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阿部和璧(あべかへき)が世の中の良いもの、凄いものを紹介する。
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拡張現実としての萌え〜『らき☆すた』聖地鷲宮神社を巡礼して〜
村上隆さんのスタジオで開催されたワークショップに参加するために、埼玉の三芳という町を訪れることになった今回の東京滞在。初埼玉ということで、折角なら他にもどこか訪れようと、思い浮かんだアニメ『らき☆すた』の聖地巡礼。双子の主人公の父親が、宮司を務める鷹宮神社のモデルとなった鷲宮神社は、神社という「巡礼」に適した場所性や、熱狂的なファンの巡礼によって、たぶん最も知名度の高いアニメ聖地として知られている。特に今年は大晦日に主演声優が神社からテレビ中継を行ったこともあって、三が日の参拝客が47万人と、ちょっとあのスケールの神社では考えられない状況が起きていたという。
そんなこととはつゆ知らず、軽いノリで降り立った東武伊勢崎線鷲宮駅。特に『らき☆すた』が好きな訳ではないはずなのに、微かな胸の高鳴りを抑えることができなかった。早速、駅の階段を下り、駅前のロータリー的場所にあった雑貨屋を覗くと、そのガラス戸からすでに「萌え化」が始まっていた。築40年ほどの年季の入った駄菓子屋兼たばこ屋は、昔ながらの雰囲気を残す落ち着いた佇まい。しかし、店と外とを仕切る8枚ほどのガラス戸のには必ず『らき☆すた』をはじめとした萌え系少女のポスターが貼られており、それが醸し出す非日常的破壊力に思わず苦笑がこぼれてしまう。
折角なので内部も覗いて見ようと、ガラス戸を開け店内に入ると、昔風の陳列ケースに収められたお菓子類と共に、『らき☆すた』みやげ「ツンダレソース」といったいかにもな商品が置かれている。他にも店内の棚や天井周辺にも、様々な冊子やイラストといった形で、萌え的侵食は終了済みだった。クラクラする頭を何とか正常に保ちながら、店にいた60代位のご主人に、「お正月も聖地巡礼とかで人が来ましたか」と尋ねると、そういった対応に慣れた感じで、「結構来ましたね。今年は元旦の夜中に声優さんが来たし、三が日の天気も良かったから」とにこやかに応えてくれた。
駅とほぼ同時期に開業したという「染谷商店」の歴史も教えてくれたご主人は、これまでの経緯を、「5、6年前までは年配のじいちゃん、ばあちゃんばかりだったのが、アニメの登場で、最初は30代ぐらいの『らき☆すた』ファンが多くなって、この1、2年はカップルでやって来る。年齢も若くなって、大学生はもちろん高校生まで来るようになった」と説明。元旦の状況についても、「昔は行ってすぐ初参りできたが、2、3年前からは時間の見当がつかなくなった。拝殿からの行列が道路の先までつながって、4、5時間待っているのが普通になった」と教えてくれた。
切り抜いた新聞による話では、2007年に15万人だった三が日の参拝客が、2008年には30万人と倍増。「去年はちょっと少なかったかな」という数字が今年より2万人少ない45万人。今では大宮の氷川神社に次ぐ埼玉県で2番目に初詣客が訪れる場所として賑わいを見せている。「アニメもマンガも区別がつかなくて見ていない」というご主人から見た「聖地巡礼」をする人々は、「やさしい、親切な人が多い」とのこと。「ゴミくずを捨てないし、汚さないから。紙くずなんか持って来るからね。じゃあウチに置いといていいよって言ったりする」という人々らしい。
中でも、「いつも朝食代わりに菓子類を買いに来てた人」として印象に残る「もてぎくん」という人物は、テレビのドキュメンタリー「オタクと町が萌えた夏」という番組で有名になった人らしい。「原作者より上手いんじゃないか」という痛絵馬(アニメキャラクターを描いた絵馬)を巡礼記念に奉納し、1000枚奉納を今も目指しているという青年の第一印象は、「暗い感じに見えた」。しかし、奉納を重ねていく内に「だんだん友達も出来てきて、顔も明るくなってきた。上海万博に自分が絵を描いた『らき☆すた』神輿が行く時には、みんなのカンパで一緒に行くことができた」という「ご利益」もあったらしい。
「他にもいい話がいっぱいある。神社の取り持つ縁じゃねぇか」と誇らしげに語ったご主人の頭上には、「地元新聞社に務める息子の友人」が、原作者に描いてもらったサイン入りのイラストが飾られており、神社と共に『らき☆すた』という作品が、少なくとも商売に関連したこのお店にとっては、特別な存在になっているようだった。懐かしいキャラメルやチョコレートを購入し、お礼と共に店を出た時には、すでに30分以上過ぎていた。しかし急ぐ旅でもないので、冷たい風の吹く町を買ったばかりのキャラメルを舐めながら歩いていった。
駅前から徒歩5分程度で着いた鷲宮神社は、アニメのオープニングシーンで使われた風景が現実にあるというだけで、特にこれといった感慨もなかった。作品や登場人物に強い思い入れがある訳でもないし、関東最古の大社と言われても、境内を散策し、拝殿に参拝してしまえば、他にすることもない。かなりの数奉納されていた痛絵馬を写真に収め、参道に書かれていた神社の由緒を読み終えた頃には、大晦日以来営業しているであろう出店の人々が、お昼の参拝客を見込んで動き始めていた。平日の午前中ということで、少なかった参拝客の中には、2、3人の「巡礼者」を見かけたが、あとは中学のサッカー部員らしき5、6人の少年たちが、互いに冷やかしながら痛絵馬を覗き込んでいた。
境内を後にして、以前は門前町として栄えていたであろう寂れた通りを歩いていると、ここにもさっきの「染谷商店」と同じように店頭に萌え系ポスターを貼った店があちこち見かけられた。中には靴屋なのになぜか「ツンダレソース」を売っている店や、上海にも行ったという『らき☆すた』神輿が店頭に鎮座しているフォトショップがあったりと、この場所自体が日常から少し浮き上がった空間として、また「侘び、寂び、萌え」を地でいく場所として独自の存在感を示していた。それはちょうど昨年訪れた『見っけ!このはな』という地域アートイベントで感じた「異界化」と同じように、強い熱量を持つ何ものかを、固着した現実にぶつけることで、より広いものの見方や、固定観念に囚われない発想を生み出ことを可能にしているように思えた。
今回、聖地巡礼をきっかけにした「萌えおこし」の現場を歩いて感じたことは、アートだけでなく、ある人々の強い思いが凝縮した存在が生み出す熱量の可能性だった。去年一年間、「オタク」や「萌え」といったものをリサーチした中で、まだこれといった答えは見つかっていないけれど、「萌え」という存在が生み出すある種の熱量が、現実を拡張し、それによって広がった空間に一風変わった風をもたらしてくれることは、鷲宮神社の幾つもの「ご利益」と共に確かなことのように思えた。
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