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[25517] 幻の境界
Name: 太郎◆4e9bda91 ID:908f7153
Date: 2011/01/19 13:50

・誤字脱字等ございましたら報告して頂けると嬉しいです。
・60話ぐらいを目処に書いてます。長々と続くかもしれませんが、
 宜しくお願いします。



[25517] 第一話 雲網町夢ニュース
Name: 太郎◆4e9bda91 ID:908f7153
Date: 2011/01/19 13:55

 夜の2時という時間帯は、とても暇だった。電子レンジで暖めたホットミルクにココアの粉を直接入れて、ダマの浮いたホットココアを作り、炬燵に座る。
 炬燵が暖まるまでの時間を、両足を擦って耐える。布団を出たばかりの暖かさが、冷たい敷物に吸われていってしまう。

「うー、さびさび」

 どうして、眼が覚めたのか、進藤ヨツバは頭を捻る。寝る前に飲んだコーヒーが不味かったのかもしれない。何となく尿意を感じて起きたのだが、寒々とした便座に座る気がしなかった。冬の時期に便座に座るときに感じるヒヤっと感は嫌いだった。今度、可愛い便座カバーを買ってきて、母親にプレゼントしようと思った。

 カバーを買ってくれば、後の手入れは母親がやってくれるだろうという作戦である。正直、父親や弟が汚すのだろうと思うと、自分で洗う気にはなれない。花の女子高生である内は、そういう事には触れたくなかった。

 枕元から持ってきた携帯で、誰かに電話かメールをしようかなと思ったが、明日怒られるよなぁ、と思って気が引けた。以前、夜遅くに友達にメールしてみたのだが、親友である木城アサカに、「メーワク」と言われてしまった。

深夜にメールしたり電話をするのは、非常識である。
こっちは楽しくとも、相手まで楽しいとは限らない。
でも、暇なんだよなあ。誰かと楽しく会話をして、夜を過ごしたなぁ。
今日が大晦日とかだったら、電話してみるんだけど。

 テレビを付けると、ニュースで今年一番の寒波がやってきていると言っていた。雪が朝方に降り始めるかもしれない・・・というキャスターの言葉に、窓の方をちょっと見る。見るだけである。雪が降っている様子が見たいと思ったが、漸く温まってきた炬燵から離れる気にはならなかった。炬燵の掛け布団に、ぬくぬくと顔を埋めていたいのだ。

お金持ちの友達の家だと、カーテンまでリモコンを操作するだけで開くらしい。もっとも、珍しがって使っていたのは最初だけで、今は手で開けるばっかりなのよ、とはお金持ちの友達、遠山リコちゃんの話である。

 確かに、カーテンが自動で開閉しても、便利だとは言いがたいんじゃないだろうか。そんな事をしてたら、足がなくなった未来人になってしまう。顎が無く、眼だけ大きくて、足が無い未来人は、どっかの漫画で見た。炬燵から出ない未来人も、同じようになりそうだと思ったが、取りあえず、今のところ自分は太ってもいないのでセーフである。

 それに、無骨な顎など、女子高生には必要ないのである。眼だって大きな方が良いし。後は、足だけか。まあ、陸上部の部活で走っているのでこれはクリアだろう。己の急激な進化を望む。キリンだって、首が中途半端なキリンの化石は見つかって無いというし、自分の子供には期待してもいいんじゃないだろうか。

 お母さん、頑張るからね。

 チャンネルを色々と代えてみても、特に面白い番組はやっていなかった。
「深夜って、何もやってないんだなぁ」
頬をぺたりと机に乗せて、唸る。深夜アニメをやっていたので、少し見てみたが、あんな美形で乳が揺れまくる女ばかり居る高校、無いわ、と思って顎が外れそうになった。クラスの斜め後ろの相沢トオル君のお友達には成れそうになかった。
彼は、そういうTシャツを学校に着てくるほどのツワモノである。相沢トオルは、それでいて、少林寺拳法部のエースだという残念君だ。
「俺、アニソン上手いんだぜ」
って、カラオケで言われたときには、マジ吹いた。
彼は、因みに、校則の厳しい学校で、パンクの格好をしている如月テッペイ君とは仲が良いらしい。

 同類項に分類されるのだろうか、ああいう人たちは。いやいや、トール君違うと思うよ。

 テレビを消して、寝っころがってると、突然、携帯が震えた。
「おー誰ですか。こんな深夜に。迷惑ですなー」
と、言いつつも、顔がにやけてしまう。どうやら、自分と同じように、起きている同志が居るらしかった。

「ヨツバ。良かったー起きてて。誰も出ないからどうしようかと思ったのー」
電話してきたのは、親友である木城アサカだった。
「メーワクなんすけど」
取りあえず、眠そうに切って捨ててみる。
「あははは、この前の意趣返し?」
アサカが、長い黒髪に手を当てている様子が浮かんできた。それか眼がねのフレームに手を当てて、眉を寄せて居るかもしれない。彼女は、困ったときにそうやって拗ねるカワイ子ちゃんである。

「いや、マジメーワク」
もちろん、笑顔である。
「もー、そんな事言わないでさ?今、テレビ見てる?ちょっと付けて貰いたいんだけど」
口調から、こっちが本当に怒っていないということは、バレているようだ。
「しょうがない。可愛いアサカの願いを聞いてやるか。どのチャンネ ル?」
「うーんとね。取りあえず、テレビ付けてみて。そうすれば、判る、と思うから・・・」
「何か、重大ニュース速報でもやってんの?あ、判った。明日大雪で学校休みとか?」
「いいから!早く、早く!」

何時に無く、焦ったアサカの声にテレビを付けてみた。
すると、甲高い声で、ニュースが始まった。

――どうもー、毎夜、不定期に放送している、雲網町夢ニュース!本日も、マジでノリで、
  ノリノリにやっていきたいと思いマース!
――いえーい!眠みーっすー

 金髪と銀髪の女二人の奇抜な格好をした司会役が、深夜枠のラジオDJのノリで急に喋りだした。
「えーっと、取りあえず何番?アサカ」
「あのね。多分、それで合ってると思う」
「は?そんなの判んないじゃん。全部の番組でテロップ流れてんの?」

 ちょっと、深夜にしては音量がでか過ぎると、リモコンを操作して、音を下げようとするが、何故か上手くいかない。何度もボタンを連打するが、反応が無いのだ。仕方ないので、番組を変えようとするが、こちらもボタンを連打しても、チャンネルが切り替わらなかった。

「あー。私の家のテレビ、何故か不調だわ。雪のせいかな」
「そうじゃなくて・・・。たぶん、ヨツバちゃんも、、、私と同じだと思う」
「同じって何よ」
「えーっとね。ごめんね。私と同じで、呪われちゃったんだと思う」
「は?呪い?アサカ何言ってんの?」
「でもね、取りあえずね、ヨツバちゃんは、大丈夫だと思う。私が、誘った方になるから。
 ご免ね、ご免ね・・・。でも私、怖くて、」

電話越しに泣き出した親友に、これは夢かなっと思った。呪いだのなんだの、この21世紀に有り得ない話である。さては、アサカの奴、からかってるかな。しかし、親友の性格は大体把握してるのだが、泣きまねまでするだろうか。

「取りあえずさ、明日、学校で話聞くから、さ。寝ちゃお?寝ちゃえば良いジャン。
 この呪われた番組?貞子的な奴かもしんないけど。寝てスルーしちゃえばいいじゃん。
 ほら、寝ちゃうよー。もう目瞑っちゃうからねー」
そういって、ゴロリと横になって、目を瞑る。明るいハイテンションな貞子が居たら見てみたい、と思いながら。

「駄目、ヨツバ!寝ちゃ駄目、接続しちゃう!接続しちゃうから!」

そうして急速に意識が消える前、耳に残ったのは親友の妙に焦った声だった。私は、何故そんなに、焦っているのだろうと、不思議に思いながら、眠りに落ちていく。







[25517] 第二話 雲網町夢ニュース2
Name: 太郎◆4e9bda91 ID:908f7153
Date: 2011/01/19 13:59


――はい、今日も、みなさん、深夜に集まって頂いて、ありがとうございまーす
――みなさん、盛り上がっていきっまっしょい!
周囲から拍手喝さいが湧き上がった。

「え、何これ」

 目を瞑ると、そこは、何処かのテレビスタジオだった。目の前では、先ほど画面の中にいた司会の二人組みが、大きなテレビ画面の前で漫才をやっている。司会の二人は、双子だろうか。ショートカットの金髪に碧眼の女の人と、同じくショートカットの銀髪に碧眼の女の人だ。どちらも顔が良く似ている。

 自分は、何時の間にか、椅子に座ってそれを見る観客になっていた。舞台を囲むように、弓形に椅子は置かれ、自分は左奥の席だった。

 どうして、こんな事になってるんだろう?テレビを付けたまま寝たのだが、それがあまりに強烈なイメージだったので、夢にまで出てきたのだろうか。

――今日はですねー、何と、あの事件に迫りますよー!
――あの事件といいますと?
――あの事件って言ったら、ツーカーに判らんかい!この駄目司会!
――ねーさん、いきなりスリッパで頭殴らんで下さい。これ以上悪くなったら如何すんですか
  凶暴ですね。嫁の貰い手、本当に心配です
――あんたに心配されたくないわ!

 湧き上がる笑い声に、何故か聞いた事のある声が混じっているような気がして、周囲を見渡すと、何故か見知った顔が多い。近所の小母ちゃん伯父ちゃん、クラスメートがちらほら、担任の先生に校長先生まで居た。
「げ」
弟のトオルまで、最前列の右側に座って笑って居る。声を掛けたい、と思ったが、席を離れるのは抵抗感があるため、断念する。何か物でもあったら、投げてやりたいんだけど。

「ヨツバちゃん・・・」
寝巻きの袖を引っ張る涙声に横を見ると、先ほど電話してきた木城アサカだった。
「アサカ!ってなんでここいんの夢じゃないの!」
「ヨツバちゃんが、一人で接続しちゃうから、追ってきたんだよ」
「接続って・・・」
「あのね。あのテレビを見たらね、目を瞑って寝ても駄目なの。
 起きて最後まで見てないと。寝たら、こっちに接続されちゃうの」
「へ、変な夢ー。アレでしょ、本当は二人ともここに居なくて。
 アレでしょ、別のベットで寝てんでしょ」
「ヨツバちゃん、明日学校で話すから。私たち、注目されちゃってる。
 不味いの。あんまり、そういうのは。抜け出せなくなっちゃうんだって」

――お客さーん、声、入っちゃうんでー。

――そうそう、起きちゃうみなさんも居るんで。お静かに、お静かにお願いしまーす
  左奥のー、女子高生コンビさんですよー。

――まー、あれですな。この前の、カップルよりはマシですな

――そうそう、え、タックンじゃーん、どうして居んのーって、知らないつーの!
  あんたら何て、どうでも良いっつーの!こんな所でイチャイチャすんなっつーの!

――まーそれは置いといて

――置いといて人類補完計画委員会!あの馬鹿カップル!今度、最悪の悪夢送っちゃル!

――まーそれは置いといて。キール議長?

――スリッパに手を伸ばされたら、たまりませんな。加持先輩!

――問題無い・・・。ぎゃはははは!アスカって顔かよお前。

――結局、引っ叩くんかい!え、あ、カンペ入ってる。え、ディレクターさん、イカリマーク?
  いやいや、良いんですよ。そこで、碇とか書かなくても。

――え、引っ張りすぎ?時間押してる?あーはいはい、じゃあ、先に進みマース。
  皆さん、覚えてますかー、去年の夏に続いた、連続殺人事件。

 スタジオ中央の画面に、「恐怖、真夏に続いた連続殺人事件」と赤文字で入った。アサカが、ぎゅっと右手を握ってきた。そっと、手を重ねる。
「目、瞑っても、駄目なんだよ・・」
怯えたアサカの声に、試しに目を瞑ってみる。すると、一瞬視界が暗くなったが、相変わらず、番組が進行していた。一瞬、司会の銀髪の方と目が合って、ニヤリ、と気持ち悪い笑顔を向けられた。

――あの、雲網町で起きた猟奇殺人事件。未解決のまま、年を越しちゃいましたが、
  その犯人と思しき人物が本社の懸命な取材で、なんと特定出来ちゃったんですねー

 雲網町で起きた猟奇殺人事件といえば、あれだろう。去年の終わり頃の11月。約三ヶ月前に、雲網町で連続殺人事件が起こった。もっとも、犯人が一人なのか、ただ、事件が立て続けに起こっただけなのか、それは良く判っていない。まあまあ平和な田舎の街を震撼させ、テレビでは何度も特集が組まれた。インタビューされた同級生も居るって話だ。

 画面に、次々に、血を流した死体が映った。首を切り落とされた女。片腕の無い幼児。腹から血を流した中年の男が、口から血の泡を吹き出している。地面に倒れ臥した青年から、道路に広がっていく真っ赤な血。

 とてもニュースでは流れないような映像が、頭の中に直接流れ込むような感覚。うえっと口を塞ぐ。被害者として、顔写真が新聞やテレビに載ったが、こんな苦悶の表情はしていなかった。殺された彼らの顔は、こちらを呪うように感じられた。アサカの手が震えているのが伝わってきた。あの優しいアサカが、こんな映像を見たら夢にも出てくるだろう。いや、これも夢なのだが・・・。

――被害者の方は、どんなに無念だったでしょう。どんなに死の瞬間、どんなに苦しかったのでしょう。
司会の金髪は、言っていることはマトモだが、その表情は、楽しげだった。

――そんな鬼畜野郎が、今夜また、殺人を起こすことを、我々は独自のルートで突き止めた!

――その鬼畜野朗の名前は、アンデルス・リプトン、254歳の実体を持った悪霊!夢限監獄を脱走したバグウォーカー!

――さあ、みなさん、現場に行って見ましょう。得と、彼のショーをご覧あれ!

――それでは、みなさん、プラグ、イン!

――フェード、イン!

 首の延髄に、電気が流れるような衝撃が走り、意識が暗闇に包まれていく・・。





[25517] 第三話 雲網町夢ニュース3
Name: 太郎◆4e9bda91 ID:908f7153
Date: 2011/01/19 14:05


「はあ、はあ」
荒い息が、苦しい。背中が焼けるように痛かった。

 ダウンジャケットを着た男が河原を走っている。男の後姿が見える上方斜め45度の角度から、映像が伝わってきた。

 息が苦しいのも、背中が痛いのも、その男だという事が判っているのに、何故か自分が苦しい、痛い。そして、圧倒的な恐怖が心臓の鼓動を跳ね上げさせる。

――被害者の視点から、楽しみたい方は、右手を上げてくださーい。
  その方が、臨場感を味わえるというマニアックな方はどうぞー。血が抜けてく感覚まで味わえますよー

――そうでない方は、ディレクターが独自の感覚で、視聴調整するんでー。

 司会の二人組みの能天気な呼びかけが聞こえてくる。やはり自分は、椅子に座っているのだ。パイプ椅子の硬い感触が尻と背中に、そして、震えるように自分の手を握るアサカの両手の感触が伝わってくる。しかし、その感触を追っていないと、目の前の映像に体ごと魂が持って行かれそうになってしまう。

 舞う粉雪、薄暗い視界の先に、ライトアップされた橋が見える。それが何処か、という事が直ぐに判った。雲網町の本居大橋だ。という事は、ここは、大井川の河川敷だろう。明るい昼間なら、野球やサッカーをする子供や、バーベキューをする家族連れが居るが、こんな時間には誰も居ない。走っている男一人だ。聞こえるのも、男の荒い息だけだ。

 大橋まで行けば、車通りも多い。男も、それが判っているのだろう。懸命に足を動かす。

怖い、怖い・・・、白い息を吐きながら、体をガタガタと震わせながら走る。震えているのは寒さの為ではない。後ろから忍び寄る、何時迫ってくるか判らない恐怖に怯えているのだと判った。

「ひい、ひい」
男の喉の奥から、声にならない悲鳴がもれ出る。
 大声を出せ、大声を。そうすれば、誰かが気が付いてくれるかもしれない。そう念じても、男は、込み上げる恐怖で、喉が痺れてしまっているようでそれ以上声が出せない。

 足音が聞こえてきた。男よりもずっと早い足音。獣のような唸り声が迫ってくる。恐怖で、男は足を縺れさせた。歯の根が合わない・・・、いや、違う。この感覚は男のものだ、と必死に自分に言い聞かせる。何時の間にか、自分もアサカの手を握り締めていた。
怖い、怖い、アイツがやってくる・・・、アイツが!

 男は足を縺れさせた。派手に転んだ男は、立ち上がる上がる事がことが出来ず、尻餅を付きながら、手近にあった石を握り締める。もう、恐怖で、立ち上がることは出来ない。この石で、最後の抵抗をするつもりだった。こんな石が何の役にも立たないことは判っていたが。転んだときに、顔を怪我したのだろか。頬から血が流れているが、男は気が付いていない。

 粉雪の中、一匹の異形が姿を現した。血油に濡れる、長い爪。体全体を覆う白い体毛。狼と猿を混ぜたような顔には、一対の赤い瞳と長い舌。

 異形が数メートルは飛び上がって、男に向かった。長い爪が男の肩に突き刺さる。肉が切られる感触、筋肉が摩り潰れる感触が伝わってくる。観客の悲鳴と自分の悲鳴が聞こえてくる。肩の中を、爪が蠢く。違う、これは男の感じているモノであって、自分ではないんだと言い聞かせても、圧倒的な化物の迫力に、自分が呑まれていくのが判った。

 男の歪んだ顔が、異形の愉悦した顔が、視界の中で一杯にひろがる。異形の腐ったような臭いがする生暖かい息が、顔全体に掛かるのが判った。もう駄目だ、と男は失禁し目を瞑っている。だが、ヨツバにはそうする事が出来ないのだ・・・。

 殺す、殺す、食べる、殺す・・・、今度はバグウェイカーの、獣のような殺戮衝動が伝わってくる。ヨツバは、自分が口角を上げて、キチガイ染みた笑いを浮かべているのが判った。自分が狂っていくのが抑えられない!

 ドンッ

 その時、自分が跳ね飛ばされるのが判った。短い悲鳴を上げて、河原を転がる。いや違う、これは自分じゃない、バグウォーカーだ!必死にそう念じる。

「自分自身を思い出せ!」
その時、誰かの大声が聞こえた。

――な、なんだお前らはー!

――不法侵入、不法侵入っすよ!

 はっとして眼を開けると、自分が椅子に座って、ガタガタ震えているのが判った。目の前に広がるのは、粉雪が舞い散る、大井川の河原。隣に座っているのは、木城アサカ。自分の肩に寄りかかって、気絶しているようだ。

「ちょ、アサカ、起きて!何だか判らないけど、逃げるよ!」
緊急事態だと、彼女の頬を張る。
「うん・・。ヨツバ、ちゃん?」
「ほら、さっさと起きる!」

 金属が鳴る音に、はっとしてアサカが起きる。そして、眼を見開いた。
「ヨツバちゃん、あれ・・・」
アサカの言葉に、私は、河原に視線を戻した。

 そこで、誰かが、異形と戦っているのが判った。闇夜の中で、二人の男が、異形と戦っている!
一人の男は、日本刀を持っているようだった。もう一人の男は、徒手空拳・・・いや、鉤爪のようなものが両手から光っている。

 突然の銃声が響く。私とアサカは、両耳を塞いで縮こまる。
すると、視界が、蜘蛛の巣状にひび割れていく。そうだ、これは現実じゃない。映像なんだと、思い出した。ここから、この冬空の下から逃げ出す事は出来ないのだ。

――なーにお前、部屋の中で、発砲してんだっつーの!

――まじアブねー!ディレクター、大丈夫ッスカー!え、撤収?逃げんの?ヤバイ?マジパネェ!

 ひび割れた視界の中で、ヒーローの二人が月に照らされる様子が、一杯に広がった。二人は、背中を合わせて素早い異形の動きに対処している。
「あれって・・・、 トール君と・・・、遠藤君?」
アサカが呟く。

 そう、ニットキャップを被った両手鉤爪の男は、あの少林寺拳法部エース、相沢トオル・・・。あの残念君である。

 そして、もう一人は。私の右斜め前に座り、授業中にも音楽を聴いている無口、無感動な硬派な不良。現代に生きる眼鏡武士、遠藤シンヤ・・・だった。いや、男前なんだけどね。ちょっと近寄りづらいんだ。彼は友達も少ない・・・。

「「シャドウ!」」

 二人が声を合わせて叫ぶ。正直、今の今まで、夢の中だと思って驚いてこなかったのだが、私は始めて驚いた。いや、驚く余裕が無かったのだが、クラスメートがヒーローという親近感がやっと私にも多少の余裕をもたらしたらしい。

 なんと、遠藤シンヤの方には、翁の面をした武士が。相沢トオルの方には、中国の拳法家のような衣装を着た女の子が頭上に現われる!
 
 ん?シンヤの方と眼が合った。男臭い、野性味の溢れる顔で笑っている。口がパクパクと動いているが、何を喋っているのか良く判らない。
私は、何を言っているのだと、眼を凝らそうとした。

しかし、そこでもう一度銃声が響き渡る。
そして、目の前の映像は、砕け散ったのだった。


 男性の歌手が歌っている。グッドモーニング、おはよう。私は、手を伸ばして携帯のアラームを止める。眼を開けて、上半身を起こす。どうやら昨日は、そのまま炬燵で眠ってしまったらしい。付けっぱなしのテレビは、朝のニュースを流していた。あくびをしながら携帯を確認すると、朝の6時。

 炬燵で寝てしまったせいか、妙に寝汗をかいている。これは、学校に行く前に、シャワーを浴びなくてはならないようだ。起き上がろうとして、炬燵にもう一人寝ていることに気が付いた。小学生の弟、カツキだった。

「ほら、カツキ、おきな。お母さんに怒られるから。ベットに戻りな」
「うーん、姉ちゃんが、昨日、変なテレビ、大音量で見てるからだろう?」
「変な、テレビって何よ。お姉ちゃん、覚えてないよー。いいから起きる。お母さんが来る前に
 起きるんだよ」
「覚えてないの?ユメテレビ・・・」
僕眠いから、もうちょっと寝るね・・・、そう言って弟は布団に包まった。小学校高学年になると、もう両腕で弟を抱えてベットに放り込むことは出来ない。私はもう一度、弟を起こそうと弟の体を揺すった。夜中に変なテレビでも見たのだろうか。

その時、携帯が鳴った。何故か冷や汗が流れる。取りあえず、電話を取る。
「ヨツバちゃん、覚えてる?・・・雲網町夢ニュース」
アサカの震えるような確認の言葉に、私は、はっきりと思い出す。
彼女の言葉は、私と幻との境界を崩すものだった。





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