●産経新聞配信記事 産経新聞は18日、「指定弁護士の聴取要請、小沢氏側が正式に拒否回答」という見出しで次の記事を配信した。
民主党の小沢一郎元代表(68)の資金管理団体「陸山会」をめぐる政治資金規正法違反事件で、検察官役の指定弁護士からの事情聴取要請に対し、小沢氏の弁護団は18日、正式に拒否すると文書で回答した。弁護団は回答に理由を記していないが、報道陣には「小沢氏は起訴されることが決まっており、被告人に準じる立場にいる」と述べた。
指定弁護士3人は回答内容を検討し、再度の聴取要請の余地があるかどうか最終調整する。再度の要請は必要ないと判断した場合、早ければ週内にも小沢氏を強制起訴する見通し。
指定弁護士は今年に入り、小沢氏の弁護団に任意聴取を要請。小沢氏は弁護団に対応を一任した上で、条件次第で聴取に応じる姿勢を示していた。弁護団は弁護人の立ち会いを認めるかなどの質問状を送り、指定弁護士は1人の立ち会いを認める回答をした。
これを受け、小沢氏は17日に弁護団と協議。弁護団は「100%の回答ではないので、聴取に応じられない」との方針を示し、小沢氏は了承したという。
小沢氏は東京地検特捜部の任意聴取に対し、一貫して政治資金収支報告書の虚偽記載への関与を全面否定していた。
●小沢氏に対する被疑事実要旨 被疑者(小沢氏)は、資金管理団体である陸山会の代表者であるが、真実は陸山会において04年10月(筆者注・29日)に代金合計3億4264万円を支払い、東京都世田谷区深沢所在の土地2筆を取得したのに、
- 職務を補佐する石川知裕被告と共謀の上、05年3月ころ、04年分の陸山会の収支報告書に、土地代金の支払いを支出として、土地を資産として、それぞれ記載しないまま総務大臣に提出した。
- 大久保及びその職務を補佐する池田光智被告と共謀の上、06年3月ころ、05年分の陸山会の収支報告書に、土地代金分が過大の4億1525万4243円を事務所費として支出した旨、資産として土地を05年1月7日に取得した旨を、それぞれ虚偽の記入をした上で総務大臣に提出した。
この被疑事実に対し、小沢氏は「いずれの年(注・04・05年度)の報告書についても提出前に確認せず、担当者(石川元秘書ら)が収入も支出もすべて真実ありのまま記載していると信じて、了承した」と供述した。
●鷲見一雄の視点 検察とは何か、いうまでもなく刑事司法の要である。しかし、今は検察が、公訴権を独占しているわけではない。ここを理解してもらわないと指定弁護士による小沢氏強制起訴の意味が理解ではないと思う。
小沢氏の供述を検察が受け入れ、同氏を「証拠が弱い」と不起訴にしたのは「タテマエ」で「鳩山首相が不同意、小沢氏が政府与党の幹事長職にあったので起訴を避けた」というのが「ホンネ」だと私は判断する。小沢氏に関する検察の捜査は形式を整えたとしか評価できない。小沢邸に家宅捜索を入れていないからだ。
検察は「厳正公平、不偏不党」が基本姿勢、しかし、これは「タテマエ」、権力の中枢にいた被疑者の場合は「例外」なのである。小鳩内閣は行政・立法の2権を握っていたのである。権力の中枢に『除くべき悪』があると検察が判断しても、権力機構の1部である検察は多かれ少なかれ、時の政権に有利に働く仕組みになっているのである。与党を代表する法務大臣が個々の事件の取り調べ又は処分についての検事総長に対する指揮権を持っているからである。内閣の長は総理大臣。検察権の行使を検察が国会(国民)に対し責任を負うわけではない。周知のように「内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ」ことになっているからだ。あとは言わずもがなであろう。
だから検察はまぎれもなく「体制に順応する側面を持っている」のである。このことを検察首脳は否定するだろうが、50年余の間、「政治と検察」の接点を政治の側、検察の側の両面からつぶさに観察し続けてきた者として私は「体制に順応する側面を持っていることは間違いない」と断言して憚らない。田中前首相逮捕・起訴は三木内閣でなければなかった、のである。だから、椎名自民党副総裁が福田、大平ではなく三木を田中後継に指名したのである。椎名は三木によって田中金権政治を排除しようとしたのである。
権力の中枢にいた被疑者の場合に限ってだが、検察が体制に順応する機関だからこそ、国家は検察官の不起訴処分の当否をチェックする機能を持つ「検察審査会」を存在させているのである。
戦後、検察が権力の中枢にメスを入れようとした例は昭電事件以外に3件あった。1つは昭和29年、造船疑獄の際の吉田内閣、佐藤栄作自由党幹事長の第三者収賄容疑、2つ目は平成13年、KSD事件における森内閣、村上正邦・参院自民党議員会長に対する受託収賄容疑、3つ目は鳩山内閣、陸山会事件、小沢民主党幹事長に対する政治資金規正法違反容疑である。
KSD事件の場合は村上氏が自民党参院議員会長を辞任したため「政治と検察」は緊張関係とはならなかった。無罪を主張し辞任しなかったら森内閣は困惑したことは間違いない。村上氏は辞任したことで森内閣を助けたのである。
造船疑獄は犬養法相の佐藤逮捕延期と検事総長に指揮権発動、陸山会事件は鳩山首相が公然と小沢氏の検察批判に理解を示していたため検察側が「証拠不十分」を理由に検察の裁量権で起訴を自制した。このため、検察審査会が「起訴相当」を議決、検察は再捜査、再び「証拠弱い」を理由に不起訴にした。その直後、鳩山内閣は退陣した。私は「検察の小沢氏不起訴処分」と「鳩山内閣退陣」は関連があると断言して憚らない。
菅内閣が誕生、参院選で惨敗、民主党代表選で菅・小沢氏で争ったが、小沢氏は僅差で敗れた。検察審査会は再度「起訴相当」を議決した。
議決の骨子は
@虚偽記入した政治資金収支報告書の提出について小沢氏に相談し、了承を得たとする元秘書2人の供述は信用できる。
A土地購入資金4億円の出所についての小沢氏の説明は著しく不合理で到底信用できず、虚偽記入の動機があったことを示している。
東京地裁は検察審査会の議決に基づき大室俊三氏ら3人の指定弁護士を選任、3人の指定弁護士は小沢氏強制起訴へ向けて準備に入った。
●小沢氏の裁判はどうなるか 指定弁護士は元秘書3人と小沢氏に再聴取を要請したが、4人とも拒否、強制起訴に対し法廷で全面的争う構えである。
しかし、客観的に小沢氏の「いずれの年(注・04・05年度)の報告書についても提出前に確認せず、担当者(石川元秘書ら)が収入も支出もすべて真実ありのまま記載していると信じて、了承した」という供述は検察側が鳩山内閣の中枢にいた要人だから政治的配慮で認めたもので、国民目線で認められる供述とはいえない。しかも、指定弁護士の聴取要請を4人とも拒否した。小沢氏の防御は事実論ではなく「検察審査会の議決無効論」しかあるまい。
私は《小沢氏の弁護団は「検察官の公訴提起」より、「指定弁護士の強制起訴」の方が無罪獲得は難しい》と捉える。「元秘書2人の不利益証拠は検事の誘導」との主張が通るとは思えない。指定弁護士の「強制起訴」と関係ない。郵便不正事件の村木氏ともまるっきり事件の構造が違う。
裁判所は市民の目による権力者・小沢氏起訴を軽々しく扱うとは思えない。指定弁護士の小沢氏強制起訴は「政治と検察 権力中枢との攻防史」を塗り替えると私は展望する。(了)