切なものを教えてくれた。』

「でも、俺自身は……」

『急がなくてもいいんだよ……人が変わるには時間がかかる…。ロックオンは人一倍その時間が長いだけ……ただそれだけのことなんだよ……』

その時、俺の後ろの木陰から何かが夜空へと舞い上がる。

「あれは………?」

瑠璃色に輝く鳥。
さながらGN粒子でできたような翼を広げてゆっくりと飛んでいく。

『ついてきて……ロックオンがみんなを変えてきた証拠を見せてあげる。』

………やれやれ、夢でも見てんのか?
でも、夢なら別について行っても問題はねぇよな。






変わりゆく季節と瞬間の中
懐かしいmelodies……
大人になっても色褪せはしないよ
僕たちのprecious memories……

I Gotta Say……!





孤島(?)

刹那は一通り島を調べたところで最初にいた浜辺に戻ってきた。
体はそれほど疲れてはいないはずなのだが、なぜか精神的にかなり疲れているように感じる。

「……っはぁはぁ…」

刹那は耐えられなくなったのか砂浜に膝をついて、視線を下に向ける。

「刹那……?」

刹那は不意に上からかけられた声に顔を上げる。
そこには探していた仲間の一人、ユーノが目の前にいた。

「本当に……ユーノなのか……?」

「よかった!!みんないなくなったからすごく心配してたんだよ!!」

やはり何かが違う。
いつものユーノと違う物腰と口調。
だが、刹那はすぐに目の前の人物がユーノだと確信した。
なぜかはわからない。
だが、今のユーノはまるで心をむきだしにしたような、ありのままの姿のような気がする。

「他のみんなは!?」

「いない。俺とお前だけだ。」

「………そっか。」

互いに再開を喜んだが、また二人は暗くなる。

「……もう、いないのかもしれない。」

「え?」

刹那は重い口を開く。

「みんな、もうこの世界にはいないのかもしれない……」

「それって……」

ユーノは自分の顔が青ざめていくのがわかった。
だが、不安に飲み込まれないように声を張り上げる。

「そんなことない!!きっとみんなどこかにいるよ!!」

「じゃあどこにいると言うんだ!!」

刹那の怒鳴り声にユーノは驚く。

「こんな世界の………滅びゆく世界のどこにみんながいるって言うんだ!!」

「滅びゆく……世界……?」

「そうじゃないか!!誰もいない、ただ歪んだ光景が広がるこの世界が滅びゆく世界じゃないと言うなら一体何なんだ!!」

『………ここは、私の心象風景……』

「「!?」」

聞こえるはずのない。
もう、聞くことのできないはずの人物の声が二人の耳に聞こえてくる。

「エレナ!?」

「そんな……だってエレナはあの時、僕のせいで……」

ユーノの暗い声に怒った声が答える。

『いつまで引きずってんのよ!!もう!!』

「!!」

驚いて腰を抜かすユーノに今度は優しい声で語りかける。

『……あれは私が自分で決めた結果なんだから、ユーノは気にしなくていいんだよ。』

「でもあの時、僕が止めていれば!!」

『けど、私は最後に世界と向き合うことができた……そして、あれからもユーノと一緒にいて希望も見つけることができた……ほんとに微かなものだけどね。』

その時、ユーノと刹那の前の波打ち際に淡く輝く瑠璃色のかけらが現れる。

「これは………?」

刹那がそれに手を伸ばした時、そこから激しい光が放たれる。

「な!?」

「刹那!」

二人は逃げることもできずにその光にのみこまれてしまった。







経済特区東京 某マンション

俺は気付くとつい最近訪れた場所にいた。
俺の潜伏先の部屋の隣、沙慈・クロスロードの部屋。
部屋の明かりが落ち、窓から入る月の光で何とか部屋の様子がわかる程度だ。
窓の近くには沙慈・クロスロードが、そして、壁に寄りかかり座っているルイス・ハレヴィがいた。
歩いて近寄って見るとルイス・ハレヴィが泣いている。

(なぜ泣いている。)

声を出そうとしたが、声が出ない。
沙慈・クロスロードたちも俺に気付いていないようだ。

それよりもわからない。
なぜルイス・ハレヴィが泣いているのか。
おおかた親が故郷に帰ってしまったことで泣いているのだろうが、もう会えないわけじゃない。
なのに、彼女は泣いている。

(……俺が普通じゃないのかもしれないな。)

この手で両親の命を奪い、二度と会うことをできなくしてしまった。
そんな俺の考えを押し付けるのがおかしいのかもな……

その時だった。
沙慈・クロスロードが窓から何かを見つけ外を指さす。

(?なんだ?)

俺もそれを見ようと窓の近くに行こうとする。
だが、どれほど歩いても窓との距離が縮まらない。
後ろに……引っ張られる………!?

俺はそのまま何かに引っ張られるような形でその場を後にした。






時空管理局艦船アースラ

目を開けた時、僕の目に懐かしい光景が目に飛び込んできた。
アースラ………
僕たちが悲しい事件と何度も向き合ってきた場所だ。
もう、戻ってくることなどないと思っていたのに、なぜここにいるのか。
辺りを見渡してみると見覚えのある背中を見つける。

(フェイト!はやて!)

声をかけようとしたのに声が出ない。

(なんで!?せっかくみんなに会えたのに!!)

僕は二人の肩に手を置こうとした。
でも、手がすり抜けバランスを崩し前につんのめる。
そして、体もすり抜けて二人の前に出てしまう。

(そんな………)

でも、冷静になって考えればこれでいいのかもしれない。
いまさら僕が現れたところで……こんな人殺しが戻ったところでみんなが苦しむだけだ……
そう思いながら振り向くと、二人が泣いている。

(どうして泣いてるんだ……?)

何かつらいことでもあったのだろうか。
二人は静かに窓から異世界の夜空を眺めながら涙を流している。

(………本当に、僕はどうしようもないな……)

目の前で友達が泣いているのに何もしてあげられない。

だがその時、二人は何かを見つけたのか窓の外を見て驚いた表情をする。

(?一体何が……)

僕は二人の向いている方を向こうとするが目の前に現れた光で視界が遮られてしまう。
そして、そのままその光にのみこまれて僕はその場から去ってしまった。






アザディスタン王国 宮殿

沙慈・クロスロードの部屋から何かに引っ張られたかと思うとここに来ていた。
俺とは違う方法で戦いをなくそうとしている者の住まう場所。
俺の故郷を奪った国の王族、マリナ・イスマイールのいる宮殿。
部屋の主は俺から離れた窓辺に腰かけていた。

(マリナ・イスマイール………)

彼女もまた泣いていた。

俺はあの時、彼女にある問いをした。

『なぜこの世界は……歪んでいる?』

自分と違う方法で平和をつかもうとしている彼女なら答えてくれると思ったから聞いた。
だが、彼女は答えてくれなかった。
それでも、答えてほしかった。
身勝手だということはわかっている。
でも……

(でも……俺は知りたい。この世界を歪ませているものが何なのかを。)

俺はマリナのそばまで歩いて行く。
涙が彼女の白い頬を流れるたびに、月の光が雫を通して輝きを増す。
マリナは泣きながら何かを呟いているのだが、なかなか聞き取れない。

(なんだ……何を言っている?)

俺はマリナの声が聞こえるようさらに近づこうとするが、窓の外から月とは違う光が入ってくる。
マリナと俺は同時にその光を見ようと顔を上げる。
だがそれを見ようとした瞬間、俺は強烈な眠気に襲われてその場に倒れてしまった。
ただ、その前にマリナの声が聞こえた気がした。

「誰もが……平和を求めている…」

と……






地球 海鳴市

光の中から出た時、僕は夜空に浮いていた。
なのはが何度も魔法の練習をしていた小高い丘が下に見える。
そして、すぐそばにはなのは本人がいた。
なのははバリアジャケットを展開したまま月を眺めている。
それだけならよくあることなのだが、ただひとつだけ普段とは違う点がある。
瞳から透明な雫が何度もこぼれおちていっている。
不意になのはの口が動く。
声は聞こえない。
だが、唇の動きで何を言っているのかわかった。

『ユーノ君……』

(なのは……)

できることなら今すぐにでも抱き寄せたかった。
涙を拭ってあげたかった。
でも、できない。
する資格なんて、僕にはもうない。

気付くと、僕も泣いていた。
こんなにお互いがすぐ近くにいるのに、思いを寄せあうこともわかりあうこともできない。
まるで、平和を望みながら傷つけあうことしかできない人類のように。

(なのは!!)

僕は声にならないとわかっていながら叫ぶ。
確かにどれほど近くにいても、他人を思いやろうとしてもできないのかもしれない。
でも、だからと言って諦めてしまったら、僕たちは本当にわかりあうことができなくなってしまう!
だから!!

(なのは!!)

僕が何度も叫んでいると、ふいに空が明るくなる。
月はまだ夜空で煌々と輝いている。
だが、それを上回る光を放つ何かが僕たちの周りを飛んでいる。
なのはも僕もそれが何か確かめようと上を見ようとする。
けど、僕はそれがなんなのかわからないまま意識が遠のいてしまった。





?????

ユーノ……刹那………
あの人たちを守ってあげて。
今は迷ったり、間違った道を進むこともあるかもしれない。
でも、この歪んだ世界に息づくかすかな希望なの……
だから、あなたたちが導いてあげて。
ユーノも刹那も、彼女たちとともに少しずつだけど変わってこれたんだから……





孤島 砂浜

刹那とユーノは同時に眠りから覚める。
二人は目の前の光景を確認するが先程まであった赤い空も血の海もない。

「ユーノ……お前もあの光景を見たのか?」

「君……じゃなくて、お前もか刹那?」

二人は互いに先程の夢のことを聞きあう。
二人で同じ夢を見るなどあり得ないのだが、あのリアルな光景を見た後だと今が現実なのかどうか疑いたくなってくる。

「刹那……」

不意にユーノが口を開く。

「お前は……希望ってやつが見つかったか?」

刹那はユーノの問いに沈黙で答える。
そして、刹那もユーノに問いかける。

「お前はどうなんだ、ユーノ。」

ユーノも沈黙で答える。
言葉はかわさなかったがそれだけで十分だった。
二人は互いに同じ答えにたどり着いたのがうれしかったのか静かに微笑む。
とその時、それぞれ別の方向から何かを追うようにロックオンたちがあらわれる。

「待てよ!……って、あれ?お前らなんでこんなところに?」

「ロックオンたちこそなんで!?一人になって考えたいことがあるって…」

「君たちはなぜここに?」

ティエリアは一人冷静にロックオンとアレルヤに質問する。

「いや、なんか光る鳥みたいなのを追ってたらここに来てて……」

「え!?僕もだよ!?」

「……どうやら、三人そろって同じのようだな。」

ティエリアはクイッとメガネを少し動かす。

「じゃあ、お前らもアイツの声を!?」

「うん!僕もそれを聞いてここに来たんだ!」

「だが、どうやら見失ってしまったようだがな。」

ティエリアの言葉に深いため息をついた後、三人は寝ていたユーノと刹那が起きていることに気付く。

「なんだ起きてたのかよ。それなら早く言えよな。」

「起きてるのにも気付かないで三人でしゃべってたら声もかけづらいっての。」

ユーノは唇を尖らせて反論する。

「ハハハ、悪い悪い。」

「もう夕食はできてるよ。早く食べよう。」

そう言ってアレルヤがテーブルに向かおうとした時、空から瑠璃色の光が降り注ぐ。
強すぎず、柔らかで温かな光が五人を包み込む。

「あれは……!?」

刹那は羽織っていた布をバサリと取って立ち上がると空を見上げる。
そこにはロックオンたちが追ってきていた瑠璃色に輝く鳥がはるか上空へと昇って行くところだった。

「綺麗だな……」

「うん……」

ユーノの言葉にアレルヤがうなずく。
他の三人も何も言わないが同じことを思っているようだ。

「………で、お前らは再確認できたか?」

ロックオンは小声でアレルヤとティエリアに問いかける。

「うん。僕はこれからもガンダムで戦うよ。」

「僕もだ。」

「ハッ……心配していろいろ考えてた俺がアホみてぇじゃねぇか。」

「ところで、あの二人には言わなくてもいいのかい?」

「俺も言おうと思ったがな、あの面を見たらその必要がないってわかったよ。」

「そうか……うん、そうだね。」

三人は空を見上げる刹那とユーノの顔を見る。
迷いが断ち切れた清々しい顔はロックオンたちを安堵させるには十分なものだった。



この後、彼らは全員で二日というわずかな時間を楽しんだ。
これが彼らが全員で集う最後の機会だったことも知らずに。
だが、それでも彼らはこの思い出を忘れはしないだろう。
そう……決して…………








勇気を見せつけても、強がっても、一人では生きられない……
あの日の約束なら、心の深くに残っているよ

As life goes on……

忘れちゃいけないからYeah……

Don’t let it go……

この広い大地と仲間たちのこと







あとがき・・・・・・・・・・・・という名のカウントダウン一時停止と真面目なあとがき

今回は真面目に(いつも割と大真面目で悪ふざけをしていますが(笑))あとがきを書かせていただきます。
今回のサイドは………はい、ごめんなさい。
いつぞやと同じくやってしまいました(^_^;)
firstのセカンドエンディングを自分なりの解釈とオリ設定を組み込んで書いてみました。
もうどうしようもなくあれですが、楽しんでくださいましたでしょうか?
自分はこのエンディングが好きで介入開始した辺りで書いてみたいと考えていて、今回思い切って書いてみました。
なにげにfirstではここで出てくるマイスターズの画が一番好きです(笑)
次回はいよいよ最終決戦突入です!
マイスターズはそれぞれの思いを胸に抱きながら戦場へと向かいます!

最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!
では、次回をお楽しみに!



[18122] 31.永久なる願い
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/10/17 11:52
プトレマイオス

「貴様だ!!」

ティエリアはエクシアのもとから帰ってきた刹那を見た瞬間に掴みかかった。
壁に押し付け、顔面に拳を叩きこむ。
刹那は避けるそぶりも見せずに大人しく殴られる。

「やめろティエリア!!」

イアンが止めようとするがティエリアは止まらない。

「貴様が!貴様が地上に降りたせいで戦力が分断された!!」

刹那を責めながら、ティエリアの目に涙がたまっていく。

「答えろ!!なぜ彼が死ななければならない!!なぜ……!!」

ティエリアが再び刹那を殴ろうとした時、肩を掴まれ後ろへと向かされる。
そして、パンッと乾いた音が響く。

「敵はまだいるのよ!!泣きごとを言う暇があったら手伝って!!」

いつの間にかいたスメラギがティエリアの頬をぶったのだ。
ティエリアは一瞬呆けるが、すぐにいつもの冷静さを取り戻す。
しかし、その目はいまだに悲しみをたたえている。

「……すいません。感情的に……なりすぎました。」

スメラギは俯くティエリアの姿を見て何も言わずに立ち去る。
そして、誰もいない場所に来たところで彼女の瞳からも涙があふれ出した。








ブリッジ

フェルトはずっと泣いていた。
涙を流すほどに心に開いた穴が大きくなっていくようだったが、どうしても涙が止まらない。

「フェルト、ゴメン。フェルト、ゴメン。」

「ハロが悪いわけじゃない……!ハロが……ハロが……」

自分に抱かれていたハロの謝罪にフェルトはさらに涙を流す。
見かねたクリスティナが声をかけようとするが、何を言っていいのかわからず黙ってしまう。

「嫌なんスよ……こういうの……」

リヒテンダールは二人に背を向けて気を紛らわせるように作業を開始する。
しかし、その作業が手につくはずもなく、コンソールから手を離し、ボーッと前を見つめるのだった。









魔導戦士ガンダム00 the guardian 31.永久なる願い

バージニア級

前回の戦闘でソレスタルビーイングだけでなく国連軍もまた消耗していた。

「27機中帰還できたのはたったの十一機……鹵獲した機体も失ってしまった。それに、ガンダムの新たな能力……。マネキン大佐、私は現宙域からの撤退を進言する。このままではただいたずらに兵を失うだけだ。」

「私も同意見ですが、国連軍は増援をこちらに送ると言ってきています。」

「増援だと?」

セルゲイは眉をひそめる。
最初こそ三国家群が一つにまとまり、ガンダムを圧倒していることを喜んだが時間が経つにつれ、国連軍に対しどうにも胡散臭さを感じ始めていた。
新型のガンダムのテロにあわせて裏切り者が出たソレスタルビーイング、ガンダムの位置を的確につきとめたり、それに合わせてガンダムが新たな能力を使用し始めたことと言い、何やら見えない何者かの意志が働いているように思えてくる。
そして、マネキンもどうやら似たようなことを考えているようだ。

「まさかまだGNドライヴ搭載型があるというのか?」

「わかりません。到着次第、第二次攻撃を開始せよとのことです。」

その時、ブリッジに電子音が鳴る。
二人は思わず敵かと思い身構えるが、それはいらぬ心配だった。

「本艦へ向かってくるジンクスを捕捉。」

「なに?」

「生存者がいたのか?」

前方のモニターに映し出されたのは首を失った以外はほとんど無傷のジンクスだった。

「機体照合確認。パイロットはAEU所属、パトリック・コーラサワー少尉と確認。」

『すみません大佐……やられちゃいました……』

すまなさそうに笑うパトリックを見てマネキンは&の笑みを漏らす。

「心配させおって、馬鹿者が…」

「へ?」

「すぐに戻ってこい、馬鹿者。」

「は、はいっ!!」

厳しい顔に戻ったマネキンに睨まれてパトリックは慌てて通信を切ると急いでコンテナへと向かうのだった。









プトレマイオス フェルトの自室

「フェルト?フェルト?」

ハロは何度も呼びかけるが自分を抱いているフェルトは反応しない。
俯いたまま魂の抜けた目で床を見下ろしている。

(もう……何も考えたくない……何もしたくない……)

クリスティナが一旦ブリッジクルー全員に休むよう提案したのだが、フェルトには逆効果だったようだ。
部屋に閉じこもると誰が来ても扉を開けず、ただ俯き続けている。

(……いっそ、このまま…)

フェルトが最悪の答えにいたろうとした時だった。
ハロが目を点滅させたかと思うと、次の瞬間フェルトの腕から飛び出す。

「?ハロ……?」

「連レテッテ!連レテッテ!」

「……どこに?」

「ユーノニ伝言!ユーノニ伝言!」

「ユーノに……?」

フェルトは疑問に思いながらハロを両腕に抱き締めてユーノの部屋に向かった。







ユーノの自室

ユーノは魔法陣を展開して端末を支配下に置く。
帰ってきてから自室にこもるとすぐさま練習を開始した。
だが、その必要はなかった。
それまで使うたびにひどく疲労していたのが嘘だったように安定して使用できている。
まるで、ロックオンの死によって何かが目覚めたかのように。

「ユーノ、もうやめておけ。それ以上は流石に……」

「大丈夫だよ。なんでかわからないけどずいぶん調子がいいから。……それに、もうあんな思いはしたくないから。」

ユーノは967を心配させまいと笑いかけるが、その笑顔は悲しげで967も悲しくなってくる。

(ロックオン、どうすればいいんだ……このままじゃユーノは……)

その時、ユーノの部屋の扉がノックされる。
ユーノは慌てて魔法陣を消して扉をあける。

「フェル……ト……」

そこにいたのは、ハロを両腕でしっかりと抱いているフェルトだった。
目の周りが赤く腫れていてかなり長い間泣いていたことがうかがえる。

「どうした……?」

「ハロがユーノに会わせてって…」

「ハロが?」

「ユーノ見テ!ユーノ見テ!」

ハロはフェルトの腕の中から飛び出してユーノの部屋の机まで行く。
そして、目を点滅させるとそこにあったモニターに何かを映し出す。
そこには右目に眼帯をしたパイロットスーツのロックオンがいた。

「「「ロックオン!?」」」

フェルトとユーノ、そして967はモニターの前まで駆けよると食い入るようにロックオンを見る。

『ユーノ、お前がこれを見てるってことはたぶん俺はもうここにはいないってことなんだろうな……ヤバい、地味にへこんでくるぜ……』

ロックオンは画面の奥で壁に手をかけて落ち込む。
しかし、すぐにユーノとフェルトのほうに向き直ると再び話し始める。

『こいつはもし俺が死んだ時、お前のことだろうからまた守れなかったとか思って無茶をし始めるだろうと思ったから、そんなお前に俺の最後の言葉を贈るためにハロに手伝ってもらって残しておく。』

「ロックオン……」

『まず、俺が死んだとしてもお前が落ちこんだり無茶をする必要はない。俺が勝手して勝手に死んだ……そういうことだ。………まあ、お前のことだからそれぐらいじゃ納得しないだろうな。けどよ、お前が無茶して死んじまったら俺がうかばれないからな。これは他の奴らにも言えることだし、言っておいてもらえると助かるな。んじゃ、次だ。できることならフェルトを支えてやってくれないか?』

フェルトの目が驚きで見開かれる。

『フェルトは人の死ってやつに敏感だからな。きっと、俺なんかが死んでも涙を流してくれるだろうな……。でも、いつまでも俺のことにこだわって欲しくないんだ。フェルト、そしてお前や刹那にはまだまだ未来がある。世界に喧嘩を売っておいてこんなことを言うのもなんだけどよ、俺はお前らにこの世界で生き続けて欲しい。生きてりゃなんかいいことがある。だから、最後まで生き残るって約束してくれ。』

「……っ!ロック……オン……!!」

「フェルト……」

『それと、これで最後だ。お前は俺たちとは違って帰れる場所がある。お前を待っててくれる人がいるんだろ?だったら、何が何でも戻ってやれ。お前がいた世界に戻る手段を探すんだ。』

(ユーノのいた世界?)

フェルトはロックオンの言葉に疑問を感じる。
今の言い方ではまるでユーノがこの世界の人間ではないような言い方だ。
しかし、この時のフェルトはそれが単なる言葉の綾ぐらいにしか思わなかった。

『確かに、お前は罪を犯したかもしれない。でも、罪は生きて償うことができる。だから、お前は生きて罪を償え。お前を待っている奴らとともに……』

ロックオンはそう言うと扉へと歩いていく。
ロックオンの姿が消え、声だけが聞こえてくる。

『こんなもん残しちまったけど、もちろん俺は死ぬ気なんざちゃんちゃらないぜ。何が何でも生き残って世界を変えてやるさ。……じゃあな、また会えることを願ってるよ。』

映像はそこで終わった。
三人は映像が終わったあとも動けずにいた。
しばらくしてずっと泣いていたフェルトが口を開いた。

「ロックオンは……最後まで私たちのことを心配してくれてたんだね……」

「……ああ。」

「だったら……泣いている暇なんてないよね。」

フェルトは顔を上げる。

「私、行くね。」

「……頑張れ。」

ユーノは優しく微笑む。
フェルトはユーノの微笑みに笑顔を返し出ていく。
その姿を見送ったユーノも気を引き締める。

「967、ティエリアかアレルヤに連絡を取れる?」

「了解だ。」

967はすぐにティエリアの持つ端末との回線を開く。

「ティエリア。」

『丁度よかった。君に連絡しようと思っていたところだ。』

ティエリアはユーノの顔を見て、すべてを理解する。

『どうやら、君も僕と同じ考えのようだな。』

「ああ。」

通信を終了すると、ユーノは廊下へと向かう。
自分の意思を示すために。









スメラギの自室

通常電源がカットされた部屋でスメラギはモニター越しにイアンと話している。

『指示どおり、GN粒子を散布させつつ衛星を飛ばした。しかし、こんなんで敵さんを騙せるのか?』

「気休めです。アステロイド周辺は監視されてるでしょうから。でも、うてる手は全部打っておかないと。それで、ガンダムの状況は?」

イアンは携帯端末のカメラから自分をどかしてガンダムを写す。

『キュリオスは飛行ユニットを取り除けば出撃可能だ。ヴァーチェは外装を取っ払ってナドレで出撃させる。専用の武器も用意した。』

「どのくらいで終わりますか?」

『最低でも八時間ってところか……』

「六時間でお願いします。」

『む……わかった。』

イアンは困った表情を浮かべたが、すぐさま承知する。
通信が切れ、イアンの顔が見えなくなると大きなため息が出る。

(現戦力で期待できるのは強襲用コンテナ二機と、エクシアとソリッド、そしてGNアームズだけ……頼みの綱のトランザムも制限時間がある。)

この状況ではまともに戦うことなどできはしない。
今は逃げの一手に出るしかない。
そんなことを考えていたスメラギに意外な人物から通信が入る。

「ティエリア!?」

モニターに映ったのは先ほど自分が叱責した人物、ティエリア・アーデだった。

『スメラギ・李・ノリエガ。次の作戦プランを提示してください。』

スメラギは驚く。

「まさか、戦おうと言うの!?」

『もちろんです。敵の疑似GNドライヴ搭載型を叩ければ、世界に対し我々の実力を示し計画を継続できる。』

「リスクが大きすぎるわ。敵の援軍が来る可能性も…」

『わかっています。ですが、これは私だけの気持ちではありません。』

ティエリアの周りにアレルヤ、刹那、ユーノが現れる。
マイスター達の目には強い意志が宿っている。

『マイスターの総意です。』

「………………………………」

『では。』

通信が終了してティエリアたちの姿が消える。
よくよく考えてみれば、自分は逃げたかっただけなのかもしれない。
重圧から逃げ出して楽になりたかっただけなのかもしれない。
覚悟ができていなかった。

「生き残る……覚悟………」

スメラギは覚悟を固めた。









刹那の自室

ティエリアたちと別れた後、刹那は自分の部屋でデュナメスのミッションレコーダーを見ていた。
そこにはスローネ、アリー・アル・サーシェスの姿が映っていた。

「アリー・アル・サーシェス!?あの男がロックオンを……!!」

刹那は怒りに燃える。
だが、すぐにその怒りは冷めていく。
ツヴァイが破壊されたということはサーシェスも生きてはいまい。

「命を投げ出して……仇を討ったのか、ロックオン……」

その時、刹那の脳裏にあの日の戦友の姿が現れ、声が響く。

『なんだお前……死ぬのが怖いのか!?それは神を冒涜する行為だぞ!!』

(違う!)

刹那はベッドから立ち上がる。

「死の果てに……神はいない!」

ロックオンは敵を討てたが、それでロックオンの魂が救われたわけではない。
戦友の声に続き、ラッセの言葉を思い出す。

『今になって思う。ソレスタルビーイングは、俺たちは存在することに意味があるんじゃねぇかってな。』

「存在すること……それは………生きること……。なくなった者たちの想いを背負い、この世界と向き合う。神ではなく、俺が、俺の意志で!!」









ブリッジ

「そうっスか。刹那たちは戦う方を選んだんスか。」

リヒテンダールはクリスティナからマイスター達の答えを聞いて内心安心していた。
ロックオンの死を犠牲にしてまで逃げ出すようなことはしてほしくはなかった。
声を大にして言うことはできないが、本当は逃げたくはなかった。
だが、それはみんな同じようだった。

「覚悟を決めておけよ。」

「おっかねぇの。」

ラッセの言葉にリヒテンダールは苦笑する。
そんな二人の話を聞いてリヒティとラッセの真ん中の席の背もたれに両腕を乗せていたクリスティナが嘆息する。

「でも、やるしかないのよね。」

クリスティナは戻ってきたフェルトのほうを見る。
よく見ると彼女は自分の席で紙に何かを書いている。

「何してんのフェルト?」

「手紙を……」

「手紙?」

「天国にいるパパとママに……それと、ロックオンとエレナに。」

「フェルトの両親は……」

クリスティナが言葉を紡ごうとするとリヒテンダールがちゃちゃをいれる。

「遺書なんて縁起悪いなぁ。」

「違うの!」

リヒテンダールは自分を睨むクリスティナよりも大きな声を出したフェルトに驚く。

「私は生き残るから……当分会えないから、ごめんなさいって。」

「「「!」」」

三人は驚く。
あれほど落ち込んでいたフェルトからそんな言葉が出るとは思っていなかった。

「そっか……」

「その意気だ、フェルト。」

「ロックオンと約束したから。」

フェルトはロックオンの本当の最後の姿を思い浮かべる。
何があってもロックオンとの約束は、願いは守ってみせる。

「あ~あ、あたしも出そうかな、手紙。」

「え!?だ、誰にです?」

クリスティナの言葉に気が気じゃないリヒテンダール。

「コロニーに居るママ。」

「え?(なんだ~、よかったぁ~。)」

「育ての親だけどね。」

クリスティナは少し寂しそうに笑う。

「いい思い出なんて何もないわ。逃げるように家を出て……ヴェーダに選ばれて。」

「いるだけいいさ。」

「ホントホント。」

男性二人がうんうんとうなずく。

「そう言うリヒティは?」

「両親は軌道エレベーターの技術者だったんっスけどね。ガキの頃の太陽光紛争であっさりっスよ。」

リヒテンダールは苦笑しながら肩をすくめる。

「みんな、いろいろあるんだ……」

「いろいろあるからソレスタルビーイングに参加したんスよ。」

「そういや、こんなふうに話すのは初めてだな。」

ラッセがポツリと呟く。

「それは守秘義務があったから……でも、今さらよね。」

「そうっスね。」

「そういや、アイツの昔話は聞いたことないな。」

「誰?」

「ユーノだよ。記憶がないから仕方ないのかもしれないけど、どうにも気になるんだよな。」

そう言いながらラッセはクリスティナのほうを見る。
クリスティナの目はきょろきょろと泳ぎ顔にも明らかに暑さから出はない汗が浮かんでいる。
よく見るとリヒテンダールもだ。

「……お前ら、アイツの昔話を聞いたな?」

「え!?いやいや!!そんなことないっスよ!!?ね、ねぇ、クリス!?」

「へ!?う、うん!そうそう!!大体ユーノの記憶は…」

「もう思い出してるんだろ。」

「そうそうもう思い出して……ダーッ!!!?そうじゃなくて!?」

「リヒティ!!」

クリスティナはリヒテンダールの口をふさぐがもう遅い。

「そうだったんだ……」

「やっぱりな。どうにも変な感じだったからな。」

「「……………………………………」」

「ま、アイツが自分で話すまでは俺たちも聞きゃしねぇよ。」

「うん。」

「………ありがと。でも、多分もうすぐ言ってくれると思うよ。」

クリスティナは微笑む。

「………書けた。」

話しこんでいるうちにフェルトの手紙が書きあがったようだ。
フェルトは立ち上がると扉へと向かう。

「どこ行くの?」

「ちょっと……」

フェルトはそういうとある場所へと向かった。
おそらく、手紙を届けたいうちの一人に一番近い場所に。









コンテナ

刹那はハロを持ってデュナメスの前に立っていた。
あることを伝えるために。

「ロックオン……俺は生きる。……俺が生きることで世界が変わるのなら、俺は生きる。生きて、戦い抜く。」

自分なりに出した答え。
神を信じて歪んだ形で戦いに参加し、神の存在を否定し、迷い、イオリアにガンダムを託された刹那だからこそ至った答え。
アザディスタンの王女、マリナ・イスマイールとは相容れない答え。
だが、それでいいのかもしれない。
彼女は彼女の方法で平和を求め、自分は自分の方法で平和を求める。

「刹那?」

刹那は声のしたほうを向く。

「フェルト・グレイス……。どうした?」

刹那はこちらに無重力の海を泳いでくるフェルトの手をとり、自分の隣に立たせる。

「手紙、書いたの。ロックオンに。」

「なんだ、二人とも来てたのか。」

デュナメスの胴体部分からユーノがふわりと現れる。

「ユーノ……ここで何を……」

「……聞いていたのか。」

刹那はムッとした顔でユーノを睨む。

「そう睨むなよ。俺も似たようなことをしようとしてたらお前が来るのが見えたんでな。つい隠れちまったのさ。」

ユーノはフェルトの手元にある手紙を見る。

「フェルト、ロックオンとの約束、守ってやれよ。」

「うん。ユーノも、刹那も。」

「なんのことだ?」

「お前がさっきロックオンに言ってたことだよ。」

「?」

刹那はわからないと言った様子で首をかしげるが、二人は笑うだけだ。
そして、笑い終わるとフェルトはコックピットに入るとロックオンが座っていたであろう席に手紙を置く。

「刹那とユーノは、手紙を送りたい人はいる?」

刹那はマリナの顔が思い浮かぶが、すぐにその姿を消しさる。

「いないな。」

「そっか……。ユーノは?」

ユーノはなのはの笑顔を思い浮かべる。
だが、

「俺はいることはいるけど、きっと向こうは貰っても迷惑に思うだけだろうな。」

「そう……寂しいね。」

「……寂しいのは、アイツだ。」

「え?」

フェルトは刹那の言葉が誰に向けられたものかわからずに振り向く。
しかし、すぐに誰のこと言っているのかわかった。

「だからハロ、アイツのそばにいてやってくれ。ロックオン・ストラトスのそばに。」

「ロックオン。ロックオン。」

ふわりと投げられたハロはクルクル回りながらゆっくりとフェルトの手に収まる。

「いてあげて、ハロ。」

「了解。了解。」

「ありがとう……」

「フェルト、悪いけど俺のも預かっててくれないか?」

今度はユーノから何かが投げられる。
一つは黒いレンズが光を反射し、もう一つはそれに巻きつけられていて、ふわふわと赤い色の絵具を吸いこんだ筆が通ってくる道にそれを塗っているようだ。

「これって……ロックオンとエレナの……」

ロックオンがくれたサングラスと、エレナがしていたリボン。
二つともユーノにとって大切な二人との絆だ。

「どっちにも……“僕”はもう十分助けられたから。だから、しばらくフェルトが預かっててくれないかな?」

「ユーノ……?」

フェルトも刹那もユーノに違和感を覚える。
それまでのやんちゃな雰囲気が消え、穏やかで、いてくれるだけでホッとするような優しい笑みを浮かべている。

「フェルトがそれを持っててくれれば、僕はここに帰ってきたいって思えるから。」

「うん……わかった。」

フェルトが強くうなずくと同時に、艦内にアラームが響き渡る。

『Eセンサーに反応。敵部隊を捕捉しました……』

「行くぞ!フェルト、ユーノ!」

「はい!」

「うん!」









ブリッジ

「敵部隊の総数は!?」

スメラギは入ってきて開口一番にクリスティナに聞く。

「十、十三機です!でも、その中ですごく大きいものがいます!」

「大きいもの?」

「モニターに出します!」

「!!!?」

「遅れました……!!?」

スメラギも、そしてフェルトもその姿を見て絶句する。
ジンクスが綺麗に整列しているその真ん中に金色に輝く巨大なものがいた。
その大きさは悠にジンクスの数倍はあり、真ん中についている二つの銃口とその下にある切れ込みのせいで金色の骸骨がこちらを笑っているように見える。

「これ、戦闘艦ですか!?」

「違うわ……」

スメラギはリヒテンダールの答えを否定する。

「あれは疑似太陽炉を搭載したMA!!」

それはあまりにもいきなりの出来事だった。
骸骨の口が開き、中から砲門が現れたかと思った瞬間。
ヴァーチェの砲撃に比べても見劣りしない光の柱が放たれた。

「粒子ビームが来ます!」

「そんな!?あの距離から!?」

通常砲撃を行える距離の外から放たれた一撃がプトレマイオスに迫る。

「こんのぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

リヒテンダールは渾身の力で舵を切ってプトレマイオスを右に動かす。
間を置いてやってきた砲撃は船首には直撃しなかったものの船尾をかすめて爆発を引き起こす。

「きゃあああああぁぁぁぁぁ!!!!」

「クッ!第一粒子出力部に被弾!」

「粒子供給をすべて大に出力部に回して!」

「了解!」

スメラギとフェルトがあわただしく動く中、クリスティナから最悪の知らせが入る。

「っつ!第二波、来ます!」

「リヒティ!」

「やりますよ!」

リヒティの操舵によって今度は完全無欠にかわす。
だが、砲撃の衝撃がプトレマイオスを激しく揺らす。

「「きゃああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

「うわあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「っ!強襲用コンテナ出撃!目標、敵MA!」

『『了解!』』

『強襲用コンテナ、出撃する!』

現在のプトレマイオスにおける最大の戦力を敵の最大の戦力にぶつける。
刹那とユーノ、そしてラッセと967は強襲用コンテナを使い敵のMAへ向けて発進する。

「リヒティ!トレミーを近くの衛星のかげに!」

「了解っス!」

「キュリオスとナドレはコンテナから直接出撃!トレミーの防御を!」

『『了解!』』

衛星のかげから二つの光が飛び出していく。

一方、セルゲイ達も二手に分かれプトレマイオス攻略作戦を開始する。

「作戦通りスペースシップにニ方向同時攻撃をしかける。各機、衛星を盾に接近しこれを叩け!」

ここに、国連軍とソレスタルビーイングの決戦の火ぶたが切って落とされた。








戦闘宙域

二機の強襲用コンテナは先行してきたジンクス部隊に砲撃を撃ちこむ。
ジンクス部隊はその砲撃を大きくかわして反撃するが、すでに距離を離されていた。

「中佐!」

「アルヴァトーレに任せておけばいい!」

「ハッ!」

ピーリスとセルゲイは増援としてやってきた大型MA、アルヴァトーレへ向かう二つの機影をそのまま見送る。
その理由はアルヴァトーレの戦闘能力を信頼していることもあるが、なによりおそらくは二機の強襲用コンテナのどちらかに乗っているであろうユーノを撃ちたくはなかった。

(……これが人としての最後の情けだ。)

セルゲイは父親の顔から軍人の顔へと変わる。

「今度こそ、この戦いにけりをつける!」









衛星群 プトレマイオス周辺

衛星に沿ってプトレマイオスに移動していたジンクス二機。
順調に進めていたため、どこか安心しきっていたのだろう。
そこをついてくるものが現れる。

衛星の先で待ち受けていたナドレが飛び出し持っていたビームライフルで先頭にいた一機を撃ち抜く。
撃たれたジンクスはそのまま後ろに仰向けに倒れるようにさがり爆散する。

「これ以上は行かせない!!」

ティエリアが残りの一機に狙いをつけたところで上からもジンクスが現れ射撃を開始する。

「セミヌードのくせに!!」

パトリックはナドレに対し怒涛の攻撃をしかける。
ティエリアは急遽装備されたシールドを使って防ごうとするが、もともと不慣れな装備のため上手く使いこなせない。

「クッ!だが、まだTRANS-AMにはまだ早い!!」

ティエリアはビームサーベルを振るってジンクスたちを後退させる。

「まだまだぁ!!」

「とっと墜ちやがれぇぇぇ!!」








プトレマイオスの情報から近づいてくるジンクス部隊。
ピーリスは殿の前を進んでいた。
もうすぐプトレマイオスに着くという時になって殿のジンクスが動きを止める。

「?どうした?」

ピーリスが振り向くとピクピクと痙攣するように動いているくらいで特に異常は見られない。
そう思えた。

「!!」

よく見るとコックピット部分からオレンジ色の何かが突き抜けている。
それは徐々に開いていきジンクスを真っ二つにした。
そして、その煙の中からシールドクロウを構えたキュリオスがピーリスめがけて飛び出してきた。

「ハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!」

「あの機体は……貴様か!被験体E-57!!」

ピーリスはビームサーベルを抜いてシールドクロウを受け止める。
アレルヤを押しのけて無理やり表に出てきたハレルヤはゲラゲラ笑いをやめてシニカルな笑みを浮かべる。

「悪いなアレルヤ……俺はまだ……」

ハレルヤはシールドクロウでジンクスのビームサーベルを固定して奪い取って投げ飛ばす。

「死にたくないんでな!!」

ピーリスはライフルを至近距離で発射するがやはりシールドクロウに掴まれて銃口をずらされてしまう。

「クッ!!被験体E-57!!」

「はいなぁ♪」

「!!」

ゼロ距離で銃口を向けられピーリスは凍りつく。
だが、

「させるかぁ!!」

「ぬぉ!!?」

セルゲイの駆るジンクスがキュリオスに蹴り飛ばしてピーリスの横に並び立つ。

「ここは私に任せろ!!」

「しかし!」

「行け!!」

「ハハハハハァ!!」

セルゲイ達が話しこんでいると態勢を整えたキュリオスがセルゲイのジンクスに凶爪をつき立てようとする。

「中佐!!」

セルゲイ達の後ろにいたミン達は射撃を開始してキュリオスを後退させる。

「どけよ雑魚ども!!死んで花実は咲かねぇぞ!!」

ハレルヤはその場にいるジンクス全機を相手にするつもりでいた。
だが、それがこの状況においては誤った判断だったことを思い知らされることとなる。









アルヴァトーレ周辺

刹那とユーノはアルヴァトーレへとたどり着く。
そこにはジンクスが一機も存在せず、ただ金色の巨体が一機だけこちらを向いている。

(一機だけで十分だってか!?なめやがって!!)

ラッセは敵の余裕ともとれる布陣に怒りを覚える。

「射程内に入った!!攻撃を開始する!!あわせろ967!!」

「了解!!」

二機の強襲用コンテナからその空間を埋め尽くすほどのミサイルが発射される。
しかし、アルヴァトーレに届く前に赤い膜に阻まれ火球へと変化してしまう。

「GNフィールド!?どうやってあんな出力を!?」

「模造品でもGNドライヴを7基も積んでいるんだ!!そりゃ出力も出るだろうさ!!」

「ならこいつでどうだ!!」

続いて前方に装備された大型GNキャノンが発射される。
しかし、光の奔流は赤いGNフィールドによって四散し、周囲に浮いていた衛星へとあたり爆発を巻き起こす。
その爆発の中でもアルヴァトーレは平然とこちらを向いている。
そして、おもむろにドクロの口が開き中から砲門が現れ、砲撃を放つ。
しかし、その一撃は刹那たちの下を通ってはるか後方へと消えていく。

「下手くそが!!どこを狙ってやがる!!」

「いや……違う!!」

先ほどの砲撃の軌道計算を終えたユーノは青ざめる。
そして、刹那も敵の狙いに気付く。

「狙いはトレミーか!!」









プトレマイオス周辺

「ギャッハハハハハハハハハハ!!!!!!」

「ぐあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

ハレルヤは衛星にシールドクロウで押しつけていた一機を爆散させる。
周囲の機体がキュリオスに射撃をするがあっさりとかわされる。

「おらおらどうしたぁ!!次の自殺志望者は誰だぁ!!?きっちりあの世に送ってやるよぉ!!!ギャハハハハハハハハハ!!!!」

「クソ!!」

ジンクスの中の一機がライフルを撃ちながらキュリオスへと向かう。

「おいおい無理すんなよ!!痛いのは嫌だろ!!」

ハレルヤは上方に避け、銃口を向ける。
その時、後ろにあった衛星が爆発したかと思うと強烈な光がジンクスを飲み込んでいく。

「なんだ……!?うおわ!!」

キュリオスも背後にあった衛星の欠片も光に砕かれ、光の中へと消えていった。







突如放たれた砲撃を避けきれなかったプトレマイオス。
しかし、誰に責任があるわけでもない。
味方が射線軸上にいるにもかかわらず撃ってくる者など通常ならいるはずがないのだ。
そう、人の命を道具程度にしか考えない者でないならば。

「プトレマイオスが!!」

被弾するその一部始終を見ていたティエリアは焦る。
あそこにはキュリオスもいたが、さきほどの砲撃でどこかに行ってしまった。
今のプトレマイオスは裸同然だ。
すぐにでも救援に向かいたいが、ジンクスたちがそれを許さない。

「クッ!!」

大型ビームライフルを発射するが焦りからくるブレも加わり命中率はぐっと下がる。

「オラオラどうした!?砲撃が使えなけりゃ能ナシか!?」

パトリックのライフルが徐々にナドレに弾を当ててくる。

「グァッ!!ク…ソ……!」

自分の無力さが恨めしい。
それでもティエリアは戦いをやめない。
絶望もしない。
ロックオンの死を無駄にしないために。






プトレマイオス ブリッジ

右側から信じられない量の薄紫の煙がもうもうと立ち上っている。
今までに受けたことのない規模の被害にクルーの誰もが動揺し始める。

「第3、第4コンテナ大破!右側面の損傷甚大!」

「E-20から68までのシャッターを降ろして!」

「スメラギさん!メディカルルームが!」







メディカルルーム

(肋に……内臓系はグチャグチャか……まったく…もう少しスマートに死にたかったんだがな……)

モレノは薄れゆく意識の中、自分の体の状況の把握に努めていた。
そんなことをしなくても死の瞬間が目の前まで来ていることはわかっていたが、医者の性とでも言うやつだろうか。
どうしても診察せずにはいられない。

(ククク………イアンが知ったら……『これだから医者ってやつは』………とか、また説教を始めるんだろうな……)

目の前がかすんでいく中、モレノの目の前によく知る人物たちが通り過ぎていく。

(ロックオン……エレナ………グラーベ……ルイード……マレーネ………)

全員、自分が救うことができなかった人間だ。
周りは気にするなと言うが、それでも気にするのが人間だ。
そして、医者は人間にしかなれない。

(……テリシラ……)

ふと、自分の愛弟子のことを思い出す。

テリシラ・ヘルフィ
自分にとって最初の、そして最後の弟子だ。
若いが腕は確かで、多少合理主義が行き過ぎることがあったが、それでも自分の持つ技術と医者としての心構えを叩きこんだ最愛の弟子だ。
ソレスタルビーイングに加わって以降は会っていなかったが、介入を開始した直後くらいからちょくちょくテレビに登場するようになっていた。
そこで自論を語る彼はあの頃の情熱をそのまま持った素晴らしい医者になったとモレノは思った。

(テリシラ………君は……君の方法で誰かを救おうとしているんだな……。わしは結局、救いたいものを守り切れずに逝く………だから、君は……)



モレノはそのまま静かに息を引き取った。
その顔は救えなかった者たちへの謝罪の表情ではなく、次の世代に自分の希望を、願いを託せて逝けた、晴れやかな顔であった。








ブリッジ

「そんな……」

悲しみにくれる暇もなく、新たなる問題が発生する。

「システムに障害発生!GNフィールド、展開不能!!」

「クソ!!」

リヒテンダールが悔しそうに舵を握る中、スメラギはあることを決意する。

「強襲用コンテナへ行くわ!迎撃しないと!」

スメラギは自らが攻撃を担当するためにブリッジから強襲用コンテナへと急ぐ。

「イアンに連絡を!」

「了解!」

こうして、スメラギ、イアンが強襲用コンテナで迎撃を行うことになった。
それが、運命の別れ道になることも知らずに。









プトレマイオス周辺宙域

「よくもプトレマイオスを!!」

ティエリアは怒りにまかせて切り札を切ってしまった。

「TRANS-AM!!」

赤く発光し、圧倒的な機動力でジンクスたちを屠っていくナドレ。

「なんだぁ!?こいつは!?」

パトリックはその性能に驚いたわけではない。
ナドレから、いや、ティエリアから放たれている気迫を無意識に恐怖したのだ。
パトリックは残った一機とともにナドレへとビームライフルを連射するが当たらない。

「ナドレ!!目標を…」

ティエリアが勝利を確信した時だった。
警戒していなかった方向から件の砲撃がこちらに向かってくる。

「なに!?」

紙一重でかわしたものの、左脚、そしてビームサーベルを落としてしまう。

「ぐああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

激しい衝撃がティエリアを襲う。
ナドレのTRANS-AMも終了してしまい、機能が低下する。
そして、それを待っていたようにパトリック達がナドレへと集中攻撃をかける。

「うああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「こいつはラッキー!!」

ビームライフルの弾が着弾するたびに、ナドレの薄い装甲が次々に削り取られていく。
そして、遂に右腕を残して両脚と左肩から先がなくなってしまう。

「まだだ……まだ死ねるか……!!」

アラームが鳴り響き電子機器がスパークするコックピットの中で、それでもティエリアは諦めない。

「計画のためにも……そして……!!」

「ガンダムゥゥゥゥゥゥ!!」

「ロックオンのためにも!!!!」

とどめとばかりに接近してジンクス二機が放った弾丸は一発は外れ、一発はナドレの頭部をとらえ爆散せしめる。
だが、その前にはなったナドレのたった二発の閃光は的確に二機のジンクスを捕えていた。

「へ……?」

上半身が破壊されたジンクスの中でパトリックは間抜けな声とともに激しい光に包まれた。

ティエリアはジンクス二機が沈黙したのを確認すると全身から力が抜けていくのを感じた。









「下手こきやがっておセンチ野郎が!!」

愛機を手ひどくやられた怒りをやられたティエリアへと矛先を変えて罵るハレルヤ。
右脚と右腕を失ったキュリオスで細かく不完全な変形を繰り返しながらそれでもセルゲイ達の駆るジンクスたちを攻めたてる。
その時、キュリオスの背後から二本のビームが飛んでくる。

「クッ!!まだ生きていたのか!!」

セルゲイは怒りをあらわにする。
こいつらがユーノを惑わせた。
あんなに戦うことを、戦争を嫌っていた少年を戦いの道に引きずり込んだ。
そんな怒りでセルゲイの頭の中がいっぱいになる。
父としての感情を捨てたつもりが、奇しくもプトレマイオスを見てしまったためにその感情が再び蘇る。

「中佐!自分が行きます!!」

「ミン中尉!?」

セルゲイが止める暇もなくミンはプトレマイオスへと向かっていった。

「ミン中尉!」

それに気付いたピーリスは自分が止めようとする。
しかし、

「よそ見してんじゃねぇよクソ女!!」

「チィ!!」

キュリオスがシールドクロウだけでしぶとく抵抗してくる。
二人はキュリオスに阻まれ、ただミンの無事を祈ることしかできなかった。







プトレマイオス ブリッジ

常に変わりゆく戦況を確認し、データとしてまとめていることに従事していたクリスティナはフェルトのほうを見る。
必死に自分にできることをこなす彼女は健気で、そして強い心を持った女の子だということがその姿からありありと伝わってくる。

(………だったら、私は私がしてあげられることをしてあげなくちゃ。)

その姿を見て決心がついた。

「フェルト!」

「はい!」

「デュナメスの太陽炉に不具合があるわ。接続状況に問題があるみたい。」

「あ……そんなデータ……」

「急いで!!このままじゃやられる!!」

「了解!」

フェルトは雷に打たれたように席から飛びあがると急いで確認に向かった。
フェルトが出ていったところでリヒテンダールが喋り出す。

「今の、嘘でしょ。」

「わかる?」

「そりゃあね。」

本当は不具合なんてどこにもない。
ただ、フェルトをより安全な場所に行かせたいがために言った嘘だ。

(ごめんねフェルト。でも、これが終わったら。みんなで生き残ったら、ちゃんと謝るから、生きて!)

その時、電子音とともにソナーに反応がひとつ現れる。

「一機こっちに向かってくる。」

「生きのびますよ!」

「わかってる!フェルトにもう叱られたくないもの」

こちらに向かってくるジンクスにミサイルが発射される。
多少ホーミング性能があるため一発は当たるが決定打にはならない。
左腕を失ってなおこちらに向かってくる。
そして、その途中で軌道を変え下に回り込む。
どうやら、敵はこちらの攻撃の死角に回り込むつもりのようだ。
スメラギ達も気づいたのかコンテナを切り離し、迎撃を試みる。
しかし、一足早くジンクスがブリッジの正面へと到達する。

「「!!!!」」

四つの紫の目があやしく光り、銃口をこちらに向ける。

「クリス!!!!」

リヒテンダールは舵から手を離し、素早くクリスティナのもとまで寄ると彼女をかばうように銃口に背を向け抱きしめる。
その瞬間、敵が放った赤い光がプトレマイオスに突き刺さった。






強襲用コンテナ

「クリス!!リヒティ!!」

スメラギの悲痛な叫びがこだまする。

「このぉ!!」

イアンは引き金を幾度も引いて砲撃を放つ。
そして、避けきれなくなったジンクスは下半身を消し飛ばされ、力なくあたりを漂った。







ジンクス コックピット

(う……あ……)

ミンはかろうじて生きていた。
キュリオスに弄ばれている時のように全身に痛みがはしる。
そして、途方もない痛みからある幻覚を見る。

(盾……持ち……?ユーノ君……か…?)

鮮やかな萌黄色をした機体が再び自分をかばうように立っている。
だが、その姿は儚く消えてしまう。

(ハハハ……当然……か………。彼の…仲間の命を………奪ったのだから……)

ミンは生きてきて彼ほどやさしさに満ちた人間に出会ったことがない。
そんな彼だからこそ、優しすぎるがゆえに自分を許しはしないだろう。
彼から仲間を奪った自分を恨み続けるだろう。
だが、

(だが………それでも……普通に生きて………欲しかった………笑って……欲しかった………)

目をつぶるとその光景がまぶたの裏に浮かんでくる。
生まれたばかりの娘を抱き上げて喜ぶ自分と妻。
そして、少し照れくさそうに遠巻きに笑うユーノを呼んで家族四人で写真を撮っている。
ユーノに娘を手渡す。
赤ん坊の意外なほどの重さに驚く彼を今度は自分たちが笑う。
そんな幸せな生活をこれから送っていく。
送っていくはずだったのに……

「なんで………世界はこんなはずじゃなかったことばかりなんだ……!!」

ミンの閉じられた瞳から涙がとめどなくこぼれてきていた。

………この経験が後にミンをエースパイロットへと押し上げることとなる。
だが、この時のミンはただ己の行いを悔い続けるのだった。








ブリッジ

(あ…れ………?)

クリスティナは自分を抱いている温かい何かの感触で目覚めた。
背中に鈍い痛みがあるが、それよりも自分を抱いているものの正体が知りたい。
気絶する前の記憶を脳から必死に引き出す。

(確か……敵がすぐ前に来て………それから攻撃されて…その時に……)

そこでようやく思い出す。
リヒテンダールが自分をかばったことを。

「リヒティ……?」

上手く呼吸ができずにかすれた声でクリスティナはリヒテンダールの名前を呼ぶ。
外層が吹っ飛ばされ、宇宙空間にいるのも同然の場所で、少しずつリヒテンダールの腕を離していく。
すると、

「!!」

クリスティナは言葉を失った。
リヒテンダールの体が、いや、皮膚だけがめくれたようになくなり、そのなくなった所から人間の体ではありえない、機械の骨格がむき出しになっている。
傷口から出ている血も紫っぽい赤だ。

「だいじょぶっスよ……」

リヒテンダールが苦しそうに、それでも笑いながら言葉を紡ぐ。

「親と一緒に…巻き込まれて……体の、半分が…こんな感じ……生きているのか…死んでいるのか……」

「リヒティ……」

クリスティナはフッと笑うと優しくリヒテンダールを自分のもとに抱きよせる。

「馬鹿ねぇ…あたし……すぐ近くに、こんな良い男いるじゃない……!」

クリスティナは笑いながら涙をこぼす。
リヒテンダールの優しさに触れ、ようやく自分が探していた、自分を大切にしてくれるパートナーに巡り会えたのだ。
リヒテンダールは意外そうな顔をした後、小さく微笑む。

「ホントっスよ……」

ようやく気付いたかといった言葉を受け、クリスティナも笑う。

「見る目ないね……あたし……」

「ホン………ト……………」

「リヒティ……?」

目を閉じたリヒテンダールにクリスティナはよびかける。
だが、彼が逝ったことを理解すると彼をきつく抱き締める。

『……ヒティ!……応答して…!……クリス……!』

ノイズがひどい通信が入る。
いつもはよくとおるスメラギの声がひどく遠いものに感じる。

「スメラギさん……?」

『……リス!?無事…だ…のね!リヒティ……』

クリスティナは静かに首を振る。
スメラギ達にそれが見えるはずがないのだが、通信が聞こえないことが彼らに自分の言わんとすることが伝わった証であると理解する。

「フェルト……いる…?」

『います!』

ノイズが混じっていてもはっきりと聞こえるような強い声。
それを聞けてクリスティナの気が緩む。

「もうちょっと……オシャレに……気を使ってね……」

『そん……こと……!』

それまでこらえてきた背中の痛みが全身に伝播していく。
もう自分も長くない。
だが、それでもこれだけは伝えたい。
託したい。
この願いだけは。

「ロックオンの分まで……生きてね………ウッ!!」

口から血が出てくる。
それでも、クリスティナは話すのをやめない。

「お願い………世界を変えて……!お願い………!」

クリスティナが言い終わるか終わらないうちに通信は切れていた。
だが、確かに託せたはずだ。
自分たちの願いを。

そんな、クリスティナの前に懐かしい人物が現れる。

(エレ……ナ…?)

目の前に現れたエレナは自分たちを見て泣いている。
声は聞こえないがしゃくりあげている声が聞こえてくるようだ。

(そんなに泣かないでよ……いいことだってあったんだから……。私ね、彼氏ができたんだよ……どうしようもなく馬鹿で、頼りなくて………でも、すっごく優しい人……)

エレナは必死で涙を拭い笑っている。
どうやら、自分たちのことを祝福してくれているようだ。

(先に彼氏作っちゃって………ごめんね……でも、エレナはもう少し………待ってあげて……ユーノは……まだ、死んじゃいけないから………)

エレナが頬を膨らませて笑う。
それを見ていたクリスティナもつられて笑う。

(フフ………でも、ユーノは……強敵だよ……?もう、好きな人が………いるんだから……でも、私は……エレナを…応援するよ………。もっとオシャレして……お化粧して………)

クリスティナの視界が徐々にぼやけていく。
そして、完全に周りが見えなくなった時、青白い火花が散った後、爆炎が周囲を包み込んだ。








コンテナ

「クリス!!!」

「リヒティ!!!」

「っ………!……っ……!」

スメラギとイアンが叫ぶ。
フェルトは涙を流しながら金魚のように口をパクパクさせていたが、こらえきれなくなったように大きく息を吸い込む。
そして、

「クリスティナ・シエラーーーーーーーーー!!!!!!!!!」

彼女の叫びが、音が伝わるはずのない宇宙にこだました。











願ったのは同じ未来………
違えてしまったのは、進む道
ならば、その願いを抱き続けるのは罪か?








あとがき・・・・・・・・・・・・という名の残り1

ロ「最終決戦突入編でした。」

ク「今回で私たちはサヨナラかぁ。」

ム「なんか寂しいっスねぇ。」

医者「まあ、仕方なかろう。これからは草場のかげで…」

ロ「ああ、お前らもsecondに出るよ。」

ク「……………………………………………」

ム「……………………………………………」

医者「………………………………………………」

ロ「……………………………………………」

「「「えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!?」」」

ロ「うっさいお前ら!!いちいちそれくらいのことででかい声出すな!!」

ム「いや、だって俺ら今回で完全に…」

ロ「いろいろ忘れた君は第30話を読んでみよう!」

ク「それってつまり……」

ロ「そういうことだ。」

医者「いいのかそれで?」

ロ「………まあ、ネタに詰まったらお前らの出番が増えると思っといてくれ。」

ク「なんか素直に喜べない。」

ム「まあまあ、いいじゃないっスか。ただでさえ俺ら出番が少ないのに。特にモレノ先生なんて原作じゃ終わりらへんに少し出てきてすぐにフェードアウトっすもんね。」

医者「………………………………………………」

ク「モレノ先生落ち込んじゃったじゃない!!」

医者「いや、いいんだ………事実だし……」

ク「モレノ先生はすごい人ですよ!?PやFやIじゃ大活躍ですし!!」

ロ「FとIじゃチョイ役だろ。」

ク「これ以上へこませるな!!」

医者「………………………………………………………………………………(泣)」

ム「モ、モレノ先生がこれ以上へこまないように次回予告に行きます!!」

ロ「トレミーを失い、それぞれの信念のもとに戦い続けるマイスター達だったが、とうとう刹那とユーノを残すのみとなってしまう!」

ク「おのれの野望のために多くの犠牲を強いたアレハンドロ・コーナー!」

ム「はたして彼と、刹那とユーノの戦いの結末とは!?」

医者「そして、二人の導きだす世界への答えとは!?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!では、せーの……」

「「「「次回をお楽しみに!!」」」」



[18122] 32.GUNDAM
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/10/17 11:57
戦闘宙域 アルヴァトーレ周辺

黒一色の空間に金色の骸骨から巨大な赤い閃光が奔る。
瑠璃色の粒子を放出するものはそれをかわし、お返しとばかりにピンクの閃光を放つ。
しかし、骸骨はそれを避けるのも煩わしいとでも言いたげに赤い膜を張って事も無げに防ぎきる。

「攻撃が効かない!!」

「いくらなんでも無茶苦茶だ!!」

刹那とユーノは焦る気持ちを抑えながら目の前の敵に集中する。
先ほどからプトレマイオスとの通信が切れ、アレルヤとティエリアからの通信もない。
間違いなく、何かあったと考えるべきだ。
そして、どれほどクレバーになろうと努めても、その事実が四人から冷静な判断力を奪っていった。

「GNフィールドに防がれるなら、懐に飛び込んで直接攻撃だ!!」

ラッセはGNフィールドを張って敵にぶつかっていく。
瑠璃色と赤の力場が互いに反発し合い、激しい光を生じさせる。
だが、その均衡が崩れ始める。
強襲用コンテナの先端が徐々にアルヴァトーレのGNフィールドの中に入り込んでいく。

「よし!!」

これでダメージを与えられる。
ラッセがそう確信した時だった。

「!!駄目だラッセ!!さがれ!!」

「!!?」

967が叫んだときにはもう遅かった。
アルヴァトーレの側部にあった装甲が開いたかと思うと、それが一回転して巨大なアームに変形する。

「なに!?」

刹那が驚いている間にアームは強襲用コンテナの先端を掴みギリギリと絞めあげていく。
その力に耐えきれなくなった部分がひしゃげながら火花を散らしていく。

「刹那!!ラッセ!!」

967は自身の操る強襲用コンテナをアルヴァトーレへと食い込ませようとする。
しかし、接近した瞬間に骸骨の目の部分に当たる二つの銃口が火を吹く。

「うあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「くぅぅぅぅぅぅ!!!」

GNフィールドを張っていたため致命傷にはならなかったが、攻撃が当たった後部からは煙が噴き出している。

『ふっはっはっははは!!』

「「「「!?」」」」

四人は突如聞こえてきた笑い声に戸惑う。

『忌々しいイオリア・シュヘンベルグの亡霊どもめ!この私、アレハンドロ・コーナーが貴様らを新世界の手向けにしてやろう!!』

「冗談!!」

ラッセはアレハンドロの言葉に青筋を浮かべながら掴んでいるアームに狙いを定めてビームガンの引き金を引く。
しかし、アルヴァトーレの強固な装甲はそれをあっさり弾くと、さらに力をくわえて強襲用コンテナを捻じり上げる。

「クッ!刹那!」

ラッセと刹那は強襲用コンテナからの脱出を図る。

「させんよ!!」

アレハンドロはドクロの口から砲門を出現させてチャージを開始する。

「それはこちらのセリフだ!!」

しかし、その気配を察知した967が火花を吹き始める強襲用コンテナからソリッドとGNアームズを出した後、カラになった強襲用コンテナをアルヴァトーレへとぶつける。

「ぬぅ!!」

傷こそ負わなかったものの、爆発の衝撃で機体が揺らされ、発射の機会を逃してしまう。
その隙にラッセと刹那は無事にコンテナから脱出する。
その直後、強襲用コンテナが真っ二つに引き裂かれる。

「刹那、無事かい!?」

「ああ!行くぞ、ユーノ!!」

「うん!!」

二人は自分の愛機の武器を構える。

「エクシア!刹那・F・セイエイ!」

「ソリッド!ユーノ・スクライア!」

二人はアルヴァトーレを睨み、切っ先を向ける。

「「目標を……」」

そして、満を持して突進を開始した。

「駆逐する!!」

「粉砕する!!」








魔導戦士ガンダム00 the guardian 32.GUNDAM

向かってくる二機に対してアルヴァトーレは側面に装備された銃口から無数の光弾を放つ。
その弾幕に阻まれ、二機は後退を余儀なくされる。

「クッ!」

「この!」

『二人とも、コンテナを狙え!!上手くいけば腕くらいは吹っ飛ばせる!!』

「「了解!!」」

二機のガンダムとGNアームズの射撃を受けたコンテナは、文字通り蜂の巣のように無数の穴を穿たれたのち、青い稲妻とともに爆発する。

「やったか!?」

「いや!」

煙の中から現れた腕は傷一つついていない。

「無傷!?」

動揺する四人の姿が見えているかのようにアレハンドロは不敵に笑う。

「フッフッフッ……その程度でアルヴァトーレに対抗しようなど、片腹痛いわ!!」








プトレマイオス周辺 強襲用コンテナ

「フェルト、マイスター達の状況を教えて。」

スメラギは体の震えを必死に抑え込みながらフェルトに尋ねる。
フェルトも震える指で携帯端末のキーボードを叩きながら情報を集めていく。

「ナドレは大破……ティエリアからの応答……なし。」

「なんだと!?」

フェルトは自分の役割を果たそうとする。
涙があふれ、目の前の光景が歪んでいってもなお、オペレーターとしてあり続ける。

「キュリオス、機体損傷、大。敵MSと交戦中。」

フェルトの声を聞きながらスメラギは自分を責めていた。
自分の立案したプランで仲間が傷ついていく。
あの時と同じ、彼を失ったときと何も変わらない。
あの事件の後、自分は戦いを拒絶していた。
テレビに戦闘の映像が流れるだけで吐いたこともあった。
それでも何かが変えられると思い、ソレスタルビーイングに入った。
なのに、何も変わらない。

だが、それでもスメラギは信じることだけはやめなかった。

(みんな………)

きっと無事でいる。
そう信じ続けることが、今の自分の義務だとスメラギは感じていた。









衛星群

セルゲイとピーリスは見失ったキュリオスを探していた。

「羽根付きは衛星のどこかに隠れている。あの機体状況では遠くには逃げられまい。」

セルゲイの読みは当たっていた。









衛星にぴったりと張り付くようにキュリオスは体を隠していた。
なくなった手足の切れ目からは火花が散っている。

「しくじったぜ……ったく!」

ヘルメットのバイザーを外してハレルヤは悪態をつく。
今のままでは間違いなく死を待つだけだろう。
宇宙を漂っていたあの時と同じように。

(くそったれが!!)

生き残る方法がないわけではないが、アレルヤが了承するとは考えがたい。
自分ひとりで何とかするしかない。
たとえどんな状況にあっても生き残ることをあきらめない。
どれほど人が死のうと構わない。
殺して殺して、自分を脅かすものを完膚なきまでに、残酷なまでに排除する。
周りから見れば最低最悪の人間だ。

しかし、考えようによってはハレルヤはただ純粋なだけなのかもしれない。
純粋なまでに死を恐れ、純粋に生き残ろうとする。
生物としてのあるべき姿。
その本能につき従っているのだ。

「死んでたまるか……!!俺は死なない!連中を皆殺して生き残って見せる!!」

(ハレルヤ……)

ハレルヤにアレルヤが語りかけてくる。
ハレルヤは怒りで顔をしかめる。

「引っ込んでろアレルヤ。生死の境で何もできないテメェに用はねぇ。俺は生きる!他人の生き血をすすってでもな!!」

(僕も生きる。)

「なに?」

予想外の答えにハレルヤは驚く。

(僕はまだ世界の答えを聞いていない。この戦いの意味すら……だから、僕は死ねない!!)

今までにないほど強い意志のこもった言葉。
ハレルヤに背中を押されて出てきたものではない、アレルヤ自身が言った生きるという言葉。
互いに動機は違えど、初めて意見が一致した。

「……ハッ!ようやくその気になりやがったか。」

ハレルヤはヘルメットを外す。

「ならあの女に見せつけてやろうぜ……」

ハレルヤはゆっくり前髪をかきあげる。
その瞬間、今まで別れていた二人がひとつとなる。
金色とグレーのオッドアイがあらわになり、鋭い笑みが浮かぶ。

「本物の超兵ってやつをな!!」

近づいてきていた二機の反応を捕えた二人は衛星のかげから飛び出し、猛スピードで二機へと向かう。

「出たか!!」

セルゲイとピーリスは射撃を開始する。
そのうちの一発がまっすぐにキュリオスに迫っていく。

「直撃コース。」

「避けてみせろよ!!」

間違いなく当たると思われたが、キュリオスはギリギリのところでそれをかわし、スピードを落とさずに向かっていく。
ピーリスはその動きを見て違和感を覚える。
通常のヒットアンドアウェイを信条とするものとも、あの荒々しく攻撃的なものとも違う。
強いて言うならまるでその二つが一緒になったような動き。

「軸線を合わせて。」

「足と!」

「同時攻撃を!」

キュリオスはピーリスのジンクスを蹴りつけると同時にシールドクロウをセルゲイのジンクスに向けて伸ばし、ピーリスのジンクスに叩きつけた。
シールドクロウから解放されたセルゲイはビームライフルをキュリオスへと放つが、アレルヤとハレルヤはキュリオスを変形させその攻撃をかわす。

「動きが違う!!」

「あの機体でどうして!?」

二人は驚愕すると同時に畏怖を感じる。
まるで、手負いの獣が猟師の喉笛を噛みちぎり、生き残ろうとするような異様な気迫がある。

「今までのようにはいかねぇ!!!」

「そうだろ、ハレルヤ!!!」







アルヴァトーレ周辺

アルヴァトーレの掃射の一つがエクシアのシールドを粉砕する。
そして、無防備な所へ追撃が迫るがソリッドが前に立ちはだかり、GNフィールドで防ぐ。
その隙に二機のGNアームズが砲撃を撃ちこむが、ことごとく阻まれる。
アルヴァトーレは後ろのしっぽのような部分を持ち上げると6機の金色に輝く小さな砲台を放ち、ガンダムとGNアームズを翻弄する。

「あの武器はスローネと同じ!?」

「じゃあ、奴が!!」

刹那とユーノの心の中に怒りが渦巻いていく。
二人は感情に流されそうになるが、ぐっとこらえて六つのファングを攻撃していく。

『刹那、ユーノ、ドッキングだ!!』

「「了解!!」」

二機に迫るファングを砲撃で牽制しつつ、エクシアとソリッドはそれぞれのGNアームズとドッキングする。
戦闘力は飛躍的に上がっているのだが、アレハンドロは一笑にふす。

「GNアーマーなど……ファング!」

「フィールド展開!!」

二機のGNアーマーはGNフィールドを展開してファングの攻撃を防ぐ。

「狙い撃つ!」

刹那はロックオンの口癖とともにソードライフルを放ち、見事に一機撃墜する。

「ビット!!」

ユーノは小型のマルチビットを放ち一機ずつ集中攻撃をかけて破壊していく。
そして、最後の一機になったところで刹那とユーノはGNキャノンとバスタービットをその残り一機に向ける。

「「いけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」」

光の奔流はファングを飲み込みそのままアルヴァトーレへと向かっていく。
しかし、アルヴァトーレはそれをあっさり防いで見せると続いて自分の砲門を二機へ向ける。
刹那とユーノは急速上昇でそれをかわすが、閃光が後ろの衛星群に至った瞬間に無数の火球と猛烈な光が発生したことからその威力の大きさを改めて思い知らされる。

「よくぞ避けた……しかし!!」

アレハンドロは狂気に身を染め、無数の光弾をGNアーマーへ向けて発射する。
二機はその弾幕をかわしながら徐々に距離を詰める。

「突っ込むぞ!!」

「了解!!」

「馬鹿の一つ覚えとは!!」

向かってくる二機へとアルヴァトーレのアームが伸びる。
そして、typeEの脚部を捕えるとアレハンドロはにやりと笑う。
だが、

「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

右手に装備された大型ソードをアームへと叩きつけた。
刃はなめらかに進んでいき、アームをバターのようにスッパリと斬り落とした。

「なに!?」

このとき、初めてアレハンドロに動揺がはしる。

「こっちを忘れてもらっちゃ困るよ!!」

typeSもブレードを駆使してもう片方のアームを斬りおとす。
そして、いつの間にか戻っていたビットたちのビーム発射口とtypeEのGNキャノンに光がたまっている。

「くたばれぇ!!」

一気に放出されたそれをアルヴァトーレは至近距離でまともに受けるが、その間に側面の銃口から放った光弾の一発がtypeEのGNキャノンの一門を破壊する。

「ぐぁっ!!まだだ……!!もう一撃ィ!!」

いまだ健在のアルヴァトーレに突進しながらラッセはもう一撃ユーノが切断したアームの切り口に叩きこむ。
爆発が起き、アルヴァトーレは態勢を崩すがそれでも射撃をやめない。
typeEは遂にそのうちの一発をまともに背中に受けてしまった。

「刹那!ラッセ!!」

「よくも!!」

ユーノと967はもう一度ブレードを叩きこもうと接近する。
しかし、ドクロ口の砲門がtypeSへと向き、砲撃を発射する。

「うあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

ブレードをかすめた程度では済んだが、さらにそこへ光弾の雨が降り注ぐ。
ソリッドは素早く分離してかわすものの、残されたGNアームズは爆散してしまう。
一方、typeEも火花を散らし、いつ爆発してもおかしくない状況に陥っていた。

「刹那……俺たちの……存在を…………!!」

「ラッセ!!貴様ァァァァァァ!!!」

刹那は怒りにまかせアルヴァトーレへと突っ込んでいく。
何度も被弾し、ボロボロになるが止まらない。

「うああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

刹那の一撃はGNフィールドを突き抜け、アルヴァトーレに突き刺さった。
その衝撃でソードが折れてしまったが、刹那はすぐにその場から離脱する。

「ぬお!!?」

大型ソードが刺さった場所がよかったのかアルヴァトーレが小爆発を起こし、GNフィールドが消え去る。

「うおおおおおおおおおお!!!!」

「あああああああああああ!!!!」

爆発の煙の向こうから刃を構えたエクシアとソリッドが飛び出してくる。

「なにぃ!!?」

「「はああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」」

二人は刃をアルヴァトーレの上部に突き刺し、そのまま刹那は右へ、ユーノは左へと振るう。
赤い線を刻まれたアルヴァトーレは激しい爆炎に包まれていく。

「馬鹿な!たかがガンダム二機に私のアルヴァトーレが……!!」

二人は爆発に巻き込まれぬようその場から離れる。
そして、巨大な花火のように赤い光を撒き散らしながらアルヴァトーレは宇宙に散った。








衛星群

セルゲイは残ったジンクスの左腕に残されたビームライフルをひたすら連射する。
しかし、キュリオスはそれをかいくぐりセルゲイのジンクスに残っていた左腕をはぎ取る。

「ぬおおおお!!」

「中佐!!」

ピーリスはビームライフルを発射するが、やはり当たらない。
キュリオスは衛星のかげに隠れるように姿を消す。
ピーリスはその衛星にライフルを撃ちこみ四散させるが、そこにキュリオスの姿はない。
だが、

「!!!!」

脳量子波でキュリオスの存在を感じ取り、背後から迫っていたビームサーベルを受け止める。

「なぜだ……!!」

なぜ自分が押されている。
なぜボロボロの相手にこれほどまで苦戦する。
自分は、

「私は完璧な超兵のはずだ!!」

『わかってねぇなぁ……女。』

「なに!?」

呆れたように鼻で笑うハレルヤにピーリスは思わず怒鳴る。

『おめぇは完璧な超兵なんかじゃねぇ!!脳量子波で得た超反射能力……』

(そうだ!!だから私は…)

『だがテメェはその速度域に思考が追いついてねぇんだよ!!』

「!!!」

ハレルヤに言われてハッとする。
確かに思い当たる節はある。

『動物みてぇに、本能で動いてるだけだ!!』

「そんなこと!!」

そんなことない。
そう思おうとすればするほど疑惑の中に引きずり込まれていく。
そんな思考を断ち切るように頭部のバルカンを発射するが、キュリオスの姿が消える。

『だから動きも読まれる。』

「!!」

すぐ上の衛星にキュリオスが一本の脚だけで横向きに立ち、ジンクスを見下ろす。

「反射と思考の融合……それこそが………超兵のあるべき姿だ!!」

キュリオスのジェネレーターが輝き、TRANS-AMが発動する。
圧縮粒子がなくなった右手と右足から漏れ出す。

「あの輝きは!!」

「例のやつか!!」

「このぉ!!」

「少尉!!」

セルゲイは飛び出していくピーリスを止めようとするが、ピーリスは止まらない。

「おおおおおおおおおおお!!!!!!」

ピーリスはめちゃくちゃにライフルを乱射する。

(私は超兵!!任務の遂行こそが私の存在意義!!)

『少尉、これが我々の守るべきものだ。』

(!!)

国境地帯でのセルゲイの言葉とあの日の光景が彼女の脳裏によみがえる。

(違う!!私は!!)

『兵器であるお前が感情を持つな。』

自分を道具扱いした超人機関の兵士の言葉も思い出す。
まったく異なる二つの見解。
それがピーリスをさらに迷わせる。

「私はぁぁぁぁぁ!!!!」

ピーリスが引き金を引こうとした時、キュリオスのシールドクロウが左腕を切断する。
そして、キュリオスは振り返りざまに左脚も切断する。

「きゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「さよならだぁ!!女ぁ!!」

キュリオスはシールドクロウをコックピットへ向けてつきだす。
しかし、

「少尉!!」

セルゲイがピーリスのジンクスを押しのけ、かわりに自分がシールドクロウを受けてしまう。

「ぐあああぁぁぁぁ!!」

コックピットの内部が小爆発を起こす。

「中佐!!」

『グッ……!いまだ、ピーリス!』

「ッッッ!!うああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

ピーリスはセルゲイのジンクスを掴んでいたシールドクロウを装備したキュリオスの左腕を、続いて胸部にビームライフルの弾を撃ち込む。

「ウオッ!!グアアアアアァァァァァァァァァァァ!!!!!!」

キュリオスのコックピットで爆発が起こる。
その衝撃ではがれた破片がハレルヤの顔を、金色の右目の上を切り裂いた。




(初めて名前で呼ばれた………)

ピーリスはその事実に呆けていたが、すぐに自分の名を呼んでくれた人物が危険な状況にあることを思い出す。

「中佐!中佐!!」

ピーリスはセルゲイのジンクスに近づくとコックピットから降り、手動で外からセルゲイのジンクスのコックピットを開けようとする。
しかし、シールドクロウを受けてパーツが歪んでしまったのか、少しだけしか開かない。
ピーリスはその狭い隙間に体を押し込むと、起き上がるようにしてその隙間を広げていく。
その姿を見ていたセルゲイは呆気にとられるが、すぐに叱りとばす。

「何をしている!!私にかまうな!!戦え少尉!!」

「できません!!」

「!!」

「中佐がいなくなれば……私は独りになってしまう……」

「少尉……」

セルゲイはピーリスの顔をじっと見ていた。
悲しそうな、寂しさに震えているような、そんな表情をしていた。
それは、ピーリスがはじめてみせた少女らしい表情だった。








「う……ああぁ……」

アレルヤは傷ついた右の額を押さえながらジンクスのほうをモニターで確認する。
そこに映っているのは右目に傷跡のある男、そして、白いパイロットスーツに身を包んだ少女がいる。
おそらく、あれがセルゲイ・スミルノフとソーマ・ピーリスなのだろう。

(………?)

アレルヤは不可思議な既視感に襲われた。
彼女をどこかで見たことがある。
そう、人革連の研究施設で。

「!!」

自分が逃げ出す時に連れていってあげられなかった少女。
絶対に動くことのないはずの少女がそこにいた。

「マ……マリー……!?なぜ……!?なぜ君が………!?」










アルヴァトーレ周辺

刹那とユーノは損傷したGNアームズに近寄り、中にいるはずのラッセに必死で呼び掛けていた。

「ラッセ!!応答しろ!!ラッセ!!」

その時、後ろから赤い閃光が奔る。

「なに!?」

二人は信じられない光景を目にする。
破壊したはずのアルヴァトーレの上部の中から二つの銃を持った金色のMSが現れる。
ドクロの目から覗いていた銃口はそのMSの銃だった。
背中に二枚のウィングが開き、細いバイザーのようなカメラアイがこちらを見ている。

「あれは……!?」

「そんな……!!」

「はああぁぁぁぁぁぁ!!」

金色のMS、アルヴァアロンは右手のビームライフルを捨てて、ビームサーベルを抜いてソリッドへと踊りかかる。
ユーノはアームドシールドで防ぐが、動揺までは消せない。

「流石はオリジナルの太陽炉を持つ機体だ!未熟なパイロットでここまで私を苦しめるとは!!」

「貴様か!!イオリアの計画を歪めたのは!!」

エクシアがアルヴァアロンに斬りかかるが、バックステップであっさりかわされる。

「計画どおりさ!!ただ主役が私になっただけのこと……主役はこの、アレハンドロ・コーナーだ!!」

アルヴァアロンはエクシアにライフルを発射し、ソリッドを蹴りとばす。

「一体何のために!!?」

エクシアとソリッドは攻撃を防ぎながらソードライフルとシールドバスターライフルを発射する。
アルヴァアロンは二つのウィングを前に少し動かすとそこからGNフィールドを発生させてエクシアとソリッドの射撃を防ぐ。

「破壊と再生だ!」

「なに!?」

「ソレスタルビーイングの武力介入により、世界は滅び、統一という再生が始まった!そして私はその世界を、私色に染め上げる!!」

アルヴァアロンの銃撃をかわしながらエクシアとソリッドは接敵を試みる。

「支配しようというのか!!」

「正しく導くと言った!!」

「自分の欲望を他者に押しつけることが正しいというのか!!」

「君のような何ともしれぬ存在に理解してもらおうとは思わんよ!!」

射撃を繰り返しながらアルヴァアロンはウィングの後ろの先端を二機に向ける。

「私の世界に君たちの居場所はない!」

ウィングの間にエネルギーがたまっていくことによって黒い稲妻が発生する。

「塵芥と成り果てろ!!ガンダム!!」

極大の光の嵐が二機へと向かっていった。

赤い光が消え去った後、そこには何一つ残ってはいなかった。

「フッ……フフフフフ………フッハッハッハッ!!残念だったなイオリア・シュヘンベルグ!世界を統合し、人類を新しい時代へ導くのは、この私………今を生きる人間だ!」

『………気が合うね。僕も同意見だ!!』

「!!!?」

コックピットの中にアラームが鳴り響き上から二筋の光弾がアルヴァアロンへ向かっていく。
アレハンドロはとっさにGNフィールドを発動してそれを防ぎ、飛んできた方向を見る。

「な、なに!?あれは!!」

そこには二つの閃光が美しい赤の軌跡を描きながら
こちらに向かってくる。
一方は鋭く動きながら。
もう一方は六つの翼を広げながら。

「イオリアのシステムか!?」

『見つけた……!』

「なに!?」

刹那の言葉にアレハンドロは過敏に反応する。
だが、刹那とユーノはそんなことなど構わずに突っ込んでいく。

「見つけたぞ世界の歪みを!!」

「お前がその元凶だ!!」

ユーノは魔法陣を展開し、アルヴァアロンの足元にチェーンバインドを発生させる。
アレハンドロはそれに気付いてその場から慌てて離れるが、その先にはエクシアが待ち構えていた。

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」

「クッ!!」

アレハンドロは間一髪でかわすがアルヴァアロンの胸に浅い傷が刻みこまれる。

(負けない!!僕たちは………ソレスタルビーイングはお前なんかに、世界に悲しみを振りまく奴なんかに絶対負けない!!)

「!!!?声が!?」

刹那は突然の出来事に驚く。
頭の中にユーノの声が響いて来たのだ。









強襲用コンテナ

フェルトたちは悲しみに暮れていた。
キュリオスの反応もロストし、残っているのはエクシアとソリッドだけ。
しかし、その二機のサポートメカであるGNアームズの反応も消えている。

「刹那……ユーノ……!!」

もう二人も無事ではないかもしれない。
フェルトはそう思った瞬間、涙をあふれさせる。
そして、そう思っていたのはフェルトだけではない。
イアン、そしてスメラギも沈痛な面持ちでうつむいている。

その時だった。

(負けない!!僕たちは………ソレスタルビーイングはお前なんかに、世界に悲しみを振りまく奴なんかに負けない!!)

「!!?」

フェルトは突然の出来事に思わず立ち上がる。
イアンとスメラギは唐突に立ち上がったフェルトのほうを向いて驚く。

「どうしたの!?」

「今、ユーノの声が!!」

「何を言っとるんだ!?わしらには何も…」

(諦めるものか!!僕は生きる!!ロックオンとそう約束したんだ!!)

「ほら、また!!」

自分たちに聞こえない声を聞いているフェルトにイアンとスメラギは戸惑う。
ショックで混乱したのかとも思ったのだが、今のフェルトはいたって正常に見える。

(ユーノと刹那はまだ戦っている!生きるために!だったら私も!!)

フェルトは携帯端末を使って周りの状況を集めていく。

「スメラギさん、シャルさんたちと合流します。脱出ルートの割り出しは終わっています。」

「フェルト……」

「早く!!」

フェルトに一喝され年上の二人は操縦桿を握ってフェルトの割り出した脱出ルート
を進んでいく。

(ユーノ、私も生きる!生きて、ロックオンとの約束を守るよ!だから、負けないで!!)








ナドレ コックピット内

ティエリアは太陽炉をナドレから切り離して安堵していた。
自分の役割はすべて果たした。
これで、彼のもとへ行けると。

「……これで……あなたのもとへ……ロックオン………」

その時だった。
ティエリアの前にロックオンが現れる。

(迎えに来てくれたのか………)

ティエリアはロックオンに向かって手を伸ばす。
だが、ロックオンはいつもの飄々とした笑みを浮かべて静かに首を振る。

(なんで……?僕の役目はもう……)

『終わってなんざいねぇよ。アイツらがまだ戦っている。』

(アイツら……?)

(諦めるものか!!僕は生きる!!ロックオンとそう約束したんだ!!)

(!!!?)

信じがたいことにこの場にいるはずのないユーノの声が頭に響いてくる。

(これ…は……!?)

(本当に最後の瞬間が来るまであきらめない!!みんなもそう思って戦っているはずだ!!)

(!!!!)

なんでユーノの声が聞こえるのかはわからない。
だが、それは些末なことだ。
彼が言っていることの方が今はよほど重要だ。
本当の最後の瞬間。
今この時が本当にその瞬間なのか。
自分はまだ生きている。
体にも特に傷があるわけではない。
まだ、終わっていない。

『アイツはお前のことを信じてるみたいだぞ?そいつを裏切っていいのか?』

ロックオンの声にティエリアの体が動く。

「まだだ……!!彼が僕を信じているのなら……僕もその信頼にこたえる…!!」

ティエリアのその姿を見たロックオンは安心したように笑い、徐々に足元から消えていく。

『生きろよ、ティエリア……』

「ああ……心配をかけてしまってすまない。僕も本当の最後の瞬間が訪れるまで、絶対にあきらめない!!」

そこにいるのは先ほどまで諦めかけていた少年ではなく、ガンダムマイスター、ティエリア・アーデだった。








アルヴァトーレ残骸周辺

刹那は先ほどから頭の中に響くユーノの声に戸惑いながらもアルヴァアロンを攻め立てる。

「再生はすでに始まっている!!」

アルヴァアロンもビームライフルでエクシアとソリッドを狙うが、TRANS-AM状態の二機に当たるはずがない。

「まだ破壊を続けるかぁ!!」

「無論だ!!」

エクシアとソリッドのライフルから幾度も閃光が放たれる。
アルヴァアロンはGNフィールドを駆使してそれを防いでいくが、まったく二機のスピードについていけない。

「GNフィールド!!」

刹那は歯を食いしばる。
確かにGNフィールドは現在開発されている防御手段としては最高のものだろう。
だが、自分とユーノはそれぞれそれを打ち破る手段を持っている。
刹那はエクシアの持つGNソードを見てある日のことを思い出す。






『刹那、なぜエクシアに実体剣が装備されているかわかるか?』

かつてロックオンにそう問われた時、自分は何も答えることができなかった。
ロックオンはそんな自分を見てフッと笑う。

『GNフィールドに対抗するためだ。』

「!!」

それはつまり、

『計画の中には対ガンダム戦も入ってるのさ。もしものときはお前が切り札になる。任せたぜ、刹那。』





(わかっている、ロックオン!俺は戦うことしかできない破壊者!だから戦う!!争いを生み出すものを倒すために!!)

刹那はさらにペダルを踏み込んで加速する。

「この歪みを破壊する!!」

『刹那!!』

ユーノから通信が入る。

『回線をそのままにつないでおいて!!』

ユーノが何を言っているのかわからない。
だが、間違いなくユーノは何かをしようとしている。
ならば自分もそれを信じてすべてを託す。

「了解!!」

ユーノとの回線を開いたままで固定する。

「967!通信回線に割り込みを!!君を通してエクシアをサポートする!!」

「了解だ!!」

ソリッドの足元に魔法陣が出現すると同時にエクシアの足元にも魔法陣が出現する。
その瞬間、エクシアの動きがさらに軽やかになる。

「これは!?」

先ほどの会話を聞く限りはエクシアに何かをしたのだろう。
ユーノに支えられている。
ならば、その期待に応える。
エクシアはいったん大きくアルヴァアロンから離れ、旋回して勢いをつけてGNフィールドに二本のGNブレイドを突き立てる。
燃え立つように赤熱した刃はGNフィールドを突き破り、アルヴァアロンの両腕に刺さる。

「貴様ぁ!!」

アルヴァアロンは残った右腕でビームサーベルを振る。

「武力による戦争の根絶!!」

しかし、そのビームサーベルは振られる前に手ごと斬り落とされた。
刃が向かってきた方向を見てみると、GNフィールドに穴があき、そこを通してブレードモードのアームドシールドが入ってきていた。
そして、ソリッドの強烈な粒子にかき消されるようにGNフィールドが消滅する。

「それこそがソレスタルビーイング!!」

GN-EXCEEDをコントロールしながらユーノが叫ぶ。

「フィールドが!!?」

アレハンドロは驚き、恐怖するが、ソリッドの猛攻は止まらない。
すぐさまアームドシールドをバンカーモードに切り替えてアルヴァアロンに叩きつけて幾度もバンカーを炸裂させて打ち込んでいく。
腰から下の部分は砕け、残った装甲によってかろうじて繋がっている状態だ。

「俺とガンダムがそれをなす!!」

そして、最後の一撃でアルヴァアロンを上方へ打ち上げる。
そこにはエクシアと刹那が待ちうけていた。
構えていたビームサーベルを両肩につき立てる。
勢いを無理やり殺されたアルヴァアロンは腕の関節が反対方向に曲がり装甲がはがれた中からちぎれた配線が現れる。
エクシアは腰の後ろにあるGNダガーを抜いて両脚ヘ投擲する。
そして、後ろから迫っていたソリッドとともにアルヴァアロンへと突進していく。

「そうだ!僕が!!」

「俺たちが!!」

「「GUNDAMだ!!」」

美しい十字の軌道がアルヴァアロンのコックピット部分を捕えていた。
アルヴァアロンは上半身と下半身がパッカリと別れ、二つの爆炎とともに宇宙に散った。









輸送艦内部

「おやおや……最後の挨拶ぐらいはしてあげようと思っていたのに、せっかちな人だ………」

リボンズは輸送艦の中でアレハンドロが乗っていたアルヴァアロンの反応が消えたにもかかわらず薄く笑っている。

「まさかあの二人がここまでやってくれるとはね………。フフフ…僕が無理をしてヴェーダに働きかけた甲斐はあったということか。」

刹那は偶然戦場で見かけたことから。
ユーノは現れた時に観測された巨大なエネルギー反応に興味があったから。
そちらもただの気まぐれだったのだが、ここまで思い通りになってくれると嬉しくなってくる。

リボンズは輸送艦を帰港ルートに向けると、戦闘が行われていたであろう宙域の方を向く。

「さようなら、アレハンドロ・コーナー……あなたはいい道化でしたよ。」








アルヴァトーレ残骸周辺

TRANS-AMとGN-EXCEEDが終了し、エクシアとソリッドの機体性能がぐんと落ちる。
だが、二人の消耗はある意味二機よりも激しいものだった。
超高速での戦闘。
さらに、あれだけの攻撃にさらされる重圧感。
それは刹那とユーノの体力と精神力を奪うには十分なものだった。

「はぁ……はぁ……!!」

「はぁ……っ、刹那、無事?」

「ああ……」

荒く息をしながら互いの無事を確認し合う。

「ユーノ……お前の使ったあれは一体……?」

「それは……帰ったらゆっくり話すよ。さあ、戻ろう。」

エクシアとソリッドが帰頭しようとした時だった。
後ろからボロボロになったジンクスが一機近づいてきていた。
ユーノはすぐに気付いたが、刹那はそのことに気付いていないが。

「刹那!!!」

「え……?」

ユーノはソリッドの最後の力を振り絞りエクシアを押しのける。
そして次の瞬間、ソリッドのわき腹の部分にビームサーベルが深々と突き刺さった。

「うあああああああああああっっっ!!!!!!!!!!!」

「ぐあああああああああああっっっ!!!!!!!!!!!」

コックピットの中で爆発が起こり、ユーノのすぐそばにある赤い閃光がじりじりと体を蝕んでいく。
ユーノと967はたまらず絶叫する。

ジンクスはそのままソリッドを押して彼方へと向かっていく。
そこに残されたのはソリッドの左腕だけだ。

「あ……あ……!?」

刹那は何が起こったかわからず、風が通るようなかすれた声を出す。
しかし、すぐに事態の重大さを把握した。

「ユーノ!!!!!!」

エクシアをジンクスがソリッドを押していったほうへと向ける。
しかし、その方向から赤い閃光がこちらに猛スピードで接近してくる。

「!!まだいるのか!!?」

刹那はその姿を見て唖然とした。
黒い色に、細い手足。
オレンジのバイザーを真ん中で二つに割り、こちらの様子をうかがった後、再び一つに戻す。
その左肩からは赤い粒子が放出され、それを生み出している部分につながったケーブルの先を左手に持っている。

「フラッグ!!?疑似太陽炉を積んでいるのか!!?」

刹那の疑問に答えるように、その通りだといわんばかりの勢いで左手に握っていた柄の先からビームサーベルの刃をつくりだし、一振りする。

「会いたかった……会いたかったぞ!!ガンダム!!」

肩の装甲の間から赤い粒子を放出し、GNドライヴ搭載型フラッグ、カスタムフラッグⅡ、通称GNフラッグがエクシアへと突進する。
刹那は急いでGNソードの刃を起こし、GNフラッグのビームサーベルを受け止める。

「ビームサーベル!!?」

鍔迫り合いのさなか、接触回線で相手から通信が入る。

『ハワードとダリルの仇、このGNフラッグで討たせてもらうぞ!!』

「通信を!?」

刹那の目の前に相手のパイロットの顔が現れる。

「!!!!」

その顔を見た瞬間刹那は驚愕する。
その人物は、かつてアザディスタンであったユニオンの軍人。
自分が民間人ではないと見抜いた男だった。

「貴様は!!」

そして、その男、グラハム・エーカーも驚く。

『なんと!あの時の少年か!?』

グラハムは驚きはしたもののすぐに笑みを浮かべる。

「やはり私と君は、運命の赤い糸で結ばれていたようだ……そうだ……」

GNフラッグはエクシアを押し飛ばすとビームサーベルを大きく振り上げ、エクシアの左肩へと振り下ろす。

「戦う運命にあった!!」

「グァッ!!」

そのまま肩を斬りおとし、グラハムはビームサーベルを横に薙ぐ。
エクシアはGNソードで何とか防ぐが、通常のものよりも威力を高めてあるのかGNソードの中ほどまで刃が進む。

「ようやく理解した!!君の圧倒的な性能に、私は心奪われた!!この気持ち……まさしく愛だ!!」

「愛!?」

「だが愛が超越すれば、それは憎しみとなる!!行き過ぎた信仰が、内紛を誘発するように!!」

「それがわかっていながら!!なぜ戦う!!?」

刹那はエクシアを横に一回転させてビームサーベルを弾くと、回転の勢いのままにフラッグの右脚を斬りおとす。
刹那は怒りに燃えていた。
あの時、彼もまた自分と同じように人の死を、戦いの悲惨さを知ったはずだ。
なのに、それでも戦い続けようとしている。

「軍人に戦いの意味を問うとは!!ナンセンスだな!!」

GNフラッグはビームサーベルの切っ先をエクシアの顔の右側につき立てる。
ギリギリとこらえていたエクシアだったが、とうとう耐えられなくなり顔が後ろに吹き飛ぶ。
しかし、刹那はそれでも止まらない。

「貴様は歪んでいる!!」

GNソードを振るい、GNフラッグの顔を斬り飛ばす。

「そうしたのは君だ!!」

フラッグは顔を失ってもかまわずに右拳をエクシアの腹部に叩きこむ。

「グッ!!」

衝撃を受けて刹那の顔が歪む。

「ガンダムという存在だ!!」

GNフラッグは残った左脚でエクシアを蹴り飛ばす。
しかし、エクシアも負けずに後ろに飛ばされながらもソードライフルを連射する。
だが、その光弾はことごとくかわされる。
グラハムの体はGに耐えられず口から一筋の血が流れる。

「だから私は君を倒す!!世界などどうでもいい……己の意志で!!」

「貴様だって、世界の一部だろうに!!」

「ならばそれは、世界の声だ!!」

「違う!!貴様は自分のエゴを押し通しているだけだ!!貴様のその歪み、この俺が断ち斬る!!」

「よく言ったガンダムゥ!!!!」

二機は互いに刃の切っ先を向けて相手へと突進していく。
防御も何もない、純粋なまでの力のぶつかり合い。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」

「あああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

瑠璃色の切っ先と赤い切っ先がぶつかり合い、交錯した。
互いの刃は相手の体に深々と突き刺さり、その傷口から爆発が起こる。

「ハワード……ダリル……仇は…」

「ガ……ガンダム……」

二人はそれぞれ光につつみこまれる。



その時、宇宙の一角に、赤と瑠璃色がまじりあった光球が生まれ、すぐに散っていった。










「グゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!」

ユーノはジンクスに押し込まれながらもなんとか操縦桿を握りしめ、バンカー部分を静かにジンクスの胸に押し当てる。

「9……967……!!残存粒子をすべてバンカーに集中……!!」

「了…解……!!」

全身の粒子が抜けソリッドの体から力が抜けていく。
だが、それに比例するようにバンカーから放たれる光はどんどん増していく。
そして、

「GN…バンカー……バースト!!!」

ソリッドの最後の一撃がジンクスのコックピットを確実に押しつぶした。
その瞬間、ビームサーベルの刃はゆっくりと消えていき、ソリッドとジンクスは抱き合うように宇宙を漂っていた。



どれほどの時が経っただろうか。
それまで動くそぶりすら見えなかったソリッドの目に光が灯り、GNドライブが猛烈な輝きを放つ。
そして、その輝きが収まると、そこにはジンクスとソリッドの姿はなかった。












誓い永久に……だが、別れゆくのもまた運命……
そして、再会も……









あとがき・・・・・・・・・・・という名のカウントダウンしてたけどまだ終わりじゃないよ

ロ「最終決戦終了。そしてソレスタルビーイング敗北。でも、生き残る。」

ア「て言うか今回のあとがきのサブタイトルは?」

ロ「そのまんまの意味。だってユーノがあの後どうなったか書かれてないじゃん。」

兄「書けばいいだろ!!」

ロ「いや、それはさ、だってなんか先延ばししたくなるじゃん。あんまり字数多いとキツイし。」

ティ「しかし、これはまた先の展開がこれ以上ないくらいわかりやすいな。」

ロ「大体次回予告でばれるしね。」

刹「というかユーノはどこに行った?」

ロ「アイツには今回遠慮してもらった。」

ア「?なんで?」

ロ「だってこっから先しばらくお前らでないもん。」

ティ「なるほどな……」

ア「僕らはしばらくでないんだ~……」

兄「まあ、俺死んでるからあんまり関係ないけどな。」

ア「それもそうだね。」

「「「アッハッハッハッハッハ!!」」」

刹「………………………………………………………」

「「「……………………………………………………………」」」

ロ「………………………………………………………」

「「「えええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!?!!?」」」

ロ「だってリリなのの奴らが出せ出せうるさいし、いろいろやりたいこともあるし。あ、でもロックオンはいろいろ出し方があるから出るかもね。」

兄「やりぃ!!」

ア「僕達は!?」

ティ「どうなるんだ!?」

ロ「大人しく新型の開発したり牢屋にぶち込まれてろ。」

ティ・ア「「ヒド!!」」

兄「はっはっはっは。まあ、大人しく出番を待て。」←出れる者の余裕

ティ「貴様ァァァぁぁぁぁ!!!」

ア「何様のつもりだァァァァァァ!!!」

ギャーギャーギャー!!

刹「………………………………」

ロ「お前は今回静かだな。」

刹「ツッコムのもつかれた。」

ロ「ツッコミがいないと世界がボケで飽和するって銀○のお○さんも言ってただろ。」

刹「ならお前が処理しろ。」

ロ「俺どっちかって言うとボケよりだから。」

刹「仕方ない。必殺『次回予告に行くとみんなまじめになる』を出すしかないか。」

ロ「お前もいい具合にキャラ崩壊起こしてきたな。」

刹「では、次回予告に行くからその辺にしておけ。」

ティ「クッ!!おぼえてろ!!」

兄「ハッハッハ!!負け犬の遠吠えだな!!」

ア「その代わりきみはsecondに行ったら出番少なくなるけどね。」

兄「なにをぉぉぉぉぉ!!!?俺の意志はアイツが継いでくれ…」

ロ「次回予告だって言ってんだろうがボケどもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!サテラ○トキャノンかツインバス○ーライフルか石破天○拳で消し飛ばされたいかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

「「「………………………………」」」

ロ「オホン………!では、刹那君どうぞ。」

刹「西暦2009年、高町なのはたちはとある任務である管理外世界に向かう。」

兄「なんてことのない同窓会のような任務。一人だけが欠けた同窓会。」

ア「しかし、その任務でイレギュラーが起こる。」

ティ「そして、彼女たちの前に奇跡が舞い降りた。」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!じゃ、せーの…」

「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」



[18122] 33.帰還
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/10/17 12:02
私立聖祥大付属中学校

三人の少女は長い付き合いの友人二人に見送られ、屋上への道のりを歩んでいた。
三人の秘密を知っている数少ない友人だ。

「じゃ、行ってらっしゃいフェイト。授業のノート取っておくから。」

「ありがとう、アリサ。」

「ほんなら、すずかちゃん、また月曜日にな~。」

「気を付けてねはやてちゃん。」

「なのはも気をつけてね。」

「はぁ~い。」

なのは、フェイト、はやてはすずかとアリサに送り出されて人気のない屋上へと向かう。
その背中を見つめていたすずかだったが、不意に頭の片隅に何かを感じる。

「?どうしたの?」

アリサがそれに気付きすずかに問いかける。

「ううん………なんでもない。ただ……」

「ただ?」

「何かいいことがある。そんな気がする。」

「なにそれ。」

アリサはすずかのあいまいな答えに苦笑する。
その後、二人は授業を終えて帰路についた。
思いがけない知らせが届くことになることも知らずに……







魔導戦士ガンダム00 the guardian 33.帰還

戦闘宙域

「ユーノ!!ユーノ!!」

967は必死でユーノに呼びかけるが、目の前にいる相棒は動かない。
薄く眼を開けたまま虚空を見つめるだけだ。
ユーノはジンクスを仕留めたものの、もうすぐ自分に終わりが近いことを感じていた。
体の左半身、丸い傷痕の隣に焼けつくような痛みがある。
思わず乾いた笑いが漏れる。

(ハハハ……なんか、こんなの昔もあったな……)

こちらの世界に飛ばされることになったきっかけ。
なのはをかばって死の淵をさまよい、エレナに拾われて一命を取り留めた。
そして、今回も刹那をかばって自分が犠牲になった。
唯一つ違うのは、今回こそは助からないだろうという確信があるということ。

「ユーノ!!ユーノ!!」

967の呼びかけも遠い世界のものに思えてくる。

「……7、……め…ね……」

「なんだ!?何かしてほしいのか!?」

「9…67……ごめ……んね………」

それは相棒への謝罪であった。
それを聞いていた967は胸がつまるような思いだった。
データの塊にすぎない自分がこんなことを感じているのは奇妙なことなのかもしれない。
だが、それでも967は叫ぶ。

「しっかりしろ!!ロックオンとの約束を破るのか!!生きるのをやめるのか!!」

「そう………だ……ロックオンにも……謝ら…ないと……約束破って……ごめん…って……」

もはやユーノには967の言葉すらただ文章が読み上げられていることとなんら変わらなくなる。

「クソ……!!誰か!!誰かユーノを!!俺の相棒を助けてくれ!!!!」

その時だった。
ユーノの手元に置いてあったジュエルシードが輝きを放ち始める。
それは、かつてフェイトとなのはが暴走させてしまった時の光よりもさらに激しく、魔力もまた信じられないほど発生していたが、しかし、それは争いのさなかにあった時よりも暖かなものだった。

その光が消え去った時、ソリッドとジンクスはこの世界から消え去っていた。









第162観測指定世界

岩石だけがごろごろと広がる広大な世界。
その空をなのは、フェイト、はやての三人はバリアジャケットを展開して定置観測基地に向かっていた。
そして、その三人に昔馴染みであるエイミィから通信が入る。

『じゃ、改めて今回の任務の説明ね!そこの世界にある遺跡発掘先を二つ回って発見されたロストロギアを確保。最寄りの基地で詳しい場所を聞いてものを受け取って、アースラに戻って本局まで護送!』

説明を聞いたなのははのほほんとした顔でつぶやく。

「平和な任務ですね~。」

『ま、ものがロストロギアだから油断は禁物だけど、なのはちゃん、フェイトちゃん、はやてちゃんの三人がそろってて、もう一か所にはシグナムとザフィーラがいるわけだから多少の天変地異ぐらいはなんとかしちゃいそうだけどね。』

エイミィがカラカラと笑う。
通信を終えたなのははふとあることをつぶやく。

「遺跡かぁ~。ユーノ君がいたらはしゃぎそうだね。」

「アッハハハハハ!!言えとるわそれ。」

はやてがおかしそうに笑うと彼女の肩に乗っていた彼女のユニゾンデバイス、リインフォースⅡが不思議そうに首をかしげる。

「はやてちゃ……じゃなくて。マイスターはやて達の会話にいつもその人の名前が出てきますけど、どんな人なんですか?話を聞けば聞くほどどんな人かわからなくなるんですけど?」





リインフォースが今までに聞いていた話

なのはの場合

「すっごく素敵な人!!」

フェイトの場合

「優しい人だよ。」

はやての場合

「からかい甲斐がある男の子www」

ヴィータの場合

「超ド級のニブチン。」

クロノの場合

「フェレットもどき。」

etc.






「一体どんな人なんですか?」

「………なんでやろ。今すっごいリインの頭の中を覗いてみたい。」

首をかしげる八神家の末っ子にはやてはツッコミとも純粋な興味とも取れない言葉をかける。

「ほら、二人ともそこまでにして。見えてきたよ。」

フェイトが言うように、地平線の果てから徐々に基地がその姿を現していた。








北部 定置観測基地

基地に到着した三人はバリアジャケットを解除しながら降りていく。

「さて、基地の方は……」

「遠路お疲れ様です!」

三人が到着すると同時に眼鏡をかけた少年とこれまた眼鏡をかけた長い髪の少女が二人で敬礼してくる。

「本局管理補佐官、グリフィス・ロウランです!」

「シャリオ・フィニーノ通信士です!」

なのはとフェイトは敬礼を返すが、はやては手を振ってグリフィスに笑いかける。

「彼のこと知ってるの、はやて?」

「あ、二人はあったことあらへんか。」

はやては失念していたというようにポンと手を叩く。

「こちらグリフィス君。レティ提督の息子さんや。」

「「あー!」」

レティ・ロウラン
なのは達が昔何度も世話になった人物であり、フェイトとクロノの母親であるリンディの古い友人だ。
グリフィスの顔をよくよく見てみると確かに目元がよく似ている。

「母から御三方の話は伺っています。不世出の素晴らしい魔導士だと。」

「素晴らしい……ね。本当にそうだったらよかったのにね。」

「あの……何かお気に召さないことでも言ってしまいましたか?」

グリフィスは苦笑してつぶやくなのはの顔を見て申し訳なさそうに話しかける。

「ううん。なんでもないよ。」

「えと、フィニーノ通信士とは初めてだよね?」

フェイトは場の空気を変えようとシャリオに話しかける。

「はい!」

しかし、ここから彼女のマシンガントークが始まり、話を振ったフェイトは心底後悔することになる。

「皆さんのことはよーく知っています!本局次元航行部隊のエリート魔導士のフェイト・T・ハラオウン執務官!いくつもの事件を解決に導いた本局地上部隊の切り札八神はやて捜査官!武装隊のトップ航空戦技教導隊所属の不屈のエース、高町なのは二等空尉!陸海空の若手トップエースの皆さんにお会いできるなんて光栄です~~~~!!あ!リインフォースさんのことも聞いてますよ!優秀なデバイスだって!!」

「ありがとうございますー!」

「あ……あはははは……」

早口でまくしたてる彼女に三人ともたじたじである。
そこにグリフィスから助け船が入る。

「シャーリー、失礼だろう!」

「ハッ!!つ、つい……」

ようやくなのは達が困っていることに気付くとまくしたてるのをやめる。

「シャーリーって呼んでるんだ。仲良し?」

「いえ、子供のころから近所で……。腐れ縁というかなんというか……」

「む~~~~~!」

フェイトの質問に照れながら答えるグリフィスにシャーリーはふくれっ面でグリフィスの脛を何度も蹴飛ばすが、グリフィスは慣れているのか顔色一つ変えない。

「………すごいなぁ自分。」

「この程度で音を上げてたら“あれ”には耐えられませんよ……」

「フフフ……」

遠い目をするグリフィスを見てはやてが苦笑する中、なのはこらえきれなくなったように笑い出す。

「あの……」

「あ、ごめんね!二人を見てたらなんだかこっちが楽しくなってきちゃって。」

なのははシャーリーを見ながら優しく笑う。

「幼馴染の友達は貴重なんだから……大事にしてね。」

なのはの言葉を最後になのは達は説明を受けて現地へと、グリフィスとシャーリーは基地の中へと戻っていった。

基地の中に戻る道すがらシャーリーはグリフィスに尋ねる。

「ねぇ、なのはさんが最後に言ってた言葉の意味って何なんだろうね?」

「さぁ。今度機会があれば話してくれるだろう。さあ、僕らも仕事に戻ろう。」

二人は間もなく先ほどの言葉の意味を知ることになるのだが、この時それを知る由はなかった。









目標ポイント周辺

「あれって!?」

そこについた三人が目にしたのは最初に説明を受けていた平和な任務とはほど遠いものだった。
煙がもうもうと上がり、爆音が響いている。



「あ……あ……!!」

そこにいた発掘スタッフの二人は足がすくんで動くことができなくなってしまっていた。
大人ほどの大きさの楕円型の機械があちこちを破壊し、こちらにじりじり迫ってくる。
楕円型の機械は上の部分についているカメラアイと思われる部分でスタッフを、正確にはスタッフが持っている者の反応を探知した。
そして、それを抱えるスタッフたちを邪魔だと思ったのかカメラアイの上の部分にある光る部分から熱線が放たれる。

「!!!」

ここまでかと思って強く目をつぶったスタッフは感じなければならないはずの痛みを感じずにいた。
恐る恐る目を開けると目の前に桃色の障壁を張って機械たちの攻撃を防ぐなのはがいた。
その上にはフェイトがすでに金色の光弾を無数に出現させ反撃の準備を完了している。

「プラズマランサー、ファイアッ!!」

電撃を纏った光弾が機械たちに降り注ぎ破壊していく。

「大丈夫ですか!?」

「は……はい!」

なのはの声にスタッフたちはうなずく。
二人の体を見るが、パッと見た感じでは傷を負っているようには見えない。
なのははスタッフから目を離すと正面にやってきた同型の機械たちを睨む。
これまでにも何度か目撃している機械群だ。
たびたびジュエルシードを仕込んだものを相手に戦ったことがあり、いずれも見つかりやすい場所で暴れていたことから愉快犯の仕業だということになっている。

「あれは!?」

「わかりません……これを運んでいたら急にあらわれて……」

そう言うとスタッフは抱えていた箱を見せる。
どうやら、中は例のロストロギアのようだ。

(狙いはたぶんこれ……)

『中継です!相手は以前にも出現記録がある例の機械兵器です!』

(発掘員の救護はうちが引き受ける!二人で思いッきりやってええよ!!)

「「了解!!」」

リインフォースとユニゾンしたはやてが要救助者のそばまで降りて来た時、キンッ!と澄んだ音がすると同時に目に見えない何かが機械兵器たちを包み込む。

〈マスター。〉

「フィールドエフェクト……?」

なのはは距離を開けたままカートリッジを一発炸裂させる。

「様子見でワンショット!」

〈Accel Shooter〉

それを見ていた機械兵器が一機こちらに向かってくる。

「シュート!」

レイジングハートの先から桃色の誘導弾が発射され、機械兵器へと向かっていく。
しかし、それは機械兵器に当たる前に何かにかき消されるように途中で散ってしまった。

「無効化フィールド!?」

〈ジャマーフィールドを感知しました。タイプ、AMFと断定。〉

「AMF…AAAランクの魔法防御を機械兵器が……?」

フェイトは自分が握る戦斧、バルディッシュの報告に首をかしげる。

〈はわわわ!!AMFって言ったら魔法が通用しないってことですよっ!?魔力結合が消されちゃったら攻撃が通らないですー!!〉

自分の中であわあわと焦るリインフォースの声を聞いたはやてはクスクスと笑う。

「あはは……リインはやっぱりまだちっちゃいな。」

〈ええ!?〉

驚いて声を出すリインフォースになのはは視線を鋭くして機械兵器を睨みつけながら話す。

「……覚えておこうね。戦いの場で『これさえやっておけば絶対無敵』って定石はそうそう滅多にないんだよ。」

なのははそう言い終わると再びレイジングハートからカートリッジを一つ排莢する。

「どんなに強い相手にも、どんな強力な攻撃や防御の手段にも必ず穴はあって崩し方がある。」

フェイトもそれに合わせるようにバルディッシュから魔力が空になった薬莢を飛び出させる。
はやては二人の説明を引き継ぎ、リインフォースに語りかける。

「魔力が消されて通らないのなら“発生した効果”の方をぶつければええ。例えば小石……」

なのはの周りにある瓦礫の破片がふわふわと浮いて魔力によって弓を引かれた矢のようにギリギリと力をためながら空間に固定される。

「例えば雷……」

フェイトの上空に黒雲が渦巻き、ごろごろと雷音が鳴り始める。

「スターダスト……」

「サンダー……」

「「フォール!!」」

雪崩のように押し寄せる高速の大小のつぶてと辺り一帯の空気を揺るがすほど凄まじい雷光が機械兵器たちを蹂躙し、破壊していく。

〈ふえぇ~……すごいですー。〉

「二人とも一流のエースやからなぁ。」

リンフォースが感心していると、煙の中から数機の機械兵器が飛び出し逃げていく。

〈あ!何機か逃走してるです!!〉

(追おうか?)

「へーきや、こっちで捕獲するよ。リイン、頼んでええか?」

〈はいです!〉

リインフォースは先ほどのなのはとフェイトの魔法の使い方を思い浮かべる。

〈発生効果で足止め捕獲と言うと……こんな感じです!〉

逃げていく機械兵器の前方の空気が急激に冷やされたことによって空気中に存在していた水分が飽和状態になり徐々に霧として現れ始める。

〈フリーレンフェッセルン!〉

霧は徐々に氷の粒に、氷の粒は氷の欠片に変わり、最終的には氷の塊が機械兵器たちを包み込みその動きを完全に封じた。

「お見事!」

〈ありがとうございます!〉






数分後、周囲の安全を確認し終えるとフェイトは件のロストロギアの入った箱を受け取る。

「これがそのロストロギアですね?」

「はい、中身は宝石のような結晶体でレリックと呼ばれています。」

(レリック……)

フェイトはこのレリックを狙ってきた人間の見当はついていた。
ジェイル・スカリエッティ。
これまで数えきれないほどの法に反する研究を続けてきた科学者であり、ジュエルシードを持った機械兵器たちを無人世界で暴れまわらせてきた。
そして、かつてユーノがこの世を去るきっかけを作った男でもある。

そんななのはやフェイト達にとって仇とでも言うべき存在が今回もかかわっているのだが、フェイトにはいくつか疑問があった。
まず、今回の任務で破壊、もしくは捕えた機械兵器たちのどれにもジュエルシードが使われていなかった。
まだ捕えていないほうに使われているのかもしれないが、大雑把にではあるがサーチをかけてもどこにもそれらしい反応がない。
そして何より、今までまるでこちらに見つけてもらうことが目的のように暴れまわっていた機械兵器たちが今回に限ってこっそりと見つからないように動き回っていたこと。
さらに、今まで目的などないように思われていたにもかかわらず明らかにこのロストロギア、レリックを狙ってきたこと。

(今回はジュエルシードを発見させることが目的じゃない……?でも、なんで急に…)

その時、別行動をとっていたシグナム達から連絡が入る。

(テスタロッサ、シグナムだ。そちらは無事か?)

(まさか……そちらにも襲撃があったんですか?)

(いや、こちらは襲撃ではなかったが……ある意味遥かに厄介だな。)

(?)

(危険回避のためにすでに発掘員を退避させておいたのが吉と出たな……。今私とザフィーラの目の前にはバカでかい穴があいているよ。)

(!!?)

(……どうやら今日の任務は気楽にこなせるものでもないらしい。)









遺跡跡 爆心地

「ひでぇなこりゃ……完全に焼け野原だ……」

シグナムたちの応援要請を受けたヴィータとシャマルがやってきたそこは、遺跡が建っていたとは思えない、いや、そもそも何かが存在していたとは思えないような惨状だった。
爆発が収まった今でもあちこちから煙が上がり、焼け焦げた地面特有の何とも言えない嫌なにおいがあたりに立ち込めている。

(……くそ。思い出しちまうじゃねぇか。)

ヴィータはシャマルやシグナムが基地と連絡を取ったり、ミッドに家族全員で引っ越す時の話をしていることに気付かず、あの雪の日のことを思い出していた。



なのはが泣いている目の前には、そこにいたはずのユーノが跡形もなく消え去り、熱で雪が解け、むき出しになった焼け焦げた地面だけがある光景。
アースラに戻った後も捜索を続けようとしたが、生存は絶望的とされ捜索は打ち切られた。

だが、ヴィータが苛立っている理由はそれだけではなかった。
つい今朝方見た夢。
二つの機械天使が全身金色の悪趣味な(少なくともヴィータはそう思った)ロボットを倒す夢。
青と白の機械天使に乗っているのは浅黒い肌をした少年。
そして、萌黄と白の機械天使に乗っているのは……

「どうした、ヴィータ?」

狼の姿をしているザフィーラに話しかけられて現実に引き戻されたヴィータは小さく笑う。

「別になんでもねぇよ。ちっと嫌なこと思い出しちまっただけだ。」

「……そうか。」

ザフィーラはそれ以上は何も言わずにヴィータのそばに黙って座っていた。
その不器用な優しさがヴィータは嬉しかった。
しかし、そんな穏やかな時間は級に終わりを告げる。

「……!動いた!」

それまで黙っていたザフィーラが急に起き上がる。
それと同時に基地からも連絡が入る。

『先ほどの機械兵器群と思われる一団が護送隊に接近中!狙いは輸送中のロストロギアと思われます!』

シャーリーから座標を受け取ったシグナムは各員に指示を出す。

「よし、それじゃ二手に分かれて護送隊に攻撃してくる機械兵器たちの迎撃を開始するぞ。まあ、主はやて、なのは、テスタロッサの三人がいて万が一があるとは思えんが念には念を、だ。私とヴィータは戦力が集中すると思われる場所に、ザフィーラとシャマルは残った発掘員たちの護衛に回れるように中間地点で迎撃に当たってくれ。」

「「「了解!!」」」

この時、彼女たちはまだ知らなかった。
失ったものが着々と自分たちもとに近づいていることに。
運命の時まで、あとわずか……







数分前 護送ルート

「えっと、もう一度復習するです。AMFというのはフィールド系防御の一種なわけですよね?フィールド系というのは……」

「基本魔法防御の4種のうちの一つだね。バリア、フィールド、シールド、物理防御の四つを状況によってうまく使い分けたり、組み合わせたりするんだけど、その中でもAMFはフィールド系の中でもかなり上位に入るね。」

AMF……アンチマギリングフィールド
つい最近になって出てきた比較的新しいフィールド系の防御魔法だ。
現存する中でも最も厄介な防御魔法と呼ばれているのだが、それにはわけがある。
それはAMFは魔法攻撃を防ぐのではなく魔力結合を阻害し、魔法そのものを使用不能に追い込むというものなのだ。
ぱっと聞いた感じでは回りくどく感じるかもしれないが、実戦で体感すればそれがどれほど厄介かがわかる。
まず、ミッド式の魔導士は攻撃手段が魔力そのものを放出して攻撃するというものなのでよほど工夫しない限りまともにダメージが通らない。
かといってベルカの騎士ならば対抗できるかというとそうとは言い切れない。
ベルカ式の魔法は身体能力や武器の強化に特化し、その結果、肉弾戦で戦うものがほとんどで魔法なしでも戦えるつわものもいるほどである。
しかし、それでも所詮は人間だ。
人間対人間ならばまず負けはないだろうが、相手が機械となれば話は別だ。
ただの武器や肉体で機械を潰せる人間はこの世にどれほどもいない。
しかも、魔力結合を解除するということは防御や飛行魔法も使えなくすることが可能ということでもある。
以上のことから必然的にAMFが魔法を使って戦う者にとって脅威となるのは至極当然のことなのだ。

「でも、なのはさんたちはあんなに簡単に……」

「あれは距離もあったし向こうのフィールドも狭かったからね。」

そう、確かに驚異的な能力ではあるが攻略法はある。
AMFは魔力結合を解除できるというだけで魔法で発生させた効果までは打ち消せない。
つまり、先ほどなのは達が見せたように小石を魔法を使って飛ばしたり、天候操作を使って雷を落とすなど方法は多々ある。
しかし、単純な放出系の攻撃魔法オンリーの魔導士や強化した武器や肉体を駆使しての戦いしか経験していないベルカの騎士にはそんなことは無理な相談だ。
さらに、今述べたの方法もAMFの効果範囲内にいないことが大前提である。

「はうぁ!!そうです!!リインは魔法がないと何にもできないです~!!」

なのはの説明を一通り聞いたリインフォースは困ったような顔をする。
それを見たなのはクスリと笑う。

「いい機会だからその辺の対処と対策も覚えていこうね。」

「はいです!!」

「すみません教官、うちの子をお願いしますー。」

4人が和やかに話をしていたこの後、ヴォルケンリッター達は機械兵器の迎撃に当たり、これを退けた。
そしてその直後、遂に運命の時は訪れる。








?????

ユーノは見覚えのある光景の中にいた。
真っ白な空間。
上も下もない、ただ広がりだけがある空間。
コックピット内にいるにもかかわらず、外の様子がはっきりとわかる。
もう、中と外の区別もあいまいだ。

「……僕は……死んだのか……?」

あれだけの疑似GN粒子を至近距離で受けたのだから死んでもおかしくはない。
だが、不思議なことに体に痛みはない。

「ユーノ……」

「967……?なんだ……こんなところまでついてきちゃったのか……」

「言っただろ……地獄でもどこでも付き合うとな。」

「まったく。地獄についていくんじゃなくてどっかいいとこに連れてくくらいの気概を見せろよな。相棒だろ?」

「「!!?」」

二人の目の前に信じられない人物が現れる。
しかも、一人ではない。

「ホント、世話焼かせちゃうよね~。」

「まあ、二人らしいっちゃらしいっスけどね。」

「しかし、こんなトンでもないことになるとは思ってなかったな。」

「クリス……リヒティ……!?」

「モレノ……ロックオン!?」

なぜここに。
そう言おうと思ったのに声にならない。
そこに、さらにもう一人やってくる。
赤い髪のツインテールの少女。

「エレ……ナ………!?」

「やっほ……ユーノ。」

「どうして君が…!?」

「……ユーノを、もといた世界に帰すために、みんなにも手伝ってもらうことにしたんだ。」

「「!!?」」

967とユーノの顔がこわばる。

「僕はそんなこと頼んじゃいない!!」

「でも、彼女たちはユーノに会いたがっているんスよ?」

「それでも、僕はもうみんなには会えない!!会うわけにはいかない!!」

「……そんなにその手を血で汚したことが辛いか?」

「…………………………………………………」

「だったら………」

「「!!!?」」

エレナたちの手に光が集まっていく。
そして、その光がユーノの頭にまとわりつく。

「が……ああああああぁぁあ!!!?!!?っあああぁぁっぁあぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!?」

「しばらく………私たちとの記憶を封じておいてあげる……ユーノがまた、現実と向き合うことができるその日まで、ユーノはあの子たちと一緒にいてあげて……」

「やめ………ろ…………!!」

ユーノは必死で抵抗する。
しかし、ユーノの頭の中にあるソレスタルビーイングで戦っていた時の記憶に少しづつ靄がかかっていく。

「や……めて………!!」

もう、目の前にいる人物たちが誰なのかすらわからなくなっていく中、ユーノは声を張り上げる。

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」

絶叫を残し、ユーノは消えていく。
エレナたちの離れていく姿を見ながら、ユーノは意識を失った。






「っっっぷっはぁ!!これ思ってたよりずっときついじゃん!!」

クリスティナが大きく息を吐く。

「ユーノの抵抗が思ったより強すぎて完全には封じ切れなかったな。」

ロックオンが頭を押さえながら左右に振る。

「でも、ほとんど封じることはできたッスよ。」

「まあ、それくらいしなけりゃわしらがこうしてここにいる意味がないからな。」

「で、これからどうすんだ?」

ロックオンがエレナに問いかける。

「この子と約束したからね。ちゃんとこの子の仲間のことを助けてあげないと。」

「じゃ、ここから先はしばらく別行動になるってわけか。」

「エレナは残ってていいよ。ユーノのことが気になるだろうし♪」

四人がニヤニヤ笑う。
エレナは顔を一気に赤くし、必死で弁明を始める。

「いや!そんなことない!!うん!!そんなことないよ!!?」

「「「「へぇ~。」」」」

「あう………」

俯くエレナを見てロックオンたちは笑っていたが、しばらくすると足元から消え始める。

「おっと、もうか。じゃ、またな。」

「どれくらい離ればなれになるかわからないけど、きっとまた会えるよね。」

「当然っスよ!」

「じゃあな、エレナ。ユーノが無茶をしないようしっかり見とけよ。」

全員が消えた白一色の空間でエレナ上を見上げる。

「ユーノ………きっと、みんながあなたを必要とする時が来る。だから、せめてその時が来るまでは、穏やかに過ごしていて……」









防衛ポイント 西部

「ふぅ、なんとかなったわね。」

シャマルは無事にロストロギアを運びきったとの連絡を受け、機械兵器の残骸の前でホッと一息つく。

「油断するな。まだ残存戦力があるかもしれん。」

「わかってるわ。」

ザフィーラの言葉にシャマルがうなずいた時だった。
空の一部が歪み、激しい風が吹き荒れる。

「これは………次元震!?」

「馬鹿な!?ロストロギアはすでに回収したはずだぞ!?」

二人が動揺する中、何かが次元の隙間からはい出てきて、大気との摩擦で赤熱しながら地上へと落下して大量の土埃を舞いあげた。

「あれは……ロボット!?」

墜ちてきたものを見たシャマルはそう思った。
片方は白一色の体に騎士の甲冑のような頭をしたロボット。
もう一方は白と萌黄でカラーリングされ、より人間らしい顔と体をしている。

(シャマル!ザフィーラ!無事か!?)

シグナムの叫ぶような念話が二人に飛んでくる。
シャマルは風にとばされまいと踏ん張っていた足の力を緩めてシグナムに返事を返す。

(ええ……でも、あれは一体?)

(わからん……?どうした、ヴィータ?)

(どうかしたの?)

(いや、なんでもない。)

シグナムの念話に疑問を感じていると、今度ははやてから念話が入る。

(二人とも悪いけど調べてきてもらえへんか?見たところ質量兵器みたいやし、ほっとくのもまずいから。)

(わかりました。)

(?どないしたん、なのはちゃん?)

(どうしたの?)

(いや、なんでもあらへん。なんやなのはちゃんの様子が少しおかしいんで心配しただけや。)

(そう……?)

さっきのシグナムの念話でもヴィータに何かあったようだが、それほど切羽詰まった様子はない。
あとで直接会って聞けばいいだろうと思い、シャマルとザフィーラはその場を後にした。







防衛ポイント 東部

ヴィータは突然現れたその姿に驚いた。
今朝方、夢で見たばかりのその機体はボロボロだが、それでもなおそれが持つ美しさは微塵も色あせない。
いや、むしろ戦いの中にあったそれは誇り高い傷を負った戦士が空から舞い降りたようだった。

「んな、馬鹿な………なんであれがここに……!?」

あり得ない。
あれは夢なのだ。
過去を断ち切れずにいる自分の夢にすぎない。
しかし、そう思おうとすればするほど気持ちははやっていく。
そして、ヴィータは無意識のうちにシグナムの制止も聞かずに降りてきたロボットへと飛び出していた。








転送地点

「うそ……!!」

なのはもまた、その光景が信じられなかった。
夢の中でしか会えなかったその機体が今、目の前にいるのだ。
そして、おそらくあの中には自分の愛しい人がいる。
もう会えないと諦めながら、いまだに思いを断ち切れずにいた相手が。

「っっっ!!!!!」

なのはは今来た道を戦っているときにも見せたことのない速さで戻り始めた。









墜落地点

「近くで見るとホントに大きく見えるわね。」

二体のロボットは抱き合うように墜落の衝撃でできたクレーターの中心に横たわっている。
よく見ると白一色のロボットのほうは萌黄色のロボットの腕に装備された巨大な盾のようなものを胸の下あたりに打ち込まれているようだ。

「どうやらこの二体は敵対関係にあったようだな。」

「あら?ここに空間が……」

シャマルが盾のようなものが撃ち込まれた場所に人が入り込めるような空間を見つけて覗きこむ。
だが、

「!!!?うっ!!」

そこにあった凄惨な光景に吐き気をもよおしてしまう。
一面に血が広がり、それがなんなのかわからないほどぐちゃぐちゃに潰れた血と肉の塊がそこにいた。

「………どうやら、人、もしくはそれに準ずる知的生命体が乗り込んで操縦して戦いあうもののようだな。」

ザフィーラは白いロボットの中を見てもあくまで冷静に分析をする。
その時だった。

「!?」

「ケホッ!ケホッ!……どうしたの、ザフィーラ?」

少し胃の中のものを戻しかけてむせていたシャマルがザフィーラの顔を見る。

「こちらの方から人の気配がする!まだ生きているやもしれん!」

ザフィーラは人型になると萌黄色のロボットに人が乗り込んでいると思われる場所を力づくで開けようとする。
だが、

「クッ!!なんて堅さだ!?」

ヴォルケンリッターの中では最も腕力のあるザフィーラだが、どれほど力を込めても一向に開く気配がない。

「どうすれば……」

シャマルがつぶやいた時だった。

ロボットの胸の部分が開き、中への道ができる。

「「!!!!」」

二人は警戒していったん上空に上がり距離をとる。

「……どう見る?」

「罠……の可能性もあるけど、ほっとくわけにもいかないわね。」

二人は静かに入口まで降りていくとその中を覗く。
そこには一人の少年と思われる人間が横たわっていた。
彼のすぐそばには青く丸いボールに目がついたような機械が目を点滅させている。

「システム凍結開始。GNドライヴ、オヨビ全機密事項データノ削除開始。」

青いボールはそう言うと徐々に自分の目の光も消していく。

「自己凍結開始。マイスター、オヨビソレニ準ズル存在ノ出現マデ全システムヲ停止。」

自分の役目を終えると青いボール、967は最後に自分の相棒のほうを向く。

(すまない……だが、俺は再びお前とともに戦うことができる日を待ち続ける。)

967の声に警戒して入ろうとしなかったザフィーラが声がしなくなったことを確かめると、意を決して中に入る。
そこは思ってたよりは広く、ある程度は自由に動けるものの、狭いことには変わりない。
ザフィーラは少年を席から抱き上げてその顔を見る。

(……?どこかで見たような……)

ヘルメットの内側についた血に隠れてよく見えないが、どこかで見たことがある顔のような気がする。

「ザフィーラ!早くその子をここへ!その傷じゃ早く治療しないとマズイわ!!」

「あ……ああ。」

ザフィーラは思い違いだと割り切り、シャマルのもとへと運ぶ。

「早く服を脱がせて傷を治療しないと!」

シャマルは手早く傷を負っている左のわき腹部分の服をはぎ取ると治癒魔法をかけ始める。
だが、

「!?傷が治らない!?」

傷そのものは浅く皮の上をはがされた程度なのだが、どれほど治癒魔法をかけても傷がふさがらない。

「ザフィーラ!ここを押さえてて!!私はほかに外傷がないか調べるわ!」

「承知した!」

ザフィーラは出血している部分を押さえて血が流れ出るのを最小限にとどめようとする。
シャマルはその間に少年の体のあちこちを調べていく。
そして、最後にヘルメットを外してよく見えていなかった顔をあらわにする。

「「!!!!!?!!?!!!!?」」

予想外の事態に二人は作業の手を止めてしまう。
ヘルメットを外した瞬間、金色の美しく長い髪が一面に広がり、まるで金色のじゅうたんが太陽の光を反射しているような錯覚に陥る。
だが、二人が驚いたのはそこではない。
成長しても変わらずにその面影を残しているその顔を見間違えるはずがない。
あの日救うことができなかった存在。
この同窓会のような任務でただ一人来ることができなかった少年が、今自分たちの目の前にいるのだ。
シャマルは治療することも忘れ、この任務に参加している人間全員へ念話を開始した。






転送ポイント

はやてとフェイトが急に来た道を戻って行ったなのはを追いかけようとした時だった。

(み、みなさん!!た、大変なことが!!)

(!!?どないしたんやシャマル!?)

いつも落ち着いているシャマルの焦りと驚きの入り混じった声にはやても驚いて返事をするが、シャマルはそれすらも聞こえていない様子でまくしたてる。

(ユ、ユーノ君が今私とザフィーラの前にいるんです!!!!!)

「「え!!!?」」

はやてとフェイトは思わず大きな声を出してしまう。

(シャマル!冗談はやめぇ!!)

言っていい冗談と悪い冗談がある。
はやてはそう思いシャマルをしかりつけるが、シャマルの様子は変わらない。

(本当なんです!!すぐにアースラの医務室を使えるように手配してください!!すぐにでもクラナガンの病院に運びます!!)

「うそや……」

「そんなこと……」

二人が唖然とするが、すぐにシャマルの言っていることが真実なのだと確信して手配を開始した。








防衛ポイント 東部

「そんな……馬鹿な……!!?」

シグナムはシャマルの話を聞いた瞬間、体が震えるのを感じた。
あの日から仲間の前ではどれほど気丈に振舞っても、一人になると後悔と悔しさで泣かない時はなかった。
自分たちを悲劇の連鎖から救ってくれたユーノを守り切れなかった。
何が騎士だと自分を責めたこともあった。
だが、

「っっっ!!!!!!!!」

シグナムもまた、ヴィータの向かった方向へと飛び出していった。








アースラ ブリッジ

「そんな……!!」

「嘘……じゃないよね……!?」

エイミィとクロノは他のメンバーとは違い、その映像をその目で見ていた。
長く伸びた金髪のせいで中性的な顔がさらに女性のように見えてしまうが、間違いなくユーノだ。

(ユーノ……!!)

いつもは非情と思われるほどに冷静なクロノの目に涙が浮かぶ。
親友である彼を失って以来、もう誰も犠牲にはしないと誓い、周りに、そして誰よりも自分に厳しく任務にあたってきた。

「神とかそういうのは信じない性分だったんだがな……今だけは神様とやらに感謝したい気分だ!」

「うん!!」









その後、ユーノはすぐにクラナガンにある病院に搬送され、奇跡的に一命を取り留めた。
彼とともにやってきたロボット二体は管理局に接収され、管理されることになった。
そう、あの管理局に……








?????

「ククククク……」

その老人は目の前にある二体のロボットを見上げて、こらえきれずに笑いを洩らす。
年老いてしまったものの、その鋭い猛禽のような眼と、しっかりと残ったオールバックの白髪と白いあごひげのせいか、風格は一向に衰える様子はない。

「ククク……まさかあの少年がこんな土産と一緒に帰ってきてくれるとは……“見事な手際”だと賞賛させてもらおう。」

あの日、自分に掴みかかろうとしていた少年が三年前のあの“実験”を兼ねた任務に参加すると聞いた時、何やら運命めいたものを感じたものだったが、先日のことで確信した。

「彼と私の間にはどうやらただならぬ縁があるようだな……!」

改めてロボットを見上げる。
萌黄色のほうは厳重にシステムにロックがかけられ、データもすべて消去されているせいで解析はほぼ不可能とのことだが、白いほうの解析は順調に進んでいる。

「地上部隊なんぞに配属された時はどうしたものかと思ったが……こいつのことを誤魔化すにはちょうどいい…………ククククク……どうやら、私は神に愛されているようだ………そう、運命をつかさどる神にね!!はぁっはっはっは!!!!」

時空管理局、ファルベル・ブリング准将は両手を大きく広げ、まるで自身が神だとでも錯覚しているかのように高笑いを続けた。










一時の平穏が始まる……
しかし、その平穏は作られたまがいものか……











あとがき・・・・・・・・・・・という名の最終回予告

ロ「というわけでユーノ、リリなの世界にカムバック!!の回でした。そして、皆様に重大なお知らせがあります。」

ユ「なに?」

ロ「新シーズンからその他板に戻そうと思います。」

兄「やめとけ。」

黒「お前にはまだ早い。」

ロ「うっさいボケ!!ここまで書いたんだから少しぐらい自信もったっていいだろ!!?」

狸「百年早いwww」

ロ「狸汁にしてやろうかこの野郎!」

ア「ていうか今回はリリなのの人たちも来てるんだ………」

な「来てたらまずいの?」

ティ「君が一番まずいんだ。」

フェイト「私としてはあのセクハラの人(ハレルヤのことです)が来てないか心配で………」

刹「今回はマイスター5人とお前たち三人しか来ていないから安心しておけ。」

ロ「オーイ、話し戻したいんですけど!?お兄さん泣いちゃうよ!?」

兄「で、その他板に行くんだろ?まあ、適当に頑張れ。」←投げやり

ロ「もっと励ませやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

狸「ガンバwwwww」

ロ「お前はいちいち笑うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!お前笑った面見ると無茶苦茶腹立つんだよ!!!!!!!」

ユ「えっと、とにかくこの作品は新シーズンからその他板に戻します。これからも皆さまからご意見、感想などをいただけるとロビンの励みになるのでこれからもよろしくお願いします!!」

ロ「締めとられた!!?」

な「次回はいよいよ最終話!」

フェイト「リリなの世界に戻ったユーノは一体どうなるのか!?」

兄「ちなみに次回のあとがきではそこそこ重大な発表があるらしいのでお楽しみに。」

刹「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援があればお聞かせください!では、せーの……」

一同「次回をお楽しみに!!」



[18122] エピローグ
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/08/25 19:16
アザディスタン王国 宮殿 マリナの部屋

『マリナ・イスマイール。あなたがこれを読んでいる時、俺はこの世にはいないだろう。武力による戦争根絶……ソレスタルビーイングが戦うことしかできない俺に戦う意味を教えてくれた。あの時の、ガンダムのように。俺は知りたかった……なぜ、世界はこうも歪んでいるのか。その歪みがどこからきているのか。なぜ、人には無意識の悪意というものがあるのか。なぜ、その悪意に気付こうとしないのか。なぜ、人生すら狂わせる存在があるのか。なぜ、人は支配し、支配されるのか。なぜ、傷つけあうのか。なのになぜ………こうも人は生きようとするのか……。俺は、求めていた。あなたに会えば、答えてくれると考えていた。俺と違う道で、同じものを求めるあなたなら……。人と人がわかりあえる道を、その答えを。俺は求め続けていたんだ……ガンダムとともに……。ガンダムと……ともに………』

「刹那………!!」

マリナは机に隠されるように置かれていた端末に残されていた文章を読んだマリナは涙を流しながらそれを抱きしめる。
もしあの時、答えていれば刹那は……
そう思うと後悔してもしきれない。
マリナは涙を拭って前を見る。

刹那は自分の信じたものに従い最後まで戦った。
なら、自分も最後まで信じよう。
人と人は必ず理解しあえると……









宇宙

『なのはへ。この手紙……というより、文章って言ったほうが適切か。これが君に届くことがないとわかっていても、書かせてもらいます。僕は今、君やみんなから遠く離れた世界で戦い続けています。……たくさんの人を傷つけました。たくさんの人の命を奪いました。………こんなこと、急に言われても困るよね。でも、届かないってわかってるから、書かせてもらいます。僕は今、新しく出来た仲間とともに、世界と、そこに蔓延る歪みと戦っています。僕たちのしてることはテロリストと変わらない。父さんの命を奪った管理局の人間と………。でも、僕はこの世界を変えたかったんだ。誰かが誰かを傷つけて、傷ついて……そんな世界が、僕は嫌だった。誰かが泣いていても、誰も知らない顔をしている、こんな世界が………。だから、僕は戦うんだ。ガンダムとともに……仲間とともに……この世界で………』

無重力空間を漂っていた傷だらけの端末の画面がブラックアウトする。
どうやら、故障したようだ。
そして、そこに書かれていた独白は誰にも知られずに宇宙の彼方へと消えていった。








2ヵ月後

クラナガン 病院

海の向こうに沈んでいく太陽をユーノはベッドの上からボーッと見つめている。
額には幾重にも包帯が巻かれ、わき腹も厳重に布が巻かれている。
その目には感情の光がなく日の光を反射する長い金髪も相まって人形のようだが、それでもはっきりと彼自身の意志は存在している。

なのはたちと再会したものの、自分が消えた日からそれまでの記憶が一切思い出せなかった。
医者は一時的な記憶喪失だとしたが、自分にはどうしてもそうは思えなかった。

「ジュエル…シード……」

首にかけている青い宝石を手に取って見る。

意識を取り戻した後、管理局員たちが回収に来たが、ユーノはなぜか渡そうとしなかった。
それでも、無理やり取ろうとするとジュエルシードの魔力値が臨界値にまで近くなり、ユーノの手元に戻すとおさまるという不可思議なことが起きた。
封印処理も受け付けないため、ユーノの手元にあると極めて安定した状態にあるため、そのままなし崩しにユーノが責任を持って所持、および管理をすることとなった。
ユーノ自身もそれには嬉しかったのだが、顔が笑おうとしても笑ってくれない。
脳に損傷はないらしいが、今後も検査を進めていき原因を究明すると言っていた。
他にも、浅い傷ではあるがふさがらない脇腹の傷も今後調べていき対策を練るとのことだ。

しかし、ユーノは自分のことなのに上の空だった。
それよりも何か思い出さなくてはいけないものがある気がする。
誰かとの大切な約束。
なのはではない誰かとの約束。
だが、どんなに思いだそうとしても思い出せない。
まるで思い出すのを邪魔するように頭の中に靄が広がっていく。
そして、

「………またか。」

感情のない瞳から涙がぽろぽろと落ちていく。
何が悲しいのかわからない。
悲しくないはずなのに涙があふれていく。
どんなに止めようと思っても止まらない。
それでも、まるでそれまで背負ってきていた悲しみを洗い流そうとするように瞳の奥からどんどん出てくる。

「また泣いてたの……?ユーノ君。」

ユーノは扉の方を向く。
そこに立っていたのはサイドアップで髪をまとめた少女。
ユーノの幼馴染のなのはだった。

「………………………………………」

「もう、先生も言ってたでしょ?あんまり無理に思いだそうとしてもいいことなんてないって。」

「でも、僕は………」

ユーノが何かを言おうとした瞬間、なのはがユーノを強く抱きしめる。

「お願い……思い出さないで………もう、どこにも行かないで……!」

なのはが着ている管理局の制服に涙でシミができていくが、なのはは構わず抱きしめる。

「わかった……。どこにも行かないよ。」

ユーノの言葉を聞いてなのはは潤んだ目でユーノに笑顔を向ける。
この時が永遠に続くように願いながら。








2310年 ファクトリー艦『エウクレイデス』

「フォン、ソリッドが消えた時のデータのサルベージに成功しました。」

「あげゃげゃげゃげゃ!!よくやった874!これであいつのところに行ける!」

フォンは目の前にある球体を見上げる。
ヴェーダのメインターミナル。
メイン機能はもうこの中にはないが、一部の残されたデータと世界最高クラスの演算能力には目を見張るものがある。
そして、なによりフォンが探していたものが残されていたのだ。

「現在使用できる機体はアストレアだけですが、行きますか?」

「当然!だが、その前に……」

損は後ろから迫ってくる水色の戦闘機を見る。

「アイツらを連れてくかどうかを決める。」

「わかりました。アストレア、出撃準備に入ります。」

フォンはコンテナに向かいながらにやりと笑う。

「待ってな……ユーノ・スクライア!!あげゃげゃげゃげゃげゃ!!!!!!」










First season end
But,mission incomplete
continue to season strikers……








あとがき・・・・・・・・・・・・という名のお前らまだ出てきてねぇだろ!!

ロ「というわけで、これでfirstは完結です。まだまだ続きますのでこうご期待。」

兄「ちょっと待て。それよりseason strikersってなんだ?」

ロ「そのまんま。」

ティ「そのまんまじゃない!!まさかstrikers編を書くなんて言うんじゃないだろうな!!?」

ロ「そうだけど。」

ティ「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!なめてるのか!!?」

ギリギリ!!

ロ「ゲホ!!絞まる!!窒息するって!!」

ティ「いっそそのまま息絶えろ!!」

ア「それはまずいってティエリア!!」

ロ「ゲホッ!!死ぬかと思った!!」

兄「お前……出番ないからって荒れ過ぎだろ…」

刹「気持ちはわからないではないがな……ところで、奴がどうやらユーノの世界に行くようだが?」

ロ「そう、しかも……この先はネタバレなんでseason strikersを読んでください。」

ア「でも、時間軸的には正しいけどなんでわざわざユーノをいったんもとの世界に戻したの?」

ロ「ああ、それはリリなのの皆さんの一部をソレスタルビーイング側に引き込むための呼び水みたいなもんだ。具体的には六課の新人から一人とナンバーズの中の一人とあと他にも何人か……」

六課新人+ナンバーズ「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!?」

兄「わあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?なんだこいつら!?てか数多すぎて狭い!!」

ティアナ「一体誰を呼ぶの!!?」

チンク「姉だな!?姉だよな!?姉だと言え!!」

ノーヴェ「あっ!!チンク姉ずるい!!」

エリオ「そうですよ!!だいたい機動六課で僕だけ男なんですよ!?いい加減ラッキースケベは卒業したいんです!!」

セッテ「それがあなたのキャラ……」

エリオ「失礼な奴だな君!!ていうか劇中でそんなキャラだった!!?」

ウェンディ「若いうちだけっスよ、女の子の体を堂々と見れるのは。」

セイン「ウェンディその発言はいろいろまずいからやめろ!!」

キャロ「あなたたちはまだ出番があるからいいですよ!!私はフルバックでただでさえ出番少ないんですよ!?ここでくらいは輝けるポジションが欲しい!!」

ウーノ「甘いわね!!私なんて戦闘要員でもないから地味の極みよ!!」

ドゥーエ「わたしなんて正体ばれた時点で即死亡よ!?どんな出キャラだっつーの!!」

スバル「みんな忘れてるみたいだけど私はstrikersの主人公なんだよ!!?となると必然的に私…」

ロ「うるっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!まだ出てもない奴らがガタガタ騒ぐなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!大体もう出す奴は決定してんの!!!!!」

新人+ナンバーズ「え?」

ロ「だからもう出す奴は決定してんの!!お前らが今さらどうあがこうと覆らない!!ハイこの話お終い!お前らは強制退場!」

ウェンディ「え、ちょ!?なんなんスかこの丸くてでかい奴ら!?」

ロ「ハロ(Gジェネ仕様)だ。」

スバル「ウソォォォォぉぉぉぉ!!!!!?ハロってもっと可愛いくなかったっけ!?」

ア「ああ……Gジェネだとそんな感じだから。」

エリオ「いや、そうじゃなくて……ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

ロ「さ、静かになったな。」

兄「やりすぎじゃね?」

ロ「いいんだよ。それに今回のもう一つの目的はお前らがしばらくでないから挨拶ぐらいはさせてやろうと思って呼んでやったんだぞ。それを首絞めたり珍入者がやってきたり……」

ティ「そうだったのか。」

ロ「じゃ、まずは首を絞めたティエリアから。」

ティ「根に持ってるな……。オホン……ここまでこの作品を読んでくれて感謝する。僕たちはしばらくでないがこの作品はまだ続くから応援をよろしく頼む。」

ア「次は僕だね。えっと、みなさんが満足してくれたかはわからないけど、多くのご意見や感想によってロビンを支えていただきありがとうございます。これからも応援をよろしくお願いします。」

兄「俺は次のシーズンでも少し出るかもしれないけど、その時はよろしく頼むぜ。これからもユーノの活躍から目を離すなよ!」

刹「俺たちの戦いをここまで読んでくれてありがとう。だが、まだ終わりじゃない。この先も俺たちは世界の歪みを駆逐する。しかし、その合間におけるユーノの物語を見守ってくれ。」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!まだまだ続くのでご意見、感想、応援がありましたら、バンバン聞かせてください!じゃ、せーの……」

「「「「「新シーズンをお楽しみに!!」」」」」



[18122] 魔導戦士ガンダム00 the guardian season strikers プロローグ
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/08/26 19:19
新暦0071年

?????

その男は喜びにうちふるえながらアルコールの入った液体を何度も一気に飲み干していた。
自分の手で“生み出した”娘たちから何度もとめられたが今夜ばかりはその制止を聞けなかった。
自分の生み出したもののせいでこの世から消えてしまったと思った少年が戻ってきたとの知らせを聞いて久方ぶりに涙を流した。
彼が戻ってきたからといって自分が今まで冒してきた罪が消えるわけではない。
だが、それでも嬉しかった。
彼の経歴を見て、自分がしたことの愚かさを思い知らされた。

自分がつくられた存在だと知り、絶望した時があった。
己の中に渦巻く終わりの来ない欲望に必死に抵抗したこともあった。
何かを考えるのをやめ、自分を作り出した管理局の犬になり下がったこともあった。
己が欲望に忠実に従い無意味に破壊をする兵器を作ったこともあった。
自暴自棄になったこともあった。
命を弄び、自分と同じ歪んだ生まれ方をした者たちも多く生み出してしまった。
そして、一人の少年の命を奪い、彼を愛していた少女の心に深い傷を負わせてしまった。
あの日、すべての真実を知った時、自分の愚かしさから死を選びそうになった。

「ククク……まさか自分の娘から諭される日が来るとはね……」

そう言って男は再びグラスの中身を飲み干し、再び無色透明の液体を注ぐ。
薄暗い研究所の光を集めたそれのなかには幻想的な光景が広がっている。
その光景を見ながら男はあの日のことを再び思い起こす。

自分を作った者たちに報告を行った後、彼は自室へ行くと注射器に黄色の液体を入れて自分の腕に刺そうとした。
それを偶然見た娘の一人に取り押さえられた。
あの時はなんでこんなISをつけてしまったのかと後悔したものだが、今は感謝している。
自分が今ここでこうしていられるのは彼女のおかげなのだから。
そう思うと涙がこぼれてくる。
酔ってセンチメンタリズムに浸り気持ちにでもなっているのかと思考を働かせるが、それすらもどうでもよくなってくる。
そう、これから自分たちが行うことには。

「私は自分の罪から逃げない……そして、私の願いを託せる者を見つけた……。ならば、私は彼らに試練を与えよう…………この世界を本当に託せるように………」

そう言って男は深い眠りに落ちた。







翌朝、Dr.Jこと、ジェイル・スカリエッティは鈍い二日酔いの痛みを引きずりながら昨晩飲み過ぎたことを後悔する羽目になった。








あとがき・・・・・・・・・・・という名のみんなー!はーじまーるよー!

ロ「というわけでstrikers編プロローグでした。」

スカリエッティ〈以降 スカ〉「いきなりだがスカリエッティだ。というか私は善人版で出てくるのか。賛否両論で分かれそうだな。」

ロ「まあ、いきなりネタバレだけどお前もソレスタルビーイング側につく予定だから。」

スカ「ホントにいきなりだな!?いいのかここでそんなこと言っちゃって!?て言うか私のこのテロップはなんなんだ!!?」

ロ「くじ引きやおみくじを引いても9割方スカか凶を引かされた人間の怨念によってそうなってしまったのだ。」

スカ「それは単なる君の逆恨みだろ!!?」

ロ「じゃ、プロローグなので今回はここらで終わって一話のあとがきに続く。」

スカ「え、ちょ、ちょっと!?ねぇ、次回のあとがきでも私の出番はあるよね!?」

ロ「では、本編をお楽しみください。」

スカ「おいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!人の質問に答えろ!!」

では、一話のあとがきで



[18122] 1.ホテルアグスタ
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/08/31 19:13
ホテル・アグスタ 舞台袖

「ふぅ。」

眼鏡をかけ、長い金色の髪を緑色のリボンで結んだ青年がつい先ほど自分が論文を発表していた壇上を離れて一息つく。
この後、自分以外の研究者の発表があり、正直自分の論文の発表よりも彼らの論文の発表を聞く方が青年にとってはよほど楽しく、そのためにここを訪れたと言っても過言ではない。

「さて……早く席に戻って発表を……」

その時だった。
自分の足元、丁度地下駐車場があるあたりから妙な反応を感じる。

論文を発表する前に会った管理局に勤めている幼馴染兼婚約者が論文の発表の後に行われる骨董品のオークションの出典品、正確にはその中に混じっているロストロギアを狙って現れる犯罪者を警戒して警備の任務についていると言っていた。

「大丈夫かな……」

ふと、自分の薬指にはめられている桃色の宝石がはめ込まれた指輪を見る。
おそらくは大丈夫だろう。
彼女が鍛えているという部下の子たちもおそらくは何ともないだろう。
しかし、外からここまでくるのには時間がかかる。
そして、この妙な反応に気付いているのはどうやら自分だけのようだ。

「………仕方ない。発表を聞くのはお預けだな。」

無限書庫司書長、ユーノ・スクライアは首にかけているジュエルシードが外れないように気をつけながらネクタイを外し、自分の一張羅のスーツの上着を脱ぐと地下駐車場へ急いだ。




魔導戦士ガンダム00 the guardian 1.ホテルアグスタ

地下駐車場

ユーノはスーツを腰に巻きつけ、カッターシャツと黒のズボンという姿でホテルの警備員に薄暗い地下駐車場まで案内させた。

「おかしな魔力反応ですか?あり得ないと思うんですがねぇ。」

「と言うと?」

ユーノの不思議そうな顔に警備員は笑って答える。

「うちの警備システムは全次元世界で一番のシステムですよ?突破できるものは皆無です!残念ですが、今回は司書長殿の勘違いだったのではないですかね?どうです?今度無限書庫の警備の参考にされては?あっはっはっはっはっは!」

「全次元世界で一番、ね。」

そう言ってユーノは手元に小さな魔法陣を展開し、飛んできた何かを防ぐ。

「!!!?」

警備員は驚くがそれで終わりではなかった。

見えない何かがユーノに何度も襲いかかる。
ユーノは小さなシールドを使ってそれらを巧みに受け流し、襲ってきていた何かの腕を掴む。
そして、ユーノが腕をつかむ力を強めると透明だった何かが姿を現す。

「ひぃ!!」

警備員は情けない声とともに腰を抜かす。
そこにいたのは人間ではなかった。
人間のように二足歩行なのだが、体の表面が黒光りする強固な鎧で覆われ。顔にある四つの細い隙間からは目玉がこちらを覗いている。
腕や脚には鋭い刃のような突起があり、体そのものが凶器と言った感じだ。

「全次元世界で一番の警備システムね……今度参考にさせてもらいますよ。」

ユーノの皮肉に答える余裕もなしに警備員は這うように逃げ出す。
それが合図だったかのように襲撃者はユーノを自分の向いていた方向と反対の方向に投げ飛ばすが、ユーノは空中で体勢を整えるとふわりと地上に着地する。

(見たところ甲虫タイプの召喚獣……それも結構上位だ。ったく、こういうのは僕の専門じゃないんだけどな。)

ユーノはこちらに突進してくる召喚獣にユーノはチェーンバインドをかけようとするが、避けられるか、いくつか絡みついても引きちぎられてしまう。
ユーノは腰を落として重心を安定させると向かってきた召喚獣の拳を右手で受け止める。

「もう姿は消さないのかい!?」

「…………………………………」

「だんまりか……けど、僕のサーチが優秀だと思ってやめてくれたのなら、光栄だ…ねっ!!」

ユーノは召喚獣の手を上に跳ねあげて態勢を崩すと思い切り踏み込んで左拳を顔面に叩きこみ、踏み込んだ勢いを利用してくるりと一回転して右の裏拳を同じ箇所に叩きこむ。

「っっっっつつつあぁぁ~~~~!!!!」

しかし、召喚獣のほうは攻撃の衝撃でグラつきはしたもののすぐにケロリとした顔(表情がわからないので何とも言えないが)でこちらを睨む。
一方ユーノは左手と右手の皮がズル剥け、血が滲み出している。

「ったった~~!!君って頑丈だなぁ……」

ユーノは血が出ている手をプラプラさせながら召喚獣のほうを見る。
圧倒的不利にもかかわらずその顔の微笑みは消えていない。

「………………!!!」

その態度を侮辱ととったのか召喚獣が今までの比ではない力を込めて突進してくる。

「やれやれ……少しもったいないけど、これを使うか。」

ユーノは高く跳びあがり自分の股の下に召喚獣を通すと、その勢いを利用して空中で一回転して召喚獣の背中を視界にとらえる。
そして、

「ほいっと。」

小さな金属製のボトルのふたを開けた状態で召喚獣に投げつける。
ボトルの中にはその見た目以上に液体が入っていて、それが召喚獣の体中にかかる。

「!!?!!?」

「あ、わからない?それお酒だよ。」

ユーノはにっこりと笑い、足元にあった金属片を魔法で強化した腕力で思いっきり召喚獣の足元めがけ投げつける。
破片が地面にぶつかり小さな火花が散ったかと思うとそれは瞬く間に巨大な炎となり召喚獣の体を包み込む。

「!!!!!!!!!!!!!!!」

「少し熱いけど我慢してね。君クラスの召喚獣ならこれくらいではどうこうなることはないと思うから。」

ユーノはそう言うと周囲にサーチをかけ始める。

(案の定、召喚した魔導士は近くにいないか………でも、あの子があんな目にあってることがわかったらすぐにでも自分の手元に戻すはずだ。)

普通の召喚獣を道具としか見ていない召喚魔導士ではあり得ないことだが、ユーノには確信めいたものがあった。
彼(?)の首に巻かれていた赤いスカーフ。
あれは間違いなく契約した後に召喚した魔導士が彼にあげた物だろう。
そして、彼もまたそのスカーフを大切に、守るように戦っていた。
そんな強い絆があるのならこの状況に追い込まれた彼を放っては置かないだろう。
しかし、ユーノは甘く見ていた。
彼とその主人との絆を。

「っっっっっ!!!!!!!!!!!!」

「え!?」

召喚獣は自身の闘気で炎を跳ねとばすとフラフラしながらもユーノを睨みつけ、拳を振るってくる。
だが、その拳に最初の力は感じられない。
それをユーノは左手で簡単に止めると召喚獣に語りかけ始める。

「もうやめるんだ!それ以上戦えば君でも無事では済まない!君の主人が悲しむだけだ!!」

「!!!!!!!!!!!!!!」

それでも召喚獣は止まらない。
ユーノに向けて拳を何度も振るう。
ユーノはそれをかわしながら沈痛な面持ちをする。

(仕方ない……!)

ポケットに手を突っ込みある物を取り出そうとする。
その時だった。

「あげゃ。もういいぞ、ガリュー。」

「!!?」

召喚獣の後ろから一人の男が現れる。

(こいつは………!!!!)

ユーノがその男を見た瞬間、彼の全細胞が最大級の警鐘を鳴らした。
黒を基調とし、金色のラインが入ったジャケットをきて、両手首には大きな拘束具の様な輪っかをつけている。
首には何かに吹き飛ばされたような傷跡が刻まれている。
そして、右手には彼の身長のゆうに半分はあろうかという巨大な厚みのある剣。
左手にはこれまた大きな発射口をした銃を持っている。
だが、彼の持つ武器よりもユーノは彼の表情に危険なものを感じた。
猛獣のような赤い瞳に、笑った口元からは牙のような八重歯が覗いている。
その顔には楽しむという感情はあれど、戦うことへの怯えを感じない。
こいつは、間違いなく戦うことを求めている男だ。

「君がその子の主人かい?」

「いや、ガリューの主人は俺じゃねぇ。それより、俺を見て何か思い出さないのか?」

「なに?」

ユーノは警戒しながら男の顔を見回す。
だが、

「知らないな。人違いじゃないかい?」

「あげゃ。テメェはユーノ・スクライアなんだろ?だったら俺の探している人間であってる。」

「けど、僕は君のことを知らないな。おおかたどこかで“あの話”を聞いたんだろうけど、あれは僕一人でどうこうしたわけじゃない。」

「………………」

男はユーノの言葉を聞いた後俯く。
しかし、すぐ男から押さえきれなくなった笑い声が爆発する。

「あげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃ!!!!!!!こいつは傑作だ!!どうやら本当に俺のことを忘れちまってるみたいだな!!?」

「………………」

ユーノがさげすむような眼で見ていることに気付くと男はフンと鼻で笑う。

「ガンダムに乗ってたころとは印象がずいぶん違っていたからな。記憶がないって聞く前におかしいとは思ってたが。」

「ガンダム!?」

ユーノの表情が変わる。

「お、これは覚えてたか。」

「貴様!!どこでその言葉を知った!!?ガンダムとは一体何なんだ!!?」

「あげゃ、知りたいよな……だ・が……」

男は剣の切っ先をユーノに向ける。

「知りたきゃ俺と死合いな!!」

「!!クッ!!」

男が急接近して振るった剣の刃がユーノの前髪をかすめて、何本かを空中へと舞いあげる。
ただ事じゃない風切り音とともに振るわれたその剣は相当の重量があるだろう。
当たればただでは済まない。

「あげゃ!ガリュー、お前は例のモンを持ってアイツらのところに行きな!」

「待て!!」

「おっとぉ!!」

「クッ!!」

男は持っていた銃をユーノの足元に撃ち込み動きを止める。
その隙にガリューと呼ばれた召喚獣は地下駐車場に止めてあったトラックの中から何かを持ち出して去っていった。

「デバイスくらい持ってるだろ?さっさと使ったほうが身のためだぜ!!」

男は銃を乱射しながら滑るような動きでユーノと距離を詰めて右のわき腹に蹴りを放つ。

「クッ!!(こいつ、僕と同じような動きを!?)」

ユーノは両腕で男の脚を防ぐが、その勢いに負けて数メートルほど後ろに押される。
靴の裏からはコンクリートでできた地面との摩擦によって生じた熱で白い煙が上り、コンクリートと革靴の焦げた独特のにおいがあたりに立ち込める。

「どうした!?こんなもんで終わりかぁ!!?」

すぐさま距離を詰めていた男の凶刃がユーノに迫る。

「……ソリッド、セットアップ。」

〈Start Up〉 

ユーノはポケットから六角形の宝石を取り出す。
自分の魔力光と同じ淡い萌黄色の宝石を模したデバイスに起動を命じる。
ユーノの体に光がまとわりつき、発掘作業に当たる時のマントなどの衣服に変わっていく。
そして、右腕にはユーノの身長の半分以上の大きさもある巨大な盾が出現する。
盾には鋭く研ぎ澄まされた刃があり、反対側には二つの大きな突起が付いている。
その盾で男の刃を止めて払いのける。

「ハン!どうやらソリッドのことも少しは覚えてたみたいだな!」

「ソリッドのことも知ってるとなると君はどうやら僕の過去を知っているみたいだね。なら……」

ユーノはグッと体を縮め、一気に伸ばすと同時に男へと飛び出す。

「いろいろ教えてもらうよ!!」

ユーノは真正面から男へと向かっていくように見えたが、男の視界から急にユーノが消える。

「はぁ!!」

「あげゃ!!」

フィギュアスケーターのような滑る動きで素早く男の背後に回ったユーノは盾を横に振るう。
しかし、男もそれを読んでいたのか前を向いたまま右手の剣を背に回してユーノの一撃を防ぐ。

「同じ動きをする人間同士だぜ……読まれないとでも思ったか?」

「そう思ってたさ……だから、こうするんだ!」

ユーノは手元の魔法陣からチェーンバインドを発動させて男をがんじがらめにすると一気に距離をとる。

「ハッ!これがどうした!!」

「こうするのさ。」

ユーノはパチンと指を鳴らして術式を発動する。

「ブレイク!!」

〈Break The Chain〉

男に絡みついていた鎖が急激に発光して爆発する。
しかし、ユーノの攻撃はそれで終わらない。
戦闘の衝撃で崩れたコンクリートの破片を足で上に蹴りあげると盾でそれらを男の方へと弾き飛ばす。
しかし、

「あげゃげゃげゃげゃ!!!!!」

爆発の煙の中から飛び出した男はつぶてをものともせずにユーノへと突進する。
ユーノもそれがわかっていたように盾の刃を使って男の一撃を受け止める。
二人がぶつかった瞬間、ユーノの吹き飛ばされまいと踏ん張る力と男の押しきろうとする力が反発し合い周囲に凄まじい剣風を発生させる。

「一応名前を聞いておこうか!!」

「あげゃ!!思い出してないんなら教えるわけにはいかねぇんだがな!!一応こっちの名前のほうを教えておいてやる!!」

二人は鍔迫り合いをしながら会話をする。
ぶつかり合った刃からは火花が散り、二人の顔にもかかるがどちらもそんなことなど気にしない。

「俺の名はロバーク……ロバーク・スタッドJrだ!!」

「ロバーク!!君の目的はなんだ!!」

「あげゃ!言ったろ!!俺の目的はお前だ!!連中を手伝ってるのは俺に協力するための交換条件にすぎねぇ!!」

ロバークは鍔迫り合いのさなかユーノを蹴り飛ばそうとするが、ユーノはその気配を感じ取って距離をとる。
しかし、ロバークは左手の銃をユーノに向けて何発も放つ。

「おらおら!!」

「甘い!!」

ユーノは地面を滑るようにロバークの射撃をかわしながら距離を縮めていき、回し蹴りを顔面に向けて放つ。
しかし、ロバークも滑るような動きでその一撃をかわすと隙ができたユーノの脇へと銃口を向ける。

「あげゃ♪いただき!!」

「フィールド!!」

ロバークの一撃がユーノを襲うが、ユーノの周りに張られた光の膜がその威力を弱めバリアジャケットで防ぎきれる程度にまで軽減する。

「ッ!今のはなかなかまずかったね。」

「よく言うぜ。フィールドを張って防ぐなんざあの時の戦い方そのまんまだぜ。」

「…………ロバーク、一つだけ聞いていいかい?」

「あ?」

「君が知ってる僕は、どんな人間だった?」

ロバークはユーノに銃口を向けたまま少し考え込むようなそぶりを見せるが、すぐさま八重歯を覗かせて笑う。

「一言で言うならおもしれぇ奴だ。お前も、その仲間もな。」

「仲間……?」

「なんだ?ガンダムは覚えてて仲間のことは忘れてんのか?意外と薄情だな。」

「悪かったね。」

ユーノは少しムッとした顔でロバークを睨む。
しかし、いい気分はしないのになぜか懐かしい気持ちになってくる。

(………前もこんなやりとりをしていたような……)

ヴィータとの口喧嘩でも似たようなことはあったが、それよりももっと懐かしいような、切ないような感じだ。

「お喋りはもういいだろ。いい加減再開といこう……ぜっ!!」

ロバークは切っ先をユーノの顔めがけて突き出すが、ユーノは右手の盾を使ってそれを受け流す。
刃がかすった頬からはうっすらと血が流れる。
ユーノは一旦距離をとってそれを指ではじくと、今度はロバークがいる空間、いない空間を関係なしにリングバインドを発動手前の状態で待機させる。

〈Bind Prison〉

「クソつまらない牢屋に入れられるのはもうごめんなんだがな。」

「だったら脱走してみたらどうだい?」

「ハッ!!上等!!」

ロバークは近くを通るたびに発動するリングバインドを巧みにかわしながら『拘束の牢獄』を潜り抜けていく。
だが、それは誘導だった。
バインドの集団を抜けた先に待っていたのはユーノの左拳だった。

「てぁ!!」

「あげゃ!!」

ロバークはユーノの拳の軌道に刃を置くが、ユーノは刃ごとロバークを殴りとばした。

「グッ!!」

ようやくうめき声を上げるロバークだが、ユーノのほうも無事ではない。
左拳には深い傷が刻まれ滝のように赤い液体が垂れていく。

「驚いたね……防ぐんじゃなくて避けてくると思ったんだけど。」

「そういうお前は相変わらず捨て身の攻撃が好きだな。」

「こうでもしないと昔馴染みと戦場を駆け抜けられなかったからね。」

「フン!だったらもったいぶって使ってないそいつを使ったらどうだ?」

ロバークはユーノの盾の反対側についている二つの突起を顎で指す。

(驚いたな……まさかこれについても知ってるなんて。)

だが、これはユーノにとってある意味切り札と言っていい存在だ。
一旦使えば再び魔力がたまるまでは最低でも2~3分は使用することができない。
だが、今のまま長引かせるわけにもいかない。
ユーノは盾の持ち手についていた引き金を引いてカートリッジを一発排出する。
すると盾がくるりと一回転してがちりと言う鈍い音ともに固定される。

「お望みなら使ってあげるよ。」

「あげゃ!………来な!!」

二人が互いに突進を開始する。
その時だった。

『時間です。ルーテシアとゼストが引き上げを開始しました。』

ロバークの耳の裏に付けられていた骨伝導マイクから少女の声が伝わってくる。

「あげゃ、もうか。」

ロバークは突進を止めてふわりと空に浮きあがる。
ユーノもそれを見て急停止する。

「悪いが今日はここまでだ。俺は俺の用事を済ませて帰らせてもらうぜ。」

「用事?」

まだ何かあるのかとユーノは首をかしげる。
その時だった。

「!!?」

後ろから何かによって動きを止められる。

「874、そいつの使い心地はどうだ?」

「問題ありません。」

よく見るとそれは最近さまざまな場所で事件を引き起こしているという機械兵器。

「ガジェット………!!」

ユーノは自分の不注意に唇をかみしめる。
しかし、ここまで近づかれるまで気付かなかったというのも妙な話だ。

「ディープダイバーだったか?使い道なんざないと思ったが、あのガキの能力もなかなか使えるじゃねぇか。」

ロバークは感心したように笑いながらガジェットとユーノをまじまじと見る。

「僕をどうする気だ!?」

「なに、ちょいとした確認と治療みたいなもんだ。」

ロバークが説明している間にもガジェットはユーノの頭にコードを這わせて何かを調べている。

「封印処理を確認。やはり、何者かの手によって記憶をフリーズされているようです。」

「あげゃ、じゃあ、よろしく頼むぜ。」

「了解。」

ユーノの頭に巻きついていたコードから微弱な電気が流れる。

「!!!?グッアアァァ!!!!」

刹那、ユーノの頭に激痛がはしる。
今までに味わったことのない感覚。
まるで、脳を無理やりこじ開けられているような異常な感覚にユーノは呻く。
だが、

「グ……アアアアァァァァァァァァァァ!!!!!!!」

肉体強化の魔法をかけた腕の力で強引にコードを引きちぎり脱出してガジェットを斬りつける。
横に真っ二つになったガジェットは爆炎を上げるが、ユーノはその前にそこから脱出していた。

(874、大丈夫か?)

『問題ありません。Ⅰ型を破壊される前に本体に戻りましたから。』

(上等上等!)

「……ッ。僕に何をした。」

ユーノは痛みが残る頭を横に二度三度振ってロバークを睨む。

「あげゃ、そのうちわかるさ。じゃあ、俺はお暇するかね。」

「………逃げられるとでも思っているのか。」

「!!シグナム!」

ロバークの後ろにはピンクのポニーテールをしたシグナムが炎を纏わせた愛剣とともに立っていた。

「まったく、警備員から通報を受けてやってきてみればお前がかかわっているとはな。」

シグナムがジト目でユーノを睨む。

「そっちの職務怠慢でしょ。協力した労いの言葉くらい欲しいんですけどね。」

「最初はそうも思ったがこの惨状を見て気が変わった。」

「そうですか。」

ユーノはこともなげに流したものの実際問題、駐車場はもう原型をとどめていない。

「お取り込みの邪魔をしちゃ悪いんで今度こそ俺もお暇させてもらうぜ。」

「いや、貴様にも付き合ってもらうぞ。牢屋に何日も拘留してじっくりとな!」

ユーノとシグナムは示し合わせていたようにロバークの退路を断つように同時に襲いかかる。
だが、

「残念♪」

「「!!?」」

ロバークはまるで水に潜るように地面の下に入りこんでしまう。

「ユーノ!」

「わかってます!」

ユーノはすぐにサーチを開始する。
しかし、

「……逃げられました。」

ユーノはそういうとバリアジャケットを解除して元の姿に戻る。

「奴は何者だ?」

「さあ?ただ、魔力量はそれほどでもないんですが戦い方に関してはピカ一ですよ。」

「まったく、厄介なことになったものだ。」

シグナムも騎士甲冑から管理局の制服に戻る。

「ところでシグナムさん。」

「?なんだ?」

シグナムが不思議そうにユーノのほうを見る。

「僕の一張羅がボロボロになったんですけど、これって局のお金でどうにかなりませんかね?」

腰に巻いていたスーツを広げるとありとあらゆるところが斬られ、ところどころに焼け焦げた跡がある。
それを自分に見せつけるユーノを見ながらシグナムは頭を押さえながら呆れたような唸り声をあげた。








クラナガン郊外

「ふぅ~!ひやっとしたぁ~!!」

競泳水着のようにピッチリとしたスーツを着た水色の髪の少女は地中からロバークと一緒に出てきたところで大きくため息をつく。

「マジでやばかったじゃん!!もうちょっとであんたつかまってたよ!?」

「あげゃ。その前に連中を叩きのめせば問題ねぇ。」

「相手は手練れが二人だよ!?」

「問題ねぇさ。ユーノの奴が完全に元に戻るまではな。」

水色の髪の少女、セインはフーンとうなずくが、あることに気付く。

「それってこれからあの人がもっと強くなるってこと?」

「まあ、そういうことだな。」

「それってまずいじゃん!!」

「お前らが強くなりゃあ問題ねぇ。いくぞ。」

「あ!ちょっと待てって!!」

少女は慌ててロバークの後ろをついていく。
そして、彼の名を呼んだ。

「待てって、フォン!」








無限書庫 司書長室前

八神はやては緊張していた。
普段からかなり無茶な注文にも応じ、つい先日の任務では自分たちの注意が回らなかったところを助けてもらったのだ。
しかし、にもかかわらず彼のスーツを新調する代金は彼持ち。
おまけに被害を出し過ぎたという理由で上層部から無理やり始末書まで書かせてしまったのだ。

「ユーノさん、怒ってるでしょうねぇ~。」

間延びした声を出す自分の家の末っ子が今は心底恨めしい。
この中に入っただけで問答無用で簀巻きにされて次元の海に放り出されるのではないかという不安が彼女の脳内のすべてを支配しているのにリインフォースはそんなことなど知らずにポエポエと話しかけてくる。

「リイン、今日晩御飯抜きな。」

「えええぇぇぇぇぇぇぇ!!!?何でですか!?ヒドイです!!」

リインフォースにささやかな復讐をプレゼントすると、はやては意を決して部屋の中に入った。

「失礼しま~す………」

小さな声とともに入ったはやては唖然とする。
そこはいつものようなきっちりと片付いている理路整然とした部屋ではなく、この部屋のどこにこんな大量の物品が存在していたのだと言いたくなるほどの訳のわからないもので溢れかえっていた。

青銅でできたトカゲか蜘蛛かわからないような生物を模した置物。
茶色く変色した書物。
下手をしたらこれで人を殺せるのではなかろうかというくらい鋭い石が先についた木製の槍。
血の涙を流して叫んでいるような男と女が描かれている絵画。
小さな子供が一人でやってきたら間違いなく泣いてこの部屋を飛び出すようなおどろおどろしい品物ばかりだ。

「ユ、ユーノさ~ん……いませんかぁ~?」

リインフォースは泣きそうな声でユーノの名前を呼ぶ。
すると、

「ん?なに?」

はやてとリンフォースの前にユーノの声とともにそれは現れた。
大きな目玉が飛び出し、口の上下から鋭く飛び出た十㎝以上はあろうかという牙。
そして、頬には赤、緑、黄色のラインが入り、頭の部分には怒髪天を衝くと言うたとえがぴったりとくる逆立った青色の髪のような毛があった。

「きゃあああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

「ぎゃあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

次の瞬間、ユーノがしていた古代文明の面にリインフォースの渾身のドロップキックとはやての全力全開の右ストレートが叩きこまれた。
そこには、かつての病弱で可憐な少女の面影はどこにもなかった。







数分後

「で、君たちは一体何をしに来たわけ?」

ユーノは傷を負った鼻に絆創膏を張って面の修理をしながら客席に座らせコーヒーを出したはやてとリインフォースに尋ねる。

「まさか僕の見つけた発掘品を破壊しに来たとか?だとしたら傑作だね。職務怠慢に加えて器物破損とは給料泥棒どころか給料強盗だよ。いやぁ、プロ顔負けの犯行だ。」

(お……怒っとる……!)

(怒ってますぅ……!)

にこやかに笑うユーノだが、今のこの二人にとってはその笑顔が何よりも怖い。

「で…でも、あんなお面してたユーノ君かて悪いやんか…」

はやてが小声で反論する。
が、

「聞いたかい、古代クリウス文明のお面くん?君が日本円で大体500万するって言うのにはやては弁償してくれるんだって。さすが僕らの中で一番出世してるだけはあるよ。さすが高給取りだね♪」

「スンマセンお面さん!!学がない私をお許しください!!だから弁償は勘弁してください!!」

地上部隊のエース、八神二佐は信じられない速度で椅子から降りると床に頭をこすりつけて許しをこう。
あくまでお面に。
そう、ユーノではなくお面に。
……だから、ユーノに土下座してるけどお面に対してしなくちゃいけない空気なんだってば!

「さて、冗談はこれくらいにして、本題に入ろうか。」

ユーノはお面の欠片を張り合わせるのを中断してはやてのほうを向く。

「今度は何を調べて欲しいんだい?例のものの解読は進めてるけど、まだ時間が……」

「ああ、それやないねん。」

はやてはまじめな顔に戻って立ち上がる。
だが、その顔は相変わらず不安でしょうがないのが見てとれる。

「あのな、ユーノ君がよかったらなんやけど……」

「?」

「いや、嫌やったら別に断ってくれてええねんけど!うん、無理せんといつもみたいにバッサリ言ってもらってええねん!!」

「だから何?」

「えっとですね……」

リインフォースがなかなか切り出せないはやてに代わり用件を言う。

「ユーノさんに機動六課に来てほしいんです。」

「………は?」

はやてはリインフォースが言ってしまったので腹をくくる。

「知っての通り私らは高ランクの戦力が集中しとるせいで隊長陣はリミッターをかけられとる。そこで、や。私としては登録されとるランクが低くて、そんでもって自由に動けて戦闘なれしとる手練れが欲しいんや。」

確かに機動六課は旧アースラのクルーが集まっているため隊長たちははやても含めて全員にリミッターがかけられている。
だが、はやての目的は別にあった。
ユーノに渡していない、例の物の後半部分。

(あれの内容がもしカリムたちの言う通りやったとしたら、この事件のキーを握っとるんはユーノ君とあの変態マッドサイエンティストや。)

正直友人を騙しているのでいい気分ではないが、こうしなければ彼はまた自分たちのもとから……
そう思っただけで言いようのない不安に押しつぶされそうになる。

はやてはユーノが怪しまないようにさらに理由を付け加えていく。

「それにユーノ君いろいろ資格をもっとるやんか?教導免許にデバイスの組み立てに整備、おまけにデスクワーク優秀ときたらすっぽ抜こうとしん奴らはアホやで?」

ユーノはかなりの資格を有しており、実際ユーノを自分の部署に入れようとした者は多くいたのだが、ある理由により全員がそれを断念し、それ以後ユーノを無限書庫から引き抜こうとする者はいなくなってしまったのだ。
はやてもその理由の被害を被った一人なのだが、それでも今回だけは譲れない。
譲れないのだが……

「あ、ごめんなさい。偉そうなこと言ってごめんなさい。生まれてきてごめんなさい。無茶苦茶言ってごめんなさい。息を吸っててごめんなさい。」

「はやてちゃん……」

自分の主が情けなく頭を下げる姿を見てリインフォースはシクシクと泣き始める。

「……いいよ。」

「スイマセンスイマセンスイマセンスイマセン!!もうしませんから許して………へ?」

「だから、いいよ。」

「「ええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!?!!!!!?」」

一回目でおとせると思っていなかったはやてとリインフォースは驚いて本局全体が揺れるほどの大声を出してしまう。

「あの、また前みたいなことは……」

「ああ、もうしないよ。友達じゃないか。」

(その友達にも容赦なかったやんか。)

そう言いたいはやてだったが、ここでご機嫌を損ねるとまずいので黙っておく。

「ほんなら手続きはこっちで済ましとくから、ユーノ君はできるだけ早く合流してな。」

「了解。無限書庫司書長、ユーノ・スクライア。機動六課への転属命令を受領しました。」

ユーノは仕事上の形式に合わせてはやてに敬礼する。
はやても敬礼をするが、どうにもこそばゆかったのか二人ともすぐに笑い始めた。








はやてが帰ってからユーノは機動六課の宿舎に送る荷物の入った段ボールに囲まれた椅子の背もたれに体重を預けながら一人物思いにふけっていた。

(間違いなくはやては何かを隠している……けど、それがなんなのかがわからない。)

自分が機動六課に呼ばれる理由がわからない。
確かにそこいらにいる局員たちよりは強い自信はある。
AMFの中での戦闘ならなおさらだ。
だが、それだけではやてがわざわざ自分を呼ぶとは思えない。

(まあ、いいさ。こっちも隠しごとをしているんだから。)

ユーノが機動六課に加わる決意をした理由。
それはロバーク・スタッドJrと名乗ったあの男だ。

(奴は間違いなく僕の空白期間について何かを知っている。)

もし、はやてから誘われてなければ独断で彼を追うつもりでいた。
だが、渡りに船。
はやてが誘いに来てくれた。
悪いが利用しない手はない。

(何が何でも捕まえて話を聞く。ガンダム、ソリッド、そしてソレスタルビーイング……?)

ユーノは持たれていた椅子から起き上がる。

「ソレスタルビーイング……ってなんだ……?」









革新の歯車は、軋みながらも再び回り始めた









あとがき・・・・・・・・・・・という名のみんなー!はーじまーるよー!その2

ロ「と言うわけでホテル・アグスタ編でした。」

ユ「いきなりここからか。」

ロ「だって他にいいスタートが思いつかなかったし。」

スカ「いきなりセインも登場したしね。」

ユ「それより今回と前回のあとがきのサブタイトルなんなの?」

ロ「某芸人のネタだ。」

スカ「いや、知ってるけど…」

ロ「もう芸能人やめたあいつらを懐かしんでここで出してみた。」

ユ「やめてないからね!!?あの人たち全然現役だからね!?少しテレビに出なくなったけどいつかまたブレイクと言う名の大空にはばたいてくれるって信じてるから!!」

ロ「俺どっちかって言うと笑い飯のほうが好きだから。」

スカ「聞いてないわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!誰がそんなこと聞いた!?と言うかもうこれあとがきじゃなくて単なる芸人談議になってない!?」

ロ「じゃ、本格的にどの芸人が面白いか話しあえるように次回予告をちゃっちゃと終わらせるか。」

ユ「目的が違う!!」

ロ「機動六課に合流したユーノ。」

スカ「そこで意外な人物との面識が発覚!」

ユ「さらに予想外の事態が発生!え!?どうなるの僕!?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいたただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお願いします!じゃ、せーの…」

「「「次回をお楽しみに!!」」



[18122] 2.模擬戦
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/08/28 16:53
海上 訓練施設

ユーノは海上にある模擬戦や訓練を行う施設に立っている。
昔なのはが近所の丘の上で魔法の練習をしていたことを考えると大した進歩だと拍手を送りたくなるが今のユーノにはそんな余裕はない。
なぜなら

『じゃあ、いきますよぉ~!』

リインフォースが他人事のようにポチポチとコンソールを叩くのを遠い目で見た後、目の前にいる四人に目をやる。

一人は銃を持ったオレンジのツインテールの少女。
明らかにこちらにこれ以上ないくらいの敵意を込めた視線を向けている。
もう、『睨み殺してやろうか?』と無言で言っているように思えて仕方ない。

二人目はリボルバーナックルをした青いショートカットの少女。
オレンジのツインテールの子に引っ張られるように張り切っているのだが、どうにも元気が空回りしているように見える。

三人目は桃色の髪をした小さな少女。
傍らには小さな飛竜が飛びまわり、こちらを警戒している。
しかし、少女の方は少しおどおどしたように自分のほうを向いては視線が会うたびに慌ててそっぽを向いてしまう。

四人目は赤い髪をした少年。
青を基調とする槍を構えてこちらを見ているが、時折申し訳なさそうに苦笑している。

「………………なんでこうなった?」

ユーノの心からのつぶやきは晴天の空に飲み込まれて消えていった。









魔導戦士ガンダム00 the guardian 2.模擬戦

話は2日前までさかのぼる

機動六課隊舎 廊下

「ねぇねぇ、ティア。今度来る人ってどんな人かなぁ?」

右手に独特の形をしたガントレットをした青い髪の少女、スバル・ナカジマは訓練校時代からの相棒であるティアナ・ランスターと並んでシャワーで訓練の汗を流すべく浴場に向かっていた。

「さあ?なのはさんたちの昔からの知り合いらしいけど無限書庫の司書長をしてるだけなんだから、大方事務処理をするためくらいに呼ばれたんじゃないの?」

ティアナはいつもの不機嫌な顔のままスタスタと歩いていく。
スバルはそんなティアナの様子を気にかけて声をかける。

「あの……ティア?この前のことならあれくらい誰だって最初は……」

「ッッ!!うるさいわね!!もういいって言ってるでしょ!!」

不機嫌な顔をさらに不機嫌にしてティアナはスバルを怒鳴りつける。
つい先日のホテルアグスタでの任務中のティアナが無茶をしたせいで起きたとあるミス。
その失敗と原因がティアナを焦らせる。

(どんな人が来ても関係ない!私の……ランスターの弾丸はちゃんと敵を墜とせるってことを証明するだけよ……!!)

ティアナはすぐ後ろでしゅんとするスバルのことにも気付かずにどんどん歩いていく。
これがのちにあるトラブル、いや、事件を引き起こすことも知らずに。







フェイトとなのはの部屋

「ユーノさんが来るんですか!?」

エリオ・モンディアルは久々に訪ねた保護者の言葉に顔をパァッと輝かせる。

「うん。はやてが自由に動ける人が欲しいから呼ぶことにしたんだって。」

「あの……?」

エリオの後ろから幼い竜召喚士のキャロ・ル・ルシエはおずおずと顔を出す。

「ユーノさん……って誰なんですか?」

「ああ、そっか。キャロは知らなかったよね。」

フェイトはキャロの手をとって彼女の目を見つめる。

「ユーノはね、私たちの昔からの友達で、すっごく優しい良い人だよ。」

キャロはフェイトの言葉を聞いて顔を赤くしながらもじもじとし始める。
心なしかすぐそばにいる飛竜のフリードリヒもそわそわしている。

「?どうしたの?」

「あの……そのっ……!フェイトさんはその人のことす、すすす!!好きなんですか!!?」

次の瞬間フェイトとエリオは盛大にずっこける。

「な……なんでそう思ったのキャロ?」

「だから言ったじゃないですか。あんな言い方したら誰だって間違えるって。」

起き上がりながらキャロに理由を尋ねるフェイトにエリオが呟く。

「だ…だってフェイトさんがそんなこと言うってことはきっとフェイトさんが好きな人…」

キャロがあたふたするのを見てフェイトとエリオはクスクスと笑う。

「う~ん、ユーノがその気だったら私ももしかしたらOKをだしたかもしれないけど、ユーノにはもう婚約者がいるから。」

「え!?二股!?」

「いやいや、そうじゃなくて……」

混乱するキャロを落ち着けるためにエリオはゆっくりと深呼吸をさせる。

「落ち着いた?」

「はい……」

早とちりをしたせいでとんでもない勘違いをしたキャロは顔をトマトのように赤くして俯く。

「あのね、なのはが薬指に緑色の宝石の指輪をつけてることは知ってるよね?」

「?はい。」

いきなり何を言い出すのかといった表情でキャロはフェイトの顔をまじまじと見る。

「ユーノの魔力光は緑で、ユーノも薬指に桃色の宝石の指輪をしてるんだ。」

「!」

「もうわかったでしょ?ユーノが好きな人が誰か。」

キャロは頬を赤く染めながらこくんとうなずいた。









部隊長室

「しっかし、よくユーノの奴OKしたなぁ。」

ヴィータははやての知り合いが差し入れに持ってきたアイスを食べ終えた後、スプーンを口にくわえて上下させる。

「フフフ………すべては私の人望のなせる技や!」

「毎度毎度クロノと一緒に無茶させてるくせにどの口でそんなことが言えるんだよ。」

「……スンマセン。」

本気でへこみ始めるはやてを見ながらヴィータはフゥとため息をつく。

「ま、まあまあ。無事にユーノ君を呼べることになったわけだし、そんなに落ちこまなくても……」

「スンマセンスンマセンスンマセン………これからは無茶振りをしませんからどうか許してください……」

「あの、はやてちゃん?」

「ハッ!あかん、ループに入るとこやった!」

なのはが声をかけてようやく正気に戻ったはやては自分の手元にあるユーノに関する資料を読み始める。

「しかし、改めて見てみるとよくもまあこれだけの資格を取得できたもんやな。感心するわ。」

「はやてたちがあれやれこれやってみたらどうだなんてさんざん言ってきた成果だろ。」

「「うっ…」」

ヴィータの発言に返す言葉もないのかなのはとはやては言葉に詰まる。

「ヴィ、ヴィータちゃんだっていろいろ……」

「あたしは仕事を手伝ってくれって言ったくらいでお前らみたいに無茶はさせてねぇよ。」

「「…………………」」

二人は黙ってヴィータのほうを向く。
そして、

「「どうもすみませんでした。」」

深々と頭を下げる。
その姿を見たヴィータは一層大きなため息をつくのだった。







医務室

「しかし、ユーノがあっさり主はやての申し出を受けたのには裏があるな。」

「裏って?」

シャマルは机に座って紅茶をすするシグナムに問いかける。
だが、

「……シャマル、私が茶を淹れなおそう。」

シグナムの申し出にシャマルはショックを受けるが、すぐに立ち直るとさらに問いかける。

「ユーノ君がここに来るのは戦力増強のためじゃないの?」

「いや、おそらく主はやてにも何か別の目的があって呼んだのだろう。そして、ユーノもそれを承知の上で奴を追うためにここに来るのだろう。」

「奴?」

「………ロバークと言う男のことか。」

それまで床で日向ぼっこをしていたザフィーラが顔を上げる。

「ああ。奴はユーノの過去のことで何かを知っているようだったからな。ユーノ自身も気になるのだろう。」

シグナムは茶葉を蒸らしているティーポッドをテーブルの上に置いて椅子に座る。

「………でも、過去を知ることってそんなに大切なことなのかしら?辛い過去なら、思い出さないほうが……」

「それが間違っていると我らに言ったのはシャマル、お前だぞ。」

「でも!」

ザフィーラの意見にシャマルは釈然としないような顔する中、シグナムがティーポッドの中の紅茶をカップに注ぐ。
辺りに紅茶特有の爽やかな香りが広がり、言い争っていた二人の心も落ち着いていく。

「先のことを心配しても仕方あるまい。我らはただ目の前のことに全力で当たる。それだけだ。」

シグナムはそう言うと自分で淹れた紅茶をすすり、満足そうにうなずいた。








無限書庫 司書長室

ユーノが旅行鞄に荷物を詰め終えると、リュックサックに衣類を詰めていたアルフがユーノのほうを向く。
あらかた必要なものは向こうに送ったのだが、それでも衣類などは送り切れずに明日宿舎に持っていくためにこうして荷づくりをしているのだ。

「でも、よく引き受けたねぇ。」

「なにが?」

「なにが?じゃないよ。」

アルフが小さな体を伸ばして机の上にリュックサックを置く。

「あんたがいなくなったら私たちが大変なんだからな。そこんとこわかってるのかい?」

「だから機動六課や地上部隊からの依頼は極力僕の方でこなすから。」

「……正直クロノだけでも大変なんですけど。」

アルフが遠い目で笑う。

「クロノにも釘をさしとくから大丈夫だよ。………たぶん。」

「これ以上ないくらい当てにならない“たぶん”だね。」

アルフがジト目を向ける中、ユーノは目をそらして荷づくりに忙しそうにふるまう。

「ま、それはもういいとしてさ。あんま無茶するんじゃないよ?またあんたになんかあったらなのはが泣いちゃうんだから。」

「わかってるよ。」

ユーノは作業を中断して部屋の棚に飾ってある写真を見る。
幼い日になのはたちと撮った写真。
全員で行った模擬戦の後のため、誰の顔も煤だらけで汚れている。
だが、その笑顔は本当に楽しそうだ。

「僕もまだまだやりたいことがあるからね。そうそう無茶はしないよ。」

「とか言ってこないだも両手を傷だらけにして帰ってきたじゃないか。」

「あれははやての職務怠慢が原因だよ。」

苦笑いをしながらユーノは写真をカバンの中にしまう。

「それじゃ、僕は明日早いからもう寝るね。」

「うん、お休み。」

アルフが出ていくとユーノは伊達眼鏡をはずして電気を消すとソファー兼ベッドの上に横になり布団かぶる。
だが、

「……今夜も眠れそうにないな。」







?????

ユーノはいつもの光景の中にいた。
見なれた海鳴の街。
しかし、空は固有結界特有の不可思議な模様で覆われ、逃げ場はない。
そんな場所でユーノは自分のデバイスであるソリッドを起動して盾を構える。
そして、

「ハァァァァァァァァァ!!!!」

上空からの襲撃者の攻撃を防ぐ。

「……今日はフェイトか。」

金色の刃を持つ鎌をこちらに向けてきているには幼馴染のフェイトだ。

「キエサレ!!」

「自分の夢にここまで嫌われるとはね。」

ユーノは若干呆れながらフェイトの攻撃をシールドや盾を使って受け流していく。
いつもと同じ展開。
隙を見てユーノはフェイトの手からバルディッシュを弾き飛ばし、盾の刃の部分を振り下ろす。
だが、

(……やっぱりできない。)

この先どうなるかわかっていても自分にはできない。
ユーノは刃をフェイトに届く途中でとめてしまう。
それを見たフェイトはにやりと笑い、手元に発生させた魔力弾でユーノの胸を撃ち抜いた。






司書長室

ユーノはソファーの上で起き上がるとパジャマ代わりに着ていたシャツが汗でびっしょりなのにもかかわらず手元にあったライトをつけて棚へと向かう。
そして、そこから透明な瓶に入った無色透明の液体をグラスに注ぐと一気に飲み干す。
喉がカーッと熱くなるが、それに合わせて汗が引いていくのを感じる。

「……やれやれ。こうしてアルコール中毒者が出来上がるんだろうな。」

ユーノはそう言って自分の机の前に座ると検索を始める。

「ガンダム……ソリッド……ソレスタルビーイング……ユニオン……AEU……人類革新連盟……」

ロバークと戦った後思い出した単語。
ソレスタルビーイング、ユニオン、AEU、人類革新連盟。
これらをいくら検索しても近い名前の言葉は見つかるもののこれと言ったものがない。

「……早く寝るつもりが結局これか。でも、シャマルさんから極力飲まずに寝ろって言われてるからなぁ……」

約束は破っていない。
自分は飲まずに寝て偶然起きてしまって安眠を得るためにはアルコールを摂取するしかないからこうして飲んでいるのだ。

「我ながら大した言い訳だな。」

この間も召喚獣を撃退した時のことを問い詰められ、ウォッカを持ち歩いていたことを知られて大目玉をくらったばかりなのだ。

「……今度こそ寝ないと。」

ユーノは明かりを消すと再び布団の中にもぐりこんだ。









機動六課隊舎 大広間

機動六課が正式に活動を開始する前にはやてが演説をした場所に機動六課の面々は集められていた。
誰もがこれから行われることを知っているわけだが、ざわめきが収まらない。

「…………………」

「あ、あの、ティア?」

「何?」

隣で貧乏ゆすりを繰り返すティアナにスバルは声をかけるが、ティアナに睨まれて何も言えなくなってしまう。

「……遅い!」

壇上の横にいるシグナムも額に青筋を浮かべている。

「なにかあったのかなぁ?」

なのはが心配そうにつぶやく。
はやてはユーノに着いたら紹介をすると言っておいたのだが、ユーノは到着時刻を一時間近く過ぎても現れない。

「しゃーない。今回は延期して今度の機会に……」

その時だった。
凄まじい爆裂音とともに窓ガラスを突き破って何かが飛び込んできた。

「な!?」

「うそぉ!?」

その場にいた全員が目を丸くする中、エリオだけは飛び込んできたものに見覚えがあった。
白に染め上げられた車体に赤いラインが一本だけ風に流れるように入ったバイク。
今日ここに来るはずの人物の愛車だ。

「ユーノさん!!?」

「「「え!?」」」

エリオ以外の新人三人が驚きの声を上げる中、ユーノはヘルメットもとらずにはやてに文句を言い始める。

「はやて!!君は恨みをかいすぎ!!僕にまで飛び火したじゃないか!!」

「へ?」

はやてが間の抜けた声をあげた瞬間、続いて窓から弾丸が飛び込んでくる。

「チッ!!」

ユーノは舌打ちすると再びバイクで外に飛び出していった。
残された機動六課は呆然とその後ろ姿を見送る。

「……なあ、あれを助けに行くべきだと思うのはあたしだけか?」

「気が合うねヴィータ……私も今そう思ってたところだよ……」

ヴィータとフェイトはバリアジャケットを展開するとユーノの後を追いかけていった。







三十分後
逮捕された男たちは昔はやてに潰された麻薬カルテルの生き残りらしく、偶然機動六課に向かうユーノを見かけて人質に取ろうとしたところしぶとく逃げ回られ、最終的に機動六課の隊舎までついてきたらしい。
ちなみにこの後、彼らにはシグナムとなのはからきついお仕置きをされたのち、監獄送りとなった。







ユーノの部屋

「どっと疲れた……」

ユーノはベッドの上に寝転がると大の字になって大きく嘆息する。
はやてのかった恨みが自分に飛び火したうえに、その後の自己紹介の時にも機動六課の職員たちは知り合い以外の全員が引いていた。

「ま、まあ、無事で何よりでした。」

エリオはユーノの荷物を整理しながら苦笑する。

「ありがと、もうその辺でいいよエリオ。」

「フォローですか?片付けですか?」

「どっちもだよ。」

ユーノは本日十一回目のため息とともに起き上がる。

「けど君がここにいるなんて知らなかったよ。フェイトは何も言ってなかったし、なのはも期待できる新人ばかりだってくらいしか言ってなかったからね。」

「僕もまさかユーノさんにここで会えるなんて思ってもみませんでした。」

「前にあった時からだいたい一年ぶりかな?少し背丈が伸びたね。」

「ありがとうございます。それと、また稽古をつけてもらえますか?」

「う~ん……」

ユーノは困ったように笑う。

「あんまり君に変な癖をつけるとなのはやフェイトから怒られそうだからなぁ……。それに、君くらいの年であんまり無茶をすると体の成長にも害が出るからね。」

「そうですか……」

しょんぼりするエリオにユーノは慌てて付け加える。

「でも、基礎的なことを教えるくらいなら構わないよ。」

ユーノの言葉を聞いてエリオの顔が明るくなる。

「ありがとうございます!あ、そうだ!よかったら他のみんなにもいろいろ教えてあげたらどうですか?」

「いや、それは……」

「そのつもりやで。」

扉を開けてはやてが入ってくる。

「八神部隊長?」

「喜びぃ、エリオ。今日からユーノ先生がみんなの教導に参加してくれるで!」

「本当ですか!?」

エリオは喜ぶがユーノは口をあけてパクパクさせていたかと思うと素早くはやてに詰め寄り小声で問いただす。

(どういうこと!!?僕はあくまで捜査と事務処理で呼ばれたんじゃ……)

(私どもの大きな目的の一つは優秀な人材の育成にありますwww)

(謀ったなはやてぇぇぇぇぇぇぇ!!!!)

はやての襟首を掴んでガクガクと前後にゆするがはやてはヘラヘラと笑うだけだ。

「あの……」

「ああ、ごめんなエリオ。ユーノ君が今すぐみんなのところに行きたいって言ってるから案内をしてくれへんかな?」

「はやて!!!!」

「わかりました!!」

エリオはユーノが拒否していることに気付かずに子供とは思えない力でユーノを訓練施設へと連れて行ってしまった。








海上 訓練施設

ユーノは来るときに着ていた隊士服から新人たちに合わせて自身も白いTシャツにジーパンの姿になる。

「えっと、今日から高町一等空尉とヴィータ三等空尉の補佐を(はやてに騙されて)することになったユーノ・スクライアです。どうぞよろしく。」

エリオを除く新人三人はいきなり着替えて何を言っているのかといった顔でユーノを見る。
遠くからは本来彼女たちを指導するはずのなのはとヴィータがその様子を見ている。

(フォローなしですか……まあ、あれだけの騒ぎを起こしておいてフォローを期待する方が無茶ってものか。)

しかし、なのははともかくヴィータはざまあみろとでも言いたげに憎たらしい笑みをこちらに向けている。

(後で覚えてろよ!)

ユーノが一人で復讐を誓っているとオレンジのツインテールの少女から声があがる。

「失礼ですが私たちは戦闘要員でない人から何かを教わるほど弱くはないつもりですが。」

鋭い目つきでユーノを睨みつけてくるその少女はさらにまくしたてる。

「無限書庫の司書長だかなんだか知りませんけど、自分に権限があれば何をしても許されるとでも思っているんですか?だとしたら大した思い上がりですね。」

「ティ……ティア…」

彼女の横にいた青いショートカットの少女が流石に言いすぎだと思ったのか彼女を止めようとする。

「あんたは黙ってなさいスバル。こういう人は一度ガツンと言っておかないとあとあと厄介なんだから。」

「えっと……ティアナ・ランスターさん、だったっけ?」

「二等陸士です。司書長のあなたにはどうでもいい存在でしょうが、少なくとも情報処理専門のあなたよりは強い自信があります。なので、今日のところはお引き取りください。」

「はい、そうしま……」

『こらこらティアナ!せっかくユーノ先生が直々に稽古をつけてくれるって言っとるのにそんな言い方はアカンで!』

海上訓練施設の外から誰かが拡声器を使ってこちらに声をかけてくる。

「「「「八神部隊長!!?」」」」

「仕事はどうしたんだよ…」

ヴィータのツッコミには誰も賛同はしなかったが、全員がここにいるはずのないはやての登場に驚く。

『けどまあ、ユーノ君の実力を知らんティアナがこんな優男に何ができるんだ!な~んて思うのもようわかる。たぶんスバルたちもおんなじことを考えとるやろ?』

「まあ……」

「たしかに……」

二人の少女もユーノのほうを見ながら申し訳なさそうにうなずく。

『そこでや!いまからユーノ君と新人フォワード4人による模擬戦を行うで!ティアナ達が勝ったらユーノ君は煮るなり焼くなり好きにして構わへんでwww』

「おいっ!!!」

『そのかわりや。』

はやての声がまじめなものになる。

『ユーノ君が勝ったら今後一切ユーノ君の教導に文句は言わへんこと!どんなにしんどいと思ってもしっかりついていくんやで!ええな!!』

「「「「はいっ!!」」」」

はやての声がまじめなものに変わったのを受けてティアナ達も表情を厳しくする。

「それじゃあ、すぐに準備を始めようか。」

なのはふわりと浮きあがると空中にタッチパネルを出現させて操作していく。

「なのは、君も最初からこうするつもりだったんだろ?」

「さあ?」

クスクスと笑ってごまかすなのはにユーノは大きくため息をつく。
一方、ティアナ達新人フォワードはと言うと。

「いい!?絶対勝つわよ!!相手がド素人でも手加減なし!あんな肩書だけの人間には絶対負けないわよ!!」

「あの、ティアナさん…」

「エリオ!!あんたも遠慮なんかするんじゃないわよ!スバルと一緒に徹底的にボコボコにしちゃいなさい!!」

何かを言いかけたエリオはティアナの剣幕に押されて黙ってしまう。

「……ホントに気が進まないんだけどなぁ。いっそわざと……」

ユーノは誰にも自分のつぶやきが聞かれていないと思っていたが、シグナムから念話が届く。

(わざと負けるようなマネをしてみろ…………生きて機動六課から出られると思うなよ?)

「……………………………」

顔を真っ青にしてユーノは絶対に負けるわけには戦いに挑むことになった。








回想終了

海上 訓練施設

「ホントになんでこうなった……」

遠くからこちらを見つめるギャラリーたちのなかには自分と新人フォワードとの対戦を聞きつけてやってきたものが大勢いた。
中には不謹慎にも賭けを始める者もいる。

「あのヘリパイロット……たしかヴァイス・グランセニックさんだったっけ。後でじっくりお仕置きしなくちゃね。」










「へっくし!!」

「うわ!?汚いじゃないですかヴァイスさん!!」

「悪い悪い……ただ、なんかいや~な寒気がこう背中を…」

機動六課のヘリパイロット、ヴァイス・グランセニックは自分の後輩に当たるアルト・クラエッタに謝りながらも全身を駆け巡る嫌な悪寒と必死に戦っていた。

「それにしてもヴァイスさんらしくないですね。」

「何がだ?」

「今回の賭けですよ。みんなフォワードの四人に賭けてるのに胴元のヴァイスさんだけがユーノ司書長に賭けるなんて。」

「フッ……勝負師の血が騒いだのさ。今回は大穴が来るってな。」

ヴァイスは歯をきらりと光らせて笑うが、その笑みも長くは続かなかった。

「何が勝負師の血だ。お前は以前に私と一緒にユーノと組んだことがあっただろうが。」

シグナムに声をかけられたヴァイスは青ざめる。

「あ、姉さん!シーッ!!」

「悪いが私もユーノに一口賭けさせてもらうぞ。部下が不条理に金を巻き上げられるのを黙って見てるわけにはいかんからな。」

「あ、じゃあ私も一口乗ろうかな。」

「そんならあたしも。」

シグナムに続きなのはとヴィータも参加する。

「ごめんなさい。私も…」

「じゃあ、私も!」

「僕も黙ってるわけにはいきませんね。」

「当然、私もや。」

「私もですー!」

フェイト、シャーリー、グリフィス、はやて、リインフォースもユーノに賭ける。

「ちょ!?そんなご無体な!!」

こうしてヴァイスの野望は脆くも打ち砕かれることになるのだった。









ティアナはいら立っていた。
目の前に立っているこのヘラヘラした優男。
なのはの知り合いだかなんだか知らないが、自分たちがどれほどの訓練を受けて今の力を身につけたのかわかっているのだろうか。
それがいきなりやってきてなのはやヴィータとともに自分たちの教導をする。
あり得ない。
そしてこいつの今持っている物がさらに自分を苛立たせる。

「馬鹿にしてるんですか……?」

「?なにが?」

ユーノが今持っているのはデバイスでも何でもないただの棒である。
長さは大体ユーノの胸のあたり程度の木製の棒で、それなりに丈夫にできているようだが、普通はこれで魔導士四人とやりあうとなるとかなり心もとない。

「そんなもの一つで何ができるんですか?戦い方もわからないのならこんなところに来ないでください。」

「ああ、もしかしてこれだけで戦うことを心配してくれてるの?」

ユーノは自分の持っている棒を指さして穏やかに笑う。

「君たちが怪我をしたらまずいからね。これでどうにかすることにしたんだ。」

「「「!!!!」」」

この一言にはティアナだけでなく温厚なスバルとキャロも流石に頭にきたようだ。
つまりユーノは力の差がありすぎて危険だから棒一本で四人を相手に戦うと言っているのだ。

「馬鹿にしてるんですか!?」

「いやいや、君たちがすごいことは知ってるよ?」

スバルが声を張り上げるがユーノは笑って流す。

「だったらまじめにやってください!今朝の出来事といいまじめさが足りません!!」

「キュク!!キュク!!」

「いや、だからあれはどっちかって言うとはやてのせいで……ていうかなんでみんなそんなに怒ってるの?」

幼いキャロの怒った声にユーノは困ったように笑いながら汗を一筋たらす。
そんな中、エリオだけは珍しくおどおどとティアナたちを止めようとする。

「あ、あのティアナさん、ユーノさんは……」

「ハイハイ!すごい人ですよ!でもね!あそこまで馬鹿にされて引き下がれるわけないでしょ!!」

「いや、だからそうじゃなくて!!」

エリオがティアナを止めようとした時、ユーノと四人の間になのはの顔が現れる。

『準備はいい?じゃあ、Ready……Go!!』

パンという音ともにティアナの周りにオレンジの光弾がいくつも浮かぶ。

「ちょ!?だからティアナさん待っ…」

「クロスファイアー……!シュートッ!!」

ティアナの放った攻撃がユーノへと向かい、爆音とともに土煙を舞いあげた。









「あ~あ、決まっちゃったか。」

ロングアーチで情報処理を担当していたルキノ・リリエはその光景に思わず目をふさぐ。
そこそこ体は鍛えこまれているようだったが、あのダメージはどうしようもない。
気の毒だがしばらくはベッドの上で唸り続けることになるだろう。

「それはどうですかねー。」

「リイン曹長!」

目の前にやってきたのは人形のような姿をしているものの、自分の上司に当たるリインフォースだ。

「どういうことですか?」

「あれを見ればわかりますよ。」

「?」

ルキノはリインフォースの指さす方を見てみる。
そこには、

「んな!!?ななな、な!!?」

それを見た機動六課のスタッフからどよめきが起こる。
それを見なれていたものは当然という様子で周りのどよめきをBGMに誇らしい気持ちに浸っていた。










「そんな……!?」

「うそ……!?」

煙が晴れた先を見てティアナ達は驚愕する。
そこには無傷のユーノが棒を左手、右手と交互に投げて持ちかえている姿があった。
ユーノは傷を負うどころか最初に立っていた位置から全く動いていない。

「うん!なかなかいい攻撃だね!でも、少しバカ正直すぎるかな?誘導弾なんだからもう少し相手の意表を突くようにしなくちゃ。それとフルバックの……ええと、キャロ・ル・ルシエさん。せっかくメンバーが攻撃しようとしてるんだから瞬間的にでもいいからブーストしてあげなくちゃ。チャンスの時には手を抜いちゃ駄目だよ。あと、フロントアタッカーのナカジマさん。戦闘では絶対なんてものはないんだよ。敵を仕留められなかった時のことを考えて後ろに回って追撃の準備くらいしておいてもいいんじゃないかな?確かにランスターさんの攻撃は早かったけど、全く動こうとしてなかったよね?そんなことじゃ訓練校からやり直しをくらうよ。あ、当然これはガードウィングのエリオにも言えることだからね。」

ユーノが長々と説明している間もティアナ達は呆気にとられて動けない。
当然、ユーノの説教の内容など頭に入ってこない。

(なんで!!?防御するそぶりすらなかったのにどうして!!?)

ティアナは目の前で起こった現象の原因が理解できずに混乱する。
スバルとキャロも同じくうごけないが、見かねたエリオが動き出す。

「あ~も~!だから言おうとしたのに!!」

エリオはティアナの指示を待たずにユーノへと向かっていく。
それでようやく正気に戻った三人もそれぞれの立ち位置に移動して自分の役割に徹し始める。

(スバルは正面!エリオは後ろから!キャロはエリオのブーストをお願い!)

(((了解!!)))

まずはスバルとエリオが正面からユーノへと近づいていく。
途中、エリオは建物のかげに隠れて別方向からユーノの攻略にかかる。
スバルは自慢のローラーブーツのスピードを利用してグングン加速しながらユーノへと拳を打ち込むべく向かっていく。

「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「うん、それが当たったら確かに敵は倒れるだろうね。でも……」

スバルが拳を構えようとした時、ユーノは持っていた棒をおもむろに自分の左前にゆっくりと余裕を持って突き出す。

「へ!!?うわわわわわわわわわわわわ!!!!!!」

スバルは突然顔の先に迫ってきた棒の先に驚いて慌てて体を横に倒す。
そしてそのままズザザザと景気のいい音を出しながらユーノの後ろへ滑って行く。

「軸足が前に来てたらどちらから攻撃が来るかわかる人間にはわかっちゃうから気をつけてね。しかも君は右手に武器をつけているんだからあんな距離で振りかぶっちゃ誰にでもわかっちゃうよ。」

「ッッッ!!ウィングロード!!」

スバルは止まったところですぐに起き上がって空中に青い道を作り出し、その上を滑って今度は上からユーノに迫る。

「エリオ!!」

「はい!!」

そして、後ろからもエリオが同時に迫る。

「う~ん、40点。」

「!!」

エリオの槍の先がユーノに届きかけた時、エリオの足元から出てきた光の鎖がエリオの槍を絡め取る。

「エリオ!!」

「油断しない。」

スバルはユーノの脳天に向けて踵を振り下ろす。
だが、ユーノは棒を振るってスバルのわき腹に一撃を打ち込んで、そのまま棒を使ってエリオに向けて投げ飛ばす。

「うわっ!!」

「ぐっ!!」

「このぉ!!」

距離をとっていたティアナがユーノに向けて魔力弾を放つ。

(当たる!!)

そう確信したティアナだが、再び信じられないことが起こる。

「え!?うわ!!」

「うわっ!!」

「キャア!!」

ユーノに当たると思われた魔力弾が直前で何かにぶつかったように方向を変えてティアナ以外の三人に襲いかかる。

「ティ、ティア!!」

「わ、私じゃないわよ!!」

つい先日スバルに魔力弾を当てかけたティアナは動揺する。

(どうして!?私は本当に何にもしてないのに!?あの人だって防御魔法なんて……)

その時、ティアナはユーノの周りをよく見て気付いた。
彼の周りを薄い、本当に薄い緑の円がいくつも囲んでいる。

「あ、ばれた?」

ユーノはいたずらっ子が自分の悪さがばれた時のようにペロリと舌を出す。

「こうやって角度を調整してあげればこれだけ薄いシールドでも攻撃を弾けるって寸法さ。で、それを利用すれば周りへの反撃も同時に行える。あ、ちなみに最初も同じ手を使ったんだ♪」

「そんな……」

ティアナは唖然とする。
もしユーノが今言ったことが本当だとしたら、あれだけの数の弾の軌道を一目見たあとシールドの角度を調整してその後飛んでいく方向まで計算したということになる。

「ティアナさんさがって!!」

呆然としていたところにキャロの大声でティアナは体をびくりと震わせてユーノとさらに距離を取る。

「フリード!!ブラストレイ!!」

「キュク!!」

キャロの一言でフリードの口元に魔力の塊が形成されユーノへとはじき出される。

「飛竜の一撃かぁ…流石にこの薄さで防ぐのは無理かなっと。」

ユーノは右手にシールドを発生させてフリードの一撃を防ぐ。

「これも…だめ…」

キャロが肩で息をしはじめる。
ブーストに加えフリードの制御。
まだ同時にこなすことになれていない上に、ユーノに一切の攻撃が通用しないという事実が彼女の疲労を加速させる。

「ほらほらセンターガード。ちゃんと仲間のコンディションを確認しないと。」

「ッッッ~~~~~~!!!!!」

先ほど自分が格下だと言ったユーノから自分の未熟さを指摘される屈辱。
その事実はティアナの頭を冷やさせるどころかますます怒りを増加させていく。
その時、

(あの、みなさん!!)

エリオが全員に念話で語りかける。

(僕に考えがあるんです!!)

エリオは自分の作戦をティアナ達に話す。

(上手くいくのそれ?)

(わかりません。でも、このままバラバラに攻めるよりユーノさんの弱点を突く方がいいと思います。)

(エリオ君、弱点ってなに?)

「相談は終わったかな?」

ユーノの言葉にエリオたちの相談は中断させられる。

(……今はエリオの作戦を信じるしかないわ!行くわよ!!)

ティアナの号令とともに四人は信じられない行動に出る。

「お!?」

四人は攻撃もせずに、フルバックとセンターガードのキャロとティアナまでユーノへと突っ込んでいく。
布陣は先頭にスバル。
その後ろにティアナとキャロが横に並び、二人の間から顔をのぞかせるようにエリオが後ろに続く。

(気付いたかな?)

ユーノはチェーンバインドを発生させて拘束しようとするが、スバルは防御で防ぎ、絡みついてきたものは持ち前の力で引きちぎる。
スバルが防ぎきれなかったものはティアナの魔力弾とフリードの牙で破壊し、どんどん距離を詰めてくる。

(これは……ばれたな。)

ユーノは棒の中心を握って重心を落とす。

「でぇやああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

まずはスバルがしかける。
だが、最初のように大ぶりではなく小さく細かく手数でユーノを攻める。
ユーノは棒の両端を使って上手くいなしていく。

(すごい!!強化も何もしていないただの棒なのに、私の攻撃に軸をずらして当てることで防いでるんだ!)

しかし、その隙にティアナとキャロもユーノとの距離をゼロにする。

「クロスファイアー……」

「フリード!」

「キュクーー!」

ユーノのシールドのさらに下で魔力弾が生成される。
そして、

「シュート!!」

「ブラストレイ!!」

スバルがバックステップでさがった瞬間にユーノへとまとめて放たれる。

「クッ!!」

しかし、ユーノは体をひねってそれをすべてかわしていく。

「そんな!!」

「でも、まだとどめが残ってるわよ!!」

ティアナとキャロが攻撃の反動を利用してそのままユーノの後ろへと向かっていくと今度はスバルの後ろからエリオが飛び出してくる。

「はああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「っ!!」

エリオがユーノへと槍を突き出し、二人ともそのまま動かなくなる。
だが、

「……お見事。この作戦を考えたのはエリオだね。」

「はい。ユーノさんは魔力弾での攻撃はソリッドの中にある“あれ”を使わないとできないですから。それに、ユーノさんは僕たちの攻撃を一歩も動かずにさばいていました。と言うことは、今回のユーノさんが決めた自身の敗北条件は僕たちがユーノさんを一歩下がらせること。卑怯だとは思いましたがユーノさんの弱点とその敗北条件をつかせてもらいました。」

エリオの先には槍の先を両手の間にはさんで止めながらも、その勢いに負けて一歩後ろに下がっているユーノがいた。

「僕の負け……かな?」

「いえ、ユーノさんが手加減してくれていたからここまでできたんです。そうじゃなかったら……」

『こらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!何やっとんねんユーノ君!!負けたら承知せぇへんでぇ!!!!』

エリオとユーノが綺麗に締めようとした時、はやてから怒号が飛ぶ。

『そうっすよ!!俺なんて全財産かけちまったんだから絶対に勝ってもらわないと困りますよ!!!!』

「八神部隊長、ヴァイスさん…」

はやてに続いてヴァイスと身内から金欲にまみれた声が聞こえてくるたびにエリオは情けなくて泣けてくる。
しかし、ユーノはエリオの愛槍、ストラーダから手を離して少しさがる。

「ギャラリーからアンコールが入ったみたいだし、第二ラウンド開始といかないかい?」

ユーノのウィンクにエリオは力強く笑う。
エリオ以外の三人も満足していないのか、それぞれの武器を構える。
ユーノはそれを見てニヤリと笑う。

「じゃ、第二ラウンド開始だ。」

そう言ってポケットの中から緑色の宝石を取り出した。









その力、新たな希望を導く光となるか……




あとがき・・・・・・・・・・という名のお前本当に反省してんのかオイ!?

ロ「模擬戦編その1でした。」

ユ「でしたじゃない!!」

ティアナ(以降 ツン2)「なによ私たちのこの扱い!?そして私のこのテロップはなんなのよ!!?」

ロ「アリサさんの遺志を継ぐ者のあかしだ(笑)」

ツン2「(笑)じゃない!!」

ロ「ガフッ!!し、絞まる!!絞まってますってティアナさん!!」

キャロ(以降 天然)「フリード、その人の頭噛み砕いちゃっていいよ♪」

フリード(以降 竜)「キュク♥」

ロ「いだだだだ!!!!ちょっと何すんの君ら!!?」

スバル(以降 KY)「IS!破砕振動!!」

ロ「ちょ、やめ……ぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

エリオ(以降 エリ)「……反省しましたと言って毎度反省なんてしていない作者への制裁の最中ですが、ここでさっそく次回予告に行きたいと思います。」

ユ「次回は今回中途半端に終わったところを全部消化したいと思っているとロビンが言ってました。(死んでなければだけど)」

エリ「僕とユーノさんの馴れ初め、そしてユーノさんが実は超有名人であることが判明!」

ユ「次回はシリアス分を多めにしていきたいと思います。今回はちょっとはしゃぎすぎたので次回からはまじめに行きたいと思います。」

エリ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!じゃ、せーの…」

「「次回をお楽しみに!!」」







ツン2「反省しろぉぉぉぉぉぉ!!!!海よりも深く山よりも高く!!」

天然「そして私たちの愛の手(出番)を!!」

KY「そして次回までに私たちのまともなテロップを考えろ!!」

ロ「ちょ………もう勘弁……」

地獄はまだまだ続く……



[18122] 3.Guardian
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/09/21 18:12
新暦72年 ミッドチルダ 遊園地

僕は、久しぶりに休暇が取れたフェイトさんと一緒に行ったその遊園地でその人に出会った。
人見知りをしてフェイトさんの後ろに隠れる僕に、その人は手を差し伸べて優しく微笑んだ。
少し怖かったけどその人の手をとる。
ガサついててひんやりとした手だけど、どこか人間らしい温かみが感じられる手だった。

「はじめまして。フェイトの友達のユーノ・スクライアです。」

それが、僕とユーノさんの初めての出会いだった。









魔導戦士ガンダム00 the guardian 3.Guardian

新暦75年 海上 訓練施設

ティアナ達は距離をとってユーノを取り囲む。
その顔には戦う前の油断はすでにない。

「……ランスターさん。」

「?」

「最初に謝っておくよ。ごめんなさい。」

「はい?」

ティアナは訳がわからず首をかしげる。

「僕は確かに君たちを侮っていたみたいだ。腹を立てて当然だ。」

そう、侮っていた。
ユーノは自分を一歩さがらせる。
これをクリアするには今の彼女たちでは少なくとも二十分はかかると踏んでいた。
しかし、実際はその半分ほどの時間でユーノの課した課題をこなしてしまった。

「だから、お詫びに少しだけ本気を出させてもらうよ。」

ユーノはポケットから取り出した緑色の宝石につぶやく。

「ソリッド、セットアップ。」

〈Start Up〉

ユーノはバリアジャケットを羽織り、多目的武装盾、アームドシールドの切っ先を地面とこすり合わせる。
こすられた場所から火花が散る。

「防御だけはしっかりしておいてね。じゃないと……」

ふわりとユーノの体浮き、地面との間にわずかな隙間ができる。

「怪我をしちゃうよ。」

「え……?」

刹那、スバルはユーノの姿を見失った。
だが、すぐに見つけた。
なぜなら、彼女の目と鼻の先にユーノがいたのだから。

(いつの間に!!)

スバルは拳を振るうが、ユーノはその力の流れに逆らわず、スバルの腕を掴むと彼女が拳を振った方向へと投げ飛ばす。

「クッ!!ウィングロード!!」

スバルは逆さまの状態のままウィングロードを発生させ、そこにローラーを当てて加速させると天地が逆転したままユーノへと再び向かって行く。

「クロスファイアー、シュート!!」

スバルを援護すべくティアナは誘導弾を放つ。

「ホイールプロテクション。」

ユーノは回転する緑の盾を両手の前に張ってスバルとティアナの攻撃を同時に止める。

「クッ!!まだまだぁ!!」

スバルは堅牢な防御に阻まれながらもユーノを何とか押し込もうとする。
だが、

(お…もい…!)

ユーノの体は鉛でできているかのように重く、どれほど力を入れてもビクともしない。
スバルは自分の力に絶対の自信を持っていただけにこれは悔しい。

「こういうときは無理をせずにさがるのがセオリーだよ。じゃないと…」

鋭い風切り音とともにユーノの脚が振られる。
スバルは咄嗟にプロテクションを張るが、あっさりと破られ腹部に衝撃が奔る。

「ガァ……!?」

「こういう風に相手から反撃をもらうことになる。」

数メートル先の壁に叩きつけられたスバルは背中をうった痛みよりも、ユーノの一撃の方がきつかったのか腹を押さえて痙攣を繰り返す。

「スバル!!」

ティアナはスバルを救うべく、ユーノを射撃で牽制しながらスバルへと近づこうとする。
しかし、

「いかせないよ。」

ユーノはフィールドを張ってティアナの進路に立ちふさがる。

「クロスミラージュ、カートリッジロード!」

〈Cartridge Load〉

ティアナはカートリッジを使って魔力を増幅させて周囲に魔力弾を浮かべる。
だが、そのままの状態でユーノと睨みあったまま動かない。

(へぇ……)

それを見てユーノは感心する。

(最初は少し熱くなってたみたいだけど、今は冷静に相手の出方をうかがいながら僕を牽制する。そして…)

ユーノはちらりと後ろを見る。
そこには倒れたスバルに肩をかして起き上がらせるエリオがいた。

(そのうちに自分以外に仲間の救出を任せる……この冷静さがこの子の最大の武器ってわけか。)

(もう格下だなんて思わない!!なのはさんかそれ以上の相手のつもりでぶつかる!)

ティアナとユーノの間の緊張感が極限にまで高まっていく。
そして、

「シュート!!」

最初にしかけたのはティアナだった。
周囲に浮いていた魔力弾をユーノへと放つ。
ユーノはシールドでそれを防いでいく。
しかし、ティアナの攻撃はそれで終わりではない。

(もらった!!)

ユーノの背後に回していた一発の弾が後頭部へと向かっていく。

「フィールド。」

光の膜に阻まれてティアナの一撃は防がれてしまう。
だが、ティアナはクスリと笑うと急にかがむ。
ティアナが屈んだ先にはフリードが火球を口元に生成していた。

「フリード、ブラストレイ!」

強烈な破壊力を秘めた火球がユーノに迫る。
しかし、ユーノはフィールドを解除したまま動かない。
そして、

「はぁ!!」

凄まじい気迫とともに振り抜かれた刃が火球を切断し、霧散させる。

「そんな!?」

「嘘でしょ!?」

二人が驚いていると、ユーノがティアナに急接近する。

「駄目だよ、そんなに大きな隙を見せちゃ。」

「しまっ…」

ユーノはティアナの後頭部に手刀を打ち込んで気絶させる。

「ランスターさんは予想外の事態に弱いところがあるね。あと、少し熱くなりやすいかな?でも、そこを直していけば優秀なセンターガードになれるよ。」

気絶したティアナを安全な場所まで転送すると続いてキャロのほうを向く。
しかし、

「おうりゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「おっと。」

スバルがウィングロードを使って背後から迫るが、ユーノは横に跳んでそれをかわす。

「次はナカジマさんか。」

「マッハキャリバー、いくよ!」

〈了解。〉

スバルは渾身の力でユーノへ打撃を打ち込もうとする。
しかし、

「だから……見えてるよ。」

ユーノは首を横に動かしてかわすとスバルのあごにクロスカウンターの要領で左拳をかすらせる。
その次の瞬間、スバルは腰が砕けたようにその場にへたり込む。

「え!?あ、あれ!!?」

何が起こったのかわからないスバルだが、それでも起き上がろうとする。
しかし、膝がガクガクと笑い、思うように動かせず尻もちをつく。

「顎を打ち抜かれると頭蓋のなかに浮いている脳が揺らされて、意識がはっきりしていても体が思うように動かなくなるんだ。それと、君は一撃必殺を相手に打ち込んで勝つタイプみたいだけど、必殺の一撃は相手にとっても必殺のカウンターのチャンスになる。よく覚えておこうね。」

四つん這いになってでも立ち上がろうとしているスバルも転送すると改めてキャロとフリードに向き合う。

「フリード!!」

キャロは先手必勝とばかりにフリードをユーノへと向かわせる。
しかし、

〈Flash〉

「きゃっ!?」

「キュク!!?」

ユーノの手のひらの上で発生した光に目がくらみキャロとフリードはユーノを見失う。

「どこに……?」

「!!」

その時、フリードは殺気を察知する。

「キュクーー!!」

自分の主人であるキャロに害をなすものへとフリードは向かっていく。
だが、

「違う!フリード、そっちじゃないよ!!」

「キュク!!?」

フリードはユーノが潜んでいると思われたビルのかげに向かったが、そこには誰もいない。
そして、

「はい。」

「!!」

キャロの首筋にヒタリとユーノの持つアームドシールドの刃が当てられる。

「何か言うことは?」

「ま…参りました……」

「キュク……」

キャロとフリードが俯いてそう言ったのを聞くとユーノは転送魔法を発動させてキャロ達も別の場所に移す。

「さて、と。残りは君だけだね、エリオ。」

ユーノがゆっくりと振り向くとエリオがストラーダを構えてこちらを見ている。
緊張しているのが見て取れるがしかし、その顔には緊張と同居するように強者に挑めることへの喜びからくる笑みが浮かんでいる。

「わざと僕だけ残しましたね?」

「うん。あの三人には悪いけど、君がどれくらい成長しているか確かめたかったからね。」

柔らかに微笑むとユーノもアームドシールドを構える。

「……いきます。」

「うん。」

ユーノが返事をすると同時にエリオは飛び出していく。
ユーノはストラーダの切っ先を受け流してエリオへと蹴りを放つが、エリオは低い身長をかがむことでさらに低くしてユーノの蹴りをかわす。

「ハァッ!」

エリオはかがんだ状態で一回転してユーノの脚を斬ろうとするが、ユーノはアームドシールドを地面に突き刺すようにしてそれを防ぐ。
そして、空いていた左の手のひらに魔力を集中させていく。

「!クッ!!」

エリオがさがった瞬間、ユーノの手のひらに発生した魔力刃がそれまでエリオがいた空間を貫く。
しかし、エリオはすぐさま距離を詰めてユーノと打ちあいを再開する。
ユーノはエリオと鍔迫り合いの最中に問いかける。

「距離をとらないのかい?」

「距離をとったら“あれ”が来るでしょうからね。それに、相手との力量差におびえてさがるより、懐に飛び込んだ方が安全だって言ってたのはユーノさんですよ。」

「ちぇ。言うんじゃなかった。」

ユーノはアームドシールドを大きく振ってストラーダをはねあげ、左手の魔力刃を振り下ろす。

「つっ!!(まだうまくいったことはないけど…やるしかない!!)」

エリオは態勢を崩しながらもそれをかわす。

「!!」

ユーノの前からエリオが消える。
急いで後ろを向くと、滑るような動きでユーノのバックをとっていたエリオが放ったストラーダがすぐそこまで迫っていた。

「いけぇ!!」

「クッ!!」

エリオとユーノの動きがとまり、あたりが静まり返る。

「……やるね。」

「いえ、かすめただけです。」

ストラーダの横には頬にかすり傷を負ったユーノの笑顔がある。

「ご褒美ってわけじゃないけど……これで決めるよ。」

ユーノはトリガーを引いてカートリッジを炸裂させ、アームドシールドをくるりと一回転させて固定すると、バックステップでエリオと距離をとる。

「しまっ…」

「撃ち抜く…!」

ユーノの足の裏に萌黄色の光が集まり、弾け飛ぶ。
その勢いに押し出されたユーノは急接近したエリオに盾を押しつける。

「バンカー、バースト!!」

〈Assault Bunker〉

刃の反対側についていた二つの突起が圧縮された魔力に押し出され、エリオを押し飛ばす。
壁に叩きつけられたエリオはズルズルとズリ落ちて前のめりに倒れる。
しかし、その顔には満足げな笑みが浮かんでいた。








数分後

「ユーノ……なんでエリオにあんなことしたのかな?」

ユーノは訓練場で正座をしてフェイトと向き合っていた。
しかし、ユーノは怖くてフェイトの顔を見ることができない。
フェイトは笑っているのだが、後ろに何やら真っ黒なオーラを背負っている。

「いや、あれはその、エリオの成長が嬉しくて、少し本気を出さないと失礼にあたるかなって……」

「フーン……それでエリオが怪我をしてもいいと思ってるんだ?」

「いえ、決してそんなことは……」

滝のように汗を流しながら俯くユーノを見ながら、訓練場に戻ってきていたティアナ達はなのはとヴィータに向き合っていた。

「あの、あれ止めなくていいんですか?」

ティアナはフェイトとユーノを指さして尋ねる。

「いいんだよ。ユーノも少しやりすぎたからな。」

そういうヴィータの顔には悪魔の笑みが浮かんでいる。

((((この人、絶対楽しんでる……))))

新人フォワードたちは改めて自分たちがいろいろな意味でとんでもない人物に教導を受けていることを思い知らされる。

「それよりもだ……お前らはもう少しいいところを見せろよな。良い線いってたのはエリオだけじゃねぇか。」

「うっ…」

三人は返す言葉もなくうなだれる。

「でも、ユーノさんって一体何なんですか?とても情報処理専門の部署にいる人だとは思えないんですけど。」

スバルの言葉を聞いたヴィータとなのははクスクスと笑い始める。
エリオもスバルの隣で苦笑している。

「ねぇ、みんな。ガーディアンって聞いたことないかな?」

「…?ええ、知ってますけど。たしか、R・A事件(リビング・アーマー事件)解決の影の功労者で、その後も時々いろいろな事件の捜査に協力する人物、でしたよね。」

「正解だティアナ。じゃあ、そいつの特徴を聞いたことはあるか?」

ティアナ、スバル、キャロは首をかしげてそれぞれの持っている情報を挙げていく。

「たしか……魔力光が萌黄色で…」

「大きな盾みたいなデバイスを使ってて…」

「普段は無限書庫で働いている…」

そこまで言って三人は顔を真っ青にする。
バッとユーノのほうを振り向くと正座をしたまま照れくさそうにポリポリと頬を掻きながらユーノがこちらを見ている。

「そんなに話が大きくなってたんだ……」

「「「ええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!?!!?!!!!!!!!?!!!!?!?」」」

三人の叫びが晴天の空に響き渡る。

「改めて紹介するね。私たちの友人で、無限書庫司書長。そして、『翠空の守護者』、ガーディアンことユーノ・スクライア君だよ。」

「え!?ちょ!!ええぇ!!?」

スバルはユーノとなのはの顔を交互に指差して口をパクパクさせる。
ティアナはと言うとあまりのショックに呆然自失状態だ。
キャロは腰を抜かしてフリードと一緒にプルプル震えている。

「そんなに驚かなくてもいいんじゃないかな?」

「いや、だってユーノさんそんなこと一言も!!」

「だって聞かれなかったし。」

正座したままあっけらかんと答えるユーノにティアナは頭を抱えるが、すぐにハッとするとスバルの後ろで苦笑していたエリオに掴みかかる。

「エリオ!!あんた知ってたんでしょ!!?何で言わないのよ!!」

ガクガクと前後にエリオを前後にゆすりながらティアナは凄まじい剣幕で怒鳴りつける。

「だ、だって!!言おうとしたのにティアナさんもみんなも聞こうとしなかったじゃないですかぁぁ~~~~~!!!!!」

そう言われ、ティアナ達ははたと思い出す。









『あ、あのティアナさん、ユーノさんは……』

『ハイハイ!すごい人ですよ!でもね!あそこまで馬鹿にされて引き下がれるわけないでしょ!!』









回想終了

ティアナはエリオを掴んだまま青ざめ、続いて真っ赤に紅潮する。

「……ティアナ達は少しお説教かな?」

「知らない相手に油断しすぎだ。」

二人の言葉に三人はがっくりと肩を落とす。
そして、エリオにもフェイトからお説教が待っていた。

「エリオもあんな無茶な戦い方駄目だよ。ああいう戦い方は後先考えないユーノだからできるんだから。」

「はい……ていうかユーノさんのことまだ根に持ってるんですね。」

「しかし、エリオには驚かされたな。」

ヴィータはフェイトがムッとする中、エリオの肩を叩く。

「お前の最後に見せたあの動き、ユーノがよく使うやつじゃねぇか。お前、飛行魔法なんて使えたのか?」

「いえ、あれは…」

「電気変換資質を利用して地面と自分に磁力を持たせて反発させあって浮かんで、地面の磁力一部分ずつを変えることで移動して僕の動きを再現した。……そんなところかな?」

「はい。練習では一度も成功しなかったんですけど、今回は上手くいきました。」

いつの間にか復活していたユーノの説明にエリオはうなずく。

「そう言えば、エリオ君はどこでユーノさんと知り合ったの?」

キャロが不思議そうに尋ねる。

「あ、それ私も聞きたい!」

スバルがキャロに続く。

「えっと、話せば長いんですけど……」









新暦72年 ミッドチルダ 遊園地

その日、エリオはフェイトに連れられてミッドチルダの遊園地まで来ていた。
フェイトは職業柄なかなかかまってあげられないのでたまの休みぐらい一緒に楽しいところに行きたいと言ってエリオをここに連れて来たのだ。

「……そろそろかな?」

フェイトは遊園地の入口を入ったところで腕時計を見ながらあたりを見渡す。

「フェイトさん、どうしたんですか?」

「うん、ちょっと待ち合わせをしててね。私が急な用事で一緒に入れなくなったときに一緒に遊園地を回ってくれる人を待ってるんだ。」

エリオはフェイトの言葉を聞いて不安そうな顔をする。

「あ、大丈夫だよ!その人は私の昔からの友達ですごく優しい人だから!」

フェイトはエリオの不安を感じ取ってフォローをするがそれでもこれから来るその人物に対するエリオの怯えは消えない。
エリオからしてみればフェイトに用事が出来たならそのままお開きになったほうがよかった。
エリオがそう言おうとしたその時、

「ごめん、フェイト!少し遅れた!」

入口から手を振りながら駆けてくる一人の人物。
金色の長い髪を後ろでまとめ、眼鏡の奥の瞳は翠色をしている。

「ホントにごめん!もしかして待った?」

「ううん、私たちも今来たところだから。それよりごめんね。せっかくの休日に頼みごとなんてしちゃって。」

「別にいいよ。アルフもなのはも今日は仕事があるからね。それに僕も暇を持て余してたところだったから。」

ユーノは手を振って笑ったところでフェイトのそばにいたエリオに気付く。
エリオはユーノと目があった瞬間にフェイトの後ろに隠れてユーノの様子をうかがっている。

「フェイト、その子が?」

「うん。ほら、エリオ。あいさつしないと。」

フェイトがエリオを前に出してあいさつをさせようとするが、エリオはフェイトの服の袖を掴んだまま怖いものでも見るようにユーノを見ている。

「ごめんね。少し人見知りが強くて…」

「別にいいよ。同じころの僕に比べれば可愛いもんだよ。」

ユーノはエリオと同じ目線までかがむとふわりと笑って手を差し出す。
エリオも少し怖がっていたが、ユーノの手を握る。

「はじめまして。フェイトの友達のユーノ・スクライアです。」

「エ…エリオ・モンディアル……です。」

「エリオ君って言うんだ。よろしくね、エリオ君。」

「は…はい。」

エリオはすぐにフェイトの後ろに引っ込んでしまい、それを見た二人が苦笑する。

「じゃあ、アトラクションを回ろうか?ここのアトラクションは混むからね。」

フェイトはそういうとエリオと手をつなぎアトラクションを目指して歩いていく。
ユーノはそんな二人を後ろから眺めながらニコニコと笑ってついていった。






2時間後

お昼時になってフェイトが売店に昼食を買いに行き、エリオとユーノの二人は距離をとってフェイトの帰りを待っていた。
正確にはエリオがユーノから離れて少し遠くにある噴水の広場で一人で遊んでいるのだ。

(ハハハ……嫌われちゃったかなぁ?)

ユーノはベンチに座りながら頭の後ろに手を組んで空を見上げる。

(……あの子もいろいろあったみたいだからなぁ。まだ知らない人は怖いか。)

自分の幼いころを思い出す。
丁度今のエリオくらいの時は自分も誰も信じることができず、子供のくせに上っ面だけの付き合いを覚えて自分の心をひた隠しにしてきた。
考えてみればスクライアの一族のみんなにも迷惑をかけてきたかもしれない。

「まったく……ろくでもない人間だよ。」

ユーノはそう言って前を向く。
すると、

「ん?」

エリオが数人の男に絡まれているのが見える。

「ったく、何が次元世界一安全な世界だ。」

ユーノはベンチから立ち上がるとエリオのもとへと歩いていった。





エリオは自分の身長の何倍もあるような男たちを見上げながら震えていた。
相手がいきなりぶつかってきたのだが、ズボンが汚れたと因縁をつけてきたのだ。

「おい、保護者を呼べよクソガキ!」

「人が新調した服汚すなんざどういう教育受けてんだ!」

男たちがエリオに詰め寄るのを見ている周りの人間は眉をひそめてそそくさと立ち去るか小声で話しあうだけだ。

「金が払えないなら体で…」

男の一人がエリオに拳を振り下ろそうとした時だった。

「うちのエリオが何かしましたか?」

ユーノがふわふわとした笑顔でやってくる。

「ユ…ユーノさん……」

エリオは震えながらユーノのほうを見る。
ユーノはエリオの前まで行き、男たちと対峙する。

「何か御迷惑でもおかけしましたか?」

「ご迷惑もクソもねぇよ!どうしてくれんだこのズボン!!」

男が足を持ち上げて汚れたといったところを見せる。
確かに汚れてはいるが、泥で汚れたもので明らかにここでエリオに汚されたものではない。

「責任とれよ!ああ!?」

「これくらいなら洗剤で洗えば落ちますよ?なんなら洗って…」

「ちげぇよバーカ!!クリーニング代よこせって言ってんだよ!!」

男が毒づくが、ユーノは笑ったままだ。

「これくらいのことで金をよこせなんてその派手な見た目によらず器量が小さいんですねぇ。」

「ああ!!?んだとこの優男!!」

男たちがさらに厳つい顔でユーノを睨む。

「あらら、本当のことを言われたからってそんなに怒るものじゃないですよ?それに、いきなり人に金をよこせなんて言うほうがよっぽど非常識だとは思いませんか?それくらい幼いこの子にだってわかりますよ?つまりあなた方は子供よりも常識を知らないって言うことなんですねぇ。」

ハッハッハと笑うユーノを見ていた周りの人間たちは青ざめながら距離をとっていく。

「こ…の……!!」

男たちは怒り心頭といった様子でポケットからデバイスを取り出して起動させる。
ナイフ、メリケンサックとさまざまなものに変わったそれを見たギャラリーから悲鳴のようなどよめきが起こる。

「あらら……不法所持のデバイス。そんなのここで出したら怒られますよ?あ、それすらもわからない気の毒なおつむなんでしたね。いや、失敬失敬。」

ブツリという音ともにナイフ形のデバイスを持っていた男がユーノに斬りかかる。

「!!!!」

周りの人間も、そしてエリオも思わず目をつぶる。
だが、多くの人々が思っていたような結果にはならなかった。
エリオが目を開けると、ユーノが涼しい顔で男のナイフを人さし指と中指の間に挟んでいた。

「ぐ……ぬ……!!」

男は顔を真っ赤にしてナイフを動かそうとするが、ピクリともしない。

「ほい。」

ユーノはそんな男の足を右足で払う。
男はナイフを手放して情けない顔で派手に転ぶ。

「てめぇ!!」

メリケンサックをつけた男が拳に魔力を纏わせてユーノに襲いかかる。
しかし、ユーノはその拳をあっさり左手で受け止めてみせる。

「どうしました?まさかこの程度であんなに威張ってたんですか?」

「や…ろう……!!」

男はユーノを前に襲うとするがびくともしない。
それどころか、自分がつけていたメリケンサック型のデバイスがミシミシと嫌な音をたてはじめる。

「グォ…!!?」

そして、遂にデバイスが砕け散る。
しかし、ユーノはさらに力を入れていき男の手も少しずつ歪んでいく。

「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

激痛にたまりかねた男が叫び声を上げる。
ユーノはそれでもやめずに力をくわえていく。
男の手は骨が砕け、手から突き出て信じられない量の出血を起こしている。

「ハハハ、情けないなぁ。これくらいでそんなに痛がるなんて。」

ユーノは爽やかに笑っているが、後ろにいるエリオはガタガタと震えている。

「やめろ!!やめてくれ!!お、俺たちが悪かったから!!ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「……よーく聞きなよ、チンピラ君。」

エリオはそれまでの穏やかな声から低く鋭い声にさらにおびえる。

「僕がこの世で一番嫌いなものは抵抗する力のない人間から何かを奪おうとすること。そして……」

ユーノは周りで見ている人間を見渡す。
その顔はすでに先ほどの穏やかな笑みから怒りに満ちた阿修羅の顔になっている。

「苦しんでいる人間を見て見ぬふりをして遠巻きに見てあざけり、気の毒の一言ですますようなクズの中のクズのような人間だ。」

周りの人間は気まずそうに視線を外す。

「それと…この子は僕の友人の大切な子だ。この子に手を出すのなら容赦はしない……!!」

「ひ…ひいいぃぃぃぃぃ!!!!」

男たちはユーノから逃げだそうとする。
だが、その瞬間に黄色のバインドが男たちを拘束する。

「管理局の者です。みなさん動かないでください。」

片手に昼食の入った袋をぶら下げたフェイトが魔法を発動して男たちを拘束していた。
フェイトは大きくため息をつくとユーノへと歩み寄る。

「何やってるのユーノ!?こんなに大きな騒ぎを起こして!!管理局の人間だってことを言えばこんなことには…」

「あいにくと僕は管理局の名前をちらつかせて厄介事を解決するようなことはしたくないんでね。」

ユーノとフェイトが言い争っていると周りにいた人間たちがフェイトの存在に気付き騒ぎ始める。

「さすが次元航行部隊のエース。人気者だね。」

ユーノが肩をすくめて笑うのを見てフェイトは一層表情を厳しくする。
だが、それでもこのままではマズイと思ったのか男たちを立たせる。

「私はこれからこの人たちをすぐ近くの部隊まで連れていくからユーノはエリオの面倒を見てて。」

それを聞いたユーノは流石に焦る。
何せエリオも今のを見ていたのだ。
当然……

「……………………………………………」

(こっちをじっと見てるよぉ~!)

この時になってようやく自分の行いを後悔し始めた。

「ぼ、僕が送るよ。うん。だからフェイトはエリオ君と一緒に…」

「ユーノ、過剰防衛をして捕まえましたって言って連れていく気?ユーノはただでさえ上の人間に睨まれてるんだから余計なことはしないで。」

「で、でも!」

その時、ユーノは後ろから誰かに引っ張られる。

「?」

後ろを見てみるとエリオがユーノの服をギュッとつかんでいる。

「じゃ、エリオ。いい子にしててね。」

「あ、ちょっと!!」

ユーノが呼びとめようとした時にはフェイトはもう離れてしまっていた。








ミッドチルダ はやて宅

『わかった。じゃあ、冷蔵庫の中のもんは好きにつかっていいから。』

「うん、ありがとう。じゃあね、ヴィータ。忙しいとこごめんね。」

『おう、じゃあな。』

合鍵で家主たちが任務で不在のはやての家に入ったユーノは電話を切るとソファーに座っているエリオのほうを見る。
行儀よく座っているエリオを見てクスクスと笑う。

「そんなに緊張しなくていいよ。」

「あ、はい……」

エリオは返事をするものの相変わらず固いままだ。
ユーノは台所へ行って何かを作り始める。
あたりにいいにおいが漂い始め、しばらくするとユーノが皿の上に黄色いものを乗せてやってくる。

「はい、オムライス。あいかわらずはやてが料理好きで助かったよ。」

エリオは目の前に出されたオムライスとユーノを交互に見比べる。
ユーノはにっこりと笑ってエリオにオムライスを進める。
エリオはそれでも食べようとしないが、そのうち、



グウゥゥゥゥ~~~~



大きな腹の虫が鳴る。
エリオは顔を赤くしながらスプーンを持って手を合わせる。

「いただきます。」

エリオはスプーンですくってオムライスを口へ運ぶ。
口の中にケチャップライスの程よい酸味と塩気、そして卵の甘さが広がる。

「おいしい…!」

「ありがとう。」

ユーノはオムライスを食べ進めるエリオを見て笑うが、すぐに顔を曇らせる。

「……ごめんね。せっかくフェイトと一緒に入れる貴重な日だったのに。あんな怖い思いまでさせちゃって。」

「そんな……僕の方こそ勝手なことをして迷惑をかけちゃって…」

二人の間に重い沈黙が流れる。
ふと、エリオが口を開く。

「あの……ユーノさんは管理局が嫌いなんですか?」

「………なんでそう思うの?」

「ユーノさん、フェイトさんが管理局の話をしたら嫌な顔したから、それで…」

(……子供っていうのは見てるものなんだな。)

ユーノは大きくため息をつく。

「うん、嫌いだよ。この世でなによりも嫌いだ。」

「……………………………………」

「でも、そこで働いている人全員が嫌いなわけじゃないよ。フェイトとは長い間友達だし、クロノも……無茶なことばっかり言ってくるけどなんだかんだで友達を続けられてるし。」

エリオは不思議そうにユーノの顔を見る。

「言ってる意味がよくわかりません。」

ユーノはそれを聞いてクスリと笑う。

「今はわからなくても、そのうち僕が言ってる意味がわかるよ。」

ユーノはエリオの頭を優しくなでると立ち上がる。

「僕は洗いものがあるから、先にお風呂に入っていいよ。お風呂は廊下のつきあたりにあるから。」

そう言うとユーノはカラになった皿を持って再び台所へ向かう。
エリオは一足先に風呂に入るとこの家でユーノが使っているという部屋のベッドの上で眠りについた。







どれくらいの時間が流れただろうか。
エリオは外から聞こえる音で目を覚ました。
眠い目をこすりながら部屋の窓のカーテンを開けて外を見た。

「!」

エリオはそれの姿に思わず息をのんだ。
大きな盾と翠に輝く剣を持ち、マントを羽織ったユーノが月光浴びながらそれを振るっている。
空の上を滑るように動きながら両手の刃を振るう。
その姿はエリオには『武』というよりは『舞』に見える。
それほどまでにユーノの姿は美しかった。
ユーノは空中でバク宙をきめた時、エリオの姿に気付き彼のもとへと降りていく。

「ごめん、起しちゃったかな?」

「いえ、そんなことは……それより今のは?」

「ああ、これ?」

ユーノは苦笑しながら自分のバリアジャケットを引っ張る。

「ちょっとした訓練をね。もう習慣みたいになっちゃってて……眠るのを邪魔して本当にごめんね。」

「いえ、そんなことないです!すっごく綺麗でした!!」

エリオが突然大声を出したのでユーノは驚く。

「本当に綺麗で……そう、天使みたいでした!」

「天使、ね……ずいぶんと大層なものにたとえられたなぁ…」

ユーノは照れ臭そうに頬を掻く。
そんなユーノの気を知ってか知らずか、エリオはある決意をする。

「あの、ユーノさん!」

「ん?」

「僕に……僕に戦い方を教えてください!!」

「ええぇっ!!?」

「僕……あの時は確かに怖かったけど、それでも、フェイトさんやユーノさんに……誰かに守られてばっかりじゃいやなんです!!だから、僕に誰かを守るための戦い方を教えてください!!」

「いや、そういうことはフェイトに…」

ユーノはフェイトに任せようと思ったが、エリオの目を見て気が変わる。
エリオの決意に満ちた瞳。
そこに過去の自分をだぶらせた。

「………わかった。その代わりちゃんとフェイトに許可をもらうこと。それと、フェイトからも正規の魔法を教わること。いいね?それと今日はもう遅いからすぐに寝ること。」

「っっ!!はいっ!!!」

エリオは満面の笑みでうなずくとすぐに布団にもぐりこむ。
しかし、嬉しさによって興奮していたため、その夜はなかなか眠れなかった。










新暦75年 機動六課隊舎 食堂

「それで、その後よく稽古をつけてもらってたんです。」

「なるほどねぇ~。」

スバルはいつものメガ盛りパスタをフォークに巻きつけながらエリオの話に相槌を打つ。

「じゃあ、エリオ君はその時にユーノさんがガーディアンだって聞いたんだ。」

「まあ、そうなるね。」

「しっかし、意外だったわねぇ。噂のガーディアンがあんなのだったなんて。もっとゴツイのを想像してたのに。」

ティアナがコップに入った水を飲み干してテーブルの上に置く。

「まあ、それはいた仕方のないことだろうな。」

「シグナム副隊長!?」

ティアナ達は突然現れたシグナムに敬礼しようとする。

「ああ、楽にしてて構わん。」

「はい……でも、仕方がないってどういうことなんですか?」

スバルの問いかけにシグナムは大きくため息をつく。

「ユーノがR・A事件にかかわった時はまだ正規の局員じゃなかった。知っての通り、あの事件は管理局の人間が犯人だ。正義の味方を気取っている上の連中としては自分たちだけで始末をつけたことにしたかったのさ。しかし、どれほど事実を隠そうとも管理局の中までは手が回らなかったのだろうな。その結果、ガーディアンの噂はあいまいな人物像とともに局員たちの間だけでまことしやかに語られることとなった。だから、局員たちも誰がガーディアンなのかわからない。なんてことになったというわけだ。」

「なるほど…」

スバルは口にパスタの具のミートボールを放り込みながらうなずく。

「それに……」

「それに……?」

「いや……これは私が言うべきことではないな。」

シグナムはそういうと椅子から立ち上がる。

「邪魔をしたな。午後の訓練に備えてゆっくり休め。」

「「「「はい!!」」」」









ユーノの部屋

「あ~~、疲れた~~。」

「フフ、ご苦労さま。」

ベッドで大の字になるユーノになのはが笑いかける。

「あ~、ランスターさんたちに嫌われちゃったかなぁ?」

ユーノは寝返りをうつと枕に顔をうずめる。

「う~んとね、ティアナはちょっと素直じゃないところがあるけど基本的にはいい子だよ。」

「でも、あの後も声をかけてもらえなかったし……あ~!!どうしよう!!」

「大丈夫だよ。ほら、早く行って教導の準備をしなくちゃ。」

なのはに促されてユーノはしぶしぶ起き上がる。

「あ~あ、大体こういうのは僕は苦手なんだよなぁ……どうせならロックオンにでも……!?」

ユーノは自分が口にした単語に驚いて立ち止まる。

「どうしたの?」

「あ、なんでもない…」

「?変なユーノ君。」

ユーノは先に行くなのはを見送りながら頭の中に浮かんだ単語を並べていく。

(刹那……ロックオン……アレルヤ……ティエリア……。そして、エクシア……デュナメス……キュリオス……ヴァーチェ……。)

何のことかさっぱりわからない単語を脳内に並べ、じっくり吟味していくが、やはり何のことかわからない。

「……後で調べよ。」

ユーノは自分の中でそう完結させると、なのはの後を追いかけた。








スバルとティアナの部屋

午後の訓練を終え、ティアナよりも早く部屋の戻ってきていたスバルは家族への手紙を書いていた。

『拝啓、おとーさんとギン姉ぇへ。今日、すごい人が機動六課にやってきました。なのはさんの幼馴染で、婚約者で、すっごく強い人!最初は私たちのこと馬鹿にしてるって思ったけど、ホントはすごくいい人でした。それに、ちゃんと私たちの欠点を見つけて、それを指摘して……とにかく凄い人です!これから訓練がもっと厳しくなるかもしれないけど、あの人を見てもっと頑張ろうって思えました!機会があったらまた手紙書くね。』

スバルは一通り書き終えると大きく伸びをする。

「これで、良しと。フフフ……おとーさんとギン姉ぇびっくりするだろうな。なにせ、あのガーディアンがやってきたんだから!」










ミッドチルダ西部 陸士108部隊 隊舎

「もうユーノのあんちゃんは向こうに着いてるころか。」

ゲンヤ・ナカジマは湯飲みに入った緑茶をすするとテーブルの上に置く。

「きっとスバルは驚いてるでしょうね。」

ギンガ・ナカジマも自分の湯飲みに入った緑茶をすするとのほほんと息をつく。

「けど、あのあんちゃんのことだからいってそうそうに何か厄介事に巻き込まれてそうだな。」

「まさか。さすがにそこまでは…」

「ないと言いきれんのか?お前だってアイツと初めて会った時に一悶着あったじゃねぇか。」

「ひ、人が気にしてることを蒸し返さないでください!!」

ギンガは顔を真っ赤にして立ち上がる。

「ハハハ!!そう怒んなよ…って、おい!それはまだ飲みかけ…」

「知りません!!」

「おい!こら!ギンガ!!」

ギンガはゲンヤが飲みかけだった緑茶もお盆の上に乗せるとさっさと持っていってしまった。

「ちょっとからかっただけだろ、ったく。」











守護者の名を手にした青年
しかし、彼が守るものは彼を守護者と呼ぶ者が望むものとは違うことを誰も知らない








あとがき・・・・・・・・・・・という名のやっとまともなあとがきだな……

ロ「いろいろ未消化の部分をこなした第三話でした。」

ユ「またぶっ飛び設定が出てきたね。なにこの妄想分たっぷりの僕の二つ名。」

な「えっと……私はユーノ君ならどんな名までもかっこいいと思うよ。」

狸「はいそこ!こんなところでいちゃつかへん!!このはやてさんがいるかぎり甘甘展開は禁止や!!」

な「ちっ…」

ユ「なんか、なのはがどんどんブラックになっていってるような……」

ロ「気のせいだ。それより今回からまたゲストを招待していくぞ。今回は00の主人公、俺がガンダムだ!刹那・F・セイエイだ!」

刹「久しぶりだな、ユーノ。」

ユ「久しぶり……って、僕まだ記憶がないのにここで出していいの?」

ロ「あとがきだからむしろOK。」

刹「だそうだ。」

狸「ほな、解説にいこうか~。」

な「今回は模擬戦とエリオとの馴れ初め、そして、ユーノ君が実は有名人なことが発覚!」

ロ「少しやりすぎた感があるけどさらにぶっ飛んだ設定も出てくるので皆様お覚悟を(^_^;)」

狸「これ以上のはもうかなりヤバいと思うんやけど?」

ロ「無理を承知でねじ込む!!」

刹「そんなことをしていると読者から愛想を尽かされるぞ。」

ロ「あ、ごめんなさい。できるだけソフトにやってみますんで見捨てないで。」

ユ「日和った!!」

な「しかも早い!!」

ロ「俺はプライドなんてどぶに捨てちまってるのさ。」

狸「何カッコ悪いことカッコよく言おうとしてんねん。」

刹「いつものことだ。」

ユ「じゃ、これ以上ロビンが情けない姿をさらす前に次回予告にいこうか。」

な「自分にコンプレックスを抱くティアナはスバルとともに無茶な自主練を続ける。」

ユ「そしてついに事件が起こる!」

狸「対峙するユーノ君となのはちゃん。」

刹「今、悲しい戦いが幕を開ける。」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお寄せください!じゃ、せーの……」

「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」



[18122] 4.歪んだ想い
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/09/21 18:13
?????

『デュナメス、出撃する!!』

駄目だ……行っちゃ駄目だ……!!

『GNアーマーで対艦攻撃をしかける!』

やめろ……やめてくれ……!!

『ハロ、悪いがつきあってもらうぜ。』

行くな……!!行ったら君は!!

『アリー・アル・サーシェス……!』

行くなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!







ユーノの部屋

「ユーノさん!ユーノさん!!」

「ッッッ!!!!ハァッハァッ!!!!!!!」

スバルに揺さぶられてユーノは飛び起きる。
パジャマ代わりのランニングシャツもズボンも汗でびっしょりと濡れて皮膚にくっついていて気持ち悪い。

「大丈夫ですか!?」

「スバル……なんでここに…?」

「教導の時間になっても来ないから心配で見に来たんですけど……ずいぶんうなされてましたよ?」

「ごめん……もう大丈夫だから……」

ユーノはガンガンと痛む頭を押さえながら立ち上がる。

「けど……」

「本当に大丈夫だから……なのは達には少ししたら行くって伝えておいてくれるかな?」

最後まで心配そうに何度もこちらを振りかえるスバルを送り出すとユーノは机の引出しにしまってあったウォッカの瓶を取り出して蓋をあけて一口飲む。
喉にしみわたる焼けつくような熱さをしっかりと感じながら先ほどの夢を思い出す。

(いつもの夢と違う……)

宇宙の中を進む青と白のカラーリングの艦。
そして、そこにいた右目に眼帯をした男性。
知らないはずの人間なのに、どこか懐かしく、そして…

「……?」

ユーノは自分の目元を触って濡れていることに気付く。

「僕は……泣いてるのか……?」

なぜかはわからない。
けど、さっきの男性の顔を思い出すととても悲しい気持ちになってくる。
そして、同時に自分が生きる世界への怒りがわいてくる。

(……なんでなんだろ。)

ユーノは思い出そうとするが、シャツが肌に張り付く不快感が邪魔をしてなかなか思い出せない。

「……シャワー浴びよ。」

ユーノは考えることよりも、汗を流してこの不快感を取り除くこと優先することにした。









魔導戦士ガンダム00 the guardian 4.歪んだ想い

訓練場

「じゃあ、午前の分はここまで。また午後にね。」

「「「「はい!!」」」」

教導を終えたティアナ達は疲れた体で隊舎にある食堂を目指す。

「結局ユーノさん終わりにしか来なかったね。」

スバルが残念そうにつぶやくとティアナは肩をすくめる。

「戦うのが上手くても人に教えるのは苦手なんでしょ。」

「でも、なんだかシャマル先生に無理やり連れて行かれたみたいでしたけど。」

キャロが上を仰ぎながら考え込む。

「そう言えば……なんかあの時のシャマル先生、いつもと違ってわよね…こう、なんというか、黒いものが背中からこう……」

ティアナはユーノがシャマルに連れて行かれた時のことを思い出して身震いをする。

「……なんか、どうでもよかったはずなのにすごく心配になってきた。」








医務室

ユーノは二日連続で正座をしていた。
医務室にはユーノとシャマルの二人きりだ。
二人きりなのだが、医務室のなかは中身がなみなみと残された酒瓶で埋め尽くされている。

「ユーノ君、これはどういうことなのかしら?」

「これは、その……なんというか、あの、まあ、一種の睡眠薬みたいなものでですね、なかなか眠れない時にこれを飲むと安眠を得られるというか……」

「あらあら、ずいぶん変わった睡眠薬ね……それもこんなに……ユーノ君はこんなに睡眠薬を用意して自殺でもする気なのかしら?」

「いえ、むしろ今あなたに殺されないかが不安です。」

ユーノは人間がこれほどまで冷や汗をかけるのかという量をたらしながら必死の弁解を試みる。
ミッドでは18以上で成年であり、酒類を飲んでも問題はないのだが、ユーノが飲む量は常軌を逸しているものがあった。
夜、寝ていたかと思うとうなされて起きると酒を口にする。
ひどい時にはそれを繰り返し一晩で酒瓶を5つ空にして朝に倒れているのを見つけられ、病院に担ぎ込まれたこともあった。
そんなことがあってからシャマルはユーノに禁酒するように言っているのだが……

「そのですね、僕もやめようとは思ったんですよ?ほら、ここって未成年も多いですし。」

「じゃあ、なんで持ってきたのかしら?私、ずいぶん前から口を酸っぱくしていってますよね?このままだとアルコール中毒になるって。だからしばらくは酒類は控えるようにって?この間アグスタで出会ったときにも言いましたよね?」

「い、いや……その、実はヴァイスさんに頼まれまして。」

「あらあらそうなの。でも、どうやってヴァイス陸曹からそんなこと聞いたのかしら?」

「それは、ほら!以心伝心っていうやつですよ!それさえあれば多少離れていたって!」

シャマルはにっこりと笑う。

「へぇ、そうなの。」

「はい!アハハハハハハハハハ!」

「ホホホホホホホホホホホホホ!」

「ハハハハ………ハ……」

ユーノの笑いが消えていく。
そのわけは、凄まじい魔力を目の前で放つシャマルだ。
そして、次の瞬間シャマルがクラールヴィントを起動する。

「ユーノ君!!!!!!!!!」

その日、医務室から緑の光があふれていたことはユーノ以外知らない。









「反省しましたか?」

「……はい。」

精神的にボロボロの状態でユーノはうなずく。
シャマルはその様子を見てため息をつくが、今度は机の中から青い錠剤の入った瓶を取り出す。

「はい、これ。もうそろそろ切れるころでしょ。」

「ありがとうございます。」

ユーノはまじめな顔に戻るとシャマルから錠剤を受け取ろうとする。
だが、シャマルはさっとその錠剤をユーノの手から離す。

「……いつまでみんなに隠しておく気なの?」

「……ずっとですよ。僕が死ぬその日まで。」

シャマルの顔に先ほどよりも激しい怒りが浮かぶ。

「あなたはどうしてそんなに他人事みたいなことが言えるの!?自分の体のことなのよ!?」

「だったら、大人しく局の研究所に行ってモルモットになってでも長生きしろって言うんですか?」

「そうは言ってないわ!!ただ、みんなにあなたの傷のことを…」

「言えばみんなそろって僕を研究所送りにするでしょうね。」

「そんなこと…」

「ないって言いきれるんですか?」

ユーノの問いかけにシャマルは黙ってしまう。
ユーノはシャマルと目もあわさずに彼女の手から薬をとる。

「それと、一つ言っておきます。」

ユーノが扉の手前でシャマルのほうを向く。

「僕はみんなと友人のつもりですけど、あくまで管理局のためだけに僕と接するのなら、みんなは僕が最も嫌悪する人間になることを忘れないでください。」

いつものユーノらしくない、突き放すような声にシャマルはそれ以上何も言えずに彼の背中を見送ることしかできなかった。






廊下

「どういうこと……?」

ティアナは廊下の角に隠れながらユーノを見送る。
先ほどのシャマルの恐ろしい姿から、ユーノが心配になったティアナは医務室の前まで来ていた。
そして、先ほどの会話を聞いていた。

「ユーノさんの傷……?それに、研究所送りって……」

どうにも穏やかな話ではなさそうだ。

(たぶん、聞いても教えてくれない……だったら。)

ティアナは自らの手で調査をすることを決意する。
それを隠すことが、ユーノにとってどれほど重く、悲壮な覚悟であるかも知らずに。








訓練場

「ティアナ、センターガードはあんまり動かない。基本的にできるだけ敵を撃ち落として対処すること。」

「はい!」

ティアナは向かってくるターゲットに対して膝を地面につけて狙いを定めると引き金を引く。
こちらに向かってくる球体が弾けて散っていく。
訓練校でもやった基礎中の基礎だ。
すべて撃ち落としたところでユーノはうなずく。

「お見事。少し狙いが甘いのがいくつかあったけど、この調子なら百発百中なんていうのもすぐだよ。」

「ありがとうございます……」

ティアナはユーノに頭を下げるとすぐにその場を離れようとする。

「……僕が射撃を教えてたら、変かな?」

ティアナは足を止めて振りかえる。

「いえ、そんなことは…」

「隠さなくていいよ。でも、僕が一番君の射撃の型に近いからね。」

「でも、ユーノさんは…」

戸惑うティアナにユーノが苦笑する。

「なのはたちみたいな砲撃や誘導弾は使えないけど、狙撃に関してはそこそこ自信があるんだ。」

「はぁ……」

「だから、今は信じてくれないかな?」

「はい。ただ……」

「ただ?」

「なんでこんな基礎的なことばっかり……私はもう少し実戦的なことを教えてもらいたいんです!」

ユーノは熱く語るティアナを見てクスクスと笑う。

「それがなのはに言えないこと?」

ティアナはハッとして首を慌てて横に振る。

「い、いえ、そんなことは!!」

「隠さなくていいよ。君がそう思うのも無理はないと思うから。」

「え…?」

叱られると思っていたティアナは予想外の答えに思わず呆けてしまう。

「ティアナは確か執務官志望だったっけ?」

「はい。」

「そっか……。じゃあ、頑張りたいのもよくわかるよ。でもね、あんまり君たちくらいで無理をするといいことなんて何もないからね。なのはもそう言ってただろう。」

「?なんのことですか?」

ユーノはティアナの言葉に首をかしげる。

「なのはは、みんなは君たちにあの事を言ってないの?」

「いえ……だから何のことなんですか?」

「…………………………………」

「あの、ユーノさん?」

口元に手を当て、急に表情を厳しくして考え込むユーノ。
しかし、ティアナに話しかけられてすぐにいつもの温和な顔に戻す。

「ん?ああ、ごめん。まあ、多分そのうち話してくれると思うから。それまではなのはのことを信じて待っててくれないかな?」

「?……はい。」

ティアナは不審に思いながらも返事をする。

(そうだ……ついでに。)

今度はティアナからユーノに問いかける。

「そう言えば、ユーノさんはどうして無限書庫で働いてるんですか?ユーノさんくらい強かったら、どんな部隊でやってけそうな気がするんですけど?」

「ああ、それはもともと僕がスクライア族の出身だからかな。本を読むのも好きだし、論文を書いて発表する人間としてはいろいろ知識を詰め込めるのも魅力的だね。」

「本当にそれだけですか?」

ティアナがさらにつっこむ。

「何か頻繁に戦うことができない理由があるんじゃないですか?例えば……体に不都合があるとか。」

ティアナはユーノに揺さぶりをかける。
ユーノは確かに呆気にとられるが、すぐに笑う。

「僕は残念ながら健康そのものだよ。………シャマルさんには酒を控えろってよく言われるけどね。」

「そうですか……(流石にそう簡単には尻尾を掴ませてくれないか。)」

「ただ……」

「?」

「あえて理由を挙げるとしたら管理局が嫌いだからかな………そう、この世から消し去ってやりたいくらいにね……!!」

「!!!!!!」

ユーノの顔を見たティアナはゾッとする。
笑っている。
笑っているのだが、見たこともないような冷たい笑み。
そこには優しさなどかけらもなく、まるで視線で人を突き刺しているようだ。

「な~んてね♪」

しかし、ユーノはすぐにいつもの顔に戻る。

「本当に無限書庫が好きだからって以外に理由はないよ?まあ、執務官志望のティアナとしてはいろいろ深読みしたいのかもしれないけど、あんまりなんでもかんでも疑うと嫌われちゃうよ。」

「は……はい……」

ティアナは必死で体の震えを抑え込んでいた。
少しでも気を抜くとこの場ですぐにでも倒れてしまいそうだった。









?????

今、ユーノの目の前には宇宙が広がっている。
誰もが一度は憧れを抱く、夢の場所。
だが、実際はどこまでも果てしなく広がる闇が自身を飲み込み、生かしては帰すまいとしているようだ。

そんな宇宙の一角に、ある物が漂っている。
青い砲台の残骸のようなもの。
それは火花が散っていて、今にも爆発しそうだ。
そのそばに誰かがいる。
深緑のスーツを着た男が力なく漂っている。

(助けなきゃ!!)

ユーノは足元にあるペダルを踏んで自分が乗っているなにかを一気に加速させる。

(届け……!!届け!!)

もう少しで届く。
助けることができる。
だが、

(!!?なんで!!?なんで止まるんだ!!)

急に動きがとまってしまい、それ以上進むことができなくなってしまう。

(動け!!動けよ!!動いてくれ!!)

その間にも、砲台は小爆発を起こし始める。
そして、男が銃の形にした手を何かに向けた瞬間、爆発で起きた炎が彼を飲み込んだ。









ユーノの部屋

「ああああああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!!!」

ユーノはベッドから飛び起きる。
体中が汗まみれだが、それよりも翠の瞳からこぼれる涙がベッドを濡らしていく。

「もう、朝か……」

白み始めた空の薄い光が窓から差し込んで、部屋の中を照らしている。
これ以上眠ることができないと考えたユーノはソリッドを持って訓練施設へと向かった。








訓練施設

誰もいないビルの屋上で、ユーノはコンソールを叩くと遥か彼方の海上に的を出現させる。
そして、ソリッドをコントロールして中から白く、長い銃身のライフルを取り出す。
ユーノは一度だけ大きく息を吸い込んで吐き出して息を止めると、ライフルの上についたスコープを覗きこむ。

「……狙い撃つ。」

ユーノの指が引き金を引く。
翠色の流星が空を駆け抜け、的を射抜く。
ユーノは中に仕込まれていたカートリッジをボルトアクションで排出すると、その後も止まらずに引き金を引いていく。
翠の弾丸が空を駆け抜けていくたびに、的が一つずつ減っていく。
そして、すべての的が消えたところでユーノは目の前に表示された数字を見る。

『Hit rate 100%』

それを見たユーノは肺の中にためていた空気を外に送り出す。
ユーノがライフルをしまっていると、遠くから物音が聞こえてくる。

「だれかいるのかな?」

ユーノは音のする方に行ってみる。
すると、ティアナとスバルがいた。

(自主練ね……やり過ぎはよくないって言ったばっかりなのに。)

しかも、それだけではない。
ティアナは慣れない魔力刃をクロスミラージュの先に生成して、近接戦闘の練習をしている。

(ありゃりゃ……)

その姿にはキレがなく、お世辞にも上手く動けてるとは言えない。
だが、

「すごいよティア!!きっとなのはさんたちビックリするよ!!」

「うん!!」

スバルとティアナは上手くいっていると思っているようだ。

(そりゃあビックリするよ。喧嘩やってんじゃないんだから……って、僕も人のこと言えないか。)

自分の戦い方もかなり無茶なものであることは理解している。
だが、彼女たちはそのことを理解していない。
そこがユーノとは決定的に違う。
ユーノは自分を、そして誰かを傷つける覚悟を決めている。
そう、本当の殺し合いをする覚悟ができている。
一方、彼女たちからはそんなものがまったく感じられない。
だからこそ、喧嘩の域を出ないのだ。

(ま、そんな覚悟決められても困るけど。)

そんな覚悟を決めるのは自分だけで十分だ。
でなければ、あの時のエレナやロックオンのように……

「!!?またか……」

ユーノは頭を振ると目を閉じて先ほど浮かんだワードを思い出す。

(ロックオンとデュナメス……これはもう思い出してた。問題は、エレナとシルト……。今までの組み合わせもどうやら何かと何かの名前の組み合わせみたいだな。最初はそれぞれ独立した何かかと思ったけど……なにせ『ロックオン』に『刹那』だもんな……)

ユーノはさらに自分の持つ情報と結び付けて深く考えようとする。
しかし、その時。

「ユ~ノさん!」

「うわっ!!」

突然声をかけられて目を開けるとすぐ目の前にスバルの顔があった。

「ユーノさんも自主練習ですか?」

「スバル……君は女の子なんだからもう少し振る舞い方に気をつけなよ。」

「?なんでですか?」

「言っても無駄ですよ。昔からこうですから。」

ティアナも諦めとユーノへの同情をこめた眼差しを向けながらやってくる。

「それよりもユーノさんはなんの練習をしてたんですか?」

「ん?ああ、少し早く起きたから狙撃の練習をね。」

「え!?ユーノさんそんなこともできるんですか!?」

スバルは目を輝かせながらさらに近寄る。

「ちょ、近い!近いってスバル!!」

「こら、ユーノさんが困ってるでしょ。」

ティアナはスバルの首根っこを引っ張ってユーノから引きはがす。

「ありがとう。」

「どういたしまして。ところで、さっきの見てたんですよね?どうでした?」

珍しくティアナは上機嫌でユーノに聞いてくる。
だが、

「ああ、あれね。正直いただけないな。」

よほど自信があったのか、ティアナとスバルは唖然とする。

「あんなお遊びで満足してるんなら今すぐ局員なんてやめるんだね。命がいくつあっても足りやしないよ。」

「……んで…」

「?」

「なんでそんなこと言うんですか!!?ちゃんと普段の教導もこなしてます!!それと一緒に自主練習をやっちゃいけないんですか!!?なんで自主練習でやってることまでなんで否定されなくちゃいけないんですか!!?」

スバルが怒鳴るのをユーノは黙って聞いている。
ティアナはと言うと下を向いたまま拳を震わせている。
ユーノは大きくため息をつくと二人を見て頭を掻きながら質問をする。

「じゃあ、一つ聞こうか。なんで君たちはそんなに急いでいるの?」

「え……?」

「君たちはまだ若いだろ?なんでそんなに急いで力をつけていく必要があるの?」

「それは…」

「急いで身につけた力は上っ面のものだよ。本当に強い人間に当たれば、そんなメッキはあっという間にはがれる。それに、無理をすれば強くなる前に君たちが壊れることになる。」

「でも!!」

スバルはまだ何か言おうとするが、ユーノはさっさと背を向ける。

「……どうやら、なのはは話してくれなかったようだね。」

「え?」

二人の顔を見ることなく、ユーノは隊舎へと歩いていってしまった。








駐機場

ユーノは結局、その朝の教導にはいかなかった。
ヘリなどが格納されている駐機場に行って自分のバイクをいじっている。

「それで、結局ティアナ達は聞く耳持たず。今頃あの喧嘩殺法を自慢げに披露してるでしょうね。」

「へぇ、そんなことがあったんスか。」

ヴァイスは背を向ける形でヘリの整備をしながらユーノの話を聞いている。
軍手はすでに油で汚れているが、ヴァイスは構わずにそれで額の汗を拭い、一息つきながらユーノのほうを見る。

「うん。それに、あの後なのはに会いに行こうとしたんだけどなかなか会えなかったんですよ。あの子たちがあの調子だから、てっきりもう話してくれてるものだと思ってたんだけど……」

「俺もこないだ見かけて忠告はしたんですけど……。俺らぐらいの世代じゃなのはさんとユーノさんのあの話は有名なんすけど、ティアナ達ぐらいじゃ知らなくて当然でしょうね。」

「でも、あれを見たら流石に話す気になるでしょうけどね。あの調子だと僕らの二の舞ですよ。」

ユーノもレンチを持ったまま立ち上がってヴァイスのほうへ苦笑いを向ける。

「けど、ティアナの気持ちも俺はわかる気がしますけどね。」

「と言うと?」

「ティアナの兄貴は局員だったんスよ。割と優秀だったんスけど、ある事件で犯人に逃げられて本人もその時の傷で……」

「そう……」

「んでもって、その時どこぞのド阿呆が役立たずなんて言いやがったそうですよ。」

ヴァイスも無理に軽い口調で言おうとしているが、その声から怒りが滲み出している。

「ユーノさん、俺らは一体何のために戦ってんスか……?上の連中のためですか?本当に救うべき奴らのためには何もできないのに、連中の勝手に振り回されていくしかないんスか?……自分の手で大切な奴から光を奪っちまって、それでも自分にも何か変えられるんじゃねぇかって思って、引き金も引けなくなっちまったのに未練たらしくここにいる俺は一体なんなんスか!!?」

「ヴァイスさん……」

「俺だって、八神部隊長やなのはさんみたいに、必死に局を変えようとしてる人がいるくらいわかってますよ……。でも、それでも、この世界がそんなことで変わんのか疑っちまう自分がいるんですよ!!」

独白が終わると、ヴァイスはヘリに頭と拳をつけて頭を冷やす。

「……スンマセン。ちょっとムキになりすぎました。」

「……いえ、僕もおんなじことを考えてますよ。」

ユーノは再び自分の愛車のほうを向いてかがむと車体をいじり始める。

「僕も無限書庫で、そんな人たちを助けられたらって思ってますけど、今みたいな話を聞くとやっぱりヴァイスさんみたいに考えることは多いですよ。でも、だからって信じることをやめちゃそこまでじゃないですか。」

ユーノは立ち上がり、ヴァイスのほうを向く。

「だから、僕は最後まで信じてみることにしたんです。本当に絶望しきるまで、この世界を。」

「……そうっすか。」

「年下が偉そうなことを言ってすいません。」

「いやいや、年下にんなこと言われる俺に問題ありなんスよ。」

二人はクックッと笑って作業を再開する。
だが、そこへアルトが飛び込んできた。

「ヴァイスさん!!ユーノさん!!大変です!!ティアナとスバルが!!」

「「!!!!」」

二人の脳裏に無茶をしたティアナが失敗をして怪我をする姿がありありと浮かぶ。

「ユーノさん、行ってください!!」

「はい!!」

ユーノは愛車の整備もそっちのけで訓練場へと走っていった。








訓練場

ユーノがそこについた時には何もかも手遅れなのがすぐにわかった。
ただ一つ予想外なことは、なのはがティアナを訓練で撃墜していたこと。

「……フェイト。これはどういうことなの?」

「ユーノ!!ティアナが訓練通りの動きをしなくて……それで、あんなことに……」

「そんなことを聞いてるんじゃない。」

ユーノは冷たい声で言い放つ。
ヴィータはその声にびくりと体を震わせるが、語気を荒げて話す。

「なんで君たちはなのはを止めようとしなかったの?」

「なんでってそれはティアナ達が!!」

「あの事を……なのはが自分の教導の意味を言っていないのに?」

「それは……」

「……もういい。」

ユーノはフェイト達に捨て台詞を吐く。

「君たちも上の連中と同じ……自分の考えをただ相手に押し付けているだけだ。」

「な!?」

ヴィータは心外だと言いたげな顔をするが、その場にユーノはもういなかった。









「あ……あ……!!」

スバルはその場から動けないでいた。
バインドをかけられているがそのせいではない。
今のなのはから感じる異常なまでの威圧感。
そのせいで、体中がまるで金縛りにあったように動こうとしない。

「……スバルも頭冷やそうか。」

なのはの指先に光が集まっていき、スバルへと放たれる。
しかし、

「プロテクション。」

スバルの前にプロテクションを張ったユーノが立ちはだかり、なのはの一撃を防ぐ。

「ユーノさん!?」

「だから言っただろう……バカ。」

ユーノの一言にスバルは俯く。

「……なんで邪魔するのかな?」

「わからないのか?だから君もバカなんだよ。」

ユーノの辛辣な言葉にもなのはは表情一つ変えない。

「スバルたちが言うことを聞かないから、少し頭を冷やそうとしただけだよ。何がいけないの?」

「話し合いもせずに一方的な暴力で相手を押さえつけるのが君の教導なのかい?」

「言ってもわからないような子に何を言っても無駄でしょ?」

「……そうかよ!」

ユーノは左の掌に短い魔力刃を発生させてなのはに投げつける。
なのはは防御しようとするが、魔力刃が速すぎて間に合わず右頬に傷ができる。

「……何するの?」

「僕が甘かったよ。まさか君がここまで馬鹿だったなんて思いもしなかった…!!」

その瞬間、ユーノから凄まじい殺気が放たれる。

「あ…ぅ……!?」

スバルはプレッシャーで息ができずに悶える。
そして、それは離れているエリオたちにも言えることだった。









ユーノが殺気を放った瞬間、エリオとキャロは何かを背負わされたように両膝をつく。

「グ……ァ……!!」

「う……!!」

エリオとキャロは今まで感じたことのないほどのプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。

(体が…重い……!!)

(押しつぶされる……)

フェイトとヴィータが何か叫んでいるが二人にはそれすら聞きとれない。
そして二人の意識はそのまま闇に沈んでいった。









「邪魔だ。」

ユーノは煩わしそうに自分の後ろにいるスバルと撃墜されたティアナを転送してこの場から離す。

「なんで邪魔するの……?私は正しいことをしてるのに……もう、あんなことにならないように頑張ってたのに!!」

〈Mode Release〉

なのははカートリッジを排出するとレイジングハートの先に魔力刃を発生させる。

「もう、あんなのは嫌だって頑張ってたのに!!」

「違う!!」

ユーノもアームドシールドに魔力を纏わせる。
首にかけているジュエルシードもユーノの怒りに同調するように光を増していっているように見える。

「なのはは自分のエゴを押し付けているだけだ!!その歪み、僕が打ち砕く!!」

ユーノは足元で魔力を爆発させてなのはへと突進していく。
なのはも小細工なしでその一撃を受け止めるが、勢いに負けて後ろに押されていく。

「なんでティアナ達のあの日のことを言わない!!言っていればティアナ達だってあんな無茶はしなかったはずだ!!」

「言う必要なんてない!!あれは私の犯したミスであってユーノ君のせいなんかじゃない!!もうユーノ君が誰かに責められるのなんて見たくない!!」

「この……大馬鹿野郎!!!!」

ユーノはなのはの腹を蹴り飛ばすが、なのははひるむことなく空中で停止をかける。

「セイクリッドクラスター!!」

〈Sacred Cluster〉

なのはから放たれた巨大な魔力の塊は途中で複数の奔流に分かれてユーノへと襲いかかる。
だが、ユーノはそれを撃ちおとそうとも、かわそうともせずにまっすぐ魔力の塊の中心へと突っ込んでいく。

「セイクリッドクラスターは途中で分かれて広域の敵に攻撃するためのものだ!!魔力が分かれた中心に向かえば当たらない!!そう…」

ユーノが大きくアームドシールドを振りかぶる。

「つまりなのはのそばだ!!」

「クッ!!」

なのははユーノの斬撃をかわすが、ユーノはすぐさま滑るようになのはの背後に回ると脇腹を蹴り飛ばす。

「あぅっ!!!!」

ミシミシと嫌な音を立ててなのはがビルの壁に叩きつけられる。
だが、すぐさま壁から離れると空高く舞い上がる。

〈Break THE Chain〉

なのはがそれまでいたところに萌黄色の鎖が食い込み、爆発する。
なのははそれを見て少し動揺するが、すぐさま次の一手をうつ。

「ディバインシューター!!」

〈Divine Shooter〉

ユーノの前にいくつもの魔力弾が展開されるが、ユーノは防御もせずにその中につっこんでいく。

「そんなことしたら狙い撃ちだよ!」

桃色の凶弾がユーノに迫るが、ユーノはアームドシールドを振るってそれらを切断していく。

「こんなものでどうにかなるとでも……」

「思うよ。」

「!!」

ユーノは自分の真下から近づいている魔力弾を見逃していた。
腹部に衝撃がはしり、なのはに距離をとられる。

「がぁ!!」

「ユーノ君のためにしてるのになんでわかってくれないの!!?みんなのためにやってるのになんでわかってくれないの!!?」

「グッ!!……少なくとも……今、なのはがやってることはみんなのためじゃない……!!そんなこと世界中が認めても、僕が認めない!!今のなのはは、あの日僕から父さんを奪った奴らと何も変わらない!!!!」

「違う!!」

〈Excellion Buster〉

「グッ!!」

レイジングハートの先から衝撃波が放たれユーノの動きを止める。

「これで……おしまい!!」

レイジングハートの先に桃色の魔力が圧縮されていく。

「ブレイクシュート!!!!」

「なめるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

ユーノは見えない拘束を破り、アームドシールドを前に出す。

「絶対たる守護の盾よ!!」

〈Absolute Aegis〉

ユーノの前に巨大な五重の魔法陣が展開され、煌々と輝きを放ちはじめる。

「「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!」」

強烈な光の柱と巨大な五重の盾がせめぎ合い、あたりのものを薙ぎ払っていく。

「うああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「グウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!」

そして、遂に均衡が崩れた。
ユーノの盾の初層が貫かれ、誰もがなのはに軍配が上がったと確信するが、第二層にエクセリオンバスターが当たった瞬間、それがなのはへと跳ね返っていく。

「きゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

なのはは自分の魔法に吹き飛ばされていくが、それだけでは済まない。
アームドシールドをバンカーモードに切り替えたユーノがなのはの腹部にそれを押し当てる。

「バンカー、バースト!!」

〈Assault Bunker〉

魔力によって押し出されたバンカーが叩きつけられ、なのははそのままコンクリートでできたビルの屋上にめり込んだ。
衝撃で内臓に損傷を負ったため、口からは血が一筋流れていく

「は……あ……!!」

ぼやけた視界のむこうでユーノがアームドシールドを再びブレードモードに戻している。
そして、

〈Kill mode on〉

非殺傷設定を解除する。

「おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」

「よせ!!ユーノ!!」

周りから制止の声がかかるが、ユーノは止まらない。
なのはの喉もとに切っ先を突き立てるべく、加速していく。

(間に合わない!!)

止めようと飛び出したヴィータ達だったが、到底間に合いそうにない。
そして、ガツンと堅いものに刃が突き刺さるような音がする。

だが、刃が刺さっていたのはなのはの喉ではなく、その隣のコンクリートの床だった。

「あ……ああ…………!!ああぁぁ……!!」

ユーノはその姿を見たことがあった。
口から血を流したツインテールの少女。
自分が守ることができなかったその少女の姿となのはの姿が重なる。

「い…やだ…!!」

「……?」

なのはは目の前で動揺し始めるユーノを不思議そうに見つめる。

「いやだ……!いやだいやだ………!!いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ!!!!!!」

ユーノは武器を手から離して頭を押さえて苦しみ始める。
その目は焦点が合わず、せわしなく動き回っている。

「もう…何も守れないのは……!!!!!何かを失うのは嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

ユーノは頭を押さえながら後ろに後ずさる。
なのははその隙を見逃さなかった。
右手に持っていたレイジングハートをしっかりと握るとユーノへと突き出す。

「!!?駄目!!なのは!!」

「ディバイィィィィィン、バスターーーーーーーー!!!!!!」

桃色の光がユーノを飲み込む。
その威力に押されたユーノは向かい側のビルの上に放り出され動かなくなる。
そして、なのはも今の一撃で力尽きたのか前のめりに倒れ込んだ。

「なのは!!ユーノ!!」

ピクリとも動かない二人の指に輝く指輪が日の光を浴びてこの場にあわないほど美しい光を放つ。










機動六課周辺 海上

「あげゃげゃげゃげゃ!!ずいぶん本調子に戻ったようだが、まだまだ足らねぇな……お前の力はそんなもんじゃねぇだろ!!」

空中で胡坐をかいて二人の戦いの様子を見ていたロバークはニタリと笑う。

「あらあら……覗き見とはずいぶんと悪趣味ねぇ。」

ロバークの後ろの空間が揺れたかと思うと、そこから眼鏡をかけ、二股のおさげをした少女が出てくる。

「フン!覗き見が趣味の女に言われたかねぇな。」

「だってぇ、私も興味があるんだもの。ドクターが未来を託すと決めた人たちがいる部隊がどんなものか。で・も……」

眼鏡の少女はわざとらしくハァ~と大きくため息をつく。

「あ~んなおバカさんたちに任せちゃっていいのかしら?これなら元テロリストのあなたのほうがよっぽどマシに見えてくるわぁ。」

「あげゃげゃげゃ!他の奴らは知らねぇが、少なくともアイツが全開状態で本気になったらお前らが束になってもかなわねぇよ。」

「あら、ずいぶんなこと言ってくれるじゃない。」

眼鏡の少女は笑みを崩さないが、少し語気を強める。

「あんな奴、私とドゥーエ姉様がいてくれればどうとでもなるわ。」

「ま、そいつはおいおい確かめるんだな。それより、今晩の準備はできたのか?」

「ええ。」

眼鏡の少女が笑う。

「あの部隊の戦力なら余裕で片付けられるレベルを揃えたわ。それより、本気でいくの?実力を測るならガジェットで十分……」

少女の言葉をロバークの人差し指が遮る。

「自分で見て、判断し、行動する。」

ロバークは少女の口元から指を離す。

「そうしてこそ世界は変えられる。この歪んだ世界のルールを決めてる奴へと近づける。」

「ふ~ん……まあ、いいわ。あとはお好きにしなさいな。私は一足先に帰ってるから。」

少女の姿が再び蜃気楼に包まれるように消えていく。

「機動六課……この世界を変えようとしてる奴らがいる部隊……俺様にお前らのすべてを見せろ!!あげゃげゃげゃげゃげゃ!!!!」









その後、二人は気絶したティアナとともにシャマルの待つ医務室へと搬送された。
互いに傷つけあい、ボロボロで倒れたその姿が二人の未来を暗示していることは、まだ誰も知らない。










あとがき・・・・・・・・・・・・・という名の山場その一終了

ロ「VS魔王編でした。」

KY「まさか相打ちとはねー。」

ツン2「しかも英語のつづりがわからずうろ覚えで魔法名を書いたというお粗末。」

エリ「とどめにレイジングハートのそれぞれのモードもうろ覚え。使える魔法もネットで調べてようやくなんとかなったなんて……ねぇ、これどうするの?」

ロ「……これからDVD借りてきてAsから観直します。」

天然「それでもいろいろつっこみどころが出てきそうだなぁ。」

ロ「極力そうならないように努めますが、そうなった場合はお手数ですがご指摘をお願いします!!」

KY「それじゃあ今回のゲストを呼ぼうか。今回のゲストは孤高の狙撃手、実はロリコン!?ロックオン・ストラトスさんです!え、て言うか本当にロリコン!?」

兄「そんなわけあるかぁぁぁぁぁ!!!!俺はバリバリ大人のお姉さんが大好きの健全な大人だぁぁぁぁ!!!」

ツン2「近寄らないでくれません?」

KY「キャロ、エリオ!近寄っちゃ駄目だよ!!妊娠させられちゃうよ!!」

天然「え!!?なにするんですかあの人!!?」

エリ「て言うか僕男なんですけど。」

兄「ムカツクゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!なんなのこいつら!!?」

ロ「前にはやてが撮った(そして編集した)映像を見せたらこうなった(笑)」(わからない人はfirstの第十六話のあとがきを見てみよう)

兄「なにしてんだてめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

ツン2「そこの犯罪者さん、騒がないでくれません?」

兄「違ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁう!!弁明を求める!!」






三十分後

ツン2「ま、まあ、そんなことだとは思ってましたけど。」

KY「う、うん。八神部隊長も人が悪いよ。」

兄「さっき人のこと犯罪者呼ばわりしてたくせにどの口でそんなことが言えるんだ?」

「「「「すいませんでした。」」」」

兄「よろしい。」

エリ「あの、そう言えばロビンは?」

兄「狙い撃っといた。」

ツン2「ああ、そう……」

KY「じゃあ、諸悪の根源がいなくなったところで解説へゴー!」

天然「今回はなかなかいろいろときついところがたくさんありましたね。正直感想見るのが怖い。」

ツン2「なによりなんかいろいろフラグがたったぽいんだけど。」

エリ「いろいろってなのはさんとユーノさんが将来的に対立するとこだけじゃないんですか?」

兄「甘いな少年。よく読んでみればもう一つあるフラグがたっているのだよ。」

KY「え!?あ!!ホントだ!!」

天然「みなさんもお気づきの方が多いと思いますがあの人が☓☓☓☓☓になるフラグです。」

ツン2「キャロ、その言い方だといろいろマズイから。」

天然「?なにがですか?」

ツン2「……いや、私が汚れてるだけだってことがよくわかったわ。」

天然「???」

兄「そんじゃ、ここらで次回予告にいくぞ。」

KY「医務室に運ばれたユーノさんとなのはさん!」

天然「そんな中、突如海上にガジェットが出現する!」

ツン2「傷は浅かったものの、なのはさんは周りから待機するよう言われる。」

エリ「ティアナさんとなのはさんの和解。そして、ユーノさんの傷の秘密が明らかに!」

兄「そして、ユーノとなのはを残してガジェットの迎撃に向かったヴィータ達の前にあの男が現れた……」

エリ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!ご意見、感想、応援がありましたらどうぞお聞かせください!じゃ、せーの……」

「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」



[18122] 5.和解と狂気と……
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2011/01/17 00:59
?????

晴れ渡った空とどこまでも広がる海の青が映える中、そこに浮かぶ一隻の艦の上は悲しみに包まれていた。

『すまねぇ…ユーノ…エレナを守ってやれなくて……!!』

大きな傷を負った少女を抱くユーノの後ろで深緑のスーツを着た男性とオレンジのスーツを着た青年が俯いている。

『そんなことない。約束通り、エレナとこうして会えた。』

ユーノが震える声で男性の言葉を否定する。
そう、彼のせいではない。
すべては自分のせい。
あの時、止めようとしなかった自分の……

『ユー…ノ…』

少女は涙を浮かべながらただ息が喉を通りぬけていくようなか細い声で話し始める。

『ごめん…ね。失敗、しちゃった……』

『違う!俺が…俺が止めていればこんなことには…!』

『ねぇ…ユーノ…知ってた………?私、あった時から……ずっと、ユーノのこと…好き、だったんだよ…?』

少女は体の痛みに耐えながら必死で笑顔をつくる。
その姿が、そして、そんな彼女の告白がユーノの胸を締め付ける。
なぜもっと早く気付いてやらなかったのか。
気付いていれば、こんなことにはならなかったのに。

『キス…して……?っかは…!最後くらい、わがまま……きいて……』

ユーノは涙も拭わず少女と唇を重ねる。
自分の着ているものも、顔も、口の中も血で汚れていくがそれでもユーノはやめない。
だが、少女の体から力が消えた瞬間、口づけをやめて少女の顔を覗き込む。

『エレナ……?』

少女は笑顔のまま動かない。

『エレナ…?エレナッ!?エレナッッッ!!!』

何度も体を揺さぶって少女を眠りから起こそうとする。
目の前の現実を受け入れまいと必死で叫ぶが、それでもどうにもならない。

「ッッッ!!!!あああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!!!」

ユーノは少女の亡骸を抱きしめてあらん限りの声を出して叫ぶ。
その時、ユーノには自分の大きな声に混じって『ありがとう』という少女の声が聞こえた気がした。









機動六課隊舎 医務室

ユーノはベッドの上で静かに目を開ける。
寝ているときに泣いていたため枕が涙で湿っぽい。
だが、それよりも重要なことがあった。
今まで思い出したワードが線でつながっていき、ユーノにはっきりとそれを思い出させた。

「僕は……ソレスタルビーイングのガンダムマイスター……世界の……敵……」

ユーノは起き上がると手元にあった緑の宝石を見る。
あの日の悲しみと引き換えに手にした力を模したもの。

「ガンダムソリッド……誰かを守るための力………。なのに、僕はそれでなのはを……!!」

幸いユーノの独白は医務室に誰もいなかったため聞かれることはなかった。
だが、それがユーノにとって幸いだったのかどうかは、本人しか知らない。








魔導戦士ガンダム00 the guardian 5.和解と狂気と……

ヘリポート

ユーノが目を覚ましていたころ、機動六課の面々は海上に出現したガジェットたちの迎撃に向かおうとしていた。

「今回は空戦だから出るのは隊長陣だけだ。出るのは私、テスタロッサ、そしてヴィータだ。」

「え!?」

シグナムがあげた出撃する人間の中に自分が入っていないことになのはは戸惑う。

「フォワードはティアナ以外ロビーで待機。ティアナは出動待機から外れていろ。」

「そんな……」

ショックを受ける二人にシグナムが眉間にしわを寄せながら言葉を続ける。

「まったく……うかつだったよ。もう少し訓練以外のところで話し合いをしておくべきだったな。」

「私なら出れます!!怪我も大したことはありません!!」

「私だっていけます!!」

「この……ドあほども!!」

ヴィータが飛びあがってなのはとティアナの後頭部を平手ではたく。

「お前らは話し合わなくちゃいけねぇことがあんだろうが!!それもできてないくせに何いっちょ前の口きいてやがる!!」

ヴィータに怒鳴られて二人は互いの顔を見合わせる。

「……ティアナ、頼むから無茶しないでくれよ。もう、あんな思いすんのは嫌なんだよ……!」

「ヴィータ副隊長……」

ヴィータの泣きそうな声にティアナは目を丸くする。
正直、ヴィータがこんな顔でこんなことを言う人物と思っていなかった。

「なのはも話してやれよ。こいつらはあんな奴らとは違う。きっとわかってくれるって。」

「ヴィータちゃん……」

「もしも~し、そろそろ行きますよー!」

ヘリからヴァイスに声をかけられて三人はそのままヘリへ向かう。

「意外だったな。」

「なにがだ?」

「いや、お前があんな風に誰かのフォローに回るなんて珍しいと思ってな。なんだかんだで教官らしくなってきているということか。」

「……なんか引っかかる言い方だな。」

ヴィータはシグナムの言葉に顔をしかめる。

「……ま、こいつはあたしなりの責任の取り方ってやつだよ。」

「?」

「ユーノに言われたんだよ。今のあたしたちは上のお偉いさんと変わらないって。あの時はムカついたけど、少しして事実そうかもしれないって思ったんだ。」

「まあ、訓練以外のコミュニケーションが少し不足していたのは確かに否めないな。」

「そうじゃねぇんだ。」

「「?」」

シグナムとフェイトは首をかしげる。

「あたしも心のどっかで新人どものことを信じちゃいなかったんだ。だから、自分の考えだけ一方的に押し付けて……ハハッ、情けないよな。教え子のこと、全然信じてやれないなんてさ。」

「ヴィータ……」

フェイトは夜空を見上げるヴィータの背中を見つめる。
その背中は今にも泣き出しそうなのに、必死でまっすぐ立っている。
そんな印象を受けた。

「おいおい、お前らまでしけた面すんなよな。」

ヴィータは大きく伸びをしてヘリに乗り込む。

「これから憂さ晴らしにいくんだ。もうちょいテンション上げてこうぜ。」

先ほどの沈んだ表情から一転、からからと笑うヴィータに二人は苦笑いをしながらヘリに乗り込んだ。










ロビー

「むかしむかし、ある世界のある街に一人の女の子がいました。」

ロビーに集められたティアナ達は静かに語り始めるなのはの言葉に耳を傾けている。

「その女の子は、偶然にもその世界にない力、魔法の力を手にしていろいろな事件にかかわっていきました。」

なのはとティアナ達の間にかつてのなのはたちの映像が映される。

「どの事件も悲しくて、辛いものだったけど、女の子はそれを乗り越えるたびに大切な人たちと出会い、少しずつではあるけど強くなっていきました。けど、女の子は救えなかった人たちのことを想うと悔しくて仕方ありませんでした。そこで、女の子は無茶な特訓を始め、それを続けました。そして……」

画面が切り替わる。
そこに映されているのは雪が降るなか、背中に傷を負い、焼けた地面の前で泣き叫んでいる幼いなのはと、それを支えるヴィータだった。

「ある任務で日ごろの無理が祟り、実力の半分も出せなかった女の子は大きな失敗をしました。取り返しがつかない、大きな失敗を……」

再び場面が切り替わり、かつてのユーノの写真が現れる。

「女の子は、自分を好きだと言ってくれた人を……そして、自分も大好きだった人をその失敗で失ってしまいました。」

「そんな!!?」

キャロが立ち上がる。

「そんなはずありません!!だってユーノさんは今ここに!!」

興奮するキャロをすぐそばにいたシャーリーがなだめる。

「最後まで聞いていて。そうすれば何がどうなっているのかわかるから。」

「はい…」

「もう、話し始めていいかな?」

キャロは深くうなずく。

「大切な人を失った女の子はとても後悔しました。何度も死のうと考えました。でも、その人は管理局に故郷を奪われても、家族を奪われても必死で生きてきて、どういう思いで自分を助けてくれたのかを知って、もう一度空を飛ぶ決意をしました。でも……」

再び場面が切り替わる。
今度はなのはが自分よりも身長が大きい大人の局員に何か叫んでいる。

「周りの大人たちは、何度も事件を解決して有名だった女の子の失敗をすべてその人のせいにすることにしました。女の子は許せず、何度も抗議をしました。でも、大人たちはその有名な女の子の名声が地に堕ちることを恐れて、態度を変えませんでした。」

膝の上にのせているなのはの両拳が悔しさで震える。

「……本当は私のせいなのに……上層部は私の与える影響を考慮して、ユーノ君にすべての責任を押し付けて事実を隠蔽した……!!それを聞いた人たちも、何にも知らないくせにみんなそろってユーノ君のことを罵った!!私がそれは違うって言っても、どんなに本当のことを話しても信じてなんてくれなかった!!」

なのはは泣きながら想いをぶちまける。
そして、ひとしきり喋った後大きく息をつく。

「………ごめんね、みっともないとこ見せちゃって。」

「いえ…」

スバルは首を横に振る。
スバルたちの目にも涙がたまっていて、今にも零れ落ちそうだ。

「女の子は、大切な人の無実を証明するために、そして、もう誰かが自分のように大切なものを失うことがないように彼が言っていたように無理な訓練をやめ、人に魔法を教える立場になった後も無茶な訓練はさせないようにしました。そして、そんな日々を過ごしながら三年の月日が流れたある日のことでした。」

画面の画が再び切り替わる。
そこには頭に包帯を巻いた長い髪のユーノがベッドの上から窓の外を見ている。

「ある任務で訪れた世界で、大切な人は成長した姿で戻ってきました。でも、その先に待っていたのは厳しい、本来ならあるはずのない現実でした。彼が退院して元いた部署に戻ると、そこを訪れた人は口々に彼を非難しました。嫌がらせも続きました。幸い、その部署の人たちは彼の人柄をよく知っていたので味方になってくれましたが、それでも嫌がらせが終わることはなくいまだに続いています。」

「そんな…!」

エリオはショックだった。
自分が尊敬しているユーノがそんな目にあっていることなど全く知らなかった。
おそらくユーノが自分を気づかって言わなかったのだろうが、エリオにはそれが辛かった。

「それでも、その人はいつも笑ってこう言いました。『自分にできることを続けていけば周りは変えていける。いつまでもありもしないことに振り回されるほど、人は愚かじゃないって信じてる。』と……。女の子もその言葉を聞いて、その人の汚名を雪ぐために頑張ることを決意しました。でも……」

なのははティアナを見つめる。

「ごめんね、ティアナ、スバル。信じてあげられなくて……。本当は一番最初に言わなくちゃいけないことだったのに……!」

「なのはさ……!!」

泣きじゃくる二人に歩み寄り、なのはは優しく抱きしめる。
二人を抱きながらなのはも泣いている。

「ごめんね……!!ごめんね……!!」

「私…たちも…!!ごめん、なさい……っ!!」

なのはの腕の温かみを感じながら、ティアナとスバルは決意する。
この人たちの、なのはとユーノの想いを決して裏切らないようにすることを……










医務室

ユーノは自分の記憶を取り戻せたことに喜びなど感じられなかった。
戻った記憶自体もまだまだ曖昧で、人物の顔は浮かぶのだが名前が出てこないものがいくつもある。
だが、それでも自分がどこで何をしていたのかは大体思い出せていた。
そう、なのは達のところに戻ってくるつもりがなかったことも。

「………戻らないと。」

おそらく自分が最後に乗っていた機体、ソリッド、そして相棒の967もこちら側の世界に来ているはずだ。

「なんとか探し出して……」

ユーノはベッドから降りて行動を開始しようとするが、足を床につけたところで立ち止まる。

「探し出して……どうするんだ………?」

あれからすでに4年の歳月が流れているのだ。
世界が、そしてソレスタルビーイングがどうなっているのかわからない。
それに、見つけたところで向こうに戻る手段はどうするのか。
前は奇跡的にジュエルシードの力で二度もこちらとあちらを行き来したわけだが、今度も上手くいくとは限らない。
そもそも、ソリッドが今どこにあるのかもわからない。
こんな状況ではどうしようもない。
かといって、このままなのは達のところにいるわけにもいかない。

「打つ手なし、か………」

ユーノは再びベッドに腰掛ける。

「………ここに僕の居場所はない。」

ポツリとつぶやく。
すると、急に壮絶な孤独感に襲われる。
こちらの仲間のそばにいることができない。
向こうの仲間のところには戻ることもできない。

「なら……僕の居場所はどこにあるんだ……?」

ユーノの問いに答える者はいない。
だが、答えを持っているであろう者はいる。
鋭い猛獣の目に、独特の笑い方をするあの男。
名前はいまだに思い出せないが、向こうにいた記憶の中に奴も確かに存在している。

「ロバーク・スタッドJr……」

奴がここにいるということは、彼がジュエルシードを用いずに何らかの方法でここに来たということになる。
となると、彼と接触できれば向こうに戻れるかもしれない。
でも、

「いまさら戻って、何ができるっていうんだ。」

もう向こうには仲間が一人もいない可能性もあるのだ。
世界だってすでに統合されているかもしれない。
そんなところに戻って自分に何ができるのか。

「どこに行っても一人、か……」

ユーノはベッドに寝転がりこれからのことを考える。
模擬戦であろうことか非殺傷設定を解除してなのはを殺そうとしたのだ。
おそらく、みんな自分のことを受け入れてくれはしないだろう。
下手をすれば自分のことを目の上のたんこぶに思っている上層部の連中が出てきて刑務所行きになるかもしれない。
さらに、傷のことがばれればモルモット。
とどめにあの事まで知れ渡ればもう間違いなくろくな死に方はできないだろう。

「………逃げるか。」

あてなどないが、それでもここでジッとしているよりははるかにましだろう。
ユーノは手早く着替えてポケットにソリッドを入れると、窓を開けて右足をかける。

「これじゃホントに犯罪者だな………いや、事実そうか。なにせ世界に喧嘩を売った世紀の大テロリストなんだから。」

ユーノは苦笑しながらそのまま空に飛び出そうとする。
だが、

「「駄目ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」」

「へ?」

ユーノの体にピンクと緑色の輪がいくつも巻きつく。

「うわわわわわわわわ!!?」

バランスを崩したユーノは後ろに倒れ、凄まじい勢いで後頭部を強打する。

「いだだだだだだだ!!!!!?頭割れた!!もう絶対脳みそ見えてるって、これ!!」

簀巻き状態でゴロゴロ転がりながら悶絶するユーノに三人の人影が駆け寄る。

「駄目よユーノ君!!なのはちゃんは何ともないから自殺なんかしちゃ駄目!!」

「ごめんねユーノ君!!私が悪かったから飛び降り自殺なんてやめて!!!」

「ユーノさん駄目ですよ!!これ以上なのはさんを悲しませないでください!!!私も反省しましたから自分で命を絶つなんてやめてください!!!!」

窓に足をかけているユーノを見て、飛び降り自殺をしようとしていると勘違いをしたシャマル、なのは、ティアナがユーノの顔をバシバシと容赦なく叩く。
幸い、ユーノの独り言は聞かれていなかったようだが、どの道これでは……

(ご……拷問……だ………)








十分後

「ご、ごめんなさいね!あんなことの後だったからてっきり私!」

顔にあるいくつもの赤く腫れた箇所をさするユーノにシャマル達は深々と頭を下げる。

「いや、さすがに僕もそんなことで死にたくはないですよ。」

ユーノが乾いた笑いをこぼすたびにシャマル達はバツの悪い顔をする。

「でもじゃあ、何しようとしてたんですか?」

「え!!?そ、それはその……」

「……逃げようとしてたんでしょ。」

なのはの一言にユーノは固まる。

「やっぱり。」

「なんで逃げようとするんですか!?」

「………君たちは人殺しをしようとした人間と一緒にいたいのかい?」

ユーノは大きくため息をつく。
おそらくこの一言で決まりだろう。
最悪、拘束しようとするかもしれないが比較的戦闘力の劣るシャマルかティアナを人質に取って逃げ出そう。
ユーノはそう考えていた
だが、

「いいよ。」

なのはの言葉にユーノはポカンとする。

「私はユーノ君と一緒にいたい。」

「でも、僕はなのはを……」

「今日の教導であったことは私が勝手に無茶をして失敗した。そういうことです。」

ティアナの笑った顔を見てユーノはすべてを理解する。

「そっか……聞いたんだ、あの話を。」

「はい。だから、今度はユーノさんが話してください。」

「?」

「……ユーノさんの傷って何なんですか?それに、研究所送りって。」

「!!?」

ユーノは驚いてシャマルのほうを向くが、シャマルは静かに首を振る。

「この前、私たちが話しているのを聞いていたみたいなの。それで、あの話が終わった後なのはちゃんにも言っちゃったみたいで……」

「……他のみんなにこのことは?」

「言ってません。」

「そう……」

ユーノは自分の座るベッドに手をついて天井を見る。

「………これから見ることは他言無用だよ。」

そう言うとユーノは自分の服を脱ぎ始める。
ティアナとなのはは顔を赤くして目をそらすが、ユーノがシャツをめくったところで、わき腹に目が釘づけになった。

大きな円形の傷跡の横に、薄く皮を削がれたような傷跡が脇腹を回って背中まで続いている。
傷のふさがり方も、傷のある場所がふさがったと言うよりも傷の周りの皮膚がそこを覆っているような感じだ。

「もう四年もたつけど、この傷は完全にはふさがっていない。それどころか、細胞分裂が起こっていないらしい。傷自体は周りの皮膚がふさいでくれたけど、ここから少しずつ同じ症状が体に広がっていっている。もう内臓の一部にまで進行してて、いずれは完全に内臓の機能が停止する。おまけに原因不明で治す方法もわからない。」

「そんな……」

なのはは最初青ざめるが、すぐに顔を赤くして怒りだす。

「どうして言ってくれなかったの!?言えばすぐにでも……」

「このことが局の関係者が知れば間違いなく研究対象になるだろうからね。僕としてはそんなのお断りだよ。それに……」

ユーノは泣き出しそうななのはの顔を見つめる。

「言えば、なのはがそんな顔になっちゃうってわかってたからね。できれば、なのはにはずっと笑ってて欲しかったから。」

「ユーノ君……」

「それに、クラナガンの病院がシャマルさんと一緒に症状の進行を抑える薬を作ってくれたからね。これを飲んでればちょっとは長生きできると思うよ。」

ユーノは青い錠剤の入った瓶を振りながら笑う。

「だからこのことはそんなに気にする必要なし。ティアナはこの傷のせいで僕がやりたいことができないでいるって思ってるみたいだけど、全然そんなことないから心配しなくていいよ。……さて、と。」

ユーノはベッドから立ち上がる。

「みんなも心配してるだろうから少し顔を出してくるよ。」

「ユーノ君!!」

扉の手前まで行ったところでなのはが声をかける。

「……どこにも…行かないよね?もう、いなくなったりしないよね?」

「……ああ、もう消えたりしないよ。」

ユーノはそれだけ言い残すと廊下に出ていく。

(みんな……もう少しだけ、僕はここにいてもいいかな?近いうちにけじめはつけるから、もう少しだけ幸せな日々を過ごさせてほしいんだ……)









クラナガン 海上

「おりゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

ヴィータは怒号とともにグラーフアイゼンを振りおろして最後の一機を叩き落とす。

「これで終わりか。ずいぶん簡単に片付いたな。」

「たぶん、私たちの能力をはかろうとしてたんだと思います。」

「それにしたってやけにあっさりしすぎじゃねぇか?この程度じゃあたしらが本気にならないことぐらいわかるだろ。」

三人は顔を突き合わせて話しこむ。
その時、

「!!ヴィータ、後ろだ!!」

「!?クッ!!」

シグナムの声に反応してヴィータはグラーフアイゼンで何かを受け止める。

「あげゃげゃげゃげゃげゃげゃ!!!!ガキが遊びまわる時間じゃねぇぞ!!」

「なっ!!?テメェは……!?」

ヴィータは刃を防ぎながら襲撃者の顔を見て驚く。
ユーノがいなくなってから見続けていた夢にしばしば登場していた男。
猛獣のような赤い瞳に牙のような八重歯。
そして、まるで爆発音のような独特の笑い方を聞き間違えるはずがない。

「おっらあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「おっとぉ!!」

ヴィータは渾身の力でグラーフアイゼンを振り抜き、男を弾き飛ばす。

「なんでテメェがここにいるんだ!!フォン・スパーク!!」

「!?何を言っているんだヴィータ!その男の名はロバーク・スタッドJr……」

「ちっと黙ってろそこのでかパイ。」

「な!?」

ロバークの言葉にシグナムは顔を真っ赤にして怒るが、ヴィータとロバークは睨みあったまま動かない。

「アイツがお前に教えたのか?」

「答える義理はねぇな。今度はこっちの質問だ。なんでお前がミッドにいる?」

「ハン!答える義理はねぇな。」

「そうかい……。だったら……」

ヴィータがロバークへと飛び出す。

「力づくで聴きだすまでだ!!」

まっすぐ振り下ろされた鉄槌をロバークは後ろに滑ってかわす。

「アイゼン!!」

〈Explosion!〉

薬莢が排出され、グラーフアイゼンの鎚の片側から突起が飛び出し、もう一方からは推進機のようなものが飛び出し、火を吹き始める。

「カートリッジシステムか……何度見ても強引な代物だな。」

ヴィータは推進機の産む勢いを利用してハンマー投げの選手のようにグルグル回りながらロバークへ向かっていく。

「ラケーテンハンマーーーーー!!!!!」

「あげゃ!!」

ロバークは剣を使ってヴィータの一撃を受け止めるが、その瞬間剣に大きなひびが入る。

「ハッ!!でかい口叩いてわりにはそれで終わりかよ!!」

ヴィータがさらに押し込むと剣のひびはさらに広がっていく。

「フン!ガキのわりにはなかなかやるじゃねぇか。だが……」

ロバークの口元に凶暴な笑みが浮かぶ。

「『フェレシュテ』、モード・チャリオット。」

〈了解。〉

突然、ヴィータはそれまで感じていた手応えを失い前につんのめる。

「な!?どこに行きやがった!!?」

「ヴィータ、後ろ!!」

フェイトの声に振り向いた瞬間、何かの先端がヴィータの腹部に突き刺さる。

「ウアアアァァァァァァァァァァァ!!?」

ヴィータはそのまま押し切られて海面に叩きつけられ、そのまま沈んでいく。

「ヴィータ!!!!」

フェイトは慌ててヴィータのもとに行こうとする。

「待て、テスタロッサ。」

「シグナム!?なにを…!?」

シグナムが指し示す方を見ていると海面に泡が浮かんできている。
そして、

「プアッ!!死ぬかと思った!!」

そう言って海面から出てくるヴィータのわき腹に薄く傷はあるものの、致命傷ではなさそうだ。

「咄嗟にシールドを張ったか。殺すつもりでいったんだがな。」

「ベルカの騎士をなめんな。この程度でどうこうなるほどやわじゃねぇ。」

そう言いながらヴィータは形態が変わったロバークのデバイスを観察する。
先ほどの巨大な剣ではなく戦闘機の姿をしたボードに乗っている。

(まるきり形が違う……あの戦闘機、たしかアブルホールだったか…?)

夢で見ただけだが、あの先端に突き刺されてやられていったものたちの姿を見ているため、あと少しで自分もそうなっていたかと思うとゾッとする。

(それにしても、あのデバイスの本体はどこだ?さっきの剣かと思ったけど、だとしたら破壊してたはずだ。)

「あげゃ。そろそろ本気を出すか。」

ロバークは足をボードに固定する。

「行くぞフェレシュテ!!」

(了解。GN Booster〉

ボードは一気に加速して三人の視界から消える。

「速い!!」

「けど!!」

フェイトはいち早くロバークの影を捕えると自慢のスピードで追跡を開始する。

(たしかあの女は執務官の……なるほどな、スピードなら確かにアブルホール形態のフェレシュテより少し上回るな。)

(ホントに速い!私が今まで戦ってきた中では間違いなく一番速い!でも、追いつけない速さじゃない!!)

ロバークはフェイトが追いついてきたところを見計らって旋回する。

〈Vulcan Phalanx〉

ロバークの乗るボードの先端部から小さな魔力弾が無数に飛んでくる。
しかし、フェイトも急上昇をすることでそれをかわす。
だが、それがロバークの狙いだった。

「フェレシュテ、モード・スター。」

ロバークの乗っていた戦闘機が消え、今度は手元に狙撃銃が現れる。

「な!?」

「あげゃ、硬直時間が長すぎるぜ!!」

ロバークの放った光弾がフェイトに迫る。
だが、

「させるか!!」

シグナムとレヴァンテインがその一撃を弾き飛ばし、連結刃をロバークへと向かわせる。
だが、ロバークはニタリと笑う。

「フェレシュテ、サブマージェンス。」

〈了解。耐圧フィールド展開。潜航限界深度60m。限界時間は十分。〉

ロバークは飛行魔法を解いてどんどん落ちていく。
そして、大きな水柱とともに海中に沈んだ。

「逃げられないと悟って自害したか……?」

その時、シグナムの後ろの海面から光弾が飛び出してくる。

「!!?クッ!!」

シグナムは振り向きざまに防御するが、今度は別の場所からフェイトとヴィータにも紅蓮の弾丸が飛んでくる。

「水中から狙撃!?」

「マジかよ!!」

三人は見えない敵からの攻撃に翻弄される。

「チッ!!フェイト、シグナム!野郎を海中から引きずり出せ!!あたしが決める!!」

「わかった!!」

「承知!!」

シグナムのデバイス、レヴァンティンから炸裂音とともにカートリッジが排出される。
フェイトの周りにも数えきれない金色の魔力弾が浮かんでいく。

「火竜……一閃!!」

炎を纏った連結刃が海面へと叩きつけられ周囲の海水を熱湯へと変える。

「フォトンランサー!!」

さらにその周りに無数の電撃弾が降り注ぐ。

「チィ!!」

ロバークはたまらず海中から飛び出してくる。

「そこだぁぁぁぁ!!!!」

ヴィータは飛び出してきたロバークへと急接近すると渾身の力でグラーフアイゼンを振り下ろす。

「ぐおぉぉっ!!」

ロバークは右肩に叩きつけられたハンマーを睨みながら呻く。
だが、すぐさま持っていた銃をヴィータの眉間へと向ける。

「クッ!!」

ヴィータは首をひねって銃弾をかわすが頬に浅く傷ができる。
ロバークはヴィータが態勢を崩した隙に大きく離れる。

「殺さずの信条を守ってるわりにはやるじゃねぇか。」

「次はその面を潰してやる!」

「残念だがそりゃ無理だな。」

ロバークの足元に魔法陣が展開される。

「転送!?」

「させん!!」

三人はロバークへと殺到する。
だが、

『転送座標固定。いつでもいけます。』

「あげゃ、ナイスだ874。……それじゃあな、機動六課。」

魔法陣が消え、それとともにロバークも虚空に消えた。

「クッソー!!逃げられた!!」

悔しがるヴィータだが、シグナムとフェイトは彼女に詰め寄る。

「ヴィータ、アイツを知っているのか?」

「どこで彼のことを知ったの?」

「そ…それは……」

言えない。
奴のことを話せばユーノが今まで何をしてきたのかまで話さなければなくなる。

「…………………………」

「なぜ黙っている。答えろ、ヴィータ。」

「ねぇ、教えてヴィータ。お願い。」

「悪い、言えねぇ。」

「ヴィータ!!」

「言えねぇもんは言えねぇんだ!!!」

「「!!」」

ヴィータは大声で叫んだあと、黙ってヘリまで戻っていく。

その後、隊舎まで戻るまで三人の間に会話はなかった。









?????

「珍しいな。お前が傷を負わされるなど。」

銀色の長い髪に右目の眼帯が特徴的な少女が右肩を押さえたロバークに話しかける。

「ひびははいってねぇから大丈夫だ。モード・スターの耐圧フィールドが幸いしたな。それにしてもなかなか面白い奴らだったぜ。」

ロバークは笑いながらはずれた肩をはめ込む。

「そんな傷を負わされてよくそんなことが言えるものだな。」

「こんなもん傷のうちに入らねぇよ。傷ってのはこういうもんを言うんだ。」

ロバークは首の傷跡を親指で指しながら笑う。
銀色の髪の少女は呆れたようにため息をつく。

「そのレベルの傷を負ったら普通は死んでいる。」

「フン。戦闘機人のくせに情けないこった。」

「体が丈夫だろうとなんだろうと首が吹き飛ばされれば死ぬぞ。」

「だが、俺は生きている。」

「それはお前が異常なんだ。」

「不毛な会話はそこまでにしておけ。」

奥から長身の女性が現れ、二人の会話を遮る。

「フォン、ウェンディからのご指名だ。行ってやってくれんか?」

「ケッ、なんで俺があんな小うるさいガキの相手をしなくちゃならねぇんだ。」

「フェレシュテのモード・チャリオットはウェンディの戦闘スタイルと似ているからな。」

「親近感でもわくってか?俺なら同族嫌悪を起こすがね。」

「まあ、そう言わず行ってやってくれんか?姉からも頼む。」

「チッ……!」

ロバークは舌打ちしながらも笑みを浮かべて訓練スペースへと向かっていく。

「……なんだかんだで奴もウェンディのことは気にいっているようだな。」

「素直ではないんだろう。それより、プルトーネの修理は終わったのか、トーレ?」

「ああ、874とドクターが不眠不休の突貫作業を行ったこともあってなんとかな。」

「そうか……じゃあ、例のものを奪還するのももうすぐか。」

二人はそのままロバークの背中を見送る。

「……トーレ、私は姉失格だな。」

「どうした、急に。」

「本当のことは言わずに妹たちを戦わせようとしている。ドクターとの約束とは言え、どうしても、な……」

「……やめたいか?」

銀色の髪の少女が笑う。

「まさか。あの管理局の連中にひと泡吹かせられるのなら喜んでこの身を悪に染めよう。だが、何も知らないあの子らには幸せをその手に掴んでほしいんだ。」

「大したわがままだな。」

「お前の妹だからな。少しぐらいのわがままは許してもらいたいものだ。」

「ほぼ同時に生まれたのに妹も何もあったものではないがな。」

「それもそうだな……さて、私はノーヴェの様子を見てくるか。」

そう言うと二人はそれぞれの場所へ向かおうとする。
その時、

『うわあぁぁぁぁぁぁん!!!チンク姉ぇぇぇぇぇ!!!フォンがいじめてくるッス!!!!』

『あげゃげゃげゃげゃげゃ!!!!おらおら!!その程度じゃすぐに蜂の巣だぞ!!!!』

その後、少女の叫びとともに通信が途絶える。

「……助けに行くか。」

「だな……」

二人は盛大に肩を落とし、今度は訓練場の修復にどれくらいの手間と物資が浪費されるかを考えてさらに肩を落とすのだった。










守護者、自らの使命に目覚める
だが、その手元に真の力はいまだ戻らず








あとがき・・・・・・・・・・・・・・という名の実際チンクは結構苦労してると思う

ロ「和解&VSフォン編でした。」

チンク(以降 姉)「いきなりだけどチンクだ。ようやく出番が来たと思ったらこんな役回りだ。」

ユ「まあ、そこのところの文句はフォン……じゃなくてロバークに言って。」

ヴィ「いまさら隠しても意味ないと思うぞ。一話ですでにフォンって呼ばれてるし、今回私が大暴露しちまったからな。」

姉「そんなことはどうでもいい!!なぜ私がこんな役回りなのだ!!」

ロ「ああ、だってナンバーズの常識人(ウーノ、トーレ、チンク)は他のいろいろぶっ飛んだ奴らの世話が大変そうだと思ったからここでも無茶苦茶苦労するけど結局いろいろ世話しちまう、みたいな感じにしてみた。」

姉「何を勝手にそんな妄想を繰り広げている!!そんなことは……」

ユ・ヴィ「「???」」

姉「………あるかも。」

ユ・ヴィ「「……なんかすいません。」」

ロ「さあ、こいつらがへこんだところで今回のゲストの登場だ!!なんと今回は二人で登場だ!!両極端な性格で大変、だけど俺たちは二人で一人に超兵だ!アレルヤ・ハプティズムとハレルヤ・ハプティズムだ!」

ア「そのネタずいぶん前に君からNGが出なかったっけ!!?」

ハ「気にしたら負けだぞアレルヤ。アイツを☓☓☓☓☓したほうが早い。」

姉「姉も手伝おう。」

ロ「……なんか生命の危険を感じるので早めに解説に行きたいと思います。」

ユ「なんとか和解。そして、僕の傷の秘密判明。」

ヴィ「前回と合わせてちょっと苦しい展開だけどな。」

ハ「それよりテメェら三人いるんだからあの俺様野郎にてこずってんじゃねぇよ。」

ヴィ「だってあんなデバイスインチキじゃん!!デバイスの本体一体どこにあんだよ!?しかもフェレシュテの全ガンダムの能力使えるなんて完璧チートだろ!!」

ロ「でも設定的にはフォンの潜在魔力はそれほど高くはないってことにしてるからな。それでもあれだけ押されたのはお前らが魔法にばっか頼ってるからだ。」

ア「でもそこ言われたらミッドの皆さんはどうしようもなくない?」

ロ「だから00の連中に最初はボッコボコにされるんだ。(予定)」

姉「そう言えば機動六課側から行く奴は大体わかってきたけど、ナンバーズからは誰が行くんだ?」

ロ「それは次回かその次あたりで明らかにする予定だ。」

姉「……姉はいいとして、他の奴らが自分じゃないとわかったら間違いなくお前を殺りにくるぞ。とくにドゥーエとか、クアットロとか、セインとか、ノーヴェとか……」

ヴィ「もうぶっちゃけ常識人でない奴ら全員でよくね?」

ロ「よくねぇよ!そんなんなったら俺確実に死ぬぢゃん!!」

姉「まあ、頑張れ。」

ロ「チンクさぁぁぁぁぁぁん!!?あなた止めようと思えば止められますよね!!?あの変態マッドサイエンティストと頑張れば何とか……」

姉「無理だ。」

ユ「ご愁傷様。」

ヴィ「まあ、軽くミンチだろうな。」

ハ「なんなら俺がその前にお前を殺ってやる。」

ロ「俺作者だぞ!!?何この横暴なキャラクターたち!!?」

「「「「「お前(君)がいつもやってることだ。」」」」」

ロ「……スンマセン。」

ユ「作者をきっちりへこませたところで次回予告に行きます。」

ヴィ「次回はオリジナルストーリー!」

ア「ユーノの出生の秘密が明らかに!」

姉「こんなぶっ飛び設定だすなぁぁぁ!!!という方々はごめんなさい!」

ハ「しかも、ユーノは基本的に戦闘には参加せず。しかもほとんど出番もない(笑)」

ユ「え!?どういうこと!!?僕主人公だよね!!?」

ロ「感想にお前がやりすぎってのがたくさん来てたから………じゃないけど、ここらでsecondにむけていろいろ伏線はっときたいところがあるんだよ。それにはお前は次回邪魔なの。」

ユ「………なんか釈然としないけど、締めに行きます。今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!では、せーの……」

「「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」」



[18122] 6.19年前からの亡霊
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/09/05 23:54
八年前 はやて宅

「いまさらだけどお前って結構綺麗な顔してるよな~。ホント、着る服何とかすれば女で通るんじゃねぇか?」

ヴィータはユーノに出したアイスとは別の味のアイスを食べながらまじまじとユーノの顔を見つめる。

「……それ、はっきり言って嫌味にしか聞こえないんだけど。」

「いや、そういうつもりじゃなくてホントに綺麗だと思っただけだよ。」

ヴィータはアイスを口に運ぶ。
冷たさとバニラの香りが広がり、何とも言えない心地よさに身をゆだねる。

「でも、確かにユーノ君の髪も目も綺麗よね~。金色の髪に翠の眼をしてて本当にお人形さんみたい。」

「だからそういう風に言われるのは嫌いだって言ってるじゃないですか。」

抹茶味のアイスをスプーンですくうシャマルにユーノは拗ねたように口をとがらせる。

「まあ、ミッドや他の次元世界では金髪や翠の瞳は珍しくはないが、お前の瞳は他のものとは少し違って見えるな。」

シグナムが薄いピンクの中に赤い粒が入ったアイスを食べ終えるとユーノの瞳を改めて見てみる。

「『緑』というよりは『翠』というべきだな。草や木よりも宝石の類の色合いに近いように見えるな。」

「あの……そんなにまじまじ見られると恥ずかしいんですけど。」

「ああ、すまん。……しかし、昔どこかでそんな目を見たような……」

「ほらほらシグナム。ユーノ君が恥ずかしがっとるやんか。その話はそこまでや。」

はやては車いすを動かしながら膝の上のお盆にみんながアイスを食べ終えて空になった皿をのせていく。

「…………………」

「?どうした、ユーノ。」

ヴィータがボーッとしていたユーノに話しかける。

「いや……すこし、調べたいことができたからもうお暇するよ。」

「急ぎの用なのか?そうでないなら、もう少しゆっくりしていったらどうだ。」

「ありがとうございますザフィーラさん。でも、私用だから仕事に差し支えない時にやっておきたいので。それじゃ。」

ユーノは八神家全員におじぎをすると玄関へと歩いていった。





その後、彼は誰もいない無限書庫で自分の本当の両親がどういう存在だったのか知ることとなった。








魔導戦士ガンダム00 the guardian 6.19年前からの亡霊

ミッドチルダ 北部

人気のない山間に火の手が上がる。
夜の黒の中に赤い炎は実に目立つが、めったに人が来ない上にわざわざ見つからないように偽装していたせいもあり、助けなど来なかった。

「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

隠れるように建っていたとある施設に一条の閃光が奔る。
その赤い閃光はその施設を貫き、さらに爆炎を生み出す。

「ば、馬鹿な!!『エンジェル』の同型機がなぜここに!!?」

「反撃しろ!!相手は『エンジェル』の同型だ!!質量兵器でも何でもいいから持ってこい!!」

その場にいた兵士たちは機関銃、ミサイル、魔法兵器、ありとあらゆるものを襲撃者に向けて放つが、その襲撃者はそれらをものともせずに銃口を兵士たちに向ける。

「あげゃ♪」

赤い光が地面に着弾し、兵士たちは爆風で吹き飛ばされる。

「プルトーネ、損傷軽微。作戦続行に支障なし。」

「当然だろ。こいつら程度の武器でどうにかなるようじゃガンダムの名が泣くぜ。」

『おいおい……そのデカブツをここまで気付かせずに接近させられたのはウーノ姉ぇとクア姉ぇ、んでもってあたしが連中の警備を混乱させたからで……』

「こいつにはもともとレーダーやセンサーの類は無意味だ。お前らが余計なことしなくてもどうにかなってたんだよ。」

モニターの向こうでセインがムッとした顔をするが、ロバークは構わず自分の目的を果たす。

「さて……そいつを返してもらうぜ。ソリッドはお前らに過ぎた代物だ。」

襲撃者、腕部と脚部が白、ボディは青でところどころに赤い色が入ったロボットは、施設の人間が『エンジェル』と呼んでいたロボットに手をかける。
右腕は取れ、あちこちボロボロだが、白と萌黄を基調としたその姿は寸分も色あせてはいない。
白のロボットは『エンジェル』を持ち上げようとする。
動作を停止しているためか、普段よりも重量を感じるが、こちらもそれを想定して補助のためにあちこちにスラスター類を取り付けているから問題はない。

「あげゃげゃげゃげゃげゃ!!!!あばよドあほども!!」

白いロボットはとどめにもう一撃光弾を撃ち込むと、星が瞬く夜空へと消えていった。








翌朝 機動六課隊舎 食堂

早朝の訓練を終え、いち早く空腹を満たすためにスバルとエリオはいつものようにトーストやスクランブルエッグ、果てはサラダまでを自分の取り皿の上に山盛りにしてほおばっている。
そんな二人をしり目に、ティアナはトーストを一口かじってすぐに自分の持っている携帯端末の画面を眺める。

「ふぉおふぃふぁのふぃあ?」

「口の中のものを空にしてから喋りなさい。」

いつもなら鋭いツッコミが飛んでくるのだが、今日のティアナは画面に映っているものに気を取られているためスバルへのツッコミが甘い。

「本当にどうしたんですかティアナさん?あんまり食べてないですけど?」

キャロが心配そうに声をかけてティアナはようやく視線を画面から外す。

「ああ、ごめん。これを見てたのよ。」

「これ?」

三人が不思議そうにティアナがこちらに向けた画面を覗き込む。

「管理局の研究施設が襲撃される………昨晩、クラナガン北部の山間の研究施設が何者かの襲撃を受けた。ここでは秘密裏に質量兵器の研究がおこなわれていたようだが、管理局側の代表、レジアス・ゲイズ中将は関与を否定している……なお、当社の記者が独自に掴んだ情報によると、『エンジェル』と呼ばれていた兵器が強奪された模様……情報をかたくなに遮断する地上部隊に周囲の住民は不安と不信感を募らせている………」

「へぇ~、こんな事件が起きてたんだ。」

スバルはマッシュポテトの塊を飲み込みながらエリオが読み上げた文章にうなずく。

「スバル……あんたはもうちょっとニュースに関心を持ちなさい。」

ティアナは呆れてたため息をつくとトーストをまた一口かじり、コーヒーで流し込む。
その時、エリオが何かを思い出して一人で納得し始める

「そうか……じゃあ今朝、ユーノさんはここに……」

「どうしたのよ?」

「あ、いえ。訓練の前にユーノさんにあったんですけど、用事が出来たから2~3日の間留守にするかも、って言ってたのでこれのことかなぁと思って。」

「でも、これって私たち機動六課が勝手に首を突っ込んでいいことじゃないよね?」

「そうだよね~。管轄も違うし。」

「………ユーノさん、どこに行ったんだろう?」










部隊長室

「うん……わかっとった。いつかはこんなことが起こるってわかっとった。けどな………」

はやては自分の机をバンと叩いて立ち上がる。

「何勝手に関係ないところの捜査にいってくれとんねん!!」

隣の小さなデスクでリインフォースがプルプルとはやての剣幕に震える。

「あれか!!?またぞろあのおっさんのせいか!?ほんまにあの中将はどんだけ私を追い詰めれば気がすむねん!!」

「は…はやてちゃん、今回はレジアス中将は関係な…」

「ああん!!?」

「ご、ごめんなさい!!なんでもないですーー!!!!」

その日、はやての怒号が途絶えることはなく、職員たちは騒音に悩まされることになったとか。









北部

地上部隊の局員たちに混じってユーノの金髪が揺れている。
溶解した鉄骨の前にかがみながらあることを調べる。

(この感じ……間違いなくGN粒子を使った兵器による攻撃の跡だ。ミッドにある質量兵器でこんなふうにはならない…)

となると、犯人はおのずと決まる。

(ロバーク……君は一体なんの目的でここに……)

その時、

「ユ~ノッ!!」

後ろから誰かに抱きつかれる。

「……記者さん。ここは関係者以外立ち入り禁止なんですが。」

「かったいこと言いっこなしなし!!大体ちゃんと許可貰って入ってきたんだし!」

「大方、また何か妙なもの見せて強請ったんでしょ、アイナ。」

ユーノは立ち上がると背中にくっついていた幼馴染、アイナ・スクライアを引きはがす。
水色のショートカットと透き通るような白い肌は太陽に照らされていっそう輝いて見える。

「そんなことないわよ。ちょっと情報提供したら通してくれた人がいたのよ。変な人だったわよ~。このカンカン照りの中で分厚い白いコート着てて……あれは間違いなくあの下に何か隠してるわね。」

「はいはい。そのホラ話はまた付き合ってあげるから今日は帰りなさい。」

「だから嘘じゃないって言ってるでしょ!!……ところでぇ、あの子とは上手くいってるの?」

「あの子?」

「ほら、あんたの婚約者のエース・オブ・エース様。なのはちゃんのことよ。」

「ああ、ちゃんと上手くいってるよ。この間も一緒に部下の子に教導を……」

「だ~か~ら~。そういうことじゃなくてぇ~。」

アイナは体をくねくねとさせる。

「夜のお付き合いの話よぉ。あんた昔っから鈍くて女の子に興味がなくておまけに自分が女の子みたいな顔してるせいでそっちの気があるんじゃないかってみんな心配してたじゃない。だから、上手くいってるのかなぁ~って思って。もう初めて済ませた?まだなら私がやり方教えて……ゴフッ!!?」

アイナの頭にユーノの鉄拳が振り下ろされ特大サイズのたんこぶが出来上がる。

「………僕はその手の冗談が一番嫌いだ。」

ユーノは赤い顔でそっぽを向いて再び破壊された施設の調査を始める。

「ったった~!いったいなぁ~、もう!!」

「用がないならホントに帰りなよ。」

「用ならあるわよ。て言うかこれが本来の目的なんだけど。」

アイナの笑いが鋭いものに変わる。

「情報交換といかない?あんたわざわざせっかく配属された部隊に迷惑かけるようなマネまでしてここまで来たってことは何か欲しい情報があるんでしょ?」

アイナは笑うが、ユーノはため息をひとつつくとすぐに背を向ける。

「生憎と一介の記者の確実性の低い情報を手にするために捜査機密を漏らすわけにはいきませんので。」

「あら、結構いい情報そろってるわよ。例えば……『エンジェル』の情報とか。」

ユーノは足を止めてアイナのほうを向く。

「エンジェル?」

「あら、知らないの?私が独占入手した情報なんだけど、なんでもここの施設にいた胡散臭い連中の持ってた兵器らしいわよ。特徴は記事には載せなかったんだけどきっちり掴んでるわよ。」

クスクスと笑うアイナのその顔は悪女そのものだ。

「………先にそっちの情報を言うのが先。それでいいならのってあげるよ。」

「OK、交渉成立ね。言っとくけど、こっちの話を聞いてそれでおしまいなんてことしたらろくなことにはならないわよ。」

「しないよそんなこと。それより…」

「はいはい。え~と、なんでもエンジェルはここの連中が開発したものじゃなくてどこかで拾って来たものなんだって。でもって、そいつの特徴が限りなく人に近い姿をしたすっごいでっかいロボットなんだって。それで………?ユーノ?」

アイナの話を聞いていたユーノは驚いて固まったままアイナを見つめていたが、すぐに詰めよって肩を掴む。

「それが盗られたんだよね!!?それを持って犯人がどこに行ったとかわからない!!?」

「え、えっと!なんかそれを持ってたのも同じようなロボットらしいけど、どこに行ったのかまではわかんない!!ちょ、それよりどうしたのよ!?」

ユーノはアイナの肩から手を離すと口元に手を当てて考え込む。

(おそらく、エンジェルとはソリッドのことだ。それをロバークが持っていったってことか。でも、一体なんで?……ええい、ここで悩んでても仕方ないか!)

ユーノは自分のメモ帳からページをちぎるとアイナに押し付ける。

「ここに僕が知ってることはほとんど書いてあるから参考にして!それじゃ!!」

「あ、ちょっと!!」

ユーノはアイナの制止も聞かずにその場を離れていった。









機動六課隊舎 ロビー

午前の教導が終わり、昼食を終えたスバルたちはロビーに集められていた。

「みんな、急だけど地上部隊から応援の要請があったの。本当に急で悪いんだけど、午後の教導を捜査の協力に変えたいと思います。」

「珍しいですね、他の部隊がうちに依頼してくるなんて。何かあったんですか?」

「昨晩、北部の部隊が捜査しているところにガジェットが現れたらしい。数自体は少なかったから問題なかったらしけど、一応ロストロギアの存在を警戒してあたしらがいくことになったってこった。」

「そういうことだから今からみんなで先に捜査を進めている部隊と合流。周囲を警戒しながらロストロギアの探索にあたるよ。」

「「「「はい!!」」」」

「スターズはあたしと一緒に先に出て部隊と合流。ライトニングはシグナム副隊長と目標地点の周りを調べた後、合流だ。」

ヴィータの説明が終わり、スバルたちは隊舎の入口に歩いていく。

「そう言えば、北部って今朝のニュースで見たところですよね。」

「ああ……でも、多分関係ないでしょ。向こうは質量兵器。ガジェットの狙いはロストロギア。どう考えたってガジェットがそんな所を襲う理由なんて見当たらないわよ。」

ティアナはエリオの話をそう言って締めくくると入口へと歩いていく。

「そう言えばユーノさんは今頃何してるんだろうね?」

「八神部隊長すごく怒ってましたね………」

キャロははやての怒りの声を思い出したのかブルッと体を震わせる。

「ま、まあ、ユーノさんなら大丈夫だよ。」

「帰って来た後のことは保証しかねるけどね。」

ティアナの一言に三人は苦笑しているとヴィータから声をかけられる。

「ほら、早くしろよ。」

「あ、はーい!!」

四人はヴィータにせかされる形で、その場を後にした。









その頃のユーノ

「へっくし!!……なんだ、今のプレッシャーは…?」

ユーノは悪寒に身を震わせながら捜索を続ける。

「……帰ったらはやてはともかくみんなには謝っておかないとなぁ。」








北部

ライトニングよりも先に到着していたスターズの四人は捜査をしていた隊員からことのあらましを聞き、周辺の街の警戒にあたっていた。

「それにしてもユーノの奴、また勝手なことしやがって。」

ヴィータは不機嫌な顔で空になったコーヒーの缶を握りつぶす。

「ま、まあまあ。ユーノさんがここにいることがわかったわけですし…」

「またどこぞへ勝手にいきやがったけどな。」

「ハハハ……」

心底機嫌の悪いヴィータに冷や汗を流しながら必死にユーノのフォローをするスバルだが、横にいるなのはも心なしか機嫌の悪い顔をしている。

(す、すごく居心地が悪い…)

口では言えないが、この二人が機嫌が悪いとこれ以上ないくらい恐ろしい。

(……いっそ、何か騒ぎが起こって二人の気が別の方向に向かってくれないかな~。な~んて…)

スバルがそんなことを考えた次の瞬間、四人の後ろで爆音とともに炎が発生する。

「え!?嘘!!?私のせい!!?」

「何わけわかんないこと言ってんのスバル!!早く行くわよ!!」

四人はそれぞれのデバイスを起動させて爆発の現場へ急ぐ。
爆発に巻き込まれた局員や住民たちが傷を押さえながら呻く中、なのはは周囲にいる局員に指示を出していく。

「怪我を負ってない人は負傷者の運搬を!他の人たちは周囲の警戒をお願いします!!」

「!!」

その時、ヴィータははっきりと見た。
金色の髪をした男がそそくさとその場を離れていくところを。

「犯人と思われる人物を発見!」

「ヴィータちゃん、こっちは任せて!!」

「了解、追跡を開始する!スバル、ティアナ、ついてこい!!」

「「了解!!」」

三人は野次馬をかき分けて逃げた男を追う。
男は建物の曲がり角を利用して三人を撒こうとする。

「クッ!!お願いです!どいてください!!」

「ヴィータ隊長!先に上空から…」

「無理だ!こんだけ人が多いと上からじゃ見分けにくい!!」

三人は人ごみを避けながら進んでいくが、男との距離は開くばかりだ。
男はある程度距離が開いたところで曲がり角を右に曲がる。

「マズイ!!見失っちゃう!!」

スバルは思い切ってウィングロードを使おうとする。
だが、

「がぁ!!?」

「「「!!?」」」

男が曲がったところでうめき声が聞こえたかと思うと、そこにいた人々が蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

「なにが…?」

人のいなくなった通りを三人が進んでいくと男が曲がったところからある人物が男の髪を掴んで現れる。

「!!お前は…フォン・スパーク!!」

ヴィータはグラーフアイゼンをギュッと握ってロバーク……いや、フォンを睨みつける。

「ヴィータ副隊長、あの人のこと知ってるんですか?」

「ああ。こないだあたしを海に叩き落して服をずぶ濡れにした張本人だ。」

「!じゃあ、こいつが…!!」

スバルとティアナもデバイスを構えるが、フォンはそんなことなどどこ吹く風といった様子で笑う。

「ガキが自分より年上のガキを顎で使ってるたぁ、何とも妙な画だな。」

フォンの挑発にもヴィータはあくまで冷静に対処する。

「さっきの騒ぎもお前の仕業か?」

「いや、それをやったのはこいつだ。」

フォンは手に持っていた男を投げて渡す。

「!!」

ヴィータはその男の顔を見て驚く。
金色の髪に痛みで薄く閉じられているが、ユーノと同じ翠の眼をしている。
ミッドでは珍しくはないが、それでも気になってしょうがない。

「そいつらはお前ら管理局にずいぶん恨みを持ってるみたいだぜ?確かこいつらの名前は……すい…そう、翠玉人だったか?」

「「「!!」」」

「その面だと存在自体は知ってたみたいだな。」

フォンはニヤリと笑うと足元に魔法陣を展開して転送の準備を始める。

「待ちなさい!!」

ティアナはクロスミラージュから魔力弾を放つが、フォンはひょいと体をひねってかわす。

「じゃあな、チビ。ユーノによろしく言っといてくれ。お前の探しもんは俺の手元にあるってな。」

フォンはその言葉とボロボロになった男を残してその場から消える。
残された三人はしかたなく男を担いでなのはの待つ現場に向かった。










周辺

スターズが爆発騒ぎの対処に追われているころ、ライトニングの三人も周辺の聞き込みの最中に事件に巻き込まれていた。
三人が聞き込みのために入った民家の一つが三人が出た直後に爆破されたのだ。
幸い三人に怪我はなかったものの、その家の住人が助からないことは明らかだった。

「どうしてこんなこと……」

「キュク……」

キャロが崩れた家を呆然と眺めている中、シグナムにヴィータから念話が入る。

(シグナム、ヴィータだ!こっちで今、路地が爆破されて負傷者が出た!)

(こっちもだ。おそらく同時テロか。)

(それで…だな……)

(?どうした。)

口ごもるヴィータにシグナムは首をかしげる。

(……こっちで犯人の一人を捕縛したんだけど………犯人は翠玉人だ。)

(!!!!)

シグナムの脳裏に忌々しい記憶がよみがえる。







布で覆われたテントのような家が燃え盛り、夜空を赤に染める中、騎士甲冑をつけたシグナムは無抵抗の相手に歩み寄る。
誰一人抵抗もせずにただ逃げようとしたところを斬り捨て、リンカーコアを奪い取った。
そして今、ただ震えることしかできない幼子に手を伸ばしリンカーコアを奪う。
露出した自身のリンカーコアを見つめる翠の瞳からとめどなく涙がこぼれおちる。
しかし、シグナムは迷うことなくリンカーコアを奪い取りその場を後にする。
彼女が通って来た道には、同じようにリンカーコアを抜き取られ、二度と動くことのない屍だけが残されていた。







「…………いちょう!!シグナム副隊長!!」

シグナムはエリオとキャロの声でようやく過去の悪夢から現実に引き戻される。

「どうかしたんですか!?急に壁に寄りかかってそれきり動かなくなって…」

「いや……なんでもない。少し立ちくらみがしただけだ。」

シグナムは心配そうに自分を見上げるキャロの頭をなでると意識をはっきりと持つ。

(そうだ……いつぞやユーノの瞳に既視感を覚えたことがあったが、そういうことか………)

消しようのない自分たちの罪。
それが今になって目の前に現れた。
ならば、

(向き合わねばなるまい。それが今の私たちにできることなのだから。)

シグナムは壁から離れる。

「エリオ、キャロ、スターズと合流する。ここは別の人間に任せておけばいい。」

「……はい。」

キャロとエリオは最後まで爆破された家を見ていたが、シグナムの指示に従いスターズとの合流地点に向かった。









街外れ

「何を考えている!!あれほど接触は避けろと言っていたろ!!」

戻ってきたフォンにチンクは目を吊り上げて怒りをあらわにする。

「フン。出会っちまったもんはしょうがねぇだろ。」

「うかつすぎると言っているんだ!!」

「ま、まあまあ。フォンも反省……してないっスね。」

「いつものことだがな。」

フォンの不遜な態度とウェンディの言葉にトーレがため息をつく。

「お~い、みなさ~ん!?そんなことよりあたしの心配をしてくれませんかねぇ~!?」

チンクの後ろからセインが地中に潜りながら必死に何かを運んできている。

「ああ、すまん。忘れていた。」

「ヒドイよチンク姉ぇ!!Ⅰ型が手伝ってくれてもこれ重いんだよ!?」

セインはガジェットの手を借りながら地中からそれを引き上げる。
六本の太い脚をもち、前には二つの大きなカメラアイが横並びについている。
その下には口のように分かれた部分があり、そこからは機銃が覗いている。

「これ何度見ても気持ち悪いっスねぇ~。なんか虫みたいっス。」

「てか、なんであたしがこれ運ばなくちゃなんないんだよ!持ってきたフォンが運ぶのが筋ってもんだろ!」

「旧式のオートマトン運ぶのにいちいちガンダムを使ってられるかよ。こいつをばれないように運ぶためにもお前がやれ。」

「だああぁぁぁぁぁ!!ムカつくゥゥゥゥゥゥ!!わかってたけどスッゲェェェェェェムカつくゥゥゥゥゥゥ!!」

ニタニタ笑うフォンの顔を見ながらセインは地団駄を踏む。

「それより、アイツらが連中のところに踏み込む前にこいつを使っていいのか?」

「いいんだよ。あのチビガキどもに任せてたら日が暮れちまう。」

フォンは持っていた端末を操作して874と連絡を取る。

「874、オートマトンを起動させろ。」

『了解。』

フォンの端末から874の顔が消えると、セインの運んできたオートマトンたちが一斉に動き出す。

「さて、我々も動き始めるか。」

トーレが手をゴキゴキと鳴らす。

「火事場泥棒ならぬ火事場テロリストを懲らしめるとしますか。チンク姉ぇ、しっかりつかまっててよ。」

「承知した。」

チンクがセインの腕につかまると二人は地中へ水に入りこむように沈んでいく。

「ウェンディは私とだ。」

「了解っス~。」

ウェンディはボードに飛び乗るとトーレの後ろについていく。

「俺も行くとするか……フェレシュテ、セットアップ。モード・ジャスティス。」

フォンがFの字が刻まれた盾に悪魔の翼が生えたようなデザインの首飾りに銘じると、彼の右手に巨大な剣、左手に銃が出現する。

「アストレアF、俺様、出るぜ!!」









?????

「よかったのですか、ドクター。」

長髪の女性、ウーノはコンソールを叩きながら自分の後ろで優雅に紅茶を飲んでいるであろうスカリエッティに話しかける。

「なんのことだね。」

「とぼけないでください。なぜ、わざわざ翠玉人たちのテロを妨害するのですか?我々の目的の達成とは無関係のように思えますが……」

「ウーノ、君は優秀だ。」

「?はぁ……」

ウーノは突然のスカリエッティの賛辞に戸惑う。

「確かに君の判断は正しい。だが、私は彼らのやり方が気に入らない。それだけの話だよ。」

「……私が機械的だと言いたいのですか?」

「そうは言っていない。ただ、もう少し物事に潜む無意味さというものに着眼してもらいたいと言っているのさ。」

「無意味さ……ですか?」

「そうさ……例えば感情。生物が生きていく上では不必要だ。いや、それどころか時に冷静な判断力を奪う毒と言っても差支えはないだろうね。だが、それでも人は感情があるからこそ自分の生に意味を見いだせる。喜び、悲しみ、そして……怒り。」

スカリエッティの顔に歪んだ笑みが浮かぶ。

「彼らがテロを行うにいたるまでの経緯には同情するが……私の逆鱗に触れたらどうなるのか、その身にしっかりと刻んでもらおうと思うよ。彼らがしたことで周りにいた人間が抱いた感情をかみしめさせながらね……」

クックッと笑うスカリエッティをチラ見してウーノは嘆息する。
フォンとスカリエッティはとことんそりが合わないのだが、こういうときには二人の思考回路は不思議なほどに一致する。
それを少しでも日常生活にわけてほしいものなのだが、おそらく無理だろうと判断してコンソールを叩き続けるのだった。








テロリストのアジト

「な、なんだ、こいつら!!?」

金色の髪をした男は目の前にいるそれへと魔法を放つが、それに到達する前に霧散して消えてしまう。

「AMF!?まさか、こいつら新型のガジェットか!!」

「違うな。」

突然後ろから聞こえてきた声に男は振り向くが、その瞬間顔面に足の裏が叩きつけられ、意識が飛ぶ。

「そいつの名はオートマトン……だったか?ガジェットとは似て異なるものだ。」

「チンク姉ぇ、もうそいつには聞こえてないっぽいよ。」

着地するチンクの後ろから顔だけを地上に出しながらセインは周りの様子をうかがう。

「そんなことはどうでもいい。それより、周囲に敵は……」

「いないよ。他のルートから進行してるオートマトンも順調に連中を蹴散らしながら目標地点に向かってる。でも、いいのかなぁ?」

「なにがだ?」

「こいつらだよ。せっかくフォンが持ってきたのにこんなところで壊しちゃって?」

セインの問いにチンクは彼女の腕につかまりながら答える。

「こいつらの性能そのものはガジェットより劣るからな。それはフォン自身も認めていたし、なによりもそのフォンがこいつらに爆薬を仕掛けたんだ。問題はないだろう。」

「でも、こいつら爆発すると私たちもヤバいことになりそうなんだけど。」

「逃げるときは頼りにしてるぞ、セイン。」

「ハハハ……嫌な頼られ方。」

二人がそんな会話をしながら地中に潜ろうとした時だった。
別行動をしていたウェンディから連絡が入る。

『……あの、非常に言いにくいんスけど。』

「どったのウェンディ?」

『アハハハハ……フォンがまたやらかしたッス。』









北部

指定されていたポイントで合流した機動六課の面々だったが、身柄を取り押さえた男は何も話そうとせず、途方に暮れていた。

「どうしましょう?」

スバルは腕を組んで考え込む。

「もう一度聞き込みにいくしかあるまい。」

「あんまり、期待できないけどな。」

シグナムとヴィータに促され、全員が聞き込みにいこうとしたその時だった。

『お~い、税金泥棒ども。』

「!!?」

突然空から聞こえてきた声に街にいた誰もが上を見上げる。
そこにはガジェットにスピーカーをつけたものがフヨフヨと進んでいく姿があった。

『たかだかテロリストの拠点を見つけるぐらいでてこずってるとこ見せちゃ無能をさらしてるようなもんだぜぇ!!あげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃ!!!!』

「やっろぉ~~!!!」

ヴィータは挑発的な声にギリギリと歯ぎしりをする。

『しかたねぇから俺様がテメェらに連中の居場所を教えてやる!無能じゃないことを証明したいならここに来るんだな!ああそれと、俺様も今はここにいる。逮捕したけりゃ頑張って俺様を探すんだなぁ!!あげゃげゃげゃげゃげゃげゃ!!!!』

街全体に聞こえる放送が終了した瞬間、ガジェットが空中で爆発して周りにビラのようなものを撒き散らす。
ティアナはひらひらと落ちてくるその一枚を手にとって見てみる。

「ポイントW-23……ここって、確か山の麓の森林地帯ですよ。」

ティアナが説明しているのだが、ヴィータはグラーフアイゼンを握りしめて何かをつぶやいている

「あのやろぉ、なめやがってぇぇぇ~~!!今度会ったら絶対あのクソムカつく面をぶっ潰してやる!!」

一人で復讐を誓うヴィータにティアナたちは半ばあきれているが、なのははそんな様子も目に入らない。

(この声……!!?)

なのはは聞こえてきた声に凍りついていた。
夢で見たあの男の声だ。
ユーノと同じタイプのロボットに乗り、敵対するものすべてを葬ってきたあの男の声だ。
ユーノをどこか遠くに連れ去ってしまう存在。
そう、なんとしても排除しなければならない存在だ。

「……みんな、すぐにそのポイントに向かうよ。ティアナ達はいつも通り四人で組んで行動。シグナムさんとヴィータちゃん、私は空から単独でポイントを捜索。」

「……なのはさん?」

この時、スバルだけはなのはの様子がいつもと違うことに気付いていた。
どこか鬼気迫るといった様子で、先日の訓練時の一件よりも追い詰められているように感じる。

「ほら、スバル。ボーッとしてないで行くわよ。」

「え?あ、ああ、うん。」

スバルは気のせいだと自分に言い聞かせてティアナ達とともにビラに書いてあったポイントに向かうが、それでもやはりなのはの様子が気になってしまう。

(どうしたんだろう、なのはさん。)

スバルの心配をよそになのはたちも空へと舞い上がる。

(絶対にあなたにユーノ君は渡さない……!!もうユーノ君をあれに乗せたりなんてさせない!!)









テロリストのアジト

「…………………………………」

「あ、あの……トーレ姉ぇ?フォンもきっと悪気はないんスよ(たぶん)。だから、今はやることやってさっさとここから……」

「話しかけるな、ウェンディ。私はいま非常に気分が悪い。一歩間違えると……」

トーレは腕に発生させた魔力刃をウェンディの顔スレスレに振る。

「ひっ!!」

「……お前も巻き込みかねんから注意しておけ。」

ウェンディの後ろにいた男がばったりと倒れ、ウェンディもそれに合わせるように腰を抜かす。

「りょ、了解っス!」

ウェンディは壁にしがみついてなんとか起き上がって周りを見渡す。
周りには金色の髪に翠の眼をした者たちがトーレとウェンディを睨みつけている。
彼らの着ている服はいずれも白を基調とし、袖や端の部分に緑色の糸で三本の曲線が刺繍されている。

「しっかし、こいつらもしつこいっスね。」

「それだけ恨みが深いということだろう。関係のない人間にまでそれを向けるのはどうかと思うがな。」

トーレがフゥと息を吐き出した瞬間、取り囲んでいた男たちから光る鎖が放たれる。

「ハッ!!」

「よっと。」

トーレは鎖を切り裂き、ウェンディは持っていたボードに飛び乗って空中で宙返りをしながら鎖をかわしていく。

「IS、ライドインパルス。」

トーレの姿が一瞬消え、次に現れた時には周りにいた敵が薙ぎ払われた後だった。

「容赦ないっスね。」

「手加減をする必要がどこに?」

「ま、それもそうっスね……ん?」

ウェンディの身に着けていた腕の端末が何かの反応を感知する。

「どうした?」

「お客さんが追加。丁度オートマトンと鉢合わせしたみたいっス。」

「そうか、もう来たか。」








ティアナ達がその施設に侵入したときにはすでに中は大騒ぎだった。
犯人グループと思われる人間が慌ただしく動き回っている。
当然、ティアナ達にも攻撃を仕掛けてくるのだが、混乱しているせいか動きにキレがない。

「なんか拍子抜けね。」

襲ってきた男たちをアッサリ魔力弾で気絶させたティアナが一息つく。

「それよりもこの人たち……」

「うん。びっくりするくらいユーノさんそっくりだね。」

エリオが前に倒れこんでいた男を仰向けにする。
金色の髪に翠の眼。
まさしくユーノの外見の特徴そのものだ。

「ミッドじゃそんなに珍しくないけど、ここまで同じような人が集まってるのは変だね。」

「うん。」

エリオとキャロの会話を聞きながらスバルは眉間にしわを寄せる。

「わるいけど、お喋りはそこまでにしておいて。次が来るわよ。」

ティアナの言葉通り、曲がり角の奥から大きな音を立てて何かがやってくる。

「この感じ……ガジェット?」

「でも、あれってこんなに大きな音ってしましたっけ?」

スバルとキャロが首をかしげているとその何かがやってくる。

「な!?」

四人はその姿に呆気にとられた。
六つの脚をもち、前の部分には大きな虫の目を思わせるようなカメラアイ。
そして、六つの脚を使いながら迫るその姿はまるで脚が一対足りない蜘蛛のようだ。
蜘蛛型のロボットは四人の姿をとらえると昆虫でいう口に当たる場所に装備された銃を乱射し始める。

「うわ!?」

慌てて防御をするが、蜘蛛型ロボットは四人にじりじりと近づいてくる。

「し、新型のガジェット!?」

「だとしたら、悪趣味この上ないデザインね!!」

「この!!」

スバルはいち早く懐に飛び込むと拳をロボットの下から振り上げる。
すると、ものの見事にロボットはひっくり返り、脚をじたばたとさせる。

「なんだ。見た目によらず大したことないじゃない。」

ティアナは転んだロボットをこんこんと叩く。

「ティアナさん、これどうします?」

「ま、一応壊しておいて損はないでしょ。」

ティアナは小さな魔力弾を発生させるとロボットの頭部と思われる場所に撃ち込む。
ロボットは一瞬脚をピンと伸ばして硬直するが、すぐに折りたたんで動きを停止させる。

「でも、これって本当にガジェットなのかなぁ?ずいぶん印象が違うし。」

「……確かにそうね。こんなところにロストロギアが転がってるとは思えないし。」

「じゃあ、ここの人たちの作ったものなんじゃないですか?」

「それもないわね。こんな物作れるほどの物資を誰にも気付かれずに集めるなんて不可能よ。それに……」

ティアナはロボットの足の裏にある小さな文字を指さす。

「Made in USA……!?これって!!」

「そう、たぶんなのはさんや八神部隊長の出身世界、地球の代物よ。」

「じゃあ、これは地球から持ち込まれたものなんですか!?」

「でしょうね。それに、関係ないと思ってたけど、意外とこれと今朝のニュースは関係性があるんじゃないかしら。」

「?」

「忘れたの?ニュースが本当に正しいとしたらあそこで研究されていたのは質量兵器よ。」

「!じゃあ、これが!?」

「さあね。ただ、完全に無関係とも思えないのは確かね。後でこれを持ち帰って……」

その時、ロボットに何かがとんでくる。

「なに!?」

飛んできたのは何の変哲もないナイフだったのだが、目標に刺さった瞬間、赤熱し始める。

「!!」

四人が防御を発動させると、凄まじい衝撃と爆炎が辺りを駆け抜ける。
幸い、負傷者は出なかったが、ロボットは完全に破壊されてしまった。

「クッ!そこ!!」

すべてが収まった後、ティアナは魔力弾をナイフがとんできた方向に飛ばすが、壁に当たっただけで終わった。
ティアナ達は襲撃者がいたであろう場所に向かってみると、床に書置きが残されている。

『Be not related to an extra thing』

「余計なことにかかわるな、か…」

「警告でしょうか……」

「けど、引き下がるわけにもいかないね。」

「奥に進むわよ。とりあえず、ここの連中を取り押さえてから話を聞きましょう。」








「チンク姉ぇ、よかったのあれで?」

「ああ、あの程度の攻撃なら四人そろっていれば防げるだろうしな。フォンが余計なことをしてくれたが、余計なことを嗅ぎつけない限りは連中にも協力してもらおう。」










別ポイント

施設内部に侵入したシグナムだったが、相手がテロリストだとわかっていても自分の愛剣、レヴァンティンを振るうことに戸惑いを感じてしまう。

(彼らが凶行に出てしまう原因は間違いなく私たちにもある……いや、だからこそ今は彼らを止めなければ!)

シグナムは剣を大きく振って自分の意志を強固なものにすると前を凛と見据える。
だが、そんな彼女の目にある光景が飛び込んでくる。

「!!」

まだ年端もいかない子供が戦場と化したこの建造物の中を歩いているのだ。
シグナムはその少年に近づいていく。

「!!あ………あ……!!」

「大丈夫か!?」

少年はじりじりとシグナムから距離を取ろうとするが、シグナム不慣れだが、極力優しい笑みを浮かべる。

「大丈夫だ。私はお前に何もしない。」

シグナムは少年を抱き上げる。

(こんな子供までいるとは……とにかく、この子を安全なところまで……)

シグナムが歩き出そうとしたその時、彼女の腹部に鈍い衝撃がはしる。

「ぐ……あ……!?」

レヴァンティンを床に突き刺したおかげで完全に倒れることは回避できたが、それでも膝をついた状態からなかなか起き上がれない。
そんなシグナムをしり目に、少年は彼女から離れる。

「闇の書の守護騎士……!お前たちも僕らの敵だ!」

シグナムを見下ろす翠の瞳は怒りに満ちている。
そして、少年の手のひらに徐々に魔力が集まっていく。

(しまった……!!まさか、こんな子供まで……!!)

シグナムはなんとか起き上がるとレヴァンティンで少年を斬り伏せようとする。
だが、あの時の記憶が邪魔をして刃を振りおろせない。

「っ……!申し訳ありません、主はやて……このようなところで果てる不義理を、お許しください……!!」

「ゆるさねぇよ。」

次の瞬間、少年は糸の切れた人形のようにばったりと倒れ込む。

「ヴィータ……」

「たく、こんなことになってんじゃねぇかって思って、来てみて正解だったぜ。」

手刀をあてて気絶させた少年をヴィータは軽々と持ち上げる。

「ヴィータ、私は……」

「ま、なんだ。」

ヴィータは頬を照れくさそうに掻く。

「とりあえずこいつを運び出そうぜ。話はそれからだ。あたしもいろいろ話したいことあるし。」

「……承知した。」

二人の騎士は小さな、しかし重たい命を背に外へと向かった。









別ポイント

「あげゃ!!」

フォンが持っていた剣を振るい、取り囲んでいた敵を一気に薙ぎ払う。

「大したことねぇなぁ。ま、人の起こした騒ぎに便乗するしかないんじゃ当然か。」

フォンは倒した敵を煩わしそうに蹴り飛ばして道を作ると先に進もうとする。
その時、

「ほぅ。」

後ろから迫っていた桃色の砲撃を刃で受け止めるが、抑えきれなかった魔力の流れがフォンの体のあちこちにぶつかる。
だが、フォンは気にせず銃を発射する。

〈Protection〉

しかし、フォンの放った銃弾は桃色の壁に阻まれて霧散する。

「フン……不意打ちとはやってくれるじゃねぇか、機動六課。」

フォンが振りかえった先にはなのはがレイジングハートを構えてフォンを睨みつけていた。

「ロバーク・スタッドJr……いえ、フォン・スパーク、あなたを公務執行妨害、器物破損、窃盗、傷害、その他の容疑で逮捕します。」

「その面はそれだけじゃねぇって感じだぜ?」

フォンの言う通り、なのはの頭の中はフォンをユーノにこれ以上接触させないことでいっぱいだった。

「これ以上あなたをユーノ君に近づけさせない!!」

「フン、ユーノ君ね……」

フォンはなのはをじっくりと観察していると、彼女の指にはめられた翠の宝石に目がとまる。

(なるほどな。)

フォンはニヤリと笑う。

「おまえ、アイツの女か?」

「……………………………」

「あげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃ!!!そうかいそうかい!アイツも隅に置けねぇな!!」

「っっっ!!!」

〈Divine Buster〉

レイジングハートから放たれた光が再びフォンを襲う。
だが、

「フェレシュテ、モード・ジャッジメント。」

〈了解。〉

フォンの持つ剣が消え、かわりに赤いフィールドが現れ、ディバインバスターを受け止める。
それでも、なのはの一撃はフィールドをうち破りフォンへと向かって行くが、今度は左手に現れた盾に防がれる。

「さて、と。相変わらずトライアルは使えねぇが、戦う分には問題ねぇな。」

フォンは銃口をなのはに向ける。

「……いくよ。」

〈Cartridge Load〉

「アクセルシューター!!」

無数の桃色の光弾が不規則に高速移動しながらフォンへと迫る。
フォンは持っていた銃で撃ち落としていくが、防ぎきれなかったものはフィールドにぶつかり、確実にそれを削っていく。

「チッ!!(思ったより速い!!)」

フォンはなのはに紅蓮の弾丸を放つが、なのはの防御の前にあっさりと防がれる。

(なるほどな……あの防御に加えてこれだけの数を操作できるコントロール能力にあのとんでもない砲撃。おまけに戦いなれてやがるせいか動きもいい………ったく、あの野郎もトンでもないのと付き合ってるもんだぜ!!)

フォンは自分の周りを飛び交う光弾に冷や汗をかきながらも不敵な笑みを崩さない。

「確かにお前は強ぇ。この世界でも正面から対抗できるやつはそうそういねぇだろうな。だが……」

「戦いに絶対はない。それくらい知ってるよ。」

「!!」

フォンがアクセルシューターを避けた先に、桃色の魔力をためていたなのはが待ち構えていた。

「ディバインバスター!!」

〈Divine Buster〉

激しい光にフィールドごと飲み込まれ、爆煙の中に沈むフォン。
しかし、なのはは攻撃の手を緩めない。
残っていたアクセルシューターをフォンがいるであろう煙の中へと向かわせる。
しかし、フォンは体のあちこちに焼け焦げた跡を作りながらも光る刃で自分に向かってくる光弾を斬り落とし、なのはへと振り下ろす。
しかし、なのはもレイジングハートでその一撃を受け止める。

「あげゃげゃげゃ!!やるじゃねぇか女!!殺す前に名前を聞いといてやる!!」

「なのは……高町なのは!!」

「高町なのは……!どんなふうに死んだのかはきっちりあいつに伝えておいてやるから安心して死ね!!」

「誰が!!」

なのははフォンを引きはがすと再び光弾をフォンへと向かわせる。

「なんでいまさらユーノ君の前に現れたの!?あの戦いはもう終わったんでしょ!?」

(!?こいつ、なんでそのことを知ってんだ!?そういや、あのチビも俺の名前を知っていた……どんなってんだ!?)

フォンの疑問をよそになのははさらに攻め立てる。
フォンをバインドで拘束しようとするが、ギリギリで気付いたフォンがその場を素早く離れる。
しかし、

「いって!!」

そこへなのはの魔力弾が殺到する。
だが、フォンはひるまない。
光の剣と盾を使い防ぎながらなのはとの距離を縮める。

(また斬撃が来る!!)

なのはは再び近接戦闘に備えるが、フォンは予想外の行動に出る。
持っていた剣をなのはへと投げつけ、銃をとりだして発射する。

「クッ!でも、この程度……」

「まだ終わりじゃねぇぜ!!」

フォンはなのはの目の前にある投げた剣の柄を握って再び刃を発生させるとそのままなのはの肩へ振り下ろす。

「!!」

「墜ちな!!」

とその時、建物全体が猛烈に揺れ始める。
その揺れのせいでフォンの太刀筋がずれてなのはの肩をかすめるだけに終わってしまう。
だが、助かったのはなのはだけではなかった。

「まさか後ろに誘導弾を忍ばせてるとはな……俺のサーベルとお前の誘導弾……どっちが速いか比べるのも一興だったんだが、どうやら時間切れのようだな。」

「待ちなさい!!」

なのはは天井が崩れ落ちる中、フォンへとレイジングハートを向ける。
しかし、落ちてくる瓦礫が邪魔で狙いがつけられない。
そんななのはを見ながらフォンは笑いながら話す。

「アイツを連れていく理由だがな、それはおもしれぇからだ。」

「!?」

「あの歪んだ世界であいつが……あいつらが何をするのか興味があるのさ!」

「そんな理由で……!」

「そんなことより、さっさと逃げるんだな。生きてりゃ俺をしとめるチャンスはまだまだあるぜ。」

フォンの言うとおり、倒壊はかなり進んできている。

「あばよ、高町なのは。せいぜい生き抜いて俺を楽しませな!あげゃげゃげゃげゃげゃげゃ!!」

「待って!!」

なのははフォンへ近づこうとするが、二人の間が瓦礫で埋もれてしまう。
なのはは唇を噛みながら瓦礫を睨んでいたが、すぐにその場を離れた。









別ポイント

「おわわわわわ!!!!」

「ウェンディ、早く来い!!セイン達はもう目の前だ!」

ウェンディはボードから降りて上から落ちてくる瓦礫を避けながら進むが、思うように前に進めない。

「トーレ姉ぇ!ウェンディ、早く!!」

セインが手招きをしたその時だった。
トーレとその後ろを進んでいたウェンディの間に大きな塊が降ってくる。

「ウェンディとまれ!!」

「ヤバ!!」

ウェンディは急停止しようとするが、勢いを止めきれず瓦礫の下に入りこんでしまう。

「ック!!」

その時、チンクはとっさにウェンディのもとへと疾走し、彼女に抱きつくような形で瓦礫を回避する。

「チンク!ウェンディ!」

「……大丈夫だ。」

「右に同じっス。」

「待ってて!こんな壁あたしなら!」

「いや、お前はトーレを連れて脱出しろ、セイン!」

チンクの思いもよらぬ申し出にセインは戸惑う。

「なんでさ!?これくらいあたしなら!」

「もともと別々の出口から脱出する予定だったんだ。少しばかり予定が狂ったが私とウェンディは別の出口から脱出する。」

「でも!!」

セインがそれでもチンク達のもとに向かおうとすると、トーレに止められる。

「……完全に崩壊するまでの残り予測時間は5分だ。……急げよ。」

「了解した。」

「いくぞ、セイン。今はチンクとウェンディを信じろ。」

「……わかった。チンク姉ぇ、ウェンディ、絶対無事に出てこいよ!!」

「無論だ。」

「当の然っス!」

チンクとウェンディはボードに乗るとすぐにその場から離れ、一番近い出口に向かう。

「あれ嘘でしょ。」

「何がだ?」

ボードの上でウェンディは苦笑いをする。

「別々に脱出するって言ってたあれっスよ。顔見てたら一発でわかったッス。」

「やれやれ……セインに顔を見られなくてよかったよ。」

「ま、実際こっちこられてたらちょっとヤバかったスけどね。」

ウェンディは本来曲がる方向とは逆の方向に曲がった左腕を押さえながら苦しげに笑う。

「あんがとうっス、チンク姉ぇ。あんなすちゃらかなセインでもあたしの姉ちゃんスから、心配かけたくなかったんス。」

「それに付き合わされる私はいい迷惑だけどな。」

「顔、笑ってるよ。」

「おっと。いかんいかん。」

チンクは指摘を受けながらも落ちてくる瓦礫に的確にナイフを刺して、それを爆発させて瓦礫を砕いていく。
そして、最後に落ちてきた瓦礫を砕くと、その先に光が見えた。

「出口が見えったスよ!うりゃあぁ!加速そーち!!」

ウェンディはボードを一気に加速させて外に飛び出す。
二人がそこから出た次の瞬間にはそれまでいた建物はガラガラと崩れ去っていた。

「フゥゥゥ!白髭危機一髪っス!」

「それを言うなら黒髭だ。どこで覚えたそんなもの。」

二人は森のひらけた場所に降りて歩き出す。

「早く二人と合流して安心させないとな。」

「そうっスね……!?チンク姉ぇ、危ない!!」

「!!?」

ウェンディが体当たりでチンクを弾き飛ばすと、それまでチンクがいた空間にリングバインドが出現してウェンディを拘束する。

「ウェンディ!!」

「動くな!!」

チンクは声のしたほうを向く。
そこにいたのはそれまで自分たちが相手をしたテロリストとよく似た姿をしているが、着ている服は明らかに違う人物だった。

「管理局、機動六課の者だ。そこの君も手の中のものを捨てて大人しくしてもらえると嬉しいんだけどね。」

機動六課所属、ユーノ・スクライアは自身のデバイスの刃を彼女たちに向けながら最後の警告を発した。










19年前からの亡霊たち
しかし、彼らの憎悪の源泉は遥か古から続くもの










あとがき・・・・・・・・・・・という名のこれはやりすぎたかも

ロ「ナンバーズ本格参戦のオリストーリーだった第六話でした。」

ユ「でしたじゃないよね!?またこんなぶっ飛び設定出して!!しかも僕はホントに出番なかったじゃん!!」

ロ「その代わり次回活躍しそうな終わらせ方したじゃんか。」

狸「それ以前の問題やからな!!なんやねんあれ!?」

ロ「オリ設定。」

ユ「そういうことじゃなくてあんなトンでも設定どうすんの!!?」

ロ「まあ、secondで使おうと思って出したんだけどちとヤバかったと自分でも思ってる。皆様すいません!!」

ツン2「謝るくらいなら出すな!!」

ロ「だが私は謝らない!」

ユ「謝っちゃったのにカ○スマ所長ネタ!?」

ツン2「……もういろいろめんどくさいんでゲストの紹介にいきます。」

狸「女装姿が意外と好評!?歩くネタ製造機!これを書いてる作者は万死に値する!ティエリア・アーデさんです。」

ティ「失礼な紹介どうもありがとう。ティエリアだ。」

狸「あれ、怒らへんのや?」

ティ「もう今回のを読んだらな。」

ロ「そういう言い方やめて!」

ユ「なんか新章開始してから感想掲示板見るのが怖いよね。なんか読者の皆さんはきちんとご意見言ってくれたり暖かい感想送ってくれたりするけどそのうち誰も見なくなりそうで怖いよね。」

ロ「…………………………………………………………(泣)」

ツン2「今回も作者をきっちりへこませたところで次回予告にいきます。」

ティ「遂にユーノVSチンク戦勃発!」

狸「そしてその後機動六課に視察に来る例の方!」

ツン2「その場でユーノさんの最後の秘密大暴露!(もう今回でほとんどバレバレだけど)」

ユ「次回もかなりぶっ飛んでますので皆様どうぞ投石のご用意を。」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお寄せください!じゃ、せーの……」

「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」



[18122] 7.翠色の罪
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/09/09 20:36
ミッドチルダ 北部 森林地帯

「やれやれ、いくら自分に関係ないと思ってても自分のそっくりさんがここまで倒れてると流石にいい気分じゃないね。」

ユーノはあたりに倒れている人を避けながらなのは達が向かったという施設に向かう。

「それにしても、話を聞いた局員たちが変な顔してたのはこういうわけか。」

ユーノが話を聞きにいった局員たちは彼の顔を見た瞬間ひそひそと話し始め、まるで怪物でも見るような眼で見ながらなのは達が向かったポイントを教えた。
そして、ユーノがバイクにまたがりヘルメットをした瞬間、誰かが呟く。
もうユーノには聞こえないと思って呟いたのだろうが、ユーノはしっかり聞いていた。

「テロリストめ、ね………仮にも同じところで働いている人間にかける言葉じゃないね。」

そんなことをつぶやくユーノに記憶の断片がよみがえり、語りかけてくる。
アザディスタンでのミッション。
こちら側の地球ではまだ生まれていない、生まれるかどうかすらわからない国で仲間が浴びせられた言葉。

(……刹那もこんな気持ちだったのかな。)

自分がいる国からはうとまれ、自分と同じ血が流れる者は戦いをやめようとしない。

「………やるせないね、まったく。」

ユーノはため息をひとつついて先に進んでいく。
その時、

(?話し声?)

若い二人の女性の声が聞こえる。
声のする方に行ってみると二人の少女がボードに乗りながら下に降りてくる。
一人は銀色の長髪と眼帯が特徴的な背の低い少女。
もう一人はピンクの髪を後ろで短くまとめた少女で、こちらは左腕を負傷しているようだ。

(翠玉人……には見えないけど、一般人でも局員でもなさそうだね。)

正直、少し管理局にうんざりし始めていたユーノは見過ごそうかとも思ったが、はやてたちに必要以上の面倒を押し付けるのも気が進まない。

(しょうがない。)

ユーノは手元に魔法陣を出現させ、慎重に負傷していないほうの少女に狙いを定める。

(よし……もう少し……)

ユーノがリングバインドを発動しようとする。
その時、

「!?チンク姉ぇ!!」

(気付かれた!!?)

ユーノは一気にバインドを発動させるが、ピンクの髪の少女が眼帯の少女を押してかわりに自分がバインドにとらえられる。

「ウェンディ!!」

(チッ!)

ユーノはソリッドを起動させて草むらから躍り出るとアームドシールドの刃を眼帯の少女に向ける。

「動くな!!」

眼帯の少女はピクリと体を震わせるが、手元に何かをしのばせる。

「管理局、機動六課のものだ。そこの君も手の中のものを捨てて大人しくしてもらえると嬉しいんだけどね。」

(ユーノ・スクライア!?)

眼帯の少女は思いもしなかった名前に動揺する。

(よりによって噂のガーディアンか……厄介な人間にあたったものだ。)

少女はおのれの不運を嘆いたが、それはユーノも同じだった。

(本当はこの子を拘束して負傷してる子を説得して保護……って言う流れで行きたかったんだけど、まさか気付かれるとはね。おまけに、この子はやる気満々。)

ユーノは明らかに手の中のものを捨てる気がない少女を警戒する。

「一応聞いておくが、もしそちらの指示に従う気がないと言ったらどうする?」

「頭の悪い管理局の人間みたいで不本意だけど、君を力づくで拘束することになるね。こっちも一応聞いておくけど、ここまで聞いて指示に従う気は起きないかい?」

「残念ながら。」

「そう。じゃあ……いくよ!!」









魔導戦士ガンダム00 the guardian 7.翠色の罪

ユーノは眼帯の少女、チンクの手元を狙って右手のアームドシールドの刃に左手に発生させた魔力刃滑らせ、スピードを乗せて抜き放つ。
しかし、チンクはユーノが接近を開始した瞬間、あっさりと持っていたものを捨ててその場を離れる。

「ナイフ?」

ユーノはチンクの落としたものを見て首をかしげる。
見たところ投擲して使うタイプのようだが、投げる前に落としてしまっては意味がないように思われた。
だが、

「IS、ランブルデトネイター。」

「な!?」

チンクがそうつぶやいた瞬間、ユーノの周りに散らばっていたナイフが一斉に爆発を起こす。
爆音と振動で木に止まっていた鳥たちが一斉に飛び立った。

「悪いな。手加減をしてやれるほど私は器用じゃない。とくに、妹に危害が及ぼうとしているときはな。」

「チンク姉ぇ……」

「大丈夫か、ウェンディ?」

チンクは地面の上にバインドをかけられて横たわっているウェンディのもとに歩きだそうとする。
しかし、煙の中からユーノが飛び出し、チンクに斬りかかる。

「クッ!?バカな!あの爆発をどうやって!!」

「こうしたのさ。」

〈Heat〉

ユーノの周りの空気の温度が上がっていく。

「魔力を熱に変換して空気の膜を作ったのさ。さすがにプロテクションだけじゃ防ぎようがなかったからね。」

「なるほどな。確かにフォンの言うとおり、頭は回るようだな。」

「?フォン?」

ユーノが首をかしげるのを見てチンクは思い出す。

「ああ、そうか。こちらでは確かロバークと名乗っていたな。」

チンクの言葉を聞き、ユーノの記憶の棚の扉が開かれる。

「そうか、やっと思い出した!彼の名はフォン・スパーク!フェレシュテのガンダムマイスター!」

「……どうやら、フォンの言っていたことはまんざら嘘でもなかったようだな。」

チンクは再びナイフを取り出し、足元に機械の歯車を模した魔法陣を展開する。

「ここからはお互い本気だ。」

「望むところだ。」

ユーノは足元の土を巻き上げて姿をくらまし、チンクへと向かっていく。

「そこだ!!」

チンクは土煙の中へ向けてナイフを投げ、爆発させる。
だが、その衝撃で煙が晴れたところにユーノはいない。

「誰が馬鹿正直にそんな視界の悪いとこを通るとでも!」

土煙を避けて進んでいたユーノが後ろからチンクに斬りかかる。

(あの爆発するナイフは今は彼女の手元にない!もらった!!)

「ナイフでなければランブルデトネイターが使えないと誰が言った?」

「!!!」

チンクの後ろには三枚のコインが置かれ、それらが赤く発光しているのがユーノの目に飛び込んでくる。
あわてて横に進路変更すると同時にコインが爆発し、その爆風がユーノを吹き飛ばす。

「クッ!!(馬鹿な!?あんなコインのどこに爆薬を仕掛けたんだ!?)」

ユーノはチンクをじっくりと観察するが、特に不自然なところはない。
あえて挙げるとしたら彼女の足元に発生している魔法陣だ。

(ナイフやコインに爆薬を仕掛けていないのだとしたら、今まで起こっていた現象は彼女の能力……爆破能力?でも、だとしたらなんでそれを使って僕自身や持っているものを爆発させようとしない?)

チンクはさらに持っていたナイフを取りだして指の間に挟み、投擲の準備を完了する。

「不思議か?」

チンクが小さく笑う。

「残念ながら私は爆薬など使っていない。私のIS、ランブルデトネイターは私が触れた金属を爆発させるものだ。」

「なるほどね……あの手品のカラクリはそういうことか。」

「フッ……手品か。ならば、その手品の恐ろしさを嫌というほど味わうのだな。」

チンクはナイフをユーノへと投げて爆発させるとウェンディの乗っていたボードまで一気にさがる。

「すまんな、ウェンディ。今度新調してもらえ。」

「ちょ!?チンクね…」

「っ!ちょっとまずいかな!」

ウェンディが待ったをかけようとするが、チンクはそれをしばらく持った後、近づいてきていたユーノへと投げつける。

「終わりだ!!」

ボードは赤熱し、今にも爆発しそうだ。

(ッ!こうなったら!)

ユーノはそれを見てさがるどころか突進する速度を上げる。

「馬鹿な!!死ぬ気か!?」

「誰が!!」

ユーノはボードを追い越したところで背中に防御を展開する。
そして、ボードの爆発の勢いを利用してチンクへと一気に接近する。

「なに!?」

「うわあああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

態勢を崩しながらもユーノはチンクを押し倒して両の手を抑え込んで動きを封じる。

「っつ……僕の勝ちだ…」

「チンク姉ぇ!!」

「勝ち?違うな……」

「?」

「私達の勝ちだ。」

ユーノは背後から殺気を感じその場を慌てて飛び退く。
次の瞬間、それまでユーノがいた空間の大気を長い脚が斬り裂く。

「無事か、チンク?」

「ああ、なんとかな。」

「二人とも~。ウェンディの回収は終わったよ。」

「ちょっと、セイン!!なに人を手荷物みたいに脇に抱えてるんスか!?」

チンクと距離をとったユーノの前にチンク達と同じ格好をした二人組が現れる。

「四対一か……少し卑怯じゃない?」

「お前やフォンのようなめちゃくちゃな奴にこれくらいやってもバチは当たらんだろ。」

「ハハハ………お褒めにあずかり光栄だね。………あ!!」

ユーノは驚いた顔でチンク達の後ろを指さす。
かなりベタな手だ。

「………そんなものに引っかかるとでも?」

チンクは呆れてため息をつく。
だが、

「なんつって♪」

「「「「!?」」」」

〈Flash〉

ユーノは手元に激しい光を発生させる。
チンク達は目がくらみユーノの姿を見失う。

「クッ!どこだ!?」

「あ!!」

セインが大声を上げる。

「どうした!?」

「ウェンディとられた!!」

「「なにぃぃぃ!!?」」









「離せッス!!この人攫い!!」

「いだだだだ!!!!人の手にかみつかない!!」

ユーノはウェンディにかみつかれながらも必死でその場から離れようとする。

「やれやれ、人を買いかぶりすぎだよ。あんなムキになっちゃって。」

「どうでもいいから降ろせッス!!って、あいた!!」

ウェンディはいきなり地面に落とされる。

「いたた……落とせじゃなくて降ろ……せ………っス。」

ウェンディは目の前の光景を見て凍りつく。
目の前に大量の局員が発生させたスフィアが壁のように並んでいる。

「デバイスを捨てて手をあげろ!!」

「「はぁ~い………」」

ユーノはデバイスを地面に置いて手をあげ、ウェンディは拘束されているので手をあげることができないので暴れるのをやめて無抵抗の意志を示した。










「クソッ!!早く追いかけて……」

チンクが追いかけようとするが、トーレが肩を掴んで止める。

「トーレ!?」

「なにしてんだよトーレ姉ぇ!!早く追わないとウェンディが!」

「これ以上ここにいたら私たちも危険だ。退くぞ。」

「けど!!」

「心配するな。」

トーレはセインに笑いかける。

「スクライア司書長と機動六課に保護されればそれほど心配しなくともいいだろう。」

「え?」

セインが不思議そうに首をかしげる中、近くから足音が聞こえてくる。

「とにかくここから離れるぞ。ウェンディは後で奪還するなりすればいい。」

セインとチンクは不満そうな顔をしていたが、トーレに半ば強引にその場から脱出することとなった。







地上本部 レジアス中将の部屋

口の周りに髭を蓄えた厳つい顔の人物は自分の目の前にいる男の存在が鬱陶しくて仕方なかった。
白いコートで全身を隠し、涼やかな笑みを浮かべながら自分を問い詰めてくる。
その喋り方、態度、そして何よりどこの馬の骨とも知れない人間であるにもかかわらず査察部で民間協力者として働いているということが気に喰わない。

「それで、レジアス中将は襲撃を受けた例の施設とのかかわりは……」

「くどい。ないと言っているだろう。これ以上話すことなどない。」

椅子の背もたれに寄りかかりふんぞり返るレジアス・ゲイズ中将の姿を見た白いコートの男はフゥと眉をひそめながらため息をつくが、顔から笑みは消えていない。

「そうですか。では、そのように報告させていただきます。ただ……」

不意に男の笑みが含みのあるものに変わる。

「僕もロッサも真実をとことん追求していくつもりです。その途中で偶然レジアス中将に疑いの目を向けることがあるかもしれませんが、どうかご容赦を。」

男は深々と、そして優雅に頭を下げると扉へと向かって行く。
そこで待機していた秘書と思われる髪の長い女性が扉をあけ、一礼する。

「それでは、僕はこれで。」

男が廊下に出てもう一礼した後扉が閉じられる。
その直後、レジアスは机を叩く。

「本局の犬が……!!どこまでも忌々しい!」

実際、レジアスは今朝がた報道された施設とのかかわりは確かにあった。
しかし、あの施設の指示をしていたのは“やつ”であり、自分ではない。
レジアスは“やつ”に自分に疑いがかかることがないと、そして、例のものを管理局全体に普及させると言われたからこそ協力したのだ。
だが、“やつ”は唯一進んでいた『ナイト』とその出力機関の研究のデータをよこさないどころか進行度合の報告すら行わない。
そこに加えて『エンジェル』を奪われてしまい、あそこで行われていたことが世間の目にさらされることになってしまった。

「中将。」

秘書をしている女性が扉の前でレジアスに話しかける。

「なんだ?」

「少々仮眠をとらせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

確かに彼女は昨夜から起きていて一睡もしていない。
この時間帯ならばいなくても特に問題はないし、今は一人になりたい気分だ。

「構わん。」

「ありがとうございます。」

そう言うと女性は扉を開けて廊下に出ていく。
その時、彼女の顔に薄い笑みが浮かんでいたことは誰も知らなかった。








廊下

ヒクサーはゆっくりとした足取りで廊下を見渡しながら歩いて行く。
しかし、曲がり角の手前で歩みを止める。

「……尾行なんて、秘書のすることじゃないですよ。」

ヒクサーが振りむくと一つ手前の曲がり角からクスクスと笑いながら先程会った女性が出てくる。

「あら、そういうあなたこそ次元漂流者が査察官の補佐なんてするものじゃないわよ。お偉いさん方の恨みをかったら自分の世界に帰れないどころか、ここで消されちゃうわよ。」

女性は指先に魔力でできた鋭い爪を生み出し、赤い舌で舐めるような仕草をする。

「それは困るね。」

ヒクサーはそう言うとコートの下から銃を取り出して女性に向ける。

「質量兵器はここではご法度よ?」

「僕は君たちと違って魔法の使えないひ弱な男なんでね。これぐらいしても問題はないさ。」

「……すっごい矛盾した話だけど、管理局の息のかかった世界ではよほどのことがないと質量兵器は使えないのよね。たとえ、魔法を使える人間が使えない人間に対して魔法で危害を加えようとした場合でもね。」

女性は呆れたようにため息をつくと爪を消してメモリーをヒクサーに投げ渡す。

「そこに今回の件の詳細が入ってるわ。ただし、しばらくの間は発表しないことね。それがあなたのためよ。」

「どういう風の吹きまわしだい?君はレジアス中将側の人間じゃないのか?」

「ハッ、冗談?なんであんな殺す価値もない堅物で剛腕なおっさんの味方をしなくちゃいけないわけ?あのおっさんの下についてるのは仕事で仕方なくよ。」

女性は心底うんざりした顔をヒクサーに見せた後、背を向けて歩きだす。

「あ、そうそう。レジアスの堅物よりも、ファルベル・ブリングに気をつけなさい。」

女性は真剣な表情でヒクサーの方へふりかえる。

「……あのジジィは本当にくえない男よ。レジアスもあのジジィにいいように踊らされてるだけ。それに、あのジジィには黒いうわさが常に付きまとっている……実際、奴の罪の一端が私や私を作った人なわけだしね。」

女性はひとしきり喋った後、大きく伸びをする。

「じゃ、私はホントに休ませてもらうわ。じゃあね、かっこいいお兄さん。」

女性は手を振りながら再び曲がり角を曲がっていってしまう。

「……ねぇヒクサー、このことはロッサに報告するの?あの底意地の悪そうな女の言ってたことが嘘にしろ本当にしろこれ以上は私たちがかかわるべきことではないと思うし、下手したらロッサ達にも迷惑がかかるよ?」

ヒクサーの後ろの曲がり角の影から頭に猫の耳のような飾りをつけた少女が出てきて女性の去っていった方にあかんべえをする。

「この事件……いや、これまで起こった事件にはトレイターA13がかかわっている。となると、僕たちとも無関係じゃない。それに、僕たちが向こう側の地球に帰るヒントは間違いなく彼が握っている。ついでに、ユーノもつれていくよ。」

「え~?あの旧式コンピューター並みに記憶がよくとぶ奴連れてってどうするの?」

猫耳の少女、887は顔を赤くしながら自身の髪をクルクルと指に巻きつけながら遊ぶ。

「887は……」

「それもうひっかからないよ、ヒクサー。」

887は頭の飾りを押さえながら後ずさる。

「いや、本当は887が嘘をつくと鼻の先が動くんだ。」

「だからもう騙されないって。」

887はヒクサーのニコニコした顔をじっと見つめる。

「…………………………………」

「…………………………………」

ニコニコしたまま自分を見ているヒクサー。
ついに887は我慢できずに鼻を触る。

「嘘だよ。」

にっこりしたまましれっと言い放つヒクサーに887は顔を真っ赤にする。

「ま、887には悪いけどまだ彼に僕らの存在を知られるわけにはいかないな。これからロッサやヴァイスと会うときは気をつけないと。」

「だ、だから私はあんな脳みそお花畑な奴のことなんてどうでもいいって言ってるでしょ!!」

887は笑いながら歩きだすヒクサーへもう抗議をしながらその後をついていった。








スカリエッティのアジト

無事に帰ってきたチンク達をむかえたナンバーズだったが、ウェンディが管理局に捕縛されたと聞いて喜びもどこかに吹き飛んでしまった。
そんな中、スカリエッティは話を聞くと一人でどこかへ歩いていってしまった。

「なんだよあの態度!!ドクターも少しは心配しろよな!!」

赤髪の少女、ノーヴェは怒りながら廊下をドスドスと歩いていく。

「だいたいトーレ姉ぇやクア姉ぇももう少し気のきいたこと言えねぇのかよ。『そうか。』の一言で終わらせていいことじゃないだろ!……って!なんであたしがウェンディのアホの心配しなくちゃいけねぇんだ!!?いや、違う!これは心配なんかじゃくて……」

「何をやっている、ノーヴェ。」

ノーヴェは後ろからチンクに声をかけられわたわたととりみだす。

「チ、チンク姉ぇ!?いや、違う!これはその……」

「隠さなくてもいい。姉も最初は確かに心配だった。だが……」

「?」

チンクはノーヴェに笑いかける。

「ウェンディは運がいい。なにせ、彼女たちのもとに行ったのだからな。」












機動六課隊舎 部隊長室

はやてはソファーに座りながらテーブルをはさんだ向こう側に座る厳しい顔つきをした眼鏡の女性と向き合いながら座っていた。
隣にはユーノが座っているのだが、目の前の女性とは違って気楽にティーカップに入った紅茶を飲んでいる。

「スクライア司書長。あなたはまじめに人の話を聞く気があるのですか?」

眼鏡の女性は手をフルフルと震わせながらユーノの態度を我慢していたが、とうとう我慢が出来なくなったのかユーノを睨みつける。

「生憎と僕は理由もろくに説明もせずに部下に身柄を拘束させるような恥知らずの話をまじめに聞いているほど暇でもないので。今回は八神部隊長がどうしてもおっしゃるのでここに来たにすぎませんよ。あ、お話したいことがあればどうぞ勝手に話していただいて結構ですよ、オーリス三佐。一応聞いておいてあげますから。」

ユーノの言葉に眼鏡の女性、オーリス・ゲイズは全身の震えを大きくし、はやては顔じゅうから汗をふきださせている。
ユーノと妙な格好をした少女がオーリスとその部下に連れられて来ただけでもう胃に穴があきそうだったはやてだったが、今はそれどころか内臓を見えない手に握りしめられているような気分だ。

「では、『勝手に!』話をさせてもらいます。」

語気を荒げるオーリスだが、はやては気を取り直してまっすぐオーリスを見つめる。

「まず、八神二佐。スクライア司書長が勝手に別部隊の捜査に介入した。これはあなたの指示ですか?」

「いいえ。」

はやてが答える前にユーノが素早くこたえる。

「あなたには聞いていません。」

「あなたこそ質問する相手を間違えるものじゃないですよ。それに、僕はここに来る前にもあなたにそう言ったはずですよ?それとも、これを理由に機動六課に対して何か要求でもするつもりだったんですか?……あ、このクッキーおいしい。」

ユーノはテーブルの上のクッキーをつまみながらオーリスの話を流す。
オーリスはこめかみに青筋を浮かべながらも、咳払いをすると次の話題に入る。

「では、スクライア司書長。あなたが捕縛したあの少女ですが、身柄は私たちが引き取らせて…」

「捕縛?僕はそんなことした覚えはありませんよ?彼女は戦闘地域を歩いていて危険だったから僕が保護したんです。バインドは彼女が混乱して暴れたので仕方なくかけたものですよ。」

この発言にはオーリスだけでなくはやても目を白黒させる。

「何を馬鹿な……彼女は…」

「何をしたって言うんですか?あなたは彼女が何をしたのか知っているんですか?あれだけ到着が遅かったのにどうやって彼女が犯罪行為をしている現場をおさえたんですかねぇ。それとも、彼女を連れて行かないと何か不都合でもあるんですか?」

ユーノはすらすらと喋った後、渇いた口の中を紅茶でうるおす。
はやてとオーリスは横断歩道の信号機のように対称的に青い顔と赤い顔をしている。
オーリスは怒りを必死に抑え込みながら最後のカードを、最強の切り札をユーノの前にさらす。

「では、最後の質問です。」

「どうぞ。」

「あなたは、翠玉人ですね?」

その瞬間、勝利を確信したオーリスの口元に笑みが浮かんだ。








ロビー

「それで、翠玉人って何なんですか?」

任務から帰ってきたエリオとキャロは困った表情を浮かべるスバルとティアナに問いかける。
二人のまっすぐな目を見ながらスバルが口を開く。

「え~と、簡単に言うとテロリスト集団かな。」

「あんたは肝心なところの説明を全部端折るな!!」

「あぐっ!!?」

スバルはティアナの鉄拳を頭頂部に受けて床の上に沈む。
その様子を見て震えているフリードやキャロにため息をつきながらティアナは説明を始める。

「翠玉人の話をするには、まず魔法体系がベルカとミッドに分かれる前まではなしを遡らなくちゃいけないの。彼らはもともとミッドチルダにいた民族の一つだったんだけど、魔法体系がベルカ式とミッド式に分かれる際に起こった争いに巻き込まれたの。彼らは当時……ううん、今でも彼らの持つ技術は他のどこよりもぬきんでていて、実際、翠玉人が関係していると思われるロストロギアは今もあちこちで見つかっているの。そして、当時争いを繰り広げていたどの陣営も彼らを引き込もうと躍起になったの。でも、彼らはどの陣営の呼びかけにも応じなかった……その結果、どこからも迫害を受けるようになって当時のミッドを去ったの。」

「でも、それって変ですよ。そんなにすごい技術力があったんなら他のところに対抗できたはず……」

「……それが、できなかったんだよ。」

スバルは頭をさすりながらキャロの質問に答える。

「翠玉人は争いを好まない民族だったんだ。だから、彼らは自分の技術が戦争に使われることを嫌ってどこの陣営にもつかなかったんだ。その後も他の世界で彼らの力を戦いに使いたいと言う人間が大勢いて、断るたびに迫害や殺戮を受けたんだけど、それでもどこにもつかないし、報復も行わなかった。そして、ベルカの諸国戦国時代になってもそれは変わらなかった。」







医務室

「戦いを好まず、抵抗すらしない翠玉人は闇の書の主、そして、我々にとって恰好の獲物だった。事実、私たちは次元世界各地に散らばった翠玉人たちの集落をいくつも全滅させた。まだ、言葉も話せないような赤子も含めてな。」

シグナムは俯きながら唇をかむ。
シャマルとザフィーラもまっすぐに目の前にいるフェイトを見ることができずに床に視線を落とす。

「ユーノの眼に既視感を覚えたときに気付くべきだった。あれだけ大勢の命を奪っておきながら、目の前にその生き残りの末裔がいたのに気付けなかった……あの幸せな日々に浸ったしまったせいで、自分の罪を忘れていた……忘れてはいけないことだったのに!!」

シグナムは壁に拳を打ち付ける。
情けなくて、できることなら自分の怒りを炎に変えてこの身を焼いてしまいたいとすら思った。

「でも、シグナムたちだってやりたくてやったわけじゃ………」

「その一言で片づけちゃいけないことだって、フェイトちゃんもわかってるでしょ。」

「けど!!」

フェイトは必死に食い下がるが、三人の悲しげな眼を見て黙り込んでしまった。







ロビー

「争いが一段落すると、彼らは今の第7管理世界、ヴェスティージに身を寄せたの。ヴェスティージは今と違って未開の地で誰もいなかったから、戦いに巻き込まれてきた彼らにとってはまさに楽園だったでしょうね。でも、そんな平穏な日々は突然崩れ去った。」

ティアナは一息つく。
よく見ると手が震えている。
しかし、覚悟を決めたのか再び話し始める。

「もう、過去の戦争が忘れ去られようとしていた時のことだった。彼らが切り拓いたヴェスティージにいろんな世界から来た難民や開墾目的の移民なんかが移り住んできたの。もともとは翠玉人が切り拓いた土地なのにね。それでも、翠玉人たちは彼らを温かく迎え入れたわ。でも、移り住んできた人間たちはすぐに争いを始めた。そして、かつてのように翠玉人たちの知識と技術を求め始めた。それでも、彼らは平和を望み、自ら進んで和解の仲介役をつとめたわ。でも、そんな彼らの想いは最悪の形で裏切られることになった。」

「19年前、翠玉人たちとその指導者がその世界で争いを起こしている部族の和解のために仲介に向かった。でも、道中で彼らをヴェスティージにいたすべての部族が襲ったんだ。各所に点在していた集落も同時に襲撃され、焼き尽くされた。生き残ったのは本当にわずかだったらしいよ。そして、指導者と多くの仲間を殺された彼らは遂に遥か昔からため込んでいた怒りを爆発させた。」

スバルはソファーに座りこむ。

「それ以後、彼らはヴェスティージだけでなく、故郷であるミッドや新天地であるヴェスティージを奪った次元世界の人間すべてを憎み、テロ活動を行うようになった……」

「でも……」

キャロが震えながらも声を張り上げる。

「だからって人の命を奪っていい理由にはなりませんよ!!あんなにたくさんの人が傷ついていいわけがないです!!」

「そうね……」

ティアナがキャロの肩に手を置く。

「だから私たちが彼らの暴走を止めてあげなくちゃいけないの。」









スカリエッティのアジト

「とまあ、これが管理局側にいる人間が効いている翠玉人の話だろうな。」

「違うの?」

ノーヴェは隣を歩くチンクの顔を見る。

「まあ、大筋はあっていると言ってもいいだろうが決定的にかけている部分がある。」

「?」

「管理局の前身である組織が彼らの知識を求めないと思うか?」

「それじゃ!?」

「それだけじゃないさ。ヴェスティージで起きた内戦の理由は管理局の介入だし、公にはされてないが19年前の大虐殺にしても彼らの長が通る場所や集落をリークしたのも管理局だ。しかも、管理局はテロ活動を行っていない翠玉人たちも摘発している。」

鼻で笑うが、怒りで笑顔が歪む。

「しかも、管理世界の人間たちは翠玉人というだけで毛嫌いして迫害する。まったく、無知もここまでくると呆れを通り越して笑えてくるよ。」









機動六課隊舎 部隊長室

オーリスの勝ち誇った顔を見ながらユーノは紅茶を飲んでいる。
しかし、オーリスは先ほどのように苛立つことなく言葉を続ける。

「なぜ翠玉人であることを黙っていたのですか?」

「特に検査もなかったし、聞かれたこともありませんでしたから。」

「翠玉人の特徴は金髪と翠の瞳……どの世界でも特に珍しくはないから詳しく聞かれるなんてまれでしょう。あなたは翠玉人と知られて困ることがあったのではないですか?」

ユーノはオーリスの言葉にかまわずリラックスしたままだが、オーリスはさらにまくしたてる。

「さらにあなたはアグスタを襲った犯人の一人と面識があるようですね?失礼ですが、どこで知り合ったのですか?あなたはスパイなんじゃないですか?」

「三佐、それは…」

「しばらく黙っていてもらえませんか?私は司書長と話をしているんです。」

はやてがフォローを入れようとするが、オーリスによって阻止される。
すると、それまで黙っていたユーノが口を開く。

「確かに僕は翠玉人です。ですが、それが何か?」

「「え?」」

二人の声が重なる。

「管理局法 第3章 局員の権限および権利について 第7条 局員は出身世界、出身民族、および信条によって差別されない。つまり、僕が翠玉人でもなんら問題はないということです。実際、僕以外の翠玉人の局員もいますしね。それと、僕のことを知っていた容疑者についてですが、管理局内や裏社会にいる人間にはある程度僕の情報は流れてますからね。知っていても不思議はないでしょう。」

「そんな屁理屈が……」

「なら、僕が彼と繋がりがあるという確たる証拠があるのですか?それもなしにスパイ扱いなんて心外ですね。」

ユーノはニコニコしながらオーリスにとどめの一言を放つ。

「以前、僕があなた方に見せたような決定的な証拠をお持ちくださらない限り、僕はあなたの思うようになるほど大人しい人間ではないですよ。」

そう言うとユーノは自分の携帯に何かを映してオーリスに向ける。
それを見たオーリスは顔を真っ青にする。

「まだ持ってたのか!って顔ですね。心配いりませんよ。誰にも見せてませんから。ただ……あなた方が僕や機動六課に何かするつもりなら、次の日の新聞記事にでかでかとこれが載るはめになりますよ。知り合いの記者がすっごく喜ぶだろうなぁ。」

ユーノの笑顔を見ながらオーリスは悔しそうに震えていたが、息を吐いて自身を落ち着かせるとソファーから立ちあがる。

「今回はここまでにしておきます。また何か問題が起こした時はそれ相応の罰が待っているのでそのつもりで。」

オーリスはそう言い残すと扉の前まで歩いて行く。

「ああ、それと…」

「?」

オーリスは突然ユーノに声をかけられて後ろを向く。

「これから言うことはあくまで僕のひとりごとなので聞き流しておいてください。」

そう言うとユーノは爽やかな笑みを浮かべる。

「一昨日来やがれバカヤロウ。」

ユーノのその一言でオーリスは首元まで真っ赤にし、はやては頭を押さえてテーブルにうずくまる。
しかし、オーリスは何も言わずに扉を開けて廊下に出ると壊れるのではないかというほどの力で扉を閉めていった。

「……あそこまで言うもん、普通?」

はやてはテーブルに突っ伏したままユーノに問いかける。

「一度言ってみたかったんだよねあのセリフ。」

「そのせいで私は心底はらはらしたわボケェェェェ!!」

はやてはユーノの襟をつかんでがくがくとゆする。
しかし、当の本人は首から上が人形のように激しく前後しているにもかかわらず笑みを絶やさない。

「勝手に関係ないところに首突っ込んで厄介事ひきつれて帰ってきてその態度はなんやぁぁぁぁ!!」

「君だっていつも似たようなことやってるだろ?機動六課なんてその最たるものじゃないか。」

「私はきっちりあちこちに頭下げてお願いして作ったの!!ユーノ君は無許可で捜査!!これはルール違反!OK!?」

「はいはい。」

反省の色が見られないが、はやては仕方なくユーノを離し本題に入る。

「で、ほんまなん、さっきの話。」

「うん。黙ってて軽蔑した?」

「そんなこと言うたら私らみんな今まで友達続けられてへんって。」

「それもそうか。」

ユーノとはやてはクスクス笑う。

「それで、オーリス三佐に何見せたん?」

「ああ、これね。」

ユーノは携帯の映像を見る。

「あの人たちが関わってた裏帳簿。」

「え、嘘!?頂戴!」

はやてが目をキラキラ輝かせる。

「駄目だって。何に使う気だよ、ったく。」

「でも、そんなんどうやって手に入れたん?」

「アイナたちに頼んで調べてもらったんだよ。少しばかり高くついたけどね。」

「ああ、あのおもろい人ね。」

はやてはアイナのことを思い出す。
以前、はやても捜査中に彼女の取材を何度か受けている。
その時にユーノと同じスクライア族出身で、幼馴染であることを知ったのだ。

「私も頼もうかな?」

「やめた方がいいよ。捜査情報どころか私生活の情報まで聞きだされるから。」

「……やっぱやめとこ。でも、なんでそんなこと調べてもらったん?」

「ああ、昔あの人もはやてたちみたいに無理やり地上部隊に僕を引き抜いたからね。で、頭にきたからこれを見せて強請って無限書庫に戻してもらった。」

「それ犯罪やからな。」

はやてはユーノの話を聞きながらかつてユーノが自分にしたことを思い返していた。




二年前、はやてはかなり強引にユーノを当時自分がいた108部隊にスカウトした。
はやてははやてなりにユーノのことを局の人間に評価してもらいたいと思ってスカウトしたのだが、当の本人は不満だったようだ。
そんなある日、ユーノはある事件の犯人に対し口では言い表せないような仕打ちをして問題を引き起こし、挙句アルフ達無限書庫の司書たちと結託し、無限書庫からの情報提供をすべて遮断した。
そして、流石にはやても困り果ててユーノを無限書庫にかえすことにしたのだった。
ちなみに、フェイトやなのはたちも同じようなことをして同じような被害にあったらしい。





(……なんでやろ。今この時だけあのおっさんに同情したい。)

「どうしたのはやて?」

「いや、なんでもない。それより、あの連れてきた子はどうするん?結局こっちで保護することになったけど……」

「ああ、それならもうなのはとヴィータに話をつけてあるよ。」

「へ?」

予想外の答えにはやては驚く。

「後は部隊長である君が許可していただければ万事解決さ。」

そう言ってユーノは懐から一枚の書類を取り出してはやてに渡す。

「…なるほど。これなら上の連中も手を出すのは難しいやろうな。」

「でしょ?ま、その分はやてに無理をしてもらうことになるかもしれないけどね。」

「もとから遠慮する気なんてないくせに。」

はやては笑いながら自分のデスクに向かうとペンを取り出して書類にサインをした。







?????

「やれやれ、まさかエンジェルを奪われるとはな……まあいい。ろくに調べることができないあれよりもこの『ナイト』の方が幾分かましだ。」

そう言うと老人は目の前にいる白一色の巨人を見上げる。

「GNドライブ……だったか。まさかこんなものを作り出せる世界が存在しているとはな。しかし、模造することはさほど難しいことではなかったな。」

ライトで照らしだされた老人の後ろには目の前にいるボロボロの白い騎士と同じものが傷一つない状態でいくつも並んでいる。

「すまんな、レジアス。真の平和と正義のため、君には今しばらく泥をかぶってもらおうか。ククク……」









天使は狂気のもとへ
しかし、騎士はその歪みを拡大させていく






あとがき・・・・・・・・・・・という名のオリストーリーその二

ロ「というわけでオリ編その二でした。オリ編は次回で完結です。」

フォ「そしてお前の人生はここで終わりだ!」

ロ「いだだだだだだだだだ!!!!またこんなか!?というかなんで今回は卍固め!?」

フォ「俺様の気分だ。」

ロ「ふざけんなぁぁぁぁ!!あ、痛い!痛いからもう勘弁…ぎゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

姉「……ロビンが失神したので私が代わりにゲストの紹介をさせてもらう。今回のゲストは874の友達、フェレシュテの天才メカニック、シェリリン・ハイドさんだ。」

シェ「どうも~。というかなんで今回私?ふつうはスメラギさんとかじゃないの?」

ウェンディ(以降 ウェ)「あんたぐらいしかフォンの暴走に態勢がないからロビンが呼んだんス。」

シェ「その本人泡吹いて倒れてるけど。」

姉「気にしたら負けだぞ。さて、解説に行こうか。」

ウェ「なんかもっとボッコボコに叩かれると思ってたオリ設定をなんか思ってたよりみなさんすんなり受け入れちゃったスね。」

フォ「これにはさすがに俺様も驚いたな。」

シェ「まあ、今回で叩かれる可能性もあると思うけどね。」

ウェ「不吉なことをいうもんじゃないっス。」

姉「まあ、これからもそこで死んでいるやつをしごいていけばいい話だ。」

シェ「あれはもうしごきようがないと思うけど?なんか首とか手足がエクソシストに出てくる人みたいになってるし。」

ウェ「ギャグだから次回には(以下略)」

フォ「あげゃ。じゃあ、さっさと次回予告に行くぞ。」

姉「管理局にとらわれたウェンディ。」

シェ「不安になっている彼女に機動六課は思いもよらぬ提案をだす。」

フォ「その提案とは果たしてなんなのか?」

ウェ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお聞かせください!んじゃ、せーの……」

「「「「次回をお楽しみに!!」」」」



[18122] 8.スターズ5
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/09/23 11:06
スカリエッティのアジト

『……外部からのアクセス確認。認識コード、874。起動を許可します。』

コックピット内に光がともり、中に固定されていた球体の目の部分にも光がともる。

「……確かにガンダムマイスターに準ずる存在とは言ったが、なんでよりによってユーノではなくお前なんだ、874。」

四年ぶりに眠りから覚めた彼はモニターに映った水色の髪の少女を疲れたような声を出しながら見つめる。

『現在ユーノ・スクライアは我々に協力してくれる状況になかったので私があなたとソリッドを起動させました。』

「どういうことだ?」

自分の相棒の性格を考えると頼みさえすれば協力してくれると思うのだが、彼女はそうでないと言う。
これはどういうことなのか。

『我々は現在、彼と彼の所属する組織と敵対関係にあります。』

「……つまり、俺の敵でもあるということか。」

球体の目が光り、萌黄色の巨体が立ち上がろうとする。

「ユーノに手を出すと言うなら俺が容赦しない。」

『やあやあ、元気だね君は。しかし、少し私たちの話を聞いてみる気はないかい?』

874に代わりモニターに紫色の髪をした男が現れる。

「誰だ?」

萌黄色の巨人は巨大な銃口を男に向けるが、男は涼しい顔をしたまま質問に答える。

『私の名はジェイル・スカリエッティ。この世界の歪みと敵対する男。そして、君の友人にとある選択を与える男だ。』

青色の球体、967はソリッドに銃口を下ろさせる。

「話を聞かせてもらおうか。」








機動六課 訓練場

今日も朝早くから訓練場に集められた機動六課の新人たち。
そんな彼女たちの前にいつも通りなのはとヴィータが現れる。

「さて、今日もみんな頑張っていくよ。」

「「「「はい!!」」」」

「さて、その前にお前らに会わせておきたいやつがいる。おい、入ってきていいぞ。」

ヴィータの言葉の後に現れた人物を見て四人は驚きのあまり言葉をなくす。
ピンクの髪を後ろで短くまとめ、四人と同じようにTシャツとジーパン姿で不機嫌そうに唇を尖らせた少女がビルの影から姿を現す。

「……今日からスターズ分隊に一時的に配属されるウェンディっス。別によろしくしなくてもいいっス。」

「「「「ええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!?」」」」








魔導戦士ガンダム00 the guardian 8.スターズ5

前日

「離せっス!!この横暴公務員!!職権乱用で訴えるっスよ!!」

「いててててて!!!この餓鬼!!」

ウェンディは自分を無理やり掴んで連行しようとしている地上部隊の局員の手にかみつきながら毒づく。

「あたしに変なことしたらみんなが黙ってないっスよ!!特にクア姉ぇは性格悪いからじわじわいじめられるッスよ!!」

「チッ!!少しは静かにしろ!!」

局員はウェンディの骨折している部分をこれでもかと握りしめる。

「っあああぁぁぁぁぁぁ!!」

「大人しくしろ!お前の身柄はこちらで……」

「いや、そいつの身柄はこっちで引き取らせてもらうぜ。」

ウェンディを連れていこうとしていた局員、そしてウェンディ自身も突然現れたヴィータに戸惑う。

「いちいち余計なことに首を突っ込ないでいただきたいですな、ヴィータ三尉。」

「そいつは正式にこちらで引き取ることになった。嘘だと思うんならすぐにでも確認をとるんだな。」

「それに、今あなた方がとっている行動は管理局の品位を著しく損ねるものだと思われます。そんな人たちに彼女を任せることはできません。」

「おやおや、高町一尉。今あなた方のとっている規律を乱す行動の方がよほど管理局の品位を損ねるものだと思いますが?」

ヴィータに続いて登場したなのはに局員は渋い顔をしながらも皮肉を言う。

「文句があんなら出るとこでてもいいんだぜ。結果はわかりきってるがな。」

ヴィータの強気な声と発言に局員たちは返す言葉が見つからず悔しそうな顔をして黙ってしまう。

「……こんなことをしてただで済むと思うなよ。」

「捨て台詞はいいからさっさと出て行け。」

ヴィータが顎で扉を指すと局員たちは二人を睨みながらぞろぞろと出ていく。
そして、彼らが全員いなくなったところでなのははウェンディに歩み寄る。

「ごめんね、嫌な思いさせちゃって。腕は大丈夫?」

「…………………」

ウェンディは相変わらず厳しい顔つきでなのはとヴィータを睨みつけている。

「ま、あんなのの後じゃあたしらの話なんて聞きたくもなくなる……」

「ぎゃあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「「「!!?」」」

ヴィータが大きくため息をつこうとした時、廊下から断末魔の叫びが聞こえてくる。
そしてその後、扉を開けて入ってきたユーノの両手に握られているものを見た。
ユーノの手には空になってなお、もうもうと湯気を上げているバケツが握られている。

「いやぁ、あの人たちには悪いことしちゃったなぁ。はやてから単独行動の罰として掃除をさせられてたんだけど“偶然”熱湯の入っていたバケツをひっくり返しちゃって“偶然”あの人たちの頭にかかちゃったんだよねぇ。まあ、人を理由もなく拘束するなんてひどいことをしたから天誅…じゃなくて、天罰がくだったんだね♪」

「天罰ね…」

「にゃははは……」

二人がひきつった笑いを浮かべるのをよそに、ウェンディはポカンと口を開けている。

「あ、それと君の扱いはこれからこうなるから。」

ユーノはウェンディの前にこまごまとした文字が書かれた書面を見せる。
しかし、ウェンディは真ん中に書かれた大きな文字しか目に入らなかった。

「民間協力者……スターズ5!?な、なんなんスかこれ!?」

あまりにも突然。
そしてあり得ない事態だ。
今まで敵だった人間たちと生活するなどどんな波乱万丈の人生を歩んできた者でもそうはいないだろう。

「あんた頭おかしいんスか!?」

「あははは、よく言われるよ。」

「その割には直す気ゼロっぽいけどな。」

笑うユーノに混乱したまま叫ぶウェンディに呆れるヴィータ。
そんな三人を見ていたなのはがウェンディと目を合わせる。

「びっくりさせちゃって本当にごめんね。でも、こうするしかあなたを守る方法がなかったの。もし、上層部に身柄が引き渡されたら安全は保障できないの。とくに、あなたの体が調べられれば最悪、実験動物にされる。」

「何勝手に人のことを調べてるんスか!」

ウェンディがなのはに吼える。

「あんたたち管理局はいつだってそうっス!!人の知らないところでこそこそと汚いことをして!!そのくせ表向きには正義の味方面をする!あたしたちはそんな管理局が大っきらいなんス!!」

「そうだね……本当に、卑怯者だよね。」

なのはは顔を曇らせるが、すぐにまっすぐにウェンディの目を見つめる。

「でも、だからこそ私たちはそんな管理局を変えたいと思ってるの。本当に正しいと思えることが貫けるような組織にしたいと思ってるの。だから……」

なのははウェンディにかけられていた拘束を解く。

「一緒に手伝ってくれないかな?あなたが管理局の許せないと思うところを一緒に変えていってほしいの。」

なのはに手を貸されて立ち上がったウェンディは折れてない腕で頬を掻く。

「……ウェンディっス。」

「え?」

「いつまでもあなたとかじゃ不便だから名前は教えておくっス。」

顔を赤らめるウェンディを三人はしばらく微笑みながら見つめるのだった。







現在

「ということがあって、今日からこいつも機動六課の一員だ。あんまりいじめんなよ。」

「いやいやいじめませんよ!!じゃなくて何普通に終わらせようとしてんですか!!」

強引に締めようとするヴィータに慌ててティアナがかみつく。

「この子って間違いなくあのフォンってやつの仲間ですよ!!いいんですかそんな簡単に入れちゃって!?」

「うん。だからスターズの二人にこの子のお世話を任せていいかな?」

「え、ちょ、ちょっと!いくらなのはさんのお願いでもそれは…」

「あたしだってこんなツンデレと馬鹿っぽいのに付きまとわれるのはごめんっス。」

「誰がツンデレよ!!」

「ていうか馬鹿ってあたし!?」

「おやおや~?自分で気付くってことは自覚があるんじゃないっスか?」

ウェンディは怒るティアナとスバルを見ながらニヤニヤと笑う。
その笑いはどことなくフォンに似ている。

「あんたね、少しは自分の置かれてる立場を考えなさいよ!」

「きゃ~!ツンデレに襲われるっス~!」

「ティアたんま!!それはまずいって!!」

クロスミラージュをウェンディの頭にゴリゴリと押し付けるティアナをスバルが必死に止めるが、銃口を突き付けられてる本人はへらへらと笑ったままだ。

「はい、二人ともそこまで。ティアナはみんなのリーダーなんだからもっと冷静にならないと。」

「……はい。」

しぶしぶうなずくティアナを見ながらウェンディは舌を突きだす。

「それとウェンディちゃんもみんなともっと仲良くすること。喧嘩は許しません。」

「……はいっス」

笑顔で威圧してくるなのはにウェンディは冷や汗をかきながらうなずく。

「それじゃ、訓練に移るぞ。ウェンディは腕の怪我があるから今日は見学だ。午後から治療のために専用の施設があるところに行ってもらうから、午後の訓練は抜けてもらう。あと、スバルとティアナもウェンディの付き添いだ。」

「え?でも私たちどこも怪我なんてありませんよ?あれから無理もしてないですし。」

「いいから行って来い。これからお前らは三人で一つのチームなんだからな。」

「はあ……」

首をかしげながらも了承し、訓練に向かおうとするスバルとティアナだったが、なのはに呼び止められる。

「二人とも少しいいかな?」

「はい?」

「ウェンディちゃんのことを二人に任せたのは、きっと二人ならウェンディちゃんの事情ときちんと向き合ってくれると思ったからなんだ。だから、ウェンディちゃんのことをお願いね。」

「「???」」

二人はなのはが何を言っているのか最初はわからなかったが、この時は目の前の訓練に集中することにした。







メンテナンスルーム

お昼時にもかかわらず、シャーリーは目の前のモニターとにらめっこを続けていた。
もう朝から椅子に座りどおしのせいか、尻の感覚がなくなってしまい本当に椅子に座っているのかすら分からなくなってしまっている。

「おなかすいた~……お尻痛い~……瞼が落ちそう~……」

「たかだか八時間で音を上げない。」

もうその場に崩れ落ちそうなシャーリーに対し、ユーノは背筋を伸ばしたままコンソールを叩き続ける。

「私は無限書庫なんて労働基準を無視した部署にいたことないからこういう長時間労働はきついんですよ~……というか一からインテリジェントデバイスを作るなんて無茶ですよぉ……しかも、参考にするのがこれなんて……」

二人の前にあるモニターに映されているのは戦闘機型のボードに乗ってヴィータ達を翻弄するフォンの姿だ。

「いくら戦闘スタイルが近いからってこれを再現するのはきついですよ……」

「僕が一人でやるからいいって言ったのに無理やり協力してきたのは君だろ?少しぐらい役に立ちなさい。」

フラフラのシャーリーには目もくれずにユーノは作業を進める。
正直、実際に四年も前であるがアブルホールの整備をしたことがあるユーノにとってはシャーリーがいないほうが都合がよかったのだが、下手に断って変に疑われるもつまらないと思い手伝ってもらったのだが、

(……流石に四年も記憶喪失じゃ思い出すのも大変だな。)

必死でアブルホールに関する知識を思い出しながらそれをデバイスに合わせた形に変換してプログラムをくみ上げていく。
これだけでも大変なのにシャーリーをある程度関わらせなければいけない。
はっきり言ってイアン+友人たちからの無茶な注文にこたえるような日々を送っていなかったら流石に倒れているであろう状況だ。

「アブルホール……The Chariot。正位置での意味は援軍、独立、解放……だが、逆位置だと暴走……」

「何か言いました?」

「いや、なんでも…」

独り言をはぐらかしながら、ユーノは大きくため息をつく。

(彼女が援軍になるか、それとも暴走の火種になるか……頭が痛い話だね。)

ユーノはふと目の前に浮いている白い翼を見る。
かつてフェレシュテと呼ばれていた組織の証を模したそれを見ながら、四年前、ともにアブルホールの整備をしていた名前を思い出せない少女のことを思うのだった。

(……彼女たちは今頃何をしてるんだろう。無事だといいけど。)









西暦2312年 ラグランジュ3 

「へっくし!」 

「どうしたのシェリリン?風邪でも引いた?」

「ううん、なんでもない。それよりヒクサーの足取りはつかめたの、シャル?」

銀髪の女性、シャル・アクスティカは静かに首を振る。

「そっか……最後の通信でフォンを見つけたって言ってたけど、そのフォンも見つからないし、本当にどこに行っちゃったんだろう?」

「それにユーノとソリッド……ソリッドの太陽炉とあの二機の太陽炉のマッチングテストが成功すれば大きな戦力になってくれるのに……」

「といっても、ダブルオーはともかくもう一機の方はとてもじゃないけどユーノ以外は使いこなせそうにないからね~。ユーノには早く帰って来てもらわなきゃ。」

「ユーノが帰ってきてほしい理由はそれだけ、シェリリン?」

「な、なに?ほかに何の理由があるって言うの?」

シェリリンは黒い肌の顔を赤らめながらシャルのいたずらっ子のような笑顔を見る。

「ユーノがいなくなったって聞いた時ワンワン泣いてたのはどこの誰だったかしら?」

「あ、あれはその!あんまりにも突然のことだったからで!!そ、それにユーノは必ず生きてるんだからもう泣かないわよ!!」

「再会できたときにまた泣いちゃいそうだけどね。」

「シャル~~~!!」

顔を一層紅潮させたシェリリンは椅子に座りながらぽかぽかとシャルを叩きながらてれ隠しをするのだった。










ミッドチルダ クラナガン

車で込み合う通いなれたクラナガンの道路を走る一台の車の中で、スバルはティアナとウェンディに挟まれながら汗が止まらないままうつむいていた。
何せ自分を挟む形で顔を互いにそむけて座っている二人の間を流れる空気がピリピリとしていてこの上なく居心地が悪い。
運転を担当しているフェイトも運転しながら苦笑いをしている。

(は、早く着いて……このままじゃ私は間違いなくこの二人の空気に押しつぶされる……)

「……あんた。」

「は、はい!?」

いきなりウェンディに話しかけられたスバルは思わず声が上ずって変に高い声で返事をしてしまう。

「あんた……タイプゼロ・セカンドっスよね。なんで管理局なんかにいるんスか?」

「「!!!!」」

ウェンディの発言にスバルとティアナは驚く。
スバル、そしてその姉であるギンガの秘密を知っているのは当事者であるナカジマ一家、そして友人であるティアナやなのはたちぐらいだと思っていたのに、ただ現場で拘束しただけの彼女の口からその秘密が飛び出してきたのだから驚きもするだろう。

「……あんた、どこでその話を聞いたの?」

「あたしの生みの親はタイプゼロの生みの親と同じっスよ。それくらい知ってて当然っしょ。それより人の質問に答えるっス。なんで管理局なんかにいるんスか?あんたを歪んだ存在として生み出した組織になんでいるんスか?」

「っ!」

ティアナは隣に座っていたスバルを押しのけてウェンディの襟元をつかむ。
スバルはティアナを止めようと必死で腕にしがみつくが、ティアナは止まらない。
後ろでの騒ぎに、車を運転しているフェイトも落ち着かない。

「それ以上スバルのことをもの扱いしたら許さないわよ……!」

「あたしはただ事実を言ってるまでっス。」

「このっ……!!」

おびえる様子もなくすらすらとしゃべるウェンディに苛立ち、ティアナは思わず拳を振り上げる。
だが、それはスバルの手によって止められた。

「スバル!なんで止めんのよ!?ここまで言われて何とも思わないの!?」

ティアナは怒鳴るが、スバルは笑顔で首を横に振る。
そして、ウェンディと向き合って話し始める。

「私はね、最初は自分が痛いことや誰かが痛がるようなことをするのがいやで、局員になろうなんて思っていなかったんだ。でも、ある事故に巻き込まれて、すごく怖い思いをしてた時、助けてくれた人がいたんだ。その時、いつかこの人みたいになりたい……誰かのことを助けてあげられるようになりたいって思って、だからあの人のもとで鍛えてもらおうって思ったんだ。」

スバルの話を聞いている間、ウェンディはじっとスバルの顔を見ていたが、話し終わるとフゥと息をついてそっぽを向いてしまう。
しかし、

「……なれるといいっスね。その人みたいに。」

「!」

ウェンディの小さな声にスバルは微笑む。
それを見ていたティアナとフェイトもホッと一息つく。

「ま、あんなおっかないのになられても困るっスけど。」

「な、なのははそんなに怖くないよ!?少し天然で強引なところがあるだけで…」

「それフォローになってませんよフェイトさん。」

「ていうかそれより前!!前!!ちゃんと運転してください!!」

ウェンディの一言をあわてて否定するフェイトだが、そのせいで蛇行運転をする車に乗っているスバルたちは生きた心地がしなかった。









訓練場

所かわって訓練場。
自分の話をしているとはつゆ知らず、なのはは残ったライトニングの二人の訓練に精を出していた。

「うん!二人でのコンビネーションも板についてきたね!」

「「ありがとうございます!」」

「キュク!!」

疲れが出てきて俯き気味のエリオとキャロだが、なのはの言葉に顔を輝かせる。
しかし、続いてヴィータから出てきた言葉によって二人と一匹の顔は蒼くなる。

「これならもう少し厳しくいっても大丈夫かもな。」

「え?」

そう言うとヴィータはグラーフアイゼンをセットアップする。

「お前らはスバルたちに比べてまだ防御が甘いところがあるからな。まあ、あたしがきっちり鍛えてやるから安心しとけ。」

「がんばってね~。」

そう言ってテンションが下がり気味の二人を森へと引きずっていくヴィータを笑顔で見送るなのは。
ヴィータの姿が見えなくなったところで、彼女も教導の予定とそのための準備に取り掛かるが、どうしても新しく加わった仲間のことが気にかかる。
フォンとどういうつながりがあるのかも気がかりだが、それよりも彼女の言葉がなのはの心にずっと引っかかっていた。

「管理局が大っきらい、か……」

管理局が多くの次元世界に干渉しているにもかかわらず、管理局を否定する。
それだけでこの世界で彼女が居場所を持つことは難しくなる。
多くの人間が生きているのだから、どんな意見を持っていようと、それが誰かを傷つけるものでない限り尊重されるべきだとなのはは考えている。
だが、今の管理局、そして管理世界に住まう人々はそれを良しとしない。
自らの平穏を崩されることを何よりも恐れ、平和の中で苦しんでいる人々へ向けるべき感情を凍結させていっている。
だが、だからこそなのはたちはそれを変えるために管理局の中で戦っているのだ。
しかし、

「……きっと、ユーノ君やあの人たちは否定するんだろうな。」

戦いを戦いで終わらせ、人の意識を痛みで変えようとした組織。

「ソレスタルビーイング……あなたたちのやり方は間違ってる。だから、私はあなたたちとは違う方法でみんなを変えてみせる。そして、ユーノ君も……」

森林地帯で土煙が上がるのを見ながら、静かに自分の覚悟を再確認するなのは。
そんな彼女に通信が入る。

『あの、なのはさん?』

「スバル?どうしたの?」

おそらくはウェンディの付き添いを終えたであろうスバルが画面の向こうで困ったような笑いを浮かべている。

『あの……勝手で申し訳ないんですけど、お父…じゃなくて。108部隊によっていきたいんですけど、いいでしょうか?』

「どうして?」

なのはは優しい笑みを浮かべながらスバルに問いかける。
彼女が通信をしてきた理由はだいたい見当がついている。
しかし、あえて彼女の今の心境を聞いてみたいという気持ちが素直にOKを出そうという気持ちに勝った。

『えっと、そのなんて言うか、ほっとけないんです。』

照れながらも顔に影を落とすスバル。

『……ウェンディは、昔の私なんです。……私もこんな体をしてるから、普通の生活なんて送れない、どこにも自分がいていい場所なんてないって、自暴自棄になってたことがあったんです。私にはお父さんやお母さん、それにギン姉ぇがいてくれたから、今の私があるんです。だから、ウェンディにも、一人じゃないって……ここにいていいんだって教えてあげたいんです。』

「そっか……」

スバルの答えを聞いてなのははうれしくなる。
教え子が自分と同じように誰かに優しさを向けてくれるような人間であったことに喜びを感じずにはいられない。

『ていうか、なのはさんたち私のこと知ってたんですね。』

「うん。でも、スバルをさそったのは…」

『わかってますよ。なのはさんや八神部隊長がそんな人じゃないことはわかってます。』

元気なスバルの笑みを見たなのははフッと笑う。

「それじゃ、行っておいで。お姉さんたちによろしくね。」

『はい!』

通信を終えたなのはは上機嫌でコンソールを叩く。

(そうだよ……私たちは戦ったりなんてしなくても、こうして思いをつなぐことができる。ウェンディちゃんもきっと自分の居場所を見つけられる。)

そんな希望を胸に抱きつつ、なのはは明日の教導の準備を進めるのだった。









メンテナンスルーム

事務処理を終え、はやてと休憩に入ったリインフォースは一人でメンテナンスルームに向かっていた。
家族であるはやてには悪いが、この喜びがわかるのはデバイスである自分だけであろう。
なにせ、今日から機動六課に新しい兄弟が加わるのだ。

「ユーノさ~ん!シャーリー…って、わあ!?」

新しい兄弟に会えるという期待に胸を膨らませてメンテナンスルームに飛び込んだリインフォースだったが、扉の先に広がっていたのは凄惨な光景だった。
シャーリーは机の上に突っ伏して完全にダウンしている。
時折、体を痙攣させているその姿は眠っているというよりはゲームに出てくるゾンビがプレイヤーの手にかかったものを彷彿とさせる。
ユーノは倒れてこそいなかったが、彼の周りには栄養ドリンクの空瓶が無数に浮かんでいる。

「あ、リイン。ちょうどいいところにきたね。今出来上がったところだよ。」

「それよりなんなんですかこの惨状は~!?シャーリー、大丈夫ですか!!?」

「あ……リイン曹長………いつの間にその大きさに戻ったんですかぁ~……?あっちの大きな大人の曹長も綺麗でよかったのに……あれ……?やっぱり大人の曹長がお花畑で手を振ってる……あははは…………」

「シャーーーリーーーーー!!?そっちに逝っちゃ駄目ですよ!?戻ってこれなくなっちゃいますよ!?」

虚ろな目をしているシャーリーの頬を小さな手でペちペちと叩いて正気に戻す。

「情けないな~。僕なんてどこかの真っ黒な服を着た提督や腹黒い狸に酷使されて48時間も寝ないでいろいろ調べたのに。」

「ユーノさんの常識で話をしないでください!!あとはやてちゃんがご迷惑をかけてごめんなさい!!」

「そんなことよりできたんですね!……なんか途中から記憶がとんでるけど。」

シャーリーは眠気と空腹すら忘れてそれを見ていた。
ポッドの中でふわふわと浮いている純白の翼。

〈はじめまして、リインフォース曹長。本日づけで民間協力者、スターズ5、ウェンディのデバイスを務めることになりました。〉

鋭く機械的な女性の声。
彼女の言葉を聞いたリインフォースは呆気にとられるが、いつもの屈託のない笑顔を見せる。

「そんな堅いしゃべり方をしなくていいですよ。もっと柔らかく……」

〈必要以上の馴れ合いをするつもりはありません。それに、私はあくまで民間協力者であるウェンディをサポートする道具にすぎません。そんな存在が必要以上の会話をすることに意味などありません。〉

彼女の突き放すような話し方にシャーリーとリインフォースはポカンと口を開け、ユーノはたらたらと汗をかく。

「……ユーノさん、この子ってインテリジェントですよね?」

「そうだけど?」

「その割には言ってることがあんまりにも機械的じゃないですか?」

「……気のせいだよ。レイジングハートだって最初はこんな感じだったよ?」

「じゃあ、私たちと目を合わせてくれませんか?さっきから目が泳ぎっぱなしですよ。」

シャーリーとリインフォースがじっとユーノの顔を見つめるが、ユーノはきょどきょどと目をせわしなく動かして彼女たちと視線を合わせようとしない。

「ユーノさん、またやっちゃったんですね?」

「またってなんだよ!!ソリッドを作る時に何度かAIを壊しちゃっただけでしょ!?」

「十数回いかれさせれば十分ですからね!?ユーノさんの処理能力についていけなくなって壊れたAIの修復をしたのは私なんですからね!!しかも結局ソリッドはストレージで完成させちゃうし!!」

「君やフェイトが口うるさく壊すなっていうから仕方なくストレージにしたんだろ!!」

「ユーノさんがわざと無茶苦茶に複雑な術式を使うからでしょ!?あんなことまでしてインテリジェント持ちたくないんですか!?」

「本人がいやだって言ってるのになんでわざわざ持たせようとするのさ!!」

ユーノとシャーリーが言い合いを始める中、リインフォースはガラス越しに純白の翼と向き合う。

「あの、ユーノさん、この子のお名前だけでも教えてくれませんか?」

「だからいちいち昔のことを引き合いに……ん?名前?」

シャーリーと子供のように掴みあいの喧嘩をしていたユーノはリインフォースの言葉を聞いてそちらを向く。

「だからこの子のお名前です。まだ決まってないんですか?」

「いや、もう決まってるよ。」

ユーノは乱れた服を直してポッドに手を置く。

「マレーネ……それがこの子の名前だよ。」

「?誰かの名前みたいですけど?」

「なんとなく思い浮かんだんだ。」

ユーノ自身もなぜこの名をつけたのかはわからない。
ただ、アブルホールの性能の再現を試みていたときに思い出した名前なので何らかの関係はあるだろう。
もっとも、二人にはそんなことを言えないが。

「マレーネっていうんですか。よろしくですマレーネ。」

〈…………………………〉

リインフォースが笑いかけても無反応なマレーネを見ていると、この先のことが不安で三人は思わずため息をつく。

「この子、あのウェンディって子と上手くやっていけるんですかね?」

「ま、そこは時が解決してくれると信じるしかないね。」











108部隊隊舎

「なんでこんなところに来る必要があるんスか?さっさと帰って……」

「まあまあ、そう言わずにゆっくりしていこうよ~♪」

ウェンディはスバルに強引に背中を押されて隊舎の中へと入っていく。
急遽行き先を変更して訪れた108部隊の隊舎。
フェイトもティアナも快く承諾したが、ただ一人、ウェンディだけは乗り気ではなかった。

「ここはね~、私のお父さんとお姉ちゃんがいるんだ~。」

「それ何度も聞いたっスよ。」

聞きあきたスバルの説明を聞き流すウェンディだったが、少しうらやましくもあった。
彼女にとって唯一の居場所は創造主であるジェイル・スカリエッティと姉妹たちがいる場所だけ。
管理局はその居場所を壊す存在。
しかし、自分と同じように歪んだ形でこの世に生を受けたスバルは管理局が干渉する社会で家族とともに生きている。
一方、自分たちはコソコソと隠れて生きていかなければならない。
ただ、普通じゃない生まれ方をしたというだけで。

(なんであんただけ……)

「やあ、お客さんかな?」

入口を進む四人の前に一人の男が現れる。
四人がそろってその男性に抱いた印象が変な格好だった。
微笑を浮かべるその顔は整っているが、白いロングコートを羽織っているせいで下に着ているものが見えないせいで、顔に意識がいく前にそちらに注目してしまうせいで奇妙な人物という印象を先に植え付けてしまう。

「変な格好ですね。あだっ!?」

思ったことをそのまま口にしたスバルの頭にティアナの鉄拳が飛んで沈黙させる。

「ハハハ、よく言われるよ。」

「す、すいません…」

赤い顔で何度も頭を下げるフェイトだが、男は気にしていないようだ。
それどころか男は四人の姿をまじまじと見る。

「……もしかして、機動六課の方々ですか?」

「え、ええ、そうですが……」

「やっぱり。」

男の顔に笑みが浮かぶ。

「ハラオウン執務官でしたっけ?ヴァイスから聞いていた通り、美しい方なのですぐにわかりましたよ。」

「綺麗だなんてそんな……それより、ヴァイス陸曹のことをご存じなんですか?」

「ええ。おっと、申し遅れましたが僕はこういう者です。」

男はそう言って一枚の名刺を差し出す。

「本局査察部、民間協力者……ヒクサー・フェルミ?」

「はい。」

フェイトたちは名刺からにっこりと笑う男へと視線を移す。

「僕はこの世界で言うところの次元漂流者というやつでして……。二年前にクラナガンで右往左往しているところを休暇中のヴァイスに保護されたんですよ。その後は、元いた世界に帰るまでの生活費を稼ぐために民間協力者として働いているんです。」

「でも、査察部の方がどうしてここに?」

「例の研究施設襲撃の捜査ですよ。本部としても巨大な質量兵器の開発に地上部隊が関わっているかもしれないと聞いたら黙ってはいられないんですよ。……と、これ以上887を待たせるとまた怒りそうだな。」

そう言うとヒクサーはフェイトたちの横を歩いていく。

「それでは僕はこれで。ヴァイスによろしく言っておいてください。それと…」

ヒクサーはフェイトにだけ見えるように含みのある笑みを向ける。

「ユーノにもよろしく。」

「え……?」

フェイトはヒクサーの方を向くが、すでにヒクサーの姿はそこになかった。

「フェイトさん?」

「あ、うん。ごめん。それじゃ、行こうか。」

今聞いた言葉は空耳だ。
ユーノに査察部に知り合いがいるという話は聞いたことがないし、本人からも聞いたことがない。
そう自分に言い聞かせて隊舎の奥へと進んでいった。



しばらく進むと、青い長髪をした少女が四人を出迎える。

「ようこそ、フェイトさん。スバルとティアナも。」

「ギン姉ぇ~♪」

スバルは我慢の限界といった様子で自分の姉、ギンガ・ナカジマの胸へと飛び込んでいく。
ギンガも嬉しそうにスバルのヘッドダイビングをキャッチする。
ウェンディが呆気にとられる中、ギンガとスバルに先導されて部隊長室に向かう。
そこに待っていたのは陸上部隊の制服に身を包み、多くのしわが刻まれた顔をした中年の男性だった。

「よく来たな、スバル。」

「お父さん…じゃなくて……」

スバルが慌てて言い直そうとするのを男性は笑って止める。

「別にかまわねぇよ。今回はどっちかっていうと娘が親父の職場見学に来たってところだからな。」

そう言うとゲンヤ・ナカジマはフェイトの後ろに隠れていたウェンディに目をやる。

「へぇ、この嬢ちゃんがユーノのあんちゃんが保護したって言ってたやつか。八神のやつが相変わらず無茶してるって言ってたのは本当みたいだな。」

「お父さんユーノさんのこと知ってたの!?」

「ああ、何せ一時期ではあるがここにいたからな。それはそうと聞いたぞスバル~。お前らそろいもそろって天下のガーディアンに喧嘩売ったんだってな~。」

「えと……それはその……」

スバルとティアナが顔を赤くして困る姿を見ながらゲンヤはにやにや笑う。

「ま、ギンガも同じようなことをしたからな~。流石は姉妹ってところか。」

「ちょ!?お父さん!?」

「何かあったの?」

「ああ。あれはあんちゃんがここに配属される日のことだったな…」

顔を真っ赤に紅潮させて止めようとするギンガをそっちのけでゲンヤは楽しそうに話し始めた。








回想

その日、新しく配属されてくるユーノを出迎える準備をしていた108部隊の面々だったが、ちょうどユーノが来る時間に事件が発生し、やむなくその対処に追われることとなった。
ギンガもまた現場で事件の犯人確保に追われていた。
そんな時、彼女の目にメガネをかけたいかにも文系といった男性が歩いているのが目に付いた。
とっくに封鎖が完了していて、関係者以外はこの区画に入れないはずである。

(まさか逃げ遅れた人!?)

ギンガは慌てて男性のもとへと向かう。

「管理局の者です!!ここは危険だから早く避難を…」

「ああ、やっと見つけた。」

ギンガとは対照的にのらりくらりとした様子で話す男性。

「無限書庫から来たんですけど、みなさんここにいらっしゃるって聞いて飛んできたんですよ。あ、これ頼まれてた書類です。」

へらへらと笑いながら自分に書類を渡すその男にギンガは言いようがないほど腹が立った。

「何を考えてるんですか!!?今ここは事件が発生している現場ですよ!!?あなたのような非戦闘員が来ていい場所じゃないんです!!」

「いや、僕は…」

「とにかく私が安全なところまで誘導しますから指示に従ってください!!」

何かを言おうとする男性をギンガは無理やり引っ張って安全なところまで誘導を開始する。
どれくらい走っただろうか。
男性がついてこれるようにローラーブレードを普段より遅く走らせているとはいえ、気を張り詰めながらかなりの長距離を進んできたせいで流石にギンガのかおにも汗が浮かぶ。
しかし、走ってついてきている男性は汗一つかいていない。

(この張り詰めた空気の中でもへらへらしていられるなんて……ある意味大物ね。)

ギンガがため息をついた時、それは突然起こった。
ギンガは上から降ってきた何かに押しつぶされ、すぐに首をつかまれて上に持ち上げられる。

「か……は………!」

上手く呼吸ができない中、ギンガは自分を持ちあげている大男を睨みつけるが、大男はいっそう力を加えてギンガを絞め上げる。

「逃…げて……!」

ギンガは力を振り絞って誘導していた男性に向かって語りかけるが、男性は笑ったままこちらに近づいてくる。

「う~ん、ドラッグをやっているせいで力のセーブができないのか。でも、女の子はもっと優しく扱わなきゃ。」

ギンガは視線で早く逃げろと語りかけるが、男はそのままこちらに近づいてくる。
そして、

「お仕置きだよ。」

一瞬の出来事だった。
ギンガを掴んでいた手に何かがぶつかり、その衝撃でギンガは地面に尻もちを突く形で落とされた。
そして、行きつく暇もなくギンガを掴んでいた男のわき腹に何かがねじ込まれ、そのまま巨体が宙を舞って壁に埋め込まれた。
ギンガはむせながらもその光景に驚き、自分を救ったメガネの男性を座ったまま見上げている。

「君も注意力散漫だよ。もう少し気をつけなくちゃ。」

「あなたは、一体……?」

「ああ、僕?僕はユーノ・スクライア。これから君の部隊で少しの間だけ世話になる予定の人間だよ。よろしくね。」









回想終了

「……なんてことがあったのさ。」

「へぇ~。」

感心するフェイトをよそに、ギンガはみんなに背を向けて部屋の隅で小さくうずくまっている。
スバルたちも自分たちのこともあるせいで笑えないのか、視線を外している。

「ま、その後あんちゃんはいろいろ問題を起こして俺らのところを自分から飛び出して無限書庫に戻っちまったけどな。それまで、いろいろギンガも俺も手を焼かされたもんさ。」

ゲンヤは笑いながらも、隅でこちらを警戒しているウェンディの方を見る。

「お前さんも話に加わったらどうだ?せっかくここまで来たんだから…」

「別にいいっス。」

「んなこと言ったってじっとしてるだけじゃつまらないだろ。」

「あたしから聞きたいのは大方あんたらが追ってる事件に関してっしょ?そんなこと話す気にはなれないっス。」

警戒心むき出しのウェンディの発言にゲンヤはポカンとするが、すぐに笑い始める。

「最初に言ったろ?今回は仕事で話ししてんじゃねぇよ。ただ馬鹿話してみんなで笑いたいと思ってるだけさ。」

「……………………………………」

ウェンディはゲンヤの顔をじっと見ながら、フォンの言っていたことを思い出す。

『いいか、人間てのはどれほど上っ面を取り繕ったって体の反応は取り繕えねぇ。発汗、眼球の動き、鼓動、その人間の癖……上っ面を上手く取り繕うほどそいつは顕著に表れる。ウソってやつはそういったもんを見てりゃ一発でわかるもんさ。』

フォンの言っていた通り、ゲンヤの顔を見てみる。
まっすぐな、優しい瞳で自分のことを見ている。
ウェンディは何度も嘘をつく人間を見てきたし、フォンに会ってからはたいがいの人間の嘘は見破れるようになった。
しかし、今自分を見つめている男からは嘘をついている雰囲気が感じられない。
それどころか、自分を温かく包み込むような感覚を覚える。

「なんで……あんたはそんなにあたしに優しくできるんスか?」

ウェンディはポツリとつぶやく。
ゲンヤ達は黙ってウェンディの言葉を待っている。

「あたしの体のこと聞いてるんっしょ?ただ戦うために生み出されたあたしのこと怖くないんスか?」

「なんで怖がる必要があるんだ?」

ゲンヤは本当にあっけらかんと質問する。

「お前はすき好んでその力で誰かを傷つけたいと思ってんのか?俺にはそうは見えねぇがな。」

「それは…」

確かに、今までもスカリエッティの指示に従ってきたのは自分の姉妹を、そして、親であるスカリエッティを守りたいと思ってきたからだ。
そうするしか自分には思いつかなかったからそうしてきたのだ。

「でも、局やその支配が及んでいる世界の人間はあたしのこと……」

「お前が自分の体のことで何か言われたら、俺がそいつらのところへ行って一人一人ぶちのめしてやらぁ。……ま、この年じゃあんましはしゃげないけどな。」

「この間も腰が痛いって言ってましたもんね~。」

「うるせっ!」

横でクスクスと笑うギンガを叱るゲンヤの言葉を受けてなお、ウェンディは眉間に辛そうにしわを寄せる。

「でも!」

「もういいんじゃないかな、ウェンディ?」

フェイトがウェンディの手をとる。

「スバルもギンガも、それにゲンヤさんもウェンディのことを拒絶したりしないよ。優しくされることに慣れてないかもしれないけど、あなたのことを気にかけてくれる人を拒絶したりしないで。だって、誰かの優しさを受け入れられないことほど、悲しいことはないじゃない。」

「……けど、やっぱりここであたしだけ局につけないっス。あたしはチンク姉ぇたちのこと裏切れねぇっス……裏切りたくないっス。」

「別にいいんじゃねぇか?」

「え…?」

「機動六課にはいったのは自分の身を守るため。今度会ったらそう言ってやりゃあいいじゃねぇか。」

おおよそ管理局の部隊長をやっている人間の口から出てきたとは思えない言葉にウェンディはポカンとする。

「その間に誰と仲良くなろうがお前の自由。例えば、ここで俺達と楽しく馬鹿話をしてもいいし、家族みたいになってもいいだろ、っていうことさ。と…家族はさすがに嫌か……って!?」

自分の言ったことにてれるゲンヤをじっと見ているウェンディ。
その眼からはポタポタと涙がこぼれている。

「ちょ!?俺なんかまずいこと言ったか!?」

「え!?べ、別に変なこと言ってませんでしたよ!?」

突然話を振られて戸惑うティアナ。
スバルたちもおどおどするが、ウェンディの一言でそれは終わりを迎える。

「違…そうじゃ……ないっス。」

嬉しかった。
知らない場所に放り出され、誰も自分を受け入れてくれないと思っていたが、自分のことを怖くないという人が、受け入れてくれる人がいた。
ただそれが嬉しくて、気付いたら泣いていた。

「ありがとうっス……ありが……とう………!!」

自分たちに初めて素直な面を見せて泣いているウェンディにその場にいた全員が優しく笑いかけた。



その後、とりとめのない話はウェンディも加えて大いに盛り上がり、結局機動六課の面々はその日はそのまま108部隊の隊舎に泊っていった。
その夜、ウェンディは眠る前に一人でゲンヤに会いに行っていた。

「どうした?なんかまずいことでもあったか?」

「えっと、その…」

思ったことをポンポンと口にする彼女にしては珍しく言い淀む。

「えっと……ゲンヤさんのこと………お父さん……って呼んでいいっスか?」

「は?」

「ほ、ほら!昼間、別に家族みたいになってもいいんじゃないかって言ってたっス!だから、その……」

恥ずかしそうに指を突き合わせるウェンディを見たゲンヤは思わずふきだし、その後うなずく。

「いいぜ。すきに呼びな。」

「ホントっすか!?じゃあ、パパリンで!」

「パパ……!?それはさすがに…」

「駄目っスか……?」

「う……」

子犬のような目で見上げられ、ゲンヤは仕方なく折れることにする。

「わかったよ。好きにしな。」

「わ~い、やったっス~。」

どことなくうまく乗せられたような気がしなくもないが、新しくできた娘の頼みとあらば、無下に断るわけにもいかないだろう。

「ほら、早く寝ろよ。明日は朝一番で機動六課の訓練に放り込んでやるからな。」

「了解っス~。」

スキップをしながらスバルとティアナが寝ている部屋へと向かうウェンディ。
その姿を見送りながらゲンヤは笑いながら息をつく。

「なんで優しくできるのか、か……そうできる人間ばかりじゃないんだよな、今の世の中。けど、だからこそ俺はお前らのために何かしてやりたいんだ。」

ただの自己満足かもしれない。
本当は何もしてやれていないのかもしれない。
ただ彼女たちの苦しみを加速させているだけかもしれない。
けれど、だからこそ普通の生活を送ってほしい。
そして、それが当たり前になる日が来てほしい。
その日がいつか来ると信じているから、自分は明日も過酷な現実に立ち向かえるのだ。

「さて、俺も寝るとするか。」

明日への決意を胸に秘め、ゲンヤは自室へと向かう。
いつか、二人の娘が……いや、三人の娘が幸せな日々を送れる日を願いながら。









新たに加わった星の輝き
それが導くのは少女たちを縛る鎖からの解放か……







あとがき・・・・・・・・・・・という名の懲りずに謝罪

ロ「というわけでオリ話完結編でした。」

ユ「戦闘シーンゼロ、グダグダ、これからどうしたいのお前?って言いたくなるような展開。本当にどうするの?」

ロ「あーあー。何も聞こえない。何も見えない。」

な「毎度おなじみの現実逃避だね。しかたないから全力全壊の一撃で現実に…」

ツン2「やめてください!せめて今回ぐらいカオスを避けましょうよ!」

ロ「それに一応この先の展開は考えてあんの!というかそちらに合わせたせいでなぜかグダグダに……。やっぱウェンディは加入させるべきじゃなかったのかなぁ……」

ユ「(いつの間にか復活した…)まあ、それよりもデバイス名だよね。よりによってマレーネって……性格もかぶせてきてるし。」

ロ「俺もぶっちゃけ最初はそのままアブルホールにしようと思ったんだけど、フォンのと差別化したくてあえてこうした。」

な「というか今回ってsecondへの布石がこれでもかってわかりやすくあったよね。」

ロ「か、隠し事するより、大っぴらに情報を公開する方が人に好かれるんだよ!」

ツン2「時と場合によるわ!!」

ユ「君の場合隠し事を話してるんじゃなくて隠し事が下手なんだろう。ちなみにリアルでも。この間も普通に一限目サボってたことばれてたし。」

ロ「リアルの話をすんじゃねぇぇぇ!!!!(泣)」←地味にトラウマ

ツン2「この駄目人間。」

ロ「うるせぇぇぇぇぇぇぇ!!!!一回くらい外で寝ててもバチは当たらねぇだろうが!!」

な「当たったよね。」

ロ「…………………」

ユ「現実逃避が大好きなロビンを(言葉で)フルボッコにしたので、ノリノリで次回予告に行きます。」

な「次回は休日編。新たに加わった仲間、ウェンディとともに出かけたスバルたち。」

ユ「しかし、貴重な休日はエリオたちからの通信で終わりを告げることとなる。」

ツン2「その頃、ユーノさんは自分にとっての始まりの地に足を運んでいた。」

な「明らかになる敵、そして、想定外の乱入者に戦場は混乱を極める!」

ツン2「そして、遂にユーノさんの愛機が再誕の声を上げる!」

ロ「それでは最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!じゃ、せーの……」

「「「「次回をお楽しみに!!」」」」



[18122] 9.Return to Angel
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/09/23 20:09
クラナガン 地下水路

薄暗い地下に張り巡らされた空間に小さな赤い光がふわふわとせわしなく動き回っている。

「あ~!どうしよ~!!せっかく助けたのに逃げちゃったよあの子!!」

赤い光はあちこちを覗きながら困りはてている。
そんな時、後ろに二人分の影が現れる。
そのうち一人はまだ年端もいかない子供の大きさである。

「アギト……あの子は見つかった?」

「ごめん、ルールー。こっちも駄目だった。」

「あげゃげゃげゃ!」

大人の背丈をしている影が独特な笑い方をする。

「なんだよ……何がおかしいんだよ!連中だってこの近辺の捜索をしてるんだ!もし先にあの子を見つけられたらどうなるかぐらいお前だってわかってるだろ!」

赤い光が笑う影にくってかかる。

「なあに、お前のおつむのできがあんまり気の毒だったんでつい笑っちまっただけだ。」

「なに!?」

赤い光の周りに小さいが激しく燃え盛る炎が出現し、笑っていた影を照らし出す。
紅蓮の炎が映しだしたのは赤い目を細めて目の前にいる小さな存在を卑下する笑みを浮かべているフォンだった。

「見つからないんなら協力してもらえばいいじゃねぇか、あのマッドサイエンティストが希望を託すと決めたやつらにな。」

「!お前、まさか!」

赤い光を生み出していた小さな存在は光を弱まらせて青い顔をする。

「ダメダメ!!そんなことしたらゼストの旦那に迷惑がかかるだろ!!」

「どうかな?意外とアイツも自分の姿をお友達に見せられて喜ぶんじゃねぇか?」

「で、でも、あたしらの存在はまだ知られるわけには……」

『いや、もう構わないよ。』

最後までごねる光の主、アギトのすぐそばにスカリエッティの顔が映しだされる。
その光に照らされ、ルールーと呼ばれていた少女の顔もはっきりと見えるようになる。
紫色の長い髪のせいで一瞬、少女ではなく二十代の女性かと思わせてしまうが、顔に残るあどけなさからやはり少女であることが分かる。
しかし、その顔には子供特有の笑顔がなく、限りなく無表情である。

『ウェンディが向こうにいった以上、彼女たちのことだからすでに私たちの存在に気付いているだろう。ウェンディが話しているか否かにかかわらずね。』

「フン、珍しく意見があったな。」

『僕の心は張り裂けんばかりに痛んでいるよ。何せ君のような野蛮人と意見が一致してしまったのだからね。』

モニター越しに火花を散らすフォンとスカリエッティにため息をつくアギトだったが、この状況は紫の髪の少女、ルーテシア・アルピーノの一言で打ち破られることになる。

「フォン、ドクター、私は何をすればいい?」

「あげゃ、そうだな……それじゃ、お前は前みたいにガジェットでひと騒ぎ起こせ。できるだけ騒ぎを大きくして人目を集めろ。」

『その後のことはクアットロたちに任せればいい。上手くやってくれるだろう。』

「わかった。」

ルーテシアはうなずき、魔法陣を展開すると周りにボタンに針のような脚がついたものが大量に出てくる。
そして、

「ガリュー…」

ルーテシアの小さな声でもはっきり聞きとり、彼女の召喚獣であるガリューが現れる。

「行って。」

彼女の言葉にガリューは沈黙を持って答えると小さな召喚蟲たちとともに素早く駆けていく。
それを見送ったフォンたちも動きだすが、フォンだけがスカリエッティに呼び止められる。

「なんだ?まだ口喧嘩をしたいのか?」

『いや、それは君が帰って来てから思う存分やろう。引きとめたのは聞きたいことがあったからだよ。』

スカリエッティの顔からいつも張り付いている笑いが消え去り真剣な顔つきになる。

『本当に今の彼にあれを使わせるきかい?そもそも、君が強引に連れてきた彼らが協力してくれるとも思えないが。』

「あげゃ。そこんところは心配ねぇ。今回は利害が一致しているからな。きっちりユーノを案内してくれるはずさ……あの機体のもとにな。」

フォンの携帯端末に萌黄色の機体が映される。

「ソリッド、ご主人様がもうすぐ帰ってくるぜ……あげゃげゃげゃげゃ!!」

薄暗い地下に爆発したような笑い声が響きわたる。
その狂気に満ちた笑いは彼らが追いかけている少女にも、はっきりと届いていた。




魔導戦士ガンダム00 the guardian 9.Return to Angel

機動六課 訓練場

お昼前、薄い緑の戦闘機が一人の少女を乗せて軽快に青空を駆け抜けていく。
空中に設置されていた光球の大群が彼女たちに射撃を放つが、まるで波乗りでもするように細かく上昇と下降を繰り返すだけで横に動くこともなくそれを避けていく。
そして、ある程度距離が縮まったところで先端に設置されていた回転式の銃口に光が溜まっていく。

〈Vulcan Blaze〉

先端から放たれた光のシャワーが光球たちを飲み込み殲滅していく。
しかし、撃ち漏らした光球が反撃をしようと自身の前に魔力スフィアを生成するが、戦闘機の上に立つ少女はニヤリと笑うだけで反撃に備える様子がない。
光球からスフィアが放たれそうになり、誰もがもう駄目だと思ったその時、したからオレンジの弾丸と青い道とともに閃光が駆け抜け、残っていた光球を沈黙させる。
光球がすべてなくなったのを確認すると、空を舞っていた少女は戦闘機から飛び降りて地上に着地して両手を広げて立ち上がる。

「10.0!」

ポーズを決めるウェンディだったが、それを見ていたヴィータは一瞬上に視線をやり、大きくため息をつく。

「いや……」

しばらくするとウェンディの頭に彼女が飛び降りた衝撃でバランスを崩した彼女のデバイス、マレーネが見事に激突し、ウェンディは押しつぶされる形で地面とキスをする。

「……0点だ。」

〈同意見です。〉

「……誰か助けて。」



十分後

「うん、余計な動きをしたウェンディ以外はみんな合格ラインだね。」

笑顔で喋るなのはの言葉にフォワードメンバーが喜ぶ中、ウェンディだけがうなだれる。

「ウェンディもいつも余計な動きをしなければ万事OKなんだがなぁ…」

ウェンディを見ながらヴィータは渋い顔で唸る。
その姿を見たウェンディはさらにうなだれるが、止めが待っていた。

「じゃ、ウェンディ以外のみんなは午後から休み。ウェンディは私たちとみっっっちり、と訓練をしようか♪」

「え~~~!?」

黒いオーラを出しながら笑顔を向けてくるなのはにウェンディは内心びくつきながら反論する。

「だ、だってあたしの監視役の二人も休みもらうなんてずるいっス!あたしが午後も訓練するんならあの二人も訓練させるべきでしょ!!」

ウェンディの言葉を聞いたなのはとヴィータは少し考え込む。
そして、

「……そうしよっか。」

「えええ~~~~!?」

今度はスバルから不満の声が上がる。

「そんなご無体な~!たまの休みに街に繰り出して五段重ねアイスを食べるのが私の生きる喜びなのに~!」

スバルは遂に地面に寝転がって駄々をこね始める。

「休みほしい~!!」

「右同じ~!!」

ウェンディも加わりいっそう騒がしくなる。
二人のでかい駄々っ子はさらになのはに詰め寄る。

「「お願いします!なのはさん!」」

二人の目の輝きに必死に耐えるなのはだったが、十秒と経たずに負けを認めた。

「わかったよ。ウェンディもスバルたちと一緒に遊んでおいで。」

「「やったぁ~!!」」

はしゃぐ二人をよそにヴィータがティアナにこっそり耳打ちする。

「……お前も大変だな。」

「スバルが二人になったと思えばどうってことないですよ。」

「それってむしろ大変なんじゃ…」

ヴィータはティアナの顔を見た瞬間その先の言葉を紡げなくなった。
いままでとこれからの苦労を考えていたせいかさめざめと涙を流す彼女を見ていると気の毒でそれ以上何も言えなくなってしまった。

「……悪い。」

ヴィータの心からの謝罪が込められたその一言で午前の訓練は終わりを告げたのだった。




第14管理世界 クロア 慰霊碑前

多くの人や車が広い道を行き交う中、それはポツリとたてられていた。
黒く光りを放つその石には多くの人の名前が刻みこまれ、あの時に起きた悲しみを今にまで伝えている。
しかし、その周りには何もなく、せいぜいいつ置かれたのかも定かではない萎びれた花束がいくつか置いてあるだけだ。
そんな慰霊碑の前に今、真新しい花束が一人の青年の手でたむけられた。

「久しぶり、父さん…」

ユーノは愁いを帯びた瞳である名前を見つめる。

レント・スクライア。
ここで理不尽に命を奪われたユーノの大切な人。
瞳を閉じれば今でも楽しかった日々が思い出せる。
だが、思い出の最後はいつも同じ。
死体の山の中に隠された自分だけが助かり、目の前で大好きだった父親が殺される悲しい光景。
そして、それこそがガンダムマイスター、ユーノ・スクライアにとっての始まりの瞬間でもある。

「ハハハ……あの時はみんなあんなに騒いでたのに、意外とすぐに忘れちゃうものなんだね……」

乾いた笑いをこぼすユーノを道行く人たちは不思議そうに指さし怪訝そうな顔をし、子供たちは変な奴だと笑いながら去っていく。

「…また一人で来てたんだ。」

「君こそ、今年も来たんだ。」

「幼馴染を一人で暗い顔させておくほど私は薄情じゃないの。」

後ろから歩いて来ていたアイナ・スクライアがユーノの横に並び立つ。

「仕事は?」

「あいにくと毎年この日は予定を空けてるの。レントさんの命日だもん。」

「そっか。」

二人はそれだけ話すと、たがいに何もしゃべらずに慰霊碑の前に立っていた。
長い間、街の喧騒だけが二人の耳に入ってくる。
ただ喋らないだけでこれだけ街の中がうるさく思えるのかと思えるほどの音量が二人を包むが、それでも二人は何も喋ろうとしなかった。

どれほどの時間が流れただろうか。
ふいに会い名が持っていたバッグの中から一枚の紙をユーノに差し出す。
ユーノはそこに書かれていることをすぐに読み終わると小さく嘆息する。

「今回もはずれだったわ。あんたが前にぶちのめしたやつ以外は関係者以外の足取りはつかめなかったわ。……でもどうするの?見つけたって手出しできないんでしょ?」

「そうだね……。それでも、僕は……いや、僕たちスクライアの人間は永遠に管理局を許しはしないさ。だからこそ、僕はやつらが今どうしているのかを知りたいんだ。それに、見かけたときに恨み言の一つも言ってやりたいしね。」

そんな冗談を一つ言って、ユーノは笑いながら空を仰ぎ見る。
青く晴れ渡った空高く浮かぶ雲が、所詮今の自分にできるのはその程度だと言っているようだが、不思議と腹は立ってこない。

「そうさ……今の僕は世界を変える力を持たないひ弱な男さ。」

「それはどうかしら?」

「「!?」」

突然現れた長髪の女性に二人は驚く。
広い場所でクスクスと笑う女性と驚く二人は如何にも目立ちそうだが、通行人は全く意識を向けていない。

「意識阻害の魔法を使ったわね…!」

「御名答♪それよりも、司書長さんはこんなところで油をうってていいのかしら?」

「どういうことだい?」

「そろそろミッドで大変なことが起きそうねぇ……あなたの大切な人たちが巻き込まれちゃいそうな大きな事件が…」

女性の言葉を聞いたユーノの目が見開かれる。

こいつは何を言っている?
自分の大切な人を巻き込む?
なのはを?
みんなを?

「っっ!!」

ユーノは頭に血が昇ってしまい、乱暴に長髪の女性の襟をつかんで持ち上げる。

「残念だけど私の相手をしてる暇はないわよ。早くいかないとあれが出てくるわ。」

「あれ……!?」

「管理局がナイトと呼ぶ機体……あなたやフォンにわかるように言うならジンクス…」

「!?馬鹿な!!なんであれがここに!?」

「あら、あなたが連れてきたんじゃない。……ガンダムと一緒に。」

ユーノは妖艶な笑みを浮かべる女性を離して距離をとる。

「……どこまで知っている?」

「私の姉と、妹三人はたいがいのことをフォンから聞いたわ。……ずいぶん馬鹿なことをしたものね。」

何が何やらわからないアイナは混乱を極めるが、そんな彼女を置いてけぼりにして二人の話は進む。

「……確かに馬鹿げた行いさ。たくさんの人を傷つけたし、仲間も失った。それでも、僕たちは世界の歪みを駆逐するために戦った。……たとえ誰に否定されようと、その覚悟だけは絶対に曲げない!!」

「そう……何を言っても無駄みたいね。」

女性は自分の持っていた携帯端末を投げ渡す。

「ミッドに行けばそこから指示が聞こえてくるはずよ。それに従って進めば、あなたの力が戻ってくるわ。」

「信じろと?」

「そこのところは信じてもらわないとどうしようもないわね。ただ…」

女性は鋭く笑う。

「あなたの中に眠っている記憶が、その声を信じるはずよ。きっとね…」

女性はそれだけ言うと二人に背を向けて去っていった。
彼女が消えると、それまでユーノ達に気付いていなかった通行人たちが異様な雰囲気を感じ、何事かと集まってくる。

「アイナ、悪いけど…」

「わかってるわよ。何も聞かないであげるから大切な友達と婚約者を助けに行きなさい。」

呆れながらも笑顔で送り出すアイナ。
そんな彼女に感謝しながらユーノは一番早くでるミッド行きの便の時間を気にして駆けだした。




ミッドチルダ クラナガン 地下水路

本当に急だった。
突然エリオとキャロから連絡を受けたティアナ、スバル、ウェンディがそこに駆け付けた時、横転したトラックがトンネルの壁に頭からめり込んでいた。
幸い怪我人はいなかったそうだが、事故の現場に居合わせた人間全員がガジェットを目撃していた。
五人はすぐさまデバイスを起動させてバリアジャケットを展開すると、ガジェットが作ったであろう道路に大きく開いた穴に機動力のあるエリオとウェンディを先頭に飛び込んでいった。

「ウェンディ、いいの?」

「なにが?」

戦闘機のパイロットの制服のようなモスグリーンのジャケットとジーンズという一風変わったバリアジャケットを着たウェンディはティアナの心配そうな声に振り向く。

「なにがって……ガジェットが出てきたってことはあんたの仲間が…」

「ガジェットと遊ぶくらい大目に見てくれるっしょ。………それに……」

「なに?」

「いや、なんでもないっス。」

ウェンディはティアナの質問を言葉を濁してごまかすが、ある疑念がどうしても晴れない。
スカリエッティや自分の姉妹は無意味な破壊活動はしない。
それが今回は何か目的があるわけでもないのにこんな騒ぎを起こした。

(まさかフォンが?でも、フォンも無意味にこんなことはしないはず……。ああもう!!何がなんだかさっぱりっス!)

結局、答えが出ないままウェンディは進んでいく。
その時、エリオのストラーダとウェンディのマレーネが異変をキャッチする。

〈兄弟、前方に反応だ!〉

〈相手は一人。こちらが圧倒的有利です。〉

「OK!一気に叩き潰すわよ!!」

ティアナの一言でシフトを変えて曲がり角に潜んでいるであろう何者かに備える。
そして、

「包囲!!」

五人は曲がり角にいた何者かをとり囲む。
その何者かの正体は……

「ずいぶんな挨拶ね、ウェンディ。」

「「ギン姉ぇ!?」」

そこにいたのは左手にスバルと同型のデバイス、ブリッツキャリバーを装着したギンガ・ナカジマ、その人だった。
五人はすぐに警戒を解いて、ギンガに歩み寄る。

「ギンガさんも捜査に?」

「ええ。私は別のルートから進んできたんだけど、ガジェットを追ってたらここでばったり…ってわけ。」

「へ~…じゃあ、ギン姉ぇも一緒に行こう!」

「そうね……。じゃあ、一緒に行きましょう。」

その後、ギンガが先行する形で地下水路を進んでいく。
だが、

「……キュクゥ~?」

「……なんだか、ガジェットと全然出てこないですね。」

そう、キャロの言うとおり、もう地下水路に入って三十分程たつのに一度もガジェットに遭遇していない。
いくらなんでもこれはおかしい。

(……?あれ?)

そんな時、先頭を進むギンガの足元を見たウェンディはふと違和感を覚える。

(もしかして……)

ウェンディの中にある仮説が組み立てられていく。
そして、意を決して念話傍受の対策をしたうえでティアナに心の中で話しかける。

(……ティア、念話の回線を傍受されないようにして、今から言うことをギン姉ぇに聞かれないようにみんなに伝えてほしいんス。顔に出しちゃ駄目っスよ。)

(どうしたの?)

(あたしの心眼が狂ってなければたぶん……)

ウェンディは自分の中に浮かんだ最悪の仮定を話す。
ティアナは何とか顔には出さないようにするが、それでも心が動揺でざわめく。

(そんな……!?)

(一応確認してみるけど、もしそうだった場合はよろしく。)

(……わかった。)

開けた場所に出たところで、ウェンディはギンガに話を振る。

「そう言えばギン姉ぇ、パパリンは今日もお茶を飲んでるんスか?どうせ飲むならジュースにすればいいのに。」

それを聞いたギンガはクスクスと笑う。

「お茶の味がわからないなんてウェンディはまだまだ子供ね。せっかくいい“紅茶”を選んできてるのに。」

「へぇ~、そういうもんスか………みんな!!」

「了解!!」

「!?」

戸惑うギンガにキャロのアルケミックチェーンが絡みつき、続いて残った四人とフリードがそれぞれの武器をその場に座り込んだ彼女に向ける。

「なんのマネかしら、みんな?今はこんなことしてる暇は…」

「もうお芝居はいいっスよ、フォン。」

ウェンディの言葉を聞いたギンガはピクリと反応する。

「残念だけど、我が家は紅茶じゃなくて緑茶党なんだ。紅茶はお客様用に少しあるくらいで、ギン姉ぇもお父さんももっぱら緑茶だよ。」

「よく考えてみれば最初に気付くべきだったわ。あんたが私たちに最初に会ったときに名前を呼んだのはウェンディだけ。私たちの名前は知らなかったから呼びようがなかったのね。」

「……あげゃ……あげゃげゃげゃげゃげゃ!!」

ギンガ、いや、フォンは縛られたままげらげらと笑い始める。
姿や声は確かにギンガだが、下から五人を見る目は赤い色をしている。

「いつから気付いていた?」

「最初に変だと思ったのは足元を見たときっス。」

フォンはウェンディを見上げる。

「本当に少しの誤差だけど、ローラーの動きと音がずれてたんス。きっとフォンは低空飛行して進みながら音を流してたんだろうけど、完全には合わせきれてなかったんス。」

「なるほどな……やっぱあのガキどもの中じゃお前がピカ一だな。だが……」

フォンがクイッと目をやった先を見ると、紅蓮の炎が五人に迫って来ていた。

「っ!」

慌てて四人と一匹が離れると、今度は見えない何かがフォンを縛る鎖を切断する。

「まだまだ甘いな……ま、あいつらの中に放り込めば少しはマシになるかもな。」

縛られていた手首をいじりながら立ち上がるフォンの姿は足元から徐々にギンガではなく、フォン自身の姿に変わっていく。

「世話を焼かせんなよな。あれぐらいお前なら何とかできただろ。」

フォンのそばに赤い髪をした小さな妖精のような少女が舞い降りる。
背中からは蝙蝠のような羽が生え、周りには小さく火花が散っている。

「……フォンはあの人たちの反応を楽しんでる。ばれるようにしたのもきっとわざと。」

続いて、周りに小さな虫のようなものを浮かせた少女と、それにつき従うような形で屈強な体つきをした異形の戦士が纏っていた大気を脱ぎ去るように現れる。

「アギトっち…ルーお嬢様にガリューも…!」

目に見えて動揺するウェンディ。
相手が何者かわからないティアナ達も、新たに表れた敵がただものでないことを感じ取っていた。

「知ってるの?」

「あたしらの助っ人みたいなもんをやってもらってる人たちっス。……強いから気を付けて。」

「ウェンディ……ドクターを裏切ったの?」

「え!?え~と、それは…」

紫の髪の少女、ルーテシアにいきなり痛いところを突かれてウェンディはわたわたと慌ててしまう。
だが、

「ウェンディは監視付きで私たちが保護しているだけ。ここに連れてきたのも無理やりよ。」

冷静にティアナがフォローを入れる。
その言葉を聞いていたルーテシアは表情の宿らない瞳を細くする。

「そう……そういうことにしておく。」

「それはそうと、早くやろうぜ。」

フォンがにやにや笑いながら巨大な剣の刃を起こし、品定めをするようにフォワードメンバーをじっくりとなめまわすような視線で観察する。

「きな……お前らのすべてを俺に見せてみろ!」

フォンは手始めにスバルの腹部へ向けて低い位置から刺突を放つ。
スバルはその一撃を左手のシールドで受け流し、すぐさま右手のマッハキャリバーをフォンの顔へ叩きつけようとする。
しかし、フォンのにやけた顔を見たスバルは悪寒を感じフォンの顔に突き出しかけていた右腕を慌てて引っ込める。
その瞬間、それまでスバルの腕があった位置を凄まじい剣風とともに鈍く光る刃が駆け抜けていった。

「ほう、勘はいい方なようだな。だが……」

「っあ……!」

腹部に斜めに浅い切り傷が刻まれたスバルは鋭く走る痛みに顔を歪ませる。
しかし、それでもフォンの剣の間合いから離れ、神経を研ぎ澄ませる。

「まだ反応が追いつかないみたいだな。まあ、“本番”を数回経験しただけ、しかも殺しの経験のないおぼこちゃんじゃ仕方ないか。」

「スバル!!」

ティアナ達はスバルの応援に駆け付けようとするが、その前にルーテシア達が立ちふさがる。

「邪魔はさせない……あなたたちの番はまだ。」

ルーテシアは足元にベルカ式の召喚陣を展開させ、巨大な黒い甲虫を呼び出す。

「ちょ、ちょっ!!ルーお嬢様ガチっスか!?」

一番に突っ込んで行っていたウェンディは急停止をかけて止まる。
その彼女の前の床に召喚された甲虫の鋭くとがった前脚が突き刺さる。
そして、勢いそのままに続けてウェンディをその鋭い脚を使って攻め立てる。
ウェンディも辛うじてかわしてはいるが、六本の脚をすべてはかわしきれず、徐々にあちこちにかすり傷を作っていく。

「ウェンディ!!」

みかねたエリオがウェンディの救出に向かおうとするが、その前に固い殻に身を包んだ戦士、ガリューが立ちふさがる。

「どけっ!!」

エリオはガリューへとストラーダの穂先を放つ。
だが、

「………………………」

「な!?」

エリオの渾身の突きは石像のように微動だにしなかったガリューの固い外殻にあっさりと防がれてしまった。
それどころか、逆にストラーダの刃にひびが入り、徐々に広がっている。

「エリオ、離れて!!」

ショックで呆然とするエリオに後ろからティアナの鋭い声が飛ぶ。

「クロスファイアー、シューートッ!!」

エリオが空中に跳ねた瞬間、無数のオレンジの弾がガリューへと殺到する。
しかし、それらは炎の壁に阻まれ、目標に到達する前に爆散する。

「ざ~んねん♪」

消えていく炎の壁の前に胡坐をかいた状態でゆっくりとアギトが降りてくる。

「この烈火の剣精、アギト様をなめんなよ……って、うおおおぉぉぉぉぉ!!?」

得意げに鼻をこすっていたアギトにフリードのブラストレイがかすめる。

「こっちを忘れてもらっちゃ困ります!」

「キュク!!」

「この……トカゲもどき~っ!!」

怒るアギトはキャロとフリードに炎の弾を投げつけて応戦する。
キャロとフリードも上手く立ち回りながら攻撃するが、フルバックという役割柄、このような撃ち合いに慣れていないために徐々にではあるが押されていく。

「みんな!!」

「よそ見すんなよ!!妬けてくるじゃねぇか!!」

「クッ!!」

他のメンバーの心配をしながらフォンの剣を紙一重でしのいではいるが、スバルは反撃の糸口がつかめないでいた。

(この人、本当に強い!!でも…)

スバルは、いや、他のメンバーもボロボロになりながら機会をうかがっていた。
ある者は必殺の一撃を。
ある者は己の持ちえる技術で仲間を救うために。
そして、その瞬間は思いもよらぬ形で訪れた。

「うおっと!!」

傷だらけのウェンディがかわした甲虫の雷撃が天井に激突して大小さまざまな破片を辺りにまき散らした。
そのうちの一つがフォンへと向かって行く。

「チッ!!」

フォンは仕方なくそれを左腕で払うが、その一瞬が命取りだった。

「マッハキャリバー!!」

〈Explosion!〉

二発のカートリッジを消費して、スバルは自身の魔力を底上げする。
その青い闘気ともとれる強大な力で放つのはスバルのとっておきに一撃。
憧れているなのはの代名詞とも言うべき魔法。

「ディバイーーン……バスターーーー!!」

拳の先に集中していた魔力が前方へと解放され、青い光の奔流となってフォンを押し飛ばす。

「ぐううぅぅぅ!!」

フォンはモード・ジャスティス、アストレアの最強の武装であるGNプロトソードを模した大剣でスバルの一撃を防ごうとするが、スバルのディバインバスターはなのはのものと比べて射程が極端に短く、効果範囲が狭いかわりに、魔力がより圧縮されていて威力が高い。
しかも、近距離で使われるのでその特徴が一層際立つ。
以前になのはのディバインバスターを防いだことのあるフォンだが、まともに受け止めるまで流石にそのことには気付けなかったようだ。

スバルのディバインバスターによって壁に叩きつけられ粉塵を巻き上げるフォン。
そして、それが合図だったようにティアナ達も動き出す。

「!!!!!!!!」

ティアナはガリューの大振り気味な左フックをしゃがんでかわすと地面に魔力弾を撃ち込んで土煙を発生させる。

「…………………………」

ガリューはティアナを見失うが、それがどうしたと言わんばかりに拳を振るって土煙を晴らす。
そして、その先でしゃがんで銃を構えていたティアナへと突進し、拳を打ち込んだ。
……はずだった。

「!!?」

ガリューが殴ったはずのティアナは彼が触れると同時に陽炎のように消え去る。

「少し出来が悪かったけど、あんたをだますには十分だったみたいね。」

幻術ではない、本物のティアナはガリューに見向きもせずにウェンディのもとへと走り、自分の精製できる最大の魔力弾を黒い甲虫の頭に撃ち込む。
ティアナの最大の攻撃力を持ってしても浅く傷をつけるのが精いっぱいだったが、ウェンディの攻撃のチャンスを作るには十分だった。

「マレーネ、ロードカートリッジ!!」

〈Load Cartridge〉

マレーネの両方の翼から薬莢が一つずつ排出され、彼女たちの下にミッド式の魔法陣が展開される。

「ブチ抜けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

〈Rushing Edge〉

ウェンディはマレーネを甲虫に向けてバク転をすることで勢いを増させて突っ込ませる。
その先端は彼女の魔力で光り輝き、さながら赤熱した刃のようである。
そして、その刃は甲虫の腹部に突き刺さり、それでも止まることなく甲虫を空中へと持ちあげ、天井に叩きつけた。
その時、ティアナの幻影に騙されていたガリューがティアナとウェンディに向かって突っ込んでいくが、その間に再びエリオが割って入る。

「ストラーダ、いける!?」

ひびが入った相棒を気づかうエリオだったが、ストラーダからの返答は彼の中に残っていたわずかな迷いを吹き飛ばした。

〈気にするな、兄弟。連中の度肝を抜いてやれ!!〉

「了解!!」

エリオの想いに呼応するようにストラーダから薬莢が三発分飛び出す。
その瞬間、エリオの身体中を稲妻が駆け巡り、エリオはそのまま穂先を先頭に突っ込んでいく。

「はああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「……………………………」

ガリューはまたかといった様子で煩わしそうに体の前で腕を交差させて防御の姿勢をとる。
しかし、エリオはかまわずにガリューの腕にストラーダを叩きつける。
相変わらずガリューの固い殻を抜くには至らなかったが、汗だらけのエリオの顔には余裕の笑みが浮かんでいる。

「これで……どうだぁぁぁぁぁぁ!!!!」

〈Plasma Bunker〉

「!?」

エリオの身体を駆け巡っていた雷撃が槍に集まり、巨大な杭を作り上げた。
そして、エリオ自身を後ろに弾き飛ばすほどの力で押し出された雷の杭はガリューの外殻を撃ち砕き、彼の両腕を引きちぎった。

「ガリュー!!」

それまで無表情だったルーテシアが悲痛な声を上げる。
しかし、ガリューは大丈夫だと先がなくなった腕で近づいてくる彼女を制止する。
その先には、今の攻撃の反動で右の肩が外れてもなお、自身の相棒がコアを残して崩壊を始めてなお、左腕一本で立ち上がってくる若い騎士の姿があった。

「まだ……だ…!」

「………………………!」

エリオに対して怒りを向けていたルーテシアだったが、エリオの気迫に恐怖を感じてしまう。
言葉を話さないガリューもまた、先程の一撃と今のエリオの気迫から、彼を全力で当たる相手だと認識した。
互いに満身創痍のままの体を引きずり、間合いを詰めていく。
だがその時、何かが上に着弾した衝撃で地下水路全体が大きく揺れる。

「あげゃ、意外に早かったな。」

フォンは刃こぼれをした刃をしまいながら笑う。

「さっさと退くぞ。チビ!」

「チビ言うな!!」

アギトは文句を言いながらキャロとフリードから離れて激しい閃光を発生させる。

「クッ!フリード!!」

閃光の中でフリードは狙いも定まらないままブラストレイを放つ。
しかし、当然のことながらフォンたちに当たることはなく、天井に大きな穴を開けただけで終わった。

「お前らもさっさと逃げるんだな。こんなところで犬死はお互いごめんだろ。」

「フォン!!」

閃光がはれるとウェンディはイの一番にフォンたちのいた方に向かうが、そこにはもう彼らの姿はなかった。

「く……そ………!」

「エリオ君!!」

キャロは悲鳴をあげてその場に崩れ落ちたエリオに駆け寄ると治癒魔法をかけ始める。

「僕はいいから……キャロは…何ともない………?……ッ!」

「いいからじっとしてて!!」

どれほど強がってもまだ十歳の少年だ。
肩の脱臼に地面を滑って行った際の擦り傷の痛みで顔がゆがむ。

「無茶しないで………。私たち家族でしょ……?もっと頼っていいんだよ。」

「……うん。」

泣きそうなキャロの顔をエリオは優しくなでて安心させる。

その時だった。
フリードが開けた穴からゴウッという凄まじい音が聞こえてくる。
五人は穴から外の様子をうかがい、そこに広がる光景に驚愕した。
青い空になのはの砲撃すらも上回るほどの大きさの赤い何かが駆け抜けているのだ。

「なに……あれ…!?」

ティアナは自分の目に映るものが信じられず思わずつぶやく。

「GN…粒子……!?」

「え!?」

四人は一斉にウェンディの方を向く。
しかし、ウェンディはそのことに気付けないほど動揺し、体をカタカタとふるわせる。

「フォンの機体じゃない……まさか、管理局にもMSが!?」





クラナガン 郊外 数分前

「准将、器の確保に成功しました。これより同調テストを開始します。」

『わかった。いい報告を期待しているぞ。』

管理局の規定のバリアジャケットを羽織った男たちは一人の幼い少女を巨大な白いロボットに乗せようとする。
恐怖で泣き叫ぶ少女の目は紅と緑のオッドアイで、金色の髪が暴れるたびに揺れている。

「やめて!!痛いのはいやぁっ!!

少女は必死で抵抗するが、大人の力に勝てるわけもなく無理やりコックピットの席に固定させられる。
そして、コックピットのハッチが閉じられると、男たちは離れて術式を発動する。

「やめて!!いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

激痛で叫びをあげる少女。
その叫びがこだました瞬間、後ろにいた巨人たちの目に光がともった。





クラナガン 市街地

その場にいた全員が戸惑っていた。
突然、遠方から向かってきた赤いなにか。
それが街を削り、道路を砕いていく。
ナンバーズのトーレとクアットロはそれがなんなのかはわかっていたが、まさかこのタイミングで来るとは思っていなかった。

「チィッ!!いくらなんでも早すぎる!!」

対峙していたフェイトとはやてのことなど放り出し、明らかに自分たちを狙っている赤い弾丸をビルを盾にして防ぐトーレだが、状況はかなり厳しい。

「トーレ姉さま、私のISで……」

「駄目だ、いくらなんでもリスクが高すぎる!」

確かにクアットロのシルバーカーテンを使えば逃げられるかもしれないが、ここまで狙いが正確となると幻術系に対しても何らかの対策を立ててきている可能性があるだろう。
ましてや、相手はあの男なのだ。
クアットロの能力に対しても備えてあるだろう。

「クソ……ここでわれわれを消す気か、ファルベル!!」

トーレ達が悔しさから歯ぎしりをする一方、フェイトとはやても突然の乱入者に戸惑っていた。

「これはいったい!?」

「ロングアーチ!!これがどこから来とるか特定できへんか!?」

はやてとフェイトはそれぞれ違うビルの後ろに隠れながら、ロングアーチからの連絡を待つ。
しかし、

『無理です!!方向といる地区はある程度判別できても、はっきりと位置がつかめないんです!!それどころか、その地域一帯の電子機器が狂っているせいでカメラでとらえることもできません!!』

「電子機器の故障!?なんでこのタイミングで!!」

グリフィスの報告にはやてはビルの影で唇をかみしめる。
ここまで街を破壊されているのに自分たちは何もできない。
その時、上空に待機していたヴァイスのヘリへ赤い弾丸が唸りをあげて近づいていく。

「アカン!!ヴァイス君避けぇ!!」

「ヴァイス陸曹!!」

二人の叫びもむなしく、赤い弾丸はヴァイスのヘリへと近づく。
だが、その赤い弾丸は飛び込んできた何かの張った力場にはじかれる。

「そんな……」

「あれは……」

二人が呆然と見つめる先にいたのは、ユーノが帰ってきた日にともにやってきたあの機械天使だった。




クラナガン 郊外

ミッドに戻ってきたユーノはバイクにまたがり唖然としていた。
昔、よく見た赤い疑似GN粒子の弾丸が街を襲っていたのだ。
それも、MS相手ではなく人間相手にだ。

「MSが人間相手に……!!」

ユーノが怒りに燃える。
その時、

『君が止めるんだ、ユーノ。』

クロアでもらった端末から声が聞こえてくる。

「誰だ、君は?」

ユーノは驚きを押さえてあくまで冷静に相手を問いただす。

『僕が誰なんて今はどうでもいい。とにかくあれを止めたいんなら僕の指示に従うんだ。』

いきなり一方的に指示に従えと言ってくる若い男の声。
普通なら信じることなんてできない。
だが、ユーノの中の何かがざわつく。
男の声から悲しみ、喜び、怒り、そして希望。
ありとあらゆる感情が入り混じったものを感じる。
そして、それはかつて確かにどこかで感じたことのあるものだ。

「……わかった。どうすればいい?」

ユーノは自分で言った言葉に驚く。
だが、理由はないがこの男が信用できるという確信だけはある。

『今から君をある場所に案内する。……もっとも、そこについて、あれを見てどうするかは君次第だ。』

ユーノはヘルメットをかぶりなおすと、バイクを走らせ始める。

『まずは右に曲がるんだ。』

ユーノはしばらく行ったところで剣を空高くかかげている女神の石像のあるところを右に曲がる。

『次の十字路は真っすぐ。』

続いて水瓶と銃を持った女神が目に飛び込んでくる。

『次も右だ。』

真ん中にギリシャ神話に出てくるような戦車に乗った翼の生えた女神がいる二股の道を右に曲がる。

『次は左。』

どこかの惑星を模した黒い球体を両手に抱いた天使の石像のいる場所を左に曲がる。

『最後は真っすぐ……そして、ゴール。』

ユーノがたどり着いたのは人気のない廃工場。
危険防止のために局員ですらめったに近寄らない場所だ。
そして、その入り口には獅子を従えた天使が一人の若者に盾を託す様子を表現した真新しい石像があった。

「Justice……The Star……The Chariot……Judgement……そして、Strength………随分とロマンチックな趣味をしてるんだね。おおかた、盾を託されてるのは僕ってところかな?」

『それは僕じゃなくてフォンの演出さ。少しやりすぎな気もするけどね。……さて、僕にできるのはここまでだ。ここから先は君が決めることだ。君が後悔のない選択をすることを祈ってるよ。』

「了解、どこかの誰かさん。記憶が戻ったら、この間見つけたおいしいスコッチを御馳走するよ。」

『ッ!楽しみにしてるよ。』

こらえたような笑いを最後に男との通信が途絶える。

そして、ユーノは廃工場の重い扉を開ける。
そこには天使がたたずんでいた。
萌黄色と白のカラーリング、巨大な盾、腰につけられた巨大な銃、人間に限りなく近い体つき。
見間違うはずがない。

「ソリッド……」

もう二度と会うことなどないと思っていた自分の愛機。
失った仲間の想いを背負った機体。

「僕の…ガンダム。」

ユーノは浮遊魔法でコックピットに近づく。
すると、迎え入れるようにハッチが開いていく。

「967。」

いるはずの相棒の名を呼ぶ。
だが、返事がない。
中に入ると、あの頃より一回り大きいパイロットスーツ。
そして、遮光処理のされたヘルメットはあるものの、いつもの定位置に彼がいない。

「無事……なのかな………?」

『そんなことよりも早く操縦桿を握りたまえ。』

「!」

ユーノは反射的に振り向くが、その先には明かりのついた通信装置があるだけだった。

『時間がないので今から私が言う質問に答えてもらうよ。なあに、そこらの駅前のアンケートよりも簡単なものさ。』

あざけるような男の声をユーノは席に座って静かに聞いている。

『私が君に与える選択肢は二つだ。ひとつはここで見たことをすべて忘れて、世界の真実から目を背けて友人や愛する人と幸せに暮らす。もうひとつは、世界中の人間から、愛する人々から憎まれることになっても真実と向き合い戦いぬく道……さあ、どっちを選ぶ?』

なのはたちと再会してから忘れようとしていた選択。
どっちつかずはもう許されない。
ならば、あの日の決意に従うだけだ。

「……僕はいままで夢の中へ逃げてきた……。ここらで、現実に戻らなくちゃいけないよね。」

『どうやら、決まったようだね。』

コックピット全体に明かりがともり、周りの光景がはっきりと見えるようになる。
ユーノは素早くパイロットスーツを着て、背中を席に固定する。

『ミッションプランはすでに転送してある。それに従ってくれたまえ。』

「……あなたの指示に従うのは今回だけだ、ジェイル・スカリエッティ。」

『おや、気付いていたのか。』

わざとらしい声が通信機器から聞こえてくる。

「何を考えているのかは知らないが、あなたのしている行為はテロ……僕の介入対象だ。覚悟しておけ。」

『ハハハ!楽しみに待っているよ。』

スカリエッティからの通信が途絶えたところでユーノは操縦桿を握りしめる。
その瞬間、ありとあらゆる場面が脳裏を駆け巡る。
初めてガンダムを見た時、復讐心に駆られて戦った最初のミッション、介入を開始してからのこと、仲間の死、そして……
ユーノは目をカッと見開くと、目つきを鋭くする。

「ユーノ・スクライア、ソリッド、目標を粉砕する!!」

ペダルをありったけ踏み込み、工場の屋根を突き破ってソリッドとユーノは空へと舞い上がる。
スカリエッティの手によって修復されたソリッドは異世界の陽の光を受けて燦然と輝き、その存在を主張する。

「ファーストフェイズは狙撃型ジンクスの撃墜……あんなお粗末なものが狙撃ねぇ。」

ユーノはため息をつくと、クラナガンの中心部へと向かう。
そんな彼の目に飛び込んできたのは、何も知らないまま赤い光弾の嵐にさらされる仲間たちの姿だった。

「……悪いね、はやて。やっぱり僕はこういう道しか進めないみたいだ。」

自分がソリッドに乗っていることを知られないように、なにより罪悪感から仲間の目につかないように狙撃型のもとに向かおうとするユーノだったが、ヴァイスの乗るヘリにビームライフルの弾が向かって行く。

「!!させるか!!」

先程までの算段など忘れ、全速力でヘリの前まで向かうと、GN粒子の膜を張って赤い凶弾を防ぐ。
だが、防ぎはしたものの、ユーノはヘルメット越しに片手で頭を押さえる。

「やっちゃった……ティアリアに知れたら大目玉だな。」

しかし、後悔してももう遅い。
機動六課の隊長陣、つまり、自分が帰ってきたときにソリッドを見ている人間に見られたのだ。
実際、はやてやフェイト、そしてなのはがこちらを呆然と見ている。
だが、

「気にしてもしょうがないか……ソリッド、ミッションを続行する。」

呆ける仲間や街の人間をよそに、ユーノはソリッドを弾丸が飛んできた方向へ向ける。
すると、街からある程度離れた廃墟でGN粒子の反応を検知する。
しかし、視界にとらえてもいい距離なのにもかかわらずその姿はどこにも見当たらない。
それでも、ユーノは慌てなかった。

「ヘッタクソな狙撃で街を壊してくれちゃって……おまけにやられる覚悟もない。ジンクスどころかMSに乗る資格なんてないな。」

ソリッドはライフルを抜くと、何もなさそうなところへ向かって一発だけ光を放つ。
廃屋の屋上を貫くと思われたその一撃は、見えない何かに当たる。

「大方、ガンダムの光学迷彩を応用したんだろうけど、赤外線カメラで見てばれるようじゃ三流の仕事だね。」

光を屈折させて隠れていたジンクスが胸に開いた穴から火花を散らしながら出現し、仰向けに地面に倒れていき、地上に落ちた瞬間に爆散した。

「ソリッド、ファーストフェイズ終了。引き続きセカンドフェイズに移行する。」

ユーノは右手を操縦桿から離して握っては開くを何度か繰り返す。

「ブランクかな……上手く動かせないな。」

いくら魔導士として実戦を続けてきたとはいえ、MSの操縦からは4年間も離れていたのだ。
全盛期の動きはそう簡単には取り戻せない。

「……ま、そこのところはこれからどうにかするしかないか。」

ユーノが一息ついた時、それは起こった。

(助けて!!)

「!」

ユーノの頭の中に幼い少女の声が響く。

(痛いよ!!誰か助けて!!)

少女の必死の叫びがユーノの頭を突き刺してくる。

「っつぅ……そこか!」

ソリッドが振りむいた瞬間、こちらに向かってきていた七機のジンクスからの一斉射撃が雨あられと降り注いでくる。

「おっと!!」

ユーノは赤い嵐を上空に舞い上がって避けると、真ん中の一機へライフルを発射するが、あくまで牽制のためであり、当てる気はない。

「セカンドフェイズは人質の奪取か……。どれに乗ってるかわからない以上、下手に攻撃するわけにもいかないね。」

おそらく先程念話をしてきた少女が人質なのだろう。
どれに乗っているのかはわからないが、はっきりと彼女の感情が伝わってきた。
恐怖と痛みに支配され、必死に助けを求めている。
それがユーノにミッション云々を関係なく彼女を助けたいという思いを呼び起こした。

(大丈夫!?)

ユーノはとりあえず助けを求めてきた少女に念話で語りかける。
だが、それは逆効果だった。

(!!?いやぁぁぁぁぁっっ!!こないでぇぇぇぇぇ!!)

「っ!?グァッ!!」

少女の拒絶の言葉とともに、ジンクスたちは先程までと違い、射撃を集中させてソリッドを攻撃してくる。
ユーノはGNフィールドを張って対抗するが、攻撃が一点に集中していたため、最大出力のフィールドでも抜かれてしまう。
ユーノは一旦距離をとって再度少女とのコンタクトを図る。

(お願い、怖がらないで!!)

(いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!)

しかし、ユーノの思いと裏腹に、少女の拒絶の言葉とともに再びジンクスたちが襲いかかる。
ビームサーベル、ビームライフルとさまざまな攻撃で攻めたてられ、避けるだけで精いっぱいだ。

「く…そ……っ!!」

一機一機の能力はガンダムには届かないが、集団で来られるとやはり厄介だ。
遂にユーノは一機のジンクスに鍔迫り合いに持ち込まれてしまう。
そして、それを待っていたかのように残りのジンクスたちがビームライフルを構える。

「!?こいつら…」

ユーノが回避行動を取ろうとしたときにはもう遅かった。
六方向から放たれた赤い銃弾はジンクスを穿ちながらソリッドにも降り注ぐ。

「うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

ジンクスの爆発に巻き込まれたソリッドはきりもみしながら地上に落下していき、大きな音とひびを作り、動かなくなる。
幸い、致命傷となるような損傷はなかったものの、中にいるユーノへのダメージは深刻だった。
ヘルメットのバイザーは割れ、墜落の衝撃で頭を打ったせいで額から出血を起こしている。
そんな状況の中でも、ユーノはある仮定を形成していた。

(もう…間違いない……。相手は無人機、それも、あの子が何らかの術式を使って操縦させられている……)

でなければ仲間ごと敵を攻撃するなんていかれた行動の説明がつかない。

(でも、わかったところで僕には何もできない……)

体に力が入らない。
意識が遠のいていく。
自分に向けてジンクスたちがとどめをさすべく銃口を向けているが、もう何もできない。

(ごめん……みんな……)

ミッドの仲間と異世界でできた仲間の顔が浮かんでは消えていく。
走馬灯に浸っているユーノだったが、それは唐突に終わりを迎えることとなる。

(あきらめんな……)

(……?)

(お前も、刹那も……生きて、変わらなくちゃいけないんだ……変われなかった、俺やエレナたちのためにも……)

(……そうだ。)

ジンクスたちの持つライフルの銃口に禍々しい光が溜まっていく中、ユーノの目に再び闘志がともる。

(だからお前は……)

(僕は……!)

次の瞬間、ジンクスたちからビームが放たれる。
だが、

「戦うんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

ソリッドはビームが着弾するより速く空へと舞い上がり、一機のジンクスの頭を斬りおとして沈黙させる。

「……ありがとう、ロックオン。僕は戦う……。きっと、刹那たちも変わるために、守るべき者のために戦っているはずだから!!」

ユーノは流血しながらも猛攻をかわし、ジンクスたちを見比べて攻略の糸口を探す。
すると、

「あれは?」

一機のジンクスの額の部分に青く光る宝石が設置されている。
拡大して見ると、その正体がはっきりとわかった。

「ジュエルシード!?」

封印処理はされておらず、無理やり力を引き出されているせいでいつ暴走してもおかしくない状況だ。
おそらく、あの機体に少女は乗せられているのだろう。

「待ってて……!」

ユーノはジンクスたちの弾幕を潜り抜け、ジンクスと接触し回線を開く。

「君!大丈夫!?」

『痛いよぉ……!怖いよぉ……!』

少女は目の前にいるユーノに気付いていないのか、先程と変わらず泣いたままだ。
そんな彼女を見たユーノはヘルメットを脱ぎ捨てると優しい微笑みを浮かべる。

「大丈夫だよ……僕が君を守る、絶対に助けてあげる!」

『ふぇ……?』

ユーノの穏やかな声に少女は泣くのをやめてモニターを見る。

(あ……)

その時、少女のオッドアイにははっきりとあるものが見えていた。
瑠璃色の大きな翼が、目の前の男の背中から生えている。

(天使さん…?)

少なくとも、少女にはそう見えた。
大人が見れば百人中百人が違うと答えるだろうが、それでもこの時から、この少女にとってユーノは天使となった。

「お名前を教えてくれるかな?」

『ヴィ…ヴィヴィオ…』

かすれた声でヴィヴィオはユーノの問いに答える。
それを聞いたユーノはにっこりと笑う。

「ヴィヴィオちゃんか……。じゃあ、ヴィヴィオちゃん、少しの間待っててね。怖いの全部やっつけちゃうから!」

『…!うん!』

ユーノの力強い笑みに安心したヴィヴィオは大きくうなずく。

「よし、それじゃ……いくよ!!」

ユーノはそう言うとヴィヴィオの乗るジンクスから一気に離れ、ソリッドに逆さまの状態でライフルを構えさせる。
ジンクスたちもヴィヴィオを巻き込まないように攻撃していなかったが、ソリッドが離れた瞬間に攻撃姿勢をとる。
だが、

「遅い!!」

ソリッドのライフルから放たれた桃色の光弾が一機のジンクスの胸部ごと背中についていた疑似GNドライブを撃ち抜く。
赤い粒子をまきちらしながら爆散した味方機に動揺すらしないAIたちは一斉にビームサーベルを抜いてソリッドに襲いかかる。
だが、

「刹那ほどじゃないけど、接近戦は僕の十八番だよ!!」

ユーノはソリッドを元の姿勢に戻すと、ライフルを上空に投げ上げあげ素早く腰のビームサーベルを抜き放ち、左から迫っていたジンクスの腰に見事に命中させる。
そして、急加速で一気に接敵するとビームサーベルの柄を握って真横に振り抜く。
ジンクスは上半身と下半身を切断され、力なく地上に落ちていく。
そんな中、ソリッドの後ろからもう一機接近してくる。

「バンカーモード。」

ユーノはブレードモードだったアームドシールドをバンカーモードに戻すと、そのままひじから突き出た刃を後ろから迫っていたジンクスの頭に突き刺す。
ジンクスは壊れたおもちゃのように細かく手を震わせていたが、アームドシールドがブレードモードに戻る時にその回転する刃で頭から下を斬り裂かれ、赤いラインから火花を散らしながら落ちていき、地上に到達する前に爆発した。
それを見ていた残り二機は、直列に並んでソリッドへと突進する。

「少しは学習したみたいだけど、その陣形にしたのは失敗だったね。」

ユーノは再びアームドシールドをバンカーモードに戻し、こちらに向かってくるジンクスたちに突進していく。

「後ろにいるやつごと撃ち抜く!止められるものなら……」

ソリッドは右腕を大きく後ろに振りかぶる。
対するジンクスもビームサーベルの切っ先を突き出しながら突進してくる。

「止めてみろっ!!」

二つの攻撃が交差し、しばしの沈黙が場を支配する。
だが、それはジンクスの胸が巨大な突起に刺さって軋む音で破られる。

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

ユーノはそのままペダルを踏み込み、ソリッドを加速させていくと後ろにいたジンクスも一緒に上空へと押し上げていく。

「GNバンカー、バーストッ!!」

アームドシールドから猛烈な瑠璃色の輝きが放たれた瞬間、ジンクスたちは胸に二つの穴を開けてさらに上空へと舞い上がっていく。
そして、ある一定の高度に達したところで赤い粒子の花を咲かせた。

ソリッドは上から落ちてきたライフルをキャッチすると、ヴィヴィオの乗っていたジンクスの方を向く。
せめてヴィヴィオだけでも逃がそうとしているのか、その場から離れていっている。
だが、

「甘いな。僕は成層圏を狙い撃つ男の弟子だよ!」

ユーノはゆっくりとソリッドにライフルを構えさせる。

「ヴィヴィオちゃん、少し揺れるけど我慢できる?」

ユーノの言葉にモニターの奥のヴィヴィオはこくんとうなずく。

「うん、君は強いね……」

ユーノは言葉でヴィヴィオを安心させながら、最低の威力にセットしたライフルで狙いをつける。
狙うは頭部と胴体の付け根。
下手をすればジュエルシードを暴走させて次元災害を発生させる可能性もあるが、失敗はしない。

「狙い撃つ!」

ユーノが引き金を引いた瞬間、ジンクスの首元を細い光が貫く。
ジンクスはしばらくは進んでいたが、しばらくすると四つの目から光が消え、徐々に高度を下げていく。
ソリッドは素早くジンクスを抱えて静かに地上に降ろし、外からの操作でコックピットのハッチを開ける。

「ヴィヴィオちゃん!!」

ユーノもハッチを開けて外に出ると、ジンクスの中にいたヴィヴィオのもとへ向かう。
気絶していた彼女の拘束器具を外し、ユーノは両腕で抱き上げてコックピットの外に向かう。

「う……?」

陽の光に照らされて、ヴィヴィオは眩しそうに眠りから覚める。

「もう大丈夫だよ……よく頑張ったね。」

「天使…さん……っ!!」

ヴィヴィオの目から涙がこぼれおちていく。

「う…ひっく……っわあああぁぁぁぁぁぁん!!!!!」

泣きじゃくるヴィヴィオをあやすユーノだったが、目の前のジンクスとソリッドのことを思い出す。

「……どうしよ、これ?」

ユーノの呟きはヴィヴィオの泣き声にかき消され、文字通りとんでもなく大きな悩みの種だけが残ることとなった。





ユーノがヴィヴィオを救出する場面を、遠くから見ている人影があった。
少し頬がこけているが、屈強な体つきをした男が右手に槍を、そして左手には青い球体を持っている。

「助けなくてよかったのか?友なのだろう?」

槍を持った騎士、ゼスト・グランガイツは手の平の上の球体にたずねる。

「あいつならあれくらいはきりぬけられる。それに、今は互いになすべきことがある。いつもそばにいるのが仲間とは限らんさ。」

「……うらやましいな。俺はレジアスの近くにいたのに、あいつが何を考えていたのかわからなかった。だが、お前と彼はどれほど離れていても互いに信頼できている……」

ゼストの暗い顔を見た青い球体、967は目を悲しげに点滅させる。

「…そろそろ行こう。ここにもすぐに局員たちが来る。」

「そうだな…」

ゼストは魔法陣を展開し、合流ポイントへの転送の準備を進める。

「レジアス……俺たちの道は、もう一度交わる日が来るのか……?」

ゼストと967、たがいに友に想いを馳せ、それぞれの戦いに身を投じていく。
彼らはその決意を抱きながら、遠く離れた場所へと消えていった。







天使を取り戻した守護者
そして、悲壮な決意もまた再誕の声を上げる





あとがき・・・・・・・・・・という名の鬱

ロ「……第9話でした。」

ユ「あの……どうしたの?やっと僕をガンダムに乗せられるって書き始めは喜んでたのに。」

シ「なんでも何とか00の劇場版の公開日に休みを作ったのに急用ができて観に行けなかったそうだ。ちなみにいまだに見ていないらしい。」

ヴィ「でも、そのうち観に行けるんじゃ…」

ロ「……今週も予定がたくさん詰まっています…」

ユ・シ・ヴィ「「「………………………………」」」

ロ「あははははは…………まあ、十月までには観に行けるよ……俺はそう信じてる。そうでなきゃ世の中おかしい……」

ユ「え、え~、ロビンが本当に鬱なのでさっさとゲストを呼んで場の空気を明るくしたいと思います!」

ヴィ「今回のゲストはソレスタルビーイングの戦況予報士、the 酒豪!スメラギ・李・ノリエガさんだ。」

酒「どうも、ちなみに作者が鬱なのは友達が先に見に行って自慢してきたからなのも理由の一つよ♪」

ロ「うわあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

シ「……頼むからこれ以上追いこんでやるな。本当に目がヤバい感じになってるから。」

酒「あら、楽しければいいじゃない。」

ヴィ「ドSだ!!しかもドSで巨乳だ!!」

ユ「ヴィータ、その発言はいろいろまずいから控えるように。いくら自分の胸がまな板……」

ヴィ「ギガントシュラーーーーク!!」

ユ「ひでぶっ!?」

シ「ユーーーーノーーーーーー!!!?」

酒「さあ、血の海が出来上がったところで解説にゴー!」

シ「オイッ!!無視するな!!どうするんだこれ!?」

酒「今回のメインはフォワードVSフォン+ルーテシア軍団とソリッドの戦闘ね。」

ユ「僕の……活躍………いかがでした……?あれ……?スメラギさんが三人に見える……」

ヴィ「今回はエリオのオリ魔法が出てたな。つ~か、あれ反則じゃね?」←ユーノのことを超無視

酒「だから反動でデバイスが壊れて、エリオ君もそこそこダメージ受けてたんでしょ。」

シ「しかし今回は長かったな。余分なところを省いてこれか。」

ユ「そう。だからこれ以上長くなるとまずいからさっさと次回予告に行くよ……。あれ?なんか目の前が赤い……」

ヴィ「遂にソリッドを取り戻したユーノ。」

シ「しかし、仲間たちが自分を疑っているとわかっていても機動六課にとどまる道を選ぶ。」

酒「そんな彼に、ベルカ教の教会で運命の出会いが訪れる。」

ユ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!では、せーの……」

「「「「次回をお楽しみに!!」」」」




ロ「なんでだ……せっかく必死にやること片づけて時間作ったのに……なんであのタイミングで厄介事が……ぶつぶつ…………」



[18122] 10.少女と母親、そして……
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/10/17 12:06
西暦2304年 地球

少年は必死だった。
最近MSの操縦にもようやく慣れ、自分なりに工夫も重ねて何とか普通のパイロットレベルなら手玉に取れるようになった。
だが、この瞬間に相対している相手は違う。
一級品の狙撃能力に自分の技術など及びもしないほどの豊富な戦闘における経験値。
使っている機体こそ何の変哲もないヘリオンだが、明らかにこちらが押されている。

『ほらほら!!そんな調子じゃすぐにつかまっちまうぞ!!』

「クッ!!」

正確な射撃をかわしながら少年は現在自分が操っている機体の特徴を思い出す。
近接武器は装備されてはいるが、それはこの機体の真骨頂ではない。
この機体、デュナメスの最大の特徴は額に備え付けられたカメラアイによる正確無比な狙撃。
本来ならハロに姿勢や防御の制御を任せるのだが、今はそのハロがいない。
だが、それだけで狙撃ができないわけではない。
敵の攻撃で狙いが付けられないのなら、敵の攻撃が届かないところから狙い撃てばいい。

「これでどう!?」

少年はデュナメスの腰のミサイルを発射して距離をとると、額のカメラアイを開いて狙撃の態勢をとる。

狙撃をするときは焦ってはいけない。
とにかくじっくりと絶対に相手をとらえることができるその瞬間を待つのだ。
だが、

「クッ……!」

相手は狙撃の名手にして自分の師匠。
こちらの浅はかな考えなどお見通しだ。
細かく動きながら地形を盾にどんどん接近してくる。

「はぁはぁ……!」

あと少しで向こうの攻撃もこちらに届くようになる。
その重圧が重くのしかかってくる。
そして、少年はそのプレッシャーに打ち克つことができなかった。

「ああああああぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」

渾身の叫びとともに引き金を引く。
だが、狙いの甘かった弾丸はヘリオンのすぐ横をかすめて空に消えていく。
そして、代わりにヘリオンの放った弾丸がデュナメスをとらえる。
その瞬間、少年の前のディスプレイに『You Lose』の文字が浮かぶ。

『ここまでだ。』

目の前の光景が消えると、少年はシミュレーターの中からはい出してくる。
うなだれる彼の前にはひょうひょうとした笑みを浮かべる彼の師匠がいる。

「お前は技術面ではもう問題ないんだがな……メンタル面がまだ甘いな。」

「はい……」

その言葉にいっそう暗い顔をする弟子を見て、彼は慌てる。

「おいおい、そんなにへこむなよ。今回はお前にとって不慣れなデュナメスのプログラムでやったんだ。狙撃以外はもう一人前だからそんなにへこむな!」

「……っ!はい……」

慰められるとさらにつらい。
少年はとうとうポロポロと涙を流し始める。

「ダ~~~~!!泣くな!!頼むから泣くな!!」

「あ~、ロックオンがまたユーノのこと泣かした~。」

遠くから赤い髪の少女がからかう。
それに気付いた少年の師匠はすぐに逃げ出す彼女を追いかけ始める。
それがあまりにもおかしくて、少年は泣いていたことも忘れてクスリと笑う。
そして、こんな日々がいつまでも欲しいと願ってしまう。
だが、彼の未来に待っている現実は残酷なものだった……




聖王教会 庭園

ユーノが目を開けると、その視線の先に広がっていたのは緑の葉とその間から降り注いでくる陽の光だった。
ベンチの背もたれに寄りかかって寝ていたせいで、いつの間にか頭が上を向いてしまっていたようだ。
ユーノは頭を起こすと、二、三回横に振る。
ふと足元に何かの感触を感じてそこを見てみると、空になったビールの缶が二本転がっていた。

「……また飲んじゃったな。」

隊舎からかなり離れた聖王教会から、バイクなしでどうやって帰ろうかユーノは寝起きでぼうっとした頭で考え始めるのだった。






魔導戦士ガンダム00 the guardian 10.少女と母親、そして……

ジンクスに乗っていた少女、ヴィヴィオを助け出した後、ユーノはジンクスの額についていたジュエルシードを回収した。
彼が手にした瞬間、暴走しかけだったそれは急速に安定した状態に戻ったものの、ユーノが首にかけているジュエルシードと同様に封印処理を受け付けなかった。
しかし、気にはなったがこのままここにいるわけにもいかず、ジンクスたちを念入りに破壊したのち、ソリッドに乗ってその場を後にした。
その時、ヴィヴィオは安全なところに置いていこうと思ったのだが、よほど怖い思いをしたのかユーノを離そうとせず、仕方なく一緒に連れていくことにした。
ソリッドの隠し場所には苦労したがちょうどいい場所を見つけ、そこに隠しておくことにした。

その後、はやてたちと合流してヴィヴィオを聖王教会に預けることにしたユーノだったが、内心複雑だった。
おそらく、はやてたちは自分がソリッドに乗っていたことに気付いているだろう。
だが、はやてたちはそのことについて言及してこなかった。
あえて追及しなかったのか、気付いていなかったのかはわからないが、ある事実だけは変わらない。
大切な友人たちを裏切り、血に染まった道を再び歩まなければならない。

「……帰ろう、地球に。」

自分はもうここにいていい存在ではない。
向こうに戻って自分に何ができるかはわからないが、それでもあの戦いを引き起こした自分にはこの命が尽きるまであちらの世界を見届ける義務がある。
だが、

「そう……まだこっちでやらなきゃいけないことがある。」

ジェイル・スカリエッティ
天才的な科学者にして、最悪のテロリスト。
表向きにはそうなっているが、ユーノにはどうしてもそうは思えない。

「間違いなくやつには何か別の思惑がある。」

それを知るためにここに来たのだが、はやてたちから話し合いに参加することを拒絶された。
だが、ある意味それははやてなりの気づかいなのだろう。
彼女の友人、カリム・グラシアの能力プロフェーティン・シュリフテンを正しく解析できれば自分が一体何なのかがあの面々の前ですべて明らかになるのだ。
ユーノとしてもそんな場に居合わせるのは少々具合が悪い。

「まあ、やることは一つだ。」

ユーノは隣に置いてあるコンビニのレジ袋の中から三本目の缶ビールを取り出してプルタブを開けて口元へ持っていく。
苦みばしった液体で自分の抱える矛盾や悩みを胃の中へと押し込んでいき、三分の一ほど中身を飲んだところで飲み口を離して大きく息を吸う。

「紛争の根絶……そして、フォンから無理やりにでも向こうに帰る方法を聞きださないと。」

そう呟くと、再びビールのさわやかなのど越しを味わい始めた。






聖王教会 カリムの部屋

カーテンが引かれ、暗くなった部屋の中にモニターの明かりだけが煌々と輝いている。
そこに映っているのは先日の事件の際に現れた機械天使。
はやてたちにとっては四年ぶりの再会といったところだろうか。
だが、それを歓迎する気にはとてもなれない。

以前、ユーノに解読を頼んだ予言を書き換えるように現れた新たな予言。
それを見たはやては本来このことを伝える気のなかったなのはやフェイトにも話した。
それを聞いた二人、とくになのはは青ざめた顔でその場にへたり込んでしまうほどのショックを受けてしまった。

「はやて、本当にこれにはユーノが…」

クロノはテーブルに肘をつき、口元で手を組んだ状態ではやての方を向く。
何とか冷静でいようとしているのだろうが、明らかに暑さからきているものではない汗が額にぽつぽつと浮かんでいる。

「クロノ、少し落ち着いて……」

「落ち着いてなんていられるか……!」

フェイトの一言にクロノは声を震わせる。

「親友がまたいなくなってしまう……いや、それどころか僕たちの敵になるかもしれないんだぞ……落ち着いてなんていられるか……!」

「クロノ提督。」

それまで黙っていた長髪の女性が口を開く。

「今、ここにいる人間であなたと同じ想いを持たない者はいません。ですが、あなたが揺らげば、彼を救うことは難しくなります。そのことをお忘れなく。」

クロノはハッと息をのみ、しばしの間目を閉じた後、いつもの冷静さを取り戻す。

「申し訳ありません、騎士カリム。」

聖王教会の騎士、カリム・グラシアは厳しい顔から一転して柔らかな笑みをクロノに向ける。

「カリム、ありがとな。ユーノ君はこのことを知ったら間違いなく私たちのもとを離れていってまう……いや、ユーノ君のことやからたぶん私たちがどこまでつかんどるかおおかたの見当はつけとるやろうけどな。」

はやてがこの場にユーノを呼ばなかった理由。
それは、機動六課設立の前に出現した預言がはやてたち、とくになのはにとってあまりにも酷なものだったからだ。

「騎士カリム、やはり預言は…」

「……おそらく、間違いないかと。」

フェイトの一縷の希望はカリムの否定の言葉で打ち砕かれてしまう。
カリムはモニターを切り替えて件の預言をその場にいる全員に改めて見せる。

「司法の地、腐敗がはびこりし地に狂気を纏う者、寡の地より来たる。狂気に触れし守護者、自らの使命に目覚め、天使とともに司法の防人のいびつなるを撃ち砕かんとす。司法の地焼けおちし後、白き騎士、墜ちしゆりかごが揃いし時、天使は赤き光の衣を纏い、寡の地へと帰らん。」

カリムは部屋の明かりをつけてはやてたちの顔を見回す。

「これが、以前の預言を上書くように出現した新しい預言です。その後もこの予言は全く変化を見せません。それどころか、さらに強固なものになっていっているようにすら見えます。」

「ほかの付属的に表れた予言については?」

フェイトの言葉に反応するように細い短冊のようなものがカリムの周りに浮かぶ。

「かなり断片的ですが、『戦車』、『雷電』、……これらが頻繁に登場していることから、今回の件においてこの二つに当たる何かが大きくかかわって来るのではないでしょうか?」

「戦車……」

その言葉を聞いた時、なのははフォンのことを思い出す。
彼の使っている武器の形態のもととなっている機体の一つはその名をタロットの戦車のカードからとってきている。
だとすると、やつを押さえさえすれば今回の預言を覆すことができるのではないか。

「なのは?」

「え?」

なのはが顔を横に向けると、心配そうに自分を見つめる親友の顔があった。

「ユーノが心配なのはわかるけど、あんまり根を詰めすぎるとよくないよ。」

「うん、大丈夫。私は何ともないから。」

何とか心配症のフェイトを安心させようと笑顔を見せるが、どうしても体の震えが止まらない。
やっとの思いで取り戻したユーノとの幸せな日々。
それがいまにも崩れ去ろうとしているのだ。

「高町空尉。」

不意にカリムに名前を呼ばれてなのはそちらを振り向く。

「あなたと司書長がいつ式を挙げてもいいようにいつでも会場は用意しておきますよ。ああ、それと招待状も配らないといけませんね。」

温かな笑みとともに送られた言葉。
それは、カリムからの遠回しのエール。
ユーノと過ごすこの時間を壊れないように願う彼女の気持ちだった。

「僕たちの時にはユーノを呼べなかったからな。君たちの時は僕も仕事をほっぽり出してでも参加させてもらうよ。」

クロノが子供のころに戻ったように笑う。

「私もなのはちゃんの花嫁姿を楽しみにしとるよ。……あとできればユーノ君の花嫁姿も…」

はやてははやてで何やら盛り上げるための算段を練っているようだ。

「みんな……」

なのはの瞳から思わず涙がこぼれおちてくる。
みんな自分たちの幸せを心から願ってくれている。
それがなのはの心を温かくしてくれる

「私も応援してるよ、なのは。だから、絶対ユーノのことを守り抜こう。」

「うんっ……!うん…!」






聖王教会 庭園

「プハァッ!」

本日三本目の缶ビールを飲み干したところでユーノはよく手入れされた花壇を見る。
色とりどりの花が咲き、よく見ればまだ季節でないため花をつけていない茎もあるのだが、その緑がまた鮮やかな花の色を引き立てている。

「こんなところで花見ができたら最高だろうな…」

完全に酒飲みの思考回路だが、本来なら聖王教会には酒類の持ち込みは原則禁止である。
だが、シャマルに隠れてアルコールを補給(?)するために道中コンビニによって缶ビールを買ったユーノはそんなことなどどこ吹く風でグイグイ飲んですでに三本。
そして、残っていた最後の一本に手をかけようとしたその時だった。

「?」

ベンチの背もたれの隙間から誰かがクイクイっと服を引っ張っている。
ユーノは何事かと思ってベンチの後ろを覗いてみる。
すると、

「天使さん!やっと見つけた~!」

「ヴィ、ヴィヴィオちゃん!!?」

ここに保護されていたヴィヴィオがクマのぬいぐるみを抱いて無垢な笑みでユーノの顔を見上げている。
ユーノは慌ててビールを隠すとベンチの裏に回ってヴィヴィオの視線に合わせて屈む。

「どうしてここに!?教会の中にいたんじゃ…」

「お外に天使さんがいるのが見えたから探しに来たの~。」

「探しにって…」

はっきり言ってこれはまずい。
ヴィヴィオは人造魔導士で、おそらく何か特殊な能力を持っている。
管理局の人間からしてみればこれ以上ないくらい危険なその彼女が勝手に出歩いているのだ。
しかし、

「天使さん、ヴィヴィオ悪いことしちゃった?」

「う……」

泣き出しそうな顔で自分を見上げる幼子の瞳にはさすがのユーノも勝てない。

「そんなことないよ、僕もヴィヴィオちゃんに会えてうれしいな。」

「ホント!?」

パアッと顔を輝かせるヴィヴィオにユーノは苦笑しながらも、彼女の喜ぶ姿に安堵をおぼえる。
だが、それと同時に激しく胸を締め付けられる。

(いままで、僕は大勢の人からこの笑顔を奪ってきたんだ……そして、これからも……)

「?天使さん?」

「あ、ああ、ごめん。なんでもないよ。」

心配そうに自分の顔を間近で覗き込んでいたヴィヴィオに気付いたユーノは再び笑顔を作って彼女を安心させようとする。
しかし、

「天使さん、なんで泣いてるの?」

「え?別に泣いてなんて…」

「ううん、泣いてるよ。お顔は泣いてないけど、ここの奥の方で泣いてる。」

そう言ってヴィヴィオはユーノの胸に手を当てる。

驚いた。
こんな小さな子が、自分の抱える苦悩を見透かすとは思っていなかった。
いや、むしろ純粋で剥きだしの心を持っているヴィヴィオだったからこそ、ユーノの抱える悲しみに気付けたのかもしれない。

ユーノはよろよろと後ろの木に寄りかかると、悲しい笑顔でヴィヴィオに独白を始める。

「ヴィヴィオちゃん……僕はね、本当はどうしようもない人間なんだ。友達や、好きな人が自分のことをどれだけ気にかけてくれているか知ってるくせに、その想いを裏切っちゃったんだ。そのくせ、自分のしていることには後悔してばかりの、本当にどうしようもないやつなんだ……」

「天使さん…」

ヴィヴィオはユーノのそばまで歩いていき、ギュッと手を握る。

「ヴィヴィオ、難しいことはわかんないけど、天使さんがすごく優しいってことだけはわかるよ。だから泣かないで。」

「そんなこと…」

「だって、天使さんはヴィヴィオを助けてくれたもん!守ってくれたもん!」

舌っ足らずな言葉で必死にユーノに語りかけるヴィヴィオ。
その一言一言がユーノの冷え切った心を温めていく。

「ありがとう……」

優しく彼女の頭に手を置いたときに感じる体温。
今、彼女が生きているという証。
自分が守った温かさだ。

「本当にありがとう、ヴィヴィオちゃん。……これで、僕も前に進める。」

そう、たとえどれほど蔑まれることになっても、無残な最期を遂げることになっても、なのはたち、そしてこの子の未来を守るために戦う。
その決意を、自分が救ったこの小さな命が後押ししてくれた。

「進むって?」

ヴィヴィオは何のことかわからずに首をかしげる。
その仕草があまりにも微笑ましく、ユーノはクスクスと笑う。

「これからもヴィヴィオちゃんのことを守ってあげるってことさ。」

「ホント!?」

「ただし!」

ユーノはヴィヴィオの前に人差し指を持っていく。

「僕とソリッドのことは誰にも言わないこと。それと、僕のことは天使じゃなくてユーノって呼んでほしいな。」

「そりっど?」

「あのおっきいロボットのこと。」

ユーノの言葉でヴィヴィオは合点がいく。

「あのおっきい天使さん!」

「だから天使じゃないんだけど……ていうか、なんでヴィヴィオちゃんはなんでぼくのことまで天使って言ってるの?」

「ふぇ?だって、天…ユーノさんは背中に羽があるんでしょ?だったら天使さんだよ♪」

「…………………………………」

ユーノは恐る恐る自分の背中を見てみる。
が、

「ヴィヴィオちゃん、羽なんてないけど?」

「今は隠してるんでしょ~?」

「いや、隠してるも何も…」

羽などないと言おうとしたが、ヴィヴィオの期待のこもった視線を裏切るわけにもいかずについうなずいてしまう。

「やっぱりそうなんだ!天使さんって大変なんだね~!」

(ああぁぁぁ~~~!!!!!僕のバカァァァァァァァァァ!!!!!)

自分でもここまで子供に弱いとは思っていなかったユーノははしゃぐヴィヴィオをそっちのけで芝生の上で頭を押さえながら悶絶する。
夢見心地の子供と、そのそばで転げまわる大人という画はかなりシュールだ。

「はぁ……」

ユーノは気を紛らわせるためにベンチのそばまで歩いていき、最後のビールを手にとって開けようとする。
その時、

「スクライア司書長、その子から離れてください!!」

「へ?」

強烈な風が駆け抜け、ユーノの持っていた缶ビールを真ん中でパッカリと斬り裂く。
その瞬間、ビールの炭酸が一気にはじけてユーノの顔が黄色い液体でずぶぬれになってしまう。

「大丈夫、ユーノさん?」

とてとてとユーノの足元まで抱えよってきたヴィヴィオに原因は君だと言うわけにもいかず、ユーノは貴重な最期の一本を自分の涙を隠すために使うはめになったのだった。






機動六課隊舎 食堂

この日、先日の事件で負傷したエリオはシャマルによる治療を受けていた。
幸い、彼も相棒のストラーダも致命的な傷はなく、今日から訓練に参加しようとしたのだが……

「はい、エリオ君、あ~ん。」

「キャ、キャロ……」

隣でスプーンにのせたじゃがいもを食べさせてくれているキャロに脱臼した肩を包帯で固定され、半ば強引に休まされてしまった。
仕方なく午前は事務処理をこなしていたのだが思ったより長引いてしまい、こうして遅い昼食をとっているのだが、そこでもキャロの看護が待っていた。

「どうしたの?ちゃんと食べないとよくならないよ。」

「キュクキュクゥ!!」

そう言ってふくれっ面をするキャロとフリードだが、エリオが食事をとりにくい理由はほかでもない彼女にあった。

「クスクス……」

「フフフ……」

「………………////」

通り過ぎていく人間全員が自分たちを見てクスクスと笑いながら去っていく。
中にはエリオに『頑張って♪』と声をかけていく者までいる始末だ。
年頃の子どもとしてはかなり恥ずかしいのだが、善意でやってくれているキャロにそんなことを言うわけにもいかずにこうして耐えているわけだ。

「キャロ、ちょ、ちょっと恥ずかしくないかな?」

「?なんで?」

(………駄目だ……)

何度かこうして遠回しに意思表示はしているのだが、一向に伝わる気配がない。
こうなればエリオにとっての最終手段、ユーノに何とかしてもらうしかないのだが、

「はい、ユーノパパ、あ~ん!」

「あ…あ~ん……////」

頼りのユーノも向かいのテーブルで聖王教会から連れてきたという子に自分が今味わっている恥ずかしさを味あわされている。

「おいしい?」

「うん、おいしいよ。」

笑顔で答えるユーノだが、顔はゆでダコのように真っ赤で頭の上からは蒸気が噴き出している。
ギャラリーが半分向こうに行ってくれているのでエリオとしては助かるのだが、それでもやはりユーノの助けが期待できないこの状況はつらい。
ユーノもまたかなり恥ずかしいのだが、ヴィヴィオの無垢な笑みに負け、こうして食事を食べさせてもらっている。
なぜこうなったかというと……




1時間前

あの後、ヴィヴィオを追ってやってきた聖王教会のシスター、シャッハ・ヌエラをなだめた後、ユーノについていくと言ってきかないヴィヴィオを連れて帰ってきたのだが、そこで思いもよらぬ波乱が待っていた。

「それで、ヴィヴィオちゃんの引き取り先が見つかるまでどうするんですか?」

「どうすると言われてもな……」

ティアナの質問にシグナムは向こうでなのはとユーノにじゃれているヴィヴィオの姿を見て口ごもる。

「ヴィヴィオは生まれかたが特殊だからな……受け入れてくれる家庭があるかどうか……それに、あの子はユーノとなのはになついている。受け入れ先が見つかってもヴィヴィオ自身が納得してくれるかわからん。」

シグナムの言うとおり、ヴィヴィオのユーノとなのはへのなつき方は尋常ではない。
他の人間に対しては人見知りをするのに、ユーノとなのはに対してはまるで二人の中にある何かに引き付けられるようにべったりだ。

「……とにかく、六課で預かるにしても保護責任者を決めなければな。」

「それ、私にやらせてもらえませんか?」

シグナム達が振りむくと、いつの間にかなのはがそこに立っていた。

「私もヴィヴィオちゃんをここに連れてくるのに賛成しましたから、これくらいのことはしてあげないと。」

「それじゃ、僕は後見人をしようかな。」

「こーけんにん?」

なのはに続いてヴィヴィオを肩車しながらユーノがやってくる。
トレードマークの伊達メガネはヴィヴィオの手に握られており、翠の瞳がレンズを透さずにみえている。

「え~と、つまりね…」

ユーノがどう説明しようか考えているとスバルがとんでもない爆弾を投下する。

「なのはさんがヴィヴィオのママで、ユーノさんがパパってことだよ。」

「なっ!!?」

パパ。
すなわち父親、ダッド、男の親、一家の大黒柱。
ユーノの頭の中を彼が持ちうるありとあらゆる知識が駆け巡るが、そのどれもが的を射ているようでいてそうでないものばかりだ。
それほどまでにスバルの発言はユーノにとって衝撃だった。

「な!?なな、にゃに言っちぇるのスバル!!?」

動揺からかみかみで喋るユーノ。
だが、そんな彼に対しなのはは、

「ヴィヴィオは私がママで、ユーノ君がパパでいい?」

まったく気にせず笑顔でヴィヴィオに確認をとる。
そして、ヴィヴィオも、

「うん!私もなのはさんがママで、ユーノさんがパパだったらうれしい!」

「ちょ、二人とも!!」

二人そろってユーノのことなどそっちのけで話しを進める。
それでも考え直してもらおうとするが、

「ユーノパパはヴィヴィオのこと嫌い…?」

「う……」

いつの間にかなのはに抱かれていたヴィヴィオがうるんだ瞳でユーノを見つめる。

「だめ?」

なのはも泣きそうな顔でユーノに迫る。
そして、難攻不落だと思われていたガンダムソリッド、もとい、ユーノの陥落のときはあっさりと訪れた。

「わかった……わかったから二人とも泣かないで……!」

その瞬間、顔を赤らめてうつむくユーノと、自分の腕の中で喜ぶヴィヴィオに見えないようになのははニヤリとほくそ笑む。

「……あれ、確信犯っスよね。」

「気にするな。いつものことだ。」

ウェンディの質問を一蹴すると、シグナムはうなだれるユーノを放っておいてすたすたと歩いていく。
ティアナ達もしばらくユーノに同情しながらも、自分にも厄介事が飛び火しないようにその場を離れていくのだった。





回想終了

(うう……すごく恥ずかしい…)

午後の訓練に向かったなのはの代わりにユーノがヴィヴィオの相手をしているのだが、こんな恥ずかしいところを大勢に見られるとは思っていなかった。
だが、

「はい、あ~ん!」

「あ~ん。」

小さな手で自分に大きな芋の塊を差し出すこの笑顔を見ているだけで和んでしまう自分がいる。
ただ……

(ウプププ♪立派にパパできとるやん。)

このたちの悪い幼馴染さえいなければなおのこといいのだが。

(……なんの用だい、この腹黒ダヌキ。)

こそこそ角に隠れて笑うはやてにユーノは念話で毒づく。

(いやぁ、私は微笑ましい光景やなぁ、っておもっとるだけやで。あとエリオとキャロもw)

(だったらその手に持ってるカメラはなんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!)

はやての手に握られているのは地球でも最新式のビデオカメラだ。
それを使い、ノリノリでユーノとエリオを撮っている。

(八神部隊長、仕事はどうしたんですか!?)

(部下とのコミュニケーションも上司の大切な仕事ですww)

(仕事しろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!)

上司なのだが、そうとは思えない行いを慣行するはやてにエリオは遂にキレる。
だが、目の前にいるキャロに悟られないように必死で笑顔を取り繕う。

(ムフフフ……こんなええ場面を収められるなんてなんて良い日…)

彼女が喜びで小躍りしかけたその時、はやての手元に桃色の魔力弾が着弾しビデオカメラを破壊する。
ビデオカメラが壊れる音に気付いたキャロとヴィヴィオはびくりと体を震わせてはやての方を向く。

「何してるのかな?はやてちゃん。」

はやての後ろから満面の笑みで歩いてくるなのは。
その周りには無数の桃色の流星が舞っている。

「い、いやぁ、ちょっと、新しく買ったカメラの具合を確かめようと思ってやな…」

「へぇ…そのためにわざわざエリオやキャロを隠れて撮ってたんだ。」

今度は反対側から金色の雷を纏ったフェイトが現れる。
フェイトは綺麗な笑顔ではやての肩を女性とは思えないような力で掴む。

「はやて……あっちでちょっと“お話”しようか。」

「ちょ、痛い!それ友達の肩をつかむ力とちゃうよフェイトちゃん!?あ、痛い!!痛いから!!」

文字通りフェイトに引きずられてその場を離れていくはやて。
それを見送ったなのはは彼女の周りを飛び交っていた魔力弾を消す。

「なのはママのあれ、綺麗だったね!」

「フフフ…ありがとう、ヴィヴィオ。」

(……知らないことを無理に教える必要はないよね。)

あの綺麗な星たちにどれほど凶悪な力が秘められているか知らないヴィヴィオの言葉にユーノは苦笑する。
そんなユーノを見て、なのははクスクスと笑う。

「御苦労さま、ユーノ君。大変だったでしょ?」

「そう思うならもう少し早く帰ってきて欲しかったな。」

「でも、いやじゃなかったでしょ?」

「まあね。さて……」

ユーノは空になった皿の前で大きく伸びをすると、椅子から立ち上がる。

「僕もお仕事に行きますか……エリオ。」

「はい。」

エリオも包帯を巻いた右肩をかばいながら立ち上がる。

「それじゃ、ストラーダの整備、頑張ってね。」

「頑張ってね~。」

手を振る二人に送りだされ、ユーノはメンテナンスルームに向かう。
そしてエリオも、

「いってらっしゃい、エリオ君。」

「キュクゥ~♪」

「いってきます。」

キャロとフリードに見送られてユーノの後をついていく。
それぞれ、自分を見送った者が見えなくなった時、ユーノが口を開く。

「恋人みたいだったね。」

ユーノがいたずらっぽい笑みでエリオの紅潮した顔を見る。
しかし、エリオも負けじと反撃する。

「ユ、ユーノさんだって、本当の親子みたいでしたよ。」

「そ、そう?」

二人は顔を赤らめて廊下を歩いていくが、ここまでくると恥ずかしさよりも自分と一緒にいてくれる嬉しさの方が大きくなってくる。

「それじゃ、お互い彼女の期待に添えるように頑張るとしますか。」

「はい!」







メンテナンスルーム

「う~ん……」

シャーリーはメンテナンスルームにきてから唸りっぱなしだった。
なにせ、腕によりをかけて作ったストラーダがあまりにもあっさりと破壊されてしまったのだ。
コアそのものは無傷だったので、修復は容易だったのだが、これから先もあの強度の敵と渡り合うことになった時に今のストラーダの強度では不安が残る。
しかも、問題はそれだけではない。
エリオが最後に放った一撃は、万全の状態のストラーダでも負担が大きく、やはり今の強度では耐えられるかどうか怪しい。
しかし、

「かといって、強度を追求すると今度は重くなっちゃうからなぁ……ガードウィングのエリオには大きなハンデになっちゃうよ……」

実戦で使う武器の重さは思いのほか重要なファクターである。
ほんの数百グラム重みが増すだけで動きに変化が現れる。
さらに、武器の重心の置き場所、使用者の腕力なども考えなければ十二分に実力を発揮ですることなどできない。

「はぁ~……どうしようか?」

目の前にいるストラーダに問いかけるが、答えは返ってこない。
そんな時、一人もんもんと思考の迷宮に迷い込んでいくシャーリーに助け舟が現れる。

「シャーリー、来たよ。調子の方はどう?」

「おじゃまします。」

「あ!二人ともちょうどいいとこに!!まあ、とりあえず入って入って!」

彼女と同じくデバイスの整備を得意とするユーノ、そして、ストラーダの使い手であるエリオがやってきたのだ。
シャーリーは彼らを歓迎し、現在の状況を伝える。

「なるほどね。まあ、確かに今のエリオの腕力じゃ少しきついかもね。」

出されたコーヒーを飲みながら相槌を打つユーノ。
だが次の瞬間、彼の口から思いもよらない言葉が飛び出す。

「でもまあ、別に重くしても問題ないんじゃないかな?」

「え!?」

「重いって言うのは何もマイナスばかりじゃないってことさ。重い得物っていうのは一度加速させて敵にぶつければその分威力が増すしね。ストラーダには推進機がついてるんだから、それでエリオの動きをフォローしてあげれば十分にいけると思うよ。」

「う~ん……」

ユーノの言うことも一理あるのだが、それでも簡単に決められることではない。
腕を組んで悩むシャーリーにユーノはコーヒーカップから口を離して微笑みかける。

「ま、どうするかはエリオとストラーダ自身が決めるのが一番なんじゃないかな?使うのは僕らじゃなくてエリオなんだし、ストラーダもこれからさきもエリオと一緒に歩んで行くんならいつかはぶつかってた問題だろうしね。」

エリオは砂糖とミルクがたっぷり入ったコーヒーを飲むのをやめると、ストラーダのもとまで歩いていく。

「ストラーダ……君はどうしたい?僕は…」

エリオの腹はもう決まっている。
だが、自分の決定でストラーダにかける負担を大きくしてしまうのではないかという不安が幼い騎士の中で渦を巻く。
だが、彼の愛機の答えもまた決まっていた。

〈兄弟、俺はお前が望む力を手にしたい。お前が正しいと思えることを貫ける力…それが俺の望むものだ。〉

「ストラーダ……」

エリオは胸が熱くなる。
背中をしてくれる相棒の言葉。
そして、ユーノと出会った日から自分の中に芽生えていた誰かを守れる力が欲しいという願い。
それが今、彼の中で一つの答えへと結びついた。

「シャーリーさん、強度を上げる方向でお願いします。」

「……いいんだね?」

エリオは深くうなずく。
それを見たシャーリーは眉間にしわを寄せてため息をつくが、すぐにいつもの明るい笑顔を見せる。

「OK!今までよりずっといい使い心地にしてあげるから楽しみにしててね!」

「ありがとうございます!」

腰が九十度に達するのではという勢いでお辞儀をするエリオを見たユーノは残っていたコーヒーを飲み干して立ち上がる。

「どこに行くんですか?」

「ちょっと野暮用がね。ま、強いて言うなら……」

ユーノは鋭く笑う。

「世界を変えるための努力をしに行く、ってところかな。」

「「?」」

不思議そうに顔を見合わせるエリオとシャーリー。
どういう意味かたずねようと二人はユーノがいた場所へと視線を向けるが、そこにはすでにユーノはいなかった。






クラナガン 某港

機動六課の隊舎から数百メートルほどしか離れていないとある港。
使われなくなってかなりの時が経ち、せいぜいフェイトが車で隊舎までの道のりの際にすぐそばを通るくらいだ。

「灯台もと暗し、ってね。」

そう言うとユーノは魔法陣を展開し、海中のあるポイントを転送先に定める。
ユーノは目を閉じ、翠の光に体をゆだねる。
そして、ユーノが目を開けたときにいたのはさまざまな機器に囲まれたコックピットの中だった。
狭い空間の中で器用にパイロットスーツを着ると、ソリッドの光学迷彩を解く。

「ソリッド、出撃する。」






クラナガン沖

本来なら穏やかな風が吹き抜ける海上に、その日常に似つかわしくない喧騒が広がっていた。
大型のタンカーと空中の間でさまざまな色のスフィアが飛びかい、時折爆音と火花が発生する。

「投降しろ!!お前たちは完全に包囲…グァ!!」

「誰が局の犬なんぞにこうべをたれるかよ!!」

必死の抵抗を見せるタンカーの乗組員だが、局員たちは余裕の表情だ。

「仕方ない……おい、ナイトを投入する。全員退避しろ。」

仕方ないという局員の顔はその言葉とは裏腹に非情さを含んだ笑みをたたえている。
しかし、次々に持ち場を離れていく局員たちを見てタンカーの乗組員たちは歓声を上げる。
だが次の瞬間、赤い光がタンカーの近くの海面に着弾して、大きな水柱と水蒸気を発生させる。

「な、なんだあれ!?」

「ば、化け物!!」

太陽光を反射させる三機の白い巨体は、否応なしに見る者に畏怖の感情を植え付ける。
先程までの勇ましさが消え失せた乗組員たちは我先にとその場から逃げていく。
海に飛び込む者、浮遊魔法が使える者は空へと。
だが、どこに逃げても巨人たちの狙いからは逃げられない。
一人の乗組員が海を泳ぎながら上にいる巨人、ジンクスの構える銃口へと振り返ってしまう。

「ひぃ!!」

赤く禍々しい光が自分へと今まさに放たれようとしている。
振りかえった暇を後悔しながら必死で手足をばたつかせるが、人間の泳ぐ速度などたかが知れている。
数メートル進むか進まないかのうちに男は海水とともにあとかたもなく蒸発する。

「わあああぁぁぁぁぁぁ!!!」

それを見た他の乗組員たちのなかには死の恐怖で狂い、ジンクスを攻撃する者が出てくるが、当然のことながら歯が立たない。
そして、ジンクスのうちの一機がちょうど人間が羽虫を払うように空を飛んでいる人間にその手を振り抜こうとする。

その時だった。
萌黄色の閃光が駆け抜け、ジンクスの左腕を関節からバッサリと斬り捨てる。
さらに、桃色の光が二、三度美しい軌跡を描き、ジンクスの体をバラバラにする。

「……反管理局団体の過激派とはいえ、MSの…いや、GNドライヴの力を人間に向けるなんて!!」

ガンダムソリッドの中から、ユーノはジンクスへと激しい怒りを向ける。

「ソリッド、ユーノ・スクライア、目標を粉砕する!!」

残った二機はソリッドへと射撃を開始するが、その軌道は人工知能特有の単調なものだ。
ソリッドはすぐさま懐に飛び込むと、アームドシールドの切っ先をジンクスの胸へと沈め、縦に振り下ろす。
上半身から下半身にかけて真っすぐ伸びた赤い線の間から光が溢れだして爆発を起こす。

ユーノは撃墜の喜びを感じるでもなく、ただ激しい嫌悪感を持ってジンクスを見ていた。

「機械に引き金を引かせるなんて……!罪の意識すら背負わないつもりか!!」

ユーノはあちらの世界でありとあらゆるMSのパイロットを見てきた。
敵味方はあれど、どのパイロットも己の信念のために戦い、いつでも自らの死を、そして、相手の命を奪う痛みを背負う覚悟を持っていた。
だが、こいつらは違う。
ただ作業的に人を撃ち、無残な死を与えていくだけの存在。
そして、こいつらを使う管理局の人間も、十字架を背負うことを拒絶した。
そんな人間に正義を語る資格などない。

「クソ喰らえだな……管理局!!」

腰から素早くシールドバスターライフルを抜くと、反応の遅れたジンクスの頭を撃ち抜く。
続いて胸に二発。
両腕両脚に一発ずつ当てて消し飛ばす。
そして、高度を下げていく合間も胴体全体が穴だらけになるほど撃ち込み、水柱を上げてからようやく止める。
その後、近くの部隊へ通信文を送ると、ユーノは戦闘の残骸で汚れた海中へとソリッドを沈めていった。





その次の日、新聞記事の一角に海難事故の記事が載った。






機動六課周辺

「ふぅ……少し遅くなっちゃったな。」

心底嫌気のさすものを見せつけられたユーノは沈んだ気持ちを抱きながら電灯で照らされた夜道を歩いていた。
だが、帰ればヴィヴィオとなのはの笑顔が待っている。
そう思うことで自分の中にある迷いややるせなさを薄めて歩いていく。

(そう言えばアルコールがまだ抜けてない状態でガンダムを動かしちゃったけど、これも飲酒運転になるのかな?)

しばらくして、そんな馬鹿なことを考える余裕が出てきたところで思いもよらない人物と遭遇する。

「……よぉ、遅かったじゃねぇか。六課の仕事をさぼってまで出かけるなんざ、相当大切な用事だったんだろうな。」

「…………………………」

初めは暗くて顔が見えなかったが、その声だけで誰がいるのか判別するには十分だった。
電灯の明かりの下に歩み出た声の主は、自分の家族からもらったウサギの人形を乗せた帽子をかぶり、赤いゴスロリドレスとは不釣り合いな大きな鎚を肩に乗せている。

「お前が何を…いや、お前のガンダムがどこにあるかきっちり喋ってもらうぜ。」

少女の姿をした鉄槌の騎士ヴィータはもう一人の家族へと裏切られたことへの怒りと悲しみの込められた鉄槌の先を向けた。









あとがき・・・・・・・・・・・という名の不安

ロ「というわけでヴィヴィオ機動六課へゴー&無理やり戦闘シーンを詰め込んだ第十話でした。そしていきなりですが、正直公開が終わるまでに劇場版を映画館で観れるかどうか不安で不安で仕方がありません。」

ツン2「本当にいきなりでどうでもいいことね。どうせあとでDVDやブルーレイで出るんだからいいじゃない。」

KY「ティアの馬鹿ぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

ツン2「ぐはあああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!?どうしてあんたがその反応!?てか今本気で殴ったわよね!?」

KY「マッハキャリバーは起動済みです。」

ツン2「なんでそこまで!?」

KY「スクリーンの大画面で見るからこそ映画は楽しいんだよ!!家で見るのもまたいいけどあの迫力を体感しないなんて人生の四分の一損してるよ!!」

ツン2「なんで四分の一なんて微妙な……つーかそこまでのもん!?」

ロ「同志よ!!」

KY「同志よ!!」

ツン2「………なんかあそこで二人が固い握手をしている間にゲストを紹介したいと思います。今回のゲストはプトレマイオスの操舵士、生き残ることにかけてはプロフェッショナル!?ラッセ・アイオンさんです!」

筋「どうも、ラッセだ。しかし、よくよく考えれば俺もよくあの状況で生き残れたな。疑似GN粒子のせいであとあと大変だけど。」

ツン2「普通ならあそこまでの流れであれは完全に死亡フラグですもんね。」

筋「ロビンもセカンド始まってからあの場面を見たくせに始めは死んだと思ったらしいからな。」

ツン2「いや、それはアイツがアホってだけで……」

ロ「同志よーーーーーーーー!!!!」

KY「同志よーーーーーーーー!!!!」

筋「おい……なんかあそこだけ友○党みたいになってるぞ。」

ツン2「大丈夫、そのうちケ○ヂおじちゃんが何とかしてくれますから。」

筋「しかし、今回はまたひどかったな。まあ、修正する前のは別意味でひどかったが。」

ツン2「これ一体だれ?って言いたくなるくらいなのはさんとユーノさんが壊れてましたからね。というかユーノさんに至っては犯罪行為一歩手前ですからね。」

筋「まあ、あれを掲載したら間違いなくsecond行く前に物語が破綻するな。」

ツン2「まあ、なにはともあれついにヴィータ副隊長に見つかってしまいましたね。というか、たぶん副隊長は最初にソリッド見た時点で気付いてたんだろうけど。」

筋「これから先がどうなっていくか見ものだな。というわけで次回予告だ。」

ツン2「ヴィータ副隊長に問いただされたユーノさんだったが、それでもなお機動六課に残る。」

筋「一時の平穏の中、父として、そして愛する者のためにジェイル・スカリエッティとフォンの二人の真の目的に迫ろうと試みる。」

ツン2「そんなユーノさんに意外な人物が接触を図ってきた。」

筋「では最後に、今回もこのような拙い文にお付き合いいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお寄せください!じゃ、せーの……」

「「次回をお楽しみに!!」」










「「同志よーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」」

ツン2「あんたらいい加減にしろ!!!!」



[18122] 11.求めるもの、失いたくないもの
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/09/30 22:07
機動六課隊舎

朝食。
一日の始まりを告げ、その日の活力を得るための重要な習慣であり、家族や仲間と楽しく語り合う朝の時間だ。
だが、今日の風景は少々違っていた。
食堂の一角が異様な空気に包みこまれ、誰もがそこを避けて通り、遠くから成り行きをはらはらしながら見守っている。

「ユーノ君、あんまりヴィヴィオを甘やかしちゃ駄目だよ?好き嫌いは今のうちから直していかなきゃ。」

「あんまり無理に食べさせようと余計嫌いになっちゃうでしょ?それに、ピーマンの一個や二個食べられなくても生きていけるよ。」

一方は桃色の魔力を全身から溢れださせ、その向かいには翠の闘気が渦を巻いている。
その間に座っている幼子は自分の両親が何をしているのか分からず首をかしげながらも、こっそりと父親の皿に緑の大魔王のかけらを移していく。
しかし、彼女のたくらみは母親の愛機の手によって阻まれ、すべて自分の皿へとフヨフヨ漂いながら戻っていく。

はれてなのはとユーノの娘となったヴィヴィオ。
しかし、なって早々二人の教育方針は対立した。
……まあ、ただ単にヴィヴィオがピーマンを残したので、なのははそれを食べさせようとし、ユーノは無理に食べなくてもいいと言っただけの話なのだが、この二人だと洒落にならない。
片やエース・オブ・エースにして機動六課最大の切り札。
片や管理局の裏の実力者、ガーディアン。
二人が激突した結果はすでに六課の人間の誰もが知っている。
以前に行われた場所は訓練場だったからよかったものの、たかだかピーマンをどうするかだけでここであれの再現をやられてはたまらない。

「にゃははは……ユーノ君、あんまり聞き分けのないこと言っちゃ駄目だよ?」

〈Set up〉

「ははは……相変わらず強引だね、なのはは。」

〈Start up〉

二人がバリアジャケットを纏った瞬間、食堂にいた人間すべてが青ざめ、神に祈り始める者まで出始める。
だが、二人のいさかいはその原因であるヴィヴィオの手によって終結する。

「パパもママも喧嘩しちゃ駄目!!」

椅子の上で頬を膨らませるヴィヴィオを見た二人はすぐにバリアジャケットを解除して満面の笑みを向ける。

「じゃあ、ちゃんとピーマンを食べようね~。」

「え~……」

「ほら、こうして好きなものと一緒に食べれば大丈夫だよ。」

ユーノの皿に残っていたウィンナーと一緒にフォークに突き刺されたピーマンを見て、しばらく考え込んでいたヴィヴィオだったが、意を決して一口でそれを飲みこむ。
最初は渋い顔をして口を動かしていたが、なんとか喉の奥の方へと追いやる。

「よくできました♪」

「えへへ……」

ユーノに頭をなでられ喜ぶヴィヴィオだが、ほんわかしたそのテーブルの周りははた迷惑な騒動が終結したことで大きく安堵の息をしていた。

「つっ……」

その時、ふいにユーノは頭に包帯が巻かれている箇所を手で押さえる。

「大丈夫?まだ痛むの?」

なのはが心配そうにユーノの肩を支えるが、ユーノはその手に優しく手を置いて答える。

「大丈夫、ちょっと痛むだけだから。」

「もう……お昼からお酒を飲みに行くからだよ。」

「ユーノパパ、シャマル先生があんまりお酒飲んじゃダメって言ってたでしょ!」

呆れて苦笑するなのはと、むくれるヴィヴィオに笑顔で謝るユーノだが、ある人物のいるほうに目をやって悲しげな表情をする。
珍しく一人で食事をとるヴィータ。
黙々と食べ進める彼女はユーノの方を見向きもしない。
昨晩、彼女との間にあった出来事は飲みすぎて酔って階段で転んだことにしておいたのだが、実際あったことは違っていた。





魔導戦士ガンダム00 the guardian 11.求めるもの、失いたくないもの

昨夜 機動六課周辺

「やあ、ヴィータ。今日の仕事はもういいのかい?」

いつも通り軽い調子で目の前のヴィータに話しかけるユーノ。
だが、ヴィータはグラーフアイゼンをユーノに向けたまま微動だにしない。

「どうしたのさ、そんな怖い顔して。」

「動くな。デバイスを捨ててあたしの質問に答えろ。場合によっちゃ……」

〈Explosion〉

「お前でも容赦しない。」

静かな夜の闇の中、薬莢が高音程の音をたてて道路の上に転がる。

「質問って、さっきの言ってたこと?ガンダムだかなんだか知らないけど、あんまりわけのわからないことを…」

〈Schwalbe fliegen〉

ユーノが続きを言う前に飛燕のごとき速度の鉄球が頬をかすめる。

「質問に答えろ。……次は当てる。」

ユーノは頬をこすったあと、先程までの笑顔を消してヴィータと向き合う。

「そっちの質問に答える前に、こっちの質問に答えてもらおうか。なんで君がガンダムを知っている。」

ユーノは元アースラメンバーにはソリッドに乗っているのが自分であることがばれていると思ってはいたが、ガンダムという名まで判明しているとは思っていなかった。
警戒するユーノに対し、ヴィータは少し考えるが、すぐに不敵な笑みをユーノに返す。

「あたしにもいろいろあってな。他のやつらと違ってそこそこ情報はつかんでんだよ。」

「……いいだろう。今はそういうことにしておく。」

嘘だ。
本当は今まで悪い夢だと思っていたあれが現実で、そこですべてを知ったとは言えない。
いや、ユーノが帰ってきて、ガンダムから引き離した時点で単なる夢になったはずだった。
なのに…

「あたしは質問に答えたんだ。今度はそっちが答えろ。ガンダムはどこにある?」

ヴィータは自分を奮い立たせると、改めてユーノに問う。

「それを知ってどうする気だい?君たちじゃソリッドは使いこなせないし、そもそも質量兵器であるあれをつかうことなんてできないだろう。」

「決まってんだろ。あれをぶち壊す。それでこの一件はおしまいだ。」

「じゃあ、隠してある場所は教えられないな。ま、見つけたところで壊すなんて不可能だろうけどね。」

クスクスと笑うユーノにヴィータは眉をひそめる。
そして、否応なくわからせられる。
今、目の前にいる人物が自分たちの知っているユーノ・スクライアではなく、ガンダムマイスター、ユーノ・スクライアなのだと。
それでも、だからこそ聞かなければならないことがある。

「じゃあ、最後の質問だ。お前はあれを使って何をする気だ?」

ヴィータの顔を彼女の意思と関係なく一筋の汗が流れる。
できれば自分の想像している答えと違うことを言ってほしい。
杞憂であってくれと願う。
だが、

「決まってるだろう。ガンダムとマイスターは紛争の根絶のために戦う。たとえそれが、どれほど強大な相手であっても。そして…」

ユーノは息を吸って間をとる。
ほんの数秒のことなのに、ヴィータにはそれが何時間ものことに思えた。

「家族や友人であったとしても。」

「っっっ!!!!!!」

ヴィータはユーノが言い終わった瞬間、彼へと飛び出していた。

「っっああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!!!!」

大きく振りかぶられたグラーフアイゼンが獣のような唸りとともにユーノの額へと向かって行く。





ゴッッ!!





鈍い音がしたのち、ユーノの額の左から滝のように血が流れ出る。
それでも、ユーノは立っていた。
メガネが落ち、月明かりに直に照らし出された翠の瞳は悲しそうに震える少女を見下ろしている。

「……んでだよ…」

ヴィータは震えた声でユーノに語りかける。

「なんでだよ!!なんでみんなを悲しませるようなことすんだよ!!!!」

ヴィータはグラーフアイゼンを手から離して精いっぱい腕を伸ばしてユーノの胸を叩き始める。
最初にあった時、自分より少し大きいくらいだった彼の体が、こんなに大きく、そして近くにいるのに今はとても遠くにあるものに感じられた。

「友達だって思ってたのに!!仲間だって思ってたのに!!」

ヴィータの叩く力が少しずつ弱まり、遂にユーノの胸に両拳を置いた状態で動きが止まってしまう。
震える彼女の顔から透明な雫が止まることなく落ちていく。

「家族だって……思ってたのにっ…!!」

「……ごめん。」

ユーノはそれだけ言うと、ヴィータから体を離して六課の隊舎とは反対方向に歩きだす。
ヴィータはそれを見ることもできずにその場に崩れ落ち、一晩中声もあげずに泣いていた。







ユーノの部屋

包帯に手を当てると、傷よりも胸の奥がチリチリと炎で焼かれるように痛む。
あの時、ヴィータの一撃を避けなかったのは自分なりの償いのつもりだったが、優しい彼女を逆に傷つける結果になったかもしれない。

「……何をいまさら。」

ユーノは自嘲する。
ガンダムに乗って戦う道を選んだ時点で、自分は十分にみんなを傷つけている。
それの償いをしたいのならするべきことは一つだ。
戦って、戦って、戦いぬいて平和を勝ち取ってもなお、自分の幸福を犠牲にしてその平和のために戦っていくことだけだ。

「……悪いね、ロックオン。生き残っても、僕を待っているのはいいことなんかじゃなさそうだ。」







部隊長室

「なんでだよはやて!!」

部隊長室でヴィータの怒号が響く。
誰かに聞かれてはまずいのだが、そんなことも忘れてヴィータは自分のデスクでいつも通り仕事を進めるはやてにまくしたてる。

「はやてだってわかってるだろ!?ガン…あのロボットを動かしてんのは間違いなくユーノなんだぞ!!」

「そんなことわかっとる。」

「じゃあなんで何もしないんだよ!!?このままじゃユーノのやつ、何するかわかったもんじゃ……」

「なんや、ヴィータはユーノ君のこと信じてへんのか?」

はやては手を止めてヴィータの方を見る。
彼女の問いにヴィータは黙り込んでしまうが、決心したのかはやてのデスクまで歩いていき、真正面から向かい合う。

「昨日、ユーノから何をする気か聞いた。あたしたちや管理局を敵にまわしてでもやるべきことをする、だとさ。」

「……やっぱり、昨日の傷はヴィータやったんか。」

はやては眉間にしわを寄せてため息をつくと、部隊長として指示を出す。

「ヴィータ三等空尉、今日から一週間、自室での謹慎を申しつける。」

「はやて!!!」

「反論は受付へん。」

淡々と言い放つはやてを見て、ヴィータはギリギリと歯を食いしばる。

「それがはやての答えかよ……!」

「…………………」

「じゃあ、いいさ。あたしはあたしでユーノのために動くまでだ。」

ヴィータははやてに背を向けると、一瞥することなく部屋を出ていく。
その後ろ姿を見送ったはやては悲しげにつぶやく。

「ごめんな、ヴィータ……せやけど、今はまだ動く時ではないんや。その時がきたらちゃんとユーノ君のこと助けような。」

しかし、彼女の言葉はもうヴィータには届かない。
そう、これからさきも決して届くことはなくなってしまった。







本局査察部 ヒクサーの部屋

「で、いい人材は見つかった、ヒクサー?」

ベッドの上をごろごろと転がりながら887は机に向かっているヒクサーに問いかける。
しかし、ヒクサーは真剣な表情で自身の携帯端末を見たまま返事をしない。
その後も、何とかヒクサーの気を引こうといろいろと話す887だったが、それでもヒクサーは振り向きもしない。

「む~~~!!」

遂に業を煮やした887はヒクサーの背中に飛びつく。
887の重さで椅子の背もたれに無理やり押し付けられたヒクサーはその時になってようやく887に気を向ける。

「どうしたの、887?」

「どうしたじゃないわよ!さっきからずっと無視しちゃって!」

「ごめんごめん。」

ヒクサーはそう言うと887の頭を優しくなでる。

「ふに……」

887は本物の猫のように喉をゴロゴロと鳴らしながら、ヒクサーの頬に自分の頬をすりつける。
そんな887の目に、ふと端末に乗っている人物たちの顔写真が飛び込んでくる。

「こいつらって……確か機動六課……だったっけ?随分と話題になってるわよね、良い意味でも悪い意味でも。」

ヒクサーに乗っかったまま887の顔も真剣なものになる。

「けど、本気なのヒクサー?ミッドの人間からソレスタルビーイングやフェレシュテのメンバーを確保するなんて?」

いぶかしげな表情をする887にヒクサーは笑いかける。

「ユーノはこちらの人間で、優秀な能力を持っていて、ソレスタルビーイングの理念に賛同してくれた。なら、僕らの存在を知らないこちらでメンバーを探したほうが安全に事を運べる。」

「けど、こいつらまだまだガキンチョよ?」

「ユーノだってソレスタルビーイングに入ったのは彼らぐらいの時だから、年齢は問題ないよ。それに、スカウトする人間はもう何人か決まってるしね。」

「それ、この間言ってたわよね。えっとたしか……ヴァイスでしょ、あとこの赤髪のちびっ子と、この間新しく入ったやつでしょ、それと…」

887が四本目の指を折り曲げようとした時、ノックの後に扉が開いて緑髪の男が現れる。

「やあ、ヒクサー。お邪魔だったかな?」

本局査察官、ヴェロッサ・アコースは友人の肩にその連れが乗っているところを見てクスクスと笑う。

「そうなの~。これからヒクサーと私はぁ、イケないことしちゃうとこなの♥」

外見に似合わない妖艶な笑みと言葉を見せる887がヴェロッサの気を引いているうちにヒクサーは端末の映像を消す。

「ハハハ!それじゃ、その場面をゆっくり見せてもらおうかな。差し入れのスコーンと紅茶を楽しみながら。」

ヴェロッサは左手に持っていたバスケットの中を887に見せた瞬間、887はヒクサーの肩から素早く飛び降りてヴェロッサの腰に手をまわしていた。

「ロッサの手作り!?欲しい欲しい!!」

「はいはい、そんなに慌てない。今お茶を入れるからね。」

ヴェロッサは887を落ち着かせると、自前の道具を使って紅茶を入れ始める。
辺りに紅茶の臭いが漂い始めると、887のかおがトロンととろけたものになっていく。

「いつもすまないね、ロッサ。」

夢見心地の887の頭をなでながらヒクサーも彼の座るソファーの正面に置かれたベッドの上に腰かける。

「いやいや、作る側としてもこんなに喜んでくれると作りがいがあるよ。」

出来上がった紅茶をティーカップに注ぎ始めると、887は目をキラキラと輝かせ始める。
その姿はいつもの皮肉屋ではなく、彼女の外見にあった年頃の少女そのものだ。

「887がこんなに嬉しそうにするところなんて、向こうにいる間は見たことなんてなかったからね。」

ヒクサーの声にハッとして振り返った887は顔を真っ赤にしながらプイとそっぽを向く。

「べ、別に私は、その…」

「いらないの?残念だなぁ。今日は887が喜んでくれると思って特製のジャムも持ってきたのに。」

「う~~~…」

「ロッサ、どうやら887はいらないみたいだから僕が代わりにいただくよ。」

「ううう~~~~~~……!!」

ニコニコと笑うヒクサーとヴェロッサの視線を受けながら、887は遂に本音を漏らす。

「私もロッサの手作りお菓子食べたい~~~!!」

「フフフ…はい、どうぞ。」

ヒクサーから出されたスコーンに小さな口を必死に大きく開けながらかぶりつく。
そして、咀嚼し始めると満面の笑みが浮かぶ。
さらに、紅茶をすするとふわふわと空を漂って行ってしまうのではないかというほど和んだ顔に変わる。

「今回も887の口にあってよかったよ。」

自分も紅茶を飲みながら887の姿を見て微笑むロッサを見ながら、ヒクサーは複雑な心境を隠しながら笑っていた。

(僕が誘おうと思っている人材は四人……その中で一番フェレシュテの任務に向いているのは君だ、ロッサ。けど……)

親友の死にざまがヒクサーの決断を鈍らせる。
どこの誰とも知れない自分を拾ってくれたヴァイスも、こうして世話を焼いてくれるヴェロッサも、今やヒクサーにとってかけがえのない友人だ。
その友人たちを異世界で起きている戦いに巻き込み、テロリストのレッテルをはられ、死の危険にさらすことがヒクサーには耐えられなかった。
だが、今のソレスタルビーイングもフェレシュテも深刻な人材不足にある。
自分たち欠けてさらに苦しい思いをしている仲間たちのもとに優秀なメンバーを加えてあげたいとは思うが、それでも、彼らを誘うことへの抵抗は消えない。

「ヒクサー、どうしたんだい?さっきから笑ってるだけで話しに参加してないじゃないか。」

「ん……ああ、ごめん。それで、なんの話?」

「だから~、さっきヴァイスから連絡があったんだって。」

887は口の中のものを飲み込んでヒクサーの顔を見上げる。

「なんでも、今レジアス中将が直に機動六課に来てるらしいわよ。」

「レジアス中将が……?」

ヴェロッサは真剣表情で紅茶をすする。

「なんでも、ラルゴ元帥に頼んで、個人としてスクライア司書長に会いに行ったらしい。」

「ユー…スクライア司書長に?」

ユーノの名前が出た瞬間、ヒクサーと887に緊張がはしる。
ガンダム、そしてジンクスの調査にかかわっていた人間がマイスターであるユーノに会いに行ったのだから気が気ではない。
レジアスにはユーノがこちらに戻ってきたときにソリッドに乗っていたことを知るのは容易だろうし、そこからユーノがあれを動かしていたこと可能性に考えつくなど朝飯前だろう。
ユーノが秘匿事項を喋るとは思えないが、それでも喋らなければレジアスはどんな手に出るかわからない。

「大丈夫だよ。」

二人の心配を見透かしていたようにヴェロッサは微笑む。

「レジアス中将もなんだかんだで大人なんだ。あんまり無茶なことはしないさ。」







機動六課隊舎 廊下 部隊長室前

いつもは人もまばらな廊下も、この日だけはある一ヵ所にみんな集まっていた。
突然、伝説の三提督の一人であるラルゴ・キールがやってきただけでも大騒ぎなのに、ラルゴと一緒に機動六課を目の敵にしているレジアスまでやってきて、個人としてユーノと話がしたいというのだから注目しない人間がいないはずがない。

「さてと、ロッサに伝えたからヒクサーにも伝わってるだろ。しかし……」

ヴァイスは部隊長室の扉の前に集まった黒山の人だかりを見ながらため息をつく。

「あれじゃ、もう話を聞くのは諦めた方がいいな。」








部隊長室

『ちょ、みんな!!そんな押したらアカンって!!?』

「……なんだか外が騒がしいな。」

ラルゴは苦笑しながら主のいなくなった部屋の扉を見つめる。
突然レジアスに頼まれ、連絡もなしにやってきてしまったせいでひどい騒ぎになってしまった。
それでも、はやては快くこの部屋を提供してくれたが、彼女も部隊長として今回のレジアスとユーノの話を聞きたいようだった。

「それで、わざわざ個人的に僕を呼びつけて何の御用ですか?レジアス中将。」

外の騒ぎなどそっちのけでユーノは目の前にいる厳つい男に話しかける。
レジアス・ゲイズ中将。
地上部隊の事実上のトップであり、何年もの間ミッドチルダの平和を守ることに尽力してきた人物である。
その一方、その剛腕さや、はやてたちのようなレアスキルを持つ人間を毛嫌いし、現在のミッドにおける最大の戦力、魔導士を集中させている次元航行部隊を敵視していることから、彼に対していい感情を持たない者も多い。
そして、最近彼のまわりに漂う黒い噂や、質量兵器であるアインヘリアルの導入を進めているため、その傾向は加速気味にある。

「この間はオーリスが世話になったようだな。」

あからさまにこちらを睨みつけるレジアスを見てユーノはため息をつく。

「まさか、わざわざ恨み言を言うためだけにここに来たんですか?」

「馬鹿を言うな。要件はまた別だ。」

「じゃあ、なんですか?また強引な手で僕を自分の手元に置くつもりですか?」

「そうだ……と言ったら?」

二人の間に沈黙が流れる。
だが、すぐにユーノの顔に笑いが戻る。

「まあ、その可能性はないでしょうね。あなたは今回、個人として僕に会いにきている。頑固なあなたが、自分で自分の言ったことを覆すようなことをするとは思えませんからね。」

「嫌味か?」

「いえいえ、嫌味と賛辞の両方です。」

「まったく……相変わらず馬鹿正直な奴だ。」

そう言うレジアスの顔には、眉間にしわがよりながらもわずかながら笑みが見える。

「で?それならなんでわざわざラルゴ元帥にまで頼んでここに来たんですか?」

「今回の要件はこれだ。」

レジアスはすでに管理局全体に知れ渡っている件の機動兵器、ガンダムソリッドの映像を見せる。

「これが何か?」

あくまでしらを切りとおそうとするユーノ。
だが、

「君が行方不明状態から、発見されたときに乗っていたのがこれだと聞いた。だから、君からこれについて詳しく話を聞きたい。」

「僕はこれに乗っていた時の記憶が皆無なんですよ?残念ながらお役にたてるとは…」

「……わしはこれの、エンジェルの調査にかかわっていた。」

レジアスの言葉にユーノとラルゴの顔色が変わる。
自分にかかっている疑惑を今この場で認めたのだ。

「レジアス中将、ここでその話は…」

「構わん。」

ユーノの言葉を無視してレジアスは話し続ける。

「研究報告によると、どれほど起動を試みてもこいつが動くことはなかった。この時まではな。」

そう言うと、レジアスはユーノに対して深々と頭を下げる。

「恥を承知で頼む。ミッドをナイトから……ファルベルから守るにはエンジェルしか対抗策がないのだ。力を貸してくれ。」

その時、ユーノは目の前にいるレジアスと、どれほど蔑まれようとも平和を望んで戦い続けた仲間たちの姿をだぶらせた。

(そうか……この人も僕たちと同じなんだ。ただミッドの平和を求めて、自分がどれほど汚れてでも不器用にそれを守ろうとしているんだけなんだ。)

ユーノは口を真一文字に結んだあと、ラルゴの方を見る。

「ラルゴ元帥、申し訳ありませんが席をはずしていただけませんか?ここから先は、僕もレジアス中将もお互い聞かれたくないことがあると思いますから。それと…」

「わかっとる。さっき聞いたのはわしの空耳じゃろうて。」

そう言うと、ラルゴはゆっくりと立ち上がり扉の方へ向かう。

「ついでじゃから人払いもしておいてやろう。安心して話をせい。」

ラルゴが扉を開けた瞬間、人込みの先頭にいたはやてが倒れこんできて気まずそうに笑う。

「そう言うことじゃから、お主らは自分の仕事に戻れ。」

「は、はいい~~~!!!!」

押し合いへしあいを経ながら、蜘蛛の子を散らすようにその場から離れていく局員たちを見ながら、ラルゴはため息をつくと部屋の外に出ていった。
それを見ていたユーノとレジアスも呆れてため息をつくが、すぐに真剣な顔に戻る。

「最初に断っておきますが、僕はあれ、ガンダムについてすべてを話せるわけではありません。」

「ガンダム……それがエンジェルの真の名か。」

「ええ…ガンダムソリッド。私設武装組織、ソレスタルビーイングの機動兵器、ガンダムのうちの一機です。」

「ソレスタルビーイング……?聞いたこともない組織だな。」

「無理もありませんよ。」

ユーノは困った顔で笑う。

「ソレスタルビーイングが活動していたのは第97管理外世界、地球。そのパラレルワールドなんですから。」

「パラレルワールドだと?」

レジアスがただでさえ深くしわが刻みこまれた眉間にさらにしわを寄せる。

「信じられないかもしれませんが事実です。僕が行方不明になった時の地球が西暦2005年だったのに対し、向こうは西暦2304年、実に300年以上の開きがあるんです。」

そして、ユーノは向こうのことについての話を始めた。
科学技術の進歩により、宇宙開発が進み、枯渇した化石燃料の代わりにエネルギー資源を軌道エレベーターと太陽光発電にゆだねたこと。
しかし、それがきっかけとなって各地で紛争が相次ぎ、さらに三国家群の間で己の陣営の威信と繁栄のためにMS開発などの軍事開発が進められていたこと。
そんな世界を変えるためにソレスタルビーイングが紛争根絶のために立ちあがったことを。

「何とも信じがたい話だが、エンジェルやナイトを見たからには信じないわけにはいかんな。」

レジアスの額にはうっすらと汗がにじみ、手は細かく震えている。
だが、現在のミッドチルダが持つ科学技術を大きく上回る兵器が存在し、その中でも秀でた存在であるガンダムとジンクスが今この世界に存在していると聞けば、どれほど肝が据わった人物であろうと動揺するのも無理はないだろう。

「それで、君がいたソレスタルビーイングについてだが…」

「すいませんが、秘匿義務があるのでソレスタルビーイングやガンダムについてはこれ以上話せません。たとえ離れていても、仲間を裏切るようなことはしたくありませんから。」

その言葉にレジアスは渋い顔をするが、今のところ脅威となるとは考えなかったのか深くは追求しなかった。
しかし、それでもこれだけは聞かなければならない。

「君はエンジェルを……ガンダムを使って我々管理局に対して戦いを挑む気か?」

「……レジアス中将、僕は管理局が嫌いです。」

「!?」

「ですが、管理局に所属する人間全員が嫌いなわけではありません。僕がソリッドを駆る時、それは管理局が紛争幇助の対象だと断定したときだけです。」

「そうか……。ならば、我々は基本的には敵対しなくても済む。そう思っていいんだな?」

「はい。」

ユーノの柔らかな笑みを見た瞬間、レジアスは気が緩んだのかひときわ大きなため息とともに背もたれに体重を預けた。
だが、まだ安心するのは早かった。

「では、レジアス中将。今度は僕が質問させてもらいます。ナイトを……ジンクスを量産化したのは一体誰なんですか?初めはスカリエッティかとも思いましたが、彼の仲間が攻撃されていたことから考えるとその可能性はない……。となると、豊富な物資と研究設備がある管理局の誰かがやっていると考えるのが自然だ。」

ユーノの鋭い視線がレジアスを射抜く。
だが、レジアス本人も覚悟をしていたのか、動揺することなく淡々と話し始めた。

「わしがやつと……ファルベル・ブリング准将と面識を持ったのは、やつが地上部隊に移ってきた時だった。」

(ファルベル……ブリング…?)

聞いたことの名前に戸惑うユーノだが、レジアスはそれどころではない。
話をするレジアスの目には明らかな怒りと、自分へのふがいなさからくる憂いが混在していた。

「初めは海から飛ばされてきただけの老人だと思っていた。だが、やつの話を聞いたわしは、初めて自分と同様の考えを持った同志を得たと思った……」

「……いったい、何を話したんですか?」

ユーノの静かな問いに、レジアスはその大きな体からは想像できないほど小さな声で答え始める。

「海に戦力が集中し、手薄になってしまった陸を守るには、もはや質量兵器、そして人造魔導士に頼るしかない……そう持ちかけられた。ジェイル・スカリエッティをやつから紹介されたのもその頃だ。」

「それで、アインヘリアルを…」

「いや、あれは囮に過ぎない。」

ユーノの整った眉がピクリと動く。

「どういうことですか?」

「やつは、君が持ち帰ってきたMS、ガンダムとジンクスを手にしてから、その研究を開始した。しかしその間、世間の目をその研究からそらさせる必要があった。だからこそ、わしはアインヘリアルの建造計画を持ち出し、あれだけ大々的に騒いだのだ。そして、当初の計画通りならば、スカリエッティの産みだした戦闘機人たちが建造途中のアインヘリアルを破壊、そこへ量産化されたMSを投入してそれを鎮圧する。……そのはずだったんだ。」

そこまで聞いたところで、ユーノにはだいたいの流れが見えた。

「だが、スカリエッティは暴走を始め、研究成果を報告すると言っていたはずのファルベル准将とは音信不通……そんなところですか。」

レジアスはギリギリとユーノにまで音が聞こえるほど激しく歯ぎしりする。

「そうだ……!!そして、やつはあろうことかクラナガンの街を無差別に破壊し、挙句のはてに、反管理局の思想を持つ者たちを、ジンクスを使って消し始めた……テロリストだろうと民間人だろうと関係なくだっ!!!」

レジアスが机を叩いたせいで、出されていたコーヒーがひっくり返り、机の上に黒い水たまりを作る。
しかし、ユーノは動じることなくレジアスに話しかける。

「レジアス中将、暴走を始めたスカリエッティの目的はわかりませんか?」

「わからん…ただ、やつがわしのコントロールを離れたのは君が帰還してからそう遅くはない時だった。ひょっとしたら、スカリエッティはスカリエッティで何か狙いがあるのかもしれん。」

その時、ユーノはあることを話すべきかどうか悩んでいた。
このことを聞けば、レジアスの信用を失うことになるかもしれない。
だが、いつまでも隠しておくことができるものでもない。
ならば、いっそこの場で打ち明けてしまおう。

「……中将、実は僕の組織の人間が、スカリエッティと行動を共にしているようなんです。」

「なに!?」

案の定、レジアスはいきり立つが、ユーノは冷静に話を進める。

「彼は……フォン・スパークは僕に記憶を取り戻させ、ガンダムに乗せるためにスカリエッティに協力し、僕と敵対していると言ってしました。ですが、いまだに協力状態にあるところを見ると、まだスカリエッティとともに行う何かがあるのかもしれません。」

「ふむ……君はそのフォンという男とは…」

「こちらでのつながりはありません。ですが、僕にガンダムを与えたのは彼とスカリエッティです。そう考えると、僕も彼らの計画の輪の中に取り込まれているのかもしれません。」

信じてくれないかもしれない。
いや、信じる方がどうかしている。
だがそれでも、信じてくれなければどうすることもできない。

そのユーノの思いが通じた。

「わかった……その話、信じよう。だが、条件がある。」

「条件……ですか?」

ユーノのオウム返しにレジアスはうなずく。

「わしはこれからジンクスが投入される非公式の作戦を片っ端から洗い出す。君にはその作戦に可能な限り介入、阻止してほしい。」

その話はユーノとしても大助かりだ。
自力でジンクスが関わると思われる作戦に目星をつけて出撃するよりは、情報を多く入手できるレジアスが調べてくれた方が助かる。

「では、僕からも条件を提示させてください。」

「なんだ?」

「まず、地上部隊に不必要な戦闘…つまり、侵略行為や弾圧行為を行わせないこと。もうひとつは、この一件に片を付けた後、あなたの行ってきた罪をすべて公表すること。この二つです。」

「むぅ……」

レジアスは脂汗を垂らしながら唸るが、背に腹は代えられない。
ミッドの平和を自らの保身のために見捨てることなどできない。

「わかった……。わしとしても、長年背負い続けてきた十字架を下ろすいい機会かもしれん。」

「では、交渉成立……そういうことでいいですね?」

「ああ。」

レジアスが深くうなずくのを見たユーノが微笑む。

「なんだか、安心しましたよ。」

「?何がだ?」

「あなたのことを誤解していました。もっと出世欲のある人かと思ってたのに、意外と聖人君子なんですね。」

ユーノのその言葉を聞いたレジアスは苦笑する。

「聖人君子か……その言葉は、わしなんぞよりもっと似合うやつがいる。もっとも、わしがくだらんしがらみにとらわれてしまったせいで、道を違えてしまったがな。」

「……きっと、その人もわかっていたはずですよ。あなたが、自分の思いを、ミッドを守りたいという願いを不器用に貫こうとしただけなんだって。」

「だとしても、もう許してはくれんだろうがな……」

レジアスはゆっくりと立ち上がり、少し乱れてしまったネクタイを整えると扉へと歩いていく。

「近いうちに連絡はする。準備だけはしておいてくれ、スクライア司書長。」

「了解しました。……あ、忘れ物ですよ。」

「?」

そう言うとユーノは以前オーリスを追い払う時に使ったデータの入った携帯端末を投げてよこす。

「これは…?」

「僕らはもうある意味、運命共同体なんですから。フェアにいきましょう。それは、すべてが終わる時まで預けておきますよ。」

レジアスはフッと笑うとそれを上着の内側のポケットにしまう。
そして、気になっていたことを最後にたずねる。

「ひとつだけ、聞いてもいいかね?」

「どうぞ。」

「君はどうして、ソレスタルビーイングに入ろうと思ったのかね?……っ!?」

その時、レジアスははっきりとそれを見た。
自分よりもはるかに若いその男の悲しげな表情を。
一人で抱え込むには重すぎるものを背負った人間の目だ。
途方もない悲しみや怒りをそのうちに秘めたその姿は一瞬で消え去ったが、それでもユーノの話から、その重さを思い知らされた。

「……昔、ある一人の少年がいました。その少年は、赤子の時に故郷を焼かれ、自分を拾ってくれた父親をテロリスト、そして、助けてくれると信じていた組織に奪われました。以来少年は、ある一人の少女と出会うまで、誰にも心を開くことなく生きてきました。そんなある日、少年はその少女と離ればなれになり、遠い異世界に記憶のない状態で放り出されました。そんな彼がその世界で初めて目にしたのは、光の翼を広げた天使でした……。」

死にかけていた自分を救った天使。
その天使にあこがれ、記憶がないにもかかわらず、心の奥底に刻まれた傷に従い組織の理念に共感し、戦う道を選んだ。

「……そんな馬鹿な男が一人いた。それだけの話ですよ。」

「……そうか。」

それを聞いたレジアスは満足そうに、だが、悲しそうに笑う。

「君が信頼できる男だと確信できたよ、“ユーノ”。」

名前で呼ばれたことに一瞬戸惑うが、すぐにユーノも笑顔を返す。

「……ありがとうございます。“レジアスさん”。」

ユーノの軽い会釈に見送られ、レジアスは扉を開けて退室した。
一人残されたユーノはホッと一息つくとソファーに寄りかかって天井の明りに目を細める。
とその時、

「うっ……!!」

体を中から突き破られるような激しい痛みにユーノは顔をしかめながら口元に手を持っていく。
くの字に曲げた体を起して口から手を離すと、白い肌とは対照的な赤い液体がこびりついている。

「ゲホッゲホッ!……早いとこ、この一件にケリを付けて向こうに戻らないと、何もできないうちにポックリだな……」

そう言ってシャマルからもらった錠剤を口に放り込むと、自分の血液とともに胃の中へと押し込む。
血のしょっぱい鉄の味と薬臭さが混ざって吐きそうな味になるが、それをしばらく我慢すると体が少し楽になる。
しかし、すぐには動くことができずにソファーの上で横になる。
そんな時、ふと自分がいなくなった後のことを考えてしまう。

「なのはとヴィヴィオには幸せになってほしいな……」

自分はこちらの世界から去るが、残される二人には自分がこちらに連れてきてしまった歪みに翻弄されてほしくはない。
だからこそ、ジンクスを作っているというファルベルなる人物を止めなければならない。

「さて、それじゃそろそろはやてのところに行くか。僕が変なことを言わなかったかひやひやしてるだろうしね。……いや、むしろあの真っ黒な腹に穴が開通するくらい心配させてやるのもいいかもね。」

はやてから受け続けてきた性質の悪いいたずらでたまっていた日頃の鬱憤を晴らす機会を得たユーノは嬉しそうに部屋を後にした。










求めたのは、誰もが欲するもの
失いたくないのは、仲間とのつながり
しかし、その二つを同時に得ることができないのなら、天使を駆る者のとる道はただ一つ……






あとがき・・・・・・・・・・・・・・・という名の刹那ーっ!!!

ユ「えー、ヒクサーの目的判明&まさかのレジアス中将と結託の回でした。ところで、今回なんで僕がこんなことを言っているかというと……」

ロ「刹那ーーーーーーー!!!!!」

ユ「……え~、何とか暇を見つけてロビンが劇場版を見れたので興奮しまくってまともに話ができない状況なので代わりに僕が進行を務めさせていただきます。」

ロ「刹那ーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」

ユ「いい加減黙れ!!!…ハハハ、お見苦しいものをお見せしてスイマセン。このテンションで一気に書き上げたので今回はおかしいところが多々あるかもしれませんが、みなさんの容赦のないご意見でこいつを現実に…」

ロ「刹那ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」

ユ「オーイ、誰か~!!もうホントこいつどっかやってくんない!!?ウザくてウザくて仕方ないんだけど!!?」

狸「はいはい……って、わたしの今回のあとがきの出番これだけか。」

狸、叫ぶ作者をいずこかへと引きずっていく。

ユ「…静かになったところでゲストの紹介に行きます。今回のゲストは実は今回があとがき初登場、the お隣さん、沙慈・クロスロードさんです!」

沙慈(以降 お隣さん)「どうもはじめまして(?)。沙慈・クロスロードです。」

ユ「あとがき登場がsecond一歩手前になってやっとってどうよ……まあ、むしろでなかった方がよかったんだろうけど。」

お隣さん「そこ言っちゃうんなら僕は最初から出なかった方が良かったような気がする……secondいったら原作以上に大変なことになってるし……」

ユ「?どういうこと?」

お隣さん「こういうこと。」

お隣さん、主人公に今後の予定的なものを見せる。

ユ「うえええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!?これいいの!!?ていうかどっちかだけでもヤバいのにこんなことして大丈夫なの!!?」

お隣さん「だって、secondは暴走しようって決めてた作者がもうこれでストーリーの根幹固めちゃったんだから仕方ないじゃん!!!どうせ僕は目立つ配役もらってもこんなことになるのが関の山なのさ!!!(泣)」

ユ「悲しいこと言うなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!最近僕が主役の小説を皆様が書いてくれてるんだからそのうち沙慈が主人公の00の小説を誰かが書いてくれるよ!!!」

お隣さん「……泣いてても仕方ないから解説にいこう。しかし、今回はまたとんでもないね。機動六課の皆様に秘密でレジアス中将と協力体制完成か。」

ユ「正直、これは賛否両論分かれると思ったから出さないほうがいいのかなぁ~、と思ってたんだけど結局出しちゃいました。そして、ネタばれするとレジアス中将は生き残るので好きな人はご安心を。というか、この話はロビンがレジアス中将生き残らせたいがために作ったものです。」

お隣さん「やりたい放題だね。」

ユ「最初からそうだけどね……。と、そんなこんなで、ここらへんで次回予告に行きたいと思います。」

お隣さん「確か次回は久々にサイドじゃなかったっけ?なんかユーノがなのはさんと婚約するときに高町家にあいさつに行った時の話だって……」

ユ「……軽く死亡フラグが立ってる気がするのは僕だけかな?なんか玄関の扉開けた瞬間に士郎さんに頭から真っ二つにされそうなんだけど。」

お隣さん「いや、今ここで生きてるってことはその死亡フラグをへし折ったってことだから大丈夫だよ。」

ユ「死亡フラグであることは否定してくれないんだ……(泣)」

お隣さん「ハハハ……では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!では、せーの……」

「「次回をお楽しみに!!」」



[18122] side1. 婚約前夜
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/10/03 23:24
地球 海鳴市

その日、ユーノは目の前にいる恋人の後ろを足首に鉛でもついているのかと聞きたくなるほど、第三者が見てもわかるほど沈んだ気持ちで見なれた道を歩いていた。

「もぉ~、大丈夫だよ。電話でもお父さんはぜひ来なさいって言ってたし。」

「あははは……間違いなく僕には別の意味で言ってるよ、それ。」

乾いた笑いを浮かべるユーノとは対照的になのははニコニコと太陽のような笑みで進んでいく。
だが、彼女は知らないのだ。
彼女の友人たちと自身の父親の恐ろしさを。





アリサの場合

行方不明から帰還して初めてアリサに会いに行ったその日、付き添いをしていたなのはたちがいなくなった瞬間、彼女は豹変した。

「あんたは何なのはたちを泣かしてんのよーーーっっっ!!!!!!」

「ごふっ!!?」

叫びとともに鉄槌のごとき拳がユーノの肝臓を的確にとらえる。
しかし、アリサは悶絶するユーノに倒れることすら許さずに膵臓、胃、横隔膜、止めに心臓へ的確に拳を打ち込んでいった。

(う、動けない!?)

心臓に強打を受けると一時的に体が動かなくなる。
そんなことをどこぞの漫画で知ってはいたが、それを彼女が実行できるとは思っていなかった。
だが、驚きは終わらない。
体の自由を奪われたユーノの前からアリサの姿が消える。

(どこへ……!!?)

次の瞬間、ユーノはあごにプロ顔負けのアッパーを受けて真上に弾き飛ばされる。

「ふぅ……今日のところはこれぐらいで勘弁してあげる。」

そう言って空中を舞うユーノに背を向けてアリサは歩き出す。
その後、合流したなのはに傷だらけの姿の理由を聞かれても、なのはに見えないように睨んでくるアリサのせいで答えることができなかった。






(……すずかの場合はある意味もっと怖かった。)







すずかの場合

アリサと会ったのち、今度はすずかに呼び出されて彼女の家を一人で訪れたユーノ。
物静かな彼女は何もしないだろうと踏んで、なのはたちの付き添いなしを快諾したのだが、それが間違いだった。

「ねぇ、久しぶりにフェレットになってみてくれないかな♪」

「?いいけど…」

不審に思いながらもフェレットの姿になるユーノ。
その瞬間、すずかは素早くユーノをつかむと、ペットだけが入れるような大きさの籠へと放り込む。

「わっぷ!?す…すず……か………さん?」

ユーノが籠の中から見上げるすずかの顔は笑っているのに、気配は完全に怒っている。

「じゃあ、しばらくその子たちと遊んでてね♪」

ニャ~~

「!?」

ユーノががたがたと震えながら振りかえった先にいたのは、愛くるしい顔でこちらをじっと見つめている子猫(約十匹)だった。

「いやああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~!!!!!!?」

その晩、月村家に一匹のフェレットの叫びが響き渡ったそうな






回想終了

「…………………………………」

あの二人でさえこれなのだ。
実の父親であり、こちらに帰って来た自分との交際を反対している士郎に至っては冗談抜きで殺しにかかりそうだ。

「……だ、大丈夫……。きょ、恭也さんや美由希さん、桃子さんだっているんだし………きっとなんとかなるよね!」

不安の中、一片の希望にすがりつくユーノだが、彼の不安は最悪の形で的中することとなった。






魔導戦士ガンダム00 the guardian side.1 婚約前夜

高町家

遂に玄関先にまで来てしまってから、ユーノは再び激しい不安に襲われる。
そのわけは、

(……すいません、士郎さん。思いっきり殺気が出ているせいで待ち伏せしているのがモロバレです。)

流石になのはもそのことに気付いているのか、ユーノと顔を見合わせて苦笑する。

「どうする?」

「どうするって……行くしかないでしょ。ここまで来たからには。」

覚悟を決めたユーノは玄関の扉を開けて一歩足を踏み入れる。
その瞬間、

「ちぇえええぇぇぇぇぇぇすとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!」

「やっぱりいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」

渾身の力で振り下ろされた一撃を真剣白刃取りにしたユーノは不敵に笑う襲撃者に気まずそうに笑いかける。

「し、士郎さん……お久しぶりです。」

「ふっふっふ……腕を上げたなユーノ君。しかし、残念だがここで死んでくれ。」

「それ仮にも訪ねてきた人間に言うことじゃないですよね!?あとこの行為も!!」

士郎に押されながらも必死で抵抗するユーノ。
しかし、その危うい均衡は一人の魔導士によって終わりを迎える。

「にゃははは………お父さん、ユーノ君に何してるのかな……?かな……?」

士郎の握る白刃はなのはの魔力弾によってポッキリと真ん中から折られる。
キリキリとブリキの人形のように首を向けると、天使の笑みで悪魔のごとき流星を従えるなのはがいた。

「い、いや、なのは……これはだな……」

「少し……頭冷やそうか?」

士郎が言い訳する暇も与えずに魔力弾を次々に当ててマリオネットのように踊り狂わせる。

「やれやれ……だから言ったのに…」

「いらっしゃい、ユーノ君。」

「美由希さん、桃子さん、お久しぶりです。」

踊り狂う父親に呆れる美由紀と、いつも通りの笑顔の桃子に頭を下げる。

「災難だったな……父さんも君のことは認めているんだろうが、どうにも素直になれないようだ。」

「どうも、恭也さん。それよりあれ、止めなくていいんですか?」

ディバインシューターで滅多打ちにされる士郎を見て身震いしながら恭也に問いかける。
が、

「自業自得でしょ?」

「あれくらいどうってことないわよ♪」

「……だそうだ。」

「いやいや……」

それがどうしたと言った様子の高町家の面々。
だが、あのままだといくら士郎でもまずい。

「どうしても止めたいのならいい方法があるわよ。」

そう言って桃子はユーノに耳打ちをする。
それを聞いていたユーノの顔は下からどんどん紅に染まっていく。

「え!?ちょ、ちょっと人前でそれをやるのは…」

「ひどい……ユーノ君は私の主人を見捨てるのね!?」

「いや、でも…」

ユーノは助けを求めるように恭也たちに視線を移すが、

「……俺は見ていないから安心しておけ。」

「右同じ。」

背中を向ける二人を見て、援護が期待できないことを悟ると、ユーノは静かになのはに近づき後ろから抱き締める。

「ふぇっ!?」

「なのは、駄目だよ。」

「……うん///」

なのはは子供のように素直にうなずくと魔力弾を消して、自分も固くユーノを抱きしめる。
一方、士郎はというと雑に美由希に引きずられてその場を後にする。
だが、そんな父親には目もくれずに、なのははユーノの温かさをじんわりと肌で感じ続ける。

「あらあら、仲良しねぇ♪」

「……母さん、頼むから写真を撮るのはやめてくれ。」

「大丈夫!むしろバンバン撮っておいて!」

恭也のことなどどこ吹く風といった様子で母娘そろって写真に夢中になる桃子となのは。
………こんな風に大っぴらにいちゃつくから士郎が怒るのだが、彼女がそのことに気付くのはかなり後になるのだった。








道場

「……で、どうしてこうなっているのかぜひお聞きしたいんですけど?」

道場の真ん中でユーノが向かい合っていた恭也に問いかける。

「……仕方なくだ。」

「目を見て話してください、恭也さん。」

二本の木刀を手にした恭也はばつが悪そうに視線を外しながら答える。

その後、復活した士郎からなのはとの婚約を認めてほしければ恭也と立ち合えと言われ、二人ともしぶしぶ道場まで来たのだが、士郎はユーノが完膚なきまでに叩きのめされることを期待し、なのははユーノの応援に夢中、桃子は桃子でいつも通り笑ってスルーし、唯一まともな思考回路を持った美由希は完全に傍観を決め込んでいる。
そんな外野のテンションとは引き換えに、本人たちはあまり乗り気ではないのは明白だ。

ちなみに、二人から少し離れた所でなのはたちが見守っている。

「ハハハ!恭也、死なない程度に痛めつけてあげなさい!」

「ユーノ君がんばれ~~!」

「フフフ……二人とも頑張ってね♪」

「……ごめん、ユーノ、恭ちゃん。私にこの人たちは止められないよ。」

((人事だと思って……))

思考をシンクロさせながらも、恭也は持っていた木刀を構える。

「恭也さん?本当にやるんですか?」

「まあ、この際だから少し体を動かすくらいはいいだろう。」

「あの……わざと負けてくれるなんてことは…」

「あると思うか?」

「……ないですよね~。」

ユーノは盛大にため息をついてうなだれる。
しかし、

「それに、俺も君がどれほどの実力か見てみたいしな。」

普段クールな恭也が珍しく嬉しそうに笑う。

「本気で来ないと、なのはにカッコ悪いところを見せることになるぞ。」

「ズルイことを言うんですね。」

「年の功だ。本気を見せてもらいたいんでな。」

ユーノもまた鋭い笑いを見せると、近くにあった木製の小太刀を手にする。
しかし、どうにも手になじまないのか首をかしげている。
と、

「あの、少し短くしてもいいですか?」

「?ああ、別にかまわないが?」

「そうですか。」

その後、ユーノが短く何かを呟くと見えない刃が小太刀を斬り裂き、ちょうどナイフぐらいの長さにまで縮める。

「じゃあ、始めましょうか。」

そう言うと、ユーノは得物を前に出してその後ろに隠れるように半身に構える。

(ナイフか……構え方はあっているが…)

それだけではない何かを恭也は感じ取っていた。
ユーノが構えた瞬間に空気が変わった。
まるで銃弾の飛び交う戦場にでも立っているような、常に隣で死神が不気味に笑っているようないやな圧迫感。

(確か、前にもこんな感じを…!?)

恭也が考え込んでいる隙に、ユーノは一機に距離を縮めていた。
木刀の切っ先が恭也の整った顔をかすめる。
耳元で鳴る風切り音で我にかえった恭也も左手に握っていた剣を横に薙ぐが、ユーノはそれを一回り小さくした木刀で見事に受け流して再び斬り込もうとする。
しかし、残っていた右手の刃が振るわれた瞬間、ユーノは大きくバックステップをして距離をとった。
激しく動く中、首元にかけられたジュエルシードがそのせめぎ合いと不釣り合いなほど陽の光を吸収して美しく輝く。

(こいつ……!)

恭也は目の前にいる青年のことを見誤っていたことを自覚した。
今ここで立っている人間は自分の知っている幼い日のユーノではない。
その力で他者の命を刈り取ることのできる戦士だ。
そして、それを見ていた士郎と美由希もそのことに気付いたのか先程までとはうって変わって真剣な表情になる。

「お父さん?お姉ちゃん?」

なのはの問いかけにも答えずに二人はユーノと恭也の動きをじっと見ている。

「ねぇ、父さん。あの動き…」

「ああ、わかっている。」

なのはからいろいろな事件で活躍していると聞いていたので、多少の武術の知識があると考えていたが、あれはそんなものではない。

「あれは…」

(そうだ……!)

恭也はユーノの放った金的への蹴りと頸動脈を狙った攻撃とのコンビネーションをかわしながら思い出す。
自身の妻である月村忍の警護をしたときのことだ。
ある日、彼女を狙ってきた男たちの中にそいつはいた。
眼帯をつけたかなりの年齢のその老人の繰り出してきた人体の急所を的確についてくる攻撃には恐怖を覚えた。
そう、

(ユーノが今使っているのは、戦場格闘術だ!)

卑怯も反則もない。
むしろ反則があるなら即使え。
自分が生き残るために、相手を死に至らしめるために手段を選ばない。
実戦的で、人間の負の側面の集合体のような最低最悪の殺人技術だ。

「クッ!!?」

「はぁっ!!」

左の胸への突きをかわした際に態勢が崩れた恭也の服をつかみ、固い道場の床へと投げ飛ばそうとするユーノ。
しかし、恭也もそれを黙って待ってはいない。
ユーノの指先につかの先を打ちつけて離させると、今度は左手の木刀で頭へ向けて渾身の一撃を放つ。
だが、ユーノは猫のように素早く身をかがめ、態勢を起こすと同時に恭也から離れる。
その時、恭也にだけはユーノの表情が見えた。
かつて死合った老人のような戦場の狂気に染まった、狂った笑みではなく、むしろその逆のような、戦うことへの悲しみに満ちた顔だった。

(ユーノ、君の空白の四年に一体何があったんだ!?何が君をそこまで変えた!?)

打拳と木刀の連撃を受け止めながら、恭也はある決意をする。
一旦、ユーノの攻撃から大きく離れて大きく息を吸って吐き出し、感覚を研ぎ澄ます。
そして、

「神速……!!」

「待て!!恭也!!」

「恭ちゃん!?」

士郎と美由希は何とか止めようとするが、構わず恭也は技を発動する。
その瞬間、恭也の視界は白黒の映像に変わり、周りの動きが止まって見えるようになる。

「はあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

空気が水のように重たくまとわりつく感覚を肌で感じながらすれ違いざまにユーノの首筋へと右手の木刀を振るう。
木刀とはいえど、この速度で当たれば骨は砕け、間違いなく命を落とすだろう。

「っっ!はぁっはぁっ!!」

ボキリと何かが折れる音の後、恭也の視界は色彩を取り戻すが、長く神速を使いすぎて反動でその場に膝をついてしまう。
しかし、後ろにいるユーノはもっと悲惨だった。

「いったった~……!ホントに死ぬかと思った…」

床に大の字になって転がるユーノの持っていた木刀は根元で折れ、左腕には青紫のあざができている。
恭也の動きから危険を感じ取ったユーノは、神速が発動される前に首元に木刀と自らの左腕を持ってきて恭也の一撃を凌いだのだ。
だが、その代償として左腕の骨にひびが入っている。

「ユーノ君!!お兄ちゃん!!」

呆けていたなのはは二人の様子を見て慌てて駆け寄る。

「大丈夫!!?」

「俺は……なんともない…」

「僕もだいじょう……ぶっ!?」

仰向けに転がっているユーノの顔になのはの平手のあとがくっきりと刻まれる。

「バカッ!!ユーノ君のバカ!!こんな大きなあざができてるのに大丈夫なわけないでしょ!!」

ユーノを泣きながら叱責した後、今度は恭也を睨みつける。

「お兄ちゃんもそれで平気なわけないでしょ!!」

「「……ごめん。」」

申し訳なさそうに笑う二人の戦いの決着は、士郎の判定で引き分けということになった。







高町家 庭

その晩、高町家に一泊することにしたユーノは庭先で月を、そしてそれが浮かぶソラを見上げていた。
手を伸ばして星をつかみ取ろうとするが、当然地上から届くはずもない。
いや、たとえ空に上がったところで不可能だろう。
本当にその手を届かせようとするならもう一つのソラ、宇宙へといかなくてはならないだろう。

「……何言ってんだか。」

今まで飛行魔法で空を飛んだことはあるが、宇宙を飛んだことなどあるはずもない。
なのに、どうしてこんなに成層圏の向こうに惹きつけられるのか。
そして、そのことを考えるたびにこんなに胸を締め付けられるのか。

「……こんな時間にどうした。」

「そう言う恭也さんこそどうしたんですか?」

寝間着姿で自分の後ろに立っているであろう恭也に隙はうかがえないが、自分を襲おうとしている気配も感じられない。

「なに。俺もたまにきた実家の庭先で夜空を眺めたいと思うことくらいあるさ。」

「意外とロマンチストなんですね。」

「プロポーズの時、忍にも同じことを言われたよ。」

クックッと笑うその声だけで照れている様子がわかる。
だが、その笑いに合わせて自分も笑いながら、本題を聞く。

「それで、僕はなのはにふさわしいと認めてもらえたんですか?」

「それは父さんに聞いてくれ。俺はもともとなのはの自由意思に任せている。」

そう言うと恭也はユーノの横に並び、自身も空を見上げる。

「……何があった?」

「……………………………」

帰って来てから誰もが自分に投げかけてくる質問。
だが、誰が相手であろうと同じ答えしかできない。

「わかりません……僕自身にも、なんでこんなことができるのか……この四年間、自分が何をしていたのか。ただ……」

「ただ?」

「……少し、自分の心に素直になれた気がします。」

ユーノが恭也に柔らかく笑いかける。
後ろでまとめられた長い髪が月明かりで煌めき、女神が地上に降りてきたような印象を与える。
そして、女神のくちからはっきりとした意思表示がなされる。

「だから、申し訳ありませんけどなのはをもらいうけます。」

その言葉を聞いた恭也は一瞬顔をしかめる。
なのはの自由意思に任せるとは言ったものの、ここまで真正面から言われると流石に複雑な気分だ。
だが、男に二言はない。

「よくもまあ、いけしゃあしゃあと……ま、後ろに隠れてるでばがめ二人も納得はしたみたいだし、いいんじゃないか。」

恭也はユーノを残してつかつかと歩いていき、後ろにある部屋の中に入ると隠れていた士郎と美由希を見つけ出す。

「で、二人の婚約を認めるのか、認めないのかどっちだ?答えのよっては父さんでも相手になるぞ。」

息子の厳しい視線に士郎はため息をつく。

「わかってるさ。彼にならなのはを任せられる。ただなぁ……そのうちステップをいくつもすっ飛ばして『子供ができちゃいました~♪』なんて言ってくるんじゃ……!!?」

一人妄想にふけり悶々と悩み始める士郎に呆れながら、美由希は恭也に昼間の試合について聞く。

「なんで神速までつかったの?いくらユーノがヤバい感じだったからって、あれだと下手したら取り返しのつかないことに……」

「覚悟を見せてもらいたかったのさ。」

恭也は壁に寄りかかって明かりのついていない電灯を見上げる。

「ユーノがあんなものにまで手を出して、何をするつもりだったのか……そのための覚悟を、な。」

「覚悟ね………何するつもりで覚悟を固めたか知らないけど、なのはをもらうつもりならそれよりも覚悟が必要ね~。じゃないと、父さんが何しでかすかわからないしね。」

「くくく……違いない。」

呆れながら笑う二人は心からユーノに感謝していた。
自分たちの末の妹を心から愛し、つらいことにぶつかっても彼女が笑っていられるようにしてくれる。
そんなユーノとなのはの幸せのために、自分たちもまた出来ることをしよう。
そんな決意を、空で淡く輝く月だけが知っていた。





桃子の部屋

「フフフ……こうしてなのはと一緒に寝るなんて何年ぶりかしら?」

本当に何年ぶりかわからないほど久しぶりだった。
その晩、なのはは桃子に言われて二人一緒のベッドで眠ることになった。
もうそんなことをする歳でもないのに、母親と一緒に眠るというのはどうにも気構えてしまう。
今思うと、一緒に寝ていた頃も周りからしてみたら普通じゃなかったのかもしれない。

(う~……いまさらだけど恥ずかしい///)

同じ布団にもぐりこんできた桃子の顔を見ることもできずに背中を向けて眠ろうとする。
だが、

「にゃっ!?お、お母さん!?」

桃子の手が背中を通って前まで回される。
突然背中を抱きしめられて戸惑うなのはに桃子は優しく話しかける。

「なのは……私はね、なのはが幸せになってくれればなのはが誰を好きになっても構わないよ。……ユーノ君は誰かの痛みを自分の痛みとして涙を流すことができるくらい優しい人だから私も大賛成だしね。でもね、なのはがその優しさに一方的に甘えるようなことになったら、きっとお互いに悲しい結果にしかならないことを覚えておいて。」

「お母さん……?」

今まで聞いたことがない声を聞いたなのはは桃子の方を向く。

「私も、昔お父さんの優しさに甘えちゃって困らせたことがあってね……あとになってすごく後悔したことがあったの。だから、なのはやユーノ君にはそんな思いをしてほしくないの。」

「お母さん……」

桃子は笑いながらも泣いていた。
その時のことを思い出し、それでもなのはの前では笑顔でいようと涙を寝間着の袖で拭う。

「そうだ!今日はお父さんがたくさん意地悪してきたから、お父さんの恥ずかしい話をいっぱい聞かせてあげる!」

その晩、明るい話題に変わった母と娘の会話は、二人が話疲れるまで続けられた。
そして翌朝、二人は士郎の顔を見るために吹き出して周りから不審に思われるのだが、その理由を知る人間は二人以外はいなかった。








翌日、繁華街から帰ってきたユーノとなのはの指にはきらりと光りを放つものがはめられていた。
ユーノの指には陽の光を包み込むような淡い桃色の宝石が。
なのはの指には陽の光さえも飲み込むほど深い翠の宝石が。
照れながらも指をからませながら帰ってきた二人を家族、そして友人たちが出迎える。

「お帰り、なのは、ユーノ。」

「「ただいま、みんな。」」

……ありきたりな日常。
けど、どうしようもなく愛しい日常。
これから先もずっと続くと誰もが信じていた。





あの時が来るまでは。






あとがき・・・・・・・・・・・・・という名の絶賛後悔中(誤字ではありません)

ロ「というわけで、婚約の際にあったことを描いたサイドでした。最初は完全にギャグにしようと思っていたのに、衝動的にシリアスを入れてしまって書き終わってからどうしようと思っています。」

ユ「というか何あとがきのサブタイトルを絶賛公開中と絶賛後悔中とをかけてるんだよ。ね○っちか君は。」

ロ「俺はあんなに早く整いません。」

ツン2「自慢げに言うな!!」

エリ「ティアナさん落ち着いて!……オホンッ!今回のゲストはフェレシュテの司令塔、元恋に恋する乙女、シャル・アクスティカさんです!」

シャル「若干気になる紹介のされ方でしたが、皆様お久しぶりです。シャルです。」

ロ「そんじゃさっそく解説にいこう~。全員シャルの手に握られている一部の女性の方が喜びそうなものについては一切触れないこと。」

エリ「あれなんなんですか。」

ツン2「……………………/////////」

ユ「君が大人になったらフェイトが教えてくれるよ。」←説明するのが嫌なのでフェイトに丸投げ

シャル「なんなら今すぐ私が教え……」

ロ「純粋無垢な子供に何教える気だぁぁぁぁぁぁ!!?」

ユ「シャルさん、マジで勘弁してください。」

シャル「ちぇっ…」

ロ「それじゃホントに解説にいくぞ!!」←ヤケ

ユ「今回は本来なら僕が徹底的にいじり倒されるはずだったんだよね?なんか序盤で終わって中盤バトル展開にいっちゃったのはホワイ?」

ロ「……気の赴くままに。」

ツン2「要は何となくってことね。このクソニートが。」

ロ「なんとなくで書いただけでニートかよ!!?学校にも行ってるしバイトもしとるわ!!」

エリ「そう言えばろくに知りもしないのにとらハ設定だしましたよね。」

ロ「……他の作者さんの作品とかを参考に書いたのでおかしいところがあったら言ってください。」

ツン2「救いようないわね。」

ロ「一時期あれだけひどく荒れてたお前にだけは言われたくない!!」

シャル「私としては……」

ロ「お前はもう言うことわかりきってるから黙ってろ!!」

ユ「なんかもうホントにヤバい方向にいきそうなので(主にシャルさんとロビンのせいで)、次回予告にいきます。」

エリ「次回はコミック版で出てきたあの回です。」

ツン2「でもウェンディはもうすでにこっちについちゃってるし、どうする気なの?」

ユ「困った時のガンダムです。」

エリ「そんな胸を張って言われても……」

シャル「まあ、一応ガンダム出さないと何のためにクロスさせたかわからないし。それに次回はエリオとティアナが……」

「「え?」」

ロ「それでは最後に…」

「「ちょっと!?」」

ロ「なんだよ、うるさいな。」

ツン2「あたしたち一体どうなるの!?」

ロ「……ネタバレはよくないよね(クスッ)」

エリ「今笑った!!これ以上ないくらい邪悪な顔で笑った!!」

ロ「気のせい気のせいww」

「「うそだっ!!」」

ロ「まあ、死なないから安心しとけ。では、最後に。今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお寄せください!じゃ、せーの……」

「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」



[18122] 12.強さの意味
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/10/17 10:29
クラナガン ミッドタイムズ本社

「……スクライア。お前、本当にこれを載せる気か?」

「何か問題が?」

「大有りだ!!」

体格のいい男が山積みにされた書類が崩れ落ちるのも構わずにドンと机を大きく叩く。
その上にこの事態を引き起こすことになった原因がひらひらと舞い降りる。

『衝撃!時空管理局の闇!!   極端な質量兵器の禁止の裏で進められる巨大兵器の量産!』

「お前の書く記事はいつもそうだ!!やたら上から圧力を受けるようなものばかりだ!!それになんだこれは!?俺たちの書いてるのは新聞だ!ニュースペーパーだ!!こんな週刊誌のスキャンダルみたいな見出しでいいわけないだろ!!」

「インパクトは大事ですよ?」

悪びれる様子もなくアイナは自分の書いた文章を読んで首をひねる。
本人からしてみたら、良かれと思ってやったことがここまで言われる理由がわからない。

「はぁ……もういい。俺も毎度毎度お前の見出しを直すのももう慣れた。しかし、だ……今回はさすがにまずいぞ。」

アイナの上司らしき人物は文章のある一点を指さす。

「この正体不明の機体。そのうち一機のことをお前が嗅ぎまわっていることを局のお偉いさん方は快く思ってないみたいだぞ。」

そう言って茶色の封筒をアイナへと手渡す。
その中に入っていたのは、

「転属命令……アイナ・スクライア、第23管理世界、ルヴェラ支社、芸能部への転属を命ず……なんですかこれ?」

「上の連中が、お前がこれ以上嗅ぎまわらないのならそいつをなしにしてやるってさ。露骨に圧力掛けてきやがった。」

男は横に広がった腹をぶるぶると揺らしながら背もたれに寄りかかる。

「スクライア、今回は手をひくんだ。いくらなんでも今回はやばすぎる。」

「デスクはそれでいいんですか?ようやく真相を掴みかけてるのに引き下がるなんてデスクらしくないですよ。」

「……こいつを見ろ。」

そう言って机の上に写真の束がばらまかれる。
それに写っているのはアイナも含めた、この部署の人間全員の私生活の写真だ。

「この写真撮ったやつ言い腕してますね。うちに欲しいくらいですよ。」

「冗談を言っている場合じゃない!その転属命令を受け取った次の日に俺の家のポストに放り込まれてたんだ。それに、お前の写真に至ってはお前のものだけじゃない。」

そう。
アイナの写真の束の中にはユーノ、そして彼の職場の人間の写真まで含まれている。
それも、隙だらけでいつでも仕留めようと思えば仕留められるような瞬間ばかりが。
だが、

「大丈夫でしょ。」

アイナの軽い口調に呆気にとられて男はポカンと口をあけるが、すぐにごうごうとまくし立て始める。
しかし、当のアイナはあくびをかみ殺すのに必死なようだ。

「お前の友人も狙われてるんだぞ!?心配じゃないのか!?」

「大丈夫ですよ。あのバカップルなら今頃……」








機動六課隊舎 外

「ヴィヴィオ~、なのは~、こっち向いて~。」

「「はーい♪」」

ヴィヴィオとなのはは言われたとおりに笑顔でユーノの方を向く。
隊舎の裏にある木々をバックに、ユーノは慎重にピントを合わせていく。
そして、

「ハイ、チー…」

「いい加減にしろ!!」

「ズッ!!?」

シャッターを切ろうとした瞬間にシグナムにレヴァンテインの峰を頭に振りおろされ、その場で頭から地面に激突した。

「パパーー!!?」

「何してるんですかシグナムさん!!?」

「それはこっちのセリフだ!!いつまでそうしてるつもりだ!!?」

「スバルたちの休憩時間が終わるまでです!!(残り時間3分と24秒)」

「もう戻れ!!」

昼食が終わったのち、家族写真を撮ろうと言いだしたユーノに連れられて外までやってきたなのはとヴィヴィオは、急な話だったにもかかわらずユーノの出す指示通り、モデル張りのクオリティのポーズを繰り出し続けていた。

「ヴィヴィオ~。シグナムさんがママをいじめる~!」

なのはは泣いたふりをしながらヴィヴィオの影に隠れる。
すると、

「む~!ママとパパをいじめちゃ駄目!」

「う……」

頬を膨らませながらぷりぷりと怒るヴィヴィオの前に烈火の将の異名をとるシグナムも後ずさってしまう。
現在機動六課でヴィヴィオに対抗できるのはなのはとユーノ、そしてすっかり喋る愛犬と化して人知れず涙にくれているザフィーラだけなのだ。
仮にヴィヴィオになにかを言おうとしてもその愛くるしい瞳の前に何も言えなくなり、それでも何か言おうとしてもなのはとユーノの殺す笑顔がそれを止めるという鉄壁の布陣が敷かれている。

「……仕方ない、午後の教導が始まる前には戻るんだぞ。」

「「はーい。」」

頭を押さえながら去っていくシグナムの背中を見送りながら、二人はニヤリと笑う。

「けど、ホントにそろそろ行かないとまずいかな?でも、本当に急だったからびっくりしたよ。なんでいきなり家族写真を撮ろうなんて思ったの?」

「あ~……それはその……」

なのはの問いにユーノは思わず口ごもる。
本当のことなど言えるはずなどない。

「ヴィヴィオが家族になった記念を残しておこうと思ってね。こういうのは夫婦生活において大切だよ。」

嘘は言っていない。
記念に残しておこうと思っているのは事実だし、なのはとの絆を大切に思っているのも事実だ。
だが、

(……せめて、写真を持っていくぐらいは許してほしいな。)

向こうで自分を待っているであろう現実で心が折れてしまわないように支えが欲しい。
そう思うのは罪ではないと自分に言い聞かせ、ユーノはなのはを午後の教導へと送りだした。







魔導戦士ガンダム00 the guardian 12.強さの意味

ミッドチルダ 北部 山間部

「はい、終了と。」

ユーノは最後の一機の頭を撃ち抜くとソリッドの腰にシールドバスターライフルを戻す。
人の住んでいない地区を通ってきたので少し遅れてしまったが、作戦自体は上手くいった。

「ソリッド、サードフェイズ終了。これより帰頭します。」

『了解、ご苦労だったな。』

「まったくですよ。せっかく午後はヴィヴィオと過ごそうと思って午前中で書類処理を終わらせたのに。」

唇を尖らせて不満そうな顔をするユーノを見てレジアスは呆れてしまう。

『ミッドの平和と、今日一日娘と過ごすのとどっちが大切だと思っているんだ。』

「それはもちろんヴィヴィオと……」

と言いかけて、モニターの向こうで眉間が盛り上がって見えるほどにしわを寄せたレジアスがこちらを睨んでいるのを見て、ユーノはひきつった笑みを浮かべながら弁明する。

「や、やだなぁ。冗談ですよ冗談。」

『やれやれ……まあ、気持ちはわからんでもないがな。わしもオーリスが生まれたときは舞い上がって仕事が手につかないことがあったからな。』

「ですよね!!うちのヴィヴィオもかわいいんですよ!!ほら!これとかこれとか!!」

ウイルスか何かに感染したのかと思いたくなるようなスピードで自分の娘の画像を送りつけてくるユーノにレジアスは文句の一つでも言ってやろうかとも思ったが、この一週間でそれがどれほど無駄なことか思い知らされていたので、すぐにあきらめるほうを選んだ。

『だが、この子は人造魔導士の素体なのだろう?普通の家族など…』

「関係ないですよ。」

画像で埋め尽くされた間から辛うじて見えるユーノの顔が真剣なものになる。

「父さんは赤の他人の僕を本当の息子のように育ててくれました。僕が翠玉人であることを知っていながら。」

『…………………』

「だから、心が通じ合えれば家族になるなんてそんな特別なことじゃないんですよ。僕はそう思っています。」

強い意思を宿した微笑み。
自身の心を引き付けたそれを見るだけで、レジアスはユーノの言っていることにわけもないのに確信めいたものを抱く。

『……強いて理由を挙げるなら、業を背負ったが故の優しさか…』

「?どうかしたんですか?」

『いや、なんでもない。ソリッドはいつも通りこちらが管理している場所に置いておいてくれ。』

「了解。」

通信終えたユーノはソリッドを隠し場所へと向けて飛ばしながら、自分の父のことを思い出す。

「パパ、か……ちゃんとできてるのかな、僕なんかに。」

実の親が誰なのかもわからない。
育ての親は早くに亡くなった。
そんな自分に父親など務まるのだろうか。

父親になってから初めて分かったが、子供を育てるということの大変さがよくわかる。
今あらためて思うと、レントもよく自分を真人間(彼が亡くなるまでは)に育てていたものだ。

「まさか、こんな形で父さんの偉大さを再確認させられるとは思ってもみなかったな。」

一族の誰からも慕われ、頼りにされていた父と違い自分は世紀の大テロリスト。
タクラマカン砂漠でのミッションにしても…

「?タクラマカン……?」

不意に浮かんだ記憶の断片。
その瞬間に心臓が早鐘を打つように激しく動悸し始め、全身から汗が噴き出してくる。

「なん…だ……!?何が……あった………!!?」

思い出すな……

「うる…さい……!僕は……!」

忘れていろ……

「全部背負うって……決めたんだ…!!」

思い出すな!!

「っ!はぁはぁ……」

脳に響く自分の声とひどい頭痛から解放されたユーノは操縦桿を握って体を支えながらなんとか顔をあげて前を見る。

「タクラマカン砂漠……なにがあったのか知らないけど、今は早くヴィヴィオに顔を見せないとまた心配させちゃうから急がないと。」

頭の中でとぐろを巻くもやもやを隅に追いやり、ヴィヴィオの顔を思い浮かべると幾分か動悸もおさまってきた。
しかし、これが自分を苦しめ続けることをユーノはこの時まだ気付いていなかった。






機動六課隊舎 隊員寮

「ふぇ~……」

ヴィヴィオはユーノの膝の上で感嘆の声を上げる。
そんな彼女の視線の先にはなのはがナレーションに合わせてビルの間をかいくぐり目標のスフィアを撃破していく。

「なのはママすごいね~!」

「だね~。」

和んだ空気を醸し出しながらユーノは答える。
任務から帰った後、興味深そうになのはとフェイトの出ている教材用ビデオを見ていたヴィヴィオと一緒にそれを何となく眺めていた。

(今のところジンクスは無人機タイプしかいない。けど、空戦魔導士……いや、普通の魔導士の動きでも、MSの動きに転用されれば大きな脅威になる。)

今のところその兆候はないが、インテリジェントデバイスに使用されているAI技術を使えばできないことはないだろう。
その前になんとしてもジンクスを作り出している場所を破壊しなくてはならない。

「パパ?」

「ん?ああ、ごめん。ちょっとボーッとしてたね。何かな?」

「パパがお仕事してるビデオはないの~?」

ユーノの胸にぐさりと何かが突き刺さる。

「ヴィ、ヴィヴィオ?そこは働いてるじゃなくて、訓練しているとかじゃないのかな……?」

「だって、ヴィータふくたいちょーがパパはよくお仕事サボってるからビデオ無いって言ってたよ?」

(ヴィータめ……)

確かにユーノはたまに訓練に顔を出すだけだが、事務処理に関しては普通の人間がこなす量の軽く数倍はやっているし、シャーリーとともにデバイスなどの調整もしている。
だが、ヴィヴィオはそんなことなど知る由もないし、なのはが日ごろから魔法の訓練の仕事をしているところを見ているので、どうしても仕事=魔法の訓練と思いこんでしまっているのだ。

「パパがお空飛んでるところ見たい!」

「いや、それは……」

無理だ。
ただでさえ表舞台に出るのが嫌でビデオ教材関係の仕事はすべて断ってきていたのだから自分が出ているものなど存在するはずがない。

「見たい見たい~!!」

「うーん……」

ユーノが駄々をこね始めるヴィヴィオに困っていると、助け船が入る。

「ヴィヴィオ、あんまりパパを困らせちゃ駄目だよ。」

「ママ!」

待ちわびていたなのはの方にヴィヴィオが行ってしまい、助かったような少し残念なような思いをしていると、エリオから声をかけられる。

「ユーノさん、ストラーダなんですが…」

「重すぎた?」

「いえ、そこは大丈夫です。けど…」

「むしろ私たちの方が大変ですよ。」

エリオの後ろからティアナがゼェゼェと息を切らせながら現れる。

「……強度に合わせて出力を上げたストラーダの推進力にティアナさんたちの方がついてこれなくなったみたいで…。僕なら大丈夫ですから、もう少し推進力を落とせませんか?」

「わかった。シャーリーと少し相談してみるよ。」

ユーノは快諾してエリオをスバルたちのもとに送り出すが内心ドキドキものだった。
ストラーダの推進力についてはシャーリーと相談の上で現在のエリオが扱いきれるものより少し上に設定しておいたのだ。
そのことがばれたと思ったのだが、エリオはもう使いこなせているような口調だった。
エリオの成長速度を考えれば、数カ月で使いこなせるようになると思っていたのに、もう現在の速度に対応できている。

(すごい成長スピードだな……加えてもとから備わっていた反射神経もあいまってガードウィングの理想形になりつつある。MSのパイロットとしての素質も高いだろうな……って!!何考えてるんだ僕は!!エリオがMSに乗るわけないだろ!!)

そんなことなどあってはならない。
人を殺めた罪で苦しむなど自分たちだけで十分だ。
とくに刹那は猛反対するだろう。
いや、そもそもエリオやキャロぐらいの年齢の子供が管理局で戦っていること自体許しはしないだろう。
幼いころにゲリラにしたてられ、戦うこと以外の未来をすべて奪われてしまった。
そんな刹那からしたら、こうしてエリオとキャロが命のやり取りをしていると聞いたら、怒り狂って後先考えずに管理局を攻撃しそうだ。
だが、

「フフフ……そこを直しちゃったら刹那らしくないか。」

小声で呟きながら顔を上げると、いつの間にかヴィヴィオが目の前にやってきていた。

「どうしたの、ヴィヴィオ?」

「パパ、なのはママとフェイトさんはどっちが強いの~?」

「へ?」

そんなことなど考えたことなどなかった。
ヴィヴィオは教材用のビデオを見ていてふと思いついただけだったのだが、ある意味究極の質問だ。

(う~ん……初めてあったころはどう考えてもフェイトの方が強かったんだけど、なのはもすぐに追いついたし、何よりあの頃のから随分たってるからどっちも強くなってるだろうし……)

「パパ?」

悩むユーノの視線の先には答えを期待しながら瞳を輝かせるヴィヴィオがいる。
だが、今回ばかりは無敵の司書長もお手上げだったようだ。

「ごめんね、ヴィヴィオ。パパにもよくわからないや。」

「そっかー…」

残念そうな顔のヴィヴィオを何とかしようとするユーノだが、その後ろにいた五人の顔の方を見てしまった。
最初は呆けたような顔をしていたのだが、すぐに五人そろってああだこうだと議論を白熱させていく。
それを見たユーノは確信してしまった。
ここ数日以内に間違いなくややこしいことが起こるであろうことを。






二日後 駐機場

「というわけでっ!第一回、機動六課で最強の魔道士はだれか想像してみよう大会~~!!」

ヘリの窓ガラスが砕け散るのではないかというような大歓声が駐機場に響く。
しかし、それすらも心地いいBGMに感じながらトトカルチョが書かれたホワイトボードをバックに壇上のアルトとスバルが声を張り上げる。

「鉄板の最強候補は六人!」

「近接最強!古代ベルカ式騎士!ヴィータ副隊長とシグナム副隊長!」

「六課最高のSSランク!超長距離砲持ちの広域型魔導士!リイン曹長とのユニゾンって裏技もある八神はやて部隊長!」

「六課最高速のオールレンジアタッカー!フェイト隊長!」

「説明不要の大本命!エース・オブ・エースなのは隊長!そして~!」

スバルはビッと人込みの後ろでこそこそとバイクの整備をしていた人物を指さす。

「管理局の影の実力者!ガーディアンことユーノ司書長!」

その場にいた全員の視線を受け、ユーノは顔を赤くして愛想笑いをしながら整備をほっぽり出してその場を後にする。

「クソー!あの時嘘でもいいからどっちかはっきり答えておけばよかった!」

後悔先に立たず。
この言葉の意味を再度その身に刻みこまれたユーノであった。







聞き取り調査その1 ヴィータ

「個人戦技能?」

ヴィータは差し入れのケーキを口に運びながら首をかしげる。

「個人戦ったっていろいろあんだろ。」

「え~と…とりあえず平均的な“強さ”ってことで」

「平均的な強さだぁ?」

ほっぺたにクリームをつけたままヴィータは渋い顔をする。

「追跡戦か決闘か。戦闘状況や相性によっても左右される。どんな状況でも平均的に強いってのはようは何でも屋ってことだが、マルチスキルは対応力と生存率の上昇のためであって強さとは関係ねえぞ。」

一息ついて湯呑の中をすすったのち、ヴィータは結論を述べる。

「ま、一人の人間がその時できるのはいつだって一つのことだけだ。それが通用しなきゃ強いとは言えないだろ。それともなにか?お前は強くなりたいんじゃなくて、便利な何でも屋にでもなりてぇのか?」

「それは………」

当然強くなりたい。
だが、そのためにはどんな状況にも対応できるスキルが必要だと思っていた。
しかし、ヴィータはそれを強さとは関係ないと言う。

(う~ん……結局誰が一番強いのかもわからないし、そもそも強さって何なのかがわからなくなっちゃったよ。)







調査その2 フェイト

「フェイトさんの個人戦?戦闘訓練は好きな方だよね。まあ、間違っても戦うことが好きなわけじゃないだろうけど。」

機材を片づけながらシャーリーはキャロの質問に答える。

「なのはさんやシグナム副隊長ともよく一緒にやるし、結構負けず嫌いで見ててかわいいと思えるときがあったりとかして、キャロやエリオにとっては結構新しい側面が見られるかもね。」

「へぇ……」

「まあ、そのうち分隊で別れて戦闘訓練とかやることもあるだろうし、その時に見ることができるんじゃないかな。」

軽く言うシャーリーだが、その訓練をする方からしたらたまったものではない。
なのはとヴィータの攻撃にさらされると考えただけで身の毛もよだつ。

「はぁ…」

誰が一番強いか考える前に、そのうち来るであろうその一戦でどう生き残ろうか考えるだけで精いっぱいのキャロであった。







調査その3 シグナム

「まったく。馬鹿騒ぎをしおって。」

「まあまあ、そんなお堅いこと言っちゃ駄目っスよ、シグシグ。」

「誰がシグシグだ!ったく…」

廊下を歩きながら上官である自分に対しても物怖じしないウェンディに呆れるシグナムだが、ウェンディの問いにはしっかりと答える。

「それで、六課の隊長陣の中で一番強いのは誰かという話だったな。」

「そうっス。」

「まあ、条件にもよるが、隊長陣がトーナメントでもしたら、行うたびに優勝者は違うだろうな。それぐらい力が伯仲している。ただ……」

「ただ?」

シグナムが足を止めてウェンディの方を向く。

「互角の条件で一対一だった場合、一番弱いのは…」








調査その4 はやて

「まあ、私らやろうな。」

「です。」

リインフォースと一緒にケーキをつつくはやての答えにティアナは唖然とする。

「でも、八神部隊長は総合SSですよね?」

総合でSSと言ったら単純な魔力だけでもかなり高いことになる。
だが、

「そやけど高速運用はできへんし、並列処理も苦手やからなぁ……ぶっちゃけ六課のメンバーで勝てるのってフリードとヴォルテールなしのキャロぐらいなんちゃうかな?……いや、でも最近のキャロは体力あるやろうし………あかん、体鍛えようかな?それはもうムキムキになるくらいに……」

先端だけがかけたケーキとにらめっこをしながら悩むはやてを苦笑しながら見つめるティアナに、同じく苦笑いをしていたリインフォースが話しかける。

「まあ、シグナムやヴィータちゃんたちも含めて、みんなは一対一ではやてちゃんに負ける気はないと思いますよ?でも、そのなかでもはやてちゃんが一番苦手な人は……」






調査その5 ユーノ

「僕だろうね。自慢でも何でもなくて。」

庭先でザフィーラと日向ぼっこをしながら寝息を立てるヴィヴィオをなでながらユーノはアルトの問いに答える。

「でも、砲撃を撃たれたら……」

「そんなことさせる前に懐に飛び込んで一撃。それで終了さ。」

ザフィーラは起きているが、ユーノと同意見なのか何も反論しない。

「もっとも、逆にいえばぼくが一対一でまともに戦って勝てるのははやてくらいで、他のみんなと比べて能力的に遥かに劣っているんだけどね。平均的なスピードではフェイトよりはるかに遅いし、頼みの綱の接近戦では古代ベルカ式の守護騎士の二人に劣る。おまけに射撃はろくにできないからなのはみたいな砲撃タイプに距離をとられたらワンサイドゲーム。とどめに最初にあげたはやてにも一瞬で詰められない距離からあのバカげた砲撃を撃ちこまれれば一発でアウト。それに…」

ユーノは顔を一瞬曇らせるが、すぐにいつもの穏やかな笑みを浮かべる。

「僕はみんなと違ってリンカーコアが小さいからね。術式を複雑にすることで性能を上げて対抗してるけど、それでも基本的な威力が違いすぎる。」

ユーノは立ちあがるとズボンについた芝生のかけらを払う。

「……ただ、みんなが質問の仕方を変えてくればまた違う答えを用意するんだけどね。そのヒントはたぶんなのはが用意してくれてるよ」








調査その6 なのは

「えーと、高町なのは一尉…戦闘記録…映像データ、で、検索っと。」

キーワードを打ち込んでデータが出てくるのを待つスバルだが、容量が大きすぎるためかなかなかモニターに表示されない。
仕方なく飲み物でも持ってこようと席を立とうとする。
しかし、

「スーバル♪」

「うひひゃああぁぁぁ!!?」

あまりもタイミング良く声をかけられ、椅子に座ったままくるりと180度方向を変えて慌てて敬礼する。

「ごごごご!ご苦労様ですなのはさん!!!」

「そ、そんなに驚かなくても……少しショックだよ。」

そんなに自分が怖いのかとその場で膝をついて悩み始める。

「うう……もう少しおしとやかにしていたほうがユーノ君はタイプなのかなぁ………でもでも、中途半端な教導はみんなに申し訳ないし………」

「あ、あのぉ~……?もしも~し?」

「はっ!ご、ごめんね!最近ユーノ君からの夜のアプローチが減ってて……じゃなくて!!」

なのはは大きく咳払いをしてスバルと向き合う。

「それで、隊長たちで誰が一番強いかに興味があるんだったっけ?みんな盛り上がってたよ。」

「あの、すみません。休憩中の雑談のつもりだったんですけど……」

「別にかまわないよ。よく聞かれることだしね。ところでスバル、こんな問題を聞いたことがないかな?」

「?」

「『自分より強い相手に勝つためには自分の方が相手より強くないといけない。』」

「あ…えと、聞いたことないです。」

「じゃあ、問題。『この言葉の矛盾と意味をよく考えて答えなさい。』答えは教導の時にでも聞かせてもらおうかな?」

そう言って帰ろうとしたなのはだったが、スバルの顔が呆け、頭から黒い煙が上がっているのを見て苦笑いを浮かべる。

「そ、そんなに悩まなくても……」

「すいません……意味がさっぱりわかりません。」

ブスブスと回路が焦げるような音を立てながらスバルは机の上に突っ伏す。
みかねたなのはは仕方なく助言を授けることにした。

「じゃあ、ヒントを出そうか。さっきの問題の意味はユーノ君の戦い方をよく見てればわかると思うよ。」

「ユーノさんの戦い方?」








部隊長室

質問が終わってからも、自分の前で考え込むティアナを見ていたはやてがクスリと笑う。

「ティアナ、誰が最強かについてのヒントをあげよか。」

はやての言葉にティアナは思考を一時中断して顔を上げる。

「赴任してきた初日にティアナ達が喧嘩を売ったユーノ君やけど、魔導士としてのランクはどれくらいやと思う?」

「う……」

忘れたい過去を織り交ぜたはやての質問の答えについて考える。
自分が無茶をした日の模擬戦。
聞いた話によるとユーノはなのはと互角以上の戦いを演じたらしい。
リミッターをかせられているとは言え、なのはの実力は相当なものだ。

「AAAくらいですかね……何せ噂になるくらいすごい人ですし…って!!何笑ってるんですか!!」

机をバンバン叩きながら大笑いするはやて。
もっと上だったのかと思ったティアナだったが、答えは違っていた。

「ユーノ君は空戦でC、陸戦と結界魔導士としてもB止まりや。」

「え!!?」

嘘だ。
あれだけの実力者が自分たちと同じくらいのランクだとは信じられない。

「せやけど、ユーノ君はいざとなったらSランクの魔導士だろうとなんだろうとねじ伏せる。この意味を考えてみればおのずと答えは出るんとちゃうかな?」

自分よりはるかに強大な相手に勝つ。
それをやってのけているというユーノ。
ならば、本人に聞けば何かわかるのではないか。







駐機場

「というわけでヒントを教えてください。」

「スバル……君はもう少し自分で考えてから来なさい。それにティアナまで……」

頬をオイルの黒で染めたユーノが苦笑しながら尋ねてきたスバルとティアナの話に耳を傾ける。
人がいなくなりようやくバイクをいじれると思ってやってきたのに、今度はこの二人につかまってしまった。
どうやら今日はとことん邪魔が入る日らしい。

「それで、なのはとはやてから僕がヒントだって言われてここに来たと。」

「はい。」

ユーノは汚れているのにも構わずに首にかけていたタオルで額の汗をぬぐう。

「まあ、簡潔に言っちゃうとみんなが言っている『誰が一番強い?』っていうのはナンセンスな問いなんだよね。」

「ナンセンス?」

「極端な話をすると、ライオンが強いかサメが強いかって質問と同じなんだよ。まったく違う力を持った者同士を比べたって意味なんてない。あえて問うとするならもう少し頭を使わないと。」

「「?」」

首をかしげる二人を見て、ユーノはいたずらっ子のような笑みを浮かべる。

「スバルは全力のなのはに勝つとするならどうする?」

「え!!?む、無理ですよ!!勝てるわけないじゃないですか!!」

顔が二つに見えるくらいに激しく首を横に振るスバル。
しかし、そんな彼女とは対照的にティアナはハッとする。

「……ティアナは気付いたみたいだね。」

「はい!」

「ティア?どういうこと?」

「つまりね、私たちは『誰が強いか』の聞き方を間違えてたのよ。もう一度隊長たちに……」

その時、隊舎の中を警報の音が駆け巡る。

『各員に通達。ポイントD-23においてガジェット、ならびにアンノウンの反応を感知。フォワード部隊は現地へ向かって確認をお願いします。』

「……答え合わせは後だね。」

「あはは……」

「それじゃ、行こうか……ん?」

ユーノはポケットの中から振動を感じ、それを生み出していた携帯を手に取り、画面を見る。

「……ごめん、先に行っててくれるかな?お世話になってる人から頼み事みたいでね。」

「えー……タイミング悪いですね~。」

「まあ、こっちの要件もそっちと関係があるみたいだから、すぐに応援に行けると思うよ。」

「じゃあ、お先に。」



スバルとティアナが先にいったのを確認するとユーノは着替えてバイクにまたがり、耳元のマイクのスイッチを押す。

「ソリッド、外部迷彩皮膜解除。」

ヘルメットをかぶり、エンジンをスタートさせると自然とハンドルを握る手に力がこもってしまう。

「今度はこんなに街に近いところに出すなんて……何を考えている、ファルベル・ブリング!!」

ユーノは怒りにまかせてバイクとともに外へ飛び出すが、後ろに隠れていた二つの影を見落としていた。

「じゃあよろしくね、ザフィーラ。」

「承知した。」








クラナガン西部 郊外

その少女は風が吹き抜けるビルの上でただひたすらに待ち続けていた。
自分が今握っている砲身から放たれる一撃を受け止めることになるであろう獲物の存在を。
だが、

「ウェンディ……本当に管理局についてしまったの?」

不意に自分たちのもとを離れて行ってしまった妹に問いかけてみる。
トラブルメーカーだったが、明るかった彼女がいなくなって急に普段の生活が寂しく感じられるようになってしまった。
できることなら連れ戻したいが、姉やスカリエッティたちは連れ戻す必要はないと言っていた。

「……今は余計なことを考えちゃ駄目だ。目的を遂行することだけを考えないと。」

No.10、ディエチは余計な思考を断ち切り、完全な狙撃マシーンへと自身の心を変化させる。

「……来た。」






「見~つけた!」

ウェンディは後ろにいる四人のことなど忘れて相棒とともに新型のガジェットのもとへと飛翔する。
が、その一歩手前で彼女は急ブレーキをかけた。

「どうしたの、ウェンディ?」

「これ……もう壊れてるっス。しかも、これは……」

外部の損傷は全く見当たらず、機能だけが完全に停止している。
これとよく同じ状態をウェンディは以前フォンに見せてもらって知っている。

(GN粒子による電子機器の異常……なんでこんなところで?)

「ねぇねぇ、これって壊れてるの?」

「あんたは何でも不用意に触るな。」

ツンツンと丸いボディをつつくスバルの頭に手刀を打ち込みながらティアナは辺りの様子をうかがう。
近くには反応は感じられないし、報告にあった例のアンノウンの姿も見えない。
異常なものといえばここにぽつんと一機だけ放置されたガジェットくらいのものだ。

(……?)

何かがおかしい。
最初に遭遇したガジェットは普通に稼働していたし、こんな大型のものは一機もなかった。

「ウェンディ、あんたの仲間の中に狙撃ができるやつっている?」

「いるっスよ。ディエチっつって、普段からそんなに喋んなくてむっつりスケベタイプの…」

「そういうどうでもいい情報じゃなくて、どういう能力なのかだけ簡潔に教えてくれない?」

ウェンディは不満そうな顔をするが、苛立つティアナを前に仕方なく説明を始める。

「え~と、確かディエチのISはイノーメンスカノンっていうやつで、早い話がとんでもない砲撃をとんでもなく正確に撃ち込む能力で、こんな逃げ場のないところに追い込まれたら……!」

そこまで口にしてウェンディもティアナがこんなことを聞いてきた理由に気付いた。

「みんな、前の方に全力で防御を展開して!!急いで!!」

ティアナが号令するのが早いか、それはすぐに向かってきた。
建物と建物の間を通ってこちらに向かってくる巨大な砲撃。
その衝撃で触れていないはずの壁が砲撃に吸い込まれるようにはがれていく。
五人は固まってプロテクションを重ねがけすることで激流に耐えようとするが、じりじりと後ろに押されていく。
そしてついに、

「わああああぁぁぁぁぁ!!」

「きゃあああぁぁぁぁぁ!!」

「エリオ!!ティア!!」

スバルが必死に手を伸ばしたのもむなしく、エリオとティアナははるか後方へと吹き飛ばされてしまう。

「大丈夫ですか!?」

「っつぅ……な、何とか。」

「こっちも……」

二人の声と無事な姿を見てキャロはホッとする。
幸い二人は少し離れたところで踏ん張り、事なきを得たようだ。

「とにかくここを離れましょう。このままじゃいい的……!?」

ティアナは上から降り注いできた瓦礫に気付くと慌てて後ろに下がるが、その瓦礫によって完全にスバルたちと分断されてしまう。
しかも、瓦礫の嵐はそれで終わりではなく空に赤い光が奔るたびに次々と襲ってくる。

「ティア!!」

「こっちは大丈夫!!それよりいったん分かれて退くわよ!!」

「了解!」

仕方なく分断されたまま撤退を開始するティアナ達だったが、瓦礫の嵐はティアナとエリオを執拗に狙ってくる。

「ティアナさん、これって…」

「ええ、間違いなく狙われてるのは私たちね。」

前に落ちてきたコンクリートの塊を撃ち砕きながらうなずく。
おそらく、狙ってきているのは自分ではなく、特殊な生まれ方をしているエリオだろう。
ティアナはそう思っていた。
だが、二人の目の前に例の巨大ロボットが立ちふさがった時、その推測が違っていたことに気付かされた。

「アンノウン!!」

ティアナは威嚇の意味も込めて顔へめがけて引き金を引く。
しかし、白い騎士はそんなものなどモノともせずにティアナをその手につかむ。

「く…あああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「ティアナさん!!くそぉぉぉぉぉ!!」

エリオは破れかぶれで突撃していくが、触れるどころか手の平を振った時に発生した風に飛ばされて廃ビルの屋上に背中から落下する。

「エリ……オ……うああぁぁぁぁぁっっ!!!!」

気絶してピクリとも動かないエリオの上で死なない程度に、しかし抵抗することが不可能な力で体を絞め上げられて、ティアナの視界は激痛でスパークを起こしたように明滅する。

(狙いは……エリオじゃなくて私……!!?でも、なんで……!?)






?????

「ククク……君は凡人などではないさ。あれの操縦者としては申し分のない素質を持っている。」

ファルベルはワインを片手にジンクスのカメラアイから送られてくるティアナを恍惚の表情で眺める。
そして、手元のグラスにある赤い液体を飲み干すとまるで聖者の再誕を祝うようにティアナへ向けて飲み口を傾ける。

「感謝したまえ……あの無能な男の妹である君に、私が存在意義を与えてやるのだからな。ククク……ハハハハハ!!!」






クラナガン 研究所跡地

人気のないクラナガンの郊外。
住む人間がただでさえ少ないこの場所で、レジアスの管理下にあることからもこの研究所の跡地に近づく者は少ない。
そんな静寂の中にある場所に、バイクのエンジン音が響く。

「レジアスさんもいい場所を用意してくれたよ。目標ポイントにいくまで人目を避けないといけないのがちょっといただけないけど、それでもいい場所だよ。」

「う~……ヴィヴィオはもっときれいなところがいい~。」

「いやいや、わざわざ兵器の隠し場所が綺麗なところである必要は……ってぇぇぇぇぇぇ!!!!?」

いるはずがない人間の声にヘルメットを抱えたままその場に尻もちをついて驚くユーノ。
そんな彼をオッドアイの少女と青い毛の狼が見下ろしている。

「ヴィヴィオ!!?ザフィーラさんまで!!?」

「パパの働くところ見たいって言ったら、ザフィーラが連れてってくれるって。」

腰を抜かしたままうらみがましい視線でザフィーラを睨みつけるが、ザフィーラは真っ直ぐに見つめ返してくる。

「ユーノ、このことをみなには話すつもりはない。だが、お前が我らに刃を向けるのなら、我らもまたお前に刃を向けることになる。そのことを忘れるな。」

「……そのことより、ヴィヴィオをここには連れてきて欲しくなかったです。」

二人の後ろでソリッドの足に抱きついてはしゃぐヴィヴィオを見ながらザフィーラも少々軽率だったかと考え始める。

「……このへんに託児所ってないですかね?」

「あると思うか?」

「ないですよね。」

「…………………………」

「…………………………」

「はぁ……僕が連れて行きます。ザフィーラさんはティアナ達の援護に向かってください。いくよ、ヴィヴィオ。」

「は~い!!」

ユーノはヴィヴィオを抱き上げると、ソリッドのハッチまで飛んでいく。

「ユーノ!!」

コックピットに乗り込もうとしたユーノにザフィーラが叫ぶ。

「死ぬなよ。」

「ハハッ!了解!ユーノ・スクライア、何が何でも生き残る!」

「ヴィヴィオも!」





コックピットの席に座ったユーノは自分の膝の上にヴィヴィオを乗せて自身のデバイス、ソリッドをしっかりと握らせ、バインドを使って適度な力で自分に固定する。
少し視界が狭まったが、この程度ならサーチを併用すれば問題はない。

「ヴィヴィオ、いい子にしててね。」

「うん…わぷ!」

ヴィヴィオに自分のしていたパイロットスーツのヘルメットをかぶせ、足元のペダルをしっかりと踏みしめる。

「ソリッド、目標を粉砕する!」

ソリッドの目に光がともり、主の呼び声に応えるように背中から光を放つ。
そして、戦闘機やヘリとは違った澄んだ音を上げながら空高く舞い上がっていった。






クラナガン西部 郊外

「早く来い!!死にたいのか!!」

「ノ……ノーヴェ……やっぱ、マレーネに……乗っちゃ駄目…っスか?」

ウェンディは先頭を走る自分の姉妹、ノーヴェに尋ねるが、殿を務めるセッテが代わって答える。

「何度も言わせないでください。ここでうかつに魔法を使って魔力を感知されればそこまでです。つらいでしょうが今しばらく辛抱してください。」

「はぁはぁ……なのはさんの…はぁ……教導より……はぁっ…きつい!」

流石のスバルも肩で息をしながら背中の上にいる足を挫いたキャロを落とさないように気をつけながら走る。

ティアナ達と分断されてから数分後、スバルたちもまたジンクスの襲撃にさらされていたのだが、その危機を救ったのはウェンディの姉妹たちだった。

「言っておくけど、私はまだあなたたちのことを許しちゃいないよ。ティアとエリオの身に何かあったら、絶対に許さない……!」

「ああ!?助けてもらっといてその言い草はなんだ、タイプゼロ・セカンド!」

「ま、まあまあ!今は言い争ってる場合じゃないっすよ!!」

ノーヴェとスバルの間に割って入ってなだめるウェンディだが、今度は彼女が非難の的になる。

「ウェンディ、なんで私たちを裏切ったの?それと私は別にむっつりスケベじゃない。」

「だから誤解だって言ってるっしょ!機動六課のみんなにはただ普通にお世話になってるだけで……」

「少なくとも私たちはそう思っていません。さらなる説明を要求します。」

「それはあとでおいおい説明を…」

その時、六人のすぐ後ろに巨大な岩塊が落下して地面を大きく揺らす。

「……言い争う前にここから離れることを提案したいんだけど。」

「「「「全力で同意させていただきます。」」」」

「です……」

「キュク!」

再び喋るのをやめて全速力で走りだすが、その前に土煙とともにジンクスが降り立つ。
四つの紫の瞳が足元にいる小人たちを見渡し、その中にいた青髪の少女の方へと手を伸ばしていく。

「やばっ!!」

「スバル!!」

スバルは後ろに跳ぼうとするが、そこはすでに先程の岩塊でふさがれてしまっている。
白い手がスバルの視界を埋め尽くし、彼女に否応なしに絶望を与える。
だが、その絶望は空を覆う瑠璃色の輝きによって打ち砕かれた。

まず聞こえてきたのは金属同士がこすれあう不快な音。
続いて、スバルへと伸ばされていた手が空中を舞って離れた地点にドスンという音をたてて落下する。
そして、風が楽器にでもなったような澄んだ音を従えた萌黄色の右腕がジンクスの頭を叩き潰した。

スバルはかつて空港でなのはが自分を助けてくれたときのようにその姿に見とれていた。
限りなく人間に近い姿をしているが、人間とは比べ物にならないほどの力強さと存在感。
そして何より、背中から溢れだしている光の温かさに戦場にいることすら忘れてしまいそうな安堵感を感じられる。

「天使…?」

「何してるんスかスバル!!早くこっち!!」

「あ…うん……」

生返事を返すと名残惜しそうにその場を離れるが、スバルは何度も自分たちを助けてくれたロボットの方を振り返っていた。
一方、ソリッドに乗るユーノはその姿を苦笑いとともに見ていた。

「そんな何度も振り返らないで早く行ってよ。じゃないと、こいつらの相手を安心してできないじゃないか。」

正面の上空には三機のジンクスがビームライフルの銃口をソリッドに向け、今にも発射しそうな状態である。
だが、ユーノはソリッドをビルより少し上を滑らせながらライフルで的確に三機の頭部、両腕、胸部を撃ち抜いて沈黙させる。

「パパすごい!!」

ヴィヴィオはヘルメット越しに賛辞を送るが、今のユーノにはそれすら届かない。
今日のユーノはそれほどまでに集中していた。

(なんでだろう……勘を取り戻してきた以上に、ソリッドの動きが軽いように感じる。まるで、ソリッドと僕が一体になったみたいだ。)

操縦桿が自分の腕、ペダルが自分の足、周りのディスプレイに映る光景が自分の目に直に飛び込んでくるような感覚。
MSの操縦をする者ならば一度は体験したことがあるであろう感覚だろうが、今のユーノにはそれすらも当てはまらないように思えてくるほどに快調だ。
だが、

(気分の方は最悪だな。)

大したことはないのだが、脳をこじ開けられるような感覚がついてまわる。
しかし、今はそんなことを気にしている余裕はない。

「……!十二時の方向に反応……こっちはティアナとエリオか!」

ユーノの足の裏の動きに反応してソリッドが猛スピードで移動を開始する。
ヴィヴィオが小さな体にかかるGに少し辛そうにするが、ソリッド(デバイス)のフィールドを纏っているので耐えられるレベルにまでは負担は軽減されているはずだ。

「……見えた!!」

目標を視界にとらえたユーノはすぐにでもシールドバスターライフルを発射しようとするが、それを見た瞬間に凍りついた。
屋上には激しく吐血しているエリオ。
そして、ジンクスの手の中にはぐったりとしたティアナが目を閉じている。

「パパ!!お兄ちゃんとお姉ちゃんが!!」

「わかってる!!けど……」

下手に手を出せばティアナとエリオもただでは済まない。
それがわかっているのかジンクスの方も自分の目の前で静止したソリッドを見つめるだけで、とくに行動を起こす気配はない。
と、

『ククク……まさかナイト四機をこうも簡単に墜とすとはな。鮮やかな手並みだと称賛させてもらおう。』

ジンクスから外部音声でしわがれた男の声が響く。

「……姿を見せたらどうだ、ファルベル・ブリング。」

『おっと、これは失礼。司書長殿に対して姿を見せないわけにはいかないな。』

そう言うとファルベルはソリッドのモニターにその姿を現した。
首が隠れるくらいに長い白のあごひげに、白髪のオールバックからもうかなりの歳であることが分かるが、その眼は猛禽類のように爛々と輝いている。

「あ……あ……!!」

「!?ヴィヴィオ!?どうしたの!?」

『おやおや……まさか器を連れてここに来るとは。手間を省いてくれてどうもありがとう。例といってはなんだが……』

モニターの奥のファルベルの目がツゥと細くなる。
その瞬間、地上の道路を突き破ってジンクス四機がソリッドをとり囲むように現れる。

『君の死とともに最悪の犯罪者として歴史にその名を刻んであげよう。』

ソリッドへ向けて光弾が雨あられと降り注ぐ。
GNフィールドを張って対抗するものの、攻撃を受け止めすぎて薄くなった部分から何度かビームが飛び込んでくる。

「きゃあああぁぁぁぁ!!!」

ユーノは歯を食いしばって踏ん張るが、幼いヴィヴィオにこの激しい震動はかなりきつい。

「ヴィヴィ…オ……ぐあっ!!」

『ハハハハハ!!!!君との因縁もここまでだ!!いままでよく“正義”のために尽くしてくれた!!きっと父上も喜ぶだろう!!』

(!?なにを……言っている…!)

『それでは、一足先にあの世に行っていてくれたまえ。では、ごきげんよう。』

「待…て……グアアアァァァァァッ!!」

モニターから消えていくファルベルを掴もうとするが、ジンクスたちの猛攻がそれを許さない。
そんな中、ユーノの目にティアナとエリオの姿が飛び込んでくる。

(また……救えない……。ガンダムに乗ってるのに………エレナの願いを……引き継いだのに……!!また何もできないのか………!!)

エレナの、ロックオンの、そして父の死に様が浮かんでは消えていく。
それと同時に自分の罪も走馬灯としてよみがえる。
ソリッドの手に小さな赤いしみがいくつもついている。
辺りを見渡せばヘリオンが一面に転がり、そのすべてが胸の部分から赤い液体をこぼしている。
忘れてはいけない自分の罪。
この手で未来を刈り取った感触。
そして、その時に目覚めた力。



全てを、思い出した。



「う……ああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

ソリッドの足元に巨大な魔法陣が出現し、辺りを飲み込んで行く。
魔法陣にのみ込まれたジンクスは、次々に動きを止めて地上へと落下していく。
ソリッドはジンクスからティアナをとり返すと、優しくエリオの隣に寝かせてから、ジンクスたちを破壊した。
だが、

「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」

ユーノの咆哮は止まらない。
この手で人の命を奪った感触が昨日の出来事のように甦る。
同時に、なのはたちとの幸せだった日々の思い出がこなごなに砕け散っていくのを、ユーノははっきりと感じていた。






機動六課隊舎 医務室

緑色の光がエリオの体の上をゆっくりと動く。

「……うん!これなら問題ないわね。もともと思ったほど深刻じゃなかったこともあるんでしょうけど、どこかの誰かさんがかけた治癒魔法が効いたのね。」

「でも、誰なんでしょう?状況から考えるに私たちを助けてくれたロボットに乗っていた人間なんでしょうけど、誰なんだろう……」

包帯が巻かれたわき腹を押さえるティアナの質問にシャマルは視線を落とすが、すぐにいつもの笑顔を作る。

「それより、なのはちゃんの質問の答えは出たのかしら?」

「「…はい!」」

シャマルの問いかけに二人は胸を張って答えた。








ロビー

負傷したエリオ、ティアナを除く三人がなのはと向かい合っている。

「それで、答えは出たのかな?」

「もちっス!」

ウェンディは自慢げにVサインを見せてニカッと笑う。

「私たちは『誰が一番強いか?』ってなのはさんたちに聞いたけど、質問するとするなら、『他の隊長たちに勝つとしたらどうするか?』だったんです。」

「その心は?」

「つまり、自分より総合力で上回る相手に勝つためには、自分の持つ相手よりも優れた部分を使って戦う。さらに、チームで戦うことでそれぞれの持つ穴を埋めることができる。……という答えでどうでしょうか?」

スバルの答えになのはは思わず笑顔を見せる。
この答えを聞いただけで、自分が行ってきたことが間違っていなかったことが証明された。
そんな気がしたのだ。

「じゃあ、その答えが正しいかどうかはこれからの実地や訓練で確かめていこうか。」

「えぇっ!!?」

「合ってるかどうか教えてくれないんですか!?」

「キュク!!」

「大丈夫だよ。明日は分隊で別れての模擬戦をやるからその時にわかるんじゃないかな♪」

「「「えぇっ!?」」」

心底楽しそうななのはと対照的に、さぁっと顔が蒼くなる三人と一匹。



その次の日、スバル、エリオ、ウェンディの三人だけでなくキャロとティアナの食事量も増えて、周りを驚かせることとなった。







廊下

治療が終了したエリオとティアナはユーノの部屋を目指して歩いていた。
自分たちなりに導きだした答え。
たとえ相手がどれほど強大でも、策と信念によってねじ伏せる。
それを教えてくれたユーノに答えを聞いてほしい。
そう思ってユーノの部屋の前までたどり着いたのだが、

「?ヴィヴィオ?」

扉の前でヴィヴィオが両腕を精いっぱい広げて仁王立ちしている。

「ヴィヴィオ、ユーノさんいるかな?私たち、ユーノさんに話があるんだけど…」

「駄目!」

予想外の大きな声に二人は目を丸くする。

「今、パパはここの奥の方が痛いって泣いてるの!!だから会っちゃ駄目!!」

「でも…」

「ちょいちょい。」

すぐそばにいたヴァイスが二人を手招きして呼び寄せ、その場から引き離す。

「俺もついさっき会いに行ったんだけどな。なんか、様子が変だったんだよな。」

「変?」

「ああ。なんつーか、笑いがぎこちないって言うか……もろ作り笑顔で、無理してるって感じだったな。そんで、すぐにヴィヴィオに部屋をおん出されたってわけさ。」

ヴァイスの話を聞いて二人は顔を見合わせる。
数時間前は何事もなかったのに、今になって急に様子が変わった。
思い当たる理由は一つしかない。

(任務に行く前に言ってた知り合いからの頼みごと?でも、そこで一体何が……)

ふと、ティアナは点と点を結び付けてみる。

任務に参加しなかったユーノ。
最近騒がれているアンノウンを撃破している存在。
完璧といっても差し支えのない治療。

あまりにも重なりすぎている偶然。
だが、

(まさかね……だいたい、あんなでかいものを動かすなんてホイホイできることじゃないわよ。)

あり得ない仮定を排除してティアナは自嘲する。

「それじゃ、僕たちは帰りましょうか。いつまでもここにいちゃ迷惑だろうし。」

「賛成だ。ついでにエリオは俺の部屋によってエロ本でも借りてくか?」

「ヴァイス陸曹、セクハラですよ。」

ティアナの若干厳しめの突っ込みを頭で受けとめながら歩いていくヴァイス。
しかし、軽口とは対照的に先程のユーノのことが気になってしょうがない。

(まったく……人を撃った後みたいな顔して。若いのに無理なんてするもんじゃないっすよ?)

そう言いたいのだが、今日のところはフォローを入れることは無理なようなので、明日までエリオをどうからかおうか算段をたてるのだった。






?????

暗い空間の中、大きなスクリーンから放たれる翠の光だけで十分すぎるほどの明かりを得ていた。
その光源であるスクリーンに映っているのは巨大な魔法陣の上で両手を広げている萌黄色の巨人の姿。
そして、それに服従するように力を失っていく白い巨人をファルベルは渋い顔もせずにじっと見つめていた。

「この能力は……。っ!くははっ!そういうことか!!」

翠玉人。
19年前の大量虐殺。
そして、プログラムを支配する力。

「なるほど、なるほど………どうやら君との縁は私が考えていた以上に深く、そして長い付き合いになりそうだ……ククク……」

故郷も、育ての親も奪われた少年の復讐譚。
そんなB級映画のキャッチコピーのような言葉で言い表してしまう自分がどうしようもなくバカバカしい存在に思えてくるが、そんな言葉を当てはめられてしまう方がよほど愚かというべきだろう。
少なくとも、ファルベルはそう考えている。

「さて、もうそろそろフィナーレか……スカリエッティにゆりかごをくれてやるのは少々癪だが、あんな古臭い骨董品よりこちらの方がはるかに使える。」

スクリーンに映されていた映像が切り替わり、今までユーノが倒してきた数とは比べ物にならないほどの大量のジンクスが並んでいる光景が画面いっぱいに広がる。

「コピーには時間がかかったが、製造法さえわかれば管理局なら資源も場所も確保できる。そして……」

ファルベルは机の上の資料を手元に持ってくる。

「多くの人間の思考もな……」

書類に書かれていたのはミッド、ベルカ、その他の過激派たちのリストだ。

「力を授ける見返りに君たちのアイデアをいただこうか。せいぜい有用な技術を生み出してくれたまえ。エンジェルすら上回るような技術を、な……」











少女たちは強さの意味を知る
だが、守護者が求める強さの持つ意味は、誰も知らない







あとがき・・・・・・・・・・・・・という名の近況報告

ロ「コミック版の話&能力完全開放の第12話でした。」

ユ「今回はいやに時間がかかったね。」

ロ「……最近リアルのほうが忙しくなってきたので更新が少し遅れてしまいました(汗)。これからは本当に不定期更新になるかもしれません。偉い遅いなオイ!と思ったら今度はえらい早いなオイ!なんてことがあるかもしれませんが、一応、週一ペースは守っていきたいと思います。」

な「言わなきゃいけないのはそれだけじゃないでしょ(怒)。」

ロ「……みたらしだんごさんの指摘を受け、secondのストーリーを練り直しているので、secondに入ったらさらに自転車操業になるかもしれません。それでもよろしければこれからもお付き合いください。」

ユ「沙慈が聞いたら喜びそうだけどね。」

ロ「……いろいろ問題は山積みですが、それでも頑張りたいと思います。では、ゲストの紹介を省いて解説へ行きます。」

ユ「ようやく能力全開になりました。やっとだよ!!」

ロ「お前今までどんだけ不満だったんだよ。」

な「さらにティアナにパイロットフラグ。これいいの?」

ロ「というかまだ何人か乗るやつはいるよ。まあ、そのなかでもティアナは結構活躍させるつもりだったから一足先に出しといた。」

な「私は?」

ロ「なのはさん、ネタバレって知ってる?」

魔王「わ・た・し・は?」

ロ「か…活躍できるよう努力させていただきます。だからアクセルシューターを引っ込めて……」

ユ「……これ以上僕の愛しいなのはの怖い姿を見たくないので次回予告にいきます。」

な「え!?あ、はい!!……公開意見陳述会の警備を担当することになった機動六課。(キャピ♪)」

ユ「(キャピって……)しかし、そこへスカリエッティ引きいるナンバーズが襲いかかる!」

ロ「地下でフォンと対峙するユーノ。その時、フォンの口から放たれた言葉に怒りを爆発させる!」

な「ユーノ君とフォン・スパーク。勝利の女神はどちらに微笑むのか!?」

ユ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!では、せーの……」

「「「次回をお楽しみに!!」」」



[18122] 13.激怒
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/10/20 21:17
……ある日を境に、僕を取り巻く環境は一変した。
ビルも、家も、病院も、建物すべてが空虚なハリボテに見えた。
どんなに素晴らしい音楽もただの空気の振動としてしか感じられない。
花のにおいをかいでも何もわからないし、思い出そうとしても思い出せない。
どんなものを口に入れても味がしない、食感もない。
人生で五感がここまで不要だと思うことは後にも先にもないだろう。
それでも、みんなが心配するから無理に笑うようになった。
一人になった時だけが、涙を流すことができる唯一の機会だった。
……一人でいるほうが落ち着いた。

僕の目に色彩が戻るのは、本を読んでいる時か遺跡の発掘に従事している時だけ。
皮肉なことに、それが幸いして遺跡の発掘では大きな功績を上げることになった。
けれど、それが終わってしまえば再び悲しみが込み上げてくる。
それでも、誰にも泣いているところを見せちゃいけなかった。
……どうしようもなく、孤独だった。

気付けば、僕は人に、一族のみんなにさえも心を開くことができなくなってしまっていた。



そんな人生を三年も過ごしていたある日、僕は彼女と出会った。
世界に、色が戻った。
その後もたくさんの友人に恵まれ、つらい別れを繰り返しながらもここまで歩いてくることができた。
僕を好きだと、父だと言ってくれる二人のために残り少ないであろうこの命を使いたい。
けど……





魔導戦士ガンダム00 the guardian 13.激怒

ロビー

「……というわけで、明後日の公開意見陳述会のシフトは今説明したとおりや。全員気を引き締めて…」

誰もが真っ直ぐ立ってはやての言葉に耳を傾ける中、ユーノだけが少し離れたところで壁に寄りかかって俯いていた。
ファルベルと接触したときにほとんどの記憶は取り戻した。
最初は自分の中で整理をつけられず、周りに余計な心配をかけてしまったが、もう動揺している時間さえも惜しい。
一刻も早くファルベルの陰謀を挫いて向こうに戻らなければならない。

「オイ!!聞いてんのか!!」

「いたっ!」

真面目に聞いていないと思われたのか、ヴィータがユーノのわき腹を小突く。
小さい体格の割には強い力でやられたため、ユーノは思わず叩かれた部分を押さえる。

「言っとくけど、今回の任務ではサボらせるつもりはないからな。」

「つつ……了解。」

ヴィータはわき腹をなでるユーノを放って自分の部屋の方向へと戻っていく。
よく見れば、他の面々も思い思いの場所へ散っていっている。
どうやら、はやての話が終わったようだ。

「それじゃ、僕も……」

「ユーノ君。」

「?なのは?それにヴィヴィオも。」

呼びとめられて振り向いた先には、なのはとヴィヴィオがいた。
ファルベルと接触してからなんとなく会いづらくて、顔を合わせることも話をすることもそんなになかったのでこうして話しかけられるのも久しぶりだ。

「私も休みをとったし、今日は一日家族水入らずで過ごさない?」

「でも……」

「教導はヴィータちゃんがやってくれるって。それに…」

なのはが苦笑しながら心配そうな顔をしているヴィヴィオの頭をなでる。

「ヴィヴィオも一緒にいたいって。」

「ヴィヴィオ……」

失念していた。
ヴィヴィオは自分が苦しむ姿を誰よりも間近で見ていたのだ。
そうでなくても、彼女は人の心の機微に敏感なのだ。
そんなヴィヴィオが自分を心配しないはずがない。

いや、ヴィヴィオに限った話ではない。
間違いなく他のみんなにも心配をかけているだろう。

「ごめんね、心配かけて。パパはもう大丈夫だから、そんな顔しないで。」

「ホント……?」

「本当の本当さ。ほら、今パパはここの奥の方で泣いているかな?」

ヴィヴィオの手を自分の左胸に当てて問いかける。
規則的な鼓動がヴィヴィオの手の平に伝わり、それがユーノの気持ちを伝えていく。

ヴィヴィオに笑顔が戻ると、ユーノは彼女を肩車して玄関までの道のりを歩きだす。

「今日はヴィヴィオが好きなところに連れて行ってあげるよ!」

「やったぁ!!」

「フフフ……よかったね、ヴィヴィオ。」

「うん!」

「なんなら、なのはの好きなところにも連れてってあげるよ。」

「え!?」

「久々にデートも悪くないだろう?それとも、ヴィヴィオがいるから恥ずかしい?」

「そんなことないけど……」

「じゃあ、決まりだ。」

珍しく強引に自分の意見を押し通したユーノに連れられ、なのはは紅潮しながら、それでもヴィヴィオと同じくらい嬉しそうにユーノの後についていった。




その日、三人はいろいろなところを回った。
スバルがよく行くという露店のアイス屋で五段乗せに挑戦。
シャーリーがエリオとキャロに教えていたデートコースを少し照れながら三人で手をつないで歩く。
ティアナが訓練生時代によく通ったというファーストフード店でそれぞれ違う新商品を三人で頼んで分け合った。
八神家御用達の食料品販売店で、二人でこの事件がひと段落ついたころに作る料理を相談した。

そんな一日を過ごしたのち、くたびれて眠ったヴィヴィオを背負って部屋に戻ったユーノは帰り道で買ったソフトドリンクを口にする。
その瞬間、ユーノの口元がへの字に曲がる。

「……よくこんな甘ったるいものをみんな喜んで飲むね。」

「私は好きだけどなぁ、この味。」

なのははユーノの手から缶を受け取るとおいしそうに飲み干す。

「えへへ……いちごミルク+ユーノ君味♪」

「素面でそれじゃ、アルコールはやめておいた方が正解だね。」

猫のように口の周りについたピンク色の液体をなめとるなのはの姿にユーノは苦笑いをしながらパジャマに着替えようとする。
すると、上半身をさらした瞬間に背中に柔らかい感触が押し付けられた。

「……どうしたの?今日はやけに甘えるね。」

「……ねぇ、覚えてる?帰ってきたときにした約束。」

「どこにも行かないで……でしょ。覚えてるよ。」

「よろしい…♥」

ユーノを抱きしめる腕の力が少し強くなるが、ユーノは優しくなのはの腕を振りほどく。
少し不満そうに顔を膨らませるなのはの姿がおかしく吹き出してしまうが、なのはの手によってヴィヴィオが寝ているベッドの横にあるソファーの上に押し倒されたことで黙り込んでしまう。
そしてまた、押し倒した本人であるなのはも真剣な顔でユーノを見つめる。

「なんだか、最近のユーノ君があの時の姿にだぶって見えるんだ。」

「あの時…?」

「私が無茶して失敗したあの時。」

「ああ……」

なのはの悲しそうな笑顔で思い出す。
なのははいまだに自分を責めているようだが、ユーノも自分で無茶をしたと思っている。
そして、

(みんなに出会えた……)

決していいことばかりではないが、新たに出会った仲間と絆をつなぐことができた。

「あの時とだぶるって……?」

優しく、壊れ物を扱うように、不安という名の病巣を心から取り除くようになのはの腰に手を回す。
なのはも、それに応えるように言葉を紡いでいく。

「ユーノ君がどこか遠くにいっちゃって、もう戻って来てくれないような、そんな気がするの。そのことを考えると、どうしようもないくらい不安で、悲しくて……!」

涙がこぼれおちそうななのはの唇にユーノの人差し指がかかり、それ以上喋れなくなる。

「なのはが不安になるなら、新しい約束を上げる。」

「新しい…約束……?」

「たとえ離れても……どれだけ時間が経とうと、必ずなのはのもとに戻ってくる。」

話しながらブラウンの髪を梳かす指は冷たく、夜でも少し蒸し暑いこの季節には気持ちいいが、それよりも瞳からこぼれおちる雫の温かさの方がなのはには嬉しく思えた。

「……本当はね、全部知ってるんだよ。」

「うん……わかってる。」

「……捕まえることだってできるんだよ。」

「でも、そうすることは望んでないんだろう?」

「……意地悪。」

真実を伝えても動じないユーノにムッとするが、言うべきことは言わなければならないだろう。

「ありがとう……」

「どういたしまして。」

いい雰囲気のまま、二人はそのまま顔を近づけていく。
が、

「むにゃ……パパ~……ママ~……ヴィヴィオ、弟の方がいい~……むにゅ…」

「「!!?!!??!!!!!!?!?!?!!!!?」」

娘発のまさかの爆弾発言(寝言)で彫刻のように固まる二人。
よくよく考えてみれば、常識に照らし合わせると今の状態は倫理的にまずい。
ユーノは上半身裸、なのははカッターシャツ姿。
そして、押し倒し、押し倒されている体勢。
すぐ横には幸せそうに寝ている娘。
その気は全くなかったのだが、第三者が見たら間違いなく勘違いするだろう。

「も、もう寝ようか!?明日も早いし!」

「ふぇ!?そ、そそそ、そうだね!!」

なのははヴィヴィオが寝ているベッドへもぐりこみ、ユーノはタオルケットを取り出して頭からかぶる。
しかし、一度意識してしまったせいもあり、二人はなかなか眠れない夜を過ごすのだった。







その外では、少し遅い外出をしている人影が三つ。
一つは肩ぐらいまで伸びた髪の横に小さな人形のような小さい影を乗せたシルエット。
二つ目は長い髪を夜風に揺らしながら、あわあわと慌てる女性。
そして、最後は両手を組んで壁に寄りかかって呆れている男。

「やれやれ……あのバカップルは相変わらずそういうところで鈍感というか、なんと言うか……」

「クロノ君、もうちょいタイミング考えて来てくれなあかんて。」

「「……/////」」

「お、さすがフェイトちゃん。やっぱあの二人と同じでうぶやなぁ~。なんやリインも八神家の一員なのにそっち系には慣れとらんみたいやし。」

「君もそうであるべきだと思うのは僕だけか?……それにしても、まさかなのはが先にばらすとはな。」

クロノはユーノに件の兵器の話を聞くために来たのに、家族そろって出かけたと聞いて帰りを待っていたのだが、その機会を逃して現在に至る。
横の二人も最初はそのつもりだったようだが、部屋の住人たちの話を聞いてその気も失せたようだ。

「けど、なんだか安心しました。やっぱりユーノさんはユーノさんです!」

「そうだね。ユーノは好きであんなことをする人じゃないから……誰よりも優しくて、少し鈍感で、意地っ張りで、私たちの大切な友達だ。」

「ああ。本当は誰よりも子供でいたいくせに、必死で背伸びしている馬鹿フェレットのままだ。」

「またまたぁ、提督さんはぁ♪素直に変わってなくて嬉しいって言えばええのに♪」

「む……」

頬を赤らめるクロノを三人で笑うと、フェイトが口を開く。

「はやて、クロノ、リイン、私たち、友達だよね?ユーノやなのは、ヴィータたちも、みんな。」

フェイトの問いに最初は呆気にとられるが、三人はすぐに答えを示す。

「当然のことを聞くんだな。」

「ですっ!」

「そういうことや。」

「うん…」







だが、これが後にJ・S事件と呼ばれる都市型テロ発生前に、この五人が集まる最後の夜となった。










二日後 地上本部

陳述会は特に問題が起きることもなく進行していた。

『……よって、アインヘリアル建造は時期尚早と判断し、計画を凍結させることを宣言させていただきます。しかし、みなさん!この機会に考えてほしいのです!多くの次元世界の問題を時空管理局という一つの組織で解決していくという負担を!!そして、その結果ないがしろにされるものがあることを!!』

「ハハハ……レジアスさん張り切りすぎだよ。」

額に血管が浮かびあがるほどの大声で熱弁するレジアスをユーノは警備を担当している地下施設への入り口から手元のモニター越しで見ている。
この調子でいったら陳述会が終わるころには脳溢血で倒れるのではないかなどと杞憂にも似た思いが頭の片隅をよぎるが、それを一笑に付してふたたび意識を切り替えようとしたその時だった。

「……?」

自分の足元を何かが通っている。
その何かはそのまま後ろの壁を伝って上へ上へと昇っていく。
その先にあるのは、

「……!管制室!?」

その時になってようやく思い出した。
最初にフォンと接触したときに彼が逃げるときに感じたあの反応。
それと全く同一のものだ。

「イージスよりスターズ、およびライトニング!何者かが管制室を目指して進行中!至急確認されたし!!」

(え!?りょ、了解!確認に向かいます!)

エリオの返事が届き、自身も管制室に向かおうとした時だった。
そこで制御されているはずの地上本部の魔導障壁が消え去った。

「マズイ!!」

それが合図だったかのように、曇った空すら見えなくなえるほどの銀色の大群が我先にとこちらに押し寄せてくる。

「ガジェット!?ご丁寧に初っ端からAMFを展開してくれちゃってまあ!!」

食いしばった歯を見せながら笑うユーノへと俵のような形のⅠ型が殺到する。
ユーノは飛び上がると壁を蹴ってその荒波の後ろに回ると、相手が振りむく前に団体の真ん中へと突撃していく。

「はあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

最低限使用できる魔力で生成した魔力刃を的確にⅠ型の目玉部分に投げつけて沈黙させていく。
しかし、それが終わればまた新手が押し寄せているという悪循環だ。
しかも、すでに下や本部の中からも反応が感知でき、あちらこちらから爆炎が上がっている。
この分ではスターズやライトニング。
そして、中にいるなのはたちも危険だ。

(いったんここを離れてティアナ達の援護に……駄目だ!おそらく敵の狙いはこの下にある出力機関だ!それを放っていくなんて無理だ!)

ならば、逆にティアナ達をここに呼ぶか。

(これもアウトだ!これだけの数じゃ、下手にティアナ達を動かすと危険だ!)

悩んでいる間にも続々とガジェットは押し寄せてくる。
そして、トラブルとはこういうときほど起きるものだ。

「くっ…うわっ!?」

足元に転がっていたガジェットの一体がユーノの足にコードをからめてその自由を奪う。

「しまっ……」

うつぶせになったユーノが顔を上げた先にはガジェットのレンズが怪しく光っている。
だが、

〈Missile Rain  Spread Shift〉

「景気良く……ばら撒けェェェェェ!!」

〈了解。〉

ミサイルを模した光が空高く舞い上がったかと思うと、次々にガジェットにぶつかって爆発音を響かせていく。

「大丈夫っスか!?」

「ウェンディ……ああ、僕は大丈夫だ。それより、他のみんなは?」

「ティア達は自分たちの場所を守ってるっス。あたしはこれを届けに行って来いって。」

そう言って開かれたウェンディの手の上には見なれた赤い宝石と金色の三角形、そして、十字架が乗っている。

「そうか、なのはたちにこれを!」

「ユノユノも一緒に来るっス!ここにいたらぼこぼこっスよ!!」

「いや、僕は…」

〈Caution!!〉

「「!!!!」」

レイジングハートの声に反応して二人が飛びのいた場所に赤い熱線が集中する。
ウェンディは空中に浮いたままユーノの腕を強引に掴むと、マレーネの翼を握らせる。

「ちょ、ちょっと!!」

「しっかりつかまって!!」

戸惑うユーノのことなど構わずに、ウェンディも翼を掴む。
そして、

「マレーネ、テールユニット展開!!」

〈了解。モード・アクセラレイト。〉

ウェンディの足元に歯車を模した魔法陣が展開され、マレーネの後部に巨大な推進機と二つの砲門が出現する。
二人に掴まれたマレーネは力を溜めるように壁に平行に留まっていたかと思うと、突風とともに壁を駆けのぼり始めた。

テールブースター。
ユーノがマレーネを作った際に、セカンドフォームとして用意していたものであり、キュリオスのそれをアブルホール用に改良したものだ。
ただ、かなり強引に改良したため長時間の使用が不可能だという欠点があるのだが、その分大火力とフェイトすらも上回る高機動を実現している。

「ウ、ウェンディ!!あそこには…」

「あそこはもう無理っス!たぶん、チンク姉ぇが…」

その時、二人が中ほどまで登ったところでそれまでいたところが地下から吹き飛ぶ。
どうやら、すでに手遅れだったようだ。

「くそっ!!」

「悔しがるのはあとっス!!今は早くレイジングハート達を…」

〈マイスター!〉

「おおおおおぉぉぉぉぉっっ!!!!」

「「うわぁぁぁぁぁぁ!?」」

マレーネの警告もむなしく、何者かの槍がマレーネのボディをかすめる。
高速で移動していたのが仇となり、少しの揺れで大きくバランスを崩した二人は空中に放り出されて壁に叩きつけられる。

「かはっ…!ウェンディ…大丈夫……?」

「あたしは平気っス……マレーネが、助けてくれたから…」

〈主に死なれては道具としての存在意義がなくなるので。〉

「ハハハ……相変わらず素直じゃないっスね。」

二人はマレーネの上で膝をつきながら苦痛で歪んだ表情で襲撃者を睨む。
槍を手にしたその男から漂う気迫はただ事ではない。
少し頬がこけてはいるが、体つきはがっしりしていてシグナム達とは雰囲気が違っているが、彼もまた騎士という言葉がぴったりと当てはまるほどに武人然とした人物だ。

「珍しいっスね、騎士ゼスト。あんたがドクターの指示に従うなんて。」

「ここに来たのは新しくできた友人の頼みであり、俺の目的を果たすためだ。お前たちが持つそれを彼女たちに渡されると少々厄介なのでな。」

ゼストは槍の刃を下段に向けて腰を落として顔つきを一層厳しくする。

「止めさせてもらうぞ。」

体を突き刺してくる殺気でわかる。
この男がどれほどの修羅場を潜り抜けてきたのかが。
だが、ユーノも今まで幾多の死線を乗り越えてきたのだ。
そう簡単に思い通りになってやるつもりなど毛頭ない。

「……ウェンディ、ここは僕一人でどうにかする。なのはたちにそれを届けるんだ。」

「了解!」

ウェンディは再びマレーネにつかまり、なのはたちが待つ陳述会の会場へ急ぐ。
ユーノはそれを見送ると、小さな笑いを浮かべる。

「まず目的の第一段階達成、ってところですか?騎士ゼスト。」

「967からお前にだけ伝えてほしいと言われていたのでな。」

「やっぱり、新しい友人っていうのは967だったんですね。」

ユーノとゼストは互いに構えを解いて向かい合う。

「ゆりかごが墜ちようとしても、TRANS-AMは使うな。託された翼を使え、だそうだ。」

「託された翼……」

それはすなわち、フェルトの両親から託されたあの力のことだ。
だが、わからない。

「なぜあなたがそのことを?967は今どこに?」

「アイツは今、余計な横槍が入らないようにしている。」

「横槍?」

「……ジンクスだ。」







クラナガン北東部 

「それじゃ~、準備はOKかしら?」

「ああ、始めるぞ。」

クアットロの手の平の上で967は彼女のサポートのもと足元の工場から飛びたとうとしているジンクスたちへと接続する。

「……掌握完了。やってくれ。」

「了解~♥」

クアットロは手元に出現させたコンソールを叩いていく。
それと同時にジンクスたちは互いに相手の腕や脚を力任せにもぎ取り、挙句の果てには主要機関であるGNドライヴさえも破壊し始める。
その姿を見ていた967は望んでやっているとはいえ、ここまで悪趣味なものを見せられて嬉しいはずなどない。
さらに、

「ああ~……か・い・か・ん♪」

すぐそばで十五、六歳の容姿の少女がSな笑みを浮かべて悶えている光景など見たくもない。

「もう少し穏やかにできない……」

「ほらほら!!踊りなさい!!私の手で!!」

「…………………………………」

クアットロの性格の更生の必要性をかみしめる967だった。
……もっとも、あの親の性格をさらに歪めたような彼女を更生できるかどうかはかなり不安が残るところだが。








地上本部

「なるほど。それで、もう一つの目的はなんなんですか?」

「ある男に会いに来た。」

「ある男?」

ゼストの顔が曇ったのを、ユーノは見逃さなかった。

「……道を違えてしまった友だ。アイツと俺は同じものを信じ、そのために互いにできることをしてきた。だが、俺たちの道はいつしか別れ、俺はアイツと関わりのある事件で部下を失った。……最初は恨みもした。だが、それでもアイツが望んであんなことをするはずがない。だからこそ、俺は真実を、レジアスの真意を知りたいんだ。」

「レジアス……じゃあ、あなたが!?」

ユーノがゼストに手を伸ばそうとする。
その時、

「でええやぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

上から滑空してきたヴィータがゼストへとグラーフアイゼンを振り切る。
その後ろにはリインフォースが続く。

「くっ!!」

「!?ヴィータ!!やめるんだ!!その人は…」

ヴィータたちはユーノの制止も聞かずに一歩下がったゼストへと向かっていく。

「リイン、ユニゾンだ!!」

「ハイです!!」

リインフォースが光とともにヴィータの体の中へ消えていく。
それと同時にヴィータの外見にも変化が表れていく。
まずはバリアジャケットの色が変化していき、それに合わせて髪の色も青みがかったものになり、彼女の周りに氷のつぶてが姿を見せ始める。

「いけっ!!」

〈Gletscher Adler〉

鋭くとがった氷の刃がグラーフアイゼンによって押し出され、荒鷲のごとくゼストへと襲いかかる。
だが、ゼストに着弾する前にそれらはすべて紅蓮の炎によって撃ち落とされた。

「オイ!あんた!!」

ユーノは自分の上を舞う烈火の剣精、アギトの方を向く。

「早く下に行ってやれ!このままだといろいろとまずいぞ!!」

アギトはそれだけ言い残すとゼストの援護へと向かう。
ヴィータはユーノに何か言いたげに睨むが、アギトも加わってそれどころではなくなしまったようだ。
そして、ユーノはユーノでアギトの言葉の意味を考え始める。

「いろいろ……?…っ!?」

その時、地下から信じられない勢いで膨れ上がっていく魔力の反応を感知して思わず真下を見る。
下は先ほどの爆発で完全に施設への入り口が閉じられてしまっている。
しかし、それでも確かに感じる。

(これは…スバル!?でも…)

スバルは確かに潜在魔力量の高い方だが、ここまで一気に増加していくのはどう考えても異常だ。
ユーノは意識を集中して下の様子を探り始める。

(これは……あの時の銀髪の子…チンクだったかな?あと、ギンガ……負傷しているのか?それとティアナに、知らない反応がもう一つ。)

どうやらその知らない反応とスバルが戦っているようだが、危険な状況だ。
スバルがではなく、彼女と相対している存在がだ。

(……っ!!やりすぎだスバル!!そのままじゃ…)

最悪の事態が起こる。
あの時の自分のように、血にまみれた手で泣き叫ぶスバルのヴィジョンが頭の中で鮮明になっていく。

「そんなことさせるか!!」

スバルたちは自分と違う。
スバルの手は誰かを救うためのものだ。
自分のように他者を傷つけるために使ってはいけない。

アームドシールドから薬莢を排出して、バンカーモードに切り替えると自由落下するよりもさらに速く地面へと向かっていく。
そして、

「ぶち抜けぇぇぇぇぇ!!!!」

〈Assault Bunker High Boost〉

空気との摩擦で赤熱するバンカーを炸裂させて瓦礫も何かもを吹き飛ばし、地下の道へと侵入する。
すぐさまあたりの様子と現在地を確認すると、ユーノはスバルたちが戦闘を繰り広げているであろうポイントまで急ぐ。
その時、ユーノは新たにもう一つの反応をはっきりとキャッチしていた。
この一件にかかわって以来、何度も自分たちに牙をむいてきた存在を。








「ああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

スバルが吼えるたびに地下の広い空間が揺れた。
拳が壁にめり込むと上から大小さまざまな欠片が降ってくる。
ギンガが一人で侵入者と戦っていると聞いてスバルとともにやってきたティアナだったが、ボロボロの状態で倒れているギンガと、襲撃者二人の姿を確認した瞬間、スバルがキレた。
普段は使わないように心がけている戦闘機人としての力、振動破砕まで使って二人の襲撃者を追い詰めていく。
ティアナと彼女に救出されたギンガはやめるように言うが、スバルは怒りで我を忘れて誰の声も届かない状態になっていて一向に止まる気配がない。

「くっ!!このぉぉぉぉ!!」

赤髪を振り乱しながらスバルと打ち合いを続けるノーヴェだが、すでに両腕の生体組織が剥がれ始めている。

「オマエタチガ……ギンネェヲ……!!」

スバルの方もすでに腕の機械部分が見えているが、このままでは間違いなくノーヴェの方が先に限界に達するだろう。

「ノーヴェ、離れろ!!」

眼帯の少女、チンクの声に合わせてノーヴェが空中に張り巡らされた黄色の道を駆け上がった瞬間、スバルの周りに刺さっていたナイフが次々に爆発を始める。
スバルは叫び声もあげずに爆炎の中に消えていった。

「スバル!!」

ギンガはスバルのもとに向かおうとするものの、体を思うように動かせずその場に倒れこんでしまう。

(やったか…?)

チンクはいまだに炎に包まれている地点を見つめる。
本来ならばスバルとギンガを保護してファルベルの手が及ばないようにするのが目的だったのだが、ここまで互いに深手を負うことになるとは予想していなかった。
だが、流石にこれで終わりだろう。
チンクはそう思って炎に背を向ける。
しかし、

「うあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

「なっ!!?」

慌てて振り向いたが遅かった。
彼女の小さな体に火炎を纏ったスバルの鉄拳が突き刺さる。
身体中の空気が外に追いやられる感覚にむせかけるチンクだが、続いて打ち込まれた蹴りによって右腕が中の金属骨格ごと粉砕される激痛に残り少ない酸素を消費して呻く。
さらにスバルはチンクの頭を掴んで壁へと投げつけるが、それはギリギリのところでノーヴェがチンクをキャッチして事なきを得た。
しかし、すでにチンクの体は戦える状態ではない。

「チンク姉ぇ!!しっかり!!」

「ノー…ヴェ……姉を置いて…逃げろ……。今のセカンドは……危険すぎる…!」

「いやだ!!そんなことできるわけないだろ!!」

「いいから…行ってくれ…頼む……!!」

チンクの哀願を拒むノーヴェにリボルバーナックルを回転させてスバルが襲いかかる。

「っっ!!」

「よ…せ……!」

避けきれないと判断したノーヴェはチンクをしっかりと抱きしめて、来るであろう衝撃に備えた。
だが、どれほどたってもそれが自分の背中を襲ってこない。

「……?」

恐る恐る顔を上げた先には、翠の盾に阻まれスバルの姿と、マントの上でなびく金色の髪が見えた。

「もういい、スバル。ここまでだ。」

「ウ…ア…!!?」

動きが止まったスバルの目に、ユーノがかばっているチンク達の姿が飛び込んできた。
血だらけで、ぐったりとしたその姿が少しずつスバルの意識を正気へと導いていく。

「ア…あ……わ、私…!!」

「大丈夫。」

「あ……」

頭に乗せられた手の感触に安心したのか、スバルはそのままユーノに体を預けるように気を失う。

「ティアナ、ギンガ。君たちはスバルを連れてすぐに退避して。そこの君たちもすぐにここを離れて。」

「ユーノさんはどうするんですか?」

「僕は…そこにいるやつに用がある。」

ユーノの視線の先、崩れた瓦礫の一角が揺らいだかと思うとそこからGNプロトソードを持ったフォンがニタニタ笑いながら出てくる。

「よお、俺のことを少しは思い出したか?」

「……何をたくらんでいる、フォン。僕を連れ戻したいだけならここまでする必要はないはずだ。」

「言ったろ。俺はあの変態マッドサイエンティストと契約しているってな。一応ここまで手伝ってやる予定だっただけだ。それと……」

フォンの酷薄な笑みにユーノは胸騒ぎを感じる。
今までさんざん見てきた憎たらしい笑みなのに、今まで感じたことのない不安が襲ってくる。

「あの邪魔なできそこないの人間もどきをお前から奪うためだ。」

「!!!!!」








機動六課隊舎

「くそったらぁっ!!」

燃え盛る廊下の隅で不慣れな杖型のデバイスを使って決死の狙撃を繰り返すヴァイスの手が震える。
今自分が狙っているのは立て籠もり犯でも、自分の大切な人間でもないのに動悸が止まらない。
だが、それでも引けない。
自分の後ろには非戦闘要員のみんな、そしてユーノとなのはの娘がいるのだ。



地上本部が襲撃を受け始めた頃、機動六課にもガジェットが大挙してきた。
しかも、救援を呼ぼうにも何者かにシステムの全権を奪われ、本来外敵に対して作動するはずのシャッターなどに局員が閉じ込められるという事態が発生している始末だ。
そんな中、戦闘経験のあるヴァイスは非戦闘要員たちの保護を買って出ていた。

「へへへ……腕は鈍ってなくても、これじゃ二流の狙撃だな。」

自嘲を交えることで動悸を沈めて放つ光弾は的確にガジェットをとらえていく。
だが、やはり多勢に無勢。
徐々にではあるが押し込まれ始める。

「ちっ!!」

舌打ちをして振り返るヴァイスの目にふと扉の隙間からこちらの様子をうかがっているヴィヴィオの姿が見える。
不安そうな顔をしていたが、ヴァイスが自分を見ているのに気付くと不器用ながらも笑顔を作って見せる。
それを見たヴァイスもまた、笑顔を返して前を見据える。

(……いっちょやるか。)

整備服の上着を脱いでそこら辺に放り出すと、再度杖を手にとってバリケード代わりに使っていた瓦礫からひょいと身を乗り出す。

「ヴァイス陸曹!?なにを…」

「グリフィス、ここから先はお前とシャーリーで指示を出せ。俺は連中を引き付けてできるだけ遠くまで行く。その間に何とかしてここを脱出しろ。」

「ヴァイス陸曹!!」

「心配すんなよ。死にゃしないさ。」

そう言って駆けだしたヴァイスは、手に握って置いた小石をガジェットにぶつける。

「こっちだ鉄クズ!!」

怒った……わけではないが、逃げていくヴァイスをガジェットたちが追いかけ始める。

(悪いな、ラグナ。兄ちゃん、もうお前に会えないかもしんねぇ…)

まだ償いは済んでいない。
だが、それでもここで仲間を見捨てたら一生後悔する。
だから、

「あばよ、ラグナ。達者でな……」

ヴァイスは曲がり角を曲がると今来た道の方へ振り返る。
そして、曲がり角を曲がったばかりのガジェット二体の目玉を的確につぶして再び逃げる。

「とりあえず、くたばるにしても他のやつらの逃げ道確保するぐらいのことはしないとな!」

今までの状況を鑑みるに、システムをコントロールしている存在はここにいると考えて間違いない。
でなければ、あれほど迅速に、そしてタイミングよくザフィーラやシャマルと分断されるとは考えにくい。
だが、ヴァイスが考えついたのはそこまでだ。
仮に隊舎の中や付近にいたとしても、どこにいるのかは皆目見当がつかない。

「最後に頼れるのはスナイパーの勘ってか!!?」

すぐ後ろまで迫っていたガジェットの方を振り向きもせずに、的確にガジェットの急所を撃ち抜いて走り続ける。

「とりあえず、管制室の方にでも……!?」

その瞬間、ヴァイスは後ろから迫っていたガジェットの存在すらも忘れてしまった。

「そんな、馬鹿な……!?なんでお前がここに…!?」

猫の耳を思わせるカチューシャを頭に付けた少女の出現に目に見えて動揺する。
そして、その一瞬を見逃すことなくガジェットは一撃でヴァイスを壁に叩きつけた。

「がぁ……」

頭部を強打し、意識が遠のいていく中でもヴァイスは杖を手放さない。

「まだ…だ……!!お前とヒクサーが、俺たちの敵だとしても……いや、敵だからこそ、俺はお前らをダチとして止めて見せる…!!」

「光栄だね、君にそう言ってもらえるなんて。」

「何言ってんのよヒクサー。こういうのは熱っ苦しいっていうのよ。……ていうか本当に熱っ!!」

(え……?)

ヴァイスの霞んでいく視界に白いコートを着込んだ男と、先ほど見た少女と瓜二つの、しかし、こちらは勝気な笑みを浮かべた少女が自分を見下ろしている姿が写る。

(ハハハ……なんだ、887?お前、双子……だった……の…………)

「あらら、火星の向こうに招待されちゃったみたいだよ?」

「それは困ったなぁ……874、できればこのオートマトンもどきを止めてほしいんだけど?」

困ったと言いながら涼しい笑みを浮かべたまま、ヒクサーはもう一人の猫耳の少女、874に問いかける。

「ヒクサー、そろそろユーノが道標を示します。三日後、このポイントに来てください。新たなメンバーへのガンダムの引き渡しとエウクレイデスへの乗艦を許可します。」

「随分いきなりだね。それに、その調子だと僕らが何をしていたかフォンは見抜いていたみたいだね。しかし、道標っていうのは……」

「管理外世界地球の平行世界、すなわち、私たちの世界への座標をユーノに示してもらいます。」

「一体どうやって?」

「これです。」

874の本体の中には蒼く輝く宝石が三つ入っている。
そのどれもが自分の存在を主張するように激しい光を放つ。

「ジュエルシード………そうか!!そういうことか!!」

ヒクサーは合点がいく。
フォンと自分たちがここに来れたのも、元をたどればユーノがこちら側の座標を示したからだ。
ならば、同じことをユーノにしてもらうことで戻ることができるようになるのではないか。

『874、こっちは片付いた。結構粘られたけど、ルーお嬢様も器の確保に成功したみたい。』

「了解。ではヒクサー、三日後に。」

「わかった。ユーノが上手くやってくれることを祈るよ。」









地上本部

「ヴィヴィオが聖王のクローン!?」

「そう言うこった。お前とあの女は戦艦のカギを後生大事に子供だと呼んでたってわけだ。笑える話じゃねぇか。」

フォンの不愉快な笑いをBGMにユーノは呆然と立ち尽くす。
だが、すべてを知ってなお、三人で過ごして日々を否定することができない。
たとえ、ヴィヴィオがなんであろうとあの幸せな一時はユーノにとって確かなものなのだ。
否定など、できない。

「………ゃない。」

「あ゛?」

「ヴィヴィオは道具じゃない……!!」

怒りで震える声を絞り出すユーノをフォンは鼻で笑い飛ばす。

「情でも移ったか?あんなガキ一人になんでそこまでこだわれんだか……」

「ヴィヴィオは僕の娘だ!!」

「フン。だがそれもここまでみたいだがな。」

フォンは骨伝導マイクからの知らせに口の両端をさらに吊り上げる。

「今あのガキを確保したそうだ。あの変態マッドサイエンティストのことだろうから、ゆりかごを起動させた後は今までの記憶を消去して生体兵器にでも…」

〈Kill mode on〉

それまでフォンが立っていた場所の周辺が粉々に砕けて吹き飛ぶ。
フォン自身も常人ならば死に至るような速度で壁に叩きつけられるが、頭部からの流血も気にせず不敵に笑い続ける。

「あげゃげゃげゃげゃ!!!やっとだ!!やっとお前と本気で殺りあえる!!」

「あぁあぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!」

鋭い切っ先をフォンの首に突きたてるべく突進するユーノだが、フォンもまたGNプロトソードの刃を突き出す。
刃がお互いの頬を深く斬り裂くがそんなことなど気にしない。
フォンは即座にライフルをとりだすとユーノの腹へと乱射する。

「があぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

しかし、ユーノは防御もせずにフォンの頭を強引に掴むと床に押し付けてそのまま引きずりまわす。
防御もせずに非殺傷設定ではない攻撃をまともに受けたため、夥しい血が出ていて痛々しい姿だが、当の本人は痛みすらないようだ。

「グゥッ!!まだまだぁ!!!!」

フォンはユーノの腹を蹴り飛ばして脱出すると、そのまま左手にも赤い魔力刃を発生させて斬りかかる。
ユーノも緑色の刃を左手に持って突進していく。
そして、二人が激突した瞬間、辺りにあるものすべてが薙ぎ払われた。

ノーヴェやティアナ達にはもはや二人の姿をまともにとらえることができないほどの超高速の剣戟。
そして、何より互いに自らの命など省みない戦いに恐怖して動けずにいた。

『あんなお遊びで満足してるんなら今すぐ局員なんてやめるんだね。命がいくつあっても足りやしないよ。』

不意にティアナの脳内にリピートされるユーノの言葉。
そんな場合ではないとわかっているのに、あの時の言葉が頭から離れようとしない。
そう、あの時自分やスバルがしようとしていたもの延長線上、同じものだが、全く性質を異にするものがティアナの眼前で繰り広げられている。

「これが……殺し合い………」

相手への情けなどはいる余地のない、ただ純粋に命を削り、奪いあうだけの行為。
覚悟もなしにそこへと足を踏み入れようとしていた自分が世界一の愚か者に思えてくる。

すでにギャラリーの存在すら忘れ、すでに無数の傷を体に刻んでいるユーノとフォンだが、それでもなお速度を上げ、互角の勝負を続ける。

「あげゃげゃげゃげゃ!!!!一度でいいからお前とこうしてみてぇと思ってたんだ!!!!予想通りなかなか楽しいぜ!!だが…」

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!!」

「お前の力はこんなもんじゃねぇだろ!!!!こんなゴリ押しの獣以下の戦いじゃない、お前の本当の力を俺に見せてみろ!!!!!」

フォンの言葉はすでにユーノの耳には届かない。
ヴィヴィオを道具扱いされ、自分となのはのもとから奪っていたフォンへの憎しみで我を忘れてしまっている。

「がああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

本物の獣のような唸り声の後、渾身の斬撃でフォンを彼の持つ剣ごと吹き飛ばすと、自身の胸へと心臓をえぐり出すように指を突き立てる。
だが、そこから出てきたのは心臓ではなく煌々と輝く光の球。
魔導士の証たるリンカーコアだ。
それが外へと姿を現した瞬間、周囲に魔力による激しい突風が吹き荒れる。

「これは……魔力の暴走!?」

暴走を始める魔力に戸惑うティアナだが、その魔力がユーノのリンカーコアを中心に集中し始めたことでさらに焦る。

「まさか、暴走した魔力をリンカーコアに集中させて撃ちだす気!?」

正気の沙汰ではない。
仮に暴走を制御して相手へとぶつけられたとしてもリンカーコアが受けるダメージはとんでもないものになる。
魔法が使えなくなる。
最悪、死に至る。

「ユーノさん駄目!!!!」

ティアナの必死の呼びかけもむなしく、すでに術式は完成されていた。

〈Rampaging Singer〉

ユーノの左手に集まった魔力が空気を引き裂くような音を上げながら巨大な槍へとその姿を変える。
父を奪われたあの日から、ずっと考えていた攻撃魔法。
いや、あまりにもリスクが高いうえに、ただ暴走させた魔力をぶつけるだけなのだから攻撃魔法と呼ぶことすらためらわれる。
危険も顧みずに編み出したユーノの最大にして使いたくはない最悪の切り札。

しかし、凶暴な歌声を奏でるそれを見てフォンは落胆の表情を見せる。

「フン…そんなもんかよ……」

こんなものではない。
自分が戦いたかったのは、いびつに歪んだままでも誰かを守るために戦うユーノなのだ。
怒りにまかせて力を振るう三流と戦ったところでつまらないだけだ。
だが、流石のフォンも暴走した魔力の塊をぶつけられて無事で済むはずがない。
それに、向こうに戻るためのキーマンであるユーノに死なれては元も子もない。

(どうするかな……)

フォンが思案を巡らせる中、わずかではあるがユーノに変化が現れる。

(駄目だよ。私が好きだったユーノは、あの子たちが大好きなユーノはそんなことをする人じゃないよ。)

「う……あ………!?」

「?」

何もない空間を見つめたままユーノの動きが止まる。
しかし、その眼には確かに何かが見えているようだ。
そして、次第に左手の魔力が沈静化し、霧散した。

「う………」

暴走した魔力のコントロールで気力を使い果たしたのか、ユーノはゆっくりと落下を始めるが、そこをフォンにキャッチされる。

「ちっ……結局今回もお預けか。」

フォンは舌打ちをしながらも、足元に魔法陣を展開する。

「オイ、そこのガキ二人。そこにいる銀髪チビとシスコンを連れてとっとと他の連中と合流しろ。今頃は他の連中も片がついているはずだ。」

呆気にとられていたティアナとギンガだったが、フォンの言葉に我に返る。

「待ちなさい!!」

「そいつら二人は煮るなり焼くなり好きにしろ。じゃあな。」

フォンに手を伸ばすものの、結局触れることすらかなわなかったティアナは拘束すべき二人が呆然とする中、唇をかみしめていた。







この日、機動六課は大敗という言葉すら生ぬるいほどの痛手を被った。
犯人グループのうち、二人を確保したもののフォワードメンバー、曹長一人、副隊長一人が負傷
隊舎は破壊され、保護していたヴィヴィオが拉致。
ヴァイス・グランセニック陸曹は行方も生死も不明。
さらに、無限書庫から出向していたユーノ・スクライア司書長も敵方にわたってしまった。



しかし、これはこの後訪れる真の危機の序曲に過ぎなかった。






あとがき・・・・・・・・・・という名の苦悩

ロ「というわけで陳述会警護編でした。そして思いのほか進まないストーリーの練り直し。」

フォ「今までのツケを支払ってると思えば安いもんだろ。」

ロ「いや、わかってるんだけどあの場面とかあの場面の他に良い感じのが思い浮かばない……orz」

ユ「まあ、second編に入ったらあとがきでボツ設定や他にもロビンが無能ゆえに苦労したことなど色々こぼれ話をやるのでそこで話したいと思います。」

フォ「今の状態でそんな余裕ができるのか不安だけどな。」

ロ「ふおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!降りてこい文才ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!我に力をぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

ユ・フォ「「ダークドレ○ムでも呼ぶ気か。」」

ロ「いや、むしろラプ○ーン……」

ルイス(以降 ル)「いつまでアホな話してるのよ!!早く私を呼びなさいよ!!」

ユ「あ、あとがき初登場のルイス・ハレヴィさんだ。」←棒読み

フォ「secondいったらいろいろ暴走するルイス・ハレヴィさんだ。」←超棒読み

ロ「沙慈の設定と合わせていろいろ設定変えてたけど、結局ボツになったルイス・ハレヴィさんだ。」←極限に棒読み

ル「ムカツクゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!なんなのこの腹の立つトリプルコンボは!!?」

ロ「正直お前と沙慈がらみのストーリーの構成に一番てこずってるから、少し八つ当たりしてみた。」

ル「知るかぁぁぁぁ!!!!早い話が全部自分のせいでしょうが!!!!」

ユ「でも、全部事実だし。」

ル「言う必要もないでしょ!!」

フォ「それじゃつまらねぇだろうが。」

ル「何こいつら!?今すぐにでも殴りたいんですけど!!?」

ロ「あ、沙慈。」

ル「え!?嘘!?」

ロ「うん、嘘。」

ル「………………………」

ロ「………………………」

ル「………………………(怒)」

ロ「………………………(汗)」









しばらく脳内にクオリアを流しながらお待ちください。









ル「では、解説にいきたいと思います♪」

ユ「……今回は公開意見陳述会編だったわけですが、皆様いかがだったでしょうか?」

フォ「それよりもみんなあの部分にツッコみたいと思ってるだろうぜ。」

ユ「……なんのことやら。」

フォ「あのスレスレシーンのことだ。」

ル「確かにあれは少しまずいわよね。」

ユ「ロビンが『大丈夫だろ。』って言ってたから大丈夫なんだよ////!!!!」

ル「で、これから先は某戦況オペレーターとか某メカニックの女の子相手にもっとすごいことを……」

ユ「しないからねっ!!?もう何があってもしないから!!!!ていうかしたらこの作品終わるうえに僕の人生も(なのはの手で)終わるからね!!!!」

フォ「でもロビンはギリギリのところは攻めたいとか言ってたぞ。」

ユ「え?」

ル「あ~……これは少しまずいね。作品終わらなくても、この回のあとがきでユーノの人生終わるね。」

ユ「えええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!?何されんの!!?ていうか何させられんの!!!!?」

フォ「お前はいい奴だったよwwww」

ル「向こうに逝っても忘れないよwwwww」

ユ「死ぬかぁぁぁぁぁぁ!!!!ようやく僕が目立つ作品が増えてきたのにこんなところで死ねるかぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

ル「さ、他にも色々言いたいところがあったけど、弄れるやつ(ロビン)がいないので次回予告にいきたいと思います♪」

フォ(自分で消したくせに。)

ユ「いよいよ次回はクライマックス!」

ル「フォンによって身柄を拘束されてしまったユーノ!しかし、連れていかれた先でフォンとスカリエッティの真意を知らされる!」

フォ「スカリエッティの真の目的とは!?」

ユ「そして、クラナガンを襲う最悪の事態!」

ル「この危機を救うのは機動六課か、それとも……」

ユ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただいてありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!じゃ、せーの……」

「「「次回をお楽しみに!!」」」



[18122] 14.天使、赤き衣をまといて…(前編)
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/11/02 21:40
ゆりかご内部

「さて、これであらかたの準備は終わったな。」

そう言うとスカリエッティは玉座の上で眠りについていたヴィヴィオを抱き上げてフォンへと優しく渡す。

「フン、甘いな。こいつを使えばもっと計画を確実なものにできるだろうに。」

「甘い、ではなくスマートと言ってほしいものだな。私は余計な犠牲を強いるのは嫌いなのでね。それに、君も私がこうすることが分かっていたのだろう?」

「ハッ、なんのことやら。」

フォンはとぼけた笑みを浮かべながらもヴィヴィオを受け取る。

「それで、次に会うときは敵同士なわけだが、遺言はないのか?」

「おや、それが必要なのは君の方だと思ったが?」

「おいおい、無理すんなよひきこもり。ホントはブルってんだろ?」

「はっはっはっ、チンピラに心配されるほど私は落ちぶれてはいないよ。」

互いに毒のある言葉をぶつけあって火花を散らす二人だが、ヴィヴィオがもぞりと動くのを見てそれを中止する。

「しかし、とんだ狸だなお前も。まさかゆりかごをこんな風に使うとはな。」

「なに、私は負けのない作戦をたてただけだよ。彼女や君たちが私の計画を止められなければ私ははれてファルベルへの復讐を果たせる。逆に君たちや機動六課が勝ったら、近い将来ファルベルは罰を受け、管理局の闇はいずれ祓われるだろう。」

「他の連中が止める可能性もあるぞ?」

「残念ながらその可能性は皆無だ。今のところ、私を止められる実力を持つのは君たちガンダムマイスターか機動六課だけだ。」

「あげゃ、よくわかってんじゃねぇか。」

フォンは笑いとともに魔法陣を展開し、クラナガン郊外の廃墟へと座標を合わせる。

「それじゃ、874に礼を言っておいてくれ。彼女がいなければこの自動航行システムは完成できなかった。」

「フン、良いだろう。それから、最後に俺も言っておくことがある。」

「?」

「死ぬなよ。お前が死んだらまたこっちに来た時につまらない思いをしなくちゃいけねぇからな。」

八重歯を見せるフォンの顔は不思議と爽やかで、今までの無茶苦茶な行動が嘘のようだ。
スカリエッティ、いや、ここではあえてジェイルと呼ぶべきだろうか。
彼もまた、狂気に染まった科学者という仮面を脱ぎ捨てた、一人の人間の笑顔を見せる。

「グッドラック、マイスター。」

見送りの言葉とともにフォンとヴィヴィオの体が赤い光の粒となり消えた。
それを見送ったジェイルは根拠もないのに、不思議と確信していた。
彼らと、再びガンダムマイスターと出会うことができるであろうことを。




魔導戦士ガンダム00 the guardian 14.天使、赤き衣を纏いて…(前編)

クラナガン 病院

その日、負傷したスバルとギンガの見舞いに来たエリオとキャロは唖然とした。
いつもはヘラヘラとマイペースを貫くウェンディが自分の姉妹に対して明確な怒りを示したのだ。
ティアナはスバルとギンガの部屋に残ったのだが、スバルたちの体のことでどうにも居づらくなった二人は事情をよく知るウェンディに連れられてここまで来たのだが、ウェンディにしてみればここに来るための口実が欲しかっただけのようにも思えた。

彼女に服の襟を掴まれて持ち上げられているにもかかわらず、チンクは穏やかな眼差しでウェンディの顔を見つめる。

「チンク姉ぇ……なんであんなことしたんスか?」

「あんなこと?」

「とぼけんじゃねぇっス!!」

ウェンディの怒鳴り声と合わせて、チンクの小さな体が前後に揺れる。
本来止めなければいけない立場であるはずのエリオたちも足がすくんで動けない。

「なんでみんなにあんなひどいことしたんスか!!あたしたちが戦うのはあくまで自分の身を守るためだって言ったのはチンク姉ぇだろ!!スバルとギン姉ぇはあんなボロボロになって、リイン曹長もザフィーラもシャマル先生も傷を負った!!ヴァイス陸曹は生きてるのかどうかもわからない!!ヴィヴィオとユーノがいなくなったなのはさんはみんなの前ではずっと無理して泣いてないふりをしなくちゃいけない!!!!どれもこれも全部あんたらのせいだろ!!!!」

普段の口調とはほど遠い激しい責め。
しかし、すぐそばにいるノーヴェも止めることができないほどの怒号を受けたチンクの反応は意外なものだった。

「ウェンディ……」

「ああ!?」

「お前が…そう言ってくれる優しい子で安心した。」

「っっっ!!!!!」

次の瞬間、チンクはウェンディの拳によってベッドに叩きつけられた。
ウェンディは馬乗りになってさらに殴ろうとするが、そこで流石にエリオや看護師が止めに入った。

「ちょ、ウェンディ駄目だよ!!!!」

「離せ!!!こいつがすっとぼけた顔をできなくなるまで殴らないと気が済まない!!!!」

暴れるウェンディを6人がかりで何とか抑え込んで外まで運び終えた部屋は先程の騒ぎとはうって変わってしんと静まり返る。
そんな部屋の中へ、キャロは歩を進めた。

「あの……チンクさん。」

「ん?」

「なんで、ルーちゃんやあなたはスカリエッティに従っているんですか?私には、あなたたちが悪い人には見えないんです。むしろ、すごく優しい、温かい感じがします。」

キャロの言葉にポカンと口を開けていたチンクだったが、最初は小さく、そして最後にはこらえきれなくなったように大笑いをする。

「ハッハッハッハッ!!姉が優しいか!!クク…アッハッハッハッ!!!」

「?」

「ククク……ああ、すまない。家族以外からそう言われたのは初めてだったのでな。つい嬉しくて…ハハハ…!!」

スカリエッティの言っていた通りだ。
彼女たちは、誰でも受け入れることができる強さを持っている。
その強さに、ウェンディもまた惹かれたのだろう。
たしかに、これなら託すことができるかもしれない。
この世界の未来を。

「そうだな……もうここいらで明かしても問題はなかろう。ノーヴェも聞け。ドクターがこれから何をしようとしているのか、この戦いの本当の目的を。」





?????

久しぶりの光景だ。
真っ白な空間。
上も下もない、ただ自分の存在をしっかりと感じることができる空間。
向こうにいる間、そして帰ってくるときに来て以来だ。
懐かしさと感慨にふけっていると、ふいに後ろから声がしてくる。

「……行くの?」

「……うん。」

振り向くことなく、その声に答える。
向こうに行ってから、何度も自分をからかった、しかし、自分を弟のように気にかけてくれたオペレーター。

「こっちにいれば、苦しい思いをしなくていいんスよ?」

「それでも、僕は決めたから。」

お調子者の、しかし一途に大切な人と最後を共にした操舵士。

「彼女たちが悲しむぞ?」

「大丈夫さ。みんな、強いから。僕なんかよりずっと。」

自分の主治医であり、みんなから全幅の信頼を寄せられていた船医。

「どこにも居場所がなくなる……どこにも、心を許せる場所にも留まれないぞ?」

「みんなもその覚悟くらいはしてるんだ。いまさら僕だけなんてあるわけないだろ?」

自分の兄貴分であり、師匠。
救うことができなかったあの日、誰もが涙を流すほど誰からも好かれていた最高のスナイパー。

「……それが、ユーノの答えなんだね。」

「ああ。」

明るく、澄み切った大空を思わせるような快活な声。
自分を救ってくれた、そして、彼女の抱いていた思いに気付くことができずに、悲しい別れしかできなかった少女。

ここにいる、そして、遠く離れた地にいるみんながいたからこうして今、自分は立っていられる。

「そっか……」

「……なんか、ごめんね。せっかく気を使ってもらって、なのはたちと再会できたのに、また離ればなれになっちゃうや。」

「けど、止めたって聞かないんだろ?」

「よくわかっていらっしゃる。」

クックッと笑うユーノの前に、光で道が指示される。

「ユーノが望むなら、私たちはもう一度導くよ。向こうへ……西暦2312年の地球へ。」

「……ありがとう。」

光の道を歩くユーノは振り返らない。
わかっているから。
自分の後ろにいる五人が、笑顔で自分を送り出してくれていることを。




クラナガン郊外 廃墟 廃ビル

「う……つぅ……」

背中から伝わる異様な冷たさにユーノは意識を覚醒させる。
なぜ自分がこうなっているのか、今が夢なのか現実なのかすらよくわからないまま体を起こす。
わき腹が少し痛むが、動けないというほどではない。
辺りを見渡してみると、四方をコンクリートで囲まれ、装飾と呼べるのは湿った部屋の角にあるカビと、ところどころに生えている名もない雑草くらいだ。
扉と思わしき場所にはただ大きな長方形の穴が開いているだけ。
窓に至ってはガラスが無いばかりかその隣には扉よりも大きい穴がでかでか開き、二つの月が煌々と輝いているのが見える。

「……風通しは最高の物件でございます。ってか……」

「気にいったんなら住むか?」

「誰が無理やり連れて来られたところに永住するか。」

窓の隣に開いた穴から静かに降り立つフォンを睨みながらよろよろと立ち上がる。
怪我の方はもう全快に近いのだが、体が冷えたせいか上手く動けない。

「それで、僕をここに連れて行きたいんならもう少し優しくしてほしかったんだけど?」

「一度お前と本気でやりあってみたかったんでな。本気にさせるためにそいつを利用させてもらったのさ。」

「そいつ?」

「パパー!!」

「ごふっ!!?」

背中に強烈なタックルを受けたユーノは傷が開きかけたわき腹を押さえてうずくまる。
それでも、さらわれたはずのヴィヴィオの笑顔で痛み以外はすべてが帳消しになったようだ。

「ヴィ、ヴィヴィオ……無事で何より……げふっ…」

「あなたは無事に見えませんが?」

「もとを正せば君のパートナーのせいだろう!」

後ろから現れた874を怒鳴りつけるが、当の本人に効果はなく、むしろヴィヴィオの方が泣きそうになってしまっている。

「ああ!!ヴィヴィオを怒ったんじゃないよ!!?」

「ふぇ……!」

「大変ですね。」

「慰めの言葉をどうも!!それと笑うなフォン!!ホント君ら二人後で殴るからな!!?」





数分後、落ち着いたヴィヴィオの相手を874がしている間にフォンから現在向こう側がどうなっているのかについての話を聞き終える。

「地球連邦に、独立治安維持部隊アロウズ、か……」

フォンの話すことが本当ならば計画通りに世界は統一を果たしたようだ。
だが、

「僕も、みんなもそんな世界を望んで戦ったんじゃない……!」

軍の解体を拒む者たちに対しての弾圧。
そして、目の上のたんこぶの中東、そして地球連邦への参加をしない国への制裁という名の理不尽な仕打ち。
こんなもののために仲間が命を散らしたのかと思うだけではらわたが煮えくりかえる。

「だが、表立った紛争のない、ある意味最高の理想形だ。カタロンの連中を消し去るのも時間の問題だろうしな。」

「…………………………………」

「どうする?お前しだいだ。」

「随分とわかりきったことを聞くんだね。」

「あげゃ、上等!」

フォンは床で胡坐をかくユーノへと手を伸ばす。
ユーノもその手を握って立ち上がろうとする。
だが、

「あ、そうだ。」

「?」

「この間の礼だ!!」

「ぐっ!!」

フォンの手を借りて立ち上がったユーノは、すぐさまフォンの手を離すと渾身の力で顔を殴り飛ばす。
ヴィヴィオはびくりと震えると再び泣きそうな顔をするが、ユーノは晴れやかな顔で額の汗をぬぐうまねをする。

「ふ~~……すっきりした。」

「あげゃ…あげゃげゃげゃ!!それでこそお前だ!!ガンダムマイスター、ユーノ・スクライアはそうでなくちゃな!!」

殴られたフォンは口から血を流しながらも心底うれしそうに笑う。

「それで話は変わって、他にも聞きたいことが山ほどあるんだけど、まずはこの二つだ。」

ユーノの顔が真剣なものに変わる。

「スカリエッティは一体何をしようとしている?それと、向こうに帰る方法はあるのかい?」

「やつが何をしようとしているか、か……。聞かない方がお前は迷わないかもしれねぇが、それでも知っておかないといけねぇことだからな。」





次元航行艦 アースラ 会議室

三日後、全員が完全に、というわけにはいかないが、機動六課のメンバーのほとんどが回復を遂げ、仮本部としてはやてが引っ張り出してきたアースラへと乗り込んでいた。
しかし、ここで彼女たちを待ち受けていたのは耳を疑う現実だった。

「戦艦をクラナガンに落とす!!?」

キャロの口から出てきた言葉にはやてだけでなく、その場にいた全員が凍りつく。

「はい!!どこに落とすかまでは言ってくれなかったんですけど、今日どこかに落とすってチンクさんが教えてくれました!!」

「おいおいおい!!あの変態科学者マジでいかれてんぞ!!?」

「ヴィヴィオをさらったのは、聖王のゆりかごを起動させるためか……だが、それならなぜゆりかごをそのまま使わない……?」

「知るか!!いかれたおつむじゃまともに考えるのもおっくうなんだろ!」

考え込むシグナムの言葉を一蹴して飛び出していこうとするヴィータだったが、

「まあ、落ち着き。」

「へぶっ!!?」

はやてがリモコンで扉にロックをかけたせいで、マンガのように扉に激突して仰向けに倒れるヴィータ。

「何すんだよはやて!!?」

「ヴィータ、あんたどこに落ちるかも、どこに隠されてるかもわからん代物をどうやって見つける気やねん?」

「あ……」

そう。
どこにあるかも、どこに落ちるかもその時にならないとわからない戦艦を見つけるなど不可能に近い。

「はぁ~……こんなときユーノさんがいてくれたらなぁ……」

「馬鹿!!スバル!!」

「あ……」

スバルは慌てて口を押さえるがもう遅い。
なのはの表情は目に見えて暗いものになり、会議室全体を重苦しい空気が包み込む。

「あの……ごめんなさい、なのはさん………。私…」

「気にすんなスバル。こんないつまでもへこんでるだけの役立たず、いちいち心配すんのも面倒だ。」

「ヴィータ!?」

ヴィータの口から飛び出した予想外の言葉にフェイトは憤慨するが、ヴィータは構わずになのはの隊服を掴んでまくしたてる。

「またお前は泣くだけなのかよ……。あの時、もうあんな思いをしたくないっていったあれは嘘なのかよ!!?ユーノとヴィヴィオを失ったことを一生後悔し続けるのか!!?答えろ、高町なのは!!!!」

「私は…」

ヴィータに間近で怒鳴られ、ようやく思い出した。
なんのために自分が今まで空を飛び続けていたのか。
それは、ユーノの思いを受け継ぐため。
理不尽な運命から誰かを救うために飛び続けてきたのだ。
だから、

「ありがとう、ヴィータちゃん……忘れそうになったけど、ちゃんと思い出したよ。もう、大切な人を手放したくない!!」

「ハッ……くせぇセリフを堂々と言ってくれやがって。妬けてくるだろうが。」

「フフフ…悔しかったらヴィータちゃんも好きな人を作ればいいのに。」

「あのぉ、お二人さん?もうええんやったら話を続けたいんやけど?」

「あ、ごめんね。もういいよ……って、なんでみんなそんな顔してるのかな?」

先程までの重苦しい空気とは違い、今度はほわほわと浮かれたような雰囲気が会議室を席巻している。
バカップルが醸し出すような空気を一人で生産し続けている本人以外の誰もがこう願っていた。
できることなら早くこの場を離れたいと。






クラナガン ホテルアグスタ

「それじゃ、確かに合流ポイントの座標は受け取ったよ、トレイターA13。」

最高級のスイートルームの机の上にどっかりと座るフォンへからヒクサーはメモの上で踊る殴り書きを受け取る。

「しかし、トレイターAなんて何をどうすればなれるのか聞きたいもんだよ。」

「まあ、簡潔に言っちゃうとそいつが馬鹿ばっかするからおばさんが早まっちゃったのよねぇ。」

「それ、シャルが聞いたら怒るよ。」

今日も絶好調で毒を吐く887にため息をつきながら、ユーノは四年ぶりに再会したヒクサーと固く握手をする。

「悪いねヒクサー。スコッチはしばらくお預けみたいだ。」

「大丈夫、すぐに飲める機会はできるさ。」

「パパ~。この人だあれ?」

ユーノのズボンを握りながら、ヴィヴィオはヒクサーの心の奥を覗くように顔をじっと見つめる。

「はじめまして。君のパパの友達をさせてもらってるヒクサー・フェルミです。」

「はじめまして!」

最初は少し戸惑っていたようだが、ヒクサーを信用に足る人物だと感じたのか、すぐにヴィヴィオはヒクサーと打ち解ける。

「まさか、君もこっちに来てるなんて知らなかったよ。いたのなら一言いってくれればよかったのに。」

「君の知り合いは鋭い人が多いようだからね。些細なことからも僕が君の関係者ということがばれるかもしれないだろう?」

「おい、ヒクサー。俺にはばれてもかまわねぇわけか?」

ヒクサーの後ろに置かれた天蓋付きの赤と金のベッドの上に寝そべっているヴァイスが不満そうに唇を尖らせる。
頭には包帯が巻かれているものの、もうすでに起きても問題はなさそうだが、本人曰く『こんなすげぇベッドで寝れる機会なんてもうないだろうから今のうちに堪能しておく。』と言ってここ三日間ベッドの上を離れようとしない。
もっとも、時折887から手荒い看護を受けているようだが。

「それにしても、ソレスタルビーイングにMS、挙句の果てに並行世界とはね。いまだに信じられないよ。」

「……お前、ホントにそう思ってんのか?」

ヴァイスの横になっているベッドのそばではヴェロッサがいつも通りの掴みどころのない笑みを浮かべている。

「君たちにはもう隠す必要はないからね。それに、僕はできることなら君たちの意思でこれからどうするかを決めてほしい。」

「僕にはそうは思っていない顔に見えるけど?」

ヴェロッサの言葉にヒクサーから微笑みが消える。

「大方、俺らを巻き込みたくないなんてすっとこどっこいなこと考えてんだろ。」

「っ!君たちはわかっていないんだ!!これから先、この道を選んだことを後悔するときが必ず来る!!……僕は、もう友が苦しんでいる姿なんて見たくない……だから……」

「バーカ。」

「まったくだね。」

「なっ!?」

ヴァイスとヴェロッサはヒクサーの杞憂を鼻で笑う。

「俺たちが死ぬことを前提で話すなよな。誰がそう簡単にくたばってやるものかよ。」

「もう二年も一緒に仕事をしてきたのに、僕のことを信用していないのかい?」

「けど…」

「ヒクサー。」

ユーノはヒクサーの肩に手を置く。

「君の負けだよ。二人とも、ミッドの……いや、向こうを含めたすべての世界のあり方に納得してないんだ。だったら、もう何を言っても無駄なことぐらいわかってるだろ?」

「……まったく。頑固者ってやつはどこにでもいるもんだ。」

ため息を漏らすヒクサーとは対照的に、ヴァイスとヴェロッサは嬉しそうに笑う。
だが、心残りがないわけではない。
ヴァイスは妹から光を奪ってしまったことを忘れてはいない。
ヴェロッサもまた、姉のカリムやシャッハのことを考えると胸が締め付けられる。

「君はすごいな、スクライア司書長。なんだかんだで、ヒクサーと行くと決めてもまだ僕は未練を振りきれないでいるのに、君は覚悟ができている。」

「僕だってそうですよ。お二人よりも少しそれをするのが早かっただけの話です。と……そうだ。アコース捜査官、最後に頼まれてくれませんか?」

「?」

ユーノはヴィヴィオの頭を優しくなでながら何かを呟く。
すると、

「ふあぁ~……」

大きなあくびを一つしたかと思うと、小さな体がこてんとユーノに寄りかかってくる。

「ヴィヴィオを、なのはのもとに届けてくれませんか?これ以上、くだらない大人のいざこざに巻き込みたくないですから。」

「……わかった。責任を持って届けるよ。」

ヴィヴィオが眠りに就いたその後も、当然のことながら彼らの話し合いは続く。

「じゃあ、あの二人は置いていく方向でいいんだね?」

「ああ。エリオとウェンディには僕らと違ってまだ未来がある。こんなことに巻き込む必要なんてないさ。」

「ちょっとぉ、俺にもまだまだ先があるんですけど?」

「あげゃげゃげゃ!お前のこれから先なんざ、ソレスタルビーイングに入る入らずにかかわらず女に縁のないもんなんだから碌なもんじゃねぇだろ。」

「なんだと!!?」

ヴァイスが飛び起きてフォンに掴みかかろうとしたその時、ユーノにとっては懐かしい声で連絡が入る。

『こちら967。』

「967!よかった、やっぱり無事だったんだね!!」

『その声……ユーノか!!待ちわびたぞ!!』

「967、悪いけど感動の再会は後にして話を頼めるかな?」

『ああ、すまん。まずいことになった。』

「まずいこと?」

『レジアス中将が今までの不祥事を表ざたにされて自宅監禁、それに合わせて隠されていたソリッドが管理局に回収された。』






レジアス宅

「くそっ……!」

数時間前のことを思い出すたびに怒りがこみ上げてくる。
しらじらしいファルベルの演技に、そしてそれに従う妄信者たちに拘束されて自宅で軟禁状態にされたばかりかソリッドの在り処を押さえられてしまった。

「すまん、ユーノ、ゼスト……わしがうかつだったばっかりに……」

「後悔するのはまだ早いぞ、レジアス。」

「っ!?」

レジアスはその声に思わず立ち上がる。
木製の扉が開いたその先に立っているのは、かつてともにミッドの平和を願い、切磋琢磨しあった友人、管理局でも指折りの槍騎士のゼスト・グランガイツだった。

「ゼスト……!?表の局員たちは…!?」

「あの程度の輩に後れをとると思うのか?」

レジアスの後ろにある窓からは、門の前でのびている局員たちが仲良く積み重なっている。
そのそばでは嬉しそうにアギトが花火を出しながらはしゃいでいる。

「それで……わざわざ危険を冒してまで恨みをはらしに来たのか?」

レジアスからしてみればそうしてもらっても構わなかった。
ゼストの部下が命を落とし、彼自身も死にかけたきっかけを作ったのは紛れもなく自分なのだ。
こうしてファルベルに自由を奪われて生き恥をさらすより、その方がいっそ救われる。
だが、ゼストはそれを許さなかった。

「……お前にはミッドの行く末を見守ってもらう。どれほど無様でも生きてこの世界を守ることが、お前の償いだ。」

「……厳しいな。」

「そういう性分なのでな。こればっかりはどうにもならん……。それより、早くここから逃げるぞ。そろそろ追手が…」

『その必要はない。』

「「!!?」」

驚く二人の前にファルベルの姿がテレビに映る。

『やあ、騎士ゼスト。こうして会うのは二度目になるかな?』

「ファルベル・ブリング……!!」

『ようやく君を見つけられてホッとしたよ。なにせ、これから先もいろいろと手まわしをしていきたいのでね。自由に動ける君に協力してもらいたいのだよ。』

「誰が……!!」

ゼストは槍からカートリッジを弾き飛ばして刃を突き立てんばかりの勢いでテレビの画面に向けて切っ先を向ける。
しかし、

『おや、それは残念だ。彼女は君たちが頑固なせいでその命を散らしてしまうわけか。』

ファルベルの左上にある一室の映像が映される。
そこには、一人の女性が不安げな表情で椅子の上に大人しく座っている姿がある。

「オーリス!!?」

「貴様!!彼女に何をした!!」

『まだ何もしとらんさ。君たちが断りさえしなければな。私の指示に従うなら彼女の安全は保障しよう。』

二人は歯ぎしりをしながら画面の奥のファルベルを睨みつけるが、どうすることもできずに静かにうなずく。

『よろしい。では、レジアス中将には今まで通りミッドの平和を守るために尽力してもらおう。騎士ゼストにも裏で動いてもらうとしようか。では、私はこれで。』

画面からファルベルとオーリスの姿が消えると、ゼストは外にいるアギトに語りかける。

(アギト…)

(おう!どうした旦那?)

(……ルーテシアを連れて今すぐ機動六課のもとに行って保護してもらえ。)

(え!?)

(……俺は、これからお前の主たる資格すら失う。俺は…お前にふさわしくない。)

(何言ってんだよ旦那!!あたしは最後まで…)

(いいから行け!!)

(!!)

ゼストの一喝を受けて震えるアギトだったが、ロードの最後の願いを聞いてゆっくりとその場を後にする。

(さらばだ、アギト。お前たちと過ごした時は、仲間を失った俺にとってかけがえのない時間だ。)

(っ!ごめん、旦那!!)

晴天に輝く太陽に吸い込まれるようにアギトが消えた後も、しばらくゼストは窓からそれを見送っていた。





ホテルアグスタ

「まずいな……ソリッドが無いと帰ることができない。」

「落ち着いてる場合じゃないよ!!今のソリッドの太陽炉は起動状態にあるから調べられたら…」

ユーノが慌て始めると同時に874が何かを感知する。

「……みなさん、ジェイルがはじめたようです。」

『り、臨時ニュースです!!クラナガン南部に巨大な戦艦出現し、徐々にその高度を下げ続けています!!地上部隊の発表によると、あと二時間ほどでファルベル准将率いる099部隊隊舎に落下するとのことです!!では、現場にいる…』

「急いだ方がよさそうだな。」

ヴァイスもテレビの向こうで降下を続けるゆりかごを見てようやくベッドから起き上がる。

「とりあえず、ソリッドを奪還するのが先決…」

「しっ…」

ヴェロッサがヒクサーの言葉を止める。

「あげゃ、こっちにもお客さんが来たみたいだな。」

廊下からどかどかと足音が聞こえてきたかと思うと部屋の扉の前でピタリと止まる。
そして、ロックが解除されると同時に杖型やポールアックス型のデバイスを持った局員たちが踏み込んでくる。
しかし、

「おはようございますが抜けてるぜ?」

「このくそったれども。」

ユーノとフォンが持っていたライフルが火をふき、先頭で突っ込んできた二人が顔から後方に吹き飛ばされる。
それにもかかわらず残りの二人も飛び込んでくるが、今度はヴァイスの相棒、ストームレイダーが吼える。
的確に頭部をとらえた一撃を受け、残りの二人も倒れるが、ヴァイスの息もたった二発の弾丸を放っただけで異常に乱れている。

〈大丈夫ですか?〉

「心配すんな……ちっと指先が震えるだけだ。」

尋常じゃないほどの汗をぬぐい、何とか立ち上がったヴァイスを含めて全員で今後の予定を確認する。

「じゃあ、僕とヴァイスは一足先にサダルスードを起動させてゆりかごのもとにいく。ロッサもヴィヴィオちゃんを彼女たちに渡したら指定されたポイントに向かってプルトーネを起動させてくれ。二人とも、MSの操縦は初めてだろうから、遠方から狙撃をしてくれればそれでいい。」

「「了解!」」

「僕は途中にいる967も拾ってソリッドを取り戻しに行く。887、サポートよろしく。」

「OK!」

「俺様はちっと寄るとこがある。874、アストレアの準備は任せたぞ。」

「了解。」

「それじゃ、始めようか。」

ユーノの言葉に全員がうなずくと、扉、窓と思い思いの出発地点へと向かう。

「ミッション、スタート!」

扉から飛び出した三人は、ヴェロッサは非常階段、ヒクサーとヴァイスは通常の階段を下りていく。
窓からは紅の輝きを振りまきながらフォンがクラナガンの中心地へ、翠の光とともに赤い顔をして照れる887を抱きかかえたユーノが郊外へと向かった。





クラナガン南部 099部隊隊舎

「准将、退避の準備が完了しました。」

「……必要ない。」

「は?」

思いがけない上司の言葉に男はまぬけな顔をする。

「必要ないと言っている。」

「し、しかし、もう間もなくゆりかごはここを直撃します!すぐに脱出を…」

「脱出しようとすれば、スカリエッティの作った人形たちが襲ってくる。」

「ですが……」

「そう慌てるな…」

ファルベルはゆっくり立ち上がると窓のブラインドを上げて外の様子をうかがう。
もうすぐここにゆりかごが落ちるというのに、逃げ出すものは誰もいない。
099部隊の人間のほとんどが熱狂的なファルベルの支持者たちであるため、彼が逃げないことには彼らも逃げることはない。
たとえ、命を落とそうとも。
だが、今回は命を張る必要などない。

「そう……彼らが勝手に解決してくれるだろうからな。」





クラナガン 南部

「こっちでーす!!時間はまだありますから落ち着いて避難してくださーい!!」

我先にと逃げる群衆をなんとかなだめながら、少しずつではあるが安全な場所へと導いているスバルだが、内心焦っていた。
他の場所でも同時に騒ぎが起きているせいもあるのだが、魔導士の数が圧倒的に足りない。
このままでは避難が間に合わない。

できることなら、みんなを守れる力が、空に浮かぶあの艦を粉砕できるほどの力が欲しい。
そう、

(あのロボットさえいてくれたら……!!)

スバルがそう思った瞬間、一条の赤い閃光がゆりかごにぶつかり大きくその巨体を揺らす。

「あれは!!」

今まで何度も自分たちを危機へと陥れてきた凶悪な赤い閃光が、今度は自分たちを救おうとしている。

「いったい、どうして……」






「クソッ!!艦首から少しずれちまった!!」

ヴァイスは悔しそうにスコープから目を離して額の汗をぬぐう。
その間に、ストームレイダーは計算を終えていた。

〈仰角修正完了。いけます。〉

「サンキュー、ストームレイダー!機体制御をよろしく頼むぜ!」

ヴァイスは大きく深呼吸をすると、再びスコープを覗きこむ。

「サダルスード、ヴァイス・グランセニック、目標を仕留める!」

遥か下に逃げ惑う人々を望みながら、群青色の巨体の各所に備え付けられたセンサーをフル活用してゆりかごに狙いを定める。
デュナメスの使用していたスナイパーライフルから、本来そこから放たれるはずのなかった赤い弾丸が発射されてゆりかごへと向かっていく。
だが、今度は船体に当たる前に弾丸は何かにぶつかって無効化される。

〈AMFならびに物理障壁の発生を確認。障壁の消耗、修復されていきます。〉

「チッ!!手の込んだことを!!」

障壁にくじけることなく、幾度も引き金を引くヴァイスだが、徐々に狙いが甘くなり、続いて連射の速度が落ち、遂には引き金を引くことすらできなくなってしまう。

(くそっ…たらぁ……!)

スコープ越しの光景にいるはずのない妹の姿が何度も見える。
どれだけ息を吸っても、空気が入ってこない。
苦しい。
体が、指が重い。
重い…重い重い重い重い!!

「ぐ……ぁ………!」

〈バイタル、危険値に到達!〉

すでにヴァイスの耳には何も聞こえない。
頭の中を支配しているのは、激しい後悔と自責の念。

(俺は……俺は……っ!!?)

信じられなかった。
逃げ惑う人々をよそに、ビルの上に二人の人物が立っている。
一人は、自分を、世界を変えるためにスカウトした人間であるヒクサー。
もう一人は、左目に眼帯をつけた少女。

「そんな……!!?どうして、ここに…!!?」

『……お兄ちゃん。』

「ラグ…ナ……」

久々に聞いた妹の声。
ヴァイスにとって何よりも大切な存在であり、向かい合うのが怖くて逃げ続けてきた罪そのものである少女。
そのラグナが、自分の操る質量兵器を見つめている。

『ごめんね、お兄ちゃんが苦しい思いをしていることに気付いてたのに、何もしてあげられなくて……』

「違う!!あれは全部俺が…」

『でもね……』

ラグナは大きく息を吸い込むと手に持つ端末に、そこにヴァイスがいるように優しく語りかけていく。

『でもね……私のこと許してもらえるなら、もう一度昔のお兄ちゃんに戻ってほしいな。……ごめんね…こんなわがまま、聞いてもらえるわけないのに……ごめんねお兄ちゃん……!ごめん…ね……!!』

「ラグナ……」

涙でかすれた声が、ヴァイスを縛っていた枷を外していく。

「ラグナ……聞いてほしいことがある。」

『…なに?』

「俺はこれから、遠いところにいきゃなきゃいけない。けど俺は、お前が待つこの世界に絶対戻ってくる。だから、それまで待っててくれるか?」

『……うん!!』

涙をぬぐったラグナを見た瞬間にヴァイスの体から震えが消え去り、その眼はスナイパー特有の鋭いものへと変わる。

「ありがとな、ヒクサー……」

『フフッ…どういたしまして。』

「さて……いくぜ、相棒!!」

〈All right,my meister!〉

ヴァイスは狙いを定めると、空を飛ぶ局員たちを避けて寸分違うことなく同じ場所へと狙撃を集中させていく。
そして、遂に外部障壁を貫いてゆりかご本体にビームを叩きこんだ。
だが、

〈粒子残量50%をきりました。〉

「ははっ……ちと張り切りすぎたな。」

粒子の消費が早いのは無理もない。
まったく経験のないMSを操縦しての狙撃に気をとられているせいで、粒子残量にまで気が回らなかったのだ。
むしろ、初めての操縦でここまでできるのはひとえにヴァイスの操縦能力の高さのなせる技だろう。

「ロッサ、ユーノさん……早く来てくれ!!」






クラナガン上空

赤い弾丸がゆりかごに向かう中、なのはたち空戦魔導士もゆりかごの落下を少しでも遅らせるべく終わりの見えない戦いのただなかにいた。

「ブレイクシュート!!!!」

渾身の一撃がゆりかごの正面から唸りをあげて迫る。
だが、船体全体を覆うように展開された高濃度のAMFがそれすらも無効化してしまう。
それでも、諦めるわけにはいかない。
もしかしたらあそこにヴィヴィオ、そしてユーノもいるかもしれないのだ。

「絶対に……落とさせたりしない!!」

しかし、その想いに比例するように少しずつ巨体が下へ下へと降りていく。
なのはの不屈の心もその無慈悲な光景の前に折れそうになる。
その時だった。

「ママーー!!!!負けないで!!!!」

「え…」

ふと下に目をやると、食料品店の屋上にたたずむ少女が一人。
翠と紅のオッドアイに、流れるような金色の髪をした少女。

「ヴィヴィオ……?」

自分に問いかけるようにつぶやいた後、なのはは目を潤ませながらヴィヴィオのもとへ急降下していく。

「ヴィヴィオーー!!!!」

自分に課せられた任務も忘れ、屋上に降り立ったなのははヴィヴィオを抱き上げる。

「よかった……!!本当によかった……!!」

「ケホッ……ママ、苦しい…」

「あ、ご、ごめんね!」

なのはは慌ててヴィヴィオを下ろすと、辺りを見回す。
辺りにはすでに人は見当たらないが、確かに誰かがいたような気配がある。

「ヴィヴィオ、どうしてここにいたの?」

「う~んと……え~と……」

ヴィヴィオは首を左右に傾けて考え込むが、

「わかんない。起きたらパパのところじゃなくてここにいた。」

「ユーノ君と一緒にいたの!!?」

「うん!パパ元気だったよ!!」

「よかった……!!」

ヴィヴィオと一緒にいたということは、おそらく無事だということだろう。
しかし、

(だったら、なんでここにいてくれないの……?)

その理由の見当はついている。
おそらく、あれのもとへと行ったのだ。
しかし、悔しいが今の状況を打破できるのはあれしかない。

(……信じなきゃ。ユーノ君は絶対私たちのところに帰ってくる!!)

それに、今はユーノのことを気にかけている場合ではない。
再会を果たせたのはいいが、このままでは全員ゆりかごにつぶされてぺしゃんこだ。

「このままじゃヴィヴィオまで…」

「その心配はあらへんで。」

不安そうななのはのもとに、一緒に奮闘していたはやてが舞い降りる。
その髪や瞳の色は、リインフォースとユニゾンしているため普段と違っている。
そのせいか、

「……誰?」

「ガーン!!ヴィヴィオちゃんそれはないんとちゃう!!?優しい優しいはやてさんに対してそれは…」

「だってぶたいちょーはもっとおばちゃんみたいな感じだもん。そっくりだけどそんなにかわいくない。」

「ガガーン!!!!そんな風に思われてたんか私!!?」

〈はやてちゃん、コントをしてる場合じゃないです!!〉

「ああ、そうやった。……でもやっぱりショックや。」

ヴィヴィオのおばちゃん発言に肩を落とすはやてだが、気を取り直して喋りだす。

「避難しとる人らと一緒にヴィヴィオちゃんをアースラに送るわ。それなら、なのはちゃんも安心できるやろ?」

「うん。ありがとうはやてちゃん。」

「ほな、ちょっと行ってくるわ。ヴィヴィオちゃん、しっかりつかまっとき。」

「うん!」





はやてに連れられていくヴィヴィオの姿を確認したヴェロッサはヒクサーに連絡を入れる。

「こっちは済んだよ。これからエウクレイデスに向かう。887……じゃなかった。874ちゃんにプルトーネの準備をするように言っておいて。」

『了解。』

通信を終了したヴェロッサは、ふと始めてはやてと出会った時のことを思い出す。
自分のことをナンパな男だと思って無駄に警戒していたくせに、手作りのケーキを食べている時に子供のようにはしゃぐ彼女のギャップに驚かされたものだった。
そんな彼女が、いまや部隊長となって活躍しているのだから世の中わからないものだ。
できることなら、姉たちともどもこれからも彼女のサポートに回ってやりたかったが、

「悪いね、はやて。僕は君ほどポジティブに物事をとらえられるようにできてないんだ。」






?????

「チッ……やられたな。」

フォンは蛍光ペンのような色の液体の上に転がっている三つの脳髄を見ながらため息をつく。
別行動をしていたドゥーエや、念入りに調べていたファルベルの通信記録をもとにここを割り出したのに、目的であった最高評議会と思われる存在はすでにこときれているようだ。

「ジェイルじゃねぇが、あのファルベルってやつの上にアステロイドの一つでも落としたくなってくるぜ。」

脳を一つ踏み潰して白いペーストを作ることで憂さ晴らしをするフォンだが、ふとコントロールパネルのモニターの一つに目がとまる。

「バロネットにフュルスト……ハッ!誰が考えたのかは知らねぇが、まさかここまでやってやがるとはな。」

ここまで来ると怒りを通り越して感心すら覚える。
もたらされた技術が最先端のものだったとしても、それをここまで応用できる技術者がミッドにいるとは思わなかった。

「ミッド製のMSか……急いだ方がよさそうだな。」

フォンは靴にこびりついた肉片など気にもかけずに、外で待機させてあるアストレアへと急いだ。






クラナガン郊外

控え目な大きさの戦闘機が、二人の人影を乗せて人気のない裏路地を低空飛行していく。
刹那、戦闘機の真上に影ができる。

「IS、スローターアームズ。」

「マレーネ!!」

〈了解。〉

主とその仲間の一人が飛びのいた瞬間、マレーネは自身を両脇の壁と平行にすることによって上空から迫っていた三日月形の刃をからくもかわす。
ゴウッと凄まじい音とともに地面削った刃は地上に降り立った長髪の少女の手元に戻り、再び投擲の体勢が整えられる。

「エリオ、無事っスか?」

「僕はね。そう言う君は?ウェンディ。」

「見た通りピンピンっス。」

自分のもとに戻ってきたマレーネに再び飛び乗ったウェンディは狭い路地を埋め尽くすほどの魔力弾をばら撒くが、長髪の少女、セッテはそのすべてを紙一重でかわしながら二人に接近していく。
だが、それを黙って見ているエリオではない。

「ストラーダ!!」

稲妻を纏った槍でセッテの振るう刃を受け止めると同時に空いていた左手で彼女の腹部を殴ろうとするが、あと一歩のところで薄い魔力の膜に阻まれる。
だが、まだエリオの攻撃は終わらない。
今度は左腕全体を電撃が奔り、集中した魔力によって輝きを放つ。
もう一人の自分の尊敬する人間が使う技。
古代より受け継ぐ、曲がることのない騎士の信念のこもった一撃だ。

「紫電…一閃!!」

「がっ!!?」

ピンポン玉のようにセッテを吹き飛ばしたエリオだったが、すぐさま背を向けて走り出す。

「ちょ、そんなに急がなくても…」

「あの程度で止まってくれるなら苦労しないよ!!」

エリオの言うとおり、セッテは紫電一閃が放たれる瞬間に半歩後ろに飛んだおかげでダメージを軽減していたのだ。
もっとも、それでもしばらくはまともに動けないかもしれないが。

ユーノとヴィヴィオがいなくなってからの三日間のエリオのこの成長の早さは驚異的だった。
周りが舌を巻くほどの速度でありとあらゆることを吸収していった。

(いくらなんでもこれは…)

プロジェクトFの遺産。
確かに潜在能力の高さの理由の一つかもしれないが、それだけでは説明がつかない。

「?どうしたの?」

「……なんでもないっス。」

ウェンディは頭を二、三回横に振って余計な思考を排除しようとする。
その時だった。

「え……?」

一つ向こうの道を駆ける二つの影をウェンディの目は確かにとらえていた。
一人は猫耳のようなカチューシャをつけた幼い少女。
もう一人は、巨大な盾を右腕に装備した青年。

「ユノユノ!!?」

「え!!?」

二人は足を止めて先程までユーノらしき人物がいた場所へと振り返る。
そこを今度は数人の局員が厳しい表情で駆けていく。

「局員……?」

「な~んか、ヤバそうな感じっスね。」

などと言いつつ二人はその後を追いかけ始めた。






「あ~!!もう!!しつこいにもほどがあるわよ!!?」

「それぐらいしか取りえが無いんだろう!!?」

「ハッ!!言えてるわ…っね!!」

887は手榴弾のピンを口で外すと一瞥もせずに後ろへと放り投げる。
派手な爆音と衝撃で周囲の古い建造物を揺らす。
しかし、それほどの爆発巻き込まれてもなお局員たちは追跡をやめない。

「ったく!!いかれてるわよあいつら!!いくら魔法が使えるからって、死ぬのが怖くないわけ!!?」

「ああいうのは向こうにだって嫌というほどいたろ!!」

ユーノの言うとおりだ。
彼らの目に恐れはないが、同時に人間にとって必要な感情のほとんども同時に抜け落ちているようにも見える。
そう、かつて中東で見た狂信者たちのように。

「なるほどね!!でも、今はあの手の狂信者より正規の軍隊の方がいかれてるの多いわよ!!」

「そら、今頃一人で無茶してばっかの刹那にはお気の毒な話だ!!」






西暦2312年 プトレマイオスⅡ

「っくしゅん!」

「?どうしたの、刹那?」

「いや、少し鼻がな……」






クラナガン郊外

「しかし、これじゃソリッドのもとにたどり着いた時が思いやられるなぁ……」

保管場所はもうすぐ近くなのだが、この調子ではソリッドの周りにも大量の局員が配置されているかもしれない。

「とにかく、今は先に進んでみないことには…」

「ユーノさん!!」

「ユノユノ!!」

「「!!?」」

後ろからの突然の声にユーノと887だけでなく追いかけていた局員も振り向く。

「エリオ!?それにウェンディまで!!」

最悪だ。
まさかここでヒクサーが目をつけていた二人に会うとは思っていなかった。
しかも、ファルベルの部下も一緒なのだ。

「一般局員か……」

「悪いが、機密保持のために消えてもらう。」

「「え?」」

「チッ!!」

「やばっ!!」

エリオとウェンディに気をとられている隙に追いかけていた局員をアームドシールドと蹴りで倒した二人はそのままエリオとウェンディの手を引いて駆けだす。

「ちょっと!?ユノユノなにしてるんスか!?あと874まで!!」

「そ、それに今の人たち局員なんじゃ…」

「うっさいちびっこ!!死にたくなかったら黙って走りなさい!!」

しかし、数歩進む前に辺りを局員に取り囲まれる。

「ワー……これって人生最大のピンチってやつ?」

「それどころか、人生最後の瞬間になっちゃうかもね。」

減らず口を叩きながらもなんとか、この危機的状況を打破できないか思案を巡らせるが、その間にも周囲にはスフィアが形成され、じりじりと距離を詰められていく。
その時、

「下だ!!」

「!!」

どこからともなく聞こえてきた声に反応して舗装の剥がれた道を見てみると、数メートル先にマンホールの入り口を見つける。

「走れ!!」

ユーノの号令に従うまでもなく、全員がそこへと走り出す。
しかし、同時に周囲を取り囲んでいた局員たちと彼らが生成したスフィアが襲いかかる。

「のわぁぁぁぁぁ!!!!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!!!死んじゃうっスぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」

「ユーノ!!」

「わかってる!!」

ユーノはマンホールの蓋をバンカーで壊すとそのままそこへと飛び込んでいく。
残りの三人もそれに続く。
長い間放置されていた地下水道は水の流れが全くなく、そのせいなのか腐臭がこもりただ立っているだけでも吐き気がしてくる。

「うっぷ……くっさぁ~!なんでよりによってこんなとこ…」

「文句は後で聞いてやる。」

「やっぱり君か、967。」

ユーノが足元にいた青いボールを持ちあげると、その中から長い黒髪の男が出てくる。

「久しぶりの再会を喜びたいところだが、今はソリッドの奪還を優先させてもらうぞ。」

「そういうところは相変わらずだね。」

「そういうお前は、少し変わったな。」

「ハハハ、何せパパになったからね。」

「ユーノさん!!」

久しぶりの相棒との会話を楽しんでいたユーノだったが、エリオとウェンディの疑惑のまなざしに気付く。

「どういうことなんですか……?その人たちは誰なんですか……?なんで……なんで局員に追われているんですか!?」

ユーノは脇にいる887に目をやるが、肩をすくめられるだけで解決などするはずもない。
自分で、真実を話さなければならない。

「……この子は887。こっちが、僕の相棒の967。そして………僕は、ソレスタルビーイングのガンダムマイスター、ユーノ・スクライアだ。」







後編に続く



[18122] 15.天使、赤き衣をまといて…(後編)
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/11/02 21:40
スカリエッティのアジト

「……人というのはよくできているとは思わないかね?」

ジェイルは落ちていくゆりかごが映された大画面を眺めながら独り言のように話し始める。

「己が欲望を満たすために誰かから何かを奪い、それがきっかけでまた誰かから大切なものを奪われる。わかってはいるのに、その連鎖を断ち切ることができない、最も未成熟な生物だ。……しかしその一方で、自らの弱さを受け入れ、誰かと手を取り合うことで未来を紡ぐこともできる。そういう意味では、最も進化した生物かもしれないね。」

そう言うと、白衣を揺らして後ろにぽっかりと空いた大きな入口の方を向く。

「君はどちらだと思う?フェイト・テスタロッサ。」

ジェイルの視線の先には、金色の刃をその手に握りながら歩いてくるフェイトの姿があった。
フェイトはその質問に答えることなく刃を一度振るって空気を振動させると、鋭い目つきでジェイルを睨みつける。

「ジェイル・スカリエッティ、あなたを逮捕します。」

「ふむ……それは別段かまわないのだが、一つだけ条件がある。」

「?」

「この奥にいるメガーヌ・アルピーノ、そして彼女の娘であるルーテシア・アルピーノの保護を約束してほしい。」

(やっぱり……)

彼を追っているうちに、フェイトの中にある確信が生まれていた。
今ここに立っているのは狂気に染まったテロリストではない。

「……あなたの真の目的は何?今のあなたは私たちが想像していたテロリストじゃない。なのに、なぜこんなことを…」

「なぜ、か……動機など必要なのかね?自分が大切に思うものを、世界とそこに生きる命を守ることに。」

「え……?」

予想外の答えに呆気にとられるフェイトをよそに、ジェイルは淡々とこの事件のすべてを話し始めた。




魔導戦士ガンダム00 the guardian 14.天使、赤き衣を纏いて…(後編)

「私が今回の一件の計画を開始したのは四年前、彼が戻ってきたときだ。」

「……ユーノのことを言っているの?けど、それとなんの関係が…」

「君も知っての通り、彼が君たちと離ればなれになるきっかけを作ったのはこの私だ。いまさら言い訳をするつもりはないが、あの時の私は、自分が作られた存在だと知って絶望し、何も考えずにガジェットの試作型を作り、そしてあの男にそれを差し出した。だが、それがきっかけで彼が犠牲になったと聞いた時は後悔したよ。……この命を断とうとすら考えた。」

「……けど、今あなたはここにこうして存在している。」

「フフフ……まさしくその通りだ。」

ジェイルは自分のしぶとさに思わず笑いが漏れる。

「彼が戻ってきたとき、私自身もこの世に戻ってこれた気がしたよ。そして、だからこそ私なりの償いをすることを決意した。」

「償い?」

ジェイルはしっかりとうなずく。

「管理局の中に巣くう闇を排除し、その後の世界を託せる者を見つけ、試練を与えることで成長させる。それが私の目的だ。」

「な……!?」

驚きで言葉が出てこない。
まさか自分たちを成長させるためにここまでのことをするとは思ってはいなかった。
しかし、思い当たる節はある。
まず、スカリエッティの起こしたと思われる事件での被害者は皆無に近い。
さらに、騒動が起きる場所の特徴も、使ってくる兵器の種類もいちいち違うものが多かった。
確かにあれだけの経験を積めば成長はするかもしれない。
だが、まだわからないことがある。

「でも、なんでユーノを狙ったの!?」

「彼に用があったのは私ではなくフォンの方だ。私はあくまで、彼との契約に基づいて協力したにすぎんよ。」

「だからなんで!?」

「……彼にもまたやるべきことがあるということだ。ガンダムマイスターとしての役目が。」

「ガンダム……マイスター?」

「今はまだ分からなくていい。だが、いずれ君たちにもわかる時が来るだろう。この世界は、綺麗なものだけでできてはいないことを。」

そう言うと、ジェイルは満足そうにフェイトに両手を差し出す。

「ここから先は自分の目と耳で確かめたまえ。人から与えられた答えに意味などないからね。」

自分の手に金色のバインドをかけるフェイトを見て、ジェイルは今まで見せたことのない柔らかな、しかし悲しそうな笑顔を見せる。

「最後に、君とエリオ君に謝罪をさせてくれ。」

「え?」

「……すまなかった。私たちが死んだ人間に会いたいなどというエゴを貫いてしまったために、君たちにはつらい思いをさせてしまった。」

「……そんなことない。」

フェイトの否定の言葉にジェイルは顔を上げる。

「たしかに、つらいことはたくさんあったけど、私はなのはやユーノに会うことができた。こうして、誰かのために戦うことができるようになった……。だから、悪いことばかりじゃなかったと、私はそう思ってる。」

「そうか……」

フェイトなりの気づかいを噛みしめ、ジェイルは体の自由を奪われてもなお胸を張ってその場を後にした。






クラナガン郊外 地下水道

「武力による紛争の根絶……!?」

ユーノの口から出てきた多くの矛盾をはらむ夢物語。
戦いを戦いで終わらせるなど、エリオには到底不可能のように思えた。
だが、それよりも

「……ずっと騙してたんですか?」

自分を、そして自分の家族をだましていたことがエリオには許せなかった。

「人を殺しておいて、平然とみんなの前で笑ってたんですか!!?」

「僕も記憶を取り戻したのがつい最近でね。でもまあ、それ以降はそう言っても語弊はないかもね。」

淡々と事実のみを語るユーノ。
その様子が一層エリオの怒りを増幅する。
しかし、

「あたしは……なんとなくっスけど、ユノユノの気持ちがわかる気がする。」

「ウェンディ!!?」

「だってそうっしょ?あたしらの生きるこの世界が、どれほどいびつなものなのかみんなわかっていて見て見ぬふりをしている。けど、それを間近で見てきた人間が世界を変えたいと思って戦うことを決意したって、なんの不思議もないと思うけど?……まあ、あたしも戦闘機人として生まれて、そういうところは嫌というほど見てきたからそういう風に思ってるだけかもしれないっスけどね。それに…」

「それに?」

「ユノユノがすき好んで人殺しをするような人間じゃないことぐらい、エリオだってわかってるっしょ?」

「それは……」

わかっている。
自分に優しく手を差し伸べてくれたユーノが、そんなことをする人間でないことくらいエリオもわかっている。
けれど、

「でも……でもやっぱり戦う必要なんてないはずだよ!!どこの世界にだって、秩序があってそれを守る組織がある!!」

「けど、今あたしたちを追ってんのはその秩序を守る側の人間なんじゃないの?」

887の言葉にぐうの音も出ないエリオだが、887はためらうことなく駄目押しの一言を放つ。

「あんたも拾われるまでは嫌というほどそれを見てきたんでしょ?それが幸福な日常が手に入った途端に全部なかったことにするわけ?」

「そんなこと!!」

「自分の住む世界の現実くらい、自分で見定めなさい。それができない人間に、このスカポンタンのしてきたことも、しようとすることも否定する権利なんてありはしないわ。」

まだまだ言い足りない様子の887だったが、ユーノが間に割って入る。

「エリオ、ウェンディ。君たちは非合法作戦中のファルベルの部下の姿を見てしまった。おそらく、今下手にみんなと合流すれば、その場で身柄を抑えられるだろう。はやてが何をしてもね。」

「ま、あれだけ強引だったらそれくらいやってくるかもっスね。」

「だから、僕たちについてきて欲しいんだ。その間なら僕たちで二人を守ってあげることができるから。」

「そのついでにソリッドも奪還して、はれてあたしたちはこの世界からバイバイってわけ。」

「ユノユノ、行っちゃうんスか?なのはさんやヴィヴィオはどうなるんスか?」

ウェンディの言葉にユーノの目がわずかに揺らぐ。
だが、

「……仲間が向こうで戦っているのに、僕だけ知らんぷりは決め込めないよ。」

「でも……」

「僕にも譲れないものくらいある。なのはたちには悪いけどね。」

「なら……」

「?」

「なら、あたしもついてくっス!!」

「ええっ!!?」

いきなりの申し出にユーノは戸惑う。

「ちょ、ちょっと!!意味わかって言ってるの!?これから僕は…」

「ユノユノが無茶しないようにあたしがついてって、何が何でもなのはさんたちのところに無事に戻れるようにするっス!!」

「だからそういうことを言いたいんじゃなくて…」

「僕も行きます!!」

「エリオまで!!?」

「ユーノさんが道を踏み外そうとしているのを放っておくことなんてできません!!」

「いや、だから…」

「その話はとりあえず後だ。」

967が視線を向けた先から足音が近づいてくる。

「しょうがない、とにかく今はソリッドのもとへ向かおう!!」






クラナガン上空

〈粒子残量30%!〉

「くそ、もう底尽きかけてんのかよ!!」

怒鳴ってもどうにもならないことくらいわかってはいるが、このどうしようもない怒りをどこに向けていいのかわからない。
なんとかストームレイダーに消費粒子を押さえてもらいながら足止めを継続していたヴァイスだったが、それも難しくなってきていた。
しかし、そこへ新たに加わる機影があった。

『待たせたね、ヴァイス。』

「その声…ロッサか!」

『あげゃ、俺もいるぜ!』

白、青、赤でバランスよくカラーリングされた機体、プルトーネがゆりかごへの射撃を開始する。
その横からやってきた紅の機体、アストレアも持っていた重装備を掃射していく。

「ちょ、オイ!!なんだよその重装備!!それに何だよその背中のでかいの!!」

ヴァイスが驚くのも無理はない。
フォンの操るアストレアの背中には通常よりも一回り大きい推進機、そして腰にはビーム発射口のついた大型の槍、そして大型のバズーカを両腕に装備し、右腕にはトレードマークであるGNプロトソードが装備されている。

『あげゃ、平和的に借りてきたもんだ。』

「嘘つけぇぇぇぇ!!!」







西暦2312年 地球連邦 アロウズ・ヨーロッパ基地

「ぶぇ~くしょいっっ!!」

「うわ!?汚っ!!」

「フフフ……きっと大佐が俺の噂をしてるんだな……」

「アホなこと言ってないで特注した大型粒子バーニア奪われたこと反省しろ!!」






クラナガン上空

『二人ともそこまでにして。今はゆりかごを押し上げることを考えないと。』

「あげゃ、まかせな。」

フォンはペダルを踏み込みゆりかごへと突進していく。
ヴァイスとヴェロッサが操るサダルスードとプルトーネは後方から狙撃をすることで障壁を緩和し、アストレアを援護する。

「ぶち抜きなぁ!!」

腰に装備していた大型GNランサーに粒子を纏わせ、障壁を貫きそのままゆりかごを押し始めるアストレア。
だが、

(チッ……流石にこの質量を[T]で押し切るのはさすがに無理か……!)

確かに落下速度は下がったが、背面に装備した大型粒子バーニアを使っても持ち上げるまではいかない。
となると、

(あとはソリッドにかけるしかねぇか…)






クラナガン郊外 研究所跡

「あれか…」

物陰に隠れる五人の眼には、萌黄色の巨人とその周りを飛び回る魔導士の姿がありありと写っている。

「ざっと十四、五人ってところっスね。」

「後ろから来てるのも合わせたら二十いくわね。」

「じゃ、さっさと始めようか。」

ユーノの手から長細い缶のようなものがソリッドの周りを飛び交う魔導士に向けて投げつけられる。

「耳と目を閉じて!!」

空中に光が発生すると世界が停止した。
いや、少なくとも五人にとっては違っていた。
他の人間が音も視界もない世界に混乱を極める中、五つ旋風が辺りにいるものすべてを薙ぎ払い、そして、

「887!!ソリッドを押さえた!!」

「了解!!こっちは勝手に退散するわ!!」

聴覚と視覚が正常に戻った時、その場に残っていた人間を待ち受けていたのは光がともった萌黄色の巨人の眼だった。

「ソリッド、ユーノ・スクライア……いきます!!」

ふわりと浮きあがったソリッドは、周りにいる魔導士を無視してそのまま屋根を突き破ると空へ舞い上がる。

「二人とも、それに着替えておいて。」

そう言うと一緒に乗ったエリオとウェンディにノーマルスーツを手渡す。

「967が言っている話が本当なら、ひょっとしたら飛び出した先は宇宙かもしれないからね。」




十分前

「ジュエルシードをコンパスにする?」

「ああ、ジェイルによると理論上は可能らしい。ジュエルシードが本来持つエネルギーで次元の壁をこじ開け、向こうにいる人間の感情をコンパスに突き進む。ただ、向こうにいるプトレマイオスのメンバーがお前を想う気持ちが、こちらにいるお前の仲間より強いということが条件だがな。」

「……万が一、なのはたちの想いが上回ったら?」

「向こうとこちらのはざまを漂う羽目になる。」

「博打だなぁ……」

「仮に成功したとしても、どこに飛び出るかはわからない。ひょっとしたらマグマの中に飛び出して一瞬で蒸発、なんてこともあり得るがな。」

「やる前に不安をあおるのはやめてくれない!?」






現在

「まあ、今はゆりかごを止めるのが先決だ。」

しかし、オリジナルの太陽炉を積んでいるとはいえあの質量を浮かせることなど不可能だ。

「そう…浮かせることはね。」

「「?」」

策はある。
TRANS-AMを使えなくても、ソリッドにのみ備わった力を使えば。

(チャンスは多く見積もっても一分。それ以上は内部の圧力が限界を向かえる…)

わずか一分間。
そこにすべてをかける。

「さあ、行くよ!!」






クラナガン上空

「残り…はぁはぁ……!12分……!」

疲労しきった体でゆりかごを睨みつけるはやて。
突如介入してきた三機のおかげで何とか時間を延ばすことはできたが、このままでは住民全員の避難には間に合わない。
なのはや他のメンバーもよくやってくれているが、ここらで撤退しないと自分たちもまずい。

「せやけど…逃げてたまるか……っちゅーねん!!」

何とかしようと残り少ない魔力を振り絞って砲撃を放つはやて。
しかし、現実は残酷だ。
無傷のゆりかごが高度を下げるほどに少しずつ、しかし確実に最後の瞬間は近づいてきていることを理解させてくる。

(もう…諦めるしかないんか!?)

誰もがそう思ったその時、

「残った人間を全員西側に集めろ!!」

「この声……!!」

「早くしろ!!全員仲良くミートパテになりたいのか!!」

声の先を見る。
萌黄色の天使が瑠璃色の光とともに猛スピードでこちらに向かってきていた。
そして、その姿を確認していたのははやてたちだけではなかった。

『遅いっすよ、ユーノさん!』

『ヒーローは遅れて登場……ってやつ?』

ヴァイスとヴェロッサは到着したソリッドに歓喜の笑みを浮かべる。

『あげゃ、何とか間に合ったな。』

モニターの向こうのフォンの憎たらしい笑みですら、今のユーノには天使の微笑みにみえてくる。
仲間たちの笑顔で間に合ったことを確認してに胸をなでおろすがここからが本番だ。

ソリッドのアームドシールドがクルリと回転し、バンカーモードに変わる。
そして、

「GNバンカー、バースト!!」

障壁を一気に打ち破ってゆりかご艦首の左側にとりつくと、今度は巨大な魔法陣を展開する。

「967、いくよ!!」

「了解!!GN-EXCEED!!」

二人が叫んだその瞬間、ソリッドの装甲の一部が開き、六枚の瑠璃色の翼が現れる。
だが、

「クッ……!ユーノ!!」

「っ!!ああ、わかってる!!これじゃ持って三十秒だ!!」

予想以上に粒子生産量が多く、内部の圧力が急速に上がってきている。

本来、GN-EXCEEDはTRANS-AMと一緒に使われるのがベストなのだ。
その理由は機体性能が十分に上がらないことではなくむしろその逆、粒子生産量に機体の粒子の放出が間に合わなくなることにある。
羽のように放出される粒子も本来は内部の圧力を少しでも下げようとするためのものであり、ビーム兵器の効果軽減はその副産物にすぎない。
だがそれだけでは不十分であり、使いきれない粒子は内部に徐々にたまっていき、最終的には…

「ユ、ユノユノ!?なんかものっそい揺れてるっスよ!!?」

ソリッドそのものを内側から破壊する。
だが、

「TRANS-AMは使うなよ!!ここでGN粒子とジュエルシードの共鳴現象が使えなくなったら戻れなくなるぞ!!」

「わかってるさ!!だから…」

ユーノは重くなったペダルを渾身の力で踏み込む。

「さっさと片をつけるっ!!!!」

ソリッドが光の翼をいっそう大きくしてゆりかごを押し始める。

「ゆりかごが…!」

「森林地帯の方を向いていく…!」

たった一機でここまでのことをやってのけるソリッドに唖然とする局員たち。
だが、そんな中で機動六課の面々だけはそれぞれの場所でソリッドを操っているであろう仲間への祈りをささげていた。

「頑張れ、ユーノ…!」

「頑張りぃ、ユーノ君…!」

〈ファイトです!!〉

「いけ!!ユーノ!!」

「負けないでユーノ君!!」

「こんな半端なところで死んだら承知しねぇからな!!」

「お前には、やるべきことがあるのだろう!!」

「パパ!!」





「頑張って!!ユーノ君!!!!」





「う、ああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

赤と瑠璃色の光翼に押しきられるように艦首が横を向くと、すぐさまソリッドはアストレアを引き連れて後ろに回る。

「いけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

ビルのてっぺんすれすれをこすりながらも、何とかゆりかごを完全に人のいない森林地帯へ追いやると、ソリッドとアストレアは離れていく。
すると、それをねぎらうようにサダルスードとプルトーネもやってくる。

『なんとかなったぁ~…!』

『お疲れさま。』

「どうも。お二人もお疲れさまでした。」

「どうもじゃなーーい!!」

エリオが叫びにウェンディも同調して猛抗議を始める。

「あたしらいること完全に忘れてたっしょ!!?あちこちぶつかって痛かったんスよ!!」

しかし、不満を爆発させる二人には悪いが、ユーノはモニターの向こうのヴァイスとヴェロッサの呆れた顔を見るほうがよほどきつい。

『ユーノさん、結局二人とも連れてきちゃったんすね……』

『連れて行かないって自分で言い出したのにねぇ……』

「仕方ないでしょ!?いろいろトラブルが重なっちゃったんだから!!」

『『ふ~ん……』』

「……ま、まあ、それはそれとして……。967、ファルベルのジンクス生産工場は隊舎にあるんだね?」

「ああ。地下で作ったものを一度バラして各所に運んでいたらしい。あまりにも堂々と作っていた分、外部の人間も気付けなかったのだろう。」

だが、それもここまでだ。
ここでファルベルの生産拠点をつぶし、すべてを明らかにすればもうミッドに思い残すことはない。
ユーノがこの事件の終結を確信した、その時だった。
集まっていた四機の間を市街地から飛んできた赤い光弾が横切る。

「っ!?GN粒子!?だが…」

ジンクスのそれとは何かが違う。
一発一発が鋭く、今までよりも的確にこちらを狙ってくる。
攻撃に翻弄されながらもユーノは敵の正体を見極めるべく市街地上空の映像をズームアップする。

「あれは!?」

そこにいたのは、ジンクスではなかった。
いや、外見的特徴に通ずるものはあるのだが、ジンクスの最大の特徴であるX字型の機体制御機構が無い。
さらに、数十機にも及ぶ大群のなかには全体的にスマートになり、ユニオンやAEUのMSを思わせるデザインに三つ目の頭がついたような機体も数機混じっている。

『あげゃ……バロネットにフュルストか。意外と登場が早かったな。』

「フォン、どういうことだ!!?」

戸惑うユーノとは違い、ヴェロッサは冷静だった。
その冷静さが、自分で疎ましく思えるほどに。

『……ミッド製のMSだね。』

『ご名答だ。ついでに言っておくと、やつはすでに隊舎での生産をストップしている。』

「そんな……」

ショックを受けているのはユーノだけではない。
エリオは信じていた管理局が強力な質量兵器の開発を進めていたことに。
ウェンディは再度管理局の闇を目の当たりにしたことから言葉をなくしていた。
そして、この場にいる人間だけでなく民間人の避難にあたっていた者たちにもそれは飛び火していく。

「そんな……!」

「あないなもんまであったんか…!?」

ユーノが探っている以上何かがあるとは思っていたが、これは想定外だった。

「っ!」

「!?なのはちゃん、アカン!!」

はやての制止も聞かずに森林地帯に飛び出していくなのは。
それと同時にそこに墜落したゆりかごによって激しい震動と土ぼこりが発生するが、そんなものに構ってはいられない。
なぜなら、今彼女の眼前に広がっている光景はカリムの預言そのものなのだ。

司法の地焼け落ちし後。
白き騎士。
そして、墜ちしゆりかご。

何もかもがぴったりと当てはまる。

「待って……!!やめて!!」

なのはの願いもむなしく、数十機の編隊から一斉にビームが発射されていく。

本当はわかっていた。
管理局に存在する暗部も、それによって刻まれたユーノの傷が永遠に消えることが無いことも。
知っていて、甘えていた。
予言を聞かされてからも、あの笑顔を見るたびに心の中にちらつく不安を見えないふりをしていた。
どれほど局から突き放されようと、自分のそばにはいてくれると思っていた。
思っていたかった。

「やめて!!!!!撃たないで!!!!!」

きっと裏切られたと思っている。
もう、前のような関係には戻れない。
わかっているのに、それでもユーノが許してくれるのではないかという希望を捨てきれない。
だが、なのはの横を通り過ぎていったピンクの弾丸がミッド製のMS、バロネットの胸を貫いた時に発生した爆風でなのはは地面にきりもみしながら落ちていく。

「あ……ぐぅ…」

激しく体を打ちつけられてまともに動くことすらかなわない。
それでも、芋虫のようにみじめに這いながらも再び空へと上がる。
すでに、四機のガンダムと激しい撃ち合いが始まり、彼女のそばにも弾丸が通っていく。



その姿は遠方にいるユーノにも確認できていたが、それでも今撃つのをやめたらこちらがやられる。

「頼む……早く逃げて…!!」

それでもなのはは逃げようとしない。
それどころかさらにこちらへと近づいてくる。

「お願いだ…!!これ以上、迷わせないで……!!」

白いバリアジャケットを見せつけられるたび、あの瞳で見つめられるほど今すぐにでもここから飛び出して抱きしめたい衝動に襲われる。
だが、

『ユーノ、すぐにでも時空転移の準備を始めてください。』

「っ……わかった。」

これ以上ここにいたら戻るどころの話ではない。
ここでやられたら、ファルベルの思惑をつぶすことも叶わなくなる。

「967、ジュエルシードの共鳴準備。TRANS-AMの制御は僕がする。」

「了解した。」

(……僕は絶対戻ってくる!たとえ、居場所が無くても、誰かの居場所を守るために戻ってきてみせる!!)

迷いを振り切るようになのはの姿から目を背けると、パネルに金色の翼と楔を出現させる。

「TRANS-AM!!!!」

極限までため込まれていた瑠璃色の粒子が空へと放たれる。
赤く輝く衣を纏い、雲すらも突き抜けてはるか上空を目指して天使は突き進んでいく。

「ソリッド……!!砕けぬ堅牢な意思よ!!僕をもう一度みんなのもとへ……ソレスタルビーイングのもとまで導いてくれ!!!!」

967の中にある三つのジュエルシード、そしてユーノの持つ二つのジュエルシードが激しく輝き始める。
そして、激しく吹き荒れる風とともに現れた空の裂け目へめがけてソリッドを突っ込ませる。
その時、

「行かないで!!!!!!」

「!!!!」

下から赤い銃弾の嵐にまじってなのはの声がかすかに聞こえてくる。
だが、それでもユーノは止まらない。

「……ごめん。」

その一言を残し、ソリッドは次元のはざまに飲み込まれた。







2週間後 アースラ 食堂

「ふ~……これで荷物は全部ですね。」

リインフォースは子供ほどの大きさでよたよたとした足取りで食堂の床に荷物の入った大きな段ボールをどっかりと置く。
その前の椅子にはこきこきと首を鳴らしながら肩を叩くはやてがいる。

「……本当に、みんないなくなっちゃったんですね。」

「ほんまやなぁ……。なんや、今も信じられへんわ。」

あの事件の三日後、機動六課は正式な辞令のもとで解体となった。
いや、正確に言うなら空中分解したといった方が適切かもしれない。

事件の後、元アースラのクルーの面々の間ですれ違いが起こり、それが原因で順次機動六課を離れていった。

まず抜けたのはヴィータだった。

『悪いけど、今のはやてには付いて行けねー。』

その言葉と異動願を残してはやてのもとを去ってからは音信不通の状態が続いている。
はやてもお互い落ち着くまでは連絡をとらないほうがいいと思い、自分から探そうとはしていない。

「そんで、ザフィーラとシャマルか……」

続いていなくなったのはザフィーラとシャマル。
二人もいろいろ気を揉むことが多かったのか暇をもらうことを申し出て、はやてもそれを許した。
だが何より新人フォワードにユーノに関しての情報を公開しなかったことにザフィーラはひどく憤慨しているようだった。
その後、シャマルとザフィーラは闇の書事件から交流が続いていたアルフがいる無限書庫へ向かい、そこでユーノが抜けて能率が落ちている情報収集作業の手助けをしているらしい。

二人の次はフェイトだった。
もともと次元航行部隊に戻る予定だったのだが、戻ってからはクロノともども連絡が無い。

『……はやてが謝れば、エリオが戻ってくるの?』

フェイトが最後に残した言葉を思い出すたびに、はやては緩い力で心臓を握られているような、そんな嫌な気分になる。
エリオがいなくなった責任以上に、彼女との友情の修復が難しいだろうという現実がいまだにはやての心をえぐり続けている。

最後はシグナム。
責任感が強すぎるが故に自分を責めた彼女は自ら前線を退き、ギンガとともにナンバーズとルーテシア達の社会復帰のための指導に当たっているそうだ。



こうして、隊長陣を失った機動六課は解体の辞令を受ける前にすでにその機能を失っていた。
そして、残っていた新人フォワードたちも機動六課を離れることになった。
スバルとティアナは古巣の災害担当へ。
スバルは残されたキャロや他のメンバーの心配をしてみんなと一緒にいると駄々をこねていたが、ティアナに引きずられるように戻って行った。
しかし、そのティアナが一番みんなを心配していたのは言うまでもない。
ウェンディがいなくなった時も最後まで現場を探し回り、二日後にスバルと戻ってきたときにはスバル以上にバリアジャケットが汚れていた。

キャロは地球にいるエイミーのもとにしばらく身を寄せることにしたらしい。
エリオがいなくなったことにフェイト以上にショックを受けていたため、復帰するまでには長い時間が必要になるかもしれない。



「はやてちゃん、そろそろ行かないと。」

「だよ!」

仲間たちが去っていく中、唯一残ったのはなのはとヴィヴィオの二人だけだった。
最初こそ消沈していたなのはだったが、残されたヴィヴィオのためにも教導隊に戻り頑張ることにしたのだ。
今日はアースラが正式にお役御免になるとの知らせを受け、はやてとともに中に残されていた私物を取りに来たのだ。
もっとも、なのはの用はそれだけではないのだが。

「ああ、ごめんな。それで、カレドヴルフが一体私になんの用なんや?」

「さあ、私もただ新しくできた兵器の試験だってことしか聞かされてないから…」

自分たちの荷物をデバイスの中にしまうと、二人は出口へ歩きだす。

「またぞろ新しいMSでも開発したんちゃうか?あんなもん作って、世界征服でもする気かっちゅうねん。」

怪訝そうな顔をするはやてにクスクスと笑いながらなのはが答える。

「世界征服はあり得ないし、カレドヴルフはデバイス開発一本に絞ってるからMSを開発したなんてことはないんじゃないかな?」

J・S事件の後、レジアスが制作していたというMSと呼ばれる巨大人型兵器は急速に普及していった。
その理由は、クラナガンの四分の一が壊滅状態になるところを、手も足も出なかった魔導士ではなくMSが解決したという事実が人々に質量兵器の使用の必要性を知らしめたことだろう。
ただ、

「解決したのはユーノ君であってバロネットやフュルストは後から出てきて邪魔しただけやろ!」

「でも、仕方ないよ。情報操作もされてるし、なによりあの時現場にいた人たちもそんなことを気にしてる余裕なんてなかったから。」

「せやかて、レジアス中将の作ったもんを偶然ファルベル准将が発見して、住民を守るために仕方なく使ったなんて話ができすぎとるやろ!?しかも、当のレジアスのおっさんはいまだに地上部隊で幅を利かせとるし!」

「でも、それ以上にファルベル准将もいろいろしてるよね。今まで表舞台に出てきたことなんてなかったのに…」

レジアスがいまだに地上部隊の重鎮でいれるのは、百人中百人がファルベルのおかげだと答えるだろう。
ファルベルはレジアスがMS開発を進めていたのはあくまで全次元世界のためであると公言し、彼にできる最大の償いはこれからも地上の平和のために尽力することであるとした。
その言葉は罪を憎んで人を憎まずとでも言うのだろうか、管理局内外問わず多くの人間から賛同を受け、確かに二人のおかげでどの世界も格段に治安は良くなり、陸だけでなく海からの評価も高い。
さらに近々、正式に海と陸を合併し、新しい部隊を創設する話まであるようだ。

「けど、どうにもあのおっさん胡散臭いんやけどなぁ~…」

「そうは言っても、やっぱりみんなファルベル准将を支持するだろうけどね。」

「うにゅ~……」

「あ!?つまらない話ばっかりしちゃってごめんねヴィヴィオ!!」

難しい話ばかりでヴィヴィオにはついていけなかったようだ。
頭からプスプスと黒い煙を立ち昇らせているヴィヴィオを抱き上げると、二人はそのままアースラの外へ出る。
そこに広がっているのはいつもと変わらない穏やかな光景。
黒いアスファルトの上を走る車の横に敷かれた歩道を人々が歩いている。

「そんなら、早いとこ先方のおるところに急ごか?」

そう言うとはやては道路のそばまで駆けていく。
ヴィヴィオもなのはの腕の中から降りるとそれを追いかけるように走っていくが、なのはだけはそんな気分にはなれなかった。
ここのところ、MSを使ったテロが頻発するのに合わせて管理局がMSの増産をしているのもそうだが、ここのところいろいろな世界で妙な事件ばかりが起きている。
そんな話を聞くたびに、どうしてもなのはにはこの平和が張りぼてのような危うさを抱えているような気がしてしまう。

「お~い、なのはちゃ~ん!タクシー拾ったで~!」

「ママ~!はやくはやく~!」

「あ、は~い!」

はやてとヴィヴィオに呼ばれ、なのはもタクシーへと急ぎ足で歩いていく。
この後、自分たちのもとを離れていった仲間との運命的な再会が待っているとも知らずに……









あとがき・・・・・・・・という名の弱気

ロ「とりあえずstrikers編終了です。そして、みなさんの仰りたいことは重々理解していますが、リアルに苦しんでひねりだしたのでツッコミは優しめだと嬉しいです。」

ユ「まさかのここにきての弱気発言&予防線。」

兄「最低だな。」

ティ「本当に。」

ロ「返す言葉もありません……orz。でも、ストーリー変更がstrikers編にまで至るとは思っていなかったので、正直かなりきつかったです。」

ティ「言い訳を重ねるな。」

兄「事情聴取でゲロする前の犯罪者かお前は。」

ロ「お前らは本当に容赦ないな!!正直お前らの言葉が一番こたえるわ!!!!」

ユ「でも僕たちがこの場で言ってるってことは、自分でもそう思ってるってことだよね?」

兄「ある意味自白だな。」

ロ「そんなことない!!…………と思いたい。」

ティ「こうして現実から目を背けていくことでニートが出来上がるんだな。」

ロ「誰がニートじゃ!!!!」

兄「さて、まだまだ言い足りないけど、グダグダになる前に解説にいくか。」

ユ「よりによって最後で前後編構成。」

兄「その理由も字数がやばそうだったからというしょうもない理由だしな。」

ロ「……積み残しが多かったんだよ。いろいろと…」

ティ「小学生のころにこういうやつが一人はいたな。夏休みや冬休みの最後の日に苦しむやつが。」

ロ「黙れこの野郎!!!!(泣)」

兄「そういや、終わったところもかなり半端だったな。」

ロ「設定的にはソレスタルビーイングの皆様がミッドにやってきたころくらいってことにしてある。これ以上はネタバレになるんでNGで。」

ティ「どうせ碌なものじゃないくせに。」

ロ「お前ホンッットにシバき倒すぞこら!!!?文句言うならこれ見ろこれ!!!!」

マイスター二人+元マイスター、台本的なものを見る。

兄「……また賛否両論分かれそうだなオイ。」

ユ「ま、ここまできたら勝手にやってもらおうか。……ここのところ以外は。」

ロ「あ、駄目だった?」

ユ「駄目に決まってるだろうがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!どれだけ僕をいじり倒したいんだあんたは!!!!」

ロ「でもそれが駄目になるとティエリアとミレイナがハァハァ言いながら小動物形態のお前にあんなことやこんなことすることになるけど?」

ユ「それはホントに駄目だからね!!?てかティエリアもそんな残念そうな顔しないでくれない!!!!?」

兄「……ゴホン!さて、どうしようもなくグダグダであとがきは終わりますが、一応、ユーノとエリオ、ウェンディがその後どうなったか書かれているエピローグも投稿しているので、これからもこんなどうしようもない感じのに付き合っていただけるなら勇気を持って読んでください。」

ティ「……ユーノ、さっきそこでこんなものを拾ったんだが、フェレットの姿でこれを着てみる気は…」

ユ「誰がリ○ちゃん人形の服なんか着るかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

ロ「じゃあ、某高校の制服(女子バージョン)を…」

ユ「もっと着てたまるかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

兄「……本当に勇気を持って読んでください。では、エピローグのあとがきでお会いできることを(ロビンが)祈っています。」



[18122] エピローグ
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/11/02 22:00
西暦2312年 資源衛星群

漆黒の闇の中に浮かぶ無数の岩塊たち。
しかし、この岩塊の中には地球だけでは賄いきれない鉱物資源が豊富に含まれているのだから馬鹿に出来ない。
そんな資源衛星が漂う空間の一角に小さく亀裂が入る。
その亀裂は徐々に大きくなり、その間からは瑠璃色の光が洩れていく。
そして、遂に空間を支えているものが耐えきれなくなったように砕け散ると、そこから赤く光るMSが飛び出してきた。

「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」」」

激しい揺れの中を突き進んできた三人は安定した空間に放り出されたにもかかわらず、次元のはざまで味わった揺れの余波でいまだに目の焦点が合わない。
ソリッドは自らの使命はここまでだとでも言うようにTRANS-AMを終了するが、967はここがどれほどマズイ場所か気付いていた。

「っ……!9…967、ここは……?」

「……一応、戻ってこれたみたいだ。」

ようやく自分たちがどこにいるのか理解し始めたエリオとウェンディは驚きのあまり開いた口がふさがらない。

「ここ…!?」

「マ、マジで宇宙っスか!?」

「そう、ポイントT-33……地球連邦所有の資源衛星群だ。」

「な!?」

よりによって敵の支配下に飛び出してきてしまったことにユーノは焦る。
なにせTRANS-AMとGN-EXCEEDを使ってしまったのだ。
使用していたのが短時間だったとはいえ、GN-EXCEEDのおかげで機体の各所に残されている粒子はなんとか満タンに近いが、粒子生産量は半分以下に落ちている。
こんなところを襲われたらひとたまりもない。

(早くここから…)

改めて操縦桿を握ろうとした時だった。

「え…?」

体に力が入らない。
そう思った次の瞬間には腹部に激痛が奔り、ユーノの口から夥しい血がふき出した。

「ガッ……ァ…!ゲホッゴフッ!!」

「ユーノ!!」

「ユーノさん!!?」

「ユ、ユノユノ!!?どうしたんスか!!?」

突然バイザーの半分を血で隠してしまったユーノの体を二人は慌てて支えるが、それでもユーノの具合が良くなる様子はない。

(く…そ……!!よりによってこんなときに……!!)

こんなタイミングで発作を起こす自分の体を恨めしく思いながら、視界のふさがったヘルメットを外して、ユーノはここから離れようとする。
だが、

「……!!前方に反応……!!この距離までわからなかったってことは…」

衛星の下からコックピットの中を球になって漂う自身の血よりもさらに濃い紅蓮のカラーリングをしたMSが三機、ゆっくりと出てくる。
二機はアストレアが持っていた槍を一回り小さくしたような武装を両手で持ち、明らかにジンクスの発展型とわかるほど瓜二つの容姿をしている。
残る一機にもジンクスの面影はあるのだが、ジンクスよりもがっちりとした印象を受ける。

「ハハハ……まさか、戻ってきてそうそう……新型と遭遇…とはね……つくづく、自分の…引きの強さに呆れるよ……!!」

後ろで不安がる二人を離れさせると、震える手で何とか操縦桿を握って腰からライフルを抜き、こちらに向かってくる三機に銃口を向ける。
が、攻撃はしない。
ここに自分一人ならそれもいいだろうが、今はエリオとウェンディもいるのだ。
自分の不用意な行動で二人を危険にさらすわけにはいかない。

「っはぁはぁ……新型のパイロット、聞こえるか?こちらに交戦の意思はない。退いてくれないか?」

呼吸を整えて絞り出した言葉に、どれほどの説得力もないことをユーノはよく理解していた。
向こうは三機、しかもこちらはガンダムとはいえ四年前の機体。
性能差は明らかなうえに、こちらは能力ががた落ちなのだ。
戦闘を開始すれば間違いなく向こうもそれに気付くだろうし、そうなれば結果は火の目を見るより明らかだ。
しかし、ユーノが予想していたものとは違った答えが返ってきた。

『……いいだろう。』

「やった!!」

「いい人で安心したっス!」

一回り大きな機体、アヘッドから聞こえてきた言葉に安堵するエリオとウェンディだが、対照的にユーノは動揺で指先が震え始める。

『ただし、条件がある。』

「そんな……まさか、なんであなたがアロウズに…!?」

『一つはオリジナルのGNドライヴをこちらに渡すこと。そして、最後の一つは…』

そこまで言って、アヘッドのパイロットは遮光処理のされたヘルメットを外す。
長かった髪は短く切られ、顔には過去の戦いで負ったやけどの痕が生々しく残っている。

『君が私たちの保護を受けることだ、ユーノ君。』

「ミン…中尉…!?」

四年ぶりの再会なのだが、素直に喜ぶことができないどころか状況が飲み込めずに混乱する。

あの戦いの中で生き残っていて安心した。

           なぜ、彼がアロウズにいるのか。

セルゲイやピーリスもおそらく無事なのだろう。

           彼もまた弾圧に加わっているのだろうか。

また会って四人で話がしたい。

           どうしてアロウズになど入ったのだろうか。

いろいろなことに整理がつけられず、戸惑うユーノにミンは再度語りかける。

『おそらく、君のことだろうからアロウズがどういう組織なのか知っているのだろう。だが、私はだからこそアロウズに入ったんだ。アロウズの体制を中から変えるために、私は尽力している。』

初めこそ呆気にとられていたユーノだったが、話し続けるミンを見て安堵にも似た感情がこみあげてくる。
真っ直ぐな目で未来を信じて突き進む、あの頃のミンそのままだった。
だが、

『だから、君はもう戦わなくていいんだ。後ろにいる二人も君に命を救われた者だ。君は確かに罪を犯したが、同時に多くの命を救った。罪はこれから生きて償えばいい。そのための協力は私も惜しまない。……そうだ、君さえよければ私の家に養子に来ないか?妻も男の子が欲しいと言っていたところだから、きっと歓迎…』

「ミン中尉。」

だからこそ、自分にはまぶしすぎる。
ユーノは俯きながら、ミンと目を合わせないように自分の想いを言葉に変えていく。

「僕の罪は……僕自身の命で贖わなければならないんです。戦火にこの身を焼かれながら、それでも戦い続けることこそ、僕が受けるべき絶対にして不可避の罰なんです。」

『ユーノ君!!』

「僕は!!」

ユーノは自分の決意を示すように残っていた力を振り絞る。

「僕は……平穏を手放してここに立っているんです。いまさら、戻ることなんてできない!」

『そんなことはない!!』

ミンのアヘッドはビームサーベルを抜き放つ。

『君はまだ戻れる!!私が君を平穏の中に戻してみせる!!』

ミンのその言葉が合図だったように、ソリッドがアヘッドへと飛び出していく。

(初手で決める!!)

それしかユーノには勝機を見いだせない。
だが、

(!?なんで動かない!?)

エリオは気付いていた。
突進を開始したソリッドを見ても後ろにいるジンクスⅢは動こうとしない。
それどころか、アヘッドも切っ先を下に向けたまま動こうとしない。

(もらった!!)

アヘッドの顔面へと向かうソリッドのブレード。
しかし、

「!?消えた!?」

突如として消えたアヘッドの姿に戸惑うユーノだが、コックピット内が小さく揺れたことに気付くと視線を右に向ける。

「え……?」

そこには、それまで正常に機能していたはずのソリッドの右腕とアームドシールドがぷかぷかと浮いていた。
アームドシールドの刃はGN粒子の供給が途絶えたため光を失い、ただの金属の塊に早変わりしていく。

「う、あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」

『遅い!!』

ソリッドが下にいるアヘッドの頭に銃口を向けた瞬間、通常のものよりもはるかに強固なはずのシールドバスターライフルを斬り裂き、そのまま左腕の中に刃を奔らせていくと肩に至ったところで横に振り抜き切断する。
先程までの静かな斬撃と違い、今度は斬られたところが激しく爆発してコックピットを大きく揺らす。

「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」」」」

攻撃手段を奪われたソリッドだが、ミンは容赦なく両脚も斬り落とすと頭部を掴んで衛星に叩きつける。

『こんな強引な手段をとってしまってすまない。だが、こうでもしないと君は言うことを聞いてくれそうになかったからな。』

「く……う…!?」

四年前の動きよりもはるかに鋭い。
向こうは最新型でこちらは旧式のガンダムであることを差し引いてもミンの力量は相当なものだ。
おそらく、ユーノが消えた後も研鑚を積んできたのだろう。

『一緒にいる二人のこともなんとかできるように努力しよう。だから今は大人しくしていてくれ。』

そう言うとソリッドの頭を掴んだまま連れて行こうとする。
その時、

『大尉!!』

「!!」

ミンは素早くペダルと操縦桿を動かすと彼方より迫ってきた桃色の柱をかわす。
だが、それと同時に上から迫ってきていた青い影の一撃を防ぐことは不可能だった。
アヘッドの腕に滑り込んだ瑠璃色の剣はソリッドを掴むそれを一刀両断して、もう一方の剣で横薙ぎにコックピットを狙うが素早い動きでそこを離れたアヘッドの胸に浅い傷をつけるのが精いっぱいだった。

「噂の新型のガンダムか!!」

ミンは自身の搭乗機の状態、そして部下二人の力量を鑑みて苦渋の決断を下す。

「現宙域より撤退する!」

『大尉!!まだ彼らが!!』

「反論は聞かん!!生きていなければ彼を救うこともできない!!」

部下への叱責なのだが、自分自身にそう言い聞かせるように叫ぶと、ミン達はそのまま背を向けて全速力でその場を離れていく。

(これ、は……)

ユーノは、初めて出会ったときと同じようにそれに見とれていた。
青と白を基調としたカラーリングに、額の赤い飾りから伸びた白いV字と、金色の角が枝の途中で曲がって上に向かい突き出ている。
両手に握られている剣は温かな輝きを放ち、武器でありながらすべてを包み込んでくれているような優しさを感じる。
そして、ガンダムの象徴であるGNドライヴが両肩に装着され、GN粒子を放出している。

(ハハハ……君の戦い方は…変わらないな、刹…那………)

ユーノは青いガンダムの後ろから近づいてきたもう一機の黒と白のガンダムの姿を確認することなく意識を闇に沈める。
だが、そんなことを知らないガンダムのパイロットはユーノが起きているものだと思って通信をつなぐ。

『ユーノ、無事か?』

素気ない声に答えることのできないユーノを前にエリオとウェンディは戸惑うが、二人に変わって967が答える。

「ユーノは気を失っている。すぐに治療をしてほしい。」

『その声……967か。』

黒と白のガンダムのパイロットからも通信が入る。

『二人ほど見ない顔がいるな。』

「事情は後で説明する。早くユーノの治療を頼む。」

『了解した。』

二人のガンダムマイスター、刹那・F・セイエイとティエリア・アーデは仲間との再会を喜ぶ前に、ソリッドと最後の太陽炉をプトレマイオスに運んでいった。





Season strikers end.
And,restart to mission for revolution of “All” world.
Continue to second season.






あとがき・・・・・・・・・・・という名のやっとsecond突入

ロ「やっとsecondに突入しました。なんとかfirstの時の半分でstrikers編を終わらせられました。」

ユ「いろいろ詰め込みすぎたせいであっぷあっぷ感丸出しだったけどね。」

刹「普段の無計画さが露呈したな。」

ロ「いちいちむかつくやつらだなコノヤロー!!」

ア「ま、まあまあ。でも、セカンドに入ったらそこそこ長くやるんでしょ?」

ロ「まあ、ゆっくりまったりと話を進めていこうと思ってる。書きたいことも結構あるし。ていうか増えたし。」

ユ「要はだらだらやるだけでしょ。」

刹「学ばないやつだ。」

ロ「ホントなんなのお前ら!!?仮にも作者を言葉でぼこぼこにして何が楽しいの!!?」

ユ「この先待ち構えている僕の苦行の日々に比べればこの程度……いや、だからペットでもないし女装趣味もないんだって………女たらしって言うのも風評だし、淫獣でもないんだよ………あ、なのは、スターライトブレイカーだけは勘弁して……いや、マジで……」

ア「………なにしたの?ていうか何させる気なの?」

ロ「wwwww」

刹「……ああなるようなことをさせるということらしい。」

ア「笑い方がキモいよ…」

ロ「フッ……俺の座右の銘を教えてやろう。」

「「?」」

ロ「(俺が)面白ければそれでいいじゃん♪」

刹「その生き方は体力と根性がいるぞ。」

ア「そういう問題でもない気がするけど……」

ユ「いやいや………だからね、本来これに描かれてる僕はカッコいいはずであって……」

ア「いい加減戻ってきなよユーノ。そろそろ締めるよ。」

ユ「ハッ!!なんでか知らないけど、どこかしらない学校で絵を描いてる自分がいた……」

刹「何を言っている?」

ア「それ以上はホントにまずいからそこまで!!……オホン。では、最後にロビンから挨拶です。」

ロ「え~と、これからsecondに入るわけですが、くどいですが以前にも言ったように週一更新できるかどうかかなり怪しいです。それでもなんとか守れるように努力していくのでよろしければ応援よろしくお願いします!それと、遅くなりましたがみたらしだんごさん、コノハナさん、さっそくお二人のアイデアを使わせていただきました!少しわかりにくかったかもしれませんが、すこしでも面白い形で使用できて、満足していただけたら幸いです!じゃ、せーの……」

「「「「secondをお楽しみに!!」」」」



[18122] 魔導戦士ガンダム00 the guardian second season プロローグ
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/11/05 01:32
西暦2312年 プトレマイオスⅡ ブリッジ

その艦のブリッジは広々としていた。
実際問題、広いことは広いのだが、何よりそこにいる人間が二人だけのせいでさらに広く感じてしまう。
短くそろえた黒髪をした男性は操舵席、二つあるオペレーターの席の片方にはツインテールの少女が座っているのだが、ただ単に人がいないというだけでそれほどでもないはずの二人の距離は異常に遠く感じる。

「ごめんなさい、遅れました。」

そこへ、ピンクの髪を後ろでまとめた女性が入ってくる。
感情豊かなその顔は嬉しさ半分、不安半分といったような複雑な面持ちをしている。

「大丈夫です!お二人もセラヴィーとダブルオーで出撃準備に入ったところですから。」

「それに、お前の王子様が無事に戻ってこれるかどうかの瀬戸際なんだ。気持ちの整理もつけときたいだろ。」

「お、王子様って……////」

ピンクの髪をした女性は操舵士の言葉に顔を赤くしてあたふたとするが、さらにそこへ少女の追討ちが加わる。

「おお!ラブ臭がするです!!」

「ミレイナ!!」

顔を真っ赤にしたまま怒鳴る女性の姿は歳とは不釣り合いなほど幼い印象を与え、まるで今までそうではいれなかった過去の時間を補っているかのようだ。

「さて、冗談はここまでだ。どうやら、さっきの反応をキャッチしていたのは俺たちだけじゃないらしい。」

その言葉にそれまでふざけていた少女の顔も引き締まる。

「機影3……識別…ジンクスにアヘッドです!」

「刹那、ティエリア!!」

急いで席に着いた女性は目の前のモニターに映る二人のパイロットに指示を出そうとするが、その必要はなかったようだ。

『イアン、ツインドライヴは…』

『心配するな。今のところすこぶる好調だ。』

『了解。』

最高の整備士からのお墨付きをもらった青い機体のパイロットは力強くうなずく。

『ラッセ、トレミーは現在位置を維持、敵襲をかけられる前に帰頭するが、万が一の場合はケルディムにカタパルトから射撃をさせながら後退してくれ。』

「了解だ。しかし、なんとも付け焼刃なミッションプランだな。」

白と黒の機体のパイロットは操舵士の言葉に表情を曇らせる。

『仕方ないだろう。……彼女が、今はあの調子なのだから。』

艦には戻ってきてくれたが、彼女はまだ自分たちの組織には戻ってくれていない。
だが、今生きている仲間が全員そろえば、本当の意味で彼女も戻ってきてくれるはずだ。

ブリッジにいる三人は真ん中の空いた席を見つめる。
そして、そこにいるべき人間が今から戻ってくる仲間とともに復活してくれることを祈りながら。






カタパルト

戻って来てから暇を置かずに二度目の出撃だったが、青年には待ち遠しいほどだった。
戦うことがではなく、仲間が戻ってくることがだ。
あの時、自分が気を付けていればあんなことにはならなかったはずだ。
だが、その失敗を埋めることができるチャンスが巡ってきた。

『刹那。』

モニターの向こうからオペレーターから呼びかけられ、パイロットはモニターの角を見る。

『ユーノを…助けて。』

「…ああ!」

彼女の上に映っているもう一人のパイロットも同意するようにうなずくのを見ると、キッと真正面を睨みつける。

「セラヴィー、ティエリア・アーデ、いきます!!」

「ダブルオー、刹那・F・セイエイ、出るぞ!!」

二体の天使は漆黒の宇宙へと飛び出していく。
その姿はまさに、ソレスタルビーイングの理念そのものを体現しているかのようだった。







あとがき・・・・・・・・という名の暴露その一

ロ「second season開始早々ですが、最初のあとがきでいきなり暴露話です。」

ユ「本当にいきなりだね。」

ロ「では、さっそく本題に入りましょう。」

ユ「オイ、無視するな。」

ロ「今回暴露するのは~…これです!」

最初にこの話を書こうとしていた時、ヒロインはフェルトだった。

ユ「まだプロローグなのにいきなり重いの来た!!」

フェルト「ていうか……ええ!?そうなの!!?」

ロ「うん。だから今回お前ら二人だけなわけだし。」

ユ「これ、エレナやなのはが聞いたら僕殺されそうなんですけど?」

ロ「大丈夫。今回は何があっても介入させないから。」

フェルト「そ、それよりも今からでもこっちに書き直しませんか、作者さん?/////」

ユ「?なんで顔赤いの?なんでロビンに対して敬語なの?」

ロ「……相変わらず鈍い奴め。」

フェルト「………………………………orz」

ユ「???」

ロ「……話を戻すぞ。まあ、他にもエレナとかシェリリンとかとくっつけようとかも考えてたんだけど、結局どっちもボツにした。」

フェルト「……なんで私をボツにしたの?(ぎろり)」

ユ(自分限定かい……)

ロ「ひっ……!す、すんません!リリなのと00のクロスとは言え、ユーノはリリなのの人間なわけだし、やっぱユーノとくっつけるのはなのはがいいなぁって…」

フェルト「………………………………(怒)」

ロ「ちょ、待っ…ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

ユ「……え~、ロビンが制裁を受けていますがたぶん生き残るのでご心配なく。次回はいよいよ僕用の第四世代機が出ます!!では、第一話をお楽しみください!」



[18122] 1.Crusade
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/11/06 10:30
機動六課隊舎(?)

『スクライアさ~ん、起きてくださ~い!』

珍しく早起きなリインフォースの間延びした声にユーノは思わず布団にくるまる。
なぜだか知らないが今朝はいやに眠い。
新人たちの教導メニューを組んでいたかもしれないが、彼女の主には日ごろから無茶な注文ばかり押し付けられるのだから今日くらいはサボらせてもらいたいものだ。

『スクライアさ~ん、早く起きないとみんな来ちゃいますよぉ~!』

「知らないよ……エリオたちがきたら適当に君があしらっておいてよ………今日はなんだか眠いんだから……」

『?なんであの二人限定なんですかぁ?』

「……?」

おかしなことを言うものだ。
いや、よく考えたらもっとおかしなところがある。

「リイン、君いつから僕をスクライアなんて他人行儀な言い方するようになったの?」

『いつからって……だって私たち初対面じゃないですか?それに私の名前は…』

「……リイン。君ももう一回じっくり寝た方がいいよ。だから部屋に戻ってほしいな。」

いっそう強い力で布団を握りながらユーノは寝返りをうつ。
きっとリインフォースは寝ぼけているのだ。
自分を起こしに来たのも何かの間違いに違いない。

『む~!!ここで引いたらミレイナも女がすたります!是が非でも起きてもらいます!』

「?ミレイナ?」

耳を澄ましてみるとリインフォースの声が少しずつ変化してきている。
もう少し大人びた、それでいてまだ子供のような声に変わっていく。

『スクライアさ~ん、起きてくださ~い!!』

「どわわわ!!?」

いきなり部屋全体が揺れるような激しい震動がユーノを襲う。
そのせいで先程までの眠気がきれいさっぱり吹き飛び、ユーノはパチンコではじき出された鉄球のように跳ね起きた。




プトレマイオスⅡ 医務室

「どわわわ!!?」

「へっ!?あうっ!!」

治療用の白衣を着たユーノが急に体を起こしたせいで、彼を起こそうとしていた少女のおでこにユーノのヘッドバッドが炸裂する。
少女は痛そうに赤くなった部分をさすりながらその場にうずくまるが、ユーノは状況を把握できていないのか痛みを忘れてキョロキョロと辺りを見渡す。
一面白の壁紙に、見なれた治療用カプセルが設置され、空のベッドのいくつかが寂しげにぽつんと存在している。

「ここは……」

「いたた……ここはメディカルルームです。スクライアさん、戻ってきたとき血まみれでみんな驚いてたです!ミレイナもびっくりです!」

「君は…?」

立ち上がった少女の顔をユーノはまじまじと見つめる。
ブラウンの髪を二つに分けてまとめ、涙が溜まっている瞳はくりくりとしていてなかなかチャーミングだ。

「はじめましてです!イアン・ヴァスティの娘のミレイナ・ヴァスティです!よろしくです!」

「イアン……っ!?」

そこまで言われたところでようやく思い出した。
ユーノはミレイナと名乗る少女の肩を掴む。

「ふぇ!?まさかの一目惚れで愛の告白ですか!!?」

「違う!ミレイナちゃん、今年は西暦何年!!?」

「へ!!?」

「今年は何年でここはどこ!!?」

がくがくと体を揺らされるミレイナはしどろもどろで何とかこたえる。

「こ、今年は西暦2312年でここはトレミーですぅ~~!!!!」

「トレミー…」

そこまで聞いてようやくユーノはミレイナから手を離して安堵のため息をつく。

「ス、スクライアさん?」

ミレイナはリスのように首をかしげるが、今のユーノには喜びのあまりその愛くるしい姿も目に入らない。

(よかった……戻ってこれた……)

そう実感したとき、なのはたちへの罪悪感を感じながらもユーノはホッとしていた。
この独特の空気を吸い込むたびに体が覚えている感覚が呼び起こされていく。

「ただいま……」

ユーノはミレイナにも聞こえないように小さくつぶやく。
それは、戻ってこれた喜びも、大切な友人たちと別れた悲しみも、すべてを含んだ決意の一言だった。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 1.Crusade

廊下

フェルトは急いでいた。
ユーノが目を覚ましたと聞いて自分に与えられていた役割をいつもより早く終えたのだが、無重力の廊下はどれほど焦ったところで一定のスピードで進まなければ、逆にいつまでもたっても目的地にはつけない。
それくらいわかっているのだが、どうしても気持ちが先走ってしまう。
なんとか医務室の前の扉にたどり着いたフェルトはすぐに部屋の中へと飛び込む。

「ユーノ!!」

突然入ってきたフェルトに一足早く来ていたミレイナと意識を取り戻していたユーノは目を丸くするが、そんなことなどお構いなしにフェルトはユーノに飛びつく。

「ちょ、フェルト!!?」

「よかった……!本当にっ…よかっ……!!」

昔とは違っていろいろと成長したフェルトに抱きしめられて戸惑うユーノのそばでは、二人以上に興奮した様子のミレイナがいた。

「おお!ラブ全開です!!」

「君はなに訳わかんないこと言ってるの!!?ていうか、フェルトもそろそろ…」

「私ずっと心配してたんだよ!!みんなだって、ユーノのこと…」

「いや、だからその……いろいろとまずいところが当たっているというか…」

「?」

最初は何を言っているかわからなかったフェルトだが、今の自分の態勢を見てハッとする。
薄手の治療着のユーノの胸の上にぴったりと張り付くような形で上半身を押し付けていることに気付くが、混乱してすぐに動けない。
だが、その間にもフェルトの顔はどんどん赤みを帯び、ユーノも顔を紅潮させていく。

「ご、ごめんね……。つい、嬉しくなっちゃって……すぐに離れるから…」

「い、いや、僕の方こそ変なこと言っちゃって……」

「確変です!!スーパー甘々タイムに突入です!!」

「「ミレイナうるさい!!」」

わけのわからないことを叫びながら歓喜するミレイナを二人仲良く怒鳴りつけたあと体を離そうとする。
こんなところを誰かに見られたらたまったものではない。
だが、

「……オイ、心配して来てやった俺たちの気遣いを返せ。」

「……ユノユノ、そんなになのはさんを白い悪魔にしたいんスか?」

「相変わらず君は次々と問題を起こしてくれるな。」

「二股なんて……軽蔑しました。」

「おいおい、起きて早々にこんな随分なことするやつが俺の先輩なのか?」

「……うちの娘に手を出したらお前でも容赦せんぞ?」

「…………元気になったようで何よりだ。」

もう手遅れだった。

「NOooooooooooooo!!!!!!!!!!!!!!」




スメラギの部屋

「?何かしら?」



営倉

「?なんだろう?」



ユーノに顔を見せにいかなかったスメラギの部屋や沙慈がいる営倉にまで魂の絶叫は響いていた。






数分後 医務室

「で、誤解だってこと、わかってもらえました?」

自分の周りを取り囲む面々に説明を終えたユーノはトレミーにきて二日も寝ていたにもかかわらずひどく憔悴していた。
まあ、その原因を作った張本人たちは一切反省していないようだが。

「だって全面的にお前が悪いだろ?」

プトレマイオスⅡの操舵士、ラッセ・アイオンの悪びれた様子のかけらもない発言に頭を抱えるユーノだったが、今まで管理局の人間から受けてきた仕打ちに比べれば軽いものだと自分に言い聞かせて気を取り直す。

「しっかし、俺を見ても無反応ってのはどうかね?まあ、見飽きた反応見せられるよりはいいけどさ。」

少し癖っ毛の男性が腕を組みながら苦笑する。
その飄々とした笑みといい、言動といい、一挙手一投足何もかもが四年前に失ったはずの仲間そのものだ。
だが、

「どんなに似てたってわかるものはわかるよ。え~と……ライルさんって呼んだ方がいいですか?」

「あんたが呼びたいように呼べばいいさ。ユーノ・スクライアさん。」

へらへらと笑うコードネーム、ロックオン・ストラトスことライル・ディランディの言葉を受け、ユーノは彼をこう呼ぶことにした。

「了解、ロックオン。これからよろしく。」

「おう、よろしく。それから…」

「?」

「俺が兄さんじゃないって思ったのは、あんたも兄さんの最後の場に居合わせたからだろ。」

「!!!!」

周りがポカンとする中、ロックオンの小声の呟きに反応して刹那の方を向くユーノだったが、刹那は目をそらす。
おそらく、彼から聞いたのだろう。
だが、

「気にすんなよ。俺は恨んじゃいねぇし、むしろ兄さんの最後を見とってくれたあんたら二人に感謝してるんだからよ。」

先程までの自分の本質を覆い隠すような笑みではなく、心の底から出た素直な言葉にユーノはフッと笑う。

「なんの話ですか?」

「右同じっス。」

「別に大したことじゃないよ。」

なんのことかさっぱりだったミレイナとウェンディは不思議そうな顔をするが、ロックオン、刹那、ユーノの三人だけは互いに顔を見合わせて笑う。
それにつられるように、その場にいた全員に笑顔が伝染していった。





ブリッジ

「へ~。それじゃ、ユノユノはずっと記憶喪失のまま戦ってたんスか。」

あの後、解散になって手持無沙汰になったウェンディは何をするでもなく無重力状態を楽しみながらミレイナ達からユーノの話を聞いていた。
その光景はこの二日でもはやトレミーの日常の風景になっており、最初は抵抗感を持っていたティエリアもすでに彼女の自由奔放さには諦めざるを得なかったようだ。

「私もパパから聞いただけなんですけど、昔のユーノさんはもっとやんちゃだったって言ってたです。」

「確かに、昔の姿から今のあいつを想像するのは難しいかもな。俺なんか話をしてるだけで鳥肌が立ってくる。」

異様に丁寧な言葉で話し、さらには自分のことをさん付けで呼んできたことを思い出しただけで悪寒が奔る。
なんとかさん付けはやめてもらい、フランクな喋り方をしてもらうように話をつけたが、それでも昔のイメージが強いせいで今の彼の姿を見ていてゾッとするようなことは多々ある。

「そうかな?私は今のユーノの方が自然な感じでいいと思うけどな。」

ラッセに反論するようなフェルトの発言を聞いた瞬間、ウェンディは無重力を体験して二日とは思えないような素早い動きで彼女の肩を掴むと真剣な顔をする。

「フェルト、悪いことは言わないからユノユノに手を出すのだけはやめた方がいいっス。白い悪魔にあんなことやこんなことされて後悔してからじゃ遅いから。」

「えっと……なんの話?それに、私はユーノにそういう感情を持ってるわけじゃないから。それに……」

その一言を言おうとして、フェルトはわずかに言葉に詰まるが、すぐにいつもどおりに笑う。

「ユーノには婚約者がいるんでしょ?」

厳然たる事実だ。
ユーノが戻ってきた最初の日に彼を見舞いに行った時、薬指にはめられている桃色の宝石を見て驚き、相手がどんな人間なのか想像しては嫉妬し、しばらくして今度はそんなことを考えた自分に嫌気がさした。
自分にとってユーノはあくまで大切な仲間であり、友人であるがそういう対象として見ているつもりはない。
ユーノの方もきっとそのはずだ。

なのに、その事実を突き付けられるたびに心がちくちくと痛む。

「ふ~ん……。まあ、フェルトがそれでいいならあたしは何にも言わねえっス。」

ウェンディだけでなくラッセとミレイナも少々あきれたような、怒ったような顔をする。

(ったく、フェルトもユーノもこういうところで鈍いのだけは変わらないんだな。)






廊下

「へっくしょん!!う~…もう少し休んでた方がいいのかな?」

鼻をこすりながら自分の体調に不安を覚えるが、それよりも会わなくてはいけない人間がいる。
四年前、血生臭い介入をしていたときにも彼の顔を見て穏やかな日常に何度も引き戻してもらった。
だが、刹那から彼が自分たちのしてきたことのせいで大切な人を傷つけられたことを聞かされて、逃げたいとも思ったが、ソレスタルビーイングに戻ってきたからには向かい合わなければいけないだろう。
その扉の前に立ったユーノは大きく深呼吸をすると、ロックを解除して中へと入る。
殺風景な営倉の隅に、件の人物は膝を抱えて座っていた。
最後にあった時から随分たったせいもあって、身長は伸びているがユーノも伸びているのであの頃とさほど身長差は変わっていない。
少し長めだった髪は少し短くなり、顔も大人の男性のものに変わっているが、見分けがつかないほどではない。

「……ひさしぶり、沙慈。」

「……………………………」

沙慈・クロスロードは無言でユーノを睨みつける。
その眼にはユーノ、いや、ソレスタルビーイングに対する怒りがはっきりと込められている。

「……だんまり、か…」

「……………………………」

「ま、文句を言える立場じゃないことはわかってるけどさ。」

ユーノは頭を掻きながらため息をつくと、扉の前から動かない。

「何か困ったことがあったら僕に相談してよ。できる限り力になるからさ。」

「……………………それだけ?」

「……………………ああ。今はね。」

「じゃあ、早く出てってくれよ……!」

抱えていた膝に顔を押し当て、空気が漏れるようなか細い声で鳴き始める沙慈に背を向けてユーノは営倉を後にする。
この後、“あれ”の調整に向かわなければならないのだが、今の沈んだ気持ちを引きずってまで行こうとは思えなかった。






格納庫

「やれやれ、帰ってきてそうそうサボりとはいい度胸だな。」

文句を言いながらもイアンは喜びに胸を躍らせていた。
ようやく最後のGNドライヴが戻り、二機目のツインドライヴが起動したのだ。
ただ一つ不満なことを上げるとするなら……

「シェリリンのやつが無茶苦茶なものばかりつけてくれたことか。」

そう言ってため息をつくイアンの正面には、正五角形の赤い額から伸びる二対の角をつけた顔が鋭い目でガラスの向こうから整備室を見つめている。
下にある角は綺麗にⅤ字型だが、上にある角は途中で折れまがってより鋭く天を衝いている。
人間ならば耳があるはずの場所には丸い瑠璃色の浅い窪みから後ろまですらっと伸びた長細い三角形があり、その三角形の正面部分には通常のものよりも小さな銃口が備え付けられている。
ボディは白いコックピットハッチと黄色い粒子放出口以外は萌黄色に染め抜かれ、先が鋭い刃になった巨大な五角形の盾を持つ右腕と、腰の右側に装備されている盾への可変機構を持つ銃を握るはずの左腕は白を基調とし、左右の手首でそれぞれ萌黄色と赤の腕輪が付けられたようなカラーリングになっている。
両脚はシンプルに白と関節部分の瑠璃色のみで構成されている。
ここまで特徴をあげて来ておいてなんだが、何より目を引くのは台形の両肩のアーマー部分のさらに外側に付けられた萌黄色の装甲とそこに設置されたコーン型の出力機関だ。

GN-XXXX、ツインドライヴ搭載型、クルセイドガンダム。
その根幹をなすツインドライヴシステムとは、一体のガンダムに二つのGNドライヴを搭載、そして同調させることによって今までよりもはるかに多いGN粒子を生成するものだ。
だが、ただ一つ問題なのがこのシステムがあまりにも複雑、精密であり、相性のいいGNドライヴ同士でないと同調が上手くいかないということだ。
事実、先にロールアウトされたダブルオーガンダムも一番相性のいいOガンダムとエクシアの太陽炉を持ってしても安定稼働領域には達せず、自爆覚悟でTRANS-AMを使って無理やりそこまで持っていったのだ。
だが、今回はその心配はいらないだろう。

「同型のシルトとソリッドの太陽炉、おまけに“あれ”も付けてるから確実だろ。」

もっとも、“あれ”は使う側の人間のことを考えて取り付けたものなのだが。

「ったく、すこしでもシェリリンに手伝せるとすぐにこれだ。こんな暴れ馬、手綱の一つもつけとかないと安心できんだろうが。そうは思わんか、ユー…」

そう言って横を見るイアンだったが、四年の月日が経とうとすぐそばにいた二人目の弟子の面影を追ってしまう自分がいる。

「チッ……ああ、クソッ!もう我慢ならん!首根っこ掴んででもここに…」

「……ぶつぶつ……なんで僕が…」

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」

「わあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

扉に手をかけようとした瞬間にその向こうから現れたエリオに驚くイアン。
そしてエリオもイアンのリアクションに驚いて腰を抜かす。

「あ、ああ、すまん。たしか……エリオ、だったか?」

「え、ええ、はい。」

イアンはエリオの姿勢を元に戻してやろうと手を差し出す。
しかし、エリオは戸惑うばかりでなかなか手をとろうとしなかったが、結局イアンの手をとって元に戻してもらう。

「それで、なんの用だ?」

「えと、ユーノさんからなんですけど、今は少し一人になりたいから放っておいてほしいって。」

エリオからの伝言を聞いたイアンは渋い顔をするが、この四年間で身につけた唯一役立つスキル、諦めの良さですべてを割りきり作業を再開する。
そんなイアンにエリオは素朴な疑問をぶつけてみる。

「あの、ヴァスティさん、僕はまだソレスタルビーイングに入るつもりはないですよ?なのに、こんなところに勝手に来ちゃっていいんですか?」

この二日間、エリオとウェンディはかなり自由に艦内をめぐることを許されていた。
ユーノの知り合いだということも大きいのだろうが、それでもまだ正式に組織に入ると決めたわけでもない人間にここまで開放的にしていいのかエリオには疑問だった。
……ウェンディはそんなことなど気にせずメンバーの部屋にまで乗り込んで行っているようだが。

「かまわんさ。いまさら何を漏らされたところで困ることなどさしてないからな。ついでに、お前さんもウェンディってやつも技術方面に関しちゃさっぱりだろ?」

「まあ、そうなんですけど…」

「それに、わしはお前さんたちが加わるもんだと思ってるしな。」

最後の一言にエリオは顔をしかめる。

「僕は人殺しをするような組織に入るつもりはありません。」

確かに最初に想像していた凶悪犯の集まりというわけではなさそうだが、それでも人殺しには変わりない。

「ハハッ、人殺しか。こいつは手厳しいな。けどな。」

「けど?」

「お前さんたちもヒクサーやフォン・スパークのお眼鏡にかかるってことは、その歳で相当重いもんを背負ってるんだろ?」

「………………………」





数年前 ミッドチルダ某所


『いやだ!!お母さん!!お父さん!!』

『エリオ!!』

『返して!!私たちの息子を返して!!』

『違うでしょう?これはあなた方のお子さんのコピーだ。違法な手段で産み出したね。』







現在 

「?どうした?」

「いえ、なんでもありません。」

イアンの言葉で嫌な光景がフラッシュバックしてくる。
確かに、自分にはそういった過去がある。
世界を呪い、他人を呪い、憎しみだけが生きる原動力だったこともあった。
けど、

「……やっぱり、僕にはわかりません。戦うことで世界を変えることが、正しいのかどうか……」

「正しかないだろうさ。」

イアンは驚くほどきっぱりと言い切る。

「わしらのやってることはテロだからな。けど、ここにいる連中は多かれ少なかれ、戦争で人生を歪められている。幼くしてゲリラに仕立て上げられた者、テロで家族を失った者、人体に改造を受けた者……かく言うわしも、戦争で嫌なもんを死ぬほど見て来て、戦うことを決意した。」

イアンは指を止めるとエリオの顔を見る。

「それに、戦うと言っても相手の命を奪うのがすべてではないとわしは思っとる。そして、それを体現できるのが、ガンダムマイスターという存在なんだ。」







展望室

外に広がる星の海を刹那は眺めていた。
ユーノが戻り、ライルが新しく加わり、あとはアレルヤが戻ってくれば全員がそろう。
だが……




一日前 ブリッジ

「ユーノが今まで何をしていたか話せないということはどういうことだ!!」

フォンからの通信にティエリアは声を荒げる。
ティエリアだけではない。
ブリッジにいる人間全員が不信感をあらわにする。

『一応言っておくが、そこにいるガキどもに聞くのもルール違反だ。アイツが話してこそ意味がある。』

「それを僕たちが律儀に守るとでも?」

『守らざるを得ないだろうぜ。それに、そいつらも口が堅い方だろうからな。』

口が堅い、というよりも基本的に魔法文化の存在しない世界の住人にそのての説明をすることが二人にとってはご法度なのだ。
もっとも、そんなことを気にしていられる状況ではないのだが、それでもミッドチルダに戻れた時のことを考えれば黙っておくほうが妥当だろう。

ただ、遅かれ早かれユーノが目覚めればすべてが明らかになる。
エリオたちとは正反対に、刹那はそれに期待することにした。
だが……




展望室

そう、ユーノは自分たちに話そうとはしてくれなかった。
気持ちはわからないではない。
この四年間で自分もさらにこの手を汚してきた。
言いたくないことがあっても不思議ではない。
だが、それでも打ち明けてほしかった。

「……ユーノ。なぜ、なにも言ってくれない。」

「起きて状況把握するのでやっとの人間に、そんな無茶言わないでよ。」

いつの間にか後ろにいたユーノは彼にとっての懐かしい味、宇宙食用に加工された果物ゼリーを容器から吸いながら横に並ぶ。
着ている服は自分たちが支給されている制服に変わり、萌黄色と白のコントラストに目をひかれる。

「四年前も記憶が戻ってから言おう言おうと思ってても結局ふんぎりがつかなくて……。最後のミッションで生き残ったら言おうとは思ってたんだけど、今度は下手こいてみんなと離ればなれ。まったく、締まらない人生だよ。」

苦笑しながら肩をすくめるユーノに、今度は刹那が語りかける。

「なら、今からでも打ち明ければいいんじゃないか?」

刹那の生真面目な顔にユーノは口からゼリーをこぼさないように器用に答える。

「まだみんなそろってないだろう?アレルヤもいないし……それに、スメラギさんもあの調子だし、少し落ち着いてからじゃないとみんな混乱するからね。」

「それほどのことなのか?」

「うん。でも、案外みんなすらっと受け入れそうで怖いなぁ……」

自分の相棒や過去の事例を思い出してもその可能性は高いが、どうせ聞かせるなら全員そろってが理想だ。

「……変わったな。」

「へ?」

「みんな変わったが、お前は随分と変わった。」

「そうかなぁ……僕はむしろあっちの方が不自然だったと思うんだけど…。それに、刹那とフェルトには一応素顔の僕を見せていたはずなんだけど?」

確かに、最後の出撃の前に三人でデュナメスのそばにいたときに見せたあの顔。
あれこそが真実のユーノであることはわかっているのだが……

「…すぐには慣れない。」

「そんなこと言われたって……」

「だが…」

苦笑するユーノに刹那は小さく笑いかける。

「戻ってきてくれて、嬉しかった。」

ユーノは開いた口がふさがらなかった。
飲み口からゼリーのかけらが出ていくが、そんなことよりも目の前で起こっていることの方が衝撃度120%だ。

「どうした?」

「いや……君がそんなこと言うなんて思ってなかったから……」

戻って来てからみんなから変わったと言われるが、ユーノは一番変わったのは刹那とティエリアなのではないかと思う。
刹那もティエリアもあんなに頻繁には笑わなかったし、そもそもとげとげしくて近寄りがたかったのに、いまは新しくやってきたウェンディやエリオともなんだかんだで上手くやっている。

「そんなに驚くことか?」

「まあ、ね。でも、いい傾向なんじゃないの?昔みたいに能面みたいな顔してるよりはさ。」

「能面……」

そこまで酷かったか?とでも言いたげな様子でぺたぺたと顔をなでる刹那だが、それは唐突に終わりを迎える。
艦内全体にアラームが鳴り響き、乗組員に緊張が奔る。

『Eセンサーの反応!!識別はアロウズ所属機、ジンクスⅢとアヘッドと断定!マイスターは出撃準備に入ってください!』

上から聞こえてくるミレイナの声に二人は苦笑交じりにため息をつく。

「悪いけど、話は後みたいだね。」

「すぐに終わらせる。その後でゆっくりとすればいい。」

「ハハッ、違いないや。」





?????

『では、確かにお伝えしましたわ。』

「ありがとう。君には本当に助けられているよ。」

緑髪の少年はモニターに映る女性に涼やかな笑みで思ってもいない賛辞の言葉を贈ると通信を終了する。
おそらく、これも打算的な彼女の思惑の一つなのだろうが、少しくらい一緒に踊ってやるのも悪くない。

「狐と狸の化かし合い。」

「急になんだい、リジェネ?」

「日本では今のようなやり取りをそう言うらしいよ。」

緑髪の少年、リボンズの後ろからリジェネと呼ばれた少年が現れる。
紫色の癖っ毛をした彼は、見た人間誰もが美少年だと答えるほど整った顔立ちをしていて、かけているメガネがそれにアクセントを加えている。

「彼女が狐なのはわかるけど、僕が狸とはひどいことを言うんだね。」

「いいや、君が狐さ。」

「?」

リボンズに後ろから腕をからませるリジェネの顔に美しくも残忍な笑みが浮かぶ。

「自分の周りにいるものすべてが思い通りになると思っているおめでたい彼女が狸で、それを嘲笑っている君が狐さ。」

「僕はそんな悪趣味じゃないさ。」

「悪趣味だろう?アレハンドロ・コーナーの下について彼のすることを見てほくそ笑んでたくせに。」

リボンズに頭をなでられ、目を閉じて嬉しそうに伸びをするリジェネだったが、彼の心の中はイライラでいっぱいだった。
さきほど見た情報によると、ユーノがソレスタルビーイングに帰ってきたらしい。
どこの誰かもわからない人間が、できそこないで、お情けでガンダムに乗ったくせにさんざん計画を掻きまわした人間が自分と同じ体を持つ人間のそばにいると考えただけで虫唾が奔る。

(ユーノ・スクライア……君は目障りなんだよ。ティエリアも君がいると悪い影響ばかり受けるからね。君にはここらで退場してもらおうか……ティエリアや僕たちの目の前から永遠に!!)






トレミー カタパルト

白と黒の巨体は足元を固定されたまま出撃の時をじっと待っていた。
ふいに、中にいるティエリアの横にミレイナの顔が出現する。

『敵機は散開してこちらに向かってるです!!アーデさんは三時方向をよろしくです!!』

「了解。」

『おいおい、俺は初陣なんだぞ?誰かフォローに回ってくれないのか?』

二人の会話に深緑の機体に乗り込んでいる男の声が割り込んでくる。

「君の役割は狙撃で敵を牽制して、トレミーに取りつかせないことだ。比較的容易な仕事のはずだが?」

『ど素人だぜ俺は?荷が重すぎるっての。』

「マイスターに選ばれたからにはこれくらいのことはやってもらわないと困る。」

『あ、おい、ちょっと…』

ロックオンからの反論を聞くことなく、ティエリアは通信をきる。
そんな彼の額には昔よりもさらにしわが寄っている。

「なんで、彼なんだ…」

能力的には問題ない。
あの物言いも“彼”の双子の弟なのだから仕方が無い。
なのに、どうしてもライル・ディランディという男を、ロックオン・ストラトスとして認められない。

『アーデさん?』

ミレイナの声に現実に引き戻されたティエリアは再度目の前の脅威に集中する。

「なんでもない。準備はできているから出してくれ。」

『了解です!タイミングをセラヴィーに譲渡します!』

「I have control.ティエリア・アーデ、セラヴィー、いきます!!」

今ここで死ぬわけにはいかない。
本当の最後の時が来るまで、決してあきらめない。
ユーノに、そしてロックオンに教えられたことだ。
そして、今がその時であるはずが無い。

「セラヴィー、目標を殲滅する!」

セラヴィーガンダムのマイスター、ティエリア・アーデは人間としての熱い感情に身をまかせながら、自分の持ち場へと急いだ。







「ったく、いきなり切るこたないだろ。」

「ティエリア、ロックオン好キ!ロックオン好キ!」

「あれのどこが……って、兄さんの方か…」

渋い顔でこれから自分の相棒になるハロの電子音に耳を傾けながら、会わなくなってから忘れようとしていたコンプレックスが再燃する。
周りの人間全員が双子であるというだけで比べてくる。
そして、自分より何もかも抜きんでていた兄と比べられるたびに双子というものが嫌になっていった。
兄が死んだことはショックだが、それでもこの感情はそれでも消しきれない。

「けどま、今はそんなことを気にするより、なんとかこっちの都合に合わせてもらえるようにしなくちゃな。」

「ナンノコト?ナンノコト?」

「こっちの話だよ。」

こんな話を相手が機械とはいえできるわけがない。
ライルにとってソレスタルビーイングはあくまで利用価値があるから所属しているにすぎない。
だが、ここで彼らに消えてもらっては困る。
仲間たちが自分と、そして彼らの力を必要としているのだから。

「なあ、ハロさんや。兄さんは気合を入れる時なんて言ってたんだ?」

「狙イ撃ツゼ!狙イ撃ツゼ!」

「なるほどね…」

少々癪だが、確かに今自分が乗っている機体にはぴったりの言葉かもしれない。

『ケルディム、リニアフィールドに固定。いけます。』

「了解だ!ケルディム、ロックオン・ストラトス、目標を狙い撃つ!!」

フェルトの言葉に後押しされるように飛び出したケルディムガンダムは、艦の前方にとどまり額の赤いふたを開けてカメラアイを展開する。

「さあ……ロックオン・ストラトスとケルディムガンダムの初陣だぜ!」









後ろの背もたれに体を固定し、操縦桿を握る刹那の前に厳しい顔をしたイアンが現れる。

『刹那、くどいようだがTRANS-AMは使うなよ!』

「わかっている。」

ダブルオーのツインドライヴはTRANS-AMによって起動させたのだが、安定領域にはほど遠く、十二分にその力を発揮できているわけではない。
いまだに同調率は80パーセント台にとどまり、イアンはTRANS-AMを使うのは危険だという判断を下した。
もっとも、それでも現存するMSの中で抜きんでているのは確かなのだが。

「それより、クルセイドの方は……」

『ん?あ、ああ……問題はない…』

「……?」

メカニックに関しては竹を割ったような性格のイアンが珍しく口ごもる。
何かあるのだろうか?
そう思い問いかけようとする刹那だったが、ミレイナの言葉がそれを阻む。

『ダブルオー、いつでもいけるです!』

「了解。ダブルオー、刹那・F・セイエイ、目標を駆逐する!」

高速で外へとはじき出された瞬間、ダブルオーの両肩にあるGNドライヴから粒子が溢れだしていく。
そんな好調の愛機とは対照的に刹那は一抹の不安をぬぐいきれずにいた。







そんな刹那の不安を知ってか知らずか、ユーノは意気揚々と新しいガンダムに乗り込んでいた。
クルセイド。
シルトとソリッドのGNドライヴを持つガンダム。
聖戦を意味する言葉が頭にきているのが少し気にくわないが、エレナと、自分の想いを乗せたガンダムに乗って喜ぶなというのは無理な相談というものだ。

「ユーノ、一応TRANS-AMもGN-EXCEEDも使えるらしいが、基本的には使わないほうがいい。」

「わかってるよ。ダブルオーのデータは一通り見ておいたからね。それに、僕は刹那ほど無茶をするのが好きじゃない。」

「よく言う…」とあきれる相棒の頭を優しくなでていると、ブリッジにいるフェルトから通信が入る。

『ユーノ、ごめんね。最初の出撃なのに無理させちゃって。』

「大丈夫だよ。もともとシルト系は単機による突破がコンセプトだからね。これくらいこなせなきゃ名前倒れもいいところだよ。」

心配してくれるのは嬉しいのだが、フェルトはどうにもそれが行き過ぎているような気がして仕方ない。
憧れを抱いていたロックオンを失い、あれだけ大勢いた仲間が自分のもとを去っていった不安を忘れることはできないかもしれないが、それでもここまでされるとどうリアクションしていいものかと困ってしまう。

「……心配なら、今度はメガネでも残していこうか?」

「!」

驚くフェルトに優しく語りかける。

「もうそんなことしなくても、僕はまた戻ってくるよ。みんながいてくれるだけで、僕はここに戻ってきたいと、生きていたいと思えるから。」

『……うん!』

フェルトをなだめて通信を終えると、メガネをはずして自分の中の意識を切り替えていく。

これから自分がするのは戦争なのだ。
理由はどうあれ、誰かを傷つけその命を奪うことになるかもしれない。
非殺傷設定など甘いものなど存在しない、どこまでもリアルで、陰湿で、救いようのない戦いをこれからするのだ。

「……あんな約束、するんじゃなかったな。」

最後になのはと過ごした夜にした約束。
四年前、フェルトと同じようなことをして彼女を悲しませたのに、約束を守れないかもしれないとわかっていたのに今度はなのはを悲しませている。

「なんなら、今からでも帰るか?」

967の意地の悪い問いをユーノは笑い飛ばす。

「冗談?ここまで来てそれやったら男じゃないよ。」

そう言ってヘルメットをかぶると、完全に頭の中から余計な思考が排除される。
そして、足元をリニアフィールドに固定されたのを確認すると一気に操縦桿を前に押し出す。

「クルセイド、ユーノ・スクライア、いきます!!」

久々に感じるGに数秒耐え、漆黒の宇宙に新たな力とともに飛び出す。
クンッと足元にあるペダルに力を入れると、両肩のGNドライヴから粒子が放出されていく。

「僕の担当は真正面か……。なかなか、ハードな任務になりそうだ!」

そう言って操縦桿とペダルを思い切り踏み込むユーノ。
だが、

「……?」

「どうした?」

「いや、なんでも…」

心なしかペダルや操縦桿が重い気がする。
最初はそれほど感じなかったが、今出せる全力を出した瞬間に急にそれを感じた。
しかし、すぐにそれは消え去りクルセイドは安定した動きを見せ始める。

(気のせいか……)

そう思って正面から迫ってくる敵に向かっていくユーノだったが、この時に気付いておくべきだった。
この時感じたことが気のせいでないことを、そして、クルセイドの動きがあまりに型にはまりすぎていたことを。








ラグランジュ4 周辺宙域

ほんの数日前まで沙慈がいた建設中のコロニー、プラウドを望むその場所に突如ピンク色の閃光が奔った。
プトレマイオスの左舷側から近づいていたジンクスⅢのうちの一体がそれをかわしきれずに爆散する。
それが戦いのゴングとなり、各方面で赤とピンクの閃光が入り乱れ始め、時折まん丸の花火が上がった。

開戦の合図を上げた張本人であるティエリアはあくまでいつもどおりに自分の戦いをする。
セラヴィーの肩から伸びた長い砲身がため込んだ力を誇示するように光を放ち始める。
そして、

「GNバズーカ、高濃度圧縮粒子解放!!」

セラヴィーの背中にある装甲が開くと、そこから巨大なガンダムの顔が出現し、それと同時に二つの砲門から飛び出した光の柱が一機のジンクスを巻き込み粉砕する。
しかし、それでも残った二機はひるむことなくセラヴィーに突撃していく。
確かにセラヴィーの巨体はいかにも接近戦では不利のように思われる。
だが、

「甘く見てもらっては困る!」

肩につないでいた二門のバズーカをしまうと、両手にビームサーベルを握らせて残った敵機を迎え撃つ。
まず突っ込んできた一機の一撃を右手に持っていたビームサーベルで受け止める。
そのまま残った左手の刃で両断しようとするが、残っていた一機がそれを許さない。
後ろから斬り込んできた一機に後退を余儀なくされるティエリアだが、その瞳に弱気の色は見えない。
むしろ、さらに闘志に火がついたようだ。
今度は素早くバズーカを握ると、細かく動きながら小さな砲撃を発射して翻弄していく。
ジンクスたちは何とか接近戦に持ち込もうとするのだが、見た目によらず身軽な動きについていけずにやむなく射撃を開始する。
だが、今度はそれがGNフィールドに阻まれる。
なかなか本丸にたどり着けないことへの焦りと、目の前にいるガンダム一機を攻め落とせないことへのいらつきが溜まっていく。
そして、とうとうそれが爆発した。

「ええい、埒があかん!!一気に斬り込む!!」

勝利を焦った二機は直線的な動きで正面からセラヴィーに迫る。
だが、ティエリアはそれを待っていた。

「バーストモード!!」

再度背中のガンダムフェイスが展開され、セラヴィーの前に瑠璃色の球が生成される。
その球の圧力に押し切られるように二機のジンクスはその場に張り付け状態になり、後ろに少しさがったかと思った瞬間、光の激流に飲み込まれて完全に消滅した。

「ふぅ…」

一息つくティエリアだが、これで終わりではない。
さらに後ろから敵機がうようよと押し寄せてくる。

「クッ……やはり艦を叩かないことには…」

だが、今ここを離れることができることはできない。
ならば、じっと耐えて間隙を突くしかない。

「来い!!アリの子一匹通さん!!」

決意の咆哮とともに、ティエリアは砲門を敵部隊へと向けるのだった。








「はあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

気合の込められた剣閃がジンクスをGNランスごと真っ二つにする。
まだまだ敵は残っているのだが、刹那に恐れはなかった。
それは、OガンダムとエクシアのGNドライヴを引き継ぐダブルオーに乗っているのが理由だ。
だが、それでも不安はある。
ここで相対している敵は全員手練れなのだろうが、それでも全身を突き刺すようなプレッシャーは感じない。
しかし、もし仮にそんな相手と戦うことになった時、今のダブルオーで何とかできるのだろうか。
あの、GNドライヴを搭載したフラッグのパイロットのような相手にぶつかったときに。

「…………………」

ライフルモードにしたGNソードⅡの引き金を引きながら刹那はあの時の戦いを思い起こす。
自分は生き残ったが、あのパイロットがどうなったのかは定かではない。
だが、もし生きていたのなら…



その時、コックピット内に緊急事態を知らせるアラームが鳴り響く。
しかし、それはダブルオーの危機を示すものではなく、仲間の危機を知らせるものだった。

「!?ユーノ!?」

ユーノが担当している正面が徐々に敵に押し込まれ始めている。

「援護に…」

行こうとするのだが、周りを飛び交うジンクスやアヘッドがそれを許さない。

「くそ!やはり何か不具合があったのか!?」

ダブルオーがそうであったように、クルセイドもそうである可能性はある。
だが、自分も立ち会った同調テストでは問題はなかったはずだ。

「一体どうなってるんだ!?」






整備室

「クソッ!!やはりか!!」

うかつだった。
良かれと思ってつけたものが明らかに裏目に出てしまっている。
ティエリアのシミュレーションだけでスペックを計ったのもまずかった。
かといって今あれを外せば今度は別の問題が発生する。
だが、

「ええい!!今はあの二人にかけるしかない!!」







ラグランジュ4 周辺宙域

目の前に迫る赤い弾丸に反応してユーノは操縦桿を動かしてクルセイドを横に動かそうとする。
だが、

「っ!GNフィールド!!」

射線から半分も動かないところで攻撃につかまり、967によって展開されたGNフィールドによって何とか防ぐ。

「クソ!!なんなんだこの機体!?」

967も同様の感想を抱いているのだが、敵の攻撃を防ぐのに手いっぱいで意見することすらできない。
戦闘を開始したユーノと967だったが、すぐさま窮地に追い込まれた。
なぜなら……

「なんでこんなに反応が鈍いんだ!?」

マシントラブルを疑いたくなるような反応の遅さに募る焦りを押さえきれない。
さらに、どういうことかかなり動きが制限されてしまっている。
武装の中でも一番の突進力を誇るGNバンカーですら当たらない。
このままではやられる。
二人がそう思った時、イアンの顔がモニターの角に出現する。

「イアン!?どうなってるのこれ!?」

『すまん!おそらく、MACSSのせいだ!』

「MACSS!?なんでそんなものを!!?」

967が驚くのも無理はない。
MACSS、すなわちマニューバ・コントロール・サポート・システム。
MSの姿勢制御に大きく貢献するシステムなのだが、本来ガンダムには使われていない。
なぜなら、

『おそらくそいつのせいで動きを制限されちまってるんだ!ついでにクルセイドに使われておるのは期待各所の出力コントロールとも連動しているから本来の性能を出しきれないんだ!!』

「わかってて…っなんでつけたのさ!!」

紙一重で斬撃をかわしながらユーノは目の前にいる自分の師匠に文句を言う。
だが、イアンも望んでこれをつけたわけではないのだ。

『……そいつを使う人間のためだ。』

「……どういうことだ?」

967の厳しい追及の声にイアンは答える。

『そいつの最大加速値だと乗っている人間の反応がついていけなくなる。シェリリンのやつが大丈夫だと言って予想限界値ギリギリに設定したせいで、常人のそれではもはや対処しきれん。だが…』

イアンは覚悟を決めて一か八かの選択肢を二人に与える。

『左膝のところにあるコンソールで機体制御系のシステムは解除できる。』

「ならそれを先に言ってよ!!」

『話はまだおわっとらん。』

イアンの額から汗が噴き出す。

『そいつを解除するということは暴れ馬に手綱なしで乗ることと同義だ。一歩間違えば最悪の事態もありうる。それに、連動させていた出力系が解除された時、ツインドライヴが同調を保っていられるか定かじゃない。』

そう、それは思いもよらぬ副産物だった。
少しでも速度を押さえようと最大出力を限定した結果、同調の際の負担が軽減された。
最初はこの事実に手放しで喜んだが、今は一気に奈落の底にたたき落とされた気分だ。

『どうするのかは、お前らが決めてくれ……。無責任で、本当にすまない……』

顔をしかめてうつむくイアン。
だが、それとは逆にユーノの顔には希望が溢れていた。

「大丈夫だよ……」

『なに?』

「僕の師匠と姉弟子が、心血を注いで完成させた機体なんだ……何が何でも…使いこなしてみせる!!」

乱戦の中、素早くコンソールを操作してシステムを解除する。
その瞬間、

「!!!?う、あああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!?」

体が砕けるのではないかというほどの慣性に押し付けられたユーノは苦悶の声を上げる。
今ほど体を鍛えていてよかったと思える瞬間はないだろう。
なんとか暴れるクルセイドを敵部隊の中へと突進させ、アヘッドの右腕を斬りおとすが、そこで急に感じていた圧力から解放される。

「同調率低下!!現在、70パーセントからさらに減退中!!」

目の前に表示されたメーターは緩やかではあるが着実に同調率は下がっていく。
それに合わせてクルセイドも動きを止める。

『やはり、無理だったのか!?』

イアンは拳をコンソールに打ち付けるが、ユーノはまだ諦めない。

「まだまだ!!967、再同調開始!!TRANS-AM、そして……EXCEEDを使う!!」

『!?ま、待て!!確かにダブルオーは上手くいったが、クルセイドもそう上手くいくとは…』

「「GN-EXCEED!!」」

クルセイドの体が赤く輝き、魔法陣が大きくなるのに合わせて両脚、両腕、そしてGNドライヴが装着された装甲が開き、瑠璃色の翼が出現する。
しかし、それでもメーターは70前半と60後半を行き来するだけでいまだに起動する気配はない。
しかも、問題はそれだけでない。
それまで警戒して距離をとっていたジンクスやアヘッドたちが殺到し始めたのだ。

「っく!!」

鋭く突き出た槍の先がすぐそばまで迫る。
だが、それがクルセイドを貫くことはなかった。
クルセイドの後ろから駆け抜けてきた桃色の閃光がジンクスの腕を吹き飛ばす。
さらに、近づこうとしていた敵機にもビームが降り注いで接近を許さない。

『よお、先輩。早くしてくれ…よっと!』

通信をしながら引き金を引くロックオンの顔には笑みが浮かんでいるが、同時に汗もにじんでいる。
今の状態が長くは持たないことは彼自身が一番わかっているのだ。
ユーノは礼を言う代わりに目の前のコンソールを指先が見えないほどのスピードで叩く。
しかし、それでもクルセイドは動かない。

(くそ……!やはり、制御システムを…)

「…けんな。」

「?」

「ふっざけんなよ!!!!」

それまで歯を食いしばって耐えていたユーノだったが、もう我慢の限界だ。

「お前は、僕とエレナの想いを乗せてるんだ!!!!なのにここで終わり!!?そんなの認めてたまるか!!!!」

終わってたまるか。
こんなところで終わったら、自分は何のためにみんなと別れてまでここに戻ってきたんだ。
まだ何もできていないのに。
誰のことも救えていないのに。
仲間の願いをかなえていないのに。
仲間が、待っているのに。

「!やべっ!!」

狙撃でフォローを続けていたケルディムだったが、遂に一機のアヘッドが弾幕を潜り抜けてクルセイドに迫る。
そして、

「終わりだ!!!ガンダムゥゥゥゥゥ!!!!」

手に握っていたビームサーベルでクルセイドを腰から二つに切断した。






ソレスタルビーイング 秘密ドッグ

「~♪~~♪」

褐色の肌に蛍光灯の光を受けながら鼻唄交じりにコンソールを叩く一人の女性がいた。
彼女がご機嫌な理由はただ一つ。
四年間も待っていた人間がようやく帰ってきたのだ。
しかも、一緒に戻ってきた仲間からもらった画像データを見てみたが、なかなか、いや、かなり彼女好みのいい男になっていた。

「フフフ……フェルトさんはまだそういうのには疎いからな~。そのすきに私がいただいちゃお♪」

もちろん、彼女も彼がすでに婚約済みだということは知っている。
だが、

「略奪愛って、なんか燃えるのよね~!」

彼女には逆効果だったようだ。
そんな恋する年頃になったフェレシュテのメカニック、シェリリン・ハイドはスキップしたい気分を軽やかな指の動きに変換してガンダムのサポートメカの開発に勤しむ。
しかし、そんな彼女にとって至福の時間は突然部屋の中に飛び込んできた銀髪の女性によって終わりを迎える。

「シェリリン!!いい加減にクルセイドのスペックを再調整しなさい!!あんな機体が人間に扱えるわけが無いでしょ!!!!」

元ガンダムマイスターのシャル・アクスティカはクルセイドが完成してから口がすっぱくなるほど繰り返している言葉を再度発するが、シェリリンは耳をふさいでどこ吹く風といった様子だ。

「ユーノが戻ってきたんだからまともに扱えるようにしないと戦力に…」

「大丈夫だって。ユーノならクルセイドの力を120パーセント生かしきってくれるはずだよ。」

「ホントにその根拠のない自信はどこから来るの!!?」

「だ~か~ら~!」

シェリリンも今まで何度も言ってきた持論を展開する。

「クルセイドは反射速度だけで動かすものじゃないのよ!師匠もわかってくれなかったけど、クルセイドの操縦には反射に追いつける軌道計算能力が合わさって初めて力を発揮するの!!それで、967とユーノはそれを持ってる!!自信の理由はそれで十分よ!!」

「それはあなたの想像にすぎないでしょ!!!!」

「そんなことないって前から言ってるでしょ!!!!実戦で使ってみればわかるわよ!!!!」

「そんなことできるわけないでしょ!!!!」

シャルと激しい討論を繰り広げていたシェリリンだったが、これ以上は無駄だと悟ったのかお手製の耳栓を取り出して一切の音をシャットアウトする。
シャルがいまだにごうごうと叫んでいるが、シェリリンはタイピングをしながらクルセイド、そしてそのパイロットになる予定のユーノのことを思い浮かべる。
クルセイドは自分がその設計のほとんどを任せられた機体だ。
もちろん、出来には自信があるし、ユーノと967も使いこなしてくれると信じている。
ただ、ユーノはクルセイドという名前に抵抗を示しそうだと思う。

Crusade
その意味は聖戦であり、正義というものに嫌悪を示すユーノが好まないものだ。
だが、シェリリンが込めた意味は全く別のものだ。

(Crusadeのもう一つの意味…それは改革のために行動すること……すなわち、変革…)

どれほどみっともなくても世界を、そして自分自身を変えようと戦うユーノにふさわしい言葉だ。

「頑張れ……ユーノ……」

「人の話を聞きなさい!!」

「あいたぁ!!?」

シェリリンのユーノへのエールは鈍い音にかき消され、代わりにシェリリンの頭にできた大きなたんこぶが赤い電球のように光っていた。






ラグランジュ4 周辺宙域

真っ二つになったクルセイドの姿に敵味方問わずにどよめきが起こる。
そのなかでも、フェルトは声を上げることもできずに瞳に涙をためていく。
だが、彼女から泣き声が上がることはなかった。

「!!!!?」

再びどよめきが戦場を支配する。
斬られたはずのクルセイドが徐々に瑠璃色の光に姿を変え、しばらくの間を置いた後に虚空に消えた。

「ど、どうなってる!!?」

アヘッドはあたりを見渡すが、どこにもクルセイドの姿はない。
しかし、確かにいる。




フオンッ……




気配を感じたアヘッドのパイロットはすぐに後ろを向く。
そこには、赤く輝くクルセイドが刃を構えてこちらを睨んでいる。

「そこか……!!」




フオンッ……




「!?」

目の前にクルセイドがいるはずなのに、後ろから気配を感じる。
そして、そう思って意識を目の前から一瞬意識を離していると、目の前にいたはずのクルセイドが消えている。
慌てて後ろを振り向くと、そこにも翼を広げているクルセイドがいる。

「馬鹿な!?」

幻でも見ているのかと我が目を疑うパイロット。
しかし、少し離れたところからそれを見ていた彼の部下には“全て”見えていた。




フオンッ……
フオンッ……フオンッ……
フオンッ……フオンッ……フオンッ……!




そして、彼にも何が起こっているのかようやく理解できた。
周りを、TRANS-AMとGN-EXCEEDを発動したクルセイドが無数に飛び交っているのだ。

「な……!?」

そんな馬鹿な。
真っ白な頭の中のキャンパスにその一言だけが貼り付く。
その姿をあざ笑うかのように、クルセイドは切っ先を向ける。

「ユーノ・スクライア……クルセイド……目標を…」

アームドシールドⅡの中に隠されていた刃を出現させると、GN粒子を纏わせて激しく震わせながらユーノは自分の決意を込めた一言を叫んだ。

「粉砕するっ!!!!」

その場にいたクルセイドすべてが消えたかと思うと、五体のクルセイドがそれぞれアヘッドの頭、両脚、両腕と綺麗に斬りわけていた。
当然それだけでは終わらず、残っていたジンクスたちにも向かっていく。

(落ち着け…!こんなものは手品だ!!)

そう、これも十分にあり得ないが、目の前の光景を説明するならば、高速で移動を繰り返すことで複数いるように見せているのだ。

「ならば!!」

一機のジンクスがビームサーベルを抜いてクルセイドに向かっていく。
もし、刃を受け止めたならそれが本物。
そうでなかったら、別の機影に斬りかかればいい。

クルセイドは相手の思惑通りブレードモードの刃でそれを受け止めるが、ジンクスは銃を抜いてクルセイドの顔面に向ける。

(もらった!!)

そう思った時だった。
別方向にいたクルセイドがジンクスの腕を両断し、盾の中心部についていた二つの穴からビームを発射して下半身を吹き飛ばす。
あまりにも呆気なくやられたことにパイロットが呆然とする中、ビームサーベルを受け止めていたはずのクルセイドは粒子になって消えていく。

「ば…かな…!?」

確かに手ごたえはあった。
その状態、しかもゼロ距離からあの動きをするなどあり得ない。

わけがわからないまま戦闘不能に追い込まれた二機を見ながら、ユーノは笑っていた。
あの二機のふがいなさにではない。
クルセイドを造り上げたであろうシェリリンをだ。

「ハハハ……やってくれたね、シェリリン!」

GNシルエット
高速の動きとGN粒子による残像の生成、さらにそこへGN粒子の質量軽減効果を反転することで質量を発生させてあたかも実体を持っているかのように錯覚させる。
四年前、ユーノとシェリリンが思いつきで考えたシステムだったが、瞬発力に優れたソリッドでも残像を見せるのは不可能であり、さらに実際に質量を持たせるほどの粒子を生産することができなかったため、二人の冗談で済ませたと思っていた代物だ。
しかし、シェリリンは曲がりなりにもそれを完成させていたのだ。

「ここまでやってもらったからには期待に応えないとね!」

ユーノがぐっと身を乗り出した瞬間にクルセイドはTRANS-AMとGN-EXCEEDを終了する。
そして、クルセイドの分身たちも消えていくがそれでもユーノは強気なままだ。
クルセイドの右腕に装備したアームドシールドの隠し刃を引っ込めるとそのまま反転させ、盾についた二つの突起部分を前方に持ってくる。

「いくよ!!」

二つのGNドライヴを背中にまわし、一瞬にして超高速の域まで加速する。

「角度修正…左、2.4度。」

「了解!」

相手と自分の動きを計算に入れて微調整を加えながら、二人はGNランスを構えたジンクスへと突進していく。

高速で二機がぶつかった瞬間、しばらく動きが止まる。
最初に動きを見せたのはジンクスだった。
頭に突起を叩きつけられたまま小刻みに動くが、ギリギリでかわされたランスの先をクルセイドに再び向けることはできなかった。
一方のクルセイドは、脇につけたかすり傷をものともせずにギリギリとひしゃげた頭に杭をねじ込んでいく。

「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」

再び二基のGNドライヴから光を放ち、彗星を思わせるほどの凄まじいスピードでジンクスを押しこんでいく。
そして、

「GNバンカー、バースト!!」

二つの杭が圧縮された粒子に押し出されて完全にジンクスの頭を破壊する。
しかし、それでもバンカーの勢いを殺しきれなかったジンクスは彼方へと消えていった。

「ひぃ……!!?」

ユーノはクルセイドを残っていたジンクスたちの方へと向ける。
威嚇には、それだけで十分だった。
宇宙に上がった三色の光を見たアロウズの部隊は次々にその場を離れていく。
四機のガンダムに乗るマイスターたちは、それを追わなくとも自分たちの勝利がゆるぎないものだということを確信していた。







プトレマイオスⅡ ブリッジ

「敵部隊、撤退していくです!」

「フゥ……ひやひやさせやがって。」

劇的な勝利にブリッジにいるメンバーが歓喜する中、フェルトはただ一人胸の前で小さく手を組みながら安堵の息を漏らしていた。

「よかった……」

こう思うのは変かもしれないが、シルトの太陽炉に宿っていたエレナの意思がユーノを救ってくれた。
そんなおとぎ話のようなことはあるはずはないのだが、そう考えるだけで心が温かくなってくる。

「エレナ……ロックオン……ユーノは、今ここで生きてるよ。」







中央ブロック

比較的安全な中央ブロックに避難させられていたエリオとウェンディも、外の戦闘の様子をリアルタイムで見ていた。
初めは不利だったのに、萌黄色の機体の動きが変化した瞬間に戦況がひっくり返った。
その事実は二人を驚愕させるには十分だった。

「ストライカー……」

エリオの口から思わずその単語が漏れる。
エースと並ぶ、優秀な魔導士の称号であり、その一人がいるだけで、どんなに不利な状況も一変すると言われている。
フェイトから聞かされていたその言葉が、ぴったり当てはまるような機体だ。

その後、戦闘が終わっても二人はクルセイドの姿に釘づけでその場を動くことができなかった。








変革のための聖戦
それは、正義のためではなく、己が心と向き合う戦い






あとがき・・・・・・・・という名の舌ったらず

ロ「というわけでsecond編第一話でした。」

ユ「いきなりチート能力が出ちゃったよ。」

ロックオン二代目(以降 弟)「大丈夫だろ?なんでもツインドライヴが安定する回まではあれはやらないらしいし。その頃になったらダブルオーも量子化使えるんだからなんとかつり合うだろ。」

刹「それでも、現状のままで十分強いのは間違いないがな。」

ティ「後はあの舌ったらずな説明部分だけだな。」

ロ「う……そ、それについては次回ある程度解説的なのを入れていけたらなぁ、と思っています。」

弟「ボキャブラリーが貧相だと大変なんだな。」

ロ「るっさいわ!!このコンプレックスの塊が!!!!兄貴呼ぶぞこら!!」

弟「うるせえボケ作者!!最近まともに本読まないからこんなことになるんだろうが!!!!」

ロ「本なら嫌というほど読んどるわぁぁぁぁぁ!!!!!(教科書+参考書)」

弟「小説読めって言ってんの!!!!文らしい文を読めこの野郎!!!!」

刹「……あれを読んで駄目ならもう何を読んでも駄目な気がするがな。」

ティ「何せ、読み終わって数分で単語が頭からこぼれおちていくようなやつだからな。」

ロ「忘れたらまた読むから別にいいだろ!!!」

ティ「よくはないだろ。」

ロ「……ドラ○もんに暗記パンだしてほしい。切実に。」

刹「小説ようにか?」

ロ「参考書用に決まってんだろ!!!!どんだけ無感動になるんだよ小説!!!!」

弟「お前の駄目っぷりはわかったから解説にいくぞ。」

ロ「おまえ、ホントに後でシバくかんな。」

刹「それはそうと、今回出てきた第四世代機のもとになったのはなんなんだ?」

ロ「いや、パクリなのが前提かよ。いや、確かにちょこちょこつまみ食いはしたけど。」

ティ「具体的には?」

ロ「まあ、言っていい範囲なら外見はDX、Wゼロカス(EW版)を参考にして、あと武装は宇宙世紀から少しもらったところはあるな。」

弟「で、バンカーはお決まりの古鉄からか。」

ロ「古鉄は風の魔装機神、某闇騎士と並んで俺が好きなスパロボのオリ機だからな。もちろん、分の悪い賭けが嫌いじゃないパイロットさんもリスペクトだ。」

刹「大方、隠し刃にしたのはより闇騎士風にしたかったからか。」

ロ「そこはノーコメントだ。別に、玄○剛弾とか、白○咬とか、舞○雀とか使うわけじゃないんだから大丈夫だろ?」

ティ「麒○使う気満々の時点でアウトだと思うが?」

ロ「とくに技名とか叫ばないから大丈夫!」

弟「……ホントだろうな?」

刹「さて、そろそろ量もまずいから次回予告にいくぞ。」

ティ「いよいよそろった四機のガンダムと四人のマイスター。」

弟「最後のマイスター、アレルヤ・ハプティズムの救出のために動きだすソレスタルビーイング。」

刹「しかし、戦術予報士、スメラギ・李・ノリエガはいまだに過去の傷を消せずに迷い続ける。」

ティ「それでも、開始された救出作戦。」

弟「そこで刹那は、思いもよらぬ人物との再会をはたす。」

刹「そして、あらたに動き出したイオリア計画の要となる人物が現れる!」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお聞かせください!じゃ、せーの……」

「「「「次回をお楽しみに!!」」」」



[18122] 2.救出作戦
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/11/08 22:29
プトレマイオスⅡ 格納庫

目の前の広大な暗闇の中を動き回る赤い影。
ロックオンはヘルメットもせずにスコープを覗きこんで狙いをつけると、おもむろに引き金を引く。
手元からGNスナイパーライフルⅡの光弾が放たれ、一体のジンクスの頭部を吹き飛ばす。
そのまま次の標的に狙いを定めて引き金を引くのだが、今度はギリギリでかわされる。
自然と強張る体の力を抜いて数度光弾を発射する。
そのうち一発は外れ、残り二発は何とかジンクスをとらえたのだが、今度は残っていた一機から攻撃を受けたせいで画面の隅にmiss1の文字が表示される。

「チッ…」

短く舌打ちをして引き金を引くが、今度もまた外れる。
しかし、すぐさま落ち着きを取り戻して最後の一機を撃破すると目の前にいる相棒に問いかける。

「どんなもんかね、ハロさんや。」

「67%!67%!」

「そっか……」

今日は不調なのかいつもより少し成績が悪い。
先日の実戦では自分でも驚くほどの成果を上げたが、今回は少々狙いが甘い。
だが、その少々が命取りになることもある。
その点、兄は四年前の戦いにおいてはかなり優秀だったようで、ほとんどの戦いで命中率90%を下回ることはなく、仲間からの信頼も厚かったようだ。
一方自分は新入りで命中率は平均して70後半ほど、おまけに仲間内の一人からはえらく嫌われているようだ。
そんなことを考えているだけで集中力が途切れて狙いが甘くなる。
さらに不調の言い訳をさせてもらえるならあれが決定的だった。




数時間前

それは、ほんのお遊びのつもりだった。
兄から狙撃を教わったというユーノに一度ケルディムでシミュレーションをしてもらったのだ。

「それじゃ、参考になるかどうかわからないけど…」

そう言ってシミュレーションを始めたユーノだったが、四機の敵機を四発の弾、つまり一発も外すことなく敵を沈めて見せた。
しかも、全て撃墜するまでのタイムはロックオンよりも遥かに早かった。

「ハハハ……あんたがケルディムに乗った方がいいんじゃねぇか?」

「ユーノにはクルセイドに乗ってもらわなければ困る。……あんな無茶苦茶な機体を使いこなせる人間などそうはいないからな。だから、たとえ能力的に劣っていても君にケルディムを使いこなしてもらわないと困る。」

「ティエリア!!」

ユーノは慌ててティエリアをたしなめるが、当のロックオンは笑いながら頭を掻くだけだ。

「気にすんなよ。それに、すぐに追いついてやっから覚悟しとけ。」

そう言って背を向けるロックオンだったが、内心複雑だった。
兄に負け、兄から技術を教わった人間にも負けた自分は一体何なのだ。
悔しいなんてもんじゃない。
いまさら兄の影にふりまわされるなんて思ってもみなかった。

(ああ、そうだ。あんたは昔っから俺より何でもできて、そのくせそのことには気付かないで、それで……)

そして、誰よりも自分に優しかった。
家族を失い、葬式で久々に会った時も泣き顔一つ見せずに自分の罵りに耐えてくれた。
あの時は、兄のせいじゃないとわかっていても、湧き上がる感情を押さえきれなかった。
自分だって泣きたかったはずなのに、黙っていてくれた。

(……なんで一人で決めちまったんだよ。)

なぜ、暗殺稼業をすると勝手に決めたのか。
なぜ、相談もなしにソレスタルビーイングに入ったのか。
なぜ……自分だけを残して死んでしまったのか……





現在

「なんで……あんたはいっつもそうなんだよ………」

なんで自分ではなくユーノたちに頼ったのか。
そんなに自分は兄にとって頼りない存在だったのか。

いや、わかっている。
本当は頼らなかったのではなく頼れなかったことを。
唯一この世に残された家族に、世間に顔向けできないようなことをしているなど言えるはずもない。
そのことで、悩む姿など見たくなかったのだろう。

(けど、それでも…俺はあんたの家族なんだぜ?なんで……)

「ラ~イル!」

ディスプレイに映されていた偽物の宇宙が消えると同時に開いたコックピットハッチから逆さまになったウェンディの顔がにゅっと現れる。

「おいおい、覗き見は感心しねぇぞ。」

「スケベ!スケベ!」

「誰がスケベっスか!」

ぷっくりと顔を膨らませたウェンディの頬を両手で挟んで空気を押しだしたロックオンは、程よくリラックスした状態で狙撃の練習を再開した。





ちなみに、再開直後の命中率は78パーセントまで上昇していた。






魔導戦士ガンダム00 the guardian 2.救出作戦

地球連邦軍 反政府勢力収監施設

とある海岸線に建設された巨大な建造物。
陸地の側には大きな台地があり、その上に細い道路があるだけで正面から侵入するなどまず不可能だ。
海側はひらけてはいるものの、建物の上部に設置された砲門が空に向けて構えられ、さらに旧式とはいえMSまで配置されている。

反政府組織収監所
いまだ地球連邦に反目する組織の人間の多くがここ、もしくは似たような施設に閉じ込められている。
そんな誰もが入りたくいとは思っていないような場所に、本来なら入るはずなどない人物が暗く冷たい部屋で尋問を受けていた。

「あなたは、四年前に起こったアザディスタンの内紛でソレスタルビーイングのメンバーと接触していますね?」

「その時のことは、四年前にもお話ししたはずです。」

半ば無理やりここに連れてこられた女性は毅然とした態度で答える。
だが、尋問を担当している人間はそんなことでは臆しない。

「当時と今とでは状況が違う。新たなガンダムが出現した今、あなたは最重要人物となったのですよ。アザディスタン王国第一王女、マリナ・イスマイール。」

尋問官の言葉に、今はただうつむくことしかマリナにはできなかった。





別室

もう、どれくらいの時間が過ぎただろうか。
この暗い部屋の中で体の自由を奪われ、まともに眠ることさえも許されない日が何日続いたかわからない。
いや、考えることすら億劫になってきている。
そんな過酷な状況下におかれているアレルヤ・ハプティズムが正気を保っていられる理由はただ一つだ。

(マリー……)

あの時はどうしてという思いで頭の中が真っ白になってしまったが、今になって冷静に考えればわかる。
おそらく、まともに動けないマリーを超兵として送り出すための調整の際に新しく人格を上書きしたのだろう。
そして、彼女が生まれた。

「…………っ。」

突然ついた明かりに目をすぼめるアレルヤ。
だが、ここにきてから何度も体験したせいかもう慣れてしまった。
ただ、今回はいつもと違う点があった。

「起きろ、被験体E-57。」

「!!?」

その声に驚いて顔を上げるアレルヤ。
周りに他の人間がいるが、アレルヤには正面に立つ一人の女性兵士しか見えていなかった。

「この男ですか。四年間この施設に拘束されているガンダムのパイロットというのは。」

誰かが喋っているがそんなことなどどうでもいい。
目の前にいるこの銀色の髪をした彼女にしか興味はない。

「ーーッ!!ーーッ!!」

口につけられたマスクのせいでまともに発音することもままならないが、必死に叫ぶ。

「?」

銀髪の兵士がアレルヤの反応を不思議に思いながら手で合図をすると、付き添っていた一人がアレルヤの後ろに回ってマスクを外し始める。
その間、彼女は一つ気になっていたことを考え始める。

(私の脳量子波の影響を受けていない……報告には、頭部に受けた傷が原因とあったが……)

しかし、今まで黙っていたようだがようやく話す気になったようだ。
これで、自分の疑問の答えも見つかるかもしれない。

(だとしたら、大佐のもとを離れてまでアロウズに入った収穫が少しはあったということか………)




数日前 ロシア セルゲイ宅

『我が連邦政府は、反政府勢力撲滅のため、政府直属である独立治安維持部隊の活動を開始します。治安維持部隊は連邦保安局との連携を図り、効率的な作戦……』

少しずつ小さくなっていく自分の声に気付くことなく話し続ける女性の方を見向きもせずに、ロシアの荒熊、セルゲイ・スミルノフは手元の携帯電話の向こうの旧知の人物の言葉に耳を傾ける。

『今しがた司令部より、独立治安維持部隊への転属命令がありました。』

「行くつもりかね?」

『噂のアロウズ…目にしておくのもいいでしょう。』

電話の向こうにいるカティ・マネキンが話し始めると同時に、扉が開いて銀髪の女性が紅茶を持って入ってくる。
セルゲイは彼女に小さく笑いかけると本題に入る。

「……あの部隊には秘密も多い。内情を報告してもらえると助かる。」

『無論そのつもりです。では。』

ツーツーという音を聞いて通話を終了したことを確認したセルゲイは自分も通話を終了する。

「マネキン大佐からですか?」

「ん?ああ、そうだ。」

彼女を見ていると四年というのがいかに長い時間だったのか実感させられる。
あの兵士然としていた少女が、いまや普通のそれとなんら変わらない。
この姿を見るだけでセルゲイは彼女、ソーマ・ピーリスをここに連れてきてよかったと思えた。

「どのような用件で?」

口を開きかけたセルゲイだったが、話すのを思いとどまり紅茶で間を作ると話を変える。

「それより、例の件については考えてもらえたかな?」

ピーリスは飲んでいた紅茶から口を離し、戸惑いの表情を浮かべる。

「…いえ、……その……」

その表情を見たセルゲイはいくばくかの悲しみと、いきなりこの話を振ってしまった自分の無神経さを少し後悔した。

「なに、急ぎはしない。ゆっくり考えるといい。」

二人の間に沈黙が流れる。
おそらく、彼女は遠慮しているのだろう。
ここを訪れて、今この場で話しに参加していたかもしれない二人のことを考えてしまうたびに、自分だけがという思いに一歩を踏み出せないでいるのだろう。

四年前の戦いが終わり、頂部は解体されて地球連邦軍に吸収されてからピーリスはセルゲイのもとで生活を送っていた。
断られても何度でも誘う覚悟のセルゲイだったが、そんな彼の予想に反してピーリスはあっさりとOKをだした。
それからは、互いに軍での仕事をこなしながら親子同然の生活を送っていた。
そんな中、セルゲイはピーリスに自分の養子にならないかと持ちかけたのだが、こちらは一緒に暮らすときのように色よい返事は聞かせてもらえなかった。
その理由は明らかだった。

二年前、現在のアロウズの前進に当たる組織に、ともに戦いの日々を駆け抜けたミン・ソンファが入隊したことだろう。
その頃から何かと黒いうわさが絶えなかったそこに入ることをセルゲイとピーリスはミンに思いとどまらせようとしたのだが、二人の反対を押し切ってミンは去っていった。
その後、テレビに登場する彼の戦果と、時折くる連絡で無事を確認するという日々が続いている。
そんなミンだったが、彼の戦い方は四年前の事件を契機に大きな変化を遂げていた。
それは、相手を殺さないこと。
ミンが主体になった作戦での戦死者は敵味方合わせてもゼロ。
そのほとんどが極力話し合いで解決され、数少ない戦闘でも相手の命を奪うことなく鎮圧、降伏させている。
その成果を認められ、遂にはアロウズの中でも独自行動を認められた部隊の指揮を任せられているらしい。
“殺さず”のミン。
ある者は敬意を持って、ある者は臆病者だと彼を侮蔑するための二つ名は彼の意思とは関係なく世界中に広まっていた。
しかし、世界中でセルゲイとピーリスだけは知っている。
ミンがそんな戦いを、悲壮な決意をすることになった理由を。





四年前

プトレマイオスからの攻撃で負傷したミンは急いで治療施設に運ばれていた。
すぐ横には同じように負傷したセルゲイが運ばれているのだが、見るからにミンの方が重傷だ。
火傷の跡の上にさらに火傷が重なり、腕には細かな金属片が埋まっている。
ピーリスとセルゲイが必死にミンの意識が途絶えないように話しかけているのだが、それよりもミンの意識はあることへの後悔だけで現実に縛り付けられていた。

「くそっ……!くそっ!!くそっ!!!!なんで……なんで、こんなことになるんだ!!助けたかっただけなのに、なんで!!!!」

「ミン中尉…」

泣きながらうわごとのように同じ言葉を繰り返していたミンだったが、ピーリスはそれ以上彼の言葉を聞くことはできなかった。
なぜなら、ミンは傷の度合いの違いからセルゲイとは別の治療場所へと運ばれていったのだから。




セルゲイ宅

(私だけが、幸せを手にしていいのだろうか……ミン中尉も、それに彼も犠牲になってしまったのに、私だけが……)



ピンポーン



「?」

ピーリスとセルゲイが過去のことを思い返していると玄関のチャイムが鳴らされる。
こんな夜更けに誰だろうかと思いながら歩を進める二人だったが、玄関のドアを開けた瞬間、セルゲイはその場で固まった。

「独立治安維持部隊より、ソーマ・ピーリス中尉を迎えに参りました、第5MS中隊所属、アンドレイ・スミルノフ少尉です。」

「アンドレイ……いつアロウズに…」

「あなたにお答えする義務はありません。父さん…いや、セルゲイ・スミルノフ大佐。」

突き放すような冷たい言葉にセルゲイは何も言い返せずにうつむくが、後ろにいるピーリスは呆けた顔をする。

「父……さん?」

話には聞いていたが、こうして会うことになるとは思っていなかった。

「それより、中尉をアロウズになど……」

「上層部の決定です。それに、アロウズに正規軍の将校の意見が通るとでもお思いですか?」

自分の息子の言葉に何も言い返すことができずに拳を握りしめるセルゲイ。
そんな父のことなど放っておいてアンドレイは後ろにいるピーリスに話しかける。

「準備にはお時間がかかると思いますので、三日の猶予が与えられています。それ以上は待てないことをどうぞお忘れなく。」

アンドレイはそう言うとアロウズの隊服を置いてさっさと帰っていってしまった。
二人はその後もしばらくそこを動くことができずに冷える廊下の上で立ち尽くしていた。
だが、しばらくしてピーリスが口を開いた。

「……大佐、私、行こうと思います。」

「中尉!?」

「私は超兵です。戦うことが私の存在理由です。けど…」

ピーリスは明るく笑って敬礼する。

「任務が終わったら、必ずここに帰って来ます!」

セルゲイも眉間にしわを寄せながらも笑って敬礼をしてみせた。



その二日後、ピーリスはアロウズの艦に乗ることになった。





現在

こうしてここまで来ることになったのだが、日常に長く浸っていたせいかなかなか兵士としての感覚に戻せない。
どうしても、撃つときに相手のことを気づかってしまう自分がどこかにいる。
それもこれも、任務の最中に出会ったあの変なガンダムのパイロットのせいだ。
そう心の中で呟いて小さく笑ったピーリスに、アレルヤが話しかける。

「マリー……ようやく出会えた…。やっぱり、生きていたんだね……」

「マリー……?」

クマがひどい目で笑いかけるアレルヤに対し、ピーリスはわけがわからず顔をしかめる。
マリー
こいつは今確かに自分をそう呼んだが、そんな名前に全く覚えはない。

「僕だよ!!ホームでずっと話をしていたアレルヤだ!!」

しつこく食い下がるアレルヤ。
しかし、それは今のピーリスには逆効果だった。

「私はマリーなどという名前ではない!!」

ずっと会いたいと思っていた人からかけられた拒絶の言葉。
だが、その程度でアレルヤの心は折れない。

「いや……君はマリーなんだ……」

「っ!!」

ピーリスの平手がアレルヤの頬をとらえる。
周りにいた人間が止めに入ろうとしたが、ピーリスはそれ以上アレルヤに手を上げようとはしなかった。

「次にそう呼んだら……殺す!」

そう言うのが早いか、アレルヤの口には再びマスクが付けられ言葉も舌を噛んで自害することも封じられてしまう。

「……勝手な行動をとって申し訳ありませんでした。」

ピーリスはそう言うと部屋を後にした。
しかし、彼らはあるミスを犯していた。
再び暗くなった部屋の中にいるアレルヤの銀色の眼に、今まで宿っていなかった激しい決意が燃え盛っていたことに、彼らは気付いていなかった。





プトレマイオスⅡ 整備室

「やっとらしくなったな。」

「なにが?」

「いや、わからんならいいさ。」

こうして横に並んで整備をするようになって、ようやくイアンにはユーノが戻ってきたという実感がわいてきた。
ユーノには悪いが、戦っている姿を見るよりこうして一緒に作業をしていたほうがらしい気がしてくる。

「それより、あの二人はどうしてる?」

イアンはクルセイドのツインドライヴの微調整を進めながら尋ねる。

「エリオは相変わらずで、ウェンディも今頃ロックオンのところにでも行ってるんじゃないかな?」

「そうじゃない。」

イアンはしかめる。

「いい加減こいつをストライカーと呼ぶのをやめさせられたかと聞いとるんだ。」

「そっちか…」とユーノはイアンのしかめっ面に苦笑するが、あの呼び方をやめさせられるのは至難の業だ。
なにせ、二人曰く理想のストライカー像だと言っているのだから、そう呼んではいけないというのは酷というものだ。

「あの二人なりの褒め方なんだよ。」

「だからってストライカーはないだろ……」

「ストライカーは前に僕たちがいたところじゃ最高の称号の一つなんだ。この暴れ馬がそう呼んでもらえるなって光栄じゃないか。」

「だから……前いたとこってどこだよ…」

「それは…」

言葉に詰まるユーノだが、そこに思わぬ助け船が入る。
携帯端末を通じて刹那から通信が入ったのだ。

『ユーノ、今から来れるか?沙慈・クロスロードが俺とお前に聞きたいことがあるらしい。』

「了解。すぐ行くよ。じゃ、イアン、後よろしく!」

「あ、おい!!こら!!」

肩を掴もうとしたイアンだったが、それをするりとかわしたユーノは刹那と沙慈が待つ営倉へと向かった。






営倉

沙慈に呼び出された刹那とユーノは彼の質問に答えていた。
というより、基本的に刹那が答え、ユーノはその後ろで伏し目がちに立っていると言った方が適切だろう。

「確かに資料にあるように、俺たちは別の立場で武力介入をしていた。」

「仲間じゃないと!?」

「……ああ。」

刹那の淡々とした、しかし、はっきりとした答えに沙慈は視線を落とす。
一瞬、刹那たちへの復讐の炎が消えかけた沙慈だったが、首にかけていた金色の指輪を見て再び怒りに火をともす。

「それでも、君たちも同じようにガンダムで人を殺し、僕と同じ境遇の人を作ったんだ……!君たちは憎まれて当たり前のことをしたんだ……!!」

「……わかっている。」

本当は、刹那たちに向けた言葉じゃなかった。
ここで憎むのをやめてしまったら、自分がここにいる意味がなくなってしまう。
そんな気がして、沙慈は思わずそう言ってしまった。

「世界は平和だったのに……当たり前の日々が続くはずだったのに……!!そんな僕の平和を壊したのは君たちだ!!」

「なら……」

そこで、ようやく黙っていたユーノが口を開いた。

「当たり前の日々を奪われた人に、平和な日々を過ごしていた君は、自分の平和のために犠牲になれと言えるのかい?」

「っ!」

ハッとした。
あの時、自分は戦争なんて、戦いで不幸になる人なんて遠い場所の出来事だとどこかで思っていたのではないか。
いや、今でもそう思っているのではないか。
そんな疑念を振り払うように沙慈は声を張る。

「そうじゃない!だけど、誰だって不幸になりたくないさ……!」

「……なら、君もその人たちから、今君が言ったことと同じことを言われるだろうね。」

「それは……」

戸惑う沙慈に、ユーノは悲しい笑みを見せる。

「沙慈が言ってることは正しいよ……。でも、僕はその裏で、不幸になっていく人間を何人も見てきた。みんなが生きている時に目を背けている影を、僕は嫌というほど見てきた。」

「けど!」

「誤解しないで。僕は自分のしていることを正当化するつもりはない。……罪は償うよ。どんな形であれ、必ずね。」

その言葉を聞いてもなお、沙慈は納得していなかった。
できるはずなど、ない。

「……ユーノ、通信だ。」

「ん……」

二人はせわしなく振動を繰り返す端末をポケットから取り出して表示された文面を読み上げる。
すると、二人の表情は一変した。

「アレルヤが見つかった!?」







ブリーフィングルーム

「アレルヤが見つかったって本当なの!?」

入ってきて開口一番がそれだった。
戦術予報士、スメラギ・李・ノリエガは自分がラフな格好をしていることすら忘れていた。

「ああ、王留美からの確定情報だ。」

ラッセが王留美の名前を口にすると、ユーノはあからさまに嫌そうにするが、この状況でそのことを口に出すほど空気が読めないわけではない。

「これから救出作戦を始める。」

イアンの言葉に耳を疑うスメラギ。
まさか、まともな作戦もなしに乗り込む気なのかと思ったが、そうではなかった。
だが、今のスメラギにとってはこれから刹那が提示するものの方が最悪の選択だった。

「救出って!?一体どうやって…」

「あんたに考えてほしい。」

「え……!?」

「スメラギ・李・ノリエガ。俺たちに戦術予報をくれ。」

刹那の鋭い視線が彼女をまっすぐに射抜く。
いや、刹那だけではない。
この場にいる人間全員が彼女に期待のこもった視線を向けている。

「そんな……」

彼らの期待とは裏腹に困り果てるスメラギ。
だが、ティエリアがさらに刹那の言葉に付け加える。

「彼が戻れば、ガンダム5機での作戦が可能になります!」

「それでも心もとないが…ゲフッ!」

余計な茶々を入れたロックオンのわき腹にウェンディからの肘鉄が突き刺さる。

「ったく。あの、スメラギさん……だったっけ?まあ、名前なんてどうでもいいや!あたしらからもお願いするっス!」

「ウェンディ?」

予想外の人物からの要望にスメラギだけでなく全員が目を白黒させる。

「僕からもお願いします!」

「エリオまで……」

「僕たち……どうしてもハプティズムさんって人に会って話をしてみたいんです!!お願いします!!」

二人には、アレルヤが歩んできた人生が他人事には思えなかった。
人体を改造され、命を歪められ、世界から拒絶され続けてきた彼は、まさに自分たちの姿を写した鏡も同然だった。
だからこそ会いたい。
会って話を聞きたい。
いままで、何を思って生きてきたのか。
何を思って、ソレスタルビーイングに参加することを決意したのか。
少し冷静さを欠きつつあった二人をなだめると、ユーノは明るく笑う。

「ま、僕の連れ二人もこう言ってるんで、力を貸してくれませんか?」

「……………………………………」

「だんまりですか……それ、はっきり言って卑怯ですよ。」

ユーノの言うことはもっともなのだが、それでもそれ以外にどうすることもできない。
しかし、目をそらすスメラギにフェルトが歩み寄る。

「スメラギさん、これを。」

フェルトが差し出したのは彼女たちが今着ている制服と同じものだ。
ソレスタルビーイングであることの証だ。
だが、

「やめてよ……!そうやって期待を押し付けないで……!」

スメラギは思わず後ずさる。
明らかにみんな落胆している。
自分もアレルヤを助け出したい。
でも、不安で仕方ないのだ。
もし、また間違ってしまったら。
また、エミリオを失った時のように自分のたてた戦術でみんなを死なせてしまったら。
そう考えただけで、今すぐにでもここから逃げ出したくなる。
酒におぼれて、そのまま何も考えないようにしたくなる。

「私の予報なんて、何も変えることはできない……。みんなを危険にさらすだけよ!!」

それだけ言い残して足早に部屋を後にしようとする。
だが、

「後悔はしない!」

「!!」

刹那のよく通る声が彼女の背中にぶつかり、歩みを止めさせる。

「たとえミッションに失敗しようと、あんたのせいにはしない!俺たちは、どんなことをしてもアレルヤを……仲間を助け出したいんだ!」

これで彼女の心が動いたかどうかはわからない。
だが、これが今の刹那の精一杯だ。
自分の心のありのたけを込めた言葉だ。

「頼む……俺たちに、戦術をくれ!」

……刹那たちの熱い思いはスメラギの凍りついた心を溶かすには至らなかった。
だが、揺り動かすには十分だった。

「………フェルト、あとで現状の戦力、状況のデータ、教えてくれる?」

「スメラギさん!」

「来ないで!!」

駆け寄ろうとしたフェルトは床に足を釘でうちつけられてしまったようにその場で止まる。

「……今回だけよ。私は、戻る気なんてない……戻れるわけない……」

そう言って去っていくスメラギの背中を、フェルトは黙って見送るしかなかった。






1時間後 ブリッジ

「スメラギさんから、ミッションプランが届きました!」

さっきのことを忘れたわけではないが、またこうしてスメラギのミッションプランを受け取れて、フェルトは少しだけ彼女を間近で感じられた気がした。
だが、

「おいおい……何だよこのプランは……」

ラッセが苦笑交じりで見ているそれは、確かに常人の脳ではとても思いつかない作戦だ。
というより、思いついても実行するわけが無い作戦というべきか。

「大胆です~……」





格納庫

ブリッジクルーが感心する中、マイスターたちはそれぞれの役割をさほど動揺もせずに確認していた。

「わずか300秒の電撃作戦……それでこそ、スメラギ・李・ノリエガだ。」

そう言って笑うティエリアだったが、収容されている人間のリストの中にある人物の名前を見つける。

「これは……!?」

ティエリアは、慌てて刹那に通信をつないだ。





「あれ、俺にも役割あんのかよ?……けど、そっちのほうが好都合だな。」

「ナンノコト?ナンノコト?」

「こっちのことだよ。サポート頼むぜ、ハロさんよ。」

目を点滅させるハロを笑いながら適当にごまかすロックオンだったが、操縦桿を握りなおしたときには鋭い戦士の目に変わっていた。

「頼んだぜ、みんな……」






TRANS-AMを使うなとしつこく釘を刺された刹那はダブルオーの各所の最終チェックを行っていた。
ツインドライヴ以外は特に問題はないのだが、それでも念入りに調べておいて損はない。
そんな刹那に、ティエリアから通信が入る。

『刹那、王留美からの報告にあったアレルヤが収監されている場所に、こんな名前が。』

「!!!!」

刹那は目に見えて動揺する。
そこに書かれていた名前は、刹那にとって忘れることのできない名前だった。
自分の祖国を奪った国の王女であり、自分とは異なる方法で世界から争いをなくそうとしていた女性の名前。

「マリナが!?」

彼女の姿は、4年たった今でもはっきりと思い出せる。
それほどまでに、刹那の記憶にしっかりと刻みこまれていた。

「マリナ・イスマイールが、アレルヤと同じ施設にいる……!?」

『アレルヤを助け出すついでに彼女も助けたらどうだ?』

「それは……」

できない。
敵からの妨害を考えたら、そんな余裕などありはしない。

『なんなら、僕だけでアレルヤを助けに行くから、君は王女様を助けに行きなよ。』

『「ユーノ!?」』






クルセイドのチェックを一足先に終えていたユーノはその提案を刹那に持ちかけた。
理由は二つ。
一つは、刹那には悪いが、集中できていない状態でアレルヤの救出に参加されても足手まといになる可能性がある。
もう一つの理由は、刹那に彼女を守ってほしかったからだ。
刹那にはアザディスタンに吸収されたとはいえ、祖国と呼べる場所がある。
遥かに昔に故郷を追われた先祖を持ち、第二の故郷と呼べる場所を、生まれた場所を捨てた自分とは違う。
だから、刹那には自分の故郷を見捨てるような真似をしてほしくない。
傲慢かもしれないが、そう願わずにはいられない。

『……わかった。頼めるか?』

「もちろん。それに、僕にはいざという時の切り札があるからね。」

『?』

刹那はなんのことかわからなかったようだが、別に今明かす必要はないだろう。
もっとも、この作戦中にばれるかもしれないが。

「……ユーノ。」

「そんな怖い声出さないでよ。近いうちに話すんだからさ。」

967の低音に少し気圧されながらも、ユーノはすぐそこまで迫っていた今回のミッションの舞台をモニター越しに見下ろしていた。







「GNフィールド最大展開!大気圏突入を開始します!!」

フェルトがミッション開始の合図を下すと同時に、プトレマイオスは瑠璃色の防御膜に守られながら地球へと落ちるように突っ込んでいった。





地球連邦軍 戦艦

その一報に、地上に展開されていた部隊は動きを激しくしていた。

「大佐、ピラーの観測所より入電。大気圏に突入する物体を捕捉。輸送艦クラスだそうです。」

「ありえん!スペースシップごと地上に降りてくるなど!」

指揮を任されていたマネキンは困惑する。
カタロンがそんな高性能な艦を所持しているとは考えられない。
だとすれば……

「攻撃用意!!MS隊も発進準備を急げ!!」

続いてマネキンは施設内にいるピーリスに連絡を入れる。

「ピーリス中尉、敵襲だ。E-57の確保を。」

『了か…』

その時、空から降り注いだ一条の光がMSハンガーを破壊し、その衝撃が建物全体を大きく揺らす。

「もう来たのか!?」

焦るマネキンたちの前に広がる雲の合間から、瑠璃色の光がちらちらと見え始める。

「ソレスタルビーイングのスペースシップが!!」

「砲撃開始!!」

艦に備え付けられた粒子砲が火をふく。
予測時間より早く来たことで焦りを見せたマネキンだったが、ソレスタルビーイングとの因縁がここで終わることを感じていた。
なぜなら、地上に激突を避けるためにも減速は必要になる。
その間に砲撃を集中されればどれほど頑丈な艦だろうが間違いなく沈む。

(仲間を前に焦ったか……それが貴様らの敗因だ。)

マネキンは敵の指揮官の甘さに対し、同じ作戦を考える立場の人間として幻滅にも似た感情を抱いていた。
だが、ソレスタルビーイングの戦況予報士の作戦は彼女の発想の上を行っていた。
そろそろ減速に入ってもいい地点にきてもプトレマイオスの速度は一向に落ちる気配が無い。
それどころか、いっそう速度を上げている。

「減速しないだと!!?」

まさか特攻でもしようというのか。
だが、プトレマイオスの落下地点を見た瞬間にマネキンの顔色が変わる。

「っ!!まさか!!?」





プトレマイオスⅡ ブリッジ

「GNフィールド、最大展開!!」

フェルトのその言葉に全員が衝撃に備えるように体をこわばらせる。

「トレミー、潜水モード!!」

プトレマイオスの艦首部分に広がっていた板状の部分がカタパルトと並行な状態になる。
そして、

「海に突っ込む!!!!」

瑠璃色の隕石は、その昔地上を席巻していた恐竜を滅ぼしたという隕石のように海へと落ちた。
プトレマイオスが海へと潜った瞬間に天を衝くような大きな水柱が上がる。
同時に巨大な津波も発生し、地上に配置されていたティエレンたちに襲いかかる。
津波はティエレンたちだけでは飽き足らず、収監施設の下層部分すらも飲み込んでようやく海へと退いていった。






戦艦

「て、敵艦、水中潜行しています!!」

(やられた!!)

マネキンは唇をかみしめながら己の読みの甘さを、いや、そもそもこんな作戦を読むことなど不可能だ。

(この状況……粒子ビームを半減させることが目的か!!)

津波で地上部隊を無力化し、同時に発生させた霧でこちらのビームの威力を弱める。
さらに、艦そのものを海のなかへ潜らせることでこちらの攻撃手段を限定してきたのだ。






収監所 外部

四機のガンダムはすでに出撃を終え、それぞれの持ち場へと向かっていた。

『刹那、ユーノ、粒子ビームの拡散時間は300秒。その間にアレルヤを。』

「了解!」

「刹那、君はマリナ様を。僕はアレルヤを助ける!」

「わかっている!」

刹那の返事と同時に生き残っていたティエレンたちからの攻撃が始まる。
だが、三人はまず施設上部に設置されていた砲台を破壊し、最大の脅威を取り払うことを優先する。

「くそっ!!」

何とか守りきろうとするティエレンたちだったが、砲台が完全に破壊された次は自分たちであることを忘れていた。
三機のガンダムの粒子ビームを受けてあっさりと撃墜されたティエレンたちをしり目に、ダブルオーとクルセイドが施設の別々の部分へと突っ込んでいく。

「いっけぇぇぇぇ!!!!!」

二機が深々と体を潜り込ませた衝撃で建物がさらに激しく揺れる。
だが、二人はそんなことなできにせずに外へと飛び出していく。

「967、ティエリアの援護を!」

「了解だ!!」

クルセイドはすぐに建物から離れるとダブルオーの防衛に当たっているセラヴィーのもとへと向かう。
ガンダムの出現を受けてでてきたジンクスたちは動かないダブルオーとそれを守るセラヴィーに集中砲火をかけるが、セラヴィーの必死の抵抗に思うように攻めこめない。
ビーム兵器の威力が落ちているところにセラヴィーの分厚いGNフィールドを持ってこられたのだから仕方のない話なのだが、セラヴィーを操るティエリアも必死なのだ。
今の状態でもこの数相手では十分にきつい。
しかも、300秒たてば敵の攻撃の威力は元に戻るのだから冷静に考えれば不利なのはこっちなのだ。
だが、先程の衝撃的な策に浮足立っているジンクスたちは動きにも自然とそれが現れている。
おそらく、スメラギはここまで計算に入れてこの作戦を考えたのだろう。
ならば、自分たちもその期待にこたえねばなるまい。

「ここは死守する!!」

「ダブルオーを仕留めたいのなら俺たちの相手をしてからにしてもらおうか!!」





『敵MS出現です!!』

岩場に腰をおろしていたケルディムへとブリッジからの通信が入る。
作戦自体は今のところ順調なのだが、時間が限られているせいかみんな焦っている。
だが、こんなときほど焦ったら負けだ。

『ケルディム!砲狙撃戦開始だ!!当てなくてもいいから牽制しろ!!』

「了解!」

少し気になる言い方だが、今は自分に与えられた役割を果たすだけだ。
ソレスタルビーイングのメンバーの役割も、カタロンでの役割のどちらもだ。
そんなことを考えていると、セラヴィーに一機のジンクスが粒子ビームを連射しながら突っ込んでいく。

「ケルディム、ロックオン・ストラトス、目標を狙い撃つ!」

ケルディムから放たれた光はそのジンクスの頭を弾き飛ばし見事撃墜する。
それに気をとられたジンクス部隊にさらに光弾が降り注ぐ。
今度は狙いをつけずにばら撒くように撃って敵をかく乱するのが目的だ。

「ほら、隙ができたぜ。」

ロックオンの言葉に会わせるように967が操るクルセイドがアームドシールドに装備された小型GNランチャーのビームで敵機を撃墜する。

「ナイスフォロー!ナイスフォロー!」

「いやいや、それほどでも。」

そう言ってケルディムを空へと上げたロックオンは隠れるのをやめて狙撃を繰り返してさらに敵をかき乱す。

「……たのんだぜ、みんな。………ついでに、先輩たちもな。」








収監所 内部

外の混乱以上に中は慌ただしい空気に包まれていた。
下の階は完全に水没してその機能のほとんどがマヒし、加えて上の階もと折れる通路がかなり限定されてしまっていた。
それでも、ピーリスたちは被験体E-57を確保するために、彼の収容されている部屋へと急いでいた。
だが、そんな彼女たちの前の廊下が突如吹き飛び、道がふさがれてしまう。

「なんだ!?」

ピーリスの答えの代わりに弾丸が飛んできて同行していた一人に当たる。
慌てて廊下の角に隠れたピーリスたちは弾丸が飛んできている方を見る。

「カタロンか……!」

マシンガンを構えた男たちが、収容されていた人間たちを連れながらどんどん脱出口のある方へと向かっていく。
ピーリスたちも持っていた拳銃で対抗するが、いかんせん武器の性能が違いすぎるため、どうにも向こう側を突破していくのは不可能そうだ。

「ここは自分が!中尉はE-57の確保を!!」

「頼む!!」

ピーリスはアンドレイを残して別ルートで目的地へと向かった。






収容室

「……?」

さきほどから建物全体の揺れが続いている。
外も騒がしいようだし、何かが起こっているのは間違いない。

(でも、僕には何もできない……マリーを救うことも、ここから出ることさえ、なにも……)

そう思っていたアレルヤだったが、彼のその考えは最高の形で裏切られることになる。
突如自分の前にあった扉が爆発し、そこから射し込む光に目がくらんでしまうアレルヤ。

(誰だ……?)

背丈は自分ほどだろうか。
MSのパイロットスーツを着て、ヘルメットも付けているようだ。
彼の背中から射し込む光が邪魔で顔がよく見えないが、目が慣れてきてようやく顔が確認できるようになった。
濃い翠の瞳に、ヘルメットの後ろの収まりきらなかった豊かな金色の髪がバイザー越しに見えている。
その顔は男性とも女性ともとれるが、どっちにしろかなりきれいな方に分類されるだろう。

(……?)

どこかで見たことがある。
だが、なかなか思い出すことができない。

「その顔は、なんでここにって言うより、誰だって顔だね、アレルヤ。」

「!!?」

声も男性か女性か区別がつきにくいが、喋り方から察するにおそらく男だろう。
だが、それ以上に重要なことが分かった。
笑った顔があの頃そっくりだったおかげで、それをきっかけで記憶の海から大切な仲間の思い出をサルベージすることに成功した。

(ユーノ!!)

萌黄色のパイロットスーツに身を包んでいたユーノが指先を二、三度振るとアレルヤを縛っていた拘束がスッパリと切れて彼を自由の身にする。
アレルヤは急いでマスクを外すとユーノに掴みかからんばかりの勢いでまくしたて始める。

「ユーノ、どうして!?」

「悪いけど、説明は後だよ。」

ユーノは白い拘束服を着たままのアレルヤに端末を投げ渡す。

「そのポイントに行って。アリオスが来る。」

「アリオス!?」

混乱しているアレルヤにユーノは笑いながら振り返る。

「君のガンダムだ。」

そう言い残して去っていくユーノの背中を呆然と見送るアレルヤだったが、手に持っていた端末を見た瞬間に決意を固めた。






プトレマイオスⅡ

『アレルヤを発見した!!アリオスを!!』

「了解です!!」

それまで先行していたプトレマイオスはカタパルト部分だけを海面から出すと、ハッチを開ける。
そして、そこからオレンジ色の何かを収監施設へ向けてはじき出した。






収監所 内部

アレルヤは走っていた。
外も中も騒がしさが増してきている。
早く指定されたポイントに行った方がよさそうだ。
そんなとき、斜め後ろにあった棟で爆発が起こる。
そこに目をやると何者かが囚人たちを逃がしている。

「囚人たちを逃がしている……刹那たちじゃない……彼らは一体?」

だが、今は彼らが何者なのか思案している時間はない。
全面に窓ガラスを張られた場所についたアレルヤは壁にもたれながら息を整える。
長い間動いていなかったせいか疲労が激しいが、弱音を言っている場合ではない。

「はぁはぁ……ここが指定ポイント……!?」

辺りを見渡していたアレルヤだったが、すぐ近くに飛び込んできたそれの弾き飛ばしてくるコンクリートのかけらを防ぐように手を顔の前に持ってくる。
そして、手をどけたときに見えたものに息をのんだ。
オレンジと白でカラーリングされた顔の額からは二本の角、さらに目の横からも角が生えている。
オレンジのコックピットハッチは自らの主を迎え入れるために開き、彼が乗るのを今か今かと待っている。

「ガンダム……!」

ここに来るまで冗談か何かだと思っていたが、確信した。
みんなはまだ戦っている。
自分の力を必要としている。

アレルヤはガンダムへと走り出す。
だが、

「とまれ!!」

後ろから飛んできた鋭い声に金縛りにあったように固まるアレルヤ。
ゆっくりと振り向くと、彼がソレスタルビーイングに入った理由が、彼女が銃を向けていた。

「そこまでだ……!被験体E-57!」







別室

マリナは震えていた。
恐怖からではない。
ただ、悲しかった。

「外で戦闘が行われてるの!?なぜ…」

また多くの命が消えていく。
すぐ近くにいるのに、また何もできない。
なぜ、こんなにも無力なのか。
悔しさで、マリナの瞳から涙がこぼれおちそうになる。
その時、

「聞こえるか!?」

「!!」

扉の外の誰かがいる。
この施設の人間ではない。

「ドアから離れろ!」

「え!?」

「離れろ!!」

言われるがまま離れると、ドアのロック部分が爆発する。
外にいた人物が強引にドアを蹴破り入ってくる。

「!!」

部屋は暗かったが、マリナはその人物を見間違えるはずが無かった。
褐色の肌に、少しウェーブがかかった黒髪。
四年前、自分にこの世で一番答えを見つけるのが困難な問いを残し、姿を消した少年の成長した姿がそこにあった。

「行くぞ。」

「刹那!?どうして!?」

「来るんだ。」

刹那はマリナの手をとると、ダブルオーが待つ場所へ彼女とともに走りだした。






廊下

「悪いけど人の身内に手を出すのは勘弁願いますよ、ピーリス少尉!!」

「「!!!!」」

アレルヤに向けられていた銃をはたき落とすと、ユーノは後ろからピーリスの首に腕をかけて体落としの要領でピーリスを背中から床に叩きつける。

「ゲホッ……!ユーノ…スクライア……!!」

「ユーノ!?一体今までどこに!?」

「ちょっと探し物があってね。ま、帰ったらおいおい話すよ。」

「お前は……!」

押さえ込まれていたピーリスが怒りのまなざしを向ける。

「お前は……自分のせいで、どれほどの人間が悲しんだと思っているんだ!?セルゲイ大佐も、ミン中尉も、……どれほどの傷を残したか自分でわかっているのかっ!!?」

「おわっ!!?」

ユーノを巴投げの要領で投げ飛ばしたピーリスは再び銃を握る。

「やめるんだ、マリー!!」

「?マリー?」

「っ!!何度も言わせるな!!私はそんな名前ではない!!」

ピーリスの否定の言葉に唇をかみしめる。
だが、それでも、アレルヤの中の事実は揺るがない。

「……いいや、これが本当の君の名前なんだ、マリー……マリー・パーファシー。」

「マリー……パーファシー…?」

その瞬間、ピーリスの脳裏に覚えのない光景がよみがえる。
なにも感じられない、闇に包まれた世界。
そんな世界に響く、一人の少年の声。
自分をマリーと呼ぶ声が聞こえてくる。

「くっ……う……!な…なんだ……!?今のヴィジョンは……!?」

激しい頭痛から頭を押さえてその場にうずくまるピーリス。

「マリー!!」

「ピーリスさん!!」

二人は駆け寄ろうとするが、そこにアンドレイが現れる。

「投降しろ!!E-57!!ガンダムのパイロット!!」

「クッ!!」

二人は銃弾をかいくぐって近くの物陰に入る。

「アレルヤ、なんか訳ありみたいだね。」

「ユーノ、何とか彼女を……」

『アレルヤ!聞こえるかアレルヤ!限界時間だ!!』

時間の流れは無情だ。
すでに最初に発生させた霧は晴れてしまい、すでにビーム兵器は元の威力に戻ってしまっている。
これ以上、ここにいるのは得策ではない。

(クソ……!すぐそこにマリーがいるのに!!)

「……アレルヤ、行こう。」

「でも、やっと会えたんだ!!僕はもう彼女を…」

「そう思うんならなおさらここは退くんだ!!」

アレルヤの肩をユーノは痛いほどの力で掴む。

「何があるのか知らないけど……やりたいことがあるなら、いまは生き残るんだ。」

「……っ、わかった。」

歯を食いしばりながらもアレルヤがうなずいたのを確認すると、ユーノは前に出る。

「僕が援護する。君はその隙にアリオスに。」

「!?君はどうするんだ!?」

「大丈夫だよ。とっておきがあるから。」

「とっておきって…」

「ほら、行くよ!!」

ユーノが飛び出したのに合わせて、アレルヤも仕方なくアリオスに向かって駆けだしていく。
その間も銃弾が雨あられと降り注ぐが、ユーノは小さく何かを呟いてその場に立ちどまる。

「プロテクション!!」

「!!?」

アレルヤだけでなく、発砲してきた側もその光景に唖然とする。
銃弾が空中で止まっているのだ。
しかも、弾頭は壁にぶつかったようにまっ平らにつぶれている。

「ボーっとしない!!」

「りょ、了解!!」

ユーノの言葉に尻を叩かれたアレルヤはアリオスに乗り込み、ピーリスの方を見る。

「必ず迎えに来るから……必ず!!」

ぐっとペダルを踏み込み、窓ガラスを粉砕しながら駆けあがっていくアリオスを見送ったユーノは一息つくが、目の前にいる人間を見てそんな場合でなかったことを再認識する。

「投降しろ!!さもなくば…」

「撃つぞ!って?悪いけど、どっちもごめんだね!!」

そう言うとユーノはアリオスが開けた穴へと走り、そして、

「よっとぉ!!」

「な!?」

そのまま外へと飛び出した。

「馬鹿な!!?死ぬ気か!!?」

アンドレイは落下していくユーノを見ながらそう言うが、ユーノにはそんなつもりは毛頭ない。
懐から翠の宝石をとりだし、それの名を叫ぶ。

「ソリッド!!」

〈Start up〉

ユーノの体が光に包まれる。
その中から黄土色のジーンズに白いシャツ、そして、薄い翠のマントを羽織った姿のユーノが飛び出してきた。







「あれは!!?」

「おいおい……ソレスタルビーイングは超能力者でもかこってんのか!?」

「ユーノ……なのか!?」

「ユーノ……お前は一体……!?」






「967!!!!」

「わかっている!!」

生身で空を飛んでいるのだから、弾丸の一発でも間違いなく仕留められるのにみんな驚いているのかユーノを撃とうとしない。
悠々とコックピットに戻ったユーノはバリアジャケットをしまってパイロットスーツ姿に戻ると、手元に現れたヘルメットをかぶりなおす。

「まったく……これで妙な噂が流れても知らないぞ。」

「ま、好きに言わせておくさ。オカルト好きが勝手に騒いで信憑性を薄くしてくれるだろうしね。」

967は呆れながらも、アリオスが空へと上がっていくのを確認した瞬間、プライオリティをユーノに渡す。

「それじゃ、早いところお暇しましょうか!!!!」





四機のガンダムが遥か上空へと上がっていく。
その先には、ジンクス部隊が配置されているのだが、マイスターの誰もが止まることなど考えていなかった。

まず口火を切ったのはアリオス。
左腕に装備されたガトリングを乱射しながら突き進み、陣形を乱す。
続いてダブルオー。
持っていたGNソードⅡをライフルモードにしてさらに敵を分断する。
そして、孤立した一機へとアリオスが高速で迫る。

「しまった!!!!」

「くらええええぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」

腰から抜いたビームサーベルをジンクスへと振り下ろす。
ランスで何とか受け止めたものの、じりじりと焼き斬られていき、最後には持っていた腕と剣閃上にあった頭ごと斬り裂かれた。
そして、振り向きざまにすぐ近くにいたもう一機にガトリングを発射する。
シールドで防がれはしたが、その後ろからダブルオーが迫る。

「くそぉぉぉぉぉ!!!!」

「はあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

振り抜かれた刃を止めることはかなわず、ジンクスは見るも無残に胴を斬り裂かれて落ちていく。

そのすぐ横では、クルセイドが急激なストップ&ゴーを繰り返して翻弄しながら一機を確実に追い込んでいく。

「後ろががら空きだぁぁぁぁ!!!!!!!」

後ろからクルセイドにジンクスのランスが迫るが、セラヴィーの砲撃によって塵一つ残さず消し飛ばされる。
そして、

「ひ!!や、やめ…」

「墜ちろおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」

盾の中から一回り細く真っ直ぐな刃ががちりという音とともに飛び出すと、ジンクスを頭から唐竹割にした。

戦艦からガンダムに向けての砲撃が続くが、対艦戦を想定して作られたもので小さなMSをとらえることなどできるはずもなく、マネキンたちは虹が架かった空へと消えていく四つの光を見送ることしかできなかった。





プトレマイオスⅡ

椅子に座っていたアレルヤは大きく息を吸う。
あの薄暗い部屋の中から出ただけでここまで違うものかと思えるほど空気が美味い。
だが、その喜びを打ち消して余りあるほどの憂鬱がアレルヤの気分を沈ませていた。

(マリー……)

できることなら助けたかった。
だが、あそこで無理に助けようとしていたら今自分は生きていなかった。
その点はユーノに感謝しないといけないだろう。

「アレルヤ。」

不意に声をかけられてアレルヤは顔を上げる。
すると、ティエリアがいつもの仏頂面で湯気が出ているカップを差し出している。

「ありがとう、ティエリア。」

受け取って香り高い黒の液体をすする。
ビールなどの苦いものが苦手なアレルヤだったが、今はこの苦さが臭い飯ばかりを食わされていた舌に嬉しい。
ティエリアはそんなアレルヤの姿に安心しながらも、聞かなければならないことはきちんと聞く。

「アレルヤ、どうして連邦政府につかまっていた?超人機関の情報を…」

その時、扉が開いて三人の人物が入ってくる。

「!!!?」

「いやはやすごいなこの艦は。水中航行すら可能とは。」

「ホントホント。……でも、今度からああいうのは遠慮してほしいっス。」

「それより、僕らがいたら話の邪魔だよ。早く戻ろう、ウェンディ。」

「ハッハッハッ、そうしゃっちょこばんなよ、エリオ。ガキの頃は少しやんちゃなくらいがちょうどいいもんだ。」

「ライルさんも少しは気にしてください!!」

見なれない少女と少年のことも気になるが、それよりも彼だ。
あの時、死んだはずの仲間が今こうして自分の前に立っているという事実がアレルヤを混乱させる。

「ロックオン!!?どうして!!?」

アレルヤの驚いた顔を見てロックオンは笑いながらため息をつく。

「そのリアクションあきたよ。」



「す、すまない……」

事情の説明を受けたアレルヤは、自分の早とちりに少し頬を赤らめながら俯く。
その様子に、ティエリアはクスリと笑う。

「変わらないな、君は。」

「そうかい……?」

「無理に変わる必要はないさ。……おかえり、アレルヤ。」

ティエリアからかけられた意外な言葉にしばらく何も言えなかったが、すぐに笑顔を見せる。

「ああ……ただいま。」

「おかえりっス!」

「オメーは関係ないだろ。」

ロックオンから頭にツッコミを受けたウェンディは舌を出しながら笑うが、アレルヤは当然のことながら彼女の素性など知らない。

「ティエリア、この子たちは?」

「ユーノの連れの…」

「ウェンディ・ナカジマっス!」

喋るのを妨害されたティエリアはムッとした表情をするが、エリオも遠慮がちに自己紹介をする。

「エリオ・モンディアルです。……それで、その…」

「?なんだい?」

「こいつらがあんたに聞きたいことがあるんだとさ。」

ライルに背中を押されたエリオは前につんのめるように進みでる。
そして、

「あの……ハプティズムさんは、どうしてソレスタルビーイングに入ろうと思ったんですか?」

この時、アレルヤは知らなかった。
自分の答えが、この二人に数奇な運命を歩ませることになるなど。





格納庫

プトレマイオスに戻ってきたとき、マリナに呼び止められた刹那は彼女と二人きりでダブルオーの前に立っていた。
初めに、口を開いたのは刹那だった。

「……俺が関わったせいで、余計な面倒に巻き込んでしまった。」

四年前の介入の後も、何度か事情を聞かれたという話は聞いていたが、いまさら彼女があんな強引な手段で、あんな場所に連れてこられるとは考えていなかった。
自分のうかつさに、刹那は申し訳なさで心がいっぱいだった。

「すまない、マリナ…」

「刹那……なぜなの……」

「……?」

「なぜ、あなたはまた戦おうとしているの…!?」

彼女らしい問いだ、と刹那は思った。
だが、おそらく自分は彼女の納得するような答えは用意できない。
ならばせめて、本当にそう思っていることを話そう。

「それしか、できないからだ。」

「ウソよ!!」

マリナは振り向いて刹那の目を見つめる。
見つめて、彼の心に届くように大きな声で語りかける。

「戦いのない生き方なんて、いくらでもできるじゃない!!」

戦うということの方が日常からかけ離れている。
それに、誰だって戦いなんてせずに過ごせることを望んでいるはずだ。
なのに、刹那はそうではないという。
なぜなら、

「それが……思いつかない…」

「!!」

戦い以外の何も教わらずに育ってきた刹那の少年時代。
そして、その中で戦いの虚しさと悲しさを知った。
だから、

「だから……俺の願いは、戦いでしかかなえられない。」

「そんなの…」

「……?」

「そんなの、悲しすぎるわ……!」

マリナは泣いていた。
ポロポロと、こらえることをせずに瞳から涙をこぼしていく。

「……なぜ泣く?」

「……あなたが、泣かないからよ………!!」

マリナの胸を締め付けられるような一言。
だが、刹那はその言葉にただ立ち尽くすしかできなかった。





二人の話を少し離れたところで聞いていたユーノは、壁にもたれながら膝を抱える。
刹那に向けられているはずの言葉が、自分の心に深々と突き刺さっていく。
戦いのない生き方を捨てて、ここまで来てしまった。
刹那とは違って、その選択をすることだってできた。
なのに、

「僕は……僕はっ………!!」

涙が床にしみを作っていく。
それでも、泣くことをやめられない。
誰もいないからこそできる行為だが、ユーノは気付いていなかった。
今の自分の姿を、フェルトに見られていることを。






収監所 周辺

その男は憤っていた。
ガンダムに自らの使命を邪魔されたばかりか、あんな珍妙なものまで見てしまった。
ガンダムに乗り込んだところを見るとソレスタルビーイングの一員なのだろうが、あんなことを人間ができるはずが無い。
そうだ、

「やつも……似非人か……!!」

きっとそうに違いない。
自分の家族と同じ、神の摂理に逆らった存在…

「あ…あああああぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!!!!!!」

男の左目から血が流れ出てくる。
義眼を埋め込まれたそれは、彼の感情の昂りに呼応するようにとめどなく血涙を流していく。

「似非人め…………!!!!消してやる……!!!!この世から一人残さず消してやる!!!!!!」

銀色の髪を獅子のごとく振り乱し、ラーズ・グリースは空へ向かって悲しい咆哮を放った。







天使が、己が存在する意味と己が切り捨てたものの間で悩むは、彼らが人たるゆえんか……








あとがき……という名の解説

ロ「アレルヤ救出編な第二話でした。そして、さっそくですがクルセイドの装備について解説していきたいと思います。」

弟「よそでやれや。」

ロ「では、さっそくGNアームドシールドⅡから。」

ユ「ガン無視かい!」

GNアームドシールドⅡ



西洋の五角形型の盾を模した兵器。
そのままでも既存の兵器を斬り裂くほどの切れ味を誇るが、五角形の先端に隠されたGNソードの理論を転用した一回り細身の刀身を展開することによりリーチが伸び、使いようによっては単独で戦艦を両断することも可能になるほどの威力を発揮する。
さらに、かさばるGNグラムを外して中心部に開いた二つの四角の発射口から高圧縮された粒子ビームを放つ小型GNランチャー、そして、隠し刃と反対側に設置された二つの巨大杭打ち機、GNバンカーを装備する。
また、GNバンカーの欠点である圧縮粒子のチャージ時間を短縮することに成功している。
もちろん、防御手段としても優秀なのだが、ユーノはもっぱらGNフィールドや刃で斬撃を受け止めるような戦い方をするので純粋に盾としての活躍の場は少なくなってしまい、設計を担当したシェリリンにとってはそれが不満の種の一つになっている。



ユ「最後のこれなにさ?」

ロ「だって事実だろ。ていうか、書いてた俺が言うのもなんだけどfirstの時からお前って全然こいつを盾として使ってないよね。」

ティ「確かに……」

ア「言われてみれば……」

ユ「あれぇぇぇぇぇ!!!?なんでみんな納得してるの!!?」

ア「だって、君が盾として使ってたのはどちらかというとこれでしょ?」



GNシールドバスターライフルⅡ

盾への可変機構を備えたライフル。
盾の時の形自体はソリッドのものと変わっていないが、強度は上がっている。
また、今回は汎用形態の他にも三つの形態が存在しているらしい。



ユ「らしいって?」

ロ「いや、そろそろあとがきも十分に埋まったからあとがきのネタ提供はこの辺でいいかなって思って。」

ア「本音言っちゃったよ!!?」

ロ「あ、つい。」

弟「つい、じゃねぇぇぇぇぇぇぇ!!!!ていうかそんなことだろうとは思ってたけどさ!!」

ロ「だってそんなホイホイ暴露話ばっかじゃあれだろ?」

ユ「自分で話振っといてそれはないんじゃないですかねロビンさん!!?」

ロ「まあ、気にすんな。お前は今度たっぷりいじり倒してやるから。」

ティ「……いいかげんに次回予告に行くぞ。」

ユ「くそ……まだツッコミ足りないのに……」

ア「ようやくマイスターが全員そろったトレミー。」

弟「しかし、それでもなお過去を振りきれないスメラギ。」

ユ「そんな中、アロウズの襲撃がトレミーに!」

ティ「果たしてこの危機を脱することはできるのか!?」

ユ「そして、遂にあの男が現れる!!」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお聞かせください!じゃ、せーの……」

「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」



[18122] 3.戦う理由
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/11/13 19:26
ミッドチルダ 災害担当部

とある日の昼下がり、オレンジのツインテールが窓から吹き抜ける風に揺れている。
その日、ティアナ・ランスターは元上司からの二つの申し出に驚いた顔、渋い顔の両方を見せていた。
彼女の補佐をしながら執務官試験に備えるという話はありがたいが、その後にされた話はいただけない。
しかし、執務官であり、機動六課にいたころに世話になったフェイト・テスタロッサからの誘いを無下に断るわけにもいかない。
結局、少し考える時間がほしいと曖昧な返事をしてその場をやり過ごすことにした。

『それじゃ、考えておいてくれないかな?』

「はい。……それより、キャロは?」

『うん……まだ、そっとしておこうと思ってる。そういうティアナとスバルはウェンディのこと……』

「大丈夫ですよ。」

フェイトの心配そうな声にティアナは弱々しいながらも笑顔を見せる。

「ウェンディはしつこいのがとりえですから。きっと、今頃どこかでいつもみたいに好き放題してますよ。」

『そっか……うん、そうだね…』

「それじゃ、まだやることが残ってるのでこれで。」

『うん。時間をとらせちゃってごめんね。』

「いえ、それでは。」

通信を終えたティアナは大きなため息と一緒に背もたれに寄りかかる。
ここ数日、似たような誘いは山ほどきていたが、まさかフェイトからも来るとは思っていなかった。

「ティア~、隊長が呼んで…」

「丁重にお断りします、って言っといて。」

「まだ何も言ってないよ!」

「どうせまた、MSのテストパイロットやれって話が来てたんでしょ?」

ブスッとしながらティアナは自分の相棒、スバル・ナカジマの方を向く。
ここ最近出てきた新型の兵器MS。
ゆりかごの落下による被害を食い止めたこともあり、質量兵器であるにもかかわらず実戦での投入が急速に検討され始めている。
それと同時に、パイロット候補生の選出も進められ、すでにかなりの数の人間がMSのテストに参加しているらしい。
ティアナは先ほどのフェイトからの誘いも含めて何度もMS部隊からの勧誘を受けていた。

「でも、希望を出してもなかなか選ばれないところから誘いが来るなんてすごいよ!それに、MSのパイロットになれば執務官にも…」

「あたしはあんなもんに乗ってまで執務官になりたいとは思わないわよ。」

ぴしゃりと言い放つティアナだったが、スバルは最後まで食い下がる。

「でもでも!MSの力があれば今まで助けられなかった人だって助けられるんだよ!?」

「逆もまたしかりでしょ?過ぎた力は身を滅ぼすわよ。」

「……ティアは、MSが嫌いなの?」

捨てられた子犬のような目をするスバルにティアナは額を押さえる。

「別にそういうわけじゃないわよ。でも、今のミッドや他の世界には過ぎた力だって言ってんの。精神的に未熟な状態で巨大な力を持ったら、それこそろくなことにならないわよ。ユーノさんだって…」

その言葉に二人は押し黙った後、部屋の一角に置かれていた新聞記事の方へ視線を向ける。
そこには、ユーノの顔写真とでかでかと指名手配の文字が書かれていた。





地球 アロウズ戦艦

その日、マネキンは非常に機嫌が悪かった。
連絡をしてきた部下兼恋人(?)に怒鳴り散らしてしまったことでさらに自己嫌悪を加速させてしまった。

ガンダムのパイロットの脱走を許してしまった責任は自分にあるとマネキンは思っていた。
上官からもそのことで多少なじられはしたが、それくらいは若くして、しかも女性で佐官にまで上り詰めた彼女にとってはいつものことだった。
そこまでなら彼女もここまで機嫌が悪くはならなかっただろうが、その後が問題だった。

(アーバ・リント少佐……殲滅戦を得意とするあの悪名高い男が指揮をとるのか……)

彼の経歴を読ませてもらったが、ひどいものだった。
必要以上の攻撃で、それこそ草一本残らないような殲滅行為ばかりを行っている。
仮にも治安維持を名目として作られた部隊には似つかわしくない男だ。
にもかかわらず、グッドマン准将は彼に全幅の信頼を寄せているようだった。

(しかも……ガンダムのパイロットと接触があったとはいえ一国家のトップを拘留するなど……!)

つい先ほど聞かされた驚愕の事実だった。
アザディスタン王国第一王女、マリナ・イスマイールがあの施設にいたというのだ。
そのことを聞かされていなかったマネキンはその場で殴りかかりたい気分だったが、グッとその怒りを飲み込んでガンダムに連れ去られたという彼女の救出を誓った。
だが、次の作戦指揮を執るのはリントなのだ。
彼女が死ぬようなことになれば、アザディスタンだけでなく中東の国々すべてから反感を買うのは間違いない。

(いや……むしろ狙いはそれか……)

目の上のたんこぶを潰す口実を作るためにも、おそらく上層部はやるだろう。

「……あの馬鹿を連れてこなくて正解だったな。」

汚れ役は自分だけで十分だ。
望まない任務に就きながら、身内の寝首を掻くなどとても褒められた行為ではないのだから。
もっとも、あの空っぽの頭なら頼めばついてきていただろうが。

「マネキン大佐。」

「……?ああ、ミン大尉。貴官も来ていたのか。」

さきほどまでの不機嫌な表情を消して懐かしい顔を迎える。
リントなどよりもよほど治安維持部隊が似合いの男、ミン・ソンファは火傷の痕で変色してしまった頬を緩ませた。

「やっと知っている人に会えて安心しましたよ。どこに行っても歓迎ムードには程遠かったですから。」

何事もなかったように笑うミンだが、彼とその部隊の人間がアロウズの兵士から激しいバッシングを受けているのはマネキンも知っている。
上層部が彼に独自行動の免許を与えたときにはアロウズも少しはマシになったかとも思ったが、その後で罵りの言葉を平然と吐く兵を目撃した時はつくづく救いようのない馬鹿ばかりだと呆れた。

「すまんな……どうにも、頭の中にも武器が詰まっている阿呆ばかりのようでな…」

「いえ、いつものことですから。……そういえば、もう一人のライセンス持ちが来ているんですよね?どんな方でしたか?」

「ああ……やつか。」

先程会った仮面の男のことを思い出す。
確かに腕は立ちそうだったが、それ以上に何やら鬼気迫る執念とでもいうべきものを感じた。

「……やつは貴官とは正反対の男だ。やつは……戦いにとりつかれている。」

完全に私見だが、マネキンはミスター・ブシドーをそう認識していた。






魔導戦士ガンダム00 the guardian 3.戦う理由

プトレマイオスⅡ 展望室

どこまでも群青色一色の世界の中を突き進むプトレマイオス。
そんな単調な光景も、今のマリナにはつかの間の安らぎを与えてくれる存在だった。
刹那たちに頼んで進路を中東はアザディスタンに向けてもらった。
現在、アザディスタンは連邦への参加を拒んだことで支援も受けることができず、その結果、経済は傾き貧困にあえいでいた。
それでなく、今まで保守派の暴走を押さえていた宗教的指導者、マスード・ラフマディーが無くなったことで改革派との争いが加速、両派の対立は泥沼化していた。
しかし、かといってマリナが戻ればすべてが収まるというわけではない。
それどころか、連邦の介入を受けてさらに事態が悪化する可能性もある。
だが、それでもマリナは戻る道を選んだ。
アザディスタンを離れた親友のためにも、国を見捨てるようなことはしたくない。
もっとも、こんなことを言っていたらその親友から皮肉の一つでも言われそうだが。

(シーリン……あなたなら、どうしていたの……?)

彼女に問いかけたいが、今の自分の隣には誰もいない。
冷たい手すりに寄りかかってそのまま崩れ落ちそうになるマリナだったが、それも許されない事態が訪れる。

「あーー!やっと見つけたっス!!」

「ひゃっ!?」

「ちょっと、ウェンディ!!……スイマセン、驚かせちゃったみたいで…」

尻もちをついたマリナの前にピンクの短い髪を束ねた少女と赤い髪をした少年が現れる。
見たところ、少女の方はだいたい15~16歳程度で、少年の方に至ってはまだ10歳になったかどうかといったところだろう。

「まさか……あなたたちもソレスタルビーイングなの……!?」

こんな子供まで戦いの中にいるのかとマリナは胸を締め付けられる。
だが、

「あたしらは違うっスよ~。いうなれば預かり身分っス。」

お気楽な空気を醸し出しながらひらひらと手を振る少女。
だが、その横では少年が頭痛にうなされる人間のように頭を押さえながら俯く。

「それで、マリナっちはこんなところでなにして……あいたた!!!?何するんスかエリオ!?」

自分より身長の低い少年に耳を引っ張られる少女は顔を苦痛に歪める。

「この人はこの世界にある国の王女様なんだからちゃんとしなきゃ駄目だよ!!」

小声で何か話しているようだが、よく聞き取れない。
しかし、少女はしぶしぶ何かを了承したのか唇をとがらせながらマリナの方に向き直る。

「お騒がせして申し訳ありません……。僕はエリオ・モンディアル、こっちはウェンディ・ナカジマです、マリナ様。」

エリオはマリナに手を差し伸べて立ち上がる手助けをしながら自己紹介をする。

「あなたたちは一体……?」

「それは今は言えないんスよね~。残念!」

相手は王族なのにフランクな喋り方をウェンディにはらはらするエリオだったが、咳払いを一つすると自分たちが彼女を探していた理由を話し始める。

「皆さんからアザディスタンにつくまでマリナ様のお世話を頼まれたんです。」

「お世話なんてそんな…」

「いいのいいの。あたしらも少し考えたいことがあったし。」

「考えたいこと……?」

マリナの不思議そうな顔に二人は困惑しながら顔を見合わせるが、すぐにマリナの方へ向き直る。

「ソレスタルビーイングに入るかどうか……です。」







1時間前 アレルヤの部屋

「そうか……僕の経歴を見たんだ?」

「はい……勝手に見てしまってスイマセン。」

制服に着替えたアレルヤから飲み物を受け取りながら二人はきまずそうにうなずく。

「気にしなくていいよ。別にいまさら見られて困ることでもないしね。」

優しく二人に話しかけるアレルヤだったが、エリオたちの表情ははれない。
しかし、それでも彼らが自分の部屋を訪ねてきた理由を話さなければなるまい。

「それで、僕がソレスタルビーイングに入った理由だったっけ?」

アレルヤは極力穏やかな口調で二人に話しかけるが、エリオとウェンディは体をびくりと震わせる。

「……あの、嫌だったら別にいいっスよ?誰にだって、言いたくないことの一つや二つ……」

「構わないよ。僕自身、ここで君たちに話をして決意を新たにするのも悪くない。」

そして、アレルヤは静かに話し始めた。






4年前 人革連スペースコロニー 『全球』

「はぁっはぁっ……!!!!」

アレルヤは必死に自分の脳に飛び込んでくる思考の嵐と戦っていた。

(ううあああぁぁぁぁ……!!!頭が……頭が痛い……!!!!!)

(いやだぁぁぁぁ!!来ないでぇぇぇ!!!!)

(死にたくない……!!死にたくない!!!!)

自分より幼い、自分と同じ存在。
ここで引き金を引けば同類殺しの汚名をかぶることになる。
だが、それでも迷わない。
自分はガンダムマイスターなのだ。
迷いなど……

(助けてぇぇぇぇぇ!!!!)

「はぁっはぁっはぁっ……!!!」

迷いなど……

(ううぅぅ……あああぁぁぁぁぁぁ……!!!!)

「っ!!はぁっはぁっはぁっはぁっ!!!!!!」

迷いなど……

「……こ…殺す必要が……あるのか……?」

アレルヤの心に、迷いが生まれた。

「そ……そうだ………なにも殺す必要なんてない……彼らを保護して……」

楽な方へ楽な方へと流されていくアレルヤ。
だが、彼の中にいるもう一人の彼がそれを許さない。

『甘いなぁ!!』

「!!!!」

残酷な、それでいて楽しそうな笑い声が頭の中に響く。

「……ハ、ハレルヤ……」

『どうやって保護する…?どうやって育てる…?施設から逃げたお前がまともに生きてこられたのか…?できもしねぇことを考えてるんじゃねぇよ!!!!』

二人の少年が銃を構えて向き合っている。
だが、一人は嬉々とした表情で。
もう一人は、怯えきった顔で壁にもたれて座りながら。

「し、しかし、このままじゃ彼らがあまりに不幸だ……」

『不幸?不幸だって?……ククク……ハハハハハハ!!!!施設にいるやつらは自分が不幸だなんて思っちゃいねぇよ!!!!』

「いつかはそう思うようになる!!!!僕のように!!いつか!!」

『なら、ティエレンに乗った女は自分が不幸だと感じてんのか?そうじゃないだろ……独りよがりなヒューマニズムを押し付けるな!!!』

金色の瞳の少年は銀色の少年へと一歩進み出る。

「違う!!!!僕は!!!!」

『違わないね!!!!どんな小奇麗な言葉を並べたててもお前の優しさは偽善だ!!!お前は優しいふりをして自分を満足させたいだけなんだよ!!!!』

「……で、でも……彼らは生きている……生きているんだ!!」

『改造されてなぁ!!そしていつか俺たちを殺しに来る!!!あの女のように!!!!』

「そ……それは……」

銀色の瞳の少年はカタカタと震え始める。

『敵に情けをかけんじゃねぇよ!!!それとも何かぁ!?また俺に頼るのか!?自分がやりたくないことに蓋をして、自分は悪くなかったとでもいいたいのか!!?』

「ち…違う……僕は……」

『ならなぜおまえはここに来た!!?』

「ぼ、僕は……ソレスタルビーイングとして……」

『殺しに来たんだよなぁ!?』

「ち……違う!違う違う違う!!!!僕はガンダムマイスターとして…」

『立場で人を殺すのかよぉ!?ハハハハ!!!!俺よか性質が悪いぜアレルヤ!!!』

「あ……うああぁ……!!」

銀色の瞳の少年の瞳孔がどんどん開いていく。
眼を閉じようとしても、体がいうことを効かない。

『引き金くらい感情で引け!!!!己のエゴで引け!!!!』

「い、嫌だ……!!!!」

『無慈悲なまでに!!!!!!!』

「っっっ!!!!!!」

その瞬間、アレルヤの中で何かが壊れた。

「撃ちたくない……!!」

そう言いながらも引き金を握る指に力を込めていく。
そして、

「撃ちたくないんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」

銀色の瞳の少年は引き金を引いた。



オレンジ色の機体から無数のミサイルが放たれ、施設の中を業火で埋め尽くしていくていく。

「うああああああああああ!!!!!ああああああああぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!!あああぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

この世のものとは思えない絶叫が終わった瞬間、アレルヤの頭の中に響いていた声は、目の前で燃え盛る建物が崩れ落ちるのと同時に消え去った。







現在 プトレマイオスⅡ アレルヤの部屋

「……あの時、背中を押したのは確かにもう一人の僕、ハレルヤだったけど、あれは僕の意思で引き金を引いたんだ。そして……」

アレルヤは膝の上の拳をぎゅっと握りしめる。

「僕は……僕はあの時、人を殺しているんだという恐怖を、同類を殺しているんだという痛みや辛さを感じると同時に、心のどこかで安心してたんだ。」

「安心……?」

エリオが震える声で問いかける。

「同類の意識が一つ…また一つと消えていくたびに、自分の過去が消えていっているような……そんな気がしてたんだ。人の命を犠牲にしても、自分が自分である限り過去は消せないのにね。」

アレルヤは呆れたような、悲しいような、そんな笑顔で二人の方を見る。

「僕は……僕のような人間を生み出したくないと思って、ソレスタルビーイングに入った。けど、それはハレルヤの言うように言い訳であって、本当は自分自身から逃げたかっただけなのかもしれない……でもね。」

金色の瞳の上にある傷をなでながら、アレルヤは固い決意に満ちた目つきをする。

「また、みんなが僕を必要としてくれている。それに、助けたいと思える人を見つけた。だから、僕は戦うことを選んだんだ。」

アレルヤの過去の、そして、新たにできた決意を聞いたエリオとウェンディは言葉をなくす。
そんな二人の様子に気付いたアレルヤは空になっていたコップに温かいお茶を注ぐ。

「個人的には、君たちがソレスタルビーイングに入るのはお勧めできない。でも、君たちの決定は君たちしか下せないし、君たちしか選べない。だから、僕には君たちがどんな選択をしても止めることはできないし、後悔しても最低限の助けしか差し伸べることができない。だから、よく考えて決めるんだ。自分が何をしたいのか、そのためにどうするべきなのかを……」






展望室

「何をしたいのか、か……」

外を眺めていたウェンディはマリナに聞こえないようにそう呟く。
自分は過去を清算するために戦っていたわけではない。
ただ、家族を守るために戦い、機動六課の仲間たちと出会ってからは、ただ目の前で苦しんでいる人を助けたいと思って力を振るった。
その想いは今も変わらないし、ソレスタルビーイングに入れば苦しんでいる人を救えるかもしれない。
だがそれでも、そのために人の命を奪っていいのかどうかわからない。

「ティア……スバル……一人で何かを決めるって、難しいっスね……」





(助けたい人……)

エリオはマリナのそばで黙って俯いていた。
自分が助けたいと思う人は、フェイト、キャロ……機動六課のみんなであり、かけがえのない家族だ。
そのためにエリオは機動六課に入り、その力を磨いてきたのだ。
だが、考えたこともなかった。
みんなを守るという理由で、誰かの命を奪うことなど。

(フェイトさん……)

いつでも答えを用意してくれていた人はもうここにはいない。
もう、彼女に依存するわけにはいかないのだ。
だが、わずか10歳の少年に自分の我を通すために人の命を奪うのかどうかの選択をするのは酷というものだ。
それでも、エリオはいつか選ばなくてはならない。
それが、力を持つ者の義務なのだから。






マリナもまた、二人と同様に悩んでいた。
あの後、やってきた刹那に一緒にアザディスタンに来てほしいと頼んだ。
突拍子もない申し出だったが、それが刹那のためだとマリナは信じて疑わなかった。
だが、刹那の返事はNoだった。
そして、何より彼の言葉がマリナの心に大きなうねりを生み出していた。

『破壊の中から生み出せるものはある。世界の歪みをガンダムで断ち切る……未来のために。それが、俺とガンダムの戦う理由だ。』

その時の刹那の瞳を見たマリナは、彼の決意が固いものだということを理解した。
だが、

(なら……世界のために戦うあなたの未来はどこにあるの……?)

穏やかな日常を放り出した彼の、これから先に存在しているはずだった未来がどんどん遠のいていく。
アザディスタンの王女としてではなく、ただのマリナ・イスマイールとして、それだけが彼女の心に引っかかっていた。






格納庫

格納庫で架空の相手に訓練をしていたロックオン。
ある程度の成果をあげたところでケルディムのコックピットから出てきたのだが、それでも満足のいかないものであったことは顔を見ればわかった。

「はぁ……兄さんのようにはいかないな。……お?」

「!」

ロックオンが下りてくるのを待っていたフェルトと目があった。
フェルトも彼を待っていたのだが、思わず背中を向けてしまう。
なぜ、ここに来たのか自分でもわからないが、それでも彼に会わないといけないような気がして。自然とここに足が向いていた。

「よお、どうかした?」

「ううん……なんでも……」

憧れていた人と同じ顔、同じ声。
それが、どうにもフェルトの胸の奥をくすぐって仕方がない。

「フェルト…っていったよな?君の視線よく感じるんだけど、なんで?」

「べ、べつに、そんなこと……」

そっぽを向くフェルトだったが、彼女に変わってハロが代わりに答える。

「フェルト、ロックオン好キ!ロックオン好キ!」

「ハ、ハロ!!」

足元で転がるハロを真っ赤な顔で叱りつけるフェルトだったが時すでに遅し。
ロックオンの、いや、ライル・ディランディの耳にははっきりとハロの言葉が届いていた。

(チッ……ここでもか。)

もううんざりだ。
ティエリアといい、どいつもこいつも自分と兄を比べてくる。
ライルのイライラは極限に達し、ある行動をとらせることとなる。

「俺は兄さんじゃない。」

表向きは笑顔でフェルトに話しかける。

「わかってる。うん……わかってる……。っ!?」

不意にロックオンに顎を優しく握られ、顔をグイッと近づけさせられる。

「あんたがそれでもいいっていうなら付き合うけど?」

「え…?」

突然の口づけで言葉を奪われるフェルト。
しかし、突然ファーストキスを奪われたことの恥ずかしさに変わって、激しい怒りがこみ上げてくる。

「その気があるなら後で部屋に…」

「っっっ!!!!」

よく響く格納庫の中に乾いた破裂音が響く。
ロックオンの左ほほに赤い跡を残し、フェルトは泣きながらその場を走り去っていった。

「フラレタ!フラレタ!」

「気付かせてやったんだ。」

そう言うとロックオンは痛む頬のことも気にせずにフェルトが走り去った方向と反対方向に歩きだす。

「……比較されちゃたまらんだろ。」

フェルトには悪いが、彼女と兄の間に何があったかなど興味はない。
ただ、似ているというだけで代わりにされるのも、比べられるのもごめんだ。
それに、

「惚れてる相手がいるやつを気にかけてやるほど、俺はお人よしじゃねぇよ。」







廊下

「アレルヤ、上手くやってくれたかなぁ?」

そう呟きながらユーノは久々の重力を一歩一歩確かめながらスメラギの部屋へと歩いていた。

「お前が気にしても仕方ないだろう。決めるのはあの二人だ。」

「まあ、それはそうなんだけどさ……」

しかし、あの二人のことも気にかかるが、今はそれよりもスメラギと話をしなくてはならない。

「気にするな……なんて、言えるはずもないか。」

実際、自分もあの時のことはいまだに引きずっているのだ。
スメラギにだけ過去のことを忘れて今まで通りに作戦をたててくれなどむしのいい話だ。

「誰もがお前たちガンダムマイスターのように全てを背負っていけるわけではないんだ。」

「まあね……どうするかなぁ……」

頬を掻きながら思案するユーノだったが、突然後ろから誰かに抱きつかれる。

「フェルト!?どうしたの!?」

「ユーノ、私…わたしっ……!」

「お、落ち着いて、フェルト!ここだと人に…」

「「……………………………」」

見られていた。
それも、今しがた自分が会いに行こうと考えていた人物と、自分の連れ二人に話をしていた人物に。

「ユーノ……女の子を泣かしちゃ駄目よ?」

「えっと!その……ごめん!邪魔しちゃって!だから気にせず二人で話を……」

「誤解だぁぁぁぁぁぁ!!!!弁明の余地を求める!!!!」







数分後 スメラギの部屋

「ご、ごめん……早とちりしちゃって……」

「わ、私もごめんね……ユーノのこと見つけたらついというか……」

「もういいよ……ここに来てからこんなのことばっかで慣れつつあるから……」

乾いた笑いをするユーノにアレルヤとフェルトは苦笑するが、ユーノからしてみればこの程度何ともない。
なにせ、向こうであんなところを見つかったら自分の婚約者とその友人たちに五体を引き裂かれたあげく消し炭にされるかもしれないのだから。

(……すいません、なのはさん。不可抗力なんで怒らないでください。)

冷や汗交じりである年のバレンタインの日を思い出す。
あれは、自分が司書長に任命された年だった。
司書の女の子たちからチョコを貰い、自室で休憩がてらにそれを食している時だった。
そこへやってきたなのはにそれを目撃され、問い詰められた挙句に砲撃魔法から半日近く逃げ回るはめになった。
もちろんもらったチョコは義理チョコだったのだが、あの日のなのはは話をする暇も与えずにとりあえずディバイン・バスターを撃ってきた。

「?どうしたの?顔色悪いわよ?」

「いえ……ちょっと、魔王の姿を思い返していただけです。それより、今の話本当なの、アレルヤ?」

「うん……彼女は間違いなくマリーだった。……四年前の時点で気付くべきだったんだ。僕の脳量子波にあれだけ干渉できるのはマリーぐらいだったのに……」

アレルヤの話が本当なら、ソーマ・ピーリスはアレルヤと同じ場所にいた少女ということになる。

「けど、驚いたよ。まさか君がマリーと会っていたなんて。」

「……ごめん。あの時僕が話していれば、ひょっとしたら…」

「いや、あの時はあれでよかったんだ。」

ユーノの言葉をアレルヤは否定する。

「あの時、ソーマ・ピーリスがマリーだとわかっていたら、僕は引き金を引けなくなっていた。」

「……それは、今も同じじゃないの?」

スメラギはグラスのワインから口を離し、机の上に座るとアレルヤに問いかける。
だが、彼女の問いにもアレルヤは毅然と答えた。

「それでも、僕は彼女を助けます。それが、今の僕の戦う理由です。」

「……うらやましいわ。」

「え……?」

「あなたには、戦う理由ができたのね……。あたしの戦いに、そんな理由なんかあったのかしら?」

「イオリアの計画に賛同したんじゃないのか?」

青い球体がスメラギの足元まで行くと、中から黒い長髪の男、967を投影する。
スメラギは967の方をニコリともせずに、ただ辛く苦しい表情をして向いた。

「もちろんしてたわ。争いをなくしたいとも思った。でもね……それとは別に、私は自分の忌まわしい過去を払拭しようと思ったの。その思いで戦った……そうよ、私は自分のエゴで、多くの命を犠牲にしたのよ!」

「スメラギさん……」

涙ぐむスメラギにフェルトが手を差し伸べようとするが、質量のない967の手に阻まれ、首をゆっくりと横に振る彼に従ってその手を引っ込める。

「でも、私は過去を払拭できなかった。……今の私には戦う理由が無いの……ここにいる理由も……」

「……僕もそうでしたよ。」

全員の注目が集まる中、ユーノはアレルヤのグラスにワインを注いで一気に飲み干す。

「……僕も、本当は戦う理由なんてなかったのかもしれません。ただ、心のどこかに残っていたわだかまりを理由にして、この世界に対して復讐を果たしたかっただけなのかもしれません。でも……」

ユーノはアレルヤ、フェルト、967、そして、スメラギの顔を見渡す。

「僕には、戦いの中で守りたい人ができました。スメラギさんは違うんですか?」

「私は……」

「違うんなら、なんで僕を助けてくれたんですか?」

アレルヤは戸惑うスメラギを見てフッと笑う。

「きっと、見つけられますよ。僕たちにだって見つけられたんだから。きっと、スメラギさんにだって……」







四人が部屋から帰った後、一人取り残されたスメラギは昔の写真を見ていた。
あの日、全員が、失ってしまった仲間も含めた全員が笑っている写真にそっと指先で触れる。

「ロックオン……クリス……リヒティ……モレノさん……エレナ……もう一度、私に世界と向き合うことができるのかしら?そして……大切な人を守ることが……」

『……できるよ。』

「!?」

『だって、あなたはスメラギ・李・ノリエガ。私たちの戦況予報士じゃないですか。』

「エレナ……?」

振り返って問いかけるがそこには誰もいない。
どうやら、たったあれだけの量で酔いが回っているようだ。

『トレミー、間もなくホルムズ海峡を抜けるです。』

ミレイナの声を聞いてようやく夢から覚めたような気分になったスメラギは、あることに気付いた。

「これは……?」

外の様子が目の前のモニターに映されているのだが、どうにもおかしい。

「周辺が静かすぎる……魚たちの姿もこの深度で……」

多少なりとも見えていいはずの魚群が全くいない。
魚たちがいないということは、捕食者であるより大きな魚がいるか、もしくは音に敏感な彼らを逃げ出させるようなものが近くにあるということだ。
しかも、まったく魚の影が無いということから前者は考えにくい。
ということは、答えは決まってくる。

「っ!?まさか!」

そのまさかだった。
スメラギが予測をたてた次の瞬間には異常の原因たちが押し寄せて来ていた。







ブリッジ

「Eソナーに反応!!六つの敵影が高速で接近してくるです!!」

戦闘経験の浅いミレイナは近づいてくる何かを敵機と認識したが、ラッセとフェルトにはそれが本当はなんなのかわかっていた。

「そりゃ魚雷だ!!フェルト!!」

「GNフィールド、最大展開!!」

瑠璃色の膜に阻まれて致命傷を与えるには至らないが、艦全体が大きく揺れ、中にいる全員に非常事態であることを知らせる。
だが、揺れ以上に重大な事態が発生していた。

「魚雷の中に重化合物が!!」

「ソナーを封じられたです!!」

プトレマイオスをギラギラと鈍く光る粒が取り囲み、周囲からの情報の一切を遮断する。

「この深度で動ける敵だと!!?」

こんな深度に潜れる兵器など聞いたことが無い。
となると、必然的に彼らが遭遇していない敵、新型ということになる。

史上初のGNドライヴ搭載型の水中戦用MA、トリロバイトは高速でプトレマイオスに迫りながら下部に装備されていたあるものを発射する。

「第二波、きます!!大型魚雷二発です!!」

フェルトの言葉に続いて、二つの魚雷はめりめりとGNフィールドに食い込んでいく。

「GNフィールド、突破されたです!!」

「新兵器かよ!!」

防御を突破した二発の魚雷は外壁にぶつかり、しばらく赤く輝いていたかと思うと、大きな爆発とともに大きな二つの穴が開通した。

「下部コンテナに浸水!!」

本来ならそのコンテナにあるガンダムに出てもらって敵を撃破してもらいたいのだが、この深度でガンダムを出すことは不可能だ。
それどころか、このままでは中に入ってきた海水と周りの水圧で艦そのものが圧壊する可能性がある。

「浮上するぞ!!ガンダムを出せなきゃこっちは終わりだ!!!!」

ラッセは舵を上に向けるが、当然敵はそれを阻むためにさらに攻撃を仕掛けてくる。
上からも爆雷が降り注ぎ、上に進むほどに当然のことながらその衝撃はどんどん増していく。
しかも、それもただの爆雷ではなかった。
船体全体が爆雷から出てきた奇妙な網のようなもので覆われ、砲門もハッチも自由に開閉することができない。

ケミカルボム
合成樹脂に水分を吸収させることで拡散させ、その後凝固することによって相手の動きを封じる兵器だ。
合成樹脂によってがんじがらめにされたプトレマイオスはそれでも上を目指して突き進んでいくが、フェルトとミレイナにはすでに諦めの色が広がっている。

「諦めるな!!とにかく、上にあがるぞ!!」

そう言ってフェルトとミレイナを奮い立たせるラッセだったが、彼自身も絶望感で押しつぶされつつあった。
だが、救世主はゆっくりと、だがしかし確実にブリッジに近づいていた。






海上 アロウズ空母

マネキンの隣にいるハ虫類を思わせる男はニヤニヤとした笑いで海中に消えていく爆雷を眺めている。
アーバ・リント少佐。
彼が立てる作戦のほとんどが殲滅戦を前提としたものであり、彼はそれを楽しんでいる節がある。

「二分間の爆撃の後、トリロバイトで近接戦闘を仕掛けます。敵艦が圧壊する様が見れないのが残念ですが……」

歪んだ笑いを浮かべるリントを嫌悪感のこもったまなざしを向けるが、彼のここまでの手順は見事としか言いようがない。
だが、

(リント少佐……索敵と初期行動は見事だが、これで敵の指揮官がどう出るか……)

今のところ動きはないが、あの作戦を考えついた指揮官なら何か動きがあるはずだ。
自分たちを驚かせるような、とんでもない何かが。





プトレマイオスⅡ

「船体を覆った樹脂で砲門が開きません!!」

「操舵もだ!!」

焦りが焦りを呼び、三人から冷静な思考を奪っていく。

「クソ!!敵はどこだ!!?」

「Eソナー、使用不可です!!」

「打つ手なしかよ!!くそったれが!!!!」

「落ち着いて!!」

「「「!!!!!!!」」」

いつの間にかブリッジに入ってきていたスメラギが声を張り上げ、彼らの混乱を収める。

「手はあるわよ!もうすぐ爆撃がやむ!」

「え!?」

スメラギの言うとおり、それまで続いていた震動がある時を境にぴったりと収まった。

「とまった……ですか?」

「そして、海中の敵がこちらに接近し、直接攻撃を仕掛けてくる!」

「おいおい!!じゃあ逆にヤバい…うおっ!!?」

それまでとは比較にならないほどの大きな揺れと、それまでは聞こえなかった艦内を流れる水の音がわずかながらも聞こえてくる。

「て、敵機が船体左舷に突撃しました!!!!被害甚大!!このままでは圧壊する恐れも……」

「ラッキーね、私たちは!」

「「「!!?」」」

ブリッジ中央の席の背もたれに手をかけながら不敵に笑うスメラギ。
そう、彼女はこの状況を待っていた。

「索敵不能の敵がそこにいて、トレミーはガンダムが出撃可能な深度まで到達している!おまけに敵は、面倒な下部コンテナの注水時間も短縮してくれた!」

彼女の言うとおり、すでにガンダムに乗り込んでいたマイスターたちは次々にコンテナから海中へと飛び出していく。
その中でもいち早く出撃したセラヴィーとティエリアは船体にとりついていたトリロバイトに掴みかかり、これ以上艦を攻撃させまいと押し返しにかかるが、トリロバイトはそれでも鋭い先端を突きたてようとする。
いくらガンダムといえど、大型のMAが相手では押し切られてしまう。

「だが、切り札はある!!」

ティエリアはペダルを踏み込むと同時に、モニターに翼と楔を出現させる。

「TRANS-AM!!!!」

セラヴィーの背部のガンダムフェイスが開き、機体全体が紅蓮の輝きを放ちだす。
推進力を上げたセラヴィーは一気にトリロバイトを引きはがす。
しかし、トリロバイトは側面に装備されたアームをセラヴィーに叩きつけてセラヴィーの拘束から逃れようとする。
だが、セラヴィーに続いて出撃していたケルディムからの狙撃で大きく体勢を崩す。
元来、水中でビーム兵器を使用するのは無意味に近い。
なにせ、空気中で使うよりも格段に威力が落ち、射程距離も大きく縮む。
しかし、

「水中でもこんだけ近けりゃ!!」

狙撃とは言えないほど近い距離でスナイパーライフルを発射する。
その攻撃にひるんだのか、トリロバイトは二機から離れ始める。
だが、その隙を見逃すほどユーノも刹那も甘くない。

「クルセイド、目標を粉砕する!!」

「ダブルオー、目標を…」

その時、刹那の目の前にマリナが現れる。

『刹那、私と一緒に来ない?アザディスタンに…』

「!」

マリナからの誘い。
自分があの日から失ってしまったものが、ひょっとしたら戻ってくるかもしれない。
彼女と一緒に戻れば、枯れたクルジスの大地にも花が……

『刹那?』

フェルトの声にハッと現実に引き戻される。
揺らぎそうになった自分を叱りつけると、真一文字に口を結ぶ。
自分にできるのは戦うことだけだ。
自分がクルジスに、アザディスタンに、マリナに、自分たちの故郷のためにできるのはこれだけなのだ。
そう、ただ目の前の敵を……

「目標を……駆逐するっ!!」

一機に接敵した二機へアームが振られるが、クルセイドは左腕を、ダブルオーは右腕を、それぞれ互いに味方へと伸ばされていた凶爪を叩き斬る。
そして、二人は示し合わせていたように両側に刃を突き立てて後ろへと並行に赤いラインを描いていく。
トリロバイトはそれでも一矢報いようと後ろに装備されていたアームを展開するが、それすらもダブルオーに切断され、結局何もできないまま海中にくぐもった爆発音を残して消え去った。

『刹那、ユーノ!海上に出る!!』

「「了解!!」」

アリオスの翼にダブルオーとクルセイドが掴まったことをコックピットに伝わってきた衝撃で確認したアレルヤは切り札を切る。

「TRANS-AM!!」

光の届かない深い海から、輝く海面へ向けて一気に上昇していくアリオス。
周りの色も徐々に黒から緑、緑から青に変わり、そして、遂に水柱を上げて海面に飛び出した。

「何事だ!?」

リントは目の前で起こった事態が理解できずに目を白黒させるが、太陽を背負うその機体の正体を見た瞬間に青ざめる。

「ガ、ガンダム!!?馬鹿な!!?トリロバイトはどうした!!?」

「反応、ロストしています!!」

「まさか、トリロバイトが!!?」

「艦を後退させろ!!」

焦り始めるリントをよそに、マネキンは的確に指示を出す。
だが、リントはあくまで攻勢に出ようとする。

「MS隊を発進させろ!!」

「もう遅い!!」

敵をなめきってMSをまったく出撃させていなかったのが仇になった。
がら空きの空母のブリッジにダブルオーが刃を突き立てるべく迫る。
だが、

「!刹那!!」

「!?くっ!!」

一機のアヘッドがブリッジ手前まで近づいていたダブルオーを肩からぶつかって弾き飛ばす。
しかも、そのアヘッドは通常のものとは少々違っていた。
持っているビームサーベルは日本刀を思わせるような鋭く研ぎ澄まされたもので、頭部には通常のものと違って日本の武将が付けている兜のような捻じれた角がついている。

「アロウズの新型か!!」

その武将風のアヘッドは体勢を整えたダブルオーを見てギラリと目を光らせたかと思うと、ビームサーベルで斬りかかる。
素早い身のこなしで縦横無尽に刃を振られ、流石の刹那も苦戦を強いられる。

「刹那…っ!!」

援護に向かおうとしたユーノだったが、後ろから感じた気配に振り向きざまに刃を合わせるとぶつかったビームサーベルとの間で激しく火花が散る。

「アヘッド……!!?でも、この動きは!!」

「この機体……やはり乗っているのは……!」

ミンとユーノは顔を見なくともその動きで互いに誰なのかすぐさま理解していた。



そして、それは刹那と彼にも当てはまることだった。

「この動き……!手ごわいやつか!」

「その剣さばき……間違いない、あの時の少年だ!何という僥倖……!!生き恥をさらした甲斐が……あったというものだ!!!!」

ミスター・ブシドーは仮面に隠れた顔を至上の笑みで満たすと再会の喜びに満ちた咆哮を上げる。
そのまま歓喜の舞を踊るかのように激しく、しかし的確な斬撃でダブルオーを攻めたてていく。
ダブルオーと刹那もある時は攻撃をかわし、ある時は攻勢に転じてとめまぐるしく攻守を入れ替えながらアヘッド近接戦闘型、サキガケと激しく斬り合う。
しかし、刹那に余裕が無いのに対し、ミスター・ブシドーは余裕、いや、至福の時間を楽しむかのように笑っている。

「まだだ……!!こんなものではないだろう!!ガンダムゥゥゥゥゥゥ!!!!」

「ぐうっ!!!」

大きく振りかぶられた一撃を受け止めるダブルオー。
しかし、その衝撃の重さはしっかりとコックピットにまで伝わり、操縦桿を握る刹那の顔に汗がにじませた。



そして、刹那たちが剣戟を重ねる中、ユーノもミンの駆るアヘッド改と死闘を繰り広げる。
ミンのアヘッド改が腰から棒状のものを外してそれを伸ばすと、片側から湾曲した大きなビーム刃が現れる。

「薙刀!?」

「はあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

ミンは刃をクルセイドの肩へと突き出すが、ギリギリでかわしたクルセイドが逆に距離をつめてアームドシールドを振るおうとする。
だが、ミンはアヘッドに素早く薙刀の柄の真ん中を握らせると、反対側にもビーム刃を発生させて回転させる。

「うわっ!!?」

足元から迫る予想外の攻撃を辛うじてシールドバスターをシールドに変形させて受け止めるが、今度はするりと横に移動されたかと思うとその遠心力を利用して加速された刃がクルセイドの頭を狙う。

「クッ!このっ!!」

額の飾りの先を斬りおとされながらもなんとかかわしてアームドシールドで斬りつけようとするが、今度は柄を長く持たれて距離をとられたせいで当たらない。
細かく距離を変えてくるミンに翻弄されるユーノだが、ミンも自分の機体の装甲を浅く削ってくるユーノの攻撃に冷や汗を垂らしながら渡り合っていた。

(こんな瞬発力のある機体を使いこなすのか……!気を抜いたらやられる!!)

(機体性能の差に助けられているだけだ……!隙を見せたらやられる!!)



張り詰めた空気のなか一進一退の攻防を繰り返す二機のアヘッドと二機のガンダム。

「刹那!ユーノ!」

空中を旋回していたアリオスも援護に加わるべくMS形態に変形してツインビームライフルを抜くが、その前に特異な形状をしたバックパックを背負ったアヘッドのカスタム機が現れる。

「その機体……!被験体E-57!!」

アヘッド脳量子波対応型、通称スマルトロンにのるピーリスは唇を噛みながら持っていたビームライフルで猛然とアリオスに攻撃を開始する。
アリオスも前に立ちはだかるスマルトロンに射撃を介するが、こちらの攻撃はあっさりと防がれ、逆向こうの攻撃を肩にもらってしまい灰色の煙が立ち上る。

「機体のせいじゃない……!僕の能力が落ちているのか……!」

脳量子波が使えなくなり、ハレルヤがいなくなったアレルヤの能力は格段に下がっていた。
それでも、常人よりは勘が鋭いし、反応速度や運動能力、操縦技能は通常のそれを上回っているのだが、相手が同じ超兵、しかも完成形ともいえるピーリスを相手にするには心もとない。

「……っ!来るっ!!」

スマルトロンが肩からビームサーベルを抜いてアリオスへと襲いかかる。

「墜ちろガンダムゥゥゥゥゥゥ!!!!!」

「クッ!!!」

アレルヤは何とかかわそうとするが、反応が間に合わずここまでかと思われた。
だが、遠方から飛来した青い弾丸がスマルトロンの動きを止め、さらに飛んでくる弾丸が後退させていく。

「あれは……!?」

全員が戦いを中断して弾が飛んできた方を向く。
そこには水色のカラーリングをしたイナクトとヘリオンの混合部隊がこちらに向かってきていた。
その突然の乱入者に敵味方問わず彼らに対して警戒心を強めるが、その必要があったのは紅の機体たちだけだった。
一斉に放たれたリニアライフルの弾はピーリスたちの機体にだけ降り注ぎ、ガンダム三機に対しては攻撃をするどころか周囲を護衛するかのように飛び回る。

「まさか、カタロン!!?」

「彼らの援護に来たとでもいうのか!!?」

「反政府組織が……!私の道を阻むな!!!!」

三人は降りかかる火の粉を払いのけるべくその圧倒的な性能差と腕前を存分に見せつける。
中でもミスター・ブシドーは激怒の刃を振るいながら旧式MSたちを鉄くずに変えながら海に叩き落とし、一歩、また一歩とダブルオーとクルセイドに近づいていく。
しかし、それでもカタロンは止まらない。
まるで蜂が巣を守るために次から次に湧いて出てくるようだ。

「これ……どうなってるの!?」

ユーノは呆気にとられてその場から動けずに気の抜けた声で呟く。

「わからん……だが……」

967は足元の海中にいるプトレマイオスの反応を確かめる。
幸い圧壊は免れたようだが、それでも今の状態ではまともに戦闘に参加することができないのは明らかだ。

「今のうちにプトレマイオスと一緒に退いたほうがよさそうだ。」

「けど、彼らが……」

967の言っていることはわかる。
だが、彼らを見捨てたくないと思っている自分がクルセイドに背を向けさせるのをためらわせる。
だが、967はあくまで冷静で、冷徹だった。

「ユーノ!戻るんだ!」

「……っ!……了解!」

次々に墜ちていく水色の翼を、唇をかみしめながら見ていたユーノだったが、刹那やアレルヤとともに仕方なくその場を後にした。





その後、ガンダムを逃がし終えたカタロンは撤退し、アロウズも深追いは不要とみなしこの海域から撤退したのだった。






オマーン湾 孤島

アロウズは撤退したものの、プトレマイオスの被害は甚大だった。
下部コンテナに会いていた穴は予想以上に大きく、こことは別の場所でイアンとユーノ、そして沙慈が急ピッチで修復をしているが、何とか航行できるようにするのがやっとだろう。
しかし、ゆっくりもしていられない。
アロウズがいまだに中東付近にとどまり、虎視耽々と自分たちを狙っているかもしれないのだ。

そんな中、刹那とマリナはカタロンから去り際に受け取った暗号通信に従ってこの島にきていた。
二人の目の前には水色でカラーリングされたイナクトとヘリオンが夕陽を浴びながらしゃんと立っている。
しかし、よく見るとどちらも煤で汚れ、満足に装甲を変えることもままならないせいか細かな傷の上にさらに継ぎ接ぎのような箇所もいくつかある。
こんな危険な状態で、ここに二人を、否、マリナを呼びつけたのだからよほどの理由があるに違いない。

「誰なのかしら……私に会いたい人って……」

マリナの疑問に答えるように、欧州系の男に付き添われた一人の女性が武装した男たちの間から歩みでる。

(!)

その姿に、刹那は見覚えがあった。
四年前、アザディスタンの王宮でマリナのそばに立っていた彼女だ。

「シーリン…!?シーリン・バフティヤール!!?」

「久しぶりね、マリナ・イスマイール。」

久々の友人との再会にニコリともせずにシーリン・バフティヤールは驚くマリナの前に立つ。

「どうしてあなたが!!?」

「……私は今、カタロンの構成員……地球連邦のやり方に異議を唱える女よ。」

「カタロンに……!!?どうして!!?」

「……あなたが、その身を囚われることになっても連邦に参加しなかったのと同じ理由よ。」

そう言うとシーリンは長細いメモリースティックを刹那に投げ渡す。

「立ち話もなんだからここにきてちょうだい。私たちの拠点の一つよ。」

「……いいのか?」

「良いも悪いも、あなたは来る気なんでしょ?そして、あなたの仲間たちも。」

ぞろぞろと構成員が帰っていく中、シーリンはようやく笑顔を見せる。

「ありがとう、姫様を助けてくれて。向こうに来るまで、マリナのことをお願いね。」

シーリンはすぐに元の厳しい顔つきに戻ると人の波の中に消えていく。

「シーリン!!」

マリナはあらんかぎりの力で叫んだが、シーリンの返事が彼女に帰ってくることはなかった。






プトレマイオスⅡ 下部コンテナ

「お~……いたたた……フェルト、目は駄目だよ、目は……」

ハロと修復作業を再開したユーノだったが、さきほどのスメラギの衣装披露の際、ユーノだけがフェルトの目つぶしにもだえ苦しむことになった。
明らかにイアンの方がいやらしい目で見ていたにもかかわらずだ。

「僕、フェルトに何か嫌われるようなことしたかなぁ?」

痛む目元を押さえながら手を動かすユーノ。
と、その時ふと何かを思い出したのか、手を後ろにまわして髪を束ねていた翠のリボンを外す。

「……そろそろ、話さないとね。」

みんな戻ってきたし、スメラギも元の調子を取り戻した。
これ以上先延ばしにする必要はないだろう。

「……できれば、まともな反応をしてくれる人が一人くらいいてくれると嬉しいけど、あの面子にそれを期待しても無理かもなぁ……」

ユーノは初めて自分(喋るフェレット)に会った時のなのはのリアクションを思い返しながら応急処置で済ませた箇所の修理を始めるのだった。






ミッドチルダ ティアナとスバルの部屋

「それじゃあ、よろしくお願いします。」

『わかった。でも、どうしたの?急にOKを出すなんて?』

「いえ……少し考える時間が欲しかっただけですから。」

『?そう、それならいいけど。それじゃ、お休み。』

フェイトの顔が目の前から消えたことを確認したティアナはすでにベッドにもぐりこんでいた相棒を起こさないように静かに息を吐きだす。
今日の昼ごろ、匿名でティアナのもとにある一通の手紙が届けられた。
そこに書かれていたのはこれ以上ないほど簡潔な内容。

「ウェンディ・ナカジマとエリオ・モンディアルを取り戻したいのならフェイト・T・ハラオウンのもとへ行け、か……」

フェイトやクロノがこんな手紙を出すわけがないし、妖しい匂いがプンプンだが、あえて乗ってやることにした。
スバルに相談しようかとも思ったが、彼女には彼女の夢がある。
自分のわがままでそれを潰すようなことはしたくない。

「……ウェンディ、エリオ、待ってなさい。すぐに助けてあげるから。」

彼女が今ここにはいない友人たちへ立てた誓い。
そんな彼女の姿を、夜空に輝く月だけが優しく見守っていた。






翠の守護者の秘密
天使たちはそれを知った時、何を思うのか……







あとがき・・・・・・・・・・・という名の私事

ロ「というわけで、アレルヤの過去暴露&ブシドー本格参戦な第三話でした。それにしても平成ガンダム(G、W、X)はやっぱ見てて懐かしいね。久々に『月は出ているか!?』ってジャミル艦長と一緒に言っちゃたよ(痛)。」

ツン2「ホントに私事ね。ていうか、Wはなのはさんのお兄さんが……」

ロ「ナニイッテルノカナ?ティアナサン?」

ツン2「……なんでもない。」

ユ「そういえば、君が最初に見たガンダムって確かWのデスサイズじゃなかったっけ?」

ロ「あれは幼い日の俺にとってはいろいろとセンセーショナルだったな。なにせ、テレビをつけた瞬間鎌を振りかぶってバッサリ斬ってる画だったからな……しかも、格好が格好だから最初見たとき『実は敵なんじゃ!!?』なんてことも考えた。」

弟「乗ってるやつはあの面子の中の(比較的)常識人だったけどな。そう言えば、Gの方が放送開始が先なのになんでWから見てたんだ?」

ロ「普通にやってること知らんかった。Gは確かビデオと再放送で見てたのを覚えてるな。あっちはさらにセンセーショナル……つうより、ガンダムと認められなかった。ていうかいまだに少し抵抗がある……」

ツン2「武装とか参考にしといていまさら何言ってんのよ。」

ロ「そういうことをここで言うな!!まだ出してないんだからあれは!!」

弟「そう言えば、ソリッドやクルセイド、オリジナル機体のほとんどはG、W、Xから何かしらのインスピレーションをもらってるんだったな。」

ロ「ソリッドは何とかそうならないように一人で妄想を膨らませたんだけど、いま登場した時の説明を読み返してみるとかなり影響を受けてるな。なんとか、00っぽい機体にしたかったんだけど……」

ユ「XのDVD一気に見てしばらく後にオリ機体の構想を練ってたからね……もう少し間をおけばよかったのに。」

弟「まあ、過ぎたことはしょうがないだろ。クルセイドもDX大好きなロビンが考えたので丸々パクってきてる所がホントに些細な場所だけど一か所あるからな。暇な人はここじゃないかとあたりをつけてこっそりと嘲笑してやってください。」

ロ「良いじゃんDX!!ガロードの声が某刑事だっていうやつは俺が許さん!!ガロードは恋愛にはもうちょい積極的だ!!!!」

ツン2「聞いてないってのそんなこと。」

ユ「それじゃ、どうでもいい話はここら辺にして次回予告に行こうか。」

ツン2「カタロンの拠点へと向かうことになったソレスタルビーイング。」

弟「しかし、ある人物の行動が原因でアロウズからの襲撃を受けてしまうカタロン!!」

ユ「そして、戦いとは言えない虐殺を目にしたエリオとウェンディは怒りにまかせて戦場の中へ飛び出していく!」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただいてありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!じゃ、せーの……」

「「「「次回をお楽しみに!!」」」」



[18122] 4.熱砂の攻防
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/11/25 21:17
ミッドチルダ 某部隊

その日、ヴィータは昨日からいた部隊の指揮官に呼び出されていた。
はやてたちと袂を別ったのち、いろいろな部隊を渡り歩いていたヴィータだったが、呼ばれて向かった部屋には指揮官はおらず、見知った顔が堅い面持ちで待っていた。

「で、あたしに一体何の用だよ、クロノ。」

「ここでは一応階級で呼んでほしいものだな、ヴィータ三等空尉。それと、出来ればその不機嫌な顔で睨むのをやめてくれ。」

「睨んでねーです。もとからこういう顔なもんで。」

ヴィータの返答に嘆息しながらも、クロノ・ハラオウンは旧知の仲の彼女に今回の要件を伝える。

「ヴィータ三等空尉、本日づけでクラウディアへの転属を命ずる。なお、拒否することは認めない。」

口を開きかけていたヴィータはクロノのその一言で不機嫌な仏頂面をさらにひどくしながら腕を組む。

「君には同じくクラウディアに配属になるある局員の教導を担当してもらいたい。」

「ある局員?」

怪訝そうな顔をするヴィータだったが、そのある局員の名前を聞いた瞬間に表情が一変した。

「ティアナ・ランスター……君が機動六課にいた時の教え子だ。」

「ティアナが……クラウディアに!?」

「それだけじゃない。彼女には新兵器のテストパイロットもしてもらう……と言っても、これは上からのお達しなわけだが。」

クロノの苦い顔を見てヴィータも苦虫をかみつぶしたような顔をする。

「ハッ!お偉いクロノ提督の艦にも遂にMSがやってくるってわけだ。おめでとうさん。」

「そう言ってくれるな……僕だって好きで許可したわけじゃない。」

ヴィータからの嫌味に唸るように言葉を絞り出したクロノだったが、その一方でMSの性能を認めてもいた。
ミッドで艦隊戦と言えば魔導砲と魔導士による砲撃、ならびに相手の艦へ乗り込んでの白兵戦と相場は決まっていたが、大きな戦艦と違って小回りが利くMSがあれば艦の一隻や二隻を墜とすことなど朝飯前だろう。

「今クラウディアはMS用のハンガーを取り付けているところだ。それが済み次第すぐに各世界の治安維持にあたる。」

「治安維持?弾圧の間違いじゃないのか?」

「……反論はしない。だが、それでも僕は僕の信じるもののために出来る限りのことをするだけだ。」

「出来る限りね……それの結果があれじゃ世話ねぇんだよ…!!」

ミシミシという音が聞こえてきそうなほど拳を堅く握りしめるヴィータの脳裏にはある記事の一面が浮かんでいた。
当然、クロノもその記事を読んでいる。

「……すまん。違うと言ったのだが、それでも向こうに有利な証拠ばかりがそろっていて、何もできなかった。」

「何もできなかっただと!!?とっととユーノの身柄をこっちで押さえてりゃこんなことにはならなかったんだよ!!!!予言のことも何かもこそこそ進めといてこのざまだろ!!!!なのはだって…」

何かを言いかけて、ヴィータは辛そうに目を背けて黙る。
そして、クロノに背を向けると扉へと歩いていく。

「……命令には従ってやる。けど、あたしはあんたらのことを許したわけじゃない。」

「…了解した。」

黙って部屋を出ていくヴィータ。
しかし、彼女の心の中で燃え盛る怒りの炎は収まることを知らなかった。
そして、その炎は彼女が守りたかったものへと向けられることになる。





地球 アロウズ司令部

「ようやく決心したか、ビリー。」

「お世話になります、おじさん。」

「ここでは司令と呼びたまえ。」

「失礼しました。」と訂正の言葉を述べたビリー・カタギリはアロウズの最高司令官であるホーマー・カタギリからの言葉を待つ。
もっとも、彼が何を言うのかをわかっていてビリーはここに来たのだが。

「君には亡きエイフマン教授のあとをついで、新型のMSの開発を担当してもらう。」

「了解しました。」

ビリーは軽く頭を下げるが、その様子にホーマーは少々違和感を覚えていた。

「どうかしたか?」

「いえ。僕はいたって“普通”ですよ。」

「そうか…それならいいんだ。」

「では、失礼します。」

廊下へ出たビリーはつかつかと自分に与えられた研究室へと歩を進める。
そう、これが普通なのだ。
つい先日までの日々が夢であって、ただ現実に引き戻されただけなのだ。
あの忌々しい事実によって。

(クジョウ……君はずっと前から僕のことを利用していたんだね……そして踏みにじったんだ、僕の気持ちを……!!)

この前までは取り戻そうと必死だった彼女の笑顔も、今のビリーにとっては怒りの対象でしかない。
もし、今あの笑顔を誰かに向けているとしたら……
そう思うだけで、ビリーに芽生えた殺意は彼の心を黒で塗りつぶしていった。






魔導戦士ガンダム00 the guardian 4.熱砂の攻防

ルブアルハリ砂漠

砂丘が幾重にも連なった砂漠を三機のガンダムと一機のVTOLは目印もなしに、しかし、真っ直ぐに向かうべき場所へと突き進んでいた。

「こんな場所に基地があるとは……よく連邦に見つからないものだ。」

輸送機を操るティエリアが呆れ半分、感心半分といった様子で呟いていると、耳ざとく聞きつけたロックオンがモニターの向こうで解説を始める。
しかし、隣に座る刹那は別のことで頭がいっぱいだった。
いや、メンバー全員、そして沙慈とマリナもそうだろう。
なにせ、先行しているクルセイドに乗るユーノやその連れたちが、この世界の人間ではないというのだから。






昨日 プトレマイオスⅡ ユーノの部屋

「ね、ねえ、本当にいいの、ユーノ?」

ユーノに部屋に招かれ、とある頼みごとをされたフェルトはユーノを前にしていまだに戸惑っていた。
彼女の利き手には鈍く光る鋏が握られ、その前には美しい金色の滝がもどかしそうに揺れている。

「うん。もう別にこだわる理由はないし、いい加減邪魔だと思ってたところだったから。」

「でも、こんなにきれいなのに勿体ないよ。」

今は亡きクリスティナも間違いなく同じことを言っていただろうが、それでもユーノは頑として聞かなかった。

「早く。みんなが待ってるよ。」

「……わかった。」

ようやく決心がついたフェルトはゆっくりと、しかし大胆に金色の滝の中ほどへ銀色の刃を滑り込ませる。
そして、成層圏を狙い撃つ男直伝の手さばきで鋏を動かしていく。
切り落とされた金の糸たちは、自分の主だった者の周りの床一面を金色のカーペットへと変えていった。






ブリーフィングルーム

その日、急の申し出にもかかわらず、客人四人を含む全員がブリーフィングルームに集まっていた。
誰もが自分の用事をほっぽり出してきたのだが、誰もそのことを責められるはずがない。
なにせ、彼ら全員が知りたかったことをようやく知ることができるのだから。

「本当にやっとだな。結局、クリスとリヒティからは聞けずじまいだったからな。」

「しかし、あんたら長い付き合いだったんだろ?なんであいつのこと調べようと思わなかったわけ?」

ラッセの独り言にロックオンが混ぜ返すが、ラッセの代わりにスメラギが答える。

「調べようとはしたわ。でも、ユーノに関するデータは何も見つからなかった。まったく、あの子がやって来てからしばらくは眠れない日が続いたわ。」

苦笑しながらも、楽しそうに話すスメラギ。
結局、ユーノがなんであろうと彼女たちにとって彼が仲間であることに変わりはないのだ。
そんなスメラギ達の反応をどこかさびしげに見ていたロックオンだったが、その時ようやく主賓が到着した。

「ごめんごめん、待たせちゃったね。」

普段なら真っ先にかみつくティエリアも、ポーカーフェイスを崩さない刹那も、常にいざこざの間に入って緩衝材の役割を果たすアレルヤも、誰もがブリーフィングルームに入ってきたユーノの姿に驚かされていた。
昨日まで駆けていたメガネの代わりにサングラスをかけ、薬指につけていたピンクの宝石の代わりに、左手首には萌黄色のリボンを、右手首には赤いリボンを腕輪のように巻きつけている。
そして何より、彼の最大のトレードマークとも言える長かった髪は肩のところできれいに切りそろえられ、首にかけていた青い宝石がもう一個追加されている。

「おいおい、いきなりイメチェンかよ?失恋でもしたか?」

ただ一人、対して驚かなかったロックオンだけが軽口を叩くが、彼もすぐに黙ることになった。
なぜなら、

「失恋ね……どっちかっていうと、僕が振った側なんだけど、向こうもいい加減愛想を尽かしちゃってるだろうからそれで正しいのかな?」

「……マジでかよ。」

ユーノの苦笑いと周りからの針のような視線にさらされ、ロックオンは自分の不用意さを後悔しながら沈黙する。
そして、その沈黙に後押しされるようにユーノの後ろからフェルトがおずおずと顔を出す。

「あの……ユーノにどうしても切ってほしいって言われて…」

フェルトの小さな声にティエリアは大きなため息をつく。

「まったく……君は人を驚かせるのが趣味なのか?」

「これでそんなに驚くなんて、僕としても想定外もいいところだよ。けど、この分なら僕の話しを聞いて、ちゃんとしたリアクションを返してくれそうだね。例えば……こういうのを見たときとか。」

「!!?」

突然の光に思わず目をつぶってしまったティエリアだったが、目を開けたときには先程のイメチェンで受けたものよりもさらに大きなショックが待っていた。

「ユーノは……?」

「お~い、こっちこっち。」

「?」

いなくなったはずのユーノの声が足元から聞こえてくる。
全員がゆっくりと視線を下ろし、声の主を確認するが、

「……フェレット?」

沙慈の言うとおり、そこにいたのは金色の毛並みをした一匹のフェレットだった。
だが、いち早く事態を飲み込めたティエリアとフェルトは顔を真っ青に、続いて真っ赤へとめまぐるしく変化させる。

「そんな顔しないでよティエリア。あの時みたいな嬉しそうな顔を見せてほしいな♪」

フェレットの姿になったユーノの言葉にティエリアは石像のように固まったまま背中からばったりと倒れた。
それが合図となり、ブリーフィングルームはてんやわんやの大騒ぎとなった。



数分後

「ごめん……会う人会う人まともな反応を返してくれる人が少なくて……」

「僕たちは君の友人たちより常識をわきまえているつもりだ。」

「……いい度胸してるよ。ホント。」

アリサあたりが聞いたら発狂するぐらい怒り狂うのではないかと思える発言をこともなげに言ってみせるティエリアがいつもより頼もしく思える。

「それより、いまだに信じられないうえに理解できないことが山のようにあるんだけどな。」

「そうですか?ミレイナは魔女っ子に憧れてたから人生のハッピーニュースのトップ3に来るくらいワクワクしてるです!」

ラッセを代表とした年長者組はいまだに魔法文化や異世界という事実を受け入れられずにいたが、ミレイナを筆頭とする若年層組は予定通り(?)あっさりと納得してみせた。
それどころか、ミレイナに至っては自分も魔法を使えるのではという期待に胸を膨らませているようだ。

「あの、さっきもユーノさんが言ってたけど、リンカーコアが無いとどんなに頑張っても魔法は使えないですよ?」

「ブ~!使える者の余裕ですか?でもでも、ミレイナだって魔法で大人な感じに変身したり、影で悪者から街の平和を守ったり、白馬に乗った王子様に告白されたりしたいです!!」

「なんか、どれも完全にミレイナの願望っスね……。」

「まあ、どうしても使いたいって言うんなら……」

ユーノは言葉をそこで途切らせ、意識を集中させる。

(この声が聞こえないとね。)

「「「!!?」」」

念話のチャンネルをフルオープン状態にして、意識をばら撒くようにあたりかまわずに語りかけると、反応を示した人間が三人いた。

「今のは…」

「あの時、聞いた…」

「ユーノの声…」

「リンカーコアを持っているのは刹那、ティエリアにフェルトか……ま、こっちで魔法を使えたってあんまり意味はないけどね。」

三人の反応を楽しんでいたユーノだったが、ここで話を終わりにするわけにもいかない。
まだ、さわりの部分しか話していないのだから。

「話を戻すけど、僕は時空管理局っていう組織に所属していた。エリオとウェンディもね。」

「しかし、随分と傲慢な組織だな。世界を管理してくれなんて、俺は頼んだ覚えはないぜ。」

「ロックオン、そんな言い方をしなくても…」

「まったくもってその通りさ。」

ロックオンをたしなめていたアレルヤはユーノの答えに呆気にとられる。

「頼まれてもいないことを押しつけがましくやってやるなんて抜かして、ハリボテの正義にすがりついて平然と弱者に犠牲を強いる、最低最悪の組織さ。でも……」

ユーノの顔に悲しげな笑みが浮かぶ。

「それでも、僕は信じたかったんだ。僕みたいな人間がこれ以上生まれないような世界を作れる、ってね。」

「けど、お前さんは今ここにいる。」

イアンの言葉にユーノは静かにうなずく。

「……そうさ。だから、僕は戦う道を選んだ。世界を変える手段を戦いにしか求められなかった。」

「それじゃ、あなたがそうなった理由を一からきっちりと話してもらえるかしら?もちろん、個人的に話したくないと思うことは無理に話さなくてもいいけど。」

「お気づかいどうも、スメラギさん。でも、全部話さないといろいろと途中で不都合が出てきますから。洗いざらい全部喋りますよ。」



そして、ユーノは全てを打ち明けた。
物心がつく前に故郷を戦火で焼かれたこと。
自分を本当の息子のように育ててくれた義父を管理局に殺されたこと。
誰にも心を開けなかった日々のこと。
なのはたちと出会い、多くの事件を通して人間らしい感情を少しずつ取り戻せしていったこと。
自分が翠玉人だと知った時のこと。
そして、こちら側に飛ばされたことと、ミッドチルダに戻ってからの出来事。

話が終わった時、真っ先に口をきいたのは刹那だった。

「ユーノ、管理局は子供を俺のように、戦いの道具にしているのか?」

「セイエイさん、それは……」

エリオが何かを言いかけるが、ユーノによってそれを止められる。

「あくまで個人の意思によるけど、そういう側面があるのは否めないね。けど、少なくとも僕の知る範囲では洗脳をしたり、嫌がる子を戦わせることはしていなかった。」

「……そうか。」

刹那は納得していないようだったが、今はこれ以上追及するつもりはないようだ。
そして、もう一人の当事者と言ってもさしつかえのないエリオは刹那以上に不満そうだった。
エリオからしてみればフェイトやキャロのためにと思ってしてきたことを否定された気分なのだろうが、刹那にも譲れない思いはある。

「……なんですか?」

刹那と目があったエリオは睨み返すように長身の刹那の顔を見上げる。

「……別に。ただ、お前の保護者はなぜ止めなかったのかと思ってな。」

「どういう意味ですか……?」

低い声で問いかけるエリオだったが、刹那は動じない。
周りにいるユーノ達の目にも、二人の間を流れる空気が険悪なものになっていくのがわかるほど二人の気はピリピリと立っていく。

「子供を戦わせることになんの疑問も持たない人間がなぜ平然と正義をかかげているのか俺には理解できない。」

「別にあなたにミッドやフェイトさんたちのことを理解してもらおうとは思っていませんよ。」

「……歪んでいるな。」

「え?」

「お前も……そしてお前を戦場へと送りだしたそのフェイトというやつも、俺には何もかも歪んでいるように思える。」

「ッッッ!!!!」

その瞬間、ブリーフィングルームに小さな落雷が発生し、それを纏ったエリオがストラーダの穂先を刹那の顔へと向けている。

「フェイトさんを悪く言うな!!」

エリオの行動に動揺しながらも、唯一彼を止めることができるユーノとウェンディはバインドでエリオの動きを止めようとするが、刹那はそれを止める。
それどころか、刹那は切っ先を向けられた時から今まで微動だにしない。

「あなたに僕やキャロの苦しみを理解することなんてできないでしょうね!!でも、フェイトさんは違う!!フェイトさんは僕を苦しみから救ってくれた!!」

「そして、戦場へと向かうお前を止めなかった。」

「違う!!それは僕の意思だ!!」

「ならば、そのフェイトのために戦うことだけが、お前が今ここで生きている理由なのか?」

「そうは言っていない!!僕は…」

そこでエリオの言葉が途切れる。
この時になって、エリオは自分の戦いの意味を初めて自分自身に問いかけていた。
そして、その答えは刹那の言うとおりだった。

「僕は……僕がここで生きている理由は……」

フェイトやキャロを守ること。
確かにそれはエリオに戦いを決意させたものではあるかもしれないが、存在意義ではないはずだ。
なのに、それ以外に自分の生の意味を見いだせない。
本当はもっと別の理由があったはずなのに、それが思い出せない。

「……俺も、かつては神のために戦うことだけが生きる理由だった。そのためなら、この命を投げ出してもいいと考えていた。」

刹那はカタカタと震えるストラーダの刃を握りしめる。
切れた手のひらから血がポタポタとこぼれ、電流に焼かれた皮膚が生臭い匂いを放つが、それでも刹那は手を離さない。

「お前が誰かを守るために戦いたいという思いを否定するつもりはない。だが、お前はそのために命の奪い合いをするのか?そして、そのためだけに生きていくのか?かつての俺のような、破壊することしかできない人間になりたいのか?」

すでにストラーダの電撃は消え、エリオも柄を持っているのでやっとの状態になるが、それでも刹那は刃を握ったままエリオの怯えが混じった瞳をじっと見つめている。
最初は驚きや戸惑いで騒いでいた周囲も沈痛な面持ちで二人の成り行きを見守っている。

「お前はまだ間に合う。だから、お前は俺のようにはなるな。戦いしか選べないような、そんな人間にはならないでくれ。」







現在 プトレマイオスⅡ コンテナ

浸水の止まったコンテナで、エリオは一心不乱にストラーダを振るっていた。
だが、こんなことをしたところで答えが出るわけではない。
本当は何をしたいのか、そのためにはどうすればいいのか。
それがわからない。
そんなエリオの目に、ふとすぐそばに立っていたダブルオーが飛び込んでくる。

「刹那・F・セイエイ……」

壮絶な瞳だった。
悲しみ、怒り、憎悪、後悔。
本当の戦争を味わったものにしかわからないものを彼は見てきたのだろう。
だからこそ知りたい。
彼の見てきたもの、そして、彼が見ているものを。





ルブアルハリ砂漠

刹那はあの時の痛みとエリオの顔が忘れられないでいた。
純粋で、正義感にあふれた瞳をしていた。
まぶしくて目をそらしたくなるほど、輝いていた。

(エリオのことを考えてるのかい?)

(……これで話しかけるのはやめろと言っているだろう。)

いきなり頭の中に話しかけてきたユーノに刹那は顔をしかめる。
魔法の適性があると言われた時は特に何とも思わなかったが、こうして話しかけられるのはあまり気分がいいものではない。

(慣れれば便利だよ。回線を限定すれば周りには聞かれずに済むしね。)

とはいっても、いきなり順応しろと言われてもおいそれとできることでもない。
しかし、こんな話はユーノとの間だけで、しかも誰にも聞かれないようにしたいのも確かだ。

(……何があった。あそこまで執着するからには何か理由があるはずだ。)

(それは、僕の口からは言えない。けど、いつかエリオが自分から話してくれるはずだよ。君とエリオは似ているからね。)

(そうか?)

(うん。君もエリオも、良くも悪くも真っすぐだから……っと、どうやら到着みたいだ。この話はまたあとでね。)

ユーノからの念話が聞こえなくなった刹那は改めてエリオのことを思う。
向こうに行っていたというフォンたちはメンバー候補としてエリオとウェンディをこちらに連れてくるつもりだったらしいが、刹那、そしてユーノもそのつもりはさらさらない。
今のところこちらに戻ってきているフォンとコンタクトをとり、どうにか向こう側に戻す方向で決定している。
しているのだが、当の二人は口には出さないものの、それを不満に思っているようだ。
それに、

(異世界製の疑似太陽炉搭載型MS……もし、あちらの世界でそれが広まっていたら……)

あの二人がそれを用いた争いに巻き込まれる可能性は十分にある。
いや、それだけではすまないかもしれない。

「……何事もなければいいが。」

刹那は一抹の不安を抱えながら、ハッチの開いた格納庫へとVTOLを滑り込ませていった。







カタロン拠点

プトレマイオスのコンテナと違い、うっすらと埃が漂うカタロンの格納庫の中にはフラッグなどの旧式MSがずらりと並んでいるのだが、カタロンの構成員の関心は完全に三機のガンダムに向けられてしまっている。
もっとも、これはカタロンだけに限った話ではない。
中東でのガンダムの認識は現在の世界共通のものとは違っている。
かつてアザディスタンにおいて宗教的指導者を助け出して不要な争いを止めた英雄の機体。
当時から世界に見捨てられていた中東で暮らす者にとって、ガンダムの存在は希望の象徴であった。

そんな熱烈な歓迎を受けた一同だったが、刹那、スメラギ、そしてマリナは別室に案内されていった。
沙慈も刹那に連れられて一緒に行ったところをみるとここで彼と別れることになりそうだ。

「けど、それが沙慈のためか……」

動物園の珍獣のような扱いから解放されたユーノはクルセイドの足に寄りかかってホッとしながらも、もう沙慈と話をする機会が失われるのかと思うと素直に喜べない。
もう、昔の関係に戻ることはないだとわかっていても、ちゃんとお互いの間で決着をつけておきたかったのに。

「……?」

視線を感じて顔を上げると、マリナと、彼女の後ろに隠れている子供がそこにいた。

「話は終わったんですか?」

「刹那たちはまだシーリンたちといるわ。」

「それで、その子たちの相手を頼まれたってわけですか。」

「ええ。それで、この子たちがどうしてもガンダムを見たいって……」

「ああ……」

納得した。
この子たちはクルセイドをじっくり見たいのだろうが、おそらく自分に気を許していないのだろう。
マリナもそのことが分かっているからこんな困ったような笑い方をしているのだ。
ユーノはヘルメットをとると、マリナのズボンにしがみついていた男の子の目線まで屈む。

「別に見るくらいなら構わないよ。なんなら、触ってみる?」

「ホント!?」

パアッと顔を輝かせると男の子はクルセイドの足をぺたぺたと触って回る。
しかし、一分もたたないうちにもうあきてしまい、今度はユーノに興味を示す。

「お兄ちゃんも一緒に遊ぼ!!」

「え…僕は……」

マリナの方に視線を向けるが、彼女は微笑んでいるだけだ。
しかし、ユーノが彼女たちの期待には応えることはなかった。

「ごめんね。お兄ちゃんは、やらなきゃいけないことがあるから……」

「え~~……」

男の子ががっくりと肩を落とすが、それ以上にマリナの顔は暗い。
だが、必要以上にこの子たちの住む世界に足を踏み込んではいけない。
そう思いながらマリナたちに背を向けるユーノの前にアレルヤが現れる。

「いいのかい?」

「わかってるだろ?あそこは僕のいていい場所じゃない。」

きっぱりと一片の迷いもなくそう言ったユーノに、アレルヤはどう声をかけていいかわからず黙って見送るしかなかった。







ペルシア湾 アロウズ空母

穏やかに波が唄う海の上、ピーリスはセルゲイにアロウズ、そして新たに出現したガンダムについての情報を伝えていた。
そして、思いもよらない知らせを聞かされる。

「大佐が出動なさっているのですか?」

『ああ、ガンダム探索のための部隊を任された。よもや正規軍がアロウズの小間使いにされようとは…』

「そうでしたか…」

別に彼女が悪いわけではないのだが、気丈なセルゲイが珍しくこぼした愚痴に申し訳なさを感じていたピーリスだったが、セルゲイにはそれよりも気になることがあった。

『それより、あれは元気かね?』

「アンドレイ少尉のことですか?任務を忠実に果たしていますが…」

『……私への当てつけだな。』

「え?」

画面の向こうのセルゲイの笑顔が曇る。

『あれは私を怨んでいる。』

「どういうことですか?」

『私は軍人であっても、人の親ではなかったということだ。』

「大佐……」

寂しげに笑うセルゲイ。
そんなことはないと強く言いたかったが、彼の笑顔がそれを押しとどめさせる。
だが、それでも自分に人らしい生き方を教えてくれた人が、親でないなど言ってほしくはない。
悲しい顔をしてほしくない。
だから、

「大佐、あの件、お受けしようかと思います。」

『本当かね!?』

思わず身を乗り出すセルゲイに、ピーリスは柔らかに笑いかける。

「詳しくは、お会いしたときに。」

通信を終えたピーリスは空を見上げる。
白い雲が流れていくこの景色が、波の声が自分を祝福してくれているような気がする。

「私は幸せ者だ……」

ピーリスは今この瞬間に感じている幸せが永遠に続くものだと疑っていなかった。
この数時間後までは。






カタロン拠点

「マリナ様、これも!!」

腕いっぱいに積み木を抱えてマリナのそばまでやってきた男の子はマリナの前にそれをぶちまける。
しかし、マリナの目には一人の子供の姿が目に写っていた。

「ちょっと待ってね…」

そう言うと、マリナは隅に一人で積み木をいじっていた子供の方を向く。

「こっちに来ないの?」

「…………………」

マリナの言葉に一瞥するが、返事もせずに俯くと再び一人で積み木を手にとる。
だが、マリナは彼の前まで進むとそこに座り、手を差し出す。

「ね?一緒に遊びましょ?」

「…………………」

初めは抵抗を示していたが、マリナの手をとったその子はその温かさに導かれるようにマリナの上での中へと飛び込んでいく。
マリナもまた、それを優しく受け止め、優しく抱き寄せる。



その様子を見つめながら、刹那は部屋の外で母の面影を思い出していた。
そして、引き金を引いたあの日のことも。

「あの子供たちも君たちの犠牲者だ。君たちが変えてしまった世界の。」

戻ろうとした時、沙慈に声をかけられ刹那は足を止める。

「……ああ。そうだな。」

刹那のあまりにもあっさりとした返答に沙慈は唇をかみしめる。

「何も感じないのか!!?」

「感じてはいるさ。俺はあの中に戻ることはできない。」

違う。
自分の求めている答えはそんなものじゃない。

「それがわかっていて、なぜ戦うんだ!!?」

「理由があるからだ。わかってもらおうとは思わない。恨んでくれて構わない。」

そう言い残して自分のもとを去っていく刹那を、沙慈はずっと睨みつけていた。





VTOL

「アザディスタンに彼女を送り届ける?」

ユーノは刹那の正気を疑うように問いかける。

「本当にいいのですか?」

スメラギが念を押すが、マリナはしっかりとうなずく。

「無理を言ってすみません。でも…」

マリナの言葉にスメラギはあごに手を当て思案を巡らせる。
スメラギとしても、マリナの意思は尊重したいがリスクが大きすぎる。
しかし、刹那がいてくれればいざという時もなんとかしてくれるだろう。

「ガンダムは使えないわよ。万が一見つかれば、アザディスタンに危害が及ぶ可能性があるわ。」

「この機体を使わせてもらう。みんなはガンダムでトレミーへ。」

「わかったわ。」

各々が順次席を立っていく中、最後に立ちあがったティエリアは刹那に近づいて皮肉のこもった笑いを見せる。

「なんなら、帰ってこなくても構わない。」

「馬鹿を言うな…」

入口付近で立っていた人間がポカンとする中、刹那の薄いリアクションを見届けたティエリアはVTOLをあとにする。

「この四年間で何があったんだい?君が冗談を言うなんて。」

ティエリアに追いついたアレルヤは先程の真意を探る。
本気で言ったとは思えないが、冗談だとしたらこの四年でティエリアも大きな変化を遂げたのだろう。

「……本気で言ったさ。」

「え?」

真剣な声のティエリアに間の抜けた返事をするアレルヤ。
しかし、ティエリアはすぐにニヒルな笑みで振り返り、

「フッ……冗談だよ。」

と、あっさり本気ではないことを示してみせた。
すたすたと去っていくティエリアの考えがわからず、後ろにいたスメラギとユーノに「わかる?」というように視線を向けるが、二人もティエリアの考えがさっぱり見えなかった。






カタロン拠点

カタロンに保護されることになった沙慈だったが、さっきの刹那といい、ここの人間といい、刹那に助けられてからというものの沙慈には受け入れがたいものばかりで溢れかえっていた。
もう、我慢の限界だ。

(ソレスタルビーイングもカタロンも戦いを引き起こすやつらじゃないか!!そんなところにいられるか!!)

少しでも早くここを離れたい沙慈は自分でも気付かぬうちに早足になっていた。
それくらい、自分にとっての日常に帰りたいと強く願っていた。
裏口から外に出た沙慈は物陰からあたりの様子をうかがう。
一面灼熱の太陽が照りつける砂漠は、人間一人くらいは簡単に干物にできそうなくらい過酷な環境だ。
ここを徒歩で横断するのは賢明ではないだろう。

(どうしよう……)

「何をしている!」

「!」

横から声をかけられた沙慈はびくりと体を硬直させる。
銃を持った男が疑いの目で沙慈を睨んでいた。

「いえ……あの…」

上手い答えが見つからずしどろもどろする沙慈だったが、彼の顔を確認した男は先程の厳しい目つきとは違い友好的な態度になる。

「おお、あんたソレスタルビーイングの!」

違います。
そう言おうとした沙慈だったが、これはチャンスだ。

「街に仲間がいて、連絡を…」

「おお、そうか。街までは遠い。車を使いな。」

男はズボンのポケットからキーをとりだして沙慈に投げ渡す。

「あ……どうも…」

ぎこちない笑みでそれを受け取った沙慈は車の場所まで急ぐ。

(良い人だったな……)

勘違いとはいえ、疑いもせずに見ず知らずの自分に力を貸してくれた名も知らないカタロンの構成員。
しかし、彼もまた戦いを引き起こす存在、沙慈にとっては受け入れられない存在なのだ。
そう自分に言い聞かせた沙慈は車のエンジンをスタートさせて砂漠へと出ていった。

しかし、世の中そんなに甘くはない。
すぐに自分のうかつさを思い知らされることになった。

「こいつで越えられかな……」

水もない、地図どころかコンパスもない。
照りつける太陽は布で全身を隠していても容赦なく体温を上げていく。

(……戻った方が賢明かな?)

そう思い始めた沙慈の前に、巨大な影が出現する。

「連邦軍!?」

助かった。
そう思った沙慈だったが、すぐに宇宙でのことを思い出す。
またカタロンの構成員だと思われたらたまったものじゃない。
しかし向こうもこちらに気付いたのか、戦艦は徐々に高度を下げてくる。

(しかたない……)

またあそこに戻るくらいならこちらの不が幾分かマシだ。
そう結論づけた沙慈の前に、数台の車に乗った連邦軍の兵士が現れる。

「ここで何をしている?」

「あの、僕は…」

「まあいい。話は戻ってからじっくりと聞かせてもらおうか。」

「はい……」

沙慈は連邦軍の兵士に囲まれた状態で、戦艦へと向かった。






戦艦 尋問室

「あんな軽装でなぜ砂漠を走っていた!!」

「っ……!」

机を叩く音、そしてドスの利いた声が沙慈を追い詰めていく。
ここに連れられてきてからまるで一昔前の秘密警察の取り調べのような尋問が続いている。
この調子では、真実を話したところで信じてはもらえないだろう。
沙慈がそう思っていた時、さらに追い討ちがかかる。

「バイオメトリクスがヒットした。こいつはカタロンの構成員だ!」

ドアを開けて入ってきた兵士が指をさしながら蔑みのこもった声を沙慈にぶつける。

「違う!!僕はそんなんじゃない!!」

「そんな嘘が…!」

「うあっ!!」

堅い拳が沙慈の頬にめり込む。

(なんで……僕はただ、あそこから離れたかっただけなのに……!!)

どこにいても変わらない。
あの時、同僚をかばったあの時から自分の運命は決していたのかもしれない。
そんな絶望感が沙慈に押し寄せてきたとき、兵士たちの上官と思しき人物が現れた。

「手荒なマネはよせ!!」

「た、大佐!!」

「下がれ。話は私が聴く。」

部下二人をさがらせ、自分の目の前に座ったその男の顔を沙慈はまじまじと見る。
まず目に飛び込んでくるのは左目から額にかけて大きく伸びた傷だ。
しかし、その威圧感もさることながら、それよりも彼の冷静な眼差しが軍人らしからぬ理知的な印象を持たせる。

「君は戦士ではないな……」

「え……?」

彼の言葉に沙慈は戸惑う。

「長年、軍にいたからわかる。君は戦うものの目をしていない。つまり、カタロンではないということだ。一体、何があったのかな?」

「………………………」

言えない。
言えば、また争いに巻き込まれる。
その恐怖が沙慈の口を固く閉ざしてしまう。
だが、

「……ソレスタルビーイングと行動を共にしていたのではないか?」

「!」

なぜそのことを。
そう言いたげな沙慈の目を見ながら彼は答える。

「データを見ると、君は数週間前までガンダムが現れたプラウドでコロニー開発に従事していた。そして、ガンダムと戦闘があったこの地域に君がいる。なあに、簡単な推理だよ。」

「………僕は。」

怒りに震える手を必死に静めながら沙慈は話す。

「僕は、カタロンでもソレスタルビーイングでもありません……!!」

「わかっている。ただ、話を聞かせてほしいだけだ。悪いようにはしない。」

男は穏やかな声で沙慈を落ち着かせる。

「自己紹介が遅れてしまったな。私は地球連邦軍所属、セルゲイ・スミルノフ大佐だ。よろしく、沙慈・クロスロード君。」

「はい……」

力なく答える沙慈と紳士的にふるまうセルゲイ。
その二人の会話は、廊下で聞き耳を立てていた一人の兵士がしっかりと聞いていた。





ペルシア湾 アロウズ母艦

「こんな作戦が許されてなるものか!!!!」

ミンはその一念で自分の愛機のもとへと歩を進めていた。
オートマトンをキルモードで使用する。
相手がなんであろうと、こんな残虐なことが許されていいはずがない。

「しかし、どうするのですか大尉!?ライセンスがあっても我々が作戦を中止させることなど……」

「先に出撃して説得に当たる!!それしか方法はない!!」

「しかし、上層部が…」

「くどい!!救える命を見捨ててなにが軍人だ!!!!」

部下の心配を一蹴してミンは早足で歩いていく。
だが、

「あなたのアヘッドは整備中で出せませんよ、ミン特務大尉。」

「アンドレイ少尉……!!」

格納庫の扉の前にいたアンドレイは淡々と話す。

「今までの戦闘で摩耗が激しい部分があるそうです。なので、今回の出撃はご遠慮ください。」

ウソだ。
自慢ではないが、ここ数年でまともに攻撃を受けたことはなかったし、整備も欠かさずにしていた。
不具合などあるはずがない。

「リント少佐の差し金か……!!」

あの蛇のような冷徹な笑みが頭の片隅をよぎる。
自分を毛嫌いしている彼ならば、これくらいのことはやるだろう。
まして、ここは完全にアウェーだ。
周りも協力を惜しむはずがない。

「あなたがどう思おうとそれは勝手です。ですが、あなたが我々の作戦の邪魔をしようとしていたのは事実です。」

アンドレイはミン達のすぐ横をすたすたと歩いていく。

「あなたは何もわかっちゃいない。今、平和を守るために必要なのは慈悲じゃない。ときに何かを切り捨ててでも前に進む非情さだ。」

すれ違いざまに聞こえたアンドレイの言葉に、ミンは壁に拳を叩きつけるほどの怒りを覚えていた。







ルブアルハリ砂漠 連邦軍 戦艦

「この馬鹿者が!!!!」

怒号とともに振り下ろされたセルゲイの拳で、彼の部下は床に這いつくばる。
しかし、そんなものでセルゲイの怒りが収まるはずもない。

「誰がアロウズに報告しろと言った!!!」

「しかし、それが私たちの任務です!」

「判断するのは私だ!!」

反抗的な目で自分を見上げる部下に、落胆の色を隠せないセルゲイ。
しかし、それよりも今は彼の安全を確保するのが先だ。

「クロスロード君、今すぐここから脱出するんだ。」

「え!?どういうことですか!!?」

駆け足でやってきたセルゲイの言葉に驚きを隠せない沙慈。
だが、セルゲイにはそんなわずかな時間ですらも惜しかった。

「君の存在をアロウズに知られた。やつらは超法規的部隊だ。私の権限で君をかばいきることはできん。」

「そんな!!」

「急ぐんだ!!」

不平を言おうとした沙慈はセルゲイの怒鳴り声に体をすくめる。
だが、すぐにそれが彼の本心ではないことを理解した。

(震えている……)

セルゲイの手がかすかだが、ぶるぶると震えている。
自分の無力さに、沙慈を救えない自分への怒りで震えていた。

「……わかりました。」

「すまん……」

それだけ言葉を交わすと、沙慈は車が置いてある場所までの道を急ぐ。
そんな中、ふと車のキーを私くれた男の顔が頭をよぎる。

(なんなんだ……クソ!!)

関係ない。
ここから街までの方角はすでに教えてもらっている。
誰がどうなろうと関係ない。

『自分の平和のために犠牲になれと言えるのかい?』

知らない。
そんなの、知ったことじゃない。
戦争なんて、やりたいやつが勝手にやればいい。

沙慈は猛スピードで砂漠に飛び出すと、そのまま街の方へ向かおうとする。
だが、そんな彼の目にあるものが飛び込んでくる。
赤い光を放つ粒が、自分が来た方角へと飛んでいっている。

「あれは……まさか!?」

口の中がどんどん乾いていく中、沙慈は無意識のうちにカタロンの拠点へと車を走らせ始めた。





プトレマイオスⅡ ブリッジ

「王留美より、緊急暗号通信!」

フェルトの声でブリッジに緊張が奔る。

「アロウズのMS隊が、カタロンの施設へ向かっているそうです!」

スメラギは各々が自分の席に着いたのを確認すると、すぐさま結論出す。

「救援に向かうわ!!トレミー、対衛星光学迷彩を張って緊急浮上!ガンダムの発進準備を!」

「了解です!!」




コンテナ

『トレミー、緊急浮上を開始しました。海上まで、あと0043です。』

「急げ……急げってんだよこの野郎……!!」

今のロックオンにはフェルトの声は届いていなかった。
仲間が、今まさに危機にさらされているのにこんなところで足止めを食っている自分が歯がゆい。

「頼む……急いでくれよ!!」





カタロン拠点 内部

プトレマイオスの中以上に、ここは大変な混乱に陥っていた。
そう簡単に見つかるはずのないこの場所へ、今頃になって急に敵部隊が押し寄せてきたのだ。

誰もが基地の中を駆け回っている中、クラウス・グラードはただ一人冷静になろうと努めていた。

「クラウス、うってでよう!!」

「駄目だ!戦力差がありすぎる!」

ここで出ていっても、圧倒的な性能差の前に袋叩きにされるのがオチだ。
ならば、

「守りを固めて、ソレスタルビーイングの救援を待つ!!」

「来てくれるのか!?」

「私は信じる!!そう……信じるんだ!!」

来るかどうかはわからない。
あの時は、協力はできないと言われたのだから、普通は来ないと思うだろう。
だが、それでも信じる。
信じなければ、道は開けない。
と、その時。

「うおっ!!?」

基地全体が大きく揺れ、電灯が激しく点滅を繰り返す。

「爆撃か!!」






外部

中以上に外は大変な状態だった。
崩れた外壁の隙間からMSが出撃するものの、旧式のティエレンやヘリオンでジンクスに対抗できるわけもなく無残にスクラップへと変わっていく。
戦いとすら呼べないような一方的な蹂躙に、アロウズの兵たちは何も感じてなどいないようだが、ただ一人だけ怒りとやるせなさを感じている人間がいた。

「あんな旧式のMSで……!!」

ピーリスは震える指で引き金を引く。
まるでおもちゃのようにあっさりと壊れていく。
だが、あの中には人間が乗っているのだ。
自分が死の恐怖にさらされることなく一方的に相手の命が散っていく。
そのことに、ピーリスは疑問を感じずにはいられない。
人間として。
そして、兵士としても。

(こんなことが……!!)

今ならわかる。
べつにカタロンやソレスタルビーイングを支持するわけではないが、こんなことを認められるはずがない。
だが、これだけで終わりではなかった。

『これより敵基地の掃討作戦に入る!オートマトン起動!』

『了解!』

「そ、そんな…!!」

こともなげに言っているが、キルモードのオートマトンは容赦などしない。
それこそ、中にいる人間が非戦闘要員だろうと皆殺しだろう。

『オートマトン、射出!』

「ま、待って!!」

ピーリスの呼びかけもむなしく、アヘッドの背中から無数の箱のようなものが轟音と砂煙を巻き上げながら基地の中へと落ちていった。
そして、

「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

銃声や爆発音に交じってかすかに、だが確かに断末魔の悲鳴が聞こえてくる。

「そんな…!!こんなことが…!!」

それは、まさしく悪夢のような光景だった。
一方的に命を奪いながらも何も感じない兵士に無機的な動きで命を奪っていく無人兵器。
希望など一片もないように思われる戦場。
だが、それは舞い降りた。

いくつもの閃光が固まっていたアロウズのMS部隊を分断する。
光が放たれてくる先には、四機の瑠璃色の天使が紅蓮の悪魔を討つべく向かってくる。
だが、

「遅かったか!!」

ティエリアの言うとおり、遅すぎた。
すでにカタロンのMSは全滅に近い状態で、動いているものもすでに満身創痍の状態だ。

「カタロンの人たちは…」

『ここは任せる!!』

「ロックオン!!?待って!!」

ロックオンはユーノの制止の声も聞かずに地上へと向かう。

「急げよ……ガンダム!!」

しかし、当然のことながらその前にはジンクスが立ちはだかる。
だが、今度は遠方から砲撃がジンクスたちを薙ぎ払う。

「トレミー!?どうしてここに!!?」

少し離れたところで待機しているはずのプトレマイオスがそこにいた。

(ユノユノ、聞こえるっスか!)

「ウェンディ!?」

(今からあたしとエリオであのできそこないのガジェットもどきをぶち壊すっス!!)

「な!!?」

(そういうわけでよろしく!!)

「いや、よろしくじゃなくて……あ、ちょっと!!?」

念話が一方的に終了してしまったことに若干の怒りを覚えたものの、今のユーノはほかのことに気をまわしているほどの余裕があるわけなどなかった。






十分前 プトレマイオスⅡ ブリッジ

「ひどい…!!」

フェルトは砂漠の一角で上がる爆煙を見ながら呟く。
惨劇の様子は、戦闘空域にいないプトレマイオスのブリッジからもはっきりと見えていたし、誰もがフェルト同意見だった。
そして、マイスターたちに自分たちの思いを託すしかないことへのやるせなさも。

(私たちには、見てることしかできないの……!?)

フェルトは悔しさで目を閉じ、俯いていく。
すると、そこへウェンディとエリオがデバイスを発動した状態でやってくる。

「あなたたち、何を!?」

「僕たちをあそこまで連れていってください!!お願いします!!」

「まさか……戦うつもりか!?」

ラッセの言葉にエリオがうなずく。
だが、

「馬鹿を言わないで!!相手はMSなのよ!!?」

生身の人間がMSに敵うはずがない。
たとえ魔法を使えようが、その事実は変わらない。

「あなたたちがどれほど優れた力を持っていても…」

「それでも、あの人たちを助けることぐらいはできるはずっス!!」

「僕たちを置いていってくれたらそのまま引き返してくれて構いません!!だから、お願いします!!いかせてください!!」

二人は深々と頭を下げて嘆願する。

「……約束して。MSには絶対手を出さないことを。」

スメラギの言葉にバッと顔を上げると、ブリッジのメンバーが溜め息交じりで発進の準備を進めている。

「あ…ありがとうございます!!」

「危ないと思ったらすぐに逃げてね。あなたたちに何かあったら、ユーノに合わせる顔が無いわ。お願いよ。」






現在 ルブアルハリ砂漠

砂塵を巻き上げながら突き進むマレーネの上には、戦闘機のパイロット用の制服のようなバリアジャケットをつけたウェンディと、半袖半ズボンと白い薄手のコートを羽織ったエリオが乗っている。

〈間もなく戦闘区域です。流れ弾に注意してください。〉

「了解!スターズ5、一気に突っ切らせてもらうっス!!エリオ!!」

「OK!!いつもみたいにブンまわしてくれていいよ!!」

「その言葉を待ってた!!」

エリオがしっかりとつかまったことを確認したウェンディはマレーネを巨大な弾が飛び交う戦場へと突っ込ませる。
砂の柱があちこちで上がる中、ウェンディとマレーネはその間をまるで波乗りでもするようにするすると縫うように進んでいく。
そして、

「エリオ、あれ!!」

ウェンディが指さす先には四足のマシーンが銃弾をあちらこちらに乱射しながら、死体の山を築きあげている光景があった。

〈Sonic move〉

一瞬、稲妻が奔ったかと思ったときには一機のオートマトンの頭部に幼い騎士の槍が突き刺さっていた。
カタロン達は何が起こったかわからず押しを抜かすが、オートマトンは機械故に混乱など起こさない。
突如として出現した小さな襲撃者も冷徹に排除しようと試みる。
だが、その前に今度は嵐のような光弾がエリオに銃口を向けていたオートマトンを破壊する。

「……ざっけんなよ…!!」

こんな機械で人を傷つける痛みを感じないで命を奪う。
ウェンディだけでなく、エリオも激しい怒りに燃えていた。
どうしてもアロウズが自分をモルモットにしていた連中とかぶって見える。
二人の若い戦士の心に火をつける理由はそれだけで十分だった。

「これが……!!」

「人間のすることかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

灼熱の太陽の下、二人は咆哮する。
そして、二人の抱いた想いは空を駆けるマイスターたちと同じものだった。




「自ら引き金を引こうとしないなんて…!!」

アレルヤも多くの人間の命を奪った。
その罪はどんな理由をつけても消えることはない。
だが、こいつらは違う。
自らの手を汚すことすらも拒み、それでも他者の命を奪っていく。

「罪の意識すら持つ気が無いのか!!!!」

戦闘機形態になったアリオスの先端に挟まれたジンクスは腰で真っ二つにされ、黒煙を生じながら空に消えた。




別の場所では、ティエリアが今まで感じたことのないほどの憤怒に身を焦がしていた。
いや、怒りすら通り越えて絶望すら覚える。

「お前たちは……どこまで愚かになれば気がすむんだ!!!!」

怒りにまかせて両手のGNバズーカを合体させ、その間にエネルギーを蓄積していく。

「ダブルバズーカ、バーストモード!!!!」

砲門の前に発生した巨大な光球がジンクスを粉砕しながらさらに上へと消えていった。




「こんなことをしても何も感じないのか、あんたたちは!!!!」

クルセイドのバンカーが炸裂し、地上へと叩きつけられたジンクスは炎と金属片に変わって辺りに飛び散る。
しかし、それを最後まで見ることなくユーノは次の敵に襲いかかりブレードで背中のGNドライブごと貫く。

「こんな…ことを……父さんの命を奪って、お前たちは……!!」

変わらない。
やはり、どこに行っても人間という生き物は変わらない。
正義という名のもとに群れたとき、平然と倫理観を捨て去る。
誰にも裁かれないのをいいことに。
ならば、

「なら……僕がお前たちを断罪する!!!!」

アームドシールドを縦にまっすぐ振り下ろし、とどめとばかりに横薙ぎの一撃も叩きこむ。
四分割にされたジンクスは物言わぬ鉄塊になり果て、赤い尾を引きながら落ちていった。




ピーリスは目の前で背を向けているモスグリーンのガンダムを撃つことすら忘れ、その光景をただ呆然と見つめていた。
この光景を見ているとはっきりとわかる。
今、自分は人の命を奪ったのだ。
これが、戦争なのだ。

「!!」

オートマトンをすべて破壊したガンダムが今度はスマルトロンめがけて両手に持っていた銃の引き金を引く。
気が抜けてしまっていたピーリスも、流石に正気に戻る。
だが、

「ゆるさねぇ…!!ゆるさねぇぞアロウズ!!!!」

(っ!!)

反撃することができない。
指が震えて、いつもの動きができない。
ピーリスは盾で光弾を受け止めると、そのまま離脱していく。

敵はすでに射程外まで逃げたのだが、それでもロックオンはビームピストルの連射をやめようとしない。

「逃げんなよ…!!」

ここまでやらせておいてろくに被害も受けずに退却などさせるものか。
一機でも多く叩き潰してやる。
なのに、敵はどんどん逃げていく。

「逃げんなよぉ…逃げんなよアロウズゥゥゥゥ!!!!!!!」

ロックオンの叫びは、四機のガンダム以外いなくなった空に虚しく響いた。










戦いは終わった。
しかし、残された者たちの胸に押し寄せてくるのはやり場のない悲しみと怒りだけだった。
そんな様子を、夕暮れの中で遠くから眺めている影があった。

「あ……あ………!?」

夢だと思いたい。
そうだ、きっとこれは悪い夢なのだと沙慈は自分に言い聞かせる。
だが、よろよろとついた膝から伝わるさらさらとした感触が全て現実であることを思い知らせる。

「僕が……僕が、話したせいで………!?」

瓦礫になり果てたあそこにいた子供たちも、キーを渡してくれた男も、全員傷ついた。

「そんな………そんな………!?」

沙慈が地面に手をつくと、首にかけられていた金色の鎖と指輪が高い音を奏でる。
その指輪と対をなすものを指にはめるはずだった人を傷つけた存在と同じことをしてしまった。
刹那に対して言ったはずの言葉が、そのまま自分へと返ってきた。
自分も、人殺しになった。

「う……嘘だ……嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

どれほど否定しても、沙慈自身がよくわかっていた。
戦いから逃げるために、大勢の命を犠牲にしたことを。







アザディスタン王国周辺

ルートが限定されているせいで夜までかかってしまったが、刹那たちはアザディスタンまで一歩手前というところまで来ていた。

「間もなく、アザディスタンだ。」

「やっと、帰ってこれたのね…」

「ああ、“あんた”の国だ。」

刹那のその言葉にマリナは悲しげに笑う。
刹那は、自分の国でもあるのに俺たちの国だとは言わなかった。
おそらく、アザディスタンには自分の居場所などないと思っているのだろう。
それでも、マリナは刹那にここが自分の国だと言ってほしかった。
そばに、いてほしい。

「もうすぐ雲を抜けるぞ。」

刹那の言葉にマリナは現実に引き戻される。
目の前に広がる厚い雲が徐々に消え、赤い景色が……

((赤い……?))

もうすでに夕暮れ時ではない。
赤など見えるはずがないのだ。

(なんだ……!!?なぜこんな時に思い出す!!?)

あの赤髪の男。
存在しない神をあがめさせ、戦場へと自分を送り込んだあの男が。
ロックオンが自らの命をかけて葬ったはずのあの男のことが気になって仕方がない。
刹那はじんわりと手に汗をかきながら雲のその向こう側へと出ていった。

「これ…は……!?」

「アザディスタンが…!!」

「燃えている…!!?」

まさに、地獄絵図だった。
炎が居住区を包み込み、ありとあらゆるものを飲み込んで燃え盛っている。
生存者がいるかどうかなど、問いかけることがバカバカしく思えるほど街は破壊されきっていた。

「どうして…!?どうして、アザディスタンが…!?」

「この規模……テロなんかでは…っ!?」

そいつは燃え盛る建物を、芸術作品を見るかのように見下ろしていた。

「あれは、ガンダム!!?しかも、あの色は、まさか!!!」

忘れるはずがない。
あの男が自分のしている機体にするパーソナルカラー。
あの紅蓮の色を、見間違えるはずがない。

「くっ!!!!」

「刹那!!?」

刹那は大きく舵をきって旋回すると、今来た道を急いで戻り始める。

「刹那待って!!!!」

「駄目だ!!諦めるんだ…!!」

「でも!!!!」

「あそこは!!!!」

一段と大きい刹那の声にマリナは言葉を止められる。

「アザディスタンは……“俺たちの国”は、いつかあんたを必要とする日が来る…!!だから、その時まではこらえてくれ…!!」

「刹那………」

刹那はマリナがいなければ声をあげて泣いていただろう。
それほどまでに、あの男に対抗できない己の無力が悔しかった。
そして、マリナもまた、刹那の国が守れない自分の無力にただ涙を流し続けた。







天使たちは、己が敵がいかなるかを知る
だが、新たなる影もまた、天使の翼をとらえつつあった





あとがき・・・・・・・・・・・・・という名の要注意

ロ「カタロン基地編な第四話でした。そして結構お待たせして申し訳ございません。」

ヴィ「そしていきなりですが次回からすごい急展開になるので、『こんなもん体が受け付けんわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!』という方はご注意ください。」

ユ「一体何する気さ。いや、知ってるけど。」

ア「ていうか次回予告に行っちゃった方が説明の手間が省けるんじゃないかな?」

刹「また身も蓋もないことを……」

ロ「では、ホントにいつもより早いけど次回予告にゴー!!」

ヴィ「カタロンの基地が襲われた翌日。ソレスタルビーイングは彼らが逃げるための時間を稼ぐために海へとうってでる。」

刹「しかし、そこへ現れたのはアロウズではなかった。」

ア「はたして、現れたものとは一体なんなのか!?」

ユ「そして、トレミーのメンバーの運命は!?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければ、ご意見、感想、応援をよろしくお願いします!じゃ、せーの……」

「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」



[18122] 5.現れたモノ
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/11/29 22:31
ミッドチルダ MS用コンテナ搭載型艦船 アルデバラン

「准将、座標の特定が完了しました。いつでもいけます。」

「そうか。」

ファルベルは満足そうにうなずくとブリッジの真ん中の席にどっかりと腰をおろし、乗組員全員の顔を見渡す。
そして、

「これより我々は第97管理外世界-P2、もう一つの地球へと向かう。各員の奮起に期待する。」

「ハッ!アルデバラン発進します!」

号令とともに、最新式の艦はMSの技術をもたらした世界へと旅立っていった。







魔導戦士ガンダム00 the guardian 5.現れたモノ

カタロン拠点

消えない死臭が漂う中、マイスターたちは最初に会った時とはうってかわって非難の的になっていた。

「貴様たちがここの情報を漏らしたのか!!」

「そんなことはしていない。」

ティエリアは落ち着いた様子で淡々と話すが、詰め寄ってきた男たちはそんなものでは到底納得しない。

「貴様らのせいだ!!貴様らが仲間を殺したんだ!!」

一人が銃を抜いてティエリアの顔に突きつけるが、横にいたロックオンがその腕を掴む。

「やめろ!こいつらは何もしてねぇ!」

「わかるものか!!」

「信じろよ!!」

「けどよぉ…!」

男は銃を下ろし、大粒の涙をこぼし始める。

「仲間が……さっきまで笑ってたやつが…!!」

「わかってる……仇はとる…!」

ロックオンの説得に応じ、それまで男たちが向けていたやり場のない怒りは収まったが、今度は深い悲しみが押し寄せる。
そんな彼らを横目で見ながら、ティエリアはあたりを見回し考える。

「一体、誰がアロウズに……」

以前にもロックオンが言っていた通り、ここの周辺はGN粒子が絶え間なく散布されているせいで位置の特定は綿密な捜索を経なければ不可能だ。
そんな様子はここを訪れたときにはまったくなかった。
となると、残された可能性は一つ。
誰かがこの場所をアロウズ、ないしは連邦に属する者に教えたのだろう。
だが、堅く結束された彼らの中に裏切り者がいるとは考えにくい。

(だとすれば、比較的ここに来てから日が浅い人間、つまり……)

ティエリアが視線を移した先には一人の男の死体の前で震えている沙慈がいた。
ティエリアは背を向けてその場から離れようとする沙慈に素早く歩み寄って肩を掴む。
肩をびくりと震わせる沙慈だったが、ティエリアはそんなことなどお構いなしに人気のない廊下へと強引に引きずっていく。
乱暴に沙慈を壁へと放り出したティエリアは鋭い口調できりだした。

「何をした?」

「ぼ、僕は……」

「したんだな?」

その反応が証拠そのものだった。

「君は誰だ?アロウズのスパイか?」

「ち、違う!!僕は…」

咄嗟に言い訳を考えようとした沙慈だったが、目の前のティエリアの眼光に射すくめられて言葉を継げない。

「訳を話してもらうぞ。沙慈・クロスロード。」






プトレマイオスⅡ ラッセの部屋

戦闘の後、プトレマイオスの中も慌ただしい空気に包まれていた。
あの惨状を見ていたスメラギが突如倒れてメディカルルームに運ばれたかと思うと、今度はボロボロになったエリオが帰ってきたのだ。
目じりからあごにかけて続く二つの線は、煤だらけの顔も手伝って彼がここに来るまで泣いていたことを証明していた。
混乱のさなかにあるとはいえ、そんなエリオを放っておけるわけもなく、ラッセが自分の部屋に招くことになった。

「落ち着いたか?」

「はい……」

濡れたタオルで顔をぬぐったエリオはぐったりとした様子で俯いていたが、ふいに口を開いた。

「誰も、助けられませんでした……」

「そんなこたないだろ。お前らがいかなかったら、もっと被害が出ていたかもしれない。中にいた子供たちも犠牲になっていたかも…」

「それでも!!!!」

エリオはぶるぶると肩を震わせながら小さくしゃくりあげる。

「それでも……僕たちの目の前でたくさんの人が死んでいったんです!!!!死んでいったんだ!!!!」

ラッセは優しくエリオの肩をポンポンと叩く。

「お前らのせいじゃない。人間が一人でできることには限界がある。犠牲になったやつらは、お前らの努力の外にいたんだ。仕方がなかったんだ。」

「でもっ……!!」

「その気持ちは確かに大切だし、こんな光景になれちまってる俺たちはどっかおかしいんだろうな。けどな、酷な言い方かもしれねぇがここで、こんなことをしてるぐらいなら、これから先こんな思いをしないで済むようにするのが一番なんじゃないのか?少なくとも、俺はそうやって前に進んできた。」

ひとしきり言いたいことを言ったラッセだったが、それでもエリオは俯いたままだった。

「……俺はまだやることがあるからもう行くぞ。その泣きっ面が少しはまともになったらみんなに顔見せに来い。」

うなずく様子も返事をする様子もなかったのでそのまま部屋を後にしたラッセだったが、結局その日エリオがみんなの前に姿を現すことはなかった。






カタロン拠点

急激に温度が下がった外気が入ってくる中、死んでいった仲間たちの遺品を探していた。
感傷に浸っている暇などないが、ここを去るまでにはできる限り見つけて弔っておきたい。
その一心で寒さをこらえて歩いていた彼女の前に、ここにいるはずのない人物、マリナ・イスマイールが呆然と立ち尽くしていた。

「アザディスタンには戻らなかった…」

「シーリン!!」

「!?」

嫌みの一つでも言おうと思っていたシーリンだったが、涙を流すマリナに抱きつかれて言葉をなくす。

「アザディスタンが……!私たちの故国が……!!」

「アザディスタンが……?」






廊下

いやに明るく感じる廊下に、パシンと乾いた音が響き渡る。

「なんという……!何という愚かなことを……!!」

睨むティエリアと目を合わせることができないまま、沙慈は目の前のティエリアにではなく、自分を安心させようと言葉を紡いでいく。

「こんなことになるなんて……思ってなかった……!!僕は、戦いから離れたかっただけで…!!こんなことになるなんて……僕…」

ティエリアは短く歯ぎしりをすると、沙慈に現実を叩きつける。

「彼らの命を奪ったのは君だ!君の愚かな振る舞いだ!」

「!!!!」

「『自分だけは違う』、『自分には関係ない』、『違う世界の出来事だ』、そういう現実から目を背ける行為が無自覚な悪意となり、このような結果を招く!」

「僕は……!そんなつもりじゃ……!!」

だが、それが揺るぎようのない事実であることは沙慈もわかっていた。
それでも、今の沙慈には泣き崩れる以外どうすればいいかがわからない。
犠牲になった人たちに、そして仲間を失った人たちにどう償えばいいのか。

「ティエリア……っ!?」

「沙慈……!?」

「君たちか。」

帰ってきていた刹那と合流していたユーノが現れる。
カタロンの基地の惨状の理由を尋ねようとここに来た刹那だったが、目の前の光景に表情を厳しくする。

「どういうことだ?」

「アロウズの仕業だ。そして、その原因は彼にある。」

床に手をついて泣き続ける沙慈を見つめる刹那とユーノ。
彼が何をしたのかはわからないが、取り返しのつかないことをしたことは事情をよく知らない二人にもよくわかった。
だから、刹那は声をかける。

「立て、沙慈・クロスロード。」

「ぼ…僕のせいでっ……!!僕のっ……!!」

不意に、沙慈は自分の肩に手の感触を感じて固く目をつぶる。
おそらく、罰を受けるのだろう。
それだけのことを、自分はしたのだから。
そう覚悟を決めていた沙慈だったが、刹那から出てきた言葉は意外なものだった。

「いいんだ。」

「え……?」

泣くのも忘れて沙慈は刹那を見上げる。
見上げた彼の顔は、怒りでも失望でもなく、ただ悲しそうだった。

「ティエリア、沙慈はただの一般人に過ぎない。アロウズのスパイでもない。」

「ああ。」

刹那が静かに同意する。

「俺とユーノが保証する。そういうことができる人間じゃない。」

刹那は沙慈に肩を貸して立たせる。
フラフラと頼りない足取りだったが、沙慈は刹那から離れると自分の足で床を踏みしめる。

「ここにいたら何をされるかわからない。悪いけど、もう少し一緒にいてもらうよ。」

そう言って自分を力強く引っ張る手に、沙慈は今までにないような温かさを感じていた。







アロウズ母艦

失態だ。
今まで自分が指揮してきた作戦の中で五本の指に入るほどの大きな失態だ。
作戦の結果ではなく、その方法が最大の原因だ。
なのに、目の前にいるこの男はにやついた顔で賛辞を送ってくる。
そのことが、マネキンには何よりも許しがたかった。

「ガンダムの横やりで何機か失いましたが、反連邦政府組織の秘密基地を叩くことに成功しました。これは勲章ものですよ?マネキン大佐。」

「黙れ。」

「おや?掃討戦はお嫌いですか?私は大好きですが?」

「人殺しを喜ぶというのか!?」

マネキンの厳しい追及にも、リントはヘラヘラと挑発的に答える。

「なぜそこまで興奮なさっているのですか?あなたも以前、同じようなことをやっているではありませんか?」

リントのその言葉に、机の上に置かれていたマネキンの手に力が入る。

「いやはや……あれはとても不幸な事故でした……。誤情報による友軍同士の戦い……あなたはあの時、AEUの戦術予報士だったはず…」

「言うな!!」

マネキンは机を叩いて立ちあがるとリントの襟元を掴む。
確かに、その時に過ちを犯したし、そのせいで償いようのない罪を負った。
だが、その時の傷をこいつにえぐられるのが我慢ならなかった。
しかし、リントはそれでもうすら笑いを消さない。

「また味方に手を出すのですか?あんなことがあれば戦争に二度と関わりたくないと思うはず。それがなかなかどうして……」

そう、マネキンも一度はそう思った。
だが、彼女は逃げる道を選ばなかった。
あんな悲劇を二度と引き起こさないためにも、今こうして戦場に立っているのだ。
マネキンが手を離すと、リントは涼しい顔で襟元を正して頭を下げる。

「尊敬させていただきますよ?マネキン大佐。」

白々しい言葉に怒りを覚えながら、マネキンはリントが部屋から出ていく姿を黙って見送った。
この蛇のような男とは決して相容れないということを再確認しながら。
だが、

「私も、やつと変わらんか……」

そのことを、否応なしに理解させられた一日だった。






カタロン拠点

月明かりの中、シーリンはマリナからかなりショッキングな話を聞かされているにもかかわらず、気丈にふるまっていた。
ここで動揺を見せれば、マリナは間違いなくそのことで自分を追い詰めるだろう。

「都市部の主要施設はそのほとんどが破壊されてたわ……警察も、軍も機能していなかった……それでも、私はあの国に…ラサーに託された国を…!!」

「よく、戻ってきたわね……」

マリナの性格上、そんな光景を見せられて残ろうとしないはずがない。
もっとも、誰が彼女をここまで連れてきたかはわかっているのだが。

「刹那が強引に……」

「彼に感謝しなくちゃね…」

「なによ!!私は死んでもよかった!!アザディスタンのためなら、私はっ……!!」

「マリナ……」

シーリン震える彼女を静かに抱き寄せながら、再度ガンダムのパイロットへ感謝する。
彼でなければ、マリナは何があってもアザディスタンに残っただろう。
彼がいたからこそ、マリナはこうしてここにいられる。
もっとも、マリナ自身はそのことに気付いてなどいないだろうが。

(ありがとう……ガンダムのパイロット……)







アロウズ空母

明かりの消えた部屋で、ピーリスはふさぎこんでいた。
人を殺した感触がいまだに手から消えてくれない。
だが、

「あれが……いや、あれこそが本当の戦場。」

なにもわかっちゃいなかった。
いつか、セルゲイのもとへ帰れると信じて疑わなかった自分が恨めしい。
あんな感情、持たなければよかった。

「……?」

暗かった部屋に端末に何かが届いた音がする。
机に近づいてモニターを見てみると、メールを現す封筒のマークの下に懐かしい文字の羅列が光っている。

「大佐からの暗号文……?どうして、頂部のみで使用されていたもので……?」

不思議に思いながらメールを開いてそれを読み始めた瞬間、ピーリスの頬を透明な筋がいくつも伝っていった。

『手の込んだ連絡をしてすまない。アロウズに気付かれたくなかったのでな。中尉が、カタロン殲滅作戦に参加したことを聞いた。そのことで、私は君に謝罪しなければならない。実は、私が入手した情報のせいであの作戦が行われてしまったのだ。辛い思いをさせるようなことをしてすまない。気に病むな、といっても無理かもしれないが、中尉はあくまで命令に従っただけだ。だから、どうか自分を責めないでほしい…』

まだ続きはあったが、歪んでいく視界のせいでまともに読むことができなかった。

「そんな……大佐自身も辛いはずなのに、私を気づかって……!!」

彼が辛い思いをする必要はない。
これは、自分が受けるべき罰なのだ。
兵器でありながら、人並みの幸せを掴もうとした自分への。
セルゲイまでもがそれに巻き込まれる必要はない。
だから、

「ありがとうございます、大佐。私は大佐のおかげで、自分が超人機関の超兵一号であることを再認識しました。私は兵器です。人を殺すための……道具ですっ…!!幸せを、手に入れようなどっ…!!」

涙で前が見えなくなっても、ピーリスは敬礼をやめなかった。
そう、たとえ見えなくても、ピーリスにはセルゲイがそこにいると思えたのだから。






プトレマイオスⅡ ブリッジ

翌日、さまざまな問題を抱えながらも今後の方針自体は決定した。
ただ、

「スメラギさんの容体は?」

遅れてやってきたラッセとフェルトにアレルヤが問うが、フェルトは黙って首を横に振った。

「そっか……」

「ま、それはそれとして、カタロン側の状況は?」

「モニターに出します。」

ロックオンの問いに応え、ミレイナがモニターに外の様子を映す。
そこには、搬入されてきた物資をトラックに積みながら出発の準備をする彼らの姿があった。

「カタロンさんたちの移送開始は予定通り1200で行われるです。」

「アロウズは来るぜ。間違いなくな。」

モニターが切り替わる前にロックオンが言う。

「わかっている。」

ティエリアが苛立った様子で答える。
わかっているからこそ、今自分たちが置かれた状況がどれほどマズイものかもわかる。

「ガンダムを出す。」

刹那の言葉に、アレルヤが戸惑う。

「しかし、戦術は…スメラギさんが倒れたこの状況では……」

「それでも、やるしかないだろ。」

ラッセが操舵席に着く。

「トレミーを海岸線に向ける。敵さんに見つけてもらわないとな。」

「了解です。」

「プトレマイオス、はっし…」

「待って!」

今まさに発進しようとしていたところで、ユーノの大声がそれを止める。

「どうした?」

「え…?あ、いや、その……」

ティエリアに追及されて、ユーノは言葉を濁す。
嫌な予感がする。
そんな理由で、止めるわけにはいかないことなどわかっている。
けど、

「……ううん。ごめん、なんでもない。」

「そうか……」

ティエリアは最後までいぶかしげに見ていたが、結局プトレマイオスは海岸線へとうってでた。







?????

「向こうも覚悟を決めたみたいだ。囮になるため、海岸線に出ていく。」

『そう。それじゃ、あなたたちの出番は…』

「どうかな?」

「ヴァイス、どうかした?」

「さっきからエウクレイデスの観測装置が振れっぱなしだ。」

『それって…!』

「ああ、間違いなく連中がこっちに来る。……チッ!よりにもよって最悪のタイミングで……」

「フン、泣き言言ってる場合かよ。連中だけじゃ荷が重いんなら、俺様とお前らが手伝ってやるしかねぇだろ。」

「というわけで、僕らも出ることになりそうだよ、シャル。」

『わかった。彼らのサポート、お願いね。』

「了解!」





ペルシア湾 海岸線

『そろそろ、こっちに気付いた敵さんがやってくるころだ。ガンダムを出すぞ。』

コックピットの中でその言葉を聞いていたユーノだったが、さっきから胸騒ぎが収まらない。
それに合わせるように、まるで空気も不気味に震えているように感じる。
だが、

(なんだ……?この感じ、前にもどこかで……)

無垢な力が、悪意に振り回されているようなこの感覚。

(いつだ…!?思い出せ……!!)

クラナガンでの戦い?

(違う……!)

R・A事件?

(違う…!)

闇の書事件?

(違う!)

そうだ、それよりも少し前。
フェイトと初めて会ったあの事件。
P・T事件の時、時の庭園を中心に引き起こされようとしていた現象。

(次元震!!?)

いや、少し違う。
あの時のように無秩序にノイズが奔るようなものとは違い、今回はチューナーで調律されたような規則性がある。
そこを辿った先には……

(マズイ!!!!)

ユーノはそれが何かわかったと同時に、全ての回線へ向けて大声をぶつける。

「全員対ショック姿勢!!!!ブリッジ、思いっきり面舵をきって!!!!」

『な!!?』

「早く!!!!」

ユーノの勢いに負けてラッセは混乱したまま舵をきるが、その理由はすぐにわかった。

「なんだ、ありゃ!!?」

プトレマイオスの前方に七色の稲妻が奔る黒い穴のようなものがぽっかりとそこの空間を飲み込んでいる。
そして、そこから現れたのは、

「戦艦!!?でも、あんなのデータベースに…」

フェルトが驚いたのはそれだけではない。
こちらのゆうに二倍はあるであろうその巨体。
そして、両脇から伸びた艦首の間に備え付けられた大きな砲門が不気味にこちらを向いている。
しかし、そんなことを確認している余裕はラッセにはなかった。

「喋るなフェルト!!舌を噛む……ぜっ!!!!」

「きゃああああああああ!!!!!」

突如現れたそれをかすめながらも、プトレマイオスは何とか横並びの状態でそれと相対する。

「こいつは…!!って、おい!!?」

ラッセが続いて驚愕したのはそれの長く伸びた両脇の艦首から続々とジンクスに似た機体が飛び出してくる。

「後ろをとられたです!!」

「見りゃわかる!!!!それより、ありゃなんだ!!?ジンクスみたいだけど、なんかフラッグみたいなのもいるぞ!!?」

「識別……データにありません!!」

「新型か!!?それにしたって、さっきのは…うおっ!!!!」

「きゃあ!!?」

敵と思われる機体からの射撃にプトレマイオスが大きく揺れる。
しかし、謎の襲撃者に混乱を極めているラッセ達は冷静さをどんどん失っていく。
そこへ、

『ミレイナ、ガンダムの発進シークエンスに入って!!フェルトはガンダムが全機発進したのを確認したらすぐにGNフィールドを展開!!ラッセ、バロネットとフュルストはこっちで押さえるからどうにか敵艦と向かい合うような形までもってって!!!!』

ユーノは今とるべき行動を的確に指示していく。
だが、ラッセ達は訳がわからないままなのは変わらない。

「ユーノ、なんなんだありゃ!!?訳がわかんねぇことだらけだぞ!!?」

ラッセの声にユーノは唇をかみしめる。
認めたくなかった。
どこかでこんな日がいつか来るのではないかと思いながら、あり得ないと不安に蓋をしていた。
だが、こうして現実にやつらは現れたのだ。

『……管理局だ。』

「なに!!?」

『あいつらは、管理局だ……!!』






アルデバラン ブリッジ

「敵艦からの反撃ありません。」

「結構。しかし、まさか出て来てすぐにエンジェルと同じGN粒子を使う艦に出会えるとはな……これもまた運命か……しかし……」

ファルベルは笑ってこそいるが、目的は果たせていない。
あの瑠璃色のGN粒子を出すGNドライヴを搭載した機体が出てきていない。
こちらが使っているGNドライヴと違って、あれは粒子のチャージをしている様子はなかった。
つまり、

「長時間の作戦行動が可能……!!渡してもらうぞ、正義のためにな……!」

「准将。」

一人の局員から声をかけられた瞬間、バロネットが一機爆発した。

「敵MSが出てきました。総数、5。」

「そうか、ようやく本番というわけか……では、見せてもらおうか、エンジェルの真価を!!」






プトレマイオスⅡ周辺

「異世界のMSねぇ……そういうジョークは、テレビドラマの中だけにしな!!」

ケルディムの両手に握られたビームピストルが火をふく。
しかし、弾丸の雨は大群の中の二、三機をとらえただけで残っていたバロネットたちが次々に押し寄せてくる。

「チィッ!!こいつら、動きは素人に毛が生えた程度だが、数と武器の威力だけはだんちだな!!」

「だが、この程度でガンダムが!!」

セラヴィーの砲門から幾度も閃光が放たれる。
それを援護するようにセラヴィーの周囲を旋回していたアリオスもライフルでバロネットを撃墜していく。
だが、

「おかしい……!」

「アレルヤ?」

刹那は目の前にいた一機を斬り捨てるとアレルヤの声に耳を傾ける。

「このMS、動きがどれも同じだ!」

「「「!!!!」」」

この統率のとれた動き。
それこそ、一機一機がチェスの駒のように自らの犠牲を顧みずに与えられた役割を果たしている。

「まさか……!?967、サーチを…」

「もうやっている。これは……当たりだ。こいつらに、人間は乗っていない。」

「な!?」

嫌な予感が的中してしまった。
間違いなく、空戦魔導士の動きをAIに再現させているのだろう。

「MSならぬMD(モビルドール)ってか!?悪趣味にもほどがあるぜ!!」

「MSまで無人に…!!こんなもので人の命を奪って何とも思わないのか!!?」

激昂するロックオンとアレルヤの猛攻になす術もなく散っていくMD。
しかし、それでも押し寄せるバロネットのうちの数機が防衛線を抜けてプトレマイオスへと向かっていく。

「しま…ぐぅっ!!」

防衛へと向かおうとしたクルセイドを他の四機とは比較にならないほどのバロネットの大群が取り囲む。

「クッ……人形遊びをする歳でもないんだけどね……」

「だが、どうしても付き合ってほしいようだぞ?」

967のその言葉に、ユーノは一筋の汗を垂らしながら鋭い笑みを浮かべる。
そして、

「なら……とことん付き合ってもらうぞ!!!!」

荒れ狂う風となったクルセイドは、良心の呵責も死への恐怖もない兵器たちへと向かっていった。







アロウズ母艦

「ガンダムが識別不明の部隊と戦っているだと?」

マネキンは横を歩く兵士からの報告を聞きながらブリッジへと急ぐ。
ソレスタルビーイングは囮となるために海へとうってでてくることはわかっていたが、それを迎え撃とうとしていた自分たちよりも先に手を出した存在がいる。

(しかし、識別できないとはどういうことだ?カタロン……はあり得ないか。あれだけ協力してもらっておいて手の平を返す理由が無い。だが、カタロン以外に一体どこの誰が…?)

「大佐!」

マネキンがブリッジの入り口に到着したとき、若い女性の兵士が駆け寄ってくる。

「どうした?」

「それが……上層部からガンダムとの戦闘が終了したら、出現した部隊とコンタクトを図れと……」

「なに?」

訳がわからない。
敵の敵が味方とは限らない。
しかし、言われたからにはやるしかない。

「了解した。だが、こちらの呼びかけに応じなかった場合は……」

「その時は大佐に任せるとのことです。……あの。」

「なんだ?」

つっけんどんな言い方に金色の髪をしたその兵士はすくむが、マネキンの顔をまっすぐに見つめる。

「……大佐は、この命令をどう思われますか?」

「どう、とは?」

「……いえ、なんでもありません。差し出がましいことを聞いて申し訳ありません。」

そう言うと兵士は敬礼をしてその場を去ろうとする。
そんな彼女に、マネキンは気付いたら声をかけていた。

「待て。名前を聞いておこう。」

「は?」

「木石でないならば名前ぐらいあるだろう。」

「は、はい!」

改めて敬礼して、彼女は名前をはっきりとした声で述べる。

「先日付でこちらに転属となりました、ルイス・ハレヴィ准尉です!」

「そうか……覚えておこう。」

マネキンはそれだけ言い残すと横にいた兵士とともにブリッジへと入っていくが、一人になったルイスはその場で肩を落とす。

「昨日のあいさつ……私もいたんだけどな……」

マネキンの記憶力は悪くはないのだが、昨日の作戦のせいで彼女のこと頭の中に叩きこむには至らなかったようだ。
しかし、そんな事情を知らないルイスはこんな調子でこの手でガンダムを倒すという目的を果たせるかどうか不安を覚えるのだった。






?????

「良いのかい?」

「なにがだい?」

「いきなり出てきたあれのことさ。近くにいる部隊に接触を図らせるんだろう?少し不用意じゃないかい?」

「さあ、どうかな?」

リジェネが珍しく厳しい表情で追及してきたことにリボンズはクスクスと笑いながらはぐらかすように答える。
リジェネはそのせいでさらにムッとした顔になるが、それがリボンズには面白くて仕方ない。
しかし、これ以上もったいつけるのはかわいそうだろう。

「これを見なよ。」

「?」

二人の前の大きなスクリーンの前にあるデータが開示される。

「これは……!?」

「そう、あれが現れたときと、ユーノ・スクライアが出現、そして消えた時の反応は驚くほど酷似している。つまり……」

「あれは彼と何かしらの関係がある……そういうことだね?」

「そういうことさ。それに……」

「それに?」

リボンズはツゥっと口の端を吊り上げる。

「僕の中にある何かがざわめくのさ……。あれは使える、ってね。」








プトレマイオスⅡ 医務室

彼は、ベッドに横たわっていた。
リーサ・クジョウは自分を信じると言ってくれた人の手をとって必死に呼びかける。
その時、ふと彼が口を開く。

『かのために生まれ、かのために死す……それを運命というのなら、抗うことかなわず……見えない道を旅し、行きつく先にあるものは、命の終焉……それこそが、神…の……』

彼の声はそこで途切れ、それと同時に握る手から一気に温かさが消えていく。

「エミリオ…?」

わかっているのに呼んでしまう。
答えてくれるはずなどないのに。

「エミリオ!?エミリオ!!!!」

その時、何かに両腕を掴まれたリーサは彼から離されていく。

「待って!!エミリオ!!!!エミリオ!!!!!」

しかし、彼女の呼びかけは虚空に消え、彼の姿も闇の中に消えていった。





スメラギが目を覚ました時に見えたのは白い天井だった。

「……わかってる。だけど、私にもまた守りたいものができたの。いつまでも、縛られているわけにはいかないの。」

スメラギは治療着のままカプセルの外へ出ると、自分を待つ者たちのもとへと急いだ。





ブリッジ

「GNフィールド、出力70%まで減衰!!」

「くそっ!!」

ラッセはいつになく重く感じる舵を握りながら歯を食いしばる。
先程からイアンが砲撃に回って近づいてくる敵を撃ち落としてはいるが、プトレマイオスにくる敵は増加して行っている。
いままで、損傷を負っていないのが不思議なほどだ。

「おかしいわね……」

「スメラギさん!?」

治療着のまま現れたスメラギに誰もが驚くが、スメラギ自身はいたって落ちついていた。

「事情は、この二人から聞いたわ。」

「フェルト~!生きてるっスか~!」

「ラッセさん!!大丈夫ですか!?」

「エリオ、ウェンディ!!?」

バリアジャケットを展開したエリオとウェンディがスメラギを押しのけて飛び込んでくる。
そして、

「あたしらも出るっス!!あんなポンコツ三等兵、あたしらでも…」

「駄目よ。」

ラッセが怒鳴ろうとしたところに、スメラギの澄んだ声がブリッジ全体に通る。

「全員、何かにしがみついておきなさい。」

「え?」

スメラギの言うことがわからず緊張感のない返事をするクルー。
だが、スメラギだけはこの後起こるであろう事態を曖昧ではあるが予想していた。
そして、それは現実のものとなる。






プトレマイオスⅡ周辺

「はああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

刹那は何機目かわからないバロネットを斬り捨てる。
ダブルオーの周りはすでにかなり数が減っているが、プトレマイオスはいまだに攻撃を受け続けている。

「クソ!!はやく、救援に…」

ダブルオーが振りむいた瞬間だった。
海中から飛び出した何かがトレミーの周りにいたバロネットの一機に突き刺さる。
それは一回だけでは終わらずどんどん海中から飛び出してきてバロネットを撃ち落としていく。

「一体、何が……」

『おい、青いガンダムのパイロット。』

「!!?」

突然の声。
しかし、それは刹那の言葉を待たずに一方的に話してくる。

『悪いが間に合わなかったみたいだ。他の連中と一緒にお前らの艦に集まれ。じゃないと……』

少しの間の後、謎の声は告げる。

『仲間と離ればなれになるぞ。』

その時になってようやく刹那は気付いた。
よく見ると周りに味方がいない。
それだけではない。
全てのガンダムが完全に孤立させられている。

「……!!マズイ!!」

その時、刹那は感じていた。
敵艦の主砲と思われる部分にたまっている不可解な力。
目に見えないが、何かよくないものであることはわかる。
刹那は、瞬時に回線を開いていた。

「全機、トレミーの周りにかたまれ!!!!」

「刹那!?」

「早くしろ!!!!」

しかし、刹那の警告は一足遅かった。





アルデバラン ブリッジ

「ふむ、ここまで減らされるとはな……流石だと称賛させてもらおう。だが……」

搭載してきたMSの半数以上が撃墜されたにもかかわらず、ファルベルの口元には余裕の笑みが浮かんでいる。

「准将、チャージが完了しました。」

「よろしい。では、彼らに渡してくれたまえ……私からの招待状をな……」







プトレマイオスⅡ ブリッジ

「う……!!」

「フェルトさん!?」

フェルトは胃を掴まれるような感覚に思わず口元を押さえ、ミレイナに返事をすることもできずにイスからずり落ちて床に手をつく。

「フェルトも……やっぱ感じるみたいっスね……!!」

よく見れば、ウェンディとエリオも辛そうに壁に寄りかかっている。

「フェルトどうしたの!?フェルト!!」

「スメラギ……さん……何か、悪いことが……起きます……!!」

「悪いこと!!?」

「だいたい……見当はつくっスけどね……」

息も絶え絶えのフェルトに代わってウェンディが答える。

「魔法に慣れてる…あたしらでも……魔力酔いを起こすほどの強烈な魔力……。こんだけのもんを……使うってことは…何かを、転移させるつもり……」

「何かを転移!?」

驚くスメラギ達に、ウェンディは人差し指を床に向ける。

「何かって……ここにあるもんっていったら……この艦とガンダムぐらいっしょ……」

スメラギは自分の予感が的中していたことに、久方ぶりに苛立ちを覚えていた。
予測が当たって腹が立つことなど、そうあるものではない。
だが、対抗手段が全くないのだからしかたがない。

「全員、対ショック姿勢!!」

それしか言うべきことが無いとはいえ、スメラギには自分のその言葉が恐ろしく軽いものに思えた。






周辺

「おいおい……!!なんだよあれ!!」

ロックオンの前に現れたのはアルデバランが現れたときに空を喰っていた真っ黒な穴だった。
突然放たれた黒い光はいくつにも分かれ、そこいらじゅうに黒い穴を開けた。
そして、

「!!?す、吸い込まれる!!?」

ロックオンは必死にペダルを踏むが、ケルディムはどんどん黒い穴へと吸い寄せられていく。

「制御不能!!制御不能!!」

「待てよ…!!俺は、まだ何も…!!」





「く……マ、マリー!!!!」

アレルヤは彼女の名を叫ぶ。
だが、無情にも少しずつ戦闘機形態のアリオスは先端を浮かせ始める。

「僕は……マリーを!!!!」





「ク…ソ……!!」

ティエリアは何とか黒い穴に飲み込まれまいと必死に押し戻されそうなペダルと操縦桿を握りしめるが、長くは持たないことはよくわかっていた。

(ならば……!!)

ティエリアは力を緩める。
当然セラヴィーは黒い穴へと猛スピードで迫っていくが、

「これで……どうだぁぁぁぁぁ!!!!」

その勢いを利用してプトレマイオスへととりつく。

『ティ、ティエリア!!?』

「クッ……僕だけでも……トレミーを!!!!」






「ト……トレミーへ……!!」

仲間が待っている。
なのに、手が届かない。
また、手の平からこぼれおちていく。

「クソ……!!クソォォォォォォ!!!!」






「クルセイド…!!お願いだ、頑張って!!」

しかし、主の願いもむなしくクルセイドは周囲の海水ごと黒い穴へと飲み込まれつつあった。
それは、抗いがたい運命のようにじわじわと全てを飲み込んでいく。
そして、






「「「「「うわあああああああ!!!!!」」」」」

五機のガンダムと輸送艦、プトレマイオスⅡはバラバラに異次元へと続く門に飲み込まれた。
役割を終えた門は再び閉じられ、海面の上で暴れる波以外は何も残ってはいなかった。

それを見終えたファルベルは満足そうに息を吐くが、新たに客人がやってくる。

「准将。空母と思われる艦船がこちらに接近してきます。」

「敵意は?」

焦る部下とは対照的にファルベルはどっしりと構えている。

「空母より入電。戦闘の意思なし。こちらと話し合いの場を持ちたいそうです。」

「よろしい。こちらの世界の住人が紳士的で助かる。」

そう、

(実に、利用しやすそうだ……)








そして、異界に天使たちは降り立つ









あとがき・・・・・・・・・という名の妄想の暴走

ロ「というわけで第五話でした。」

弟「でしたじゃねぇよ。どうすんのこれ?」

ティ「いきなり原作ブレイク……大丈夫なのかこれ。」

刹「というかここにきてまたメンバーがバラバラか。どうするんだこれ?」

ア「マリー……!!!!(泣)どうしてくれるのさこれ!!?」

ユ「もう終わりかなぁ、これ。」

ロ「これこれうるさいわこれぇぇぇぇ!!!!お前らは某忍者漫画に出てくるチビ忍者かぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

弟「ハッ○リ君?」

ロ「ちげぇよ!!!!違ううえに古いから!!!!」

ユ「でも、本当にどうすんの?本来ならここでアレルヤとピーリスさん(マリーさん)との惚気が入るはずなのに。」

ア「そうだよ!!!!それとあとで殴るからねユーノ!!」

ロ「ああ、心配すんな。お前ら二人はこっちに残ってるから。」

ア・ユ「「へ?」」

ロ「次回辺りで説明するけどお前ら二人は転送に失敗してこっち側の地球で別々の場所に飛ばされたことになってるから。」

ア・ユ「「なんですとぉぉぉぉぉぉ!!!?」」

ティ「じゃあ、僕たちは?」

ロ「お前らは別々の世界に飛ばされてる。だから、合流するまでそれぞれがメインの話がある。」

弟「マジか!!?」

ロ「まあ、一話ぐらいだけどな。ちなみにこれから先は全員合流するまでは基本的にそれぞれのサイドの話を交互にやっていこうと考えています。」

刹「できるのか?」

ロ「できるのかも何も、ここまできたらやるしかないだろ(汗)」

ア「まあ、期待はしないけど僕がマリーを取り戻せるなら許してあげてもいいよ。」

(((((このバカップルの片割れが……)))))

ア「さあ、次回予告へ行こうか、みんな。」

ティ「……ああ。」

刹「管理局の戦艦によってバラバラにされたトレミーのクルー達!!」

弟「しかし、地球にはユーノとクルセイドが残されていた!」

ティ「ユーノはこちらに残されているかもしれない他のメンバーを探し始める。」

ユ「その頃、同じく地球に残されていたアレルヤはアロウズの部隊に発見されてしまう!」

刹「しかし、その部隊にはアレルヤの探し人、マリー・パーファシーことソーマ・ピーリスがいた!」

ユ「はたしてアレルヤは彼女を取り戻すことができるのか!?」

ア「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお聞かせください!それじゃ、せーの……」

「「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」」



[18122] 6.再会と別れの洗礼~Alleluia~
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/12/08 10:31
西暦2312年 地球 グリーンランド最北端

先日までの荒れた天候が嘘のように太陽がさんさんと輝くグリーンランドの最北端。
海も珍しく穏やかな表情を見せていたのだが、そこに突如現れた黒い穴によって事態は一変した。
黒い穴から吹きつける激しい風によって白波がたち、太陽が黒い雲に覆われたかと思うと雷轟が辺りに響き渡る。
そして、雷轟とともに穴の中から白い脚のようなものが徐々に出てくる。
続いて腰、腕、胴体と肩、最後には人間のように丸みを帯びた顔が外に出たところでそれを支えていた力が消え去り、地面にたたきつけられるように落下した。
それを見届けた黒い穴は少しずつ小さくなり、それに合わせるように雷雲も消え去っていくと海は先程までの穏やかさを取り戻した。

「っつ~……!!管理局の連中め……やってくれたな……!」

黒い穴から現れた巨人、クルセイドガンダムに乗っていたユーノは落下の衝撃による痛みに呻きながら頭を振る。

「それで……ここはどこかな~?」

魔力の質や量から推測するに、おそらく管理局が使ったあの兵器は次元転移を引き起こすものだろう。
しかも、まともに座標がセッティングされている様子はなかった。
それが故意なのか、それとも未完成のものだったからかはわからないがどこに飛ばされたかわからないことには変わりない。
辺りを見回しても見覚えのあるものが何一つないところからしてもおそらく知らない世界に飛ばされてしまったのだろう。
そう思いながらクルセイドを空に上げようとしていたユーノだったが、相棒から思いもよらぬ事実が伝えられる。

「ユーノ。」

「なに?」

「ここは……地球だ。」

「は?」

「ここは地球のグリーンランド……しかも、向こう側の地球ではなく俺たちがいた地球だ。」

意外な事実に呆気にとられていたユーノだったが、すぐに967の情報が真実である証拠がやってきた。

「センサーに反応!?識別は……ジンクス!?じゃ、じゃあ本当に!!?」

「ああ。西暦2312年の地球だ。」

冷静に喋る967に対し、ユーノは大慌てでクルセイドを海中へと潜らせてその場から離れていく。

「僕ら以外にこっちに残されているメンバーがいるかわかる?」

「現在キャッチできる反応は……かなり微弱だが、これはアリオスだな……。」

「位置は?」

967はしばらく黙りこむと目を点滅させる。
そして、

「大体の位置しかわからないが……おそらくオセアニア方面だな。」

「遠いな……」

こちらに近づいてくるジンクスの反応を目で追いながら、ユーノは顔をしかめる。
こちらに残ったのがアリオスだというのはある意味最大級のアンラッキーだ。
アリオスに乗るアレルヤは改造を受けた施設にいたというソーマ・ピーリスを取り戻そうと躍起になっている。
アレルヤがこの状況でアロウズに攻撃を仕掛けるとは考えにくいが、もしアロウズに発見されたら、そして、そこに彼女がいたとしたら。

「はやまらないでよ……アレルヤ!!」

最悪の事態を避けるべく、ユーノは大きくペダルを踏み込んでジンクスたちを引き離しにかかった。







魔導戦士ガンダム00 the guardian 6.再会と別れの洗礼~Alleluia~

ミクロネシア 無人島

「ラッキーだったな……」

状況を把握できたアレルヤが最初に発した言葉がそれだった。
訳がわからないままアリオスとともにあの黒い穴に飲み込まれた時にはどうなるかと思ったが、幸いこうして自分もアリオスも無傷ですんだ。
仲間たちがどうなったのかがわからないのが唯一の不安の種といえるかもしれないが、悪いが今はそれどころではない。

「マリー……」

彼女が待っている。
なんとかして、彼女を取り戻したい。
その一念は、アレルヤに普段の彼からは想像できないほど大胆の行動をとらせることとなる。






インド洋 アロウズ空母 指揮官室

「では、あなた方は異世界から来た……そうおっしゃるのですね?」

「ええ。その通りです。」

マネキンが目の前にいるリーゼントの老人に非現実的な単語を口にするたびに、横に立っているリントの口元が小馬鹿にしたような笑いを浮かべる。
しかし、彼女も正直なところを言うとリントのようにいまだにそんなことなどありえないと思いたい。
思いたいのだが、

(異世界……とどめに魔法か。まるでおとぎ話だが、見たからには一概にありえないとは言えないか……。しかし……)

彼らの話が本当だとしたら、何もかも合点がいく。
突然出現した彼らの艦、無人で動く見たこともないMS。
そして、

「ガンダムのパイロットの一人があなた方の世界の出身者というのは本当なのですか?」

「ええ……非常に遺憾ながら。」

顔を曇らせるこのファルベルという老人。
第一印象は笑顔がまぶしい好々爺という感じだが、その裏には何かあると長年の勘がマネキンに告げていた。

「ユーノ・スクライア……第7管理世界ヴェスティージ出身。テロで集落を失い、その際にスクライアの一族に保護される。幼少期にテロにあい、その時に義父を亡くす。その後、ジュエルシード、闇の書などの事件にかかわり情報収集において大きく貢献する。その2年後、戦闘中に敵の攻撃を受けて生死不明に。その翌年、正式に死亡認定がされるが、4年前に2機のMSとともに帰還を果たす。その後、無限書庫司書長を務めるが、都市型テロ、J・S事件の際にMSで戦場をかく乱、犯人逮捕を妨害する。さらに、戦艦の落下を阻止しようとした管理局を妨害。現在、最重要参考人として指名手配中、ですか……何の事だかさっぱりな部分もありますが、あなた方が彼を目の敵にしているのはよ~くわかりましたよ。」

リントの皮肉のこもった言葉にもファルベルは不気味なほど友好的な笑みで答える。

「私どもとしましても彼の使うMS、エンジェル……失敬、正式にはガンダムでしたな。あれは全ての世界の脅威になると考えていまして……できることなら、排除、もしくは対抗手段を得るためにもガンダムを鹵獲したいのですよ。」

「先程、あなた方のMSを見せてもらいましたが、あの性能ならば十分にガンダムとも渡り合えると思いますが?」

「いえいえ、とんでもない……あなたもわかっているはずですよ、マネキン大佐。ガンダムは我々の想像以上の力を持っている。そんな彼らに対して十分などという言葉はあり得ませんよ。」

疑いの視線を浴びるファルベルだが、半分は本心だ。
もっとも、残り半分もばれたところでどうとでもなるが。

「できることなら、私どもはあなたがた地球連邦と協力してことに当たりたいのですよ。こちらはMSでの戦闘には不慣れでして……ようやくパイロットの育成にとりかかったというのが現実なのですよ。それに、お互い情報を提供し合えば彼らに一歩先に行かれることも少なくなるはずでは?」

「そちらの言い分はよくわかりました。ですが、こちらもすぐに返事をすることはできません。それに、まだソレスタルビーイングを異世界に転送した理由をうかがっていません。」

マネキンの言葉にファルベルは意外そうな顔をする。

「おや、言いませんでしたかな?非常に危険な状態だったので、やむなく大型転送砲を使用するしかなかったと申し上げたはずですが?」

「先程それについてのデータを見せてもらいましたが、あれだけのチャージ時間のものを追い詰められていたからといってすぐに撃てるわけがないでしょう?事前に撃つ準備をしていたとしか考えられませんが?」

「あくまで保険のつもりだったのですよ。我々としても、未完成のあれを撃つのは避けたかったのですが…」

「ファルベル准将。」

とぼけるファルベルにマネキンの鋭い視線が刺さる。

「これはあくまで私の推測にすぎませんが、あなたはガンダムの技術を手に入れるために彼らをあなた方の手が届くところに送ったのではありませんか?」

「…………………………………」

「あなた方の組織、時空管理局は慢性的な人材不足だそうですね?それを解消するためにもガンダムという力が欲しかった……違いますか?」

「ふむ……」

ファルベルはあごひげを指でさすりながら上を向いていたが、すぐに老人特有のにんまりとした笑顔になる。

「買いかぶりすぎだと言っておきましょう。私はあなたほど頭が回る人間ではありませんので。」

「そうですか。失礼しました。」

マネキンは頭を下げるとファルベルを部屋から丁重に送り出したが、お互いの印象が最悪だったのはよくわかっていた。

(ファルベル・ブリング……油断ならん男のようだな。)








格納庫

アヘッド脳量子波対応型、通称スマルトロン。
その名の通り、脳量子波を使える人間が操縦することを前提に設計されているため、現在のところ扱えるのはソーマ・ピーリスだけといっても過言ではない。
しかし、今までの戦闘において彼女が乗っていたにもかかわらずその性能は十分発揮されていたとはとても言えない。
それは、彼女が兵器ではなく人としてあろうとした結果なのだろう。
だが、

「私は超兵……どんな任務でも忠実に実行する……そのために生み出された存在……」

もう、そうであることは許されない。
そのことは先日理解した。
……したのだが、そう簡単に割り切れるものでもない。
その証拠に、愛機を見つめるピーリスの瞳は悲しげで、今にも消えてしまいそうなほど儚げだ。
そんな彼女のもとに一人の兵士がやってくる。
一人物思いにふけっていたピーリスもそれに気付き、やってきたその兵士の方を向く。

「お邪魔してしまいましたか?」

「いえ……」

ショートカットの金髪によく合う絹の上を滑るような女性の声にピーリスは少々驚く。
女性の兵士、しかもこれだけの若さでアロウズに所属している者がいるなど思いもしなかった。
だが、驚きを表情に出したのは彼女の方だった。

「し、失礼しました……」

暗い表情のピーリスを見て何か悩んでいたのを察知した彼女はバツが悪そうに視線を落とす。

「あなたは…」

「補充要員として着任した、ルイス・ハレヴィ准尉です。」

「MS部隊所属のソーマ・ピーリス中尉です。」

「え!?あ、そ、その、申し訳ありません中尉殿!軽々しく口をきいてしまい…」

「構わない。」

短く返事をしてすぐに目の前に並んでいるMSたちの方を向くピーリス。
その反応に、やはり気に障ってしまったのではないかと後悔を募らせるルイスだったが、ピーリスの口から出てきた言葉は意外なものだった。

「あなた……無理をしている。」

「え?」

まるで街角の占い師のように突拍子もないことを口にするピーリスにルイスは呆けた顔をする。
しかし、ピーリスは感じたことをそのまま話しているにすぎない。

「私の脳量子波がそう感じる。あなたは心で泣いている。」

「そ、そんなこと……」

「誰かを、ずっと思っている。」

「!」

ピーリスの超兵特有の勘は的を射ていた。
ピーリスの言葉にルイスは自分のそばにはいない彼に思いをはせる。
連絡をしなくなった自分を、彼は責めるだろうか。
復讐を選んだ自分を見たら、なんと言うだろうか。
ガンダムに対して復讐することだけを考えて生きてきたルイスの心に大きな波紋がいくつも起こり、重なり合ってさらに大きなうねりになっていく。

「中尉。」

後ろから聞こえてきた声にルイスはハッとして現実に引き戻される。

「ここにおいででしたか。ブリーフィングの時間です。」

アンドレイは最初はルイスの存在を気にかけずにピーリスと話をしようとしていた。
だが、

「!」

ルイスの顔を見た瞬間、アンドレイの時間が停止する。
自分を見つめる彼女の瞳の中へ、自分が吸い込まれていくのを感じる。
全身を電撃が駆け巡るこの感覚は今まで経験のないものだ。

「君は……」

無意識のうちにこぼれおちたアンドレイの言葉にも、ルイスは生真面目に背筋を伸ばして敬礼をする。

「ルイス・ハレヴィ准尉です。」

「…………………………………」

敬礼をするその姿すら、アンドレイには女神が自分に微笑みかけてくるように思えてくる。
叶うならば、この姿を永遠に見ていたいとすら思う。

「?少尉、返礼を。」

「あっ…ああ、はい。」

ピーリスの言葉に女神と一対一で向き合っていた天界から、一気に機械然としたものが並ぶ下界へと引き戻される。
ピーリスに促されるままに、アンドレイも敬礼を返す。

「アンドレイ・スミルノフ少尉です。」

「………………………?」

敬礼をする手を下ろしたいルイスなのだが、アンドレイは一向に敬礼をやめる気配はない。
じっとルイスの顔を見つめたまま、固まっている。

(乙女だ……)

アンドレイの頭の中はそのことでいっぱいだ。
第三者からすれば思いすごしと言えるのかもしれないが、女っ気のない士官学校で青春時代を過ごしたアンドレイには今後の人生にあるかどうかの運命の出会いに思えたのだった。







?????

「彼らをここに招待した?」

「ああ。」

涼しい顔でこともなげにそういうリボンズだが、リジェネがこんなことで納得しないことなど百も承知だ。

「何か問題でもあるのかい?」

「大有りさ。まさか、あんなバカげたことを本気にしているの?」

「バカげたこと、か……まるで“人間”のようなことを言うんだね。」

人間
その単語にリジェネはさらに顔をしかめるが、リボンズは言葉を続ける。

「僕らは上位種なんだ。もっと柔軟に物事をとらえなくちゃね。」

そう言ってリジェネを諭すリボンズだったが、彼にも少々戸惑いはあった。
魔法という存在はいいとして、問題は彼らが異世界からやってきた存在であるということだ。

(もし彼らの言うことが真実なら、計画が前後してしまったことになる……)

本来ならば地球連邦が完全に地球圏を掌握し、全ての争いが平和の名のもとに消えてから彼らのような存在と出会うはずだったのに、こうして現実に異世界からの、地球とはまったく別の場所にいる存在とのコンタクトを図ることになってしまった。

(まあいいさ。どうやら彼らもこちらとはことを構えるつもりは今のところないようだし、利用価値は十分にあるからね。)

無論、向こうも同じことを考えているようだが共同戦線を張るのも悪くない。

(さて、そろそろヒリングたちにも動いてもらおうかな。ヴェーダから新たなミッションを与えられた者たちも動き出しているし、これから忙しくなりそうだ……フフフ…)






ミクロネシア 無人島

アリオスのシステムの一通り終えたアレルヤはある操作をする。

「これでいいはずだ……あとはどちらが来るのが速いかか……」

卑怯な方法だがもし他のマイスターたちが先に自分を見つけたら、そして、自分の探し人が現れたら協力してもらおう。
だがもし、彼女が先に着いたら状況は最悪だ。
今度は拘束どころか、間違いなく命を奪われる。

「それでも、僕は君を助ける……待ってて、マリー!!」







?????

「これは……」

データの流れに身をゆだねていた874はある信号キャッチする。
この量子通信のパターンを間違えるはずがない。

「アリオスの太陽炉の信号……でも、これは……」

一言で言うなら、これはうかつな行為だ。
これだけの通信パターンを強くすれば、間違いなく信号をキャッチされる。
他の仲間に自分の居場所を知らせるためなのかもしれないが、あまりにもリスクが大きすぎる。
そのことはアリオスのガンダムマイスターもわかっているはずだ。
だとしたら、なぜ。

「アリオスのマイスターはアレルヤ・ハプティズム……そうか……!」

彼の思惑に気付いた874はすぐにフォンたちへとことの次第を伝える。

「フォン、アリオスの反応をキャッチしました。アロウズも動き出している可能性があります。早急な対応を。」

『あげゃ、了解だ。今回はやつの思惑に乗ってやるさ。』

「フォン、あなたは気付いて…」

『いつか行動を起こすだろうと思ってたが、まさかこんな方法をとるとはな。』

呆れた声で874の質問に答えるフォンだが、その様子はどこか楽しそうだ。

『俺はアヴァランチで出る。それと、いらない世話かもしれないがアブルホールの強化を急げよ。』

「了解。」

短く返事をして通信をきる874。
しかし、人間ならフォンの最後の一言に多少なりとも怒りを覚えてもおかしくない。
なぜなら、アブルホールの強化はもはやまったく別のMSを作ると言っても過言ではない域に達しているのだ。
骨格自体はそのままでいける部分も多少あるが、武装や変形機構の変更部分だけでも通常なら一カ月以上はかかる。
それを一人で、しかも急げと言っているのだ。
そして何より、それを扱うはずの人間はどことも知れない異世界に行ってしまったのだから。
だが、874はフォンの言葉を忠実に実行していた。
なぜなら、彼の行動に意味のないことなど一つもない。
いつだってフォンは自分にすら想像もつかないことをやってのけるのだから。
だから、信じる。
自分の意思で。
あの時、874はそう決めたのだから。






ミクロネシア

ミクロネシア
オセアニアに属する島国の一つであり、21世紀からの急激な経済成長によって世界の主要国の一つにまで上り詰めた国だ。
しかし、そんな経済大国にまでのし上がったこの国にも多くの無人島が存在している。
いや、出来たと言った方が適切かもしれない。
太陽光発電による恩恵を受けるようになってから、その利益を享受しようと都市部への人口移動がはじまり、そこから離れていた島々の中にはまったく人がいなくなったものもある。
それが開発を受けることなく残ったものが現在この国が所有する無人島のほとんどを占めている。

そんな無人島のうちの一つから、アロウズは強烈な反応を検知し、その場へと向かっていた。
突如現れたあの時空管理局と名乗る者たちの言っていることが本当だとしたら、おそらく別世界に送り損ねたガンダムの一機だろう。

(しかし、その本人たちはすでにいない……まったく、無責任な話だな。)

コックピットの中でピーリスは嘆息する。
先程、こちらから送ったあの信じがたい報告を受けた上からの指示で彼らをある場所へと招待することになったらしい。
しかし、そんなことはピーリスには関係ない。
ただ、上からの指示に従うまでだ。

『そろそろ反応があった海域だ。総員、気を引き締めていけ!』

『了解!』

「……………………………」

通信機器から響く声は、すでにピーリスには届いてはいなかった。
そんなものに頼らなくても、はっきりと感じる。
確かに、ここにやつがいること。

「……!!来る!!」

ピーリスがスマルトロンの高度を急激に下げた瞬間、その後ろにいたジンクスに二条の光の槍が突き刺さり爆散させる。
ピーリスは仲間を墜としたビームを飛ばした存在を睨みつける。

「被験体E-57!!!!」





「クソ!!先にマリーたちが来たか!!」

遭遇するなら、できれば誰か一人でも来てからにしたかったが、どの道今回は退く気はない。
なにがあっても、彼女を助け出す。

「アリオスガンダム、アレルヤ・ハプティズム、目標へ飛翔する!!」

戦闘気に変形したアリオスは編隊のド真ん中へ斬り込むと、MSへと変形して両腕に装備していたガトリングを四方八方へとばら撒く。
アリオスを中心に陣形が大きく広がり、孤立する者も出る。
それを、アレルヤは見逃さなかった。

「そこだ!!」

相手の銃撃をきりもみでかわし、逆さになったままビームライフルで的確にジンクスの中心を撃ち抜く。
ハレルヤがいなくなり結果的に能力は落ちたが、四年前の介入でアレルヤはそれを補ってなお余りあるものを手にしていた。
それは経験だ。
基本的にハレルヤに頼らずに自分だけで強敵と幾度も刃を交えたアレルヤはその分だけ戦いの駆け引きを学んでいる。
もっとも、前回の介入ではこちらの性能が圧倒的であったためそれを発揮する機会はさほどなかったが、それでも最後のジンクスとの戦い、そして今回のような疑似太陽炉搭載型との戦闘ではアレルヤの助けとなっていた。
だが、

「すきにさせるか!!」

「うあっ!!」

それでも、ひいき目に見てピーリスとようやく肩を並べたところだ。
しかも、これだけ大量の敵を相手にするには一機だけでは流石に限界がある。

十機以上のジンクスを相手に善戦していたアレルヤだったが、徐々に取り囲まれ、遂には銃撃によって火だるま状態になってしまった。

(クソ!!せめて、誰かもう一人いてくれれば!!)

両肩のビームシールドで耐え続けながら苦悶の表情を浮かべるアレルヤ。
撃墜されるのは時間の問題だと思われた。
だが、

「ぐああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「!!?」

アリオスを取り囲んでいた一機のジンクスから断末魔の叫びが聞こえたかと思うと、その機体が海面へと落ちて爆発と同時に水柱を発生させる。
その水柱が消えた先には、白い銃身をアロウズの部隊へと向けている影があった。

「あれは!!」

「盾持ち!!ということは…」

「ユーノか!!」

クルセイドへ反撃しようと方向転換をしようとするアロウズ部隊だったが、その間に間合いを詰めたクルセイドの一撃によって再び一機撃破される。

「ユーノ!!」

『無茶しすぎだよアレルヤ。反応が強くなる前に967がおおよその場所の検討をつけてくれてなかったら間に合わなかったところだよ。』

「ごめん……でも!!」

『わかってるよ。』

ユーノはシールドバスターライフルを変形させた盾で攻撃を防ぎながらアレルヤに親指を立てる。

『取り戻しにいくんだ、君の大切な人を!!』

「…!ああ!!」

アレルヤはクルセイドに背を向けると、スマルトロンへアリオスを斬りかからせる。

「マリー!!目を覚ますんだ!!」

「クッ!!」

鍔迫り合いのさなか、アレルヤはピーリスへと必死に語りかける。
だが、それを周りが黙って見ているはずがない。

「ピーリス中尉!!」

アンドレイは援護へと向かおうとする。
だが、その前にクルセイドが立ちふさがった。

「悪いけどここは通行止めだ。」

「こいつ!!」

アリオスへと執拗に攻撃をしていたのが一転、今度はクルセイドが集中砲火の的になる。
だが、ユーノはあくまで冷静だ。

「967!」

「了解!シールドバスターライフル、モード・アサルト!!」

967の声と同時に変形したときに盾の中心部をなしていた装甲部分が開き、放熱板のように斜めに広がる。

「一発でも多く当たれば…」

赤い光の雨をかわしている最中、銃口に光が溜まり、それと同時に放熱板の役割を果たしている装甲の合間から瑠璃色のGN粒子が溢れだしていく。
そして、

「それでいい!!」

それまでと違い、シールドバスターライフルがまるで大型の機銃のように無数の光弾を絶え間なく発射し始める。
その予想外の連射に泡を食ったのはアンドレイだった。

「こ…これは!!?」

弾の一発に当たり、左脚を持っていかれる。
そこでようやく距離をとるアンドレイだが、これではピーリスの援護に向かえない。
それはほかの機体も同じようだ。

「アレルヤの邪魔はさせない!!」






ユーノが他の機体を押さえている中、アレルヤの必死の説得は続いていた。

「よすんだマリー!!君はこんなこと望んじゃいないはずだ!!」

「うるさい!!私は超兵!!不完全なお前とは違う!!私は…ただの兵器だ!!」

スマルトロンのビームがアリオスの頬をかすめる。
機体のバランスが崩れかけるが、アレルヤは何とか体勢を整えてガトリングで反撃する。
そんなアレルヤの心に去来していたのは、悲しみだった。

「君は兵器なんかじゃない!!君は超兵である前に人間だ!!」

思いをぶつけるようにビームサーベルをぶつける。
しかし、それを受け止めたピーリスにはその言葉が何よりつらかった。

「違う!!私は人間であることを望んではいけないんだ!!」

あの時見たあの光景。
人を撃った時のあの感覚。
そのすべてが、自分が人間であってはいけないとささやく。
なのに、こいつはそのことを否定する。

「私が愚かな望みにすがったせいで、あんな悲劇が起きたんだ!!!!そんな私が人並みの幸せを得ていいはずがない!!!!」

アリオスを振り払ったスマルトロンはシールドでアリオスの腹部を殴りつける。
その衝撃は当然アレルヤにも伝わるが、それでもアレルヤは折れない。

「違う!!」

「何が違うと言うんだ!!!!私は戦争のための道具にすぎない!!!!そんな私があの人の家族になんて…」

「それでも君が持った感情は君のもののはずだ!!!!」

「!!!!!」

アリオスは肩をぶつけてスマルトロンからビームサーベルを弾き落とすと、そのまま抱きつくように強引に動きを封じる。

「君が抱いたその想いも、今まで感じてきたものも!!そして今、涙を流している君の悲しみも全て君のものだろ!!!!」

言われてようやく気付いた。
目から熱い雫がどんどん溢れだしている。

「感情を持っている限り君は人間だ!!!!兵器は誰かのために涙を流したりしない!!!!」

「っっ!!そんなこと!!」

「それを僕に教えてくれたのは君だ、マリー!!!!」

「!!!!!!」






?????

その日、彼は悲しそうだった。
逆に、彼の中にいるもう一人の彼は楽しそうだった。

(どうしたの、アレルヤ?)

「マリー……僕…僕っ!!」

こらえきれずに涙を流し始めた彼をなだめながら話を聞いた。
今日、実験で仲間の一人をひどく傷つけてしまったこと。
そのことを、もう一人の彼に全て任せてしまったこと。
そして、そのことを何よりも楽しんでいるもう一人の彼のこと。

「僕は……人でなしだ!!」

(アレルヤ……)

「ハレルヤにいやなことを全部押し付けて!!自分は傷つきたくないから誰かを犠牲にして!!僕は……僕は人間なんかじゃない!!化け物なんだ!!」

(そんなことない!!)

大きな声に驚いたのか、彼は泣くことも忘れてじっとこちらを見つめる。

(アレルヤは今泣いている!!自分のせいで傷ついた人のために涙を流せる!!それは、アレルヤが人だからできることなの!!だから、そんな悲しいことを言わないで!!)

「マリー……」

(それに……)

「?」

(アレルヤは私の友達だもの。私が友達に選んだ人が化け物なんかであるはずがないじゃない!)

その言葉に、彼はしばしの間沈黙するが、すぐにクスクスと笑い始める。

「やっぱり、マリーは変だ。」

(え?)

「僕のことを友達なんて、変なの!」

(そ、そんなこと!!)

「でも……」

(?)

「ありがとう、マリー……僕は人間で、君の友達だ。何があっても、絶対に。」







現在 ミクロネシア

「っああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「!?マリー!!?どうしたんだ、マリー!!!」

痛い。
頭が割れる。
知らないはずの記憶がよみがえってくる。
声が、聞こえてくる。

(会いたい……アレルヤと話したい!!)

「違う……!!私は……!!」

(セルゲイ大佐と……父さんと話したい!!)

「!!!!」

その時、ピーリスは理解した。
彼女も、自分なのだと。

「う、あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

「マリー!!!!!」

絶叫とともにピーリスは意識を手放す。
アレルヤは、そんな彼女を抱きかかえるようにスマルトロンを優しく支える。
だが、その時間は長くは続かなかった。







驚異的な連射で弾幕を張っていたクルセイドだったが、奇しくもアレルヤの説得が終わると同時にその連射も終焉の時を迎えた。
放熱板の間からの粒子の放出が無くなり、銃口の中にたまっていた光も徐々に薄くなっていく。

「粒子残量が底をついたか……!!」

「ユーノ、わかっていると思うが再チャージまで弾を撃つどころかシールドとしても使えないぞ。」

「わかってるよ。ついでに、向こうもそのことをわかってるみたいだ…っと!」

「喰らえ!!」

クルセイドがアームドシールドの中から刃を出した瞬間、アンドレイのジンクスがランスをクルセイドへと突き出す。
それをアームドシールドで受け止めたクルセイドだったが、それを皮切りにそれまで距離をとっていたMSたちが一斉にクルセイドへと押し寄せてきた。

「中尉の援護を優先しろ!!残った者は盾持ちを押さえろ!!」

「そうは…っとぉ!!あぶなっ!!」

それまで自分がいた空間が斬り裂かれるのを見ながらユーノは冷や汗を流す。
粒子のチャージが終わるまではろくに射撃を行うことができない。
それまでこの猛攻を近接戦闘だけでしのがなければならないのは酷だろう。
実際、抜かせるつもりがなかったにもかかわらず何機かがアリオスのもとへと向かっていく。

「ごめんアレルヤ!!そっちに2、3機行った!!」

「わかってる!!けど…」

ピーリスが気絶したせいで動きを止めたスマルトロンを支えているせいでアリオスもまともに回避行動をとることができないのだ。
かといって、ここで彼女を手放してしまったらもう二度とこんなチャンスは巡ってこないかもしれない。
そんなアレルヤに一人の復讐鬼が迫る。

「ガンダムゥゥゥゥゥ!!!!」

「うあああぁぁぁぁぁ!!!!」

ルイスのジンクスが放った光弾からスマルトロンをかばうように銃弾を受けたアリオスは大きく体勢を崩す。
そして、そのはずみに彼女を手放してしまった。

「しまった!!!!」

落ちていく手をとろうとするアリオス。
しかし、すぐそばにはルイスの刃が迫る。

「パパとママの仇!!!!」

「アレルヤ!!!!」

「マリー……!!マリーーーー!!!!」

アレルヤの健闘もむなしくスマルトロンは海へ、そしてアリオスはビームサーベルで貫かれた。
……はずだった。

「な…!!?」

ルイスは我が目を疑う。
ガンダムを貫くはずのビームサーベルの刃がない。
いや、それどころかジンクスの右腕から先がきれいに切断されている。

「あげゃ♪」

呆気にとられていたルイスが続いて感じたのは激しい衝撃と上へと持ちあげられる浮遊感。
そして、辛うじて見えた先にいのは、

「ガン……ダム………!!?」

だが、自分が知っているガンダムとは明らかに違う。
血よりもなお濃く、そして鮮やかな赤の塗装に、通常のMSのそれとは比べ物にならないほど分厚い装甲。
そして、両手だけでなく両足の先からもビームの刃が飛び出ている。

『なさけねぇなぁ、アレルヤ・ハプティズム。惚れた女の一人も自分だけで守れないとは。』

「フォン……スパーク…!!?」

紅蓮の重攻機、アヴァランチアストレアFから聞こえてくるフォンの声に気をとられるが、アレルヤはすぐにこの手につかみ損ねた彼女のことを思い出す。

「マリーは!!?」

『大丈夫、彼女なら無事だよ。』

アレルヤは通信を送ってきた機体がいる海面を見る。
そこには、白、青、赤、黄とバランスよく配色された機体、プルトーネがスマルトロンを抱えていた。

「あなたは……?」

『悪いけど、自己紹介は後にしてもらうよ。ここは僕たちに任せて君はこの子を連れてこの場を離れるんだ。』

「え!?でも…」

『君の機体は損傷が激しい。これ以上の戦闘はさすがにきつい。それに…』

モニターの向こうにいる男がフッと笑う。

『君の大切な人なんだろう?』

「!」

『守ってあげなよ。もう、こんなことがないように。』

「……ありがとう。」

『どういたしまして。』

プルトーネからスマルトロンを受け取ったアリオスは戦場から背を向けて急速離脱を開始する。

「中尉!!」

「ピーリス中尉!!」

アンドレイとルイスはそうはさせまいと追撃を開始する。
しかし、

「クッ!!?」

「水中から狙撃だと!!?」

海面から飛び出してきた赤い尾を引く実弾が二人の機体をかすめる。

『ユーノさん、援護しますから斬り込んでください!!』

「ヴァイスさん!!」

懐かしい声に気が緩みかけるが、辺りを囲むアロウズの部隊に再び目つきを鋭くする。

「数はこちらが上だ!!押しきれ!!」

「……なんて言ってんだろうが、数なんて問題じゃねんだよ。」

「俺たちの連携、甘く見るなよ。」

「それじゃ行ってみようか、ユーノ“司書長”。」

「もう司書長じゃないですよ、アコース“捜査官”。」

それぞれの場所で、四機のガンダムは思い思いの得物を構える。

「アストレアF、俺様、目標を叩きつぶす!!」

まず仕掛けたのはアストレアとフォンだった。
その大きな体からは想像ができないほどのスピードで斬りかかったアストレアは見事にジンクスを肩から腰へ真っ二つに切断する。
その瞬発力に驚いたジンクスたちはアストレアから離れるようにバラけるが、それを待っていた人間がいた。

〈ターゲット、射程に入りました。〉

「了解!ヴァイス・グランセニック、サダルスード、目標を仕留める!」

海中に潜んでいたサダルスードの銃口から対空魚雷が発射される。
海面から勢いよく飛び出したそれは一機、また一機と的確に敵をとらえていく。

「クソ!!まず水中にいるやつから…」

「させないよ!」

ヴェロッサはプルトーネを滑るような動きで海面を目指していた一機の横につけると、腰にビームサーベルを突き刺す。

「な…あ…!!?」

「ヴェロッサ・アコース、プルトーネ、目標を沈黙させる!」

そのままグルリと一回転したプルトーネによって二つに分かたれたジンクスはなす術もなく爆散した。

「い、いったん退くしか…!!?」

退却を考え始めていたアヘッドのパイロットの前に、萌黄色をした絶望の使者が現れる。

「ここまで好き放題やっておいて……逃げようなんてむしがいいと思わないかい?」

「うああぁ……や、やめろ…!やめて……」

その要望が叶うはずもなく、クルセイドのバンカーの先が静かにアヘッドに押しあてられる。

「クルセイド、ユーノ・スクライア、目標を粉砕する!!」

鈍い音とともにアヘッドの体に穴が穿たれ、そこから赤いGN粒子を漏らしながらアヘッドは冷たい海へとその体を沈めていった。

「た、退却だ!!退却!!」

誰が言うでもなく、4、5機だけ残されたアロウズ部隊は蜘蛛の子を散らすようにその場から離れていく。

「フゥ……助かったよ、フォン。まさか君たちも来てくれるとはね。」

「感謝なら874にするんだな。874が気付くのが遅かったら今頃お前らは仲良く魚の餌だ。」

赤い粒子が消えた空からあたりを見渡しながらユーノは大きく息をつく。

「それより、早く彼を探した方がいいんじゃないかな?今度は信号を強めるなんてことはしないだろうから手間がかかるよ。」

「それよか、一緒に連れてったあれって敵だろ?何考えてんだアイツ?」

「ああ、それは…」

ユーノはヴェロッサとヴァイスに理由を説明する。
アレルヤが人革連の超人機関で改造を受けた人間であること。
そこで、マリー・パーファシーという少女に出会ったこと。
機関から逃げるときに彼女を一緒に連れていけなかったことへの後悔。
そして、ソーマ・ピーリスという人格を植え付けられ、敵として再会することになったことを。

「超兵ね……やっぱ、どこ行っても馬鹿な奴らはいるもんだな。」

「しかし、敵同士になっても彼女を助けようとするなんてね。若いっていいね~♪」

「いや、アコース捜査官も十分若いですよね?」

人の色恋ごとに興味津津のヴェロッサだったが、この話はアレルヤと彼女を見つけてからするべきだろう。

「それじゃ、早く探そう。いつまたアロウズがやってくるかわからないしね。」

「「「了解!」」」

四人はそれぞれバラバラに散らばってアレルヤの捜索を開始する。
だが、彼らは気付いていなかった。
その様子を、いや、クルセイドを追っている存在がいることを。






無人島

「アロウズは……追ってこないみたいだな。」

モニターを見ながらホッと一息つくアレルヤ。
何とかここまでは誰にも発見されずにすんだが、大きな問題が一つ残されていた。

「やっぱり返事はなしか……」

先程からスマルトロンの中にいる彼女に通信を入れているのだが返事がない。

「やっぱり、まだ起きてないのかな……?でも、強引にハッチを開けるわけにはいかないし、それに…」

目が覚めた時、彼女はマリー・パーファシーでいてくれるのだろうか。
もし、ソーマ・ピーリスのままだったら、彼女は間違いなく自分をとらえようとするだろう。

「……何を考えているんだ、僕は。決めたじゃないか。どんなことがあってもマリーを助けるって。」

そのためなら喜んでこの命をかけよう。
絶対に取り戻してみせる。








ピーリスは一人の少女の前に立っていた。
彼女は自由を奪われ、ずっとこの暗い部屋の中でカプセルに閉じ込められたまま彼を待ち続けていたのだ。

(アレルヤが呼んでる!!)

「そうね……」

優しく彼女の言葉を肯定する。

(アレルヤに会いたい!!)

しかし、彼女の願いはずっと叶うことはなかった。
なぜなら、

(この手が動いたら……この脚が動いたら……!!)

アレルヤのところに行けなかった理由。
それは、彼女自身であるピーリスがよくわかっていた。

「ごめんなさい……今まで、こんなところに閉じ込めて。だから、今度はあなたが彼と生きて。」

(でも、それじゃあなたが…)

「ううん……」

ピーリスは首を横に振る。

「私はもう、たくさん……たくさん、大切なものをもらってきたから、今度はあなたがそれを受け取る番よ。それに、私は消えるわけじゃない。あなたのことを、ここからずっと見守っているわ。」

(ソーマ……)

「行って、マリー・パーファシー。あなたが好きな人のもとへ……」

ピーリスは闇の中へと自ら歩いていく。
そして彼女が消えた瞬間、少女はゆっくりと起き上がり、光の向こうへと歩いていった。








『…………ヤ…』

「!!」

か細い声が聞こえ、アレルヤの体が硬直する。
その声は軍人然とした固い口調ではなく、アレルヤのよく知る彼女の話し方だった。

「マリー…!?マリーなのかい!!?」

『心配をかけてごめんなさい、アレルヤ。もう、大丈夫だから。』

アレルヤは慎重にスマルトロンからアリオスを離す。
空中でMSの装甲越しに向かい合う二人の間に沈黙が流れる。
そして、どちらともなく近くにあった島の密林の中へ着陸した。
同時にハッチを開けて互いの顔を確認するが、それよりもなすべきことをするために地上に降りて駆け寄っていく。

「マリー!!」

「アレルヤ!!」

互いの相棒のちょうど中間で二人は固く抱き合う。
初めて出会ったときから、この時をどれほど待ち望んだか。
会話はできても、相手の温かさを感じることができないもどかしさ。
離ればなれになってからも、敵同士になってもずっと思いあっていた二人の再会。
その感動に、言葉よりもさきに体が勝手に動いていた。

「マリー……!!やっと会えた……!!やっと……!!」

「アレルヤ……!!私もずっと待ってた……!!いつか来てくれる……また会えるって!!」

空白の期間を埋めるように二人はしばらくそのまま動かなかった。
そのまま、どれほどの時が流れただろうか。
空はいつの間にか灰色の雲に覆われ、マリーを自分の胸に押し付けるように抱いていたアレルヤの頬に冷たい粒が当たって弾ける。

「雨……?」

アレルヤが上を向くと同時にそれまで静かだったジャングルに激しい雨音が響き渡る。
二人も例に漏れず、髪や肌を雨で濡らしていく。

「アレルヤ、私の乗ってきた機体にテントがあるから取ってくるわ。」

「それは僕が……」

「いいの。今まで迷惑をかけちゃったから、その分私が頑張らないと。」

優しい笑顔でアレルヤから体を離したマリーはスマルトロンのテントをとりに中へと戻っていく。
その間、アレルヤに今まで押し込めていた不安が重くのしかかっていた。
逃げたとき、生き残るためにハレルヤがした行為。
四年前の戦いで大勢の人間を犠牲にしたこと。
そして、同胞の命を奪ったこと。
どれも、話したくない事実だ。
それでも、

「それでも…僕はマリーに全てを伝えなければならない……でないと、僕はマリーと向き合うことができない。」

アレルヤのそのつぶやきは雨にかき消され、マリーにまで届くことはなかった。







ミクロネシア海域

その知らせがセルゲイに届いたのは中東の砂漠から抜けてインドに差し掛かろうとした時だった。
ピーリスが羽根付きのガンダムにさらわれたと聞き、いてもたってもいられずに部下の制止も聞かずに単身で出撃した。
ここからはかなり距離があるが関係ない。
彼女が自分の娘がこうしている間にも危険な目にあっているのだ。

「ピーリス……!!」

雨の勢いは徐々に強くなってくる。
それでも、正規軍の使用するカラーリングのジンクスは風に逆らいながら突き進んでいった。






無人島

テントに雨が激しく叩きつけられる中、アレルヤとマリーは黙って向かい合っていた。
再会を果たした時に、互い抱きしめあうほど思いを募らせていたにもかかわらず、いざこうして向かい合うと言葉が出てこなかった。
しかし、その沈黙はアレルヤの声で唐突に破られた。

「マリー……なぜ、君がソーマ・ピーリスだったんだい?」

四年前、最後の戦いで果たした劇的な再会。
いや、再会というならあの低軌道ステーションの時にはすでにしていたのだ。
その後は言わずもがな。
互いに気がつくことなく殺し合いを演じた。
もっとも、その時マリーはソーマ・ピーリスだったわけだが。

「たぶん、違う人格を植え付けて失っていた五感を復元させたの。ただでさえ非人道的な研究だったから、早急に結果をだして機関の存続を図ったんだと思う……」

「そんな……!」

そんな理由でマリーは戦場へ送られたのだ。
可能なら、マリーを戦場に送りだした人間全員を断罪してやりたいが、ユーノが、そして彼女の上官が行ったと聞いた。

「でもね…」

マリーはふわっと笑う。

「でもね、そのおかげであなたの顔を見ることができた……脳量子波のおかげかしら?」

「えへへ……」と照れたように笑うマリー。
しかし、対照的にアレルヤの表情は暗い。
彼女とこうして話すことができるようになったのはアレルヤも嬉しいが、それは同時に自分が犯してきた罪を彼女が知るということも意味している。
だが、アレルヤは逃げる道を選ばなかった。

「マリー……僕は、君に伝えなければならないことがあるんだ。」

アレルヤの震える声にマリーの顔も固くなる。

「僕は……僕は、今まで仲間や同胞をこの手で……!!」

施設から逃げた後、生き残るために一緒に逃げた仲間を惨殺したこと。
初めてガンダムで人の命を奪った時のこと。
ハレルヤの暴走。
そして、超人機関への攻撃。
その全てがアレルヤの心を蝕んでいく。

「僕は……僕はっ!!」

「大丈夫……」

「!」

辛さから視界を固く閉ざしていたアレルヤが目を開けると、自分の手の上に置かれているマリーの手が見えた。

「辛い過去も……これまでの戦いのことも……もう一人のあなたのことも……全部、覚えてる。」

「覚えてる……?」

「私は……私たちも、あなたとハレルヤと一緒だから……。二人で一人、彼女の記憶を私も持っている。彼女が大勢の人やあなたを傷つけたことも、彼女がどれだけ優しいかも、そのせいで彼女がどれだけ悩んでいたかも、全部覚えてる……」

自分もどれだけ罪で汚れているかマリーは知っている。
だが、それでも彼女は感謝している。
どれほどアレルヤが汚れていても、その気持ちだけは変わらない。

「脳量子波で叫ぶことしかできなかった私に反応してくれたのはあなただけ……あなたがいたから私は生きていていよかったと思えたの。だから……」

マリーが顔をあげて真っ直ぐにアレルヤを見つめる。
そして、

「神よ、感謝します。Alleluia……」

二度目の洗礼だった。
あの時と違うのは、彼女が手を組んで神への感謝の意を全身で表わしていること。
そして、こうして本当の意味で思いをつなげたこと。
それが、アレルヤには嬉しかった。

「マリー……僕も…」

その時だった。
薄手の布地から曇天の空にはありえないほどの強烈な光が飛び込んでくる。

「なんだ!?」

二人は外へ飛び出して光源の正体を見て驚いた。
この空域にはいないはずの正規軍のカラーリングをしたジンクスがこちらを見下ろしていた。

「連邦軍!?」

『中尉!!』

「その声……!!大佐!!?」

マリーは驚いていた。
セルゲイの率いている部隊は現在はここからかなり離れているはずだ。
にもかかわらず、彼はここに来たのだ。
自分を追って。

ジンクスから降りたセルゲイへとアレルヤとマリーは近づこうとする。
だが、

「そこで止まれ、ガンダムのパイロット!」

「「!!」」

突きつけられた黒い銃身にアレルヤは動きを止める。
今にも発砲しそうな空気だが、それを遮るようにマリーが声を張り上げる。

「待ってください大佐!!話を聞いてください!!」

「中尉!!?」

セルゲイは彼女の行動に驚くが、自分の知る彼女がなんの理由もなしにそんなことをする人間でないことはよくわかっている。

「……聞かせてくれるか?中尉。」






海上

アレルヤ達がセルゲイと相対しているころ、その二人はできる限り急いで、しかし丁寧にある人物を探していた。
ヴェーダから彼がここにいるとの情報を得た二人は仕事や学業を放り出してまでここに来たのだ。
ここで彼を止められなければなんのためにこんなにずぶぬれになってまで必死に駆けずり回ったのかわからない。

「でも、なんでラーズは彼を追っているんでしょうか?彼は僕たちとは違うはずなのに……」

薄い黄緑の紙をした青年が隣にいる黒い癖っ毛の男に問いかける。

「わからん。だが、ヴェーダを通じて見たやつの目はハンターのそれだった。彼を狙っているのは間違いないと私は思う。」

ボートのハンドルを左にきりながら男は周りの光景をよく見る。
彼が仲間であるはずがないのだが、それでも命を狙われているかもしれないと知ってなにもせずにいることなど自分にも、そして隣にいる彼にもできるはずがない。
隣にいる彼は誰かの痛みを自分の悲しみとして感じることができる心の持ち主だ。
彼が自分を見つけてくれてうれしく思うし、今回の救出も真っ先に言いだしたことを仲間として誇りに思う。
そして、自分は誰かの命を救うために日夜奔走しているのだ。
管轄外だと言われればそれまでかもしれないが、放っておくことなどできない。
自分は医者で、心を持った“人間”なのだから。

「レイヴ、悪いが少し揺れるぞ。」

「え、ちょ…うわぁぁぁぁ!!?」

荒波を乗り越える際の揺れでその場に尻もちをついた自分の相棒、レイヴ・レチタティーヴォはいつものことなので気にかけず、世界的に有名な医師、テリシラ・ヘルフィは自家用の船のスピードを上げていった。





無人島

「人格を上から書き換えただと……!?」

信じがたい事実だ。
まさか、そこまでのことを超人機関がしていたとは思わなかった。
だが、あの非道さを目の当たりにしてこの事実を否定することなどセルゲイにはできなかった。

「今の私はソーマ・ピーリスではありません。マリー……マリー・パーファシーです。」

彼女の言葉に続くようにアレルヤが話す。

「マリーは優しい女の子です!人を殺めるような子じゃない!」

一歩前に出たアレルヤにセルゲイは手に持っていた銃を握る力を強めるが、アレルヤは臆さない。

「マリーはあなたに渡さない……!連邦やアロウズに戻ったらマリーはまた超兵として扱われる!そんなこと、僕が許さない!」

「だが、君たちといても中尉は戦いに巻き込まれる!」

「そんなことしません!!」

心外だとばかりにアレルヤは怒鳴るが、セルゲイは頑として聞かない。

「私はテロリストの言うことを信じるほど愚かではない。」

「信じてください!!」

アレルヤの説得もむなしく、撃鉄がガチャリと鈍い音をたてる。

「私は君たちの馬鹿げた行いによって多くの同胞を失っている。その恨み、忘れたわけではない。」

セルゲイの言葉にアレルヤはギュッと唇を結ぶ。
彼の言うことはいちいちもっともだ。
自分はテロリストで、一緒にいればマリーは戦いに巻き込まれる。
そして、彼の仲間の命を奪ったことも事実だ。

せっかくマリーを取り戻せたのにまた奪われてしまう。
絶望で目の前が真っ暗になるアレルヤだが、ある提案を思いつく。
根拠などない。
だが、この目の前にいる彼のマリーへの想いが真実のものだと信じ、一縷の望みをそれに託すことにした。

「……撃ってください。」

「なに?」

セルゲイの眉がピクリと動く。
マリーも突然の事態に訳もわからず気を動転させる。

「その代わり、マリーを……いいえ、ソーマ・ピーリスを二度と争いに巻き込まないと約束してください。」

「アレルヤ何を!!?」

「いいんだ……」

マリーをなだめ、アレルヤは銃口の前に進み出る。

「撃ってください。」

そう言って自分を見据えるアレルヤのオッドアイを、セルゲイはじっと見つめる。
彼女を思う気持ちが真実であることも、そのためになら命を投げ出せる覚悟が本物であることもすべてがありありと伝わってくる。
ならば、自分もそれに男として答えることが礼儀というものだろう。

「……承知した。」

セルゲイは少しずつ指に力を込めていく。
アレルヤもその時を目を閉じて静かに待っていた。
そして、銃弾が今まさに放たれようとしたその時だった。

「いや……やめて!!」

「!!?」

絹を裂くようなその声に目を開いたアレルヤの目に飛び込んできた光景は銃を構えるセルゲイではなく、銀色の髪を揺らす彼女の姿だった。
慌ててどけようと肩を掴もうとしたアレルヤだったが、それよりも早く乾いた炸裂音と硝煙が湿った空気の中に漂った。










その頃、ユーノはクルセイドでの捜索を967に任せて自分はバリアジャケットを展開して隠れられそうな場所を片っ端から探しまわっていた。

「フゥ~……これだけやっても見つからないなんて。サーチに引っかかるのは鳥とかばっかだし、ホントに時間がかかりそうだなぁ…」

溜め息交じりで南国特有のにおいが立ち込める森の中へと舞い降りる。
ムッとする湿気と草の匂いに思わず顔をしかめるが、それよりも今はアレルヤを探すことが先決だ。

「はぁ……人がこんなに苦労してるのにアレルヤがラブシーンとかしてたらどうしよ?反射的に手が出ちゃうかもしれないよ……」

理不尽にアレルヤへ怒りの矛先を向けながら捜索をするユーノ。
しかし、

「っ!!?」

反応が一瞬遅れた。
これだけ生物の反応が多いと役に立たないと思ってサーチをやめていたのが裏目に出た。
障壁を張るよりも速く弾丸がユーノの肩をかすめ、わずかではあるがそこから血がにじむ。

「動くな。両手を上げろ。」

冷たく突き刺すような声にユーノは振り向くこともできずに声の主の指示に従う。

(……けど、サーチをしていなかったとはいえ、ここまで近づいて気付かないなんて……)

魔法のことを忘れ、訓練漬けの毎日を送っていたせいもあって気配には人一倍敏感になっていたはずなのにここまで接近を許す日が来るとは思ってもみなかった。
だが、

「アロウズかい?随分と仕事熱心なことで。」

軍人、しかも精鋭ぞろいのアロウズの中にならこれくらいの芸当をやってのける人間は一人はいるかもしれない。
しかし、ユーノのその予想は大きく外れていた。

「俺はそんなものではない……俺は、お前のような似非人を狩る存在だ。」

(……?似非人?)

ハスキーがかった声にユーノは心の中で首をかしげる。
あいにく自分は似非と呼ばれるような出生をした人間ではないし、別に改造を受けた覚えもない。
もっとも、魔法を使えるというだけでこちらの人間にとっては衝撃的事実だろうが。

「僕はそんなんじゃないけど?」

「黙れ。貴様にその自覚がなくとも、いずれ貴様も目覚めるときが来る。俺の…俺の家族のように……!!!」

男の声が呻くようなものに変化し、今にも銃弾が放たれようとしているのがユーノにもわかる。

(まずい……防御魔法を張って対抗するしかないかな?)

できることならあまりこの世界の人間に魔法のことを知られたくなかったので極力使わないように心がけていたのだが、今回は仕方がない。

「神よ……似非人に死を…そして、彼の魂に安らぎを!!!!」

襲撃者が発砲しようとした瞬間にユーノも障壁を張ろうとする。
だが、それよりも一足先に銃声が雨の中を突き抜けていった。









マリーはその場で膝をついた。
だが、襲ってくるはずだった痛みは全くない。
アレルヤも呆然としているが無傷だ。
恐る恐る視線を上へ向けてみると、そこには銃を真上に向けているセルゲイがいた。

「たった今、ソーマ・ピーリス中尉は名誉の戦死を遂げた。」

「大佐……」

これが、セルゲイがアレルヤに対して示した答えだった。
彼を許すことは一生かかってもできないだろう。
だが、彼を信じることはできる。
そう思ったからこその決断だった。

「……中尉を頼む。」

そう言い残し、セルゲイはその場を去ろうとする。
だが、

「スミルノフ大佐!!」

マリーの声にセルゲイは足を止める。

「私の中にいるソーマ・ピーリスがこう言っています……あなたの娘になりたかったと……。そして、私も……」

セルゲイは一度大きく空を仰ぎ、マリーの方へ振り返る。

「そうか……その言葉だけで十分だ……」

娘を送り出すような瞳。
たまらずマリーはセルゲイへと駆け寄って抱きつく。
涙で震える彼女に、セルゲイは優しく語りかける。

「生きてくれ……生き続けてくれ……そして、彼と幸せにな……」

「っ……!!はいっ……!!」



その後、ゆっくりとジンクスを浮上させるセルゲイは最後まで敬礼をするマリーを見つめていたが、ある程度の高度にまで達したところで背を向けてその場を離れた。
その帰りの道中、見なれない機体と遭遇する。

「あれは……ガンダムか。」

白い機体、プルトーネは警戒するようにライフルを向けていたが、セルゲイは今しがた自分のいた場所の座標を転送する。

「これは……まさか、ここに彼らが?」

ヴェロッサは不審に思いながら、額から放つ光でこちらと交戦の意思がないことを示すセルゲイをそのまま見送り、座標にあった島へ向かう。
そこで、彼が見たものは、

「あれま……人が苦労している時にお熱いことで。でも……」

クスリと笑うと、その姿を画像に収めて記念に記録する。

「悪くない画だ……」

そこには、互いの気持ちを確かめ合うように口づけをかわす二人の姿があった。
それを祝福するように、雲が晴れた空には大きな虹がかかっていた。








「クッ!!」

襲撃者は間一髪でその銃弾をかわすと、撃ってきた者に対して撃ち返そうとする。
だが、持っていたのが狙撃用のライフルだったせいもあり、その前に追撃を受けてやむなくその場から退散することになった。

「待て!!」

「おわなくていい、レイヴ。それよりも、彼の傷を見るのが先だ。」

草むらをかき分けるように現れた黒髪の男にユーノは身構えるが、それを見た男はフッと笑う。

「心配しなくていい。私たちは君を彼から守りにここへ来た者だ。」

ユーノの肩の傷を見ながら黒髪の男はホッと胸をなでおろす。

「この程度なら問題はないな。途中で弾道がそれたおかげで致命傷にならずに済んだ。」

「あの、あなた方は……?」

思い出したようにその言葉を口にしたユーノに、男は再び笑う。

「私の名はテリシラ・ヘルフィしがない医者さ。彼はレイヴ・レチタティーヴォ。学生をしている。」

「テリシラ……?あっ!!まさか、ドクター・テリシラ!?」

「おや、知っていたか。君はこちらの話には疎いと思っていたのだが……」

知っているも何も、四年前の介入をしていた頃から話題になっていた医師だ。
医学の研究おいて様々な発見をしただけでなく、戦場での無償の治療、さらには軌道エレベータの医療への使用する理論を展開している超がつくほどの有名人だ。

「ドクターのことを知らない人はそういませんよ……」

呆れたように笑いながらレイヴと呼ばれていた青年がユーノに手を貸して立ち上がらせる。

「いや、何せ異世界の人間がこちらの世界の事情に興味を持つとは思っていなかったのでね。」

「!!」

二人に気を許しかけていたユーノだったが、その言葉に再び緊張が奔る。

「なぜそのことを知っている……!」

「なに、つい先ほどヴェーダからダウンロードされた情報だ。流石に最初は驚いたが、そう考えると納得がいく点が多々あるのでね。」

「僕はいまだに信じられませんよ……魔法とか異世界とか……」

「あなたたちは一体……!?」

戸惑うユーノにテリシラが答えを示すように虹彩を金色に輝かせる。

「私たちはイノベイド……ヴェーダに生み出され、その目となり耳となり、時には与えられたミッションをこなす……そういう存在だ。」








優しき狂戦士、想い人を取り戻す
空の守護者、造られし天人と出会う






あとがき・・・・・・・・・・という名の嫉妬

ロ「というわけで、ユーノがIの皆様と遭遇する第六話でした。」

ア「ちょっと!!僕とマリーの再会の件は!?」

ロ「うるさい、このバカップル。」

ア「なにをぉぉぉぉ!!?」

ユ「僕がなのはと敵対フラグ立ってるのにいちいち騒ぐなよ、このバカップル。」

マリー(以降 彼女さん←ミレイナ命名(笑))「ユーノ君んんんんん!!?なんかキャラ変わってない!!?」

ヴァイス(以降 元ヘリパイ)「人が必死で探し回ってるときに何してくれてんだよ、このバカップル。」

ア「なんか初登場の人にまで酷い言われようだ!!?」

ヴェロッサ(以降 ナンパ師)「はっはっはっはっ、このバカップル。」

彼女さん「こっちは特になにもなしでバカップル呼ばわり!!?」

フォ「どうせあの後エロい展開に突入したんだろ、このバカップル。」

ア「してないからね!!?ていうかしてたらこの作品終わるから!!」

レイヴ(以降 学生)「あなたのせいで僕らの出番が減っちゃったじゃないですか、このバカップル。」

ア「それ僕のせいじゃないよね!!?どっちかっていうとロビンのせいだよね!!?」

テリシラ(以降 毒舌医師)「いい加減認めたまえよ、このバカップル。」

ソーマ(以降 ソ)「私はカヤの外か、このバカップル。」

彼女さん「ピーリス中尉ぃぃぃぃぃ!!?あなたも初登場なのになんで嫉妬の炎をそんなに燃やしてるの!!?」

ソ「お前は私のものだ/////」

彼女さん「えええええええええぇぇぇぇぇぇぇ!!?そっちの趣味の人だったのこの人!!?」

ロ「バカップルがうるさいうえに、こいつらのせいであとがきが無駄に長くなっているのでそろそろ次回予告に行きます、このバカップル。」

ア「ここでもそれ言うんかい!!!」

ソ「次回はロックオン編だ。」

元ヘリパイ「次元の狭間から飛び出したロックオンを待っていたのは一面に広がる荒野の世界。」

ナンパ師「そんな開拓世界の町でロックオンは情報を集めつつ地球に戻る手段を模索する。」

ユ「そこで、ロックオンはある二人の人物と遭遇する。」

フォ「自分と似た境遇の二人……そこでロックオンは自身のアイデンティティを再度問い直す。」

学生「そんな中、突如として出現する新型MS!!」

毒舌医師「ケルディムで迎え撃つロックオンに勝機はあるのか!?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただいてありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお聞かせください!じゃ、せーの……」

一同「次回をお楽しみに!!」

ア・彼女さん「「僕(私)たちはバカップルじゃなーーーーーーーーい!!!!!!!!」」



[18122] 7.twin’s
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/12/14 16:20
?????

その時をリボンズは部屋の真ん中にあるソファーに座して待っていた。
本当は出迎えに行くべきなのかもしれないが、たかだか人間を相手にそんなことをする必要などないと考えたリボンズは堂々と座っていた。
そして、その時が来た。

「お待たせしましたな。」

そう言って暗い入口から菫色をした髪の青年に連れ添われて現れたのは一人の老人。
一件好印象を抱きそうになる風貌だが、その瞳は鷹のように鋭く、この老人がタダものではないことがリボンズにはよくわかった。
そして、リボンズも普通の人間でないことを老人は見抜いていた。

「お待ちしていましたよ、異世界からのお客様。」

「驚きましたな……あなたのような若い方がこの世界を率いていらっしゃるとは。」

「率いている、ですか……いかにも人間らしい表現ですね。」

老人の言葉に小さく笑うリボンズ。
しかし、老人の方はあくまで柔和な態度で彼と話す。

「お気に障ったなら謝罪いたします。しかし、この年になると思ったことがすぐに口から出てしまうもので……。見抜いてしまったことをついつい……おっと、これも失言でしたな……」

その言葉に隣に立っている青年はムッとするが、当のリボンズはそんなことなど気にしてなどいなかった。

「いえ、そう思われたのでしたら別にかまいませんよ。理解のない者が見ればそう思うのかもしれませんからね。」

「そういえば、その理解のない者がこちらに二人ほど残っていたそうですな。こちらの不手際で申し訳ありません。」

「気にはしていませんよ。それに、むしろ二人だけでもこちらに残ってもらって助かりました。」

「と、言われると?」

老人が不思議そうに首をかしげるとリボンズはクスリと笑う。

「彼らには僕らに対抗する存在であってほしいんですよ。この世界のためにもね……」

そう言って瞼を開いたリボンズの目には野望にも似た炎が燃えていた。






魔導戦士ガンダム00 the guardian 7.twin’s



第43開拓世界 ゲイルス 荒野

二本の角を持った獣がごつごつとした岩が転がる赤茶色の大地に生える貴重な緑を食む。
遠目には鹿にも見えるが、近づいてみると鹿とは違うことがよくわかる。
頭は確かにくすんだ緑の毛皮で覆われているが、胴体は亀の甲羅のような固い殻でおおわれ、動くたびにその殻の隙間からピンクの地肌が見える。
そんな猛獣の牙さえもはじき返しそうな堅牢な体を持つその獣の耳がピクリと動く。
彼を襲う存在はこの世界でもかなり限られているのだが、それでも敏感に自分に迫る危険を察知する。
しかし、彼が目的でここに来たものにここで逃げられたのでは骨折り損だ。
固い殻に覆われていない頭に慎重に狙いをつけ、獲物が逃げようと背を向けた瞬間、

「悪いな。」

銃声と空気を切り裂く音がした後、小さく血しぶきを飛ばしながらその鹿のような動物は地面にばったりと倒れた。
今晩の食事を手に入れることに成功した男は素直に喜びを表現したい気持ちを押さえ、獲物の前で膝をついて両手を組む。

「主よ……私ども小さき者に、この犠牲を与えてくださったことを感謝します……」

男は別に敬謙なクリスチャンというわけではない。
しかし、地球から来たという先祖からの代々伝わる教えに従っているだけだ。(もっとも、多少ミッド風に変化はしているらしいが)
それに、自分たちを生かすために犠牲になった彼に対する感謝の気持ち自体は本物だ。

「さて、早いとこ沢に行って血抜きをしないとな…」

男は無精髭の生えた顔をあげて純粋な質量兵器仕様のライフルと獲物を担ぐと近くの水場へ向かおうとする。
その時、遠くで爆音のような叫び声が遥か彼方から聞こえてきた。

「この声……ゲイルか。まったく……またどこかの馬鹿が手を出したか。」

初めてこの世界に来た人間の中には、この世界の名の由来にもなったその珍しい動物を見ようとする者がいる。
しかし、この世界に住んでいる人間は進んで特別な用がない限り彼らとはかかわりを持たないようにしている。
もともと人前にはなかなか姿を現さないため遭遇することは少ないのだが、ただでさえ気性が荒く、その上魔力結合を解除する鱗を纏っているのだから生半可な装備で会いに行くのは自殺行為と言えよう。
しかし、どうやらゲイルと遭遇した馬鹿は魔法で対抗しているようだ。
時折パッパッと光が明滅していることからそれがわかる。

「チッ……馬鹿が!」

興味本位で会いに行って死ぬのは勝手だが、流石に近くで死なれては寝覚めが悪い。
装備は心もとないが助けに行くしかない。
ライフルを構えて走り出した男だったが、しばらく進んだところでそれが魔力光ではないことに気付いた。
その証拠に、ゲイルの声がいつも以上に鬼気迫っている。

「なんだ……!?」

一体どうなっているのか。
訳もわからず、切り立った崖になっている場所についたところで男は唖然とした。
モスグリーンと白の巨人と、全身を虹色の鎧で固めた巨竜が崖の下で激しい死闘を演じていたのだ。



「クソッ!!なんなんだよこいつは!!?」

「該当データナシ!データナシ!」

「当たり前だ!!あったら逆にびっくりだっての!!」

ロックオンは今日がワースト3に入るくらいの人生最悪の日であることを確信していた。
あの黒い穴に飲み込まれた後、いきなりグランドキャニオンも顔負けのだだっ広い荒野に放り出され、他のガンダムの反応を探すどころか地図すら役にたたず途方に暮れていたらケルディムと同じくらい大きなトカゲ(?)に遭遇し、こうして襲われる羽目になったのだからそう思いたくなるのも仕方がない。

「ったく!!実は怪獣映画の撮影でしたなんてオチにはなんねぇのかな、っと!!」

GNピストルで的確に怪物の頭をとらえるが、怪物はひるんだ程度で再びケルディムの腕へとその鋭い牙を向ける。
空中へと上がることでその一撃を回避するが、怪物も負けじとそれまで背中にしまっていた大きな翼を広げる。
その翼だけで怪物の全長の約二倍はありそうだが、それをひょいと二、三回羽ばたかせるとケルディムが昇った高度まであっという間に追いつく。

「おいおい……!!ドラゴンなんざおとぎ話の中だけに…っ!!?」

おとぎ話
自分で言ったその言葉でロックオンの頭は急速にある仮定にたどり着く。
あの時はあそこまでのモノを見せつけられても信じられなかったが、彼の話が本当だとしたら地図が役に立たなかったことも、目の前にいるこいつについても全て説明がつく。

「まさか……俺、本当に…!!?」

ロックオンは操縦することすら忘れて呆ける。
そう、おそらくここは地球ではないどこか。
異世界と呼ばれる場所なのだ。

「マジ…か……」

目の前にいるドラゴンはすでに口の中に何やら虹色の光をため込んで臨戦態勢を整えているが、ロックオンはそのことに気付かないほどショックを受けていた。
せっかくソレスタルビーイングに入ってアロウズに対抗できる力を手に入れたのに、向こうにカタロンの仲間たちを残して帰る方法もわからない場所に飛ばされてしまったのだ。
その絶望は計り知れないものだろう。

「ロックオン!!ロックオン!!」

ドラゴンは口の中の光を外に出そうとしていることに気付いたハロがロックオンに警告を出すが、当の本人は気が抜けてしまいもう手が1mmも動かない。

「どうしろってんだよ俺に……」

しかし、抜け殻状態だったロックオンの心の中がある感情で埋め尽くされていく。
あまりにも理不尽なこの状況。
おまけに目の前でぎゃあぎゃあとうるさく喚くでかいトカゲ。
灼熱のマグマにも似たその感情は、遂にロックオンの口から言葉として噴火した。

「どうしろってんだよ!!!!!!」

ドラゴンが口を開けると同時に体を斜にずらして巨大な虹色の弾をかわしてケルディムは口が閉じられる前にビームピストルの弾を口腔内にたたき込む。
まるで口の中で線香花火が燃え盛っているように激しい光の花を咲かせたドラゴンは呻くような声をあげて地上に落下していく。
そして、赤い土煙をあげて地面に激突したものの、ドラゴンはすぐに起き上がって上空にいるケルディムを睨みつけると、周囲の大気が鈍器に変わったのではないかと思うほどの咆哮を上げる。

「キレたか?まあいい、俺も憂さ晴らしがしたいところなんでな……とことん付き合ってやるよ!!!!」

ロックオンは銃口を下にいるドラゴンへと向けるが、戦いは予想外の形で終結する。
ガラスを引っ掻くような不快な音が山彦のように周囲一帯に広がったかと思うと、ドラゴンはマタタビを与えられた猫のように大人しくなり、ケルディムに背を向けて去っていった。

「なんだ?」

ロックオンは不快な音の音源を探して辺りを見渡す。
すると、崖の上に立つ人影に気づいた。

「あんたか、今のをやったのは。」

外部音声で無数のイボがつき出たオカリナを持ったその人物に話しかける。
ティエリアがいたら機密事項を守れとまたうるさく言いそうだが、こんなところにきて機密もクソもないだろうとロックオンは自分の中で納得してすぐに頭をきりかえる。
見たところこちらに危害を加える気はないようだが(もっとも、持っているライフルで攻撃されたところでどうということはないのだが。)、助けてくれたからといって素直に信用するほどロックオンも甘くはない。
だが、男の答えは意外なものだった。

「勘違いをするんじゃない。お前じゃなくてゲイルを助けたんだ。」

「ゲイル?こんなところに放り出されて途方にくれてる人間にいきなり襲いかかってくるあのデカブツのことか?」

ロックオンが棘のある言葉を吐くと、男はあごで翼を広げて空へと昇っていくゲイルをさす。

「ゲイルス……この世界の名の由来にもなったように、ここはもともと彼らの土地だ。私たちは彼らにこの地を分け与えてもらって生活している。敬意を払うのは当然だろう。」

「なるほどね……そいつは悪かったな。」

ロックオンは崖の近くまでケルディムを寄せるとハッチを開けてケルディムの顔の前に出る。

「それで、ゲイルス……って言ったか?具体的にはどういうところなんだ?」

いきなり出て来て何を言うのかと思ったが、男にはそれよりも不満なことがあった。

「その前に顔を見せたらどうだ?それとも、顔を見せずに話すのがお前の初対面の者に対する礼儀なのか?」

「おっと、こいつは失礼。」

ロックオンはヘルメットをとって外の空気を吸う。
少し埃っぽいが、こうして息ができるので問題はなさそうだ。

「これでいいかい?スナイパーさん。」

「スナイパーじゃない……私の生業は猟師だ。それと、猟師だからってそのまま猟師なんて呼ぶな。私にはアルフレード・K・ウルフという立派な名前がある。」

猟師さん、と呼ぼうとしていたロックオンは出鼻をくじかれるが、それよりも聞かなければならないことがある。

「アルフレード、ここは一体どこなんだ?別の世界に飛ばされちまったことぐらいはわかるが、具体的にどういうところに飛ばされたかまでは分からないんでね。」

「お前、次元漂流者か……なるほどな、それならわざわざごたごたが起きている世界にきても仕方がないな。」

「次元漂流者?ごたごた?それどういうことだ?」

「質問は一つずつにしろ。話すこちらのことも考えろ。」

説教じみたアルフレードの言葉にイラッとするが、それでも彼は貴重な情報源だ。
ご機嫌を損ねるわけにはいかない。

「悪いな。せっかちなもんでね。」

ロックオンのへらへらした笑いにアルフレードもイラッとするが、妙な騒ぎを起こされても困るので質問には答えてやる。

「まず、最初の問いの答えだが、ここは第43開拓世界ゲイルス。巨竜と鉱物資源、そしてわずかな緑が存在する世界だ。」

「なるほどね…そんじゃすぐで悪いが次の質問だ。次元漂流者ってのはなんだ?」

「言うなれば世界規模での迷子だ。ごく稀に現れることがあるが、そのほとんどは元いた世界に帰れずに管理局が管理する世界で一生を遂げることになる。」

アルフレードのそのぶっきらぼうな事実の言い方にロックオンは笑顔を消して表情を厳しくする。

「おいおい、いきなり絶望的なことを言ってくれるなよ。そこは絶対帰れるとか言うところじゃねぇのか?」

「無駄に希望を持たせておくのも悪かろう。私なりの気づかいだ。」

「そらどうも……」

こめかみをピクつかせながら投げやりな返事をするロックオンだったが、どこかそうではないかという疑惑は持っていた。
しかし、

「けどな、俺はどうしても戻らなきゃなんねぇんだよ……仲間が向こうで待ってるんだ。」

「……そうか。」

「……?諦めろとか言わねぇのか?」

ロックオンが意外そうに聞くと、アルフレードは目を閉じる。

「主は愛する者に越えられない試練は与えない……お前が絶対に帰るというのなら、それは神が与えられた試練であり、それを為すことに何らかの意味があるのだろう。」

「なんじゃそりゃ……ていうかあんたクリスチャンか?別世界にまでキリスト教が普及しているとは驚いたな。」

「私の先祖はもともと地球出身だ。今のは私の曾祖父が勝手に解釈したものだ。それより、お前も地球出身か?」

「そうだ。」

と答えたロックオンだが、しばらくしてしまったと後悔する。
“こちら”の地球と“あちら”の地球は時間的にズレがあるうえに歴史の流れも少し違う。
深くツッコまれれば怪しまれる可能性がある。

「しかし、その割には異世界について知っているような口ぶりだったな?本当に地球出身か?」

「こっち側出身のやつに知り合いがいてな。そいつから聞いた。」

「……そういうことにしておいてやる。……そういえば、まだ名前を聞いていなかったな。なんていうんだ?」

「ん……ああ、俺はロック…」

「ロック?」

「いや、ジーン……」

「?どっちなんだ?」

「ジーン……ジーン・マクスウェルだ……」

なんでそう言ったのかはロックオン自身にもわからなかった。
確かにガンダムを使わせてもらっているが、ソレスタルビーイングに義理立てする必要はどこにもない。
コードネームを教えればいいし、なんなら本名で言ってもよかった。
だが、ロックオンやディランディの名を口にしようとしたときによぎった自分そっくりの顔。
心がもやもやし、気付いたら仲間たちが自分を呼ぶ時の単語、ジーンとなんとなく出てきたマクスウェルという名前をくっつけていた。

「ジーンか……あまり良い名ではないな。」

「喧嘩売ってんのかテメェ……」

思いつきの名前とはいえ、自分のセンスにケチをつけられるのは頭に来る。

「まあそれはいい。いつまでもここにいるのはお互いまずかろう。」

そう言うとアルフレードは一人で歩きだす。

「ボーっとするな。そのデカブツの置場も提供してやるからついてこい。まったく、厄介事を持ちこんでくれおって……」

「そういや聞き損ねてたけど、三つ目の質問だ。」

ロックオンの声にアルフレードは足を止める。

「この世界で起こってるごたごたってのはなんなんだ?」

もったいぶるようにそのまま立ち止まっていたアルフレードだったが、神妙な面持ちで振り向く。

「この世界に、管理局の連中が手を出そうとしている。」

その言葉に、コックピットの中に戻ろうとしたロックオンは動きを止めた。






同時刻 第一管理世界 ミッドチルダ 病院

「もう、ついてこないで良いって言ったのに。」

「そうは言っても、心配なものは心配なんだよ。」

微かに花の香りを漂わせるその女性は長い黒髪を揺らしながら隣に立つ若い男に笑いかける。
周りにいる人間は彼のウェーブのかかった短い金髪と翠の瞳を見ながらこそこそと話し合うが、二人はそんなことなど気にせずに大きく開いた自動ドアを通って外へと出る。

「もう、あなたってば昔からそう。大事なことは一人で抱え込むくせに、人の心配ばっかりして。」

にっこりと目が見えなくなるほどの満面の笑みでリュアナ・フロストハートは長い付き合いの恋人に苦言を呈するが、当の恋人は溜め息をつきながらごまかすように笑うだけだ。

「別にそんなことはないさ。人間少し無茶をするくらいが健康には良いんだよ。」

「じゃあ、私もその健康法を採用しようかしら?」

「駄目。」

「ほら、結局あなたのわがままなんじゃない。」

リュアナは恋人のエミリオン・ヴィントブルームのわき腹を小突きながら抗議するが、エミリオンはやはり笑って流す。
だが、エミリオンの笑いが突如消える。

「……?」

リュアナは不思議そうに前を向くと、そこには長い藍色の髪と管理局の陸士服をした女性が頭を下げていた。

「ごめん、仕事にいかないといけないみたいだ。」

「エミリオン……」

「大丈夫だよ。この埋め合わせはいつか…」

「そうじゃないの。」

リュアナはエミリオンの腕をぎゅっと握る。

「本当に、無理をしてない…?」

「……ああ、もちろんだよ。」

しかし、エミリオンはリュアナの方を向くことなく待っていた局員のもとへと歩いていく。
そして、彼女から受け取った白い白衣を羽織ると胸ポケットにかけていたメガネをかける。

「プライベートの時には連絡はしないでほしいと言っておいたはずですが?ナカジマ陸曹。」

「申し訳ありません。しかし、どうしても早急に確認したいことがありまして……」

疲れた顔で謝るギンガ・ナカジマに、自分も苦労を重ねている身としてエミリオンは気遣いの言葉をかける。

「そちらも大変ですね。先の事件で逮捕した子の研修とは……」

「正確に言うなら、聖王教会側が提案したことなんですけどね。でも、あの子たちにもいい経験になると思います。」

「それにしたって、まさか僕の護衛なんて……」

今回は完全に自分の意思で決めたことなので、あの男も根回しはしていないはずだったので彼女たちがついてくると聞いた時は驚いた。
そして、驚くと同時に嫉妬にも似た感情が小さく灯っていることにも気付いた。
自分や家族は何もしていないのに、周りから忌み嫌われて生きてきた。
それに引き換え、彼女たちの周りには理解者が大勢いる。
そんなことを考えるとうらやましくて仕方なかった。

「ヴィントブルーム技師長?」

「ああ……スイマセン。少し考えことをしていたもので……」

不思議そうに自分を見ているギンガに気付いたエミリオンはそう言って取り繕う。

確かに昔は誰も自分のことを受け入れてはくれなかったが、今は違う。
自分が何者なのかを知ってもそばにいてくれる人がいる。
どんなに希望が薄くても、太陽に向かって必死に体を伸ばす向日葵のように明るい彼女にどれほど救われたか。
だから、今度は自分が彼女を守る。
たとえ、この手で生み出すものが誰かに不幸をもたらすものになるのだとしても……







三日後 ゲイルス

冷える夜の闇にまぎれながら、ロックオンは持っていた氷を口の中に入れる。
こうすると口から出る息が白くならず、獲物に感づかれる確率が低くなる。
氷のせいで体の中から冷えてくるが、こんなもので音を上げるわけにはいかない。

(……来た。)

仕掛けておいた餌に、通常の猪よりも遥かに大きな牙を持つ動物が森の中から出てくる。
アルフレードの話ではこいつは雑食だそうだが、どちらかというと肉食よりらしい。
猪のくせに。

だが、ロックオンは臆することなく確実に仕留められる距離に入ってくるまで息を殺して待ち続ける。

(あと20……17……12……)

少しずつではあるが着実に近づいてくる猪。
しかし、射程距離まであと5mほどのところで何かに気付いたのか視線を餌ではなく正面に移す。
そして、一声鳴いたかと思った時にはロックオンへと突進を開始した。

(気付いたか……)

だが、ロックオンは慌てない。
相手が動いているときはいたずらに撃ったところで当たらない。
敵の動きを読み、そのうえで急所へと確実に一撃を加える。
それだけでいい。

「狙い撃つ!」

そう言った次の瞬間には猪は倒れて慣性に従って数m進んで動かなくなった。
その額には赤い点がくっきりと刻まれている。

「ミッション完了……なんてな。」

ロックオンは予定よりも距離が近くなった獲物を四つの車輪がついたそりのようなものに乗せると、居候先の主との合流地点である水場へと向かう。
そこそこ距離はあったが、カタロンで鍛えていたおかげかさほど辛いとは感じない。

「早かったな。」

先に血抜きをしていたアルフレードに続き、ロックオンも隣に猪を置くと首元を大きなナイフで切り裂いて血を流し始める。

「肉はあとで燻製にでもしておくとして……毛皮は今度ミッドに行った時に売るか……ついでに、お前とあのMSも送ってやる。」

「俺がついでかよ。てか、いい加減名前で呼べよな。」

唇を尖らせるロックオンだが、アルフレードはその訴えを無視する。
もう三日も経って、町の人間は気軽にジーンと呼んでくれるのだが、アルフレードだけは名前を呼ばずにお前としか言わなかった。

「名はそのものの本質を指し示す。偽の名で呼べばその人間がわからなくなる。」

「へいへい、さいですか。」

その後、二人は無言で荷車に今日の成果を乗せて自分たちも乗り込むと、馬に鞭を打って車を走らせ始める。

「しかし、魔法が使えるのにこんな前時代的なもんで移動とはな……」

「この世界に入ってくる魔導器具など再生すら不可能なゴミばかりだ。デバイスもボロのストレージくらい。だから、こうするしかないのさ。」

そんな話をしていると、大きな円の描かれた場所につく。
パッと見たところ直径100mほどだろうか。
さまざまな文字や数字が書かれている。

「けどまあ、俺にしてみりゃこれだけでも十分にすげぇと思うがな。」

「こいつは特別だ。これがあるから私たちはゲイルや他の魔生物との無駄な遭遇を避けられているんだ。」

そう言いながらアルフレードは作業を終了する。
すると、円全体が光で覆われ、闇夜の中でその一帯だけが昼間になったかのように明るくなる。
だがその光はしばらくすると薄くなり、それに合わせるかのように二人の姿も薄くなっていき、光がすべて消えたときには二人もその場から姿を消していた。






開拓者の町 ログナー

基本的に開拓世界と呼ばれる世界には二種類のものがある。
一つは管理局などの庇護の下、新たな資源や土地を求めて開発を進める世界。
もう一つは、管理局などの庇護を受けない代わりに一切の干渉を拒み、自由を求めて新たな世界へと挑むものたちが集う世界である。
管理局は現段階で後者の存在を認めてはいるが、あくまで自分たちの支配下にあるものと考えているのでしばしば衝突が起こっていた。
ゲイルスもそんな世界の一つで、この西部劇のワンシーンをきりだしたような永遠の黄昏に染まる町、ログナーに集まった者たちは管理局に頼らずに自由を謳歌している。

「しかし、何度見ても妙な町だな。ずっと夕暮れ時なんてよ。」

「この世界のこの場所に相違空間を作ったことへの代償とでもいうものだな。もともと存在している空間を依代にする代わりに相違空間ではこういったことが起こりやすい。しかし、この程度なら生活にはさほど支障がないから誰も気にしないというわけだ。」

「それ、間違いなく魔法に慣れ親しんでいるから言えることだぞ。」

アルフレードの魔法になじんでいた者の常識を言われて苦笑するロックオン。
ここにきてからこの異世界の人間的常識を普通の生活(?)を送っていた自分にまで当てはめるのはやめてもらいたいのだが、どれだけ言っても馬の耳に念仏だった。
そんなことを考えながら町の中心部で荷車から降りたロックオンだったが、どうも様子がおかしい。
集会所の中にも外にも所狭しと住人が押し寄せている。

「どうした?」

「あ!ウルフさんにジーンか!ちょうどよかった!今、局の連中が来てるんだよ!!」

「管理局が?」

ロックオンは眉をひそめるが、それ以上に沈黙を守るアルフレードの顔は不快感一色だった。

「ああ!また性懲りもなくアリア山の開発にかかわらせてもらいたい、なんて言ってんだよ!!ふざけんなってんだ!」

異常なまでに怒りをあらわにする住人だったが、それも仕方ないだろう。
ロックオンがこの町に訪れる前から局員がしつこく交渉に訪れていた。
その内容はこの世界有数の鉱物資源の宝庫、アリア山の開発を協力して行いたいというものだった。
だが、そもそもアリア山はすでにログナーの住人がすでに安定した鉱石の採掘に成功しており、共同で開発を行うメリットなどどこにもない。
つまり、

「ほしいのは採掘権か。」

「そういうことだ。」

アルフレードも荷車から降りると集会所に向かおうとしていたロックオンに手綱を渡す。

「悪いがこいつを家まで運んでおいてくれ。」

「オイ、俺もあそこに…」

「いいから行け。」

アルフレードはロックオンの耳元でささやく。

(ミッドに行くつもりならここで管理局の連中ともめるのはマズイ。大人しくしているんだ。)

強引にロックオンを荷車に乗せると、馬の尻を叩いてゆっくりと歩かせ始める。

「オ、オイ!!」

「そいつを置いたら好きにしていろ。」

何か言う暇もなくロックオンは荷車で家へと向かって、いや、運ばれていった。






集会所

木造りの広い空間が、それですら場所が足りないほど人間で埋め尽くされていた。
この木のいい匂いが漂う集会所は普段ならば住人の憩いの場となっているのだが、今日だけは違っていた。
周りの人間の明らかな敵意。
目の前に出された飲み物に毒が入っているのではないかと思うほど圧迫感。
そんな中、ギンガとエミリオンは水色の髪の少女を挟んで肩身の狭い思いをしていた。

「あの……」

勇気を振り絞って言葉を絞り出したギンガだったが、周りの無言の圧力に再び黙ってしまう。
だが、

「もう少し愛想良くした方がいいと思うよ~……あ痛っ!!」

「アハハハ!どうもすみません!!」

真ん中に座っていた少女、セインがカラカラ笑いながらとんでもないことを言うのでギンガは拳骨を頭に振りおろし、エミリオンは慌てて口をふさいで愛想笑いをするが、周りからの視線はますます厳しくなる。
そこへ、

「みんな、少し落ち着け。お客人が困っている。」

黒い無精髭とあちらこちらに捻じれた黒い毛先が飛び出た頭が人込みをかき分けて進み出る。
風貌こそ粗野だが、その態度は礼儀正しく軍人のそれを思わせる一面もある。

「あなたが、この町の指導者ですか?」

「いや、この町の指導者はあえて言うとするならこの町の人間全員だ。私は決定権の一部を持つ一住民にすぎない。」

そう言うとアルフレードはギンガ達の前に腰を下ろす。

「単刀直入に言わせてもらおう。私たちはあなた方と共同開発を行うつもりはない。」

案の定の返事だったが、エミリオンもここで引き下がるわけにもいかない。

「しかし、資源を独占するのはいかがなものでしょうか?どの世界にも、見つかった物の恩恵を受ける権利はあるはずです。」

「その言葉、そっくりそのままあなた方に返させていただこう。我々から見ればあなた方こそが富や権力を独占し、それを用いて次元世界全体を支配しているように思われる。」

「そんな!風評ですよそんなこと!!」

ギンガは憤慨して立ち上がるが、アルフレードは落ち着いた口調で話す。

「お嬢さん、あなたは山に登ったことがありますか?」

「!?なにを…」

「山の頂上に登ると、今まで見えなかった風景が見えるようになるものでね。それまで見えなかったことが目に飛び込んでくるようになるものだ……」

アルフレードは揺らぎない信念を込めてギンガを見上げる。

「あなたはまだ若い。まだ二合目に差し掛かったかどうかというところだろう。だからといって、自分の見えないものをないものと考えるのは愚者のすることだ。」

「…………………………………………」

黙りこくるギンガ。
しかし、

「しかし、私たちにはこの世界の鉱石資源が必要なのです。あなた方の不利益にはなりません。だから…」

「私たちは適正な価格でとれた物をミッドにも販売しているはずだ。それに、私たちが危惧しているのはあなた方からの干渉だけではない。」

「?」

「やはりわからないか……」と呟くと、アルフレードはゆっくりと喋り始める。

「あなた方の開発方法がこの世界に与える影響だ。我々は最低限の量を採掘し、日々の生活に当てている。しかし、あなた方が大規模に採掘を行えばこの世界に生きる命はないがしろにされる可能性は高い。」

「それは……」

「ないと言い切れるのか?この町の住人の中には局の無茶な開発で環境が激変し、故郷に住めなくなった者も少なくない。」

アルフレードは椅子から立ち上がって人をどけて入口までの道を作る。

「どうぞ、お帰りください。我々は管理局に協力する気はない。」

まだ食いつこうとしたエミリオンたちだったが、周りの雰囲気に背中を押されてその場を去る。
だが、程度で管理局が黙っているはずがないことをアルフレード、そしてエミリオンもよくわかっていた。
だからこそ、エミリオンはこの場で何とか説得したかったのだ。

(頼む……何も起きないでくれ……)






商店街

荷物を家に置いたロックオンは店へと繰り出していた。
二日後にはこの町を後にして次元世界の中心地とも言うべきミッドチルダに行くのだから、どうせなら記念に何か持っていきたい。
そう思ってここに来たのだが、ここに最初に来たのはアルフレードがロックオンに仕事を手伝わせるために今着ているジーンズとカウボーイシャツ、そして鉄底の靴を与えるために連れてこられたぐらいで他の店はろくに見ていない。
店の中にはなんなのかわからない商品を売っているところもある。

「チッ……やっぱアルを連れてくりゃよかったな……」

頭をかきながら並べられた食品や装飾品を見ていくロックオンだったが、

「「あの。」」

「ん?」

重なったせいでエコーのように聞こえる声に振りかえるロックオン。
そこにいたのは、まるで執事のような服を着た少年(?)とそれを従えるお嬢様のような服を着た少女だった。
二人とも濃いこげ茶色の髪をしているが少年(?)の方は短く、少女の方は長い。
いや、少年と思ってしまったが、よくよく見れば執事のような服を着ている方も女の子かもしれない。

「僕たちこの町の特産品みたいのを買いたいんですけど何かいいもの知りませんか?」

「悪いな。俺もここにきて日が浅いんでな。そういうのはよくわからねぇや。」

「そうですか……」

そう言うと二人は残念そうに肩を落としてトボトボ歩いていく。
ロックオンもその場から去ろうとしたのだが、

(チッ……)

あんな顔を見せられて放ってはおけない。
甘いかもしれないが、自分の気持ちをごまかすくらいならカタロンになど入っていない。

「おい。」

「「?」」

「何を買えばいいのかはわからねぇけど、それを教えてくれるやつとはある程度面識がある。」

「「…………………………………………」」

「な、なんだよ?」

まじまじと自分を見る彼女たちにロックオンは思わず後ずさる。

「ありがとうございます。ぜひ教えてください。」

「あ…ああ……、どういたしまして。」

どうにもこの二人は苦手だ。
なんというか無感情というか、機械っぽいというか、まるで生まれたての赤ん坊と話をしているようだ。
年相応の喋り方をしていないせいだろうか。

「それでは、さっそく案内をお願いします。」

「ああ………(まあいいや。俺もついでに良い感じのもんを買って土産にするか……)」






親しい人間を何人か見つけて話しを聞いてやってきたのは商店街の外れにあるアクセサリー店だ。
そこには色とりどりの石や動物の骨や毛皮を加工したものが置かれている。
ロックオンはめぼしいものがなく正直すぐにここを離れたかったが、連れの二人、オットーとディードが姉妹へのプレゼント選びをしているせいでここにとどまらざるを得なかった。

「つかお前らどんだけ姉妹がいるんだよ!」

ロックオンが指さす先には十個以上の装飾品を買っている二人の姿があった。

「私たちは12人姉妹ですので。」

「すげぇ大家族だな………俺なんて妹と同い年の兄貴がいたくらいだぜ?」

「同い年?」

オットーが不思議そうに首をかしげると、ロックオンは苦笑する。

「双子だよ。」

「じゃあ、僕たちと同じだね。」

「?同じ?」

「私たちも双子です。」

「おいおい嘘だろ?だってオットーは男みたいだし、胸だって……あ、悪かった。俺が悪かったからその置物をそこにおいてくれないか?それぶつけられたら俺死ぬかもしれないから。」

無表情でギリギリと木彫りの熊(推定重量100㎏)に指を喰い込ませて持ち上げていたオットーは青ざめたロックオンの謝罪を聞いて、もとあった位置にそれを戻す。

「しかし、皮肉なもんだな。俺たち兄弟はぎくしゃくしてたけど、お前ら姉妹は仲がいいんだな。」

「どういうこと?」

店の真ん中にある柱に寄りかかるロックオンにオットーは不思議そうに尋ねる。

「兄さんは俺と違って何でもできてよ……ガキの頃は周りと比べられて嫌な気分になったもんさ。それがどうにも気にくわなくて、家を出て寮制の学校に通ったよ。」

もっとも、あの後二度と家族に会えなくなるとわかっていたらそんなことをしなかったかもしれないが。

「?なんで嫌なのですか?」

「は?いや、なんでって…」

ディードの問いにロックオンは思わずこけそうになる。

「お前らはそういうことないのか?誰かに比べられてムカついた事とか……」

「比べられるのはしょっちゅうだけど……別に僕は嫌だと思ったことはないかな。」

「私もです。」

「嘘つけ。少なくともオットーはさっき俺に熊投げようとしただろうが。」

「あれはお兄さんがセクハラするからでしょ。」

というオットーだったが、横にいるディードの胸元を見て自分のものと比べるとやはり気分が沈むのか胸を両腕で隠して暗い顔をする。

「ま……まあ、確かにちょ~~っとだけいいなあ、って思うことはあるけど、基本的に比べられてもそんなに怒ることでもないと思うよ。だって、僕とディードは別の人間だもん。違っていて当たり前なんだから、比べられることもあるよ。」

「けど、お前らは双子……」

「ではあなたに逆に聞きますが、双子であることにそれほど特別な意味を見出すことが必要なのでしょうか?私にはあなたが勝手に双子であることに固執しているように思いますが?」

目から鱗だった。
でも、確かにそうなのかもしれない。
双子だからといって同じである必要などどこにもない。
似てしまう部分はあるかもしれないが、それくらいは誰にでもあることだ。

(俺は……兄さんと同じくらい優秀じゃないといけないと思ってた。けど、俺は兄さんじゃない。兄さんの影に縛られる必要なんてなかったんだ……)

だとしたらどうして自分は家族のもとを離れてしまったのか。
自分が残っていればあんなことにはならなかったかもしれない。
もっと団欒を過ごすことができたかもしれない。
激しい後悔と悲しみがこみ上げてくるロックオン。
そんな時、

『主は愛する者に越えられない試練は与えない。』

アルフレードの言葉が頭をよぎる。
家族を失い、兄も戦いの中で命を散らし、自分だけが生き残った。
だが、それにも何か意味があるのかもしれない。
その証拠、と言えるかどうかは謎だが、自分はカタロンに入り、そこから兄がいたソレスタルビーイングにまでいたり、兄の乗っていた機体の後継機に乗ることになった。
いままで運命というものにすがったことはなかったが、信じてみるのもいいかもしれない。
自分は、世界に一石投じるために生き残ったのだ。
そういう運命だったのだと。

「そうだよな…」

「「?」」

「俺はライル・ディランディ……ジーン1……そして、コードネーム、ロックオン・ストラトス……」

「あの……?」

ディードは返事がないロックオンを心配して話しかけるが、その声も今のロックオンには届かない。

「フフ…ククク……そうだよな。双子であることを拒んでた俺が、一番双子であることにこだわってたんじゃねぇか。」

ロックオンはバンと膝を叩いて背を伸ばす。

「悪かったな、変なこと聞いちまって。」

「いえ……お気になさらず。」

訳がわからず顔を見合わせるオットーとディード。
その時、

「やっと見つけた!!」

修道女のような服を着た女性が店へと飛び込んでくる。
町を駆け回っていたせいか息が荒く、疲労のせいなのか背中から異様な何か湧き上がっているように見える。

「あ……あなたたちは……ぜぇぜぇ……研修中の身であることを………ぜぇぜぇ………わかって……いるのですか……!!?」

「ご……ごめんなさい、シスター・シャッハ。チンク姉ぇたちにお土産を買うのに予想以上に手間取っちゃって……」

「い……言い訳は後で聞きます……!それより……」

聖王教会のシスター、シャッハ・ヌエラは大きく深呼吸をした後、ロックオンに深々と頭を下げる。

「この子たちがご迷惑をかけたようで申し訳ありません!!しかし、研修中の身なのでどうかご容赦を…」

「ああ、別にかまねぇさ。むしろ、俺が人生相談に乗ってもらったくらいだしな。」

ロックオンはそう言うと店の外へ出て二人の方へ銃の形にした指を向ける。

「サンキュー、オットー、ディード。お前ら良い尼さんになれるぜ。」

「尼さんじゃなくてシスター……」

と、オットーはツッコもうとしたが、すでにそこにロックオンの姿はなかった。

「あ~あ、行っちゃった……」

「お礼を言い損ねてしまいましたね。」

「……………………」

「……?シスター?」

「え!?あ、ああ、なんでも……」

シャッハには気になっていた。
先程のあの男の姿。
カリムの預言にあった一文が頭をよぎった。

『孤高の射り手、深き緑の天使とともに彼方より不浄を撃ち抜く者あり。』

五体の天使に関する預言の一つ。
なぜか、あの男がその孤高の射り手だと思ってしまった。

(そんなわけないですね。)

そう思ったシャッハだったが、この翌日になって自分の勘が当たっていたことを知るのだった。








アリア山

その晩、赤茶けたアリア山の管理の当直にあたっている者は中腹にある小屋で眠っていた。
アリア山は自然に開いた洞窟の中に鉱物がむき出しの状態で存在しているため、採掘のために爆発を使って坑道を作る作業が不要だった。
もっとも、爆破して坑道を広げればもっと鉱物を採れるかもしれないが、ここは多くの生物の住処にもなっているためログナーの住人はあくまで手堀で鉱石の採掘を行っているのだ。
そんな生き物が多く眠っているこの山に、突如として爆音とともに粉塵が舞い上がる。

「な!?なんだ!!?」

当直の男は飛び起きると服を着替えるのも忘れて外へと飛び出す。
そこには…

「う、うわあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

鋭い翼に丸みを帯びた巨大な体。
そして人間のような顔がついているのだが、目が二つだけではなく額にも巨大な六角形のものがついていて左右にせわしなく動いている。
叫び声で男の存在に気付いたそれは。
いや、それに乗っている人間は冷酷な笑みを浮かべると、小屋ごと男の体を粉砕した。







翌日 ログナー

「アリア山が占拠されただと!!?」

その一報はすでに町中を駆け巡っていた。
最近になって出てきたMSという新型の兵器が投入され、完全に町の人間を締め出している。

「クソ!!なんなんだよあの化け物は!!?」

「人間相手にあんなものを使うなんて!!」

「管理局め!!俺たちを潰してここの資源を根こそぎ奪う気か!!」

沸騰する町の人間の感情。
そして、怒りの矛先はMSに乗らないギンガ達へと向けられることになった。

「くたばれ管理局!!」

「よくも騙し討ちをしてくれたな!!」

「ただで済むと思うな!!」

泊っていた宿から外に出た瞬間、ありとあらゆる罵詈雑言と投石にさらされるギンガ達。
このままでは本当に街を無事に出られるかどうかも危ぶまれる。

「ありゃりゃ……こりゃホントにまずいね…あ痛!…あたし昨日からこんなのばっか……!」

「ええ……このままだと僕たちは文字通りミンチにされるかもですね。」

するとそこへ、

「落ちつけよみんな!!こいつらだってあんなことになるとわかってたらわざわざ説得になんて来ないだろ!!」

「よそ者のお前に何がわかる!!あそこには俺たちの仲間がいたんだぞ!!それをあいつらは!!」

「だからってあいつらにこんなことして何か解決すんのか!!むしろ、あいつらに何かあったら連中はそれを理由にこの町を潰しに来る!!」

「あの人…」

白い肌にブラウンの髪がよく似合うその男は町の人間を必死になだめるその姿にギンガは不覚にも見とれていた。
理由はどうあれ、自分たちを守ってくれていることに感動していた。

「遅れてスイマセン…って、あの人は…!?」

「あ。」

「昨日のお兄さん。」

さほど大きな声でもないのに、ロックオンの耳はこの騒ぎの中でもはっきりとその声を拾っていた。

「オットー!?ディード!!?お前らも管理局だったのか!?」

驚くロックオンだったが、さらに予想外の事態が訪れる。
きっかけは、一個の石だった。

「あたっ!!」

「「!!」」

ロックオンの額に当たったその石には赤いものが付着し、その源泉となっているロックオンの額から細く赤い線が顔を伝う。

「お前たち……!!」

「よくも……!!」

その瞬間、二人を中心に激しい風が吹き荒れる。
そしてディードの手には二振りの光刃が、オットーの周りには光の渦が巻きあがっている。

「ちょお!!?」

「オットー!!ディード!!駄目!!!!」

セインとギンガが止めようとするが、それよりも先に二人を止めた人物がいた。

「やめとけ。俺は大丈夫だからそこらへんにしとけや。」

「けど……!!」

「やめとけ。」

穏やかだが重い言葉に二人は魔力を消す。
そこへ、

「乱暴をしてすまなかったな。」

「おせぇぞ、アル。おかげで俺は流血だ。」

「それは良かった。これでお前も頭に血が昇っても外に余分なものが出て冷静に物事を対処できるな。」

「ハッハッハッ、ブッ飛ばすぞコノヤロー。」

青筋を浮かべた笑顔のロックオンは放っておいてアルフレードはギンガ達のもとへ歩み寄る。

「あなた方は確かにあれが来ることを知らなかったのだろう。だが、まったく無関係なものではない。あなた方が管理局の人間である限りな。」

そう言うと、アルフレードは目の前に人一人ほどの大きさの光の円を出現させる。

「今すぐこの世界から去れ。さもなくば、私とて手をださずにいられる自信はない。」

凄味のこもったその言葉に、ギンガ達も、そして町の住人ですら言葉をなくす。
その後は粛々としたものだった。
先程までの怒号が嘘のように静まり、ギンガ達も光の中から順次外へと出ていった。
全てが終わったあと、そこにはアルフレードとロックオンだけが残っていた。
最初に口を開いたのはアルフレードだった。

「……悪いな。お前とあれを送るのは私の役目ではなくなりそうだ。」

「行く気か?勝ち目はないぞ?」

「だとしても、何もしないわけにはいかない。もう、あの時のような思いをするのはごめんだ。」

二人は同時に目的の場所へと歩き出す。
そこには戦うための術が眠っているのだ。

「少し昔の話をしてやろう……ある男の話だ。その男は管理局の自然保護隊に所属していた。男は自らの仕事に誇りを持ち、その限りある自然を守るべく奮闘していた。だが、そんなある日、彼のいた世界は実験施設をたてると言う名目のもと管理局の手によって破壊されてしまった。美しかった森は灰色の壁が乱立し、川のせせらぎは灰色の煙を生み出す音にとって代わられてしまった。だがな、男が何よりも許せなかったのはそんな歪められた世界を守れと言われてその通りに行動するやつらがいたことだ!!」

アルフレードは自宅に着くと、納屋にあったライフルを取り出す。

「……それ以後、絶望した男は管理局を捨て、守るために身につけた魔法すら捨て、開拓民としてゲイルスへと旅立った。そして……」

ライフルに弾を込め、ありったけの弾の箱を腰につける。

「今この時、もう一度守るために力を振るおう!やつらにこれ以上、私の大切なものを奪わせてなるものか!」

アルフレードの話が終わるころ、ロックオンの準備も完了していた。
モスグリーンのパイロットスーツに身を包み、ヘルメットを持った手を肩に乗せている。

「お前には関係のないことだぞ。」

「俺も恩くらい感じるさ。それと、もうお前なんて呼ぶな。」

ロックオンは鋭く笑う。

「俺のコードネームはロックオン・ストラトス。ソレスタルビーイングに所属する、ケルディムガンダムのガンダムマイスターだ。」

「ロックオン……狙い撃つ男か……良い名だ。」

「そらどうも。」

二人は同じ方向を見つめたまま拳を突き合わせ、夕焼けの中を歩きだした。






アリア山

地平線からようやく陽が昇ったころ、ギンガとシャッハ、そしてエミリオンはオットーたちを先に艦に帰したあとでアリア山に来ていた。
そこには住民たちが言っていた通り、バロネットとフュルストがそれぞれ三機ずつ上空と登山道、そして坑道を押さえていた。

「なんのマネですかこれは?あくまで平和的に解決する方向のはずでしたが?」

エミリオンは丁寧な口調で話すが、目の前に立っている男は一笑に付す。

「こんな世界の一つもどうにかできないで全ての世界の平和を守ることなどできませんよ、ヴィントブルーム技師長。」

「それは傲慢です!力で抑えつけることが平和への道など…」

「中立の立場の聖王教会の方は黙っていていただきたいですな。」

「中立だからこそ、このような行いを看過していることなどできません!!これはすでに管理の範疇すら越えて圧政です!!」

「ふん……あなたはどう思われますか、ナカジマ陸曹?あなたも時空管理局に属する者ならばどちらが正しいかわかるでしょう?」

「ええ……そうですね。」

ギンガのその言葉にシャッハとエミリオンは目を見開き、対照的に男は目を細める。
だが、

「シスター・シャッハとヴィントブルーム技師長の言っていることこそが管理局のとるべき道だと私は確信しています。」

男の顔から笑みが消える。

「小娘が……自分が言っていることがどういうことかわかっているのか?」

「あなたこそ恥を知りなさい。力はそれを持たざる者のためにあるべきなのに、あなた方はその力を弱者へと向けた。こんなものが正義だなんて、私は認めない。」

「ハッ……親父に似て馬鹿な娘だ。あの堅物がどうなっても知らんぞ?」

「……覚悟はできてるわ。父さんも私も、管理局で働くと決めたときから命を掛けなければいけない時がくることくらいよくわかってる。」

「チッ……」

脅しが通じないとわかった以上、これ以上こいつらと話をしたところで無駄だろう。
後ろの馬鹿な女二人だけならMSに撃たせて終わりでいいのだが、ここでエミリオンを失うわけにはいかない。

「よかろう……ならば、地獄で後悔するんだな!!」

「「「!!!!」」」

男が懐から取り出したのはデバイスではない。
黒光りする鉄製の銃。
純粋な質量兵器だ。

「クッ!!」

ギンガはすぐさまブリッツキャリバーを起動させようとするが、それよりも速く銃弾が発射される。
しかし、

「IS、レイストーム。」

三人の後ろから伸びてきた光の帯がギンガを守るように包み込み、銃弾を粉砕する。

「貴様……!!」

「オットー!?」

いるはずのないオットーがここにいることに驚くギンガだったが、男にはそんなことはどうでもよかった。

(ええい!!監視班は何をしていた!?なぜこいつの接近に気付かなかった!!?)

アリア山の周りには遮蔽物がなく、身を隠すことなど不可能だ。
なので、監視をしている人間だけでなくMSからも丸見えのはずなのにどうしてここまで来られたのか。

「そんなに不思議ですか?私たちがここまで誰にも見つからなかったことが。」

「!!!!」

それまで焦りから来ていた汗が一気に冷たいものに変わる。
首元に当てられた光の刃で動きを制されながら、男はディードの話を黙って聞く。

「申し訳ありませんギンガ、シスター・シャッハ。ですが、この者たちを放っておくことなど私にはできません。」

「僕も同感。僕たちの立場が悪くならないように気を使ってくれるのはいいけど、その前に僕たちの意思を聞いてくれてもよかったんじゃないかな?」

「そうそう。あたしら犯罪者なんだからいまさら一個や二個くらい罪状が増えたって気にしないよ。」

そう言って地中から這い出てきたセインの両手には顔中痣だらけにされた二人の男の襟が握られていた。

「ああ、ちなみにこいつらだけじゃないよ。他の見張りをしてたやつらもぼこっといたから。」

ニヤリと笑うセインに溜め息をつきながらシャッハも笑う。

「ブリッツキャリバー!」

「ヴィンデルシャフト!」

〈〈Ja boul!〉〉

二人もバリアジャケットを纏い、形勢は逆転したかに見えた。
しかし、男は追い詰められているにもかかわらず醜悪な笑いを崩さない。

「何がおかしい。」

「ククク……!忘れたか?お前たちが今なにに囲まれているかを!!」

「「「「「「!!」」」」」」

気付いた時、それはすでに大きな影を作りながら手を伸ばしていた。
ディードは慌てて男を飛び越えてギンガ達の側に着地するが、その間に男はバロネットの手の平に乗って離れていく。

「ハハハ!!技師長、あなたは本当に優秀だ!!このバロネットやフュルストだけでなく、あれの構想を一人でこなしてしまったのだからな!!」

「あれ……っ!?まさか、キャバリアーがもうロールアウトされているのか!!?」

「試作機ですがねぇ!!ちょうどいい試験会場もあることですし、テストをするにはうってつけだ!!」

「試験会場だと!?」

その言葉に六人は凍りついた。
間違いなく、こいつらはログナーの町をMSで殲滅する気だ。

「待ちなさい!!そんなこと私たちが…」

「状況をよく見てから喋るんだな!!お前たちには試験のための前座になってもらう!!」

その言葉に呼応するように、MSが一斉にギンガ達の方へと銃口を向ける。

「死ねぇ!!!!」






「お前がな。」






遥か彼方、陽が高くなり始めた空から一条の閃光が駆け抜け、呑気に銃を構えていたバロネットのコックピットを撃ち抜く。

「なあ!!?」

突然の事態に戸惑いながらも、敵味方問わずに太陽をバックにライフルを構えるそれを見る。
陽の光でよく見えなかったが、そこから少しずつ高度を下げていったことでそれが何かわかった。
モスグリーンのパネルのような装甲を体中につけ、額には顔にある眼とは明らかに違うカメラアイがつけられている。
だが、それを確認できたのはMSのパイロットたちだけだった。
なぜなら、

「あ……あんな距離から狙撃をしたと言うのか!!?」

現在開発されているMSにはそんな芸当はできないし、そもそも並みの人間では目標をとらえることすら不可能だ。
しかし、

「孤高の射り手……」

「え?」

『孤高の射り手、深き緑の天使とともに彼方より不浄を撃ち抜く者あり。』

色は確認できないが間違いない。
こんな長距離での狙撃をできるのはその者しかいない。

「あ!?シスター・シャッハ!!?」

セインの制止も振り払い、シャッハは姿の見えない天使のもとまで行こうとするが、それは思いもよらない人物の手によって止められる。

「待て。こっちだ。」

「あなたは!?」

がっしりと手を掴んだその男はつい先ほど自分たちを町から出した男、アルフレード・K・ウルフだった。

「あんたどうしてここに!?」

「説明は後だ。安全な場所まで案内してやるからそこで大人しくしていろ。でないと……あいつの邪魔になる。」

アルフレードのその言葉にシャッハは敏感に反応する。

「知っているのですね、彼を。」

その問いに誰もが息をのむ。
だが、アルフレードの答えは、

「悪いが言えない。守秘義務というやつだ。」








「まあ、弱い者いじめが好きな奴らだねぇ……同じとこのやつにまで手を上げようとするなんざ救いようのない馬鹿だ。」

「手加減ナシ!手加減ナシ!」

「もちろん。それに、アロウズとそっくりなことをするやつらを俺がほっとくわけねぇだろ。」

ケルディムが地上に降り、膝を突く形で狙いを定めるとロックオンは再びスコープを覗きこむ。

「ケルディム、目標を狙い撃つ!」

再度放たれた光弾は細身の体のど真ん中に当たり爆散させる。
自分たちの射程距離外からの攻撃であることに気付いていた管理局の機体はケルディムへと向かってくるが、それは自らの回避率を落とす行為以外の何物でもなかった。

「ハッ……猪の方がなんぼか頭がよかったな。」

まずは真正面から突進してきていた機体。
頭を吹き飛ばされてもんどりうったところへさらに胴体へ追撃を加えて撃墜。

次は左の細身の機体。
細かく動いているが、所詮は素人の操縦だ。
パターンがわかりやすいうえに別方向へ動く時の硬直時間が長い。
そこを狙って胸に一発。

そこでようやく自分たちの行動のうかつさに気付いて引き返していくが、逃がしはしない。
最後の細身の機体によく狙いをつける。
逃げるときに後ろを確認していないのか、まともに回避行動をとる前に背中のGNドライヴを撃ち抜いて爆散させる。

「よし、残り一機!」

「全弾命中!全弾命中!」

ハロの言うとおり、今日は調子がいい。
今のところ一発も外していないし、残りの一機も外す気がしない。

「そんじゃ、初のパーフェクトを狙ってみますか!」

そう言ってロックオンが引き金を引こうとした時だった。

「っ!!?うおっとぉ!!」

ハロがコントロールを担当していたケルディムの姿勢が大きく崩れる。
文句を言おうとしたロックオンだったが、その理由を見て納得がいった。
先程まで相手をしていたものとは明らかに違う作りのMSがそこにいた。
仲間がやられている間に間合いを詰めていたのか、すでに向こうの射程距離に入っているようだ。

「チッ!!」

スナイパーライフルでの狙撃は無意味と考えたロックオンはビームピストルを抜いて向こうの射撃に対抗するように連射を始める。
しかし、相手の動きはそれまでのものとは比べ物にならないくらいによく、ロックオンの攻撃はシールドと縦横無尽の動きでことごとく無効化される。

「こいつ!!」

近接戦闘が行える距離にまで詰め寄られて、ロックオンは相手がシールドの中から抜き放った実体剣を両手のビームピストルの下の部分で受け止める。

「こ……のぉ!!」

払いのけて両肩へ弾丸を叩きこむが、装甲が少し剥けた程度であまり決定打にはならなかったようだ。
むしろ、相手の怒りを増幅させただけのようにも思える。
その証拠に、ロックオンの攻撃でのけぞっていた体を無理やり前に倒してケルディムを押し倒すと腰に装備されて剣の柄を持ち、発生させた光刃でコックピットを貫こうとする。
だが、その前にケルディムはGN粒子を大量に放出させて地面と平行になったまま滑るようにその拘束から脱出する。

「ハロ……あいつ、たぶん…」

「ヘタッピ!ヘタッピ!」

「ああ……だろうと思ったぜ。」

あれに乗っているのもMSに乗り始めて間もない素人だ。
だが、機体の性能と時折見せるあの機械的な動きとのコンビネーションでそれを埋め合わせている。

「ハハハ……!てめぇだけで戦う気は毛頭ないってか?」

総合能力ではケルディムが上回っているかもしれないが、乗っているのが自分では十二分にその性能を生かしきれていない。
その影響がこうして出ているのかもしれない。
こんな時、MSでの戦闘経験が豊富な他のマイスターならなにか良い手の一つも思いつくのかもしれないが、あいにく自分はそんな機転がきくほど戦いなれていない。
だが、

「俺はあいつらや……兄さんとは違う人間なんだ……だから、俺は俺なりの戦いをするだけだ!!」







その頃、試作型のキャバリアーシリーズ一号機、エスクワイアのおかげでどうにかアリア山の影に隠れることができたバロネットたちは逃げたギンガ達の捜索にとりかかっていた。
もし彼女たちが生きて帰って自分たちに不利な証言をしたら、もうゲイルスに手を出すことは不可能になるだろう。
その時は、ファルベルは間違いなく自分たちを切って捨てる。

「そんなことさせるものか……!!何としても見つけ出して消してやる!!」

その時、ガラスを引っ掻くような激しい音が山全体に響き渡る。

「そこか……!!」

男とパイロットはニヤつきながら高度を徐々に下げていく。
だが、

「!?熱源反応!!?」

「なに…うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」

虹色の嵐がバロネットを飲み込んで粉砕する。
山の一部にはポッカリと穴があき、そこからは紅蓮の鋭い瞳が爛々と輝きを放っていた。






「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

ロックオンは執拗に斬りかかってくるエスクワイアを闘牛士のようにかわしながらその隙に二、三発ではあるが着実に攻撃を当てていく。

(耐えろ……!!チャンスは必ずあるはずだ!!)

こちらはオリジナルの太陽炉。
向こうは疑似型。
こっちは作戦行動時間に制限はないが、相手はいずれ粒子が底をつく。
その時がチャンスだ。
少し無様だが、今自分が確実にこいつを確実にしとめるにはあの方法しかない。
だが、このギリギリの状況はロックオンの集中力を確実に削っていた。
すなわち、これはエスクワイアの粒子が尽きるのが先か、ロックオンの集中力が途切れるのが先かの勝負だ。

その勝負の勝者は……

「はぁはぁ……っ!!しまった!!」

エスクワイアだった。
一瞬動きの遅れたケルディムの前に立ちふさがるようにエスクワイアが刃を構えていた。

(やられる!!)

やはり自分は何もできないのか。
そんな絶望感で胸がいっぱいになったロックオンだったが、救世主は現れた。

「グオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!!」

「!」

エスクワイアが巨大な丸太のようなもので打ちすえられたかと思うと横倒しの状態で急降下していく。
地上ギリギリで体勢を立て直したものの、今度は嵐のように虹のかけらが降り注ぐ。

「あれは……!!」

虹色の鎧を身にまとい、前に突き出た二本の角は神々しく、太い尻尾と四本の足は対峙するものすべてに畏怖の念を抱かせる。

「ハハッ……やりやがったなアル!!」

この荒野の世界の支配者、虹竜ゲイルは己のテリトリーを犯したものに対して怒っていた。
自分よりはるかに小さいあの生き物は分をわきまえているのでそうそう愚かなことはしないがこいつらは違う。
無礼にも自分の寝床の一つにズカズカと踏み込んできて荒らし回る。
先程のあの音で目覚めていなければこいつらを見逃してしまうところだった。

「グオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

怒りにまかせて突っ込んだゲイルは再び哀れな鉄人形に尻尾を叩きつける。
エスクワイアはピンポン玉のように上空へと叩き上げられ、パイロットは追撃が来ると警戒していたがいつまでたってもそれは来ない。
なぜなら、ゲイルの目にはエスクワイアを倒す存在がはっきりと見えていたのだから。

「!!!!」

慌てて振り向くがもう遅い。
そこにはほぼゼロ距離で二丁の銃を構え、赤い輝きを放つケルディムがいた。

「TRANS-AMでのゼロ距離連射だ……相当きついぜ。」

ロックオンは唇から笑いを消した後、渾身の力で叫んだ。

「乱れ撃つぜぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!」

まるでピンクのカラーボールが無数にぶつかっては弾けるように、ビームの光がエスクワイアを粉砕していく。
そして、手足が完全にちぎれ、黒焦げになった胸元をさらしたままエスクワイアは地上へと落ち、赤い粒子の花を咲かせた。







翌日 ログナー入口

「ったく、こんな古いので大丈夫なのかよ?」

「文句を言うなら乗るな。知り合いから無理を言って貸してもらったものだ。古くてもまだ使える。」

長細い後ろのコンテナにケルディムを収容した後、輸送船の助手席に乗り込んだロックオンは鼻を衝く異臭に不満をもらしながらもシートベルトで体を固定する。

「しかし、都会に行くんならもう少しましな服を餞別にくれよな。これじゃ西部劇の町から来たおのぼりさんみたいじゃねぇか。」

「あながち間違ってはいないだろう。しかし、餞別をやらなければならないのは事実だな。」

そう言うとアルフレードはポケットから虹色の欠片を取り出す。

「ゲイルの鱗を加工したものだ。あとはネックレスにするなり指輪にするなり好きにしろ。」

「いいのか?貴重なんだろ?」

「ここ数日の命がけのバイトの報酬だと思えばいい。」

「ハハハ、命がけのバイトね……結構楽しかったけどな。」

ロックオンが受け取った欠片を大切にポケットにしまうと、アルフレードは前を見ながら少し頬を赤らめる。

「また…」

「ん?」

「また、気が向いたらここに来い。大したもてなしはできんかもしれんが、私もみんなもロックオン、お前を歓迎する。」

「クク……なんだ?照れてんのか?」

ロックオンはからかうが、アルフレードは大きく一つ咳払いをしてごまかすと操縦桿を起こす。
正面の窓から見える景色は青と白だけのものに変わり、今度は黒い穴が目の前に出現する。
そこへ輸送船が飛び込もうとした時だった。

「グオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!」

「!」

はるか遠くから爆音のような叫び声がロックオンを送り出すように聞こえてくる。
その声にロックオンは小さく笑うとつぶやいた。

「ああ……またな、デカブツ。」







孤高の射り手、荒れし地、なれど希望の満ちし地を去る
その絆は永久に彼の地にとどまる






あとがき・・・・・・・・・・・という名の長くなっちゃった

ロ「異世界、ロックオン編な第七話でした。」

弟「それより言うことがあんだろ。」

ロ「……実はこの話で今までの最高文字数をあっさり更新してしまいました。読みにくくてごめんなさい。orz」

オットー(以降 双子1)「削ってこれってどうかと思うよ?」

ディード(以降 双子2)「昔から言われてるでしょ。あなたは文字数オーバーしすぎるって。」

ロ「でも興味ないことは最初の一行で終わらせられる自信があるぞ!」

シャッハ(以降 シスター)「両極端だと言っているんです!!中庸というものを知りなさい!!」

セイン(以降 モグラ)「中庸って?」

弟「辞典で調べろ。というかお前もだいぶ脳みそが気の毒な方か。」

ギンガ(以降 ギ)「というかこんなことしてる間にどんどん文字数増えるから早めに次回予告にゴー!!」

双子1「次回は刹那編。」

シャッハ「機械文明が進んだ世界に飛ばされた刹那。」

モグラ「しかし、そこは質量兵器開発を押さえるという名目のもと、圧政に苦しめられている世界だった。」

弟「治安の悪い街の用心棒となって情報を集める刹那。」

双子2「そんな彼に、ある出会いが待っていた……」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお聞かせください!じゃ、せーの……」

一同「次回をお楽しみに!!」



[18122] 8.蒼の賢帝
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/12/19 01:07
?????

「なるほど……つまり、僕にも魔法を使える資質があると?」

「はい。しかも、あなたほどの魔力量を持つ存在はかなり稀ですね。訓練次第ではすぐにAAAクラスの魔導士になれますよ。」

普段使うものとは異なる声に少し戸惑いながらもリボンズはファルベルがよこした人間の診察を受けている。
他の者にも診察を受けさせたが、今のところリンカーコアというものは全員に存在していた。
考えるに、これほどリンカーコアが存在する個体がいたのは塩基配列が同じだからなのではないか。
その証拠に同じ塩基配列の者の診察結果は瓜二つ、ぴったりと当てはまる。
となると、リジェネと同じ塩基配列の体を持つティエリアもリンカーコアを持っていることになる。
しかも、気にくわない話だが魔法の資質はリジェネの方が上らしい。
なんでも、魔力の量自体は全員と比べてほんの少し劣るらしいが、なんでも氷結変換資質というものがあり、それが常人のそれと比べてずば抜けているらしい。
それだけ聞けば喜ばしい知らせなのだが、それはすなわちティエリアもその能力をもっている可能性があるということだ。
しかも、こちら側にいるリジェネも裏でいろいろ動き回っていて油断がならない。

「まあ、所詮は僕の手のひらの上だ。今は好きにさせておくさ。」

「なにか?」

「いえ、なにも。それより、先程の約束は守ってくださいね。」

「ええ、最新式から古代のものまでデバイスのデータは提供させていただきます。そちらも例のものをお忘れなく。」

「わかっていますよ。しかし、あなた方も酔狂ですね。わざわざ倒すべき敵であるガンダムのデータを提供してほしいなんて。」

そう、確かに意外だった。
彼らが欲したのはMS、それも第2、第3世代機のデータだった。
どうせなら最新型のデータを持っていけばいいのに、なぜかガンダムに異常なまでに固執した。

「あれをどうする気か知りませんが、いまさら第2世代や第3世代を組み立てても意味はありませんよ?」

「……フフフフフ……准将はあれをシンボルにしようと考えているのですよ。」

「シンボル?」

「ええ……世界の秩序を管理する組織の象徴としてエンジェル……いえ、ガンダムを使うつもりなのですよ。」

「なるほど……」

呆れた男だ。
顔には出さないが心の中でファルベルにそのような評価を下す。
なにせ、兵器を秩序のシンボルにするなどリボンズにすら思いつかない馬鹿げた発想だ。

「しかし、それにしても不思議ですねぇ……」

男は首をかしげる。

「ここまでリンカーコアを持っている人間が、それもここまで資質が高い人ばかりが一堂にそろっているなんて……」

(たしかに妙だな……)

男の言葉にリボンズも同意する。
自分たちは確かに特別な存在だが、DNAを提供した人間がリンカーコアを持っていないと自分たちもリンカーコアを持っているはずがないのだ。
つまり、

(イオリアはリンカーコアを持っている人間を意識的に選抜した…?フッ……まさかね。)

自分の仮定に自嘲するリボンズ。
そもそも、こちら側に魔法は存在していないのだから、イオリアですら知りえるはずがないのだ。
偶然に決まっている。

「しかし、准将の話ではスクライア元司書長はあなた方すら上回るというようなことを言っていましたね。信じがたい話ですが。」

その言葉に考え込んでいたリボンズは顔を上げる。

「どういう意味ですか?」

「いえ、こればっかりは准将の思い込みですよ。立ち聞きなんですが、なんでも彼の血筋がどうとか言っていましたけど、私にはどう考えてもあなた方のほうが上…」

その続きを言おうとした男は、リボンズに手を肩に置かれる。

「詳しくお聞かせ願えるよう取り合っていただけませんか?」

「え?」

「なあに、ちょっとした興味ですよ。」

などというリボンズだが、心の中では狂喜していた。
ファルベルはここに来て話をした時、ユーノのことを攻撃魔法が使えない落ちこぼれだと言っていた。
だが、彼がタクラマカン以降の戦闘でよく使っていた力。
自分と同じ塩基配列を持つ“彼”ですら手を焼いたGN-EXCEEDを使いこなしたあれはかなり特殊な能力だ。
最初はファルベルも有力な情報を知らないのかと思ったが、糸口は今つかんだ。
ここでユーノの能力を把握しておけばかなり有利な立場に立てる。

「できれば早い方がいいですね……なんとかなりませんか?」

「はぁ……?わかりました。」

そう言い残してその場を去った男だったが、その後人知れず資源衛星の間をカタロンの工作員に擬装されて漂う羽目になっていたことは、ファルベルとごく一部の人間しか知らない。






魔導戦士ガンダム00 the guardian 8.蒼の賢帝

第17管理世界 エイオース
工業と犯罪の都市 ニュード ダウンタウン B-4地区

曇天の空から雨が絶え間なく降り続いている。
地面に落ちた雨水は灰色の地面を流れ、ひび割れから見える茶色の地面へと落ちて濁った水たまりを作った。
曇っているとはいえ、昼間にもかかわらずすでに街の中は薄暗く電灯が灯っているところまである。
曇り空もこの暗さに一役買っているのかもしれないが、最大の理由は街を囲うように建てられた分厚く巨大な壁。
そして、町中に建設された巨大な工場だ。

ここ、エイオースは次元世界の中でも指折りのロボティクスの技術を有しており、ミッド向けに機械製品などを製造、輸出している。
しかし、その技術は質量兵器に通じる部分もあるので危険視もされており、この世界の地上部隊によって厳しく制限を受けていた。
もっとも、その制限は関係のないところにまでおよび、過剰な資金は兵器開発に使われるのではないかと的外れもいいところの難癖をつけて低価格で製品を輸出させているため必然的に賃金は少額になってしまう。
そのせいで生活ができずに困窮する人間が大勢出たが、管理局はさしたる社会保障も行わずに放置。
その結果、不満が溜まった住民がしばしば過激な行動にでるなど治安が著しく悪くなってしまった。
それでも、商品の生産がおこなわれ、この世界の機械製品が他の多くの世界で低価格、高品質で販売されさまざまな人間を喜ばせているが、エイオースの実情を知る者はほとんどいない。
中でもこの街、ニュードはエイオースの中でも一番治安が悪く、『犯罪現場を見たいならニュードにいけ。』などと不名誉な言葉が生まれるほどだった。
といっても、ニュードで発生する犯罪のほとんどはダウンタウン、もしくは環境汚染から街を守るために建造された防護壁の外にある貧民街で発生していた。
中心部は局の施設が多くあるため表立った犯罪行為は少ないのだが、そのしわ寄せは放置状態にあるダウンタウン、そして貧民街へと来ていた。

そんなダウンタウンの一角で、今日ももめ事が起こっていた。

「へへへ……悪いなおっさん。俺たちも生きていくためなんでな。」

狭い路地の地面の上であおむけに倒れた中年の男に腕に入れ墨を入れた集団が笑いながら蹴りを見舞う。
男たちの手にはすでに奪い取った金が握られているが、ここでは相手を生かしておけば報復の恐れがある。
とどめを刺すのが常套手段だ。
だが、

「!?へぶっ!!!」

一番後ろにいた男が天高く飛んだかと思うと顔から地面に墜落する。
残りの三人は何事かとすぐに振り返るが、そのうち二人の顔面に素早く拳が叩きこまれる。
口の中から白い欠片を吐き出しながら仰向けになる仲間に驚いていると、残りの一人の頭に銃口がつきつけられる。

「そこまでだ。その人の金を置いて消えろ。」

「てめぇ……!!B-4の連中が雇ったっていう用心棒か!!」

浅黒い肌にウェーブのかかった黒い髪、そして赤いスカーフに白いシャツに黒いジャケットとズボン。
目には雨よけのためのゴーグルをつけているが間違いない。
ダウンタウンの中でも最も非力な人間が集うB-4地区の人間が雇ったと噂になっていた用心棒だ。

「消えろ。命まではとらない。」

「へっ……そう言われて引き下がる馬鹿がいるかよ!!」

男は胸ポケットに隠していたデバイスを起動して杖を展開する。
そこから放たれた光は用心棒に当たった。
はずだったのだが、

「避けたか……まあいい。デバイスがあるこっちがどう考えても有利だろ!!」

その後も何度も魔力弾が発射されるが、用心棒の男は限られた空間上手く使ってかわしていく。
そして、近くにあった鉄製のパイプを手に取ると…

「はあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

蒼い魔力を纏わせて渾身の力で真一文字に振り抜く。
デバイスを持っている男とはかなり距離があったが、捲き起こった旋風が男を路地の一番奥にあった壁に叩きつけて意識を刈り取った。
鉄パイプにはいまだに渦巻く風が纏わりつき地面削って……否、斬り裂いていた。

「ファーストフェイズ終了、セカンドフェイズへ移行する。」

用心棒は中年男性に肩を貸して立ち上がらせる。

「立てるか?」

「う……あ、あんたは……刹那さんか…?」

「ああ。すぐに『アイアン』まで運ぶ。そこで手当てを受ければいい。」

「す……すまん……」

男の体重が不意に重くなる。
どうやら気を失ったようだ。

「オ~イ、刹那~!」

男を背中におぶったところで、上空で見張りをさせていた相棒が下りてくる。
刹那と同じようにウェーブのかかった髪に幼い瞳に声変わりをしている途中のような中低音。
浮いているこの姿を見たら地球の人間は驚くかもしれないが、ここでは飛行魔法自体は割とポピュラーなものだし、刹那も苦戦はしたがある程度は使えるようになった。
ただ、それを差し引いても彼の相棒が普通でないことは誰の目にも明らかだった。
髪と瞳の色は蒼と普通かもしれないが、背丈が人形ほどしかない。
初見では間違いなく高性能なおもちゃか何かだと思うだろう。

「ジル、監視はどうした。」

「刹那が今倒したので全員だよ。でなけりゃこんな悠々としてるわけないじゃん。」

にっこりと子供のように笑いながら濡れた半袖と半ズボンを絞って刹那の肩に座るジルと呼ばれた少年。
二日前に強引についてきたのだが、無理やり追い払うわけにもいかない。
なぜなら、

「追い払ったら、全部“読んで”管理局にたれ込むからな。蒼の賢帝様に隠し事ができると思うなよ~!」

「……わかっている。」

今ここでこいつを野放しにしたらなにをばらされるかわかったものじゃない。
まったく、厄介な能力だ。

こうなったのは二日前、刹那がこの世界に来た翌日のことだった。






二日前 ダウンタウン BAR『アイアン』

B-4地区にあるバー、アイアン。
鉄を意味するここはさびれてこそいるが歴史は古く、エイオースが管理世界に入る前から操業し、工場の従業員たちの憩いの場として親しまれていた店なのだが、今では無法者の巣窟となりマスターも頭を悩ませていた。
だが、つい先日現れたあの青年。
カマル・マジリフと名乗った彼が店の雰囲気を見かねてたむろしていた男たちに文句を言ったのだ。
当然、男たちはカマルを取り囲んで袋叩きにしようとしたのだが、武器を持ったそいつらをカマルは素手のままで返り討ちにしてしまったのだ。
間抜けな顔でのびていた男たちを放り出したあと話を聞いてみると、彼は突然この付近に放り出された次元漂流者らしい。
マスターだけでなく、古い常連客からも感謝されたカマルだったが本人曰く、

「礼を言われるほどのことをしていない。」

らしかったのだが、すっかり彼を気にいったB-4地区の住人たちから用心棒を頼まれたのだ。
最初は断ろうと考えていたカマルだったが、聞けばこの地区には老人や子供などが多く、よく襲われては金銭、最悪の場合は命を奪われることもあるのだと言う。
流石にそれを聞いてはカマルも断りきれなかったのか、自分が元いた世界に戻るまでの手掛かりを掴むまでの間だけという条件で用心棒を引き受けることになったのだ。

そんなことがあった次の日、すでにカマルの噂が広まっているのか性質の悪い客は少なくなったのだが、それでもやってきたスキンヘッドの男を中心とした集団にそいつは囚われていた。

「!」

カマルは驚いた。
男たちが持っている籠の中にいたのは人。
それも、本当に人形ほどの大きさがあるかどうかという代物だ。

「珍しいな、ユニゾンデバイスか。」

「ユニゾンデバイス?」

マスターの言葉にカマルが反応する。

「ああ。主と融合することでその力を発揮する人型のデバイスのことだ。そのほとんどが古代ベルカの遺物で稀少なもんだから、たとえ適合者じゃなくとも裏では時折高額で取引されているらしい。」

「あいつにも心があるのだろう?なのに売り物にするというのか?」

カマルの怒りのこもった視線にマスターは困った顔をして答える。

「カマル、気持ちはわかるがそんなこと連中には関係ないのさ。デバイスの方も不運だったと思って諦めるしかない。」

「……………………………」

カマルはそれ以上追及しなかった。
ここで一悶着あればマスターたちに迷惑がかかる。
そのことはよくわかっていた。

しばらくすると、酔いが回ってきた男たちは雷のような声で笑い始める。
どうやら、別の地区での略奪に成功した帰りにここへ寄ったらしい。
しかし、上機嫌だった男たちが籠の中にいるユニゾンデバイスの少年を睨みつけながら小声で話し始める。
そして、

(……?何をする気だ?)

手足に鎖をつないで逃げられない状態で外に出してテーブルの上で立たせると、投げナイフを取り出す。

(まさか!!?)

そのまさかだった。
男の一人がナイフを少年へと投げつける。

「ひぃ!!」

間一髪でかわした少年はその場にへたり込む。
ナイフを投げた男は舌打ちをして下がると、今度は別の男がナイフを投げつける。
それを再びかわす少年だったが、その顔は目に見えて怯えている。

「チッ……!避けてんじゃねぇよ売れ残りが……」

「ハッハッ!こんなチビ一人仕留められないなんて情けねぇなぁ……」

どうやら、誰が先に彼にナイフを当てるかで競っているようだ。
それを見ていた他の客たちは眉をひそめるが、自分たちではどうしようもないことはわかっている。
相手は7人、しかもおそらくはデバイス持ち。
逆立ちしたって勝てっこない。

今すぐにでも飛びかかって殴り飛ばしたいカマルだったが、マスターや他の客には迷惑をかけらない。
そう思いながら拳を握りしめていると、

「何をしてる、カマル。」

「マスター?」

マスターが茶色い酒瓶をカマルに渡す。

「あのクズどもをさっさと締め出せ。そいつは俺がおごってやる。」

「!」

驚いて辺りを見回すカマル。
他の客たちもウィンクやいけいけと合図を送っている。

「了解した。」

周りに後押しされ、カマルは悪趣味なゲームを楽しんでいる男たちへとずかずかと歩いていく。
そして、

「ああ?なんだテメェは。」

「俺のおごりだ。たらふく飲んでいけ。」

男の一人に酒瓶を渾身の力で叩きつけた。
茶色のガラス片が当たりに散らばり、男たちは騒然とするがすぐにデバイスを取り出す。

「やっちまえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」

それが合図だったように客たちは木製のテーブルを倒して盾代わりにして騒ぎに巻き込まれないようにするとカマルへエールを送り始める。

「がっ!!?」

「ゲボッ!!!」

銃を持ってはいたが、この程度の相手ならそれを使う必要はなさそうだ。
なにせ、連中ときたら攻撃はするものの防御はてんで駄目。
おまけにその攻撃も遠距離タイプのミッド式はむやみやたらに弾をばら撒くだけ。
近接戦闘のベルカ式は強化こそしているようだがこちらも防御はてんでなってないうえに、接近戦の経験値はどうやらカマルの方がはるかに上のようだ。

「ガハァ!!!!」

スキンヘッドの男を除く全員を倒したカマルはにらみをきかせる。

「残るはお前だけだ。そいつを残してさっさと出ていけ。」

「なるほど、良い腕だ……だが、あくまで魔法を使えない人間としてもレベルでの話だがな!」

「なっ!!?ぐああぁぁぁぁ!!!!」

いきなりだった。
男の持っていた棒が伸びたかと思うとカマルの腹をとらえ、窓を粉砕して外へとはじき出していた。

「俺はこれでも元騎士でなぁ……少々やりすぎてこんなところでこうしてはいるが、実力はA……そんじゃそこらのやつに負ける道理はない。まして、魔法を使えない人間にはな。」

「グ……ゲホッ……!」

「ほう、今ので立ちあがるか。なかなか鍛えているようだが、所詮は生身の人間だ。」

カマルはフラフラになりながらも懐から銃を取り出して撃つが、それすらも男のシールドで止められる。

「質量兵器か……俺が他のやつらのように防御魔法を使えないとでも思ったか?」

「クソ……!!」

“あいつ”は自分には魔法を使える素質があると言っていたが、どうすればいいのかさっぱりわからない。

「騎士相手によくやった……だが、俺を敵に回したのは馬鹿だったな。」

そう、馬鹿だ。
大馬鹿だ。
ここで自分が倒れれば次は焚きつけたマスターたちの番だろう。
なぜあの時もっと冷静にならなかったのか。
後悔するカマルに男がゆっくりと歩いていく。
するとその時、

「何が騎士だコンチクショー!!!!」

「!!!」

その声の主は、件のユニゾンデバイスだった。

「騎士ってのはなぁ、弱い者のために刃を振るうやつのことを言うんだ!!!!オイラや他のみんなにひどいことしておいて偉そうな口きいてんじねぇよ!!!!この希望ゼロの禿頭野郎!!!!」

「……そうだ……」

ここからは見えない彼の声に目が覚めた。
こいつが騎士のはずが……正義であるはずがない。
そんなこと、絶対に認めない。

「チッ……うるさいやつだ。お前をかたづけたらやつもいい加減処分するとしよう。」

「………そうはさせない。」

「っっ!!!?」

男は思わず半歩下がる。
目の前にいる若造の様子が先程までと違う。
さっきまではただ強いだけの男だったのに、今は強い信念に支えられた何かがある。

(馬鹿な……!!相手をよく見ろ!!やつにはもう武器がない!!)

頼みの綱の銃も効かない。
もう、勝ったも同然ではないか。

「死ね!!小僧!!!!」

フラフラのカマルに男の一撃が真上から迫る。
その時、

(“刹那”、右だ!!!!)

(!!)

ユニゾンデバイスの声が頭の中に響き、カマル、いや、刹那は咄嗟に右に避ける。
男の一撃は外れ、その後に続けて放たれていた左への横薙ぎも同時にかわしていた。

「なっ!!?」

驚く男だったが、さらに驚くべき事態が起こる。

(刹那!!右手に魔力を集中させろ!!)

「なに!?」

(いいから早く!!)

魔力を集中させろと言われてもどうすればいいのかわからない。
だが、右の掌に意識を集中し、そして周りに漂う何かをかき集めてあるものを想像する。
かつて自分が搭乗していた機体の武器の一つ。
ピンクに輝くあの光の刃のように。
全てを斬り裂くあれが、今欲しい。

「おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

刹那は無我夢中でなにも握っていないはずの右手を振るう。
男もそれがわかっていながら防御魔法を発動させるが、その抵抗もむなしくご自慢のデバイスごと体を斬り裂かれて倒れた。

「これ……は……?」

男を倒したことよりこっちの方に驚いていた。
自分の握った右手の隙間から蒼く鋭い光の刃が伸びている。
それからは激しい、しかし優しい風が自分の顔へと吹きつけてくる。

「へぇ、風撃変換か……レアなもん持ってんじゃん。」

いつの間にか周りには人が集まり、その中にいたマスターの手のひらには拘束から解放された少年がいた。

「サンキューだ刹那!ほめてつかわそう!」

先程までとは違い、生意気に思えるほどに高慢な礼に刹那はそっぽを向いて歩きだそうとするがあることに気がついて振り向く。

「どうして俺のコードネームを知っている!?」

ここにきてから街の人間にすら言っていないはずなのに、なぜこいつが知っているのか。

(アロウズのスパイ!?いや、やつらがここにいるはずはない!!だが、俺のコードネームを知っていたということはソレスタルビーイングやガンダムについても……)

「アロウズ?ソレスタルビーイング?ガンダム?なんじゃそりゃ?」

「!!!!」

流石の刹那も動揺を隠せない。
カマルが偽名だということを見破られたばかりか、ガンダムの情報までつかんでいる。

「さて、なんででしょう?」

「っっっ!!!!」

刹那は発生させた刃を少年へとつきつける。

「お前は誰だ!?なぜ俺の素性を知っている!!」

「へっへ~ん、驚いたろ!あ、あとはじめっから刺す気がないのにそんなことしたって無駄だよ~ん!」

「!」

その言葉でわかった。
こいつは自分の思考を読み取ったのだ。
よく考えてみれば、男たちが投げたナイフもこいつには一切当たらなかった。
つまり、先読みして避けていたのだ。

「ピンポーン!大正解!」

からかうように上でぐるぐる回るそいつは、けらけら笑いながら刹那の肩に乗る。

「オイラの名前はジルベルト!蒼の賢帝ジルベルトだ!ジルで良いぜ!よろしくな、刹那!いや…」

ジルベルトはニヤリと笑うと刹那に手を差し出す。

「My Lord!」

「?ロード?」

「早い話がオイラのご主人さまってことだよ!お前についてってやるって言ってんだからありがたく思えって!」

「おい……俺はそんなこと頼んじゃ…」

「まあ、積もる話もあるだろうから店に戻ろうZE!お前の知り合いもいろいろ聞きたいことがあるみたいだし!」

さっきから置いてけぼりをくらっていたマスターたちだったが、刹那と呼ばれて応えるカマルというはずの青年に疑いの目を向け始める。

「説明してもらうぞ、“カマル”。」

その日、ティエリアの尋問など子供だましだったことを刹那は身にしみて思い知らされた。






現在 アイアン

そして、話せる範囲のことをすべて話して現在に至る。
自分がソレスタルビーイングの一員であること。
世界の歪みを駆逐するために戦っていたこと。
戦いの最中に発生した黒い穴に飲み込まれてこの世界にやってきたこと。
可能な限り話した。
そう、隣で小さなジョッキの中のオレンジの液体を飲みながら自分の皿の上に置かれたおかずを食べるこいつ以外は。

「プハ~!このために生きてんなぁ~!!」

「ジルはどうせ見張りしてただけでしょ~。」

「うっさいアリンコチビ!!年上に対してその口のきき方はなんだコノヤロー!!」

(自称)超超超年寄りの見た目10才ほどの人形もどきがバーに遊びに来た5歳の子供と本気で喧嘩をする様は見ていてため息が漏れてくる。
さらに言うなら、ロードになれというあの強引な要求も悩みの種だ。

マスターたちに事情を説明している間にこいつはほとんどの機密事項を知ってしまったようだ。
それをネタにロードになれと脅迫してくるは、刹那の仕事に同行するはでやりたい放題だ。

「だってロードについてくのは融合騎にとっちゃ当然のことだ!」

「思考を読むなと言っている……それに、俺はお前のロードになった覚えはない。」

「あるぇ~?いいのかな~?全部ばらしちゃったら刹那的にはまずいんじゃねぇの~?」

憎たらしい笑顔で刹那の周りを飛ぶジルだったが、今日の刹那は冗談が通じなかった。

「真面目に聞け。俺は騎士ではないし、そもそもお前の主になれるほど立派な人間じゃない。この手で、多くの人間の命を奪ってきた最低の人間だ。」

普段なら憎まれ口をきいて流すジルも、今回ばかりはその場で凍りつく。

「俺は近いうちにミッドチルダへ行く。たぶん、仲間たちもそこを目指しているはずだ。お前を連れていって、戦いに巻き込むことは俺にはできない。」

「……んで…」

「?」

「なんでだよ馬鹿刹那!!オイラやっと自分の命をかけられると思えるやつに会えたんだぞ!!?なんでそんなこと言うんだよ!!」

「ジル……」

「刹那わかってねぇんだろ!!?ロードがいない融合騎がどれだけ孤独で!!どれだけ悔しくて!!どれだけ情けないか!!」

涙まみれでポカポカと刹那の頬を叩くジル。
痛くはない。
だが、刹那には今まで殴られた中で一番芯にきたパンチだった。
それでも、いや、だからこそ、

「……すまない。」

「っっっ!!!!もう知るかバーカ!!!!刹那のバーカ!!!!」

「あ!こら、ジル!!」

マスターが止める前に、ジルは開いていた窓から土砂降りの外へと飛び出していった。

「おい、いいのか止めなくて!?あいつがお前の秘密を管理局にばらしたら……」

「構わない。いずればれることだ。ただ……」

刹那は食事の途中にもかかわらず立ち上がる。

「今日は散歩をしたい気分だ。」

そう言うと、刹那は傘も持たずにジルが飛んでいった方へと歩き出した。







中心区画 管理局支部

「はぁ~……なんでよりによってこんな大切な日に雨が降るかねぇ……」

黒い短髪の男は傘の中でバリバリと頭をかきながら文句をたれる。
これが美女とのデートの待ち合わせなら一時間どころか一週間だって待ってみせるが、あいにく今待っているのは自分が属する組織を嫌う人間たちだ。
交渉がうまくいくかどうかわからないし、そもそもこのまま永遠に待ちぼうけもありうる。

「ったく、あのアホども………俺が直に出迎えるべきだとか言って本当はサボりたいだけじゃないだろうな?」

このクソ寒い中わざわざ門の前で待つ自分の心を誰かに理解してほしい。
クラッド・アルファード三佐はそんなことを考えながら手をこすり合わせて寒さをごまかしていると、ふとあるものが目に付く。

「ん……?ありゃユニゾンデバイスか?このクソ寒い中傘もささずに何やってんだか。」

ロードはどこだろうとあたりを見渡すが、それらしき人物は一人もいない。

「融合騎が融合騎なら主人も主人てやつか……って、もういねぇや。」

少し目を離したすきにいつの間にやらユニゾンデバイスはどこかに行ってしまったようだ。
しかし、今度は傘を持っていない人間がすたすたと歩いてくる。
はたから見ていると恋人に振られた恋愛ドラマの主人公のようだ。
馬鹿はデバイスに限った話ではないということかと思っていると、その男がこちらに歩いてくる。

「すまないが、ここら辺をユニゾンデバイスが飛んでいかなかったか?」

「ん?ああ、アイツね。あんたがロードなのか?」

「いや……単なる知り合いだ。」

「フーン………単なる知り合いにすぎないデバイスをずぶぬれで追っかけるなんざ酔狂だねぇ。」

生返事をするクラッドだが、油断はしていない。
状況から考えるにあのデバイスはこいつから逃げていて、こいつは裏でユニゾンデバイスを非合法に販売している人間だ。
そう考えるのが普通なのだが、

(……なんでだろ?ど~も、カリムちゃんの言ってた予言が気にかかるなぁ……)

『悲しき破壊者、気高き蒼の天使とともに神剣にて歪みを駆逐する者あり。』

目の前にいるこいつがあの司書長の仲間とは思えないのだが、どうにも悪人には思えない。

「あんたが探してるやつならあっちに行ったよ。さっさと行ってやんな。」

「すまない、感謝する。」

短く礼をすると、男は再びクラッドの言った方へ歩き出そうとする。
だが、

「ちょい待ち。」

「?」

「ほれ、こいつを貸してやる。追いついたときにこういうのを黙って差し出すのが男の定石ってもんだ。」

「そうなのか?」

クラッドの言葉を真に受けた男はたたまれた傘を受け取ってもう一度礼をするとさっさと行ってしまった。
そして、残されたクラッドはというと……

「へ~くしょい!!!!」

ずぶ濡れになっていた。

「はぁ~……やっぱ俺も酔狂だわ……けどま、そんぐらいの気構えの方がいいか。なにせ、全世界に喧嘩を売る準備をするわけだしな。」

「………お待たせしました。」

「お、待ってました……って、そんなに引かないでくれません?地味にブロークンハート……」

ずぶ濡れのクラッドに戸惑いながらも、各工場の責任者は気を引き締める。

「そんじゃまゆっくり話し合いましょうか。管理局をぶっ潰すためのMS作りについての話を……」








中心区画 居住区

雨の中、ジルは人目につかないようにかなりの高度を飛んでいた。
また捕まるのが嫌だったからというのもあるが、それよりも泣いている顔を誰にも見られたくなかった。

「泣くもんか……!だってオイラ決めたじゃないか……もう、逃げたりなんてしないって!」

初めて戦場に立ったあの時のこと。
自分の役割を教えられ、忠実にそれを守ろうとした。
だが、怖かった。
人のドロドロとした感情を感じ取った時、怖くてその場から逃げ出した。

その後の説明はいらないだろう。
主からはいらないと言われ、周りからは罵られた。
そして、あの忌まわしい戦乱の時代が終結した後。
自分がいた国はもはや存在せず、残されていたものは死体と瓦礫の山だけ。
なのに、その後も戦いの火が消えることはなかった。
どこへ行ってもそれはある日唐突に起こるし、自分も兵器として利用されかけたことは何度もあった。

歪んでいる。

そう思ったが、自分一人ではその歪みを正すことはできなかった。
だから誓ったのだ。
いつか自分と志を同じくする者が現れたのなら、その者をロードとして自分も戦場に立つ。
そのためなら、あのおぞましい感情も逃げずに受け止めてみせる。
主がいない孤独にも耐えてみせる。
そう思って、長い年月を耐え続けてきた。

そして、彼が現れた。
自分と同じく戦火で多くのものを失い、同じ志を持つ人間。
そんな刹那のためになら、この命を捧げても構わないと思った。
なのに、

「ばかぁ……!!」

泣かないと言ったばかりなのにまた涙が出てくる。
それほどまでに、刹那に断られたのはショックだった。

「やっぱり、刹那はオイラなんていらないのかな……」

建物の縁から足を投げ出して座る。
いっそ、ここから落ちてしまえばどれほど楽だろうか。
似たようなことは今まで何度も考えてきたが、それでも歯を食いしばって踏みとどまってきた。
だが、もう無理だ。

「やっぱり、世界を変えるなんてできっこないんだ……」

「……そうかもしれないな。」

「!?」

それまで頬を打っていた雨の感触が突然消える。
代わりに大きな丸い影と、浅黒い肌の青年が自分を見下ろしていた。

「刹那……」

「確かに、世界を変えることなんてできないのかもしれない。だが、諦めればかもしれないではなく、絶対に不可能になる。」

刹那は力強くそう言い放つ。
四年前の戦いのときに学んだこと。
イオリアからガンダムを託されたときに、自分の中でそう決めた。
それが、自分が世界に対して果たすべき責任だと思ったから。

しかし、ジルは再び前を向いて涙を流す。

「……けど、やっぱり無理だよ。オイラ、一人では何にもできないもん……刹那だって、オイラのロードになってくれる気はないんだろ?」

「……俺はお前を俺たちの戦いに巻き込みたくない。俺たちの所業はどんなことをしても償うことができない。これ以上……関係のない奴を巻き込みたくない。」

「あの沙慈ってやつのこと言ってんのか……?」

「……やはり、見ていたのか。」

「初めて会った時は表層部分だけだったけど、みんなに話してるときにほとんど見た。」

「………そうか。」

刹那はジルの涙を止めるように頭に優しく手を置いてなでる。
ジルも刹那の前では泣く姿を見せたくなかったのか、両手で目をこすって涙をふきとる。

「………オイラさ、初めてこの命を預けてもいいって思えたんだ。刹那ならこの世界から戦い消し去ってくれるって……」

「……………………」

「だから頼むよ!オイラも一緒に戦わせてくれよ!」

ジルの態度を見ていればわかる。
自分と同じ願いを持っていることも、そのための方法がこれ以外に思いつかなかったことも。
おそらく、今まで激しい孤独に耐えて自分のような存在が現れるのを待っていたのだろう。
それが、刹那の心を動かした。

「………俺はお前のロードにはなれない。」

ジルがびくりと震える。
だが、それに構わず刹那は言葉を続ける。

「だが、お前がついてきたいのならそうすればいい。」

「え……?」

「お前が世界を変えたいと願うなら、少なくとも俺はお前を歓迎する。蒼の賢帝、ジルベルト。」

最初は訳がわからず戸惑いの表情を浮かべていたジルもすぐに笑顔に変わって刹那の腕に抱きつく。
すると今度は感極まったのか再び泣きじゃくり始め、刹那の腕を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにする。
刹那はそんなジルを落とさないように、慎重に屋上から空へと飛びあがると居候先へと帰っていった。





二日後 B-4地区

別れの日がやってきた。
今日はミッドへの納品を行う日であり、それにまぎれてダブルオーと刹那を向こうに運ぼうというのだ。

「世話になった。しかし、本当に大丈夫なのか?俺がいなくなればまたここは……」

「心配するな。局のお偉いさんがようやく重い腰を上げたらしい。これからは治安維持を徹底するそうだし、新しい雇い口もできるらしいからな。」

「新しい雇い口……?」

「ああ。詳しくはわからないんだが、エイオースの工場全てが協力して大規模な生産を行うとか言ってたなぁ……まあ、こっちとしては食いぶちがみつかって大助かりだがな。」

新しい働き口。
機械産業が発達した世界。
そして、管理局が作ったMS。

「……まさかな。」

「お~~い!置いてくぞ刹那~!」

輸送船へと持っていく製品の上に乗っかっていたジルが刹那を呼ぶ。
少しは彼をみならって楽天的にならなければと自嘲していると、ある人物が現れる。

「お~!いたいた!探したぜ有名人!」

「あんたは……」

ジルを探すときに世話になった男。
昨日はラフな格好だったが、今日はピッチリとした管理局の制服に身を包んでいる。

「管理局の人間だったのか……」

「なんだその顔は?俺みたいなやつが局員やってたら変だってか?」

「いや……昨日は世話になった。」

「気にすんなって。あ、それはそうと今日はお宅に聞きたいことがあってきたんだった。」

「聞きたいこと?」

不意に男の纏う空気が緊張感に満ちたものに変わる。

「なんでもさ~、あんたがここに来た時に正体不明のMSが一緒に目撃されたって通報があったんだよね~。」

「!」

「こっちとしては形式上でもいいからお宅に話を聞かないといけないんだけどさ~……」

へらへらした笑みを浮かべていた男の目が鋭いものに変わる。

「あんたなんか知らない?」

「……悪いが知らないな。」

二人の間に言い表しようのないピリピリとした空気が流れる。
だが、

「………そっかぁ~。そりゃ残念。」

男はすんなり引き下がる。

「そういやミッドに行くんだって?道中気をつけてな~。」

背を向けてひらひらと手を振って歩く男。
しかし、ほんの数分対峙していただけの刹那の額にはじんわりと汗がにじんでいた。









「あれが悲しき破壊者くんねぇ~……随分想像と違ってたな~。」

エイオースの全工場の責任者たちとなんとか話をつけた後、正体不明のMSが出現したとの話を彼らから聞いた。
向こうはそれをこちらがエイオースを潰すべく送り込んだ機体だと思っていたようで、誤解を解くのにずいぶん苦労した。
しかし、彼らが見せてくれたその映像を見てあることを確信できた。
そのMSがカリムの預言にあった天使のうちの一体であることを。

「はやてちゃんは信じてなかったみたいだけど、あれがそんなにショッキングな内容かねぇ?」

発動条件が整っていないだの、もう戻ってくるはずがないだのいろいろ言っていたが、それよりも友人が自分のいる組織の敵になることを信じたくないだけの言い訳だろう。

「どうせならはやてちゃんも見切りつけてお友達に協力する方向でいけばいいのに。けど、あの真面目なところがまた良いんだよな~………よし、帰ったらまた口説こう。」

その時、ポケットに入れていた携帯端末がぶるぶると震えだす。
嫌な顔でそれを取り出すと、誰の呼びだしかわかってさらに嫌な顔をする。

「ハーイ、世界の女の子の救世主、クラッド三佐でーす…ってうるせぇなぁ……あ?今すぐ戻って来いって?冗談きっついぜ。今から素敵な女神様をひっかけようって時に………わかったようるせぇな!戻りますよ戻ればいいんでしょ!!ったく………あいつら俺よか優秀なんだから別にいなくたっていいだろうがよ………」

とは言え、自分に命を預けると言ってくれた部下を無下に扱うわけにもいかない。
ナンパはまた今度の機会にと決めると、ぶつくさ呟きながらクラッドは隊舎へと向かって歩いていった。






輸送船 コンテナ

『刹那さん、本当にそこで良いのか?どうせならこっちに来て座れば…』

「いや、向こうに着いたらすぐにでも降ろしてくれ。これ以上迷惑はかけられない。」

限られた明かりの灯されたダブルオーのコックピットに刹那はいた。
下手に人口密集地帯で降りるよりも、人気のないところで降りた方が
輸送船を操縦している彼も自分をミッドチルダに連れていったことがばれればただでは済むまい。

「なんてこと考えてんだろ?」

「だから読むなと言っている……」

肩の上で笑うジルを睨む刹那。
だが、ジルは刹那の心の中がよく見えていた。

「『お前が同じ考えでよかった……』って?いや~照れるなぁ♪」

「……調子に乗るな。」

「あだっ!」

刹那のデコピンにジルは額をさするが、その顔は満面の笑みだ。
そして刹那も、新たに得た仲間へ小さな笑みを向けた。

『さあて、ご両人!いざゆかん、ミッドチルダへ!』

「お~!!」

「了解!刹那・F・セイエイ、ダブルオー、これよりトレミーの捜索ミッションを開始する!」








悲しき破壊者、蒼の賢帝の願いを背負いて天使とともに司法の地へと羽ばたく





あとがき・・・・・・・・という名のどうしよう

ロ「刹那編な第八話でした。」

クラッド(以降 ナンパ師2)「いきなりオリキャラ二人も出してなに普通に終わらせようとしてんの。」

ジル(以降 蒼)「しかもオイラに至ってはキャラ立たせすぎなうえにユニゾンデバイスなんかにしてどうすんだよ。」

刹「しかも戦闘シーンはほぼゼロ。最低だな。」

ロ「ごもっともな意見なんですけど一人自分で存在意義否定してるやついなかったか!!?」

ナンパ師2「でも事実だし。」

ロ「ジルはあとで重要な役割を果たしてくるの!!ていうかたぶん読者の皆様が予想ついちゃってるようで怖い!!」

蒼「まあ、ユニゾン、刹那のパートナー、んでもってオーライ……」

刹「それ以上は本当にばれるからやめろ。まあ、今回は連続投稿で埋め合わせをするなんて浅はかなことを考えているようだから大目に見てやろう。」

ロ「とどめ刺しにかかってんのか励ましてんのかよくわからない言葉をどうもありがとう。(泣)」

ナンパ師2「そんじゃ、その次回予告に行きますか。」

蒼「次回はティエリア編。」

刹「どうにかトレミーと一緒に飛ばされたティエリアとセラヴィー。」

ナンパ師2「彼らがたどり着いた世界は何とミッドチルダ!」

蒼「どうにか情報を収集すべく、ウェンディとエリオの助言をもとに会った人物とは?」

刹「そして、地球に戻る方法を手に入れるべく、ティエリアたちはある人物の奪還に挑む。」

蒼「はたして結末やいかに!?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただいてありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお聞かせください!じゃ、せーの……」

「「「「次回をお楽しみに!!」」」」



[18122] 9.記者と鴉とマイスター
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/12/26 00:30
?????

「フフフフフ………!!ハハハハハハハハ!!」

おかしくてたまらない。
ファルベルが渋々教えたあの情報。
まさかユーノにそんな秘密があるとは思ってもみなかった。
しかも、彼自身はそれを知らずに生きてきたのだからさらにおかしい。

彼もまた自分と同じように特別な存在。
世界を導くことができる力を持つ人間であることを知らずに世界に対して戦いを仕掛けたというのだから笑えてくる。
これ以上の笑い話がこの世にあるだろうか。

「いいね……君がいれば来るべき対話への準備はさらに盤石のものになる。」

だから、リボンズはある重大決断をこともなげに下す。

「君を僕のものにしよう、ユーノ・スクライア……君だってその方が良いに決まっているのだから……フフフ……ハハハハハ!!」

リボンズの笑いが部屋の中にこだまする。
そんな彼の姿を、紫の髪の少年が唇を噛みながら柱の影で見つめていた。






魔導戦士ガンダム00 the guardian 9.記者と鴉とマイスター

第1管理世界 ミッドチルダ 海上

見渡す限りの水平線。
その日、ここに誰もいなかったのはこちらに住む人間にとっても、こちらに送られた人間にとっても幸運だったとしか言いようがない。
穏やかだった海が突如荒れ狂い、水柱と見紛うばかりの高波があたりに発生する。
その波の発生地点を中心に黒い穴が出現し、そこから巨大な艦とそれに必死にとりつく黒と白の巨人が現れる。
その二つは鋭角に海中へと突っ込みそうになったが、間一髪のところで本来の飛行姿勢へと戻して水面との衝突を避けた。

「くぁ~~!!!!今のはマジでまずかったぞ!!」

間一髪のところでプトレマイオスを救ったラッセは額の汗をぬぐおうとする。
だが、

「……どこだここ?」

見たところ海のど真ん中のようだが、GPSには何も映っていない。
地図と照らし合わせてみてもここがどこなのかさっぱりだ。

「どうなってんだ……?」

「無駄よ……ラッセ……」

「スメラギさん!無事だったのか!」

「ミレイナも大丈夫です!」

「私も……」

「右同じっス……」

「僕も……」

『わしもな……』

『いつつ…!一体何があったんですか?』

砲撃に当たっていたイアンと沙慈も含め、クルー全員が弱々しいものの笑みを見せたことでラッセは安心する。
そして、全員の無事が確認できたところでラッセは先程のスメラギの言葉の意味を問う。

「スメラギさん、無駄ってどういうことだよ?」

「……たぶん、ここは異世界よ。そうでしょう?ウェンディ、エリオ。」

全員の視線が集まる中、エリオは静かにうなずく。

「はい。おそらく、間違いないと思います。」

『……クッ…!!やはりそうか…!!』

「ティエリア!!無事だったのね!!」

通信用の画面の向こうにティエリアの顔を確認できたことからフェルトは魔力酔いによる頭痛も忘れて歓喜する。
だが喜びもつかの間、新たな問題点が告げられる。

『すまない、刹那たちとはぐれてしまった。トレミーと一緒にここに来れたのは僕だけのようだ。』

「そんな……」

フェルトは放心状態でその場に崩れ落ちるが、その状態を長く続けていられる暇はなかったようだ。

「こちら時空管理局所属、次元航行艦クラウディアだ!そこの艦、今すぐこちらの指示に従い同行せよ!繰り返す!こちらの指示に従い同行せよ!」

「クラウディア!?しかもこの声…!!」

その声をエリオが聴き間違うはずなどない。
自分の保護者であり、母親代わりである彼女の兄の声を間違えるはずがない。

『ラッセ、潜航してここから退却。僕は彼らを押さえる!』

「アーデさん待っ…」

「了解した!」

エリオの制止もむなしくセラヴィーはクラウディアに向けて砲撃を開始する。
その間にプトレマイオスは海中へと潜っていった。





クラウディア ブリッジ

「艦長、MSが攻撃を!」

「クッ!!やはり止まる気はないか!!しかし、まさか本当に来るとは!!」

セラヴィーが放つ砲撃がかすめる中、クラウディアの艦長、クロノ・ハラオウンは苦々しい顔つきでカリムの言っていた予言を思い返していた。

『反逆の天人、漆黒二面の天使とともに光茫にて全てを薙ぎ払う者あり。』

おそらく、その天人とやらがあれのパイロットなのだろう。
確かに薙ぎ払うという表現がぴったりくる暴れっぷりだ。
だが、こちらに気を使っているのか直撃させてくる気配はない。

「何を考えてるのか知らないが、こちらにも対抗手段はある!」

「しかし、艦長!!」

「このまま彼らを逃がすわけにはいかない!!エスクワイアとシュバリエを!!」

「……了解!!」

肩を震わせるオペレーターに心の中で謝罪したクロノは急遽とりつけることになったハンガーへと通信を入れる。

「ティアナ、フェイト、いけるか?」

『はい!』

『けど、いきなり実戦なんて……』

「だが、ここであいつの手掛かりを取り逃がすわけにはいかない……頼む。」

『……わかった。』





ハンガー

通信が終わると、着慣れないパイロットスーツの密着感にフェイトは再び顔を赤らめる。
胸元は白く分厚い特殊素材で覆われ、その下には彼女のパーソナルカラーである黒に黄色の体の線に合わせてラインが入っている。
こうして改めて自分の体を見てみると、あのバリアジャケットがどれほど大胆だったのかがよくわかる。

〈Sir,集中を。〉

「!わ、わかってる!!」

コンソールのわきにある窪みに収まっているバルディッシュからの指摘にフェイトは一段と顔を赤くするが、すぐに真剣な顔になると耳元にあったスイッチを押してヘルメットのバイザーを下ろす。

「フェイト・T・ハラオウン、シュバリエver.ライトニング、行きます!!」

開いたハンガーの入り口から長細い顔にV字型のアンテナと肩から短い金色のウィングを生やした機体が飛び出していく。
金色のバイザーを目元につけ、額に設置された第三の目は晴れ渡った空をしっかりと見据えている。
両腕には見えないが中に銃身が隠されている。
本来ならばシールドが装備される予定だったのだが、フェイトのたっての希望によりアームガンの威力を高めることを優先した結果取り外されることになった。
背中には彼女の相棒を模した戦斧が装備され、この機体の基調色となっている黒で塗りつぶされた刃が鈍く輝いている。

「いくよ、バルディッシュ!」

〈Yes sir!〉

フェイト専用にカスタマイズされた試作機、シュバリエver.ライトニングは背中のGNハルバードを両手に持つと黒と白の機体へと猛然と斬りかかっていった。



通信を終了したティアナはあることを確信していた。
あの艦には間違いなくエリオとウェンディがいる。
匿名の手紙の言うとおりにクラウディアへと出向し、MSのテストパイロットを引き受けてすぐに今回の次元振動を感知して駆けつけてみればあの萌黄色の天使と同型の機体が目の前にいる。
偶然でないと考えるには十分すぎる根拠だ。

オレンジに白のラインが刻まれたパイロットスーツを着たティアナは相棒であるクロスミラージュを目の前のカードホルダーに差し込むとしっかりと操縦桿を握る。

「行くわよ、クロスミラージュ!」

〈All right,master!〉

「ティアナ・ランスター、エスクワイア、出ます!!」

橙にカラーリングされたエスクワイアが空へと飛び出していく。
腰の両側に装備されていたホルスターからビームピストルを抜くとシュバリエの後に続く。

「エリオ……ウェンディ……待ってて!!」

二人の仲間のことを思いながら、ティアナはごつい装甲に覆われた敵へ向けて引き金を引いた。





海上

砲撃を続けていたセラヴィーに黒い刃が迫る。
ティエリアは急遽砲撃を中止してビームサーベルでその一撃を受け止める。

「MS!?新型か!!」

目の前にいる機体のその姿にティエリアは驚いていた。
おそらくジンクスを基に作ったものなのだろうが、驚くのはその装甲の薄さだ。
ナドレのように余計な装備は一切付けていない黒のボディは見るからに薄く、一撃でも貰えば間違いなく沈むだろう。

「クラウディアは墜とさせない!!」

「!」

それまで視界をふさいでいた漆黒の機体が上へ消えたかと思うと、今度はその後ろから赤い閃光が無数に迫ってきていた。

「クッ!!」

咄嗟にGNフィールドを張って防ぐが、今度は後ろから高速で先程の機体が迫る。

(速い!)

少なくともティエリアはここまで高速で移動する機体と戦ったことがない。
せいぜいシミュレーションでキュリオスと戦ったことがある程度で、それでもここまで速くはなかった。

「ガンダム以上のスピードの機体……ここまでのものが…!!」

振り向きざまにビームサーベルを合わせるセラヴィー。
だが、その次の瞬間には別方向から斬りかかられて攻撃を防ぎきれない。

「グッ!!この!なめるな!!」

二つの砲門から次々に光を放つが、黒い機体は悠々とそれをかわしていく。
そして、砲撃に集中していたセラヴィーに今度はオレンジの機体の射撃が直撃して体勢が大きく崩される。

「うわあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

今まで味わったことがないほどの危機感がティエリアを押しつぶしてくる。
一方、シュバリエとエスクワイアに乗るフェイトとティアナは勝利を確信していた。

「いける!!」

「はい!!このままいけば…」

しかし、彼女たちは知らない。
たった今、目の前にいる存在がイオリア・シュヘンベルグから希望を託された機体であることを。
その真の力を。

「TRANS-AM!!」

「「えっ!!?」

突如として赤く輝き、セラヴィーを覆っていたGNフィールドが強固なものに変化する。
しかもそれだけでは終わらず、その強固な防御の中でセラヴィーはゆっくりと二門のGNバズーカを構えるとエスクワイアとその射線上の奥にあるクラウディアへと狙いを定める。

「(あれはマズイ!!)ティアナ、クロノ、避けて!!!!」

「クッ……!!」

フェイトの叫びにティアナもクロノが乗るクラウディアも回避行動をとるが、それよりもセラヴィーの砲撃が早かった。

「圧縮粒子解放!!!!」

ため込まれていた光がさながら龍のようにうねりを帯びながら空を切り裂く。
それはエスクワイアの右腕を飲み込み溶解させ、クラウディアも左舷にかするように被弾すると灰色の煙を上げながら高度を下げていく。

「よくも!!!!」

フェイトは感情が高ぶったままセラヴィーの背後からハルバードを振り下ろす。
だが、

「!!?せ、背中に顔!!?」

強烈なGN粒子を放ちながら開いた装甲の中から、隠れていた巨大なもう一つの顔が出現する。
それに気を取られていたフェイトはセラヴィーの腕に握られているビームサーベルを見逃していた。

「しまっ……!!」

「はあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

間一髪でかわしたシュバリエだったが、握っていたハルバードの柄ごと左腕を切断される。

「この!!」

むきになって残っていた右腕の銃口を開くが、そこへストップをかける声が届いた。

『待てフェイト!ここまでだ!!』

「クロノ!?」

『クラウディアも先程の砲撃で被弾した!!そっちもエスクワイアとシュバリエを損傷している!!深追いすればこっちもマズイ!!』

「っ……!了解……!!」

渋々フェイトはクロノの指示に従うが、ティエリアにしてみればこの状況は渡りに船だ。

「今ので粒子残量が30%を下回ったか……」

TRANS-AMを発動したにもかかわらず仕留め損ね、挙句こちらもかなりのダメージを追ってしまった。
しかし、追撃が来るかと思ったが二機の新型とそれを搭載していた艦は退却を開始している。

「こちらも深追いは無用か……」

ティエリアは操縦桿を倒してセラヴィーを海中へと潜らせ、先に撤退したプトレマイオスの後を追った。





プトレマイオスⅡ ブリーフィングルーム

ティエリアが合流した後、ブリーフィングルームに集まっていたクルーの誰もが悔しさをにじませていた。
プトレマイオスと一緒にこの世界に来たのはセラヴィーとティエリアだけ。
そのセラヴィーも突然出てきた艦から逃げるときに損傷。
すなわち、現在戦力と呼べるのはプトレマイオスの砲撃だけということだ。

「しかし、本当に良かったのか?向こうの指示に従っていれば物資や帰る方法だって……」

「いや、あれでよかった。」

イアンの言葉をティエリアはばっさりと否定する。

「彼らが我々をとらえて無事に帰す保証はない。」

「そうです!!」

ミレイナもティエリアの意見に手を挙げて同意する。

「スクライアさんからお話を聞いてミレイナもプンプンです!!」

「だが、セラヴィーはしばらく使えなくなっちまったんだぞ?今度来たら対抗できるかどうか…」

「ハッ……らしくないなおやっさん。」

ラッセはイアンの不安を鼻で笑う。

「いつもなら『わしに不可能はない!!』、なんて言ってその通りにしちまうくせに、訳のわからないところにほっぽり出されただけでギブアップ宣言か?」

「そらまあ……ギリギリ物資はそろってるし、あの程度なら二日ほどあれば何とか……」

「よっしゃ、そんじゃ決定。修理はおやっさんが何とかするとさ。」

「お、おい!!わしはまだなにも…」

「それじゃあ、あとはどうやって他のマイスターと戻る方法を探すかね……」

イアンの文句を封じ込めるようにスメラギが強引に話しを進める。

「フフフ……!」

「?どうかした、フェルト?」

「ううん。最初はみんなこんな風にしわ寄せてたのに、いつもみたいになったなって思って。」

フェルトに言われて気が付いた。
最初に顔を合わせたときはみんな不安を抱えていたのに、いつの間にか普段の明るい空気に変わっていた。

「俺たちに暗い空気は似合わないってことか。」

「緊張感に欠けているとも言える。」

「こりゃまた厳しいお言葉で……」

ティエリアの言葉に苦笑するラッセだったが、それを見ていたティエリアの顔にも笑みが浮かぶ。

「けど、本当にどうします?私たち、ここがどこなのかもわからないし、そもそも情報を集めるって言ったって、その情報源がどこにあるかも…」

「あの……」

フェルトの言葉を遮るようにエリオが手を挙げる。

「その、ウェンディが何か知ってるみたいなんですけど……」

「?なにかって?」

注目が集まる中、ウェンディが満を持して前へ進み出る。

「いろいろ情報持ってて協力してくれそう人間ならあてがあるっス。たぶん、ユノユノの名前を出せば食いついてくるはずっス。マレーネ。」

〈了解。この人物です。〉

マレーネが投影した写真に写っていたのは一人の女性だった。
水色のショートカットに、白い肌をした首から身分証明証のようなものを下げている。

「この人は?」

「え~と、名前はアイナ・スクライア。ユノユノと同じスクライア一族出身で、記者をやってるっス。」

「記者?おいおい、たかだか記者が俺たちに有益な情報を持ってるなんて……」

「甘い!角砂糖にガムシロップかけて食べるより甘いっスよラッセ!」

ちっちっと指を振るウェンディと彼女のありえない食い合わせの例えに顔をしかめるラッセだったが、ウェンディの話を聞いて態度を一変させる。

「あたしも話しを聞いたくらいなんスけど、管理局の裏側の相当ヤバいところまで首を突っ込んでたみたいだからなんかいいネタ持ってるかも。ついでに、(違法な手段も使うけど)情報収集についてはピカイチみたいだし、会ってみて損はないと思うっスよ?」

「けど、どうやってコンタクトを取るの?そもそもここがどこなのかがわからな…」

「ああ、それならさっきマレーネとストラーダに聞いておきました。ここは十中八九ミッドチルダです。僕らが今いるのは首都のクラナガンから50kmの沖合です。」

「なぜそんなことが分かる?」

「さっきの戦艦、クラウディア級の戦艦はほとんどつい先日あった事件でこの世界に集結していますし、戻っていった方向はちょうど次元航行艦のドックのある地点と一致します。それに、いくら次元震を観測したからといってここまで素早く艦を出せる世界はそうそうないですから。」

「……理由は本当にそれだけか?」

ティエリアの鋭い視線と言葉にエリオはドキリと心臓が高鳴る。
だが、なんとか笑顔を取り繕う。

「え、ええ……それだけですけど、なにか?」

「……ならいい。イアン、VTOLの準備を。ウェンディ、君はそのアイナという人物とコンタクトを取る方法を思いついているんだな?」

「モチ!!まあ、このウェンディちゃんにどーんとお任せあれ!」

「あの……僕も行きます。ウェンディとアーデさんだけじゃ心配ですから。」

「それじゃ、よろしくねエリオ、ウェンディ。……でも、ウェンディはともかくエリオはよく協力する気になったわね?」

「え!?いや、あの、これは別にそんなんじゃなくて、なんと言うか、捨てられてる子犬をほっとけない心情に似ているというか!!」

「えっと、別にそんなに強く否定しなくてもいいんだけど……」

「え!?あ、ああ!!そうですよね!!じゃあ、早くいきましょうアーデさん!!善は急げです!!」

エリオはブリキの人形のようにカチコチとした動きで二人の袖を掴むと強引に引っ張って外へと出ていく。
それを見送ったスメラギ達だったが、三人がいなくなったところでスメラギが口を開く。

「エリオとウェンディをミッドチルダにおいていくのは難しいかもしれないわね。」

「ああ。ウェンディは最初からそんな気はしてたが、エリオも最近になって思うところがあるみたいだしな。」

「だが、俺たちのエゴにこれ以上付き合わせるわけにもいかないだろ。これは俺たちの世界、地球の問題であって、この世界の住人である二人を巻き込んでいいものじゃない。」

「……そうかな?」

「フェルト?」

自分の呟きに予想以上に注目が集まり少しどぎまぎするフェルトだったが、気を取り直すと自分の意見を主張する。

「私はエリオとウェンディの意思を尊重するべきだと思う。二人にもなにか譲れないものがあって、そのために戦う道を選んだのなら私たちが口出しすべきじゃないと思う。」

「しかしだなぁ……」

「……そうね。」

スメラギの肯定の言葉にその発言をしたフェルトですら驚く。

「けど、そうだとしたらちゃんと決めてもらわないと困るわ。少なくとも、私たちがこの世界を去る前には。」

これから先に待っている戦いは中途半端な覚悟でどうにかなるものではない。
迷えば自分だけでなく仲間まで傷つくことになるのだ。

「とにかく、今はこの話はおしまい。みんな、すぐに準備に取り掛かって。」

パンパンというスメラギの手の音に送り出されてそれぞれの持ち場に戻るクルーたち。
その後、海面にわずかに顔をのぞかせたプトレマイオスのカタパルトから一機の青い輸送船が飛び立っていった。






クラナガン 次元航行艦ドック

『失態ですね、ハラオウン提督。』

「……その他人行儀な言い方をいい加減やめてくれないか、アルフ。」

久しぶりに顔を見た家族から毒を吐かれていい気分の人間など一人もいない。
だが、目の前に、しかし遠い場所にいるアルフからの厳しい非難の言葉はとどまることを知らない。

『そう言えば、MSの試験運用を任されたそうですね?遅れましたが、謹んでお祝い申し上げます。』

「皮肉はやめろ。」

『いえいえ、心からの祝辞ですよ?私どもの友人であるユーノ・スクライア司書長を犯罪者扱いするファルベル准将に従うあなたへの精一杯のね。おっと、そういえばあなたはもう違いましたね。これは失礼しました。』

冷淡な笑みに返す言葉もないクロノ。
だが、自分のとった道を間違いだとは思っていない。
内側から組織を変えるため、何よりいつか戻ってくることが確定したユーノとその仲間を止めるためにはこうするしかないのだ。

『では、私はこれで…』

「待て、アルフ。」

『……まだ何か?』

「……反逆の天人、漆黒二面の天使とともに光茫にて全てを薙ぎ払う者あり。」

『騎士カリムの預言が何か?』

「……それがこの世界に現れた。それも、数多の星々を束ねし方舟もだ。」

『!』

「君とはやては否定していたが、どうやら予言は本当だったらしい。だとすれば、ユーノもこちらに戻ってくる可能性がある。だから、君にも協力…」

『……協力してとっ捕まえて牢屋にぶち込めってか?』

「そうは言ってない……だが、もしユーノがこの世界に害をなすのなら僕は一局員として……」

『局員の前に友達だろうが……だからあたしはあんたらと縁を切ったんだ。』

「アルフ!」

クロノは呼びとめようとするが、その前にアルフは通信を一方的に終了する。
そして、一人で部屋に残されたクロノはどさりと椅子に腰かけると俯き加減でため息をついた。






第23管理世界 ルヴェラ 文化保護区 ミッドタイムズ支社

「ゔぇぇ~~……こんな昼ドラみたいなどろどろの愛憎劇な記事を読む奴の気がしれないわ……」

ようやく書きあがった原稿を左脇にある書類や記事の山の一番上に乗せると、アイナは机に顎をついて文句をたれ始める。

「こんなもんより今の局のやり方気にしなさいってのよ……いまさら『質量兵器使いま~す!てへっ♪』、なんてなめたこと言ってんのに誰も何も言わないなんてつくづくいかれてるわ……」

「スクライアさ~ん、編集長がお呼びですよ?」

「はいはい、原稿よこせってんでしょ?わかりましたよ~っと。」

ぴょんと跳ね起きたアイナは紙の山が崩れるのもお構いなしで一番上から原稿をとると居眠りをしている男の方へと歩いていく。
しかし、

「ああ、それと本社から手紙が来てますよ?なんでも、アイナさんの知り合いだって言ってた局員から送られてきたものだって。」

「局員から手紙?」

確かに情報交換を行っている局員は何人かいたが、そのほとんどがここへ来るきっかけになった出来事で縁を切りたいと言ってきた。
一人だけ馬鹿なあいつが残ってはくれたが、そのあいつにはもうルヴェラに移されたことは言ったし、そもそも蓋をしている臭いものをつつきまわす自分に用がある人物などいるものなのだろうか。
不思議に思いながら薄い緑の封筒を切り取り線に従って開くと、その大きさに不釣り合いなほど小さな紙の欠片が入っていた。

「なんだこれ?」

たたまれていたそれを開いた瞬間、アイナは息をのむ。
至って簡潔な文章だが、今のアイナにとってそれは濁流の川の中でもがく自分にたらされた一筋の藁のように思えた。

「どうしました?」

「ごめん。これ編集長に出しといて。それと、あたしは今からありったけの有休とるって伝えといて。」

「ええ!!?ちょ、ちょっと!!?」

押し付けられた原稿の束に戸惑う同僚をよそに、階段を早足で下りるアイナは縁を切らなかった馬鹿へと連絡を取る。

「クロウ?あんたどうせしばらく暇でしょ。ちょっとミッドまで付き合ってほしいの。……え?もうそっちにいる?オーライ、それはちょうどいいわ。あたしもすぐに向かうから……どうしたもなにも、ユーノに関する情報が手に入ったのよ。……は?寝ぼけてんのはあんたの方よ。ガセにしろなんにしろ、こいつを送ってきたのはユーノに関係あるやつ、もしくはあんたが探りいれてる上司の部下が仕掛けてきたんでしょ。前者ならあたしもあんたも万々歳。後者でもあんたに損はないはずよ。……OK、交渉成立ね。ああ、それとアイリスちゃんも一緒に連れて来てね。待ってる間あの子の入れたお茶を楽しみたいから。……はぁ?あんたに拒否権なんかないわよ。女に奉仕するのは男の義務なんだから。それじゃあね♪」

受話器の奥でまだ叫んでいるようだったが。この際細かいことは気にしないでおこう。
なにせ、あの一文はそんなことに気を回す余裕を自分が奪い去ったのだから。

『ユーノ・スクライアについて知りたいのなら夜11時、北のハイペリアルタワー跡に来い。』

どこの誰だか知らないがいい度胸だ。
もし罠だったとしても、間違いなくユーノをはめたあのジジイとつながりがある。
だから、何が何でも身柄をとらえて知っていることを洗いざらいはいてもらおう。
それが、今の自分がここにはいないユーノにしてあげられることだと思うから。






108部隊隊舎

誰もいない廊下にバンと大きな音が響く。
壁に打ちつけたこの拳の痛みは自分への罰なのだ。
ティアナはそう思うしかないほど悔しくて仕方なかった。
あと少しでエリオとウェンディに手が届くかもしれなかったのに、自分の力不足のせいで救うことができなかった。

〈あれはマスターのせいではありません。〉

「下手な慰めなら要らないわ……」

〈いいえ、厳然たる事実です。あの時、エスクワイアはマスターの反応速度に追いついていませんでした。〉

クロスミラージュの言っていることは間違っていない。
エスクワイアのレスポンスは限界ギリギリまで上げていたのだが、ティアナにはそれでも遅く感じていた。
まるで二人羽織で戦っているような、ちぐはぐの動き。
それでも、そんな状態でセラヴィーと互角以上の勝負をしていたのだから驚きだ。

「けど、結果がすべてよ。私は負けた……そういうことよ。」

だが、確かにエスクワイアへの不満は尽きない。
MSを扱いなれていない管理局の人間に合わせているのだろうが、ティアナのように突出した才能を持つ者にはあわなかったようだ。

(エスクワイアじゃ私の動きについてこれない……一体どうすれば……)

「失礼。」

不意に声をかけられたティアナは驚いて壁から離れる。
誰もいないと思っていたからあそこまで感情を爆発させたのだが、それを見られていたのかと思うと恥ずかしくて死にそうだ。

「ランスター補佐官ですね?」

「ええ。なにか?」

鋭く光る赤い眼。
しかし、顔立ちは全体的に幼く、低い声を聞いてようやく成人していることが分かるほど童顔だ。
黒いぼさぼさした髪に金色の十字架の真ん中に白い石がはめ込まれたピアスが右耳で揺れ、彼を初めて見た人間にはハイスクールの生徒が悪ぶっていると思って笑ってしまうのではないだろうか。

「カレドヴルフ・テクニクス社はご存知ですね?」

ご存じも何も、管理局にもデバイスを納入している次元世界有数の大企業だ。
もっとも、MSの登場によって最近はその地位を脅かされつつあるようだが。

「実は地上部隊にある兵器のテスターを務めてほしいとのオファーが来ていまして。」

この男が自分を訪ねてきた理由がよくわかった。
要するにこいつはカレドヴルフに恩を売るために自分を利用しようとしているのだ。

「申し訳ありませんが、私は…」

「そういえば、負けたそうですねガンダムに。」

「ガンダム……?」

「あなたとハラオウン執務官が戦ったMSの名称ですよ。ミッドではエンジェルと呼ばれているようですが。」

「……あなた、何者?」

ティアナは男と距離をとるとクロスミラージュをセットアップする。
自分やフェイトですら掴んでいない情報を知っているこの男。
どうやら、ただの局員ではないようだ。

男の方もティアナの雰囲気が変わったことを察知して、それまでの丁寧な言葉遣いをやめて鋭い刃物のような口調になる。

「俺の正体はどうでもいい。今カレドヴルフではある構想の下、新しいタイプのMSの製作を極秘裏に開始している。どの道キャバリアーシリーズではお前の能力を十二分に生かせないのだから、新しく開発されるそれにかけてみても良いんじゃないか?」

「それは…」

「迷っている時間はないはずだ。本当の意味でウェンディ・ナカジマとエリオ・モンディアルを助けたいのなら今はカレドヴルフに行け。」

「!?まさか、あの手紙を送ったのは!」

「……キャバリアーシリーズで十分お前の能力に対応できると踏んでいたんだがな。俺の誤算だ。」

この男があの手紙の差出人。
だが、だとすると疑問がわく。

「なんで私にあんな手紙を送ったの?」

「ああでもしなければお前はMSと関わりを持ちそうになかったからな。だが、仲間を助けたいと思うのならMSは不可欠な力だ。それだけは保障しよう。」

「けど、私を利用することには変わりないんでしょ?」

「察しが良いな。だが、お前もいずれ俺と同じ位置に立つ日がきっと来る。」

男は名刺ほどの大きさの紙をティアナへと放るとそのまま来た道を歩いていく。

「俺は待ち人がいるのでこれで失礼させてもらう。それでは。」

男は相手がデバイスを起動しているのに背中を見せて歩き出す。
だが、彼にはティアナが撃ってこないという確信があった。
彼女は自ら目の前のチャンスを手放すほど愚かな人間ではない。

〈ですが、少々不用心です。〉

「そう言うなエルダ。これは俺なりの誠意の見せ方だ。」

廊下の角を曲がったところで彼のピアスが語りかけてくる。
妙齢の女性の声は堅苦しさを覚えるほどきっちりとしたもので、デバイスとわかっていても一礼したくなるほどだ。

「ですが、エルダの言うことにも一理あります。ご主人様は気を許した相手には隙を見せすぎます。」

開いていた窓から一羽の鳥が差し出された男の腕にとまる。
光を浴びて銀色に輝く薄い菫色の羽毛は美しく、すらりと長く伸びた尾羽は金色の糸が天界から地上へと降りてきたかのようだ。

「アイリスか……小言は後で聞くとして、アイナはこちらについたか?」

「はい。待ち合わせ場所を下見してからこちらと合流するとのことです。」

「そうか……お前はもう一度アイナのところに行って警護を頼む。ついでに茶を入れてやるくらいのサービスはしてやれ。」

「承知しました。」

アイリスと呼ばれた鳥は再び窓から空へと大きく羽ばたいていく。
それを見送ったクロウ・ヘイゼルバーグはこれから自分たちが会うことになる人物についてある程度予想はついていた。
そう、友人であるヒクサー・フェルミの仲間たち。
ソレスタルビーイングのメンバーであることを。





午後十一時 クラナガン郊外 ハイペリオンタワー跡

高く天を衝く巨塔になるはずだったその建造物は他のビルよりも低い位置で成長が止まっていた。
クラナガン郊外の再生計画の一部として立てられようとしていたこの魔力観測用のタワーは建築を担当していた中小企業の相次ぐ倒産、撤退によって初期の状態で放置されたままになっていた。
この計画を立案した者たちはそれでも何とか完成させようと試みたが、これにかかわった企業の不幸を目の当たりにしたせいで腰が引けてしまい、誰も手を出さないまま今日に至るというわけだ。(もっとも、倒産や撤退が重なったのは本当に偶然だったのだが)

そんなこの場所で、アイナは一人夜風に当たりながら自分を呼びだした人物を待っていた。

「う~さむ……女を待たせるなんてマナーがなってないわよね。男ならそれくらい常識よ、どこかの誰かさん。」

「……アイナ・スクライアだな。」

暗がりから現れた紫の髪の人物をアイナは注意深く観察する。
月明かりを反射しているメガネとその奥の突き刺すような眼光は大人びた雰囲気を醸し出しているが、幼さが残る端整な顔はその厳しい表情とは裏腹にきれいだという印象をアイナに抱かせた。

「それで、あたしになんの用?言っとくけど、情報提供ならそっちが先よ。しょうもない話を聞かされてドロンされたらたまらないからね。」

「……ユーノ・スクライアはソレスタルビーイングのガンダムマイスターだ。」

「は?ソレス……なにそれ?」

訳がわからないといった顔をするアイナに少年は説明する。

「全ての戦争行為を武力によって根絶するために立ちあがった私設武装組織……そして今は、世界の歪みであるアロウズ、その後ろにいる存在を駆逐するために戦っている。」

その突拍子もない話にアイナは呆れる。

「じゃあなに?あんたらは戦争を終わらせるために戦争をしてたってわけ?そんで、ユーノがその組織にいたって?冗談やめてよね。私は生れてこのかたそんな組織の名前聞いたことはないわ。」

「ソレスタルビーイングが活動しているのはこの世界じゃない。第97管理外世界地球……その並行世界だ。ユーノがこちらで行方不明になっていた時、僕らは彼とともに戦っていた。そして、今も彼は世界の歪みと戦っている。」

「OK,百歩譲ってあんたの言ってるその馬鹿げたことが本当だとして、その肝心のユーノはどこにいるの?」

「わからない。」

アイナは再び呆れてため息をつく。

「あんたねぇ……人のこと馬鹿にしてんの?」

「僕たちは突如現れた管理局の艦の手によって分断されてしまった。おそらくこことは別の世界のどこかにいるはずだ。」

「じゃあ、悪いけど他の人間当たって頂戴。あたしもどこにユーノがいるかわからないからね。」

「残念だが僕が聞きたいのはそのことじゃない。はぐれてしまった仲間を探すためにも君から次元航行に関する技術を持つ人間の情報をもらいたい。」

「どっちにしろユーノに関して大した情報得られない以上、あたしは協力する気はないわ。悪いわね。」

「そうか………なら、こうするしかないな。」

少年は懐から取り出した銃をアイナへと向ける。
しかし、アイナは動じない。

「ふ~ん……結局そう来るわけね。」

「僕たちは何としても仲間を見つけて戻らなければならない。手段を選んでいる余裕などない。」

「……あんたさあ、馬鹿じゃない?」

「なに?」

「あたしがこういう事態について何も考えてなかったと思う?」

「!!」

少年は前転をするようにそれまでいた場所から飛びのく。
その瞬間、彼がそれまでいた場所に真紅の弾丸が突き刺さる。

「やっぱクロウにボディガード依頼しといて正解だったわ。」

「別にお前のためじゃない。俺は俺の目的のためにここに来たまでだ。」

タワーの鉄骨の間に潜んでいた人物、クロウは黒の上下に、目立ちすぎるため脱いでいた白のロングコートを改めて羽織ると手に握っている白銀の銃を少年に向ける。
二対一のこの状況、通常ならばこの時点で少年の負けは決定していたろう。
だが、

「悪いが伏兵ならこちらにもいる!ウェンディ!!」

「あいよ!!」

「「!?」」

今度はアイナとクロウが驚く。
自分たちの背後から何かが高速で迫ってきたかと思うとクロウを跳ね飛ばしてアイナの周囲に魔力弾を撃ちこむ。

「へへっ!!形勢逆て……」

「それはどうでしょうか?」

「うにゃ!!?」

今度はクロウを強襲した少女が長い髪をしたメイド服の少女に頭を蹴られて何かから転落する。

「残念、カードの数はこっちの方が上だったみたいね。」

「……そうでもないですよ。」

「……!」

今度こそ勝ったと思ったアイナだったが、背中にチクリと何かが押し付けられるのを感じて一気に冷や汗を放出する。

「僕たちもあなたを傷つけるのは本意ではありません。お願いですから、最後まで話を聞いてください。」

「この状況でそんなこと言っても説得力なんて……ん?あれ、あんたユーノのところにいた…」

アイナは後ろにいるその少年に見覚えがあった。
写真ぐらいでしか見たことがなかったが、ユーノがよく稽古をつけているといっていた少年だ。
さらに、よく見ればアイリスが蹴り落とした少女もユーノが保護して機動六課にいたはずの子だ。

「いたた……あんたそんな恰好してるくせにエライ強いっスね……」

「メイドのたしなみです。賛辞をいただくほどのものではありません。」

「……どういうことこれ?」

事態が飲み込めないアイナに代わり、「やはりか……」とクロウが紫の髪の少年に歩み寄る。

「いまさらかと思うかもしれないが、もう少し俺たちの話を聞くつもりはないか?」

「君は?」

「クロウ・ヘイゼルバーグ。フェレシュテにスカウトされる予定だった男、とだけ言っておこう。」

「フェレシュテに…?」

紫の髪の少年はメガネを指で上にあげるとクロウの顔を覗き込む。

「詳しく聞かせてもらおうか。君がフェレシュテとどのような関係にあるのかも含めてな。」





三十分後

月が昇る寒空の下、白い湯気が折り畳み式のテーブルの上から天高く昇っていく。
アイリスはティエリアのティーカップが空になると素早くポットから新しいお茶を注いで満たす。
テーブルを囲んでお茶をする五人の姿からは先程の緊張感は欠片も感じられない。

「なるほどねぇ~。大変だったのねあなたたちも……アイリスちゃん、お茶おかわり。今度はダージリンで。」

「かしこまりました。」

中でも一番緊張感にかけているのが今夜の主役の一人でもあるアイナだ。
先程から話し合いをしているのはティエリアとクロウだけで、彼女はアイリスが肌身離さず隠し持っている紅茶を呑気に楽しんでいるだけである。

「あの……僕たちはあなたに用があってきたんですけど?」

「いいのいいの。今のところあたしはあんたらの役に立ちそうな情報は持ってないから。」

「ふぉれふぇもふぁなふぃにふぁんかふるのぐぁきふゃろしごろやふゃいんフか?」

「口いっぱいにマドレーヌほおばってるやつに言われたかないわよ。」

「ていうかなんで言ってることわかるんですか?」

リスのようにアイリスが用意していた菓子を口の中に詰め込んでいたウェンディは紅茶(一杯アバウト900円)でそれを胃の奥に流し込む。

「「おいそこ、人が真剣に話をしているときにゆるい空気を出すな。」」

とうとう我慢が限界に達したのかクロウとティエリアはのほほんとしていた二人とついでに真ん中に座っていたエリオを睨みつける。

「あ、話終わった?」

「まだ終わっていない。ようやく事情が呑み込めたところだしこれからが本題だ。それと、そこのパイナップル頭にも関係のあることだからしっかり聞いておけ。」

「んあ?」

今度はビスケットに手を伸ばそうとしていたウェンディは間の抜けた顔でクロウの方を向く。

「?彼女がそのテロリストと何の関係が?」

「なんだ話していなかったのか。まあ、あまり口外したいことではないか。」

そう言うとクロウは一枚の写真をテーブルの真ん中に放り出す。

「「!!!!」」

エリオとアイナの表情が険しくなる。
ウェンディに至っては目を見開きながら口を魚のようにパクパクさせて声にならなかった空気を吐き出す。

それに写っていたのは一人の男。
濃い紫の髪をした白衣の男を知らない者はミッドチルダにはいないだろう。

「ドクター!!?」

ウェンディの生みの親、ジェイル・スカリエッティその人が自分のことで騒いでいる人間がいることなど知らずにいつものうすら笑いを浮かべながらこちらを見ていた。

「お前たちの要望にこたえられる可能性があるのはこいつくらいだろう。」

「で、でもこいつは犯罪者ですよ!?」

「馬鹿正直に局の技術者連中に頼むよりもマシだろう。それとも、犯罪者扱いされているスクライア司書長を探したいから手助けをしてくれとでも言うつもりか?」

「それは……」

こちらに戻ってから一番驚いたこと。
質量兵器であるMSを使用していることもそうだが、何よりユーノがまるでこの前の事件の主犯格のような扱いを受けていたことだ。
あの危機を救ったのはユーノだといっても過言ではないのに真実は歪められ、ミッドチルダの人々もそれを当然のことのように受け入れていた。

「クロウ、悪いけどあたしも反対。倫理的にどうかってことよりも、こいつを連れてくるのが不可能よ。」

アイナの言うことももっともだ。
相手は第一級の犯罪者。
彼を投獄している場所に敷かれている警備は並大抵のものではないだろう。
しかし、クロウはニヤリと笑ってみせる。

「いや、方法はある。エルダ。」

〈はい。〉

ピアスに戻っていたエルダを外すとテーブルの上に地図を投影する。

「二日後にスカリエッティを軌道拘置所に護送するんだが、その最中にこいつは死ぬ予定だ。」

エリオとウェンディは鳩が豆鉄砲でも食らったように顔を上げる。

「……口封じね。」

アイナの言葉にクロウは静かにうなずく。

「少なからず上の連中が絡んでいるからな。下手に証言されようものなら局の信頼はガタ落ちというわけだ。」

「それで彼を護送中に襲撃を受けたと見せかけて殺害、ということか。」

「だが、そこにつけこむ隙がある。」

クロウが再び地図に目を落とすと、全員がそれに注目する。

「護送ルートのここ。海岸線に出たところで連中はことを起こす。もともと人目につかないように少人数で構成されているし、スカリエッティの始末された事実が広まらないために人員はあの老いぼれの部下で構成されている。」

「それなら多く見積もって五人ってところっスね……あたしはやる気満々なんスけど、ティエリアとエリオはどう?」

ウェンディの珍しくまじめな顔にティエリアは目を閉じながら腕を組む。

「君とこの人物のつながりが気になるが、僕は必要だと思うことをするまでだ。」

「OK!んでエリオは?」

エリオはしばらく迷っていたようだったが、すぐに顔を上げる。

「……僕も行く。真実が闇に葬られようとしているのなら、放っておくことなんてできない。」

「よっしゃ!そんじゃそれで決まりってことで!」

バンと机を叩いて立ち上がったウェンディは少し進んだところで忘れ物を取るかのようにテーブルの上にあった菓子類をありったけ腕に抱えて帰路につく。
そんな彼女に呆れながら、クロウも残っていたビスケットを一枚手に取りながらティエリアたちへ最後の注意事項を伝える。

「言っておくが、俺の援護には期待するなよ。これでもファルベルの部下をしているんでな。下手を踏んで怪しまれたら情報を得られなくなる。」

「いや、これで十分だ。協力に感謝する。」

「また何かあったら頼ってくれて構わない。用がある時はアイナを通じて連絡をくれ。」

「了解した。」

アイリスがてきぱきとテーブルといすをたたみ終えた頃には、あんなによく見えていた月が雲に隠れてしまった。

「……良い月だったんだがな。」

名残惜しそうに完全に明かりの無くなった空を見上げるクロウ。
そんな彼に、もう姿も見えなくなってしまったティエリアが微笑む。

「いつかまた出るさ。どれほど厚い雲が空を覆っても、光はずっとそこにあるのだから。」

「意外と詩人だな。もっと無愛想なやつかと思ったが。」

「僕だって人並みに感動くらいはするさ。」

顔は見えないが、声でティエリアが拗ねているのがよくわかる。
それがおかしかったクロウは闇にまぎれて今夜一番の笑顔を作った。







二日後 プトレマイオスⅡ ブリッジ

奇しくも、その日の夜も空は厚い雲に覆われていた。
海面ギリギリからカタパルトデッキをのぞかせているプトレマイオスも久々に海中から顔を出したのに月光を浴びることができないのが残念そうに見える。

「セラヴィー、リニアカタパルトに固定完了、いつでも行けるです!」

『了解。ウェンディとエリオは?』

「二人とも所定の位置についたそうです。後はアーデさんの到着を待つとのことです。」

『そうか。』

短く返事をするティエリア。
この素気ない態度のせいで周りから誤解を受けやすい彼だが、これはティエリアなりの儀式とも言える。
気のきいたことの一つも言いたいが、照れが邪魔をして言いたいことを言えない。
ティエリアをティエリアたらしめている、数少ない彼の愛嬌と言えるだろう。
しかし、ミレイナはそれを口に出したりはしない。
なにも言わずに、ただそれを見ているのが楽しいのだ。

『セラヴィー、ティエリア・アーデ、出る!!』

そんなことを思われているとも知らずに加速して飛び出した白と黒の巨体。
イアンが宣言通り二日で修理を完了したことに感謝しながら、ティエリアはセラヴィーを指定ポイントに向かわせた。





海岸線

「~~♪~~~♪」

護送の最中だというのに、鼻唄に合わせてつま先で護送車の床を叩いてトントンと鳴らす男に局員は渋い顔をする。
これから本来の予定では脱出がほぼ不可能な場所に一生閉じ込められることになるというのにそれに対する怯えが全くない。
それどころかそこがどんなところで、そこでこれから何をしようか考えて楽しんでいるようだ。

「オイ、静かにしろ。」

「~~♪」

「オイ!」

「おや、音楽は嫌いかね?」

やっと鼻唄をやめた男だが、今度はうすら笑いを向けてくる。
鼻唄に苛立っていた局員は今度はその笑いが気にくわなくなってくる。

「貴様、自分がどういう立場かわかっているのか!」

激昂する局員だが、男は両手を拘束されているにもかかわらずふてぶてしい態度を崩さない。

「人の質問には答えたまえ。君が呼ぶから私はわざわざ歌をやめて話を聞いてあげようとしたのに。」

「こいつ……!!」

「オイ、構うな。放っておけ。」

拳を振り上げていた局員だったが、仲間の一人からたしなめられてどっかと再び腰を下ろす。
そうだ、別に殴る必要などない。
なにせ、こいつはここで死ぬのだから。

車が急にブレーキをかけると地面との摩擦音で甲高い音が海沿いの道に響き渡る。
護送されていた男は唄うのをやめて局員の顔を見渡すが、服を掴んで立たされるとそのまま外に放り出される。

「なるほど、私にここで消えてもらわないとあの男も困るというわけか。」

持ち前の天才的頭脳を用いるまでもなく、状況だけでそれを判断するのはたやすかった。
別に恐怖はない。
いつかこうなることは覚悟していたし、そうでなくとも死は誰にも等しく訪れるものだ。

「ククク……天下のドクターJもこうなっては他愛のないものだな。さぞ恐ろしかろうなぁ…」

ただ、一つだけ不満があるとすれば、

「フゥ……私の罪を裁くのが君たちのような愚鈍な輩だというのはいささか残念だよ。」

「フン、死の直前だというのによく喋るやつだ。そんなにおしゃべりが好きなら死に際の言葉くらいは聞いておいてやる。」

「おや、良いのかね?では、一言…」

そう言うと、無限の欲望ことジェイル・スカリエッティは自分を取り囲む局員たちを嘲笑う。

「くたばりたまえ、クソ管理局。」

ニタリとしたその笑みは男たちを怒り狂わせるには十分すぎるものだった。
殺傷設定されたデバイスの先をスカリエッティへと向け、魔力弾を放とうとする。
その時、



「セラヴィー、目標の確保に入る。」



凄まじい閃光が上空から降り注ぎ、それまで男たちが乗っていた車を吹き飛ばした。
その衝撃で男たちはもとより、スカリエッティも爆風で吹き飛ばされる。
だが、

「ホイ!ナイスキャッチ!」

スカリエッティだけは地面に激突する前に何者かに丁重に抱きかかえられ、そのまま空へと昇っていく。

「君は……いや、そんなまさか…」

「喋ってると舌噛むっスよ、“ドクター”。」

独特の口調で話す彼女は上空で待機していたそれへと向かう。
暗闇で全体の姿は確認できないが、淡く輝く瑠璃色の光と、二つの青い光がそこに何かが存在していることを証明していた。

「逃がすな!!何としてもやつを仕留めるんだ!!!!」

一斉にスカリエッティと彼を抱えている何かにデバイスを向ける。
だが、

「ストラーダ!!」

〈Ja boul!!〉

突如上から落ちてきた小さな影に一人、また一人と吹き飛ばされていく。

「必中……一閃!!」

「があっ!!!!」

最後の一人が突きだされた槍の穂先に飛ばされて海へ落ちると、それを待ち望んでいたかのように雲の間から月が顔を出した。

「ほう……!これは見事だ…」

月明かりが地上を照らす中、スカリエッティが見つめる先にいたのは白と黒の巨人。
それは以前に見せてもらったものとはまた違った美しさを有していた。

「Dr.ジェイル・スカリエッティですね?」

「いかにもそうだが、君はソレスタルビーイングかね?」

白と黒の巨人、セラヴィーの威圧感にも動じずスカリエッティは娘に抱えられたまま質問する。
だが、ティエリアはその質問には答えずに要件だけを伝える。

「僕たちにはあなたの頭脳が必要です。力を貸してほしい。」

「フム……ウェンディやエリオ君がいるということは私がどういう人間かはもう知っていると思っていいのかな?」

「……そのうえでお願いします。もう、仲間と離ればなれになるのはごめんだ。」

「フム……」

この時、スカリエッティは悩んでいた。
自分の娘たちはすでに罪を償おうとしていて自分もそのつもりだったのに運命はそれを許さない。
なんとも皮肉な話だ。
だが、どれほど悩んだところでそれが自分の宿命だというのなら受け入れざるをえまい。

「力になれるかどうかはわからないが、事情を聞かせてもらおうか。それと…」

スカリエッティは黒い手錠で繋がれた両手を見せる。

「これをとってくれると助かるね。この状態だと肩がこって仕方ないのでね。」

その時の笑顔は先程までの他者を見下したものではなく、人間味あふれる優しいものだった。





プトレマイオスⅡ コンテナ

「……暇ですね。」

「メカニックなんてそんなもんだ。ここのところ激しい戦闘もなかったからな。」

定期点検を終えたイアンと沙慈は手持無沙汰だった。
セラヴィーの修理を急ピッチで仕上げた反動もあってすっかりさびしくなったコンテナの壁にもたれかかってなにをするでもなくボーっとしていた。

「……暇だからソリッドの修理でもするか?でもそれほど資材に余裕があるわけじゃないからな……」

人というのはつくづく不器用な生き物だ。
忙しさに慣れた後いきなり時間が与えられるとなにをしていいのかわからなくなるものだ。
そんな緊張の糸が切れた二人が呆けていると、それまで真っ黒のディスプレイを表示していた携帯端末が光る。

「ティエリアから?一体なんの用だ?」

ティエリアのミッションが上手くいったことはついさっき聞いた。
いまさら連絡をする必要などないし、そもそもティエリアがミッションの直後に自分に連絡を入れてくることなど今までなかった。

「何か用かティエリア?」

不思議そうに回線を開いくイアン。
しかし、そこに映っていたのは見なれたティエリアの不機嫌な顔ではなく、紫の髪をした男の笑顔だった。

「…………………………………」

『…………………………………♪』

「………誰だ?」

『随分な挨拶だな。用があるというからわざわざそちらに向かっているというのに。それとも、そちらにいるメカニックは礼儀を心得ていないのかね?』

初対面の人間へのズケズケとしたもの言い、そして憎たらしいうすら笑い。
そのすべてにイアンの体と心は全力で拒否反応を示す。
正直この場でモニターごとこの顔を叩き割ってやりたい。
とその時、

『あまりイアンを刺激……あ、コラ!!』

何やら画面の向こうでドタバタとしていたかと思うと、今度はティエリアの疲れた顔が映る。

『はぁはぁ………!!!!す、すまない。少し話がしたいというから通信をさせたんだが……あ!?それはいじるな!!!!子供かあなたは!!?』

再びドタバタしていたかと思うと、ゴンと鈍い音がしてコックピット内に静けさが戻る。

『………たびたびすまない。彼が言うには地球に戻ることは可能だそうだ。ただ、そのための装置や観測データが必要になるから時間がかかるらしい。』

脇でのびているその彼のことはこの際無視して通信を終了するティエリア。
最初は意外とまともな人格の持ち主かと思ったが、セラヴィーの中の機材を見た瞬間目の色が変わった。
まるで無邪気な子供のようにあれこれ調べ始めたかと思ったら、最終的には分解して調べようとする始末だ。

「……手錠を外すんじゃなかった。」

あの時のウェンディの忠告を聞いておくべきだったといまさらながらティエリアは後悔する。
だが、事情を聞いておいていまさら手錠をはめるのもなんだか気が引ける。

「腐敗を一掃するための犠牲、か……」

そのことを話している時、スカリエッティは愉快犯のようにクスクスと笑っていたが、あの無理をして笑う姿を見ているだけでそれがどれほど彼にとってつらい選択だったのか、どれほど葛藤を繰り返したかがよくわかった。
かつてのティエリアなら否定していた感情だろうが、今はよくわかる。

「ロックオン……今の僕はあなたにどう見えているんだろうか……」

答えが返ってくることのない問いかけ。
だが、その答えはすでにティエリアの中に存在している。
そのことにティエリア自身が気付くのはもう少し後になってからのことになるのだった。






反逆の天人、司法の地にて新たなる希望を見出す


あとがき・・・・・・・・・・・という名のようやくI編突入

ロ「クロウ&アイナ&スカ加入なティエリア編でした。そして次回からやっとI編に本格的に入ります!!」

ティ「というか書いている最中も頭の中はそのことばっかりだったろ。」

ロ「うん。」

エ「否定しないの!!?」

ロ「だってユーノにあんなことやこんなことさせられるかと思うと笑いが止まらないw」

ウェ「キショッ!!ていうか何させる気っスか!!!?」

ロ「だってユーノの25%はラッキースケベ、25%は女装、50%は天然ジゴロでできてるんだもん(ロビン調べ)。」

ティ「完全に君の偏見だろ!!」

ロ「あ、ラッキースケベの比率がもうちょいでかいか。」

エ「直すとこそこじゃないよね!!?」

ロ「まあ、この議論は後でサイドで一話丸々使って結論を出すとして、そろそろ次回予告へゴー。」

ウェ「させるかぁぁぁぁぁぁぁ!!!何くだらないことに一話使おうとしてんの!!?でも次回予告に行くのは賛成っス。」

エ「次回はいよいよI編に突入!」

ティ「アレルヤ救出後、テリシラとレイヴの保護を受けることになったユーノ。」

ウェ「そこで信じがたい人物に遭遇したユノユノ!その人物の正体とは!?」

ティ「さらに、十年前にユーノとなのはたちが救えなかった“彼女”が現れる!」

エ「はたしてユーノさんは今度こそ目の前の理不尽な現実を打ち砕けるのか!?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!じゃ、せーの……」

「「「「次回をお楽しみに!!」」」」



[18122] 10.闇の欠片
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/12/26 23:53
聖王教会

マイスターたちが激動の日々を過ごしていた頃、カリムは自室でずらりと並んだ文字を目で追っていた。

『五人の使徒、五体の巨人、数多の星々を束ねし方舟とともに混沌たる地より司法の地へと来たる。人、光翼纏いしかの巨人を堕天使と名付け忌み名とす。』

ゆりかごが墜ちたあの日、萌黄色のMSが放った赤い光に呼応するように一気に出現したこの予言。
本来、彼女の能力は半年から数年後以内の出来事をランダムに記すものであり、先の事件も含めてここまで連続した予言を出せるものではない。
しかもそもそも、この能力は月の魔力と呼応して発動するはずのものなのに今回はあの赤い光に反応して発動した。
理由はいまだにわからないが、あの瑠璃色の光と赤い光の衣が自然界に存在する魔力に何らかの干渉を与えたと考えるのが妥当かもしれない。
さらに、この時各地に出現した異次元への入り口とそこから見えた青の惑星。
これも予言に影響を与えたものの一つだろう。

「混沌たる地……司書長、あなたたちはそこで一体何を見て、何を為すのですか?そして……」

カリムは別の紙片に目を移す。
五枚一組のその紙片に書かれているのは天使に関する予言。

まず、射り手と深緑の天使についてのもの。

『孤高の射り手、深き緑の天使とともに彼方より不浄を撃ち抜く者あり。』

次に、狂戦士と黄昏色の天使。

『優しき狂戦士、黄昏に染まりし天使とともに鋭き翼にて天空を駆ける者あり。』

続いて、天人と漆黒の天使。

『反逆の天人、漆黒二面の天使とともに光茫にて全てを薙ぎ払う者あり。』

今度は、破壊者と蒼の天使。

『悲しき破壊者、気高き蒼の天使とともに神剣にて歪みを駆逐する者あり。』

最後に、守護者と翠の天使。

『天空の守護者、堅牢なる翠の天使とともに神盾にて歪みを打ち砕く者あり。』

この予言は、彼女と親しい人間の多くに伝えた。
反応は様々だった。
その内容を否定する者、受け入れてそれに備える者、まったく別の思惑を持つ者。
聖王教会はあくまで中立の立場を貫くつもりだが、もうすでに彼女は大きな運命の輪の中にいるのかもしれない。
いや、聖王教会に限った話ではない。
ミッドチルダ、そして全ての世界が巻き込まれているのかもしれない。
そして、カリムにはある確信があった。

「予言はこれだけでは終わらない……おそらく、まだ続きがあるはず……」

それが現れるのがいつになるのかはわからない。
だが、カリムには彼らがやってきただけで終わるとは思えなかった。



先の見えない闇の中、誰もが手探りでそこにあるなにかを掴もうと必死になっていた。




魔導戦士ガンダム00 the guardian 10.闇の欠片

エウクレイデス

『で?彼女とはいちゃいちゃできてる?』

ニヤニヤと笑うユーノの顔にアレルヤは苦笑せざるを得なかった。
マリーを取り戻せたのは嬉しいが、状況が状況なだけに気を抜いているわけにはいかない。

「別にそんなことしてな……」

「よく言うぜ、俺たちが必死こいて探してるときにあんなことしてたくせに。」

後ろでドス黒い気配を隠そうともしないヴァイスがぼそりと呟く。
あの時にヴェロッサが撮った画像はすでにフォンと874、そしてフェレシュテメンバー全員に送られた。
そのせいでヴァイスのようにひがむ者、冷やかす人間(四名)、妙に興奮する女性陣(二名)などからいき過ぎに思えるほどの追及を受ける日々を送っていた。

『楽しそうで何より♪』

「人事だと思って……」

溜め息をつきながら考える。
どうしてこうも他人の色恋沙汰にユーノは敏感なのだろうか。
昔から人の心情の機微には鋭く感じるほうだったが、この四年でさらに勘が鋭くなっている。

「自分のことになると鈍いくせに……」

『?何か言った?』

「なんでも……」

どうせなら自分へ向けられている好意にも敏感になればいいのにとアレルヤは思う。
あそこまでフェルトが見え見えの態度をとっているのにプトレマイオスのクルーでユーノだけがそのことに気付いていない。
それはもう、はたから見ているとフェルトがあまりにも哀れに見えてくるほどに。

「ユーノ……あんまりフェルトを泣かせちゃ駄目だよ?」

『もちろん、もう心配をかけるのはごめんだよ。そのためにも早くトレミーと合流しないとね。』

そういう意味で言ったのではないのだがと呆れるアレルヤだが、早く他のメンバーと合流することに関しては大いに賛成だ。

「フォンたちも向こうに行くつもりみたいなんだけど、地球でまだやらなきゃいけないことができたって言ってる。」

『イノベイド……レイヴに与えられたミッションのことだね。』

アレルヤは真剣な表情になったユーノにうなずく。

「ヴェーダがなんのために彼らに六人の仲間を集めることを指示したのか、それがわかるまでは地球にとどまるそうだよ。」

『僕もレイヴ達の仲間集めに協力はしてるんだけど、僕にできることなんて限られてるからね。おまけにいろいろ問題もあるみたいだし、いつになったら終わるのか皆目見当がつかないよ。』

自分たちが置かれている状況を再確認し、思わず暗くなる二人。
早く仲間を探しに行きたいのはやまやまなのだが、イノベイド、ヴェーダを掌握しアロウズを影から動かしている者と同じ存在に与えられたミッションが一体どういうものなのか気になるのも確かだ。
それに、みんなもそう簡単にどうこうなってしまうほど柔にはできていない。

「……大丈夫だよ。僕たちがみんなを信じなきゃ、誰が信じるのさ。」

『そっか……そうだよね。』

「それに、案外刹那やティエリアは向こうでも派手に暴れてるかもよ?」

『……正直それは想像したくない。』

あの二人が本気になったら管理世界の地上部隊の一つや二つ本当に全滅させてしまいそうな気がして怖い。
向こうに着いたときにそんなニュースが報道されていないことを心から願わずにはいられないユーノだった。





テリシラ邸

町から少し離れた静かな林のそば、青々とした庭の草花を眺めながらテリシラ・ヘルフィはユーノの定期連絡が終わるのを待っていた。
普段ならばあいている時間はたまっている仕事の消化や読書に使うのだが、今回はそんな気にはなれない。
なぜなら、彼にはいろいろと聞きたいことがあるのだから。

「魔法に異世界、そして時空管理局……今のところ公にはなっていないが、軍内部でこの事実が公表されるのは時間の問題か。」

「……たぶん、混乱を避けるために世間への公表を控えているんでしょうね。もっとも、管理局も本来なら魔法文化がない世界に自分たちの存在を公表することはないんですけど。」

ドアを開けて入ってきたユーノの声にそちらを向くテリシラ。
だが、

「……何かあったのかね?」

「いえ……ありえそうな妄想を思い浮かべてしまったせいで少し鬱になってるだけです。」

乾いた笑いをこぼしながら椅子に腰かけるユーノに疑問と不安を覚えるテリシラだったが、気を取り直してユーノの前にある椅子に座る。

「それで、昨夜こそはよく眠れたかな?」

テリシラの笑みと対照的にユーノは大きくため息をつく。

「いまだに整理がつかなくてそれどころじゃありませんでしたよ。今夜もよく眠れない自信があるくらいです……」

「それはすまないことをした。これからはそうならないよう極力注意させてもらおう。」

「……そんな顔で言われても説得力無いですよ。」

クスクスと笑うテリシラに珍しく温厚なユーノがムスッとした顔をする。
しかし、それも仕方がないだろう。
テリシラ達が一体どういった存在なのか教えられ、彼女を見てそれが紛れもない事実だということを理解させられたのだから。

「失礼します、ドクター。」

扉を開けて入ってきたのは紫の髪をした少女。
長いストレートヘアーを揺らす彼女の顔を見てユーノは再び大きくため息をつく。
仲間の一人である彼のようなメガネこそかけていないが、その顔を見間違えるはずがない。

「先程JNNの方から出演依頼のお電話がありました。」

「ありがとう、サクヤ。後で折り返し電話すると伝えておいてくれ。」

「承知いたしました。では、これで。」

セラヴィーのガンダムマイスター、ティエリア・アーデを少し幼くして女性にしたような外見のサクヤ・レイナードはテリシラに一礼するとすたすたと部屋を出ていってしまった。
彼女と出会ったのはここに来たその日、イノベイドという存在を知った日と同じ日だった。




二日前 テリシラ邸

アレルヤが見つかったとの知らせを受けた翌日、ユーノはクルセイドを967に任せてレイヴとテリシラに案内されるままに彼らの住居に招かれ、広間に案内されていた。
一人で住んでいたとは思えないほどの広いが、外から見た大きさからは想像できないほど装飾は簡素で、下手に着飾ってある豪邸よりよほど居心地がいい。
だが、清潔感の漂う広間でユーノに打ち明けられたことはそんな印象を吹き飛ばしてしまうほど強烈なものだった。

「イノベイド……?」

「そうだ。私たちはヴェーダによって生み出された生体端末、言うなればヴェーダの目であり耳である存在だ。」

突然そんなことを言われても困る。
それがユーノのレイヴとテリシラたちに対する反応だった。

「けど、あなたたちはどう見ても人間にしか…」

「あなたはすでに僕たちの同類と出会い、そしてそのうちの一人はあなたのバディを務めているはずです。」

レイヴの言葉にハッとする。
おおよそ信じがたい話だが、だとしたら全てに説明がつく。
ヒクサーがグラーベ・ヴィオレントのまがいものだと言って襲ってきた理由。
874と887。
そして、ガンダムを止めることができた力。

「967も…イノベイド……!?」

「そうだ。彼はグラーベ・ヴィオレントの記憶を引き継ぎ、ヴェーダから君を監視するミッションを与えられていた。だが、途中でそのミッションを放棄したにもかかわらず今もなお活動を継続している稀有な存在だ。」

ショックでないはずがない。
だが、

「……967がなんだろうと、やっぱり僕にとって967は967なんです。だから、ヴェーダの道具のように言うのはやめてください。」

「……失礼した。だが、彼や私がそういった存在であることを知っておいて損はないはずだ。それに…」

テリシラが何かを言おうとした時だった。
レイヴとテリシラの後ろから現れた人物にユーノの目は釘付けになった。
紫の髪に端整な顔つき。
女性と見間違うほどの美貌はそのままに、胸元が少し膨らんでいて本当に女性になってしまったかのようだ。
だが彼を、ティエリアを見間違えるはずがない。

「ティエリア!!?無事だったの!!?けど、その体は…」

ティエリア(?)に近づこうとしてユーノは気付いた。
その人物はティエリアのいつもの険しい表情も、最近になって見せるように笑顔もしていない。



その表現がこれほど当てはまる顔をユーノは見たことがなかった。

「ドクター、この方は?」

一言一句がユーノに冷たいものを浴びせかける。
感情のこもらないその声を聞いているだけで体が震えを起こしそうだ。

「サクヤ、彼はユーノ・スクライア。ソレスタルビーイングのガンダムマイスターだ。」

「そうですか。お初にお目にかかります。サクヤ・レイナードです。以後お見知りおきを。」

「ドクター……この、人は…」

聞きたくないのに、口が勝手に質問を投げかける。
テリシラの口の動きがスローモーションに見える。
聞きたくない。
聞きたくないのに、ユーノの鼓膜はテリシラの声をしっかりととらえ、言葉として脳へその事実を伝達した。

「サクヤは君の仲間の一人、ティエリア・アーデと同じ塩基配列を持つ同型のイノベイドだ。」

テリシラの言葉が頭の中で何度もエコーする。
その後、放心状態のユーノはその後聞かされた彼らのもう一人の同居人、ブリュンの説明を聞いたのだが、そんなことが頭の中には入ってくる余裕などもうどこにも残されていなかった。





現在 テリシラ邸

そんな出会いからもう二日たつのに、いまだに彼女の表情のない人形のような顔を見ることにユーノは耐えられずにいた。

「……そんなに彼女が嫌いか?」

テリシラは柔らかな物腰で質問する。
しかし、ユーノは彼女が嫌いなのではない。
嫌いではないのだが、

「違うんです……彼女を見ていると、昔あった嫌なことを思い出すんです。」





十年前

「アリシアを蘇らせるまでの間に私が慰みのために使うだけのお人形、だからあなたはもういらないわ。どこへなりとも消えなさい!」

フェイトの目から、またたく間に理性の光が消えていく。
この厳しい現実を受け止めるには彼女は幼すぎる。
なのに、この女は容赦などしなかった。

許せなかった。
自分が生み出した命を、心を持つ存在を物のように扱うこいつが許せなかった。
結局、彼女は最愛の娘とともに虚数空間へと消えていった。
同情しないわけじゃない。
だが、それでも僕は永遠に彼女を許すことなどできないだろう。
どれほど娘を愛していたのだとしても、もう一人の娘を人形扱いして心に深い傷を負わせた彼女を絶対に許しはしない。




現在

「……僕が嫌悪する対象を挙げるとするなら、それは彼女じゃなくてヴェーダやそれを掌握している存在だ。」

ユーノが膝の上に乗せていた両拳がギシギシと鳴る。

「あなたや彼女にだって心はある。なのに、ただの道具としてしか考えることのできないヴェーダが僕は許せない……!!」

「……最初にも言ったが、私たち、少なくとも私やレイヴやブリュンはこの社会で生きた記憶を、今の生を大切にしたいと思っている。彼女も複雑な事情があって感情を無くしているが、いつかそう思ってくれる日が来るはずだ。」

「……すいません、勝手に熱くなってしまって。」

テリシラの意思も確認せずに一方的にまくしたてていた自分が恥ずかしい。
しゅんとしてうなだれるユーノだったが、テリシラは優しく笑いかける。

「気にすることはない。むしろ、誰かの痛みを自分の痛みとして受け止められるその心は誰にでも持てるものじゃない。大切にするといい。さて……」

机の上に一冊の本が置かれる。

「悪いがレイヴが教科書を置き忘れてしまったようでね。よかったら届けてやってくれないか?それと、ついでにサクヤも連れて行ってやってくれ。」

「え?でも、ドクターが行けば……」

「私はこう見えても多忙でね。それに、あまり自分で言いたくはないがそこそこ顔を知られている。一介の学生に会いに行ったとなると後でレイヴが困るだろう。」

それでもユーノは納得がいかずに断ろうとしたが、テリシラがウィンクをしたのを見て全てを悟る。
おそらく、レイヴのカバンから教科書を抜いたのも彼だろう。
テリシラの悪だくみ(?)に額を押さえるユーノだったが、苦笑しながらもそこそこな厚さのその本を手に取る。

「わかりました。責任を持って届けさせてもらいます。」

「ああ、頼んだよ。」






某高校

「……というわけで、太陽光発電で半永久的なエネルギーが手に入った半面、太陽光紛争という負の側面もまたこうして……」

久々に聞く歴史の教師の退屈な講義に耳を傾けながらレイヴは校庭をなんとなく見ていた。
教師が今話しているところは自分にも深く関係のあるところなのだが、どうにも聞く気になれない。
情報をいつでも参照できるというのも理由の一つだが、その歴史の大きなうねりの真っただ中にいるのにいまさらこんな事を真面目に聞くのがひどく滑稽に思え、どうしても授業を受ける気がそがれてしまっていた。

「でも、これじゃまるで不良だよ…」

ミッションを与えられてからただでさえ学校を休みがちになってしまったのに、授業をまともに受ける気すらなくしてしまったら学生失格なのではないか。
そんなことを考えていたレイヴだったが、後ろに座っていたクラスメイトに背中をつつかれて後ろを向く。

「レイヴ、外。」

「外?」

校庭ならとっくの昔に見ている。
疑問を感じつつ再び校庭に目をやると……

「…………………………………」

そこにいたのはサングラスをかけた金髪の男と無表情な紫の髪の少女。
灰色のジャケットを着て満面の笑みでブンブンと手を振る彼を見たレイヴは血の気が引いていき顔は真っ青に変色する。

(レイヴさん。)

突然頭の中に響いた高い音程の少年の声がレイヴをさらに追い詰めていく。

(ユーノさんとサクヤさんがレイヴさんの忘れた教科書を届けに行きました。)

(もう来てるよ……て言うかあの人たちなんで堂々と正門から入ってきてこっちに手を振ってるの!!?)

「おい、あの人たちお前に手を振ってないか?」

「き……気のせいだよ……」

滝のように汗を流しながらそっぽを向くレイヴ。
しかし、クラスメイトのほとんどがユーノ達の存在に気付き始め、レイヴへの視線も集まってくる。

(え……?あ、はい、わかりました。レイヴさん、早く来ないと盗んだバイクで学校のガラスを全部割るとユーノさんが……)

「ああもう!!!!わかったよ!!!!行けばいいんでしょ行けば!!!!」

突然大きな声と共に立ち上がったレイヴにクラスにいた全員が驚くが、レイヴはそんなことなどいまさら気にするわけもなく、猛ダッシュで校庭へと向かっていった。



玄関

(あの……あれでよかったんですか?)

(うん、ありがとう。でも、ブリュンがリンカーコアを持ってて助かったよ。ドクターやレイヴが間に入って話をするのはめんどくさいしね。)

レイヴが走っていったのを見たユーノとサクヤは玄関で彼が来るのを今か今かと待っていた。

(けど、ドクターもユーノさんも人が悪いですね。もう少しやり方があったんじゃないんですか?)

(だってレイヴをからかうと楽しいんだもん。……マズイ、クセになりそう。)

「ほほう………そんなことのためにわざわざあんなことを?」

その声の先にいたのはレイヴ……いや、怒りに燃える悪魔だった。

「や……やあ、レイヴ……人の念話を立ち聞きするのはよくないなぁ……」

「人を面白おかしく弄りまわすよりはまともだと思いますけど?」

「な……何の事だか?じゃ、じゃあ僕はこれで……」

「待ってくださいよ……教科書を渡しに来たんでしょう?どうせならゆっくりしていきませんか?それはもうゆぅぅぅぅっっっくりと。」

悪魔の微笑みを浮かべながらレイヴはがっしりとユーノの肩を掴む。

「で、でも僕もやることがあるから……」

「先程この後暇になると言っていましたが?」

「それは今言わなくてもいいんじゃないかなサクヤ!!?」

(自業自得です。)

「ブリュンにまで見捨てられた!!!」

文字通り八方塞がり。
頼みの綱のブリュンもそれきり念話をしてこなくなる。
そして、

「それじゃあ、話もまとまったところでゆっくりオハナシをしましょうか……」

ずるずると引きずられていくユーノ。
この時、彼は徐々に小さくなっていくサクヤを見ながら某教導官のことを思い出していた。





放課後 図書室

「死ぬかと思った………睨まれてるだけなのに死ぬかと思った……!!」

「大げさですよ。」

ガタガタと震えるユーノとすっきりした顔で歩くレイヴはそれぞれ違う本棚を物色していく。

「それにしても……ここにある本をほとんど読んだことがあるなんて冗談でしょ?」

「残念ながら本当だよ……あ、それももう読んだことあるからいいよ。」

レイヴが手に持っていた本の表紙を一瞥したユーノは再び目の前の本の壁に目を通し始める。
信じられないといった顔をするレイヴだが、無限書庫にこもり、こちらにいる間もあらゆる本を読みあさり、無限書庫に戻ってからも様々な書物を読んでいたユーノは信じられない量の本の内容を記憶していた。
もっとも、こうしてたまに知らないところに行けばまだ読んでいないものが見つかるのでそれをまた借りて読んだりするのだ。

「その探究心と記憶力は尊敬しますよ……学者になろうとか考えなかったんですか?」

「学者ねぇ……論文を発表することはあっても本業にしようとは思わなかったなぁ……」

それに、ソレスタルビーイングに入る前からそんなことなど無理だと思っていた。
ただ辛い思い出から逃げるためにのめり込んでいる自分が学者になるなど、本気で打ち込んでいる人間に失礼なような気がしてその道に進むことなどとうの昔に諦めていた。

「勿体ないなぁ……今からでも本腰入れてみたらどうですか?」

「レイヴ……僕がいま何やっているのか忘れてない?」

まさか世界の敵をやっている人間が学者のまねごとをするなんてことができるわけがない。
いや、案外テロリストが書いた論文という形で話題にはなるかもしれないが。

「……?」

次の本棚へ向かおうとしたユーノはふと違和感を感じた。
不吉で、それでいて懐かしいようなこの気配。

「ユーノさん……何か変じゃないですか?」

「やっぱり君も感じるんだね……」

「ユーノ、レイヴ。」

「サクヤ……君もか。」

別の場所にいたサクヤもこの気配につられてユーノとレイヴのもとへとやってくる。
夕焼けに染まり、人影もまばらになった図書室の本棚の森をかき分けながら三人は進んでいく。
そして、一つの本棚の前で足を止める。
蔵書の中でも特に古いものばかりがそろっているその中に、それはあった。
茶色い革製の分厚い表紙に金色の十字架の装飾。
次元世界の中でも最高位に属する魔導書の一つ。
そして、本来なら“二冊”存在するはずがないもの。

「久しぶりだね……あの夢が現実だとしたら大体四年ぶりかな?……リインフォース。」

いっそうオレンジが濃くなっていく部屋の中、嬉しいはずのその再会がユーノには新たな闇の胎動のように思えた。







街灯が暗くなりつつある街の中、さまざまな人々が広い道を歩いている。
自宅へ急ぐサラリーマン、学校帰りに友人たちとファーストフード店による学生、そして手をつないで歩くカップルたち。
そんなカップルの中に、アレルヤとマリーもいた。

「寒いね……」

「そう?私はそんなことないけどなぁ?」

そう言って手を握る力を強めるマリー。
アレルヤは顔を紅潮させるが、すぐに自分も手を握る力を強める。
ユーノには悪いが、もう少しゆっくりと時間をかけて歩きたいと願わずにはいられない。
だが、

「!?」

「?どうしたの、マリー?」

「感じる……!」

「感じるって、なにを?」

「わからないだけど、急がないと!」

「ちょ、マリー!?」

強引に手を引っ張られてつんのめるアレルヤ。
だが、そんな愛しい人のことも目に入らないほどマリーは焦っていた。
この感覚がなんなのかはわからないが、何かよくないことが起きそうなのはわかる。
その前に、なんとしてもこの気配を放つもののもとへと行かなければ。



テリシラ邸

テリシラ邸において唯一狭い場所と呼べる地下室に一同は集まっていた。

「夜天の書……またの名を闇の書、か……そんな物騒な名前の割に私は何も感じないが……」

「たぶん、ドクターにリンカーコアがないからだと思います。魔法をろくに知らなかった僕でも威圧感のようなものは感じますから。」

翠の光の中に浮かぶその本を見ながらテリシラは何事もないように腕を組んでいるが、レイヴは放たれているプレッシャーのせいか顔を歪めている。

(ブリュンもそれから何かを感じます……不吉な、だけど悲しい感情が流れ込んできます。)

かなりゴテゴテとした女物のドレスを着た少年、ブリュン・ソンドハイムもまた体が動かずとも、いや、体が自由に動かないからこそそれが抱える悲しみを誰よりも理解できた。

「それじゃ、起動しますよ……」

全員の視線を背に集めながら、ユーノは目を閉じて意識を闇の書の欠片へアクセスを開始する。
本来、はやてのようにこの魔導書に選ばれた人間の下でしか起動はしないのだが、本物ではなく言うなればこちらは欠片である。
ある程度こちらからコントロールが可能であると推察し、ユーノは自身の能力を使って彼女を起動させることを申し出たのだ。
だが、欠片とはいえ相手は希代の魔導書だ。
本来ならありえない形での発動によって何が起こるかわからない。
だが、そのことを説明したうえでテリシラ達はOKを出してくれた。
そんな彼らを危険にさらさないためにも、慎重に事を運ばなければならない。

「ユーノ、問題ありませんか?」

「ありがとう、サクヤ。今のところ問題ないよ。」

このままなら何とかなりそうだ。
ユーノがそう思った時。

「グッ……!?ぁぁぁ……!!」

突然胸に軋むような激痛が奔る。
歯を食いしばってこらえるユーノだったが、マズイ事態になったことは誰の目にも明らかだった。

(ユーノさん!?しっかりしてください!!ユーノさん!!)

「う……あああぁぁぁぁ……!!!!」

「レイヴ、サクヤ、すぐにベッドの用意をしてくれ!私は機材を用意する!」

「は、はい!!」

「了解しました。」

みんなが慌て始める中、とうとう膝をついて胸をかきむしるユーノ。

(これが……ヴォルケンリッターのみんなが言っていた浸食か……!!まさか……これほどとは……!!)

自らの主すらも死の淵へと追いやろうとしていた夜天の書の闇。
それが強引に起動しようとしたユーノを外敵と認識として排除しようとしているのか、主として認めて内側から喰らおうとしているのかは定かではないが、このままでは命はない。

(けど……これはチャンスだ……!!)

浸食を開始したということはリンカーコアとシンクロ状態にあるということだ。
つまり、この状態にあればこの魔導書の闇のみを排除できる可能性も残されているということだ。

(リイン…フォース……!!あの時は救えなかったけど……今度こそ君を救う!!)

目の前の光景が黒に塗りつぶされていく中、ユーノはそこにはいない彼女へと手を伸ばしながら床に倒れ込んだ。






海鳴市(?)

ビルが立ち並ぶ街。
だが、そこに人影はなく、空も赤と黒の色彩で歪んでいる。
そんな中、彼女はただ一人で立っていた。
世界一幸福な魔導書として生涯を終えたはずの自分がなぜこの世界にいるのかはわからない。
だが、四年前にあの赤い髪の少女に導かれて彼と再会したということはこれも運命なのだろう。

「ユーノ……あなたの手で終わりにしてください。この呪われた生を。」

「随分勝手だね。僕にはなのはのもとへ帰れって言ったくせに、自分ははやてに会おうともしないなんて。」

後ろに立つユーノの方を向こうともせずに、リインフォースは首を横に振る。

「ここにいる私は夜天の書……その闇を背負った欠片にすぎません。主など、いない。」

「ならなんであの時はやてからもらった名を言ったんだ。大切な名前だって言ったんだ。」

「ただ義理を立てただけです。それ以上でもそれ以下でもない。」

「ならなんで君は今泣いているんだ。」

あの時とは違う、ちゃんと透き通った雫。
ポタポタとアスファルトにしみを作るそれは、彼女の本当の想いを切実に語っていた。

「君が闇を背負っているというなら、僕がその闇を消し去ってみせる。もう一度、祝福のエール……リインフォースとして生きることができるように!」

「ユーノ……!!」

―――ほざいたなグズが

「!?」

―――無力なあなたが彼女を救う?愚かな……

「誰だ!!出てこい!!」

―――出てこい?僕たちの家に土足で踏み込んでおいて何言ってるのさ、バーカ!

地の底から響くような声に身構えるユーノ。
できれば自分をマスターとして誤認してくれていればやりやすかったのだが、やはり異物として認識されているようだ。
明らかに敵意のこもった三つの声の主がどこにいるか見回すが、その正体を見極めるよりも早く赤い何かが地面を斬り裂きながらユーノへ迫ってきた。

「この程度!!」

ラウンドシールドで弾いて飛んできた方向へ生成した魔力刃を投げつける。
だが、

「あっははははは!!」

高笑いをあげる何かはそれをすべて叩き落とすと、ユーノを近寄らせないようにリインフォースの前に立つ。

「お前は……!!」

「弱いなお前!僕の方がずっと強いぞー!!」

「調子に乗るな雷刃。このようなカスの攻撃など防いで当然だ。」

「王、雷刃はまだ幼いのです。どうかご容赦を。」

「ブー!星光も王様も何言ってるのさ!僕が弾いてなかったら当たってたくせに!」

「オイオイ……!!」

目の前で言い争う三人の少女。
髪の色や髪形など細部が違うが、どれもよく知る友人たちの昔の顔だ。

「リインフォース、君を改悪した奴は随分悪趣味だったみたいだね……!!」

彼女たちが言い争っている間にユーノはポケットの中へ手を突っ込みデバイスを探す。
だが、

「!?」

ない。
確かにズボンのポケットに入れておいたはずなのにどこにもない。

「ああ……探しているのはこれか?」

はやてに似た少女は思い出したように手の平の上に翠の宝石を取り出す。

「忘れたか?ここは闇の欠片の中……我等のテリトリーだ。貴様の得物がそのまま使えるとでも思ったか?」

ニタリと笑ってソリッドを握りつぶすと、少女たちは戦闘態勢に入る。

「ねぇねぇ!!アイツどれだけ持つかな!?」

「……長くて一分でしょうか?」

「馬鹿を言うな。その半分で十分だ。」

次々に生まれていく魔力弾に取り囲まれていくユーノ。
リインフォースは思わず駆け寄ろうとするが、ユーノは手でそれを止める。

「ハハハ、この悪ガキども……数と力だけが勝負の行方を決定すると思うなよ?」

「フン……負け惜しみを。」

「負け惜しみかどうか試してみろ。」

ユーノも足元に魔法陣を展開して臨戦態勢に入る。
そして、

「かかってこい闇の欠片!!!!」

「望むところです……」

「後悔するがいい!!」

「死んじゃえぇぇぇぇぇ!!」

翠に輝く光刃を握りしめながらはやてに似た少女へと一気に距離を詰めていくユーノ。

(まず狙うとしたらたぶん広域砲撃を持っているこいつだ!!)

大きく振りかぶられた刃が真っ直ぐに振り下ろされる。
だが、

「やらせません。」

「グッ!!」

左から飛んできた追尾弾を片手に発生させた防御でどうにか相殺する。
だが、その衝撃で斬撃がずれてしまい、たやすくかわされてしまった。

(けど、この程度は折り込み済みだ!!)

他の二名の援護を受けながら距離を取ろうとするはやて似の少女へユーノは再度接近を試みる。

「馬鹿の一つ覚えだな……近づいて攻撃するしか能がないのか?」

「そうでもないさ。」

「!?」

少女の足に翠の鎖が絡みついて動きを奪う。
しかし、初めは戸惑っていた少女もすぐに嘲笑を浮かべながらユーノを見下ろす。

「バインドか。だが、動きを止めたところで…」

「爆ぜろ。」

ユーノが指を鳴らすと少女の嘲笑は激しい光の爆煙の中に消える。

「王!!」

「王様!!」

「グッ……!!塵芥が王たる我に手をかけるなど…」

どうにか防いで煙の中からでてくる少女だが、よろめいている間に再び無数のチェーンバインドが体をぐるぐる巻きにする。

「な!?」

「まだ終わりじゃない!」

リング、ストラグル、捕獲用結界。
ユーノが持てるありとあらゆる拘束魔法でがんじがらめにされた王と名乗る少女は声を上げることすらままならないまま海へと落ちていった。

「あ~あ、調子に乗るから落ちちゃったよ。さむそー!」

(いける!!)

彼女たちが優位に立っているのは間違いないだろう。
だが、そのせいで生まれた余裕につけこむ隙がある。

「一気に終わらせる!!」

次に狙いを定めたのは星光と呼ばれていたなのはに似た少女。
能力がそっくりそのままコピーされたものならば、至近距離での動きには付いてこれないはずだ。

「この一撃で…」

心臓に狙いを定めて切先を押し出そうとするユーノ。
だが、

「やめて……ユーノ君……!」

「!!」

怯えた目で自分を見る彼女の顔に思わず手が止まってしまう。
そして、

「へっへ~ん、隙ありぃぃぃぃぃ!!!」

後ろから迫っていた凶刃がユーノの腹部を貫いた。





テリシラ邸

「ガハッ!!!!」

口から激しく血をふきあげるユーノ。
赤い雫が数滴テリシラの顔につくが、そんなことは気にせずに治療を続行する。

「レイヴ、そこのメモに書いてある薬品を大至急持って来てくれ!!」

「はい!!」

机の上に置いてあった紙を握りしめて走っていくレイヴを見る余裕もなく、すぐさまテリシラは酸素マスクをユーノに装着する。

(外傷がないのに吐血した……!!本当に何でもありだな、クソッ!!)

原因ははっきりしているのにどうすればいいのかわからない。
目の前に苦しんでいる人間がいるのに救えないというのは医者として最大の屈辱だ。

(本を燃やすか…!?いや、下手に手を出したらユーノがどうなるかわからない!ならレイヴ達に頼むか…!?駄目だ……レイヴ達もユーノの二の舞にならない保証はない!どうする……どうすればいい……!!?)

(ドクター…)

不安なのかブリュンが話しかけてくる。
だが、今は相手をしていられる余裕はどこにもない。

(すまないブリュン、後にしてくれないか?ユーノなら私が必ず…)

(違います、ドクター。誰かがここに近づいています。)

「なに?」

思わず手を止めて玄関を見る。
すると、それと同時に勢いよくドアが蹴破られ、そこから二人の人影が飛び込んでくる。
警戒するレイヴとサクヤだったが、侵入者のうちの一人の顔を見て驚く。

「あなたはソレスタルビーイングの!?」

「すいません!訳は後で話します!!」

銀と金のオッドアイの青年、アレルヤ・ハプティズムが頭を下げる中、銀色の髪の女性は急いでユーノのもとへ駆け寄る。

「やっぱり気のせいじゃなかった……!!」

ここで何があったのかはわからないが、おそらくユーノがいつものように無茶をしたのだろう。
マリー・パーファシーはそのことをすぐに察し、街にいたときから感じていた気配の発生源を見つめる。

(怖い…!でも、なんだか悲しい……ずっと、会いたい人に会うのを我慢しているような……胸が締め付けられるような感じがする…)

(……あなたも、感じるんですね。)

「!?」

突然聞こえた声にマリーは辺りをきょろきょろと見回すが、声の主は冷静に語りかけてくる。

(落ち着いてください。ユーノさんは今、その本の中で大切な友達を守ろうとしています。)

(友達……?)

(かつて救えなかった友達を救おうと、必死で戦っています。悲しい運命を打ち砕くために。)

声の主はそこで一拍置いてマリーに再度話しかける。

(お願いです、ユーノさんを助けてあげてください。ユーノさんはここで死んでいい人じゃない!)

(…あなた、名前は?)

(ブリュン……ブリュン・ソンドハイムです。)

(ブリュン、具体的に何をするのか教えて。)

(今から僕がユーノさんを介して夜天の書へアクセスします。その時にあなた……ええと…)

(マリーよ。)

(はい。マリーさんも一緒に夜天の書の中へ入ってもらいます。そこで、ユーノさんが言っていた防衛プログラムを見つけ出して消滅させます。)

(できるの?)

(わかりません。でも、ユーノさんの手助けぐらいはできるはずです。)

「……わかった。」

「マリー……?」

ぶつぶつと呟いていたマリーを心配したアレルヤが肩に手を置こうとするが、彼女はその手を優しく止める。

「心配しないで、アレルヤ。私もユーノ君も、すぐに戻ってくるから。」

(ドクター、ブリュンもマリーさんと一緒にユーノさんを助けに行ってきます。)

(な!?待つんだブリュン!!)

テリシラが止めるよりも早く、ブリュンはマリーと意識を同調させてユーノとの念話の回線をつなぐ。

(いきます。)

(うん!)

返事をした次の瞬間、マリーは奇妙な浮遊感を感じながら暗い空間を落ちていった。







海鳴市(?)

「う……ぐ……!!!」

「フン……なかなかどうして、粘ってくれるじゃないか。」

「そうだね~。王様なんて一回落っことされちゃったもんね。」

ヘラヘラと笑う雷刃へ拳骨を入れると王は再び赤い短剣を作り出す。

「さて、遊びはいい加減仕舞いにしなければな。そのしぶとさは大したものだったが、まさか惚れた女の面影に刃を止めるとはな。」

「…………っ!!!!!」

すでに体中に傷を作り、地べたに這いつくばった状態のユーノは肺から空気が逆流するのを感じながら三人を睨みつける。
そして、睨みつけながらも彼女たちへ刃を向けることにためらいを感じている自分が腹立たしい。
あの星光と呼ばれていた少女の言葉に動揺して開けられた腹部の傷からはすでに致死量を超える血液が流れ出ているはずなのに意識ははっきりし、気絶するどころか体中に刻まれた傷の一つ一つから送られてくる痛みを嫌というほど感じる。
いっそここで倒れてしまえば楽になれるのではないかと思ってしまうが、それでもユーノはアスファルトに血糊をべったりと付けながら立ち上がる。

「もう十分だろう!!ユーノには手を出すな!!」

「そうはいかんだろう。分をわきまえずに我にたてついたのだからな。見せしめに惨たらしい死を与えてやらなければ。」

リインフォースの涙ながらの訴えを一蹴してさらに赤い刃を生み出して完全にユーノを取り囲む。

「しかし、貴様も愚かだな。大人しくこいつを消し去っていればこんなことにはならずに済んだものを。」

「……かで………うだ…」

「?」

「愚かで結構だ……!!先のことを考えて今を後悔するより、この先後悔することになっても今を後悔したくない……!!今を後悔して選んだ未来に、僕は意味なんて見出せない!!」

かすれた声で、それでも大きな声で宣言する。

「何があってもリインフォースは助ける!!僕が生きるこの今を後悔しないために!!!!」

「戯言を……もういい。貴様との問答にもいささか飽いた。」

無造作に振り下ろされた王の手に従い、赤い流星群がユーノへと殺到する。
次々に着弾したそれは禍々しい光と黒い道路の破片、そして粉塵を巻き上げながら全てを粉砕していく。

「あ~あ、僕がとどめを刺したかったのに。」

「あんずるな。いずれまた戯れる機会はやってくる。」

いまだに爆発を続ける道路に背を向けてその場を離れ始める二人。
だが、

「星光?何やってんのさ?とどめを刺せなかったのが悔しいのはわかるけどいつまでも見てたって…」

「……終わっていません。」

「なに?」

振り向いた瞬間、彼女は唖然とする。
自分の魔法が地面を穿っているそのはるか前方。
銀の長髪の女性がすでに息絶えたはずのユーノに肩を貸してそこに立っているではないか。

「大丈夫?」

「マ……マリーさん……どうして……」

「ブリュンがあなたを助けてって言って、それで気付いたらここに……」

いきなり見知らぬ場所に放り出されて戸惑っていたのだが、目の前でユーノがやられかけているのを目撃して間一髪で救出したマリーだったが、いまだに危険な状況であることに変わりはない。

「貴様何者だ?どうやってここに来た?」

睥睨するようにマリーを見下ろす王。
援軍としてやってきたのは良いが、自分もユーノも武器がない。
しかも、自分に至っては魔法戦はずぶの素人なのだ。

「なんだぁ!?やる気か~!?」

「一人増えたところで結果は変わりません。二人まとめて葬って差し上げましょう。」

いまさらだがジワリと手のひらに汗がにじんでくる。
とそこへ、

(マリーさん、ユーノさん、聞こえますか?)

「ブリュン……!?」

「ブリュン、あなた今どこにいるの!?」

ブリュンの声に安心するマリーだったが、その安心は長続きしなかった。
なぜなら、声の主であるブリュンの姿がどこにもないのだから。

(ブリュンは今この人を縛っているものの中心にいます。今からこれとこの人を切り離すから、それまで時間を稼いでください。)

「そんなこと言われたって、私どうすればいいか…」

(今お二人がいる場所はその子たちのテリトリーです。)

「そうだ……だから、僕たちにはどうすることも…」

(ですが、彼女たちも全てを支配できているわけじゃない。その証拠に、ユーノさんはそこでも魔法を使うことができているはずです。)

言われてみれば確かにそうだ。
王は最初にユーノが持っていたはずのソリッドを握りつぶしてみせたが、ユーノが魔法を使うことまでは止めることができなかった。

(現実の世界でないのなら、ものをいうのは想像力のはずです……つまり…)

「僕たちの意思で武器を顕現することが可能ってことか!」

「できるとでも思っているのか?」

くっくっとこらえるように王が笑う。

「確かにここでは存在する者の意思に応じて何かしらの現象や物を生み出すことができる。」

「ですが、あなたはすでに自らのデバイスが破壊されるところを見てしまっている。」

「そうそう。お前の意思が五感を上回ることがない限りデバイスを出すことなんて無理ってことさ!」

「……フフ………クッククク……!」

「何がおかしい?」

マリーに支えられながらユーノの顔に不敵な笑みが浮かぶ。

「なめるなよ、化け狸。」

肩を貸していたマリーのから離れるとフラフラしながらなんとか自分の足で立つ。

「ガンダムマイスターに不可能なんてないんだよ……お前らみたいな井の中の蛙にマイスターの実力を図れると思うな!!」

あえて挑発的なことを言って相手の怒りを誘う。
ぶつかってくる殺気が、少しずつだが確実に傷だらけの体を集中力で満たしていってくれる。

「図に乗るなよグズが……!!!!」

王のかざしたての前に巨大な魔力の塊が球の形をとって出現する。
最初は小さかったそれは時間が経つほどに大きく、そして力がさらに圧縮されていく。
だが、それに比例して自身の体にも気力が満ちていくのをユーノははっきりと感じていた。

「マリーさん、下がっていてください。」

「で、でも……」

あんなものを真正面から受けたらどこにいても変わらないのではないか。
そう思ったマリーだったが、ユーノの顔を見てその認識を改める。

「大丈夫……僕を信じて。」

笑っている。
すでに満身創痍で、絶望的な状況なのにユーノは笑っている。

「マリーさんもできれば何か武器になるものを想像しておいてくれると助かります。」

「わかった、任せて。」

「無駄だ……遠き地にて闇に沈め!!」

放たれた一撃が周囲のありとあらゆるものを砕きながらユーノ達へと迫る。
だが、それに動じずにユーノは右手を前に出して想像する。

かつての自分の愛機の姿。
その力を受け継いだ翠の宝石。
全ての理不尽を打ち砕き、大切なものを守り抜くための力。
その名は、

「ソリッド、セットアップ!!!!」

右手に巨大な盾を出現させると同時に、ユーノは瞬時に自分の持てる最大の防御呪文の構築を完了する。

「絶対たる守護の盾よ!!!!」

〈Absolute Aegis〉

展開される巨大な五重の魔法陣。
その一枚目に当たった魔力の塊は周囲に余波をばら撒くが、それでもその勢いは一向に衰える気配がない。

「なるほど、五つの強力な防御壁で分散させて攻撃を凌ぐ魔法か……大したものだが、所詮は防御魔法。我に傷をつけることなど…」

「それはどうかな?」

ギシギシと軋んで砕ける一枚目の防御壁。
だが、二枚目に魔法が当たった瞬間、

「な!?」

「うそ!?」

「くっ…!!」

唸りを上げてユーノへと迫っていた魔力の奔流が今度は王たちへと迫りくる。
慌てて回避行動をとる三人だったが反射された魔法のが一足早く彼女たちを吹き飛ばす。
そして、

「まずはお前だ、裸の王様!」

〈Assault Bunker〉

轟音とともに撃ちだされた杭によって地上へとまっさかさまに落ちていく王。
だが、残っていた二人はすでに反撃の準備を終えていた。

「よくも王を…!」

「お返しだ!!」

無数の光弾がユーノへと迫る。
だが、

「行って!!」

「「!?」」

何かが魔力弾の嵐の中を駆け抜けたかと思うとすでにユーノの姿はそこになく、互いにぶつかった魔法が空中に鮮やかな色の花火を打ち上げるだけに終わった。

「どこに…!」

きょろきょろとあたりを見渡す雷刃。
しかし、突然彼女の見える景色が一変する。

「?」

膝がガクッと抜けたように見えていた光景の高さが変わる。
いや、それだけではない。
まるで天地が逆転したようにそれまで見えていたものがひっくり返る。
逆さまになった星光が何かを必死に叫んでいるが、何を言っているのかよく聞こえない。
なにが起こったのかわからないまま腕を動かそうとする。
だが

「え……?」

両腕がない。
いや、それだけじゃない。
ぐんぐんと高度を下げる彼女の目に飛び込んできたのは自分を追いかけるように落ちてくる下半身。
そして、オレンジの戦闘機の上に立ちながら自分を見下ろす侵入者がそこにいた。

「よ……くも………!!」

ひじから先がない腕でユーノを掴もうと必死にもがくが、彼女は手を届かせることもかなわずに虚空へと消えた。

「あれは……!!」

「キュリオス……なのか?」

じっとこちらを見つめるマリーの方を見ながら、助けられたユーノ自身も呆気にとられる。
武器になるものを想像してくれとは言ったが、まさかこれが出てくるとは思ってもみなかった。
しかし、マリーにしてみればこの状況を打破するのに必要な力と考えたとき、もう一人の自分が操っていたピンクの機体よりもそれを翻弄したキュリオスの方が印象的だったにすぎない。
だが、どのような経緯で生まれたにせよ今の状況でこれ以上心強い援軍はほかにない。

「よくも二人を…!!」

それまで無表情だった星光の顔に明らかな怒りの色が現れる。
しかし、彼女の抵抗も無意味なものとなる知らせが届いた。

〈ユーノさん、切り離しに成功しました。あとは残った彼女を倒せば現実世界に戻れるはずです。〉

「なるほどね。それじゃ、早いとこ済ませてこの死にかけの体とおさらばしようか。」

「できるとお思いですか?あなた方程度私一人でも本気になれば……」

「勘違いはよくないなぁ、劣化魔王。」

ユーノはチッチッと振っていた指で彼女の後ろをさす。

「言ったろ。彼女と君たちとの切り離しに成功したって。つまり……」

ゆっくりと後ろを向く彼女の先には、王が使っていたものと同じ赤い短剣と祝福のエール、リインフォースが浮いていた。

「僕たちが手を下さなくても彼女が君たちを裁くってわけさ。」

「穿て、ブラッディダガー!!」

赤い光に串刺しにされた星光は声を上げることもかなわずに霧散する。
そして、それと同時にユーノとマリーの足元に魔法陣が展開される。

「ありがとう、ユーノ…!!」

「泣くのは無しだよ。それじゃ、あとで…」

―――満足か?

「!?」

―――父さんを奪われた悲しみをこんな自己満足で薄めて満足か?

(まさか、まだあいつらが…)

―――お前が戦う理由はそんなもののためじゃないだろう?自分から大切なものを奪うこの世界が憎いから戦うんだろ?

(そんなこと……)

―――どれほど大層な理想や理念を掲げようとお前の根底にあるものは変わらない。

「誰だ!!」

すでに一人きりになった架空の世界でユーノは叫ぶ。
そして、そいつの方を向く。

「お前……!?」

怒りの炎が宿っているかのような赤い髪と赤い瞳。
だが、中性的なその顔は鏡の向こうで嫌というほど見たものだ。

「忘れるなユーノ……いつか俺じゃない俺がお前の心の奥に押し込められていたものを世界へ見せつける日が来る…必ずな。その日を楽しみにしてるんだな……」

にやけた顔で消えていくもう一人の自分。
必死で手を伸ばすが彼はどんどん薄くなっていく。

「待て!!!!」

「フフフ……忘れるなよユーノ。お前がどれほど捨てようとしても俺はお前の中にいるぞ!!ハハハハハハハハ!!!!!」






テリシラ邸

「待て!!!!」

手を伸ばすと同時に目覚めたユーノは天井の明りで自分が現実の世界へ戻ってきたことを確信する。
しかし、気のせいか夜天の書の中で刺されたところが痛むせいでいまだに自分が幻の中にいるのではないかと疑ってしまう。

「目が覚めましたか?」

傷の有無を確認していたユーノは濡れた手ぬぐいを絞っていた彼女の存在にようやく気付き、そこでここが現実の世界であることを実感する。

「リインフォース……まさか、ずっと看病を?」

「彼女がどうしてもというので私が許可した。問題はないだろう?」

お盆に簡単な料理を乗せたテリシラが二人のすぐそばまでやってくる。

「しかし、本当に昨日はいろいろと驚いたよ。魔法というのは何でもありなんだな。」

「そういうわけでもないんですけどね……」

皿の上のリンゴを口に運びながら苦笑するユーノ。

「そういえばマリーさんとブリュンは?」

「彼女が本の中から出てくると同時に意識を取り戻したよ。もっとも、彼氏の方が大騒ぎして大変だったがな。」

「ああ……」

マリーが意識を取り戻すと同時に彼女に抱きついて狂喜乱舞するアレルヤ。
その光景が目に浮かんで思わず笑顔がひきつってしまう。

「それはそうと、私はこれから少し家を開ける。ラーズがターゲットにしている男のもとへ向かって彼を待つ。幸いアレルヤ君が護衛をかってでてくれたからもしもの時も大丈夫だろう。君はマリー君とリイン君と一緒に留守番を頼む。」

「それはいいですけど……大丈夫なんですか?いくら彼が仲間候補だとは言ってもイノベイドを狙っているんでしょ?」

「そのために護衛をつけるんだし、そもそも私は彼にイノベイドであることを気付かれていない。まあ、何とか説得してみるさ。」

それだけ言うとテリシラはサングラスをかけるとそのまま外へと出ていく。
そして、誰もいないことを確認したユーノはリインフォースにある問いかけをする。

「リインフォース、君の中にいたあの三人のモデルはたぶんなのはたちだよね?」

「ええ。私の記憶の中で特に印象深かった彼女たちの姿を防衛プログラムが真似たのだと思います。」

「……ねぇ、もしかしたら僕の姿をしているのもいた?」

「いえ……いなかったと思いますが?あなたはあの事件では騎士たちや私と刃を交えた回数はそれほど多くないはずですから。」

「そうか……そうだよね。」

リインフォースの言葉にあの時見て、聞いたものをすべて否定しようとするユーノ。
だが、どうしても脳裏からあの声と姿が離れようとしてくれない。
あのゾッとするような笑みを浮かべた幼い自分。
そして、彼の残した意味深な言葉。

『いつか俺じゃない俺がお前の心の奥に押し込められていたものを世界へ見せつける日が来る…必ずな。』

ぞわりと全身の毛が逆立つのを感じながら頭をブンブンと振って思考を切り替える。
せっかく自由になってはやてに会えるようになったのに、これ以上リインフォースに心配をかけるわけにはいかない。

「ごめんね、変なこと聞いちゃって。」

「いえ……」

首をかしげながらユーノを見るリインフォースだったが、彼女もこの時は自分の抱えていた闇から解放された喜びからユーノの反応をそれほど気にしなかった。






だが、この時すでにそれが生み出される準備は進められていた。
ユーノが長い間心の奥に押し込めていたもの。
それを受け継ぐ存在がこの世に誕生する準備が。






あとがき・・・・・・・・・という名の結局伏線で終わっちゃった

ロ「というわけで再び伏線張りまくりなI編第一話でした。」

毒舌医師「全然本編に入ってないじゃないか。」

ロ「だってリインフォースはこの後重要な役割を果たすから早いとこだしときたかったんだもん!!」

学生「次回は異世界編なのに初っ端が完全オリジナルはどうかと思うよ?」

サクヤ(以降 サ)「それに私のキャラ作りにかなり苦労してましたね。その割にはみたらしだんごさんの設定を出しきれてないし。」

ロ「そこツッコムのやめてくんない!!?そしてアイデアを提供してくれたみたらしだんごさんありがとうございます!!」

初代「しかし、firstから張っていたユーノの俺口調伏線がようやく活躍の場を与えられそうで安心しました。」

ロ「登場人物にまで安心されちゃったよ!!?ていうかお前ら俺が単なる気まぐれでユーノを俺口調にしたと思ってたの!!?」

「「「「うん。」」」」

ロ「お前らマジでこの後校舎の裏来いや。」

学生「どこの校舎ですか……ていうか僕の学校はやめてくださいね。あなたが来るだけで汚れそうなんで。」

ロ「レイヴさんんんん!!?あなたそういうキャラだった!!?」

サ「とりあえず場も煮詰まってきたので(要はグダグダになってきたので)ここらで次回予告に行きたいと思います。」

毒舌医師「次回の舞台は再び異世界へ!」

初代「ミッドチルダへと無事にわたった刹那とロックオン。」

学生「そのころ、海上施設でただ一人残されていた少年の世話をしていたシグナムに危機が迫る!」

サ「再会を果たした刹那とロックオンは彼女たちを守りきれるのか…」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただいてありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお聞かせください!じゃ、せーの……」

「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」



[18122] 11.ミッドチルダ
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:8e6f9208
Date: 2011/01/11 23:25
プトレマイオスⅡ コンテナ

「フッ!!ハァッ!!!!」

コンテナの一角に鋭い太刀風が吹く。
しかし、それでもエリオは満足せずにさらにストラーダの切っ先を勢いよく突き出す。
斬り裂かれた空気が鳥の鳴き声のような甲高い音を立ててエリオの遥か前方へと飛び立っていく。

(まだだ……!!まだ、こんなものじゃあの人に届かない!!)

目の前に思い描く仮想敵は浅黒い肌のあの青年。
そして、その動きは彼の愛機であるダブルオーの洗練された動き。
ミッドチルダに戻って来てからずっと刹那の影を追い続けて訓練を続けているが、自分なりに修練を積めば積むほど彼のすごさを思い知らされた。
まず、彼の影と立ち合っても攻撃が当たらない。
あの動きを頭の中に思い浮かべて槍を突き出しても別の動きでいなされる。
ならばとこっちも手を変えると向こうもまた別の動きで完全にこちらの攻撃をかわす。
そして、どの動きからもすぐさま攻めに転じて一撃で自分を仕留めてくる。
もしもこれが影でなかったらエリオはゆうに数十回は死んでいることになる。

「クソッ!!!!」

気合ばかりが先走り、もどかしさから動きが雑になる。
そこに、

「踏み込みが甘い。もっと脇をしめて半歩前に踏み出してみろ。」

「!」

反射的にその言葉に従って脇をしめて普段より大きく踏み込む。
すると、ストラーダの穂先が奏でる音は先程までの澄んだものから重みのあるゴウッという音に変化した。

「うん、まあそんなもんだな。つっても、こういうのは俺よか刹那が教えるべきなんだけどな。」

「アイオンさん……」

いつの間にか来ていたラッセがエリオへ飲み物を手渡す。
そして、自分も持っていたもう片方の容器の中身を喉を鳴らしながら飲み干していく。

「余計な口出しして悪かったな。けど、お前を見てるとガキの頃のユーノを思い出しちまってな。」

「ユーノさんのこと?」

「ああ。」

ラッセはその時のことを思い出したのかくっくっと笑いをこらえながら楽しそうに話し始める。

「あいつに格闘技のイロハを教えたのは俺と刹那でよ。刹那は武器の扱い、俺は戦場格闘技をみっちりたたき込んでやったのさ。いやぁ、あの時のあいつはお前と違ってどんくさくてよ。いっつも俺と刹那にボコボコにしごかれてはエレナが大騒ぎするっていうのの繰り返しだったな。」

「……それであんな風になったんだ。」

顔をひきつらせながらぼそりと呟く。
あんな死にたがりのような戦い方をどこで学んだのかと不思議に思っていたが、ここでこの人たちに習ったというのなら納得だ。
フェイトがあまり見習わない方がいいと言っていたのもごもっともだろう。
だが、

「あの……僕にも稽古をつけてくれませんか?」

ラッセは驚きのあまり持っていた空の容器であたふたとお手玉をしてしまう。

「正気か!?」

「結構本気です。」

「おいおい……え~と、ストラーダ、だったっけか?お前はいいのか?ご主人様がとんでもない道に進もうとしてるぞ?」

〈俺は兄弟が望むもののために力を貸す。ただそれだけだ。〉

「駄目だこりゃ……」

使い手に似て頑固な槍に溜め息をつくと、ラッセは表情を引き締める。

「言っとくが少しでも中途半端な態度が見えたらすぐにやめるぞ。覚悟しとけ。」

「はい!!」

〈Ja!!〉

威勢のいい返事にラッセは小さく笑うと、すぐさまエリオに自らの持つ技術を教え始めた。




魔導戦士ガンダム00 the guardian 11.ミッドチルダ

第1管理世界 ミッドチルダ 首都クラナガン

第1管理世界ミッドチルダ
その名の通り、次元世界の中心地的ポジションにある世界であり、ありとあらゆる世界の物品が流れ込み、それを再び別の世界へ送り出す役割も果たしている。
そんなミッドチルダの中でも発展を遂げているのがこのクラナガンだ。
もっとも、次元世界の中心となっている世界の中心都市なので人口流入もすさまじく、時折招かれざる客もやってくることがあるのだが。

「なるほどな……それで、ここでどうやって他のメンバーの情報を集めるんだ?」

顔の隣にフヨフヨと浮いている連れに視線を向ける刹那。
しかし、ジルの答えは彼の期待を粉微塵に砕いてくれた。

「そんなもんオイラが知るわけないだろ。新聞でも読んどけ。」

「…………………………………」

なんとなくこんなことではないかと思ってはいたが、ここまではっきり言ってくれると逆にすがすがしくなる。
古の時代から生きているのならぜひとも信用できる情報源くらい知っておいてほしかった。

「しゃーないじゃんか。オイラもここに来るの久しぶりなんだから。」

「だから、人の思考を読むなと言っている。」

もはや日常の一部と化したやり取りをしながら刹那は人込みをかき分けて小さなコンビニへと入り、入口付近においてあった新聞や雑誌類をありったけ買う。
ジルの意見に従うわけではないが、他のメンバーにつながる手掛かりがなくても最近起きたことに目を通しておいて損はないだろう。

『開拓世界で落盤!?開拓民たちの横暴の実体。』

『謎の襲撃者!?クラウディア級、急遽補修作業へ。』

『機械製品製造の光と影。管理局、エイオースの治安維持の本格始動。』

ゴシップ記事に載っているものの中には刹那がいたエイオースのものもあるが、他にも関係ありそうなものがいくつも載っている。
だが、関係ありそうなものがあまりにも多すぎてどれを信じていいかわからない。
ただ、新聞に載っているある記事だけは全ての新聞に共通して載っていた。

『最悪のスパイ!!無限書庫司書長の裏の顔!!』

そんな見出しの横に載っているのは今ここにはいない仲間の写真。

「………………………」

ぐしゃりと新聞を丸めると外に出てごみ箱の中へ突っ込む。

「……気にすんなよ刹那。オイラはわかってるからさ。」

ジルが沈んだ空気をどうにかしようとパタパタと手を動かして励ますが、刹那の表情は暗いままだ。
ユーノはこの世界のために必死に戦ったのに、まるで諸悪の根源のようなこの言い草。
叶うならば、今この場にいる全員に声を大にして真実は違うと叫びたかった。
だが、そんなことができる立場でないことはよくわかっているつもりだ。

「……行くぞ、ジル。」

「オ、オイ刹那……」

グッと唇を噛みしめると刹那はスタスタと怒りをぶつけるように早足で歩き出す。
その時、

「勿体ないねぇ、お兄さん。せっかく買った新聞そんなに早く捨てちゃっていいの?」

軽い調子の男の声に刹那もジルもイラッとするが、無視してそのまま歩きだそうとする。
だが、男もしつこく付きまとってくる。

「オイオイ、その手の中にあるのも捨てるつもりなら俺にくれよ。俺もゲイルスから来たばっかでここのことよく知らねぇんだ。」

「自分の金で買え。」

「そう言うなよ~。それより、なんでこの新聞捨てちまったんだよ?」

どうやら男は刹那が捨てた新聞を拾ってきたようだ。
ぐしゃぐしゃと音をたてながら広げて一面を音読する。

「『最悪のスパイ!!無限書庫司書長の裏の顔!!』ね……ひょっとしてお兄さんこれ見てプッツンしちゃったわけ?」

「………………………」

「なるほどなぁ……確かにこんなお人好しの面した兄ちゃんが凶悪犯罪者には思えないわなぁ。」

「……ユーノは望んで人を傷つけるようなやつじゃない……!」

「ありゃりゃ、おたくらこいつの知り合いだったのか。でも、ここでそんなこと言っちゃまずいんじゃないの?だって…」

男の声が低音に変わる。

「おたくらまでソレスタルビーイングのメンバーだってばれちゃうよ?」

「「!!」」

その瞬間、刹那は人目も顧みずに男の顔があるであろう場所へ脚を振り抜こうとする。
だが、その脚は刹那自身によって止められた。

「ひゅーー!大胆だねぇ、刹那。でも、人込みでこんな目立つことするとあのかわいい教官さんにどやされるぜ。」

ジーンズにカウボーイシャツとミッドチルダでもかなり変わった格好をしているが、脚の横でニヒルな笑みを浮かべている顔は自分が探している人物の一人だった。

「ロックオン・ストラトス……」

「止めてくれたからよかったけど、下手したら首の骨が折れてるぜ。」

脚を引っ込めた刹那にロックオンが手を差し出して握手をする。
はずだったのだが、

「オイ刹那、このニヒルな勘違い野郎がロックオン・ストラトスか?想像以上に軽いうえに服のセンスが最悪だな。」

ジルのその一言に空気が一気に凍りつく。
出していた手をそのままに、笑顔のロックオンはこめかみにピクピクと青筋を浮かべながら穏やかな声で話す。

「刹那、その人形はなんだ?そんなできの悪いおもちゃで遊ぶ歳でもないだろ?」

「誰ができの悪いおもちゃだこの若造。たかだか二十年と少ししか生きてないのに偉そうな口きくんじゃねぇよ。」

「何こいつ?ひねっていい?ひねっていいよな?」

「……二人ともやめろ。周りが見ている。」

先程の刹那の蹴りと、現在進行形でバチバチと火花を散らす二人に通行人の注目が集まり、なかには管理局へ通報しようとしている者までいる。

「とにかく、話はここを離れてからだ。」

「はいよ。オラ、行くぞチビ。」

「誰がチビだこのニヒル!」

「…………………………………」

こんな時にも言い争うジルとロックオンに呆れながら、刹那は仲間に再会できた喜びからすぐ近くまで行かないとわからないほど小さく笑った。






海上施設

その日も、烈火の将ことシグナムは海上施設へと足を運んでいた。
ここに収容されていたセインたちも監視付きではあるがすでに研修のために聖王教会や地上部隊に配属されてもうここにはいない。
これほど早く出ることができたのは彼女たちがスカリエッティの全貌を知らずにただ利用されていたという点。(もっとも、最初期に生み出されていたウーノたちは全てを知った上で協力していたと供述して投獄されているが。)
さらに、スカリエッティの『彼女たちを道具としてしか認識していない。』との発言が世間の同情を買い、更生させれば普通の人間と変わらないのと判断から早期の出所につながった。
ルーテシア・アルピーノは無人世界カルナージでの謹慎を申し付けられたが、彼女の母にあたるメガーヌ・アルピーノもともにカルナージに渡り、今は念願の親子水入らずの生活を送っているそうだ。
ただ、

「おーい!」

緑のカーペットに踏み込んだ瞬間飛びついてきたこのアギトと名乗る融合騎は自ら望んでここに残っている。
だが、それも今日までだろう。

「待たせたなアギト。監視付きではあるが騎士ゼストを探してもよいとの許しが出た。」

「やりぃ!!」

くるくると回りながら喜びを全身で表現するアギト。
少々おおげさな気もするが、それもしょうがないだろう。
彼女の証言によって全滅した部隊の隊長であるゼスト・グランガイツが生存していて、なおかつスカリエッティに協力していたことが判明した。
アギトはあくまでゼストはアルピーノ親子を守るために仕方なくやっていたことで、情状の余地があると言って彼の捜索を申し出たが、仮にも犯罪者である彼女をそう簡単に出すわけにもいかなかった。
だが、シグナムの根気強い交渉によって今日ようやくその許可が下りたのだ。

「へへへ……!!待ってろよ旦那!どんだけ突っぱねてもあたしは絶対あんたを探すからな!!」

「よかったな、アギト……」

嬉しそうに踊るアギトに頬笑みを浮かべるシグナム。
だが、目の前にあるアギトの笑顔が罪の意識で真っ黒に塗り潰されていく。
ユーノを引きとめることができず、挙句の果ては彼を犯罪者扱いする組織にいまだに所属している自分が情けなくなってくる。

「あっ……そ、それで、あんたはどうするんだシグナム?」

アギトはシグナムの暗く沈んだ顔に気付いたのか慌ててはしゃぐのをやめる。

「あんたもさ、あたしと一緒に旦那を探してくれよ!あんたならあたしも歓迎…」

「すまないがそれはできない……私は、もう剣をとることができない。」

あの日以来、シグナムは剣を握っていない。
いや、握ることができなかった。
レヴァンテインを握ろうとするたびに、なのはとヴィヴィオの泣き顔やかつて自分の犯した罪が頭をよぎって手に力が入らなくなった。
もう戦うことができない。
そう思いながらあちこちをさまよい歩き、気が付いたらギンガにここで働かせてほしいと頼んでいた。

「私は……私は逃げたんだ………目の前の現実から逃げてここに来たんだ。」

「で、でもさ…」

「そいつに何を言っても無駄だよ。他人の命を奪っても平然としてられるただのプログラムにすぎないんだから。」

俯いているシグナムのもとへ白い囚人服を着た少年がつかつかと歩いてくる。
金色の前髪の間から覗いている翠の目は冷たく研ぎ澄まされ、本来なら持ち合わせているべきである無邪気さがかけらも感じられない。

「お前、まだそんなこと言ってんのか!シグナムがかけ合ってくれなきゃ問答無用で牢屋へぶち込まれてたんだぞ!?」

「僕はそのことをどうにかしてくれなんて頼んでいない。こいつが勝手にやった。それだけの話さ。」

翠玉人のテロリストたちのアジトで保護された少年、ブリジット・フリージアはアギトの言葉を鼻で笑う。
ようやく見せた笑顔も明るいものではなく、ドス黒い感情が込められた侮蔑の笑みだ。

「このっ…!!」

「いいんだ、アギト。」

ブリジットに飛びかかろうとしていたアギトを自分の手の平の中へ包み込んで止めると、シグナムは少年の目線に合わせるように屈む。

「許してくれなどと言える身ではないことは重々承知している。だが、それでも君のために力を尽くすことだけはさせてほしい。このとおりだ…」

深々と頭を下げるシグナム。
だが、当のブリジットはそん彼女に言葉も掛けずに足早に立ち去ってしまった。

「なんだよあいつ!!シグナムが頼みこんでなけりゃ極刑になってたんだろ!?翠玉人だか何だか知らないけど、そこらの悪ガキだってもう少し礼儀をわきまえてるぞ!!やっぱ子供だからってテロリストを更生するなんて…」

「アギト。」

シグナムの悲しげな瞳に、アギトは口からこぼれおちそうになった言葉を喉の奥へしまい込む。
おそらく、アギトが言おうとした言葉をシグナムはさんざん周りから言われ続けてきたのだろう。

「…ごめん。」

「いいんだ……あの子やあの子の血族に対して私がしてきたことは到底許されるものではない。」

そう、たとえ人々が翠玉人に対して行ったふるまいを忘却の彼方へと押しやろうとも、彼らはその記憶を忘れはしない。
それが、怨嗟というものなのだから。

「だが、だからこそ私はあの子を……いや、これも詭弁だな。あの子を気にかけているのは結局自分の逃げ道が欲しいからなのだろうな……」

この期に及んでまだ逃げようとする自らの愚かさに自嘲するシグナム。
しかし、アギトの見解は彼女のそれとは違っていた。

「逃げたいんならなんであいつの前に現れるんだよ。」

「それは……」

「逃げたいなら顔を見ないのが一番だろ。なのに、あんたはあいつに何度も言葉をかけて、あいつのために必死に駆けずり回ってる。そんなの、逃げようとしている奴にできることじゃない。」

アギトは戸惑うシグナムの顔のすぐ前まで近寄るとニパッと笑う。

「あんた、すげぇ騎士だよ。あたしが会った中じゃゼストの旦那の次に偉大な騎士だ!」

「偉大な騎士、か……」

「そうそう!あんたは自分がやってることを誇っていいんだ!」

「剣を握れないのに偉大か……フッ……とんだ騎士もいたものだな。」

口ではそう言ってみるが、嬉しくないわけがない。
剣を握れなくなった今でも、自分にとって最大のアイデンティティである騎士としての心構えを捨てていなかったことに気付けたのだから。

「主のため、民を守るための剣が騎士……今までそのために戦っていたのに、いつの間に忘れてしまっていたのだろうな……」

あまりにも当然のことになりすぎていて、少し躓いてそれを守れなかっただけで騎士失格など思い上がりもはなはだしい。
はやてのおかげで真の騎士になれたというのに、その称号を自ら捨てるなどできるはずもなかったのに。

「……アギト、騎士ゼストを探すのは少し待ってもらっていいか?」

「は?」

「ブリジットを一緒に連れて行きたい。それまで、しばし時間をくれないか?」

その言葉にアギトの顔が輝く。

「それじゃあ…!!」

「ああ。剣を取れない騎士がなんの役に立てるかわからんが、監視役として同行させてもらいたい。」

「OK、OK!!剣の使い方ぐらい道中であたしが思い出させてやるよ!!」

小さな手でシグナムの肩をバンバンと叩くアギト。
そのしびれにも似たかすかな痛覚をシグナムは愛しいもののようにしっかりと噛みしめていた。






クラナガン

オープンテラスのそのカフェに異様な光景が広がっていた。
お昼時にやってくる常連のOLたちもその光景を不気味に思って近づかず、数少ない客もある一つのテーブルに視線を注いでいる。
そのテーブルの上には所狭しと雑誌が置かれ、さらにその周りにも座っている人間が見えなくなるほど量の週刊誌や新聞が山のように積まれている。

「しかし、手近にあった記事だけでこの量とはな……」

ブラウンの髪をしたロックオンの顔が紙の山の中からひょっこりと出てきて大きく嘆息する。

「ミッドはありとあらゆる世界の物が集まるからな。他の世界で出版されてるもんもお取り寄せ自由ってわけさ。」

ジルも積まれた雑誌の上によじ登ると、ロックオンに負けないほど大きなため息をつく。

「限度ってもんがあるだろ……ここに来てからコーヒー何杯飲んだかわかんねぇぞ。」

「だが、他のメンバーがミッドチルダにいるとは限らない。情報源が無い以上こうするよりほかにない。」

ひときわうずたかく積まれた雑誌の束をとると、刹那はようやく見えるようになった横の光景も気にせずにページをどんどんめくっては怪しいと思ったものにマークをつけていく。

「これが終われば今度は旅費を稼ぎながらこいつを一つ一つ確認して回るのか……」

「オイラ頭痛がしてきた……」

文句を言いながらページをめくる二人。
そんな時、ふとロックオンの手が止まる。

「どうした?」

「いや、この一行広告……」

刹那とジルはロックオンの指さす方を見てみる。
そこには、次のように書いてあった。

『我らが王を穢した者どもに罰を!!』

「なんなんだろうなこれ?新手の宗教か?」

「バーカ、ちげぇよ。たぶんこりゃベルカ教……それも聖王信仰系列のもんじゃないのか?王って書いてあるだけだから断定はできないけど、ミッドじゃ確か王って言えば聖王信仰が一般的だったからな。」

「フ~ン……よくわかんねぇけど、じゃあこの穢した者どもに罰をってどういうこったよ?」

「…………………………………」

「?刹那?」

この時、刹那の頭をよぎったのはかつての自分や戦友たちの姿。
罰を与えるという名目のもと、命を投げ出して銃を手に取り、そして人を殺した。

「ジル、最近あった出来事で聖王に関係するものはあるか?」

「ああ、それならこれじゃないか?」

ジルが机の上の雑誌を床の上に落としながら発掘したその記事には都市型テロ、J・S事件のことのあらましが書いてあった。

「Dr.Jことジェイル・スカリエッティは自らが生み出した戦闘機人たちに意見陳述会を襲撃させ、その三日後、今度はベルカ時代の負の遺産、戦艦・聖王のゆりかごをクラナガンに落下させようとした。だが、地上部隊が使用したMSによって最悪の事態は回避され、新設部隊、機動六課によってスカリエッティ、戦闘機人たちの身柄が拘束され、事件は終結した……」

「なるほどな……」

ロックオンは周りの本の山が崩れるのも構わずに立ち上がる。

「んで、どうする刹那?こいつがこのスカリエッティと戦闘機人とかいうやつらに対して宗教狂いのアホどもが報復するってことを意味してるんだとして、襲撃する方もされる方もどこにいるか俺たちは知らねぇ。」

「それならここにある。」

刹那は脇にあった一つの雑誌の層から一つの新聞を抜きとる。

「海上施設……なるほど、ここに戦闘機人たちがいるわけか。」

「いや、戦闘機人と呼ばれている者たちはすでにここを出ているらしい。」

「は?だったら、ここは関係ないんじゃ…」

「いや……そうでもなさそうだぜ。」

ジルは刹那が持っている記事の隅に書いてある一文を読み上げる。

「『なお、ここにはスカリエッティの協力者であるユニゾンデバイスと、別件で逮捕された翠玉人の少年が収容されている。この少年は翠玉人系テロリスト『亡国の復讐者』に所属していたと思われ、スカリエッティとも何らかのつながりがあるのではないかとの疑いが浮上している』……はぁ~、あいっ変わらず翠玉人への偏見は健在かぁ~。翠玉人ってだけでテロリストに協力者、捕まったこいつに同情するよ。」

「けどま、事実はどうあれこの広告載せた連中がここを狙う理由はあるってわけだ。でもよ、言いたかないけど俺たちはこの世界の人間じゃないぜ?」

ロックオンは再び席に着くと覚めたコーヒーを一気に飲み干す。

「俺たちが何より優先すべきなのははぐれた他の奴らと合流して早いとこ地球に戻ることだ。道草くってる暇はないぜ?」

「……わかっている。」

わかってはいる。
だが、それでも刹那はこの世界のことが放ってはおけなくなっていた。
ここに来るまでに見てきた歪み。
そして、かつての自分と同じように宗教を理由に命を奪う者。
たとえ自分のいた世界とは違う場所なのだとしても、湧き上がってくるこの感情に違いなどない。

「それでも、俺は…」

「まあ、なんだ……」

関係ないと言ったロックオンだったが、その表情から刹那が自分と同じ考えであることを確信してこう切り出す。

「俺は新入りなわけだし、先輩の意思は尊重しなきゃいけないわけだから、刹那がどうしても、どーーーーーしてもなんとかしたいってんなら協力せざるを得なくなるわけなんだけどよ…」

頭をかきながら照れるその姿に刹那は最初呆気にとられてしまう。
しかし、すぐにロックオンの言葉の意図するものを感じ取って決断を下した。

「こいつらは紛争を起こすつもりだ。ならば、俺はガンダムマイスターとしてこの紛争に介入する。」

「地球で起きるものでなくてもか?」

「紛争を根絶するのがマイスターの使命だ。場所は関係ない。」

「ハッハッ、都合のいい使命なことで。でも嫌いじゃないぜ、そういうの。」

二人は辺りに積まれていた乱暴にどけると、テーブルの上にコーヒー代を乗せて歩き出す。

「良いとこあるじゃんお前!」

「うるせぇよチビ。俺はいつだって良い奴だ。それより刹那、ミッションプランはどうする?今回はあの美人の戦況予報士さんに助言を聞けるわけじゃないんだぜ?」

「いつもと同じだ。俺が斬り込んでお前が狙撃。それだけだ。」

「それだけって言われてもなぁ……」

「それに、策はある。」

苦笑するロックオンから、今度はすぐそばを飛んでいたジルと視線を合わせる。

「……頼めるか?」

「もちろん!オイラの力は刹那のためにあるんだからな!」

「……ありがとう。本当にすまない。」

辛い役目をジルに負わせることになることに心苦しさを感じながら、刹那はダブルオーの待つ街の外れまで足を急がせた。






海上施設

誰も信用するな。
人は生きている限り永遠に独りだ。
それが、ブリジットの信条だった。
翠玉人であるという理由だけで迫害を受け、両親が死んだあとは持っていたものをすべて奪い取られ、たった一人だけ残された家族である妹もろくに医者に診てもらうこともできずに病でこの世を去った。
憎かった。
自分たちを見捨てたこの世界もそうだが、それ以上にこの体に流れる翠の民の血が何よりも許せなかった。
だから、世界に、そして自分たちをこのような状況に追い込んだ忌々しい平和の血筋とやらを否定して死ぬために争いの中へと飛び込んでいった。
だが、何の因果か憎むべき敵に命を救われ、挙句の果てにここに来る原因と一時的にではあるが一緒に生活する羽目になった。

「……いっそ、あの時死んだ方がよかったな。」

この状況に甘んじている自分が情けなくて、そんなことばかりが頭をよぎる。
あんな奴の世話になるくらいなら、いっそ誰かに殺してほしいくらいだ。

「僕のために、か……だったら殺してくれよ。」

そう呟いた時だった。
突然目の前の天井が崩れ落ち、本来なら見えるはずのない青空と燦々と輝く太陽が白い天井に開いた穴から見える。
だがその光景はすぐに群青色に染め抜かれた巨体によって覆い隠されてしまった。

「こいつ……」

丸くつるりとした頭部、そして額から飛び出した鋭角な角の下では赤い一つ目がせわしなく右へ左へと動いている。
その目がブリジットを捉えると、分厚い金属で覆われた腕に握られている赤い光の刃がゆっくりとだがこちらに近づいてくる。

(ああ……そっか……)

漠然とだがわかる。
自分はここで死ぬのだ。
ようやく、家族のもとへ逝けるのだ。
相手がどう思って手を下すのかはわからないが、ブリジットは感謝の思いでいっぱいだった。
だが、

「クッ!!!!」

もうすぐそこまで迫っていたはずの刃が消え、同時に誰かに抱きかかえられている温かさを感じる。

「何を考えている!!!!死にたいのか!!!!」

しっかりと自分を抱きしめる腕の中でブリジットが顔を上げると、そこにはいつもと違い険しい表情で怒鳴るシグナムがいた。

「僕のために力を尽くしたいんだろ?だったらほっといてよ…」

「ふざけるな!!!!」

赤い銃弾をかいくぐりながら、はじめて見せた自分への怒りにブリジットは目を丸くする。

「生きようとしても生きられない奴だっている!!お前のように辛い思いをしながら、それでも前を向いて歩いている奴だっている!!生きることをあきらめるというのは、その者たちに対する最大の侮辱だ!!!!」

天井が崩れる中、壁際に追い詰められたシグナムはブリジットを下ろして首にかけたままにしていた相棒を手に取る。
震えが無いわけではない。
苦しくないわけではない。
だが、ここで逃げたら今度こそ騎士ではなくなってしまう。

「レヴァンテイン……もう一度、力を貸してくれるか?」

〈Ja boul!!〉

炎の魔剣は主が命じる前に彼女を騎士甲冑で包み込み、自らは厚みのある刃と鞘に変化する。
それを手に取ったシグナムはブンと一振りして久々に握った柄を手になじませる。

「……私のことはどれほど憎もうと構わない。だが、自分を憎むのはもうやめろ。そんなことをすれば、悲しむのはお前を生んでくれた両親だろう。」

「…………………………………」

唇を噛みしめてうつむくブリジットの頭を強くなでると、シグナムは群青色の襲撃者へと飛びたっていく。

(向こうはMS、こっちは生身か……勝ち目は薄いな。だが……それもやり方次第だ!)

シグナムは振り下ろされた拳を紙一重でかわす。
拳に巻き込まれた風に態勢が崩れそうになるが、なんとか踏ん張ると振り下ろされた拳のある一点を注目する。

(狙うとするなら……装甲が薄くなっている関節部分!!)

手が戻される前にシグナムは直滑降に近い形で人差し指の関節部に突っ込んでいく。

「レヴァンテイン!!」

〈Explosion!!〉

炸裂したカートリッジに込められていた魔力でレヴァンテインに炎が灯り、必殺の一撃を放つ態勢が整う。

「紫電……一閃!!!!」

ただ単純に強化された武器で叩き斬る。
シンプルだが、そこには長い年月を戦い抜いてきたシグナムだからこそ極められた極意がある。

(やったか……)

指一本だが、動揺を誘うには十分だ。
その隙にコックピットへ一撃を放り込んで終わりにする。
煙が漂う中、シグナムは自分の描いたプランを実行するためにカートリッジを再び炸裂させようとする。
だが、煙が晴れた時に動揺がはしったのはシグナムの方だった。

「な……!?」

指はいまだに健在。
それどころか、傷一つない完璧な状態でレヴァンテインを受け止めて悠々とシグナムを見下ろしている。

(馬鹿な!!勘が鈍っていたのか!?)

それはあり得ない。
たかだか数日で数百年培ってきた剣技が衰えるはずなどない。

(なら、相手の装甲が予想以上に厚かったのか!?)

これもあり得ない。
自慢じゃないが、この程度の厚さのものなら強化していれば斬れないはずがない。

「ならば……さらに威力を上げるまでだ!!レヴァンテイン!!」

〈Ja!〉

今度は二発カートリッジを使い、さらに強力な炎をレヴァンテインに纏わせる。

「紫電一閃・剛!!」

なめきって動こうともしないMSへ向けてシグナムは渾身の力でレヴァンテインを振り下ろす。
だが、ここで先程攻撃が通らなかった理由が明らかになった。

「!?炎が!!」

手にぶつかった瞬間、それまで燃え盛っていた炎が急速に小さくなって最終的には単なる剣と成り果てたレヴァンテインがギシギシと悲鳴を上げていた。

「AMF!?だが、この効果範囲は……」

AMFを使っているならはなから飛行魔法を使えているはずがない。
そもそも、あの独特の体を押さえつけられるような圧迫感が全くない。
そんな驚き焦るシグナムをパイロットはニヤニヤしながら余裕を持って見ていた。

「ククク……どうだ、新たに開発されたケンプファーとAMC(アンチ・マギリング・コート)の実力は?」

管理局やその他の開発機関から流れてきた情報をもとに製造されたベルカ系MS、ケンプファー。
闘士を意味するその名の通り、ベルカ特有の肉体強化をMSに転用した初の機体であり、場合に応じて高密度状態のGN粒子をさまざまな部分に送って行われる近接戦闘ではおそらく地球のMSを含めても太刀打ちできるものは少ないだろう。
もっとも、弱点として遠距離の攻撃手段が小型のビームガンのみなのだが、それを補うためにAMCを開発し、ゆくゆくはABC(アンチ・ビーム・コート)も装備させる予定だそうだ。

「つまり、貴様がどれほどの魔力を有していたとしてもケンプファーの装甲を抜くのは不可能だということだ!」

「クッ……!!」

間一髪でケンプファーの手の平をかわすシグナムだが、状況はさらに悪化する。

「増援……それも一機や二機じゃない……!!」

遠くからやってきた六体の群青色の機体はシグナムを取り囲み、じりじりとその距離を縮めてくる。
だが、そのうち一機が地上にいたある人物に気付いて高度を下げていく。
その人物とは当然、

「ブリジット!!」

後を追おうとするシグナムだったが、周りにいるケンプファー達が道を遮る。

「騎士の身でありながら聖王を穢した者どもに与するとは…!」

「恥を知れ、プログラム風情が!!」

外部音声で響く罵倒の言葉の数々。
その声に、すぐそこまで死が迫っているにも関わらずブリジットは激しい怒りを覚える。
つい先ほど似たようなことを言ったはずなのに、その時の自分にすら怒りを感じる。

(殺されてたまるか………お前らにだけは殺されてたまるか!!)

そう思った時には、ブリジットは全力で走りだしていた。
銃弾で芝生がめくりあがって土が顔にまとわりついてくる。
何度も転びそうになるが、それでも必死に走り続ける。

「死ねるか……!!僕は…まだこんなところで死ぬわけにはいかないんだ!!」

「よく言った、クソジャリ。」

施設全体を包み込むような激しい閃光。
誰もが光に目がくらみ、一瞬すべてが見えなくなる。
だが、そんな中でも閃光を生み出した者は目指すべき場所がしっかりと見えていた。

「シグナム、ユニゾンだ!!」

「アギト!?だが、しかし…」

「いいから準備しろ!!いくぞ!!」

悩んでいる時間はない。
シグナムはすぐに腹を決めると刃を下ろして意識を集中させる。

「「ユニゾン…イン!!!!」」

再び激しい光が発生し、シグナムの姿が消える。
そして、光が消えて現れた彼女の姿は先程までとは大きく違っていた。
肩を覆っていた騎士甲冑は消えて全体的に薄手なものに変わっているが、その代わりに背中からは蝶のような四枚の炎の羽が開いている。
髪の色も変化し、握っている剣からは今までとは比較にならないほどの猛る炎が噴き出して敵対するものすべてを焼き尽くすのを今か今かと待っているようだ。

「アギト、あの子を助ける!!」

(わかった!!)

その瞬間、突きだされた刃をことごとくかわしたシグナムはありったけの魔力をレヴァンテインに集中、凝縮させる。

「この一撃……」

(止めれるもんなら……)

「(止めてみろ!!)」

溢れ出た魔力が幾重にも層をなし、刀身が蜃気楼のように揺らぎながら灼熱の火炎を生み出す。

「紫電一閃……斬っっ!!!!!」

シグナムにとっての極意、ただ全力の一撃で敵を屠るという信念が込められたその一撃はブリジットをとらえようとしていたケンプファーの右腕を見事に斬り落とした。
だが、

「クッ……!!すまん、レヴァンテイン……無茶を、させた……」

〈心配…するな……〉

強気に答えるレヴァンテインだが、本来許容できないほどの魔力を受け止め、さらにAMCで守れた分厚い装甲に叩きつけられたせいで刀身はすでに砕け散り、コアにもひびが入ってしまっている。
そして、シグナム自身も激しく消耗してしまってブリジットの前で膝をついてしまう。
だが、それでもシグナムは脂汗がにじむ顔でブリジットへ笑いかける。

「大丈夫…か……?」

「何言ってんだよ……!僕よりあんたが…」

「この程度……どうという…ことはない………騎士、だからな……」

余裕などまったく感じられない全力を尽くした後の笑み。
だが、不覚にもブリジットはその笑みに安堵の感情を抱いてしまう。
そうせずにはいられないほど、今のシグナムの顔は彼にとって安心感をもたらしてくれるものだった。
しかし、現実は残酷だ。
右腕を斬られたケンプファーはその復讐を果たすべくシグナムへと近づいてくる。

「逃げないと!!僕のことは放っておいて…」

「馬鹿を……言うな……私はお前を守ると、決めたんだ………騎士の決断は、命より重い………」

朦朧とする意識の中、シグナムはせめてブリジットだけでも守ろうと固く彼を抱きしめる。

(シグナム!早く逃げないと!!)

「アギト……お前だけでも、逃げろ……」

(いやだ!!あたしと一緒にゼストの旦那を探してくれるんだろ!!約束破んのかよ!!)

「………すまない。」

振り下ろされる刃の風切り音を聞きながら、シグナムは覚悟を決めてブリジットを抱く腕の力を強めて固く目を閉じる。
そのとき、

「ふせろ!!!!」

「!」

真上から聞こえた声に従い、反射的にブリジットごと地面に倒れ込む。
その瞬間、突風とともに何かが頭上を通り過ぎていく。
そして、ドスンと何かがすぐ横に落ちる音にシグナム達が顔を上げると、そこには群青色の腕の上で瑠璃色の光を両肩から放つ一体の天使がいた。

「ユーノ……じゃない?」

確かにユーノが乗っていたものと大まかな形は同じなのだが、カラーリングや持っている武器が大きく違っている。
何より、先程聞こえてきた声はユーノのものではない。

「ここは俺が抑える。早く逃げろ。」

「お前は一体……」

「早く行け。」

短くぶっきらぼうな言い方だが、自分たちを守ろうとしてくれている想いがそれでも色褪せることなく感じられるのはひとえにパイロットの人柄ゆえだろうか。
そんなことを考えながら、シグナムはブリジットの助けも借りてどうにか歩き出す。

「逃がすか!!」

両腕を失ってなおシグナム達を追おうとするケンプファー。
だが、その前に一振りの剣を握った青と白のMSが立ちふさがる。

「ダブルオー、新型MSを紛争幇助の対象と断定……殲滅する。」

ダブルオーガンダムのコックピットの中、刹那・F・セイエイは隣に浮かんでいるジルベルトとともに駆逐すべき対象を睨みつける。

「ダブルオー、刹那・F・セイエイ、目標を駆逐する!!」

両肩に装備されていた二基のGNドライヴを後ろにまわして猛然と突進を開始するダブルオー。
両腕を失ったケンプファーにそれを止める方法などあるはずもなく、あっさりと上半身と下半身に泣き別れて爆散した。
しかし、残っているケンプファー達がそれを見て黙っているわけがない。

「囲め!!相手は一機だけだ!!囲んで斬り刻んでしまえ!!!!」

六機の群青色の巨体が腰のGNドライヴから赤い光を放ちながらダブルオーへ次々に斬りかかる。
横薙ぎ、唐竹割、袈裟、斬り上げ。
ありとあらゆる剣閃がダブルオーをかすめていく。
だが、

「なぜだ……!!」

十回以上ビームサーベルを振るったところでようやくケンプファーのパイロットたちも異変に気付く。

「なぜ攻撃が当たらない!!」

最初はかわすだけで手一杯なのかと思ったが、すでにこちらは全員合わせればゆうに五十回以上は刃を振るっている。
にもかかわらず、相手は反撃をせずにそれを完璧にかわしきっているのだ。

「なぜだ!!なぜ……」

「ハッ……お前らの気の毒なおつむじゃ一生理解できねぇよ。」

刹那の肩の上でジルが脂汗のにじんだ顔で笑う。

「見えてんだよ……お前らのドス黒い殺意はな!!!!」

ダブルオーに上空から再び刃が迫る。
だが、ジルにはそれがはっきりと“みえていた”。

(刹那、上、左2.4度。その後は真下から一機が突き上げに来る。)

「了解。」

ジルの言葉を聞いた刹那の視界に本来なら見えるはずのない少し未来の太刀筋が空中にはっきりと描き出される。
そのギリギリにダブルオーを移動させると、次の瞬間にはそこを刃が通り過ぎていく。
そして、下から突きを放っていた一機がこちらを振り向くのが遅れたところにGNソードを真一文字に振り抜いた。

「しまっ…」

「おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!!!!」

分厚い装甲が火花を上げながら真っ二つに斬り裂かれる。
腕ごと胸を袈裟がけに斬られたケンプファーは残った部分を痙攣させるようにぴくぴく動かしながら海中へと沈んで水柱を上げた。

「っ……!!はぁはぁ…………!!!!」

「ジル、大丈夫か?」

「わ…わりぃ……久々だとここらが限界みたいだ……!!」

「構わない……よく頑張った。」

『そうそう、こっから俺たちの仕事だ。』

そのまま眠りについたジルを気遣って空中で動きを止めていたダブルオーに迫っていた一機のケンプファーの頭が後方に吹き飛び、よろよろと高度を下げていく。
その一機に続いて進もうとしていた他の四機は驚いて動きを止めるが、その行為はただ自分たちを狙われやすい状態にしただけだった。

「ハロ、姿勢制御を頼むぜ!」

「任サレタ!任サレタ!」

「オーライ、そんじゃ狙わせてもらいますかぁ!!」

水中から出てきたケルディムのコックピットの中、パタパタと耳を動かすハロにニヤッと笑いかけたロックオンは再びスコープを覗きこむ。

「ケルディム、ロックオン・ストラトス、目標を狙い撃つ!!」

額の狙撃用カメラアイを展開したモスグリーンと白の機体、ケルディムは海面ギリギリにとどまりながらスナイパーライフルの引き金を引く。
最初の一発は一機のケンプファーの胸部を捉えるが、持ち前の分厚い装甲に阻まれて致命傷とまではいかない。
だが、ロックオンはすぐに狙う部分を頭に変更して再びトリガーを引いて見事命中させた。

「か~!!なんて装甲してやがんだ!!普通ビーム兵器が当たって表面が剥がれるだけなんてあり得んのか!?」

『使われている材質が地球のものとは違うのかもしれない。だが、この程度ならどうにかなる。』

「オイオイ、狙撃担当の俺はどうにもなんねぇ…よっと!!」

再びケルディムから放たれた弾丸はケンプファーの腕を捉える。
相変わらずせいぜい態勢を崩す程度だったが、刹那とダブルオーにはそれだけで十分だった。

「ハァッ!!!!」

甲高い切断音を上げながら縦にGNソードを振り抜き、すぐさま横に薙いでケンプファーを四等分にする。

「て、撤退だ!!退くんだ!!」

ここにきて流石に実力の差に気付いたケンプファー達は順次撤退を開始する。
それを追おうとするダブルオーだったが、その必要はなかった。

「セラヴィー、目標を殲滅する。」

「ぎゃああぁぁぁぁぁぁ!?」

遥か彼方から突如現れた光の柱はケンプファー達を飲み込み、澄み切った青空に三つの花火を咲かせた。

『おい、あれって……』

ロックオンは狙撃用のスコープを戻しながら呆けた顔で砲撃が飛んできた方を見る。
黒と白の機体に、水色と白でカラーリングされた艦。
一週間にも満たない日々だったが、彼らを探すことにどれだけ躍起になったことだろう。

「ティエリア、無事だったのか。」

モニターに現れた顔に刹那はホッと安堵の息を漏らす。

『そちらも無事で何よりだ。やはり君もあれに目をつけていたか。』

「あれ……まさか、お前たちも?」

『ああ。たぶん君のことだろうから、あれを見たらここに来るのではないかと思って僕たちもここに来たんだ。まさか、先を越された上にケルディムまでいるとは思っていなかったがな。』

「……すまない。」

『謝ることはないさ。』

珍しくティエリアが柔らかに笑う。

『ガンダムマイスターの使命は紛争の根絶。君はその使命に従ったまでだ。』

「……随分都合のいい使命だな。」

『臨機応変だと言ってくれ。』

その光景を見たら、ニール・ディランディはどんな顔をしただろうか。
犬猿の仲といっても過言ではなかったティエリアと刹那が笑いあっているのだ。
まぶしい笑顔で互いの無事を心から喜びあっているその姿は、まるでニールの望んだ世界の姿の縮図のようだった。

『あ~テステス……あ、繋がってる?やっほー、せっちゃん!元気してたっスか?』

ティエリアの顔が映っている画面の隅に今度はウェンディが出現する。

『刹那……!!無事でよかった……!!』

『ストラトスさんもご無事で何よりです!』

今度は涙目になっているフェルトとにっこりと笑っているミレイナの姿が、

『ま、心配はしてなかったがな。』

『嘘つけ。おやっさんは刹那が無茶してねぇかひやひやしてたくせに。』

フンと照れてそっぽを向くイアンとそれをからかうラッセ。
そして、

『よかった……!!無事だったんですねセイエイさん!!』

汗にまみれたエリオの姿に刹那は改めて全員が無事だった喜びを噛みしめる。

『悪いけど、感動している暇はないわよ。早くここから離れないと今度は管理局がやってくるわ。』

「了解。……そうだ。言い遅れたが一人紹介したいやつがいる。」

『あら、そうなの?こっちにも一人紹介しなくちゃいけない人がいるの。……まあ、基本的には良い人だからあんまり怒らないであげてね。』

「?」

遠い目で笑うスメラギに刹那は疑問を感じながらケルディムともども撤退を開始する。
その去り際、色とりどりの花火がまるで送り出すように上がっていたことはその時振り返っていた刹那しか知らない。




翌日 クラナガン

『そう、じゃあもう行くのね。』

「ああ。心配をかけてしまってすまない。これから先は連絡も取りづらくなると思うから機会があったら主はやてによろしく伝えておいてくれ。」

テレビ電話ではあるが、久しぶりにシグナムの顔を見たシャマルはホッとする。

『なんだかいろいろすっきりしたみたいね。前とは大違いよ?』

「そんなに違うか?あまり顔に出しているつもりはないのだが……」

『別に隠すことないわよ。嬉しいことがあったら嬉しい顔をする。当然のことじゃない。』

「そういうものか?」

『そういうものよ。』

クスクスと笑うシャマルに「むぅ…」と唸るシグナムだったが、建物の窓が外からコンコンと叩かれる。

「すまん、連れが呼んでいるのでここまでだ。」

『そう…じゃあ、元気でね。』

「ああ、お前とザフィーラも元気でな。」

通話の終了を知らせる音を聞く前に建物の外に出たシグナムを待っていたのはこれからともに旅をする仲間の不機嫌な顔だった。

「おっせーよシグナム!長電話は嫌われるぞ!」

「すまんすまん。用件だけ伝えたらすぐに終わらせるつもりだったんだが。」

「なんだよその主婦みたいな言い訳は!」

そう言いながら、アギトはシグナムの差し出した手の平に腰かけてにっこりと笑う。
しかし、もう一人の連れの方は不機嫌な顔でそっぽを向いたままだ。

「……約束。」

「?」

そっぽを向いていたブリジットが鋭い目つきでシグナムの方を向く。

「約束を守れよ。騎士としてふさわしくない行いをしたら、お前の命は僕が貰い受ける。」

そう言って一人だけ先に歩き出すブリジットに、シグナムは思わず笑ってしまう。

「ああ……そうしてくれ。」

今となっては、この命は自分のものではない。
目の前を歩くこの小さな命に預けた大切なものなのだ。
彼がもう一度彼自身のために歩くことができるようになるその日まで、全力で支え続けよう。

「それで、とりあえずどこに行く?」

「そうだな……騎士ゼストを探すといっても形式上はあくまでお前たちの社会復帰と更生のための奉仕活動ということになっているからな。とりあえず、最近話題になっているエイオースへでも行って手伝いでもするか。」

「なんで管理局のために働かなくちゃいけないんだよ……」

「お前はいちいち文句言うな。さて、そうと決まったら早いとこ行こう!」

奇妙な組み合わせの三人は真っ直ぐに道を進んでいく。
今も、そしてこれから先も。





三体の天使と方舟集う
なれど、翠と暁は未だ還らず




あとがき・・・・・・・という名のDVD発売万歳!

ロ「というわけでシグナム復活&トレミーメンバー合流編な第十一話でした。そして、遅ればせながら劇場版DVD発売開始!初っ端に出てきたあの笑えるソレスタルビーイングの映画が君の家で見れるぞ!」

弟「メインそこじゃねぇだろ!!俺とサバーニャの活躍を…」

蒼「ここではもうすでに乱れ撃ってるやつが何言ってんだよ。」

ティ「だが確かにあれは驚いたな。ロビンなんて見る映画間違えたかと思ったらしいしな。」

ロ「帰ってから思い出して大爆笑だったけどな。」

アギト(以降 剣精)「それはそうと次回はまたI編か……あたしらの出番が無いじゃんか!」

ロ「心配すんな。しばらくお前らが出る予定はないから。」

剣精「え?」

刹「……異世界編もしばらくは俺たちがメインになるらしい。」

剣精「ええええぇぇぇぇぇぇぇ!!?ひどい!!あたしはともかく結構前から出てたのにまったく出番が無かったシグナムの立場はどうなるんだよ!!」

弟「お前、その言葉で相棒がだいぶダメージ受けてるぞ。」

シ「…………………………………………………………(泣)」

剣精「ああ!!ごめんシグナム!!そういうつもりで言ったわけじゃ……」

ロ「まあ、いいんじゃね。自宅警備が本職なわけだし。」

シ「……………………………………………………………(血涙)」

剣精「ちょお!!?もお!!この状況を打破するためにも次回予告へゴー!!!!」

ティ「カタロンの構成員となっているイノベイドを狙ってラーズが現れると読んだテリシラはカタロンの基地へ向かう。」

弟「一方、レイヴもブリュンの探知したとあるガンダムの探索を開始する。」

刹「そして、ユーノもアレルヤが収監されていた施設で手に入れた情報をもとにある場所へと向かう。」

蒼「そして、それぞれに訪れる新たな出会いとは!?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただいてありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援などをよろしくお願いします!じゃ、せーの……」

「「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」」

シ「………………………………………………(血涙)」

剣精「いい加減戻ってこい!!!!」



[18122] 12.Mission of I
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/01/13 19:58
某都市 遊園地

その夢の始まりはいつも同じ。
菫色の髪をした母さんと赤髪をした父さんの間で私が二人と手をつないで歩いている光景。
よく家族で行った遊園地の観覧車を待っている時、母さんは私と同じように楽しそうに笑いながら、父さんは照れ臭そうに煙草を吸いながら私の頭をなでる。
そして、やっと私たちの番が来て私は二人の手を引いて乗ろうとする。
けど、

「お母さん……?お父さん……?」

二人はなぜか下を見つめたまま動こうとしない。
それどころか、周りの人たちもみんな動きを止めている。
どうしていいのかわからず、私は一人で動かない人間に囲まれているという恐怖にひたすら耐える。
そして、しばらくしてやっと母さんと父さんが動き出す。
けど、

「ダウンロード完了……これよりミッションを開始する。」

「お父さん……?」

私を置いてどこかに行こうとする二人の袖を掴もうと必死に手を伸ばす。
でも、

「うっ!!?」

(塩基配列パターン0988、人間名サクヤ・レイナード。新たなミッションに移行。記憶の削除、ならびに必要データのロード開始。)

頭の中で声がして、それと同時に今まで家族で過ごしてきた思い出にどんどん靄がかかっていく。
いやだ……母さんや父さんとの思い出が無くなるなんていやだ!!!!

「私……!!思い通りになんて………ならない!!!!」

(拒絶反応を確認。人格の消去を最優先に…)

「出てけ……!!!私の中から出ていって!!!!」

頭の中をいじりまわしてくるその声を私は強引に押し出しにかかる。
いつの間にか空は鈍色に変わり、冷たい雨が体をうちすえている。
そして、私は苦しさから手をついて、地面にできた水たまりを覗いて息をのんだ。

「なに……これ……!?」

目が光っている。
ありえない。
こんなの嘘だ。

「嘘……嘘だぁぁぁぁぁ!!!!!」

(人…の……失敗…リンク……喪失…認………同エ…ア内……………排……動を…始せよ………)

叫びと同時に声がだんだん小さくなって消えていく。
助かった……の?
ううん、考えてる暇なんてない!!
早くここから離れないと!

「お母さん!!お父さん!!早くここから逃げよう!!!!」

私は二人に駆け寄って手を掴もうとする。
けど、雨で滑って上手く掴めずにその場で転んでしまう。
その時だった。

「え……?」

さっきまで私の顔があったところを何かが鋭い音をたてて通り過ぎていく。
擦り傷で血がにじんでいる膝をかばいながら私は顔を上げる。
そこにあったのは、

「お…父さん?」

父さんの手。
けど、それが握っているものを見て私は恐怖で震え始める。
虫も殺せない性格だった父さんの手に握られていたのは、鈍色の空から降ってきた雨で自身も鈍色に輝くナイフだった。

「あ……あ……!!?」

「登録番号08165-RT702の廃棄ミッションを受諾……任務を開始……」

父さんだけではなく、母さんや周りにいた人たちも思い思いに手近にあるものをとって私に近づいてくる。
そして、

「排除する……」

「いや……!!」

なんで……?
なんで、父さんも母さんも私を殺そうとするの?
なんで、そんな冷たい眼をしているの?
こんなの……私の知ってる父さんや母さんじゃない!!

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

私はズリズリと手を滑らせながら何とか立ち上がると必死で走り始める。
けれど、父さんや母さんだったものと歩行人たちは信じられないスピードで私の後ろをぴったりとついてくる。
怖い
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!!!

それまで家族で積み上げてきたものがガラガラ音をたてて崩れていく。
辛くて、苦しくて、悲しくて。
何もかも投げ出したくなってくる。
こんな思いをするくらいなら心なんていらない。
これから先、母さんや父さんがいない生活で幸せなんて感じることなんて絶対にあり得ない。
なら、こんなものいらない。
私は……ココロナンテイラナイ。




テリシラ邸

夢から覚めたサクヤはカーテンの隙間から射し込む光より、何年振りかに流していた涙のせいで目を細めてしまう。
この夢にしたって、感情を捨ててからは見ることはほとんどなくなっていた。
なのに、ここ数日で頻繁に見るようになってしまった。
おそらく、その原因は

「あ?起きた?」

フヨフヨと浮いている本を供につけ、スクランブルエッグとサラダを乗せた皿を運んできたこの男、ユーノ・スクライアだろう。

「サクヤが寝坊なんて珍しいね。」

「申し訳ありません。」

ベッドからネグリジェ姿で立ちあがったサクヤは深々と頭を下げる。
サクヤは別に意識してやったわけではないのだが、服の間から見える小さなふくらみや白い肌にユーノはそのことを指摘するわけにもいかずバツが悪そうに視線を背ける。

「すぐに食後のお茶の準備を…」

「べ、別にいいよ!たまにはサクヤも休まないと!」

「ユーノ……彼女に怒られますよ?」

「ち、ちがっ!僕は別にそういう目で見てたわけじゃ!!」

「?」

本の中から出てきたリインフォースにあたふたするユーノに首をかしげるサクヤ。
だが、そんな慌ただしい日々の始まりにサクヤは自分でも気付かずに小さな、本当に微かな微笑みを浮かべていた。





魔導戦士ガンダム00 the guardian 12.Mission of I

中東

実に十年ぶりだろうか、この強烈な暑さをもたらす日差しを全身で浴びるのは。
テリシラはその名が広まり始めてから中東方面へ治療に赴くことがなくなってしまった。
もちろんそれはテレビの出演や論文の作成が忙しいというのも理由だが、最大の原因はお座なりな中東政策によって治安が悪化してしまったことだろう。
おまけに今はカタロンを潰そうと躍起になっている新政府のせいで戦闘が激化し、しばしの平穏を取り戻したところにNGOがやってきても、次の日には戦闘が再開されて退去勧告が出されるなんてこともざらだった。
もっとも、それでも残って現地の人々を助けようと尽力しようとする人間もいるが。

「そんなに危険なところなら、私とアレルヤに任せてドクターは別の人を探している方がよかったんじゃ……」

「自分に与えられた責務を放り出すことなどできんよ。それに、君たちが危険な目にあっているのに私だけ安全なところにいるなどおかしな話じゃないか。」

助手席に乗っていたマリーはそれでも納得はしていないようだったが、テリシラの筋金入りの頑固さに負けて口を閉じる。
テリシラはそれに満足すると、今度はフロントガラスにうっすらと映ったアレルヤの顔に視線を移す。
眉間にははっきりとしたしわが浮かんでおり、彼の心が不安や困惑で大きく揺れていることが手に取るようにわかる。
その理由はおそらく、マリーがここへ同行することに仕方なくOKを出してしまったこと。
そして、

「砂漠は嫌いかね?」

テリシラの言葉にアレルヤの方がピクリと動く。
その反応にテリシラは「やはりか…」と小さくため息をつく。

「タクラマカンでのミッションは私もデータを閲覧させてもらった。君たちはあの時の最善の策をとってああいった結果になってしまったんだ。仕方ないさ。」

「頭ではわかっているんですけどね……でも、あの時僕らがもっと上手くやっていればスローネの暴走を多少なりとも抑えられたんじゃないかと思うと、どうしても後悔の方が強くなってしまうんです。」

苦笑するアレルヤを、テリシラはまるで赤子のようだと思ってしまう。
ユーノもそうだが、彼らは純粋で、強い決意を胸に秘めながらもほんの少しの出来事で心が大きく揺らいでしまう。
しかし、時に危うさを感じさせるその純粋さがあるからこそガンダムという強大な力に驕ることが無いのかもしれない。

「それに、僕が心配なのはそのことじゃないんです。」

あごに手を当ててただ一人思考の海に浸っていたテリシラはアレルヤの声に反射的に顔を上げる。

「ユーノを一人で残してきてよかったのかなって思っちゃって……その、ユーノはあんまりサクヤと上手くいってないみたいだったから……」

確かに、ユーノはサクヤのことを気にかけてよくコミュニケーションを取ろうとしていたが、サクヤの方はいつも無反応で受け答えをして、話自体もかなり短めで終了してしまっていた。
だが、テリシラはそのことを全く心配していなかった。

「そのことなら大丈夫だ。」

「?」

「ユーノはただサクヤに笑ってほしいだけなのさ。別に上手くいっていないわけじゃない。」

「でも、彼女は…」

「それに、ユーノの最大の長所は誰にでも好かれやすいということだ。彼は自分でも気付かないうちに周りに人を引き寄せて、その心を掴んでしまう。それは君たちもよく知っているだろう?」

「まあ、確かに……」

ただ、生来の鈍さから短所に変わってしまうこともあるが。

「ん?何か言ったかね?」

「い、いえ……けど、コミュニケーションを取れる云々以前に、サクヤのあの感情の希薄さはさすがに異常ですよ。」

「何か理由があるんじゃないですか?」

アレルヤとマリーのその問いにテリシラは上を向いて話すべきかどうか思案するが、フゥと息を吐いて前を見る。

「サクヤは……自分の両親に殺されかけたんだ。」





テリシラ邸

「どういうことですか?」

リインフォースは大きなリュックに荷物を詰め込んでいるレイヴを手伝いながら問いかける。

「僕とドクターもサクヤから聞いた話から状況を推測した程度なんだけど……サクヤには家族がいて……もちろん、ご両親もイノベイドだったんだけど、ある日新しいミッションを行うためにヴェーダからリセットを受けることになったらしいんだ。だけど、その時サクヤだけは自分からヴェーダとのリンクを切断することでリセットを免れたんだ。」

「なら、問題はなかったのでは?」

「そうはいかないさ。ヴェーダからしてみればリンク機能を失ったイノベイドは不良品。そのまま放置しておけばイノベイドの存在が公になってしまうかもしれない。だから……」

「ヴェーダは、彼女を処分することにした……」

レイヴは唇を噛みながらゆっくりとうなずく。

「その場にいた両親に襲われ、そこから命からがら逃げ出した後も他のイノベイドから命を狙われる日々を送ったらしい。よほど、辛い思いをしたんだろうね。そんな生活をしていた彼女は苦しみを少しでも和らげるために感情を捨ててしまって、僕とドクターが保護した後も笑いもしなければ、怒ったり泣いたりもしない。そんな彼女を見ていると、僕らまでつらかったよ。……でもね。」

レイヴはニッコリと笑う。

「ユーノさんが来てから、サクヤは少しずつだけど変わりつつあると思う。」

その言葉に、リインフォースもフッと優しく笑う。

「ユーノは月のような人ですから。」

「月?」

「どんなに暗い夜道でも、空高く大地を見守り、温かな光で明るく照らして迷っている人々を導いてくれる……そんな人ですから。」

「ああ、それなんとなくわかるなぁ……ユーノさんといると何となくホッとできて、また明日も頑張ろうって思えるんだよね。……たまに悪ふざけが過ぎることがあるのがたまに傷だけど。」

「あと、少し鈍感なところも。」

そう言って苦笑するレイヴとリインフォース。
ユーノがサクヤの凍りついてしまった心を溶かしてくれるという確信があるからこそのこの笑顔。
ユーノは無意識のうちに、癒そうとしている人間以外の心すらも和ませているのかもしれない。

「よし、準備完了。」

そうこうしているうちに荷物もまとめ終わり、レイヴは大きく膨らんだリュックの重みと固さを感じながら背中にまわす。

「本当に行くのですか?」

「うん。僕らもMSで戦闘しないって保証はないからね。ガンダムが手に入るかもしれないのなら行かない手はないよ。それに……」

「それに?」

「……ううん。なんでもない。」

自分でない自分がブリュンの送ってくれたイメージのガンダムで戦っている夢を見た。
そんなことを言ってリインフォースをこれ以上心配させるのはレイヴも本意ではない。

「それじゃ行ってくるよ。みんなによろしく。」

「わかりました。」

手を振りながら見送るリインフォースの視線を受けながら、レイヴは自分の真実を探す旅に出た。





地下

(やはり……レイヴはガンダムを探すみたいです。)

「そっか。」

その知らせを聞いたユーノは薄暗い地下室の掃除を終えるとブリュンの前まで椅子を引きずっていって背もたれに顎をのせるように座る。
別に疲れたからそうしたわけではなく、むしろ理由はその逆だった。
居候をしているからには家事くらいはしようと思ったのだが、料理以外はそのほとんどをロボットが行っているし、普段はサクヤがロボットの行えない作業をやってしまうためユーノの出番は無きに等しいのだ。

「はぁ……学校の図書室から借りてきた本は全部読んじゃったし、これからどうするかな~……」

(?ユーノさんもどこかに出かけるつもりじゃなかったんですか?)

「うん、そのつもりだったんだけどね。」

ユーノは苦笑しながら視線を上へ向ける。

「レイヴがいなくなって僕もいなくなったらサクヤとリインフォースだけだからね。彼女たちを二人きりにしておく勇気は僕にはない。」

(杞憂では?)

「だといいんだけど。」

そう言いながらユーノがポケットから取り出したのは一本のメモリー。
アレルヤを救出するときに一緒に手に入れたもので、そのほとんどが収監されている人間や、定時連絡といった他愛ない情報ばかりなのだが、これに記録されているあるものにユーノは着目していた。

「アロウズの支援者からの通信…」

アロウズからの連絡ならわかるが、その支援者からの連絡というのは妙だ。
しかも、その通信の内容は全て消されているうえに相手の素性を知ることができないというのがまた怪しい。

(ユーノさんは、それがリボンズ・アルマーク本人、もしくは彼に与するイノベイドからのものだと?)

「そっちもありえるけど、僕はどっちかっていうともう一つの可能性の方が濃厚だと思ってる。」

(もう一つの可能性?)

「なあに、身内のごたごただよ。」

ブリュンに笑いかけるユーノだったが、この場に彼がいなければさぞ懐疑心に満ちた表情をしていただろう。
――王留美
昔からどう努力しても気を許すことができなかった彼女からの情報に載っていた収監されている人間のリストと自分が手に入れたリストは全く同一のもの。
もちろん単なる偶然と考えるのが妥当だし、もし留美が向こう側の人間だとしたら自分たちにこの情報を流すメリットはなんなのか。

(けど、彼女は間違いなく何かを隠している。ここに行けばそれが何かわかるかもしれない……)

端末にメモリーを突き刺して表示したのは“どこかの誰か”が通信をしてきた場所。
幸い地上の、それもよく知っている場所だから行こうと思えば行ける。
だが、

「やっぱり無理だよなぁ……」

今のサクヤやリインフォースを放ってはおけない。
サクヤは最近になってようやく打ち解けて(?)きたし、リインフォースもまたはやてに会えるかと不安に思う時があるようだからできることなら付きっきりでいてあげたい。

「私たちはあなたが思ってるほど弱くはありませんよ?」

「それはわかってるつもりだけどさぁ、それでも心配なものは心配でしょ……って、いつからそこにいたの?」

ユーノは背もたれに顔を乗せたままで後ろにいる二つの気配に対して問いかける。

(すいません……ブリュンが呼びました。やっぱり、こういう話は本人たちでした方がいいんじゃないかと思って……)

椅子に固定されたままのブリュンから申し訳なさそうな念話が届く。
謝るくらいなら最初から呼ばないでほしいと思ったユーノだったが、呼んでしまったものは仕方ない。

「まあ、そういうことだから。今度ドクターかレイヴが帰ってきたときにでも行ってみるから別にかまわないよ。」

「そんなに気を使われたらこっちがかまいます。」

リインフォースは床の上をするすると滑るようにユーノとブリュンの間へと進んで不機嫌な顔で睨みつける。
ユーノは視線を外そうと横を見るが、そこにはポーカーフェイスのサクヤが待ち構えていた。

「ユーノ。私からひとつお願いがあるのですが。」

「?」

「私があなたの用事に付き合うことを許可してほしいのです。」

「は?」

何か言われるとは思っていたが、予想の斜め上を行くその頼みにユーノは一瞬呆けるが、すぐに首を激しく横に振る。

「駄目駄目駄目駄目駄目!!!!!そんな危ないこと…」

「ならばなおさら私がついていくべきなのでは?一人よりも二人の方がより安全だと思いますが?」

「でも、ブリュンの世話は…」

(ブリュンのことはそんなに心配いりません。)

「それに、私もできる限りサポートはします。」

三人でユーノを論理の袋小路へと追い込んでいく。
そして、遂に反論のネタが尽きたユーノはギブアップを宣言した。

「わかったよ……ただし、何かあったらすぐに僕、ドクター、レイヴの中の誰かに連絡すること。いいね。」

(はい。)

「はぁ……どうして僕の周りにはわからず屋ばっかり集まるんだ……」

渾身のため息とともにユーノが見つめる端末にははっきりと『天柱』の二文字が記されていた。





中東 カタロン基地

「ようこそ、ドクター。国境なき医師団の協力を得られて感謝しています。」

「いえ。組織、思想に関係なく医療行為を行う。それが我々の基本方針ですから。」

テリシラ達は砂漠の奥深く、巨大な岩の壁が乱立している場所へとやってきていた。
その岩の一つに隠されていた基地の一つは外見からは予想できないほど広いのだが、なかにいる人影はかなりまばらでカタロンが慢性的な人員不足にあることがはっきりとわかった。

「あんな幼い子もいるんだな……」

「ああ見えても彼女は優秀なコンピューター技師なんですよ。ちょっとドジなところもありますけどね。」

「へぇ、そうなんで……!!」

振り向いた彼女の顔を見た瞬間、アレルヤは絶句する。
薄い青の髪をした幼い顔に、それに不釣り合いな大人びた視線を見間違えるはずがない。

(アレルヤ、あの子……)

(ああ。たぶん、874と同タイプのイノベイドだ。)

じっと興味深そうにこちらを見つめるその視線にさらされていると、自分たちの心を覗かれている錯覚すら覚える。
だが、それはとんでもない思いすごしだった。

「ハーミヤ、これをトレーラーに…」

「はい……え!?」

「いてぇっ!!?」

ハーミヤと呼ばれたその少女が古めかしいキーボードを持っていたことを忘れて振り向いたせいで、隣に立っていた男の向う脛にその角がクリーンヒットする。

「あっひぃぃぃん!!?ごめんなさ……きゃああぁぁぁぁぁぁ!!?」

慌てて頭を下げながら後ずさるが、今度は後ろにあったテーブルを倒してその上に置かれていた機械類を辺りにぶちまけてしまう。

「…………い、いこうか、マリー。」

「そ、そうね……」

一足先に治療を待っている人間が待機していた部屋に向かったテリシラを追うように二人もその場から離れる。
だが、そこについてみると今度はテリシラが汗をだらだら流しながらつっ立っている。

「?ドクター、どうしました?」

「……あれだ。」

「あれ?」

アレルヤとマリーもテリシラが視線を向けている方を見てみる。
すると、

「「!!」」

偶然というのは恐ろしいものだ。
874と同タイプのイノベイド(?)を見つけたかと思うと、今度はテリシラと同じ顔をした女性がこちらを睨んでいる。

「なんだ?あたしの顔になんかついてんのか?」

「い、いや…」

戦いのさなかにいるせいか、乱暴な口調とお世辞にも親しみやすいとはいえない目つきで近づいてくる彼女に三人、とくにテリシラはハラハラしながら顔をそらす。
その動きを不審に思ったのか、彼女はサングラスで目元を隠したテリシラの顔をじっと覗きこむ。

「……あんた、どこかで会ったっけ?」

「キ、キノセイジャナイデスカ?」

上ずった声を上げながらテリシラから女性を引き離したアレルヤだったが、それでも疑惑のこもった視線を向けてくる。

(ド、ドクター……)

(だ、大丈夫だ……!いざという時は生き別れの兄妹ということにする!)

(それ信じる人間いるんですか!?)

ひきつった笑みでこそこそと話す三人に対して周りも何かおかしいということに気付き始める。
だが、

「そこまでにしておけ、スルー。」

濃いブラウンの短髪に欧米人の特徴である澄み切った白い肌をした男性が腕を組んだまま仲間のぶしつけな態度をいさめる。
テリシラ達からしてみれば助かった、と言いたいところなのだが、それよりも正面を向いた彼の顔を見てはっと息をのんだ。
青い右目と対を為すはずの左目には黒い眼帯がかけられている。
つけている眼帯の汚れ具合からしても、それはここ最近傷を負ったからつけたものではなく昔からその状態であることが分かる。

「けどさぁ、レイ。な~んかドクターの顔ってどっかで見たことあんだよね。」

「テレビに出ているものでも見たんだろう。それより、俺としては早いところドクターに仲間の治療を始めてほしいんだがな。」

「あ、ああ……それはもちろん……」

テリシラは負傷している人間の方へ歩いていこうとする。
そこに、レイと呼ばれた男がテリシラの方を見ずに言葉を放つ。

「ちなみに俺には治療はいらない。この左目は随分前に潰れてもう手遅れだからな。」

眼帯の男、レイ・フライハイトはテリシラに詰め寄ってきた女性、スルー・スルーズの腕を強引に掴むとテリシラからの返事も聞かずにその場を離れる。

「悪いな、ドクター。少し気難しいが、二人ともいい奴なんだ。許してやってくれ。」

「いや、こちらも失礼だった。後で謝らせてくれ。」

苦笑しながら治療に当たるテリシラとアレルヤ達。
しかし、ラーズのターゲットも含め、三人ものイノベイドが集中していることに不安を感じずにはいられない。

(こりゃあ一悶着あるかもなぁ……楽しみだよなぁ、アレルヤ……)

「え!?」

「どうしたの、アレルヤ?」

驚いて立ち上がるアレルヤを、さらに驚いた顔で見上げるテリシラとマリー。
だが、すぐにアレルヤは表情を取り繕うと屈んで治療の手伝いを再開する。

「なんでもないよ。ちょっと空耳がね……」

「空耳?」

「そう、空耳。」

そのはずだ、とアレルヤは自分に言い聞かせる。
四年前のあの日から、彼の声を聞いたことは一度もないのだから。

(ハレルヤ……なんでいまさら思い出させるのさ。)

この世にはいないはずのもう一人の自分への言葉を呟きながら、アレルヤは彼と彼との記憶を頭の片隅へと追いやった。





翌日 天柱 地上ターミナル

(本当についてきちゃったよ……)

人込みの隙間へ的確に入り込みながらしっかりとついてくるサクヤ。
頭痛を感じながらユーノはどんどん前に進んでいくが、それでもしっかりついてくるサクヤのせいでさらに疲れが押し寄せてくる気がする。
しかし、疲れの理由はそれだけではない。
どうにもきな臭いのだ。

「普通こんな人目につくとこで通信をするかなぁ?」

「しかし、履歴には確かにここからだと記録されていますが。」

「それはそうなんだけど……あ、すいません……」

「いえ、こちらこそ。」

こんな風に限られた空間を無制限の道行く人間であふれかえっている場所で通信をすれば誰か気付きそうなものだが。
そう思いながら二人は進んでいくが、さっきぶつかった人物が何かを思い出したように近づいてくる。

「すいません。」

「どうかしましたか?」

「いえ、さっき何か落としたみたいですよ。」

「御親切にありがとうございます。」

ぶつかった時は気にしなかったが、よく見るとかなりおかしな格好をしている。
ハンチング帽を眼深にかぶり、髪が一切見えないどころか表情をまともに読むのも難しい。
声のトーンが高く、茶色のコートを羽織った体はユーノより少し低いくらことからかなり若いようだ。

「それで、落としたものっていうのは…」

「ああ、すいません。落し物じゃなかったです。」

「?」

「……君はこれから命を落とすのさ。」

〈Icing nova〉

「!!!!!!」

急に冷徹なものに変わった少年の声にユーノは咄嗟にプロテクションを前面に展開する。
その瞬間、周囲にいた歩行人たちは悲鳴を上げることもできずに吹き飛ばされていく。
いや、それだけではない。
爆心地を中心に床一面が凍りついて場所によっては床と天井が氷柱で繋がってしまっている。

「あ~あ……前も言ったろう、ガルム。僕は不慣れだから少し抑えてくれって。」

〈Sorry,Regene.〉

「まあ、いいや。それより、あいつはどうなったかな?」

急激に温度の下がった大気から発生した白い靄のせいで攻撃を直撃させた相手すらも見失った少年は余裕を持ってあたりを見渡す。
その時、

〈Assault Bunker〉

真横からミクロの氷を纏いながらユーノが飛び出してくる。
その右腕に装着されたアームドシールドのバンカーが今にも炸裂しそうに翠の魔力光を撒き散らすが、突如出現した氷の壁が少年の代わりにバンカーを受けて粉砕された。

「チッ……!」

「フゥ……今のは少し危なかったかな?」

ふわりと浮かびながら距離をとった少年の頭から帽子が落ちる。
その顔があらわになった瞬間、ユーノは驚きで目を見開くと同時に激しく歯ぎしりをする。

「さて、僕は君をよく知っているんだけど、とりあえず初めましてかな?僕の名前はリジェネ・レジェッタ。この姿を見れば僕がどういう存在かなんて説明はいらないよね。」

「イノベイド……!!」

紫の髪がややカール気味なことを除けばほとんどサクヤとティエリアにその姿が変わらないリジェネにユーノはその視線だけで射殺さんばかりの鋭い眼光をぶつける。
その理由は、彼が仲間たちと同じ姿をしているからではない。

「……なぜこんなところで非殺傷設定を解いた?」

悲鳴と警備員の怒号を背に浴びながら、ユーノは震える声で問いかける。
これだけの大出力の魔法を殺傷設定で、しかもこれだけ人が密集している場所で放てばどうなるかなどわかりきっている。
サクヤが巻き込まれた人たちに応急処置をして回っているが、すでにこときれているものがほとんどだ。
その事実は、リジェネがなぜ魔法を使っているのかという考えをユーノに与えず、ただ燃えたぎる怒りのみを提供していく。

そんなユーノに対し、リジェネは酷薄な笑みを浮かべて答える。

「愚問だね。君を殺すために決まっているじゃないか。もし、民間人が巻き込まれたのを怒っているのなら、あんなダミーに引っかかってこんなところまで来た自分を怒りなよ。」

あの情報がダミーだった。
それはいい。
自分のせいであることも認めよう。
だが、それを差し引いても許せるわけが無い。

「ふざけるな!!!!」

アームドシールドを回転させて鋭い刃でリジェネに斬りかかるが、リジェネはそれを腰から抜いた紫の刃で受け止める。
ユーノはかまわずにリジェネを押しきろうとするが、その瞬間にガルムと呼ばれたデバイスがリジェネの体を白と黒のパイロットスーツを模したバリアジャケットを展開して白いものをあちこちから噴出させ始める。

「っ!?」

〈Cocytus Ivy〉

蔦の様に絡みついてきた冷気は徐々にユーノの関節部分を氷で固めて自由を奪っていく。

「サクヤ!!」

ユーノはリジェネを蹴り飛ばして距離をとると負傷者の治療をしていたサクヤへ叫ぶ。

「僕はこいつの相手をする!!君もすぐにここを離れろ!!」

「わかりました。」

「そういうわけにはいかないな……」

〈Killer Hail〉

外から降り注ぐ凍てつく弾丸がユーノを次々とかすめていく。
その向こうから現れたリジェネはユーノに向けた憎悪の笑みとは違い、愛おしさすら含んだ穏やかな笑みでサクヤへと近づいていく。

「来ないでください。」

「怖がらなくていい……僕は君を迎えに来たんだ。」

「こ……来ないで……!!」

最初こそいつものように抑揚のない言葉で対処しようとしていたサクヤだったが、リジェネの接近に伴って徐々に無表情から恐怖の顔へ、そして声は震え始める。

「運命を受け入れるんだ……君はイノベイド……人間なんて劣等種のことなんて気にすることはない……」

「いや……いや……!!」

迫りくるリジェネがあの時の両親の姿にだぶる。
恐怖で動くことができない。

「サクヤ!!!!」

ユーノは体のあちこちが凍らされたままの状態でなんとかサクヤへ近づこうとするが、その間にもリジェネは虹彩を金色に輝かせながら着実に距離を縮めていく。

「フフフ……君は後でゆっくり氷漬けにしてあげるよ。まずはその前に彼女を……」

「させるか!!!!」

有効かどうか定かではないせいで一瞬ためらうが、ユーノは足元に発生させた魔法陣にリジェネを飲み込む。

「これは……!?」

リジェネは慌てて円の外へ出ようとするが、それよりも効果の発生の方が早かった。
それまでリジェネを覆っていたバリアジャケットと大きな銃身は消え、ユーノの体を覆っていた氷も少しずつではあるが消えていく。

「クソ!!」

(ここまでは予想範囲内……問題は、これからだ!)

悔しがるリジェネをよそに、ユーノはさらに意識を集中させる。
そして、

「グ!?」

突然リジェネは頭を押さえてその場に倒れ込んで七転八倒の苦しみようを見せる。

「グ…ああああぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」

「どうやら……イノベイドとやらは優秀な分この手の干渉には脆いみたいだね。」

「貴…様……!!!!」

リジェネは苦しみの中、憎悪に満ちた顔で睨みつけてくるが、ユーノもそんなことに気を割く余裕はない。

(さすがに……魔法や機械みたいにはいかないか……!)

今、ユーノがコントロールしているのは脳量子波。
テリシラの話ではイノベイドには個体によってそれぞれ異なる脳量子波を使ってヴェーダ、もしくは他のイノベイドと通信を行うらしいのだが、ユーノはその際に使われる脳量子波を乱すことで封じてやればリジェネの能力を半減させられると考えたのだ。
もっとも、魔法や機械類のようにスイスイというわけにはいかないが。

「よくも……!!」

「僕を殺そうとするのはともかく、サクヤに手を出すのはやめておいた方が賢明だよ。もう一度脳量子波を使えば今度は脳を完全に破壊する。」

はったりだ。
そこまでのことはできない。
だが、それでもさっきまでの激痛がよほど後を引いているのかリジェネは警戒してなかなか動こうとしない。
しかし、もしはったりだとばれたら。
あの重い負担の中、いつまで耐えられるかわからない術式を継続させなくてはならなくなったら。
考えただけでゾッとする。

「さっさと消えろ。命まで取ろうと思わない。(頼む…気付いてくれるなよ……)」

「フン、脳量子波を封じたくらいでずいぶん嬉しそうだね。(マズイ……ティエリアがいないからせめてサクヤ・レイナードだけでもと思ったんだけど……)」

互いにうかつな行動をできない中、警備員や連邦の兵士たちのものと思わしき足音が煙の向こうから近づいてくる。

「どうする?このままじゃ君も都合が悪いだろう?」

「だから?そんなことを理由に僕がサクヤを君に渡すとでも?」

「この状況では荷物が少ない方がいいだろう?」

いちいちもっともだが、それでもユーノは譲るつもりはなかった。

「あいにくと重荷なら定員オーバー以上背負い込んでるんだ。いまさら一つや二つ増えたってどうってことないよ。」

(こいつ……!!)

食いしばった歯を見せて笑うユーノと確実に近づいてくる足音に鼓動を早まっていくのを感じるリジェネ。
だが、ユーノも強がりでも笑っていられる状況がもう長続きしないことはわかっていた。

(どうするかな……)

ユーノがサクヤへ視線をやりながら考えを巡らせようとしたその時、

「ユーノ!!!!」

「「「!!」」」

その声に三人は一斉に自分がいた場所から跳ぶ。
リジェネは声と反対側へ。
ユーノとサクヤは声のした方へ。
そして、それまで聞こえていた警備員たちの怒号は驚愕の声へと変わって離れていく。
それに代わり、今度は澄んだ風のような独特の音を奏でていた機体が煙を吹き飛ばしながら現れた。

「クルセイド!ということは…」

「すまない、遅れた。」

「いやいや!ナイスタイミング!」

クルセイドから聞こえてくる967の声に安堵の息をつくとユーノはサクヤを両腕で抱き上げて開いたコックピットへと滑りこむ。

「女連れとはいい御身分だな。」

「そんないいもんじゃないって。それより、敵は?」

「何機か墜としてきたがジンクスが二機ほど追ってきている。」

ユーノはパイロットスーツに着替えもせずに操縦桿を握ってペダルを踏み込む。
いつもは半減している衝撃が直に伝わってしまい少し顔を歪めるが、空へと飛びたった瞬間にすぐ近くまで来ていた正規軍のジンクスの一機の腕を一刀両断して蹴り落とす。

「それで、僕たちを助けに来るのだけが目的じゃないんだ……ろっ!!」

迫っていたもう一機の刃をゆるく高度を下げてかわしたクルセイドの中でユーノが叫ぶ。

「ああ。どうにもアレルヤ達が厄介なことになっているみたいなんでな。」

敵の攻撃をGNフィールドで防ぎながら967はいつものようにあっさりと答える。

「なるほどね。それじゃ、早いところ行こうか。」

腰から抜いたシールドバスターライフルで頭を吹き飛ばすとユーノはそのままクルセイドを海中へと沈めていく。

その様子を上空から見ていたリジェネは端整な顔を怒りで歪める。

(挨拶は済んだかい?)

突然聞こえてきたリボンズの声にさらに怒りを募らせるが、すぐに爽やかな笑みを浮かべる。

(ああ、十分すぎるほどにね。でも、君が欲しがるわけは結局わからずじまいだったけど。)

(フフフ……そういうことにしておいてあげるよ。)

リボンズからの言葉が消えると同時にリジェネは不機嫌な顔でその場を後にする。

(認めない……!!お前なんかが僕なんかより優れているなんて!!)






中東

ユーノがリジェネと対峙しているころ、テリシラ達は夜に行われた作戦の帰路で一息ついていた。

「随分と操縦が上手いようだな。」

テリシラは汗を拭いていたスルーにコーヒーの入ったカップを渡しながら話しかける。

「MSのことか?それなら当たり前さ。小さい頃から乗っているからね。」

スルーは渇いた喉へ熱い液体を流しながら不機嫌な顔で答える。

「……戦わなけりゃ生き残れなかったからね。」

確かに彼女の操縦には舌を巻くところがいくつもあった。
それがイノベイド故なのか、それとも彼女の言うように本当に昔からMSに乗っていたからなのかは定かではないが。

「……俺たちが戦うことがそんなに不思議なことか?」

スルーの言葉に続いてレイが隻眼をテリシラへと向ける。

「戦うから連邦も黙っちゃいないんじゃないのか?」

「ハッ!わかっちゃいないね。連邦は非武装の相手だろうと邪魔なら攻撃してくる。こっちはあくまで正当防衛さ。」

「ああ。戦わなければ生き残れない……俺はこの左目を代償にそのことを学ばされたよ。」

「しかし、先程の戦闘で負傷者も双方に出たろうに……」

「あの、ドクターさん。」

それまで全員にコーヒーを淹れていたハーミヤがテリシラの袖を引っ張る。

「あの基地は中東とヨーロッパの双方への中継基地でした。あそこにダメージを与えれば両方の基地への武力配備が遅れます。つまり、ひいては戦いを避けることになるんです。これってステキだと思いませんか♪」

「いや、だからと言ってだな……」

「「…………………」」

「?どうした?あんたらさっきから話に全然参加しないじゃないか。」

スルーから言葉をかけられたアレルヤとマリーはびくりと体を震わせる。

「なんかあったのか?」

「い、いや……別に……」

バツが悪そうに視線を外すアレルヤ。
スルーはその態度にムッとするが、それも仕方ないだろう。
言うなればスルーたちがあえぎ苦しむ原因の一部はアレルヤ達ガンダムマイスターにもあるのだから。

そして、マリーも連邦軍兵士の一人として彼女たちと戦っていた。
先程の話を聞いて罪悪感を感じないはずがない。

「…本当に、大変だったんだなって思って……」

「あんたらはドクターと同じ意見なんじゃないの?」

「私たちはそんなことが言える立場じゃないから……」

「ふーん…。ところでさ。」

スルーは話しも中ほどにテリシラに詰め寄る。

「あんたさ、やっぱり見たことある顔だよね。」

「いや……」

顔をそらしてスルーの視線を避けるが、それでもスルーはしつこくサングラスの奥まで覗き込もうとしてくる。
その時、

「ブラッドさん、おかわりどうぞ……あちゃっ!!」

「うあちゃっ!!!おい!ハーミヤ!!」

今回の保護の対象であるブラッドの腹部にハーミヤが持ち前のドジさでコーヒーをひっかけてしまう。
全員が「なんだ……」と安堵するが、そんなものとは比べ物にならない危機がブラッドを襲う。

「グアッ!!?」

「あひゃ!?」

鈍い銃声と同時にブラッドとハーミヤはその場に倒れる。
だが、ハーミヤが無傷なのに対しブラッドは苦しそうに肩にできた銃創を押さえる。

(来たかラーズ!!)

再び銃声があたりに響き、今度はブラッドの脚から赤い飛沫があがる。

「ブラッド!!」

「あいつか!!」

スルーとレイは銃を抜いて緩やかな崖を滑り下りてくる影に向けて発砲しようとする。
だが、

「うっ!!」

「うあっ!!」

「手を上げて離れてもらおうか。そいつは人間ではない存在だ。」

銀髪の長い髪を揺らしながら、失った左目をケーブルで狙撃銃のスコープとつないだラーズが近づいてくる。
威圧感の漂うその風貌に並みの者ならば大人しく引き下がったのだろうが、今回の相手は違った。

「医者として患者を見殺しにはできん。」

「ドクター!!」

マリーが慌ててテリシラをかばうようにラーズとの間に割ってはいるが、ラーズは特に怒るわけでもなくある程度距離を保ったままスコープ越しにブラッドを狙っている。
そして、冷たく言い放った。

「似非人は生きている価値などない。」

ラーズの行動理念であり、百年近く経とうと生き続けてきた理由そのものだ。
だが、その言葉がテリシラの逆鱗に触れた。

「価値のない命などあるものか!!!!」

医者としての自分を否定するその言葉が許せなかったテリシラは激しい口調でラーズを怒鳴りつける。
だが、それはこの状況では逆効果だったようだ。

「ならばどけっ!!!!己の命を守るがいい!!!!」

「「クッ!!!!」」

激情に任せて弾丸が放たれる前に、テリシラとアレルヤはほぼ同時に動き出していた。
そして、ブラッドをかばってその身に弾丸を受けたのは、

「うあっ!!!!」

「アレルヤ!!!!」

絹を裂くような声をあげながらマリーはピクリとも動かないアレルヤへと駆け寄る。
銃を発砲したラーズはというと動揺から銃を下げて、カタカタと震えている。

「なぜだ……!?私に人を傷つけさせるな……!!」

震える声でそう言い残すと背を向けて去っていくが、テリシラ達はそんなことなど構わずアレルヤの傷の具合を確かめる。

「アレルヤ!!!!アレルヤ!!!!」

「心配するな!!防弾チョッキは貫通していない!!」

しかし、それにしてはやけに気を失っている時間が長いと不審に思うテリシラだったが、そんな心配をよそに突然カッと目を見開いたアレルヤはスクッと立ち上がる。

「アレルヤ!!よかった!!本当によかった!!!!」

「たくっ!!むちゃすんじゃ…」

「……あの野郎は?」

「え?」

その時になって、ようやく全員アレルヤの異変に気付いた。
先程までの温厚な笑みはなりをひそめ、鋭く凶暴な眼光と荒々しい口調でまわりにピリピリとした緊張感をばらまく。

「オイ、メスガキ。」

「あひゃ!?」

「お、おい!?なにすんだよ!!」

スルーが止めるのも気にせずアレルヤ(?)はハーミヤの胸倉を掴んで顔の高さまで持ち上げる。

「あのクソ野郎はどこに逃げた?とっとと答えないとテメェから殺すぞ?」

「何をしてるんだアレルヤ!?早くハーミヤを…」

「うるせぇぞヤブ医者ぁ!!俺は寝起きが悪いんだ……口答えばっかしてっとミンチにすんぞ!!?」

「う……!!かはっ…!!」

「わ、わかった!!言うからまずハーミヤを…」

「口答えすんなつったろ!!あのクソ野郎の前にテメェらから先に…」

アレルヤ(?)が銃を抜いてテリシラにつきつけようとするが、その手をマリーが止める。

「あなた……ハレルヤね。」

「!!」

「あひゃっ!!」

テリシラは驚きのあまり尻から落下したハーミヤのことも忘れてまじまじと二人の顔を見比べる。

「フン……動けるようになったら今度は名前つける以外のお節介まで焼くのかよ、マリー。」

「あの人が行った場所なら教えるから、この人たちには乱暴をしないで。」

「……チッ!」

ハレルヤはおもしろくなさそうにそっぽを向くと銃をしまう。
それを見ていたスルーとレイもホッと緊張感を緩めるが、テリシラだけは気を緩めない。

「ラーズを追ってどうする気だ?」

「決まってんだろ……俺を撃ったことを後悔させながら地獄に送ってやるのさ。」

「待て!そんなことは…」

「マリー、奴はどこに行った?」

「あ、あっちに…」

テリシラの制止も聞かずにハレルヤはマリーが指さした方へと猛然と駆けていく。

「ま、待て!!」

「テメェは“妹”といっしょに大人しく待ってな!!ハハハハハハ!!!!」

「妹……?」

なんのことかと首をかしげるが、その時になってようやくテリシラは顔にあるはずの感触が無いことに気付く。

「ド、ドクター……」

マリーがおずおずとサングラスを差し出す。
どうやらあの騒ぎの合間に落としてマリーが拾ってくれていたようだが、すでにそれは意味を為さないものになっていた。
テリシラの顔を見ながらレイ、ハーミヤ、そしてスルーが目を白黒させながらテリシラの顔を凝視する。

「あ、あんた……」

「同じ顔……」

「……どういうことだ?」

「え、え~と……」




この後、不覚にもテリシラはハレルヤの残していった言葉に感謝することとなった。




孤島

体によってくる羽虫を払いのけながらレイヴはうっそうと茂る気や蔦の間を進んでいく。
一介の学生に過ぎないレイヴがこんなところに一人でいたらさぞかし心細いだろうと思うだろうが、その心配は無用だ。

(ブリュン、現在地の確認を頼む。)

(レイヴの脳量子波の位置を確認。ガンダムから発信されている脳量子波の方向へ向かっています。そのまま進んでください。)

ここにはいない幼い仲間の言葉にレイヴはクスリと笑みを漏らす。

(助かったよ。君の能力が無かったら今頃迷子だ。いや、その前にガンダムの存在すら気付かなかっただろう。)

(お役にたててうれしいです。ブリュンの能力は脳量子波を使う者同士を強力につなぐことができますから。)

(それに引き替え、僕は写真とかの映像からしか仲間を見分けられない。ヴェーダがどうしてそんな能力にしたのか不思議だよ。)

自嘲気味につぶやくレイヴ。
もちろん、今のままでも十分にすごい能力なのだが、どうせなら直接見てわかるぐらいのことをしてくれてもよかったのではないかと不満に思ってしまう。

(その理由はわかりませんが、レイヴの能力の仕組みは説明できます。)

(え?)

(ヴェーダはイノベイドが見たものやネットワークに流れた情報すべてに『タグ』を埋め込んでいます。一般のイノベイドはその『タグ』を認識できませんが、ブリュンは脳量子波を強めた時なら『タグ』があることがわかります。でも、解読はできません。ですが、レイヴは無意識に『タグ』から仲間を認識できるのでしょう。)

(つまり、多くの情報の中から仲間の項目だけわかるということだね。)

顔を蔓の間に押し込んで、広がった隙間に体も押し込んでどうにかひらけた場所まで出たレイヴは手近にあった岩に腰かけて水を飲む。

(その話が本当なら、仮説ではあるけどわかったことがある。)

(なんですか?)

(イノベイドの特殊能力は基本的にリミッターの解除に過ぎないんじゃないかな。例えば、ブリュンの能力は脳量子波の強化だけど、全てのイノベイドが初めからブリュンのように強い脳量子波を持っていたっていいはずだし、僕のように全員がタグを読めたっていいはずだ。でも、あえて能力は封じられているんだ。イノベイドは人の世界で生きるために能力にはリミッターをかけられているけど、僕たち六人の仲間だけが能力の解除を許される存在なのかもしれない。)

(確かにそうですね……レイヴさんに見いだされ、テリシラ先生に力を引きだされるわけですから。)

(ヴェーダの情報によると本当に超能力みたいな力を持つイノベイドもいるみたいだけど、僕たちはほんの少し能力を付加された存在なんだろうね。)

(だからユーノさんも勘違いされたんですね。)

(フフ……いい迷惑だったろうけどね。)

(でも、ほんの少しという表現はどうでしょうか?)

(え?)

ブリュンの否定の言葉にレイヴはポカンとする。

(レイヴを呼ぶガンダム……その力はとても強大なものだと思います。)

(……………………)

レイヴの脳裏に数日前に見たあの夢の光景がよみがえる。
知らない人間と、自分すらも知らない過去の自分がガンダム同士で戦っているヴィジョン。
その夢の意味するものを知ることも、レイヴの今回の探索における目的の一つだった。

(レイヴとガンダムが出会った時、何が起こるのか………ブリュンは……恐ろしい………)

(……大丈夫さブリュン。)

レイヴはブリュンの不安を取り払うように努めて明るく答える。

(ここまで来たんだ。先に進むよ。)

(……はい。)

レイヴは腰を上げると赤茶けた山の方へと歩き始める。

そのわずか後ろ。
透けた犬のような生物が茂みに潜んでいた二人の人物のもとまで駆けよっていく。

「いくかい?」

ジャングルにはおおよそ似つかわしくない白いタキシードで身を固めた男が横にいるこれまた白のコートを着た男に問いかける。

「いや、もう少し待とう。もし、あれが……1(アイ)が残っているとしたら、ついでに破壊しておいた方がいい。」

「わかった。」

タキシードの男は再び犬を放つとその二人はレイヴの後を追い始めた。





中東

じりじりと照りつける太陽の光をラーズは自らへの罰のように全身に浴びていた。
いや、あるいはその光で自らの体にこびりついた汚れを払いたかったのかもしれない。
汗が噴き出てくるのも構わずにラーズは血の涙を流しながら足を引きずるように歩いていく。

「神よ……許したまえ……!」

「許してやるぜぇ?テメェが死んだらな!!」

「!!」

かわした二発の銃弾がラーズの髪を散らしながら遥か彼方へと飛んでいく。
しかし、それに安堵する暇もなく今度は鈍く光るナイフの刃が喉もとへと迫る。

「くぅ!!」

薄く皮をはがされながらも再び間一髪でかわして距離をとる。
襲撃者はその様子を見ながら舌なめずりをしながらナイフをくるくるとまわして遊ぶ。

「いいねぇ……殺されるにしてもそれくらいしてくれねぇとなぁ。」

「お前は……ガンダムのパイロットの一人か。」

「んなこたどうだっていいんだよ……とっとと良い声あげながら死んでくれやぁ!!!!」

金と銀のオッドアイが陽の光を反射しながら怪しく光ったかと思うと一気に距離を詰めてくる。
ラーズは突き出されたナイフを銃の柄で受け止めて弾き返すが反撃はしない。

「去れ。人は殺さない。」

「クハハハハ!人間か……あの馬鹿ども以外に俺たちをそう呼ぶやつがいたとはな。アレルヤが聞いたら泣きだしそうだぜ。」

突然の襲撃者、ハレルヤの笑い声に眉をひそめながら、ラーズは再び警告する。

「もう一度言う。去れ。」

「そうはいかねぇなぁ……アレルヤには悪いが、テメェを殺さねぇと俺の気が収まんねぇンだよ!!!!」

右手に握っていた銃を捨ててもう一本ナイフを握ったハレルヤは両手を広げて突進していく。
空気を斬り裂く音にラーズは一層の警戒心を強めていくが、それは突然起きた。

「グッ!!?アレルヤ、てめぇ!!」

「!?」

「邪魔すんじゃねぇよ……!!!!グアッ!!!わかったよ!!代わってやる!!」

事態が飲み込めないラーズにハレルヤは憎悪をこめた視線をぶつけるが、それも長くは続かず焼けつくような大地に倒れ込む。

「とまったか……?」

ラーズは慎重に近づいていくが、そこに激しく地面が削りながら向かってくるジープが突進してくる。

「チッ!!」

ラーズはライフルを構えると牽制の意味を込めて運転している黒髪の男の脇に銃弾を撃ち込んで動きを鈍らせる。
その隙にボンネットの上に素早く飛び乗ると運転していた男に銃口を突き付けた。

「悪いが、似非人のもとまで案内してもらうぞ。」

ラーズのその言葉に、アレルヤを追ってきたテリシラはラーズに気付かれないように小さく笑った。





孤島 山内部

「こんなところにこんなものがあるなんて……」

山の麓にあった洞穴を進んでいたレイヴは感嘆の声を漏らす。
ここまでのものを誰にも気付かれずに作り上げたという事実に改めてソレスタルビーイングという組織の隠密性を思い知らされる。
この調子では案外日常生活の中にいても気付かずにソレスタルビーイングの関係者と接していることがあるかもしれない。

「ハハ…まさかね。」

そんなことを考えながら歩いていると、ようやく完全に人工物でできたものを発見する。

「扉が…」

その扉はレイヴが振れるより早く、脇に設置されていた小さなレンズから光が放ち認証を完了して久方ぶりの来訪者をその部屋に招き入れた。

「見つけた……」

レイヴは夢遊病者のような足取りでそれの前まで歩いていく。
額から突き出たV字型の白い突起とその下にある相手を射すくめるような眼。
白と紺色だけでカラーリングされたその体は最新型であるアヘッドがゴテゴテと余計なものばかりがついている不良品に思えるほどのある種の洗練された美しさがある。
だが、胸部にある薄い青のコアの冷たい印象と爪のように鋭い指のせいでその美しさが悪魔の持つそれのように思えてしまう。

「これが僕を呼ぶもの……ガンダム……!」

まるで封印でもされているように透明な球体と立方体のフレームで固定されたガンダムは自分で招いた客であるレイヴを見下ろしたまま動こうとしない。

「動くのかな?どうやったら取り出せるんだろう?」

ゲストであるにも関わらずこの部屋の主を目覚めさせるために何かないかと探し始めるレイヴ。
だが、招かれざる客たちもそれと同時に部屋の中へ踏み込んでくる。

「え!?うわぁ!?」

犬のようなものがレイヴを襲う。
レイヴがそれをようなものと思ったのは、すくなくともそれが犬ではないとわかったからだ。
まず、見たこともない種類であったし、目が普通の生物ではありえない色をしている。
なにより、それを通して床や壁が見えるのだから完全に犬だと認めるのはいささか抵抗がある。

「1ガンダム……そんな物騒なものをどうするきだい?」

「誰です!?」

レイヴは飛びかかってきた犬のようなものを手で払うと声の方を向く。
そこにいたのはこの亜熱帯の島に着てくるにはふさわしくない白いコートと白いタキシードで身を固めた二人の男だった。
タキシードの男を見つけた犬のようなものは嬉しそうに尻尾を振りながら彼の足元へ戻っていく。

「通りすがりのイノベイドと…」

「その友人その1さ。」

突然の襲撃で気分を害していたレイヴだったが、イノベイドと聞いてほっと安心する。

「僕もイノベイドなんです。ある使命を受けてここへ……」

「なるほど。なら…」

「!?」

コートの男は懐から銃を取り出してレイヴに向ける。
訳がわからず声もあげることのできない彼に、男は綺麗な笑顔を見せる。

「その使命とやらを聞かせてもらおうか、ビサイド・ペイン君。」

レイヴが混乱する中、ようやく仇を見つけ出したヒクサー・フェルミはこらえきれずにもう一度クスリと笑った。






目覚める悪意
交わる運命
その果てに希望はあるのか……




あとがきという名の新年明けましておめでとうございます

ロ「新年一発目となった第十二話でした。そして、新年あけましておめでとうございます!」

学生「ロビンさん、今年に入ってからカレンダー見ました?」

ロ「あけましておめでとうございます!!」←「空気読めよ。」的な視線

スルー(以降 勘違い)「あ、駄目だこれ。知らぬ存ぜぬで押し通す気だ。」

ハーミヤ(以降 ド天然)「えっと、作者さんが触れないようにしていますが、更新が遅れて本当にごめんなさい!」

毒舌医師「浮かれて忘れていた課題をこなすのにかなり時間がかかってしまったようだな。いや、弁護するわけじゃない。むしろ忘れて浮かれていたこの阿呆に鉄槌を下したいくらいだ。」

レイ(以降 レ)「しかし、ようやくI編が本格始動してきたな。」

勘違い「やっとあたしらも出れたよ……てかこっちで魔法戦なんてやってよかったの?」

リジェネ(以降 腹黒)「それは僕に出てくるなって言いたいのかい?」

サ「いえ、そうではなくて純粋に心配してるんです。あなたただでさえ微妙な立ち位置なんですからここで無理すると二度と出られなくなりますよ?」

腹黒「何この子!?設定的には感情まだ取り戻してないのにこの切れ味鋭い嫌味はなに!?」

ド天然「たぶん嫌味で言ってる自覚ないですよ?」

腹黒「なお悪いわ!!」

レ「なら最上級の嫌味を込めた言葉ならいいのか?」

腹黒「いやそういうわけでもないけど!!」

学生「……えー、なんかもう腹黒さんが可哀そうになってきたのでここらで次回予告に行きます。」

腹黒「腹黒言うな!!!!本名で呼べ!!!!」

毒舌医師「次回もI編。」

勘違い「ようやくガンダムまでたどり着いたレイヴに復讐心に駆られたヒクサーがせまる!」

レ「しかし、そこで覚醒を果たすIガンダム!」

ド天然「けど、それは狡猾に仕組まれた罠だった!」

腹黒「そして、ラーズの覚醒を試みるテリシラ。」

学生「その時、ブリュンの心によみがえる感情とは!?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお願いします!じゃ、せーの……」

一同「次回をお楽しみに!!」



[18122] 13.1ガンダム
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/01/16 21:14
ラグランジュ3 ソレスタルビーイング・ファクトリー

広い宇宙のとある一角。
細かな岩の欠片の中にポツリとある一つの大きな衛星。
その中に作られた施設の廊下を菫色の髪をした女性がメガネをかけた女性の後ろをついていく。

「わからないことは何でも聞いてね。」

「はい。慣れるまでご迷惑をおかけします。」

振り返る時に金色の髪がふわりと揺れる様を後ろから見ながらアニュー・リターナーはぺこりと頭を下げる。
そんな彼女にリンダ・ヴァスティはいろいろな意味でホッと胸をなでおろす。

「トレミーは行方不明になっちゃったけど、残っているマイスター二人のためにもガンダムを強化する装備を作っていかないといけないから……フフッ、忙しくなるわよ。」

「はいっ!」

「それにしても、アニューさんのような優秀な人が入ってくれて助かるわ。」

「?」

「どうもうちは変わった人が多いから。とくにメカニックは主人も含めて『M・A・D』がつくようなね。それに、目を離すとすぐにどこかに行っちゃうし……」

「ハハ…ハ………」

夫が行方不明になったのをどこかに行っちゃったの一言で済ますリンダにアニューは苦笑を禁じ得ない。
おまけに自分もメカニックであるのに『M・A・D』がつく人間ばかりだとフワフワした空気で言う神経の図太さは尊敬の念すら抱きたくなる。
いや、案外リンダの言っていることが本当で彼女が天然であると勝手に自分が認識しているだけなのではとまで思えてくる。

(私、そんな人たちと上手くやっていけるのかしら……)



シェリリンの部屋

そんなやり取りが外で繰り広げられていることなど知らず、フェレシュテのメカニック、シェリリン・ハイドは古いものから新しいものまでありとあらゆるデータを目の前のモニターまで引っ張り出していた。

「さぁてと!ガンダムのパワーアップパーツの開発。すんごいのつくって師匠とユーノをアッと言わせてやるんだから!」

クルセイドをいろいろ弄りまわした時点でアッと言っているのだが、そんなことを知らないシェリリンの気合はとどまるところを知らない。

「まずはアリオスだけど……追加装備自体がMSに変形するってどうよ?これって師匠に受けそう!……そうだ!確か倉庫にあれがあったはず」

そう言ってモニターに出したのは普通のMSよりも一回り小さい機体。
体も全体的に丸みを帯びていて無骨な男性よりも可憐な少女を連想させる。

「GNY-0042-874、ガンダムアルテミー……懐かしいなぁ。」

この機体、アルテミーは肉体を持つことを拒んだ874のために作ったガンダムであり、シェリリンにとって初めて作成に携わった機体である。
今改めて見てみると出来が荒い部分もあるが、大切な友達を思って作ったあの情熱が時を越えて体の中に流れ込んでくるようだ。

「874、どうしてるかな……」

今はここにいないシェリリンの大切な友達。
あの独特の笑い方をするマイスターとともに今もどこかの戦場を駆けているのだろうか。
心配にならないことはないが、彼女にも自分にもやらなくてはいけないことがある。
それに、お互い生きていればいつか会うこともできるだろう。

「さて、他に使えそうなものないかな~。」

頭を切り替えるために独り言をつぶやきながらサルベージを再開しようとするシェリリンだったが、874のことを思い出したついでに浮かんできた一人の青年の笑顔を思い出して手が止まってしまう。

「てぇーー!!違う違う!!今はユーノのことはこっちに置いといて……」

頭をぶんぶんと振りながら高速でコンソールの上の指を躍らせるが、

『ユーノに会いたい。ユーノとデートしたい。ユーノと……etc』

「わぁーーーー!!!?違うの!!これは違うからね!!?」



シェリリン・ハイド、19歳。
経験豊富なようで実はうぶな恋多き乙女であった。





魔導戦士ガンダム00 the guardian 13.1ガンダム

孤島

レイヴは未だに事態を飲み込めずにいた。
というより、さっきからわけのわからないことが起こりっぱなしだ。
ヒクサー・フェルミと名乗ったイノベイドとその友人と言った男のもとに戻った犬のようなものは相変わらず唸り声を上げながら自分を睨みつけているし、ヒクサーからは銃を向けられかなり危険な状況だ。
それに、どうして彼らがここに来ることができたのかがわからない。
ここにこれがあるのを知っているのは自分とブリュンだけのはずなのに。

「もう一度聞くよ。」

ヒクサーは一歩前に出る。
それに合わせるようにレイヴも一歩後ろに下がる。

「その物騒な1ガンダムで何をするきだい?」

「アイ…ガンダム?」

(……?)

その反応にヒクサーは違和感を覚える。
まるで、自分が操っていた機体のことを何も覚えていないかのようにオウム返しをする彼が自分の親友を死に至らしめた人物と同じだとは思えない。

(何を馬鹿な……演技に決まっている。)

復讐の対象として見れなくなりつつある自分を叱りつけると、わざわざ知らんぷりをしている仇に説明をしてやる。

「イノベイドをガンダムマイスターとして武力介入させるために造られたガンダム……イノベイドの能力とこのガンダムの能力が合わされば圧倒的だったろうね。ひょっとしたら、世界は今とは違った姿になっていたかもしれない。もっとも、実際にはマイスターに人間が選ばれたため、こいつは使われなかったがね。」

「このガンダムが武力介入のための機体…?」

(白々しい……!)

ヒクサーはいっそこのまま引き金を引いてやろうかと指に力を込めるが、後ろにいるヴェロッサに止められる。

(もう少し待とう。どう見ても彼の反応は変だ。)

(けど……!!)

「でも……」

最後までごねたヒクサーだったが、レイヴが話し始めたので否応なしにヴェロッサの指示に従ってレイヴの言葉に耳を傾ける。

「僕はただこれに呼ばれてここに来ただけで……」

「ほう…呼ばれた、ね……流石はその機体のマイスターだ。」

感情が高ぶっていることに気付いたヴェロッサはヒクサーを止めようと肩に手を置くが、それすらも振り払ってヒクサーはもう一歩前に出る。

「まさかアレハンドロ・コーナーがアルヴァトーレを開発した施設に機体を隠しておくとはね。恐れ入ったよ。」

「ヴェーダからダウンロードされたデータでその人や機体のことは知っています。でも!」

「でも……なんだい?」

威圧感のこもったヒクサーの言葉にレイヴはたじろぐが、自分の身の安全のためにも意見はしっかり主張する。

「僕には関係ない……!それにかかわったイノベイドは別にいる!そもそもヴェーダが僕に与えた使命はほかにあって……」

「それは奇遇だね。君もヴェーダのミッションに従っているのかい?」

一瞬見せたヒクサーの柔らかな笑顔にレイヴはようやくわかってもらえたと思い緊張の糸を緩める。

「そ、そうなんです!イノベイドの中から六人の仲間を……」

「でも、おかしいな…」

「え……?」

ヒクサーの笑顔が一瞬にして鋭いものに変わる。

「この僕もヴェーダの命令で君を追ってここまで来たんだよ。」

言い終わるが早いか、鋭い銃声が部屋の中にこだました。




中東

「悪いが、似非人のもとまで案内してもらうぞ。」

「まさに神出鬼没だな、ラーズ・グリース。」

テリシラはラーズにばれないように小さく笑いながらサングラスをゆっくりと外す。
ちらりと横に視線をやって倒れているハレルヤを見るが、倒れてこそいるがこれといって外傷は見当たらない。

(彼が人間だったから見逃したのか?だとしたら、やはりスルーを連れてこなかったのは正解だったな。)



三十分前 カタロン基地

「で、どういうことかきっちり説明してもらおうか?」

おどおどするマリーを蚊帳の外に追いやり、素顔をさらしているテリシラを取り囲むカタロンのメンバーたちは厳しい追及の視線をぶつける。

「ドクター、あんたは一体何者だ?スルーとどういう関係にある?」

レイに露骨なまでの疑いのまなざしを向けられ、テリシラは目をそらすが、その先には同じ顔をしたスルーが気味悪そうに自分を見つめている。
その横ではハーミヤが物珍しそうに自分とスルーの顔を見比べている。
まさしく四面楚歌。
唯一味方であるマリーはあの調子だから援護は期待できない。
ならば、

「妹よ!!」

テリシラはかなり当てにならない切り札を思い切って使うことにした。

「私はお前の兄さんなんだ!!」

(ドクターーーーーー!!!!!?)

マリーの心の叫びは聞こえずとも彼女の冷や汗まみれの顔から自分のとった選択がどれほど馬鹿げたものであるかよくわかる。
だが、ここまできたら押し通すしかない。
テリシラは覚悟を決めると最高の(作り)笑顔でスルーに語りかける。

「私は生き別れになったお前がここにいると聞いていてもたってもいられずに駆けつけたんだ!!」

(だからその設定はかなり無理がありますって!!!!)

声なきマリーのツッコミにもめげず、テリシラはスルーと真正面で向き合う。

(う……)

あまりにも突拍子もない話だったせいか、スルーは全身をプルプルとふるわせてテリシラを睨みつけている。

(や、やはり無理があったか……!!)

(当たり前でしょ!!あなたそれでもテレビのコメンテーターですかっ!!?)

もうおしまいだ。
二人は覚悟を固めるが、スルーの反応が突如変わる。

「兄さん……!」

「「へ?」」

「兄さ~~ん!!!!」

((ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!?))

目を潤ませながら飛び込んできたスルーに押し倒されてテリシラは尻もちをつく。

「オ…オヤジが事業に失敗して、家族がバラバラになって私ずっと一人でさびしかったんだ!!」

(ナイス設定だヴェーダ!!)

(いやいや!!ありえないでしょ!!)

ホッとするテリシラと現実的にありえない事情をさも当然のように受け入れて感涙にむせぶスルーにマリーは全力でツッコム。

(ハッ……!でも、イノベイドのスルーさんはともかく、ハーミヤちゃんやフライハイトさんは……)

「ステキ!!生き別れの兄弟の再会だわ!!」

「…………まあ、そういうことにしておいてやる。」

(…………………………)

もはや何も言うまい。
そう心に誓うマリーは目の前の現実を仕方なく受け入れることにした。




回想終了

あの後、自分たち以外に十人いた兄弟姉妹はどうしているかなどのとんでもない話をごまかしてなんとかここまで来たわけだが、さっきまでのはあくまで前座でここからが本番だ。

「彼を殺さなかったのか?」

「人は殺したくない。」

「何百人も殺しておいてか?」

テリシラの言葉にラーズがわずかだが顔を歪める。

「奴らは似非人。人間ではない。」

「確かにな。」

「なに?」

ラーズの肩がピクリと動く。

「だが、イノベイドも人間と同じように生きていている。」

「なぜそのことを……まさかお前!」

「そして、君もだろ?ラーズ。」

「!!」

その瞬間、穏やかだったラーズに明らかな敵対心が生まれる。
それでも、テリシラは臆しない。

「なぜ認めない!百年も生きているイノベイドハンターが普通の人間であるものか!!君はイノベイドだ!!」

「黙れ!!似非人っ!!!!」

ラーズは発砲しようとするが、それよりもテリシラの方が早かった。

「目覚めろ!!ラーズ・グリース!!!!」

「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

六人の仲間の能力を覚醒させる能力。
それがテリシラに与えられた役割なのだが、覚醒させる能力がどういったものになるかはテリシラにも覚醒させられる側にもわからない。
そう、たとえそれがどれほど危険なものでも。

「!!?」

テリシラ達のはるか後方。
空から細い光の柱が降りてきたかと思うと爆音とともに地上に大きな光のドームが生まれて全てを砕いていく。

「なんだあれは!?」

光の柱は一度だけではなく何度も地上に降り注ぎ、地形を変えながらテリシラ達に近づいてくる。

「私は……似非人……生きる価値などない……」

「まさか……お前がやっているのか!?」

左目から血の涙を流しながら視線を虚空にさまよわせるラーズの肩を必死にゆする。
だが、同じうわごとを繰り返すだけで光の進行は一向に止まる気配がない。

「オイ、ラーズ!!やめろ!!」

「似非人に…死を……」

「クッ!!」

すでにあと数百mというところまで迫っている光に焦るテリシラ。
だが、いつの間にか目の前まで来ていた人影がラーズの首元に手刀を当てて意識を刈り取ると、そのまま彼を抱きかかえる。

「君は……アレルヤ君の方か?」

「御心配をおかけしてスイマセン、ドクター。」

光が消えた空の下、太陽を背にしたアレルヤの微笑みにホッと胸をなでおろす。
だが、いつまたあんなことが起こるかわからない。
なにせ、ラーズは気を失っているだけで今も生きているのだから。




孤島

「……反撃はしないのかい?」

すぐ後ろにできた小さな焦げ跡から再びヒクサーへと視線を戻したレイヴはどくどくと高鳴る胸の鼓動をどうにか抑えようとするが、体の方はそれを拒む。

「僕を撃つことがヴェーダからの指示なんですか?」

「いや、これは私怨さ。ビサイド・ペイン君。」

ここに来てから聞き飽きたその呼ばれ方に、レイヴは歯を食いしばって反論する。

「僕はレイヴ・レチタティーヴォ!ビサイド・ペインなんて人は知りません!!何かの間違いだ!!」

しかし、レイヴの必死の訴えもヒクサーには小賢しい演技としか認識してもらえず、怒りの炎は一層激しく燃え上がる。

「これはヴェーダが教えてくれた情報だよ。今日この場所にビサイド・ペインというイノベイドが現れる。そして、そのイノベイドこそ……!!」

ヒクサーは後ろに新たな親友がいることも忘れて激情に身をゆだねる。

「かつて僕のかけがえのない友の命を奪ったガンダムマイスターだとね!!!!」

「よすんだ!ヒクサー!!」

「うわぁぁぁぁぁ!!!!!」

撃たれる。
そう思ったレイヴは反射的に脳量子波を最大レベルで辺りにまき散らす。
そして、それを待っていた巨人の目に光が灯った。

「な!?」

球が消えたかと思うと、1ガンダムを取り囲んでいたフレームも細かなブロック片へと分解される。
それが終わると今度はその拘束から解き放たれた1ガンダムが喜びを全身で表現するように四肢をグッと伸ばして背中の出力機関、GNドライヴ[T]を唸らせる。

「封印がとけた!?」

レイヴを撃つことも忘れて動揺するヒクサー。
だが、レイヴの方はもっと大変だった。
目覚めた1ガンダムから送り込まれる見たこともない光景に混乱して何が起きているのか冷静に考えることができない。

「僕は……!!僕は、だれだ!!?」

そんなレイヴを守るように1ガンダムは鋭い爪をヒクサーとヴェロッサに振り下ろす。
間一髪でかわす二人だが、生身の人間がMSに対抗できるはずがない。

「ヒクサー、ここは…」

「わかってる。」

入口までさがったヒクサーは苦々しげにレイヴを睨む。

「ビサイド、覚えておいてくれ。ガンダムの力を得たとしても僕の復讐を止めることはできないよ。」

振り下ろされる拳をバックステップでかわしたヒクサーはそのまま退散していった。

「僕を…守った?」

無人のはずの1ガンダムの不可解な行動に戸惑うレイヴだったが、心の整理をつける間もなく1ガンダムから手を差し伸べられる。

「この中に、真実があるのか……?」

恐る恐る腕を登ってコックピットの中に入るレイヴ。
中は想像以上に暗く、上から射し込む光でどうにか座る場所と操縦桿が確認できる程度だ。

「すごいな……これがMSの……」

操縦席に座って操縦桿に触れたその時だった。

「!?うわああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?!?」

頭の中に膨大な情報が流れ込み、心すら蹂躙されていく。
そんな中、レイヴの目にはあるものが写されていた。

(これは……ビサイドの記憶!?僕の…過去!?)






「ソラン・イブラヒム?そいつにエクシアを?」

俺の視線を涼やかな笑みで受け流すリボンズ。
おっと、ここは良い子の顔をしていなきゃな。

「君が進言したそうだな?」

「そんなにマイスターになりたいならシルトがあるじゃないか。」

コイツ……人の古傷を!

「まあいい。俺は君に従う者。『君の計画』に協力するさ。」

見え透いてんだよ、リボンズ……
マイスターとしても滅びを恐れたか?
だが生憎だったな。
俺に、滅びはあり得ない。





「その後、リボンズ、ヴェーダの双方を欺くためコピーのふりをした俺は記憶のバックアップを1ガンダムに隠し、自らはヴェーダのリセットを受け入れた。」

邪魔そうに胸元のボタンを一つ外したビサイド・ペインは目を細めながらパイロットスーツに腕を通す。

「だが、時は満ちた……俺は俺の望むように世界を変える!!」

上に開いた出口を睨んだ1ガンダムは、背中から赤い粒子を放ちながら空へと舞い上がった。



中東

「どうです、ドクター?」

「命に別条はないだろう。だが……」

左の瞼をめくった先に埋め込まれた義眼。
本来イノベイドは高い再生能力を持っているのだが、ラーズの場合この義眼のせいで再生が阻害され、ヴェーダとのリンクも切断されたままになってしまったのだ。

(設備が整ったところなら手術も可能だろうが、街中でさっきのを撃たれても困る……)

というより、手術以前にこのまま彼を連れていけば自分たちも吹き飛ばされかねない。
どうしたものかと頭を抱えていたテリシラとアレルヤだったが、さらに厄介なものが砂煙を上げながらやってきた。

「スルー!?ハーミヤまで!!」

「マリーとフライハイトさんも!!」

基地に残っていたはずのスルーはジープを二人のすぐそばに止めるとテリシラに抱きつく。

「兄さん!!さっきのにやられたんじゃないかってすげぇ心配したよ!!」

「あ、ああ、なんとかな。」

「アレルヤ……よね?」

「うん。心配かけてごめん。」

「しかし、連邦もとんでもないものを作ったものだな。」

気絶しているラーズを縄で縛りながらレイが呟く。

「連邦?」

「連邦の衛星兵器のテストだったらしいですよ?でも、準備不足で壊れちゃったみたいですよ?不用意なテストをしてくれたおかげでこっちもデータをゲットです♪」

ご機嫌な様子で小躍りするハーミヤだが、テリシラとアレルヤはそれがテストではなく連邦軍にとっても予想外の事態だったことに気付いていた。

(ドクター、やはりさっきのはラーズが?)

(いや、まだ決めつけるには早い。)

「どうしたんですか?二人でこそこそして?」

いつの間にかハーミヤが二人の足元まで来て顔を見上げている。
だが、ここでアレルヤは妙な違和感を覚える。

「ハーミヤちゃん、さっきはごめんね。」

「?なんのことですか?」

「!?」

テリシラも動揺しながらもさらにハーミヤに問いかける。

「その兵器のデータを私にも見せてくれないか?」

「?データ?なんのです?」

「連邦の極秘兵器のだ!持っているんだろう!?」

「何言ってんだよ兄さん?」

「急にどうしたんですかドクターさん?」

ここでようやくマリーとレイも異変に気付く。

「何を言ってるんだ二人とも!さっきおれたちはこの目で…」

「なんだよレイ?あんたもう片っぽの目まで悪くなったのか?」

食い違う言葉と記憶。
その異変の理由を知っているのはソレスタルビーイングの関係者だけだ。

(記憶操作……ヴェーダの仕業か!!)

さっきの兵器とやらはよほど見られたくなかったものらしい。
自覚が無ければイノベイドであろうと秘密を漏えいする可能性があると判断されて記憶の消去が行われたのだろう。
だが、それができない者たちもあれを見ていたのだ。
となると、

(マズイ……!!基地にいる人間をヴェーダが放っておくはずがない!!)

しかも、うってつけなことにイノベイドであるブラッドがいるのだ。
もし、彼が戦闘タイプのイノベイドだとしたら……

「スルー、基地に戻る。手伝ってくれ。」

「なんだよ、そいつも連れてくのか?」

「このまま放っておくわけにもいかんだろ。」

いつもとかわらぬ口調で話すテリシラだったが、人類の未来のために造られたヴェーダが時にどれほど無慈悲に人の命を奪うのかはその端末である自分がよく知っている。
だが、たとえ端末にすぎない存在だろうと目の前で消えかかっている命を捨て置くことはできない。
それが、師であるモレノから教えてもらった医者のあり方なのだから。




ソレスタルビーイング・ファクトリー

「ん?なんだろこれ?」

いつの間にか届いていたメールにシェリリンの目がとまる。
普段ならイアンからアドバイスや武装案が送られてくるのだが、そのイアンは現在行方不明。
他のメンバーから送られてきたものである可能性もあるのだが、今のところ全員そんな余裕はないはずだ。
不思議に思いながら開くと、そこには新しい武器のアイデア。
それも、かなり独創的だ。

「すごい……一体誰がこんなものを…っ!!?」

874
たったその三文字でもあの二人が送ってきたものであることは明白だ。

「OK…!!最高のものを造ってあげるわ!!」





一方、こちらでもしばらく顔を見せていなかった人物から直接連絡を受けていた。

『シャル、久しぶり!』

「ヒクサー!?あなた一体今まで連絡もせずにどこで何を……」

『それは僕たちがそっちに戻った時に説明するよ。』

「ロッサ!?あなたまで一緒なの!?」

つい先日情報を集めるために地上に降りたヴェロッサが消息不明だったヒクサーと一緒にいる。
頭が痛くなる話だが、わざわざ戻る前に連絡してきたからには訳があるのだろう。

「それで、何があったの?」

『ごめん、話すと長くなるから今は言わない。とにかく、なにも言わずにこれの準備をしてほしい。』

「これは……」

それはシャルと因縁があるもう一機のガンダム。
彼女をスカウトし、本来ならヒクサーとともに自分の横に立ってくれているはずだった人物の愛機。
二年前、あの戦いのときに敵の手から再び自分たちのもとへと舞い戻った『秘密の領域と至高の神秘の天使』の名を冠する存在。
それを用いなければいけない相手となると、シャルには一人しか思いつかない。

「……相手はフォンなの?」

シャルは不安を押し殺した顔でヒクサーに問いかける。
だが、彼の答えはシャルが恐れていたものではなかった。
なかったのだが、これの口から出てきた敵の名は最悪だった。

『ビサイド・ペイン……グラーベの仇だ。』

その瞬間、二人の間の空気が一気に凍りついた。






中東

荒涼とした大地を二台のジープが走りぬけていく。
その一台に乗って基地を目指していたテリシラにブリュンから連絡が入る。

(テリシラ先生、レイヴが話をしたいそうです。脳量子波を中継します。)

(わかったつないでくれ。)

つくづく便利な力だとテリシラは感心する。
どれほど離れていようと脳量子波通信を行えるばかりか、こうして遠くにいる仲間同士をつないでくれる。
しかも、ユーノの話では念話の回線も通常のそれよりはるかに強いそうだ。

(先生、無事でよかった。)

ブリュンの脳量子波と念話の強さに因果関係があるのではないかと考えていたテリシラだったが、レイヴから通信が入って考えを一時中断する。

(なんとかな。ラーズの能力を解放したせいで大変なことになってしまったよ。試射された兵器の情報秘匿のためにヴェーダが目撃者の殺戮を始めるかもしれん。)

(確かにそうなります。でも、それはヴェーダが行うわけじゃない。ヴェーダを裏から掌握している者の都合ですよ。もちろん処理にヴェーダを使いますが、ヴェーダの指示ではない。)

「……?」

何かが変だ。
そう思いながら、テリシラは会話を続ける。

(なぜそう思う?)

(衛星兵器を欲しているのは連邦です。ヴェーダじゃない。つまり、それを利用してイオリアの計画を進める者のしわざです。)

(……心当たりがあるような言い方だな。)

(さあ、そこまでは……それよりも、たぶんラーズの能力は遠距離にあるマシンのコントロールです。今そちらに向かいますので対応は僕に任せてください。)

一応揺さぶりをかけてみたが別段怪しいところはない。
だが、それがかえって疑わしい。
いつもよりも饒舌で論理的だったあの喋り方のせいだろうか。

(……ブリュン、聞こえるか?レイヴとの通信は切っているな。)

(はい。)

どうやら、レイヴに違和感を抱いていたのは自分だけではないようだ。

(レイヴの脳量子波に違和感はないか?まるで別人のような……)

(脳量子波自体は正常です。ただ…)

(ただ?)

(レイヴの脳量子波がとても強まっています……とても、強く……)

「…………………………………」

脳量子波が強まっている。
それだけであれほどの違和感が生まれるものだろうか。

「ドクター…」

そもそも、あまり胸を張って言いたくはないがあそこまでレイヴはスラスラ自分の考えを言うような人間ではないし、あれほど筋が通った話をしたことは今のところ一度もない。

「ドクター……!!」

それに、ラーズの対応は自分に任せてくれと言ったときのあの自信。
首尾よくガンダムを手に入れたとしてもコントロールされては意味がないはずだ。
なのに、どうしてあそこまではっきりとあんなことが言えたのだろうか。

「ドクター!!」

「おわっ!?」

耳元で怒鳴られたテリシラは思わず助手席から跳びあがる。

「さっきからどうしたんですか?もうすぐつきますよ。」

「あ、ああ…すまない。」

マリーの不思議そうな顔にテリシラはフゥと息をつく。

(とにかく、今は目の前の問題からだな。)

基地の前にとまったジープからひらりと跳び下りるスルーの方を見るテリシラ。
だが、出迎えに出てくる人間はおろか、見張りすらいない入口は不気味なほど静まり返っている。

「あれぇ?見張りがいない?お~い!!帰ったぞ!!」

「!待てスルー!!行くな!!」

「!?」

テリシラの声と同時に置くから頭を血だらけにした人間が倒れこんでくる。
そして、さらにその奥から虹彩を金色に輝かせたブラッドが現れる。

「ブラッド、お前!?」

「遅かったか!!」

混乱しているスルーだったが、理由を問いかける前にブラッドが信じがたいスピードで彼女へ襲いかかる。

「逃げろスルー!!相手は戦闘型のイノベイドだ!!」

「んなこと言ったって……!!」

一瞬の隙をついてブラッドがスルーの首元へ手を伸ばす。
だが、その手がスルーへ届く前にブラッドの側頭部にレイの膝が食い込んでいた。

「悪く思うなよ、ブラッド。」

2~3m転がって横たわった仲間を気遣いながらもレイはテリシラへ鋭い視線を向ける。

「どういうことか説明してもらおうかドクター。あんたはブラッドの異変の原因を知っているんじゃないか?」

「それは……」

「!!レイさん!!」

「!?グッ!!!!」

ハーミヤの叫びに振り向くが、起き上がったブラッドはすぐにレイの懐まで入り込んで首を掴むと天高く持ち上げた。

「こ……っの……!!」

必死で足をばたつかせながらブラッドを蹴るレイだったが、逆に手の力はどんどん強まっていく。
やがて脚の動きが徐々に弱々しいものに変わり、レイの意識も薄れていく。

「レイを離せ!!」

「スルーさん、駄目!!」

「離せよ!!あのままじゃレイが!!」

マリーはスルーを羽交い締めにしてどうにかその場に押しとどめるが、確かにこのままではレイが危ない。

「このままじゃ……うっ!?」

飛び出そうとしたアレルヤだったが、内側から出てきたハレルヤに止められる。

(ハッ!てめぇじゃどうにもなんねぇだろアレルヤ……ちっと体を借りるぜ!!)

強引に表に出るハレルヤ。
そして、

「ハッ!!イノベイドだか何だか知らねぇが、その首へし折られりゃ流石にくたばんだろ!!!」

ブラッドへと突進していくが、その時基地の奥から機械音と地響きが聞こえてくる。

「チィッ!!」

想定外の事態に戸惑うハレルヤだが、後で相棒が騒がないようにやることだけはやっておく。

「オラッ!!」

ブラッドの手へ踵を振り下ろしてレイを離させると、今度はそのレイを蹴り飛ばしてブラッドから離す。
その瞬間、

「うおっ!!」

「あっひぃん!!?」

無人のはずのティエレンが出現したかと思うと、腕に装備されていた銃でブラッドを粉砕した。

「あたしのティエレン……!?どうして!?」

「つつっ……!!決まってんだろ……そこにいるクソ野郎の仕業だよ。」

「!!」

全員、テリシラ達が乗ってきたジープの方を注目する。
そこには、いつの間にか後部座席で意識を取り戻したラーズがその瞳を金色に輝かせながら凄まじい形相でそれまでブラッドがいた場所を睨んでいた。

「あああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

ラーズの咆哮に応え、奥からさらにティエレンやヘリオンがぞろぞろと出てくる。

「落ちつけラーズ!!やめるんだ!!」

必死にラーズを止めようとするテリシラだが、ラーズはさらに興奮していく。
そして、遂にティエレンたちの銃口が一斉にテリシラとラーズへと向けられた。

(まさか、自害する気か!?)

「兄さん!!」

「ドクターさん!!」

もはやこれまで。
誰もがそう思った時だった。

「!?」

一条の光がティエレンの頭部を貫く。
そのことに驚く暇もなく、さらに光が突き刺さり残っていた機体も土煙を上げながらばったりと倒れ込む。
その上には、赤く輝く翼を広げている一機のMSがいた。

「あれは……!」

「天使!?」

「いや……!」

唖然とするスルーとハーミヤの言葉を否定しながら、ハレルヤは苦々しげに自分たちを助けた機体を睨む。

「ガンダムだ……!」

白と紺でカラーリングされた1ガンダムはハーミヤの言っているようにさながら天使を思わせる優雅な動きで辺りを見渡す。

「間に合いましたね、ドクター。」

「レイヴか……!?」

テリシラは相変わらず違和感が付きまとうレイヴの脳量子波を感じながら1ガンダムを見上げる。
だが、そんなテリシラたちの事情など構わずにラーズはさらに奥からティエレンを呼びだして自らへと攻撃しようとする

「ラーズ、お前まだ……!」

気付いたテリシラが慌てて止めようとするが、それよりも早く1ガンダムのビームライフルが火をふく。

「こまるなぁ……自殺しようだなんて。」

「ぐっ……ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

自害を阻まれたラーズは激怒する。
そして、とうとうそれを阻んだレイヴと1ガンダム、さらに周りの人間もろとも自分を吹き飛ばすことを決定した。

(!ドクター!衛星兵器が起動しました!!)

(なにっ!!?)

はるか上空から響いてくる轟音に上を見ると、小さな点だった光がこちらに狙いを定めるように徐々に大きくなってくる。
当然止める手立てなどあるはずがない。

「君だけでも逃げろレイヴ!!!!」

咄嗟にそう判断したテリシラだったが、1ガンダムはその場を動こうともせずに上をじっと見ている。

「レイヴ!!!!」

その声と同時に空にかかっていたわずかな雲すら吹き飛ばして光の槍が一直線に落ちてくる。
1ガンダムはシールドを掲げ、GNフィールドも張ってその光に備えた。
だが、その時1ガンダムよりも上に瑠璃色の輝きが割り込んだ。

「!」

「967、GNフィールドを最大出力で展開!!」

「了解!!」

「そして……絶対たる守護の盾よ!!」

〈Absolute Aegis〉

その瞬間、巨大な五枚の魔法陣と1ガンダムが展開していたものとは比べ物にならないほどの激しい光がテリシラ達の上空を覆い尽くす。

「グッ!!」

光と激突した一枚目の魔法陣があっさりと砕け散り、今度は二枚目の魔法陣が光を辺りに乱反射しながらせめぎ合うが、これもあっという間に砕ける。

「つっ……!!三つ目まで行ったのは久しぶりだな……!!」

三つ目の魔法陣が激流にぶつかった瞬間、翠の光をまきちらしながらそれは爆発して勢いを和らげる。
そして、四つ目の魔法陣が光を受け止めてそのまま包み込んでいく。

(頼む……五枚目まで行ってくれるなよ!!)

綺麗な翠の球体はところどころ濃淡の縞模様をつくりながらうごめくが、しばらくすると静かになって消えていった。

「ふぅ……」

ここ数年で一番のギリギリ具合だ。
後先考えずに飛び出したはいいが、もし純粋に対魔法戦を想定して術式を組んだ五枚目までいっていたらどうなっていたかわからない。
そんな胃薬をいくら積んでも足りないほどの危機一髪を乗り越えたユーノはGNフィールドで手助けしてくれた愛機の操縦桿を礼の代わりにぎゅっと握る。

「ありがとう、頑張ってくれて。」

「それで、俺が874から聞いているよりもっとややこしいことになっているようだな。」

そう言ってハロの体から出てきた967は目の前にいる機体を睨みつける。

「967……?」

『ユーノさん、助けてくれてありがとうございます。』

「レイヴ!君だったのか!」

ユーノがレイヴ(?)の声に顔をほころばせているにも関わらず、あいかわらず967は厳しい表情をしている。
いや、声を聞いてさらにしかめっ面になっているようにも見える。

『それで、これからのことなんですが……っ!?』

「うわっ!?」

突然、二人の意思に関係なくガンダムが動き始める。

「あああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

「ラーズ!?もうよすんだ!!」

テリシラの言葉など聞くはずもなく、ラーズは邪魔をしたガンダム二機への復讐に全精力を注ぎ込む。

「旧世代のイノベイドめ……やるじゃないか。」

「ユーノ!お前の力でコントロールを……」

「あ~……ごめん無理。さっきのアブソリュートイージスで魔力はほぼすっからかんで浮遊魔法も使えないような状態だから。」

じりじりと迫ってくるクルセイドの手に冷や汗が流れ始める。
なんとかできないこともないが、その方法はユーノにとっては絶対に取ることができない行動だ。

「ユーノ、ハッチに手がかかりましたが?」

「わかってるよ!!ていうかこの状況で冷静に話さないでくれる!?なんかすごい頭にくるから!!」

サクヤを怒鳴りつけている間にもミシミシと嫌な音と時折黒に染まるディスプレイが状況が切迫していることを知らせてくる。

「どうすれば……っ!?レイヴ何を!?」

「ちょっと惜しいけど殺すしかないか。」

コントロールを奪われながらも1ガンダムは銃口をラーズへと向ける。

(レイヴ!!何をする気だ!!)

(ラーズは殺します。)

(なっ!!?)

普段のレイヴからは想像もできない言葉に驚くテリシラ。
だが、それだけではなくレイヴ(?)は淡々と言葉をつづけていく。

(代わりの仲間を探せばいいことですしね。彼もそれを望んでいます。)



テリシラ邸 地下

(怖い……)

豹変したレイヴと彼の操るガンダムから感じる冷たい心。
だが、だからと言ってこのまま放っておくことはできない。

(力を持ったレイヴを誰も止められない……でも、ラーズさんの方を止められれば……!)





中東

(ラーズさんやめて!!)

「!!」

(ラーズさん……めてくださ………落ちつい……能力を…やめて……)

懐かしい声。
もう、聞けることなどないと思っていた最愛の息子の声にラーズは固まる。

そして、それはブリュンも同じだった。
今の両親とは違う母親、そして父親の顔、声、そして思い出。
それらを吟味するほどにブリュンの目から涙がこぼれおちていく。

(ブリュン……なのか!?)

(……はい。ブリュンです。)

「お……あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「おや、どうやらラーズの能力から解放されたみたいだね。また目を覚まされたら厄介だし、今のうちにやっておくか……」

スムーズに動くようになった1ガンダムで改めてラーズの乗るジープへ狙いを定める。
しかし、その前にクルセイドが立ちはだかる。

「……なんのマネですか?ユーノさん。」

「君こそ何のつもりだ。」

「見たとおりですよ。ラーズはこのままでは僕たちに与えられたミッションの邪魔になります。」

「なるほどね……それで、お前は“誰”だ?」

さっきまでのゆるい空気を消し去って1ガンダムと向かい合う。
967もすぐにGNフィールドを展開できるように集中力を高めていく。

「何を言ってるんですか?僕の声を忘れたんですか?」

「子供のころからろくな人間(まあ、僕がその最たるものなんだけど)を見てこなかったんでね。人を見る目には自信があるのさ。どれだけ上手く取り繕っても内面まで取り繕うことはできない。」

「ホントに困った人だなぁ……なんなら、ドクターに聞いてみますか?脳量子波はどんなに頑張ってもごまかせませんから……ねぇ、ドクター。」

(ああ、確かにそうだ。だが、あいにく私もユーノと同じ考えだ。)

わずかにレイヴ(?)の眉が動く。

(お前はレイヴじゃない。確かに肉体はレイヴのものだが精神はまったく別のものだ。レイヴは人の痛みを自分の痛みとして感じられる男だ。貴様のように迷いなく人を撃つようなやつじゃない!)

「困った人たちだ……僕だってそう言われればいい気分はしませんよ?」

1ガンダムが微かに動いただけでクルセイドもそれに合わせてライフルを向ける。

「ガンダム同士で戦えばどちらもただでは済まないぞ。それでも、ラーズを殺すつもりか?ビサイド・ペイン。」

(ビサイド・ペイン……?)

967の口から出てきた聞いたこともない名前に困惑するユーノだが、レイヴではない誰かはその答えにユーノ以上に驚く。

「貴様は……クハハ!そうか!次はそいつを壊されたいのか、グラーベ・ヴィオレント。」

「そうはさせん。俺の命にかえてもユーノは守り抜く……!」

「フフフ……良いだろう。この場はお前の覚悟に免じて退いてやる。だが、シルトの流れを汲むそれに乗っている限りそいつもいずれは地獄に行きつくことになる。」

1ガンダムがライフルを収めて高度を上げていく。

「それから、テリシラ達には告げ口をするなよ?もししたら、今度はお前が自分の手で大切なものを壊すことになるからな。」

「貴様……!!!!」

「967、一体どういう……」

「じゃあな、グラーベ……せいぜい足掻いて俺を笑わせてくれ!ハハハハハ!!!!」

「なろっ!!」

「待て、追うなユーノ。」

「でも!!」

「追うな!!」

珍しくきつい口調にユーノもビクリとする。

「頼む……追わないでくれ。」

「あ、ああ……」

俯いたままユーノの方を向くことができない967はそのままハロの中へと戻る。

「……サクヤを送り届けたらアレルヤ達を回収する。フォンからアリオスを受け取ったら、フェレシュテと合流して今後の指針を決めるぞ。」

「うん……」

コックピットの中に険悪なムードが漂う。
だが、それでも967は言えなかった。





もしかしたら、自分がユーノの命を奪っていたかもしれないなど、とても言う勇気はなかった。





ただ与えられた記憶
だが、誰かを想うその心はこの手で掴んだ確かな未来




あとがき・・・・・・という名のA.C.Eポータブル発売記念

ロ「ビサイド復活な第十三話でした。」

ユ「そして967、ヒクサー、シャルのトラウマアゲイン。」

ブリュン(以降 女装君)「そして僕とお父さんも再会。ていうか僕のカッコここでもゴスロリなんですね。」

毒舌医師「気の毒に……」

ロ「まあ、それはそれとしてだ。俺は00に出てくる親子関係ではセルゲイさんとピーリスと同じくらいラーズとブリュンが好きなんだよな。」

ラーズ(以降 バツイチ)「作品中では最後くらいしか親子らしいところはなかったはずだが?」

ロ「むしろそこが良い。最後の最後にわかりあえたって感じがして俺は好き。」

ユ「なんかそういうの好きだよね、君って。」

ロ「TOSのクラ○スとロ○ドとかな。」

バツイチ「自己申告してどうする。」

女装君「ていうかあれってクラ○スルート選んでたらいろいろ鬱だった気が……」

毒舌医師「なんで知ってるんだ?」

女装君「イノベイドですから。」

ロ「あ、それいいな。これからネタ出しとか締めるときはそれで行こう。」

ユ「させないからな!ていうかサブタイトルのA.C.Eポータブルの話はどこ行った!?」

ロ「あ、それは買った人同士で勝手に話をしててくださーい。(黒)」

ユ「黒っ!!自分は買えてないからって八つ当たりするな!!ていうかそれなら最初からサブタイトルにするな!!」

ロ「うっさい!!!!いつか金が溜まったら買ってやるっていう発売と同時に買った世の富裕層どもへの俺のささやかな自己主張を否定するな!!!!やっぱり金だよ……!!カ○ジの利○川さんも言ってたろ!!金は命より重いんだ……!!よし……今から腎臓を片っぽ売って金を……!!」

ユ「やめんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

毒舌医師「……ロビンが腎臓を売りに出すといろいろあれなので次回予告に行くぞ。」

女装君「次回は久々の異世界編!」

バツイチ「どうにか合流を果たしたトレミーのクルー達。だが、並行世界へ戻るための準備は物資不足から遅々として進まない。」

ユ「装置を開発するための材料を探すため、とある廃棄施設にやってきた刹那たちはそこで世界の歪みを目撃する。」

毒舌医師「そして、捜査のために同じくその施設を訪れたフェイトたちと遭遇してしまう!」

ユ「ガンダムVSキャバリアー!死闘の果てに待っているのはなんなのか!?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただいてありがとうございます!よろしければ、ご意見、感想、応援などをよろしくお願いします!じゃ、せーの……」

「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」



[18122] 14.Fの遺産
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/01/20 16:43
第1管理世界 ミッドチルダ 首都クラナガン

激務の合間のオアシスであるお昼時。
クラナガンのとあるコーヒーチェーン店のオープンテラスに山のように積まれた新聞やゴシップ記事がテーブルを完全に隠している。
突然崩れたその中から現れたのは青の上下でその身を包んだ、見るからに清掃員といった風貌の二人組。
一人はぶつかった紙類のせいで崩れたブラウンの髪を指で直しながら嫌そうな顔で再び記事に目を通している。
もう一人は青いキャップに収まりきらなかった紫の綺麗な髪を横にやりながら新しい週刊誌を手に取る。

「ちくしょ~~……アルからもらった軍資金がこんなに早く尽きちまうなんて……」

「文句を言う前に手を動かせ。僕らはこの世界の歴史、情勢、文化、全てにおいて赤子以下の知識しか持ち合わせていないんだ。休みの間にできる限り情報は手に入れておくべきだ。」

「けどよぉ、これじゃ休みが休みの意味をなさねぇよ。しかもわざわざ材料買うためにバイトなんて……」

ロックオンはテーブルの上に置いた自分の帽子の上に顔を突っ伏す。
いくら次元航行をするための準備をするためとはいえ、バイトで資金を稼ぐなど無理にもほどがある。

「仕方ないだろう。地球の物質ではないものまで用意しなければいけないんだ。」

ティエリアはずれていたメガネを直しながら読み終わったものを横に積む。
しかし、彼も内心同意見ではある。
つい先日連れてきたあのイアンすらも上回る『M・A・D』な科学者の指示は無茶なものばかりだ。
特に、ガンダム、そして太陽炉すらも分解して調べ上げようとした時はクルー一同本当に焦った。(もっとも、その時からイアンとだけは妙にウマが合うようになったようだが。)

「大体不公平だろ!」

ロックオンが板とテーブルを叩いて起き上がる。

「なんで俺たちだけがバイトで刹那はトレミーに残ってんだ!!」

「君も最初は了解しただろう。あと、声が大きいぞ。」

「うぐっ……」

痛いところをつかれたのかロックオンは渋い顔をして黙りこむ。

「……今のエリオ・モンディアルには刹那が必要だ。」

「俺たちみたいにしないために、か?」

二人の間に沈黙が流れる。
不思議と街の喧騒も耳に届かず、風の音だけが二人を包み込んでいるようだ。

「あんた……意外とやさしいんだな。」

「何を馬鹿な……それより、そろそろ休みも終わりだ。現場に戻るぞ。」

「へいへい。また命綱をつけてビルの窓ふきか……ったく、嫌になんぜ。」

文句を言うロックオンだったが、顔を若干赤くしながら先に歩いていくティエリアの背中を見つめるその顔は彼の兄、先代のロックオンによく似た包容力のある笑顔だった。





魔導戦士ガンダム00 the guardian 14.Fの遺産



プトレマイオスⅡ コンテナ

「はぁっ!!!!」

鋭い一撃と化した影が金属製の床を駆け抜ける。
だが、その先で待ち構えていたもう一つの影はすぐ近くまで迫っていた攻撃を金属製の棒の上を滑らせて受け流す。
そして、

「蒼牙……一迅!!」

「くっ……!!」

強力な風を纏わせて棒を振り抜く。
刃など付いていないはずの棒で強固な床が切断され、咄嗟に相棒を盾にした小さな影がその身に斬撃の激痛を感じながら吹き飛ばされる。
だが、小さな影はなんとか着地した地点で踏ん張ると、足の裏に微かに電撃が奔らせる。

「っ……!!」

大きな影が構えた時にはすでに手に持っていた得物は真っ二つに切断されていた。
だが、長さの異なるその二振りをさっと手に取ると風を纏わせて振り向く。

「蒼牙……」

「必中……」

「連舞!!」

「一閃!!」

幾重にも重なった蒼の斬撃と鋭い突きが交差する。
それが終わると今度はカァンと音をたてて大振りな槍が空中を舞っていた。

「はい。そこまで~。」

床に落ちたストラーダを拾いに行くエリオと二つに分かれてしまった棒を捨てる刹那に上から模擬戦の様子を眺めていたジルが下りてくる。

「刹那もだいぶ魔法に慣れてきたな。オイラも融合騎として鼻が高いぜ~。」

「だから俺は別にお前のロードじゃないと……」

「照れんなよ刹那。いい弟分ができてよかったじゃないか。」

「お!さすがラッセ!よくわかってらっしゃる!」

「………………………」

盛り上がるジルとラッセは放っておいて刹那はエリオのもとまで歩いていく。

「大丈夫か?」

「はい……それより、どうでした?」

エリオはしびれの残る手でなんとかストラーダを握りながら刹那を見上げる。

「悪くない。俺もお前と戦うことで魔法戦に慣れることができて感謝している。」

「ありがとうございます、セイエイさん!」

パアッと明るい顔で頭を下げるエリオだが、反対に背を向けた刹那の顔はどことなく暗い。
トレミーと合流してからすぐにラッセ、そしてエリオから頼まれて気乗りがしないままエリオに戦闘術を教えたり、こうしてときたま模擬戦を行うのだがどうしてもあの赤髪の男が頭をよぎってしまう。

(俺は……今の俺のしていることはやつと何も変わらない……)

どんなに違うと自分に言い聞かせても心が晴れない。
そんな葛藤の中、刹那はここ数日のエリオとの訓練を行っていた。

「あんまり思いつめんなよ、刹那。」

ラッセに肩を叩かれて刹那が振り向く。

「お前があいつに教えてんのは生き残るための戦い方だ。死ぬための戦い方じゃない。」

「ラッセ……」

どうしてといった顔をする刹那をラッセが笑う。

「気付かないとでも思ってたのか?急所をつかずに相手を制する方法、追い詰められた時の対処……どれもあいつが必要としているものだ。」

そう言うとラッセは暗い雰囲気を吹き飛ばすように刹那の背中を勢いよく叩く。

「自信持てよ。お前はエリオにとって良い師匠だよ。」

「……ありがとう。」

ボソリと小声でそう呟いてさっさと歩きだす刹那。
それがおかしくて、エリオとジルが首をかしげているのも関係なくラッセは笑いを必死に堪えていた。





調整室

「ハッハッ、青春だねぇ。」

「ハッハッ、まったくだな。」

「も~……ジェイルさんもパパもおじさん臭いです。」

飲み物を運んできたミレイナはイアンとその横に立つグレーの制服の上に白衣を羽織った男、ジェイル・スカリエッティの発言に苦笑する。

「おじさん臭いというのは聞き捨てならないね。その言葉が似合うのはイアンくらいの歳になってからだ。」

「失礼なことを言うな。わしはまだ十分に若いぞ。」

「二人とも……せめてモニターから顔を離して喋ってください。」

エリオとラッセの訓練の光景を眺めながら目も合わせないで会話をする二人に溜め息をつきながらも数時間前に差し入れた食事のトレイを持ちあげる。

「きりのいいところで早く切り上げてくださいよ。また徹夜したら体を壊しちゃいますからね。」

「はいはい……」

「わかってるよ……」

本当にわかっているのか不安が残るが、生返事をする二人を残してミレイナは薄暗い部屋から退散する。

「しかし、イオリアを同じ科学者として尊敬するよ。」

ミレイナがいなくなったことを確認したジェイルは指を躍らせるとガンダム、そしてGNドライヴのデータを表示する。

「軌道エレベーターを実現しただけでも大したものなのに、まさかさらにその先を行くテクノロジーの基礎理論を確立するとはね。」

「お前さんだって負けず劣らず大層なものを作っているそうじゃないか。」

「私の場合はほとんどがろくでもないものさ。兵器の開発に生体実験……どれも人に誇れるものじゃない。それに……」

ふいに横を向いたときに見えたイアンの悲しそうな横顔にジェイルは言葉を飲み込む。

「いや、なんでもない。」

「なんだよ。途中で止められると気になるだろ。」

「他愛のない話さ。私が生まれてはじめて良かれと思ってしたことが、二組の親子を不幸のどん底に突き落としてしまった……そんな、馬鹿な男の話なんて聞いても仕方ないだろう?」

「ジェイル…………」

「ほら、イアン。手が止まっているぞ。早く終わらせないと今度はミレイナと一緒にウェンディまで怒鳴りこんできそうだ。」

無理に笑うジェイル。
それを見たイアンも無理に話を聞こうとはせずに作業を再開する。
だが、

「……いつか話せよ。」

「まあ、暇だったらね。」

その言葉を最後に、二人はモニターとのにらめっこを再開した。





ミレイナの部屋

「もぉ~!ジェイルさんが来てからパパの『M・A・D』さが悪化してるです!」

「まあまあ。オタク同士、気が会うところがあるんスよ。」

ヘラヘラと笑うウェンディと頬を膨らませるミレイナ。
そして、

「あの……どう見ても僕場違いな気が……」

「そんなに照れなくても良いっスよぉ!男の子は若い女の子と一緒にいる時が一番楽しいってセインが言ってたっス!」

「ぼ、僕は別にそんなこと……」

無理やり連れてこられた沙慈は赤い顔で俯いたまま肩身の狭い思いをしていた。
だいたい、ウェンディの言う理論は恋人のいない男に対してのみであり、好きな相手がいる沙慈にとってはまったく関係のないことだ。

「ミレイナ、一度ちゃんとクロスロードさんとお話ししてみたかったんです!」

……ないはずなのだが、女の子二人に囲まれてまったく何ともないと言えば嘘になる。

「ごめんルイス……これは別に浮気じゃないから。」

「何か言いましたか?」

不思議そうな表情で近寄られ、沙慈の顔はさらに赤くなる。
だが、ニヤニヤと笑うウェンディを見ていると今度は別の理由で顔が赤くなってくる。

「そう言えば、クロスロードさんはセイエイさんとスクライアさんのお友達だったんですよね?」

「それは……」

ミレイナの言葉に照れなど一気に吹き飛んで心の片隅に影が差す。

「……僕も昔はそう思ってたけど、きっと刹那とユーノは別にそんなこと……」

「そんなことないっスよ。」

あっけらかんとした声を出すウェンディの顔を見る。

「せっちゃんはいっつもさっちんの心配してるし、ユノユノは前にあたしにはっきりと『沙慈は僕の友達だよ。』な~んてくさいセリフを真顔で言うし、これが友達でないならなんなのかって話っス。」

「でも、彼らは僕のことをだましてたんだ……!たくさんの人を傷つけておいて、僕の前で笑ってるふりを……!」

「それも違うですよ?」

「知らないの?」といった顔のミレイナはいつもの調子で話し始める。

「スクライアさんはずっとクロスロードさんに本当のことを言えないことが辛かったって言ってたです。セイエイさんもクロスロードさんの御家族や大切な人が巻き込まれたって聞いた後、一人で泣いてたです。」

泣いていた?
刹那が?
自分の知っている姿からはとても想像できない。

「さっちんはせっちゃんやユノユノが嫌いなんスか?」

そう言われて改めて考える。
自分は本当にあの二人が嫌いなのだろうか。
憎悪の対象として見ることができるのだろうか。

逆に、また友人として手を差しだすことができるのだろうか。

「………わからないよ。」

ウェンディの問いかけは沙慈の視界を埋め尽くす天井の明りに溶け込んでいった。





ブリッジ

「材料を入手できるかもしれない?」

ブリッジにいたスメラギとフェルトはモニターに映ったⅤサインをするアイナを見る。

『うん。クラナガンから北西34㎞。アイザックの外れで最近になって廃棄されてるラボが見つかったらしいの。2日後には局が本格的に捜索に入るらしいんだけど、その前にそこを調べられれば……』

「ひょっとしたら何か見つかるかもしれない……そういうことですね。」

『そ。まあ、クロウの話ではなんか地上部隊と航行部隊の間でもめてていつ来るかは正直はっきりとはわからないらしいんだけど、二日は時間を稼げるって言ってた。』

「OK、ありがとう。フェルト、外に出てるロックオンとティエリアを呼びもどして。すぐに探索に向かうわよ。」

「了解。ダブルオー、先行準備に入ります。」





調整室

「アイザックのラボ?」

その単語を聞いたジェイルの顔が険しいものに変わる。
そして、すぐに刹那の端末へ回線をつないで呼びだす。

『どうした?』

「ラボの探索に行く前に君たちに言っておかなければならないことがある。」

『?』

真剣な顔をするジェイルに疑問を持つ刹那だが、彼の言葉を待たずにジェイルは喋り始める。

「そこにあるもの……とくに、残されていたとデータを見たとしても、エリオ君とは今まで通りに接してほしい。」

『どういうことだ?なぜ、エリオが……』

「とにかく約束してくれ。何があっても、彼を傷つけるような真似だけはしないでくれ。頼む……」

「お、おい、ジェイル…」

『スカリエッティ……』

頭を床にこすり合わせるほどの土下座。
研究以外は世捨て人のようにふるまうジェイルのその姿に二人は言葉を失くす。
だが、

『……わかった。』

刹那がしっかりとうなずいて見せると、ジェイルはようやく顔を上げた。

「すまない……だが、今は聞かないでくれ。」

『構わない。』

こんな時、ユーノなら気のきいたことの一つも言えるのかもしれないが、刹那はそれほど器用な性格をしていない。
だが、そんなことをしなくても刹那の優しさを周りの人間はよくわかっている。

「ありがとう。気をつけて行って来てくれ。」

『……了解した。』






数時間後 アイザック周辺

「な~んてことがあったらしいぞ。」

月明かりの下、ケルディムを操縦するロックオンはティエリアに軽口をたたく。

「刹那のやつ結構照れてたらしいぞ。ぜひ見ときたかったなぁ。」

「……無駄口を叩くな。GN粒子のおかげで探知されにくいとはいえ、トレミーは今セラヴィーとケルディムだけで守っているんだ。気を抜いていて接近を許したなんて愚かなことだけはしないでくれ。」

「ちぇっ……もうちょいユーモアのきいた答えを言えないのかよ。」

不満そうな声で通信を終了したロックオンだったが、そのノリの軽さとは裏腹にティエリアの姿がモニターから消えると表情を厳しくする。

「あんましいい予感はしないな……」

「ヤバソウ!ヤバソウ!」

「ああ。まったく……クラウスたちがどうなってんのかもわかんねぇのに面倒ばっかやって来てくれるな。」

とはいえ、この面倒を片づけないことには自分を待っている仲間の元には戻れない。
そう考えていてはたと気づく。

「……なんか俺、ソレスタルビーイングに入ってから楽天的になった気がする……」

「イイ傾向!イイ傾向!」

「そうかぁ?」

悪いことではないのかもしれないが、素直に喜んでもいいことにも思えない。
ハロの楽しそうな声にそう思わずにはいられないロックオンだった。




ラボ

「ふざけるなっ……!!」

暗闇の一角。
機能を取り戻したモニターに表示されたデータ、そして画像を見た刹那はコンソールに渾身の力で拳を叩きつける。
その衝撃で脆くなっていた装置が壊れるが、いっそその方が刹那にとっては良かった。

「プロジェクトF……!!こんなものの存在が許されてたまるか……!!」

もはや物資を入手するなど刹那にはどうでもよくなっていた。
この施設を一刻も早くこの世から葬り去らなければならない。

「ジェイル・スカリエッティ……お前が言っていたのはこういうことか……!!」

刹那が苦々しげに見つめる先に映っていたのは、黄緑の液体で満たされた培養槽。
その中にいるのは、

「エリオ……お前が背負う歪みはこれか……」

エリオが目を閉じて浮かぶその様に刹那は胸が締め付けられる。
幼くして亡くなった“オリジナルのエリオ・モンディアル”を模倣して生み出された存在。
それが、今自分たちと行動を共にしているエリオの正体。

「ジル……お前は、どう思う?」

「……わかんねぇ。けど…」

横に浮いていたジルは刹那の肩に腰かける。

「どんなに悲しくても、死んだ人間をよみがえらせていい理由にはなんないよ……だって、それってそいつの生き抜いた人生を否定することになる……オイラは、そう思う。」

「そう、か……」

「けどけど!オイラ達と一緒にいるエリオは死んだ方のエリオじゃないんだ!生まれ方がどうであれ、一人の人間として接してやるのが正しいと思う!」

「そうだな……」

必死に熱弁するジルの頭を優しくなでた刹那は脇に置いていた手の平ほどの金属の塊を持ちあげる。

「……ジル。」

「わかってるよ。読まなくたってそれくらいわかる。」

「止めないのか……?」

「最低限必要なものをゲットできたんだ。これ以上こんなところを残しておく理由はないだろ?」

「……あとでスメラギから小言だな。」

せっかくの物資の補給がこれでパーだ。
角を生やして悪鬼のごとく怒り狂うスメラギとイアンの姿が頭をよぎるが、二人とも理由を聞けばわかってくれるはずだ。

『刹那!!』

「うわっ!!?オイラじゃないよ!!!!最初に言い出したのは刹那だから!!!!」

「ジル……」

突然刹那の手元から聞こえてきたフェルトの声に慌てて言い訳をしながら刹那の頭の後ろに隠れる。

『何言ってるの!?二人ともすぐ戻ってきて!!管理局に見つかって襲撃を受けてるの!!ティエリアとロックオンが踏ん張ってくれてるけど想像以上に敵が手ごわくて……』

「わかった。こちらも言われていたものを入手したからすぐに救援に向かう。」

『急いで……アウッ!!』

「思っている以上に余裕はなさそうだな。」

短い叫びと振動でブラックアウトした携帯端末をしまった刹那は外で待機させているダブルオーのもとまで急いだ。





アイザック周辺

深い夜の闇をいくつもの光源が照らし出す。
かなり距離がある街から聞こえてくるけたたましい警報が耳障りだが、そこで激しい戦闘を繰り広げる四機には互いに武器をぶつけあう音でそれをかき消していた。

「バルディッシュ、モード・サイズ!!」

〈All right!〉

漆黒の戦斧がガチガチと音をたてて高速で変形していく。
組み上がった白と黒のコントラストが美しい曲線の刃は周囲の大気を震わせながら同じようなカラーリングの機体へと向かう。
だが、相手も黙ってそれを受けるわけがない。
ピンクの刃で受け止めてすぐさま長細い顔へ砲撃を放つ。
それを持ち前の機動力でかわしたシュバリエとフェイトにティエリアは短く舌打ちをする。

「武器だけが変形か……クロウの話ではデバイスの技術を転用しているらしいが、実験段階でここまでのものを作り上げるとはな……」

だが、本当に厄介なのはそれではない。
ガンダムを上回る機動力と瞬発力。
砲撃戦主体のセラヴィーには分が悪い。

「ケルディム……も苦戦しているか……」

ちらりと上を向くと遥か上空で以前戦った機体がケルディムを前にはなかった鎚のような装備を振るいながら追い詰めている光景があった。



「ハロ、ジェネレーターは火器よりも機動力の確保にまわせ!!」

「了解!了解!」

さらに動きが滑らかになったケルディムは唸りを上げる鉄槌をかわすと赤くカラーリングされた脇腹へ弾丸を撃ち込む。
しかし、装甲をさらに強化されたエスクワイアはそれをものともせずにGNパイルを横に振り抜く。

「うぉっと!!やっぱ粒子をまわせねぇと威力はこんなもんか!!」

すぐそばをかすめていった鎚とケルディムの持つビームピストルを見比べながら苦笑する。
粒子が少ないせいで威力が普段よりも控え目になっているせいかエスクワイアはダメージを受けている気配が全くない。
それでも、この状態でも通常のMSならば沈んでいる攻撃力なのだが。

「とは言え、こんなもん喰らうわけにもいかねぇしな!!」

さらに追撃してくるエスクワイアへビームピストルを発射しながらなんとか狙撃できる距離まで移動しようとする。
しかし、エスクワイアの方もぴったりとケルディムについて離れない。

「ちょこまかすんじゃ……ねぇよっ!!」

エスクワイアを操るスレンダーで高身長の女性が毒づく。
お淑やかに振る舞えばなかなかの器量良しなのだが、生来のガサツさが災いしてかなり近づきがたい空気をだしている。

「チッ……まさかMSに乗ることになって……おまけにさっそく戦闘とはな!!」

(本人の希望で)外見を大きく見せているヴィータは目の前にいるケルディムにしつこく食らいつく。
クラウディアのクルーで唯一ガンダムの存在を知っているヴィータはケルディムがかつて夢の中で見たデュナメスと同タイプの機体であることを見抜き、狙撃をさせまいと最初から接近戦へともちこんだ。

(こいつに距離をとらせたら狙撃が来る……あたしの距離で戦わないと一方的に狙い撃たれて終わりだ!)

手も足も出ずに終わる。
そんなことは万が一にも許されない。
でなければ、何のために危険を冒してまで戦いを挑んだのかわからない。




10分前

「ヴィータ、もうすぐ目標地点だよ。」

「ああ……わかってる。」

これ以上ないほど不機嫌なヴィータの声にフェイトは苦笑いを浮かべるしかない。
ティアナがカレドヴルフの試作機のテストのために抜けたせいで余ってしまったエスクワイアをヴィータが使うことになったのだが、当然本人は猛烈にそれを拒否した。
だが、クロノが艦長として出した命令に従わないわけにもいかずこうして渋々彼女専用に再カスタムされたエスクワイアに乗っているわけだ。

「それにしても……その格好はどうかと思うよ?」

「うっせー、ボイン。年取ってもガキの姿のままのあたしの苦しみがお前にわかるか。」

確かに与えられたパイロットスーツはぶかぶか。
コックピットではペダルや操縦桿には手が届くものの、どんなに頑張って伸ばしても最後まで踏み込んだりできないなどのシュールなハプニングが起こったせいでヴィータの不機嫌さはさらに加速傾向を見せた。
そこで、変身魔法で姿だけは妙齢の女性に変化し、さらにペダルや操縦桿に改良を加えてどうにか通常のパイロット並みの動きをするまでは改善された。
しかし、それだけでヴィータの動きを十分に再現できるわけもなく、彼女の操縦方法にはテストも兼ねて新しい機能が追加されていた。

(ダイレクト・フィードバック・システム……たしかに、これが搭載されれば私たちの動きの再現率はさらに上がる。でも……)

ダイレクト・フィードバック・システム
パイロットの思考を直接伝えるため、魔法戦の実力を忠実に再現することが可能となるシステムであり、今回実験的にヴィータの搭乗するエスクワイアに搭載されている。
これによって魔導士として優秀な人間を乗せることでMSの能力を生かしきり、場合によってはスペック以上の動きを行うことすら可能にした。
だがその反面、ダメージが多少操縦者にもフィードバックされてしまうため使用者には強靭な精神力が求められることになった。

(いくらヴィータでも、無理があるんじゃ……)

「……心配すんなよ。」

フェイトの不安に気付いたのか、ヴィータは親指を立てて見せる。

「腐っても守護騎士だ。仮想の痛みに屈するほどやわじゃねぇよ。」

「うん……よかった。」

「?よかった?」

「うん。なんだか、最近のヴィータ、ピリピリしてて話しかけにくかったけど、やっぱり優しいままで変わってなかったって思えたから。」

フェイトの純粋すぎる言葉にヴィータの顔が一気に赤くなる。

「バッ…!!ちげぇよ!!今のは別にそういうつもりで言ったんじゃなくて余計な心配すんなってことで……」

「ううん。やっぱりヴィータは良い子だよ。」

「だからお前は人の話を聞けッ!!それと子供扱いすんな!!」

全力で抗議をするヴィータだが、フェイトはなんで彼女が怒っているのかわからないままニコニコと笑いながら話しかけてくる。

「チッ……どうして魔導士ランクの高い奴らは変わったやつらばっかなんだ……ん?」

ブツブツと愚痴を呟いていたヴィータはある反応に目を止める。

「識別不明機……?二つはMS程度の大きさで……一つは戦艦くらいのでかさか。」

こんなところに来る人間など自分たちのように無断先行で最近発見されたラボを調べようとする者だけだろう。
となると、どう考えてもこの識別不能機はまともな目的を持っているとは考えがたい。

「チッ……関係者かなんかか?おおかた証拠隠滅のためにやってきたってとこだろ。オイ、フェイト。」

「うん。わかってる。」

二人は機体を一気に加速させて目標へ近づく。
そして、

「なっ!?」

「あれ……!!」

目視できる位置まで来て驚く。
つい先日逃がした艦があらたにもう一機のMSを追加して月明かりの下ゆうゆうと進んでいるではないか。

「ヴィータ…!!」

「ああ!まさかこんな形でビンゴを引き当てるなんてな!!」

向こうもこちらの存在に気付くが、ヴィータは一気にモスグリーンの機体、ケルディムへ接近して肩に付けていたGNパイルを外して渾身の力で振るう。

「おらあぁぁぁぁぁ!!!!!」

「おわっ!!!?」

反対側の面についているブースター部分から赤い粒子をまきちらしながらケルディムの肩を削るGNパイル。
しかし、皮一枚削られただけのケルディムはすぐさま距離をとって狙撃の態勢に入る。
だが、

「させるかっ!!!!」

「クッ!!コイツ!!?」

再び距離を詰められ仕方なく二丁のビームピストルを抜いて対抗する。

「ロックオン!!」

すぐさま援護射撃をしようとするセラヴィーとティエリア。
しかし、

「させない!!」

「グッ!!?」

高速で接近してきたシュバリエによって砲門を弾かれてあさっての方向へビームを撃ってしまう。

「この前の新型か!!」

「今度は逃がさない!!」






現在

「圧縮粒子解放!!」

二つに合わさったGNバズーカから巨大な光球が撃ち出されるが、シュバリエの脇をすり抜けたそれは地上にぶつかってピンクの稲妻のドームに姿を変えた後、クレーターを作り上げる。

「すごい威力だ……!!」

〈ですが、当たらなければどうということはありません。〉

「うん!!」

刃に粒子を纏わせてセラヴィーへと振り抜くシュバリエ。
その姿は漆黒の色と相まって騎士というより死神のそれを彷彿とさせる。

「クッ……!!やはりセラヴィーでは……」

『ティエリア、さがれ!!』

「!!」

その声にGNバズーカをしまってシュバリエから離れるセラヴィー。
それを追いかけるフェイトだったが、セラヴィーとの間に割り込んできた閃光に動きを止めていったんさがる。

「増援!?」

「新しいガンダムか!!」

二人が見つめる先でダブルオーはライフルモードにしていたGNソードを元に戻すと今度はエスクワイアへ斬りかかる。

「つっ!!?」

パイルで受け止めるヴィータだが、加速してぶつけられた刃に押されてケルディムから引きはがされる。

「しまっ……」

「狙い撃つぜ!!」

最大威力で発射されたケルディムの一撃はダブルオーのすぐわきを通りながらエスクワイアの左肩を撃ち抜いた。

「っつあああぁぁぁぁぁ!!!!!」

「ヴィータ!!!!」

今までとは比べ物にならない痛みに絶叫するヴィータ。
その隙をついてダブルオーがとどめをさすべく真っ直ぐ刃を振り下ろす。
しかし、持ち前の機動力を使ってシュバリエが間一髪でGNサイズを使ってその一撃を受け止める。

「はぁっ!!」

「クッ!!」

その状態からすぐに切り返してダブルオーのGNドライヴを狙った一撃は惜しくも外れるが、ダブルオーに距離をとらせることには成功する。

「ヴィータ大丈夫!!?」

「ってて……!心配すんなつったろ。このくらいならまだやれる。」

フェイトとヴィータが話している間に、刹那たちも互いの無事を確認し合う。

「あっぶね~……あのまっ黒クロスケ結構速いぞ。」

「もう片方は以上に固いしな。最大出力で撃って肩の装甲が削れるだけなんざ異常だぜ。」

「…………………」

彼我の戦力を鑑みるに、三機そろってどうにかトレミーをかばいながらこの場を離れられるといったところだろう。
だが、

「ティエリア、頼みたいことがある。」

「?」

「できればラボの破壊に向かってほしい。理由はこれから全員に送る。ジル。」

「あいよ。」

ダブルオーから送られてきたデータにトレミーのクルー、そしてガンダムマイスターたちは驚愕し、怒りをかみ殺しながら静かにうなずく。

「すまない……」

「構わない。その代わり、トレミーは必ず守り抜け。」

「わかっている。」

急速にその場を離れていくセラヴィーを見送ったダブルオーとケルディムは改めてシュバリエ、エスクワイアの両機と向かい合う。

「刹那、はっきり言ってあの二機と俺とティエリアの相性は最悪だ。できるだけ近寄らせないでくれ。」

「了解した。」

刃を断ち斬るべき敵へと向け、もはや一種の儀式と化した己の覚悟を宣言する。

「ダブルオー、刹那・F・セイエイ、目標を駆逐する!!」

同時に動き出したケルディム以外の三機はすぐさま剣戟を重ねていく。
火花と剣閃が混じりあい、そこだけがあたかも舞踊のステージのように明るく映える。
そこへケルディムの狙撃が加わり、その動きはさらに複雑で美しい軌道を描き出す。

「そこだ!!」

一瞬のすきをついてエスクワイアのパイルがダブルオーを叩きつぶそうとする。
しかし、それを読んでいたジルと刹那はパイルの柄にGNソードをぶつけて太刀筋をずらすとそのまま柄に沿ってエスクワイアの腕へ刃を走らせる。
だが、それを遮るように今度はシュバリエの鎌が首を狙ってくる。
やむなく攻撃を中断してそれをかわすが、二人の動揺は大きい。

「読むのと同時に攻撃が来る……!!」

「いや、場合によっちゃそれ以上だぜ……」

エスクワイアはともかく、シュバリエの動きはすでにジルの予測のスピードを上回りつつある。
こんなスピードで戦えば思考が反射に追いつかないものなのだが、よほど高速での戦闘に慣れているのかシュバリエの動きは驚くほど滑らかだ。

「強い…!!」

認めざるをえない。
MS戦を経験したことのない人間ばかりだと聞いていたが、少なくとも今対峙しているこの二機は一流の戦士だ。

「だが、負けるわけにはいかない!!」

首元をかすめるサイズをかわしてシュバリエの脇をくぐり、後ろから迫っていたエスクワイアと互いの意地をぶつけあうように鍔迫り合いをする。

『なんでミッドに来た!!!!』

「!?」

突然の接触回線から聞こえてきた女の声に操縦桿を押しこまれないように力を込めながら刹那は耳を傾ける。

『お前らがここで戦う理由はなんだ!!ユーノを巻き込んで、挙句この世界の秩序まで破壊する気か!!!!』

「貴様!?どうしてユーノを…」

『お前たちさえいなければ……あたしも…はやても……なのはとユーノだって!!!!』

エスクワイアがダブルオーを押し始める。

『この世界で生きる奴らだって、傷ついてまで変わることを望んじゃいない!!!!』

「……誰かの想いを踏みにじっていてもか……!!」

『!?』

押していたエスクワイアだが、途中でピタリと止まる。

「失ったものを手にするために命をもてあそび……幼い、なんの力も持たない子供が戦わなければいけないと思うような世界が正しいとでも言う気か!!!!!!」

ユーノも、そしてエリオも。
本当ならもっと穏やかな日々を過ごしていただろう。
家族と笑いあって生きていただろう。
だが、あの二人は自ら戦場へとその身を投げ込んでしまった。

「別の世界だろうと関係ない……!!」

ダブルオーの両肩から今までの比ではない量のGN粒子が溢れだし、エスクワイアを押し返していく。

「貴様たちのその歪み……俺が……俺たちが断ち斬る!!!!!!」

力任せに振り抜いた刃は巨大な金属の塊であるパイルの先端を両断していた。
信じがたい出来事に呆けてしまうヴィータだったが、そんな彼女をよそに今度はシュバリエがダブルオーと戦闘を開始する。

「ヴィータはさがってて!!」

返事がくる前にダブルオーを斬りつけて再び距離をとったフェイトはアームガンでケルディムも牽制する。

「チィッ!!やっぱはえぇな!!」

「捕捉不能!捕捉不能!」

影を残して動き回るシュバリエに苦戦するケルディム。
だが、ダブルオーは時折シュバリエの軌道へ入り込んでその進行を妨げる。

「読まれてる!?けど!!」

「駄目だ!!早すぎてオイラでも動きをとらえきれない!!」

すぐに視界から消えてしまうシュバリエに苦戦する刹那とジル。
しかし、ふと気付く。

(こいつ……まさか?)

ダブルオーが攻撃を受けた箇所をみて刹那はあることに気付く。

「試してみるか……」

刹那の策など知らずにシュバリエを突っ込ませてくるフェイト。
彼女が狙っているのはMS戦の定石であるコックピットではなく、武器を握るその腕だ。

「これで……ダウン!!」

無防備になっていた右腕に刃が向かってくる。
しかし、ヒットする直前にダブルオーが少し動く。
その結果、サイズが向かう先は、

「!?くっ!!」

危うくコックピットを貫こうとしていたサイズを多少動きが崩れるのも構わず強引に引っ込めたフェイトは冷や汗で体温が急速に下がっていくのを感じる。

「危ない……!!でも、どうしてあんなこと……」

「やはりな。」

刹那の予測は当たっていた。
エスクワイアもそうだったが、敵は攻撃を意識的にコックピットから遠ざけている。

「不殺主義か……だが、お前たちのそれは甘えだ。」

ユーノも極力コックピットを外しているが、それはあくまでむやみに命を奪いたくないという確固たる信念に支えられているが故のものだ。
しかし、こいつらは違う。
ただ相手の死を背負うことを拒絶しているために相手を殺そうとしない。
その証拠に、

「こんな攻撃で……ガンダムが墜ちるものか!!!!」

限りなく浅い傷。
ただ傷つけることを恐れているだけのぬるい攻撃に刹那は怒りを爆発させる。

「はぁっ!!」

鋭い突きを放つが、シュバリエは余裕を持ってそれをかわす。

「今度こそ!!」

がら空きになっていた頭部へ鎌を振り抜こうとする。
だが、

「そこだ!!」

「えっ!!?きゃあっ!!!!」

寸でのところでライフルモードになっていたGNソードの弾がシュバリエの肩から先を吹き飛ばす。

「その程度で俺とダブルオーを止めることはできない。」

「うっ……!!」

ダブルオーの目に何かを感じたフェイトは距離をとる。
そこへ、

『フェイト、ヴィータ、これはどういうことだ?』

「クロノ……」

『ラボに向かえといった覚えは全くないぞ。しかも、こんな居住区の近くでMSを使うなんてどういうつもりだ?』

静かに威圧感を放つクロノに二人は言葉を無くして俯く。

『とにかく早く帰ってこい。』

「でも、あいつらは!!」

『命令だ。』

冷たく言いきって通信を終了したクロノにヴィータは拳を固く握りしめるが、仕方なくこの場から撤退を開始する。

『敵機、撤退を開始したです。』

『ティエリアからも連絡が入りました。ラボの破壊に成功したそうです。』

戦いは終わった。
しかし、しばらくその場から誰も動けない。
勝利を掴んだにもかかわらず、虚しさだけが心を埋め尽くしていく。
その感覚だけを生き残った証として胸に刻み、プトレマイオスⅡとガンダムたちはその場を去った。






プトレマイオスⅡ 医務室

「そうか、やはり残っていたか……」

ミッションの後、ジェイルに呼び出された刹那とジルはそれぞれ椅子と肩に腰を下ろす。

「データはあらかた参照した。」

「ということは、私が何をしたのかもわかったということか。」

自嘲しながら二人に背を向けて机の上の紙にペンを走らせ始めるジェイル。

「……私自身、人工的に生み出された命だったせいか人の手で人を作るということにあまり抵抗を持っていなくてね。誰かの心を癒すことができるなら法を破ることなどなんとも思っていなかった。」

「だから、プロジェクトFを?」

「ああ。……今となっては愚かなことをしたものだと思うよ。死した人間の命を生きている人間が弄ぶことがどんな悲劇を生むかよく考えておくべきだった……」

「そんな言い訳が……!!」

「そう、まさしく言い訳だ。私は彼らにいくら詫びても償うことなどできはしない。あの二組の親子を絶望の淵へ追いやったのは私だ。だが、だからこそ私は逃げない。」

手を止めたジェイルは椅子をクルリと回転させると二人の方を向く。

「彼が本当の意味でFの呪縛から解放されるその日まで、私は全力で彼を支えるつもりだ。」

「お前が世界を変えたいと願う理由もそれか。」

「無限の欲望……それの矛先がよもや世界に生きる命に向くなんて、私を生み出した者たちも想像できなかっただろうがね。」

神妙な顔をしていたジェイルの顔はいつの間にかいつもの掴みどころのない笑みに変わっていた。

「さて、君たちのせいで少量しか手に入らなかったが、あれだけあればコアの部分は作れるだろう。」

伸びをしながら立ち上がるジェイルにジルは顔を輝かせる。

「そんじゃあ、やっと地球に……」

「ああ。あとレアメタルが各種キロ単位と周りを保護するための金属類が……」

「あ、聞きたくなかったそれ。」

さっき書いていた見積書を読み上げていくとジルはひきつった顔でひょろひょろと高度を下げる。
それを見ていたジェイルはフッと笑って扉の前まで歩いていく。

「心配しなくても良いよ。こいつについてはヘイゼルバーグ君たちがどうにかしてくれるだろう。それじゃ、私はイアンの手伝いに行かせてもらうよ。」

「ジェイル。」

はじめて呼ばれたファーストネームにジェイルは足を止める。

「お前がどんな過去を背負っているかは知らないが、俺たちは少なくともお前を仲間だと思っている。」

「……そうかい。」

背中を見せたまま右手をひらひらと振って歩いていくジェイル。
その背中はいつもよりも悲しげで、しかし希望に満ちているようにも見えた。






過去を変えられないのなら、未来を変えるために今を足掻くのは生ける者たちの特権か……





あとがき・・・・・・・・・・・という名の暴露その2

ロ「というわけで、エリオの秘密&スカの過去暴露な第十四話でした。そして、今回暴露するのは~~……」

実はヴィータの操縦方式はGガンのあれみたいな感じになる予定だった

ヴィ「こっちにしときゃよかったんじゃね?」

ロ「だってこれやったらベルカ系の奴らはほとんど関さんと秋元さんのやりとりみたいになっちゃうだろ。」

弟「なるわけないだろ……というか中の人で呼ぶのはやめろ。」

ロ「固いこと言うなよ三木さん。」

蒼「やめる気なしかい!!」

ロ「ていうか、これ採用しちゃったらこんな感じになるぞ。」





エリオ「フェイトさぁぁぁぁぁん!!!!」

フェイト「この馬鹿弟子がぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



ロ「みたいな。」

エ「いやいやいやいや!!!!これはないでしょ!!!!」

フェイト「キャラ崩壊なんてレベルじゃないよね!!?もう完全にド○ンと東方○敗だよね!!?」

ロ「だってお前らすぐにこういう方面に持ってきたがるだろ。」

エ・フェ「「そんなわけあるかぁぁぁぁぁ!!!!」」

刹「なりかけてるぞ。」

ティ「まあ、ロビンに目をつけられたのが運のつきだな。」

ヴィ「これ以上エリオとフェイトがこの作品をGガン色に染める前に次回予告に行くぞ。」

刹「次回はI編。」

ティ「レイヴがビサイドに肉体を奪われ、仲間を探す術が無くなったテリシラ。」

フェイト「そんな彼を訪ねる一人のイノベイドがいた。」

蒼「一方、フェレシュテと合流したのち、アロウズを裏で操る人物が出席するパーティーの情報を得たユーノとアレルヤは潜入を試みる。」

弟「そこでユーノは想像もしていない事態に直面することになった!」

ヴィ「では最後に、このような拙い文を読んでいただいてありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお聞かせください!んじゃ、せーの……」

一同「次回をお楽しみに!!」


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