「紙の本のときから読者との会合があるが、僕は大嫌い。ＳＮＳ（人脈サイト）とかにも全く参加していないです。読者と面と向かって会いたくない。作家は読者の要求で小説を書くわけじゃないですからね。（読者を）完全にパッシブ（受け身）にして絶対にミスリーディング（誤解）できないような正確な文章を書いて、自分が持っている情報を伝えたいっていうだけですから」（村上氏）

　ふたりは考え方に共通点が多いが、基本姿勢が対極的に見える部分もある。ＩＴを介したファンとの向き合い方だ。

　坂本氏はソーシャルメディアを使ってファンとの接点を増やし、双方向のコミュニケーションも試みる。小説の分野でも読者の反応をその後のストーリー展開に反映したり、複数人の共同作業でひとつの作品を完成させたりといった考え方はある。出版でもソーシャルはキーワードのひとつだが、村上氏は自分の考え方とは相いれないと否定的だ。ライブではファンと一体になって盛り上がる音楽と、一人ひとりの読者を物語の世界に引き込んで楽しませる小説。そうした特性の違いも背景にあるかもしれない。

■ビジネスモデルの行方

　「Ｇ2010は作品のクオリティーと値ごろ感では絶対に失敗できない。はじめの１年間くらいはひとつひとつ手作りで、フェラーリみたいな感覚で作っていこうと思っている。その次に（ビジネスとして）どういう広がりを持たせるか。フィールドはすごく広大だと思うんですよ。紙で出ているものは全部、電子書籍になるんですよね。カタログとか、ある街の観光局のパンフレットとか。すべてのものは電子化できる」（村上氏）

　「僕のライブの場合、たぶんお客さんの７割くらいは僕のＣＤを買わないで来ているんですよ。ＣＤってせいぜい２、３千円でしょ。ライブってＣＤより何倍も高いんです。それなのに安いＣＤは買わず、高いライブには来てくれる。これは面白い現象ですよね。コンサートを聴いて感動したら、帰りにＣＤをけっこう買っていくんですよ。思い出、記念にとか、聴いて良かったから家でも聴こうとか、動機はいろいろだと思う。僕はＣＤを背負って、それを売るために（ライブで）行脚してるようなもんなんですよ。ほとんど富山の薬売りみたい」（坂本氏）