見かけによらぬ「男気」「姉御肌」

●浅丘ルリ子（女優）

　６月２５日から公開の姥捨て山伝説の映画「デンデラ」で主役に抜擢された。自身と同じ７０歳の主人公の役で、しかも半世紀以上の女優活動で初めて“ノーメーク”で挑むというから、驚きだ。「すごい冒険ですけど、この年になったんだからやってみようかなと」。怖いものなしの境地は、多くの苦難を乗り越えてきた証しだ。若い人はあまり知らない浅丘の素顔を改めて紹介しよう。

　１９４０年、満州国新京市（現長春）生まれ。父は満州国経済部大臣秘書官で、その後、一家はバンコクへ。４５年、４歳の時に引き揚げてきた。東京・神田鍛冶町の借家暮らしは、かなり貧しかったという。母が毛布を裁断して染めたものをコートにするなど、創意工夫に満ちた暮らしだった。

　４人姉妹の次女。小さい頃は歌手になりたかった。日活に入る前、テイチク・レコードのオーディションを受けたこともある。このときは落選したが、映画でデビューしてからテイチクに入り、「私、試験受けたことがある」と言って、周囲を驚かせた。

　祖父は有名な相場師で、絶頂の頃、売れっ子芸者だった祖母と結婚。祖母ゆずりの美貌はたちまち近所でも有名になる。父の知人が日活の主役募集に応募して受かったことから、女優の道へ。当時有名だったイラストレーターの中原淳一の少女像に似ていると大評判になった。１４歳で「緑はるかに」でデビューしてから、出演数は年に１２本。４本掛け持ちだったこともある。石原裕次郎や小林旭の相手役で、小林旭とはゴールデンコンビと呼ばれ、熱愛報道もあった。２人とも負けず嫌い。撮影の合間に麻雀を打っていたが、「女雀士」という異名を持つ浅丘に、旭はいつも一人負けをしていたという。

　後に、旭は美空ひばりと結婚、わずか２年後に離婚して、再婚。浅丘も石坂浩二と結婚→離婚して、現在は１９歳年下の大衆演劇の俳優が恋人だ。０４年、旭の「芸能生活５０周年記念コンサート」にゲスト出演、実に三十数年ぶりの共演だった。０９年の暮れのテレビ番組で共演した時に、旭が「オレはまだ“現役”だよ」と言ったら、「あら、私もよ」と返ってきたという。今ではお互いに何でも言い合える盟友だ。

●大女優の貫禄は数々の惜別から

　裕次郎とは、日活時代からの縁で、石原プロモーションに所属していたが、７２年に路線の違いから退社。裕次郎の訃報を聞き、大原麗子と一緒に成城の自宅に弔問に駆けつけたが、長門裕之ら日活関係者たちと共に石原軍団の拒否に遭った。このとき「映画という国で、自由に戯れていたあの時代は戻らない」と潔くきびすを返す。裕次郎がかつて「男気がある」と褒めたように、毅然とした態度を貫いた。

　日活時代には、撮影所近くの実家に、毎日のように俳優やスタッフら関係者が集まった。豚の角煮やお手製ドレッシング入りサラダなどを披露して、客人に振る舞う。料理の腕前はプロ級だ。また姉御肌で後輩の男優や女優の躾（しつけ）に厳しく、特に高橋英樹をデビュー当時から弟分のように可愛がった。

　大原麗子とは３３年の付き合いで、姉妹同然だった。だが、大原が手足に力が入らなくなる難病のギラン・バレー症候群を患い、深夜の２時、３時でもおかまいなしに、自分や他人に対する不平不満をぶつけるようになった。

　そのため距離を置く関係が続く。０９年死去した大原のお別れ会では、訃報を受け入れられないと苦悩を告白した。

　数々の惜別が、ますます大きくさせた。大女優の貫禄が伝わる。

（日刊ゲンダイ2011年1月18日掲載）